したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

アバッキオのビデオ棚

1とりあえず管理人★:2008/01/09(水) 19:33:56 ID:???

         _..  - ―‐ - ._
        , '"          \
      /"レ'/  /\_. へ、 ∧lヽ
     / /´ {/ノノ ,ィ爪Yハ`′  ',
   /  / // ノ´    ヽ ', l
   |  /   //   :    ', l |
   | l| l  /     .::     ,,l !l |     やあ ようこそ「アバッキオのビデオ棚」へ
   |l |l |  ド==、、::  ,r='"-| ! |    ここではあんたの持ち込んだ妄想をムーディーで映像化している
  ノ|| |l l  |t‐t・ッテ,  ィrt・ッラ|l  |        まずは>>2のガイドラインを見なよ
≦ノノll│ |  |. ´¨~〃 .,,_ ヾ~´ .|l lト、
_./ノ|l | |  l:.   ゙:. ′゙    ,'|l l|ヽヾニ=‐       さっそくあんたの妄想をリプレイしながら・・・
‐''"ノ| | |  ト、     `''"__  /:l  l\ー-`ニ=-       萌え話でもしようや・・・
:::´ノ,l li l  | ヽ、 '‐ニ-'' ,イ:::l  lヾミヽ::l
:::‐"/ / ハ l  | ヽ ヽ、._"_/ l:::! l`ヽ、`二>‐
:::::/ノ/ } i l― -、ヾ三/ __ll l::::::::::::::`>― ---- 、
::::"´:::::::;.' ノ、 ', ⊂) 〈フフ  _,l l::::::::::::r'´ /¨>'" )
:::::::::::::://::| ヽ ⊂⊃ノ7 '"´l _l. ― 、`='-、/( _,∠ヽ
:::::::::/´:::(cl=  ⊂二ノ   ,r'‐、  ‐= }   `ヽ |   }
:::::::::::::::::::::::`l   ⊆¨l  ハ __ノ} <l ,' ⊂) 〈フフ\-‐'´}
::::::⊂) 〈フフ:::l    ⊂ 」  { `¨´ l_> / ⊂⊃ノ7  ヽ/}
::::⊂⊃ノ7:(cl"´┌i 00 V ム Δ /   ⊂二ノ    l/}
::::⊂二ノ:::::::::l`⊂ ⊃   {` ー''"     ⊆¨l   l/
:::::::::::⊆¨l::::::::l (フl」<)=、‐-∨⌒ヽ     ⊂ 」   /
 ̄ ̄⊂ 」 ̄ ̄ ̄r'rブノ   `  ',   ┌i 00 // ̄ ̄
  ┌i 00'" ̄ ̄} }} ̄ ¨''‐、____ノ_  ⊂ ⊃ //
  ⊂ ⊃ |`` ========''"r==、ヽ-(フl.」<)‐'´
  (フl」<) ',          ノ   } }

2とりあえず管理人★:2008/01/09(水) 19:34:54 ID:???

モララーのビデオ棚ジョジョ版です。おおまかなガイドラインは以下の通りになります。

1.長時間に及ぶスレ占拠は迷惑になります。リアルタイムでの書き込みはひかえ、
  あらかじめメモ帳等テキストエディタに書いたものをコピペで投下してください。
2.投下開始・終了がわかりやすいように、名前欄にタイトルを入れてください。
  タイトルは他の方の作品とかぶらないように配慮願います。
3.作品のナンバリングは「タイトル1/7」〜「タイトル7/7」のように投下数の分数明記を推奨いたします。
4.シリーズ物・長編どんとこい。ただしスレ占拠を防ぐため投下ペースや分量に配慮して下さい。トリップのつけるつけないは自由。
5.感想レスに対するレス等の馴れ合いレス応酬はほどほどに。
6.エロ・グロ・パラレル分が過剰な場合、最初にひとこと注意書きがあると嬉しいですよ。
7.「公共の場」である事を念頭に置き、ジョジョ淑女の名に恥じぬ譲り合いの精神を忘れずにお願いします。
8.投稿本文の最大文字数4096 投稿本文の最大行数60 名前欄の最大文字数64 半角で以上のように設定しております。

ご意見・運営に関する相談・雑談は総合スレまで

3燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ 1/9:2008/02/04(月) 20:06:52 ID:YJZMhoxw
 
スレ最初の投稿させて頂きます。
燃えスレのプロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴで仮想ガチバトルです。
 
ζ´・ω・`) < 残念だけど萌え要素は皆無に近いよ…
ζ´・ω・`) < ちなみにこれで全体の三分の一くらいだと思うんだ…

4燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ 2/9:2008/02/04(月) 20:08:01 ID:YJZMhoxw
 
 1.
 
「見たな?」
「見ました」
「ベネ(よし)」
 
 プロシュートは振り返らずにうなずいた。常に傍らの誰かに語りかけるようにして喋るのが、この男の癖だった。視線は腕時計の文字盤に注がれている。
 彼は双眼鏡の革紐を、きれいに結い上げた髪を崩さぬよう丁寧に首から外し、渡すついでに今回の相棒をちらりと見遣った。
 
「さっき送迎車がやつらを乗っけてそこの交差点を西から東に横切ったのが三時四十二分五十一秒、今運転手だけ乗った車が戻っていったのが四十五分ゼロ二秒。その間二分ちょいだ、テメーの時計でも間違いねーな?」
「ああ、間違いない」 双眼鏡を受け取った彼、ティッツァーノは答えた。精妙で動きのない、裏稼業特有の謎めいた微笑みのままで。 「タイムラグと車の速度からして、やつらが降りたのはここからふたつ向こうのストリートと断定していいと思います」
「近いな。やはり俺たちの居場所を正確に掴んでいる」
「…正確には『正確に掴んでいると信じこんでいる』でしょう?」
 
 プロシュートは我が意を得たりというように頷いた。こちらは猛禽のような厳しい表情だが、時どき魅惑的な笑みも浮かべる。その変化に緩急があり、弟分のペッシには慕われている。彼自身も弟分をすこぶる愛しており、本当ならこの戦いにも連れてきたかったくらいだ。
 
(聡明な相棒ってのもたまにはいいが、少々調子が狂うんだな…)
 
 ティッツァーノには悪いが、プロシュートは内心そう思っていた。やはり自分はツメの甘いペッシをどやしつけて尻を叩きながら任務を遂行するのが性に合っているのかもしれない ――― おっと、今はそんな事を考えている場合ではなかった。
 
「しかしまあ、最初からブチ当たりに来ましたね。慎重な性格と聞いていましたが、なかなかどうして好戦的なやつだ」
「やつのスタンドは索敵に向いているからな。市街戦なら自分のゲームだと思って強気に出てるんだろう」
 
 プロシュートは呟いて肩をすくめた。
 花京院典明は油断のならないスタンド使いだ。そのスタンド能力という意味でも、本人の鋭い知性という意味でも。
 現に彼は不可視の糸状にしたハイエロファントグリーンの『触脚』の一端を、先に出発したプロシュートたちの送迎車にひっかけ、広いバトルフィールドのどのあたりで停車したかを事前に探知する策に出ていた。
 戦闘開始前のこうした裏工作は本来はルールで禁じられているのだが、スタンドバトルの世界においてはしばしば、より上位のルール『イカサマを見抜けない方が悪い』がものを言う。
 花京院にとっては不運な事に、午後の日射しが触脚を一瞬キラリと緑に光らせた。それでプロシュートたちは敵の作戦を知る事ができたのだ。
 
「まったく高校生のくせしてふてー野郎だぜ」
 二人はグチをこぼしつつ、自分たちを降ろした車が走り出した瞬間、その屋根によじ登った。そしてまるまる一ブロック来た道を戻り、今いる街路にさしかかったところで飛び降りたのだ。子供じみた攪乱工作だが、居所をダイレクトに突き止められるよりはよい。花京院たちは今ごろ、自分たちのいる街路と、プロシュートたちが実際にいる街路の間に平行に延びるもう一本のストリートを敵の居場所と信じこんで、襲撃計画を立てているところだろう。そこを間髪いれずに叩く。遠距離スタンド相手にぐずぐずしると、せっかくの情報的優位をふいにしてしまう。
 
「行くぞ。本職の怖さってやつを思い知らせてやろう」
 
 プロシュートは前歯を見せて獣のように笑った。普段ならこうしたキザな「決意表明」なんてものはやらないのだが(そういうのはその辺のアングラっぽいクラブでくだを巻いてるちんぴら連中のやる事だ)、今日はまあ、ほら、お祭りみたいなものですから。二人のイタリアン・ギャングは行動を開始した。

5燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ 3/9:2008/02/04(月) 20:09:13 ID:YJZMhoxw
 
 2.
 
 花京院典明は新聞のスポーツ欄に目を落としていたが、実際はその集中力のほとんどをハイエロファントグリーンの触覚に注ぎこんで、ひとつ隣の街路を『走査』していた。
 
 かの無人のストリートにスタンド能力を持つ者がいたなら、ビルの壁面や舗道の上を毛細血管状に広がりのたうつ緑の触脚というグロテスクな光景を見られた事だろう。最初は発見されないよう糸状にした触脚でほそぼそと探っていたが、敵が見つからないので次第にやけになって、街路じゅう舐めまわすように触脚を這わせだした。この状態なら例えスタンドに攻撃を受けても、本体へのフィードバックは微々たるものだ。それにしてもプロシュートたちは見つからない。
 不可解だ。宙に浮いたか、それともどこかのビルに入ってしまったのか。
 
「あるいは、もう一つの可能性として………だな」
「なんだ、その可能性ってのは」
 
 不安げな表情で花京院の顔を覗きこんできたのは、今回の相棒オインゴだ。彼のスタンド能力はといえば顔を自在に変えられるだけで、正直なところヌケサクに毛の生えた程度である。たぶん年上だと思うのだが、花京院はさも当然の権利のようにあれこれ命令を下していた。オタクはそのあたりの社会性がなっていないので仕方がない。
 
 今オインゴは言いつけどおり、陽動のため顔を花京院のそれに変えている。無人の洋品店から無断拝借した緑色の学ランを身につけており、靴やピアスなど細かいところを見なければ違いはわからないだろう。しかし花京院は不機嫌だった。自分の顔が目の前でマヌケそうな表情を浮かべる、これほど嫌な事がそうそうあるだろうか。
(今日って解説で承太郎来てたよな……あんまり見られたくないなあ、もう!)
 
 すこぶる身勝手な悩みを抱えつつ、花京院は適当な返事を返した。
 
「ああ、ハン○チ王子はぜひとも巨人に来てほしいんだが、早稲田人脈でヤクルトに行ってしまう可能性もあるなあって思っただけさ」
「おいおい、怒るぞ」
「冗談だよ。やつらが隣の街路にいないようなんだ。僕が車につけた触脚に気づいて、すぐに移動した可能性がある。気を緩めないでくれ、どこから攻めてくるかわからないぞ」
 
 念のためスタンドを近くに戻しておくか。丁寧に畳んだ新聞をゴミ箱に向かってシュートし、ぼんやりとそんな事を考えた時、オインゴの声が突然切迫したものに変わった。
 
「…おい! おかしくないか…!? 何だかこう…霧がかかってきたというか…おかしくないか、これは?」
「霧だと?」
 
 花京院は怪訝な表情で、あたりに視線をめぐらした。
 なるほどオインゴが指さす方向から、狭い街路いっぱいに立ちこめるような、乳白色の霧がゆっくり押し寄せてきていた。
 すでに数百メートル向こうは白い闇に閉ざされ霞んで見える。これほどの速度で増大する霧は、都会ではまず発生し得ない。奇妙だ。そしてスタンド使い同士の戦いにおいて、『奇妙な』現象はそのまま敵の攻撃に直結する。ましてやガスを媒介に他人を老化させるというプロシュートのスタンド、ザ・グレイトフル・デッドが相手の場合には!
 
「…これは、老化攻撃ッ!」
 
 ――― そう判断してしかるべきである。

6燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ 4/9:2008/02/04(月) 20:10:16 ID:YJZMhoxw
 
 3.
 
「まずいぞ。効果範囲外に逃げなくては…」
「お、おい! 走って体をあっためると老化が早く進んじまうぞッ」
「ここでじっとしているよりはましだ! 次の交差点まで走れば四車線の大通りに出る。そこならガスが拡散するからそうそう簡単には老化しないッ!」
 
 迅速な決断、さもなくば死だ。
 花京院は手を振って、相方に先に走るよう促した。逃げる背中を襲われるのが一番危険なのだ。火力を持っている自分が後ろを守るに限る。彼は毒づきながらハイエロファントを呼び戻し、背後を警戒させるため霧の中へ飛ばした。そして自分も走り出す。
 しかしどれほども行かないうちに、今度は後方からいやなエンジン音がとどろきはじめた。
 
「なんだーッ、あの音はッ!」
「立ち止まるな! 今ハイエロファントに探らせる!」
 
(みっともなく裏返った叫び声をあげるんじゃあないぞッ、負けフラグだろ!)
 花京院は心の中で相方に毒づいたが、いざ叫び返してみると自分の声もけっこう裏返っていた。どこにいるかわからない敵から一方的な攻撃を受け、反撃の手段がないという状況は心理的にキツいものがある。おそらくは白煙の向こう側にいる敵、そいつの居場所を早く突き止めなくては!
 しかしハイエロファントの視覚がエンジン音の正体を捉えた時、なかば予想していた事とはいえ、花京院は小さく呻かざるを得なかった。
 
「車だ。考えたな…」
「ええ!?」
 
 走る花京院の後方約八十メートル、緑のコードをたなびかせ宙をたゆたうハイエロファントグリーンから、さらに四百メートルほど後方の地点。灰色のクーペがやけにのろのろと、しかしはっきりとした意志と速度でもって、こちらへ突き進んでくる。その後部座席から、これでもかとばかりにもうもうと白煙が噴き出していた。ドアガラスの類は取り払われている模様だ。
 
 これはちょっとした老化ガス噴霧作業車ではないか。さしずめ自分たちは畑の害虫というわけだ。運転席の姿はまだはっきり見えないが、プロシュート以外に誰がこんな芸当をできよう?
 
「僕らを追っている。それも老化ガスをブチ撒きながらだッ!」
「な、なんだってーッ!」
 
(キバヤシか僕は。…ああクソ、こんな事を考えている場合じゃあないぞッ)
 花京院は心中吐き捨てた。
 ほんの数百メートルとはいえ全力疾走とは苦しいものだ。肺が熱く膨らみ、動悸がドラムのように鳴る。「自分はもうだいぶ老化しているんじゃあないのか?」という恐怖がそれにまた拍車をかける。交差点まであと百メートルばかり。九十メートル……八十メートル……。
 しかし自動車で追われている以上、いずれは追いつかれるだろう。大通りに出たところで状況はジリ貧のままだ。
 
(ならば攻撃するッ…!)
 
 スタンドエネルギーが老化で奪われないうちに、敵の本体を叩いてくれる。
 花京院はそう決断するや、再び後方のハイエロファントの操作に全精神力を集中した。エメラルドスプラッシュのエネルギーを両手に溜め、運転席に狙いを定め、じりじりと車に接近する。かつてDIOとの戦いでそうしたように ――― だが次の瞬間ハイエロファントの視界に飛び込んできたのは、意外な人物の顔だった。
 
「…ティッツァーノ、だと!?」
 
 日焼けサロンで張り切りすぎたような肌色とストレートの白髪、神妙な顔つきでハンドルを握るその姿は間違いなくやつだ。しかしなぜ老化ガスの発生点の間近にいて影響を受けない!?
(……老化…ガス?)
 
 もしやという疑念にかられ、ハイエロファントは後部座席を覗きこんだ。
 結論から言うと、そこにあったのはあまりにも子供だましなシロモノだった。へし折られた街路樹が一抱え、火をつけられてブスブスときなくさい白煙をあげている。スタンドでも何でもなかったのだ。
 呆然とするハイエロファントに冷たい一瞥を投げかけ、ティッツァーノは横顔で薄く笑った。数百メートル先で、花京院の口許が引きつった。
 
「こ…このガチホモがッ!」
 口にこそ出さないがクールな美形キャラを気取っている花京院にとって、まんまと欺かれた上に失笑まで受けたのは結構こたえた。ハイエロファントは発作的に運転席の窓に飛びつくや、ティッツァーノの頬桁に渾身の右ストレートをぶち込んだ。
 人間に毛の生えた程度の腕力とはいえ、運転中に横っ面を殴られてはただでは済まない。ハンドルがグルグルッと空しく回ったかと思うと、クーペは大きく進路を外れた。そのまま舗道に乗り上げ、ビル壁に突っ込む。ガリガリ、バキバキ…という嫌な音をひとしきり立てた後、車は動きを止めた。

7燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ 5/9:2008/02/04(月) 20:11:04 ID:YJZMhoxw
 
 ぐしゃぐしゃになったボンネットの上に投げ出され、ピクリとも動かないティッツァーノの姿を確認して、花京院は少し溜飲を下げた。
 とはいえまだまだ事態は終息したわけではない。後ろから追ってきたのがティッツァーノだったのなら、本物のプロシュートはどこにいる? 連中が偽のザ・グレイトフル・デッドで自分たちを追い立てた目的は!? 

 ――― ひとつしかないではないか。

「ぐッ、グゥエエエエーッ!?」
「なッ…!?」

 数メートル先であがったオインゴの悲鳴に、花京院は我に返らざるを得なかった。
 しまった、後ろのティッツァーノに気を取られ過ぎた。前方に不注意すぎた。そしてそれこそがやつらの狙い…!

 そこはストリートと大通りの交差点、走り出した当初の目的地。
 立ち止まった花京院の目の前には、イタリアンスーツを着こなした色男のヤクザが立っていた。人殺しのためだけに訓練されたマスティフ犬のように気品のある表情を浮かべ、傍らに従えたグロテスクなスタンドにオインゴの首を掴ませ、宙に吊り下げて。

「…ハサミ討ちの形というわけか」

 花京院は苦々しく呟いた。
 強い後悔と狼狽の中で、相棒が正月の棒ダラのように干乾びねじくれて老いていくさまを、彼は見守っていた。
 
 
 
 
 
 
 4.
 
 ストリートとの交差点から飛び出してきた『最初の』花京院をザ・グレイトフル・デッドで拘束し、続いて現れた『二人目の』花京院を見た時、プロシュートは失望を禁じえなかった。
 用心深い男と聞いていたが、さすがだ。変身能力のあるパートナーをまずオトリに使うとは。プロシュートは根っからのギャングであるから、当然このような考え方をした。『直』で老化エネルギーを叩きこんでやったそいつは、やはり本来の顔に戻り、それから枯れ木のように老化した。プロシュートは唾を吐くようなそぶりをし、悪意に燃える目で花京院を睨んだ。
 
「偽者とはな! 仲間を捨石にしやがるたぁテメー、吐き気をもよおす外道ってやつだぜ。ギャングでもやらねーぞ、仁義ってもんがあるからなあ」
「捨石にはしないさ。信じてくれなくったって構わないが、僕ほど仲間思いの人間はそうはいない。ポルナレフのやつが僕の足を引っ張った事があるが、その時は顔面に友情の証の肘鉄を打ちこんでやった」
「どんだけ倒錯してんだテメーの友情とやらはッ!」
 
 プロシュートは怒鳴った。ついつい普段の癖で説教をかましたくなるが、ここはグッと我慢だ。あまり無駄な時間を使ってはいられない。やつらの後方から聞こえたクラッシュ音が気になる。ティッツァーノはすでにやられてしまったのかもしれない。それにこの男のスタンド ――― リゾットのステルス能力のように自在に姿を隠す事ができる ――― も、いつ戻ってくるかわからない。もしかしたら、もう戻ってきているのかもしれないのだ。自分を見る花京院の目もまた、研ぎ澄まされた闘志で燃えていた。
 
「よくも偽の煙で人を無駄に走らせてくれたな。それも滑車を回すハツカネズミのように無様に…。このお礼は必ずさせていただく」
「おいおい、感謝してもらいたいぐらいだぜ。食後のいいダイエットになったろ?」
「必要ない。僕はもともと脂っこい食べ物が嫌いなんで……ね!」
 
 言うなり花京院は、プロシュートに向けてさっと片手を突き出した。
 エメラルドスプラッシュが来る! プロシュートは咄嗟にザ・グレイトフル・デッドの両腕を交差させ、ガードに入る。しかしその直後に起こった事は、彼の予想の範疇を超えていた。ハイエロファントグリーンは花京院の背後ではなく、ザ・グレイトフル・デッドの真横に出現したのだ。
「何ィッ!?」
 
 ――― 意外! それはボディアタック!

8燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ 6/9:2008/02/04(月) 20:11:53 ID:YJZMhoxw
 
 ザ・グレイトフル・デッドの腕力は、ハイエロファントグリーンのそれを大幅に上回る。
 だからプロシュートは、まさか花京院がスタンドの肉弾戦を挑んでこようとは想像だにしていなかった。だがザ・グレイトフル・デッドには下半身がない。足代わりの両腕も、今は防御に使っている。ゆえに地面を蹴ったハイエロファント渾身の体当たりを喰らった時、まったくといっていいほど『踏ん張り』が利かなかった。
「うおおおおおッ!?」
 
 果たして、ザ・グレイトフル・デッドはあっさりと転倒した。その衝撃で抱えこんでいたオインゴの身体を手放し、プロシュート本人も尻餅をついてしまう。彼が飛び起きた時、ハイエロファントグリーンはすでに緑のコードをたなびかせ、一番近くにあったビルの通用口へと姿を消していた。花京院とオインゴの姿もなかった。全ては一瞬の間の出来事である。プロシュートはしばらくあっけにとられ、それから荒々しく地面を蹴った。
 
(クソったれ! …確かに捨石にはしなかったな。いやマジに恐れいったよ花京院)
 怒りながらも彼の口許はどこか笑っている。相変わらずの獣の笑いだ。ひっかけあいはこれで一勝一敗というところだろうか? その時ティッツァーノが、足を引きずり引きずり姿を現した。パッショーネ親衛隊の白いユニフォームには煤と血がにじんでいる。象牙色の髪がほつれて、頬の腫れた血まみれの顔に貼りついていた。
 
「…カモメ」
「ウミネコ」
「ベネ」
 
 オインゴの変身作戦対策としてあらかじめ取り決めておいた合言葉を唱えると、二人の間の緊張は解けた。
 
「結構やられたなティッツァーノ。大丈夫なのか?」
「ええ、戦うのに支障はありません」
「そうか。こっちはオインゴを叩いたが、そこのビルに逃げこまれた」
 
 戦うのに支障がないならば、それ以上気にかける必要はない。自分たちはギャングなのだ。腕の一本や二本もがれようと、戦う事をやめたりなどしない。ティッツァーノは頬の髪の毛を払うと、気丈にも少し微笑んで見せた。
 
「ザ・グレイトフル・デッドではないとバレた瞬間にやられるのは想定内でしたからね。むしろエメラルド・スプラッシュを喰らわなかっただけでも儲けものというやつだ」
 
 花京院が激怒していなければ、今ごろティッツァーノは穴だらけになって東方仗助やジョルノ・ジョバァーナのお世話になっていたかもしれない。あるいは後十キロほど余分に車のスピードを上げていても、衝突のショックに耐え切れずに同様の事態になっていただろう。
 
 ハサミ討ちという作戦自体を考えたのはプロシュートだが、危険きわまりない追い込みの任務を自分から志願したのはティッツァーノである。
 少し危険な兆候だな、とプロシュートは考えていた。彼がスタンドの非力の分を、命を危険に晒す事で埋め合わせようと考えているなら、そんな考えは正さなければならない。卑下、自己犠牲、献身、そんなものはギャングの世界では犬のクソだ。生き残ろうという強い意志こそが、このプロシュートの相棒には相応しい。そうであるべきだ。
 
(…まあ、こいつはペッシと違って一人前のギャングだからな。差し出がましい説教は極力しないに限るぜ)
 
「で、どうする」
「知れた事。休む間などあたえませんよ」
「そうだな、今の花京院はお荷物を抱えているし、建物の中なら老化ガスも充満しやすいしな。…もっとも、それはやつも十分承知してるだろうが」
 
 いつまでもぐずぐずしていると逃げられる。二人は念のために拳銃を抜き、ここにチームの仲間たちがいれば「ギャング映画さながら」と揶揄したに違いない隙のない動きで、敵が姿を消した扉の奥へと足を踏み入れていった。

9燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ 7/9:2008/02/04(月) 20:12:39 ID:YJZMhoxw
 
 5.
 
 だがそうそうオイシイ話はないと言うべきか、ご想像通りと言うべきか。
 ビル内に花京院たちの姿はなかった。しらみつぶしに調べたわけではないが、歴戦のギャングたるもの、ある程度は気配が読める。そこはすでに『がらんどう』だった。
 六階建てのこの雑居ビルには他に裏口がなく、左右と後ろの三面は、隣接するビルの壁面に阻まれ、窓を開けても逃げ場がない。屋上は設けられておらず、非常階段もなかった(違法建築? イタリア人の辞書にそんな概念はありませんよ、ファンタジーやメルヘンじゃあないんですから)。
 
「こいつはあれか、俺たちが踏み込んだところを見計らって、正面の窓から逃げたっていうところかな? ハイエロファントの触手があれば、通りの向こうのビルに飛び移れるからな」
 
 一通りの探索が済んだところで、プロシュートは殺風景な階段の手すりにもたれて呟いた。そこへティッツァーノも降りてくる。
 
「…どうもそのようだ。五階の窓に埃が擦れた形跡がありましたよ」
「やっぱりか」
「おそらく花京院は、ザ・グレイトフル・デッドの射程距離外までオインゴを運び去ったんでしょう。そうすれば老化の効果は解除されるし、適度な距離をとって戦いを仕切りなおせる」
「仕切りなおし、か。そうだな。かくれんぼならやつのスタンドの優位は揺るがねえからな」
 
 プロシュートは溜息をつき、ようやっと気を抜いて、ポケットから嗅ぎ煙草入れとハンカチを出した。煙草は切れていた。普段はペッシが補充してくれるのだが。しかたがないのでハンカチだけを相方に放る。
 
「血が乾く前に拭いとけよ。きれいな顔なんだからなあ、ティッツァ」
「…………」
「…ティッツァ?」
 
 受け取ったハンカチで頬をおざなりに拭ったなり、ティッツァーノは動きを止めていた。軽口に機嫌を損ねたのだろうか。
(それともなんだ、その愛称はいつもの相方にしか呼ばせないってクチか?)
 だがプロシュートはすぐに自分の勘違いに気づいた。ティッツァーノはやや目を見開いて、プロシュートの背後の薄暗い空間を見つめているのだった。
 
「プロシュート…」 そのままの表情で彼は言った。 「ザ・グレイトフル・デッドを使っているんですか?」
「バカ言え、そんな必要がどこにある」
 
 プロシュートはぞんざいな口ぶりでそう言って振り返った。が、とたんに目をむいた。狭い空間を九十度に折れ曲がりながら螺旋状に延びる階段、その中心部の吹き抜けから、いつしか白い煙がもうもうと立ちのぼりはじめていたのだ。さながらザ・グレイトフル・デッドの老化ガスのように。
 
「こいつは……」
 プロシュートはたじろいだが、その時ティッツァーノが素早く階段を駆け降りはじめた。保養地で履くような革のサンダルがカツカツと足音を刻み、遠ざかったかと思うとすぐまた戻ってくる。
 
「火事です。地階にはもう降りられそうにない」
「あの野郎、火をつけやがったか!」
「車に残っていたガソリンを使ったんでしょう。うかつでしたよ。遠く離れて『仕切りなおし』なんていう悠長なタマじゃあなかったんだ」
 
 プロシュートは歯噛みしながら吹き抜けを見下ろした。焦げ臭く熱い煙が顔に当たる。暗闇の中で空気が陽炎のようにゆらゆら揺れて、最下部では炎の紅い舌がのたうっていた。
「しかたねえな、上に逃れるぞ」
 
(これだから「痛みを知らないゲーム世代」ってやつは怖えんだよ!)
 やらかしてきた数々の無差別テロ殺人の実績を棚に上げ、プロシュートは心中、ワイドショー受け売りの単語で毒づいた。

10燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ 8/9:2008/02/04(月) 20:13:18 ID:YJZMhoxw
 
          ×         実況席         ×          
 
 
 
「車全壊、ビル炎上! 犯罪者VSゲーム脳のバトルは最初っからカッ飛ばした展開になってまいりました! 承太郎さん、いかがでしょうここまでの戦いをご覧になって」
「…………」
「…承太郎さん?」
「…別に」
「あの、花京院さんはエジプトの戦いでいっしょのお友達でしたよね? その辺でこう…何かコメントを」
「…そうだが、特にねえ」
「はあ……では次に本部モニターにて観戦中のみなさんにご感想をうかがいましょう」

「兄貴ィ、大丈夫かなあ」
「あぁぁあああぁあぁティッツァーノ! ティッツァーノォォォォォ! あのキモオタ野郎、俺のティッツァの顔にパンチ入れやがった! しかも今度は焼き殺そうとしてやがるゥゥゥゥうぅ! あとマツゲ出っ歯がさりげなくティッツァにコナかけてるゥゥゥゥ!」
「オインゴ兄ちゃんなら大丈夫……ぼくの『トト神』にはそれがわかる……」

「ありがとうございました。実況は僕、広瀬康一が担当させていただいております。では現場の方にカメラ戻しまーす」
 
 
 
          ×          ×          ×

11燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ 9/9:2008/02/04(月) 20:14:38 ID:YJZMhoxw
 
今回はここまで
ζ´・ω・`) < 次回は僕グレイトフルボッコのターン
そういやプロシュート兄貴とかの顔文字はないのかな・・・

12一巡後名無しさん:2008/02/04(月) 20:26:12 ID:3lS1JuuQ
GJGJGJッ!!
えげつなっ!花京院えげつなっ!!

13一巡後名無しさん:2008/02/04(月) 20:52:40 ID:xSnVeK.g
リプレイゴッドジョブ!
そうか、プロシュートにとっちゃ花京院はゆとり世代かwwww
続き超期待してる

14一巡後名無しさん:2008/02/04(月) 20:57:31 ID:4ct4Gtwc
ディモールトGJ!!!
燃えるわ萌えるわ小ネタに吹くわで大変だwwwww

15一巡後名無しさん:2008/02/04(月) 21:27:34 ID:ygMs1njc
花京院ひどすぎ噴いたw
そして燃えタァ!

16一巡後名無しさん:2008/02/04(月) 21:29:23 ID:khIVrwJI
うおおGJ!GJ!
花京院容赦ねぇw だがそこにシビレるあこがry
これで三分の一ってマジかwktk

17一巡後名無しさん:2008/02/04(月) 22:13:56 ID:5wwqXX3A
GJ!只管GJ!続き超期待
ゆとり京院が取るであろうえげつない戦法でも妄想して待つよ!
ティッツァ可愛いよティッツァ
オインゴ可哀想だよオインゴ
ってかスクアーロ五月蝿いww

18一巡後名無しさん:2008/02/10(日) 18:58:53 ID:jHdKwX2k
今日初めて避難所に来た者だがGJ!
文章面白すぎだろ常識的に考えて…承り沢尻化に吹いたw

19燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ2 1/9:2008/02/10(日) 20:16:39 ID:.0X8Hqjc
 
予想外に早く書けた!(これでも)
ので投下させていただきます。
 
前回のエラッタ
×遠距離スタンド相手にぐずぐずしると
○遠距離スタンド相手にぐずぐずしていると
 
ζ´・ω・`) < 完璧な校正なんてありませんよ、ファンタジーや(ry

20燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ2 2/9:2008/02/10(日) 20:17:28 ID:.0X8Hqjc
 
 6.
 
「どう見ても袋のネズミです、本当にありがとうございました」
「なんですそれは」
「メローネのやつがよく使ってる言い回しだ。いわゆるネットスラングってやつらしいな」
 
 深刻な状況においても飄々ととぼけたやりとりを交わしながら、しかし二人は確実に上階へ上階へと追い詰められていった。屋上のない、三方を隣のビル壁に囲まれたこの建物は、自分が追われる立場になってみるとほとんど棺桶のようなものだ。唯一の逃げ道は、舗道に面した正面の壁の窓からスタンドを使って飛び降りる事だろう。しかしそんな事は花京院だって承知しているに違いない。
 
「…いますね」
「…いやがるな」
 
 最上階に陣取り、換気のために壁にいくつか穴を開けた後、二人は窓から正面の街路をうかがい見た。
 案の定そこには花京院の姿があった。腕を緩く組み、背筋をしゃんと伸ばし、喜怒哀楽のはっきりしないオタク特有の無表情な顔で、二人のいるビルのてっぺんを見上げている。その背後にはハイエロファントグリーンがぴたりと寄り添い、仏像のように両手を構えている。エメラルド・スプラッシュを撃つ準備は万端。
 
 つまり蜘蛛は網を張り終わった、という按配だ。プロシュートは内心頭を抱えた。
 
「賭けてもいいがな、今飛び降りたら地面に着くまでの間に、トムとジェリーのマンガに出てくるチーズみてーに穴ボコ姿になれるぜ」
「かと言ってここにいたら、そのうち炭火で炙ったチーズみたいになる事は請け合いですよ」
「マンマミーア」
 
 プロシュートは天を仰いだが、真面目に聖母に祈ったわけではなかった。
 なるほど、あのガキはありがたくも俺たちに選択肢を与えてくれているようだ。穴あきチーズになるか、とろけるチーズになるかという選択肢を ――― このパッショーネのプロシュートとティッツァーノに!
「舐められたもんだ」
 この程度の逆境、これまで乗り越えてこなかったとでも?
 
「…プロシュート、あれを」 腹を括りなおしたプロシュートに、ティッツァーノがそっと囁いた。窓の下の花京院を指さしている。 「片手に何か持っているでしょう?」
「うん? …ああ、携帯電話だなありゃ」
「運営本部にでも電話したんでしょうか」
「そうだな、フィールド全体が類焼したらさすがに運営も困るだろうから…。それかアレだ、どこかに隠したオインゴと連絡を取ってるのかもしれねーな」
 
 言いながらプロシュートは、またティッツァーノが危険をおかすような作戦を考えついたのではないかと心配になってきた。
 ギャングたるもの、時には命を張る事もあるだろう。しかしそれには十分な勝算が必要だし、身を危険に晒すなら自分が一番最初だ。生来の親分気質から、プロシュートは常にそう考えていた。その考えを読んだかのように、ティッツァーノは笑って手を振った。彼はヘアバンドの下の血まで丁寧に拭った後、真っ赤になったハンカチを丁寧に畳んでポケットに入れた。
 
「プロシュート、大丈夫です。取るに足りないわたしの命ですが、安売りしようと思った事は一度もない。それどころかとても簡単に、あいつをここから追っ払える方法を思いついたのです」
 
 
 
 
 
 
 7.
 
 花京院は手中の携帯電話をパチンと閉じては開き、閉じては開きして、ギャング二人がこんがり燻しあがるのを待っていた。
 
「携帯電話か……。なかなかのコンパクトさと便利さだ。この花京院典明が生まれた時代には家電話しかなかった」
 どこぞの帝王のような重々しい口ぶりで、彼はそう呟いた。
(ああ懐かしいな。あの頃はアニメ雑誌に声優のメッセージを聞ける電話番号が載っていて、サルみたいに聞きまくって親に怒られたものだ…)
 
 オタク特有の感慨に浸っていると、その携帯電話が再びやかましい着メロ(※『ペガサス幻想』)を奏でながらガリガリ震えはじめる。着信を見るとオインゴだ。花京院は露骨に眉をひそめた。
 
「…もしもし、僕だ。まだ何か?」
「たッ助けてくれッ!」
 
 こいつの声って常時裏返っているんだな ――― というまるで場にそぐわぬ能天気な思考が、さっと花京院の脳裡を上滑りしていった。その後でやっと緊張感がせりあがってきた。 「…なんだと、おい何があった!?」
 
「ウガッ、うぐえッ、うううーッ……!」 通話口からは呻くような苦悶の声と、何かが暴れているみたいなドスンバタンという音が続けさまに響いた。胸中に不安の黒雲が湧きあがり、花京院はいそがしく思考を巡らせはじめた。
 
 オインゴが襲われている? そんな馬鹿な。敵二人はここで自分が釘付けにしている。後はナラの木の薪で焼いたマルガリータ・ピッツァのようにいい感じに焼けあがるのを待つだけのはずだ。そのはずなのだ。

21燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ2 3/9:2008/02/10(日) 20:18:29 ID:.0X8Hqjc
 
「おいしっかりしろ! 敵か!? 誰にやられてるんだ!? プロシュートたちか?」
「そうだ! いや、うぐぐッ……敵なんだ、すぐ来てくれ、ああそうだ! 助けてくれ! …ウグァーッ!」
 
 最後にひときわ搾り出すような悲痛な叫びをあげたかと思うと、そこでブツリと通話は打ち切られてしまった。
「ちょ…おい! もしもし!? オインゴ?」
 …くそ、と呟いて花京院は携帯電話をポケットにねじこんだ。しばらくのあいだ混乱が解けなかった。しかし混乱しながらも、その分析力はあくまで怜悧だった。殺されかけた時も実際に殺された時も、いつだってそうだったのだ。彼は炎上するビルを油断なく睨みすえつつ、こめかみに強く人差し指を押しつけた。
(九割九分…罠だ。おびき出しだ。やつらが何らかの手段を使って僕をここから動かそうとしているに違いない)
 
 そしてはたと手を打つ。
「…ああそうだ、見え透いてるじゃあないか。『トーキング・ヘッド』だ。やつのスタンドの射程距離なら、オインゴの居場所だって余裕だからな」
 
 大きく独り言を言って、花京院の口許に薄笑いが浮かんだ。
 トーキング・ヘッドに憑かれている者の言葉は正反対に解釈すればよい。つまりオインゴは『助け』を求めているわけでもないし、『敵』に襲われてはいないし、『すぐ来て』ほしいはずもないのだ。電話をかけたのは、舌を操作したトーキング・ヘッドの仕業だろう。やつらめ、苦し紛れに鯖な事…でも鯔な事…でもない、味な事を。
(そうさ、わかっているんだ。ここに留まって引き続きやつらが燻しあがるのを見張るのが正解であり、『賢い行い』だという事は…)
 
 わかっては、いるのだが。
 
 薄笑いがひっこみ、忌々しげな歯噛みに取って代わった。
「ハイエロファント!」
 緑のスタンドが本体の叫びに呼応してゆらゆらと宙を昇る。そして雑居ビルのまだ火に包まれていないフロアを絨毯爆撃するように、万遍なくエメラルド・スプラッシュを浴びせはじめた。
 バリバリバリ…という雷鳴のような音がとどろいた。たちまちガラスは粉々になり、建材は飛び散り、黒い煙と砂埃がもうもうと舞い上がる。安普請のビル全体が命乞いするように震え、最上階はドリフの楽屋崩壊よろしくガラガラと崩落した。そのすさまじい破壊のさまを、花京院は地獄の番鳥のごとき眼差しでじっと睨みすえていた。
 
 悲鳴のひとつでもあがりはしないかと。あのギャングども二人が、まだそこにいる証左をひとつでも見せはしないかと。
 しかし無駄だった。そんなヤワなやつらではない。そしてひょっとしたら ――― ひょっとしたらと言う他ないくらい僅かな確率だが ――― すでに何らかの手段で脱出し、オインゴに危害を加えているのかもしれなかった。この疑念は花京院の胸の中で次第に容積を増し、焦燥となって怜悧な判断をじわじわ圧迫した。
 花京院は仲間思いの少年だった。嘘ではなかった。
 
「…聞け、」
 一通り掃射した後、彼は心なしか根負けしたような声でハイエロファントを通して呟いた。
「『あの電話はワナだ』…それはわかっているんだ。だが万が一でも、オインゴのやつに危機が迫っているという可能性があるのなら、僕は助けに行かないわけにはいかないだろう…」
 
 そしてハイエロファントグリーンをするすると引っこめる。彼はワンフロア分低くなってしまったビルにくるりと背を向けると、ストリートを走りはじめた。
 
(まったく、プロの犯罪者というのは恐ろしい!)
 走りながら花京院は思った。先ほどはこちらをワナにかけ、今度はワナとわかっていながらそこに飛び込んでいかざるを得ないようしむけるとは。いやらしい心理戦には一日の長があるというわけだ。
「だがいい、この花京院典明がこれまで克服してきた恐怖の数々に比べればなんでもない事さ」
 
 ――― 最も恐ろしい事があるとすれば、それは『見捨てる』事だ。仲間を見捨てて恥じさえしなくなる事だ。
 そればかりはいかなる場合であれ正しい判断ではありえない。例え相手が、昨日今日コンビを組んだ、ポルナレフよりも役立たずなへぼスタンド使いであったとしてもだ。

22燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ2 4/9:2008/02/10(日) 20:19:35 ID:.0X8Hqjc
 
 8.
 
 次第に砂埃の晴れつつある雑居ビルの最上階で、大きな平行四辺形の瓦礫が下から持ち上げられて、ごろりと転がった。瓦礫の下の空間では四つの目がキョトキョトと動き、青空のまぶしさを堪能した。
 
「ほんのちょっぴり予定通りではなかったが…」 言いかけて、自分の声が埃のためにひどくしわがれているのをティッツァーノは悟った。
「我慢比べは俺たちの勝ちだ…!」
 続きはプロシュートが代わりに言った。彼らはモルタル片と石綿の剥落を頭からかぶってほとんど粉屋のようになり、白くないところは煤の黒さと血の赤さで汚れていた。フロア丸ごとひとつ下の階に転落し、崩れた壁の間仕切りが作った小さな間隙に落ちこんで、何とか重傷は負わずに済んだものの、正直なところもうダメかと思ったものだ。頭の上にガンガンと音を立ててコンクリ塊が崩落し、ザ・グレイトフル・デッドが拳を振るってこれを防ぎ続けた。本体であるプロシュートの手の甲にかかった負担は相当なものだった。
 
「プロシュート、手が…」
「構わねえよ」
 血の滴る拳をスーツの裾で拭いながら(いずれにせよこれはもう廃棄処分だ)、プロシュートは眉ひとつ動かさず言ってのけた。 「立てるか? 今度こそあのガキをケツから三秒でファックしてやるぜ」
 ティッツァーノは猫のように敏捷に跳ね起き、いやな凄味のある微笑みを浮かべた。
「そうでしょうとも」
 
 まったく、ギリギリの賭けだった。
「花京院が逃げてから火をつけに戻ってくるまでのタイムラグからいって、オインゴをザ・グレイトフル・デッドの効果範囲外まで運び出す時間の余裕はなかったはずです。つまり、このすぐ近くのビルのどれかに、老いたままのオインゴを隠している事でしょう。そいつにトーキング・ヘッドを憑かせて、電話で花京院をおびきださせれば……」
 そう提案したのはティッツァーノだ。リスクのある選択肢だった。花京院にこちらの「ビルの前から移動してほしい」という意図が筒抜けになるし、花京院が電話を無視すれば万事休すだろう。だがティッツァーノは、花京院は間違いなくオインゴを助けにいくだろう、と推測していた。
「花京院は素晴らしく頭の切れる男ですが、ひとつだけ弱点がある。意固地なまでに『仲間思い』であろうとする事です。過去に何があったかわかりませんが、きっと彼自身のコンプレックスに深く関係している事なんでしょう。仲間が危ない目にあっているかもしれないという可能性が一%でもあるのなら、彼は必ず助けにいきます。例えこのビルにいるわたしたちをみすみす逃す事になるとわかっていてもね」
 
 それはギャング一流の、すこぶる卑劣な、しかし実用的な考え方だった。
「そこにつけこむ…か、やれやれ因果な話だぜ」
 とは言ったものの、プロシュートとしても異存はなかった。他にこれといって策も思いつかなかったので、二人はトーキング・ヘッドに賭けた。果たして『山は動いた』。今や二人が燃え盛るビルから脱出するのには何の障害もない。今度はこちらから、やつの背中を匕首で刺す番だ。
 
「ザ・グレイトフル・デッドにくっついて飛び降りるぜ。しっかりつかまってろ」
「ああ」
 
 プロシュートがティッツァーノの胴をしっかりと抱えると、ザ・グレイトフル・デッドは下腹部から伸びる腸管状の触手で、二人を自分の背中に結わえつけた。力強い二本の腕が瓦礫を次々と押し退け、燃え盛るビルからの退路を切り拓く。
 
「やつが今…やっている事は確かに『賢い行い』じゃねーな」 飛び降りるまでの須臾の間、ティッツァーノは自分を抱きかかえている男が、誰に語りかけるでもなくそう呟くのを聞いた。 「だが…これがもしペッシやリゾットや、それにティッツァーノ、テメーだったら、俺だってそうしたぜ」

23燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ2 5/9:2008/02/10(日) 20:20:33 ID:.0X8Hqjc
 
 9.
 
 苔緑色のリノリュームの床の上で、安置された海難死体のように横になっていたオインゴは、息せき切ってかけつけてきた花京院の姿を見ると、ひどく悔やんだ、自分を責めるような顔をした。果たして彼は無事であり、老いている他は誰かに傷つけられた痕跡もなかった。
 
「…やっぱりか」 わかってはいたのだが、花京院は肩を落とした。
 オインゴは目に涙まで浮かべん様子で、口を指さし(もちろん実際は正反対の方向を指さしていた)、餅を喉につっかえさせた老人のように「ううう…」と呻いた。口を開けたいに違いないのだが、唇の方が頑として開いてくれないのだ。トーキング・ヘッドの虫けらのような力でも、今の老い果てたオインゴには抵抗し難い。おそらく口に這いずりこむのも簡単だった事だろう。
 
「…『うれしくない。これからまた、ずうっとドラえもんといっしょにくらさない』ってやつを思い出すよ。いやいいんだオインゴ、気にするな。これは僕自身の心にあと味のよくないものを残さないためにやった事なんだからな」
 
 そう言って花京院は、自分で立ち上がる力もない相棒に肩を貸した。
 やれ、そうは言うが戦況は一気に厳しくなったぞ。彼は内心ではいそがしく計算を巡らしていた。すでにトーキング・ヘッドによって突き止められた場所にノコノコ舞い戻ってきたという事は、連中に『僕らはここにいるぞ、襲ってくれ』と言っているようなものだ。ビルの入り口には不可視の糸状にしたハイエロファントの触脚を張っておいたが、早くもそれに触れる侵入者があった。感知できたのは一人、おそらくプロシュートだろう。ティッツァーノは外で待たせておいて、閉鎖空間に老化ガスを撒き散らす。単純だが最も効果のある攻撃だ。こちらは大きな荷物を抱えている。どこまで戦えるだろうか?
 
「まあいい、保険を用意してないわけじゃないさ」
 花京院は十七歳という若さにそぐわぬふてぶてしさで、そううそぶいた。裏口へ続く通路を慎重に歩む。道の前後には触脚を這わせ、警戒を怠らない。プロシュートの足取りは掴めなかった。どこで襲ってくる気だろう? 悠長に待ち構えてはいられない。老化ガスが充満してしまう。
 
(時間制限つきウィザードリィってとこかな? あ、敵もリアルタイムで動いてるからどっちかっていうとダンジョンマスターとかその辺か)
 
 大真面目ではあるのだが、発想は悲しいまでにオタクだった。足音に耳を澄ませ、触脚の送ってくる情報に精神を集中させながら、階段を降り、薄汚いカーペットの敷かれたフロアに出る。あと少しで出口だ…。
 ところが極限まで緊張を張りつめたその瞬間、予想もつかぬ、生温かいヌルリとした感触が、花京院の耳の裏から顎のラインにかけて走った。
「…ッうわあああぁッ!」
 
 全身に鳥肌が立ち、かん高い悲鳴をあげて、花京院は肩に担いだ相方を床に放り出した。彼の口から蛭のようにはみ出た、長い長い舌に嫌悪の眼差しを向けながら。
「ふッ……ざけるな!! このクソカスッ!」
「その通りだ! やりたくてやったんだ!(誤解だ! わざとじゃない!)」
「そこに直れ、舌ごとトーキング・ヘッドを吹っ飛ばしてくれる!」
「望むところだ!(勘弁してくれ!)」
 
 花京院は肩で息を切らした。ヌラヌラ濡れた頬に手を当て、自分に言い聞かせる。落ち着け、落ち着かなければ。今の悲鳴は敵にも聞こえたはずだ。
「はは、は、は……。わかっているさオインゴ、君は悪くないんだよな。あのガチホモが全部悪いんだ。見てろ、あいつには楽なリタイアはさせてやらないぞ」
 口の端を山岸由花子の眼輪筋よろしくピグピグさせながら、花京院は無理に笑いをつくった。まだ大丈夫。まだ大丈夫だ。ことさらに余裕のある仕草で、倒れたオインゴにもう一度手をさしのべる。しかしオインゴのちりめん皺だらけの顔は、さっと恐怖に彩られた。花京院の肩越しに背後を見て。
 
「かッ…花京院、右だァッ!」
 言うなりオインゴの手がブンと振られ、右を指さす。
「なッ……しまった!」
 花京院は無論、トーキング・ヘッドの性質をよく理解していたのだが、つられて思わず右方に身構えてしまった。この一瞬の隙はきわめて高くつくものだった。当然のごとく左側の壁を薄紙のように突き破って現れたザ・グレイトフル・デッドが、三本の鉤爪を持つ手で、花京院の肩から背筋にかけてを深々と抉り斬った。

24燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ2 6/9:2008/02/10(日) 20:21:43 ID:.0X8Hqjc
 
 10.
 
「ぐあああッ!」
 
 間欠泉のように噴き上がる血潮はスタンドバトルの華だ。――― ボロギレのように床に叩きつけられながら、まるで他人事じみた冷静さで、花京院は舞い散る血しぶきを眺めていた。
 大したダメージではない、とすでに見定めている。ポルナレフなら痛いとも言わずに跳ね起きて、再び戦いはじめる程度の傷だ。しかし打撃とともに叩きこまれた老化エネルギーは強烈だった。背筋におぞましいほどの悪寒が走り、全身からひどいだるさと虚脱感が抜けない。視界もこころなしか暗く、狭くなった。その視界の端っこで、プロシュートのイヤミなほど男前な顔が薄笑いを浮かべている。あいかわらずグロテスクなスタンドを従えて。
 花京院は口の端をゆがめ、犬歯を剥き出しにして不敵に笑い返した。
 
「形勢逆転…とでも言いたげだな」
 大きく喘ぎながら吐き捨てる。手に力が入らず、思うように上体が起こせない。
「花京院よォ…てめーなかなかカッコイイんじゃあねーかよ」
 プロシュートは大真面目な口ぶりでそう言った。馬鹿にした響きはなかった。
 
「そう思うなら、僕に対して言った暴言は取り消してくれないか?」
「そうだな。さっきお前の事『吐き気をもよおす外道』だなんて言ったが、撤回するぜ。無礼な事を言ったな。お前は仲間を捨石にしねー男だ」
「…だろう? みんななかなか信じてくれないんだ。日ごろの行いが悪いのかな」
 
 へらず口で時間を稼ぎつつ、花京院は油断ない目で相手の動きを見つめていた。埃と煤まみれでなかったらさぞかし小粋であろう、イタリアンスーツとミラノの革靴でキメた脚が、ゆっくりと間合いを縮めつつある。
「…いや、仲間を捨石にできねー男と言うべきかな?」
 その距離が、花京院の頭の中の計算で厳密に定められた一線を破った時、花京院は渾身の力で身を起こし、再び片手を突きつけた。ギャングの目を真っ向から睨みかえす、傷のある双眸。この花京院典明の闘志が、この程度の事で挫けるとでも?
 
「それ以上近づかない方がいい…。警告しておくが僕のハイエロファントは、すでに迎撃の用意を整えているぞ」
 ああなんとしわがれた、老いさらばえた声なのだろう。そして返ってきたのはハン、という嘲笑だ。
「強がるんじゃあねえぞッ小僧! ご自慢の前髪がきれェーに真っ白だぜ? スタンドを出す力も……もう残っちゃあいないだろうがッ!」
 
 プロシュートはせせら笑いながら、さっと指を突きつけ返した。と同時に、ザ・グレイトフル・デッドの巨体が猛然と距離を詰めてくる。だが計算通りだ。
 
「何ッ…!」
 老化と死をもたらす三本指の怪腕は、花京院の体に届く数十センチ手前で、縦に張り巡らされた不可視の触脚によって阻まれる。そう、スタンドは出せないわけではない。『見えなくした』だけだ、いつものように。
「まだそんなスタンドパワーがあったとはな。…だが貧弱貧弱ゥ!!」
 
 一瞬はひるんだザ・グレイトフル・デッドだが、すぐに触脚をつかんで猛然と引っぱり、密集地帯をかきわけはじめる。
(…そうそう、当然そうするだろうね?)
 だがそれも計算のうちだ。次の瞬間、プロシュートは足許をすくわれたようにつんのめり、前のめりに膝をついた。
 
「うおっと! これは……カーペットが!?」
「そうだ。その位置がよかった。すごくいい」
 
 花京院はにこりともせずに(そんな余裕はなかったので)答えた。
 ザ・グレイトフル・デッドが掴んだ触脚の先は、天井に剥きだしで設置された二本のダクトを滑車がわりに経由し、プロシュートの背後でカーペットの端に結び付けられていた。触脚が引っぱられれば、カーペットは後ろに引きずられ、その上に立っている者はバランスを崩す事になる。これぞジョセフ・ジョースター直伝ロープマジックの初歩の初歩。しかもこのロープは生きているのだ。
 
「だがこの程度、子供だましッ…!」
「誰が『この程度』で済ますと言った?」
 
 花京院はオインゴの腕を自分の肩に回し、逃げ支度を整えながら唇を歪めた。
 ザ・グレイトフル・デッドは身をよじり、別の角度から触脚をかきわけようとする。と、今度は逆の腕に引っかかった触脚が、カーペットの逆端をするすると吊り上げはじめた。退こうとすると、またその動きに連動した触脚がカーペットの別の端を引き上げる。たちまちプロシュートは四隅を吊られたカーペットにくるまれ、視界と行動を封じられてしまった。こうなると、そう簡単に抜け出せるものではない。ザ・グレイトフル・デッドはめくらめっぽう腕を振り回しているが、もとより小器用な作業にはまったく向かないスタンドだ。茶巾包み状態になった本体を救い出すには、しばらく時間がかかるだろう。

25燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ2 7/9:2008/02/10(日) 20:22:52 ID:.0X8Hqjc
 
「しばらくハイエロファントと遊んでいてくれ」
 花京院はくたびれ果てた老人の声でそう呻くと、相方を肩にかつぐようにしてヨタヨタと逃げ出した。膝が笑って力が入らず、全身の関節が痛む。これが社会問題にもなっている老老介護というやつだろうか。いやちょっと違うか。それにしても老化というのは恐ろしいハンディだ。六十八歳にしてあの壮健な身体能力を保っていたジョセフ・ジョースターには改めて敬服の念をいだくほかない。
 
(ジョースターさん、貴方の武勇伝をちゃんと真面目に聞いていたおかげで助かりましたよ。承太郎は「あんなのフカシだぜ」とか言って寝てましたけど!)
 
 そしてその教えに従うならば、今は『逃げるが勝ち』という事になる。裏口に続く道は封鎖されてしまったので、花京院は階上を目指していた。階段を上る足がなんとも重い。すでにビルじゅうに充満しつつある老化ガスが、弱った体からさらに若さを吸い取っていく。だがまだ歩ける。
「あの場所へ…あの場所へ行きさえすれば…」
 目的地までの最後の数メートルを、花京院はほとんどよろめき這いずるようにして歩いた。背負ったオインゴの体の、呪いの石のごとき重さよ。背後からダクトの折れるベキバキという音が聞こえてくる。敵はようやく「茶巾包み」から逃れたようだ。ハイエロファントも戻ってきた。体を支えさせ、歩行の助けとする。
 
(あと少し……僕はちゃんと理由があってこのビルをオインゴの隠し場所に選んでいたんだ。もっとも外国人のやつらには、どのビルも同じに見えるだろうがな…)
 テナントとして水産会社の入ったビル。冷凍貯蔵庫の位置は、すでに頭に叩きこんであった。強い冷気で体を冷やせば、老化は一気に解除される。そうなればこっちのものだ。
「あと…少し……」
 
 ――― だが、ついにたどりついた冷凍貯蔵庫の扉を押し開け、枯れ果てた肉体をひんやりと癒してくれるであろうその空間へと身を躍らせた時、花京院は呆然として呻かざるを得なかった。彼は生ぬるい水溜りの中に倒れこんだ。
 
「馬鹿、な……やり…やがった…!」
 
 
 
 
 
 
 11.
 
 髪の毛を梳き分けていく。絶妙な角度で額にかかるように、注意深く作業する事で冷静さを保てるように。
 ペッシには見せられない屈辱の「茶巾包み」状態を脱した後、怒りにまかせて敵を猛追しようとするプロシュートを押しとどめたのは、他ならぬ彼自身のギャングとしての「勘」だった。
 
(くせえな…やつの逃げ方には迷いがなさすぎる。逃げるというよりは、どこか確固とした目的地へ『向かっている』という感じだぜ…!)
 
 ハイエロファントにしても、触脚の大半をちぎられると、それ以上はさしたる抵抗もせず逃げ去った。足止めに全力をかけているとは到底思えない諦めのよさだ。これはまだ何かある。プロシュートはそう踏んだ。
 すなわち、花京院はまだ戦えるつもりでいるのだ。何らかの起死回生の策を用意しているのだ、それは何か?
 
 ――― 考えるまでもない。
 
「氷…冷気…。老化を解除する気だな。ハハハッ、だとしたら残念だったなァ…!」
 プロシュートの口許が獣の笑いを取り戻した。
 今度こそまったく笑いを禁じえなかった。禁じる必要もなかった。今ごろ花京院がどんなほえ面、いや絶望の表情を浮かべているか、考えるだけでも痛快だった。さんざん策を弄したこしゃくなガキに、完全なしっぺ返しを食らわしたのだ。
(…悪いな、花京院。戦いがはじまる前に小細工をしていたのはお前だけじゃあないんだぜ)
 
 ザ・グレイトフル・デッドの老化攻撃を防ぐ唯一の方法は『冷やす』事 ――― 弱点はすでに知られている。ならば、その知識を無意味にしてしまえばいい。
 
「このバトルフィールドへの送電線は、とっくにぶった斬ってあるんだぜ、花京院!」
 
 つまり、もはや通常の冷蔵庫や冷凍庫はこの街で機能し得ないのだ。老化ガスはそれ自体がムッとするような熱を持っており、スタンド能力であるからどんな保温壁にも阻害されない。今ごろは花京院のアテにしていた氷も、すっかり融けて流れてしまっているだろう。やつの計画もそこでご破算というわけだ。勝った!
「勝っ……」
 
 ズドォッ…!
 口に出してそう宣言しようとした瞬間、ビル全体を爆音と、小さな衝撃が揺るがした。
「な…なんだ。ガス爆発か!? それともあいつら、まだ動けるのか!?」
 
 プロシュートは唇を噛んだ。うろたえるな自分、イタリアンギャングはうろたえない。
 勝利の快感はまたも吹っ飛んでしまった。こちらの優位は揺るがないが、相手はあの花京院だ。最後の最後まで油断はできない。それこそ枯れ木のように干乾びて倒れている姿を見るまでは。

26燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ2 8/9:2008/02/10(日) 20:24:19 ID:.0X8Hqjc
 
「それなら直でもう一度叩きこんでやるまでだ!」
 
 ザ・グレイトフル・デッドを自分の正面に配置すると、プロシュートは猛然と花京院の後を追いはじめた。
 そうした点で彼は、まさしく勇猛果敢な生まれながらの戦士だった。だが一方で冷ややかな分析力も持ち合わせており、無人の廊下を走っているあいだ、その二つの顔が交互に表面化した。
 
(もしかして…一杯食わされてるのは俺の方じゃあないのか!?)
(そもそも花京院のやつがまだスタンドを操れるっていうのが『おかしい事』だったんだ。俺の老化エネルギーの配分に間違いはないはずだ。それこそも何十回、何百回となくやってきた計算だ。肌に感覚が染みついているはずなのに……。やつが『まだ動けるのは』太陽が西から昇らないのと同じようにおかしい事だったんだ…!)

 廊下に点々と滴っている、花京院の血の跡は容易に追う事ができた。二階の廊下の突き当たりへ、それは続いていた。分厚い金属扉を備えた冷凍貯蔵庫が見える。
(…ビンゴォ! だが花京院、そこはもう機能してないぜ…!)
 
 一気に畳みかけるべく、プロシュートは立ち止まらずに攻めこんだ。
 視界に入るやつは片っ端から引き裂く腹積もりで ――― しかし、彼のアテはまたも外れた。そこはすでに完全な無人であり、山ほどの魚の干物と、人間が入れそうもない小さなトロ箱がいくつか転がっているばかりの寒々しい空間だった。
「…………」
 やつらはどこへ行ったのか? その答えはあまりに明白だった。貯蔵室の最奥の壁には豪快な大穴が開いている。近づいてみると硝煙の臭いがツンとただよい、穴の向こうは外だ。
 真下の植えこみには人の飛び降りた形跡があった。おそらくはタッチの差だろう。
 
「そういえば……オインゴは爆破工作に長けたプロと聞いている、が……。だが! なぜ! やつまで動けるッ!?」
 憤懣遣る方なく、プロシュートは無人の空間に向かって吼えた。予想通り、冷気や氷は完全に失われていたというのに。自分の老化攻撃は「いつも通り」効果を発揮していたはずなのに。
(……いつも、通り?)
 
 プロシュートは血が出るほど強く下唇を噛み、心を落ち着け、それからゆっくりと腕時計に視線を落とした。
 時刻は四時半前。側面のボタンを押して、温度計を表示させる。
「…やはり、」
 彼は低く呟いた。機械の示す気温は、プロシュートの肌で感じた温度よりも五度ほど低かった。そのため老化攻撃は、思ったほどの効果をあげなかったのだ。そういえば聞いた事がある、日本はイタリアよりも湿度が高く、したがって体感温度も実際より高くなると。何の事はない、気候の違いがもたらしたイタズラだ。おそらく花京院自身も、なぜ自分が助かったか、まるでわかっていないだろう。悪運の強いやつめ。
 
「…ウミネコ」
 いつの間にか、大穴の真下にティッツァーノが来て、こちらを見上げていた。
「カモメ」
「ベネ(いいでしょう)」
「ミャアミャア」
 プロシュートはウミネコの鳴き声を真似、羽ばたくように両手をバタつかせて見せた。ティッツァーノは目を丸くして呟いた。
「珍しいですね、あなたがふざけるなんて」
「ふざけたくもなるぜティッツァ。済まねえ、でかい事言っておきながらこのザマだ。逃げられた」
 
 謝りながら大袈裟な身振りで額を覆った。 「…やつらを見たか?」
「ええ。爆音が聞こえたと思ったら、すごい勢いでオープンカーで走ってきましたよ。とんでもないフラフラ運転で、轢き殺されるかと思いました」
「車を用意してやがったか」
「今ごろはもう老化の射程距離外でしょう。追わない方が賢明ですね」
「そうだな」
 
 プロシュートはスタンドに手伝わせて、ひらりと外へ飛び降りた。まだ明るい時刻だったが、日はすでに大きく西空に傾き、雲はほんのりと赤く染まりだしている。湿度の高い国に相応しい、少しぼやけた優しい色だ。腹立たしいような、ホッとするような、なんとも複雑な気分になる。
 
「…どっかで休むか」
「そうですね」
 
 今日という日の戦いは終わった。その確信がなぜだかあった。今度という今度こそ、花京院は逃げ去ったのだ。今日中に仕掛けてくる事はもうありえない。ザ・グレイトフル・デッドの射程範囲から完全に逃れ、体を回復させて、明日の戦いに備える事だろう。おやすみおやすみ、よい夢を。プロシュートは肩の力を抜いた。明日はまた血煙の舞う戦いの逢瀬だ。
 
「おや、トーキング・ヘッドが帰ってきましたよ」 ティッツァーノが呟いて、掌上にうごめくヒルに似た肉色のスタンドを見せた。 「どうやら、連中に追い出されてしまったようですね」

27燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ2 9/9:2008/02/10(日) 20:26:34 ID:.0X8Hqjc
 
花京院「あの場所へ…あの場所へ行きさえすれば…」
プロ兄「ここは満員だ」
というコンボは自重した。実はやりたかった。反省はしていない。
 
ζ´・ω・`) < 背中痛いんだけど…
ζ´・ω・`) < 本格的な頭脳戦なんて書けませんよ。ファンタジーや(ry
 
前回はご感想どうもありがとうございました!

28一巡後名無しさん:2008/02/10(日) 22:13:50 ID:jHdKwX2k
おお、続きktkr
しょっぱなからいきなり吹いたw
普通に頭脳戦の連続で面白いんだぜ…!カーペットのくだりとか好きだ
次も楽しみにしてる。GJ!

29一巡後名無しさん:2008/02/10(日) 22:42:49 ID:NMEJimIQ
投下乙そしてGJ
仲間を見捨てられない花京院にキュンと来た
どっちが勝つのか、勝負の行方が楽しみだ

30一巡後名無しさん:2008/02/10(日) 22:59:10 ID:fMg8vGZM
GJGJ!!
やり取りが秀逸だなぁ
オタ…もとい花京院惚れ直したw

31一巡後名無しさん:2008/02/10(日) 23:07:13 ID:UlzYn04s
テラGJ!今までティッツァを好きでいた甲斐があったよ

>「…どっかで休むか」
>「そうですね」
スクアーロ「許可しない!同じ空間で一夜を明かす事は許可しないィィィ!!」

32一巡後名無しさん:2008/02/12(火) 23:04:42 ID:aSCgECmo
許可しないと言ったところで兄貴が言う事聞いてくれるとでも思ってるのかスクアーロ・・・

まあ実際アレだな、バラエティー番組の若手芸人のチャレンジ企画みたいなノリで
夜のキャンプの様子まで中継されてたらスクアーロ一睡もできないだろうなw

33一巡後名無しさん:2008/02/12(火) 23:59:47 ID:AaWtbRLo
すごい今更ながら承太郎のコメントがエ/リ/カ様だと気がついた

34一巡後名無しさん:2008/02/13(水) 00:47:56 ID:P4y9F7Ek
どっちが勝っても負けても
一番憔悴しているのはスクアーロということになりそうw

35一巡後名無しさん:2008/02/13(水) 01:14:57 ID:3lfPUHLo
>バラエティー番組の若手芸人のチャレンジ企画みたいなノリで夜のキャンプの様子まで中継されてたら

ティッツァの入浴シーン放映されてVTR担当のカリメロに飛び掛るところまで受信した
スタンドじゃ勝て・・・本体の性能的に負けるところしか浮かばない

36一巡後名無しさん:2008/02/13(水) 23:56:30 ID:o5CpgmFc
どっちのチームが勝つか予想がつかないな〜
あとかきょーんのガチホモは楽にリタイヤさせてやらない宣言が怖すぎるのは自分だけか?

37一巡後名無しさん:2008/03/06(木) 11:36:06 ID:aPeP2HRI
手加減無しの花京院もっと見たいw
承り。もう少し優しいコメントをお願いします・・・。

38一巡後名無しさん:2008/03/06(木) 21:51:47 ID:Ib/I/xIg
心からGJ!燃えと笑いのバランスが秀逸秀逸ゥw

>『うれしくない。これからまた、ずうっとドラえもんといっしょにくらさない。』
懐かしすぎてどら焼き噴いたw

しかし兄貴&ティッツァという新たな(且つ潰しの効かない)萌えに開眼してしまった訳だが…
畜生ッ!続き楽しみにしてるッ!

39一巡後名無しさん:2008/03/06(木) 22:23:54 ID:ggj/VX8k
>>38
ヘイ、ソウルシスター
この避難所では「潰しの効かない萌え」なんてないんだぜッ!

40一巡後名無しさん:2008/03/07(金) 23:08:20 ID:c6f0smJg
兄貴&ティッツァ萌えなら
ちょっと前の5部スレに来てたな。
二人とも「勝利のためならレねる」キャラなので
ガチバトルだと共倒れしそうで心配なんだが「試合」だからまあいいか・・・

41一巡後名無しさん:2008/03/19(水) 00:16:40 ID:cOAX3yls
GJ!超GJ!!
あっという間に2転3転するジョジョ特有の戦闘が面白かったんだぜ!
花京院のヲタネタとか各所に散りばめられたさりげないジョジョネタとかもすごいよかった!!
ベリッシモ読みやすかった!

42一巡後名無しさん:2008/03/19(水) 23:57:04 ID:6qRPXELo
正直、どっちが勝つと思う?

43一巡後名無しさん:2008/03/20(木) 01:43:50 ID:NSdmu6kY
予想は作者さんがやりづらくなるからやらない方がいい か も

44一巡後名無しさん:2008/03/20(木) 13:28:11 ID:NUP2xMU.
そうだな。すまん。

45燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ3 1/12:2008/03/30(日) 20:40:25 ID:nTYOisaI
 
ドジこいたァーッ! 「ミャアミャア」ではなく「ニャアニャア」だったッ! ウミネコはッ!

ζ´・ω・`) < やあ、こんにちは。ゆとりゆとりとみんなに大人気の花京院だよ!
ζ´・ω・`) < 1989年に17歳だからプロシュートより年上かもしれないのにね!(※2001年時生きてれば28〜29歳)
ζ´・ω・`) < まあ死んだ子の歳を数えたって仕方ないんだけどね!

すごく間が空きました。ちなみに三回で終わりませんでした。すみません。
同人的に人気のある御三方にくらべてオインゴ視点って難しいですね。

46燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ3 2/12:2008/03/30(日) 20:41:11 ID:nTYOisaI
 
 12.
 
 夜気の中に、パチパチと火の粉がはぜる。

 ドラム缶を切って作った即席の火桶の前で、プロシュートは立ち昇る炎の色を見つめていた。赤っぽく照らし出された顔にはまつ毛のぎざぎざした影が落ちており、表情は動きがなかった。
 無表情なのはティッツァーノの方も同様で、こちらは火から離れて立ち、携帯電話でだいぶ長い事話しこんでいる。最後に何回か「すみません、すみません」と謝ると、ようやく通話を終えた。火の側に戻ってくる時の顔つきは、依然としてすましたものだったが、目に少々げんなりした疲労の色が浮かんでいた。

「どうしたんだ、本部から何か言ってきたのか?」 プロシュートが聞けば、
「スクアーロがわめきちらして暴れたので『あて身』して亀の中に放り込んだそうです」
 ときたものだ。プロシュートはオーバーな動作で天を仰いだ。
「…そりゃまた始末に負えねーマンモーニだな、おい! オメーの相方を悪く言うようでなんだがよ」
「実際にマンモーニなんだから仕方ありませんよ」

 ティッツァーノは溜息をついた。なんならプロシュートみたいに年上の頼れる兄貴の方がよかったなあ、などと呟きながら、わざとらしい流し目をくれる。プロシュートは苦笑いを浮かべて肩をすくめた。
 今の相方に満足しているからこそ言える冗談だ。もっともイタリア男というのは、その手の冗談が時どき冗談でなくなってしまう困った人種なのだが。ティッツァーノは火の傍から、ほんのりきつね色に焦げたサーディン・サンドイッチを取って、お上品な所作で一口齧った。 「…あ、おいしい」
「だろ?」

 ささやかな仮の食卓に寛げられているのはパンと数種類の魚ばかりで、これはあのクソ忌々しい水産会社の倉庫からかっぱらってきたものだ。聖書のガリラヤ湖畔の奇跡を思わせるような質素な午餐だった。せめて白ワインがほしいところだが、贅沢は言えない。プロシュートはグラッパをスキットルに一本分持ちこんでいたが、これは明日に備えて控えめにしておいた。後々、傷の消毒や気付けに入り用になるかもしれない。
 二人は用心を重ね、缶詰や果物などある程度以上の『大きさ』を持つ食品には一切手をつけなかった。毒はともかく爆弾は怖い。陰険なオタクと破壊工作に長けたエージェントは色々な意味で危険な組み合わせである。食物に罠を仕掛けていない保証はどこにもない。

「こっちの魚もなかなかだったな。今度ペッシに釣らせるか」
「イタリアでも獲れますかね?」
「さあ? 見た事ねーしなあ…」

 いくぶん自信の無さそうな口調で、プロシュートは皿の上の魚のソテーをつっついた。脂が乗っていて、熱いうちに齧ると皮がパリパリとはじけるような美味い魚だ。ティッツァーノがトロ箱の下から伝票らしい紙切れをひっぱりだし、「SANMAというんだそうですよ」などと、どうでもいい事を言っている。秋の終わりの星空は綺麗だった。月は見えない。

「明日には決着をつけたいですね」
「おうよ、お前のスクアーロのためにもな」

 プロシュートは片目をつぶって笑ってみせた。ティッツァーノは笑い返し、猫のように唇についた脂を舐めた。
 同じ星空の下のどこかで、花京院とオインゴも短い休息をとっている事だろう。

47燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ3 3/12:2008/03/30(日) 20:41:53 ID:nTYOisaI
 
          ×         実況席2         ×          
 
 
 
「はい、手に汗握る緊迫したバトルが続く一日でしたね。みなさんお楽しみいただけましたでしょうか! さてスタジオには解説に暗殺チームリーダーのリゾットさんをお招きしています。こんばんは!」
「…おう」
「さっそくですが、この戦況をご覧になっていかがでしょうか」
「プロシュートたちはよく戦っているが、不利な事に変わりはないだろうな。敵のスタンド、とりわけハイエロファントグリーンの性能がやっかいすぎる。市街戦や暗殺にうってつけの能力だ。効きの遅い老化ガスや近接攻撃のみでいかに立ち向かうか、思案のしどころだろう」
「なるほど。ではプロシュートさんたちの『勝ち目』は何割くらいのお考えでしょう」
「三割だな。町の電力供給を絶った事で氷を使われる恐れはなくなったが、それはあくまでプロシュートのペースに乗せた後で抵抗されないための保険に過ぎん。今日の戦いで敵はより用心深くなったはずだ。おいそれとプロシュートの間合いには入ってこないだろう」
「厳しい見方ですね」
「そうでもない。俺たちギャングには、不利だからって『不利のままで押し切られちまう』ようなタマナシはいねえ。必ず敵のノドに食らいつく」
「なるほど。どうもありがとうございました」
 
 
「では今度は空条承太郎さんにお話をうかがってみましょう。承太郎さん、何かしゃべる事は考えてきてくれましたか?」
「…この週末に俺と花京院とでおふくろ連れて巣鴨に行ったんだが……」
「あ、そういう個人的エピソードは別に聞いてないです。野球中継の攻守交替時の雑談じゃないんですから」
「…そうか………」
「バトルについて何か一言お願いします」
「…ハイエロファントグリーンやザ・グレイトフル・デッドみたいな火力のでかいスタンドに目が行きがちだが、残る二人のスタンドも馬鹿にはできねーな。俺の経験上、くだらないと思えるスタンドほど思いもかけない奇策でこちらを驚かせてくるもんだぜ。シケたスタンドでここまで生き残ってこれたのは、それだけ知恵を働かせてきた証拠でもあるってわけだ」
「やればできるじゃないですか承太郎さん! もう一言くらいお願いできますか?」
「そうだな…花京院は性格的にもスタンドの性質的にも、本来は人のサポートに徹する戦い方が得意なやつだ。自分がメインウェポンを務めなきゃならん状況で、今後どれだけ動けるかってとこだな」
「ありがとうございました。明日も引き続き実況はこの僕、広瀬康一が担当させていただきます。今後両チームは就寝に入ると思われますが、何か動きがありましたら順次お伝えしていきたいと思います。それでは」
 
 
 
          ×          ×          ×          
 
 
 
 
 
 13.
 
 オインゴは乱暴に揺り起こされて、闇の中でしぶしぶ薄目を開けた。
 まぶたを刺すような朝の光は、ついぞ感ぜられなかった。埃っぽくどんよりとした薄暗がりの中に、知らない部屋の風景が広がっているばかりである。ここはどこだ?
 まばたきしたオインゴは、明かりの代わりに顔の真上でフワフワ揺れている茶色い動物の尻尾のようなものを見つけた。もうちょっと注視してみると、それが花京院の前髪である事がわかった。冷ややかな目をしたオタク野郎が、真上から彼の顔を覗きこんでいたのだ。オインゴは溜息をつき、昨夜までの事を思い出した。ここは弟と二人で暮らすアスワンのコンドミニアムの一室ではない。うんざりするような戦場の片隅のビルの一室、我らが『チーム』の仮の宿だ。

「目が覚めたか? 覚めてくれなきゃ困るんだ。ポルナレフのように肘鉄を入れなきゃならないから」
「何時だ? …まだ夜が明けてねえんじゃないのか。くそッ、なんでこんな時間に起こす!」

 オインゴは毒づきながら上体を起こし、枕(丸めた業務用タオル)の脇の蛍光時計に目をやった。 「…朝の四時前だと! 頭沸いてんのかオイ」
「何のために昨日十時過ぎに寝たと思っているんだ。それだけ眠れば十分だろ」 花京院は無感動に答え、ほつれた前髪をかき上げた。額の上端に穿たれた深い傷、双眸の上に刻まれた深い轍は、息のかかる近さで見ると何ともなまなましく、不気味な迫力がある。たじろいだオインゴに彼は笑いかけた。 「…朝食ができてる。さっさと食べて」
「朝食?」

 オインゴは首を傾げてあたりを見回し、薄闇の中に漂うまがいものっぽい香辛料の香りを嗅いだ。部屋の隅に設えられたアウトドア用ガス焜炉の上で、小さな手鍋が湯気を立てていた。カレーの匂いだ。

48燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ3 4/12:2008/03/30(日) 20:42:32 ID:nTYOisaI
 
「ボンカレーはどう作ってもうまいのだ」
 芝居がかった口調で花京院は宣言した。オインゴは肩をすくめた。
「どうせそれも漫画かなんかのセリフなんだろ?」
「よくわかったな。漫画っぽくないセリフなのに」

 昨日あれだけ『オタクの独演会』につき合わされればピンと来もするさ。オインゴは心の中だけで呟き、レトルトカレーを紙皿によそった。ちぎったバゲットを浸して食う。なるほど、そこそこ美味い。

「ああ、そうそう『隠し味』は入ってないから」
「ななな何の話だ!?」

 オインゴは食べていたものを噴き出しそうになった。よくわからないが、この男の口からそういう意味深な単語が出ると、何とも不穏な気分になる。落ち着け自分、カレーが茶色いのは元からだ。何か変な物が入っているからではない! 断じて!
(…ああボインゴ、お兄ちゃんめげそうだよ…)

「しかしなぜ明かりをつけない?」
 星明りの街を窓から見おろし、オインゴは呟いた。電気を絶たれた無人の街路には燈火の一つもなく、墨を流したような闇が宏漠と広がっている。夜空は割合に明るい濃紺で、やがて東の方角から白みはじめていくのだろう。花京院は答えた。
「ああ、こっそりと動きたいからな」
「動く? こんな時間からか?」
「こんな時間だからこそだよ。あのイタリア人たちはまだ眠っているだろうからね」
 ハイエロファントに包帯を巻き直させながら、彼は意味ありげに片目をつむってよこした。隆々たる背筋を斜めに裂いた傷は案外深く、右腕は相当動かしにくいようだ。痛くないはずがないのだが、苦痛の表情ひとつ見せずに彼は続けた。
「短期決戦で相手が眠っている時間に起きているっていうのは、それだけでアドバンテージなのさ」
「お前の言いたい事がわかってきたぞ。やつらがグースカ寝コケているうちに、あれこれ『下準備』をしておこうってわけだな」

 歴戦の破壊工作員の表情に戻ったオインゴは、我が意を得たりというようにうなずき返した。そうとわかれば話は早い。素人さんがあれこれ作戦を立てている時に、プロがポカンと口を開けてそれを眺めていてよいものか。彼はカレーの残りをガツガツと一気にかきこみ、スパイスくさい深呼吸をしてから、紙皿をフリスビーのように部屋の隅に投げ飛ばした。花京院が露骨に眉をひそめたのが見えたが、気にもならない。

「――― で、俺は何をすればいい?」
「そうだな。配線を繋いだり、車の盗難防止装置を壊したりっていう実際向きの作業は全部やってもらう事になるだろう。なんたって僕は世間知らずの学生に過ぎないからな」
「任せろ。具体的には?」
「まず必要なのはトラックの用意、保温容器を少々、あとは服屋と電気屋の襲撃だ」

 花京院はタウンマップを広げると、星空の淡い明かりをたよりに、あちこち指し示して説明をはじめた。それを聞いているうちにオインゴの目にもギラギラとした鋭い光が宿ってきた。

「なあ花京院、」 彼は悪党面に残忍な笑みを浮かべ、親指をピンと立ててみせた。 「今日の俺は足手まといのままじゃあいないぜ。まあ見てな」
「期待させてもらうよ。その発言は死亡フラグだと思うがな」

 気のない声で花京院は答える。だが目もとは穏やかに笑っており、どちらかというと楽しそうですらあった。
 ほどなく彼らは、未明の街に音もなく踏みだし、来るべき戦いに備えての爪と牙を静かに研ぎだした。

49燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ3 5/12:2008/03/30(日) 20:43:17 ID:nTYOisaI
 
 14.
 
 プロシュートが目を覚ました時には、すでに淡い早朝の光がさざ波のように彼の顔に降り注いでいた。
 仮宿に選んだオフィスビルの一室の、ベージュ色の安カーテンを通したぼやけた光。今は何時だ? プロシュートは普段の精悍さからは想像もつかぬ、眠たそうな眼差しでゆっくりと室内を見渡し、同時にのろのろとした手探りで、脱ぎ捨てたスーツを探した。その手先はティッツァーノの胴にぶち当たった。先に起きたらしい彼は、狭いマットレスの反対側に腰掛け、身づくろいに余念がない様子である。象牙色の髪が丁寧にくしけずられて、絹糸でできた東洋の御簾のように、プロシュートの目の前に垂れ下がっていた。

「ベッラ! …昨日の俺はどこで飲んだくれたあげく、こんな綺麗どころとベッドにしけこんだんだっけな?」
 ぴしゃっと自分の額を叩き、感嘆交じりにプロシュートは呟いた。
「あなたとどこかへしけこんだ覚えはありませんが」
 振り返りざま冷ややかな目つきで睨みはしたが、ティッツァーノも口ぶりからして悪い気はしなかったようだ。プロシュートは急いで枕もとのヘアバンドを拾い、彼に渡してやった。ヘアバンドの血痕はきれいに洗われていた。

「ここにはスチーム機も寝癖を直す電気ごてもないんですよ」 第一電気が通っていない、とティッツァーノは愚痴る。 「ギャングというのはつくづく都市文明に依存した生き物だと思います。…ああ、熱いシャワーを浴びたいな」

 プロシュートは苦笑した。実際シャワーはあるにはあるのだが、送電線を絶ってしまったおかげで冷水しか出なかったのだ。暖房も使えないので、室内はやたら肌寒い。二の腕を剥き出しにした服装のティッツァーノはなおの事だろう。

「俺は熱いコーヒーが飲みてーな。むろん、この町のジャッポーネどもがコーヒーと呼んでるヌルくて薄い液体じゃあなく、コールタールみたいに真っ黒で濃い本物のイタリアンコーヒーをだ」
「手に入らないでしょうね」
「だろうなあ」

 二人は同時に嘆息する。プロシュートは自分の髪を梳き、いつもの凝った髪型に結い上げる作業に専念しだした。その間ティッツァーノは、相棒のスーツについた埃と血をブラシで丹念に拭う。いかなる戦場においても、可能なかぎり男ぶりを良くしようと努めるのはイタリア男の心意気である。
 若干空腹だったが、プロシュートは何も口にしなかった。コーヒーがないなら朝食は要らない。ティッツァーノは昨夜の残りのパンを申し訳程度に齧り、残りはちぎって窓から小鳥に投げてやった。プロシュートはその様子を眺めながら、ペッシは今ごろどうしているだろうかと取り留めのない考えを巡らしていた。

「ぼちぼち出ましょうか。連中もそろそろ活動をはじめている事でしょうし」
「もうとっくに動き出してるかもしれねーぜ。ジャッポーネの勤勉さは馬鹿にできないからな」

 敵の目を避けるようにして、二人が注意深くビルを出たのは朝の八時半。案の定と言うべきか、外は寒かった。プロシュートは前夜に用意しておいた車をざっと調べ、妙な仕掛けがない事を確認した後でエンジンをかけた。青い排気が朝の冷たい大気の中に散っていく。唇を噛んでひとりごちた。
「…くそ、こう寒くっちゃザ・グレイトフル・デッドも効きが悪そうだぜ」
 
 
 
 
 
 14.5
 
「――― 十五番ストリートの西端に張っておいた触脚が切れた。感触からしてやつらは車に乗っているようだ」

 アーケード街のビル壁にもたれかかった姿勢で目を閉じたまま、花京院は呟いた。泰然としたその振る舞いは、かつてエジプトの戦いで彼の光を奪った相手、ンドゥールにもやや似ていた。もっともこれは独り言ではなく、携帯電話の通話相手に向けた情報伝達である。
「もう来たか。存外近くにいたもんだぜ」
 送話口の向こうからはオインゴの景気のよい声が聞こえてくる。BGMはバイクのエンジンの空ぶかしの音だ。

「準備はできているようだな、オインゴ」
「無論だ」

 花京院はわずかに目を細め、笑った。よろしい、ギャング狩りの時間だ。

50燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ3 6/12:2008/03/30(日) 20:44:16 ID:nTYOisaI
 
 15.
 
 プロシュートは車窓から唾を吐き捨て、どなった。
「クソッ、やっぱりさっきのはハイエロファントの触脚だったようだぜ!」
「ああそのようですね……バイクが見える。追ってきますよ」
 バックミラーを睨みながら、ティッツァーノも低く呻いた。

 個人商店が軒を並べる十五番ストリートに入った瞬間、何か軽いものを撥ねたような手ごたえが車体に伝わった。おそらくはスタンド使いにしか感知できないであろう微細な感覚。はっとした二人が背後を見れば、ちぎれた緑色の細糸が風に吹き流されてヒラヒラ舞っているのが見えた。そして ――― 案の定だ。ミラーに映ったライダーの姿は、速度を増してみるみる大きくなっていく。緑色の学ランのすそが風にはためいている。

「乗っているのは花京院です! エメラルドスプラッシュが来る!」
「いいやわからねえぜッ! 変身したオインゴかもしれねえッ!」
 ザ・グレイトフル・デッドを出現させながら、プロシュートは助手席のティッツァーノを見た。 「俺は後部座席に移る。運転、頼めるな」

 こちらも速度を全速力まで上げればおいそれとは追いつかれる事はないだろうが、意味もなく逃げるのは美意識に反する。基本的にはどこまでも好戦的なのがプロシュートの性格だ。

「背後に向けてガスを撒くぞ。余波でオメーも少々老化するかもしれねえが、アクセルだけベタ踏みしてろ。どうせここから数キロはずっと直線道路なんだ。地獄までな」
「イエッサー。聖母にお祈りでもしてましょう」
 ティッツァーノはウインクひとつして、プロシュートが退いた運転席に器用にすべりこんだ。

(マンマミーア! 頼もしいぜ、ティッツァ)
 プロシュートは心中で呟いた。後方をガッキと見据え、近づいてくる敵との距離を冷静に推し量りながら、下っ腹に力を入れてスタンドエネルギーを呼び起こす。

「フル稼働だッ! グレイトフル・デッド!」

 後部座席に陣取ったグロテスクなスタンドは、すぐさま主の命に従い、若さを奪う死の瘴気を吐き出しはじめる。逃げる車の白い尾のように一瞬たなびいた老化ガスは、じきに街路いっぱいに立ちこめ、乳白色の霧におおわれた山道のように風景を一変させた。後方百メートルほどに迫った緑のライダーも、たちまちこのガスに絡め取られ、姿は白くぼやけていく。プロシュートは肉食獣のように獰悪な笑みを浮かべた。

(カモォーン! これだけ濃いガスに晒されりゃ効きも早いぜ!)
 ましてや敵は速度を上げて、どんどんこちらに ――― ザ・グレイトフル・デッドに接近してくるのだ。老化が進んでハンドルを制御する力がなくなったところで転倒するだろう。速度はゆうに時速百キロを超えており、横転すれば脳漿と血でアスファルトを飾る事になる。…なるはずなのだが。

「……おかしい、なぜ倒れやがらねえッ!?」
 プロシュートは後部座席の背もたれを両の拳で強く叩いていた。
 白煙の空隙を裂いて、追っ手は確実に距離を詰めてくる。焦燥が胃にせり上がった。
 世の中そんなに甘くない事は暗黒のギャング稼業で重々承知していたが、この戦いは思い通りに運ばない事が多すぎる。敵のバイクの運転は、老化ガスを間近で浴びまくっているにも関わらず、何らフラついたところが見えない。八十メートル、六十メートルと肉薄され、もう敵の目鼻立ちまでがはっきりと判別できるようになっていた。端麗だが表情の掴みにくい東洋人の顔には、この距離にいたってもしわ一つ見受けられなかった。

「バカな……おかしい、ありえないぞッ!」
「落ち着いてください。花京院ならそろそろエメラルドスプラッシュを撃ってきますよ」
「わかってる!」

 アクセルを踏み、さらなる加速。風景は後ろに吹っ飛び、死の霧に包まれた光景の中で、焦りに早なる鼓動だけが奇妙にうるさくなっていく。
「寒いせいでガスが効いてないんじゃないですか?」
「ここまで効果がないってわけはないぜ。尋常じゃねえッ!」

 いっそ拳銃で撃った方が早いんじゃあないのか。プロシュートがそう思いはじめた時、バイク上の人影が変化を見せた。片手運転で器用にポケットに手を突っ込んだかと思うと、その手を大きく振りかぶったのだ。バックミラーから目を離さないまま、ティッツァーノが叫んだ。
「気をつけてッ! なにか飛んでくるッ!」

51燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ3 7/12:2008/03/30(日) 20:44:52 ID:nTYOisaI
 
 刹那、子供の頭大の黒い塊が風を切った。ガチャンという派手な音ともに、バックガラスが粉々に砕け散り、車内に雨あられと降り注ぐ。ザ・グレイトフル・デッドの三本爪は、この不愉快な事態をもたらした投擲物をしっかと受け止めていた。
(!!??)
 二人は凝然とその闖入者を見つめる。それはどこぞの上院議員の死骸などではなく、どちらかと言えばありふれた南国の果物だった。

「これは…」
「パイナップル…?」
 何やらひしひしと嫌な予感がする。二人は互いに顔を見合わせて呟いた。
「暗殺チームのパイナップルといえばペッシだが…」
「戦場のパイナップルといえば…!?」
「…うおおおああッ!」

 半分悲鳴に近いプロシュートの咆哮とともに、ザ・グレイトフル・デッドは手にしたパイナップルをあらん方向へブン投げた。
 まさしく間一髪のタイミング! ――― 次の瞬間には、この南国の果実を中心とした空間に小爆発が起こり、トロピカルな甘い香りと硝煙臭を伴った爆炎が一帯を吹き荒れていた。車体は左右に激しく揺さぶられ、二人は肌を灼く横殴りの熱風と、つぶてのように飛来する瓦礫の欠片に歯を食いしばって耐えた。

「やっぱり手榴弾入りかよ!」
「投げて使うんならわざわざ果物に仕込む意味はあるんでしょうか!」
「知らん!」

 もはや半分やけくそ気味に叫び交わす。とはいえ、爆発の直撃を避けられただけでもよしとしなければ。あと一瞬でもプロシュートの判断が遅かったなら、爆心地には車の残骸とギャング二人分のちょっとすごい肉片しか残らなかっただろう。

「爆弾を投げたっつーこたァ、あいつオインゴか。ナメたマネしやがってッ!」
 そもそもなんで老いねえんだ。割れた窓から顔を突き出し、焼け焦げの臭気に顔をしかめながらプロシュートは毒づいた。爆風にスタンドの霧を散らす力はなく、街路は依然、塗り込められたような白い闇の世界だ。オインゴのバイクは再び百五十メートル程度の距離まで遠ざかっていた。爆発の余波を避けるためだろう。ティッツァーノは前方から視線を逸らさないまま、窘めるようにささやいた。
「逆に考えるんですプロシュート。あれが花京院だったら今ごろわたしたち蜂の巣ですよ。そう考えるんです」
「ありがたすぎて涙が出るぜティッツァ! そういや花京院はどこにいるんだ? やつもいつどこから襲ってくるかわかったもんじゃあ……」

 『いい予感は外れるが、悪い予感はすぐに的中!』 ――― そんな格言めいた自虐がプロシュートの脳裡を去来したかどうかは不明だが、とにかくその直後に彼の言葉は現実化した。
 一、二秒のあいだ二人は、飛んできた新聞紙か何かがフロントガラスにへばりついたのかと考えていた。裏一面にスパイダーマンの映画広告が出ている新聞紙。しかしそのスパイダーマンはよく見ると毒々しい緑色で、スジがあってまるで光ったメロンのような風体をしており、己の手足でしっかと車のボンネットに取り付いていて ――― 要するに新聞の印刷などではなく、ハイエロファントグリーンそのものだった!
 
 
 
 
 
 16.
 
「ま、まずい…!」
 プロシュートは焦燥に凍りつく思いで呻いた。オインゴによる一連の襲撃は、ザ・グレイトフル・デッドを背面の守りに集中させるためのおとりだったのだ。昨日こちらが仕掛けた罠を、そっくりそのままやり返されるとは。

 ハイエロファントの仏像のように構えられた両手には、したたる新緑のエネルギーが充満し、運転席で凍りついたティッツァーノの頭部にピタリと狙いをつけている。ゼロ距離射撃だ。
(間に合わねえッ! このままではティッツァがやられる……いや、この狭い空間だ。二人まとめてコルクみてーに穴だらけだッ…!)
 ギャングどもの絶望を読み取ったのか、キチン質のマスクで覆われた無機質なスタンドの貌は、どこか冷笑したようにすら見えた。花京院の声が高らかに響きわたる。

「勝った! くらえエメラルドスプラ…」
「させるかァ―――ッ!!」

 癇に障る事はなはだしい勝利宣言を小気味よくぶった斬ったのは、予想外に野太く男らしいティッツァーノの咆哮だった。同時に彼は、思いっきりハンドルを切った。百キロオーバーの速度を全く落とす事なく。

52燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ3 8/12:2008/03/30(日) 20:46:04 ID:nTYOisaI
 
「うおおおおおッ!?」

 さすがのプロシュートも動転せざるを得なかった。
 当然ながら車体はとんでもない不協和音を立てつつ傾き、なかばコントロールを失ってピルエットを踊るように急旋回した。
 とはいえ、かろうじて横転はしない。ビル壁への正面衝突もなかった。ティッツァーノは単に、ちょうどそこにあった交差点を曲がったのだ。舗道に乗り上げた負担超過のタイヤから一瞬炎があがり、ゴムの焼ける悪臭が漂った。後部座席のプロシュートとザ・グレイトフル・デッドは横倒しにひっくり返り、曲がり角にかすめた助手席のドアが一枚ゴッソリと持っていかれたが ――― 被害と呼べる被害はそれだけだった。ティッツァーノはきわめて大胆不敵に、しかし沈着冷静にやってのけた。ボンネットの上に『乗っかって』いただけのハイエロファントは当然ながら車体にしがみつく事に必死になり、エメラルドスプラッシュを撃つ絶好のタイミングを逃してしまった。

「こ、このガチホモがッ…! 一度ならず二度までもッ!」 ――― 花京院の悪罵がとどろけば、
「プッツンしてるぜェーティッツァ! テメーのそのブッ飛んでる根性!」 ――― プロシュートは快哉を叫ぶ。

 何とか体勢を立て直したハイエロファントが、ティッツァーノに拳を見舞おうとした時には、すでにザ・グレイトフル・デッドが迎撃体勢を整えていた。緑のパンチは目標の顔に届く直前に、三本の鉤爪によって掴み止められる。砕けたフロントガラスが四方八方に舞い散る空間で、ハイエロファントの昆虫のような双眸と、ザ・グレイトフル・デッドの複数対の目が火花を散らしてぶつかり合う。ティッツァーノは不敵に微笑み、プロシュートは犬歯を剥き出しにした。

「単純な力較べならこっちが上だぜ?」
「…くッ」

(この機を逃さず老化エネルギーを叩き込んでやるッ!)
 鉤爪に力がこもる。しかしハイエロファントの拳は急速に弛緩したかと思うと、ゆですぎたスパゲッティーの束のようにバラバラッとほつれて、ザ・グレイトフル・デッドの手からすり抜けた。

「フフフ…危ない危ない。『直』は怖いからな」
 『紐状』のハイエロファントは本体にほとんどダメージを還元しない。プロシュートは歯噛みするしかなかった。緑のコードは風に吹き流されて新体操のリボンのようにたゆたい、車体の側面から二メートルほど離れた位置で人型をとる。祈る形に合わせられた両手の間では、再び緑の光が凝集しはじめていた。

「不意打ちで一気にカタをつけようと思っていたが……こうなったら単純なやり方でやらせてもらうよ。チート野郎のDIOには指一本で弾かれたが、生身の人間のお前らにそんな芸当ができるとは思えないしな」

 花京院の声は冷ややかにうそぶいた。
 プロシュートはガラスのない車窓から唾を吐き捨てた。オタク野郎の小生意気な笑みが眼前にありありと浮かぶようだ。ハイエロファントは宙に浮きつつ車と同じ速度で併走している。何をするつもりかは火を見るよりも明らかだった。一方的に攻撃できる安全な場所から、こちらが競り負けるまでひたすらエメラルドスプラッシュをぶっぱなすのだ。単純明快かつ合理的な戦法である。プロシュートは焦りを隠せなかった。ティッツァーノの褐色の頬にも、血に紛れてひとしずくの汗が伝うのが見える。

 突風吹き抜ける高速の車上で、再び睨みあう『法皇』と『偉大なる死』。激突は次の瞬間だった。

「…エメラルドスプラッシュ!」
「食い止めろグレイトフル・デッドォォォッ!」

 ガリガリ、バリバリと耳をつんざく機銃掃射、あるいは雷霆のごとき轟音が響きわたった。

 翠玉の散弾と拳の乱打が激突し、火花と緑光が飛び散る。唯一無事に残っていたサイドガラスは粉々に砕け散った。防ぎきれなかった数発はザ・グレイトフル・デッドを ――― つまりプロシュートを傷つけ、四方八方に跳弾したものは、座席のクッションや乗っている人間の皮膚を浅く切り裂いた。どうにか大きな被害もなく凌ぎ切った…と思う間もなく、

「ならばもう一発!」

 ほとんど『ため』の時間を置かずに二発目のエメラルドスプラッシュが来る。威力はともかく、費用対効果(コストパフォーマンス)と速射性にやたら優れているのがこの技の特徴だ。『法皇』などという慈悲深い名前を、どこの皮肉屋がつけたのだろう? ――― 今はそんな事を考えている余裕などない。
「うおおおおッ!」
 プロシュートは奥歯を噛みしめ、がむしゃらにスタンドの拳を振るった。だが先ほどのように多くは弾けなかった。血と汗が玉のように飛び散り、両手の骨が軋みをあげる。防ぎきれなかった緑の散弾はザ・グレイトフル・デッドの胴体に食い込む。きついボディーブローを喰らったような衝撃があり、プロシュートの口から血の泡がこぼれた。

53燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ3 9/12:2008/03/30(日) 20:47:10 ID:nTYOisaI
 
「プロシュート!」

 運転席から離れられないティッツァーノが叫ぶ。押し殺してはいるが、焦りを隠せない声だ。
 同時に彼は、再びハンドルを切っていた。今度は少し速度を落とした左折だ。先ほどまでの幹線道路とは打って変わって細い裏路地になった。車体ギリギリに両脇の側壁があり、余裕はほとんどない。位置取りに困ったのか、ハイエロファントは一時、上空に退いた。スペースができ次第すぐにまた襲ってくるだろうが、これで数十秒ほどは時間を稼げたわけだ。プロシュートは喘ぐように息を吐き、血に染まった口許に苦しい笑みを浮かべた。

「…気が利くじゃあねーか、ティッツァ」
「ほとんど意味はありませんがね」

 ティッツァーノは自嘲気味に呟き、それからバックミラー越しにプロシュートの目をじっと見た。
 言いたい事はわかる。二人まとめてかばうのは無理だ、自分の身だけ守ってほしい、と。しかしハンドルを握っている以上、それもかなわない。車は依然、高速で疾走中なのだ。運転手が倒れたら、このデコボコの車体は即座に走る棺桶に早変わりするだろう。希望は見えない。

「運転に集中してろティッツァ、それがオメーの仕事だろうがよ」
 つとめて穏やかな口調で、プロシュートは諭した。この狭い路地を抜ければ、三発目のエメラルドスプラッシュが来るだろう。背後のオインゴは今のところ何か仕掛けてくる気配はないが、やはり目は離せない。どこまで走れる? いつまで守り続けられる? ――― いずれにせよジリ貧だ。花京院のペースに乗せられっぱなしのままでは。

「…プロシュート、」
 ティッツァーノはまた彼の名を呼んだ。
「まだ何か!?」
 いささかの苛立ちを隠せない声で、プロシュートはぴしゃりと言った。生来あまり気が長い方ではない。側溝ぎりぎりに並べられた花の鉢植えをタイヤがリズミカルに撥ね飛ばす音が神経に障る。だがティッツァーノは首を振った。

「違うんです、花京院は…彼本人はどこにいるんでしょう?」
「オメー今はそれどころじゃ…」

 言いかけて、プロシュートは目を見開いた。
 花びらが何枚か、緊迫した場には不似合いにヒラヒラと舞い込んでくる。赤や黄色やピンク。

 『花京院はどこにいる?』 これは『奇妙な疑問』だった。
 ハイエロファントグリーンがいかに射程距離に優れたスタンドとはいえ、その遠隔操作には限界がある。車が最初にハイエロファントグリーンに襲われた地点から、すでに三、四キロは走っているのだ。となると花京院はその場にいつまでも留まってはいない。プロシュートたちを追って刻々と移動しているはずである。

「…そうだ、花京院は……どこに?」
 プロシュートは呟く。暗闇に一条の光が射した気がした。その時、車がついに狭い路地を出た。

 再び四車線の広いストリートだった。ティッツァーノがまたアクセルを踏んだ。ビルの谷間から降り注ぐ金色の光が目にしみ、街路樹の緑はまぶしい。だが逆光の街路にのんびりと視力を慣らしている暇などなかった。じきにハイエロファントが襲ってくるはずだ。プロシュートは眉をしかめながら忙しく左右を見渡した。

 ――― 敵の本体である花京院を叩く。それがただ一つ見つけた起死回生の一手だ。

 だが両側の舗道はもちろん、路上やビルの上にも怪しい人影は見受けられなかった。不自然なほど完璧に整備された日本の町並みは、走っても走っても果てしなく無人のまま背後に吹っ飛んでいく。プロシュートたちとオインゴのバイクを除けば。だがこの近くに、そう、とてもすぐ近くに花京院はいるはずなのだ。

「ビルの中に隠れているのかもしれません」
「それはねえ。俺たちが時速百キロで移動している以上、あいつも何か乗り物に乗っているはずだ。ビルからビルへスタンドで飛び移っていたんじゃ、俺たちに追いつけやしねえ」
「ではもしや、後ろから追ってくるあいつが本物の花京院という事は…」
「その線も薄いな。手榴弾の扱いは意外と難しいもんだぜ。バイクですっ飛ばしながら目標物に正確に投げつけるなんてマネは、よく訓練されたプロのテロリストでなきゃ無理だ」
「ではどこにいるというんです!? 近くにいる事は確かだが…!」

 ティッツァーノの声が珍しく急いた。宙を舞う緑のコードが再び車体に追いすがり、肉迫しはじめていた。雲のように一塊にわだかまったかと思うと、エメラルドグリーンに透き通った法皇が姿をあらわす。今度こそ神の恩寵なきギャングどもにトドメをさすべく、緑の破壊エネルギーを両掌に充満させて。だが。

54燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ3 10/12:2008/03/30(日) 20:47:51 ID:nTYOisaI
 
(――― 来るならきやがれ)
 プロシュートの心は平静だった。すでにエメラルドスプラッシュを防ごうとか避けようとか、そういった皮相的な戦局からは意識を切り離していた。花京院がお膳立てした筋書き通りに散弾と迎撃の応酬を演じ、疲れ果てて競り負けてやる趣味はない。今全ての力と意識を注ぐべきは、敵のノドを見つけ、食らいつく事。ただそれのみだ!

「プロシュート、エメラルドスプラッシュが来るッ!」
 額に汗を浮かべて、ティッツァーノははじめて振り返った。だがプロシュートは不敵な表情のまま言った。
「――― 『謎』はとけたぜティッツァ。『どこに』『どうやって』花京院が潜んでいるのかがなッ!」
「…本当に!?」
「探す発想を『4次元』的に…いや、そこまでしなくていい、ただ三次元的にすればよかったんだ。簡単な事だったぜ」

 ティッツァーノの目に、プロシュートの背後でゆらりと立ち上がったザ・グレイトフル・デッドが映る。対症療法的な防戦ではなく、敵の心臓に狙い済ました鉤爪の一撃を叩き込むために。『オレたちの』戦いのために。
「そこだッ、グレイトフル・デッドォォッ!!」

 次の瞬間、スタンドの拳は真上に向かって一直線に繰り出され、天井をボール紙のように突き破って粉砕した!

「ぐあああッ…!!!」
 果たして頭上から、低くくぐもった苦悶の叫びがあがる。花京院の声だった。

 ティッツァーノは凝然と目を見開き、プロシュートは獣じみた鋭い笑みを浮かべた。
 天井の穴からは金属片とともに血が滝のように流れ落ちはじめ、床の上でプロシュートやティッツァーノのそれと混じりあう。今しも渾身のエメラルドスプラッシュをもってギャングどもを八つ裂きにせんと迫っていたハイエロファントは、映画のコマ落としのように忽然と消え失せた。二人が背後を振り返ると、車上からはたき落とされた学ラン姿が、すごい速度で後方に吹っ飛んでいくところである。緑のコードを切れた凧の糸のようにたなびかせ、地面に叩きつけられたかどうかまではわからなかった。

 ティッツァーノは興奮と驚きの余韻をもてあましたように、しばらく黙って息を整えていた。車は徐々に速度を落としながら、幹線道路を無目的に南下していく。もはやオインゴも追ってはこないようだ。

「――― わたしたちの頭上にいたとは……盲点でした」
「きっと手榴弾の爆発で車が揺れたドサクサで飛び乗ったんだろうな。大胆なやつだぜ」
「殺りましたか」
「胸を抉ったつもりだったが、ちいっと手ごたえが悪かったな。老化エネルギーも送り込めなかった。…見ろ」

 プロシュートは後方に遠く過ぎ去りつつあるひとつのビルの屋上を指差した。そこには明確なエメラルドグリーンの光が見える。顔までは判別できないが人影もあった。

「地面に叩きつけられる寸前に触脚を伸ばしてビルに飛び移ったってとこか。くそったれ、高いビルのある場所じゃターザンみてーに飛び移れるやつに分があるに決まってる。郊外に逃げるぞ」
「戦略的撤退というやつですか」
「逃げる時ゃあ素直に逃げるって言やいいんだぜ。俺たちはギャングであってサムライじゃねーからな。さあ飛ばせ」

 プロシュートは後部座席にどっかと腰を降ろすと、兄貴風を最大風速に吹かせてえらそうに命令した。
 ティッツァーノは一瞬唇を尖らせたが、その後はもっぱら彼には珍しいにやにや笑いを浮かべ、ぐんとアクセルを踏んだ。ほとんど骨組みだけになってしまった車の中に、強烈な向かい風が吹き抜ける。だが今はこのくらいが心地よい。そういえばやつらに老化ガスが効かなかったのは気になるが、今はそんな事を考えても仕方がないだろう。まずは郊外だ。
 ティッツァーノが奇跡的に無事だったカーラジオをつけ、歌うように高らかに言った。

「プロシュート兄貴、あなたはなんて素敵な人なんだ!」

 グラッツェ。だがおい、サメ野郎が聞いてるのにいいのかよ? ――― プロシュートは内心で呟いた。

55燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ3 11/12:2008/03/30(日) 20:48:32 ID:nTYOisaI
 
 15.
 
「国道を…下っていくな。あの先には河川公園と住宅街があるはずだ」

 郊外に伸びる道を、次第に小さく遠ざかっていくギャングどもの車を眼で追いながら、花京院は唇を噛んだ。
 その右腕は付け根の部分から力無くダラリと垂れ下がっており、全く動かせないようだった。袖口からはどす黒い血が糸のように滴っている。口を開くたびに獣の喘ぎのような荒い息が漏れる。
(下腕のところで骨折したか……肩は脱臼だな)
 彼はそのように判断してからスタンドを呼び寄せ、数十メートル下の街路に飛び降りた。着地の瞬間、足から駆け上った衝撃が折れた骨に響き、またぞろ呻き声が漏れるほどの激痛を覚える。思わず片膝をついた。この負傷は、ザ・グレイトフル・デッドの攻撃から咄嗟に胴体をかばった結果だ。胸や腹を抉られていれば一撃で戦闘不能に追い込まれていただろうから、正しい判断だったと花京院は考えていた。だがその前が問題だった。油断しすぎていた。ギャング相手にこれは命取りだ。

「やはりプロシュートは怖いな。あの状況で怜悧な判断力を失わない。それにスタンドの純粋な破壊力もなかなかのものだ…」

(教訓として反省する事にしよう。この腕はその罰として受け入れよう)
 花京院は無傷な左手とスタンドの手を使い、胸元をくつろげる。念のために入れておいた週刊少年ジャンプは鉤爪でざっくりと抉られ、巻末の『アウターゾーン』とジャンプ放送局のページだけがかろうじて無傷で残っていた。腕で衝撃をやわらげていなければ、胸板までバターのように切り裂かれていた事だろう。

「承太郎の嘘つきめ。なにが『少年ジャンプは最強の防具だからナイフ投げられても大丈夫だぜ』だ、主人公補正のチートキャラが!」

 花京院は毒づきながら、雑誌を地面に叩きつけた。ゲーム用語をついつい現実に持ちこむのは彼の悪癖のひとつである。そこへバイクのエンジン音が聞こえ、どうやらオインゴが追いついてきたようだ。花京院は顔を上げもしなかったが、バタバタとこちらに走ってくる足音はわかった。

「おい花京院ッ、大丈夫なのか!? 花京院ンンン!」
「うるさい。ちっとも大丈夫じゃあないが……『まだ戦えるか』という意味においては『大丈夫』さ、まったくもって。だからあんまり騒がないでくれ」

 お得意のもってまわった言い方をして、花京院はよろよろと立ち上がった。オインゴは彼の無事な側の腕を掴み、脇の下から抱えあげるようにして素早く支える。花京院の片頬に苦い笑みが浮かんだ。

「…気が利かないな、こういうのは承太郎の顔でやってくれたらグラッとくるのに」
「やなこった。あの顔は俺にとってトラウマもいいとこなんだよ!」
「それがいいんじゃあないか。だが、まあいい。そのまま僕を支えておいてくれ、しっかり力を入れてな」
「おいおい、何をする気だ?」

 花京院はそれに答えず、ハイエロファントを呼び出す。そして自分の脱臼した腕を、骨接ぎ医者よろしく力押しで肩に嵌め込ませた。
 ゴリゴリ、ゴキン! という聞くだけでもゾッとするような音が花京院の体に響き、オインゴは震え上がった。花京院は小さく「う…」と呻いて背筋を震わせたきり、しばらく首を垂れてぐったりとオインゴにもたれかかっていたが、やがて顔をあげた時には、青ざめた額にねっとりと脂汗が浮いていた。
 実際、途轍もなく痛かったのだ。広い唇いっぱいに、三日月のような凄惨な笑いが宿った。

「フフ、フ…これでよし、と。うん、動く。動くぞ」
 元の形状に戻った肩をそろりそろりと回しながら、花京院は強がりを言った。 「言ったろ? 大丈夫だと。添え木になるものを探してきてくれ。折れた下腕に当てるからな。あと止血も頼むよ」
「…お、おう。任せとけ」

 オインゴはたじろぎながらも手早く手当てを行った。職業柄、そうした作業にはすこぶる慣れている。花京院の右手は肘のところから手首まで斜めに裂けていた。包帯は巻いた端から赤に染まった。
「…しかしなあ、ただの高坊にこんな根性見せられたんじゃあ、お兄ちゃんどこでイイカッコしていいかわからねーよ」
「弟さんから見れば戦っている君は十分カッコいいと思うよ」 おそろしく真心のこもっていない口ぶりで花京院は相槌を打った。 「それより、例の方はうまくいったのか?」
「ああ、バッチリさ」
 多少釈然としない面持ちながらも、オインゴは答えた。この男、割り合いお人よしである。 「お前の言うように、車のガソリンタンクに穴を開けてやったよ。小さな穴だが、すぐにガス欠で走れなくなるはずだ」
「グッド」

 花京院は短く呟き、それからもう相棒の肩は借りずに歩き出した。少し進んでから足を止め、学ランの裾に貼りついていた、赤や黄色の花びらをつまみ取った。

56燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ3 12/12:2008/03/30(日) 20:49:47 ID:nTYOisaI
 
今回はここまで。
幕間のシーンと翌日の戦闘少しでした。
文章のリズムのもたつきを直してくれるスタンド使いっていないもんかなあ。
ご感想ありがとうございました。

ζ´・ω・`) < 次回は大半が僕視点。
ζ´・ω・`) < 多分ね。

57一巡後名無しさん:2008/03/30(日) 20:52:08 ID:nTYOisaI
・・・あ、投稿直後にさっそくミス発見。
最後のチャプターは15じゃなくて17ですね。

ζ´・ω・`)カキョーン

58一巡後名無しさん:2008/03/30(日) 21:11:26 ID:I1vlIP9E
うおおおおきてるッ!ドキドキしながら読ませてもらうよ

59一巡後名無しさん:2008/03/30(日) 22:54:13 ID:S6/3DBqY
お兄ちゃんなかなかどうしてかっこよかったよ!
オタク怖いw

60一巡後名無しさん:2008/03/31(月) 01:04:23 ID:dGr4bZ56
投下乙そしてGJでしたーッ!
もう皆かっこいい!
プロティに萌えそうになりました
しかし、何をしに巣鴨に行ったんだ承太郎と花京院とホリィさんはw

61一巡後名無しさん:2008/03/31(月) 01:10:05 ID:VxwMOSsA
3話目来たぁあ乙乙!
みんながんばるなぁ…
そして花京院マジスパルタン
あとスクアーロはこのままいくと再起不能までいきそうだw

62一巡後名無しさん:2008/03/31(月) 01:39:17 ID:HVF/MOTw
乙です!
今回も熱かった…!
毎度のことですが、ちりばめられた小ネタ&翻訳モノのような言い回しも
すごく楽しいです。ボンカレー…!

大胆な戦法の花かっこええ…今後の作戦が気になるよー!
伊達男な兄貴&ティッツアが
ますますいいコンビになってきてwktk

63一巡後名無しさん:2008/03/31(月) 02:15:10 ID:3s8ADlPY
兄貴ティッツァ、どう見てもフラグが立っています本当に(ry
野太い声を出すティッツァ・・・嫌いじゃないぜ。
このパワーバランスいいね本当。続きが楽しみすぎる

64一巡後名無しさん:2008/03/31(月) 22:06:13 ID:pStYuxoE

「ボンカレーはどう作ってもうまいのだ」が
わからんかったのでググったらスープカリー噴いたw
ブラックジャックwwwテラ大塚食品の回し者www
あと康一くん個人的エピソードを遮るなよ! 聞かせろよ!

65一巡後名無しさん:2008/04/01(火) 14:10:18 ID:b0cZpeTI
乙!
どっちが勝ってもスクアーロ涙目は避けられないな
きっとティッツァは兄貴に傾いたりしないさ!
兄貴の色気と包容力と男前さを上回ればいい…ん……だ。

巣鴨エピソードをもっとkwsk

66一巡後名無しさん:2008/04/02(水) 00:29:50 ID:Y3hjEWp6
乙です!
どいつもこいつも男前で痺れるなぁ。ティッツァの野太い声とか熱すぎるw

67一巡後名無しさん:2008/04/03(木) 12:59:56 ID:XoUq9T1E
うおおおおおお!!
萌えていいんだか燃えていいんだかわかんねぇぇぇ!!
バトル熱すぎだろ!ティッツァと兄貴のコンビネーション良すぎだろ!
このままティッツァと兄貴に目覚めそうだ。
花京院が頑張りすぎて涙が出てきた。アウターゾーンとチート発言にワロタww
オインゴの人の良さになんだか和んだw

そして巣鴨エピソードkwsk

68耐用年数は1〜2年です0/3:2008/04/20(日) 03:51:35 ID:F6iSKBYM
熱い流れの中で申し訳ないのだがギャグを投下させてください。
以下3レス消費させていただきます。
…うん、眼鏡が似合うと思っただけなんだ、すまない。

69耐用年数は1〜2年です 1/3:2008/04/20(日) 03:52:20 ID:F6iSKBYM
 今日も与えられる任務は無く、相変わらずのトンチキ会話が繰り広げられるヴェネツィア郊外、暗殺チームのアジト。
 そのリビングに、チームの良識・リゾットが帰宅する。
「ただい」
 ま、と言い切る前に、ギアッチョがリゾットを怒鳴りつけた。
「ちょっと待てェーッ! 何だそりゃ俺へのイヤガラセかッ!?」
 掴み掛からんばかりのギアッチョに、リゾットが一歩退く。その格好はあのファンシー衣装ではなく、白いシャツに黒のスラックスというごく自然なものだった。
 ひとつを除いて。
「やっぱり、これは……相当変か?」
 シンプルなメタルフレームの眼鏡を指差し、リゾットが微妙な苦笑いで聞く。
「変とかそういう問題じゃねえ!キャラがカブるんだよッ!」
「コンタクトレンズは高かったんだ、買えるのは眼鏡のレンズが精一杯だ」
「眼鏡っ子のリーダーってやっぱりイイなッ、ベリッシモ!」
「お前は黙れ」
 口から大量のカミソリを吐くメローネをほったらかして、リゾットは朝の惨劇を説明し始めた。
「オレのコンタクト……騙し騙し3年半使ったコンタクトがな……」

70耐用年数は1〜2年です 2/3:2008/04/20(日) 03:52:41 ID:F6iSKBYM
 事のあらましはこのようなものだ。
 リゾットはいつものようにコンタクトレンズを入れようと、洗面台に保存液を捨てて、指にレンズを乗せていた。ところが何の拍子か、レンズは指から洗面台へダイブ。
 そこに鼻歌交じりにやってきたのがメローネだったから最悪だ。
「何やってんだいリゾット?使わないならどいてくれよ」
 そう言うなり蛇口をほぼMAXまで捻るのと、リゾットがここ数年出したことの無いような悲鳴を上げたのは、同時だった。
「え、何、どうしたのさ」
「水を止めろォーッ! レンズが流れるッ!!」
 慌てて蛇口を閉めるも時すでに遅し、どれだけ凝視してもレンズはすでに下水管の中。
 がっくりと肩を落とすリゾットに、悪びれもせずメローネはとてもいい笑顔で言った。
「コンタクトが無いならメガネをかければいいじゃない」
 お前はどこぞの王族かとツッコミを入れる余裕も、今のリゾットにはもう無かった。ただ一言、無い、そういうのが精一杯。
「無いって、眼鏡が?そんなのフレームはメタリカで作れるし、レンズだけ買えば済むよ」
 どこまでも空気を読まないメローネに、やっとリゾットがツッコミを入れる。
「そのレンズ代はどこから出るんだッ!?」
「……あれ、もしかして俺? 悪いのは、俺なの?」
 やっと少しは空気を読んだメローネだが、まだ半笑いだ。
 当然のごとくメタリカの攻撃を受けたメローネが口から吐いたのは、やはり当然のごとく眼鏡のフレームだった。

「そういう事だから、文句はメローネに言ってくれ。オレだって不本意なんだ……」
「ごめんなリゾット、次の報酬で買って返すから許してよ」
 よくその口で喋れるものだ、というくらい真っ赤に染まった唇で、メローネが言った直後。
「でもホントいい、ディ・モールト、ディ・モールト・ベネ! 一発お願いしていいかな?」
 ちょっといいことを言ったと思ったらもうこれか、とドン引きするメンバー達を尻目に、メローネはリゾットの両肩を真正面から掴んだ。
 低い、押し殺した返事が、リゾットの唇から漏れる。
「ああ、二発でも三発でもいいくらいだ」
「本当? じゃあベッドへ行こう、それとも他に希望は?」
「ここでいい」
「見られたいの? いや俺はぜんぜん構わないよ、でも皆はどうかなーってさあ」
「むしろ見せてやりたいよ」
「ええっ、リゾットって意外とイイ趣味なん」
「ここで一発くれてやる! メタリカァッ!!」
「そっちかーッ!?」
 メローネの左頬からハサミが突き出し、切れ味グンバツのそれは、メローネの左サイドの髪の毛までも切っていった。

71耐用年数は1〜2年です 3/3:2008/04/20(日) 03:53:01 ID:F6iSKBYM
 翌日、狙い済ましたかのように任務が与えられたチーム内では、この報酬はリゾットのコンタクト代にしよう派5名と眼鏡っ子リゾットいいじゃん派1名による、任務より壮絶なガチバトルが行われたという。
「……オレ、実家に帰っていいかな」
 もう帰れない故郷を思い出し、遠い目で不参加を決め込む派、1名。

72一巡後名無しさん:2008/04/20(日) 11:35:41 ID:Z176h6HU
メローネの髪型の秘密がw
メガネっ子いいよ、メガネっ子!
メロンとリゾット、良いかけあい漫才です。萌えましたw

73一巡後名無しさん:2008/04/20(日) 13:18:04 ID:xBM1IqN2
メローネwww
赤貧暗チ可愛いよ
だが自分も眼鏡っ子リゾットいいじゃん派ですがかまいませんね!

あれ、喉の奥がチクチクす(ry

74一巡後名無しさん:2008/04/21(月) 00:50:10 ID:qbvyijpk
良いじゃない!眼鏡でも良いじゃない!
寧ろチーム全員に掛けて欲しいくらいだw

75一巡後名無しさん:2008/04/21(月) 00:57:43 ID:CFI8lZ9c
ごめん…チーム全員にかけるで
別な方向へ連想がスライドした…
いやほらだってメガネときたらかけるのがデフォというか

76一巡後名無しさん:2008/04/21(月) 00:58:40 ID:UXIKeCXM
リーダーごめんなさい、「老眼にコンタクト使えたっけ」と本気で考えてしまいました

77一巡後名無しさん:2008/04/21(月) 22:44:54 ID:laEGaWiI
遠近両用のコンタクトはあるぞw

それはさておき、リゾットはマジオあたりに慰めてもらえばいいよ

78一巡後名無しさん:2008/04/22(火) 01:49:02 ID:JL0L8DSc
>>76
年寄り扱いすんなw

79一巡後名無しさん:2008/04/22(火) 22:50:06 ID:tamftyqU
>>47
よく読みなおしてみたらリーダーも大真面目にコメントしてんのなw
巣鴨のインパクトが強くて見逃してた私は
暗チファンとして軸がぶれている・・・

80終焉と帰趨 1/4:2008/04/23(水) 21:02:38 ID:y4TtVDe6
 
原作ではなくカプコン3部ゲーの無印花京院ENDに依拠した内容
ほんのり承花?でヤマなしオチなし意味なしです
ゲームネタバレ、死にネタ注意

81終焉と帰趨 2/4:2008/04/23(水) 21:05:15 ID:y4TtVDe6
 
 ――― さらばエジプト、さらば世界。

 飛行機が静かにカイロの冬空に飛びたち、成層圏に達してシートベルト装着義務のランプが消灯されたころから、側頭部の痛みは激しくなり、やがて麻痺したような白い虚脱感に取って代わられていった。頭蓋にかちかちの粘土を詰められたみたいな倦怠。空港でポルナレフに別れの手を振ったあたりまでは、別段なんともなかったのに。

 背筋に寒気が広がっていく。生命が抜け落ちていくような冷たさ。悪い予感というのは当たるものだ。旅の始まりから抱いていた死のヴィジョンが、ついにその青ざめ骨ばった手で僕を捕えた。残念な事に、僕は日本に着くまで生きていられそうもない。あの死闘の中でDIOに浴びせられた何発かの痛打、そのうちどれかが、後になってじわじわ効いてくるような致命傷だったのだ。毛布を被っていても、手足の先は凍ったように冷たく、石みたいに重い。息も苦しくなってきた。

( ――― これが結末か)

 運命の星に導かれた、長いようで短かったこの旅の。

 悲しみはなかった。十七年は短い生涯の部類だが、僕はなすべき使命を立派に果たしたのだから。
 我ながら達観した事だとうそぶいて、隣のシートの承太郎を横目で見る。悟られないようにしなくては、とこんな時までお利口さんな僕は考えていた。死にかけているのを知られたら、承太郎はコックピットを乗っ取ってでも機を引き返させようとするだろう。仲間のためならそのくらいの事はやりかねない男だ。しかしそうしたところで、どのみち僕はもう助からないのだ。ジョースターさん風に言うとコーラを飲んだらゲップが出るっていうくらい確実なのだ。僕自身のからだだ、それはよくわかる。もう頭の上で、死の影が輪を描いて飛んでいる ――― それならば僕は、日本に少しでも近い座標でこの命を終えたい。

(ふふふ……さすがの君にビビるだろうな。映画みたいだよ。日本に着いてみたら隣の男が冷たくなってました、なんて)

 そんな事を考えて苦い笑みを浮かべていたら、承太郎は怪訝そうな表情でこっちを見た。何か不審に思ったのだろうか。あいかわらず鋭い男だ。だが自分を押し隠すという技術にかけては、スタンドともども僕に一日の長がある。最後の最後まで、華麗に君を欺ききってあげようじゃないか。

「そういえば…」
「うん?」
「てめーまた窓側の席を取りやがったな」

 心地よい響きのバリトンで、何を言い出すかと思えば実に下らない。僕は噴き出しそうになった。そうか、窓側の席っていうのは君にとってわりと価値のあるものだったのか。そうだね景色が見られるものね。退屈しないよね。意外と子供っぽいところがあるのは知っていた。帰ったら君のそんなところ、可愛いところもたくさん見つけてやろうと思っていた。もう叶いそうにないけれど ―――

「外が見たかった? 悪いけどもう足もとに手荷物置いちゃったんだ、また今度って事で諦めてくれ」

 本当はもう立ちあがる力もない。

「別にそこまでこだわってるわけじゃあねえ」

 若干バツの悪そうな表情で、この図体のでかい不良は言うのだ。彼が顔をそっぽ向けると(照れ隠しだね、この旅の間にわかるようになった)、学ランの襟飾りの金鎖がジャラリと鳴る。ああ、この音も好きだった。無骨なのにどこか涼やかな音。でももっと好きなのは凛々しい君の顔だから、もう少しの間だけこっちを向いていてほしいものだ、承太郎。できればいつまでもそんなふうに凛とあってくれと願う。前のシートではジョースターさんがウォークマンを聞いているようだ。小刻みにリズムを取って揺れる肩。この飛行機また墜ちたりしないだろうね?

「君も何か聞いたら? ラジオあるだろ」
「さっき試したが、すさまじく古い曲しかやってやがらねーぜ」
「今流れてるのは何?」
「こいつは……『Green,Green grass of Home』かな」

 僕は一瞬たじろぎ、それから鼻白む。今の僕にはタイムリーすぎる。魂(あるいは生命の抜けた亡骸)になって故郷に帰る僕には。
 そういえば親不孝だとか、自分の死を聞いた両親の嘆きぶりだとかは、とうに考え尽くし、シミュレートし尽くした。しかし承太郎はどうなのだろう。日本に帰ってから、彼の生活は、人生はどんなふうに続いていくものだろうか。それはもう僕には見る事がかなわないものだし、正直想像もつかない。

「ねえ承太郎、」
「なんだ」
「…君、日本に帰って一段落したらどうするの?」

 だから、すこし直截に訊いてみる。しかし彼はそれには答えず、ぶしつけにも質問に質問で返してきた。

82終焉と帰趨 3/4:2008/04/23(水) 21:06:09 ID:y4TtVDe6
 
「…花京院、てめー転校してきたと言ってたが、家も近くに越したのか?」
「ん? ああ、そうだけど…正直肉の芽のせいで、細かい事はぼんやりしているんだ。よく覚えていないな」
「すると、うちの近所についてはあまりわかっちゃいねーわけだ」

 そうなるね、と僕は少々うわのそらで返事をした。発言の意図が見えない。頭蓋の中に淀んだ血が満ちはじめたようで、意識がどうにもフワフワと遠くなる。眠るように死ねれば上出来だ。最愛の友の声を、末期の寝物語の代わりに。

「――― 学校の裏手の浜な、ちょっといったらすぐ国定公園になってる」
「へえ、じゃあさだめし景色がきれいなんだろうな」
「まあな。海岸まで松林が延びてる、砂が白くて水もきれいだ。海水浴シーズン以外には観光客も来ない。授業フケてごろごろするには絶好のポイントって按配だ」
「…不良の言う事は違うなあ」

 いつもの十倍くらいの饒舌さで、今更何を喋りだしたものやら。そもそも君、出席日数ヤバいんじゃあないのかい。ぎゅっと寄せられた眉根や泳ぐ視線は、彼がかなり頭を使ってものを言っているという証左だ。こんな他愛もない話題に? なぜ僕にそんな事を語る? おや?
 僕はもう一度、死力を尽くして首をもたげ、彼にいたずらっぽく笑いかけた。

「…あれ、その文脈はだね、帰ってまっさきに、僕をそこにご案内してくれるって事でいいのかな?」
「日がなヒトデを引っくり返したりヤドカリやカモメを観察したりしてると、わりあい退屈しねえ」
「僕もそれにつき合わされるのかい」
「てめーは自分のしたい話だけしてろ」

 あの俺にはよくわからねーPCのパーツだとかアマチュア無線とかの話をよ。そう言って承太郎は、学帽のふちをぐい、と押し下げた。これも照れ隠しだ。僕は知っている。一月の闇夜を往く飛行機の静寂の中で、僕は強く眼を見開いた。

「おい、どうした。機嫌でも悪くしたか」
「違う。違うよ…」

 いま眼を閉じたら、堪えきれずに涙が溢れてしまうだろう。凍土のように乾き冷えきりつつあるからだの中で、目頭と胸だけがしっとりと温かく、最後まで命を保っていた。
 うそだろ承太郎? 想定外だ。何という幸福な悲しみ。君は日本に帰ってからの計画に、わざわざ僕なんかを組み込んでくれていたというのか。君にとってそれくらいの存在に、僕はなれたのか。もうじき僕は君の前から永遠に去ってしまうというのに。そんな計画は金輪際ご破算で、叶いっこないと僕にはわかっているのに。

「…たぶん……君が傍にいるなら…何だって面白いよ。海…約束だよ」
「…おう」

 極度の疲労に似た、心地よい絶望の中で僕は力無く呟いた。守られる事のない約束だ。承太郎を悲しませるのだろうか。落胆させるだろうか、もしかして五年、十年と残る傷をつけてしまうのだろうか。二十年後まで引きずるだろうか。
 だとしたらそれだけが心残りだ。首がガクリと垂れると、もう持ち上げる力は残っていなかった。

「お前本当に大丈夫か。眠いなら寝とけよ」
「うん、大丈夫。大丈夫…すこし眠るから、気にしないで」

 僕は最後の網膜に彼の顔を焼きつけるべく、心配げに覗きこんでくる承太郎の顔を、すくいあげるように見つめた。これが最後に見るものなら、短いけれどきっと恵まれた部類の人生だ。彼の手が伸びて、僕のトレードマークの前髪に触れる。羽根で撫ぜるように軽く、優しく梳く手を僕は感じた。

 その手が離れた直後、脳の中で何かがドッとあふれ、急速に僕の思考領域と記憶と神経を押し流していった。
 ザーッという耳鳴りがはじまり、やがてそれも消失し、視界が真っ暗になっていく。まぶたが落ちる。これが死か。思ったほどの苦しみはない、胸の中心に、錐で突いたみたいな一点の穴が開いて、そこから涼やかに風が吹き通っていくようだ。五感は吹き流されるように飛散していく。

 不意に僕は、その風に乗っていこうと思った。霊魂の速さは時と空間を越えるという。日本までなど一ッ飛びだ。肉体の桎梏を離れ、エメラルド色に透き通ったハイエロファントと今こそ渾然一体に溶け合いながら、軽やかに、風のようにあの国へ、さわさわと鳴る松林と海の遠鳴りのある場所へ。僕にはそこを見る事はかなわなかったけれど、今は手に取るようにわかる、見えるよ。夜には星が見えるだろう。

 そうだ、君の帰る風景の中に僕はいる。
 もう触れる事はできないけれど、確かに、静かに君を待っている。君が好きだった。いっしょに潮騒を聞こう。ヒトデも見よう。そして夜には星を。君の悲しみが小さくて済みますように。

(…一足先に、帰るよ)
 
 
 
 
 
                                FIN.

83終焉と帰趨 4/4:2008/04/23(水) 21:06:51 ID:y4TtVDe6
 
ここまで。
海岸がどうとか適当ぶっこいたけど
3部で承太郎が住んでる町って場所が確定してないんですよね・・・
 
【参考】
Green,Green grass Of Home(想い出のグリーン・グラス)
ttp://d.hatena.ne.jp/komasafarina/20050125

84一巡後名無しさん:2008/04/23(水) 21:45:40 ID:31WWvhpg
すごい話に感動したのにgreen green grass of homeの曲は亜麻銀しか思い浮かばないこの脳が恨めしい

三部ゲーのジョースター一向の中で唯一エンディングが死にエンドでこれなんて差別?って思ってたが
こういう補完があると嬉しい。GJ!

85一巡後名無しさん:2008/04/23(水) 23:11:52 ID:E5CgUoM6
うぉぉ切ねぇ…泣きそう…
20年後、との表現がまたグッときた。
だって承太郎の20年後ってつまり6部の…orz
承太郎と花京院大好きだから嬉しかった。ありがとう!

86一巡後名無しさん:2008/04/23(水) 23:27:02 ID:5Aaver8s
電車の中で半泣き
家に着いたら思う存分メソメソするわ…
グッジョブでした…!



とりあえず海辺の学校ってことで、
弁当狙って滑空してくるトンビに
スタプラで対抗する太郎を妄想して
気を紛らわすことにします。

87一巡後名無しさん:2008/04/24(木) 23:34:11 ID:now60M1A
そのカプコン3部ゲーというのを持ってない私に
どうかkwsk・・・

88一巡後名無しさん:2008/04/25(金) 23:26:09 ID:OW4XIM9E
カプコン3部ゲーの事なら
私は詳しく知らないけど・・・
花京院だけバッドエンドとかそんなんだっけ

89一巡後名無しさん:2008/04/26(土) 00:10:37 ID:vJQ3pctM
フルで勝利してもζ´・ω・`)だけバッドエンドになるって話はどっかで読んだ。
本スレの過去ログだったかもしれん。

90一巡後名無しさん:2008/04/26(土) 23:59:46 ID:nHaaZkAM
全俺が泣いた……GJ!
ξ´・ω・`)のエンディングは某25にエンディング一覧動画がうpされているが張っていいものかわからないな。

91一巡後名無しさん:2008/04/27(日) 00:18:10 ID:YP1aku/.
25アカウント持ってりゃ自力でたぐれるだろう
手詰まりになった人からリクエストがあったら
推奨検索ワードだけ貼るというのも手

92チョコヴァニVSメロ形と聞いて:2008/07/01(火) 03:06:41 ID:Fatj3Pzo
不覚にもwktkが止まりません。

***
壁に凭れる俺を、猫背の男は品定めでもする様に隅々視線で嘗め回し、
不揃いな前髪で隠れそうな目の片方は最後にジッと俺の瞳にあわさる。
「何を・・・・言ったんだ?悪いな、いつもどっかがオカシイって言われるんだ。
頭とか、何でも・・・・耳だって自信は無いんだよなァァ〜〜、なんだって?
『もう一回言ってくれ。』流石に二度は聞き間違えない」
唇だけがニタリと釣り上がる作り物の表情が、俺の癇に障る。

「生け捕りだ。」
「アハッ」

男は『スタンド』であるノートPCのような物体を胸に抱え、ケタケタと笑いの発作を起こした。
「オカシイのは・・・アハハ、俺だけじゃあないなッ
あんたもか!マトモな顔して、正気じゃあねェーぜ・・・・みーんな頭が狂ってる」
「大真面目だ、黴の野郎は兎も角。あの長髪の男は『俺の探していたスタンド使い』だ。
そうかも知れないってだけだが・・・・億泰に・・・・弟に出来なかったことが出来るかも知れない」
歪んだ笑い顔の瞳は冷え切り、奴のスタンドは生き物とも機械ともつかない不気味な唸り声を上げる。
乱れた息を整えながら金属質の物体を「おおよしよし」と撫でて見せ、
一しきり『赤ん坊』をあやし終わると、さて次はお前だとばかりに俺に向き直る。
「ウフ、ウフフ、ジャッポーネの高校生ちゃん!小鳩ちゃん!
真面目だねェ、そうともこのバトルは生け捕りさ・・・殺しは無しだよ。
だがよォ・・・・無しって思う?んん?ルールとかは、別にしてね・・・・」
三つ四つの子供に話すように、優しく順を追って。

93チョコヴァニVSメロ形と聞いて:2008/07/01(火) 03:07:38 ID:Fatj3Pzo
「俺のスタンドは、殺しゃしないが・・・・似たようなもんさ、考えるのも動くのも出来なくなって
俺がやめた!と思うまでそのまま・・・・そんで俺は忘れっぽい。スッゴクね。
相手は?黴でグズグズにしちまうのと、食ったもんを消し去るスタンド?へえ?
死人を!『出さねえ方法はッ!』あるかなあァァ〜〜〜〜?思いつかないなァ?俺は」
「俺のスタンドはそもそも殺しには時間が掛かるんだ。手加減だって出来る」
「・・・・・・・・・・・・・・」
前髪の生え際まで視線で舐めとられて居るような気分だ。
判っている、この中で俺のスタンドは一番脆弱なスタンド。
無論やりようなら幾らでもあり、負ける気だって微塵も無いが、手加減する余裕なんか正直無い。
するんなら協力が必要だ。だが、目の前の男はそんなお人好しには―――

「・・・・気に入った!いや、凄く気に入ったよ」
「!」
「あんたが死ぬまで、付き合ってやんのも悪くない・・・・!ディモールト面白そうだ!
そんなことで何処までやれるか、見せてくれよォ・・・・フフ・・・・」

奴の後ろから、ずるりと。胎児のような塊が這い出して俺に手を振った。
奴そのものに温度の無い、しかし笑ったような目で俺を見る。
「俺と、俺の息子にさ。そんであんたの息子だ・・・・
あんたについてって、あんたを守るベリッシモいい子だぜ。
それでもし、あんたが『生け捕りなんか出来なくて』、死んじまいそーな事があったらさ」

お人好しじゃあなかった、『気違い』だ。

「俺のスタンドがあんたを始末する!どう?死ねない、死にたいとも思えないようになるんだぜッ
あんたの親父みたいになるんだぜェェ〜〜〜頑張れよッ!!俺はここで見てるからなァァァ?」

『気違い』で・・・・助かったッ!

「ケ、イ、チョウ・・・・ケイチョウ。ヒヒ。『生ケ捕リ』・・・・手伝ウゼ・・・・」
「そうだァベイビー!手伝うぜ!アハハハハハハ!」

***

試合全部書くような文章力ないから、書きたい所だけつまんで今後も投下する か も

94一巡後名無しさん:2008/07/01(火) 12:58:13 ID:Z0X6CmQQ
>>92
ディモールトベネです!!
まさかこの組み合わせにときめくとはww
是非続きを……!!

95東方さんと汐華さん 1/4:2008/07/02(水) 18:02:16 ID:vhc7ufIE
燃えスレと妄想スレを見ていたらつい書いてしまった。今は反省している。


-------------


幾つもの薬品が立ち並ぶ真っ白な部屋。
此処は試合を終えた選手達が足を運ぶ医務室である。
が、用意された医薬品がその役目を果たす事は殆んど――いや全く無かった。
その代わりにと響く無数の打撃音。そして、咆哮。

「ドララララララララララララララァッ!!」

しかし幾度となく打たれた体に傷はない。寧ろみるみるうちに癒え、傷はたちどころに塞がっていく。
やがて全てが元通りになったとき、咆哮の主――仗助はニィと笑みを見せた。

「よしっ、お前の怪我はクレイジー・ダイヤモンドが問題なく直したぜ」

彼のスタンドはどんな薬よりも確実に傷を癒す、この世の何より優しい能力。
クレイジー・ダイヤモンドがある限り、あらゆる薬は意味を為さない。それよりも決定的に傷を直してしまうからだ。
もっと、内科的な病や既に失われてしまったものを直すことは出来ないのだが。



「ふー……一息ついたな」

暫くすれば人も引き、大きく伸びをしながら壁に貼り付けたスケジュール表で次の試合を確認する。
どうやら次はポルナレフ&ペッシ VS 噴上&セッコ――噴上の試合だ。
これは応援に行かねばならない。ニィと口角を上げ、いそいそと支度を始める。

友や家族の試合を見守り、時たま自分もリングに立ちながら、合間には傷を負った仲間たちを癒す。
何と充実した日々だろう。仗助は今、こうして自分に与えられた役目を楽しんでいた。
それに、戦いに明け暮れるよりずっと有意義なスタンドの使い方だ。
少なくとも、仗助はそう考えていた。

「……こんな仕事、無駄過ぎる」

――医務室に居る、もう一人の少年とは裏腹に。


もう一人の少年。名をジョルノ・ジョバァーナと言う。
承太郎が言うには、彼もまた自分と同じジョースターの血を引くものらしい。康一もそう言っていた気がする。
ともあれ彼は何かをぶつぶつと呟きながら、己のスタンドを発現させていた。

96東方さんと汐華さん 2/4:2008/07/02(水) 18:04:28 ID:vhc7ufIE
「どうして僕がこんな作業をしなくちゃ行けないんですか……いえ、ブチャラティ達の治療は構いません。
 百歩譲って康一くんや同じジョースターの人間、その仲間も直すことも享受しましょう。
 でも……何故父親気取りのハイな男やかつて倒した敵まで直さなくちゃいけないんだ」

余程その事が気に食わないのだろう。
呟きと共に生み出されたツタは部屋を埋め尽くし、医務室は今やジャングル一歩手前となっていた。

「おいジョルノっ、早くこれ戻せ! お前の言い分も解らなくはねーけど」
「……」

しゅるしゅると形を変えていく植物を見て、仗助はふうと息をつく。
あいつは生意気だし腹が立つ相手だが、ああ見えて物分かりのいい奴なんだ。そう言い聞かせながら。
だが、次に続いた言葉に息を呑む。

「先程の試合で無残に負けた2人組を覚えていますよね。
 1人はかつて僕が制裁した男でしたが、もう1人……吉良とかいう男は貴方の友達を殺害したそうじゃないですか。
 友達の仇を癒す事を貴方は不快に思わなかったんですか? 少なくとも僕は嫌でしたが」

氷のように凍てついた2つの目が仗助を射抜く。嘘は許さないと瞳の奥で暗く輝く光。
見つめ返し、若干の空白のあとで、仗助はゆっくりと口を開いた。

「ここ、遊園地も併設されてるだろ」
「……意味が解りません」
「まぁまぁ、とにかく聞いてろって! でよー、億泰と康一と遊びに行った時にさ、あいつが居たんだ。吉良吉影が」

すぅ、と息を吸い込み。

「……奥さんと子供と3人で、仲良く」


ジョルノの小綺麗な顔が若干の歪みを見せた。
眉をしかめ、相変わらずの冷たい眼差しで此方を睨み付けながら、不思議そうに首を傾げる少年。
仗助は言葉を慎重に選びながら続けた。

「ああ、うちのジジィが倒したらしい究極生物とかお前の親父とかと仲良くやってるのも見たぜ。
 その時に思っちまったんだよ。ここならアイツも幸せになれるかも、オレもアイツと仲良くなれるかもって。
 まぁ、酷い目に合わされた相手だし鈴美さんや重ちー、彩さんの仇だからな。そりゃ憎くもあるけど……
 オレ、バカだからよ。アイツを直すことより、目の前で誰かが死ぬのを見る方が嫌みてーだ」

97東方さんと汐華さん 3/4:2008/07/02(水) 18:05:24 ID:vhc7ufIE
暫しの沈黙の後、聞こえてきたのは溜め息だった。

「……ええ、貴方はバカです」

ジョルノはふるふると首を振る。

「僕からしてみれば、あいつらは絶対な悪です。許してはいけない悪だ。
 あんな奴らには幸せになる権利などありませんよ。それなのに貴方はそんな生ぬるい事を言う。
 僕には到底理解出来ません。出来ませんが……『尊敬』します」

そう言った彼は、微笑みを浮かべていた。


「そのスタンド、貴方にお似合いですよ。色々な意味でね」
「どういう意味だこのヤローッ」
「ちょ、何するんですか! 頭を撫でないで下さい、僕のこれは貴方の妙な髪型と違って繊細なんだ!」
「……あ? てめー今なんつった?」
「妙な髪型と言ったんです。お望みでしたら何度でも言ってあげましょう、終わりなくッ!」





「兄貴ィ、勝てなくってごめんよ〜」

所変わって、会場廊下。
先程の試合でやられたのか、ペッシは足を引きずっていた。
プロシュートは自らの肩を貸すと、情けない声を上げる弟分の額をとんとこついた。

「馬鹿野郎、オレに謝ってどうする」
「そ、そうだね……後でまたポル兄ちゃんとこ行ってくるよ」
「ポル、兄ちゃん?」

随分仲良くなったみたいじゃねえか。沸々と込み上げてくる怒りを飲み込みながら、足を早める。
待ってくれよという弟分の喘ぎを耳の端に留めながら、プロシュートは医務室の扉を開け――

「ドラララララララララララララララァッ!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!」

――何事もなかったかのように、その扉を閉めた。



「さっきボスと戦った女2人を探すぞペッシ」
「あ、兄貴……いいのかなほっといて」
「空条承太郎か岸辺露伴でも居ねーと止めれねーだろーが」


その後無事に止められた二人が、ジョナサン監督のもと廊下に正座させられるのはまた別の話である。

98東方さんと汐華さん 4/4:2008/07/02(水) 18:07:23 ID:vhc7ufIE
以上です。一部の試合結果捏造しててごめん。
お目汚し失礼しました。

99一巡後名無しさん:2008/07/02(水) 18:12:37 ID:lf3HbYe6
GJと言わざるを得ない

100一巡後名無しさん:2008/07/02(水) 20:51:37 ID:XrxEaesU
これは萌えた半端なく萌えた!
ドララも無駄無駄もいい子すぎて可愛いよ
燃えスレは応援席や裏方の妄想がたえない

101一巡後名無しさん:2008/07/02(水) 21:12:28 ID:pi6RTZjo
>ここならアイツも幸せになれるかも、オレもアイツと仲良くなれるかも
ほろっときたよまったく。
いいよね、ifの世界ってすごくいいよ

102一巡後名無しさん:2008/07/02(水) 21:16:25 ID:L7DRbqbY
でもボスの行方がすごい気になります。

トリッシュと上手くいけば良いね

103一巡後名無しさん:2008/07/02(水) 21:57:07 ID:UZNE037Q
ボスならきっと、失神するほど微に入り細に入りネチネチ治されてるさ!

それはそうとジョナサンに正座で叱られる仗助とジョルノ超萌えた
可愛いすぎるだろう三人とも

104一巡後名無しさん:2008/07/03(木) 00:53:28 ID:oc72BSMI
ジョルノ、一応父親に説教されてるんだよな…
うん、きっとこのジョルノならジョナサンを父親とは見てないかもしれないが
父親に怒ってもらえるジョルノという構図だけで涙味の丼飯何杯でもいけるッ

105チョコヴァニVSメロ形と聞いて:2008/07/03(木) 02:38:00 ID:Wv9eImys
続き書いちゃったけど構いませんねッ!
スレとネタ被んないかヒヤヒヤしてたら案の定一個被ったけど
問題なく続行。最後まで書けるといいな。

***
もしそれが私のハートマークと同じ意味だとしたら、
目に痛い程白い衣服にしつこくの十字の模様をあしらう、この男はそんなにも神に従順なのだろうか?
一時も離れずDIO様のお傍に使えて居たいのに、何故見も知らぬ男と
いつ決着が付くかも知らぬ戦いに望まねばならないのだろう。
DIO様のお考えになる事は、時折私には理解の届かない事がある。
例えばたった今、DIO様のいらっしゃるお所だとか。
あのジョースターどものすぐ傍、同じ様な顔をしたジョナサンだとか言う男の隣だ。
何故だろうと考える事は必要ない。ただ何が無いとは限らない、お傍について居たいのだ。
・・・・だが、同時に私一人の考えで、この戦いを投げ出すわけにも行かないのだ。

以前、DIO様はこの舞台に立っている。
ご子息と久方ぶりの交流をなされた後、大人の余裕を持って勝ちを譲るDIO様の
悠然としたお姿は観客席中の視線を集めたものだ。後の面子は覚えていない。
あの際のDIO様の立ち振る舞いを振り返ると、どうもこの戦いは無駄な物ではないらしい。
ならばこのヴァニラ・アイス、DIO様に倣い戦う義務がある。
そして戦う以上――――必ず勝利を持ち帰る。

「なあ、アイス。頼みがあるんだが」
「・・・・」
声をかけられる。
私の視線は今、観客席のDIO様へと向けられているのだ。
恐らくそちらの方向だろう。窓を締め切った建物の中では、見えるものも見えはしないが。
それでも・・・振り向く価値があるだろうか。この男に?

「ビデオカメラなんだ。持って行ってはくれないかなァ〜?
『消し去る』んだろう?君のスタンドは・・・・そんな所は、見た事が無いよ」
ある筈も無い。

「寄越せ。」
放り投げられたそれを振り向かぬまま掴み取ると
クリームを発現させ、大きく口を開けた暗黒空間へとその右腕を飲み込ませる。
「おお・・・・!」
「私が居るのはこの中だ。一人で戦う。私は・・・・お前もこれも、連れては行けない」
砕け散って、消え失せる。
相手が何だか、ふざけた趣味がどうだとか、気にする気持ちは全く無い。
私のスタンドのパワーは、一人で十分な物なのだ。
「しかしね、アイス。私は君と一緒に居よう。私のスタンドには君は必要だからな。」
「好きにしろ。飲み込まれても私は知らん」
チョコラータは背後で小さく笑う。
「君と私のスタンドは、意外と。相性がいいものだ。」

106チョコヴァニVSメロ形と聞いて:2008/07/03(木) 02:42:13 ID:Wv9eImys
「ケイチョウ。」
後ろから誰かが付いてくるというのは、虹村形兆にとって違和感のある事ではない。
その相手の身長が、普段よりもうんと低いのは確かだが・・・・形兆が先に成長期に入った年の頃、
大きく差が出来たことも一度はあった。これ程ではなかったが。
130cm代の後半あたり。少年の体格をした、しかしまごう事無く『スタンド』が、虹村形兆の後ろを付いて歩く。
「メローネから伝言です・・・・『自殺願望が?』答えて下さい、ケイチョウ。返答が出来ません」
「その質問は必要か?」
「『信頼』に関わると・・・死にに行く人間は守ることが出来ない。返答を」
「無い。」
「『無い』・・・・無い、メローネ。ありません・・・・」

まだ幼いスタンドは、形兆に一方的に興味を持ったメローネと、そうでない形兆との会話を取り持つ。
自分でその内容を吟味できる程思考は発達しておらず、それは殆ど『通信機』と同じだった。
「『じゃあ頭が悪いのか?ヴァニラ・アイスは吸血鬼なんだろ、何故こんな時間に出歩くんだ?』・・・・ケイチョウ。」
「返答は『頭が悪いのはお前』だ。そいつを黙らせろ」
「メローネ・・・・」

相棒の男は詮索好きで、オマケにとことん気があわなかった。
とにかく無駄口が多い。――――日本の高校ってどんな所?女子高生は『ススんでる?』あんたは?
イタリアに興味があるかい?ギャングについて教えてやろうか?
しかしこの戦いについては、全く話し合おうとしなかった。
――――あんたに任せるよ、大丈夫、心配しなくても守ってやるよ。不安かい?

「NOです、ケイチョウ。メローネは『黙ることを拒否しました。』次いで質問です、『それじゃあ一体何故・・・・」
俺が親父のことについて真剣じゃあなかったら、一秒だって一緒にいる事は我慢ならない。それが虹村形兆の正直な感想だった。

「一度で理解しろ、いいか?ヴァニラ・アイスは吸血鬼だ。昼間は太陽を避ける。何処に居ると思う」
「・・・・『そりゃあ屋内とか』」
「『頭が悪いのはお前』だ、どれだけ入っていられるかは知らないが・・・・奴は暗黒空間に引っ込むだろう。
あるいは昼の間は、全くこの世界に『存在しないかも知れねえ』。見つけにくい敵を探すには時間がかかるだろう?」
「探すのですか、ケイチョウ。強力なスタンド使いに、此方から向かいますか?」
「ああ。考える時は、相手の気持ちになって考えろ・・・・相方のチョコラータの事も考えてよ・・・・
夜ってだけなら範囲が広過ぎて何処にいるかわからないが、この時間だけは『判ってる』。
夜明けより前の暗闇の時間だけは、ヴァニラ・アイスは外には居ない。一瞬でも日光を浴びればヤバいからだ。
じゃあ、屋内に居るんならそれは何処だ?」



「アイス。向かってくるのなら、私達は最高の状態で出迎える準備をしなくてはならない。」
ヴァニラ・アイスはカーテンを閉じて日光を遮断した窓を、ただじっと見つめている。
「だからこの場所なのだ。最も高い建物で・・・・私とお前のスタンドは、最高の相性を見せる。
一人がいいなら戦ってくるといい。私はここに居るよ・・・・ここで、奴らが来るのを待っているよ」
結局チョコラータに満足な返事も、視線の一つも寄越さないままヴァニラ・アイスは階段へと向かう。
その背を見送り、チョコラータは満足気に頷いた。
簡単に言うことを聞く奴ではないが・・・・言わんとしている事はしっかり判っているらしい。
「私の為に行け、アイス・・・・奴らを、そして足場を抉り取れッ!」



「メローネ、そしてベイビィ・フェイス。
『奴らの居る所は?』『奴らの最も有利な場所だ。』他には無い、全くシンプルな答えだ。
助けると言ったんだから、手助けもしてもらうぞ。奴らを巣から狩り出す事のなァァ〜〜〜ッ!」


***

セッコから、チョコラータは頼りになる男だと聞いていたDIO様と
同じくDIO様からヴァニラは従順な奴だと聞いていたセッコが
双方のイメージギャップに戸惑う姿が目に浮かぶ。

107一巡後名無しさん:2008/07/03(木) 09:17:21 ID:aVRkCzaI
GJGJGJ! 展開が楽しみだッ!

子機で護衛はかぶると思って避けたけど、それでもかぶっちゃったか。ごめん。
同じチームバトルを考察してるんだからネタかぶりはしゃーないという事でッ!
逆にこれだけかぶらず進行してるのがすごいよ。

108一巡後名無しさん:2008/07/03(木) 20:07:46 ID:InOgU43o
燃えスレ発のバトル小説増えてきてwktk

109某ラノベパロ ブチャ+もふアバ 0/3:2008/07/03(木) 23:48:54 ID:FgrA07Zg
燃えスレ発のバトル小説投下の流れの中ですが、
この蒸し暑い時期にもふもふSS投下いきます

110某ラノベパロ ブチャ+もふアバ 1/3:2008/07/03(木) 23:49:27 ID:FgrA07Zg

 汚い野良犬?を見つけたので虐待することにした。他人の目に触れるとまずいので家に連れ帰る事に。
 嫌がる犬?を風呂場に連れ込みお湯攻め。充分お湯をかけた後は薬品を体中に塗りたくりゴシゴシする。
 薬品で体中が汚染された事を確認し、再びお湯攻め。お湯攻めの後は布でゴシゴシと体をこする。
 風呂場での攻めの後は、全身にくまなく熱風をかける。
 その後に、乾燥した不味そうな塊を食わせる事にする。
 そして俺はとてもじゃないが飲めない白い飲み物を買ってきて飲ませる。
 もちろん、温めた後にわざと冷やしてぬるくなったものをだ。
 その後は樹脂製のぶよぶよとした球体を投げつけるなどして、犬?の闘争本能を著しく刺激させ、体力を消耗させる。
 ぐったりとした犬?を古毛布を敷いただけの潰した段ボールの上に運び、寝るまで監視した後に就寝。

 ――あるイタリア人の日記より抜粋。



 その日もブローノ・ブチャラティは、目覚まし時計が鳴る5分前に起床した。
 毎朝こうして目覚めるたびに、彼は自分がいる場所を確認する。
 自分がいるこの部屋は、かつて家族が揃って暮らしていたあの海辺の家のものではない。
 ネアポリスの市街地から少し外れた場所にある、2DKの集合住宅の一室なのだと。

「なあ、ここはいったいどこで、あんたは誰なんだ?」
「ああ、……誰だお前」
「それを聞きたいのは俺の方だ!」

 思考の淵に沈んでいたブチャラティだが、かけられた声に反射的に返事をしながら顔を上げると――
 未開の地の蛮族よろしく毛布一枚を巻いただけの長身の男が、偉そうに寝室の入り口に立っていた。

「つーかどこから入ってきたんだお前。換気扇の隙間か? 網戸の隙間か? 新聞受けの隙間か?」

111某ラノベパロ ブチャ+もふアバ 2/3:2008/07/03(木) 23:49:50 ID:FgrA07Zg
「どこからって玄関からに決まってるだろーが。しかも人を拉致しておいて何を失礼なこと言ってやがるんだあんた」
「玄関から……そうか。不動産屋から鍵を奪ってきたのか。窃盗はよくないぞ。犯罪だからな」
「拉致の方が重罪だろうが。……つーかちょっと待て。俺はあんたにとっ捕まって連行されたって言ってるだろが」
「何を言ってるんだお前は。いくら人生の綱渡りの落伍者でも男を連れ込む趣味はないぞ」

 一通り言い終わると、頭を抱えてしゃがみこんだ謎の男の横をすり抜けてブチャラティは犬を寝かせてある隣室を覗き込んだ。
 何度瞬きをしても、目をこすっても、そこには犬用マットレス代わりにしていた元・段ボール箱しかなかった。

「おい、そこの変なの」
「……変なの言うな」
「ここで寝ていた犬を知らないか? 大型犬で、シベリアンハスキーみたいな体格とサモエドみたいな毛並みをした犬なんだが」
「犬じゃねえ! 狼だ!」
「そうか、狼か。……お前、あいつの飼い主か何かか?」
「飼い主って……あれは俺だ」
 
 それを聞いて、ブチャラティはまず天井を見上げ、次にベランダを見て、戸口の方を向き、更に男の顔を見てからしばし瞑目し――

「少し待っていろ、今黄色い救急車を呼んでやるからな。後は鉄格子付きの病院でおつむのお医者と仲良く暮らせ」
「ちょっと待てえええええええ!!」
「動物が人間になったりその逆が起きたりとか、どう考えてもオカルト記者か精神科医の担当だろう。俺はそのどっちでもないからな」
「俺は狂人でも気違いでもないし妄想狂でも人格障害でも精神障害でもない! 正常だ!」
「おかしくなってるやつほどそういうことを言うんだ。世の中の相場ってのはだいたいそう決まっている」
「うーがー!」

 じたばたと喚く半裸男はしばし黙殺することに決めて、いつもの倍量の粉と水を入れたマキネッタを火にかける。

112某ラノベパロ ブチャ+もふアバ 3/3:2008/07/03(木) 23:51:37 ID:FgrA07Zg
 食器棚からカップを取り出そうと振り向くと、ふかふかした大きなものがブチャラティの足に当たった。

「なんだ、いたんじゃないか。どこに行っていたんだ?」
「……これで信じる気になったか?」

 サモエド種のような白い長毛に覆われた、ハスキー犬のように精悍な顔つきと体格の大型犬の頭を撫でてやっていると、
 舌が半分はみ出したその獣の口から、さっきまで部屋の隅で唸っていた男のものと同じ声が発せられた。

「……まさかとは思うが、何かのトリックじゃあないだろうな?」
「何のためにこんな手を込んだことをしなきゃならねえにゃがっ!?」
「おー、いい子だな、ちゃんと歯の手入れはしているのか」
「ひゃめひょおおおおお!」

 指を突っ込んで口の中を観察したり前足を掴んで肉球を触って遊んだりしているうちにエスプレッソは出来上がり、
 無駄なことと悟ってか、狼は抵抗をやめて仰向けに寝転がっていた。

「で、お前の名前は?」
「……レオーネ・アバッキオだ。"俺たち"の間では《狼》のレオーネで呼ばれて――腹を触るなああああ!」
「いや腹を見せている犬にはこうしてやるのが寧ろ礼儀だろ」
「だから犬じゃねえってうああ」

 ――かくして、結局のところとしてブチャラティは《狼》を一人手なずけてしまったのであった。


続かない。
***

捨て犬を拾うブチャと熱湯虐待と摩擦虐待をされる毛玉アバを書きたかっただけとも言います。

113一巡後名無しさん:2008/07/04(金) 00:03:24 ID:IQSJk1VA
節子それ狼やない、ライオンや

114一巡後名無しさん:2008/07/04(金) 00:34:06 ID:uTli5JKo
変化後にもっかい同じ虐待をリクエストリクエスト
暴れたら一緒に熱湯に使って洗っちゃうといいよブチャラティ

115夢スレ仗助とジョルノ(1/4):2008/07/04(金) 02:57:45 ID:n7wqggQ.
燃えスレ小説が多い中、こっそり夢スレ小説投下 長文です御免なさい
夢スレ>>195>>199ですが、以降本体が●入りのベビーフードでも詰め込まれたのか
デス13様が降臨してくださらなくなったので、自分で夢の内容解釈して書いてみた
※パラレル要素強・恐らく燃えスレバトルの合間の話・仗助とジョルノ、見方によってはCP? です
※アース・ウインド・アンド・ファイヤーは、機械などの複雑なものに変身できないはずなんだけど
元々夢の設定だから仕方ないと思って、許してください 他にも辻褄の合わない部分多いです

搭乗者の趣味で、やや大人しめとはいえ黄金色に塗りたくられたベスパが、夕日を照り返して輝いている。
二人の乗り手が彼から降り、やや乱暴にその半身を立てかけた崩れかかっている壁の、向こう
ひっそりと白い壁を朱に染めている教会へ入っていったのは、少しばかり前のことだった。
温かな陽の残滓を感じながら微睡んでいる彼の肌を、風が撫でていく。
心地よさにうっとりと浸る彼の変身が解けかけ、ベスパの形が崩れそうになるが
すんでの所で留まり、代わりに硬質的な形状に緊張が走る。
黒い喪服にも似たスーツを着た集団が、丈の長い草を踏み分け、此方へと近付いてきている。
彼は機械ながら息を呑み、なるべく見付からないように、気付かれても気にされないように、気配を断った。

東方仗助は、自分を半ば強引に連れ出した少年の、不可解な行動に頭を抱えていた。
朝、目が覚めた瞬間に飛び込んできた、黄金の髪と澄んだ瞳に思考が停止し、気が付いたら連れ出されていた。
後にベスパの上で、どうして早朝から人の布団の中を覗いていたのか尋ねたところ、少年―――ジョルノ・ジョバァーナは
至極当然と言った風に「僕と同じ星形の痣が、貴方にもあると聞きましたので」と、眉一つ動かさず言い放った。
ご丁寧なことにジョルノは、仗助の友人にまで協力を要請していたらしく、かくして二人の逃走劇は始まる。
逃走。仗助は彼から半ば強要されたこのイタリア観光を、ジョルノの逃走だと感じていた。
何からは解らないし、どうして自分が選ばれたのかも解らない。
けれど、案内もせずに壁から毟り取った蔦で冠を作り、仗助の頭に載せながら
「まるでローマの休日ですね」と微笑むジョルノをミラー越しに見ていると、胸が苦しくなるのだ。
だからこれはきっと逃走なのだろうと、仗助はエンジンを止めることなく、入り組んだ道を気紛れに巡り続けた。

陽も暮れかかる頃に辿り着いた教会は、今はもう殆ど使われてはいないのか、埃を積もらせていた。
壁に立てかけてきたベスパのことを気に掛けながらも、仗助は適当に、木製の椅子の一つに腰掛ける。
信仰心はあまりないかも知れないが、こういった宗教建築特有の静謐さを、彼は嫌ってはいなかった。
静かすぎることが不安感を煽る気もするが、ジョルノが居る。
仗助は、未だ立ったままステンドグラスの縁を指でなぞっているジョルノを眺める。
色の付いたガラスから差し込む光の所為で、金色の髪を虹色に変えながら、彼は僅かに頭を俯かせている。
詰め襟と解れた髪の隙間から覗く首筋が目に入り、仗助はふっと、彼にも同じ痣があるのだと思い出した。
自分にとっては、父親の祖父の身体を乗っ取った吸血鬼の子供、だから、何に当たるのだろうかと
仗助は頭を捻ったが、彼に相応しい言葉は浮かばなかった。親戚、が一番近いのかもしれない。
不思議な縁に思いを馳せていると、ジョルノは仗助の視線に気付いたのか、おやと振り返る。
「キンパツってのも、珍しいよなあ」
仗助の言葉に、ジョルノは二三度瞬きをして、彼に近付いていった。
自分の髪の毛を軽く引っぱりながら、仗助は続ける。
「ジジイも承太郎さんも髪の色は濃いし、ジョナサンさんも、濃い色だったよな。で、お前はキンパツ」
でも徐倫さんはキンパツ混じりか、と呟く仗助の隣りに座り、ジョルノは片膝を抱えて困ったような笑みを浮かべた。
「ええ。でも僕も、幼い頃は黒髪でしたよ」
思いもよらない発言に、仗助は驚いたようにジョルノの髪に手を伸ばす。答えるようにジョルノはゴムを外した。
さらさらとした細い糸は指に絡みつく間もなく、解けて落ちていく。

116夢スレ仗助とジョルノ(2/4):2008/07/04(金) 02:58:48 ID:n7wqggQ.
「染めたのか? 脱色?」
一般的な高校生の考え方に、彼はくすりと口元に手を当てながら目を閉じた。
「いえ、気が付いたら……いや、スタンド能力が発現したときぐらいにですかね。急にこの色になったんです」
そんなこともあるのか、と言いかけて、仗助は口を噤んだ。
スタンドという、自分たち特有の能力。こんな力があること自体が特異で、非常識なのだ。
今更成長途中に髪の色が、有り得ない変化をしたところで驚く理由もない。
片手だけで細い三つ編みを作りながら、仗助は口の端を上げて、少し意地悪く問いかけた。
「ま、お前の子供の頃なんて、想像つくぜ。今よりも酷い悪ガキだったんだろ?」
彼の質問に、ジョルノはぴくりと眉を動かし、眉間に皺を作る。
閉じた瞼の裏に、もう忘れ去っていたと思い込んでいた、母親の背中が映った。
「いえ……まさか。僕は、引っ込み思案で人の顔色ばかり窺う子供でしたよ」
「またまたァ! 絶対に嘘だねッ!! 今のふてぶてしいお前からは、想像もつかねえよ」
調子よくからかう仗助とは対照的に、ジョルノは少しずつ体温を下げていく。
彼は暗闇に慣れた瞳をうっすらと開けながら、仗助の視線を捉え、淡々と笑った。
「口を開いたら殴る、何もしなくても視線がうっとうしいのだと殴る。そんな人間が身近にいたんです、仕方ないでしょう」

仗助は、彼が視線を外して何でもないです、と漏らすまで、その言葉の意味を理解できなかった。
「別に、もう気にもしていないんですけれど、ね。御陰で人生を変える出会いもありましたし、スタンド能力も手に入れた」
夢を叶えて、僕は僕を誇りに思えるようになった。これ以上何を望むんですか。
ジョルノは、手を組んで指を重ね、祈るような姿勢を取る。
ざわつく胸を押さえながら、仗助は、心の中で潰しきれない憤りを感じていた。
それは、幼いジョルノに暴力を振るった過去の誰かに対してであり、現在のジョルノを言葉で傷付けた己に対してでもある。
どう言葉を掛けたらいいのか迷う仗助を横目で見て、ジョルノは、彼は本当に優しい人だと、口の中だけで呟いた。
先程彼が作っていた細い三つ編みを解し、取り留めもないifを浮かべる。
もし、この人が兄のように傍にいてくれたのなら、幼かった自分は暗闇の中で怯えることもなかったのだろうか、と。
傍にいなくてもいい、彼の存在を、血の繋がった誰かの存在を知っていたら、閉じた瞼の裏で思い描けたのだろうか。
独りではない世界を。
「汐華、初流乃」
不意に隣で紡がれた、聞き慣れないような、それでいて何処か面影のある名前に、仗助は顔を上げた。
ジョルノは何処か縋るような眼差しで、仗助を見つめている。
鼻先が触れそうなほどの距離に、彼の顔があった。
「汐華初流乃、それが、僕の本当の名前です」
「ハル……ノ?」
はい、と頷いて、ジョルノは仗助の目の前で、口付けを強請るように瞼を閉じた。
「初流乃、幼い僕の名前。僕が使わなくなった、捨ててしまった名前」
ハルノ。
一度口にした途端、貪るように仗助の唇は、何度もその名を形作る。
「ハルノ、ハルノ。ハルノハルノハルノ、初流乃」
すうっと、ジョルノの頬を一筋の汐が伝う。
もう、呼ばれることもないと考えていた名前が、今。
同じ血潮の流れる心優しい人の口から流れている。
ジョルノが静かに涙を流していることに気付き、仗助はその頬に手を伸ばしたが、指先はついに触れることがなかった。
代わりに彼の周囲を取り囲んだのは、死神が姿を変えたような、黒服の男達だった。

117夢スレ仗助とジョルノ(3/4):2008/07/04(金) 02:59:57 ID:n7wqggQ.
冷たい金属の感触が、こめかみや彼自慢の髪に当たっている。
普段なら怒髪天を衝く勢いでスタンドを出し、殴りかかっているはずの仗助だったが、それすら出来ない。
よくよく見れば、手足や口は氷で閉じ込められ、発現しているはずのスタンドは、何処にも姿を見せていない。
心臓の辺りは釣り針でも仕込まれたかのように重く、ちくちくとした痛みすら感じる。
唯一自由になる首を捻って、状況を確認しようとしたが、それすら押し付けられる銃口によって防がれた。
銃口。自らの頭やこめかみにぐっと当てられたその感触に思い至り、仗助は全身から血の気を引かせる。
不意に、何も無いと思っていた空間から、一人の黒服を着た青年が現れる。
ジョルノはまるでそれを予期していたかのように、全く動揺することもなく、溜息だけを吐いた。
「ボス、探したぞ」
低い、幽かに怒りを込めた青年の声にも、ジョルノは反応を示さない。
やれやれとでも言いたげに、青年は振り返る。異常に大きい黒目に、仗助の姿が映った。
「ボス、悪いがあんたは少し不用心すぎる。……情報を、漏らしすぎるということだ」
彼の言葉に、リゾットの言う通りィ、と野次が飛ぶ。
野次の主はざんばらに刻まれた長い髪を揺らし、首元にだらしなく下げていたネクタイを、片手で器用に蝶々結びにする。
メローネ、と窘める声が掛けられると、彼はぺろっと舌を出して銃口を仗助の側頭部に、更に強く押し当てた。
「なあ、ボスの情報知っちゃったぜ、コイツ。どうする? 殺っちゃう?」
「罪状は誘拐か、それとも」
「誘惑、罪?」
巫山戯ているような態度を見せる彼らのことを無視して、リゾットはジョルノに再び向き合った。
「以前のボス……ディアボロ。あいつは自分に関する情報を隠しすぎた。だが、あんたは逆だ、そろそろ―――」
見せしめに、一人。
殺すべきだ。
リゾットが、殺す、という言葉を出した瞬間、ジョルノは恐ろしいほどの威圧感で、彼を睨んだ。
体内でメタリカがぞわりと怯えるのを感じながらも、リゾットは視線を外さない。
「止めてください、これ以上その人に手を出せば、僕が黙っていない」
ジョルノの忠告を無視し、リゾットは手で部下達に合図をする。プロシュートが僅かに頷いて、人差し指に力を込めた。
「貴様の言うことは聞けない。ここで一人処分できないようでは、ボス失格だ、違うか?」
ジョルノは、冷たく目を細めると、今までとは全く種類の違う笑みを浮かべる。
「やってみますか? もし彼に傷一つ付けたら、僕は貴方達全員を、手に掛けてしまうかもしれない」
不遜な態度と発言に、ギアッチョが食って掛かる。
「何だァ!? テメェ、ナメてんのか! いくらボスだろうが一人でッ! 俺たち全員相手に出来るわけネェだろ!!」
「無駄ですよ」
ギアッチョの喧嘩腰の姿勢にも臆することなく、ジョルノは厭らしい笑みを浮かべた。
「貴方達が何人掛かっても、無駄なものは無駄。僕に、勝てるとでも?」
ジョルノの言葉が終わらないうちに、背後から悲鳴が上がる。
思わず振り返るギアッチョの目に映ったのは、いつの間にか地面をのたうっていた無数の木の根と
根から生える蔦に絡まれ、身動きが取れないどころか口と鼻を塞がれ、呼吸さえ危ぶまれるイルーゾォの姿だった。
「まずは、一人。次は、誰を」
「テメエエエェっッ!!」
仗助に当てていた銃口をジョルノに向け、ギアッチョは感情のままにスタンドを出す。
そんな彼を必死で押さえ付け、藻掻くイルーゾォをメローネに任せ、ホルマジオはリゾットに向かって叫んだ。
「ちょ、ど、どうするんだよリーダー!!」
どうやらこの場でのスタンドバトルは予測していなかったらしく、暗殺チームはスタンドを出すべきか否かで迷う。
リゾットは混乱する場を収めるために、戸口を指差した。

118夢スレ仗助とジョルノ(4/4):2008/07/04(金) 03:01:56 ID:n7wqggQ.
「……ボス、俺の部下が後二人、あの丘を下ったところで待っている。規定時間までに俺たちが連絡を入れなければ
 あいつらは逃げて、ここで起こったことを知らずとも、ボスが組を裏切ったことを広めるだろう。どうする?」
もちろん、ここでそのようなことをばらすのは自殺行為でもある。だが、リゾットの意図は違った。
あくまでこの場を収めるための何かが在れば良かったのだ。ジョルノが冷静になる何かが。
ジョルノは彼の意図を正しく悟り、スタンドで植物に変化させていた床を元に戻す。
ふうっと、リゾットは人知れず息を吐いて、部下に銃口を下ろさせた。
「ボスがそこまで言うのなら、こいつは殺さない。だが、次はない。ギャングのボスのあり方を、一から学んで貰う」
ジョルノの首を片手で軽く掴みながら、リゾットは引き上げだと声を掛ける。
反抗するでもなく、ジョルノは何処か諦めたように、肩から力を抜いた。
首にはいつの間にか、銀色に光る鎖が着けられている。メタリカで作った首輪か、と彼は自嘲した。
「ボス、行くぞ」
リゾットに促され、足を進めかけ、ジョルノは徐に仗助の方を見た。
彼の身体は未だ氷に閉ざされていたが、時間が経てば溶けるだろう。霜焼けか凍傷にはなるかもしれないが。
こちらに向かって、必死に言葉の出ない口や身体を動かそうともがき、目で訴えてくる彼を、ジョルノは誠実だと思った。
夢を叶えるには、代償が大きすぎたのかも知れない。
ジョルノは、鼻の奥につんと感じた痛みを堪え、仗助に精一杯の笑顔を向けた。
「ご迷惑をおかけしました、今日は、本当に楽しかった。僕は、貴方に会えたことを幸せだと思います。
 そして、ほんの一時だけ。僕が捨て去ってしまった、幼かった僕を。初流乃を、呼んでくれて、有難う」
幼い子供が、泣く直前のような表情を残して、ジョルノはこつこつと踵を鳴らし、扉の向こうに消えていった。

「仗助さん! 仗助さん……大丈夫ですか!?」
すっかり夜も更けた教会の中に、ベスパから人型に戻ったミキタカが駆けてくる。
「み、ミキタカ……無事だったのか」
未だ麻痺しているどころか、落ちかかる手足を無理に動かし、仗助は彼にもたれ掛かる。
ミキタカはぐっと拳を作り、頭を下げる。
「スイマセン、あの時、無理にでも変身を解いて貴方を助けるべきでした」
自責の念で震えるミキタカの肩をがっしりと掴み、仗助は問いかける。
「ミキタカ、もうひとっ走りできるか?」
「え? ええ、貴方をすぐに病院まで運びましょう! もう一度変身して……」
興奮し出すミキタカを押さえて、仗助は、息も絶え絶えだというのに、瞳を燃やす。
「いや、違う。俺たちが行くのは、あいつらの、ジョルノの所だ」
ミキタカは暫くぽかんとしていたが、すぐに正気に戻り、自殺行為ですと叫ぶ。
しかし、仗助はその反応を予測していたかのように、にやりと。悪戯を思いついたかのような笑みを浮かべる。
「俺の身体は、俺自身には治せねえ。しかも腕も指もちぎれちまいそうだ。現に、足の指はもう駄目だな
 と、なると、身体を作れるアテは一人しかいない、だろ?」
仗助の瞳に吸い込まれかかっていたミキタカは、憮然としながらも、首を縦に振った。
「わかりました。そういうことでしたらお供します、ですが、無理だけはしないで下さい」
言うが速いか、ぐにゃりと彼の身体が歪み、黄金色をしたベスパに変わる。
仗助は倒れ込むように跨ると、ぐっと息を吸い込む。脳裏に刻まれた去っていくジョルノの背中は、小さかった。
「待ってろよ、絶対にもう一度、目の前で名前を呼ぶまでは、諦めねえからな」
ベスパらしからぬ大きなエンジン音を響かせながら、闇夜を光が照らし、駆け抜けていった。

TO BE CONTINUED…(終わり?)

119一巡後名無しさん:2008/07/04(金) 18:26:36 ID:qJcxG8HU
なんだこの怒涛の投下ラッシュ・・・すばらしい・・・
本当にありがとうございました

120一巡後名無しさん:2008/07/05(土) 01:00:30 ID:5vg9CNQY
>>115-118
仗助は良い子だし、諦めちゃってるジョルノは切ないし続きがめっさ気になる!
この二人の組みあわせ大好きだ

121チョコヴァニVSメロ形と聞いて:2008/07/06(日) 02:04:56 ID:eJiYHXg2
Q.『敵の虹村形兆さんは、勝利の際あなた方に何か要求があるようですが
そちらは何か要求がありますか?』

A1.「その『肉の芽』という、DIO様の細胞・・・・羨ましい、是非譲って頂(ry」
A2.「隣のヤツに良い医者を紹介してやってくれ。」

***

バトル・フィールド中最も高い建物は、広くフロアを使った百貨店のような構造で
しかし窓から確認したところ、少しの壁と柱、大部屋の隅と中央に階段がある他は
百貨店に通常あるような売り物だとか棚だとか、それに勿論従業員も居なかった。
遮蔽物の少なさに若干の不満があるが、利点が無いわけではない。
「他に、外側には非常階段もありますね。ケイチョウ、3つもあるとは幸運です。中に入らないのですか?」
「入り口に小さいが段差がある。入る前に『覚悟』をしておけ。お前は・・・・」
とん、と軽い足取りで、ベイビィ・フェイスは続く言葉を待たずに入り口の少し前まで進み出た。
そこまで3段のステップを越えている。形兆の膝までにもならない高さだが、落ちればもう助からない。
グリーン・ディはそこを黴で飲み込み崩れさせ、絶対的な強者に頭を垂れるように無様な格好で地面に転がる羽目になる。
そして『地面に顔をぶつけそーだな』だなんて思う頃には、その顔さえも黴に侵食されて、落下の衝撃で砕け散って終わりなのだ。

「話を聞いていなかったのか?」
「メローネが、『上がれ』と。メローネは暗殺者です、今更覚悟など要らないと言っています。」
作りの幼いスタンドの顔が、無邪気な笑い顔のままでそう言った。
息子として生まれた『彼』は、本体であるメローネの事を誇って『信頼している』。
無論ベースの血液の主である形兆にも信頼はあるが、メローネは別なのだ。
『自分はメローネの意に従い動くスタンドである』と、彼は理解している・・・・産まれた時から知っていた、ただ一つの事だからだ。
「お前の本体の事なんざ知らねえぜ・・・・お前は・・・・いいんだな?『覚悟』はしたか?」
そして同時に、ベイビィ・フェイスはまだ確固たる自分を持っては居なかった。
自分自身とメローネの境界線が曖昧で、切り離して考えることが出来ない。
だから返事は一度保留して、『中へ入ったら形兆の指示を待て』というメローネの言葉通り、扉の内側へと歩を進め・・・・
「撃て。」
「ッ!」
足を置くより前に、足元が狙撃音とともに爆ぜた。
「危ないところだったよなあ〜・・・・入り口近くのマットレスを踏んだら、それは段差だぜ・・・・避けて通れ。
メローネが言わなかったから判りませんでした、じゃあ済まされない事なんだ。『自分で考えて』動かないとな。」
ベイビィ・フェイスよりも小さなバッド・カンパニーの歩兵達が、ベイビィの足先が吹っ飛んでいないかほんの一瞬だけ一瞥して消えた。
「ここに来た以上目的は上る事だが、降りてはならないんだ、上がる事だって注意が必要だ。
足手纏いは置いて行く。一度で覚えろよ」
ベイビィ・フェイスにとって、相手がわざと派手に行った狙撃と忠告は、メローネの教育とはかけ離れすぎていて上手く理解できない。
しかし最後の一瞥だけは、或いはメローネが与える物と同じ物だろうと推測できた。

ベイビィ・フェイスの頭の中に、緊迫感の無い本体の声が響いた。
いい兄貴が出来たなあ、ベイビィ。
ベイビィ・フェイスは兄と言う物が良く判らなかったが、メローネが言うなら、形兆は良い兄というモノなのだろう。そう理解した。

122チョコヴァニVSメロ形と聞いて:2008/07/06(日) 02:06:22 ID:eJiYHXg2
「しっかし、な。」
民家を模した平屋の外壁に愛車と背中を預け、PC型のスタンドを抱えた猫背の男は伸びをした。
―――持久戦にも対応できるよう、身を寄せる場所があるのは嬉しいが、
黴の危険を考えると唯の1cmだって『上がる』ことは出来ない。
屋根の無い野ざらしの地面が一番安全とは皮肉なものだ。これもグリーン・ディの恐ろしさか。
持久戦には持ち込みたくないものだ。

今までこのバトル・フィールドに立った者の中に、果たして自分ほど暇を持て余した者が居ただろうか。
メローネのスタンドはダメージフィードバックの無い遠隔操作スタンドだ。
しかしその反面、メローネ本体を守る機能は全く無いとすら言える。
だから自分がこうやって争いを遠巻きに、平坦な地面を探して避難するのは当然の事だ。
役割ってもんがある。出来ないことを無理にやる必要は無い。
PCに手足を生やしてオンナノコにけしかけ、アレやコレやくらいは出来るが・・・
男四人のこのステージで、そんな事して一体誰が喜ぶっつーんだ?

「あ、俺だ。」

10秒ほど突っ込みを待ったが、息子は返答を寄越さなかった。
恐らく形兆が下らない発現は無視しろとでも言ったんだろう、懐いたもんだ。お父さん寂しい。
息子にはこの戦いの間中、虹村形兆と行動を共にさせるつもりでいる。
だから正直、あの堅物のがきんちょが思いのほか息子に好意的なのは嬉しい誤算だった。
・・・・が。

 ■敵は1Fには現れないとケイチョウが言っています
  現在は現フロアで間取りの把握中、2F以降も大差の無いものとして現状況にあわせた作戦を会議中。
  メローネ、現在位置からこの建物は見えますか?
  ケイチョウより非常階段と屋上の見張りをして欲しいとの要求です。返答を
『あ、ああ・・・・』

カタカタとキーを打ち、息子の身体情報を表示させる。
――身長140.2cm 思考-正常 ストレス-微量 問題ありません――
正常を表す緑の画面に表示される息子の思考。
空間的に間取りを把握し、バッド・カンパニーの作戦とそれに沿った自分の働きをシュミレートしている。
それらはとても合理的に組み立っている・・・・順調に成長している。

 ■メローネ?

それは確かにいい事だ。だが、その順調さがメローネの不安を煽る。
メローネの教育は何時だって『失敗』してきたのだ。自分に真っ当な教育なんて出来ないし、するつもりもない。
なので息子には殆ど殺人しか教えない。
だいたいが第二次反抗期を超えたあたりで生物として機能しなくなり、大人に近づく前に勝手に壊れる。
それがメローネにとって一連の流れで、当然の事だった。後に残るものの無い、使い捨てなんだと割り切っていた。
自分の魂のビジョンから産まれて、自分の教育を受けたものが、『生物』になれる筈なんて無いからだ。

だが、暗殺ぐらいは出来る・・・・だからベイビィ・フェイスは人殺しの道具として使うのだ。

虹村形兆。彼には期待していた。
緩く平和な日本で育ったくせに、人一倍の災難を背負い込んで奇妙に歪んだ『杜王の殺人鬼』の一人。
だと、思っていたからだ。
息子にも、きっと殺人鬼として影響を与えると思ったのだ。
「失敗、だったかな・・・・」
育ちきらない息子に彼が与える影響が、もしも『良いもの』なら。
息子は殺しの道具では無くなるかもしれない。
虹村形兆は・・・・殺人鬼ではなかったのか?

 ■今から2Fへと進入します。
『頑張れベイビィ、ヴァニラ・アイスは手強い。形兆を殺させるな』
 ■はい、守ります。メローネ。

深い溜息が無自覚に漏れた。思わぬミスだ。修正は利くだろうか。

***

ベイビィ・フェイス自立=メローネ空気フラグktkr

123一巡後名無しさん:2008/07/06(日) 03:51:40 ID:u30cTbAY
続き乙!
形兆兄貴は良いパードレになれそうだw
メロンの歪みっぷりがすごく…好みです…!

124一巡後名無しさん:2008/07/06(日) 13:04:10 ID:HznDp/OI
久々にのぞいてみたら投下ラッシュが……。みなさんGJ!

ところで>>112のパロ元のラノベが気になる
心当たりはあるんだが……

125一巡後名無しさん:2008/07/06(日) 21:33:22 ID:USBIXPFQ
SSはBS主眼か、ベネベネ
続きにベリッシモ期待

126一巡後名無しさん:2008/07/06(日) 21:33:47 ID:USBIXPFQ
BSって何だ…BFだ、すまん
親機の角に頭ぶつけて逝っておく

127一巡後名無しさん:2008/07/23(水) 23:27:53 ID:f1NKDOzI
みなさん面白すぎるGJ!!

128一巡後名無しさん:2008/08/27(水) 03:22:12 ID:4sgMeczg
スレはじめからじっくり読んでみたよ〜
wktkが止まらないよ
みんなの続き…ひっそりと待ってます…続…き…

129一巡後名無しさん:2008/08/28(木) 01:22:26 ID:4SBGR9Ks
自分も遅まきながら全部読んだ。ええい、神しかおらんのかこのスレは!
書き手さん、続きも新作もいつまででも待ってます!

130一巡後名無しさん:2008/09/03(水) 23:17:58 ID:ErFDwpN6
久々に来てみたらなんだこのミラクルクオリティSSの嵐…
続きwktkしすぎて今なら顔面でピッツァ焼けるんじゃね私?

皆さんGJ!気長に投下待ってるッ!

131一巡後名無しさん:2008/11/13(木) 01:08:28 ID:/ltNQVdA
燃えスレ第二試合SSを読み返していたら
・舞台市街の送電が破壊されていて、火を消したら町中真っ暗
・野営場所はお互い視認できない程度に遠距離、当然音も届かない
・一晩明かした室内は肌寒かった
・シャワーは冷水しか出ない=使わなかったとは誰も言ってない

…事に気がついた。
なんて…サービス精神のある…ヤローだ

132一巡後名無しさん:2008/11/15(土) 20:37:12 ID:F2xUoqek
>>131
なんて・・・妄想力旺盛な・・・ヤローだ・・・

人様の話に乗っかった萌えレスってどのくらいまで書いていいかわからなくていつも迷うんだが
タフで男気満点でそれでいて花京院と出し抜きあいを演じるくらい頭の切れる兄貴と
スタンドの非力さを苦にもせず自分のできる事を最大限にこなす健気ティッツァの組み合わせよすぎだろ
アバッキオそのビデオ売ってくれ

133一巡後名無しさん:2008/11/15(土) 23:02:28 ID:swDaVct6
あの組み合わせは神すぎた
燃えスレを前提とすれば混部、どこまでも突っ走るなら妄想スレだろうが
このスレのSSネタに乗っかって萌えるならやっぱりこのスレかな
未完作品の先を予想するのは失礼だと思って自重していたが、
内心これはティッツァどこかで落ちるな(燃えスレ的な意味で)と踏みつつ
その時の兄貴&応援席の相棒のリアクションが楽しみでwktkしていたもんだ

実は未だにwktkしているのはここだけの秘密だ

134夢十夜:2009/01/17(土) 13:13:50 ID:4DJB3mRk
 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | |> PLAY.       | |               夢スレ向けなんだか
 | |                | |           ∧_∧  混部スレ向けなんだか
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )   妄想スレ向けなんだか
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

135一巡後名無しさん:2009/01/17(土) 13:14:15 ID:4DJB3mRk
こんなゆめをみた。


だだっ広いスタジアムのフェンスに、男が二人、寄りかかっている。
スタジアムでは何やら戦闘が繰り広げられているが、
二人は眺めることもなく、何やら熱心に話し込んでいる。

髪の長い男の両腕に抱えられるかたちで、フェンスに寄りかかった赤毛の少年は
手にしたカップの中のポップコーンを、いかにも楽しげにつまんでいる。
短いブロンドの男の隣では、小柄なブロンドの少年が、つまらなそうな面持ちで
チョコレートボンボンを口へ運んでいる。

何の話題になったものやら、身振り手振りで説明をこころみていた長い髪の男が、
不意に少年の手からポップコーンのカップを取り上げた。
男が何やら言いつけると、少年は逆らうこともなく両腕を体の後ろへ回し、男が結わえるに任せた。
男は傍らの座席から透けた生地の薄い長着を取り上げ、ふわりと羽織って少年に体を寄せた。
覆いかぶさるように体を密着させ、カップを取るとポップコーンをつまみ、少年の口へはこぶ。
少年はひなのように口をあいてそれを食べた。
どうやら、二人羽織の実演をしてみせたものらしい。

ブロンドの男は手を叩き、大きく口をひらいて嗤った。
隣の少年が、うるさそうに眉を寄せる。
赤毛の少年はやかましい笑い声にも動じず、ただ口へ運ばれるポップコーンを大人しく食べていたが、
それを見たブロンドの男は、やにわに隣の少年をつかみ寄せ、後ろ手に縛り上げた。
自分もやってみようというものらしい。少年は抵抗して暴れ、大声で抗議したが、
口元へボンボンを持ってこられると、しぶしぶといったふうでそれを食べた。
ともかく大人しくさえしていれば、おやつは口にできることで妥協したものらしい。

136一巡後名無しさん:2009/01/17(土) 13:16:01 ID:4DJB3mRk
 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |               なんでボスの方の顛末見に行かなかったんだ
 | |                | |          ∧_∧   ばかばか自分のばか
 | |                | |     ピッ  (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||  |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

137後半送信し忘れ:2009/01/17(土) 13:16:41 ID:4DJB3mRk

話題が流れ、この遊びに退屈しはじめたらしいブロンドの男が
向かいの男へ何やら言葉を投げた。
それを受けて、少し考え込んだのち、長い髪の男はからのカップを置いて、
空いた両手で少年のからだの正面を撫で下ろした。
赤毛の少年はくすぐったげに身をよじったが、別に嫌がるふうも逃れようとするふうもない。
正面から見ればマジック・ショウのよう、手袋をはめたような白い手にくまなく愛撫されて、
少年は顔を紅潮し、体を震わして泣くような声をあげる。

ブロンドの少年の方は、とっくに逃げようと必死に暴れだしていたのだが、
押さえつける男の力のほうがはるかに強かった。
抗議に口をあいて上を向くもの、二人羽織のルールを破って上着を滑り落とした男に
上からくちを塞がれ、あっけなく抵抗を封じられる。
着衣が乱され、全身が紅潮しはじめてもなお抵抗はやむことがなかったが、
ブロンドの男の方がうわてだったものらしい、慣れた手つきで下をくつろげ、
フェンスに押し付けられるかたちで後ろから貫かれて、悲しげなほそいせつない声があがった。
フェンスに顔を伏せたのは少しでも声を殺そうとしてのものらしい、
それでもそうして揺すりつけられるうち、次第に鳴き声はあまく、最後にひとつ、愛らしい嬌声をあげた。


長い髪の男の姿は、とうにない。
形勢がまずいものと見て、朦朧とした少年をかき抱き、帆をかけて逃げ散じたものらしかった。
ポップコーンのカップだけがひとつ、ぽつんとフェンスの傍にころがっていた。

138一巡後名無しさん:2009/01/17(土) 13:17:38 ID:4DJB3mRk
 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |               なんでか後半書き込まれてませんでした
 | |                | |          ∧_∧   送信したんだけどな、連投規制かな
 | |                | |     ピッ  (・∀・ ;)
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||  |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

139一巡後名無しさん:2009/01/19(月) 12:54:41 ID:1jQY6aGA
赤毛がドッピオ?他が誰だかわからない・・・登場人物は4人?で合ってる?

140一巡後名無しさん:2009/01/19(月) 15:59:45 ID:ISMAMzYM
取り敢えず誰か分からないけど、自分は

ブロンド二人→DIO&ジョルノ
長髪、赤毛→ボス&ドピオ

で考えてた。
チョコ好きって部分を考慮した勝手な推測だけど…

141一巡後名無しさん:2009/01/19(月) 15:59:53 ID:C4e2YQoU
もしや混部スレで一時話題になったダブル帝王の試合観戦ネタかな?
キャラが誰か明確に判断ができる描写があったらよかったんだけど…
違ってたらすまん、GJ!

142一巡後名無しさん:2009/01/19(月) 20:51:17 ID:UIXxPYwg
>>140お見事
>>141大当たり

はっきりした夢なら夢スレに投下したんだけど、
数日に分けて見た断片的なイメージに不足部分補って、
これならつじつまが合う!ってふうに整えたので
こっちに投下させていただいた。まだわかりづらくて申し訳ない。
(元の夢はこれ以上にぼんやりしてて、そのまま分にしたら読めたもんじゃない)
他にも珍妙な夢を見てるんで、いい補足ができたらまた投下させてもらうね

143夢十夜:2009/01/30(金) 22:20:41 ID:zHvMKL7I
 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | |> PLAY.       | |               
 | |                | |           ∧_∧  ザ・ワールド視点で見た夢をSS起こし
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )   
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

144一巡後名無しさん:2009/01/30(金) 22:25:52 ID:zHvMKL7I
闇の底には、濃密な血臭が満ち満ちている。

彼が寝返りを打つと、傍らに伏せていた若い男が呻き、微かに身じろぎした。
白い背中に、赤みの強い金髪が波打っている。
彼が戯れにその赤毛を玩ぶと、髪が流れ落ちた白い肌の至る処に浮きたつ、
赤い傷や噛み痕があらわになった。

彼がふと顔を寄せ、男の耳に囁く。
──年は幾つだ?
返事はない。彼が頤に手をかけ、わずかに仰向かせると、前髪の間から、怒りにたぎる眼光が射た。
──年は幾つかと聞いたのだ。
返事はなく、男は無言で彼の赤い目を睨み据え──
漆黒の闇から、獣とも機械ともつかぬ“腕”が降り、白い背を、背骨も折れよとばかり押さえつける。
押し潰された苦鳴は、意外に若かった。
──殺害を許した覚えはないぞ?
──殺しはしませぬ。ただ、お手伝いをと。
──そうか。
巨大な寝台に押し付けられた肉体が、みしみしとしなる。
──じゅう…く、…だ………
苦しそうな声が漸く絞り出され、一瞬にして“腕”が消えて、反動でベッドのスプリングが男の肉体を弾き上げた。
ゆるくバウンドした体を動かすこともままならず、赤毛の男は潰れた息を吐き、ようよう息をつく。
──お前は…
今度は逆へ振り向き、彼は、反対隣に力なく横たわる少年へ声をかけた。
汗に濡れた額にはりつく、色の薄い髪を指先でかき上げる。
──幾つになる?
跳ね上げられた前髪の下、額に埋め込まれた肉腫を白い指が弄び、
少年は、泣くような声をあげた。
──…じゅう、…なな…
──ふむ。
東洋人特有の、陶器のような肌を、彼は手指の甲で愛撫し、
背中を撫で下ろして、点々と散る赤い痕に触れた。
力ない呻きとかすかな震え、こちらも体を起こす余力はないらしい。

145一巡後名無しさん:2009/01/30(金) 22:29:13 ID:zHvMKL7I
──お前は──
天蓋に覆われた寝台の枕元を振り向き、闇をとおして彼は尋ねる。
──二十歳だったか?
──Exactly.
壁際に気配もなく佇んでいた執事が、ひっそりと答えた。
先程“腕”の降ってきた闇へ向き直り、彼は揃えた指を軽く差し招いた。
鈍い灯りの中へ、白い巨躯がぬっと姿をあらわし、寝台の傍ら、膝をついて顔を伏せる。
──お前は幾つになる?
──わかりませぬ…
──ほう。
彼の手が、長い褐色の髪に触れる。顔を上げ、しもべはおのがあるじにひたと視線を据えた。
──しかし、お尋ねとあらば、何としても調べ上げて御覧にいれます。
──いや、いい。
力強い指が跳ね上げた金のサークレットが、床へと跳ねてたかい音を立てた。
──服を脱いで寝台に上がれ。
──は…
──命令だ。
逡巡なく従うしもべには頓着せず、彼は枕元の柱を向いて声をかけた。
──白人の男はいるか? 短い黒髪がいい。
──すぐには手配が…しかし、御所望とあれば…
──急く事はない、“玩具”ではない。餌だ──次の食事までに用意しろ。
──承りました。
一礼して、執事は闇に消え、音もなく寝室の扉が閉まった。


揺れた燈火に、彼の髪が金糸の冠のように輝く。
しもべの長い髪を指に絡めながら、彼はひっそりと笑った。

146一巡後名無しさん:2009/01/30(金) 22:30:09 ID:zHvMKL7I
 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |               ヤング・ボスのソバカスの有無を確認する前に
 | |                | |          ∧_∧   目が覚めちゃったのがつくづく残念です
 | |                | |     ピッ  (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||  |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

彼…DIO
若い男…ヤング・ディアボロ
少年…花京院典明
執事…テレンス・T・ダービー
しもべ…ヴァニラ・アイス
語り手…ザ・ワールド

でお送りいたしました。

147一巡後名無しさん:2009/01/31(土) 23:55:31 ID:hCE1axAY
更新されてるのに気づかなかったッ!
GJGJ!!

148一巡後名無しさん:2009/02/01(日) 19:07:50 ID:hOioJUt.
ねんがんの DIOディアを てにいれたぞ!
最高に萌えってやつだァーッ!事後ってのがまたたまらんなハァハァけしからんもっとやれ。
この萌えを殺してでも奪い取らないでくださいお願いします。超GJでした!

149夢十夜:2009/03/20(金) 12:29:03 ID:PT3S4o7c
 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | |> PLAY.       | |               
 | |                | |           ∧_∧  最近のデス13マジ暗チづいてる
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )   メローネ視点です
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

150一巡後名無しさん:2009/03/20(金) 12:44:31 ID:PT3S4o7c
そん時起きてたの留守番してたオレと、イルーゾォとホルマジオだったんだよね。
なんでスイッチが入っちゃったのか、覚えてないんだ、なんか話してたのか見てたのか、
それともオレが一服盛ったんだったかなあ。まあ、どうでもいいいか。

ホルマジオが、すんげー普通の、もう全然ふつーの声で、ふつーすぎるぐらいふつーに静かに、
後から考えれば声にいつもののんびりした調子がなかったかな、いつもより低い声だったし、
なあ、ベッド空いてんのどこの部屋だっけ、って聞いたの。
んでオレが角の部屋だろ?って言ったの、したらがばっとイルーゾォ横抱きにしてさ、
んじゃ、そういう事で!ってすったかたーっと行っちゃって、オレの方が反応追いつかなくて、
あ、うん、じゃあ頑張ってね、とかなんとか言って、イルーゾォがおい何だよ!とか言ってて、
そんでドアがバタンと閉まった。


だからその先は、子機が見た事。

ほら、壁分解して抜けられるんだよ、だからドアなんか朝飯前。
ばすっとベッドに置かれたイルーゾォがいきなり何なんだよ!とか抗議してて、
それ聞く耳もたずでがばっと脱いだホルマジオが、あいつ結構いい体してるよね、
イルーゾォが一瞬固まって、ああいう時に固まっちゃったら終わりだよな、
がばーっとのしかかってさ、ターボオン!って感じ? 
イルーゾォがもうだーっとひん剥かれて、バカバカ何すんだよとか言ってる間に強引に寝技に持ち込んで、
普段のんびりしてるのにスイッチ入っちゃうと案外素早いのなあいつ、
もうすんごい早業だったもんね。キスぐらいしてから始めろよとは思ったけどね。
ホルマジオのバカ、大バカ、何しやがんだお前とか涙目で悪態ついてたイルーゾォが
あっという間に大人しくなってさー、押さえつけられてた手がいつのまにか組み合っちゃってて、
なんかもうラブラブ? 両腕が背中に回って、足が腰に回っちゃって、
そんでも一応口ではバカ、とか言いながら揺すり上げられてたけどさ、
バカァ、って感じだったのがバカン、って感じになってんだもん、睦言だよねー完璧。
その辺で気を利かせて子機、引っ込めたんだけど。


…え? うん、帰ってきてるけど。寝てる。窓側の部屋。
あの、ちょ、おーい? …リーダー?
えーとその、じゃあ頑張ってねー…って言うしかないんですがオレ。
リーダーまでスイッチ入っちゃうとかマジすごいな、これ。ギアッチョにも利くなー、確実に。


…あ、リーダーほんとにおっ始めちゃったよ。
ペッシ、起きちゃわなけりゃいいけど。

151一巡後名無しさん:2009/03/20(金) 12:47:47 ID:PT3S4o7c
 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |               なんでそこで気を利かすかな
 | |                | |          ∧_∧   バカバカマスクメロンのバカ
 | |                | |     ピッ  (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||  |


152一巡後名無しさん:2009/03/20(金) 20:31:20 ID:IFUqvhq6
GJGJ!さあもう一度デス13を呼び出す作業に戻るんだ!

153一巡後名無しさん:2009/04/04(土) 23:10:14 ID:./OJ1qaQ
新作キテターーー(゚∀゚)ーーー!

154一巡後名無しさん:2009/04/23(木) 23:02:40 ID:tnbrEYvY
 
承太郎が6部で死ななかった場合の老後を妄想してみた。
死にネタ注意。
 
===========================================================
 
 
 
 
 
それは雪の降る晩の事でした。承太郎の屋敷に友人が訪ねて来るのは何十年ぶりでしょうか。
承太郎はもうすっかり年を取っていて、その友達の顔もはっきり見えなければ名前もうまく思い出せませんでした。
それでも友人たちが連れてきた可愛げのない犬が庭で遊んでいるのを見ると、
若い頃を思い出すようで楽しくなってきます。

「お前の名前はなんと言ったかな・・・そうだ、思い出したぞ。イギーだ。イギー・・・」

それから承太郎はいぶかしむように呟きました。 「だがイギー、てめーは確かエジプトの戦いで・・・」
戦いで・・・。

承太郎は重たい首をあげ、ハッとして前髪の長い友人の顔を見ました。
「か・・・京・・・。おい、てめーも・・・・・・」

そしてエジプト人の顔を見ました。
フランス人の顔を見ました。そこに浮かんだいたずらっぽい笑みも。
みんなみんな、ずっと昔にいなくなってしまった友人たちでした。

粉雪の舞う表門の方から、変わらない祖父の大声が聞こえてきます。

「おーい、待たせたの。車を手配するのにちいーッと時間がかかってしまってのおーッ!」
「遅いですよ、ジョースターさん」
「風邪引いちまうぜ、じいさん!」
「すまんすまん。じゃが、これで旅の続きに出られるぞい。なあ承太郎?」

承太郎の足もとで、イギーと呼ばれた犬が小さく鳴きました。



次の日、通いの家政婦が、縁側の靴脱ぎ石の脇に倒れて冷たくなっている承太郎を発見しました。
霜の降りたしわ深い顔が、何か楽しい夢を見ているように少し微笑んでいました。
 
 
 
 
 
===========================================================
 
うん、これはひどい。

155一巡後名無しさん:2009/04/24(金) 23:25:40 ID:KP60/pEQ
全私が泣いた

156一巡後名無しさん:2009/04/25(土) 03:07:58 ID:acQseePU
全私も泣いた

157一巡後名無しさん:2009/04/25(土) 03:32:09 ID:OVqZC7Fo
涙!流さずにいられないッ!切な萌えをありがとう。

158夢十夜:2009/04/28(火) 00:02:10 ID:s2eKCFBg
 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | |> PLAY.       | |               エロなしフォモネタなし
 | |                | |           ∧_∧  不謹慎描写(大量死)あり
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )   
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

159夢十夜:2009/04/28(火) 00:10:55 ID:s2eKCFBg
広い空港ホールは、雑多な種類の旅客で混み合っている。
国から国へと行き交う、服装も人種も様々な世界旅行者たちの中、
男はふと、足を止めた。
『フランス国営航空92便、パリ行きのお客様は18番ゲートへお急ぎください…』
腕時計の文字盤にちらと視線を走らせ、スーツの隠しからチケットを取り出す。
紙片に引っかかった胸ポケットのペンが滑り落ち、床に跳ね転がった。
身を屈めたはずみ、癖のある前髪が額に落ちかかる。
ペンを拾い上げた視線の先、白っぽいプラスチックのベンチの下に、
奇妙に膨らんだスポーツバッグが置き去られているのを目に留め、男は眉をひそめる。
赤みがかったブロンドの前髪越し、見開かれた目に、激しい驚愕の色が走った。
素早く身を起こし、やや焦った風で、男は周囲を見回す──
広い空港ホールは、様々な旅客の人波でごった返している。
観光客、バッグパッカー、ビジネスマンに見送りの親子連れ。
男は見回し、そして見上げる──ちょうど頭上に、空港内の監視カメラがある。

そして、閃光と爆音が全てを吹き飛ばす。

悲鳴もなく、怒号もなく、爆発が旅客たちを呑み込んでゆく──
観光客の手からガイドマップが吹き飛び、ビジネスマンは腕時計を覗き込んだままの姿勢で、
バッグパッカーは砕け散ったガラスの破片を全身に浴びて、床に打ち倒される。
子の手を引いた親と、親の手に下がった子とが、かばう仕草も伴わず、
実験用のマネキンさながらに弾き飛ばされ、離れ離れとなって跳ね転がる。

爆風の余波がおさまり、熱と埃の匂いの白煙が薄れゆくホール、
飛び散った建材の破片と元人間だった物体とが飛び散るフロアに、
男はただ一人、静かに佇んでいる。
動じたふうもなく、かすり傷すらなく──渦巻く白煙が、わずかに男のスーツに
埃と硝煙の匂いの痕跡をつけて霧散してゆく。
男は見回し、そして見上げる──頭上の監視カメラは、爆発物の直撃を受け、無残に砕けている。
癖のある前髪が、爆風の吹き返しを受けて揺れる。

踵を返し、死体と重傷者が横たわる只中、男は静かに歩み去る。
火のついたような子供の泣き叫ぶ声にも、親の呻き声にも耳を傾けることなく。
天井から、まだぱらぱらと建材の屑が舞い落ちている。
はるか遠くから、悲鳴とベルと、けたたましいサイレンの音が途切れ途切れに聞こえてくる──
こつこつというかすかな靴音が、ホールの彼方へと遠ざかってゆく。



空港ホールには、もう動くものは何もない。

160夢十夜:2009/04/28(火) 00:12:31 ID:s2eKCFBg
 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |               最近の若いデス13の考える事は
 | |                | |          ∧_∧   俺にもようわからん
 | |                | |     ピッ  (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||  |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
出演
男…ソリッド・ナーゾ

161一巡後名無しさん:2009/05/03(日) 18:41:57 ID:HwBFwNHQ
キンクリで爆風回避ですな

162一巡後名無しさん:2009/05/09(土) 14:12:41 ID:ggjnYlXA
これは良いソリッド・ナーゾ!
確かにあれだけでかい組織なら抗争だってあるよね…5部はひたすら内紛だったけど

163燃えスレ第23試合:2009/05/10(日) 21:22:28 ID:9JqPfotI
 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | |> PLAY.       | |               燃えスレ新スレ移行
 | |                | |           ∧_∧  おめでとうございまーす
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )   第23試合ネタ実況中継でーす
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

164燃えスレ第23試合:2009/05/10(日) 21:23:54 ID:9JqPfotI
「さて、開幕一番から火薬の消費量が半端ではありません第23試合、
 バトルフィールドのスラム街は、ハリウッドの撮影所もかくやの相を呈しております。
 ご覧ください、序盤の攻勢で廃ビルが1棟まるごと鉄骨と化しております。
 いかがでしょう、解説のジョルノさん」
「キンクリ相手で下手に距離を詰めれば自殺行為ですからね。まず戦闘能力を削ぎに行くのは正しいと思います。
 ただ、牽制含みにしても火薬の量が多すぎるのが気になります」
「と言いますと」
「マフィアの血統と現役ギャングのコンビ、相手が虚仮脅しの通じる敵でない事は理解しているでしょう。
 あわよくばというのではなく、別な意図を感じます」
「MBの追跡による5分前の映像では、いまだドッピオ・モードが続いているのが確認されていますが…」
「エピタフをフル稼働するためでしょうね。動画モードですと、映像だけでなく音も拾えますから」
「なるほど。さて、ここでこちらの見取り図をご覧ください。
 開始地点がここ、一方的に追い上げる若手チームから、敵ギャングチーム、延々逃れることなんと半日余。
 日付も変わって現在、双方が潜んでいると思われるのはこちらの区画。
 メインストリート沿いから、袋小路の多い裏路地へと移動しています」
「開けた場所へ出ればグレフルは効果半減しますし、ピストルズの標的になるのが見え見えですから。
 一見、一方的に追い込まれているようでいて、計算して動いているという事でしょう」
「打開策はあるのでしょうか。いよいよ展開から目がはなせません。では引き続き、試合の方をどうぞ」

165燃えスレ第23試合:2009/05/10(日) 21:25:10 ID:9JqPfotI
「あの、すいま、せェ…ん、…ひとつ、聞きたいんです、…けど」
「前置きはいらねェ! 聞きたけりゃすぱっと聞け、すぱっと」
「ボクら、なん…ッで、こんなところを移動…してるん…で、…しょう」
先をゆくスーツ姿が歩みを止め、すっと振り向いた。
地上十数メートルの空中で、なぜこう余裕しゃくしゃくに振る舞えるのだろうとドッピオは思う。
「開放空間に出りゃピストルズに狙われる。密閉空間はトラップの山だ。
 だったら、仕掛けようのねえ間隙を縫って移動するしかねーだろーが」
「だからっ…て、なにもビルからビルへ洗濯ロープを渡らなくったっ…て」
目線を合わせようと顔を上げたはずみ、たすき掛けにしていたバッグが大きく揺れ、
ドッピオは危うくバランスを取り直した。
バッグの隙間から滑り落ちたペンが、黒々とした闇へ、音もなく吸い込まれて消える。
「いつ落ちるかひやひやで、敵を警戒するどころじゃないんですけど…ッ」
「予知スタンドを使え、予知スタンドを。落ちてるところが見えなきゃまだ落ちねえって事だ。
 落ちるかもなんて事ぁ考えずに堂々と動け」
「落ちてるところが見えたら?」
「それはその時考えるッ」
「そんなあ」
「ぶーたれてねェでとっとと来い、勝ったらアイスクリーム奢ってやっから」
「子供扱いしないでください!」
抗議を尻目に先を急ぎなつつ、プロシュートは、小柄な相方にちらと視線を走らせた。
特別機敏なふうにも見えないが、それでも遅れずついて来るのは、子供ならではの身の軽さだろう。
年は幾つなんだ? 浮かんだ疑問を振り払う。
頭ではわかっているのだ。正体は子持ちの三十男だと。
それでも尚、ぱっと目に普通の子供にしか見えないのも事実だった。

166燃えスレ第23試合:2009/05/10(日) 21:26:53 ID:9JqPfotI
「十秒後、真っ正面からピストルズ!」
甲高い警告が思考を裂く。
「どこだ!」
間髪入れず、プロシュートは叫び返した。
「進行方向のビル!ひと部屋はさんで向こうに二人!」
半身をひねって振り向くも、前方のビル、中に人影は見て取れない。
完全に射程外。渡り切るのも戻るのももう、間に合わない。。
「追い込まれたか…ッ」
「回り込んできてたなんて!」
ビル風に煽られた洗濯ロープが、生き物のようにのたうつ。
「狼狽えんじゃねえ!向こうの射程に入ったってんなら!」
ドッピオの目が、驚愕に丸く見開かれる。
突風に吹き上げられた前髪の下、露出したエピタフが本体同様、驚きの表情を作っていた。
「こっちが射程外に出るまでだ!覚悟はいいか!?」
「ちょっと、待っ…!」
「俺はできてるッ!!」
気合い一閃、バランスを崩すのも厭わず放ったプロシュートの蹴りが、ドッピオをロープから払い落とす。
「…ッ…!」
それでも予知内容したヴィジョンで腹はくくっていたか、悲鳴はなく、つぶてのようにドッピオが落下してゆき、
間を置かずプロシュート自身も身を踊らせた。地上十数メートルのロープ上から、命綱なしのバンジー・ジャンプ。
「キャモォォオー…ン!」
「イィィィイヤッハアア!!」
突き破ったガラスの破片を景気よくぶち撒きながら、突っ込んできたピストルズの銃弾はブロンドを数本、
宙に舞わせたのみ。数度角度を変えつつも、落下した二人を射程の外に逃し、
ビルの外壁のモルタルを砕いて弾丸は止まった。

167燃えスレ第23試合:2009/05/10(日) 21:28:51 ID:9JqPfotI
「いけると思ったんだがな…ま〜た逃しちまった」
割れたガラスをブーツの踵に踏み砕き、窓から身を乗り出したミスタが下方を見回す。
深夜もとうに過ぎた裏路地は完全な漆黒に沈み、探す二人を視認するのは不可能だった。
「視界が通らねえのが痛えんだよな…ピストルズに哨戒させようったって、
 やみくもにぶっ放してたんじゃ弾が幾らあっても足りねえしよ」
「焦らないで、ミスタ。私たちが優勢なのに変わりはなくってよ」
ね、と白い歯を見せる相棒の笑顔に、つい口元が笑う。
今回は初っ端からのバトルモード、女暗殺者の完璧なプロポーションを包む
エナメルのキャットスーツは、胸元が今にもはちきれんばかり。
目線誘導術も計算に入れてのこのスタイルと、わかってはいるのだが…
「いいねえ」
「でしょ?」
「うん、この辺りの曲線なんか特に」
伸ばした指でちょい、と突っつきかけたところを、ぺちっとはたかれ上目遣いにメッ、と睨まれる。
血気盛んなイタリア青少年に、これでにやけるなと言う方が無理というもの。
「マンマミーア、そろそろ敵さんもおねむの時間だと思うんですけどどうでしょう? 俺らもこの辺で少々休憩をば…」
「ダーメ」
「じゃあせめてデートの予約だけでも,ね?ね?」
いいでしょォ?と、わざと甘ったれたふうにねだって見せる、黒い瞳の拳銃使いの道化た笑顔に、
美貌の女暗殺者はクスリと笑った。
「勝ってから、ね」
「よおっしゃあ!行くぜピストルズ!」
いきなり調子づいて部屋を飛び出す相棒を見送る少女の瞳に、可笑しそうな色がおどっていた。
軽やかな足取りで後を追う。足音さえ立てず、女暗殺者は部屋から消えた。

168燃えスレ第23試合:2009/05/10(日) 21:29:42 ID:9JqPfotI
「あ…の、ジョルノ…さん?」
「御心配なく、ボク冷静ですから。…なんでああ軽いかなーとは思いますけどね、正直ね…
 死亡フラグを立てないで下さいよとあれほど言ったのにナンパし始めるし」
「じゃなくてマイク!マイク曲がってる曲がってる!折らないで下さい備品なんですから!」
「バトル中は集中しろとブチャラティにもあんっなに言われたのに、
見てればさっきから目が胸しか見てないし、もうね」
「ちょっとGE!GE出てますってば!ちょっと誰か護衛のリーダー呼んでき…
 うわどっから出てきたんだこの蔦、あっコード!ちょ、そのコードマイクのッ」
プツン…  



ザー…

169燃えスレ第23試合:2009/05/10(日) 21:30:28 ID:9JqPfotI
 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |               
 | |                | |          ∧_∧  5〜6回ぐらいで終わるかな
 | |                | |     ピッ  (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||  |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

170一巡後名無しさん:2009/05/10(日) 23:15:48 ID:f1sAMbhM
投下乙そしてGJでしたーッ!
兄貴無茶すんな兄貴
そしてミスタもジョルノも自重www
続き楽しみにさせていただきますっ!

171一巡後名無しさん:2009/05/11(月) 00:02:21 ID:TQab6wg2
試合本編キター!ありがとうありがとう
兄貴とドッピオが思いのほか良いコンビでかわいいw
終始ドッピオモードのまま試合終了したら
勝っても負けてもアイス奢ってもらえるんじゃなかろうか。ボス涙目だけど。

172燃えスレ第23試合:2009/05/11(月) 22:07:38 ID:VxwFYxr2
 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | |> PLAY.       | |               
 | |                | |           ∧_∧  
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )  どう注意書きしたもんかなあ
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

173燃えスレ第23試合:2009/05/11(月) 22:09:51 ID:VxwFYxr2

「おい、生きてっかガキ」
「子供扱いしないで下さいってば!」
「口答えする元気があンなら心配ねーな、…っと」
へばりついていた壁をひと蹴り、同時にスタンドを解除し、プロシュートは楽々と着地した。
見上げれば、朽ちかけた煉瓦が夜空と同化する辺りまで、
延々十メートル以上にわたりグレイトフル・デッドの爪痕が残っている。
スタンドで壁を削り続けて減速を試みたのは成功だったが…
「爪全部はがしちまうかと思ったぜ、クソ」
毒づいて、まだ壁にくっついている相棒の真下へ歩み寄る。
「パワー型ってのは得だな、こういう時。腕一本でもよ。…来な」
壁に足を突っ張り、煉瓦に手首まで埋まったキング・クリムゾンの腕を引き抜いて、ドッピオは飛び降りた。
着地時、少々ふらついたのはまだ背負っていたバッグの重みのせいだろう。
「捨てちまえ、そんな邪魔っけなもん」
「捨てません。ボスが持ってろって言ったんです」
「ハン」
やや頼りないのは本来の相方と変わりないが、いちいち生意気に言い返すところが違う。
どうせ受話器と称するガラクタが詰まっているのだろうとは思ったが、プロシュートはあえて咎めなかった。
足手まといになるなら捨てていくまでだ。この試合、パートナーの生存は必須条件ではない。
判定に持ち込まれた場合のペナルティにはなるが。
「『ボクのボス』の御命令、ってか」
皮肉のつもりだったが、返ってきたのは照れくさそうな笑顔だった。
そばかすの中にあるような顔は、笑うと更に子供っぽさが増す。
屈託のない笑い方と、保護者への掛け値なしの敬愛だけは、
弟分と通うところがある、とプロシュートは思った。

174燃えスレ第23試合:2009/05/11(月) 22:14:12 ID:VxwFYxr2
二人が着地したのは、アパートの裏階段だった。
降りるか入るか、逡巡は一瞬、鋼鉄製のドアを軽く拳で打ち、手応えを確かめた後は勢いよく蹴り開ける。
数歩進んで振り向き、ひとさし指を挙げて相方を招いた。
おどおどと周囲を見回しながら、ドッピオはおずおずついてくる。
あからさまに弾避けにされているのは気に入らなかったが、先に立って危険を予知させた方が間違いがない。
指揮はどこに居ても取れるのだ。
正午の開始からこれまでゆうに15時間余を経過、ひたすら逃げの一手を強いられながらも
ここまで無傷で逃げおおせたのは、予知が一度もはずれなかった事、
プロシュートの勘に狂いがなかった事の二つだった。
(相方がこのガキだってのもあっただろうけどな)
最大級の憎悪を向けるべき相手が目前に居たなら、
平静な判断を下し続けられたかどうか怪しいものだとプロシュートは思う。
故意に仲間──おお神よ!──を窮地に陥れるような真似はしないまでも、
どさくさに蹴りの一発も見舞って盛大な同士討ちを引き起こす危険性は大いにあった。
目の前にいるのがこのトロいガキであるうちは、時折イラつかされはしても逆上はせずに済む。

175燃えスレ第23試合:2009/05/11(月) 22:16:30 ID:VxwFYxr2

「…妙だな」
立ち止まったプロシュートの後方で、同じく足を止めたドッピオがきょとんと尋ね返した。
「何が?」
「これまで散々派手に追い込んで来たってェのに、さっきから何の仕掛けもねえ。
 こっちの所在を知るための鳴子の一つも、だ」
「ボクらを見失った、とか…」
「真下に落ちたのはわかってんだ。ピストルズ一発ぐらい哨戒にぶち込まれてもよさそうなもんだが、それもねえ」
危険信号がちりちりと神経を焼く。誘い込まれた臭がぷんぷんするのが気に入らない。
「…戻りますか?」
「いや」
相手は心理戦のプロだ。既に相手の手の内にあるならば、進もうと戻ろうと変わりはない。
「前進あるのみ、だ」

それでも、昼から半日以上緊張を強いられた後、ノーマークで小一時間を経過し、何の兆しもない事で、
気の緩みがなかったとは言い切れなかった。
警戒していたところで、どうできる状況でもなかったのだが…

一度ビルの10階まで上がり、先程敵がいた窓…もうそこにいるとは思えなかったが…に姿を晒す愚を避けて、
ビルの中央、元はバーだったとおぼしき部屋を横切る。
何語ともなく部屋を通過した直後だった。
ビルの反対側へ抜ける扉のドアノブを握った瞬間、凍り付いた悲鳴が上がった。
「どうした!」
振り向きざま怒鳴る。返って来た答えは絶叫に近かった。
「部屋の壁全面にパイナップル!ドアの向こうも今来た通路も、このフロアの天井全部!」
耳を疑ったと同時、握ったドアの向こうにカチリと小さな手応えがあった。
部屋の天井全面を這うピアノ線が一斉に巻き取られ、手榴弾のピンが次々に弾けて盛大なコーラスを奏でる。


轟音と共に、フロアのすべての窓ガラスが吹き飛んだ。

176燃えスレ第23試合:2009/05/11(月) 22:20:12 ID:VxwFYxr2
「かかったか」
トラップ群からは距離を開けた──安全のために──地階のパブ跡でくつろいでいたミスタは、
響く爆音に顔を上げた。
「おら、休憩は終わりだ。行くぜお前ら。No3、いつまで食ってんだ」
残ったサラミをレーションケースへさらい込むと、薬莢箱に納まっていたピストルズ達が一斉にブーイングする。
「ユックリ休マセロヨーッ」
「まだ戦闘中だっつーの! どれだけ休む気だおめーら!」
「そこに『いる』の?」
「ん?」
カウンターの椅子で抱え込んだ片膝に顔を伏せ、眠っているように見えたアイリンが顔を上げ、
じっとミスタの手元を見詰めていた。
「俺のピストルズだったら、アンタの顔の前にも一人いるぜ」
「この辺り?」
眼前の空間を探るように、白い手がひらひらと動く。ふざけたNo.7がバイカラーの前髪にぶら下がり、
見えない相手に髪を引っ張られたアイリンが大きな目をまたたいた。
手探りにいたずらの犯人を探す手指の先を、No.7が飛び跳ねる。
「天国・地獄・大地獄ッ」
「ヤメロヨー、No.7ー」
「見えねえんだったな、あんたは」
「見えないし聞こえない。感触はあるんだけど」
細い指が握られ、また開く。どこぞの殺人鬼がすっ飛んできそうな美しい繊手は、
罠や爆薬を自在に操り、年嵩のギャング二人を一日じゅう翻弄してきた女暗殺者の手でもある。
「でも大丈夫」
立ち上がりながら、アイリンは艶やかに微笑んだ。形よい眉の下で、青い瞳がいたずらっぽく輝いている。
「あなたが守ってくれるんでしょ?」
「とおっぜん」
胸を張るミスタの周囲で、ピストルズが一斉に騒いだ。
「格好ツケテンジャネーゾ、ミスター」
「ニヤケテンナヨー、後デトリッシュニドヤサレルゼー」
スタンドの茶々は無視して、調整の済んだ相棒を手に取り、ミスタは立ち上がる。
手のひらにしっくりと馴染む、使い込んだリボルバーの重さと感触。
「さてと、それじゃ参りましょうかシニョリーナ。敵さんの亡骸と御対面に、な」

177燃えスレ第23試合:2009/05/11(月) 22:24:11 ID:VxwFYxr2

地面に落下したガラスの砕け散る遠い音が、ようやく止んだ。
天井でぐらついていた安っぽいシャンデリアの残骸が、ゆっくりと傾ぎ、煤けた床に落下する。
粉々に砕けたガラスが撒かれる高い音を、プロシュートはどこか遠くで聞いた。
爆音にやられた耳の中、残響がわんわんと反響している。目に流れ込んだ血のせいで、ほとんど何も見えない。
体の背面が焼けるように熱く、全身が凍えるほど冷たい他は感覚がなく、
体の下にいるはずの相方が五体無事かどうか、自分の体がどうなっているのかすらわからない。
もうガードする必要はないという安堵──あるいは諦念か、この状況下では──から、
支える必要のなくなったグレイトフル・デッドがゆっくり消えるのだけは、感覚でわかった。
(…Perche?)
何故、どうしてと、体の下になっている相方が尋ねた声が、こもって低く耳に響く。
「…てめーを…庇った、わけじゃ…ねえ、…グレ…フル…でガード、…するしかねえってんなら…
 …行動不能は…覚悟…てめえ、は…ついで…だ、…味方、だから、…な」
味方、──か。
ハ、と笑ったつもりが、息が詰まり小さく噎せた。口の端を生ぬるい液体が伝う。
鼻の中が焦げたかという強烈な硝煙臭にまじり、生臭い鉄のにおいがかすかにした。
「動ける…か?…なら…行け、じき…連中が来…る」
(…Vada?)
「オレは…動けねェ、…てめーを小脇に…抱えてずらかるワケにゃ…いかねえ…から、よ…
 後は…てめえひとり、…で、…行くんだ…ひとりでも…生きてるうちは…終わりじゃねえ…」
(…お前が私を抱えて行けないというなら)
「…ァあ…?」
「私がお前を抱えて行く他あるまい」
残響が薄れ、耳から入る音がようやく人の声として形をなす。
体がゆっくりと、だが軽々と持ち上げられる感覚。
抱え上げる腕の確かさが、無機質な口調と相まって誰かを思い出させたが、思考はまとまらず、
ずっと聞こえていた囁きが、残響の仕業ではなく本来の低さなのだと、気づくと同時に意識が落ちた。

178燃えスレ第23試合:2009/05/11(月) 22:25:44 ID:VxwFYxr2


「応援席の皆様にお願い申し上げます。バトルフィールドに降りないで下さい、
 試合はまだ続いております…降りないで下さい危ないんですから! 
 聞こえてますかそこ、非常口を蹴るのはやめて下さい! 
 ちょ、子機で壁抜くのも禁止! 危険ですからやめて下さいってば!」
「…あ、もしもし警備員席? 困りますよそちらで収拾つけてくれないと。
 止められないなら非常口にグリーン・デイまいちゃって下さい、かまいませんから」

179燃えスレ第23試合:2009/05/11(月) 22:26:13 ID:VxwFYxr2

 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |               
 | |                | |          ∧_∧  キャラ解釈が合わない場合は各自スルーで
 | |                | |     ピッ  (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||  |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

180一巡後名無しさん:2009/05/12(火) 00:42:48 ID:VB1Gs6wQ
なんというGOD JOB
萌えと燃えのあまり床を転がりました
あれ、ボ、ボスと兄貴にフラグ立った…!?
燃えスレでこの相性悪いコンビにハァハァしていた者として、最大級の敬意を表するッ!
そしてドッピオかわいいよドッピオ

客席で暴れてる、もう一人はギアッチョかなあ
リゾットはまだ悶々としてるのかなあと
妄想広がりまくりで幸福です、うp主さんありがとうございます!
続き、できたらお願いしますッ

181一巡後名無しさん:2009/05/12(火) 01:13:40 ID:1gHrmkqE
神きてた…もう燃えすぎてどうしたらいいか分からない
続き死ぬほど楽しみにしてます

182一巡後名無しさん:2009/05/12(火) 02:44:38 ID:lrS2XNRA
これはきれいなボスww
小脇に抱えるなんて男らしすぎてボスに見えなくてごめんなさいwww

最後のセリフは康一君とジョルノかな?
チョコラータと意外にもなごやかに会話してるっぽいジョルノに萌エタァ

183燃えスレ第23試合:2009/05/12(火) 23:52:27 ID:E4FmX1Sg
 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | |> PLAY.       | |               
 | |                | |           ∧_∧  
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )  色々ひっくるめて『ピカレスク注意』
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

184燃えスレ第23試合:2009/05/12(火) 23:54:17 ID:E4FmX1Sg
「嘘だろォ、おい」
焦げ臭いフロアの中央に立ち尽くし、ミスタはぼやいた。
爆風で吹き飛んだ調度の残骸が散乱し、壁やカーペットは煤けてずたずた、
窓のフレームは歪み、当然ガラスは一枚も残っていない。にも関わらず…
「…なんで両方いねえんだ」
近距離パワー型のキンクリ、能力特化型のグレフルどちらも、爆風の盾となる『堅さ』はない。
本体をガードすれば当然、バックラッシュが走る。
これだけの規模の爆発なら、本体が無傷で済むはずはない。
キング・クリムゾンで爆風を避けたとしても、二人ともには助からない。
少なくとも密閉空間では厄介なグレフルが潰せるという心算だったのだが…
「味方を爆風避けにした、か…? んで用済みの盾は外へ捨てた、と」
窓の下を覗くが、まだ夜明けの遠い屋外は、漆黒の闇に沈んでいる。
「いいえ」
床に屈み込んでいたアイリンが顔を上げた。
「見て、ここだけ、カーペットに爆発の損傷がない。
 そして周囲にはおびただしい量の血痕…どちらかがもう一人を庇ったんだわ。
 そして残る一人が、負傷したパートナーを連れて逃げた」
「どうしてわかる?」
「これを見て」
アイリンの持つ照明灯の丸い光がカーペットの上を走る。
「これだけの出血量にも関わらず、床の血痕の間隔が広いわ。
 重傷の人間一人を連れて『走った』…そして」
照らし出された窓枠に、飛散した血糊が不吉な模様を描いている。
「窓から向かいのビルへ『跳躍した』!」
「…軽く5メートルはあるぜ」
「つまり」
視線が合う。
「「無傷で残ったのは近距離パワー型スタンド」」
台詞がきれいにハモった。
「そっちが残るだろうたぁ思ったけどよ。相方を捨てて行かなかったのは予想外だったぜ」
「何か仕掛けてくる目論見かもしれない。ここからの追跡は気を引き締めてかからなくては」
「死神スタンドが出なくなっただけ気楽だね、俺は。
 任せときなって、悪魔の方にゃ一回勝ってんだからよ」
「気を抜かないで、ミスタ」
「わかってるって。行こうぜお嬢さん」
たしなめるアイリンに見事なウインクを決めて見せ、黒い目の拳銃使いは颯爽と歩き出す。
少々眉をひそめ、だが油断なく周囲に目を配りつつ、アイリンはパートナーに続いた。

185燃えスレ第23試合:2009/05/12(火) 23:57:45 ID:E4FmX1Sg

ぼんやりとした視界が、次第にはっきりした形をむすぶ。
十秒余りかかって、ようやく眼前にあるのが焦げた天井の梁だと理解した。
「気づいたか」
声の方へ顔を向けようとした途端、全身を激しい痛みが襲う。
「あぐッ…ッ」
呼吸ができない程の激痛。一瞬意識が飛びかけた。
唇を噛みしめて耐え、ひきつれる腹筋をなだめて、やっとで息をつく。
絶叫せずに済んだのはプライドだけと言ってよかった。全身の骨格が悲鳴をあげている。
皮膚は言うに及ばず、失血のためだろう、体が凍るように冷たかった。
スタンドを介さず直撃を受けていれば、間違いなく即死していただろう。。
心臓がまだ鼓動を打っているのが、いっそ不思議だった。
「飲め」
差し出された錠剤を、ほとんど何も考えず口に含む。
続けて口元に寄せられた水筒に乾いた唇をつけて飲み下した後、ようやく疑問が言葉になった。
「…どっから出した」
返事の代わりに、『相方』は片手に挙げたバッグを軽く振ってみせた。
見覚えのあるバッグは、頑丈なズック地がずたずたになりながらもかろうじて形を保っており、
床には他にも幾つか、薬剤の入ったビンが転がっている。
「…ハッ」
鼻で笑ったはずみ、咳込みかけたのをかろうじて抑え込んだ。
「用意のよろしいこった」
「用心深い、と言ってもらおうか」
「ルール違反じゃねえのかよ」
「わざわざ無用の長物を戦闘に持ち込む者がいないだけで、禁止されてはいない。
 バトルを左右する装備は制限事項にかかるが、元々鎮痛剤はドッピオの携帯品だ。
 …後は、今回スタンド使いではないあの娘の装備が、実質無制限というのもあるだろう。
 こちらの備品にも多少、色がついた」
長々と、だが億劫そうに説明を終え、床の薬瓶を取って、中身を手のひらにあける。
再びこちらの口元へ差し寄せ、表情のない目で飲め、と促した。
「摂取過多で死ねってか」
「増血剤と鉄剤だ、害はない。ぎりぎり制限枠に収まった…『味方』に与えるとは思わなかったがな」
「頼んだ覚えはねえ」
「強がるだけの余力があるのか?」
息が切れたのでそれ以上の軽口はやめ、プロシュートは無言で錠剤を飲み込んだ。

186燃えスレ第23試合:2009/05/13(水) 00:00:32 ID:n0CuU4JQ
気づけば、裂傷の手当てに使われているのは、
包帯代わりに引き裂かれたとおぼしき自前のジャケットだった。
折れた腕を固定しているのは、これまた見覚えのあるニット。
ドッピオが着ていたものに間違いない。
持ち込み物品の制限が厳しいというのは事実らしかった。
「…増血剤なぞ飲まされてもな。戦えるほど回復しそうにねえぞ、俺は。
 わざわざ足手まとい作ってどうしようってんだ。なんで捨てていかなかった」
「お前を庇ったわけではないな」
「あァ?」
「借りは作りたくない…ことに暗殺者には。試合後にたかられても困る」
アイスクリーム・スタンド前で、と続けられ、一瞬思考が停止した。
振り返った口元に、かすかな微笑があった、と思ったが目には何の感情もない。
笑いかけたつもりはないのだろう。笑うともなしに笑った、ただそれだけの微笑。
ドッピオの人なつこい笑顔とは、似ても似つかなかった。
「…どこかと思えば、ここは」
壁や天井の亀裂から外が覗け、鉄骨が剥き出しになっている。今しも倒壊しないのが不思議なほどだ。
「昼の猛攻で瓦礫になったビルの中かよ」
「わざわざ舞い戻るとは向こうも思うまい。何よりこれ以上罠は残っていない」
「多少は時間も稼げる、ってか。
 だが、こっちが回復するまで待ってくれる敵さんじゃねえぜ。
 動き回ったんじゃ、俺は一時間と保たねえ」
「鎮痛剤が効いてくれば、スタンドは支えられるはずだ。
 …グレイトフル・デッドをフル稼働でどれだけ保たせられる?」
「死ねってのかよ」
「結論から言えばそうなる」
プロシュートの片眉が跳ね上がった。こちらを見つめる悪魔の目には、何の表情もなかった。

187燃えスレ第23試合:2009/05/13(水) 00:04:12 ID:n0CuU4JQ

「…直で良けりゃ、てめえが動かなくなるまで叩っ込んでやるぜ」
「へらず口をたたく気力があるなら心配はないな」
怒った様子もなく、ディアボロは受け流す。
「叩き込む相手はどちらがいい、グイード・ミスタか、アイリン・ラポーナか」
「二手に分かれようってのか、この状況で」
「足手まといが望みと言うなら…」
「まっぴらだ」
「だろうな」
「いい性格だぜ。てめえの片割れをみそっかす扱いした意趣返しか?」
思わずかっとなって噛みついたが、ディアボロは心外そうに片眉を上げたのみだった。
「意趣返しの理由がない。事実、実戦ではドッピオはお前に劣る。
 格下である以上、ないがしろにされて憤る理由はない」
淡々とした受け答えの意味を理解し、腹の底からふつふつと怒りがこみあげてきた。
──見下されているのだ。
満身創痍のお前は、実戦では無力だと。ないがしろにされて当然だと。
誰のせいでと叫ぶのは、プライドが許さなかった。

──精神で理解させてやろうじゃねえか。無力でも格下でもないってえ事を。
「二手に分かれるってのは、俺を捨て駒にするだけの策があるってえ事だろうな」
「自明の理だ」
「つまり、てめえの為に死ねってか」
傲然と顎を上げ、プロシュートは癪に障る相方を斜に睨んだ。
「それで俺に何の得があるってんだ?」
「パートナー死亡を前提として、勝ちを取る方法は一つしかない」
返答にはよどみがない。
「お前の挺身の交換条件は──」
続く言葉を耳にし、一瞬プロシュートは返答に詰まった。
「…しょぼい報酬だな」
「他に差し出せるものは、そうだな」
少し考え、ディアボロははじめて真っ向からプロシュートを見た。
「勝利と栄光」
「気に入った」
不敵な眼差しに、鋭い光がともる。
プロシュートは、血の気の失せた唇の端をつりあげた。

188燃えスレ第23試合:2009/05/13(水) 00:09:50 ID:n0CuU4JQ
「それで、スタンドはどのぐらい保たせられる。質問に答えろ、アサシーノ」
「この傷さえ何とかなりゃあ、小一時間保たせて見せらぁ」
「背中?」
「ここで決着つけようってならいいが、動けば確実に傷が開く。
 出血が続けば当然、俺の体力が保たねェ。
 それさえなけりゃ、生きてる限りフル稼働してやらあ…杜撰なんだよ、てめえの応急処置は!
 傷の手当てが大雑把なヤツならうちのチームにもいるがなァ、出血ぐらいはきっちり止めるぜ!」
「一理ある。…ライターがあったな、確か」
「あァ?」
血に染まった襤褸屑の側から、見覚えのあるジッポが拾い上げられる。
「借りるぞ」
続けて取り出されたのはピアノ線。さっきの大仕掛けに使われていたものらしい。
パワー型スタンドの指が鋼線をつまみ、きりきりと扱いて、花束のリボンさながらに波打たせる。
数十センチに折り取られたピアノ線を、ジッポの炎が端から端へさっと舐めた。
「何をやって…」
「舌を噛まないよう気をつけろ」
掴まれた腕がぐいと引っ張られ、手早く包帯が外された、と思った次の瞬間、激しい痛みが走った。
「……!!!」
肉の焦げる臭いがかすかに立ちこめる。
露出した裂傷が、熱消毒したピアノ線に縫い留められていた。
どうやったのかと訝しむ間もなく、問答無用でうつ伏せられる。
「もう一本行くぞ」
「待っ…!」
背中を走る痛み──ジュッという音はなかった。
スタンドを使ったのだろうという直感が、混乱した思考を裂く。
──荒っぽいにも程がある──!
せめてピアノ線が冷えるまで待て、そう抗議したかったが、
近距離スタンドの腕力で押さえ込まれた体はびくともせず、
起きあがる事すらままならない。
「次」
「………ッ!」
反射的に目の前の手首に噛みつき、悲鳴を殺す。
革のアーマー越しに肉の歯ごたえがあったが、わずかにたじろいだ気配以外、反応はなかった。
「次」
4本、5本とすべての傷が縫い潰され、出血が止まる頃には
食ってかかる気力すら残っていなかった。全身がびっしょりと汗にまみれている。
「…失血で…くたばるのが先、か…火傷の痛みでショック死が先…か、
 あやしい…もんだぜ、…チクショウ」
「どちらでも大差はない」
リストアーマーを外して手首の噛み跡を眺めつつ、ディアボロはさらりと流した。
「どのみちその負傷では数時間と保つまい」
「…そうかよ、クソッタレ」
長々と床に伸びたまま、プロシュートは毒づく。
よろよろと半身を起こし、肩で息をついて、ようやくの事で壁に体をもたせた。
ようよう片腕を上げ、額の脂汗をぬぐう。

──この悪魔!

189燃えスレ第23試合:2009/05/13(水) 00:12:20 ID:n0CuU4JQ


「もしもしパードレ、すみませんが非常口までペットショップ派遣してもらえます?
 黴使いが氷使いに完封されちゃって、…いえ要りませんよチートスタンドなんか。
 既に何人か返り討たれてますんで、堅実にお願いします。
 非常口を氷付け封鎖してもらえればそれで…聞いてます?
 相手は人間なんですから場外バトルなんてやらかさないで下さいよ?
 …もしもし、もしもしパードレ?」

190燃えスレ第23試合:2009/05/13(水) 00:13:24 ID:n0CuU4JQ
 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |               
 | |                | |          ∧_∧  兄貴痛めつけだすと歯止めがきかなくなるよね
 | |                | |     ピッ  (・∀・ )  いろいろな意味で
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||  |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

191一巡後名無しさん:2009/05/13(水) 00:20:44 ID:YX/QjNJA
うひょー!リアルタイムktkr!
GJついでにもっかいうひょー

192一巡後名無しさん:2009/05/13(水) 00:21:54 ID:vum800zQ
>>190
まさかリアルタイムで読めるなんて…!
本試合も実況席もGJすぎます
そしてボス!これはアンチも全力乱入せざるをえないほどの格好よさ
もう狂い悶えすぎて筋肉痛になりそうでした
続き楽しみにお待ちしてます!

193一巡後名無しさん:2009/05/13(水) 02:41:15 ID:XXWZsa7.
投下乙 うわーボスがかっこいー
そして観客席が大変なことに
ボス母「あの子、昔っからああいう縫い物が得意でね」
ドナテラ「まあ、そうだったんですかお義母さん?」
トリッシュ「(……もう帰りたい。その前にミスタ殴る)」
って光景をうっかり想像したw

194燃えスレ第23試合:2009/05/14(木) 03:27:25 ID:zULZxNFI
 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | |> PLAY.       | |               
 | |                | |           ∧_∧  断末魔注意
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )   
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

195燃えスレ第23試合:2009/05/14(木) 03:29:13 ID:zULZxNFI

ピンポンパンポーン…


「試合進行中ですがここで、場外バトルの結果をお知らせいたします。
 リトルフィート、M・M、BFをG・デイが下しWAがG・デイを完封、
 ザ・ワールドがWAを封殺メタリカがザ・ワールドを下しホルス神がメタリカに勝利。
 場外乱闘の栄冠は館の守護者の頭上に輝きました。
 いやあ、見応えがありましたねえ世界VSメタリカ。
 3部ラスボス相手に善戦するとは、第18試合で吸血鬼づいたんでしょうか」
「傍目には、時止めまで使った壮大なだるまさんが転んだでしたけどね。
 大人げない大人同士という意味でも好カードでした。
 尚、惜しくも破れました皆様には、マッド・ドクターと過ごす医務室のひととき、
 強制連行ツアーが進呈されました。おめでとうございます。
 これに懲りたら二度とやらないで下さいね」


ピンポンパンポーン…

196燃えスレ第23試合:2009/05/14(木) 03:30:43 ID:zULZxNFI


銃声が次第に近くなる。
──とっとと来やがれ。待ちくたびれて眠っちまうぜ。

ゆっくりと体温が下がりはじめていた。
次第に明るくなる戸外に比し、視界は徐々に昏くなってゆく。
時間の経過と共に、じわじわと削られてゆく体力。
待てば待つだけ、不利なのはこっちの方だ。体温が下がり、瞼が重い──完全に眠り込めば、
二度と目覚める事はかなわないだろう──かろうじて覚醒していられるのは、
鞭打たれているように疼く火傷の痛みのせいだった。
大量の鎮痛剤ですら抑えきれないこの激痛がなければ、とっくの昔に意識が落ちていただろう。
「…おい悪魔」
戸口に佇み、明けゆく往来を眺めていたディアボロが、黙って振り向いた。
「俺も、…てめえに借りは作りたくねえ」
言葉を発するだけで息があがる。
「俺が庇った。…貸し一つ。てめえが運んだ。…借り一つ。
 俺が囮で、てめえが真打ち、契約を果たせばチャラだ」
「何の問題もないように聞こえるが?」
言葉を発するのも辛かったので、黙って鎮痛剤のビンを挙げてみせた。
「それぐらいの事で」
「些細な借りだろうと、てめえ相手に持ち越したかねえんだよ!」
声を荒げたはずみ、露骨に肋骨が軋み、プロシュートは唇を噛みしめた。

197燃えスレ第23試合:2009/05/14(木) 03:31:59 ID:zULZxNFI
「…魂で取り立てられちゃかなわねえからな」
肩で息をつき、わななく腹筋をなだめつつ声を振り絞る。
往来の銃声までの距離を耳で測りつつ、ディアボロはちらと瀕死の相方へ視線を投げる。
「それをどう精算しようと?」
「取り立て人はてめーだ、要求があるなら今のうちに出しやがれ。
 もっともこのザマだ、跪いて靴にキスしろと言われても困るがな。
 屈んだが最後、二度と立ち上がれねえ」
言葉を切ると同時、呼吸がつまって激しく咳込んだ。
「口の減らない事だ」
少し首を傾げ、ディアボロは値踏みするようにしばし、プロシュートを眺める。
──さあ吐け。てめえの腹のうちを。顔のない男に駒として使い捨てられるのは、もうまっぴらだ。

「そう言えば一つあったな、個人的な要望が」
扉を押し開き、室外へと踏み出しつつ、ディアボロはぽつりと言い捨てた。
「ドッピオに関心を向けるな」
「は?」
「互いに契約を果たした後、私たちに関わろうとするな。…希望はそれだけだ」
あっけに取られるプロシュートを残し、音もなく重い扉が閉じた。

198燃えスレ第23試合:2009/05/14(木) 03:33:32 ID:zULZxNFI


「居タアアアーッ!!! 居タゼミスターッ」
「どこだ! No.1ッ!!」
「街角ニ姿ガミエターッ!!! 確カニイタゼーッ」
「ビンゴだアイリン、行くぜ!」
潜んでいた物陰を飛び出し、全力で駆け出す。

大した女だぜ──
ミスタは内心、舌を巻いた。
──重傷のパートナーをわざわざ連れていったのは、何か目論見があるから。
どう仕掛けてくるつもりにせよ、相方を動かせない以上、こちらを誘い込むしかないはず。
時間が経つほど不利なのは敵のほう。必ず向こうから姿を見せるはず──
アイリンの読みどおり、敵は姿を現した。用心深く、ピストルズの射程ぎりぎりの視界に。
心理戦のプロフェッショナルとは聞いていたが──併走するアイリンに視線を飛ばす。
ここまで流れを有利に運び続けた読みの確かさ、予測の精度、そして精神力。
2つ年下とはとても思えない。まるで女版ジョルノだ。
更には男であるミスタにわずかも遅れを取らず、これだけの長丁場で疲労の色を見せない。
「おまけにこのプロポーション」
「何か言った?」
「いいえ、な〜んにも」
戦乙女ってのはこういうもんかな?
とっとと片づけて、フーゴにでも聞いてみるか。
…この勝負、俺たちが貰ったぜ。

199燃えスレ第23試合:2009/05/14(木) 03:35:21 ID:zULZxNFI

「どこだNo.1!」
「コノ店ニ入ッタ…ンダケドヨオ…」
店内は窓が砕け柱が折れ、
手榴弾が炸裂したかトンプソン機関銃でも乱射したのかという荒れっぷり。
しかし、目指す敵の姿は見あたらない。
「イネーゾ?」
無言で数発、ミスタは店内へ弾丸を撃ち込んだ。
「カウンターノ裏ニハイネーッ」
「テーブルノ陰デモネエッ」
「階段ノ上ジャネーノカ?」
店内を舞い跳ぶピストルズが口々に叫ぶ。
ガラス片を踏み越え、油断なく周囲に目を配りながら、
ミスタはリボルバーを装填し直した。
「裏ヘ抜ケテ、ソノママ逃げチマッタタジャネーノカ?」
ミスタの肩の上に浮かんでいたNo.3が、自信なさげに呟く。
「いいや、裏じゃねえ…奴には既に『逃げる』という策はねえ。
 …だがいいセンだ…見えたぜ、『見えない部分』がな」
リボルバーを構える。正面には、壁一面の巨大な鏡。
細かくひび割れているのに、砕け落ちていない…それは何故だ?
「どうしたのミスタ?」
「俺たちギャングには馴染みのある作りだ、アイリン…
 見通しのいい角の店、奥には頑丈なドア、そしてこれは鏡じゃねえ…
 ああ、よく知ってるぜ…壁の装飾じゃねえ、
 裏の事務所から表を見張るためのマジックミラーだよ、防弾ガラスのな!
 行けッ、ピストルズ!!!」
「イイイイイイイイ〜〜〜〜〜〜ハアアアアアーッ!!!」
鏡の弾丸跡をめがけ、ピストルズが突っ込む──甲高い音を立て、奥で何かが『砕けた』。

200燃えスレ第23試合:2009/05/14(木) 03:38:20 ID:zULZxNFI
「何ィ…っ!?」
「ミスタ! これは!」
砕けて飛び散った鏡の奥から、どっと濃厚な白煙が吹き出してきた。
「ヤベエ! ミスタ!」
「ガラスダッ! 割レタ鏡ノ破片ヲ裏カラ、普通ノガラスデ目張リシテヤガッタ!」
「畜生、伏せてろアイリン!!」
ひと声叫び、息を詰めて立て続けに銃弾を放つ──たじろいでる場合じゃねえ!
「こけ脅しに引っかかってんじゃねーぞピストルズ!
 突っ切れ、敵さんはこの奥だ!」
急速に増す虚脱感に構わず、ピストルズ任せで立て続けにぶっ放す。
鈍い苦鳴、そしてピストルズの歓声。
「ウシャアーッッ」
「ヤリィィイイーッ」
「よっしゃ、行くぜシニョリーナ!」
確かに『手応え』があった。多少の脱力感を気にせず、煙を突っ切って鏡へ向かう。
「ミスタ! 気をつけて!」
「わかってるって、俺から離れんなよアイリン!」
枠に足を掛け、勢いよく中へ踊り込んだ。
着地の瞬間、一瞬よろめいたがすぐに立ち上がる。
煙が見る間に薄く、拡散して消えてゆく。
「よお、プロシュートの兄貴。悪魔にお祈りは済んだのか?」
返事はない。
ピストルズの弾丸に撃ち倒され、力なく床に横たわった満身創痍のアサッシーノの傍、
奇怪なスタンドが全身を飾るまなこを見開いたまま、
無惨に砕け、朽ち落ちていこうとしていた。
「おっと、同じ手は二度食わねえぜ」
歩み寄るミスタの足に向け、無意識にも伸びかかった手の甲を踵に踏み砕く。
遂に仕留めた敵を見下ろし、凶暴な歓喜が突き上げた。
「能書きは嫌いだったな?──ぶっ殺すと心の中で思ったならッ!」
立て続けに三度。耳をつんざく銃声が響きわたる。
「──その時スデに行動は終わっているんだっけか。
 今度は俺の勝ちだ──あばよ色男」

201燃えスレ第23試合:2009/05/14(木) 03:40:07 ID:zULZxNFI


──全く見事にしてやられたもんだ。ザマぁねえ──
ひたひたと、闇が打ち寄せる。
苦痛も冷たさも通り越し、体をひたしてゆく真の暗闇はあたたかく、やわらかい。
関心を持つな、だと?──それが本心からの願いか。
血縁にすら愛情をそそがない、自分自身以外には何にも関心のないてめえの──

とうとう、最後までこちらへ注意を向けなかった。
自分に資する駒として以外には。終始一貫して、いっそ潔いまでに。
──高くついたぜ、てめえの個人情報は。だが契約は契約だ──
義務は果たした。払ってもらうぜ、あんたが約束した報酬を──ええ、『ボス』?

「…ハン」
自嘲とも、達観ともつかぬ笑いがこぼれ──そこで、プロシュートの意識は途切れた。

202燃えスレ第23試合:2009/05/14(木) 03:40:37 ID:zULZxNFI


「味方を使い捨てか、…やってくれるぜあの悪魔。だが解せねえ、なあアイ…」
振り向きかけて、ミスタは一瞬硬直した。
細い肢体が、空中で揺れていた。

203燃えスレ第23試合:2009/05/14(木) 03:42:46 ID:zULZxNFI
「しまった…!!」
部屋に飛び込んだ瞬間、一瞬意識がぶれた。
薄まりつつあるグレフルの老化作用だと思った、だが違った──
マジックミラーとグレフルのトラップも、瀕死のプロシュートでさえ囮仕掛けにすぎない、
全てこのために──
「アイリン!!」
締め上げられた細い首がひくひくと痙攣し、宙に浮いた爪先が力なくもがく。
『見えないし聞こえない。感触はあるんだけど』
ミスタの激昂に何の反応もせず、キング・クリムゾンの両腕に少女を縊り上げたままで
ディアボロは手中のケース──アイリンのコンパクトだった──を、部屋の隅へ放り捨てた。
チークが粉々に砕け、床に飛び散る。
「てめえ!」
反射的に向けたリボルバーの前へ、無造作にかざされるアイリンの身体。
咄嗟に躊躇した──ピストルズの弾丸に死角はないいが、相手が悪すぎる。
キング・クリムゾンを相手に、拳銃がダメージを与えられた試しはない。
「ミスタ!」
「アイリンの顔ガ!」
「ヤラレタ…サッキノコンパクトダ…ッ!」
ディアボロの後ろ、割れたガラスに、アイリンの顔が映り込んでいる。
うつろに見開かれた目、生気のない唇、血の気の失せた頬を彩っているのは──
「あの化粧品…!!」
砕けたケースの側に、チークブラシが転がっている。
精神と肉体の全てをメイクでコントロールする女暗殺者の顔には、
顕かな死相が描き出されていた。

204燃えスレ第23試合:2009/05/14(木) 03:45:47 ID:zULZxNFI
「…ッ…は…」
あおざめたアイリンの唇が、酸素を求めてかすかに震える。
目前の拳銃使いを一顧だにしていなかったディアボロは、
瀕死の少女のかすかな動きに、過剰なまでに反応した。
頸を掴んだスタンドの腕を放し、能力を発動したのだ。
「…キング・クリムゾンッ…」
吹き飛んだ時間の中、一閃したアイリンの両手から、
10枚の爪が次々と発射される。予知のとおりに。
弾丸にも匹敵する威力の付け爪が、
牙にも似てディアボロの『居た』虚空を貫通し、壁を抉った。
「小娘が…!」
解除と同時、再び少女の体を捕え、細い手首を掴んで捻りあげる。
「こざかしい真似を!」
「アイリン! ディアボロ、ちくしょうてめえ!」
ほんの一瞬、わずか一瞬、自由になったその隙を逃さず、アイリンは大きく息を継ぐ。
次の瞬間、とがらせた口から何かが飛んだ。
「小細工を!」
スタンドの腕が上がり、つぶてを弾き飛ばした──それが何かに気づいて、
ディアボロの表情が歪む。
「…何?」
咄嗟に弾き飛ばしたもの、それは鮮血に塗れた一本の歯だった。
ガードのための動きで予知が途切れ、視線を戻した瞬間、ディアボロは絶句する。
「な…!?」
予知したものに、予知したがゆえの驚愕に、とっさに反応がぶれた。
そのわずかな隙を、アイリンは見逃さなかった。
掴まれた手首が異常な形に曲がる、外した手首を振り子のように、限界まで体を捻り身を寄せた。
唇が触れる。
「…ッッ…!!!」
美貌のアサッシーナは、色のない唇で微笑んだ。
「…わたし…、…残酷ですわよ」
音もなく、アイリンの体が吹き飛ぶ。
戦闘スタンドのパワーでしたたかに叩きつけられ、
少女の体はマネキンのように床を跳ね転がった。
「アイリン!!!」
ミスタが駆け寄る。
立ち尽くしたまま、ディアボロがよろめいた。

205燃えスレ第23試合:2009/05/14(木) 03:48:21 ID:zULZxNFI
舌を焼く苦さに、女暗殺者の意図を悟る。
視界がかすみ、足下が揺らぐ──まんまとしてやられた!
吹き飛ばした歯は、畢竟猫だましに過ぎない。
死力を振り絞り、アイリンが仕掛けたのは死のくちづけだった。
歯の中に仕込んでいたのだろう。口に含んで無事に済む劇薬ではない。
みずからの命と引き替えの、恐らく最後の彼女の武器。
──これだからシシリアンは──!!!
全身の力が抜ける。スタンドを支えるエネルギーが、急激に失われつつあった。


「…ミス…タ、…げて」
「アイリン! しっかりしろ!」
「…と、…秒…、…げきれば…、…て…る」
「アイリン!!!」
目から光が失せる。瞳孔が開き、細い首が、がくりと仰け反った。
「…!!!」
激情に唇がわななく。
白い貌を死の色に染め、ミスタの腕の中、戦乙女は既に事切れていた。

「野郎…!!!」
怒りに燃えて立ち上がる。
向けた視線の先、ふらつきながらもかろうじて踏みとどまるディアボロがいる。
ミスタへ向けた目に、それまでなかった焦りの色があった。


──逃げて。あと──秒、逃げきれば勝てる。
「わかってるさ。わかってるがな──!!」
俺のせいで。俺のために。
自責の念、だが自棄ではなく、怒りと闘争心がミスタを駆り立てていた。
残り何秒か? そんなのはどうでもいい。
「女のあんたにここまでさせて、時間切れまで逃げ回るなんて真似、
 男の俺にはできねえんだよ!」
弾丸を込める──拳銃を構える。
「だが活用させてもらう、あんたが作ったこの『状況』は!」
引き金に指をかける──
「覚悟とは!暗闇の荒野に進むべき道を切り開く事だッ!
 ──飛ばせるもんなら飛ばしてみやがれディアボロ、
 てめえの死へのカウントダウンをな!」

206燃えスレ第23試合:2009/05/14(木) 03:49:34 ID:zULZxNFI
「行け、ピストルズ!!」
発射される弾丸。一発、二発、三発、四発──
「キング・クリムゾン!」
薄れゆく意識を集中し、能力を発動した。発動するしかなかった。
視界が歪む──あと何秒保つ?
スローモーションで、弾丸がキング・クリムゾンの領域を抜ける。
──いや、違う!
予知映像でなく、実際にゆっくり、銃弾は宙を舞っている──
飛ばされた時間の中、ミスタが続けて弾丸を発射する。
五発、六発──一発に一体、六人のピストルズ。
──元より全弾撃ち尽くすつもりで──!
ピストルズのコントロール限界ぎりぎりの遅さで、弾丸が宙を駆ける。
どこにも着弾することなく──全弾ばらばらに。
能力を解除した瞬間、全ての弾が襲い来る。
叩き落とせるのは、せいぜい一発か二発──続けて時を飛ばす余力はもうない。
飛ばせば飛ばすほどこちらが不利になる──ならば、取るべき手段は一つ──

207燃えスレ第23試合:2009/05/14(木) 03:51:28 ID:zULZxNFI
ピストルズの跳弾に死角はない──弾丸は六発。だが、本体は一つ。
「…時よ再始動しろッ…!」
解除と同時、一斉にピストルズが突っ込んでくる。
2発叩き落とした──振り抜いた右腕を、そのままミスタの胴体へ叩き込んだ。
「ぐ…ッ…!!」
続けて、残るピストルズが来る──頭部を狙った一発を、左腕で止めた。
心臓を狙った一発は、ミスタの体を盾とし止めた──
本体の意識が落ちかかっていなければ、とうていできる真似ではなかった。
五発目が腹を焼く。六発目──最後の一発は?
ピストルズのわめき声が、もう聞こえない──本体の意識が落ちたのか、
それとも──?──まだだ、キング・クリムゾン──持ち堪えろ、あと少し──あと少し──
足の力が抜ける。気が遠くなる──もうスタンドを支える気力はなかった。
ミスタの体が落下するのを、振動だけで感じ取る。
膝から床に崩れた──薄れゆく視界に、何かを見た──壁の時計だった。
まだ動いているその文字盤を最後にみとめ、ディアボロの顔にかすかな笑みが浮かんだ。


大した覚悟だ──グイード・ミスタ。
だが、お前の不死身属性を支えていたものは──最後に命運を分けたのは。
「…お前の…『黄金』は…今ここには…存在しなかっ…た、…な…」
死を賭してまでも、勝負に出たその覚悟は賞賛に値する。だが。
「…死…を覚悟…して…、…なら…」
命を代償に勝ちを奪る覚悟なら。誰にも引けは取らない。他の何者にも。
「栄…光は、…」


虚無が、ディアボロの意識を呑んだ。

208燃えスレ第23試合:2009/05/14(木) 03:56:20 ID:zULZxNFI

「以上を持ちまして、第23試合を終了いたします。
 全員死亡により、結果は判定に持ち越され…あ、今MBのリプレイ結果が出ました。
 では発表いたします、全員の死亡時刻は…

 プロシュート      ── 4:28
 ディアボロ       ── 4:48
 グイード・ミスタ   ── 4:44
 アイリン・ラポーナ ── 4:37

 何と4秒、わずか4秒の差で、ギャングチームの勝利が決定いたしました! 
 それでは以上を持ちまして、実況中継を終了いたします。
 御観覧ありがとうございました。



 ブチャラティさん、フィールドに入らないでくださいって何回言ったらわかるんですか!
 まだトラップが残ってるから危ないんですってば!…走れジッパーじゃありません!
 ちょっと、聞いてるんですか!? 」
「アバッキオ! 実況席のドアを蹴るのはやめて下さい!
 いまスタッフが向かってますから!…なんで僕のせいなんですか、
 判定したのはあなたのMBなんですからね!」
『トリッシュ、なあトリッシュ、泣くなってば…』
「頼むよ仗助くん…一回だけ実況代わってよ、ボクもう休みたいよ…
 気詰まりなら解説、露伴先生に引き受けてみるよう頼んでみるからさ」
『…あ、俺、フィールドの補修あるんだった。わりーわりー康一。じゃっ!』
「もしもし?もしもし仗助くん!?」
「…康一くん」
「え、何?」
「うちのチームメンバーと場外乱闘犯、
 全員まとめて正座させて説教できる人、誰かいないかな…」
「…ボクの目の前に一人いるような気がするけど」

209燃えスレ第23試合:2009/05/14(木) 03:57:28 ID:zULZxNFI


「兄貴ーっ」
弟分の呼ぶ声に、プロシュートは振り向いた。大きく手を振り、ペッシが駆け寄ってくる。
「どうしたペッシ、お前一人か。…他の連中はどうした」
「えーとそれが、試合中にギアッチョがキレてフィールドに乱入しかけて、
 尻馬に乗って騒いだメローネと、
 止めようとしたホルマジオとイルーゾォが黴くらって撃沈して、
 黴使いはギアッチョが仕留めたんだけど、その後時止めでやられて、
 そこでちょうど駆けつけたリーダーが」
「結論だけ言え」
「全員リタイアで医務室連行」
「…お前、よく無事だったな」
「あ、オレは、絶対兄貴が勝つと思ってたから…
 リーダーと一緒にポップコーン買いに行ってて、
 リーダーがアナウンスですっ飛んでっちゃった後は…」
「一人で全員分のポップコーン抱えて立ち往生してたんだな?」
「うん」
空を振り仰ぎ、プロシュートは嘆息した。
──ありえねえ。

210燃えスレ第23試合:2009/05/14(木) 03:59:07 ID:zULZxNFI

『お前の挺身の交換条件は──そうだな、私の生命でどうだ』

味方死亡の場合、勝利の必須条件は敵の全滅。
存在自体が死亡フラグと呼ばれるディアボロが勝ちを取るには、
全員死亡前提で時間差を狙うしかない。
──理屈はわかる、理屈は。
「やらねェだろ、普通…」
死に慣れている男ならではの発想だ。
普通思いつかない。自分の死亡フラグで、敵の勝ちフラグ全部薙ぎ倒すなんて力技は。
そのチャンスを狙って、延々一晩中、敵を──味方もだ──引っ張りまわすなんて気の長い真似は。
どっと脱力を覚え、プロシュートは嘆息した。

「え?なんか言いました兄貴?」
刹那、視界の端を、ちらとかすめたものがあった。
振り向いたプロシュートの視線の先、アイスクリーム・スタンドの前に、見覚えのある後ろ姿。
「ストロベリーとペパーミントと、それからえーと…ちょっと待って、
 …もしもしボス、何味にします?…」
返答は、風に流されて聞こえなかった。
「兄貴?」
「…ペッシ、コーラ飲むか?」」
「え?…あ、はい、…でもこの辺にゃありませんぜ、ジューススタンド」
「医務室の近くにあったはずだ。…行くぞ」
「あ、えと、でもポップコーンが…うわ、待って下さいよ兄貴ィ」
さっさと歩き出すプロシュートを、慌ててペッシが追う。


──なべて世は全て事もなし。
背を向けたバトルフィールドに、気にかかる事はもう、何もなかった。

211燃えスレ第23試合:2009/05/14(木) 03:59:54 ID:zULZxNFI
 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |               
 | |                | |          ∧_∧  今日のディアボロ
 | |                | |     ピッ  (・∀・ )  徹夜が祟り過労死
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||  |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

212一巡後名無しさん:2009/05/14(木) 04:44:42 ID:zULZxNFI
 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |               どうせ徹夜なら4:44投完了すればよかった
 | |                | |          ∧_∧  完全にランナーズ・ハイ!ってやつだった
 | |                | |         ( ・∀・)  意地になって44分まで待った
 | |                | |       _  (    )  __ 今は反省していない
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||  |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

213一巡後名無しさん:2009/05/14(木) 08:06:33 ID:rbEFbGY2
ブラボー…おおブラボー!
なんだこのGJどころの騒ぎじゃない神小説…
言い表せないほどディモールト燃えて萌えた!

一人残らず格好よかった!
この静まらないニヤニヤどうにかして!

214一巡後名無しさん:2009/05/14(木) 08:27:57 ID:U6jN8f/w
GJ!

なんというカッコイイ兄貴とボスなんだ・・・
最後の最後でドキドキして、萌えでは燃えさせていただきました

215一巡後名無しさん:2009/05/14(木) 08:59:15 ID:T7iOmLJU
ふおおお最後まで格好良い!
こ、これ本当にタダで読んじゃっていいの?
どこに振り込めばいいんですかッ?

ボスと兄貴、遺恨のありまくるコンビとして理想のラストでした。
悪役好きの血が騒ぐよ…!
兄貴の使い捨てといい、要望が「関わるな」だしw 死亡フラグ操作とか流石すぎるwww
ひっさしぶりにボスを堪能しました。
このボス原作よりカコイイんじゃないかとか思うレベル。ヘタレ度が低いからでしょうか
ほんと楽しかったです。
兄貴は潔いし観客席は可愛いし、アイリンの名台詞も壮絶でキュンとした!
思えば参加者全員やくざもん、その殺伐っぷりに痺れました。
良いもの読ませてくれてありがとうございます。

216一巡後名無しさん:2009/05/14(木) 11:46:20 ID:xTuKJ/uI
超GJ…!!原作タッチで場面ひとつひとつが見えました!
こんなかっこいいディアボロ初めて見たよ

まさかの全滅ラストで死んだ人は誰が生き返らせるんだろうと不安に思ったけどみんな無事でよかったw
場外乱闘組も萌えでしたー

217燃えスレ第23試合:2009/05/14(木) 20:13:53 ID:zULZxNFI
>208
 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |               
 | |                | |          ∧_∧  うん、何かやらかすとは思ってた
 | |                | |         (・∀・ ;;)  
 | |                | |       _  (    )  __ 
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||  |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
(正)
 プロシュート      ── 4:40:44
 ディアボロ       ── 4:44:48
 グイード・ミスタ   ── 4:44:44
 アイリン・ラポーナ ── 4:44:28

結論:徹夜イクナイ

218一巡後名無しさん:2009/05/16(土) 15:36:59 ID:ggqtyrug
わかったぞ、うp主のスタンドは「ボスをかっこよくする能力」だッ!
萌えるやら燃えるやら、ディ・モールト・GJです。まだニヤニヤが止まりません。
そしてドッピオにアイス買ってあげるボスに萌えました。
改めて、素晴らしい大作乙でした!

219一巡後名無しさん:2009/05/16(土) 19:19:50 ID:kBPDdKu6
GJ!!ズタボロ兄貴とかっこいいボスに燃えに萌えた!
しかしミスタの死亡時間ww

220gthmVSプッチさん家:2009/05/28(木) 06:01:58 ID:ehUgsO4s
 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | |> PLAY.       | |               
 | |                | |           ∧_∧  口上行き詰ったから神父フルボッコにして遊ぶ
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )   
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

221gthmVSプッチさん家:2009/05/28(木) 06:02:36 ID:ehUgsO4s
湿原、泉と陸の境の判らない足元。立つ二人の周囲を特大の旋風が壁となり覆う。
視線を逸らせば見慣れぬ木々がうっそうと生い茂り視界を遮る。
一箇所ではなく斑に、しかしあわせればこの広いフィールドの半分は背の高い植物に覆われている。
配られた簡単な地図を眺めながら、ウェザー・リポートはめまいのような物を感じ眉間を押さえた。
ここより北と西にはもう壁しかない。追い込まれている……気づかないうちに。
「空気が美味しいと思わないか?緑はいいものだ」
無尽蔵の水。樹木は標的を狙う雷を幾度となく阻み、濡れた足元はこちらの身まで危険に晒した。
「物品の持ち込みも殆ど制限が無い。ランチでも持って来れば良かったよ。
…なんと公平なんだろうな、この試合は?」
傍らの男―――何故記憶DISKを『抜いてくれないのか』、そればかり考えている。
自分に奴の顔が、名前が、わからなければ。記憶をなくしていたあの時間を懐かしくすら思う―――は
正に実の弟にするように、朗らかな笑顔でこちらに語りかける。
「……ドメニコ」
薄ら寒い。吐き気もする。何故この男と共に戦わなければいけないのか。
世界が何巡しようとも、決して背中を預ける気にならないこの狂人と!

「ウェザー・リポート?それともウェスと呼んだ方が?君には期待している。奴らを見つけ、仕留めるのは君に任せたい。
『汚れるから』…ここは泥が跳ねるし」

話す姿を見るだけで臓物はぐらぐらと煮立ち、周囲の泥水が勢いを増した竜巻に乗って空へ上る。
毒蛙でもいれば試合はもっと早く終わった。尚強い風を。男の声を掻き消すほどの。

「背徳者が何処にコソコソ隠れるのか、お前なら心当たりもあるだろう?ウェス。さっさと消して、終わらせたい」
「……気が合うな、兄貴」
「返事を許した覚えは無いぞッ、耳が腐る!何時までわたしの横に突っ立っているつもりだッ!?」

旋風が薙ぎきれなかった銃弾がひとつ、ホワイト・スネイクに弾かれウェザーの足元を抉った。
泥が大きく跳ね、狂気に瞳を爛々と光らす神父の頬を汚す。
使えぬ駒ならば消すつもりだ。『仲間割れをするな』等、鼻から耳に入れるような相手ではないのだ。
風は更に更に勢いを増し、降り注ぐ銃弾を阻む。

222gthmVSプッチさん家:2009/05/28(木) 06:03:14 ID:ehUgsO4s
正面、絶えず二方向から移動しつつ放たれる短機関銃。
突風が、ホワイト・スネイクが、幾度樹木を薙ぎ倒そうと怯むことなく、1呼吸と間を置かず放たれ続ける。
やくざ者どもは当面、こちらとスタンドで戦うつもりは無いようだ。
たった二人の人間を殺すには余りに過ぎる武器を扱う。(奴らにはそう珍しくも無いのかも知れないが)
木々の合間から豪雨より激しい弾幕が襲った。風を起こせば鋲や剃刀が舞い上がった。雷を落とせば爆音と共に周囲の木々が燃え上がった。
2体のパワー型スタンドの前では、決して大きな危険ではなかったが…少しずつの後退が重なり、気付けば袋の鼠だ。

「…大人しく蜂の巣にされると思うのかッ」
何度目だろう、神父のスタンドが風の防壁から躍り出て、銃撃の主を定めぬまま拳を振るう。
当たりはしない…だが、巻き添えを食らった大木が倒れる轟音…重い金属音、掃射が止まった!
「ティッツァ?!」
―――遂にッ
身を守る暴風が方向を変える。防がれなくなった弾丸が2発、ウェザーの肩を浅く抉った。
突風は正面の木々の枝を撓らせ、差し込む光に見えた、倒れた大木の方に余所見をする短髪の男……
「ホワイト・スネイクが近いッ!プッチ!」
白蛇が殴りかかる―――この距離だ、一人仕留めたッ―――拳は

…しかし男の腹を強く打つだけに留まる。

「ぐ、が……ッ」
「どういう事だ、仕留めろ!プ……」

振り向けば、背後に男は居らず。

「奴の、スタンド……本体が遠く離れれば、一発でくたばるほどの威力は無い」
「……?!」
「仲良しこよし、二人で行動するのはお前らだけだったって事さ」

ウェザー・リポートの背後に転がるのは歯形の付いた短機関銃。
一瞬の後に、泥濘の中目を光らせる鮫のスタンドが現れる…

「…ッ、ウェザーッ!リポォートォッ!」

白蛇はもう一度だけスクアーロの顔面を殴り、主の元へと消えた。

223gthmVSプッチさん家:2009/05/28(木) 06:03:51 ID:ehUgsO4s
尻餅をつくように投げ出された上半身に、たたみ掛けられた攻撃をすんでで避ける。
「ふふ、ようこそいらっしゃいました。」
「………!」
やられた。隙を突いたと思えば、怯んだのは演技。スタンドで己の身を守れない状況…つまり隙が生まれたのはこちらの方だった。
突如現れた、1m程もある鮫が足元から跳ねて首筋に噛み付いた。
噛み千切られなかったのは幸運だが…何処まで運ばれたのだろう?傷を撫ぜながら考える。
周囲は樹木で囲まれ、水は足元の泥濘のみ。鮫の脅威こそ少ないが、しかし眼前には……
「スクアーロは良くやっているようですね!」
先ほど一瞬捉えた男とよく似た衣服。黒い皮の手袋に握りこまれた、刀身の長い銀のナイフ。
待ち構えた長髪の男がそれを振るった。再び間一髪避けるが…自分のスタンドは何時ここへたどり着くだろう?
法衣の襟にざっくりと切れ目が入る。
咄嗟に十字架のチェーンで続くナイフを受けるが、腕には一つまた一つと傷が増えてゆく。
「ナイフでありがたい…『君たち』に直接触れるよりは余程」
「念仏を唱えていられるのも今の内だッ」
心臓を狙ったナイフをチェーンで止める―――遠い、スタンドは未だ着かない。あと少し―――チェーンが、切られるッ
神父はそれより早く、十字架を捨てた。軌道を逸らしたナイフは致死の傷は作らない。あいた手で懐から取り出す…

パンッ

(糞ッ)
「……悪い神父様ですね」
法衣に忍ばせた拳銃は、ティッツァーノの銀髪を数本散らすに留まった。
「持込みが可能なら…と思ってなのでしょうが。慣れない物を扱うのはよくありませんよ」
右手では神父の左胸を穿ちながら。左手では突然取り出された拳銃の銃口を流れるような動作で逸らしていた。
追い込まれれば取り出す事を判っていたように。…否、判っていたのかもしれない。銃をしまうようには出来ていない法衣、そのシルエットを見たときから。
一周り以上も年上だろう銃を構えた男に向かい、ティッツァーノは子供の悪戯を嗜めるような微笑だ。
「『それ』に怯んでギャングが務まると?」
ティッツァーノの左手は細腕に似合わぬ力で拳銃ごと神父の右手をぎりぎりと握り締める。
銃口が上がらない。ナイフを持つ手は首元に伸び、喉を撫で、抵抗する神父の口元をなぞった。
「神父様。貴方がスタンドも…十字架すら捨ててしまっては。……悪魔の使いに勝てる道理も無いのです」
嫌悪に顔を顰め身動ぎするのを、『悪魔の使い』は舌なめずりしながら見下ろす。
「……捨てるのは、貴様の方だな」
「!」
「―――ホワイト・スネイクッ」
ティッツァーノの背後から、無数のDISKが飛ぶ。
命令も何も無い、投擲武器としてのDISK……一瞬ギャングの意識を逸らす為だけの。
間に合ったッ!白蛇の指先が、二人の眼前へと伸びる―――

224gthmVSプッチさん家:2009/05/28(木) 06:04:23 ID:ehUgsO4s
視界に入れて直ぐ、目に付く火器は片端から湿らせ敵の攻撃手段を減らしにかかる。
しかしスクアーロは最早、先ほどまでの主戦力が無力化されることなどなんとも思わない風に
切った口元の血を拭うと、挑発的にこちらを睨み付けた。

鮫は大きく水しぶきを立て、伸縮を繰り返しながらウェザーの周囲を飛び交う。
大振りなパンチは虚しく空を切り、雲のスーツは少しずつ少しずつ食い千切られて行く。
しかし先に銃弾すら阻んでいた暴風は周囲のあらゆる物を巻き上げ、
枝葉が、銃弾が、勢いよくスクアーロの身体に叩きつけられ体力を削っていった。
「……ッ!」
同時に牙の嵐もまた、ウェザーの鎧を削ってゆく。
1m長に膨れ上がった鮫が、ウェザーの腿の肉ごとその最後の一片を引き剥がした。

焦る。
クラッシュは消耗戦に『有利ではない』。
戦力分断したとは言えど、トーキング・ヘッドはホワイト・スネイクに『敵わない』。
例え自分が二度とスーツを作れない程疲弊したとしても、その頃には相手も唯ではいられないだろう。
そう、思っていた。
しかし相手のペースで進むのはヤバいと直感する。何か、『只ならぬ事が起こっている』筈だ。
敵方がスタンドでの攻撃手段を捨ててまで、自分一人を始末する理由を探す。
(楽観しすぎたのか?)
(……まさか、プッチはもう死んだのか?戦力分断などではなく)
(先程の一撃で既に。可能性は無い訳じゃあない。運ばれた先で何か…)

先程まで焦燥や憎しみに滾っていたウェザー・リポートの
…ウェス・ブルーマリンの血が、すっと冷える。

足を狙うのは、俺に移動をさせない為か。
何としてでもここで仕留めるつもりなのか。

「ウェザー・リポートッ!周囲の川の波を操れ!周囲に豪雨をッ!!」
「ッ?!」
河川氾濫。更にスコールと共に、巻き上げていた大量の泥水が降り注ぐ。
周囲の樹木ごと飲み込む水の中で、クラッシュは大きく、大きく―――起こった波でウェザーの身体は吹っ飛ばされた。
同じように、スクアーロもまたその場には留まれない…

例えば広い広い海の中で、巨大鮫は周囲の水流と同じ速さで移動する小魚を食えるだろうか?

答えはNOだ。小さすぎる的は目で追えず、牙では噛めず―――この場合更に、操るスクアーロはクラッシュが邪魔で直ぐにはウェザーを探せない。
敵の戦力を跳ね上げる代償を払い、ウェザーは一回の逃亡を選んだ。
クラッシュの本体が落ち着きを取り戻した時、水分の激増したフィールドは危険なんていうモノではないだろうが……

奴は憎んでも憎み足りない。最愛の女性の仇であり。
掛け替えの無い仲間達の人生を蹂躙した男であり。
ウェスを、ウェザーを2度殺した張本人でもあるが……

(この試合は、ペルラが見ている。)

…彼女の兄なのだ。
彼女が時折笑いながら、話してくれた家族の話。
―――『お父さんやお母さんに言えない事も、お兄ちゃんになら言えるの。本当に仲がよくて、大好きなのよ』―――

(目の前で…見殺しにする訳には……)

この世で一番憎い相手を助ける為、敗走しながらウェスは思う。
何故この記憶を『抜いてくれないのか』と。

225gthmVSプッチさん家:2009/05/28(木) 06:04:57 ID:ehUgsO4s
湿地に生せる苔の上に、DISKが一枚転がる。
「…あ、ァ……」
「残念だったな……」
そのDISKを目で追うこともせず。神父は改めて拳銃を……

自分の頭蓋へ押し当てた。

「そう。色気を出すと、そのままブチ抜く事になります」
歌うように続ける。敵のスタンドが迫る中、態々嫌がらせの為だけに時間を使うと思うのか?

「私のスタンドはね、手元をほんの少し狂わせる…そんな事しか出来ないんです!」
例えば指差す方向を変えるだとか、ペンで書く文字を出鱈目にすると言うようなね。
銀の長髪を乱暴にかきあげ、笑う。拾い上げたDISKをフィールドのライトに翳し見ながら。

…DISKを抜く行為を『嘘』にした。

ティッツァーノとプッチの頭は極近い位置で、たった一瞬だった。何が起こったか判別する間も与えず…
プッチのスタンドは己を物言わぬDISKに変えた。

「認めましょう。脆弱で、時と場合により何の役にも立たないようなスタンドだ。
スクアーロのクラッシュも、あの子が少しでも士気を落とせば宛らまな板の上の鯉…
見て下さい、これならどうだ、こうしたらどうだと沢山ハンディキャップを設けて頂きました。」
神父の喉にナイフを突きつける。
暴風に森中が軋んでいる…後はウェザー・リポートさえ死ねば、私達の勝利。
「『勝つ筈が無い』……ァ、が、この、わたしが……ッ」
「私達が、どんな気持ちで……この一瞬を待ったか」







「クラァァァ――――ッシュ!!!」
捕まえてもまだ遠い背中に向かって、叫ぶ。

障害物は全て濁流が飲み込む。雲のサーフボードで進むウェザー・リポートの背中には、彼の鮫が全て引きちぎらんと喰らいついている。
先程よりは随分小さくなってしまったが…左肩から右の脇腹まで、胴体丸ごと抉る牙を突き立てて。
スタンド・ウェザーリポートに幾度と無く振り落とれた。電撃で全身を焼かれた。その度にダメージを受けた。
決定力の無さも、打たれ弱さも、今は考えない。
一撃が軽ければ数を撃てばいい、傷を受けたって耐えればいい!
ナメきられた『俺達のスタンド』…絶対に仕留めてやるとティッツァに約束した。高慢な奴らの鼻を明かしてやると。

死ぬその瞬間までお互いの事を考えていた。その俺達の敵が、マトモに会話も出来やしないような即席チーム。
増やされるハンデがどれ程俺のプライドを傷つけたか。
それを笑顔で了承するティッツァが、どれ程心を痛めていたか。…絶対に思い知らせてやるッ!

この試合中、俺は唯の一度もティッツァと顔をあわせていない。
いつもの支持も激励も、今日は無い。それでも何時もよりずっと、力が沸いて来る。

遂に牙の一つを叩き折られ、クラッシュは体勢を崩した。
ウェザー・リポートは『濁流』を乗り捨てる。クラッシュの追跡を振り切るため、ここで水を止める気なのだ。
ここでクラッシュの攻撃力を下げる訳には行かない。大きいまま、サイズを保ったまま………

「喰らいつけェェ――――ッ、クラッシュ!」

鮫は跳ぶ。

226gthmVSプッチさん家:2009/05/28(木) 06:05:35 ID:ehUgsO4s
背中が軋み、意識は飛びそうだ。しかし遂に敵を二人共確認する。
兄は自分と同じく傷だらけで血塗れだが、しかし死んではいなかった。

(なら………いい。)

息の根を止めんと、最後の水場から鮫が口を開いて迫っている。
傍らに落ちている、何の変哲も無い石を一つ拾い上げた。
スタンド、ウェザー・リポートの、防御を全て捨てての全力の投擲はハリケーン程の暴風に後押しされ
銃など問題にならない威力と飛距離を持つ。
あの短髪の腹程度、容易くブチ抜くに違いない。

鮫は直ぐにでも俺を食い千切るだろう。
それより先に奴が死ねば、鮫が消えて俺はもう一人を倒せる。
それでこの最低な試合は終わるのだ。
早く、届け。鮫がもう、眼前に………、…………ッ

牙がウェザーの首を食い千切るより早く、石はスクアーロの腹を確かにブチ破った。
が、しかし鮫は消えなかった。
相変わらず眼前に迫って、何だかスローモーションに見える。

(………ああ)
(俺が死ぬまで死なないつもりなのか?その傷で)

スクアーロは未だ真っ直ぐに、此方を睨んでいる。

負けたな、と思ってしまった。
潔く散ろうと、目を瞑った。




「動くなァァァァ!」という絶叫が、背中から聞こえた。








静かに立ち上がったウェザーは、「続けるか?」と一言聞いた。
ティッツァーノは静かに首を振る。
そよ風は労わる様にスクアーロの亡骸を撫でる。
この瞬間に誰も、事の顛末を正しく理解できるものは居なかったが…

試合続行不可能。
だから、試合は終わった。


クラッシュは、結局ウェザーには届かなかった。
兄が盾となってその攻撃を引き受けたからだ。
阻むため抉られた首の切り傷。鮫には胴体の半分を持って行かれ
神父はフィールド上で、誰よりも深い驚愕の表情で事切れていた。

227おまけ:2009/05/28(木) 06:06:24 ID:ehUgsO4s
「あ、あのぉ〜ッ!」

『訳がわからねーッ!!』『何だあれ?!』『スクアーロ見直したぞォォーッ!』
観客席中からのブーイングに背中を押され、広瀬康一は選手控え室に叩き込まれた。
・・・別に観客席なんて無視出来たんだけど、隣のジョルノ君までジト目で僕を見るんだもの!
僕だって何が何だったのか、気にならない訳じゃないけど…空気悪い!帰りたいよ〜ッ!

「ごめんよティッツァ!俺が、俺がさっさと片付けないせいで……」
「違うんですスクアーロ、今回ばかりは本当、全て私の落ち度で…!」

gt・・・ギャングチームはお互い半べそで傷を舐めあい、
勝利チームのプッチさんはこの世の終わりのような顔で頭を抱えている。
ウェザーさんだけは…鼻歌を歌いながらテレビガイドを読んでいたけれど。

「皆さん納得いかないそうで、だから・・・その。何か起こったか聞きに来たんですけどォ〜」
「・・・・」
「どうせ俺はヘタレだァァ〜ッ」
「違うんですってば!ああ、もう!聞きたきゃ全部話してあげますとも!」

プッチ神父が幽鬼のような表情で此方を睨んだ。ティッツァーノさんも怯みもせずに睨み返す。

「私が判断を誤ったんですッ!『使い終わったスタンドを解除し忘れた』ッ!」
「違うッ!スタンドはもう解除されていた!わたしの…わたしの意思だ!」

怖ェ!

「うちの『悪魔』だってね、こんな腰抜けじゃあない…だからすっかり忘れていたんです。
この生臭坊主は小便漏らすようなクソガキにすら命乞いをする奴だった!」
「それ以上の侮辱は…唯じゃあおかないぞッ」
「私達はクラッシュとウェザー・リポートの丁度真後ろに居たんですッ
コイツ…それを『避けようとした』だけです!『トーキング・ヘッドのついたまま』!!
だから行動がちぐはぐになった!あれはスクアーロが弱いのでも、お涙頂戴でも全くない、
全てはこのラスボスモドキの臆病さと私の落ち度なんですッ」

ティッツァーノさんは相棒を慰めたいのと、ハンディつきで負けた苛立ちも手伝って捲くし立てる。
僕はもう、怖くってプッチ神父の方が見れない。

「・・・あんな事言ってますけど」
「………お、弟を……想わない兄は居ない。わたしの判断だ。スタンドは解けていた。
チームの…勝利と………ドメニコの事を考えて…庇ったんだよ。……ペルラも悲しむし」

………

「ウェザーさんはどう思うんですか」

ウェサーさんはテレビガイドから目を離しもせずに、
「…いい兄貴を持って、俺とペルラは幸せだ」
とありがたいコメントを下さいました。

228おわり:2009/05/28(木) 06:09:23 ID:ehUgsO4s
 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |               
 | |                | |          ∧_∧  ナンバリング忘れたァァァ
 | |                | |     ピッ  (・∀・;)
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||  |


ティッツァ大好きだよ
神父大好きだよ
スクは何故毎試合褐色美人を引き当てるの?

229一巡後名無しさん:2009/05/28(木) 14:50:45 ID:hWQfa7YQ
ウェザーの〆の台詞になごんだモフ

230一巡後名無しさん:2009/05/28(木) 23:00:00 ID:nIajkPbs
あ な た が 神 だ

燃えて萌えて腹抱えて笑ったッッ
別行動していてもgthmコンビの仲良しっぷりを感じるのは新手のスタンド攻撃だw
そんでティッツァと神父のやりとりがえろい!えろいよ!
貧乏くじが定番化しつつある康一くんにも受けた!
経過も描写もオチも文句なし!お見事!


にしても悪魔悪魔とティッツァおまwww当人にシメられるぞwww

231一巡後名無しさん:2009/05/30(土) 18:47:27 ID:VmyPoInM
神父www
観客席で見ていたペルラに
「お兄ちゃんはウェスの事が大嫌いなんだと思ってた…ごめんね本当は仲良かったんだね!」
とか言われて あげくに安堵のあまり泣かれて
胃をキリキリ痛ませる神父が見えたwww
プッチ家3兄妹、殺伐なのに和むわー
めずらしくスクもカコイイし、お腹一杯です GJでした!

232一巡後名無しさん:2009/05/30(土) 22:01:17 ID:nRNMhZn6
最後のウェザーとティッツァのやりとり、ナチュラルにピエタ構図で再生された
死んだスクアーロを膝に抱いたティッツァ

にしてもティッツァの口の悪さパねえw
フィールド内外にどんだけ流れ弾飛んでんだ

233一巡後名無しさん:2009/05/31(日) 22:56:16 ID:HbwsarEI
GJだとか双子に萌えたとかそんなことは二の次だ
ティッツァのサディスト顔負けの罵詈雑言が最高に良かったです閣下!
このティッツァならスクアーロどころかボスも配下に置けるに違いない

234一巡後名無しさん:2009/06/01(月) 09:47:57 ID:.4DUTRE6
>>232を読んで初めて、「スクアーロを膝に抱いて」的な描写がないことに気がついた
自分もナチュラルにピエタ構図で再生されたよ…ギャングチームパネェ
バトル描写も燃えるし、ティッツァと神父のやりとりがえろくてはぁはぁしました!超GJ!!

235一巡後名無しさん:2009/06/02(火) 20:32:07 ID:/LtYdQGQ
熱くて笑えて和めるSSだった!GJ!
しかし4人が4人とも魅力的すぎるw
ティッツァの漢気とスクアーロの剛気、ウェザーの善人思考と神父の卑怯者思考に萌え上がらせてもらったよ
これからしばらくは弟想いの兄を演じなきゃだな神父w

236一巡後名無しさん:2009/06/03(水) 02:02:45 ID:YmgXisYk
>>232>>234で「え?」と思って読み返して初めて気付いた。
自分もナチュラルにピエタ構図だと思ってた…しかし絵になるなこの二人。
エロ描写は全く無いのにそこはかとないエロさが漂うバトルでした!神を愛するように>>220を愛しています!
改めて心からのGJを捧げつつ、口上の完成…待ってます…

237一巡後名無しさん:2009/06/08(月) 12:24:11 ID:kwaXjojg
試合SSってまとめか何かありますか?
どこかのスレで神が書いてるのか…?

238一巡後名無しさん:2009/06/08(月) 18:46:18 ID:h4egcX2M
どこかのスレも何も、ここが投下場所じゃないかw

239ゆっくり 0/10:2009/06/11(木) 05:49:47 ID:Loej9yVQ
 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | |> PLAY.       | |               
 | |                | |           ∧_∧  していってね!
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )   
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

240ゆっくり 1/10:2009/06/11(木) 05:50:27 ID:Loej9yVQ
「じょるの!ゆっくりおきてね!」

ぽよんぽよんと、巣穴の入り口近くで音がする。ゆっくりブチャラティ(以下ぶちゃらてぃ)が跳ねているのだ。
巣穴の主であるゆっくりジョルノは、この群れのボスだ。
ボスが寝ているうちに勝手に巣に入るのは失礼に当たる。礼儀を大切にするぶちゃらてぃは、
ゆっくりの中では珍しく、他人のお家に勝手に上がり込んだりはしないのだ。
・・・なので外で一生懸命跳ねて、少しでも音を立てようとしているものらしい。

(おお、ねむいねむい)

自分の安眠を妨げるものは誰なのかと、じょるのは不満そうな表情で入り口へ向き直る。
「・・・ぶちゃらてぃ。ゆっくりしていって下さいね!」
朝の挨拶だ。ゆっくり達はこんにちはもこんばんはも、いただきますもお休みなさいも
全部「ゆっくりしていってね!」なのだ。
「ゆっ!ゆっくりしていってね!」
ぶちゃらてぃも跳ねるのを止め、つられて挨拶をする。
「・・・ちがうよ!じょるの、ゆっくりできないんだよ!ゆっくり出てきてね!」
また忙しなく飛び上がり、そのまま大急ぎで跳ねて行ってしまう。
恐らく付いて来いと言う事なのだろうが、これでは殆どのゆっくりは何をすればいいか判らないだろう。
「ぶちゃらてぃ!ゆっくり・・・まって下さいね!」
この素敵なゆっくり日和の朝に、何とゆっくりしていない事か。
じょるのはこれで大切な用事でなかったら、後で少し怒ろうかな、とすら思った。

ぽよんぽよんぽよんと、2匹のゆっくりの跳ねる音が茂みを揺らしている。

241ゆっくり 2/10:2009/06/11(木) 05:51:07 ID:Loej9yVQ
「もうすぐじょるのがくるよ!ゆっくりまってね!」
「ゆ゛え゛え゛え゛えええん」
「いたい、いたいよー。わかってねー」

ゆっくりミスタが、ぼろぼろと泣くゆっくりフーゴとゆっくりナランチャをあやしていた。
ふーごとならんちゃが喧嘩するのは珍しくないのだが、今回はちょっぴり良くないことが起きたのだ。
「・・・ぶちゃらてぃのあしおとがするぜ。」
そわそわと3匹を気にしていたゆっくりアバッキオが、一番早くにぶちゃらてぃの足音を聞きつけた。
「いたいよー」
「ハァ・・・ハァ・・・ゆ、ゆっくりでごめんね!」
ぶちゃらてぃが器用に障害物を切り開いて、最短ルートでじょるのを連れて来てくれたのだ。
じょるのが眠い目を精一杯開いて見た景色は、無残に周りの植物が枯れ果てた、ふーごの巣だった。

ラッキーだったのは今が太陽のある時間帯だと言う事と、
遠くで現場を目撃したのがみすたで、6人のゆっくりした小人さんを使って、直ぐに近くのゆっくり達に事件を伝えられた事だ。

今からたった30分も前、ならんちゃは自慢の『えあろなんとか』に乗って、お空をスィーしていた。
とっても気持ちのいい朝だったので、散歩ついでに自分たちの群れの縄張りを見回っていたのだ。
「!」
そうしたらなんと、遠くから人間が歩いてくるのが見えるではないか。
ならんちゃは考える。自分たちの縄張りはとてもいいゆっくりぷれいすで、天敵である野生の動物が殆ど近寄らない。
人間と動物の違いはならんちゃには良くわからなかったが、追い払った方が良いような気だけはした。
「ならんちゃはさいきょーだからできるねー。わかる、わかるよー」
でも、自分だけの判断だと、また失敗して怒られるかも知れない。
ならんちゃはまた少しだけ考えて、群れで一番賢いゆっくりふーごに意見を聞きに行く事にした。

・・・しかしならんちゃは特に賢くないゆっくりなので、
ふーごに会いに行くのにちょっとだけ方法を間違えた。

『えあろなんとか』でそのまま巣に突っ込んだのだ。

242ゆっくり 3/10:2009/06/11(木) 05:51:46 ID:Loej9yVQ
「ゆ゛ぎゃっ!?」
『えあろなんとか』のプロペラがブッ刺さる寸前まで、ゆっくりと眠っていたふーごは
何が起きたか良くわからないまま激痛で目を覚ました。

ぼふん。

驚きと痛みから身の危険を感じて、毒ガスを噴出してしまう。
「ゆゆっ!やめてねやめてね!」
ならんちゃは大急ぎで逃げようとしたが、直ぐに毒ガスに捕まってしまった。
周りの植物が見る見る枯れていく。
人間なら1〜2時間痒い程度のふーごの毒ガスも、植物や身体の小さいゆっくりにとっては猛毒だ。
「い、いたいよー」
「ならんちゃ!?」
全身がびりびり痛くなって、弱って死んでしまうのだ。
降って来たのが仲のいいならんちゃと気付いて、ふーごは急いで毒ガスを止めたが、
ならんちゃはその時にはもう痛い痛いと泣いていた。
「だ・・・だれかたすけて下さいね!」
ふーごは他のゆっくりを探して一生懸命這って動いた。
けれど傷口が開いてクリームが漏れ、泣く泣く諦めざるをえなかった。
沢山動く元気も出ないし、これ以上中身が出てしまうと自分も死んでしまう。
「ふーご、いたい、いたいよー」
「ゆ゛っ、ゆ゛え゛えええええん」
ふーごも遂に泣いてしまう。自分のせいでならんちゃが死んでしまったら、全然ゆっくり出来ない!
想像してみたらとっても悲しかったのだ。

243ゆっくり 4/10:2009/06/11(木) 05:52:24 ID:Loej9yVQ
「すーり、すーり」
「ゆっくりなおっているねー、わかるよー」
じょるのはならんちゃの身体にほっぺを擦り合わせる。
ゆっくりの間でのグルーミングのようなすりすりは、じょるのの場合治癒効果があるからだ。
「ぐずっ、な、ならんちゃあああ」
「ふーごはゆっくりしていて下さいね!」
本当はふーごの方が急いで治してやらなければいけないのだが、
ふーごがならんちゃを先に治せと煩いのだ。
「ふーご!うごいちゃだめだよ!ゆっくりまってね!」
横でみすた達もはらはらしている。ふーごが少し身体を動かすだけで、どんどんクリームが漏れているからだ。

ふーごは賢くて、普段は性格もとてもゆっくりしたゆっくりだが、
時々出す毒ガスが危ないのであまり群れには存在しない。

「ならんちゃ!ならんちゃ!」
「ふーご、なおったよー」
「ごめんなさいねっ!も、もうしないからゆるして下さいね!!」
「わかってるよー。だからふーごもゆっくりなおってねー」
ふーごはならんちゃが死んでしまったら、群れを出て行こうと思っていた。
自分を治してくれているじょるのの反対側から、ならんちゃもすりすりをしている。
傷が引っ張られて少し痛かったが、ふーごは安心した気持ちで沢山泣いてしまった。

ゆっくりを死に至らしめ、餌の植物まで枯らしてしまうふーごは
たいがいが追い出されるか、その前に自分から群れを離れてしまうのだ。
臆病なふーごは一人ではゆっくり出来ず、長生きも出来ない。
だが、群れに優れたじょるのが居る場合は、追い出される事も出て行くことも無い。
毒ガスは治せるし、じょるのの縄張りでは植物も直ぐ生えてくる。

大きな群れで、沢山のゆっくりに囲まれているこのふーごはとても幸せなふーごだ。

「じょるの!きみにけいいをひょうする!」
「わかる。わかるよー」
「いいからじっとしていて下さいね!!」

でも寝起きのじょるのはとっても機嫌が悪かった。

244ゆっくり 5/10:2009/06/11(木) 05:53:07 ID:Loej9yVQ
「ゆっ!じょるのー」
巣穴に戻って寝直そうとするじょるのの三つ編みを、やっと動けるようになったならんちゃが捕まえた。
「にんげんがこっちに来ていたよー!」
「ゆっ?」
「みたんだよー。ふーごにおしえに来たらじょるのもいたよー、ラッキーだねー。わかるよー」
「ゆゆゆっ!?」
ならんちゃはえっへん!とばかりにどや顔だ。
「この・・・ドていのうが!!」
後ろでふーごが暴れそうになったのを、傷が開いてはいけないのであばっきおが慌てて押さえつけた。
何時の話かはわからないが、もうだいぶ長い時間ここでゆっくりしている。
もう人間には巣を見つけられてしまっただろう。
「たいへんなことですよ!ゆっくりいわないで下さいね!」
「ゆ?」
じょるのも顔を真っ赤にしてぽんぽん跳ねる。
ならんちゃは悪くないので強く怒りはしなかったが、じょるのは中身のカスタードが飛び出る程悔しかった。
自分たちのゆっくりぷれいすが遂に!人間に見つかってしまったとは!
「じょるの、すぐにひっこしのじゅんびをしましょうね!みすたはみんなにしらせてね!」
ふーごが直ぐに頭を切り替えた。
「ゆゆ?みすたはここでゆっくりしたい!」
「・・・ひっこしはゆっくりできないぜ」
「ドていのうですね!にんげんはゆっくりたちを食べちゃうんですよ!ゆっくりひっこしましょうね!!」
「わるいにんげんはならんちゃがやっつけるよー」
じょるのも引越しが一番だと思っていた。群れの仲間がその人間に苛められたり、食べられたりするのも勿論嫌だが
何より危険なのは、人間は自分たちより更に大きな群れで行動している事だ。
たとえ今回の人間がゆっくりした人間でも、他の人間はどうだかわからない。
縄張りの近くが人間の通り道ならまた見つかってしまうかも知れないし、仲間に教えてしまうかも知れない。
「らんぼうはやめて下さいね!ゆっくり、ゆっくりしましょうね!!」

245ゆっくり 6/10:2009/06/11(木) 05:53:58 ID:Loej9yVQ
ふーごは一生懸命みすた達を説得している。
ゆっくりから危害を加えるようなことがあれば、それこそあっという間に駆除されてしまうだろう。
少し賢いゆっくりや長く生きたゆっくりはそれを知っているのだ。
「ゆーん・・・じょるの・・・」
ぶちゃらてぃはしゅんとした顔でじょるのの顔を覗き込み、ぽそぽそと喋る。
「ひっこしはゆっくりできないよ・・・ならんちゃとふーごはもっとゆっくりしないといけないよ」
勿論ぶちゃらてぃも引っ越すべきだとは思っていた。しかし、今すぐではならんちゃ達を連れて行けない。
あばっきおもそう考えて、ふーごの案に反対していたのだ。
ふーごは2匹でここに残るつもりかも知れないし、無理してついて来る気なのかも知れない。
しかしどちらにしろ、あまり幸運な未来は想像出来なかった。
それに新しく、ここより快適なゆっくりぷれいすを見つけられる保証は無い。
折角ここまで纏まり大きくなった群れが、散り散りになってしまうかもわからない。
「・・・少しまって下さいね・・・」
普通の群れなら、たった2匹のゆっくりなど気にせず置いていくだろうが、自分達は違う。
どんなゆっくりでも(例えそれがあまりゆっくり出来ていないゆっくりでも)仲間はずれにしたりせずに
皆で生きていこうと決めた。・・・だからこそ、じょるのは若くして群れのボスになれたのだ。
群れのゆっくりを一匹残らずゆっくりさせる事こそ、ボスの仕事だとじょるのは考えていた。

「じょるのがお話をしてきます・・・みんなゆっくりしていて下さいね!!」
「ゆっ!?」
「ゆゆゆっ」
「じょるの!」

あるいは自分の『かりすま』なら、人間を説得できるかも知れないとじょるのは考えた。
ゆっくりできる人間なら、ここを秘密にしてもらえるように。
・・・そうでない人間なら、自分を食べるだけで満足してもらえるように。
後はぶちゃらてぃに任せれば、もしもの事があってもきっと、一匹でも多くのゆっくりを逃がしてくれるに違いない。
「あ・・・あいそよくしろよ!」
心配そうなぶちゃらてぃの声が、勇ましく跳ねるじょるのを見送った。

246ゆっくり 7/10:2009/06/11(木) 05:54:34 ID:Loej9yVQ
「・・・・・・・・・おお、ゆかいゆかい」


やっと見つけた人間は、ゆっくりディアボロの髪を持って乱暴に宙吊りにしていた。
「ゆぐぐ・・・でぃあぼろはていおうだよ!!ぶれいなまねはやめてね!!!」
じたばたと暴れるでぃあぼろはその度に髪の毛が引っ張られ、哀れっぽい悲鳴を上げた。
「じょ・・・じょるの!こっちを見ないでね!ゆっくりせずにどこかにきえてね!」
「おお、ぶざまぶざま」
人間そっちのけでつい本音が駄々漏れになってしまう。賢くてもしょせんはゆっくりなのだ。
「ゆ゛う゛う゛・・・なにかわからんがくらえっ!くらえっ!」
でぃあぼろは人間と、自分をせせら笑うじょるのに何とか痛い目を見せようとじたばた暴れる。
しかし自慢のピンク斑の髪がブチブチと千切れだし、すぐに諦めてしまった。
「お゛れ゛の゛ぞばに゛ぢがよ゛る゛な゛あ゛あ゛あああ・・・」
ゆ゛えーんと顔を真っ赤にして泣き出したのを見て、じょるのはようやく自分の立場を思い出した。

「ゆっ、にんげんのお兄さん!ゆっくりをいじめないで下さいね!」

挨拶もそこそこに本題を切り出す。ゆっくりを苛めるような人間なら、ゆっくりしていかれては困るからだ。
暫く2匹のゆっくりのやり取りを見守っていた人間は、少し驚いたようにじょるのを見た。
『・・・君の事は苛めませんよ』
「ゆゆっ!ありがとう!・・・あと、べつのにんげんもよばないで下さいね!」
『いいですよ』
「ゆっゆっ!とってもゆっくり出来るお兄さんですね!ゆっくりしていって下さいね!」
じょるのはとても安心した。後は人間を怒らせないように、穏便にお帰り願うだけだ。
「・・・ゆ?」
しかし、人間のお兄さんは何時までたってもディアボロを離そうとしない。
もしかしたら、上手く伝わっていなかったのかも知れない。じょるのは恐る恐るもう一度言う。
「ここはじょるのたちのゆっくりぷれいすですよ!ゆっくりをいじめないで下さいね!」
『だから、判ってますよ。君達は苛めません』
お兄さんは顔色を変えない。が、じょるのは困ってしまう。
「じゃあ・・・でぃあぼろをはなしてあげて下さいね!」
お兄さんがゆっくりした人間だとわかっても、やはり人間を怒らせたらと思うと恐ろしく
でぃあぼろなんかの為にお兄さんの機嫌を害するのは、とても気の進まない事だった。

247ゆっくり 8/10:2009/06/11(木) 05:55:34 ID:Loej9yVQ
しかし・・・
『これの事を言ってるんです?』
でぃあぼろも一応は、じょるのの群れのゆっくりで・・・やっぱり分け隔てなく守ってやるべきだとじょるのは思っていた。
「ゆ゛う゛う゛う゛う・・・も、もうっ!じょるのでい゛い゛がら゛たすけてねえ゛え゛ええ」
酷く失礼な悲鳴を上げている。それを聞いてじょるのは、やっぱり放っておけばよかったと少し思った。
『これは・・・まあ、ゆっくりですけど。君達の敵じゃないんですか?』
「なっ、なかまですよ!」
本当は他のゆっくりを見るなり隠れてしまって、友達もつがいも作ろうとしない困ったゆっくりなのだけれど。
『ゆっくりディアボロは、他のゆっくりに乱暴するって聞きました』
群れのボスだった頃から自分勝手なゆっくりだったし、ボスで無くなった今はじょるのに仕返しをしようと思っているようだけれど。
「じょるののむれのゆっくりだから、なかまですよっ!!」
それでも仲間はずれはよくないと思い、他のゆっくり達を説得してまで、じょるのはでぃあぼろを群れに置いていた。
・・・仲間はずれで一人ぼっちの寂しさは、小さいときに身に染みている。
でぃあぼろだって何時かはいいゆっくりになれるかも知れないのだ。僅かな可能性だが、見放して0になるよりきっといい。
「ゆ゛〜っ・・・じょるの・・・」
人間のお兄さんは申し訳なさそうな顔をして、でぃあぼろを足元に優しく置いた。
でぃあぼろはひっくひっくと泣きながら、じょるのの横を通って逃げようとする。
「ていおうはひとりでにげられたよ!かんしゃなんかしてないからね!ゆ・・・ゆっくりボスでもなんでもやってね!!」
「おお、ふかいふかい」
がさごそと草を分けて逃げてゆくでぃあぼろにお兄さんも少しイラッとしたようだった。
『すみません・・・僕、てっきり君達の敵だと思ったものだから・・・』
「だいじょうぶですよ!だからゆっくりしていって下さいね!」
人間のお兄さんはゆっくり出来ないどころか、じょるの達の群れを守ってくれようとしたものらしい。
なんてゆっくりした人間なんだろう!
それにお兄さんは、落ち着いて見れば外見もとてもゆっくりしている。
じょるの自慢のぴかぴかの金髪と、お兄さんの髪はまったく同じ色だったし
ボスの証の大きな『ころね』も、これまたそっくりに立派についていた。人間にしておくには勿体無いほどの素敵なお兄さんなのだ。

248ゆっくり 9/10:2009/06/11(木) 05:56:38 ID:Loej9yVQ
「お兄さんは、ゆっくりはすきです?」
『え、ええと・・・はい』
「ゆゆっ!むれのゆっくりをしょうかいします!みんなでゆっくりしましょうね!!」
じょるのはこの素敵なお兄さんと知り合いになれたのがとても嬉しかった。
そしてボスとして、一刻も早く群れのゆっくりにこの幸せを分けてやりたかったのだ。
『い、いやッ!僕は忙しいので・・・し、失礼しますッ』

お兄さんは突然踵を返し、あっという間に縄張りから出て行ってしまった。
人間の早足にさえ、ゆっくりでは追いつけない。

「ゆ〜っ・・・またきて下さいね!ゆっくりしていって下さいねーっ!」
じょるのはその場でぽんぽん跳ねて、人間のお兄さんに身体全体でさよならの挨拶をした。




             *       *


「僕によく似たゆっくりが群れをまとめようとしてるんで、見ていたんですよ。この前から」
「なんというか・・・親心だな」
「そうしたら黴饅頭が縄張りをうろつくんで、僕、つい退治してやろうと・・・」
「親バカだな」
「でもあのゆっくり、僕よりずっと大人なんです!もう自信なくなっちゃって!」
「・・・」
「僕、本当にギャングボスなんかやっていけるんでしょうか?!ねえミスタ?聞いてます?」

249ゆっくり 10/10:2009/06/11(木) 05:58:02 ID:Loej9yVQ
 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |               
 | |                | |          ∧_∧   ゆちゃらてぃ一匹下さい
 | |                | |     ピッ  (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||  |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

250一巡後名無しさん:2009/06/11(木) 08:34:57 ID:DmwK62uQ
朝っぱらからゆっくり投下していったね!
ゆっくりGJするよ!

251一巡後名無しさん:2009/06/11(木) 09:45:36 ID:TfuQ85JA
これは萌え転がらざるを得ない
ゆっくりがゲシュタルト崩壊するまで読み返した
素晴らしきかなゆっくりワールド

人間ジョルノが台詞一言でジョルノとわかるのがすごい
もしやあなたが口上神か
投下乙でした!

252一巡後名無しさん:2009/06/11(木) 18:27:41 ID:UsK/5nZU
和む…!実に和むぞ!
生態に詳しすぎてシートン動物記読んでるような気持ちになれたよwGJです

253一巡後名無しさん:2009/06/11(木) 19:35:26 ID:T3X0T66A
>>238
ああ、燃えスレでの内容を、一部抜粋して、ここでSSにしていたんだな。
やっと合点がいった。
イミフなこと書いてスマンかった。

254一巡後名無しさん:2009/06/11(木) 20:23:54 ID:hIT9CmpY
ゆっくりジョルノが人間?出来すぎててちょっと泣いた
本編のジョルノももうちょっとディアボロにやさしくても……
投下乙そしてGJでしたゆっくり可愛いよゆっくり

255一巡後名無しさん:2009/06/13(土) 19:19:46 ID:M6yH/cWg
ゆっくりの可愛さにくるいもだえた
みんなのほっぺをつつきまくりたい…


なんとなくアバッキオは体のあるゆっくりっぽいと思った

256一巡後名無しさん:2009/06/14(日) 23:57:44 ID:CAKoS8iE
ゆっくりの魅力にまさかこんなところで気づかされるとは・・・
ゆっくりの治療法が可愛すぎて死にそうになった
クリーム漏れるとか大惨事だねw

257一巡後名無しさん:2009/08/18(火) 23:21:16 ID:3kZtJh7Q
治療の所を人間@荒木絵で想像して切なくなった

258一巡後名無しさん:2009/08/18(火) 23:47:03 ID:iD/3GN1E
何故わざわざそんな試練に挑もうとするwww

259億泰くんちの家庭の事情:2009/09/08(火) 21:16:43 ID:v1Zyp5xc
本スレと行き過ぎ妄想スレをきっかけに
脳内で止まらなくなった妄想を投下
似た名前の漫画とは特に関係ないです

260億泰くんちの家庭の事情1/3:2009/09/08(火) 21:17:42 ID:v1Zyp5xc
ミキタカが拾ってきた妙な隕石。
そいつは、「カーズ」って名前の化け物だった。
判明してから、まあ色々と悶着はあったわけだけど。
そいつは宇宙に放り出されてから、頭がパーになっちゃったみたいだ。
戻れないって気づいてから、自分を守るために考えるのをやめた。
露伴先生が彼の記憶を読んだ限りではそういうことだったらしい。
「……お互い年はとりたくないのう」
そうやって呟くジョースターさんは、どこか寂しげだった。

「カーズ」は……
億泰くんのお父さんをとても気に入り、問題なく暮らしている。
億泰くんもそれでいいと思っている。
……いやまあ、それじゃダメだと思った『人』も居たわけだけど。
『人』? 人、かなぁ。まあ少なくとも、元は人だったよね、うん。

『億泰くんちの家庭の事情』

「今帰ったぜえ」
仗助の能力で、雨風はしのげる程度に直った家に、今日も帰ってきた。
「うー」「にゃー」
リビングでごろごろ転がっているのは、いつも通り親父と猫草だ。
いつも通りの光景。それが変わったのは、二ヶ月くらい前からだ。
「……」
テレビをじっと見つめていたそいつが、こちらを向く。
それから、赤ん坊がハイハイするみてえに俺に寄ってきた。
「おー、よしよし、今日も元気そうだな、カーズ」
ネコやなんかにそうするみてえに、俺はそいつの頭をよしよしと撫でた。
カーズ。元は仗助の親父さんが命を賭けて戦ったへるめっとなんとかって化け物。
七夕の日に、ミキタカが流れ星と間違えて拾ってきたそいつに、
承太郎さんや仗助の親父は警戒しまくっていたんだが。
「……ちっ。こいつの記憶はほとんど消えているじゃあないか」
ヘブンズドアーを使った露伴先生が、つまらなさそうに言ったことで、緊張は解けた。
何の資料にもなりゃしない、とぶつぶつ愚痴っていた横で、
仗助の親父がなんだか寂しそうだったのを覚えてる。
んで、そいつに関しては、一応行き先が論議されたんだが、
一時的に俺んちに置いてたら、俺の親父に懐いちまってた。
俺も、まるでネコかなんかみてえな動きをするコイツが、
実験動物にされるってのもなんかイヤーな気分だった。
……で、結局そのまんま月一の報告書提出を条件に、俺んちにいることになったわけだ。

261億泰くんちの家庭の事情2/3:2009/09/08(火) 21:18:40 ID:v1Zyp5xc
「億泰。帰ってきたら手洗いうがいをしろと言っているだろう」
はぁ、とため息が聞こえて、俺は珍しく考え事をしてた自分に気づく。
「ああ、悪い悪い兄貴」
前掛けエプロンをつけ、こちらを睨む相手に、俺は慌てて謝った。
「お、今日はカレーかー。カーズ辛いの大丈夫だっけな」
「何食っても同じだろうその化け物は」
ムッとした表情を見せる兄貴を見ると、とても信じられない。
目の前の兄貴が、もう十年も前に死んじまってる幽霊だなんて。
「ほら、早く手を洗ってこい。皿は並べておくから」
「あーあー、わあってるわあってるって」
やたら心配性な兄貴は、今年の盆に帰ってきてから、
カーズと一緒に暮らす俺が心配で、ずっとこちらに留まったままだ。
正直、家事やってもらえん、俺の代わりになって
報告書を作ってもらえんのも、俺としちゃあありがたいからいいんだけどよぉ。
地獄のエンマさまとか、そーいったもんに怒られねえんだろうか?

手洗いうがいと、ついでに着替えを済ませて飯を食う。
食卓に座っているのは、俺と兄貴に、親父に、カーズ。
猫草は外の日が暮れ始めたためか、すでにうとうとしている。
口に入れるカレーは、甘口。あの頃と変わらない、兄貴の味。
『二人』で暮らし始めた頃、兄貴がレシピと首っ引きで作ったカレー。
「なあ、兄貴」
「どうした、億泰」
兄貴はやることがないからテレビを眺めている。幽霊だから、飯は必要ないらしい。
あと、生きてる奴に触られると体がもげちまうらしいから、
どんな動きをするか分からねえ親父やカーズにも早々近寄れねえ。
つうか、カーズに兄貴は見えてんだろうか?
「知ってるか?」
「何をだ」
「ウチってよぉー、『お化け屋敷』って呼ばれてるらしいぜぇ」
ニカッと笑いながら、小学生の話から拾った話題を告げる。
「まぁ、確かにそうだよなあー。お化け、いるもんなあ」
ひひっと声をあげつつ、カレーをぐちゃぐちゃと混ぜて口に運ぶ。
「……全く、お前の話はいつもくだらないな……」
兄貴が呆れたように笑う。俺も釣られて笑う。
いつもと、変わらない食卓。
「あー、楽しいなあ」
けらけらと笑いながら、俺はふと呟く。
テレビで『ご長寿特集』なんてやってたからだろう。
「何十年後にもよぉー、こうやって笑えてたらいいなあ」
俺の言葉に、兄貴がぎょっとした様に目をむいた。
何だろ、俺なんか悪いこと言ったのかなあ。
「ん、どうかしたのかあ、兄貴?」
「……結婚くらいしろ」
少し口ごもった後で、兄貴がそう言った。
「ははっ、こーんな家に嫁に来てくれるよーな奴いっかなあ。
 飯も上手でなおかつ美人でカワイイ子でよぉー」
兄貴は押し黙ったまんまだ。
「あー、でも兄貴がいりゃあ嫁さんいらねえかなあ」
「な、何を言ってるんだお前は! 早く食え、片付かないだろ!」
あー、兄貴怒らせちまった。顔が真っ赤だ。
「へーい」

262億泰くんちの家庭の事情3/3:2009/09/08(火) 21:20:16 ID:v1Zyp5xc
飯食った後、仗助が俺んちを訪ねてきた。
F―MEGAの最新作が出たっつうんで持ってきてくれたんだ。
「……しっかしなんつうか、相変わらずなれねぇ光景だよなぁ」
俺が遊ぶ横で、カーズがころころと転がしてて、俺は時々その頭を撫でる。
「そうかぁ? 慣れちまえば犬や猫みてえで可愛いぜえ?」
「……そんなもんなかなあ」
「そんなもんだ」
「お前らもうちょっと画面から離れてやれ」
飲み物を持ってきた兄貴に叱られる。
「目を悪くするぞ」
「あーヘーキヘーキ」
「平気じゃない。俺の知り合いでもF―MEGAが好きな奴がいるが、
 そいつも、結構眼鏡かけていた」
「兄貴の知り合いー? 幽霊じゃねえか、俺らは大丈夫だって」
「……F―MEGAが好きな死人?」
仗助がなんか首を傾げた隙に、俺は一気に加速する。
「よっしゃ勝った!!」
「ああ、億泰てめえええええ!!」
ぎゃあぎゃあとわめく仗助と、そのまんま取っ組み合いになった。
「ええいうるさい、夜中に暴れるな!!」
兄貴に怒られても、俺達は止まらない。
多分、何十年経っても、俺達はこんな風に馬鹿やってんだろうな。
俺と仗助はダチで、カーズがきょとんとこっちを見てて、
親父が困ったようにしてて、猫草が迷惑そうにしてて、
兄貴が俺達を叱り飛ばす。
きっと、変わらない関係なのだろう。


―――――――――――――――――――――

投下終了。兄貴より大分背が伸びた億泰とかも書きたかったんだけど入れられなかった。
やまなし。おちなし。いみなし。あとカーズ様影薄すぎて意味ねえ。

263一巡後名無しさん:2009/09/08(火) 23:14:04 ID:RPRX6EsU
満載の小ネタに受けたwww
いいないいな

そういえばジョセフとカーズは『再開』になるのか
ジョセフを思い出せないカーズがせつない…

264一巡後名無しさん:2009/09/19(土) 18:02:06 ID:jt5Sf1Lg
カーズ様をかわいいと思ったのははじめてだw
面白かったよ!

265キス合戦 1/3:2009/10/28(水) 00:06:36 ID:n7jzDnug
____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | |> PLAY.       | |               
 | |                | |           ∧_∧  5部のアバッキオ×ナランチャです
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )  本スレの流れに萌えて過去ログ読んでたら出来ました 
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

266キス合戦 2/3:2009/10/28(水) 00:07:10 ID:n7jzDnug
どこにでもあるような、平凡な部屋。その中心のテーブルに沿って置かれたソファーの上に、銀髪の男と黒髪の少年が座っていた。
少年はソファーに座る男の膝の上に乗り、盛んに男に向けて喋りかけている。
身振り手振りを交え、楽しそうに笑いながら語る姿は、彼を年齢より幼く見せていた。
一方男の方は気怠そうな表情で、よそ見などしながら少年の話に相槌を打っている。だが、彼が退屈などを感じている様子はない。
むしろ微妙な表情の変化や声の調子からは、少年との会話を楽しんでいるように感じられる。
彼らの話のテーマはあちらへこちらへと移り変わり、纏まりというものはないに等しい。
それでも少年は飽きることなく語り、男も飽きることなく返事を少年に返した。

どれぐらいそのやりとりが続いただろう。何かあったのか、男が少年の名前を呼んだ。ヘアバンドから跳ね出た、少年の髪を引っ張りながら。
気分よく話しているのを遮られたからか、髪を引かれたためかは分からないが、途端に不機嫌そうになった少年は、軽く睨むようにしながら男の方を振り返る。
そのつんと尖った唇に、男はそっと口づけを落とした。下を向いたためか、男の髪が二人の顔の横に垂れ、銀のカーテンを作り出す。
突然のキスに、少年の瞳に困惑の色が浮かぶ。それを尻目に男の舌は安々と少年の口内に侵入し、その舌を絡めとった。
そのまま舌と舌を絡めあわせ、彼は少年の口をじっくりと味わう。静かな部屋の中に、くちゅくちゅと淫らな水音が響く。
少年はその音が嫌いなのか、眉間に軽く皺を寄せた。だが、口内を犯される快感に、次第に刻んだ皺を解き自ら舌を絡ませ始める。
お互いの舌が歯列をなぞり、頬の裏を愛撫する。舌だけが別の生物になったかのように、口の中で暴れまわる。
呼吸を忘れているのか、それとも快感のためか少年の顔は赤く染まり、その目は潤んでいた。

やがて男の舌が少年の口から抜き取られ、長い長いキスが終わる。
まだ赤い頬のまま、いつの間にか体に回されていた男の腕を掴んで少年は不満の声を発した。どうやら不意打ちでキスされたことが悔しいらしい。
その様子が可笑しく感じたのか、男は喉の奥で小さく笑いながら少年に謝罪した。
それでもまだ不満なのか、彼は男に背を向け、その体にもたれかかりながら頬を膨らませる。男はその頭を、やや乱暴な手つきで撫でていた。
しかしすぐに少年の瞳に悪戯小僧のような輝きが灯った。ぐるりと体ごと男に向き直り、訝しげな表情を見せる男の、その唇にもう一度口づける。
今度は男が驚く番だった。少年の舌はするすると男の口に潜り込み、歯をこじ開けると舌を軽くつつく。そして入ってきた時と同様に、素早く口内から離れていった。
口を離した少年は、男に勝ち誇った表情で笑ってみせる。どうやらこれは、先程のキスの意趣返しらしい。
対する男は、少し頬を赤らめていた。予想外の攻撃に対応できなかったのだろう。憮然とした表情で、笑う少年を見つめている。
そんな彼の態度に満足したのか、少年は体の向きを戻し、前に向き直ろうとした。しかしその動きは、男の手によって阻まれる。今度は正面から、触れるだけのキスをする。
唇と唇が離れた時、男の顔には得意気な微笑みが浮かんでいた。負けじと少年も、男の唇に再度口づける。それが終わるとまた男が少年に口づけを送った。
何度も何度も、そのやり取りを繰り返す。
まるでキャッチボールでもするかの様に、男と少年はキスを交わした。穏やかなキスには穏やかなキスが。激しいものには、それ以上に激しいものが。
その内に、少年の体がソファーに横たえられた。このやり取りが更に過激なものになるまで、それ程時間はかからなかったようだ。
これから行う行為への期待とほんの少しの恐怖が混ざった視線で、少年は男を見た。それに気づいたのか、男は少年の頭を軽く撫で、額にキスを落とす。
それだけで、少年の顔から不安の色が消え人懐っこい笑みが戻ってくる。彼はもう一度、男のくちびるに口づけた。男もそれに応じるように、少年の体に手を伸ばした。

さて、彼らの間に会話らしい会話が戻ってくるのは、一体いつ頃になるだろう。

267キス合戦 3/3:2009/10/28(水) 00:08:10 ID:n7jzDnug
____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |               
 | |                | |          ∧_∧   終了。お粗末さまでした
 | |                | |     ピッ  (・∀・ )まさにやまなしおちなしいみなし
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||  |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

268一巡後名無しさん:2009/10/29(木) 20:52:18 ID:X8dbqMec
萌えた…!!体格差有りの膝だっことかキス合戦とかたまらん
ナランチャ相手だとアバッキオが大人っぽくてカッコいいなあ

269プリン 0/8:2009/12/24(木) 22:58:23 ID:o5LxcFKo
やまなしおちなしいみなし、
燃えスレ+荒木ランド+プリン妄想を仗助・ジョルノ・早人でお送りします。
5部多め。
初代妄想スレ、混部スレのネタをたくさん拝借しました。
この場を借りて謝罪と御礼を申し上げます。

270プリン 1/8:2009/12/24(木) 23:02:10 ID:o5LxcFKo
「女性と、義務教育中のかたと、バトル参加者のかた優先デス!数が少なくて
申し訳アリマセン」
 治療班の控室へ向かっていた仗助は、聞き覚えのある声を耳にした。杜王町の
隠れた名店『トラサルディー』店主が人垣に囲まれている。何の騒ぎかと横目
で見ていると、足元から仗助を呼び止める声がした。
「仗助さん、まだ残ってるよ」
 そう言ってニッと笑うのは、川尻早人だ。人垣を慎重に、かつ素早くすり抜け
た彼の手には、小さな陶器のカップとスプーンが握られている。問い質すより
も早くそれを仗助に押し付け「待ってて!もう1個もらってくる!」と、タフ
な小学生は人垣の中へ姿を消した。
 『トラサルディー』の刻印が入った小さなスプーンと冷たいカップ、カップの
中には卵色の固体。匂いを嗅いで、仗助は呟く。
「プリンじゃねぇか」


治療お疲れさまでした、おやつの前には手を洗うこと!
「って、トニオさんから伝言だよ」
思わずフリーズする仗助に、早人は笑ってスプーンを口に運ぶ。
「大丈夫。僕も洗ってないから、怒られるときは一緒だよ」
それは全ッ然大丈夫ではなく、怒ったトニオは悪鬼のごとく恐ろしいのだが。
 仗助は恐々とスプーンでプリンを掬った。コンビニで買えるものとは違い、
しっかりした密度のあるそれは、ひんやり冷たくて異常なほどに美味だった。
「グレート……ッ」
 パールジャムは混入されていないようだ。とくに身体に変化はないが、優しい
甘さと卵の風味がやけに染みる。

――馬鹿にして悪かったなァ、億泰。こりゃあグレートに『うンまァァァーい』ぜ!

「もっとォォォ」だの「うめーじゃねェーーかクソッ」だの、女の子達の力強い歓声だの、
休憩所のテーブルのそこかしこから溜息と感嘆が洩れるのを聞いて、早人と仗助
はクスクスと笑った。ほんの少し誇らしい。『トラサルディー』は彼らの住む杜王の
名店なのだ。
 早人も紅茶のカップでつくられたプリンを一心不乱に口へ運ぶ。肝の座った少年
だが、プリンを頬張る様は普通の小学生だった。仗助は、何だか微笑ましいと思う。
「『トラサルディー』のカップを総動員シマシタって、トニオさんが」
見回せば、周囲のテーブルで大事そうに捧げ持たれるプリンのカップは、エスプレッソ用あり、スープカップやマグあり、計量カップに手の平サイズの小鍋ありと多種多様なバリエーションだ。
「おお」
「エニグマって便利だね」
「まァなあ〜、悪用さえしなきゃなァ」
仗助は慎重にプリンを掘り進み、ついに底に敷かれたカラメルへ到達する。
いそいそとプリン本体へ絡め、頬張った。うっとりと唇からスプーンを引き抜き、
「卵の香りといいよー、適度な甘さと絶妙なほろ苦さといいよぉー…ほんっとぉ〜〜に」
くぅ、と何かを堪えるように仰向いて目を抑える仗助に、隼人が唱和する。
「美味しいよねー…」
「うっめーよな〜〜…」
2人は盛大に溜息をつく。その横を、濃い色の上下を身につけた細身の影が
通り掛かった。
「…なにがです?」
ジョルノ・ジョバァーナは仗助の手元をひょいと覗き込んだ。

271プリン 2/8:2009/12/24(木) 23:04:50 ID:o5LxcFKo
「ジョルノぉ〜〜…」
お疲れさん、と仰向いたままの仗助が手のひらを向けた。
パシンと音を立てて手のひら同士を合わせるリアクションを望んでの動きだったが、ジョルノはそれを握手のように握る。
そのまま手を数回上下させるジョルノの視線は、完全にプリンへと固定されていた。
「うっめぇ〜〜んだ、この、プリンが……ッ」
「…そうですか」
応える口調は平静だったが、早人は彼がプリンへ注ぐ、熱い、熱すぎる視線を見て取った。
ジョルノの澄んだ青い目で、プリンは今にも穴が空きそうなほど凝視されている。
仗助もそれに気付いたが、彼が言葉を発する前に、慌てふためいた早人が立ち上がった。
「あっ、あの、僕もう1つ貰ってきま」
す、の音と同時に、休憩所の奥でトニオが、カランカラーン、とベルを振った。
「品切れデスー、皆サン、アリガトウゴザイマシタ!
ゆっくり召しあがッテくだサーイ…もっと沢山作りたかったのデスが……スミマセンー」
カップ総動員に飽き足らず、アイスキャンデー売りのようなハンドベルまで用意した辺りに、
トニオのこの無償ケータリングにかける情熱が感じられた。
が。
「……」
「……」
「……」
早人は立ち尽くし、仗助は姿勢を戻して丸い目を見開く。
「あー…」
早人が悲しげに眉を下げた。
「ありがとう、そんな顔しないでください」
ね、とジョルノに微笑まれ、早人が言葉もなく高速で首を振った。
年上、しかも金髪碧眼の小奇麗な人物に優しい言葉を掛けられ、動転しているようだ。
「僕はいいですから。隣、座っても?」
肩に手を置かれて座るよう促された早人が、またブンブンと首を振った。
早人の小学生らしい反応は、本日2回目だ。よしよし、と仗助は内心で頷いて救いの手を差し延べた。
「早人よー、スプーン貰ってきてくれねぇーか?」
その言葉に一気に顔を明るくした早人は「うん!」と大きく頷いて、トニオの元へ駆け出す。
「あ」
行っちゃった、とその背中を見送るジョルノを、仗助は自分の隣に座るようテーブルを指で叩いて促した。
「いーからよォ〜、座れって」

272プリン 3/8:2009/12/24(木) 23:07:08 ID:o5LxcFKo
席についたジョルノは溜息をつき、仗助を咎めた。
「……本当に、いいのに」
大急ぎで戻ってきた早人が、息せき切ってスプーンを手渡す。
「はい、スプーン!」
「…ありがとう、すみません」
爽やかな笑顔で告げられた言葉に顔を赤くした早人は、ギクシャクと席に着く。
「ほら」
仗助はジョルノと自分との間にカップを置いた。
「仗助、僕は本当に、いいです。これはあなたのプリンです」
「よくないですよ!」
ジョルノが言うなり、早人が真剣な面持ちで反論した。
「よくないです。このプリンは、本ッ当に美味しいんです。これを食べないなんて、
人生損するよ! ……僕は食べ終わっちゃったから、あげられなくて、すごく……あのー、ごめんなさい食べちゃって」
しどろもどろで話す早人の声は徐々に小さくなっていったが、最後に彼はきっぱりと言う。
「だってプリン、好きですよね」
ジョルノは言葉に詰まった。
「……僕はそんな顔をしていましたか?」
「してました」
「思いっきり、してた」
「……一瞬ですよね?」
「長かったです」
「ガン見してたよなぁ」
「うん」
思ってたんだけどよ、と仗助が疑問を呈した。
「ジョルノはもっと考えてる事を言えばいーと思うんだよなァ」
ジョルノは首を傾げた。
「あっそれだ! ほら、今何考えたか言ってみなって!」
「……分かりません」
「何が?」
「きっと癖なんです。確かに、あまり考えている事を言葉にしていないかもしれない。でもそれは癖なので、」
「なので?」
「…癖だから、自分では分かりません」
そりゃあそうだなー、と仗助が笑った。
「じゃあ次。オレのプリン見て、何て思った?」
「“プリンだ”って」
「そのまんまだなァ。そのプリンは、ジョルノ君にとってどんな感じ?」
「“暖かい黄色がキレイで、つやつやしていて、美味しそう”……何ですか、この質問」
「気にすんな。つーかよー、プリンにキレイって言うやつ初めて見たぜ。
 うまそ〜〜なプリンなワケね?」
「ええ」
「プリン、好きなんだよな?」
「…ええ、とても好きです」
「どれくらい好き?」
「好きな食べ物は、と聞かれたら、最初に挙げます。ブリュレに近いものも、固めのものも、何でも好きです」
「そっかそっか。で、ここにはなんと、ジョルノの好きな、しかも美味しそうなプリンが! 目の前に!」
「……そうですね、美味しそうです、とても」
呟きながら、ジョルノは自覚する。
『欲しい』という感情だ。ジョルノが言葉にしないのは。
そしてそれを、仗助は言わせようとしているのだと。
「っしゃ、最初ッからいくぜ。『このプリン、すっげ〜〜うめェー!』」
「……『美味しそうなプリンですね』」
「『そりゃもう、グレートに美味いぜ』」
「………」
早人は成り行きを真剣な顔で見守っている。
ジョルノは苦笑した。
「……『ひとくち欲しいです、仗助』」

――無駄な事はしたくなかったんだ。

ジョルノは思う。
『欲しい』と口にするだけで与えられる、そんな環境ではなかった。
幼いジョルノが欲しいと願ったものは、何一つ手に入らなかった。
それは物心つく以前から。
安心も優しさも、一緒に居てほしいという望みすら。

欲しいと思う心は無くならなかったが、ジョルノはそれを言葉にしないまま成長した。
だってあまりにも無駄だから。

――とっくの昔に、過去など乗り越えたと思っていたのに。

それは、今となっては職業病といえるのかもしれない。
ジョルノの苦笑は僅かに翳りを帯びていた。
それに気づかないふりをして、仗助はイヒヒと笑う。
「どぉぉぉーしよっかなァー」
「!」
「あっ、嘘! 冗談だって!」
はいどうぞ、と仗助はプリンを手で指し示した。

273プリン 4/8:2009/12/24(木) 23:11:24 ID:o5LxcFKo
ジョルノはプリンを一匙すくい、そっと口に滑り込ませる。
卵の存在をはっきりと感じられる、固めのプリン。
かといってボソボソしているわけではなく、舌の上をなめらかに滑る。
カラメルは爽やかな香ばしさで卵とミルクの風味と溶けあい、ジョルノの鼻を優しくくすぐった。
ジョルノは呻き、嘆息する。
「美味しい……!」
「だっろォーー!?」
「ですよねー!」
自然と顔がほころぶほどに、美味しかった。
仗助と早人はジョルノの表情を見て、口々に言った。
「だから言っただろー?」
「食べなきゃ人生損だよって!」
はい、とジョルノは頷いた。
イタリアにも、こんな素晴らしいプリンは存在しないに違いなかった。
プリンを作ったのは杜王町のレストランなのだと、早人が誇らしげに説明した。
何度も頷くジョルノに、仗助は言う。
「ほら、考えてること言えって」
「ああ、はい。イタリアに戻る前に、もう一度食べたいです。
 プリンも一人で一個、あと、お菓子以外の料理も、『トラサルディー』で」
甘い物が好きなナランチャも、ミスタも、トリッシュも、歓声を上げるに違いなかった。
「皆喜ぶと思います」
そりゃいいや、と仗助は笑った。
「幹部と、親衛隊と、あとこっちに来ているチームも連れて行きたい。
 ……すごい人数になります。お店は貸し切りにできるかな」
「大丈夫じゃねぇ? 普段あんまり客いないぜ」
「こんなに美味しいのに?」
「場所が悪いんですよね、墓地の近くだし」
それなら、大騒ぎになってもきっと大丈夫だろう。ジョルノは安心する。
「杜王に来たら、オレ達にも声かけろよなぁ。
 オレんちは無理かもしれねーけどよー、億泰んちならでけェから大丈夫。寄ってきなよ」
「ああ、それは……いいんですか?」
「いいって! 絶対!」
とても楽しそうだとジョルノは思った。暗殺チームの面子にも、杜王の住人に懐いているのが居たはずだ。

――そうだ、仗助の父親も杜王町に寄ってくれるだろうか。招待してもいいだろうか。
  それなら空条氏にも声を掛けてみよう。ポルナレフさんはきっと来てくれる。

ジョルノはいつになく明るい気分になって、脳裏には招待したい人物が次々と思い浮かんだ。
この新しい友人の陽気さは、ジョルノにとってとても優しく、眩しかった。
それに甘えてみようとジョルノは思う。
「食べ納めに、もう一口ください」
宣言して勝手にプリンを掬ったジョルノに、仗助が悲鳴を上げる。
「ギャアアアア! おま、それ一口か!? 取りすぎ! 取りすぎだって!」
喚きながらも、仗助はジョルノを止めようとはしなかった。
早人が爆笑した。

274プリン 5/8:2009/12/24(木) 23:13:43 ID:o5LxcFKo
「で、これからどうする?」
プリンを分けあって食べ終える頃には、休憩所はがらがらに空いていた。
今日の午後は試合が開催されない。参加者は皆、思い思いの場所へ移動したのだろう。
「ジョルノは明日の打ち合わせ、終わったんだろ? なら暇だよな?」
「ええ。相手が康一君ですから、それはもうスムーズに。午後は予定がありません」
「オレも。億泰は兄貴にくっついてるしよォー、あんまり一家団欒の邪魔しちゃ悪ィからなー」

そう言う彼から提案。
せっかくテーマパークがくっついてるんだし、遊びに行こうぜ?
と。

「早人はどうする? 母ちゃん達は?」
あー、と早人が眉を下げた。
「デートに行ってもらったよ」
おお、と仗助が目を丸くした。
「熱々だな」
「……うん。ママは『泊まりがけでお出かけ!』って張り切っちゃってさ。
 でもから回りして、2人でマゴマゴしてるから、デートしてきなよって言ったんだ」
早人はふくれた。
「僕をダシにしないで、たまには2人で遊べばいいんだよ! 本当、世話が焼けるんだから!」
じゃあオレらと一緒に行こうぜ、と仗助は笑う。早人は嬉しそうに同意した。
「ジョルノの仲間も一緒にどうよ?」
仗助がごく普通に誘った。彼らをギャングと知っているにも関わらず。
「人数多いほうが楽しいぜ!」
お前のとこの、あの白いスーツの人、クールでカッコイイよなぁ!
仗助は何の屈託もなく言う。
「彼、けっこう熱いし天然ですよ?」
答えながら、ジョルノは想像してみる。
テーマパークのロゴの入ったポップコーンのバケツを、首から下げたブチャラティ……いやアバッキオが彼の荷物を持とうとするだろう。
それにしょっちゅう手を突っ込むナランチャは、もう一方の手で風船の紐を握っている。
おまえ1人で食い過ぎだとアバッキオが怒る。
ミスタとトリッシュも買い食いに余念がなく、トリッシュは太ってしまうと嘆く。
フーゴは珍しそうに辺りを見回して、仗助を質問責めにするだろう。
仗助もイタリア人の自分たちに負けないくらい、背が高い。
図体の大きな青年達が、真昼のテーマパークを闊歩する。
ああ、その光景の、なんて明るいことか!
でも、ナランチャによく言っておかなくてはいけない、とジョルノは思案した。
観戦中から、彼はこの日本の青年の髪型に強い興味を持っていた。
下手なことを言わないように………するのは、至難の技だろう。岸辺露伴でも居ないかぎりは。
だからジョルノは答える。
「…うん、僕だけ行きます。いいですか?」
もちろん!と早人が笑った。仗助も。
バトルの開催は今日だけではない。
明日も、明後日も、まだずっと続く。

――だから皆とは、また行ける。いつでも行ける。そうだ、明日の試合が終わったら、皆で行けばいい。

275プリン 6/8:2009/12/24(木) 23:15:59 ID:o5LxcFKo
「思いっきり遊ぼうぜ、お祭りみたいなモンなんだからよォー!」
ああそうか、とジョルノは納得する。
これはお祭り。
「オレ、チョリトス食いてェーなー」
「僕は『世界一巡コースター』乗りたい!」
「『ポルナレフランド』!」
「『クラッシュマウンテン』!」
「夕飯は『ホルホースシュー』で食おうぜ!」
「わあ!それいい! あ、レッドホットチリペッパレードと時間かぶらないようにしなきゃね」
「“ロックと電飾の競演”なー。アイツ調子に乗りすぎて山車から落ちねーかなァ、心配だぜ」
「2人とも詳しいですね」
「ホテルの部屋に、ガイド置いてあったぜ?」
ゆうべ熟読しちまった、楽しみでよー、と仗助が肩をすくめた。僕も、と早人。
彼らは楽しむことに関して、ジョルノよりも長けている。
自分は何をしたいだろうかと、ジョルノは考えた。
遊園地に行くのは初めてだった。観覧車はあるだろうか? メリーゴーランドも?
楽しもう、とジョルノは思う。そして思ったままのことを口にする。
「楽しみましょう」
口にして、年相応の顔で笑った。
「本当に、楽しみです」
そう、これはお祭り。
ずっと続くお祭りなのだから。



END

276プリンおまけ 7/8:2009/12/24(木) 23:20:40 ID:o5LxcFKo

荒木ランドは、夜。

 * * *

「リーダーリーダー、夜8時以降は『大人の』荒木ランドなんだよ」
「一人で行け」
「えー。プロシュート〜、あれ、居ない」
「さっきペッシ連れて出てったっつーの! なんで気付かねェーんだよクソッ!」
「バトルフィールドの下見だとよー。せっかちだよなァ〜、しょーもねー。お、夕飯、ここどうだ?
“『魅惑の悪役ルーム』…セクシーなポールダンスと歌のショーで貴方のハートを圧迫祭☆夜8時以降はディナーとともに!”」
「許可しないィー! キャストの9割、男だろ絶対ー!」
「ディナー美味いよ? ほら衣装もナターレ限定verだしっていうかオレ出るし」
「み、見たくない……」
「衣装っつーかほとんど紐じゃあねーか!どこがナターレ!?」
「これに電飾が付くんだ、ベリッシモ華やかだろ」
「うるせーなお前ら…屋台の修理手伝えよ。ジェラートここ溶接」
「了解ソルベ。リゾット火花飛ぶからどいて。ギアッチョ、次壊したら1人で直せよ」
「……………わりィ。…なァ、看板変えねェ?『ジェラート&ギアッチョの激冷★スイーツ』って、
 ダサすぎねえかコレ。デザインもソープの看板みてーだしよォー…」
「ちょ、誰もオレの勇姿を見に来ないのか?」
「「「屋台なおすのが先」」」
「……リゾットー」
「………精一杯、稼いでこい。ここで見守っている」
「……うん頑張る」
ホテルの部屋で、大工作業は夜を徹して続けられた。


 * * *


「もしもしボス、ドッピオです。夜中にすみません、あのー、緊張しちゃって眠れなくて。指示の通り、ちゃんとプロフィール読みました。
 でもこのキラって人、何なんです……滅茶苦茶やばい人じゃないですか、ギャングよりタチ悪いですよ、連続殺人鬼なんて……僕どうしたらいいんですか。
 ちゃんとできるかなあ……それにこの女の子達……気合い入ってるにも程がありません? こっちの子なんて腕にタトゥー入ってますよ?
 バチカンの修道女も、面構えからして主役補正がバリバリ感じられるんですけど……ボス、ああもう僕どうしていいか、」
「早く寝なさい」
ぷつん ツー ツー ツー ……
「ああッ! ボスー!?」
嗚呼ドッピオ、そんなこと、私にだって分からないんだ!
ディアボロはどうにかして試合を回避したい。が、策が思いつかない。
ホテルの部屋で、彼らの苦悶は夜を徹して続けられた。

 * * *

スクティツはダブルのお部屋ですでに寝ている。
サレズケは飲みに行った。ついでに1部タウンの飾り窓をひやかしている。
ポルポは昼からずっとホテルのレストランに居座っている。もう一生ここに居たい。
チョコセッコは大人の荒木ランド、『チョコ先生のスプラッター・ハウス大人ver』ではしゃいでいる。

荒木ランドの夜は更けていく。

277プリン終了 8/8:2009/12/24(木) 23:22:45 ID:o5LxcFKo
お粗末様でした。
改行ミスった……読みにくくてすみません。長くてすみません。
うん、好きなんだ、プリン…あと5部…
ぶぉんなたーれ!荒木ランドは永遠!ノシ

278一巡後名無しさん:2009/12/25(金) 00:05:49 ID:XVWSobT2
GJ! ついニヤニヤしながら読んでしまった

279一巡後名無しさん:2009/12/25(金) 01:36:02 ID:ckO3qL6.
ベネなクリスマスプレゼントをどうもありがとう!
ホテル備え付けのガイドブック見たいよ欲しいよ

第8試合前のひとコマだったのかw
ボスのアドバイス的確なようなそうでもないような
ロンリークリスマスがほっこりあったかくなりました。グラッツェ!

280First・Experience 1/5:2010/08/11(水) 11:10:06 ID:PDqyIn8Y
ジョルディア
GER解除パラレル
ピュア15歳とダーティー33歳のハートフル同棲物語



西日の射すこの部屋は夕焼けを見るのに最適だな。
窓際に椅子を寄せぼんやりと外を眺めながら遅い昼食をとる。
重たい鐘の音が鳴ったかと思えば下の広場には学生たちが溢れてきた。放課直後は特に人の往来が激しい。
人の波が落ち着いた頃、両手に本を抱えた少年が遠く校舎の方から歩いてくるのが目に入る。
夕日を受けて一際目立つ金の髪。この部屋の主だ。


俺がここに来てから半年ほどになる。
当初は錯乱していたため記憶が少しばかり定かではないが…。少なくとも自分の名と境遇について、を思い出してから半年だ。

レクイエムを受け無数の死を味わっていた俺はある日偶然この町へ戻ってきた。

薄汚い路地裏で次の終わりを待っていた俺を見つけたのが、ジョルノ・ジョバーナ ―この町の住人兼学生、兼パッショーネボス― だった。
心身ともにボロ布のようになった俺を見かねてか、奴はレクイエムを解除しここ、学生寮に住まわせるようにした。
(後日、曖昧な状態で聞いた会話―恐らく幹部のミスタとのもの―によると路地裏でうずくまる俺の姿が「誰か」を思わせるものだったらしい)

ボスとなった後も学生を続けていたことには勿論、何よりここで俺と生活を供にすると知った時(正確にはしてきた、と気づいた時)には驚いた。
俺の監視には便利だったと言うがこの狭い部屋で男2人は慣れるまで大変だったんじゃあないか。

まあ、なんだかんだで奴には感謝しているな。落ち着いた今となっては人並みの生活を幸せだと感じられるまでになった。
以前の俺だったら些細なものとしか思わなかったろう。
この部屋からの眺めもバゲットも…。

281First・Experience 2/5:2010/08/11(水) 11:11:25 ID:PDqyIn8Y
「それ僕の夕食です」
いつの間にか家主が帰ってきていた。
こちらを一瞥すると、両手に抱えた本を机に置く。

「大量に借りてきたな」
積まれた本の中に今朝自分が注文した題を幾つか見つける。
「課題が出たんで必要になったんです。一度に借りた方が持って来るのが楽なので」
楽なのか?運搬が?なかなかに重量感があると思うんだが…まあ軽々と運んでいた奴が言うのだからそうなのだろう。
夕食に手をつけた詫びとしてココアを入れると(こいつは意外にも甘党だ)ジョルノが机の上を整頓し始める。
本を選別し、窓際に俺用の本を置いてくれる。自分のものは本棚の空きスペースへ。見たところやはりジョルノ自身の本より俺用の方が冊数が多いな。ありがたいことだ。

作業を終えるとジョルノは俺の注文したうちの一冊の文庫本を眺めるように開く。
そして思い出したように口を開く。
「そういえば先日、組織の本部に女性が尋ねてきたんです」
本部に直接…とすると要人か。女性はいたかな。俺の知る人か?
「――…さん、知ってますよね。もうずいぶんと呼ばれていないから挨拶に来たと言ってました」
聞き覚えのあるその名前に俺は苦笑いをするしかなかった。
「あ、そう…。それで?」
ココアを片付いた机に置くとジョルノが会釈をする。律儀な奴だ。
「それでも何も。ボスが代わって必要は無くなったことを伝え、帰ってもらいました」
「ほう」
懐かしいな。彼女は俺がかつてギャングのボスとして、いや男として「必要」としていた言わばプロの人だ。因みになかなかにグラマラスな美人だ。

何か言及されるかと待ち構えていると黙ったきり何も言ってこない。
ジョルノはブルーベリーのソースからココアへとバゲットの味を代えたようだ。
沈黙が流れる。
「…ジョルノは必要じゃなかったか、はは」かつての自分のプライベートを覗かれたような気まずさを振り払おうと軽口を叩いてみる。

282First・Experience 3/5:2010/08/11(水) 11:13:04 ID:PDqyIn8Y
沈黙は続く。
ちらりと対話相手を窺うとやたら細かくバゲットをちぎっている。そんな小ささではココアに浸した時持つ部分が無くなるんじゃあないか?
考えて、ふと気づく。
ほんのりと耳が赤い。
これは…今の会話でか?
「…僕はそういうのはいいんです」心なしかぼかした言葉で返答がくる。
ああ、さては。

「ジョルノもしかすると「そういうの」はまだか」あべこべにプライベートを覗いてやった小気味良さを味方につけ思い当たった核心をついてみる。
「いえ。人並みに、ありますよ」不自然なほど素早い返答だ。
つい笑ってしまう。分かりやすい奴だな。珍しく動揺を見せるということは「そういうの」に対して余程ウブなんだろう。
「いいじゃあないか。腹を割って話せよ。男同士だろう」
「ありますってば」少し語気が強まる。純情なわりに強情だな。

「いやーそうかそうか、ジョルノは童貞かー」直接的な表現を使うと奴の夕食はさらに小さくなった。
微笑ましい。もう少しからかいを続けてみることにしよう。しかし本当にそうか。
意外なような、そうでないような。
真似をして自分の昼食をちぎりながら相手に目を向けてみる。

と、奴はいつの間にか俺の側に立っていた。
穏やかながら毅然とした動作でバゲットを取り上げると手首を強く掴み俺の体を椅子から引っ張りあげた。
ああ、やり過ぎた、怒らせてしまったようだ。
ジョルノの次なる動作に内心少し怯えてしまう。
見た目に反して奴は腕っ節が強いのだ。
もう一方の手をどう持ってくるかに気を配っていると思いもよらない方向から脇腹辺りをつかまれる。
体が宙に浮いたかと思えば次の瞬間にはもう机に隣接した簡易ベッドに横たわっていた。

283First・Experience 4/5:2010/08/11(水) 11:14:36 ID:PDqyIn8Y
反射的に受け身を取ろうとした腕は見えない何かによってシーツへ縫い止められ
ている。
俺に遅れて奴がベッドへと歩み寄る。

自身のを失ってしまったため視認することは出来ないがどうやら今の一連の働きは奴のスタンドによるものらしい。

見えない圧力が無くなると同時に奴が俺に覆いかぶさってきた。
しまった、マウントを取られた。
さては念入りに殴るつもりか。
失言を後悔する一方、そんなに怒るようなことだったろうかと理不尽を感じる。
ナイーブな奴め。
乱暴に運ばれたためベッド縁で打った内股が痛む。

「…経験ぐらい……ありますよ」
頭上からは先ほどの会話の続きが聞こえてきた。
なんだ、まだ見栄を張るつもりなのか。
反論を許さない状況で議論をしようだなんて卑怯な奴め。だが俺は屈しないぞ。だいたいこんな行動をとった時点で僕は動揺していますと言っているようなも、

・・・・・・え、
驚愕で事態の把握が遅れたが頭上にあった奴の顔との距離は0になっていた。
おい、何やってんだこいつ。
固まる俺の眼前には金に縁取られた蒼い瞳があり、そこに呆けた表情の男が映っていた。
「どうしたんです、キスぐらいで情けない顔しちゃって…アンタこそ初めてだったとか?」
言ってやったぞ、みたいな顔をしているけれど…何言ってんだこいつ。
これはどういうことなんだ。
先程までの議論と今のこいつの言動はどう繋がるんだ?
疑問に対して明解な答えを与えてくれたのは出題者の奴自身だった。

俺の衣服が少したどたどしい様子でまくりあげられていく。
胸板に落とされる口づけは先程議題にしていた行為の始まりを予感させるに十分なほど色のあるものだった。
ああ間違いない…こいつは俺との『実戦』で経験の豊かさを示そうとしているんだ。
だがしかしこれはちょっと…いや、だいぶまずいやり方じゃあないか…他でもない俺にとって…。

284First・Experience 5/5:2010/08/11(水) 11:17:21 ID:PDqyIn8Y
ごめんこうむるとばかりに抵抗するも腕は動いてくれない。
見ればまくりあげられた衣服は手首の辺りでツタ植物に変わりベッド縁と仲良く結び付いていた。
便利なスタンドだと感心する気持ち半分、一張羅を失った悲しみ半分。
どちらも、首筋に這う舌の感触で即座に焦りへと変換された。

「待て、ジョルノ!お前は大きな思い違いをしている!」たまらず大声をあげてみる。
失言以降しばらく話していなかったため声はなんとも情けない調子になってしまった。
「…! 手順が違うとでも言うんですか。マニュアルに従ってやるだなんて馬鹿らしいと思いますよ」
馬鹿はお前だ!手順どうこうではなく相手からして間違えているんだよ。長い髪をしちゃあいるが俺は男で綺麗な面構えしたお前も男で…。
いや、そもそも童貞で無いことを示すため行為に及ぶって…結果オーライ思考じゃあないかそれ。
ああしかし、男同士はカウントに入るのか?

奴に言ってやりたいことはいくつも頭の中に浮かんでくるがその中の一つだって口にすることは出来なかった。
ビギナーズラックと言うべきか、奴は実に俺のツボを見つけるのが上手く…。
意図しない声を抑えるのに俺は必死で口をつぐむしかなかった。
まあそれも無駄なあがきだったわけだがな。

結果を言うと俺はこの年にして『初体験』をしたことになる。

――――――――――――――――――――――――――――

ああ、少年よ。名実ともに経験豊かな大人から一つだけアドバイスをあげよう。

気を配るべきは最中の相手のポイント探しでもなければ、事後のシーツの処理でもない。
何より先に確認しなければならないのは壁の厚みだ。ここが何処であるかだ。

おめでとう。

隣室にいた学友たちによって、明日からお前はプレイボーイの称号を手に入れる。

おめでとう、ざまあみろ。


おわり
突如として新ボス×旧ボスに萌えたぎった勢いで書いた
親子ほどの年齢差いやっほう!

285一巡後名無しさん:2010/08/11(水) 21:51:54 ID:yhNNmW2Y
最後のオチでお茶吹いた
案外いい勝負じゃないか新旧ボスw

286一巡後名無しさん:2010/08/25(水) 13:04:08 ID:uxbiw71M
「誰か」っていうのが過去のジョルノ自身なのか昔助けた憧れのギャングなのか、
はたまた他の誰かを指すのか考えると夢がひろがりんぐ

ボス、焦ってるならもっと本気出して抵抗しろよw

287一巡後名無しさん:2010/10/22(金) 00:38:53 ID:wJnMk6NQ
なんだこれ!なんだボス可愛いじゃあないか好きだ

288混部専用スレより 仗助+ジョルノ妄想 1/1:2010/12/02(木) 23:54:00 ID:wKXIcIOU
混部専用スレで出た、仗助+ジョルノの治療班コンビネタに萌えたあげく
妄想が暴走して書き散らかしたらこんなモノが出来ました
勢いで書いたので誤字脱字はご容赦下さい

直接投下するには勇気がなかったので
ワンクッションの意味を込めうpロダにあげる形を取っています
この形式に問題があるようでしたら申し訳ありません

ttp://www1.axfc.net/uploader/File/so/55064
パス:jojo

仗助+ジョルノのつもりでしたが、どう見ても×です
過去捏造、スタンドの独自解釈がありますので、苦手な方はご注意下さい
この二人は本当に萌え和む

289一巡後名無しさん:2010/12/03(金) 11:07:01 ID:tPQ8OEAM
>>288ぐっじょおおおおおおぶうううううううう!!!
こんな治療班コンビを待っていた…!
マッパ自重しないギャングスター様さすがです
そしてミスタ乙www

290一巡後名無しさん:2010/12/05(日) 15:16:35 ID:Q2GNBNE2
>>288
GJすぎる
これは素晴らしい

291一巡後名無しさん:2010/12/06(月) 22:31:26 ID:WXmSUqyo
>>288
あああああめっちゃ萌えた!
疲れもふっとんだよありがとう!GJ!!
ミスタは本当に乙ww

292一巡後名無しさん:2011/05/06(金) 01:14:36 ID:PG113jHg
燃えスレの過去ログを読んで辛抱できずにやらかしました
先にこの場をお借りしてお詫び申し上げます

tp://www1.axfc.net/uploader/File/so/62564.txt
パス:jojo

直接投下しなかったのは意外と長くなったからです…
内容は燃えスレ1のゲブ神&ハンドVSパープルヘイズ&サン戦です
カップリング要素は無い…はずです
初めて書いた散文なのでどうかご容赦ください
偉大なる先達である皆さまに多謝!

293一巡後名無しさん:2011/05/07(土) 09:21:38 ID:DOBZWHo.
>>292
GJ&乙です。
このカードを再び見れる日が来るとは。
凸凹で好きなタッグだったので非常に楽しかったです。
発想が戦局を左右するスタンド戦闘も良かった。
どっちのタッグもお疲れ様、と労いたくなりますね。

294一巡後名無しさん:2011/05/07(土) 22:45:18 ID:tZBKs/lc
クオリティ高いなあ
カプなしと注意書きして、棚投下でも良かった気がする

295一巡後名無しさん:2011/05/08(日) 07:59:29 ID:3sAVZpdk
初めて書いたと思えないいい戦いでした
やっぱりスタンドバトルは面白いなぁ

296ジョセフとブチャラティの誕生日を祝う名無しさん:2012/09/27(木) 22:29:08 ID:BG/Tudqc

    ┗衝撃┓
      ┏┗  三  ┗衝撃┓
               ┏┗  三

297ジョセフとブチャラティの誕生日を祝う名無しさん:2012/09/27(木) 22:30:22 ID:BG/Tudqc
ごめんなさい、誤爆しましたorz

298一巡後名無しさん:2013/01/07(月) 00:34:58 ID:San.om7s
誰か変態な承太郎×DIO様の話し書いてくれる人知らない?

299一巡後名無しさん:2013/01/07(月) 12:33:52 ID:EH2XTFq2
自分で書くか同人で探せ

300一巡後名無しさん:2013/01/07(月) 22:14:35 ID:v.puLD52
行き過ぎた妄想スレ辺りで熱くシチュエーションを語れば触発される人も出てくる   か も

301一巡後名無しさん:2013/01/08(火) 21:01:43 ID:SM2Cuh8.
ソレダ!
がんばれ>>298

302一巡後名無しさん:2013/04/15(月) 20:50:45 ID:HcM3bprk
ずいぶん前の話になるけどやっぱりプロシュート&ティッツァーノvs花京院&オインゴは熱かったよなぁ
続きはもう投稿されないのかな……

303一巡後名無しさん:2013/04/19(金) 11:59:11 ID:3ZHG.YqM
>>302
自分もその話は好きだったから続きを書いてくれたら読みたいわ

304一巡後名無しさん:2013/05/13(月) 21:02:57 ID:sIViwrqM
>>302,303
おまおれ。自分も未だに続きを諦めきれず、毎度期待しながらココ覗いてる
あの緊張感と疾走感、そして間に挟むギャグのクオリティときたらもう…

305一巡後名無しさん:2013/05/14(火) 00:50:22 ID:hdT03MwM
もうネタがあるなら書いちゃっていいと思うの
中断時点を第一分岐としてのIFネタとして

306一巡後名無しさん:2013/05/19(日) 21:49:53 ID:cGmj7Hvw
勝手に続きを書くっていうのはあんまり賛成できないかなあ
それに正直あの書き手さんだからこそのクオリティーだったわけで・・・

307一巡後名無しさん:2013/09/27(金) 13:35:59 ID:JNllHTDM
>勝手に続きを書くっていうのはあんまり賛成できない
同人界に居て何を言ってるんだお前は

308一巡後名無しさん:2013/09/28(土) 18:48:12 ID:5Yo13Xsw
投下された作品の続編より
他のチームのSSを書いてほしいなぁ
みつを

309一巡後名無しさん:2013/09/28(土) 23:32:43 ID:TTJq3pyA
>>307
お前が何を言っているんだ


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板