ピーター・ポマランツェフはロシア(ウクライナ)系イギリス人で、2006年から10年までモスクワのテレビ局でリアリティショー(ドキュメンタリー)の制作に携わった。そのときの体験を書いたのが“Nothing is True and Everything is Possible(どこにも真実はなく、すべては可能)”で、14年に出版されると英米で大きな反響を呼んだ。日本では18年に『プーチンのユートピア 21世紀ロシアとプロパガンダ』として翻訳されている。
ピーターがテレビのドキュメンタリー番組のために取材した「ゴールドディガー・アカデミー」は、大金持ちのパトロン(シュガーダディー)を見つけるための専門学校のひとつだ。同様の学校はモスクワやサンクト・ペテルブルクに数十校あり、「ゲイシャ・スクール」とか「How to Be a Real Woman(本物の女になる方法)」などの校名がつけられている。
『ラリー・キング・ライブ』で知られるラリー・キングは、CNNを去ったあと、2012年7月から新番組『ラリー・キング・ナウ』を始めたが、それはRTアメリカで放映された。キングが個人で設立したOra TVで制作した番組をライセンスしただけだというが、ロシアとの関係を批判され、ウクライナ侵攻後の22年3月、Ora TV はRTアメリカのために制作していた番組の制作をすべて中止し、事業を停止すると発表した。なお、キング自身は19年に脳卒中の発作を起こし、21年1月にコロナにより死亡している。
こうしたフェイクニュースに日常的に触れていると、「事実」と「虚構」のあいだに線を引くこと自体に意味がなくなっていくとピーターはいう。“Nothing is True and Everything is Possible”(真実などどこにもなく、すべてがでっちあげ)とわかっていても、あまりにしょっちゅう嘘を聞かされていると、しばらく経つと、ただ頷くだけになってしまう。そして心のどこかでこう感じるようになる。
ロシア(ウクライナ)系イギリス人のピーター・ポマランツェフは、2006年から10年までモスクワのテレビ局でリアリティショー(ドキュメンタリー)の制作に携わり、ロシアのメディアが“Nothing is True and Everything is Possible”(真実などどこにもなく、すべてがでっちあげ)という並行現実(パラレル・リアリティ)をつくりあげていることをさまざまな興味深い事例とともに描き出した。
歴史家マルレーヌ・ラリュエルの『ファシズムとロシア』は、原題の“Is Russia Fascist?(ロシアはファシストか?)”のとおり、現在のロシアを「ファシズム」と定義できるかを論じている。この問題を考える前段として、ソ連崩壊後に、中東欧やバルト三国から提起された「記憶をめぐる戦争」が、西欧とロシアの「歴史戦」になっていることを前回紹介した。