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第二汎用スレ

1「鍵を持つ者」:2011/09/03(土) 23:54:23 ID:???
汎用という言葉に無限の可能性を感じる今日この頃

2209とある世界の冒険者:2015/08/14(金) 00:27:47 ID:4JW7hFF.
>>2208
「おーい、おーい…………やっぱりダメか」
【一人プラーナに話しかけていたラーナイだったが、応答がない様子にプラーナを解放した】

「全く。ドゥクスは目が届かなくなるとすぐ無茶するというのに」
【自分のことは無意識に棚上げし、やれやれとため息をついた】

//眠くなってきたので次でFOオナシャス

2210とある世界の冒険者:2015/08/14(金) 00:28:54 ID:aa1L3iss
>>2209
次なる手を考えなければならない。
そんな感じで次回に続く。

2211とある世界の冒険者:2015/11/22(日) 22:18:10 ID:lCHEYmFE
【とある洞窟の前】
「えーっと…………ここかな…………」

と、何やら本を開いてそれを眺めながら突っ立ってる女の子が一人

「依頼内容的に……ここのレッサードラゴン倒したらいいんだよね…………はぁ、悪いドラゴンとは言えドラゴン退治はやっぱ気が乗らないな〜……」

とか言って溜め息ついてる

2212とある世界の冒険者:2015/11/22(日) 22:28:13 ID:lCHEYmFE
「ま、こうしてても仕方ないか…………さっさと片付けて帰ろっと」
女の子は本を閉じると、洞窟の中へと進んで行きました

「………………暗いな〜…………つーか、誰か誘えば良かったかな…………」

2213とある世界の冒険者:2015/11/23(月) 10:14:25 ID:OvFUB4u2
【fa】

2214とある世界の冒険者:2015/12/10(木) 08:04:41 ID:069nE7RQ
皆さん、オワコン社長をよろぉ〜♪ばんばん見てね♪♪
http://m.youtube.com/channel/UCbc7XPBjep5i25QRnO0J5-A/videos?itct=CAAQhGciEwjequ_n5bDJAhUB2VgKHTEtDds%3D&hl=ja&gl=JP&client=mv-google

http://m.youtube.com/channel/UCkM7vL3osDR15f_jtlq94UQ/videos?itct=CAAQhGciEwjWrLvz5bDJAhUZI1gKHVqECfc%3D&gl=JP&hl=ja&client=mv-google

2215レオナ:2016/02/15(月) 20:59:55 ID:/kMMmJiY
【夜空の綺麗な丘の上で】

長い髪の女の子が一人で寝転がり、空を見上げる

「皆に会いたいな」

ふと呟くのはそんな言葉、ここに来て、これまで出会った人達の事を思い出す

「……クエスに……ジュリアに……オリルに……他の皆……」

懐かしい面々の名前を挙げていって、そのまま目を瞑る、思い出を思い出す

「……会いたいよ」

何故か流れる涙

2216とある世界の冒険者:2017/01/15(日) 01:02:27 ID:SrnCuEkQ


   城下町の広場
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

異常事態にある城下町の広場。
そこには残された王都へと取り残された避難民達が騎士団に護られ、簡素なテントの下寄り集まっていた。
全ては、異形へと変じた嘗ての友人、あるいは隣人、あるいは恋人達の恐怖から身を守る為だ。

今は騎士団によって持ってはいるが、それも何時まで持つかは分からない。
民には秘匿されているが……、――既に、騎士団の、それも名の知れた騎士からも異形へと変じた者が出ている。

事態は、一刻を争う。 各々が、各々の意思を持って問題に立ち向かわなければならない。


「――だから、俺は行ってくる。」
「すまないがセシリア、ヘーゲマン隊長達とここを頼む。」


『……正気ですの? ――あなた、ここの護りの要だという自覚はあります?』
『悔しいですけれど、今は貴方がいなければ……』


軽装の騎士鎧に、血除けのマントとローブを羽織るのは嘗て遊撃騎士団と呼ばれる部隊に所属していた騎士の青年。
名を、”アルス・ストラグル”。  この事態に関わるであろう木原に関わる――「ゼオ・ウッドフィールド」に繋がりを持つ、無垢なる騎士。

「分かってる。けどこのままでもダメだ。」
「倒す量より、増える量のほうが多い。いずれは押し切られる――元を絶たなきゃいけないんだ。」

「それに、多分カオスさんなら何かを知ってる。」
「間違いなく……ゼオさんにも繋がると思うんだ」

『でも。』
「だーいじょうぶっ! 様子は見に戻るよ、定期的に。」

その指には嘗てゼオに託された「八卦」を手繰る指輪。その背には騎士アンネリーゼに託された魔石剣。
左手に装着した手甲は混沌の王に渡された魔具の一つ、……そして、左手にはリグレットの遺品から勝手に譲り受けた装飾品。


「誰かに任せてるだけじゃ駄目なんだ。 自分が、その誰かにならなきゃ。」
「それに――」

「――あの人達の事なら、俺がやらなきゃ、嘘になっちゃうだろ?」


そうして獣狩りの夜に一振りの剣が躍り出る。
待ち受けるは凄惨な結末か。 あるいは―――――……?


-FO-

2217「ストラクチャー」:2017/01/20(金) 21:22:51 ID:Fej80fDg

   城下町の商店
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 「―――此処もダメだな。」

 "獣の病"によって荒廃しつつある王都…
 その一角で、魔法店を漁る鴉羽の狩人

 パニック…火事場泥棒…いくらでもいえるが、非常時には商店というのは軒並み荒らされている
 ここも例外ではなかった。

 「シャーク 何かあったか?」

 荒れ果てた店内の中で、店の奥から顔を出す
 手元に握られているのは火薬の原料2瓶…正直心もとない
 "語り部"の残した地図の印は、予想通り錬金術店や魔法具店であった
 ――が、予想通りどこも荒らされ尽くしており、手に入る物資はわずかであった。

 「全く無い、というわけでは無いんだがな…よく探せば役に立つものがあるのが嫌らしい。
  これも語り部の思惑通りってか?」

 悪態をつきながら、外の中型のリアカーへ物資を詰める
 丸腰の彼がそのへんで拾ってきたものだ。

2218とある世界の冒険者:2017/01/20(金) 21:41:50 ID:B.odvDIw
>>2217
「微妙だな……」

店のカウンターを重点的に店内を探していたようだ
時折、店外を見つめて警戒している。

カウンターには探し当てたのであろう回復薬と包帯。そして、少量ではあるが火の魔法石
組み合わせが上手き行けば着火剤にも、改良部品にもなるが心もとない。

「もしそうなら、語り部ってのは余程俺達が生き苦しむのが見たいのだろうかね?」

他に探し当てた物品をリヤカーに詰め込む

「なんにせよ、今は踊らされるか、〝今はな〟」

語り部が何にせよ、この真綿で首を絞められている様な感覚には危機感を覚えている
もし、行きつく先が最悪の結末だとたら……
そんな不安が頭をよぎる

2219「ストラクチャー」:2017/01/20(金) 21:53:37 ID:Fej80fDg
>>2218

 「――移動しよう、漁れる者は漁り切った。」

 「消毒薬、回復薬、包帯、火の魔石と携帯食料、水、干し肉、干し野菜
  火打ち石に、炸薬10本…今ん所これだけだな 」

 これ以上探しても無駄と確信、探索を切り上げ
 探索に記された、次の店へと向かう
 
 「さっき上の方で騎士団を見かけた、もしバレたらしょっぴかれるな…さてお次の場所は」

 リヤカーを引きながら、表通りの端の方を移動する。
 幸いにも騎士団達が獣たちを引きつけてくれている、ここまで来るのに戦闘は皆無だ…

 「ここだ…嫌な予感しかしねぇ」

 眼前に見えてくるのは、寂れた銃器店…王宮に近い城下町での"銃器"の扱いはこんなものである
 荒らされた…というより"荒れていた"というのが正しい…騒動の前から営業停止していたんじゃないか?という荒れっぷり
 
 「地図には…"ここがアツイ!!!"って花丸までうってある なぁ…絶対怪しいよな?」

 そう、最初に地図に入ったのは此処の地点
 どうみても怪しいから後回しにしようとした所だ。

2220とある世界の冒険者:2017/01/20(金) 22:11:26 ID:B.odvDIw
>>2219
「了解だ」

「嬉しくて涙が出てくる内容だな」

ハハハと苦笑いを浮かべる
まぁ、少なくとも当分は飢え死にだけは免れるのは大きい


「……非常事態ゆえ致し方なしっていえばいいんだったかな?」
ふと、酒場であったネオベイ人の男に教えられた言葉を思い出す
まぁ、免罪符にもならない言葉だが、何となくこの状況を見て呟いた。

「まぁ、しょっ引くだけの能力があればだがな」
治安を維持できていない今、恐らく形式的に戒厳令が出ているであろうとはいえ、恐らくはこういった生存者は見て見ぬふりをされるのだろう


「あー……レイヴン……」
「そのアツいって物理的にとか魔法的にとかの注釈はないよな?」

廃れ寂れた銃器店を前に、頬を書きながらそう言うと、銃を構えて店構えを確認し、解る範囲で異常がないかを調べる

2221「ストラクチャー」:2017/01/20(金) 22:27:47 ID:Fej80fDg
>>2220
「いや、特にはそう書いてない…」

見るからに、寂れた店だ。
壁に魔法陣が書かれていたりだとか、そういった事はない。

「用心するとしよう」

レイヴンが先行
手で周囲を触りながらトラップを確認するが、これといって反応はなし
意を決して錆びたドアノブを握り、立て付けの悪そうな扉を開ける
思いの外、それはスムーズであった

「なん――――

一瞬…体が浮くような感覚
これは…フルークガストカンパニーの扉を開けたような感覚と似ている――つまり空間転移

目の前には、あぁあれよあれよ宝の山。
様々な銃火器と弾薬がぎっしりと並び、広々とした銃鍛冶の店内がそこにあった

「―――たしかにアツいな…俺の心も熱くなる。」

スタスタと棚に立ち寄って手に取る、連射式のピストル
ドーベルW2 彼の愛銃だった…が、名残惜しそうに棚へ戻す
"獣"を相手とるには"口径"が小さすぎる…

「シャーク、語り部からの送りもんだ好きなだけ貰おう。」

いつの間にかリアカーも店内にある
さぁ取り放題だ!

2222とある世界の冒険者:2017/01/20(金) 22:40:22 ID:B.odvDIw
>>2219
続けて、レイヴンの背中を守る様に店内に入る

「なっ」
体が浮く感覚に空間転移を模様したトラップを頭に浮かべる

しかし、行き着いた先で見た宝の山に絶句
「……Wunderbar」
思わずそう言葉に漏らしてしまう

「そうだな」
一先ずは火力と装弾数を多めに取りたい。
そう思い様々な武器を見渡し始める

あの獣を刈る為の銃器を探し始める

2223「ストラクチャー」:2017/01/20(金) 23:12:09 ID:Fej80fDg
>>2222

「弾のリローダーだ、これは貰っておこう。」

ごつい加工器具の様な物を荷台に載せる。
リローダー、薬莢に炸薬などを効率的にこめる器具だ。

「ほう、4タウロス-ストッピングライフルか、おいシャークこれどうだ?」

馬鹿馬鹿しいほどに、でかい口径のライフル銃を持ち上げる
タウロスと呼ばれる、そのへんの飛竜よりも凶暴な巨獣を狩るために作られた口径のライフルだ。
銃弾も専用のもので、名前もそこから引用されている
…正直、普通の冒険には無用の長物だ、発砲音もデカい、弾代も高価、何よりも重い。
"獣"を相手するのなら十分だろう…けれど、取り回しが命取りになりかねない…シャキンならそう感じるだろうか?

「…散弾だ…散弾が欲しい」

数々のピストルや魔銃を名残惜しそうに無視しながら
大口径の散弾の木箱を積み込んでいくレイヴン…ついでと言わんばかりに
その辺のウッドストックとトリガーと撃鉄の機構部分もぶち込んでいく。

「おっこいつは良さそうだな。」

手に取ったのは、比較的すこし古いの散弾
どこぞではラッパ銃なんて言われているような物だ
サブウェポンとして冒険者たちが持っているのをたまに見かける、後は海賊

「これぐらいシンプルな方がいい、代わりのバレルを拝借しよう。」

次々と店の奥へ、その間にも詰め込みまくるレイヴン。
…リアカーは大丈夫だろうか?大丈夫だろう多分

2224とある世界の冒険者:2017/01/20(金) 23:37:12 ID:B.odvDIw
>>2219
「ふむ……」
4タウロス-ストッピングライフルの機構と内部を確認する
この通称〝飛竜殺し〟
通常なら考慮にも値しない武器なのだが
(もし、今後先の戦いの様な化け物がいたら……?)
リグレットの炎獣を思い出す。たしかリグレットは他にも交友関係や仲間が居たはず
そしてそのいずれもリグレットに勝るに劣らずの強者たちである

もし、その強者たちが獣となってたら……?

これは自身の切り札。そして、時間稼ぎとして有効な武器になる

この武器を背中に抱え、弾薬をありったけリヤカーに詰め込む

「ほかには……」
ふと、ある武器に目をやる
リボルバー式の大型ライフル銃である

「これあったのか」
シャキンは驚きを隠せずにいた
確かリボルバー式のショットガンは風の噂で聞いた事があるが、まさかそれの発展形が此処にあるとは思わなかったのだ

内部の機構を金属薬莢に変え、口径を其のままに大型ライフルに形を変えた一品である

「……つかうか」
信頼の無い武器だが、無いよりはマシである。これ専用の弾丸をリヤカーに詰め込み他の武器を探し始める

2225「ストラクチャー」:2017/01/21(土) 00:06:57 ID:fplVq9B6
>>2224

「――マクシミリアン・リボルビング・ドラグーンか」
店の奥から抱えてきた物をリヤカーに乗せ、近寄ってくるレイヴン…
ついでに一回り大きなリヤカーもそばにある、裏手においてあったのだろう
否、彼の今の状態からするとガンナーがふさわしいかもしれない

「銃鍛冶マクシミリアンが作ったライフルだよ、その名の通り炸薬の関係上発火炎がすごくてな
 威力は悪くないが、チェーンファイアを起こしたり、信頼性にはちょっと不安が残る。」

「専用弾以外にも、2-タウロスの口径ならそのまま流用できる…弾倉周りを少し加工(さわ)ったほうが良い
 水竜のオイルと素材が奥にあった、それが使えるだろう」

「お前にしてはらしくないな"シャーク"」

信頼性第一、軍人らしいチョイスをするであろうと考えたレイヴンには意外であったのだろう
しかしながら、箱型弾倉や連射機構を備えた魔銃と比べれば、信頼性はまだ良い方である

「ま、箱型弾倉連射式マシンピストルじゃなくてよかったよと―――…見ろ、面白いもの見つけたぞ」

それはお前が使っていたものだ。とセルフツッコミを考えながら
彼が指差すのは、モンスターの素材の入った木箱だ…名前は――
"ショッキング・メルクーリオ"…金属スライムの死骸である
このスライム、普段は固形だが、衝撃を受けると液体金属の様になりすり抜けてしまう事で有名
死ぬと固形化するものの、衝撃を与えると液体化する性質はそのままだ
熱にもそれなりに強いが、氷には弱い…鎧や剣をつくる鍛冶屋には不要なので、よく錬金術店や魔法店
そして銃鍛冶屋に素材が回される。

「…あれで"水銀弾"を作れる…獣専用のな。」

銃鍛冶に素材が回されるのはそれが理由だ、銃弾への転用である。
通常の水銀弾を製造する場合、法儀式を済ませ聖銀で包み込み…とまぁ非常に面倒くさいのだが
この素材であれば、着弾の衝撃で比重の重い液体金属と化す…当然着弾までの速度は維持したままで…
液体化した結果、面積が大きくなって破壊力が非常に増す…これにより、近年非常に高騰している素材の1つだ。

本来、水銀弾とは吸血鬼やアンデッドなどの"魔"に踏み込んだ者を狩るための物だ
この代用品では法儀式を済ませていないので、彼らには効果が薄い…だが"獣"相手なら?

2226とある世界の冒険者:2017/01/21(土) 00:33:04 ID:vV6cLtN2
>>2225

「そんな名前だったのか……」
自身の持っている武器の名前とその評価にある種妥当だと感じている
此れだけの武器だ、そのレベルのデメリットは当然あるだろうし
無ければ今頃、この形状が主流となっている

「加工か……久しぶりに触るな。上手く行けるかどうか……」

不安はあるものの、それでもやらないよりかはマシである。まともな銃が命をつなげるのだ

「ああ、らしくない」
自身でも思っていたのか直ぐに肯定した

「だがな俺は、俺にはあの炎獣が始まりの合図にしか思えないんだ……」
「今後、もしあのレベルの獣が現れたら?その時、あの銃では勝てないだろう」
それはシャキンの軍人としての理性と本能の部分がそう言っているのだ

「なら常に負けない行動も、軍人のモットーだよ」

信頼性を多少捨ててでも、今は敵に打撃を与えれる武器が必要。
戦うための準備も軍人の仕事である
そして不安に思う今後の敵に関しても


「流石に其れに手を出せる程、俺は柔軟ではないんだがな」
流石に其れに手を出せる程の彼自身の勇気はなかったようだ

「それは……ショッキング・メルクーリオ?」
素材の名前だけは知っていたが、現物は初めて見たようで驚いている
「獣専用の水銀弾……ふむ」
そして水銀弾もまたシャキンにとっては殆ど縁のない弾薬の一つ

ここの知識に至っては完全にレイヴンの方が上回っているのだ
軍人は戦闘の専門家であって、武器、加工部分は一部を除いてほぼ素人である

2227「ストラクチャー」:2017/01/21(土) 01:12:26 ID:fplVq9B6

>>2226

「ある程度手伝える、わからないことがあったら俺に聞け」

「―――始まりの合図…か」

そう、確実に
確実に、今後狩りは凄惨な物となる。
それだけは間違いが無いのだ…

「ありったけ積み込むぞ…おっとこいつもいい…ウェザリーサラマンダーブレス弾」

スライム素材に加えて、焼夷散弾やらなにやらをリヤカーに詰め込み…
結果として二台のリヤカーは満杯…元の『工房』へと帰り道を急ぐのであった。

―――そして場所は代わって無事『工房』
幸いにも、道中戦闘は避けることが出来た…というよりもすぐそばにフルークガストカンパニーがあったのだ。

「…何から何まで、語り部に踊らされてる気がする…まぁ良い」

工房機器を使って作業開始
魔導式とはいえ、派手な音は殆どならない
部品を外す金具の音と、金属を切るゴリゴリといった鈍い音が響き
素材加工の為の魔法器具の沸騰音やマナ反応の反響がするだけだ。

「…なるべく単純な方式のがいい…中折式だ
 炸薬を発火させ、弾を相手へ向けて飛ばす。
 他の部品はそれをスムーズにするための添え物だ…」

「…バレルを増やそう…2本いや3本だ」
「…散弾はなるべく大きい方が良いな、紙薬莢でもいいが信頼性のために真鍮にしよう」
「…連射は必要ないな、一度に3発同時発射だ」

「できたぜ…」

さぁレイヴン君の力作のお披露目だ
大口径の散弾を三角形に重ねた、同時発射型の中折式散弾銃

中身の散弾はショッキング・メルクーリオ製の水銀散弾
散弾の大きさは葡萄の粒ほどの大きさ、鹿が木っ端微塵になりそうな勢いである
そして彼らしくも、いい感じの装飾を施し
腰だめ撃ちを想定しているので、ストックは細いものと金属部品を組み合わせたもの

『とにかく適当に狙って撃ったら、それがえげつない威力』という彼の盲撃ちの性質噛み合った…その名は!

「名付けて、『獣狩りの三連散弾銃』だ」

「―――ひどい銃だ、仲間がみたら『巨人でも撃ちにいくのか?』とでも言われるだろうな」

2228とある世界の冒険者:2017/01/21(土) 01:29:07 ID:vV6cLtN2
>>2225
「あぁ、頼りにしているぞ」

「利用できるうちは利用するまでだ」
険しい表情でソウ呟く。
語り部が此方に対して、今のところは友好的な行動を起こしてくれている
其れが俺達なのか、ラピュセルやレイヴンへの行動かはわからないが……

加工場面にて

「くそ、この部分意外と荒いな……鋳造時のバリか?其れとも、途中で何かあったのか・」
「この部分は……なるほどこの暑さを基準とすれば幾らかの圧力に耐えれるのか」
そう呟きながら


「すまんレイヴン! ここは如何すればいい!?」
マクシミリアン・リボルビング・ドラグーンの部品を片手にレイヴンに聞く
問題の部分はレイヴンに教えてもらいつつ何とか形にしていく


「此れで少しは真面になったかな?」

マクシミリアン・リボルビング・ドラグーンを改良し、信頼性と整備性を向上させた
とは言っても普通のボルトアクション等よりはかなり悪い
一言でいえば「ようやく平均値に近付いた」程度だ

「巨人か……あまり変わらんだろう」
そう言って、自身の武器の調整をしながら笑う

2229「ストラクチャー」:2017/01/21(土) 01:51:56 ID:fplVq9B6


>>2228

「弾倉に水竜素材でカバーをつける…今造るからまっていてくれ」

弾倉の大きさを図り、それに合わせて水竜素材のカバーを製造する。
これでチェーンファイアは防げるはずだ。

「十分だ、この銃にしてはな。」

普通に考えると、目が吹っ飛ぶような額が請求されるだろう…
だが、今ならこれはタダだ

「…そうだな、ひどい銃だよまったく。
ジャイアントハント…危ない狩りだ。」

"銃"は揃った少なくともこれで戦える…
鴉は"刃"を欲しているようだが、ひとまずはここまで

『狩り』の時間は刻一刻と進む…!

To be continued

2230とある世界の冒険者:2017/01/21(土) 02:06:19 ID:3A2llGww
   城下町の商店街
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


「――これで、一通り……かな。」

騎士剣に付いた黒ずんだ血を軽く振って、軽装の騎士が一人ごちた。
……先程まで、巡回の騎士達と共に周辺の「獣」達の駆除をしており、丁度今「それ」が済んだ所だ。

路地裏にでも入ればまたぞろ変じた者が出ては来るだろうが、一先ず今現在、この通りに居た者は全て首を落とした、――筈だ。

数が多く異常なまでの生存力を持つ獣達を狩るのは一筋縄ではいかない。
だがしかし、頭を切り落せば大体の場合は止まってくれる。 だが……。

「(この程度ならまだいい、けど懸念すべきは……。)」

現在、王都内で行方不明になっている人間たちが騎士リグレットの様に【獣】に変じていた場合だ。

仮に彼女並の実力者、あるいは自身が師と慕う人達の【獣】と相対すれば単独で勝利することができる、か。
……技術を宿さぬ獣であればそれも可能だろうが、一度に複数に襲われれば、恐らく命はない。


「(武器は良いとして……薬と、あと仲間がいるな。)」
「――"図書館"に行くまでに、少しでも誰かと合流できればいいんすけど。」


血を振り払った剣を鞘に納め、手元に顕現させていた八卦武装を消失させ歩みを進める。
目指すは、図書館。

この騒動に関わる場所――。

2231とある世界の冒険者:2017/01/25(水) 01:12:15 ID:kSOgnUNk
  王立図書館へと続く道
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


「こ、れは――」

空の高さが変わる、大地からの震動が伝わる。
周囲に満ちていた、魔力の空気が変わる。

「(街が、王都が浮いている……?)」

手元に顕現させていた炎槌と炎剣を消失させ、少し行儀が悪いが家屋の壁を蹴って屋根の上へと。
――そして認識する、間違いのない異常事態を。


「……”なんで”だ……?」

そうしてポツリと呟く。 疑問はどういう原理で、ではない。
”なぜ、誰がどういう目的を持って浮遊させたのか”だ。

――街が浮く事、それ事態は――可能だろう。
少なくとも自分が知る、自分が慕う人であれば間違いなく可能だ。それも造作もなく。

だから重要なのは何故、この場所、この街を浮遊させる必要があったのか。


「餌場……いや、何か、儀式場に……?」
「――図書館も浮いてる――いそがないとっ!」

2232とある世界の冒険者:2017/01/26(木) 00:10:23 ID:x4j5oVzM
 浮遊した王都 ――  王立図書館へと続く道
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「――――ちぃッ!!」

爆音。 次いで建物が崩れ、吹き飛ぶ音。
転がるように逃げ、背から四対深緑の魔力翼を展開。


「……”魔術師の獣”――出るとは思ったけどさ……!」

相対するはローブ"だった”布切れを羽織った四つん這いの獣。
術を紡ぐ事など叶わぬ筈のその口に赤錆びた杖を咥え低く唸り魔力を展開する。

放つのは魔術――だなんて高尚なものではない。
ただ、魔力を火へと変じさせて放つだけの乱雑な魔力放出だ。

然し肉体の限界を、理性の限界を超えた魔力放出は時として、稚拙な術よりも脅威となる。
そう、轟音と共に煉瓦の壁などは容易く吹き飛ばすように――。


「――イスト!ザック!ディロス!」
「参天、結集――石火瞬雷……――トライ・ディザスター!」


騎士は手元に三属性を束ねた魔力刃を。
目指す場所は、程近い。 けれど辿り着いたそこに答えはあるのか――。

2233とある世界の冒険者:2017/01/28(土) 22:05:30 ID:XTb0Djgs

 浮遊した王都 ――  ”分断された地下水路”
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「――ラストぉッ!!」

5m大はあろうかという獣の脳天に雷鳴を纏いし白刃を叩き込む。
直後、突き刺さった白刃に嘶きと共に雷光が堕ち、獣の身体を焦がし――その生命を奪った。


ずん、と大きな音と共に巨体が倒れ込み、大きな水飛沫を上げた。


「ふぅ、――ふっ……」
「……上は大群、下は鼠と蜘蛛牴牾……。」

「もう少しだってのに、回り道かっ……!」

騎士の青年が潜むは、下水を降りた先の巨大地下水路。
……王立図書館の周りには”嫌な予感”がした。

だから、それを裂け――地下を、進んでいる。
確か――裏手に続く、小路があったはずだ。

2234とある世界の冒険者:2017/01/29(日) 08:17:59 ID:Wry2175c


「――――――――。」

水路を進む。
目的の小路へと続く広い空間――貯水槽へと辿り着いた。

ひゅぅ、と掠れた空気音と共に”なんで”という言葉が出掛けたが、それを寸での所で飲み込む。


理解っていた。
この事態が、隣人が、同僚が獣へと転じた時にこうなる結果をどこかで理解っていた。

”器物”とて例外ではない。
いや、むしろこの呪いと悪意渦巻く場で「彼」の様な器物が

だからこそ呟けば力を奪うその言葉を飲み込むことが出来た。

――相対するは、黒色の装甲を赤錆で穢し、全身に重武装を施した、【歩く火薬庫】。

嘗ての、相棒。
此度の戦いで何度呼びかけようとも応えることのなかった――



[-[:=:]


Mtrd-000、メタルゴーレム、メタルド。  ――”重鉄騎の呪人形”。

2235とある世界の冒険者:2017/02/11(土) 23:33:23 ID:SHzw6saw

がしゃあん。
次いで、ばしゃあん。


大きく重い物が倒れる音と、それによって大きな水飛沫が生じて跳ねた音。


「―――――――っ。」
「――っ、――は、っ。」


爆煙晴れればそこには満身創痍の騎士の姿。
左肩からどくどくと血が流れ出てぶらんとぶら下がり、右脚は本来曲がらぬ方向へと曲がり、

その姿は煤に、比較的整った顔立ちは焦げた様な火傷と、血に塗れていた。


ばしゃん。
倒れこんだ身体に先程の物よりは小さく、水飛沫が飛んだ。

「――さ、っすが、に。」
「強い、よなぁ。 ――めた、るどは。」

騎士はそのまま立ち上がらない。……死ぬわけではない。
ただ、立ち上がれない。魔力が、気力が、体力が尽きていた。

地下水路の冷たい水がせめてもの騎士の癒やしとなっていた。 もっともこの現状何が混ざっているかはわからないが、


「――――――”壊さずに”、”倒す”のは。」
「……骨が折れる程度じゃ、すまなかったっすよ……。」


騎士は、”やった”のだ。

世界法則に反する銃弾驟雨を受け、その身を破壊の暴風に晒しながら。
”鉄騎士を動かしていた魔石の全てを砕き切った”。

そうして、メタルゴーレムを――”この後の戦いの中で貴重な味方となってくれる盟友を”、壊さずに、倒しきった。


「(――く、そ、動けね、ぇ。)」
「(もう少し、で、図書館だって、のに。)」

だが、その代償は大きく。
薬も、魔力も、気力も尽きた。 残っているのは――


「……っ、そっ――こな、くそぉ……っ!」

這ってでも進む、遺志だけだった。

2236とある世界の冒険者 A・クロケット:2017/03/19(日) 23:58:14 ID:RRwi32/w
「・・・・・・ふふ」

落ち着きなく肩ほどまである髪を弄りながら、白衣の男が淡い笑みを浮かべる。その視線の先にあるのは、腰ほどまでの高さがある巨大な蜘蛛型の機械だった。

「苦労した・・・実に苦労したよ。今までは『ロビーで静かに』というルールのせいで大型のものは持ち込めなかったが・・・この静音性ならば問題は無い」

よく聞けば微かなモーター音はするものの、殆ど音を立てずにスルスルと動き回る巨大蜘蛛。確かに煩くはないのだが、静かすぎて不気味だった。
研究に足る素材が手に入るかは分からないが、とりあえずは簡単らしいAの入口へと進むことにする。

入ってから少しして、魔物らしき何かと遭遇した。この国は種族が入り交じりすぎていて、見た目だけで敵味方を判断するのが非常に難しい。

「・・・言葉は分かるか?」

念のため話しかけてみるが、何の反応も示さずに飛びかかってきたので全長30cm程の蜘蛛型機械を3機ほど出して応戦する。指示しなくても勝手に働いてくれる機械というのはいいものだ。ちなみに大型マシンの役割は小型マシンを大量に輸送することである。大型も戦えなくはないが、ダンジョンの通路では小回りの効くサイズの方が扱いやすい。
とは言え、小型の機械では馬力が足りずに殺すことは難しい。押さえ込んでいるうちに銃で撃って息の根を止めておく。

「しかし、ゴブリンを抑え込むので精一杯か・・・子蜘蛛にも銃撃機能を持たせた方がいいのかもしれんな」

ゴブリンの死体を前に考え込んでいると、数匹のゴブリンがこちらを覗き込んでいるのを見つけた。何やらゲギャゲギャ言っているが、それが奴らの言語なのだろうか。

「・・・血の匂いで見つかったか」

呟き、銃を向けて発砲。2匹が弾を受けて倒れたが、残りがこちらに向かってくる。

「・・・やれ、《アサシン》」
『御意』

応じたのは大型の蜘蛛。胴体から10を超える数の機械が現れ、ゴブリンを抑え込んでいく。
その間に銃弾を込め直す。あまり自分で戦うのは得意ではないのだが、これ以上のサイズの機械では静音性の確保が難しかったので致し方ない。1匹ずつ撃ち殺していく。
このままここでモタモタしていると血の匂いでゴブリンが無限に湧いてくるので、早々に移動する。死体は壁を爆破して作った穴に叩き込んで埋めた。そのうち赤い花でも咲くのではないだろうか。
別にダンジョンを今日中にクリアしなければならないわけでもないのでそのままロビーへと戻った。歩くのが面倒だったのでアサシンの上に乗せてもらっている。

そのまま本を何冊か取って読み始める。空気を読んだアサシンがゆっくりと広いスペースに移動した。気配りのできる機械である。発明者とは大違いだった。

2237とある世界の冒険者 日暮渡見 乱入可:2017/03/19(日) 23:58:47 ID:RRwi32/w
名前間違えた

2238うさぎ:2017/11/06(月) 03:24:00 ID:a0l8AeZg
tp://ssks.jp/url/?id=1451

2239とある世界の冒険者:2018/07/07(土) 21:13:26 ID:gUdH2KSs
―――王都・とある路地―――

…悲鳴が上がる。

「…」

…悲鳴が上がる。

「…」

………獣の断末魔が上がる。
一人の男が、複数体の獣を相手取り、蹂躙していた。

「…」

それは凄惨たる狩りの光景だった。
それは無慈悲な殺戮の光景だった。
この場に秩序は在らず、ただただ血と狂気の臭いばかりが立ち込めるばかり。
人が獣を狩るのではなく、獣が同胞を手にかけると言った方がきっとしっくりくるだろう。

「…」

だというのに、男の目は死んでいた。
目を背けたくなるような狂宴の渦中にいながら、その表情はさながらまるで幾たびも繰り返された
作業をこなすようで、そこに熱はかけらもなかった。
あっけなく命を奪われた獣たちの悲鳴が響きながら、ある意味でその場は、静寂が支配していた。



しかして、静かなる殺戮の宴もやがて終わりを迎える。

一人その場に立ち尽くす男の表情は死んだままで、返り血を拭おうともしない。
ただその暗く澱んだ瞳で、狩り尽くした獣を見つめるばかり。


「…ハハっ」

…知らず、渇いた笑いが漏れた。



あの日から一体どれくらいの月日が流れたんだろうか。いつの間にか、数えることをやめてしまった。
否、拒否してしまったのだ。あの日を忘れるために。

゛世界は最初からこうだった゛そう思い込むために。

2240とある世界の冒険者:2018/07/07(土) 21:13:55 ID:gUdH2KSs
―気づいた時には全てが終わっていた。戻ったときには全てが変わってしまっていた。

世話になった人も、笑い合った友も…全てを懸けて護ると誓った家族も。

戻ったときには、何も残ってはいなかった。
ただ全てを失ったという事実だけが男の手元に残った。

…期待すれば裏切られる。望めば最悪の返礼を持って応えられる。

胸に抱いた信念は錆びつき、光を信じた心は死んだ。

この身が宿した筈の精霊の力は失われ、クレティウスは輝きを失った。

いっそ獣に堕ちることが出来ればどれほど楽だったであろう

なのに何かが己を引っ張る。この身を人に繋ぎとめる。

ならば捨てよう。希望も、夢も、情も、未来も全て。

ただただ殺そう。獣の悲鳴で、この身に浴びる血で、世界を呪おう。

そしていつか、ゴミのように死のう。己の人生はもう、それだけでいい。

「…あんたの言った言葉はきっと正しかったよ………母さん」

またどこかで、獣の唸り声が聴こえた気がした。




男は、一歩足を踏み出した。

FO

2241ジャック・V・テイラー ◆/yjHQy.odQ:2018/07/10(火) 00:15:14 ID:lM.iNaGo
さて、どれほどの時間が経過しただろうか。
多くの死がそこには散らばり、見ているものは月明かり唯一つ。
その只中に一人立つ、彼の目の前で。
それは、ゆっくりと不可視の魔術を解除し、姿を見せた。


「相変わらずやるもんだね。ここまでの数の獣を立て続けに仕留めるか」

「知り合いなのか?テイラー」

「昔なじみのね。とはいっても顔と名前がわかる程度か……」

「まあ、バッカスの連中はだいたいそんなもんだったっけ。なあ、キョウくん?」


あの頃に比べて肩幅は広く、髪も肩に掛かる程度に伸びているが。
確かにはっきり、バッカスに居た一人であると分かる男性。
ジャック。そう呼ばれていた長槍の魔術師だ。

「お久。元気そうじゃあなさそうだが、壮健なようで何よりだ」

そう言ってジャックは笑う。
まるであの頃のような屈託ない笑顔。
狂気感染者でなければ、それだけで善人と判断されるであろう笑みを前に、彼はどう返すだろうか。

2242キョウ・リーフィンド:2018/07/10(火) 00:34:03 ID:IIUS.pPQ
「…」

―――急な、あまりに急な遭遇だった。
この狂ってしまった王都で人間に会うのは初めてのことじゃない。
迷い込んだ生存者、自分と同じように獣を狩るもの。あるいは…混乱に乗じて空き巣を働く夜盗。
今まで会ったものは全て、男のの姿を見て即座に姿を消した。
恐れを為したのか、気味が悪いと思ったのか。それとも同族嫌悪か。

だがこの目の前の2人組の会話と立ち振る舞い、現れ方。どちらも余りに展開が露骨すぎる。
まるで…そうまるで、最初から自分が目的だったかのように見える。

「…ジャック…だったな」

そう、確かそう言う名だった。別に特別親しくしていたわけじゃないが、
顔を合わせれば挨拶をする程度に顔見知りではある。
そして…かつて友だったものと親しかった、そう認識している。
名を知る者が、この身の前に狙い澄ましたかのように登場する。
驚きが無い訳ではない、感じるはずもない懐かしさを覚えなかった訳でもない。


………だからどうした。

「久しぶり…とでも返せばいいのか?なら確かにいつかぶりだ。
こんな荒れた状況でもなければ茶の一杯は淹れられただろうが…見ての通りだ。
じゃあな」

知り合いがいようと関係はない、この身は既に生きることを捨てている。
吐き捨てたような冗談とともに返した踵は、暗に「関わりあいはごめんだ」と物語っていた。

2243キョウ・リーフィンド:2018/07/10(火) 00:44:52 ID:IIUS.pPQ
「…」

―――急な、あまりに急な遭遇だった。
この狂ってしまった王都で人間に会うのは初めてのことじゃない。
迷い込んだ生存者、自分と同じように獣を狩るもの。あるいは…混乱に乗じて空き巣を働く夜盗。
今まで会ったものは全て、男のの姿を見て即座に姿を消した。
恐れを為したのか、気味が悪いと思ったのか。それとも同族嫌悪か。

だがこの目の前の2人組の会話と立ち振る舞い、現れ方。どちらも余りに展開が露骨すぎる。
まるで…そうまるで、最初から自分が目的だったかのように見える。

「…ジャック…だったな」

そう、確かそう言う名だった。別に特別親しくしていたわけじゃないが、
顔を合わせれば挨拶をする程度に顔見知りではある。
そして…かつて友だったものと親しかった、そう認識している。
名を知る者が、この身の前に狙い澄ましたかのように登場する。
驚きが無い訳ではない、感じるはずもない懐かしさを覚えなかった訳でもない。


………だからどうした。

「久しぶり…とでも返せばいいのか?」


そういってジャックを見つめた男の風貌は…
かつての騒がしくも輝かしかったあの賑わいから、あまりに変わってしまっていた。
「見た目も仕事なんだよ」と苦笑いしながら整えられていた茶の髪は
傷んだ王都の空気にあてられくすみ、ナイフで適当に切り揃えられたまま
獣の返り血を浴びたのか付着して固まってしまっている。
喜怒哀楽を隠そうともしなかった表情は消え去り、死んだように濁った瞳がジャックの瞳をとらえる。

一見すれば正気を失った狩人にしか見えないそれは、
もはやかつての名で呼んでいいのかすら怪しい。


「なら確かにいつかぶりだ。こんな荒れた状況でもなければ、
茶の一杯は淹れられただろうが…見ての通りだ、
じゃあな」

知り合いがいようと関係はない、この身は既に生きることを捨てている。
吐き捨てたような冗談とともに返した踵は、暗に「関わりあいはごめんだ」と物語っていた。

2244ジャック・V・テイラー ◆/yjHQy.odQ:2018/07/10(火) 00:58:26 ID:lM.iNaGo
>>2243
「…………」

感情の見えない、濁った目に見つめられたジャックは、笑みに一匙の悲しみを溶かしたように、わずかに眉をひそめた。
よくは知らぬ男でも、幸せであった頃は知っている。
バッカスに来ていた者たちの顔は、見つめる場所こそ違えど輝いていたはずだ。
街の変質にそのまま巻き込まれて飲まれたような彼の風貌を、誰が笑えようか。
その身にどのような絶望がのしかかっているか知る由もないが、だからこそ。
――だからこそ、彼ほどの人物が変わってしまうほどの喪失を想い、取り繕えぬ部分が顔に出た。


「待ってくれ、俺達は!」

ジャックの傍らの青年が背に声を投げる。
装備は如何にもと言った冒険者の装備。
片手剣と小盾を持った褐色肌の短い黒髪の、風貌幼気な若者は、かつての王都に幾らでもいた冒険者見習いの様相であった。
……やはり、彼もまたあの頃の王都の空気を纏っていた。
ジャックは何も言わず、続けてみなよ、という様子で槍を杖代わりにしている。
意を決する間を青年が作ったのは、やはり初対面であり、並々ならぬ様子のキョウへの恐怖か、警戒心からか。

「……俺たちは、冒険者ギルド【ネスト】のものだ」

「今は地下の旧遺跡区画で、生存者の保護と獣の討伐を並行して行っている」

「人手が足らない状況だが、自分たちなりに王都に対し出来る限りのことをしようと努力しているつもりだ」

「今、都合よく貴方に出会ったのも、警戒網に貴方の戦闘が発見されたからだ……ええと、済まない。監視していたのは謝罪する、だから……」

「深呼吸深呼吸。ゆっくり喋りな」

「ふー……済まない。つまり、だ」

「貴方の敵がもし獣であるならば、より多くの奴らを倒せる機会と、安全な生活場所を提供できる用意がある」

「俺達と共に、【ネスト】へ来てくれないだろうか?」

「貴方ほどの実力者が来てくれるなら、此方も歓迎できる、支援体制だって組めるはずだ」

「……どう、だろうか? 勧誘、というものになる、と思うが……」

青年はややまくしたてる調子で、提案を述べた。
ジャックはやはり何も言わずにパイプを吹かしている。

2245キョウ・リーフィンド:2018/07/10(火) 01:18:20 ID:IIUS.pPQ
>>2244
「…一つ、誤解をしている」

男の言葉に、何故だろう…歩みだした足が止まった。
懐かしい響きだった、困難に立ち向かうものの声だった
絶望的状況下で尚、諦めずに何かを為すものの声だった。
逡巡があったのは己への恐れか、はたまた別の何かか。
しかしそれを抑えてみせる勇敢な…久しく忘れた、いつか聴いていた筈の声だった。

だからなんだと言いたいのに、その言葉に振り向く義理などないというのに。
何故…自分は生真面目に言葉を返そうとしているのか。

「俺は確かに獣を殺して回っている。そんな奴がいれば新たな獣に堕ちる可能性もあるんだろう。
監視していたお前たちは正しい、それを謝る必要はない」

「だが俺は、別に獣を殺したい訳じゃない…ただ、世界を呪いたいだけだ」

己をこんな末路に落とした世界が憎かった。美しかった王都を魔都へと変えた世界が憎かった。
何より…そんな世界で尚のうのうと生き残った自分が何より憎かった。

だから殺す、殺して殺して殺し尽くす。そうして吼えるのだ、「こんな世界は間違いだ」と。

「ただ世界を呪って、呪って…そのまま無様に野垂れ死にたいだけだ。
期待すれば裏切られる。望めば最悪の返礼を持って応えられる。
信じるものは…掬われる。だからもう、何もいらないんだよ…俺は」

それだけの言葉を溢して、けれども先ほど同様に踵を返そうとしないのは、
己へと声をかけたことへの敬意か、義理か、はたまた別の何かか…

2246ジャック・V・テイラー ◆/yjHQy.odQ:2018/07/10(火) 01:54:24 ID:lM.iNaGo
>>2245

「っ…………」

キョウの返す言葉に、絶句する青年。
笑みを消し、ただ無言で彼を見据えるジャック。
失う物が何もないだけならば、言葉を失くすこともなかったろう。
持っていた物を、かけがえのない、大切なものを失った者にのみ出来る、深い絶望の感情を垣間見たから。
一瞬、その悲しみに呑まれて、何も言えなくなったのだ。

見えない力によって変わったことを、世界が憎いと彼は称した。
時代の大きな流れの中で、ときに人はその矮小さに屈し、頭を垂れる。
確かにこの世界で得ることが出来た彼だからこそ……その言葉には重みを感じられた。

「でも……」

でも、と。
青年は続けようとした。
彼の絶望を否定できるはずもなく。
彼の憎悪に肯定さえ向けそうになる。
だが、それでも。
青年は続けた。
ジャックは、初めてこの場で会話を止めようとしたが、すぐに諦めた。
失う物が何もない、奴隷上がりの青年からの言葉でさえ、高いところから落としたような落差を持つであろう。
だが、それでも。
青年は、濁ったキョウの瞳をまっすぐ見つめた。


「――でも、俺は、この街が大好きだった」

「誰かが何処かで笑う街角が、誰かが歌い踊った広場が。今はそうではないけれど、かつてそうだった、この街が大好きだった」

「貴方が世界を呪うのは当然だ。俺にそれを止める権利は無いだろう」

「……出来ることなら、自分自身でやり遂げたいとも思う。だが恥ずかしいことに、俺では、この散らばっている連中の数匹に囲まれたら死が見える」

「テイラーやリーチマンほどの力もない俺が頼むのでは、押し付けがましいと自覚もしている。でも……」

「どうか、もし、叶うならば。その死に場所を、俺達に預けてはくれないだろうか?」

「どうかその呪いの背を、出来る限り支えさせては貰えないだろうか?」

「頼む」

「王都の民には、貴方の力こそが必要なんだ」


――裏切られて、なお手を伸ばし。

――最悪の返礼を経て見据えるは最善の結末。

――掬われ、仰いだ空へ、また誓う。

愚直で、安易で、一直線。
何も持たない一介の冒険者から、総てを喪った男へ提示できたものは、唯一つ。
深々と頭を下げた、潔いまでの一礼のみであった。

2247キョウ・リーフィンド ◆0yDCPvKqi2:2018/07/10(火) 19:29:47 ID:IIUS.pPQ
>>2246
ーーー愚かだった。

知りもしないのに、理解できようはずもないのに、身勝手なまでに此方を気遣い、それでいて己が望みは全うしようとする。
提示できるものはなく、にも関わらず協力しろなどと言ってのける。

此方を慮りながらも譲らないそれは、愚かで無遠慮で…綺麗で、真っ直ぐだった。

あまりに青く若々しいそれは、だからこそ一切の不純物なく、男の殺した筈の心に確かに響いた。だからこそ-


「…ありがとう。………だが、無理だ」


…響いたからこそ、男はハッキリと、断りの言葉を放った。

「この身は既に人であることを手放した、獣にすらなれないナニかだ。
全てを掛けて護ると誓いながら、何も護れなかった破綻者の成れの果てだ」

「この両腕はもう、剣を握ることしか出来ない。お前の期待を、望みを抱えこむつもりもない。俺の痛みを…抱えて欲しいとも思わない。」

「そんなものはもう、捨てたんだ」

男は頑なだった。抱えたものの分だけ弱くなるから?、ちがう。
何一つ持たない自分はむしろこれまでの中でもきっと最も弱い。
それでよかった、強ささえももはや捨ててしまいたかった。
己が世界で一番不幸などと主張する気はない。
ただ、このまま深い深い失意の底に沈んだままでいたかった。
人は少しでも、ほんの少しでも上へと這い上がれば、また落ちる可能性が生まれるのだと、知っているが故に。


信念は錆びついた、心は殺した。

残っているのは無力感と、己自身への憎しみだけ。

「喜びも、悲しみも、痛みも、望みも、怒りも、欲も、過去も、未来も…愛も、かつての誓いも。俺には何も残ってはいない。
もう、なにも拾うつもりはない」

「俺は変わらず、死ぬまで獣を殺す。その分だけお前達の負担と危険が減る。それで充分だろう。
協力者が欲しいなら、探せば俺よりよっぽど役に立つ奴もいるだろう。
そっちをあたるんだな」

もう話すことはないと、再度踵を返した。それでこの出逢いは終わり…その筈だった。


(カランッ)
すっかり傷んでしまっていたからか、はたまた別の要因か。
動いた拍子に男が首から下げていたネックレスが外れ、一つの指輪が転がった。

「っ…ゆび…わ…?」

その時、ずっと無感動だった男の表情が初めて色を見せる。
自覚がなかったのか。己を擦り減らす日々の中で忘却の中に置いてしまっていたのか。
その表情は「何故こんなものが」と言っているようで。
動くことも出来ないままただ呆然と、転がり続ける指輪を眺めていた。



…偶然か、必然か。荒れた地面の上でも綺麗に転がり続けたそれは、二人の足下でその回転をやめ倒れた。

円環の裏側にはただ一言

「貴方とともに」

そう、彫られていた。

2248ジャック・V・テイラー ◆/yjHQy.odQ:2018/07/11(水) 01:22:23 ID:any2kqaA
「…………」

頭を上げても、顔は俯いたまま。
青年はそのまま、キョウの独白を聞いた。
どのような答えであっても、それは青年の主張を受け止めた上での返答。
それを否定することも、棚置くことも、青年には出来なかった。
彼を尊重するがゆえにこそ、死を望むのであれば、それをさえ否定しきれない。
若さゆえの愚直さが彼の心を揺さぶったなら、今彼に心を押さえつけられているのもまた若さゆえの弱さだった。

ジャックはフードを被り、同じように聞く【ふりをした】。
【深淵改基(カスタムアビス)】、自然魔術の一種である【回帰魔術】を応用した認識希釈の擬態法。
この時点でジャックは切り替えていた。
キョウを捕らえる、という方針に。

ジャックの中でのキョウは、判断の正確な理性的人物であった。
今会話している彼の中にもそれは感じられる。
だからこそ分かってしまう、言葉では足り得ぬあと一歩。
このまま彼を揺さぶり続けても、彼を立ち上がらせるには至らない。
確信めいたものがあった。

(ま、ここまでか)

(ニクスを連れてきたのは正解だった。以前のキョウくんであれば、とも思ったけれど)

(以前のキョウくんがあるからこそ、駄目なこともあるもんだ)

最悪は、避ける。
少なくとも、ここでの最悪は【キョウとの離別】。
少しでも抵抗し、世界に一矢報いた上で終わりを迎えたいという彼の唯一の望みの成就であった。
たとえそれが、青年の努力への裏切りであっても。
自分自身の、キョウへのシンパシー……痛いほど分かる同調への反逆であっても。
死なせる訳にはいかない。
いつからだろう、そういう選択が【出来てしまう】大人になってしまっていた。


槍は構えない。
完全に回帰が完了した瞬間、瞬動からの狂気展開で抑え込む。
今の、少なくとも疲弊の残る彼ならば、まだ。
そう、考えを積み上げていた……次の瞬間。

「あ……!」

(え)


それが、全部崩して散らかしていった。


転がってくる、指輪。
すぐ足元まで、導かれたように転がったそれを見て。

「槍、よろしく」

「わ!」

ジャックは、魔術の基幹である槍を手放して。
転がり込んできた、それを拾い上げる。


「……参ったな」


咎められたような心地。
完全に意表を突かれ、毒気も抜けた。
――了解、手出しはしない。
そう心に誓い、ポケットのハンカチを取り出し、指輪を磨きながら。

キョウの方へと、歩みだした。

2249キョウ・リーフィンド ◆0yDCPvKqi2:2018/07/11(水) 12:23:57 ID:dkUCUXag
>>2248
青年の思いも、ジャックの狙いも、そしてその撤回も。男にはもはや推し量る余裕すらなかった。

意識は転がり落ちたかつての願いに。
拾い上げられた誰かの気持ちに集約していて、目を離すことが出来なくなった。

(何をしている、あんなものはもうどうだっていい筈だろう。
話は終わったんだ、このまま立ち去ればいい。)

頭はそう訴えかけるのに、体が動かない。

あれを受け取ってはいけない。自分の中の何かが崩れる…否、凍り付いた筈の熱が目を覚ます。
感情なんていらない。妻の事も娘のことももうどうだっていい。
自分を取り巻く一切合切は切り捨てた。
後は壊れた人形のように、粉々になるのを待てばいいだけだ。

期待すれば裏切られる。望めば最悪の返礼を持って応えられる。信じるものは掬われる。
だからなにも持たなければいい。
表にも裏にもならずに在ればいい、それでいい筈だ。


それなのにー

(何故、この体は動かない…)

(なんで、彼女のすがたがチラつく…!)

結局男は動かないまま、何かを堪えるように表情を歪めたままで。
ただジャックが自分へと歩み寄るのを待つことしかできないでいた。

2250ジャック・V・テイラー ◆/yjHQy.odQ:2018/07/12(木) 01:17:13 ID:oHCz5lUo
>>2249

「かつての誓い、ってさ。さっき残ってないって言ったけど」

「誓いは、一人でするもんじゃあないだろう?」

「どうやら――まだ残っているものがあるらしい」

キョウの目の前に、ジャックは立った。
魔術で構成された回帰のローブは散り、光の粒になってゆっくり消えていく。
そんな様子には目もくれず、ただ磨き上げた指輪にのみ視線を落としている。

ニクスはその様子をただ背後から眺めていた。
何もしないと言うよりは、何も出来ないと言った様子だ。

(大丈夫だろうか……ああ見えてテイラーはひどく短気で粗暴な面がある……情緒と脚の神経が繋がっているからな……不安だ)

そんな彼の心配を他所に、ジャックは手のひらに乗せた指輪を、ゆっくり、キョウの前に突き出す。


「……君の言い分はごもっともだ。俺もこのクソッタレの王都を見て、思うところは積むほどある」

「今すぐに答えを決める必要はないよ。その結果が変わらないままでもそれは間違いじゃない」

「君の喪失は、君だけのものだ。それにどう向き合っていくかも、俺達は尊重【しなくてはならない】。そう思っている」

「ただ警戒対象である以上、目下の答えだけは聞いておきたい。三十分後……【酒場バッカス】で待ってる」

「あそこは色々と便利でね。緊急用の避難拠点としてまだ使っているんだ」

「来てもいいし、来なくてもいい。ただし……俺達は君を待っている」

「じゃあ、行こうか。ニクス」


指輪を受け取ってもらえたか。そうでなくとも押し付け返して。
踵を返す背中は、またたくまに薄く掻き消え、気配も無くなった。
ニクス……そう呼ばれた青年もまた同じように呑まれたが。
その真っ直ぐな視線だけは、ずっとキョウの方を向いていた――……

2251キョウ・リーフィンド:2018/07/12(木) 01:44:13 ID:BEdqpimM
>>2250

「…」

残ったものなんてない。向き合うつもりもないし。同調を求めているわけでもない。
鼻で笑ってやりたかった。笑って、「なんだったらくれてやろうか?」と。
そうしてやればこの二人の目もいい加減覚めるだろうと。

そう思ったのに。

「っ………」

言葉は出ず、笑うことも出来ず。彼の言葉さえもう耳に入ってこない。

ただ指輪を渡されたまま、2人が消えていくのを眺めることしかできず

そうして男は、独りぼっちになった。


「…残ってるものなんてない。そうだろう…?」

そうして漸く、掌にぽつんと残された指輪を眺め誰にともなくつぶやいた。
応えるものなどいない、そんなことは最初から分かっている。

(必要もない、答えななんて…決まってるじゃないか)

この指輪を捨てればいい。きっとそれで…今度こそ、真に独りになれる。

全てを捨てて、深い深い闇の底に浸っていられる。
きっと清々しい気持ちで死を迎え入れられるだろう。

そう思って指輪を握り込み―


男は膝を折った。


「………ぁ…ぅ…っ」

小さな嗚咽と共に、何かが流れ出す。
瞳から、閉ざした筈の心から…遠い記憶の彼方から。

―無茶しいなのはわかってるけどさ。この年で未亡人は嫌だーって思うわけで

―死んじゃだめだよ!

―君が嫌だって言うまで傍にいるから。だから―

「…っう…っぐぅ…」

わかっていたのだ。自分が望まれていたことぐらい。
あの小さな優しい輝きの中で、生きてと願われていたことぐらい。
いつだって、あの人達の想いに包まれていたことぐらい。

死にたかった。彼女たちのいない世界で生きていける筈なんて無かった。
狂ってしまいたかった。いっそ彼女たちの事を思い出せなくなるほどに。

信念は錆びついた。心は殺した。望むことをやめ、未来からは目を背けた。
悲しみも喜びも痛みも望みも怒りも良くも過去も未来も捨てきった。


それでも…かつての愛を、誓いを、願いを…彼女たちの想いを

゛裏切ることだけは、したくなかった゛


「…デニス…クンツァイト…っ!」

不気味な月が照らす王都、一人のちっぽけな男の涙と声が染み込んでいく。

それは小さな叫びで。

呪詛のようにも、悲鳴のようにも、怒号のようにも、懺悔のようにも聞こえた。

2252ジャック・V・テイラー ◆/yjHQy.odQ:2018/07/12(木) 16:39:52 ID:oHCz5lUo

――それから十数分後――


「テイラー、備品の棚卸しが終わった。計算を確かめてくれ」

「はは……もう機能してないのに棚卸しとはね。ま、それでいいけど」


バッカスであった場所に腰を据え、簡単な食事と整備をする二人。
ここは緊急避難所として今は回復役や補修用備品などを置いて、ネストが管理している。
どういうわけか万引きや食い逃げ対策の高度な魔術がまだ残っているらしく、火事場泥棒などにも荒らせない便利な場所になっていた。
とはいえ獣に入り込まれるとそうも行かないらしく、そういった意味でも魔術的な隠蔽と補強は欠かせなかった。

「うん、OK。間違いはないね」

「やはり補強材と火筒の消費が激しいな。俺もよく使うから分かるが、在庫を増やしておいたほうがいいんじゃないか?」

「用途と作業台の様子からまるまる使ってるわけでもなさそうだな……ゴミ箱ゴミ箱」

「んー、火筒の素材だけ置いていったほうが良いかも。補強材と組み合わせて中身を別の用途に使ってる人が多そうだ」

「火矢とかか?」

「盾に仕込んでるんだろう。食らうと爆発して相手を燃やすのさ」

「危なくないか……?」

「戦うつもりがそもそもないなら問題ないんじゃない?ここに来る人達が優秀だって証でもある」

「戦闘を最小限に抑えるための備え、か」

「囲まれることが何より危ないからね」

「確実に生還する判断力と技量の結実だな……尊敬する。俺ももっと精進して皆の役に立たなくては」

「はは、そう気負わなくても大丈夫さ。お前さんの師匠だって…………」

「テイラー?」

不意に、ジャックが立ち上がる。
固いパンを口に詰め込み、ゆっくり出口に歩いていく。
ニクスは、その様子から何かが起きたとまでは察せられたが、その内約までには判断が及ばず。
ただ彼の後ろで剣と盾を抜き、備えるのみにとどまった


「成る程、確かに盲点だ」

「いくら強化しても、隠蔽しても……【元々知っている相手には意味をなさない】、当然だけど」


『赤子が……泣いている……』

『其処にいるんだろう……?』

『ずっと探していた……』


「これがあるから嫌なんだ……この街は」

「顔見知りを殺さなきゃならなくなる」


『獣は……殺さなきゃ……!!』

「もうお前が獣なんだよ、バァァーーーカ!!!」

「テイラー、狂気漏れてる!!」




――遠方からでもはっきり分かる爆炎。
バッカス周辺の家屋に立て続けに走るそれは、激闘の証明。
待ち合わせの時間を待たずして、狼煙は空の向こうの宇宙に伸びた。

2253キョウ・リーフィンド ◆0yDCPvKqi2:2018/07/12(木) 21:01:57 ID:h.WIcWXw
>>2252
「っ!」

一体どれほどの時間そうしていただろうか。

男は独り膝を折ったまま、まるで祈るように、かつての想いを必死に抱き締めるように。
両の手で包み込んだ指輪を胸に抱いたまま、静かに涙を流し続けていた。

そんな時、確かに耳に拾った遠くの音。

異常が起こったと知らせるそれに顔を上げれば、魔境と化して久しい王都の中でもその方角には見慣れない真新しく立ち昇った煙が一つ。

記憶を辿らずともわかるかつて栄華を誇った酒場の側に上がっているのであろうそれは、先の二人に何かが起こったのだと簡単に推察させた。
立ち上がり考える。行くべきか、それとも見て見ぬ振りをするのか。

「…今更だ」

-認めよう。この身は確かに捨てられないものがある。
死を望んでいるにも関わらず、同時に死ぬわけにはいかないという矛盾を抱えている。

だからと言って、面倒ごとに関わらなければいけない理由には…なり得ない筈だ。

そもそも自分が行く意味などあろうものか。
ニクスと呼ばれた青年は未熟かもしれない。
だがジャックが強いということは、戦う姿を見たわけではないものの、彼の出で立ちやかつて友が口にしていた彼の話を聞けば充分に推察できる。

そもそも自分には関係-


…本当に、あの二人が自分には無関係だと。

ソウイエルノカ?

「…っ」

己の不甲斐なさに思わず歯をくいしばる。

わかっている。行くべきか行かないべきか、悩んでる時点で答えなどとうに出ていることを。
だがいけば、本当にもう無関係ではいられない。

その行為の意味があろうとなかろうと。
己が心情を取り繕おうと、どんな理屈を並べようと。

"キョウ・リーフィンド"が二人を助けるために駆けつけたという事実だけは動かないのだから。

「………まだ…間に合うだろうか…」

今行われているであろう戦闘ではなく、かつての自分を想って、小さな呟きが漏れた。

信念は錆びついてしまった。心は閉ざされてしまった。
望みなんてものは持てず、未来へ目を向けられそうにもない。
かつてこの身を包んだ精霊の加護は消え、クレティウスも輝きを失ってしまった。

そんな自分でも、もう一度誰かを-



月明かりに照らされたのか、指輪が鈍く光った気がした。

「………そうだな。俺は何も、成長してない」

-我儘で自分勝手なだけのただのガキだ-

いつかよく言っていた口癖を思い出す。

格好をつけるのはやめよう。
取り繕うのは終わりにしよう。

何も護れなかった不甲斐なさも、生き残ってしまった自分への憎しみも消えそうにはない。
死を望む気持ちは変わらず、かつての熱も取り戻せず。
前を向くこともできず、どうな風に笑っていたかさえ思い出せない。

「それでも…それでもっ」

-見知った誰かの命が失われてもいいなどと思ったことは、一度だってなかったのだから!



見据えるはまだ見ぬ異常。
想うは彼らの無事。
抱くのは一欠片の決意。

前を向くことは出来ないと悲観した男の脚は、
それでも前を向いて走り出した。

もう…止まることはなかった。

2254ジャック・V・テイラー ◆/yjHQy.odQ:2018/07/14(土) 01:17:34 ID:2/.XGQKM
「シィヤァァッ!!」

跳躍からの振り下ろしが、獣を安々両断する。
斧槍の刃は地面に切り込んだ瞬間、爆炎を生んで群がる獣達を焼き払った。
しかし、明らかにダメージが少ない。
怯みはすれど、すぐに爪や間に合わせの武器を構えて、ジャック目掛け攻撃体勢を取る。

「っと……ラァッ!!」

垂直の跳躍。我武者羅に特攻してくる獣の頭上で槍を構え直せば、薙刀状にそれは変質。
更に飛びかかる幾多もの獣目掛けて振り付ければ、一陣の突風が向かってきた全てを薙ぎ払い、散らせた。

「テイラー!!」

「来んな! 自己防衛優先!」

時間差で飛びかかってくる三方向からの追撃。
一匹目、上段。
二匹目、振り返りつつの後ろ回し蹴り。
三匹目、食いつかれる……が、狂気に変質した腕を盾代わりに、膝を顎へ三発。
追撃のストンプで頚椎を砕く。足元の石畳ごと。

「チッ…………!」

槍を構え、次を待つ。
周囲は完全に獣に取り囲まれている。
その上、その個体戦力はどれも明らかに【向上】していた。
先程風で吹き飛ばした連中などはもうほぼ傷を治癒し、機を見計らっている。
明らかに異常な、統制さえも思わせる能力強化の軍団。
その理由は、バッカス向かいの家屋の屋根の上。

旗槍を構え、喇叭を高らかに響かせる、一人の青年の姿にあった。

「このパターンは……無かったわけじゃあないが」

「今まさに、味方にお前がいたらって、思わなくもないよ。」

「――なあ、ウィーグ」


ウィーグ・アライアンス。
現在ジャックと対峙するその男は、砲槍と呼ばれる特殊な魔砲を武器にする【ネスト】のギルド構成員だ。
ジョブ、と呼べるものがあるとするなら、【旗手】。
戦場において常に味方を鼓舞し、特殊な魔術の喇叭で全体に強化の魔術を展開する切り込み隊長であった。

彼は正義感が強かった。
彼はこの変わり果てた王都で常に何を為すべきか、そのことだけを考えて生きていた。
そして、【何も成せなくなることをひどく恐れ続けた】男でもあった。
ジャックが知りうる限り、獣化の兆候が出たのは一ヶ月前。
第二段階の確認が取れた時点で収容されるところ、物資輸送任務の帰還の中途で離脱し行方不明になっていた。

危うい男でもあった。
周りに頼るということを避けるように生き、何かに頼らせることを喜びとしていた男だった。
生来の明るさとは反する【他者の支えになれる自分にこそ生きる価値がある】といった暗さを持つ男だった。
判っていてそれを指摘しようとしなかったのは、彼が自分の弱みに触れられることを嫌がる性質であったからだ。
故に彼は恋こそ多かれど、長続きがしない男でもあった。

……そういった、【完璧ではないが善良であろうとする人物】が容赦なく引きずり込まれるのが、この獣の夜だ。
痛いほどよく分かっている。
もう何度見たかしれない状況だ。
だが、納得などし得ない。
彼は、こんな姿になってしまうほど、罪深くはなかったはずなのだから。

「さて、そろそろチャージがたまる頃かい?」

「来るんなら来い。こっちも全力でやってやる」

『喋るなよ……獣がァァァっ!!!』

「どっちが、獣だよ!!!」

2255キョウ・リーフィンド ◆0yDCPvKqi2:2018/07/14(土) 19:18:08 ID:jW6kJb5Y
>>2254
-一切の油断を許さない状況の中、遠くからその渦中に向けて走る姿が一つ。

その足取りに迷いはなかった。その瞳に諦観はなかった。
やるべきことを決めた思考はいつ以来になるかと思うほどクリアに、冷静に状況を分析する。

(囲まれているのかっ、出来れば敵陣を乱して戦線を立て直してやりたいが…)

瓦礫や砂塵、薄闇といったもので見通しの悪い中、それでも遠目から戦況の大体は理解することが出来た。
遠方からの大魔術で奇襲をかけてやれば、状況を整える隙ぐらいならば充分に作ることができるだろう。

しかし、目を覚ましてからここまでに既に三回の戦闘を経ている。
一発で済む保証などどこにもない中、消費の激しい大魔術の使用は避けたい。
兎に角思考を巡らせながらも速度は緩めず、己の戦闘範囲まで近づくしかない。


それよりも-

(それよりも、この違和感はなんだ…?)

獣の動きがあきらかに違う。おまけに無駄が少ない、あれではまるで本当に狩りのようだ。
理性持たぬ獣に似合わぬ統制の取れた動き、加えて一個体ごとの動作も今までとは違うように見えるのは、果たして気のせいなのか?

(違和感があった時、そこには必ず理由があるはずだ。
奴らがこれまで殺してきた奴らと姿形は似ていても別の何かなのか、それとも)

走りながら上を見上げる。屋根の上には獣への殺意を吼えたてる、同じモノへと堕ちてしまった何者かが一人。
なんの意味があるのか喇叭を吹き鳴らしては叫んでいるものの、通りの戦場に直接は加わろうとしていない。ならば-

(奴が統率者かっ)

あの喇叭の音が獣を鼓舞しているというのならそれを叩けばいいのだろうが、そういった手合いはそれこそを簡単にさせてはくれないもの。
二人ともまだ保つだろうが、奇襲に失敗して手こずってる間に取り返しのつかない一撃を受ければ全てが台無しになってしまう。

己がこの状況における不確定要素、異物であるならば、真正面から戦況に加わるのは上策とは言い難い。

が、こちらにとっても不確定要素が多すぎる。
敵の戦力・戦術、それに加えてジャックとニクス。
双方の基本的な戦法にも自分は決して明るくない。
ならば、先ずは増援がある事を知覚させた方がいい。先のことはそこからだ。

そう決めて真っ直ぐ、ただ真っ直ぐに戦場へと走りこんだ。

2256ジャック・V・テイラー ◆/yjHQy.odQ:2018/07/15(日) 01:34:09 ID:jffhDqK2
――低く、彼方まで響く振動。

(防御音、範囲は複数、持続式!)


スクラム……に見えるがただ一列に並んで突貫してくる獣達。
音が聞こえた瞬間から効果を感じ取り、対応した魔術を練り上げる。
ウィーヴの術は魔具由来のもの故に、知っていれば探知が出来る。
しかし指揮される側が獣では、なかなかに挙動が厄介であった。

「強化じゃ間に合わないな……【二重詠唱】【星架解除】【退禍開始】」

喇叭が聞こえて、陣形が組まれ、攻めて来るまでに十秒弱。
槍に付与した属性強化を解除し、代わりに属性弱化魔術を展開。五秒。
仕込みの魔術を詠唱しつつ槍には魔力を込め、精霊に全て任せたテンプレートの構成を開始。七秒。

(間に合え……!!)

祈るように地面へと、右手へ精製した漆黒の杭を投擲。
突き刺さるのとほぼ同時に槍を足元へと刺し、精霊魔術を解放した。

「【アースクエイク】!!」

すると並んで襲いかかる獣たちの足場が突如として砂状に崩れ滑落。
弱化した石畳に地属性の魔術を与え、その影響を大幅に変質させる回帰魔術の一端によって、流砂を生み出す。
飛びかかろうにも安定しない地面に足を取られた獣へ、照らすように輝く稲光。

「【サンダーボルト】!!」

二重詠唱、自身が詠唱していた魔術をぶつければ、回避もままならぬまま直撃を受け獣達は為す術無く弛緩しゆっくり沈んでいった。


これで、一割の獣が減ったのみとなる。


「ニクス、調合段階は?」

「まだ白樺の羽根を磨っている。しばし待ってくれ」

「了解。待ってる」

「再三で済まない。撤退は?」

「出来ない。ここは死守する」

「分かった、意図は後で聞く」

「悪いね。付き合わせちゃって」

「任せろ。頼られるのは好きなんだ」



次の獣が、支援を受けて動き出す。
その瞬間、獣が一斉に一点を見た。

「!!」

そこには、身を翻し戦場へと急行する、一陣の風。
否、先程別れたキョウの姿が、確かにあった。

「こっち来る……のか……?!」

ジャックは一瞬迷った。
しかし獣は迷わなかった。
一番近い場所から数匹、牙を剥いて迎撃に出る。

それだけじゃない。
ウィーヴもまた、片膝を突いて旗槍をキョウに向け、狙いを定めてみせた。

「まずい……!」

「キョウ!!翔べ!!前だ!!!」

2257キョウ・リーフィンド:2018/07/15(日) 01:57:51 ID:HLhGEGHM
>>2256
―――自分の選択は、果たして正しかっただろうか。

獣の索敵範囲は、キョウが想定していたよりもはるかに広かった。

(もう気付くか…、だが、幾体かだけでも2人から気を逸らせたならそれはそれで上々)

数体程度の相手ならばまだそう苦ではない、充分に迎撃可能な範囲。

走りながら風を展開する。
体から迸る大気は身を包み、体が軽くなってゆく。
この身は一迅の風へ、この身は大気の槌へ、この身は大気の刃へと。

その時、視界の端に収めていた獣と化した男の行動が目に入る。

(槍をこちらへ…つまりっ)

「遠距離攻撃かっ!」

現状まだ男との距離はそう近いという訳でもないというのに、迷いなくこちらを狙う槍の矛先。

敵陣へとまっすぐ突っ切ることを選択したのは己自身だが、
相手の見えない手札は出来れば余裕を持って見切りたかったのが本心。
獣を相手取りながら受け切れるのか、躱すとしてどちらへ躱す。

(ただ獣を統率してるだけじゃないだろうとは思ってたが、
屋根の上に陣取ってるのはそれが理由かっ)

高速に回転を始めようとした頭に、ジャックの声が響いた。

「前っ」

靴型へと形を与えた己がリバイバルプレートに充填しておいた風。
それを噴射することにより、その身は更なる高速の戦闘を可能とする。

(軽くでいい…まだ全力を使う瞬間ではない)

そう軽く…迫る獣を突っ切るくらいで充分だ。
思えば…誰かの言葉に身を委ねるというのは、久々だな―

刹那の折そんなことを考えながら、キョウの体は。

ジャックの言葉通り迷いなく前方へと、文字通り翔んだ。

2258ジャック・V・テイラー ◆/yjHQy.odQ:2018/07/15(日) 03:00:30 ID:jffhDqK2
>>2257

「いい子だ……!!」

槍に再び回帰魔術を展開。
十分間に合う。距離も上々。
獣はあくまで【壁】だ。
あいつはそういう戦術を取る、だから【跳ぶ】必要があったんだ。

「【ノトス】!」

特殊な魔術であった。
本来、風魔術を発生させる際、【媒介】として機能させる単元の発現。
ただただ魔力に満ちた厚みのある突風。
風の津波と形容できようそれをキョウの方向へ放った。

それが眼下へ吹き付けた瞬間、キョウはきっと【落ちる感触】を失うだろう。
風の力を用いたリバイバルプレートであれば、その満ち満ちた風は足場としては余りある密度を持っている。
獣達もダメージこそ無いが、その厚みの前では跳躍など不可能。
悠々と……其処まで余裕はないが、確かに壁を超えて、攻撃を回避する猶予を生める足場を彼は手にしていた。


『HEランス……ファイエルッ!!』

そして、キョウの回避行動が終わった瞬間、先程までいた場所へ放たれる魔砲。
着弾と同時に、ノトスの空気層諸共吹き飛ばす爆炎が、広範囲を紅蓮の炎に包み込む。
だがウィーヴの表情は苦々しい。
狙った得物は、想像を遥か超える速度で離脱し……



「やっ、待ってた」


彼の指揮する軍団の只中。
今、憎き敵の一員と合流を果たしたのだから。

2259キョウ・リーフィンド:2018/07/15(日) 03:25:59 ID:HLhGEGHM
>>2258
………不思議な感覚だった。

そも風に全てを捧げてきた男。
限定的ではあれど、時に風の力場を産みだし足場として
空中を駆けたこともないでもない。
それが今、ほかの誰かが生み出した風に乗って、空を゛迅っている゛

今更誰かを頼りにするつもりも、必要も感じていなかった身…それでも思う。

(なるほどこれは…悪くない…良い感覚だ)

そうして遅れてようやっと歩み出した心を後押しするかのよう。

空を駆けた身体はジャックの傍へと降り立った。

「待たせた…とでも言えばいいのか?」

そういってジャックを見つめたキョウの表情は、先ほどと何かが大きく変わった訳ではなかった。

再会を喜ぶ素振りもなく、状況に間に合った安堵感もない。
笑顔の一つ見せることは無く表情は乏しいまま

ただ、ここまで必死に走ってきたのだろう。
額からは汗が流れ、息も少し上がっているのか肩が上下している。

何より。その瞳は暗いものの、死んではいなかった。

ただそれだけで、この男が今なぜここにきたのか推しはかるには充分だろう。

「とにかく、奴らをなんとかする。話はそれからだろう、ジャック」

2260ジャック・V・テイラー ◆/yjHQy.odQ:2018/07/17(火) 02:52:11 ID:mUgzwk9I
>>2259
その様子を茶化すこと無く。
流す汗を揶揄すること無く。
側に降り立った瞬間、槍を構え直す。
ジャックの衣服はところどころが焦げており、あの魔砲に晒されたのは言うまでもなく。
しかしながら周囲は砂化、壁化、凍結に緑化と、散々に暴れた様子が見て取れた。



「あれはウィーヴ・アライアンス。ネストの構成員で、今は獣化真っ最中」

「手の喇叭で周りの【味方と認識した対象】に強化魔術を撒き、自分は前衛をしつつ、手の砲槍で時々撃ち込むってやり方が得意」

「テイラー、キョウ!来るぞ!!」


ジャックが説明を始めてしばらく、二方向から襲い来る獣達。
ジャックはキョウの方も向かなければ言葉も辞めない。
凌げ、あと聞き続けろ。
無言でそう要求していた。


「強みは本人の強化魔術。全体にかける際、微小な音分けで自分に防御魔術を付けてる」

「だから盾がなくても吹きまくったアイツは全身がアホみたいに頑丈。もちろん今は吹きまくった状態……と」

振られた武器を弾くと同時に微細な脚さばきで距離を詰め、一突き。
背後から迫る敵には石突で顎をカウンター気味にかち上げ、振り向きざまに急所二連。
キョウは見ていたかわからないが、キョウが来てから明らかに戦い方を細々しい技量重視に変え、的確に減らす戦術に切り替えていた。


「それと砲槍は何もしなくても魔力を充填して撃つタイプで、撃ち分けは三種類」

「定点焼夷のF、広範囲榴弾のHE、極小範囲貫通のAP。とりあえずこの状況で絶対に【APは撃たせたくない】んで……」

「テイラー、出来たぞ!」

「じゃ、そろそろ反撃と行こうか。キョウ!」


「雑魚は狩り飽きたろ? ウィーヴ、任せていい?」


飛びかかってきた獣の爪の一振り。
槍を手放し、マナコーティングの迎撃蹴にて更に高く打ち上げつつ。
バッカスの入り口前バリケードの後ろのニクスが声を上げた。
その手には、奇妙な筒とシリンダー状の何か……?

2261キョウ・リーフィンド:2018/07/17(火) 20:12:32 ID:izA.W5Lc
>>2260
現状までの経緯を確認する必要はない。
身体の状態を確認する必要はない。
知りたいことは瞬間視界に捉えた情報で充分に知れた。

2人の戦意は未だ衰えず、状況は可でもなければ不可でもなく。
容易でなければ、また難題でもない。

…難しいことではない、ただ己の為すべきことを為せばいい―


「我が歩みは風と供に。我が心は風と供に。
我が身はあるがままに」

「故に、ただ空をゆくままに」

言葉を紡ぐ。己は大気そのものであると。
この身は風に捧げられたがゆえに、既に人には非ず。

「我が身が振るう一撃、そのまま大気の怒りと知れ」

吹き荒れ収束した風のうねりは、キョウの体を包み込む。
人の形を持ったまま、その身は大気の化身へと。


一体目、こちらから三歩詰め寄る。
横薙ぎに払われた攻撃を屈んで躱し左足からの下段突きによる足払い。
体勢を崩したところ一度右手を軸に回転を加え低い体勢から右足突きあげによって顎を蹴りあげる。

微細な時間差で二体目、一体目を蹴りあげた勢いそのままに右回りに反転。
突進からの直線攻撃に右足足刀を合わせ勢いを殺す。
膝を折り返してからの前蹴りを顔面に浴びせさらに二歩、踏み込みから左手の寸勁で吹き飛ばした。


…「仲間だったのか」とは問わない。今更そんなことに意味はない。
あれは既に堕ちている、どうしようもない程に。

ならばやるべきことは一つ。
゛今、この時を切り開ぐ
そのための情報に、迫る敵意に対処しながらも耳を傾ける。

(音響魔術の使い手か、加えて既に自身への防御強化は重ね崖されている状態。
…だが、一度かかれば無期限というわけではない筈だ)

(ならば話は分かりやすい、奴の喇叭を止めればいい。
容易いことではないかもしれないが、同時に不可能な事でもない)

(砲撃は謂わば普通の砲撃、広範囲への爆撃、集中型の熱線…といったところか)

(撃ち出しに隙があり射線もわかりやすい。
照準を合わせるのも軽快にはいかないでだろう点を考えればその熱線が最も躱しやすくあるが…。)

(何か、理由があるんだな)

三体目、背中からの飛びかかりを振り向かないままサイドステップで回避、
勢い余って晒した背中へ踵落とし食らわせる。
地面へ突っ伏した体を風の力で強引に蹴り上げ、投げ出された身体へ渾身の右掌打をたたき込むと同時、
視線にチラとニクスの方を入れる。


彼が何らかの準備をしているのは気づいていた。
ジャックが何かを待っていることも。

2人の会話とジャックの言葉で、その狙いを知る。

―此方に迎撃の用意あり、お前は頭を叩け―

そう言われたのだと、認識した。

「…了解したっ」

目前に迫った獣は退けた、周囲に展開する奴らは任せていい。
なら後は簡単だ、自分が旗手を止めればいい。それで戦況は覆る。

理解すると同時、跳び上がりこちらへ飛び出そうとした一体の顔を踏みつけ、
リバイバルプレートから風を射出し更なる跳躍。

旗手にして射手、討つべき会田のいる屋根へと向けて、戦線を離脱した。

2262ジャック・V・テイラー ◆/yjHQy.odQ:2018/07/18(水) 00:47:46 ID:tyr41DME
駆け抜けたキョウを幾匹かは追おうとしたが、追いきれぬと見るや包囲に戻った。
やはり獣の狙いは【酒場バッカス】にあるようだが……何も重要な要素は感じられないだろう。

「やはりここ狙いか……」

「ウィーヴが覚えているのがそのくらいなんだろうさ。もう相当進行が進んでる」

「まだ人の形は辞めないだろうけれどね……今ここで始末してやらなきゃ、まずい」


『なんだ……? あの店の人間、なのか……?』

『なら、お前も燃やしてやる……二度と立ち上がれないように、諸共……!!』


駆け上がってくるキョウ目掛け、空中に数本の小瓶を振るい、槍で薙いで割る。
ガラスや金属との干渉で撒かれた粉に火花が散れば、一気に引火し、迎えるような大爆発を起こす。
それそのものに手を打たず飛び込まなければいいだけ、というのは、言い換えれば直撃は重症を免れないという意味だ。


「あれは火筒……ウィーヴの野郎、やっぱりこっちの方で単独行動してたのか」

「キョウ!!大丈夫なのか、テイラー!」

「お前さんが行くよりは確実さ……発射はもうちょい引きつけてから」

「キョウの方の【耳栓】は?」

「わざわざ混ぜ物抜いてるからね、あそこまでは届かないよ」

「それと風魔術を多用してるっぽい。音の通りは悪いはずさ」

「でも一応は伝えないと……おーーーーい!!煩いから気をつけてくれーーーーー!!!!」

「律儀だねえ……そういうところ好きだよ」


何とも言えない空気のまま、じりじりと距離を詰められるバッカス防衛隊。
ウィーヴは重そうな旗槍を構え、キョウの襲来を警戒している。

2263キョウ・リーフィンド:2018/07/18(水) 01:39:25 ID:ALZppt8U
>>2262
此方が辿りつくまで黙って待っている、と楽観していたわけではない。

(しかし、また随分力技な手を使う)

割られたガラス片、加えて空気にちらつく粉塵。
加えて砲撃性能を搭載した槍持つ敵となれば、狙いは粉塵爆発。
このまま素直に突っ切って下手な干渉をすればあわや木端微塵ということだろう。
意識の中で少しばかり嘆息する…。
少しばかり、゛嘗められたものだ゛と。

干渉前、駆けあがっていた壁を強く蹴り上げ、干渉の無い中空へ退避。
そのまま地上へ逆戻り?否、もとよりこの身は大気と同義。

(駆けられぬ場など、俺にはない)

(集中、゛着空゛する座標を想定。
方角は上空やや前方、現在位置より必要な回数は一度で充分)


蹴り飛ばした勢いで中空でそのまま一度バック宙を決めると、
その体はそのまま落ちるのではなく、何かに着地した。

(力場形成、着空成功、方角良し。)

とは言ったもののその何かについているのは右足のみ。
ジャンプを試みるのか膝を折るがバランスはすでに崩れ始めている
そのまま前方に少しずつたおれ…体のラインが丁度屋根へと向いたとき。
右足のリバイバルプレートが、突風を噴き出した。

(状況終了)

地上ではなく、何かしらの遮蔽物ですらない。
゛空中゛から跳躍したその体は、ウィーヴの放った手を逃れる。

元より最初から一度の跳躍で屋根へとたどり着くことも充分に可能だった。
ただそれをしなかったのは、特別な意味など何もなく、
ただ゛消費を抑えたかっただけ゛。

ただでさえこの術は微細なコントロールを要求される。
そのために必要な魔力量は当然増える。加えてリバイバルプレートの射出も必須。
頭もフル回転する必要があるし、単純に精神力も消費することになる。

魔力の方はいいものの、靴の充填はなるべく温存しておきたかった。
今ので右の分は空、相対しようとしている敵のように自動充填されるものでもない。

(使えるのは左側のみ、加えて全力を一回…ってところだろうな。まぁ、仕方ない)

使わされたものは仕方ない、とにかく…玉座には手が届いたのだから。

片手を挙げ、ニクスの言葉への了承の意を2人に伝えるとともに
その体は玉座…ウィーヴの立つ場より少しだけ離れた位置。
一つとなりの屋根へと、無事着地した。

2264ジャック・V・テイラー ◆/yjHQy.odQ:2018/07/19(木) 07:02:51 ID:O7Y1VFU.
>>2263

『……!!』

その濁った眼に映るのは驚愕。
頭上を越え、自身と同じ高さに降り立った青年を前に、獣になりかけた旗手は【笑った】。

『時間稼ぎすらさせてもらえない、か……』

先程までの錯乱や憤怒は一時的に鳴りを潜めているか。
構えるは、長旗をたなびかせる3m強の砲槍。
先端に分厚い金属輪が付き、三方向に穂先が伸びる。
見るからに扱いにくいそれは、よく見れば旗は魔力で浮かび上がる非実体布。
そして、キョウにゆっくり歩み寄ってから……

『点火。【バーンドグローリー】』


砲槍の穂先に魔力を込め、【燃やした】。
その熱量は使い手も額に汗浮かべる高熱。
そして、当然それに使用される魔力量もまた尋常では無いはずだ。
栄光を掲げる旗槍は、篝火に姿を変える。
さながら有終の美とさえ見える灼熱の蛍火か。
発射や爆破を捨て、近接に特化した燃焼強化が、縦幅20M、なだらかな傾斜のあるフィールドを熱気に包んだ。


「テイラー!!」

「砲槍の先端に発射待機の魔力を固定化させてそのまま燃焼……?!」

「いや理論上は可能だけどさ……無茶やるなあ……!!」

「救援か!?」

「あんな狭いとこで助けなんか出来るか。それより……!」

「分かった!!」

「【ノイジー・インパクト】射出!!」

「演奏会の代金代わりだ……アンコール代わりに取っときな!」


擲弾筒のような器具で撃たれたそれ。
屋根よりわずかに高い程度の高さの弱々しい射出の後、【鳴動】する。
ほんの一瞬、幾重にもまとめた金属の板を一気に金切りかき鳴らしたような多重共鳴ノイズ。
いわゆる音爆弾の一種が炸裂すれば、音響魔術を聞き取れるもったいない耳の持ち主たちは、一斉に発狂。
鼓膜に杭でも突っ込まれたような悲鳴を上げ、転げ回り、絶叫し、のたうち回った。


『おおおおおおぉぉぉ!!!』


それが僅かにしか届かぬ屋根の上。
それはゴング代わりとなって、ウィーヴの振り下ろしを誘発した。

2265キョウ・リーフィンド:2018/07/19(木) 19:33:55 ID:OcXX6vDg
>>2264
「…っ」

周囲を取り巻いた熱気に、思わず顔が歪んだ。
穂先が燃える三叉槍、だが燭台と揶揄するにはあまりに苛烈。

(まるでガスバーナーだな…直撃すりゃ終わり…っか)

熱気で気流も乱れている、中遠に退避しての牽制魔術は
あまり意味を為さないと思った方がいい。
加えてこの屋根、家屋が続く限り縦幅はいくらでもあるが横幅はそう広くもない。

想定していた以上に相手に有利なフィールでの戦闘に、知らず舌打ちが漏れた。

「っち…だが、やることになにも変わりはない」

脚に力を込める、正面での差し合いは余りに不利。ならば打つべき手はひとつ…。

構えは低く、槍が構えていようと重心は前へ。
ここで恐れて後ろに引いても、その先に勝利は確実にない。

「っ!」

音の炸裂と同時、ウィーヴの振り下ろしに合わせるよう、
ウィーブから見て右側後方に向けて飛び込みから前転して背中側に回り込んだ。

「っはぁ!」

前転後すぐに戦闘体勢へ移行、体は屈んだままで右足右手を軸に反転。
狙うは関節、膝裏めがけて左足の払い蹴りを放った。

2266ジャック・V・テイラー ◆/yjHQy.odQ:2018/07/20(金) 01:18:07 ID:5QkGh7I2
>>2265

槍は俊敏な敵対者を捕らえること能わず、されど屋根に大きな火柱を生み、定点を焼却した。
明らかに追いきれていない証拠に、目線だけは確かにキョウを追っていた。
槍の重量と、使い手さえ危険に晒す熱量から、ジャックが見せたような【持ち手の位置でリーチを謀る】という基礎が使えないのだ。

そして、キョウは確かに感じるだろう。
膝裏へと蹴撃を当てた瞬間。
まるで目の前の男が【人の形をした鉄塊】であるかのような揺るぎなさを。
そして、その事実を一瞬遠ざけるような、【薄皮の割れるような手応え】を。

『チイィッ!!』

振り向きざま、大きな横振りで迎撃してくる。
石突ギリギリの大振りも、棒付きの焼却装置は遠大なリーチのみなら確かな危険性を保ち、振られた。


下では獣の咆哮と断末魔が等間隔に響いてくる。
おおかた聴覚から狂わされた獣が次々にとどめを刺されているのだろう。
まだ、ジャックはそちらに手間を取られるのは確定的だ。

2267キョウ・リーフィンド:2018/07/20(金) 19:50:54 ID:M5o54uHM
>>2266

(っ!これは………っ!)

脚に伝わった感触に驚くのも束の間、槍の振り払いが身に迫る。
決して素早いと感じる訳ではないそれも、現在のキョウの体勢では楽に回避とはいかない。
まともに食らえば死…とまではいかなくても致命傷になりうるのは想像に難くない。

(覚悟を決めろ…っ)

払いの体勢から重心は背中側へ、屋根に倒れ込みながら砲槍を無理やり蹴り上げる。

「っづぁ…!」

髪が焦げる臭いがする、至近で熱に晒された肌には焼けつくような痛みが走る。
それでも、蹴利上げの勢いを利用して後転、左手で地面を押し跳ね起きる。
起き上がりと同時、右手に風を集束、掌程の空気圧力の塊を生成。

それをもう一歩、更に後方へとステップで逃げながらウィーヴに向かって放った。

「風弾(かざだま)っ!」

熱気で気流乱れる中間を置かず放ったそれは、決して強力なものとは言えない。
風の集束も甘く圧縮率も弱い、今の奴ならばそれこそ蚊に刺された程のものだろう。
それでもいい、ここでの追撃は必ず止める。それこそが目的だった。

2268ジャック・V・テイラー ◆/yjHQy.odQ:2018/07/20(金) 22:43:05 ID:5QkGh7I2
>>2267

『ぬぅっ……!』

蹴り上げられ体勢が崩れると、足場の悪さから追撃もままならず数歩よろめく。
圧倒的に重心が先端に集中し、かつ遠巻きに持たねば自らを焼くあの槍は、反撃にめっぽう弱いようだ。
更に繰り出される追撃の風弾。
柄で受けるも、重心の偏った持ち手では受け場所を広く持てず、弾ききれずに脇腹へと当ててしまった。

すると、割れたようなブレこそ無いものの、ウィーヴの身体を包む【二枚の障壁】がうっすら浮かび、すぐに消えた。
あれが割れた何かの正体であろうか。
体勢も整わぬ蹴りで割れた以上、後二枚。
穂先の炎だけは以前燃え盛り、使い手さえ焼きながらなお煌々と輝いている。

『あぁ……何を、やっているのかな……』

『誰かとじゃないと戦えない、俺が……一人で、こんなところで……』

穂先をキョウに向けながら、男は自嘲した。
顔は悲痛な笑みに緩み、滴る汗は熱せられた屋根に当たって蒸発した。


『あぁ、でも……やるしか無い……』

『獣は、殺す…………殺すんだぁぁぁぁあ!!!』


猛然。
そのまま穂先を向けたままの突進が、キョウへと襲いかかる。
見た目以上の範囲を焼く熱気を向け、当然風は気流を乱され効果を弱める。
だが、それは彼も同じなのだろう。
時間稼ぎ。
彼にもまた、もうそれが残されていないことは明白であったから。

2269キョウ・リーフィンド:2018/07/20(金) 23:22:56 ID:M5o54uHM
>>2268
「ハァッ…ハァッ…」

息が荒い、当然だ。
ここまで何体獣を殺した。ここまでどれだけの速さで駆けてきた…どれだけの魔力を消費した。

疲れていない筈がないのだ、意地で誤魔化していただけ。
それが、先のダメージで自覚を隠せなくなった。
未だ響く獣達の断末魔を聞くに、ジャックもまだこちらに援護をする余裕はないようだ。
あまり時間は無い。しかし―

「…けど、そうか。そうだよな…」

その言葉で、わかってしまった。相手にも時間はそう残されていないことが。
苛烈な攻めも、煌々と燃え盛るその穂先も。
燃え尽きる直前の蝋燭のように、全てはこの一瞬を越えるために。

「ああ…終わらせよう。」

先の蹴り、確かな手ごたえはあった。
つまり相手は目に見えぬ鎧を何重に纏っていることなのだろう。
それが後幾つ残っているのか知る由もないが、ひとつひとつ剥がす余裕などない。

ならば、一手でその鎧ごと貫く―

(風神・招来…)

「烈破っ」

右手に力を込める。今纏える全ての風を、今己にすべての大気を込めて。
この手は大気の鉄槌。この拳は風神の拳…。

(貫けば勝ち、貫けなければ…。)

相手の一手を躱してから打ち込めばほぼ確実に勝てる見込みだろう。
だが、獣に堕ちて尚戦い抜く勇士に敬意を。
己に持てなかったその強さに敬意を。

「勝負だ…ウィーヴ・アライアンス」

(風神・招来…)

構える、体勢はあくまで槍をくぐれるよう低く。
だが真正面から振りぬいてもこちらが先に槍で貫かれるのみ。
故に…一度左へのサイドステップを挟み。

最後に残った左のリバイバルプレート、その風を…全直で射出した。

「絶影」

それは一度限りの超高速。
勝利か敗北か、後ろを捨てたもの同士、果てへと誘う死合舞台の片道切符。

その高速のままに顔は低く、突進へカウンターを合わせるように。
今出せる全力を込めた右の拳を、柄の下よりえぐり込むように、胸部に向けて撃ちこんだ。

2270ジャック・V・テイラー ◆/yjHQy.odQ:2018/07/23(月) 00:22:47 ID:Xv7qmVjE
『…………!!!』


勝負は、やはり得物の差に左右されたと言ってよかった。
重心があまりに先端に偏った砲槍は、サイドステップに反応するのに【穂先を僅かに上げて】向けなくてはならなかった。
もとより槍に抗するための徹底した低姿勢のキョウの突貫、反応こそ出来たのはやはり同じ魔具に通じるもの故か。
しかし、その速度……彼が今までのすべてを費やし追ってきた風の一撃、もはや捉えるに敵わず。
身体は確かに灼熱を抜き去り、拳は確かに――


胸部の前に据え置かれた右腕を貫き、胸部に突き刺さっていた。


『か、はっ……!』


それは獣に変質しかけたが為の反応速度か。
槍が抜かれると分かった瞬間、右腕をとっさに急所の前に置き、犠牲とすることを可能にした。
防御魔術さえ貫徹する神速の一撃、しかし、腕の分、魔力に相するに半分の枚数の補填が、即死をかろうじて防いでいた。

そうだ、遅かれ早かれ、ほんの十数秒の後、ウィーヴ・アライアンスは死に至る。

『ッ……!!』

穂先を、ゆっくりと上げる。
その煌々たる篝火は近づけるだけで容易に人を焼き尽くす。
触れずとも、上げた後に緩めれば、ウィーヴごとそれは完遂されるかもしれない。
しかしそれをキョウがみすみす許すはずもない。
それは、ほんの一瞬の出来事であった。

『  』


キョウが行動を起こす前か。
それともそうなるという予見が出来た故、敢えて見過ごしたか。
ウィーヴは、有ろう事か一度は掲げかけた槍を、放って捨てた。
力尽きたか。
魔力切れで維持が出来なかったか。
激痛が彼の指から力を奪ったか。
ともあれ、キョウにもたれかかる男の顔からは険と共に生気も消え失せて……

一匹の獣の死が、確認された。

2271キョウ・リーフィンド:2018/07/23(月) 20:00:24 ID:kGPwMank
>>2270

―届いた。

背中を、死を潜りぬけた右腕を、それでも熱に焼かれる痛みが襲う。
超速の中で無理な軌道で振った腕の筋肉が軋む。
予想だにはしていなかった右腕の盾により威力も殺された。

だがしかし、確かにこの右手は彼の身に叩き込まれた。
その感触を胸に抱いて、キョウは静止していた。

「…」

ウィーヴの動きに気づかなかった訳ではない。
それもいいと納得していた訳でもない。
ただ単純に、今出せる全力を尽くした一撃に、数瞬身体が休息を求めていた。
動かないのではなく動けない。
それが故に、この身を焼かれるのだとしたら、きっと仕方ないことなのだろうと。

(やれるだけはやった…これなら、怒らないだろう?)



…果たして、篝火がその身を焼くことは、ついぞなかった。
今キョウにかかる重みは、彼が逝ってしまったなによりの証拠なのだろう。

今わの際に彼が何を思ってかは、己には計り知れない。
ただ事実として、この身はまたしても生かされた…。

「…」

その暇は一瞬で、そしてまるで一昼夜のようにも感じられた。
身体をずらし、男の顔を見やる。
感傷は無意味とわかっている。
自分と彼に関わりなどなく、ただ戦い、ただ命を奪い合っただけ。
彼にかけてやれる言葉など最初からこの身は持ち合わせていない。

―何故彼が死に、自分が生き残ってしまったのか―

それが、決して問うてはならない言葉だということも、わかっているのだ。
だから内からでたその問いはそっと胸にしまい、ただ一言だけ―

「…お疲れ様。お前は、強かったよ」

そう溢して、彼の遺体をそっと横たえた。


そして痛みに顔を歪ませながら、一人屋根に座り込んだ。


「…っづぁッ…ってぇ…さすがにやばいな」

右腕から背中にかけての半身、それに左脚も火傷を負った。
加えて脚はそんな状態で風にのったものだから筋肉も悲鳴を上げている。
全身酷い疲労感に襲われ魔力もほぼからっから状態。

「我ながら無茶したもんだ…」

生き残ったとはいえ、これではジャックたちの方へとすぐ駆けつけるのも難しい。

(下の獣の方はもう大丈夫だろう、少し疲れた)

このまま呼びかけがあるまではここに座っていよう。
そう決めて、空を見上げ小さくため息を溢した。

2272ジャック・V・テイラー ◆/yjHQy.odQ:2018/07/24(火) 15:41:34 ID:tUpsj4lI
>>2271

「おっすおっす。……お疲れさん」

階下で重々しい音がし出すと、程なくしてジャックが蔓を階段代わりに上がってくる。
勿論、というように不可視のローブでの擬態付きではあるが、キョウの生存を確認した瞬間解除したようだった。

「いやいや、酷いもんだね。あんな隠し玉を持ってるとは知らなかったんだよ、ごめんね」

「……こいつは元々単独では絶対クエストを受けない冒険者だったんだ」

「だからあんな味方殺しの奥の手なんて出す必要もなかったんだろうけど」

「あぁ、いくら獣でも死体が動き出したって事例は今んとこだけは聞いてない。こいつはこっちでどうにかするよ」

キョウとウィーヴを見比べ、ポツリとそんな事を言って。
同情の中には何処か他人行儀な感情が見え隠れする。
キョウにやけど治癒のヒーリングをかけつつ共に降りる。
下では恐らくジャックが作ったのであろうゴーレムたちが数体、獣の死体を一箇所に纏めて放っている。
ゴーレム関連の魔術師が見たら【なんでまともにしかも複数体動いているのかわからないほど術式が雑】と並行することだろう。

「そりゃあれだ。深淵退禍で無理やり材質の耐性下げて無理やりゴーレムの術式を定着させているから」

ひでえ。

「キョウ! 無事で何よりだ……!」

駆け寄るニクスは心底安心した様子。
疲れ切ったキョウに気付くと、慌ててカバンを漁り、活力剤の入ったフラスコボトルを取り出す。

「一時的にだがマシにはなると思う。ネストまでは十分に保つだろう、使ってくれ」

「他に入り様なものはないか?バッカスが近いからな、工面は出来ると……」


そう言って振り返るニクス。
その後ろには、感慨深げにバッカスを見上げるジャックがいた。

「無事で何より、だな」

本当に、本当に小さく呟いたそれは、おそらくは無意識の発言。
あの頃から変わらない、少年の微笑みであった。

2273キョウ・リーフィンド:2018/07/24(火) 20:08:45 ID:/C5ZU67s
>>2272
「ああ、そっちもな…」

昇ってきたジャックを一度見上げ、ふらつきながらも立ち上がる。

「すまないな…」

つらつらとジャックが口にする彼の事には何も返さず。
ただ治癒に一言だけ礼を述べて、ともに降りる。
自分が何かを語る必要はないと思った、語れる言葉も持ってはいなかった。

降りながら目に飛び込んできた光景に少しばかり目を見開くが、
すぐに憮然とした表情に戻る。
何も言っていないのに説明するジャックに微妙に驚きを見透かされた気がして

(…かつて思っていた以上に、食えないやつだなこいつは)

そんなことを、頭のなかで考えていた。

そんな折駆け寄ってきたニクスに視線を映す。
ジャックの治癒が効果を為しているのか、身体はボロボロだが体幹はしっかりした様子。
大丈夫、と言おうかとも思ったが、まっすぐすぎる彼の善意を撥ね付けるのは少し忍びない。
そう判断したのか、素直にボトルを受け取った。

「世話をかけるな、ありがとう」

どうやらまだ何も話していないというのに既に彼はネストに供に行くと信じているらしい。
その事実に呆れ顔を浮かべる。
彼らの言う゛ネスト゛に行くと決めていた訳ではないのだが。

しかし、この状況でそれを否定するのもさすがに野暮というものだろう。
事実はどうあれ、客観的に見ればキョウははこの二人のためにここに来たのだから。

(今間違いなく一番疲弊してるのは俺だろう…強引な説得に持ち込まれたら…)

(どの道、選択肢なんてそう多くはないのだしな…)

現状はもうついていくという選択肢しかキョウには残されていない。
それをわかってか、諦めのように一つため息を溢し…。

ジャックの溢した言葉に、何かにせっつかれるように勢いよく振り向いた。

「っ…」

同じようにバッカスを見上げる。
かつて仲間と笑い、語り、時には涙を流し怒りもした酒場。
ある種楽園のような、実家のような安息感さえ約束されていた場所。

それは残酷的なまでに輝かしい栄光の日々。
そして…二度と帰っては来ない、今では全て遠い日々。

「っ」

その事実に涙が零れそうになった。
ジャックの言葉も、痛い程に理解できた。
もはや必死に守る意味などないとしても。
いつかの輝きは手放すには余りに尊くて。
俯いてばかりの背中を、押された気がしたのだ。

「…死にたいと言った言葉に変わりはない」

「俺は何も護れなかった、今更誰かの為に何かを…なんて望みは持てない」

「未来を見据えることさえ出来ない。失った過去ばかりに囚われて、前も向けない」

信念は錆びついてしまった。心は閉ざされてしまった。
望みなんてものは持てず、未来へ目を向けられそうにもない。
かつてこの身を包んだ精霊の加護は消え、クレティウスも輝きを失ってしまった。

「世界以上に、ただただ自分への憎しみが募るばかりだ…」

何も護れなかった不甲斐なさも、生き残ってしまった自分への憎しみも消えそうにはない。
死を望む気持ちは変わらず、かつての熱も取り戻せず。
前を向くこともできず、どうな風に笑っていたかさえ思い出せない。

それでももう一度―

「…それでも、こんな俺でも何かを護れるなら。誰かの明日をつくれるなら」

「もう一度だけ、かつての信念に誓おう。この拳を、剣を、風を…護るために、振うと」

その言葉は、誰よりも自分への誓いの言葉だった。
前は向けずとも、未来は見れずとも。

もう立ち止まりはしないと、そう決意するようにまっすぐな瞳で、二人を見た。

「こんな俺でよければ…よろしく頼む」

「ジャック…そしてニクス」

2274ジャック・V・テイラー ◆/yjHQy.odQ:2018/07/25(水) 02:03:26 ID:hrbvrDXE
キョウに改まって決意を表明されれば、二人は向く方向こそ違えど微笑んで応える。


「此方こそよろしく頼む。心強い仲間が増えて俺も嬉しい」

「ん、じゃあ後はよろしく。ニクスの案内なら問題ないでしょ、キョウくんも」

「……なに? もういってしまうのか、テイラー」

「俺も忙しくてね。今日はこのまま【ゼオの依頼】の方を仕上げてくるよ」


そう言うと、ジャックの身体はまたあのローブを纏いだす。
布が翻る度に、ジャックの身体の向こう側が透けて見える。
其処に確かにいるはずなのに、気配がおぼろげに消えかけているのが不気味ささえ演出して。


「キョウくん……いや、キョウ」

「この事態を起こした黒幕を俺とゼオは追っている。だが、君は連れていけない」

「真相はこの夜の帳の向こう側だ。もし君が追い求めるのであれば……そう、今は、君自身の誓いを守り続けることだよ」

「そうすれば何れは思いもよらない方向からぶつかってくるだろうさ、俺がそうだったからね」


微笑みは風とともに消え、ジャックが其処にいた痕跡は融けて無くなっていた。
本当に、さっきまで其処にいたのかさえ分からなくなるほどの同化。
もう、ここにはジャックはいない。
分かるのはただそれだけだった。

「……ゴーレムはきっと片付けが終わったらもとに戻るんだろう」

「結構念入りに魔力を仕込んでいたのは見たからな。心配はいらない」

「今すぐ行くか、それとも休むか?俺はキョウの方針に従おう」

「重ねて、よろしく頼む」

2275キョウ・リーフィンド:2018/07/25(水) 21:10:11 ID:T702sb7A
>>2274

「…そうか」

世話を焼かれるだけ焼かれて離脱するというジャックに表情が少し陰る。
まだなんの礼も返せていないというのに。
しかし、別に今生の別れというわけでもない、借りはまたいずれ返せばいい。
そう思い直そうとして。

「っ!」

姿を融かしながらジャックが残した言葉に。
今度こそ、目が見開くのを一切抑えることが出来なかった。

(黒幕…だとっ…?)

キョウもその可能性を考えたことがなかった訳ではなかった。
これほどの大規模な都市の変異、超自然現象でもなければ。
誰かが裏で糸を引かなかった訳がないと。

だが、すぐにそんな考えは切り捨てた。
誰に責任追及をしようが、自分が失ったものは戻りはしない。
その事実が、彼の思考を放棄させていた。

驚愕に色を塗られていた表情が、少しずつ漆黒の無に染まっていく。
もし仮に、黒幕がいるのであれば。そこに手が届くのであれば―

(必ずだ…必ず、命あることを後悔させてやる…)

ジャックは言った。今はただやるべきことをやれと。
真実の欠片は向こう側から現れるだろうと。
それが真実であろうと、この身に楔を打ち付けるための詭弁であろうと。

(ああ、やってやるさ…まずは地盤を固める。調査は、それからだ…っ!)


そこまで無表情のまま思考を続け、漸くニクスからの声かけに気づき言葉を返した。

「ん?…ああ、俺の方こそ、やっかいになる」

「身体の方は大丈夫だ、戦闘が終了してから少しは休んで魔力もちょっとは戻った」

「ジャックがくれた治癒も効いているし、お前がくれたこれもある」

そう言って、今の今まで持ったままでいたボトルに漸く口をつける。

「少数の獣との戦闘ならなんとかなるだろう、お前が大丈夫なら向かおうと思うが」

こちらはあくまで今は導かれる側、ひとりでは向かう方向すら定まらない。
案内役であるニクスの意志に沿うつもりだと、言外に込めながら彼の状態を確認した。

2276ジャック・V・テイラー ◆/yjHQy.odQ:2018/07/26(木) 05:26:05 ID:qMzDdpG2
キョウの様子にニクスが気付かないわけもない。
事実、若干の曇りが表情を覆っていた。
しかしそれをニクスから聞いてくる気配もない。
キョウの考えることはキョウのみぞ知ればいい、ということだろう。

「そうか。テイラー曰く、この一帯の獣は新参が多く、数も先程の一戦で相当数減ったらしい」

「バッカスは休憩拠点として存在しているため、地下水道は封鎖してある。基本的に向こう側から一方通行だ」

「逆に言えばもし危険な状態であったら、バッカスに逃げ込んで補給が来るまで籠城、というのもある。憶えておいてくれ」


「では行こう。近場の商店街の井戸を使う」

「何が待っているかは分からない。ここでは常に警戒と覚悟をして臨むべし、先達の教えだ」

「キョウならば大丈夫だろうが、俺はそうも行かない。牛歩は予定調和として容認して欲しい、頼む」


そう言うと、外套を翻し、小盾と片手剣を確かめて歩き出す。
彼の装備は革を重ねた軽装スタイル、ヘルメットには上下可動のレンズ、各部にベルトと装着されたシリンダー。
彼自身の警戒心にも、キョウから見て恐らく油断や乱れは驚くほど感じられないだろう。
奇襲されればと宣ってはいたが、おおよそ広く、淡く、的確に危険な場所へ集中を欠かさない。
ジャックが言った。
《彼の案内なら問題はない》
おおよそ、ニクスはその戦闘力こそ本当に駆け出しであるが、精神面は老練の玄人のそれに近い堅固さを有していた。


「キョウは大丈夫だと言ったが、極力戦闘は避けていきたいと思う」

「はぐれたりすれば最悪共倒れも視野に入るだろうし、何より俺が危ない」

「ただ戦闘を避けられないとなれば話は別だ。俺も囮くらいはやってみせよう」


石畳の街路は歩けばコツコツと音を跳ね返し、明けぬ夜の王都を不気味に揺らす。
獣の気配は無い。先程の戦闘でも周囲から殺到ということがなかった、縄張りやエリアの意識があるのだろうか。
腐るのを通り越し乾いた果実。
壊れた籠や調度品、見覚えのある路地の時間は緩やかな死の果てにあるようだった。
ニクスは淡々と警戒をそのままに歩を進め……
広場に繋がる通りに差し掛かって、足を止めた。

「ここからは店の中を通ろう。あの広場は大きな獣が縄張り争いでもするのか、小競り合いをしていることがある」

「少し遠回りだが、預かった身を危険に晒すリターンはないと判断した。構わないかな」

2277キョウ・リーフィンド:2018/07/26(木) 21:21:24 ID:Au8QBqjk
>>2276

「わかった、それでいこう」

―――


(…大したもんだな)

周囲への警戒を努めるとともに、目的地へとニクと向かいながら。
彼のその様子、更に言えば在り方を見て。
皮肉でなく、そう思った。

そもそも、今の王都内でまともな精神性を維持しているという時点である種異常なのだ。
極端な程にぶれていたキョウが言ったところで、それはただの言い訳でしかないが。
こんな環境に長く身を置けば、大なり小なり自分の中のなにかがずれる。
いや、ずれなければ自分を保てないのだ。
それこそ、先のウィーヴのように。

変わらないのは元々ずれていた者か、こういう事象に慣らされてしまったもの。
あるいは、何があろうと崩れない鋼の精神を有するもののみ。

そんな環境下においても彼は、キョウから見れば眩しい程に真っ直ぐに見えた。
戦闘力という面に置いては、確かにこの目に見てもまだまだ未熟なのだろう。
それでも彼は尊敬に値する者だと、そう思えたのだ。


脚を止め、方針を伝える彼に、キョウは素直に頷いた。

「悪くない…いや、いい判断だ」

「必要のない戦闘は極力避けるに越したことはない。反対する理由はないな」

2278とある世界の冒険者:2018/07/27(金) 23:35:57 ID:EbanIF9c
二人が入ろうとしている建物、その中の入ってすぐの一角に、一組の男女が身を潜めていた。
トカゲの獣と戦い、討伐に成功した直後に傷と疲労で倒れた青年エストと、その戦闘に助太刀する形で乱入してきた女である。
討伐後からしばらくしてエストは目を覚ましたが、依然としてダメージと疲労は深く、回復が必要だった。
獣どもとの戦闘を避けつつ、安全に治療に専念できる場所を探し歩き、辿り着いたのがここだ。
なお、共闘していたシノ達は女の方が案内して別れている。

現在は一通りの治療が終わり、失った体力を取り戻すために休息しつつ、今後の方針を話し合っているところである。

「さて……これからどうするつもりかな?」
問い掛けるのは女性。よく通るソプラノの高い声だ。

「これから、か……。できれば仲間や師匠と合流したいところだけど、この状況だとどこに居るやら……。
 仲間や師匠じゃなくても、少なくとも共闘できる誰かを探す必要はある。二人だけでできること、助けられる人数には限界があるしな」
答えるのは男。隠しきれない疲労感が声に滲んでいる。

キョウとニクスが中に足を踏み入れれば、すぐに話し声に気が付くだろう。

2279ニクス ◆/yjHQy.odQ:2018/07/27(金) 23:59:17 ID:clZA4XcA
「ここは戸に音が出ないようにネストが細工した通路の入口のようなものだ」

「こういった印が四隅の何処かにあったら、そういうものだと思って欲しい」

「いこう、ここから先は暗くて狭いから転倒に注意してくれ」


キョウの了承に少しの笑みを見せ、説明も手短に、扉を開ける。
不思議なほど音が出ず、店の入口にありがちなベルも取り外しており、本当に音は出なかった。
……音が出ないが故に、聞き取りやすいものもあったが。

「……!」

言葉無く、誰かの話し声に反応し、ニクスが手で制する。
聞き耳を立てる仕草は、誰であるか……いや、「獣であるかどうか」を判別しようという動作。
意味のわからない、一定の単語の羅列が共通する仕組みであったが。
さてどうだろうか……と、こっそり聞き耳を立てて。

2280キョウ・リーフィンド:2018/07/28(土) 00:14:20 ID:R6x6U.dw
「わかった」

笑みに対し頷きで返し、ニクスの背について屋内へと進もうとした矢先。
耳を掠めたかすかな音、注意を促そうと思った時には既にニクスに手で制されていた。

(本当に全く、頼りになる)

そう関心を重ねるがそれはそれ。一先ずは目の前の問題に集中するべきだろう。

この身は風と同義。
空気の層で音を遠ざけるも、また空気の振動を読んで音を拾うのも可能である。

―少なくとも…探す必要はある…できること…限界があるしな…―

(………待て、この声はどこかで…)

拾い上げた声、その響きに覚えがあった。
即座に思いつかないということは親しき間柄ではないだろうが、
少なくとも自分が知っている人物である可能性は高い。

断片的に拾える会話からしても、恐らくは゛まだ゛まともな人間であるとも判断できた。

(ニクス、おそらくこれは獣じゃない)

(それに、俺は多分この声の主のことを知っている)

音は立てずにニクスに寄り、微細に空気の流れを使ってニクスの耳に届くよう。
小さく、囁いた。

2281ニクス ◆/yjHQy.odQ:2018/07/28(土) 00:37:41 ID:.MSXb0e6
>>2280

(本当か……?なら都合がいい、交渉役は任せていいだろうか)

キョウの言葉を疑いもしない。
それならば、と、鞘に納めたまま剣を外し。

ドン!

ドン!

……と、間隔を大きく空けて、床を突いて音を立てる。
外に聞こえるほどでもなく、仮に天井や別室に獣がいるようであれば、人数で一気に仕留めようという画策。
何より、此方が獣に間違えられて襲撃されるパターンだけは避けたかった。

「ドアがなかったので、ノックさせてもらった。済まない」

「此方に聞き覚えのある声がした。今からそちらに向かう、どうか話を聞いて欲しい」


(じゃあ、行こう)

2282とある世界の冒険者:2018/07/28(土) 00:49:36 ID:5PSuwWAo
「エストくんの師匠ねぇ。どんな人なんだい?」
蝋燭の小さな灯火だけが照らす薄闇の中、二匹の蛇が巻き付いた意匠の杖を磨きながら、会話を続ける。

「ドクオって人でな、どんな人かと言われると難しいけど……まぁ、そうだな。優しい皮肉屋、かな」
エストも女の方と同様、抜いた刀の簡単な手入れをしつつ話に応じる。

「ドクオ? ドクオ・タルナート?」

「師匠と知り合いなのか!?」
女が手を止めて顔を上げて問い返せば、エストは驚きつつも食いつく。

「あー、いやいや。私が一方的に知ってるだけだよ。顔見知りなわけじゃないさ。
 知ってるっていうのも噂レベルで、顔も直接は見たことないよ。期待させて悪かったね」

「……なんだ、そうか。いや、構わない」
エストの剣幕にやや引きつつも女は否定し、エストは期待が外れたかと溜め息を吐く。師匠──ドクオと知り合いなら居所も知っているかと思ったのだ。

と、ここまで話したところで、ニクスが床を叩く音、続いて話しかけてくる声が二人の耳に届く。

「……知り合いか、それを装った避難者か知能の高い獣、どれだと思う? 私的にはオッズは1:3:6かな」
女の方が冗談めかしつつそう問えば、

「そうだな……じゃあ俺は、知り合いに賭けよう。
 構わない!ここで待っている!一応警戒はさせて貰うが、出会い頭の攻撃はしない!」
冗談に応じつつ言い、聞こえた声……ニクスに向けて外に響かない程度に叫んだ。

2283キョウ・リーフィンド:2018/07/28(土) 01:10:05 ID:R6x6U.dw
>>2281>>2282

(上手くいくかはわからんが、やるだけやろう)

ノックの後、響いてきた返答の声を受けて。
改めてもう一度ニクスに頷き、彼より一歩、前に出た。

(理性的かつ情緒もある会話…それに「ドクオ」と言ったな)

会ったことはない。だがその名はかつての友人たちから聞いたことがある。
確信が持てる、今この場にいる何者かは間違いなく敵ではないと。

一つ不安要素が消えたことに安堵しながら、二人の前に姿を晒した。

「警戒させてすまない、生憎手負いの身でな。こちらも気が気じゃなかったんだ」

そう言葉を発しながら二人の前に現れたのは、みるからにボロボロの男だった。
髪は煤け、額に大きな切り傷を遺し、表情はほぼ無に近い。

戦闘の意志はない、そう伝えるように両の手を上げながら。
男は真っ直ぐエストの事を見つめた。

(彼は…)

記憶を探る、確かそう。いつかの酒場でこんな男を見たことがある。
自分はほかの誰かと一緒にいたか、或いはいつものようにソファで仮眠を取っていたか。
いずれにせよ会話らしい会話をしたことはなかったように思う。
゛知り合い゛、そう呼ぶにはあまりに弱弱しい関係性。だが確かに知っている。

そう、その時耳に聞こえていた名は確か―

「エスト…そう、エストという名だった筈だ」

「かつて俺やジャックと同じようにあの酒場にいた、そうだろう」

自分の記憶が間違いでないなら、そしてあの゛バッカス゛を利用していた者なら。
これで敵ではないと伝えるには十分な筈だと、そう判断して酒場の単語を出した。

2284ニクス ◆/yjHQy.odQ:2018/07/28(土) 01:45:14 ID:.MSXb0e6
>>2283

「……うん、どちらも知らないな。完全な初対面だ」

自分の方は当然そうなる。
敢えて言い出すことで、嘘をついて接近したと思われないようにするつもりであったが、さてキョウは。

「……そうか、顔見知り、程度ではあったようだ」

「良かった。とりあえず嘘つきにはならずに済んだな」

「火事場泥棒や不逞の輩には到底見えないし、酒場関係とあればなおさら疑う余地はない。自己紹介しよう」

「俺はニクス。現在王都の避難市民の防衛を仕切るギルド【ネスト】の末端に在籍している、冒険者だ」

「こちらはキョウ。これから俺と共にネスト管理の地下施設に向かい、合流する予定だ」

「お二方は、差し支えなければ素性と作戦目的を教えてもらえないだろうか?」


バッカスの名を聞いた途端、少なからず継続していた警戒をあっさりと解くニクス。
腰のベルトに鞘紐を通しながら、自己紹介をする。
警戒を解くと、途端に駆け出し冒険者の空気が立ち込めるのがこの青年の特徴だ。
めっちゃ弱そうだ。

2285とある世界の冒険者:2018/07/28(土) 21:14:39 ID:5PSuwWAo
>>2283,2284
「……バッカスの?」
キョウとニクスが姿を現し、薄っすらと顔が見える距離になっても警戒態勢をとっていた二人だったが、キョウが酒場とジャックのことを口に出したことで、エストの方は警戒を解く。

「あ、あぁ。エストで合ってる。確かにそっちのアンタは見覚えあるな。……えぇっと……」
キョウはエストの顔と名前を覚えていたが、エストの方は名前までは思い出せないのでようである。まぁ会話をしたことも無ければ致し方あるまい。

「……キョウだったか。そっちのアンタはニクスね。ありがとう」
が、そこでタイミング良くニクスが助け舟を出してくれたお陰で、気不味い思いをしなくて済んだ。


「ほんとに顔見知りだったかい?」

「あぁ、間違いない。……少なくとも敵じゃないし、これから敵対する可能性も薄いな」

「そう。なら良かったよ」
未だ警戒を続けていた女がエストに確認し、エストが言葉の裏も汲んで答えると、納得した様子で完全に警戒を解いた。


「悪かったな、こっちも同じく手負いでね」
警戒について軽く詫び、

「あぁ。俺はエスト・シン・トライク。ギルド『エレティコス』所属の冒険者だ。現状の目的は、生存者の避難支援と仲間、ないしは協力者との合流、かな」
ニクスの質問に答える。
ギルド『エレティコス』は数年前に結成された新興、且つ少人数ながら、中々に評判の高かったギルドだ。が、ネストに所属して間もないニクスが知るところかは微妙である。

「で、こっちg「そして私は今をトキメク美女魔術師!ヘルメス・トリスメギストス!気軽にヘルちゃんって呼んでもいいんだよ?
 所属は特に無し!職業は旅さすらうミステリアスな魔術師、かな!目的は乙女の秘密ってことで!」
バトンタッチしようとしたエストの声に完全に被せる形で、食い気味に、そして場違いなほどテンション高めに女──ヘルメスも自己紹介。

「お二人とも、よろしく頼むよ」
パチン、とヘルメスが指を弾くと、俄に周囲が明るくなる。何らかの魔術だろう。そうしてハッキリと見えるようになった姿は……
シニヨンに纏め上げたプラチナブロンドの髪に白皙の肌、眼鏡のレンズを通して見えるエメラルドのような翠眼。
ノースリーブの黒いブラウスに白いベストと肘までを覆う白い長手袋、多重に革ベルトが巻かれた白いロングスカートに黒いブーツ、そして白いマントローブ。白いアイテムには全て同じ意匠の金糸の刺繍が入っている。

確かに美人だが、何というか、まず全体的に白い。そして、雰囲気が妙に胡散臭い。派手な格好で気を惹かせて、手元への注意を反らすタイプの手品師のような胡散臭さだ。
何より極めつけはその名前である。本名であろうが偽名であろうが、えらく大仰だった。

2286キョウ・リーフィンド:2018/07/28(土) 22:03:07 ID:R6x6U.dw
>>2285>>2286
「…」

酒場と言ったのはキョウ自身であるし、これで警戒を解けると算段したのも自分だ。
それはわかっているのだが、こうもあっさり警戒を解く相棒を見ると微妙な気持ちになる。
酒場の利用者は決して善人だけではなかった筈だ。
いっそ潔いまで綺麗な切り替えは尊敬とともに少しの心配をキョウに与える。

(少し…危ういな)

何にせよ、向こうもこちらの事を認識自体はしてくれたようだ。
敵対の可能性はなくなったとみて、上げていた両手を下げた。

「改めて、キョウ・リーフィンドだ。よろしく頼む」

明るくなった中二人の姿を正確に確認し、軽く頭を下げた。

゙エレティコズ、直接構成員と接触したことはなかったが確か資料で一度見たことがある。

(評判は良く、少数精鋭のギルドだったと記憶している)

その構成員なら彼はまず信用して大丈夫だろう。
女性の方は少し気にした方がいいとは思ったが、態度に出す必要はない。
何より、エストはこの状況に置いて確実に善の者であると判断できる。
その彼が気を許しているように見える以上、自分が何か警戒する必要はないだろう。
それにこういった手合いは真面目に意識すると割を食うと知っている。
仮に彼女の容姿が何かを欺くための心理操作の一環となっているのなら。
流されるまいと意識した時点で既に術中に嵌っていることになるのだか

「それなら丁度いい、俺がこれから世話になる彼の組織も、目的は同じだ。
俺自身もな」

「向いている方角が同じな以上、俺たちは大局的に見れば既に協力者も同然だと思える。
そちらがよければ、このまま俺たちとともに来るという選択は悪くないと思うが」

そういって、ニクスの方をみやる。
飽く迄自分は世話になる身、更に言うならこれからの予定だ。
最終的な判断は任せると、そう目線で伝えた。

2287ニクス ◆/yjHQy.odQ:2018/07/29(日) 00:30:25 ID:18laJzF2
>>2285>>2286

キョウの懸念など知る由もない。
当人は協力的な仲間をまた迎えられるかもしれないとテンアゲ状態だ。
警戒こそしているうちは大丈夫でも、警戒を解くと一気に素の脆弱性が出る。
キョウの心配は、最悪の事態を想定するなら決して杞憂ではないだろう。

「エスト、か。よろしく頼む。ジャック……テイラーとは先程別れたばかりだ」

「済まない、彼は神出鬼没の上に独自行動をしている。もし何か要件があったなら、次にあったときに伝えよう」

深淵改基の魔術でとくにこの数年はジャックは本当に遭遇率が低い存在である。
どうやらここでも同じのようだ。
もし組織に関連があるならば……特に身に沁みていることだろう。

「……………………あぁ、よろしく頼む!」

色々感じたことをとりあえず投げ捨てて、挨拶だけ簡潔に。
胡散臭いとか、怪しいとか、そういうことは思っても警戒心としては出さないのがこの若き青年の処世術及び性格なのだろう。

「光源魔法か、すごいな!」

胡散臭いと思うけど態度に表すまいとするあまり、変なとこ褒め始めているが。


「…………」

「エレティコス、か」

「済まない、ネストの協力関係のギルドの名前にそれがあったか、自分の記憶では参照に足らないようだ」

「だが……あぁ、そうだな、キョウの言うとおりだ」

「救援物資の搬入は最近、正確には三日前だ。もしエレティコスの同志と合流するにしても、準備を整える一助にはなれるはずだ」

「俺は下っ端もいいところだ、だがネストとそれに賛同してくれている者たちは、同じ目的を持つ同志を見捨てはしない」

「……うん、少々胡散臭い物言いになったが、軽く休んでいってくれるだけでも、俺は嬉しく思う」

「どうだろう? このまま四人で目的地に行くというのは」

2288とある世界の冒険者:2018/07/29(日) 01:09:06 ID:dteZnG0U
>>2286,2287
「凄いだろう!尊敬してくれても構わないよ!」
ドヤ顔でそう言いながら光源を操作し、スポットライトの様に自信だけを照らす。

「…………」
何かを堪えるように額に手を当て、溜め息を押し殺すエスト。
悪い奴ではない、むしろ良い奴ではあるが、癖が強い──有り体に言って変人──なのが彼女の欠点だと、短い付き合いながらわかっている。

「どうしたんだい、エストくん。まだ傷が傷むかい?」

「いや……なんでもないよ」
痛むのは頭だし、物理的な痛みでもないが、ここは一先ず流しておく。下手に突っ込んでも話が混迷するだけだ。

「ウチはそこまで有名ってほどじゃなかったからな。仕方ないさ」
王都において大規模なギルドは数限られるが、中小規模のギルドは枚挙に暇がない。多少評判が良い程度では記憶に残るのは難しいだろう。

「……あぁ、その申し出はありがたい。ネストなら物資だけじゃなく、情報も集まりそうだしな。世話になるよ。協力も惜しまない。……良いか?」

「構わないとも。他にとれる方針は少ないし、その少ない方針もこの申し出にはメリットで負ける。選択の余地は無いね」

「そうか。なら、よろしく頼む。キョウ、ニクス」
エストは少し悩んだが、二人の協力の申し出を快く受け入れることにする。彼女も同意し、方針は定まった。

2289キョウ・リーフィンド:2018/07/29(日) 01:28:52 ID:mg1HIf0M
>>2288>>2289

「…利害は一致したな」

ニクス、エスト、ヘルメスと。三者を順にみて頷く。
昨日まで独りだったのが気づけば四人になっている。
改めて、自分はニクスと、それにここには既にいないジャックに感謝しなければならないだろう。
…約一名、癖が強いのがいるがそこはそれ。
こんな王都の中だ、彼女のそういった立ち振る舞いはある種の緩衝材にもなりえる。

ここまで一度として微笑みもしないが、それでもキョウの表情は幾分柔らかかった。

「先ほどまで2人はここで体を休めていたみたいだが、状態はどうだ?
いつ何時獣と相対することになるかわからないような環境だ。
まだ癒えていないのなら、ここでもう少し休んでいくというのも一つの手だが」

即席パーティを組んだばかりのこの四人だ。
互いの手札、知りうる情報の交換。
身体を休めながらでも出来ること、やるべきことは幾らでもある。

何よりも無理をすることが一番の悪手だろうと、三人の意見を伺う。

2290ニクス ◆/yjHQy.odQ:2018/07/29(日) 04:55:18 ID:18laJzF2
>>2288>>2289

「交渉成立だ。改めてよろしく頼む、お三方」

「リーチマンもこれで少しは休めるといいのだが。タフなのは構わないが、もうかれこれ二週間は睡眠も」

胸を撫で下ろすニクス。
心底安堵した様子なのは、最初の交渉でキョウに理解を示されこそすれ、了承にはこぎつけなかったが故。
もっとも彼もついてきてくれる以上、やはり声に出して伝えることこそが大事、と確信していたが。

「! もし差し支えないなら、活力剤がある。ぜひ使ってくれ」

「ここから3ブロック、室内を渡っていくだけだが道中何があるかわからない。疲労感が取れるだけでもだいぶ違うはずだ」

キョウに渡したのと同じものを鞄から取り出して、差し出す。
質は一般的な活力剤と遜色ないものだが、それを容易に手渡せるだけの備蓄と余裕の証明であった、と、ニクスはもちろんさっぱり理解していない。
多分これが最後の二本でも手渡しているだろう。
キョウはもうよく分かってしまうのではないか。

「俺はいつでも大丈夫だ。全員の快復を待ってからでも動ける」

「というのも、分かるだろうが俺自身は弱い。万が一獣に囲まれた場合を考えると、より強い戦力が十分に戦える状況こそ最良の結果に望ましいと思う」

「無論、即座に離れるべき、という意見にも賛成だ」

「あくまで俺は案内役としての立場に徹させてもらう。如何なる選択にも寄与しうるのは皆の戦力だと思っている」

2291とある世界の冒険者:2018/07/29(日) 08:17:57 ID:dteZnG0U
>>2289,2290
「賦活剤か! ありがたい。貴重な物だろうに、すまないな」
ニクスが差し出してくれた活力剤を受け取り、そのまま飲み干す。

「いや、まだしばらく全力は出せそうにないが、戦闘自体は問題ない。ヘルメスの治癒魔術のお陰で傷も隋分良くなったし、ニクスがくれた賦活剤もそのうち効いてくるだろうしな」
褒めて欲しそうな空気をこれでもかと出しているヘルメスの方に視線を向けると、彼女はドヤ!と言わんばかりの表情で腰に手を当ててふんぞり返る。

「……懸念はどちらかというと魔力量の方だな。感覚的には四分の一ってところか」
ヘルメスをスルーしつつ話を続ける。
二人の言うとおり疲労感は確かにまだ残っているが、『雑種《バスタード》』を始めとした下位の獣を相手にする程度なら支障は無い。
だが、相手が大物となると、使い切った魔力がまだ四半程しか回復していないのが痛い。

「私が持ってた魔力ポーションを飲ませたけど、気休め程度だからねぇ。私の魔力を分け与えるにも限度があるし」
ヘルメスがドヤチック(得意様であること)な態勢を崩し、肩を竦める。

「これ以上の回復は高位の霊薬か本格的な休養が必要だし、私としては拠点への移動を優先した方が良いと思うよ。何より私がベッドで寝たいし水浴びもしたい!」
グッと握りこぶしを作りながら言う。
理由の半分ぐらいを最後の言葉が占めていそうだが、まぁ言ってることはおかしくない。
こういう非常事態こそ、そういったことは精神衛生上大切だ。

「そうだな。何より、俺達自身はともかくとして、全体的な事態は切迫してる。焦っても良い事はないだろうが、かと言って悠長にもしていられないだろう」
理由は異なるが、エストの方もすぐに移動した方が良いと判断する。
単なる予感でしかないが、今回の異変は時間が経てば解決するような類ではない、と考えているからだ。

「ニクス、案内を頼む。戦力の擦り合わせは道中でしよう。キョウはニクスに付いて直衛して貰えるか? 俺とヘルメスは哨戒を担当する」

「私の探査魔術が火を吹くよ!」
それで良いな、とヘルメスに眼で尋ねると、任された、とドヤ顔で胸を叩く。胸が揺れる。
どうでも良いが探査魔術はたぶん火は吹かない。

2292とある世界の冒険者:2018/07/29(日) 14:38:38 ID:mg1HIf0M
>>2290>>2291

「…」

ニクスの迷いない行動に、少しばかり眉を顰めた。
彼の飾り気のない優しさは、この環境下では間違いなく得難きものだろう。
それは不気味な明かりのみに照らされるこの王都で、優しい陽光のように。
きっと人に力を与えてくれる。

けど、彼の心根の強さに、彼の技量自体が追い付いていない。
いつか取り返しのつかない事態が発生したとき、その優しさは。
彼自身だけでなく、ともにある仲間も危険にさらす可能性もあると、彼は気づいているのだろうか。

「なら、移動しよう」

軽く頭を振って思考を切り替えた。
少なくとも今この場での彼の行動は責めるものでも諌めるものでない。
忠告を入れるにせよ、それは後でも構わないだろう。

エストの提案に、一つ頷く。

「それは助かる。
俺も一度魔力がほぼ空まで使ったからな、実際のとこ5分の1も残っちゃいない」

少数の獣程度ならば問題なく相手取れるだけの技量は自負しているが。
仮に一個体でも強力なものがいれば、逃走に全力を注いでなんとか、と言ったところ。
勿論キョウ自身も周囲への警戒を怠るつもりは欠片もないが。
空気の流れで周囲環境の感知を継続するには勿論魔力を消費する。
そのあたりを二人に一任できるなら、魔力の回復も少しは早まるだろう。

方針が決まれば行動は素早く。
目を瞑り周囲の音、空気の流れに一度意識を傾ける。
移動を開始しても問題はない、その判断とともに、ニクスへ行動開始を促すよう頷いた。

2293ニクス ◆/yjHQy.odQ:2018/07/30(月) 03:47:39 ID:1L6.qcoY
>>2291>>2292

「喜んでもらえるなら何よりだ」

軽い笑みで返す青年。
立ち上がるときも、明らかに音を立てないような慎重な姿勢と挙動。
二人の言葉と、促すようなキョウの対応に力強く頷いた。

「わかった。哨戒は任せる」

「その様子だとこの街での戦闘経験もありそうだ、万が一の時は頼らせてもらう」

「このなりでわかると思うが……俺は駆け出しもいいところだ。もし有効に扱えるアイテムが有るなら言って欲しい、貸与しよう」

火筒、煙幕、投げナイフ、簡易の呪い避け。
その他基本ポーションの濃縮ボトル……戦闘時の緊急延命用だ……などなど、ごくごく初歩的なものばかりであった。



「では、付いてきてくれ、この部屋を出てすぐ右の裏口から…………」



――そう、ニクスが続けながら、部屋の壊れた扉から踏み出そうとした、そのとき。
ニクスの腹部に凹みが浮かび、明らかに一歩踏み出そうとした彼を押し留めた。
それは横にした棒でつっかえたような痕。
よろめいたニクスは、二、三歩後方に歩んでから、ハッと前を見た。


もしヘルメスの探知が何かしら広域に展開しているなら、【それ】はニクスの挙動以前に発見できただろう。
【それ】は遥か遠方に現れながらも、エストに混ざる獣の血に警鐘を鳴らすに足る驚異を秘めていた。
そして、キョウ他全員、今王都の外にいる全ての存在に、【それ】は聞こえるほどの轟音と振動を以て、この地へ出現した。

「――――!!!」

虚空、見えない何かを穿ち抜き崩しながら現れたような轟音。
堅牢な城塞が崩壊する真只中のような響きは、十数秒ほど続いた。
直後に、地震。
ホコリまみれの棚からいくつかの調度品が落ち、割れた窓ガラスがますますひび割れ、床がきしむ。
そんな降って湧いたような天変地異の後……

ピタリと、それは止んで、何事もなかったように光源魔術の影がふわりと揺れた。


「……アルカンシエル……【通過】のタイミングだったのか」

「もしいち早く外に出ていたら……いや、通過なら問題はないと思いたいが、しかし……」

「……済まない、説明は後だ。とにかく先程の異変が俺たちに害をなすことはない、安心してくれ」

「右の裏口から外に出て、通用路から武具屋の方に移ろうと思う。何かいるとしたらその辺りだ、警戒を頼む」

「行こう。【巣】が俺たちを待っている」




「……俺は、何につっかえたんだろうか……?」

2294とある世界の冒険者:2018/07/31(火) 07:40:56 ID:IyQSoJxg
>>2292,2293
「俺は狼獣人のハーフでな。人間の姿のままでも常人よりは鼻も耳も良いし、気配の察知も師匠に徹底的に叩き込まれてる。ヘルメスの探査魔術も、俺を運びながら、戦闘を避けつつここに辿り着ける折り紙付きだ。任せてくれ」
揉めることなく提案を飲んでくれたことに感謝しつつ、少しでも安心感が増すように説明しておく。

「あぁ、獣どもとは何度かやり合ってるから問題ない。戦闘は任されるが、そこは役割分担だ。頼りにしてるぞ、キョウもニクスも」

「エストくん、私は? 私も頼りにしてる?」

「探査魔術を持ち上げてやったところじゃないか……」

「それはそれ! これはこれだよ!」

「あーはいはい頼りにしてるしてる。さ、行くぞ──なんだ?」
溜め息を吐きながらニクスに続いて行こうとした時、鼻が妙な臭いを捉える。
直感的な危機感に従ってニクスを留めようとしたが、それよりも早く、ニクスは“何かによって”押し戻された。

「…………ッ……!?」

「ひゃぁっ!?」
そして、捉えた臭いについて警告する暇もなく、響き渡る大轟音。常人以上の聴覚は、ハンマーで殴られたかのような衝撃をエストにもたらす。
轟音が止んだか思えば、今度はそれに続く地震。咄嗟にヘルメスを引っ掴み、引きずり倒すようにして姿勢を低く取らせ、頭を庇うように覆いかぶさる。

「…………何だったんだあれ」
そうしてしばらくして揺れも止み、何事もなかったかのように静寂が戻る。崩落はしなかったか、と一安心し、頭痛を堪えつつ立ち上がり、誰にともなく呟いた。


「いやー、ビックリした。アレも獣ってやつかい? 王都って魔境か何かかな?」

「……そこは正直否定できないな。生憎と異変が起こる前からだが」

「なにそれこわい」
ヘルメスが埃を払いつつ立ち上がり、周囲に舞い上がった塵を風魔術で隅に集めながら呆れたような声で言うと、エストは三人を見回して無事であることを確認してながら軽口を返す。

「あぁ、説明よりもまずは移動だな。ヘルメス、頼む」

「お任せあーれ」
聞きたいことは色々とあるが、まずはこの場を離れることが先決と判断。
ヘルメスがこの建物内に張ってあった動体感知の結界を消し、改めて中域の探査魔術を発動。自身を中心とした、半径200mほどの生体感知系だ。動体感知でないのは、万が一、動けない負傷者などが居た時のためである。

2295とある世界の冒険者:2018/07/31(火) 20:01:54 ID:2Q0/03V6
>>2293>>2294

「っ!?」

ニクスがよろめくのに反応し、支えようとしたのも束の間。
響き渡る轟音、キョウの眼が厳しくなる。

「ニクス、さが…っ!」

異常事態と認識、一度ニクスを己の後ろへと引き下がれせようとするも。
続いて襲いかかる地震。大地が蠢き、壁は軋む。
殆ど反射的に周囲に風を展開していた。
キョウを中心としてニクス、エスト、ヘルメスを包み込むドーム状の簡易結界。
展開された大気に何かが落ちれば即対応を可能とするものだが。

「…ふぅ、無駄撃ちで済んでよかった…と、言うべきなんだろうな」


結果としては何もないまま、展開していた風を解除した。
無駄に魔力を消費してしまったが、仕方ないことだろう。

「知っているのかあれを…いや、言うとおりだな。先に進もう」

゛アルカンシエル゛なる単語に反応しそうになるが、直後の言葉に己を諌め、頷く。

「悲しいことに、本当に否定が出来ないな。
いやそれよりエスト、さっきの音は俺でも顔をしかめるサイズだったが。
鋭敏なんだろう、聴覚は大丈夫か?」

エストの言葉にため息一つともに頷きつつも、先の異常で問題は怒ってないか気に欠けながら。
それでも思考は既に別の事に移り変わっていた。

(先のニクスに起こった何か…確かにあそこには何もなかった。)

(少なくとも動き出す前に確認したときこの空間の゛大気の動き゛は自然だった、それは今も)

(見えない。いや、此処にいるだれもが探知できない何かがそこにいた?)

(だとして結果的にはニクスを助けたことになる…誰だ?いや、何だ?)

(無害だと思っていいのか…?)

周囲のやりとりを聴きながらも、自然。その表情は難しいものになっていた。

22961/2 ニクス ◆/yjHQy.odQ:2018/08/01(水) 00:04:48 ID:RVrX4r1I
>>2294>>2295

「そうだな、唯一つ言うなら……獣じゃあない」

「迷惑な来訪者が置いていった置土産兼墓場、といったところだろうか。哀れな話ではある」


苦笑いと共に歩を進めるニクス。
右手側の裏口を抜け、すぐ目の前の裏口から入り、ひたすらに歩き、歩く。
ヘルメスの探知には端側に引っかかる者こそあれど、明らかに人がしないような跳躍や挙動で、隠れるように彷徨くばかり。
進路方向には運良く現れず、蜘蛛の巣と埃、先程の轟音で崩れた調度品などが唯一の障害足り得る道中であった。

そうやって皆が着いたのは【噴水広場】。
中央の大きな噴水、五段にも連なる塔にも近い噴水は、夏場の避暑地として親しまれる場所だった。
ここを【井戸】とニクスが呼んだのは、かつて火事などの取水用の大井戸が此処にあったことに由来する。
そして、それを知るものであれば、ここから地下水路へと入ることが出来ることも知っているはずだ。

「……目印はそのままだな、ここに理性なき者や知性のない獣は通ってない」


扉を開けてすぐの壁の魔印をなぞる。
これは文字そのものが魔力を持つ、古来からの防犯装置のようなものだ。
生体の通過に反応し印が消える。
それをもう一度同じように書き戻せばいいだけなのだが、それが出来ない頭の存在の通過はせめて察知できるというわけだ。

中は絶えず噴水へ水を送るからくり仕掛けが今もなお動いている。
もう見る人もいない、健気な構造のまた後ろ。
レンガを的確に三ヶ所押せば、後はひとりでに大きく口を開け、入り口が出来上がる。


「これは後付だ」

「詳しくはわからないが、どうやら王都の地下はこうして後々から魔術で組み替えられるような構造になっているらしい」

「俺たちが目指すのは、その跡地になる。先人の知恵にこうして救われているというのも、不思議な心地だな……」


感心した様子でカンテラを……出そうとして、やめる。


「済まないな、今は遥かに優秀な光源を出せる魔術師がいた」

「道中の明かりもお願いできるだろうか。遠め、強めが望ましい」


ヘルメスに願い、それを下に螺旋状の階段を下り、的確な印の導きの下、進み続ける。
獣はいない。
元はいた魔物や水生怪物も見ない。
音や気配、風にも反応はない。
静かに、ただただ進み続け、十分ほど。


「ここだ」


大きな水路に出て、突き当りの壁。
大型水路の突き当りだけに、高さも優に5m以上はあろう。
腰のタグを取り出し、中心部に当てる。
すると反応した複数の魔力のラインがジグザグに走り、端に吸い込まれた後……垂直の線を天井から床にまで下ろす。

ゆっくり、ゆっくり……足元に伝わる振動とは裏腹に、音が全く響かないのは、おおよそ魔術の賜物か。

そうして開かれた先には……

「ニクス!」

「ニクスか、無事で良かった……!」


「ただいま、皆。ネストのニクス、無事に帰還した」


検問らしきバリケードと、複数名の警備員……ネストの冒険者たちが待っていた。

22972/2 ニクス ◆/yjHQy.odQ:2018/08/01(水) 00:28:45 ID:RVrX4r1I
「…………あら、生きてたの。ニクス」

「ジャックが連れて行ったから、荒事に巻き込まれて死んだかと思ったわ」


「! ラウネ、出迎えてくれるとは恐縮だ」


「馬鹿言わないで、こっちは出るところよ。自意識過剰サン」


「むぐぐ……」




その中で一人、明らかに風貌と雰囲気の違う女性が、ニクスに気付いて歩み寄った。
膝裏まで伸びた桃色の髪に、細い眉と鋭い眼差し。
身長は180センチ前後と長身。
美麗な双眸にはしっかりと化粧が施されており、服装も華美、ヒールや香水など、おおよそ冒険者らしくない格好と気配であった。

魔装士、ラウネ・マリーゴールド。
バッカスに顔を出していたネスト所属の傭兵、知っている者もいようが、月日は少女を女性に変えていたようだ。

ニクスの鼻をつまんで笑った後、三人を見て、またニクスを見る。
あまり好意的な態度ではないが、忌避もしない、微妙なラインで。


「これがジャックの目的だったわけ?」

「予定より二人ほど多いが、頼れる仲間だ」

「あんたが保証すると期待も一気に大暴落ね」

「返す言葉もない……」

「まあいいわ、全員入ってもらって。いつまでも開けっ放しじゃ落ち着かないもの」

『お、おい!まずは身体検査と事情聴取とそれと……』

「バッカスで見たのが紛れてる。それとそっちのはジャックがわざわざ自分で出向いた相手でしょ」

「わざわざ地獄を抜けて来てくれた客人相手に、寝床とスープじゃなくて尋問と調書? ネストの礼儀も地に落ちたものね」

『はぁ……リーチマンには会わせといてくれよ……』

「そっちは任せておいてくれ」

「当たり前でしょ。最後までやり抜きなさい、ひよっこ」


三人を胡散臭そうに睨め回し、見張りに無理を通して後、女性は踵を返す。


「出るのではないのか? ラウネ」

「出る理由がなくなったのよ、察しなさい」

「????? そうか、済まない」

『素直にニクスを探しに行くつもりだったといえばよかんベに……』

『止めとけ、蹴られるぞ』


「……コホン、では行こう、皆。彼女のおかげで入室までの一時間が短縮された」

「貸しにしとくわ。精々長生きして返してね」

「行こう。ようやく見せられると思うと心が躍る」

「王都はまだ死んではいない、その証明が、ここなんだ」

2298とある世界の冒険者:2018/08/01(水) 01:20:19 ID:2ZVcafmc
>>2295-2297
「えぇ……お姉さん王都にちょっとドン引き……」
否定の言葉が誰からも出ないどころか肯定すらされ、更に先程の化物は獣ではない、つまり異変以前から存在したということに、整った顔を引き攣らせる。
まぁ外から来た者であればこの反応も致し方あるまい。

「あぁ、大丈夫、少し頭痛がするのと聞こえにくいぐらいだ。しばらくすれば治るさ」

(ニクスのあの不自然な後退……思い当たる可能性は幾つかあるが……。まぁ、どれであっても害ではないし、放置でいいな)
こめかみを指で揉みながらキョウの心配に問題ないと返し、一方で同じことを考えていた。
こちらは幾つか思い当たる節があるようだが、今は追求しても詮無いことと置いておくことにする。

「はいよー。お任せ!」
ニクスに応じて仰々しく杖を掲げると、杖の先端から、真っ直ぐ15mほどを強く照らす光が放射される。
ただの光ではなく、弱い生き物に忌避感を抱かせるもので、虫や鼠程度なら照らされれば退散してくれるだろう。

「へぇ……こんなカラクリがあったのか」
噴水や水路の仕掛けに関心するとともに、このような仕掛けが恐らく街中に施されていることを思うと、何とも複雑な気分になる。
少なくとも王都が出来た頃……事によればそれよりももっと昔から、ここは魔と災いと英雄が渦巻く『運命の地』だったのではないか、と考えてしまったのだ。

「ようやく着いたか……。ん? 彼女は確か……そう、ラウネ、だったか」
何度か酒場で見た覚えがある。会話を交わしたことはないのにキョウと違ってハッキリと覚えているのは、ゼオやリーチマンに対等──どころか、随分な口を利いていたのが印象に残っているからだ。
師匠による地獄のしごきの真っ最中だったのもあって、凄い蛮勇だなと関心していたものだ。

「ほー。凄い美人だねぇ。まぁ、私ほどじゃないけど。 私ほどじゃないけど!」

「なんで二回言ったんだ……。確かにヘルメスも美人だが系統が違うだろ、ラウネとは。あっちは凛々しい美人、ヘルメスは残念な美人だ。ほら。ニクスが呼んでる、行くぞ」
またしてもドヤチックなムーヴを見せて自画自賛するヘルメスに言葉のボディブローを入れ、ニクスに続いて行く。

「残念!? いま残念って言った!? ねぇエストくん!!? 待って!!」
ガーン!!と打ちひしがれた様子で、慌ててエストに追い縋る。

恐らく、ネストのメンバーには「えらい濃いのがまた増えたなぁ……まぁ日常だけど」と思われていることであろう。

2299とある世界の冒険者:2018/08/01(水) 20:36:47 ID:7IjXYQ7k
>>2296-2298

(獣じゃない…っか)

まだまだこの身には知らないことばかりだ。
請負人として出来る限りのことはやっていたつもりだ。
それでも、己の未熟さが少しだけ歯がゆかった。
もしもっと見聞を広げられていたなら、゙今の事態に対処出来たんじゃないがと。

「なら、構わないが。無理はするなよ」

(意識だけはしておくか、あれがなんなのかはともかくとして。
゙俺たぢについていたのか、゙ニクズについていたのか…)

ジャックの魔術の本質をまだ理解していないキョウにとって、
あれが彼であるという答えにいきつくにはまだ早く。
味方であるのかそうでないのか、判別しようがない以上はそう結論づけるしかない。
今後も警戒自体はしておこうと決めながら、三人について歩を進めた。



「…なるほどな」

ニクスが目的としていた場所にたどり着いて、納得一つ。
王都について調べてわかったこと、この都市には有事の際の避難経路がいくつもある。
それこそ王都から少し離れた位置へ脱出するためのルートも。
確かに、調査や生存者の救助等のための拠点としてこれほどのものはないだろう。
ネストというギルドが大きいことは知っていたが、ここまで適確な行動を可能としているとは。
感心を越えて、構成員の理知性に感服するほかなかった。

そうしてたどり着いた先、歓迎と言えるかは微妙なギルド員達の邂逅を果たした時。
キョウの精神は、またしても大きく揺さぶられていた。

言葉もないままニクスとラウネの、そして他の者たちのやり取りを眺めて。
疑いようがない程、彼らは仲間なのだと理解した。

(…わかっていたことだろう)

想定はしていた、覚悟もしていた。゙何かの輪の中゙に入ればきっとこうなるだろうと。
それを理解して、それでももう一度奮い立とうと決めて、自分の脚でここまできた。
それでも実際にその光景を眺めれば、やはり痛みは避けられなかった。
考えても仕方ないのに、思ったところで何も変わりはしないのに。

゙どうしてここに彼女たちは、彼らはいないんだ゙と。

態度に出ないように無表情を維持するのに精いっぱいで、彼女を見たことがあったのかなかったのか。
記憶を探る余裕さえなく、ただただ二人のやり取りを無言で待ち続けた。

「すまない、助かる…、それと、わざわざ足を運ばせてすまなかった」

ようやっと己に冷静さを課し、ラウネの進言で面倒な手続きを回避出来たことに感謝の言葉。
加えて、どうやら自分の存在は思っていたよりも彼らにとって面倒だったらしい。
改めて考えれば自分に声をかけるためにジャックとニクスは出向いてくれたのだ。
それについての謝罪も残して、ニクスへとついてゆく。

(また、ジャックへの礼が増えたな)

2300ニクス ◆/yjHQy.odQ:2018/08/02(木) 01:37:15 ID:7NifQUD6
>>2298>>2299

『仏頂面、ケモノ系、変人か』

『ん、あぁ、よく分かったなお前……』

『同類は匂いでわかる。ま、うちよりマシだろ』

『同感、せいぜい長生きしてくれることを祈るさ』

『そうだな。見知っちまった顔が見れなくなるのは……いい気がしない』



全員を一瞥し、そう評価する門番達。
彼らも無理に引き止めないところを見るに、お眼鏡には適ったというところか。
長く幅広い、それこそ馬車が三台はギリギリ並べる道を行けば、各地に検問が等間隔で置かれている。
大きな入口だけに警戒は厳重。
問題は全部ラウネの顔パス理論で通過してるせいで、ニクスがだんだん申し訳無さそうな表情になっているくらいだ。


「あら、身の程が判ってる男は嫌いじゃないわよ。その分頑張ってくれれば済む話だし?」

「第一毎回片手間に立ち寄る程度の男が足運んだからって気に病むことじゃないでしょ。ニクスも持ち帰ってくれたし、あたしからは何もないわ」

「俺は持ち出し品か何かか……?」


「ん、そろそろだな」

「じゃ、あたしは部屋に帰るから」

「あぁ……じゃあ、みんな」


「これが【地下遺跡都市ウェブ・ジグザール】だ」


ゆっくりと近づいてくる、自然光に近い柔らかな明かり。
最後の格子状の門を抜けた先で皆を迎えたのは、下から突き上げるように吹く【風】だった。

それは、地下を円柱状にくり抜いたような空間。
半径200m程度の空間と中心の柱状遺跡、そしてそれに交差するように伸びる四方からの足場が繋がり、それを何層も何層も重ねた、シェルターめいた建造空間。
円周側の壁は家の役割か、ところどころから人々の声、鍛冶の音、色々諸々、喧騒となって響いてくる。


ニクスは皆の反応をひとしきり眺めて後、満足げに笑う。

「ここがネストと、ネストに賛同し戦ってくれている人々の砦だ」

「中央の柱が我々ギルド連合の施設になっている」

「最上層は地上へ続く搬入口。そこから三層までがギルドの補給・整備の施設」

「四層から十層までがギルド関連の寄宿舎」

「十層以降が避難市民の居住区、その中に家畜の生育場や物資備蓄層も含まれている」

「明かりは人工の光源球体を用いているが、節約のためあまり明るくはないな。せいぜい曇り空と言ったところか」

「……うん、そろそろ行こう。皆をまず俺の師にして現在のネストの統括者に逢わせなくてはならない」

「このまままっすぐだ。【リーチマン】に逢いに行こう」

2301とある世界の冒険者:2018/08/02(木) 20:39:34 ID:1b1iXY2s
>>2299,2300
「残念って言った? ねぇ私って残念? そんなことないよね違うよね、デキる美人魔術師だよねぇ!? ねぇ、ニクスくん!キョウくん!」

「魔術師として腕が立つのは確かだと思うけど、それと人格の残念さは矛盾しないからなぁ……。ほら、さっきの門番にも変人って言われてるし」

「合わせると残念な変人じゃないか!不当な評価過ぎる! 私のタフなハートでも流石に傷付く……よよよっ……」
スタスタ歩いて行くエストに半ば泣きが入りながら追い縋り、ニクスとキョウを巻き込んでまで必死に評価の訂正を求めるヘルメスを再び言葉の刃が襲う。
ガックリと項垂れ、わざわざ魔術で黒い靄を作って頭上に被せるというわざとらしい落ち込みアピール。
周りからは何してんだあの変人、と思われているだろう。


「……王都の地下にこんな場所があったのか……」
ニクスの案内について辿り着いた地下都市を一望し、感嘆と呆れるが入り混じった溜め息を漏らす。
確かにここならばかなりの人数を収容可能で、かつ外界から隔離されているため安全性も高い。避難所としては理想的と言える。

「おぉー……これは凄いね。遺跡都市ってことは、遺跡の再利用かな? この規模の遺跡を丸っと改造とは、色んな意味で剛毅だねぇ」
地下都市に着くなりあっさりと立ち直れる変メス……もといヘルメス。いつの間にか頭上の靄も消えている。
態度も雰囲気も変わらないが、目だけが鋭く都市を観察している。


「……あぁ、わかった。リーチマンか。直接の面識は無いが、一方的に見知ってはいるよ」
しばし、立ち止まって地下都市とそこに暮らす人々を眺めていたが、ニクスに促さてて再び歩き始める。
バッカスで見掛けたこともあるし、師匠の友人に知り合いがいると聞いている。伝え聞く人物評と自分が見聞きした印象通りの人であるなら、この状況下において生存を特に喜ぶべき人物の一人だろう。
こんな異変の最中でなければ、ギルド運営について色々と話が聞きたいところであった。

2302とある世界の冒険者:2018/08/02(木) 21:01:09 ID:QcW5K41c
>>2301

「…感謝する、やれるだけのことは勿論、全力をかけてやろう」

ラウネの言葉にもう一度感謝の言葉をこぼし、去っていく姿を見守った。
幾分か余裕も戻ったのか、表情も極端な仏頂面からいつもの無表情に戻っていた。

「…容赦ないな、あんた」

大げさなまでに必死な彼女にもとりつくしまもなく裁決を下すエストの言葉に、
これまた大げさなまでに落ち込む彼女に憐みの視線を向けた。

「…まぁ、俺はあんたのテンション、嫌いじゃないがな」

(こういう賑やかさは、知っているから)

フォローと呼ぶには少し弱い励ましを一言溢す、ただ同時に紛れもない事実だった。
いつかの自分だったら、きっと今苦笑いしながら頭をなでたりしたのだろう。



「…想像はしていたが、想像より遥かに凄いな」

ぼそりと呟き、食い入るように瞳に映る景色を眺める。
その表情は正しく驚愕の一言で、改めて感服せざるを得ない。
この環境下に置いて、間違いなく後世に語られるべき偉業の一つだろう。

「リーチマン…師、か」

ニクスの言葉に頷きながら、思考するように顎に手を添えた。
またしても名だけは聞いたことがある人物。
どうやらネストというギルドは、自分が想像している以上に実力者が揃っているらしい。
ニクスのような人物がここにいるのも、納得だった。

2303ニクス ◆/yjHQy.odQ:2018/08/02(木) 21:44:54 ID:7NifQUD6
「美人であるのは変わりないと思うのだが……それでは駄目なのだろうか」

「それとラウネはその区切りで言うなら【獰猛な美人】だ。偏屈も愛嬌の一つということで収めてはどうだろう?」


談笑しつつ進めば、幾人かの冒険者とすれ違う。
疲れ切った者。
不安げにうつむく者。
何かに苛つく様子の者。

( ´_ゝ`)「おぉニクス、無事だったか」

(´<_` )「ジャックに連れて行かれたからどうなることかと心配したが、杞憂で何よりだ」

「連れ立った友人たちのおかげだ。後で紹介しよう」


( ´_ゝ`)「また変なのが増えたなあ……これ以上影が薄くなったらどうしよう」

( ´_ゝ`)(そうかそうか、後でまた杯を交わしながら聞くとしよう。よろしく頼む)

(´<_` :)「兄者、ときに言葉として出す方を間違えているぞ」


時折明らかに場違いな者や、猶予の有りげな者は総じてニクスに話しかけていく。
そしてニクスは、その総ての者たちよりはっきりと平然とした態度を崩さない。
ネスト所属以外の者もまばらにいる中で、中央の柱状建造物【本部】に到達すると、中は思った以上に真新しい【ギルド本部】に近い構造。

依頼の貼られた掲示板。
親交を深める長テーブル。
酒場と言うよりは食堂寄りのカウンター。
受付嬢までいると、ただの地下施設のようにさえ思えるかもしれない。

床の傍らに寝かされている、血まみれの包帯を巻いた男性や。
血かマニキュアかの区別つかぬもので塗られた指を組んで横たわる女性の遺体。
そういったものが隅に置かれていなければ、であるが。


「最上階は受付だけだ。本部は五層にある」

中央の大階段を下りていくと、先程の階層をまるまる一つの会議場にしたような場所に出る。
慌ただしく人々が飛び交い、中央の立体魔術映像には王都が区画別に区切られ浮かんでいる。
指定ラインに何処の誰が何をしに向かったかがタグ付けされて伸びている。
少なからずネスト以外で十のギルドの構成員が働いているらしいが、その何れもが撤退を司令され退いているのが分かる。

理由は、恐らく【あの轟音の主】だろう。

ニクスはそれらに目もくれず、一直線に奥の大デスクの前に駆け寄っていく。
書類の山が冗談のように積み重なり、向こう側の様子など知れたものではないそこへ。

「リーチマン! 遅れて済まない、ニクス、只今帰還した!」




「――予測より2150秒ほど早い帰還だ」

「確かな成長の証拠だ。おかえり、ニクス。そして、ようこそ。三名の新たなる冒険者達」

「私が【リーチマン】。気さくに【ヒルさん】と呼んでくれたまえ」


白い厚手のコートは、誂えたばかりのように白く輝き。
190cmの長身は頭から爪先までを一本の芯で支えているかのように揺るぎなく、乱れない。
短くも整えられた金髪、そしてその光沢にまるで負けぬ猛禽のような鋭い眼差し。
笑みも何処か自身に満ち溢れたような落ち着きで、白い肌もくすみと疲れを微塵も感じさせないハリとツヤ。
現在二週間の不眠不休絶食状態を経てなおこの状態。
この男こそ現在のネストの統括者、ゼオと比して語られる奇人変人の一角。
【改造人間】
ジェラルド・I・ブラックモア。
【吸血貴人】
リーチマンその人である。

2304とある世界の冒険者:2018/08/02(木) 22:50:06 ID:SGnAWMak
>>2302,2303
「この手のタイプはちょくちょく突いて鎮静しとかないと厄介だからな……御者の居ない馬車みたいなもんだし。あと真面目に受け答えすると割を食うから」
その言い様には妙に実感が籠もっており、ヘルメスと同じようなタイプの知り合いがいることを伺わせる。

「愛嬌!! そう、愛嬌ある性格なんだよ私は! 見給えエストくん、ニクスくんもキョウくんも私の良さがよくわかってるぞ!」
ニクスとキョウのフォローに我が意を得たり、とばかりに得意満面の笑みを浮かべる。わざわざ魔術で下から光を当ててだ。

「まぁ、ヘルメスの明るさに救われてる部分もあるから否定はしない。もう少し大人しくしてくれれば、尚の事最高だけどな」
行き交う人々の群れを観察しながら、頭を掻いて溜め息混じりに溢す。
陰気な雰囲気になるよりはずっとマシだし、実際にヘルメスが居なければ、陰気とは言わないまでも雰囲気はずっと暗かったろう。そこは素直に認めるが、かといって必要以上の明るさも疲れるというのがエストの偽らざる本音である。

(むっ──! この感じ……あの男、出来る!)
兄者が現れた瞬間、ヘルメスは何かしらのシンパシーと謎の実力を感じ取った。この実力とは戦闘力とかそういう意味ではない。
とりあえず挨拶変わりに、魔術で実際に兄者の物理的な影を薄くしておく。特に意味は無い行動だが、使命感のようなものに駆られたのだ。


そのような珍妙劇場も交えつつ、本部の建物に到着。
構成員達による喧騒がざわめく中、粛々とニクスに続き、ようやくリーチマンと対面を果たす。

「初めまして、師匠やハインさん、それにアイゼンさんから話は聞いてるよ。俺はエスト・シン・トライク。王都の冒険者でドクオ・タルナートの弟子だ。ようやく頼む」
以前バッカスで見た頃と全然変わっていない、何ならむしろ当時よりも溌溂としているな、と思いながら自己紹介。

「うん、白くて結構!親近感が湧くね! 私は旅の美人魔術師、ヘルメス・トリスメギストスという者だよ。気軽にヘルちゃんと呼んでくれても構わないよ、ヒルさん」
外見の白さという共通点に共感を覚えながら、優雅に一礼しつつヘルメスも自己紹介。初対面で億面もなくヒルさんと呼べるのはヘルメスの強み……かもしれない。

2305とある世界の冒険者:2018/08/02(木) 23:16:44 ID:QcW5K41c
>>2304

「否定が全くできないのが…少しばかり悔しいところだな」

何が悔しいのか、それを語りはしなかった。
ただ一つ言えることは、ヘルメスの在り様を彼自身は好ましく思ってると言うこと。

歩きながら幾人かの冒険者とすれ違い続けて抱いた結論。
このギルド、特にニクスと親しげにしている者たちは総じて、癖がつよいということ。

(なるほど、技量的に未熟であれど。たくましくなるわけだ)

同情するような呆れるような、何とも言い難い表情を浮かべながら、
三人と共に、道を抜け本部へと歩いてゆく。


そして、喧騒を潜りぬけ、目的の場所へとたどり着いた。

(これが、ニクスの師か)

「…お初にお目にかかる。キョウ・リーフィンドだ」

対面してわかったことはそう多くは無い。
だがその面構え、様相をみれば容易にわかる強者の器。
成程、これほどの規模の組織体の中で最奥に座す人物として、一切の違和感がない。

恐れは無く、気おくれも無く。だが確かな礼節を持って、彼の統括者の瞳を真っ直ぐ見つめた。

「貴方が指示していたことか、ジャックとニクスの独断かは知る由もないが。
棄てるだけだったこの身が拾われたこと、ここで改めてニクスへと共に感謝する。
受け入れてくれて、ありがとう」

そう言って、深々と頭を下げた。

2306ニクス ◆/yjHQy.odQ:2018/08/03(金) 00:39:23 ID:ekUuVSsc
「エスト、聞いているよ。ドクオ君からはここに来るであろう存在として、ではあるが、君をよろしく頼むと仰せつかっている」

「故に、師の顔を立てて精々とこき使わせていただこうと思う。期待しているよ」

各々の自己紹介を聞いて後、まずは一番近かったエストの前に立つ。
自身の顎に手を添え、少しばかりの冗談を交えた後、微笑と共に握手を交わす。
……明らかに、握手の瞬間の脱力に感じる【重さ】。
エストが聞いていれば知っているだろう。彼の体重は過密状態の血液と骨密度で200キロを超えるのだと。


「ではヘルちゃん、よろしく頼む。初対面の人間が来るとは考えていなかったが、これは僥倖と捉えるべきだろう」

「万が一獣化の兆候が出た場合、いつでも国外退去の手はずは整えてある。遠慮なく言って欲しい」

「撤退は恥でもなく、敗北でもない。今ここに君が立っていることこそが勝利と栄光を示すものだと、ネストは喜んで証明しよう」

笑顔で返しつつ、彼女に伝えるついでにと他の皆にも。
ネストの冒険者は交互に入れ代わり立ち代わり、この【ウェブ】を守るために国外から補充と交換を繰り返している。
これにより獣化を進行させないように拠点を維持している、と。
明るく、愛嬌のある彼女であるからこそ抱え込まないでほしいというリーチマンなりのエールだが。
言い方が言いたいことに特化しすぎて、含むような言い方になっているのは、彼の気質をよく物語っていると言えよう。
余談だが、リーチマンはヘルメスとの握手は体重をかけぬよう慎重に行っている。
エストに対して荒いのではなく、おそらくは女性相手だからだ。



「キョウ。私は何度か見かけたことがあるよ……バッカス以来だろうか」

「ニクスがどう君に言葉を伝えたかはわからない。だが敢えて言おう」

「気にせず、ただ君は君の戦いをしなさい。そのための助けを我々は惜しむことはしない」

「お互いの利害が一致することを願っている。今日はゆっくり休むといい」


頭を下げるキョウの肩に手を置き、簡潔に言葉を投げかけてから、離れた。
握手に感じるものは何だったろうか。
しっかりと繋いで握った指は、熱かった。


「――さて、改めて、ようこそ、【ウェブ】へ」

「ここは王都民の避難地域、及び敵性存在との戦闘における戦略拠点として機能している」

「一切の衣食住、生活のサポートは我々ネスト及びギルド連合が保証する」

「ここはあくまで戦うもののための寄り合い所だ、要請はしても強制はしない」

「自ら考え、自ら望むものへ、何をするべきか簡潔にさせるための場所と思って欲しい」

「ふむ……ヘルちゃん、君は女性でかつ魔術師だ。それも高位と見受ける」

「ゼオやジャックはこっちにはなかなか居着いてくれなくてね、魔術関連の面で協力してほしいことが間々あるのだ」

「それを加味して三層の奥の部屋を供与したい。広めの部屋で備え付けで一通りが済ませられる」

「エストとキョウには七層の一般区画の部屋を使ってもらおうと思う」

「ふむ、施設の詳しいことはこの冊子を呼んでもらえばと思うが…………」


手の中の冊子を手渡しつつ

「何か質問は? 緊急の案件があるなら今聞いておきたい」

2307とある世界の冒険者:2018/08/03(金) 21:46:34 ID:jripDoWA
>>2305,2306
「師匠から? ここに俺が来るのを見越してた……いや、可能性の一つとして考えてた程度か。こういう所は妙に抜け目ないな……。あぁ、世話になるんだ、俺の微力で良ければ存分に使ってくれ」
普段は考えるよりもとりあえず真っ直ぐ行ってぶった斬る、という脳筋……刀脳の癖に、組織だった行動をする時は打てる布石は打っておく、という二律背反な師匠に呆れつつ、苦笑を浮かべて握手に応じる。

「ちゃんとヘルちゃんと呼んで貰えるってイイね! まぁ、ここまで来たのは成り行きの部分が大半だけど、海苔の掛かったウニだし、私が納得行くまでは協力するよ。獣化したらサクッと殺して欲しいかなー。多分めっちゃ強いし、私の獣」
リーチマンの真摯で紳士な気遣いの甲斐も無く、あっけらかんと獣化したら殺せと宣う。決して自身の命を粗末に扱っているという風では無く、その対応が最善で確実であると確信している、という態度だ。
剽軽な性格とは裏腹にその辺りは随分ドライであるらしい。

「……珍しく真面目なところ悪いがな、ヘルメス。海苔の掛かったウニじゃなくて、乗りかかった船だ。なんだその美味そうなの。腹減るだろ……」

「わ、わかってるよわざとだよ! ジョークだよ!」
ヘルメスを前にして平然と自らのペースを崩すことなく、泰然としたまま普通にヘルちゃん呼びするリーチマンに戦慄を覚えつつ、流しきれずにヘルメスにツッコんでおく。


「慧眼だねぇヒルさん。うん、少なくとも衣食住の分は働かせて貰うよ。魔術のことならドンと来いさ! 錬金術にもそれなりの造詣があると自負しているし、あればそっちも回してくれても構わないよ」
魔術関連なら自分の出番、と自信たっぷりに胸を張り、ついでに錬金術もイケると付け加える。実のところ、彼女の衣装と杖は手ずから錬金術で創ったものである。

「あぁ、わかった。……緊急というわけじゃないが、俺とヘルメスから一つずつ、頼みがあるんだ」
冊子を受け取り、説明に頷くと、リーチマンに頼みがあると切り出す。

2308とある世界の冒険者:2018/08/03(金) 22:11:05 ID:RvcVe3xk
>>2306>>2307

「…気遣い、感謝する」

顔を上げ、握手に応えながら。
その言葉は、先ほどより強く、感情が込められていた。

(実力差で一切敵わぬ程劣るとは思わない、けど…敵わないな)

手から伝わるもの、彼から発せられるもの。
単純な強さではない、年月を重ね練磨された気配でもない。
゙背負うもの゙…今の自分が、手放してしまったもの。
彼がどんな気持ちでその位置にいるかは知らないが、それが決定的に違うと感じた。
ニクスとはまた違う意味で、リーチマンはキョウにとって眩しい存在だった。

「それと、失礼した。
貴方ほどの存在に当時気付かなかったとは、この身の未熟さに他ならない。
がっかりさせぬよう、明日を生きる人々を護れるよう、全力を尽くそう」

彼から自身を認識されていることは意外に他ならなかったが、
勿論それに悪感情を抱く訳もなく。
自身が知らなかったことに謝罪を述べながら、冊子を受け取る。

「特にはないが一つだけ。地上に出る際は手続きをするものなのか。
或いはどこかに言伝をすればいいのだろうか」

ギルドについたときもそうだが、この場所も自分には少しばかり辛いものがある。
拠点として利用させてもらうのは勿論のこと、ギルド側の要請にも可能な限り応えるつもりではある。
だが、あまり長期に留まるつもりはなかった。


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