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第二汎用スレ

1「鍵を持つ者」:2011/09/03(土) 23:54:23 ID:???
汎用という言葉に無限の可能性を感じる今日この頃

2265キョウ・リーフィンド:2018/07/19(木) 19:33:55 ID:OcXX6vDg
>>2264
「…っ」

周囲を取り巻いた熱気に、思わず顔が歪んだ。
穂先が燃える三叉槍、だが燭台と揶揄するにはあまりに苛烈。

(まるでガスバーナーだな…直撃すりゃ終わり…っか)

熱気で気流も乱れている、中遠に退避しての牽制魔術は
あまり意味を為さないと思った方がいい。
加えてこの屋根、家屋が続く限り縦幅はいくらでもあるが横幅はそう広くもない。

想定していた以上に相手に有利なフィールでの戦闘に、知らず舌打ちが漏れた。

「っち…だが、やることになにも変わりはない」

脚に力を込める、正面での差し合いは余りに不利。ならば打つべき手はひとつ…。

構えは低く、槍が構えていようと重心は前へ。
ここで恐れて後ろに引いても、その先に勝利は確実にない。

「っ!」

音の炸裂と同時、ウィーヴの振り下ろしに合わせるよう、
ウィーブから見て右側後方に向けて飛び込みから前転して背中側に回り込んだ。

「っはぁ!」

前転後すぐに戦闘体勢へ移行、体は屈んだままで右足右手を軸に反転。
狙うは関節、膝裏めがけて左足の払い蹴りを放った。

2266ジャック・V・テイラー ◆/yjHQy.odQ:2018/07/20(金) 01:18:07 ID:5QkGh7I2
>>2265

槍は俊敏な敵対者を捕らえること能わず、されど屋根に大きな火柱を生み、定点を焼却した。
明らかに追いきれていない証拠に、目線だけは確かにキョウを追っていた。
槍の重量と、使い手さえ危険に晒す熱量から、ジャックが見せたような【持ち手の位置でリーチを謀る】という基礎が使えないのだ。

そして、キョウは確かに感じるだろう。
膝裏へと蹴撃を当てた瞬間。
まるで目の前の男が【人の形をした鉄塊】であるかのような揺るぎなさを。
そして、その事実を一瞬遠ざけるような、【薄皮の割れるような手応え】を。

『チイィッ!!』

振り向きざま、大きな横振りで迎撃してくる。
石突ギリギリの大振りも、棒付きの焼却装置は遠大なリーチのみなら確かな危険性を保ち、振られた。


下では獣の咆哮と断末魔が等間隔に響いてくる。
おおかた聴覚から狂わされた獣が次々にとどめを刺されているのだろう。
まだ、ジャックはそちらに手間を取られるのは確定的だ。

2267キョウ・リーフィンド:2018/07/20(金) 19:50:54 ID:M5o54uHM
>>2266

(っ!これは………っ!)

脚に伝わった感触に驚くのも束の間、槍の振り払いが身に迫る。
決して素早いと感じる訳ではないそれも、現在のキョウの体勢では楽に回避とはいかない。
まともに食らえば死…とまではいかなくても致命傷になりうるのは想像に難くない。

(覚悟を決めろ…っ)

払いの体勢から重心は背中側へ、屋根に倒れ込みながら砲槍を無理やり蹴り上げる。

「っづぁ…!」

髪が焦げる臭いがする、至近で熱に晒された肌には焼けつくような痛みが走る。
それでも、蹴利上げの勢いを利用して後転、左手で地面を押し跳ね起きる。
起き上がりと同時、右手に風を集束、掌程の空気圧力の塊を生成。

それをもう一歩、更に後方へとステップで逃げながらウィーヴに向かって放った。

「風弾(かざだま)っ!」

熱気で気流乱れる中間を置かず放ったそれは、決して強力なものとは言えない。
風の集束も甘く圧縮率も弱い、今の奴ならばそれこそ蚊に刺された程のものだろう。
それでもいい、ここでの追撃は必ず止める。それこそが目的だった。

2268ジャック・V・テイラー ◆/yjHQy.odQ:2018/07/20(金) 22:43:05 ID:5QkGh7I2
>>2267

『ぬぅっ……!』

蹴り上げられ体勢が崩れると、足場の悪さから追撃もままならず数歩よろめく。
圧倒的に重心が先端に集中し、かつ遠巻きに持たねば自らを焼くあの槍は、反撃にめっぽう弱いようだ。
更に繰り出される追撃の風弾。
柄で受けるも、重心の偏った持ち手では受け場所を広く持てず、弾ききれずに脇腹へと当ててしまった。

すると、割れたようなブレこそ無いものの、ウィーヴの身体を包む【二枚の障壁】がうっすら浮かび、すぐに消えた。
あれが割れた何かの正体であろうか。
体勢も整わぬ蹴りで割れた以上、後二枚。
穂先の炎だけは以前燃え盛り、使い手さえ焼きながらなお煌々と輝いている。

『あぁ……何を、やっているのかな……』

『誰かとじゃないと戦えない、俺が……一人で、こんなところで……』

穂先をキョウに向けながら、男は自嘲した。
顔は悲痛な笑みに緩み、滴る汗は熱せられた屋根に当たって蒸発した。


『あぁ、でも……やるしか無い……』

『獣は、殺す…………殺すんだぁぁぁぁあ!!!』


猛然。
そのまま穂先を向けたままの突進が、キョウへと襲いかかる。
見た目以上の範囲を焼く熱気を向け、当然風は気流を乱され効果を弱める。
だが、それは彼も同じなのだろう。
時間稼ぎ。
彼にもまた、もうそれが残されていないことは明白であったから。

2269キョウ・リーフィンド:2018/07/20(金) 23:22:56 ID:M5o54uHM
>>2268
「ハァッ…ハァッ…」

息が荒い、当然だ。
ここまで何体獣を殺した。ここまでどれだけの速さで駆けてきた…どれだけの魔力を消費した。

疲れていない筈がないのだ、意地で誤魔化していただけ。
それが、先のダメージで自覚を隠せなくなった。
未だ響く獣達の断末魔を聞くに、ジャックもまだこちらに援護をする余裕はないようだ。
あまり時間は無い。しかし―

「…けど、そうか。そうだよな…」

その言葉で、わかってしまった。相手にも時間はそう残されていないことが。
苛烈な攻めも、煌々と燃え盛るその穂先も。
燃え尽きる直前の蝋燭のように、全てはこの一瞬を越えるために。

「ああ…終わらせよう。」

先の蹴り、確かな手ごたえはあった。
つまり相手は目に見えぬ鎧を何重に纏っていることなのだろう。
それが後幾つ残っているのか知る由もないが、ひとつひとつ剥がす余裕などない。

ならば、一手でその鎧ごと貫く―

(風神・招来…)

「烈破っ」

右手に力を込める。今纏える全ての風を、今己にすべての大気を込めて。
この手は大気の鉄槌。この拳は風神の拳…。

(貫けば勝ち、貫けなければ…。)

相手の一手を躱してから打ち込めばほぼ確実に勝てる見込みだろう。
だが、獣に堕ちて尚戦い抜く勇士に敬意を。
己に持てなかったその強さに敬意を。

「勝負だ…ウィーヴ・アライアンス」

(風神・招来…)

構える、体勢はあくまで槍をくぐれるよう低く。
だが真正面から振りぬいてもこちらが先に槍で貫かれるのみ。
故に…一度左へのサイドステップを挟み。

最後に残った左のリバイバルプレート、その風を…全直で射出した。

「絶影」

それは一度限りの超高速。
勝利か敗北か、後ろを捨てたもの同士、果てへと誘う死合舞台の片道切符。

その高速のままに顔は低く、突進へカウンターを合わせるように。
今出せる全力を込めた右の拳を、柄の下よりえぐり込むように、胸部に向けて撃ちこんだ。

2270ジャック・V・テイラー ◆/yjHQy.odQ:2018/07/23(月) 00:22:47 ID:Xv7qmVjE
『…………!!!』


勝負は、やはり得物の差に左右されたと言ってよかった。
重心があまりに先端に偏った砲槍は、サイドステップに反応するのに【穂先を僅かに上げて】向けなくてはならなかった。
もとより槍に抗するための徹底した低姿勢のキョウの突貫、反応こそ出来たのはやはり同じ魔具に通じるもの故か。
しかし、その速度……彼が今までのすべてを費やし追ってきた風の一撃、もはや捉えるに敵わず。
身体は確かに灼熱を抜き去り、拳は確かに――


胸部の前に据え置かれた右腕を貫き、胸部に突き刺さっていた。


『か、はっ……!』


それは獣に変質しかけたが為の反応速度か。
槍が抜かれると分かった瞬間、右腕をとっさに急所の前に置き、犠牲とすることを可能にした。
防御魔術さえ貫徹する神速の一撃、しかし、腕の分、魔力に相するに半分の枚数の補填が、即死をかろうじて防いでいた。

そうだ、遅かれ早かれ、ほんの十数秒の後、ウィーヴ・アライアンスは死に至る。

『ッ……!!』

穂先を、ゆっくりと上げる。
その煌々たる篝火は近づけるだけで容易に人を焼き尽くす。
触れずとも、上げた後に緩めれば、ウィーヴごとそれは完遂されるかもしれない。
しかしそれをキョウがみすみす許すはずもない。
それは、ほんの一瞬の出来事であった。

『  』


キョウが行動を起こす前か。
それともそうなるという予見が出来た故、敢えて見過ごしたか。
ウィーヴは、有ろう事か一度は掲げかけた槍を、放って捨てた。
力尽きたか。
魔力切れで維持が出来なかったか。
激痛が彼の指から力を奪ったか。
ともあれ、キョウにもたれかかる男の顔からは険と共に生気も消え失せて……

一匹の獣の死が、確認された。

2271キョウ・リーフィンド:2018/07/23(月) 20:00:24 ID:kGPwMank
>>2270

―届いた。

背中を、死を潜りぬけた右腕を、それでも熱に焼かれる痛みが襲う。
超速の中で無理な軌道で振った腕の筋肉が軋む。
予想だにはしていなかった右腕の盾により威力も殺された。

だがしかし、確かにこの右手は彼の身に叩き込まれた。
その感触を胸に抱いて、キョウは静止していた。

「…」

ウィーヴの動きに気づかなかった訳ではない。
それもいいと納得していた訳でもない。
ただ単純に、今出せる全力を尽くした一撃に、数瞬身体が休息を求めていた。
動かないのではなく動けない。
それが故に、この身を焼かれるのだとしたら、きっと仕方ないことなのだろうと。

(やれるだけはやった…これなら、怒らないだろう?)



…果たして、篝火がその身を焼くことは、ついぞなかった。
今キョウにかかる重みは、彼が逝ってしまったなによりの証拠なのだろう。

今わの際に彼が何を思ってかは、己には計り知れない。
ただ事実として、この身はまたしても生かされた…。

「…」

その暇は一瞬で、そしてまるで一昼夜のようにも感じられた。
身体をずらし、男の顔を見やる。
感傷は無意味とわかっている。
自分と彼に関わりなどなく、ただ戦い、ただ命を奪い合っただけ。
彼にかけてやれる言葉など最初からこの身は持ち合わせていない。

―何故彼が死に、自分が生き残ってしまったのか―

それが、決して問うてはならない言葉だということも、わかっているのだ。
だから内からでたその問いはそっと胸にしまい、ただ一言だけ―

「…お疲れ様。お前は、強かったよ」

そう溢して、彼の遺体をそっと横たえた。


そして痛みに顔を歪ませながら、一人屋根に座り込んだ。


「…っづぁッ…ってぇ…さすがにやばいな」

右腕から背中にかけての半身、それに左脚も火傷を負った。
加えて脚はそんな状態で風にのったものだから筋肉も悲鳴を上げている。
全身酷い疲労感に襲われ魔力もほぼからっから状態。

「我ながら無茶したもんだ…」

生き残ったとはいえ、これではジャックたちの方へとすぐ駆けつけるのも難しい。

(下の獣の方はもう大丈夫だろう、少し疲れた)

このまま呼びかけがあるまではここに座っていよう。
そう決めて、空を見上げ小さくため息を溢した。

2272ジャック・V・テイラー ◆/yjHQy.odQ:2018/07/24(火) 15:41:34 ID:tUpsj4lI
>>2271

「おっすおっす。……お疲れさん」

階下で重々しい音がし出すと、程なくしてジャックが蔓を階段代わりに上がってくる。
勿論、というように不可視のローブでの擬態付きではあるが、キョウの生存を確認した瞬間解除したようだった。

「いやいや、酷いもんだね。あんな隠し玉を持ってるとは知らなかったんだよ、ごめんね」

「……こいつは元々単独では絶対クエストを受けない冒険者だったんだ」

「だからあんな味方殺しの奥の手なんて出す必要もなかったんだろうけど」

「あぁ、いくら獣でも死体が動き出したって事例は今んとこだけは聞いてない。こいつはこっちでどうにかするよ」

キョウとウィーヴを見比べ、ポツリとそんな事を言って。
同情の中には何処か他人行儀な感情が見え隠れする。
キョウにやけど治癒のヒーリングをかけつつ共に降りる。
下では恐らくジャックが作ったのであろうゴーレムたちが数体、獣の死体を一箇所に纏めて放っている。
ゴーレム関連の魔術師が見たら【なんでまともにしかも複数体動いているのかわからないほど術式が雑】と並行することだろう。

「そりゃあれだ。深淵退禍で無理やり材質の耐性下げて無理やりゴーレムの術式を定着させているから」

ひでえ。

「キョウ! 無事で何よりだ……!」

駆け寄るニクスは心底安心した様子。
疲れ切ったキョウに気付くと、慌ててカバンを漁り、活力剤の入ったフラスコボトルを取り出す。

「一時的にだがマシにはなると思う。ネストまでは十分に保つだろう、使ってくれ」

「他に入り様なものはないか?バッカスが近いからな、工面は出来ると……」


そう言って振り返るニクス。
その後ろには、感慨深げにバッカスを見上げるジャックがいた。

「無事で何より、だな」

本当に、本当に小さく呟いたそれは、おそらくは無意識の発言。
あの頃から変わらない、少年の微笑みであった。

2273キョウ・リーフィンド:2018/07/24(火) 20:08:45 ID:/C5ZU67s
>>2272
「ああ、そっちもな…」

昇ってきたジャックを一度見上げ、ふらつきながらも立ち上がる。

「すまないな…」

つらつらとジャックが口にする彼の事には何も返さず。
ただ治癒に一言だけ礼を述べて、ともに降りる。
自分が何かを語る必要はないと思った、語れる言葉も持ってはいなかった。

降りながら目に飛び込んできた光景に少しばかり目を見開くが、
すぐに憮然とした表情に戻る。
何も言っていないのに説明するジャックに微妙に驚きを見透かされた気がして

(…かつて思っていた以上に、食えないやつだなこいつは)

そんなことを、頭のなかで考えていた。

そんな折駆け寄ってきたニクスに視線を映す。
ジャックの治癒が効果を為しているのか、身体はボロボロだが体幹はしっかりした様子。
大丈夫、と言おうかとも思ったが、まっすぐすぎる彼の善意を撥ね付けるのは少し忍びない。
そう判断したのか、素直にボトルを受け取った。

「世話をかけるな、ありがとう」

どうやらまだ何も話していないというのに既に彼はネストに供に行くと信じているらしい。
その事実に呆れ顔を浮かべる。
彼らの言う゛ネスト゛に行くと決めていた訳ではないのだが。

しかし、この状況でそれを否定するのもさすがに野暮というものだろう。
事実はどうあれ、客観的に見ればキョウははこの二人のためにここに来たのだから。

(今間違いなく一番疲弊してるのは俺だろう…強引な説得に持ち込まれたら…)

(どの道、選択肢なんてそう多くはないのだしな…)

現状はもうついていくという選択肢しかキョウには残されていない。
それをわかってか、諦めのように一つため息を溢し…。

ジャックの溢した言葉に、何かにせっつかれるように勢いよく振り向いた。

「っ…」

同じようにバッカスを見上げる。
かつて仲間と笑い、語り、時には涙を流し怒りもした酒場。
ある種楽園のような、実家のような安息感さえ約束されていた場所。

それは残酷的なまでに輝かしい栄光の日々。
そして…二度と帰っては来ない、今では全て遠い日々。

「っ」

その事実に涙が零れそうになった。
ジャックの言葉も、痛い程に理解できた。
もはや必死に守る意味などないとしても。
いつかの輝きは手放すには余りに尊くて。
俯いてばかりの背中を、押された気がしたのだ。

「…死にたいと言った言葉に変わりはない」

「俺は何も護れなかった、今更誰かの為に何かを…なんて望みは持てない」

「未来を見据えることさえ出来ない。失った過去ばかりに囚われて、前も向けない」

信念は錆びついてしまった。心は閉ざされてしまった。
望みなんてものは持てず、未来へ目を向けられそうにもない。
かつてこの身を包んだ精霊の加護は消え、クレティウスも輝きを失ってしまった。

「世界以上に、ただただ自分への憎しみが募るばかりだ…」

何も護れなかった不甲斐なさも、生き残ってしまった自分への憎しみも消えそうにはない。
死を望む気持ちは変わらず、かつての熱も取り戻せず。
前を向くこともできず、どうな風に笑っていたかさえ思い出せない。

それでももう一度―

「…それでも、こんな俺でも何かを護れるなら。誰かの明日をつくれるなら」

「もう一度だけ、かつての信念に誓おう。この拳を、剣を、風を…護るために、振うと」

その言葉は、誰よりも自分への誓いの言葉だった。
前は向けずとも、未来は見れずとも。

もう立ち止まりはしないと、そう決意するようにまっすぐな瞳で、二人を見た。

「こんな俺でよければ…よろしく頼む」

「ジャック…そしてニクス」

2274ジャック・V・テイラー ◆/yjHQy.odQ:2018/07/25(水) 02:03:26 ID:hrbvrDXE
キョウに改まって決意を表明されれば、二人は向く方向こそ違えど微笑んで応える。


「此方こそよろしく頼む。心強い仲間が増えて俺も嬉しい」

「ん、じゃあ後はよろしく。ニクスの案内なら問題ないでしょ、キョウくんも」

「……なに? もういってしまうのか、テイラー」

「俺も忙しくてね。今日はこのまま【ゼオの依頼】の方を仕上げてくるよ」


そう言うと、ジャックの身体はまたあのローブを纏いだす。
布が翻る度に、ジャックの身体の向こう側が透けて見える。
其処に確かにいるはずなのに、気配がおぼろげに消えかけているのが不気味ささえ演出して。


「キョウくん……いや、キョウ」

「この事態を起こした黒幕を俺とゼオは追っている。だが、君は連れていけない」

「真相はこの夜の帳の向こう側だ。もし君が追い求めるのであれば……そう、今は、君自身の誓いを守り続けることだよ」

「そうすれば何れは思いもよらない方向からぶつかってくるだろうさ、俺がそうだったからね」


微笑みは風とともに消え、ジャックが其処にいた痕跡は融けて無くなっていた。
本当に、さっきまで其処にいたのかさえ分からなくなるほどの同化。
もう、ここにはジャックはいない。
分かるのはただそれだけだった。

「……ゴーレムはきっと片付けが終わったらもとに戻るんだろう」

「結構念入りに魔力を仕込んでいたのは見たからな。心配はいらない」

「今すぐ行くか、それとも休むか?俺はキョウの方針に従おう」

「重ねて、よろしく頼む」

2275キョウ・リーフィンド:2018/07/25(水) 21:10:11 ID:T702sb7A
>>2274

「…そうか」

世話を焼かれるだけ焼かれて離脱するというジャックに表情が少し陰る。
まだなんの礼も返せていないというのに。
しかし、別に今生の別れというわけでもない、借りはまたいずれ返せばいい。
そう思い直そうとして。

「っ!」

姿を融かしながらジャックが残した言葉に。
今度こそ、目が見開くのを一切抑えることが出来なかった。

(黒幕…だとっ…?)

キョウもその可能性を考えたことがなかった訳ではなかった。
これほどの大規模な都市の変異、超自然現象でもなければ。
誰かが裏で糸を引かなかった訳がないと。

だが、すぐにそんな考えは切り捨てた。
誰に責任追及をしようが、自分が失ったものは戻りはしない。
その事実が、彼の思考を放棄させていた。

驚愕に色を塗られていた表情が、少しずつ漆黒の無に染まっていく。
もし仮に、黒幕がいるのであれば。そこに手が届くのであれば―

(必ずだ…必ず、命あることを後悔させてやる…)

ジャックは言った。今はただやるべきことをやれと。
真実の欠片は向こう側から現れるだろうと。
それが真実であろうと、この身に楔を打ち付けるための詭弁であろうと。

(ああ、やってやるさ…まずは地盤を固める。調査は、それからだ…っ!)


そこまで無表情のまま思考を続け、漸くニクスからの声かけに気づき言葉を返した。

「ん?…ああ、俺の方こそ、やっかいになる」

「身体の方は大丈夫だ、戦闘が終了してから少しは休んで魔力もちょっとは戻った」

「ジャックがくれた治癒も効いているし、お前がくれたこれもある」

そう言って、今の今まで持ったままでいたボトルに漸く口をつける。

「少数の獣との戦闘ならなんとかなるだろう、お前が大丈夫なら向かおうと思うが」

こちらはあくまで今は導かれる側、ひとりでは向かう方向すら定まらない。
案内役であるニクスの意志に沿うつもりだと、言外に込めながら彼の状態を確認した。

2276ジャック・V・テイラー ◆/yjHQy.odQ:2018/07/26(木) 05:26:05 ID:qMzDdpG2
キョウの様子にニクスが気付かないわけもない。
事実、若干の曇りが表情を覆っていた。
しかしそれをニクスから聞いてくる気配もない。
キョウの考えることはキョウのみぞ知ればいい、ということだろう。

「そうか。テイラー曰く、この一帯の獣は新参が多く、数も先程の一戦で相当数減ったらしい」

「バッカスは休憩拠点として存在しているため、地下水道は封鎖してある。基本的に向こう側から一方通行だ」

「逆に言えばもし危険な状態であったら、バッカスに逃げ込んで補給が来るまで籠城、というのもある。憶えておいてくれ」


「では行こう。近場の商店街の井戸を使う」

「何が待っているかは分からない。ここでは常に警戒と覚悟をして臨むべし、先達の教えだ」

「キョウならば大丈夫だろうが、俺はそうも行かない。牛歩は予定調和として容認して欲しい、頼む」


そう言うと、外套を翻し、小盾と片手剣を確かめて歩き出す。
彼の装備は革を重ねた軽装スタイル、ヘルメットには上下可動のレンズ、各部にベルトと装着されたシリンダー。
彼自身の警戒心にも、キョウから見て恐らく油断や乱れは驚くほど感じられないだろう。
奇襲されればと宣ってはいたが、おおよそ広く、淡く、的確に危険な場所へ集中を欠かさない。
ジャックが言った。
《彼の案内なら問題はない》
おおよそ、ニクスはその戦闘力こそ本当に駆け出しであるが、精神面は老練の玄人のそれに近い堅固さを有していた。


「キョウは大丈夫だと言ったが、極力戦闘は避けていきたいと思う」

「はぐれたりすれば最悪共倒れも視野に入るだろうし、何より俺が危ない」

「ただ戦闘を避けられないとなれば話は別だ。俺も囮くらいはやってみせよう」


石畳の街路は歩けばコツコツと音を跳ね返し、明けぬ夜の王都を不気味に揺らす。
獣の気配は無い。先程の戦闘でも周囲から殺到ということがなかった、縄張りやエリアの意識があるのだろうか。
腐るのを通り越し乾いた果実。
壊れた籠や調度品、見覚えのある路地の時間は緩やかな死の果てにあるようだった。
ニクスは淡々と警戒をそのままに歩を進め……
広場に繋がる通りに差し掛かって、足を止めた。

「ここからは店の中を通ろう。あの広場は大きな獣が縄張り争いでもするのか、小競り合いをしていることがある」

「少し遠回りだが、預かった身を危険に晒すリターンはないと判断した。構わないかな」

2277キョウ・リーフィンド:2018/07/26(木) 21:21:24 ID:Au8QBqjk
>>2276

「わかった、それでいこう」

―――


(…大したもんだな)

周囲への警戒を努めるとともに、目的地へとニクと向かいながら。
彼のその様子、更に言えば在り方を見て。
皮肉でなく、そう思った。

そもそも、今の王都内でまともな精神性を維持しているという時点である種異常なのだ。
極端な程にぶれていたキョウが言ったところで、それはただの言い訳でしかないが。
こんな環境に長く身を置けば、大なり小なり自分の中のなにかがずれる。
いや、ずれなければ自分を保てないのだ。
それこそ、先のウィーヴのように。

変わらないのは元々ずれていた者か、こういう事象に慣らされてしまったもの。
あるいは、何があろうと崩れない鋼の精神を有するもののみ。

そんな環境下においても彼は、キョウから見れば眩しい程に真っ直ぐに見えた。
戦闘力という面に置いては、確かにこの目に見てもまだまだ未熟なのだろう。
それでも彼は尊敬に値する者だと、そう思えたのだ。


脚を止め、方針を伝える彼に、キョウは素直に頷いた。

「悪くない…いや、いい判断だ」

「必要のない戦闘は極力避けるに越したことはない。反対する理由はないな」

2278とある世界の冒険者:2018/07/27(金) 23:35:57 ID:EbanIF9c
二人が入ろうとしている建物、その中の入ってすぐの一角に、一組の男女が身を潜めていた。
トカゲの獣と戦い、討伐に成功した直後に傷と疲労で倒れた青年エストと、その戦闘に助太刀する形で乱入してきた女である。
討伐後からしばらくしてエストは目を覚ましたが、依然としてダメージと疲労は深く、回復が必要だった。
獣どもとの戦闘を避けつつ、安全に治療に専念できる場所を探し歩き、辿り着いたのがここだ。
なお、共闘していたシノ達は女の方が案内して別れている。

現在は一通りの治療が終わり、失った体力を取り戻すために休息しつつ、今後の方針を話し合っているところである。

「さて……これからどうするつもりかな?」
問い掛けるのは女性。よく通るソプラノの高い声だ。

「これから、か……。できれば仲間や師匠と合流したいところだけど、この状況だとどこに居るやら……。
 仲間や師匠じゃなくても、少なくとも共闘できる誰かを探す必要はある。二人だけでできること、助けられる人数には限界があるしな」
答えるのは男。隠しきれない疲労感が声に滲んでいる。

キョウとニクスが中に足を踏み入れれば、すぐに話し声に気が付くだろう。

2279ニクス ◆/yjHQy.odQ:2018/07/27(金) 23:59:17 ID:clZA4XcA
「ここは戸に音が出ないようにネストが細工した通路の入口のようなものだ」

「こういった印が四隅の何処かにあったら、そういうものだと思って欲しい」

「いこう、ここから先は暗くて狭いから転倒に注意してくれ」


キョウの了承に少しの笑みを見せ、説明も手短に、扉を開ける。
不思議なほど音が出ず、店の入口にありがちなベルも取り外しており、本当に音は出なかった。
……音が出ないが故に、聞き取りやすいものもあったが。

「……!」

言葉無く、誰かの話し声に反応し、ニクスが手で制する。
聞き耳を立てる仕草は、誰であるか……いや、「獣であるかどうか」を判別しようという動作。
意味のわからない、一定の単語の羅列が共通する仕組みであったが。
さてどうだろうか……と、こっそり聞き耳を立てて。

2280キョウ・リーフィンド:2018/07/28(土) 00:14:20 ID:R6x6U.dw
「わかった」

笑みに対し頷きで返し、ニクスの背について屋内へと進もうとした矢先。
耳を掠めたかすかな音、注意を促そうと思った時には既にニクスに手で制されていた。

(本当に全く、頼りになる)

そう関心を重ねるがそれはそれ。一先ずは目の前の問題に集中するべきだろう。

この身は風と同義。
空気の層で音を遠ざけるも、また空気の振動を読んで音を拾うのも可能である。

―少なくとも…探す必要はある…できること…限界があるしな…―

(………待て、この声はどこかで…)

拾い上げた声、その響きに覚えがあった。
即座に思いつかないということは親しき間柄ではないだろうが、
少なくとも自分が知っている人物である可能性は高い。

断片的に拾える会話からしても、恐らくは゛まだ゛まともな人間であるとも判断できた。

(ニクス、おそらくこれは獣じゃない)

(それに、俺は多分この声の主のことを知っている)

音は立てずにニクスに寄り、微細に空気の流れを使ってニクスの耳に届くよう。
小さく、囁いた。

2281ニクス ◆/yjHQy.odQ:2018/07/28(土) 00:37:41 ID:.MSXb0e6
>>2280

(本当か……?なら都合がいい、交渉役は任せていいだろうか)

キョウの言葉を疑いもしない。
それならば、と、鞘に納めたまま剣を外し。

ドン!

ドン!

……と、間隔を大きく空けて、床を突いて音を立てる。
外に聞こえるほどでもなく、仮に天井や別室に獣がいるようであれば、人数で一気に仕留めようという画策。
何より、此方が獣に間違えられて襲撃されるパターンだけは避けたかった。

「ドアがなかったので、ノックさせてもらった。済まない」

「此方に聞き覚えのある声がした。今からそちらに向かう、どうか話を聞いて欲しい」


(じゃあ、行こう)

2282とある世界の冒険者:2018/07/28(土) 00:49:36 ID:5PSuwWAo
「エストくんの師匠ねぇ。どんな人なんだい?」
蝋燭の小さな灯火だけが照らす薄闇の中、二匹の蛇が巻き付いた意匠の杖を磨きながら、会話を続ける。

「ドクオって人でな、どんな人かと言われると難しいけど……まぁ、そうだな。優しい皮肉屋、かな」
エストも女の方と同様、抜いた刀の簡単な手入れをしつつ話に応じる。

「ドクオ? ドクオ・タルナート?」

「師匠と知り合いなのか!?」
女が手を止めて顔を上げて問い返せば、エストは驚きつつも食いつく。

「あー、いやいや。私が一方的に知ってるだけだよ。顔見知りなわけじゃないさ。
 知ってるっていうのも噂レベルで、顔も直接は見たことないよ。期待させて悪かったね」

「……なんだ、そうか。いや、構わない」
エストの剣幕にやや引きつつも女は否定し、エストは期待が外れたかと溜め息を吐く。師匠──ドクオと知り合いなら居所も知っているかと思ったのだ。

と、ここまで話したところで、ニクスが床を叩く音、続いて話しかけてくる声が二人の耳に届く。

「……知り合いか、それを装った避難者か知能の高い獣、どれだと思う? 私的にはオッズは1:3:6かな」
女の方が冗談めかしつつそう問えば、

「そうだな……じゃあ俺は、知り合いに賭けよう。
 構わない!ここで待っている!一応警戒はさせて貰うが、出会い頭の攻撃はしない!」
冗談に応じつつ言い、聞こえた声……ニクスに向けて外に響かない程度に叫んだ。

2283キョウ・リーフィンド:2018/07/28(土) 01:10:05 ID:R6x6U.dw
>>2281>>2282

(上手くいくかはわからんが、やるだけやろう)

ノックの後、響いてきた返答の声を受けて。
改めてもう一度ニクスに頷き、彼より一歩、前に出た。

(理性的かつ情緒もある会話…それに「ドクオ」と言ったな)

会ったことはない。だがその名はかつての友人たちから聞いたことがある。
確信が持てる、今この場にいる何者かは間違いなく敵ではないと。

一つ不安要素が消えたことに安堵しながら、二人の前に姿を晒した。

「警戒させてすまない、生憎手負いの身でな。こちらも気が気じゃなかったんだ」

そう言葉を発しながら二人の前に現れたのは、みるからにボロボロの男だった。
髪は煤け、額に大きな切り傷を遺し、表情はほぼ無に近い。

戦闘の意志はない、そう伝えるように両の手を上げながら。
男は真っ直ぐエストの事を見つめた。

(彼は…)

記憶を探る、確かそう。いつかの酒場でこんな男を見たことがある。
自分はほかの誰かと一緒にいたか、或いはいつものようにソファで仮眠を取っていたか。
いずれにせよ会話らしい会話をしたことはなかったように思う。
゛知り合い゛、そう呼ぶにはあまりに弱弱しい関係性。だが確かに知っている。

そう、その時耳に聞こえていた名は確か―

「エスト…そう、エストという名だった筈だ」

「かつて俺やジャックと同じようにあの酒場にいた、そうだろう」

自分の記憶が間違いでないなら、そしてあの゛バッカス゛を利用していた者なら。
これで敵ではないと伝えるには十分な筈だと、そう判断して酒場の単語を出した。

2284ニクス ◆/yjHQy.odQ:2018/07/28(土) 01:45:14 ID:.MSXb0e6
>>2283

「……うん、どちらも知らないな。完全な初対面だ」

自分の方は当然そうなる。
敢えて言い出すことで、嘘をついて接近したと思われないようにするつもりであったが、さてキョウは。

「……そうか、顔見知り、程度ではあったようだ」

「良かった。とりあえず嘘つきにはならずに済んだな」

「火事場泥棒や不逞の輩には到底見えないし、酒場関係とあればなおさら疑う余地はない。自己紹介しよう」

「俺はニクス。現在王都の避難市民の防衛を仕切るギルド【ネスト】の末端に在籍している、冒険者だ」

「こちらはキョウ。これから俺と共にネスト管理の地下施設に向かい、合流する予定だ」

「お二方は、差し支えなければ素性と作戦目的を教えてもらえないだろうか?」


バッカスの名を聞いた途端、少なからず継続していた警戒をあっさりと解くニクス。
腰のベルトに鞘紐を通しながら、自己紹介をする。
警戒を解くと、途端に駆け出し冒険者の空気が立ち込めるのがこの青年の特徴だ。
めっちゃ弱そうだ。

2285とある世界の冒険者:2018/07/28(土) 21:14:39 ID:5PSuwWAo
>>2283,2284
「……バッカスの?」
キョウとニクスが姿を現し、薄っすらと顔が見える距離になっても警戒態勢をとっていた二人だったが、キョウが酒場とジャックのことを口に出したことで、エストの方は警戒を解く。

「あ、あぁ。エストで合ってる。確かにそっちのアンタは見覚えあるな。……えぇっと……」
キョウはエストの顔と名前を覚えていたが、エストの方は名前までは思い出せないのでようである。まぁ会話をしたことも無ければ致し方あるまい。

「……キョウだったか。そっちのアンタはニクスね。ありがとう」
が、そこでタイミング良くニクスが助け舟を出してくれたお陰で、気不味い思いをしなくて済んだ。


「ほんとに顔見知りだったかい?」

「あぁ、間違いない。……少なくとも敵じゃないし、これから敵対する可能性も薄いな」

「そう。なら良かったよ」
未だ警戒を続けていた女がエストに確認し、エストが言葉の裏も汲んで答えると、納得した様子で完全に警戒を解いた。


「悪かったな、こっちも同じく手負いでね」
警戒について軽く詫び、

「あぁ。俺はエスト・シン・トライク。ギルド『エレティコス』所属の冒険者だ。現状の目的は、生存者の避難支援と仲間、ないしは協力者との合流、かな」
ニクスの質問に答える。
ギルド『エレティコス』は数年前に結成された新興、且つ少人数ながら、中々に評判の高かったギルドだ。が、ネストに所属して間もないニクスが知るところかは微妙である。

「で、こっちg「そして私は今をトキメク美女魔術師!ヘルメス・トリスメギストス!気軽にヘルちゃんって呼んでもいいんだよ?
 所属は特に無し!職業は旅さすらうミステリアスな魔術師、かな!目的は乙女の秘密ってことで!」
バトンタッチしようとしたエストの声に完全に被せる形で、食い気味に、そして場違いなほどテンション高めに女──ヘルメスも自己紹介。

「お二人とも、よろしく頼むよ」
パチン、とヘルメスが指を弾くと、俄に周囲が明るくなる。何らかの魔術だろう。そうしてハッキリと見えるようになった姿は……
シニヨンに纏め上げたプラチナブロンドの髪に白皙の肌、眼鏡のレンズを通して見えるエメラルドのような翠眼。
ノースリーブの黒いブラウスに白いベストと肘までを覆う白い長手袋、多重に革ベルトが巻かれた白いロングスカートに黒いブーツ、そして白いマントローブ。白いアイテムには全て同じ意匠の金糸の刺繍が入っている。

確かに美人だが、何というか、まず全体的に白い。そして、雰囲気が妙に胡散臭い。派手な格好で気を惹かせて、手元への注意を反らすタイプの手品師のような胡散臭さだ。
何より極めつけはその名前である。本名であろうが偽名であろうが、えらく大仰だった。

2286キョウ・リーフィンド:2018/07/28(土) 22:03:07 ID:R6x6U.dw
>>2285>>2286
「…」

酒場と言ったのはキョウ自身であるし、これで警戒を解けると算段したのも自分だ。
それはわかっているのだが、こうもあっさり警戒を解く相棒を見ると微妙な気持ちになる。
酒場の利用者は決して善人だけではなかった筈だ。
いっそ潔いまで綺麗な切り替えは尊敬とともに少しの心配をキョウに与える。

(少し…危ういな)

何にせよ、向こうもこちらの事を認識自体はしてくれたようだ。
敵対の可能性はなくなったとみて、上げていた両手を下げた。

「改めて、キョウ・リーフィンドだ。よろしく頼む」

明るくなった中二人の姿を正確に確認し、軽く頭を下げた。

゙エレティコズ、直接構成員と接触したことはなかったが確か資料で一度見たことがある。

(評判は良く、少数精鋭のギルドだったと記憶している)

その構成員なら彼はまず信用して大丈夫だろう。
女性の方は少し気にした方がいいとは思ったが、態度に出す必要はない。
何より、エストはこの状況に置いて確実に善の者であると判断できる。
その彼が気を許しているように見える以上、自分が何か警戒する必要はないだろう。
それにこういった手合いは真面目に意識すると割を食うと知っている。
仮に彼女の容姿が何かを欺くための心理操作の一環となっているのなら。
流されるまいと意識した時点で既に術中に嵌っていることになるのだか

「それなら丁度いい、俺がこれから世話になる彼の組織も、目的は同じだ。
俺自身もな」

「向いている方角が同じな以上、俺たちは大局的に見れば既に協力者も同然だと思える。
そちらがよければ、このまま俺たちとともに来るという選択は悪くないと思うが」

そういって、ニクスの方をみやる。
飽く迄自分は世話になる身、更に言うならこれからの予定だ。
最終的な判断は任せると、そう目線で伝えた。

2287ニクス ◆/yjHQy.odQ:2018/07/29(日) 00:30:25 ID:18laJzF2
>>2285>>2286

キョウの懸念など知る由もない。
当人は協力的な仲間をまた迎えられるかもしれないとテンアゲ状態だ。
警戒こそしているうちは大丈夫でも、警戒を解くと一気に素の脆弱性が出る。
キョウの心配は、最悪の事態を想定するなら決して杞憂ではないだろう。

「エスト、か。よろしく頼む。ジャック……テイラーとは先程別れたばかりだ」

「済まない、彼は神出鬼没の上に独自行動をしている。もし何か要件があったなら、次にあったときに伝えよう」

深淵改基の魔術でとくにこの数年はジャックは本当に遭遇率が低い存在である。
どうやらここでも同じのようだ。
もし組織に関連があるならば……特に身に沁みていることだろう。

「……………………あぁ、よろしく頼む!」

色々感じたことをとりあえず投げ捨てて、挨拶だけ簡潔に。
胡散臭いとか、怪しいとか、そういうことは思っても警戒心としては出さないのがこの若き青年の処世術及び性格なのだろう。

「光源魔法か、すごいな!」

胡散臭いと思うけど態度に表すまいとするあまり、変なとこ褒め始めているが。


「…………」

「エレティコス、か」

「済まない、ネストの協力関係のギルドの名前にそれがあったか、自分の記憶では参照に足らないようだ」

「だが……あぁ、そうだな、キョウの言うとおりだ」

「救援物資の搬入は最近、正確には三日前だ。もしエレティコスの同志と合流するにしても、準備を整える一助にはなれるはずだ」

「俺は下っ端もいいところだ、だがネストとそれに賛同してくれている者たちは、同じ目的を持つ同志を見捨てはしない」

「……うん、少々胡散臭い物言いになったが、軽く休んでいってくれるだけでも、俺は嬉しく思う」

「どうだろう? このまま四人で目的地に行くというのは」

2288とある世界の冒険者:2018/07/29(日) 01:09:06 ID:dteZnG0U
>>2286,2287
「凄いだろう!尊敬してくれても構わないよ!」
ドヤ顔でそう言いながら光源を操作し、スポットライトの様に自信だけを照らす。

「…………」
何かを堪えるように額に手を当て、溜め息を押し殺すエスト。
悪い奴ではない、むしろ良い奴ではあるが、癖が強い──有り体に言って変人──なのが彼女の欠点だと、短い付き合いながらわかっている。

「どうしたんだい、エストくん。まだ傷が傷むかい?」

「いや……なんでもないよ」
痛むのは頭だし、物理的な痛みでもないが、ここは一先ず流しておく。下手に突っ込んでも話が混迷するだけだ。

「ウチはそこまで有名ってほどじゃなかったからな。仕方ないさ」
王都において大規模なギルドは数限られるが、中小規模のギルドは枚挙に暇がない。多少評判が良い程度では記憶に残るのは難しいだろう。

「……あぁ、その申し出はありがたい。ネストなら物資だけじゃなく、情報も集まりそうだしな。世話になるよ。協力も惜しまない。……良いか?」

「構わないとも。他にとれる方針は少ないし、その少ない方針もこの申し出にはメリットで負ける。選択の余地は無いね」

「そうか。なら、よろしく頼む。キョウ、ニクス」
エストは少し悩んだが、二人の協力の申し出を快く受け入れることにする。彼女も同意し、方針は定まった。

2289キョウ・リーフィンド:2018/07/29(日) 01:28:52 ID:mg1HIf0M
>>2288>>2289

「…利害は一致したな」

ニクス、エスト、ヘルメスと。三者を順にみて頷く。
昨日まで独りだったのが気づけば四人になっている。
改めて、自分はニクスと、それにここには既にいないジャックに感謝しなければならないだろう。
…約一名、癖が強いのがいるがそこはそれ。
こんな王都の中だ、彼女のそういった立ち振る舞いはある種の緩衝材にもなりえる。

ここまで一度として微笑みもしないが、それでもキョウの表情は幾分柔らかかった。

「先ほどまで2人はここで体を休めていたみたいだが、状態はどうだ?
いつ何時獣と相対することになるかわからないような環境だ。
まだ癒えていないのなら、ここでもう少し休んでいくというのも一つの手だが」

即席パーティを組んだばかりのこの四人だ。
互いの手札、知りうる情報の交換。
身体を休めながらでも出来ること、やるべきことは幾らでもある。

何よりも無理をすることが一番の悪手だろうと、三人の意見を伺う。

2290ニクス ◆/yjHQy.odQ:2018/07/29(日) 04:55:18 ID:18laJzF2
>>2288>>2289

「交渉成立だ。改めてよろしく頼む、お三方」

「リーチマンもこれで少しは休めるといいのだが。タフなのは構わないが、もうかれこれ二週間は睡眠も」

胸を撫で下ろすニクス。
心底安堵した様子なのは、最初の交渉でキョウに理解を示されこそすれ、了承にはこぎつけなかったが故。
もっとも彼もついてきてくれる以上、やはり声に出して伝えることこそが大事、と確信していたが。

「! もし差し支えないなら、活力剤がある。ぜひ使ってくれ」

「ここから3ブロック、室内を渡っていくだけだが道中何があるかわからない。疲労感が取れるだけでもだいぶ違うはずだ」

キョウに渡したのと同じものを鞄から取り出して、差し出す。
質は一般的な活力剤と遜色ないものだが、それを容易に手渡せるだけの備蓄と余裕の証明であった、と、ニクスはもちろんさっぱり理解していない。
多分これが最後の二本でも手渡しているだろう。
キョウはもうよく分かってしまうのではないか。

「俺はいつでも大丈夫だ。全員の快復を待ってからでも動ける」

「というのも、分かるだろうが俺自身は弱い。万が一獣に囲まれた場合を考えると、より強い戦力が十分に戦える状況こそ最良の結果に望ましいと思う」

「無論、即座に離れるべき、という意見にも賛成だ」

「あくまで俺は案内役としての立場に徹させてもらう。如何なる選択にも寄与しうるのは皆の戦力だと思っている」

2291とある世界の冒険者:2018/07/29(日) 08:17:57 ID:dteZnG0U
>>2289,2290
「賦活剤か! ありがたい。貴重な物だろうに、すまないな」
ニクスが差し出してくれた活力剤を受け取り、そのまま飲み干す。

「いや、まだしばらく全力は出せそうにないが、戦闘自体は問題ない。ヘルメスの治癒魔術のお陰で傷も隋分良くなったし、ニクスがくれた賦活剤もそのうち効いてくるだろうしな」
褒めて欲しそうな空気をこれでもかと出しているヘルメスの方に視線を向けると、彼女はドヤ!と言わんばかりの表情で腰に手を当ててふんぞり返る。

「……懸念はどちらかというと魔力量の方だな。感覚的には四分の一ってところか」
ヘルメスをスルーしつつ話を続ける。
二人の言うとおり疲労感は確かにまだ残っているが、『雑種《バスタード》』を始めとした下位の獣を相手にする程度なら支障は無い。
だが、相手が大物となると、使い切った魔力がまだ四半程しか回復していないのが痛い。

「私が持ってた魔力ポーションを飲ませたけど、気休め程度だからねぇ。私の魔力を分け与えるにも限度があるし」
ヘルメスがドヤチック(得意様であること)な態勢を崩し、肩を竦める。

「これ以上の回復は高位の霊薬か本格的な休養が必要だし、私としては拠点への移動を優先した方が良いと思うよ。何より私がベッドで寝たいし水浴びもしたい!」
グッと握りこぶしを作りながら言う。
理由の半分ぐらいを最後の言葉が占めていそうだが、まぁ言ってることはおかしくない。
こういう非常事態こそ、そういったことは精神衛生上大切だ。

「そうだな。何より、俺達自身はともかくとして、全体的な事態は切迫してる。焦っても良い事はないだろうが、かと言って悠長にもしていられないだろう」
理由は異なるが、エストの方もすぐに移動した方が良いと判断する。
単なる予感でしかないが、今回の異変は時間が経てば解決するような類ではない、と考えているからだ。

「ニクス、案内を頼む。戦力の擦り合わせは道中でしよう。キョウはニクスに付いて直衛して貰えるか? 俺とヘルメスは哨戒を担当する」

「私の探査魔術が火を吹くよ!」
それで良いな、とヘルメスに眼で尋ねると、任された、とドヤ顔で胸を叩く。胸が揺れる。
どうでも良いが探査魔術はたぶん火は吹かない。

2292とある世界の冒険者:2018/07/29(日) 14:38:38 ID:mg1HIf0M
>>2290>>2291

「…」

ニクスの迷いない行動に、少しばかり眉を顰めた。
彼の飾り気のない優しさは、この環境下では間違いなく得難きものだろう。
それは不気味な明かりのみに照らされるこの王都で、優しい陽光のように。
きっと人に力を与えてくれる。

けど、彼の心根の強さに、彼の技量自体が追い付いていない。
いつか取り返しのつかない事態が発生したとき、その優しさは。
彼自身だけでなく、ともにある仲間も危険にさらす可能性もあると、彼は気づいているのだろうか。

「なら、移動しよう」

軽く頭を振って思考を切り替えた。
少なくとも今この場での彼の行動は責めるものでも諌めるものでない。
忠告を入れるにせよ、それは後でも構わないだろう。

エストの提案に、一つ頷く。

「それは助かる。
俺も一度魔力がほぼ空まで使ったからな、実際のとこ5分の1も残っちゃいない」

少数の獣程度ならば問題なく相手取れるだけの技量は自負しているが。
仮に一個体でも強力なものがいれば、逃走に全力を注いでなんとか、と言ったところ。
勿論キョウ自身も周囲への警戒を怠るつもりは欠片もないが。
空気の流れで周囲環境の感知を継続するには勿論魔力を消費する。
そのあたりを二人に一任できるなら、魔力の回復も少しは早まるだろう。

方針が決まれば行動は素早く。
目を瞑り周囲の音、空気の流れに一度意識を傾ける。
移動を開始しても問題はない、その判断とともに、ニクスへ行動開始を促すよう頷いた。

2293ニクス ◆/yjHQy.odQ:2018/07/30(月) 03:47:39 ID:1L6.qcoY
>>2291>>2292

「喜んでもらえるなら何よりだ」

軽い笑みで返す青年。
立ち上がるときも、明らかに音を立てないような慎重な姿勢と挙動。
二人の言葉と、促すようなキョウの対応に力強く頷いた。

「わかった。哨戒は任せる」

「その様子だとこの街での戦闘経験もありそうだ、万が一の時は頼らせてもらう」

「このなりでわかると思うが……俺は駆け出しもいいところだ。もし有効に扱えるアイテムが有るなら言って欲しい、貸与しよう」

火筒、煙幕、投げナイフ、簡易の呪い避け。
その他基本ポーションの濃縮ボトル……戦闘時の緊急延命用だ……などなど、ごくごく初歩的なものばかりであった。



「では、付いてきてくれ、この部屋を出てすぐ右の裏口から…………」



――そう、ニクスが続けながら、部屋の壊れた扉から踏み出そうとした、そのとき。
ニクスの腹部に凹みが浮かび、明らかに一歩踏み出そうとした彼を押し留めた。
それは横にした棒でつっかえたような痕。
よろめいたニクスは、二、三歩後方に歩んでから、ハッと前を見た。


もしヘルメスの探知が何かしら広域に展開しているなら、【それ】はニクスの挙動以前に発見できただろう。
【それ】は遥か遠方に現れながらも、エストに混ざる獣の血に警鐘を鳴らすに足る驚異を秘めていた。
そして、キョウ他全員、今王都の外にいる全ての存在に、【それ】は聞こえるほどの轟音と振動を以て、この地へ出現した。

「――――!!!」

虚空、見えない何かを穿ち抜き崩しながら現れたような轟音。
堅牢な城塞が崩壊する真只中のような響きは、十数秒ほど続いた。
直後に、地震。
ホコリまみれの棚からいくつかの調度品が落ち、割れた窓ガラスがますますひび割れ、床がきしむ。
そんな降って湧いたような天変地異の後……

ピタリと、それは止んで、何事もなかったように光源魔術の影がふわりと揺れた。


「……アルカンシエル……【通過】のタイミングだったのか」

「もしいち早く外に出ていたら……いや、通過なら問題はないと思いたいが、しかし……」

「……済まない、説明は後だ。とにかく先程の異変が俺たちに害をなすことはない、安心してくれ」

「右の裏口から外に出て、通用路から武具屋の方に移ろうと思う。何かいるとしたらその辺りだ、警戒を頼む」

「行こう。【巣】が俺たちを待っている」




「……俺は、何につっかえたんだろうか……?」

2294とある世界の冒険者:2018/07/31(火) 07:40:56 ID:IyQSoJxg
>>2292,2293
「俺は狼獣人のハーフでな。人間の姿のままでも常人よりは鼻も耳も良いし、気配の察知も師匠に徹底的に叩き込まれてる。ヘルメスの探査魔術も、俺を運びながら、戦闘を避けつつここに辿り着ける折り紙付きだ。任せてくれ」
揉めることなく提案を飲んでくれたことに感謝しつつ、少しでも安心感が増すように説明しておく。

「あぁ、獣どもとは何度かやり合ってるから問題ない。戦闘は任されるが、そこは役割分担だ。頼りにしてるぞ、キョウもニクスも」

「エストくん、私は? 私も頼りにしてる?」

「探査魔術を持ち上げてやったところじゃないか……」

「それはそれ! これはこれだよ!」

「あーはいはい頼りにしてるしてる。さ、行くぞ──なんだ?」
溜め息を吐きながらニクスに続いて行こうとした時、鼻が妙な臭いを捉える。
直感的な危機感に従ってニクスを留めようとしたが、それよりも早く、ニクスは“何かによって”押し戻された。

「…………ッ……!?」

「ひゃぁっ!?」
そして、捉えた臭いについて警告する暇もなく、響き渡る大轟音。常人以上の聴覚は、ハンマーで殴られたかのような衝撃をエストにもたらす。
轟音が止んだか思えば、今度はそれに続く地震。咄嗟にヘルメスを引っ掴み、引きずり倒すようにして姿勢を低く取らせ、頭を庇うように覆いかぶさる。

「…………何だったんだあれ」
そうしてしばらくして揺れも止み、何事もなかったかのように静寂が戻る。崩落はしなかったか、と一安心し、頭痛を堪えつつ立ち上がり、誰にともなく呟いた。


「いやー、ビックリした。アレも獣ってやつかい? 王都って魔境か何かかな?」

「……そこは正直否定できないな。生憎と異変が起こる前からだが」

「なにそれこわい」
ヘルメスが埃を払いつつ立ち上がり、周囲に舞い上がった塵を風魔術で隅に集めながら呆れたような声で言うと、エストは三人を見回して無事であることを確認してながら軽口を返す。

「あぁ、説明よりもまずは移動だな。ヘルメス、頼む」

「お任せあーれ」
聞きたいことは色々とあるが、まずはこの場を離れることが先決と判断。
ヘルメスがこの建物内に張ってあった動体感知の結界を消し、改めて中域の探査魔術を発動。自身を中心とした、半径200mほどの生体感知系だ。動体感知でないのは、万が一、動けない負傷者などが居た時のためである。

2295とある世界の冒険者:2018/07/31(火) 20:01:54 ID:2Q0/03V6
>>2293>>2294

「っ!?」

ニクスがよろめくのに反応し、支えようとしたのも束の間。
響き渡る轟音、キョウの眼が厳しくなる。

「ニクス、さが…っ!」

異常事態と認識、一度ニクスを己の後ろへと引き下がれせようとするも。
続いて襲いかかる地震。大地が蠢き、壁は軋む。
殆ど反射的に周囲に風を展開していた。
キョウを中心としてニクス、エスト、ヘルメスを包み込むドーム状の簡易結界。
展開された大気に何かが落ちれば即対応を可能とするものだが。

「…ふぅ、無駄撃ちで済んでよかった…と、言うべきなんだろうな」


結果としては何もないまま、展開していた風を解除した。
無駄に魔力を消費してしまったが、仕方ないことだろう。

「知っているのかあれを…いや、言うとおりだな。先に進もう」

゛アルカンシエル゛なる単語に反応しそうになるが、直後の言葉に己を諌め、頷く。

「悲しいことに、本当に否定が出来ないな。
いやそれよりエスト、さっきの音は俺でも顔をしかめるサイズだったが。
鋭敏なんだろう、聴覚は大丈夫か?」

エストの言葉にため息一つともに頷きつつも、先の異常で問題は怒ってないか気に欠けながら。
それでも思考は既に別の事に移り変わっていた。

(先のニクスに起こった何か…確かにあそこには何もなかった。)

(少なくとも動き出す前に確認したときこの空間の゛大気の動き゛は自然だった、それは今も)

(見えない。いや、此処にいるだれもが探知できない何かがそこにいた?)

(だとして結果的にはニクスを助けたことになる…誰だ?いや、何だ?)

(無害だと思っていいのか…?)

周囲のやりとりを聴きながらも、自然。その表情は難しいものになっていた。

22961/2 ニクス ◆/yjHQy.odQ:2018/08/01(水) 00:04:48 ID:RVrX4r1I
>>2294>>2295

「そうだな、唯一つ言うなら……獣じゃあない」

「迷惑な来訪者が置いていった置土産兼墓場、といったところだろうか。哀れな話ではある」


苦笑いと共に歩を進めるニクス。
右手側の裏口を抜け、すぐ目の前の裏口から入り、ひたすらに歩き、歩く。
ヘルメスの探知には端側に引っかかる者こそあれど、明らかに人がしないような跳躍や挙動で、隠れるように彷徨くばかり。
進路方向には運良く現れず、蜘蛛の巣と埃、先程の轟音で崩れた調度品などが唯一の障害足り得る道中であった。

そうやって皆が着いたのは【噴水広場】。
中央の大きな噴水、五段にも連なる塔にも近い噴水は、夏場の避暑地として親しまれる場所だった。
ここを【井戸】とニクスが呼んだのは、かつて火事などの取水用の大井戸が此処にあったことに由来する。
そして、それを知るものであれば、ここから地下水路へと入ることが出来ることも知っているはずだ。

「……目印はそのままだな、ここに理性なき者や知性のない獣は通ってない」


扉を開けてすぐの壁の魔印をなぞる。
これは文字そのものが魔力を持つ、古来からの防犯装置のようなものだ。
生体の通過に反応し印が消える。
それをもう一度同じように書き戻せばいいだけなのだが、それが出来ない頭の存在の通過はせめて察知できるというわけだ。

中は絶えず噴水へ水を送るからくり仕掛けが今もなお動いている。
もう見る人もいない、健気な構造のまた後ろ。
レンガを的確に三ヶ所押せば、後はひとりでに大きく口を開け、入り口が出来上がる。


「これは後付だ」

「詳しくはわからないが、どうやら王都の地下はこうして後々から魔術で組み替えられるような構造になっているらしい」

「俺たちが目指すのは、その跡地になる。先人の知恵にこうして救われているというのも、不思議な心地だな……」


感心した様子でカンテラを……出そうとして、やめる。


「済まないな、今は遥かに優秀な光源を出せる魔術師がいた」

「道中の明かりもお願いできるだろうか。遠め、強めが望ましい」


ヘルメスに願い、それを下に螺旋状の階段を下り、的確な印の導きの下、進み続ける。
獣はいない。
元はいた魔物や水生怪物も見ない。
音や気配、風にも反応はない。
静かに、ただただ進み続け、十分ほど。


「ここだ」


大きな水路に出て、突き当りの壁。
大型水路の突き当りだけに、高さも優に5m以上はあろう。
腰のタグを取り出し、中心部に当てる。
すると反応した複数の魔力のラインがジグザグに走り、端に吸い込まれた後……垂直の線を天井から床にまで下ろす。

ゆっくり、ゆっくり……足元に伝わる振動とは裏腹に、音が全く響かないのは、おおよそ魔術の賜物か。

そうして開かれた先には……

「ニクス!」

「ニクスか、無事で良かった……!」


「ただいま、皆。ネストのニクス、無事に帰還した」


検問らしきバリケードと、複数名の警備員……ネストの冒険者たちが待っていた。

22972/2 ニクス ◆/yjHQy.odQ:2018/08/01(水) 00:28:45 ID:RVrX4r1I
「…………あら、生きてたの。ニクス」

「ジャックが連れて行ったから、荒事に巻き込まれて死んだかと思ったわ」


「! ラウネ、出迎えてくれるとは恐縮だ」


「馬鹿言わないで、こっちは出るところよ。自意識過剰サン」


「むぐぐ……」




その中で一人、明らかに風貌と雰囲気の違う女性が、ニクスに気付いて歩み寄った。
膝裏まで伸びた桃色の髪に、細い眉と鋭い眼差し。
身長は180センチ前後と長身。
美麗な双眸にはしっかりと化粧が施されており、服装も華美、ヒールや香水など、おおよそ冒険者らしくない格好と気配であった。

魔装士、ラウネ・マリーゴールド。
バッカスに顔を出していたネスト所属の傭兵、知っている者もいようが、月日は少女を女性に変えていたようだ。

ニクスの鼻をつまんで笑った後、三人を見て、またニクスを見る。
あまり好意的な態度ではないが、忌避もしない、微妙なラインで。


「これがジャックの目的だったわけ?」

「予定より二人ほど多いが、頼れる仲間だ」

「あんたが保証すると期待も一気に大暴落ね」

「返す言葉もない……」

「まあいいわ、全員入ってもらって。いつまでも開けっ放しじゃ落ち着かないもの」

『お、おい!まずは身体検査と事情聴取とそれと……』

「バッカスで見たのが紛れてる。それとそっちのはジャックがわざわざ自分で出向いた相手でしょ」

「わざわざ地獄を抜けて来てくれた客人相手に、寝床とスープじゃなくて尋問と調書? ネストの礼儀も地に落ちたものね」

『はぁ……リーチマンには会わせといてくれよ……』

「そっちは任せておいてくれ」

「当たり前でしょ。最後までやり抜きなさい、ひよっこ」


三人を胡散臭そうに睨め回し、見張りに無理を通して後、女性は踵を返す。


「出るのではないのか? ラウネ」

「出る理由がなくなったのよ、察しなさい」

「????? そうか、済まない」

『素直にニクスを探しに行くつもりだったといえばよかんベに……』

『止めとけ、蹴られるぞ』


「……コホン、では行こう、皆。彼女のおかげで入室までの一時間が短縮された」

「貸しにしとくわ。精々長生きして返してね」

「行こう。ようやく見せられると思うと心が躍る」

「王都はまだ死んではいない、その証明が、ここなんだ」

2298とある世界の冒険者:2018/08/01(水) 01:20:19 ID:2ZVcafmc
>>2295-2297
「えぇ……お姉さん王都にちょっとドン引き……」
否定の言葉が誰からも出ないどころか肯定すらされ、更に先程の化物は獣ではない、つまり異変以前から存在したということに、整った顔を引き攣らせる。
まぁ外から来た者であればこの反応も致し方あるまい。

「あぁ、大丈夫、少し頭痛がするのと聞こえにくいぐらいだ。しばらくすれば治るさ」

(ニクスのあの不自然な後退……思い当たる可能性は幾つかあるが……。まぁ、どれであっても害ではないし、放置でいいな)
こめかみを指で揉みながらキョウの心配に問題ないと返し、一方で同じことを考えていた。
こちらは幾つか思い当たる節があるようだが、今は追求しても詮無いことと置いておくことにする。

「はいよー。お任せ!」
ニクスに応じて仰々しく杖を掲げると、杖の先端から、真っ直ぐ15mほどを強く照らす光が放射される。
ただの光ではなく、弱い生き物に忌避感を抱かせるもので、虫や鼠程度なら照らされれば退散してくれるだろう。

「へぇ……こんなカラクリがあったのか」
噴水や水路の仕掛けに関心するとともに、このような仕掛けが恐らく街中に施されていることを思うと、何とも複雑な気分になる。
少なくとも王都が出来た頃……事によればそれよりももっと昔から、ここは魔と災いと英雄が渦巻く『運命の地』だったのではないか、と考えてしまったのだ。

「ようやく着いたか……。ん? 彼女は確か……そう、ラウネ、だったか」
何度か酒場で見た覚えがある。会話を交わしたことはないのにキョウと違ってハッキリと覚えているのは、ゼオやリーチマンに対等──どころか、随分な口を利いていたのが印象に残っているからだ。
師匠による地獄のしごきの真っ最中だったのもあって、凄い蛮勇だなと関心していたものだ。

「ほー。凄い美人だねぇ。まぁ、私ほどじゃないけど。 私ほどじゃないけど!」

「なんで二回言ったんだ……。確かにヘルメスも美人だが系統が違うだろ、ラウネとは。あっちは凛々しい美人、ヘルメスは残念な美人だ。ほら。ニクスが呼んでる、行くぞ」
またしてもドヤチックなムーヴを見せて自画自賛するヘルメスに言葉のボディブローを入れ、ニクスに続いて行く。

「残念!? いま残念って言った!? ねぇエストくん!!? 待って!!」
ガーン!!と打ちひしがれた様子で、慌ててエストに追い縋る。

恐らく、ネストのメンバーには「えらい濃いのがまた増えたなぁ……まぁ日常だけど」と思われていることであろう。

2299とある世界の冒険者:2018/08/01(水) 20:36:47 ID:7IjXYQ7k
>>2296-2298

(獣じゃない…っか)

まだまだこの身には知らないことばかりだ。
請負人として出来る限りのことはやっていたつもりだ。
それでも、己の未熟さが少しだけ歯がゆかった。
もしもっと見聞を広げられていたなら、゙今の事態に対処出来たんじゃないがと。

「なら、構わないが。無理はするなよ」

(意識だけはしておくか、あれがなんなのかはともかくとして。
゙俺たぢについていたのか、゙ニクズについていたのか…)

ジャックの魔術の本質をまだ理解していないキョウにとって、
あれが彼であるという答えにいきつくにはまだ早く。
味方であるのかそうでないのか、判別しようがない以上はそう結論づけるしかない。
今後も警戒自体はしておこうと決めながら、三人について歩を進めた。



「…なるほどな」

ニクスが目的としていた場所にたどり着いて、納得一つ。
王都について調べてわかったこと、この都市には有事の際の避難経路がいくつもある。
それこそ王都から少し離れた位置へ脱出するためのルートも。
確かに、調査や生存者の救助等のための拠点としてこれほどのものはないだろう。
ネストというギルドが大きいことは知っていたが、ここまで適確な行動を可能としているとは。
感心を越えて、構成員の理知性に感服するほかなかった。

そうしてたどり着いた先、歓迎と言えるかは微妙なギルド員達の邂逅を果たした時。
キョウの精神は、またしても大きく揺さぶられていた。

言葉もないままニクスとラウネの、そして他の者たちのやり取りを眺めて。
疑いようがない程、彼らは仲間なのだと理解した。

(…わかっていたことだろう)

想定はしていた、覚悟もしていた。゙何かの輪の中゙に入ればきっとこうなるだろうと。
それを理解して、それでももう一度奮い立とうと決めて、自分の脚でここまできた。
それでも実際にその光景を眺めれば、やはり痛みは避けられなかった。
考えても仕方ないのに、思ったところで何も変わりはしないのに。

゙どうしてここに彼女たちは、彼らはいないんだ゙と。

態度に出ないように無表情を維持するのに精いっぱいで、彼女を見たことがあったのかなかったのか。
記憶を探る余裕さえなく、ただただ二人のやり取りを無言で待ち続けた。

「すまない、助かる…、それと、わざわざ足を運ばせてすまなかった」

ようやっと己に冷静さを課し、ラウネの進言で面倒な手続きを回避出来たことに感謝の言葉。
加えて、どうやら自分の存在は思っていたよりも彼らにとって面倒だったらしい。
改めて考えれば自分に声をかけるためにジャックとニクスは出向いてくれたのだ。
それについての謝罪も残して、ニクスへとついてゆく。

(また、ジャックへの礼が増えたな)

2300ニクス ◆/yjHQy.odQ:2018/08/02(木) 01:37:15 ID:7NifQUD6
>>2298>>2299

『仏頂面、ケモノ系、変人か』

『ん、あぁ、よく分かったなお前……』

『同類は匂いでわかる。ま、うちよりマシだろ』

『同感、せいぜい長生きしてくれることを祈るさ』

『そうだな。見知っちまった顔が見れなくなるのは……いい気がしない』



全員を一瞥し、そう評価する門番達。
彼らも無理に引き止めないところを見るに、お眼鏡には適ったというところか。
長く幅広い、それこそ馬車が三台はギリギリ並べる道を行けば、各地に検問が等間隔で置かれている。
大きな入口だけに警戒は厳重。
問題は全部ラウネの顔パス理論で通過してるせいで、ニクスがだんだん申し訳無さそうな表情になっているくらいだ。


「あら、身の程が判ってる男は嫌いじゃないわよ。その分頑張ってくれれば済む話だし?」

「第一毎回片手間に立ち寄る程度の男が足運んだからって気に病むことじゃないでしょ。ニクスも持ち帰ってくれたし、あたしからは何もないわ」

「俺は持ち出し品か何かか……?」


「ん、そろそろだな」

「じゃ、あたしは部屋に帰るから」

「あぁ……じゃあ、みんな」


「これが【地下遺跡都市ウェブ・ジグザール】だ」


ゆっくりと近づいてくる、自然光に近い柔らかな明かり。
最後の格子状の門を抜けた先で皆を迎えたのは、下から突き上げるように吹く【風】だった。

それは、地下を円柱状にくり抜いたような空間。
半径200m程度の空間と中心の柱状遺跡、そしてそれに交差するように伸びる四方からの足場が繋がり、それを何層も何層も重ねた、シェルターめいた建造空間。
円周側の壁は家の役割か、ところどころから人々の声、鍛冶の音、色々諸々、喧騒となって響いてくる。


ニクスは皆の反応をひとしきり眺めて後、満足げに笑う。

「ここがネストと、ネストに賛同し戦ってくれている人々の砦だ」

「中央の柱が我々ギルド連合の施設になっている」

「最上層は地上へ続く搬入口。そこから三層までがギルドの補給・整備の施設」

「四層から十層までがギルド関連の寄宿舎」

「十層以降が避難市民の居住区、その中に家畜の生育場や物資備蓄層も含まれている」

「明かりは人工の光源球体を用いているが、節約のためあまり明るくはないな。せいぜい曇り空と言ったところか」

「……うん、そろそろ行こう。皆をまず俺の師にして現在のネストの統括者に逢わせなくてはならない」

「このまままっすぐだ。【リーチマン】に逢いに行こう」

2301とある世界の冒険者:2018/08/02(木) 20:39:34 ID:1b1iXY2s
>>2299,2300
「残念って言った? ねぇ私って残念? そんなことないよね違うよね、デキる美人魔術師だよねぇ!? ねぇ、ニクスくん!キョウくん!」

「魔術師として腕が立つのは確かだと思うけど、それと人格の残念さは矛盾しないからなぁ……。ほら、さっきの門番にも変人って言われてるし」

「合わせると残念な変人じゃないか!不当な評価過ぎる! 私のタフなハートでも流石に傷付く……よよよっ……」
スタスタ歩いて行くエストに半ば泣きが入りながら追い縋り、ニクスとキョウを巻き込んでまで必死に評価の訂正を求めるヘルメスを再び言葉の刃が襲う。
ガックリと項垂れ、わざわざ魔術で黒い靄を作って頭上に被せるというわざとらしい落ち込みアピール。
周りからは何してんだあの変人、と思われているだろう。


「……王都の地下にこんな場所があったのか……」
ニクスの案内について辿り着いた地下都市を一望し、感嘆と呆れるが入り混じった溜め息を漏らす。
確かにここならばかなりの人数を収容可能で、かつ外界から隔離されているため安全性も高い。避難所としては理想的と言える。

「おぉー……これは凄いね。遺跡都市ってことは、遺跡の再利用かな? この規模の遺跡を丸っと改造とは、色んな意味で剛毅だねぇ」
地下都市に着くなりあっさりと立ち直れる変メス……もといヘルメス。いつの間にか頭上の靄も消えている。
態度も雰囲気も変わらないが、目だけが鋭く都市を観察している。


「……あぁ、わかった。リーチマンか。直接の面識は無いが、一方的に見知ってはいるよ」
しばし、立ち止まって地下都市とそこに暮らす人々を眺めていたが、ニクスに促さてて再び歩き始める。
バッカスで見掛けたこともあるし、師匠の友人に知り合いがいると聞いている。伝え聞く人物評と自分が見聞きした印象通りの人であるなら、この状況下において生存を特に喜ぶべき人物の一人だろう。
こんな異変の最中でなければ、ギルド運営について色々と話が聞きたいところであった。

2302とある世界の冒険者:2018/08/02(木) 21:01:09 ID:QcW5K41c
>>2301

「…感謝する、やれるだけのことは勿論、全力をかけてやろう」

ラウネの言葉にもう一度感謝の言葉をこぼし、去っていく姿を見守った。
幾分か余裕も戻ったのか、表情も極端な仏頂面からいつもの無表情に戻っていた。

「…容赦ないな、あんた」

大げさなまでに必死な彼女にもとりつくしまもなく裁決を下すエストの言葉に、
これまた大げさなまでに落ち込む彼女に憐みの視線を向けた。

「…まぁ、俺はあんたのテンション、嫌いじゃないがな」

(こういう賑やかさは、知っているから)

フォローと呼ぶには少し弱い励ましを一言溢す、ただ同時に紛れもない事実だった。
いつかの自分だったら、きっと今苦笑いしながら頭をなでたりしたのだろう。



「…想像はしていたが、想像より遥かに凄いな」

ぼそりと呟き、食い入るように瞳に映る景色を眺める。
その表情は正しく驚愕の一言で、改めて感服せざるを得ない。
この環境下に置いて、間違いなく後世に語られるべき偉業の一つだろう。

「リーチマン…師、か」

ニクスの言葉に頷きながら、思考するように顎に手を添えた。
またしても名だけは聞いたことがある人物。
どうやらネストというギルドは、自分が想像している以上に実力者が揃っているらしい。
ニクスのような人物がここにいるのも、納得だった。

2303ニクス ◆/yjHQy.odQ:2018/08/02(木) 21:44:54 ID:7NifQUD6
「美人であるのは変わりないと思うのだが……それでは駄目なのだろうか」

「それとラウネはその区切りで言うなら【獰猛な美人】だ。偏屈も愛嬌の一つということで収めてはどうだろう?」


談笑しつつ進めば、幾人かの冒険者とすれ違う。
疲れ切った者。
不安げにうつむく者。
何かに苛つく様子の者。

( ´_ゝ`)「おぉニクス、無事だったか」

(´<_` )「ジャックに連れて行かれたからどうなることかと心配したが、杞憂で何よりだ」

「連れ立った友人たちのおかげだ。後で紹介しよう」


( ´_ゝ`)「また変なのが増えたなあ……これ以上影が薄くなったらどうしよう」

( ´_ゝ`)(そうかそうか、後でまた杯を交わしながら聞くとしよう。よろしく頼む)

(´<_` :)「兄者、ときに言葉として出す方を間違えているぞ」


時折明らかに場違いな者や、猶予の有りげな者は総じてニクスに話しかけていく。
そしてニクスは、その総ての者たちよりはっきりと平然とした態度を崩さない。
ネスト所属以外の者もまばらにいる中で、中央の柱状建造物【本部】に到達すると、中は思った以上に真新しい【ギルド本部】に近い構造。

依頼の貼られた掲示板。
親交を深める長テーブル。
酒場と言うよりは食堂寄りのカウンター。
受付嬢までいると、ただの地下施設のようにさえ思えるかもしれない。

床の傍らに寝かされている、血まみれの包帯を巻いた男性や。
血かマニキュアかの区別つかぬもので塗られた指を組んで横たわる女性の遺体。
そういったものが隅に置かれていなければ、であるが。


「最上階は受付だけだ。本部は五層にある」

中央の大階段を下りていくと、先程の階層をまるまる一つの会議場にしたような場所に出る。
慌ただしく人々が飛び交い、中央の立体魔術映像には王都が区画別に区切られ浮かんでいる。
指定ラインに何処の誰が何をしに向かったかがタグ付けされて伸びている。
少なからずネスト以外で十のギルドの構成員が働いているらしいが、その何れもが撤退を司令され退いているのが分かる。

理由は、恐らく【あの轟音の主】だろう。

ニクスはそれらに目もくれず、一直線に奥の大デスクの前に駆け寄っていく。
書類の山が冗談のように積み重なり、向こう側の様子など知れたものではないそこへ。

「リーチマン! 遅れて済まない、ニクス、只今帰還した!」




「――予測より2150秒ほど早い帰還だ」

「確かな成長の証拠だ。おかえり、ニクス。そして、ようこそ。三名の新たなる冒険者達」

「私が【リーチマン】。気さくに【ヒルさん】と呼んでくれたまえ」


白い厚手のコートは、誂えたばかりのように白く輝き。
190cmの長身は頭から爪先までを一本の芯で支えているかのように揺るぎなく、乱れない。
短くも整えられた金髪、そしてその光沢にまるで負けぬ猛禽のような鋭い眼差し。
笑みも何処か自身に満ち溢れたような落ち着きで、白い肌もくすみと疲れを微塵も感じさせないハリとツヤ。
現在二週間の不眠不休絶食状態を経てなおこの状態。
この男こそ現在のネストの統括者、ゼオと比して語られる奇人変人の一角。
【改造人間】
ジェラルド・I・ブラックモア。
【吸血貴人】
リーチマンその人である。

2304とある世界の冒険者:2018/08/02(木) 22:50:06 ID:SGnAWMak
>>2302,2303
「この手のタイプはちょくちょく突いて鎮静しとかないと厄介だからな……御者の居ない馬車みたいなもんだし。あと真面目に受け答えすると割を食うから」
その言い様には妙に実感が籠もっており、ヘルメスと同じようなタイプの知り合いがいることを伺わせる。

「愛嬌!! そう、愛嬌ある性格なんだよ私は! 見給えエストくん、ニクスくんもキョウくんも私の良さがよくわかってるぞ!」
ニクスとキョウのフォローに我が意を得たり、とばかりに得意満面の笑みを浮かべる。わざわざ魔術で下から光を当ててだ。

「まぁ、ヘルメスの明るさに救われてる部分もあるから否定はしない。もう少し大人しくしてくれれば、尚の事最高だけどな」
行き交う人々の群れを観察しながら、頭を掻いて溜め息混じりに溢す。
陰気な雰囲気になるよりはずっとマシだし、実際にヘルメスが居なければ、陰気とは言わないまでも雰囲気はずっと暗かったろう。そこは素直に認めるが、かといって必要以上の明るさも疲れるというのがエストの偽らざる本音である。

(むっ──! この感じ……あの男、出来る!)
兄者が現れた瞬間、ヘルメスは何かしらのシンパシーと謎の実力を感じ取った。この実力とは戦闘力とかそういう意味ではない。
とりあえず挨拶変わりに、魔術で実際に兄者の物理的な影を薄くしておく。特に意味は無い行動だが、使命感のようなものに駆られたのだ。


そのような珍妙劇場も交えつつ、本部の建物に到着。
構成員達による喧騒がざわめく中、粛々とニクスに続き、ようやくリーチマンと対面を果たす。

「初めまして、師匠やハインさん、それにアイゼンさんから話は聞いてるよ。俺はエスト・シン・トライク。王都の冒険者でドクオ・タルナートの弟子だ。ようやく頼む」
以前バッカスで見た頃と全然変わっていない、何ならむしろ当時よりも溌溂としているな、と思いながら自己紹介。

「うん、白くて結構!親近感が湧くね! 私は旅の美人魔術師、ヘルメス・トリスメギストスという者だよ。気軽にヘルちゃんと呼んでくれても構わないよ、ヒルさん」
外見の白さという共通点に共感を覚えながら、優雅に一礼しつつヘルメスも自己紹介。初対面で億面もなくヒルさんと呼べるのはヘルメスの強み……かもしれない。

2305とある世界の冒険者:2018/08/02(木) 23:16:44 ID:QcW5K41c
>>2304

「否定が全くできないのが…少しばかり悔しいところだな」

何が悔しいのか、それを語りはしなかった。
ただ一つ言えることは、ヘルメスの在り様を彼自身は好ましく思ってると言うこと。

歩きながら幾人かの冒険者とすれ違い続けて抱いた結論。
このギルド、特にニクスと親しげにしている者たちは総じて、癖がつよいということ。

(なるほど、技量的に未熟であれど。たくましくなるわけだ)

同情するような呆れるような、何とも言い難い表情を浮かべながら、
三人と共に、道を抜け本部へと歩いてゆく。


そして、喧騒を潜りぬけ、目的の場所へとたどり着いた。

(これが、ニクスの師か)

「…お初にお目にかかる。キョウ・リーフィンドだ」

対面してわかったことはそう多くは無い。
だがその面構え、様相をみれば容易にわかる強者の器。
成程、これほどの規模の組織体の中で最奥に座す人物として、一切の違和感がない。

恐れは無く、気おくれも無く。だが確かな礼節を持って、彼の統括者の瞳を真っ直ぐ見つめた。

「貴方が指示していたことか、ジャックとニクスの独断かは知る由もないが。
棄てるだけだったこの身が拾われたこと、ここで改めてニクスへと共に感謝する。
受け入れてくれて、ありがとう」

そう言って、深々と頭を下げた。

2306ニクス ◆/yjHQy.odQ:2018/08/03(金) 00:39:23 ID:ekUuVSsc
「エスト、聞いているよ。ドクオ君からはここに来るであろう存在として、ではあるが、君をよろしく頼むと仰せつかっている」

「故に、師の顔を立てて精々とこき使わせていただこうと思う。期待しているよ」

各々の自己紹介を聞いて後、まずは一番近かったエストの前に立つ。
自身の顎に手を添え、少しばかりの冗談を交えた後、微笑と共に握手を交わす。
……明らかに、握手の瞬間の脱力に感じる【重さ】。
エストが聞いていれば知っているだろう。彼の体重は過密状態の血液と骨密度で200キロを超えるのだと。


「ではヘルちゃん、よろしく頼む。初対面の人間が来るとは考えていなかったが、これは僥倖と捉えるべきだろう」

「万が一獣化の兆候が出た場合、いつでも国外退去の手はずは整えてある。遠慮なく言って欲しい」

「撤退は恥でもなく、敗北でもない。今ここに君が立っていることこそが勝利と栄光を示すものだと、ネストは喜んで証明しよう」

笑顔で返しつつ、彼女に伝えるついでにと他の皆にも。
ネストの冒険者は交互に入れ代わり立ち代わり、この【ウェブ】を守るために国外から補充と交換を繰り返している。
これにより獣化を進行させないように拠点を維持している、と。
明るく、愛嬌のある彼女であるからこそ抱え込まないでほしいというリーチマンなりのエールだが。
言い方が言いたいことに特化しすぎて、含むような言い方になっているのは、彼の気質をよく物語っていると言えよう。
余談だが、リーチマンはヘルメスとの握手は体重をかけぬよう慎重に行っている。
エストに対して荒いのではなく、おそらくは女性相手だからだ。



「キョウ。私は何度か見かけたことがあるよ……バッカス以来だろうか」

「ニクスがどう君に言葉を伝えたかはわからない。だが敢えて言おう」

「気にせず、ただ君は君の戦いをしなさい。そのための助けを我々は惜しむことはしない」

「お互いの利害が一致することを願っている。今日はゆっくり休むといい」


頭を下げるキョウの肩に手を置き、簡潔に言葉を投げかけてから、離れた。
握手に感じるものは何だったろうか。
しっかりと繋いで握った指は、熱かった。


「――さて、改めて、ようこそ、【ウェブ】へ」

「ここは王都民の避難地域、及び敵性存在との戦闘における戦略拠点として機能している」

「一切の衣食住、生活のサポートは我々ネスト及びギルド連合が保証する」

「ここはあくまで戦うもののための寄り合い所だ、要請はしても強制はしない」

「自ら考え、自ら望むものへ、何をするべきか簡潔にさせるための場所と思って欲しい」

「ふむ……ヘルちゃん、君は女性でかつ魔術師だ。それも高位と見受ける」

「ゼオやジャックはこっちにはなかなか居着いてくれなくてね、魔術関連の面で協力してほしいことが間々あるのだ」

「それを加味して三層の奥の部屋を供与したい。広めの部屋で備え付けで一通りが済ませられる」

「エストとキョウには七層の一般区画の部屋を使ってもらおうと思う」

「ふむ、施設の詳しいことはこの冊子を呼んでもらえばと思うが…………」


手の中の冊子を手渡しつつ

「何か質問は? 緊急の案件があるなら今聞いておきたい」

2307とある世界の冒険者:2018/08/03(金) 21:46:34 ID:jripDoWA
>>2305,2306
「師匠から? ここに俺が来るのを見越してた……いや、可能性の一つとして考えてた程度か。こういう所は妙に抜け目ないな……。あぁ、世話になるんだ、俺の微力で良ければ存分に使ってくれ」
普段は考えるよりもとりあえず真っ直ぐ行ってぶった斬る、という脳筋……刀脳の癖に、組織だった行動をする時は打てる布石は打っておく、という二律背反な師匠に呆れつつ、苦笑を浮かべて握手に応じる。

「ちゃんとヘルちゃんと呼んで貰えるってイイね! まぁ、ここまで来たのは成り行きの部分が大半だけど、海苔の掛かったウニだし、私が納得行くまでは協力するよ。獣化したらサクッと殺して欲しいかなー。多分めっちゃ強いし、私の獣」
リーチマンの真摯で紳士な気遣いの甲斐も無く、あっけらかんと獣化したら殺せと宣う。決して自身の命を粗末に扱っているという風では無く、その対応が最善で確実であると確信している、という態度だ。
剽軽な性格とは裏腹にその辺りは随分ドライであるらしい。

「……珍しく真面目なところ悪いがな、ヘルメス。海苔の掛かったウニじゃなくて、乗りかかった船だ。なんだその美味そうなの。腹減るだろ……」

「わ、わかってるよわざとだよ! ジョークだよ!」
ヘルメスを前にして平然と自らのペースを崩すことなく、泰然としたまま普通にヘルちゃん呼びするリーチマンに戦慄を覚えつつ、流しきれずにヘルメスにツッコんでおく。


「慧眼だねぇヒルさん。うん、少なくとも衣食住の分は働かせて貰うよ。魔術のことならドンと来いさ! 錬金術にもそれなりの造詣があると自負しているし、あればそっちも回してくれても構わないよ」
魔術関連なら自分の出番、と自信たっぷりに胸を張り、ついでに錬金術もイケると付け加える。実のところ、彼女の衣装と杖は手ずから錬金術で創ったものである。

「あぁ、わかった。……緊急というわけじゃないが、俺とヘルメスから一つずつ、頼みがあるんだ」
冊子を受け取り、説明に頷くと、リーチマンに頼みがあると切り出す。

2308とある世界の冒険者:2018/08/03(金) 22:11:05 ID:RvcVe3xk
>>2306>>2307

「…気遣い、感謝する」

顔を上げ、握手に応えながら。
その言葉は、先ほどより強く、感情が込められていた。

(実力差で一切敵わぬ程劣るとは思わない、けど…敵わないな)

手から伝わるもの、彼から発せられるもの。
単純な強さではない、年月を重ね練磨された気配でもない。
゙背負うもの゙…今の自分が、手放してしまったもの。
彼がどんな気持ちでその位置にいるかは知らないが、それが決定的に違うと感じた。
ニクスとはまた違う意味で、リーチマンはキョウにとって眩しい存在だった。

「それと、失礼した。
貴方ほどの存在に当時気付かなかったとは、この身の未熟さに他ならない。
がっかりさせぬよう、明日を生きる人々を護れるよう、全力を尽くそう」

彼から自身を認識されていることは意外に他ならなかったが、
勿論それに悪感情を抱く訳もなく。
自身が知らなかったことに謝罪を述べながら、冊子を受け取る。

「特にはないが一つだけ。地上に出る際は手続きをするものなのか。
或いはどこかに言伝をすればいいのだろうか」

ギルドについたときもそうだが、この場所も自分には少しばかり辛いものがある。
拠点として利用させてもらうのは勿論のこと、ギルド側の要請にも可能な限り応えるつもりではある。
だが、あまり長期に留まるつもりはなかった。

2309 ◆/yjHQy.odQ:2018/08/03(金) 22:38:03 ID:ekUuVSsc
>>2307>>2308

「彼が今何処で何をしているかは分からない。だがこうして私が生存できている以上、彼が斃れている可能性は無いだろう」

「他のエレティコスメンバーは……ふむ、此方では把握していないが、連合内には加盟しているはずだ」

「済まないね、従来に近い受注システムの都合上、ギルド間管理は危機的状況にならないと発生しない」

「エレティコスと友好関係が持続できている、という意味でもあるが。もしかすれば、他のメンバーにも逢えるかもしれないとだけ伝えておくよ」


「あぁ、承知した。確かに君が獣化した場合、ネストの中間ランク帯では太刀打ちできそうもないな」

「その時は私が直に出向くと約束しよう。そうならないことの祈念も忘れずに……」


二人のやり取りも微笑ましく見つめているリーチマン。
――その後ろで、ニクスが胸を撫で下ろしている様子は、目についてもおかしくはないはずだ。
魔術関連の要請は必然的に二箇所に大きく絞られるという。
魔術による遺跡都市の増築。
そして出入り口の管理と防衛用の魔術の編纂、というわけだ。

「錬金術に長けるならば回復薬や医薬品の補充、精製にも手を貸してもらえるかもしれないな……」

「ふふ、困ったな。君に頼めることが多すぎて迷ってしまう」


「ふむ。聞かせて欲しい。分かる範囲で答えよう」




「ふふ、私も酒場では日々行き交う美女に目を奪われていた。謝罪には当たらない」

「私に何かを見出してもらえることは素直に嬉しいが、あまり過剰に期待をかけないでくれたまえ」

「――年甲斐もなく、応えたくなってしまうのでね」


一度だけキョウに見せた眼光は、統べる者ではなく、戦う者の眼差し。
あまり自分もおとなしい男ではないという、彼なりの謙遜であろうか。
……やっぱりニクスはホッと一息。

「基本的に自由だ。ただネストの人間には外部に出る際の目的・出動時間・装備を本部で記載させている」

「ネスト以外の協力関係の者には義務付けてはいないが、あれば此方もありがたい」

「……冊子の後半には、緊急避難や補給に使える小拠点のマップも付いている」

「中には簡易的な宿泊機能も備えたものがある。都合がつくなら、活用してくれ」


にっこりとページを捲ってみせるリーチマン。
先程のバッカスのような補給拠点は大小あれどかなりの分布数のようだ。
……注意書きの中には、火事場泥棒に感づかれた場所なども記されている。
内外に敵は少なくないというのが、これだけでも伺える。

2310とある世界の冒険者:2018/08/03(金) 23:26:21 ID:jripDoWA
>>2308,2309
「私にもキャパシティの限界があるから、お手柔らかに頼むよ。個人的にやりたいこともあるしね」
売り込んだ甲斐あって随分高く買って貰えたものだとやや苦笑を滲ませながら、一安心した様子のニクスに向けて任せておきたまえ、とウインクしておく。

「師匠が死ぬのはちょっと想像できないな……弟子の贔屓目を抜きにしても。そういう意味では心配してない」
実際のところ何度も瀕死の重傷は負っているのだが、しかし決定的なラインで踏みとどまるという異様なしぶとさがある。いつかは死ぬのは間違いないが、エストとしてはどういったシチュエーションで想像しても不思議と死がしっくり来ないのだ。


「そうか……。いや、俺の頼みは正にそれだったんだ。他のメンバーが合流してないかと思ってね。もしこれから居所がわかったり、目撃情報があれば教えて貰いたい」
仲間はいないと知って些少の落胆を見せるが、気を取り直して一礼と共に頼み込む。

「私の方のお願いだけど、『術編紙』が何枚か欲しいんだよ。できるだけすぐにだ。可能かな?」
『術編紙』とは、特殊な製法で作られた、主に魔術の研究などに用いられる用紙だ。魔力を込めたインクを用いることで、術編紙に書かれた内容を書いた本人だけが自由自在に編集できる。
文章であれば文字や文節を消したり入れ替えたり、絵や図であれば一部分を切り離して別の部分に貼り付けたりなどだ。
その性質上、魔法術式の編纂・開発や論文を書く場合などによく使われており、魔術書の原本が術編紙で作られてあることも少なくない。
製紙に手間と時間がかかるため、そこそこ貴重で高価なものだが、ここならあるのではないかと考えたのだ。

2311とある世界の冒険者:2018/08/03(金) 23:41:56 ID:RvcVe3xk
>>2309-2310

「なら、応えてもらう必要が無い程度に、奮闘させてもらうさ」

全てが全て、というわけではないのだろうが。
彼の冗談でもない冗談に、同じく冗談じみた言葉を返して見つめ返した。

「わかった、可能な限りニクスやわかる範囲のギルド員に声をかけるようにしよう」

「助かる。野営は慣れてはいるが、休める場所があることに越したことはない」

頷きながら彼と同じページを開き、今整理出来る情報を可能な限り脳に送る。
やけになっていた時にわざわざ避けていた場所もいくつか目に出来た。
次は多いに利用させてもらおうと、もう一度誰にともなく頷く。

…既に自分の動きを察せられてるような気もするが、あくまで尊重はしてくれるようだ。
先に二人に誓った通り、この巨大な輪に入れずとも彼らの為に。
ここにいる人々の為に、王都を愛した人々の為に。
地上でも暴力を振うのではなく、誰かの為になる行動を取ろうと。
゙戦ゔのではなく、゙護る゙為に在ろうと、もう一度心に誓った。

「ん、充分だ。後はおいおい自分で確認させて貰おうと思う」

2312 ◆/yjHQy.odQ:2018/08/04(土) 00:15:20 ID:QV.fXagI
>>2310>>2311

「済まないね。カイくんや一部の構成員とは共闘もしたのだが、如何せん最初期のここは戦場の前線だった」

「生命の無事は共に戦った力量から察するに保証も出来るが、今何処にいるかはまた……もしかしたら国外の連合拠点で獣化の進行を抑えているのやも知れないな」

「次回の物資搬入の際の確認事項に入れておく。目撃情報に関しても承知した、彼らには世話になった、微力だが恩を返せると思えば安いものだ」

「裏付けのない憶測を重ねたが、ここにいる以上は第二の家と思ってもらえるよう尽力しよう。改めてよろしく頼む」


「あぁ、勿論だ。君がしたいと思うだけを存分に。彼同様、よろしく頼む」

「術編紙……ふむ、寄贈品や確保した品々の中にいくつか在庫があるはずだ」

「ここにかくまった市民の中には、商品を総て寄贈してくれた商人もいる。これに関しては簡単ではあるが譲渡対象者の記載が欲しい」

ぱちん、と指を鳴らすと、屋根近くの手すりから何かが下りてくる。
鳩だ。訓練された伝書鳥の一種。
リーチマンが何かを書いて、血判(指を切らずして押すと血が滲んだ)を押した紙を足につけ、また飛ばした。

「三層の魔術品の倉庫に向かって欲しい、予め通しておいたのでスムーズに受け渡しができるだろう」

「何に使うかは不明だが、役に立つならネストとしても喜ばしい」

ニクスはヘルメスの反応に苦笑いを返す。
見られているとは思っていなかったようだ。



「戦果の報告を期待するよ。もっとも、積み上げた首級に価値を見出す君ではないだろうが、ね」

「我らもここを安定した維持にまでは漕ぎ着けたが、これから先何が起こるかは分からない」

「かつての王都を愛し、懐かしむ者同士。ここに何が出来るかを解い続けるのは避け得ぬ命題だろう」

「お互い、悩んでいこう。いずれまた、隣で語り合うその日まで」


分かっているのか、と、もし問えば、笑って誤魔化すだろう。
彼はそういう人物であり、キョウがどうするかに関してもただ見守るに留めるつもりらしい。


「それと、個人的な案件だが」

「ニクスが世話になったようだ。師らしいことも出来ぬ身だが、礼を言わせて欲しい」

「ありがとう」

2313とある世界の冒険者:2018/08/04(土) 00:56:05 ID:qM2xtVG.
>>2311,2312
「今回は戦わずに無事に終わったけど、これからは共闘することもあるだろう。改めてよろしくな、キョウ」
隣に立つキョウに視線をやり、笑みを浮かべて言う。


「あぁ、ありがとう。よろしく頼むよ。仲間が見付かれば戦力にもなるし、友人としても心配だ。……師匠に関しては、多分熱心に探さなくても問題ないと思う。またどっかで派手に暗躍してるんだろうさ」
快く引き受けてくれたリーチマンに礼を述べ、肩を竦めて矛盾した言い様で師を揶揄する。


「手持ちのが尽きててねー。ここに有って良かった、助かるよ。三層だね、了解だよ、ありがとう。……まぁ、ちょっと開発しておきたい魔術と物があるんだ。術編紙が無くても作れるけど、作業のスピードがかなり遅くなるからね。完成すればネストにとっても役に立つと思うよ」
貰った冊子で詳細な場所の確認をしつつ礼を言い、自信有りげに眼鏡をキラリと光らせる。


「何の魔術を作るつもりなんだ?」

「んっふっふー……今は秘密だよ! 自信はあるけど絶対に出来るとは限らないから、期待を外してしまうかもしれないしね。完成してからのお楽しみさ」

「そうか……まぁ、ヘルメスがこの状況で優先するなら必要なものなんだろうな。楽しみにしてる。精々俺達を驚かせてくれよ」

「プレッシャーかけるの上手いなぁエストくん……!」
エストとリーチマンの期待と信用に流石のヘルメスも重圧を感じて冷や汗を流し、失敗できないなぁと笑う。

2314とある世界の冒険者:2018/08/04(土) 01:24:08 ID:Rj1W9qjE
>>2312-2313

その日…彼自身決して軽く言った言葉ではないのだろう。
それでもその言葉は、キョウにはあまりに遠い言葉だった。
明日へと生きる人の為に命をつかうと誓いはすれど。
その明日に、自分はいないのだから。
いずれではなくいつか…果たして、そんなものはあるんだろうか。

「そうだな。…あんたの隣で語れるほどの器になれるかは、わからないが」

゙あなだではなぐあんだ。
一見すればやり取りに慣れて思わず砕けた物言いになったようにしか見えないだろう。
けれどもキョウにとって、取り繕う必要のないと判断できたもの。
かしこまったフリをせずとも、身綺麗にせずとも伝わると思ったが故の警戒の解除。
彼にとって、それは最大の敬意だった。

「…世話になったのも、冷えた心に熱をくれたのも。いつかの声を思い出させてくれたのも彼の方だ」

一度ニクスの方をちらりと見て。

「まだまだ伸び代はある…なんてこと俺が言うまでもなくわかってるんだろうが。
それでも既に、彼は誇られるべき人だと、俺は思う」

「だから俺は、ここに来たんだ」

彼のような人こそ、きっと生き残るべきだと。
今自分がここにいることこそが、彼の゙強ざが生んだものだと。
直接言葉にはせず、そう彼の師に返した。


「ああ、その時は頼りにしてくれ。俺も頼りにさせて貰う。
勿論、ヘルメスも」

一つ頷きで返し、互いを助ける約束を交わす。


キョウはニクスとジャックに出逢った瞬間から、一度として笑みをその顔に浮かべていない。
それでも身に纏う少し暗いながらも柔らかい空気に、まだ短い付き合いでも伝わる者には伝わるだろう。
今の彼は、きっと笑っているんだろうと。

「話が以上なら、俺は指定してもらった通り七層に向かおうと思うのだが」


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