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【場】『黄金原駅』 その3

1ようこそ、『黄金町』へ:2015/07/06(月) 19:20:24
北:メインストリート(商店街)
南:ネオンストリート(歓楽街)
西:黄金港


    郊外
                     ┏┛
                   ..┏┛
    ┌┐           ┏┛黄金川
  ┌┘ │     ┌――┐ 
  │  │ ┌――┘   │   
  └┐┌ .│      ┌┘ 
  ┌┘ ―┘      │
―┘          ┌┘   ◎ショッピングモール
―┐ H湖     ┌┘   ┌┐
  │      ┌┘   .┌ ..│ 
   ┐     │    ┌ ┌┘     住宅街
   │    │   ┌  │
    ┐   │  ┌  ┌..       黄金原駅
     │  └─┘┌―      ┏ ━■■━ ━ ━
  ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ┛
       │      └―┐黄金港  繁華街  
       └┐   ┌――┘
 ─────┘   └――――――――――――

     太 平 洋


――――――――――――――――――――――――――――――――――
前スレ
【場】『黄金原駅』 その2
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346稲葉 承路『エンジェルシティ・アウトキャスツ』:2015/12/13(日) 23:58:12
>>345
「・・・」
「あっ、てめー、俺が『カネがねーから』こんなことしてると思ってんな」

鬱陶しい感じの『ドヤ顔』を浮かべた。

「残念ながらこいつは『趣味』だぜ」
「ま! そうやって気楽に『カネ』使っちまうヤツには
分からんとは思うがね」

自販機に『100円玉』を投入する伊丹を見て、
両手を広げ、やれやれといった調子で言う。

「世の中には『夢遊病』ってモノもあるんだぜ・・・俺には関係ねーが。
寝てる間に勝手にカネ稼いでくれるなら、それもアリかも分からんけどな」

347伊丹 玄『ノー・ブロークン・ハーツ・O・T・F・F』:2015/12/14(月) 00:03:19
>>346

「ほぉ、それはまたご高尚なことで。」

「小銭漁りが趣味とはな。」

「バカな考えだ。」

小ばかにするように笑う。             ザリザリザリザリ
落ち着き無く足が貧乏ゆすりをしている。

「夢遊病?俺にも関係ないな。」

ザリザリザリザリ

笑ったまま、ボタンを押し、商品を手に取る。
飲料水だ。軟水と書かれている。

「ま、寝てる間にイライラが消えてくれるならアリか。」

348稲葉 承路『エンジェルシティ・アウトキャスツ』:2015/12/14(月) 00:37:36
>>347
「バカな考えねえ。ま、そー思うのはアンタの勝手だぜ」
「俺は人にとやかく言われて変わるような生き方はしてねー」

チャリン

50円玉をポケットに突っ込み、両腕を組む。

「あー、つーか『水』ならその辺にあんだろ」
「俺ァわざわざカネ払って水買う連中は理解出来ねーな」
「何のために『水道代』払ってんだ? いや家がねーのかも知れんがね」

349伊丹 玄『ノー・ブロークン・ハーツ・O・T・F・F』:2015/12/14(月) 00:53:14
>>348

「はっ。そうかよ。」

飲料水を飲む。
ふたを閉めると、ぐっと握り締めた。

「俺からすれば味が付いただけでどれも同じだよ。」      ザリザリザリ

           ザリザリザリザリ

「それに水道代払ってるのは俺じゃないからな。」

にやりと意味不明な笑いを浮かべる。

「お前は金に困ってないらしいが、そんなことしてなんになる。」

そんなこととは小銭漁りのことだろう。

「金なんて貯めても死んだら無にかえるだろ。」

350稲葉 承路『エンジェルシティ・アウトキャスツ』:2015/12/14(月) 01:06:44
>>349
「だったらなおのこと『水道水』で良いんじゃねーか?」
「ま、どうでもいいがね」

本当にどうでも良さそうにそう言って、自販機に寄りかかる。

「確かに死にゃあカネは、いや何だって『無』だな」
「だがそこにある『思い』は死なねー」
「だからこそそのカネをどう『集めたか』、それは大事なことなんだぜ」

そう言うと、財布から古い10円玉を一枚取り出した。

「例えばコイツは俺が『10歳』の時――生まれて初めての
『報酬』に貰ったモンだ。近所のジジイに頼まれた
『届けモン』のな」

もう一枚。こちらは比較的新しい『100円玉』だ。

「そしてコイツはこの街に引っ越す途中――
電車内で落ちてたのを拾ったモンだ。
つまり『11月11日』のこったな・・・」

「俺は手元の全ての『カネ』の入手した時間も、
手に入れた方法も、手放したカネのことも
『覚えて』るぜ。それァ、俺が死ぬまで絶対に『消えねー』」

351伊丹 玄『ノー・ブロークン・ハーツ・O・T・F・F』:2015/12/14(月) 01:24:46
>>350

「思い?」

伊丹は顔をしかめた。
何を言っているんだお前は、という顔だ。

ザリザリザリ                  ザリザリザリザリザリ
         ザリザリザリ

「は。はっはっはっは!」

「おもしれぇ。金についてなんでも覚えてるんだな。」

ゲラゲラと大笑い。                          ザリザリザリ
今にも手を叩きそうな勢いだ。
ニッと歯を見せる。
                    ザリザリザリ

「分からないでもねぇ。」

「俺も喧嘩したときのことはよく覚えてる。」

「イライラしたこともな。」

352稲葉 承路『エンジェルシティ・アウトキャスツ』:2015/12/14(月) 01:31:41
>>351
「おうよ。この稲葉さんをナメんなよ」

そう言うと、グラサンをス…と外した。
両瞼には、それぞれ『$』と『¥』の刺青が彫られている。

「あー、ケンカかァ・・・いや、俺はてんで弱ェからなあ」
「アンタ、アレか?口より先に手がでるタイプっつーか」
「・・・」

そういや、さっきからやたらと暴言を言い放ってたことを思い出した。

ツツツ

目線が泳ぐ。

「ひょっとして、今」
「割とイラついてたり・・・ハハ・・・しねェよな」

353伊丹 玄『ノー・ブロークン・ハーツ・O・T・F・F』:2015/12/14(月) 01:49:29
>>352

「稲葉、それがお前の名前か。」

「ほぅ。刺青か。」

感心したような、驚いたような声を出す。
馴染みがない、というよりはその模様に驚いているのだろう。
             
(徹底してやがる。)            ザリザリザリ

ザリザリザリザリ      ザリザリザリザリザリ

「あぁ。話すより、殴るほうが気持ちいいときがあるだろ?」

乱暴者の理論だ。

「お前に教えておいてやるよ。」

「俺は『常にイライラしてる』。生まれつき、理由はわからねぇ。」

「頭ん中で響いてる雑音のせいかも知れねぇし、別の物もかも知れねぇ。」

「ただいつだってイラついてんだぜ。」

354稲葉 承路『エンジェルシティ・アウトキャスツ』:2015/12/14(月) 02:01:04
>>353
「おう。稲葉 承路ってんだ。よろしくなァ」
「そんでこいつは『思い』の現れよ」

トントンと、瞼を叩く。

「いや、俺は基本『殴られる』サイドだし、
あいにくと『気持ち良く』はねェんだよな・・・」

残念ながら『M』ではなかった。

「いつでもイラついてんのか。そりゃあ難儀だな」
「とりあえずよォ〜、水じゃなくて『乳製品』メインに
摂ってみたらどうだ?『カルシウム』足りないんじゃねェの」

「つーか、『頭の中の雑音』って何だよ。耳鳴りか何かか?」

355伊丹 玄『ノー・ブロークン・ハーツ・O・T・F・F』:2015/12/14(月) 02:09:15
>>354

「俺は伊丹 玄。いたみ、はるかだ。」

「あいにく俺は刺青入れてないんでね。」

両腕を大げさに広げてみせる。
 
ザリザリザリザリザリ         ザリザリザリザリザリ
            ザリザリザリザリザリ

「は、もったいねぇ。殴るのも殴られるのも楽しいのによ。」

「難儀も難儀だ。慣れてきたが、イライラするのに変わりはねぇ。」     ザリザリザリザリザリ
 
        ザリザリザリザリザリ

稲葉に問われ、考える。
うんうんと犬のようにうなっている。

「いや。テレビの砂嵐と鑢の音を合わしたみてぇな、食器同士がこすれあうみてぇな音だ。」

「ザリザリザリザリザリと昼も夜もなく鳴り続ける。」

356稲葉 承路『エンジェルシティ・アウトキャスツ』:2015/12/14(月) 02:21:44
>>355
「伊丹か、ま! よろしくなァ〜」
(あんまカネの匂いはしねー奴だが、『縁』ってのは
持っといて損はねーだろうしな)

フランクな態度の裏には、ゲスい考えがあった。
まあそれはともかく。

「いやいや・・・だってケガでもしたら『丸損』じゃねーか。
俺ァ儲からねーことはしないぜ」

大袈裟に首を振って否定する。

(それに俺のは・・・『ケンカ』じゃあ済まねーしな)

「食器の擦れる音・・・うェッ、想像しただけでゾワゾワするぜ。
そんなもん四六時中聞かされてんのか・・・キッツイな、そりゃあ」
「『医者』とか、当たったりしてみたのかよ?」

357伊丹 玄『ノー・ブロークン・ハーツ・O・T・F・F』:2015/12/14(月) 02:31:07
>>356

「よろしく、ねぇ。」                               ザリザリザリザリザリ
                 ザリザリザリザリザリ
にやりと笑って見せた。        ザリザリザリザリザリ
ナニを考えているのだろうか。
それとも何も考えていないのか。                    ザリザリザリザリザリ
                      ザリザリザリザリザリ
「丸損。まぁ、そうだろうな。」
 
怪我の治療費というのがある。                             ザリザリザリザリザリ
金に異常な執着を見せる稲葉からすれば損、なのだろう。
伊丹はそんなこと眼中にないが。
                   ザリザリザリザリザリ
「医者は天敵なんだよ。」

「偉そうに講釈を垂れる、あいつらが病原菌そのものだ。」

「だれかれ構わず首が後ろを向くまで殴りたくなる。」

358稲葉 承路『エンジェルシティ・アウトキャスツ』:2015/12/14(月) 02:50:03
>>357
「おいおい・・・またズイブン『物騒』だな」

伊丹の、敵意の籠もった発言に引きつった顔で応じる。
グラサンをかけ直し、目を伏せた。

「何かあったのか・・・?いや、良いや。
あったとしてもあんま言いたくねーことだろうし」
(そーいやあ、昔医者を『ミンチ』にしたこともあったな。
あれは、そう・・・『200万』貰った時だ)
(うん・・・まあ、悪い気分じゃあなかったな)

それを伊丹に話したら、どんな反応をするだろう。
ふと思い、すぐにやめた。こいつは『そっち側』には
踏み込んでない。そう見えたからだ。

「ま、俺ァそろそろ行くけどよ・・・ケンカ売るなら、
俺以外にしてくれよな」
「じゃーなァ」

ひらひら手を振りながら、ブ男は去る。

359伊丹 玄『ノー・ブロークン・ハーツ・O・T・F・F』:2015/12/14(月) 23:53:26
>>358

「『物騒』?まさか。」

「何もなかったぜ。殴ろうとしたら止められたからな。」

       ザリザリザリザリ

しかしその声色には怒りの色がにじんでいる。
                                   ザリザリザリザリ
「おう。じゃあな。喧嘩はいつか買ってくれよ。」

止めることもなく見送る。
所詮は少し話した程度の相手。       ザリザリザリザリ
そんなに長く付き合う必要もない。

(……あいつ。)                                    ザリザリザリザリ

(なんか、別のこと考えてたんじゃないか。)

なぜ稲葉が目を伏せたのか、伊丹には分からない。
しかし、なぜか嫌な雰囲気を感じた。

(まぁ、いいか。)

しばらくして伊丹はベンチの上に寝転がった。

360稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2015/12/15(火) 02:21:25

友人の見舞いに、中古ゲームを買いに行った。その帰り。

「…………」

どうにも中途半端な気持ちで街を歩く。
クリスマスソングが聞こえてくる。

(リア充以外にはハードモードな季節キタコレ……えひ。)

          ワイ
             ワイ

雑踏を少し避けて歩く。
ニット帽と眼鏡で、一応の変装済み。

        ワイ

通りがかった『元クラスメイト』には、気づかれない。

            「……」

                ストン

路傍に設置されたベンチに腰を落とす。
偶然、空いていてよかった。

         キラ
                   キラ

電飾が灯りつつある街並みを、特に何をするでもなく。

361人吉 佐和子『クラウド・ボーイ』:2015/12/16(水) 23:26:43
>>360
ベンチに腰を下ろす稗田。
と――

「ふぁ……あ、も、だめぇ」

ドサッ

なんか目の前で女が倒れた。うつ伏せだ。
どうも駅から出てきたところのようで、手にはバッグが握られている。

「」

こいつ・・・・・・ピクリともしないぞ。

362稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2015/12/16(水) 23:42:31
>>361

「…………」

         「……は?」

    ガタッ


(なんっ……酔っ払いか……?
  ……どいつもこいつも、無視してやがる……)

クリスマスを迎える町。人びとはそれぞれ事情がある。
だから、いきなり倒れた女に構うのは――

(変なフラグ立ちそうだが……放置はやばいだろ……常識的に考えて……)

      ソロ ソロ

       「……おいっ。」

  「ここ、セーブポイントじゃないぞ……
    セーフゾーンでもないぞ……襲われても知らないぜ……」

           ユサ

事情の無い恋姫くらいのものだ。
おそるおそる近付いて、しゃがむ。

            ・・・・ゆすってみる。

363人吉 佐和子『クラウド・ボーイ』:2015/12/16(水) 23:46:48
>>362
ユサ

「…………」

        ユサッ

「…………………………」

ゆすってみる稗田。だが反応はない。
最悪の可能性が頭をもたげた、そのとき。

「ぐぅ」

……なんか聞こえた。

「…………むにゃ」

364稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2015/12/16(水) 23:56:25
>>363

         「……」

   「……えひっ。」

「寝落ちかよ……おい、起きろって……」

       ユサ

          ユサ

寝ていただけか――
いや、寝ているのもよくないのだが。

       ・・・・もうすこしゆする。


(……視線めっちゃ集まってる……)

     「……おいっ。」

         ヒソ

        「起きないと薄い本が厚くなるぞ……!」

    ユサ
          ユサ


耳元で意味不明な文句を叩きつけつつ、もうすこしゆする恋姫。

365人吉 佐和子『クラウド・ボーイ』:2015/12/17(木) 00:19:12
>>364
「…………んぅ〜……」

流石に、路上でブッ倒れてる人間は目立つ。
まあ、『酔いつぶれた酔っ払い』程度の認識で、
ちらちら見ながら素通りしていく者が大半だが……
しばらくゆすっていると、女がゴロッと寝返りを打った。

「薄いパンが分厚く……うふふふ」

寝言のような、うわ言のようなセリフを吐きながら、
女が目をうすーく開けて、トロンとした目つきで稗田の顔を見た。

「あらぁ……ここ、どこかしらぁ」
「堅いおふとんだと、思ったんだけど……」

女の顔は少し赤らんでいるが、酒の臭いはしてこない。
バッグから、何かはみ出しているのが、ちらりと見えた。

366稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2015/12/17(木) 00:37:18
>>365

「……おはよう。昼だけどな……黄金町民の朝はおそい。えひ。」

          ニマ

ダウナーな笑みを浮かべる。
そして、桜色の目を少し細めて。

      フワ

髪からは、ミントのような芳香。目が覚める(かもしれない)

「ここ……黄金原駅前だ。わかるか?
 朝チュンするには人多すぎの場所だぜ……常識的に考えて。」

         ユサ

もうちょっとゆすっておく。
再度眠りにつかれたりしても、困るのだ。

「酔っぱらってんのか……?
 オフトンあるところに帰って寝ろよな……」

     (……? なんだあれ……)

          ・・・・声を掛けつつ、バッグに視線。

367人吉 佐和子『クラウド・ボーイ』:2015/12/17(木) 00:46:12
>>366
「…………あら、あらぁ」

ふわ、と、いい香りの髪に軽く手を添えた。
ふわふわとした笑顔を、稗田に向ける。

「すてきな髪の毛ねぇ」

「えきまえ?
ほんとだわぁ…………うーんと、どうしてここに
いるのかしら」
「お酒は飲んでないわよぉ。
そうそう、確か『キャンドル』を――あら?」

首を傾げた。

ググ グ

バッグに視線を向ける稗田。
と――バッグが不自然に『膨らんだ』や否や、

ポン
『メヘェェェェェェ』

その口から、『羊』がハミ出した。
だいぶギュウギュウに詰め込まれていたらしく、
心なしか苦しそうに鳴いている。

コロ   コロ

それと、なにか、小さなものが転がっている。
赤い、円筒状の『包装』に包まれていて、ほのかに、
『バラ』の花のような芳香がする。

368稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2015/12/17(木) 01:08:25
>>367

    「えひっ……」

  ピク

髪に添えられた手。
あまり慣れていない。

「……褒めても、何のフラグも建たないぜ。
 僕に触ると……やけどするしな……えひ。法律的に考えて。」

        フワ

         ――やや目を細めて、やんわり払いのける。

そして。
バッグから出てきた存在。

     「……うおっ!」

  ォォォオオ――


「……ペットにしては、扱い……雑いな。」

傍らに人型のヴィジョンが発現する。
ペスト医師のような仮面と――蒼炎を噴く黒衣が、不気味な像だ。

   コロ   コロ

     「えひ……なんだっけ……」

        「これが……あれか?
          そのキャンドルってやつ……?」

     フワ

転がった『包装』に目を向ける。
鼻をくすぐる、なんとなく優雅な感じの芳香。

            「んで……キャンドルがどうしたんだ?」

                   ・・・・話を続ける。

369人吉 佐和子『クラウド・ボーイ』:2015/12/17(木) 14:17:57
>>368
「…………ふらぐ?」

『何それ?』みたいな顔で、首を傾げた。

「ああっ、カバンに入れてたの、忘れてたわぁ」
『メヘヘヘヘヘ』

カバンと、ついでに『羊』を回収し、
何か発現している稗田の『スタンド』に気付いた。

「……あらっ、何かしらぁ……その子」

「あっ、そうそう、『キャンドル』ねぇ。
長いこと探してた『アロマキャンドル』を、
何とかして『一つ』だけ手に入れたんだけどぉ」
「それがあんまり良い香りで……思わず眠くなっちゃったのよ」

『包装』には、アルファベットで商品の名前が記されているようだ。
少々文字が小さいため、詳しくはわからない。
拾い上げれば、 はっきりと書いてあるものが分かるだろう。

370稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2015/12/17(木) 23:05:26
>>369

「…………説明すんのはめんどい。」

      カリ

      「まあ……褒めても何も出ないって言いたかったやつ……」

頭を軽く掻きつつ。
傍のヴィジョンは、警戒を示すかのように青い焔を灯している。

「えひ……何かしらはこっちのセリフだろ、状況的に考えて……」

         「まあ……それより……」

恋姫は『羊』に視線を向けたあと、『キャンドル』に移して。

「そんなレアアイテムなのか……?
 嗅いだだけで寝るとか……なんかやばいんじゃないの……」

       ジ 

目を細めて――

        スッ

拾い上げて、見てみよう。匂いも見てみよう。


      (……そんなキクのか?
       それかこいつの睡眠耐性低すぎ……?)

隈こそないが、最近不眠気味の恋姫の目。
……夜更かしはいいのだが、寝れないのはいらいらする。

371人吉 佐和子『クラウド・ボーイ』:2015/12/17(木) 23:23:00
>>370
「あらぁ、照れちゃってぇ…………」
「でもほんと、いい香りだわぁ。どんなシャンプー使ってるのかしら」

ほんわかした受け答え。
稗田が『キャンドル』に興味を示したのを見て、
嬉しそうに話し出す。

「とっても『珍しい』のよぉ…………それ。
今まで扱ってた『雑貨屋』さんも取り扱わなくなっちゃったし、
たまたま、古物商巡りで一つ見つけたんだけど」
「とーっても『落ち着く』香りなのよぉ」

拾い上げてみる。包装に記された名前は『Flourished Rose』。
直訳すると『繁栄するバラ』だが、『盛大に茂る』といったほどの意味合いだろうか。
紙の包み越しに匂いを嗅ぐと、ふわりとバラの花の香りがする。

それが稗田の好む香りかは分からない。
ただ、それに関わらず、体の内側から『溶け出す』ような感覚があるだろう。
神経が、一気に『リラックス』していくように感じるかもしれない。

「どうかしらぁ?
わたしは、とってもよく眠れるんだけど」

372稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2015/12/17(木) 23:45:44
>>371

「……照れてないって。
 シャンプーは、まあ……企業秘密……えひ。」

などと言いつつ、緩む口元。

      ・・・・そして。

「ガチでレアアイテムじゃん……
 メーカーが倒産したとか……? プレミア的な……?」

     スン  スン

そして、匂いを見よう。
小さな鼻を動かす恋姫。

恋姫の学力は中一相当で、英語にはとんと弱い。
だが、今回は――


     ふ

         わ  
           ・
             ・
               ・

          
    「うぁ…………」

恋姫にもその名前の意味が、理解できた。

          トロ ォ 〜 ン  ・・・

まぶたがとろりと落ちそうになる――表情がやや弛緩する。  
バラの香り以上に、薔薇色の心地だ。

     ハフ ゥ

          「めっちゃきくぅ……
            えひ、どハマりしそう……」


普段ありえないほどリラックスした声、吐息。
一瞬恋姫の頭の中に「何かやばいのでは?」という疑問符が浮かぶほど。

                ・・・・寝落ちするのも頷ける。

373人吉 佐和子『クラウド・ボーイ』:2015/12/18(金) 00:01:40
>>372
「うふふ、それは残念ねぇ」

冗談めかしてそう言って、笑う。

「そうなのかしらねぇ……作ったところの情報も、ほとんど無いし、
その『古物商』の人も、詳しいことは知らないみたいだったわぁ」

そういえば、包装にも『メーカー』の名前がどこにもない。
唯一、商品名の下に、小さく『I.F.』という刻印が見て取れた。

「ね…………良いでしょう?
クセになっちゃう香りなのよねぇ」

トロン、となっている稗田を見て、ニッコリ微笑む。
それにしても、相当に強い『リラクゼーション効果』だ。
火も灯さないうちから、十分な効き目があるように感じられる。

「気に入っちゃったかしら……でも、
本当に珍しいから、ちょっとやそっとじゃ手に入らないのよぉ」
「そうねぇ……ちょっとだけ削って分けてあげちゃおうかしら。
『芯』を通せば使えるし、そのまま『香り』として使っても良いし」

374稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2015/12/18(金) 00:32:17
>>373

               フ - ・・・

甘い息を吐きだす。
寒い空気を吸い込むと、いくらか効きが薄れてきた。

      「……凄いふわふわする。」

     ニマー

それでも、恋姫の笑みは少し柔らかい。

「……なんかこれ……えひ。
 やばい薬とか、はいってんじゃないか……」

         「……こりゃ寝落ちもするわな。」

再度嗅ぎそうになるのを抑える恋姫。
頭の奥の奥まで、薔薇色に染められたら、帰ってこられない気がした。

           ・・・・とはいえ。         

「……えひっ! まじで……
 こりゃ……ますますどハマりして……廃人待ったなしコースかな……」

         「まじでくれるの……?
           このキャンドルのステマなやつ……?」

     ジィー

キャンドルに、そして人吉に視線。
もらえるものなら、恋姫としても、もらっておきたかった。

375人吉 佐和子『クラウド・ボーイ』:2015/12/18(金) 00:48:25
>>374
「うーん、どうなのかしらぁ」
「前に買ってた雑貨屋さんは、そういうものじゃない、って言ってたけど」
「もっと『純粋』なものだって」

「もちろん、良いわよぉ。
起こしてくれた『恩返し』のつもり……なんちゃって」

包装を少し開け、バッグから小さな『ハサミ』を取り出し、
キャンドルに慎重に切り込みを入れていく。

パキッ

そうして、『サイコロ』ほどの大きさの塊を削り落とす。
このサイズでも、香りは十分すぎるほどだ。
それを、『油取り紙』に包んで、稗田に差し出した。

「はい、どうぞ。
でも、やらなきゃいけないことがあるときは、
使っちゃダメよぉ…………寝ちゃうもの」

376稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2015/12/18(金) 01:06:36
>>375

「……ならいいんだけどぉ……
 まあ……そういうんじゃなくても……ヤバイかも……」

      パキッ

はまってしまうだろうな、と思った。
少なくとも、太陽に陰りがある限りは。

「寝落ちするやばさは僕も知ってる……えひ。」

      ゴソ

差し出された『包み』をポーチに。
二度手に入るかはわからない。攻略本があればいいのに。

   「とにかく……ありがとな。
    今夜はおもっきり……スヤァ出来そう。」
 
            ニタ

         浮かぶダウナーな笑み。

「んじゃ……僕はそろそろ行くぜ……」

           ガタ

ベンチから立ち上がった。
一休みしていただけで、ここをセーブポイントにする気もない。

377人吉 佐和子『クラウド・ボーイ』:2015/12/18(金) 01:14:57
>>376
「うふふ、そうねぇ。お互い、よい眠りを……って、ことで」

稗田に倣うように、立ち上がる。
流石に、駅前のアスファルトをベッドにはできない。
……もう、少し目がトロンとしてきてるのは内緒だ。

「それじゃあねぇ」
「あ、その『キャンドル』、また欲しくなったら連絡ちょうだいねぇ。
わたしも、すぐには使い切らないと思うから……」
「あの香りを気に入ってくれて、嬉しかったわぁ」

そう言って、メモ用紙にさらさらと連絡先を書いて渡すと、
ふわふわした足取りで家路に就いた。
その日は、それはもう『熟睡』できたそうな。

378稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2015/12/18(金) 01:36:04
>>377

「えひ…………僕も嬉しかった。
 んじゃ、その時はまた……ちゃんとベッドで寝ろよな。」

        トコ

           トコ

そうして、その日は家に帰ったのだった。
心の癒しを得たことは、恋姫にとってとても大きなことだ・・・・

            「……えひ……」

                 スン
                      スン

                 (まじでどハマりするわ……
                   自重しなきゃダメ、絶対……えひ。)

379関東 也哉子/ヤーコ『一般人』:2015/12/23(水) 23:34:06

『クリスマスが今年もやってくる』。
駅前ではそんな歌が流れ、イルミネーションに彩られ。
いよいよクリスマスが来るという駅前で。関東也哉子は―――――

         「ひゃっ」

            コテン

       「ひぐっ、〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」

……足を滑らせて、転んでいた。とても痛い。
というか今の、足をくじいた。立てない。とても痛い。

380加賀『プライベート・ライン』:2015/12/23(水) 23:43:15
>>379

       クリスマスが今年もやってくる。
       寂しかった出来事は誰かに『与え』ちゃったからァ……
       消し去るのはクリスマスじゃなくて僕なわけだ。
       恋人はサンタクロースではなく僕自身だね。
       誰かになにかを『与える』んだからね。

「おっと。」

       目の前で誰かがこけた。
       ……どうしよっかなァ。
       手を貸すのもいいけど、貸さないのも人生だねェ。
       決めた。貸さずに声をまずかけよう。

「ねェ。君大丈夫?」

       声をかけて、一つ思い出した。
       僕は今よれたスーツに曲がったネクタイだ。
       僕からすればいつもの格好なんだけど、これかなり不審者じゃない?
       いや、不審者じゃなくてもさァ……
       こう、色々あるよねェ。

381関東 也哉子/ヤーコ『一般人』:2015/12/23(水) 23:49:38
>>380

      「あっ」「えとっ」

声をかけられて、焦る。
不審者がどうこう、と言うよりは、『気を使わせてしまった』という感覚だ。
無事を証明するように、慌てて立ち上がろうとして。

     「だ、大丈夫です! ちょっと転んだだけで……」

          「ぁ痛っ」

……立てない。
まぁ足をくじいたのだからすぐには立てなくて当たり前だ。
すぐに足首を抑えて、うずくまる。

     「ぐぅっ……だ、大丈夫です、ほ、ほんとに……」

脂汗を滲ませているが、表情は努めて明るく振る舞おうとしている。

382加賀『プライベート・ライン』:2015/12/24(木) 00:01:39
>>381

「大丈夫、ねェ?」

「どの口がそういうわけェ?」

       どうみても大丈夫じゃないよねェ?
       僕は目の前で明らかにけが人の女の子を見下ろす。
       うん、いい眺めなんだけどォ……そういう状況でもないよね。

「君、えっと、見たことある気はするんだけどォ。」

「まァいいか。お嬢ちゃん、道でそういうことすると邪魔になるんだよねェ。」

「君は良識のある人だと思うんだけど、どう?どっか道の端まで肩でも貸そうか?」

        まいったなァ。
        僕はスクールカウンセラーであって、医者じゃないんだ。
        体は治せないし、まず僕お薬扱えないし。
        かといってこの程度で救急車呼ぶのも馬鹿らしいしィ。
        ちょっと様子でも見ようかなァ。

383関東 也哉子/ヤーコ『一般人』:2015/12/24(木) 00:14:43
>>382

   「うっ」

……痛いところを突かれた。
確かにどう見ても大丈夫じゃないし……通行の邪魔になる。

    「……その」「……すみません、お願いします……」

顔を赤くして俯いて、お願いする。
ああ、このまま消えていなくなってしまいたい!
とはいえ確かに助けてくれるとありがたいし、ここでうずくまっているのも迷惑だろう。恥は忍ぼう。

   「えっと……」

……ところで、冷静になってみれば、この人の顔を見たことがある気がする。
あまり日常的に見ているわけではないが、確か学校で何度か……
そう、あれは確か全校集会とかで……見たような……名前は……確か……

      「……加賀先生、でしたっけ……?」

……なんかそんな名前だった気がする。

384加賀『プライベート・ライン』:2015/12/24(木) 00:23:31
>>383

「いいよォ。謝んなくて。」

「転んだのは君の落ち度だしィ?手を煩わせてるわけでも無いし。」

「たとえ、煩わせたとしてもその足の痛みが報いだし。」

       僕は与えるだけだよ。
       施しをね。

「せーの。あ、痛かったらいってね。」

       僕は肩を貸して道の端まで女の子と歩く。
       昔酒に酔った同級生を介抱したことがあるけど、それを思い出す。
       あれ、彼はどんな顔してたっけ。

「んー?」

「そう、加賀真。よく覚えてるね。非常勤のスクールカウンセラーのことなんて。」

       正直僕が学生のころは気にも留めなかった……いや、留めてたか。

385関東 也哉子/ヤーコ『一般人』:2015/12/24(木) 00:35:41
>>384

   「えっと、じゃあ……」

     「……ありがとうございます」

謝るよりは、確かにお礼を言う方がずっといい。
顔は赤いままだが、にこりと笑って、お礼を言った。

   「あ」「はい」「じゃあ」

       「せーのっ」

      「っぅ……へ、平気です。ちょっとだけ痛みますけど」

肩を貸してもらって、立ち上がる。
立った時に少しだけくじいた足が痛んだが、我慢できないほどでもない。
そのまま、ゆっくりと片足をひきずって歩く。

   「えへへ、よかったぁ、間違ってなくて。
    転校してきたころ、クラスのみんなと、先生の名前、頑張って覚えましたから。
    先生もたくさんいますから、全員覚えてるわけじゃないんですけど……」

高等部や大学部の先生の名前は、流石に覚えきれていないが。
保険の先生や司書さんなんかの名前は、頑張って覚えたのだ。

386加賀『プライベート・ライン』:2015/12/24(木) 00:47:59
>>385

「はァい。」

       お礼を言われて悪い気はしない。
       悪い気は、ね。

「ま、痛いのは生きてる証拠だからさ。」

       ちょっとは我慢してもらわないとねェ。
       さすがにそんなにわがままなお嬢ちゃんじゃないだろうしね。

「転校?ふゥん。」

       転校生。転校生。
       こんな顔の転校生……
       僕は頭の中で名簿をめくる。
       えっと、こういう顔の子、いた気がする。

「関東さんか。」

「関東 也哉子さんだね?」

       うん。そのはずだ。

「まァ。僕の名前も顔も覚えずに生活するのが一番いいんだけどねェ。」

       僕の世話になら無いってことは、健やかで悩みの無い生活ってことだ。
       そういう生徒が増えれば平和だし、僕も楽だしwin-winだよね。

387関東 也哉子/ヤーコ『一般人』:2015/12/24(木) 00:56:16
>>386

    「あはは、痛くないに越したことは、ないですけどね」

うん、冗談めかして笑える程度には、痛くない。

   「あ、はい、そうです。
    関東也哉子……去年から秋映に通ってます」

少しだけ驚いた顔。
だって、生徒が先生を覚えているのならともかく、先生が生徒の名前をいちいち覚えているとも思えないからだ。

     「先生、よく知ってましたね、私のこと。
      自分で言うのもなんですが、あまり目立つ生徒じゃないと思いますし……
      それに、幸いというか、まだ先生のお世話にもなっていませんし」

……実を言えば、カウンセリングルームを頼ろうとしたことは何度かある。
何度かあるが、幸いにして、その前に頼れる友人がいたのだ。
それは本当に幸せなことだと、也哉子は思う。

388加賀『プライベート・ライン』:2015/12/24(木) 01:07:44
>>387
       
       冗談かな。
       ま、冗談言えるぐらいなら大丈夫でしょ。
       たかだか足くじいただけだと思うし。
       放っておいたら勝手に治りそうだねェ。
       人体って偉大だし。

「去年からか。そこまでは覚えてなかったなァ。」

       細かい部分は覚えにくいんだよねェ。
       タグ付けしにくいって言うか。

「ん?僕が生徒のこと覚えてたらおかしい?」

「あっはは。僕はね、暇つぶしで退屈しのぎで金稼ぎのためにスクールカウンセラーやってるんだよねェ。」

       給料泥棒って言われるために働いてるって言ってもいいよ。

「でもさ、もし自分の存在意義が分からないって真面目な話する子が来てみなよォ。
 退屈しのぎとか言ってられなくなっちゃうでしょ?だからさ。」

「ちゃんと名前で呼んで上げるんだよ。目の前にいるのは生徒であるまえに普通の人間だからね。」

       ……ちょっと熱くなってる気がする。
       落ち着こう。クールダウンクールダウン。
       悪い癖だ、忘れてしまいたいけど、これを『与える』気にはならない。

「話の種を見つけたら世間話でもして、暇を潰すんだよ。」

       症状が軽ければ、ね。

389関東 也哉子/ヤーコ『一般人』:2015/12/24(木) 01:24:32
>>388

        「いえ、おかしいって言うわけじゃないんですが……」

言いかけて、口をつぐむ。
先生の話を聞くためだ。
黙って、時折相槌を打ちながら、話を聞く。
給料泥棒の持論。

   「…………すごいですね、先生」

ほう、と息を吐きながら。
話を聞いて、そう零す。

     「その、なんて言うんでしょうか……プロ、とはまた違うんですが……
      ああ、働いている大人なんだな、って。そんな感じです」

しみじみとそう言って……から、ハッとする。当たり前のことだそれ。

   「……あれ、当たり前ですね、これ」

    「す、すみません、そうじゃなくって、えっと、えっと……」

あわあわと手を動かしつつ、良いわけのように言葉を探す。
い、良い言葉が見当たらない。ぎぶみー国語力。

390加賀『プライベート・ライン』:2015/12/24(木) 01:39:15
>>389

「凄くもなんとも無いよ。」

       慌てる関東さんを前に、僕はそう言った。
       ぶっきらぼうに、なんでもない風に。

「僕はこれが出来て普通だと思ってる。」

「君の言う当たり前だってね。」

       この子、聞き上手なのかな。
       僕よりスクールカウンセラー向いてるんじゃない?
       いや、僕の方が適当に出来るかな。
       勉強させないことには分からないけど。

「にしてもねェ……」

「今時の子がこういう仕事に対する姿勢にすごいって言うってことは……」

「案外、みんな楽してるのかなァ。僕以上の給料泥棒がいるのかな……?」

       僕より楽をしてる人がいれば僕は給料泥棒じゃない。
       多分、だけど。いや、だって僕より大泥棒がいたら泥棒とか言えないよねェ?
       世の中の人みんな僕より大変で、ずうっと苦労してると思うんだけど。

「君はどう思う?僕は僕以上に楽してる奴がいるならもっと僕は楽していいと思ってる。」

391関東 也哉子/ヤーコ『一般人』:2015/12/24(木) 01:57:02
>>390

   「そう、なんでしょうか」

普通、なんだろうか、これは。
あの膨大な数の生徒の名前を、いちいち覚えようとして。
悩んでいる子と向き合ってあげようというのは、普通で当たり前のことなんだろうか。
それは不真面目な言葉とは裏腹に――――とても、真摯であるような気がして。

 「ど、どうでしょう。他の人のことは、ちょっとあたしにはわかりませんが」

そう、一言前置きして。

     「えっと……ああ、そうだ」

   「『有能な怠け者』……というやつでしょうか」

どこかで聞いたことのある言葉。
それはきっと元の意味とはまるで異なるのだろうが、しかししっくりくる言葉でもあった。

      「先生は、そんな感じがします。
       楽をするために頑張っている、というか。
       それはきっと、先生を頼る子にとっては、とても頼もしいことだな、って」

くすくすと笑いながら、そんなことを言う。
頼りにならない風にも見えるけど……うん、この先生はきっと、頼りになる先生だ。

392加賀『プライベート・ライン』:2015/12/24(木) 02:20:23
>>391

「そうだよ。僕にとっては普通なんだから。」

       他人の名前と顔を適当に覚えて、適当にお話してればお金になる。
       すっごく割がいいように思うよ。
       もちろん僕は、だけどねェ?

「ん?あーいいね、それ。『有能な怠け者』しっくりくる。」

       僕の理想にかなり近いんじゃない?
       怠け者ってところがいかにも給料泥棒だ。
       やァこれからはそっちの方が格好いいかなァ。
       いや、キザかしらん?

「楽するためなら頑張るさ。え?君達もそうなんじゃないの?」

「受験とかで楽になるから勉強してるんじゃないの?」

       わっかんないなー。僕もこの子達も同じハズなのに。

「頼もしい?あっはは。勘弁してよ。僕は楽したいんだから。」

「遊びに来る子なら歓迎するよ。」

       暇つぶしになるしね。

「関東さんは悩み事とかないの?」

「今機嫌いいからさ、仕事抜きで聞いてもいいよ。」

「君が聞き上手で褒め上手なお礼ね。お礼。」

       おかげで今すごく気分がいい。
       うん、いいよ。うんうん。

393関東 也哉子/ヤーコ『一般人』:2015/12/24(木) 02:44:33
>>392

   「うーん、あたしが勉強するのは……な、なんでなんでしょう。
    立派な大人になりたいから、だと思いますが……」

少なくとも、一般的な中学生に明確な目的意識を持って勉強をしている者はそう多くないだろう。
やれと言われたからやる。義務教育と言うのはそういうものだ。
だから、どうして勉強するのか? と言われても咄嗟には答えられない。

     「あたしの悩み、ですか?」

ともあれ、振られた話題。
悩み、悩み……確かにひとつ抱えているが、これを相談していいものか。
『スタンド』のことなんて、聞けるわけが無いし。

      「えっと……そ、そうですね……」

言葉を選ぶ。
どうしたものかとも思うが、せっかくの機会なのだし。

   「じゃあその、せっかくなので。たとえ話になりますが……」

         「例えば」

    「『銃』を持っている人がいるとします。
     その人は、『銃』で誰かを傷つけます」

 「……その人が誰かを傷つけないようにするためには、やっぱり、こっちも『銃』を持って戦うしか無いんでしょうか」

      「……あ、警察とかは、その、考慮しない方向で。たとえ話、なので」

394加賀『プライベート・ライン』:2015/12/24(木) 03:04:34
>>393

「立派な大人ねェ。いいんじゃない立派な考えだし。」

       ありふれてる。
       本当はなんで勉強してるか分かってないのかな。
       それとも世の中の汚さにもまれてない?
       僕には関係ないことだから、どうでもいいことなんだけどね。

「そう。悩み悩み。」

「……なにそれ。」

       なに言ってるんだろうこの子。
       心理テストかな?だとしたら趣味がよくない『かも』
       他人を試すなんてねェ。
       いや、穿ちすぎか。

「僕なら逃げるねェ。」

「銃とか危ないし、近寄りたくないし、僕が標的じゃないなら逃げるほうが楽だよ。」

「あーでもなァ。もし、もし、僕を狙ったりして闘わざる終えないんだったらァ。」

「誰かに頼る、かなァ?僕一人でやるのは面倒くさい。」

       僕の精神である『これ』が闘いに向かないみたいに
       僕自身闘いに向いてないはずだ足ね。

「敵が銃を持ってるから自分も銃を持ちましょうなんてナンセンスだね。」

「たとえ持っても懐に忍ばせとくもんだよ。見せびらかしたりしないさ。」

395関東 也哉子/ヤーコ『一般人』:2015/12/24(木) 03:15:53
>>394

   「……やっぱり、そうなんでしょうか」

逃げる。あるいは、誰かに頼る。
それは一つの、模範解答なのだろう。
そうしろと、也哉子の中の『誰か』もそう勧めてくる。
だが。
しかし。

        「でも……例えば」

  「『銃』を持ってる友達がいて、もし『銃』を持ってる人に襲われたら、その子が助けてくれるって言うんです」

      「それは嬉しい事でもあるんですが……
       でも、あたしはそれでいいんでしょうか。
       あたしには、なにかできることは無いんでしょうか」

世界に『銃』を……『スタンド』を持っている人がいる以上は。
世界に、『スタンド』で誰かを傷つける人がいる以上は。
見て見ぬ振りも、もちろんできるのだろう。だが……なにか、できないのだろうか。
少しでも、『スタンド』で傷つく人を減らすことはできないのだろうか。
悩みといえば、そればかり。それが、也哉子がずっと考えていることだ。

396加賀『プライベート・ライン』:2015/12/24(木) 23:41:08
>>395

「そうなんじゃない?……知らないけど。」

       なんかしっくりきてないみたいだねェ。
       悩んでる人って大抵の場合聞いてあげるとすっきりしたりするんだけど。
       ……もう少し、聞いてあげるべきかな。
       だとすれば、もうちょっと投げかけるしかないよね。
       ん?なんだか今凄くマジになってない?
       ヤだなァ。ダサいダサァい。

「ふぅん。銃を持った友達かァ……」

       女の子だし、発言力のある子ってことかな?
       もしあなたが苛められたら助けてあげる的な。
       ……違うかな。
       悩み事を聞くとき、聞いてあげるのが必要なときと解決策の提示が必要な時があるけど……
       この子はどうありたいんだろ。方向性すら見えてないのかなァ?
       ま、それが悩みなんだけど。

「いいか悪いかは僕には分かんないなァ。」

「ほら、僕は見ない振り知らない振りだし。他人にどうにかして貰う方がイイ。」

「でもなァ……関東さんってその友達を放っておけないっていうかさァ、色んな人に手を差し伸べたくなる人?」

       仕事抜きだ。
       見立てみたいなことはしたくない。
       でもやっぱり知るしかない。
       僕はそういう風にやってきたしねん。

397関東 也哉子/ヤーコ『一般人』:2015/12/24(木) 23:56:09
>>396

   「その、銃じゃなくて剣でもいいし、単に喧嘩に強いとか、そういうのでもいいんですけどね」

所詮はたとえ話。
……たとえ話でなければ説明できない話。
こんな曖昧な言葉で相談するのも、申し訳なく思うが。
しかし『スタンド』なんて言っても通じるわけが無いのだから、仕方ない。

       「あたし、ですか」

    「あたしは……そう、ですね」

      「友達が怪我しそうなら、助けたいと思うし……
       友達でなくとも、助けになりたいと、そう思います」

放っておけよ、危ないだけだぜ!
そんな声が『どこか』から聞こえる気がした。
自分でもそう思う。そんな危なっかしいこと、する必要があるのか?
……いいや、しなきゃいけないんだ。逃げたら全部、壊れちゃうから。

  「世界が少しでも、優しくなればいいなって。
   傷付く人が少しでも減ればいいなって、そう思うんです」

     「もちろん、あたしなんかにできることはたかが知れてますけど……
      ……それでも、少しでも何かできないのかな、って」

398加賀『プライベート・ライン』:2015/12/25(金) 00:17:16
>>397

「あっはは。分かってるよ。たとえ話でしょ?」

       軽薄そうに笑ってみせる。
       ……なんていうか、青春の淡い香りがするなァ。
       僕は牛乳で濡れた雑巾みたいな臭いの青春だったけど。
       あれ?思い出せないな。
       黒板消しで遊んだことは覚えてるんだけど。

「そう、君だよ。」

       これは君のお話だろう?
       君の言葉じゃないと意味が無いんだよねェ。
       正直さ、こういうのは面倒くさいんだ。
       仕事みたいだからね。
       でもなァ、聞くって言っちゃった手前おしまいって言いにくいし。

「あっはは。うん。若いねェ。」

       まっすぐだなァ。ヤだヤだ。世の中優しければどれだけいいか。
       君は守ってもらえるけど、僕は守ってもらえないんだよォ?
       社会にも、法にも、君の方が守られてるんだよ?
       あっはは。ほんと、若いってヤんなっちゃうな。

「だったら君が盾になるしかないよ。」

「そうでなければ看護師さんだ。カウンセラーだ。癒す人にならなきゃ。」

       理想も夢も全部全部混ざって溶けて現実なんだよ。
       最低も最悪も全部現実だし、受け入れるべきなんだよ。
       君がやってるのは川の流れに逆らって泳ぐようなモンだよ?
       疲れるし、ヤんなっちゃうことだよ?
       分かんないだろうなァ。

「でないと、君は『いっぱい』になれないよ。」

「あっはは。でも、カウンセラーはよしてよ、僕の仕事減っちゃうし。」

399関東 也哉子/ヤーコ『一般人』:2015/12/25(金) 00:34:21
>>398

        「う」

若い。
……自覚はある。甘ったれた考えだ。
世界はずっとそう言うものだし、長いものには巻かれるべきだ。
理性と感情がそう囁く。じゃあ、あたしを悩ませているのはなんだろう?

     「……盾になるか」「癒す人になるか……」

反芻するようにつぶやく。
盾になる。それはきっと素敵なことだ。傷つく人はきっと減る。
癒す人になる。それはきっと素敵なことだ。世界はちょっと優しくなる。
どちらもとっても素敵なことで……少しだけ、違和感がある。
なにか、なにかもうひと押し。妥協だけはしてはならない。
カウンセラー。その響きに、なにかもうひと押し、惜しいものを感じるのはなぜだろう?

      「……?」

        「『いっぱい』……って、なんですか、先生?」

ところで、気になったのはその言い回し。
『いっぱい』になる? 少し不思議な言い回しだ。

400加賀『プライベート・ライン』:2015/12/25(金) 00:54:39
>>399

「あっはは。」

       僕は笑う。
       笑い飛ばす。君の若さなんて直に消えるものだから。
       
「盾も癒しも両立できるけどねェ。」

「僕さァ、学生のころよくハンバーグ定食とトンカツ定食のどっちにするか迷ってたんだよね。」

「ゲン担ぎっていうかね。大事なときは好きなモノか縁起がいいモノか。」

「ま、大抵ミンチカツ定食食べたけどね。」

       あれって二つの料理混ぜたみたいな料理だよねェ。
       考えた人は尊敬するよ、一日だけね。

「『いっぱい』ってのは、『いっぱい』だよ。」

「お腹いっぱい、胸いっぱいね。」

       両手を広げてみせる。
       これが僕の両腕いっぱいね。
       いっぱいいっぱい。

「僕の先生が言ってたよ。『人間は容器だ。』ってね。」

「悩みがいっぱいになれば病むし、腹がいっぱいになれば食べなくていい。」

「『いっぱい』は終わりであり始まりなんだよ。」

「君はやりたいことをやって『いっぱい』にならないと満足できないと思うよ。」

       世の中にはそういう人間がいる。
       僕は彼らが得意じゃない。
       どいつもこいつもまっすぐで、真面目で……
       あぁ、そうか、あいつらも若いんだな。きっと。

401関東 也哉子/ヤーコ『一般人』:2015/12/25(金) 01:12:36
>>400

     「…………『人間は』……」

   「『容器』、ですか」

先生の、そのまた先生の言葉。
満たされれば終わる。あるいは、満たされることで始まる。
なら、あとは『何で満たすか』、だろうか。

      「…………………あっ」

――――――そうだ。
人が容器であるのなら―――――重要なのは、『何で満たすか』であるはずだ。
『スタンド使い』も人であるのなら。
ならばやはり、『何で満たすか』が問題になるはずで。

    「ああ……そっか」「そういうことなんだ……」

道が開けた、気がした。
暗闇の中を進んでいたのが、やっと道を見つけた気がした。
ペコリと礼をする。先生にはお礼を言わなくちゃいけない。

      「先生、ありがとうございます」

    「あたしの悩み……なんとなく、大丈夫になった気がします」

まだ、絶対にこれが正解だ! とは言えないけれど。
それでも、一歩前に進めた気がした。
だから、ニコリと笑ってお礼を言うのだ。

402加賀『プライベート・ライン』:2015/12/25(金) 01:33:02
>>401

「そう、容器ね。」

       お猪口の奴もいれば壷の奴もいるけど、おおよそそんな感じだ。
       満足できるか、納得できるか、それだけだ。

「あ、そう。よかった。」

       我ながら適当な見立てだったけど、よかったのかなァ。
       ま、人間所詮は一人。
       咳をしても一人。くしゃみをしても一人。死ぬときも一人。
       お悩み解決も一人。
       カウンセラーなんてそんなもんだ。

「迷ったならカウンセリングルームに来なよ。」

「僕がいれば相手してあげるよ。疲れない範囲でね。」

       暇つぶし、退屈しのぎ、金稼ぎ。
       マジになりすぎたらキリが無い。
       楽に楽に安きに安きに流され流されやるんだよ。
       給料泥棒だからね。

「お礼とかいいよ。これも暇つぶしなんだからさ。」

「足の調子どう?」

       そういえばこの子が足を滑らせたのが最初か。
       随分と話が転がった気もするねェ。

「あ、そうだ。クリスマスプレゼントでもあげようか。」

403関東 也哉子/ヤーコ『一般人』:2015/12/25(金) 01:41:58
>>402

     「はい、なにかあれば、またお願いします」

くすくすと笑いながら、そう返す。
何がおかしいわけでもない。でも、とっても機嫌がいいから。

   「ふふ。でもあたし、先生のおかげで助かっちゃいましたから。
    やっぱり『ありがとうございます』、なんです」

うん、お礼を言いたい気持ちに、嘘をつくことなんてないのだ。

        「あ、足ですか?」

言われて、足を軽く動かす。
まだ痛む……が、酷い痛みではない。

       「……とりあえず、大丈夫そうですね。
        歩く分には平気そうです。ご迷惑おかけしました」

そう言って、またぺこりと頭を下げる。

  「クリスマスプレゼント……ですか?
   そんな、悪いですよ。もうあたし、先生にはよくしていただいたのに」

404加賀『プライベート・ライン』:2015/12/25(金) 01:56:42
>>403

「……あっそ。君はしばらくカウンセリングルームに用なさそうだけどね。」

       目をそらす。
       なんだろう、この子は。
       ダメだ。どうりでカウンセリングルームに来ないわけだ。
       あそこはサボり場で保健室だ。
       健全で健常で普通なヤツは来ない。

「あ、そうそう。足は保健室ね。僕んとこ来ても治せないから。」

       僕は治さない。
       与えるだけ。
       言葉とかなにかを与えるだけ。
       傷を無に返さない。

「えェー。いらないのォ。僕、こんなサービス滅多にしないよォ?」

       嘘だけど。
       これぐらいいつでも出来る。
       リップサービスみたいなもんだ。
       ま、別になんでもいいけど。興味ない。

「ま、いいんだったらいいけどね。無理強いするつもり無いし。」

405関東 也哉子/ヤーコ『一般人』:2015/12/25(金) 02:06:07
>>404

   「そうですね。
    しばらくは、大丈夫そうです。
    湿布がもらえるなら行ったかもしれませんけど。ふふふ」

はにかんで答える。
道は、なんとなくだけど見つけた。後は手探り進むだけだ。
少なくとも、『カウンセリングルーム』に頼るようなことは、しばらくはなさそうだ。

     「え、ええーっ」

  「い、いらないってわけじゃないんですが、その」

   「そ、そう言われるとその……き、気になっちゃうじゃないですかぁ」

そりゃあ遠慮したこっちも悪いが、その、滅多にしないとか言われると、気になる!
し、むしろ断ったほうが悪い気がする。
もらっちまえよと『誰か』が囁く。……うん、今回は、『誰か』に従っていいと思った。

     「えと、じゃあ、その」

   「プレゼント……頂けますか?」

406加賀『プライベート・ライン』:2015/12/25(金) 02:16:55
>>405

「湿布ゥ?あ、あったかも。」

       腰痛用にね。
       湿布より軟膏の方がいいんだけど匂いがキツいんだよねェ。
       そう言って、僕は少し嫌な感じがした。
       こんな風な物言いしたら、来て欲しいって思われるかもしれない。
       ヤだよ。僕、子供に興味ないし。

「あっはは。もらうんだ。」

「じゃあもう一度聞くよ。『クリスマスプレゼント』はいるかい?」

       それがスイッチだ。
       許可が出ればすぐにでも。

407関東 也哉子/ヤーコ『一般人』:2015/12/25(金) 02:26:11
>>406

   「ふふ、なんでカウンセリングルームに湿布があるんですか?」

冗談かなにか、と受け取ったらしい。
口元に手を当ててくすくす笑う。
本当にあったとしても、単に話のタネとでも判断したか。

     「う」「は、はい……」

……がっついたようでちょっと恥ずかしい。
顔を赤くして、ちょっとだけ俯く。でも、もう言ってしまったし。
どうしてかもう一度尋ねてきたから、こちらももう一度答えなくちゃ。

   「えと」「はい」

     「『クリスマスプレゼント』をくださいな、先生」

408加賀『プライベート・ライン』:2015/12/25(金) 02:40:02
>>407

「おもちゃもある。」

       嘘じゃない。ギターとか置いてる。
       持ち込んだものだけどね。
       ま、冗談だと思ってるならそう思わせとこ。
       変な感じになんないし。僕が。

「あぁ、もちろん。」

       許可は得た。それに、いい眺めだ。
       うん。実に機嫌がよくなる。
       いっぱいにはならないけど。

「さ、口閉じて。目も閉じて、零れ落ちるからね。」

       なにもかもが。
       おとなしく従ってよ?
       従わなくてもいいけど、出来ればね。

「……僕の先生はアリストテレス先生が好きだった。」

「『欲望は満たされないことが自然であり、多くの者はそれを満たすためのみで生きる。』」

「アリステレスの言葉でそれが一番好きらしい。」

「さ、準備できたね。」

       もったいぶるように指で数字を表す。
       一、二、三、四、五。
       片手が開き、全ての指がまっすぐに伸びる。
       じゃんけんのパーで、数字の五。

       『プライベート・ライン』彼女の口内に、今年のクリスマスに食べるつもりだったショートケーキの一部分を与える。
       今日は気分がいい。イチゴも放りこんであげよう。
       スポンジと生クリームとイチゴの三位一体を口内に広げるといい。

「ちょっとした手品だよ。」

409関東 也哉子/ヤーコ『一般人』:2015/12/25(金) 02:58:52
>>408

       「?」

    「??」

目はともかく、口も閉じる?
零れ落ちる? なんのことだろう。
なんのことだかわからないまま、言われるがままに目と口を閉じる。

    (アリストテレス?)

      (……なーんで今アリストテレスの話……あっ、『欲しがるのは恥ずかしゅうにゃあ』っちゅうことかね?)

……気を使われた、のだろうか。
いずれにせよ、目を閉じているから数字は見えない。ただプレゼントを待つ。
そして――――――――甘い。


   「――――――!?」

     「ふぁっ、んぐっ」

思わず声が出そうになって、でも声を出すとケーキが口から出てしまうから、あわてて手で口を押える。
驚きで目を丸くしながら、もぐもぐと咀嚼して。

          ゴクン

……甘くて、おいしい、ケーキ。
―――――なぜ?

   「んふぁっ」

      「て、手品?」

  「いや、でも今」

        「なんで」

困惑する。
ありえない――――手品と言うより、まるで魔法。
そう、こんなこと、『超能力』か何かじゃなければ―――――

     「―――――あっ」

もう一度、慌てて口をつぐむ。
銃を見せびらかすことはしない。さっき、先生自身が言っていたことだ。

       「あっ、えと」

      「い、今のは……?」

410加賀『プライベート・ライン』:2015/12/25(金) 03:10:42
>>409

「あっはははははは!」

       僕はけらけらと笑う。
       空を打ち抜くみたいに上を向いて。
       あー楽しい。なんて面白いんだ。
       僕はこうでなくちゃ。

「今の?言ったでしょ?ちょっとした手品だよ。」

「あっはは。」

       若さもまっすぐさも斜に構えたモノには通用しない。
       すかして逸らしてどこかに流す。
       関東さんに興味もなにも沸かないけど、からかう気にはなったよ。

「銃は簡単に見せびらかさない。でも、あることは分からせないといけない。」

「微妙なトコだよ。ホントにねェ。」

       持ってなければ狙われる、でも一度出せば相手と同じになるかもしれない。
       危険って言うのはそういう事に対しても言う。

411関東 也哉子/ヤーコ『一般人』:2015/12/25(金) 03:19:47
>>410

   「て、手品、ですか」

まだ、口の中が甘い。
目を丸くしたまま、口元に手を当てて、不思議な甘さの余韻を確かめる。
いたずらされた、というのはわかる。
多分、いたずら好きなんだ、この人は。

     「………………もう!」

   「先生は、ちょっといじわるです!」

頬を膨らませて、ぷりぷりと怒ったポーズ。
あくまでポーズ。本気で怒っているわけでもない。
それに――――『銃は簡単に見せびらかさない』『あることは分からせないといけない』。
……この人は、『スタンド使い』なんだ。
『銃』を持っている人。それで、こんなしょうもないいたずらを仕掛ける人。
あるいは、世のスタンドがこんなことにばかり使われれば……それはそれで、幸せな事なのだろうと思う。

412加賀『プライベート・ライン』:2015/12/25(金) 03:29:10
>>411

「そう手品だよ。」

「失礼だなァ。僕は平凡で平均な一般市民なんだよォ?」

       君とは違う意味でね。
       非戦闘員ではあるのさ。

「じゃあ、僕はそろそろ帰るよ。」

       待ってる人は居ないけど。
       欠けたケーキを食べてしまわないと。
       どうせどっかで買えばいい。
       驚いた関東さんの顔を思い出せば、美味しくなる。
       なにせ、いい眺めだったから。

「あ、関東さん。」

「知らない人から物貰ったり、食事に誘われたり、なにかモノを尋ねられたりしたら注意しなよ?」

「世の中君が思うほど優しくないかもしれないんだから。」

「君はつけ込まれるかもしれないよ?」

       そしてそれが相手を付け上がらせる。
       実に面白い。
       でも、終わればそれっきり。
       どうなるか、分かったモンじゃない。

「じゃあね。最近みんな浮き足立ってるから、それに乗せられないように。」

「またね。困ったらカウンセリングルームね。」

       君らは子供だ。法律が、社会が、守ってくれる。
       社会の歯車であるところの僕も君を守ってあげる。
       そうして僕はその場を立ち去った。
       え?関東さんがちゃんと帰れたかって?知らないよ。興味も無い。
       本人に聞きなよ。ほら。

413関東 也哉子/ヤーコ『一般人』:2015/12/25(金) 03:42:46
>>412

   「あっ、はい」「えと、今日はありがとうございました」

もう一度、ぺこりとお辞儀。
文字通り『一杯食わされた』ことなんて忘れてしまったように。
忘れているわけではないのだけれど、忘れてしまったように。
……そもそも、不機嫌はポーズだ。
特に何か不利益を被ったわけでもないのだ。ちょっと、からかわれただけで。

      「せ、先生がそれを言うんですか……?」

……でも、たった今人のことをからかった人に『知らない人には気をつけて』なんて言われても。

    「ま、まぁ、でも、そうですね。
     肝に銘じておきます」

ともあれ、しかし、忠告自体は真っ当なわけだし。
……うん、真っ当な忠告を、真っ当じゃない人がしているから違和感があるだけで。
忠告自体は真っ当なんだから、しっかり受け取るとして。

      「はい」

   「先生も、お気をつけて。
    よいクリスマスと、よいお年を」

なんだかんだ言っても、やっぱりこの人は先生なんだなぁ、なんて思いつつ。
手を振って見送って……先生が見えなくなったところで、ほっと一息。

        「…………うん」

     「あたしも、がんばらなきゃ」

道は、見つかったから。
決意を胸に秘めながら、也哉子も(少し歩きづらそうにしながらも)帰路につく。
もちろん、ちゃんと家には帰れました。
ふふ、誰かさんのおかげでしょうか、なんてね。

414球良 楽人『ストーン・サワー』:2016/01/05(火) 23:25:33
「はは…………ははは…………」
「コイツは凄いぞ……『可能性』をビンビンに感じるじゃあないか……!」

駅前、『午後1時』。
真っ昼間から酔っ払いか、はたまたタダの『キ印』か。

奇声を上げる奴がいる。
手にはアルミ缶が二本。

415灰羽『アクエリアス』:2016/01/06(水) 22:24:01
>>414
「ん? なんだあれェ……」


彼女は通りすがりの中学生である。
隣に守護霊(スタンド)がいることを除けば、飾り気の無い少女だ。


『……ぐるあーん』

「え? もしかして気になるのかぁ?
 やめとけよォ〜。あれだよ、ほら、あの……レンヒメさんも言ってたじゃん。
 コワチカとかいうやつ」


一般人から見たら、独り言にしか見えないため、
そう言う少女も十分に変人に思われるだろうが。

大柄な女性型のスタンドは道端のニオイを嗅ぐ犬みたいに、何が起こるのか気にしているようだ。

416球良 楽人『ストーン・サワー』:2016/01/06(水) 22:52:51
>>415
「〜♪」

『人の目なんか見えやしねー』って様子の痩せこけた青年がそこにいた。
げっそりした頬と、べったり目の下に貼りついた『クマ』が、
『見ちゃいけない』雰囲気を醸し出している。

「よォしよし…………だいたいこのサイズなら
『5〜6秒』もあれば十分だな」

青年が手にしている『コーラ』と『コーヒー』を
ぽい、と空中に投げ上げる。

次の瞬間――

『パ   ン』

2つの『アルミ缶』が、空中で『破裂』した。

「良いぞ!良いぞ!臭ェ花火だ!ははははははッ!」

ビチャ ビチャ

全身にコーヒーとコーラを浴びながら、青年は声を上げて笑う。
皮膚をあちこち『缶の破片』で切ったようだが、
これっぽっちも気にしちゃいない。

417灰羽『アクエリアス』:2016/01/06(水) 23:09:00
>>416
「んもォォ、行くぞ?」


少女は立ち止まった犬のリードを引っ張るがごとく、
スタンドを引っ張って進もうとするが


「えっ何? うっわぁ!?」

『ウヒャー』


精密性皆無の『破裂』は、当然周囲にも被害をもたらす。
遠巻きにしていた周囲の人々はともかく、スタンドが興味津々で近づいていた少女は
射程範囲に入ってしまっていた。


「ムッ」


まあ、距離が多少離れていたことと、スタンドの防御により、
缶の破片で傷つくことはなかったが、コーラが少しかかってしまった。
少女はムッとした顔で(口でもムッと言いながら)騒いでいる男を睨む。

418球良 楽人『ストーン・サワー』:2016/01/06(水) 23:25:07
>>417
「アァ―――――………………」

青年は『恍惚』とした表情で固まっていた。
虚ろな瞳で中空を見据え、そのまま『10秒』。

     ギョロ ッ

ふいに、周囲を見回し――遠巻きの『群衆』、
そして『灰羽』に目を止める。

「うお、ッ」

その存在に初めて気付いたような反応。
少し『怯えた』ような目を見せ、

「…………ンだよ」
「見せモンじゃねーぞォ、おい」

一転、低い声で凄んできた。
ただ、少しばかり『震え声』だが。

419灰羽『アクエリアス』:2016/01/06(水) 23:40:30
>>418
「……うぐぅ」


少女は怒り覚めやらぬ様子で、しかし同時に脅しが効いたのか
不満そうにしつつも言い返すことはせず、目を逸らした。
通常であれば弱みと取れる青年の怯えたような瞳も、震え声も、
異様な形相と態度を考えれば、触れてはいけないものという印象を深めただけである。


『ンガァァア?』

『ダラァ!?』

『ドルルルァァ!?』


だが一方、そういう雰囲気だとか空気だとか読めないスタンドが威嚇し返してくる。
女性型スタンドはでかく、ムキムキで、その胸は豊満であった。

420球良 楽人『ストーン・サワー』:2016/01/06(水) 23:56:41
>>419
「……へッ、へへへ……いや、怖がらなくても
いいんだぜ。うん、分かればいいんだ。分かれば」

『灰羽』が竦んだ途端、尊大に出る青年。
だいぶ、(人間的に)『小さい』男のようだが。

「……」

と、ようやく灰羽の傍らのスタンドを認識する。

「え」
「うわッ」
「うわあああぁぁあッ!?」

ドスン!

大げさなくらいの『驚愕』!
後ろに倒れて腰から落ち、そのまま這いずって
スタンドから距離を取ろうとする。

「なッ、なんだそいつ! なんだよ、聞いてねえぞ!」

421灰羽『アクエリアス』:2016/01/07(木) 00:07:25
>>420
『グルルアァン?』

「……」

『フンス』

「……」


少女は急に取り乱した青年と、自らの傍らのスタンドを交互に見た。
スタンドはどことなくドヤッとした顔を返す。


「あれあれェ〜? どうしたんですかぁ?」


さきほどまでの不気味さの助長とは違い、わかりやすくビビッている青年に
余裕を持ったのか、少女は近寄ってきた。
女性型スタンドは威嚇をやめて、ゴリラのように穏やかな雰囲気を発している。

422球良 楽人『ストーン・サワー』:2016/01/07(木) 00:23:47
>>421
『ドヤ顔』で歩み寄る『灰羽』。
こいつら――良い勝負だ。

「ハァ、ハァ、ハァ……クソッ、急に強気に出やがって――!」

先ほどまでの自分を棚に上げつつ、灰羽に言う。
冷や汗がダラダラと流れているが、コーラと混じって
よく分からないことになっている。
ついでに体も冷えてきた。

「どうした、って……そいつだよ、そいつ!」

『スタンド』を指差して、叫ぶ。
もう余裕も何もあったものではない。

「一体全体『何者』なんだ!?
『説明』を……説明を、してくれ、頼む」

423灰羽『アクエリアス』:2016/01/07(木) 00:41:24
>>422
待て! ドヤ顔をしたのは『アクエリアス』だ。
灰羽は……口の端を歪めた妙な表情をしているぞ。笑顔のつもりかもしれない。


「ちょ、ちょっとぉぉ、あんまり騒がないでくださいよ。
 変な目で見られるじゃないですか」


異常な行動を取ったり騒ぐ男に近寄っている時点で、
変な目で見られる対象に入ってしまっているため、手遅れである。


「え〜……
 そういうのは聞くほうから話すのがマナーってよく言うでしょう。
 さっきの缶を爆発させたのがあなたのですかぁ?
 ヴィジョンは見えませんでしあけど」

『アクエリアスー!!』

「ちょ」


少女は野良犬とコミュニケーションをとるように、
警戒した様子で言葉をかけてくる。
隣のスタンドは何故かスポーツ飲料の名前を叫んでいる。

424球良 楽人『ストーン・サワー』:2016/01/07(木) 01:07:54
>>423
>待て! ドヤ顔をしたのは『アクエリアス』だ。

!? ……その通りだった。これは『球良』の
『動揺』を表している、そう考えていただきたいッ
(申し訳ありません)

「変な目……?
ま、良くあることだ。ちょっと怒鳴って、
追っ払えばいいだろ」
「もしかしたら『ファン』かも――いや、
ぼくに『理解者』はいないし、いらないな」

どうもこの男、『奇異の目』は慣れっこらしい。
いつも、さっきの調子で凄んで見せるのだろうか……

「缶?爆発? ああ、あれはぼくがやったけど。
なんだか『目が覚めたら』、『出来た』。
変な『女』の夢を見たよーな気もするけどな」
「それで『ストーン・サワー』と名づけた。
ぼくの『感覚』が、そう言っていた――気がする」

中空を見上げながら、喋る。
目つきが、また『ヤバい人』のそれっぽくなった。

>『アクエリアスー!!』
「喋ったぞ、こいつ……!?
おい、『アクエリアス』ってのが、こいつの名前なんだな?」

425灰羽『アクエリアス』:2016/01/07(木) 01:20:55
>>424

「ふーん。なりたてなんですかぁ。
 夢……?」


一発で名前と分かってもらえた楽人の勘の良さに『アクエリアス』もニッコリだ。
トトロとメイちゃんみたいなやり取りである。


「うーん、変なことするのは勝手ですけど、他人の迷惑にならないようにお願いしますよ。
 せめて爆発させるならベトベトするコーラとか、シミになるコーヒーじゃなくて、
 空き缶とかミネラルウォーターにしといたほうがいいですよォ」


楽人が(比較的)普通に話しているからか、周囲に人が戻りつつある。
少女はそれが逆に気になったのか、そわそわした。


「目覚めたてっていうなら許してあげます。特別にですよ?
 私も暇ではないですしぃ」

426球良 楽人『ストーン・サワー』:2016/01/07(木) 01:33:54
>>425
「なりたて……よくわからんがお前はベテランなのか?
……あ、ベテランなんですかね?『アクエリアス』さん」

なぜか『アクエリアス』にだけ腰が低い。
多分ちょっと『ビビってる』んだろう。『小さい』。

「いやいやいやいや、透明なモンぶちまけたって面白くも何とも無いだろ。
もうちょっと考えてものを言いたまえ、うん」

『常識』が欠けてそーな奴とは思えない口振りで、
『灰羽』に言う。卑屈になってみたり尊大に振る舞ったりと、随分と忙しない。

「お前に『許される』いわれは――ッくショいッッ」

      ブハックショ〜イ

灰羽の言葉に反論しようとして、盛大に『クシャミ』をする。

「……クソ、こりゃ冷えたか……?
まあいい、ぼくの『ストーン・サワー』。覚えとけよ、
『アクエリアスさん』、それとそこの……あー、お前」
「はははッ……『あばよ』ッ!」

そう言って、人並みの間を縫って去っていく。
後日、しっかり風邪を引いたのは言うまでもないのであった。

427灰羽『アクエリアス』:2016/01/07(木) 01:50:06
>>426
「えっ、いや、まあ……多少はねぇ?」


スタンド使い暦は一年ちょっと……ベテランかと言われると、微妙なところだ。
……しかしスタンド使いになったのが中二で、今も中二……
そこに触れることは死を意味する。


「色つきの液体だと面白いのかぁ?
 そういやファンとか言ったりしてたな……アーティストかなんかか?
 現代アーティストって理解できない」

『バイバイ』


名乗らなかった少女が現代アートに思考をめぐらせている間に、
『アクエリアス』はぶんぶん手を振って名も知らぬ青年を見送った。
結局『スタンド』の名前だけ交換した彼らだった。


「……なんかいつも思うけど、お前、私よりも扱いがよくないかぁ?」

『……』

「くそっぉ、コーラがベタつく……せめてノーカロリーでやれよ」


そして少女はむかつきが再燃したのか、不機嫌そうに帰っていった。

428人吉 佐和子『クラウド・ボーイ』:2016/01/07(木) 22:33:59
「んんー…………っ」
「ふう……眠いわぁ」

『AM7:00』。
駅構内の『待合室』で、大きく伸びをする。
正月休みも終わり、仕事が再開してから2日。

「しばらく休んでたから…………朝起きるのが辛いわねぇ」

彼女の場合は普段からそうなのだが、ともかく。

「…………暇ねぇ……」

『電車待ち』である。

429石動 遥道『アルター・ブリッジ』:2016/01/07(木) 23:37:45
>>428
やがて、同じく電車待ちであろうサラリーマン風の男が一人、待合室に入ってくる。
長らくアイロン掛けをしていないらしき、もっさりとした背広を身に纏い
朝から仕事の疲れを滲ませながら、眠そうな表情を浮かべている。
鞄などは持ち歩いておらず、手ぶらだ。

そしてあなたのほど近くで立ち止まる。
椅子には座らず立ったまま、ポケットに手を突っ込むと一本の煙草を取り出し、口に咥えた。


……待合室に限らず、駅構内は『全面禁煙』である。

430人吉 佐和子『クラウド・ボーイ』:2016/01/07(木) 23:45:35
>>429
「ん〜…………」  コックリ コックリ
              ムクッ
「あらっ、いけないいけない」

ヒマさに負けて、意識を手放しかけつつ、何とか寝ないように
頑張っている。ここで倒れたら『遅刻』待ったなしだ。

「…………あっ」

近くに人の気配を感じ、目をやって、『煙草』に気付く。
『アロマ』は好きだが、煙草の匂いはあまり得意ではないし、
一応『禁煙』というやつだ。

「あの……すみません、ええと、そのぉ」

遠慮がちに男に声を掛け、自分の口元を指差す。
婉曲なやり方だが、初対面の男性に、直接面と向かって
抗議するほど『勇気』はなかった。

431石動 遥道『アルター・ブリッジ』:2016/01/07(木) 23:58:18
>>430
「はい?」

あなたの抗議に気付く。

「ああー、すいません、紛らわしかったですね」

バツが悪そうに頭を掻く。
謝罪しながらも、咥えた煙草を仕舞ったりはしない……
だが、火をつけようともしない。

「良かったら一本どうですか。ウチの人気商品なんです」

そういって煙草を取り出したポケットから箱を取り出す。
煙草の箱ではない。大きさ、形ともよく似ているが、派手な赤い色のパッケージには
可愛らしい猫のキャラクターや星などが描かれ、『シガレットチョコ』と書かれていた。
箱から一本取り出し、あなたに差し出す……。

432人吉 佐和子『クラウド・ボーイ』:2016/01/08(金) 00:04:38
>>431
「あら…………?」

『紛らわしい』ってどういうことかしら、というような表情を
しているうちに、『箱』を差し出された。
のんびりしたしぐさで、しばらく見入る。

「『シガレット』……『チョコ』、あらっ、お菓子だったのねぇ。
ええと、ごめんなさい、早とちりしちゃって」

ペコ

小さく頭を下げて、謝る。
仕事でも謝る事多いわよねぇ(トロいから)、とか考えつつ。

「えっ、いいんですかぁ」
「それじゃあ、いただきます。ありがとうございます〜」

差し出された『シガレット』を受け取り、
口にくわえてみる。味はどんなものだろう?

433石動 遥道『アルター・ブリッジ』:2016/01/08(金) 00:19:38
>>432
「いえいえ、こちらこそすいません。へへ……
今時『シガレットチョコ』なんて珍しいでしょう。
子供に煙草を吸う真似なんてさせたくない親御さんが多いですからね」

シガレットチョコを手渡す。あなたは、それを口にする。
シガレットチョコは、煙草のように細い筒状の紙の中に、何の変哲もないチョコレートが入っている。
ただそれだけの菓子だ。
紙が邪魔で食べにくく、『煙草を吸う真似』をすることに興味がなければ、
紙をむいてしまって『ただの細長いチョコレート』として食べたくなる。
チョコレートの味も、普通だった。

「ウチの会社は、こういう時間に取り残されたような商品ばっかり売ってましてねえ。
だから経営も火の車で……ああ、すいません、いま会ったばっかりの人にする話じゃあないですね」

未来への不安とも、過去への郷愁とも取れる感情を顔に浮かべ、笑う。

434人吉 佐和子『クラウド・ボーイ』:2016/01/08(金) 00:37:09
>>433
「そうですねぇ、わたし、初めて見たかも……」

紙をくわえて、煙草を吸う仕草を真似てみる。
……そのまま、チョコが溶け出すまでぼーっとしていた。

「……これ、なんか落ち着きます……
このまま寝ちゃいそう、うふふ」
「いいお菓子だと思いますけど……経営が苦しいのは、辛いですよねぇ。
わたしは『寝具メーカー』に勤めてるんですけど、最近『若い人』が少ないとかで、
『一人暮らし』を始めるひとが少ないんですよねぇ」

シガレットをくわえたまま、話し出した。
声にあわせて、包み紙がゆらゆら揺れる。

「そうすると『ベッド』なんかは、あんまり売れなくって。
今年の『春』はどうなるのかなぁ……ふわぁ」
「考えると、眠くなっちゃいます」

435石動 遥道『アルター・ブリッジ』:2016/01/08(金) 00:57:40
>>434
「あっはっは、お姉さん面白い人だねえ。
咥えたまま寝ると、たぶん体温で解けて、目が覚めたときにはすごい事になってそうだ」

今度は普通に笑う。
心の距離が縮まったのか、敬語ではなくなった。

「あー、なるほどねえ……寝具業界も大変なんだ。
絶対数が減ってるのもあるんだろうけど……
据え膳上げ膳の親元で暮らして、近くの会社に入って、
大博打に出ることも無理をすることもなく『人生というレール』の上を『通り過ぎていく』……
……こりゃ俺のことか」

そう言いながら線路を見つめる。


「あー、なんか会社行きたくねえや。
いっそこのまま電車が停まっちまえば、今日だけでも、どこか別のところへ出かけられるかね」


ユラァ……


あなたは、『陽炎』のようなものが私の身体に重なって見える。
完全に重複しているためはっきりと区別しづらいが、それは『スタンド』だった。

436人吉 佐和子『クラウド・ボーイ』:2016/01/08(金) 05:35:17
>>435
「そうなんですかぁ……服が汚れちゃうかな」

寝ないようにしないと、と呟いた。

「『レールの上』を……ですか?」

『石動』の言葉に釣られて、線路を見る。
その述懐までは理解出来なかったのか、少し不思議そうな顔をしていたが、

>ユラァ……

「えっ、えぇ……っ?」

突如発現した『陽炎』に驚きの声を上げた。
シガレットの包み紙が、ぽとりと落ちる。

「わたしも時々そんな風に思います…………でも、あの」
「……何をするつもりなんですかぁ」

石動を見上げ、恐る恐る声をかける。

437石動 遥道『アルター・ブリッジ』:2016/01/08(金) 20:30:52
>>436
「『脱線事故に巻き込まれた』って事にすりゃあ、会社に言い訳も立つか……」

などと半ば独り言のように言いながら、先程までとはまるで違う冷徹な眼で線路を見ていたが……


「あーやめやめ。
休みたいなら仮病でも無断欠勤でも一人で勝手にやりゃあいいんだし、
人様を事故に巻き込んで迷惑かけることじゃねーや。
お姉さんだってせっかく気合入れて駅まで来たんだ、帰りたいとは限りませんよねえ……どうしました?」

思いついた凶悪な『悪戯』を取り下げ、スタンドは引っ込む。そしてあなたに向き直る。
考え事に夢中であなたの様子にまで注意を払っていなかったため、その時に気がついた。

「いえね、ちょっとした『妄想』をしただけですよ。いやお恥ずかしい。
でも、そんなに驚くほどヤバイ顔してました?…………それとも、
なにか、見えました?」


再び心の距離が開いたのか、丁寧口調に戻っている。

438人吉 佐和子『クラウド・ボーイ』:2016/01/08(金) 20:59:13
>>437
「…………………………………………」

『怯え』と『驚き』が入り混じったような表情で、『石動』を見た。

「いいえ、何も…………ううん、ごめんなさい。見えました」
「ぼやっとした……『影』のような、ロウソクの『灯り』のような」

誤魔化そうとして、やめる。『嘘』をつき通せる自信はなかった。

「えっと……その。何か『しよう』としても、
それを『できる』としても、『実行』しなければ……
思うのは、自由だと思います」
「わたしも、小うるさい『課長』がどこかに
『転属』にならないかなぁ、って思うこともありますから……」

ぽつりぽつりと、思い浮かんだことを喋っていく。
言葉が途切れるのが怖いからだ。

439石動 遥道『アルター・ブリッジ』:2016/01/08(金) 22:11:24
>>438
「そう、ですか……『惹かれあう』って話、本当だったんだなァ」

まだ『スタンド』に目覚めて数日。
しかし『相手にも見える』ということの意味は、判っている(はずだ)。

「『夢』を見たんですよ。その後だったなァ、『超能力』に目覚めたのは。
それで思ったんです。この力があれば、今までとはまったく違う人生を生きることもできる、ってね。
潰れる寸前の会社なんか行かなくたっていい。『持たざる者』から欲望のままに奪って生きる事だってできる。
でも、同時に思ったんですよ、本当にそれでいいのか、って。
それまでの人生をすべて投げ捨てて『自由』を手にしたとして、それは本当に俺の欲しているもんだろうか。
考えてもわからないんで、とりあえずこのまま……会社を辞めたりしないで過ごすことにしたんです。
『レール』か、『自由』か。
何らかの『分岐点』までは、レールの上をもう少し進んでみよう、って」

遠くで踏み切りの鳴る音がする。二人が乗るはずの電車が近づいている証拠だった。
そろそろ時間だ。

440人吉 佐和子『クラウド・ボーイ』:2016/01/08(金) 22:34:56
>>439
「『スタンド使い』は『惹かれあう』……」
「そうかも、知れませんね」

自分が、これまでに会った人々を思い出す。

「自分の人生を変えられるような『力』……
でも、あなたはそれに溺れないでいるんですね。
凄いことだと、思います。うん」

たとえそれが『判断の保留』に過ぎないのだとしても、
そこで一旦『踏みとどまる』ことが出来るのは、やはり
良いことなのだろう。ふと、そう思った。

「『分岐点』まで――えっと、上手く言えないですけど……
頑張ってください、とっても、大切な判断だと思いますから」
「……ふわ、ぁ。
ごめんなさい、ちょっと安心したらぁ……急に眠く……」

たどたどしく、思いつくままに言葉を紡いだあと、
緊張の糸が切れたように欠伸をする。

パァアーーッ

列車が、ホームに入ってくる。
気だるそうに立ち上がり、そちらに目をやった。

「……そういえば、これからお仕事だったかしらぁ……
行きましょうか、……ええと、お名前、伺っても?」

441石動 遥道『アルター・ブリッジ』:2016/01/08(金) 22:44:53
>>440
「あー……うん。
自分じゃ優柔不断なばっかりだと思ってたけど、アンタ、いい人だな」


ガタンゴトン  ガタンゴトン  プシューーーーッ


電車が到着し、ホームに停車した。

「俺は石動 遥道(イスルギ ハルミチ)。スタンドの名は『アルター・ブリッジ』」

ほぼ同時に名乗る。一拍をおいて電車の扉が開く。

442人吉 佐和子『クラウド・ボーイ』:2016/01/08(金) 23:00:29
>>441
「石動さん、ですね。よろしくおねがいします……
あっ、わたしは人吉 佐和子(ヒトヨシ サワコ)と申します」

『メヘェェェ』
鞄から、『枕みたいな羊』の『スタンド』が顔を出した。

「この子は『クラウド・ボーイ』」
「それじゃあ、そうですね……うふふ、
これも何かの縁ですし、降りるまではご一緒しましょうか?」

そう言って微笑みかけ、列車に乗り込む。

『〜♪』
発射のジングルがなる。ゆっくりと、汽車が駅を離れていく。
……道中、人吉が何度と無く眠りに落ちかけたのは、また別の話だ。

443石動 遥道『アルター・ブリッジ』:2016/01/08(金) 23:16:11
>>442
「人吉さんですか、よろしく。
『羊』……か。なるほど、これは奇妙な縁かもしれませんね。
夜の夢でスタンドに目覚めた私には……」

多眠症の気がある女性と、眠りに関係していそうな『羊』のスタンド。
『ファム・ファタール』との関係は……偶然だが、『出来過ぎ』だと思った。

「はい、まあ、どっちかの降りるところまで」

プシューン

ガタンゴトン……ガタンゴトン……

二人は電車に乗り込み、扉は閉まり、走り出した。
人吉は席に座り、俺はその前で立っている。
その後は話らしい話もなく……どちらか先に降りる方の駅で、別れた。

444青田『トライブ・コールド・クエスト』:2016/04/03(日) 23:18:11
駅前、監視カメラの真正面でベンチに寝ころび、
顔に帽子を被せている。眠っているようだ。

445青田『トライブ・コールド・クエスト』:2016/04/04(月) 00:06:45
>>444
ふらりと立ち上がると、そのまま歩き去った。


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