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【アク禁】スレに作品を上げられない人の依頼スレ【巻き添え】part2

1名無しリゾナント:2011/01/18(火) 17:04:23
アク禁食らって作品を上げられない人のためのスレ第2弾です。

ここに作品を上げる → このスレの中で本スレに代理投稿する人が立候補する
って感じでお願いします。

(例)
>>1-3に作品を投稿
>>4で作者が代理投稿の依頼
>>5で代理投稿者が立候補
>>6で代理投稿完了通知

立候補者が重複したら適宜調整してください。ではよろしこ。

529名無し募集中。。。:2012/04/26(木) 14:35:34
 パシンッ。

譜久村の意識が戻る。
目を見開き、弾かれるように青空を仰ぐ。
晴天。今日もまた、晴天だ。

 知ってるような気がした。あの女性の事。
 とても切なくなるような、悲しくなるような、気持ちが揺れ動く。
 涙が溢れそうになって、それを乱暴に拭った。

譜久村は茂みの中を捜し回り、携帯電話を見つける。
開くと、画面には一つの留守電。
部活が中止になった事を聞いて掛けた、譜久村の着信。

彼女から話を聞く必要がある。
譜久村は彼女の居る病院へと足を進めた。

 頃合い、か。

屋上。其処は何処でもない。
其処はハシゴの上。其処は給水塔。其処はあっち側。
ポータブルプレイヤーにはイヤホン。両手にはサイダー。
イヤホンを付ける耳には静かなさざ波の音。

 街が見える、公園が見える。小さな影が一つ、事実を拾った。
 鞘師は少しだけ寂しくなかったが、しょうがないと思う。
 目玉焼きはかのんちゃんに譲るよ。想う。

530名無し募集中。。。:2012/04/26(木) 14:36:20
夕凪。
静かな海の上を、めいっぱい羽根を広げたうみねこ
が飛んでいく。
波打ち際。光の中で。
光が眩しい、蒼い、蒼い空。
それは誰かが夢見ていた、願い。

 世界は廻る。誰かが居なくなっても、それでも。

531名無し募集中。。。:2012/04/26(木) 14:38:49
-----------------------以上。
>>461-467を投下の時に書いておいて頂けると幸いです。
また時間がある時にお願いします(平伏)

532名無し募集中。。。:2012/04/26(木) 14:41:39
付け足し。
りほりほがあの年で環境音楽が好きっていうのは
軽く衝撃を受けました。

533名無し募集中。。。:2012/04/26(木) 19:03:41
代理っときやした!

534名無し募集中。。。:2012/04/26(木) 23:23:02
猫は群れない
誰と関わらないでも気にせず、勝手気ままに生きる
本能の赴くままに食べ、走り、眠る、そんな束縛を嫌う自由の象徴

犬は群れる
集団のなかに飛び込んで、社会を構築する一員となる
ボスの命令に忠実に従い、課せられた使命をこなす規律の象徴

そのくせ猫も犬も退屈を嫌うし、悩む
自由な猫は時折思う、何のために生きているのか?今をいきるだけでいいんだろうか?
縛られた犬も時折思う、ただ従うことが本当に正しいのか?自分らしさとはないか?

「れいな、暇やけん」
そう言って隣で笑うあなたの見た目は猫
『・・・今も退屈ですか?』
ためらいがちに尋ねた私の質問にあなたは答えた
「ん?そうっちゃね・・・昨日よりは楽しいけど一昨日よりは退屈っちゃね」

本当に気まぐれだと思う。でもそれは私も同じ
まわりからみたら私もきっと猫
でもこうやってあなたの傍にいたいと思う気持ちは犬

・・・もし私が犬だと気付いたら猫のあなたはどこかに行ってしまいますか?

535名無し募集中。。。:2012/04/26(木) 23:31:09
新しい話が多くて色々と刺激受けてます。時代の移り変わりも感じてます。
投下したのは『Vanish! 0.7』のプロローグです。読み方は『バニッシュ レイナ』
れいなの『共鳴』が発現してない時代、いわゆる『過去編』になります。
某ベリメンが出る話なのでホゼナンターの許可をもらってから書きます

代理の方よろしくお願いします

536名無しリゾナント:2012/04/27(金) 02:11:54
とりあえず貼っときました

537名無し募集中。。。:2012/04/27(金) 07:05:09
代理ありがとうございました

538名無し募集中。。。:2012/06/01(金) 03:27:33
http://www35.atwiki.jp/marcher/pages/577.html
http://www35.atwiki.jp/marcher/pages/584.htmlの続き。


何処にも繋がっていない世界。
子供のころに、いつも傍にあった辺りをはね廻る音たち。
両手いっぱいにすくったはずの水は、今でも零さないように大切にしていた。
失くすことを恐れた。
手にくんだ水は、本当は乾いていて。
誰にとってもそうで、体温で乾いていく。
生きてるから。熱を持ってるから。
でも失くした水は、また汲んでくれば良い。
その場所は何処にでもあるから。

道端に転がるほんの小さな小石にだって。
例えは誰かのココロとか、自分のココロとか。
気付くことが出来れば簡単なことで。
見つける事ができればなんて優しい。

少し目線を変えればいいだけなのに、まだ小さな世界に佇んでいる。

 *

――― カチカチカチカチ。

携帯を操作する音。
メールを作成するのに数分を要するものの、デコレーションくらいは
少しぐらい力を入れたいと思っていたりもする。
だがあまり夜にはしてはいけない。理由は簡単、寝てしまうからだ。
でもどうしても不安になったときは構わず送信してしまう。
こればかりはどうしようもないのかもしれない。

539名無し募集中。。。:2012/06/01(金) 03:28:13
カチカチカチカチ。

きっと相手の顔を見て言った方が良いのかもしれないし、それが
苦手という訳でもない。
人見知りはしないタイプ。
言いたいことは言っておきたいタイプ。
それがどんなに相手のことを考えていない発言だとしても
自分が後悔することの方がダメだと思うから。
後悔はしたくない。
勝負に負けることもしたくない。
悲しい事は嫌だから。
自分を犠牲にすることで切り開ける未来なんて考えられない。
でも誰かのためならそういう事もするかもしれない。
優柔不断という訳じゃない。
ようするに優先順位で物事を決めるタイプ。

カチカチカチカチ。

仮面ライダーゼロノスとボウケンピンクの共通点は、二人共
最終回では自分の為に仲間と別れて旅立ってしまう。
前者は自分の生きる歴史を捜す為に。
後者は想い人を支える為に。
求めるのは凄く良い事だと思う。
人は求めるものがあるからこそ生きたいと思うし、生きられると思うから。

 彼の言葉はそれを物語っているとしか言いようがない。
 ふっ、思えば熱い男だったとよ。

カチカチカチカチ、ピッ。

540名無し募集中。。。:2012/06/01(金) 03:29:33
送信し終えたと同時に教室のドアを開ける。
開け、ドア!

 「おはよーっ」

にこやかに、元気さもアピールしつつ、生田衣梨奈はクラスメイトと挨拶を交わした。
窓側のうしろから三番目が彼女の座席。
カバンを机の横にかけ、椅子に腰を下ろそうとする。
が。

 「おい生田あ、授業中だぞー」
 「はーい」
 「はーいじゃない、せめてもう少し静かに入ってこい。
 事情は親御さんから聞いてるが、ちゃんと学生生活も励むように」

教諭の軽い説教に、生田は髪を触ってアハッと笑った。

541名無し募集中。。。:2012/06/01(金) 03:41:35
以上です。そしてご無沙汰です。当初は学園要素を含まない予定
だったんですが、もうどうにでもな〜れ、です。

登場するメンバーの性格、特徴に関しては加入当初の雰囲気で
想像してもらえると、生ぬるく見守ってください。

---------------------------ここまで。
いつでも構いませんので、よろしくお願いします。

542名無しリゾナント:2012/06/01(金) 21:58:43
>>541
代理っときました。
待ってましたよw

543名無し募集中。。。:2012/06/02(土) 00:00:21
すみませんこんな駄作を待って頂けて…ブワッ(涙
代理ありがとうございます。

544名無し募集中。。。:2012/06/05(火) 00:16:23
http://www35.atwiki.jp/marcher/pages/577.html
http://www35.atwiki.jp/marcher/pages/584.html
http://www35.atwiki.jp/marcher/pages/610.htmlの続き。

2限目が始まる前、鈴木香音のクラスは所々から談笑が上がっていた。

 「昨日のドラマ観た?やっぱりあの警察官が黒幕だったんだよ」
 「あの雑誌読んだ?ちょーイケメンでさー」
 「髪型変えたんだあ。可愛いーっ」
 
さすが中高一貫校ともあって、少し色が濃い生徒が何人か居たりもする。
先輩の影響を受けることもあれば、兄弟が居れば様々な情報が入り込む。
当然そういう人間は一目置かれたりもするし、良くも悪くも"有名"のレッテルを
貼られることになる。
大抵のことであればそんなレッテルを喜んだりする事はないのだが、この学校
に入学早々、すごい生徒が居るという噂があった。

 「あれこそがKYっていうか、むしろあの人自体が空気っていうか。
 空気なのに色があって匂いがあって味があって…いやホントなんだって」

その女子生徒と同学年の姉がいるということで、いろんな話を聞かせてくれたそうな。
だが噂は時間の経過によって様々に形容し、変化する。
だから本当かどうかは定かではない。

 空気が読めない。
 全くではないが、10個の事柄があれば8個くらいはKYだと言われる。
 一生懸命作った積木を一緒に喜びを分かち合ったあとに嬉しそうに
 「ダーン」と崩してしまうようなあの感覚、とは少し違うらしい。

ただ空気が読めないという事はやはり他の人にも迷惑がかかっているという訳で。

545名無し募集中。。。:2012/06/05(火) 00:17:42
近いものでいえば買おうとしていたゲームが売り切れになって、もしかしたら
まだあるかも、という淡い期待を捨てきれない空気さえも分からずに相手の
真隣で購入したゲームを広げるとか。

趣味がゴルフという事もあって、そういう風速と角度は分かるらしい。訳が分からん。

 「でも運動能力はすごく良いんだよ。器械体操だっけ?それやってたらしくて。
 ことあるごとにハンドスプリングやってたな。ほら、身体をこおグルって回すヤツ」

それは鈴木も知っている。
一部では「回転少女」という異名で知られていて、部活の先輩から聞いた事がある。
マラソン大会のときに最初から全力疾走で走って、一度も速度を落とすことなく最後まで
ゴールするという荒技をこなした事で、陸上部にスカウトされていたほど凄まじい。
断ったらしいが。
50mの記録は8秒ジャスト、速さは普通だがその耐久度が半端ない。
ただもう一度だけ言う、全ては噂だ。最後の話以外は全て同級生からの都市伝説級の
噂であり、真実は分からない。

 キーンコーンカーンコーン。

チャイムが鳴り、ぞろぞろと生徒が自分の席へと座って行く。
先生が来ると客席、礼、挨拶と順序良くこなしていく。
2限目が始まった。
鈴木は窓側で後ろから数えると3番目になる。

 ふと、窓から南棟が見えた。屋上は死角になっていて分からないが
 本来ならあそこに鞘師里保が居る。

546名無し募集中。。。:2012/06/05(火) 00:18:30
そう、本来なら。
譜久村があの場所に風紀委員として調べに来た翌日。
あの屋上を一時的に"閉鎖"するという形を取られてしまったのだ。
出入りしているという事実はすでに教諭の耳にも入ってしまっているため
例え調査しようがしまいが、そういった処置をするというのは決まっていたらしい。
だから鞘師にも説明はしていて、あそこは今無人になっている。
…とは思うけれど。

 何せ鞘師がいつあの屋上にいて、いつあの屋上からどこに帰っているのか。
 それは鈴木も譜久村も知らない。
 何度か譜久村が一緒に帰ろうと誘ってみたりもしたのだが、居る所を目撃されると
 面倒だからと断られてしまう。
 
だが鞘師自身も二人と別れるのは少しばかり寂しいらしく、譜久村がなだめる
ことで少し気を紛らわせては別れることが多かった。
確かにあの包容力を一度味わうとね、鈴木は羨ましくもあり、だが鞘師の気持ち
も分かるものがある。

ただ不思議と、彼女の心配はしなかった。
きっとどこかでグウグウと寝ているのだろう、音楽でも聞いて。
サイダーでも飲みながら。交信でもしてるんだ。
そしてまた会える、どちらかが願えば簡単なことだった。

 トントン。

不意に、背中を指で軽くつつかれた。
何事かと振り向くと、後ろ斜め横の机に座る女子生徒がわざと変顔してにんまりと笑った。

547名無し募集中。。。:2012/06/05(火) 00:19:10
朝っぱらからハイテンションの芸当をする彼女にリアクションすることなく
鈴木は机に向き直り、几帳面に折りたたまれたルーズリーフの切れ端を開く。

 "窓の外に例の影。イチゴは好きなのにバナナは嫌いで、野菜も苦手らしいよ。
 でもイチゴって野菜だって知ってた?"

鈴木はチラッと視線を窓の外に向ける。
グランドのド真ん中を堂々と歩き、校舎へと入って来る人影。
スクールバッグをランドセルのように縦に背負い、クリーム色のカーディガンには
この学校の校章が縫い付けられている。
携帯を片手に髪が風になびいた。

 "野菜の中でも好き嫌いがあるのと一緒でしょ"

ルーズリーフの空いた場所にそう書き足すと、今度はそれを
振り向かずに脇の隙間から放り投げる、背後で微かに驚いた声が聞こえた。

「回転少女」、もとい生田衣梨奈という先輩の話は紛れも無く背後の彼女からであり
何故鈴木がその話を聞くに至ったかは、実に簡単なものだ。
ただ知れば知るほど、鈴木は生田が少しだけ苦手になっているのも事実。

何せ生田衣梨奈という人物は、一部では「アイドル」だからだ。

548名無し募集中。。。:2012/06/05(火) 00:24:09
以上です。もうスレが立たないかと思いましたが
規制されている人間の弱さを痛感します(涙
1年前の出来事を調べていると4人の成長っぷりを垣間見ますね。

549名無し募集中。。。:2012/06/05(火) 00:26:51
-----------------------------------------ここまで。
変なレスの消費をしてしまったorz
意外と1年前のえりぽんの掴みなさに苦戦してます…。
おはスタでも見てみようかな。

いつでも構わないのでよろしくお願いします。

550名無しリゾナント:2012/06/05(火) 09:37:34
>>549
遅くなったけど代理っときました。
研究熱心ですね

551名無し募集中。。。:2012/06/06(水) 02:39:43
>>14-17 の続き。

黎明学園中等部2年、生田衣梨奈。
父親はこの街の市長になった事があり、祖父は知事だったという政治家一家。
母親はステージママ気質があるらしく、モデル雑誌に応募させていたことで
生田はページに掲載された経歴を持つに至った。
なのに、彼女はかなりの不思議ちゃんとして名が通っていたりする。

だから有名人であり、アイドル、なんちゃってアイドルの方が正しいかもしれない。

そんな肩書きもあってか、今でもモデル業を行っているためと
この学校にも顔がきくということで遅刻をしても大目に見られることが多い。

鈴木は普通の家庭で育ち、普通なら羨ましく思えるのかもしれないが、その"普通"
という範囲を越えた家族関係が少しだけ窮屈なもののような気がした。
他人のことなのにまたいろいろと考えてしまうのは性なのかもと思いに駆られるが
空腹によって頭のはじっこに置いておくことにする。

 お昼。
 この学校は中等部は給食が用意され、高等部になると弁当を持ってくるか
 給食かを選択できるようになる。

鈴木は妙に燃えていた。
隣にはあのメモを渡してきた彼女が居て、ギラリと瞳が光る。

 「はっはっは、ついにこの時間がやってきたな香音」
 「あんた達またやるの?中学生にもなって…」
 「給食を笑うものは給食に泣くって言葉しらないの?」
 「知らないし…」
 「じゃああのみかんゼリーちょうだいよ」
 「それとこれとは話は別」

552名無し募集中。。。:2012/06/06(水) 02:40:26
別の同級まで混ざり、給食のあれが美味しいだのあれは
マズイだのと談笑を交わす。
遠くから配膳をする生徒にそれを大目に、など注文しながら。
それが終わると生徒達の給食が始まる。

 献立はごはん、豚汁、エビフライ、切干大根、みかんゼリー、そして牛乳。
 切り干し大根が舞った、プレートから2、3cmの高さにその姿が浮く。

ガチンガチン。箸が鳴る、ガチンガチン。
エビフライの尻尾を掴もうとする箸を阻むのは一本の箸、二刀流とでも言うように構える。
豚汁がこぼれそうになる、隙アリと切干大根に箸が伸びる。
鈴木の瞳がギラリと光った。
箸の先でフタのとれた牛乳瓶を押し倒そうとしたのだ。

 「こら香音っ、そんなの反則だろっ」
 「そっちだって私が好きなの知ってるクセにっ、LOVE大根!」
 「じゃあエビフライ取ろうとするなっ」
 
机を向き合うようになってる為、斜め横の彼女とはこんなバトルが行われる。
先ほども余った料理を取りに行ったときも一悶着があったというのに、今度は
自分の好きなものを隙あらば取ろうと躍起になる。

隣の男子は何も言わずにモソモソと食べている。
毎度のことなので慣れたのもあってか、自分達の給食も被害に
遭わないようにさりげなく端の方に配置しておいてあったりもする。
早く席替えしないかな。とポツリ。

 「こらっ、食べ物で遊ぶんじゃないっ」

553名無し募集中。。。:2012/06/06(水) 02:41:37
そんな事をしていると当然教諭にも注意される訳で、一応それで二人は
大人しくなるのだが、いつ攻撃がしかけられるか分からないので鈴木は
切干大根を自分の手の近くに配置する。
給食が終わるとソフトボールをしようと言いだした彼女と別れて鈴木は廊下に出た。
特に用事はない、ただ少し食べ過ぎたせいで暴れるとかなり危険な状況だったのは事実だ。
うぷ。口を手で押さえる。

ふと。
職員室から会釈をしながら出て来た譜久村を見つけた。
最近はタイミングが合わずになかなか会えなかったので声を掛けようとする。

 「みずきーっ」

瞬間、背後からの声に思わず掃除道具入れのロッカーに身を隠す。
あれ、デジャヴ?

 「あれ?えりぽん…香音ちゃん何してるの?」

譜久村が首を傾げるのは、予想以上に狭かったロッカーをどうやって入ろうか
アタフタして、やけになってバケツ(新品)で頭だけを隠す鈴木に対してのもの。
ハッ、バレテル。
そんな鈴木を見て。

 「敵怪人だ!このゼロガッシャーでやっつけてやる!」

生田衣梨奈が散らばったホウキとちりとりを手にとって構えを取った。
ちなみにゼロガッシャーとは、とある仮面ライダー専用武器だったりする。

だが鈴木はその豆知識を全く知らない、頭の中では「???」だ。
瞬間、生田が前にでる。

554名無し募集中。。。:2012/06/06(水) 02:42:24
 「最初に言っておく。俺はかーなーり、強い!」

台詞をバッチリ決めて生田はドヤ顔を見せつけた。

555名無し募集中。。。:2012/06/06(水) 02:47:44
以上です。

           l /
            (O|゚|O  )    </.l   /|      /\___
       /_/_(‘ <_‘|9||    / l  / /       /    //
      l┌O-┝⊂ l   ___  ̄ > \_/    /____// ガッシャーン
       77∧:ヨ (⌒_ノ/、/~ />       ̄ ̄ ̄ ̄
     γ⌒X||乢_し' 、/ヽ   ̄>__         || |::
      |l (◎)l`ーミ三=Z) l|   |/  / /\   || |::
      ゝ_.ノ    ゝ_.ノ   ∠__/   ̄      || |::


-------------------------------------------ここまで。
少しペースを早くしてますが、スレの方に投下するのは
いつでも構わないのでよろしくお願いします。
ああ早く規制解けないかな…前回の代理投下ありがとうございました。

556名無しリゾナント:2012/06/06(水) 04:16:35
>>555
代理っときました。
ライダーらしく555ですね

557名無し募集中。。。:2012/06/09(土) 00:22:19
>>14-17 の続き。
 
振り落とそうとした途端、「あれ?」と生田が素っ頓狂な声を上げて両手を見る。
背後からホウキとちりとりを引っ掴むのは譜久村だ。

 「こら、人に向けたら危ないじゃない。それに確か
 ゼロノスじゃなくてWにハマってるって聞いた気がするけど」
 「そうだっ、ねえねえみずき、今度映画みにいこうよっ、ゼロノスは出ないけど
 Wが出るっちゃん、キャッチコピーはこうとよ。
 『世界よ、これが日本のヒーローだ!!』」
 「私戦隊モノ見たことないから分かんないよ。
 それよりさ、モデルになったっていうアイドルの人の話聞きたいんだけど」
 「あー…えりなはあんまり好かん人やったかなあ、キャラが被るんよねえ」

ホウキとちりとりを持ったままなので、万歳の姿のままの生田。
バケツ(新品)を被ったままで鈴木は考えていた。

生田衣梨奈の祖父は知事をしたことがあるが、その同級生であり
この街の発展に一役買った立役者、それが譜久村聖の祖父だった。
譜久村に対する周りの反応が「お嬢様」や「お金持ち」なのもここからである。
なので家族の交流もそれなりにあったりして、何気にこの二人も
自然の流れなのか、仲は良い。

譜久村の"音"は薄ピンク、生田の"音"は紫だ。
鈴木には人間のオーラなどを「音」の振動音波によって「色」で知ることが出来る。
霊感とは違って、絶対音感の持ち主だから、というのが主な理由らしい。

 子供の頃にある医療施設でそれが発覚したというのを母親から
 聞かされたことがある。
 そこでは鈴木が持つ能力のことを『共感覚 -シナスタジア-』と呼ばれていた。

558名無し募集中。。。:2012/06/09(土) 00:23:04
これは絶対音感を持つ人間によくある知覚現象らしく、私生活には
問題はないという事で母親はかなり安心したらしい。

知ってるのは家族と、譜久村だけ。
とは言っても、最近その能力が少しだけ変になっている。
一つは相手のオーラが「音」から「色」へ変わる瞬間
なぜだか別の風景イメージが見える時がある。
その異変が起き始めたのが、あのガラスレンズを見てからだった。

鞘師が大事そうに箱に詰めていた、あの不思議なレンズ。

生田のようなバイオレットの"紫"ではなく、アメジストのような"薄紫"。
違和感はまだ残っている。
最初は流し込まれるその風景に戸惑っていたものの、身体に馴染んだのか
それほど酔うようなことも無くなった。

鮮明ではないが、まるで相手の心を見ているような気がして良い気はしない。
自分でもそんなことを相手からされてると思うと嫌だと思うから。

ただあの時に感じたイメージはとても、懐かしい感じがした。
あの"薄紫"の女性は誰だったのか、もしかしたら鞘師は知っているのかも
しれないと思ったのだが、知らない人間の話をするのも気が引けてしまう。

最近こんなことばっかり考えてるな、鈴木は溜息を吐いた。

 「香音ちゃん、いつまでこれ被ってるの?」

そんな声が聞こえて、顔にかぶさっていたバケツ(新品)を取り払う
譜久村の顔が、眩しさに細める視界に入る。
気つけば生田の姿が居なくなっていた。

559名無し募集中。。。:2012/06/09(土) 00:23:37
 「えりぽんにはちゃんと言っておいたからもう大丈夫。
 でも携帯が鳴った途端に急に走ってったからどうしたんだろ…まああの子って
 行動力だけは人一倍あるから、別に驚くことじゃないんだけど」

どうやら生田の行動に鈴木が怯えてるんじゃないかと心配したらしい。
正確にはドン引きして対応に迷っていただけだったのだが。
そんな事は夢だと自分で言い聞かせながら、鈴木は久し振りに会話を交わす。

 「あのみずきちゃん、今日一緒に帰れる?」
 「ああ、ごめん。ちょっとお見舞いに行かなきゃいけなくて…」
 「え?お見舞い?」
 「あ、そっか、香音ちゃんにはまだ話してなかったね、実は…」

――― カチカチカチカチ。

携帯を操作し続ける。
南棟へ走り込んだ彼女は、この着信をいつも待ちわびていた。
電話はできない、恥ずかしくて泣き声になりながらなどあまりにも
情けなさすぎて出来ないからだ。
それならメールで我慢する。
声が聞けなくとも、文字だけでも心の会話が楽しめるのであれば
そっちの方が何倍も良い。
あの顔と向き合おうものなら失神してしまう。
だからこそせめて文字で、言葉で語り合いたい。

 南棟へ辿り着いた。
 屋上に向かう階段には『立ち入り禁止』のプレートと障害物。
 カチカチカチカチカチ。
 カチカチカチカチカチ。ピ。

560名無し募集中。。。:2012/06/09(土) 00:26:33
生田は口角を緩ませた。
仮面ライダーWの関係性は素晴らしいと思う。

 俺たちは、僕たちは、二人で一人の仮面ライダーさ!

まるで"私達"のようでとても共感が持てる。
ただ"あの人"の戦闘モノの知識はそれほど豊富ではないらしく
そこが少し残念だけれど。

生田は携帯の画面を見つめる。
両眼に紫の閃が過る。バイオレットの煌めきが。
カチカチカチカチ。
内容に返信を送り、生田は携帯を閉まった。

 【i914の反応あり。高橋愛のそうさくを続行】
  
生田は心底嬉しそうに嗤う、ゾワゾワと沸き立つ愛を一身に受けて。

561名無し募集中。。。:2012/06/09(土) 00:31:26
以上です。
自分も>>117さんの作品を楽しみにしてます^^

562名無し募集中。。。:2012/06/09(土) 00:33:07
--------------------------------ここまで。
また変なレスw(ry
>>556さんありがとうございました。
意識はしてなかったんですがホントだw

またいつでも構わないのでよろしくお願いします。

563名無しリゾナント:2012/06/09(土) 07:22:24
上げておきました
何かが動き出したってかんじですかね
…ところで作者さまは仮面ライダーとか詳しいのですか?

564名無し募集中。。。:2012/06/09(土) 09:25:54
こんなに早くありがとうございます(平伏
仮面ライダーの知識はそうですね、バックルが変身アイテム
なのと、顔がバッタっぽいのだけ…w
えりぽんが興味なかったらきっと織り込まなかった
要素だと思います。

565名無し募集中。。。:2012/06/11(月) 14:15:46
>>138-141

 「おはようございまーす!」

校門の前、鈴木も見慣れた風景が広がっている。
生徒会と風紀委員が左右に列を作って、あいさつ合戦をしていた。
鈴木も挨拶しようとして、不意に思ってしまう。

 うるさい。

いつもは気にもならないのは、今日はやけにうるさく感じた。
頭に響き、眉間に軽くしわが寄って行く。
他の生徒は気にせずに歩いて行くのだが、鈴木は違った。
異様な"音"の混ざり合いに鼓膜が疼いて仕方が無い。

譜久村の姿が見えるが、鈴木はその場を立ち去りたくて早足になる。
玄関先になってもその疼きが止まらないため、鈴木は怖くなった。
上履きにはきかえ、教室に入って友人に挨拶を交わされてもそれは同じ。

 「どうかしたの?顔色が悪いけど」
 「なんか、気分悪くて…」
 「保健室に行った方がいいんじゃない?」

同級生たちは何事も無い様にしている。
誰かは宿題を写させてくれるように友達に頼んでいたり。
誰かはきのう観たバラエティ番組の話で盛り上がっていたり。
誰かは携帯をいじって誰かにメールを送っていたり。
教諭に見つかって注意を受けたが。

 「せんせー、香音が不調を訴えてます」
 「ん?鈴木どうした?顔色悪いぞー」

566名無し募集中。。。:2012/06/11(月) 14:16:38
鈴木は答えない、答えられなかった。
疼きが痛みへと変わって行く。
"音"がグルグルと、視界に異様に混ざった"色"が見えるようになっていた。
なんじゃこりゃ!
叫びたいのに声が上がらない。
スモッグのような薄い霧が、教室全体を覆い包んでいるのだ。

 「おい、香音、しっかりしろっ」

友人の彼女が声をかけたのを最後に、鈴木の意識は途切れた。
完全ノックアウトだ。

 ――― 嫌な夢を見た。
 誰かを失ってしまう、誰かと別れてしまう。
 もう二度と会えなくなるような、その気にさせる夢を見た。
 誰かは分からない。
 鞘師、譜久村、生田、両親、妹、友達、 そのどれもが当てはまらない顔。
 だけど知ってるような気がして、鈴木はその身体に抱きつく。
 まるで泣き虫な子供がぐずるように。
 嫌だ嫌だと泣いて、泣いて、泣いて。
 こんなヤツだったかなあたし、そう鈴木が思う内に、誰かの姿は消えた。

誰も居なくなって。誰かを探して腕を上げる。
誰か、ねぇねぇ、誰か――― !!

 その時に微かに見えたのが、青空のような水面に映る虹だった。

567名無し募集中。。。:2012/06/11(月) 14:17:27

次に目が覚めると、保健室のベットの上。氷枕でヒンヤリと頭部が冷える。
ボウッとしていた。
先ほど感じた"音"は少し収まっていたが、まだ鼓膜が疼く。

ふと、鈴木の視界に入って来たのは同級生の顔だった。
彼女の顔もしっかりある。

 「気が付いた、香音っ」

心配したようにそう声をかける彼女に、鈴木は「ああ」とため息のように零す。
結局あの強烈な"音"に耐えきれずに気絶したのだと分かって、時計を
見るとすでにお昼になりかけていることを知った。
母親には既に連絡をいれているらしく、鈴木は早退することになった。

  母親の車から見えた校舎が、いつもよりも大きい。
  蜃気楼のように歪んだように見えて、鈴木は視線を逸らす。

それにしても、あの不気味な"音"の正体が分からない。
ただ何処かで、似たようなものを聞いたことがあったかもしれない。
あれはそう、鞘師と会ったあの日に、いじめられっ子の彼女から聞こえた、黒。

あんな風に感じたことも初めてだったし、なによりも鞘師と出会ってから何かがおかしい。
譜久村の友人が入院した事も、変な幻覚や夢を見るようになったのも。
そして気付けば、屋上が閉鎖してから彼女とまったく会えていないという事。

鈴木は自分の部屋でいろいろと考えていた。
保健室で眠っていたときのあの夢が過る、夢のはずなのに、現実味があり過ぎる。

 あの9人の顔に見覚えは、ない。それなのにどうしてこんなにも。

568名無し募集中。。。:2012/06/11(月) 14:17:58
 「香音、お友達が来てくれたわよ」

母親の言葉に鈴木は疑問を抱く。
まだ学校は終わっていない時間なのに。
部屋のドアが回され、その姿に鈴木はあんぐりと口を開けた。
訳が分からない。
訳が分からねえ。

 「こんにちわ、かのんちゃん」

にっこりと、鞘師里保は薄い笑みを浮かべた。

569名無し募集中。。。:2012/06/11(月) 14:21:44
以上です。ちょっと場面がぐるっと変わりました。
千秋楽のステーシーズを観に行ってきます。

----------------------------------------ここまで。
いつでも構わないので、よろしくお願いします。

570名無しリゾナント:2012/06/11(月) 19:48:06
承って候

571名無しリゾナント:2012/06/11(月) 19:52:24
終了
千秋楽うらやまし

572名無し募集中。。。:2012/06/17(日) 02:52:16
ここは掃き溜めの中。
此処はあまりきれいじゃないよ。
つながっていたかっただけで。
死んでしまったあとの花のように。

醜い私は、影にくるまって眠るの。
君は星のように、はかない声で鳴いている。
いつだって昨日の向こう側。

私は死ぬように君を愛す。
君が死んでから私を愛すように。

生きる事が永遠を壊したけれど。
醜い光が私を射つ。
それでも願ってた。

 願ってただけだった。


いつか彼女は、世界にココロを鬱されていた。

 「泣けなくなったのはいつかなんて覚えてないよ。
 神経の異常なのか、障害の一種なのか、考えたって
 私にはそんな知識は必要なかったの、必要のない場所に居たから」

受け入れることが生きる事。
全ては日常の中に消えて行く。
誰も彼も、彼女も例外なく、逃れることなく、逃れれる者が居ようもなく。

573名無し募集中。。。:2012/06/17(日) 02:53:35
 「だけどね、それで少し良かったって思うことはあるよ。
 泣けないなら、笑えばいい。
 だってそうすれば、いろんなことが良い方向に進むような気がしない?
 後ろ向きに考えるよりはさ、生きてるならきっと、その方がいいよ。
 死んだあとのことなんて、人間は考えないんだから」

彼女は鼻歌にメロディを口ずさむ。
流行りではないが、それでもなんとなく気に入っていて、無意識の
うちに口に出してしまうくらいの歌。
心地よかった。意味はない、ただ、心地よかっただけで。

日常の中で、誰もが他人に無関心になる。
"此処"にいる殆どの人間もそうで、そいつの存在自体がまるで最初
から無かったかのように。
しかし彼女はそんなことを傍から理解していて、そしてむしろ、状況を
楽しんでいる節もある。
実際、楽しもうとしていた。

 「だから変にディスられてるのも知ってるよ。アハハ。
 まあそうだよね、皆やっぱり、心のどこかでは悲しんでるのに、私だけ
 気持ち悪いくらいニコニコして立ってるんだから。
 でもさ、逆に考えてもいいじゃない?悲しむだけ悲しんでさ、それで
 見ぬふりするより、背負った方がいいでしょ?」

誰もが全てを見えているというワケじゃない。
全て見えると思っているだけで、全てを見た気になっているだけで、実際のところ
目に見えるモノなど小指の先ほどの事柄しかない。
しかもそれは決まって、他人にはどうだっていいことなんだ。

574名無し募集中。。。:2012/06/17(日) 02:54:09
そんな事を思うと、彼女は愉快になって軽く吹き出しそうになったが、口元を
ゆるめるだけに留めてくれた。
感情なんて、余計なものだと思う。

 「私さ、ずっと笑ってたいんだよね。そんな場合じゃないっていうのは
 判ってるんだけどさ。無理に笑ってないのだけは覚えててほしいな。
 きっとさ、神様のきまぐれなんだよ。私にそうやって背負えるように
 涙を与えなかっただけ。涙だけなら、安いものじゃない?」

彼女はテーブルの上のコーヒーカップに手を伸ばす。
湯気を立てるそれをのぞき込むと、コーヒーの香りとミルクの匂いが
同時に漂ってくる。
コーヒーは正直苦手だけれど、ミルクを入れればそれは別の代物へと変化する。
口が緩むことに躊躇すると、彼女が代わりに笑った。

日常にリアルを求めること自体がすでに不自然だった。
日常こそがすでに非日常で、感覚の麻痺した世界でリアルなど存在しない。
現実感などずっと昔に失くしてしまっているのだから。
最初からそんなモノは存在していないかのように。

最初からセカイは、全てが失せている。
それなのに。

 「じゃあさ、もしもどちらかに何かがあった時は、どちらかの気持ちを
 互いに渡そう。欠けたものを渡し合おう。
 いらないかもだけど、迷惑かもだけど。こんな歪んだものなんてきっと
 好きにはなってくれないかもだし、言ってる時点であれか、アハハ。
 でもまあ、私は嬉しいかな、―― が泣いてる姿、けっこー好きなんだよね」

575名無し募集中。。。:2012/06/17(日) 02:55:20
泣けない彼女と、笑えない自分。
神経の異常なのか、障害の一種なのかは分からない。
そんな知識の必要がない場所に、自分達は居るのだから。

笑えない代わりに、涙がなんの前触れも無く、流れることがあった。
恐怖も絶望も感じてないはずなのに、それでも人間は本能的に
感情を浮かべるようになっている。

 それが自分にとってどんなに目ざとく思っていても。

気がつけば"組織"にいて、気がつけばヒトゴロシだった自分達。
ときには強引に殺し、ときには事故に見せかけて殺し、ときには消し去るように殺す。
研究員たちは"チカラ"のことに関して両目を輝かせ、ヒトゴロシを
する自分や彼女に対しても恐怖と、好奇と、絶望と、希望と。
様々な色と、音と、歌と、血と、人と、死と。

だけど誰が悪いのかなんて、判らなかった。
自分達が悪いのかもしれない、研究員が悪いのかもしれない。
何が悪いのかが分からないけど、どうして悪いのかが分からないけど。

 彼女が死んだ時に、自分は、全てを背負えただろうか?



 パンッ、パパパパパッ、パパパパパパッ。

複数の乾いたような、連続した音。
銃声。
分解から組み立て、その種類も能力も把握している。
音を聞けばそれが何なのか判った。

576名無し募集中。。。:2012/06/17(日) 02:57:17
気付けば叫んで、常人には有り得ないような脚力で一瞬にして、彼女を
抱き上げ、その場から逃げ出す。
背後から銃声がして、数発が身体をかすめる。
途端に傷口から血が噴き出してきたが、走るのをやめはしない。

抱きしめる身体から少しずつ、確実に力が抜けていた。
それでもまだ暖かい。心臓が、鳴っている。
早かった鼓動が、少しずつ、ゆっくりに。

グッと、腕を掴まれる。
最後の力を振り絞るように、腕を、手を、自分の首に押しやった。
それはまるで、儀式のように行われた通過儀礼。

 「私さ、親友を殺したの。もう助からないって思ったから。
 私が肌に触れると、そこが砂になって、粒になって、灰になるの。
 身も心も血も、全てが燐粉になっていった。まるでヒカリみたいに」

"作戦"が失敗した場合、死んでも"組織"につながるような証拠は残してはならない。
外部に少しでも情報が漏れるのを防ぐために。
自分達の死体ひとつを残すことさえ許されない。
そうやって生まれたときから教育を受けて来て、それが全てだった。

 そして"作戦"は、失敗した。

 「私が殺してきた人達も、あんな風にヒカリになって、飛んで行った。
 蝶みたいに、私もさ、あんな風になれるかな?醜くてもいいから」

577名無し募集中。。。:2012/06/17(日) 02:59:27
最後の言葉なんてものもなく、最後に受け止めるココロもなく。
"作戦"が失敗したという事実だけが残って、カラッポの世界だけが残って。
砂になって、粒になって、灰になる彼女を見上げた。

涙が溢れるのに、恐怖も、絶望もない、ただ、口角を強引に開けて、笑った。
歪な笑顔で笑って、笑って、笑って、笑って、笑って、ごめんと叫ぶ。

 「きっとこれも、神様のきまぐれなんだよ。
 このセカイも、あのセカイも、この"チカラ"も、私達もね。
 もしもどちらかが欠けたなら、探しに行けばいいの。このセカイも私で、―― も、私なんだから」

―― 私は、青空の下に居た。
小さなベンチに一人佇んで、何をすることもなく、眠ることも無く。
このまま地面に溶かされてもいいくらいに思えた。

 「どうしたの?まるで死人みたいな顔してさ」

なんて挨拶だと、思った。表情に浮かぶそれに、そっと言葉を乗せる。

 「親友が、死んだの」
 「そっか、私の親友も、さっき死んじゃったんだ」
 「…そう」
 「でもね、泣けないんだ、なんでだろうね。悲しいときにも涙は
 でるはずなのに、アハハ、ほら、変でしょ?うん、まあこんな事
 言ってもしょうがないんだけどね、アハハ。ねえ、そこ座っていい?」

陽の光に、目を細める。
アスファルトから飛び出したその花に名前を付けて。
そうしてまた日常が始まって。ただ願ってたはずのココロが微かに、笑ってた ―― 。

578名無し募集中。。。:2012/06/17(日) 03:09:26
「Whim of God」

以上です。だいぶ舞台の影響を受けましたってことでツヅカナイヨ。
名前を伏せたのは神様のきまぐれです、ウソです想像に
お任せという事でどうか。

----------------------------------ここまで。
ちょっと長くなりました、投下が難しいかも…申し訳ないです。

579名無しリゾナント:2012/06/17(日) 12:50:35
ふぅなんとかいけた
名前を描かなかったことで普遍的な広がりが感じられる仕上がりになってますね

580名無し募集中。。。:2012/06/19(火) 03:31:01
>>189-192 の続き。

闇の中に、【闇】が浮かんでいる。
ユラユラユラユラ。
闇の空間をたゆたう影。
影は黒いコートに身を包み、フードを深く被っていた。
小柄な影。手のひらには三つの球体。

誰かは【ダークネス】と呼んだ。
悪意の塊。
悪意の記憶を糧として生まれた、それが【ダークネス】。

【闇】を満たす唯一の概念。
ただ、其処には何も無い、ナニモナイ。
満たされているから、満たされていると思い込んでしまう。
手では掴めない。
叫んでも答えてくれない。
ただ満たされてるだけ、闇が、在るだけ。

その【闇】に、影は球体を投げ込んだ。
誰かの悪意の記憶を零していく。

すると、闇の中の一部に裂け目が現れ、大きな口の形をしていた。
闇に落ちた球体。

 ムシャムシャムシャ…咀嚼音。

喰らっていた、響く、誰かを食べる音が。果てしなく続くような闇の中で。
グググググググググググググ。
闇が盛り上がるように『成長』する音が微かに鳴っている。
パキパキと枯れた音が無骨に。

581名無し募集中。。。:2012/06/19(火) 03:32:37
 オオオオオオオオオオオオオオオオ。

【闇】が、啼いた。

 *

黎明学園敷地内。
二つの影がフェンスの裏側から入り込み、上手く闇に身を潜めながら校舎に近付く。
何処かに中に入れるところはないかと探していると、一ヶ所灯りの点っている場所を
見つけた。

 「…誰かいますかー?」

窓に近付いてそっと中をうかがった鈴木が言った。
そこは警備員が使っている宿直室のような部屋だ。

 「鍵もかかってないよ、不用心だなあ」

鈴木が窓に手をかけると、軽く力を入れただけでそれはゆっくりと動いた。
窓の隙間から、暖房の暖かい空気を感じることが出来た。
これでは警備も監視もないじゃないか、とは思ったけれど、そのツメの甘さに
今だけは感謝しようと思う、状況が状況なだけに。

 「じゃ、ここから入るよ」

鞘師はうん、と頷いた。


 ――― 鞘師が彼女の元に来たのは数時間前の事。
 鈴木は驚いた、心底驚いた。
 だって知るはずがないのだ、鞘師が鈴木の家を知ってるはずがない。

582名無し募集中。。。:2012/06/19(火) 03:33:09
だけど鞘師は平然とサイダーを飲んでいて、鈴木もまたその手に持っていた。
本物だった。
しゅわしゅわしていた、「しゅわしゅわーぽんっ」とお決まりの言葉を言って
恥ずかしそうにしている鞘師は本物だった。
頭痛は、いつの間にか治っていた。

 「なんでクマがアフロなの?」
 「アフロヘアーに憧れた時期があったんだよ。ちゃーちゃんにも」
 「ちゃーちゃんって言うんだ」
  
そう言って鞘師は飾ってあったクマのアフロを鈴木に被せてニヤニヤ笑っていた。
鈴木はアフロ頭のままで疑問を聞いてみる。

 「で、なんでりほちゃんがいるのさ」
 「お見舞いだよ」
 「あたし、家教えたことないよね?」
 「うん」
 「いや、うんじゃなくて、誰かに聞いたの?」
 「うん」
 「誰?」
 「宇宙人に」
 
鈴木はサイダーの瓶を鞘師の頭に振り落とすフリをした。
流れるように避ける鞘師。
壁にドカッと頭をぶつけてしまい、手でさする鞘師。
いろんな意味でアホだった。

 「痛いよかのんちゃん」
 「りほちゃんが変なこと言うからだよ、しかもあたし何もしてないよ」
 「でも聞いたのはホント、信頼できる人だから大丈夫」

583名無し募集中。。。:2012/06/19(火) 03:39:00
信頼してる割には宇宙人呼ばわりとは。
個人情報のセキュリティが期待できないこの時代。
ただそこまでしてこの家に来た訳がなんなのか、それが知りたくなった。

 「で、なんでりほちゃんがいるの?」
 「かのんちゃんにお願いしたいことがあるの」
 「お願い?」

鞘師はまた薄い笑みを浮かべた。
けなしている訳ではないんだろうけど、何かを企んでいる様な笑顔。
引いた表情をすると、今度は口を開いてイヒヒと笑う。

 「かのんちゃんだから、お願いしたいことがあるんだよ」
 

――― 二人はソロソロと足音を消しながら、まるで泥棒みたく
身を小さくして、廊下を進んで行く。

学校というところは、昼間は人の声で溢れている場所も、今は
逆に音を吸い込んだように静まり返っている。
油断すると傍らの闇に引きずり込まれてしまいそうな錯覚に襲われる。

だが、鈴木は平然としていた。
お化けが居ると思うから居るように思うのだと思ってる。
気味が悪いと思うから変な想像をするのだと思ってる。
空気が読めないわけではない。
断じて読めないわけではない。
怖いことは怖い、だけどそう思わないようにしてるだけなのだ。

584名無し募集中。。。:2012/06/19(火) 03:39:41
そんな鈴木とは裏腹に、隣の鞘師は異様に辺りを見回すかと思えば
ギュウギュウと身体をひっつかせてくる。

 「ねえ歩きにくいんだけど」
 「かのんちゃん怖くないの?」
 「怖いけど、りほちゃんが言いだしたことなんだからしっかりしてよね」
 「……」

鞘師は何かを言いたそうにしていたが、突然足音が聞こえた。

 「!?」

廊下の突き当たりを曲がった向こうから。
こればかりは鞘師ばかりではなく鈴木もビクっと身を震わせ硬直する。
懐中電灯と思われる光が見えてマズイ、と思った。

 警備員だ!
 鈴木にとってはオバケよりも人間の方が怖い。

鈴木は小さく舌打ちをすると、硬直したままの鞘師の手を引いて
丁度通りかかっていた教室の中に滑り込んだ。

585名無し募集中。。。:2012/06/19(火) 03:43:57
以上です。
こんな物を拾いました つ「鞘師<モー娘。メンバーを戦隊モノのヒーローに例えてみた」
http://www.youtube.com/watch?v=KMt_JEI8U5Y

---------------------------------ここまで。
最近ここを独占し過ぎですねすみません(汗
いつも代理してくださる人、ありがとうございます。

昔の9人話の受領は今でもあるのか少し気になりました。

586名無しリゾナント:2012/06/19(火) 21:38:32
遅くなりましたが投下終了しました


>昔の9人話の受領は今でもあるのか少し気になりました。

受領は致しかねますが需要はありますw

587名無しリゾナント:2012/06/22(金) 21:45:43

――――――――――――――――――――――



心の中を無にしよう。

この世界は贋物だ。

構成要素の配置が変わっただけの紛い物。

だから、戸惑う必要も捉われる必要もない。

現実(リアリティ)はすべて、この世界の外にある。



――――――――――――――――――――――

588名無しリゾナント:2012/06/22(金) 21:46:25

追いかける。
追いつめる。
この爽快感がたまらない。
敵の能力者は、大通りを突っ切ってそこの角を曲がった。
衣梨奈は知っている。そこの角は行き止まりだ。
もう奴に逃げ場はない。

「観念しなさい、悪の手先め!」

予想通り袋小路に追いつめられて慌てふためく男に向かって、衣梨奈は得意げに人差し指を突き立てた。

「このところの連続婦女誘拐事件の犯人はあんたやろ!調べはついてるけんね!」
「・・・へへ、こんなお嬢ちゃんに追跡されるたぁ俺も落ちたもんだ・・・・・・なあ!」

男は軽薄な笑みを浮かべ、右手を振り上げる。
白くしなやかに蠢くそれは、もはや人間のそれではなかった。
イカだ。
男は半獣人化し、その右手を長さ二メートルはあろうかというイカの足に変化させた。

「ガキには興味ねえ!死ねやぁ!」

白い右手が衣梨奈の身体をなぎ払おうと迫る。
衣梨奈はかろうじてそれを避けると、自らの腰に提げていたバトンに手をかけた。

「くらえ!」

589名無しリゾナント:2012/06/22(金) 21:47:21
引き抜いたバトンを、ブーメランの要領で投げる。
しかし微妙な体勢から放たれたバトンはブーメランのようにはいかない。
ぐらぐらと不規則な回転を繰り返し、衣梨奈のバトンは男の遥か後方に逸れていった。

「ギャハハ!どこ狙ってやがる!」
「いや・・・これでいいっちゃん」

衣梨奈が不敵に笑う。

「半獣化能力者には、能力だけではカバーできん大きな弱点があるとよ」

すると突然、バトンの軌道が変わった。
あさっての方向に飛んだはずのバトンが変則的に曲がり、さらに大きく回転を加えて戻ってくる。

「それは」
「んがっ!!」

戻ってきたバトンが直撃し、男は地面へと倒された。
イカの足と化した白い右手も、隠し玉のつもりだったのだろうカニのハサミと化した赤い左手も、ぴくりとも動かない。

「あ・た・ま。どいつもこいつも、そこだけは人間のままやけんね」

死角から勢いよく飛んできたバトンが後頭部に当たり、気を失っている。
男が起き上がってくる気配はなかった。

「いえーい!生田衣梨奈、完璧完全大勝利ぃー!またバトンの腕が上がったかもー!」

590名無しリゾナント:2012/06/22(金) 21:48:06


「“だいしょうりぃー!”じゃないよ、まったくもう」

勝利の余韻に水を差す、不機嫌そうな声。
衣梨奈が振り返るとそこには、腕を組みこちらを睨むように見つめる鞘師里保と、困ったように眉尻を下げる譜久村聖の姿があった。

「念動力で操ってるんだから“バトンの腕”関係ないじゃん。そもそも犯人が現れたらまずみんなに連絡して、
 それから尾行って話に決まったでしょ?何一人で勝手に突っ走っちゃってんの」
「だぁってー、犯人がもう女の人に声かけてたんだもん。このままじゃ次の犠牲者が出ると思って」
「だからって、街中を『こいつ犯人です!こいつ犯人です!』って言いながら追いかけまわすことないじゃん。ホントえりぽんってKYだよね」
「ちょっと!なん、その言い方!」
「本当のことを言ったまでだよ。フクちゃんが通行人の記憶を全部操作するのにどれだけ苦労したか、わかってる?」
「あ、あの、里保ちゃん。そのくらいでもういいから・・・」

喧嘩腰になる里保と衣梨奈の間に、聖が割って入る。

「えりぽん。私たちは目立たずひっそりと、でも確実に敵を倒していかなくちゃいけない。どうしてだか覚えてる?」
「・・・うちらは・・・少人数だから。敵がその気になったら、すぐ潰されちゃうから」
「そうだよね。『でもそこが秘密の正義の味方って感じがしてかっこいい!』って、えりぽんが言ってくれたんだよね」
「・・・・・・」

591名無しリゾナント:2012/06/22(金) 21:48:41
聖の口調は優しかった。
子供の間違いを正す母親のように、優しく衣梨奈に言い聞かせる。

「あんまり派手な妨害をすると目をつけられちゃう。目をつけられたら・・・殺されちゃう」
「・・・ごめん」
「それに、今回はえりぽんだって危なかったんだよ?犯人が逃げた先にもっと強い敵が待ち構えてたらどうするつもりだったの?」
「ごめんってば!」

優しく追及されることが却って辛いこともある。
衣梨奈は強引に話の流れを断ち切り、言った。

「勝手に単独行動に出てすみませんでした!もうしません!」

それこそ子供のするような、投げやりな謝罪だった。
だが衣梨奈の性格を知っている二人は、そんなことに目くじらを立てたりはしない。

「まあ、わかればいいんじゃない?」
「警察には通報しておいたし。・・・帰ろうか。みんな心配して待ってるよ」

里保は矛を収め、聖は笑って手を差し出す。
衣梨奈は膨れっ面をしながらもその手をとる。
それが彼女たちのバランスだった。
この世界においての彼女たちの関係は、そんな風にして成り立っている。

592名無しリゾナント:2012/06/22(金) 21:49:41


= = = =


衣梨奈が誘拐事件の犯人を倒した数日後。
聖たち八人は、彼女たちの本拠地である街外れの空き家に集まった。
空き家と言っても、聖の家が所有して聖が離れとして使うことを黙認されている“生きた”家だ。
誰が手を回したか知らないが当然のように電気は通うし、家具もきちんとされている。

「鈴木さーん!さっきそこで膝を擦りむいちゃったんですけど、これって治してもらえますかねー?」
「ちょっとやめてよ、くどぅー。香音ちゃんは薬箱じゃないんだよ」
「鞘師さんはもっと大きなケガ治してもらったりしてるじゃないですか。ハルこれから撮影なんすよ」
「“傷の共有”使った時の傷と、そこら辺を走り回ってできた傷を一緒にしないでほしい」
「まぁいいからいいから。ほら、どぅー。膝見せてごらん」

八人が集ったリビングはいっそう賑やかだった。
この賑やかさは聖も好んでいたが、真面目な話を切り出すには向いていない雰囲気だと常々思っていた。

「みんなー!ちゅーもーく!」

左手に鍋、右手におたまを持って、大きな音が出るように叩く。
やや古典的だが、効果的なやり方ではあるようだ。
思い思いにくつろいでいたメンバーの視線が聖に集中する。

「はい。先日の誘拐事件はご苦労様でした。みんなの活躍のおかげで犯人は無事逮捕。以後、能力者による事件は今のところ確認されていません」

聖の報告に対して、「イェイ!」「やったー」などと喜びの声が返される。

593名無しリゾナント:2012/06/22(金) 21:50:26
「ただ、今回みたいな事件がまた起こらないとも限らない。だから今日は、いざという時のためのペアを決めたいと思います」
「ペア?」
「そう。一人一人が別々の場所に張り込むのって、効率は良いんだけどやっぱり危険じゃない?
 だから今のうちに、そういう事態になった場合に一緒に行動するペアを決めておきたくて」

先日の一件での反省を踏まえた発案だった。
こうすれば、衣梨奈のように深追いして身を危険にさらすメンバーはいなくなる。

「なるほど。じゃあ、私とまーちゃんは一緒にしてください。“白銀のキタキツネ”様をお守りするのが“蒼炎”を背負う私の使命です」
「もうあゆみんってば。そうゆうのヤダって私ずっとゆってるのに」
「亜佑美ちゃんはそう言うと思ったよ。他には?希望ある人はいる?」

聖は周りを見回した。
蝦夷の頃より続く神使の家系である佐藤優樹と、代々神使に仕えてきた一族の末裔・石田亜佑美がコンビを組むことは予想していた。
問題はそれ以外の組み合わせだ。
どういったペアが適当か、聖には皆目見当がつかない。

「希望っていうか推薦なんだけど、えりちゃんは聖ちゃんと一緒がいいと思う」

鈴木香音が手を上げて言った。

「力ずく以外でえりちゃんの暴走を止められるの、聖ちゃんしかいないもん」
「確かに。うちがやったら鋼線でケガさせちゃうけど、聖ちゃんなら“精神干渉”でえりぽんの心を直接止められるもんね」
「ちょっと意味が違うんだけどな・・・」
「え〜!でもでもぉー、リーダーとサブリーダーはバラけたほうがいいっちゃない?」
「は?サブリーダーって生田さんだったんすか?」
「年齢と落ち着きと話の面白さから考えて、てっきりはるなんがサブリーダーかと思ってました」
「えっ!いやいやそんな!私なんてそんな!」

594名無しリゾナント:2012/06/22(金) 21:51:34
聖なら衣梨奈を説得できると考えての香音の提案だったのだが、なぜだか話は逸れていく。
いつしか議題は、「このチームのサブリーダーは誰か」ということになっていた。

「待って、こういうのは年功序列って決まってるの!この中で聖との付き合いが一番長いのはえりやけん、えりが」
「付き合いの長さならフクちゃんと幼なじみのハルのほうが上ですけどね」
「年齢だったら飯窪ちゃんとだーいしのほうが上だし」
「ちーがーうー!そういうことじゃなくって!」
「あ、でも生田さん、この前お一人でイカカニ男を倒したんですよね。すごいです、私一人じゃ絶対無理です!
 やっぱりそういう実力を考えると、生田さんのほうがサブリーダーに向いてるんじゃないかなって思うんですけど・・・」
「出た、はるなんのヨイショ芸」
「ほらほらぁ!本人もそう言ってるんだから!サブリーダーは、生田衣梨奈ってことで!」
「しょーじき私はどーでもいいです。ウフフ」
「“どーでも”!?“どっちでも”の言い間違いだよね優樹ちゃん!ねえ!」



= =


話し合いは終わり、解散宣言が出される。
留まるも帰るも個人の自由だ。
これから雑誌の取材の予定が入っているという工藤遥は、大慌てで帰り支度を始める。

「売れっ子の子役も大変だねえ」
「忙しいのに呼び出してごめんね、くどぅー」
「いえいえ。ハルはお仕事してるより、こうしてみんなと過ごすほうが楽しいですから」

遥はテレビや雑誌などで活躍する女優の卵だった。
数年前に母親が応募した子役オーディションに合格して以来、それなりに忙しい日々を送っている。

595名無しリゾナント:2012/06/22(金) 21:52:14
「あっ!くどぅー、いつもの駅は行かないほうがいいよ!accidentのかんばんが視えた!」
「アクシデントの看板?・・・あぁ、人身事故の表示か。サンキューまーちゃん。タクシーで行くよ」
「一人でタクシーなんて大丈夫?仕事場まで“瞬間移動”で送ろうか?」
「大丈夫だって。それよりはるなん、来週からテストって言ってたじゃん。勉強しなくていいの?」
「もぉ!思い出させないでよー!」
「それじゃ、みなさん!お先に失礼しまーす!」

最後に威勢よく挨拶をして、遥は仕事へ向かった。
それからまもなくしてテスト勉強を理由に春菜が、門限を理由に香音が、アルバイトを理由に亜佑美が、それぞれこの場所を後にする。
残ったメンバーは再び他愛のない話に興じた。



やがて、衣梨奈がふと何かに気がついたような顔になる。

「・・・あれ?」
「どうしたの、えりぽん」
「いや、大したことじゃないっちゃけど・・・」

衣梨奈が思い返しているのは、先日の戦闘の後と先程の会話の記憶。
あの日自分は確かに、その場に居合わせなかった仲間に闘いの顛末を聞かせた。
が、“使われなかった”能力についてまで言及した覚えはない。
それなのに彼女はなぜ、敵をはっきり『イカカニ』と称することができたのだろう。

「えり、この前倒した敵がイカ以外にカニの手も持ってたこと、はるなんに教えたっけ?」

596名無しリゾナント:2012/06/22(金) 21:54:55


= =


“女”は、携帯電話で誰かと連絡をとっている。

「はい、そうです。今日は非常時の取り決めだけで特に連絡事項は、えっ・・・ああ、鞘師ですか?
 鞘師は鈴木とペアになりました。・・・・・・そうですね、その時に仕掛ければよろしいかと。・・・はい、ではまた」

一拍、二拍、三拍と間を置いて、無機質な電子音。
接続が断たれたことを確認し、女は通話終了のキーを叩いた。
例外的な場合でない限り、こちらから通話を切ることは認められていない。

女は小さく溜息を吐いて空を見上げた。
物憂げだったその表情が、次第に諦念的なものへと変わっていく。

「『私が身を置く組織は破綻する運命にある』。初めにそう忠告したじゃないですか、譜久村さん・・・」

自嘲気味に呟く“春菜”の顔は、仲間の誰にも見せたことがない深い哀しみに包まれていた。

597名無しリゾナント:2012/06/22(金) 21:55:32



――――――――――――――――――――――


「また神様ごっこ?」

その一言が、今回の箱庭世界に蓋をした。

声をかけられたことで集中が途切れ、中澤裕子の作り上げた“箱庭”が霧消する。
中澤の身に現実(リアリティ)が帰ってきた。
瞼の裏で群像劇を繰り広げていた少女たちの姿は、影も形も見えない。
あるのはテーブルとソファと、コーヒーの入ったカップを片手に持った飯田圭織の姿だけだった。

「よく飽きないよね。何をそんな熱心にシミュレーションしてるの?」
「シミュレーションやない。再構築や。この世界の構成要素を全部バラして組み立て直したらどうなるんかなぁ思ってな」
「ふうん」

わかったようなわからないような曖昧な返事をして、飯田は踵を返す。
おそらく、わかってはいないだろう。
飯田は中澤の能力を把握している数少ないメンバーの一人だが、彼女とてその能力の全容を理解しているとは言い難い。

598名無しリゾナント:2012/06/22(金) 21:56:11
自らの持つ空間移動能力によって、中澤は並行世界に起こるすべての事象を把握することができる。

あらゆる並行世界に共通して発生する要素と一定の条件下でしか発生しない要素とを区別し、それらを再度組み直して今までにない世界を頭の中に構築する。
中澤はその作業を“箱庭作り”と呼んでいた。
つい先程まで見ていたのは、高橋愛以下九名のリゾナンターがこの世に存在せず、
まったく別の少女たちが高橋らの立場に成り代わって存在している世界である。

「で?再構築したらどうなったの?」
「興味深いことがわかった。色々とな」

今回高橋らの代わりとして用意した少女たちは、敢えて高橋らと同じ能力を持つよう調整した。
念動力や治癒といったオーソドックスな能力だけではない、傷の共有や獣化といった変わり種まで用意したのだ。
それなのに。

「・・・いっこだけ、どうしても作れへんかったモンがあるんや」

共鳴増幅能力の使い手、田中れいな。
彼女の代わりだけはどうしても再構築することができなかった。
新垣里沙のスパイ要素や、ジュンジュンとリンリンのような神使と庇護者の関係にある者などは配置できたというのに。

「とっておきのイレギュラーやな、アレは」

“田中れいな”は、完全に世界から独立した要素だった。
神の真似事では生み出せない絶対的な存在。
唯一無二の“個”だ。

599名無しリゾナント:2012/06/22(金) 21:56:41


中澤は家具から距離をとり、何もない空間を切り裂く。

「おでかけ?」
「ああ。実地調査に行ってくる」
「なんだ。せっかくおいしいコーヒー持ってきてあげたのに」
「マジか」
「テーブルに置いてあるやつ。お中元にもらったの」
「はよ言ってよ」
「置いたからわかると思って」

コーヒーをすすりながら飯田が言った。
よく見れば、テーブルの上には見慣れないコーヒー豆の袋が載っている。

「惜しいことしたなぁ」
「賞味期限は再来年の七月だってさ」
「ならええわ。それまでには帰ってこれるやろ」
「あれ、飲むの?圭織、持って帰ろうと思ったのに」
「飲むわアホ。あたしの机の一番下の引き出しの中に入れといて」
「オッケー。一番下の引き出しの仕切り板の奥の隠しスペースだね」
「ちょ、待って。なんであんたがあたしの机の秘密を知ってるん」

奇しくも、いつまでに答えを出すべきかの期限が定まった。
遅くとも再来年の七月。
その頃までには、この世界における田中れいなというイレギュラーの扱いが決まっているはずだ。

含み笑いを漏らして、中澤は裂けた空間の中へ足を踏み入れた。

600名無しリゾナント:2012/06/22(金) 21:58:49
>>587-599
『Reconstructed Resonantor 〜箱庭の少女たち〜』です
リゾスレと910期の融合を真面目に考えたらこんな形になりました

=====
以上を、スレの間が空いた時で構わないので代理投稿お願いします
一度で投稿できない場合は>>591までを前半として二回に分けてくださるとありがたいです

601名無しリゾナント:2012/06/23(土) 19:04:58
すみません上がってるの気付いてませんでしたが…すごくおもしろい…!
めちゃくちゃゾクリときました
まだもし上がっていなければ今夜にでも代理します

602名無しリゾナント:2012/06/23(土) 23:04:28
代理と感想ありがとうございます

603名無し募集中。。。:2012/06/26(火) 03:15:32
>>385-389 の続き。

 「かのんちゃんも気付いたんだよね、あの不気味な"音"」
 「りほちゃんも分かったの?」
 「あの"音"の正体、知りたくない?」
 「待ってよ、なんでりほちゃんが分かるの?あたしと同じなの?」
 「私はかのんちゃんみたいに絶対音感は持ってないよ。
 けど、私もかのんちゃんも、『共鳴』してるから」
 「きょう、めい…?」
 「私だったら教えてあげれるよ?かのんちゃんに起こってる事」

物音を聞きつけてすぐに警備員達が近くまでやってきた。
鈴木は生徒の机よりも大きく隠れやすい教卓にまず鞘師を押しこみ
次に自分も身体をねじ込んだ。
すぐ傍の廊下では警備員の照らすライトが教室の中に侵入してくる。

 「今、物音しましたよね?」

アルバイトらしき若い男性の声。

 「念のため、中も調べてみよう」

ベテランといった感じの中年男性の声。
直後に、二人が隠れた教室のドアが開かれる。
鈴木は祈るように目を閉じ、鞘師に身体を密着させた。
懐中電灯の光は教室中を照らす。

大量の汗が体中から噴き出した。冷や汗だ。
もうダメだとなかば諦めている。と。

604名無し募集中。。。:2012/06/26(火) 03:16:27
 「何もないみたいだな、他を見に行こう」

中年男性が言って、ピシャっとドアが閉められた。
二人分の足跡がやがて遠ざかって行き、鈴木は大きく深呼吸をした。
無意識に息を止めていたらしい。同じように鞘師も息を吐いた。

 「今のは完全にアウトだと思った…」

鈴木は笑顔を引きつらせながら言う。
鞘師も予想外のことが起きてただ笑った。
すぐに出てしまわずにしばらくの間そこで隠れることにする。
ようやく気持ちも呼吸も落ち着いてきた頃になって、二人は教室を出た。

 
 「かのんちゃんなら来てくれると思ってた」
 「あんなのがずっと続くのが嫌だから行くだけだよ。出てくるのに苦労したし。
 今もほら、また耳がじくじくしてきた」
 「大丈夫、私がなんとかしてあげるよ」
 「本当は早く行きたいんだけど、このフェンスの穴を使おう」
 「え、忍び込むの?」
 「うん、かのんちゃん守ってね」
 「は?」
 「私こういうのダメだから」

周囲に十分注意を払いながらも鞘師は手を引かれ、足早に廊下を進んでいた。
月が雲に隠れたまま出てこない。闇がいっそう濃くなっていた。
非常灯の赤いランプがやけに目に入る。
鈴木は教室を出る少し前からそわそわし始め、何かを強く感じていた。
鞘師にしてみれば、その何かが問題だ。

605名無し募集中。。。:2012/06/26(火) 03:19:01


周囲に十分注意を払いながらも鞘師は手を引かれ、足早に廊下を進んでいた。
月が雲に隠れたまま出てこない。闇がいっそう濃くなっていた。
非常灯の赤いランプがやけに目に入る。
鈴木は教室を出る少し前からそわそわし始め、何かを強く感じていた。
鞘師にしてみれば、その何かが問題だ。

走る。走る。鈴木に聞こえる"音"は、闇の中で静かに啼いている。
闇の中にある"色"は、もっと色濃い闇。
闇の闇の闇の闇の闇。黒と黒と黒と黒。

 「最初から見てたって事か」

南棟の屋上。勿体ないほどの広さがある其処。
その柵の傍がぽっかりと空間が喰われた様に、【闇】になっていた。
誰かが静かに佇んでいる。
鈴木は彼女の顔に見覚えがあった。
鼻歌が聞こえたかと思うと、じくじくしていた疼きが強くなる。

 「大丈夫?」
 「これが大丈夫そうに見える?」
 「そうか、あの子自身がサブウーファーなんだよ」
 「サブ…なに?」
 「「『共鳴振動 -サブウーファー-』、低周波音って分かる?」
 「分かんないってばっ、説明はいいからなんとかしてっ」
 「…しょうがない、か」

パチンッ――

606名無し募集中。。。:2012/06/26(火) 03:24:31
奇蹟のようなヒカリが、闇夜を貫く。円形の青空が二人に注がれた。
鈴木はその光を仰ぐ。
見上げた先、細まる視線にはあるはずのない青空。
隣の鞘師の身体が白い光に包まれ、手には鞘に収まった『刀』
背中のベルトに固定された何かが重い音を鳴らす。
それら全てが、カタナだった。

 「まさか『位相空間』の内側(なか)にまで響くなんて…」

鞘師が苦い表情を見せた、頭痛はまだ疼いている。
目の前の彼女はまだ鼻歌を歌っている。人形の玩具のように。
なによりあの"音"が、何かを突き破るような恐怖を湧き立たせる。
 
その時だった。鞘師が一瞬にして、彼女との距離を失くす。
彼女の抜き放った刃がまともに顔面を捉える。
彼女の身体もろとも、真っ二つに切り裂かれた。
柔らかいものが斬れる音が生々しく、響く。

 鈴木はただ、その光景を見ていることしか出来なかった。
 鞘師のオーラの"色"と両眼に釘付けになる。鬼の様に染まった、朱の色に。

607名無し募集中。。。:2012/06/26(火) 03:29:42
以上です。ようやく何かが出て来ました。
引っ張り過ぎてもう夏になりそうですね…(汗

--------------------------------------ここまで。

いつでも構わないので、よろしくお願いします。

608名無しリゾナント:2012/06/26(火) 21:32:05
空いているみたいだから行って来ますかね

609名無しリゾナント:2012/06/26(火) 21:48:16
完了
遂に話が動き出したw
描かれてる少女たちの日常だけでも魅力的なのですが物語の根底に流れるものにも心ひかれます

610名無しさん募集中。。。:2012/06/27(水) 14:21:23
『「リゾナンター。大好き!」』

〈One ちょびっと不安で 〉

1−1
れいなは絶望した。
敵の力が分かってしまったから。
この少女は武道の達人。
それも、れいなが今まで戦った中でも最強クラスの。

様々な理由によって、リゾナンターのメンバーが大幅に入れ替わった。
高橋・新垣の離脱後は、れいな・鞘師が戦闘における「ツートップ」となっている。
この二人は、攻撃に際して特殊能力を使用していない。
れいなの強さは、天性の格闘センスと、豊富な闘いの経験とによるものだ。
また、鞘師の方は、特殊能力自体いまだに発現していない。
驚くべきことだが、これまで二人は体術だけで強力な能力者を撃退してきたのだ。
そう、これまでは…。

得意の体術勝負で敗れたことに、れいなは打ちのめされていた。
「やっぱり愛ちゃんとガキさんがおらんとダメなんかなあ…。」
れいなが弱音を吐いている。
傷ついたれいなを治療しているさゆみは、それを聞いて衝撃を受けた。
そして、事態の深刻さを思い知った。

611名無しさん募集中。。。:2012/06/27(水) 14:22:00
1−2
その少し前。
街の中心部から外れた細い道を、三人は歩いている。
さゆみは上機嫌である。欲しかった最新のノートパソコンを購入できたのだ。
れいなには、安物のサングラスで恩を着せ、まんまと荷物持ちをさせている。
「好きな食玩を一つ買ってあげるの」と誘い出した愛しの鞘師も一緒だ。
深夜の帰り道、三人はとりとめもない話をしながら歩いていた。
れいなが偽札を発見したことや、石田の唇を見る鞘師の目が妖しいことなど、
楽しいおしゃべりは尽きることが無かった。
「うわーっ、あれ、きれいやねえ。」
遠くに見える高層ビル群をれいなが指差す。
厚い雲に覆われているのか、空には月も星も見えない。
闇を背景に、摩天楼たちは自らの光でショーアップしているように美しく聳えていた。

駅から三十分も歩くと、辺りには気味が悪いほど人気が無くなった。
三人は角を曲がり、さらに寂しい通りに足を踏み入れた。
その時である。
暗闇の中から、すっと一人の少女があらわれた。
そして唐突にこう言った。
「組織に私の力を認めさせたいので、申し訳ありませんが、貴方たちを破壊します。」
この静かで丁重な挨拶が、そのまま戦闘開始の合図となった。
さゆみはその少女の雰囲気に、ちょびっとだが、拭いきれない不安を感じた。

612名無しさん募集中。。。:2012/06/27(水) 14:22:36
1−3
さゆみの不安は的中した。
数十秒後、さゆみの眼前には信じ難い光景があった。
れいなと鞘師がアスファルトに這いつくばっている。
二人の神速の攻撃は、少女にかすりもしなかった。
少女は二人の動きを完全に見切っていた。
人は誰かと戦うとき、相手に対する敵意をまとう。
少女はそのようないわゆる「殺気」を正確に感知することができた。
相手の殺気から、攻撃してくる方向・タイミングを察知してしまうのである。
そして、鍛練の賜物であろう俊敏な動きで、それらを全てかわしていく。
もちろん、れいなや鞘師にだって敵の攻撃を読むことはできる。
実戦で鍛えられた経験や洞察力は、敵の動きの分析・予測を可能にするからだ。
しかしそれは、敵の動きをある程度視認した上でのことである。
その少女は違っていた。
少女の両目は、戦いの間ずっと閉じられていた。
れいなと鞘師の二人がかりの攻撃を、殺気だけを手掛かりに、完全にかわしきる。
さらに、二人の動きの先を読み、速く重い正拳突きを急所に撃ち込んできた。
闇夜であったことが、二人には不利に、そして、その少女には有利に働いた。
そして何より少女の身体能力が、二人のそれを上回っていた。
並外れた天賦の才と、それを磨き続けた努力とが、その強さに結実していた。
また、少女には、地獄から這い上がって来たかのような凄味もあった。
少女の強烈無比な打撃を浴びた二人は思った。
勝ち目が無い、と。

613名無しさん募集中。。。:2012/06/27(水) 14:23:18
〈Two パリッと服着て 〉

2−1
さゆみは倒された二人に駆け寄り、まず比較的傷の浅い鞘師を数秒で応急処置した。
治療が終ると鞘師は立ち上がり、すぐに少女へ向かって行った。
れいなの方は重傷で、治療に数分間かかりそうだった。
そのための時間を稼ごうと、鞘師は少女を引き付けながら、二人から離れた。

さゆみは懸命にれいなを治療している。
れいなは苦痛に顔をゆがめながらも、何かを決意したようだ。
先程の弱気な口調とはうって変わって、しっかりと諭すように言った。
「さゆ。次にれいなが攻撃を仕掛けた時、鞘師を連れて逃げりぃ。
 そんでいつか…、あの子らと一緒にあいつにリベンジして…。
あの子らは、絶対にれいなたちより強くなるけん…。」
れいなの言葉に、さゆみは何も答えられなかった。
ただ、目頭の透明な水塊がみるみる大きくなり、零れ落ちそうになっていた。

鞘師は、少女の前に立っていた。
目の前の敵を睨みつけながら、自分が着ている洋服の襟に触れた。
その服は、上京したばかりの頃、着替えが無かった鞘師にれいながくれたもの。
鞘師がそれまで着ていた服は、家の人が選んでくれた、子供っぽいものばかりだった。
少しヤンキーっぽくても、れいなのお下がりの服は、パリッとお洒落なものに感じた。
鞘師はその時の喜びを思い出し、心の中でれいなに誓った。
「田中さん…、田中さんが来るまで絶対に持ちこたえます。
田中さんのように、私は…、どんな場面でも…、逃げない!」

614名無しさん募集中。。。:2012/06/27(水) 14:24:07
2−2
「うわああっ!」
乱暴な子供に放り投げられた縫いぐるみのように、鞘師が二人の方に飛ばされてきた。
そして、道路脇の自動販売機に背中をぶつけ、座ったような姿勢になって、止まった。
鞘師が小さな顔を上げて二人に謝る。
「すみません…。時間…、あまり稼げませんでした…。」
目の光は死んでいなかったが、四肢はもう動かない。
そこへ、鞘師に止めを刺そうと少女が矢のような速さで走って来た。
「りほりほっ!」
さゆみがれいなの治療を中断し、鞘師の方へ無意識に駆け出す。
「うっ!」「きゃあっ!」
二人は鞘師の目の前で激突した。
鞘師を案ずる余り無心で飛び出してきたさゆみに、少女は全く気付いていなかった。
結果、さゆみが少女へ体当たりをくらわせた格好となった。
それは、その夜その少女に初めて当たった攻撃だった。
少女はもんどりうって転倒する。さゆみも大きく弾き飛ばされた。
その光景を、鞘師は見ていた。
節電中とはいえ、後ろの自動販売機の光は、視界をほんのり明るくしてくれていた。
鞘師は途切れそうな意識を必死に保ち、冷静に目の前で起こったことを分析した。
そして、一筋の光明を見出した。

615名無しさん募集中。。。:2012/06/27(水) 14:28:02
2−3
「さゆっ!」れいなが足を引きずりながら、さゆみのもとへ向かう。
そして、さゆみの横にひざまずき、上体を抱き起こす。
少女は立ち上がりつつそれを見ていた。そして、標的を鞘師かられいなに変えた。
れいなは少女を睨みつける。滅多にかかない汗が頬を伝っているのを感じた。
少女は目を閉じ、必殺の一撃を放つべくれいなのまとう殺気を捉える。
(ちくしょー……、二人を守れんかった…。) 
(やっぱりさゆみにはリーダーなんて無理だったのかな…。)
れいなとさゆみは同時に思った。
((みんな、ごめん…))
その時、鞘師が叫んだ。
「待てえ!自分の力を証明したいんなら、最強の能力者を倒せばええじゃろう!」
少女が目を開ける。
「…最強?」
「そうじゃ…。その人は、高橋さんも新垣さんも、田中さんもいっぺんに倒した!」
少女は鞘師の方へすっと顔を向けた。
「…リゾナンターを壊滅寸前まで追い詰めた能力者がいたと聞いたことがありますが…
 しかし、その能力者はもうこの世にいないのでは?」
「いや…、まだ生きておる…、あの人の『中』に…。」
鞘師は、れいなの腕の中の「あの人」に目を向けた。
れいなとさゆみは思った。
(まさかさえみさんのことをいっとると!?さえみさんはもうおらんとよ!)
(お姉ちゃんは…、お姉ちゃんはあの日…、えりが…。)
二人はただ鞘師を見つめるしかなかった。

616名無しさん募集中。。。:2012/06/27(水) 14:28:38
〈Three もちょっと我慢ね 〉

3−1
二人の思いを知ってか知らずか、鞘師は続ける。
「その人が目覚めたら、誰にも止められん…。おそらくダークネスにも…」
「……いいでしょう。
最強の能力者を破壊できたら、組織からの評価も上がるはず。
 その人をすぐに目覚めさせて下さい。」
「それにはあんたにも協力してもらわんといけん。」
そう言うと鞘師は、少女の方を向いてから、自分の背後の方へ視線を移す。
そこには一台の自動販売機…。
「…鞘師!?」
鞘師の狙いに気付いたれいなの顔が一瞬にして蒼白となる。
「田中さん…、これから大変なことになりますが、ちょっと我慢して下さい…。」
「が、我慢って…。」
れいなはそれ以上声が出なかった。
一方、さゆみにはまだ鞘師の狙いが掴めていない。
そんなさゆみを複雑な思いで見つめながら、鞘師はれいなに告げた。
「目覚めさせましょう…。あの……、悪魔を……。」

617名無しさん募集中。。。:2012/06/27(水) 14:29:11
3−2
鞘師の提案を受け入れた少女は、震えるれいなの腕の中からさゆみを引き離した。
そして鞘師の指示通りに、さゆみにあるものを飲ませた。
すなわち、少女は、自らの手で「最強の能力者」を目覚めさせてしまったのだ。
それが少女(たち)にとって惨劇の幕開けとなった。

勝負は、実にあっけなくついた。
ゆらりと立ち上がったさゆみと対峙した少女は、愕然とした。
「動きが全く読めない…。」
目覚めた悪魔に殺気は無かった。あるのは、純粋な「欲望」のみ。
「好きだな、ロリが!」「触りたーい!」「ムシャムシャしたい!」
そのような異常な欲望を感知する術は、武道の修行では習得できなかった。
少女は何の防御もできず、懐に入られ、抱きしめられ、弄ばれた。
不幸にも、着ていた黄色いTシャツや、程よく筋肉質な肢体が欲望に拍車をかけた。
それらは(鞘師の読み通り、)さゆみの脳裏に、ある人物の体を思い出させていた。
最高潮に萌え盛ったピンク色の欲望の炎が、少女の全てを舐め尽くす。
幼時から武道に全てを捧げてきた少女にとって、その愛撫は致死量の劇薬だった。
少女の精神は、初めて体験した屈辱と恍惚によって完全に崩壊してしまった。
悪魔は二本の指を立てた両手の甲を、自分の額の両端につける。
「イエエェッス!!うぅさちゃあーんっ!ぴいいーーーーーーーーーーーっす!!」
こみ上げてきた何かを噴出するような咆哮が、夜空に響き渡った。
悪魔の両目からはピンクの光線が放たれている。
その光線が、サーチライトのように、ゆっくりと次の哀れな獲物をとらえた。
「ひいいっ!さゆが…、さゆが、こっち向きようっ!」
れいなは再び絶望した。

618名無しさん募集中。。。:2012/06/27(水) 14:30:10
3−3
それからしばらく後。
三人の身を案じた譜久村たちがようやく駆けつけた。
七人はまず仰向けに倒れている一人の少女を見つけた。
黄色いTシャツは少しはだけ、スカートも若干ズレ下がっている。
焦点の合わない視線は、いつの間にか雲が消えて月が輝く夜空に向けられている。
口の周りには大量の唾液がついており、なぜかそれは甘いアルコールの匂いがした。
少女には、それを拭い取る体力も気力も残っていないようだった。

「たなさたーん!」
佐藤が突然走り出す。その先にれいなが倒れていた。
特に怪我はなさそうだが意識はなく、少女と同様に服装が乱れていた。
工藤がれいなにすがりつき、わんわんと低い声で泣き出す。
一方佐藤は、お薬のつもりなのか、不味そうな白い飴玉をれいなの口に次々詰め込む。
譜久村たちがさらに辺りを見回すと、何者かに破壊された自動販売機があった。
そして、そのすぐ近くに、気を失っている鞘師が見つかった。
手足はパソコンのコードのようなもので縛られている。服装の乱れはれいな以上だ。
しかし、その表情はどこか満足げにも見える。
腕は折り曲げられていて、胸の前にある両手が服の襟を握りしめていた。
「怪我は無いようです。…それにしても鞘師さん、萌えですねぇ!ハウーーンッ!」
縛られている姿を見て興奮したのか、飯窪が奇妙なポーズをとりながら高音で叫んだ。
一方石田は、自動販売機からこぼれ落ちた硬貨の山を、嬉しそうに凝視している。
「ねえ!今日すごく調子がいいー!上手くなーい?ねえ!何でみんな無視するとー?」
生田はそう言いながら、なぜか狂ったようにハンドスプリングを続けている。
その生田の足に当たり、缶チューハイの空き缶が音を立てて側溝に転がっていった。

619名無しさん募集中。。。:2012/06/27(水) 14:30:47
〈Endingでーす!〉

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛――!」
突然、嬌声とも嗚咽ともつかない声が響いた。
鈴木は、その声が発せられた方向を見た。
「聖ちゃあん!道重さん、見つかったの?」
譜久村は哭きながら、倒れている女性の脇腹辺りに頭を押し付けている。
譜久村が何をしたいのか、鈴木には全く分からない。
近付いて見てみると、その女性はやはり道重さゆみだった。
少しお酒の香りを漂わせ、満ち足りた表情でスヤスヤ眠っている。
鈴木は、三人が見つかったことにとりあえず安堵した。
と同時に、仲間達が繰り広げる異様な光景を前にして、改めて不安になった。
(こんなに自由なメンバーばっかりで、これから大丈夫なのかなあ…。)
そう考えながらさゆみの寝顔を見ていると、その唇がかすかに動き出した。
何やら寝言を言っている。ただしその声は、常人には聞こえないほど小さい。
しかし、鈴木は、確かにその言葉を聞き取った。
それは、新垣がリゾナンターを去る時に残していった、あの言葉だった。
鈴木は何だか嬉しくなり、新米リーダーに向かってこうつぶやいた。
「道重さん、私もです。みんなもきっとそうだと思います。
みんながそう思っていれば、どんなことがあっても絶対に乗り越えられますよね!」
ふと顔をあげると、東の空がかすかに明るさを帯びていた。

―おしまい―
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

620名無しさん募集中。。。:2012/06/27(水) 14:34:52
以上、『「リゾナンター。大好き」』でした。
初投稿です。
皆さんの力作・大作と違い、内容が浅くてお恥ずかしいのですが、
「どんな場面でも逃げない」ということで勇気を出して投稿しました。
ちなみに「少女」のモデルは、(仮)の破壊王です。

===========================
>>610からここまでです。
 お好きなところで分割していただいても構いません。
 お手数おかけしますがよろしくお願いします。

621名無しリゾナント:2012/06/27(水) 19:03:22
>>620
代理しときました
ピンクの悪魔こわいw

622名無しさん募集中。。。:2012/06/27(水) 21:24:11
>>610-620を投稿した者です
621さん、早速の代理投稿ありがとうございました
感想のレスを読めてすごく嬉しいです!
書いてる時も楽しかったし、
改めて「リゾナンター。大好き!」と思いました

623名無しさん募集中。。。:2012/06/29(金) 03:56:40
>>576-579 の続き。

先ほど鞘師が真っ二つにした彼女は、あのいじめっ子のリーダー格だった。
だが雰囲気がまるで違う。
耳障りな鼻歌が頭にこびりついているが、まるで中身が別物の人形のようで。
"色"がまるでない。
しかも上から有り得ない青空の光が降り注いでいるというのに、彼女の周り
は何ものも一切寄せ付けないほど闇に満ちている。
コールタールのようにベットリと、まるで、血液を全て流し落としてしまったように。
 
 【グゲエエエエアアアァアアアァ!!】

鼻歌が止み、身体を曲げた状態で奇声を発する彼女に【闇】が映る、鬱る。
歪が大きくなっていた。
そして身体がまるで喰われるように呑み込まれる。
真っ二つになったはずの少女の口からは、下品で不気味な笑い声を上げていた。

げらげらげらげらげらげらげらげら。
ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ。
げらげらげらげらげらげらげらげら。

呼応するように真っ二つにされた身体が分離して三つへ。
首の根元から別々の顔が浮き出てくるように生えてきたのだ。

 「うぇっ…」

最早見られるものじゃなかった。
言葉にするのもおぞましい物体が、今鈴木の目の前に在る。
確認できても三人分の身体。
まるでつぎはぎだらけの大樹のよう。

624名無しさん募集中。。。:2012/06/29(金) 03:57:47
ミシミシと音を立て軋みながら、水蒸気の様な煙を吐いている。
何処かの恐怖映画でもこんな過激な演出をするだろうか。
うねうねと動く幹のような腕が不気味さを増す。

 「かのんちゃん、あれが人間の悪意が【闇】に呑まれた姿じゃ。
 そうして"狂鳴"した者を【ダークネス】って呼ばれてる」

悪。悪とはなんだ?悪というのはあんなにも醜くて、悲しいモノなのか。

 「かのんちゃんはあまり直視しない方がいい。逆に呑まれる」

"色"の中で黒は恐怖の他にも不安や、悲哀を思い付かされる。
鈴木は異様な寂しさにかられ、頭をかかえて叫ぶ。

 「分かんないよ、意味分かんないってりほちゃん。
 私バカだからさ、頭悪いから、これが現実なのか、夢なのか…」
 「…現実だよ」
 「あれが現実だっていうの?いじめられてた子が可哀想だって思ってた。
 でもやっぱりなんか…ダメだよ、こんなのおかしいって」
 「いじめてた事実は変わらないよ。そうして生まれた悪意をあれは
 狙って襲って、自分の力に変えるんだ。狙われたら私達にはどうすることも出来ない」
 「どうしてそんな風に思えるのさ」

"あれ"を目の前にして、動揺すら見せず、逆に恨んでるように。

 「…ずっと、戦ってきたから」

625名無しさん募集中。。。:2012/06/29(金) 03:58:21
鞘師は持っていた刃で襲いかかってきた木の根のような触手を一閃。
背中のベルトに収まっていた鞘から刃を抜き取り、斬り落とす。
次々と斬り落とす、斬って、斬って、斬って、斬る。何本もの刃を突き立てる。
大樹が後ずさりする度にフェンスがひしゃげていく。

 オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ。

大樹が啼いた。泣いた。泣いている、彼女達が、泣いている。
誰か、ねぇねぇ誰か。
鞘師の刃が、最後の一撃を喰らわせようと振り下ろされた。

 「「イヤアアアアァァアア!!」」

鈴木がまるで大樹と同調するように絶叫した。
鞘師の光と波動が辺り一帯を呑み込み、弾ける。
それと同時に、崩れていく大樹のバケモノが爆発し、フェンスごと弾け飛んだ。
体内から飛び出したのは小さな球体が三つ。

 「ごめんね、かのんちゃん。巻きこんだりして」
 
それを手のひらに乗せる鞘師は、冷たい表情をしている。
まるでそれになんの感情も抱いていないように。

鈴木に対して謝ったときだけ、鞘師は泣きそうな表情を浮かべた。
それを最後に、意識は途絶えた。

626名無しさん募集中。。。:2012/06/29(金) 03:58:53
 ―― 夢を、見る。

それは過去なのか、未来なのか、今なのか。
曖昧で、不明瞭で、でも事実のような、不思議な感覚。
ただ、自分の記憶にないことだけは確かで。
酷く、現実味を帯びない。
だからこれは、夢だ。微かに聞こえる誰かの声に、耳を傾ける。

627名無しさん募集中。。。:2012/06/29(金) 04:07:43
以上です。
話の流れでまた再登場してもらったんですが、酷い扱いに…。
新しい作者さんの作品 >>604 もレベルが高くて
とても楽しませてもらいました。

ガス会社とか酷く懐かしい…w
--------------------------------ここまで。

なかなか話が進まない…。
いつでも構わないので、よろしくお願いします(平伏

628名無しさん募集中。。。:2012/06/29(金) 10:56:47
規制に巻き込まれたみたいです。
申し訳ないのですが代理投稿よろしくお願いしますm(_ _)m



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