色々なことがあったものの、平和裡に収まってみれば司令と藍華は大の仲良し。
デルモ・コーポレーションが軌道に乗り、仕事にも多少の余裕が出来るようになってからは
ふたり、週一ペースでカラオケボックスに通うほどである。そのレパートリーも中々広く、
慕情たっぷりの演歌から元ちとせ、バックストリートボーイズ、ブリトニー・スピアーズ、
tATuに至るまで何でもこい。今日もご機嫌上々にブリトニーの「Baby One More Time」で
盛上る。
…My loneliness is killing me
I must confess I still believe
When I'm not with you I lose my mind
Give me a sign
Hit me baby one more time…
ここで司令が悪戯っぽく笑う。
「Hit me baby はいいけど、もう、Knock me outはこりごりよ♪わかってる?」
藍華も爽やかな笑顔満面。「でもホントのところは
I lose my mind without your punch in my bellyなんじゃないの〜?」
横に立つ司令のお腹に軽く拳をあてる。「あぅ…」少し呻き声が洩れるのもご愛嬌。
悶絶というより悦楽の表情を湛えている司令である。これも今や、阿吽の呼吸を通り越し、
文字通り裸の付き合いをするふたりなればこそのじゃれあいか。時たま力の加減を失敗し
司令が気絶することになっても、ソファに眠る彼女に向かい延々ひとりで歌い続ける
というのだから、藍華も只々堂に入ったものというしかない。間奏の合間、気を失い半開き
となっている司令の口元へ唇を重ねる藍華。ボックスの怪しげなカクテルライトに
照らされながら、この濃厚な空間一体どこまで凝縮されるのだろうか…当の二人にも
わからない、ひと夏の一日なのである…。