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繰り返される悪夢【長編】

95よこせう:2004/05/27(木) 00:24 ID:IONwpDkM
No:34

男、桂弘典は足取り軽やかに千裕に迫ってきた。千裕は軽くうめくと、少し、ほんの少し後ずさった。
その様子を見て、不気味に笑う弘典が少し低い声で尋ねてきた。
「おやおや、どうしましたか?私は貴方の味方ですよ」
その姿、その声、そして、手に持っている拳銃。どれをとっても千裕をおののかせる。
こういうにこにこした奴には結構裏があるもんだ。剥がしてやろう、化けの皮を―――

「上杉君?唐突ながら貴方、私と脱出の方法を一緒に考えませんか?」
来た。先手は奴の方から打って来た。こうやって油断させる。だいたいわかる。
無表情で答えた。「脱出?そんな事出来るのか・・・?」
出来る筈が無い(いや、こいつとなら出来ないが他の連中と組めば・・・)と思いつつ、とりあえず返答。
弘典、いや、その眼鏡を掛け、長身だった事から、【兄さん】の異名を持つ男、は、
今にも顔中からほとばしりそうな笑顔で―――「もちろん!」と答えた。胸くそ悪ぃ。
「できますよ、私と貴方が組めば、楽勝です。政府の連中の眼を眩ませる事だって―――」
「ほぅ」と小さく頷いた。そして考える振りをする。これからの作戦を決めるための時間稼ぎ。
考えている振りをしていると、【兄さん】が「ねっ!できますよ!」とか何だの話し掛けて来る。
うざったい。
出来る事なら今すぐ手に持つ拳銃、ワルサーPPKで蜂の巣にしたい所だ、が、しかし。
―――そりゃまずいだろう。

それより、この気温、はたまた【兄さん】の暑苦しさで汗が沸いて出てくる。
それを濡れたYシャツの袖で拭う。いつしか汗だくの自分。それを見て―――
「上杉君、これを使いなさい」
驚いた事に【兄さん】が進んでMyタオルを貸してくれた。
「ほら、修学旅行でも、一応持っておいた方が良かったでしょ・・・・・・」
ありがたいと思い、千裕は軽く頭を下げると(横から兄さんのいえいえ、という謙遜の声が聞こえてくる)、
素早くそれを受け取った。それで顔の汗を拭おうとした、が、しかし。
止めた。そして汗を拭く振りをすると、それを【兄さん】の手元に返した。
何事もなかったので、【兄さん】は首を傾げていた。

直後、千裕がPPKを対峙する【兄さん】の顔面に向けて構えた。
【兄さん】はひっ、と呻き声をあげると、すぐさま手を挙げた。
「何をするんです!その銃を下ろしてください!」
千裕は無表情にせせら笑った。【兄さん】の顔が悔しさに歪む。
「貴様、俺にこんなタオルで汗を拭けというのか・・・・・・?」
【兄さん】の顔が一瞬、めちゃくちゃに壊れた様な感じがした。それほど、ショック。
「それじゃああんた、このタオルで顔を拭いてくれよ。あぁ?できねぇだろ。
 そりゃそうだな、だってこのタオルには、麻酔薬がかかってんだからよ」
その一言で【兄さん】の額から汗が瞬く間に噴出して来た。
「おい、俺を眠らせて殺そうとするのはよしな。殺すぞ」
完全にきていた。【兄さん】は涙目になると、両手を地面につけて、土下座した。
そして、悲痛なごめんなさいの連呼が延々続いた。
流石にこれは謝りすぎだ。っていうか声が大きすぎて周りの連中に気付かれる。
「わかった、わかった。そんじゃあ今回は見逃してやる。だが、次出会った時は容赦はしない」
ハイ!と小学校低学年の様な返事が返ってきた。それだけ聞くと、後ろを向いて走り去った。

いや、実際には走り去ろうとした。何故なら、後ろを向いた瞬間、撃鉄を起こす音が聞こえたから。
そして、ぱん、という鼓膜を一直線に突き破ろうとする音。そして、眼の前を猛スピードで通過する弾丸。
またもや汗が滞りなく出てくる。後ろを向いた。当然、拳銃を構えた【兄さん】。
「ふざけんなよ・・・調子に乗れば・・・・・・」
【兄さん】の顔にはもう笑顔の一欠けらもなく、憎悪だけが彼を支配していた。

【残り43人】


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