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創発シェアワスレクロス企画(仮)

59名無しさん@避難中:2011/11/06(日) 11:57:03 ID:V4TU3uUg0
みんつくは世界観をごっちゃにした小話が結構数投下されてますね

どうも最後は戦争になる話が多いきもしますがきっとあのスレの芸風だからしょうがないw

60名無しさん@避難中:2011/11/06(日) 12:57:07 ID:jcaDy8MQO
殺し合い強制のないロワスレっぽい感じで落ち着きそう……かな?

反対意見ある人もいるでしょ。今のうちに言っとくべき。

たとえば非戦闘員が割りを食わないように考えないとな。

61 ◆EHFtm42Ck2:2011/11/06(日) 13:30:50 ID:inE5p5xs0
あれ…? >>56ってロワっぽいですかね?
シェア杯戦争(仮)だとロワっぽい、つーか実質ロワですが、これはそうでも
ないと思ったんですが…

でもおっしゃる通り、何かしら反対意見があればぜひ言ってもらいたいです。

62名無しさん@避難中:2011/11/06(日) 14:08:30 ID:jcaDy8MQO
書く方の感覚としては近いと思う。ごちゃ混ぜ感が。
リレーでも殺し合いでもないけど。

63名無しさん@避難中:2011/11/06(日) 14:31:53 ID:8evqp4psO
自分もだいたい>>56なことを考えてました。
書き手の得意ジャンルも活かせるし、目的が「異常事態から元に戻ること」だからわかりやすいじ、目標を共有しやすい。

64 ◆G9YgWqpN7Y:2011/11/06(日) 17:47:38 ID:C14auILw0
皆、意思表示をしているようなので。
とりあえず仁科の自分のキャラOKです
大型台、中型那賀、小型省、神柚鈴絵、真田ウェルチ、真田アリス 他

後、チェンジリングの◆W20/vpg05I鳥で書いてるキャラもOKです。
加藤陸、加藤時雨、加賀玲菜、春日居美柑、樹下楓
ザイヤ、狭霧アヤメ、桜香織 他

参加は……ちょっと連載している分で手一杯なので難しいと思います。

65 ◆wHsYL8cZCc:2011/11/06(日) 17:50:43 ID:aKVhwXKw0
仁科のみんな来てるので便乗w

仁科の黒鉄兄妹、ふーちゃん、アゲル一派ともども全部おkです。
覚えてる人も居ないかと思いますがみんつくのクリーヴもおkですw

66名無しさん@避難中:2011/11/06(日) 17:54:15 ID:jcaDy8MQO
仁科の参加率は異常w

67名無しさん@避難中:2011/11/06(日) 18:00:10 ID:QCfLrSeY0
>>66
人口増やすチャンスだからなw

68 ◆EHFtm42Ck2:2011/11/06(日) 19:41:34 ID:inE5p5xs0
結構キャラの参加率は増えますねwありがたいですが。割合的にはケモキャラが少ないかな?
しかし内容自体は>>56土台でいいんですかね…?
若干気になるのが、キャラ使用許可は順調に増えてるけど実際書こうと思ってる
作者さんがどれくらいいるかなんですが。

69名無しさん@避難中:2011/11/06(日) 19:51:18 ID:jcaDy8MQO
投下までは約束できないが、書く気はあるよ。
誰も書いてくれないから自分で書く、いつものパターン。
でもまずはメンバーが集まってから考える。

70わんこ ◆TC02kfS2Q2:2011/11/06(日) 22:38:45 ID:.uK1Ks.U0
企画のプレゼンというか、プロトタイプ版というか、創作欲を抑えきれずに実験作を書いてしまいました。
チェンジリング・デイのリンドウさんと霧裂=ルローさんをお借りして、ウチの子との共演ってことで。
「リンドウ編」を読んだ勢いで書いたので、つっこみどころ満載でしょうがお許しを。

い、いや!文章で提案するの苦手だから、見えるかたちでお見せしたほうがいいかなあって。
「勝手にこんなん書いたけど、こげん感じでよかですか?」ってことで片隅において頂いて、企画会議は企画会議で続けて頂いて……。

投下します。

71( ◆TC02kfS2Q2:2011/11/06(日) 22:39:19 ID:.uK1Ks.U0

 因幡リオがここまで遅く学校に残っていたのは初めてだった。
 ぱんぱんっとカーディガンを叩き、目をぱちくりさせながらメガネを掛け直す。ショートの髪の毛をいじり直す。
こんな世界は初めてだった。光も届かない、まるで飲み込まれたかのような夜の学校はリオとは初対面であった。
 とにかく早く家に帰ろう。目がうつろなまま立ち上がると、少し立ちくらみがした。机の上に置いた本を片付ける。
 周囲を気にしながら、すでに闇に包まれた化学準備室を後にする。古い扉の音を立てないようにしっかりと取っ手を握り、
ゆっくりと滑車を転がしながら慎重に開ける。きょろきょろと廊下に誰もいないことを確認すると、元の通りに扉を閉めた。

 「誰にも見つかりませんように」

 彼女は学校の風紀委員長を勤めている。学校では『真面目のまー子』で通じているメガネっ娘だ。
 そんなリオが下校時間をとっくに過ぎたのに、教室に居残っていたなんて生徒に知られたら風紀委員長の沽券に関わる。

 「ごめんなさい、ごめんなさい……」

 その日みなが帰った放課後、暖かいからとひとり化学準備室で読書に耽っていた。
 書店のカバーが真新しく、インクのかおり香ばしい、最新刊のラノベを床がきしむ部屋で捲る。ここはリオにとって放課後を
ゆっくりくつろげる場所だった。無論、他の生徒が使用しても構わないのだが、不思議とこの日は誰も来なかった。
リオはそのことを気にしてはいない。居心地が良すぎて船漕いで、リオが目覚めた頃には夜のとばりが降りていたのだった。

 「とりあえず、職員室に行こう。先生たちなら事情を分かってくれるし、先生たちからなら怒られてもわたし……構わないし」

 化学準備室の扉の鍵を閉めてもらうために、職員室に向かいながら居眠りするまで読んでいたラノベのことを思い出していた。
 自分も何か能力を使えればいいのに、世界を相手にひとり闘っちゃったり、でもリオはただのウサギ。リオはただの女子高生。
ラノベの中からリアルへと引き戻される瞬間はいつも寂しい。のめり込んだ本の残りページが少なくなって、キャラたちとは
もう二度と会えないのか、それとも続編の決定で再会できるのか……。一人の本読みであるリオのいつも思うところであった。
 この世に『厨ニ病』という病があってよかった!とラノベをしのばせた学生カバンを握る。

 薄暗い廊下に響く上履きの足音、ガラス戸を鳴らす風、大きな爆音、冷えてきた空気、そして木目の匂い。

 「え?何?」

 ウサギの長い耳は聞き逃さない。
 確か階段の方。みしみしと手すりがぶら下がる音さえも分かる。
 職員室に駆け込むより、リオは現場に向かうことが何故か頭によぎった。何人も風紀を乱すことは許さない。
 スカートがめくれたって構わないし、ぱんつが見えちゃっても仕方が無い。だって、わたしは風紀委員長だし。
 リオが爆音がしたであろう場所にたどり着くと、ほこりが舞う匂いがリオの鼻を突いた。ウサギの毛並みが汚れることを
気にしながら飛び散った手すりの破片を拾い上げると、ものすごい力で飛ばされたことが壊れ具合で素人目にでも分かった。

72(ぷろとたいぷ版) ◆TC02kfS2Q2:2011/11/06(日) 22:40:14 ID:.uK1Ks.U0

 「にゃっ、にゃっ、にゃっ」

 どこからか、ネコの声が闇に響く。
 リオの通う学校ではイヌ、ネコをはじめ、ウサギ、ウマ、カマキリと多種多様な種族が通っている。
だからと言ってネコの声がこんな時間にするのも不自然だし、こんな声を出すこともおかしい。

 「誰?」
 
 リオが恐る恐る階段を登る。いつも歩きなれた場所も時が変われば不安な空気がまとわり付く。
一段、二段、三段と登るといきなり背後に冷たい感覚がした。一瞬のことなのでよく分からない。

 「誰?誰?誰?」

 踵を返したリオが目にしたのはネコの少女だった。しかし、ここの学校の者ではないとリオの第六感が騒ぎ立てる。
寝巻きのようなネコ耳フード、後姿ながら印象に残る姿。あたりが薄暗いので色までは良く分からない。

 「初めての場所なのに釣れちゃったにゃ!」
 「え?何?何?」
 「とにかくいっしょに来るのが最善にゃ!」

 ネコ耳の娘は階段から走り去り、リオは彼女を何も考えずに追いかけた。手すりの破片が蹴り飛ばされる。
 真っ暗な廊下に足音が響き、ネコ耳のあとを追いかけると渡り廊下を駆け抜けて職員室のある棟へと入った。
まるでその棟に吸い込まれるように、迷いもなくネコ耳は四つの脚で駆け抜ける。尻尾が面白いように舵を取る。
 リオもぱたぱたとカバンを振り回しながら、『廊下を走るな』のポスターを横目に追いかける。

 (どうしてこの子、ウチの学校の造りを知ってるの?)
 
 リオの疑問に答える価値はそのときはなかった。目の前で起きていることだけを信じればよい。
 職員室が真っ暗なことを受け入れ、消火栓の赤い灯だけが浮かび上がることに安心し、保健室の窓が明るいことに否定はしない。

 (え?誰かいるの?)

73(ぷろとたいぷ版) ◆TC02kfS2Q2:2011/11/06(日) 22:40:39 ID:.uK1Ks.U0
 ネコ耳が保健室の扉を開けて飛び込んだので、リオも後に続くと見慣れぬ女が丸イスを欲しい侭にしていた。
髪は長くメガネを掛けているが、リオのしているような平凡なものとは違い瓶底レンズが印象的だった。
白衣姿だと言う点では保健室にいても違わないが、彼女はここの保健医ではない。しかし、瓶底メガネは保健室に馴染んで
痒いところまで手が届くぐらいな処置が出来そうなほど自然にその場にいたのだった。
 カバンを一層握り締めながらリオが二人を凝視していると、ネコ耳が瓶底メガネに何かを話していた。

 「日が射したら、早速開始だにゃ」
 「ええ。『ありとあらゆる薬を作る能力』……、それを実現するにはもってこいの部屋だわ」
 「そうですにゃ」
 「生成した注射液を希釈する生理食塩水にブドウ糖液、消毒用のオキシドール、そして注射針……至れり尽くせりっ」
 「しかし、うちら……どうなっちゃうんでしょうか?いきなりこんな世界にきちゃってにゃ。もー、闘っちゃうにゃ!」
 
 『能力』?『世界』?『闘っちゃう』?
 リオはまるでラノベのセリフがリアルに繰り出される戸惑いを隠せずにいたが、二人に思い切って話しかけてみることにした。
 瓶底メガネが脚を組みなおして冷静に答える。こうしてみると結構美人だ。

 「ごめんなさい。わたしにもわからない」
 「そうですか」
 「でも、わたしたちが自分の世界に帰る方法はあると信じている。だから……あなた、協力してくれないかしら」
 「そう。世界がうちらでは太刀打ちできない力で廻り始めたにゃ。でも人が歴史を作り、世界を育み、闘ってきたにゃ」
 「そして、ケモノはケモノで大地を支配してきたの。分かるよね?ウサギさん」

 ラノベのような展開にリオが「ひんっ」と、声をあげる。
 何が起こっているのか分からないけど、とにかく何かをしなければ……。リオは黙って首を立てに振った。
瓶底メガネは長い髪の毛先で遊んでいるのを辞めて、すっと立ち上がり、リオの前に立った。

 「勝手にこの部屋を使ってごめんね。わたしはリンドウ」
 「うちは霧裂=ルロー。ルローでいいにゃ」

 ネコ耳は少女の輝きを取り戻し、赤い髪の毛をぶんと振っていた。

 「わ、わたしは因幡リオです」

 風紀委員長であるリオはとりあえず、爆破された階段の手すりをどう明日教師に報告しようかと悩みながら、リンドウの手を握った。

74わんこ ◆TC02kfS2Q2:2011/11/06(日) 22:42:25 ID:.uK1Ks.U0
失礼ーっ。こんな感じの企画って受け取ってよかですか?

実験作、投下おわりです。

75名無しさん@避難中:2011/11/06(日) 22:58:53 ID:VSphnpH20
ペロペロ

おっと。

76ペロペロペロペロ!:2011/11/06(日) 23:06:40 ID:VSphnpH20
ケモ×チェンジリングか……
リオちゃんかわええのう(●´ω`●)
投下乙だぜ。

77名無しさん@避難中:2011/11/07(月) 19:03:57 ID:WHfay1j60
投下乙。筆が速いねー。
そして、まったく、ウサギ耳少女は最高だぜ!

読んでてひとつ思ったのは、
各世界の特異な設定をSSの中にどう入れていくべきか
ってことなんだが……。まあ、個人個人で考えればいいか。

78名無しさん@避難中:2011/11/07(月) 19:56:03 ID:g5H1cLoM0
おお、乙です
こんな感じでやればいいのかなあと、なんとなく雰囲気を感じとりました

読んでて実は漂流教室していたよ落ちとか考えてしまったw

79名無しさん@避難中:2011/11/07(月) 22:22:23 ID:4hlr0uPM0
早速の投下乙です!
やっぱり実際に作品にして示してもらえると、雰囲気つかみやすいですね

80 ◆EHFtm42Ck2:2011/11/07(月) 22:47:12 ID:oAxvUcsY0
さて実験作の投下もしていただいたところで、ちょっと意見を募ろうかと思いますよ。
一応今のところ>>56のような感じで行こうかと考えていますが、この内容だったら
書いてやってもいい、書きたい、暇なら書くかもって書き手さん手を挙げてくださいな。
わんこさんがすでに>>56土台で書いてくれたのかはわかりませんが、まさに>>71-73のようなノリです。

逆に、ここをこうしてくれたら書きたい、そもそももっと違うこんな内容なら書き
たいかも、という書き手さんは、改善点とか対案をください。
まあそもそも>>56は明らかに未完成な部分があるので、そこについては一緒に考えて
ほしいと思いますw

81名無しさん@避難中:2011/11/07(月) 23:10:14 ID:WHfay1j60
うはwww携帯電話を職場に忘れた携帯厨とか俺生きる価値ナスwww


俺は異議なし。トリはいいだろ。

82月下の人 ◆WXsIGoeOag:2011/11/08(火) 00:02:04 ID:teUuM5q2O
意義なしです

あとごめんなさい
ちょっと色々あって更新止まっちゃってて参加もできそうにないですが
チェンジリングの陽太とか晶とか気が向いたら使ってやってください

83名無しさん@避難中:2011/11/08(火) 02:16:09 ID:Wn28jEe20
大根キター!

84わんこ ◆TC02kfS2Q2:2011/11/08(火) 19:38:39 ID:KmGro3/Q0
>>80
ヒマとネタがあれば書きたいです。
実験作は>>56を土台に書いてみました。キャラ全員がというより、街・世界全体が異空間に飛ばされる。

企画のスタートはチェンジリングデイの隕石墜落のように一つの衝撃的な「序章」があれば
後は書き手・描き手がそれぞれ創作…って風なのでしょうかね。

85 ◆Lzp0ByQK6o:2011/11/09(水) 16:45:29 ID:bRJ35TqI0
てす

この場ですまん

86名無しさん@避難中:2011/11/09(水) 18:25:53 ID:D5dFAk66O
導入話は欲しいな。

世界を元に戻そうとするグループについては、最初は少人数で、
核心に迫っていくとともにだんだん纏まっていくことになると思うんだが、
そのへんも話し合わないとな。

それぞれのキャラが混ざった世界でどういうスタンスを取るかってのは作者と相談するべきか。

87名無しさん@避難中:2011/11/09(水) 19:26:39 ID:PGujNRu20
話し合いより、作品で語った方が企画は進むと思うけどなあ。つまり、とにかく作品を短くてもいいからどんどん投下しようぜ!って。
作者との相談は最低限にとどめて、作者も「おお!この手もあったか!ならば俺も」っていう流れが理想的。

88名無しさん@避難中:2011/11/09(水) 19:29:27 ID:WSozsrAk0
これだけははっきりさせておいた方がいい気がするんで聞くけど
>>56で言うごちゃまぜ世界で行く感じ?

89名無しさん@避難中:2011/11/09(水) 19:43:11 ID:D5dFAk66O
>>87
おk

>>88
反対意見や代案も出ないし、まあ決定でいんじゃね。

90名無しさん@避難中:2011/11/09(水) 22:15:05 ID:PGujNRu20
ほぼ決まりですか?
ですよね?

91 ◆mGG62PYCNk:2011/11/10(木) 19:19:34 ID:0Uz/0I.E0
異議なしです

92 ◆EHFtm42Ck2:2011/11/10(木) 22:37:12 ID:GHZyr3fY0
そこそこ意見も集まりましたかねー
じゃあ>>56みたいな感じで行きましょうか。
確かにただ話し合うだけじゃなく作品で語るほうがいいかもです。

導入話書きたい! って方いますかね? もしくは実はすでに書いてるぜって方とか。
言いだしっぺながら週末仕事で自分は無理そうなので…

93名無しさん@避難中:2011/11/10(木) 22:55:52 ID:mNSWQYhQO
>>56にある「怪物」関係も各作者に任せるってことでいいのか?

94 ◆EHFtm42Ck2:2011/11/11(金) 00:07:53 ID:y6Z.RRto0
あ、そういえばそんなことも書いてましたね…
これについては一応設定として存在はするけど、実際話に出すかどうかは
作者さん次第でいいと思います。
にぎやかしとして使いたいと思ったら出す。逆に邪魔になるようなら一切出さない。
そんな扱いでいいのではと。

95 ◆WXXbgy4OIU:2011/11/11(金) 01:23:57 ID:X4RDkS0c0
ブラウザから書きこんで、コテ登録するの忘れてたorz

http://jbbs.livedoor.jp/otaku/14291/

から

碇ほたる、石動幸喜、相葉智和、アマンダ・ミッシュローゼ、櫻井雅紀を参戦させます。

96名無しさん@避難中:2011/11/11(金) 22:23:17 ID:rXnlN.WQ0
導入話は書き手さんに丸投げってよりも、何かアイディアを差し伸べた方が書きやすいだろうし
「みんなで作ってる!」感があっていいんじゃね?

なので、書き手さんへのアイディアあったら、いただけないでしょうか。

97名無しさん@避難中:2011/11/11(金) 22:40:06 ID:nQH2/afMO
しかしこれはロワではないから、最初に全員が広場に集まってからランダムに飛ばされるとかは必要がない。
最初の人はキャラを複数人出して絡ませればいいだけだ。
強いて言うなら、「突然地震が発生して、世界がパズルのように組み換わった」みたいな現象を
ある程度統一してもいいかもしれんが、それくらいなら最初の作者の裁量でいい気がする。

忘れてたが、
世界を元に戻そうとするメインのストーリーの場合は、キャラ使用を予約制にしたほうがいいんじゃねーか?
そんなに書き手がいるわけじゃないから別にいいか?

98名無しさん@避難中:2011/11/12(土) 00:36:27 ID:0rDJKuKo0
スパロボよろしく、ひとつの世界にキャラが全員集合している


って既出か。

99名無しさん@避難中:2011/11/12(土) 19:50:34 ID:xVfKcGwQO
ナカナカウゴカナイ

100名無しさん@避難中:2011/11/12(土) 19:55:22 ID:E8zhpNDY0
創発ではよくあること

101名無しさん@避難中:2011/11/13(日) 17:20:02 ID:FKW9hjksO
その夜、月が異様に赤かった。


ここまで思い浮かんだ。後、頼む。

102名無しさん@避難中:2011/11/13(日) 17:33:38 ID:Orbj9jjoO
兎さんカワイソス

103名無しさん@避難中:2011/11/13(日) 18:29:22 ID:vdWrZ8fc0
異形世界の異形が現れた断層から他の世界が丸ごと現れるという妄想

104名無しさん@避難中:2011/11/13(日) 18:51:07 ID:8DdDmyiU0
温泉界にばちゃばちゃと落ちてくるあんなキャラこんなキャラ

105こんな感じか:2011/11/13(日) 22:30:41 ID:me2YPZnQ0
「ゲッカー」「ゲッカー」

「うるせえな、こっちは腹減ってるんだよ」

「ギブミー」「ギブミー」

「ああもう、一回やったらついてきやがって」

少年が握った手を放すと、ころころと飴玉が落ちる
二匹の異形はすぐさまそれにむさぼりついた

「アマイナー」「アマイナー」

「……ちくしょう、ここどこだよ。これも……組織の差し金か」

岬 陽太+テナガアシナガ、見知らぬ地を放浪中

106名無しさん@避難中:2011/11/13(日) 22:38:41 ID:hFmmOA3s0
てながあしなが地味に怖いんだよなw

107名無しさん@避難中:2011/11/14(月) 02:40:31 ID:SyNXPtys0
呼称は月下なのかw

108名無しさん@避難中:2011/11/14(月) 03:42:05 ID:RC3.nXzY0
本人が自称してるから本名知る手段が無い限り仕方ないw

109名無しさん@避難中:2011/11/14(月) 15:10:30 ID:Dxbieb36O
岬→役 小角
テナガアシナガ→前鬼 後鬼

芦屋「つまり……俺たちは大変な思い違いをしていたんだよ!」

安部・平賀・玉梓「な、なんだってーーー!」

110名無しさん@避難中:2011/11/14(月) 23:46:53 ID:MtmY9nCsO
中二病にとっては理想郷かもなw
知り合いと再会するまではw

111名無しさん@避難中:2011/11/15(火) 09:45:48 ID:OGxL1JZwO
「長! 長! 長!」

たくさんの人々が見上げる建物から、一人の少年が顔を出した。

「長! 長! 長!」

それに呼応して人々の喚声が大きくなる。
少年は片手でそれを制した。
そしてパラパラと人々の頭上にお菓子を降り注ぐ。

「おお! これが大破壊前の遺物、アルフォートか!」
「こっちにはランドクシャもあるぞ」

KING 岬 月下の慈悲は多用出来ない。
KINGはしばらくして奥へと引っ込んだ。

「お疲れ様でした、風呂と食事の用意ができております」
「ご苦労」

魔素は様々に代用されているが、食料を生み出すことはできない
それが、大破壊前のお菓子となればなおさらだ
そして、異形を使役するこの少年。
人々は、少年の背に救世主の光を見たのだった。

「長! 長! 長!」

(なんだかややこしい事になってきたぜ……これも組織?)

112名無しさん@避難中:2011/11/15(火) 16:58:40 ID:p7u1/YEIO
大根さんはいろんな意味で便利すぎるなw

113名無しさん@避難中:2011/11/15(火) 19:10:11 ID:3B21dVNsO
キャラ探しに難儀するな……
最初は誰とがいいんだか

114名無しさん@避難中:2011/11/15(火) 22:07:01 ID:c5UoIIBc0
大根野郎の陽太。隠れヲタのリオ。

です。

115名無しさん@避難中:2011/11/16(水) 23:30:11 ID:2ZfzoGTwO
ふむ。
どうせ俺のは一般人の高校生だからな。
異能者、異形、怪物……どれとでもそれなりにはやれそうだが。

116名無しさん@避難中:2011/11/17(木) 20:43:52 ID:o/5COauwO
話がすすまなすぎてあきてきたお
誰か書いてお

117名無しさん@避難中:2011/11/17(木) 23:18:09 ID:kmnhSAtAO
そう慌てるでない。今じんわり把握中なんじゃよ

118名無しさん@避難中:2011/11/18(金) 00:35:03 ID:5W.VmmDwO
でも人がいないのは堪えるな……

119名無しさん@避難中:2011/11/18(金) 00:38:17 ID:aY/jExXE0
と思わせておいて……?

120名無しさん@避難中:2011/11/18(金) 00:49:45 ID:D2wQH.1E0
やっぱりいない

121 ◆46YdzwwxxU:2011/11/19(土) 21:32:27 ID:cdNdzHOg0
うきいいいいいいいいいいいいい!
キャラ多いわ全員参加じゃないわで把握大変すぎる!
そもそも仁科以外全然知らんかったしな。
いっそリクして欲しいわ・・・

122名無しさん@避難中:2011/11/19(土) 21:35:16 ID:dLco.jpg0
大根にツッコミまくる先崎とかどうだ?
俺も書きたいんだが手に余る奴らばかりで怯えている。

123 ◆46YdzwwxxU:2011/11/19(土) 21:40:33 ID:cdNdzHOg0
いきなり大物相手かよw

まずは交換日記から的なこの心情・・・

124名無しさん@避難中:2011/11/19(土) 21:43:16 ID:DQI4pvk60
いや、分かりやすいかなと思ってw

125 ◆46YdzwwxxU:2011/11/19(土) 21:54:36 ID:cdNdzHOg0
ああ、それは重要なファクターだw

しかし最初のほうの話で何やるかってのは難しいな・・・
とりあえず普段のメンツとは分断させたいところだが

126名無しさん@避難中:2011/11/19(土) 22:34:29 ID:bSaaYMc60
大根「う…。またも組織の差し金か!」
荵「わんわんおー!」
大根「くそっ。また禍々しき野犬め!」
荵「わんわんおー!」

127名無しさん@避難中:2011/11/19(土) 22:37:40 ID:DQI4pvk60
まて、葱はわんわん言ってるだけで大根から見ればただのお姉さんだろw

128名無しさん@避難中:2011/11/19(土) 22:53:55 ID:KRqVvgQoO
葱にお姉さんって単語違和感と重量感あるよな

129名無しさん@避難中:2011/11/19(土) 23:08:41 ID:9zAs.RRA0
実際に高1とリアル中学生なんだけどなw いい勝負かもしれない…

130名無しさん@避難中:2011/11/20(日) 00:20:19 ID:GmJmGZUMO
野菜だしな、どっちも。

131名無しさん@避難中:2011/11/20(日) 00:27:18 ID:ecYoVtrU0
葱怒るからやめれw

132名無しさん@避難中:2011/11/20(日) 00:41:20 ID:2wH1Fxg6O
匠「お前のその耳と尻尾は飾りか?」(触る)
葱「わん!」
匠「そうかよしよし。こっちは本物だな?」
コレッタ「うニャ?」
匠「うん、本物だな」(なでなで)
コレッタ「うニャー」
鎌田「いい手つきだね。どれ、僕がトリミングをしてあげよう」
クズハ「(ゴゴゴゴゴ)」

ととろ「(動物園……?)」

こうして始まるコメディー系の何か

133名無しさん@避難中:2011/11/20(日) 00:47:42 ID:ht91GE3s0
厨二vs高二とか。

134名無しさん@避難中:2011/11/20(日) 00:58:32 ID:GmJmGZUMO
高二病っていたっけ

135名無しさん@避難中:2011/11/20(日) 01:04:46 ID:ht91GE3s0
今考えたらそいつも十厨二の才能あるわ。

136名無しさん@避難中:2011/11/21(月) 21:29:21 ID:Uu/Vf/gUO
取り敢えずチェンジリングの分は読むだけ読んだ。
なかなか……やりたい放題な世界観だなw

137名無しさん@避難中:2011/11/21(月) 23:24:09 ID:tTHjY7Fc0
チェンジリングは大根野郎を初め、絡ませたいヤツが多すぎるなあ。

138名無しさん@避難中:2011/11/21(月) 23:31:59 ID:Uu/Vf/gUO
怪物の案持ってる人いねえ?
宝石犬とか蟹とか考えたけど、それならキャラを出せばいい話なんだよな。

139名無しさん@避難中:2011/11/21(月) 23:47:19 ID:yGolPWks0
             /⌒\   / ⌒\
             i ○  i  i ○   i
             ヽ、   \/     i 
              \  ¥_¥   /
        /''゙~~゙''-i ヽ / /\ \-ー''~ ̄~'''ヽ
       /   `ー- \,,Y  `  ´  i -ー ヽ   `ヽ、
     // / ト、 ヽ(@i (●) (●) i@)i i   \ \
     /  /  i゙ ヽョ、_/ i  -=ニ=-  i、='゙   ゙i    i \
     i /i  ノ   ~~''ー\_________/ ̄    ゙ヽ,__、   .\
    ./ / /~                       `-、  \
   ,/ /                          \  ヽ、
  ,-' -.)         ...........................................        `) ノ 'ヽ、
/ / = ):::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::(___ハ \
`tt,ノ''゙:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: ヽ(_i-''゙::::::
こんなのとか?

140名無しさん@避難中:2011/11/21(月) 23:51:13 ID:Uu/Vf/gUO
どれが本物の眼だ

141名無しさん@避難中:2011/11/21(月) 23:52:46 ID:y7b.nVfk0
             /⌒\   / ⌒\
             i ○  i  i ○   i
             ヽ、   \/     i 
              \  ¥_¥   /
        /''゙~~゙''-i ヽ / /\ \-ー''~ ̄~'''ヽ
       /   `ー- \,,Y  `  ´  i -ー ヽ   `ヽ、
     // / ト、 ヽ(@i (●) (●) i@)i i   \ \
     /  /  i゙ ヽョ、_/ i  -=ニ=-  i、='゙   ゙i    i \
     i /i  ノ   ~~''ー\_________/ ̄    ゙ヽ,__、   .\                    .←実はここ等辺に小さな本体
    ./ / /~                       `-、  \
   ,/ /                          \  ヽ、
  ,-' -.)         ...........................................        `) ノ 'ヽ、
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`tt,ノ''゙:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: ヽ(_i-''゙::::::

142名無しさん@避難中:2011/11/21(月) 23:56:43 ID:Uu/Vf/gUO
SAN値がだいぶ下がった。
はきそう

143名無しさん@避難中:2011/11/22(火) 02:30:55 ID:JpscZuU60
発こう類に新設定w

144名無しさん@避難中:2011/11/23(水) 23:27:22 ID:2xlb7GWcO
あるところにプリンがいました。
プリン頭に白磁のお皿、ついでに余計にボディ付き。
首無しデュラハンがヒロインになる時代、プリンに体が生えてもなんにも問題はないのです。
プリンは夜と昼の力を得られる不思議な世界に現れました。
プリンはプリンがあるところならばそのプリンを寄り代にして現れることが出来ます。
プリンはこの出現方法をワープリン航法と呼んでいますが特に意味はありません。
「ふふふ…君、プリンは好きかい?」
「た、大変だ、俺の能力が…食べ物を出す力からアンパ○マン的な不思議生物を産む力にかわっちまった!」
(普通の)プリンを何かしらの方法で造ったらしい少年が慌てふためきます。
「どうやら勘違いさせてしまったようだね、ふふふ…すまない。私の頭部は確かに君のプリンだが、私が現れたのは私の意思、つまり私の力さ」
「そ、そうなのか?あせったぜ、俺の得意技がサモン・マンドラゴラにかわっちまうところだった」
「ふふふ…よくわからないが、面白いね。ところで君はパティシエかい?プリンを造るのがうまいね」
少年は得意げになって、手の平を上に向けた。
「そりゃ、いままで食ったプリンで最高の味の奴を造ったからな。こうやってな!」
少年の手の平が輝き、光が納まったとき、そこにはプリンが現れていました。
「ほう、すばらしいね…ふふふ」
プリンは不敵に微笑みます。

145名無しさん@避難中:2011/11/23(水) 23:43:09 ID:MTC4o5pY0
まさかのプリン妖精wwww

146名無しさん@避難中:2011/11/24(木) 02:35:14 ID:uDfg3grE0
どんどん濃いキャラが出てくるなw

147名無しさん@避難中:2011/11/24(木) 02:58:51 ID:89hBzdsQ0
それに対してチェンジリングのキャラの無敵っぷりたら。

148名無しさん@避難中:2011/11/24(木) 03:03:20 ID:tAgbqGxI0
仁科連中は案外すんなり受け入れそうだw

149 ◆46YdzwwxxU:2011/11/24(木) 23:25:19 ID:BaEq3coE0
投下するわ

150 ◆46YdzwwxxU:2011/11/24(木) 23:27:23 ID:BaEq3coE0




 ――あれはそう、俺が今年になって初めて蝉の声を聞いた日、学園の完全下校時刻が差し迫った夕方も遅くの
ことだった。



 教室の窓の桟を磨くのに夢中になるあまり不覚にも時間を忘れていた俺は、見回りに来た週番の教諭に尻を叩
かれながら慌ただしく退出することになった。熱心な運動部員もみな引き上げて、今や生徒で残っているのは俺
くらいのものだという。
 俺は玄関のタイルを数回爪先で蹴ってスニーカーの具合を整え、大股で校舎を飛び出した。
 外の光景は、地上の光源を差し引いても、予想していたよりいくらか明るい。
 梅雨はつい先日にいつのまにやら過ぎ去っていたが、ぬるま湯のような空気は爽やかとは評しがたいものがあ
った。まだまだ気の滅入る季節である。

(さすがに、指がどうかなっちまうな)

 窓枠の細い溝の掃除を手作業でしようとすれば、どうしたって人差し指を酷使することになる。
 手首を振って関節をほぐしながら、弾みのない足取りで我が家を目指す。
 湿気をたっぷりと吸って万の葉を付けた植木が、視界の端で流れていく。

 ……じりりりりりりぃぃ……

 樹上からざんざんと降り注ぐ喧しい音の正体は、ヤブキリという昆虫の鳴き声だ。このあたりにはそれなりに
多く生息している。バッタの仲間はみな草食だと思いこんでいた小学生時代の俺は、こいつがセミを食い殺すの
を目撃して大いに驚愕したものだ。

「フン」

 俺は顎を上げて溜め息を吐き掛けて、深呼吸に変更。少しだけ開いた唇から、空気が滑り出していく。深呼吸
と言いながら行為じたいは溜め息とさほど違いがあるわけではないような気もするが、つまり、これは気持ちの
問題なのだった。
 そうしていると、おのずと薄暮の空が視界に入った。
 昼の黄金と夜の群青とに漠然と分かたれた瀟洒な天幕。
 痩せこけた月が放つ光は、いつもより赤を強く発色しているように思えた。……どうしてだか、あまりそれを
まともに見てはいけない気がした。“ルナティック”という英単語があるが、古来より月と狂気に纏わる御伽噺
は枚挙に暇がない。

「……帰るか」

 今まさに帰宅中の身で、そんな言葉を口にする。
 無意味な独白は、しかし、やかましさに定評のある昆虫たちの喚き声にすっかり掻き消されるはずだった。

151 ◆46YdzwwxxU:2011/11/24(木) 23:28:24 ID:BaEq3coE0

「――?」

 そこで違和感を覚える。
 俺の発した声が、他のいかなる音とも重ならず、クリアなままで耳まで届いたからだ。
 人間など恐れない、あのふてぶてしいヤブキリたちが、一斉に鳴くのを止めていたのだ。俺はこの時点ではま
だ事態をそれほど深刻に考えていたわけではなかったが、それは実際、異様な“変化”だった。
 生物の野性は、天変地異の兆しだとかそういったものに対してはよほど敏感だというが。

(まさかな)

 自分の妄想を鼻で笑いながら、それでも俺は異変を探して視線をさ迷わせる。



 ――空を見上げると、一粒の光が動いていた。



 銀の尾を引いて、月の弓から放たれた矢のように、太陽を失くしかけた空を横切っていく。誇らしげなまでに
煌めきながら。



 ――しかしそれは、流れ星にしては低速すぎ、航空機にしては複雑怪奇な動きをしていた。



 あれは、
 何だ?



 ――やがて光点は、空中でいくつかに分裂し、それぞれが光線となって縦横に天空を走った。



 視聴覚に砂嵐。
 光によって描かれた凹凸と曲線の具合は、ジグソーパズルのピースとまったく同じだ。まさか、何者かが、空
をばらばらにしてそれを再び組み立てるなどという、魔神の遊戯に興じているわけでもなかろうが。
 しかし、少なくともこれは、自然現象ではない……!
 ここからでは光線の展開、その全容は分からないが、地上にも及んでいる可能性はある。全体の規模は、最低
でも都市ひとつを平らげる。

「……はッ!」

 憑き物が落ちたように、俺の認識からノイズが消え去る。
 俺のこの場で知り得る限りの範囲においては、特別の異状はないようだった。もっとも、木立に囲まれては、
遙か遠くまでは見渡せないのは当たり前だが。
 背後の仁科学園を振り返っても、白亜の偉容は揺るぎない。そのことに安堵を覚えながら、俺は足早に正門を
目指した。
 その先に、何が待ち受けているとも知らずに。



 ――そうして、俺たちの“世界”は激変した。ここではないいくつかの世界のピースがまったく出鱈目に嵌め
合わされ、歪つで巨大、そして驚くほど多様な、ひとつの“世界”が創り出されたのだ!
 ――異なる世界、異なる法則、異なる存在、異なる能力、異なる役割。
 ――全てを抱き締めて微笑む混沌の世界で、



「――さぁ、きみはどうする?」




 つづく

152 ◆46YdzwwxxU:2011/11/24(木) 23:29:37 ID:BaEq3coE0

以上。
タイトルは「先輩とチェンジリング・デイ」で。

先崎俊輔(先輩)@仁科学園でスタート。
まだ期待されているような楽しいクロスにはなってないけど導入ってことで勘弁してくれるとうれしい。

153名無しさん@避難中:2011/11/25(金) 00:29:58 ID:IB6ElEpA0
おつおつー

154名無しさん@避難中:2011/11/25(金) 12:55:02 ID:iRQvv1yc0
投下乙!
この文章表現好きだなぁ。

155名無しさん@避難中:2011/11/25(金) 23:45:41 ID:CgaB8joY0
乙です
アバンな感じですね
他のいろんな人たちの視点も楽しみです

156名無しさん@避難中:2011/11/27(日) 20:16:46 ID:qfqpQ1S2O
ねーねー。
夜型の鬼塚かれんちゃんは、いちおうデカイ蜘蛛ってことでいいのか?
というか蜘蛛ってことを踏まえて設定付け加えるのはアリ?

157名無しさん@避難中:2011/11/27(日) 21:15:31 ID:dYjh4p82O
ここは地獄の一番地。

「大変ですニャ、殿下」
「ん?どうした。ぼくは今FF零式やったりで忙しいんだが」
「じゃあ後回しでも良いニャ。明日出来る仕事は今日しないニャ」
「そう言われると逆に気になってしまうんだが……なにがあったんだ?」
「ぼそっ(あまのじゃくなガキだニャ)。それではお伝えしますニャ。世界の人口がある瞬間から約70億人から約280億人に増えましたニャ」
「地獄耳って言葉を知ってるか化け猫、誰があまのじゃくだ。というか280億だって?!いきなりどうして四倍にもなったのだ?」
「単勝当てたとかかニャ?」
「世界人口を一レースに賭けるなよ。寿命の管理はどうなっているんだ」
「地獄で管理している命の蝋燭は約70億のままですニャ」
「ふむ、管理外の人間が210億…いったい何が起こったのだ?」
「新しい報告書が来たニャ、また増えたみたいで現在約315億人だニャ」
「管理外の人間が増加しているのか?」
「そうですニャ」
「…平走世界に何らかの力が加えられ、集束されているのであるからして……」
「キチガイ眼鏡がなんか言ってるニャ」
「おい、魔素技術部門特別顧問に無礼な口を聞くんじゃない馬鹿猫。顧問、簡単に説明してくれるか?」
「別の世界と繋がり始めている、のであるからして……」

地獄が世界と地続きになった日であった。

158名無しさん@避難中:2011/11/27(日) 22:07:14 ID:qfqpQ1S2O
地獄!絶対に地獄!
こいつらは大事の割には普段通りかな。さすがに大物っぽい。

つかみんつく一個で複数世界があるのな。参加表明はそんななかったけど。

159名無しさん@避難中:2011/11/27(日) 23:57:59 ID:vAORaJ/AO
殿下が登場w
みんつく三世界は元々それぞれのクロスあったあったからなぁ。

160名無しさん@避難中:2011/11/28(月) 00:04:25 ID:e3VMtyCg0
あったなw 温泉界に至ってはよそのスレまであってカオスw

161名無しさん@避難中:2011/11/28(月) 01:22:58 ID:osz9sm460
異常に慣れてそうな連中は反応が落ち着いてるww

162名無しさん@避難中:2011/11/28(月) 21:25:23 ID:clwdH9PsO
思ったんだがチェンジリング・デイってさ、なんか全体的にSSのクロス率が高くね?
原作者が誰だったか混乱するぜ。

あとチェンジリング・デイってなげーんだけど略称とかないかな?

163名無しさん@避難中:2011/11/28(月) 21:31:06 ID:9UrE4HFI0
チェリジ

164名無しさん@避難中:2011/11/28(月) 21:33:19 ID:clwdH9PsO
チェリーボーイで悪いかこのヤロウ

165名無しさん@避難中:2011/11/28(月) 21:39:54 ID:9UrE4HFI0
あれ? チェジリだっけ?

166名無しさん@避難中:2011/11/28(月) 21:49:18 ID:clwdH9PsO
マジでチェリジなのかw
疑ってすまんかった。

167名無しさん@避難中:2011/11/29(火) 23:55:02 ID:HVsx/cL.O
そろそろSSの一本二本来るころ

168名無しさん@避難中:2011/12/01(木) 18:47:14 ID:D1JjjpYwO
遅レスだがズシってメガネだったっけ?

169名無しさん@避難中:2011/12/01(木) 19:38:11 ID:RXnz7UgA0
白衣と荒っぽい髪なだけで眼鏡ではなかったような

170名無しさん@避難中:2011/12/01(木) 19:41:55 ID:8LYzbgTEO
間違えたー
じゃあなかったことにしといてください

171名無しさん@避難中:2011/12/01(木) 19:55:28 ID:MSdpUq7gO
それはいかん、モッタイ9が出る!

172名無しさん@避難中:2011/12/01(木) 20:00:42 ID:64LeociU0
つまりモッタイ9という戦隊を創ればいいんだな?

173名無しさん@避難中:2011/12/01(木) 20:02:08 ID:RXnz7UgA0
九人か……登場シーンだけで5分くらいとれそうだなw

174名無しさん@避難中:2011/12/01(木) 20:04:06 ID:64LeociU0
定期的に殉職して結果レッド以外四人入れ替われば……w
そんでロボは健在w

175名無しさん@避難中:2011/12/01(木) 20:09:48 ID:MSdpUq7gO
いや、矢上裕のマンガで一巻出たぞ、モッタイ9w

176名無しさん@避難中:2011/12/01(木) 20:19:59 ID:3tKKGMfI0
既に実在したんかいw

177名無しさん@避難中:2011/12/01(木) 21:43:38 ID:MSdpUq7gO
でも何かクロスでそういうチームを作ってみるのも面白そうではあるw

178 ◆46YdzwwxxU:2011/12/02(金) 03:54:18 ID:dx.tNMdo0
なんか途中で申し訳ないんだけど、あんまり進まないのも具合が悪いから投下するわ。
後々ちょっと修正するところも出てくると思うけど、
怒らないでくれるとうれしいな。

179Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2011/12/02(金) 03:56:12 ID:dx.tNMdo0




 ※


 夜。
 お日さまがお出掛けしてから、また帰ってくるまでの時間。
 暗くて、静かで、ちょっと冷たい。それが恐ろしいと震えるひともいるけれど。
 あったかいお布団の中で眠るなら、きっとお昼の疲れを癒すことだってできる。空からはお月さまとお星さま
の優しい光が降り注いで。その下でかえるとか虫とかが熱烈に愛を歌うのだ。
 すてきな時間。そうなのだろうと思う。
 けれど。
 わたしにとって、夜という時間は、ひどく痛みを伴うものだった。
 なぜなら夜は、

 ――罪の時間だからだ
 ――わたしがわたしでなくなる時間だからだ

 ああ、また、
 夜が来る。




 ※


 空をジグソーパズルのように切り分けた謎の光と、唐突な視聴覚のノイズ。
 先刻の異状は一体何だったのだろう?
 足を動かしながら、俺は鞄の底から滅多に使わない携帯電話を引っ張り出す。開閉時の具合とシンプルな外装
が気に入ったという理由で選んだ二つ折り式の携帯電話は、とうに旧型の機種ではあるが過不足ない機能を備え
ている。
 何を差し置いても、家族の安否が気になった。あれが俺だけの幻覚ならばそれに越したことはないが、そうで
ないなら。
 携帯電話は、圏外表示になっていなかった。【メニュー】から【電話帳検索】に飛ぶ。【自宅】で登録してあ
ったはずだから、サ行か。
 見つけた。
 ……こんな事態ではあるが、そのすぐ上に、【先崎閑花(サキザキシズカ)】という記憶にない名前が見えた
ので、俺は速やかに抹消しておく。

(……あのストーカー、また勝手に俺の携帯電話いじりやがったな)

 後輩の後鬼閑花(ごき しずか)とは、昔いろいろあって今もそこそこ親しい間柄であるが、男女としての交
際はきっぱりお断りし続けている。
 俺と同じ名字を名乗っているのは、悪ふざけではなく「私としてはこうなるのが理想なのですが、どうでしょ
うか?」という一種のアピールだろう。
 いじらしいことはいじらしいが、こんなことはさすがに容認しかねた。

(あとで説教だな)

 気を取り直して、今度こそ自宅の番号に掛けることにする。

180Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2011/12/02(金) 03:58:02 ID:dx.tNMdo0
 ボタンを押しこもうとしたところで、視界の端に構造物が出現。
 ぎょっとして注視すれば、何のことはない、つい先日に錆を落とされた南門の門扉だった。
 携帯電話の操作で手元に集中していたせいで、仁科学園正門に到達したことに気づくのが遅れたのだった。俺
としたことが何たる不覚。
 さておき。

(やはり、学園前にも。別に、おかしなところは)

 ない。ないと思う。
 あんなことがあった直後だけに、俺は気になってしまう。
 普段通りの風景。見ていたって別段面白くもない住宅街を念入りに見渡していき、

「……?」

 何かが、ある?
 街路灯の光をスポットライトとして浮かび上がる影を目撃した俺は、まず漠然とそれを“異様なもの”として
認識した。通学路の異物。たとえばいつの間にか不法投棄されていた堆(うずたか)い粗大ゴミの山であるとか、
そういうものではないかと思ったのだ。
 遠目に見るだけでは形状のディテールは分からないが、全体の印象としては扁平といってよかった。逆光の翳
のためだろう、黒がむやみに濃い。ただしその色は黒ではない。
 その正体を確かめようと俺は目を眇(すが)め、

 ――ぞっとした。

 俺の中に最大の恐怖が呼び覚まされたのは、“それがどうやらひとりでに動いているらしい”ことに気がつい
た瞬間だった。
 これは、何だ? 機械の類い。――違う。
 お前は、誰だ? 猛獣の類い。――違う。
 もっと巨大で得体の知れない、生物だった。
 体長は目測でおよそ三メートル、もちろんこれは先端の尖った八本の歩脚の長さを含めない。貌にずらりと並
んだ四つの単眼の高さが、恐らく俺の腹とほぼ同じ。
 全身燻んだ黄金の肌は、甲虫たちのように鈍い金属光沢を発していた。
 その姿はまるで、

(蜘蛛、なのか……?)

 馬鹿な。
 南米の熱帯雨林に生息するルブロンオオツチグモ、またの名をゴライアスバードイーター。世界最大のクモの
ひとつとされるこの種でも、せいぜい体長一〇センチメートル、脚を含めた全幅でも二〇センチメートルほどの
大きさだ。

181Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2011/12/02(金) 03:59:52 ID:dx.tNMdo0
 だが、俺の目の前にいるこいつは、ざっと見積もってもその三〇倍もある。
 並の大型哺乳類をも凌駕するこんな図体、節足動物の構造的にも存在が有り得ない。かの有名なタカアシガニ
でも鋏脚を広げてやっと三メートル、それも水中での話である。
 どう考えてもまっとうな生き物ではない。

(――落ち着け、先崎俊輔(さきざき しゅんすけ)……!)

 必要もない知識を引っ張り出して現実逃避している場合か。
 何よりまずその危険性を直視せねばならない。
 この蜘蛛は、今すぐにでも、俺を獲物と見定めて襲い掛かって来るかもしれないのだ!
 遠目にも兇悪極まる蜘蛛の口器は、それが純然たる狩猟者であることを物語っていた。ほとんどの蜘蛛の毒は
哺乳類には効かないが、そんなもの気休めにもならない。牙だけで致命傷となり得る。
 大型種のクモともなれば、時にカエルにトカゲ、ネズミさえ捕食する。このサイズなら、“人食い”など当た
り前のようにやってのけるだろう。
 そして、今の俺はそんな怪物のすぐそばにいる!

(まずいな。これは。どうも)

 彼我の距離は、二〇メートルに満たない。これをクモの体長の六から七倍に相当すると見ると、かなり際どい
気がする。ここまで足音を立て放題だったのが痛い。無表情だから分からないだけで、向こうはとっくにこちら
に気づいて狙いを定めているかもしれないのだ!
 俺は、肺腑と心臓の欲求を捻じ伏せ、息を殺した。
 クモの視力は種によるが、概ねとても低い。ハエトリグモなどの単眼は物体の形を認識できるていどの解像度
を持つというが、それでも別格だ。もとより虫の視覚とは、動体視力に特化して進化してきたからだ。
 クモが最も依存している感覚は、触覚、そして振動覚である。この振動には当然、“音”も含まれる。特に音
を立てた者から見境なしに狩っていく習性を持つものもいる。
 ごちゃごちゃ述べ立てたが、つまりこの場は、“闇雲に逃げ出す”よりは“動かない”ほうがいいかもしれな
いということだ。

182Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2011/12/02(金) 04:00:45 ID:dx.tNMdo0
 もっとも、人知及ばぬ怪物にそんな安易な手でやりすごせるとは限らない。気休めていどだ。
 一層の警戒を心掛けながら、俺はじっと巨大な蜘蛛の様子を窺う。

「……」
 ――。

 ……眼が合っている、気がした。蜘蛛の無機質な単眼の奥に、こちらを意識しているような不気味な感情が見
え隠れしてはいないか。件の後輩と見つめ合うのと同じくらい、嬉しくないぞ!
 背中にべったりとシャツが貼りつく感触がある。唾液を呑みこんで干上がった喉が鳴ることすら、恐ろしくて
たまらなかった。できることならこのまま後退りたい。まったくの無音で怪物の間合いから離脱するのだ。そん
なことが可能なのか。できっこない。だが、このままでは向こうが俺に興味を持つのも時間の問題だ。

(どうする?)

 恐怖で思考がまとまらない。なんてザマだ。
 雑用で学園を駆けずり回って知ったあれやこれやを思い出して、俺は必死で打開策を練る。
 そんな俺を嘲笑うかのように、蜘蛛は王者の余裕で数歩、街路灯の下から這い出した。




 ※


 最悪のタイミングだった。
 時刻は深夜零時を回っていて、わたしはわたしでなくなっていた。
 目の霞みと耳鳴りに、一瞬だけ意識を奪われて。
 気付いた時には、わたしは“外”にいた。
 見覚えのない街の中だった。
 青い家に黄の窓。痩せ細ったお月さま。団欒の笑い声。近づいて来る誰かの足音。
 どうして? だってわたしは、さっきまで部屋の中にいたのに。
 誰も傷つけることのないように、“無敵”のあのひとだけを見ていられるように。
 なのに。
 目の前には、男のひと。どこかの高校生だろうか、知らない制服。
 わたしでないわたし、あなたは、また、罪を重ねるの?

 ――たすけて……
 ――わたしをとめて……
 ――まもる、さん……




 ※

183Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2011/12/02(金) 04:03:10 ID:dx.tNMdo0
まだ全然続くんだけど今回はここまで。
変なとこで切ってごめんなさい。

「鬼塚かれん@チェンジリング・デイ」をお借りします。

184 ◆KazZxBP5Rc:2011/12/02(金) 09:46:30 ID:4B73c7U20
表明したけどまさか本当に使っていただけるとは!
ありがとう

この後どうなる、どうなる!?

185名無しさん@避難中:2011/12/02(金) 18:09:27 ID:7t6pXsgE0
朝が来るまでに何が起こるのか……
先輩ならなんとかしてくれると信じてる!

186 ◆SU1jujxKjE:2011/12/02(金) 20:21:27 ID:f71qm8DkO
みんつくスレのNEMESISの書き手ですが
僕のキャラも全員開放します

187名無しさん@避難中:2011/12/03(土) 15:43:32 ID:FOEhVf36O
ここは地獄。
世界と繋がってしまったいまや、生者も歩いてゆける観光地と化している。
近々JR地獄巡り線が着工予定であるが、まぁそれはおいといて。
一人の女が地獄の河原、さいの河原の叢で四つん這いになっていた。
白衣を纏い、分厚い眼鏡をかけ、虫籠を肩からかけている。
一見研究者のようなその女の異常なのは、四つん這いなことと肌が緑色なことだった。
彼女は地獄の魔素技術部門特別顧問であり、種族は蛙仙人で、名前は蛙油(あゆ)という。
その魔素技術部門特別顧問は困っていた。
何故か。
「やばい……奴の口調が完璧にうつってしまった…のであるからして……あ!ああ、言ってるそばから!」
魔素技術部門顧問は、とある事情で他の世界から飛ばされて来たとある研究者の口調に悩まされていた。
口調は変だけどやたら博識でしかも魔素科学についてやたらと明るいので、
顧問としては他の世界の技術レベルを知るためにもその人物との会話がどうしても必要だったのだ。
そして口調が見事に乗り移った。
「変な口調がなおらない…のであるからして……うぐ、また言ってしまった…………のであるからして……!!」
先日、殿下に世界の異常を報告するさいもおもっきし変な口調で説明してしまった。
なおらない口調に苛立ちながら、蛙油は虫籠の中に手を突っ込んだ。
地獄産のおぞましき怪蟲の数々が、虫籠の中から引きずり出される。
百足蟋蟀蟷螂飛蝗。
それらを事もなげに口にほうり込む。
一匹の甲虫が籠から逃げ出したが、びゅるりと舌が伸びてそれを捕まえた。
いわゆるGとよばれる虫であったが、さも旨そうに顧問は飲み込んでしまった。
蛙油は研究の合間に、おやつを食べに河原で虫取りをしていたのだった。
「あの、食事中すみませんが……」
顧問は突然の声にはっとして、草むらを振り返った。
「ええっと、ケモウ学園はどっちの方角にありますか?」
そういったのは、さっき蛙油が食べたのとはくらべものにならないくらい大きな。
「あ、僕学園の生徒で、鎌田って言いまして、怪しい者ではないんですよ?」
服を着た蟷螂であった。

188名無しさん@避難中:2011/12/03(土) 15:47:18 ID:FOEhVf36O
新キャラにしてごまかそうとするモッタイ9精神

189名無しさん@避難中:2011/12/03(土) 17:38:29 ID:pWGw84bUO
今すごい力業を見たw
そしてヤブキリに蜘蛛にGにカマキリと、シェアシェアに空前の虫ブームが到来……!

190名無しさん@避難中:2011/12/03(土) 23:55:11 ID:q25qkqPcO
ズシじゃなかったんだw

191名無しさん@避難中:2011/12/05(月) 23:40:49 ID:zffKAiX.O
うらあああ!
もっと単発エピソードでも何でも、書くやつは、ないのか!?

>>187
せっかくだからタイトル決めようぜー。

192名無しさん@避難中:2011/12/10(土) 05:29:16 ID:ct1K55s2O
魔素がどんなもんかいまいち分からんので誰か解説してくれまいか。

193名無しさん@避難中:2011/12/10(土) 05:53:34 ID:YKlDSp2M0
自分も是非そこらへん知りたい

194名無しさん@避難中:2011/12/10(土) 19:31:09 ID:ErNLGy5U0
魔法のもととなる物質
人体にも微量に存在する。異形は高濃度のためそれを利用して感知可能
五人の科学者のおかげで魔法とか色々使えるようになった
実はあんまりよくわかってないけど利用するぜ! が破壊後の人々の感想

195名無しさん@避難中:2011/12/10(土) 21:11:13 ID:UjNDDApo0
異形世界以外の人間が保有するかは書いたもん勝ちとして、

・異形でも人間でもない異形世界産の生物はそれを保有している?
・異形の感知や魔法の行使は一般人でもできる? できるならどの程度?

196名無しさん@避難中:2011/12/10(土) 21:15:50 ID:ErNLGy5U0
自分の考え

>異形でも人間でもない異形世界産の生物はそれを保有している?
当然の如く保有、個体差あり

>異形の感知や魔法の行使は一般人でもできる? できるならどの程度?
一般人は無理、訓練積んだ人なら。機会によって補える(ドラゴンボールのスカウターみたいなもの)
殆どは目視での異形の判断、しかし漠然としたもの(「コイツ多いから多分異形」)
遠方とかの判断は無理

197名無しさん@避難中:2011/12/10(土) 21:24:43 ID:UjNDDApo0
ありがとう。個々の資質も絡む「オーガニック的な何か」ということで分かった気になろうと思う。俺は。

どうでもいいけど夜が長すぎて先崎が死にそう・・・

198名無しさん@避難中:2011/12/10(土) 21:41:20 ID:ct1K55s2O
みんつく避難所>>725で白狐と青年作者さんの解釈が投下されますた

199名無しさん@避難中:2011/12/10(土) 21:43:27 ID:DnZib1FU0
先崎のツッコミ体質ならきっと大丈夫なはずw

200名無しさん@避難中:2011/12/10(土) 21:56:54 ID:UjNDDApo0
蜘蛛にまでツッコミするのかw

201名無しさん@避難中:2011/12/10(土) 22:45:23 ID:YKlDSp2M0
命を賭けたツッコミ……!

202 ◆TC02kfS2Q2:2011/12/12(月) 18:58:29 ID:gHKUdzv60
迫、遠賀先輩@仁科
ミナ@ケモスレ http://www19.atwiki.jp/jujin/pages/361.html
はせや先生@ケモスレ http://www19.atwiki.jp/jujin/pages/124.html

開放します。よろしゅう

203名無しさん@避難中:2011/12/12(月) 20:31:29 ID:B67/jigUO
ケモスレがちょっと増えたか。良かった。
あとみんつくあたりも稀少?

204名無しさん@避難中:2011/12/13(火) 09:43:11 ID:Xus.f3qg0
投下ー

205タイトル未定 ◆KazZxBP5Rc:2011/12/13(火) 09:44:02 ID:Xus.f3qg0
西堂氷牙は地震の揺れで目を覚ました。
辺りは暗く、どうやらまだ夜中であるらしい。
頭上を見れば木の葉の隙間からいくつかの星が覗える。
木の葉? 星?
おかしい。野宿などした覚えは無い。
だが、詮索は後回しだ。
闇の中に、自分を取り囲むように光る目、目、目。
「なんや、新種のキメラか?」
寝起きの軽い運動とばかりに、氷牙は両手を真横に広げる。
一斉に飛び掛ってきた異形の者どもは、瞬く間に一体の例外も無く氷漬けにされた。
「さて、と。」
改めて、自分がなぜこんな所にいるのかを考えるために、土に腰を下ろそうとする。
が、それはまたしても遮られることになる。
木々の向こうから、今度は人間の声が聞こえてきたのだ。
「おい、こっちに逃げたぞ!」
数秒して武装した男たちが現れた。
彼らは氷牙と氷漬けの異形を見ると、あっけにとられたような顔をした。

氷牙は男たちに連れられて大きな門をくぐる。
その先には街があった。
中に足を踏み入れながらも、彼らは何か話し込んでいるようだ。
そのうちの一言が耳に飛び込んでくる。
「魔法をあんなレベルで扱えるなんて……。」
耳慣れない『魔法』という言葉。
確かに、現在世界中の人間が持つという特殊能力は様々に呼ばれている。
だが日本で『魔法』という呼称を使うとすれば……彼らはオカルトの集団か何かだろうか。

206 ◆KazZxBP5Rc:2011/12/13(火) 09:44:44 ID:Xus.f3qg0
とある建物の中に入り、氷牙は彼らが「隊長」と呼ぶ男の前に通された。
「“ここ”の武装隊をまとめている門谷だ。」
男が手を差し伸べる。
目を見る限り、危険は無さそうだ。
そう判断して氷牙は握手に応じる。
「S大学研究生・西堂。」
最低限の単語で自己紹介を済ませ、早々に二人は問答に入る。
「それにしても君はなんだってあの森にいたんだ?」
「さあな。俺にもさっぱり分からん。それどころか俺は“ここ”がどこかすら分からんのやが……。」
「“ここ”はイズミだ。」
「イズミ? イズミって大阪の和泉か?」
「その通りだ。」
氷牙は驚愕する。
「俺は確かに東京におったはずやねんけどなぁ。」
そう言ってから、武装隊の詰所らしき室内を見回し、独り言のようにつぶやいた。
「それにしても、大阪もいつの間にこんな物騒になったんや。」
その何気ない一言が、決定的な話の食い違いを明るみに出すきっかけとなる。
「いつって、異形が出てきてからだろう。」
「異形?」
「おいおい、東京にもいるだろう。異形だよ異形。20XX年、日本各地で地震によってできた裂け目から出てきた化け物どもだよ。」
自分の知らない“日本の歴史”を、門谷はさも当然のように語った。
氷牙の頭に、ある“とんでもない仮説”が上る。
その仮説を確かめるため、氷牙は声のトーンを落として尋ねる。
「なあ、ひとつ聞きたい。『チェンジリング・デイ』って知っとるか?」
氷牙の読み通り、門谷は怪訝な顔をして聞き返す。
「なんだ? それは。何かの記念日か?」
これで確定だ。氷牙の知る世界の住人なら、その日を知らない者はいるはずがないのだから。

氷牙は緊張で大きく息を吸い込んだ。
本人は確信しているとはいえ、こんな世迷い言を素直に信じる者はそうそういないだろう。
「俺はどうやら、別の世界から来たらしい。」
そして氷牙は自分の知る世界の全てを聞かせた。
隕石の落ちた日。二つの能力。それを手にした人類が変わったこと。変わらなかったこと。
門谷は決してその話を一笑に付したりはしなかった。
ただし鵜呑みにするということももちろん無かった。
「では見せてもらおうか、その能力とやらを。」
お安い御用だ。
氷牙は右の掌を仰向けにし、空気を凍らせた氷柱を作り出した。
「ふむ……“この世界”の人間が簡単にできる業でないのは確かだな……。」
門谷は思考を巡らせ、部屋の外から部下を一人呼び寄せた。
「もう一度やってみろ。」
氷柱が再び現れる。すると、部下の男が突然叫んだ。
「隊長! おかしいですよ! 魔素の流れが全く感じられません!」
門谷はそれには答えず、あごに手を当て、もう一度考える。
やがて、静かに口を開いた。
「分かった、信じよう。」

207 ◆KazZxBP5Rc:2011/12/13(火) 09:45:05 ID:Xus.f3qg0
翌朝、用意してもらった軍手をはめて、氷牙は門谷の部屋を訪れた。
「本当にもう行くのか? 一日くらいゆっくりしていってもいいだろうに。」
「『善は急げ』言うやろ?」
氷牙は門谷から「手掛かりが無いのならば」と平賀の研究区に行くことを勧められていた。
実を言うと、氷牙には手掛かりと言えるかもしれないものがひとつだけあった。
最近、能力研究者の比留間慎也がパラレルワールドについて調べているらしい。
しかしどうしろというのだ。
彼が本当に絡んでいるとして、決して会えないなら手掛かりは無いも一緒だ。
結局、この世界で今できることと言えば、門谷から勧められた通り研究区に行くことくらいだろう。
「ほんじゃま、おおきにな。」
「ああ、こちらこそ、昨夜は異形を退治してくれてありがとう。」

しかし、この時の氷牙に知る由は無かった。
和泉と研究区の間に“また別の世界”が広がっている、ということを。

208 ◆KazZxBP5Rc:2011/12/13(火) 09:45:34 ID:Xus.f3qg0
登場人物紹介

・西堂氷牙(さいどう ひょうが)@チェンジリング・デイ
鋭い目付きをしたツンツンヘアで細身の若者。
『東堂衛のキャンパスライフ』で敵役として登場。
いろいろあって現在は秘密研究組織ERDOの諜報員としてS大学で働いている。
現在の昼の能力は手で触れた相手を無差別に失神させる能力。
夜の能力はものを凍らせる能力。

・門谷義史(かどや よしふみ)@みんなで世界を創るスレ:異形世界
短い黒髪を刈り込んだ精悍な顔つきの壮年の男。
『白狐と青年』で登場した和泉の武装隊の隊長。
さばさばした人柄で部下からの信頼も篤いが、『甘味処繁盛記』では苦労人の一面も。

209 ◆KazZxBP5Rc:2011/12/13(火) 09:52:23 ID:Xus.f3qg0
投下終わり
最後の段落が思わせぶりなのに続きはまだ考えていないw

それとレス

>>156
気付いてなかったよごめんなさい
投下された通りで問題無いです
新しい設定は…「設定による」としか言えません
必要になった時に具体的に聞いていただければと

210名無しさん@避難中:2011/12/13(火) 21:39:09 ID:kYgY1EQUO
投下マジ乙。我らは君のような戦士を待っていた!

氷牙と和泉は……関西繋がり?
にしてもいきなり異形狩りとは、さすがアイスファングさんやでぇ……。
能力と魔素の扱いはそんな感じってことで了解しておく。

えらい移動が大変そうなんだが。和泉や研究所や仁科が歩いていける距離にあるとか?
……いい加減地理的な設定どうにかしたほうがいいかもな。あまり離れすぎてるとクロスしづらいし。
……いや……個人レベルで飛ばされてるから案外大丈夫か?

俺もキャラ紹介とかシェアシェア大事典とかやりたいけど、考えてみればまだそんな書くことないか……。

211名無しさん@避難中:2011/12/13(火) 21:44:00 ID:kYgY1EQUO
忘れてた。
かれんちゃん(夜)設定については、聞かなくても当面は大丈夫そう。な感じ。
しかし彼女を保護した後の衛は夜どんな生活してたんだろうかw
一晩中がじがじとか?

212名無しさん@避難中:2011/12/13(火) 22:24:52 ID:Xus.f3qg0
>能力と魔素の扱い
そういえば話の流れで勝手に決めちゃったなw

      ヽ○ノ   まあいいか!
       /
      ノ)

>がじがじ
あんまり深く考えてなかったけど多分そんな感じw

213わんこ ◆TC02kfS2Q2:2011/12/13(火) 22:29:53 ID:.2sqnXEg0
>>209
ううう!続き、続きを頼む!

わたくしめも書いてみました。
岬陽太くんをお借りします。まずは、第一話。

214月下の魔剣〜獣〜 ◆TC02kfS2Q2:2011/12/13(火) 22:31:02 ID:.2sqnXEg0

 大根を片手にしていた岬陽太は、得体の知れない獣の力で押し倒されて唸った。坑う余地を与えず、少年を力でのめす。
薄暗い見知らぬ建物の中での死闘の末のこと。陽太の背後に木製の扉が行く手を阻み、襲い掛かる獣は扉諸共に少年を床に沈める。
激しい音があたりに響き、割れるガラスの音が耳をつんざき、体全体で受けた衝撃が陽太の人生でも最も過酷な闘いだと示す。
 勝手もわからぬ世界を彷徨っていた陽太に襲い掛かる魔の手。夜の闇に包まれ始めた時刻のことだった。
 扉と魔獣に挟まれ、両腕を脚で押さえつけられて、生暖かい息が陽太の頬にかかる。相手はまるで悪魔に操られたように
残忍であり、欲望に魂を乗っ取られたように陽太を逃がすことはしなかった。陽太の腕に獣の爪が食い込む。

 「レイディッシュよ、魔剣の誇りを忘れるな……」
 
 陽太の傍らに落ちた、一本の大根。彼はそれを『レイディッシュ』と呼ぶ。だが、よくよく見ればただの大根だ。
 床に叩き付けられ、ガラスの破片が細かく少年のてのひらを傷つけて、息の荒い四本足の野獣と対峙する。苦しい闘いだ。
それでも陽太はキズだらけの大根を剣のように持ち構え、得体の知れない敵に立ち向かった。大根は彼にとって武器だった。それさえも、
砕け散り、無に帰り、そして陽太の体力を奪い続ける。闇雲に振り回していてはいけない。相手は獣。容赦がない。
 はっはと、獣の息がかかるぐらいまでに陽太の顔に牙が近づくも、一瞬の隙を狙い陽太は脚で獣の腹を蹴り上げて獣からすり抜けた。

 陽太には相手が何者かなのかはすぐには理解は出来なかった。ただ、獣のような四本の脚で陽太に無慈悲にも襲い掛かり、
手足から伸びる鋭い爪が血に飢えていることだけは確認できた。陽太と同じ身の丈程ある猛獣は建物の中を彷徨いながら、
陽太を執拗に追い回す。陽太も応戦しようと、自ら召還した『魔剣・レイディッシュ』を上段の構えで迎え撃つ。
 陽太は夜の間、食材を見事なまでに再現させる能力を持っているのだ。大地開闢以来、神々が創造してきた森羅万象。
それを一瞬で否定した上に蹂躙する、まさに『厨ニ病』の塊のような能力を持った少年。

 神が苦難を与えるのならば、それに叛いてやろうではないか。
 太陽が全てを焼き尽くすのならば、月光で凍てつかせればよい。
 地面に濃い影を落とすのならば、闇で覆い尽くしてしまえばよい。

 岬陽太という少年を言い表すには、これほど十分すぎる言葉はない。

 「畜生!組織がおれをどうしようって言うんだ!!」

 人間の言葉を理解できない獣は細かいガラスの破片を踏みながら、扉に爪立てながら陽太を威嚇していた。
やがて窓からの月明かりで陽太は猛獣の全貌を知ることとなる。見たことも無い、残忍な冷たい血だけが体を廻る魔物。

 オオカミのような耳に牙、そして爪。悪魔にあるまじき豊かな尾。 
 全てが闇の建物の中で繰り広げられる。光りが差し込む隙さえない。
 突如二本足で立ち上がる魔犬が再び陽太にかぶさるように襲い掛かった。

 「こ、こいつ……。おのれ、白い魔犬!」

 陽太の言葉に歯向かうように魔犬は、歯向かうことの出来ない力で陽太の手にしたレイディッシュを一撃で跳ね飛ばした。

    #

 「なにするんですか!」

 日が傾き始めた往来の中、長いみどりの黒髪の少女・黒咲あかねは、メガネ男子の先輩。迫に声をあげた。
彼が折角手に入れた演劇のチケットを破り捨てようとしていたからだ。
 あかねの声でチケットは守れたもの、メガネ男子の顔は未だに険しい。

215月下の魔剣〜獣〜 ◆TC02kfS2Q2:2011/12/13(火) 22:31:48 ID:.2sqnXEg0

 「久遠荵は、自由過ぎる」
 「過ぎません!」
 「過ぎると思う」

 あかねの言葉を押し込んで、あかね、荵の先輩である迫は厳しく言い放った。

 演劇部の仲間とともに舞台を見に行こうと、学園近くの駅で待ち合わせをしていた、演劇部員・黒咲あかねも
携帯電話をちらちらと気にして、未だ姿を現せない荵を部員たちと待ち続けていた。なのに、久遠荵が姿を現さない。
 「時間通りに来ないことは、自ら拒んだと看做す」と、あかねの先輩である迫は冷たく荵を引き離した。
 迫があかねたちを引き連れて改札口に向かおうとした瞬間に歩みを止め、あかねはほっと息をつく。

 「ちょっと待て。久遠からだ」

 とみに迫が自分の携帯電話を開く。あかねたちは迫の断片的な会話を聞いているうちに、荵からの電話だと理解した。
風邪ならば仕方がない。誰もが納得のいく理由だ。ただ、携帯電話を手にして荵から受け取ったメールを見た黒咲あかねだけは違った。

 (『ごめん、あかねちゃん!イヌを追いかけているうちに、迷子になりましたー。わおーん』って……)

 迫との通話直後に届いた、荵からのメールにあかねは頭を捻る。おまけについた、イヌの肉球の絵文字が理解に苦しむ。

 イヌを追いかけているうちに、迷子になってしまった。
 久遠荵はウソをついてはいない。
 ただ、それを信じてくれるかどうかは別のお話。

 「黒咲、準備はいいか?」
 「とてもいいですっ」
 「よし、行くぞ。返事は?」

   #

 「わんっ」

 学校らしき廊下をローファーで歩く。故意ではなく、いつの間にか、そうなっていただけ。ちょっとばかり不安なので、
声をあげて払拭する。小さな体をぱたぱたと、久遠荵は暗いリノリウムで敷かれたの廊下を光り射す方へと進む。
 とある教室に光りが灯っていたのだ。暗い建物のなか、それは非常に目立つ。荵は恐る恐る明るい教室へと、
未知なる扉を開くがイヌっこはおろか、人影さえも見当たらない結末。

 「誰かいますか。いないなら返事しろー」

 整然と並んだ机は荵を不安の底に沈める。どこにでもある風景なのに、荵にひしひしと伝わるアウェー感。
 ひんやりと脚もとを冷たい空気がなぞった。背中を震わせれば震わせせるほど落ち着かない。

216月下の魔剣〜獣〜 ◆TC02kfS2Q2:2011/12/13(火) 22:32:31 ID:.2sqnXEg0

 いきなり。

 耳をつんざく音が荵を襲った。耳を塞ぎたくなるような鋭い音。同時に目を疑う瞬間を目の当たりにした。
 大根がガラス窓を突き破って飛んできたのだ。戻ることを忘れたブーメランのように、大根は回転しながらガラスの破片をまき散らし、
秩序正しく並んだ机にぶつかって墜落した。突然の出来事に荵は声を失い、しりもちついて、くまさんぱんつを露にするが、
幸い目撃者は誰もいない。白いぱんつに描かれたくまさんの貞操は守られたのだった。
 氷のようなガラスの破片が所々刺さった大根に気を取られていると、誰かが教室に押し入ってきたことに荵は肝を潰す。
 きゃん!と小さな声をあげて縮こまる荵は、生まれて初めて死ぬかもしれないという恐怖を感じた。

 「誰だ?組織か?」

 割と若い声。声変わりは恐らく迎えていないだろう。少年と青年の狭間を行き来する声だと、荵は察知する。
 荵は両手を恐る恐る開いて声の主の姿を見る。荵の目の前には短髪の少年が一人、息を切らせて、目を泳がせながら
立っているだけだった。

 「……誰だ。組織ならば、おれは受けて立つ」
 「そしき?」

 少年の言葉が荵には理解できない。

 「おれの能力を狙うのならば、おれの屍を越えて行かなければならない。それが神によって定められたものならば、
  おれはその定めを根底から叩き潰してやるぜ。なぜかって?決まってるさ。それが岬月下のジャスティスだから」

 荵は仁科学園高等部の演劇部員だ。古今東西、幾つもの戯曲を読んできたし、自分たちでも書き上げたりもした。
 だが、荵が今まで触れた中で『岬月下』と名乗る少年が口にした台詞は覚えがない。
 少年は床に転がっている大根を拾い上げると、冷静な顔をして大根に語りだした。

 「『魔剣・レイディッシュ』よ。闘いに敗れて、さぞ悔しいことだろう。だが、悲しみだけではない。
  こんな姿になろうと、お前の闘いの激しさを物語る勲章として永久に刻まれることだろう」
 「ねえ。なにしてるの?おおきな独り言?」

 月下と名乗った少年は大根を机に置いて寂しげに語った。

 「弔いだよ。喪に服すがいい」

 荵はやはり少年の言葉が理解できなかった。

 「さて。『組織』という言葉に疑問を抱いたということは、自分が組織の一員ではないという証明だということだ」
 「わたし、一応……『仁科学園』の生徒の『演劇部員』だけどねっ」
 「『仁科』か。おれの記憶にはない学校の名だ。おれの通う中学とは離れているのだろうな」
 「きみ、中学生?わたし、高校生だよっ。わおーん!うーっ」

 月下と名乗った少年は小さな先輩を前にして、二の句を継ぐことができなくなった。

217月下の魔剣〜獣〜 ◆TC02kfS2Q2:2011/12/13(火) 22:33:12 ID:.2sqnXEg0

   #

 岬月下……、いや。彼の名は岬陽太という。ただ、彼自身は月下と名乗る。
 陽太は教壇の机に腰掛けて、自分の身にふりかかった出来事を荵に語りはじめた。
 よくよく見ると、陽太の足元もスニーカーというところから、何かのっぴきならない事情があったに違いないと荵は感じた。

 「白い魔犬を追っているんだ」
 「わおーん!?」
 「やつは雪のように白い毛並み、剣のように鋭い牙、豊かな稲穂のような尻尾。そして、創成、そして破壊の神から
  温かみのある血潮を奪われたかのような、非常に残忍な性質。そう……やつは、ただの獣だ。生きているだけの獣だ」
 「イヌなの?なんなの?」
 「ああ、確かに。やつは四本の脚で闇を切り裂き、静けさを食いちぎる。この校舎を今も徨いつづけていることだろう。
  おれの住む街にやつが現れたときから、歯車は狂いはじめた。いつもなら、おれの能力で簡単に撃破できるんだが、
  やつは違った。狡猾だ。すんのところで、おれの喉元を噛みちぎられるところだった。だが、天がおれに味方したんだろう。
  通りがかった車に撥ねられた鉄片が、やつの尻尾を目掛けて飛び込んだ。そして鮮血を花びらのように散らせたのさ」

 状況を思い浮かべた荵は肩を竦めながら、熱心な陽太の話に耳を傾け続けた。

 「しかし、信じられないことが起きたんだ。赤い血溜まりが刹那に色を失い、空に浮かぶ雲を映した。
  そこに穴が開いたように。白い魔犬はその穴に飛び込み、姿を眩ませたんだ……」
 「どういうこと?月下くんは、その……その」
 「ああ。おれはな……おれたちの世界から白い魔犬を追って来たんだ」

 荵は瞬時には理解出来なかった。
 自分がどこにいるのか。何が起こって、何が起きんとしているか。

 「わたしは……。あかねちゃんたちとの待ち合わせ場所に行く途中、おっきなイヌとすれ違って、
  追いかけているうちに。ここの廊下にいたんだよ。だから、靴も下履きのままだよ」
 「もしかして、知らず知らずに誰かを瞬時に移動させる能力を使っていたのかもしれないな」
 「能力?」
 「ないのか?持っていないのか?」

 首をかしげる荵は、ぷいっとくびを縦に振った。
 当たり前のように『能力』について尋ねる陽太のことが不思議でたまらなかったからだ。

 「迫先輩からは『お前は恋愛物を書き上げるスキルが足りない』って言われたし」
 「そういう能力か?」

 荵は教壇に上がると、黒板に背伸びをしながら自分の名前を書き、傍らにイヌの肉球を描いた。
 転校生さながら荵はぴょこんとお辞儀を陽太に改めて行った。

 「久遠……ネギ」
 「しのぶっ」
 「ネギ」
 「しのぶだってば!」
 「静かに!ネギ!やつが来た!」

 陽太は真面目な顔をして、荵の肩を叩く。

218月下の魔剣〜獣〜 ◆TC02kfS2Q2:2011/12/13(火) 22:34:46 ID:.2sqnXEg0

 「涙を拭く覚悟をしろ。おれは行かなければならない」
 「きゅうん!……なに?」
 「ネギを危険な目にさらすことは、おれとして、男として許されることではない。必ず、生きてネギと再会することを誓う」

 陽太は荵の声を背後に、窓ガラスが割れた教室から駆け出して、闇の中に自らの姿を飲み込ませた。
 荵は黒板に書かれた自分の名前と肉球をちらと一瞥した。

 「わおーん!月下!戻ってきてよ!」

 教室に残っても仕方がない。
 だが、教室の外には白い魔犬がいるらしい。

 「魔犬でも、きっと話は通じるはずだよっ」

 イヌと聞いてじっとすることが出来ない荵は、ぴかぴかなローファーの足音を立てながら教室をあとにした。
 壁伝いに廊下を歩く。校内向けのポスターが手に触れる。メガネをかけたウサギの絵が描かれており、
 『今月は尻尾身嗜み月間です。きれいにね!風紀委員』という文字が月明かりで浮かんで並ぶ。
 「尻尾?なんで?」

 さらにポスターを慣れてきた目で眺めると『うがいてあらい!佳望学園保健室』という見慣れぬ名前が荵を引き止めた。

 階段の踊り場に白い尻尾が荵の目に入った。
 秋の稲穂のように豊かな尻尾。
 ゆらりと波打つ尻尾は意思を持った生き物のよう。仔犬のように固まった荵は、陽太の言葉を思い出しながら息を殺して尻尾を見守った。

 白い魔犬?
 それとも、新たなる……。

 油断はならぬ。

 決意を持って話し掛ける。イヌはともだち。裏切ることはない。

 「わおーん!」

 白い尻尾が視界から消えると同時に、荵の不安を掻き立てる。荵は目を力いっぱい閉じて、身を縮ませていた。

 「何の声?誰?」

 荵がゆっくりとまぶたを開けると、白いイヌが立って荵を見つめていた。

 イヌが立って?

 学生が着ているようなカーディガン。身の丈は平均的な高校生ぐらいか。真っ白な毛並みに包まれて、真っ白な髪を生やし、
不思議そうに鼻の先を荵の方を向けている、一人のイヌの少年。こつこつと階段を降り、荵の前で足を止めて話しかけてきた。

219月下の魔剣〜獣〜 ◆TC02kfS2Q2:2011/12/13(火) 22:35:24 ID:.2sqnXEg0

 「ここの生徒じゃないよね。どうしてここに?」
 「……わう」
 「……」

 イヌの少年は話すことが苦手のようであり、それ以上話し掛けることはなかった。
 荵が口を開く。

 「白い魔犬だ。だよね、きみ」
 「……」
 「魔犬でも、話せばわかってくれるよね。だって」
 「ぼくは魔犬でも何でもないよ。ただのイヌだもの」

 頭を垂れていた荵は静かに笑った。

   #

 荵は不思議で堪らなかった。イヌと話が出来る。それだけで、恥ずかしくなり、顔が赤くなり、天に上るような夢心地。
薄暗い見知らぬ学校の階段に共に並んで腰掛けて、イヌと話が出来る幸せ。荵は何を話せばいいのか分からずにいると、
イヌの少年が気を遣ってか荵のことを尋ねた。頬を赤らめた荵は自分のこと、仲間のこと、今あったこと、能力のこと、
岬陽太のこと、そして白い魔犬のことをつらつらと話した。イヌの少年はじっと話を聞いていた。
 堰を切った河川のようにとどまることを知らず、水無月の雨のように止むことを知らず、荵はきゃんきゃんと話した。

 「うん。だいたい分かったよ。きみのこと」
 「怖がらないの?」
 「それ、ぼくが言う台詞だよ」

 荵は初めてこの世界にやって来てから笑った。
 
 「ぼくは犬上ヒカル。ここの高等部の生徒だよ」
 「わたしは久遠荵だよっ。ここの……って」
 「佳望学園って言うんだけど」
 「けもう」
 「そう、けもうがくえん」

 ヒカルは思い出したように立ち上がり、荵にあることを尋ねた。
 けして荵を悩ませるような質問ではなかった。

 「迷子を捜しているんだ。ぼくの同級生で、ウサギの女の子」
 「うーん。ここに来てからは月下くんとしか会ってないなあ」

 ヒカルの尻尾は垂れ下がるのを荵が見ると、何となく申し訳ないことをしてしまったと荵の見えない尻尾も垂れ下がった。
二人は並んで暗い廊下を歩くが、荵は今までと違って華やかな散歩道のように感じた。
 ヒカルが言うには図書館で船を漕いでいると、いつの間にか周りが暗くなり人影が消えていたという。そして、ヒカルを
起こしたのがウサギの少女なのだという。荵はヒカルの話を聞きながら歩いていると、先ほど通りかかった校内向けのポスターが
張られている通りに差し掛かった。ちらと、ポスターをもう一度見てみると、ウサギの少女の絵が描かれていることを思い出した。

220月下の魔剣〜獣〜 ◆TC02kfS2Q2:2011/12/13(火) 22:35:54 ID:.2sqnXEg0

 「因幡、風紀委員長だから責任感あるんだけどね」

 荵が因幡という風紀委員長からのポスターを確認しようとしたが、すでにその場所を通り過ぎた後だった。

 「ねえ。気付かないの?ヒカルくん」
 「何を?」
 「わたしが下穿き履いていること」

 ヒカルは荵に諭されて、初めて荵がローファーを履いていることに気付いた。おかしなことが起きているから、
気が付かなかったと分かりやすい言い訳をすると、荵はにこっとヒカルの尻尾を叩いた。が、尻尾の動きが止まる。
 目線の先。ヒカルの目線の先を見るがいい。

 廊下の柱に小魚が突き刺さっていた。
 何匹も、何匹も、顔の方を柱に埋めて青白く光っていた。魚は奥へと続いて突き刺さっていることも確認できる。
荵は思わずヒカルの背後に隠れると、白い魔犬がこの近くにいるのではと、直感的に感じとった。
 荵はヒカルに気をつけるように忠告するが、ヒカルの興味は魚しかなかった。しかも、魚のあとを辿ってみると言うではないか。 

 「危ないよ」
 「捜さなきゃ。迷子を」

 何でもいいから手がかりが欲しい。
 幸せの青い鳥を探すように、ヒカルと荵は魚を辿りながらヒカルには見慣れた、荵には見慣れぬ校内を歩く。
柱から落ちた魚の音で荵が声をあげると、ヒカルは荵の口を手で塞いだ。温かい毛並みに包まれたヒカルの手は荵を落ち着かせる。

 ヒカルの真横を魚が風気って飛び、柱に勢いよく突き刺さった。
 目を丸くしたヒカル、そして思わずヒカルの背中に抱きつく荵。ぎゅうっとヒカルのカーディガンが伸びる。
 どうやら、少し開いた擦りガラスから魚は飛び出したらしい。それを覗き込むのは非常に危険だ。ヒカルはじっと固まる。

 「……」

 するとヒカルはいきなり魚が飛んできた教室の扉を開き、足元に落ちた魚を投げ返す。
 暗闇から聞こえてきた声は、荵には聞き覚えのある人物だった。

 「白い魔犬を味方につけるとは、ネギもやるな」
 「ち、違うよ!この子は」
 「獣人に身を変える能力。やつはそんなものを持っていてもおかしくない」
 「ヒ、ヒカルくんだって」
 「笑止千万とはこのことだ!ネギ!冗談はやめておけ。この校舎にはおれとネギ。そして白い魔犬しか居ないはずだぞ!」

 岬月下……もとい、岬陽太は小魚をダーツの矢のように構え、ヒカルの鼻先を狙っていた。
魚を投げ捨てると、手を高らかに上げて陽太は叫んだ。

 「叛神罰当(ゴッド・リベリオン)!いでよ、
魔剣!レイディッシュ!!!」

221月下の魔剣〜獣〜 ◆TC02kfS2Q2:2011/12/13(火) 22:36:33 ID:.2sqnXEg0

 まばゆい光がヒカルと荵の目をつんざく。
 目がくらむ。
 薄々と目を開くと、陽太がポーズを決める姿が瞳に焼き付いた。

 呪文のように唱えた言葉、召還されたのは一本の大根。白く、まだ茎の葉も新鮮に見える。
 大根をヒカルに投げ与えると、ヒカルは大根の感触を確かめた。ずっしりとして重いそして、見た以上に硬く感じる。
陽太も同じく大根を手にして、勇者の剣のように誇り高く天を突いたが少しぐらついている。息も多少切れているようだ。

 「ふうぅ……。一晩で三本もレイディッシュを召還すれば、おれの体力もそれだけ削られているということだ。
  だがな、おれは神に叛いた男だ。万物創生以来、全ての理を敵に回してでもおれはおれなんだ」
 
 ヒカルは太い大根をゆっくりと見回していた。

 「白い魔犬『ホワィティスト』。お前とおれは今互角に戦える状態だ。ならば、魔剣・レイディッシュを使わせてやろう。
  一対一の差しでの勝負。力あるものは栄え、力なきものは斃れるだけ。わかり易いと思わないか?魔犬遣いよのネギ」
 「ぜんっぜんわかんない!」
 「来いよ!魔犬!その牙、レイディッシュの錆にしてやろう!」

 上段の構えで陽太が一歩向かう。ヒカルは本能的に身構えて、陽太の動きを読み取ろうとした。

 ヒカルの頭部を狙う陽太。脇ががら空きだ。ヒカルがそれを察知してレイディッシュを打ち込もうと跳ねると、
陽太のわき腹目掛けて大根を水平に振った。しかし、身の軽い陽太は両足のばねでヒカルの一撃をかわし、立ち位置が入れ替わる。
 今度は陽太の篭手ががら空きだ。すかさずレイディッシュを伸ばすヒカルだが、元来の気の優しさで力を緩めてしまった。
それを見透かしたのか、陽太は突きを試みる。危険な技だ。剣の心得を知らぬ陽太は野良犬殺法。振れば当たる、振れば当たるを
繰り返していた。ただ、精彩さに欠ける。無駄に体力を消耗しているのだ。

 「加速しろ!加速するんだ」

 陽太はレイディッシュに言い聞かせながら、両手で握り直すと勝算を見出だしたのか白い歯を見せた。
 幾度の闘いを乗り越えてきたはずだ。それを露にする気配さえもなく、陽太はステップワークを軽やかにヒカルに見せ付ける。
 ヒカルの尻尾が止まる。そして、ゆっくりと古時計の振り子のように揺れる。
 戦いを楽しんでいるのではなく、相手を警戒しているのだ。イヌと普通に会話さえ出来そうな荵は、もちろんヒカルの
心理状態を把握していた。

 「だめだよ。月下くんの誘いに乗っちゃ」
 「……」
 「ヒカルくん!」
 「……」

 荵は教室の壁を背にして、声を掛けることしか出来なかった。荵のその行動は陽太にとって願ったり叶ったり。
 なぜなら、荵の声でヒカルの集中力を奪うことが、この戦いにおいて陽太にとって有利に傾くからだ。

 陽太は声を絞り出しながら、荵を睨んで声をあげた。

 「魔犬遣いネギ……」


     つづく。

222わんこ ◆TC02kfS2Q2:2011/12/13(火) 22:38:24 ID:.2sqnXEg0
次回、予想だにしない出来事が!
風雲急を告げるシャアクロススレ、一体どうなってしまうのか!!

近日投下します。よろしゅう。

223 ◆TC02kfS2Q2:2011/12/13(火) 22:40:02 ID:.2sqnXEg0
ミスタイプぐらい許してね。

224名無しさん@避難中:2011/12/13(火) 23:08:17 ID:Xus.f3qg0
3倍速乙
ネギかわいい
陽太はやっぱり陽太だw

225名無しさん@避難中:2011/12/14(水) 17:59:20 ID:CVTWOmUAO
はっ、昨夜は何かの祝日かい?

投下乙。
大根の柔らかさとネギの甘味が絶妙なハーモニーを奏でる。
魔剣使いと魔犬使いとは、みんな色々考えるもんだな。
純粋に面白かった。キャラ勝ちも多少あるとは思うが文章うまいね。
妬ましいのでこれ以上は誉めない。

226名無しさん@避難中:2011/12/14(水) 18:05:57 ID:bvm9MFdk0
>魔剣使いと魔犬使い
なるほどw

227わんこ ◆TC02kfS2Q2:2011/12/15(木) 19:36:31 ID:wnbWNPrE0
『月下の魔剣〜獣〜』の続きです。

228月下の魔剣〜獣〜 ◆TC02kfS2Q2:2011/12/15(木) 19:37:08 ID:wnbWNPrE0

 陽太が踏み込む。

 椅子だ。

 右足で椅子を踏み台にして、小さな体を自らの力で上昇させると、また一段。

 今度は机。

 左足で机に足を掛けると、ヒカルより遥かに高い位置で体勢を構えることができる。
 ヒカルが構えてレイディッシュで頭部を守ろうとしたときには、既に陽太は重力を味方に付けてヒカルの眉間に照準を合わせ、
致命傷を負わせるぐらい、若しくは一生傷残るぐらいの一撃をヒカルに与えようとして飛び跳ねた。

 「月の光りに焼き尽くされるがよい!白い魔犬め!」
 「やめて!ばかっ」

 陽太とヒカルの間を阻む小さな影。
 ヒカルは目をつぶる。
 陽太はレイディッシュを垂直に振り下ろした……はずだった。
 手応えがない。

 ヒカルは大根を両手に身構えて、未だ二つの足で床を踏み締めていた。
 生きている。
 立っている。
 何故?

 陽太の背後で荒い息が聞こえる。
 荵だ。
 荵がヒカルの疑問を吹き飛ばした。

 荵は陽太のレイディッシュを奪い、肩で息を切っていた。
 ヒカルは小さな荵の姿を見て、尻尾を揺らすのを止めた。

 「どうして……。どうして、そんなことすんの!月下のばかっ」

 両手で持った大根を床と水平に、そして足の膝を垂直に上げて大根を下から膝で突き上げる。陽太が持っていたレイディッシュは、
脆くも荵によって真っ二つに折られてしまった。両手それぞれに、ただの大根と化したレイディッシュの亡きがらを持った荵は
瞳に涙を溜めていた。一人の少女の手によって誇り高き魔剣は、一介の野菜と変わり果てた。

 「ヒカルくんも……、月下も……」
 「わかった。ヒカルが魔犬でもなく、ネギが魔犬遣いでないことは分かった」

 握りこぶしを作った陽太は、背中を荵に見せながら二人の存在を認めた。
 陽太の背中は小さくとも、荵には大きく見えた。
 ヒカルは大根を側の机に置いて呟いた。

229月下の魔剣〜獣〜 ◆TC02kfS2Q2:2011/12/15(木) 19:37:35 ID:wnbWNPrE0

 「それでも、魔犬は校舎を徨い続けている」

 その一言に陽太は揺り動かされたのか、ヒカルとの握手を求めた。
 共に剣を交わした、誰にも渡すことの出来ない二人だけの契りだった。
 荵は薄暗い中、シルエットとなった二人の姿を見て安心した。

 「ところでだ。今、何が起こっているのかは分からない。おれの世界、ヒカルの世界、ネギの世界。
  それぞれの世界からやって来て、カオス的に入り混じっている。それだけは分かっているんだが」
 「ぼくは図書館で寝ているうちに、この出来事に巻き込まれた。そして、迷子の因幡を捜さなきゃいけない」
 「わたしは街で大きなイヌを追いかけているうちに、いつの間にかに迷い込んだ感じだよ」

 三者三様、事情は違えど、何か逆らえない大きな力に巻き込まれたことは間違いない。
 外はまだまだ夜の底。日を見せる時間はまだ遠い。

 「おれはおれの世界に戻るには、あの禍々しき魔犬『ホワィティスト』を倒さねばならないんだ」

 異様に魔犬の首を狙う陽太、この世界に飛び込んできたきっかけを知れば、陽太の言葉の意味は理解できる。
 陽太が望むのは、魔犬の肉魂ではなく……血潮だ。魔犬から流れた血の海が、空間を捩曲げて入り口を創成した。
 それさえあれば、戻れるかもしれない。

 しかし、荵はそんなことを望んではいなかった。
 あかねをはじめ、演劇部員たちと再会を期すことではなく、忌まわしき魔犬と言えども、それが陽太たちを地の底に
突き落とす者だとしても。荵が飛び上がるぐらい親愛を示す生き物が、叩きのめされることがどうしても我慢がいかなかったのだ。

 「月下、ヒカルくん。わたしたちが元の世界に帰る方法って、他にないかなあ。だって、事実」
 「ぼくや荵さんがここに来たきっかけは、月下の言う『白い魔犬』の力を借りてないよね」
 
 荵はヒカルから『荵さん』と初めて呼ばれたことに、荵の下腹部が疼いた。

 「しかし、いちばん簡単で確実な方法はそれしか思い付かないぜ」

 堂々巡りの不毛な議論。
 陽太は机に転がったレイディッシュ、もとい大根を再び手にしてうろうろと教室の中を往復した。
 ヒカルは教室の明かりを付け、黒板に『月下』『荵さん』そして『魔犬』と横書きで白墨で文字で書いた。

230月下の魔剣〜獣〜 ◆TC02kfS2Q2:2011/12/15(木) 19:38:01 ID:wnbWNPrE0

 「月下は魔犬を討ち取らなければならない。何故なら、魔犬の血液が月下の世界に戻るには必要だから」
 「ああ。ヒカルの言うとおりだな」
 「荵さんは魔犬を傷つけてはいけないと主張する」
 「わん!」
 「相手は話も通じない生き物。平和的な解決は望めない」

 大根でばんばんっと陽太は黒板を叩き、自分の主張を述べる。

 「おれに必要なのは、力。能力さえあれば、魔犬なんか」
 「その『能力』ってなに?」
 「説明するぜ。あのチェンジリング・デイ以来、おれたちは不思議な力をそれぞれ身につけたんだ。おれは日が出ている間は、
  『万物創造』……リ・イマジネーション。月が昇る間は『叛神罰当』……ゴッド・リベリオンを使うことが出来る」
 
 陽太はそれぞれの能力の名前を黒板に書くと、大根でばんばんっと文字を差しながら説明を始めた。

 「おれは神に叛く男だ。森羅万象を支配し、誰もが恐れ戦くありとあらゆる万能の神でさえ、おれは反逆ののろしをあげてみせる。
  そう。二つとも能力は違えど『ここに存在しないものを生み出す』こと自体が神へ叛くことなんだ」
 
 ヒカルと荵はとりあえず、自分たちには想像のできないことが起きているとだけ理解し、陽太の話に耳を傾けていた。
 大根で夜の能力・叛神罰当(ゴッド・リベリオン)の文字を指した。

 「おれが手に入れた能力で、このレイディッシュを相棒にすることが出来たんだ」
 「そうなんだ。今のところぼくは能力ってものを手にしているとは感じていない」
 
 荵もヒカルの言葉に合わせて首を縦に振った。

 「もしかしたら、気がつかないうちに犬上も能力を身に着けることになるかもしれない」
 「ばかな」

 陽太が『荵さん』と書かれた文字の左に『犬上』と名前を加えると、荵はどきっとして胸に手を当てた。

 「とにかく、犬上もネギも覚醒していないうちは誰かの能力に頼らざる得ないと思うぜ。兎角、この世界では
  常識が常識を超えることだってあり得るんだからな。さあ、どうする?」
 「……行動あるのみ、かな」

 ヒカルは即答した。

231月下の魔剣〜獣〜 ◆TC02kfS2Q2:2011/12/15(木) 19:38:25 ID:wnbWNPrE0

   #

 三人は再び校舎を徘徊する。不安と期待を抱きながら、夜の学園を歩く。
 
 「あ……。どうしよう?月下、ヒカルくん」

 三人の行く先には分かれ道。
 階段を上って屋上へゆくコース、階段を降りて下の階へゆくコース。
 何者かに引き寄せられるように、陽太は迷わず屋上への階段を選んだ。理由を尋ねればこう答えるだろう。

 「出口に向かって逃げるのは、おれの哲学に反するからな!」

 一方、ヒカルは階段を下りようとしていた。荵は戸惑う。
 迷子を捜している。もう一度、校舎を巡って捜してみよう。

 陽太は陽太なりに、ヒカルはヒカルなりに理由を抱えていた。
 荵はどうする。
 
 「待っている人を巻き込んでまで、荵さんをこれ以上引き止める理由なんてないよ」
 「そのためにも、おれに力を分けて欲しいんだ。頼むぜ、ネギ」

 自分があかねたちと再会するために。
 どうして、イヌと戦わなければならないのか。
 なぜに、親愛なる友と鍔ぜり合いをしなければならないのか。
 そして。もしかして、荵が帰るための方法に、他の可能性が残っていないのだろうか。
 無知は罪なり……と、荵は呟いた。

 現実に起きているというのに、確証が得られないもどかしさが荵を苦しめる。
 まるで荵は、雪山のロッジにに取り残された遭難者だ。無駄に行動を取ると、望みもしない冷たい雪が自らの体を
傷つけることとなり、かと言って策を取らなければそれはそれで、このまま居残り続けても自分を苦しめ続けるのことから逃れなれない。

 「どうしよう……」

 荵が篭るロッジの扉を叩く者がいた。
 彼の名は。

 「例え……ぼくがぼくのままで白い魔犬だったとしても、荵さんが帰ることができるならば、月下に叩きのめされてもいいよ」
 「ヒカルくんっ」

 陽太は「ははっ」と、ヒカルの言葉を許した。

232月下の魔剣〜獣〜 ◆TC02kfS2Q2:2011/12/15(木) 19:38:57 ID:wnbWNPrE0

 白いイヌの目の奥を信じた荵は、胸の底を焔立つ炎で焼いていた。
 荵はヒカルの今一度手首を握ると、岬陽太の後に続く決意を決めた。

 「ネギを必ずやネギの世界に帰してやるからな!」

 陽太はグーサインを荵の目の前で決めてみせた。

 「それじゃあ、ぼくは下に」
 「おれは上へ!」
 「月下、荵さんを……」

 ヒカルが階段を降りてゆく姿を焼き付けようと、いつまでもいつまでも荵はその場を離れなかった。

 「わおーん!!」

 暗い校内に、別れを惜しみ悔しがる声が響いた。

   # 

 荵と別れたヒカルは、誰かから糸を引かれるように迷いなく廊下を歩き、そしてくんくんと鼻を利かせていた。
壁の匂いがちょっとづつきになるらしい。不穏な湿った空気が流れているからだという。それ故、毛並みを気にする。
 行き着く先は職員棟にある保健室だった。まるで、初めからその部屋に行くことを決めていたように。
真っ暗な室内、ノックをして返事がないことを確認すると、扉を開けて足を入れる。電灯のスイッチを入れると、
部屋の異常性が改めて分かる。石鹸とシャンプーの香りが鼻をくすぐりそうな雰囲気だ。およそ学校の部屋とは思えない。

 「来ないで!わたしと関わらないで!」

 保健室のベッドの上、床に脱ぎ散らかしたピンクのカーディガン。緩んだ胸元のリボンとボタンからは、白い毛並みがちら見え。
 メモが書かれた付箋がモニタに貼られたPCが陣取り、主を失った事務机には、学生カバンとサブバック代わりの紙袋が
幅を利かせていた。毛布に恥ずかしげに被さり、ウサギの耳が飛び出ていた。伺うように、メガネ越しの目がヒカルの方を覗き見る。
ボブショートの髪は毛布に絡み、お年頃の女の子だというのに乱雑さを隠せなかった。

 「犬上、来ないで」
 「……」
 「もう、誰も泣かしたくないから!」

 イヌに追い詰められた(と、思い込んでいる)ウサギの怯え方は異常だった。
 おもむろに近付くヒカルに、ウサギは手元の枕を投げつけた。
 ヒカルの腰に当たり、跳ね返った枕が事務机の上の学生カバンに当たり、ウサギのパスケースがぶらりと垂れた。

 『イナバ リオ』

 定期券に書かれた名前の娘は、膝を抱えてベッドに転がっていた。

   #

  つづく。

233わんこ ◆TC02kfS2Q2:2011/12/15(木) 19:42:24 ID:wnbWNPrE0
岬陽太。
久遠荵。
犬上ヒカル。
そして、因幡リオ。

彼らは一歩一歩、希望の光に向かって歩き始めていった。

しかし、次回シェアクロススレ『月下の魔剣〜獣〜』最終回……彼らに最悪の事態が襲い掛かる!
一体、どうなってしまうのか!!!

近日、投下します。

234名無しさん@避難中:2011/12/16(金) 01:46:22 ID:gRbRsjMw0
乙です!
いろいろなキャラが出て来とる
リオに何があったのだろうか
何かあったとして、それはここに書ける内容のことだったのだろうか……!

235名無しさん@避難中:2011/12/16(金) 23:01:02 ID:JRHIM1H.0
>それはここに書ける内容のことだったのだろうか……!
って…

こ、こけー!!
にわとりが来るぞ!

236名無しさん@避難中:2011/12/18(日) 07:16:13 ID:W9HqdsN2O
気付いたらなんかすごいクロス来てたw
なんだこれなんだこれ大変なことになってるぞw

237わんこ ◆TC02kfS2Q2:2011/12/23(金) 16:57:15 ID:WRR7xxPQ0
『月下の魔剣〜獣〜』 最終章。

投下します。

238月下の魔剣〜獣〜 ◆TC02kfS2Q2:2011/12/23(金) 16:57:49 ID:WRR7xxPQ0

 「なんかさ、校舎の屋上に行くと校庭に向かって叫びたくなるよな」

 校舎の屋上へと出た陽太と荵は、星空が一つも出ていない夜を悲しむ間もなく、まだ出会わぬ白い魔犬・ホワイティストとの
戦いに備えていた。もっとも、荵の方は消極的なのだが、陽太より年上なのを気にしてか、顔には簡単に表さない。

 陽太は意気揚々と屋上の柵に駆け寄って、真っ暗な校庭を見下ろした。学園は丘の上に建てられて、校門から延びる下り坂は
眼下に広がる市街地へと続く。元の街の賑わいはこの世界には及ぶことはなく、まだまだ眠るには早い時間だというのに
しんと静まり返っている。陽太は目を輝かせながら、生憎の曇天の元でポーズを決めてみせた。

 「おれは、おれの名は岬月下! 神に、この世の理に叛く男! 今日おれがここで死ぬことが、神の定めた理ならば!
  叛いてやるさ! その理にも!」

「白い魔犬を追ってここまでやって来たのだ。なのにアイツは姿を現さない。陽太の後を追う荵も、多少は不安にかられていた。
空は月や星を覆うように雲が広がって、陽太はそれを不吉な兆しと忌み嫌った。それを払拭するかのように声を高らかにあげていた。
 陽太の気が済むならそれでいいと、荵はそっと背後で見守る。まるで、手のかかる弟の姉のように。

 「ねえ。月下」
 「……」
 「ここには、その……ホワイティスト?は、いないと思うよ」
 「何故」
 「多分」
 「何故」
 「分からない」
 
 荵は魔犬を傷付けずにいられる方法がないか、果たして陽太に付いて行って正解だったのかと、自問自答をくりかえしていた。
しかし、何の解決にもならないことを荵をさらに苦しめた。出来ることなら、誰もが納得する方法で、大好きな友人や尊敬する先輩の
元へ帰りたい。しかし、誰かを犠牲にしなければ得る物はないという、世の理を否定するには、荵はまだま小さ過ぎる人間だった。

 「月下。わたし、下の階に行ってくるね」
 「おう。出来ることなら、白い魔犬をおびき出してくれよな」

 やめてよ。願い下げだよ。
 荵はぷいとそっぽを向くと、屋上に繋がる扉を開き階段を音を鳴らして下りていった。

 (やっぱり、ヒカルくんとこ……行こう、かな?)

 荵は屋上に戻ってくるつもりはさらさらなかった。他に方法はある、はず。

 一方、屋上に残った陽太はどっかとあぐらをかいて白い魔犬のお出ましを待った。来る当てのない待ち合わせほどつらいものはない。
しかし、闘いに臨む勇猛果敢なつわものには、その時間が長ければ長いほど闘志が燃えるという。
 次第に雲が厚くなり、コンクリートから湿気た匂いが立ち込めてくるのが分かる。

 ぽつり。

 一滴のしずくが陽太の頬に。また、ぽつり。
 しずくが当たる間隔が狭まってくる。

239月下の魔剣〜獣〜 ◆TC02kfS2Q2:2011/12/23(金) 16:58:22 ID:WRR7xxPQ0

 「雨か」

 陽太が掌を広げて空を仰ぎ見た瞬間、有刺鉄線に囲まれた屋上のタンクの上に異質な獣を発見した。四本足を踏みしめ、
たわわな尻尾を揺らし、そして切り裂くことだけしかしらない牙をむき出しにして、眼下の陽太を見下ろしていた。

 神に叛いた男・陽太。

 白い魔犬・ホワイティスト。

 「来たな、待ってたぜ……。叛神罰当(ゴッド・リベリオン)!いでよ、魔剣!レイディッシュ!!!」

 剣先……大根の先が、きらりと光った。ように見えた。

 陽太の意思が伝わったかのように、ホワイティストはタンクを踏みしめて有刺鉄線を大きく跳躍し、陽太の前に飛び降りてきた。
魔犬は尻尾を振りながら体勢を低くして屈み、陽太のレイディッシュを宣戦布告として受け取った。

 挑発するように陽太はレイディッシュをホワイティストの目の前で丸く剣先を回す。
 唸り声を上げながら、ホワイティストは首をレイディッシュの先に合わせるように動かしている。
 相手の誘いに乗ってはいけない。心理戦を征する者が、闘いを征する。 果して、両者がそんなことを考えいるかは分からないが、
無駄に体力を消耗するだけの行き当たりは避けたい。陽太がずずと摺り足で、徐々に後退していくと、ホワイティストも一歩一歩、
牙を陽太に見せ付けながらにじり寄ってきていた。

 「とあっ!」

 大きく振りかぶってホワイティストの眉間を狙い、渾身なるレイディッシュの一撃を与えようと、陽太は一歩手前に飛び込んだ。
しかし、振りかぶった分ホワイティストに隙を見せてしまい、逃がすチャンスを余計に与えてしまった。身を低く屈み込み、
陽太の脇をすり抜けて行くホワイティスト。陽太が踵を反したときには、禍々しい猛獣の毒牙が陽太の脚をかみ砕こうとしていた。
そうはさせじと、右足を軸に一瞬の隙をついてコンパスのごとく回転した陽太は足を力一杯上げて、ホワイティストの顎を蹴り飛ばす。
残虐なる猛獣と言えども、顎は急所だ。頭蓋骨を伝わって脳を大きく揺さぶらされた魔犬は足をぐらつかせる。
 のけ反りながらホワイティストは自らの体をコンクリートの床に打ち付けた。勝算を見出だした陽太は、足の感触にわなわなと
武者震いを隠しきれなかった。獣の慟哭が夜に響き渡る。その声に怯えたのか、月は消え去り不穏な雲で学園を包み込んでいた。
 コンクリートの匂いが両者の鼻をつく。

 「お前、大したことねーな!尻尾を丸めて地獄に堕ちるさまが似合っているぜ」

 屈辱の極みを味わったホワイティストにとっては、陽太のセリフは新たなる一撃のための源となる。
 陽太の言葉を魔犬が理解しているかは分からない。
 魔犬の動向を察知したかは分からないが、陽太は左手を高く上げ叫ぶ。

240月下の魔剣〜獣〜 ◆TC02kfS2Q2:2011/12/23(金) 16:58:52 ID:WRR7xxPQ0

 「サイレント・シールド!」

 陽太の手に現れたのは、顔ほどある甲殻類。

 蟹だ。

 固い殻に包まれた蟹は、陽太を守る頼もしい盾となった。

 蟹だ。

 だが、頼もしい盾だ。

 蟹。だ。

 体勢を立て直したホワイティストは陽太の喉元を狙い飛び掛かるが、サイレント・シールドに阻まれて返り討ちに遭う。
固く、そして細かい刺を持つサイレント・シールドは、ホワイティストの鼻先を傷付けて鮮血で滲ませていた。
白く気高い毛並みが赤く染まる。また一度ホワイティストは陽太への執拗な攻撃を試みるが、海の幸を味方に付けた
陽太の守りに傷付き、山の幸の攻めで無駄に体力を削ぎ落とされてゆくだけだった。

 陽太は頬にひやりと冷たい一滴を感じ続けていた。
 一滴が二滴、三滴と続き、束となって両者に降り注ぐ。
 激しくコンクリートの屋上に打ち付けられる雨音が、ホワイティストの気配を洗い流してしまった。

   #

 廊下でたたずんでいた荵は、窓に打ち付けられる雨に驚いた。
 あまりにも急で、激しかったからだ。

 「嫌な予感……」

 野性的な第六感が荵を苦しめる。

   #

 読めない。
 相手の動きが読めない。

 音。

 姿。

 気配。

 全てを雨が流してしまった。
 陽太が『神に叛く男』を名乗るなら、神は『彼に叛く』存在なのであろう。

241月下の魔剣〜獣〜 ◆TC02kfS2Q2:2011/12/23(金) 16:59:27 ID:WRR7xxPQ0

 陽太の体力を奪い続ける雨は、ますます激しさを重ね、足元を狂わせている。
 ぴたると衣類が体に纏わり付くのも、陽太を苦しめる要因となり、戦局を悪化させていく。

 「ぐはぁ!!」

 予想だにしない脚への一撃。ホワイティストの爪がかすり、陽太のズボンに一筋の亀裂を走らせる。
 同時に陽太の脚から滲み出る血が若き剣士を動揺させた。

 相手は戦いのイニシアチブを奪い取ったと感じたのか、降りしきる雨の中なのにも関わらず、陽太の脚を鋭い爪で襲い続けた。
シールドで脚を守ろうと屈み込むと、無防備な頭部をさらしてしまう。ここに忌まわしき猛獣の爪が食い込むと、命の保証はないだろう。
やがて脚への攻撃に耐え兼ねた陽太は膝を折り、前のめりに崩れ落ちる体勢に成り果てていた。
 うなじに突き刺さる雨が、陽太の剣士たる誇りをずたずたに切り裂いていった。

 「まだ、この命、くれてやるもんか!」

 陽太の叫びと共に猛獣が上から被さり襲いかかる。サイレント・シールドで守りを固めるも、強大な力で割られてしぶきと化し、
恐るべき獣の力をまざまざと見せ付けられてしまった。水びだしのコンクリートへ大の字になって仰向ける陽太に危機が襲う。
 一刀の元にホワイティストを斬り捨てようと、レイディッシュを渾身の力で振り上げる。いけない。腕で振りかざそうとしている。
刀は腰で振るもの。腕だけの力ではどんな名刀だって、鈍らな無銘な刀に成り下がってしまう。それがレイディッシュでさえでも。
 雨に濡れた獣の生暖かい匂いが陽太を狂わせていた。

 哀れな魔剣は魔犬の腕で跳ね飛ばされて、振りしきる雨の中、冷たいしずくとともに校舎の下へと落ちてゆく。

 万事休す。矢尽き、刀折れる。
 全ての神が、岬陽太を見放したと言うのか。
 それとも全ての悪魔の契約が、岬陽太の血を肉を求める内容だと言うのか。

 「こ、これ以上……レイディッシュを召還すると、おれのHPが……」

 神に叛く陽太でさえ質量保存、自然の摂理には歯向かえない。今度、レイディッシュを召還すれば二の足で
大地を踏みしめることさえままならぬことは、陽太には分かりきっていた。しかし……神をも恐れぬ男。それが岬陽太。
 
 ありったけの力で魔犬の腹を蹴り上げると、苦渋の顔面を魔犬は見せていた。いまこそ、チャンス。道は切り開かれた。
小さな体で四つの脚をリスのようにすり抜けると、膝をついて脚を振るわせながら立ち上がり、前のめりのまま叫んだ。
もはや、闘うためだけの本能が陽太を動かしていたと言っても過言ではない。雨もまた陽太の力を奪い続ける。

 「叛神罰当(ゴッド・リベリオン)。い……いでよ、魔剣!レ、レイディッ……シュ」

 陽太の手には再びレイディッシュは現れたが、もはや陽太の力はそれまでだった。
 薄れゆく意識の中、陽太は魔犬を目の前にして水溜りの中へと崩れ落ちた。

   #

 雨がやむ気配はない。ガラス窓に手を当てて、雨が吸い付く様子を見ているだけ。
 荵の頭に屋上に残した陽太のことが過ぎった。こんな雨の中、来るはずのない魔物を待ち続けているバカモノなど居るはずがない。
きっと校舎の何処かに戻っているのだろう。ひんやりと体の体温が奪われ、雨も見飽きた頃。雨粒と一緒に空から立派な大根が一本
降ってくるのを荵は目撃した。
 光景は異様であるが、白い大根が闇を舞う姿は妙に美しかった。

 「げ、月下のばかー?」

 荵は雨に濡れる覚悟を決めた。

   #

242月下の魔剣〜獣〜 ◆TC02kfS2Q2:2011/12/23(金) 17:00:07 ID:WRR7xxPQ0

 息を切らせた荵が屋上に着いたときには、あんなに激しかった雨は収まりかけていた。荵の目に飛び込んだのは、
大根を握ったまま冷たいコンクリートに伏していた若き戦士の姿だ。そして、その目前には両足をそろえて、まるで主人の帰りを待つ
忠犬のような、ホワイティストの姿があった。血に飢えた猛獣の印象さえない。滲んだ鼻の傷はすでに癒えていた。

 荵は陽太のレイディッシュを奪い、愛すべき魔犬・ホワイティストと対峙した。
 
 争いたくはない。
 傷つけたくはない。
 でも。帰りたい。

 揺れ動く荵の気持ちを抑えてくれたのは、魔犬の傷だった。
 尻尾が傷ついている。深い。鋭利な何かで切られたような傷跡。赤い血がぽたぽたと流れる姿は、荵には耐え難い。
しかし一方、陽太がレイディッシュで与えた傷ではないものだと確信した。陽太はまだ、魔犬に手をかけていない、と。
 流れた血の筋を辿ると屋上のタンクの方へと繋がっていた。魔犬がタンクから飛び降りるとき、尻尾を有刺鉄線に引っ掛けたらしい。
荵は全てを理解し、戦う意思を放棄する意味で、大根を冷たいコンクリートへ投げ捨てた。

 「大丈夫。わたしがついているから」

 言葉を理解せぬホワイティスト。荵が何を語っても、通じぬだろう。
 だが、荵はホワイティストと会話が出来る気がした。何故なら……荵はこう語るからだ。

 「地上で生きる全てのイヌは、もっと幸せになるべきだと思うんだ」

 ホワイティストはまるで荵の言葉が分かっているかのように、黙って耳を傾けていた。
荵がホワイティストに近寄っても、荵を攻めることは一切なかった。まるで、昔からの親友のように大切な鼻の先を荵に差し出す。
傷ついていた鼻だ。それでも無防備にホワイティストは荵に鼻を委ねた。そっと触れると、湿った毛並みが荵の手を濡らしていた。

 「だから……。もっと生きて。もっと幸せになって」

 尻尾の傷がうずきく。

 「たいせつな、ともだち」

 真っ白な毛並みに顔を埋めた荵。涙こぼしても、毛並みで濡れたからといい訳しても構わないだろう。

 「逃げて。お願い」

 果たして、通じたのだろうか。それは分からない。

 「……」
 
 長い沈黙が続く。雨はとっくに止んでいるのに、雨音が消えたことさえ荵は気付かなかった。いきなり荵の頬から、
ホワイティストの冷たい感触が消える。大きな後姿、引きずる尻尾、流れる血潮。荵はその姿をじっと見守った。
 荵が誘うままに白い魔犬は、屋上から空を征するように飛び降り、地上に舞い降りると校門へと走り、彼方へと姿を消してしまった。

 「さよなら。白い魔犬」

 魔犬が消えたあとをいつまでもいつまでも荵は見つめていた。

 そうだ。岬陽太はどうなった。荵はいまだ伏したままの少年の元に駆けつけて呟いた。

 「あ。雨……止んでる」

    #

 彼女を知っている者が見れば明らかに普段のリオとは違うと伺える。
 窓ガラスを叩く雨音に驚いて、ベッドから転げ落ちる姿は見せないはずだ。冷静さを失った風紀委員長など、
この世に必要ない。リオはそれでもなりふり構わず乱れて、身を縮こまらせていた。ヒカルはどうしていいか分からなかった。

 「あいつらが来る!」

 リオはそれしか叫ばない。枕をいきなり持ち上げて、ヒカル……ではなく、ヒカルとは反対側の窓ガラスに向けて投げつけた。
窓ガラス軽くあしらうように、枕を床に跳ね飛ばす。

 「だから、犬上!逃げて!」

 窓ガラスが割れた。爆発するような音とともに。小規模ながら、床に散らばるガラスの破片が衝撃を物語っていた。
リオはスカートを翻し、ニーソックスの脚を露にしながらベッドの上を転がった。部屋の中でも雨音が大きく聞こえてくる。

243月下の魔剣〜獣〜 ◆TC02kfS2Q2:2011/12/23(金) 17:00:40 ID:WRR7xxPQ0

    #

 「もう。月下はホント世話の焼ける!」

 陽太はずぶ濡れのコンクリートに伏したまま、動くことがなかったもの息はある。ちょっと気を失っているだけだった。
頬も赤くはれ上がった陽太の顔は精悍に見えるのが非常に悔しい。荵はそっと陽太の髪を撫でた。

 「月下のバカー」  

 荵は気を失って倒れている陽太に魔剣を握らせて、自分も陽太のように、何者かに打ちのめされたかのごとく、
自らの体をコンクリートの床に伏せた。制服が濡れる。冷たい。しばらくすると、陽太が息を吹き返す。

 「ネギ……、居たのか?」
 「うーん。痛かったよおお」
 
 荵は陽太の声を聞くとおもむろに立ち上がり、わざとらしく打ってもいない頭を抱えてみせた。
 濡れたスカートを叩いて、瞬きをしながら荵は周りを見回すと、起き上がった陽太を見つけ(たふりをし)た。
芝居を打って駆け寄る。
 
 「ネギ、生きているか?無事か……?あれ、アイツは?姿を現せよ、白い魔犬!!」

 荵の演技が始まる。
 演劇部仕込みの、粗引きながらの訴えるもののある演技。

 「魔犬は……消えたの」 
 「消えた?だと……」
 「どうしてわたしたちは闘わなきゃいけないの?どうしてわたしたちは斃れなきゃいけないの?ねえ!月下!答えてよ!
  月下は……、月下はわたしの盾になって、あの忌まわしき血に飢えた魔犬の犠牲になったの……」 
 「……」
 「わたしが屋上に戻ってきたとき、魔犬の牙がわたしに向かってきた。無意識にとった行動なのか、月下は『畜生め!』って
  叫んでいた。獣が乗り移ってきたように、月下は野生の本能をむき出しにして魔獣に一撃を与えようとしていたの」
 「おれがヤツを倒した……のか」
 「そう。全身全霊の力で月下は魔剣で猛獣の急所を捉えたの。同時に猛獣の魔の手がわたしと月下にかかった。
  わたしは跳ね飛ばされた。でも、月下は力の限り大地を踏み締めているのが、薄れゆく意識の中に見えたんだよ。
  最期のときを迎えた巨大な獣は何者かに連れ去られたようにか消え去って、月下はこの地に倒れた。わたし、見たの」

 涙ながら陽太の体を揺すると、荵に持たされた大根を手にしたまま陽太は膝付いて立ち上がった。
 瞬きをして、手にした大根を確かめると自分にまだ息があることの喜びを陽太は噛み締めていた。顔がほころぶ。
陽太が振り返ると、陽太の上着の裾を小さな年上の少女がそっと掴んでいるのを見た。年上の少女は頬を陽太のこめかみに寄せる。

 「月下ー!月下のバカー!!死んじゃったかと思ったよ!」

 少女独特の甘い香りを陽太に振りまくと、たじろぐ陽太は隙を見せることを拒んだ。
 彼は、誇り高き『魔剣遣い』。神をも恐れぬ反逆の勇士。

 「ネギ、心配するな。あのとき神が、おれの耳元で『死ね』って囁いたのさ」

 堰を切ったように泣き出した荵は陽太の胸を拳でぽんぽんっと叩いた。
 そして、荵は
 
 (ホント、世話の焼けるヤツだっ)

 と、陽太のわき腹をつねった。

244月下の魔剣〜獣〜 ◆TC02kfS2Q2:2011/12/23(金) 17:01:08 ID:WRR7xxPQ0

 雨に濡れた屋上に取り残されたのは、陽太、荵、そして魔犬が残した血溜まりだった。いや、血溜まりではない……。
赤く染まった血生臭い汚れた海ではなく、透明に透き通った山奥に守られた神秘の泉のよう。
 陽太が不思議に思い覗き込むと、部屋のような景色が見えた。後ろから荵がこっそり伺うと、見覚えのある景色だとすぐに分かった。
イヌのぬいぐるみ、イヌの布団カバー、イヌのカレンダーにイヌのリュック。

 「わたしの部屋だ」
 「やったな、ネギ!魔犬はおれたちに素晴らしい贈り物を残してくれたぞ」
 「え?」
 「この空間を使え。ここから、ネギの世界に帰るんだ」

 一筋の希望の光とともに、雨を降らせていた曇が途切れ、月の光が差してきた。
 帰るなら、これを逃す以外はない。荵は迷う。みなを残して一人だけ、ここから消えてしまっていいのか。
 世の人は『裏切り者』と言い放ち、蔑みの対象へとおとしめるのではないのか。荵に表情を見せぬよう、陽太はくるりと踵を返した。

 「おれはネギの泣くところなんか見たくねえからな」
 「泣かないよっ」
 「じゃあ、素直に帰れ」

 後ろ姿の陽太の表情すら伺えないが、荵は陽太の気持ちがびしびしと伝わってくる気がした。
 小さな拳を握り締め、小さな肩を揺らし、涙越えて行かねばならぬ。荵は演劇部員だ。どんな役でも演じてみせる自信は
素人ながら誰よりもある。ならば、オーダーだ。監督、脚本家さん。わたしの役柄を教えてくださいな。

 『明るくこの場をさよならする久遠荵』。オーダーはこれだ。
 たった一人きりの観客は、魔剣遣い・岬月下。

 「さよなら!またね」

 荵は自分の部屋が写った水溜まりに単身飛び込む。荵が最後に見た陽太の顔は、戦いを終えたときのものだった。
それは精悍な勇者に相応しいものだった。
 
 岬陽太は別れの印に残された水溜りに魔剣・レイディッシュを投げ入れた。

   #

 温かな布団の中。愛らしいイヌのぬいぐるみに囲まれて、荵は目を開けた。

 「大根?」

245月下の魔剣〜獣〜 ◆TC02kfS2Q2:2011/12/23(金) 17:01:39 ID:WRR7xxPQ0

 すべて夢ではなかった。口を閉ざしたままの大根は、雄弁に荵へと語る。荵は自分の部屋で布団に潜り込んでいた。
枕元にいたのは、岬陽太でもなく、犬上ヒカルでもなく、同じ演劇部の少女だった。名は黒咲あかね、荵と同じ制服に身を包む。
 あの世界とは、なんら関係もないごく普通の毎日。真っ白な巨大なイヌも、ここには姿さえない。

 「久遠。あまり大した風邪じゃなくてよかった……と、迫先輩に伝えとくね」
 「あかねちゃんだ。どうして」
 「迫先輩が行ってこいって……。そうそう。大根の薄切りを蜂蜜に浸して、染み出た液をお湯で割って飲むとのどにいいよね」
 
 荵は自分で迫には「風邪のため」と電話、そしてあかねには「イヌを追いかけていた」とメールをしていたことを思い出した。
心配していたあかねは荵の顔を見ると、ほっと一息ついてベッド脇に置いていたイヌのぬいぐるみの頭を撫でた。
 目から上だけを布団から覗かせる荵は、あかねをじっと見つめていた。確かに、荵が知っている黒咲あかねだ。

 「お芝居、素晴らしかったよ。迫先輩もこんな素敵なステージのチケットを手に入れてくれて感謝だね」

 あかねが立ち上がり、黒ストッキングのすらりとした脚が荵の目前に伸びる。あかねは両腕でコートを抱えたまま、
その日演劇部のみんなで観覧した演劇の一部を再現してみせた。荵へのお土産のように。

 「一人の王子、剣の達人であり、孤高の人。彼は何故、自分は戦わなければならないのかと、葛藤に苦しみながら
  戦乱の世を生きる。そして出会った、とある国の王女。初めての恋。止められない王女への想い。しかし……。
  王女は魔獣。王女として世を忍ぶ仮の姿の魔獣。王からの命令で魔獣を倒さなければならなくなったのね」

 荵の口からは言葉はない。
 あかねの話を興味津々と聞いているからではない。王子と誰かが重なって見えるからだ。
 土産話をあかねは続ける。

 「王の命令は絶対。謀反者は磔。魔獣死すべし。だが、魔獣は王子が初めて誰かを大切にしたくなった人。
  すごく良かったよ。迫先輩なんかお芝居が終わった後、たまらずに楽屋へ走ってたし。久遠に見せたかったなあ」 

 あかねは荵の部屋を舞台のように立ち振る舞い、華やかなライト輝く演劇を荵に見せているように見えた。

 「寒くなるからね。お互い気をつけようね、風邪には」

 再び荵の枕元に戻り腰掛けたあかねは、白い頬を紅くして、ふわりとみどりの黒髪を揺らしていた。

 「大したことなくて、よかった」
 「よくないよ!わおー!!」

 荵があかねに噛み付いたのは初めてのこと。

 「みんな……、みんなどこ行ったの!どこ行ったんだよお!」
 「演劇見に行くって言ってたじゃない。久遠は風邪だったし……」
 「違う、違うよ!月下にヒカルくんに……」

 あかねは荵の口から出る名前に聞き覚えはなかった。

 外からイヌの鳴き声が聞こえてきた。反射的に荵は布団から制服姿でローファーのまま、自分の部屋の窓に飛び付いて、
イヌの声の方へ振り向いた。イヌのぬいぐるみに寄り添うように、大根一本がベッドに。

 「月下!」

 また、会うことのない少年の名前を荵は叫ぶ。
 会うことのない……か、どうか。それは神にも分からない。
 ただ、神に叛く者が現れば、また別の話。

 外は降り落ちてきそうなぐらい美しい満天の星空だった。


   月下の魔剣〜獣〜   

    おしまい。

246わんこ ◆TC02kfS2Q2:2011/12/23(金) 17:03:42 ID:WRR7xxPQ0
以上、陽太くんをお借りしました。
近いうちに、続きを……。の、はずだっ。

これで、投下おしまいです。

247名無しさん@避難中:2011/12/23(金) 23:05:34 ID:72qN0G/2O
うわ陽太ダサいけどかっけえw
やっぱこいつ良いキャラだ
投下乙。楽しませてもらいました

248Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2011/12/26(月) 00:20:30 ID:i..T/6oU0
投下乙。
熱さとおバカさが融合しているっ!? だとぉ……?
余韻もあっていいラストだ。
どうでもいいがニーソックスだの黒タイツだの……まったく困ったお嬢さんたちだ。

あ、>>179->>182 の続きを投下する。やっぱり区切りがつかないまま

249Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2011/12/26(月) 00:21:33 ID:i..T/6oU0




 ※


(どうりゃいいんだ……これ……) 

 俺と蜘蛛との運動能力に絶対的な格差が存在するという前提を考えると、まともな鬼ごっこでは勝てない。
 頭の中で仁科学園のマップを開く。
 俺の現在位置は、校門校舎間を結ぶ煉瓦敷きの大通り。その南門の付近、やや西寄りの地点だ。
 南門は校舎から最も遠い。
 この大通りには、出会いと別れに花を添える桜の並木がある。さらにその外側は、ちょっとした人工林を挟ん
で、西には広大な第一グラウンド、東にはここから近い順に第二グラウンドとテニスなどの競技専用コートと屋
内外のプール施設が敷き詰められている。
 一番近いのは第一グラウンドの北にある体育館だろうが、とうに施錠されているだろう。……籠城戦は立て籠
りの態勢を整える前に食い殺されるのがおちか。
 迎撃はもちろん選択肢にも入らない。

(となると)

 ――俺がそれに反応できなかったのは、愚にもつかない思考にかまけていたからではない。
 目など離した覚えなどないのに、気づいた時には既に、蜘蛛の姿が俺の視界から、消え――

「ッ!!」

 あれこれ小賢しく考えていた自分が馬鹿に思えるほどに、その時俺が取った行動は、まったく動物的な脊髄反
射によるものだった。
 手にした合成革の学生鞄を、鋭い長槍のような何かが串刺しにしていた! 今思えばそれは、自覚できない瞬
間を生きるもうひとりの俺が、食人鬼への生け贄として差し出したものだったのだろう。
 死の長槍の正体が蜘蛛の“爪先”であったことを脳が理解する。交通事故にひやりとするのとは訳が違う。俺
に向けられた明確な害意を察知して、全身の皮膚が粟立つ。

 ――蜘蛛の怪物が、ついに俺に牙を剥いたのだ!

 驚愕と戦慄で凍結していた思考が、ようやく言語化を果たす。
 鞄を捨てて脚のひと振りをどうにか受け流し、俺は我が身を翻して地を蹴る。全身の動きに火事場の馬鹿力が
乗り、今よりもっと前へと懸命に俺自身を押し続ける。
 だが、これから逃げ延びるのに、人類の二本足はあまりに遅すぎた。
 視界の右端。全力疾走しているはずの俺の背後から、さながら死に神の大鎌のように、するすると一条の鈍色
の槍状が伸びてゆく。

 ――これは、蜘蛛の、前肢だ――!!

 理解した瞬間に“俺の体が浮いていた”。大地から引き剥がされ、体重が行き場を失う感覚。
 混乱。
 前後不覚からどうにか我に返り、状況判断に掛かる。横から薙ぎ倒されたのだとしか思えない。咄嗟に腕を挟
んで胴を庇ったが、そのひ弱な防御ごと巨大質量に吹き飛ばされ、煉瓦敷きの通りの上にどうと倒れた。

250Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2011/12/26(月) 00:22:19 ID:i..T/6oU0
 激痛のあまり絶叫もできない。

「……ちっ……」

 ……くしょうっ!
 俺は悪態を吐きながら、我が身のコンディションをざっとスキャン。重傷と言えるレベルの外傷は負っていな
い。ド素人のわざではあったが、どうにか受け身が間に合った。擦過傷だか摩擦熱だかで肌が焼けついている。
 自分の呼吸音が尋常ではなかった。瞼が重い。意識が朦朧とし掛かっている。とんでもなく危険な兆候。

(これは、だいぶ、まずそうだ)

 絶体絶命の状況を、敢えて柔らかく表現してみる。これで少しは気休めにな……らねーよ!
 この巨大な蜘蛛のバケモノから逃げ切れる未来のビジョンが、ひとつも頭に浮かんで来ない。
 何せ二〇メートルあった隔たりを一瞬にして無に帰し、走る俺の正面に回りこみやがったのだ。一体、どうい
う速さをしていやがる!
 昆虫のノミが人間大になれば東京タワーを跳び越えられるという喩え話があるが、現実には百歩譲ってサイズ
を大きくできたとしてもその時には当然体重も跳ね上がってしまうため、飛距離が伸びることはない。だが、こ
いつの身体能力は、まさにそういう仮想の巨大昆虫のそれだ。
 先刻の一撃でやられなかっただけでも、もう俺が強運としか言いようがない。
 半ば無意識に、うつ伏せの腹を引き摺り、一歩でもこの処刑場から遠ざかろうとする。まるでぶきっちょな爬
虫類にでもなったかのようだな。自分を俯瞰しているもうひとりの自分が喩えて自嘲するが、そんなことしてい
る場合か。
 そんなすっとろい逃亡をまさか見過ごしてくれるはずもなく、蜘蛛は俺の腹の下に尖った爪先をすうと差し入
れ、ぞんざいに引っ繰り返した。
 カブトムシとの戦いの敗者さながらに、あっけなく横転する。

「ぐ……うっ!?」

 これが肉体的にはともかく、精神的には手痛かった。絶望がひたひたと現実味を帯びてくる。みっともない声
を恥じる余裕すらない。
 仰向けに地に伏せたところで、目の前に蜘蛛の貌。いっそさっさと殺してくれと懇願したくなる。
 信号機の畸形のような四つの単眼には、むしろ無邪気な子どものそれを思わせる残虐性が浮かぶ。
 きちきちと打ち鳴らされる一対の毒牙は、象牙のように大きい。そういえば、クモの食事の作法は、“毒で動
けなくした獲物に消化液を注入し、体外で溶かしたものを吸う”というものだ。この怪物は、それにしてはやけ
に大袈裟な“口腔”を持っているようにも見えるが。

(何だこいつ。ライオンでも丸呑みにできそうじゃないか)

 ……こんな時に抱く感想としては、我ながら何ともノンキにすぎた。夏休みの自由研究で昆虫を観察する小学
生かお前は。……俺か。セルフツッコミがむなしい。

251Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2011/12/26(月) 00:23:15 ID:i..T/6oU0
 蜘蛛は俺に兇相を突きつけたきり、獲物の恐怖や抵抗を愉しみに待つように沈黙した。しかしもちろん、この
まま五体満足で帰す気などないに決まっている。ネコやカラスが小動物をいたぶって遊ぶようなものだ。

 ――“遊ぶ”?

 そこでふと違和感を覚えた。
 どうやら俺は、とんでもない思い違いをしてるのではないか?
 
 ――“遊ぶ”。考えてみればおかしな話だ。“昆虫やクモは遊戯などしない”

 昆虫などは、ある意味では機械じみてさえいる、よほどシステマティックな生き物だ。本能という形に最適化
されたルーチンは融通が利かないが単純明快で合理的だ。
 もしも、この蜘蛛が本能のみで動く怪物であるならば、俺は勝機を見出だすこともできず、第一撃によってき
っちり殺されているはずだ。
 けれど、俺はまだ死んでいない。麻痺毒の枷を嵌められるでもなく、全力疾走すら可能な体のままで生かされ
ている。何故なら、それがこの蜘蛛の遊びだから。
 そこに希望の光を見出す。
 そう、こいつは“クモ”ではないのだ。クモに姿がよく似ているだけの、サディスティックなモンスターにす
ぎない。
 狂博士の檻から解き放たれた生物兵器であるにせよ、封印を破って里に下りた妖怪変化であるにせよ。これの
正体が、“遊び”に興じるような精神を持つ者であるならば、

 ――あるいはそこに付けこむこともできる!

 深呼吸ひとつで、俺は歯車を組み換える。
 蜘蛛が退屈そうに俺を爪先で小突く。このモラトリアムも、どうやらそう長くはない。
 まあどんな目が出るにせよ、このまま賽も振らずにジリ貧になるよりはましだ。ここは、地獄に垂らされたひ
と筋の蜘蛛の糸を手繰るとしよう。




 ※


 同時刻。
 私立仁科学園体育館に設えられた大武道場は剣道場の一角。
 そこは静謐なる空間だった。あるいは大気の中にぴんと張った一本の弦を想う者もいる。無闇に口を利くこと
の躊躇われる厳粛な空気は、この場で修練を積み重ねた少年剣士たちの魂が染みついたものか。
 蒸し暑いという正常な皮膚感覚すら、ここでは緊張のための空寒さの前に制圧されるだろう。

「ここは」

 ぽつりと誰かが発した声が、鋼の線を弾いたように大きな広がりを持って響き渡る。たとえば、青竹を手斧で
割った小気味の良さを伴っていた。

252Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2011/12/26(月) 00:24:09 ID:i..T/6oU0
 誰か。今は竹刀を打ちこむ者もなくなって久しい時間帯であるはずだ。
 誰だ。ここは扉の施錠を教諭によって確かめられた密室であるはずだ。
 無人のはずの仁科学園体育館大武道場に姿を見せた何者かは、精悍な眼差しにひと掴みばかりの困惑を散らし
て呟く。

「ここは……どこだ?」

 青年。
 まだ若さの盛りだが、立ち姿には一種達観の境地にあるような落ち着きも窺える。年の頃は二〇代の半ばと見
えた。少なくとも高校生ではない。
 着古しのジーンズに縫製のしっかりしたTシャツ。飾らない服装の上からでも、その体が鍛え上げられている
ことが分かった。アスリート、軍人、そういう人種を思わせる。
 右手に携えるのは、金属製の棒。およそ七尺に及ぶ長さは、青年の身の丈を上回る。滑らかな痩身には叉も装
飾もない。鋼色が纏う“物質としての確かさ”がその最大の特徴と言えるか。

 ――ここはどこだ? 何があった?

 青年は今一度、我が身が陥った、わけのわからない事態について考察を試みる。
 最後の記憶は夜明け前。ひと仕事を終えて仮眠を執ろうと、自室の床に横たわったところだったはずだ。何か
と身の回りの世話を焼こうとする白狩衣の娘を遠ざけて、何の気兼ねなく体を休めるつもりだった。

(そこへ、不意に耳のそばで雑音がして跳ね起きた。蠅の羽音に似た微振動)

 思い出すだけでも不快になる。あれは何だったのだろう。“そういう音を発するもの”に、心当たりがないで
はない。たとえば、手の金属の棒が粉砕すべき異形のものどものうちの数種であるとか。

(しかし、あれは異形じゃなかった。
 もっと大きなスケールで、根源的な変化があった感じだ。……存外、“またぞろ世界のいくつかでも重なり合
った”か?)

 いわゆる“一般人”には理解しかねることを当然のように心のうちに並べてから、青年はのんびりと歩き出し
た。足の先が向かうのは体育館の出入り口だ。錠前はもちろん内側から開けられる。
 右肩には重さの頼もしい金属の棒。左手には運よくそばに転がっていた履き物の左右。それが、異世界にやっ
て来た彼の荷物の全てだった。

(ここにいても仕方がない。外に出て状況確認といこう)

 うまくすれば仲間と合流できるかもしれない。
 磨き上げられた板張りの床を、窓から射しこんだ月光が舐めてゆく。




 ※


 蜘蛛の小突く力を利用して立ち上がる。
 意表を突き、しかし下手に刺激しないように自然な流れに乗る。俺だって、伊達にどこかの変態少女の不意打
ちハグやちゃっかりキスを躱し続けてきたわけじゃない(伊達とかそういう問題じゃないけど……)。

253Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2011/12/26(月) 00:26:00 ID:i..T/6oU0
 蜘蛛は出方を窺うように、無機質な目で俺を見ている。……もうクモの視力がどうのこうのなんてことは忘れ
よう。希望的観測としても虫のいい話だ。
 
(逃げ場はひとつ)

 人工林以外、有り得ない。
 あそこは“林”を名乗るには東西の奥行きが薄いが、木々の間隔がやや狭い。俺なら走ってでも通れるが、目
測した限りあの蜘蛛は体を横にしたって確実に閊(つか)える。もし蜘蛛が、樹木を粉砕してでも獲物を追うな
どというクモらしからぬ発想に至ったとしても、時間稼ぎにはなるだろう。
 俺は蜘蛛から目を離さず、摺り足でするすると滑って位置を調整。このまま一動作で人工林に跳びこめるまで
距離を削ることができればいいのだが――
 そんな祈りも空しく、蜘蛛の姿がまた掻き消える。

(くそがっ!)

 摺り足を止め、俺は目的地に向けて死に物狂いで走った。
 蜘蛛は俺の逃走経路を読んで割りこんでいた。もはや瞬間移動というべき速さ。
 頭蓋骨を一撃で噛み砕くであろう牙が、ぐいとこれ見よがしに突き出される。ヘビに睨まれたカエルならここ
で全てを諦めるだろう。本能と本能の歯車は噛み合う。
 だが!

 ――それがただの“威し”であると見抜く

 だから俺は制動ではなく、最加速を掛ける。
 蜘蛛が立ち塞がるなら、背中を蹴って跳び越える。体構造上では背中は蜘蛛の爪牙が及び難いはずではあるが、
その反応速度と敏捷性を考えれば勝算などあるわけもない。ここは博打に出るしかない。遊びと遊びの歯車もま
た噛み合うのだと信じて走る。
 スニーカーで固めた俺の右足が、蜘蛛の首あたりに着地。

 ――踏破――!!

 蜘蛛の背中は異様に硬く、反動で足首に痛みすら覚えた。――知ったことか!

(ここだ!)

 並ぶ木々のうち、おあつらえ向きの株に目を付け、爪先から蜘蛛の首に全体重を射ち出す。
 樹木と樹木の狭間。それが生還への門だ。
 制服を削るようにしてすり抜ける。
 前転して落下の衝撃を殺し、ひと足先に成功を確信。
 数瞬遅れで二本の樹木に巨大蜘蛛が激突していた。
 繊維の破砕される轟音に胆が冷える。あるいはそれが蜘蛛の渾身の突進であるならば、強引に木をへし折って
突破できたであろうことは疑いようがない。
 だが、“遊び”の体当たりではわずかに足りなかった。
 力強い樹幹に弾かれて、蜘蛛はそこを一発で抜けられなかった。
 一度足を止めざる得なかった。

 ――“一度”。そう、一度で充分

 さて。
 ここで突進の運動エネルギーの全てを消費してしまったクモはどうするか?
 後退して再び体当たりするか、怪力でこじ開けて押し通るか。……どちらもスペックの上ではやってのけそう
ではある。というかやってのけるだろう。
 しかし、どちらにせよ、俺はその時間に第二の“門”を潜り抜ければよい。

「どうせ遊ぶなら、もっと真剣にやろうじゃないか。――なぁ?」

 背後に投げ掛けた格好つけの台詞は、息も絶え絶えであまり決まっていなかった。

254Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2011/12/26(月) 00:27:33 ID:i..T/6oU0

 ――木を舐めてはいけない

 樹木は、セルロースとリグニンによる鉄筋コンクリートにも喩えられる、極めて頑丈な構造体だ。たとえば街
路樹の根本に自動車で突っこんでも、倒壊させることは容易ではない。
 それに一口に“木”といっても、重さや堅さといった木質から、展開していく根の形状まで、それらはまった
く多様性に富んだ生き物だ。もし「以前は倒せたから」という怪物なりの学習があっても、種類を見極めずに舐
めて掛かると思わぬ苦闘を強いられることもある。
 ……まぁ、結果論でうまくいったから、こうして余裕ぶって解説なんぞできているわけなんだが。
 余計な考えもそこそこに、俺は人工林を駆け抜ける。

(――閑かだ。いや、あの後輩ではなく)

 どうやら、蜘蛛は追って来ていない。何せあれだけの巨体だ、密集した木々の間を通り抜けようとしていれば
物音がないはずがないからだ。まだ、俺を狩り出すことに血眼になってまではいないらしい。
 林間の暗がりにまぎれ、俺はひと息吐く。夜の世界でも一層黒々とした木陰に腰を下ろした。血流が、耳の奥
をごんごんと叩いていた。
 実のところ、そこまで長距離を移動したわけではない。昼間ならそろそろ進行方向に体育館が見えてくるあた
りだろうか。
 このまま蜘蛛が諦めてくれればそれでよし。俺の逃走ルートを予測して迂回するかもしれないが、お生憎だっ
たな、俺はもうしばらくここを動く気はない。
 位置を特定されて一帯の木々ごと薙ぎ倒されでもしたら打つ手がないが、俺はその前に学園と官憲に通報すれ
ばいい。錯乱した演技で「イノシシのような強暴な獣に襲われた」とでも言い張れば、警察官も拳銃の一挺くら
いは携行して来てくれるだろう。

(拳銃)

 あの戦車じみた怪物を殺すには、あまりに頼りない武器にも思える。
 震える手で携帯電話をばちりと開く。今はこれが命綱だ。
 光源のディスプレイを直視しないように注意しながら、まず【電話帳】から【私立仁科学園高等部】を呼び出
す。知らずに出歩いた教職員が、翌朝死体となって発見されるなんて事態は避けたい。まずはそちらの安全を確
保するべきだろう。日頃からあちこちで信用を売っておいたから、いきなり狼少年扱いはされないはずだ。

(それにしても、いよいよ大事になってきたものだ)

 嘆息しながら、俺は携帯電話を耳に当てる。

 ――コール音がない

「何っ」

 慌ててアンテナのようなアイコンに注目。
 電波障害? ――馬鹿な、ここは僻地のトンネルでも何でもないぞ!
 藁にすがる思いで一一〇番に掛ける。……やはり繋がらない。

「まじか」

 愕然とする。
 悠長に電波の回復を待つか? しかし俺がこのまま一夜を明かすようなことになれば、何も知らずに登校して
きた誰かが食い殺されるかもしれない。そんなのは、俺はごめんだ。
 ならば、さらに人工林の中を北上して校舎内に入るか、もしくは西門を抜けるか。いっそ南下してもいいが、
心理的にはもうイヤだ。……どちらにせよ、蜘蛛の居場所が分からないのだから同じっちゃ同じだけど。

(…………)

 悩ましい。
 悩ましいが、こんなのもはや答えはひとつしかない。
 俺は蜘蛛の見えない影に怯えながら、気持ち北北西に針路を取った。




 ※

255Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2011/12/26(月) 00:31:04 ID:i..T/6oU0
今回はここまで。
まだ全然クロスって感じじゃないな。がんばる。

「坂上匠@異形世界」を借ります。
主人公格とヒロインは引っぺがすのが俺のジャスティス。

256名無しさん@避難中:2011/12/26(月) 19:07:38 ID:Xg5WfOj20
乙!
先輩の いい漢っぷりで後輩の好感度が大変な事にw
最近幸せそうな展開になった匠はクズハをどう思ってる頃からの参戦じゃろう

257名無しさん@避難中:2012/01/01(日) 04:27:31 ID:pjlty6cI0
>>246
やっぱり荵かわいい
いきなりの最終回と思ったら続きがあるだと…!

>>255
匠キター
さてどうなるか

258名無しさん@避難中:2012/01/10(火) 18:52:52 ID:qa8hsIukO
質問。
チェンジリングの隕石って隕石群だったのか?
ひとつの巨大なやつが空中で割れたのか? だとすればざっとどれくらいの大きさと見積ればいい。
探したけどよく分からなかった。

259名無しさん@避難中:2012/01/10(火) 19:38:51 ID:K1ZTSsX.0
チェリジの合い言葉は「こまけぇこたぁいいんだよ」だから一塊も隕石群もあった気がするw

260名無しさん@避難中:2012/01/10(火) 19:42:30 ID:qrug6SEE0
複数だよ
イントロダクション見ればわかる

261名無しさん@避難中:2012/01/10(火) 19:43:11 ID:qa8hsIukO
分かった。ありがとう。大雑把でいいなら楽でいい。

262名無しさん@避難中:2012/01/10(火) 19:52:47 ID:qa8hsIukO
>>260
イントロ読んだ初発の解釈では、ひとつだと思ったんだがw

263名無しさん@避難中:2012/01/10(火) 19:56:45 ID:qrug6SEE0
遠くにあるから一つに見える → あれ?近づいてきたけどやっぱりいっぱいあるんじゃね?

って流れ

264名無しさん@避難中:2012/01/10(火) 20:54:04 ID:qa8hsIukO
俺の勝手なイメージでは空中で割れたことになったんだ。
最後まで“隕石”としか書いてないしな。
書いた人の意図は知らないが、複数でも意味は通るなと思ったから聞いてみただけだよ。

265名無しさん@避難中:2012/01/10(火) 21:12:44 ID:qrug6SEE0
ああ、そういうことか
>>258の3行目の前半よく読んでなかった
まあどっちにしろ落ちたときは複数だから…

結論:こまけぇこたぁいいんだよw

266名無しさん@避難中:2012/01/15(日) 00:22:32 ID:8p3AQGsI0
ええい、小ネタ一つでもいい!
貴様ら投下せんかね!

267名無しさん@避難中:2012/01/15(日) 23:56:47 ID:Oo6.L8Bc0
つ「言い出しっぺの法則」

268Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2012/01/29(日) 06:37:11 ID:1MEgqYN.0
投下します
>>249->>254の続き。

269Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2012/01/29(日) 06:38:14 ID:1MEgqYN.0




 ※


 ――時刻は、午前零時を回ったところ。“もう目覚める時間だよ”。
 ――時針は、七と八のちょうど真ん中。“まだお休みの時間だよ”。




 ※


 わたしの生活のリズムは、“能力”の影響を強く受けている。ふつうのひととは、少し違う。
 まず、日の出から日の入りの一時間ほど前まで。日中、わたしはまだしも人間らしくいられる。もうひとりの
わたしは眠っている。
 夕方。わたしは強烈な眠気に襲われ、そのまま日付が変わるころまで完全に意識を失ってしまう。もうひとり
のわたしは、まだ休んで力を蓄えている段階だ。
 午前零時から日の出まで。わたしともうひとりのわたしが目覚める。ただし、わたしの肉体は“能力”によっ
て狂暴な化け物に変貌していて、精神も目を覚ましたもうひとりのわたしに乗っ取られている。
 もうひとりのわたし。
 それは“蜘蛛”。
 それは“怪物”。
 チェンジリング・デイと呼ばれる日、地球に降り注いだ隕石がわたしにもたらした異能のひとつ。わたしの意
思などお構いなしに、天体運動の影響によって確実に発動する、人知及ばぬ捕食者への変身能力。
 なまなかな戦闘系能力者をも一蹴する剛力と強靭さ。その性は獰猛凶悪で、知能も人類並。
 人間など、獲物か玩具としか思っていない。わたしの世界で一番大切だったひとたちをさもうまそうに食い殺
し、わたしの世界で一番大切なひとにすら囓りつく。
 どうすることもできない。わたしには。夕方までに一夜の孤独を探し、誰も傷つけないことを祈り、あとは太
陽を待ちわびるだけ。だった。“無敵”の能力で、一晩中、もうひとりのわたしの爪と牙を引き受けてくれるあ
のひとと出会うまでは、そうして各地を転々と渡り歩いていた。

(衛さん……)

 そして今、また、そばにあのひとはいない。はぐれてしまった。久し振りのひとりぼっち。誰かを傷つけてし
まうという恐怖に震える。
 陽射しを焦がれる夜は、長すぎる。

(今は、何時だろう?)

 そんなことばかり考える。この高校の近くに飛んだ(飛ばされた?)のが、変身して数分後、午前〇時一〇分
前後だったはずだ。
 それから、運悪く遭遇した高校生のお兄さんにもうひとりのわたしが襲い掛かって、そのひとはどうにか逃げ
てくれたのだけれど、……潰れた時間としては二時間くらいは経っているだろうか。一時間半、せめて一時間。
 夏の日の出を朝の五時くらいとして……あと四時間も?

270Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2012/01/29(日) 06:39:06 ID:1MEgqYN.0
 もうひとりのわたしは、高校生のお兄さんが逃げていった木々の奥をじぃっと見ていた。

 ――“そうでなくては、面白くない”

 それは人語ではなかったけれど、感情の波でもうひとりのわたしが昂揚していることがわかった。
 このところ“歯応えのありすぎる”能力者をしゃぶってばかりだったから、いい声で鳴いてくれてお腹に溜ま
りそうな獲物を見つけてご満悦なのだろう。おまけに無駄な抵抗までして楽しませてくれる。

(そういえば、あのお兄さん)

 チェンジリング・デイ以降、まだ覚醒しないひとも稀にはいるけれど、“人類総能力者”の時代。
 立ち向かってこなかったことから見るに、あの高校生のお兄さんの能力は、恐らく戦いに応用できるようなも
のではないのだろう。……わたしにわからないだけで地味に発動していたのかもしれないが、とにかく戦おうな
どと考えず逃げてくれたのは本当に幸いだったと思う。なまじ戦う能力があると、かえって危険な目に遭わせて
しまう。
 もっとも、反則級の能力者ならば、もうひとりのわたしの暴虐も止められるかもしれないが。
 それこそ。

 ――衛りに徹する限りにおいて、我が身に害をなす一切を跳ねのけるという無敵であるとか。
 ――細胞の活性化により無限の身体能力と回復能力を得るという路地裏の女騎士であるとか。

 しかしそんな規格外の能力者は、この時代においても決して多くはない。そもそも宇宙からの贈り物は、戦闘
向きのものばかりでもない。

(どうか)

 今のわたしには祈ることしかできない。
 あれ以上の怪我なく逃げのびてくれるなら何でもよかった。強力な能力者が来てくれるとか、頑丈な建物に滑
りこんでくれるとか、日の出を迎えるとか、もうひとりのわたしが気まぐれに興味を失うとか。
 もうひとりのわたしは、やはり蜘蛛のような八つ足を蠢かせて移動を始めていた。きっとあのお兄さんを見つ
け、嬲り殺しにするために。




 ※


 まだ目がちかちかしていた。うっかり携帯電話なぞ直視してしまったからだ。頭でっかちにいろいろ考えるは
いいが、肝心な時に詰めが甘いから困る。
 獣ならざる我が身、落葉の層を踏み締めて歩くのに、まったくの無音とはいかない。まして、推定される蜘蛛
の聴覚感度を考えれば。
 それでも俺は気持ちだけでもと深く静かに潜行する。

(人工林の中を北上し、西門から抜ける。狩人に回りこまれていれば速やかに引き返す。定期的に電波状況を確
認し、回復していれば即時通報を図る)

 ごく常識的な行動指針のはずだ。

271Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2012/01/29(日) 06:40:23 ID:1MEgqYN.0
 一歩……また一歩……と道路掃除夫ベッポみたいに進むうち、むやみに巨大な体育館に突き当たった。せいぜ
い数分。それほど時間が掛かるものでもない。
 人工林の端と体育館との間には、やはり煉瓦敷きの歩道が伸びている。正面の大通りよりわずかに細いが、こ
れも東西の門に通じるのでそれなりに幅はある。これを横断するわけではないとはいえ、見晴らしが利くという
のは俺にとって面白い要素ではない。
 藪陰から視線を水平移動。
 心音のペースがまた速くなっている。

(蜘蛛は今、どこにいるのだろう)

 鬼ごっこで一番怖いのは、鬼を見失った時だ。小学生の頃に読んだシートン動物記のオオツノヒツジ“クラッ
グ”の話でもそう書いてあったはずだ。……もっとも、さっきのようないきなりの接近遭遇の場合、追跡者の位
置の把握なんかにまごまごしていたら、今頃は閻魔大王のむさい髭面を拝みながら自分の罪を数える羽目になっ
ていただろうが。
 ……見渡した限りはいなさそうだが、この位置からでは死角が多すぎてまったく安心できない。
 なんか漫画的なパワーを持つ武術の達人ならば殺気を察知して索敵できるかもしれないが、ただの模範的なだ
けの高校生にムチャ言うなよ。
 生まれながらの捕食者に本気で息を潜められては、はっきり言ってお手上げだ。
 悩むだけ時間の無駄なので、俺は人工林の中を動き回り、限界まで死角を削っておく。
 ……やはり、いない。と思う。そう信じたい。
 まさにブッシュに隠れている側の俺のほうがアンブッシュを警戒しているというのが少し可笑しい。……いや、
どうでもいいな。
 決断する。

(やはりここは速やかに西門をくぐろう)

 ……言うまでもないが、別に学園の敷地内を出たからといって、そこで蜘蛛がすっぱりと諦めてくれるわけで
はない。もし見つかれば、どこまでも追い掛けられて美味しくいただかれるだろう。
 だから、最終的な目的地は“交番”だ。そこに着くまでは油断できない。
 俺は呼吸を細くしながら、するりと樹木たちの砦を抜け出した。靴裏を押し返す地面の硬さ、剥き出しの腕を
撫でてゆく空気の流れ、冷ややかな月光。
 西門をひどく遠くに感じる。
 それでも取り敢えずの安全圏を離れてしまえば、このまま行くしかない。ゲートを越えて、たとえ“ほら吹き
男”と謗られようとも、あの恐るべき怪物の危険を知らせなくてはならない。夜明け前よりも早く、出歩いた誰
かが襲われないうちに。
 閉ざされた鉄のフェンスの形がはっきりと見える。
 あと少し、もうすぐ、この先、あれを乗り越えて……!

 ――勝ち誇ったような四つの単眼が、西門前で俺を待ち受けていた。

272Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2012/01/29(日) 06:42:00 ID:1MEgqYN.0

「な……!?」

 蜘蛛だった。
 やはり、どこかに隠れていたというのか? アシが速すぎるために、どこにいてどういうルートで出現したの
かまるで見当もつかないというか見当なんてつけている場合か!
 無拍子の速さで、蜘蛛の巨大な口腔が、トンネルのように俺を呑みこもうとする。人類はこれを躱せない。反
応して左右に身を振ったとしても、抜け目なく伸ばされた前肢によって口の中へと掻きこまれるだろう。

 ――逃げ場は、ない!

 そうして俺は、頭から闇に丸齧りに――




 ※


 ――絶望の闇を薙ぎ払い
 ――それを打ち砕く光がある!

 死をさとった俺の前で、ふたつの金属が激突していた。その瞬間を視たわけではない。ただ、クラッシュ音と
でもいうべきものがあった。

「そこの君、無事か!?」

 呼び掛ける声。
 俺には、一瞬、それが人の声だと分からなかった。どうやら、それだけ自分が直面した“死”というものに衝
撃を受けていたらしい。しっかりしろ、そんなことは後でもできる!
 そこでようやく、九死に一生を得たと自覚できた。
 助かったのだ。絶対に死んだと思ったものが。

 ――蜘蛛の思考発動からの転瞬、俺の眼前に割りこみを掛け、怪物の爪牙を捌いた者がいる!

 俺を絶体絶命の窮地から救ってくれた何者か。今も俺を守って蜘蛛と相対する男だ。
 後姿のシルエットは細身のくせに、やけに幅広に思える背中だった。シャツ一枚を通してもわかる鋼の体は一
見して、マウンテンゴリラが百年を生きて変化したと噂されるうちの美術教諭や、仁科最強候補の一角たる重量
挙げ部の筋肉たちのようでもあるが、しかし纏う何かが決定的に違っている。まるで、御伽噺の戦士のような。

(誰だ?)

 まるで見覚えのない青年だった。知る限り、仁科の体育教諭ではない。
 力強い手には、長大な“金属の棒”を握りこんでいた。まさか、あれで蜘蛛を薙ぎ払ったのか?
 棒。あるいは杖、棍、柱……。それもどうやら俺の見慣れているような、バレーボールや棒高跳びで立てる体
育用具の鉄棒などではない。

 ――あれは、敵と戦うためだけに生まれた、正真正銘の“打擲武器”だ!

 予期せぬ乱入者に、さしもの蜘蛛も跳び退く。

「“異形”――いや、《魔素》を感じない。やはり異世界……!」

 いぎょう?
 青年の唇から零れた耳慣れぬ単語を俺の耳が拾う。“異形”。それが、この蜘蛛の、人知及ばぬ怪物の名前な
のか?

 ――突然の天変地異。“異形”というらしい蜘蛛の怪物。金属の棒を携えて戦う謎の青年。
 ――いったいこの街に何が起こっているというのだろう?




 ※

273Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2012/01/29(日) 06:43:18 ID:1MEgqYN.0
今回はここまでなのよ。

ではな!

274名無しさん@避難中:2012/01/29(日) 08:09:43 ID:F7GtRLpw0
キター
しかし朝まで長いのう

275名無しさん@避難中:2012/01/29(日) 09:54:31 ID:1FKU9ndA0
合流きたー!
長い夜は終わるか
そして常識人先輩の明日はどっちだ!

276名無しさん@避難中:2012/03/04(日) 21:10:04 ID:tCD2hHkoO
お前らしっかりしろ!!

277名無しさん@避難中:2012/06/19(火) 11:09:33 ID:0HtgL9Pw0
(^^)

278名無しさん@避難中:2012/08/16(木) 01:55:56 ID:KBsK8x.M0
とうかー

279名無しさん@避難中:2012/08/16(木) 01:57:25 ID:KBsK8x.M0

 唐突に発生した、視聴覚に訴えかけてくるような異常現象が終わったことに気付いた神柚鈴絵は
家が管理している丘の上の神社、柚鈴天神社の境内にある狛犬の台座に手をついて立ち上がった。
「……ん」
 目と耳にあるノイズの残滓を頭を振って払う。
 先程の減少は一体何だったのだろうか? 
めまいと似たような感覚であったと思わないでもないが、それとはまったく違う事態であることは確かだった。
 空を見る。
 そこにはいつも通り、日が落ちきったばかりの少し明るさを残した空が広がっている。
「星もまだほとんどでていませんね」
 異常現象に見舞われた時、空には幾つもの光が瞬いて、
シャッターを開きっぱなしにして夜空を写した写真のように夜空を光の線で切り取っていた。
「幻覚……?」
 そんなことは無いだろうと心の中で反論しつつ、
鈴絵はじゃあさっきの現象はなんだったのだろうと考える。
 遅くまで残っている人はまだいるだろう学園の方を見てみれば、先程の現象が皆にも訪れたのかどうかが分かるかもしれない。
 校舎の電気が付いたり、生徒たちが校庭で騒いでいたりすると分かりやすくていいと思いながら、
鈴絵は学園の様子を確かめるために、神社の入り口にあたる石段へと足を向けて
――今まさに鈴絵が行こうとしていた位置に一人の女性がいることに気付いた。

280名無しさん@避難中:2012/08/16(木) 01:57:59 ID:KBsK8x.M0
****


 四角い形の建物を幾つも配置して形成されている施設を見下ろしていたキッコは、不意に金色の瞳を空に転じた。
 宵の口の空は穏やかな姿を晒しているのみで、特別な変化が起きる様子はかけらも見受けられない。
 キッコは諦めたように視線を落とし、腕を組んで考える。
 気が付いたら自分がこれまでいた場所とは違う場所に移動していた。
 今自分がいる場所はどうやら結界の内部や幻によって認識させられている空間というわけではないようだと、
高台にあるらしいその場から見渡せる景色を注意深く見てそんな事を思う。
「それこそ、どこかの街にでもそのまま飛ばされた、といった感じだろうかの」
 それも、おそらくは自分たちがいた、異形と呼ばれる生物が闊歩している世界とは全く別な世界にだ。
「不本意にこのようなところに飛ばされるのは気に入らんの、さて、元の場所に戻るにはどうしたらよいかの」
 武装や血の臭いがしない空気を改めて呼吸し、キッコはこれからどうしたものかと考えようとして、
「あの、先程の……雷かオーロラのようなもの、凄かった……ですよね?」
 背後から声をかけられた。
 狛犬に手をついて膝をついていた人間のものだろう。
 振り向くと、白と赤の巫女服を着た少女がキッコのもつ夜に光る金瞳に驚いたのか、一瞬目を瞠った。
 しかし彼女は気を取り直すようにキッコの方へと足を進めると、言葉を重ねてきた。
「下の学園に残ってる人たちも、今のを見て驚いていたりしますか?」
 下にある施設は学園らしい。かなり大きな教育施設であるようだ。
 どうやらこの少女は別の土地に飛ばされた、という自覚は無いようだ。この世界の者なのか、
あるいは周囲の土地ごとまとめて飛ばされてきた者なのだろうと予想していると、
少女は言葉に応じないキッコに不審を抱いたのか、鳥居の数歩前で足を止めた。
「そういえば、こんな時間にうちの神社に何か御用でもありましたか? 
私は神柚鈴絵といいます。見ての通り、この神社の巫女をしています。
お守りなど要りようならすぐにお持ちしますよ?」

281名無しさん@避難中:2012/08/16(木) 01:58:31 ID:KBsK8x.M0

****

 ついつい声をかけてしまったが、相手は金髪に金瞳、かなり高確率で外国人ではないかという予測に鈴絵は至っていた。
 だとしたら日本語が通じていないかもしれない。そう思い、とりあえず言葉をかけてみる。
このまま言葉をかけ続けていれば、言葉が通じないならば通じないなりに何らかの反応がそのうち返ってくるだろうと思ったのだ。
 金髪の女は、鈴絵に向けて笑みを浮かべた。
「いや、そういう用事でこの場にいるわけではないのだ」
 日本語は通じていたようだ。そのことに鈴絵がホッとしていると、金髪の女の方が鈴絵へと近付いた。
 そのまますれ違う。
 その時女の顔が鈴絵に近付き、においをかぐ音が耳に聞こえた。
「うむ、血も魔素も感じんの。これ程近付いても無反応となれば、おそらくは問答無用の敵意もなかろう」
「え?」
 聞こえてきた言葉に疑問の声を上げる。
 女は喉の奥を鳴らすように笑いながら、本殿へ歩いて行く。その動きを目で追っていると、女は名乗りをあげた。
「我はな、キッコという。正体は――」
 そう言う女の腰のあたりに見慣れないものがあった。
 金色の毛に包まれた尻尾だ。
「え?」
 騙し絵のように唐突に現れたアクセサリーに鈴絵が驚きの声を上げると、キッコと名乗った女は鈴絵へと振り向いた。
 その頭部には髪と同じ、金毛の耳が生えていた。
 先端の毛だけ白いそれを見ていまいちコメントできずに硬直している鈴絵を見て、キッコは楽しそうに喉を鳴らした。
 喉がクッ、と鳴るのに合わせるように、彼女の全身から淡い光が散った。
 次の瞬間には女の姿は消え、彼女がいた位置には巨大な狐がいた。
 立っている状態で顔の位置が鈴絵より少し上にある程の大きさの狐だ。
自分が知っている狐のカテゴリーから外れている大きさの狐を見て、鈴絵の頭の中に空白が生まれた。

282名無しさん@避難中:2012/08/16(木) 01:59:02 ID:KBsK8x.M0
 狐はその空白をつくように鈴絵に近付いた。獣の顔に妙に人間くさい感情をのぞかせて、狐は大きな口を開いた。
「我は、どうやら迷ってしまったようでな、できれば元いた場所に戻りたいのだの」
 キッコと名乗った女と同じ声だった。
 狐は続ける。
「ここがお前が元いた場所であるかどうかはまだ分からぬが、
少なくともこの周囲の施設については知識があるように見える。のう、我にいろいろと教えてはくれぬかの?」
 大きな顔が眼と鼻の先にまで近付き、金の瞳が鈴絵を正面から捉えた。
 その異形を目の前にしながら、鈴絵は以前聞いたことを思い出していた。
 それは神社を挙げて捜索をしても未だ見つからない、
彼女の先輩にあたる人物が中等部の頃に見たという、五本の角をもつ全身真っ赤な鬼のことだ。
 鬼のような存在が実在するのならば、化け狐だって世の中にはいるのだろう。
 そういうふうに自分の中で大狐の存在を納得した鈴絵は、少し戸惑いながら、しかし狐に対してしっかりとうなずいた。
「はいわかりました。とりあえず私から話を聞きたいんですよね」
「うむ、然り然り」
 頼みが通ったことか、それともほかの何かが気に入ったのか、
うれしそうな狐の声に鈴絵はあきれ気味な微笑を浮かべて、では、と言って顔前に一本指を立てた。
「元の人の姿に戻ってください。その状態ですと私は話がしづらいです」
 狐は首をかしげた。
「だめかの?」
「だめです」
「わざわざ演出とか考えたのにのう……」
 そんなことを言いながら、狐はキッコと名乗った人の姿に戻った。

283名無しさん@避難中:2012/08/16(木) 01:59:51 ID:KBsK8x.M0
にぎやかし
タイトルは「結縁」とかそんな感じで

キャラは

キッコ@みんつく異形世界
神柚鈴絵@仁科

を拝借
飛ばされた世界。建物の形はともかく、人までは全員が移って来てるわけじゃないと思ってる

284名無しさん@避難中:2012/08/17(金) 05:57:45 ID:dmFbBcLYO
投下乙!
鈴絵先輩は巫女やってるからな。
いきなり正体を明かすとかさすがキッコさま太っ腹!
このままでは柚鈴天神社が稲荷になってしまいそうだ……!
ぜひ続きも 。

285名無しさん@避難中:2012/08/18(土) 23:36:08 ID:QoAkXFiw0
また動き出してくれればいいな!

286名無しさん@避難中:2012/08/19(日) 14:19:04 ID:myIi3PMQ0
キッコさんマジ妖狐。堅実な思考をお持ちだ。演出とかしちゃってるけどw

仁科世界もよく見るとたまにオカルトなとこあるよな。
それでも反応がちゃんと一般人なのが異常事態に慣れっこな他の世界のキャラと対比になってていいなと。

>世界
アイスファングさんの時も思ったが、もうそのへんはフレキシブル設定でw
別に食い違っててもいいしな。

287名無しさん@避難中:2012/08/19(日) 19:50:04 ID:Rw11KjzMO
自分が使うと他で使われなくなりそうで悩むよな。
でも使うけど。

288名無しさん@避難中:2012/08/19(日) 20:17:05 ID:AH0LEQeg0
全世界がバラバラにくっついているかもしれない系だったっけ?

そろそろ満をじしてこの騒動の犯人が現れてもいい気がするぜ

289名無しさん@避難中:2012/08/19(日) 21:08:17 ID:Rw11KjzMO
>>56が基本だけど、あんまり気にしない方向で。

まだ話が動きだしてもないのに黒幕は早いだろw

290名無しさん@避難中:2012/08/19(日) 22:14:44 ID:AH0LEQeg0
キッコさんそのまま神様に収まってしまわないかとドキドキする

>>289
だがしかしこのスレもできて長い
誰かが大きな目標を臭わせてもそれはそれでいいと思うのだ

291名無しさん@避難中:2012/08/19(日) 22:33:04 ID:Rw11KjzMO
まあ確かにラスボスが一話から登場してはならないって法はないな
チェンジリングやみんつくにはそれっぽい大物もいないではないか?

292名無しさん@避難中:2012/08/19(日) 22:39:02 ID:mkN8VUYIO
それでもハルトさんなら
ハルトシュラーさんならやってくれるはず!

293名無しさん@避難中:2012/08/19(日) 22:41:11 ID:Rw11KjzMO
彼女はシェアのキャラなのか?w

294名無しさん@避難中:2012/08/19(日) 22:43:10 ID:tbQH5bGg0
閣下スレとかキャラスレの進行の仕方はシェアワっぽいとは思うw

295名無しさん@避難中:2012/08/19(日) 22:45:13 ID:mkN8VUYIO
ノリノリで悪役やっとくれそうで
あまり血みどろな展開にはならなさそうだからなんとなくww

296名無しさん@避難中:2012/08/19(日) 22:46:14 ID:AjDsc/1M0
閣下は出していいもんなのかwww

297名無しさん@避難中:2012/08/19(日) 22:48:23 ID:Rw11KjzMO
あのへんのキャラは強烈すぎるし身内ネタが豊富すぎて、出すとなると相当な弊害がありそうだがw

お祭り企画だからやる人がいるなら止めないけど。

298名無しさん@避難中:2012/08/19(日) 22:55:07 ID:mkN8VUYIO
まあ俺はハルトシュラーは名前とロリババアってことくらいしかしらんがな!
あと魔王

299名無しさん@避難中:2012/08/19(日) 23:07:03 ID:iXtBuWZ.0
企画の趣旨から外れなければ別にいいんじゃね

300名無しさん@避難中:2012/08/19(日) 23:23:16 ID:AjDsc/1M0
逆転の発想。「なんかエライ事になってるシェアスレ連中を観察する創発キャラの連中」

301名無しさん@避難中:2012/08/19(日) 23:36:25 ID:Rw11KjzMO
悪くない

302名無しさん@避難中:2012/08/24(金) 01:31:18 ID:etNQ8HFwO
戦闘ってむずいなぁ
手を出すべきではなかったかも

303名無しさん@避難中:2012/08/24(金) 22:50:47 ID:T4TyQlzg0
期待してるぜ

304名無しさん@避難中:2012/08/25(土) 05:20:31 ID:6U8tNMtI0
戦闘って風景を書くよりずっと楽だぜ。風景は馴れないが戦闘はすぐ馴れるw がんがれw

305名無しさん@避難中:2012/08/25(土) 15:53:29 ID:hMPgvrf6O
そういやここ最近風景を書いた覚えが……ない……
機会見つけて精進します

……白狐と青年の作者さんにお伺いしたいんですが、匠が棒から展開する刃は実在の刀剣のようなものでいいのでしょうか。
一応固体だけど見た目はビームサーベルみたいとか、なんか結晶を削った刃(打製石器の鏃みたいな?)的なものとかじゃなくて。

306 ◆mGG62PYCNk:2012/08/25(土) 21:32:47 ID:g43TqiuU0
>>305
>>匠が棒から展開する刃は実在の刀剣のようなものでいいのでしょうか。

おーけーです
結晶を打ち欠いたような武骨なものではなくこう……スタイリッシュな感じ?

スパロボをご存じだったらスレードゲルミルの斬艦刀とか想像していただけると絵面的にいいかもしれません

307名無しさん@避難中:2012/08/25(土) 21:39:27 ID:hMPgvrf6O
どうもありがとう。把握しました。

308名無しさん@避難中:2012/08/29(水) 00:06:52 ID:nuQ67xhoO
連投で悪いんだけど、チェンジリングみんつくケモの中で黒幕ができそうなキャラって誰がいる?
できれば参加表明者だと嬉しいが、そうじゃないから交渉も視野に入れる。

ちなみに仁科は……強いていえば霧崎あたりかなぁと思うが……向いてなさそうw
もうひとりちょっと変則な候補もいるけど。

309名無しさん@避難中:2012/08/30(木) 22:13:59 ID:y/Ndvl7c0
チェンジリング比留間慎也みんつくだと境灯あたりを推してみる

310名無しさん@避難中:2012/08/30(木) 23:19:33 ID:9wS/8v8Y0
ケモすれはどのキャラもみんな人が良過ぎて黒幕の器にならんってね。

311名無しさん@避難中:2012/08/31(金) 00:05:12 ID:L.qnyP3kO
>>309
ありがと
確か比留間も灯も参加表明はなかったよな? ちょっと把握してからいろいろ考えてみるかー

>>310
まあ、悪意でやったわけじゃなくてもいいしなw
なんかの事故とか

312名無しさん@避難中:2012/08/31(金) 11:20:23 ID:HWS6B//20
比留間さんだと野望と被っちゃうってのもある

他にはドグマあたりが組織ぐるみでやったらできないことは無いんじゃないかなあとか
地獄は困惑してたから他国の地獄ならどうかなあとか

313名無しさん@避難中:2012/09/01(土) 01:24:36 ID:TvjkXY.kO
そのへんはおいおい考えるということで。
俺以外の人が先にやってくれたら勝手にそっちに合わせるけどな。

314:Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2012/09/01(土) 03:53:36 ID:Ex03LS.o0
投下します
>>269->>272の続き

315:Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2012/09/01(土) 03:54:35 ID:Ex03LS.o0


 ※


 ――時針は、数字の十二と一からほぼ等距離。“お楽しみはこれからだよ”。
 ――時刻は、午前零時半にわずかに足りない。“早すぎるんじゃないかな”。




 ※


 十数メートルの距離で相対する、巨大な蜘蛛の化け物と、金属の棒を携えた青年――
 それは、特撮作品のワンシーンのような、ひどく現実味のない光景だった。
 青年の背後で尻餅を突いている俺が一般市民すぎる。いや、それでもいわゆる“今週の犠牲者”になっていな
いだけ幸運か。
 戦闘の邪魔にならないように一秒でも早くこの場から逃げ出したいところだが、……今ちょっと起てる気がし
ない。これが腰が抜けたというやつなのか。うわだせぇ。一般市民以下だな。

「なかなかの大物だな」

 青年は口笛を吹くような口調で言ってのけたが、その声に油断の響きは微塵もない。やはり、こういう事態に
慣れている?

「――!!」

 蜘蛛が乱入者を敵と見定め、撥条仕掛けとなって跳んだ。成人男性ていどは頭から丸齧りにする口腔は、もは
や一個の魔窟だ。
 だが、青年は、蜘蛛が動き出すのと同時に、既に地を蹴っていた。
 空中に浮かぶ巨体の下に潜り、金属棒を突き上げる。
 狙いは、蜘蛛の腹か! だが、あれだけの図体で上を押さえられては、もし腹を突き破れたとしても圧し掛か
る死骸の重さに潰される!
 さらに、蜘蛛は青年を捕獲しようと八つの肢を総動員。それはさながら、地上の人間に覆い被さる野蛮な巨人
の掌。逃れる術はない。
 上からは巨大質量、下には大地、前後左右から殺到するのは長槍と見まがう爪牙。
 絶体絶命の状況下にあって、最期に垣間見えた青年の口元には、しかし不敵な笑み。

 ――燐光――

 信じ難いことに、一瞬、蜘蛛の巨体が、浮いた。
 俺の目撃したままを話すなら、青年が金属棒による打突に剛力を乗せて“押し上げた”、でいいのか?
 ……あの男、本当に人間か!?
 青年を刺し貫くはずだった八つの肢は、いずれも標的から上方にずれて金属棒の半ばを挟みこむに留まる。彼
はいわゆるノックバック攻撃によって、同時に回避も行ったのだ。

「……ちょっと足らなかったか」

 棒を足場に器用に一躍して距離を取る蜘蛛を見送りながら、青年はパートナーを軽く振ってみせる。

316:Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2012/09/01(土) 03:56:25 ID:Ex03LS.o0
 この戦闘――。一合目は青年の判定勝ちといったところか。
 もっとも、俺の見た感じ、蜘蛛のほうにも目立った損傷はなさそうだ。跳ぶ動きも憎たらしいほど俊敏。陸上
生物の多くが急所とする腹まで装甲でがちがちに固めていたというのもあるだろうが、狙いを外された足が結果
的に金属棒を抑えるかたちになり、その分威力が減衰したのだろう。
 無機質な四連単眼に、にわかに警戒の色が濃くなる。
 するする、するする。蜘蛛は青年との隔たりを小刻みに削る。恐る恐るやちょこちょこなどという可愛らしい
動きではない。虎視眈眈と獲物を窺って隙あらば領土を侵犯しようという厚かましい動き。

「させねぇよ」

 まどろっこしいのは好かぬとばかりに、青年がにじり寄る蜘蛛へと大きく一歩を踏み出す。
 猛者と猛獣の殺傷圏が重なり合い、学園の片隅に時期外れの嵐が巻き起こった。
 一帯を薙ぎ払う蜘蛛の前脚は、まさに暴風めいていた。一撃の重さではさすがに怪物の圧倒的有利。直撃すれ
ば人類などひとたまりもないだろう。……まあ、あの青年が人間であるかは個人的に大いに疑わしいが、彼にと
っても脅威であることは間違いない。事実、青年はまともに“受け”ようなどとは考えず、ひたすら捌きに徹し
ている。
 そう、青年は蜘蛛の猛攻をうまく捌いていた。人類の反応速度ではどう足掻いても対応できないので、反射的
に行えるようになるまで反復練習した身体操作と先の先の読み合いで戦うとか、そういう次元の話だ。
 もちろん、そこに反撃の布石も打たれているであろうことは想像がつく。
 八つの歩脚で地上を這う蜘蛛は安定性が高く、致命的に体勢を崩すことは容易ではない。だが、必要な時に必
要な動作を間に合わせないようにすることはできる。

「……ここだっ!」

 金属棒が遠心力によって青年の掌の中で滑る。そうやって間合いを変化させるのは、長柄武器の使い手の常套
手段だ。
 届かないはずの攻撃が、届く。いわゆる介者剣法の要領で、単眼周りの継ぎ目を抉る狙い。対して蜘蛛は後出
しで反応、辛うじて打点をずらし、一枚甲殻の中央で受ける。
 金属棒は、蜘蛛の顔面で撥ね返るような動きをした。効いているようにはまるで見えない。
 だが。青年は貌色ひとつ変えず、その弾みをそっくり追撃に流用する。切り上げられた金属棒が、青年の腕の
しなりで鞭のように加速、さらに螺旋運動を通して“突き”に変化。再び蜘蛛の眼窩を目掛けて射出された。
 堪らず蜘蛛が歩脚を左右側で逆に動かし、戦車でいう超信地旋回を敢行。急所を避けるが、横っ腹への衝撃で
巨体が揺らぐ。
 動きの止まった今になって気づいたが、カウンター気味に青年の肝臓に伸ばされていた蜘蛛の爪を、彼は金属
棒の手元の部分で遮っていた。かの武器には、それができるほどの長さがある。
 目まぐるしい攻防に、俺のほうはまったく付いていけてない。援護射撃に石投げちゃってもいいんだが、何か
余計なことをするとかえって場が荒れそうで怖い。

317:Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2012/09/01(土) 03:59:24 ID:Ex03LS.o0
 流れが青年にあると察した蜘蛛は、さらに畳み掛けようと攻撃態勢を整える青年の射程範囲から急速離脱を図
り、八つの肢を撓(たわ)めて筋力を溜める。

「させるかよ!」

 だが、見す見す退避を許す青年ではない。
 ここから先は、俺の理解をはるか超えていた。
 何の幻か。
 “光”が。
 夜蛾じゃれつく外灯すら霞む光源が、地上に出現。青年と金属棒が燐光を帯び、夜の闇を討ち祓う。
 金属棒の表面全体にひと際強い白光の線が引かれていき、それらは精緻な幾何学模様を形作っていった。

 ――奇跡を行う魔法使いが描くという魔方陣のようであるが、
 ――プリント基板の上を整然と走る電子回路のようでもある。

 体系化された技術を想わせる中にも、我らが不可能を可能とする不思議な要素があると分かる。発見されざる
極微の粒子、あるいは波動、そういう何か。

「“異形”ならざる異形のもの」

 金属棒の先端から、莫大な光が迸る。
 白い光は“本体”に劣らぬ確かさで実体化し、刃渡り二〇〇センチメートル、身幅五〇センチメートルの巨大
な刃となる!
 全体としては馬上突撃槍のようなシルエットだが、れっきとした諸刃の剣だ。芸術的な機能美に、ある種の神
々しさをすら感じさせる、流麗な金属の刃。どう考えても棒より刃のほうがでかいよな、などという考察が馬鹿
らしい。
 青年はむしろゆっくりとその切っ先を上空へ向け、

「――粉砕してやる」

 落雷と見まがう斬撃が発動。
 輝ける処刑人の刃が怪物へと落ち、目映い光が一帯を制圧。
 それは、“光の爆発”とでもいうべき圧倒的破壊現象を引き起こす。視界に灼きつく閃光、思わず体が強張る
地響き。赤褐色の煉瓦が砕かれて吹き飛ぶのがちらと見えた。

「……」

 たぶん、つかの間の静寂。耳鳴りのせいでよく分からないからたぶんだ。
 巨大な刃を振り下ろした青年の足元から前方へ、大地にはやはり巨大な割れ目が刻まれていた。氷原の裂縫の
ような奈落の暗さは、時間帯のせいなのか、傷の深さのせいなのか。どうであれ、地面を切り裂くなど、常軌を
逸しているとしか言いようがない。

「えー……」

 もう笑うしかない威力だが、笑えない。全然笑えない。これ以上こいつらに本気を出されると俺たちの学園が
倒壊する。『学園を壊しませんか?』……どこのキャッチコピーだ。やめろ!
 いや、そんなことより、蜘蛛は……!?

「いない……?」

 艶のない黄金の巨体は、悪寒を催す威圧感ともども消滅していた。……逃げた? まさかあのタイミングで仕
留められなかったというのか?

318:Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2012/09/01(土) 04:00:43 ID:Ex03LS.o0
 それは、まずい。
 完全に役立たずの俺がいうのも何だが、今後どれほど犠牲者が出るのか想像もつかない。日本獣害事件史に残
る三毛別羆事件のような惨劇を連想する。不吉にすぎる未来予測に、俺の顔からは血の気が失せていただろう。

「ぎりぎり間に合った」

 “逸らすのが”――
 一方、青年の吐いたのは安堵の息だった。
 蜘蛛への攻撃を、“わざと外した”と言ったのだ。
 意味が分からず、俺は青年の視線を辿って、地面の亀裂を見る。より正しくは、その左隣。
 そこに小さな人影。

 ――女の子が倒れていた。

 小柄な体格から、恐らくは小学校中学年以上、齢一〇歳ていどと見た。可憐な少女。長く綺麗な黒髪が無骨な
煉瓦の寝台の上に散らばるさまは、奇しくも彼女が蜘蛛の巣に囚われているかのように見えた。
 青年がこの女の子に必殺技をぶちこみ掛けて慌てて太刀筋を曲げたということは理解できたが、……どういう
ことだよ。

(蜘蛛が消えて、女の子が現れた?)

 とてつもなく単純に考えれば、この子があの化け物の正体だということになるが? ひとつも他の可能性を考
えられないというわけではないが、シチュエーションとして自然なのはそれくらいしかない。
 しかし、んなアホな。それじゃ質量保存の法則が……

(……ふっ……)

 馬鹿馬鹿しい。
 ことここにいたって、俺はこの件について科学的な説明を求めることを完全に諦めた。……まあ今更という気
もするが。“そういうもの”として受け入れた上で、今後をどうこうするのか考えるほうがまだしも精神衛生上
よいだろう。

(ていうか俺、もう帰っていいか? だめか)

 ……じりりりりりりぃぃ……

 我関せずとやかましく騒ぎ始めるヤブキリたちの草木に半眼をくれてやりながら、俺は空を仰いだ。
 どうしてこんなことになってしまったのだろう?
 月は……まだ赤い……。




 ※

319:Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2012/09/01(土) 04:01:52 ID:Ex03LS.o0
毎度ぶつぎりで悪いけど今回はここまで。

ちょっと自由度が上がってきた。

320:Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2012/09/01(土) 04:09:50 ID:Ex03LS.o0
いきなり誤り。〉〉315の2行目は『午後八時には〜』だね多分
ごめんち☆

321名無しさん@避難中:2012/09/01(土) 09:03:51 ID:NxzUfr4Y0
変身解除キター
匠君強ええ

322名無しさん@避難中:2012/09/01(土) 17:37:57 ID:2a8imxPw0
乙です
変身が解けてこれからどういう状況になるんだろう

何気に三つの別世界の人間が集合しているあたりいろいろと楽しくなりそうです

323名無しさん@避難中:2012/09/08(土) 08:03:39 ID:aoDCxPJsO
質問。
異形世界の教育機関ってどうなってましたっけ。
都市部に学校があるとは記述があったはずですが、もうちょっと詳しく。

324名無しさん@避難中:2012/09/08(土) 15:36:52 ID:ediTBsJYO
人が少ないと有志の私塾っぼいので
都市だと学校みたいなのがあったっけ?

325名無しさん@避難中:2012/09/08(土) 16:48:06 ID:aoDCxPJsO
勝手に寺子屋みたいな感じ?くらいに思ってた。
中世レベルってのが意外と曲者で……

326名無しさん@避難中:2012/09/08(土) 20:51:34 ID:d1wpmtUU0
教育機関のレベルはしっかり描写されているところはなかったような気がする
馬車が闊歩していると思ったらバイクや車や人型ロボットがいたりするのでフレキシブルなんじゃないかなと思います

327名無しさん@避難中:2012/09/09(日) 01:01:10 ID:QZ3qAjQcO
和泉の教育機関はどんな感じ?
本文では使わないかもしれないけど、そういうのも一応知っておくと心に余裕ができるのでイメージでもあれば是非。


一段落したら別の絡みも書きたいなー。

328名無しさん@避難中:2012/09/09(日) 08:48:46 ID:GruU5gLM0
和泉は道場主の夫人が子供たちを集めて初等レベルの教育を教え
学ぼうと思えば義務教育レベルまでなら和泉内でどうにかなるけども
それより上の教育を受けようと思うと都市部に出て行くしかない
そんなイメージです

329名無しさん@避難中:2012/09/09(日) 10:51:49 ID:QZ3qAjQcO
分かった。ありがとうございます。

330わんこ ◆TC02kfS2Q2:2012/09/15(土) 09:03:33 ID:zDupdn8k0
ぱられるわーるどっぽい、単発を。

331魔剣とロミオ ◆TC02kfS2Q2:2012/09/15(土) 09:04:12 ID:zDupdn8k0

 「ロミオよロミオ。どうしてあなたはロミオなの?」

 バルコニーを模した学園の講堂のステージの上から黒咲あかねがセリフを口にすると、まるでジュリエットが乗り移ったかのように
周りを圧倒した。制服姿のあかねが華麗なるドレスを纏っているように周りの者たちは語るだろう。長いみどりの黒髪と長い脚を包む
黒いストッキングは蔭りなき闇夜が舞い降りたように美しく光っていた。

 ジュリエットを庭先で迎えに来た一人の少年。幼い頃から無鉄砲で無茶ばかりしてきた、と、かの文章から引用してもさほど違わぬ
少年・ロミオ。天界から女神が舞い降りた。さあ、魑魅魍魎、妖怪跋扈する地上へ。あかね……いや、ジュリエットは勇気ある少年の
返答を待ち焦がれた。

 「おれは……、おれは天に叛く男だぜ!両家が血を望むことが天の欲するところなら、おれはソイツに叛いてやるぜ!」
 「……続けて!」
 「貴族の名を騙った組織、はたまた魔王だな。ヒロインを救う勇者は何者にも恐れないぜ!おれには悪魔的な強さを誇る魔剣が
  味方についているんだからな!それにおれは、おれはな!姫の笑顔が見たいだけなんだ。それ以外に望みはしない」
 「岬くん!そこまで!」

 あかねはかしわ手打って、劇の稽古を中断させた。初めて演技をするとはいえ、演劇部の練習で誰にも引けをとらない岬陽太は剣を
構える振りをした。あかねは少年の天然というべきか、天から享受された才能というべきか、強いハートに心打たれていた。

 ある日、世界が割れた。世界の割れ目から世界がにょきっと踏み入れて、支配と被支配が繰り返された。そんな危機的状況のなか、
仁科学園演劇部は演劇発表会を企画した。誰が書いたか知らないけれど「こんなときこそ、演劇の力だよ」と、演劇部の大学ノートの
台本にでかでかとイヌの足跡のサイン共々凛々しいぐらいの肉厚にて筆ペンで書かれていた。

 ハンドタオルを首に掛け、スポーツドリンクを飲んでいるあかねの元に、岬陽太はステージ下から跳び上がる。
 あかねは少しびくっとして、ドリンクを口から零す。

 「なんかさ、バトルとかねーの?この劇」
 「バトル。闘いですか?」
 「そうさ!血沸き肉躍るおれは闘いによって積み重ねられ、そしてこの世の歴史を刻む男なんだぜ!」
 「ないことはないですっ。両家の若人の決闘シーンもありますし。多分、それを見込んで久遠は岬くんを選んだと思うけど」
 「じゃあ、バトルやろうぜ!バトル!世界を支配する名家どもを魔剣の錆にしてやるぜ!」

 はたして陽太はロミオとジュリエットの世界観を把握しているのかどうかと、あかねは不安げに少年の目を微妙に逸らしながら見つめた。
 あかねは年下の男子と対で話すことに慣れていなかった。いわんや厨二病に罹患した挙句の果てに拗らせた重症の患者をや。
なので、敬語で精一杯の対応をしてみるものの、果たしてそれが正しいのかあかねには判断しかねるものだった。

 「あかね。どんな話だっけ?」

 呼び捨てされて、あかねは少しムッとした。内容を知らなかったことよりもという理由だが、顔色変えずにあかねは説明を始めた。

 名門・キャピュレット家、モンタギュー家それぞれの子のロミオとジュリエット。仲たがいをしていた両家にも関わらず二人は
許されぬ恋に落ち、誰からを傷つけ、苦しんで、ジュリエットは僧侶に相談をした。そして、飲めば仮死状態になる薬を手に入れた
ジュリエットは開けることのならない箱を開けるように、一気に飲み干し、さも命を落としたように見せかけた。両親が後悔するだろうと
考えた結果だが、誤算だった。ジュリエットの動かぬ体を目にしたロミオは自ら命を絶ち……。

 「息を吹き返したジュリエットも後を追うんですっ。台本、ちゃんと読んだんですか?」
 「一応な」
 「久遠が書いたんだから、しっかり読んで下さい!」
 「久遠?」
 「演劇部の同級ですっ。本を書かせたら凄いんですっ」

 スポーツドリンクを再び口にしながら、あかねは横目で少年を叱った。

332魔剣とロミオ ◆TC02kfS2Q2:2012/09/15(土) 09:04:31 ID:zDupdn8k0

 「あかねさあ。これ、『シェークスピアの四大悲劇』って言うんだろ?抜き差しならないこの状況下でこんな演目でいいのか?」
 「え?」
 「世界が揺らいでるっていうのにさ」

 恥ずかしそうに台本を握り締めて、あかねは陽太の問いに答えた。

 「久遠が言うんですっ。『基本悲劇だけど、希望の光が見えるんだよ』って」


      #


 発表会当日。舞台となる講堂は人で埋め尽くされていた。
 吉と出るか、凶と出るか。のるかそるか。

 人々を敬愛なる目で見れば我が子の初陣を見守る当主のよう。陽太にとって初めての舞台と言うから、誰もが目を輝かせて席に
ついていた。それはそれは楽しみだろう。しかし、人は全てが善人ではないのは世の常だった。
 人々を邪悪な目で見れば土砂降りの中で誰かに踏まれ、泥だらけになった人を見に来るよう。素人の陽太が初舞台を踏むと言うから、
誰もが目を輝かせて席についていた。それはそれは見ものだろう。

 しかし。作品は裏切りで出来ている。それを体言するかのような舞台だった。舞台は恙無く進み、誰もの心を掴んだ。

 あかねの演技も本物のジュリエットよりもジュリエットであった。陽太のバトルも圧巻だった。そして、ラストのシーン。
悲劇の姫が飲んだ毒薬の効き目が切れ、ジュリエットの命が尽きたと信じ込んだロミオが斃れている姿を発見したラストカット。
 暗闇の中で斃れたロミオに明かりが当たり、やがて日が昇るようにゆっくりと上がると絶望の淵に取り残されるジュリエットの姿が
人々の目を奪っていた。涙ながらにジュリエットはセリフを進める。

 「どうして、どうして。わたしが悪かったんでしょうか。人を欺くことがいかに罪深いことかと今更知った愚か者です」

 短剣を持ったジュリエットは自らの喉に突き刺そうとした刹那、もう一つのスポットライトが舞台袖に開く。
 そこには斃れていたはずのロミオの……幽霊だった。足元は暗く、存在するのなら黄泉の国から降臨してきたよう。

 「待て!その剣を降ろせ!」

 陽太、いやロミオは紅顔していた。

 「一度でもおれを愛した者ならば分かるだろう。おれは神に叛く者だ。神が雨を降らすなら、おれは満天の星空を仰ぎ見るつもりだ。
  でも、おれは……過ちなのか、神になってしまった。このおれとしたことか、死ぬべきでなかった。しかし、運命は変えられぬ。
  恥じても恥じても取り返せない日々。でも、足踏みしても仕方がないよな。ジュリエットよ、お前はどうしてジュリエットなのか?
  お前なら分かるだろ。お前も神に叛く者ならば、神に叛くことを受け継ぐ者ならば、おれは言おう。神は一度しか言わないからな」

 講堂はロミオ、いや陽太にだけのものとなり、人々は視線を注いだ。もはや、誰もみな意地悪く人を裏返しに見る目ではなかった。
 最後の言葉でステージは暗転し舞台は幕を閉じた。

 「ジュリエット。早くこっちに来いよ」


      おしまい。

333わんこ ◆TC02kfS2Q2:2012/09/15(土) 09:05:03 ID:zDupdn8k0
投下おしまいっす。

334名無しさん@避難中:2012/09/15(土) 15:32:29 ID:sX4J2d2c0
投下乙
こういう日常シーンもいいね

335名無しさん@避難中:2012/09/15(土) 19:57:18 ID:OR7vxYcU0
陽太、役者さんだ!
台本にどこまで書いてあったのかが気になるw

336名無しさん@避難中:2012/09/18(火) 14:28:23 ID:QY22peAI0
結論から言えば、仁科学園演劇部の企画した演劇発表会は大盛況で幕を閉じた。部員たちによるささやかな打ち上げパーティを抜け出したロミオ役の岬陽太は、今も照明の降り注ぐ講堂のステージ上に立ち尽くしていた。後片付けは明日にするのか、と今更ながら段取りを思い出す。
さすがに衣装は脱いでいたが、まだセットが配置されているせいで妙な気分になる。少し前まで自分、というよりロミオはここで喝采を浴びていたのだ。――世界が歪み、混ざり合ったという一大事の中で。
「呑気な話だと思わないか、あんた」
 闇に沈んだ客席に投げた声。それに反応して姿を現したのは、日本刀を腰に提げた少年であった。
機嫌良さそうな微笑を整った顔に浮かべ、黒一色の和装を纏った少年は言う。
「いや。予想よりは全然面白かった」
開演中から陽太に向けて濃密な殺気を放っていたその男の頭頂部横には、いつの間にか二本の角が生えている。別世界の住人だったらしい。
やっとか。安堵にも似た思いが、陽太に溜息を吐かせた。
茶番劇とは違う本物の闘いが、ようやくできる。
「随分と神様嫌いなロミオだったけどな」
「偉そうな奴が嫌いなんだよ、俺が」
 で、と陽太は続ける。
「用があるならさっさと済ませようぜ。まさか、演劇評論をするために今まで残ってたわけじゃないんだろ」
 刀を抜きながら客席の鬼が応える。
「話が早くて助かる。途中で訊かれると興が冷めるから先に言っておくけど、俺は単に歯応えのありそうな奴と殺し合いがしたくてあちこち回ってんだ」
ロミオ――岬陽太を狙ったことに、意味は一切ない。
最後にそう言い、鬼は弾丸のような速度でステージへ跳躍してきた。凄絶な笑みと共に陽太は右手を突き出し、意識を集中させる。
「貫け――」
声と同時に虚空に生成された一本の大根。それは凄まじい速度で膨張し、一本の巨大な槍となって鬼の頭部を掠めた。
「んなっ!」
上体を大きく捻って避けた鬼は、大きく体勢を崩しながら客席の一角に着地する。勿論それを見逃してやるほど陽太はお人好しではない。
「今日はえらく燃費がいいな」
 消耗が少ない。世界が混ざってから、陽太の調子は跳ね上がっていた。別世界にあるという魔素が流れ込んだのが原因なのか、それとも別に理由があるかは知らない。
ただ、本気で力を解放したいという欲求だけは確実に強くなっていた。
今度は左手を突き出し、鬼を狙い撃つ。派手な音と共に、客席の床に巨大な穴が穿たれる。まあ非常事態だ。大目に見てもらえるだろう。
「そら」
 更に追撃するが、さすがに相手も慣れたか、三本目の大根は鬼の日本刀で綺麗に切断されていた。
「こりゃ今日の晩飯は大根だな、ったく」
 ぼやきながらも鬼は突進してくる。丁度良い。接近戦も試してみたかった。集中し、硬度を最高まで上げた左手の大根で白刃を受ける。
 刃は大根の半ばで止め、右手の大根を振りかぶりながら陽太は告げた。
「終わりだ」
「岬君!」
 舞台袖からの悲鳴じみた声。それに反応したのは鬼の方が先だった。空いていた手で鞘を腰の掴むなり、器用な投擲を見せつける。
 何故こんな所に。床の破壊音で勘付かれたのか。
 選択の余地どころか、思考する余裕さえもうなかった。完全な無意識の内に陽太は右手の大根を巨大化させ、飛び出してきた黒咲あかねへの軌道に割り込ませる。鬼の鞘は大根の八割方を吹き飛ばしたが、軽やかな音を立て床に転がる。
 そしてその時にはもう、鬼の手刀が陽太の胸の中心を貫いていた。
「意外とお人好しなんだな、ロミオ」
 ――改めて言われなくても判ってるよ、そんなこと。
 陽太が吐血した瞬間、ジュリエットの絶叫が講堂に響き渡った。

337名無しさん@避難中:2012/09/18(火) 14:30:07 ID:QY22peAI0
おいおいこれが通るのかよ…ちゃんと改行すればよかった
サブタイは「今日の晩御飯」でよろしくっ☆ミ

338Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2012/09/18(火) 22:19:44 ID:OWlELkbw0
>>333
ふと思ったけど、そういや陽太っていっつも演技してるようなものかも。中二病的な意味でw
俺もあかねちゃんとロミジュリしたいぞう!! 年下とからむのも・・・いいね
しかし仁科本スレと同時投下とかわんこ氏は化け物だなぁ

>>337
熱い戦闘だ・・・けどこんな相手にも大根なのかwちょっとわろた
続くよね
トリもつけて欲しいな



なんかタイミング悪いかもしれないけど投下します
>>315->>318の続き

339Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2012/09/18(火) 22:22:08 ID:OWlELkbw0


 ※


 ――“異形世界”においては。
 西暦二〇XX年、局地的な地震の多発により、日本列島が罅割れた。
 国土を網羅する未曾有の震災は全てを引き裂き、復興の遅滞は日本の文明を中世の水準にまで退行させること
となる。
 機能麻痺から回復できないでいた中央政府に見切りをつけた各地方都市は自治権獲得を目指し、防衛のための
独立武装隊を組織。政府はこれを黙認せざる得なかった。
 さらに国連による特別危険地帯指定を経て日本は鎖国に乗り出し、ついに海外との交流を断絶。
 大震災からおよそ一五年間の出来事である。
 ところで、日本が特別危険地帯指定を受けたのは、災害の頻発だけが理由ではない。
 “異形”の出現である――
 
 
 ――“異形”とは。
 地震により生じた地割れから噴き出すように出現した、異形の物たち。
 地上の生物など比ではない大量の≪魔素≫を保有する、怪物たち。
 硬い甲殻を持つ物、軟体の物、脚のない物、肢の多すぎる物、矮小な物から巨大な物、複数の動物の特徴を併
せ持つ物、あり得ざる体色の物、群れをなす物、単独で行動する物、空を飛ぶ物、地に潜る物、海に棲む物、人
類を凌ぐ知能を誇る物――
 それらは多種多様であり、地上の虫鱗介禽獣人などと似て非なる形態と生態を持つ。多くは本能のままに人間
を襲い、震災の混乱を助長した。
 第一次・第二次掃討作戦を経て、都市及びその近郊に跋扈していた異形は殲滅ないし撃退され、またその根源
と思しき出雲黄泉比良坂も厳重に封鎖されてはいる。だが、依然として、野にある異形の物が人里を襲撃するこ
とは珍しいことではない。
 人々は都市の周囲に外郭を築き、武装隊を編成し、時には知性のある異形と条約を締結して、懸命に日々の安
寧を得ようとしていた――


 ――≪魔素≫とは。
 異形の物たちの出現と前後して発見された、一種の根源物質。元素。
 それまで検出手段がなかっただけで、人類を含むあらゆる生き物は本来的に体内に持っていたものである。
 とはいえ、大気や水の中にもわずかに存在が確認されたことから、単純に生命力の一種などとして捉えてよい
かは未だ意見の割れるところである。中国の思想でいう“氣”の概念に近しいという者もいるが、その詳細につ
いては今後の研究を待つしかない。


 ――魔法とは。
 ≪魔素≫の利用は、既存の科学技術とは異なる接近方法から、地球人類文明の限界を拡張し得る可能性を秘め
ていた。
 安部――
 蘆屋――
 小角――
 平賀――
 玉梓――
 かくして五つの天才が、人知及ばぬはずの元素の振る舞いについて独自に理論を構築し、同じ数だけの魔法体
系を確立した。
 ≪魔素≫を励起、指示術式などにより再現性のある現象に誘導する。≪魔素≫はここで初めて可視化し、自然
界への干渉能力を持つようになる。
 指先から火を熾し、流水を恣に操り、砲撃を上回る拳を繰り出し、掌の中で鋼の武器を鍛え、異空間に通ずる
門を開く――
 すなわち、“魔法”。

340Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2012/09/18(火) 22:23:05 ID:OWlELkbw0
 もっとも、人類の持つ≪魔素≫は、異形たちと比べればごく微量な上に個人差も極めて大きい。訓練によって
ある程度までは機能の増強が認められるが、保有量や制御における先天的な個人の資質はやはり無視できない要
素ではあった。
 それでも魔法は人類が有史以来初めて手にした超常の現象であった。その力は、第二次掃討作戦で異形に対し
て初めて発揮されることになる――


 ――≪魔素≫と異形について。
 あらゆる生き物が≪魔素≫を外界から吸収もしくは代謝により産生しているが、その活用に関していえば異形
はやはり別格である。
 ≪魔素≫の莫大量と高濃度が異形という存在を規定するといってよい。たとえば原始的な生物が有毒な酸素を
利用してエネルギーを得たように、つまり大地の裂け目の奥の異界だかにおいてそういう進化を遂げてきたもの
が異形であるのだと唱える研究者も少なくない。それはしばしば、その名の由来となったはずの形態の特異性な
どよりも、異形を異形たらしめる要素といえた。
 一般に強大な異形ほど≪魔素≫が多く、濃く、その制御活用に長ける。




 ※


 気を失った少女と金属棒をいっしょくたに両腕で抱えて、流しの速さで走りながら、坂上匠(さかがみ たく
み)青年は思い出していた。
 それは、坂上匠の生きていた世界において、極東の島国が歩んだ歴史の一端であった。震災を境にして、多く
のものが変わったのだという。ことなるかたちに。
 この異世界、いや正確を期すならこの“学校”と思しき施設のあった世界というべきか、ここはどんなところ
なのだろうか。
 差し当たって考えるのは、身の安全の確保だった。
 早々にあんな“大物”と戦闘することになっただけに、それなりに危険な世界なのかもしれない。
 怪物。異形ならざる異形のもの。蜘蛛のような。
 あれだけの戦闘能力を誇る異形ならば発散するそれなりの≪魔素≫を感知できたはずで、まったく別の生き物
である。
 もしもこんな化け物がうじゃうじゃいるようなら……

(まずいよなぁ……) 

 青年は金属棒の端を一瞥した。
 金属棒。魔棒とも。坂上匠愛用の武器であり、“墓標”という不吉な銘を持つ。
 ただの鋼の棍棒ではない。魔法体系を確立した五派閥の一の長である平賀老が開発したそれは、≪魔素≫を効
率的に運用する機能を備えていた。

(……≪魔素≫の伝導率も落ちてるみたいだし……)

 先の蜘蛛の怪物との戦闘で刃を形成した際、従来に数倍する≪魔素≫を金属棒に注ぎこんだにも関わらず、想
定していた長さに達しなかった。何かの不具合だろうが、実は匠にはあまり細かな調整はできない。

(ついこの前、爺さんに直してもらったばかりだってのに)

 まるで修理前に時が巻き戻ってしまったかのようだ。

341Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2012/09/18(火) 22:24:45 ID:OWlELkbw0
 ちなみに使用分はほぼ還元されないので、今の坂上匠は深刻な≪魔素≫枯渇状態にあった。体力と同様に時間
経過で回復するとはいえ、それを待たずに、目覚めたこの少女や別種の怪物たちと連戦することにならないとも
限らない。
 怪物から変身した少女を連れていくかについては少し悩んだ。寝首を掻かれる危険は、とてもではないが、な
いとは思えない。
 しかしあのままにしておいてはいけないという強烈な保護欲のようなものに駆られ、気がついた時には抱え上
げていた。彼女を野放しにして他の誰かに被害が及ぶよりは自分の目に届くところに置いておいたほうがいいの
も理屈の上では確かではあるのだが、どことなく精神攻撃めいた不穏なものを感じなくもない。

「……まあ、なるようになるか」

 今どこにいるともしれない白狩衣の少女が聞いたら、あまりのお気楽さに不安がって説教したかもしれない台
詞だった。
 口から零れた言葉を無意識に追ったらしく、誘導役を買って先行していた少年がちらと振り向いた。
 まだほとんど会話もしていないが、この学校の生徒だろう。どうやらただの一般人であるが、この世界につい
ての話くらいは聞かせてもらおう。




 ※


 音を聞きつけて学園関係者が来ないとも限らない。
 見つかると絶対に面倒なことになる。
 剥がれて散らばる煉瓦の群れ、どうやったのか見当もつかない地面の巨大な裂け目、戦闘用金属棒を携えた青
年戦士、そして昏睡する女の子。

「……」

 ……どう考えても、青年がいろいろ不名誉な疑いを掛けられて警察にしょっぴかれていくという未来予想しか
浮かばない。特に“昏睡する女の子”あたりはそうとうマズい。
 命の恩人がそんな悲惨なことになるのはさすがに忍びない。かといって、俺の口からこの事態について誰もが
納得できるように説明できる自信もなかった。
 当然の成り行きとして、俺は青年に一刻も早くこの場を離れることを提案したのだった。

「ここなら……」

 辿り着いたのは、仁科学園北西に広がる専用農場。
 農業教育の栽培活動などに使われる菜園であるが、その向こうの未使用地域は密林となっている。
 冗談でも何でもない。“密林”である。その鬱蒼たることは南米の熱帯雨林を思わせ、そこでは蔦だの食虫植
物だの怪鳥だの変な虫だのが閉じた食物連鎖を繰り広げている。……大丈夫かよ防疫的な意味で。
 夜の時間帯、密林の深奥は見通しの利かない暗黒の空間へと変貌を遂げる――
 などと、おどろおどろしく言っておいて何だが、さすがにそこまで深く分け入る必要はない。
 精密化された機械警備が常識となっている昨今、たとえば教室に置き忘れた宿題のノートを真夜中にこっそり
回収に来るなどファンタジーもいいとこだが、学園敷地といえどさすがに校舎外までは網羅できない。こんな農
場や森林ならば尚更、監視網など布きようもないはずだった。
 門あたりにはビデオカメラもあるが、職員室に出入りすることの多い俺はモニタリングの死角くらいは把握し
ている。先ほどの青年の大立ち回りは、ぎりぎり範囲から外れていた。
 ……ただし、蜘蛛に出くわした俺が回れ右した南門あたりは明確にアウトだ。あの尋常ならざる破壊痕を見た
教員たちが録画の映像を総ざらいでもすれば追及もあり得るかもしれない。しかしまあ、それでも俺ひとりくら
いならいくらでも言い訳は立つ。
 ……逃走といい隠蔽といい、もはやどこが優等生だよとツッコまれても反論できない感じだが、取り敢えず今
は慎重に行動するのが正解だろう。たまには融通が利くってところも見せないとな。

342Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2012/09/18(火) 22:25:55 ID:OWlELkbw0

(む?)

 そんなことをぼんやりと考えながら密林を外から眺めていると、ふと、違和感に襲われた。

(クスノキ? こんな木あったか?)

 それだけではない。全体的に、密林の植生が変わっている、ような……。アマゾンみたいなところだったはず
なのに、今はごくまっとうな日本の温帯温暖湿潤気候のものに見える。
 そこは、どこかの鎮守の森めいて、みだりな人の侵入を拒絶する結界のような空気を孕んでもいた。

 ――ぞくり

 背筋を寒気が這う。
 赤み掛かった月光に照らされて、いくつかの木の樹幹に古い創傷が刻まれているのが見えた。

(何かがいる)

 獣だ。――いや、獣ではない。
 確信に近かった。この森に入ってはいけない。命が惜しければ。
 俺が見知らぬ木々の前で立ち竦んでいると、青年が「よっこしょ」と雑草の絨毯の上に女の子を降ろすのが見
えた。どこかのんきな声のおかげで緊張が緩む。
 青年は息も切らしていなかった。消耗しているとはいえ男子高校生の全力疾走に付いて、金属棒と女の子を抱
えたままけっこうな距離を走ったというのに、いったいどういう体力をしているんだ?

「ここらで、いいかな」

 青年は躊躇なく女の子のそばに腰を下ろし、俺にも休むように促した。
 正直もう座りたいを通り越して寝たいくらいの心境だった俺は、ふたりから気持ち距離を取りつつ疲労回復を
図ることにした。

「……さっきは、ありがとうございました。助かりました」
「いいって。怪我はないか?」
「おかげさまで」

 好もしい人物のようだったが、自分から自己紹介ができる雰囲気ではなかった。

「……」
「……」

 何となく話題の切り出し方が分からず、会話が止んでしまう。お互い、どこまで関わっていいものやら分から
ない、そんな感じだった。
 かくして逃げ道を探すように、気を失ったままの少女を何とも言えない表情で覗きこむ男ふたり。ただよう激
烈な犯罪臭。
 長く伸ばされた黒髪の艶に見惚れてしまう。可愛らしい花柄のワンピースにフェミニンなボレロを羽織ってい
た。最近の小学生はお洒落だなぁとおっさん臭い感想を抱く。
 さらに特筆するなら、彼女の首にはもうひとつ――皮革のナイフホルスターが掛かっていた。腰ではなく、首
である。まるで悪趣味なペンダントのように。

343Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2012/09/18(火) 22:26:54 ID:OWlELkbw0
 ……。
 ……ナイフ?
 ぎょっとした俺は立ち上がって少女に近づき、武骨もいいとこな鞘の内をそっと確かめた。
 納まっていたのは短剣だった。ナイフというにはやや刃渡りが長いかもしれない。
 それはどう見てもマジもんの危険物だった。実用本位らしい白刃は緩やかに湾曲し、中央に謎の溝が走ってい
る。最近の小学生は物騒だなぁとおっさん臭い感想をって何これ怖っ。
 青年の金属棒といい、くだんのデバガメヒロインといい、俺たちの街に空前の武装ブームが到来しているのだ
ろうか。治安最悪じゃねぇか。もう引っ越したい。
 少女の持ち物といえば、それくらいのものだった。さすがにこの時世、女の子のポケットの中身を漁る度胸は
ちょっとないが、あの蜘蛛ボディや短剣以上の凶器が出てくるとは思えない。
 短剣を首飾りにした少女の唇からは、すぅすぅと微かな寝息が漏れていた。未だ目を覚ます風情はない。
 ……天使の寝顔だが、騙されてはいけない。俺をさんざ追い回してくれたサディスティックなモンスターとメ
ンタリティは同じだ。
 この姿は人間を油断させる擬態なのだろうか? そう思うと見よ、たちまち可憐な少女もおぞましく感じられ
てくるではないか。
 何にせよ、

(この子を、蜘蛛をどうするか)

 今はそれが最優先の懸案事項だろう。どうにかしないとまた誰かが襲われる。下手しなくても死者が出る。
 目覚める前に最低でも拘束はしておかなくては危険極まりないと思うのだが、鉄の鎖ていどではあの蜘蛛は抑
えきれないだろう。……となると何も思いつかない。ダメだ俺。
 いくら怪物といっても、俺自身にはこの子を殺害したりするような覚悟の持ち合わせはないのだから、ここは
“異形”とやらの専門家であるらしいこの青年の判断に従うのが一番よいという気がする。どの道、ただの高校
生の身には余る。

(だがその青年は、蜘蛛を殺さなかった)

 どういうことなのだろう。青年は対策を知っていると期待していいのか。
 何かそういう怪物を外界から隔絶する施設的なものが存在するとか、少女は今夜に限ってたまたま蜘蛛の怨念
に取り憑かれていただけで既に無害とか。考えられる可能性はいくつもある。
 しかし青年の沈黙を見るに、何となくそんな雰囲気でもない。実は行き当たりばったりで、女の子に変身した
からふらふら判断を保留にしているだけかもしれない。
 ……難しい。

「そういえば自己紹介がまだだった。俺は坂上匠」
「先崎俊輔です」

 ――来た。
 自分でもどうかと思うが、「きみはもう帰っていいよ。……ああ、今日のことは誰にも言わないでくれると、
こちらとしては助かる」とか何とか、青年が事件の関係者として送り出してくれないかなーなどと俺はちょっと
待っていたのだが、特にそんなことはなかった。仁科学園の外でまで変な事件に巻きこまれる予感。
 坂上匠さんは、一瞬だけどう切り出したものかと悩ましげな表情を覗かせてから、言った。

「どうやら、世界が混ざり合ってしまったらしい」

 どういうことだよ。




 つづく

344Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2012/09/18(火) 22:28:04 ID:OWlELkbw0
取り敢えず投下完了。
だらだらしがちなので話を一区切りします。今後もやることは変わらないけど。

魔素とか異形とかには独自解釈も含むかも。

強いキャラに制限掛けたり、アイテムシャッフルしたりしたけど、よかっただろうか。
……ほんとうは墓標も仁科学園のトンボあたりに変えてやろうかと思ってたけど、
夜のかれんちゃん相手はちょっと……ね。

345名無しさん@避難中:2012/09/18(火) 22:35:03 ID:9YTgMzNA0
>>338
そいつに触れないほうがいい

346 ◆46YdzwwxxU:2012/09/18(火) 22:47:18 ID:EdUv4WK6O
あー
ごめん
迂闊なことをしたみたい?

347名無しさん@避難中:2012/09/19(水) 00:00:40 ID:R96/qD/g0
>>344
おつおつ
いい感じに混ざってきた

ナイフって誰のだっけ

348名無しさん@避難中:2012/09/19(水) 00:17:46 ID:4qWae26cO
短剣は風魔ヨシユキ(ホーロー)@チェンジリングから片方をお借りしました。

349名無しさん@避難中:2012/09/19(水) 19:09:01 ID:EaqJsWx.0
>>345
ハハッそんなこと言ってるとまた投下しちゃうぞ!

350名無しさん@避難中:2012/09/19(水) 23:35:38 ID:R96/qD/g0
>>348
サンクス

351名無しさん@避難中:2012/09/20(木) 00:45:45 ID:EyQ74VuM0
>>344
投下乙!
異形と魔素の話がわかりやすいっす

352名無しさん@避難中:2012/09/25(火) 21:43:30 ID:6gnxVsEE0
なんとなく自キャラとよそ様の住人の絡みを想像してみたけど自キャラがめんどくさい奴で扱い切れんw
スレ内ならもとからそっちにある程度合わせてるからいいけど

353名無しさん@避難中:2012/09/26(水) 13:07:26 ID:D6WHCB8Y0
めんどくさいくらい濃いキャラなら動かしようもある気がするけどw
一番他人が動かしにくそうなのは、一人称的視点に依存してしまいがちな主人公気質のタイプだと思う。
そういう意味では、特殊能力は個性を把握するとっかかりには便利かもしれない。

354名無しさん@避難中:2012/09/26(水) 15:42:03 ID:pdTAtv/s0
特殊な能力と言える物が大声出すくらいしかないんだがw

355名無しさん@避難中:2012/09/27(木) 01:53:37 ID:sbZ0EODkO
仁科の方?

356名無しさん@避難中:2012/10/07(日) 16:46:17 ID:5XICy2k.0
ここまでwikiにまとめてきた
http://www26.atwiki.jp/sousaku-mite/pages/1235.html

357名無しさん@避難中:2012/10/07(日) 17:05:41 ID:oDMRZ7ek0
乙である。

358名無しさん@避難中:2012/10/07(日) 19:57:45 ID:YgjC1UFs0
GJ!

359名無しさん@避難中:2012/10/09(火) 00:53:55 ID:2ewo4LfgO
ついにWikiがっ!
参戦作品一覧がありがたい。余裕があったらキャラのレベルで弄ろうかな。
おつかれさまでございます。

一方、やっぱぶつぎり投下はダメだったなぁと思ったり。

360盤面の揺らぎ ◆46YdzwwxxU:2012/10/31(水) 21:09:20 ID:8H1Wet6U0
投下します。
ダメだったなぁといいながら結局ぶつぎり。まるで成長していない・・・!

361盤面の揺らぎ ◆46YdzwwxxU:2012/10/31(水) 21:10:48 ID:8H1Wet6U0




 ※


 先崎俊輔が九死に一生を得ていたころ――
 その“後輩”であるところの少女、後鬼閑花(ごき しずか)は商店街の書店でファッション雑誌を立ち読み
していた。

(浴衣と和ゴス……先輩はどっちが好みなのでしょうか)

 柚鈴天神社の夏祭りは、愛しの先輩と回ることに決まっていた(彼女の中では)。
 今の二年生の卒業までは、あとざっと二〇ヶ月。ただでさえ大学受験も控えているのに、そろそろたらしこま
なければラブラブイチャイチャする時間が減ってしまう。だだ減りである。
 学園で顔を合わせる機会がなくなってしまう夏休みだが、後鬼閑花にとってはむしろチャンスといえた。実家
に押し掛けてご家族の覚えをめでたくすればいいじゃない?

(上品で清楚なのも捨て難いですが、やっぱりひらひらのフリルやレースは男の子の憧れです。ピュアさの中に
香るほのかなエロさ。さすがの先輩といえど、辛抱堪らずむしゃぶりついてメチャクチャにピ――(自主規制)
さずにはいられないはず)

 いまいち反応が鈍いようなら途中で中座してお色直しすればいい。今時、変身ヒーローだって敵の特性に合わ
せていくつもの姿を使い分けるのだ。その分野で女の子が遅れを取るはずがない。

(……待てよ? 意表を突いて巫女さん風というのもありでは? ちょうど神社の縁日なのだし)

 罰当たり気味な選択肢を追加しておく。巷の噂によれば、コスプレ業界には膝丈の袴や腋チラの着物もあると
かないとか。
 思い浮かべるのは、柚鈴天神社の娘である神柚鈴絵の、白衣に緋袴を纏った姿。先崎とそれなりに親しげに話
していたというだけのことで、後鬼閑花は彼女に対して勝手に敵意に近い対抗心を抱いている。

(先輩がどんな特殊な性癖をお持ちでも、この閑花ちゃんはばっちり対応しますよ。神聖な巫女さんをぐちょげ
ちょに汚したいなら巫女さん後輩に、正義のヒロインと秘密のお付き合いがしたいならキュア後輩に、街を恐怖
のずんどこに陥れたいのなら重機動メカ後輩に、けなげにフォルムチェンジ)

 いつか言ったようなことだったが、今回は心の中に留めおく。

(……どうです? ここまでしてくれるカノジョなかなかいないですよ)

 後鬼閑花が得意気に鼻から熱っぽい息を抜いたその時だった。

(――あれ?)

 世界が、ぐらりと。
 視覚の画素と、聴覚の音素が粒子状になって撹拌されていた。
 革靴越しの足裏の感触が不安定になり、また時間の刻みも分からなくなり、確固たるものと思われた自分の立
ち位置を見失う。

(これは噂に聞く……つ、つわり……? 先輩ー!! だから●●してってあれほどお願いしたのにー!!)

 バカな発想は、わりと心の余裕があったというよりは、ある種の現実逃避なのかもしれなかった。
 ……先崎俊輔の名誉のために一応念を押しておくが、これは彼女なりのジョーク(下品)であり、話題のふた
りがそういう行為に及んだ事実はまったくない。どういう行為かというと、知らないきみは知らないままのきみ
でいて欲しい、そういう行為である。

362盤面の揺らぎ ◆46YdzwwxxU:2012/10/31(水) 21:12:06 ID:8H1Wet6U0
 目と耳の中で点と点が結びついていき、後鬼閑花が世界との関わり合うための術を取り戻すと、周囲の風景が
がらりと変わっていた。

「――え?」

 そこは先ほどまでいたはずの商店街ではなく、見知らぬ荒漠たる“河原”であった。
 風雨と流水に削られ磨かれてきたと思しき大小の岩石とまるで粒の揃わぬ砂利のために、歩くにもそう容易く
は平衡を保てまい。
 浅瀬の石を流水が濯ぐ音。目の前に横たわる川は、たっぷりと水を湛えていた。霧のために対岸は見晴るかせ
ないが、幅の太いことは直感的に分かった。後から後から押しよせるその流れは、悠久の歳月を感じさせる。薄
っすらとした潮の匂い。きっと海もそう遠くはないのだろう。
 思わず仰いだ空はどこか不思議な色で、少女をひどく落ち着かない気分にさせた。
 これは“よくない状況”だと本能は訴えている。

(しかし、こういうときこそ冷静になるべきです閑花ちゃん。先輩だってきっとそう言うハズ!)

 気味の悪い動悸を抑えるように深呼吸を一回、二回。肺腑の中を換気すると、閉塞感が多少は和らいだ。

(さらに素数とか数えちゃいます。頭いいです。〇、一、一、二、三、五、八、一三、二一、三四、五五、八九、
一四四、二三三……)

 しばし待ってみるが、先輩からの打てば響くようなツッコミはなかった。

「……フッ。素数がどういうものだったか忘れてしまうとは、この閑花ちゃんともあろうものが、どうやらそう
とう混乱しているっぽいですね」

 ちなみに、彼女が素数の代わりに唱えたものを、フィボナッチ数列という。
 現実から目を逸らすのも大概にして、後鬼閑花は改めて周囲を見渡してみることにした。
 差し当たって探すのは人工物である。人間不信気味の後鬼閑花といえど、さすがに川と石ばかりの空間という
のはいかにも心細い。
 それらしいものは何もない。

363盤面の揺らぎ ◆46YdzwwxxU:2012/10/31(水) 21:13:41 ID:8H1Wet6U0
 だが、視野を補うためにその場でくるりと一回転してみたところ、革靴の先が何かを蹴飛ばした。

「あら?」

 石ではない、木だ。爪先の感触は、その物体が空洞であるらしいことを伝えていた。わずかな金属音もしたよ
うな気がする。
 拾い上げてみれば、それは木製の小さな箱だった。“ハンドル”のついた用途不明の木箱。手回しの鉛筆削り
かとも思われたが、それらしい穴なども見られない。そもそも何でこんなものがここに?
 何となく気になって、ついハンドルを回してしまう。

「――――エレキ、キテルノ……!」

 無意識にそんな言葉を口走っていた。

「……ハッ!? わ、私はいったい何を……!? も、もしやこれは、快感の電気をびりびりして、女の子をア
●顔レ●プ目の愛玩人形へと変えてしまう魔法の箱!?」

 ひとしきり騒いだ後、後鬼閑花はまじまじと得体の知れない拾得物を鑑定した。

「これ、もしかしたら、“エレキテル”、というやつでしょうか?」

 後鬼閑花たちの世界においても江戸時代の日本にオランダから伝来し、平賀源内という男が再現した摩擦起電
機がある。
 もっとも、今彼女が手にしているものは、坂上匠たちの世界で、ある天才がささやかな悪ふざけのためにこさ
えた品だった。
 製作者の意図はともかくとして、このエレキテルにもやはり超常的でいかがわしい機能など全くない。ないの
だが、後鬼閑花の反応を見るに、あるいは変態たちの間で何やら官能的な感応があったのかもしれない。

「……もし私が先輩の目の前でこれをクルクルして、エレキキてしまったら?」

 新しい夜の玩具を手に入れた後鬼閑花の妄想は、留まるところを知らなかった。
 にへら。嫁入り前の娘の口元が、だらしなく緩んでいく。にへら。

「電気の力ですっかり無防備になってしまった閑花ちゃんを見たら、先輩といえど果たして理性を保てるもので
しょうか……?」

 これこそ最も単純で美しい電気回路!

(そうと決まれば一刻も早く先輩に会って誘惑してみなければ……!! 先輩待っててくださいよー。あなたの
閑花ちゃんが参ります!)

 先ほどまでの不安は何だったのか。ロクでもない算段を立てながら、後鬼閑花はエレキテルを宝物のように抱
き締めてうきうきと歩き出した。特に意図もなく、目指すは上流。どうせ地球は丸いんだ。恋する乙女がゆくの
なら、どれも愛する人へと通じるに決まっていた。
 浮かれきっていた少女には知る由もない。
 この河原こそ、混ざり合ってしまったいくつもの世界のうちのひとつ、〈地獄世界〉は“三途の川”であると
いうことなど。

364盤面の揺らぎ ◆46YdzwwxxU:2012/10/31(水) 21:14:27 ID:8H1Wet6U0




 ※


 ひと呼吸ばかりのわずかな沈黙に、肩に立て掛けた金属棒の重さを強く感じる。

「世界が混じり合った……?」

 制服の少年は、俺の話を聴いて困惑げに眉をひそめた。
 無理もない。すぐに理解するには突飛だし、やたらに話が大きい。そうそう実感など伴わないだろう。
 俺にしても“前例”があるから当然のようにこんな荒唐無稽な推測を打ち出せているわけで、なかなか初見で
「ハイそうですか」といくものではない。

「それは、どういうことですか?」

 一笑に付されるかとも思ったが、少年の反応は取りつく島もないというほどに否定的なものでもなかった。も
ちろん内心までは分からないが、こちらへの猜疑心や不信感をあからさまに表に出すようなことはしないだけ、
人間ができている。
 先崎俊輔と名乗ったか。ここは、人名まで俺たちの日本と変わらないらしい。学校の生徒らしいし、年齢は十
代半ばから上で確定だろう。いかにも真面目で誠実そうな印象だが、歳のわりに落ち着きすぎても見える。
 けれど、まあ、どこをどう切り取ったところでただの一般人であることには変わりない。事態についてざっと
注意喚起を促して、早めに解放してやるべきかもしれない。

「ああ。今、俺の世界と、きみたちの世界は、モザイク状になっているみたいだ」
「……申し訳ない。いきなり口を挟むようですが」

 概観から説明しようとしたところ、先崎が割って入った。

「まず、あなたは本当に、自分にとって異世界人なのですか?」

 そこからか、と思う一方で、そりゃそうだよなぁ、とも思う。
 恐らく、先崎にとっては、“未知との遭遇”といえるような事件は今回が初めてなのではないか。
 世界が混ざり合ったという現象に納得する以前に、世界はひとつではないことを理解しておかなくては話に付
いていけないのも無理はない。
 これは異世界間交流なのだ。互いに常識が常識ではないかもしれない。
 なまじパッと見は同じ日本人である分に、これは意識しておかなければ容易に混乱を招きそうだった。

「うん。異世界人ということになるみたいだな」

 俺は殊更きっぱりとした口調で言い切った。
 その点に関してはよほど確信があったが、「みたいだ」といったのは先崎の常識に対してワンクッションを置
いてやるためだった。

「……そうだな。それじゃあ、俺の世界のことを語ろう」

 ――それは、神秘の元素に満ちた日本の話だ。
 ――それは、異形の怪物が蔓延る天地の噺だ。
 ――それは、鋼の武器と魔法の全盛期の譚だ。
 キーワードは、《魔素》と、異形と、魔法。
 俺たちの世界と、先崎たちの世界。果たしてどこまで共通点と相違点があるか、これで炙り出す。




 ※

365盤面の揺らぎ ◆46YdzwwxxU:2012/10/31(水) 21:18:45 ID:8H1Wet6U0
申し訳ないんだけど今回はここまで。
タイトルは「Beyond the school gate/盤面の揺らぎ」で書いていたけど、字数制限に引っかかった。
まあ「先輩とチェンジリング・デイ」と扱いは一緒で、/以前はいらない感じで

366名無しさん@避難中:2012/11/02(金) 00:30:01 ID:yuNmvnZAO
乙です
後輩ちゃんのいる場所がナチュラルに危険な気が
彼岸からでも戻ってきそうな気もしますがw

主人公組(?)は休憩なようで
かれんちゃんという男二人の空間に添える華もとい、爆弾があるところがいろいろと気にかかります

367名無しさん@避難中:2012/11/05(月) 17:58:50 ID:I6wTeo/20
一応まとめてみたけれど
今回、サブタイトルはどうしたもんかね?
要望があれば言ってくれるとありがたい

368名無しさん@避難中:2012/11/05(月) 18:38:01 ID:MACcUi3wO
>>367
ありがとう!
今の感じでいいです。

369名無しさん@避難中:2012/11/05(月) 19:09:26 ID:I6wTeo/20
サブタイトルについては気にしなくてもいい感じですか?

370名無しさん@避難中:2012/11/05(月) 20:04:33 ID:MACcUi3wO
はい。
ビヨン(ド)ザスクールゲートシリーズで一括したほうがいいかなと。
今後も区切りに合わせて「先輩と〜」とか「盤面の〜」みたいにサブタイを付けていくつもりですが、気にしない方向で。
お世話になります。

371名無しさん@避難中:2012/11/05(月) 23:24:23 ID:I6wTeo/20
あいさー

372名無しさん@避難中:2012/11/11(日) 00:52:35 ID:bmjyCe8Q0
ちょいと投下いたします

373名無しさん@避難中:2012/11/11(日) 00:53:30 ID:bmjyCe8Q0

 神社の近くにある自宅へとキッコと名乗る化け狐らしき女性を案内した鈴絵は、
乞われるままに学園に持って行った鞄の中から社会系の教科書を取り出して、先に風呂に入ってもらったキッコに見せた。
 キッコが興味深そうに教科書に目を通している間に風呂に入った鈴絵は、日本史の教科書を開いているキッコの顔を見つつ、
彼女と一緒に確認した自宅の様子を思い出す。
 簡潔に言えば、神柚家は精巧に作られた映画用のセットのようになっていた。
 どこを探しても家の中に家族の姿はなく、資源回収の日までは取っておかれているはずの古新聞の類もなかった。
台所も調理器具は必要最低限のものだけが配置されており、結婚式の引き出物として両親がもらってきていた食器や、
台所の隅にあったはずの火除けのお札もスペースだけ空けてなくなっていた。
 今キッコが読んでいる教科書類についても、今日学園に持っていった鞄の中のものだけ残っており、
他の教科書はいつも置いてある自分の部屋の中には存在していなかった。
 その話を鈴絵から聞いたキッコは一つ頷いて、今いるこの世界は鈴絵が元いた世界とは違うところであるらしいとのたまった。
鈴絵としては、いきなりそんなこと言われても、というところではあるが、確かにこの不気味な状況はどこか変な世界にでも迷いこんでしまったのではないかと思わざるを得ない。
 キッコは身一つで飛ばされてきたが、鈴絵は土地の複製と一緒に飛ばされてきたのだろうとのことで、
この家は神柚家であって神柚ではないらしい。
 リビングにあったテレビや、別の部屋にあったラジオ動かしてみたが、これらは動きはするが、
どこのチャンネルも映像や音声を受信する気配はなく、ダメ元で使ってみようと思った携帯に関しては間が悪いことに、
学園に忘れてきたのか、どこを探しても見つからなかった。
 現在、リビングの電気は頼もしくついてくれてはいるが、それもいつまで保つものかわからない。配電設備があっても、
それらを動かせる人間がこの世界に喚ばれているのかはわからないのだ。キッコの方も、何やら通信に使うことができるという符、
という魔法の力をもったお札がないということで、仮に知り合いがこの世界に飛ばされていたとしても連絡を取ることは今のところできないようだった。

374名無しさん@避難中:2012/11/11(日) 00:54:26 ID:bmjyCe8Q0
 ……魔法……。
 そう、魔法だ。
 キッコの元いた世界では、≪魔素≫という、鈴絵たちの世界では存在しない
――と思われる元素を用いて魔法と呼ばれる不思議な事象を操る技術があるらしい。
 この世界は空気中にある≪魔素≫の密度が薄いようだと告げたキッコの言葉は、
にわかには信じられないものであったが、
大狐が人の姿になったりまた狐の姿になったりを説明の間に何度も楽しそうに見せられては、いい加減否定する気力も尽きてくる。
 ……そんなものが本当にあるんだ。
 大狐が人になったりするよりももっと大規模な不思議に巻き込まれてはいるが、
そちらにはいまだに実感が湧かない鈴絵は、
ひとまず驚きの焦点を目の前の女性に合わせて不思議な現象それ自体を実際に存在するものとして受け入れている。
 鈴絵の視線に気付いたのかキッコはページをめくる間にわずかに顔を上げ、おお、と言って笑む。
「風呂に入り終わったか。ちと待っておれ。あと少しで全部読み終わるのでな」
 そういって次のページへと目を走らせるキッコの衣服は神社の中に何着かあった、年末などの忙しい時に雇うアルバイト用の巫女服だ。
 金髪金瞳に白と紅の巫女服は、妙に似合っている。ただ、窮屈そうな胸元が気になるといえば気になるが――
 鈴絵はこほん、と咳払いして、邪魔かな、と思いつつ声をかけた。
「すみません。いろんなサイズを揃えられる服はそれしかなかったので」
「かまわんよ。獣としての我は畢竟、衣服はなくとも別によいと思っておるしの」
「それはやめてください」
 そう苦笑する鈴絵の服も先ほどまでとは違う巫女服だ。
客にだけコスプレのような恰好をさせるのは悪いと思ってのチョイスだったが、キッコ相手ではいらない気遣いだったかもしれない。
 キッコはまたページをめくる動きの途中で鈴絵に目をやり、
「やはり、似合っておるな」
「ありがとうございます。でも、キッコさんも似合ってますよ」
「そうかの」
 キッコは口元に笑みを浮かべ、
「このようなッ服は我の妹の方が似合うと思うのだがの」
「妹さんがいらっしゃるんですか?」
「うむ、我の血と肉を分けた妹よ」
「そうなんです……あれ?」
「どうかしたかの?」
「いえ……」
 血を分けたという言い回しなら娘ではないだろうか、とか、肉……? とか思う鈴絵の前で、キッコは文字を目で追いながら呟く。
「あれは人型が本性で獣にはなれないのだがの。ちょうど鈴絵、お前よりもう少し下くらいの年齢ではないかの」
 は、はあ、と零す鈴絵を置いてキッコはブツブツと続ける。
「もう少し鈴絵のように出るところは出て引っ込むところは引っ込めばあの朴念仁にも――まあいい」
 あまりよくなさそうに言って、本に集中しだしたトヨを眺め、
妹さんも巫女服は様になるんだろうなとかバイトに来てくれないかなとか思っていると、キッコが音を立てて本を閉じた。
 どうやら全部読み終わったようだった。

375名無しさん@避難中:2012/11/11(日) 00:55:26 ID:bmjyCe8Q0


****

 鈴絵が学園で使っているという歴史の教科書を横に積み、キッコは鈴絵に向き直った。
 居住まいを正す鈴絵を前に、キッコはとりあえず教科書を読んだ感想を述べる。
「どうも我らの世界はそこまで大きな違いを持っているわけではない気がするの。
歴史の大まかな筋は似ておる」
「大まかな筋ですか?」
「うむ、我も人の歴史にはあまり詳しいわけではないがな。
 ≪魔素や≫魔法の有無、それに、いわゆる伝承上の存在がいくらか実在している、
というのがこの教科書で見た歴史と我の居た世界の歴史の違いかの。
あと、我らの世界はもう少し年代が先に進んでいるようだの」
「キッコさんは未来の人、ということですか?」
「単純に我らがお前たちの世界の未来から来たというかというと、またそれは違うような気もするの」
 キッコは言葉を探して視線をさ迷わせ、
「あれだの、ぱられるわーるど? そのようなものなのかもしれん」
「並行世界ですか?」
「うむ、機械系の技術にしても、自分でものを考える機会人形を作れるほどのものはないのだろう?」
「どの程度かのレベルによると思いますけど、まあ、キッコさんがおっしゃるようなものはまだまだではないかと。
――一部仁科学園の中にはそれができそうな人もいますけど、一般的ではないですし」
「うむ、だからお前たちの世界の未来は殺伐としているとは考えんでもよいだろうの」
「異形、というものが現れて日本は大変なことになっているんでしたっけ?」
「今はある程度安定は取り戻してはおるがの。人同士で主義主張をぶつけ合って騒ぐくらいには余裕があるようだて」
 キッコはそう言って、さて、と問いかける。
「我もその異形というやつでの。故あって人を殺したこともある。
偽物とはいえ、我のような者を家に置いておいていいのかの?」
 問いかけに、鈴絵はうーん、と考えるそぶりを見せ、
「話に聞く異形は本当に怪物みたいで怖いですけど、
キッコさんはそんなに怖くはないですから、いいんじゃないでしょうか?」
「ほうかほうか」
 頷きながら、キッコは当面はこの娘といても大丈夫か、と考える。
 ……が、実際に戦えばどうなるのかはわからんの。
 キッコたちの世界のことを知らないのならば尚のこと、
鈴絵が今下してくれた好意的な判断はこの後も変わらないという保証はない。
 ……何かの拍子に拒絶されるような事態に陥る前に、得られるだけの情報は仕入れておきたいの。
 もしかしたら、鈴絵が知らないだけでこの世界から脱出するヒントを彼女が知っているかもしれないし、
彼女の居た世界の町の複製であるらしいこの町に、彼女の知らない何かがあるなら、
そういうところを調べていけば何かこの世界のことが分かるかもしれない。
 ……例えば、この異変の原因や、あるいは首謀者のことも、な。

376名無しさん@避難中:2012/11/11(日) 00:56:28 ID:bmjyCe8Q0
 別の世界が交わる。これほどの異変が発生しておきながら、
神社の上から見下ろした限りでは、どうもあの異変によって発生した余波はほとんどないように思われた。
 自然に発生した天災と考えるには洗練されているというか、そつがなさ過ぎる。
何らかの調整が働いているような、管理の跡が見られるような気がしてならない。
もしこの異変が何者かの管理の元で人為的に行われたものであるとしたら、この状態から元の世界に戻ろうとする場合、
力ずくでその何者かと争わなければならない時がくるかもしれない。
 ……そうでなくても、戦うことになる可能性はそれなりにあるの。
 元々キッコは自分がいた世界でも異形として人に狙われることがある立場だ。
 一応、あの世界の偉い人間との繋がりを証明するものも持ってはいるから、いきなり問答無用で戦うことはないだろうが、
自分以外にもこの世界にキッコが居た元の世界の者が来ていれば争うことになるかもしれないし、
鈴絵の世界の者とも争わないとは限らない。更に考えれば――
「この異変に巻き込まれた世界が二つだけとは限らないのがまた悩ましいの」
「え、まだ他にも世界が混ざっているかもしれないんですか?」
「まあ、可能性は大いにあるの」
 キッコは念を押すように鈴絵の目を見る。
「気をつけよ」

377名無しさん@避難中:2012/11/11(日) 00:57:39 ID:bmjyCe8Q0


****

 鈴絵はキッコの言葉に深く頷いた。
 ……やっぱり、こういうことに慣れているのかな。
 難しい顔で何やら考えこんでいる様子のキッコを見て思い、鈴絵は今、
周囲にこの世界の事情を知る人がいない以上、最も頼れるのは何もわからない自分よりもこの狐さんだろうと思う。
「あの、キッコさんはこの世界から脱出する方法を探しているんですよね?」
「うん? ああ、そうだの」
「それなら、私もついて行っていいですか?」
 キッコは天井を見上げて何か考え、
「ああ、かまわぬ」
「ありがとうございます」
 これで、なんとか元の世界に戻るために前進できたはずだ。
「ではまずはどうしますか?」
「そうだの……」
 キッコは目を細め、
「まずは、このあたりの地図を作ってくれんかの? 土地勘がないまま動き回るのもあまり賢くはなかろう」
「あ、はい」
 地図はないため、簡単な図をノートに書いてこの町の土地の様子を神社を中心にして説明する。
 それらを見たキッコはやはり、と前置きして、
「調べるなら、一番大きな建物である、この仁科学園だの」
 鈴絵にとっては慣れた場所だ。学園の中でおかしなところを見つければ、
何か手がかりもつかめるかもしれない。それに、
「ラジオもテレビも通じないので怪しいですけど、学園の中の私の携帯が見つかれば、
それを使って誰かと連絡がとれるかもしれません」
 そもそも学内に携帯が飛ばされてきているのかはわからないが、見つからなかったとしても学園行きは無駄にはならないはずだ。
「もし携帯が見つからなくても、学園のスピーカーが動けばけっこう広い範囲に声をかけることができるはずですから、
それで町中に呼びかけもできます」
 鈴絵の言葉にキッコは渋い顔をした。
「私、変なこと言いましたか?」
「いや、不特定多数の者に呼びかけるというのは現状では、な。
 しばらく様子を見ておきたいのだ……」
 慎重に言うキッコに鈴絵は反論する。
「でも、キッコさんと出会えた私はいいですけお、何も知らずにこの異変に巻き込まれた人もいるはずです。
一人でこんなことに巻き込まれるのは怖いと思うんです。自分の身を守る術を持たない女の子は、ええ、特に」
 詰め寄って身を乗り出すようにして言い切ると、キッコはむ、と言って目を逸らした。
やがて、息を吐いて乱暴に髪をかき回し、
「わかった。やるだけはやろう――それと、これを持っていくといい」
 そういって髪の中から引き抜いた一枚の紙切れを鈴絵に渡した。

378名無しさん@避難中:2012/11/11(日) 00:58:49 ID:bmjyCe8Q0
「なんですか? これ」
 よく見てみると、その紙切れにはお札か何かのように、いまいち読めない文字が書いてある。
その紙を指さしてキッコは「お守りだ」と言った。
「お守りですか?」
「我の世界で人間が作ったものでな、≪魔素≫がなくとも身を守るくらいの効果はあろう。
それに、我のいた世界で平賀か安部の名を知っている者がその符を見れば、まあ悪いようにはせんはずだの」
 一呼吸おいて、
「この先、危険があるやもしれんからの、まあ持っておけ」
「はい……」
 どう見てもただの紙のお札にしか見えないそれを懐に収める。キッコはよし、と言って立ち上がり、
「では行くかの」
 そのままの格好で外に出て行こうとするキッコに鈴絵は制止の声を投げた。
「ちょっと待ってください。着替えないんですか?」
 外に行くというのなら、今着ている巫女服より最初に着ていたラフな服装の方がいいだろう。
 キッコは自分の姿を見下ろし、
「我は服は変化の応用で後々どうにでもなるしのう。
それにこの格好ならば何か問題が起きて、我の正体を隠したい時に耳と尾を出すことになってもこすぷれ、と言って流せそうだしの」
 しかし、とキッコは鈴絵の前で身を屈めた。
「……なんですか?」
 突然かち合った視線に戸惑った声を上げる。キッコは神妙な顔で頷き。
「我の知り合いはこの手の服は履物の下着をつけないのだと言っておったのだが」
 おもむろに緋袴をめくり上げ、
「やはり履いておくものなのだな」
「な、な、な……?」
 茫然としていると、キッコは袴をもとに戻し、
「よい趣味だの。では、鈴絵もこの服のままで、早く行くとするか」
「お断りします」
 妙に晴れやかな笑顔と声で鈴絵は言う。それに対してキッコは両手を上げ、
「まあ待て、これにも意味があるのだ」
「へえ……意味ってなんですか?」
「うむ、この先、もしかしたら異世界の者とまた会うこともあるかもしれん。
その時、我のことを自分の式だと言っておけば、少なくとも我の居た世界の者相手ならばおいそれと手を出そうとは思わぬだろう。
そのような時に言葉に背得力を持たせるのが、その衣装だの。そう、その恰好は身を守るための保険なのだ」
「式ってなんですか?」
「ん? 式神――傭兵として雇った用心棒がいる証みたいなものとでも認識してくれればいい」
「そうですか……」
 先程の言葉の途中から口先が吊り上っているキッコをみて、鈴絵は実に複雑な顔をする。
 言っていることに理があるような気がしないでもないが、全体的に怪しいことこの上ない。
 ……でも、一緒に行くって決めたんだから。
 半ば自分に言い聞かせるようにして腹をくくり、鈴絵は袴の裾を整えて立ち上がった。
「ところでキッコさん」
「なんだの?」
「説得力も何も、キッコさんがその場で狐になった上で宣言すれば、
私の方に説得力なんか足さなくても皆納得してくれると思うんですけど」
 キッコはなるほど、と呟き、
「そんな眉に唾を付けた言動などせんと、下着の柄に水玉を選択するような
――そんな素直な心で我の言葉を聞いてくれればよいのだ」
「あ、ちょっと! もし誰かに会ってもそんなこと言わないでくださいよ?!」
「さてさて」
 狐は楽しそうに喉を鳴らしながら家を出て、神社から見下ろす巨大な施設を見極めようとするかのように目を細めた。

379名無しさん@避難中:2012/11/11(日) 00:59:18 ID:bmjyCe8Q0

彼女たちの戦いはまだ始まったばかりだ――!
名無しさんの次回作にご期待ください

結縁の続きです
キャラはキッコ@みんつく異形世界
神柚鈴絵@仁科
を引き続き使用です

380名無しさん@避難中:2012/11/12(月) 03:15:30 ID:dYtKcOH.O
続ききた!

キッコ様マジ野生のちじょ。
鈴絵とのコンビはかなり行動力ありそうだな。一番話が進んでるw
歴史の教科書は説明に便利そう。
地理的な意味で仁科学園が熱くなるな……

世界的にはほぼ箱庭的なレプリカってことで共通認識にしていいのかな?
それから家族とかそういうキャラやメディアは絞ると。
もっと進んだらバトロワ系スレみたいに情報を整理する必要があるかもね。

それにしても、謎の書き手・名無しさん……いったい何者なんだ……!?

381名無しさん@避難中:2012/11/12(月) 21:28:26 ID:JgHbcKKw0
>>379
次回作ってことは、もうこの話はこれで終わりって事?だとしたら生殺し感半端ない

382名無しさん@避難中:2012/11/12(月) 22:06:23 ID:hqP5nhvI0
>>381
他の人の動きをうかがいつつ、それにのっかる形で続きをかけたらなぁとか思っています

383名無しさん@避難中:2012/11/13(火) 00:54:00 ID:fDcfzhl.0
>>382
そうですね、マイペースで無理のないような形で続きを書いていただければと思います。
楽しみですので

384名無しさん@避難中:2012/11/13(火) 23:56:29 ID:84SifxhYO
鈴絵さん、まだ水玉か!
いいな!!
見たいな〜(チラッ

385名無しさん@避難中:2012/11/14(水) 02:01:27 ID:Vf281YlwO
お客様ー!
お客様の中に絵師さんはいらっしゃいませんかー!

386名無しさん@避難中:2012/11/14(水) 18:12:04 ID:FShj7NNY0
>>385
http://mac.x0.com/test/

絵師ではないけど、キャラメイクファクトリーつって、自分のイメージの通りにキャラクターが創れる
サイト。ただし作ったキャラクターの保存はスクリーンショットじゃないとできないから注意が必要。

387名無しさん@避難中:2012/11/14(水) 18:15:13 ID:Vf281YlwO
それ、み、水玉パンツもできる……?

388名無しさん@避難中:2012/11/14(水) 18:17:20 ID:FShj7NNY0
>>387
それはさすがにできなかったと思う。立ち絵でしか作れないサイトだし。
創作発表板自体、ちょいと過疎気味だし、絵師さんが来ればいいのだけれどね。

389名無しさん@避難中:2012/11/14(水) 18:29:05 ID:Vf281YlwO
チィィ!

390名無しさん@避難中:2012/11/14(水) 22:26:20 ID:twSDsvrY0
水玉パンツ……(´・ω・`)

391名無しさん@避難中:2012/11/21(水) 17:40:41 ID:cXBlc1.I0
水玉パンツですっかり忘れてたけど
>>380のいうような
世界的にはほぼ箱庭的なレプリカな世界でいいのかね?

392名無しさん@避難中:2012/11/21(水) 18:49:43 ID:QG3biT0UO
和泉の人たちやアイスファングさんが合流しやすくなるし
ちょうどいいのではないかと。

393名無しさん@避難中:2012/11/23(金) 15:55:31 ID:spfBgIy60
となると舞台自体は広いのか狭いのかいまいちわからないな

394名無しさん@避難中:2012/11/23(金) 16:20:49 ID:CAFALNBsO
そこは書き手側がフレキシブルにしちゃえばいいのではw
バトロワ系なら孤島とかそういう大枠があるとはいえ、全て描写する必要も別に。

本物バラバラ設定で書いてたのはナイショだ。俺はどっちでもいいけど。

395名無しさん@避難中:2012/12/27(木) 19:13:34 ID:EX/xl2VgO
むやみにageてみたり。
小ネタ的なものでもいいから何かないだろうか。

396名無しさん@避難中:2012/12/27(木) 19:13:52 ID:EX/xl2VgO
sageてたw

397名無しさん@避難中:2012/12/28(金) 00:03:32 ID:yA/Q3WRE0
水玉もいいけど縞々も純白も黒も無しもいいと思う

398名無しさん@避難中:2012/12/28(金) 00:30:40 ID:YdojEhZUO
なしは……困りますぬぇ……

399名無しさん@避難中:2013/08/17(土) 00:23:57 ID:Fv63djvc0
パンツの話題が最後の書き込みとは
これまた業が深いスレだ

400名無しさん@避難中:2013/12/25(水) 16:40:18 ID:UOrXha2Q0
te

401名無しさん@避難中:2014/01/13(月) 09:27:51 ID:CgLKE8Kc0
ni

402名無しさん@避難中:2014/04/10(木) 01:37:51 ID:.aIyq2vY0
ksks

403名無しさん@避難中:2016/06/29(水) 18:18:45 ID:gFKi8M0E0
ksks

404名無しさん@避難中:2017/12/14(木) 15:06:18 ID:DOUcEOwwO



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