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侑「歪んだ愛情」

170 ◆RZWV3S9lzE:2022/11/29(火) 19:20:00 ID:b/QvDUPM
侑「2人とも、その辺にしておいて。歩夢がそろそろ本気で泣きそうだから」

愛「あはは。そうだね、あゆぴょん泣いちゃうか」

璃奈「ちょっとやりすぎたかも。ごめんね」

歩夢「うん……」

侑(歩夢は涙を拭っていた。相変わらず顔は真っ赤だ)

侑「さすがに止めておかないとさ」

侑(2人に近づき、そっと耳打ちをする)

侑「あとで私が歩夢にお仕置きされちゃうもん。今日は早く寝たいしね」

愛「あはははっ。だねー」

璃奈「2日連続は厳しい?」

侑「私は歩夢と違って体力ないから♪」

愛「うさぎには勝てないかー」

璃奈「大変だね」

171 ◆RZWV3S9lzE:2022/11/29(火) 19:26:09 ID:b/QvDUPM
侑「まあね。でも、嬉しいよ。愛されてるって実感できるからね」

愛「お熱いねー♪」

璃奈「ひゅーひゅー」

侑「えへへ♪」

侑(2人に言われて、私も少し顔が熱くなった)

歩夢「3人で何の内緒話してるの?また私のこと?」

侑(歩夢はある程度落ち着いたらしく、こちらの話題に加わってきた。顔はまだ少し赤かった)

侑「んー、そんな感じ?」

愛「2人はお熱いねーって話してたんだよ」

璃奈「そうそう」

歩夢「お熱いだなんて……ふふ。でも、嬉しいな」

侑(歩夢は頬に手を当て微笑んだ。さっきまでゆでダコみたいに真っ赤だったのが嘘みたいだ)

172 ◆RZWV3S9lzE:2022/11/29(火) 19:32:03 ID:b/QvDUPM
歩夢「それはそうと……侑ちゃん?」

侑(歩夢は頬を膨らませ、私を少し睨む。かわいい)

歩夢「あそこまで言うなんてひどいよっ。恋人の件は内緒にしてようねって約束したのに……」

侑「しょうがないでしょ?あの状況で誤魔化すなんて無理だよ」

歩夢「それはそうだけど……。でも、アレは言いすぎだよ!」

歩夢「まるで私の性欲が強すぎるみたいに……」

侑「事実じゃん。嘘はついてないよ、あゆぴょん?」

歩夢「私はそんな……えっちな子じゃないのに……」

侑(歩夢は指をもじもじさせてうつむく。どの口が言うんだ、と思ったけど、かわいいから別にいいよね)

侑「あゆぴょんはかわいいな〜」

歩夢「侑ちゃんっ」

侑(歩夢の頭を優しく撫でる。キスしたかったけど、2人に見られてるのを思い出しやめにした)

173 ◆RZWV3S9lzE:2022/11/29(火) 19:36:04 ID:b/QvDUPM
愛「おーおー、見せつけちゃって♪」

璃奈「璃奈ちゃんボード『バカップル』」

歩夢「からかわないでよ〜〜」

侑「あははっ」

歩夢「まったく……」ハァ

侑(歩夢はため息を吐き、2人を見た)

歩夢「私達が付き合ってるってことは、その、内緒にしてくれる?あまりみんなに知られたくないから」

愛「さすがに言いふらしたりはしないって!」

璃奈「うん。こう見えて口は固いから」

璃奈「璃奈ちゃんボード『えっへん』」

歩夢「あ、ありがとう」

侑(歩夢は微笑んだ。この2人なら言わないだろう)

174 ◆RZWV3S9lzE:2022/11/29(火) 19:43:18 ID:b/QvDUPM
愛「でもさ、2人が付き合ってるって知ったのが愛さん達でよかったね。他の子だったら大変だったよ」

歩夢「私的には愛ちゃん達に知られるのでも普通に大変なんだけど……」

愛「あはは、歩夢はそうだね」

璃奈「どういうこと?」

侑(私はなんとなく愛ちゃんの言いたいことがわかった)

愛「んー。ほら、ゆうゆってモテるじゃん?」

愛「ゆうゆが好きな子って同好会でも何人かいるしね」

侑(愛ちゃんの方がモテるよね、と言いそうになったが、さすがに今は言う必要がないと思い口をつぐむ)

侑(ふと愛ちゃんの言葉に違和感を覚えた。何人か?1人だけじゃないの?)

侑(私はかすみちゃん以外思い浮かばなかった)

歩夢「侑ちゃんは本当にモテるもんね。いつ浮気するんじゃないかってヒヤヒヤしてるよ」

侑(歩夢は私をジト目で見る。私は気づかないフリをした)

175 ◆RZWV3S9lzE:2022/11/29(火) 19:48:13 ID:b/QvDUPM
愛「ゆうゆに限って浮気はないんじゃない?見た感じ歩夢一筋っぽいしね」

侑「もちろん。私は歩夢しか愛さないって決めてるから♪」

璃奈「よかったね」

歩夢「う、うん。えへへ」

侑(璃奈ちゃんは歩夢の肩をポンポンと軽く叩いた。嬉しそうに微笑んでる歩夢を見ていると、愛ちゃんが私に耳打ちしてきた)

愛「ゆうゆ」

侑「なに?」

愛「歩夢のこと、大切にするんだよ」

侑「わかってるよ♪」

侑(私が笑うと愛ちゃんも微笑んだ)

愛「ゆうゆ」

侑(愛ちゃんは私の頬を優しく撫でた。その表情は、一瞬悲しそうにも見えてしまった)

176 ◆RZWV3S9lzE:2022/11/29(火) 19:54:53 ID:b/QvDUPM
侑「愛ちゃん?」

愛「ん、何でもない」

侑(愛ちゃんはいつもの笑顔に戻っていた。私の気のせいだったのかな)

愛「さて、そろそろ解散しよっか。もうすぐチャイム鳴るし!」

侑(愛ちゃんは時計を指さす。あと10分でチャイムが鳴る時間だった)

歩夢「もうそんな時間なんだ」

侑「みんなで話してたらあっという間だったね」

愛「だねー。じゃあ、放課後にまた会おうね」

侑(愛ちゃんはバッグを肩に掛ける。部室から出ていこうとすると――)

璃奈「待って」

侑(璃奈ちゃんに呼び止められ、愛ちゃんは振り向いた)

愛「りなりー?」

侑(愛ちゃんは少し急いでるように見えた)

177 ◆RZWV3S9lzE:2022/11/29(火) 19:59:57 ID:b/QvDUPM
璃奈「まだ愛さんの好きな人を聞いてない」

歩夢「あ、そういえば」

侑(言われてみればそうだった。歩夢で時間を取りすぎたらしい)

侑(璃奈ちゃんも気になるのは当然だよね。大本命だし)

愛「あー」

侑(愛ちゃんは気まずそうに頬を掻く。どこか様子がおかしいような――)

璃奈「愛さん?」

愛「愛さんは別に好きな人なんていないよ。ほら、早く行かないと授業に間に合わなくなっちゃうよ!」

侑(愛ちゃんはそのまま走り去っていった)

璃奈「……」

侑(璃奈ちゃんは愛ちゃんの後ろ姿を見つめていた。好きな人はいないって言葉にショックを受けたのかもしれない)

侑(私は璃奈ちゃんの肩にそっと手を置いた)

178 ◆RZWV3S9lzE:2022/11/29(火) 20:05:11 ID:b/QvDUPM
璃奈「……侑さん?」

侑「きっと時間がなかったから急いでたんだよ。放課後にまた聞いてみよう?」

璃奈「うん……」

侑(璃奈ちゃんの目は少し潤んでいた。私は頭を優しく撫でる)

侑「それに、もし好きな人がいないとしても――」

侑「これから璃奈ちゃんを好きになってもらえばいいと思うしね。そこは璃奈ちゃん次第だよ」

璃奈「え」

侑(璃奈ちゃんは目を見開き私を見つめた)

璃奈「気づいてたんだ」

侑(ボソッとつぶやく。私は微笑んだ)

侑「頑張ってね。私に力になれることがあれば、何でもするからさ」

璃奈「……」

179 ◆RZWV3S9lzE:2022/11/29(火) 20:08:10 ID:b/QvDUPM
璃奈「ありがとう」

侑(璃奈ちゃんは真顔だったけど、少し微笑んだような気がした)

侑「ううん」

璃奈「じゃあ、また放課後」

侑「うん。またね」

侑(軽くお辞儀をすると、璃奈ちゃんは小走りで去っていった)

歩夢「私達も行かないとね」

侑「だね」

侑(バッグを肩に掛け、歩夢と手を繋いだ)

歩夢「私達、ラブラブに見えるのかな」

侑「バカップル、だってさ」

侑(璃奈ちゃんの言葉を思い出す)

180 ◆RZWV3S9lzE:2022/11/29(火) 20:12:59 ID:b/QvDUPM
歩夢「そっか。ふふ、嬉しいね」

侑「そうだね」

侑(手を繋ぎながらゆっくりと歩いた。時間はギリギリだったけど、私達は走ることはしなかった)

歩夢「ねぇ――」

侑「うん?」

歩夢「もう小さな事で浮気とか言わない。夜中にLINEも送ったりしない。侑ちゃんに迷惑かけない」

歩夢「私以外と親しく話したり、手を繋いだりしてもいい。他の子とのLINEも見たりしない」

侑「歩夢?」

侑(いきなりの発言に私は驚いた。“あの”歩夢がそんなことを言うとは思わなかったからだ)

歩夢「だから――」

歩夢「もう絶対に“浮気”はしないで」

侑「……」

181 ◆RZWV3S9lzE:2022/11/29(火) 20:19:25 ID:b/QvDUPM
侑(歩夢の言う“浮気”とは昨日のようなことだろう)

歩夢「侑ちゃん」

侑(歩夢は私に優しく語りかける)

歩夢「私、変わるから。侑ちゃんに相応しい彼女になれるように頑張るから」

歩夢「すぐには無理かもしれないけど、絶対に変わるから」

歩夢「もう束縛なんてしない。自分のことだけを考えないで侑ちゃんのこともちゃんと考えるから」

歩夢「だから――侑ちゃんも私と一緒に変わってほしい」

侑(歩夢は微笑んでいる。その顔はまるで天使だった)

歩夢「約束してくれる?」

侑(歩夢は握っていた手を離し、私に小指を差し出した)

侑「……」

歩夢「侑ちゃん?」

侑(小指を差し出したまま私を見つめている。その瞳には不安なんて存在せず、信頼や希望で満ちていた)

182 ◆RZWV3S9lzE:2022/11/29(火) 20:24:26 ID:b/QvDUPM
侑「歩夢――」

歩夢「うん」

侑(私は歩夢の手を握り、胸の高さまで持っていく。そして歩夢を見つめた)

侑「信じていいの?」

歩夢「うん」

侑(歩夢の声は真剣だった。本当に今の自分を変えたいと思っているみたいだ)

侑「本気なんだね」

歩夢「うん」

侑(私は再び手を離し、無言で小指を差し出す)

侑(歩夢はゆっくりと小指を絡めた。歩夢の指はいつ見ても綺麗だ)

侑(歩夢と指切りをする。何度もやってきた光景だ)

侑(でも、今回は約束の“重さ”が違った)

183 ◆RZWV3S9lzE:2022/11/29(火) 20:31:09 ID:b/QvDUPM
歩夢「――私こっちだから」

侑「うん」

侑(これまでは教室まで一緒に行ってたけど、私が音楽科に転科してからは途中で別れていた。少し残念だ)

歩夢「またね。お昼に連絡するから」

侑「またあとで」

侑(歩夢は微笑みながら小さく手を振る。私も同じように手を振った)

侑(私は歩夢の姿が見えなくなるまで、ずっと見つめていた。手には汗が滲んでいた)

侑(私は歩夢がここまで強いとは思っていなかった)

侑(ずっと我儘を通し、私を束縛してくれると思ってた)

侑(歩夢は変わろうとしている)

侑(歩夢は私のために変わろうしてくれた。それは嬉しい。ここまで素敵な彼女はなかなかいないだろう)

侑(だけど、その変化は私が求めていたモノではなかった)

184 ◆RZWV3S9lzE:2022/11/29(火) 20:36:36 ID:b/QvDUPM
侑(私は歩夢に愛してほしい)

侑(私だけを愛してほしい)

侑(私だけを見てほしい)

侑(私だけを考えてほしい)

侑(これまでのようにしてほしかった。その瞬間は、歩夢は、私だけを考えてくれるから)

侑(あの笑顔を見たら、そのままでいてなんて――)

侑(言えなかった。言えるわけがなかった)

侑(私は元の歩夢に戻ってほしかった)

侑(ちょっと親しく話したり、手を繋ぐだけで嫉妬に狂う歩夢に戻ってほしかった)

侑(すぐに嫉妬してくれる歩夢が好きなのに)

侑(数分返事がないだけでずっとメッセージを送り続ける歩夢が好きなのに)

侑(深夜にずっとメッセージを送り続ける歩夢が好きなのに)

185 ◆RZWV3S9lzE:2022/11/29(火) 20:42:44 ID:b/QvDUPM
侑(寝ないでずっと私のことを考えながらメッセージを送ってくれて、嬉しかったのに)

侑(歩夢は私に迷惑かけないって言ってたけど、私は迷惑だなんて思ったことは一度もないんだよ)

侑(愛されるって実感できて嬉しかったのに)

侑(本当に、嬉しかったのに)

侑(歩夢を元に戻す方法は1つしかない)

侑(これは歩夢に対する裏切り行為だ)

侑(私は何度も裏切ってきた。何度も悲しい思いをさせてきた)

侑(だけど、それは歩夢に嫉妬してほしいから)

侑(浮気をすれば、歩夢は嫉妬してくれる。怒ってくれる。私を考えてくれる)

侑(私は歩夢に愛してほしい。誰よりも愛してほしい)

侑(歩夢が私を更に愛してくれるには、浮気をするしかなかった。そうすれば歩夢は私を見てくれる)

侑(私のことだけを見てくれるから)

186 ◆RZWV3S9lzE:2022/11/29(火) 21:01:17 ID:b/QvDUPM
侑(私のことだけを考えてくれるから)

侑(私は歩夢に歩夢に、歩夢に)

侑(歩夢に歩夢に愛してほしいだけなんだ)

侑(歩夢、歩夢、歩夢歩夢歩夢)

侑(歩夢歩夢歩夢歩夢歩夢歩夢歩夢もっと愛してよ私だけを見てお願いだから今よりももっと私を見てよ私だけを考えてよ他のことなんて何も考えないで何も見ないで歩夢歩夢歩夢私だけを愛して愛して愛してもっと愛してよもっともっともっと今よりももっとこんなんじゃ足りないよだから浮気をするんでしょ歩夢にもっと愛してもうためにそうでしょねぇ歩夢歩夢歩夢歩夢もっと私を見てよ私だけを見てよ私だけを考えてよお願いだからねぇねぇねぇ浮気をしたら歩夢は嫉妬してくれる怒ってくれる悲しんでくれる泣いてくれる嫉妬してくれる嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬してくれる私のことを考えてくれる見てくれるだから浮気をするんだよねぇ私の気持ちわかってくれるよねねぇ歩夢歩夢歩夢もっと愛してよお願いだからもっと愛して今よりもとっとお願いだから私は歩夢に愛してほしいだけなんだよ歩夢なら私の気持ちわかってくれるよね歩夢なら私の気持ちわかるよねだって恋人だもんずっと一緒にいる恋人だもん昔からずっと一緒にいる恋人だもんそうだよね歩夢歩夢歩夢歩夢歩夢大好きだよ歩夢大好き誰よりも大好き一番大好きだよ歩夢以外はいらないよ本当だよだからもっと愛してよお願いだからねぇ歩夢お願いだからもっと私を愛して私だけを見てよ私だけを考えてよお願いだから今までと同じように接してよお願いだから私を束縛してよ私は何も間違ってない私は何も悪くない私が正しい私をもっと愛してもっともっともっと愛してお願いだから歩夢歩夢もっと愛してよお願いだから私はただ歩夢に愛してほしいだけなんだよ――)

侑「……っ」

侑(自分でも何を言ってるのかわからない。こんなの、私じゃない。別の誰かの思考みたいだった)

侑(私はもう自分自身を抑えることができなかった)

侑(頭の中がぐちゃぐちゃで、ズキズキする。思考がドス黒く染まっていく)

侑(この膨れ上がったドス黒い感情は、もう、私には止めることができなかった)

侑「歩夢……。私はね、私は……」

侑「私はただ、歩夢に愛してほしいだけなんだ……」

侑(頭痛が酷くて吐き気がする。私は立っていられず、床に座り込んでしまった)

侑(どこかでLINEの通知音が聞こえた気がした)

187 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/02(金) 16:56:51 ID:DUr3GeNM
――部室

侑(椅子に座って身体を休めると、ある程度落ち着いてきた)

侑(さっきは感情を制御できなかった。あんな感覚は生まれて初めてだった)

侑(歩夢――)

侑(歩夢は変わると言ってくれた)

侑(私も変わらないといけないのだろう)

侑(一緒に変わると歩夢と約束したのだから)

侑(私は自分の小指を見た。歩夢と指を絡めたときの感触はとっくに消えていた)

侑(ごめんね)

侑(私は歩夢に心の中で謝る。私がこれからやることは、歩夢との約束を破る、裏切り行為だった)

侑(私って本当に最低だな。でも、これが一番の方法なんだよ。だからしかたないよね)

侑(私が歩夢に愛してもらうためだから、これはしかたのないことなんだよ。歩夢ならわかってくれるよね?)

侑(LINEを開く。あの子が来るまで、さっきまでのやり取りを読み返していた)

188 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/02(金) 17:00:11 ID:DUr3GeNM
かすみ:侑先輩

かすみ:今から会えませんか

侑:これから授業だよ。チャイムも鳴った

侑:急いで教室に行かないと

かすみ:お願いします

侑:どうして?

かすみ:侑先輩に会いたいからです

かすみ:会って話がしたいからです

侑:放課後でいいでしょ

かすみ:今がいいです

かすみ:お願いします

かすみ:5分でいいのでかすみんと会ってください

189 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/02(金) 17:02:51 ID:DUr3GeNM
侑:理由を話してよ

かすみ:今すぐ会いたいからです

侑:話にならないね

かすみ:彼女なんだからいいじゃないですか

侑:彼女?

かすみ:かすみんは侑先輩の彼女です

侑:えっと

侑:それ本気で言ってるの?

かすみ:かすみんはいつも本気です

侑:黄色のチューリップの花言葉、調べた?

かすみ:調べましたよ

かすみ:素敵なお花をありがとうございました

190 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/02(金) 17:09:19 ID:DUr3GeNM
侑:あはは

侑:スタンプ

かすみ:さっそく部屋に飾りました

かすみ:侑先輩のプレゼントだからずっと大切にしたかったんですけど

かすみ:すぐに枯れちゃうのでそうはいかないですよね

かすみ:今度はずっと残る物が欲しいです

侑:元気そうで安心したよ

侑:今日朝練来なかったし、学校も休むかと思った

かすみ:その件はごめんなさい

かすみ:起きれませんでした

侑:珍しいね。遅刻なんて絶対しないのに

かすみ:3時くらいまで起きてて、目が覚めたのもついさっきでした

191 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/02(金) 17:13:14 ID:DUr3GeNM
侑:動画でも見てたの?

かすみ:泣いてました

侑:泣いてた?

かすみ:涙が止まりませんでした

かすみ:あんなに泣いたのは初めてだと思います

侑:そっか

かすみ:さっきかすみんのこと、元気そうで安心したって言いましたよね

侑:うん

かすみ:文字なら元気なかすみんを演じられるんですよ

かすみ:あはは、しず子みたいなこと言っちゃいました

かすみ:今どこにいますか?

侑:どうしても私と会いたいの?

かすみ:はい

192 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/02(金) 17:16:31 ID:DUr3GeNM
侑:そっか

侑:かすみちゃんは今どこにいる?

かすみ:エントランスにいます

かすみ:場所を指定してくれたらすぐ行きます

侑:部室に来て

かすみ:わかりました

かすみ:あ、それと

侑:?

かすみ:かすみんのこと、見ても驚かないでくださいね

かすみ:ちょっとびっくりするかもしれません

侑:なにそれ

「――侑先輩」

侑(背後から声がする。いつもより低めの声だった)

193 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/02(金) 17:22:21 ID:DUr3GeNM
侑(声がした方へ振り向くと、私は自分の目を疑った)

侑「かすみ、ちゃん」

かすみ「ごめんなさい、お待たせしました」

侑(私はかすみちゃんを見たまま固まってしまった)

かすみ「やっぱりびっくりしちゃいますよね」

侑(かすみちゃんはボサボサの髪をいじっていた)

侑「とりあえず座りなよ」

侑(隣へ座るように促すも、かすみちゃんは1つ間隔を空けて座った)

侑「隣には座らないの?」

かすみ「いえ、その。……お風呂、入ってなくて」

侑「そっか」

侑(私はかすみちゃんを抱き寄せる。かすみちゃんは「きゃ」と小さく悲鳴をあげた)

194 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/02(金) 17:29:12 ID:DUr3GeNM
侑(かすみちゃんの髪の匂いを嗅ぐ。少し汗の匂いがする程度で、特別変な匂いはしなかった)

かすみ「侑先輩……あの……」

侑「いい匂いだよ。全然くさくない」

侑(少し汗の匂いがするとは言わなかった。私の作戦のために、これ以上かすみちゃんを傷つけるわけにはいかなかった)

かすみ「くさいですよ……。離して……」

侑「離さないよ。いい匂いだもん」

侑(抱きしめながら髪の匂いを嗅ぐ。歩夢の方が抱き心地はよかった)

かすみ「もう……」

侑(口では嫌がってるのに、顔は嬉しそうだね。好きな人に匂いを嗅がれて嬉しい?ふふ、かわいいなぁ)

侑(かすみちゃんの頭を撫でながら、じっと見つめる)

侑(髪はボサボサで、目が充血していて、隈が酷く、肌も少し荒れていた)

侑(こんなかすみちゃんは初めて見た。人一倍身だしなみに気をつけてるから尚更だった)

195 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/02(金) 17:33:46 ID:DUr3GeNM
かすみ「侑先輩……」

かすみ「こんな状態で会ってごめんなさい……」

かすみ「かわいいかすみんじゃなくてごめんなさい……」

侑(私は頭を撫で続けた。かすみちゃんは涙声になっていた)

かすみ「侑先輩に……会いたかったんです……」

侑「そっか」

侑(かすみちゃんは私に抱きつき、胸に顔を埋めた)

侑「かすみちゃんはいつだってかわいいよ」

かすみ「うそ……。こんな私、全然かわいくない……」

かすみ「ボサボサで……隈が酷くて……」

侑「かすみちゃん、こっち見て?」

侑(かすみちゃんはゆっくり顔を上げる。私はキスをした)

196 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/02(金) 17:43:49 ID:DUr3GeNM
かすみ「え――」

侑「かすみちゃんはかわいいよ」

侑(もう一度キスをする。歩夢は見ていなかったが、今はそんなこと気にしてられない)

侑(かすみちゃんを落ち着かせる方法はキスしかなかった)

かすみ「侑、先輩……」

侑(涙を潤ませながらこちらを見つめている。私は優しく頭を撫でた)

侑「私のせいだよね」

侑「ごめんね」

侑(頭を撫でながら優しい声で謝る。私に謝る理由はないけど、ここは謝るのが無難だと判断した)

かすみ「……もう、いいんです」

かすみ「かすみんは、もう……」

かすみ「こうやって……頭を撫でてくれたり、抱きしめてくれるだけで、幸せ、なんです……」

侑(かすみちゃんは途切れ途切れつぶやいた。嘘ばっかり。本当はキスとか色々してほしいくせに)

197 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/02(金) 17:49:40 ID:DUr3GeNM
侑「そっか」

かすみ「はい……」

侑「……」

侑(かすみちゃんの心は壊れかけている。私のせいでこうなってしまった。修復するにはどうすればいいか)

侑(どんな反応をするか見てみたくて、好奇心で花を贈っただけなのに、まさかここまで傷つくとは思わなかった)

侑(かすみちゃんには立ち直ってもらわないと困る)

『かすみんのこと――』

侑(私は昨日の会話を思い出した。あのとき、何か言おうとしていた。かすみんのこと――)

侑(もし、私がかすみちゃんの立場なら、聞きたい言葉は1つしかなかった)

侑「かすみちゃん――」

かすみ「……?」

侑(かすみちゃんは潤んだ瞳で私を見つめている。私は少し顔を近づけ――)

侑「――好きだよ」

198 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/02(金) 17:56:51 ID:DUr3GeNM
かすみ「え……」

侑(かすみちゃんは驚いた表情をしていた。無理もないだろう。私はあんな花をプレゼントしたのだから)

かすみ「何、言ってるんですか。侑先輩は――」

侑「好きだよ。かすみちゃん」

侑(舌を絡めるキスをした。かすみちゃんは最初戸惑っていたが、次第に背中に手を回してきた)

侑(キスを終え、かすみちゃんを見ると、目がとろんとしていた。垂れた唾液を指で拭う)

かすみ「侑、先輩……」

侑(かすみちゃんの声は随分と甘くなっていた。顔も嬉しそうにしている。本当に好きだと思ってるらしい)

侑「好きだよ」

かすみ「かすみんも、好きです」

侑(私が微笑むとかすみちゃんも微笑んだ。こんなので騙されるなんて、かすみちゃんの将来が心配だった)

侑(私は頭を撫でた。かすみちゃんは撫でられるのが好きみたいだ)

199 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/02(金) 18:41:18 ID:DUr3GeNM
かすみ「侑先輩に撫でられると落ち着きます♪」

侑「ふふ、そっか」

侑(かすみちゃんは胸に顔を埋めている。私はそのまま頭を撫でていた)

かすみ「侑先輩?」

侑「ん?」

侑(顔を埋めたまま私の名前を呼ぶ。鼻息が胸に当たって少しくすぐったかった)

かすみ「かすみん、本当に侑先輩の彼女なんですか?」

侑「もちろん」

侑(いつ顔を上げてもいいように、念のため微笑む。花言葉やさっきのLINEを気にしてるのかな)

かすみ「そう、ですよね。えへへ、嬉しいです」

侑(かすみちゃんの抱きしめる力が、少し強くなった気がする)

かすみ「……」

200 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/02(金) 18:49:56 ID:DUr3GeNM
かすみ「……チューリップの件、なんですけど」

侑(かすみちゃんの声はまた少し泣きそうになっていた。花言葉は絶対に聞いてくると思ってたよ)

侑(私は頭を撫でながら言葉の続きを待った)

かすみ「その、花言葉、調べました」

侑「LINEでも言ってたね」

侑(LINEでは元気に振る舞ってたけど、やっぱりきつかったんだろうね。ずっと泣いてたとか言ってたし)

侑(それ以前に、かすみちゃんの姿を見たらわかる)

侑(身だしなみを整える余裕すらなかったんだろうな)

侑(ちょっとやりすぎたかも。反省しないとね)

侑(いや、かすみちゃんのメンタルが弱すぎただけかもしれない。まあ、次から気をつければいいだけか)

かすみ「全般の花言葉は本当に素敵でした。調べてて、顔が真っ赤になりました。嬉しかったです」

侑(なんだっけ、全部は思い出せないな。永遠の愛情、真面目な愛、辺りだった気がするけど)

201 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/02(金) 18:54:41 ID:DUr3GeNM
かすみ「そこまではよかったんです」

かすみ「でも、黄色の花言葉は……」

侑(――“望みのない恋”)

侑(こういうネガティブな花言葉は一番覚えやすい。アザミやハナズオウなんかは特にね♪)

かすみ「……侑先輩」

侑(かすみちゃんは顔を上げると、涙を流していた)

かすみ「どうして、あんな花言葉を持つお花を、私にプレゼントしたんですか……?」

かすみ「私は……侑先輩に、プレゼントを貰えて……」

かすみ「嬉しかった、のに……」

かすみ「それ、なのに……っ」

かすみ「侑先輩は……私の、こと……」

侑「……違うよ」

202 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/02(金) 19:02:16 ID:DUr3GeNM
侑「私もあとで調べ直したんだけど、黄色のチューリップの花言葉にあんな意味があるなんて知らなかったんだ」

侑「もし花言葉の意味をちゃんと知ってたら、絶対にプレゼントするわけない。だって、私――」

侑「かすみちゃんが好きなんだから」

かすみ「で、でも、お店を出たあと、私に花言葉がピッタリだって……」

侑「私は全般の花言葉のことを言ったんだよ。実は、色については全然詳しくなくて……」

侑「ごめんなさい。私の浅い知識のせいで、かすみちゃんにとても悲しい思いをさせてしまった……」

侑「本当にっ、ぐす、ごめん、なさい……っ」

かすみ「な、泣かないでください……。わ、私も、侑先輩に確認の電話をすればよかったんです……」

侑「ごめん、ごめんね……っ」

かすみ「私の方こそごめんなさい……。勝手に勘違いして、勝手に泣いちゃっただけですから……」

かすみ「だけど、よかったです……」

侑「え……?」

203 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/02(金) 19:08:46 ID:DUr3GeNM
かすみ「だって、私のこと、嫌いじゃないんですよね……?」

かすみ「私、侑先輩に嫌われたかと思って、ずっと不安だったんです……」

侑「……不安にさせてごめんね。私はかすみちゃんのこと、大好きだよ」

かすみ「えへへ、大好きかぁ……♪」

侑「好きだよ、大好き。かすみちゃんが大好き」

かすみ「もぉ、侑先輩ったらぁ……♪」

侑(かすみちゃんは嬉しそうに笑っている。私は頬を優しく撫でた。もうすっかり泣き止んでいた)

侑「私のこと、許してくれる……?」

かすみ「もちろんです。勝手に勘違いしたのはこっちなんですから。これからも恋人でいてくださいね?」

侑「うんっ」

侑(私達は軽くキスをした。かすみちゃんは腕を絡め、私にもたれかかった)

侑(私はその光景に微笑み――)

侑(――かすみちゃんは本当はちょろいね。こんな薄っぺらい言葉に騙されるなんて。将来が心配だよ♪)

204 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/02(金) 19:13:41 ID:DUr3GeNM
侑(矛盾だらけの即興ストーリだったけど、なんとかなってよかったよ)

侑(LINEの件を指摘されてたら完全に終わってたね)

侑(かすみちゃんはちょろかわいいなぁ〜)

侑(歩夢だったら絶対に騙せなかっただろうし)

侑(歩夢――)

侑(お昼休みが待ち遠しいね。一体どんな反応をするのか、本当に楽しみだよ♪)

かすみ「侑先輩〜♡」

侑(かすみちゃんはすっかり元気を取り戻した)

侑(さっきまで死にかけた魚のような顔をしていたとは到底思えなかった)

侑(あとは身だしなみを整えたら完璧かな)

侑「かすみちゃんはかわいいね〜」

かすみ「えへへ♡」

侑(頭を撫でると嬉しそうにしていた)

205 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/02(金) 19:17:57 ID:DUr3GeNM
かすみ「――かわいいかすみん、復活です♡」

侑(かすみちゃんはポーズを取った。普通にかわいい)

侑(髪型を元に戻してメイクで隈を隠すだけでこんなに印象が変わるなんてね。本当にすごいよ)

侑「かすみんかわいい〜。ぎゅー♪」

かすみ「わわっ」

侑(かすみちゃんに抱きつくと、シャンプーや石鹸の匂いがふわっと漂ってくる)

かすみ「もう、侑先輩ってば〜♡」

侑「あはは」

かすみ「それにしても、よかったんですか?」

侑「なにが?」

かすみ「シャワー室を無断で使用したことですよ。バレたら大変なことになるんじゃ……」

侑「ああ、そのことね」

206 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/02(金) 19:24:17 ID:DUr3GeNM
侑「使用許可を取りに行くのは手間だし、それに、今は授業中だから逆に先生に怒られちゃうよ?」

かすみ「あ、たしかに……」

侑「かすみちゃんは心配しなくても大丈夫だよ。無断で使用したのがバレたら、私が責任取るからさ」

侑「だから何も気にしなくていいよ。私が守ってあげるからね」

かすみ「侑先輩……♡」

侑(かすみちゃんは頬を赤らめていた。優しく頭を撫でると、嬉しそうに顔を綻ばせた)

侑(それっぽい言葉を使えば勝手に喜んでくれるから楽だよね。ちょろかわいいよ、あはは)

侑(私はかすみちゃんの頭を撫でながら、壁に掛けてある時計を見た。まだ1限目の最中だった)

侑「まだこんな時間か」

かすみ「へ?」

侑(かすみちゃんの目は少しとろんとしていた)

侑「まだ1限目の最中だなって。2限目の授業は参加しないとね。先生に怒られちゃう」

かすみ「ごめんなさい……」

207 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/02(金) 19:30:11 ID:DUr3GeNM
侑「どうしてかすみちゃんが謝るの?」

かすみ「かすみんが侑先輩に会いたいって言ったから……」

かすみ「ごめんなさい。迷惑でしたよね……」

侑「迷惑じゃないよ。かすみちゃんと仲直りできたし♪」

侑(微笑みながら言うと、ぱぁっと顔を明るくさせた)

かすみ「それならよかったです。侑先輩、大好き♡」

侑「私も好きだよ〜」

かすみ「わーい♡」

侑(かすみちゃんは私の頬にキスをした。お返しに頬を撫でる)

かすみ「むむ」

侑「かすみちゃん?」

かすみ「かすみんにはキスしてくれないんですね」

侑(頬をぷくーっと膨らませる。こういうあざといしぐさは嫌いじゃない。むしろ好きな部類に入ると思う)

208 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/02(金) 19:34:32 ID:DUr3GeNM
侑「いっぱいキスしたでしょ?」

かすみ「もっとしてほしいんです〜!」

侑(かすみちゃんの頬を膨らませるしぐさもかわいい。ただ、私は歩夢がする方が好きだった)

侑「かすみちゃんはかわいいなぁ」

侑(同じように頬にキスをした。かすみちゃんは嬉しそうに微笑む。石鹸のいい香りがした)

かすみ「えへへ♡」

侑(かすみちゃんは私に抱きつき、胸に顔を埋めた。歩夢も胸に顔を埋めるの好きなんだよね)

侑「それよくするけど好きなの?」

かすみ「んー、どれですかぁ?」

侑「私の胸に顔を埋めるやつ」

かすみ「こうすると落ち着くんですよ〜」

侑「ふーん」

209 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/02(金) 19:39:01 ID:DUr3GeNM
侑「頭を撫でたらもっと落ち着く?」

かすみ「最高です〜」

侑「あはは」

侑(頭を撫でていると、かすみちゃんは「ふあ」と小さくあくびをした。さっきから声も眠そうだった)

侑「眠い?」

侑(私が聞くと、顔をゆっくり上げた。さっきよりも目がとろんとしている。今にも寝そうな雰囲気だ)

かすみ「侑先輩と一緒にいたら落ち着いて……」

かすみ「それと、あまり寝てないから睡魔が……」

侑「ごめんね」

侑(私は頭を優しく撫でる。かすみちゃんは首を横に振った)

かすみ「侑先輩のせいじゃないですよ……」

かすみ「ふわ……」

210 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/02(金) 19:43:45 ID:DUr3GeNM
侑(かすみちゃんはまたあくびをした。目をつぶったらこのまま寝てしまいそうだ)

侑「寝るなら私の膝で寝なよ。膝枕してあげる」

かすみ「でも……」

侑「大丈夫だって。時間になったら起こすからさ」

かすみ「……」

かすみ「じゃあ、お言葉に甘えて……」

侑(一瞬ためらっていたが、眠気には勝てないと判断したのか、素直に私の膝に頭を乗せた。歩夢より軽かった)

侑「私の膝枕はどう?」

かすみ「とてもいいです……」

侑「それはよかったよ♪」

侑(頭を撫でると、気持ちよさそうに目をつぶっていた)

かすみ「侑先輩のなでなで、気持ちいいです……」

211 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/02(金) 19:48:31 ID:DUr3GeNM
侑(時計を見ると、あと、15分ほどで1限目が終わりそうだった。この調子だと2限目もサボることになりそうだ)

侑(ちょっとしか寝てないのに、起こすのはかわいそうだもんね。先生に怒られるのは覚悟しとかないと)

侑(かすみちゃんの髪にそっと触れた。サラサラしていて、シャンプーの香りがふわっと漂ってきた)

かすみ「侑先輩……」

侑「うん?」

侑(目をつぶりながら私の名前を呼んだ。頬を撫でる)

かすみ「大好き……です……」

侑「ふふ、ありがとう」

かすみ「ねぇ、侑先輩……」

かすみ「かすみん……と、歩夢先輩……」

かすみ「どっち、が……」

侑「……」

侑(私は答えられず、無言で頭を撫で続けた)

212 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/02(金) 19:52:23 ID:DUr3GeNM
かすみ「ゆう、先輩……」

かすみ「大好き……」

かすみ「……」

侑「かすみちゃん?」

かすみ「すぅ……すぅ……」

侑(かすみちゃんは寝息を立てていた。寝たみたいだ)

侑(かわいい寝顔だなぁ)

侑(いや、普段もかわいいけどね)

侑(私はかすみちゃんの笑顔を思い浮かべた)

侑(かすみちゃんの笑顔はかわいくて好きだった)

侑(どっちが好き、か)

侑(かすみちゃんを見ると、規則正しく寝息を立てている。私は起こさないように、そっと頬にキスをした)

213 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/02(金) 19:59:07 ID:DUr3GeNM
かすみ「――んっ……」

かすみ「んん、ふあ……」

侑(かすみちゃんは薄目を開け、小さくあくびをする。目が覚めたらしい。もう少し寝顔を見たかったから残念だ)

侑「おはよう」

侑(私は微笑みながら髪を撫でる。かすみちゃんはぼけーっとしていて、その顔がかわいかった)

侑「おはよう」

侑(もう一度言うと、かすみちゃんは目を軽く擦りながら「おはようございます」と小さくつぶやいた)

侑(私は垂れたよだれを指で拭う。まだ視線が定まってない辺り、完全には目が覚めていないのだろう)

かすみ「ふわあぁ〜……」

侑(かすみちゃんがこんなに大きなあくびをするのは初めて見た。普段は気をつけてるんだと思う)

侑(寝起きで無防備になっちゃったのかな)

侑(珍しいかすみちゃんを見れて少し嬉しかった)

214 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/02(金) 20:06:12 ID:DUr3GeNM
かすみ「ん……」

侑(まだ眠そうにしている。私は一発で目が覚める方法をやってあげることにした)

侑「かすみちゃん♪」

侑(私が呼ぶと、かすみちゃんは寝ぼけ眼でこちらを見ている。私はそのままキスをした)

かすみ「んむっ」

侑(かすみちゃんは目を大きく見開き、勢いよく上体を起こす。いきなりのことでかなり驚いていた)

侑「目が覚めた?」

かすみ「ゆ、侑先輩……今の……」

侑(口を手で覆い、ぽかんとした表情で私を見つめている)

侑「ん?おはようのキスだけど?」

かすみ「お……」

侑(つぶやくと、かすみちゃんは顔を赤らめてうつむいた)

侑「かすみちゃん?」

侑(何度もキスしてるのにどうしたんだろう?)

215 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/03(土) 17:48:54 ID:m96oDRys
かすみ「いきなりは……その、やめてください」

侑「どうして?」

かすみ「不意打ちは……恥ずかしいです。準備もできてないし……。今も心臓がドキドキしてます」

侑(かすみちゃんは私の手を掴み、自分の胸に持っていった。小振りながらも柔らかい感触だった)

かすみ「ね?」

侑(顔を赤らめながら私を見る。正直胸の柔らかさしかわからなかったけど、適当に頷いておいた)

かすみ「これからは気をつけてくださいね?」

侑「はーい」

侑(頬を膨らませながら腰に手を当てる。相変わらずあざとかわいかった)

かすみ「ところで、かすみんはどのくらい寝てました?」

侑(かすみちゃんは髪をブラッシングしながら私に聞いてきた。さすがおしゃれ意識が高いね)

侑(私は時計を指さしたが、時計には一瞥もせず、そのままブラッシングを続けていた。私に教えてほしいってことなのだろう)

216 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/03(土) 17:55:34 ID:m96oDRys
侑「1時間ちょっとかな」

かすみ「1時間……ってことは」

侑「今は2限目の最中だね」

侑(かすみちゃんは慌てて時計を見る。顔が青ざめていた)

かすみ「ご、ごめんなさいっ。侑先輩の膝枕が気持ちよくて、つい……」

侑「あはは、気にしなくていいよ。かすみちゃんのかわいい寝顔も堪能できたしね♪」

かすみ「寝顔……か、かわいかったですか?」

侑「うん♪」

かすみ「えへへ、かすみんは寝顔もかわいいんですね〜♡」

侑(かすみちゃんは表情がコロコロ変わるから面白い)

かすみ「えへへ〜♡」

侑(いつの間にか手鏡を取り出して自分を見ていた。ナルシストって言葉はかすみちゃんにピッタリだと思った)

217 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/03(土) 18:03:02 ID:m96oDRys
かすみ「かすみんは〜♡」

かすみ「やっぱり一番かわいいですよね〜♡」

侑「あはは」

侑(かすみちゃんは手鏡の前で色々な表情を作ったり、ポーズを取っていた。よく飽きないよね)

侑(止めなければ何時間でも自分の姿を見ていそうだ)

侑「かすみちゃん、そろそろ」

かすみ「え〜♡もうちょっとだけ〜♡」

かすみ「侑先輩は幸せ者ですね〜♡」

かすみ「かすみんの美貌を独り占めできるなん――」

侑「かすみちゃん」

侑(少し低い声を出すと、かすみちゃんの肩が跳ね上がった。その驚きように笑いそうになる)

侑(この程度で驚いてるなら、歩夢の本気で怒った姿を見たらどうなるんだろうね)

218 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/03(土) 18:10:31 ID:m96oDRys
かすみ「んんっ。侑先輩がそこまで言うなら……」

侑(かすみちゃんはブラシと手鏡をバッグにしまう。そして、スマホを取り出した)

かすみ「侑先輩、一緒に写真撮りませんか?」

侑「写真?」

侑(スマホをこちらに見せ、フリフリしていた)

かすみ「はい。恋人になった記念に写真が欲しくて〜」

侑「写真くらいならいいけど」

かすみ「わーい♡」

侑(かすみちゃんは私に密着し、カメラアプリを起動する)

かすみ「写真撮りますよ〜」

侑「んー」

侑(カメラ目線で微笑みながらをピースをする。かすみちゃんはシャッターを押す瞬間に、私の頬にキスした)

219 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/03(土) 19:03:49 ID:m96oDRys
侑「か、かすみちゃん?」

侑(突然の行動に反応できなかった。かすみちゃんは撮った写真を確認していた)

かすみ「バッチリ撮れてますよ〜♡」

侑(私にスマホの画面を見せる。そこにはやはり、かすみちゃんが私の頬にキスした写真が写っていた)

侑「たしかによく撮れてるけど……」

かすみ「えへへ〜♡待ち受けにしちゃお♡」

侑「ま、待ち受け?それはちょっと……」

かすみ「どうしてですか?」

侑(かすみちゃんはスマホをいじりながら聞いてきた。今頃待ち受けに設定しているのかもしれない)

侑「そんな写真恥ずかしいじゃん。普通の写真ならいいよ。ほら、撮り直そう?」

かすみ「かすみん、この写真が気に入ったので〜♡」

侑(かすみちゃんは撮り直す気がないらしい。あの写真は他の人に見られたらちょっと困る……)

220 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/03(土) 19:09:02 ID:m96oDRys
侑「かすみちゃん、ねっ?もう1枚撮ろう?」

かすみ「え〜」

侑(スマホに視線を移したままこちらを見ない。その態度に少しムッとした。歩夢ならそんなことはしない)

侑「かすみちゃん、私話してるよ」

かすみ「もう少しで設定終わるので〜。よしっ」

かすみ「見てください、早速待ち受けにしましたよ〜♡」

侑(待ち受け画面はさっき撮った写真になっていて、いつ間にか手書きでハートマークが描かれていた)

侑「これはさすがに……ね?」

かすみ「はい?」

侑「他の人に見られたら大変じゃない?」

かすみ「かすみんは別に気にしませんよ♡」

侑(かすみちゃんは笑顔で言った。私が気にするんだよ)

221 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/03(土) 19:14:18 ID:m96oDRys
かすみ「よく撮れてるな〜♡」

侑(嬉しそうにスマホを見つめている。その表情を見て、今更待ち受けを変えてとは言えなかった)

侑(まあ、見られなければいいだけか)

侑(かすみちゃんもわざわざ人に見せたりしないだろうし)

かすみ「あ、そういえば」

侑(かすみちゃんはスマホの電源を切り、私の方に向き直る)

侑「ん?」

かすみ「歩夢先輩のことなんですけど」

侑(かすみちゃんが歩夢のことで聞きたいことは1つしかなかった。私はかすみちゃんを見つめる)

かすみ「歩夢先輩とお付き合いしてるんですよね?」

侑「うん。付き合ってるよ」

侑(やっぱりこの質問だった。私は頭の中で、どう答えればかすみちゃんが喜ぶか必死に考えていた)

222 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/03(土) 19:19:24 ID:m96oDRys
かすみ「かすみんとも付き合ってますよね?」

侑「そうだね」

かすみ「浮気、ですよね」

侑「……」

侑(私は申し訳なさそうにうつむく演技をした)

侑「ごめん……」

侑(ここで悲しそうな声を出すといい。涙声はもう少し先だ。涙を流すのはなかなか難しい)

侑(泣くときは悲しいことを思い出すか、想像すれば大抵なんとかなる。私は歩夢のことを考えていた)

侑「浮気はよくないと思う。最低な行為だよ」

侑「だけど、浮気をしてでも、私はかすみちゃんと付き合いたかった。だって――」

侑「かすみちゃんが好きだから」

侑(似たようなセリフをさっきも言った気がするけど、多分気づいてないだろう)

223 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/03(土) 19:26:23 ID:m96oDRys
かすみ「侑先輩……」

侑(バレない程度に横目で見る。かすみちゃんの顔は嬉しそうにしていた)

かすみ「嬉しいです。かすみんを好きでいてくれて」

かすみ「でも、一番じゃないんですよね」

侑(私は口ごもってしまった。たとえ嘘でも――)

侑(「かすみちゃんが一番好きだよ」……口ではどうとでも言える。でも、私はその言葉が言えなかった)

侑(私の一番は歩夢だ。嘘でもかすみちゃんが一番だとは言えなかった。それだけは言いたくなかった)

かすみ「ああ、別に責めてるとかじゃないんです。一番は歩夢先輩だってわかってますから。ずっと一緒ですもんね」

かすみ「かすみんでは歩夢先輩には……勝てないって、わかってますから」

侑「かすみちゃん……」

侑(かすみちゃんは悲しそうな声でつぶやいた。頭を撫でようと思ったが、やめにした)

かすみ「でも――」

224 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/03(土) 19:31:51 ID:m96oDRys
かすみ「侑先輩はかすみんを好きだと言ってくれた」

かすみ「かすみん達は恋人同士なんです。付き合っていれば、変わるかもしれない」

かすみ「今は二番でも、いつかは一番になれるかもしれない」

かすみ「そうですよね?」

侑(かすみちゃんは微笑んだ。ここで機嫌を悪くさせるわけにはいかない。私も微笑み、頷いた)

かすみ「えへへ、侑先輩〜♡」

侑(かすみちゃんは私に抱きつき、キスをした)

かすみ「かすみん、歩夢先輩には負けません!」

かすみ「絶対に侑先輩の一番になってみせますから♡」

侑「あはは、頑張ってね」

かすみ「はい♡」

侑(これでかすみちゃんは完全に元通りになったはずだ。きっといい働きをしてくれると思う。楽しみにしてるよ)

侑(私は歩夢と会うのが待ち遠しかった。どんな反応をするか、考えただけでもときめいた)

225 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/03(土) 19:39:39 ID:m96oDRys
――お昼休み・教室

侑(同級生や後輩のお昼の誘いを断り、私はLINEを開く。歩夢からメッセージが届いていた)

歩夢:侑ちゃん、今日はどこでお昼食べる?

侑(どこで食べようかな……)

侑(図書室は飲食禁止だけど、お昼は人の出入りが少ないからのんびりできる。イチャイチャもできる)

侑(屋上も人の出入りは少ないけど、たまにいるからね。図書室のように障害物がないから、イチャイチャはできない)

侑(食堂は人が多すぎだし、同好会の部室も何人かいるイメージだし)

侑(ここは無難に図書室にしよう)

侑:図書室でいいかな?

歩夢:了解〜

歩夢:スタンプ

侑(よし。かすみちゃんにも連絡しないと)

226 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/03(土) 19:46:22 ID:m96oDRys
――エントランス

かすみ「侑先輩〜」

侑(かすみちゃんが手を振りながら小走りで近づいてくる。私も手を振り返した)

かすみ「お待たせしましたっ」

侑「じゃあ行こうか」

かすみ「はい♪」

侑(かすみちゃんは腕を絡めてきた。他の生徒からは恋人同士に見えてるかもしれない)

侑(かすみちゃんは歩夢と違ってすぐ腕を組みたがる。歩夢は恥ずかしがって、人前では絶対に腕を組んだりしないもんね)

侑(恥ずかしがり屋の歩夢もかわいいけどさ、いつかは腕を組んで帰ったりデートしたりしたいよね)

かすみ「侑先輩〜。どこで食べるんですか?」

侑(かすみちゃんは上目遣いで聞いてくる。自分でかわいいと言うだけあって、グッとくるしぐさは心得てるらしい)

侑「今日は図書室で食べようかなって」

かすみ「えぇ?図書室、ですか?」

227 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/03(土) 19:51:20 ID:m96oDRys
侑「かすみちゃん?」

侑(少し驚いた顔をしていた。どうしたんだろう)

かすみ「図書室って飲食禁止ですよね?いいんですか?」

かすみ「見つかったら怒られちゃいますよ?」

侑「大丈夫だよ。広いし、お昼は基本的に図書委員しかいないからさ。死角になる場所も知ってるから安心して♪」

かすみ「むぅ。侑先輩がそこまで言うなら」

侑「かすみちゃんは真面目だな〜」

かすみ「かすみんは普通です。侑先輩が不真面目なんです!」

侑「あはは」

かすみ「ところで歩夢先輩は来るんですか?」

侑「んー、来るよ。言ってなかったっけ?」

かすみ「初耳です。なるほど、歩夢先輩も来るんですね」

228 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/03(土) 19:55:48 ID:m96oDRys
侑「2人きりの方がよかった?」

かすみ「2人きりも捨てがたいですけど、今回は3人で食べるのに賛成です。願ったり叶ったりですよ」

かすみ「歩夢先輩はライバルですからね。侑先輩とイチャイチャして一気に差をつけちゃいますよ〜!」

侑(かすみちゃんは笑顔で言った。私としては嬉しい展開だった)

侑「そっか。楽しみにしてるね?」

かすみ「えへへ♡」

侑(かすみちゃんの腕を絡める力が強くなる。少し痛い)

かすみ「侑先輩と食べさせ合いしたいな〜♡」

かすみ「かすみん、夢だったんですよ〜♡」

侑「夢?」

かすみ「恋人と食べさせ合いをするのが夢だったんです♡」

侑「そうなんだ?」

229 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/03(土) 20:00:42 ID:m96oDRys
かすみ「はい♡」

侑(かすみちゃんは微笑む。私が頭を撫でると、嬉しそうに顔を綻ばせ、更に体を寄せてきた)

かすみ「大好き♡」

侑(くっつきすぎだよ。すごい歩きづらい。これなら誰がどう見ても恋人同士に見えるだろうね)

侑(歩夢はどんな反応をするだろうか)

侑(私がかすみちゃんと付き合ってるって知ったら)

侑(歩夢の前でイチャイチャしたら)

侑(歩夢の前でキスしたら)

侑(嫉妬してくれるといいな。怒ってくれるといいな)

侑(歩夢にお仕置されちゃうかもしれないね)

侑(今日は寝かせてくれないかもなぁ。ふふ、楽しみだよ)

侑(歩夢、歩夢、歩夢。もっと私を愛してね。歩夢が愛してくれるなら私はどんなことでもするよ)

侑(どんなことでも、ね♪)

230 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/03(土) 20:07:54 ID:m96oDRys
――図書室

侑(私達は歩夢を探していた。きっといつもの場所にいると思う。あそこは図書委員の死角になっていて――)

侑(滅多に人が通ることもなかった。だから私達が図書室でお昼を食べるときはその場所にしていた)

侑(あの場所は古い本しかないから誰も興味ないんだよね)

侑(そういう本が好きな人もいるけど、やっぱり最近の小説や漫画の方が人気らしい)

侑(かすみちゃんを見ると、嬉しそうに腕を組んでいた)

かすみ「本当に人が少ないんですね〜」

侑「お昼だしね」

侑(辺りを見回していた。今まで図書委員しか見ていない)

侑(そのままいつもの場所に向かって歩いていると、歩夢の後ろ姿が見えた。私の鼓動が少し早くなる)

侑(私が声をかけようとすると、足音で気づいたのか、歩夢はゆっくりと振り向いた)

侑(私の顔を見ると笑顔を見せたが、隣を、そして絡めた腕を見ると、歩夢の笑顔は一瞬で固まってしまった)

231 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/05(月) 09:57:53 ID:Fr4pz7ak
侑「歩夢、お待たせ」

侑(私は歩夢に微笑む。かすみちゃんも「こんにちは」と言っていた。歩夢は私達を交互に見ていた)

侑「歩夢?」

侑(歩夢に近づき、そっと髪を撫でる。肩がビクリと跳ね上がった。驚いた表情で私を見つめている)

歩夢「侑、ちゃん?」

侑(歩夢の声は少し震えていた。私は抱きしめたくなるのを堪え、かすみちゃんに視線を移す)

侑「今日はかすみちゃんも一緒にお昼食べるからね」

かすみ「よろしくです、歩夢先輩♡」

侑(歩夢は困惑した表情をしている。かすみちゃんの顔と絡めた腕を見つめていた)

侑「歩夢?」

侑(再び呼びかけると、我に返ったように私を見る。瞳には困惑や悲しみが浮かんでいた)

歩夢「えっ、と……」

232 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/05(月) 10:03:09 ID:Fr4pz7ak
侑「お昼。一緒に食べてもいいよね?」

侑(歩夢はもう一度かすみちゃんを見ると、無言で頷いた)

かすみ「ありがとうございます♡」

侑(かすみちゃんは私の腕を引っ張り、席に着く。私は歩夢の隣に座り、かすみちゃんは私の隣に座った)

侑(私は弁当箱を取り出し、かすみちゃんは袋を取り出した。購買で売ってるパンだった)

侑「今日は購買のパンなの?」

かすみ「今朝は作る余裕がなくて〜」

侑「あー」

侑(歩夢の方を見ると、視線を下に向けたまま、弁当箱を取り出そうとすらしていなかった)

侑「歩夢、食べないの?」

侑(歩夢は私を見る。「侑ちゃん」とつぶやいた)

歩夢「……食べるよ」

233 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/05(月) 10:09:56 ID:Fr4pz7ak
侑(歩夢は弁当箱を取り出した。蓋を開けるとき、手が微かに震えていた。その横顔にキスしたくなったが我慢する)

かすみ「侑先輩、あ〜ん♡」

侑(パンを小さくちぎり、私の口へ持っていく。歩夢はその動作をじっと見つめていた)

侑「あむ。ん、おいしい」

侑(パンを食べて微笑んだ。正直あまりおいしくはない)

侑(私はかすみちゃんが喜ぶ言葉を使うことにした)

侑「でも、かすみちゃんのコッペパンの方がおいしいよ」

侑(かすみちゃんは笑顔で私に抱きついた。唇を見ていたが、視線を元に戻す)

かすみ「嬉しいです♡」

侑(さすがにキスはしてこないみたいだね)

かすみ「次は侑先輩の番ですよ♡」

侑「はいはい」

侑(私はウインナーを箸で掴み、かすみちゃんに食べさせた。歩夢は悲しそうな顔でそれを見ていた)

234 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/05(月) 10:15:16 ID:Fr4pz7ak
かすみ「おいしいです〜♡」

侑「あはは、そっか」

侑(卵焼きを自分の口に運ぶ。歩夢が作ってくれた卵焼きは甘さも焼き加減も私好みだった)

侑「歩夢の卵焼き、おいしいよ」

侑(歩夢を見て微笑む。一瞬嬉しそうな顔をしたが、かすみちゃんを見ると、自分の弁当箱に視線を戻した)

歩夢「ありがとう」

かすみ「かすみんもその卵焼きくださいよ〜」

侑(物欲しそうに見つめるかすみちゃんに、私はダメと断った。そして卵焼きを一口で頬張る。おいしい)

かすみ「え〜」

侑「歩夢が私のために作ってくれた卵焼きだから、これを食べていいのは私だけなの。かすみちゃんの分はないよ」

かすみ「むぅ。侑先輩のケチ〜〜」

侑(かすみちゃんは頬を膨らませ、パンをかじった)

235 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/05(月) 10:21:47 ID:Fr4pz7ak
かすみ「歩夢先輩。侑先輩が意地悪してきますよ〜」

侑(頬を膨らませながら歩夢に助けを求めた。歩夢はなんて言おうか悩んでいたらしく、何秒か間を空けて)

歩夢「侑ちゃん、1個くらい分けてあげたら?」

侑(と微笑みながら言った。顔が少しひきつっている)

かすみ「ほら、歩夢先輩もこう言ってることですし♪」

侑(かすみちゃんは小さく口を開ける。私は唐揚げを突っ込んだ)

かすみ「むぐっ。む、ん〜」

かすみ「侑先輩っ。唐揚げじゃないですか〜」

侑「おいしいでしょ?それ私が作ったんだ」

かすみ「そ、そうなんですか?」

侑「うんうん」

かすみ「まあ、歩夢先輩の卵焼きも食べてみたかったですけど……」

236 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/05(月) 10:29:15 ID:Fr4pz7ak
かすみ「今日のところは、侑先輩の唐揚げで勘弁してあげましょう♡」

侑(かすみちゃんは頬に手を当て嬉しそうにしていた。私の手作り唐揚げがよっぽどおいしかったのだろう)

侑(本当は冷凍食品なんだけどね。レンジで簡単だもん。朝から唐揚げ作る時間なんてあるわけないじゃん)

侑(そもそもお弁当を用意したのはお母さんと歩夢だし。私のその頃夢の中にいたもんね♪)

侑(歩夢は私を見ていた。冷凍食品だと知ってるからだ)

侑(私はかすみちゃんに気づかれないよう、そっと人差し指を口に持っていき、歩夢の目を見る)

侑(歩夢はコクコクと頷いた。かわいい)

侑(私は同じようにウインナーを箸で掴み、歩夢の口へと運んだ)

侑「歩夢、あーん」

歩夢「いいの?」

侑「私は歩夢に食べてほしいんだ」

侑(私が微笑むと、歩夢は顔を赤らめた)

歩夢「じゃあ、いただきます」

237 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/05(月) 10:35:34 ID:Fr4pz7ak
歩夢「あむ。ふふ、おいしい」

侑「よかった」

侑(歩夢が笑顔になると私も嬉しい気持ちになる。かすみちゃんが「むむむ」と唸っていた)

かすみ「侑先輩は歩夢先輩ばっかりかまってずるいです。かすみんもかまってくださいよ〜」

侑「そんなことないよ。ね?」

侑(歩夢に同意を求めると、苦笑いで頷いた)

かすみ「かすみんだって侑先輩と付き合ってるのに〜」

かすみ「歩夢先輩ばっかりずるいです〜。差別ですよ〜」

侑(かすみちゃんの言葉に、歩夢の箸を持つ手が止まった)

歩夢「付き合ってる……?」

かすみ「はい?」

侑(かすみちゃんは驚いた顔をして、私を見つめた)

238 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/05(月) 10:40:58 ID:Fr4pz7ak
かすみ「侑先輩、話してないんですか?」

侑「あー」

侑(当然話してない。歩夢がどんな反応をするか目の前で見たかったからだ)

歩夢「えっと……」

歩夢「話すって、なにを……?」

侑(歩夢が恐る恐る聞くと、かすみちゃんは笑顔で――)

かすみ「かすみん、侑先輩とお付き合いしてるんです♡」

歩夢「え――」

侑(歩夢は驚きの表情を見せていた。かすみちゃんの言葉が理解できてないみたいだった)

かすみ「てっきり侑先輩が話してるんだと思いましたよ〜」

侑「なかなか言う時間がなくてさ」

かすみ「なるほど〜」

239 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/05(月) 10:52:43 ID:Fr4pz7ak
歩夢「待って……」

侑(歩夢の声は震えていた。私達は歩夢を見る)

かすみ「歩夢先輩?」

侑(かすみちゃんはパンをかじりながら聞いた。歩夢は弁当箱を机に置くと私を見つめた)

歩夢「付き合ってるって……冗談だよね?」

侑(歩夢は私の目を見ながら聞く。私は微笑んだまま何も言わなかった)

歩夢「答えて」

侑(歩夢の雰囲気が一瞬で変わる。震えていた声も、怒気を含むものになっていた)

かすみ「あの、歩夢先輩……」

かすみ「侑先輩を、その、怒らないであげてください」

歩夢「侑ちゃん」

侑(かすみちゃんが止めに入るも、歩夢は無視していた)

240 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/05(月) 10:58:44 ID:Fr4pz7ak
かすみ「あ、歩夢先輩……」

侑(普段とは様子が違う歩夢を見て、かすみちゃんは驚いていたが、怯まずに話しかける)

侑(私は2人の会話をただ見つめていた。正確には、歩夢がどんな表情をしているのか見ていた)

かすみ「う、浮気はダメだと思います。ごめんなさい」

かすみ「かすみんも……よくないとは思います」

かすみ「でも、侑先輩が好きなんです。大好きなんです」

かすみ「歩夢先輩は、えっと、あまり快く……」

かすみ「思わないかも、しれませんが……」

かすみ「ゆ、侑先輩の恋人同士、仲良くしませんか?」

歩夢「……」

侑(歩夢はかすみちゃんの言葉に一瞥もせず、私を見つめていた。一度も瞬きしていなかった)

侑(かすみちゃんはオロオロとしていた)

241 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/05(月) 11:04:17 ID:Fr4pz7ak
歩夢「侑ちゃん」

歩夢「本当に付き合ってるの」

侑(歩夢の声は更に怒気を含んでいた。私は微笑み、歩夢の頭を優しく撫でる)

侑(歩夢の髪は相変わらずサラサラで撫でやすかった)

侑(私の家のシャンプーの匂いがふわりと漂った)

歩夢「侑ちゃん、答えて」

侑(普段の歩夢なら頭を撫でると嬉しそうに顔を綻ばせていたが、今の歩夢は眉一つ動かしていなかった)

侑(ただ私を見つめていた。その表情にとても興奮した)

侑(私はキスしたい衝動を抑えるので精一杯だった)

かすみ「あ、あのっ」

かすみ「あ、あゆ、歩夢、先輩っ」

侑(かすみちゃんが歩夢に話しかける。声が震えていた。顔を見ると、冬なのに大量の汗をかいていた)

242 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/05(月) 11:24:10 ID:Fr4pz7ak
かすみ「そ、そんな怖い顔、しない方が、いいと……」

かすみ「おも、思いますよ?歩夢先輩は〜……」

かすみ「その、かすみんの……次くらいに、えっと……」

かすみ「かわいいん、ですから……ね?」

侑(かすみちゃんは途切れ途切れ言った。その話し方や上擦った声に笑いそうになったが、なんとか耐えた)

歩夢「……」

侑(歩夢は何の反応も示さない。私から話を聞くまでは頑なにかすみちゃんを無視するつもりらしい)

かすみ「歩夢、先輩……」

かすみ「かすみんが言うのも……変ですけど……」

かすみ「な、仲良くしましょうよ……」

かすみ「2人が……そんな、喧嘩をする姿なんて……」

かすみ「かすみん、見たくないです……」

243 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/05(月) 11:29:23 ID:Fr4pz7ak
歩夢「……」

かすみ「えっ、と……」

侑(かすみちゃんは私を見る。涙目だった)

侑(さっきまで楽しそうに食事をしていたのが嘘みたいだ)

侑(歩夢の前髪に触れようとすると、歩夢に腕を掴まれた。みし、と音がしたような気がする)

歩夢「侑ちゃん」

侑「歩夢、痛いよ」

侑(私は微笑んだが、歩夢は無表情だった)

侑(歩夢は私の手に触れ、小指をそっと握った)

歩夢「約束したよね」

かすみ「約束……?」

侑(かすみちゃんが繰り返すが、歩夢は無視をした)

244 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/05(月) 11:36:55 ID:Fr4pz7ak
歩夢「侑ちゃん、私と約束したよね」

侑(歩夢は私の目を見ながら問いかける。瞳には悲しみ、怒り、軽蔑などが入り乱れていた)

侑(私が微笑んだまま見つめていると、歩夢は)

歩夢「侑ちゃん」

侑(小指を握る手に力が入った。結構痛かった)

侑「歩夢、痛いよ。離して」

歩夢「侑ちゃん、答えて」

侑(歩夢は更に力を入れた。どうやら本気らしい)

侑(歩夢に指を折られるのは構わない。それが愛情表現なら10本全部折ったっていい。私は喜んで差し出すよ)

侑(でも、歩夢の曲を弾けなくなるのは嫌だ。作詞作曲しても弾けなかったら意味がない)

侑(歩夢のために作った曲を、私以外に弾かせるなんてそんなの絶対に許せない。私が耐えられない)

侑(それに、手が使えなかったら歩夢に満足に触れることもできない。優しく撫でてあげられないもんね)

245 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/05(月) 11:41:59 ID:Fr4pz7ak
歩夢「侑ちゃん」

侑(歩夢は再び私の名前を呼んだ。握る力も少しずつ強くなっていく。これ以上は危険と判断した)

侑「歩夢、ごめんね」

歩夢「何に対して謝ってるの」

侑(私をじっと見つめている。指を握る力は弱まっていた)

侑「約束破って、ごめん」

侑(ここは素直に謝るしかなかった。歩夢の瞳は悲しみと怒りがごちゃ混ぜになっていた)

歩夢「そっか」

侑(歩夢は私の指を離した。小指を動かし、折れてないことを確認する。痛みはあるが問題なかった)

侑「ごめんね」

歩夢「謝るならしないでよ」

侑(私は歩夢の髪をそっと撫でた。今度は掴まれなかった)

246 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/05(月) 11:47:56 ID:Fr4pz7ak
歩夢「侑ちゃん。私達、約束したよね」

歩夢「それなのに、どうして浮気をしたの」

侑(浮気という言葉にかすみちゃんが反応する。私は微笑みながら――)

侑「かすみちゃんが好きだから」

侑(歩夢の眉がピクリと動く。かすみちゃんの方を見た)

かすみ「ひっ」

侑(かすみちゃんは小さく悲鳴をあげ、私の背に隠れた)

歩夢「かすみちゃん」

かすみ「……」

侑(私の背に隠れたまま何も言わない。身体は震えていた)

歩夢「かすみちゃん」

侑(さっきまで無視してたのに、今度は立場が逆転していた。かすみちゃんは相変わらず震えている)

247 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/05(月) 11:52:26 ID:Fr4pz7ak
歩夢「かすみちゃん」

侑「かすみちゃん、呼んでるよ?」

侑(首だけ振り向くと、かすみちゃんは首をブンブン横に振っていた。歩夢が怖いらしい)

歩夢「……」

侑(歩夢は私とその背後を見つめていた)

歩夢「ねぇ、侑ちゃん」

侑「うん?」

侑(私は笑顔で答える。歩夢は無表情だった)

歩夢「かすみちゃんが好きって本当なの」

侑「うん」

歩夢「そっか」

侑(歩夢は微笑んだが、目は笑っていなかった)

侑(私は歩夢の目を見つめながら、今キスしたらどうなるんだろうと考えていた)

248 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/05(月) 11:57:40 ID:Fr4pz7ak
歩夢「じゃあ――」

歩夢「私よりも?」

侑「……」

侑(その質問に私は口をつぐんでしまった)

侑(私は歩夢に嫉妬してもらいたい。ここは嘘でもかすみちゃんの方が好きって言うべきか?)

侑(いや、それだけはダメだ。たとえ嘘でも言えない)

侑(私は歩夢が一番好きだ。歩夢以外は愛さない。これは絶対に譲れなかった)

歩夢「侑ちゃ――」

かすみ「あ、あのっ」

侑(かすみちゃんは私の背からひょっこりと顔を出す。その突然の行動に歩夢も驚いていた。かわいい)

かすみ「ゆ、侑先輩が一番好きなのは歩夢先輩です」

かすみ「それは絶対です。信じてあげてください」

249 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/05(月) 12:02:12 ID:Fr4pz7ak
かすみ「さっきも――」

歩夢「――かすみちゃん」

侑(かすみちゃんの言葉は歩夢に遮られた。歩夢はかすみちゃんをじっと見つめ――)

歩夢「あなたには聞いてない」

侑(かすみちゃんはさっきよりも大きな悲鳴をあげると、再び私の背へと隠れた)

侑(歩夢の顔を見ると、少し嬉しそうにしていた)

歩夢「侑ちゃんの口から聞かせて」

侑(歩夢の言葉に、私は微笑んだ)

侑「言わなくてもわかるでしょ?」

侑(歩夢はムッとした。怒りが多少は収まってきたらしい)

歩夢「私は侑ちゃんの口から聞きたいの」

侑「あはは」

250 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/05(月) 12:06:50 ID:Fr4pz7ak
歩夢「どうして笑うの?」

侑「いや、かわいいなって」

歩夢「かわいい?」

侑「歩夢はかわいいよ。だって、私が一番大好きな人だもん」

歩夢「……!」

侑(歩夢は顔を赤らめる。怒りよりも嬉しさの方が勝ったみたいだ。私は紅潮した頬を優しく撫でた)

歩夢「ありがとう。侑ちゃんからその言葉が聞けて、嬉しかったよ」

侑(歩夢は微笑んだ。私と微笑み返すと――)

歩夢「でも、浮気の件とは別だからね」

侑(今度の微笑みは目が笑っていなかった)

歩夢「どうして浮気をしたの?」

侑(また振り出しに戻ってしまった)

251 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/05(月) 12:12:30 ID:Fr4pz7ak
歩夢「約束したよね?」

歩夢「ねぇ、侑ちゃん」

侑(歩夢は怒ってるが、さっきよりはまだマシだった)

侑(さっきのが100%なら、今は80%くらいだろう)

侑(もっと怒ったり嫉妬してもらうには――)

侑「かすみちゃんが好きだから浮気をしたんだよ」

歩夢「私が一番好きなのに浮気したんだ」

侑「つまみ食いくらいしたくなるでしょ?」

侑(私は上手いことを言ったつもりだったけど、歩夢は無表情だった。面白くなかったらしい)

かすみ「つまみ食い……」

侑(かすみちゃんは悲しそうな声でつぶやいた)

侑(私は振り向き、かすみちゃんを抱きしめた。そして歩夢の方を見る)

252 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/05(月) 12:20:08 ID:Fr4pz7ak
侑「歩夢?」

歩夢「なに?」

侑「今からかすみちゃんとキスするから見ててね」

歩夢「え?」

かすみ「えっ」

侑(2人は驚いた顔をしている。私は歩夢によく見えるように、かすみちゃんとキスをした)

かすみ「ちょ、侑先輩、ん――」

歩夢「……!」

侑(何度か軽いキスをする。歩夢を見ると、無表情だった)

侑(瞳には嫉妬、怒り、悲しみなどの様々な感情が混ざっていた。無感情を装ってるつもりだろうけど、バレバレだよ)

侑(嫉妬してくれて嬉しいよ。今日は寝れないだろうなぁ。たくさん愛してもらえると思うと、自然と頬が緩んだ)

侑(かすみちゃんを見ると、口をあわあわとさせていた)

侑「かすみちゃん?」

253 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/05(月) 12:25:08 ID:Fr4pz7ak
かすみ「い、いや、だって……」

侑「私とキスするの、嫌だった?」

かすみ「い、嫌ではないですけど……」

侑(かすみちゃんは歩夢をチラチラ見ている。歩夢はなぜか「ふふふ」と笑い出した)

かすみ「ひっ」

侑(笑い方に恐怖を感じたのか、また背に隠れた)

歩夢「ふふふ、あははっ」

侑「どうしたの?」

侑(私が微笑みながら聞くと、歩夢も微笑む。やはり目は笑っていなかった)

歩夢「ふふ。怒りを通り越すとね、なんか、笑えてきちゃって。あはは」

侑「あははっ」

侑(私も釣られて笑うと、歩夢は急に真顔になった)

254 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/05(月) 12:29:06 ID:Fr4pz7ak
歩夢「よく私の前でキスできたね」

侑「歩夢もする?」

歩夢「ふざけないでよ」

侑「ふざけてなんかないよ。私、歩夢とキスする瞬間が一番幸せだもん」

歩夢「……」

侑(私には何を言っても無駄だと思ったのか、私の背後へと声をかける。キスできなくて残念だった)

歩夢「かすみちゃん」

かすみ「ひっ」

侑(かすみちゃんは小さく悲鳴をあげた。まだ怖いらしい)

歩夢「かすみちゃん」

かすみ「……」

歩夢「……」

侑(歩夢は席を立ち、かすみちゃんの隣へと座った)

255 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/05(月) 12:34:53 ID:Fr4pz7ak
歩夢「かすみちゃん」

侑(歩夢はかすみちゃんの肩を優しく叩いた。声にならない悲鳴をあげ、ゆっくりと振り返った)

かすみ「あ、歩夢、先輩」

歩夢「やっとこっち見てくれたね」

侑(歩夢は微笑んでいたが、かすみちゃんは震えていた)

侑(私は少し悪戯をしたくなった)

侑「かすみちゃん、そんなに震えてどうしたの?」

侑「さっきは「歩夢先輩には負けません!」とか「侑先輩といっぱいイチャイチャしちゃいます〜」って――」

侑「言ってなかったっけ?」

かすみ「ゆ、侑先輩っ」

侑(かすみちゃんは慌ててこちらを見るも――)

歩夢「へぇ。そんなこと言ってたんだ?」

侑(歩夢の言葉に顔が青ざめた)

256 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/05(月) 19:50:13 ID:Fr4pz7ak
歩夢「ねぇ、かすみちゃん」

かすみ「は、はい」

歩夢「どうして侑ちゃんと付き合おうと思ったの?」

かすみ「それは……その、えっと」

侑(かすみちゃんは私を見る。とりあえず微笑んだ)

かすみ「……す、好きだからです」

歩夢「好き?」

かすみ「はい。侑先輩が……好きで好きで、大好き、だったから、です……」

かすみ「歩夢先輩とお付き合いしてるのに、浮気をしたのは……本当に申し訳ないと思ってます……」

かすみ「で、でも、かすみんは……侑先輩が大好きだったから……だから……」

かすみ「浮気とわかっていても……付き合いました……」

歩夢「ふーん」

257 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/05(月) 19:57:10 ID:Fr4pz7ak
かすみ「ごめんなさい……」

侑(かすみちゃんは涙目になりながらうつむいていた。歩夢はそれを微笑みながら見ている)

歩夢「そんなに侑ちゃんが好きなんだ」

かすみ「は、はい」

かすみ「な、なので……これから、3人で……仲良く、していけたら……いいな、と……」

歩夢「は?」

かすみ「ひぃ」

侑(歩夢の声に、かすみちゃんの肩はビクリと跳ね上がる)

歩夢「かすみちゃんが私の立場だとして、浮気相手に3人で仲良くしようって言われたら、笑顔で頷ける?」

かすみ「か、かすみんは……歩夢先輩と、なら……」

かすみ「な、仲良く……できると、思います……」

侑(歩夢が聞くと、かすみちゃんは声を震わせながら答えた。歩夢は最初微笑んでいたが、話終わる頃には無表情になっていた。かなり怒ってるみたいだ)

258 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/05(月) 20:02:36 ID:Fr4pz7ak
歩夢「それがかすみちゃんの答えなんだね」

かすみ「は、はい。なので――」

侑(歩夢はかすみちゃんに顔を近づける。かすみちゃんは軽い悲鳴をあげた)

歩夢「そんなの、口ではどうとでも言える。かすみちゃんは浮気をした立場だからそんなことが言えるんだよ」

歩夢「侑ちゃんと別れてよ。素直に別れるなら、今回の件は全て水に流してあげるから」

かすみ「え……」

侑(歩夢は微笑みながら言った。まさか歩夢がそこまで言うとは思ってなかったらしく、驚いていた)

歩夢「どうしたの?」

かすみ「い、いや……だって……」

かすみ「別れるのは、その、ちょっと……」

歩夢「“浮気”なのに?」

かすみ「……っ」

侑(“浮気”を強調すると、かすみちゃんはうつむいた)

259 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/05(月) 20:09:01 ID:Fr4pz7ak
歩夢「かすみちゃん、断言するよ。私は浮気相手とは仲良くできない。逆に、どうして仲良くできると思ったの?」

かすみ「……」

侑(かすみちゃんはうつむいたまま、顔を上げない)

歩夢「別れてくれるよね?浮気相手に拒否する権利なんてないよ。水に流すって言ってるんだからさ、素直に頷いた方が身のためだと思うけどね」

かすみ「……」

侑(かすみちゃんは返事をしなかった)

歩夢「ねぇ、かすみちゃん」

歩夢「返事はしなくていいからそのまま聞いて」

かすみ「……」

歩夢「浮気はよくないことだよ」

歩夢「喜ぶ人よりも悲しむ人の方が多い。子供じゃないんだから、そのくらいわかるよね?」

侑(歩夢は微笑みながら、優しく語りかけていた)

260 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/05(月) 20:13:35 ID:Fr4pz7ak
歩夢「いくら好きだからってさ、恋人がいるのに奪うような真似したらダメだよ」

歩夢「その恋人のことを考えなかったの?」

歩夢「恋人が悲しむってわからなかったの?」

歩夢「かすみちゃんは何も考えなかったの?」

歩夢「ねぇ、かすみちゃん」

かすみ「……っ」

かすみ「わかって、ます。歩夢先輩には悪いと……」

かすみ「申し訳ないと、思いました。でも、でも……」

かすみ「それ以上に……侑先輩が好きなんです……」

かすみ「侑先輩が、大好き……なんです……」

歩夢「……」

侑(かすみちゃんはうつむいたまま、涙声で話した。歩夢は話すのをただ見つめていた)

261 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/11(日) 17:49:38 ID:W0ovu46I
歩夢「かすみちゃん、そんな建前はいいよ」

かすみ「え……?」

侑(歩夢の言葉にかすみちゃんは顔を上げる。驚きの表情を見せていた)

歩夢「私はかすみちゃんの“本音”が知りたいの」

侑(私は歩夢が何を言ってるのかわからなかった)

かすみ「……」

かすみ「私だって……」

かすみ「私、だって……侑先輩が好きなのに……」

かすみ「歩夢先輩だけ……侑先輩を独り占めするなんて、そんなの……ずるいじゃん……」

かすみ「ずるいよ……ずっと前からの幼馴染みで……。恋人なんて、ずるいよ……。ずるい……」

かすみ「わたし、だって……もっと前から知り合いたかった……」

かすみ「わたしが……侑先輩と、先に知り合ってたら……きっと……」

262 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/11(日) 17:57:42 ID:W0ovu46I
かすみ「きっと、わたしが……侑先輩の隣に……いた、のに……」

かすみ「侑先輩の恋人は……わたしだったのに……」

かすみ「浮気なんて……しなかったのに……」

かすみ「どうして……わたしじゃなくて、歩夢先輩なの……」

かすみ「……っ、ひっ、うぅ……」

かすみ「わたしの方が……いい彼女、なのに……」

かすみ「わたしの方が……彼女にふさわしいのに……」

かすみ「ぐすっ、ひっく……うぁぁぁ……」

侑(かすみちゃんは泣きながらぽつりぽつりとつぶやいた。私が流すような涙じゃなくて、本物の涙だった)

侑(かすみちゃんがそんなことを思ってたなんて……)

侑(かすみちゃんには悪いけど、もし仮に、先に出会ったとしても、私は歩夢と結ばれてたはずだよ)

侑(だって、私の運命の相手は歩夢なんだから。それ以外は考えられない。歩夢以外と結ばれる運命は存在しない)

侑(本人には恥ずかしくて言えないけどさ♪)

侑(かすみちゃんと目が合った。大きな瞳から大粒の涙を流している)

かすみ「ゆう先輩……」

263 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/11(日) 18:04:57 ID:W0ovu46I
かすみ「ねぇ、ゆう先輩……」

かすみ「こんな人のどこがいいんですか……」

かすみ「あんな大量のメッセージを……何も考えないで、自分の都合だけで送って……頭おかしいですよ……」

かすみ「重くて……小さな事ですぐ浮気だって喚いて、被害妄想が激しい……こんな、こんな……」

かすみ「こんな、重すぎる、最低な人の……どこがいいんですか……」

かすみ「わたしなら……そんなことしません……」

侑(他の人には歩夢がそんな風に見えるんだ。間違ってないとは思うけどね。実際歩夢は重いだろうし)

侑(でも、それがいいんだよ。重くて、束縛してくれて、私だけを想ってくれる歩夢がね。それが私の理想だよ)

侑(それに、歩夢の良さを理解できるのは私だけでいい)

かすみ「わたしなら……」

侑(かすみちゃんは私の方へと手を伸ばす。私の頬に触れる直前、歩夢に手首を掴まれ、小さく悲鳴をあげた)

かすみ「なんですか……」

歩夢「……」

かすみ「は、離して……」

侑(かすみちゃんが手を振りほどこうとするが、ビクともしない。手の甲には血管が浮き出ていた)

264 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/11(日) 18:16:28 ID:W0ovu46I
かすみ「痛い……。ゆ、ゆう先輩……助けて……」

侑(涙を流しながら私を見つめている。瞳には恐怖や憎悪などの感情が入り乱れていた)

侑(歩夢の力で思いきり掴まれたら痛いのは経験済みだ。手首に痣ができるかもしれない。それはさすがにかわいそうだから、助け船を出すことにしよう)

侑「歩夢、離しなよ。痛がってる」

歩夢「……」

侑(歩夢の手首を握る力が強まる。かすみちゃんの顔が苦痛に歪んだ)

侑「歩夢、聞いてるの?」

侑(歩夢はこちらを一瞥すると、微笑んでいた。口に出すなと目で訴えていた。私はそれに従うことにした)

侑(まあ、歩夢なら傷つけたりはしないよね)

歩夢「好き勝手言ってくれるね。ひどいなぁ」

歩夢「ねぇ、かすみちゃん」

歩夢「そんなに私のことが嫌いなの?」

侑(歩夢は掴んでいた手を離した。かすみちゃんは手首を押さえている。痛そうだった)

かすみ「……」

265 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/11(日) 18:49:05 ID:W0ovu46I
かすみ「先輩として、尊敬していますよ」

侑(痛みを堪えながら答える。歩夢はじっと見つめ――)

歩夢「私は“本音”が知りたいって言ったはずだよ」

かすみ「……」

侑(かすみちゃんは涙を拭い、歩夢を見つめた)

かすみ「大嫌い」

かすみ「あなたなんか、大嫌い」

かすみ「私の侑先輩と付き合ってる、あなたが憎い」

かすみ「侑先輩が一番大好きな、あなたが大嫌い」

かすみ「憎くて、大嫌いです」

侑「……」

侑(歩夢を嫌いな人がいるなんて、驚きを隠せなかった。歩夢はこんなにも素敵で、とてもかわいいのに……)

侑(いや、かすみちゃんが歩夢を嫌いな理由の大半は私か。完全な八つ当たりだと思うけどね。歩夢は何も悪くないよ)

歩夢「そっか。私はかすみちゃんのこと、好きだったよ。初めての後輩だし、私にもよく懐いてくれたし」

侑(歩夢は微笑み、かすみちゃんは睨んでいた)

266 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/11(日) 18:55:07 ID:W0ovu46I
歩夢「結果がどうであれ、かすみちゃんの本音が聞けてよかった。嬉しかったよ」

歩夢「だけどね――」

歩夢「侑ちゃんはあなたのモノじゃない」

侑(歩夢は鋭く言い放った。かすみちゃんは目を伏せる)

かすみ「……」

かすみ「そんなの、わかってますよ」

かすみ「私のことなんて、好きでもなんでもないって」

かすみ「私はただ、都合よく利用されてるだけだって」

かすみ「歩夢先輩には、私では絶対に勝てないって」

かすみ「最初から、わかってました」

かすみ「ちょっとくらい夢を見たかったんです」

かすみ「好きな人と結ばれる夢を見たかったんです」

かすみ「本当に、幸せな夢でした」

侑(そう言うと、かすみちゃんは涙を流しながら微笑んだ)

267 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/11(日) 19:00:37 ID:W0ovu46I
歩夢「ねぇ、かすみちゃん」

かすみ「わかってますよ」

侑(かすみちゃんはゆっくりと立ち上がり、バッグを肩に掛けた)

侑「かすみちゃん?」

侑(私が話しかけると、涙を拭い、物悲しげに微笑んだ)

かすみ「侑先輩」

かすみ「ありがとうございました」

侑「え?」

侑(私は間の抜けた返事をした。かすみちゃんはそれを見てクスリと笑う)

かすみ「この2日間、本当に楽しかったです」

かすみ「侑先輩のおかげで幸せな夢を見れました」

かすみ「本当はデートにも行きたかったですけど、ふふ、もう諦めることにしました」

268 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/11(日) 19:09:49 ID:W0ovu46I
侑(最初は何を言ってるのかよくわからなかった)

かすみ「お泊まりデートもしたかったです」

かすみ「一緒にお風呂に入ったり、同じ布団で寝たり」

かすみ「一緒に料理を作るのもいいですね。侑先輩の唐揚げ、食べたかったです」

かすみ「えへへ。考えれば考えるほど、止まらなくなっちゃいますね」

侑(でも――)

かすみ「侑先輩。楽しくて、幸せで、とっても甘くて、大切な思い出を、本当にありがとうございました」

侑(かすみちゃんの表情を見て、これは“別れの言葉”だとなんとなく理解できた)

かすみ「さようなら」

侑(かすみちゃんはお辞儀をして、入口へと歩いていく)

侑「かすみちゃん、待って」

侑(私の呼びかけに一瞬足を止めたが、こちらには振り返らず、そのままゆっくりとした足取りで去っていった)

侑「……」

侑(私はとりあえず、自販機で買ったお茶を一口飲んだ。苦いお茶の味が口の中に広がった)

269 ◆RZWV3S9lzE:2022/12/11(日) 19:18:57 ID:W0ovu46I
侑(私達は別れたってことになるんだと思う。さっきのは“別れの言葉”だ。私達の恋人としての関係は終わった)

侑(初めて恋人と別れた感想は、特になかった。悲しくもないし、嬉しくもない。普通だった)

侑(無理もないと思う。私に恋愛感情はないんだから)

侑(かすみちゃんと付き合った理由は、歩夢がどんな反応をするか知りたかったから。それだけだった)

侑(そこには恋愛感情なんてものは存在しなかった)

侑(それよりも私が驚いたのは、かすみちゃんが全て知ってたことだ。私に恋愛感情がないこことを気づいていた)

侑(表情や態度には出てないはずなのに、どうしてバレたんだろう。そこは人一倍気を使ってた)

侑(恋人として装うために、したくもないキスや、好きって言葉を何度も言ったのに。いつ見破られたの?)

侑(私はふと、今朝のLINEや花言葉を思い出した。気づかれる要素はそれしか思い浮かばなかった)

侑(完全に誤魔化せたと思ってたのにな。LINEの件は少しやりすぎたかもしれない)

侑(どうやら私は、かすみちゃんを甘く見ていたみたいだね。私の詰めも甘かった。反省しないといけないな)

侑(私がまだまだ未熟なのを今回で思い知った。いい勉強になったよ。かすみちゃんには感謝しないとね)


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