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虐厨いじめスレ

1首もぎさん ◆zFD4EmUzCA:2016/05/30(月) 19:31:22 ID:o7SKOSpA0
このスレッドは不快生物「虐厨」をいじめるスレです
AA作品やSSは歓迎しますが、余所からの無断転載・無断改造は厳しくこれを禁止します
このスレに投稿された作品の無断転載・無断改造についても同様です

140上げて落っこちて 4/6 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2018/02/06(火) 00:32:39 ID:v3uX7dRo0
虐島は幹部たちが話し込む隙に、そっと外へつながっている窓へ近づいた
このままでは自分の首が差し出されるのは目に見えていた
疑われるリスクを冒してでも逃げるべきだと考えたのだ
「おい!なにをしている!?」
虐島はビクリとして止まった
しかしそれは、虐島への言葉ではなかった
虐島が出ようとしている窓とは別の窓、そこへ何者かが鈍器を叩きつけていた
ガシャン!!
窓が割れて手が突っ込まれ、鍵が開けられる
「動くな!!」
蹴り破られたドアからも黒服の男たちが現れた
「どういうことだ!!約束はまだ・・・」
「お前らの事を信用する奴がいると思うか? どうせ逃げる準備をしていたんだろう!?」
黒服たちと愛好会メンバーとの間に口論が始まった
「虐待」への不信感は、愛好会が知らぬ間にものすごく膨らんでいたのだ
それが「愛来ファイナンス」側の強硬手段へとつながった、そして・・・
「うるせぇ!!俺たちがやった証拠もねぇ!!」
「そうだそうだ!!たかがミニイカ一匹とアイゴ一匹!殴られたくらいで大げさなんだよ!!」
メンバーの中の虐厨寄りの者が言い放った一言
愛好会は敢えて黙認していた、それ
しかし、この場においてはそれは・・・彼ら自身への死刑宣告に他ならなかった
「やれ!!」
リーダーの黒服の号令と共に、黒服全員が懐からナイフを取り出した
「一人も生かすな!」
「冗談はやめ・・・」
冗談ではなかった、黒服たちは手近のメンバーを次々と屠る
愛好会は知らなかった、すでに不満は許容範囲を超えていたという事に
「うわぁ!!?」
「愛来ファイナンス」がここまですると思っていなかった虐島は・・・
足元の消火器を思わず蹴飛ばした
偶然それは破裂し、室内に煙幕が焚かれる
その混乱の中、虐島は逃げ出した

141上げて落っこちて 5/6 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2018/02/06(火) 00:35:59 ID:v3uX7dRo0
虐島はアジトへ戻って着替えをし、貴重品と衣服をトランクへ詰めた
この町にはもういられない
彼は少女に顔を見られているのだ
遠からず彼の事は指名手配されるだろう
「愛来ファイナンス」の根が張り巡らされているこの国で生きていくことはもうできない
彼は海外へ逃げる決意をしていた
「動くな」
女性の声と共に後頭部に硬い何かを押し付けられ、虐島は止まった
両手を上げて無抵抗を示す
「へぇ、聞き分けいいわね・・・でも、遅いわ」
ちらりと後ろを見る
「愛来ファイナンス」の会長がそこにいた
ただ、テレビやポスターで見る普段の彼女と異なり
黒いボディスーツで彼女は身を固めていた
戦闘服の各所にはナイフや拳銃といった装備があちこちに見える
「自分ひとりだけ逃げるつもりだったんでしょ? バカ?
私の娘に手を出したあなたを逃がすと思った?」
会長はサブマシンガンを向けていた
「オレのことを・・・?」
「ええ、知ってるわよ。私の娘にミニイカ娘を渡して残酷なやり方で奪った憎い男だもの。
すぐに調べさせたわ・・・まさか顔も隠さず襲撃するとは驚いたけど」
「愛来ファイナンス」は愛好会に問うまでもなく、犯人は虐島と特定済みだったのだ
「じゃあ、なんで襲撃を・・・」
「あら? 害虫の巣を潰すのに理由が必要?」
さらりと会長は言ってのけた
「あなたの仲間とそのシンパが日常的にどれだけの被害を出してると思ってるの?
私の顧客にも、あなたたちにすべて奪われて借金する羽目になった人は少なく無い。
飼いへの手出しに加えて、自然破壊、保護区の破壊と保護生物の殺戮、詐欺、誘拐・・・
例を上げればきりがないし、その度に被害者がいれば謝罪どころか挑発して
それを愛好会が庇うんだから・・・いつかこうなるって思わなかったの?」
「わ・・・分かった!反省する!」
「あなたたちが約束を守ったことが一度でもあった?」
「服従する!あんた・・・あなた様へ忠誠を誓います!!」
「どうせ裏切る気でしょう?」
「誓約書にサインします! 全財産を・・・いえ、欲しいものはなんだって・・・」
「あらそう、じゃあ、聞いてもらおうかしら」
虐島は会長が銃口をどけたのを見て、思わず目を疑った
目の前にいるのは、この国でも1,2を争う富豪である
そんな彼女が欲しい物とは・・・?
「望みは・・・なんでしょう?」
好奇心から出たその言葉に、彼女は答えた
「ミニイカ娘よ」
虐島は拍子抜けした
「いやですね〜、そんな事で許されるなら100匹でも1000匹でも・・・」
「一匹でいいわよ」
会長は笑顔で続けた
「あなたがあの子・・・私の娘から奪ったミニちゃんの命、今すぐ返してくれれば許すわ」
「・・・・・・・・・・・・へ?」
虐島は笑顔のまま凍り付いた
よくよく見ると、会長の顔は・・・目が、笑っていない
「どうしたの? 何でも言う事聞いてくれるんでしょ? もう約束を破るの?」
銃口は再び虐島へ向けられた
そして弁解する前に、引き金は引かれた

142上げて落っこちて 6/6 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2018/02/06(火) 00:47:42 ID:v3uX7dRo0
会長---愛木美奈子は反省した
目の前で炎を上げて燃える虐厨のアジトを見ながら
そもそも、家を留守がちにして子育てを使用人に任せきりにした自分の落ち度だと
彼女は思っていた
愛情に飢えた彼女の娘は家の前に置かれたミニカ娘の卵を拾い、育てはじめた
どうせいつもの無責任な飼い主だろうと思い、
ミニイカ娘の引き取り手を探そうとした彼女へ娘は
「この子は自分が育てる」と頑として譲らなかった
彼女を次期会長にするつもりの会長は、承諾した
娘に初めて反抗されて驚いたというのもあったが
組織の長には愛情と寛容さが必要である
冷徹・真面目だけでは部下はついてこないと、先代会長である父は言っていた
彼女もそれを納得していたが・・・
しかし立場上、娘と一緒にいる時間は多く無かった
会社が大きくなるにつれ、ただでさえ少ない時間はどんどん削れていった
「たまにはお母さんと一緒にいたいと愚痴られたよ」
苦笑交じりに父がボヤいていたことを思い出す
いつしか夫と共に隠居した父も子育てに参加していたが
母親である彼女自身はろくに会えずにいた
こんな自分を娘は愛しているだろうか?
そんな疑問がいつしか頭をもたげ、気づけば娘を避けていた
母子が疎遠になりつつあった時だった、あの事件が起きたのは
「お願い!!私はいいから!!ミニちゃんを!!あの子を・・・!!!!」
半狂乱になって泣きわめく娘を
仕事を部下に放り出して駆け付けた彼女はただ抱きしめる事しかできなかった
同時に、自分よりもミニイカ娘を思いやる娘の心に彼女は驚いた
娘の負った怪我も軽い物ではない、よりによって顔に負った傷である
なのに、この子は・・・
しかし、こういう事に慣れていなかった会長は逆探知を使いつつも
ただただ犯人の要求に従い・・・事件は最悪の結末を迎えた
さらに悪い事に、「箱」の発見者も最初に開けたのも、娘だった
幸いなのは、彼女はミニイカ娘の死骸を見た瞬間に気を失い
悪趣味な「動画」までは見ていないことだった
「いぎゃあああ!!あづい・・・あづい・・・!!」
炎の中から聞こえる苦悶の声を会長は冷めた表情で聞いていた
銃弾は虐島の手足を撃ち抜き、移動能力を奪ったのみだった
動けない彼の前で会長は用意していたガソリンを撒き・・・外へ出て火を付けた
虐島が長く苦しむよう、わざと彼の周りだけガソリンは撒いていなかったが
この火勢ならじき中毒か熱で死ぬだろう、それも苦しみながら・・・
「クズでも役に立つことはあるわね」
会長はつぶやいて踵を返した
後始末は部下にやらせる
自分にはそれよりも仕事よりも、もっと大事な事があった
明日から仕事を他人に任せてでも減らそう
できるだけあの子の傍にいてあげよう
母親としてできる事を、今までできなかったこと
逃げていたことをやろう、と彼女は決心していた

その日、一つの町から虐待組織は姿を消した
寝たばこによる失火で全滅
それが公式発表だ
しかしそれは、ほんの序章に過ぎない
国の全土でやがて、虐待組織への報復・反抗は相次ぎ始める
そして時がたち、会長が引退し・・・彼女の娘が新会長に就任した
かつて虐厨に付けられた顔の傷、それを旗印に活躍した
彼女は虐待組織を国から一掃した女傑として
歴史に名を残すことになる

(おわり)

143むしのていこう 1/6 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2018/02/14(水) 02:21:05 ID:Dp6XUYqQ0
その村は、平和だった
近辺のゆっくりや のんたぬ、ミニイカ娘たちとはうまくやってたし
彼女たちも人々と争うよりも融和策をとっていた
畑の手伝いをすれば野菜を含む食べ物などを報酬としてもらえたから
盗む必要もない
愛護団体や愛護組織も村を支援した
人に役立つ能力を持った生き物を村のために無償で貸したりもしていた
ただ、村長たち一部の者らは金をもっと欲しがっていた
そんなある日・・・背広の男が村へとやってきた
「私はこういうものです」
男は村長へ名刺を差し出した
【被虐生物加工組合組員 虐街好夫 】
男は村長にこの村の近辺に加工施設を建てる計画を話し始めた
勿論ただではない、村に土地代や利益を含む大金を分け前として支払う条件付きだ

「オレは反対だ!!」
加工組合の男が帰ったその日の会合で村長が加工施設の話を切り出した時
先祖代々、周辺の生き物たちと接触し仲を取り持つ役についていた男
相太は反対した
彼は生き物たちを「被虐生物」などと名付け卑下すること自体、我慢できなかった
出向いた先で虐厨の狼藉やそれに泣かされる人々を見てきた経験もあった
議論は1か月続いた、その間に村長たちは反対派を切り崩した
金を与え待遇を良くし、時には脅して手を引かせた
やがて相太は孤立したがそれでも主張は変えなかった
村長一派のやり方に我慢がならないというのもあったが
先祖代々の役目に誇りも持っていたし、村人たちもまだ迷っているはずだとそう思ったからだ
「それに、加工施設から出る死臭をあいつらは嫌がると聞く・・・
そうなったら、あいつらはこの村の周囲からいなくなるぞ」
「それは困るな・・・」

144むしのていこう 2/6 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2018/02/14(水) 02:24:04 ID:Dp6XUYqQ0
次の瞬間出た言葉に、相太は面食らった
「加工すべき被虐生物がいないんじゃ、施設を作っても意味ねぇ」
「いなくなる前に、みんな捕まえちまえばいいんじゃね?」
「そうだな!そうするべ!」
「何を言ってんだお前ら!!?」
相太は悲鳴に近い声を上げた
「今まで世話してきただけじゃない!世話にもなっただろう!?
畑の害虫や雑草は!? 村の食糧庫の警備は!? 山から薬草や山菜を持ってきてくれたのは誰だ!?」
しかし、相太の必死の訴えを彼らは冷めた目で見ていた
「山菜は、あいつらがいなくなった後ならいくらでも採れるべ」
「だな、むしろあいつらがいるせいで山に入れねぇんだ」
「けど協定はどうする?」
「こっそりあいつらの巣に芋でも乾物でも放り込んどけ、そいつに口付けたらそれで終わりだ」
相太はそれを言い放った村人へ掴みかかった
「てめぇ!!それでも人間か!!金に魂売って魔物になり下がったか!!」
周囲の村人は相太を取り押さえにかかった
「村長!!あんただけは人の心を失わないでくれ!!あいつらは・・・」
「やかましい!!」
必死に訴える相太に対し、村長はその顔を杖で殴りつけた
「あんな動物どもがどうなろうと知るか!ワシは村長じゃ!村の発展こそ第一なんじゃ!
何故それが分からん!?」
相太は周囲を見た
誰もが相太をうっとうしげに眺めていた
相太は首を横に振った
「もういい勝手にしろ・・・オレは村を出る、それでいいだろ」
吐き捨てるように相太は言った
「何するか分からんからしばらく家の中にいろ、用が済んだら出してやる」
相太はその村長の言葉にうなだれ無力感に襲われた
村を追放されてでもゆっくりたちに危機を伝えるつもりだったのだ
しかしそれを見透かされ、もう打つ手はない
万事休す

145むしのていこう 3/6 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2018/02/14(水) 02:26:28 ID:Dp6XUYqQ0
その3日後、村人の一人が言い放った策は実行され「協定」は破棄された
協定を結んでいたゆっくりやのんたぬはもちろん、ただそこに住んでいただけ
たまたま近くに来ただけの「被虐生物」も狩り尽くされた
加工施設が建つ話が会合で決定して6日後、相太は拘禁から解放されてすぐ村を去っていった
厄介者となった彼を引き留める者は誰もいなかった、同情も罪悪感すらない
やがて村には加工施設が建った
それまで村に協力してきた愛護団体や組織には寝耳に水だった
村長は彼らから借りていた「被虐生物」のうち、希少種をペット部門へ
その他を加工に回した
返却を求める声には二束三文の金を示し
それでも食い下がる者には金で雇った虐厨をけしかけて黙らせた
村は愛護派共有のブラックリストの
最も危険かつ信用できない輩を分類する「第一項目」へ分類されたが
村長と村人たちはどこ吹く風だった
村にはそれまでとは比較にならない金が舞い込むようになり
村人の羽振りも良くなった
しかし、生態系の重要地位を占めていた生物の突然の損失と
守護者がいなくなったことによる村人たちの無計画な乱獲
そして加工施設の企業による搾取は村の周囲の自然環境をめちゃくちゃにしていった

そんなある日、爆音を上げながら車とバイクの群れが村に向かって走っていた
物見台からそれを見た村人は慌てて村長に報告に走った
「そ、村長大変だ・・・!”殺し屋”どもがここに向かってる!!」
「なんじゃと・・・?」
「殺し屋」とは、通称である
正式名称は「アラシ」
この国に巣食う強大な武装勢力であり、国家権力ですら彼等を対処できない
当然、村に彼らを迎撃する術など無い
たとえ先発隊である彼らを迎撃したとしても、
その後に続く攻撃部隊本隊に波状攻撃されて滅ぼされるのが落ちである
村長は無抵抗を示して彼らと話し合う事に決めた

「あんたが村長か?」
アラシ代表のサングラス男は、村の入り口に出てきた村長へそう切り出した
「は、はい・・・なんでしょうか?」
「どういう理由で我々の港町支部へ攻め込んだ?」
「は?」
寝耳に水である
そもそも組織の支部の場所など村長は知らない
たしかに港町はここから近い所にあるが
知っていたとしても、わざわざ竜の尾を踏みに行くほど愚かでもない
「それは、何かの間違いでは・・・」
精いっぱいの媚びへつらいの笑みを浮かべ下手に出る村長へ
サングラスの男は背後の手下に「あいつを連れて来い!」と指示した
手下たちは麻袋を頭に被せられ、荒縄で縛られた男を持ってくる
そして両者の間に転がし、麻袋を外した

146むしのていこう 4/6 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2018/02/14(水) 02:29:21 ID:Dp6XUYqQ0
「!?お、おまえは・・・!!」
「へへ・・・久しいですね村長さん!」
麻袋の男は、相太だった
理想と正義に萌えていたあの若者はしかし、薄汚れた衣服を身にまとい
下卑た表情を浮かべて村長を見ていた
「・・・やはり知り合いか」
「ま、待ってください!こいつはとっくに村を出てった奴で・・・」
「そうですぜ、”アラシの支部を襲ってクスリと金品を奪え、
足がつかぬようにあらかじめ引っ越しておけ”と言われまして
村長、俺は指示した通りやりましたけど・・・ドジ踏んじまいまして・・・」
村長はその言葉に青くなった、そんなことを言った覚えなど無い
否、たとえどれほど酒に酔ったとしてもそんな指示は出さないだろう
対して相太は村長が見たこともない媚びへつらいの笑みを浮かべている
「黙れ!!・・・代表さん、こいつの言う事は嘘でたらめですじゃ!」
「そりゃないですぜ村長!!オレに分け前くれるって言うから乗ってやったのに!!」
村長は相太が理解できなかった
どうして今頃になってのこのこ戻ってきたのか、なぜアラシの金に手を出したのか
そして、何故出て行った村に庇護を求めた上に災害に等しい連中を連れて来たのか・・・
代表は双方を見て黙っている、手下たちも経緯を見守っていた
「相太!!貴様は追放された身じゃ!!ワシらを巻き込むな!!」
「そんなぁ!オレを最初から見捨てるつもりで計画したんですか村長!!ひでぇじいさんだ!!」
村長が無関係を主張しても、相太は「村長たちの指示でアラシの支部を襲った」などという
村長には身に覚えのない事を頑なに主張して譲らない
「もういい」
口論を黙ってみていた代表は口を開いた
「村長、あんた本当に醜悪だ・・・俺たちだって荒事もやって来たし汚い手も使ってきたが・・・
仲間を捨て駒にするような真似は俺らの間ですらも論外だぜ?」
村長は絶望の表情で代表を見た、周囲の手下たちを見た
誰もがあきれ顔で村長を見ている
「ま、待って下され代表さん!ワシらが嘘ついてると言われるのですか!?」
「あんたらこの前、加工施設を建てたな?」
代表は呆れ顔でそう切り出した
「そ、それが何か?」
代表はため息をついて、続けた
「施設を営業してる企業の口車に乗って大金と引き換えに方針転換したんだって?」
「は、はい、ですがそれは村の発展を想って・・・」
「それまで手を組んできた愛護団体や組織を虐待派に売り、共生関係だった周辺の生物を閻魔に売ってか?
しかも団体から借りてた生き物まで加工したって話じゃねぇか・・・」
これでも信用しろと? そう言いたげに代表は肩をすくめた
「そ、それは・・・・・・」
村長は相太を見た
「オレじゃねぇっすよ」
相太もこの話は想定外だったのか、目を丸くしていた・・・嘘をついてる様子はない
「そうだ、こいつから聞いた話しじゃない・・・オレたちは暴力組織だが暴徒じゃねぇ
事前に情報を集めて判断する頭くらいあるさ」
話は終わった、とばかりに代表は右手を掲げた
村長は周りを見た、バイクと車と武装した男たちは移動を開始した
村はバイクと車と武装した男たちに囲まれ、逃げ場など無い
「誤解ですじゃ・・・後生じゃ、やめてくれ・・・」
代表は首を横に振った
「お前らは信用に値しないんだよ!・・・やれ!!」
代表は右手を振り下ろした、武装集団は一斉に村へ突入した

147むしのていこう 5/6 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2018/02/14(水) 02:31:53 ID:Dp6XUYqQ0
3時間後、村だった場所は死体と燃えカスと化した家屋だったものが立ち並ぶ廃村になっていた
村人は全滅した
単なる雇われだった加工施設の外部の職員はアラシに刃向かわない事を条件に村の外へ出された
その後、加工施設は爆破され瓦礫の山と化した
ここに村があった痕跡こそあれど、もう再建は不可能だろう
刃向かった奴は徹底的に潰す、それがアラシの基本方針であり彼らが恐れられる理由だった
村長は生きていた、いや殺されなかった
「てめぇの愚行で終わりを迎える村の最期を見届けろ」
代表は相太の隣に村長を縛って並べ、破壊と殺戮を見せつけた
「さて、片付けも終わったし、あとはてめぇらの始末だけだ・・・言い残す事はあるか?」
「相太・・・貴様のせいで・・・!」
目の前で孫まで殺された村長は相太を睨みつけた、相太は・・・さわやかな笑顔を浮かべ叫んだ
「今行くぜお前たち!待たせたな!」ガリ!
相太は奥歯を噛みしめた
何かをかみつぶす音、その後で突然相太は口から血を吐いて倒れた
「!?どうした!?」
代表が初めて驚愕の表情を浮かべた
手下の一人が相太に駆け寄り、調べる
「・・・代表、こいつ毒を奥歯に仕込んでいたようです・・・
妙ですね、そんなものあるならなんで今頃になって・・・?」
満足な笑みを浮かべ事切れた相太を前に、手下は首を傾げた
それもそのはず、奥歯に毒を仕込む奴は捕まったその時に自決するのが目的で仕込むのだ
散々命乞いした挙句にあらかた終わった今頃になって死ぬなど、訳が分からない
「く・・・ははははははははは!!!」
手下の報告を聞いた代表は、突然大笑いを始めた
「だ、代表?」
「やられた!!俺たち全員!!こいつにやられたんだよ!!」
ひとしきり笑い、代表は満足げな笑みを浮かべた
「大した男だぜ!愛した生き物たちの仇討ちのためにここまでやったんだ!
自分に力がない、だから刃向かえる力を持つ奴を巻き込んだんだ
自分の命を最初から捨てるつもりでな・・・!」
その言葉に、村長は晴れやかな笑みを浮かべた
「な、ならワシの無実は証明されたんで?」
「ああ、もう用はない」
「ならこれをほどいてくだされ!」
「その必要もねぇ、あんたはこのまま海に捨てる」
「は・・・?」
村長は信じられないという顔で代表を見た
「こいつは命を代償に俺たちへ依頼したんだ・・・命を捨てて筋を通し
命と言う対価を支払った以上、俺たちはその依頼を遂行しなくちゃならん
それが”プロ”だ!」

148むしのていこう 6/6 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2018/02/14(水) 02:34:44 ID:Dp6XUYqQ0
村長は散々泣きわめきながら海中へ沈んだ
あらかじめ撒いておいた魚の血肉は、サメを呼び寄せるだろう
村長の体は文字通り胃袋に収まって消滅するのだ
その時、村長が生きているか死んでいるかは彼の運次第だし
代表にはもうどうでもよかった

「よしお前ら!!男気ある依頼人をこのまま野ざらしにするな!
アラシの誇りにかけて葬儀を行うぞ!!」
村長が沈んだことを確認した代表は、手下たちへ命令した
全てを見届けた依頼人が自決するのは、彼らにとっては珍しいことではない
彼等に依頼に来るその時点で、依頼人は全てを失っているのだ
代表の亡き姉もまた、その一人だった
自分の生命保険と全財産、そして体と弟である彼を組織に売って彼女は死んだ
弟を道具扱いしたわけではない
虐厨に命を狙われ生きるよりも
暴力組織の構成員になった方がまだ生き延びる確率が高いと判断したためだ
弟である彼も幼いながらにそれを理解していた、だから組織の奴隷になる事を承諾した
そして組織の力で両親の会社と両親を亡き者にした虐厨が滅び、全てを見届けた時
彼は姉の頼みで姉を手にかけた
自殺では保険は降りないからというのと、体をできるだけきれいなまま提供するため、
そして臓器をできるだけ組織に提供するためだ
しかし組織は金は受け取ったが姉の体は受け取らなかった
火葬して丁重に弔い、墓まで作った
「虐厨の暴挙で弟を守って殺された」という理由を警察に提供し
弟を「姉殺し」の罪から逃れさせた
弟である彼も下っ端とはいえ組織の構成員に加えられた
学校にも行かせてもらい、学費も組織が出した
疑問に思った彼はある日、それを教育係の幹部に口にした
幹部は微笑して言った「俺もお前と同じだった」
その一言で彼は悟った、この組織の構成員は
そのほとんどが社会から見捨てられ生きる場を失った者たちであることを
訓練は厳しかったが決して彼を使い捨ての道具にはせず、
高い水準の教育をしてくれたその理由を、彼は知った

山奥にある村人たちの菩提寺に事情を話して相太の墓を作り、
十分な永代供養の費用を支払って「アラシ」は引き上げた
「金目当てで支部を襲った武装した盗賊村一つの殲滅任務、完遂」
それが今日の報告である

「おじちゃんたち!」「どうした嬢ちゃん?」「おい、この子酷い怪我だ!」
「・・・みんなの仇を取って!!」

世界から「恨み」が消えない限り、彼らの仕事に終わりはない

(おわり)

149愛寇 1/4 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2018/02/25(日) 18:59:29 ID:7bx291KQ0
「愛寇って知ってるか?」
「は?」
虐厨の虐太は、目の前の仲間に突如切り出されて反応に困った
この町は「愛護派」の排除に成功した町の一つ
レッテル貼りをはじめとしたネガキャンや住民の買収などの数々の手を使い
今や「飼い」を殺しても被害者は泣き寝入りするしかないという町だ
すでに「愛護狩り」も横行しているが、「虐待許可証」に守られた彼らは
殺人を犯したとしても法の裁きを受ける事はなく、
逆に殺された被害者の遺族は「愛護禁止条例違反」により厳しい罰が課された
しかし、いつの頃からか「愛寇」という襲撃事件のウワサがささやかれていた
それは、愛護派のなれの果てと言う
それは、うるさい音を鳴らしながら意味不明の念仏を唱え行進する集団だという
そして・・・ソレの情報は恐ろしく少ない
「眉唾だな、誰もそれ見たことないんだろ?」
そう、目撃者が虐待派や虐厨の間にないのだ
非虐待派やその他の住民の間でのみそれは囁かれていた
だから、単なるアイゴの苦し紛れの威嚇だろうと思われていた
愛護派は無力て弱気で怒らせても何の反撃もしないというのが、彼らの常識だったし
実際に愛護派からの反撃事例は少ない
「愛護禁止条例」制定後はその数も極端に減った
「どうせゴミクズアイゴどもの醜聞だろw無力なカカシの分際でwww」
「そうだなwww」
ギャハハハハハ!とひとしきり笑った後、彼らは
「愛護派」の縄張りに赴き、公園で遊んでいた飼いゆっくりや飼いゴマら
そしてその飼い主の子供たちで「遊んだ」
目の前で我が子と家族を惨殺された「アイゴ」を散々罵倒した後で
一人ずつ始末し、彼らは保健所へ連絡を入れて帰った
この非道な行いまでも「是」とされる、これが「虐待許可証」と「条例」の力なのだ!

150愛寇 2/4 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2018/02/25(日) 19:06:26 ID:7bx291KQ0
その日の夜、虐太は「音」で目を覚ました
「なんだ・・・?」
ジャンジャンジャンジャンジャンジャン!!
ドンドンドンドン!!
シャンシャンシャンシャン!!
真夜中だというのに、通りに面した窓の外からそれは聞こえた
虐太はカーテンを開けて外を見た
人々が行進をしていた
シンバルや太鼓・・・ドラム缶に鍋蓋にバケツといった
各々がバラバラの得物を叩いて音を出していた
全員私服、年齢もばらばらで誰もが無表情のまま行進をしている
やかましいぞ!と怒鳴る前に彼らの前に虐厨の一人が飛び出した
「うっせー!!今何時だと思ってんだ!・・・あん、お前らよく見たらアイゴじゃねぇか!!
一体どこの・・・・・・・・・は・・・う、うそだろ・・・?」
その虐厨は、相手の顔を見た途端、青くなって後ずさった
一方、それまで騒音を出していた人々は・・・
虐厨を見た直後に黙し・・・
無表情の仮面を剥ぎ、狂喜の笑みを浮かべる
「打楽器」を地に落とし、代わりにナイフや包丁や棍棒、ハンマーといった
各々がバラバラの、しかし明らかに相手を殺傷する事が目的の凶器を出す

そして、殺戮は始まった
まず目の前の虐厨へ彼らは飛びかかった
チームワークなどない、思い思いのやり方で考えで彼らはそいつを肉片に変えた
それだけでは終わらない
どうやって察知するのか、彼らは虐待派や虐厨の家のドアを叩き、叩き壊し
あるいは窓を破壊して中へ侵入する
中がどうなったかは、時折聞こえる断末魔や窓に飛び散る血しぶきが物語っていた

151愛寇 3/4 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2018/02/25(日) 19:33:05 ID:7bx291KQ0
どん!どん!!
「まずい!!」
虐太の家のドアや雨戸が激しい音を立て始めた
奴らがこちらへ狙いをつけたのだ!!
虐太は慌てて窓の外へ飛び出し、屋根へよじ登った
ガシャン!!バタン!!
同時に窓が破壊される音、ドアが破られる音が響く
家の中に破壊音が響く中、虐太は悟った
今まで「愛寇」に出会った虐厨からの報告がないのではない
「愛寇」に出会ったら殺されるから情報の報告や収集のしようがないのだという事を
「おかしいな・・・留守か?」「いや、確かにこの家の窓についさっきまであいつはいた」
その声を虐太は思い出す・・・散歩中の所を蹴り殺したゆっくりたちの飼い主だと
裁判の結果、「ゆっくりを散歩させる愛護が悪い」となり被告人から逆転で損害賠償を得た
その記憶は新しい
「金はくれてやる!!代わりにこの恨み必ず晴らす!!」
飼い主たちのその叫びを心地よく聞きながら帰った日を虐太は思い出していた
そして後日、新聞で・・・・・・・・・
「・・・あれ?」
おかしい、記憶と現実に辻褄が合わない
あいつらは、たしかに・・・・・・
思考するうちにやがて破壊音は止まり、家から出ていく足音が聞こえた
虐太は屋根の上でほっと安堵した
同時に逆恨みに等しい怒りが沸き起こる
たかがアイゴの分際で虐厨様を脅かすなどあってはならないと
「記憶と現実の齟齬」など消えていた
明日になったら弁護士に電話して・・・
そう考えていた時だった、焦げ臭いにおいがしたのは
「なんだ・・・?」
みるみる、黒い煙が立ちのぼり始める
他の家からではない、虐太の足元、つまり虐太の家が燃えているのだ!
他の家の屋根に移ろうとした次の瞬間、炎は屋根を突き破って虐太の周囲を囲んだ
虐太は運を天に任せて屋根から飛び降りた
こういう時のため虐太は、自宅に低木を植えていた
低木のクッションは機能し、虐太は落下の衝撃に顔をしかめながらも命の無事を確信した
「・・・へ?」
その虐太は、3人の人影に囲まれていた
誰もが各々バラバラの凶器を持ち、歓喜の笑みを浮かべている

目の前にいるのは、飼いゴマ諸共池に沈めてやった少女
その右隣は、孫とそのペットを目の前で失い心臓発作で死んだはずの老婆
左隣は・・・あの事件の飼い主の一人で
虐太に報復を宣言した翌日、別の虐厨に車で轢き殺されたじいさん

そう、虐太の記憶では彼ら彼女らはとっくに死んでるはずなのだ
なら、目の前にいるのは?
その疑問が頭を巡る中、ぞくぞくと人影が虐太の周囲に集まり始める
「なんだよ・・・お前ら、死んだはずじゃ・・・」
その言葉に彼ら彼女らは顔を見合わせ・・・ニタリと笑った
「ウラミハラサデシヌモノカ」「ジョウブツナドデキルモノカ」「コロス、コロシツヅケル、ネダヤシニシテヤル」
そして・・・・・・

152愛寇 4/4 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2018/02/25(日) 19:40:45 ID:7bx291KQ0
翌朝、警察は静まり返った町の一角へたどり着いた
死の街だった
どこも家屋はドアや窓が破壊され、あるいは焼かれていた
中には血の跡しかない
しかし、襲撃者たちの姿は影も形もなく指紋などの証拠すら無かった
死体も残っていなかった
監視カメラを仕掛けていた家もあったが・・・
何故かその時間帯はノイズだらけでとても見られる映像ではなかったが
残された血痕とその出血量から、被害者は生きているとは到底思えず
殺人事件として捜査本部が設けられた
しかし・・・わずか3日で捜査本部は畳まれた
ひそかに呼ばれた霊媒師が発作を起こしたり
高名な神主ですら匙を投げたからだと噂されているが定かではない
「おみやさんファイル」
不可思議な出来事や超常現象を記録するファイルに「また」一つ収録案件が増え
事件は「また」終わった

「あの愛護の顔見たかwwwぎゃはははははwww」
「ああ・・・ところで、愛寇って知ってるか?」
今日もまたどこかで彼らは噂される
しかし、その実態を知る者はいない

(おわり)

153環境への適応と種の進化 1/8 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2018/03/19(月) 03:43:01 ID:DXIOX2960
「やめてくれぇぇぇ!!!」「住み分けしろ!!」
「うっせぇアイゴw」
かつて、「ゆっくり」というキャラクターが産声を上げた
「実装石の時の愚行を忘れたか!!また繰り返す気か!!」
「そんなこと言ってたら二次創作なんてできませんwwwギャハハハハwww」
しかし、それは半年たらずであらゆる場所から姿を消すことになる
理由は、「虐待ジャンル」に目を付けられたことだった
当初こそ「実装の二の舞はしない」と頭を下げて同居を希望したり
その存在を黙認するよう説得して回っていた彼らはしかし
定着するとその時の約束はすっかり忘れられた
違反者が出ても「無関係」の一点張りで追い払い
同居先のスレやサイトは虐待一色に染まった
「ゆっくり」は「実装石」同様の「荒らし御用達」「被虐キャラ」のレッテルを貼られ
あちこちで追われることになる

これは、虐厨たちに自分たちの無敵を認識させるに十分すぎる戦果だった
彼らは次々と新しい場所が生まれる度に攻め込み、蹂躙した
ルールがあろうと関係ない
自分たちこそ正義であり優良種であり絶対存在であるのだ
愛護派と言う「異端」など恐るに足りない
「ペナルティ」も怖くない
瞬く間にそれは大火となって世界中を飲み込んでいった
現状を改変しようとする声は即座に叩き潰された
やがて、声を上げる者はいなくなった
そして・・・・・

「なぁ、どうして法律やルールを守らなきゃいけないんだ?」
「そりゃお前・・・法と秩序を守るためだろ」
「どうして法や秩序を守らなきゃいけないんだ?」
「それがないと無法地帯になるからだ、オレたちを守るものもなくなる」
「じゃあ聞くけど・・・法と秩序が守ってくれたことがあったか?」
「・・・・・・・・だな」

「最近、愛護派のやつらはまた増えてないか?」
ここは、虐待派のアジト
定期的に集会が行われ情報交換がされる場でもある
「また叩き潰せばいいだろ」
「そーそー、愛護が怒ったところでたかが知れてるし」
もはや「住み分け」を含むルールなど存在しない
誰もが自由にネタを持ち込み布教していた
拒む場は攻撃され潰された
そんなことが当たり前だった
誰も止めるものなどいないからだ
「よし!全員でやつらに目にもの見せてやれ!!」

154環境への適応と種の進化 2/8 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2018/03/19(月) 03:48:00 ID:DXIOX2960
愛護派が何かしたわけではない
向こうから接触してくることは全くなくなっていた
しかし、「愛護派」は存在自体が罪なのだと
彼らは認識していた
虐厨の虐男もまたその一人だった、彼は若い虐厨だ
生まれた時すでにこの惨状は「当たり前の日常」であり
愛護派はしゃべるサンドバッグだと教えられた
先人たちの虐待厨英才教育の結果、彼は他人の飼いすら殺す一人前の虐厨に育った
「鬼威惨再び!!」
おりしもSNS上でゆっくり虐待の風が吹き始めていた
彼はターゲットをゆっくりに決めた
久しぶりの「狩り」に彼は心を躍らせた

虐男は公園に来た、他の仲間も一緒だ
下調べの通り、公園にはゆっくりを連れた飼い主や
公園に住むゆっくりと遊ぶ人々でにぎわっている
虐男たちはずかずかと公園の真ん中に歩いて行った
そして、手持ちの武器を掲げて叫んだ
「ひゃっは〜!!虐待だぁ!!」「はい、動くな」
声を上げた虐男はこめかみに冷たい金属を押し付けられて止まった
「両手を上げて、地面に這いつくばってね、変な事したらすぐ殺すからね」
金属を持った男に従い虐男は両手を上げて頭の後ろで組み、地面に伏せる
「ぎゃあああ!?」
従わなかった血の気の多い仲間の一人が、少女に石で頭を砕かれ倒れるのが見えた
「ああなりたくはないだろ? 大人しくしてりゃ命は保証するからね?」
「な、なんだよお前ら・・・」
虐男は周囲の惨劇を視界に収めながら、絞り出すように聞いた
「我々か? お前たちが言う所の”アイゴ”だよ」
「ばかな・・・これはお前らが嫌う暴力だぞ?」
「嫌う? なんの話だ?」
「へ?」

155環境への適応と種の進化 3/8 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2018/03/19(月) 03:55:33 ID:DXIOX2960
気が付けば制圧は終わっていた
周囲にあるのは死体か無力化された虐待派や虐厨だけだ
しかもこれをやったのは・・・
会社帰りらしいOLに学生服の少女、スーツ姿のサラリーマン、買い物帰りの主婦・・・
みんな「どこにでもいる一般市民」だった
「ひょっとして、我々を先代と間違えてるのか?」
「先代・・・?」
虐男は「アイゴ」たちを見た・・・みんな若者ばかりだ
「そういえば先代が言ってたな、かつて非暴力平和主義をルールに掲げてたと・・・」
「そ、そうだ!それがお前らだろ!」
虐男の声に、全員が冷ややかな視線を送る
「だから、オレたちは先代じゃないって・・・」
「その非暴力主義の結果、オレのいた故郷は滅んだ」「あたしのタブンネは殺された」
「ミニイカ娘と暮らしてただけの俺は全てを失った・・・」
誰もが、受けてきた仕打ちの数々を恨みと共に吐き出した
「け、けどよ・・・ここってこういう事はルール違反じゃないか?」
自分がしたことを棚に上げて虐男は問いかけた
が、誰もがそれを一笑に付した
「じゃあ聞くが、ルールを守る目的はなんだ? 秩序か? 平和か? ペナルティが怖いからか?」
「その全部だな」
「けど、守ったところで守られなかった、秩序も平和も、俺たちさえも」
「破った奴らにはペナルティなんてなかったし」
「だったら、わざわざ守る必要なんざないよな? いや、そんなルールの存在自体が必要ない」
虐男は悟った
今まで愛護派にしてきた仕打ちの数々が彼らを変えてしまった事を
暴力もルール違反も、虐厨だけの専売特許では決してない
愛護派も自由に手にして振るう事ができる武装なのだ
ただ、今までの彼らは「虐厨と同じになりたくない」という嫌悪と
「ルールは守るべき」という彼らの持つ常識からそれをしなかっただけだ
しかしその常識も良識もルールすらも、虐厨たちは壊した
その結果が今、目の前に広がっている

156環境への適応と種の進化 4/8 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2018/03/19(月) 03:57:29 ID:DXIOX2960
虐男はかつて、仲間の一人から長年活動していた愛護派を殺した時の事を聞いた事があった
「昔の事をねちねち持ち出してwwwきもかったwww」
愛護派だけではない
「愛護はルールを守るおりこうさん」という昔の常識にこだわっていたのは
虐男たち虐厨や虐待派も同様だったのだ
しかし愛護派は「変わった」
通じなくなった常識を、ルールを守るという良識を、役立たずのルールを捨てた
非暴力を捨て武力を身に着けた
虐待がはびこるこの環境変化に適応するために

これはこの公園だけの出来事ではなかった
別の公園で
「ひゃは」パンパンパン!  「害虫が視界に入るな!」

道端で
「潰れろy」グシャリ!! 「てめぇが潰れろ!」

河川敷で
「害獣に餌やるなクソアイg」ドブン!!バシャバシャバシャ・・・ビクンビクン・・・
「まりさとおちおち散歩もできねぇな、ったく・・・このゴミは一応埋めとくか」
あらゆる場所で虐待を行おうとした者たちが殺された
彼等は愛護派が武装して反撃を越えた攻撃をするなど
まして向こうから襲い掛かってくるなど微塵も予測していなかった

157環境への適応と種の進化 5/8 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2018/03/19(月) 03:59:52 ID:DXIOX2960
「やめるんだお前たち」
「うるせぇ!!!」
暴行を止めに入ろうとした警察官は面食らった
今まで罵声を浴びせられたことは何度もある
しかしそれは、全て虐待派かその虐厨たちだった
今、彼に罵声を浴びせたのは・・・愛護派だった
「オレたちはあんたらの言うように法を守った!ルールも守った!マナーも守った!
なのに・・・結果はどうだ!? もう何年も状況は変わらない!
それどころか余計に悪化しちまってるじゃねぇか!!」
「し、しかし・・・これは・・・」
「・・・あんたらも、”あっち側”の存在なのか?」
反論しようとした警察官は相手に一言ではたと気づいた
その場にいる、虐厨を除く全員がこちらを見ていた
誰もが殺意と敵意・・・そしてやりきれなさをその目に宿していた
「・・・退くぞ」
一緒にいた先輩警察官は硬直した後輩の肩を叩き、一言つぶやいた
「で、ですが」
「もう俺たちの出る幕じゃないし、俺たちの力で止められる状態でもない」
無表情で先輩警察官は言った
渋々ながら従う後輩警察官は
「もっと早くなんとかしてれば、こんなことには・・・!」
小さいが、しかし力強い感情のこもった先輩の悔しそうな言葉を確かに聞いた
先輩警官の判断が正しかったことを、後輩警官は警察署へ戻って知る
「いてて・・・」
頭に包帯を巻いた同僚がそこにいた
なんでも、虐厨と愛護派の争いを止めようとしたら
愛護派に襲われたという
そちらがかかってくるとは全く思っていなかった彼は
命からがら逃げだすのが手いっぱいだった
「どうなってんだよ・・・なんで暴力なんか・・・」
「おい、襲ってきた愛護派の中に知ってるやつはいたか?」
「・・・あ、いえ・・・」
先輩からの問いかけに、彼はとっさに応えた
「誰もが見た顔ではないです・・・全員、10代から30代の若い連中ばかりでした」
「そうか、やはりな・・・」
先輩は「署長に話をしてくる」とだけ言い残し、その場を去っていった

158環境への適応と種の進化 6/8 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2018/03/19(月) 04:03:42 ID:DXIOX2960
一方で解放された虐男たち生き残りは、即座に集合をかけてアジトに集まった
「アイゴのくせに生意気な!!」「やつらのアジトを襲おうぜ!!」
警察ですら手を焼く状態になってるとは露知らず、彼らはまだ戦闘を続けようとしていた
「だな、どうせまた愛護団体の本部とか作ってるだろ・・・場所は知らんが」
「調べりゃすぐわかるさ!」
しかし・・・・・1週間経っても「愛護派のアジト」は見つからなかった
むしろ勘違いして学校や企業に襲撃をかけた同胞が次々と討たれ被害は増えた

「は?」「だから!お前らのアジトはどこだよ!?」
業を煮やした虐男は、れいむを抱えて歩いていた少女を捕まえて詰問した
「あいごだんたいほんぶ? なにそれ? 今どきそんなものあるわけないじゃないの」
「いまどき?・・・・・まてよ・・・!?」
少女の言葉に、虐男は自分たちの勘違いに気づいた
「アジトをどこかに隠している」のではなく、「アジトそのものがない」のだとしたら?
元々ない物をいくら探しても見つかるわけがない
虐男は即座に虐待派アジトへ走って帰り報告した
「まて・・・じゃあ、あのアイゴどもは、たまたまあの場に居合わせただけと言う事か?」
「何のやりとりもしないで、ごく当たり前のように暴力をふるったのか?」
「おいおいおいまてよ・・・そんな事、聞いたこともないぞ?」
ピロリン!
幹部の携帯にメールが届く、警察からだ
いつも問題を起こすため、彼は警察から情報のラインを渡されていた
そしてバカが何かするたびに身柄の引き取りや叱責を受けるハメになる
今度はどこのバカがやらかしたのか、うんざりとした気持ちでその内容を見た幹部は・・・
目を見開いた
「し、新世代・・・だと!!」
メールの内容は、今起きている状況の分析だった
今、虐待派に牙を剥いている愛護派は、今までの世代とは違う「新世代の愛護派」であり、
虐待派や虐厨による暴力が横行している状況下で育ってきた者たちだと
ルールを守っていた愛護派が敗北していく様子を目にしながら育った彼等にとって
暴力はこれまでの愛護派が忌避してきた禁忌でなく、「より有効な優れた手段」の一つにすぎない
暴力が当たり前の日常である彼らには、襲われても反撃しない事は「バカバカしい事」であった
そしてそれを、非暴力平和主義が謳われたこの長い間に事態は好転せず
より悪化しているという現実が裏付けていた
「・・・お前ら、講和の用意をしろ」
幹部のメールを見た支部長はそう告げた
「そんな・・・愛護どもに屈するのですか!?」
「あいつらは今まで俺たちが相手してきた愛護どもでも
まして時々現れるババァみたいな愛誤でもねぇ、
全く別の、いまの環境に適応した連中だ・・・!」
その時だった
ドアがノックされ、「お届け物です〜」という声が続いた
「お、誰かの荷物か?」
虐待派の一人がドアのカギに手をかける
次の瞬間、ドアが勢いよく蹴り破られ、応対しようとした虐待派の男は吹っ飛んだ
「こんにちは〜!虐待派と虐厨の皆さんの巣で間違いないですね?」
そこにいたのは、手に各々が得意とする得物を持った人々だった
「な、何だお前ら!?」
「何って・・・お前らを始末しに来たに決まってるだろうが」
さらりと先頭のサラリーマンは言ってのけた
虐男はここで、己の迂闊さを悟った
あの時、虐男は少女に背を向け走り出した
彼女が尾行してるなど、全く気づかないまま
結果、彼は自分たちのアジトを逆に愛護派に知らせてしまう事になったのだ
さらに、「アイゴは積極的に攻撃してこない」という先入観もまた油断に拍車をかけた
愛護派が「変わった」事をすっかり失念していたのだ
支部長が「話し合おう」と声をかけるのと同時に、彼らは飛び込んだ

159環境への適応と種の進化 7/8 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2018/03/19(月) 04:07:21 ID:DXIOX2960
「ち、ちくしょう・・・!!!」
殺戮の場と化した支部から命からがら虐男は逃げ出すことに成功していた
しかし、行く先々で凶器を持った愛護派に出くわし追い回された
どうしてこんなことになったのか・・・
それが自分たちが長い事続けてきた無法の結果だとは信じたくない
しかし、現実はこれだ
何年も十何年も事が続けば、それは一種の「環境」として定着する
そして生物は常に環境変化に適応して進化をしてきた
環境変化に適応したものは生き残り、適応できなかった種は姿を消した
それが今なのだ!
今の環境に適応し暴力をも是とする「新しい愛護派」
今の環境に適応できず消えたのは、虐厨たちが消し去ったのは
非暴力と平和を訴えてきた従来の愛護派だった
そうとは知らず「新しい愛護派」に対して今までと同じ対応をしようとしたのは
大きな間違いだった
彼等、虐待派は虐厨は「無毒の蛇」に慣れ過ぎた
「毒蛇」がいるなど考えもせず、それに出会った時の対処法も噛まれた時の応急処置すら考えてなかった
そのツケはあまりにも大きかった


そして、今更それを立て直すには遅すぎた
「知らん!」
元々愛護派で平和主義非戦主義を貫いていた人間の家の戸を虐男は叩いた
年老いてなお屈強な男である彼の説得なら、虐厨との戦闘経験者なら
説得できるだろうと考えてのことだった
が、事情を説明して返って来たのはこれである
「あいつらを止める事はもうできん!諦めて帰れ!」
にべもない
「このままだと、愛護の立場が悪くなるぞ?」
「ほう・・・どんなふうに?」
男の返しに虐男は返答に詰まった
「お前さん方が散々こき下ろして声を封殺可能なまでに評判下げて・・・
これ以上、どう悪化するのか聞きたいものだな?」
「まてよ愛護のじいさん!あんたしかあいつらを説得できねぇんだよ!」
「・・・ワシらの声など届かん、そうしたのは他ならぬお前らだろうが!」
男はピシャリと戸を閉め鍵をかけた
「いたぞ!!」「あの野郎!!爺さんを人質にする気か!!」「ぶっ殺す!!」
誤解から余計に殺気立った愛護派が虐男の前に現れた
虐男は逃げるしかなかった
その後も逃げながら、知っている愛護派や元愛護派を訪ねて回ったが
どこも門前払いだった
彼らの評判を醜聞で下げて人々に声を届かなくしたのは誰か?
そんな自分たちの声など今更届くはずもない
「この結末は、あんたらが望んだ事だろ? 責任とって受け入れたらどうだ?」
最後の一人に至ってはこんな捨て台詞を吐いて虐男を叩きだした
唯一愛護派の暴走を止められただろう先達の声
しかしそれはすでに虐厨たちによって無力化し、彼等もまた己の無力を受け入れたのだ
当初は嘲笑と優越感と共に喝采したこの結末が
今、洪水を止める水門を機能しなくした結果となって虐厨たちを襲っていた

160環境への適応と種の進化 8/8 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2018/03/19(月) 04:13:50 ID:DXIOX2960
虐男はとうとう行き止まりに追い詰められた
必死で塀をよじ登ったがその先は民家である
そこにも愛護派がいたらどうしようもないが、背に腹は代えられない
虐男は塀を越えた

「それは大変でしたね〜」
民家には一人の女性がいた、彼女は一人暮らしだ
夫と子供に先立たれ、今は亡き両親の遺産で生活してるらしい
女性は虐男を見ると悟り、彼を匿った
「まぁ、ゆっくりしていってください」
女性が出したお茶を、喉が渇いていた虐男は一気に飲んだ
次の瞬間
焼けるような痛みが喉を襲い、体内から血を吐き出す
「・・・いい気味ね」
女性はそんな虐男を見下ろして呟いた
「苦しんで死ぬといいわ、あんたたちが殺した夫と娘、そして私の両親の分も」
虐待派も虐厨も、不特定多数の人間に恨みを買っていた
その数は把握しきれず、また頭の軽い末端の暴走で日に日に増えていた
だから・・・たまたま入った家が被害者宅など、珍しくもないのだ

一つの街から生じた火種
それは次々と伝播、伝染していき・・・
やがて国中を巻き込んだ大規模な内戦になる
争いは時間とともに鎮まっていったがしかし、
一度歪んだ「環境」は元に戻る事は無かった


(おわり)

161イシイユの興亡 プロローグ 1/5 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2018/04/04(水) 03:21:49 ID:P8zlkMbc0
「もうやめて!タブちゃんが死んじゃう!!!」
「誰がやめるかwば〜かwww」

ここは、「イシイユ」
ポケモンが住む地方の一つ、しかし・・・
ここにもまた「タブンネ虐待」の嵐が吹き荒れていた

「この野郎!!」
「!?よせ!手を出せばお前も捕まるぞ!」
「ぐ・・・ちくしょう・・・畜生!!!!」

タブンネから貰える多くの経験値、それはいつしかタブンネを狩る大義名分となり
やがてタブンネをはじめとしたポケモンたちへ、「ミニイカ娘」「ゆっくり」「のんたぬ」ら
他の生命体へとその対象は広がっていった
当初は「住み分け」を主張し迷惑をかけないと誓った虐待派
しかしその誓いはいつしか「オレがした約束じゃないもんね」という発言で反故にされ
非虐待派が気づいた時には虐待派の数は当初の倍以上に膨らんでいた
彼等は「人権」を盾に暴れまわった
かつてポケモン保護を名目にイッシュ地方で異変を起こした「プラズマ団」の存在もそれに拍車をかけた
「愛護はみんな悪党だ!だから退治してもいい!」
こんな事が平然と叫ばれるようになり・・・
保護区であろうと人のポケモンであろうと、経験値目当てですらなくただ甚振り殺すことが常態化した
対話による平和的解決を非虐待派はいきり立つ人々を抑えながら続けようとしたが
帰ってくるのは悪質なレッテルと誹謗中傷に罵詈雑言、そしてさらなる暴力だけだった
それでも説得を続けようという人間は、他の人々の無関心と悪意に潰された
やがて、誰も対話を言い出すことはなくなり・・・
そして・・・
すべては最悪の形で結実することになる

162イシイユの興亡 プロローグ 2/5 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2018/04/04(水) 03:23:44 ID:P8zlkMbc0
ここは、とある町
夜中だというのに外には多数の人間がいた
その誰もが手に棍棒や包丁などの凶器を持っている
ガシャン!!
店の出入口が割られ、中に暴徒化した人々がなだれ込む
「やめてくれ!」
「うるせぇ厨房!!」
止めようとした店員は殴り飛ばされて床を転がった
人々は「すごいきずぐすり」「なんでもなおし」を棚から出し・・・
床に投げ捨て踏み躙って使用不能にする
「な・・・なにを・・・?」
略奪が目的と思っていた店員は、人々の行動に面食らった
「もう必要ないから捨ててるんだよ・・・ポケモンがいないんだから・・・必要ねぇだろ?」
そう答えた男の顔は・・・泣きはらした目と噛みしめたのか血がにじむ唇
その顔でニタリと、歪んだ笑みで彼は笑った
「こんなことを・・・世間は許しちゃくれないですよ・・・」
店員の言葉に、男はヘラヘラ笑って答えた
「世間ねぇ・・・あいつらがオレたちの味方だったことあったか、みんな?」
男の問いかけに、他の者たちは頷いた
「ポケモンを傷付けるなと言っただけで、オレは町を追われた!」
「あたしのタブンネちゃんは、リボンを付けてたのに殺された、保健所に連れてかれて!」
「虐待派の犯罪を告発したらオレは冤罪を着せられた!つい昨日出所したばかりさ!!」
「ひひひ・・・傷ついたポケモンを助けただけで、それだけでオレの家は焼かれた!」
「ゆっくり と のんたぬと暮らしてた・・・それだけで仕事を失った!奴らにあの子たちを殺された!」
「世間の奴らは犯罪を犯すクズどもの味方はしても、
法律を守ってたこっちの味方はしちゃくれねぇ!!」
「今じゃもうどこも”数年も昔のこと持ち出すな”って聞いちゃくれねぇよ!!」
「げげげげげ!!こんなことなら、あん時派手に暴れて、みんなぶち殺すべきだったぜ!!」
「ブワバババババババ!!!」
男は仲間の返事に満足げに頷いた
「これが現実だ! 虐待派との共存なんて理想論でしかねぇ!!
それでもオレたちの生きる余地があったならこっそり生きてやったさ・・・
けどな、長年待って悪化しかしなかったんだよ!!
話すら聞いちゃくれねぇ!!
お前らが我慢しろと、あの時言った結果がこれだってのに!!
昔の事を持ち出すなだと!!!!
だからもういい!!
昔の事をいつまでも恨む根暗と思いたいなら思え!!
昔の事を持ち出すアホと断じるならそうしろ!!
そんなに悪党にしたいなら、悪党になってやる!!
犯罪者扱いしたいなら、犯罪者になってやる!!
強盗でも窃盗でも暴行でも破壊でも放火でも・・・好きにリクエストしろ!
お前らの望む極悪人に! 自分のことしか考えないゲスになってやるよ!!ぎゃはははは!!」
ゲラゲラゲラ! 男と仲間たちは狂った笑いを始めた
いや・・・彼ら、彼女らは狂っていた
「どうしてこんなことに・・・」
店員は自問自答しようとして・・・やめた
自分も含めて目を背けてきた自分たちの責任だからだ
いつかこうなる日が来ると、頭の隅ではわかっていた
虐げられている彼等にも心があり、我慢もいずれ限界が来ることを
分かっていながら止めなかった、だからこうなった
そして・・・一度こうなったら、止められない
誰にも・・・

163イシイユの興亡 プロローグ 3/5 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2018/04/04(水) 03:28:22 ID:P8zlkMbc0
店員は、ほんの3日前の事を思い出していた
目の前で暴徒化した人々を率いて暴れている男
彼は、その時はまだ温厚で平和を愛する「愛護派」だった
店のある町にもちょくちょくやってきて、買物や人助け、ポケモンの救助をしていた
彼の所属する団体は今も「非暴力」「非虐待」を訴え
数年前から虐待厨の非道を糾弾してきた
だから、彼がいくら善行をしても町は冷ややかだった
3日前、彼はこの町にパートナーのラルトスと共に逃げてきた
所属している愛護団体を虐待派組織に潰され、元居た街にもいられなくなった
しかし・・・そんな彼に町は冷たかった
「アイゴどもが悪い」「虐待派を否定する奴は犯罪者同然」「昔を蒸し返す厄介者」
そんな虐待派のレッテルを鵜呑みにした人は多くはない
が、誰もが自分たちと無関係の男が持ってくる厄介事を嫌った
身に火の粉が降りかかるのを嫌った、
男が街で為してきた無報酬のボランティアを忘れ、彼を追い出しにかかった
店員もその人々と同じ気持ちだった
「せめてこの、ラルトスだけでも!」
そう懇願する男をラルトスごと店から追い出した
街から追い出されて十分後、男は虐待派に捕まり連れていかれた
彼がその後どうなったか、彼のポケモンがどうなったか
気にはなったが、もうイシイユではこれは「いつものこと」と常態化していた
愛護派が過激な事をするはずがない、犯罪に走れば犯罪者だと分かってるだろう
それを嫌うあいつらがやるはずはない
何をされても非暴力、怒っても怖くはない
そんな「甘え」もあった
その「甘え」に甘えたツケを今、この町は受けていた
ごうん!! 店の正面の家が炎を上げて燃え上がる
「やめてくれ!家が・・・火を消させてくれ!!」
「うるせぇ!!」
懇願する住人が引きずり倒されて袋叩きにされていた
そんな様子を
非暴力平和主義者をやめ、自ら暴力を是とする暴徒になると誓った彼らを
店員はやりきれない顔で見ていた
彼に、彼らにしたことを心底悔いた
一人でもいい
もしも誰か一人でも彼らの話に耳を傾け、彼らを手助けしていたら・・・
話し合いで済むうちに、なんとかなっていたら・・・
だが、それはもはや先に立たぬ後悔
すべては後の祭りなのだ

164イシイユの興亡 プロローグ 4/5 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2018/04/04(水) 03:32:08 ID:P8zlkMbc0
その日を境に、イシイユ地方は暴力が吹き荒れた
元々、限界を超えて膨らんだ風船のようなものだったのだ
穴が開けば、当然「破裂」する
暴力の嵐は瞬く間に地方全体に行き渡った
警察の制止など聞くはずもなく、さらにポケモンマフィアですら
この大嵐は手に負えなかった
虐待派組織は当初こそこの想定外の嵐に劣勢だったが
態勢を立て直して反撃を行った
しかしそれは、地方をさらに混迷させ「内戦状態」へ導いた

移動手段を持つ人々は地方から離れる道を選んだが
残って戦いへ参加する者も少なく無かった


そして・・・地方荒廃の決定打は密かに起きた
ここは地方の「イシイユ発電所」
核融合エネルギー炉で発電を行う最新の発電所だった
「あれ?・・・ちょっと見てきます」
「ああ」
部屋を出ていく”元”愛護派の同僚を虐待派の同僚は見送った
3日ほど前、発電所のベッドタウンの彼の自宅で
タブンネの親子が見つかった
休日にアポなしで行った所長が見つけたのだ
即座に彼は「仕事かポケモンか」を選ばされた
タブンネを手持ちにしてはいけないなどと言う法律はない
発電所の規則にもない
しかし、虐厨である所長の命令は絶対だった
彼は涙ながらにタブンネ親子を手にかけ、土下座して所長に詫びた
「・・・さすがに、あれはやりすぎかな」
虐厨である同僚にも所長の行為は常軌を逸したものだった
今の所長は、一か月前に本社から赴任してきたばかりである
そしてタブンネが見つかったのは自宅であり、彼は休暇中だった
どこにも彼を咎める点はなく、むしろ所長の行為こそが明確な違法行為だ
しかし、それを指摘する勇気は同僚には無かった

165イシイユの興亡 プロローグ 5/5 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2018/04/04(水) 03:39:38 ID:P8zlkMbc0
「彼ら」は洗脳されたわけでもない、かといって正気と言うわけでもない
彼らにとって、タブンネたちは全てだった
家族であり生き甲斐だった
「親切な虐厨様のおかげで仕事まで失わずに済んだ」
だからどうした?
彼女たちがいないのなら、これ以上仕事を続けても仕方ない
生きていても仕方ない
だから彼らは、昨日一晩相談して・・・実行した
彼らにとって「世界」は「敵」だった
かつては違ったが今はそうだ、ここへ流れついたのも故郷が虐待一色に染まったためだった
そして、ここでもつまはじきにされて大切な家族を
唯一の生きる理由を壊された
彼等の一人が核融合発電所に勤務している「人間」であったこと
彼なら融合炉の室内に行ける事
それに・・・誰もがポケモンに頼っていることが
計画を成功に導いた
「炉心に異常あり!」
彼のついた嘘を疑う者はなく、防護服を着て自ら行く彼を怪しむ者はいなかった
念のためと、「プログラムを簡単に操作できるロトム」が
制御指令室に残って彼の「バックアップ」を行い
「発電所に欠かせないマルマイン」が彼のお供に付いていった
だから・・・
誰一人避難できないように非常警報を殺すことも、
本当の異常を知らせる警告をOFFにすることも造作もなかった
固唾を飲んで監視窓から彼を見ていた他の職員も最後の最後まで気づかなかった
集音マイクがオフになっていることも、彼がジェスチャーで「故障」と示せば誰も疑わない
だから・・・マルマインが炉心近辺で「だいばくはつ」をする計画はすんなりと成功した
彼がマルマインを炉心へ掲げた時、やっと職員たちは気づいた
事の異常さに
炉心の様子を見に行くなどと言う誰もが敬遠し、くじ引きで決めるのが慣習になっていた仕事を
彼が率先して引き受けた事の真相に
「やめろ」と怒鳴る者、慌てて部屋から飛び出し遠くへ逃げようとする者、
何が起きているか把握できず呆然とする者・・・
それらをすべて、彼と彼のポケモン諸共、光は飲み込んでいった

発電所の爆発は周囲の街を飲み込んだ
ベッドタウンはもちろん、本社のビルのある町にまで爆風は届いた
地方はこれだけでも大打撃を受けたのだが、続く狂った人々の暴走がとどめを刺した
「矯正」と称して愛護派の人々の脳に「チップ」を埋め込み、
虐待派マインドを強制セットアップする狂気の手術
かつて別の地方でポケモン保護区の職員を狂わせ保護区壊滅へ追い込んだ、非人道的手段
その「被験者」の人造虐厨が爆発によって生じた電磁パルスで本当におかしくなったのだ
船のエンジンに砂糖をぶち込み、ガソリンスタンドにマグマッグを投げ込み、
飲み水を供給するダムにベトベトンが放り込まれ、農作物に除草剤がぶちまけられる
港でもスーパーでも、あちこちで破壊的な暴走は始まった
止めようとする人々は殺された
壊す物がなくなった時にたまたま近くにいただけの人間までも殺された

「おい!!早くあいつらを止めろ!!あるだろ止めるはずのプログラムが!!」
「ダメです!!先ほどの電磁パルスで機械は全ておじゃんです!!止められません!!」

手術を施した虐厨たちにもどうしようもない
人造狂人の暴走は、彼らが全員餓死するまで続いた
しかし、その暴走が終わっても事態が好転するわけでもなく
発電所の全損、そして狂人の暴走によるライフラインの壊滅は
イシイユを地獄に叩き落とした

イシイユ地方が許可なく渡航禁止の危険エリアに指定されるのに
時間はかからなかった

(第一話につづく)

166イシイユの興亡 ① 1/7 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2018/04/13(金) 18:12:56 ID:LFRbc.EQ0
第一話:あいごの帰還 1/7

「ギャハハハハ!!」「くやしかったらいじめられっ子やめて暴力で返してみろwww」
カチリ
釘バットの男はテープレコーダーを止めた
そしてニンマリと、目の前の虐厨たちへ笑みを浮かべる
「た・・・助け・・・」 グシュリ!!
足元に倒れ伏していた虐厨を、男は頭を踏みつぶして黙らせる
「まて、こんな事したら、お前たちが一連の事件の犯人と言っているようなものだぜ?」
虐厨はそう言って制止を試みた
この町では、度々トレーナーが襲撃される事件が相次いでいた
しかし、虐厨たちによってそれは愛護派の仕業と宣伝され
愛護派への攻撃の口実にされていた
その上、街の他の住民も面倒事を嫌い、暴力沙汰にならないように徹底していた
愛護派が声を上げても聞く者はなく、一方的に彼等は嬲り者だった
そう、昨日までは
「いいよ、それで」「どうせ何言っても聞いちゃくれねぇし」
「そーそー、どうせ犯罪者になるんなら自分で犯罪やって納得した上で捕まりてぇよな」
「それに、お前らのリクエストだろ? 暴力で返せって言うのは? 
よかったじゃねぇか願いが叶って」
話は終わりとばかりに、凶器を持った人々は・・・
かつて愛護派に属し羊のようにおとなしかった人々は・・・虐待派側に牙を剥いた


「・・・・・なんだ・・・これは?」
彼は相太、かつて3歳のころまでイシイユ地方に暮らしていた少年だ
彼は引っ越し先の別の地方でトレーナーとなり、先輩トレーナーとの数々の激闘
ポケモンマフィアやライバルたちとの戦いを経てその地方のチャンピオンとなった
そんな彼への記者のインタビュー、それが彼が生まれ故郷に足を運ぶきっかけだった
「イシイユ・・・ですか? あそこは、もうタブンネは・・・」
かつて幼い頃に人懐っこいポケモンと遊んだ記憶を懐かしげに語った彼に
その記者はそんなことをひきつった顔でつぶやいた
それを訝しんだ彼は逆に、記者に質問をすることになった
彼女とはかつてポケモンマフィアとの戦闘を共に戦い抜いた仲である
インタビュー後に喫茶店で記者と話しをした彼は
今、イシイユがどうなっているかを彼は知った
「ごめんなさい、隠すつもりはなかったの・・・あなたがイシイユの出身と知らなかったから」
「いいえ、教えてくれてありがとうございます」
「!まって!・・・帰る気なの、あそこに?」
「・・・はい、オレの友達があそこに残っているんで・・・」

かつて彼が住んでいた家、引っ越す時にその地のポケモンに譲った家屋は・・・
焦げた柱が立つ焼け跡となっていた
「う・・・・・うわああああああああああああああ!!!!!!」
引っ越しの時、一番仲の良かったタブンネにあげた宝物のバッヂ
地面に落ちている焼け焦げたそれと、その近くで野ざらしになっている
大小さまざまなタブンネの骨
「せめて生きていて欲しい」その願いが無残に打ち砕かれた証拠だった

167イシイユの興亡 1 1/7 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2018/04/13(金) 18:14:42 ID:LFRbc.EQ0
第一話:あいごの帰還 2/7

彼は骨を集め、埋葬した
「おいおいwゴミの片づけかwww」
そんな彼へ、背後から3人の男が声をかける
「・・・・・・」
相太は振り返って会釈をした
「ボクはかつてここに住んでて・・・10年ぶりに帰って来たんです」
「!?・・・そ、そうか・・・じゃあ、悪かったな・・・」
「もう戻ってこないと思って焼いちまって・・・」
「死体まで放置したのはさすがに悪かった、すまん!」
相太は3人に気づかれないよう、腰のウエストポーチに手を伸ばした
「・・・あなたたちが、やったんですか?」
3人はギクリと顔をこわばらせた
「ま、まて!まだ人に所有権があると知らなかったんだ!」
「ここの一家は引っ越して、そのあとをクソブタどもが勝手に占拠して・・・!」
「ここの害獣はオレらが退治してやった!それで勘弁してくれ、な?」
3人は口々に言い訳をしたが・・・タブンネたちを殺したことに対する罪悪感は微塵もそこになかった
むしろ、タブンネたちを害獣と罵り、それを殺したことを正当化した
相太にはそれだけで十分だった
「グルルルルルル!!!」
相太は3歳の引っ越しの日、自分についてきてくれたかつての「ヨーテリー」
今はレベル100の「ムーランド」へと進化した無二の相棒を繰り出した
「お、おいまてよ・・・謝ってるじゃねぇか・・・!」
「・・・他に、謝るべきことがあるでしょう・・・あのタブンネ一家はボクの友達でした」
「はwwwお前アイゴかよwww」
相太の答えに3人は豹変してそれぞれポケモンを繰り出した
「ムーランド、ポケモンは殺さず戦闘不能にしろ!・・・ただしあの3人には手加減無用だ!!」

3分後、かつて虐厨だった肉塊が3つそこに転がっていた
そもそも最初から相手になどならないのだ
虐厨たちは平和非暴力主義の愛護派や弱いポケモンばかりを狙っていた
自分たちより強いどころか、互角の相手とすら戦った事はなく
手持ちとの相性が不利だったり強そうな相手とは敬遠していた
だから手持ちのポケモンはタブンネ狩りで皆レベルは高いものの、圧倒的に「強者へ立ち向かう気力」
そして「互角以上の実力者との戦闘経験」が欠けていた
その上、どのポケモンも無理やりこき使われてきたためなつき度は限りなく低かった
虐厨の死亡後、彼らの手持ちはあっさりと野生へ戻っていった

168イシイユの興亡 1 3/7 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2018/04/13(金) 18:25:47 ID:LFRbc.EQ0
第一話:あいごの帰還 3/7

「愛護団体は悪の組織」「ポケモンマフィア以上の極悪人、愛護」
「害獣を保護しイシイユの生態系を破壊!奴らを許すな!」
スマホでイシイユの情報を漁ると、こんな記事がいくつも出てきた
これが今のイシイユの現状なのだろう
今後どうするか・・・まだ答えは出ない
「・・・ひとまず寝るか」
虐厨どもを始末したその日、相太は焼け跡にテントを張りそこで眠った
しかし明け方近くに物音で目を覚ます
獰猛な野生のポケモンへの警戒というより
ポケモンマフィアやトレーナーを狩るならず者への対処として身に付いた特性だった
そっとテントの外を確認する
ポケモンを連れた男が6人、できたての土饅頭を掘り返していた
それは虐厨どもを埋めたものだ
放置しても良かったのだが、
ここらにまだ住んでいるポケモンに迷惑がかかるといけないと思い
敢えて埋めて廃棄しておいたのだ
彼等は皆、一緒に埋めた虐厨の荷物を漁っていた
「・・・ちっ、しけてやがる」
「おいおい、オレたちは金目のもの取りに来たんじゃないだろ」
「しかし誰だろうな・・・こんなゴミ捨てずに埋めたのは?」
「アイツらの仲間・・・じゃねぇよな、この前も襲ったら仲間見捨てて逃げたし」
相太は考えた
どうやら虐厨と敵対している奴らのようだが・・・
言葉の端々から、かなり攻撃的であることが伺えた
相手の事も人間とか生物とかすら認識していないようだ
「・・・襲う・・・か、数年前までは考えもしなかったことだよな」
その中の一人がぽつりと言った
「ああ、けど仕方ねぇ・・・どうせオレたちは悪党であいつらは正義だからさ」
「そうだ!なら望み通り悪党として振舞ってやるだけさ!!全部あいつらが希望したんだ!」
「だな、我慢してれば調子に乗りやがって・・・散々譲歩してやったのに・・・」
「こんなことなら、あいつらの挑発に乗って最初から戦っておくんだった」
相太はスマホの情報を思い出した
目の前にいるのは虐厨ではない・・・愛護派だと悟る
しかし彼らはその誰もが荒み切り、彼らのポケモンもまた殺気立っていた
「ん? おい、あのテントは・・・」
うち一人が相太のいるテントに気づいた
「見ろ、タブンネの骨が片付けられて・・・いや、埋葬されている!」
彼等はタブンネの墓を見つけたようだ
墓前には相太によって花が植えられ、オボンの実が添えられてる
そして全員、その墓へ手を合わせた
「ああ・・・ポケモンの墓を拝むなんて、何年ぶりだろうな・・・」
「こんな立派な墓をポケモンに作ってくれる人間がまだいたとは・・・」
相太は驚いた、作ったのは墓石すらない土饅頭だ
しかし誰もが涙を流していた
彼等のポケモンも、殺気が嘘のように晴れ頭を垂れて拝んでいる

169イシイユの興亡 1 4/7 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2018/04/13(金) 18:34:54 ID:LFRbc.EQ0
第一話:あいごの帰還 4/7

「ぎゃあああああああああ!!!」
その時だった、静寂を壊す悲鳴が響いたのは
「なんだ!?」
茂みから一人の男が飛び出す、ドンカラスに啄まれながら
そのドンカラスは相太のポケモンだ
寝込みを襲われないように万一を考えて警戒を頼んでおいたのだ
命令は一つ「マフィアか虐待派らしき奴が来たら知らせろ」だ
「襲え」とは言っていない
ということは、そいつは自分でドンカラスへ手を出したのだろう
ちゃんと相太は人のポケモンと分かるように目立つ場所へリボンを巻いたはずだが・・・
「た、助けてくれ・・・!」
「・・・分かった、その苦痛からは助けてやる」
次の瞬間、グシャリ!と何かが潰れる音が響いた
男の一人が、ドンカラスに襲われていた男の頭を踏みつぶしたのだ
「よしよし、もう大丈夫だ・・・安心しろ、悪い奴はたった今いなくなった」
「しかしこいつドンカラスを襲ったのか? 素手で勝てる相手じゃねぇだろ・・・」
「どうせいつもの”オレ最強妄想”とやらだろ」
「くぁー!」
ドンカラスは一礼して一声鳴くと、とことことテントへ歩み寄った、中の相太と目が合う
相太は頷き隠れるのをやめた
彼等はドンカラスを助けた恩人だ、礼も言わずに寝たふりなど相太はできない
相太はテントから顔を出した
「初めまして、ボクはここにかつて住んでいた一家の息子、相太です」
ドンカラスを助けてくれたことに礼を述べながら相太は自己紹介した
「ここに・・・じゃあ、キミはもしかしてあのボウヤか?」
「大きくなったな!・・・と言っても近所に住んでたオレ達の事覚えちゃいないか」
「だって、この子の父さんとは何度か会ったけどこの子とは初対面だし」
「そうそう!あの人が引越しの餞別にくれたオボン!あのおかげで生き延びられたよな・・・」
「すっかり様変わりしておどろいたろ・・・イシイユは今はどこもこうさ」
「そういえば・・・そのドンカラスはキミのか?」
相太は頷いた

170イシイユの興亡 1 5/7 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2018/04/13(金) 18:36:37 ID:LFRbc.EQ0
第一話:あいごの帰還 5/7

森で親とはぐれていたヤミカラスを保護してここまで育てたのだ
相太は大きくなったら巣立たせようと思っていたが
ドンカラスはボールから出しても相太からは離れようとしなかった
「そうか・・・ポケモンを見ればわかる、キミがどんなトレーナーかがな」
「ポケモン勝負で歓迎したいとこだけど・・・ポケモンセンターすら使えない今は
むやみに戦闘はできないんだ」
「ショップもやつらに占拠されて傷薬どころか、虐待グッズしか売ってないからな・・・」
「悪いことは言わない、もうこの地方は見捨てて別の地方で旅をするんだ」
「イッシュは終わりだ・・・今ではオレら非虐待派こそ犯罪者だからな」
「犯罪者・・・?」
相太は思わず聞き返した
「そうだ、害獣を保護して繁殖させ、正義の虐待派にレッテルを張る愛誤と言われてるのさ」
「訴えてももう誰も耳を貸しちゃくれない、話をしてもすぐ奴らが来て話の腰を折っちまう」
「奴らに危害を加えられる事やオレらの仲間と思われることをみんな恐れてるんだよ」
「この前も隣町のじいさんが・・・」「!?よせ!!!」
相太は「隣町のじいさん」と言う言葉に記憶をよみがえらせる
かつてここに住んでいた時、ポケモンと遊ぶ自分の所へ老人が来たことがあった
出会ってから時々、木の実やお菓子を差し入れてくれる優しいお爺さん
「すいません、詳しく聞かせてください・・・ボクはあの人へ恩を返さなきゃいけないんです」
口止めした男とうっかり口を滑らせた男は顔を見合わせ、決意したように頷いた
「イッシュがこんなになってからも、虐待派からポケモンたちを守る運動はあったんだ・・・
もちろん、虐待派の連中とは何度も交渉して相互不干渉と決めてた
けど、それすら奴らは破った・・・自分がした約束じゃないと、次々と施設や家を襲ったんだ」
「隣町のじいさんもその交渉派の一人だったんだが・・・10日ほど前に襲われた」
「家の焼け跡から骨が見つかったんだ・・・あの人の相棒のサーナイトと一緒に」
「あの人は骨になってたけど、ポケモンは綺麗だった・・・死体とは思えないほどにな
きっと最期まであの人が庇ってたんだろう・・・」
「やつらに見つかるとまずい、キミは早々にこの地方から離れるんだ
もうここは、キミのいたかつてのイシイユじゃない・・・無法地帯さ」

171イシイユの興亡 1 6/7 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2018/04/13(金) 18:40:13 ID:LFRbc.EQ0
第一話:あいごの帰還 6/7

6人と別れた相太は森の中の獣道を歩いていた
隣町とは一見逆方向に見えるが、これはポケモンが普段使う「隠し通路」だ
それは隣町の、人間は誰も知らないだろう隠し穴に通じている
隠し穴の先は掘っ立て小屋に通じていて、隣町にこっそり入ることができた
そっと小屋の壁の穴から外をうかがう
あちこちに焼けたままの家が放置され、ポケモンと・・・人間らしい骨が放置されていた
時折、笑いながらそれを蹴飛ばすクズも目の前を通る
相太はそいつを今すぐ叩きのめしたい衝動を堪えた
まだ、飛び出す時ではない・・・夜になるのを待つ・・・つもりだった
「おい!そこ何をしている!?」
突然の怒声に相太は飛び上がった・・・見つかったか!?
だが、虐待派と虐厨は相太のいる小屋とは別方向に走っていく
「テロだ!!」「愛護派の襲撃だ!!」
爆発音と戦闘音がやがて響き始めた
相太はこっそり小屋を出て・・・戦闘中の虐厨たちの背後からポケモンを繰り出した
「後ろからだと!?」「まさか・・・囲まれたのか!?」
相太はここぞとばかりに攪乱すべく声を張り上げた
「お前らは完全に包囲した!諦めて投降しろ!!」
「う・・・うわあああああ!!」「死にたくねぇ!!」
しかし次の瞬間、虐厨たちは我先にと逃げ出した・・・ポケモンを置いて
相太はなんとなく不穏を感じ、そっと小屋の中へ戻った
そして穴から外をうかがう
「ひぃ・・・た、たすけてくれ・・・!」
足を怪我したらしい虐厨が左足を引き摺りながらひょこひょこ駆けてくる
しかし、その背後からグラエナが飛びかかり、容赦なく首の骨をへし折った
「よくやったわグラエナ!」
グラエナは主らしい女性に甘えた声で走り寄り、甘えた
「ははは!!私の攻撃力がガクッと下がった!」
グラエナとじゃれ合う女性を見て、相太は思わず目を剥いた
その女性は・・・顔の左半分が火傷に覆われていた
そしてタブンネのものらしいピンクの毛皮のストールを首に巻いている
「おいおい・・・そいつは捕まえとけって言っただろ芽泥姉ぇ」
女性の後ろから、知己らしいタブンネのお面を付けた男が来た
「捕まえたでしょ、ほら」
女性は首の骨を折って絶命している虐厨の背を踏みつけた
ボキリ!と背骨が折れて虐厨の死体がおかしな動きをする
それを歪んだ笑みで、女性は見つめていた
「あいつらのアジトなら、もうじきメガヤンマが見つけてくるわよ」
「なら、いいが・・・」

172イシイユの興亡 1 7/7 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2018/04/13(金) 18:47:39 ID:LFRbc.EQ0
第一話:あいごの帰還 7/7

男は虐厨の死体を踏み躙り始めた女=芽泥を見ながら言った
「まだ、奴らが憎いか?」
「憎い? そんなもんじゃないわよ・・・生理的にあいつらが生きてること自体受け付けないわ・・・
あの子たちは私を炎から庇って死んだのに、あいつらはのうのうと生きてるなんて・・・
しかも、何の咎めもされないまま、逮捕も裁判もされないまま・・・
そしてあの騒動で生き残ったタブ子も私の目の前で、あいつらに毛皮にされたわ・・・」
芽泥はその時の事を思い出したのか、苛立たしげに虐厨の死体を蹴飛ばした
「あいつらも!あいつらを甘やかした奴らも!あいつらを裁かなかった奴らも!!
あいつらに迎合してみて見ぬ振りした奴らも!!みんな死ね!!死んでしまえ!!!!」
相太は生まれて初めて人間を「怖い」と思った
目の前の芽泥という女性は虐厨たちだけでなく、「自分たちを見捨てた全て」を憎んでいるのだ
「オレも・・・いや、オレたちも同じ気持ちだ・・・話を聞いて一緒に行動してくれてれば・・・
いや、せめて話を聞いてくれさえすれば、イッシュはここまで荒廃しなかった! 
虐厨に罪があるなら、当然やつらにも・・・虐厨を放置した奴らにも
虐待派どもにも罪はある!!」
男は仮面を外した、その顔を見て相太はまたも驚いた
「男」ではなかった、仮面のせいで声がくぐもって低く聞こえただけだ
そして背の方も、女性よりかなり低い・・・自分と同じか少し低いくらいだ
しかしそれ以上に気づいたことが、相太に衝撃を与えていた
「・・・亜衣ちゃん・・・!?」
記憶が呼び起こされる・・・ポケモンと一緒に遊んでいたところに迷い込んできた
同い年くらいの、右目にほくろのある迷子の女の子
しかし今の彼女に当時の面影はない
あの愛くるしい笑顔のポニーテールの女の子は・・・
短髪でボーイッシュな・・・否、右頬に大きな傷のある狩人の顔をした少女に成長していた
その荒み切った目が、彼女がこれまで歩んできた道を物語っている
二人の所へメガヤンマが飛んでくる
二人はメガヤンマから何事か聞いた後・・・メガヤンマの先導で
メガヤンマが来た方向へ去っていった
相太はそっと小屋から出て町の様子を確認した
あちこちに虐厨たちの死体が転がっている
首が折れたり腰から変な折れ方をしたりと言った五体満足の者はまだいい方で
下半身のないもの、首から上がないもの、中には元が人型の生き物だったと思えないほど潰れた者もあった
彼女たちの憎悪の深さを物語る殺し方だ
ふと思い出す、自宅の焼け跡で出会った愛護派トレーナーたちの言葉を
『望み通り悪党として振舞ってやる』 『あいつらが希望した事だ』
そんなことを言っていた
周囲から「悪」と決めつけられたため、「悪」を自認して「悪」となる事を選んだ人々
誰にも話を聞いてもらえず怒りと恨みだけを募らせて鬼となった彼女たち
それを「心が弱い」と断じるのはたやすい
しかし、どれほどの人間が彼女たちと同じ境遇に身を置いた時
それでもなお己を貫けるか?
それも殺される事無く、だ
殺された老人は恐らく、「己を貫いた」ことで殺されたのだろう
虐厨に刃向かう不快な存在として

相太は決意を固めると、彼女たちを追って走り出した

(続く)

173ヒギャクセイブツの森 1/3 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2018/08/09(木) 01:24:29 ID:Ib7BLTD.0
「ひぎ・・・いだ、いだい!!」
男は、クチートに襲われていた
タブンネの生息するという森をウロウロしていたところ
「クイモノ、ヨコセ」
そう言って飛びかかってきたのだ
「クイモノ、ヨコセ」
ガチン!ガチン!と後頭部に伸びる大アゴを鳴らす
「も、持ってねぇよ!!オレはここへタブンネを虐めに来ただけだ!!」
「・・・ウソツキ!!」
クチートは叫ぶように言うと男へ突進した
「ひ・・・ひぎあああああああああああ!!!?」
男の腹が食い割かれ、中身が引き出されていく
「ココニ、イッパイアルダロウ!!」
クチートは断末魔の痙攣をする男を見ながら二つの口で男を食い続けた

そのクチートは、父親がタブンネということ以外は普通のクチートだった
母親は人間に虐待を受け、飼い主を食い殺して逃亡してきたが
追手に深手を負わされ森の中で力尽きそうなところを
父親タブンネに助けられた
最初は傷が治ったら復讐の続きを始めるつもりだった彼女は
タブンネと過ごし、彼に説得を受けるうちに徐々に変化し・・・
子供たちを身ごもったことで「もう戦えないから」と言い訳をして
復讐をやめた・・・・・・はずだった
少なくともあの時までは

「やめてください!ボクたちはなにもしてない!!」
「あ? 被虐生物の分際で何言ってやがる?」
「そーそー、お前らはいじめられるのがお似合いなの!」
「生意気なんだよサンドバッグが!!」
「害獣らしく人を襲って食べ物奪え!媚びうるなよ気持ち悪い!!」
母親クチートが木の実を抱えて戻ってきたとき、父親タブンネはすでに重傷だった
彼らはすでに卵を一つ割っていた

174ヒギャクセイブツの森 2/3 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2018/08/09(木) 01:26:24 ID:Ib7BLTD.0
「キサマラ!!ナニヲシテイル!!!」
どうして夫と子に手を出した、殺すなら自分を殺せ・・・
という意味で彼女は言った
彼女は目の前の人間たちが自分を追ってきた連中だと思っていた
彼らの同胞を殺して逃げたことを忘れてはいない
いつかこの日が来ると、とっくの昔に彼女は覚悟していた
「へ・・・え・・・へ? なんで?」
割った卵の中身が明らかにタブンネの胎児でない別のポケモンだったことと
怒り心頭で本気の殺意をぶつけてきた母クチートの出現に
人間たちは面食らった
が・・・すぐに虚勢を取り戻した
「あのな、こいつが俺らの木の実畑を荒らしたの!」
しかし、人間たちが言い出したのは彼女の想定と全く無関係の
身に覚えすらない罪状だった
「ウソヲツクナ!我ガ夫ハ森カラ一歩モ外ヘ出テイナイ!!!私モ森ノ中カラ出テイナイ!!」
「じゃ、じゃあ・・・証拠を見せろよ・・・そしたら助けてやるから」
「ソレハ・・・犯人ヲ、捕マエテコイ、トイウコトカ?」
クチートとは思えない凄みのある声に、人間も虐厨も気圧された
思わず彼らは頷いた
「・・・ヤクソク、ダゾ」
母クチートはそう言ってその場を離れ
わずか1時間で木の実畑を荒らしていた真犯人のポケモンを連れてきた
人間たちの匂いを辿って彼らの木の実畑に行き、
そこにあった匂いから犯人を特定し追跡、
あとは見つけ出して「狩る」、それだけである
血濡れた大アゴに咥えられた3mはある大型のラッタを見て
虐厨たちは想像以上のグロい光景にドン引きした
彼女が留守だった一時間の間に、約束を破り父タブンネを殺し、
タブンネのいる可能性に賭けて卵をすべて割ったことを忘れるほどに
「・・・ウソツキ!!!!」
割れた卵の破片とこぼれ息絶えたその中身を見て、母クチートは激高した
次の瞬間、殺戮の嵐が吹き荒れた
まず最初に全員の足の腱をかみ砕き・・・あとは一方的な嬲り殺しだ
父親の死体にしがみついて泣いていた娘クチートの目の前で
母親は彼女へ生まれて初めて彼女の知らない一面を見せた
久々の殺戮の快楽に酔いしれながら
愛する夫と子供たちを失った悲しみと
やっとつかんだ幸せを壊した者たちへの怒りと憎悪と
様々な感情を内に外に吹き荒れさせた
そして、全員をミンチに変えた後で父親タブンネに死体へ縋り付き
大声で血の涙を流して慟哭した

175ヒギャクセイブツの森 3/3 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2018/08/09(木) 01:28:16 ID:Ib7BLTD.0
「ポケモン、特にタブンネを襲う奴は敵だから殺してもいい」
「食べ物を奪え、それが相手の望みだ」
「畑を見つけたら荒らせ、人間が出てきたら殺せ
ただし森からあまり離れるな、森の近辺のナワバリの中でだけやれ」
「奴らは私たちを”ヒギャクセイブツ”と見ている
だからこちらもヤツラを”ヒギャクセイブツ”と見て、それにふさわしい”もてなし”をしよう」
これが、母親クチートから事件の唯一の生き残りの彼女が教わった事だった
「ヒギャクセイブツ」
それが何を意味する言葉なのかは母子は分からない
だが、「殺してもいい存在」を示す言葉だと彼女たちは解釈していた
だから、人間たちを襲っても殺してもいい
「相手を殺しに来るということは
向こうは相手に殺される覚悟をすでにしている」
だから
お互いに殺される覚悟をし、相手を殺す
それが母クチートのいた世界の掟、血を流すことが当たり前だった彼女の小さな世界で
数少ない機能していた暗黙のルールの一つなのだ

今、母親クチートは別のポケモンと結婚した
新しい父親はペロリームだが、母親タブンネを殺されたことで
人間たちに対して深い憎しみを抱いていた
彼との間にできたいくつもの卵の中には
まだ生まれていない妹弟たちがいる
母親クチートは長女と同じことを妹弟たちにも教えるだろう
これから先、どんどん「ヒギャクセイブツ」は増えていく
森の中から外へ出る日もいつか来る
人間とポケモン
果たしてどちらの「ヒギャクセイブツ」が強いのか・・・
その勝敗の結末を見届けるまでは死ねない
彼女はそう思いながら、今日も明日も
「ヒギャクセイブツ」を虐待する「ヒギャクセイブツ」を襲い続ける

(おわり)

176ヒギャクセイブツの森after 1/4 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2018/08/10(金) 03:44:01 ID:AvO7hgqk0
「けっ!」
男は虐待の末に息絶えたソーナンスに唾を吐きかけ
その遺体を蹴飛ばした
男はポケモンブリーダーだ
しかしその評判は良くはない
平然と人前でポケモンを虐待し、
咎める者には言葉と物理的暴力を見舞った
つい数年前も子ポケモンの目の前で育ての親の雌タブンネを虐待の末に殺した
その子ポケモンはその日以来行方不明だ
そんな男も預かったエーフィを「目が気に入らない」と言う理由で虐待死させ
怒った飼い主に射殺されそうになり、さすがに元いた町から逃げ出した
町の住人は誰もが飼い主に同情し、警察すらこの事件を見て見ぬふりで通したため
男は着のみ着のまま町を離れざるを得なかった
虐待組織のコネで森の近くに新しい店を構え商売を再開したが
時折出かけては捕まえてくるポケモンはどれもレベルが低かった
今死んだソーナンスのように他のトレーナーから盗んだポケモンですら
平和なこの地域では男が望むレベルではない
それより、他人のポケモンを誘拐して殺したのだ
またどこかへ去らなくてはいけない
「てめぇが使えねぇせいだ!!」
男はソーナンスの死体を蹴飛ばすと、引っ越しをいよいよ本気で考え始めた
その時だった、男の住居のインターホンが鳴ったのは
「なんだ? こんな夜中に?」
男はソーナンスの飼い主だったら文句を言ってやろう、
と確実に殺されるだろうことを考えながらドアを開けた

177ヒギャクセイブツの森after 2/4 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2018/08/10(金) 03:45:04 ID:AvO7hgqk0
「コンバンハ〜!」
目の前にいたのは、クチートだった
男は青くなった
知り合いの、ポケモンを殺し合わせるコロシアムの関係者が
野生のクチートの群れに全員殺された事件は記憶に新しい
「夜分遅くすいません」
男は目をクチートの後ろへ向けた
まだ若い、赤いキャップの青年がそこにいた
クチートの飼い主=クチートは例の騒ぎのポケモンではない
と言う図が男の中で組みあがり安心感が生まれる
「ここに、ソーナンスがいると・・・」
同時に、男の中で先のソーナンスへの身勝手な怒りがぶり返した
「はぁ? てめーかよあの使えねぇクズポケの飼い主はぁ!!?」
男は素早く取って返すとソーナンスの死体を引きずり、青年にぶつけた
「ほらよ!今度はもっと使えるポケモンを育てるんだな!!」
青年が何か言うより早く男はドアを閉めてカギをかけた
青年が警察に連絡したら完全にアウトだが、今の男にはそんなことまで頭は回らない
もう寝ようと視線を家の中に向けた時・・・
ニタリと笑うクチートに気が付く
先ほど男が青年に目を向けた隙に屋内に入っていたのだ
1体だけではない、廊下の奥から、寝室から、次々と顔を覗かせている
「アンタ、”ヒギャクセイブツ”ナンダネ?」
「例のクチート」がお決まりのように言っていた言葉を、そいつらは口にした
暗がりで分からなかったが、明るい室内ならはっきりと見える
男の予測を裏付けるようにクチートたちの後頭部の顎は
どれも赤黒く染まっていた
男は慌ててドアに向かったが、ドアは鍵を開けてもびくともしない
向こう側から押さえられているのだ
やがて・・・男は両足に激痛を感じて倒れた
足の腱が両方とも食いちぎられていることを悟った時・・・
クチートの大顎は男の顔へ迫っていた

178ヒギャクセイブツの森after 3/4 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2018/08/10(金) 03:46:35 ID:AvO7hgqk0
「オワッタヨ〜」
ドアの向こうからクチートたちが声で合図した
青年は傍らのペロリームとクチートの夫婦に目くばせする
二人は頷いた
青年はかつて、この地方に蔓延っていたマフィアを退治し
ポケモンリーグを制覇したチャンピオンだ
今は「なんでもや」をしている、主にポケモンがらみの事件の解決が仕事だ
知人からの依頼で「森を拠点にしている凶暴なポケモンの調査と退治」を請け負ったが
長らしきクチートが敗北後、自分の命と引き換えに子供と夫の助命を懇願してきた事で
「訳アリ」と判断し、話をじっくり聞いた
ポケモンたちは基本、「助け合い」だ
敗北しても命まで取られることは、まずない
そして、訳を聞いた彼は依頼を続行することにした
クチートたちを生み出した元凶を消去しない限り何度もこれは繰り返されると判断
彼女たちを情報源として手持ちに加え、リストを作成した
あとは順番に「片づける」だけである
命を奪わず、それどころか手持ちに加えてくれた青年にクチートは初めて心を動かされた
そして自ら青年に一族総出で協力することを約束した
そして・・・今に至る
ついさっき対峙した虐厨ブリーダーはお尋ね者だった
ブリーダーは世間を甘く見すぎだった
人に危害を加えて憚らない害虫を放っておくほど人間は甘くはない
ブリーダーはとっくの昔に指名手配されていた
「生死を問わず」の追加文章が、その罪の重さを物語っている
ただ青年にとって誤算だったのは、ブリーダーが予想以上に頭が悪すぎたことだ
結果としてソーナンスと言う犠牲者を出してしまった
さすがの彼も失われた命を元に戻す術はない
青年はソーナンスの遺体を綺麗に清め手を合わせると、担架へ乗せた
これからこの子の飼い主に遺体を届けなければならない・・・
「アレ」も含めて

179ヒギャクセイブツの森after 4/4 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2018/08/10(金) 03:47:47 ID:AvO7hgqk0
虐厨ブリーダーは目を開けた
自分がまだ生きていることを確認したが、
同時に・・・周囲の怒れる人間たちにも気が付いた
「よくも、オレのソーナンを!!!」
「は? あのクズポケがなんだって?」
本来命乞いをすべき場面で虐厨の性質か彼は最悪の発言を選択した、
そしてその選択肢を選んだ結果はすぐにやってきた
飼い主の男は鉄パイプでブリーダーの右足大腿骨をへし折った
絶叫するより早く、隣の女性から次のバールが飛びブリーダーの左肩を砕く
もはや容赦などない、彼らにとって我が子同然に可愛がっていたソーナンスを誘拐した上
役に立たないという理由で殺したブリーダーは人ですらなかった
すでにクチートによって両足の腱を破壊されているブリーダーに逃げる術はない

ブリーダーが自業自得で最悪の死を迎えつつある一方で
青年はクチート一行とともに再び旅に出ていた
遺族は持ち帰ったのが遺体にも関わらず倍の報酬を青年へ出してくれた
ソーナンスの遺体を持ち帰ってくれた上、犯人を生け捕りにしてくれたことへの謝礼
そして、そいつにこれから加える制裁への口留め料だ
最初は多すぎると断ったが、それにかえって心打たれた遺族たちは
「どうしても」と譲らず、やむなく青年は折れた

数か月後、「恐怖の森」からクチートが一体残らずいなくなったことが明るみに出る
入れ替わりに、クチートの群れを引き連れた
虐待厨に対して容赦ない制裁を与える「なんでもや」のトレーナーの噂が
虐厨たちの間で流れることになる

(終わり)

180行き違いと不幸な事故 1/3 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2018/09/04(火) 22:42:10 ID:rSy89sKo0
「お姉さん、おはよー!」
「・・・ん、おはよ」
胸の上でぴょんぴょん跳ねる大き目のゆっくりまりさに起こされる
彼女は優しくまりさを撫でた
その後、伸びをしながら起き上がり、朝食の準備をする
彼女は訳あって一線を退き、このアパートに住んでいる女性だ
お金は休職前に稼いだものがあった
無趣味だった彼女は生活費以外は貯金していたため
蓄えは豊富にあり生活には困っていない
毎月、休職手当てが銀行口座に転がり込むのもあって
切り崩しても貯金は減ることはなかった

その日も女は、まりさと一緒に外へ出かけた
日課の散歩と・・・公園の遊具を使ったトレーニングのためだ
しかし、その日はいつもと違った
いきなり目の前に武装した虐厨が現れ、銃口を女に向けた
タン!
反応が遅れた、うかつだった、長く修羅場を離れていたせいだ
しかし・・・
どこを撃たれたのかチェックしても、どこも撃たれていない
外したのか・・・そう安心した女性の目の前に
「お・・・ねえ・・・さ・・・」
最悪の現実が横たわっていた
「・・・まりさ・・・?」
まりさの額に穴が開いている、弾は中枢餡を貫き後頭部から抜けていた
「うそ・・・でしょ・・・神様、なんで・・・なんで撃たれたのが私じゃないの!!!」
「大丈夫ですか?」
女性はゆっくり後ろを振り向く
猟銃を手にした虐厨がいた
「いやぁ・・・野良ゆっくりの駆除をしていたんですが・・・
野良じゃないんですか、その糞饅頭は?」
「・・・何言ってんの・・・この子は私の飼いよ!!!」
撃たれた拍子に転がった金バッジを女は拾い上げ、虐厨に見せた

181行き違いと不幸な事故 2/3 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2018/09/04(火) 22:43:47 ID:rSy89sKo0
「そうでしたか・・・」
女性はここで虐厨が普通に謝罪していれば、
少なくともこの場は丸く収めるつもりだった
しかし・・・
「でも通常種だから、慰謝料は1000円でいいですよね」
虐厨が虐厨たる所以か、女性の忍耐を一気に破壊する一言を、そいつは放った
ガッ!!
女性の右手は言葉を発した虐厨の顔面をつかむ
「ぎゃべ!?な・・・なにを・・・」
女性はただ一言言った
「死ね」
グシャ!!
女性は一気に右手を閉じた、必然的に握られていた虐厨の顔面は潰れ、中身が飛び散る
「き・・・貴様!」
他の虐厨が駆け付けてくる
女はまりさにそっと金バッジを取り付けると
猟銃を向けてきたそいつの懐に2歩で踏み込み、顔を潰した虐厨の持っていた猟銃の柄を
その下顎に叩き込んで頭蓋骨そのものを粉砕する
パニックになって猟銃を発射した虐厨には、頭を砕いた虐厨の体を盾にしつつ
そいつの持っていたナイフを投げて額を刺し貫いた
「ほ・・・本部!本部・・・ひぎゃ!」
通信を始めた虐厨を喉を掻っ切って仕留めると、
仲間を見捨ててワゴン車を発進させようとしていた
最後の一人のいるワゴン車の真上に飛び乗り、
助手席側のフロントガラスを猟銃の柄で砕いて車内へ体を滑り込ませる
おびえる生き残りに猟銃を向けて、つぶやくように女は言った
「本部へ案内しろ、この子の件で落とし前を付ける」
こと切れたまりさの遺体を脇にかかえた「鬼」の言葉に
抗う術などあるはずもなかった

182行き違いと不幸な事故 3/3 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2018/09/04(火) 22:44:53 ID:rSy89sKo0
その日・・・虐厨で構成された、自称被虐生物駆除組織「ゆっくりんバスターズ」は壊滅した
前々から飼いゆっくりの捜索依頼で依頼主の飼いゆっくりを虐待死したり、
駆除活動中にたまたま近くを通りかかった散歩中の飼い実装を飼い主もろとも射殺するなど、
目に余る暴挙が山積みだった「ゆっくりんバスターズ」の壊滅は
歓迎の声こそあれど同情の声は無かった
女は警察に自首したが、状況と
日頃「虐待許可証」を盾に横暴を働いていた「ゆっくりんバスターズ」に
警察組織も手を焼いていた事情もあるため、
正当防衛が成立し数十分で女は釈放された

「・・・死のうかな」
誰もいない部屋の隅で、女は膝をかかえていた
目の前には、まりさの遺体の入った白い箱
まりさのいない部屋はあまりにも静かで広かった
「おねーさん、でんわだよ!」
「まりさ!?」
女はまりさの声に反応して顔を上げる
しかし、それはまりさの声ではなく、スマホの着信音だった
生前、まりさにお願いして録音させてもらったのだ
そして・・・電話の相手の名前の表示を見て、女の顔色が変わった
女はスマホを手に取る
「もしもし、私です」
「おお、良かった・・・着信拒否されるか、そのまま切られるかと思ったよ」
「たしかに、以前の私ならそうしていたでしょうね・・・」
電話の相手は、かつての女の雇い主だった
「キミが”ゆっくりんバスターズ”を壊滅させたと聞いてね・・・心底驚いた。」
「ええ、私はもう引退生活のつもりでしたから・・・あいつらが私のまりさを殺すまでは」
女はかつて、虐厨を狩る組織の一員だった
しかしとある事件の解決の際に、生まれたばかりのまりさを保護した
無理やり交尾させられ息絶えた子ゆっくりから生まれた
祝福されない命
自分が孤児院の出身であることと
何時までも終わらない駆除活動に嫌気の刺してきていた彼女は
まりさの保護育成を口実に休職
そのまま一線から退いて裏方に徹するつもりだった
「話と言うのは・・・君にもう一度、働いてもらいたい」
「いいですよ」
「実は後進の育成や増え続ける虐厨の処理に人手が追いつかなくて・・・え?」
「OKだと言ってるんです、ボス・・・私にもう一度、やつらを殺す機会をください」

こうして女は、戦場へと舞い戻った
まりさの金バッジを左胸につけたその女のために
多くの虐厨や虐待組織が潰されていくことになるが・・・
それはまた別の話
(おわり)

183NTRのリスク 1/5 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2018/10/26(金) 23:17:35 ID:MHgk89p60
ブウウウウウンドドドドドド・・・
男は今日も腕の延長戦とも相棒とも言うべき道具を動かす、仕事を達成するために
「お前の言う事は大げさなんだよ」
「たかがXXXを傷つけられた程度でガタガタ言うなw」
「いやなら見るな、どっかいけw」
「小さいことで余計な事せずだまってろ!出なけりゃお前もヤツラの同類だ!!」
「ぷwまだそんな昔のことねちねち根に持ってんの?www」
奴らは反省しない、何をしようと相手が破滅しようと反省しない
周りの無理解な外野も同罪だ
こちらの痛みを、大切な存在が受けた痛みを理解しようともせず
自分のモノサシや価値観だけを押し付ける
何より度し難いのは審判面で訴えを握りつぶす身内のクズだ
文句ですらない説得もまた彼らにとっては「荒らし」でしかない
結果として被害報告はされず被害の全容は今も明らかではない

もうたくさんだ・・・これ以上奪われてなるものか!!

184NTRのリスク 2/5 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2018/10/26(金) 23:19:25 ID:MHgk89p60
「やめてぇ!!」
しゃべるタブンネが一体、両手を天井のフックにつながる縄で縛られ無理やり立たされていた
ここは港に近い倉庫
虐厨3人がその明らかに誰かの手持ちと分かるタブンネを誘拐し嬲っていた
もちろんこれは犯罪ではあるが、彼らは「タブンネはこの扱いこそ本来の姿」と
自分勝手な脳内設定を根拠にしていた
「おい、こいつの鞄に何か入ってるぜ?」
一人がタブンネが持っていた鞄の中から金銭と一緒にピンクのスマホを取り出した
「だめ!それはご主人様の・・・!」
虐厨たちは懇願を無視してスマホを操作した
「はぁ〜いもしもし、この子のご主人様?」
「・・・そうだ、誰だお前は?」
野太い男の声がしたが、彼は構わず続けた
「おたくのタブンネちゃんはオレたちでいただいてま〜すw
悔しかったらここまでおいでwwwwww」
虐厨はあられもない姿のタブンネを写メにとって飼い主のスマホへ送信した
「・・・・・・・」
「いやぁ黙っちゃったねw見捨てられちゃったのかなwww」
「そ、そんな・・・」
虐厨たちは、スマホの向こうでする車両の音と同じものが
倉庫に接近していることに、この時点で気づいていなかった
その音が倉庫のすぐ外で止まったことも気づかず
「さぁてw所有権を放棄された豚を解体するとしますかwww」
男たちがナイフを取り出した時
「待たせたな」
あの野太い声がスマホの向こうと板一枚隔てた倉庫の外から響いた
ゴンゴン!ゴド!!
同時に、倉庫の裏口の方から何やら大きな音がした
「なんだ?」
訝し気に一人が裏口に向かう
「あれ? 開かないぞ?」
裏口の扉は力任せに引っ張ってもビクともしなくなっていた
そして、彼らが入ってきた出入口の方にも同様の音が響く
「・・・・・おい」
「だめだ!くそ!閉じ込められた!!」
男たちは青くなった
このタブンネの飼い主が彼らを閉じ込める理由と言えば
警察へ突き出すために、確実に逮捕してもらうためにそうしたとしか思えない
彼らは違法行為は平気でやるものの、いざ警察を前にすると萎縮していた
しかしすでに顔写真公開の全国指名手配がされているということを
彼らはその疎さゆえに気づいていない

185NTRのリスク 3/5 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2018/10/26(金) 23:20:33 ID:MHgk89p60
「・・・おい、なんか音しないか?」
ブゥゥゥン…という低い音がした、まるでエンジンのような・・・
それは、通話しっぱなしのタブンネのスマホとすぐ外からだった
連動している音に男たちは顔を見合わせた
やがて、破壊音とともに表出入口の右側から何かが飛び出す
チェンソーの刃だ
突然の事態に、虐厨たちはただ呆気にとられてその破壊活動を見つめていた
刃は徐々に壁を切っていき、やがてドアの隣に
直径2m以上ある大きさの面積の円を切って引っ込む
バタン!と音を立てて壁が内側へ倒れた
外にいたのは、ピエロマスクを被った青いつなぎの筋骨隆々とした大男だ
「チェンソーピエロ・・・?」
巷を騒がせている、虐厨専門の殺人鬼の名前を一人がつぶやいた
「ご主人様!!」
タブンネが嬉しそうな声を出し、マスクの男が頷いたことで
虐厨たちは自分たちが何をしたのかを理解した
殺人鬼相手に言い訳すら聞かない程度に
過激な挑発をしたことを
命と引き換えの喧嘩を売ってしまったことを
チェンソーピエロはゆっくりと歩いて接近する
一歩一歩歩くごとに重量感のある足音が倉庫の中に響いた
タブンネを人質に脅すか、武器を捨てて命乞いするか、
隙をついて逃げるか・・・
3人はそれぞれ全員がバラバラの行動に出た
「おい!コイツの命が惜しあああああああああ!!!?」
タブンネにナイフを突きつけた男は
次の瞬間には急加速して接近したチェンソーピエロに突き飛ばされる
その隙にチェンソーピエロの脇を走り抜けようとした男は・・・
「いでぇ!!」
転倒した、立ち上がろうとしてさらに激痛に襲われ気づく
足首から先の感覚がないことに
「いぎゃああああああああああああ!!!!!」
彼の両足首はすれ違いざまに切断され、血液が切断面から噴き出していた
そいつを一瞥すらせずチェンソーピエロは、
たった今突き飛ばした男の両足を右足で踏みつける
「やめてたずげでゆるじぎゅああああああああああああ!!!!!!」
チェンソーを勢いよくその足の間に入れ、コンクリートの地面を切り裂きながら
ゆっくりと股間から腹へ、腹から胸へ刃を進めた

186NTRのリスク 4/5 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2018/10/26(金) 23:22:52 ID:MHgk89p60
「ひ、ひぃひぃ・・・ご、ごべんなざい・・・」
無事だった最後の一人は、生きたまま真っ二つに切断された仲間を見ながら
失禁しナイフを床に放り捨てて土下座した
「・・・・・・・・・・・」
エンジン音が止まる、効果ありと見た男は続けた
「あなたの手持ちだと知らなかったんです!!許してください!!
なんでも・・・何でもします!!」
「・・・なんでも・・・?」
チェンソーピエロは声を出して問い返した
「は、はい!!金でもポケモンでもなんでも差し上げます!!」
チェンソーピエロはゆっくりとひれ伏す男へ近づいた
その足がすぐ近くで止まる
「なんでも・・・だな? オレが欲しいものを・・・」
確認するように、チェンソーピエロは再度問いかけた
「はい!なんでも・・・」
助かった・・・! そう確信し顔を上げた男の顔面に、
ついさっき男が捨てたばかりの彼自身のナイフが突き立てられた
頭蓋骨などまるで苦にならないかのようにそれは男の両目の間に刺さり
後頭部へと貫通する
チェンソーピエロは約束を破ったわけではない
言われたとおりに欲しいもの---虐厨の命を貰っただけだ
その許可は奇しくも当の虐厨本人が出した
チェンソーピエロにとって何の不思議もない、異常行為ですらない
ごく当たり前の行動
「・・・・・・」
チェンソーピエロは最後の一人に目を向けた
そいつは両足首のあったところから大量の血を流しながら
チェンソーピエロの開けた穴へと這って行っていた
「ひぃ!!」
振り返った男とチェンソーピエロのマスクの中の目が合った
男は必死で、しかしチェンソーピエロからすればカタツムリより遅い速度で
這って進む
しかし、チェンソーピエロはそいつを放置してタブンネの拘束を解除した
「ご主人様、あいつ・・・」
「あれはいい、じきに死ぬ」
チェンソーピエロがいうのと同時に、最後の一人は穴から出たところで動かなくなった
止血もせずに強引に動いたせいで致死量の出血をしたのだ

187NTRのリスク 5/5 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2018/10/26(金) 23:25:27 ID:MHgk89p60
「帰るぞ」
チェンソーピエロは軽々とタブンネを抱えると倉庫から出て行った
中には二つ、外には一つ
虐厨の死骸がそこに残るのみだ
チェンソーピエロがどうやって倉庫を見つけたのか
何のことはない、タブンネに持たせたスマホにはGPS機能があり、
チェンソーピエロ自身のスマホにその居場所を常に発信していた
電源を切ってもGPSは別機能として作動し続ける
たとえスマホを壊されたとしてもGPSが最後に信号を出した場所は
チェンソーピエロのスマホに記録される
つまり、タブンネに手を出した時点で居場所を特定され殴り込まれるのは
時間の問題だったのだ
あとは「仕事」と同じである
もう10分もすれば倉庫には仲間の「処理屋」が来るだろう
タブンネを誘拐した3人は跡形もなくこの世からいなくなるのだ

ポケモンセンターの帰り道
安心したのか助手席で寝息を立てるタブンネを男は赤信号で停止中
虐厨どもに向けたのとは全く真逆の慈愛に満ちた目で見た
かつて彼が姉のように慕っていた亡き両親の手持ちのタブンネの娘
少年だった彼を庇い死んでいった
周囲のクズどもに殺された、哀れな姉の忘れ形見で妹のような存在
パーキングエリアのポケモンセンターで治療を受けたおかげで
彼女は後遺症もなく完治しそうだ
ピピピピピピ・・・
男の運転席のドアポケットのスマホから着信音
男のものではない、さきほどの虐厨どもから奪ったものだ
何のためにかと言うと・・・・
「おい!愛護派の町を襲撃するってのに今どこにいるんだよ!?」
通話ONにしたスマホから聞こえてきた声に男は仕事モードに切り替わる
男のスマホにある追跡アプリと同じものをついさっきインストールしたため
声の主がいる場所は男に筒抜けだ
男はトラックの進路を自宅からそちらに変更した
念のため仲間の「駆除屋」にも連絡を入れよう
害虫を一匹も逃さないために

(おわり)

188議論が終焉した世界での対策 1/4 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2018/12/27(木) 19:05:00 ID:ypebaDNI0
「なぁ・・・」
「ん・・・?」
二人の男が河原で転がっていた
彼らは虐厨と呼ばれる種族で、人に似るが人ではない
そして「被虐生物」やそれを保護する人々に襲い掛かる存在だ
彼らには法律など、ルールなど盾にもならないが
法律やルールを自分の身を守る盾にすることはあった
しかし・・・
ここ最近はそううまくもいかない
理由は簡単、「学習」されたのだ
「愛護」と侮っていた「被虐生物の保護者」たちは
ルールや警察に頼らず、己で自立を始めた
自分とパートナーを守れるに足るまで鍛え上げ、
もしくはポケモン修行をして強力なパートナーと共にいた
その結果
「幼稚園児を襲ったら傍にいたリザードンに黒焦げにされた」などという報告が
虐厨たちの本部に後を絶たなくなった
肝心のタブンネ狩りは今や完全に廃れていた
タブンネを持つトレーナーたちは過去の恨みを
先達が受けた屈辱を忘れてはいない
不意打ちをした虐厨がその場で3つに分割された、
あるいは襲撃部隊が返り討ちにされ
逃げた生き残りが追跡されて支部ごと黒焦げにされた・・・など
彼らの虐厨への対応は苛烈を極めていた
「タブンネ持ちに手を出す」「タブンネ狩り」は
今となっては「自殺」と同意義となっていた

189議論が終焉した世界での対策 2/4 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2018/12/27(木) 19:05:43 ID:ypebaDNI0
河原で転がる二人も、ついさっきタブンネ持ちに手を出したばかりだ
トレーナーが幼稚園に通う幼女だから大丈夫だろうと
たかを括ったのが運の尽きだった
防犯ブザーを引かれて駆けつけたトレーナーたちに囲まれ
あっという間に袋叩きである
「愛護め・・・昔と違って手ごわくなったぜ・・・」
自分たちのしたことが世間一般の常識に照らし合わせても
「犯罪」であることに思い至るほどの知能は彼らにはない
大の大人が幼い児童を下卑た顔して取り囲んでいる時点で
第三者から見れば「よからぬことを企むクズ」とみられるのは当たり前である
そんな彼らのスマホへラインメッセージが届いた
「イーブイ肉が発売だってよ」
「マジか」
「ヒャッハー!!」
二人は顔を見合わせた
そうだ、何も被虐対象はタブンネだけではない
イーブイもまた被虐生物だ
「イーブイを持ってるトレーナーか・・・」
決意して彼らは獲物を探し始めた
そして一週間が経過した
「誰もいないじゃねぇか!!!」
とうとうキレた虐一はバールを地面に叩きつけて怒鳴った
彼らの住む地域にはイーブイを持つトレーナーなどいない
全員がブースターやニンフィアなどの
強力なポケモンに進化していた
かといって野生のイーブイに手を出す勇気は彼らにはない
子熊の傍に親熊が常にいるように
イーブイの傍には「両親」が必ず近くにいた
以前にもイーブイを蹴飛ばした虐厨が
ブースターとサンダースに波状攻撃をされ
すっかり炭になって転がったのを発見されたことがあった
「・・・あそこに、行くか」

190議論が終焉した世界での対策 3/4 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2018/12/27(木) 19:07:24 ID:ypebaDNI0
「この先、GOの世界」
「暴力お断り」
そんな看板がずらりと並ぶゲートの前に二人は来た
「少し遠かったが、来てみるもんだな」
ゲートの向こうにはイーブイやピカチュウと戯れる愛護でいっぱいだ
「違反者は問答無用で消去します」
という看板を無視した二人は舌なめずりをしてゲートへ入り
「待ちなさい」
窓口の守衛に止められた
この先のGO世界の説明を延々とされた上に
入る目的や手にしてるバールや銃、ヘルメットなどの
所持理由を散々聞かれた上に
「誓約書」までサインさせられた
武装はあくまで自衛のためであること等を告げ
「誓約書」をろくに読まずにサインして通る

二人の目の前はまさに「楽園」が広がっていた
これから、ここが地獄と化すのだ
「我慢できねぇ!ヒャッハー!!」
「ちょっとなによこいつ!!?」
とっさに手持ちのイーブイを庇った少女が頭にバールを受けて倒れる
「邪魔すんなアイゴ!!」
少女の腹ごとイーブイを蹴飛ばし、
駆け寄ってきた少年と肩のイーブイへバールを振りかぶる
タタタタタタタタタ!!!!
次の瞬間、虐厨は全身を穴だらけにして倒れた
「キミ!大丈夫か!?」
「ったく、守衛の奴こんなの通すなよな・・・」
生き残ったもう一人は、相棒の死骸と
駆けつけた完全武装の男たちを交互に見た
男たちは少女の手当てをし、
「もう大丈夫だ」と少年に声をかけている
虐厨らがよく読まずにサインした誓約書には
「暴力行為は一切禁止
人にもポケモンにも危害を加えない事
上記を破った者は問答無用で消去します」
という文面がきちんと書かれていたのだが
ろくに読んでない彼は
何が起きたのかまだ把握できていない
とりあえずその場を離れようとした時
「動くな」
すぐ背後から声をかけられた
背中に硬い、銃口を感じて武器を落とし手を上げる
「案内してもらう、一緒に来い」

191議論が終焉した世界での対策 4/4 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2018/12/27(木) 19:09:47 ID:ypebaDNI0
生き残り虐厨は、元来た道を引き返していた
ただ違うのは、背後から銃口を突き付けられていることだ
足音からして、来ているのは一人二人ではない
ゲートの向こうで解放されるだろうと思っていたが
彼らはゲートを抜けてからもまだ
生き残りについてきていた
やがて、虐厨の所属支部へたどり着く
「すいません、お聞きしますが」
隊長と思しき男が支部の窓口に駆け寄る
生き残りは「しめた!」と思った
愛護は愛護だ
自分を返した上で謝罪と賠償を要求するつもりだろう
だが、愛護に屈するほど虐厨は臆病じゃない
それより今回のことであの世界へ攻め込む口実ができた
仲間を集めて今度こそ荒らし潰してやろう
と、自分の方から手を出したにもかかわらず
生き残り虐厨は輝ける未来を妄想した
タン!!
しかし、それは銃声で砕かれる
顔を出した受付を、隊長は射殺した
死体を引きずり出して代わりに入り込み、
ゲートを大きく開く
生き残りを小突きながら部隊はゲートの中へ入り
全員が入ったところでゲートを固く閉ざした
「全ゲート封鎖完了だ! はじめ!!」
隊長をその場に残して部隊は散開した
数秒しないうちに銃声と悲鳴が支部から聞こえ始める
時折、爆発音がし炎がそこかしこで上がった
「お、おい・・・なにしてるんだ?」
「駆除だ」
隊長はさらりと言った
「駆除って・・・」
「害虫は巣ごと駆除するのが手っ取り早いだろ?」
言いながら受付にあった支部の地図を広げる
「A班、クリア!」
「B班、クリア!」
「C班、かたづけたぜ!!」
部下からの報告を受けながら、地図に赤いXを書き込む
すべての区域がXで覆われた時、
「よし、戻れ!」
撤退の命令を彼は出した

これで終ったと生き残りは思ったが・・・
戻ってきた部下たちは何やら作業を始めた
大きな塊を出して支部の中や外壁などに取り付け、
油臭い液体を撒き、赤く長いリード線を塊につなげて
それをまた隊長の傍にある装置へつなげていた
「何をする気だよ?」
「言っただろう、巣ごと駆除する、と」
隊長は生き残り虐厨を殴り飛ばすとその四肢の関節を外した
悲鳴を無視して部下が仕掛けた装置だらけの支部の中へ放り込む
支部の中にはあちこちに虐厨の死体が転がっていた
床は血と液体でまみれ
壁にも柱にも「塊」が張り付けてある
彼は近くで見て、やっとその「塊」が高性能爆薬であることに気付いた
慌てて支部の外へ這い出そうとする彼の目の前で無情にも扉は閉じられた

「きっちり3分、いつも通りだな」
大爆発を起こし炎を上げながら崩壊する虐厨支部を見ながら
隊長はつぶやいた
彼らは痕跡を消去すると「GOの世界」へ帰還した
この支部の再建は不可能だろう
datの海を探してもその痕跡すら残らない
それが彼らの仕事だからだ

長年の虐厨たちの活動は、彼らに対する寛容さも奪ってしまった
度重なる話し合いの誘いの門前払い
追い詰められた人々の訴えの妨害工作を重ねた結果
彼らが気付かぬうちに、危害を加えられる側の対応は先鋭化したのだ
今ではもう「手を出されたら即駆除すべし」が基本となっている
しかし生き残りを全く許さない対応のため
自分たちが今どういう現状に置かれているのか
当の虐厨たちは全く知る由もない

(おわり)

192腐った果実の実る町 1/2 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2018/12/27(木) 19:31:58 ID:ypebaDNI0
ぷらぷら ぷらぷら
電信柱の上で
木の枝の先で
奇妙な果実が実っていた
誰も収穫する者がなく
ただ腐り果てるに任せるソレ
しかし人々はそれを遠巻きに見ながらも
ある者は無関心で
ある者は憎悪のこもった目で
ソレを見ていた

「じゃあ、10分くらい待っててね」
ここはスーパーの駐車場のペットコーナー
ちょうど空いている時間で
一人の少女が「チュンチュン」という鳥のような生物を
綱でつないで置いていた
綱は十分な長さで、その先は止まり木状の遊具につながっている
「なるべく早くかえってきてね」
少女は可愛いパートナーに手を振りスーパーの店舗に消えた
10分後
「いやあああああああああああああああああ!!!!」
チュンチュンは無残な姿で
スーパーの敷地内の木に吊るされていた
犯人の虐厨は、ちょうど背を向けて帰るところだった
少女がスーパーに入って3分後、
虐厨がやってきて虐待を始めたのだ
そして、今に至る

「どうしました・・・あ!!」
「そこの君!何か見なかったか!?」
悲鳴を聞いて駆け付けた店員と警備員は
少女と、悲鳴を聞いて思わず振り返った虐厨に向かう
「チュンちゃんが・・・わたしの・・・」
「へwあんなとこに繋げるからだよwwwwww」
その一言に少女は初めて虐厨の方を見る
「あなたが、やったの?」
「は?wwwオレがあのチュンチュンを殺した証拠でもあるのかよ?wwwww」
「じゃあ、どうしてお前はあのチュンチュンが
ペットスペースに繋がれていたことを知ってるんだ?」
腕組みをして訪ねる警備員に、虐厨は舌を出した
「いけねw」

193腐った果実の実る町 2/2 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2018/12/27(木) 19:32:32 ID:ypebaDNI0
警備員は首を振った
「一緒に来てもらうぞ」
「いいぜwwwどうせ器物破損なんて大したことねぇからなwwwwww」
虐厨がそう言い放った次の瞬間
その首に鎖が巻き付き、一気に締め上げる
「死ねぇ!!!!!」
鬼の形相で少女は虐厨の首をきつく圧迫し始めた
背後からの鎖に、虐厨は手足をばたつかせる以外何もできない
尿が足元を濡らし、やがて虐厨は動かなくなった
少女は鎖を放り捨てるとスーパーへ駆け込み
10mはあるロープを買って出てくる
そして虐厨の首にそれを巻き付けると木の上によじ登った
「ごめんね」
愛するチュンチュンの亡骸を回収し、
枝を挟んで登ってきたのとは反対側に飛び降りた
「ぐええええええええ!!!!?」
ちょうど気絶から目を覚ました虐厨は、
今度は首のロープに締め上げられる
そしてそれは虐厨を後ろに引っ張っていき、
やがてその体が宙へ浮いた
虐厨の背後では少女がロープによじ登って体重をかけている
少女だけではない、店員も警備員も加わっていた
虐厨の体が十分な高さに浮き上がり足が届かないのを見ると
警備員はロープを少女と共に手にしたまま踏ん張り
店員は木の幹にロープを巻き付けて固定した
やがて、虐厨は苦しみぬいた末に絶命した

「申し訳ありません!!」
虐厨を始末した後、店長が出てきた
店長は少女に平謝りに謝った
「当店の敷地内に害虫の侵入を許した上に
ペットスペースでのこの失態、言い訳もできません!!」
「いいですよ・・・あの子を一人にしてしまった
私も悪いんですから・・・」
虐厨の死体を他所に、両者の話し合いは進められる
話し合いが終わり、事が示談で済んだ後も
出来立ての「果実」は木の上で揺れていた

この日、町にまた一つ
「腐った果実」が実った
誰も収穫する者がなく
ただ腐り果てるに任せるソレ
しかし人々はそれを遠巻きに見ながらも
ある者は無関心で
ある者は憎悪のこもった目で
ソレを見ていた
(おわり)

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196神の賽子のままに 1/5 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2019/01/22(火) 19:28:44 ID:w8V2t.FE0
その男は、人でありながら妖怪になった
その男は人に危害を加えず静かに生きようとした
だが、「巫女」に退治された
何がいけなかったのか、残った思念は考えた
彼は時々見かける「ゆっくり」を見て思いついた
自分でもわからないなら、この仕掛けを使って
妖怪でも人間でもない存在に任せよう
すべてを神に委ねようと決意し、残る力で「外」へ転生した


「ゆっくりしていってね!!」
誤作は目の前のゆっくりをマジマジと見た
見たこともない、新種だ
「えきしゃは”えきしゃ”だよ、よろしく!!」
潰そうと思ったが、その前にふと
以前、ゆっくりもこうを潰した男が
後日、復活したもこうとその群れに村ごと襲われた話を
思い出して踏みとどまる
ゆっくりの特殊能力は侮れない
「お前は何ができるんだ?」
とりあえず聞いてみた
「えきしゃは占いができるよ!」
「じゃあ、オレのなくした財布の場所を教えろ」
えきしゃは口から八卦図を出し、考え出す
「お兄さんのお財布は、あっちの横穴の中だよ!!」
それは、すぐ目の前の段差の側面にある穴だ
「へびがいるからきをつけてね!」
忠告の通り、枝を持って突っ込む
「うわぁ!?」
太く長いマムシが枝に絡まって出てきた
うっかり腕を突っ込んでいたら命はなかっただろう
マムシを枝ごと遠くに放り捨て、再び別の枝で穴の中を探る
布のような手ごたえがした
引っ張り出すと・・・・・
先月落っことした財布が出てきた
中身も無事だ
「じゃあ、”えきしゃ”に用があったらまた言ってね!」
「えきしゃ」はそう言うと山の中へはねて消えていった

197神の賽子のままに 2/5 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2019/01/22(火) 19:29:23 ID:w8V2t.FE0
占いをするゆっくりのうわさは国中に広まり
殿さまの耳にも入るようになった
虐厨の殿様はお供を連れて「えきしゃ」の駆除に乗り出した
理由はない
強いて言えば「珍しいゆっくりを虐待したかった」からだ
「残念だったな!ヒギャクセイブツのてめーらにそんな権利ねーよ!!」
誰にも危害を加えない、静かに暮らすと言った えきしゃへ、殿様は言い放った
刀で一刀両断され
断末魔を残し新ゆっくり「えきじゃ」は消滅した
文字通り、霧のように

それから一年後、山に出かけた者が行方不明になる事件が
続発するようになった
しかし、山での遭難は珍しくもなく
誰もがただの遭難、あるいは熊や狼による獣害
もしくは盗賊か野盗の仕業と思っていた
そんなある日・・・・・
国の端っこの農村で地揺れが起きた
ただの地震と思い誰もが表に出た次の瞬間
轟音と共に左右の山が崩れ、村は生き埋めになった
山に狩りに行った者も崩壊に巻き込まれた
川へ漁に行った者には土石流が襲い掛かった
唯一、たまたま隣の村に出掛けていた青年・誤作だけが助かった
誤作が村に帰る直前
目の前で山は崩壊し、家族や友人の待つ村を飲み込んでいった
「あれは・・・・・・?」
誤作は左右の山の頂上から紫色の煙が昇るのを見た気がした
「誤作どん!!!」
隣村の友人の伍平が駆けつける
「こ、これは・・・・・山が、なくなっちまってるだ・・・・・」
伍平は目の前の光景に戦慄した
ひとまず誤作をなぐさめ自分の村に誘おうと声をかけた次の瞬間
伍平の来た方角から巨大な火柱が上がった
「!?オラさ村が方角だ!!!」
と、いうのは
突然の地震の後、誤作の身を案じて伍平が村を飛び出していった直後、
村の井戸の水は使えなくなった
干上がったのではない、油が浮いてきたのだ
油は井戸だけではなく、畑にも田んぼにも浮いて出た
不運にも、畑仕事に出ている人々がいた
そして彼らの鍬が畑の中の石に当たり火花を散らした次の瞬間
火花は油=湧いて出た原油に着火した
目に見えている液体だけでなく、すでに気化した燃料で満ちていた木造の村は
たちまち1000度を超す炎と熱に包まれたのだ
村の生存者は、伍平だけだった

198神の賽子のままに 3/5 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2019/01/22(火) 19:30:30 ID:w8V2t.FE0
この悲劇の後も国中で異変は相次いだ
突然地盤が崩れ村ごと深い割れ目に飲まれたり
落雷で起きた山火事が強風で麓の里まで火の壁となって押し寄せたり
また、突然村の中心に噴火口ができ隣の村まで溶岩に飲まれるといった具合だ

「祟りじゃないか?」
城の侍の誰かが口にした
思い出すのは、一年以上前に殺した「えきしゃ」とかいう新種ゆっくりだ
ゆっくりの中には特殊能力を持つものもある
人間に無害なものだけではない、人間をあっさり殺すことが可能なものや
中には村どころか国一つ滅亡に追いやりかねないものまで様々だった
「えきしゃ」の能力は「占う程度の能力」だと思っていた
しかし、もしそれが「本来の能力の延長線」にすぎないとしたら?
「陰陽術」、朝廷に仕えている陰陽師たちが会得している特殊な能力だ
中には「天気予報」「占い」そして「呪詛」などがある
「えきしゃ」が「陰陽術」を使えるゆっくりとしたらあり得る
そして「術者が死んだ後に発動する報復の呪詛」は確かに存在する
殿はすぐさま「えきしゃ」の死体、もしくは霊魂の捜索を命じた
弔い封じる以外にこの異変を止める術はないと思ったからだ

「えきしゃ、いるなら出てこい!!」
陰陽術に長ける虐厨侍は一年前に殿と共に出かけた場所で叫んだ
「えきしゃは、ここにいるよ」
あっさりと、探していた相手は出てきた
「ここ最近の異変はお前の仕業か?
「そうだね、えきしゃのしわざだよ
危害を加えない、は”前のえきしゃ”の使命だけど
えきしゃは人間さんたちに危害を加えなきゃいけない使命にあるんだよ」
えきしゃは、あっさりと認めた
しかしその言葉には違和感があった
「お前は殺された”えきしゃ”とは別の個体なのか?」
「ちがうよ、同じ”えきしゃ”だよ、でも”使命”は違うよ」
どうやら「えきしゃ」は「使命」という目的に沿って生きているようだ
そしてそれは、一度死ぬとリセットされる
だから今の えきしゃの目的は「人間たちに危害を加えること」
次にどうなるかは えきしゃ自身にも分からない
少なくとも今より悪くはならないだろう
そう考えた一行は えきしゃを潰した
そしてその場に要石を置き、祀り上げた
「えきしゃ」が退治されてから、異変は収まった
しかし国土も人口も半分以上に減少してしまった
さらに、行方不明者はまだ見つかっていない
それどころか、そちらの方はまだ収まっていなかった
捜索に行った者たちもまた行方知れずになるのだ
だが少なくとも天変地異が収まったことで
人々は元の生活に戻ろうとした

199神の賽子のままに 4/5 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2019/01/22(火) 19:31:22 ID:w8V2t.FE0
それから半年後、異変は突如起きた
「こらぁ!!!」
伍平は誤作と共に新しく住み着いた別の村で百姓生活に戻っていた
ある日、畑を荒らす5匹のゆっくりたちに遭遇し怒声を上げた
しかし・・・彼女たちは意に介さず野菜を貪り続けていた
「なめるな!!」
伍平はゆっくりれいむに鍬を振り下ろした
あっさりと れいむは潰れた
しかし、ゆっくりたちは意に介さず食事を続ける
まるで、そんなもの意味はないと言いたげに
伍平は湧き上がる気味悪さを押し殺すように鍬を振るった
3匹目を潰したところで
ふと、伍平は異常さに気付く
目の前のゆっくりはせいぜい5匹だ
しかし、広い面積の村の畑はほぼ食い尽くされていた
目の前の5匹だけならありえない量だ
そして・・・「5匹いる」という事実に戦慄した
3匹潰したはずなのに、2匹ではなくまだ5匹いる
よくよく見れば、潰したはずのゆっくりたちが
何事もなかったかのように食事をしていた
「れいむたちは死なないよ、だって・・・」
「「「おまえにすでにころされてるからね!!!」」」
彼は思い出した
村に来た当時、村長に周囲のゆっくりの調査を依頼されたことを
「村の畑には手を出さない」「そんなことするのは悪いゆっくり」
そう言ったれいむたちだが
「今はそうでも将来手を出すかもしれない」と
伍平は一蹴し、群れを全滅させたのだ
「まりさたちは、畑に、お野菜さんに手を出さなかったから殺されたんだぜ」
「だから、畑に手を出してお野菜さんをむしゃむしゃするの」
「そうして欲しかったんでしょ? 理解したからあっち行ってね!」
伍平は大慌てで村長に報告に走る以外、なかった
最初は半信半疑だった村長も、伍平のただならぬ様子から
直接現場を見に出掛け・・・腰を抜かした
5匹どころじゃない
畑を埋め尽くさんばかりのゆっくりがそこにひしめいていた
そいつらは、畑の隣にある鶏小屋を破壊していた
鶏の断末魔で何が起きているのか村長は悟った
畑はもう野菜などない、だから鶏を襲ったのだ
だが、その次は・・・?
「たりない」「おなかすくね」「でもたべるものはもうないぜ」
そんな会話をしていた
村長は這いながらそっと離れる
「おい、まだ食べるものがあっちにあるのぜ」
それが自分にかけられた言葉かどうか確認する勇気は彼にはない
老齢の杖を突いて歩くはずの彼は
両足で立って全力疾走した
家に帰り人をやって村中に伝令する
畑の方の出入口は野武士や盗賊用のバリケードで塞がれた
最初こそ半信半疑で出立の準備をしていた人々だが・・・
どん!!どん!!!
バリケードを壊さぬばかりの打撃と
「おなかすいたのぜ!」「死んじゃうよ!」「早く食べられてね!!」
今まで聞いたことのない、おどろおどろしい声に
事態を悟った
村人たちは最小限の荷物をまとめ我先に村から出て行った
村を見下ろす小高い丘の上に一行がたどり着いたとき
村の中は、ゆっくりが跳ね回っていた
バリケードが破られたのだ
しかもゆっくりたちは
ただうろうろしているのではない
残された食料を貪り食い
家屋を体当たりで壊している
自分たちを探しているのだと村人たちは悟り恐怖した
残された家畜たちの小屋が襲われ、悲痛な叫びが断末魔が響き渡る
生まれて初めて、人々は「ゆっくり」に恐怖した

200神の賽子のままに 5/5 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2019/01/22(火) 19:32:04 ID:w8V2t.FE0
別の村では、ドスまりさが暴れていた
彼女はかつて村の傍の山のゆっくりたちのリーダーだった
しかし村の虐厨が相互不可侵のルールを破り山狩りを勝手に行った
ドスまりさは直訴に向かった
生き残りを逃がし、向かってくる虐厨を跳ね飛ばし村に入る
しかし、その村の村長は「村人を傷つけた」という理由で
ルールを破った虐厨を軽い罰で済ました上に
生き残りを皆殺しにした
ドスは一番最後に殺された
そのはずだった
村長は目の前の光景が信じられない
しかし、一人、また一人と村人がその巨体で潰され
ドスパークで人の形の炭へと変わる
村人が逃げ込んだ家は火に包まれ、火だるまの人が転げ出て動かなくなる
しかし、ドスは村長が目に入らないのか無視して他の村人を攻撃していた
「お前を殺すのは一番最後じゃよ」
かつてドスに言い放った言葉を思い出した村長は
村人たちを見捨て一人だけ逃げようとした
が、村人を殺し尽くしたドスのドスパークを背後から受け
村の出口から少し離れたところで骨と化して転がった

城は、陥落しかけていた
国外の敵に攻め込まれたのではない
国内の敵に、正確には「敵と認定されたかつての民に」だ
「よおおおくもおおお!!やくそくをやぶってかぞくをころしたなぁあああ!!」
「お前も苦しめ!!しねえええええ!!!」
殿が「駆除」した「愛護」たちが攻め込んでいた
城の兵士は困惑した
相手は切っても突いても撃っても死なないのだ
それどころか時間が過ぎるにつれてその数はどんどん増えていく
「大変です!火薬庫に・・・!」
殿のもとに伝令が来て伝達をしようとした直後
城は火薬庫の爆発で跡形もなく吹き飛んだ
しかしよみがえった死人たちは死なない
彼らは次の標的を求め、城下町へ向かって行った

えきしゃは滅びゆく虐厨の国を山の上から眺めていた
新しく生まれ変わった時、「使命」もまた変更された
ルールは簡単
「使命のままに生きるべし」
「使命はその都度ランダムで変更される」
「ただし一度選ばれた使命は二度と選択されない」
この3つだ
今の彼の使命は
「無念の内に死んだ死人の好きにさせよ」だった
えきしゃはどうして自分がこんな生き方をするのか分からない
もっと平和的な考えをしていたと思う
だが、どうしてか今はもう忘れてしまった
えきしゃは死者だらけの国と化した国を去った

彼の行方は誰も知らない

(おわり)

201神の賽子のままに おまけ 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2019/01/22(火) 19:33:12 ID:w8V2t.FE0
「な、なんじゃこりゃ!!!?」
行方不明者を特に多く出している山へ捜索に来た村の男たちは目の前の光景に戦慄した
かつてゆっくりの巣になっているとされていた洞窟の中
彼女らが一斉駆除で全滅し今は別のゆっくりが占拠しているそこは
地獄だった
あちこちに人骨が散らばり、乾いた血が壁にも天井にも地面にもこびりついている
人骨はどれも損傷が激しかった、頭蓋骨などは完全に砕かれ影も形もない
「骨を壊して中身を食った」のだと理解するのにだいぶかかった
同時に、人骨がここに大量にある理由も理解した
ここのゆっくりは、人を食うのだ
恐らく今までの行方不明者たちは、目の前のソレだろう
だが、今までこんなことはなかった
「ゆっくり」は野菜に手を出す個体こそいたが人間に手を出す奴はいなかった
駆除の時もただ逃げ回り命乞いをするだけだった
しかし夢ではない現実が目の前に広がっている
急いで帰り報告しようと最後尾の男は後ろを振り向いた
その目の前に、たくさんのゆっくりがいた
「ゆっくりしていってね!!」というお決まりのセリフはない
当然である
その挨拶は同胞か見知らぬ種族相手に行うものだ
これから狩る獲物にわざわざ挨拶をする奴はいない
そして彼女らの目は彼らの知るゆっくりのものではない
獲物を狩る狼や熊のそれだ
思わず後ずさりした男の真上から、何かが落ちてきた
それが天井に張り付いていたふらんであると知る前に
男の首は食いちぎられて血しぶきが散る
それを合図に洞窟の入り口、天井、奥の方から
次々とゆっくりが一行に襲い掛かった
こうして、「行方不明」はまた増えた

彼女らは「えきしゃ」とは関係ない
生きているゆっくりたちだ
だが、苛烈な迫害を受けて彼女たちは変わった
畑を荒らさなくても殺される
山奥に隠れ住んでも探し出されて殺される
そして人間に貢献してきたはずの「えきしゃ」の死が
決定打となった
人間との共存は不可能
人間と敵対する以外に生きる道はない
彼女たちはそう結論を出した
だから、山に入ってきた人間を積極的に襲った
最初は撃退できればそれでよかった
人間を殺せるなど、想定すらしていない抵抗だった
ところが・・・
襲った人間は、あっけなく死んだ
後ろに倒れた拍子に頭を石で割り、死んだ
「人間は殺せない」
今までの前提条件は消失した
自分たちでも人間を殺せる
ゆっくりたち全員の認識が変化するのに時間はかからなかった
徒党を組んで山狩りをする人間はともかく
単独で、あるいは2,3人で山に入る人間など
ゆっくりでも簡単に狩れた
いずれ来るだろう山狩りにも備えた
徒党を組み武装した人間たちが入ると
偵察の ふらんやもこうが空の上から見て知らせる
あとは身を隠し洞窟という「狩場」に入るのを待つだけだ
洞窟の中なら彼女たちの独壇場である
隠れる場所も死角も知り尽くしている

人間を獲物とした狩りを行うゆっくり
彼女たちの活動は徐々に広がっていくことになるが・・・
それはまた別の話である

(おわり)

202新入社員「虐厨」 1/5 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2019/03/10(日) 13:38:41 ID:2LcVye3I0
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
ベテラン社員「辺手」の顔はこわばっていた
彼は以前、この会社の対虐厨部門にいたのだ
年のため後進に道を譲り、定年まで働くべく「生産部門」に異動を願い、受理された
「生産部門」は文字通り、農業やペット産業関連の部門だ
害虫を捕食する ゆっくりや収穫を手伝ってくれるミニイカ娘などを開発してきた
この部門が育てている「ゆっくりゆうかりん」は農家の心強い味方であり、
「ゆっくりゆかりん」は高級ゆっくりとして有名である
もちろん、虐待派経営の「加工所」と異なる
育成されている生物は全て野山で保護したものか、ブリーダーから預けられてきた子たちだ
政府とブリーダーたちとの信頼あってこそのものである
だから・・・・・・・
目の前にいる新入社員を辺手は今すぐたたき出してやりたかった
なぜなら、そいつは「虐厨」だからだ
「虐厨」は人間に似るが思考や趣味は全く異なる
常識は通じないしルールも自分に不都合となれば平気で破る
民家に侵入して飼われている生物を虐殺する事件は後を絶たない
その上、あの虐待派の「加工所」ですら、
販売用ゆっくりを遊び目的で大虐殺されて経営破たんに追い込まれたという話もあった
「所長・・・・・」
懇意にしている企業からの頼みで、社員を一人こちらに引き入れる事になった
が・・・それが「虐厨」だとは聞いていない
「いうな、対虐厨部門出身のキミが快く思っていないのは分かる
だが・・・この男は”加工所”勤務だった男だ、大丈夫だろう」
そうなら、と辺手は所長の意見への反対を一応は取り下げた
しかし、それが大間違いだったことを思い知るのに
時間はかからなかった

203新入社員「虐厨」 2/5 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2019/03/10(日) 13:39:18 ID:2LcVye3I0
「うあああああああああああああああああああ!!!」
「なんだ!!?」
辺手は休憩室で一服中、施設内に響き渡った大音声の鳴き声にタバコを落としそうになる
鳴き声が聞こえた先、そこは生まれてまだ数日の赤ん坊ゆっくりの育成室だった
タバコの火を消して慌てて駆けつけた辺手は
絶句した
彼女たちはとてもデリケートである
ちょっとしたストレスで死ぬこともあるし
排泄がうまくいかない、餌をうまく食べられないなどなど
突然死ぬ要因には事欠かない
だからこそ、親であるゆっくりがいないここでは
施設職員やAI搭載のロボットが親代わりになって子育てをしている
特に育児ロボット「カッパ2000」は最新式かつ武装も充実していた
つい数か月前に施設に侵入した虐厨強盗が赤ん坊ゆっくりへ手を出そうとした結果
カッパ2000に体当たりされた上にスタンガンを絶え間なく浴びせられ、
職員が出勤して犯行を発見した時にはすでに犯人は瀕死だった
赤ん坊ゆっくりたちはどうなっていたか?
カッパ2000は動かなくなった犯人を安全と見たのか放置し、
赤ん坊たちに内臓の子守歌mp3を再生して聞かせていた
この見事な機転で奇跡的に被害は壊されたドアだけで済んだのだ
そんなカッパ2000が例の新入りを警棒でど突きまわしていた
「何やってるんだよ?」
辺手は長年ここに勤めてはいるが、こんな光景は見たこともない
そもそもカッパ2000が理由なく危害を加える等、報告もされてない
「べ、辺手さん助けてください!糞饅頭どもに教育してやろうとしたらこの鉄くずが・・・!」
「分かった、こっちこい」
辺手はカッパ2000に首から下げている社員証を見せて離れるよう命令した
カッパ2000は部屋の隅で怯える赤ん坊ゆっくりたちの育児へ戻る
辺手はそれを見ながら、新入りの首根っこを掴んで部屋の外へ出た
「おい、お前さっきなんて言った?」
普段の温厚そうな彼からは想像もつかないドスの効いた声で辺手は新入りへ問いかけた
「へ・・・?鉄くずが襲って来たって」
「その前だよ」
「ああ、糞饅頭どもに教育してやろうとしたら・・・」
辺手はその言葉をICレコーダーへ録音すると所長へ即座に連絡をした

204新入社員「虐厨」 3/5 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2019/03/10(日) 13:40:02 ID:2LcVye3I0
緊急会議が開かれた
新入り虐厨社員「逆一」が言うには、
言う事を聞かない赤糞饅頭(赤ん坊ゆっくりれいむ)がいたので
リボンを無理やり奪ってやった
目の前でライターを取り出して火を付け、リボンを燃やされたくなければ・・・
と、脅してたところにカッパ2000の体当たりを喰らった
カッパ2000が落ちたリボンをれいむに取り付けたのを見て逆上し
カッパ2000の頭を殴ったら、カッパ2000が警棒を出して逆一を叩きのめした
以上が事の顛末だ
会議室の温度は一気に冷え込んだ、誰もが逆一へ冷たい目を向ける
このバカは一体何をしているのか、と
赤ん坊ゆっくりはデリケートである
ちょっとしたストレスでも容易に死に至る
「お飾り」を奪うなど論外も論外、絶対にしてはならない禁忌だ
「・・・所長」「やはり虐厨の言う事は・・・」「加工所どもとは縁切りましょうよ」
「ま、まぁまぁ・・・いう事を聞かなかったというのは、つまり、
他の子を虐めていた、ということかも・・・」
「いいえ、自分でうんうんしときながら始末しなかったからです」
所長が汗を拭きながらした弁護を、そいつは一言で粉みじんに砕いた
「あのな、赤ん坊に自分の排泄物を始末できるわけないだろ?」
「うんうんを食う事くらいならできるでしょう?」
自分が何か言うたびに室内の温度がどんどん下がっていることに
このバカは気づかない

結局、所長が強引に押し切ったため逆一の解雇はなかった
逆一は配置転換された
配置先の部署から猛烈な反対と抗議が起きたが
所長は権力をちらつかせ強引に済ませた
ところが・・・・・・・・

205新入社員「虐厨」 4/5 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2019/03/10(日) 13:40:50 ID:2LcVye3I0
ジリリリリリリリリリリリリリリ!!!!
その日の夕暮れに緊急事態を告げる警報が施設内に鳴り響いた
「くそ!!また侵入者か!?」
この警報は、窓が破壊される、ドアのカギが壊されるなどした時に鳴る物だ
つまり、施設内ですでに事は起きている
慌ただしく非戦闘員の職員は退避し、警備員や手の空いているロボットが
逆方向へ走っていく
辺手は彼らを追い越して走った
「!!!?あそこか!!」
辺手は各所にある警告の出ている部屋を示す地図ランプを見ながら走る
そこは重要機密施設である
会社が予算をつぎ込んで日々研究を重ね改良したゆっくりの飼育施設だ
あそこだけは何としても死守しなければならない
最悪、一体でも死ねばその研究がパァになる
それほどの重要施設だった

「なにやっとんじゃああああああああああああああああああああ!!!!」
辺手は怒声を上げて飼育室の中へ突入し、虐厨を殴り飛ばした
殴り飛ばされたのは、あの逆一だ
室内は燦々たる有様だった
ついさっきまで生きていたであろう、れいむの子ども達は皆、潰れて餡子をまき散らし
親れいむは発狂して歌を歌っている
警報は「窓が破壊される、ドアのカギが壊される”など”した時に鳴る物」だ
それには「施設内に飼育されている生物が殺傷された時」も含まれる
センサーがゆっくりの餡子に反応し、警報を出したのは言うまでもない
「なにすんです、オレはうんうんをしたバカ饅頭に制裁を・・・」
「やっと開発に成功した”排泄をある程度我慢できるゆっくり”を
潰しておいて何言ってんだ貴様!!」
そう、ここにいるのは会社が予算をつぎ込んで
日々研究を重ね改良したゆっくりばかりである
今、死屍累々状態になっている「排泄をある程度我慢できるゆっくり」もそうだ
20年近い歳月をかけて改良に改良を重ね、やっとここまできた
研究者と会社の血と汗と涙の結晶
それが、見るも無残な様子になっていた
「ゆひゆひゆひゆひ!!!!」
母れいむは歌うのをやめると目玉をぐるぐる回しながらひきつった声を出し
やがてぱたりと倒れて動くのをやめた
「あ・・・ああああああ・・・」
母れいむは完全に非ゆっくり症で事切れていた
これを発症したゆっくりの遺伝子はズタズタに破壊されている
母れいむから遺伝子を抽出できたとしても、もう「排泄をある程度我慢できるゆっくり」は
作ることはできないだろう
「いいじゃないですか、そんな糞饅頭家族の一つや二つ」
「は?」
「またどっかからゆっくりを捕まえてきて教育すればいいんですよ
大丈夫ですって、うんうんしたら死刑とでも刷り込めばあんなバカ饅頭
すぐにうんうんをしなくな」

駆け付けた警備員が背後から制止するまで辺手は逆一を殴り続けていた

206新入社員「虐厨」 5/5 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2019/03/10(日) 13:41:40 ID:2LcVye3I0
所長はすっかり蒼い顔だ
20年にもわたる研究、そのデータも時間もつぎ込まれた莫大な予算も
すべてこの一日で水泡に帰したのだから当然ではある
そして、彼の目の前には複数の辞表があった
「やめさせていただく!!」
反対したにもかかわらず権力を使い強引に配置を決定した所長へ
20年の研究を台無しにされた研究者たちが叩きつけた絶縁状だった
「あの虐厨と仲良くまたやり直せばいいでしょう!!」
必死で引き留めようとする所長を彼らはそう言って拒絶し去っていった
データは会社に残ってはいるものの、細かいノウハウは彼らの頭の中だ
他の企業との研究の競争に致命的なまでに大幅な遅れが生じることは避けられないだろう
残った者たちは冷たい目を所長に向けていた
この始末をどうするつもりかと
あのバカをとっととクビにしてください、と
暗に皆、語っている
当の元凶はと言うと、辺手への厳罰をさっきから訴えていた
自分がしでかしたことなどどこ吹く風
それどころか反省すらしていない
部屋の空気が低温になっていることに気づきもしない
無論、その低温に所長も晒されていた
空気が読める男である彼は逆一と異なり、それを肌で感じていた
「所長、こいつを罰していただきたい」
長い沈黙の末、辺手はそう告げた
ぎゃあぎゃあ喚く逆一に別の者たちが猿轡を噛まして椅子に縛り付けた
「20年にもわたる研究を台無しにしたばかりか、貴重な人材を失った
研究のノウハウが彼らにしか活かせない以上はデータなどあっても意味はないでしょう」
所長が口を開こうとする前に辺手は続ける
「我が社から排せつ物を出さぬゆっくりを出すのはもはや不可能です
すでにある金バッジゆっくりの生産を続けながら食いつなぐしかありません
新しいゆっくりのアイデアはまた一から出す方が早いでしょう」
「それしかないわね」「そうだな」「こいつさえいなければ・・・」
誰もが口々に辺手の提案を支持し、逆一へ恨み言をぶつけた
「しかし・・・まだたったの数回だ、罰するほどの事じゃない」
その場にいた逆一を除く全員が「何を言ってるんだお前?」と言う顔になり所長を見た
辺手はため息をつくと懐から辞表を出し所長の前の机にそれを叩きつけた
「この会社には長くお世話になりました、所長あなたにも
ですが、私はこのような末路を迎えるために身を粉にしてきたわけではありません
所長、あなたがまだこいつを庇うなら・・・もうついて行けない!」
他の社員も立ち上がった
「オレも」「私も」「長いこと御世話になりました」
誰もが懐から辞表を出し、所長の前に叩きつけた
「おうwww出てけ出てけwwwwwww」
猿轡を噛み切り汚物のような暴言を喚きだした汚物と
虐厨を最後まで庇った所長をその場に残し
彼らは部屋を去っていた

(つづく)

207新入社員「虐厨」 オマケ  首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2019/03/10(日) 13:42:37 ID:2LcVye3I0
「排せつ物を出さないゆっくり、新登場!」
辺手は暖かいコーヒーを飲みながらテレビのCMを見ていた
そのCMは、元居た企業のライバルの会社のものだ
辞表を出した研究者たちの誰かがあの会社に入り研究を完成させたのだろう
「辺手課・・・いえ、部長、社長がお呼びです」
「分かりました」
辺手は新しい企業に就職し、そこで半年と言う短期間で異例の出世をしていた
これまでのノウハウを活かしただけなのだが、
この会社では、なくてはならないものばかりで
彼らは辺手のような人材を心底欲していたのだ

「失礼します!」
社長室に入った辺手は、そこに社長意外の人間がいることに気付いた
その人々は、どう見ても警察関係者だ
「辺手さん・・・ですね? 初めまして、私は事件担当の芽土警部です」
「初めまして」
両者は社交辞令の挨拶を交わした後、本題に入った
「あなたがあの企業に以前勤めていらしたと聞きまして・・・」
「・・・私の前の職場が、何か?」
嫌な予感がした、刑事はかぶりを振って口を開いた
「あそこはもう、会社とは呼べません・・・強盗団のアジトでした」

「またどっかからゆっくりを捕まえてきて教育すればいい」
あの時に逆一が言ったことが最悪の形で実行された
逆一は仲間の虐厨を集めて会社の再生を図った
最初は山に入りゆっくりを持ち帰るだけだった
しかし、やがて彼らは保護区域にまで手を出し
ついにはブリーダーの施設や民家の飼いゆっくりを拉致するようになったのだ
そのやり方も乱暴の一言に尽きた
邪魔な壁や柵は破壊され、邪魔する人間には容赦ない暴力が振るわれた
幼い子供を含む少なくない人々が殺された
「今ではあの会社は飼いゆっくりを虐待のために販売する悪質企業で
”捨てられた野良”と評して飼いゆっくりを売りさばいていました」
話が過去形という事は、あの会社はもうこの世にないという事だ
人々に迷惑をかけた虐厨は容赦なく人権をはく奪され駆除される
仲間がいることで有頂天になった逆一もまた生きてはいないだろう
ふと、辺手はあの会社に唯一残っている人間「所長」を思い出した
「すいません、その企業の所長はどうなりましたか?」
芽土警部はかぶりを振って応えた
「最後まで虐厨たちを庇う発言をやめなかったので有罪が確定しました
一生、刑務所から出ることはないでしょう」

辺手は簡単な聴取を受けた上で社長室を辞した
もし、あの時決別しなければ自分もまた有罪になっていたかもしれない
だが、決別したがために今は別の企業に就職し成功し
誰もが自分を認める理想の職場で働いている
対して所長は、今や塀の中だ
前の職場の面接でカチコチに緊張した自分へ優しく語り掛けてくれたり
失敗を庇ってくれたりした所長を思い出す
恐らく逆一たちにもあの「やさしさ」を与えたのだろう
しかしそれは彼を知らない者たち
警察や被害者たちから見れば「虐厨を庇うやつらのシンパ」としか見えないのもまた事実だ
最後の最後まで汚物を庇い続けたあの「やさしさ」が彼を終わらせた

今度、差し入れでも持っていこう
自分だけは忘れないでおこう
辺手はそう思いながら職場に戻り仕事を再開した

(おわり)

208冤罪と「ノコリモノ」1/4  首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2019/04/02(火) 00:13:33 ID:TxOn7.Oo0
「主文、被告人・合蔵を懲役10年の刑に処す!」
「そんな馬鹿な!!俺はやってない!!」
検察官虐厨の虐一は心の中でガッツポーズをした
今度の裁判も彼の勝ちだった
目の前の愛護派弁護士が抗議するも虐厨裁判官は聞く耳をもたず
無実を叫ぶ合蔵を法廷から退場させた

虐厨である虐一が検察になったのは決して正義のためではない
他人の人生を左右する力が欲しかっただけだ
白を黒に変える万能感も、泣き崩れる愛護も
無力感に苛まれる事件遺族も、
どれも彼の心を満たすオモチャだった
虐厨の起こした事件はどれも軽くなるか無罪となり
逆に愛護が法廷に来れば、冤罪であっても必ず有罪となった
「疑われるからには理由があり、いつか本当にやるだろう!」
彼はそんなことを裁判官たちに演説して聞かせた
熱く語り偽りの正義をあたかも本心のように見せた
だから、疑う者はいなかった
ある日・・・裁判官の一人が死んだ
虐一が贔屓にしており個人的付き合いもある友人の一人でもあった
その死に方が奇妙過ぎた
彼は、自宅のリビングにある金魚の水槽に顔を突っ込んで死んでいた
死因は溺死ではない
水槽の温度は100度近くまで上昇しており、ぐつぐつ煮えていた
水槽にヒーターなど付いておらず、
そもそもそこまで温度を上昇させるヒーターなど存在しない
発見された当時、彼の家は施錠されていた
彼には家族はおらず、合鍵もない
そもそもどんな人間なら、どんなトリックなら
こんな殺し方が可能なのか?

そしてその事件が解決しないうちに、また新たに一人死んだ
今度は虐一と親しい虐待派の警察官だった
顔面に警察手帳を突き刺して彼は死んでいた
手帳に人体を破壊可能な強度は、ない
再現実験はことごとく失敗した

その事件が終わらないうちに、また一人・・・
変死者は次々と相次いだ

209冤罪と「ノコリモノ」2/4  首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2019/04/02(火) 00:14:38 ID:TxOn7.Oo0
虐一はいつしか「次こそ自分ではないか?」と考え始めた
これまで自分がしてきたことを考えると、恨みは相当買っていた
彼に恨みがある人間は相当数に上る
彼は常に周囲へ気を配り、護身用の警棒を鞄へ常備していた

ある日、彼は犯人らしき人物に遭遇した
その一撃を回避できたのは偶然だった
たまたま革靴の紐がほどけ、屈んだタイミングで
頭上を何かが通過したのだ
虐一は飛び退きつつ振り返って相手を見た
「お前は・・・合蔵!!」
虐一と目を合わせ、ニヤリと笑う
虐一は咄嗟にスマホのカメラで撮影した
合蔵は走り去った
「まて!!」
虐一は彼を追いかけたが・・・見失った
同時に不可解なことに気が付く
彼の革靴はスニーカーのようなものではない
そもそも靴ひもを結ぶのが面倒くさいからと購入時に店員へ注文付けて選んだものだ
靴紐は完全に装飾品で、しかも革製で固定式である
それが見事にほどけていた
そして・・・合蔵が逃げた先は袋小路だ
壁でも通り抜けない限り逃げきることはできない
だが合蔵は、まさにその壁抜けでもしたかのように
姿を消していた

210冤罪と「ノコリモノ」3/4  首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2019/04/02(火) 00:20:24 ID:TxOn7.Oo0
一応、虐一は一連のことを検察庁へ報告した
それから3日後
「なぁ虐一、お前本当に合蔵に襲われたのか? 人違いじゃなくて?」
出張から帰ってきた先輩検察官は開口一番そう尋ねた
「本当です!顔も見ましたし・・・写真も提出したでしょう?」
先輩検察官は少し困った顔をして、切り出した
「合蔵なら、昨日オレが見つけたよ」
「へ? 先輩・・・あいつに会ってきたんですか?」
「ああ・・・関わった人間の墓参りのついでに近くまで来たんでな
線香をあげてきた」
「・・・へ? 線香って・・・あいつんとこで誰か死んだんで?」
先輩検察官は溜息をついて、つづけた
「合蔵はな・・・再審請求が棄却された3日後、
つまりもう3年も前に死んでるんだよ、刑務所の中で首を吊ってな」
虐一は一瞬、先輩が何を言っているのかわからなかった
しかし、彼の背を見て勉強してきた虐一は、
先輩が決してうそを言っていないことを分かっていた
「で、では、オレは誰に襲われたんです!? そうだ、あの写真は!?」
先輩検察官はそっとファイル棚へ手を伸ばした、その端っこの黒いファイル
通称「おみやさんファイル」を取り出したところで
虐一は、自分たちに何が起きているかを悟った
「・・・見ろ」
虐一が撮影した写真のプリントアウトされたデータ
そして提出したSDカード
その中にあった画像には合蔵の姿はない
ただ・・・赤いもやもやした巨大な頭蓋骨のようなものがグワッ!と大きく口を開けている
それだけが映っていた
「すぐお祓いに行くぞ、まだ生きている関係者も集めてな!
すでに予約はしてある、連絡も他の奴にさせてあるから
お前はこの神社へ一足先に行ってろ!」

虐一は、急いで車を走らせる
幸い何事もなく先輩に渡された印刷プリントにある神社にひとまず着いた
30分後、先輩検察官が遅れて到着する
自動車から慌てて降りたその顔は、ひどく青ざめていた
「虐一!なんともないか!? すぐに始めるぞ!!」
「先輩、ほかの人は待たないので?」
先輩検察官は青ざめた顔で言った
「生きてるのはお前だけだ、他の人間はみんな死んだ」

211冤罪と「ノコリモノ」4/4  首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2019/04/02(火) 00:21:53 ID:TxOn7.Oo0
「そうですか・・・それは大変でしたね・・・」
年老いた男性神主が応接間で応対してくれた
「さっそく始めます、虐一様はこちらへ・・・あなたはここでお待ちください」
「よろしくお願いします」
先輩検察官は神主へ深くお辞儀した
2人は男性神主が入ってきたドアの向こうに姿を消した
2人が去って3分後、ノックがされてドアの反対側の障子が開けられる
「お待たせしました、お祓いの準備が整いましたのでこちらへ・・・」
顔を出した巫女姿の女性の言葉に、先輩検察官は怪訝な顔をした
「あの・・・虐一ならついさっきこの神社の神主さんが連れて行きましたけど?」
「神主? 神主は私ですが?」
「なんですって? じゃあ、あの中年男性の神主は・・・?」
「男性? この神社の職員は神様の関係で皆女性ですが・・・?」
先輩検察官は虐一たちが去っていった方のドアへ手をかけた
「・・・なん・・・だと?」
たしかに奥に廊下が続いていたはずのドア、しかし・・・
先輩検察官の目の前には、コンクリートの壁しかない
「そのドアはその先に通路があったころの名残です
もう10年も前に台風で廊下が壊れたので立て直す際に別に廊下を作って埋めました」
先輩検察官は問いかけた
「では、この壁の向こうは空洞ですか?」
女性神主はかぶりを振ってこたえた
「いえ、土砂崩れで山自体が崩れましたので封鎖しただけです、土砂しかありません」

そして虐一は、その日を最後に行方不明になった

一週間後、彼の遺体は神社の近くの林で見つかった
一週間しか経っていない、それに冬場にもかかわらず遺体は完全に白骨化していた
損傷は激しく、力任せに引きちぎったと思われる個所がいたるところにあり
頭蓋骨は粉砕され原型を留めていない
そして形を保っていた骨自体もボロボロに脆くなっており、ちょっと持っただけで
まるで砂のように崩れたという
検死の結果、死後10年は経過している遺体だという結果が出た
先輩検察官は虐一がいなくなった直後にお祓いを受けたためか
無事に生きている
しかし・・・「ツギハ、オマエダ」
時々、恨めし気な空耳が彼に聞こえることがある
しかし、周囲を見回しても、誰もいない
(終わり)

212名無しの拷問官:2019/05/13(月) 19:50:10 ID:sJ84tyMUO
よくわかんないけど
いじめネタはよくないです

213許可証を得る資格 1/5 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2019/05/20(月) 23:29:27 ID:EfixbD.20
「どうぞ、お受け取り下さい」
ここは虐待委員会支部、虐厨の虐一は差し出されたカードを歓喜の笑みを浮かべながら受け取った
それは「虐待許可証」
虐待委員会の一員であると同時に、「誤った愛護を正す」権利を所有している証明書だ
事実、この許可証を持っていたためにゆっくりを飼育してた一家を襲って全滅させた虐厨が
無罪判決を勝ち取った事例もある
もっとも その虐厨は後日、被害者遺族に依頼を受けたヒットマンに殺され今はもういないが
しかし、虐一にはそんなことどうでもいい
彼にとって「虐待許可証」は、受け取って10分もしないうちに
「天下御免の免罪符」へと、その脳内で進化していった

「こっちだよ、お兄さん!」
支部を出た虐一の目に、散歩中のゆっくりれいむと その飼い主らしい少年が映った
「ひゃっはー!!」
虐一の蹴りがれいむの顔面にめり込み、その命を速やかに奪った
「れいむ!?」
「おっとクソアイゴ、これが見えるか?」
虐一はすかさず「許可証」を出す
「それは・・・」
「いいか、オレがやったのは”害虫の駆除”だw
害虫を表に出したお前が悪いwじゃあなwww」
虐一は高笑いしながら去っていった
少年の目にあった戸惑いと怒りは、深い憎悪と殺意に代わっていった


「ゲショ、こっちこっち!」
「まって、ミニちゃん」
虐一は今度は、道を歩くミニイカ娘とその飼い主らしい女性を見つけた
「うぜえwwwww」
虐一は女性を突き飛ばすとミニイカ娘を踏みつぶした
「いやああああああああああ!!ミニちゃん!!」
「おっと、これを観ろw」
虐一は先ほどと同じように「許可証」を出した
女性はぐっとこらえ虐一を睨みつける
「じゃあなセンソークンwwwそこで悶絶してろwwwwぎゃはははははwww」
虐一は高笑いしながら歩き去った
女性はミニイカ娘を拾うと、何かを決意した顔で帰宅した

虐一は有頂天だった
虐待許可証を見せるだけで飼いを殺された飼い主であってもあっさり引き下がる
もし彼に手を出そうものなら、法で裁かれる、だから手は出せない
どうしようもない恨みのこもった目はとても心地よかった

214許可証を得る資格 2/5 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2019/05/20(月) 23:31:11 ID:EfixbD.20
虐一の前に、青いカラゲルゲとそれを抱えて歩くその飼い主らしき少女が現れる
一人と一匹は幸せそうにしていた
虐一はいやらしい笑みを浮かべると一人と一匹に突進した
あっという間にカラゲルゲを奪い、地面に叩きつけて踏みつぶす
「なにしがっだクソボケェ!!!」
少女はキレた
「ぎゃははは、これを見ろ」
虐一は虐待許可証を出した
「ざっけんな!!!!!!」
すかさず少女のストレートパンチが虐一の顔面に叩きこまれる
虐一は鼻血と歯の欠片を顔面から吹き出しながら吹っ飛び後方のブロック塀に叩きつけられた
間髪入れず「おかわり」が襲う!
「ま・・・まで・・・、オレは許可証を・・・」
「知るかダボが!!」
「だから、許可証を・・・」
「あたしのゲルゲちゃんを殺す許可を誰が出したんかゴラァ!!!!」
少女の左右の拳が虐一の左右の頬に交互に叩き込まれ、頬骨を砕いていく
「お・・・お前のやってる事は、傷害罪だ・・・」
「ゲルゲちゃんぶっ殺したてめぇは何なんだよクソが!!!!」
顎を思い切り蹴飛ばされ、のけ反る虐一の腹に容赦ないストンピングがさく裂する
「クソクソクソクソクソ!!!!なんで殺しやがったクソボケが!!!!」
虐一は完全に失念していた、いや想定することさえしていなかった
完全に逆上した人間には「許可証」だの「法律」だのが通じる訳が無いのだということを
もしも通じるなら、日常的に報復で殺されている虐厨の人数はぐっと減るだろう
さらに言うなら、「カッとなって刺した」という事件すら起きるはずもない
しかし・・・それでも虐一は思った
このメスガキがサル未満の知能なだけで、他の文明人から見れば自分は被害者だと
裁判に持ち込めば勝てる、と
だから・・・彼は叫んだ
「だずげでぐれ!!!ごろざれる!!!」
「まだ殺さねぇよ!!!もっと苦しめ糞野郎!!!!」
通行人は誰もがそれを見て、肩をすくめて去っていった
皮肉にも虐一の持つ許可証が、彼が何をして制裁を受けているかを
人々に教えていたのだ

215許可証を得る資格 3/5 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2019/05/20(月) 23:32:49 ID:EfixbD.20
「もしもし」
少女に声をかける人間が現れる
声のした方を虐一は見た、ついに助けが来たと
喜色がパンパンに腫れボコボコになった顔に浮かぶ
しかし、期待した虐厨仲間ではなく
来たのは、ついさっき虐一が殺した「被虐生物」の飼い主たちだった
「お姉ちゃん、手伝おうか?」
家から持ってきたであろうバットを右手に少年は言った
「私も手伝うわ、あなたがやってなかったら私が殺してたから」
包丁を手にした女性が言う
虐一はそれでも・・・一縷の望みをかけて叫んだ
「だれかだずげで!!!ごろざれる!!!!」
しかし・・・
「おい・・・あれ虐厨じゃねぇか?」
「この人らのペット殺して報復されてるみたいだぜ」
「そうか、じゃあ、ほっとこう」
「だな、自業自得」
誰もが虐一を助けるどころか、見向きさえしない
「くそくそくそ!!この町はアイゴしかいねぇのか!!」
「虐待許可証」を傘に着て好き放題する虐厨は少なくない
この町では日常的にそれが起きていたため、住人の誰もが虐厨を嫌っていた
「虐待許可証」を振りかざすなど、「私はクズです」と言っているも同じなのだ
「どうしました・・・あ!!」
しかし、ついに虐待愛好会の腕章をつけたトランクを持った人間が現れる
「だずげで!!ごろされる!!」
「・・・・・・お前、何をした?」
だが虐一の願いとは裏腹に、少女たちと虐一を交互に見た愛好会会員は
虐一に冷たく問いただした
「何って・・・害虫を潰しただけだ!」
「・・・そうか」
虐厨の暴走を嫌と言うほど見てきた彼にとって、それだけで何が起きたかを理解するには十分だった
会員は虐一の手から「許可証」を奪い取った

216許可証を得る資格 4/5 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2019/05/20(月) 23:34:14 ID:EfixbD.20
「なにをする!?」
「なにって・・・お前、裏面の注意書き読んでないのか?」
会員は「虐待許可証」の裏面を見せた

「一つ、この許可証を持つ者はそれにふさわしい品位と言動を心がける事
一つ、この許可証の悪用並びに迷惑行為への使用を禁ず
一つ、この許可証は免罪符にあらず
一つ、上記事項に著しく違反した場合、許可証は即座に失効する」

裏面にはそう書いてあった
虐待愛好会とてバカではない
急増する許可証を盾にした犯罪に対処すべく、こういう予防線も作っているのだ
「お前の名前は虐一・・・か、分かった」
「新しい許可証くれるんですか!?」
「はぁ? なに寝ぼけた事言ってるんだ、俺は不適格な奴から身分不相応な許可証を没収しただけだ!
それと俺の権限で現時刻をもってお前の会員登録を抹消する!」
「は・・・?」
まだ現実を飲み込めないバカに背を向け、会員は少女たちに向き直ると深々と頭を下げた
「大変申し訳ありませんでした・・・上に代わり謝罪します。この賠償は必ずします・・・!
こいつはたった今後ろ盾のないただの害獣になりました。
後始末は私がするので、どうか好きなようにしてください。」
そう言うと会員は手にしていたトランクを開けた
中には、ノコギリにバールに針に・・・あらゆる凶器がきれいに陳列されていた
「ありがとうございます、ついでで申し訳ないのですが・・・」
少女は口を開いた
「はい、何なりと・・・」
「教えてください」
会員はしばし考えた後、言葉を選んで口にした
「・・・それは、こいつの殺し方ですか?」
「いいえ、”殺さない”やり方を!」

217許可証を得る資格 5/5 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2019/05/20(月) 23:37:19 ID:EfixbD.20
たっぷり5時間いたぶられ続けて虐一は息も絶え絶えだった
「さて・・・と」
会員は虐待に使われた道具を片づけ始めた
この突発的な制裁はすべて彼の責任と監督の下で行われた
また、彼は飼い主たちへ会へ直通の連絡先と警察や保健所の窓口を紹介した
それでもまだ彼の仕事は終わったわけではない
これから彼を橋渡しとして、飼い主たちとの賠償の話し合いが始まる
飼い主たちは会員と互いの連絡先を交換して解散した
「へ・・・へへ・・・これで、オレの罪は帳消しですよね?」
今後について考えていた会員は、元凶が発した寝ぼけた一言に我に返り
虐一の折れた右足を踏みつけた
「いぎゃあああああああああああああ!!!!?」
「何言ってるんだお前は? 害獣の分際で!」
言いながら手にしていた千枚通しを虐一の右足の甲に刺し通す
苦痛にのたうつ虐一を見下ろしながら会員はつづけた
「害獣は死ぬまでが仕事だ! 中途半端は許さん!!」
彼は人々に迷惑をかけ、虐待派の看板を汚した虐一を許す気など全くなかった
トランクからズタ袋を取り出して虐一を中に無理やり入れる
それを背負って彼は車を止めてある有料駐車場へ向かった
料金を支払い、彼はトランクに虐一入りの袋を詰め込んで発進した
行先は保健所の窓口だ
すでに日は暮れ星々が夜空を彩っているが、
「対虐厨用窓口」だけは24時間開けてある
なぜなら、虐厨たちによる被害はいつ起きるか分からないからだ

こうして、権利を手にした虐厨は自業自得で権利どころか
己の人権すらも失い、この世から抹消された

(おわり)

218恨みと報い 1/2首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2019/06/20(木) 03:18:08 ID:oKnK7rpI0
虐太には大事なものがいた
ペットのちびギコだ
しかしそれはある日突然いなくなった
殺されたのだ
彼が殺したちびギコの仲間に報復されて
以来彼は、「ちびギコ」に分類されるものすべてを憎み襲った
飼いだろうがレッサー種ではなかろうが構わず襲った
おかげで何度もギコや戦闘型のしぃ等に追い回された
それでも彼はやめなかった

それから、数年後
虐太には仲間ができた
うっかり「飼い」に手を出してしまい
しかも飼い主の目の前でやってしまったため
その場で複数回刺された上に川に蹴落とされたのだ
それでも急所は外れていたのか、彼は死ぬことはなかった
なんとか岸に這い上がったところで
その区画の虐待組織の一人に拾われたのだ

ある日
帽子を目深にかぶり、コートを着た男がパイプ椅子に座って彼を出迎えた
「よお、遅かったな」
広いホールは血まみれだった
あちこちに組織の構成員が倒れている
男はガムを吐き捨てると、虐太へゆっくりと歩いて近づいた
「ずっと探したぜ、娘の仇のてめーをな」
男は帽子を取った
「つー族・・・!?」
赤いAAで「ギコ猫」に分類される種族だ
特に高い攻撃性と戦闘力で知られている反面
喧嘩を売ったりしない限り向こうから手を出してくることはなく
むしろ親切にしてくれる見た目と裏腹な紳士的種族として知られていた
そう、喧嘩を売ったりしなければ・・・
男は一枚の写真を出した
黄色いリボンのちびしぃがそこに映っていた
「見覚えねぇとは言わせねぇ、てめぇが殺したんだからな!」
男は写真を懐へしまうと、ナイフを取り出した
「ま、まてよ・・・」
虐太はつー族の男の説得を試みる事にした
うめき声があちこちからしていた
まだ息のある者が少なくない数いる・・・
虐太はこの組織に並々ならぬ恩義を感じていた
だから、できる限り構成員を多く助ける事を決意した
「お前が手を出したこいつらは復讐と無関係だろ!?」
「・・・・・・・・」
男は止まった
脈ありと見た虐太は言葉をつづけた
「お前は無関係の、ただの殺しをしただけだクソアイゴ!だから・・・」
『おとーさん、お友達と遊んでくるね!』
「おまえには娘の仇討する資格なんざねぇ!」
『警察です、あなたのお子様が事件に巻き込まれまして・・・』
「申し訳ないと思うなら、倒れてる奴を助けろ!」
『残念ながら、現場で死亡が確認されました』
「無関係・・・無関係、か・・・」
ぼそりとつぶやいたその言葉に
「そ、そうだ! 息のある奴の手当てを手伝ってくれ!」
男をもう少しで説得完了できる、と虐太はおもっていたが
あいにくと彼の言葉など耳に入っていない
『おねーちゃんは、むかんけいだっていったのに、さされた』
『あのおじちゃんは、ちびぎこはいきているだけでつみなんだって』
『ぼくたち、なにもしていないのに』

219恨みと報い 2/2首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2019/06/20(木) 03:19:11 ID:oKnK7rpI0
いつの間にか虐太のすぐそばにまで男は来ていた
「へ?」
手伝ってくれるのか、何か聞きたいことがあるのか?
説得が成功したと思っていた虐太めがけ
振り上げられていた右手が降り下ろされた
右手は虐太の口に突っ込まれ中にあるものをしっかりと掴む
「あの子も・・・テメーが殺したオレの娘も・・・」
『あなたのお子さんは立派です、命の危険に晒されながら
友達をかばっていたそうで・・・』
『あの子がいなかったら、私の子も殺されていました・・・!』
「そう言ったんだろうがよ!!!畜生があああああああ!!!!!」
血を吐くような絶叫と共に右腕を口から一気に引き抜く
「ギョボゴボボボボボボゴオ!!!!」
虐太の口から赤い噴水が噴出した
つーの右手には平たい肉片が握られていた
「安心しろ、オレもつー族だ・・・てめーみたいなゴミクズみたいに
これ以上、理由もない殺しを重ねはしない
だがよ、ケジメは付けてもらうぜ」
つーは引き抜いた舌を床に捨てると、出口のドアへ向かって行った
助かった・・・そう思い虐太は周囲を見回した
「う・・・」
生きている仲間がいる!!
虐太はそれが、川で死にかけた自分を助けてくれた
今や無二の親友だと気づき、必死で這って近寄った
強烈な明るさも床の熱さは気にもならない
早く手当てをして、こいつだけでも・・・
と考えたところで、違和感を覚えて止まった
この暑さと明るさはなんだ?
虐太は周囲を見た
建物は完全に炎に包まれていた
天井も壁も赤い炎が嘗め尽くしている
これが現実なのか死ぬ前の幻想なのか
判断する前に
建物は崩れ落ちた


崩れ落ちる建物を、男は眺めていた
復讐は何も生まない
つー族である彼にはそれは分かっていた
だが、許せなかった
自分の娘の命を奪い
警察の手を逃れて生き続けたことも
自分の娘のような理不尽な理由で死んだ犠牲者を出し続けたことも
自分のような大切なものを突然奪われる遺族を作り続けたことも
だから殺した
十分な下調べを行い綿密に計画を立て
仇敵が一番望まないタイミングを見計らって仕掛けたのだ
警察へ出頭し罪を償えばそれ以上やる気は彼にはなかった
けれど仇はそうはしなかった
それどころか醜い命乞いをし
自分を正当化した
娘を殺した自分の暴言まで棚に上げて・・・
これは、奴が招いた結果なのだ
生存者が皆無なのを確認し、男はその場を後にした

(おわり)

220次の一手 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2019/06/28(金) 02:42:15 ID:HvH5xs0w0
「やめろ!」「口だけのてめーらなんてこわかねぇwww」
「洗いざらいぶちまけてやる!」「おーおー好き勝手いいなさるwww」
「もうやめてくれ、ここが潰れたら・・・」「いやだねwwwwww」

その状態が定着して、長い月日が流れた後の
ここはとある場所
新しく虐待ジャンルを始めるべく虐待派と虐厨たちがアジトの建設に取りかかっていた
「住民たちへの説明は行うぞ」
虐待派は虐厨たちにこれだけは譲らなかった
虐厨が起こした事件など知った事ではないが
自分たちの方針と住民に危害を加える意思がない事などを説明するのだ
基盤の確保をまず得る事を彼らは最優先とする方針のため虐厨たちも渋々ながら従った
タン!
一発の乾いた音が青空の下の会議を停止させた
頭から血を吹いて虐厨の一人が倒れる
音のした方を見ると、手に銃を構えた住人たちがいた
「お、おい・・・なにをs」
問答無用とばかりに、住民たちは次々と発砲を始めた
逃げ出した虐待派にも容赦なく背中に銃弾が見舞われた
そうして・・・3分ほどで虐待派アジトは全滅した
「クリア!」「よし、駆除は完了した・・・撤収するぞ」
【虐待ジャンルは駆逐すべし】
それが、この場所における暗黙のルールだった
長い月日が流れる間、幾度も繰り返される衰退と滅亡
その発端となる虐待ジャンルへの注意喚起も懇願も功を為さず
管理者ら上への訴えも無意味だった
呵々大笑する虐厨たちに
無責任に虐待を始めては過ちを繰り返す虐待派たち
いつしか煮え湯を飲まされ続けた人々の間には「不倶戴天」の認識が生まれた
比較的新しく生まれたこの場所にもまた、その認識が浸透していた
「どうせ言っても聞かない」「始められたら終わり」「被害を訴えても門前払い」
「だったらもう話はいい、出ていかなくてもいい、代わりに死ね」
議論をやめ、武器を手にし相手を駆逐することを「最善の対応」と住人たちは考えた
短絡思考ではない、これまでの「積み重ね」の末に得た結論だ
「言葉が通じねぇならムシと変わんねーだろ?」
ある住人はそう言った
「アイツらは人を襲うんだ、人食いに落ちたケダモノも同じよ」
猟師をやっていた住人もまたそう答えた
虐待派まで駆逐対象にすることに抵抗を示す者もいたが
「無責任におっぱじめて管理もしねぇ、責任も取らねぇ対応もしねぇ
口約束とはいえ約束すら守らねぇあいつらと虐厨に差があるのか?」
こう言って進んで虐待派の殲滅に参加する者もいた
「オレの故郷はアイツらに滅ぼされたんだ、生きてる限り殺し続けてやる・・・」
そう言った被害者住民は目の奥に憎悪を燃やしていた

人に危害を加え続けてきた一派に対して人々が取るようになった、非情な対応
対話をやめた人々が次に選択したこの一手
短絡的と断じる声は意外と少なかった
「もうどれだけ長い間続いてると思ってんですか
そりゃあ、いつかはこうなりますよ」
人の良さそうな奥方はそう言って「仕方がない」と断じた
そう、「仕方がない」のだ
人々は自分たちの領域を守るため
今日も監視の目を光らせ、虐待組織を狩っている
(おわり)

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223「いない」世界 1/6 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2019/08/14(水) 18:41:33 ID:yC7SNOCg0
かつて、「AA」と言う種族が世界中にいた
しかし今やその数は激減し
限られた場所でしか見かける事はない

その原因は
増長しすぎた虐待厨とそれらを危険視しなかった無知にある


ここは、とある掲示板のとあるスレ
「ここは虐殺禁止区域よ!」
「うっせぇ!!」
抗議したちびしぃが蹴飛ばされ壁に叩きつけられる
「ちびちゃん!!」
母しぃが駆け寄るも、少女はすでに息絶えていた
「どうしてこんな・・・あの戦争がやっと終わったのに・・・」
「戦争」と言えば一つしかない
「またーり虐殺抗争」
流血を嫌う「マターリ派」と流血を好む「虐殺派」の激突だ
最初こそ小競り合いでしかなかった争いは次第に激化・大規模化し
気が付けば掲示板の存在自体が危ういものになっていた
双方の話し合いの末に「相互不可侵」を含む不文律が決められた
この勝者なき不毛な争いは「戒め」として語り継がれ今に至る
・・・はずだった、少なくとも戦争の参加者はそう思っていた
しかし、争いの発端であった虐待荒らしを率先していた虐待厨は違った
彼らは争いが終わるのも引き分けの和平も気にくわなかった
だから、暴れ続けた
新しいジャンルでも暴れた
やがて、彼らに追随する者たちが集まり
いつしかジャンルそのものを破壊し灰燼に帰すまでになった
世代交代が起きたのもそれに拍車をかけた
危機の訴えに耳も貸さず知ろうともしない「事なかれ主義者」たちの台頭
ただ危機を訴えた者に「荒らし」のレッテルを張り
また新キャラクターへ「荒らしの手先:のレッテルを張るその行為は
ただ気まぐれに虐殺を行い広めていった虐厨たちにとって
虐待ジャンルを始めてくれる虐待派の次に
心強い味方になることもあった
その結果、援軍を得られなくなったジャンルは次々と滅びていった
そして最初にやり玉に挙がったAA「しぃ」は絶滅寸前だった
「・・・この子は最期の”しぃの子”なのよ、もう次はないわ・・・」
「あふぉしぃがいなくなるんなら良い事だろw」
虐厨はそう言って笑った
「あふぉしぃ」とは、かつての抗争が始まる前に
虐殺の正当化のために作りだされた「しぃもどき」だ
その性格は最悪で愚劣極まり
似た容姿のオリジナル「しぃ」とはかけ離れたものだった
それを広められたことと、虐殺の手を「しぃ」にまで広めた事
「しぃ」と「あふぉしぃ」を同一視した上に保護区まで焼いたことが
より過激な戦争のきっかけなのは言うまでもない
「だったら、望み通りいなくなってやるわ」
しぃは、不敵に笑ってそう言った
次の瞬間、彼女は消えた
虐厨がいくら周囲を見ても
「しぃ」は、そこにいなかった
彼女だけではなく、転がっていたしぃやちびしぃ、べびしぃもいない
まるでそこに最初からいなかったかのように・・・
その掲示板は、「しぃ」の絶滅を宣言した

224「いない」世界 2/6 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2019/08/14(水) 18:42:25 ID:yC7SNOCg0
やがて次々と「しぃ」の絶滅を宣言する掲示板は増えていった
「ニラ茶猫」のような亜種も例外ではない
そして・・・
「やった!最後のベビを殺したぞ!」
ついに保護区にまで虐厨の手は伸びた
絶対不可侵のルールは今や瓦解していた
「しぃ」だけではない
「ちびギコ」「おにーに」らも次々消えていった


今度は虐厨が困ることになった
「愛護派」の先鋭化・武装化が始まった
今までただ追い払われるだけだった愛護派は
ルールの形骸化・無意味化を悟ると二つに分裂した
愛するキャラクターと共にネットの奥に避難する者
そして武装し攻撃に躊躇しない者に大別された
前者を追いかけていた虐厨が後者に遭遇し
想定外の猛攻を受けて壊滅したという報告が出るのに時間はかからなかった

それだけではない
牧場まで襲った事で危機的な食糧難に直面した
「あんな奴らにひき肉の一グラムも渡すもんか!」
襲撃を生き延びた牧場主たちは皆、避難所へ行ってしまった
さらに深刻な問題がある
虐待の矛先がいなくなりはけ口がなくなったのだ
無計画に人員数を増やしたのも災いした
どいつもこいつも暴れることが目的の「あふぉしぃ」未満の頭ばかり
リーダーたち古参の言う事や虐待派からの忠告を聞くはずもない
だったら切り捨ててしまえばいいのだが
彼らはそうはせず、下っ端虐厨たちを庇い守った
その姿勢から武装した愛護派から虐待派をも虐厨と同一視する派閥も生まれ始めたが
彼らにとってそれはいつものことだから問題にはしていなかった
後にそのツケを支払う日が来るのだが・・・・・
「被虐生物」の生息地は牧場を含めすべて手を出してしまった
絶滅は当たり前である
「やめろ!オレはモララー族だぞ!!」
「いんや、モララーは俺たちのような”角耳”だ!
お前の耳は丸い!   マルミミは人に非ず!!」
虐待の手先として使っていたAAへ矛先を向けるも
それらももういない
「なんでオレたちを拒絶するんだ? 同じギコ族だろ?」
「はぁ? 同族のはずのしぃたちを殺しといて何言ってやがる?」
「次はオレたち”つー族”をあふぉ化家畜化・・・だろ? 分かるぜそのくらい」
つー族へもオファーしたが完全に見透かされていた
だがこれは失敗してよかっただろう
彼女たちが裏切者へどんな苛烈な制裁を科すか
それは彼女たちの「戦闘種族」としての評判が物語っている

225「いない」世界 3/6 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2019/08/14(水) 18:43:01 ID:yC7SNOCg0
「なぁ、”墓所”へ行ってみないか? あそこならしぃがまだいるかもしれねぇ」
彼らが最後に思い付いたのは、「墓所への遠征」だった
しかし、誰もがこれには難色を示した
「墓所」は「マイナーAA」の集う場所である
ただ数が少ないだけではない
怪獣王「グレートカメモナー」や悪食の鬼神「ヴィ」をはじめとした
敵に回すことどころか遭遇自体が「死」を意味する危険生物の坩堝だからだ
足を踏み込むこと自体「自殺」に等しい
同じ危険生物でも「つー族」はまだ話が通じ良心的だからマシだ
だが、あそこにいる連中には「対話」も通じない
そもそも言語を理解できる奴は少ない

最終的に、「墓所への遠征」は決定した
このままでは虐厨同士の殺し合いになりかねない
新しいジャンルへ手を出そうにも
今までの暴虐と約束反故の連発が彼らへの心象をどん底まで落としていた
現在進行形で手を出している連中はすでに交戦を始めていた
もう一方的に潰せるジャンルは皆無だ
それが決定への後押しになった

「ここは、天国か!」
墓所への第一次遠征部隊は目の前の後継に絶句した
「おにーに」をはじめとした数々の被虐生物に加え
カメモナーら絶滅種AAもそこらにいる
周囲にグレートカメモナーの姿はないがいても構わなかった
彼らには最新鋭の兵器があった
グレートカメモナーを撃破した戦果の過去事例も彼らに自信を付けていた
ただし、「ヴィ」は別だ
特に成体にまで成長している個体には絶対に遭遇したくなかった
噂話を含めてソレを倒したという報告はなく
倒すことを試みたところ、後悔する結果に終わった事しか見つからなかったからだ
他にもまだ存在を知られていない奴がいる可能性があった
安全を確保すべく、彼らはてきぱきと前線基地を作成した
「あんたら、何しに来たのかね?」
その作業中に、ここの住人の髭を生やした老人が話しかけてきた
「ここに虐殺スレを建てるのさ!」
「やめなされ」
老人はきっぱりと言った
「ここは忘れ去られた者たち、滅びた者たちの最後の楽園じゃ
そこを荒らすことは許されん!」
「うるせぇ荒らしが!」「そうだそうだ!」「ルールなんざ知った事か!!www」
老人は罵声を受けると首を横に振り、黙ってその場を去っていった
「前祝いと行くか!」
日が暮れて夕飯も済んだところで
虐厨の一人が捕まえていた
周囲にいた「ちびギコ?」を十匹ほど檻ごと持ってくる
「ん? 見た事のない奴だな?」
その「ちびギコ?」は奇妙だった
無表情でじっと虐厨たちを見ている
何より二足歩行だ
「ぃぇぁ・・・」
独特の声で「ちびギコ?」たちは鳴いていた
「雑種だろw」
その一言で皆、安心した
虐厨たちは久しぶりの虐殺を楽しんだ
殺しつくした死骸は外に放り出す
「さぁて、本部へ連絡だ!!」
「ぃ・・・」
「あん?なに・・・」
虐厨の一人の姿が、ふっと消える
「ぎゃあああああああああああ!!!」
外からそいつの悲鳴が聞こえた
「どうし・・・」
門を開けた虐厨の頭を槍のようなものが貫き
外へ引きずり出す

226「いない」世界 4/6 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2019/08/14(水) 18:43:55 ID:yC7SNOCg0
うぞうぞぞぞぞぞぞ
先ほどの「ちびギコ?」の死骸が集まって一つになり
二人の虐厨を自分の体に押し込んでいた
嫌な音を立てて虐厨の体は「折り畳まれて」押し込まれていく
悪夢のような光景に一同は戦慄した
「お、おい、さっきのちびギコじゃねぇかこいつら・・・」
その一言に生き残りたちは、はっとした
基地内の檻にはまだ本部へ移送予定の個体が4匹ほどいる
「ぐぼぉ!?」
イヤな予感はすぐに現実化した
「ぃぇぁ」
檻の中から槍のような触手を伸ばし
背中から虐厨の一人を串刺しにする「ちびギコもどき」
檻の格子は他の「ちびギコもどき」が舐めていた
みるみる鉄ごしらえの格子が
まるで飴でできているかのように舐めて溶かされ減っていく・・・
残りの虐厨たちは武器を放り出し悲鳴を上げて逃げ帰るしかなかった

命からがら逃げだした虐厨たちは無事に元居た板へたどり着いた
そして仲間たちにすべてを報告した
「そいつはたぶん、『ぽろろ』だ」
古参の虐厨はそう言った
かつて虐待用生物として作られた生命体
しかし、どん欲な食欲と見た目とは不釣り合いな高い知能
細胞を一片でも残せば再生してしまう脅威の生命力を前に
作成していた研究所は軒並み壊滅
「ぽろろ」の開発は中止され研究所のあった板は「墓所」送りとなった
「まてよ・・・ちびギコたちをそいつらと入れ替えたということか?」
「そうだろう」
「なんのために?」
「ちびギコでは死んでしまうような試しのためだろう」
そこまで意見が出て、何人かの頭へある考えが浮かんだ
「なぁ、お前ら『ぽろろ』にやられた以外には何もないのか?
逃げて来る途中で追撃されたとか、なかったか?」
逃げ帰った虐厨へ思いついた一人が聞く
「ああ、特になかったぜ」
「まずい、お前たちは逃げ切れたんじゃない
わざと逃がされたんだ!!」
どういった意図があってそんなことがされたか
聞き返す奴はもはやいなかった
「他の虐待基地に連絡をしろ!グレートカメモナーが来るかもしれん!」
「はい!」
「オレは近くの基地に行ってきます!」
全ての基地に連絡をして対策を練り
共同戦線を近隣基地同士で作るべく彼らは奔走した
しかし・・・
「すぐ隣の基地が応答しません・・・」
「なんだと?」
「隣の基地に言ったやつから連絡です!」
「つなげ!」
「お、オレです!あいつら、もう基地の近くまで」
どん!どん!というジープを叩く音が通信機越しに伝わる
「落ちつけ!もう帰って来い!」
リーダーは通信機に向かって怒鳴ったが
「・・・く、来るなぁ!!!」
「ヴィィィィィ!!!」ベギィ!「ぎゃああああああ!!!!」
頑丈な4WDジープの装甲がひしゃげるような金属音
聞いたことのない恐ろしい鳴き声と虐厨の断末魔
その後は鳴き声を上げた生物のうなり声と
生肉を食い血をすする音が通信装置から基地内に響く・・・
「ま、間違いない、『ヴィ』だ・・・それも成体が、複数・・・・・」
古参の虐厨はその場にへたり込んだ
AA滅亡の最初の一日は、こうして終わった

227「いない」世界 5/6 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2019/08/14(水) 18:44:54 ID:yC7SNOCg0
それから一週間、何もなかったが
それが嵐の前の静けさであることを誰もが予感していた
その悪い予感はこの日、的中した
グレートカメモナーが墓所から出てきたという報告がきたのだ
報告をよこした偵察車両は「ヴィ」の群れに襲われ
報告の途中で永遠に帰る事すらできなくなった
「こちら観測ヘリ!き、来ました!」
「よし!総員戦闘用意!」
しかし、次の報告と映像で全員の戦意は挫かれた
「グレートカメモナー総数は約200!!
しかも、データにある個体よりはるかに巨体です!!」
一体、もしくは数体程度の数の
過去に撃破例があるグレートカメモナーと同一サイズの個体
それが今回の交戦対象の前提である
数が圧倒的なことに加え「データよりもでかい」と言う報告
誰もが目と耳を疑った
嘘であってほしいという願いは偵察機からの映像で挫かれた
「討論中に出たものの特に気にしなかった意見」が全員の頭に浮かんだ
それは「討伐された個体はまだ亜成体もしくはカメモナーから成長したての未熟な者ではないか?」
というものだ
だから、AAたちでも狩ることができたのだ、と
もしアレが成体だったらこんなものでは済まないのでは、と
しかしデータにある個体の圧倒的な大きさと「当時の総力でやっと撃破した」という事実から
最大でもその大きさで実力もその程度だろうと
彼らは勝手に思い込んでいた
いや、頭に浮かんだ希望的観測を真実と自分たちに刷り込んでいた
これ以上の最悪の事態、それから目を逸らすために

次の指示を願う偵察からの声にどうにか返答しようとした時、
画面が光り映像が途切れた
何が起きたのか巻き戻すと
グレートカメモナーの何体かが歩きながら偵察機に頭を向け
口から何かを放ったのだ
「いったい何・・・」
答えは基地への衝撃と言う形で判明した
数キロ先の前線からグレートカメモナーの一体が放った「光線」
基地ではなく目の前の戦闘車両部隊へ放ったそれが勢い余って
たまたま直線上にあった基地の外壁に直撃したのだ
一瞬で「ヴィ」すら防いでいた外壁は蒸発し基地内部に「光線」は入り込んだ
優先的に狙い撃ちされることを想定して頑丈に作った司令室以外は
その一撃と火災、発電施設の連鎖爆発の火炎と熱の地獄の中に消えた
「りー、リーダー・・・ここ以外が消えました」
部屋のすぐ外を見た虐厨はそれを報告するだけで精いっぱいだった
あとはパニックである
部屋から逃げ出す者、必死に他の基地への通信を試みる者
司令室の脱出艇に勝手に乗り込む者などなど
司令室が到達したグレートカメモナーの群れに踏みつぶされるまでそれは続いた
生き延びたのは徒歩で脱出した者だけだった
脱出艇はグレートカメモナーに見つかり、「光線」の餌食となったからだ

228「いない」世界 6/6 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2019/08/14(水) 18:45:41 ID:yC7SNOCg0
「火と嵐の3か月」と名付けられることになる
『墓所』の怪異による蹂躙で各地の虐厨や虐待派は攻め滅ぼされた
3か月目の最終日、最後の拠点はグレートカメモナーが手を下すまでもなく
食料の奪い合いで自滅した
敵の全滅を確認すると、怪異たちはゆっくりと『墓所』へ引き上げていった

一方で怪異と鉢合わせたはずの愛護派たちは無事だった
と、いうのは
「見た事ないAAだな、お〜い!」
彼らが怪異たちにした行為は「声をかけて手を振ってみる」などの
「非戦闘的な挨拶」の類のみだったからだ
中には武装した者や戦闘車両に乗る者もいたが
「ぃぇぁ」
「なにこの子すげぇかわいい!!」
と、ひたすら写真を撮る等の行為に留め加害的行動は決してしなかったので
彼らが攻撃されることはなかった
実は徒歩で逃げだした虐厨たちが攻撃されなかったのもこれが原因である
怪異たちは「敵意」を向け「攻撃」を行う者のみを狙っていたのだ
脱出艇などの虐厨の持つ車両は「機銃」などがあり
脱出時に彼らはこれを使って反撃をしてしまった
つまり、威嚇も攻撃もせずただ逃げるだけなら逃げ延びられたのである

「やれやれ、こうなってしまったか」
『墓所』でそうつぶやいたのは、あの老人だった
彼は『墓所』の中からすべてを見ていた
すべてが見えていた
「最初のモナー」と呼ばれる人々の一人、それが彼の正体だった
彼らには特殊な能力と不死性こそあれど
戦闘を行うような力はない
だからマターリと虐殺の大規模戦争の時も参加せず
ただ裏から一刻も早く争いを終わらせるように働きかける事しかできなかった
あの争いはどうにかできた
でも今の争いはどうしようもなかった
「ルールを平気で破る」「人の泣き顔が心地いい」
そんなゲスが増えすぎたためだ
彼らにはいくら理を説いても心に訴えても無意味だった
「今が楽しければそれでいい」「自分の楽しみのために他人がどうなろうと知った事ではない」
かつての抗争の時もこういった輩はいたが周囲の人間が抑えたり諭したりしてくれた
しかし今は違う
押さえてくれる大人がいない今、彼らを止める事ができる人間はいなかった
それどころか彼らに賛同する輩が増殖していった
「非暴力・平和主義」
かつて自分たちが争いを終わらせるために徹底させたそれをも奴らは利用した
無力さを思い知った「最初のモナー」を含む始祖AAたちは
介入の中止を決断
全員が『墓所』へ引きこもった
虐厨たちの全滅を確認したグレートカメモナーたちが帰ってくる
彼らが『墓所』から離れる事はまた同じことが起きない限りはないだろう
いや、もう起きはしまい
「最初のモナー」は廃墟と荒野と化したAA世界を見ながら思った
もう復旧は不可能である
あの愛護派たちに希望の目を向けてみたが
彼らはAAではない全く別の種族だった
恐らくAA種族はかなり遠くへ引きこもったかあるいは死滅したのだろう
あの虐厨たちの手によって
「物にはいつか滅びが来る、とは言うが
我らAAの『終わり』がこんな悲惨なものとはな」
思わず愚痴がこぼれた

あの別種族たちが同じ過ちを繰り返さないように
彼はいるかどうかも定かではない「神」に祈り
庵へ帰った

(おわり)

229願いをかなえてやった 1/2 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2019/09/10(火) 19:26:47 ID:t5SYmMhw0
「ぎゃああああああ!!!」
ここはアローラ地方にほど近い地方
村の一角のブリーダーの家から断末魔が響き渡る
しかしその声に反応する者はこの場にはいない
カチャリ・・・
たった今断末魔を出した家のドアを
そっと開けて外の様子をうかがうのは
口とかぎ爪を血で濡らしたニューラだった
他の家からも同じように体のどこかしらを赤く染めたニューラが顔を出す
彼ら彼女らは互いの無事を確認すると、
村から去っていった
数日後、連絡のないことを不審に思った虐待愛好会会員が村を訪ねた時
村人全員が切り刻まれて殺されているのを発見することになる

ニューラたちの両親は難破船から流れ着いた番のマニューラだった
人に忠実だった両親は子供たちへ
「人に親切にしなさい」と教えていた
ある日、兄弟の一人がその意味を聞いた
母親は少し考えた後でこう伝えた
「人の願いをできる範囲でいいから叶えてあげなさい」

程なくして、両親は死んだ
この地方のブリーダーたちに殺されたのだ
「マニューラは他のポケモンを狩る残忍な肉食獣」
「ニューラはポケモンの卵を盗む泥棒」
彼らが知るはずもない、人間が勝手に作った図鑑の説明文
それが人々の間でマニューラ・ニューラの像を作っていた
人の言葉を覚えていた両親がいくら説得しても
人々は聞く耳を持たなかった

巣穴の奥深くに逃げ込んだため生き残った兄弟は
今後について考えた
特に「両親はどうして人に殺されたのか?」を話し合った
出た結論は「両親は人の願いを叶えなかったから」だった
人々の願いは
「マニューラは他のポケモンを狩る残忍な肉食獣」
「ニューラはポケモンの卵を盗む泥棒」
あの時、人々が口々にがなり立てていた言葉
両親から人の言葉を習っていた兄弟たちはそれを理解していた
結論は出た
「両親の意志を継ぐ事」
「人の願いを今度こそみんなで叶える事」
「子供が生まれたらその子らにもこの生き方を継がせる事」

兄弟たちは行動を起こした
まず、巣穴の一番近くの村に行くことにした
ブリーダーの家の卵を盗んで食らい
怒って出てきたブリーダーを切り刻んで食った
「マニューラは他のポケモンを狩る残忍な肉食獣」
「ニューラはポケモンの卵を盗む泥棒」
この二つが人々が自分たちになってほしい姿だと
その姿になることが「お願い」だと
兄弟たちは確信していた
その次はブリーダーの悲鳴を聞いて駆け付けた男
その次は腰を抜かしていた虐厨
その次は・・・・・・・・
一晩で村は死体だけが転がる凄惨な場と化した
殺した人々の肉を食い兄弟は
両親が死んでから初めて満腹になった
「人の願いをかなえれば、良い事がある」
両親のあの教えは間違いではなかったのだと
両親は最期に「お願いを断った者の末路」を身をもって
教えてくれたのだと
兄弟たちは涙を流しながら心に刻んだ

230願いをかなえてやった 2/2 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2019/09/10(火) 19:28:12 ID:t5SYmMhw0
月日は流れ、兄弟たちの何体かは「お願い」の実現の最中に死んだ
だが生き残った者は子を産み数を減らすことはなかった
中にはマニューラへの進化に成功した者もいた
兄弟たちは「教え」を自分たちだけでなく
他のマニューラやニューラにも教え広めていくことを思いついた
やがてそれは、「虐待」の広まりによって迫害され
人から遠ざかっていたポケモンたちにも伝わった

人々が気付いたとき、「相手」はすでに相当数に膨れ上がっていた
虐待組織は「大義名分を得た」とばかりに狩りに行ったが
程なくして全滅した
戦闘経験の差、地の利が向こうにある事、圧倒的な数
何より各種ごとに持っている特性や技の数々、
勝てる要素がそもそもないのだ
人々は我先にとその地方から逃げ出すことを選んだ
人のいなくなったその地方は立ち入り禁止となった

さらに月日は流れ・・・
別の地方の海岸
ニューラの母子が打ち上げられた海藻や魚を拾い集めていた
その一行にマニューラが接近する
警戒する母子にマニューラは挨拶をし、
自分が丸太に乗って旅をしてきたことを話した
両者が打ち解けたところに・・・
「ミイツケタ!ひゃっはー!!」
虐厨が棍棒で襲い掛かった
ザン!!
「ひゃ・・・?」
虐厨は棍棒を見た、マニューラの爪で鋭く切られている
下半分は虐厨の手に
上半分はマニューラが持っていた
「ヒャッハー!!!」
マニューラは虐厨の声を真似すると
虐厨に棍棒で殴りかかった
マニューラは虐厨が動かなくなるまで殴り続けた
いきなり棍棒で殴るのがこの地方の人間の挨拶なのか
変わった挨拶だな、とマニューラは思った
母ニューラは怯える子を背にマニューラに近づくと・・・
両者は一言二言交わす
やがてニューラ母子が先導する形で歩き出し
マニューラはそれに続いて歩きだした
どこへともなく

しばらくして、この地方には
人々に襲い掛かるポケモンの群れが
現れるようになったという

(おわり)

231願いをかなえてやった おまけ 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2019/09/10(火) 19:29:41 ID:t5SYmMhw0
虐待組織の組員は呆然としていた
あり得ない光景が目の前にあった
ポケモンブリーダーを切り刻み卵を食らうニューラ
生存者を探し回り切り刻んでいくマニューラ
「ぎゃあああ!」
悲鳴のした方を見ると、ペルシアンが男にのしかかり
その喉を食い破っていた
「マニューラは他のポケモンを狩る残忍な肉食獣」
「ニューラはポケモンの卵を盗む泥棒」
「だから駆除しても良い」
タブンネやイーブイの虐待に飽きた虐待組織が広めた
虐待組織監修のポケモン図鑑の記述の通りの世界が
そこにはあった
「ペルシアンは実はずるがしこく残忍な肉食ポケモン」
それも付け加えた覚えがあった
もちろん、図鑑の説明文はインチキだ
タブンネの時のように相手を貶め虐待しやすくするための
方便、そのはずだった
「嘘も100ぺんつけば真になる」
代々虐待組織で続いて来た教えは裏切ったことがなかった
人々は皆、賛同し
反対者は「アイゴ」のレッテルと共に排斥された
今回も虐待組織は勝利した
新しい虐待が始まり誰もが幸せになった
ほんの数週間前までは
「人を襲うニューラがいる」というデマとしか思えない報告
それが始まりだった
目撃者がいない事から偽情報と断じ気にも留めなかった
だが目の前の光景を見て納得した
目撃者がいないのではない、襲撃の生存者がいないだけなのだ
「メオ」
組員は背後の声に思わず首をすくめた
たまたま足元にあった空のペットボトルに足を取られ転倒する
その直後
ガシャン!!
ちょうどニューラが背後から飛び掛かったところだった
頭を狙ったカギ爪は空ぶってニューラは組員の頭上を越え
窓を壊し外へ転がり出る
組員が数少ない生存者になれたのは、
逃げ回るうちにたまたま川に落ちて
匂いによる追跡をニューラたちが断念したことと
川にいるギャラドスを彼らが恐れたためだった
命からがら地方を離れ彼は今、別の地方にいた
かつての仲間とは連絡は取れていない
しかしここにも虐待組織はあった
ここで一からやり直すことを彼は決意し、
今は新人として頑張っていた
「海岸沿いの村から連絡が途絶えたんだが、おかしいんだ」
「どうした?」
「みんな死んでたんだよ、鋭い刃物・・・いや、ツメであちこち切り裂かれて」
「あのへんのツメがあるポケモンはニューラくらいしかいないぞ、
別の何かが来たのかな?」
「だろうな、『ニューラが本当に人間やポケモンを襲う事はないはず』だ
念のため調査隊を組織しようって話になって・・・」
組員は先輩たちの会話を聞いて
手にしていたコーヒーのカップを落とした

(おわり)

232あいごおに 1/3 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2019/10/21(月) 21:58:05 ID:j1vvsT6Q0
とある町の山に祠があった
伝説ではその昔、暴れた鬼「あいごおに」が封じられているという
いつの頃からか、その祠の前でタブンネや実装石、ゆっくりなどの
「被虐生物」を虐待し殺し捧げる祭りが年に一回行われるようになった

「なぁ、やめようぜ」
虐太へ悪友の虐杉は声をかけた
「はwびびったのかよwww」
そんな虐杉へもう一人の友人の虐重は小馬鹿にした声をかける
「ちげぇよ!夜はここに近づいちゃいけねぇって言われてるだろ?」
そう、祠のある場所で「祭り」が行われるのも
何故か真昼間だった
夜は決して行われず
「絶対に近づいちゃならん!」と
町の者は幼いころから厳しく言われて育ってきた
虐太はそれが気に入らなかった
所詮、「アイゴ」は「アイゴ」だ
迫害の対象でこそあれ恐れる対象ではない
それが虐太の考えであり友人たちに言っては
大人に聞かれて叱られていた
「着いたぜ!」
黙っていた虐太は祠の前へ恐れもせず進んだ
慌てて二人もあとに続く
周囲にはタブンネの骨やゆっくりのお飾りなどが散乱していた
つい先月行われた祭りの名残だ
なぜか片づけず放置することが習わしになっていて
それでも来年には綺麗に何もなくなっていたことから
「きっと野生動物が片付けたんだろう」と
誰もが思い気にすることもなかった
「よし、まずは掃除してやろう!」
虐太はそう切り出した
すでに穴は祠の近くに掘られていた
「掃除って、これを片付けるのか?」
「そうだ!片づけちゃいけないなら試しに片づけてやろうぜ!」
妙に思った二人だがしかし
虐太の言い分に納得して骨やお飾りなどを集め
次々と穴へ放り込んだ
「なぁ、これってお前が掘ったのか?」
「そうだ、昨日ここに来たからな」
二人はそれは初耳だった
祭りが終わった後も半年、昼であっても絶対に近づいてはいけないと
釘を刺されていたからだ
「”あいごおに”なんて居やしないのさ!」
片付けが終わり穴を埋めながら
虐太は二人にそう言い放った
「あ、おいおい、見ろよこれ」
虐太は祠の中の注連縄を指さした
そこには祭りの時に付着したのかミニイカ娘の帽子が引っ掛かっている
「オレは穴掘ってるからそれ外しといてくれ
無理なら注連縄を外してきれいにしよう
なぁに、黙ってりゃ動物が勝手にやったと誰もが思うさ!」
虐杉は虐太の言葉に頷くと
注連縄を外してミニイカ娘の帽子を外した
「感謝するぜ坊主、こいつはオレにはどうにもならんからな」
虐太は虐杉にそう声をかけた
虐杉はその声に口調に違和感を覚えた
いつもの虐太はこんな声で口調だっただろうか?

233あいごおに 2/3 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2019/10/21(月) 22:03:52 ID:j1vvsT6Q0
「そうだ、ついでにお前たちに真実を話してやる
この町の伝承はゆがめられたものなんだ!」
虐杉も虐重も顔を見合わせた
「そもそも鬼は元は人間だった
虐厨の集落とも知らず迷い込んだタブンネを連れていた旅人
彼は村人にもてなされていたが
寝ている間に縛り上げられタブンネを目の前で殺された
寝る前に食った夕餉は別のタブンネの肉だった
旅人は怒り狂って叫んだ
”お前たちを殺し尽くす!たとえ鬼になってでもな!!”
宣言の通り旅人はその場で鬼になった
縛る縄を引きちぎり自由になると
屋内の虐厨を殺して回り
外へ飛び出して村の虐厨たちを手にかけた!」
「虐太・・・?」
そんな話は聞いたこともない
そして違和感もあった
虐太はまるで見て来たかのように話をつづけている
何より、目がいつもの虐太ではなかった
らんらんと輝きまるで獣のそれのよう
「村を殺しつくした鬼は隣の村にやってきた
そこを殺したら次はその隣
やがてウワサは近隣に広まり
徳の高い修験者が来て鬼を封じた
いや、慰めて眠らせた
この、祠の下にな!」
「お、おい・・・」
友の視線を気にせず虐太は話を続ける
「”決してここで殺生をしてはならぬ”と
修験者は人々に厳命した
そもそも彼は事の次第を聞いて最初こそ
自業自得と断っていたのだ
だが鬼の被害が大きくなりすぎたため
渋々腰を上げた
修験者は親身になって話を聞いてくれたぞ
そして、怒りや憎悪に身を焼かれる苦しみを察してくれた
祠を立て鬼と彼のタブンネたちを供養してくれたのだ!」
虐太は興奮してまくし立てた
「だが時が経ち修験者もいなくなった時
愚か者どもは鬼をただの伝説で迷信だと決めつけた
そして意趣返しのつもりか
ふざけた祭りを毎年するようになった
鬼は怒った、殺される生命を嘆いた
祭りの後で半年間立ち入りが禁止されるのは
鬼が殺された生命を慰め成仏させる時に
修験者から教わった念仏を唱え続けるためだ!
それを聞かぬためだ!」
そして虐太は二人を見回す
「鬼は時々やってくるお前たちのような
ひねくれ者へ語りかけて二度とこんな事をせぬように
言い続けた!
しかしそれは信じられず、時としてそいつらは
己の勇気を示すため逆のことを言い
祭りは終わるどころかどんどん激しくなった!
・・・やがて鬼は決めた
この封印を解いて出てくることを!
またあの時のように暴れる事を!!」
どん!!
その最後のセリフと同時に
祠が倒れた
やがて地揺れと衝撃に
3人の体は吹き飛んだ
意識を失う前に虐杉は
祠のあった跡から樹木ほどある
大きく太い右腕が突き出るのを見た気がした

234あいごおに 3/3 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2019/10/21(月) 22:08:00 ID:j1vvsT6Q0
「キミ!大丈夫か!?」
「こっちも生きている!担架を早く!!」
気が付くと3人はレスキュー隊に発見されていた
最初に意識を取り戻した虐杉は周囲を見る
レスキュー隊だけではない
軍隊に警察に消防にマスコミ・・・
慌ただしく色々な人々が彼らの周囲を動き回っている
「あ・・・」
虐杉は何か聞こうと思ったが声が出なかった
何を話せばいい?
そもそも何を話せば信じてもらえる?
「無理しなくていい、水は飲めるかい?」
レスキュー隊員は彼が水を欲しているものと勘違いし
仲間にペットボトルを頼んで持って来させる
やがてヘリが飛んできて3人を乗せ、その場を後にする
どうして町の大人たちでなくレスキュー隊なのか?
なぜ、色々な人々があそこにいたのか?
その疑問は空からの景色で氷解した
虐杉たちのいた山肌は大きく抉られていた
ただし下にではなく上に、だ
間欠泉が噴き出して3人を吹き飛ばしたのだった
祠のあった場所はまだ勢いよく湯の柱が噴き出ている
そこから山のふもとへ、町へと虐杉は目を移した
何もなかった
黒く冷え固まったものとまだ赤く蠢くものがある溶岩の大地
それだけが広がっていた
かろうじて残る家の燃え残りや鉄骨の名残
自動車の残骸などで
そこが生まれ育った町だった場所なのだと分かった

突発的な火山活動による災害
政府はそう結論を付けた
しかしそれまで火山活動の記録もない場所で
どうしてそんなことが起きたのか?
学者たちの議論が進んだがさっぱりだった
そして町の生存者は山へ行っていた彼ら3人だけだった
「あいごおに」は何故か
「掃除をしてくれたお礼に3人の少年を助けた神様」と言う話になり
いつしか「あいごさま」という子供を守る神様の伝説が誕生して
やがて災害の慰霊碑の隣に立派な社が建てられそこで祀られるようになる

「あの夜の事は3人だけの秘密にしよう」
病院の病室にいる時、たぶん誰も信じない事や
自分たちがしたことは犯罪に当たるかもしれないと
悟った虐杉がそう切り出したが・・・
「夜? そういやなんでオレあそこにいたんだっけ?」
2人を先導したはずの虐太は開口一番そう言った
彼は災害の起きた日の先日の夜
祠に出向いて「祠に巻き付いていた」注連縄を外す悪戯をした時から
記憶がないのだという
そういえば、あの時の注連縄は「祠の中」のものだった
祠に巻き付いていたはずのもう一本はあの時にはもうなかった
では、彼らを先導し掃除を切り出した「あの虐太」は
一体誰なのか・・・?
二人は顔を見合わせた
そしてあの時の虐太を思い出した
別人のような、まるで見て来たかのような語り口調に
獣のように光る目・・・
そして、気絶する前に見た大きな腕
虐杉は虐太を見た
「?どうした?」
「いや・・・とにかく今回の事は3人の秘密だ!」
虐杉はそう言うと布団をかぶった

顔を見合わせた二人をあの時と同じ目で
虐太が見ていた事に二人は気づかなかった
そして翌朝
虐太はどこにもいなくなっていた

(おわり)

235続きは地獄で 1/5 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2019/12/02(月) 15:52:50 ID:xwxSS.ec0
「た、たすけて・・・」
ボコボコに殴られ息絶えた相棒の死体を横目に
必死で命乞いをする男がいた
しかし見下ろす女性は汚いものでも見る目で見下すと
手にしていた鉄パイプを振り上げる
「・・・行こうか、ゲルゲちゃん」
少し目を離した隙に虐待され息絶えた家族同然の同居人の死骸を抱いて
女性はその場を後にした
ゴミ捨て場には元が人の形をしたものだとは分からないまで
叩き潰された肉塊の詰まったごみ袋が2つ残された

これが今、社会問題となっている「飼い虐待問題」だ
「甘やかされて育った被虐生物を虐めるのが面白い」
「アイゴちゃんが悲鳴を上げ怒り狂う様が楽しい」
「軽い罰で済むのだからやめる理由も恐れる事もない」
「顔真っ赤になって怒るだけの愛護なんて怖くない」
警察で取り調べを受けた加害者は口々にそういった
彼らに反省の弁は一切ない
「目を離した馬鹿が悪い」
彼らの言い分はこうだった
当然ながら飼い主の制裁で負傷、時には命を落とす奴も
時間経過に比例して増えていった
それでも彼らはやめなかった
何故なら「人間」あるいは「虐厨」である以上は
人権を持っているからだ
人に危害を加えれば罰せられるのは被害者たち
つまり、社会を守るルールを奴らは盾にしていたのだ
飼い主の中には「被虐生物」認定された家族の一員を外に出さず
屋内で飼育したり庭を改造して遊ばせたりする者も現れたが
それでも虐待派・虐厨は手出しをやめなかった
堂々と庭の中に入り込み
あるいは窓を壊してでも屋内に入った
「イ、命は助けて・・・」
「やだね、どうせ軽い罰か無罪になって放たれるんだからここで死ね」
当然ながら、怒りが憎悪に変わるのにさして時間はかからない
飼い主たち(虐待勢曰く「愛護派」)の対応もより先鋭化していった
追い返すのではなく殺すことを主眼に置いた対応は増えていった
「なんであいつらがのうのうとしててオレが逮捕されなきゃならんのですか?」
全力で肯定したい意見を取調室で言われる警察官の心理的負担も大きい
しかしそれはまだマシだった
「あの子がいなくなったんです、もう未練はありません」
そう言った少女は翌朝、留置所の中で壁に頭を打ち付けて死んでいた
発見したのは彼女に心底同情し釈放・そして無罪判決に奔走していた刑事だった
その日、少女は釈放されるはずだった
罪も書類送検で済むはずだった
当の虐厨が少女に突き飛ばされて「死んだふり」をしていたことが分かったのは
少女が死んだ後だった
彼女の葬儀の席であらゆる残虐な事件を担当して来た「鬼」は
人目もはばからず号泣し少女の両親に土下座して詫びた

236続きは地獄で 2/5 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2019/12/02(月) 15:53:47 ID:xwxSS.ec0
「いいぜ刑事さん!覚悟の上だ!!」
次に彼が担当した事件は
夏祭りで彼女に振られた腹いせに
通りすがりの飼いゆっくりを殺したという事件だった
犯人はすでに死んでいた
目の前で自暴自棄になっている男は犯人をその場で殺した飼い主だった
「どうせ器物破損で安く済むんだからざまぁw」
犯人にぶつけられたその一言がきっかけだったのは言うまでもない
犯人はタックルで転倒して後頭部を打ち付けた挙句
頭蓋骨がぐしゃぐしゃになるまで石で頭を殴られ続けた
「刑事さん、オレで終わりと思わん事だ」
落ち着いた男は裁判で有罪判決を受けた時、
礼を述べながらそう忠告した
刑事は分かっていた
このままではいずれ「破裂」の時を迎えると

ついに大きな事件は起きた
町民の反対を押し切って決定した虐待組織支部の建設
それが完成し虐待組織の支部長や構成員や協力者が
一堂に会してのパーティーの最中
手に松明を持った町民たちが建物へ押し寄せた
「皆殺しだぁ!!!!!」
常々「自分の家族が犠牲になるのは嫌だ」と言い続けた町民たち
危害を加える側に、したり顔で無理解の行政に
自分勝手、根拠がないと切り捨てられたその意見
それは町民たちには「特権階級の支配」「治外法権」と受け取られた
法律も警察も宛てにならない
なら、自分たちで自分たちを守るしかない
準備はひそかに進められた
そしてパーティーの前日
町民の一人の飼いゲルゲが虐待勢に殺されるという事件が発生したことが
町民たちの心のダムを決壊させた
洗面器のプールで庭先で遊ばせていたところを
散々虐待された末に水中に沈められ殺されたのだ
建物が完成すればこれが日常になる
いずれ自分たちも殺される番がくる
なら・・・やられる前にやってしまえ
これ以上犠牲が出る前に潰してしまえ
町の平和を守るのだ、自分たちの手で!!

建物の出入り口は突破され警備は殺された
裏からも表からも怒り狂った町民が押し寄せた
町民の中には、かつての被害者たちも少なくない数いた
虐待組織には、加害者たちが何人か参加していた
両者の邂逅は残虐性に拍車をかけた
「てめぇ!よくもオレの実装石を!!」
「手伝うぜ!どのみちこいつら生かしといちゃならん!!」
窓から逃げ出そうとした虐厨は
外からの手に引きずり出され
殺されてから屋内へ放り込まれた
厨房に逃げた虐厨はオーブンや冷凍庫に叩き込まれ
会場では虐待派が酒瓶を口に突っ込まれ強制的に度数の高い酒を注がれていた
金を出して命乞いをした幹部は札束ごと松明と化した
建物の敷地中が虐殺の地獄絵図と化す
「もういいな!」
灯油のポリタンクから中身が建物のいたるところに注がれ
火がつけられた
翌朝、町民たちが去った時には建物は跡形もなく焼け崩れ
焦げた骨や骸が無残な姿をさらしていた

237続きは地獄で 3/5 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2019/12/02(月) 15:54:42 ID:xwxSS.ec0
「もう限界だ・・・」
「鬼」は呟いた
自分たちが法を説いても飼い主たちは利く耳をもう持っていない
「法に従ったのにあの子は殺されてあいつはのうのうと生きてるだろ?」
そう反論されては返す言葉もない
下手をすれば彼らの不満は敵意に変わりこちらへ向く
八方塞がりだった
彼の脳裏には自殺した少女の顔が常にちらついていた
助けられなかった自分を責めた
あの日以来、事件解決だけでなく
未然に防ぐようにも尽力した
しかし、虐待勢の増長はよくなるどころか
日に日に悪化するばかりだ
注意すれば聞く耳持たず、時には逆切れし
事件を起こしても開き直り
被害者に暴言を平気で吐く
今回ついにそれが「破裂」した
町民の誰もがアリバイを持っていて
事件を起こした者は分からずじまい
どこかの推理小説みたいな「全員が犯人」などと言う可能性は
上層部が受け付けるはずもない
第一、刑務所はもうどこもいっぱいだ
「あ、先輩大変です!」
自分の後継にすべく育成している後輩が声をかけてきた
「ニュース見ましたか? 国会で動きがありました!」

政治家のつまらないパフォーマンスなんて見てる暇がないと
言った次の瞬間には無理矢理テレビのある
休憩室まで引きずるように連れてこられた
この強引さは自分にはないものだ
そう感心しつつ一応注意しようと口を開きかけた時・・・
目の前の光景に時間が止まった
昼休みでもないのにかなり人が集まり
誰もがテレビを見ている
『藍悟商会副会長の長女が重症』
藍悟商会、世界で知らない者はいない大企業だ
経済も政治も彼らが仕切っていると言っても過言ではない
「何があったんですか?」
集まりの中に署長を見つけ、刑事は聞いた
「ああ、なんでもゲルゲをプライベートで散歩中に襲撃を受けたらしい」
副会長は会長の息子で、つまり長女は会長の孫にあたる
何年か前に総監の護衛でお供した際に会長が笑みをこぼしながら自慢した
可愛らしい幼い少女が脳裏に浮かんだ
なるほど、猫可愛がりも頷けると初対面の自分でさえ思った
純粋無垢な少女だった
「署長!」
署員の一人が電話を署長に渡した
署員の態度、そして電話に出た署長の態度から
相手が誰なのか刑事は悟った
同時に思った
来るべき時が来た、と

238続きは地獄で 4/5 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2019/12/02(月) 15:55:34 ID:xwxSS.ec0
「この馬鹿野郎が!!!」
虐待組織本部ではすぐさま襲撃犯の特定が行われた
頭の軽い虐厨はすぐに見つかった
隠すどころか自慢話を仲間にしていたのだ、簡単である
連れてこられた犯人は総長から鉄拳制裁と怒声を浴びせられた
「なんてことを、なんてことをしてくれた!!!」
「え?たかがアイゴでしょう?何を怒ってんすか?」
意外だという目の前の虐厨を見て
総長は頭を抱えた
いつからこいつらはこうなった?
飼い主持ちの生物の虐待だけでもまずいのに
自分たちを踏みつぶすことがいつでもできる巨象の赤子に手を出す等
ただの自殺だと馬鹿でも分かるはずなのに
「みんなやってることでしょう?」
さらに怒声を上げて反論しようとしたところで
電話が鳴った
電話番号を見て青くなる
藍悟商会の会長、この国を裏から牛耳るドン直々の電話だ
総長は電話に出ることなく
その場にいた構成員へ犯人を警察に突き出すように言うと
行方をくらました
しかし3日後に死体となって発見された
自殺の名所で首を吊った状態で発見されたために自殺と判断されたが
台となるものは周囲にはなく
肉はあちこち削ぎ落されていて
舌も目も歯も抜かれていた
そして判断を下したのは警視庁本部である
反骨者として知られる「鬼」は
本部の判断に従った
いぶかしむ署長に彼は
「もうこれは止められません」と悲し気に言った

ほどなくして「正当防衛強化法案」が成立した
表向きは急増する凶悪犯罪への対策だ
被害者が加害者に対し攻撃を行い
たとえ殺してしまっても減刑あるいは無罪となる
というものだが
賢い人々は何が起きつつあるのか理解した
飼いを殺された報復をしたことで収監されていた人々が
全員「模範囚」の太鼓判を押されて
同時期に釈放されていったことで
頭の鈍い虐厨以外は何が始まったのかを悟った
賢い虐待派はすでに組織から離脱していた
馬鹿を統制できない無能に付き合って心中する義理などない
比較的良心的な虐待派は法案成立を機に離脱、あるいは身を隠した
どれだけ説得を続けても応じないバカに付き合う必要などない
虐厨は単に喜んだ
中には襲われたふりをすればアイゴを殺せると思った者もいた
まだ居残る虐待派は楽観視していた
自分たちには人権がある、アイゴもまたなにもできないだろうと
たかをくくっていた
今の生活をやめたくない、やめられない者もいた
虐待組織には必然的に楽観した者と情勢を読めない者
虐待迫害をやめられない者ばかりが残った
何が起きるかを読んだ上で覆せると考える者もいた
しかし、
彼らは恨みを買いすぎていた

239続きは地獄で 5/5 首おいてけ濠 ◆vBEOnE9fo2:2019/12/02(月) 15:57:42 ID:xwxSS.ec0
「ひゃっは・・・」ザク!!
散歩中の飼いゆっくりと飼い主を襲おうとした虐厨に
通りすがりの女性が頸動脈にナイフを突き立てる
何が起きたか分からぬまま虐厨は血を噴き出して地べたに倒れた
「こんにちは」「あらこんにちは〜、今帰りなの?」
女性は死体へ回収業者の目印になる発信機付きのラベルを張ると
危うく被害者になるところだったご近所さんへ挨拶した
世間話を始める二人を何も映すことはない
虐厨の見開いた目は見ていた

別の場所では虐厨たちが追われていた
相手はスーパーの店員だが、手にしているのは槍だ
すでに3人、彼らによって殺されていた
虐厨たちは虐待する被虐生物の物色に
スーパーのペット待機コーナーへ足を運んだのだが
いつもなら事後対応のはずのスーパーの返答は
武装した店員の出撃だった
「ぐげぇ!」
すぐ隣を走っていた仲間が投げられた槍に胸を貫かれ倒れる
それを見捨てて虐厨は走った
アジトへ逃げ込めば仲間がいる
返り討ちにしても新しい法律が守ってくれる!
彼は確信していた
炎を上げて燃えるアジトと
その周囲で「片づけ」をしている人々を目にするまでは
「あら、スーパーのお兄さんじゃないの〜」
近所のおばちゃんと言った感じの主婦が挨拶をしながら
逃げてきた虐厨の一人の目に催涙スプレーを吹きかける
「これは奥さん、毎度ありがとうございます」
店員たちは挨拶を返しながら追いついた虐厨たちに
止めを刺した

「おが・・・・・・」
庭に掘られた落とし穴で虐厨は串刺しになった
底に竹槍が切っ先を上にして立てられていたのだ
「だ、だずげ、で・・・!」
虐厨は冷たい目で穴から見下ろす
女性に助けを求めた
しかし女性は虐厨が完全に串刺しになり
肛門から口まで竹槍が貫通するのを見届けると
穴を埋めた
かつて被害に遭った彼女の庭には
いくつも同じ仕掛けが用意されている
残った仕掛けの数を数え、
女性は減った数を補うべくスコップを取りに屋内へ戻った

さすがに楽観して残っていた虐待派も
事の重大さを理解し始めていた
報復で殺されても「正当防衛」が成立し無罪
どういうわけか死体すら見つからない構成員も出始めていた
「こいつは犯罪だろ・・・」
「けどよ、法律が守るのは今はアイゴの方だぜ?」
会議は暗い空気の中続いた
結局結論が出ないまま会議は終わり
彼らは行動を変えなかった
そしてまた屍の山が積み上げられる
ここにきて、自分の命惜しさに離脱
あるいは仲間を売って逃げ出す者も出始めた
運悪くかつての被害者、あるいはその関係者と出会った者は
命乞いを聞き入れられずどこかへ引きずって行かれ
二度と顔を見る事はなかった
そして、加害者だった者たちは逃げた先で被害者
あるいは雇われた「駆除業者」によって殺されていった

刑事は今の世の中を複雑な感情で見ていた
あの時、少女を助けられなかった自分は
もしかしたらこうなっていたかもしれない
だから彼は見て見ぬふりをする人々に迎合した
仕方ないのだ
この流れを止めればまたあの少女のような
理不尽な暴力による犠牲者が出る
説得にも応じない害虫は駆除するしかない
人間の味を覚えたケモノを駆除するように

そして
法律施行から半年
虐厨は絶滅した

彼らを見るには地獄を覗く以外に
手段はないだろう

(おわり)


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