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( ^ω^) 願いが叶うようです

54 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:29:02 ID:2pP8licA0
(;^ω^)「昨日は大丈夫だったかお!?」

教室の音が一瞬で無音になるのを感じた。
僕の声が予想以上に大きかったからだ。
それに続いた二人もいた。

('A`)「お前のその傷、結構痛そうだけど強がってないか?
    無理にクール気取ってもいいことないぞ」

川 ゚ -゚)「あの現場に乗り込んだ二人に感謝だな
     まぁ、あの後先生を呼んだのは私だがな」

ショボンは驚いた表情から身動きが取れなくなっていた。
そりゃ、囲んでた人を無理やりどかせて、素性も知らん三人がいきなり話しかけてきたのだ。
それでも彼は真顔を貫いて、僕らに話しかけてくれた。

55 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:29:37 ID:2pP8licA0
(´・ω・`)「…昨日はありがとう。お陰で何とか助かったよ
      でもどうしてあそこに?」

('A`)「そりゃあ、あの廃墟の幽霊を見るためさ
    ま、結果的に幽霊よりもすげーもの見ちゃったし、経験したんだけどな」

(´・ω・`)「幽霊…そうなんだね。怪我は無事だったかい?」

( ^ω^)「そういえば…あんまり痛さはもうないお。ショボンは?」

(´・ω・`)「僕のことは気にしないで大丈夫…あの時先生を呼んでくれなかったら、僕はここにはいないだろうね
       最悪、皆であそこでフクロにされてたかもしれない。」

川 ゚ -゚)「そう言うな。私達はあの不良共が許せなかったのさ。弱小者に寄って集って…気に食わないよ
     結果的にみんな怪我さえしたけど無事だったから、全て良しだよ
     それに、転校生だってその美顔が守られたみたいだし、何よりじゃないか」

('A`)「正直羨ましいし、妬ましいよ」

(;´・ω・)「ドクオ君は勉学というのがあるじゃないか。僕には到底叶わないよ
      人間外見より、中身が大事だと僕は思うよ」

('∀`)「…無意識でも刺さるものって多いことを教えてやらないといけないかもな」

( ^ω^)「ドクオは刺さり易すぎるんだお」

56 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:30:05 ID:2pP8licA0
そんな他愛もない話をしているうちにチャイムが鳴った。
席に戻る時に、なんとなくショボンも含めた4人に好奇の目を向けられた…
そんな気がした。
人気転校生と、幼馴染の三人がいつものテンションでいきなり話し始めたのだ。
クーは嫉妬の目線を女子達から送られるが、そんなものは意に介していない模様。
女子って大変だなぁと、この時は流石に思った。
話したこともない三人と、いきなり怪我だらけになった人気転校生…
そう…
…ん?

( ^ω^)(なんでドクオの名前と勉強ができること知ってたんだお…?)

57 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:30:27 ID:2pP8licA0
記憶が蘇る。
僕は見てしまったんだ。
ショボンが黒いコートに包まれていたのを。
そして、ガムテープを剥がし、助けた時に迷わず僕の名前を呼んだことも。
風が止んだ後、ショボンも不良達も居なくなっていたのを。
今日、ドクオが勉強ができるということを知っていたのも。

まるで、全部最初から知ってて予知してたかのように…
僕の中で謎が謎を呼び込んだ。

一体どうすれば全てが結びつくのか
何をしたら納得出来るのか。
全く想像が付かなかった。

ただ、魔法のようだ。
としか思えなかった。

58 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:30:49 ID:2pP8licA0
それからは現状分かってることをノートに書いた。
紙が汗ばんだ手にくっつくことも気にならないほど、集中した。
この集中力が勉強に活かせたらいいのに。
そんなことを思い始めた。

今は、謎だけが心を巣食っている。
不安を殴り書きしているのだ。
チクチクする感覚を拭うようにノートに文字を連ねた。
一度気になったのだからしょうがない。

今まで感じたこともないこと。
知らなかったこと。
思いも付かなかったこと。
…突然現れた人物のこと。

ドクオが幽霊の話を聞いてから全て始まっていた。
その噂はどこからともなく湧き出て、僕らの耳にも届いた。
あの廃墟の幽霊の話。
そして、昨日見てしまった全て。
どう考えてもおかしいことは分かっているつもりでも、僕の第六感が叫んでいる。
あの幽霊の正体は…

59 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:31:09 ID:2pP8licA0
('A`)「幽霊の正体はショボン?」

川 ゚ -゚)「なんだブーン、寝惚けてるのか?」

( ^ω^)「…僕もそう思うお。それでも、考えれば考えるほどそうだとしか…」

弁当を食べながら、二人に結論を話し出す。

('A`)「ブーンの言いたいこともわかる。なんつったって、あの時あの空間に居たのはショボンだからな」

( ^ω^)「そうだお。それにあの不良達の話も全然聞かなくないかお?
       学校に来てないから話が出ないのも頷けるんだけど…」

川 ゚ -゚)「ふむ、私にはそういった考察は苦手だ。ドクオはどう思う?」

('A`)「…確かに引っかかるところはある。あの風とかな。
    だけど、幽霊の話はショボンが来る前からあったんだぜ?
    それはどう思うんだ?」

( ^ω^)「そこは何とも言えないおー…だけど、二人は気づかなかったかお?
       ドクオは勉強ができることを、何故かスムーズに突っ込みで入れてたんだお
       それに、不良達の話を思い返せば
       ショボンが最初に廃墟にいて、その後に不良達が来てたようなことを言ってたんだお
       僕には…それがどうも不気味だったんだお…」

60 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:31:32 ID:2pP8licA0
どこまで行っても僕のは憶測に過ぎなかった。
だが、二人はあまりにも自然な会話の流れだったために気が付かなかったらしい。

そう、幼馴染だからこそ引っかかるほんの少しの棘。
それが、辺り一面に広がっていた。
だからと言ってショボンを咎めることは一つもない。
ただ、何故?ということが多かったのだ。
ただの転校生というには、不可解なことが多かった気がした。

('A`)「まぁ今は考えすぎだぜ。まだ確定してるわけじゃない。
    ただ、面白い考察ではあるな」

川 ゚ -゚)「転校生がどんな人間か…私は興味がある。少し仲良くしてみようじゃないか
     なに、休みまでまだ今日を含めて4日もあるのだから」

( ^ω^)「…そうだおね。少し考えてみるお」

別にショボンがどういう人間だろうといいのだ。
ただ、知りたかった。
彼の魅力に取りつかれたとでもいうのだろうか。
僕の考えはグルグルと巡った。
そして、一つのシンプルな考えに到達した。

( ^ω^)「…もう一度、あの廃墟に行ってみるお」

___________________

61 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:32:07 ID:2pP8licA0
その日の放課後、僕はカーチャンに連絡をした。

『ごめんお!今日も少し帰るのが遅くなりそうだお…
 ご飯は家で食べるお!』

軽く、帰るのが遅くなることを伝えた。
昨日の反省だった。
心配をかけるわけにはいかなかったから。

そして、前と同じルートを辿る。
今回は二人には秘密で来てしまった。
また、二人が何かに巻き込むのは…
二人が傷つくことは、僕が嫌だった。

廃墟に向かうや否や、どうも様子がおかしい。
昨日と同じ道のはずなのに、やけに息苦しかったから。
一人で行動するのはあまり慣れてないから。

それに、前回よりも少し遅い時間を狙って行動している。
辺りはほぼ真っ暗。
月明りがなければ、右も左も分からなかっただろう。

15分の散歩道。
暑さもさることながら、この湿気が異常に感じ取れた。
風はほぼ無風に近かった。
太陽が昇ってないだけまだましなのかもしれないが、それにしたって暑い。

噎せ返るような土の匂い。
蝉の合唱に、虫の声。
どれもが暑さを助長していた。

62 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:32:34 ID:2pP8licA0
もう引き返そうか…
そう思った途端に、廃墟は現れる。
あの時と全く一緒の構造をしている。
それなのに、今回は少し肌寒さを感じた。
一人なことの畏れなのか?
原因は分からなかった。

到着したはいいが…どうしたものか。
このまま4階に直行するのでも問題はないだろう。
ただ、不良達が今もそこにいるんじゃないかと思うと、中々足が進まなかった。
とりあえずゆっくりと上に上がろう。

そう思って階段を一段上がった時だった。
ひんやりとした空気が上から流れてきたのが分かった。

ここは廃墟だ。
そして電気なんてものは通ってない。
なら何故?
クーラーのような冷気に引き寄せられた僕は、ほぼ無意識で4階に駆け上がっていた。

前回の場所まであっという間に着いてしまった僕は、ハっとした。
この冷たい空気は4階からじゃない。
屋上に繋がる階段からだった。

ドクオは言っていた、屋上に行くには、独立した階段を上がる必要があると。
思い出したこの廃墟の構図。
その階段は、その冷えた空気を放っているからか、異様な雰囲気を匂わせていた。

63 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:33:09 ID:2pP8licA0
その階段に近づけば近づくほどに、その冷気は増していた。
冬の風が屋上から吹いてきているようだった。
この廃墟に近づいた時に感じた肌寒さの正体は屋上なのだ。
屋上に上ろうと手すりに手をかけた瞬間。

激しい頭痛と耳鳴りに襲われた。

雷に打たれたような痺れが、頭蓋骨に響く。
僕はその痛みに耐えられずに、膝をついた。
声にならない声を捻りだす。
痛い、その一言すら出なかった。

ホワイトノイズのような爆音。
土砂降りの雨が降ってるようだった。
僕は死ぬのか?
訳が分からない。
分からないことだらけだった。

膝をつくことすら忘れ、床に這いつくばっていた。
頭痛は鼓動に合わせてズキズキと僕を蝕み続ける。

耳鳴りが段々と大きくなる。
その中で、女の声が聞こえた。

64 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:33:29 ID:2pP8licA0
【-----君■■を■■し■した■■■】

ノイズが酷くて聞き取れない。

(;-ω-)「いっっ…一体なんなんだお?」

【君の■■を■■■■を見■■■】

何かを言っている。
そして、僕に何か伝えようとしている。
だけど、聞こえない。

(;゜ω゜)「なんだお!誰なんだお!!」

電流を流されたような痛みに抗いながらも叫んだ。
理不尽に対する怒り。
その感情だけが僕を支配していた。
僕は吠えた。
何度も。
何度も。


65 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:33:56 ID:2pP8licA0
5分程のたうち、叫び回っただろうか。
頭痛は鳴りやまず、脳に響く声は絶えず何かを発している。
進展はなかった。

【■■に■■■全■■■■を■■して】

(;-ω-)「クソ…痛すぎて何も考えられねーお…!
      何かないかお!?」

本格的に死を感じ始めたころ。
耳に生じるノイズに交じって、金属の悲鳴が聞こえた。
錆び同士を強い力で擦りつけるような…
明らかに異質な音だった。

その音に導かれるがままに、屋上に繋がる扉を見た。

(;゜ω゜)「…何だってんだお!あれは!」

66 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:34:18 ID:2pP8licA0
屋上に繋がる扉から強烈な冷気が舞い込む。
僕を招くように開いた先の光景は…現実を無視したかのような光景だった。

空高く聳え立つ白い階段。
それは積乱雲のような高さをしていた。
ここからでは詳しく見れないが、言葉通り空まで届くかのようだった。
その終着点にある、固く塞がれた両開きであろう奥の扉。
いや、あれは門と言っても過言ではない。
そのくらい壮大で、姿だけで全てを雄弁に語っていた。
これは普通じゃないということを。

【君■■を■■■■示■■■■■■■】

その間にも語られる謎の声。
所々ノイズが走り、全てを聞き取るには難しかった。
強まる冷気。
この寒さは、確実に自分の体温を奪っていった。

(;-ω-)「な…何が言いたいんだお?お前は…お前は誰なんだお…」

まるで雪山。
それは、夏の服装のまま世界最高峰に挑むような感覚。
必然的に行きつく、死という文字。
これは洒落にならない。

今まで意識すらしたことない死が、確実に迫っていた。
このままでは、僕は…

67 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:34:52 ID:2pP8licA0
(;゜ω゜)「まだ死にたくねーおおおお!!!」

やけになった僕は、頭痛に苛まれながら屋上に向かった。
いきなり立って階段を上がるものだから、その姿は覚束無い。

何故だろう、このまま家に帰るっていう選択肢はなかったみたいだ。
感情任せの行動は、大抵碌なことがない。
きっと頭がおかしくなってるんだ。
頭痛もする、耳鳴りも止まない。
その上、語り掛けてくる声もまともに聞けない。
イライラしてたんだと思う。
多分。

おおおっ!
こうやって叫ぶことによって、意識と保った。
ここで少しでも気を抜いたら、それこそ真夏の凍死体になってしまうだろう。
それだけは避けなければならない。
自分を鼓舞するのと同時に、冷気が舞い込む扉に突進した。

そして、遂に辿り着いた。
ここが…

(;^ω^)「…屋上?」

68 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:35:17 ID:2pP8licA0
…のはずだった。
だが、目に映る景色は別世界だった。

辺りは黒く覆われて、見えるはずの学校も、星や月も何も見えない。
ただ暗黒な空間に、天まで上ってしまいそうな階段と、厳かに存在する扉。
ただそれだけだった。
それだけなだけに、この空間の広さは想像もできなかった。

どこまでも広がる漆黒の闇。
それとは反対に存在する純白の階段と扉。
大袈裟な装飾が施されていて、その美しさは何者も汚すことを許さない。

しんしんと降り積もっている雪。
歩を進める度に、足元からザクザクと音を立てた。
僕の浮き立った足をちゃんと踏めるように。
それは、この不可解な場所に僕が存在しているということでもあった。

…もう一つ。
屋上に繋がる扉からは見えなかった影を視認した。
純白の階段前に立つ…黒いコートの姿。
その顔はもう何度も頭の中を掻き乱した、見知った顔だった。

69 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:35:38 ID:2pP8licA0
(´・ω・`)

ショボンだった。
彼は僕にびっくりしたのか、足早に僕に駆け寄ってきた。

(´・ω・`)「ブーン君…何故ここにいるんだい?」

何故?
それはこっちのセリフだお。
僕は聞きたいことが沢山あるんだお!
ここはなんなんだお?
さっきの声は誰なんだお?
この寒さは?
雪は?
階段は?
なんで廃墟の幽霊と同じ服装してるんだお?

…お前は何者なんだお?

僕は駄々を捏ねる子供のように、ショボンに言葉を浴びせた。
もう脳が処理しきれない量の情報量だった。
何かを吐き出さないと、見えない何かに押し潰されそうになっていた。

70 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:36:04 ID:2pP8licA0
(´-ω-`)「…それ等に答えるには時間がかかる…かな
      それに、ブーン君がここにいることの方が僕にはよっぽど驚きだよ」

それはどういうことだお…

(´・ω・`)「まぁいいさ、ブーン君。"元の世界"に戻って話をしようか
       ここだと寒いし…何より頭痛とか耳鳴り、止まらないだろ?」


謎の症状に悩まされていることがショボンは知っていた。
どうして?
その言葉を吐き出す前に、彼はコートを僕に被せて視界を覆った。
すると、不思議と寒さや頭痛はなくなった。
「ちょっと眩暈がするかも。ごめんね」
彼がそういうと、少し立ち眩みをしたような感覚に陥った。

71 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:36:24 ID:2pP8licA0
倒れまいと足に力を入れた瞬間に、覆っていたコートを取ってくれた。
寒さや耳鳴り、頭痛は何事もなかったかのように今はもうない。

嗅ぎ慣れた匂い。
懐かしいとすら思うここは、自分の教室だった。
違和感と言えば、プールから反射した月明りが、不安定に部屋照らしているからだだった。
窓から見えるオリオン座が、空に堂々と浮かんでいる。

僕はただただ、現状を飲み込むしかなかった。
さっきまでいた異空間から、ショボンが瞬間移動?を使って戻ってきた。
その事実を飲み込むことしかできなかった。

…どう考えたってこれは…魔法じゃないか。

( ^ω^)「ショボン…」

人はパニックを通り過ぎると賢者モードになるみたいだ。
少なくとも僕は。
言いたいことがあるはずなのに、言葉が出てこなかった。

この空気を変えたのは、彼からだった。

72 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:38:22 ID:2pP8licA0
(´・ω・`)「…一つ言おう、ここまできた方法は魔法さ。
       そして、ここはパラレルワールドでも何でもない
       いつもの教室。ここなら落ち着くだろうと思ってね
       あの場所で会ってしまったんだ…答えられることなら、正直に答えるよ」

その会話をを皮切りに、僕も言葉を発した。

( ^ω^)「君は…幽霊なのかお?」

(´・ω・`)「それは違う、と言い切ろう
       ブーン君の目の前で思いっきり血を吐いただろう?
       あれが何よりの証拠さ」

( ^ω^)「なんで僕が頭痛や、耳鳴りしていることを知ってたんだお?」

(´・ω・`)「僕もかつて…最初にあそこに到達したときに、同じ症状に陥ったからだよ
       それに、顔色もすこぶる悪かったし、そうかなってね」

( ^ω^)「さっきまでの空間…廃墟の屋上にあったものは何だお?」

(´・ω・`)「ブーン君、君は聞いたことがあるかい?あの廃墟の噂を…
       もちろん幽霊の話じゃないよ」

( ^ω^)「…願いが叶う場所、だったかお?」

73 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:38:44 ID:2pP8licA0
(´・ω・`)「そうだ。僕の素性は知らなくていいけど、僕がなんであの場所に居たか
       それは極単純で、願いを叶えてもらう為さ…それも、強い願いの元、ね
       あの場所は、強い願いに引き寄せられるように現れる…らしい
       僕も詳しくは分かってない」

( ^ω^)「…ショボン、君がどうしても不思議だったんだお
       何なら、今も不気味にすら思ってるお。ドクオの事もすんなり知っていたし
       あの廃墟で初めて会った時のあの風も…あれも魔法かお?
       それ等を確かめる為、だお。あの場所に行けば何か分かるかもしれないと思ったんだお
       僕ら…クーとドクオは大切な幼馴染だから、守りたかったんだお」

話せるようになった僕は、文脈すら無視して全てをぶつけた。
不安、不信。
それらを前面に出して。

(´-ω-`)「…おおよそ合っているよ。君の考えていることは、全部、ね
      君たちのことを利用したわけじゃない、ってことは伝えたいかな
      一人で居るのは慣れているけど、悪目立ちはしたくなかったんだ
      気分を悪くしたなら、ごめん。僕も友達を作りたいんだ
      だからこそ、君たち三人と少しだけつるむような関係になりたかったのさ
      あの不良達はイレギュラーだったよ。僕も想定してない
      それに、もう学校は最後になるかもしれないからね。思い出作りさ」

74 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:39:06 ID:2pP8licA0
( ^ω^)「そういえば…あの不良達はどうなってるんだお…?」

(´・ω・`)「彼らの場所だとは思わなかったから、あんなに殴られるのも驚いたよ…
       でも、安心していいよ。彼らは少し"眠って"もらってる
       安眠は出来てないかもしれないけど、少しは懲てもらわないとね
       君たちに助けてもらって良かったと思ってるさ」

( ^ω^)「そうだったのかお…」

不安を塗り潰すように、気持ちよくショボンの言葉がハマっていく。
矛盾することは何もなかった。
今までの彼からは感じ取れない程、人間性が溢れていた。
話している間に、徐々に鮮明になる彼の目的、意図。
きっと、これが彼の本心なのだろう。

彼に対する疑念が取れたところで、僕は一番気になっていたことを彼に問いかける。

75 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:39:28 ID:2pP8licA0
( ^ω^)「…本当に願いが叶うのかお?あの場所で」

(´-ω-`)「…そればっかりは分からない、かな。僕は今、その願いを叶える為に奮闘してるんだ
      あの場所に行くには、人の強い願いが必要なんだと思う
      僕も色々検証中だからね。合ってるかどうかの確証はないよ」

(;^ω^)「そうなのかお?でも僕に今叶えたい願いは…特にないお?」

(´・ω・`)「"どんな手を使ってでも"叶えたい願いさ…心当たりないかい?」

(;^ω^)「ん-…そう思った願いがもしあるなら、すぐ出てくると思うお
       だから多分…そんな大きい願いはないんだと思うお」

(´-ω-`)「…そうなんだね。よく分かったよ。ありがとう」

(´・ω・`)「そろそろ帰らなきゃいけないんじゃないか?時間ももう遅いけど」

(;^ω^)「…つやっべえお!!カーチャンに連絡…あれ?」

急いで携帯を見る。
多分怒ったカーチャンからの連絡があるはず…
と思ったが、何もなかった。

僕からの連絡は、遅くなっても必ず返してくれていたカーチャンだ。
こういうことはなかったのに…何かおかしい。

(´・ω・`)「僕が近くまで送ってあげる。それと、今日のことは内密に。いいかい?」

(;^ω^)「わ、わかったお!ありがとうだお!」

そういうと、ショボンはまた僕に黒いコートを被せ覆った。
また、脳が揺さぶられような感覚になった。
---気を付けてね---
彼の声でそう聞こえた気がした。


___________________

76 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:39:55 ID:2pP8licA0
ショボンの魔法?でいつの間にか道路に立っていた。
夜中でも、蒸し暑さは昼とそう変わらなかった。
何故か彼の姿は見えなかったが…いつも通りの帰路に突っ立っていた。

急いで家に帰らねば、カーチャンが心配している。
それにしても…ここに来る前の彼の言葉…
それが引っかかっていた。
何に気を付ければいいのだろうか…

その意図は、家の玄関に着いた時に察してしまった。

トーチャンがどこかに向かおうとしていたのだ。
こんな夜中に。大きな荷物を持って。一人で。
不安な心を落ち着かせて、いつも通り声をかけた。

( ^ω^)「トーチャン!帰るの遅くなってごめんお!
       どこに行くんだお?」

( ´W`)「ブーン…いや、ホライゾン…」

トーチャンが一言発しただけで、空気が淀んだのが分かった。
その声はどこまでも黒く、底なしに暗かったからだ。
名前を呼ばれることが久しぶりのことだった。
幼馴染の三家族全員から言われているあだ名。
それは自分の家族にも影響してたようで、トーチャンもカーチャンもあだ名で呼んだ。
名前で呼ばれるとき、それは決まって怒られる時か…真面目な話の時だけだった。
自分を呼ぶそのトーンと、その荷物の大きさで、悪い未来を想像してしまった。
それも最悪な。

77 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:40:23 ID:2pP8licA0
( ^ω^)「トーチャン…?」

( ´W`)「…ホライゾン。お前は立派に育ったな。俺の誇りさ。噓偽りなくな」

( ^ω^)「…何の話をしてるんだお?」

( ´W`)「…トーチャンな、この家から出ていくことになったんだ
     もう、この家に戻ることは…ない」

( ^ω^)「…トーチャンもそんな冗談言うんだおね!
       びっくりしちゃったお!今日は一緒に夜ごはん食べれるんだおね?
       帰ってきたの遅くなったからってそんな…」

( ´W`)「ホライゾンも、もう大人だ。この言葉の意味…分かるな?
     トーチャンな、他の女の人と住むことになったんだ…
     だから…これでサヨナラだ」

(;^ω^)「と、トーチャ…ン?」

嫌な汗が僕の背中をなぞった。
それはこの暑さのせいではなかった。
トーチャンはその後、目も合わさず家を離れた。
僕を通り過ぎる時の表情は見えなかったが、絶望的な雰囲気を醸し出していた。

78 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:41:01 ID:2pP8licA0
それを横目に、ドタドタと音を立てて家に入る。
何か…大切な物を失ってしまいそうで。

(;^ω^)「カーチャン!トーチャンが!!」

いつものリビングとは思えないほど、広い間取りだった。
それは、元々あった物がなくなっているのと同義だった。
そして、それが意味していることは、容易に想像できてしまったのだ。
焦っているのだ。
あの冗談がただの冗談だと、言ってほしかっただけなんだ。

そんな楽観的な予想はカーチャンの顔を見た瞬間に分かってしまった。

 J( ー )し

ただ、俯いていた。
それだけで、考えうる最悪が現実になってしまったことを悟った。

(;^ω^)「カーチャン!どうなっているんだお!?
       トーチャンがどっか行っちゃうお!何で話してくれなかったんだお!」

僕は怒鳴るようにカーチャンに言葉をぶつけてしまった。
こうしてる間にも、聞こえてた車のエンジン音。
それは、自分達の車の音だった。
幾度もあの車で旅行に行ったのだ、聞き間違えるはずがない。

一言、たった一言"嘘だ"と言ってくれ。
それだけでいいのに、どうして大人はこうも…ズルいのだろう。
そんな哀れな希望は、机に置かれた紙が物語っていた。
だからこそ…全てを理解した。
もう、二人は…

79 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:41:30 ID:2pP8licA0
 J( ー )し「ホライゾン…どうしちゃったの?」

(;^ω^)「トーチャンが今出てっちゃったお!他の人と住むって…
       はっきり言ってたお!追いかけて引き止めないと!!」

 J( ー )し「…トーチャンも冗談が上手になったねぇ。出張くらい今まで何度もあったじゃない」

(;^ω^)「トーチャンがそういう事で冗談言わない人だってカーチャンが一番知ってるはずだお!!」

僕は居ても立っても居られなかった。
とにかくトーチャンを追わなきゃ。

80 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:42:00 ID:2pP8licA0
靴も履かずに家を飛び出た。
もう出発してしまったとは言え、まだ車の音が聞こえるんだ。
信号かどっかで追いつけるはずさ。
僕抜きで、知らないところで勝手に決められるのはいくら何でもないだろう?
何が悪かったんだよ。
何がそうさせたんだよ。
今までも、これからも愛していたいんだよ。
僕の家族も、クーとドクオの家族も。全部。
あんまりじゃないか。
今までずっと一緒だったじゃないか。
知らない間に何があったんだよ。
僕に言ってくれても良かったじゃないか。
少なくとも、こうなると分かっていたなら…

いや、自分から目を背けただけなんだ。
あの日、家が真っ赤になった時のカーチャンは様子が変だった。
それに気づいていたのに、見て見ぬふりをしたんだ。
僕があの時、少しでも声をかけていれば。
トーチャンと会えたあの朝、もっと話を聞いていれば。
今日、廃墟になんか行かずにちゃんと帰っていたら。
僕のせいでもあるのに、二人のせいにしてしまった。
違う、僕が引き止めなきゃいけないだろ?
僕は、僕は…
二人の子供なんだから。

81 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:42:20 ID:2pP8licA0
自己嫌悪に塗れた心が耐え切れなくなって、溢れた感情は涙となって零れ落ちた。
きっと誰も悪くない。
でも原因は分からない。
だから話したかった。

もう、あの車のエンジン音すら聞こえないのに、見知った道を走り続けた。
走馬灯のように次々に思い出が頭を駆け巡る、その度に涙がとめどなく出続けた。
もう一度だけ、家族で話し合おう?
それだけで良かったんだ。
それだけを言いたかった。
そうすればきっと…いつも通りに戻るはずだよね?
だからお願いだ神様。
僕の家族を…幸せな時に戻してくれ。

視界が上手く機能しなくなり、僕は転んでしまった。
もうとっくに限界だった。

82 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:42:43 ID:2pP8licA0
( ;ω;)「…ごめんなさい」

ポツリと、呟いた。

コケたままの僕は、空に仰向けになって暫く動くのをやめた。
今日という一日に色々なことが起こり過ぎていたためだ。
廃墟のこと、ショボンのこと、魔法のこと、家族のこと、これからのこと。
何も考えられない。
考えたくなかった。

この降り注ぐ月光に照らされ続けた。
どうしようもない、行き場のないこの感情をぶつける相手は居なかった。
僕は…怒りの矛先を月に向けるように、上を向いた。
そうしてたら、さっきまでの激情は収まる気がしたから。
怒ることも、泣くことも慣れて無いのだ。
ただ、誰かに、何かに、八つ当たりをしているだけだった。
こんなことをしても、何も解決なんてしないのに。

ひとしきり涙を流したら、帰ろう。
もう日付もとっくに変わっているだろう。
…初めての深夜散歩は最悪だった。

心の整理はできていない。
むしろ、思い出ばかりが出てくる。

83 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:43:10 ID:2pP8licA0
〜〜〜数年前:罅割れた追憶〜〜〜



あの時は皆浴衣を着ていた。
歩き慣れない服装なのに、トーチャンは車椅子を押しながら歩いていた。
色々教えてくれた出店通り。
初めて見る巨大な熊手が怖かった。
それをどういう物か説明してくれてたけど、人が溢れかえっているというのもあって聞き取れなかった。

焼きそばとお好み焼きの混ざった匂い。
提灯に照らされた林檎飴。
酔った大人の笑い声。
蝉の抜け殻。
歩きにくい足元。

僕は人混みが怖くてカーチャンの手に自分の手を重ねてたんだ。
心配しないでいいよって、僕の手を握り返してくれたんだっけ。
トーチャンはそんな僕らを幸せそうに見てた気がする。

84 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:43:36 ID:2pP8licA0
そうしてたら、突然爆弾が落ちるような音を聞いて、僕はびっくりして声を上げて泣いてたんだ。
カーチャンがほら!って僕の肩を叩いて上に指を指してた。
泣きじゃくる僕は、カーチャンの指の先を見た。
それが初めて見た打ち上げ花火だった。

花よりも大きくて、脆くて、すぐ消えてしまう。
それなのに、その大華は僕の感覚全てを奪った。
どこまでも広がる満天の黒に咲くあの爆弾は、僕の泣きっ面を壊してくれた。
強く握ったカーチャンの手は、熱帯夜よりも優しく、暖かかった。
多分、車椅子を押してたトーチャンの手も同じことを感じてたと思う。
なんとなくその時、三人が心で繋がってるって幼いながらに感じてた。

それから遊園地もそうだ。
その時はクーとドクオの三家族も一緒に来てたんだよな。
お化け屋敷でドクオが酷く泣くもんだから、クーと僕で慰めてたっけ。
僕のトーチャンはそのシーンをカメラで撮ってたんだよな。
今もまだ、家にあるアルバムに残ってた気がする。

海も、ハロウィンも、クリスマスも、初詣も全部。
僕の家族三人で手と手を取り合って生きてきた。
ずっと、このままだと思ってたんだ。

85 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:43:59 ID:2pP8licA0
〜〜〜現在:静寂と同化して〜〜〜


そんな記憶から現実に戻るまで、体感1時間は仰向けになっていた。
記憶の引き出しは、辛いときほどアレコレ開けては放っぽる。
その片づけをするのには骨が折れる時間だった。

ようやく落ち着いた、と自分の中で区切りをつけた。
そうでもしなかったら、いつまでも立てなかっただろうから。
ゆっくりと上体を起こして、痛む両足を地につけた。

見守ってくれているのか、はたまた僕を見て笑っているのか。
あの月は、僕が帰宅するまで追ってきた。
涙は自然と引っ込んでた。
何時から止まっていたのかはわからない。
変な気持ちで冷静になる。
だからこそ、帰ろう、と思えたのかもしれない。

家に帰ればカーチャンがいる。
まずは、話すところから始めてみよう。
そう思ってから、歩くスピードも速くなり始めた。

86 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:44:25 ID:2pP8licA0
何故か家に戻ることに緊張を覚えたころ、ようやく玄関前まで着いた。
カーチャンに酷いことを言ってしまったからだ。
傷つけてしまったかもしれないと思うと、心が痛んだ。
僕よりもしんどい思いをしているのはカーチャンなのだ。
色々なことが混ざってしまって、考えは纏まらなかったが、冷静な状態は続いてた。

恐る恐る、ドアノブに手をかける。
開けた先は、僕が勢いよく出て行ったせいで、ぐちゃぐちゃになった玄関があった。
それに、靴を履かずに外を走ってしまいにはコケている。
すっごいダサい。

そんな玄関を直すこともせず、足に着いた泥や砂利も拭かずに、僕はカーチャンの傍に近寄った。
カーチャンは僕が出て行った時と同じ位置、同じ格好をしていた。

…僕は怖かった。
何か声をかけることが。
それでも、何か話さないといけない。
…僕の唯一残った家族なんだから。

87 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:44:47 ID:2pP8licA0
( -ω-)「…カーチャン、ごめんお。おっきい声出して」

カーチャンは頷くだけだった。
まるで、大丈夫と言ってくれているかのように。

( -ω-)「…正直、僕は怒ってるし、寂しいと思ってるお。僕に話を一つもしてくれなかったから
      これからどうなるかも分からないから、さっきはカーチャンに当たっちゃったんだお
      それでも…聞かせてほしいお
      きっと…もう元には戻らないんだおね…?」

少しの希望に縋る様にカーチャンに問う

 J( ー )し「…本当はホライゾンが成人したらって話だったの
       ホライゾンは悪くない。何も悪くないんだよ
       もう終わった後になるけど…私達は…」

( -ω-)「それ以上はいいんだお…僕もそれなりに大人だってことだお…
      カーチャンは傍に居てくれるおね?」

勿論だよ。
そう言ってカーチャンは震える体で僕を抱きしめてくれた。

88 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:45:12 ID:2pP8licA0
結局原因は教えてはくれなかった。
きっと、今の僕には言えないことなのだろう。
割り切れないのに、割り切らなきゃいけない。
僕はやっぱり…大人にはなれない。
そう思った。

やけに広い自分の家。
ぽっかりと空いた1部屋。
微かに残る匂いだけで、目を瞑ればいつも通りの光景が広がった。
今にも触れられそうなほど色濃く残った僕の日常という歯車が、少しずつ狂い始めた。

___________________

89名無しさん:2025/02/13(木) 19:35:45 ID:HtwhbWmE0
おつおつ

90 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 01:55:44 ID:uiQUQz.g0
4days


('A`)「昨日ブーンのやつ、帰り居なかったなー。どこ行ったんだろう」

川 ゚ -゚)「私も考えたんだが…
     夜の連絡もなかったってことは…だ。一つしかないだろう?」

('A`)「ん?何か心当たりあるのか?」

川 ゚ -゚)「か の じょ、だ。ブーンにできたんだろ?そうすれば辻褄が合う」

(;'A`)「おい…彼女…?そんなはずは…そんな素振りなんてなかったぞ…?」

川 ゚ -゚)「恐らく、私達には言いづらかったんだろう。
     ドクオも考えてもみろ、自分に恋人ができたとして、それをいつもの調子で言えるか?」

(;'A`)「そりゃそうだけど!だったら夜には連絡の一つくらいあってもいいはずだろ!?」

川 ゚ -゚)「男女が夜、誰とも連絡つかなくなる…つまり、だ」

(;'A`)「…つまり…」

91 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 01:56:07 ID:uiQUQz.g0
川*゚ -゚)「営んだ…ということだろう…言わせるな、恥ずかしい」

(#'A`)「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!!!
     許せねえ!!!ブーン出てこい!!!」

(#;A;)「俺らはそんなことしないだろおおおお!!!!
      せめて俺には言えやああああ!!!!羨ましいなクソがあああ!!!」

川 ゚ -゚)「なんだ、ドクオにもそんな感情があったのか。そういうことなら、私に言ってくれればいいのに」

( ;A;)「…え?」

川 ゚ -゚)「ん?」

( ;A;)

川*- -)

92 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 01:56:29 ID:uiQUQz.g0
(;^ω^)「なんだお…この空気…」

(#'A`)「ブーンてめええええ!!!!彼女ができたなら言えやクソがあああああ!!!」

(;^ω^)「なんの話だお!!!!ドクオ落ち着くお!!!!」

ああああああああ…


あれから、時間が過ぎるのは早かった。
いつの間にか朝日が昇り、僕は眠れなかった。
トーチャンだけの荷物も痕跡も何もない。
もう二度と元に戻らない、という事だけを広々としたリビングは語っていた。

まだカーチャンも心の整理がついてないのだろう。
目が赤く腫れた後が見受けられた。
きっと僕が眠れなかった時間、カーチャンは声も出さず泣いていたのだ。
大人は変にそういうところを隠したがる。
本人がまだ割り切れてないなら…まだ僕も引き摺っててもいいおね?カーチャン。

93 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 01:57:13 ID:uiQUQz.g0
クーとドクオと合流してからは、何の変哲もない景色だった。
二人の両親にはまだ何も言ってないみたいだった。
現に、僕に対して変に気を使ったことも感じ取れなかった
ただ、昨日僕が帰り道に居なかったこと、夜に何も連絡がなかったこと。
それらが重なって、二人の間に変な誤解が生まれてたらしい。
彼女を作るなんてことは、全く考えたことがなかった。
なによりもこの二人と居れるのが僕の幸せだったからだ。
まぁ…いずれは僕ら三人共恋人ができるのだろう。
クーもドクオも、どんな相手を見つけるのだろうか。
そう思うと…少し寂しい。

夏の精霊よ、どうか僕に救いか彼女をください。

そんなこんなで学校に到着。
教室に着いてから、珍しい人物から声をかけられた。

94 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 01:58:34 ID:uiQUQz.g0
クーとドクオと合流してからは、何の変哲もない景色だった。
二人の両親にはまだ何も言ってないみたいだった。
現に、僕に対して変に気を使ったことも感じ取れなかった
ただ、昨日僕が帰り道に居なかったこと、夜に何も連絡がなかったこと。
それらが重なって、二人の間に変な誤解が生まれてたらしい。
彼女を作るなんてことは、全く考えたことがなかった。
なによりもこの二人と居れるのが僕の幸せだったからだ。
まぁ…いずれは僕ら三人共恋人ができるのだろう。
クーもドクオも、どんな相手を見つけるのだろうか。
そう思うと…少し寂しい。

夏の精霊よ、どうか僕に救いか彼女をください。

そんなこんなで学校に到着。
教室に着いてから、珍しい人物から声をかけられた。

95 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 01:59:42 ID:uiQUQz.g0
(´・ω・`)「やぁ、三人共、元気かい?」

ショボンだった。
バーボンハウスみたいだな、お前。

( ^ω^)「…釣りじゃないおね?」

(´・ω・`)「釣り…?好きなのかい?」

( ^ω^)「いや、忘れてくれお。マジでなんでもないお」

川 ゚ -゚)「そんなことより、どうしたんだ?人気者転校生に我々ができることは少ないぞ?」

(´・ω・`)「…僕は少し遠いところから引っ越してきたんだ…だから、この街のことはあんまり知らない
       だけど、近々妹と夏っぽい場所に行きたいんだ、どこかいいところは知らないかい?」

('A`)「妹さんが居たのか…あんまり大きくなくていいなら、今週の土日に商店街で祭りがあったっけか」

川 ゚ -゚)「夕方くらいからやってると思う、屋台は普通にあるし、時間さえ合えば神輿も見れるかもな」

( ^ω^)「確か最後は打ち上げ花火もあった気がするけど、去年は雨で中止になっちゃったんだおね…
       今年は見れると思うお?」

(´・ω・`)「そうなんだね、ありがとう
       妹と行ってみることにするよ」

96 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:00:07 ID:uiQUQz.g0
川 ゚ -゚)「…どうせなら一緒にどうだ?転校生。横の二人が良ければ案内しようじゃないか
     妹さんにも挨拶したいしな」

(´・ω・`)「…いいのかい?幼馴染の仲に入るのは少し気が引けるけど」

('A`)「んまー俺はいいよ。せっかく夏休み前に転校してきたんだ。仲良くしようぜ
    ショボンと、その妹ちゃん的に気まずくなければ」

( ^ω^)「僕も全然いいお!どうだお?」

(´・ω・`)「…君たちの優しさに救われているよ。ありがとう
       家に帰ったら妹に話てみるよ。アイツ、少し顔見知りだからね」

川 ゚ -゚)「そこは私の母性で何とかして見せようじゃないか
     女という物を叩き込んでやるぞ?」

('A`)「やめとけやめとけ…クーが教えられるのはゴリラのなり方だろう?」

川#゚ -゚)「ふむ、余程その口は要らないと思えるなぁ?ドクオ?」

(;'A`)「あ、いや、違くてですね。これは何というか霊長類最強級のメスといいますか」

97 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:00:34 ID:uiQUQz.g0
(; 手)「あああああああ違う違う違う!!!母性が強すぎてえええええあああ」

川#゚ ー゚)「私の母性堪能させてやるから気にするな。身をもって知れ
      女はな、全員愛情たっぷりな猛獣なんだよ」

(; 手)「qwせdrftgyふじこlp」

(;´・ω・`)「…あれは大丈夫なのかい?顔が段々真っ赤になってくけど」

(;^ω^)「痛いとは思うけど、ドクオが悪いお。自業自得だお」

( ^ω^)「…そういえば、一つ聞きたいんだお」

(´・ω・`)「僕がわかる範囲でよければ、どうしたんだい?」

( ^ω^)「願いは…どんなものでも叶うのかお?」

(´・ω・`)「…わからない。でも、何かに縋れるなら、僕はその可能性を信じるよ
       この命を投げ捨ててでも、僕は叶えたいんだ」

( ^ω^)「…ショボン、君の願いっていったい…」

98 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:01:03 ID:uiQUQz.g0
そう言いかけた途端、ドクオ…のようなものが僕の足元に転がった。
…なんだあれ、モザイクかけておくか…

(░░░░)「♓︎⧫︎♋︎♓︎♓︎⧫︎♋︎♓︎♌︎◆︎📫︎■︎⧫︎♋︎⬧︎◆︎🙵♏︎⧫︎♏︎♋︎♋︎♋︎♋︎♋︎」

(;´・ω・`)「…」

(;^ω^)「…」

川#゚ ー゚)「どうやら私の母性が気に入ったみたいだなドクオ
      そのまま貴様が没するまで私が飼ってやろうか?」

(░░░░)「❍︎□︎◆︎♓︎⬥︎■︎♋︎♓︎🙵♋︎❒︎♋︎⍓︎◆︎⬧︎◆︎⬧︎♓︎⧫︎♏︎📭︎📭︎📭︎」

そんなこんなで、今日も始まった。

いつも通りの中に、ショボンも混ざっていた。
僕は彼のことを、二人よりは知っているつもりだ。
昨夜のこと…夢のような一日だった。
それでもハッキリと覚えているのは、夢じゃない証だろう。
凍える程の冷気を放出する廃墟の屋上。
その先にあった積乱雲のような階段、厳かな扉。
そして…魔法を使えるショボンのこと。

99 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:01:42 ID:uiQUQz.g0
最初からそこに居たかのように自然と溶け込む彼に、違和感はなかった。
僕ら三人の幼馴染。
その姿は何も変わらなかった。
新しく出来た友達も加わって、新しい風が舞い降りたようだった。
何も滞りなく、順調。
そう、思っていた。


('A`)「…ブーン聞いてる?」

(;^ω^)「おっ、おん?うん」

川 ゚ 〜゚)「なんだか今日は上の空だな、思い詰めることでもあったか?」

クーは弁当を食べながら僕に話しかける。
皆でお昼を食べていた時だった。

クーは、違和感を察する力がずば抜けて高かった。
まるで心の中を覗かれているかのような感覚になるときがある。
こういうのを地頭がいいっていうのか。
それでも、隠しきれないものはあるようで…
僕の心の穴はぽっかりと開いてしまっているようだった。

100 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:02:04 ID:uiQUQz.g0
瞼の裏に張り付いている景色が消えなかった。
トーチャンの背中姿。
初めて見る、カーチャンの顔。
その全てが、僕から思考力を奪っていた。

(´・ω・`)「考えすぎは良くないよ。ブーン君には話せる相手が目の前にいるだろう?」

( ^ω^)「…気にしなくていいお!ショボンがこうして居てくれることに関して嬉しいんだお」

('A`)「強烈な初対面だったからな。感慨深いよ」

(´・ω・`)「そうだね…改めて、あの時はありがとう。三人共」

川 ゚ -゚)「もうあの時の傷は大丈夫なのか?」

(´・ω・`)「うん、今は何ともないよ」

('A`)「…そういえば、ショボンってどこから来たんだ?遠いところって言ってたけど」

(´-ω-`)「…そうだね、都会の方さ。みんなが思う住宅地と何ら変わらないよ
      僕の地元には面白い場所は特にはなかったし、向こうはコンクリートジャングルだからね
      ここのほうが自然が溢れてて、僕は好きだな。落ち着くんだ」

川 ゚ -゚)「都会か…私は自然が好きだから、大人になっても都会に住めなそうだ」

101 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:02:26 ID:uiQUQz.g0
( ^ω^)「高いビルとかに上ってみたいお」

(´・ω・`)「僕の地元よりもっと中心地に行けば沢山あるさ。景色は良いかどうかはわからないけどね」

('∀`)「俺は将来大出世する予定だから、みんな来てくれよな
    ブーンが言う高いビルで仕事するんだ俺は」

( ^ω^)「将来かおー…僕はみんなと一緒にこうして遊ぶ以外は考えたことなかったお」

川 ゚ -゚)「私達もそろそろ将来を考えねばいけないだろうな。私は何も思いつかん」

('A`)「クーは心配だから勉強してくれ。馬鹿のままじゃ何もできなくなっちまうぞ」

川 ゚ -゚)「それなら私は玉の輿を狙うさ」

( ^ω^)「如何にもクーが考えそうなことだお…
       ショボンは何か考えてるお?将来は」

(´-ω-`)「…僕には叶えたい願いがあるんだ。それを乗り越えないと考えられそうにもないかな」

( ^ω^)「ドクオみたいな夢があるのかお?」

(´-ω-`)「いや…願い、だよ。それも、でたらめで荒唐無稽な…ね」

川 ゚ -゚)「…」

102 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:02:51 ID:uiQUQz.g0
ショボンは表情をほとんど変えずに話していた。
だけど僕には分かる。
多分、クーも気づいている。
ショボンの少しの変化に。

彼の過去のことは何も知らない。
だけど、"あの場所"に居たのだ。
願いが一つ叶う…その場所に。
彼はそのでたらめで荒唐無稽な願いを叶える為に、あそこに居たんだろう。

その願いが分かるようになるには、まだ彼との心の距離が遠すぎる。
こうして違和感なく一緒に居られるとはいえ、出会ってまだ数日なのだ。
誰も彼の心情は分からない。
でも、少しずつ気持ちが沈んでしまっているのだろう。
いつもより、覇気がないように見えた。

103 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:03:20 ID:uiQUQz.g0
( ^ω^)「…ショボン、今ちょっといいかお?」

僕はショボンを呼び出した。
いいよ。と二言返事で彼は着いてきてくれた。
クーとドクオをその場に残して。

昼休みはグラウンドで遊ぶ人、教室で駄弁る人様々だ。
僕は人気のない場所で、彼と話したかった。
内容を聞かれたら、変だと思われるかと思ったからだ。

そこは学校の屋上だった。
陰になるものはない…が、人はほとんど来なかった。
本当は来ちゃいけない場所だからだ。
今は夏時の昼。
太陽が真上に佇む時間帯。
暑さはこの時期のピークに達するだろう。
それでも、彼と二人っきりで話したかった

( ^ω^)「…率直に言うと、僕、叶えたい願いが見つかったんだお
       だから、その叶え方教えてくれお」

単純な問いかけだった。
僕の願いは昨日の件があってから、頭が捻じれる程考えた。
少なく若い脳みそをこねくり回して出た答えは、"あの場所"で叶えてもらう。
それが僕の僕の最善の答えだった。

104 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:03:50 ID:uiQUQz.g0
(´・ω・`)「…どうやら本気のようだね」

( ^ω^)「出来たんだお。急にできた願いだけど、それでも確かにこの心から願っているお」

(´・ω・`)「…分かった、正直に話そう。願いの叶え方…それはブーン君のその目で、その体で感じるしかない」

( ^ω^)「どういうことだお?」

(´・ω・`)「…いいかい?先ず"向こうの世界"に行ったら、こっちに戻れる保証はないということ
       僕はたまたま、こっちに戻れる…そんな力を授かったんだ」

( ^ω^)「"向こうの世界"っていうのは…」

(´・ω・`)「ブーン君も見たはずだ、空まで長く続く階段を登り切った…あの扉だよ。
       その扉を開けた先の世界さ」

( ^ω^)「扉の先…」

(´・ω・`)「実のところ…僕はあと一度、向こうの世界に渡ったらこっちに帰れる保証はないんだ
       だからあの夜、廃墟から教室に移動させた時に言ったんだ
       これが最後の学校になるかもしれない…ってね」

(´-ω-`)「これは思い出作りなのさ。
      また向こうに行ったら、この場所にも、君たちにも…妹にも会えないかもしれない
最後になるかもしれないんだ。だから、妹には思い出を作りたかった
      だからこそ、一番信頼できる君たちに声をかけたんだ」

105 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:04:11 ID:uiQUQz.g0
( ^ω^)「いつ扉の先に行くんだお?」

(´・ω・`)「祭りは土日にあるんだろう?楽しんだら、家で妹を寝かせてから行くつもりだよ
       あと3日後、だね。本当に最後になるかもしれないから…」

( ^ω^)「それだけ分かれば大丈夫だお
       勿論、祭りは一緒に楽しむつもりだお。妹ちゃんに挨拶したいからお」

(´・ω・`)「早とちりは良くない…まぁ、最後まで聞いてよ
       …ブーン君が叶えたい願い…それは、命を懸けられる程の願いかい?」

(;^ω^)「い…命…かお?それは、生死に関わってくるんだお…?」

(´-ω-`)「勿論そうさ。だからこそ、願いが叶うんだよ。ブーン君
      …例えその願いが雲をつかむような願いだとしても、だ」

(´・ω・`)「君が思っているより向こうの世界は酷く厳しい、それに痛みも、苦痛も、もちろん感じる
       ゲームじゃないからね」

(´-ω-`)「だからこそ、もう一度問おう…君のその願いに、命を懸けられるかい?」

僕は甘く見ていた。
お賽銭を投げ入れて、祈れば、叶う。
そんなことを考えていた。
真夏の熱風が僕らを断つように通り抜けた。

106 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:04:33 ID:uiQUQz.g0
(;^ω^)「ぼ、僕は…」

答えは、もちろんイエスだ。

だが…

(;^ω^)「…っ」

声にはならなかった。

(´-ω-`)「…少なくとも、あの場所に行れたということは…君の願いの強さはホンモノなんだと思う
      だけど、その程度の覚悟で来ちゃだめだ」

(´・ω・`)「君には素敵な二人がいるじゃないか。たかだか数日だけど君たちを見てた…
       それだけでも、ドクオ君とクーちゃんと居れることは…ブーン君にとって幸せなんじゃないかな?
       それを放っておいてまで、叶えたいと思える願いなのかい?」

(´・ω・`)「僕は端から見てただけだけど…羨ましいよ。ものすごくね
       だからこそ、だ。僕は君に死んでほしくないんだよ」

それはまるで子供をあやすような諭し方だった。
そして、それを語る彼の目は真っ直ぐ僕を刺した。

107 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:04:54 ID:uiQUQz.g0
(;-ω-)「僕も人のこと言えたものじゃない…けど、ショボンが居てくれたから思ったんだお
      僕はショボンともこれからを過ごして居たいんだお
      ショボンの過去に何があったかは分からないけど…死んでほしくないのは僕も一緒だお」

(´-ω-`)「そう思ってくれるだけでもいいんだ。それは最大の褒め言葉だよ
      でもブーン君、僕には命を懸けてまで叶えたい願いがあるんだ…
      それが叶わないなら、僕は生きている意味がない」

(;-ω-)「ショボンは死ぬことが怖くないのかお!?」

(´・ω・`)「…怖いさ。それでも…行かないといけないんだ」

(´・ω・`)「ブーン君の願いがどういうモノかはわからない。だけど、決めるのは君だ
       僕は君に、三人に生きてほしいと思ってる
       …だけど、今の幸せを捨ててまで、自分の命に代えてまで叶えたい願いがあるなら…」

あの扉の先に行くと良い。

108 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:05:16 ID:uiQUQz.g0
そういってショボンは去っていった。
一人残された屋上から見える、あの廃墟。
この景色は何も変わらない。
僕がこのまま行動せずとも、全てを失ったわけじゃない。
僕にはカーチャンがいる。
ドクオがいる。クーがいる。

それでも…この胸に空いた穴は、到底埋まるとは思えなかった。

今日を含めて残り3日。
それを過ぎたら、ショボンは居なくなるかもしれない。
永遠の別れになるかもしれない、という意味を含めて。

昼休みが終わるチャイムが響き渡り、湿った風が僕を掠めた。
ショボンの姿は、もう見えない。

___________________

109 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:05:40 ID:uiQUQz.g0
それからの授業は何も頭に入らなかった。
夏休みも手前。
先生たちも雑談が多くなる。
そんな中、僕は一人自問自答を繰り返した。

死ぬかもしれない。
だが、願いが一つだけ叶う。
そんなアニメのような話はない。
だが実際、"あの扉"の先に行ったという彼は…魔法を使っていたんだ。
風を呼び起こし、瞬間移動のようなこともしてみせた。
体験して、見て、触って感じたんだ。
あれは夢なんかじゃなかった。
それに、本人が言うのだから間違いないだろう。

僕はあの台風のような風は起こせない。
瞬間移動だってもちろんできない。
だからこそ、だ。
願いが叶うという話に拍車がかかる。
その願いが叶うという条件は?
何故生死が関わるんだ?
扉の先はどんな世界なんだ?
溢れる疑問。
きっと考えても分からないから、彼は言ったのだ。
自分の目で見ろ、体で感じろ、と。

110 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:06:05 ID:uiQUQz.g0
彼は自分の死すら厭わない。
はっきりと言ってみせた。
その時の目を思い返すだけで…体が強張った。
家を出ていくと言ったトーチャンと同じ、底なしの黒さを孕んでいたから。
彼の願いは…何なのだろうか。
命に代えても叶えたい願いなのだという。
いつでも即答できる程、硬く強い意志があるのだろう。
だけど、僕は…

( -ω-)「…」

その答えは時間を費やす毎に疑問を産んで、消えていく。
僕には彼のような意思がないのだろうか。
自分でもわからない。
曖昧、どっちつかず、優柔不断。
そんな言葉が、今の僕にはお似合いだった。

111 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:06:27 ID:uiQUQz.g0
('A`)「…ブーン、なんか悩んでんなぁ、昼休みの時もそうだったけど、あの後ショボンと何話してたんだ?
    今日は一段と元気ないように思うけど」

川 ゚ -゚)「…私も知らない。でも…」

('A`)「いつもの嫌な予感か?女の勘ってやつか?」

川 ゚ -゚)「私は二人とずっと…二人と一緒に居た、だからなんとなくわかるんだ」

('A`)「良く気づくな…
    クーは俺らのこと良く気づいてくれてたもんな。俺らがもやもやしてた時とかは特に」

川 ゚ -゚)「まぁ…その他からは気味悪がられたことの方が多かったさ
     二人だけだよ、こうして傍に居てくれるのは」

('A`)「俺らは助かってたよ。裏表がないのがクーの良いところさ」

川 ゚ -゚)「…そうだといいんだが…な
     ブーンのあの目は…少し怖い。なにか胸騒ぎがする」

112 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:06:56 ID:uiQUQz.g0
('A`)「…俺には分からない。ブーンも話してくれればいいのに」

川 ゚ -゚)「ドクオはもう少しその鈍感なところを直してくれ。そんなのでは女子は振り向かんぞ?」

(;'A`)「うっ…心にダメージが…」

川 ゚ -゚)「そんなメンタルでは、私以外の女子は付き合ってくれないだろうな」

(;'A`)「クーさん!?俺の心もうボロボロなんですが!?」

川 - -)「…ドクオ、そういうところだ」

(;'A`)「ええ!なんで!!」

113 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:07:21 ID:uiQUQz.g0
〜〜〜授業の合間:私〜〜〜


…私は、どうしたら良かったかわからなかった。
あんな顔のブーンを見たのは初めてだったから。
ドクオがいつも通りというのは、幾分心が休まった。
私には、二人しかいないのだから。
なんとかしたいと思った。

幼馴染唯一の女である私は、元々厄介な女だ。
それはそれは面倒な女だった。

クラスに馴染めないで、孤立するのが日常。
時には虐められたこともあった。
理由は、誰彼構わず思ったことを口に出すような性格からなんだと、今更ながらに思う。
多分、鬱陶しかったのだろう。私という存在が。
理由はいくらでも後付けできるだろうから、意味を探すことはない。
そんなこともあって、私は自ら他人と親しくなろうとすることを諦めていた。

私はそれで良いと思った。
自分が気に食わないことは、例え上級生でも、先生だろうが言う。
自分が間違っていると思ったら、気が済むまで話し合う。
嫌なら嫌と言えばいい。
思っていることがあるなら、素直に言えばいい。
おかしいことを、おかしいと言えないのは…おかしいだろう?

114 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:07:48 ID:uiQUQz.g0
…その考えが間違いだと気づけるようになるまでは、時間が必要だった。
どうやら人は、本音を言えば良いわけではないらしい。
例えそれが完全なる正論だったとしても、人は傷つき、落ち込み、離れていく。
それに気づけなかった時は、周りに合わせられない異端児になっていた。
何度も精神的な病気を疑われた。

腹の底に本音を隠す。
簡単なはずなのに…私にはそれが苦痛だった。
そして、それは大人になるのに必須だと知った時には絶望した。
…私は建前が苦手だった。
相手に嘘は吐きたくなかったから。
思ってもないことを言うのは、相手に対して失礼だと思ったから。

そんな厄介女の傍に居てくれたのは、ブーンとドクオだった。
多分幼馴染というのもあるのだろう。
それでも、虐めの標的となっている人間に親しくするのは誰もしないだろう。
私に救いの手を伸ばせば、次のターゲットにされることもあるからだ。
私は…二人が虐められるのは嫌だった。
だからその救いの手を払いのけたんだ。
何度もね。

115 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:08:16 ID:uiQUQz.g0
でも二人は、校内でお構いなしに話してくるし、着いてくる。
一度、トイレの中まで着いてこようとした時は流石に声を大にして怒った。
そこのボーダーラインは越えちゃダメだよ、絶対に。
いくら幼馴染とは言え、私の事なんて学校くらいはほったらかしで良いのに。
…たまに外で遊んでくれたら、私はそれだけで良かったのに。

厄介な私のことを二人で賑やかすものだから、クラスの人間は引いてた。
あれは完全なるドン引きだった。
担任の先生があんなに目を見開いたのは、あれが最後だろう。

季節が一つズレた頃、気づいたら虐めっ子は姿が見えなくなっていた。
その代わりに、私達三人のいかがわしい噂があちこちで立っていた。
私は…笑顔が増えた。
二人が、私の世界を変えてくれた。

そんな二人の迷惑にならないように、私は察することを身に付けた。
その察する力は、意外にも私にフィットしたようで、今となってはいろんなことに使える。
例えば…
今、ブーンが思い悩んでいることが、余りにも重そうだということ。
そして…このままだと取り返しがつかなくなりそうなことだということ。

いつも通り接してくれる二人が私は大好きだ。
だから、いつも通りのブーンに戻ってほしかった。
いつだって私達は一緒なのだから、そんな抱え込むことがあるなら言ってくれたらいいのに…
…私は間違っているだろうか?

116 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:08:46 ID:uiQUQz.g0
川 ゚ -゚)「…まぁ、時間があるときにでも話してみるさ
     人間気持ちが上下するのはしょうがないことだ
     思春期なんてそんなものだろう」

('A`)「クーも思春期真っ只中だろうに」

川 ゚ -゚)「全員が同じ時期に思春期が来るならそうだろうな」

('A`)「…なんか俺だけ子供みたいじゃんか」

川 ゚ -゚)「何を言うか、ドクオは将来をちゃんと考えているじゃないか。都会に行くのだろう?
     私から見たら大人なのはドクオだよ。ちなみに私は将来なんて考えてないぞ」

(;'A`)「なんかしらは考えててくれよ。本当に何もないのか?」

川 ゚ -゚)「ふむ、そうだな…強いて言うのなら…」

117 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:09:11 ID:uiQUQz.g0
川 - -)「私は…二人とずっと…仲良くしていたい…かな」

('A`)「…」

川 ゚ -゚)「まぁ、私のことはいいさ。ブーンのことだ、きっと何か考えがあるのだろう
     今はそうだと思うことにしよう。"お互いに"」

('A`)「…俺の心の中、読んだ?」

川 ゚ -゚)「さぁな、全部は分かりかねるさ。誰の心の中も、な」

私達に蟠りがあるわけではない。
ただ、私はこういうのに敏感すぎるだけなんだ。
何もないなら、何もないでいい。
むしろそれがいい。
きっと、私の思いは独り善がりなのだろう。
それでも、気になってしまったものはしょうがない。
私はどうしたら最善かを模索した。
この悪い予感が的中しないように願いながら。

118 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:09:34 ID:uiQUQz.g0
〜〜〜放課後:深淵を覗く〜〜〜


ショボンと話してから同じ問答を何度も反芻した。
それでも、考えていることに正解はなかった。
誰も答えは教えてくれない。
だからこそ、僕は動けなかった。
こうしてる間にも、遠く輝く太陽は身を潜め始めていた。

上の空だった。
教室から誰も居ないことに気づかず、僕は窓からグラウンドを見ていた。
隙間風がカーテンを揺らして、暑くぬるい風が張ってあるポスターを揺らして音を出す。
どこからともなく聞こえる蝉の歌。
遠くで靡いた風鈴。
この季節だけのオーケストラ。
勝手に入ってくるそれらを、抵抗せず受け入れている時だった。

川 ゚ -゚)「ブーン、話がある。立て」

突然後ろからクーの声が聞こえた。
僕の反応は薄かった。
呆然とする僕の服を強く掴んで、クーは歩き出した。
多少強引過ぎるくらいの力で僕をどこかに連れて行く。
それに、話がある、と言ったんだ。
帰ろう、が正しいんじゃないか?

119 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:09:58 ID:uiQUQz.g0
僕を離さず前を歩く彼女は、こっちに振り返る素振りはない。
どうやら、本当に帰るつもりはないらしい。

そうして連れてこられた放課後の図書室。
外からの部活動の声と、濃いオレンジと黒のコントラストが心地よいノスタルジーを歌っていた。
普通に話すには少し大袈裟な場所だった。
いつもの他愛もない話ではない。
そう感じるを得なかった。

僕を服を離すと同時に、彼女は振り返る。
その表情は、いつも通りの顔だった。

川 ゚ -゚)「ブーン、単刀直入に聞こう。何か悪いこと…嫌なことあっただろう?」

クーの切り出しは、余りにも僕の核心を突いていた。
彼女の勘の鋭さには驚いてしまう。
女の勘って奴だろうか。

120 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:10:20 ID:uiQUQz.g0
( ^ω^)「…何の話だお?僕はいつも通りだお」

川 ゚ -゚)「分かってるよ、お前がこういう時に強がるやつだって事はな
     それを知った上で聞いてるんだ…何かあっただろう?
     それも、特別に悪いこと…」

全ては知らずとも、彼女は知っているのだ。
僕の事も、僕がこうやってはぐらかすのも。

( ^ω^)「…クー、今僕が正直に全てを話せば、きっと僕は後悔することになるお
       誰が悪いとかいう話じゃないんだお。しょうがないことなんだお
       知らないことの方が良いこともあるんだお」

川 ゚ -゚)「なら、その荷物を私が一緒に背負ってやることはできないのか?」

( ^ω^)「…どうしようもないんだお。覆水盆に返らず、だお
       何度も昨日考えてたお、でもこれしか方法はないんだお
       …僕一人で抱えるしか」

川 ゚ -゚)「…そうか。それなら、もう一ついいか?
     転校生とどういう関係だ?」

( ^ω^)「転校生の友達って以外ないお。それ以上でも、以下でもないお」

僕は隠すのが下手なんだろうか。
彼女の問いに淡々と答えた。
拳を強く握っているのが見えた。
多分、誤魔化している僕に苛立っているのだ。

121 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:12:06 ID:uiQUQz.g0
それでも、僕は真実を言わない。
今の悩みを打ち明けたところで何も解決しないからだ。
それに…クーやドクオだって悲しんでしまうから。

川 - -)「…なぁ、ブーン。お前は変わってしまったのか?それとも、変わらない私が悪いのか?」

川 - -)「ブーン、お前は何かを私に隠してる。
     大人になるってそういうことなのか?それとも、私が馬鹿なだけなのか?」

川 ゚ -゚)「ブーン、分かるだろ?私には…お前らしかいないんだ
     かつて、虐められてた私に手を差し伸べてくれただろう?
     恩返しというつもりは毛頭ないさ。ただ、私は同じことをしたいんだよ
     だから私はお前が抱えてるモノがどれほど重かろうが、持つつもりだ
     それはドクオにも同じ気持ちだ。私達は三人一緒だろ?」

川 ゚ -゚)「私は…二人のことは嫌でも分かってしまうんだよ。ブーンの目が…今日は黒く淀んで見えるんだ
     何か…取り返しがつかないことでも考えてるんじゃないかって…不安なんだ
     そんなに、私が…私達が信用できないか?」

表情は変わらない。
その分、声に震えがあった。
きっと堪えているのだ。

( ^ω^)「…信用してないわけじゃないお
       でも…ごめんお」

122 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:12:43 ID:uiQUQz.g0
そういうと、クーは俯いた。
濁った空気が僕らの間で色濃く生まれるのがわかる。
蟠り。
今まで三人の中で一度も感じなかった感情だった。
気分が悪い。
こんなことは思いたくなかった。
それ以上何も発さないクーを一瞥して一人で図書館から出た。
閉めるドアの音がいつも以上に大きく音を立てた。

その廊下にドクオが突っ立っていた。
僕達の会話を聞いていたんだろうか。
ドクオの目が、僕をじっと見つめていた。
多分、僕は今苛ついている。
だから、なにも言わずに一人で帰ろうとした。
今は…誰とも話したくない。

そんな彼の横を通り抜けた時、背中越しに声がかかった。

('A`)「…随分と怒ってるじゃんか。告白失敗したか?」

僕は振り向きもせず答える。

123 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:13:05 ID:uiQUQz.g0
( ^ω^)「そんな話はしてねーお」

('A`)「あーそうだったな。なんの話だ?」

( ^ω^)「…ドクオは知ってるだろうお。そんなはぐらかさないで言いたいなら直接言えお」

('A`)「クーが聞いたことには真面目に答えないくせに、お前はそのスタンスで行くのか?」

('A`)「俺はクーが何を話したかなんてのは知らない。でも、想像は付くさ
    あいつの事だ。きっとドストレートに聞いたんだろ?それが嫌だったってことはなんとなく分かる」

('A`)「でも…クーがあんなにムキになってたんだ。教えてやってもいいんじゃね?」

…うるさい

('A`)「割と鈍感な方の俺でもわかる。お前が最近変なことくらいは」

うるさい

('A`)「なぁ、少しでいいから話してくれな」

124 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:13:30 ID:uiQUQz.g0
ドォン!!!!

彼の言葉を断ち切るように、壁を殴った。
そこから流れる僕の血。

「…」

お互いの荒い呼吸が廊下に反響した。
遠くから蝉の声が聞こえる。
こんな醜悪な感情を剝き出しにしたのは初めてだった。

(  ω )「お前らには関係ないお」

言葉を吐き捨て、僕は歩き出した。
僕も、彼も、どんな顔をしていたかはわからない。

僕らを繋ぐナニかが爛れていた。
今までできたことがない程に深く、凄惨な傷が新たに出来上がった。

拳の痛みに耐えながら、足早に校内から出た。

125 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:13:56 ID:uiQUQz.g0
学校からの帰路。
それからというものの、僕はズタズタな心の中で二人に謝っていた。
ただ、今は誰とも話す気分にはなれない。
余りにも青く、心が弱かった。

夕暮れが真っ赤に街を染める。
その光を全身で浴びながら、歩を進める。
ちょっと前もこんな赤色をしてた。
ほんの少ししか経ってないはずなのに、なんて遠く感じるだろう。
もう今日はさっさと眠ってしまいたい。
今日はごめん。
明日になったら謝ろう。
とびっきりのお菓子を用意して。

心が複雑に絡まって現実感がまるでなかった。
家までかなりの距離があるのに、歩いた時間をゴッソリ切り取ったように家に着いた。
あんまり記憶がない。
思い出したくもない。
自分が悪いのは分かってるはずなのに、素直に頷けない自分に無気力さを感じた。

そんな気力で家の鍵を開ける。
ただいまーと、小さく呟いた。
そのくらいの元気しか今はないから。

126 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:14:16 ID:uiQUQz.g0
玄関で靴を脱ぐ時に違和感を感じた。
リビングでピーッピーッと音が鳴っていたから。
目覚まし時計?それとも、洗濯機?
そのどれもとは違う音と…カレーの匂いと、異臭。

…強盗?

そう思った僕は、玄関にある傘を持って音を立てずにゆっくりリビングに向かう。
クーラーの冷風を感じながら僕は慎重にドアを開けた。

リビングには…誰もいなかった。
不自然なほど赤い斜陽が部屋を照らし、照明の色をかき消すように見えた。
安心したが、それでもこの機械音と異臭は収まってない。
それと、カーチャンの姿が見えなかった。
いつもの机にもいない。
不穏に感じていた。

机に向かおうと足を出したと同時に、トンっと、足に何かが当たる。
驚いて、キッチンを見た。
そこには作りかけのカレーと、車椅子から倒れているカーチャンの姿があった。

127 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:14:48 ID:uiQUQz.g0
〜〜〜同日昼休み:俺〜〜〜


「私は…二人とずっと…仲良くしていたい…かな」

('A`)「…」

その願いは幼く、小さなモノだった。
それ故に純粋で、綺麗だと思った。
クー、君は誰よりもピュアで、馬鹿だ。
だからこそ、その言葉は何よりも嬉しかった。
俺だって同じだからだ。

俺が大人?
冗談じゃない。
ブーンやクーのように秀でる才能がないだけさ。
平たく言えば、夢も言えないような弱い男なんだ。

俺は、弱者だ。
自分のことが嫌いだ。
自分のことが嫌いで嫌いで仕方がない。
常に隣の芝生が青く見えて、気が狂いそうになる。

128 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:15:17 ID:uiQUQz.g0
顔が良いわけじゃない、何か自慢できるものもない。
そんな醜い嫉妬と、自己嫌悪から逃げる為に勉強してるんだ。
その時だけは目の前の問題だけに集中できるから。
捻くれてるんだと思う。
変に背伸びした高いプライドと、承認欲求が混ざったキモイ人間が俺だ。
俗に言う中二病だった。

こんな人間にも、大切なモノが出来た。
それが二人だ。

ブーンみたいに、視野が広くて気配りが出来るような男じゃないし
クーみたいにイジメを耐えられる心の強さはないし、人の心に敏感じゃない。
俺は羨ましく思ってる。
現に今も。
でも…二人の傍に居ると…俺は自分のことが好きになれる気がしたんだ
少なくとも、二人と居る自分は嫌いじゃない。

別に二人に何か特別なことをしたことはあっても、されたことなんてないさ。
ただ、傍に居てくれる。
それだけだ。
それだけで、捻じれ縺れた俺の世界を変えてくれたんだ。

129 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:15:40 ID:uiQUQz.g0
勝手に二人に感謝してるだけ。
勝手に一緒に居たいだけ。

二人は俺の気持ちなんて知らなくていい。
二人は俺を傍に置いててくれればいい。

だから、何かあった時には遠慮なく頼ってほしいんだ。
何故かって?
そんなの簡単な話。

か っ こ つ け た い か ら 。

悪いな中二病で。
俺なんかと一緒に居てくれるからだよ。
それ以外の理由?ないね。

身勝手で中二病臭い俺の願いさ。

なぁ、ブーン。お前は今何を考えてるんだ?
俺はクーに言われるくらいには、人の気持ちに鈍感さ。
そんな俺でも、最近のブーンに何かあったことくらい分かる。
今までそんな顔、俺らに見せたことなかったじゃないか。

130 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:16:05 ID:uiQUQz.g0
ドォン!!!!

…なんだよ、それ。
手から血出てんじゃんか。
そんなにこうやって話すのが嫌だったか?
そんなに…俺らが嫌いになったのか?

「お前らには関係ないお」

('A`)「…」

俺は何も言えなかった。
多分初めてブーンからあんなにはっきりと拒絶された。
だから、言う言葉が見つからなかった。

そのままどっか歩き出すもんだからさ、追いかけられないじゃんか。
なんか、血も滴ってるし…
絆創膏でも貸しときゃよかった。

ちょっとボーっとしちゃってたけど、まだ図書室にクーがいるんだ。
迎えに行かなきゃ…

131 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:16:26 ID:uiQUQz.g0
古臭いドアを開けた先には、静かに一人で座るクーが居た。
少し埃っぽい室内だけど、なんて絵になるんだこいつは。
綺麗な横顔に、隙間風で靡く黒髪。
沈みかけている太陽が作り出すオレンジと、影の黒の中に佇むこいつを見て俺は思った。

('A`)「絵画かよ」

川 - -)「…何がだ?おちょくるならタイミングを考えてくれ」

('A`)「そういった意味で言ったわけじゃない、そう思ったから口に出ちゃっただけだ」

川 - -)「褒め言葉と受け取っておこう。だけど、今じゃない」

おいおい、クーに表情筋ができたみたいだ。
なんて悲しい顔してんだ。
これが演技だとしたらハリウッド映画で引っ張りだこになるだろうな。

なぁ、ブーン。
さっきの言葉、お前の本音か?
クーにこんな寂しそうな顔させるなよ…
俺だって寂しくなるだろ。

132 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:16:48 ID:uiQUQz.g0
川 - -)「…ドクオ、一つ聞かせてくれ」

('A`)「TPOに沿うように答えるさ」

川 - -)「…私は、間違っているか?」

('A`)「偶然だな、俺も同じこと考えてたよ。なんか間違ってたかなって」

('A`)「でも、俺が思うに…多分誰も間違ってないよ。ブーンも、クーも、俺も」

川 - -)「…」

('A`)「はぁ…思春期真っ只中だな、俺らは
    本当ならもっと明るい青春を夢見てたんだが…
    でも、こう考え込むことも一つ二つ必要なんだと思うよ…もう駄々こねるような歳じゃないだろ?」

川 - -)「…ドクオ」

('A`)「ん?もう帰るか?それもいいけどカバン忘れてr

133 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:17:10 ID:uiQUQz.g0
(;'A`)「ってクー!?こんなシリアスな空気で抱き着くなんて画面の前のTPO警察がry」

川 - )「時と場合と場面…だろ?そのくらいわかる…」

(;'A`)「なら」

川 ;-;)「なら…今はこうしててくれ…」

(;'A`)「…」

ブーン、お前重罪だぜ?
極刑だ、極刑。
こんな可愛い俺たちの幼馴染を泣かせたバツだ。
明日、ちゃんと謝らせるからな。

…暑っついなぁもう



___________________

134名無しさん:2025/02/16(日) 01:27:56 ID:HElRi7NM0
あっついぜ

135名無しさん:2025/02/17(月) 13:13:41 ID:IGhSaLQ60
最新話に追いつけてないけど文章好きだ
ゆっくり読ませてもらいます。乙

136 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:28:36 ID:R8dbB6ec0
day5


時間は9時過ぎ。
あの後、僕は病院のベンチで座り込んでいたが、いつの間にか落ちてしまってたようだ。
看護師さんが僕を起こしに来た。
どうやら、カーチャンの意識が戻ったようだった。

305。それがカーチャンのいる病室だった。
もう枯渇した体力だったが、一段飛ばしで階段を上がる。
そして、病室を思いっきり開けた。

(;^ω^)「カーチャン!!!」

 J('ー`)し「…あんまり大きい音出さないの…
      ごめんね。カーチャン疲れちゃってたみたい」

とりあえずカーチャンの命は無事だってこと。
料理を作ってる際にガスが出続けていて、それが原因で倒れたとのこと。
家に帰った時の異臭はガスだったらしい。
大事ではないものの、数日病院で検査をするという診断だった。
元々下半身の自由が利かないカーチャンにとって、これ以上良いことはないだろう。
僕はほっと胸をなでおろした。

( ^ω^)「…今は大丈夫なのかお?」

 J('ー`)し「先生が言うには、大丈夫だって。少し、色々と抱えちゃってたからね…
      ブーンには申し訳ないことしたね。ごめんね」

( ^ω^)「…カーチャンが無事なら…いいんだお」

 J('ー`)し「学校は?」

( ^ω^)「電話したお。落ち着いたら向かうって」

こんな他愛もない会話の中でも、カーチャンは無理してる。
何が少し、なのか。
カーチャンは抱えてたじゃないか。

137 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:29:37 ID:R8dbB6ec0
僕にも、クーやドクオの家族にも言わないで。
とてつもなく重く、非情な決断をしたじゃないか。
謝らないでくれ。
それ以上、優しい顔をして僕に笑いかけないでくれ。

いつもの元気なカーチャンの顔は隈が酷くなっているように見えた。
今まで抱えたものが、全て爆発してしまったのだろう。
きっと、僕より傷ついているのはカーチャンの方だ。
…多分トーチャンも。

何が悪かったんだろう?
何をしてたらこうならなかったんだろう?
自己嫌悪にも似た感情が、僕の心を黒く染め上げた。

( ^ω^)「何日くらい…入院なんだお?」

 J('ー`)し「2.3日…長くて一週間かな?
      それまでには元気になるからね!
      カーチャンが何とかするわ!」

138 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:30:04 ID:R8dbB6ec0
明らかに空元気だった。
目が笑ってないとはこういうことを言うんだろう。
碌に寝れてないんだろう。
そんなに強がらなくてもいいだろ?
辛いなら吐き出してしまえばいい。
息子だろうと頼ってしまえばいい。
なのにカーチャンは、僕に心配をかけないように振舞っている。
大人っていうのは隠すのが本分なんだと思った。
それでも、この悲しい顔を見るのは…もう耐えられなかった。

それと同時に、僕の願いは少しずつ確証を帯びてきた。
"幸せだった頃の家族に戻してもらう。"
それが、僕の願い。
そうすればきっと、トーチャンが出ていくこともなかった。
そうすればきっと、カーチャンがこうなることもなかった。
そうすればきっと、僕があんな思いすることはなかった。

笑ってしまうほどの独り善がり
僕はどこまでも子供なんだということを実感した。
自分の宝物はずっと大切に、自分の手の中に入れておきたい。
僕は、僕が好きな人たちが悲しい顔するのが嫌だった。
だからこそ、だ。
カーチャンとトーチャンの子供の僕が間を取り持つのはいいことだと思った。

139 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:30:29 ID:R8dbB6ec0
願い、よりも"呪い"
そのくらい強く、確実に芯を太くした。

「君のその願いに、命を懸けられるかい?」

あの時は答えを躊躇った僕だったけど、今なら彼に即答できる。
闘志が沸々と湧き上がる。
そうと決まれば、情報収集から始めないと。

ショボンに頼るのは最後でいい。
今は出来ることを探す。
彼が出発するのにあと2日。
それまでに、何かできることをしなければ。

140 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:30:51 ID:R8dbB6ec0
 J('ー`)し「…ブーン?」

(;^ω^)「おっ、おん?」

 J('ー`)し「なんか考え事してた?すごい顔してたけど…」

( ^ω^)「…カーチャンが無事でよかったって思ってただけだお」

 J('ー`)し「ちょっとの間迷惑かけちゃうけど…ごめんね
      わからないことがあったら、いつでも連絡してね」

( ^ω^)「おっおっおっ。ちょっとの間の1人暮らし程度、何とかしてみるお」

 J('ー`)し「早めに治して、すぐ家に戻れるようにするからね」

その会話を最後に、僕は学校に戻る。
今日は休み前最終日だから、午前中に授業が終わる。
けどプリントとかは取りにいかなきゃいけない。
既に12時は過ぎてたから、学校行く準備をしないと。
昨日あのままの格好で病院まで着いて行ったのだ。
体中気持ち悪かった。

141 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:31:24 ID:R8dbB6ec0
〜〜〜同日朝:いつもの待ち合わせ場所にて〜〜〜



('A`)「…」

川 ゚ -゚)「…」

気まずい

('A`)「…」

川 ゚ -゚)「…」

なんでブーン来ないんだ?
昨日の事まだ引き摺ってるのか?

('A`)「…」

川 ゚ -゚)「…」

普段の俺(私)ならとっくに軽口叩いてるはずなのに。

(;'A`)「…」

川;゚ -゚)「…」

こうしてブーンを待ってる間ずっとこうだ。
何故か心臓が爆速で鳴ってる…
原因は分かってる。
昨日の…あの…あの…

142 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:31:47 ID:R8dbB6ec0
(;*'A`)

川*- -)

あのせいだ!!!!!!!

(;*'A`)(思春期とは言ったけど、まさかあのまま結構な時間そのままだとは思わないじゃん!!
    無意識にちゃんと頭撫でちゃったじゃん!!誰も来なくてよかったわマジで!!
    慣れてるわけないだろ!!!DTの拗らせを数千回重ねたような俺だぞ!?
    なんかああいうのってジャ●プ漫画あるあるだよねーみたいな感じだったじゃん!
    制服に着いた匂いとか!!サラサラな髪質とか!!残って眠れなかったろうが!!!
    あの柔らか…あの感触がまだ腹部に残ってるんですけどおおお!?夢!?あれ全部夢!?)

川*- -)(ドクオの手…おっきかった…)

(;*'A`)(ああああカミサマ!!!!)

川*- -)(すごい落ち着いた…!)

あ り が と う ご ざ い ま す !

………
……


143 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:32:07 ID:R8dbB6ec0
俺はギクシャクしながら学校へ向かった。
あんなことがあった後だからこんなこと言うのもなんだけど、ブーンいなくてよかった。
本当に。
クーはと言うと…なんか素っ気ない。
あーあ、全部夏のせいだよ。
責任取ってくれよ、カミサマ。

今日も晴天。
雨の気配はなし。
だけど、遠くに積乱雲が見える。
夏の様相が顕著になってく。
これから本格的になってくこの暑さは、どこまで俺達を惑わせてくれるんだろう。

途中寄ったコンビニで、クーは紙パックのレモンティーを買った。
俺はスポーツ飲料と、少しのお菓子を買った。
ストローを刺したレモンティーを飲むクーが…なんか、その…キラキラしてるように見えた。
こんなこと思う俺は幼馴染失格だ。
あーあ全部夏のせいだよ。
ありがとう、カミサマ。

144 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:33:57 ID:R8dbB6ec0

暑さを凌ぎつつ教室に到着。
外も中も大差はないけど、日差しがないだけまだ涼しいと感じた。
そんな中、やけに涼しい顔をしたやつがいた。
そいつは俺達を見たと思ったら、ゆっくり近づいてきた。

(´・ω・`)「おはよう、二人とも」

ショボンだった。
こんな夏になんてクールな顔してやがんだ。
その冷やかさ俺に分けてくれよ。
でも話しかけてきてくれてGG。
タイミング最高だよ。

('A`)「…あーおはよー」

川 ゚ -゚)「…ん、おはよう」

(´・ω・`)「…なんかあったかい?ぎこちない気がするけど…」

(;*'A`)「そそ、そんなことはないっ!ないよ!なにも!」

川*゚ -゚)「ナニモナイデスヨ、ゼンゼン」

(´・ω・`)(…何かあったのかな?)

145 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:34:19 ID:R8dbB6ec0
(´・ω・`)「そういえば、ブーン君まだ来てないようだけど…今日も寝坊かな?」

('A`)「あー…そうかもね。夏バテしちゃったんじゃないか?」

(´・ω・`)「そうなのかな。一応明日、祭りがあるんだろう?
       時間とかどうしようかなって思ってね」

川 ゚ -゚)「もう明日になるのか。今日が休み前最後の学校だというのに
     ついてないやつだ」

('A`)「一応調べてはあるよ。祭り自体のスタートは16時、終わりは22時だ
    天候が今日くらい良けりゃ終わる前に花火だな」

(´・ω・`)「二人とも何時くらいに集合するんだい?合わせられると思うよ」

('A`)「俺達はいつも18時くらいに集合してる。ショボンはどのあたり住んでるんだ?」

(´・ω・`)「三人とは逆方向かな。そっちの方面はからっきしわからないんだ」

川 ゚ -゚)「なら、学校集合が安パイか?18時半くらいならいけると思うぞ?」

(´・ω・`)「何から何までありがとう。祭りに一緒に行けるって妹に言ったら喜んでたよ
       人見知りだから少し迷惑かけちゃうけど、よろしくね」

川 ゚ -゚)「妹ちゃん、名前なんて言うんだ?」

146 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:34:51 ID:R8dbB6ec0
(´・ω・`)「未だのミに、食べ物の芹で、ミセリだ。引っ越してから元気なかったんだ
       けど、新しく友達ができる!って喜んでたよ」

川 ゚ -゚)「ふふん、可愛いな。ミセリちゃん、ね
     お姉さんが色々と教えてやろうじゃないか」

('∀`)「変なこと教えるなよ?可愛い子が力自慢にでもなったら大変だ」

川#゚ -゚)「ほう…?その力とやら見てみるか?」

(;´・ω・`)(あ)

(;'A`)「あ、それは違くてですね
    クーのような凶悪的な可愛さをそんな歳から覚えてしまったらあれだと思いまして」

(;´-ω-`)(南無三っ!)メツムリー

(;´-ω-`)(…)

(;´・ω-`)(…?)

川*- -)「…カワイイとか…いうな…バカ…」

(;*'A`)「…ハイ…」

(´・ω・`)(何かあったな…)

147 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:35:15 ID:R8dbB6ec0
丁度よく鳴るチャイムの音。
ドラマみたいなタイミングだった。
あーあ、もう見る目変わっちゃったじゃん。
俺はね、チョロイんです。
ごめんなさい。クー。

今日は夏休み前最終日ということもあって、午前中で授業が終わる。
そういう時程、時間の進みが遅く感じる。
次ここに来るのは一か月後。
長いんだか、短いんだが。
今のうちに、教室から聞こえる夏の知らせを堪能した。

結局、時計の針が真上を指してもブーンは来なかった。
心配もあるけど、きっと大丈夫でしょ。
…多分。

148 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:35:50 ID:R8dbB6ec0
〜〜〜同日:お見舞い後の僕〜〜〜



自分の影が真下に落ちる14時過ぎ。
実質もう夏休みだというのに、僕は閑散とした学校に一人向かっていた。
同じ制服を着た人をちょこちょこ見つける。
プリントを取りに行かなければならなかったから。
まだ気温は本気を出してないらしい。
遠くの方で積乱雲が見える。
この季節の代名詞を一通り見まわしながらこの猛暑の中、学校に向かう。
汗が引くことはなく、民家から鳴る風鈴がそれらをより一層引き立てた。

(;^ω^)「やーーっと着いたお…」

校内も外と似たような気温になっている。
これから向かう職員室は格別に涼しいから、少しだけ息抜きできる。
そう思ってドアをノックした。

(;^ω^)「すいませんお、ホライゾンですお」

「はいよー」

担任の先生が出てくれた。

「ちょっと涼んでいきな。お母さん、大丈夫だったか?」

(;^ω^)「ありがとうございますお、とりあえずは無事でしたお」

にらんだ通り、職員室は涼しかった。
外から来たばっかりなのもあって、少し寒いくらいだ。

149 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:36:23 ID:R8dbB6ec0
「災難だったな…とりあえず、宿題とプリントだ」

いつの夏も思う。
この紙束は人が解くような枚数じゃない。

「…お前の家庭の話、ちょっとお母さんから聞いたよ…その…なんだ」

「俺はたかが教員だから、少し積極臭くなっちまうが…強く生きろよ
 俺達職員はそういうところもちゃんと見るっていうのが仕事で、役割だ」

「だから、もし何かあったときは…遠慮なく言え 
 俺も家庭を持つ身だ。少しくらいは力になれると思う」

この時、今まで気にしてなかった先生の薬指が、やけに光って見えた。
先生も僕の歳頃の心情をわかっているのだ。
誰にも頼れない、信用できないような子供の心を。

( ^ω^)「…それなら先生、質問があるお」

「おっ、なんだ?」

( ^ω^)「…先生は、"命に代えても叶えたい願い"って何だと思いますかお?」

「なんだそりゃ」

がーっはっはとデカい笑い声が職員室に響く。
まぁ、大方予想通りだ。
だけど、少しずつ真剣な表情に変わっていくのがわかった。

150 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:36:43 ID:R8dbB6ec0
「…先生な、お前くらいの時は音楽をやりたかったんだよ
 ヘヴィーメタルってジャンルさ、そこで一発名を馳せてやろうとおもったんだ」

「その時は思ったよ、この夢を諦めるくらいなら死んだ方がマシだ!ってな
 でも、そんな簡単にはいかなかった。夢のない話だけどな」

「才能もいる、金もいる、継続する努力もいる。その中で選ばれた小指のササクレくらいの人間だけが夢を叶えていく
 俺の同級生で同じ夢を持ってた奴は、今はそのジャンルで名を馳せて、世界でツアーなんてやってる
 …すげーよな。敵わないと思ったさ。今でも尊敬してる」

「だけど、その時の夢が今"命に代えても叶えたい願い"かというと、そうじゃない」

「今俺は、家庭を持てた。倅ももう6つになる。順風満帆、とはいってないが…俺は今幸せなんだ」

「多分、いやきっと。音楽をやってた俺がそのお前の質問されたら…迷わず<音楽で成功したい!>だったろうな」

「でも、願いは形を持ってる。その形は固定されてるわけじゃない…と思うんだ」

「歳を食えば考えは変わる。季節が過ぎただけでも願いは変わる。
 暑いの嫌だから、早く冬が来てほしいと思うのと同じようにな」

「だから…そうだな…今自分が選択したことに後悔はない!と胸を張っていられることが
 "命に代えても叶えたい願い"…なんじゃないか…な??」

「…すまん、こういうのは苦手なんだ」

151 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:37:07 ID:R8dbB6ec0
段々と声が小さくなる先生に、僕は苦笑した。
それでも、なんとなくわかる気がする。
先生は"後悔しない選択をしろ"と言っているのだ。
時間が経てば考えが変わる、というのもわかる。
これは、感覚でしか伝わらないと思った。

( ^ω^)「なら、今の"命に代えても叶えたい願い"ってなんだお?」

「そうだな…今は、家庭が今以上に幸せになれば俺はそれでいい
 …が、命に代えるというなら、倅が将来道を踏み外さないこと…
 それが俺の願いで、叶えたいこと」

「それと、お前みたいな生徒の質問に完璧に答えられるって願いかな」

( ^ω^)「先生、途中で言葉詰まってたお」

そうだな!
そう言って、また一つ大きな笑い声が響いた。

「まぁ、あれだ。もしお前が何かに迷っているのなら、後悔しない方に行けよ
 少なくとも、俺ならそうする。」

「でもな、命があってこその願いだっていうのは忘れるなよ
 願いを叶えた先、お前が居なかったら意味がないからな」

( ^ω^)「そうだおね…ありがとうございますお」

「よし!夏休み存分に楽しめ!あと、宿題はやれ!」

いつの間にか引いていた汗だったが、宿題のことを言われてまた少し汗をかいた。
これは暑さのせいじゃなかった。

ありがとうございますおー
と言って、職員室を後にする。
休み前最後の学校は、何とも不思議な感覚だった。
もやもやが一つ、晴れた。
そんな気がした。

152 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:37:30 ID:R8dbB6ec0
〜〜〜同日:帰路の二人〜〜〜



('A`)「あ〜〜つ〜〜い〜〜お〜〜も〜〜い〜〜」

川 ゚ -゚)「やめろ、熱気が移る」

('A`)「クーは暑くないのー?」

川 ゚ -゚)「暑いさ、もう飲み物もなくなってしまった」

('A`)「宿題重い」

川 ゚ -゚)「毎年嫌になるな、これだけは」

なんだかんだで、私達は帰る途中。
行きに寄ったコンビニで、アイスを買って齧っていた。
今日は一段と暑さが増していた。
コンビニの影で休んでいる最中、そこに一人の少女が寄ってきた。

ミセ*゚ー゚)リ「あいす!」

可愛らしい声だった。
というより、全部可愛かった。

153 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:37:56 ID:R8dbB6ec0
川*゚ -゚)「あららーどうしたのー迷子ー?」

('A`)「なんで声が高くなるんだ」

川*゚ -゚)「可愛い子には弱いんだよーねーぇ?どこから来たのー?」

('A`)「今まで聞いたことのないような声だ…」

ドクオには分からないのだ、この子猫のようなクリクリとした目。
汗ばんだ四肢、赤い髪飾り。
全部可愛い。
お姉さん連れ去っちゃうぞ?

ミセ*゚ー゚)リ「おにーちゃんがっこういったからひま!
      だからおさんぽちゅ!」

川*゚ -゚)「そーなんだねぇ!偉いねぇ!何の味のアイスが好きなのー?」

ミセ*゚ー゚)リ「あいすすき!」

川*゚ -゚)「そーなんだねぇ。お姉さん買ってあげるから一緒に食べよっか!」

ミセ*゚ー゚)リ「いっしょたべる!!おねーさんやさしい!」

川*゚ -゚)「お姉さんは優しいよー怖くないよー」

('A`)「俺から見たら怖い。見たことなさ過ぎて」

そうして少女にアイスを買ってあげた。
フルーツ味の小さいやつだ。
袋から取ってあげて、少女に渡すと満面の笑みを向けてくれた。
あぁ、これが天使か。
今、私の目の前に肉眼で見える天使が居る。
奥で神妙な顔して座っているドクオ。
そんな目で見るな。


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