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( ゚д゚ )絵描きとヴィオラのようですミセ*゚ー゚)リ
1
:
◆gMoTB8ciTo
:2024/04/29(月) 00:23:38 ID:fCDwqofo0
オレンジデー祭参加作品です。
2
:
◆gMoTB8ciTo
:2024/04/29(月) 00:25:14 ID:fCDwqofo0
人生に名前をつけるとしても、”希望”って言葉は違うと思う。
この世に生を受けて早二十年と少し。
主観的に見れば十二分に長いと思えるその時間の殆どを、僕は”妥協”という非常に響きの悪い言葉で満たしてしまった。
進んだ学校。選んだ進路。日々消費する言葉。毎日歩く道。決めた未来。いつも使う筆とキャンバス。
仕方なく選んだものたちで、今の僕は出来ている。
どれもこれも、昔の自分が思い描いていた理想にはまるで届かないほどに遠い。
かと言って、全てに絶望するには、理想という名の太陽の暖かさが感じられるくらいには近い。
そんな中途半端な位置で、足掻くこともせずただ呆と立っているだけの人生だった。
このひどく情けない生き方はきっとこれからも変わらない。
今日も、明日も、人生最後の日の僕も、ずっとこの形容し難い燻りを抱えながら、全てに納得している振りをして息をするのだろう。
いつの間にか、言い訳と諦めばかりが上手くなってしまった。
とてもじゃないが、こんな人生を称するのに”希望”だなんて綺麗な言葉は選べない。
3
:
◆gMoTB8ciTo
:2024/04/29(月) 00:26:11 ID:fCDwqofo0
……それでも。
それでも、もし、そんな人生でも何か一つ、こんな僕にも一つ、誇れるものがあるとするのなら。
僕らの人生に名前を、タイトルをつけなきゃいけないとするのなら。
僕らの人生が、一つの絵だとするのなら。
一つの音楽だとするのなら。
一つの物語だとするのなら。
そのタイトルは、そう、きっと―――。
4
:
◆gMoTB8ciTo
:2024/04/29(月) 00:26:49 ID:fCDwqofo0
( ゚д゚ )絵描きとヴィオラのようですミセ*゚ー゚)リ
5
:
◆gMoTB8ciTo
:2024/04/29(月) 00:30:05 ID:fCDwqofo0
*
窓から射し込んでくる春の日差しが、トレイの上に置かれたままのスプーンに反射した。
眩しさを感じて動かした視線の先には、「早く食べろ」と催促しているかのように未だ手つかずの日替わり定食が置かれている。
ワンプレートに置かれた唐揚げは、湯気こそ立っていないがその光沢は失われていない。注文して席に座ったのは確か数十分前だと思うのだが、春の陽気というのはどうやら食品にもその活気を分け与えるらしい。
( -д- ;)「………はぁ」
だが、そんな誘惑がなされたところで一向に僕の食指は動かなかった。
再び視線を手元のスマホに移し、液晶画面に表示されている数字を見る。
“65400円”。僕が今持っている総資産である。
来週払わなくてはいけない家賃が5万円。そこから光熱費や水道代、スマホ代などの雑費を引けばギリギリ1万円残るか残らないか。
そこから食費などを捻り出さないといけないのである。なるほど、中々にムリゲーだ。
ふと自分が子供の頃、一ヶ月を1万円でやり過ごすテレビ番組があったなと思いだす。
だがあれはテレビタレントのれっきとした仕事で、何も彼らは好き好んでそんな苦難を受諾していた訳ではない。というかあの番組は確か、1万円を超えたとしても終わるのはあくまで企画だけで、出演者の人生まで終わるなんてことはなかった。
生憎、僕の人生はテレビ番組ではない。僕が1万円で過ごすことに金を払ってくれるスポンサーはいないし、失敗しても笑ってくれる観客や視聴者も存在しない。
頼んだ食事に手もつけないまま、じっとスマホを睨んで溜息をつき、お世辞にも優秀とは言えない脳を回して、また溜息をつく。
いくら息を吐いたところで、表示されている数字は1円たりとも増えてはくれそうになかった。
6
:
◆gMoTB8ciTo
:2024/04/29(月) 00:31:40 ID:fCDwqofo0
从 ゚∀从「よっ!前、失礼するぜ!」
(`・ω・´)「どうしたミルナ、飯、食べないのか?」
( ゚д゚ )「ん…?」
聞き慣れた声に顔を上げる。
眼前には、食事が乗ったトレーを持って目の前に座る二人の友人の姿があった。
最初に声を掛けてきた赤毛の少女がハイン、心配そうにこちらを見ている青年がシャキン。
同じ美大に通う、クラスメイトの中でも特に親しい二人である。
从 ゚∀从「食堂でそんなしけたツラすんなよ。食わねぇなら貰うぞー?」
( ゚д゚;)「た、食べる食べる!取るなよ!」
ひょいと搔っ攫われそうになった唐揚げを何とか死守し、慌てて口の中に放り込む。
冷めてしまった皮を噛むと、その中からは未だ暖かい肉汁がふわりと広がった。
7
:
◆gMoTB8ciTo
:2024/04/29(月) 00:32:20 ID:fCDwqofo0
从 ゚∀从「チッ、なんだよ。食うならさっさと食えってのー」
( ゚д゚ )「僕が食べ物を粗末にする訳ないだろ。貴重な栄養源なんだから」
从 ^∀从「まーた出た!どんだけ金欠なんだよお前!」
紅い髪を揺らしながらケラケラと笑うハインを尻目に、さっきまでずっと放置していたサラダを口に運んでいく。
特製のドレッシングが、瑞々しい水分を含んだ野菜によく絡む。大き目にカットされたトマトや刻まれた紫キャベツなども相まって彩りも良い。
これに大きな唐揚げとスープ、ドリンク、そして大盛りの米まで付いて500円というのだから驚きを隠せない。
自分のような貧乏学生にとって、大学食堂というのは実の親よりもありがたい存在なのだ。
(`・ω・´)「…それでミルナ、さっきからずっと何を見てたんだ?俺たちが並んでる時からずっと、スマホと睨めっこしてたが」
ゆっくりとスープを嚥下し終わったシャキンからの質問に咀嚼する口が止まる。
説明するよりも見せた方が早いなと思った僕は、テーブルに伏せていたスマホの画面を二人に見せた。
8
:
◆gMoTB8ciTo
:2024/04/29(月) 00:33:06 ID:fCDwqofo0
(`・ω・´)「……なんだこれ、小遣いか?」
( -д- )「いや、全財産」
从; ゚∀从「……………ハァ!?」
ハインの甲高い驚嘆の声が食堂中に木霊した。
从; ゚∀从「えっ、全財産って…お前、え!?学費とか、大丈夫なのかよ!?」
さっきに比べればボリュームを落として話す彼女に、僕は力なく首を横に振る。
今は大学二年の三月。来月には晴れてこの大学の三年生になる。
だが、進級というのは何も無条件で出来るものじゃない。単位や成績など、必要な条件は多岐に渡る。
そして僕にとって何より肝要なのは、学費の支払いだった。
美大というのはとにかく金がかかる環境だ。
医学部並みとは言わないが高い学費に、絵を描くのに必要な画材などにかかる費用も馬鹿にならない。かと言ってそこで出費をケチれば満足のいく作品は描けず、結果として困るのは自分だ。
留年などしてしまえばそれこそ目も当てられない。かと言って、学費を払う用の奨学金専用口座には、1円たりとも手を付ける訳にはいかない。
要するに、色々と崖っぷちなのであった。
9
:
◆gMoTB8ciTo
:2024/04/29(月) 00:34:33 ID:fCDwqofo0
(;`・ω・´)「お前、何に金使ったんだ?というか、普段からあんだけバイトしてんのに何でそこまで…」
( -д-; )「……バ先、なくなってた」
从; ゚∀从
「「………はぁ?」」
(;`・ω・´)
心地いい高音と低音が全くの同音を同時に奏でた。
( -д- )「…ずっと働いてた個人経営の飲食店、先週出勤したら潰れててさ」
( -д- )「先月と今月の給料、支払われてないんだよね。一応連絡したけど、店長からも全く返事ないし」
淡々と事実を羅列しているだけなのだが、眼前の友人二人はまるで狐につままれた顔をしていた。
10
:
◆gMoTB8ciTo
:2024/04/29(月) 00:35:53 ID:fCDwqofo0
当然だ。自分も口にしていて出来の悪い法螺話にしか思えない。
しかし、歴とした事実なのである。あれだけ馬車馬のように働かされ、挙句には給料未払いのまま飛ばれる間抜けな大学生などこのご時世に中々見られるものじゃない。
一応、大学の相談センターにも問い合わせたが、そこで聞かれたのは”学費の工面は大丈夫なのか”という一点のみ。
奨学金があるので学費自体は払えると説明するとすぐに興味をなくしたのか、事務員は途端に話を聞いてくれなくなった。
これはこれで別の法律問題に当たるのではないかとも思ったが、もはや怒る気力も食い下がる気もなくし、こうしてスマホと睨めっこをしていたという訳である。
从; ゚∀从「ほ、他のバイトは?お前、色々やってたよな?」
( -д- ;)「単発のやつばっかな。それも、春休みは何処も人気過ぎていきなり入るのは無理でさ」
(;`・ω・´)「……少しくらいなら、貸そうか?」
从; ゚∀从「そ、そうだぜ!ちょっとぐらいなら…お前には借りもあるし!」
( -д゚ )「いや、いいよ。マジでいい。気持ちだけ貰っとく」
友人たちからのありがたい申出に手を上げて断る。
金銭というのは、自分が意識している以上に大事なものだ。
十年来の絆がただ昔の偉い人が印刷されている紙切れ如きで崩壊するなど、別に珍しい話ではない。
それに、気の置けない友人たちに迷惑はかけられない。
そもそもとして、危機管理がなっていなかった自分の過失が原因なのだ。こうして愚痴を聞いてもらえるだけで、自分にとってはありがたい。
11
:
◆gMoTB8ciTo
:2024/04/29(月) 00:36:50 ID:fCDwqofo0
从; ゚∀从「で、でもよ…実際どうすんだよ」
( -д゚ )「ん……まぁ、すぐに別のバイト探すよ」
(;`・ω・´)「そんな余裕あるのか?3年からはカリキュラムも増えるらしいぞ」
从; ゚∀从「そ、そうだよ。給料だってそんなすぐポンと支払われる訳じゃないだろうし…」
友人からの忠告に漫然と動かしていた食事の手が止まる。
世間的な美大生のイメージというのは知らないが、少なくともうちの学生は結構忙しい。
3年からは実技の授業も増える上に、コンペ用の作品造りにかける時間も必要となる。
何より、就職活動に向けてのポートフォリオは絶対に手を抜けない。ここを失敗すれば就活がより本格的になる4年で挽回するのはかなり難しいと先輩から何度も聞かされていた。
12
:
◆gMoTB8ciTo
:2024/04/29(月) 00:38:24 ID:fCDwqofo0
( -д- )「…大丈夫だよ。今までだって何だかんだ何とかなってきたし」
すっかり空になった皿の前で手を合わせる。
自分なんかが就活などに気を遣う必要が本当にあるのかと問われれば確かに疑問だが、出来るだけ周りと同じように、普通の学生のように生きようと決めたのも自分だ。
慣れた手付きで鞄から薬を取り出し、残しておいた水と共に流し込む。
いつの間にか、この一連の動作にも随分と手慣れたものだ。
(`・ω・´)「お、花粉症の薬か。大変だよな、特にこの時期は」
シャキンがやや大げさに頷く。そういえば、前にそんな説明をしていたんだった。
从 ゚∀从「あれ、お前ら二人ともだっけ?可哀そうになー」
(`・ω・´)「上から目線やめろ。全く、この学校に文句を言うとしたら緑が多すぎることだな。花粉症には辛すぎる」
( ゚д゚ )「山の上だから仕方ないけどな」
( ´W`)「同感だね。あとはバスの本数も増やしてくれるとありがたい」
从 ゚∀从「あーそれは分かるっすねー」
(`・ω・´)「………うん?」
何か強烈な違和感を覚えてさっと左を見る。
確かにさっきまで空席だった筈の隣には、いつの間にか、自分たちの恩師である”シラヒーゲ教授”が優雅にコーヒーを飲んで座っていた。
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