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異界大戦記のようです
1
:
名無しさん
:2023/04/01(土) 23:39:57 ID:mfVt/ZZU0
世界の縮図が変わろうとしていた。
魔法を操り、自らを神の僕と信じるエルフ達が支配するこの星。
その中の3大大陸に存在する5つの列強と呼ばれる国が衝突する寸前にまでなっていた。
きっかけは列強最強の国家と名高いルナイファ帝国と、同じく列強のニータ王国との国境で起こった小さな事件であった。
それぞれがその犯行の責任は相手側にあると主張しあっていた。
互いに堂々と国として主張をしていたがその内情は全く異なるものであった。
ルナイファに関しては元から周辺国家を攻め落とし、支配する典型的な侵略国家であった。
列強クラスの国との戦いはなかったものの、同大陸に存在し隣接する小国はほぼすべて支配していると行っても過言ではない。
そして大陸統一のためにも同じ大陸で国境を接しているニータはいつかは落としたいと考えていたことから、この機会に攻め込むのが良いと言う意見で国が固まりつつあった。
838
:
名無しさん
:2023/11/04(土) 15:35:35 ID:e9mBbMOc0
/ ,' 3「そうだ。しかし、講和するにも相手が必要だろう。ゆえに国を纏められる力のあるもの、それも降伏に前向きともなればはあちらからすれば非常に重要。むしろ状況的には我の価値が上がったと見るべきかもしれんな」
(´<_` )「......確かに混乱した国を、それも我が国の広大な土地全てを殲滅し、統治して混乱を治めることは困難。それならば一部でも国を纏められる者を立てた方がコストも少なく済みますし、なによりスムーズに進む、というわけですか」
/ ,' 3「そうだ、あちらからしてもメリットが大きい。確かに我々の罪は相手からすれば非常に大きいだろうが、下手に断罪などすれば、それこそ国はさらに荒れ、制御出来なくなる。ゆえに、大きくは手を出せんはずだ」
(´<_` ;)「理屈は分かりましたが......相手の感情の問題もあります。上手くいくでしょうか?」
/ ,' 3「確かに全ての罪が許されることはないだろうが、多くは問題なかろう。なにせ、分かりやすい敵が出てきてくれたからな」
(´<_` ;)「っ!ぷ、プギャーに全ての罪を被せるおつもりですか?」
/ ,' 3「そうだ。この戦争の全てを、奴に被せる。奴が望んだ戦争なのだ、本望だろう」
839
:
名無しさん
:2023/11/04(土) 15:37:24 ID:e9mBbMOc0
(´<_` )「確かにそれができれば、なんとかなるやもしれませんが流石に、無茶があるのでは......」
/ ,' 3「そこは交渉次第であろうが、現実として奴らに政権を奪われているのだ。決してあり得ないことではない。それに、そういうことにした方が人間達も都合が良いだろう」
(´<_` )「......なるほど」
/ ,' 3「勿論、それで全て無罪放免となるとは考えていない。果たすべき責務は全て果たすつもりだ......それに、だ。これが帝王としての、最後の勤めだ。必ずや国民をまとめ上げ、話し合いを成功させると約束しよう。国を、民を守るためにな」
(´<_` ;)「!へ、陛下」
/ ,' 3「ゆくぞ、オトジャよ」
(´<_` )「......はっ!」
こうしてアラマキ達は歩き出す。
全てを、終わらせるために。
840
:
名無しさん
:2023/11/04(土) 15:37:47 ID:e9mBbMOc0
続く
841
:
名無しさん
:2023/11/04(土) 18:12:49 ID:0pcX8xDU0
乙・・・・・・!
842
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 19:15:16 ID:ziesvxk.0
ルナイファ帝国 帝国議事堂
1463年4月18日
室内に砂煙が舞う。
凄まじい爆発の跡が、そこには残されていた。
その爆風に巻き込まれたのであろう、赤黒いものが辺りに散乱する。
世界最強の国家、その国の中枢であったとは思えないほどに、凄惨な光景がそこに広がっていた。
そしてその光景を眺めるもの達、この国の貴族や議員、そして生き残ったプギャーの兵士達は、ただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
突如プギャーを初めとした徹底抗戦を叫ぶ者達にこの場を制圧されたかと思えば、オトジャとロマネスクが率いる兵により戦場と化すという異常事態。
理解が追い付くはずもなく、またどうすることも出来ずにその様子を眺めていれば、ロマネスクが陛下を逃がし、そして最後の力を振り絞り、自爆した。
843
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 19:15:51 ID:ziesvxk.0
到底短時間で起こった出来事とは思えず、全てが終わった今ですら理解が追い付かないほどに衝撃的な出来事の連続であった。
自国の事実上の敗北、それを認められない者達の暴走、世界に迫る病の恐怖、そして偉大な魔法使いの死。
どれをとってもとてつもないニュースなのだ。
それも受け入れがたいものばかりである。
だがそれでもまだ救いはある。
暴走の根元たるプギャーもあの爆発に巻き込まれたのだ。
失ったものは大きすぎるものの、それでもまだ、何とかなるかもしれない。
問題は山積みではあるものの、問題の発生源は潰せたのだからー
爆風により、巻き上げられた砂埃。
それもいつしか収まり、ようやく室内の全貌が明らかになっていく。
844
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 19:16:29 ID:ziesvxk.0
(; ^Д^)「......は、はっ、はっ!」
ーそうして現れた光景に、誰もが声を失った。
砂埃から現れたのは、傷つきながらも確かに息をし、立ち上がる一人の男。
今、この眼前に広がる光景の原因たるその男である。
ーなぜ、生きている!?
混乱する頭の中で、皆の考えが一致する。
あってはならない光景のはずである。
あのロマネスクが命を懸け、最期に道連れにしたはずではなかったのか、と。
だがいくら目を擦ろうが、頬をつねろうが見えるものに変化はない。
確かな絶望が、広がっていた。
845
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 19:17:08 ID:ziesvxk.0
(; ^Д^)「くそっ、バカがっ!!くそっ、くそぉっ!!この俺を、殺そうとしやがって!くそがぁっ!!」
そんな周りを無視し、プギャーは荒れ狂う。
自分の足元に広がる、無惨な死体。
自身を殺そうとした、その亡骸を足で踏み荒していく。
怒りのままにぐちゃり、ぐちゃりと冒涜する。
(; ^Д^)「はぁ、はぁ......はっ!見たかっ!ただの無駄死にだっ!愚か者の末路に、相応しい結末だなっ!!」
そのおぞましい光景を、誰も信じられなかった。
だが一つ、確実なことを皆が理解し始めていた。
この悪夢はまだ終わることなく、この男により続くのだと。
846
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 19:18:03 ID:ziesvxk.0
(; ^Д^)(......こいつが役に立つとはな)
プギャーの命を救ったもの、それは彼が着込んでいた最高級品の鎧。
その役目を十二分に果たして魔壁により完全に爆風を防ぎきり、本来戦場で兵士の命を守るはずであったそれは、プギャーの命を救った。
流石のプギャーも臆病過ぎるのではないかと、自身に怒りを感じたこともあったが、その臆病さに感謝することになったのだ。
( ^Д^)「く、ははっ!」
そしてそれは、まさに天啓と言えるであろう。
天が自身を生き残らせようとしており、そして使命を成し遂げろと言っているのだと確信する。
そしてもう、彼を止める存在はここにはいない。
(# ^Д^)「聞け!!皆の者!!今、この時を持って悪しき王は、そしてエルフのプライドを捨てた愚か者達はこの国から消えたっ!!ここに残るは真のエルフのみであり、我々は真のルナイファ帝国を勝ち得たのだっ!!」
ゆえに、もう止まるはずがない。
847
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 19:19:10 ID:ziesvxk.0
(# ^Д^)「では我らは何を成し遂げねばならないかっ、それは皆も分かるであろう!!そう、我々は戦い、勝たねばならないのだっ!!誇り高き、エルフとしてっ!!」
そのプギャーの演説に、議会を制圧した兵士達が歓声を挙げる。
この国は、これから彼の望む道を進むことになる。
彼らは信じている。
その道がきっと正しい道であり、その道の先に、未来に栄光が待っているのだと。
ー未来どころか、現在すらまともに見ないままに決めた道だというのに。
この後もプギャーの演説は続いていた。
後の歴史書において、『悪魔の演説』と呼ばれるそれは世界にも魔信により流され、各国に衝撃を与えるのであった。
848
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 19:19:52 ID:ziesvxk.0
ルナイファ帝国 南方都市テタレス
1463年4月19日
魔信から流れるその演説は、まるで皆を洗脳するかのようにひたすらに繰り返し流されていた。
その放送にこの都市の多くの者が困惑し、そして強い怒りを感じていた。
まさか自国の崇めるべき陛下から政権を奪い取ったどころか、未だに敗けを認めず、さらには国家総動員で敵を滅ぼすと言い出したのだ。
今この放送を聞いている自分たちも戦地に送られかねないという事実に、それもあんな恐ろしい敵を相手に戦うなど最早処刑宣告に等しいとすら感じられる。
爪;'ー`)(おいおいおいおいっ!!どうなってんだこれっ!!)
その放送を聞いていたフォックスもまた、困惑していた。
当然であろう、まさか自分の信じてきた国がとんでもない暴走を起こし、崩壊が始まったとも言える状況なのだ。
849
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 19:23:13 ID:ziesvxk.0
だがそんな状況であるにもかかわらず同時に若干の安堵もあった。
それはこのテタレスにまだ自身がいたことである。
避難のために帝都に向かおうと考えていたものの、準備が一向に進まず、テタレスで足止めを食らっていたところでこの放送である。
もし準備が間に合って帝都にたどり着いてしまっていたらどうなっていたか。
(;´・ω・`)「ぼ、僕達......どうなるんですか?」
爪'ー`)「......大丈夫だ、安心しろ。とりあえず今は休んどけ」
(;´・ω・`)「......はい」
爪'ー`)(俺だけじゃなくて......こいつらも、下手したら戦地に狩り出されたかもしれん)
国家総動員とは、そういうことなのだ。
子供であろうと関係ない。
むしろ怪我や病気もなく動ける子供こそ、必要とされるであろう。
安全な場所に向かうはずがむしろ、死地に向かわせることになったかもしれないのだ。
その点、ここテタレスは敵こそ近いが、それゆえにこの都市の民衆の多くが徴兵に対して、というよりも戦闘を継続することに強く反発している。
これを押さえ込まねば徴兵などろくに出来ない状態となっているため、少なくとも現時点では、すぐに戦地に向かわされることはないはずである。
850
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 19:23:46 ID:ziesvxk.0
ただの偶然とはいえ、自身の判断をこれほど良かったと思えるのもそうないであろう。
爪'ー`)「でも、どうなるんだ......これから」
だがあくまでも現時点での話である。
この都市の多くの者が反対しているとはいえ、ここもルナイファなのだ。
本格的に国が動くことになれば、この場所も狂気ともいえるその流れに飲み込まれるかもしれない。
いや、その前に眼前まで迫っているであろう敵にここが潰されるのが先かー
多くの不安を抱えながらも、彼は生き残るため、そして子供達を守るために動き続ける。
851
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 19:24:37 ID:ziesvxk.0
ルナイファ帝国 テタレス南方平野
(;`・ω・´)「......なんだ、これは」
テタレスの民たちが放送に困惑する中、その南方の平野で陣を構えるシャキン達もまた困惑していた。
降伏のために国が動いていると聞いていたはずなのに、陛下が帝都から追い出され、プギャーを始めとする暴走したもの達が国の主権を乗っ取り、そして人間達との無謀ともいえる戦いを続けると言い出したのだから。
理解できないし、したくもない。
あまりに酷すぎる現実に誰もが口を閉ざす。
奇跡ともいえる勝利を得て、死を乗り越え全てが終わったはずであった。
それがまた、あの死地に向かえと言われたのだ。
二度も奇跡が起こるほど、戦場は甘くはない。
つまり十中八九、死ぬ。
その事実に皆、一様にうつむき恐怖に身体を震わせていた。
852
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 19:25:28 ID:ziesvxk.0
(; ,,^Д^)「シャキン様、軍務省より命令が届いております」
(;`・ω・´)「......読んでくれ」
(; ,,^Д^)「はっ。『テタレスの全戦力を持って敵を撃滅せよ。ルナイファ帝国民は皆、誇り高きエルフであると同時に、敵に屈することない神の尖兵である。ゆえにテタレスにある全てのエルフは最後の一兵までルナイファ帝国の、そして神の誇り高き軍人として戦い抜くことを願う。貴君等の活躍はエルフの繁栄と安寧により報いられ、未来永劫、英霊として栄誉ある歴史として語られるであろう』」
(;`・ω・´)「......我らに、死ねと言うのか」
(; ,,^Д^)「シャキン様......」
(;`・ω・´)「しかも民にも死ねと言うのか!?こんな、こんなふざけたものを命令と言うつもりなのか、奴らはっ!!」
どんなに言葉を取り繕っても、そこに書かれたものは今、ここにいるもの全てに死ねと言っていることに変わりない。
それも本来守るべき民すらも死地に追いやり、命を散らせと言うのだ。
そんなものに、従えるはずがない。
853
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 19:27:46 ID:ziesvxk.0
(; ,,^Д^)「ですが、命令に逆らえばどうなるか」
(;`・ω・´)「......今の国ならば首が飛ぶ、か。だが......」
( ^ν^)「......なら命令に従えばいいじゃねーか。命令通り、敵を倒しましょうや」
(;`・ω・´)「なっ!?」
それまで言葉を発してこなかったニュッから信じられない言葉が飛び出す。
誰もが信じられないと言った視線を向け、驚愕の表情を浮かべ、視線を送る。
こんな命令に従おうというものがいるということ、そしてまさかニュッがその様な事を言い出すなど予測し得なかったのだ。
(;`・ω・´)「ニュッ、貴様っ!!何を言っているのか分かっているのか!?」
( ^ν^)「分かってますよ。うつむいててもどうにもならないし、命令されちまったもんは仕方ないでしょ。大人しく、敵を殲滅しましょう」
(; ,,^Д^)「そんなこと、出来るわけー」
( ^ν^)「南のは無理だが、北のは出来るかもしれねーぞ」
(; ,,^Д^)「......北の、敵?」
(;`・ω・´)「っ!」
854
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 19:29:01 ID:ziesvxk.0
その言葉にまた、場がざわつく。
これまで敵は南方にしかいなかったはず。
否、正確には遠い北の果て、ニータとの国境近くには敵はいるがいくらなんでも遠すぎるため戦うことすらできないであろう。
一体何の事を言っているのか分からず皆が困惑する中、シャキンだけがその言葉の真意に気がつく。
北にあるのはこの国の中枢、帝都。
国に仇なす者達、すなわち敵と呼べる者達によって占拠された帝都が。
(;`・ω・´)「......国と、戦うつもりか?」
(# ^ν^)「むしろ戦わないつもりなのか!?奴らは陛下を、俺達の国をめちゃくちゃにしているんだぞっ!!俺達はなんだ!?国を守る軍人じゃねぇのか!?今、戦わずして何と戦うってんだっ!!」
(`・ω・´)「......」
(; ,,^Д^)「......ま、待ってください。く、国と戦うってまさか......プギャー様達と」
(# ^ν^)「おい、あいつは敵だぞ。様なんてつけんじゃねぇ」
(; ,,^Д^)「本気ですかっ!?そんなことすれば、国家反逆罪ー」
(# ^ν^)「んなもん、奴らが先だろうが!!」
(; ,,^Д^)「それは、そうですが......」
(`・ω・´)「......」
855
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 19:31:34 ID:ziesvxk.0
ようやく、皆がニュッの真意に気がつく。
そして言われてようやく、気が付いたのだ。
敵は、確かに北にいる。
自分たちが愛し、そして守ると忠誠を誓った国を害する者達が。
(# ^ν^)「お前らは、許せるのかよ。俺達の守るべき国が、あんな奴らに乗っ取られてよ。こんな命令を送ってくるやつらにだぞっ!!許せるのかよ!?」
(; ,,^Д^)「......それは」
(# ^ν^)「俺は戦うぞ。糞ったれな野郎どもをぶっ潰さなきゃ気が済まねーからな。命令通り、敵をぶっ潰す」
(`・ω・´)「待て、ニュッ」
( ^ν^)「......なんすか」
(`・ω・´)「いくら貴様でも勝手な行動は許さん。命令だ」
(# ^ν^)「っ!じゃあ黙ってろって言うのかっ!?」
(`・ω・´)「落ち着け。もはや貴様一人でどうこうなる問題ではない。それに我々は貴様の言う通り、軍人なのだ。その責務は、一人にかかるものではないということくらい、分かるだろう」
856
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 19:33:29 ID:ziesvxk.0
怒りの抑えられないニュッから送られる視線を無視するかのように、シャキンは静かに語る。
そう、現実問題として軍は組織であり、たった一人の問題行動であったとしても集団として罰を受けることになるだろう。
それが軽い罪ならばまだしも、国家に立ち向かうとなるならばそれはもうたった一人の問題に収まるはずがないのだ。
( ^ν^)「......なら、ここで軍を辞めてやりますよ。それなら文句はないだろ」
(`・ω・´)「ふむ、それも一つの手だが......その前にやることがあるだろう。折角の名案なんだ。上官を置いて勝手に暴走するには勿体無かろう」
( ^ν^)「え?」
(`・ω・´)「今この場にいるもの、全員に聞く。この阿呆共からの命令に逆らい、反逆者としてでも国を救う覚悟が出来ている者はいるか?無い者は無理に従えとは言わん。むしろその方が賢い選択だろう。だが、格好つけたい馬鹿は私とニュッに続いてくれ」
( ^ν^)「っ!」
(; ,,^Д^)「っ!」
だからこそ、シャキンは皆で立ち向かうことを選択する。
彼もまた、国を守る軍人として最後まで戦うことを決意したのだ。
857
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 19:35:38 ID:ziesvxk.0
そして、その決意は伝播する。
一人、また一人と決意の炎を燃やし、戦うことを覚悟する。
( ^ν^)「......タカラ、てめーはどうするんだ?」
(; ,,^Д^)「え?自分は......」
(`・ω・´)「何度も言うがこれは命令ではない。選択は自分自身で決めろ」
(; ,,^Д^)「......あぁもう!何かこれで戦うと言ってもまるで強制されたみたいじゃないですかっ!!」
(;`・ω・´)「いや、そんなつもりは無いのだが......」
(; ,,^Д^)「勿論戦いますっ!自分も、ルナイファを愛する、軍人ですからっ!!」
そうして皆の心は一つとなる。
ここにいる全員が、戦う道を選んだのだ。
(`・ω・´)「......ではニュッ。最初の任務だ」
( ^ν^)「はい?なんすか?」
(`・ω・´)「頭のおかしい命令を送ってきた阿呆共に返信してやれ。とびっきりのメッセージを頼む」
( ^ν^)「......任せてくれ。得意分野だ。ちゃんと馬鹿にも分かるようにしておくよ」
そう互いにニヤリと笑いあう。
そうして送られたメッセージは、シンプルに一言であった。
『くたばれ糞野郎』
858
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 19:36:21 ID:ziesvxk.0
続く
859
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 20:28:18 ID:E1p4bfdQ0
おつ!
やべぇニュッとシャキン最高にかっこいい
最高級鎧の性能えぐいな
860
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 21:46:36 ID:7g/RYAbw0
乙です
861
:
名無しさん
:2023/11/12(日) 15:01:27 ID:.5pChRN20
乙!シャキンとニュッかっこいいわ!
862
:
名無しさん
:2023/11/12(日) 18:06:00 ID:Zgc9d90A0
乙!
しかし陛下の人望が凄いな
余程の名君なのかそういう風習なのかが気になる
863
:
名無しさん
:2023/11/12(日) 21:51:19 ID:DT8J7Hpo0
ニュッ株ストップ高
864
:
名無しさん
:2023/11/18(土) 20:35:09 ID:2EGBW4kM0
ルナイファ帝国 南方要塞
1463年4月20日
要塞は異様な空気に包まれていた。
つい先日起きた軍によるクーデター。
それによりこの国の王が失脚したという大事件は、ルナイファに留まらず世界中を驚愕させた。
ルナイファの民達も勿論動揺したがそれも束の間、政権を握った軍による放送は彼らを更なる戦いへと駆り立てた。
軍から流される情報の多くは、いかに敵が愚かであり、卑劣であるかということ。
そしてそんな敵に対し、誇りを捨て頭を垂れ、服従を選んだという帝王がいかに愚かであったかということ。
ルナイファのエルフがどれだけ優秀であり、そして世界で選ばれた民であるということである。
繰り返し流されるそれは、何も知らない民達のプライドを刺激する。
そうして生まれるのは更なる戦いを求める民の声であった。
865
:
名無しさん
:2023/11/18(土) 20:36:08 ID:2EGBW4kM0
勿論、この放送に違和感を覚える者や真実を知り、戦いに反対するものもいた。
だがそれらは兵により弾圧され、強制的にその声は無くなっていた。
完全なる軍による、力による統治。
既にブレーキは壊れ、もう止まることはない。
行くところまで行き、崩壊するまで止まれない暴走状態であった。
『我々は、ルナイファの民!真に神より選ばれた民である!!皆で戦うのだ!あの、卑劣なる悪魔の手先の人間を、滅ぼすのだっ!!』
(# ^ω^)「そうだおっ!奴らを滅ぼすんだおっ!!」
『そして、神は我らに味方している!奴ら、不浄の民である人間共は今、病に苦しめられている!!そう、これは天が我らを助けるため、奴らに与えた神罰なのだっ!!天は今こそ、奴らを滅ぼせと言っておられる!!さあ立ち上がるのだっ!誇り高きルナイファの戦士たちよっ!!』
(# ^ω^)「おおぉおおぉおおおお!!!」
866
:
名無しさん
:2023/11/18(土) 20:36:45 ID:2EGBW4kM0
そしてその異様な空気に当てられた者達は、自らが暴走していることにも気づかないまま雄叫びを挙げる。
なぜ戦うのか、どうしてこんなことになっているのか、国や世界の動きがどうなっているのか。
それらのことなど何も知らないし、知ったことではない。
ただ皆が怒り、そして自身に沸き上がるその感情のままに声を挙げ、闘争を求める。
子供も、老人も関係ない。
そこに高度な文明を営む生物はおらず、いるのは理性をなくした獣のみ。
獣は吠える。
吠え続ける。
手足を失い、満身創痍ということにも気づかないまま。
867
:
名無しさん
:2023/11/18(土) 20:38:06 ID:2EGBW4kM0
だがまだ、牙は折られていない。
数だけで言えばこの要塞の戦力は凄まじく、普通に攻め落とすのには多くのものと時間が必要となるであろう。
確かな力が、ここにあるのだ。
ーその事実が、そしてそこからくる自信がさらに彼ら自身を狂わせているのだが。
とはいえ、強力な戦力があるのは事実なのだ。
(# ^ω^)「滅ぼせっ!滅ぼせっ!滅ぼせっ!」
暴走する獣達。
そんな彼らこそ、この戦いを左右すると言っても過言ではないルナイファに残された最後であり、最大の力であった。
868
:
名無しさん
:2023/11/18(土) 20:38:51 ID:2EGBW4kM0
ムー国 捕虜収容所
1463年4月23日
( ´_ゝ`)「一体何なんだ......」
その日はいつもと同じように始まったはずであった。
特に暴れたりも、危険な行動などもしていない。
極めて模範的な捕虜として皆が行動していたはずであった。
事実、アニジャからの呼び掛けにより祖国であるルナイファが降伏に向けて動くはずという言葉を聞き、ようやくこの無謀な戦争が終わるのかと皆が歓喜し、少しでも相手に悪印象を与えないように行動しようという話になっていたはずである。
それが急に今日、人間達の行動が慌ただしくなったかと思えば一人ずつ別室に連れていかれては、何かをされているようなのだ。
今までにないその行動に、終戦前にこれまでの恨みを晴らすため、遂に自分達の処刑が始まったのではないかと一部では混乱が起こるほどであった。
それほどまでに、人間達の行動は急であったのだ。
869
:
名無しさん
:2023/11/18(土) 20:39:24 ID:2EGBW4kM0
極めつけはその格好である。
今までは軍服のような格好か、全身黒くきっちりとした服装に身を包んだ者がほとんどであったのに、今日現れたのは白い服に全身を覆われた、それも顔まで覆われているという異様な、見たことのない格好の者だったのだ。
(; ´_ゝ`)「......」
恐らくはその格好と今回の出来事に何かしらの関連があるのだろうと、アニジャは推測する。
だが流石に人間の、それも異界の民の風習など知るわけがない。
ただ彼らが行動しなくてはならない『なにか』があったのだろうということだけははっきりしていた。
そしてその『なにか』、その中で一番最悪な事に思い当たり、アニジャは顔を青くする。
(; ´_ゝ`)(......まさか、降伏させることに失敗したのかっ!?)
人間達の慌てたような行動から、ただならぬことであることは確かである。
とするならば、その可能性が全くあり得ない話ではないことなのもまた、確かであった。
870
:
名無しさん
:2023/11/18(土) 20:42:59 ID:2EGBW4kM0
(゚、゚;トソン「一体......何事なんでしょうか」
(; ´_ゝ`)「......」
とはいえ、そんなことを周りに言えるはずがない。
そんなことを言えば、更なる混乱を招くだけだからである。
またあくまでも可能性の話なのだ。
普通に考えれば降伏以外の選択肢など、ルナイファに残されていないはずなのだ。
(; ´_ゝ`)「......」
戦おうにも、敵に対して有効な手段などあるはずがない。
あのプギャーでも勝てないことくらいは把握しているはずである。
またもしそれを理解しながら降伏が出来ない阿呆であったとしても、オトジャという保険があるのだ。
だからこそこの話はそこで終わるはず、なのだが。
(; ´_ゝ`)(本当に、大丈夫なのだろうか)
思わずそう考えてしまう。
人間達の行動にアニジャもまた、どこか怯えに近い感情を抱え、それゆえに考えが負の方向へと向かっていた。
871
:
名無しさん
:2023/11/18(土) 20:43:25 ID:2EGBW4kM0
(゚、゚トソン「......アニジャ様?大丈夫ですか?」
( ´_ゝ`)「あ、あぁ。平気だ」
そんな様子を心配してか、トソンからそう声をかけられる。
その声にアニジャは考えを止め、返事をした。
もう、考えても仕方ないのだと。
考えようにも、ピースが足りないのだ。
そんな状態で真実になどたどり着けるはずもなく、得られるのは不安のみなのだと。
そう、自身に言い聞かせ浮かぶ悪い想像を振り払う。
( ´_ゝ`)「そう、大丈夫......な、はずなんだ」
(゚、゚トソン「......?」
そう自分に言い聞かせるように、アニジャは呟いたのだった。
872
:
名無しさん
:2023/11/18(土) 20:44:16 ID:2EGBW4kM0
ルナイファ帝国 軍務省
(;*゚ー゚)(どうしてこんなことに......)
国が軍に奪われて数日。
シィは変わらずここ、軍務省にて仕事をしていた。
だが望んでその仕事をしているわけではなかった。
それも当然であろう。
自国の国を混乱に貶めている張本人に手を貸すことになるのだから。
自身はこれまで国のためにとあの愚か者の下でどんな叱責を受けようとも我慢し、どうにか支えてきた。
そう、自国のために仕事をしてきたのだ。
それが気付けば国は軍に支配され、とんでもないことになってしまった。
逃げようにも、戦争に反対しようにも非国民と弾圧される恐ろしい国に、既に変わってしまっていたのだ。
873
:
名無しさん
:2023/11/18(土) 20:45:04 ID:2EGBW4kM0
それゆえシィは逃げ出すことも出来なければ、国を混乱に陥れている国賊達の下で働かなくてはならない状況となってしまったのだ。
現に反発した同僚は何処かへ連れていかれ、帰らぬ者となっている。
相手は軍なのだ。
反乱しようにも力で勝てるはずもなく、また何も知らない民は怒りを煽られ、戦争に肯定的なのだ。
こんな状態で一体何が出来るというのか。
(;*゚ー゚)「それでも......こんな仕事」
だからといって、そんな国に害をなす者達に従って仕事をする自分に、何とも言えない感情が沸き上がる。
怒りや悲しみ、そして悔しさ。
それらがぐちゃぐちゃになりながらも、どこかもうどうすることも出来ないのだという諦めに近い感情があった。
874
:
名無しさん
:2023/11/18(土) 20:46:04 ID:2EGBW4kM0
(*゚ー゚)「......失礼します」
そんな考えに頭を悩ませているうちに、気付けば彼女はプギャーのいる執務室の目の前まで来ていた。
国賊の主犯とも言える相手に、怒りが沸くもののどうにかそれを抑え、部屋に入る。
ここで下手なことをすれば自分がどうなるかは、彼女は嫌と言うほど分かっており、そんなことをできる勇気など持ち合わせていなかったのだ。
( ^Д^)「おお、来たか。何があった?」
(*゚ー゚)「......はい。まず帝都の民ですが、混乱の鎮圧に成功しました。反発していたもの達もいましたが、それらは全て捕縛された模様です」
( ^Д^)「そうか。ふん、バカな奴らだ」
(*゚ー゚)「っ」
( ^Д^)「......なんだ?何か言いたいことでもあるのか?」
(*゚ー゚)「......いえ」
875
:
名無しさん
:2023/11/18(土) 20:47:58 ID:2EGBW4kM0
本音で言えば、今すぐにでもバカはお前だと言いたい気持ちを必死に抑える。
そうしなくては、死んでしまうのだから。
(*゚ー゚)「......報告を続けます。現時点でこの帝都周辺、および北方は命令に従う姿勢をみせています。しかしテタレスを始めとして南方では反発をするものが多く見られます」
( ^Д^)「ちっ、面倒な」
(*゚ー゚)「やはり、テタレスにいた部隊が離反したことが周辺をざわつかせているようで......あのメッセージも影響が大きいようです」
(# ^Д^)「......」
その言葉にプギャーは青筋を立てる。
ニュッから送られたメッセージである『くたばれ糞野郎』。
その言葉はプギャーを苛つかせると同時に、テタレス周辺の者達を勇気づけていた。
多くの者がプギャーの恐怖政治に屈するなか、皆が思っていたことを堂々と言い放った姿は力強く映り、それに続こうと言うもの達が現れた。
自分達も戦おうと、自分達も奴らに『くたばれ糞野郎』と言ってやろうじゃないかと、瞬く間にその言葉はスローガンのように広まっていったのだ。
876
:
名無しさん
:2023/11/18(土) 20:50:03 ID:2EGBW4kM0
その事実にもさらにプギャーは苛立ちを隠せない。
子供の悪口のような言葉に、ここまで自分をこけにされ、さらにはそれにより反発する勢力が勢いを増しているという情けない現実が、彼に確実にダメージを与えていた。
(# ^Д^)「くそっ!あの、ニュッとか言ったか!!奴は確実に殺してやるっ!!それもただでは殺さんっ!この俺をバカにした事を後悔させてやるっ!」
(;*゚ー゚)「......」
(# ^Д^)「......まぁ、いい。その事は後だ。それで?これ以上、拡がらんように対策はとっているんだろうな?」
(;*゚ー゚)「え?あ、は、はいっ!既に情報統制により、管理下にある地域では情報が入らないよう遮断されています」
(# ^Д^)「ふん、まぁそれならばいい。とはいえ、厄介だな......奴らを鎮圧出来るか?」
(*゚ー゚)「難しいかと......治安維持、及び防衛で手一杯になっていますから」
(# ^Д^)「くそっ!人間共を後回しに出来ない以上、仕方ないとはいえ......腹立たしい。せめてこれ以上、勢力が大きくならないようにはしなくては。おい、アラマキの行方はどうなっている?」
(*゚ー゚)「は、はい。転移魔法の痕跡から南方に向かったと思われますが......現時点では見つかっておりません」
(# ^Д^)「あの無能共が。おい、なんとしてでも見つけ出せ。南方の馬鹿共と接触でもすれば、奴らがさらに勢い付くことになるからな。捕らえることが出来なければ、うーむ、そうだな。最前線の部隊の隊長に昇進させてやるとでも伝えておけ」
(;*゚ー゚)「は、はい......」
877
:
名無しさん
:2023/11/18(土) 20:51:27 ID:2EGBW4kM0
( ^Д^)「まあ奴らもいずれ、戦いが終わる頃には誰が正しかったか分かるだろう。全く、手間をかけさせやがって......」
(*゚ー゚)「......」
本当にこの男が何を言っているのか、シィは理解に苦しむ。
本気で目の前の男は国の、そして世界のために行動しているつもりなのだ。
自身の行動は全て正しく、そして報われるのだと。
なぜこうも世界が歪み、異なるように見えてしまうのか。
少し見渡せば如何に愚かな選択をしているか分かりそうなものだが、彼はその光景を見てもなお、何も変わらないのだ。
( ^Д^)「それにこの戦いももうすぐ終わる。人間共は既に病で阿鼻叫喚だろうからな。今更、神に自分達の過ちを許してもらえるよう祈ってるかもしれんが......無駄だ。この俺が、神に代わり奴らを裁くのだからな」
狂気と恐怖が支配するこの国で、プギャーは笑う。
彼は心から、本気で喜んでいるのだ。
神の敵である人間達を、自身の手で葬ることを。
それがどんな犠牲を払うことになろうともである。
878
:
名無しさん
:2023/11/18(土) 20:52:18 ID:2EGBW4kM0
( ^Д^)「ではシィよ。作戦の準備を進めろ。まずは死の呪いを使い、奴らを、人間どもをこの大陸から追い出すのだ......あぁ病の対策として、我々の北方への移動の準備も忘れずにな」
(;*゚ー゚)(......狂ってる)
プギャーも、そして彼が導くこの国も正気で生きていける場所ではなくなってしまった。
そんな場所に取り残されたという絶望に、心が壊れそうになる。
ーいや、いっそのこと壊れてしまった方が楽なのかもしれない。
そうすれば、この狂気に身を任せるだけで生きていけるのだから。
879
:
名無しさん
:2023/11/18(土) 20:52:47 ID:2EGBW4kM0
続く
880
:
名無しさん
:2023/11/19(日) 09:52:10 ID:YNF3P0f20
乙
881
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 13:53:51 ID:37zc6a1M0
ニータ王国 王城
1463年4月24日
(; ´W`)「まさか、こんなことになるとは......」
そうポツリと呟き、シラヒーゲは頭を抱えていた。
全ては順調に進んでいるはずであった。
人間達と手を組み、ルナイファに宣戦布告をし、領地を奪い取ることで圧力をかけ、無理矢理にでも交渉の席に座らせる。
そうなるはずであった。
だが、現実はどうか。
領地は確かに奪えたものの、ルナイファは怯むどころか制御不能なまでに暴走を始めたのだ。
(; ´W`)「......うーむ」
それにより当初想定していたよりも長く、ルナイファとの戦いが続くことになってしまっていた。
882
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 13:55:11 ID:37zc6a1M0
敵に圧力をかけるためには、兵を退かせるわけにはいかない。
だがニータの力を考えればいくらルナイファが弱体化しているとはいえ、格上相手との戦いを続ければ相当な被害が出てしまう。
人間達のように圧倒的に勝てるのならば問題はないが、残念ながらこの国にそんな力はない。
勝利のためには少なくない犠牲を出さなければならないのが現実なのだ。
( ´W`)「......」
終わりの見えないこの戦い。
それこそ本当に行くところまで行かなければ最早、ルナイファは止まらないのではないかと感じてしまう。
そんな総力戦に付き合っていられるほど、ニータに余裕はない。
だが今更人間達との同盟を切ることもあり得ないだろう。
いくら相手が人間の国とはいえ、国同士の約束事をこんなにも早く簡単に反故にすれば、ニータの信頼は一気に失われるだろう。
883
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 13:55:53 ID:37zc6a1M0
そもそも報復に何をされるか分かったものではない。
ルナイファ以上に人間の国と敵対などしたくはないし、もしそんなことになればルナイファのように粘ることも出来ずに滅びるのみだろう。
( ´W`)「選択は、間違えていないはずだ。となれば後は......進むしかあるまい」
つまり選択肢は既に選んだ後であり、もう引き返せる場所ではないのだ。
だからこそ、シラヒーゲは何度も不安を吐露しながらも自分達は正しい選択をしているのだと言い聞かせるように繰り返す。
世界中が混乱する今、誰一人正解など分かるはずがない。
それでもどうにか自分を安心させようと理由を作っては、自身に言い聞かせ、歩みを止めないように奮い立たせているのだ。
一度は見えたはずの明るい未来。
それを探し求め、ニータは動き続ける。
884
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 13:56:52 ID:37zc6a1M0
ルナイファ帝国 テタレス北方森林
1463年4月25日
『いたぞっ、追えっ!!』
(´<_` ;)「ぐっ、ここまで来て......陛下っ、こちらへっ!!」
テタレスから少し北へ向かった場所にに広がる、小さな森林。
普段であれば誰も寄り付かず、静かなそこに怒号が飛び交っていた。
そして、その怒号から逃げる二人の影。
帝都より逃げる、アラマキとオトジャの二人である。
どうにか自身達の味方になってくれる可能性のあるテタレスに逃げようと、回り道をしつつ、近くの森林までたどり着けたものの、遂に追っ手に見つかってしまったのだ。
森林の中ということもあり、具体的な位置までは特定されていないのか、未だに捕まることはないがそれでも周囲を包囲するように兵が走り回り、捕まるのは最早、時間の問題と言える状況である。
885
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 13:58:34 ID:37zc6a1M0
/ ,' 3「オトジャよ......どうにかできるか?」
(´<_` ;)「......この命に変えても、どうにかしましょう」
アラマキのその問に、オトジャはそう答えることしかできなかった。
本音を言えば、もう詰んでいるのではないかという気持ちで一杯である。
何せずっと逃亡生活を続けてきたのだ。
体力も限界であるし、魔法を使おうにもこの状態ではろくなものは使えない。
また敵の数はどう見積もっても10は軽く超えるのに対し、こちらで戦えるのはオトジャ1人のみである。
いくら彼が優秀な兵であったとしても、ここから挽回できる道はないであろう。
(´<_` ;)(......ここまでか)
陛下の手前、弱音など吐くことが出来るはずもないが、大見得を切ったはいいもののそれでどうにかなるはずがない。
むしろもうどうにもならないのだと、諦めに近い感情がオトジャの心を支配していた。
どんな運命になるにせよ、自分はここで死ぬのだと。
886
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 14:00:45 ID:37zc6a1M0
(´<_` ;)(それならばいっそのこと死の呪いで......)
誰か一人を道連れにし、その包囲の隙間を縫って陛下を逃がすのが最善なのではないかー
ただ死ぬのならば、どんなに可能性が低くても救える可能性に賭けるべきなのではと、覚悟を決めようとしていた。
/ ,' 3「......待て、オトジャよ」
(´<_` ;)「陛下?」
/ ,' 3「もう、よい。無駄に貴様の命を捨てるな」
(´<_` ;)「っ、で、ですが!」
/ ,' 3「奴らの狙いは我のみだろう。ならば、死ぬのは一人だけで良かろう」
(´<_` ;)「っ!!」
だがその様子にアラマキもまた、覚悟を決めていたのだ。
こちらが完全に捕捉されていない現状、確かにアラマキが捕まれば、ただの護衛であるオトジャをわざわざ捕らえる理由はないため、逃がすことは可能かもしれない。
敵の目的はあくまでもアラマキのみなのだ。
命が助かる確率だけで言えば、その選択は最善ともいえるだろう。
887
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 14:01:55 ID:37zc6a1M0
(´<_` ;)「そんなこと、出来るわけがありませんっ!私はこの国を、つまりあなたを守るのが任務であり、使命なのですっ!それなのに自分だけ逃げることなど、それも陛下を見捨てて......命令であっても、それだけは聞けませぬ!」
だが懸かっている命の重さに差があるのだ。
一人はただの一兵士に対して、もう一人はこの国をまとめることの出来る力を持つ王である。
命に差がないなどと、綺麗事をいくら並べようともその事実の前には明らかに差がある。
そうである以上、最優先されるべきはアラマキの命であり、そうでなくてはならないとオトジャは考えていた。
(´<_` ;)「ここで陛下を失えば、この国は本当に終わってしまうのですっ!!どうか、再考をっ!!」
/ ,' 3「......貴様のようなものが、この国にはいるのだ。真に国のために考えるもの達が」
(´<_` ;)「なにを......」
/ ,' 3「確かにルナイファという国は終わってしまうかもしれん。いや、もう終わっているのかもしれんな。どちらにせよ、貴様のように国を愛する者達がいるのだ。我がいなくても必ずや国を良い方向へと導いてくれると信じておる。そんな未来を託せる者を、こんな場所で死なせるわけにはいかん」
(´<_` ;)「......」
888
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 14:03:14 ID:37zc6a1M0
無責任にも聞こえるその言葉。
それは未来を自分達に託し、自らの命を捨てるという宣言に他ならない。
そしてそこに感じる確かな意思に、最早自分の言葉は届かないのだという、陛下が目の前にいるにもかかわらず、守ることすらできないどころか死ぬところを見送らなくてはならないと言う絶望がオトジャの心を蝕む。
気づけば頬には涙が流れ落ちていた。
戦いに負け、アニジャから託された任務もプギャーの反乱により遂行できず、最後には陛下を守りきることが出来なかった。
あまりの自身の不甲斐なさに、そしてどうすることも出来なかった運命にただただオトジャは涙を流す。
(<_ ;)「......申し訳、ございません」
そうして口から出た言葉は、謝罪。
己の無力さを嘆き、どうしようもない自分への謝罪を、口にするのがやっとであった。
889
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 14:03:50 ID:37zc6a1M0
/ ,' 3「貴様のせいではあるまい。むしろ、貴様はようやってくれた。オトジャよ、これからのルナイファを任せたぞ」
(<_ ;)「っ!!......御意のままにっ」
一体どうすれば良かったと言うのか。
もし運命を変えられるとしたらば、それは一体いつのことだったのか。
オトジャには全く分からない。
ただ目の前の現実が最悪であることだけは間違いない。
だがこんな運命を辿るほどに自分は何かを間違えたと言うのかー
あまりに理不尽で、絶望的な現実に再びオトジャは涙を流していた。
/ ,' 3「......」
そんなオトジャをしり目に、アラマキは踏み出す。
その一歩一歩が自身の死を近づけるものであると分かっていながらも、その足取りは力強い。
/ ,' 3「......我は帝王なり」
そう、彼はこの国の帝王なのだ。
それは死ぬときまで、否、死んでも変わることはない。
ならば今このときも帝王として生きることが自分の宿命なのだと、彼は進む。
890
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 14:04:23 ID:37zc6a1M0
/ ,' 3(最期に守れた民は、一人のみか。この戦争で多くの者を死なせた罪滅ぼしには、いささか足りなすぎるな)
走馬灯のように、さまざまな出来事が思い返される。
この国に王として産まれ、そして栄華を極めたと言われたこの国を、さらに絶対的なものにしようと決意したのは一体いつのことだっただろうか。
それがまさか、国を滅ぼし自身を殺すことになるなど一体誰が予測してるだろうか。
/ ,' 3(......地獄へ行くのは、我一人のみで良い)
だがこれは自分が、王に足る器ではなかっただけの話なのだ。
身を過ぎる栄光を求めたがゆえに、下った天罰なのだ。
ーそう考えなくては、この現実を受け入れるにはあまりにも辛すぎた。
891
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 14:05:12 ID:37zc6a1M0
/ ,' 3「覚悟は、出来ておるっ!我は、ここにいる!!ルナイファ帝国の王、アラマキはここにいるぞっ!!」
そうしてアラマキは吠えた。
最期の王の役目として、堂々たるその声は森に響きわたり、周囲にいるものたちにその存在を知らしめる。
凛とし、威風堂々たるまさに王の風格。
暗い森の中であるにも関わらず、そこにいるものが皆、その存在に目を奪われる。
『っ!!......い、いたぞっ!捉えろっ!!』
ただ言葉を発し、存在を現したのみにも関わらず、追っ手達は一瞬怯んだかのように息をのむ。
それほどまでにその存在感は凄まじいものであり、アラマキ自身は王失格と考えているが、その姿は間違えなくこの国の、世界最強であった国の帝王であった。
/ ,' 3(......さらばだ)
そうして彼は、目を閉じる。
自分に出来ることはもうなにもない。
この世に、そして愛する民たちに別れを告げる。
892
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 14:06:07 ID:37zc6a1M0
足音は、すぐそこまで迫っていた。
だが目は開かない。
もし開いて見てしまえば、恐怖に負けて王としての最期を迎えられないかもしれない。
せめて最期だけでも立派な王でありたいと言う、アラマキのプライドであった。
ーこれが、こんなものが最期なのか。
そんなことが、アラマキの頭によぎった瞬間であった。
ドオオォォンッ!
ガガガッ!!
猛烈な轟音が、森に響き渡った。
(´<_` ;)「っ!?」
アラマキから離れた場所にいたオトジャはその音に驚愕する。
明らかにアラマキを捉えるのには過剰な攻撃音。
それは、明確な殺意を持った音であったのだ。
893
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 14:07:59 ID:37zc6a1M0
(´<_` ;)「馬鹿な......」
いくら追っ手が狂ったプギャーの手下とはいえ、まさか軍人でもない戦うことのできない者を相手に、そんな攻撃をしてくるというのか。
そもそも奴らからすれば陛下を生かして捉えるだけで得られるメリットは数多くあったはずである。
(´<_` ;)「奴ら、本当に狂ったのか!?」
ゆえに、あんな攻撃を繰り出す必要などあるはずがない。
だがその音が、可能性を否定する。
攻撃は確実に行われたのだと。
あの攻撃では、死体もまともに残ることはないのではないか。
そう思わせるほどの、轟音。
最期まで王であろうとするアラマキに対してそれは、あまりにも酷すぎるのではないかー
894
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 14:08:47 ID:37zc6a1M0
(<_ ;)「あ、あぁ、あああぁああぁっ!!!」
受け入れ難い現実の連続に、遂にオトジャは耐えきれなかった。
勿論、叫び声など上げれば自分の居場所を追っ手に知らせるようなものであり、そんな行動をするべきでないと言うことはちゃんと理解している。
それでも、その叫びは抑えられなかった。
これまで抑えていたものを全て吐き出すかのように。
その嘆きが続く間も、爆音は続いた。
何度も、何度も。
途切れることなく、続く攻撃の音。
そしてそれによる悲鳴が続いていた。
895
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 14:09:41 ID:37zc6a1M0
(´<_` ;)「......ひ、めい?」
その声に、オトジャは現実に引き戻される。
悲鳴は一つだけではなく、複数の者から発せられたものであった。
だが、それはおかしい。
追っ手の狙いはアラマキのみのはずであり、その他に攻撃をする対象などいないはずである。
そもそも、現時点でこの森にいるのはオトジャ自身を含め、アラマキとその追っ手くらいのもの。
(´<_` ;)「これは、一体......まさかっ!?」
ハッと、最悪の想像が頭に浮かぶ。
まさかこの森まで人間達が進軍してきたのではないか、と。
一気に血の気が引き、青ざめる。
人間達からすれば自分は勿論のこと、アラマキも追っ手も等しく敵であるのだ。
全てを巻き込み、あの戦場で見た業火をこの森に放ち、全てを葬ってもおかしくない。
896
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 14:10:21 ID:37zc6a1M0
一応、アラマキが非戦闘員ということを認識されれば攻撃されないかもしれないが、森の中という視界の通りにくい環境なのだ。
複数の非戦闘員がいるならまだしも、アラマキのみであれば気付かないままに、攻撃を受ける可能性の方が高いだろう。
(´<_` ;)「陛下ぁっ!!!」
もし想定が確かならば、オトジャがいたところでなにも変わることはない。
だが飛び出さずにはいられなかったのだ。
アラマキが向かった方面へ、爆音がなり響く方角へと走り出す。
薄暗く足場の悪い森の中、何度も転びそうになりながらも、歯を食い縛り必死に駆ける。
(´<_` ;)「っ!!」
そうして視界が捉えたのは、複数の影に囲まれる、アラマキの姿であった。
アラマキが生きているという喜びと共に、何者かに囲まれている陛下を助けなくてはという考えに頭が埋め尽くされ、オトジャはがむしゃらにその影の目の前へと躍り出る。
作戦などない。
そんなことを考える余裕など、ないのだ。
幸いにも、影達はオトジャに背を向けており、気づかれていないようであった。
そうならばと自身の力を全て込めた魔法を、眼前に写る影にぶつけようとしたとき、そこでオトジャは二つのことに気がつく。
一つはその影達が人間ではなく、エルフであったということ。
897
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 14:10:47 ID:37zc6a1M0
そしてもう一つは。
(# ^ν^)「陛下を御守りしろぉおお!!」
(#`・ω・´)「全軍、真にルナイファを愛する者達の力を、あの馬鹿どもに見せつけてやれっ!!」
(# ,,^Д^)「敵を逃すなっ!!突撃ぃいいいいい!!!」
それが自分たちを守り、そして救ってくれる強力な味方であるということであった。
898
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 14:11:18 ID:37zc6a1M0
続く
899
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 17:07:14 ID:z6JpC8160
乙
うおおおお!
900
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 21:49:56 ID:CFJ6rMiE0
【速報】シャキン部隊好感度ストップ高!!
901
:
名無しさん
:2023/11/26(日) 02:40:13 ID:s/A3LjaU0
か、かっこいい
902
:
名無しさん
:2023/11/26(日) 05:56:13 ID:kdB2swzM0
otsu
903
:
名無しさん
:2023/11/26(日) 15:26:29 ID:RdPT/kd60
おつ!
あっついなぁ陛下助けられそうでよかった!
ただ弟者は一度諦めたことで自責の念に駆られそうだな…
904
:
名無しさん
:2023/12/02(土) 21:13:47 ID:7NYZFcVI0
ルナイファ帝国 テタレス北方森林
1463年4月25日
森に複数の爆音が響き渡る。
(# ^ν^)「魔方陣構築!属性炎っ!!距離30!!」
『復唱、属性炎、距離30了解っ!!構築開始っ!!』
目の前に広がる光景は間違いなく、戦場であった。
それも複数の魔法使いが隊列を組み、魔法を構築し敵を葬るという、久しく見たことない光景である。
人間による凄まじい攻撃で忘れていたが、本来戦場とはこういうものであったな、などという何とも場違いな感想を頭に浮かべながらオトジャはポカンと呆気に取られたかのようにその光景を眺めていた。
それほどまでに目の前の光景は奇跡ともいえる光景なのだ。
たまたまプギャー達に反感を抱き、反抗に出た者達に救われるという可能性が、一体どれだけあったのだろうか。
オトジャ達が逃げてきたルートは勿論誰にも知られていないはずであるため、この場で合流出来たこともただの偶然である。
905
:
名無しさん
:2023/12/02(土) 21:15:27 ID:7NYZFcVI0
そもそもニュッ達はアラマキが生き延び、逃亡生活をしていたことも把握していなかった。
ただこの森に入るアラマキの追っ手達を見つけ、自分達の怒りをプギャーに付き従う者達に教えてやると攻撃を仕掛けようとしていただけなのだ。
あり得ないほどの偶然の積み重ね。
だがそれは目の前で確かに現実となり、そしてオトジャ達を救っていた。
(# ^ν^)「放てぇっ!!!」
そうして一際大きい号令と共に、猛烈な魔法が追っ手達に降り注ぐ。
ガガガガガガガッ!!!
再びの轟音。
だがその後に続く音はもう、ない。
先ほどから打って変わって辺りは静寂に包まれる。
攻撃の跡に残されたのは複数の死体と、森であった物。
確かなシャキン達の怒りが、そこに刻み込まれていた。
906
:
名無しさん
:2023/12/02(土) 21:16:26 ID:7NYZFcVI0
(`・ω・´)「......目標の殲滅を確認。周囲の見回りを開始せよ」
( ,,^Д^)「はっ!」
(´<_` ;)「......」
戦闘が終わり、数名の兵を安全の確保のためであろう、見回りに向かわせた後、ようやくシャキンがアラマキ達に向き直る。
(`・ω・´)「さて......ご無事で何よりです、陛下。オトジャ殿」
/ ,' 3「あ、あぁ......いや、座ったままでは失礼だな......」
(;`・ω・´)「へ、陛下!無理をせず今は休んでください!」
先ほどまで死を覚悟していたところで始まった急な戦闘に頭が追い付かず、アラマキは曖昧な返事しかすることができなかった。
王が戦場に立つ時代ならまだしも、戦場に立つどころかまともに見ることもなかったアラマキにとって、その光景はあまりに刺激的すぎたのだ。
そんな状態であるにも関わらず、立ち上がろうとするアラマキに慌てて腰を下ろさせ、落ち着かせる。
907
:
名無しさん
:2023/12/02(土) 21:17:39 ID:7NYZFcVI0
そうして何とか落ち着きを取り戻したところで、ようやくシャキンとオトジャの二人で向き合い、話を始めた。
(´<_` ;)「改めてシャキン殿。感謝する。貴殿のおかげで救われた......感謝してもしきれない」
(`・ω・´)「いえ、陛下に仕える兵士として、当然のことをしたまでです」
(´<_` ;)「そうだとしても、だ。本当に、感謝するっ......!」
(`・ω・´)「......自分には、勿体無いお言葉です」
二人は自然と敬礼を取っていた。
互いに兵士として敬意を払い、言葉は無くとも心は通じあう。
陛下を守り、そして国のために命を懸け、戦う覚悟をしている者として。
( ^ν^)「見回り部隊から連絡だ。この辺りにもう、敵はいないそうだ」
(`・ω・´)「そうか。ならばここは一度、テタレスへ退くことにしよう」
( ^ν^)「いいのか?北方への展開が今回の目的だったんだろ?ある程度の兵を残す手もあるだろ」
908
:
名無しさん
:2023/12/02(土) 21:19:03 ID:7NYZFcVI0
(`・ω・´)「最優先すべきは陛下の安全だ。テタレスもプギャーに目をつけられている以上、安全とは言い難いし、人間達の攻撃がくればそれこそ崩壊しかねんのだ。一人でも多く、陛下を守れる者が近くにいる方がいい」
( ^ν^)「なるほど、了解した。全員、撤収だ。陛下を待たせるわけにはいかん、手早くやるぞ」
ニュッからの言葉が効いたのか、部隊の行動は早い。
あれほどの攻撃を展開するためには、かなりの部隊の規模が必要なはずであるがそれでもあっという間という言葉が相応しいほどに、準備が進んでいく。
(´<_` )「よく訓練されている。素晴らしい部隊だな」
(`・ω・´)「いえ、この程度のことくらい出来なければ。それにニュッの言った通り、陛下をお待たせするわけにはいきませんから」
(´<_` )「成る程。それでテタレスへ戻った後なのだが......」
(`・ω・´)「その件であれば、我が部隊が使用している施設でお休みください。物資もまだ十分にあります。まずは帝都からここまでの移動の疲れを癒してください」
(´<_` ;)「何から何まで申し訳ない。助かー」
/ ,' 3「いや、休むのは後で良い。それよりも先にやることがある」
909
:
名無しさん
:2023/12/02(土) 21:20:24 ID:7NYZFcVI0
(´<_` ;)「陛下?」
不意に、オトジャの言葉を遮るようにアラマキが声を上げる。
声を遮られたこともそうであるが、オトジャにはアラマキが言う休むことよりも先にすべきことが何なのか、瞬時に理解できずに困惑していた。
そしてそれはシャキンも同様であった。
(;`・ω・´)「へ、陛下。やるべきこととは?あまり無茶をして身体を壊しては、それこそ元も子もありませぬ。まずは身体を休めること。それが何よりも先決かと......」
/ ,' 3「我一人の身体を壊すだけで済むならばそれで良い。だが、我が休めばそれだけ多くの民が傷付くであろう?」
(´<_` ;)「へ、陛下......」
/ ,' 3「シャキンよ。休む場所の用意は要らぬ。テタレスに戻り次第、代わりに魔信を用意せよ」
(`・ω・´)「魔信、ですか?」
/ ,' 3「世界各国に演説を流せる広域通信用のものと、講和に向けて話し合うための人間達に向けた魔信だ」
(;`・ω・´)「っ!!」
910
:
名無しさん
:2023/12/02(土) 21:23:29 ID:7NYZFcVI0
/ ,' 3「王としての務めが残っている以上、まだ休むわけにはいかんのだ。よいな?」
(;`・ω・´)「はっ!了解致しました!」
/ ,' 3「......さて、どうなることやら。演説の、いや演技の練習をもっとしておくべきだったかな」
この日、テタレスから世界にアラマキの言葉が届けられた。
その言葉は世界に衝撃を与える。
ルナイファが分裂したこと。
人間達に事実上の降伏をすること。
そしてなにより。
ルナイファの軍の独断と暴走により、使用されたと言う魔法。
世界を滅ぼしかねないその魔法の話に皆が恐怖し、そして怒りを覚えた。
その怒りはつい先日まで人間達に向いていたはずであった。
世界を脅かす敵として。
アラマキが涙ながらに語った『物語』は皆の心を動かす。
あのルナイファの王が自らの無能と無策を悔いて謝罪するその姿に、暴走を止められなかったことに対する怒りを感じるものも多くいたが、それと同時に同情を誘う。
そうして皆の心に作り上げられていくのは、悪魔による暴走の物語。
いつしか怒りの矛先は、一人のエルフに向いていた。
911
:
名無しさん
:2023/12/02(土) 21:23:54 ID:7NYZFcVI0
ソーサク連邦 情報戦略室
1463年4月25日
(# ´∀`)「急げっ!!奴らが放ったと言う病についての資料を徹底的に集めろ!!」
アラマキの演説はここ、ソーサクにも届いていた。
その内容に皆が顔を青くし、演説後から休む間もなく走り回っていた。
(; ´∀`)「くそ、ルナイファめ。とんでもない魔法を使いおって!いくら鎖国をしているとはいえ、鳥が運ぶ病までは防ぐことなぞ出来んぞ......」
そうして集められた情報にさらにモナーは頭を抱えてしまう。
大陸間を渡る鳥に病を運ばせる。
なるほど確かにこれならば絶対に防ぐことの出来ない攻撃であることは確かだろう。
だが制御が効かず、世界を揺るがすその攻撃は敵を減らすどころか関係ない国まで巻き込み、敵を増やしてしまう。
そんな簡単なことも分からないのかと嘆きたくなるが、もう事が起きた後にそんなことを言っても仕方ないのだ。
912
:
名無しさん
:2023/12/02(土) 21:24:27 ID:7NYZFcVI0
(; ´∀`)「治療魔法の構築が必要だな。しかし......間に合うのか?」
いくらソーサクが魔法に優れているとはいえ、相手は未知の病。
さらにはかつての大国をも滅ぼしたと言う曰く付きなのだ。
もしそれが本当ならば自国よりも遥かに優れた国ですら対処が出来なかったものを、自国が成し遂げられるとはお世辞にも考えにくい。
(; ´∀`)「こんな......こんなことでっ!!」
考えたくもないが、頭によぎってしまう。
自国が滅びゆく姿が。
何度も、何度もである。
それほどまでにその未来は現実感があるのだ。
それこそ、自国に限らず他の国も同じく、滅びゆく姿が簡単に想像できる。
それほどまでに恐ろしいものがこの世界に今、解き放たれているのだ。
913
:
名無しさん
:2023/12/02(土) 21:24:54 ID:7NYZFcVI0
(; ´∀`)「......」
だが不思議と一つの国のみ、滅ぶ姿が想像できなかった。
それは、召喚された人間の国。
モナーは認めたくなかったが、それでも彼が知る人間達は最強ともいえる力を誇り、無敵ともいえるほどの話をいくつも聞いて彼らの持つ力は理解してはいるのだ。
それゆえ、考えてしまう。
こんな絶望的な状況であるが、それでもまた何とかしてしまうのではないかー
そんな考えが、人間を敵対視している自分が思い浮かべてしまうことにモナーは嫌気が差す。
だがもし、この考えが本当になるならば。
感染を初期で封じ込める力が人間達にあるならば、もしかすれば自分達も助かるのではないか。
(; ´∀`)「......くそっ!」
そんな考えにまた嫌気が増し、舌打ちをしながらも彼はどこかでそうなることを望んでいた。
彼も理解しているのだ。
もしこの世界でこの混乱を押さえることができるものがいるならば、彼らなのだと。
914
:
名無しさん
:2023/12/02(土) 21:25:17 ID:7NYZFcVI0
(; ´∀`)「......」
高い技術がこの国の誇りであった。
そしてその国のなかでもトップクラスの魔法使いであるモナーは、自身に対して高いプライドと、それに見合うほどの力を持っていた。
だがそんな自分が諦めたことを他人に、それもいくら力を認めたとはいえこれまで見下してきた人間に対して期待しているということは何とも耐え難いものであった。
そんな怒りに震えつつも、集まる絶望的な情報になにも出来ない自分にさらに絶望する。
だがそんな中で唯一の希望が残っているという幸運、そしてその幸運を素直に受けとることの出来ない現状、彼はどうすることも出来ない。
ただひたすらに怒りに、恐怖に震え、そしてそれらを振り払うかのように動き続けていた。
915
:
名無しさん
:2023/12/02(土) 21:25:52 ID:7NYZFcVI0
ムー国 取調室
(; ´_ゝ`)「すまない......頭がまだ、混乱していて現実を受け止めきれない。少し時間を貰ってもいいか?」
川 ゚ -゚)「構わない。というよりも、私も同じ気持ちだよ」
どうしてこんなことになっているのか。
それが今、この場にいる二人の気持ちであった。
この施設の人間達の行動が慌ただしくなっていたことから何かしら不審なものを感じていたが、現実は予想を遥かに超える事が起きていたのだ。
思い返されるのは数日前の出来事。
白い服を来た人間達に別室へ連れていかれた時のこと。
あのときは急に身体を調べられ、さらには針を刺され、血を抜かれたことからついに拷問が始まったのかと青ざめていた。
最悪の事態が始まったのではないかと感じたものだ。
実際には治療行為、というよりも診察の一環とのことであったのだが。
916
:
名無しさん
:2023/12/02(土) 21:26:39 ID:7NYZFcVI0
だが今になってみればあれが拷問であった方が、数倍マシであったかもしれない。
より恐ろしいものが世界に撒き散らされ、さらにはその主犯が自国だというのだ。
最早どう言い訳をしようが、世界の敵は誰かと聞かれれば全員がルナイファであると言うだろう。
ただでさえ世界からの印象がお世辞にも良くなかった国が、最低辺をつき抜ける勢いである。
川 ゚ -゚)「まぁまだ、南方の方は理性が残っていて良かったというべきか」
(; ´_ゝ`)「最早、全てが最悪過ぎて焼け石に水な気もするがな」
川; ゚ -゚)「う、む......だがとりあえず南方は実質的に降伏し、停戦に向かうだろう。その間にこの混乱が収まれば......」
(; ´_ゝ`)「それまであの北方のいかれ野郎共がおとなしくしていると思うか?こんな事態を起こしておいてなにもしないとは思えんぞ」
川; ゚ -゚)「......その件なんだがな」
(; ´_ゝ`)「......何だ?」
川; ゚ -゚)「北方の方も......何とかするらしい」
(; ´_ゝ`)「何とかって、どういうことだ?」
917
:
名無しさん
:2023/12/02(土) 21:27:30 ID:7NYZFcVI0
クーのいきなりの言葉に、アニジャは思わず聞き返す。
伝え聞く話だけでも、北方の輩は情報統制などにより未だに継戦を求める声が強く、また国家総動員に近い体勢で兵を集めているというのだ。
兵は訓練を受けてない一般の市民であるため、一人一人は強力ではないものの陸戦において数は単純に驚異であるし、何より帝都の守りとして要塞が残っている。
人間達の持つ力は十分理解しているし、またこの施設で得た知識からより正確な予想が出来るようになってはいるが、どう考えても殲滅するにはかなりの戦力が必要となるはずである。
召喚地とルナイファ、そして帝都までの距離を考えればとてつもない戦力の大移動が必要であり、直ぐに対応することは難しいはずであるとアニジャは予測していた。
(; ´_ゝ`)「いや、何とか出来る力があることは知ってはいる。だが、まともに北方の相手をしている余裕があると?いくらなんでも、それは無茶だろう」
川 ゚ -゚)「......いや、次の攻撃で全てが終わるらしい」
(; ´_ゝ`)「......なに?」
918
:
名無しさん
:2023/12/02(土) 21:28:26 ID:7NYZFcVI0
川 ゚ -゚)「人間達が言っていたよ。次の作戦で、敵の主力を殲滅して実質的に戦争を終わらせるとのことだ」
(; ´_ゝ`)「馬鹿なっ!!」
あまりに信じられないその言葉に、アニジャは驚愕する。
自分がどれだけ考えても、大戦力かつ防御力の高い要塞を瞬時に崩壊させることは難しいはずである。
だがそれを人間達はするというのだ。
人間達の過信によるものか、はたまた自分が何か勘違いしているのか。
ーもしくは。
(; ´_ゝ`)「まだ......上があるというのか?あれだけでも恐ろしい力だというのにっ!!」
その可能性はあまりにも恐怖であった。
要塞を瞬時に殲滅できる力。
大戦力を瞬時に殲滅できる力。
もし、本当にそんなものがあるのだとしたら。
(; ´_ゝ`)「......」
ーそれは世界を支配し、それこそ世界を滅ぼしうる力ではないか?
川 ゚ -゚)「作戦は数日後だということだ。どうなったかは、伝えるよ」
それだけを言い残し、クーは立ち去る。
一人残されたアニジャはこれからこの世界に訪れる未来に震えていた。
919
:
名無しさん
:2023/12/02(土) 21:28:54 ID:7NYZFcVI0
続く
920
:
名無しさん
:2023/12/03(日) 11:01:15 ID:p1D4BltU0
乙乙
921
:
名無しさん
:2023/12/03(日) 18:56:31 ID:PCEM1aMY0
おつ!
流れが一気に変わってきたな
このまま突っ走ってほしい
922
:
名無しさん
:2023/12/07(木) 00:07:40 ID:i4QZ33F.0
追いついた!
難しそうと思い込んでいたけど、わかりやすくて一気読みしてしまった。
特定の人物に肩入れしない描写で、対立にも暴走にも納得できたから、勉強になると感じる。面白い。
923
:
名無しさん
:2023/12/09(土) 19:21:20 ID:O1UU.x/.0
ルナイファ帝国 北方街道
1463年4月26日
帝都から北に伸びる大きな街道。
本来帝都へ向かうものが数多くいるはずのその道を通るものは少ない。
帝都にいる者達はこれからの戦いに向けて、皆で結束という名の同調圧力により逃げられなくなっていた。
またその逆にわざわざ戦場となるかもしれない帝都に向かうものは皆無である。
すっかり寂しくなってしまったその街道に、久しぶりに移動する集団がいた。
極めて劣悪な戦況により、すっかり貴重となってしまった移動用のゴーレムを使うその集団は、まるで闇夜に紛れ、誰にも気付かれないように進む。
(# ^Д^)「くそっ、アラマキめっ!」
その集団の中にプギャーがいた。
場所が変われどいつもと同じように憤怒する彼だが、その原因はアラマキの演説にある。
924
:
名無しさん
:2023/12/09(土) 19:22:27 ID:O1UU.x/.0
アラマキを捕らえる、もしくは暗殺するため追っ手を出すことで南方の反乱はまとめ役のいないまま小規模で抑え、自身は北方に逃れることで比較的安全に事を進める計画であった。
しかし作戦は最初の時点で失敗してしまったのだ。
だがアラマキを逃したのみであればまだ許容できたのだが、問題はその後のアラマキの行動である。
あろうことかこの国の、そしてエルフの誇りを懸けて戦いを挑む自身をあたかも悪魔のように形容したのだ。
さらには演説中にアラマキは謝罪をしていたが、それはあくまでも軍の暴走を止められなかったことに対してであり、全ての諸悪の根元はプギャーにあると婉曲に伝えていた。
そしてそれらはアラマキへの同情と共に受け入れられつつあるというのだ。
ーというよりも、プギャーへの怒りが強すぎてアラマキやその他の事への感心は二の次になっているというのが正しいのだが。
なんにせよ結果としてプギャーが悪であると捉えられ、アラマキの謝罪と彼が語った『真実』が世界で受け入れられつつあるということには変わりない。
925
:
名無しさん
:2023/12/09(土) 19:25:24 ID:O1UU.x/.0
(# ^Д^)「くそ、くそっ、糞ぉっ!!おい、シィ!!情報の統制は出来ているんだろうなっ!?」
(;*゚ー゚)「は、はい。現時点で我々が統治できている領地において、例の放送に関する情報は全て遮断されています」
( ^Д^)「......ふん、まあそれならば最低限は問題ないか。だが......この放送を聞いた馬鹿共がうるさくなりそうだな」
怒りに顔を歪ませながらも、プギャーは思考を続ける。
少なくとも現時点で分かっている限りでは南方のほとんどの属領や関係国家がこちらに反発する姿勢をとりつつある。
また人間達への全面的な降伏も先の放送で宣言していたことから、南方の守りはもうないといえるかもしれない。
つまり敵は距離があるとはいえ帝都まで、南方の領土のほとんどを障害なく通過が可能になるということである。
少しでも敵を消耗させたい今、この状況は非常に不味いと言える。
926
:
名無しさん
:2023/12/09(土) 19:26:16 ID:O1UU.x/.0
( ^Д^)「......ふん、だがまだ兵も、要塞も残されている」
だがプギャーが独り言のように呟いたその言葉の通り、帝都に辿り着くためには要塞を突破しなくてはならない。
単純に多数の兵と強力な魔方陣をふんだんに使用された要塞は例えどんな敵であっても脅威となるであろう。
なにせ今持っているほぼ全ての力をそこにつぎ込んでいると言っても過言ではないのだ。
簡単に突破することなど、不可能。
そうして敵の動きが停滞すれば、敵本土へ放った病の牙がますます敵を苦しめ、さらには兵達による死の呪いを使用した突撃を行えばさらに効果的であろう。
( ^Д^)「まだ、これからだ」
そう、まだ戦いは続く。
否、戦いを続けさせる。
そうして戦況を泥沼化させ、敵を葬ることを彼は思い描いていた。
927
:
名無しさん
:2023/12/09(土) 19:26:40 ID:O1UU.x/.0
ニータ王国 王城
1463年4月28日
世界が混乱する中、ニータもまた大きな混乱が起こっていた。
特にシラヒーゲは取り戻しつつあった精気が再び奪われ、顔を青くし頭を抱えていた。
(; ´W`)「なんという......何ということだ」
ルナイファの隣国ということもあり、彼の国の狂気は理解しているつもりであった。
だがまさかここまで暴走することなど、予想できるはずもない。
この暴走により、短期間で済む筈であった軍事行動によるルナイファへの圧力は長期化する恐れがあり、それだけでも国家の財政を圧迫するため、頭が痛くなる問題である。
だが問題はそれだけに収まらないのだ。
928
:
名無しさん
:2023/12/09(土) 19:27:45 ID:O1UU.x/.0
(; ´W`)「まさか......負ける、などいうことはないだろうな......」
そう最も恐れる事態、召喚地が戦闘不能となり敗北する未来も可能性として出てきてしまったのだ。
もし使用された病が噂通り、偉大かつ強大であった古の大国をも滅ぼしたというものであるならばいくら強力な国であっても滅ぶ可能性は十分にあると言えるだろう。
そしてその脅威は自国にもいずれ向かってくることになるであろうが、その時に問題なるのはすでにニータは人間達の味方であると国として立場を表明してしまっていることである。
国際的に病が蔓延することを防ぐために各国協力の体制を取ることになるはずであるが、その際に人間達に手を貸した国として支援を受けることが出来ない可能性があるのだ。
人間への偏見、差別意識を考えれば間違えなく起こりうる。
そんなことになれば、いくらこの世界で上から数えた方が早いほどの力を持つ国であるニータであっても、たかが一国で世界的な脅威に立ち向かい、勝てる見込みなどあるはずもない。
あるのはただ、破滅の未来のみ。
929
:
名無しさん
:2023/12/09(土) 19:28:13 ID:O1UU.x/.0
(; ´W`)「......信じるしか、ないというのか」
しかし今更出来ることなど何もない。
世界を変えうる力など、シラヒーゲもこの国も持っていないのだ。
変えうる力を持っているとすれば、召喚された人間達である。
彼らがそれこそ、この現状を吹き飛ばすような何かを持っていることを、祈るしかないのだ。
(; ´W`)「この作戦が......成功することを祈ろう」
かつてルナイファが自国に攻めてこないようにとしたように、彼は再び祈る。
全ては召喚された人間達が行うという、最後の作戦に託されたのだった。
930
:
名無しさん
:2023/12/09(土) 19:28:47 ID:O1UU.x/.0
ルナイファ帝国 南方要塞
1463年5月1日
( ^ω^)「ふぅ......」
小さく息をつき、汗を拭う。
この南方要塞に来てからもう何度振るったか分からない槍を側に起き、腰かける。
多くの市民や兵が集められたこの要塞。
これから行われるであろう人間達との戦闘に向けて多くの者達が訓練をしている。
志願兵達はこれまで生きてきた中で武器など持ったことのないものが多いが、それでも皆士気は高い。
それも当然だろう。
誇り高き世界最強の、愛する国を守るためなのだから。
それもあろうことか、敵は人間なのだ。
劣等な蛮族にこのルナイファが侵略される、そんなことが許されていいはずがない。
ルナイファが正義であり、神の意思である。
それがこの世の理なのだ。
931
:
名無しさん
:2023/12/09(土) 19:31:49 ID:O1UU.x/.0
( ^ω^)「......よし」
しばらく休んだ後、再び立ち上がり、訓練の輪に戻っていく。
かなり短い休憩であるが、休んでいる暇なのないのだと武器を振るう。
その考えはこの要塞にいるもののほとんどが同じ考えであった。
許しがたい世界の敵が、すぐそこまで迫っているというのだ。
世界の理を元に戻すため、それらを自らの手で葬り、人間達に分からせなければならない。
如何に愚かで浅慮なことをしでかしたのかと。
ただの市民であった者達が、眼前に迫る敵に対し逃げずに戦おうとするその姿は、一見勇気あるもののように見える。
ーだがそれは決して勇気からくる行動ではなく、恐怖の感情によるものである。
皆が気付かず、そして必死に隠してはいるものの、世界の理であるエルフ主義の考え方が壊され、そして世界最強という看板どころか、自国そのものが壊されてしまうのではないかという恐怖が根底にあるのだ。
932
:
名無しさん
:2023/12/09(土) 19:33:37 ID:O1UU.x/.0
世界が変わってしまうことに耐えられるものが果たしてこの世にどれだけいるだろうか。
それも変わり果てた世界では、もしかすれば自分がこれまで虐げてきた者達と逆転してしまうかもしれないとするならば。
そんなものを望めるものなど、いるはずがない。
だからこそ、彼らは今日も武器を振るっている。
無駄な努力かもしれないということや勝てないかもしれないなどという無駄な可能性は考えない。
世界は変わるはずないのだという、根拠のない考えを自信に変え、自分達は絶対的な存在なのだと信じて、ただひたすらに目の前のことに打ち込むことが彼らに出来る最善であった。
『構えぇぇぇえええ!!突けぇぇぇえええ!!』
(# ^ω^)「やぁああああっ!!!」
ここにいる誰もが必死に、槍を振るう。
それが当たり前であり、同然のことなのだ。
933
:
名無しさん
:2023/12/09(土) 19:34:29 ID:O1UU.x/.0
『いいかっ!!誇り高きエルフとして、選ばれしルナイファの民として、身命を賭して祖国を守ることこそ、我らの幸福なのだっ!!!』
その訓練の間、聞こえる言葉はいつも同じである。
何度も、何度も聞いた言葉が繰り返される。
『敵に、人間に背を向けることを恥と知れ!!例え命を賭けてでも敵を道連れにすることが、ルナイファの民としての義務である!!』
洗脳のように繰り返されたその言葉は、本当にこの場の常識となっていた。
ブーンもまた、それが当然であると考えているし、何一つ疑問など持っていない。
正確には疑問を持つ余裕もなく、また考えることを放棄しているというのが正しいのかもしれない。
だがそれでもその言葉に奮い起たされ、死を恐れない戦士、死兵が産み出されているのは確かである。
戦場において死兵ほど厄介なものはない。
降伏という選択肢を捨てて、最初から死ぬことを前提に戦うのだから敵からすれば堪ったものではない。
制圧するには文字通り殲滅しなくてはならなくなるため、あらゆるコストをかけなければならなくなるのだから。
934
:
名無しさん
:2023/12/09(土) 19:35:07 ID:O1UU.x/.0
『例え死のうとも、死を恐れるなっ!!死の呪いで敵を葬るのだっ!!その先に我々の勝利が続いているのだっ!その道を司る英雄に、君達は選ばれた神の尖兵なのだっ!!』
そしてなにより、この世界における死兵の最も恐ろしいところがただの突撃でも確実に相手を死に至らしめる呪いを持っているところであろう。
勿論通常であれば自らの命をかけなければならないこの魔法は使われることはない。
だがこのような異常ともいえるこの空気のなかでは、その魔法を使うことこそ正しいことかのように皆がいい、そしてそれを皆が受け入れている。
狂気が、この場を支配しているとしか言いようがない。
(# ^ω^)「僕が、僕が守るんだおおぉぉおおおっ!!!」
敵は人間であり、如何に恐ろしく狡猾で野蛮であるかを聞いた今、それを疑う術のない者達は自らの心から生まれる狂気を抑えられない。
その狂気は正義という名の下に正当化され、疑いの余地など残っていないのだ。
935
:
名無しさん
:2023/12/09(土) 19:35:50 ID:O1UU.x/.0
彼らもまた、ある意味で被害者とも言えるかもしれない。
少し前まではなにも知らない一般市民であり、罪という罪もない者が多い。
だがもう、救うことは難しいだろう。
彼らの中にある真実を覆せる言葉は、この世には恐らく存在しない。
彼らの知る真実に対して現実は、受け入れるにはあまりにも悲惨過ぎるのだ。
(; ^ω^)「ぜぇ、ぜぇ......」
そうして何回槍を振るっただろうか。
皆が汗を流し、息を切らしたところで訓練は終わった。
周りに目をやれば同じく訓練を終えた者達が続々と休みをとろうとしていていた。
その姿、その顔は確かに疲れは見えるものの毎日の訓練を乗り越えたからか、軍人に近いものになっていた。
覚悟を決めた顔である。
皆、どこかで感づいているのだ。
戦いが近いということを。
死ぬかもしれないその時が近づいてくるという恐怖を殺し、代わりに敵への怒りの炎を燃えたぎらせる。
そうすることで一刻一刻と近づくその時をあたかも待ち遠しい、待ち望んだ時間かのように錯覚させていた。
936
:
名無しさん
:2023/12/09(土) 19:36:22 ID:O1UU.x/.0
( ^ω^)「勝てる......勝てるお、絶対」
それゆえ沸き上がるその勇気は、根拠のない蛮勇に等しいといえる。
事実、彼らが戦いに出たところで出来ることなど、殆どないであろう。
だがそれでもブーンは勝利を確信し、呟くほどに信じていた。
これだけの訓練を積み、これだけの国を愛する者が集まり、そしてこれだけ強大な国であるルナイファが全てをかけるのだ。
負けるはずがない。
負ける理由など、ありはしないのだ。
そうしてふと、空を見上げた。
特に理由はなかった。
ただの疲れからか、ぼんやりと空を見上げたのだ。
そこには雲一つない青空が広がっていた。
戦時とは思えないほどの、綺麗で平和な空。
( ^ω^)「......あれ?」
だがふと。
その青空に光るなにかが流れる。
937
:
名無しさん
:2023/12/09(土) 19:38:10 ID:O1UU.x/.0
( ^ω^)「流れ星?」
空を流れる光るものといえば、流れ星位しか思い当たるものはない。
だがそれは昼間の、青空を流れるものだったろうか。
( ^ω^)「......え?」
そして流れ星とは、こうも消えないものだったろうか。
消えずに、流れ。
こちらにめがけて、落ちてくるものだったろうか。
( ^ω^)「あ」
何を思ったのか。
何を言おうとしたのか。
それはもう分からない。
それを知るものは一人もいない。
それもそのはずだろう。
彼も、そしてその周りにいた者達も一瞬で蒸発し、消えてしまったのだから。
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