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異界大戦記のようです

1名無しさん:2023/04/01(土) 23:39:57 ID:mfVt/ZZU0
世界の縮図が変わろうとしていた。

魔法を操り、自らを神の僕と信じるエルフ達が支配するこの星。
その中の3大大陸に存在する5つの列強と呼ばれる国が衝突する寸前にまでなっていた。

きっかけは列強最強の国家と名高いルナイファ帝国と、同じく列強のニータ王国との国境で起こった小さな事件であった。
それぞれがその犯行の責任は相手側にあると主張しあっていた。
互いに堂々と国として主張をしていたがその内情は全く異なるものであった。

ルナイファに関しては元から周辺国家を攻め落とし、支配する典型的な侵略国家であった。
列強クラスの国との戦いはなかったものの、同大陸に存在し隣接する小国はほぼすべて支配していると行っても過言ではない。
そして大陸統一のためにも同じ大陸で国境を接しているニータはいつかは落としたいと考えていたことから、この機会に攻め込むのが良いと言う意見で国が固まりつつあった。

488名無しさん:2023/08/12(土) 12:44:39 ID:BHcrJwo20
そう、一瞬たりとも無駄にすることは許されない。
ここで如何に敵に攻撃を与えられるか、それはこの国の命運を握っているとも言えるかも知れないのだ。
少しでも敵を削ることができれば、敵が海岸線を維持することが出来ず、押し返すことも不可能ではないはずである。

『命中!全魔法、命中しました!』

『効果、絶大!』

(´<_` )「よしっ!追撃だ!さらに敵をおいこ」

『......っ!敵より、高速の光がこちらに向かってきています!』

(´<_` ;)「なっ!」

その報告に、オトジャは思わず心の中で舌打ちをする。
敵の行動が速い。
確かに何も抵抗なく攻撃させてくれるとは考えていなかったが、まさかここまで早く、対応されるとは考えていなかったのだ。

489名無しさん:2023/08/12(土) 12:45:14 ID:BHcrJwo20
『ダメです!魔壁の出力最大には間に合いません!!』

『げ、迎撃不能!直撃します!!』

(´<_` ;)「総員、何かに掴まれ!!」

その言葉を合図に、再び海に業火が現れる。
凄まじい爆風が魔壁を叩き、そして砕ける。

(´<_` ;)「ぐおぉ!?」

ドゴン、と嫌な衝撃が艦を襲う。
その揺れにゾワリと嫌なものを感じながらも未だ沈む気配の無い艦に若干の安堵を覚える。

490名無しさん:2023/08/12(土) 12:46:13 ID:BHcrJwo20
(´<_` ;)「被害報告しろ!どうなった!!」

『こちら魔法陣室、今の衝撃で魔力が霧散。機能は無事ですが充填に時間がかかるため再度攻撃が来た場合、防げるかは不明!!』

『四番艦、艦上部が爆風にやられました!沈む恐れはないものの魔法制御に影響する恐れがあります!!』

(´<_` ;)「むっ......」

流石に沈む艦はなかったものの、少なからず被害の報告が入る。
正面からの殴りあいでは敵わないと予測はしていたものの、こちらは最強の艦隊、少しは勝負になるとも無意識のうちに考えていた。

だが、その根拠の無い考えは一瞬にして吹き飛ぶ。
多少は耐えられるものの、決して無視できる被害ではない。

491名無しさん:2023/08/12(土) 12:48:32 ID:BHcrJwo20
とはいえ、やはり敵も対処できる数には限りがあるのだろう。
先ほどの攻撃を無尽蔵に放つことができるならば既にオトジャ達はこの世にいないはずである。
それがまだ、生存できており思考できているのだ。

(´<_` ;)「......数さえあれば」

もし、ムー奪還に向かう際の戦力をもっと多く、国の限界まで出していれば勝てたかもしれない。
そんな今更ながら仮定に思い当たり彼は顔を歪ませる。

現実はもう既に戦力を使い潰してしまっており、敵に唯一対抗できたであろう数の暴力も、全て海の底である。

492名無しさん:2023/08/12(土) 12:49:32 ID:BHcrJwo20
(´<_` ;)「......」

このとき、オトジャには2つの選択肢があった。
一つ目は最後までここで戦うこと。
敵艦隊に接近できている今なら、少しでも敵を減らすことが出来るかもしれない。
ただし、こちらは全滅無いしはそれに近い被害を受けるだろう。

もう一つの選択肢は撤退。
アニジャから聞いた通り、ここには転送用の魔方陣がある。
幸運なことにまだ施設は壊れていないため、機能するはずである。
だが敵を目の前に、さらに上陸しようという敵から逃げるなど許されるのか。

周りのものたちもこの国の守りの要、そして最後の砦とも言える最強の艦隊に所属しているという信念からか、逃げることなく最後まで戦おうという意思を感じられる。
ー脳から溢れ出る物質が恐怖を、そして理性を殺し、死んでも戦おうとする一種の暴走状態に陥りつつあったのだ。

493名無しさん:2023/08/12(土) 12:53:32 ID:BHcrJwo20
(´<_` )「......魔方陣を起動せよ」

『っ......はっ!では攻撃準備を』

(´<_` )「違う、転送陣だ」

『え?』

しかし、オトジャは退くことを選択する。
その言葉に少なからず周りのものが動揺しているのが、伝わってくる。

『で、ですが......』

(´<_` )「ここでもう、我々ができることはない。だが、我々は負けたわけではない。生きていれば、負けていないんだ。そして、最後に勝てばいいんだ。今は、悔しいが奴らに勝てない。ならば、退こう」

『......了解、いたしました』

心の底から悔しさが滲み出るような声。
しかし反発はなく、受け入れられた。
その声の主も分かっているのだろう。
このまま戦っても、勝てないということを。
この国の最強の艦隊を持ってしても、まともな戦闘にならない。
この国の技術とプライドを結集しても、勝てない。

494名無しさん:2023/08/12(土) 12:54:12 ID:BHcrJwo20
だがオトジャは言った。
今は、と。

その言葉に、ほんの少しだけ皆の心が救われる。
受け入れがたい現実ではあるが、まだ負けていない。
生きていれば、いつかは奴らを倒す機会がある。

そんなか細い可能性にどうにか皆が納得し、生き残ることを決意する。
当然の結論と言えるだろう。
今は戦地という興奮から麻痺しているが、本音で言えば皆死にたくはないし、あんな凶悪な敵と対峙などしたくないのだ。

495名無しさん:2023/08/12(土) 12:56:05 ID:BHcrJwo20
『敵、追撃来ます!!』

(´<_` ;)「なんだとっ!?」

そして、その決意と同時に敵の追撃。
その報告に敵を見れば、艦から煙を吹き出し、多数の光が空に伸びる。
先ほどとは比べ物にならない量の攻撃がこちらに向かってきていることを示していた。

(´<_` ;)「転移陣の準備は!?」

『ま、まもなく完了します!!』

(´<_` ;)「発動急げ!」

敵の攻撃はこちらに届くまで10秒もかからないだろう。
先ほどの威力から考え、あんな攻撃を喰らえば壊滅的な被害を受けることになる。

敵の対応の早さは分かっていたはずであった。
だがそんな中で、一瞬ではあるが撤退するか、戦うかを考えてしまった。
それが、命取りになるかもしれないというのに。
自身の判断の遅さを呪うしかない。

(´<_` ;)「間に合ってくれ......っ!!」

祈るようにその言葉を叫んだその瞬間、オトジャ達は光に包まれたのだった。

496名無しさん:2023/08/12(土) 12:56:31 ID:BHcrJwo20
続く

497名無しさん:2023/08/12(土) 17:13:50 ID:Tx3IVBiw0

オトジャたちは逃げ切れたのか…
ゲリラ戦まで始まりそうとは泥沼化してきたかな

498名無しさん:2023/08/13(日) 03:10:46 ID:7ZQ2mgCg0
乙です

499名無しさん:2023/08/19(土) 20:15:34 ID:f0uftMbQ0
ムー近海
1463年3月1日

ルナイファと対立する未知の国家と接触すべく、一月近くフィレンクトは船に揺られていた。

この日は快晴。
春の訪れを感じるような暖かな日であった。
そんなある日の昼下がり、フィレンクトは船の上で穏やかな波に揺られ、欠伸をしながら資料を眺めていた。

(‘_L’)「......うむぅ」

彼が読んでいるのは、ムーに潜伏している諜報員から送られてきていた報告書であった。
あまりに荒唐無稽な内容に出所の怪しい情報として多くのものから忘れ去られ、過去には廃棄されそうにすらなっていたものである。
だがルナイファのムーにおける敗北が確実となった今、どんな情報でもほしいと廃棄寸前であったその資料を見つけたフィレンクトが持ち帰り、今に至る。

500名無しさん:2023/08/19(土) 20:16:50 ID:f0uftMbQ0
そして今日、改めて内容を確認してみると確かに怪情報としか思えないものばかりが出てくる。
やれ召喚された人間が魔法を越える何かを扱うだの、ルナイファを越える超大国が現れただの、砦のような巨大な艦を運用しているだの薬か何かをやったのではないかと思える内容ばかりであった。

(‘_L’)「......筋は通る、か」

だがしかし、そうと言えるのは半年前までである。
改めて現状と照らし合わせると信じられないことであるが全て矛盾なく辻褄が合う。

さらにムーにて、現地の調査員がルナイファと敵対する勢力と接触を行ったところ、相手から渡されたと言う品々についての報告書が魔信によって届けられていた。
その中にあるものを一つ取り上げるならば一定のリズムで時を刻む小さな針が付けられた円盤について書かれたものがあった。

501名無しさん:2023/08/19(土) 20:18:53 ID:f0uftMbQ0
時間を示す道具とのことであるが、その小ささには驚きを禁じ得ないし、何より魔法であれば魔力の操作や魔石の補充などが必要になるというのに、この道具は光さえ当てておけば半永久的に動くと言う。
一体どんな原理が使われているのか、全く分からない。

どうにか原理を調べようとしたらしいが、分かったことは二つだけ。
一つは現時点では分解すればもう二度と戻せないだろうと言うこと。
そしてもう一つは魔法ではないなにかが使われていると言うこと。

最早何も分からないのとほぼ変わらない。

だが言い換えればとんでもない技術を持つ国がルナイファと敵対していることである。
この国がニータを救う一筋の光であることは、間違いないであろう。

502名無しさん:2023/08/19(土) 20:20:48 ID:f0uftMbQ0
(‘_L’)「しかし......」

再び手元の資料に目を戻す。
そこに綴られているのは何度読んでも信じられない報告ばかりである。
その最たる一文はやはり、これらが人間の国家により引き起こされたということだろう。

これまでの常識が邪魔をし、これほどまでに常軌を逸した内容となるとやはり文字の情報だけでは信じようにも信じきれない。
そもそもエルフのなり損ないの劣等種族くらいに思っていた輩が、急に自分達を越えるものを生み出し、世界最強の国家を叩きのめしているなど、作り話であればもう少しうまく作るだろうと思えるほどである。

(‘_L’)「......確かめなくてはな」

だが確かに現実に起こっていることであると報告があり、証拠もある。
そしてそれが自国の運命を左右すると言うならば、これを切り捨てることなどできるはずがない。

503名無しさん:2023/08/19(土) 20:22:29 ID:f0uftMbQ0
どうにか召喚された国との交渉の場を設けることには成功した。
後はその交渉をどうにかするのみ。

それが、フィレンクトがここにいる理由である。

―果たして、自分は一体この目で何を見ることになるのか。

様々な不安と、微かに感じる希望を胸に、彼は未知の国家との接触を目指す。

504名無しさん:2023/08/19(土) 20:24:29 ID:f0uftMbQ0
ルナイファ帝国 地下司令部

海戦が終わった。
その事を示すように、先ほどまで海図の上で動いていた駒達は全て消え、そのほとんどが塵と化していた。
もう味方を示すものはなにもなく、海上で敵を止められるものは誰もいない。

それが何を示すのか分からないほどアニジャは愚かではない。
海での戦いは完全なる敗北であり、敵に支配された。

さらに付け加えるならば、ワイバーンも撃墜され、こちらからの攻撃が届かない遥か上空を押さえられた以上、空も敵のものといえるであろう。
すなわち残るは陸のみであり、完全に追い込まれていた。

505名無しさん:2023/08/19(土) 20:25:40 ID:f0uftMbQ0
(; ´_ゝ`)「......とはいえ、だ」

だが、何も出来なかったわけではない。
オトジャ達、特殊艦隊の活躍により敵の上陸部隊に攻撃を加えることに成功しており、上陸地点近くには元からいた部隊に加え、基地の生き残りの部隊も出している。
敵の先制攻撃により、陸上の部隊に大きな被害が出ていたとはいえ、数が武器のルナイファ、今回の戦いに向けてかなり無茶をして戦力を集めただけあり、まだまだ大部隊が陸に残っていると言える。

一方で敵は強力だが、複数とはいえ小舟を利用した上陸部隊。
さらに一部の迎撃に成功していることから数は多くないはずであり、こちらを制圧しきるにはそもそも数が足りないであろう。
つまり、このままいけば多大な被害が出たとはいえ、この地を敵に奪われない以上、防衛という面では成功と言える。

506名無しさん:2023/08/19(土) 20:27:41 ID:f0uftMbQ0
( ´_ゝ`)「......」

だが、それがアニジャには腑に落ちなかった。
敵がその事に気づかないとは考えられなかったからである。
アニジャであれば、不意討ちがあった時点で上陸を諦め、作戦目標を港施設への攻撃による破壊のみに切り替え、撤退する。
それだけで十分な戦果であるし、そもそも無理に進めたところで上陸地点を確保できない以上、無駄に命と資源を消費するだけになる。

だが、敵はそれをしてきたのだ。
これまでの戦況から考えれば敵の目標たるこの港はほぼ壊滅と言ってもいい被害を受け、さらに後方のこの基地も壊滅しており、上陸は無理でも十分すぎる戦果といえるはずである。
どう考えても無理に上陸を進める局面ではなく、それこそ万全の状態で再度侵攻するだけで良いはずなのだ。

ではなぜ、そんなことをするのか―

507名無しさん:2023/08/19(土) 20:35:50 ID:f0uftMbQ0
( ´_ゝ`)「......焦っているのか?それで無茶な命令が出ている?」

そして、ふとそんな考えに行き着く。
突然の思い付きだが、案外しっくりくるものであった。

思えば敵は召喚され、資源的に余裕がない可能性がある。
そんな状態で戦争に巻き込まれたためにルナイファに対して凄まじい恨みを持ち、また国の近さから脅威であるため、敵からすればルナイファをすぐにでも滅ぼしたいはずである。
故に、敵の本土を出来る限り早く上陸を完了させて滅ぼすことが望まれ、無茶な命令に繋がってしまったのではないか。

一つの可能性、単なる思い付きに過ぎないが、あり得ない話ではない。
敵も軍人である以上、国からの意思と命令には逆らえず、無理な作戦をさせられることもあるであろう。

508名無しさん:2023/08/19(土) 20:36:27 ID:f0uftMbQ0
( ´_ゝ`)「案外異世界の人間達も、我々と同じなのかもしれんな」

世界も種族も違うのに不思議なものだと、小さく笑う。
その言葉の通り、上からの指令に逆らえないのはルナイファも同じと言えるだろう。
自国に下れと脅し、従わなければ実際に国土を奪い取り、交渉という名の命令を行う。
そのための手段として軍人達がこれまで一体どれだけ命令され、無理に動かされてきたか。
改めて酷いものだと、今更になって感じてしまう。

そしてこれは、その報いなのかもしれないとも感じてしまうのだ。
昔はそうではなかったらしいが今では上層部はコネが重視され無能ばかり。
それでも成果が出てしまうほどに強大な力を持ってしまっていたことがさらにこの国の腐敗を進めてしまっていた。

509名無しさん:2023/08/19(土) 20:37:18 ID:f0uftMbQ0
( ´_ゝ`)「......その尻拭いが、これか」

そのために一体いくつの命を支払えばよいのだと、アニジャはため息をつく。
流石に本土にこれほどまでの攻撃を受けたのだから、多くのものが目覚めてくれると信じたい。

だが、相手はあのプギャーを始めとしたルナイファの狂信者と言えるものたち。
ルナイファが最強であり、神に等しいとまで考えてそうな彼らがこれでも現実を受け止められない可能性があるということだけでも頭が壊れそうなほどに痛む。

510名無しさん:2023/08/19(土) 20:37:48 ID:f0uftMbQ0
『報告っ!!』

(; ´_ゝ`)「っ!」

そしてそんな痛む頭に突き刺さるかのように、大声の連絡が魔信から鳴り響いた。
あまりに慌てたような、悲鳴に近い声に驚き、痛む頭を押さえつつアニジャは応答する。

(; ´_ゝ`)「どうした?何があった」

『て、敵が、そ、空から!!』

( ´_ゝ`)「っ、空襲か。制空権がない以上、どうしようもないな。だが陸上部隊は空から見えないよう隠れているのだろう?」

『いえ、ち、違うんです!あ、いえ、確かに陸上部隊にも攻撃が行われていますが......』

( ´_ゝ`)「報告ははっきりしろ。何が言いたいのかさっぱりだ」

511名無しさん:2023/08/19(土) 20:38:31 ID:f0uftMbQ0
『す、すみません!そ、その、て、敵が、基地上空より、侵入してきています!!』

( ´_ゝ`)「......?それは、件の高速に飛ぶという飛行物体が再度、基地上空に侵入してきた、ということか?」

『それも、ありますが......空から、敵兵が基地に降ってきており、侵入してきているのです!!』

(; ´_ゝ`)「......なんだと?」

それはもう何度度目か分からない、アニジャの常識を超えた報告であった。
確かにこの世界にはワイバーンという航空戦力がいる。
だがワイバーンはその飛行の繊細さからものを持たせたり、騎乗したりなどが出来ず、空の移動として使うことが出来ない。
それゆえに空からの攻撃と言えばワイバーンのブレスくらいなものであった。

しかし、敵は空から兵を送り込むという反則とも言えることをしてきたのだ。
前線を回避し、敵の後方に回り込めるその機動性は戦い方そのものが変わってしまうほどのものである。

512名無しさん:2023/08/19(土) 20:40:06 ID:f0uftMbQ0
(; ´_ゝ`)「......ここに残っている兵は?」

『わずか一部隊のみであり、魔道具もわずか......魔石も最初の攻撃でほとんどが吹き飛ばされました』

(; ´_ゝ`)「......」

『最早......我々に抵抗できる力はありません』

基地は崩壊した時点で司令部と最低限の兵のみを残し、他は全て迎撃部隊へ合流させていた。
そんな戦力では報告の通り、抵抗など出来るはずもない。

そして、もしここを敵に制圧されたとすれば。
迎撃部隊は敵の上陸部隊とここの制圧した部隊で囲まれ、完全に孤立することとなる。
他の基地から援軍を呼ぶにしても、そもそも今回の迎撃のために付近の戦力の多くが集められたため、すぐに動かせるものはない。

513名無しさん:2023/08/19(土) 20:42:00 ID:f0uftMbQ0
(; ´_ゝ`)「やられた......」

完全に、敵にしてやられた。
上陸の強行も決して無謀な作戦などではなく、こちらの戦力を引き付けさせる立派な作戦だったのだと悟る。
多数いる陸上戦力は後方と分断されてしまったのだ。
また海だけでなく空から兵を送れるとなれば、数による優位も保てるか怪しい。
この一手で敵を迎え撃つ立場から、狩られる獲物と化してしまっていた。

そしてそれは彼ら、アニジャ達も同様であった。

『司令......ご決断を』

魔信から聞こえたその声は、覚悟を決めたものであった。
その意味が分からないわけではない。

こんな状況で最後に決断することなど、一つしかない。

514名無しさん:2023/08/19(土) 20:42:53 ID:f0uftMbQ0
『皆、覚悟は出来ておりますっ!どうか、命令を!』

( ´_ゝ`)「......そうか」

そう言い、アニジャは目を閉じる。
皆の覚悟を受け止めると言うことは、その命を背負うことに他ならない。
彼もまた、その覚悟が必要だったのだ。

そうして数瞬の後、覚悟を決め、アニジャはカッと目を開き、言葉を発した。

( ´_ゝ`)「では、皆に最後の命令をする。抗命は許さん」

『っ!』

もう後戻りは出来ない―
それを意味する言葉、つまり今日この日に命を散らす。
いくら覚悟をしていても動揺は隠せない。

515名無しさん:2023/08/19(土) 20:44:24 ID:f0uftMbQ0
死を間近にしたもの達のみが味合う、極度の緊張感の中、アニジャは言葉を続けた。

( ´_ゝ`)「全軍、抵抗を禁ずる。我々は敵に、降伏する」

『......なっ!?』

その言葉は、誰もが予測し得なかったものであった。
先ほどまで張り詰めていた緊張感から一転、困惑が広がる。
そしてその困惑はいつしか、アニジャへの怒りへと変わりつつあった。

『て、敵に降伏すると!?そう仰られるのですか!?』

( ´_ゝ`)「そうだ」

だがそんな怒りに対してアニジャは態度を変えず、至って冷静に言葉を返す。

516名無しさん:2023/08/19(土) 20:45:25 ID:f0uftMbQ0
『こうして、我々の国を侵略されているのですよ!?軍人として、この国のエルフとして、最後まで戦わせてくれないのですか!?』

『それだけでも屈辱的だというのに......聞けば敵は人間と言うではありませんか!!人間の捕虜になるなど、生き恥以外の何物でもありません!』

『ただでさえ捕虜など扱いが酷いものなのに加えて敵は野蛮な種族!一体どのような扱いをされるか―』

( ´_ゝ`)「皆、聞け」

響き渡る怒りの声を遮るように、アニジャは言葉を発した。
その声は決して荒げた声ではなかったが力強く、興奮していた者達が皆、ぴたりと言葉を止める。

それこそ、魔法にかかったかのようにしんと静まり、アニジャの次の言葉を待った。

517名無しさん:2023/08/19(土) 20:46:07 ID:f0uftMbQ0
( ´_ゝ`)「......ルナイファは強い」

『......?』

( ´_ゝ`)「皆も、知っているだろう。我らが祖国、ルナイファは世界で最も優れた国家である。我が国は強い。違うか?」

『......』

( ´_ゝ`)「そう、我が国は強いのだ。これは間違いない。だが......今日、我々は負けた。これも、間違いない」

( ´_ゝ`)「だが......今日の敗北は、決してルナイファが負けたことを意味していない。我が国は、決して負けていないのだ!!」

『っ!!』

( ´_ゝ`)「我が国は、決して滅びることはない!皆も知っているだろう!我が国の、強大さを!!戦いはまだ続くのだ!!その戦いから、皆は逃げるというのか?今ここで、無駄に死ぬというのか!?これから続く戦いを、我が国で残された本来守るべき者達、君たちの家族や友人に託し、無駄に死のうと言うのか!?」

『......』

518名無しさん:2023/08/19(土) 20:47:02 ID:f0uftMbQ0
( ´_ゝ`)「そう、我々は生き延びねばならない!!我々は軍人だ!戦いがあるのならば、その時まで戦おうではないか!皆を守るために!!決してそれが泥水をすするような、生き恥を晒すようなことになろうとも、だ!」

( ´_ゝ`)「我々は、生き残らなければならないのだ!二度と、そう、もう二度とこのような失態を起こさないために!!今日、この日、あの凶悪なる敵を知った我々は生き残り、生き証人として!!国を、ルナイファを守るために!!」

『っ!!......ぅ......ぅ』

気が付けば魔信から聞こえるのは嗚咽に変わっていた。
自国を踏み荒らされる屈辱、そして野蛮な種族と見下していた者達に敗北したという受け入れがたい現実。
プライドというプライドを破壊され、誰もが涙を流す。

519名無しさん:2023/08/19(土) 20:48:54 ID:f0uftMbQ0
そしてそれと同時に皆が理解していた。
そんなプライドがあったところで、この状況をどうすることも出来ないのだと。

( ´_ゝ`)「......皆、良いな?もう一度、命令する。敵に降伏する。そして追加で命令だ。決して死ぬな、自決も許さん」

『了解、しました......』

無念である。
その声はそう言っているようにアニジャは聞こえた。
そしてそれは気のせいではないのだろう。
だが皆、ここで無茶に玉砕するような蛮勇など持ち合わせていなかったのだ。

そんな様子にアニジャは安堵し、小さくため息をつく。

(; ´_ゝ`)(やれやれ。降伏するのにも一苦労だな。後は敵さんが受け入れてくれるか、だが......俺達は恨みを買いすぎた。一人でも多く生き残ることが出来れば良いが、どうなることやら)

こうしてアニジャ達は無抵抗で降伏を決断。
これによりルナイファは本土防衛に失敗、建国後初めて本土の領土を失うこととなったのだった。

520名無しさん:2023/08/19(土) 20:49:23 ID:f0uftMbQ0
続く

521名無しさん:2023/08/19(土) 22:59:28 ID:oefSvpLU0
おつ!
流石兄弟めっちゃ優秀だな
しかし上層部がめちゃくちゃにしそう

522名無しさん:2023/08/19(土) 23:24:13 ID:rOUqMBAw0
兄者、名将すぎんか?

523名無しさん:2023/08/20(日) 09:12:57 ID:VOonrgkg0


524名無しさん:2023/08/26(土) 11:58:33 ID:udmqBVI.0
ルナイファ帝国 帝城
1463年3月4日

(;´-_ゝ-`)「申し訳、ございません。全て私の責任です」

大粒の汗をかき、死人のような顔で頭を下げる男の姿がそこにあった。
原因はもちろん、本土防衛の失敗である。
一会戦は耐えきれるようにと、回せるだけの戦力を回していたはずであった。

確かに敵が強力であり、多大な被害、それこそ全滅に近い被害が出ることは予測していた。
それでも敵の上陸だけは防げるはずであった。
それだけの戦力はあったはずであり、準備を進めてきたはずであった。

/ ,' 3「......」

(;´-_ゝ-`)「どのような罰も、受ける覚悟です」

525名無しさん:2023/08/26(土) 11:59:14 ID:udmqBVI.0
しかし敵の作戦により、それは呆気なく崩壊した。
力だけでなく、戦術でも後れを取っていたのだ。
これによりまともに戦うことも出来ずに消えていった戦力も少なくない。

その責任の重さから、デミタスは今日、死ぬ覚悟でここに来ている。

/ ,' 3「......ロマネスクよ」

そんなデミタスの様子を眺めながら、口を閉ざしていたアラマキがようやく言葉を発する。
その声は、至って冷静そのものであった。

( ФωФ)「はっ、何でしょうか」

/ ,' 3「此度の敵を、貴様はどう見る?」

( ФωФ)「......どう、とは?」

526名無しさん:2023/08/26(土) 12:00:39 ID:udmqBVI.0
/ ,' 3「奴等は......噂では我が国よりも遥かに強力と聞く。貴様から見ても、間違いないのか?」

( ФωФ)「えぇ、間違いございません」

ロマネスクはアラマキの問いかけに対して即答する。
力強く、間違いないと。
そして、続けた。

( ФωФ)「我々が召喚した人間達は、怪物です。世界最強であると断言できます」

/ ,' 3「何故そう言いきれる?」

( ФωФ)「初めは、確かに我々は彼等を侮っていましたが、ムー奪還作戦、そして今回の本土防衛戦、そのどちらも間違いなく本気でした。それでも勝てないのです。世界最強と吟われた我らが全力を尽くしても、です。この事実のみで、十分なのではないですか?」

/ ,' 3「......ふむ」

527名無しさん:2023/08/26(土) 12:01:10 ID:udmqBVI.0
そうしてまた、暫くの沈黙が辺りを包み込む。
アラマキは手を口元にあて、深く考え込むような仕草をする。
その体勢のまま、再びの質問を投げ掛けた。

/ ,' 3「では質問を変えよう。我々は奴らに勝てるのか?」

( ФωФ)「......勝つ、という定義によりますな」

/ ,' 3「......そうか」

その言葉だけで、何かに納得したのだろう。
アラマキは深くため息をつき、頭を抱える。

/ ,' 3「我々は世界で間違いなく最強であったはず......それを自ら異界から呼び出したもの達によって崩すことになるとはな」

( ФωФ)「......陛下」

528名無しさん:2023/08/26(土) 12:01:59 ID:udmqBVI.0
/ ,' 3「デミタスよ」

(;´・_ゝ・`)「は、はっ!」

/ ,' 3「頭を上げよ。今回の件は、貴様のみの責任ではない。不問とする」

(;´・_ゝ・`)「ですが......」

/ ,' 3「ロマネスクよ、聞くところによると今回の敗戦で海軍は壊滅状態と聞くが真か」

( ФωФ)「はい。南方は壊滅。他の地方についても今回の迎撃のために多くの艦が引き抜かれ、大幅な弱体化。これまでの敗戦により予備戦力も少なくないため、領海をカバーしきれません」

/ ,' 3「なるほどな。では再建のために、優秀な人材を失うわけにはいかんな」

(;´・_ゝ・`)「陛下......」

/ ,' 3「とはいえ、次はないと思え。間違いなく、成し遂げてみせよ」

(;´-_ゝ-`)「ははっ!」

529名無しさん:2023/08/26(土) 12:02:50 ID:udmqBVI.0
/ ,' 3「とはいえ敵はこちらを待ってはくれまい......そこでだ。重要なのは、ここからだ。二人ともに、意見を聞きたい」

( ФωФ)「は、何でありましょうか?」

/ ,' 3「......この状況、最早和平の道を探すしかないと考えるが、どうかね?」

(;´・_ゝ・`)「っ!?」

(; ФωФ)「なっ!?」

その言葉に二人は息を飲む。
和平の道を探す、つまりは敗けを認め、降伏すると言っているのに等しいことである。
そんな言葉がまさか、陛下の口から飛び出すなど予想もしていなかったのだ。

530名無しさん:2023/08/26(土) 12:03:22 ID:udmqBVI.0
(; ФωФ)「和平、ですか......」

/ ,' 3「意外か?」

(; ФωФ)「いえ......いや、そう、でありますな」

/ ,' 3「そうであろうな。だが......このまま我が国が突き進んだ先に何があるか、貴様らにも分かるだろう?」

(´・_ゝ・`)「......えぇ」

/ ,' 3「そしてそれは、余も分かっている。何としても防がねばならないのだ」

( ФωФ)「陛下......」

/ ,' 3「此度の事態、元を辿れば奴らを呼び出し戦うことを決めた、そして国の至るところが腐りつつあることに気付きながらも、それを見てみぬふりをしてきた余の責任である。その責任は、果たさねばならぬ」

アラマキとてプギャーを初めとした無能な者達に気づいていないわけではない。
だがそんな無能達でも成果を上げられるほどにルナイファという国は強大であり、それで問題なく国家として成り立ってしまっていた。
ゆえに、それを問題として見ていなかった。
やはりそのツケが返ってきたのだと、アラマキは確信する。

531名無しさん:2023/08/26(土) 12:05:11 ID:udmqBVI.0
アラマキ自身、自分が優秀などとは思ったことはない。
もし歴史に名を残すのならば愚王としてだろうと考えるほどであり、事実、現時点の事態を考えればそれも妥当だろうとも感じていた。

だが、それを理由に王の職務を放棄するほど愚かではない。

/ ,' 3「民や貴族からの反発はあるだろう。さらに我等は一度、敵からの申し出を断るどころか、不意打ちに近いことまでしてしまっている。信頼など、されないかもしれぬ......問題が山積みなことは、理解している」

(´・_ゝ・`)「......」

/ ,' 3「だが......どうにか、和平の道を見つけてくれ。この国のために、そして、民のために」

( ФωФ)「......了解、いたしました」

(´・_ゝ・`)「全力を、尽くします」

/ ,' 3「すまぬな。ではまずは国内をまとめることから始めるとしようか」

532名無しさん:2023/08/26(土) 12:06:16 ID:udmqBVI.0
こうして、ルナイファは和平の道を探り出すことになる。
だが和平への道程はあまりにも険しい。
まず国内をまとめる必要があるという点である。

ここまで戦況が悪いというのにプライドからか、現実が見えていないのか、または自身の保身か利益のためか、継戦を叫ぶものたちが多くいる。
それも国内で力を持つものたちが多いのだ。

こんな状況で下手に降伏を押し進めてしまえば、反感は免れない。
つまり王への不信に繋がることとなるのだ。
さらに絶対的な存在であるはずの帝王が敗北を認めるとなれば、それも事実がどうあれ人間相手に負けたともなれば力が弱まることは避けられない。
帝王を中心とするはずのこの国でそれが意味するのは崩壊である。
これを防ぐためにも時間をかけてでもある程度根回しを行い、味方を作らなくては降伏は出来ないであろう。

533名無しさん:2023/08/26(土) 12:06:56 ID:udmqBVI.0
そしてもう一つの問題は敵との関係。
これまでルナイファのやってきたことで敵からの心証は最悪と言ってもいい。
そんな状態で交渉の場に呼び出すことがどれだけ難しいか。
それもまともな外交ルートどころか連絡手段すらない状態である。
このような状況からこの場にいる三人全員、この件に関しても長い時間が必要だろうと考えていた。

ーだが彼等は知らなかった。
講和に向けた話し合いの呼び掛けは今この時にも来ており、しかしそれはたった一人の男によって握り潰されていたということを。
その呼び掛けに答えるだけで、この問題は簡単に解決できたであろうことを。

そうとは知らず、直接連絡する手段がない、それもこちらの印象は最悪どころではない相手にどう講和を持ちかけるのか、そしてそれが成立するまでどのように国を守るのか。

そんな無理難題に頭を悩ませることになるのであった。

534名無しさん:2023/08/26(土) 12:07:37 ID:udmqBVI.0
ルナイファ帝国 軍務省

( ^Д^)「全く......あの無能共が......」

同日、部屋の中で一人、プギャーは最早恒例行事のように怒りに震えていた。
またしても人間達に自国の軍は敗れ、あろうことか敵の本土への侵攻を許してしまったのだ。
この現実に怒りを覚えず、平然としていられるものなどいないだろう。

そしてさらにこの事に敵は調子に乗り高飛車な要求を突き付けてくるかもしれない。
自分が握り潰しているとはいえ、再三送られてくる敵からの連絡、それがまた来るかと思うとそれだけでも怒りで血管が切れそうになる。

535名無しさん:2023/08/26(土) 12:08:52 ID:udmqBVI.0
( ^Д^)「......だからあのとき、こちらから攻撃を仕掛けていれば良かったものを!!」

―あの無能どもめ!

そうプギャーは心の中で叫ぶ。
自分の提案を退け、万全の体制で望んだはずの防衛戦。
最強であるはずの我が国がただひたすらに守りに入るという耐え難い屈辱。
そしてそれでまだ勝つならまだしも、敗北したというのだ。

―これを無能と呼ばずに何と呼ぶのか!

536名無しさん:2023/08/26(土) 12:09:48 ID:udmqBVI.0
( ^Д^)「やはり、進めておいて正解だったな」

そう呟き、机の上に積み上げられた書類を眺める。
そこには彼の考える、自国を救うための作戦関する情報がところ狭しと詰められていた。

もしものためにと考えていたが、この状況。
そして噂によれば、陛下まで腑抜けになったという話まであるのだ。

(# ^Д^)「腐ったものは周りも腐らせるというが......デミタス、ロマネスク......あいつ等が陛下をっ!!」

間違いなく、奴らの影響でおかしくなったのだと、プギャーは確信する。
思えば自国がここまで負けることがそもそもおかしいのだ。

537名無しさん:2023/08/26(土) 12:10:15 ID:udmqBVI.0
では、その原因は何なのか。

奴らのような、腐ったもの達が国のトップに君臨しているから悪いのだ。
そう、全ては奴らの責任なのだ―

( ^Д^)「......成功させなければな」

彼の瞳に炎が灯る。
それは決意の灯火。

( ^Д^)「まずは......国民からだ」

自らの行動が国を救うと信じ、彼は動き続ける。

538名無しさん:2023/08/26(土) 12:11:23 ID:udmqBVI.0
ムー国 捕虜収容所
1463年3月25日

( ´_ゝ`)「......これから、どうなるものやら」

降伏の後、ルナイファ内では捕虜を置いておけないと遥々ムーへと移管されてきた。
その間も何時拷問されるか、またイタズラに殺されるのかと身構えてはいたものの何事もないまま船旅は終わりを迎えた。

そしてたどり着いた先はおそらく牢獄を利用したであろう建物であった。
ただ一般的に思い浮かべる牢獄に比べ、色々と手を加えられているのか劣悪というほど酷いものではない。
1パーセントでもいいから生き残れる可能性をと考えていたアニジャにとってそれは非常に有り難いものの、なぜここまでと理解に苦しむ程にこの世界の常識からしたら高待遇と呼べるものであった。

それゆえこれからどんなことをされるか、言葉も常識も違う彼等人間が望むのか分からない今、どれだけ冷静を装うとも恐怖を完全に消すことはできなかった。

539名無しさん:2023/08/26(土) 12:12:40 ID:udmqBVI.0
だが、そんな恐怖を忘れるほどの衝撃が走る。

(; ´_ゝ`)「む、ムー奪還部隊の生き残りがいるだと!?」

まさか生き残りがいるとは、考えもしなかった。
だがその事実にほんの少しだけ、安心をする。
生き残りを殺すことなく生かしているということは、敵の人間達は無闇にこちらを処刑するということはない、ということだろう。

その事実に胸を撫で下ろしつつ、アニジャは牢獄の中を見渡す。
大部屋となっているそこには複数のエルフが囚われていた。
その多くが自分と同じく、ルナイファにて降伏してきた者であったが、一人だけ見知らぬ男がいた。

( ´_ゝ`)「失礼、あなたは......ムーの生き残りか?」

( ´ー`)「......ぁ?」

540名無しさん:2023/08/26(土) 12:14:12 ID:udmqBVI.0
その男は声に反応し、顔を上げる。
特に興味が無さそうな反応と共にアニジャを見つめる。
だがしばらくアニジャの顔を眺めた後に、生気のない顔が驚愕した顔へと変貌する。

(; ´ー`)「あ、アニジャ、様?な、なぜ、ここに......」

( ´_ゝ`)「恐らく君と同じだ。人間に敗れ、捕虜としてここに来たのだ」

(; ´ー`)「......敗れ......一体、どこで......」

( ´_ゝ`)「......本国だ」

(; ´ー`)「っ!?」

その男、シラネーヨは更に驚愕する。
敵が強いことは彼も知っていた。
文字通り、身をもって知っている。

だが、だからと言ってまさか本国にまで攻めいられているとは夢にも思っていなかったのである。
それゆえ彼の身体に雷に打たれたかごとく、凄まじい衝撃が走る。

541名無しさん:2023/08/26(土) 12:15:25 ID:udmqBVI.0
(; ´ー`)「本国で、敗れた?まさ、か、そんなっ!!」

( ´_ゝ`)「そうだ。すまない、君達が戦い、敵に多くの損害を与えたことは知っている。だが、それを俺は活かすことが出来なかった」

(; ´ー`)「それは......いや、俺は、何も、出来なかったんです......」

( ´_ゝ`)「ムーでの戦いは伝え聞いている。勇敢な作戦を立案し、前線を駆け抜け、戦い抜き、そこを生き抜いたと。胸を張って、誇っていい。君は立派な戦士だ」

(; ´ー`)「ちが......俺は、俺は......」

(; ´ー`)(......俺は)

一体、何をしているのか。
あのとき、死の呪いを使い突撃を行ったあの瞬間。
シラネーヨは死ぬはずであった。
その覚悟はしていたし、何より確かに敵の攻撃を喰らい、意識を手離していた。
そのまま死ぬのだと、確信していた。

542名無しさん:2023/08/26(土) 12:16:41 ID:udmqBVI.0
だが、それがどういうことか。
目が覚めれば見知らぬ白い部屋で治療され、生き残ってしまっていた。

国を守るため、敵を一人でも道連れにしようとしたにも関わらず、それを失敗したどころか敵に助けられたのだ。
そうして敵を殺すことも、死ぬこともできずに、ただ無為に時間を過ごすことしか出来ないでいる。
守るべき国は今、その敵により窮地に立たされているというのに、だ。

―嗚呼、神よ。何故俺をあそこで殺してくれなかったのか。

そう、思わずにはいられない。
決して自分一人の命だけで戦況を変えることなど出来はしなかっただろう。
だがこんな思いをするくらいならば、皆と、そしてハインと共に死にたかったと思わずにはいられない。
そうして敵を一人、道連れに出来れば誇りとものに死ぬことが出来たはずなのだ。
全てを知らないまま、国の誇りを胸に死ねれば、まだ幸福であったはずなのである。

543名無しさん:2023/08/26(土) 12:17:16 ID:udmqBVI.0
しかし現実はどうか。
自分の魔法の才を、全て捨てて得られたものが、これなのか。

あまりに、あまりに残酷過ぎるのではないか。

( ´ー`)「......」

( ´_ゝ`)「だが......良かった。我々以外にも生き残りがいてくれたとは。それも、君のような戦士が生きていてくれたことを誇りに思う。今後、国の建て直しには一人でも多くの者がいる。そしてなにより、あの人間達のことを知るものが多いのは今後のためになる筈だ」

アニジャはシラネーヨの様子には気付かないまま、話を続ける。
その話は、国の未来を見たものであった。
だがその話はシラネーヨの心を動かすことはない。
いや、むしろその逆であった。

もう、彼にとって未来はどうでも良いことなのだ。
未来を見るということは、この残酷なまでの現実を全て受け入れろということに他ならない。
彼に、そんな余裕などあるはずがないというのに。

544名無しさん:2023/08/26(土) 12:17:39 ID:udmqBVI.0
その言葉は心を殺しきるのに、十分すぎるものであった。

( ´ー`)(......もう、何でもいい。知らねぇよ、何もかも)

再びシラネーヨの顔から生気が失われていく。
そしてそれはもう、二度と戻らないであろう。

(; ´_ゝ`)「......む?へ、平気か?」

ようやくシラネーヨの異変に気が付き、声をかけるがもう彼は反応しない。
彼は確かに生きている。
身体の傷は癒えている。

だが心はもう、死んでいたのだ。

(; ´_ゝ`)「何が......」

何が起こったか分からないまま、アニジャは呆然と立ち尽くすことしかできなかった。

545名無しさん:2023/08/26(土) 12:17:59 ID:udmqBVI.0
続く

546名無しさん:2023/08/26(土) 12:40:22 ID:8oyDBu3o0
乙乙
これはこれからのプギャーさんの大活躍に期待しなければ

547名無しさん:2023/08/26(土) 22:47:31 ID:4WPHmhds0
戦犯プギャー大元帥爆誕しそう

548名無しさん:2023/08/27(日) 21:33:38 ID:.SqKyfwE0


549名無しさん:2023/08/28(月) 19:30:18 ID:6QvLqXLs0
おつ!
プギャーさんか自分なりに考えて動いてるのが意外だったロクなことにならんだろうけど
アラマキはまともだったのになぁ…

550名無しさん:2023/09/02(土) 17:09:41 ID:HBIJijrw0
ルナイファ帝国 南方都市テタレス
1463年3月12日

帝都の南、そして南方港の北、その中間辺りに存在する都市テタレス。
この国の帝都の次に栄えている場所と言われており、本来であれば多くのエルフが集まる場所である。

だが現在。
少しでも早くこの都市から脱出しようとするものたちで溢れかえり、混乱を極めていた。
帝都が怒りで震える一方で、こちらは恐怖で皆が震えているのだ。

敵を倒すために出兵していったものたちは、皆死ぬかボロボロとなり帰ってくる。
空は守護者であるはずのワイバーンは全て肉塊と化し、代わりに謎の高速飛行物体が飛ぶ。
明らかにこちらに敵意がある者たち、それも圧倒的な力を持つ者たちが目前まで迫っていると知ったのだ。

551名無しさん:2023/09/02(土) 17:10:33 ID:HBIJijrw0
これまで戦争は遠方の地の出来事であり、かつこちらが圧倒的であったから誰もが賛成していた。
そこには負けないという、大前提があったからこそである。
だがそれが覆り、なおかつ自分に危害があるかもしれないとなれば話は別である。

帝都のようにまだ距離があり、直接敵を見ていない者はまだ強気に出れるであろう。
だが自分を殺しうるものがすぐそこにいるというのは、これまで真の戦争の恐ろしさを知らなかったルナイファの民にとってとてつもない恐怖であり、このテタレスでは急激に厭戦思想が広がっていた。

脅威が直前に迫るまでは、あまりに現実感がないことから、妄想をそのまま言葉にし、行動することが出来た。
だが実際に脅威を、そして圧倒的な力の差を目にしたならば話は別である。
誰もが死ぬのは御免なのだ。

552名無しさん:2023/09/02(土) 17:11:13 ID:HBIJijrw0
そして皆が少しでも敵から遠ざかろうと北に向かおうとするが、移動用のゴーレムの数もまた動かすための魔石も足りず、かといって馬車も足りない。
さらに多くの者が一気に動こうとするために街道は渋滞を起こし、慌てたものが事故を起こしては更なる移動の停滞を引き起こす。
そこに北方からの兵の大規模な移動も加わり、さらにそれが優先されてしまうことから、民は逃げれない絶望感を前に完全な混乱状態であった。

そもそも簡単にこの地から動けるようなものばかりではなく、どうか明日も何事も起きない事を祈り、震える事しか出来ないものも多くいる。
そこに世界最強のプライド等というものはなく、教会にはただひたすらに戦いが終わることを願う者で溢れていた。

553名無しさん:2023/09/02(土) 17:12:20 ID:HBIJijrw0
爪;'ー`)「......くそっ、これじゃあ動けねぇ」

そんな中、多くの子供を連れ避難を進めるフォックスもこの混乱に巻き込まれ、身動きが取れなくなっていた。
彼一人ならば逃げ出すことも可能だろうがそんなことは出来るはずもない。
しかし、子供も連れて移動するとなるとかなりの物資と移動手段が必要である。
そんな大規模な移動となればこの混乱に巻き込まれるのは必須である。

爪;'ー`)(どうする?もう移動用のゴーレムを動かそうにも魔石が限界......だが徒歩はあり得ねぇ。この街に留まるのも危険すぎる)

子供を守れるのはここにいる自分だけ。
そうだというのに、まともな手段は思い付かず、無為に時間だけが過ぎていく。

敵の強さを鑑みるにいつここに攻め込んできてもおかしくはない。
むしろ、未だ敵の本格的な侵攻がないのは奇跡であろう。

爪'ー`)(普通に考えるなら......大規模な攻勢の準備、か?一気にこちらを攻め落とす算段......となると)

敵の思考を何とか読もうと考える。
そうして浮かんだ可能性から、やはり出来る限り遠くまで行く必要があるとフォックスは結論付ける。

554名無しさん:2023/09/02(土) 17:13:02 ID:HBIJijrw0
ただの一般兵であるフォックスと、多数の戦闘経験などない子供がいたところで戦況が変わるはずもない。
このままだと、何も出来ぬままに死体になるのみなのだ。
その命運を自分が握っていると考えるだけでフォックスは嫌な汗が止まらなかった。

(;´・ω・`)「......僕たち、どうなるんだろ」

そして、そんな様子を見た子供たちの不安は増すばかりである。
誰もがフォックスのように震え、そして中には泣き出すものも少なくなかった。

そんな子供の一人であるショボンも大粒の汗を流しつつ、友の心配をする。
自分と同じくこの戦争に参加してしまった、女の子であるツン。
彼女はショボンとは異なる配属のため、今この場にはいない。
かつては彼女の配属を羨む事もあったが、今考えればより前線に近いところに配属となっていた彼女は自分よりも危険と言えるだろう。

555名無しさん:2023/09/02(土) 17:13:58 ID:HBIJijrw0
そしてもう一人は帝都に残っているはずのブーン。
彼はこの戦争には参加していないはずであるため問題ないとは思うが、魔信から流れるニュースを聞けば、志願兵の募集が様々な都市で行われていると言う。
もし彼がそれに巻き込まれでもしたら―

(;´・ω・`)「......何事も、ありませんように」

二人とも、叶うことならばこの戦争とは無縁の場所にいますように、と。
他のテタレスの民と同じように、彼もまた必死に何かに対して祈りを捧げていた。

556名無しさん:2023/09/02(土) 17:15:06 ID:HBIJijrw0
ルナイファ帝国 軍務省
1463年3月18日

( ^Д^)「......はぁ」

この日、プギャーは珍しく怒りではなく、落胆した表情を浮かべていた。
手元には自分の信頼する部下に命じて調べさせた報告書があった。
そこに書かれていたのは、秘密裏に行われていたアラマキ達の会話の記録であった。

( ^Д^)「まさか......陛下まで奴らに洗脳されてしまうとは......」

その記録ではこの国が降伏に向けて動き出しているという彼にとって信じがたい内容であった。
それも、帝王であるアラマキが反対するどころかそれを推し進めているというではないか。
陛下ならばこの国の事を考え、正しい道を進んでくれるとプギャーは考えていた。
だがアラマキが選んだ道は、プギャーが信じる正しい道と正反対のものである。

陛下だけはまともであると信じていたプギャーにとってそれは、これまで信じてきた国に裏切られたに等しい出来事であった。

557名無しさん:2023/09/02(土) 17:17:08 ID:HBIJijrw0
( ^Д^)「くそっ、民の声も操作したというのにっ!」

忌々しいと舌打ちをしながらも、プギャーはどこか寂しげにそう呟く。
そう、現在ルナイファで民衆の間に流れている怪情報に近い煽動はプギャーが主導したものであった。
これにより臆病者達を民衆の声で潰し、国を継戦へと傾けようとしていたのだ。

全ては国のため、つまりは陛下のためであった。
彼の善意からの行動だったのだ。
それほどまでに彼はこの国を愛していたはずであった。

( ^Д^)「だが......」

道を違えるのならば、仕方ない。
彼は覚悟を決め、前を見つめる。

( ^Д^)「幸い、現地の偵察隊からの報告から考えるに敵の大規模侵攻はまだ先のはず......それまでに北方の兵の移動が完了すれば良いが」

558名無しさん:2023/09/02(土) 17:18:34 ID:HBIJijrw0
計画には多数の兵が必要となるし、そもそも南方の敵を迎撃するためにも多くの兵が必要がある。
しかし既に南方の主力は殆どが潰され、まともに戦える状態ではない。
そのための大規模な配置転換が行われているのだ。

北方等遠く離れた場所からも可能な限り戦力を引き抜き、全てを南方に向かわせている。
さらには民衆が沸き立っている今、多くの志願兵を集めている。
プギャーとて南方にいるものたちがどれほどの力を持っているのか、分からないわけではない。

だからこそ彼は考え、ある計画を建てたのだ。
この国の運命を変えるそれは、着実に進行している。

( ^Д^)「さて、計画が奴らにバレるわけにはいかんからな。邪魔をされては困る......となると、奴が邪魔になるな」

その計画の先に待つ未来は、まだ誰にも分からない。

559名無しさん:2023/09/02(土) 17:19:56 ID:HBIJijrw0
ソーサク連邦 モナー宅

(; ´∀`)「......クソッ!!」

その日、モナーは自宅で頭を抱えていた。
思い返されるのはおよそ二ヶ月前にドクオとした話。
人間達と戦うと大見得を切ったあの日からそのための研究を進めてきた。
敵の強さは理解しており、その上で勝ち目はあると考えていたからこそ、出た言葉であった。
だが研究を進めれば進めるほど、敵の強大さが明らかになっていき、どうすれば良いのか分からなくなってしまっていた。

そのいい例が人間達への有効手段として考えられていた雷槍である。
初めは敵との力の差はあれど、敵に届きうる力はあるのだから部分的ではあるもののすぐにでも追い付けると考えていた。

だがいざ研究を始めてみても簡単に改良など出来るはずもない。
またもし敵に届きうる攻撃まで改良できたと仮定した場合に必要な魔法の技術を試算してみると、この世で誰も扱うことが出来ないと思われるようなものとなってしまうのだ。

560名無しさん:2023/09/02(土) 17:21:19 ID:HBIJijrw0
そもそも雷槍が敵に当たった経緯を調べてみれば、とんでもなく低い確率、それこそ奇跡とも呼ぶべき現象であったのだ。
その事実を知ったときは遠くても背中が見えていたと思っていたが、それがとんでもない勘違いであるということを嫌というほど思い知らされた。

そうして研究は完全に暗礁に乗り上げ、敵に追い付くどころか追う手段すら分からなくなったその時、一つの連絡が入る。
それは、雷槍を改良に非常に役立つ情報であった。

だが、その情報を知ったときモナーは喜ぶどころかこの世の終わりかのような表情を浮かべていた。

(; ´∀`)「『れーるがん』、か」

何故ならその情報の元が、人間達の技術から来たものであったからである。

561名無しさん:2023/09/02(土) 17:22:29 ID:HBIJijrw0
これまで数多くのこちらを凌駕するようなものを繰り出してきた人間達。
だがこの雷槍だけは魔法が人間達を凌駕し、それゆえに敵へ届きうる刃になったのだと考えていた。

しかし、それは違った。

人間達は同じようなものを作り出していたというのだ。
それでも始めは実用化はまだ先だという話から似たような技術はあってもこちらがまだ優位なのだと考えていた。

しかしよくよく聞けば、こちらのスペックを遥かに超えるものを作り出し、研究レベルとはいえ使用しているという。
ただ単にこちらが考える実用に足るレベルと人間達が考えるそれが違うだけという事実に、魔術師として、技術者として完全なる敗北感を味わうこととなったのだ。

562名無しさん:2023/09/02(土) 17:24:46 ID:HBIJijrw0
(; ´∀`)「勝てないのか?......魔法では、奴らの技術に......」

そうしていつしか、彼の心は折れかけていた。
どんなものを作り出しても、人間達がそれを上回るのではないかという感覚に陥り、完全に意気消沈してしまったのだ。

人間達を上回るために必死に考えてきた魔法も、それらですら人間達の技術であれば出来てしまうのではないか。
そんなことになれば、いつまで経っても人間達に追い付くことなど不可能ではないか。
どんな魔法も、人間達の技術で作り出せるのだとしたらー

(; ´∀`)「......うん?」

しかしそうしてしばらく考え込んでいたとき、ふと自分の考えに妙な引っ掛かりを覚える。

563名無しさん:2023/09/02(土) 17:27:54 ID:HBIJijrw0
魔法を人間達の技術で再現出来る。
現に雷槍は『れーるがん』という名で人間達の手で作り出されている。
この事実から人間達の技術であれば、魔法を別の何かの力にて作り出せるということなのだろう。

だが、それは逆に言えば。

ーもしかすれば人間達の技術を、魔法で再現出来るということなのではないか?

( ´∀`)「......もう、手段は選んではいられない、か」

その閃きは、魔法を絶対とする彼にとってかなり屈辱的なものであった。
だがそれでも他に道はないのだと、彼に新たな道を決意させる。

( ´∀`)「まだ、負けたわけではない。魔法が、負けるはずがない......これが可能ならば奴らと戦う力を得ることができるはずだ」

そう呟き、彼はあるものの試作に取り組むのであった。

564名無しさん:2023/09/02(土) 17:28:45 ID:HBIJijrw0
ソーサク連邦 新魔法開発研究室
1463年3月21日

新魔法開発研究室。
その名前の通り、新たな魔法を開発することを目的としたその一室にこの日ドクオは訪れていた。

情報室の職員として働く彼にとって、魔法の開発は遠いことではない。
この国がいくら魔法に優れていると言っても何でも出来るわけではなく、他国の魔法の中にはこの国にない発想から産まれるものもある。
そのためそのような魔法が生まれればその情報を得ては、自国の技術にしようとすることも珍しくない。

だが今日、彼、ドクオはそのような新しい魔法に関する情報など特に持ち合わせていない。
というのに呼び出されたことに首を捻りつつも、仕事だからと出向いていた。

565名無しさん:2023/09/02(土) 17:29:45 ID:HBIJijrw0
そしてこの部屋にはもう一人、見慣れた人物がいた。

( ´∀`)「さて、ドクオ君。見て欲しいのはこの魔道具なのだよ」

自分の上司であり、凄腕の魔法使いでもあるモナーであった。
だがそんな彼がわざわざここに呼び出すなど一体何事かとさらにドクオは首を捻る。

('A`)「魔道具、ですか。えっと、どんなもので......ん?なんですか?その金属の筒と......粒?なんか、団栗?のような形ですが」

( ´∀`)「まあ見ていたまえ」

そういうと、モナーは掌にそれらを魔方陣が描かれた筒にいれ、離れた的に向ける。
一体何事かと目を凝らしたその瞬間。

パンッ!!

一瞬の出来事であった。
大きな破裂音が鳴り響くと共に、的が穴が開く。

その光景は、ドクオの見たことのないものであった。
そしてこの光景に似た魔法すら聞いたことがないものである。

566名無しさん:2023/09/02(土) 17:30:20 ID:HBIJijrw0
だが、知らないわけではない。
むしろ最近よく話を聞き、よく知っている。
何度も、何度もクーから聞いたものだ。

それは魔法ではなく。

(;'A`)「じゅ、『じゅう』!?」

人間の技術。
本物を見たことがあるわけではない。
だがその特徴である、音と共に対象を穴だらけにするという金属の嵐。
まさにその通りの光景が、目の前で再現されたのだ。

( ´∀`)「......なるほど、話には聞いていたが実際に目にすると中々に興味深いなこれは」

ドクオが驚愕に身を固めている一方で、モナーもその自身が産み出した光景に唸っていた。
彼もまた、報告に恐ろしさを聞かされていたが、実際に再現したものを目にしたことで再認識させられたのだ。

567名無しさん:2023/09/02(土) 17:31:01 ID:HBIJijrw0
( ´∀`)「予めの加工と輸送面は問題だが、使用する際の魔石は火や雷を産み出し操るよりは効率的......なによりこの安定性と貫通力だ。何故こんな形のものが安定して飛ぶのか分からんが......本物はより高威力で高精度かつ連続で金属を撃ち出すというが一体どんな仕組みなのか......」

(;'A`)「な、なぜこんな......」

( ´∀`)「......君も分かっているだろう。現時点であの人間たちの力は我々を越えている。そして、なにより未知の力だ」

(;'A`)「......」

( ´∀`)「未知......そう、我々は知らない。追いつくため、追い越すためにもまずは奴らを知らなくてはならない」

('A`)「っ!」

( ´∀`)「悔しいが、奴らの技術は本物だ。魔法に匹敵するものであり......それを知らない我々は学ぶ必要がある。だがそのまま、奴らの技術を取り入れることは難しい。私もだが、この国は魔法により成り立つ国であり、皆が魔法に対してプライドを持っているのだから」

淡々と語るモナーではあったが、その言葉の端々からは悔しさが滲み出ていた。
しかしついこの間まで魔法以外を認めず、人間を頑なに認めようとしなかった彼から考えればその姿は劇的に変わったと言えるであろう。
それほどに人間の技術は彼にとって衝撃的なものであり、それを知らずに、否、気付きつつもプライドからそれを見えないフリをし、下手な事を進めようとしていた自分とそして国に焦りを感じていたのだ。

568名無しさん:2023/09/02(土) 17:32:16 ID:HBIJijrw0
( ´∀`)「では、どうすれば我が国でもあの力を取り入れることが出来るか......ここまで言えばわかるかな?」

('A`)「......それが、この、魔法による人間達の技術の再現、というわけですか」

( ´∀`)「そうだ。これならば、魔法として取り込むことが出来る。そうしていけばいつかは奴らに追い付ける......奴らに、勝つことが出来るはずだ」

魔法に対するプライドはある。
だが現状、人間の技術は魔法を超える現象を引き起こすのだ。
伝え聞くその技術が全て本当ならば、これからの世界に変化を与えていくであろうことに疑いはない。
その変化の流れに置いていかれれば、技術を根幹に成長してきたこの国は世界から取り残されることになるであろう。

しかし人間の技術をそのまま取り入れるわけにも、国内の事情から簡単にはいかない。
だからこそ人間の技術を魔法で再現、もしくは改良することで魔法技術として取り入れ、発展させる。
それがモナーのたどり着いた答えであった。

569名無しさん:2023/09/02(土) 17:33:17 ID:HBIJijrw0
('A`)「......なるほど」

その考えはドクオも悪くないのではないかと考えていた。
確かにこの方法であれば、人間の技術をそのまま受け入れた場合に生じる、技術の違いによる衝突は少なくなるであろう。
そして形はどうであれ自国の知らない技術を手に入れることは、直接自国の発展に繋がるのだ。

その先で目指すものが戦いなのを除けば、彼も両手を挙げて賛同していただろう。
ドクオは非戦派であり、エルフと人間の対立に拘らず、戦わない道を進むことが理想である。

とはいえ、ただ戦わずに近づければ良いという考え方とは異なる。
その理由はふたつあり、ひとつは国の多くのものが人間国家と仲良く出来るはずがないと考えている現状、無理に近づこうとすればトラブルになるであろうということ。

初めはどうにか架け橋になれないか等、色々と作戦を考えていたが、あまりのストレスにすぐに限界を迎えてしまい、早々に諦めてしまった。
それほどまでに現在この国で人間たちとの友好関係を結ぶことは難しいのだ。

570名無しさん:2023/09/02(土) 17:34:07 ID:HBIJijrw0
そしてもう一つの理由は、今のまま近づきすぎれば国として危険であるからである。
技術のレベルの差があまりにも大きすぎるまま近づくことになれば、その技術により現在の技術は下手をすれば淘汰されてしまう。
そうなれば多くのものが仕事を失い、国は混乱するし、なによりその技術を支えられるのは技術を提供した相手となる。
それは国の根幹が技術力に支えられているソーサクでは致命的といえる。
言い換えれば、国を支える根幹を敵に握られるに等しい状態になりかねないのだ。

もしそうなれば、二度と相手から逃れることもできなければ逆らうことも出来ない。
表向きは良くても経済的な植民地となりかねないのだ。

ではどうすれば良いか。

彼が出した答えは一つ。
人間たちの国に並びたつ国となり、互いに敵対したくならないような力を持ち合いそれを理解し合う、言わば均衡した状態となること。
そうなればお互い手を出しにくくなる、抑止力になるはずである。
そうしてようやく、真に平等の関係を築くことが出来る。

そんな奇跡ともいえるようなバランスによる平和が、彼の望みであった。

571名無しさん:2023/09/02(土) 17:35:19 ID:HBIJijrw0
そのために独自に敵の持つ力の中で、最も抑止力となり得るものを独自に調査を進めていた。
その力が手に入れば、人間達も無理に敵対することはなくなり、万事が解決するはずであると考えたのだ。
しかしその成果はあまり芳しいものではなく、そもそも情報が手に入ったところで実物を得られるわけではない。
人間の技術を情報のみから作り上げることも不可能に近いため、理想が叶うことは無いと諦めかけていた。

だが目の前にある光景は、その問題を解決しうるものであり、まさにその理想的な未来への第一歩と言える。
確かに魔法へのプライドが高いこの国の者たちが、そのまま人間の技術を受け入れるとは考えづらかった。
だがそれを魔法で置き換えることが可能ならば、話は別である。

魔法としてならば、自国の民も素直に受け入れることが可能であろう。
人間の技術を我が国の技術としつつ、国の根幹である魔法を守り、そして発展することができる。
そうしていけばいつしか、抑止力となりうる力を魔法として作り上げ、人間達と並びたつ日が来るであろう。
理想的な、ドクオの望む世界である。

572名無しさん:2023/09/02(土) 17:35:50 ID:HBIJijrw0
('A`)(......とはいえ)

現状、ルナイファで手一杯であるからこそ特にこちらへの手出しはないが、将来もし技術を無断に模倣していることを知られれば、相手にいい印象は与えないはずである。

流石に直接手を出してくるとは思えないが、少なくとも信用はなくなるだろう。
そしてその信頼を回復しようにも、鎖国に近い体制のせいで外交が弱いため、現在の力関係から考えるに交渉による解決は全く期待できない。
敵対までいくかは不明であるが、関係を下手に悪化させたくないドクオにとってそれは喜ばしいことではない。

そもそも、形だけは見よう見まねで真似できたとしてもその根幹の技術を理解できるとは言い難く、それらを自分達の力に出来るまでにはとてつもない時間が必要となるであろう。
見た目だけならば並びたつ日も近いかもしれないが、そんなハリボテに騙されるほど相手は馬鹿ではない。

573名無しさん:2023/09/02(土) 17:36:29 ID:HBIJijrw0
さらに理論上再現可能でも、その魔法を使える魔術師をどれほど産み出せるかという問題もあるのだ。
魔法は個人の才能がものをいうのだ。
それは良くも悪くも個人に左右されてしまうため、運が悪ければ魔法は作れたが誰一人として使うことが出来ないなどということもあり得なくない。

なんにせよ他の選択肢よりは若干マシとはいえ、まだまだ国が安泰といえる日は遠いという結論に辿り着き、小さくため息をつく。
そもそも大きく力が離れている相手に追い付こうとすることが困難なのだから仕方のない部分はあるのだが、それでも明るい未来が見えないというのは非常に心にくるものがあるのだ。

だが、少なくともこの国の中でも力を持つモナーが無理な敵対はしない方向に進むであろうことに、突然の心境の変化に驚きを感じつつも若干の安心感が生まれていた。

( ´∀`)「......さて、ドクオ君。本題に入ろう」

('A`)「本題、ですか?これを見せるためではなかったのですか?」

( ´∀`)「勿論それも目的ではあるが、これはあくまでも説明のためだ」

('A`)「......説明?」

574名無しさん:2023/09/02(土) 17:37:05 ID:HBIJijrw0
( ´∀`)「先ほどので、人間の技術は我々の魔法で再現可能ということがわかっただろう?」

('A`)「えぇ、それは確かにそうですが......それが?」

( ´∀`)「では、君が再現するとしたら、何を再現するかな?仮に何でも再現できるとするならば、だ」

('A`)「それは......」

本当に何でも再現できるとするならば。
その仮定に一つの考えが頭をよぎる。
人間の国との力を拮抗させるために必要な力。
すなわち、人間でも恐れるものを再現できたとすれば。
その先に待つものは、ドクオが思い描いた世界に限りなく近づくのではないか―

('A`)「そう、ですね。人間が持つ、彼らがもっとも恐れる兵器、でしょうか」

( ´∀`)「......やはり、見込んだ通りだ。優秀な男だよ、君は」

('A`)「え?」

575名無しさん:2023/09/02(土) 17:37:35 ID:HBIJijrw0
( ´∀`)「他のものに同じ質問をしてもこれまでに手に入った情報の中にあった兵器や道具を挙げるばかりであったが......君は違う。ちゃんと、あの国のことを考え、理解できている」

('A`)「......」

( ´∀`)「ドクオ君、君が反戦派なことは知っている。どうにかして、対立しない道を探しているのだろう?」

(;'A`)「っ!?そ、それは......」

( ´∀`)「ああいや、別に排除しようというわけではない。君は優秀だし......利害も一致しているわけだからね」

(;'A`)「どういう......」

意味ですかと聞く前に、モナーはドクオへ一つの魔道具を取り出す。
通信用の魔道具に似たそれは、簡易的な記録用媒体であり、ペアとなる魔石に記録したものを瞬時に共有することのできるものであった。

('A`)「......これは?」

( ´∀`)「ドクオ君、君に任務を与える。任務はただ一つ、君がさっき言っていたものを、探すのだ。人間がもっとも恐れる兵器の情報を」

(;'A`)「な!?」

576名無しさん:2023/09/02(土) 17:38:22 ID:HBIJijrw0
( ´∀`)「それをこれに記録してくれ。そうすればその情報は私に伝わり......いつの日か、それを再現、もしくは対抗するものを作り出して見せよう」

(;'A`)「......」

( ´∀`)「君はこの国に他国を牽制できる力が欲しい、そして私は人間たちを滅ぼせる力が欲しい......そのどちらも満たすことができる。どうかね?」

(;'A`)「......なぜ、それを」

( ´∀`)「それくらい、君のあの答えを聞けばすぐに分かるさ。まあ、すぐに回答が欲しいわけではないから安心したまえ」

敵対することを前提に考えている者に、そんなものを渡せるはずがないー
そう叫びたいドクオであったが、その言葉でる前にモナーもその事が分かっているのか、ニヤリと笑いつつ言葉を続けた。

( ´∀`)「ただ......よく考えたまえよ?もし人間たちの兵器に関する情報が手に入ったところで君では作れないし、だからといって兵器そのものを手に入れるのは不可能なことくらい、君も分かっているんだろう?自分達が恐れるものを他国に渡すほど奴らは馬鹿ではない。つまり、情報を手に入れた上でそれを自国で再現できる技術を持つ仲間が必要だ。違うかな?そんな味方が君にいるのかね?」

(;'A`)「ぐっ......ぅ」

577名無しさん:2023/09/02(土) 17:38:53 ID:HBIJijrw0
( ´∀`)「まあ君もこの国の世論は知っているだろう?いくら私でも、もしもの事があれば、庇いきれないかもしれないからな」

そう耳元で囁かれたのち、魔石をドクオの胸ポケットに滑り込ませ、そのまま部屋から出ていく。
一人取り残されたドクオは自身がとんでもない状況におかれていることを今更になって知り、絶望する。

彼自身はただの職員であったはずなのだ。
それが何の因果なのか、気づけば国を動かすような重大な無理難題ばかり押し付けられている。

(;'A`)「......何で俺ばっかり、こんな目に......」

様々なものたちから板挟みのような状態になり、また自身の考える理想からも押し潰されそうな現状。
最早動くことすらできないほどの重圧に、ドクオは何度も嘔吐した。

578名無しさん:2023/09/02(土) 17:39:17 ID:HBIJijrw0
続く

579名無しさん:2023/09/02(土) 18:23:52 ID:HBIJijrw0
>>550-577
投下する話を間違えました・・・最悪すぎる
後程本日投下予定であった話を投下します

580名無しさん:2023/09/02(土) 18:42:50 ID:HBIJijrw0
話の順番としてはこれから投下する話→>>550-577の流れになります
分かりにくいですが脳内補完をお願いします

581名無しさん:2023/09/02(土) 18:43:46 ID:HBIJijrw0
ルナイファ帝国 帝都
1463年3月5日

その日、帝都に激震が走った。
理由は様々な放送をする魔信より流れた、一つのニュースである。

―帝国本土に、侵略者現る。

帝国に歯向かう者がいるだけでも驚きだというのに、まさか本土に侵攻し、それを成功させたというのだ。
これまで数多くの驚くべきニュースを聞いてきたものも、このニュースには驚愕を隠せない。

そして、詳しく聞くと誰もが怒りに震えた。
曰く、その正体は我々が召喚した人間であると。
曰く、慈悲深く譲歩したにも関わらずその手を振り払うどころかこのような事態を引き起こしていると。
曰く、エルフの神に歯向かう悪魔の力を借りている世界の敵であると。

582名無しさん:2023/09/02(土) 18:44:12 ID:HBIJijrw0
もはや噂なのか何なのか、ニュースと呼んでもよいか分からないものも含まれていたが、厄介なことにこの世界では皆、神も悪魔も信じられている。
そのためそれを聞いた帝国民の心は一つとなる。

―奴らを滅ぼせ、神に仇なす者達に鉄槌を!

燃え盛るかのごとく、その怒りの炎は伝播していき、皆が敵を倒せ、人間を滅ぼせと叫ぶ。
時折、冷静なものが悪魔の力を持つような相手と戦い勝つことが出来るのか、そもそも本当に悪魔が現れたのかと疑問を持つものもいたが、既に怒りの炎を消すには遅く、そのもの達の声が逆に消されていった。

583名無しさん:2023/09/02(土) 18:45:20 ID:HBIJijrw0
(;=゚ω゚)ノ「異常すぎるよぅ......」

そしてそんな様子を、ソーサクの諜報員、イヨウが潜伏先の家より見ていた。
デモのように多くの帝国民が列を成し、兵を集めろ、武器を作れ、奴らを殺せと唾を撒き散らす。
その声を聞いたものがまた一人、また一人と列に増えていき、もはやそこに参加しないものは非国民とも言えるような、明らかに異常な空気が生まれていた。

(;=゚ω゚)ノ「......ルナイファは、滅ぶつもりなのか?」

原因ははっきりしている。
この放送である。
敗北したという事実を、嘘で脚色し自らの正当性を訴え続けるそれは、情報を知るイヨウにとっては怪情報以外の何物でもない。

だが何も知らない者達にとってはどうか。
それも自分達に絶対の自信と高いプライドを持ち、国からの情報を嘘と疑わない帝国民であったとしたら。

答えは、目の前の光景である。

584名無しさん:2023/09/02(土) 18:45:56 ID:HBIJijrw0
与えられた情報が彼等の中で真実となり、それ以外の情報を与えられても決して受け入れることはないだろう。
それも自分達に不都合な情報だとすれば、例え真実であったとしてもそれを拒むことは容易に想像できる。

狂った歯車は歪んだまま回り続け、そして更に歪み、もう元には戻らない。
その先に待つものは一つ。

ただ、破滅に突き進むのみ。

(;=゚ω゚)ノ「このタイミングでプロパガンダ......ということはもう、講和する気はない?正気とは思えないよぅ」

そう、正気の沙汰とは思えない。
帝国民は確かに敵を知らない。
だからこそ、敵を倒せと叫ぶことが出来る。
絶対に勝てると信じているからだ。

585名無しさん:2023/09/02(土) 18:46:27 ID:HBIJijrw0
だが、国はどうか。
もう十分すぎるほど敵の驚異をわかっているはずである。
なのに国民の怒りを増幅させ、退路を絶つ理由が分からない。
この状態ではいくら国が降伏しようとしても国民が許すことはなく、暴走を続けるだろう。
もはや自分から滅びに行っているのではないかとすらイヨウには感じられてしまう。

そうなるともう一つ、考えられる可能性が浮かび上がる。

(=゚ω゚)ノ「どこかの......工作員の仕事?」

だとしたらとてつもなく上手い手である。
自らの国は何もせず、他国だけで勝手に争わせ、暴走させ、疲弊させる。
理想的ともいえる手段である。

(=゚ω゚)ノ「だとしたら一体何処が......」

もしかしたら自国以外にも動いているかもしれない。
十分に、気を付けなければ。

そう気を引き締め、彼は再び仕事へと戻っていった。

ー最も、放送の元がこの国のとある阿呆によるものと知ることになり、拍子抜けすることになるのだがそれはまだもう少し先の事であった。

586名無しさん:2023/09/02(土) 18:46:56 ID:HBIJijrw0
ムー大陸 迎賓館
1463年3月6日

今、自分は現実を見ているのだろうか。
フィレンクトはそんな感覚に陥っていた。
ムーに訪れた際に目にしたのは異様とも言える光景であった。
まだまだ戦火の跡が目立つ中、一際目立つ摩訶不思議な物達。

まず目に入ったのは国に入国する際に港に泊まっていた巨大な艦。
基本的に船は大きければ大きいほど強力である。
その大きさの分だけ魔方陣を積むことが出来るのだから当然の常識とも言える。

だからこそ、150mという巨大な艦を作れるルナイファやソーサクは強大な国家として名前が挙げられるのだ。
大きな艦を持つと言うこと、そしてその大きさはそのまま国家の力の大きさを表し、それに比例すると言っても過言ではない。

587名無しさん:2023/09/02(土) 18:47:39 ID:HBIJijrw0
それが、どういうことか。
この南方の僻地とも言えるこの国にはその倍近いと思われる艦が泊まっていたのだ。
単純に考えれば、ルナイファやソーサクの倍の力を持つと言うことかとあまりの現実感の無さに笑ってしまうほどであった。

更にその艦が載せている物も問題であった。
到底生き物には見えない、翼を持つ金属の塊。
何かのオブジェクトかと思えば、『ひこうき』なる空を飛ぶ物という。

あのようなものが空を飛ぶのかと驚愕したが、更なる衝撃がすぐにフィレンクトを襲うこととなる。
それは、その『ひこうき』が飛ぶ瞬間を見たときであった。

この世ならざる速度で飛び出すそれは、一目だけでこの世界の空を支配することに疑いはない。
事実、フィレンクトはあの『ひこうき』を落とすどころか、追い付く手段すら想像の世界ですら作り出すことが出来なかったのだから。


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