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( ・∀・)救出の魔法使いたちのようです
671
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/12(水) 06:50:51 ID:zCJIX08Q0
影。
光に遮られて出来るものが影であって、闇は闇として影とはあくまで別軸の存在ではないかとアサピーは思う。
光には光の、闇には闇の生き方がある。
日が沈む事もあれば、夜明けもある。
喜びを知る事もあれば、憎しみを知る事もある。
だが、白にも黒にも染まりきれずに中途半端に地べたをうろつく影はどう生きれば良いのか。
この燻る感情を、どこへ向ければ良いのだろう。
自分に、ソウサク国に救いを求めて僕はあの子を造った。
あの時ディを量産していれば、僕の心は真っ黒に染まれたのか?
ディには僕と同じようになって欲しくはない。僕の影に、シィ・ニャイッキーの影にはならないで欲しい。
彼女にはまだ、いくらでも生きる道がある。
だから僕は彼女に火、水、風、土と光の属性を与えた。
だから僕は彼女に自我を与えた。
だから僕は彼女に妹達を作らなかった。
だから僕は巨神をもっと強くしようとした。
だから僕は少しでも影から抜け出そうと、彼女に年長者ぶった話をした。
(-@∀@)けど、余計にもう自分が変わることは出来ないとわかった
だから、僕は。
(-@∀@)……独りぼっちを選ぶしかないじゃないか
672
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/12(水) 06:52:09 ID:zCJIX08Q0
『アサピー』
『アサピエーラ』
(-@∀@)…うるさいな。僕はまだ眠った覚えはないぞ
『アサピー』
(-@∀@)なんだね
『死んだらここから逃げられるなんて思うなよ』
(-@∀@)
(-@∀@)知ってるさ、それくらい…………
湯船に底が無ければ良いのに、とアサピーは静かに願った。
このまま何処までも何処までも沈んでいけたらいい。
全部全部、何もかも洗い流して溶けてしまうくらいに。
隣で胸を張ったアサピエーラ像が、嫌味な輝きを放っていた。
673
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/12(水) 06:53:07 ID:zCJIX08Q0
後日、アサピーはディの6番隊副官への異動をすんなりと許可した。
「シュール隊長のとこなら第7よりはマシだ」と安堵する者。
男所帯から華が失われる事を嘆く者。
「育児放棄だ」「父親の意識なんか元からなかったんだ」と無責任に噂する者、研究員達の反応は様々だった。
ただ、ディを6番隊に預けた張本人であるニュッケン・ニューソックスはそれをからかう事は無かった。
674
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/12(水) 06:55:41 ID:zCJIX08Q0
『救出の魔法使いたちのようです』
その14
『蝋細工の心だから』
675
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/12(水) 06:57:17 ID:zCJIX08Q0
ニガティタ島の半分が、唸りをあげて立ち上がった。
今まで遭遇した中でも最も巨大な火山の厄災が目覚めたのだ。
一人また一人と、空へ魔法使いたちが逃げ惑う。
そして海からは、もう一つ巨鯨の厄災が迫っている。
モララーは島全体を見渡し、次に自分がどう動くべきかを考えた。その隣で、デミタスが攻撃を警戒して風の防壁を張っている。
( ・∀・)…カンなんだがね
(´・_ゝ・`)どうぞ
( ・∀・)火山はおおむね無視していい。あのデカいの、まだ寝起きだ。この隙に撤退を急ぐべきだね
(´・_ゝ・`)あのスケールです。完全に目覚めて攻撃に移った場合我々の被害もバカになりませんからね
( ・∀・)な〜んて言わなくても、まともに喧嘩したがるヤツはそうそう居ないみたいだけどね
( ・∀・)で、海。アレはなんというか…酷く禍々しい物を感じる。アサピーじゃないが、クックルを呼び出して頼るのも手かもね
676
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/12(水) 06:59:28 ID:zCJIX08Q0
('、`;川隊長!!モララー隊長!!
( ・∀・)…どうしたんだい、そんなに慌てて
('、`;川地上で鉄針の厄災と戦ってたんだけど!!ドックンとナイトーくんとキュートちゃんがまだ上がってきてないの!!
デミタスが無言でモララーを見た。モララーもそれに頷き、即座に魔竜を飛ばす。
('、`;川ヤバいんだって!針がビューって!バーッって!きっとまだ逃げてるよドックン達!
(´・_ゝ・`)非常に擬音に頼った説明ですが、それが正しければ他の魔法使い達が撃ち落とされる危険性がありますね。急ぎましょう
( ・∀・)ああ。…生きててもらわなきゃ困るんだ
677
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/12(水) 07:00:28 ID:zCJIX08Q0
<ヽ`∀´>動きがひどく鈍い…まだ寝起きなら逃げようもあるニダ、隊長!
ニダーが撤退命令を求めて振り向く。副官として流石に自分たちでこの大きさの厄災には太刀打ちできないと判断したのだろう。
lw´‐ _‐ノvフィーさんがおっきな闇の門を張ってる。私達はまずあのトリさんぶちのめして空をどうにかしないと
lw´‐ _‐ノvじゃないと逃げるもんも逃げられないよん。でもなー…おかわりあるんだよな、トリさん。燃えてるヤツ
<ヽ`∀´>隊長…
lw´‐ _‐ノvニダちゃん、ここに来る前に家族に何かしてあげたかい?
<ヽ`∀´>い、いきなり何を…
lw´‐ _‐ノvいいから
678
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/12(水) 07:02:53 ID:zCJIX08Q0
<ヽ;`д´>む、息子達と遊んで過ごしたニダけど…魔法局に戻る前に妻からは平手打ちを食らったニダ…
lw´‐ _‐ノvだろうね。私が奥さんならこんな行かせたくない仕事ないもん
lw´‐ _‐ノv…ニダちゃん、護衛も兼ねてフィーさんとこに6番隊の隊員達や箒やドラグーン無くした連中を連れてって。ユー達の背中は私とディ達で守るから。あんだすた〜ん?
<ヽ`∀´>了解ニダ!
| ^o^ |あんだーすたんどです
(#゚;;-゚)…任せておけ。私もまだ生きていたい理由がある
lw´‐ _‐ノv味方はきっちり守る、攻撃もバッチリこなす。6番隊の意地見せてくよ〜
| ^o^ |おや?
(#゚;;-゚)…つまらないことを四の五の言ってる場合じゃない
| ^o^ |たしかに ろくばんめですけど
(#゚;;-゚)洒落じゃない
679
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/12(水) 07:04:01 ID:zCJIX08Q0
(;´ー`)ひっく、うぉえっ……急に揺れまくって吐きそう……
( ´∀`)戦場で酒飲んでたの誰モナ?
(;´ー`)はい、俺です、俺の自業自得でございます…
( ´∀`)モナの背中にゲロ吐きやがったら氷漬けにするモナ
(;´ー`)耐えますよ、まだまだ死ねませんし。いざって時は俺がモナー隊長守らないといけませんしね
( ´∀`)
( ´∀`)生き残れたらモナが酒に付き合ってやるモナ
(*´ー`)マジすかッ!!!?うは、生きる超生きる!!生きますとも!奢りですよね!?大魔導師様の奢りですよね!?
( ´∀`)うるせぇよ
680
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/12(水) 07:05:36 ID:zCJIX08Q0
(-@∀@)…まだ動かない。むしろ二度寝って感じだな、あのデカいのは
(-@∀@)ちっ……ロマキング1号も損傷が激しくなってきたな。ニューソックスとヤマサキはどこ行ったんだ、まったく…
ぼやきながらアサピーは禍々しいプレッシャーを放つ二匹の凶鳥の厄災を見据えた。このまま巨神ロマキングに始末をつけ、羽虫を食い散らかすつもりだろう。
エネルギーは設計上問題ない、以前と比べてもちゃんと五体満足のまま戦えている。
だが弾薬を使いすぎた。ここまで親鳥がしぶといとは思わなかったのだ。しかも敵はまだまだ居る。
はっきり言って誰がどう見ても人間側が追い詰められている状況だ。
だが、追い込まれれば追い込まれるほどアサピーの身体は高揚感に打ち震えた。
681
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/12(水) 07:06:16 ID:zCJIX08Q0
恐怖を狂気で裏返し、アサピーは高らかに笑った。
(-@∀@)はーーーーっはっはっはっはっ!英雄の条件は劣勢を劣勢とも思わず立ち向かう勇気にあり!僕は今、誰よりも、そう!ソウサク魔法局の誰よりも雄々しく戦っているとも!
(-@∀@)はーーーーーっはっはっはっは!見ているかね!?僕の勇姿を!アサピエーラ・ガデライトを!
ロマキングの鉄拳弾がまっすぐに突っ込んできた雛鳥の腹を突き抜ける。
悶えた隙を狙い飛ばしたもう片方の腕が雛鳥の足を掴み、そのまま地面へと叩き落とした。
苦しみ悶える雛鳥を邪魔だとばかりに蹴り飛ばし地響きを立ててロマキングは駆け抜ける。捨て身の闘争を仕掛けるアサピーに親鳥も真っ向から受けて立とうと翼を広げて突っ込んだ。
682
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/12(水) 07:08:03 ID:zCJIX08Q0
(,,゚Д゚)アサピエーラの野郎、誰に向かって言ってるやら…わからんでもないがな…
ミ,,゚Д゚彡誰だっていい。クソッタレの雛鳥をそのままチリも残さず焼ければ戦いは少なからず有利に傾く
( ´_ゝ`)お前らもよくやるよ、乗り物失ってまでさ。ソウサク人らしい悪あがきだ
ミ,,゚Д゚彡翼やられようが箒切られようが身体さえ無事なら戦う道はある…何が何でも戦わなきゃあいけねえんだよ!
( ´_ゝ`)ほう、見上げた志だ。だがお前は何のために戦う?
ミ,,゚Д゚彡俺様の力をソウサク中のボンクラに示す!
(,,゚Д゚)フサギコ!
ミ,,゚Д゚彡そーのーまーえーに!!それを見る観客が皆殺しにされちまったらどうしようもねえ!だからそいつらが生きて帰るために厄災どもを一匹でも多くぶちのめす!
(,,゚Д゚)……!
( ´_ゝ`)ほう。面白い…だが、大物を狙いに行く根性は無いようだな!
ミ#゚Д゚彡あァ!?
683
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/12(水) 07:09:01 ID:zCJIX08Q0
( ´_ゝ`)俺なら雛より親鳥を攻めるね!
わざと背中に乗った少年の闘志を煽って、アニジャは旋回し口から火球を放った。
注意の外から現れた蒼竜の姿にロマキングを狙っていた親鳥はまんまと不意を突かれ、忌々しげに標的をアニジャへと定めた。
ニュッケン・ニューソックスが一匹を引き離したおかげで、接近も容易になりぐっと撹乱はしやすくなっていた。相手もアサピーと正面から数時間やりあっているのだ、消耗もする。
上手く優先順位を狂わせてしまえばこちらのものだ。
(;´_ゝ`)くっ、それでもこの衝撃波は厄介だな…!
おぞましい叫び声をあげて、親鳥が反撃する。ギコとフサギコは何がなんでも吹き飛ばされまいとアニジャの皮膚に爪を立ててしがみついた。
( ´_ゝ`)ちょっ、痒いんだけど
ミ,,゚Д゚彡うるさい!黙って耐えろ青いの!
( ´_ゝ`)キレる若者…まあブーンよりはマシだがね。いいだろう!俺に乗って戦える事を光栄に思え、ソウサク人たちよ!
(,,゚Д゚)感謝する、アニジャ・ニジンスキー・サスガータ
ミ,,゚Д゚彡ソウサク人の辞書に勝ち以外の言葉はねえんだよ!あっさり叩き落とされでもしたら承知しねえから!
( ´_ゝ`)それもう辞書じゃなくて分厚いヤバいメモだな
684
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/12(水) 07:09:49 ID:zCJIX08Q0
(#-@∀@)おいおいおい、いけないなあ!僕を見てくれなきゃあさあ!
全長51メートルの巨体から繰り出された右拳が厄災を後方へ殴り飛ばした。
親鳥はその勢いを利用して距離を取り、無数の黒い羽根を飛ばし敵をまとめて葬ろうとした。
アサピーはそれでも食らいついた。
巨神が両腕を交差させ防御の姿勢を取り、その身を切り刻む羽根を弾きながら進む。
[1ФωФ]コオオオッ!
間合いを詰め勢いよくカーテンを開けるような動きで巨神を包む光波防壁を剥ぎ、跳躍する。
重い槍のような脚の一撃を浴びて親鳥は墜ちた。そのままロマキングは馬乗りになって次々に拳を撃ち込んだ。
(-@∀@)君は確かに早く、しぶとく、強い。だが僕だってむやみやたらに撃ちまくってたわけじゃあないんだ
(-@∀@)当然だが身体の部位によって通るダメージは違う。一発一発で検証する必要性があったのさ、おかげでだいぶ弾薬を消費させられたがね
(-@∀@)君の弱点は翼の付け根!そしてこれが一番至近距離で君にぶちこめるポジションなんだよぉ!!アーーーーッハッハッハッハッハ!!!!
アサピーの歓喜の雄叫びを合図にロマキングの指先から数発の弾丸が放たれた。
685
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/12(水) 07:10:53 ID:zCJIX08Q0
( ^^)巨鯨の厄災から膨大な魔力の収束を確認!あの船、ここから滞空してる魔法使い達を根こそぎ撃ち落とすつもりですよ!?
( ^ν^)…俺たちには目もくれない、と。上等じゃん骨董品がよ
吐き捨ててニュッケンは構えた。口角を吊り上げたその表情に、微塵も恐れはなかった。
自分の身体と巨神の身体が一体となっているような高揚感がニュッケンを包んでいた。
( ^ν^)…あダメだわ。俺あのメガネ笑えねー。こんな状況なのに
( ^^)結局男の子だったんですね、ニュッケンさんも
( ^ν^)うるせぇ。撃たれる前に撃つ、砲塔一個たりとも残さずぶっ潰せ。こっちが30発ほど撃ったらそのまま蹴り込んでへし折るぞ
686
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/12(水) 07:11:33 ID:zCJIX08Q0
( ^ν^)ンじゃ、派手にやっちゃって
ロマキング2号は両腕を威嚇的に振り上げ、まっすぐに指先を伸ばした。大量の弾丸が厄災へ降り注ぐ。
轟音と爆煙が広がる中、ニュッケン・ニューソックスは考える。この巨鯨の厄災の正体はなんなのかと。
生物的な部分があるなら汚泥の厄災のように何かに寄生、あるいは融合して進化するタイプの厄災だと推測はできる。
だが、そうなると問題はその身体にある。
・・・・・・・・・・
あの船はどこから来た?
旧人類の遺産だとしてもだ。人類同士の戦争や天と海の厄災の怒りの後、あんな大きな船がそうそう残っているだろうか?
( ^ν^)…脳内麻薬出過ぎてアホな想像してるんだけどさあ
( ^^)何か言いました!?
( ^ν^)うん。アレもしかしたらそもそもこの世界のモノじゃねえのかも
( ^ν^)ハハ、ハハハハハ…厄災って、面白え〜〜〜
ロマキング2号が放った複合属性弾は巨鯨の厄災の火砲を残らず粉砕した。跳び上がり両脚を鋭くめり込ませ、そのまま力任せに解体する。
だが、厄災自体は健在のまま島へ向かって直進していく。損傷だって馬鹿にならないのに、真上で暴れ回るニュッケン達をまるで気にせず悠然と進んでいく。
( ^ν^)…ああいう余裕かますってことはさ。やっぱ切り札があんだよ
( ^^)この勢いだとそのまま上陸しちゃいますよ!?
( ^ν^)所長と合流してなんとかするしかねえわな
687
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/12(水) 07:13:21 ID:zCJIX08Q0
動かなくなった親鳥を見下ろし、アサピーは完全な勝利を確信していた。
ミ,,゚Д゚彡…あのトリ
( ´_ゝ`)妙だな
空を舞うアニジャとフサギコの目に映った凶鳥の姿は、天空から引きずり降ろされ惨めに倒れ伏した敗者には見えなかった。
まだ何かを隠し持っている。まだ余裕を無くしてはいない。まだ我々を嘲笑っている!
何処から来るのか、何が来るのか。視界に入った火山の厄災はいまだに眠ったままだ。
フサギコは考える。
自分ならどうする。身体がまともに動かないほど痛めつけられて、どんな時に笑う?どんな時に勝ちを確信する?
その答えに辿り着く前に、否。答えを掴もうとしてやめる前に、強い衝撃と共に巨神ロマキングが崩れ落ちた。
風を裂く黒い影の正体は雛鳥だ。雛鳥の翼が背後から巨神の両脚を切り落としたのだ。
ミ,,゚Д゚彡(答えは…仲間が助けに来た時……!)
(-@∀@)あー…ハハハ…まだ息があったか
あまりに突然過ぎて、アサピーはその地響きをどこか他人事のように聞いていた。
雛は親鳥に寄り添うように力尽き、そして溶け合っていく。融合した凶鳥の首が裂け、二つの頭が現れた。
( ´_ゝ`)双頭の化けガラスか…なんでもありだな
(´<_` )兄者!
( ´_ゝ`)まだとっておけ。コイツを済ませたら、じきに使うべき時が来る!
688
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/12(水) 07:14:02 ID:zCJIX08Q0
(#゚;;-゚)……親子か
その光景を見ながら、上空でディは呟いた。
(#゚;;-゚)…いかんな、厄災との戦いの最中なのに
| ^o^ |ちがいます あれは
冷たくブーム・ソヤナルカが言い放った。
ブームが乗っている魔竜サルサも、嫌悪感を露にして唸っている。
親が子に「死ね」と命令し、子は喜んで親の血肉となっただけのこと。
lw´‐ _‐ノvあんな親子があってたまるかい
| ^o^ |ばけものらしいといえば らしいです
lw´‐ _‐ノvとりあえず撃っちゃって。効果はあんま期待できないけどさ
(#゚;;-゚)了解。アサピエーラはやらせない…!
lw´‐ _‐ノv身体の一部作んのはクックル戦でやってるからさ、諦めんのはまだ早いよ、アサピッピ
689
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/12(水) 07:14:32 ID:zCJIX08Q0
(;^ω^)こここ攻撃が始まったらぼくたち確実に巻き添えだお!?
(;'A`)まだ凶鳥で手一杯なだけありがたいんだかありがたくないんだかな…
('A`)とりあえず跳び移れるとこまで走れ。そしたら俺があんたを掴んで魔法靴で飛ぶ…!
ドクオは強くブーンの背中を掴んだ。
ブーンもそれに応えて走り続けた。何処までも、何処までも。
(°A°)引き返せーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!
(;^ω^)おおおおお!???な、なんだお!急に耳元で怒鳴るなお!!
(;'A`)キュート隊長の脚!多分馴染みきってねえ!それにあの人は魔竜を捨ててる!下手すりゃ逃げ遅れるぞ!!
(; °ω°)もっと早く言ってくれお!!!!おおおおおおおーーーーーー!!!!!!!!
(;'A`)全速前進!!走れ、ブーン!走れっ!!
690
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/12(水) 07:15:25 ID:zCJIX08Q0
火山の厄災の背中を飛びながら、モララーは変貌した凶鳥の姿を見た。
ロマキングは倒れ伏し、今にもとどめを刺されようとしている。モララーにとって、全ての魔法使いにとって完全に予想外の事態だった。
<●>
だが、まだドクオが見つからない。額を汗が流れて行く。時間を止めるか?いや、あまりに遠すぎる。
<●>
広範囲に時間停止をかける事は可能だが、大量の魔力の消耗は今のモララーには人間としての死を早める行動となる。
四方八方から視線を感じる。
見ている。奴が嘲笑っている。
(;・∀・)(けど、僕は…僕は…!)
( <(#´・_ゝ・`)モララー様!!
モララーの思考に割って入るように、デミタスが声を張り上げた。
691
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/12(水) 07:16:46 ID:zCJIX08Q0
(#´・_ゝ・`)お行きなさい!!貴方の時魔法は、誰かを救うための力!今すぐ飛べば道は在るはずです!貴方の友を、貴方自身を救う道が!
(;・∀・)デミタス…
(#´・_ゝ・`)貴方はいつものように私に仕事を押し付けてくれればいいのです!
('、`;川だってさ!4番隊なんだよ、私たち!ちょっとドックン達拾ってくるくらい今までの酷使に比べれば軽い軽い!
(;・∀・)まだ鉄針の厄災がドクオ達を追ってるんだ!君たちだけじゃ…!
('、`#川大丈夫ったら大丈夫なの!!
('、`;川私たちだけでも出来るから、みんなの所へ行ってあげて!たった一人だけで全部背負える人なんていないんだかんね!?
( ・∀・)わかった、僕は僕の成すべき事をするよ
( ・∀・)…死なないでね、君たち
('、`*川ごあんしん。んなヤワに出来てたら今日まで生きてこれないって!だって厄災の針ぶっ刺さっても元気に生きてんだよ、私!
(´・_ゝ・`)まったく…何やってるんですか、本当に
モララーの魔竜が、高く飛び去っていく。
デミタスとペニサスは顔を見合わせ、空へと叫んだ。
(´・_ゝ・`)モララー様!必ず…!
('、`*川隊長ーー!これ終わったらみんなでヴィップ観光行こーねーーー!!
692
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/12(水) 07:18:12 ID:zCJIX08Q0
4つの目が、こちらを見下ろす。
憎たらしく勝ち誇った瞳。
大きく黒い翼を広げ、羽根の一つ一つが赤く輝く。
(-@∀@)…まだ、僕はここでは死ねない
[1ФωФ]わ、我が闘志潰えず…
(,,゚Д゚)翼の付け根だ!一気に撃ち込め!ロマキングを守るんだよ!!
( ´_ゝ`)ヤツだって不死身じゃない。傷を蓄積させられれば、勝機はある
(#゚;;-゚)アサピエーラ!!
lw´‐ _‐ノv脚、出来たよん
(-@∀@)…聞こえてるよ、感謝する。行くぞ、ロマキング1号
693
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/12(水) 07:19:23 ID:zCJIX08Q0
拳を振り上げ、巨神が凶鳥へ殴りかかる。だが、凶鳥はそれを待っていたとばかりに無数の羽根を発射していく。
光波防壁を張るエネルギーは残されていない。この間合いでは、咄嗟にかわすことも防御する事も出来ない。
それでもアサピーは、凶鳥を叩き潰さんと迫る。
迫る。
迫る。
(-@∀@)!?
アサピーは目を見開いた。
厄災の羽根が空中で停止し、瞬く間に凍りついて行く。そしてロマキングは凍った地面に足を滑らせ、羽根を両腕で粉砕しながら凶鳥を押し倒す形で倒れ込んだ。
( ・∀・)ふう、間に合ったね…正直、騙し騙しってやつだがそういうのは得意な方なんだ
( ´∀`)むふふふ、綺麗にすっ転んだモナね!
(-@∀@)…!モララー、モナー……君たち……
694
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/12(水) 07:20:25 ID:zCJIX08Q0
(#-@∀@)……君たち!よくも僕の見せ場をズッコケにしてくれたな!!
( ´∀`)武器ほとんど残ってない癖に無茶すんなモナ
( ・∀・)よく頑張ってくれたよ、アサピー。ご褒美に見せ場はこっちでしっかり用意してやるよ
(#-@∀@)はァ!?
( ´∀`)モナ?
( ・∀・)…んふ。ショータイムだ。申し訳無いが厄災には喋ってる間停止いただこう
( ・∀・)ニコヤカ
モララーは魔竜の背中に立ち、大仰にマントを翻した。
695
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/12(水) 07:21:12 ID:zCJIX08Q0
( ・∀・)諸君!凶鳥の厄災の再生力は並ではない!巨神の力で押し込めはしたが、それでも決定的な一撃は与えられなかった!ならばどうするべきか!?
ミ,,゚Д゚彡…回復する暇なんて無いくらいに攻撃撃ち込むっきゃねえだろ
( ・∀・)ぶっぶ〜〜〜〜〜。フサギコ君、残念!
ミ,,゚Д゚彡イラァ………
(-@∀@)…自分が間違えたわけでもないのにイラつくな
(,,゚Д゚)いや、フサギコの考えは合っている
ミ,,゚Д゚彡へ?
(,,゚Д゚)…だが、倒しきるには我々は消耗が激しく火力が足りない。ですよね?
( ・∀・)そ。んでさあ、打撃じゃあ絶対に無理だから攻めたくても攻めきれない。でしょ?翠樹の大拳者
(´<_` )……まさしくその通り
( ´_ゝ`)今色々とウズウズして仕方ないもんなお前
(´<_` )黙ってろ
696
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/12(水) 07:22:25 ID:zCJIX08Q0
( ・∀・)さて、諸君。厄災を完全に討滅するためにロマキングを燃やしてしまおうじゃないか!
(-@∀@)……は?
| ^o^ |ひやくにおいつけない
( ・∀・)数百年前の旧ニチャン式魔法について知っているかな?肉体から放たれた言霊と魔力が合わさって発動する、歴史ある手法さ
( ´∀`)…………ああ、なるほど。そういうことモナね
(´<_` )…そうか、ソウサク人らしい
lw´‐ _‐ノvあーそういうことね完全に理解したわー
( ´_ゝ`)やっべ全然わかんねえけどそれっぽい空気出しとくか(フッ……なるほど、それも面白かろう)
(´<_` )古典的な手法を使うからってボケまで古臭くする必要はないんだぜ兄者
(-@∀@)…待て。待ってくれ、話と話が繋がらないんだが
[1ФωФ]我、その者の意図を理解せり
(;-@∀@)お前も!?
697
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/12(水) 07:24:07 ID:zCJIX08Q0
( ・∀・)所々砕けちゃあいるが、ロマキングの身体には多くのミスリルが使われてる。言ってみれば全身が魔力増幅器ってわけなのさ
m9( ・∀・)そしてアサピー!君の巨神達には発声機能があるだろう!?
(-@∀@)…そうか!分かったぞ、僕にも!ロマキングに魔法を使わせる、そういうことだな!?
( ・∀・)巨神級のスケールの魔法に周りからかき集めるありったけの魔力だ。あんな鳥一匹焼き殺すのはわけない
( ・∀・)ギコくん、アニジャさん、ディ。頼めるかい?
(,,゚Д゚)お任せください。ありったけの魔力をロマキングにぶつけます
( ´_ゝ`)心得た。託してやろう、ソウサクの大魔導師よ
ミ,,゚Д゚彡・・・・・・
(#゚;;-゚)……火属性は使えるな?
ミ,,゚Д゚彡使える、けど…
(#゚;;-゚)なら力を貸せ。全員で勝つために
ミ,,゚Д゚彡…しょうがねえな!俺様が必要ならそう言えっての!
(#゚;;-゚)…シベリアの住民と触れ合ってみて思ったが、やはり子供は扱いやすい
ミ#゚Д゚彡何ィ!!!????
(,,゚Д゚)・・・・・・
698
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/12(水) 07:25:28 ID:zCJIX08Q0
( ・∀・)さて、厄災が暴れ出すぞ!諸君、放て!
モララーの号令で放たれた火球を、巨神ロマキング1号が吸収していく。それぞれの魔力を糧に、乗っているアサピーの身体まで熱を帯びていくようだ。
突然の衝撃から開放され、距離を取った凶鳥の厄災はロマキングの異変に気付いて真っ直ぐに向かってくる。
(-@∀@)この暖かさ、ふふ…悪くない…!
(-@∀@)行けるぞ、モララー!呪文は!?
( ・∀・)…『ヨダメ・ラタデ』さ。やってごらん
(#-@∀@)よかろう、焼き尽くしてやるッ!ヨダメ…
[1ФωФ]ラタデぇぇぇーーーーーッ!!
突撃した凶鳥の厄災の視界を、真っ赤な業火が満たした。逃げる暇もなく、叫びはかき消され、羽根も、肉体も、塵も残さず、何もかもが炎の中へ飲み込まれる。
しぶとく魔法使い達を追い詰めた凶鳥の厄災は、その瞬間この世界から一切の痕跡を残さず消えた。
699
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/12(水) 07:26:30 ID:zCJIX08Q0
(-@∀@)……討滅確認
ミ,,゚Д゚彡これでも「まずは」の段階なのがろくでもねえな
(,,゚Д゚)まあ、勝ちは勝ちだ。あんなしつこい厄災がどんどん子供を増やしてシタラバ大陸の空を埋め尽くすかと思うとゾッとする
(,,゚Д゚)巨神が居てくれたからこその勝利か……
( ´∀`)あの勝ち方、いつ考えたモナ?
( ・∀・)…必死になって、なんとしてでも助けようってドラグーン飛ばして、アサピーがやられそうになるちょい前。何故だか急に昔のこと思い出してさ
( ´∀`)アサピーを罠にかけた日モナね
( ・∀・)ふふ。そういうこと
700
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/12(水) 07:27:28 ID:zCJIX08Q0
( ´ー`)しっかし『ヨダメ・ラタデ』ときたか…
lw´‐ _‐ノvアサピッピがノリの良い性格でよかったねモラちゃん
( ・∀・)そりゃまあ、『アサピーの性格を信じる』はこの戦法の大前提だからね。それでもし倒しきれなかったり気付かれてテンション下がっちゃったら危なかったけど
( ´∀`)あいつ昔から旧ニチャン語下手だったモナ
( ・∀・)それもあるね。まあなんだ、魔法は気からって言うじゃん?
( ´∀`)聞いたことも無いモナ
( ・∀・)フツーにシタラバ式魔法使わせるって説明してたら最高の意志の力は発揮できなかったしね。人はどうなるか分からない不確定な物にこそ賭けてみたくなるのさ
( ・∀・)ニコヤカ〜
701
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/12(水) 07:29:10 ID:zCJIX08Q0
モララーが得意げに笑う。
モナーがやれやれと肩をすくめながら、笑顔を見せる。
アサピーは巨神の操縦席の中で、一人ため息をつく。
爪痕を残そうとして、闇雲に戦い続けた自分の焦り。それを掻っ攫っていく鮮やかかつ一瞬の逆転劇、全てを即興で作り出したモララーの余裕。
誰よりも憧れ、唾棄し、追いつこうとし、打ちのめされてきた、真の天才の所業。
モララーを囲う、眩しい光。
(-@∀@)……見事だ、モーラ・モラール・マタリウス。君と同じ時代に生まれた事を僕は、僕は誇りに思うよ……でも
(-@∀@)見事過ぎて、気に入らないね…
アサピーの震えた声を、聞いた者は一人としていなかった。
続く
702
:
名無しさん
:2022/01/12(水) 13:47:41 ID:GCGIHmsw0
乙!
アサピーの気持ち考えると色々と辛くなってくるな
続きが楽しみ
703
:
名無しさん
:2022/01/12(水) 23:16:07 ID:LfJtwHBk0
乙!
704
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/21(金) 01:02:28 ID:RIPkZPH60
「あれ、奇跡の子は?」
「次の授業、見学だって」
「先生からも許されてるんでしょ?」
「だって特別だもん、奇跡の子は。私たちよりずっと凄いんだから」
( ´∀`)
( ´∀`)・・・・・・
·
705
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/21(金) 01:03:33 ID:RIPkZPH60
「奇跡の子!」
( ´∀`)?
廊下を一人歩いていると、陽気な笑い声が近づいてきた。
「なあなあ奇跡の子。お前、強いんだろ?ちょっとこいつと勝負してみないか?」
ぞろぞろと上級生が集まって馬鹿にしたように笑いかける。ぼんやりとした表情のまま、無言で佇んでいる少年の姿に、リーダーらしき男は口を歪めた。
「さすが奇跡の子だな。相手にする価値もないとさ」
( ´∀`)
「な、なんだよ」
少年はてこてこと小さな足を進めて、上級生のリーダー格らしき男を見上げて言ってみせた。
( ´∀`)おれはモナー・マエモゼムだよ
「あ?」
( ´∀`)だからさ
( ´∀`)おれのなまえ。モナー・マエモゼムっていうんだよ
( ´∀`)ちゃんとおぼえてよ
706
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/21(金) 01:05:11 ID:RIPkZPH60
両手を組んで、モナーはぶるぶると身体を震わせた。
トレーに乗ったスープは火竜の骨を20時間煮たもので、甘党なら見ただけでも失神しそうな瘴気を放っている。
そんな完食する頃には大汗をかいていそうなものばかりの昼食をモナーはテーブルに置いたが、あいにく周りの人間はそんなメニューを好き好んで頼まない。
むしろ他の誰かがそれを食べている姿を見るだけで気が滅入る、といった表情だ。
( ・∀・)…キミ、ホント好きだよね。熱くて辛いの
こめかみの辺りを抑えながら、モーラ・モラール・マタリウスが後ろから話しかけた。
( ´∀`)だって寒いモナ
( ・∀・)あのね、モナー。夏だよ?
( ´∀`)別に夏だからって好きなもん食べちゃいけない決まりなんて無いモナ
( ・∀・)いや、うん。自由は尊重されるべきさ、それはそうなんだがね。量と絵面が問題なんだよな
( ´∀`)だって寒いモナ
( ・∀・)ナンギな体質だなあ
空色の瞳、雪のような白い肌。
長袖の服を2着重ねその上に多量のミスリルを嵌め込んだプロテクターをつけ、それでも汗ひとつかかないモナーの姿とは対照的に、他の生徒達は半袖で動きやすい格好だ。客観的に見てどちらがおかしいのかは誰の目にも明らかだった。
窓の外で入道雲も笑っている。
もはや野次馬も集らぬ見慣れた光景だったが、それでもモララーは呆れずにはいられなかった。
707
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/21(金) 01:05:53 ID:RIPkZPH60
( ・∀・)座っていいかい
( ´∀`)別にモナの許可なんていらんモナ
( ・∀・)そうだね、僕らの仲だ。アサピーも一緒に食べるだろ?
振り返ったモララーに声をかけられた“失神しそうな甘党”は、不機嫌そうに口を歪めた。
(-@∀@)誰が。こんな周囲より気温の上昇してそうな場所に好き好んで同席する奴はよっぽどのバカだね
アサピーの抱えた矛盾はいつもどこか滑稽なものだった。モララーは「ハイハイ」と慣れた様子で腰掛け、そんな頭のいい人間様が何故問う前から自分たちの座るテーブルに来ていたのかとモナーはにやけた。
(-@∀@)…ふん。感謝したまえ、モナー・マエモゼム。天才の、そう…て・ん・さ・いの!この僕がわざわざおバカで幼稚なキミ達に付き合ってやるんだからな
( ´∀`)モッシャモッシャ
( ・∀・)やれやれ…なんなら魔法で冷気でも放ってくれないかな
( ´∀`)やっても良いけど食堂全部氷漬けになるモナ
(-@∀@)おい、無視するなよ
( ・∀・)モッシャモッシャ
708
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/21(金) 01:07:05 ID:RIPkZPH60
(-@∀@)聞いたかい?1週間後に大魔導師がアカデミーに来るって噂…
( ・∀・)キョーミないね
( ´∀`)モッシャモッシャ
(-@∀@)ま、わからんでもない。僕も当確だからな
アサピーが自信たっぷりに人差し指で眼鏡の縁を押し上げる。事実、彼の天才ぶりは自惚れではない。多少戦闘の才に欠ける事を除けば、非常に成績優秀な生徒である。
( ・∀・)そう都合良くいくかな。去年の僕らはフィレンクトのおじさんに保留を食らっただろ、よくて来年じゃないかい?
(-@∀@)あんな見るからに冴えない目の曇った人間の評価などさしたる問題じゃないさ
バナナオレをストローで吸いつつ、アサピーは適当に聞き流した。強がりというより本気でフィレンクト・シェフェルトンからの評価は気にしていない様子だ。
( ´∀`)才能うんぬんの前に10歳を戦場に出す事に難色示したんだと思うモナ
( ・∀・)違いない。シィ・ニャイッキーは10歳で卒業したがね
709
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/21(金) 01:07:45 ID:RIPkZPH60
(-@∀@)そう、今度来るのはそのシィ様だ。19歳にして魔法局序列1位の大天才!
(-@∀@)ふふふふ…彼女ならきっと僕らの才能を分かってくれるはずさ!
テンションが最高潮に達し立ち上がって高笑いを始めたアサピーを見ながら、この男と話していると嫌でも涼しげな顔にさせられるなと二人は思った。
バカはお利口さんよりも強し。そんな言葉がよく似合う自己肯定感に溢れた姿がモララーとモナーは好きだった。密かに尊敬してしまうほど。
( ´∀`)…でもモナはまだ9歳モナ
( ・∀・)たとえ残ったとしてもたった1年弱だろ?そんな心配はいらないさ。すぐにまた一緒に居られるよ、モナー・マエモゼムなら
( ´∀`)
(-@∀@)ふむ、シィ・ニャイッキーの最短卒業記録が破られる可能性もあるな。それでは困る、僕の偉業が霞むじゃないか
ぽそりと呟いたモナーに耳を傾けた二人の微笑みはよく似ているようで、どこかずれていた。
( ´∀`)モナは3人一緒がいいモナ
710
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/21(金) 01:08:51 ID:RIPkZPH60
( ・∀・)1週間か…そんでスカウトされたら次の日即魔法局だろ?急な話だよねー。別にアサピーの早とちりで終わってもそれはそれで構わないんだけどさ
(-@∀@)早とちりなもんか。昨年声をかけられた時点でコースは定められたようなものだろう?
(-@∀@)まあ、魔法局へと進むための切符をいち早く手にしたのが僕一人だけじゃなかった事は残念だがね!黄金世代なんて名乗れるのも天才であるこの僕の輝きのおかげだということを忘れるなよ君たち!はーーーーっはっはっはっはっ!
( ´∀`)おもしろ
( ・∀・)まったく疲れるヤツだよ
( ´∀`)モララーは行くモナか
( ・∀・)魔法局へかい?ふむ…
物憂げな様子でモララーは頬杖をつき、窓の外を見た。
711
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/21(金) 01:10:31 ID:RIPkZPH60
( ・∀・)道が用意されているなら素直に進むだろうな。これからの学費も必要無くなるし、母さんも楽ができるさ
( ´∀`)モナはモララーの話を聞いてるモナ
モナーはまっすぐにその瞳を見た。
モララーの相手を遠ざけるような誤魔化しが、初対面からモナーはあまり好きでは無かった。
彼はよく独りの世界に閉じこもる癖がある。優しげな顔をしながら、時たまどうしようもない拒絶を漏らすことがある。
その世界の景色を「逃げ場」とは感じていない、むしろ嫌悪して抜け出そうとするモナーからすればそれはとても面白くない事だった。
( ・∀・)敵わないな、その目。まったく…
( ´∀`)行きたいモナ?
( ・∀・)うん…正直に言うよ。ベタな選択肢だけど、憧れが無いって言ったらウソになる。僕だって魔法局に行けば、もっと自分の可能性が開けると思うんだ
( ´∀`)
( ´∀`)変われるといいモナね
( ・∀・)ああ。ま、決まる前から浮かれ騒ぐほどじゃないけど期待に胸が躍ってはいるよ
712
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/21(金) 01:11:03 ID:RIPkZPH60
(-@∀@)はーーーーっはっはっは……ん?何か言ったかね?
( ´∀`)なんでもねえよバカ
(#-@∀@)ば、馬鹿だと!?言うに事欠いてモナー!!君は天才たるこの僕を!馬鹿と言ったのかい!!?
( ´∀`)面倒だから2度目は言わんモナ
Iд川(………一週間後)
川д川(一週間後までに、伝えないと……)
713
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/21(金) 01:12:04 ID:RIPkZPH60
(-@∀@)ぶわはははははははーーっ!!
( ・∀・)サイテーだぞ今のおまえ
下品な声をあげてアサピーは屋上で笑い転げた。その手には花柄の白い便箋が握られている。
パンをかじりながらモララーはそれを奪い返すと、呆れた目でアサピーを一瞥し、同じ目つきで便箋に視線を移し、今度は軽蔑を含みつつアサピーを見た。
( ・∀・)『あなたが好きです。静かだけれどとても暖かい、太陽のようなその佇まい。いつも何より一番深い所を見つめていたその眼差し。他の誰にも見えないものが、あなたの瞳には映っていた』
(-@∀@)ヒィ…!!アハハハ、ハハハハハ…!!
淡々と読み上げるモララー、狂ったように笑い続けるアサピー。それを聞きながらモナーは静かにかぶりを振った。
714
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/21(金) 01:12:39 ID:RIPkZPH60
( ・∀・)『他の幼稚で下品な男の子とはまるで違う、』
( ・∀・)チラッ
(-@∀@)ひーっ、ひーっ…!!おなかいたい、おなかいたい…!!
( ・∀・)…『ぶれることのない自分だけの確固たる世界を持っている、透明で、純粋で、澱みのない水晶のような双眸の男の子。叶うならばその爛々と輝く真実の鏡の中に私の姿を映して欲しいと、いつもため息を漏らしてしまいます』
( ・∀・)長いなあこれ…5枚くらい続いてる。かいつまんでラストあたりから行こう
( ・∀・)『…そんな広くて自由な世界が私にも欲しいと、あなたと出会って初めてそう思えたのです。あなたの事を考えるだけで胸がはち切れそうになります。けれどあなたがこのアカデミーから去ると聞き、ちっぽけな勇気を振り絞ってこの手紙を書きました。明日の放課後、校舎裏で待っています』
( ・∀・)…『モナー・マエモゼムくんへ』
(-@∀@)だははははははははははははははは!!!!!!!透明で、純粋で、水晶ォ!?これが!?ははははははは!!
( ・∀・)…こんな笑われて悔しくないのかキミは
( ´∀`)だってそれ同姓同名の他人宛モナ
( ・∀・)君たちなあ。僕だってこの一節一節に共感したり納得してるわけじゃないが、それにしたってひどすぎるよ
715
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/21(金) 01:14:32 ID:RIPkZPH60
( ・∀・)健気じゃないか。想いを秘め続けるのをやめて、キミを繋ぎ止めようと、触れようとしてくれてるんだぜ?なかなか居ないぞそんな奴は
( ´∀`)でも大魔導師にスカウトされたら嫌でも離れることになるモナ
(-@∀@)はぁ…はぁ…はは。うん、良いと思うよ僕は、美しい文だと思う。だがその想いを向ける対象がな
口元に手を当てながらアサピーが言う。
普段から小馬鹿にしたりされたりを繰り返している彼にしてみれば綴られた文章とモナモナ言う本人を重ね合わせると可笑しく感じるのもわからなくもないが。
ちょっとツボに入りすぎだろうと二人は呆れた。
( ´∀`)モナもこのモナー・マエモゼムなる人物に会ってみたいモナ
寝転がったまま、モナーがこともなげに言う。
長く息を吐いてモララーは鋭く目を細めた。
( ・∀・)あのな。アカデミーを卒業するのだって普通は18歳なんだぞ?キミは気楽かもしれないけど、彼女にとっては数年モノの別離なんだ
( ´∀`)モナの苦手なタイプは眼鏡の女の子とコンタクトの女の子と裸眼の女の子と目隠れの女の子モナ
(-@∀@)そんなんでどうやって生きてくつもりだキミは
( ・∀・)やれやれ。「面倒」の4文字をこれだけまどろっこしく言うかね、フツー?
( ´∀`)モニャ〜
716
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/21(金) 01:16:57 ID:RIPkZPH60
( ・∀・)なんでそう嫌がるのさ。君を好いてくれてるのに
( ´∀`)理由はいろいろあるモナ
( ´∀`)ひとつ。その手紙、4回くらい“奇跡の子”ってワード使われてるモナ
( ´∀`)ひとつ。そもそも相手から名乗らない時点でモナが望むような付き合い方はできんモナ
(-@∀@)それは恥じらいってやつさ。あえて一日置くのも自分の気持ちを落ち着かせるためだろうね
( ´∀`)そんな子の都合の良い幻想に合わせてやる気なんて起きんモナ
( ・∀・)一度くらい歩み寄ってやりなよ。彼女なりの一歩なんだからさ
( ´∀`)逆に聞くけどなんでそんな必死にモナとその子の世話焼くモナ?
( ・∀・)キミがいつか僕にそうしたからさ
( ´∀`)むう。それ言われたら弱いモナ
717
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/21(金) 01:17:31 ID:RIPkZPH60
( ・∀・)愛の天使モーラ・モラール・マタリウス。悪かないだろ?
目を閉じ、両手をぱたぱたと揺らして舞い降りる天使のポーズをとる。確かにモララーの見た目なら天使だと言われてもそう違和感は無いが、動きがどうも間抜けだ。
( ´∀`)天使様、お節介焼く前にその弓矢で自分の恋人探せモナ
( ・∀・)ふふ。もし明日すっぽかしたら僕がぶつからな!
(-@∀@)僕もキミの頬をぶとう、モナー。君は今この僕より女の子にモテているというのにそれを面倒がるなど我慢ならないからね!
( ´∀`)やっぱ面白がってるモナね?
(-@∀@)なかなかこういう立場に回れる事がないからなんてそんな事あるわけないだろう、なあ?
( ・∀・)なー?
意地の悪い先輩達のコンビネーションにモナーは苦笑いを浮かべた。
718
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/21(金) 01:19:13 ID:RIPkZPH60
『救出の魔法使いたちのようです』
その15
『薄氷の上のぼくら』
719
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/21(金) 01:23:13 ID:RIPkZPH60
雨がざあざあと降りしきる。慌てて箒を飛ばす生徒たちの姿が空に浮かんでいる。
誰もが通り雨だと思っていたが、意外に長引くもので鬱々とした黒い雲がアカデミーを覆っている。
(-@∀@)モナーは?
( ・∀・)教室や下校する連中の中を探したけどいなかった。案外差出人にはハッピーエンドが用意されてるかもね
ハハハ、と笑うモララーの後ろでアサピーは顎に指を当てて考え込んだ。
(-@∀@)だがなあ、モナーだぞ?手紙をあんなに面倒がってたモナーだぞ?
( ・∀・)この雨で相手が日を改めて告白しようと諦めたとしても、それでもずぶ濡れで待ち続けてるだろうね。文句言うためだけに
(-@∀@)そして翌日意を決して現れた彼女へニコニコしながらさらに文句を言うわけだ。むごい話だよ
( ・∀・)…『校舎裏で待っています』とは書いてたが、ウチ旧校舎もあるよね?
(-@∀@)差出人も気付いて頭抱えてるかもな
720
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/21(金) 01:23:53 ID:RIPkZPH60
脚が「もう回れ右して帰ろう」と語りかけてきたような気がした。傘もささずに長いこと待ち続けて頭がぼーっとしてきたのだろうか。
乗り気じゃあなかった。
むしろ生まれて初めて知ったレベルの強い苛立ちを感じたほどだった。
けれどここまで来たら何かしらの文句を言ってやらないと、濡れた甲斐が無い。
そんな美しい9歳の少年はこの世に存在しないこと。
モナー・マエモゼムはある一点を除けば、みんなと同じ普通の男の子で、その瞳は透明な水晶でもなければそう純粋でもないこと。
極端な美化や理想化が身動きを取れなくして、ずっとモナーを独りにしてきたこと。
モナーにとっての世界は誰もが同じ時間の中に存在しているこの色鮮やかな景色ただ一つで、自分だけの世界なんてものはむしろ捨ててしまいたいものだということ。
ばっさりと切り捨て、雨と差出人とモララーとアサピーに打たれてやるつもりだったのに、待てども待てども来る気配はない。
( ´∀`)…寒いモナ
額に落ちた雨粒が頬を伝って首筋に流れていく。
癖毛の髪型がひどく濡れてぺたりとまっすぐになっている。
いつも以上に身体が冷えきっていた。
この寒さは苦手だった。頭から爪先から、全ての冷気がせり上がって心臓に到達してしまいそうな。
寒いのはさみしいから嫌いだ。
こんな風に濡れなくても、元からそうだったかもしれない。それはそれで余計に嫌だなとモナーはゆっくり目を閉じて思った。
721
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/21(金) 01:24:42 ID:RIPkZPH60
( ´∀`)…モナ?
ふいに頭上の雨が止んでモナーが顔を上げると、白い傘を持った少女が立っていた。
鉛色の空に顔の上半分まで覆う長い黒髪、真っ白なとんがり帽子と肌のコントラスト。同じ年齢の子よりは少々高い方の背丈、胸ポケットに挿した銀色の薔薇。
いかにも内気そうな、幸薄そうな雰囲気。一目でこの少女が手紙の差出人だとモナーはわかった。
川;д川あ、あの…ごめんなさい!
( ´∀`)
少女は傘を持った手をまっすぐに伸ばしたままぺこりと頭を下げ、前兆の無い動作に呆気にとられたモナーは魚のようにぱくぱくと口を開けてしまった。
川;д川一旦家に戻って傘を二つ持って来たんです!きっとモナー君傘を用意してないだろうから…!
( ´∀`)…見ればわかるモナ
出鼻をくじかれた、とモナーは思った。
内気そうだなんてとんでもない。一撃で昏倒させられるようなパワーがこの少女にはある。それも無自覚に発現するものだ。
事実、待っている間につらつらと並べ立てた言葉はモナーの頭から何処かへ消え去ってしまった。打算を滲ませないまっすぐな真心故に、なおさらペースを掴みかねてしまう。
722
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/21(金) 01:25:40 ID:RIPkZPH60
川д川モナー君…手紙、読んでくれましたか?
( ´∀`)じゃなきゃここに居ないモナ
( ´∀`)君だってモナが来なくても二つ傘持ってここで待ってるつもりだったモナ
( ´∀`)そういう信頼は嫌いじゃないモナ
少女の顔がわずかにほころんだように見えた。
それを見てモナーも、少し、ほんの少しだけ自然に笑えた。
川д川モナー君!
( ´∀`)待った
決然とした声に被せるようにモナーが制した。
内心、動揺を残してはいたがもともと相手がどんな人間であれ、自分の答えははっきりしていたのだ。
( ´∀`)君はモナのことを知らんモナ。モナは君の名前すら知らんモナ
( ´∀`)互いにフェアな条件じゃなきゃ契約は交わせんモナ
723
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/21(金) 01:26:23 ID:RIPkZPH60
「それ、やめとけって」と聞き慣れた声が雨音にまぎれて響いた気がした。ある程度対等である関係は9歳の少年の中で形成されてきた絶対の価値観だった。
川д川あ、あの…
( ´∀`)だから今日は一緒に帰るだけモナ
申し訳無さそうに頭を下げた少女の手を握りモナーははにかんだ。
川д川わ、私…サダコ・イーベル・シェフェルトンと言います
( ´∀`)ありがとう。モナはモナー・マエモゼムモナ
724
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/21(金) 01:28:05 ID:RIPkZPH60
サダコ・イーベル・シェフェルトンはこの天気が好きだ。
大きくこうもり傘を開いて歩けば、すれ違う人の顔を気にする事も無い。サダコには人の視線は雨より痛かった。
傘の縁からぽたぽた落ちる水滴を見るのも楽しかった。
好き好んで大雨の中を散歩する人はあまり居ないかもしれないけど、サダコにとってこの天気は久しぶりの絶好の散歩日和と言えた。
ただ、その日の帰り道だけは違った。
傘の下から見える世界にモナーが居る。
時に笑いあい、時にむっとしたり。色々な事を話した。自分の魔法、好きな色、食べ物、音楽、得意なこと、趣味、いろいろ。
歳の近い人と話すことがあまり上手ではないサダコでも、音楽に合わせ相手の手を取って踊るようにすらすらと言葉を紡ぐことができた。
隣で心地よい雨音を共有する存在が居ること。
それはとても幸福で、天にも昇るような心地だった。
( ´∀`)へー、同い年だったモナか
川д川ええ。でもあまりそんな気はしないでしょう?
見た目や背丈じゃなく、性格や魔法使いとしての実力の事を言いたいのだとモナーは察した。
確かに少し頼りなさげな印象は受けるが、しばらく話してみて分かった事もある。
( ´∀`)そんなことないモナ
川д川…そうですか?
( ´∀`)サダコは思ったよりはっきり物事言うし、芯があるモナ
725
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/21(金) 01:28:33 ID:RIPkZPH60
他人の嘘を見抜くのに長けているモナーでも、話していてあまり違和感を覚えない人物は久しぶりだった。
なまじアサピエーラ・ガデライトのように「バカ」のカテゴリーに入らない、まっさらな人。
そうでない人間が好きじゃないわけではないが、モナーの世界を染める色の中ではまったく新しい色だった。
川ー川それは…きっとこの銀色の薔薇のおかげです、これが私に勇気をくれるから…
愛おしそうにサダコが胸に手を当てる。
( ´∀`)モニャ?
川ー川これをつけている時、私は自分の想いにとても正直になれる気がするんです。美しく、高潔で…茎まで銀色で、どこか信念すら感じさせるような花。誰かによく似てる気がして
( ´∀`)
( ´∀`)誰モナかね〜
川д川ふふっ、誰でしょうか…
726
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/21(金) 01:29:27 ID:RIPkZPH60
「「サダコ・イーベル・シェフェルトン〜!!!?」」
翌日、モララーとアサピーは顔を見合わせ声をあげた。
(;・∀・)ぼ、ボリュームには気をつけようアサピー
(;-@∀@)君こそ廊下で大きな声を上げるんじゃない!他人の色恋沙汰だぞ!?
( ´∀`)そんな驚くことモナか?
深々と考え込む二人にモナーはのほほんと返した。
(;・∀・)ん〜…いや、それほどかと言われればそうでもないんだが…ん〜…お似合いと言えばお似合いだけど…
( ´∀`)モニャ?
(-@∀@)なんというか、まだはかりかねているんだよ。君の未来を祝福したものか…
( ´∀`)非モテのひがみじゃなさそうモナね。なんかあるモナ?
727
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/21(金) 01:30:46 ID:RIPkZPH60
( ・∀・)いいかい?サダコは闇の大魔導師、フィレンクト・シェフェルトンの娘なんだ。数十年ぶりに産まれた闇属性の子、その上長い長いソウサクの歴史でも初めての特殊属性が遺伝した例なんだよ
( ´∀`)へー。そういえば昨日闇属性が得意って言ってたモナね
(;-@∀@)き、君…気がつかなかったのか?本当に?
( ´∀`)モナはサダコを知りたいモナ。サダコの血統にはあんまし興味ないモナ
(;-@∀@)君ってやつは…鋭い癖にどっかとぼけた奴だとは思っていたが…ここまで不甲斐ない脳みそをしていたか…?
自分の事のように深刻な表情でアサピーは頭を抱えうんうんと唸ってしまった。
( ・∀・)そういう割り切り良いとこ、ある意味尊敬するがね。彼女も産まれに振り回されてるクチだよ
( ´∀`)モナ…
728
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/21(金) 01:31:49 ID:RIPkZPH60
(-@∀@)適性は闇で固定。僕には及ばないにしろそれだけでも天才と呼ばれるには充分だが…彼女には魔力が足りないんだ。本人の闘争心の無さというかな…比較的攻撃に特化した闇属性では致命的と言っていい
( ・∀・)アカデミーを卒業してからは魔法局に行かず実家の花屋を継ぐだろうと噂も立ってる。彼女をよく知る人は喜んでその背中を押すだろう。だが、「フィレンクトの娘」という肩書きは降ろせない
( ´∀`)
( ・∀・)…何も知らないくせに好き放題に言うヤツが、山程いたんだろうな
( ´∀`)
( ・∀・)……やな話だよね
729
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/21(金) 01:33:02 ID:RIPkZPH60
( ・∀・)うーん…憶測なんだが、フィレンクトのおじさんは彼女をそういう世界から遠ざけたかったんじゃないかな。そうでなくとも将来的には戦場に出させることになるし…
( ・∀・)だから親として最初はアカデミーには入れようとしなかった。2年前にここへ入学してきたってことは、彼女自身がそういう道を選んだってことだけど…
( ´∀`)
( ・∀・)ウンとかスンとか言えよ
( ´∀`)ウン スン
( ・∀・)キミなあ…
( ´∀`)…きっと親でも勝手に自分の世界を狭める存在が我慢ならなかっただけの話モナ
( ´∀`)娘として生まれた事を誇りに思えるような尊敬できる親なら、なおさら
( ´∀`)じゃなきゃあんなに楽しそうに自分の魔法の話はしないモナ
( ・∀・)・・・・・・
730
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/21(金) 01:34:26 ID:RIPkZPH60
(-@∀@)ともかくだ、本人の気持ちがどうあれ今のままではキミとサダコ・イーベル・シェフェルトンは別れてしまう運命にある。実力が違うんだ
(-@∀@)キミが特例卒業を一旦蹴ればどうとでもなるんだろうが…そういうわけにもいかんだろうね。キミは僕と同じ天才なのだから!はーーーーっはっはっはっ!
( ´∀`)はァ〜〜〜〜。今それ心底どうでもいいモナ
( ・∀・)みんなで一緒に行けばいいんじゃないかな。だって父親が大魔導師なんだしちょっとお願いすれ
( ´∀`)サダコはそんなヤツじゃないモナ
( ・∀・)…ごめん。失言だった
( ´∀`)サダコもモララーと同じ、モナととっても近くて遠いヤツモナ
( ´∀`)モナの世界の中の誰より不思議な絵の具モナ
(-@∀@)…なんというか君の人生は、独創的な絵を思い描いてるんだな。一度見てみたいよ
( ´∀`)変な色の絵の具の代表がなんかいってら
(#-@∀@)にゃにおう!!!????
731
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/21(金) 01:35:19 ID:RIPkZPH60
( ´∀`)むふ。やだな〜〜褒め言葉モナよ〜
(#-@∀@)僕はほのかに悪意を感じたんだがね?
( ´∀`)モナモナ
( ´∀`)…むふ、むふふ、むふふふふ!モララーも、アサピーも、サダコも!みんな色とりどりモナ!契約した甲斐があったモナ!
( ・∀・)契約うんぬんってまーだ言ってたのか……
(-@∀@)契約?何の話だね?
(;・∀・)…ん?待て、ちょっと待て。モナー、キミ…サダコへの返事にも僕に言ったそれと同じようなこと言ったか?
( ´∀`)言ったモナ
(;・∀・)…………あのなあ〜〜〜。お前さあ……ほんっと………おまえ…………
( ´∀`)モナモナ
( ・∀・)どこの世界にあなたが好きですって言われて契約がどうだの代償がどうだの悪魔みたいな返しで応えるヤツがいるんだよ…………
( ´∀`)モニャ〜
モララーは額に手を当てて、大きくため息を吐いた。
732
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/21(金) 01:37:26 ID:RIPkZPH60
花屋と聞いて「今どきか」とモナーは思わないでもなかった。土の魔法に長けた人間ならその場で手からポンと花の一輪くらい出せる時代で花屋。
あまりそういった店に足を運んだ経験のないモナーにとって、それは想像もつかない世界だった。
繁盛するものなのだろうか?どんな雰囲気なんだろう?そんな事を考えていたら、授業なんてあっという間に過ぎていった。
一応モララーに花屋とはどんな所かとそれとなく聞いてみたが、彼はにやつきながら
( ・∀・)そりゃあキミ、花を売る所だろ
なんて求めていない答えを返すだけだった。
うきうきとした様子で、箒に乗った男が花束を抱えてすぐ横を駆けて行く。何か一世一代の勝負が彼にはあるのだろう。
だったら散らさぬようにスピードを落としたらどうかとも思ったが、モナーが注意する暇もなくその背中は過ぎ去って行った。
( ´∀`)プロポーズする時ハゲた花束渡す気モナか、あれ…
733
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/21(金) 01:38:49 ID:RIPkZPH60
遠目に見ていても、なんとなく繁盛する理由はよくわかった。
名前を特に知らないモナーでも、陳列されているそれが春、夏、秋、冬の花であることは分かった。魔力で枯れない加工でもしているのだろうか?2階建てで屋上はカフェになっているようだ。
憩いの場としての側面が大きいのだろう。確かにここでしばらく過ごしていたら、自分も「ちょっと買ってみてもいいかな」なんて思ってしまうかもしれない。
店からすぐ出た所ではサダコが子供達を集めて影絵劇を披露している。胸に挿した銀色の薔薇が、なんだかモナーにはこそばゆかった。
( ´∀`)攻撃特化なんてアサピーはとんだ知ったかぶり野郎モナ
( ´∀`)特殊属性でもああいう生き方はできるモナ
( ´∀`)…あ。あー…………そっか
なんとなく、ほんの一瞬、頭をよぎったそれが、モナーにとって初めて得た温かいものだった。
出会った時にほんの僅かに感じたその想いが、言葉になってモナーの頭の中に現れた。
綺麗だ。
そう感じて思わず微笑んでしまう時点で、もう勝敗は決まったようなものなのだろう。
そんな柄にもなく浮ついた自分がどうしようもなく面白く感じるのだから、きっとモララーやアサピーが今の自分の表情を見たら爆笑するのだろう。
( ´∀`)…それも悪くないモナ
少し頭を掻いて、人懐っこい笑みでモナーはしばらくサダコを眺めていた。
734
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/21(金) 01:39:48 ID:RIPkZPH60
( ´∀`)こんにちはモナ
川ー川モナー君。遠くで何かこそこそしてるからいつ来るのかなって思いましたよ
( ´∀`)バレてたモナか
川ー川ふふ。わかりますよ、モナー君の気配くらい。この薔薇が教えてくれますから
その声に一瞬の間を置いてモナーはサダコから視線を転じ、陳列されている花々を見た。
( ´∀`)売り物じゃないモナね、それ
川д川ええ。私の花…私の、大切な友達です
( ´∀`)
この花は彼女にとってどれほど大きな存在なのだろう。今もその姿は自分と重ねられているのだろうか。
花に嫉妬するのも馬鹿らしい話だとモナーはしばらくぼうっと店内を眺めた。
735
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/21(金) 01:40:34 ID:RIPkZPH60
ほどなくしてモナーは屋上のカフェへ通された。林檎のジュースを持ってきた従業員の女性が、何か嬉しそうに「ごゆっくり」とウインクしていたので母親か姉かは判断しかねるものの軽く会釈を返しておいた。
中央にそびえる大樹を囲むように配置されたテーブル。自然を感じながらくつろぐための空間なのだろうと理解はしたが、夕焼けに染まる葉は癒やしと言うよりはなんだか物悲しいものがある。
初めて訪れた花屋の感想だとか、少し気になった花の説明だとか、他愛ない話でひとしきり盛り上がった後。
話題が途切れたほんの少しの間に、思いきって切り出すようにサダコが顔を上げた。
川д川…もう明日なんですね
( ´∀`)モニャ?
川д川ほら、大魔導師様が来る日。モナー君は魔法局へ行くんでしょう?
( ´∀`)あんまし行くとは考えてないモナ。声をかけられるかもわからんし…モナはまだ9歳だし、まだ経験不足な面も否めないモナ。だから残るつもりモナ
川ー川嘘。モナー君、行く気なんですよね
憮然とした表情のモナーをサダコがじっと見据えた。
思うように言葉が繋げず、モナーは目を伏せて押し黙った。そんなことは初めてだったし、嘘を見抜くことはあっても見抜かれる経験は無かったモナーにとって痛烈な一撃だった。
736
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/21(金) 01:42:22 ID:RIPkZPH60
( ´∀`)…なんで嘘だとわかるモナ?
川д川え?だってモナー君、わかりやすいし…無意識かもしれないけど、結構嘘ついたり誤魔化す時はサイン出してますよ?
川д川今の話だと「もにゃ〜」とか適当なこと言ったり
( ´∀`)金輪際言わんモナ
川;д川えっどうして 私結構かわいくて好きですよそれ
( ´∀`)言わん
川ー川…うれしかったですよ、残るつもりだって言ってくれたの
川д川でも私、負けませんから。あなたにも、自分にも
( ´∀`)…がんばれ
こうやって顔を合わせて話すことで、自分の事を見抜けるようになったのだろうか。
それともあのラブレターを綴った時から彼女は自分の姿を捉えていたのだろうか。
サダコと話をするようになってからは、「初めて」に戸惑う事が多い。
心臓が熱くなったり、冷たくなったり。その先が喜びであれ悲しみであれ人それぞれだが、誰でも最初は“落ちていくもの”なのだと説いた母の言葉をなんとなくモナーは思い出した。
そう言われると、今の自分は靴も履かずに真っ逆さまと表現するべきだろうか。
その目に映った自分の知らない世界は燃えるように真っ赤で、どこかいつもと違う寂しさを滲ませていた。
737
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/21(金) 01:43:16 ID:RIPkZPH60
(‘_L’)…今の君の実力なら、シィくんを凌ぐ天才足り得るかもしれんな。雪のように柔らかく、氷柱のように鋭い君の目は充分に戦士の目をしている
(‘_L’)歓迎するよ、モナー・マエモゼム君
( ´∀`)光栄ですモナ
フィレンクトががっしりとした手をモナーの肩に置いた。
なるべく平静を装ったが、190センチを越すフィレンクトの巨躯は学年イチの低身長のモナーには「でかくて黒くて何か顔みたいなのがある面白い木が何か優しく語りかけている」としか思えず、あまりの身長差のせいで思わずこみ上げてくる笑いを堪えるのに苦労した。
(‘_L’)…次、サダコ・イーベル。前へ
川д川はい…!
堂々とした足取りでサダコが前へ出た。その姿にモナーは、まっすぐな期待の眼差しを向けた。
738
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/21(金) 01:44:17 ID:RIPkZPH60
目の前にはただ一人を追い、ただ一人を求めて、ほんの僅かな時間の中で勇気をその手に掴んだ少女の姿がある。フィレンクトはしばらく家に戻っていない間に何があったのだろうと冷や汗を浮かべたが、すぐさま大魔導師としての顔へ戻そうと眉を寄せた。
川д川…フィレンクト・シェフェルトン
(‘_L’)何だね、サダコ・イーベル?始めるなら早く…
川д川私、魔法局へ行きます
サダコの足元から無数の影が伸びた。芸術的な影絵芝居だろうと周りの人間は予想したが、モナーとフィレンクトは違った。
影たちは空を踊り、太陽の光に当てられても消えることなく、高く、高く伸び続けた。その一本一本の線が重なった時、フィレンクトは後ずさった。
(;‘_L’)腕……!?
影で出来た巨大な腕が、猛烈な勢いでフィレンクトに向かって襲いかかった。
咄嗟にフィレンクトはそれを躱し、「それまで」と制止の声を上げた。
しかしサダコは影を、いや、手を天へと伸ばし続けた。太陽を掴もうとするかのように、もっと高く、もっと前へ!
川д川……と、れた、わた、し……の………
(;‘_L’)サダコっ!!
(;´∀`)…!
ぷっつりと糸が切れたように、そのままサダコの身体は地面へと倒れてしまった。
739
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/21(金) 01:45:38 ID:RIPkZPH60
3番隊の隊舎で、氷の大魔導師モナー・マエモゼム18歳は黒い花の形のブローチを握りしめていた。
自分の隊長としての日々が今日ここから始まるのだと。
心臓が高鳴り、柄にもなくそわそわとしてしまう。髪は決まっているかな、ボタンのかけ間違いなんてしてないよな、マントに着られている感じはしてないかな。早く来ないかな、早く来ないかなと。
足音が聞こえる。モナーは誰にともなく咳払いをして、立ち上がった。
( ・∀・)よ
( ´∀`)お前かよモナ
ほとんど落胆していない、というかすでに予想していたような口ぶりでモナーは再び腰掛けた。
( ・∀・)だって僕んとこも出来たてホヤホヤなんだよ。ヒマなの
( ・∀・)それにさ。数年ぶりの友人に会うんだぜ?喜ばしい場には同席したくなっちゃうのさ。ほら
モララーが柔和な笑みを浮かべてドアを指差す。
トン、トン、と間を置いて響くノックの音。
モナーは再び立ち上がった。
740
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/21(金) 01:46:46 ID:RIPkZPH60
(-@∀@)やあ、失礼するよモナー
( ´∀`)ペッ
モナーが吐きかけた唾をアサピーは無駄に華麗な動きで躱した。
(;-@∀@)き、君は客人に唾を吐きかける癖でもあるのかい!?直した方がいい!直した方がいいぞ!!
( ´∀`)お前だけモナ。というかきょうび天丼なんかでウケんモナ、帰れ
モララーがクククと低い笑い声を立てた。
( ・∀・)…やっぱり面白いね、こういうキミを見るのは。ほら、今度こそ主役の登場だぞ
741
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/21(金) 01:48:10 ID:RIPkZPH60
川д川失礼します
( ´∀`)そんなかしこまった挨拶はいらんモナ
川ー川一応、形式的に
川ー川…ふふ、あまり変わってませんね
( ´∀`)君の強さと美しさもあまり変わってないモナ
川ー川口説き文句もお上手になったんですね
( ´∀`)文通してたら自然とそういう言葉使いになるモナ
凛とした長い黒髪の女性の姿は笑うとあの頃のあどけなさが浮かんできて、それがモナーにはとても嬉しかった。
緊張しながらもぴしっと背筋を伸ばして、彼女は言った。
川д川今日より3番隊副官として配属されました、サダコ・イーベル・シェフェルトンです
その胸に挿した銀色の薔薇は、4本に増えていた。
続く
742
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/21(金) 01:51:36 ID:RIPkZPH60
>>1
その1 ( ・∀・)
>>30
その2 (*゚ー゚)('A`)
>>79
その3 ( ・∀・)lw´‐ _‐ノv/('A`)(‘_L’)
>>156
その4 ( ´∀`) / ゚、。 /
>>197
その5 ( ´∀`)( ´_ゝ`)(´<_` )
>>263
その6 (-@∀@)( ^ω^)
>>314
その7 (`・ω・´)
>>368
その8 | ^o^ |(#゚;;-゚)
>>421
その9 ミ,,゚Д゚彡('A`)
>>480
その10 ( ・∀・)lw´‐ _‐ノv
>>517
その11 ( ・∀・)(´・_ゝ・`)
>>556
その12 ('A`)('、`*川( ^ω^)o川*゚ー゚)o
>>613
その13 ( ・∀・)( ´∀`)(-@∀@)
>>652
その14 (-@∀@)
>>704
その15( ´∀`)
743
:
名無しさん
:2022/01/21(金) 04:53:16 ID:hPMvdKeM0
おつおつ
でも今の副官はシラネーヨなんだよなぁ
この後サダコがどうなったのか気になる……
744
:
名無しさん
:2022/01/22(土) 22:02:51 ID:LhLaT7YM0
乙です
何もかも不穏すぎる…
745
:
名無しさん
:2022/01/24(月) 00:36:39 ID:4R/EURho0
甘酸っぱいけど、サダコどうなっちゃうの…
続きが気になる、乙!
746
:
名無しさん
:2022/01/24(月) 00:42:25 ID:kqAOKQxM0
乙
もう今からつら
747
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 13:59:23 ID:6GLMRu4E0
魔法をかけられてしまったのかもしれない。
呼ばれるごとに、僕の中の強さが持っていかれそうな、少しずつ溶けていくような、そんな気がする。
心の中に流れ込んできた何かが熱い渦を作っていくようで、辺りの景色までもが優しく光りだすようで。
僕の名前を呼ぶこの人は、毎日顔を合わせるこの人の心は、本物なのか?と疑う気持ちが少しずつ崩れていく。
君と出会ってから、君以外に対しても、僕はなにかと鈍くなっている気がする。
でも、それも悪くないかなと感じたんだ。
探していた暖かさ。探していた優しい響き。
魔法だろうとかまわない。
もしそうだとしても一生解けなくていいと、今は強く思うんだ。
748
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:00:36 ID:6GLMRu4E0
( ・∀・)…君のセンスってさ
( ´∀`)サダコの影響モナ
( ・∀・)いや、うん。だろうね
4番隊の隊舎でモララーが便箋を片手に笑う。
部屋の天井から吊り下げられたランプの炎が不規則に揺れ動く。時刻は夜の十一時を回っていた。
テーブルの上に並びきらずに床にまで転がっている空き瓶は次の日処理が大変そうだ。
弱い癖に良く飲む眼鏡は向かいのソファに寝転がり、戴き物の熊のぬいぐるみにカレンだのミレーヌだの数秒ごとに呼び方を変えながら頬を擦りつけぼそぼそ語りかけている。
持って帰らせて処分しようとモララーは思った。
749
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:01:23 ID:6GLMRu4E0
( ´∀`)で〜?
( ・∀・)なんだよ
( ´∀`)むふふ、どう思うモナ〜?
並んで座ったモナーがぐいぐいと二、三度身体を寄せて、唐突にしたためた文の感想を聞いてきた。ジュースしか飲んでいないのに、随分と上機嫌な様子だ。
モララーは半分ほど残った酒を飲み干して、まっすぐにモナーへ向き直った。
( ・∀・)僕は文字じゃあなくてちゃんと君の言葉で伝えた方が良いと思うよ
( ・∀・)サダコさんへのプロポーズなんだからさ
750
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:02:21 ID:6GLMRu4E0
( ・∀・)というかだな、ひとつ。原稿にしたってこりゃよくわかんないよ。もっと気取らずにありのままの気持ちを聞かせる方が君には似合ってる
( ´∀`)ありのままね〜〜〜〜
( ・∀・)なんだいその目…
( ´∀`)べつに〜〜〜〜〜〜〜〜〜
( ・∀・)ふたつ。さっきからモナ抜けてるぞ
“嘘つきのモララー”が真人間ぶった台詞を吐くのはそんなに可笑しいことだろうか。いつもならばっさりと切り捨ててくるモナーはただにやにやとこちらを覗き込むだけだ。
何故だか嫌いになれないその仕草。とっくに見飽きたその表情が今日はなんとももどかしく、モララーは考え込むように指先で顎をつまんだ。
( ・∀・)…それと、みっつ。どこの世界にプロポーズを手紙で済まそうとするおバカがいるんだよ…手渡す気でもないんだろ?
( ´∀`)3番隊の自分の机にそっと置いておくモナ
( ・∀・)僕がサダコさんだったら手に取って読んだとしても「わかんね…」って顔するね。そして真相を知ったら「ふざけてんのか」ってひっぱたく
751
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:03:28 ID:6GLMRu4E0
( ´∀`)だって今更真正面から「結婚しよう!」とか言うのもなんか…どうすればいいかわからんモナ
珍しいモナーの弱音にモララーは目を丸くした。
「サダコはそんな女性じゃない」と返ってくるのを予想していたからだ。
そう言い返さないということは、口に出さずともモナーの中でサダコの存在は揺るぎないものに昇華されていることを雄弁に物語っていた。
( ・∀・)…今更というか飛ばしすぎなんだよな。卒業してからずーっと文通で、再会してから1ヶ月で結婚?フィレンクトさん感情追いつかなくてショック死しちゃうよ
( ´∀`)モナもサダコも9年待ったモナ
( ・∀・)お互いずっと一途なのは良いことだよ。そういう関係、羨ましいとすら思う…けどなあ、うーん…言われてみりゃ早いんだか遅いんだかなんだけどな…
752
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:04:13 ID:6GLMRu4E0
( ´∀`)なんとかしろモナ、ベストマン
(;・∀・)べ、ベストマン?僕がかい?いくらなんでも飛躍しすぎじゃないかな
( ´∀`)モララーしかおらんモナ
思わず目を大きく開いたモララーよりも、モナーの瞳の方がよほど戸惑いの色に染まっている。
それを分からないモララーでもなかった。
彼にとって9年間の月日は昨日のことのように新鮮で、まだその初心な気持ちに折り合いをつけきれていないのだ。
( ´∀`)息子か娘が産まれたらモララーに名前をつけてもらうつもりでいるモナ
( ・∀・)手順を無視して先にやりたい事やりたい事あれこれ論じない方が良いと思うんだけどね、ぼかあ
( ´∀`)だから手順やノウハウはモララーに考えてもらうモナ
( ・∀・)あのな。僕だっていない歴年齢の身なんだぞ?
( ´∀`)でもモララーしかおらんモナ
( ・∀・)…いや、うん。ありがとう。やるとなれば精一杯やらせてもらうし君たちのことはいつも応援しているよ
( ・∀・)けどね?全力で支えたいとは思うが、僕にだってはっきり言いたい事はある。手紙は絶対やめろ
753
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:05:36 ID:6GLMRu4E0
( ´∀`)だって気恥ずかしいモナ
( ・∀・)僕に言わせりゃさっきの文章のがよっぽど気恥ずかしいよ。9年の付き合いなんだろ?遠慮はキミが最も嫌がるものじゃないか
( ・∀・)詩をつけるのはサダコ、音色を奏でるのはキミ。それがちょうどいいのさ。慣れないことしてヘマする必要はない
( ´∀`)モニャ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜………
困ったように眉を下げて指差すと、モナーは仰向けにソファへ寝転がりじたばたと赤ん坊が喚くような動きで駄々をこねた。
( ・∀・)そんなんだから変に格好つけるのが似合わないんだって……あっ、おい蹴るな蹴るな
( ´∀`)げしげし
( ・∀・)18歳児だな〜
754
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:06:46 ID:6GLMRu4E0
冬の寒さに身を縮こませながらカツカツと靴音を鳴らして、魔法局の廊下をフィレンクトは歩いていた。
長い魔物の討伐遠征を終え、娘の所へ顔を出そうと思っていたのだ。
もちろん理由はそれだけではない。フィレンクトが会いたい人間はもう一人居た。モナー・マエモゼムだ。
あの時、僅かな魔力を使い果たして倒れた娘を保健室まで運ぶ役を買って出たのはモナーだった。
大魔導師として私情で試験を切り上げるわけにもいかず、すぐに側へ居られなかったことをフィレンクトは強く後悔した。
その場に居合わせていながら後からのこのこ出てきて心配するような表情を見せるなど父親の風上にも置けない男だと誹りを受けることも覚悟していた。
保健室でモナーは静かにサダコの手を握っていた。
彼はこれといってフィレンクトを非難せず、ただこちらを見上げて一言「ごめんなさい」と頭を下げるだけだった。
その時フィレンクトはなんとなくサダコを奮い立たせた力の正体を悟り、彼を自分が率いる2番隊へと招くことを決意した。
なんてことはない理由だった。ただ、こちらを見上げる少年の瞳に大樹の苗木を見たのだ。
それが娘をこの強く残酷な日差しから守ってくれるなら、それはとてもありがたいことだと空に願ったのを今も覚えている。
755
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:07:42 ID:6GLMRu4E0
(‘_L’)モナー君。大魔導師就任おめでとう
( ´∀`)ありがとうモナ
対面した二人の前に紅茶を差し出して、サダコがちらりとこちらを見た。
フィレンクトが「あ…」と声を漏らしたが、サダコは気にもせずすたすたと別室へ去ってしまった。
(;‘_L’)あはは……無理もないか……父親としては何も残してやれないまま大人にしてしまったからなあ…
紅茶を一口飲んで、がっくりと肩を落とす。
フィレンクト・シェフェルトン率いる2番隊は家庭どころか魔法局に戻って来ることすら稀であった。
( ´∀`)…あの子は仕事に真面目なだけモナ。モララーやアサピーが来ても彼女は間に入らないモナ
(‘_L’)そうかい?…ははは。似なくて良い所ばかり似るものだ…
( ´∀`)そうモナか?
力なく苦笑して頭を掻くフィレンクトを、モナーはきょとんとしたまま見つめた。
756
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:08:39 ID:6GLMRu4E0
( ´∀`)彼女の目標の中にモナが居たことは確かモナ。けどそのもっと先にはフィレンクトさんの姿があったはずモナ
( ´∀`)貴方が父親としてサダコに残せたものがあるとするなら誇りと憧れだと思うモナ
人懐っこい笑顔を浮かべたまま「違うモナ?」とモナーは小首を傾げる。
何かに納得したように、感嘆したように頷きを繰り返すフィレンクトを見てその顔にますます穏やかな笑みが広がった。
思い出したようにモナーは席を立ち、棚から一つの酒瓶を持ち出した。
(‘_L’)…君、昼間からかい?
( ´∀`)モララーから貰ったやつモナ
( ´∀`)こちらからも生還を祝わせてもらうモナ。どうぞ
(‘_L’)どうも。君はどうかね
( ´∀`)モナはまだ18モナよ?
(‘_L’)ソウサクじゃ禁止されていないさ。シベリアやヴィップは知らんがね
二人は無言で紅茶を空にした。
カチャ、とティーカップを置く音が同時に響き、ほどなくして行儀の悪い大人の遊びが始まった。
757
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:09:57 ID:6GLMRu4E0
(‘_L’)…サダコとは上手くやれているかね?あの子はどうも引っ込み思案な所があるから…
モナーから返ってきたのは異国の言葉を聞いたような困惑の顔だけだ。
サダコのそういった一面をモナーはあまり見たことがないのだろう。
( ´∀`)むしろ積極的に何かと世話焼いてもらって助かってるモナ
(‘_L’)ふふ、そうか…特別、というやつかな
( ´∀`)そんなとこモナ
(‘_L’)幸せ者だな。娘も、君も……
( ´∀`)話していかんモナ?
(;‘_L’)はは…いや、それなんだが。数年と顔を合わせていない父親がだ。自分の上司と長々と何を話しているやらと思えば、出てくるなり赤ら顔で絡んできたら娘はどう思うだろうね?
( ´∀`)フィレンクト隊長が格好つかないのはデフォルトモナ。気にする必要なし
(‘_L’)…君、やっぱり変わらないなあ
758
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:10:40 ID:6GLMRu4E0
執務室を出てすぐにフィレンクトはきょろきょろとあたりを見回し、長い黒髪の女性を見つけて駆け寄った。
(‘_L’)しょ、書類なら私が持とう。その量は一度では無理があるよ
川д川…私の仕事ですから
すっと細い手のひらがフィレンクトを制止した。
視線と視線が真正面でかち合う。どうも他人行儀な会話の切り出し方になってしまい、フィレンクトは神妙な顔をした。
辛うじて眼を合わせて話していられるのは小さな小さな救いではあったが、そもそもにしてそれが精一杯な己の小心さが惨めだった。
(;‘_L’)モナー君とは仲良くやれているかい?
川д川
川ー川ええ。とても…満たされた日々を送っていますよ
(‘_L’)ふふ…それはよいことだよ、サダコ。隊長と部下達が互いに強く結びついてこそ、良き隊を育む…結局のところ人は法や制度ではなく人に仕えて生きるものさ。信頼や運命と言い換えても差し支えはないがね
川д川…運命、ですか
サダコはすたすたと背中でそっけなく応え、書類を置いた。
759
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:11:38 ID:6GLMRu4E0
ぼうっと立ちすくみながら、どうすればいいのかときまりの悪い顔をする。
取っ掛かりは不発。回りくどい言い回しは届かず。上手くわかりやすい言葉を探そうにも見つからない。
親子の会話というものはこんなに難しいものだっただろうか?
何歳か若返って、初心な学生に戻ったような気持ちだ。それでいて幼さに身を任せてあれこれと目につくものに興味を示す娘に振り回されているような。
副官サダコ・イーベル・シェフェルトンの姿と娘であるサダコの姿が重なり合って、ぼやけて映る。
フィレンクトは少し目を擦った。
川д川あの、お父さん。これ
一輪の花をサダコがフィレンクトへ差し出した。
(‘_L’)薔薇か。おまえは銀色の薔薇が昔から好きだったな
川д川ええ。そのお酒、モナー君からもらったんでしょう?私からも帰還祝いに
川д川その薔薇は幸福を運んでくれますから
(‘_L’)…ありがたくいただいておくよ。君のこれからの幸福が、私の一番の幸福だ
760
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:12:17 ID:6GLMRu4E0
( ФωФ)ふむ、失踪?
(*゚ー゚)はい、魔法局でもここ数ヶ月で14名ほど。市民も含めると…
( ФωФ)…魔物か?
(*゚ー゚)その可能性が大きいかと、ロマネスク王
( ФωФ)調査に関してはそちらに任せる、シィ・ニャイッキー
( ФωФ)一刻も早く事態の終息を急ぐべし
(*゚ー゚)…謹んで拝命いたします
761
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:12:58 ID:6GLMRu4E0
(*゚ー゚)とは言ったものの…手がかりなんてないのが現状なんだよねー……あーーもーーー
食堂では四方八方からの話し声が互いに干渉し騒がしく自分達の領域を守っている。おかげでシィも序列1位の大魔導師の仮面を容易く脱ぎ捨てる事ができた。
ストローに口をつけたまま、モーラ・モラール・マタリウスは「で、僕にどうしろと」と言いたげな視線を送っている。
( ・∀・)要するにたらい回しにするために僕を呼びつけたってことだろ
(*゚ー゚)無視は出来ないけれど、1番隊も忙しいから…あなただって身にしみてわかってるはずよ
( ・∀・)そりゃあまあ、そうだけどもさ
762
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:13:44 ID:6GLMRu4E0
(*゚ー゚)…あなた、そうやって日がな一日だらけるのが隊長の仕事じゃないでしょう?
( ・∀・)そうでもないよ?こう見えて結構素材の回収にあれこれ足を運んでるんだ。あと生ゴミとかも拾ってる
(*゚ー゚)例の魔法術式ね
( ・∀・)そ。擬似的に特殊属性を再現するための混ぜ物が重要なのさ、僕にも正解がわからんから困ってるんだけどね
(*゚ー゚)ああ、だからあなたちょっと臭いんだ
( ・∀・)え、そう?
モララーは袖を嗅いだ。
( ・∀・)でもまあ、僕も暇か暇でないかで言えば前者の身だ。探偵ごっこに付き合いましょう
他人事のようにモララーが呟き、シィは大きくため息を吐いた。魔物がじわじわと爪を立てて忍び寄っている現状に対して呑気すぎる。
無論、1番隊にも失踪者は出ている。まだ部隊の編成もしていないモララーにはこの不安がわからないのだ。
シイはまじまじとモララーの顔を見た。
(*゚ー゚)ねえ、マタリウス。貴方じゃないでしょうね?
( ・∀・)そりゃあ僕は魔法局の連中から人さらいとは呼ばれてますけど
( ・∀・)でも魔法陣が爆発したりして結局みんな逃げてっちゃうんだよなー
(*゚ー゚)多分貴方の隊舎の異臭も原因よ
( ・∀・)臭くなったのはゴミ集め始めた最近からだよ
763
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:14:55 ID:6GLMRu4E0
( ・∀・)…どうも魔法局から失踪した連中は所属や住まいがばらけてるな
1番隊の隊舎でぱらぱらと書類に目を通しながら、モララーが呟いた。
(*゚ー゚)そうね。何かしら共通点を探してはいるんだけど…
( ・∀・)そもそもの出発点がどの隊の人間なのかが重要だね。便宜上、僕らは一応の影に「魔物」という形を捉えてはいるが…それだって確かじゃない
(*゚ー゚)身も蓋も底もないことを言えば、まだ何にも掴んでないのよね…
(*゚ー゚)…魔法局でも失踪者や無断で脱隊する者は毎年出てはいるから、何をもって最初とするのかすら不確定なのよ
( ・∀・)仕方ないさ。こんな仕事だもの、気が滅入る奴だって出てくる
764
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:15:22 ID:6GLMRu4E0
( ・∀・)地図か何かあるかい
(*゚ー゚)王都ファイナリの?
( ・∀・)うん。印をつけたいんだ、できる方法は試しておきたい
(*゚ー゚)ええ、用意するわ
乗り気になれば、ぐいぐいと引っ張って行くのがモララーという男だった。その姿に追いつこうとする事をやめればそのまま勝手に何処かへ行ってしまいそうなほど。
(*゚ー゚)…だからこうしてるんだけど
( ・∀・)何がだい?
(*゚ー゚)ううん、なんでもない
765
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:16:25 ID:6GLMRu4E0
( ・∀・)丸をつけたはいいけど、どれをどう繋ぐかだよなあ
( ・∀・)魔法局を中心とするパターンか、魔法局も含めて一本の道とするべきか…それ以外にもあるし…うーん…全部間違ってるかもしれないし
( ・∀・)聞き込みに行くにしても、どっから手をつけたもんかね
独り言ちて、モララーは王都ファイナリを歩く。
こうして街に来るのも久しぶりだ。
まばらな昼下りの冬の人波にモララーは目を細める。
地図をつーっとなぞって考えてはみるものの、ヒントらしきものは見つからない。
ぼんやりと立ち止まり手を頭の後ろで組みながら辺りを見つめていると、見慣れた顔が目についた。
( ・∀・)よっ
( ´∀`)モララー。何やってるモナ?
( ・∀・)探偵ゴッコ。モナーは?
( ´∀`)ベストマンに言われた通り段階を踏むことにしたモナ
むふん、と腰に手を当て鼻息ひとつ。胸を張っていつものように悪戯っぽく笑いモナーは応えた。
要するにこれからデートということだろう。
( ・∀・)お熱いじゃん。羨まし〜な〜
( ´∀`)モナモナ
( ・∀・)ニコヤカ
766
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:17:14 ID:6GLMRu4E0
( ´∀`)ふぅ〜〜〜〜〜〜ン………失踪事件ねえ
( ・∀・)キミんとこは?
( ´∀`)まあ1人2人長いこと来てないヤツや辞めてったヤツはいるモナ
( ・∀・)ちょーっと僕らは去る者追わず思考を改めた方が良いかもしれないね
( ´∀`)かモナ
( ・∀・)お、変則パターン…!
( ´∀`)そういう時もあるモナ
767
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:18:12 ID:6GLMRu4E0
モララーは身震いした。自分でもこの寒さは耐え難いと思うのだから、普段からよく寒い寒いと言うモナーは相当だろう。
ちらりと隣に数時間立っているモナーを見た。彼は寒がるそぶりも見せず、マネキンのようにぴくりとも動かず、ただ、じっと遠くを見ていた。
その時モララーは、彼が体感的な寒さではなく心の寒さと戦っているのだと静かに感じ取った。
( ´∀`)・・・・・・
( ・∀・)・・・・・・
( ´∀`)・・・・・・・・・
( -∀-)…なあ、モナー。人間っていろいろあるよな
( ´∀`)?
( ・∀・)笑って、泣いて。泣いて笑って…
( ・∀・)人の気も知らないでこの野郎と頭に来るかと思えば、知らない内に自分が他人を傷つけていることを知って、悔やんでも後の祭り…とかさ
( ・∀・)僕にだって恥じ入る気持ちが無いわけじゃないよ。気づくのはいつもしばらく経ってからなのが、僕のどうしようもない所だけど
768
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:18:46 ID:6GLMRu4E0
( ・∀・)モナー。僕は今から「お前が言うな」の極地を言うぞ
( ´∀`)…ばっちこい。ひっぱたいてやるモナ
( ・∀・)ありがと
( ・∀・)…人に言えない理由でもさ。あまり独りで悩まないで欲しいんだよ、モナー・マエモゼム
呆気にとられたような顔をした後、ぷす、と空気が漏れ、モナーは白い歯を見せ弾けるように大笑いした。
( ´∀`)ぷっ、むふ……むふふふふふ、むふ、んふぅッ…!!ごめ、モララー…ツボった…ひぃ…ふふふふ…!
( ・∀・)あー、うん。自分でもどうかと思う
( ´∀`)むふふふ…今までで一番おもしれえモナ!モーナモナモナモナモナモナモナ!
( ・∀・)そりゃどうも
769
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:19:50 ID:6GLMRu4E0
しばらくモナーは一人笑い続けていた。
沈む夕日の寂しさが少しでもまぎれたなら、それでいいのだとモララーは目を閉じて思う。
( ´∀`)モナは別にサダコが来るだ来ないだで悩み嘆いてるわけじゃないモナ
( ´∀`)遅いなって待ち疲れてるだけモナ
( ・∀・)ふふ。あのサダコさんだものな
( ´∀`)あの時みたく開口一番謝罪なんかしようものなら露骨に頰膨らませて15分くらい拗ねたフリしてやるモナ
( ・∀・)ナンギなことするなあ
( ・∀・)…キミ、時々甘え上手なんだか下手なんだかわかんない時があるよ
( ´∀`)フツー
( ・∀・)フツー?
( ´∀`)うん。モナはフツーの男の子モナ
( ・∀・)そっか…ま、その…なんだ。……しりとりでもして待ってる時間潰すかい?
( ´∀`)ぷっ、くく、むふふふ………大の大人が2人並んで時間潰しにしりとりモナか?
( ・∀・)ふっ、ふふ…いや、ごめん。なんとなくパッと思い浮かんだからつい…我ながら幼稚過ぎたかもしれないな…
770
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:20:53 ID:6GLMRu4E0
( ´∀`)むふふ、正直でよろしい。いいモナよ、受けて立つモナ
( ・∀・)なんだか申し訳ないな
( ´∀`)何も遠慮することはないモナ。モナ達の間に
( ・∀・)ニコヤカ
( ´∀`)身体、冷えてないモナか?
( ・∀・)勝手に提案しておいてなんだがだいぶ話が変わるんだけど、いい?
( ´∀`)いいだろう
( ・∀・)うん
モナーは両手を上げてガッツポーズをした。
771
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:21:40 ID:6GLMRu4E0
( ・∀・)…ちょっと考えてたんだけどさ。プロポーズの話
( ´∀`)お、ベストマーン
( ・∀・)気に入ったのかその呼び方。…それでね、プレゼントに花を送るのはどうかと思うんだ
( ´∀`)何の花モナ?
( ・∀・)アカシアとかどうかな。花言葉は「魂の不死」ステキだろ?
( ´∀`)縁起でもねえモナ
モナーは照れ臭そうにそっぽを向いた。
( ・∀・)そうかなあ。こんな世界に生きてる僕らだからこそじゃないかな
( ´∀`)モララーはそんなもん信じてるモナ?
( ・∀・)まあ一応ね。花言葉は他にもいろいろあったはずなんだけど、そこんところは忘れちゃったんだ
( ´∀`)…とりあえず候補には入れておくモナ
後日モナーは存分にむくれた。
772
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:22:55 ID:6GLMRu4E0
( ´∀`)ぶう
机の上に顎を乗っけたままモナーは見るからに不機嫌です、というオーラを出していた。
こうして毎日顔を合わせるのだから一日くらい会えなくても、なんて考えて気持ちに整理はつけたが、それでも少しサダコをからかってやらないと気が済まなかった。
( ´∀`)昨日何やってたモナ?
川д川あ…はい。いろいろ立て込んでてあまり覚えてないんですけど、実家で花のお世話を…
( ´∀`)んー、実家の手伝いじゃしょうがないモナ
( ´∀`)…きーめた。今日みんな休みモナ
モナーは軽く椅子を一回転させると、少し上擦った声で立ち上がった。
川;д川えっ?あの、3番隊はお昼から戦闘訓練が
( ´∀`)そんなんいつでもいいモナ
昨日が駄目なら今日でいいのだ。今日が駄目なら明日。
一日一日をそう急ぐこともない。まだ自分と彼女にはたっぷりと時間があるのだから。
少し強引な誘いでモナーはサダコを連れ出した。
773
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:24:00 ID:6GLMRu4E0
サダコは灰色のマフラーを巻いていた。今日買ったばかりのものだが、不思議と普段のモノトーンの服装と良く溶け込んでいた。
川ー川…もう少ししたら春が来ますね
( ´∀`)それ使う期間、少しだけになりそうモナね
川ー川いいんです。また来年寒くなってきたら使いますから
サダコは愛おしげに首元を触った。モナーの胸はじんわりと暖かかった。
( ´∀`)…初めて会った時は夏だったモナ。大きくなって会った時は冬だったモナ
川д川あ…そっか、私達まだ春と秋を一緒に刻んでいないんですね
( ´∀`)なんなら夏も満足に過ごせたとは言えんモナ。ほんのちょっとの間だけだったし
774
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:25:12 ID:6GLMRu4E0
( ´∀`)あんまりモナたちは花が咲いてる並木を歩いたことがないモナ
川д川枯れてるか、緑に染まってるかですものね…
川ー川なんだろう…普段花が咲くのを待っている時とは、また違った楽しさがありますね。こういう時間は
川д川あ、モナー君!
モナーは踊るように駆け出して、サダコはそれを慌てて追いかけた。
( ´∀`)むふふ!春になればこの辺の並木がばーーーっと桃色に染まるモナ!
枯木道の中、サダコの前で大きく両手を広げ子供っぽくモナーは笑った。
葉っぱの一つも付いていないけれど、サダコの目の前に広がる世界はとても華やかだった。
( ´∀`)…だから来年もそのまた来年もモナはキミと季節を楽しみたいモナ
川ー川ええ。叶うことなら、ずっと
「手紙とかじゃなくて自然にそういうこと言えば良いんだよ」と聞き慣れた声が脳に響いて、モナーは少し赤面した。
775
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:25:55 ID:6GLMRu4E0
( ・∀・)よ
lw´‐ _‐ノvおっす
失踪事件の調査を終えた帰りに、モララーは少女の後ろ姿へ声をかけた。
大家族で知られる魔法使いの名門、スナール家の長女シュルルド・ライスィ・スナールとは赤ん坊の頃からの付き合いがあった。
モララーがまだ1番隊の隊員だった頃、副官を務めシィを支えていたのがこの子の兄で休暇中はよく家に招かれていたのだ。
目を閉じても、昨日のことのように思い出せる。
自分に兄妹がいたらこんな感じだろうかと、とても幸せな心地がしたのを覚えていた。
lw´‐ _‐ノvモラちゃんが街をぶらつくなんて珍しいね
( ・∀・)あ。もしかしてキミ、サボってると思ってる?
lw´‐ _‐ノvちがうんか
( ・∀・)ちがうんだなあ。今はね、探偵ゴッコやってるんだ
776
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:27:11 ID:6GLMRu4E0
lw´‐ _‐ノvたんてーごっこ?
( ・∀・)そ。『時間探偵モララー 謎の失踪事件を追え!』ってカーンジ
lw´‐ _‐ノvそのわりには一人じゃんよ
少女はチッチッと舌打ちしながら顔の前で人差し指を振った。
lw´‐ _‐ノvたんてーさんには話をでっかく動かす助手さんが必要なんだぜ、ボクぅ?
( ・∀・)あのねキミ。こんな真っ昼間からうろついてアカデミーはどうした?
lw´‐ _‐ノvおっとみなまで言うなぃ。おめぇさんのサポート役、このワトシュンくんがつかまつってしんぜよう
777
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:27:54 ID:6GLMRu4E0
どどん、と効果音を口に出してからシュールは胸を張った。
そのままモララーは時間を止めて背後に回り、シュールの背中をぐいと押し出す。
( ・∀・)助手クンにはまずアカデミーを調査してもらおうか
lw´‐ _‐ノvあら〜お兄さんちょっとつれないんじゃなくって〜
( ・∀・)ガクセーはガクセーらしくですよ
lw´‐ _‐ノvモラちゃんもあんまし学校行ってないくせにぃ
モララーは有無を言わさずシュールを担ぎ上げて運ぶ。
lw´‐ _‐ノvおんぎゃー!はなせロリコンー!
(;・∀・)わかったわかった洒落にならん!降ろすから!
778
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:28:37 ID:6GLMRu4E0
( ・∀・)なんで行きたくないのさ?
lw´‐ _‐ノvだーってさ。つまんねえべよ、やーんぴ
詳しい理由には触れなかったが、なんとなくモララーにはわかっていた。余裕ぶった物言いから感じる痛々しさがあまり他人とは思えなかったからだ。
もし自分が同じ立場だったら、どういう風に反骨心を育むだろう。
死にに行くためにお勉強するなんて馬鹿馬鹿しい、そう思うのだろうか。
( ・∀・)妙にぼかす若人の言葉 宙に浮かぶ「どうしたものか」
lw´‐ _‐ノvいいかオレたちはマブダチ 今めんどくせえ話はナシ いざ火の中水の中つけ回し いいぜ付き合ってやるぜ謎探し
( ・∀・)よー
lw´‐ _‐ノvせいほー
( ・∀・)…まあ、つまんないことも色々めんどくさい事もあるだろうけどさ
lw´‐ _‐ノvうむ。たいくつとアカデミーは主婦の敵である
( ・∀・)一個だけね、学校生活を楽しむためのちょっとした方法があるんだ。おバカさんを釣る方法。…落とすって方が正しいかな?
lw´‐ _‐ノvけっ、落とせる武器があるんなら是非ともほしいぜ
口を尖らせ、気を紛らわすように足を揺らす少女を見て、モララーは懐かしむように微笑んだ。
779
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:29:46 ID:6GLMRu4E0
( ・∀・)…ま、そいつはまた今度教えるとしてさ、とりあえず。のほほんとしてカラッとしたヤツ狙って話しかけてみなよ。キミの世界の中で、うんと眩しいヤツ!
lw´‐ _‐ノv…いるかなー、そんなの
( ・∀・)きっと居るさ。すぐに一人また一人と友達も出来る。6歳で人生に冷めた視線を向けるのは早すぎるよ、その前に一度周りを見渡してみなさい
lw´‐ _‐ノvむう ちっちゃい頃からひねくれ野郎だった男の台詞はタメになるな
( ・∀・)だろ?僕は反面教師としてはこれ以上ないほど優秀だぞ、ふふん
ぴょんとシュールがベンチを降りて、モララーに向き直った。
lw´‐ _‐ノvちょっと兄さんぽかったぜ、おモラの旦那よ
( ・∀・)…ああはなれないさ
表情が明るくなったシュールとは対照的に、モララーは苦々しい笑顔を浮かべた。
780
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:31:54 ID:6GLMRu4E0
( ・∀・)…ちょっとアカデミーに戻る前にさ。これ見てくんない?
モララーは地図を広げて差し出した。シュールが不思議そうにそれを覗き込む。
lw´‐ _‐ノvボス、こりゃなんでえ?事件の手がかりかい?
( ・∀・)…いや、事件に関しちゃだいたいの見当はついてるんだがね。どうしても分からない所がある
lw´‐ _‐ノvなんざんすか
( ・∀・)シューちゃんはこれをどうなぞる?
lw´‐ _‐ノvふむ…
( ・∀・)お子様の独創的な視点からヒントが欲しいんだ
lw´‐ _‐ノvあんまアテクシに純真さを期待しないでくんなましよ
781
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:32:57 ID:6GLMRu4E0
lw´‐ _‐ノv炊きたて刑事に言わしてもらうとだな、こいつは一本の線とかじゃあないね
モララーは興味深そうな手つきで黙って次の言葉を待った。
lw´‐ _‐ノvあちしには根っことか、トーナメント表みたいに見える
( ・∀・)失踪者集めて何を賭けて戦うってんだ
lw´‐ _‐ノvさあ?ほれ、なぞってみ?2番目に出てきたヤツが勝ちだよ
( ・∀・)ええと、こいつとこいつがかち合うだろ?んで、Bブロックは……
途中でモララーはその指を動かすのをやめた。
( ・∀・)やーめぴ。別に誰が勝とうったって行き着く先は一緒じゃんよ
lw´‐ _‐ノvそ、一緒だよ。決勝の部隊はここかな。それともここかしらん
782
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:33:43 ID:6GLMRu4E0
( ・∀・)…んん?シューちゃん、そこに置いた指、まっすぐ上に動かしてみて!
lw´‐ _‐ノvん〜?むふふ。町外れに広い野原があるだけだぜ
( ・∀・)そいつだ…ありがとうシューちゃん!キミはとてもとても優秀な助手だよ!
モララーは思わずシュールの手を強く握った。
lw*´‐ _‐ノvんへへ、なんかわからんがサンキュ。根元見っけたかい?
( ・∀・)ああ。とても助かったよ…このお礼は必ずするからね!
lw*´‐ _‐ノv気長に待ってるぜブラザー。頑張ってね
( ・∀・)…うん、頑張ってくるさ。キミもね!
783
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:34:36 ID:6GLMRu4E0
モララーはサダコの実家の花屋を訪れていた。
少し屋上のカフェを見上げてみる。上の階にも下の階にも客は一人もいないようだ。
大きな影を作っている大樹が、なんとなくおぞましく見えた。
「あら、いらっしゃい大魔導師様」
( ・∀・)こんにちは。少しこちらに用がありまして
「何か?」
( ・∀・)……アカシアってあります?
サダコの母が花を包んでいる間に、モララーは店内の花々を見ていた。
ない。
探しているものがない。
失踪者達の部屋にほのかに漂っていた異形の花の香り。
僅かに落ちていた銀色の花びら。
これに気づいた時、モララーの胸を恐ろしい想像と重苦しい感情が支配した。
それでもモララーは足を動かさずにはいられなかった。
シィが自分一人にこの事件を任せてくれたことを、強く強く感謝した。
784
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:35:16 ID:6GLMRu4E0
( ・∀・)あ、苗もいただけますか
花束を受け取って、モララーはサダコの母に伝えた。
「ありがとうございます、合わせて1786オツです」
( ・∀・)どうも。ところで、この店は銀色の薔薇は取り扱ってないんですか?
「銀色の薔薇?さあ…」
( ・∀・)…サダコさんの胸に挿した花が増えていたのを見ましてね
「何処かから摘んできたのでしょう…銀色の薔薇が欲しいのですか?」
( ・∀・)まあ、一応。色々と調べたいこともありますから
モララーは彼女の足元を見た。ロングスカートの下から長い長い蔦が、奥へと続いている。
モララーは顔を顰め、鋭くサダコの母を睨んだ。
「それでしたら、こちらに」
彼女は振り返り、モララーの前に一輪の薔薇を出した。
その袖口から銀色の蔦が勢いよく伸び、モララーに襲いかかった。
785
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:35:55 ID:6GLMRu4E0
( ・∀・)時の大魔導師、モーラ・モラール・マタリウスが命じる。時よ、止まれ
冷や汗ひとつかかず、その襲撃を予想していたかのようにモララーは唱えた。
銀色の蔦はモララーの眼前で停止し、サダコの母は笑顔のままその動きを止めた。
( ・∀・)……さて
モララーは店の奥まで進んだ。足元から伸びた蔦が、床を突き破り埋まっている。サダコの母はこの影に居る魔物の端末のひとつに成り果ててしまったのだろう。
( ・∀・)とりあえずこいつは貰っておくよ
モララーは銀色の薔薇を取り、懐にしまいこんだ。
このままこの女性を生かしておくわけにはいかない。
拘束する手段も、助け出す手段も自分は持ち合わせてはいない。
魔物として扱い、討滅するほかに手段はなかった。
モララーはアサピーから貰った火属性の魔力が詰まった爆弾を取り出した。
ピンを抜き、宙へ放り投げる。
時間が動き出した後、この店の全てが炎の中に消えていくのだろう。
あくまでも、事故として周囲の目には映るのだろう。
モララーは静かに店を去り、充分に離れてから魔法を解いた。
786
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:36:40 ID:6GLMRu4E0
モナーとサダコはあてもなくぶらぶらと歩いていた。
初めて出会った時も、こうして歩いていたと思う。
なんとなくアカデミーの前を通りかかったり、無意識に思い出を振り返るようなコースになっていた。
その終着点はサダコの家の花屋だった。
あの日のように夕暮れ時の景色を楽しんで、他愛もない話でこの一日を締めくくるつもりだった。
何もかもが焼け落ちていた。
思い出の場所も、綺麗な花々も、全て。
モナーは呆然と立ち尽くした。
サダコはわなわなと震えだし、静かに呟いた。
川;д川お、お母さんの薔薇…
川;д川お母さんの薔薇の声、聞こえなくなっちゃった…
(;´∀`)…サダコ?
その言葉に違和感を抱き、モナーはふと振り向いた。
サダコの姿はその場から忽然と消えていた。
(;´∀`)……何が、何で、何モナ………?
787
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:37:35 ID:6GLMRu4E0
軽い足取りでアカデミーを出たシュルルド・ライスィ・スナールの後ろを、一人の男性の影が追っていた。
シュールもそれに気がついていないわけではない。足を早めて歩いていく。
lw´‐ _‐ノvあちしこっちだから。ばいばい
「バイバイ!」
隣を歩いていた少女が元気に手を振った。シュールも嬉しそうに振り返し、また歩きだした。
カツ、カツ、カツ。
足音はゆっくりと近くなる。
振り向きざまにシュールは手のひらほどの大きさの石を生成して投げつけた。
手応えはなく、地面にカラカラと転がる音がする。
「貴方は幸福ですか?」
lw´‐ _‐ノvぼちぼちでんな
突然現れた男を見上げながら、シュールは不敵に呟いた。
788
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:39:06 ID:6GLMRu4E0
「自らの心を偽ってはいけませんよ」
lw´‐ _‐ノvおっちゃん経験薄いんだね。いい女には嘘がつきものって言うじゃん?
「けれど、もう貴方は自分を偽る必要はありません。寂しいという感情もいずれ捨て去る事が出来ますよ、これを使えば…」
そう微笑んで、銀色の花を男が差し出す。
lw´‐ _‐ノvわりいんだけどさ、お友達なら間に合ってんのよね。今日も一人できたしさ
男が口の中から蔦を伸ばす。シュールは驚いて、後ろへ尻餅をついた。
( ・∀・)汝の時よ、止まれ
lw´‐ _‐ノvひ〜。おせーよモラちゃん、か弱い少女がやられちったらどうすんのさ
( ・∀・)本当にごめんよ。重ねてキミを囮に使うような真似をしたことも謝る
モララーはナイフを蔦に突き立て、力いっぱい引きちぎった。
止まったままの男を殴打し、組み伏せる。
789
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:39:59 ID:6GLMRu4E0
( ・∀・)シューちゃん。火、出せる?
lw´‐ _‐ノvあんまし得意じゃないぜ。ちっちゃいやつしか出せないかも
( ・∀・)チラつかせておいて。時よ、動き出せ
「き、貴様…!先程の魔法使いか……!」
( ・∀・)やっぱりある程度情報を共有してるんだな。答えろよ、“お前”はどこにいる?言わなきゃ燃やす
「ハハハハハ!無駄だ。私達は増え続ける、既にこの国全体に広がって…」
ぷつりと糸が切れたように、男は白目を剥いて一切の動きを止めた。身体から這い出た蔦が、するすると地面に潜っていく。
モララーは舌打ちをした。
lw´‐ _‐ノvモラちゃん…
( ・∀・)大丈夫。キミは僕が家まで送っていくから
( ・∀・)ちゃんと、守り抜いてみせるから
790
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:41:09 ID:6GLMRu4E0
4番隊の隊舎にシィ、モナー、アサピーは集められた。
遅れて入室してきたフィレンクトを見るなり、モララーは深々と頭を下げた。
( ・∀・)申し訳ございませんでした、フィレンクト・シェフェルトン…私はやむを得ず、貴方の奥様を殺害しました
(;‘_L’)………まず話を、聞かせてくれないか
フィレンクトの纏う穏やかな空気が一気にひりつくのをその場にいる全員が感じ取った。
モララーも、彼の顔を見上げずともそれがわかった。
(-@∀@)とりあえず解析結果の方に移らせてもらおうか?
アサピーが席を立つ。重々しい空気の中で、そのぶれなさは救いだった。
(-@∀@)モナー。サダコはこの銀色の薔薇を何と言っていた?
( ´∀`)……サダコに勇気をくれる存在、胸に挿していると自分の想いにとても正直になれる気がする、そう言っていたモナ
モナーは枯れ果てた心の地平から水を一滴絞り出すように答えた。
791
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:42:13 ID:6GLMRu4E0
(-@∀@)…自分の想いに正直にね。間違っちゃいないよ、こいつの匂いを嗅ぐとある程度の多幸感が得られる。麻薬や自白剤などにも転用できるだろうね、雄弁は銀ってやつさ
アサピーがトントンと銀色の薔薇を密閉したケースを叩く。辺りを包んだ沈黙はどす黒く、輝かしいものではなかった。
( ´∀`)……サダコとモナは
(-@∀@)それに浮かされていただけだよ。申し訳ないが一応説明はついてしまうんだ
(-@∀@)雄弁になる、多幸感を得る、正直になる…あくまでそれは効果ではなく事象に過ぎない。こいつの本質は感情の固定化さ
(-@∀@)モララーも被害者の自宅を回って、その残り香を嗅いだだろう?ならわかるはずだ
( ・∀・)・・・・・・
モララーは息を飲んだ。
792
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:44:07 ID:6GLMRu4E0
(-@∀@)一つの目的のために、疑念、後ろめたさ、その他諸々…そういった感情は薔薇の香りに全て削ぎ落とされる。キミで言うと、「事件の謎を突き止めたい」といったところかな
( ・∀・)…ああ。だから僕は躊躇いもなくフィレンクトさんの妻を殺せた
(#‘_L’)……モララー君、キミは!
(-@∀@)おっと待った!僕の話はまだ終わっちゃいないぞ!
(‘_L’)…失礼した。続けてくれたまえ
(-@∀@)要するに、洗脳向きなのさ。躊躇い、戸惑い、恐怖、それらのマイナスな感情を削ぎ落とされた人間は、それによって得た成功を「薔薇のおかげだ」と信じ込むようになる。そうなってからはトントン拍子に中毒状態に陥るわけだ
(-@∀@)銀色の薔薇も、匂いを嗅いだ人間から吸い上げた負の感情を得てそれを「本体」に捧げる。そして完全に使用者が魅入られた後は、その身体に入り込んで端末を作るのさ。さらに薔薇を配らせるためにね
(*゚ー゚)…この世に存在しちゃいけないものね
(‘_L’)…妻は
(-@∀@)完全に魅入られたクチさ。“花のおかげで生きている”のではなく“花のために生かされている”ってわけ
淡々と告げるアサピーに、フィレンクトは頭を抱えた。
793
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:45:13 ID:6GLMRu4E0
( ´∀`)…おかしいモナ
静かにモナーが声を漏らした。
( ´∀`)だって筋が通らんモナ
( ´∀`)だってサダコは9年間もあの花と共に居たモナ
( ´∀`)9年間もモナと文通してたモナ、あの言葉が全部嘘なわけないモナ、9年間無事だったモナ
(-@∀@)…抉るようだが、君が過ごしてきたのはどうしようもなく虚構の時間で、どうしようもなく真実だったんだ
(-@∀@)彼女が紡いできた言葉は、本心だよ。そして君が育んできたものもまた真実だ
(-@∀@)モナー。彼女がお前を疑ったことがあったか?彼女と喧嘩したことが、お前…一度でもあったか?
( ´∀`)……………ないモナ
794
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:46:10 ID:6GLMRu4E0
( ・∀・)…もういいだろう、アサピー。結論を出してくれ、何故サダコは無事だった?
(-@∀@)それなんだがね。彼女の中毒症状は、ほぼ初期状態に近いものだったんだ。そうじゃなきゃ、モナーの言う通り筋が通らない
(*゚ー゚)初期状態?
(-@∀@)……彼女の願いによるものだろうな
(-@∀@)薔薇は精神力の弱い人間や、軽薄な奴、深い悲しみを背負った人間を狙う傾向にあるようでね。そういう連中の方が転がしやすいんだろう
(-@∀@)…フィレンクト。サダコはいつから銀色の薔薇を胸に挿していた?
(‘_L’)…ずっと、ずっと幼い頃。7歳だ。よく覚えている…アカデミーに入学したいと、私に頼み込んできた時の強い眼を…
(-@∀@)最初の願いはそれだったろうな。そしてそれが叶い、サダコは薔薇を好いた。そこからが問題だった
(;´∀`)……モナのせいだ
(-@∀@)そう。初めて彼女は恋を覚えた。が、もともとの引っ込み思案な性格が幸いしたんだろうさ
795
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:47:35 ID:6GLMRu4E0
(-@∀@)サダコは薔薇とモナーを重ね合わせて、憧れ、愛し、「遠くから見ているだけでいい」と願った。それじゃあ薔薇も叶えようがない。見ているだけで欠片もアクションを起こせないんだからな
( ・∀・)…その後に、特例卒業か
(-@∀@)そうだ。再び彼女の生命の歯車は動き出した。そして彼女はひたむきに筆を取り、明るくモナーと笑いあい、僅かな時間でも充分に愛を育み、自分の魔力の限界なんかお構いなしの全力を出し切って試験中に倒れ、数年間をアカデミーで過ごした
(-@∀@)彼女の願いは、精神的にも実力的にもモナーの隣に立てる人間になること。それだけが彼女を長い間奮い立たせ、守り抜いてきたんだ
(;‘_L’)だ、だが卒業して、魔法局入りして、副官になってしまっては…!
(-@∀@)……願いは叶った。その納得が、彼女の中に生まれたんだろう
796
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:50:04 ID:6GLMRu4E0
( ´∀`)悪ふざけも大概にしろモナ
モナーは不愉快さをあらわにして席を立った。
( ´∀`)モララーも、アサピーも、シィまで…ドッキリにしては手が込みすぎるモナ
(-@∀@)モナー、サダコは…
(# ´д`)不愉快なことを言うなァ!!
(#-@д@)現実はもっと不愉快だっ!!
アサピーはモナーの胸ぐらを掴み上げた。瞳に悲痛の色を浮かべながら、モナーは歯を食いしばってアサピーを睨みつけた。
達観していて、鋭いモナーらしくない癇癪だった。いや、むしろ彼は自らの犯した罪に呑まれて自壊してしまいそうなほどに現実を理解している。
アサピーとモララーは、それを読み取れてしまっていた。
(-@∀@)…クソっ
アサピーは静かに彼の身体を降ろした。
(# ´д`)ウソだ!ウソだあっ!!ウソだああああっ!!
力いっぱい叫んでいた。
そう言い聞かせたかったのだ。そう信じたかったのだ。
アサピーも、モララーも、立ちすくむフィレンクトも、シィですら。それを止めることはしなかった。
叫びながらモナーは4番隊の隊舎から走り去った。
友人達と、否定した事実だけをそこに残して。
797
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:50:59 ID:6GLMRu4E0
いない。
3番隊の隊舎にも。
どこにもサダコの姿がない。
それでも探さずにはいられなかった。
強く、強く、サダコに会いたいと願った。
息切れを起こし、その場に立ち止まる。
脇に置いた感情が、ふと蘇る。
( ´∀`)昨日、サダコのやつ来なかったモナ
( ´∀`)花の世話してたとか、よく覚えてないとか
( ´∀`)…全部、全部
( ´∀`)モナが欲したからモナか?
( ´∀`)でも……
唇を噛み締めたまま、しばらく動くことができなかった。
( ・∀・)でも、人を愛する事が罪なんて間違ってる
(-@∀@)というよりか、だ。愛する気持ちを罪に変えてしまう存在こそが救いがたい傲慢であり、この世に存在しちゃあいけないものさ
( ´∀`)……モララー、アサピー
(-@∀@)…行こう、モナー・マエモゼム。ヤツの根元は僕らが知っている
( ・∀・)まだ彼女が魅入られて日が浅いなら…救える道はあるはずなんだ
798
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:52:18 ID:6GLMRu4E0
辿り着いたそこには銀色の世界があった。
花園の中で、その姿を見つける事は容易かった。
( ´∀`)……綺麗モナ
自然と、モナーはそう口に出していた。
やっと会えた。
とても嬉しかった。
けれど、身体中から湧き上がるそれはこのむせ返るような花の香りによって植え付けられたもの。
違う。
(# ∀ )おれはここから、お前を引きずり出しに来たんだ
.
799
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:53:29 ID:6GLMRu4E0
川ー川あ、モナー君!
川ー川ほら、見てモナー君!ここには私の友達がいっぱいいるんです!
川ー川すごく綺麗ですよね…切り取ってしまいたいくらい…
川ー川ねえモナー君。ここに居ると、寂しい事なんてない…寒いことなんてないんです。あなたと私が溶け合ってみんなで一つの心を使うんですよ?
(# ∀ )……なあ。わかってるか?それ、結局一人ぼっちなんだよ
川ー川…?それはおかしいです。ここは楽園です、みんなが笑顔になれるんです!私、こんなに清々しい気分は初めて!
(# ∀ )じゃあお前には今のおれが笑顔に見えるのか?
川ー川見えますよ!いつも通りの、優しい優しい私のモナー君!
.
800
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:55:21 ID:6GLMRu4E0
(# ∀ )…サダコをそれ以上汚すんじゃねえ
(# ∀ )……人間ってのは誰だって寂しいもんなんだよ。けどな、寂しいことだって、悲しいことだって……いくら嫌いでも、いくら憎くても…大切なものなんだよ
(# ∀ )いくら寒くたって、いくら拒絶されたって…いくらすれ違ったって…おれはもっと知りたいんだ、もっと触れたいんだ、もっと感じたいんだ、もっとわかりたいんだ
(# ∀ )だからおれは、サダコと、モララーと、アサピーと契約したんだ。勝手に第三者が破棄するのは許さねえ
川д川…モナー、君
(# ∀ )…すぐ助けてやるから待ってろ。とっとと出て来いブサイク花。氷漬けにしてチリも残さず粉々にしてやる
801
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:56:54 ID:6GLMRu4E0
( ∀ )
( ´∀`)・・・・・・
( ・∀・)…目が覚めたか?
苦々しい顔で、モララーがモナーの顔を覗き込んだ。
まだ視界がぼやけているし、ひどく頭痛がする。
身体がやけに重い。
それが魔力切れによるものだと、ぼんやりとモナーは理解した。
(-@∀@)花の魔物のいた場所は念入りに焼き払っておいた。再生することもないだろう
( ´∀`)……サダコは?
(-@∀@)…生命に別状はない。心臓も動いている。だが、あれはもう無理だろう
( ´∀`)…何が
(;・∀・)サダコの腕。そこに茨が巻き付いて食い込んでるんだよ…助けた時には、何も反応がなかった
(-@∀@)無理に茨を取り除くと、死亡する可能性すらあるからな…
(;・∀・)シィ様も治療を試みたけれど…心だけは、どうしようもないんだ
(# ∀ )
( ´∀`)
( ´∀`)
802
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:58:19 ID:6GLMRu4E0
むくりとモナーは身体を起こし、横たわったサダコを見た。
長い黒髪と、白い肌の、変わりないサダコ・イーベル・シェフェルトンだ。
モナーは懐から、一輪の銀色の薔薇を出した。
(;-@∀@)な……!?
モナーはそれを憎々しげに見つめた。そして顔に近づけて、ゆっくりと匂いを嗅いだ。
(;・∀・)お、お前それ…なんで…
( ´∀`)サダコがくれたやつモナ
(;・∀・)そうじゃない!なんでそいつを持ってるんだ!そいつは、そいつは…!サダコを!キミを殺したんだぞ!?
( ´∀`)だからこいつも消えてなくなるモナ。んあ
モナーは大きく口を開け、薔薇を放り込むと数回咀嚼してごくりと飲み込んだ。
803
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 14:58:56 ID:6GLMRu4E0
(;・∀・)バカーーーーーっ!!!!!
(;-@∀@)狂ったか!?その痛みは分からなくもないが吐き出せ、今すぐ吐き出せ!!
( ´∀`)?こんなもんどうせ排泄される運命モナ
モナーはきょとんとした顔で呟いた。
( ´∀`)モナはサダコと対等でいたいモナ
( ´∀`)来年も、そのまた来年もサダコと生きるモナ
(;・∀・)・・・・・・
(;-@∀@)・・・・・・
放り投げるようにモナーがぽつりと呟いた。
今のモナーに、二人が語れる言葉はなかった。
沈黙がその事実をモララーとアサピーに突きつけた。
モナーは逃げたのだ。
まるで見ていられず、アサピーの目にじわりと涙がこみ上げた。
モララーはただ、唇を噛んで静かにモナーを見つめていた。
804
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:00:52 ID:6GLMRu4E0
( ´∀`)むふ、むふ、むふふふ…
項垂れながらモナーが静かに笑いだし、モララーは眉をひそめた。
いつの間にか顔中をぐしゃぐしゃにして泣いていたアサピーも、ぎょっとして振り向いた。
( ´∀`)モナはなんともないモナ
( ・∀・)……………………ウソつくなよ
( ´∀`)ウソじゃないモナよーん。いつだってモナは正直モナ
( ´∀`)アサピー
空虚な笑みをモナーが浮かべる。
(-@∀@)な、なんだい…ぐすっ
( ´∀`)……人体実験でもなんでもしてサダコを助けろ。被検体はおれがいる
その瞳から二人は静かな闘志を感じ取った。
絶望から逃げてなどいない。飲み込んだ薔薇によって、その感情を取り除かれただけなのかもしれない。
それでも、その瞬間にモララーとアサピーが見たのは誰より強い奇跡の子、モナー・マエモゼムの姿だった。
やはりモナーなのだ。僕達のモナーなのだと。
二人は思わずモナーの身体に抱きついて泣き続けた。
805
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:02:10 ID:6GLMRu4E0
赤い日を映して川が流れていく。
26歳となったモナー・マエモゼムは、ただ虚ろにそれを眺めていた。
透明で、純粋で、透き通った川を。
水面を滑る花束を見た。誰かの夢が破れたのだろうか。それとも誰かに手向ける花なのだろうか。
そんなことを橋の手すりにもたれかかりながら考えていた。
( ´∀`)…厄災戦が始まるってのに、明日にはシベリア行きだっていうのに
( ´∀`)花の香りなど、忘れてしまえ。モナー・マエモゼム…
モナーは片手に持ったアカシアの花束を、宙へ放り投げた。
魂の不死。それを信じて、8年待ったのだ。
川に落ちたアカシアの花束は、先程の花束を追いかけるように流れていく。
悲しみが身体を支配しようとした。けれどモナーの心はそれすら凍らせて、モナーの平静を保たせた。
806
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:03:19 ID:6GLMRu4E0
( ´∀`)……寒いモナ
音もなく誰かが背後に歩み寄った。
気配には気付いていたけれど、それもどうでもよかった。
/ ゚、。 /モナー君
( ´∀`)…その呼び方やめろモナ
背に刺さる声に振り向かず応える。声の主は男でも女でもない。霧の厄災、ダイオードだ。
/ ゚、。 /少し暇になってね。フィレンクト・シェフェルトンは保険としてソウサクの地に私を残しておきたいようだ
( ´∀`)どうせ戦闘向きでもないんだからシベリアについてきたって役に立たんモナ
手すりに乗せた両腕に顔を伏せて言う。
ダイオードもその隣へ立ち、もたれかかって川の流れを見つめた。
/ ゚、。 /私だってシベリアには頼まれても行きたくないね。ただ、霧の中で一人隠れているのも退屈だ
( ´∀`)…それであれを見たモナ?
/ ゚、。 /責められる謂れはないよ。誰だってあんなものを見れば気になるさ…部屋に氷漬けにされた女性が居たらな
807
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:03:54 ID:6GLMRu4E0
/ ゚、。 /シラネーヨにも聞いてみたがね
(;´ー`)『シラネーヨ!!いやマジで!!あんなクソおっかねえもん隊長に聞けるわけないでしょ!?絶対開けちゃいけねえ蓋だって!!』
/ ゚、。 /とのこと
( ´∀`)…だって話す必要がないモナ
/ ゚、。 /それで、もっとキミという人間を理解するためにあの子に触れたんだ。いい収穫だったよ
/ ゚、。 /キミはどうも極端だった。初めて出逢った時も、シベリアに着いてからも……
/ ゚、。 /キミはぶれないんじゃない。最初から凍りついていたんじゃない。上手くその薔薇を利用して、傾き過ぎないように冷めたままで生きていたんだ
/ ゚、。 /納得がいった所でどうというわけでもないがね
808
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:04:56 ID:6GLMRu4E0
( ´∀`)お節介な神様にひとつ聞きたい事があるモナ
/ ゚、。 /ほう?
ダイオードが不敵に笑った。
( ´∀`)お前が入り込めるのは、心の中モナ
( ´∀`)モナは心を閉ざしきって、お前に勝ったモナ
( ´∀`)……サダコの心は生きてるモナか?
/ ゚、。 /答える必要はない。私が知っている事実が全てだから
モナーは橋の下へ飛び降りた。ばしゃんと水が跳ねる前に、モナーは魔法靴で浮いたまま水面を凍りつかせて走った。走って、走って、放り投げた花束を拾い上げ抱きしめた。
809
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:05:51 ID:6GLMRu4E0
/ ゚、。 /…いつもキミを見ている。キミが眠りから覚めて、汗だくでこちらを見るたびに嬉しくも悔しく思う。そう笑っていた
/ ゚、。 /キミが凍らせてくれたおかげで、キミが生きているおかげで私も生きているのだと
ダイオードは、遠くにいるモナーの姿を眺めながらひとりごちた。
/ ゚、。 /私は傍観者であり、代弁者に過ぎない
/ ゚、。 /だからこれは、サダコの花だ。モナー・マエモゼム……
凍結を解かれた川に、ダイオードは赤い薔薇を投げ込んだ。
水に濡れたモナーの横を、花束を強く抱きしめたモナーの横を、ただ5本の赤い薔薇が流れていく。
810
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:06:40 ID:6GLMRu4E0
『救出の魔法使いたちのようです』
その16
『止まって、散って、溶けて、砕け散る』
811
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:07:14 ID:6GLMRu4E0
ニガティタ島では、静かに火山の厄災が時を待つように立ち上がっていた。
5匹の凶鳥の厄災はソウサク、シベリア魔法局の混成軍により全て討滅された。
「フィレンクト隊長!凶鳥の厄災の巣を確認、我らは無事全ての卵を破壊しました!」
魔竜兵器ドラグーンに乗った隊員達が、喜び勇んでフィレンクトの元へ駆けつけた。
(‘_L’)よし…!念には念をと探させてはいたが…これで後顧の憂いを断てたわけだ…!
(‘_L’)君たちはすぐに海へ開いた闇の門の中へ。もはや我々が出来るのは去ることだけだ!
「はい!」
ふう、と額の汗をフィレンクトは拭った。
既に大多数のソウサク人とシベリア人は撤退を果たしている。残っているのは大魔導師と副官たち、そして…
(‘_L’)生き残れよ、ドクオくん…みんな…!
812
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:07:47 ID:6GLMRu4E0
(;'A`)いつまで走ってもキュート隊長が見つからねえ!クソぉっ!!
(;^ω^)走ってるのぼくだけだお!!!!
(;'A`)くそっ、どうする………火山の厄災が目覚める前に、俺は……!
(;^ω^)だからキミの下にはぼくがいるんだお!!黙って任せておけお!!
怒声と共にブーンはその豪脚で駆け抜けた。
時間がない。焦りが二人を包んでいた。
雄叫びを上げて走り抜けるブーンの上を、2つの影が必死に追いかけて行く。
魔竜の飛行速度すら超えて、ブーンはひたすらに走る。
走る。
走る。
走る。
(°、°;川ナイトーくん!!ドックン!!止まって!!
(;°ω°)おおおおっ!?また急に!!!!
止まる。
813
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:08:27 ID:6GLMRu4E0
(;´・_ゝ・`)早く乗ってください!追われているのでしょう!?
(;'A`)追われてるっつーか、追ってんだよ、今
(;'∀`)でも、まあ、二人とも生きててくれてたのはスゲー嬉しい
魔竜と箒に乗った二人を見上げながらドクオは笑った。ペニサスはにっと白い歯を見せVサインで返し、デミタスは横目に大きく息を吐いた。
(´・_ゝ・`)私達も同じ気持ちですよ、ドクオ。それで、厄災は?
('A`)俺たちの真下
('、`*川そーじゃなくて!さっきドックン達を追いかけてたヤマアラシだかハリネズミ!
( ^ω^)…お?
('A`)ああ、それなら…
背中からちょこんと降りて、ドクオがブーンと顔を見合わせた。
( b^ω^)bぼくたちで倒しましたおーー!!
(b'A`)bそゆことーーーーーー!!!
「やっりぃ!」とペニサスが声を上げた。そもそも鉄針の厄災を見ていないデミタスは理解が追いつかないままぽかんと口を開けている。
814
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:09:06 ID:6GLMRu4E0
(´・_ゝ・`)ええと……海月、汚泥、鉄針。一人で厄災キルマーク3体ですか。バケモンですね
('A`)まあ俺だって厄災だし。というかそいつらは基本的に誰かに支えられてなんとか倒せたようなもんだろ?俺一人でなんとかなったやつなんて一匹もいないぜ
(´・_ゝ・`)胸を張りなさい。褒賞モノですよ、厄災特別手当にさらにボーナス加算!一生遊んで暮らせます!
(*'A`)でへへへへ、そう?そう?困っちゃうな〜
(´・_ゝ・`)ああ、困る必要はありませんよ、あなたの給料全部復興費になってますから。よかったですね
('、`*川あ、そっか。タダ働きだもんね
('A`)あんたはそういうヤツだよ……………………
(´・_ゝ・`)まあ魔法局にいる人間、だいたい遊ぶ暇なんかないんですけどね…特に今の情勢では
('A`)励ましになってねえ………………………
肩を落としたドクオの隣で、ブーンがわなわなと震えた。
(;°ω°)ど、ドドド、ドクオが、や、やく、厄災………?
('、`*川あーそっち言ってなかったかー
('A`)めんどくせえな今更…………
815
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:10:05 ID:6GLMRu4E0
('A`)とりあえずキュート隊長を探してくれ。今は満足に動けないはずなんだ
(´・_ゝ・`)…手強かったようですね
('A`)まあな…二、三度死を覚悟したレベルだよ
('、`*川ナイトーくんは私と戻ろうか
( ^ω^)ほえ?まだぼく走り回っただけですお
(´・_ゝ・`)充分です。よくドクオを守ってくれましたね
('、`*川遠慮しないの、撤退命令も出てるからさ。副官と大魔導師は残るみたいだけど
(´・_ゝ・`)そういうわけです。まだ働けますね?
('A`)ああ。モララーは?
(´・_ゝ・`)戦っていますよ、まだ…自分と
816
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:10:40 ID:6GLMRu4E0
その時、デミタスとペニサスの間を光が通り抜けた。
(;^ω^)な……!?
(;'A`)厄災の攻撃か!?
(´・_ゝ・`)あー、いや。アレは………
从;'ー'从キュートちゃん!!!キュートちゃんを呼ぶ声がしたァーーーーーーーーッ!!!!!!!
叫び声と共に、その姿は遠ざかっていく。
ワタナベだ。驚くべき速さで魔竜に乗ったワタナベが駆け抜けたのだ。
デミタスは目を閉じ困ったように肩をすくめてペニサスを見た。
('、`*川ワタナベさん…あんな感じだったっけ……
(´・_ゝ・`)酒入るとああですよ。今は極限状態で5割増しみたいですけど
817
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:11:44 ID:6GLMRu4E0
('、`*川……心配、ないかな?
(´・_ゝ・`)なさそうですね。あなたがたも撤退を急いでください
('、`*川おっけ。デミタスさんも死んじゃダメだよ
(´・_ゝ・`)そうそう死にません、ソウサクに山程仕事が残ってますから。あーでもそうなると死んだほうがマシな気もします…?あれ?ん?おや?
('、`;川隊長ォーーーー!もうデミタスさん感覚ぶっ壊れすぎて混乱してるよ隊長!
(´・_ゝ・`)冗談です。ドクオくんもついてますし。やり残した事が沢山あるのは確かですけど
(´・_ゝ・`)9m お行きなさい!まだまだ仕事があなたを待っていますよ!!
('、`*川なんだろうこの素直に「ええ!」と言えない台詞は
('A`)マジで働きすぎでぶっ壊れてるんだよ、こいつは…
818
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:12:28 ID:6GLMRu4E0
ロマキング1号はただ無言で立ちすくんでいた。
火山の厄災の上にまだ魔法使いたちがいる可能性がある以上、迂闊な攻撃はできない。
モララーはドクオ達の救援に向かったようだ。
島は静まりかえっていた。
(-@∀@)…そろそろだろうな
あの火の鳥はいずれ来る。もはや武器など残っていない、徒手空拳のみの戦いを強いられるだろう。
だが、アサピエーラ・ガデライトは科学者である前に魔法使いだ。
それを教えてくれたのが他ならぬモララーだったことも、アサピーのコンプレックスを刺激した。
(-@∀@)……僕は、勝つ。アサピエーラ・ガデライトとして、おまえに勝つ………
819
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:13:20 ID:6GLMRu4E0
ロマキング2号はあぐらをかいていた。
巨鯨の厄災の真上で。
いくら破壊してもまるでびくともせずに厄災が前進するため、アサピーと合流してから今後を考えることにしたのだ。
(-@∀@)ニュッケン!!何をやっている!?
( ^ν^)リラックスしてまーす
(#-@∀@)そんなことは聞いていない!!!
怒鳴り声に「おーこわ」とヤマサキに視線を移す。ワタル・ヤマサキは困り果てるばかりであった。
(; ^^)巨鯨の厄災、連れてきちゃいました!とりあえず指示くださいね!!
(#-@∀@)「連れてきちゃいました」じゃないが!!?すぐに上陸して態勢を立て直せ!
その時、火山の厄災が目を覚まして雄叫びを上げた。
文字通りに島の半分が震え、その声は全ての魔法使いたちに響き渡った。
820
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:14:07 ID:6GLMRu4E0
(;・∀・)くそっ、とうとう目覚めたか!ドクオは!?
(´・_ゝ・`)『モララー様、デミタスです』
モララーの乗った魔竜にデミタスからの通信が入った。
( ・∀・)デミさん!ドクオはどうした!?
('A`)『無事だ!しかし入れ違いになったらしいな、すまん!』
( ・∀・)いや、安心したよ。僕もすぐ戻る…!?
轟音を上げて火山が噴火する。
岩石の弾丸がモララーの頭上を舞った。
(;・∀・)攻撃開始というわけか……!
821
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:14:45 ID:6GLMRu4E0
从;'ー'从キュートちゃんっ!!もう、本当に何処に行ったのかなあ〜!!?キュートちゃん!!!!!
从;'ー'从っ、やばい…攻撃始まっちゃった…!
だん、と地面を荒々しく蹴って森の中から小さな影が飛び出した。
川 ゚ 々゚)クルウちゃん岩石ホームランダービー!!!!!!!!!!!そらぁっ!!!!!!!
大剣を振り回し降り注ぐ岩石を砕き、現れたのはキュート・クルットル・スナールだ。
鉄の魔力で作られた義足が強靭なパワーと自由自在に空を舞うスピードを与え、その鬼気迫る勢いはさらに加速した。
从;'ー'从キュートちゃん!?
川*゚ 々゚)いえーいワタナベ!みてみて!新しいクツ!いる!?ほしい!?ほしい!?おそろいしたい!?だったらすぐに用意してあげる!!
从;'ー'从間に合ってる!空は今無理だよ、今は海へ向かって逃げよう!?
川 ゚ 々゚)…サマーシーズン到来?
从;'ー'从何が!?
o川*゚ー゚)o…まあいいや。みんな逃げてるんでしょ?ドクオ君たちは…
从;'ー'从無事に回収されてたよ!
822
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:15:28 ID:6GLMRu4E0
(;^^)うわああああ火山の厄災こっち狙って来てますよ!?避けてくださいね!?避けてくださいね!!!?
( ^ν^)俺らってか、俺らが座ってるバハムートじゃねーかな
(;^^)どちらにせよリラックスしてる場合じゃないですって!!いつまであぐらかいてるんですか!!
( ^ν^)ケッセラ〜セラ
(;^^)飛び込んでえええええええ!!!早く!!海に!!海に!!!!!
( ^ν^)飛び込むんなら一人で飛び込めー
騒ぎ立てるヤマサキをぴしゃりと切り捨てたニュッケンに、ヤマサキは目を丸くした。
823
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:16:07 ID:6GLMRu4E0
(;^^)あ、あの…ニュッケンさん?ほんと何するつもりなんですか…?
( ^ν^)あ?んー。今はなんもしねえ。俺はここで見届けたいものがある
( ^ν^)なあ…まだ何も見せてねえだろ?巨鯨の厄災、バハムート・ディザスター。…お前の本気をさ
不敵にニュッケンが口の端を吊り上げる。
酷く濁ったニュッケンの瞳が輝いている。それだけでヤマサキはこの状況の異様さを肌で感じ取った。
(;^^)(い、一度は生き残れはしたけど…このままこの人についていくと死ぬよりヤバい何かが待ってる気がする…)
(;^^)(だってこの人の笑い方…神や悪魔や厄災より恐ろしいんだもの…)
824
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:17:16 ID:6GLMRu4E0
アサピーは目を疑った。
迫る巨鯨の厄災の姿は、明らかに人工物のそれだ。
巨大な戦艦から生えた異形の手足。ぎょろぎょろと動く無数の目は、レーダーと照準器の役割も果たしているらしい。
確かにそれは、人の叡智の結晶じみた佇まいをしているかもしれない。立ち上がり手を叩いて、これこそ魔科学の神秘だと、ある人種は喜ぶかもしれない。
現にニュッケンはそれに心を奪われていた。
だが、アサピーにとってそれは見たくもない“果て”だった。
おぞましい、嫌だ、あれが?
あれが自分が人生の全てを尽くした魔科学の果てだというのか。あんなものが。
アサピーは嫌悪感に眉をひそめ、ぎりぎりと歯を食いしばった。
825
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:17:55 ID:6GLMRu4E0
( ´∀`)来たモナね
(;´ー`)あ、あれが今日目覚めるってバハムート!?いやいやいやいや、あれ船じゃないすか船ェ!
( ´∀`)…先にだいたいお前が言ってくれるからいちいち驚かなくて済むモナねー
( ´∀`)さて、あれも凶鳥と同じ移動できる厄災……フィレンクトさんはどうするモナか…?
从'ー'从『こちらワタナベ、キュートちゃ…隊長を確保しましたー!』
lw´‐ _‐ノvっし。もう火山の厄災の上にいるヤツいないね
(´<_` )・・・・・・
( ´_ゝ`)やるか、弟者よ
(´<_` )ずいぶんと待たされたからな。3分でケリをつけるさ
腕を組んでオトジャが声を張り上げた。
(´<_` )フィレンクト・シェフェルトン!!ここにいる全てのソウサクの大魔導師達を撤退させろ!
(;‘_L’)『か、構わないが…君たちはどうするつもりだ!?』
( ´_ゝ`)これから起こる戦いのスケールは違うのだよ。いつまでもソウサク人の番ではないということさ
(´<_` )…まあ、そういうわけで。頼む
826
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:18:53 ID:6GLMRu4E0
ミ;゚Д゚彡ふざけんな!シベリア人だけで正気じゃないぜ!
(´<_` )出来るだけ厄災の数は減らしておきたい。安心しろ、無理なら無理でケツまくって帰る
(,,゚Д゚)…俺もフサギコと同意見だ。それならなおさら俺たちの力は必要になる
( ´_ゝ`)チッチッチッ…
(´<_` )悪いな。ソウサク人のどの兄弟よりも、ヴィップ人のどの兄弟よりも、シベリアの無数の同胞達よりも、俺たち兄弟は出来が違う
( ´_ゝ`)流石なんだよな、俺ら
言っている意味が分からない、と怪訝な目を向けるギコ達にニヤリと口を歪めてオトジャは魔竜から飛び降りた。
(´<_` )シベリア流格闘術、変身の法。翠樹弟者
緑色の光がオトジャの周囲をゆらめく。
身体中の細胞が激しくうごめき、肥大化していく。
高く、高く。脚はたくましい大樹となり、棍棒のように膨れ上がった腕の筋肉は鋭い巨人の剣へと形を変えていく。
827
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:19:52 ID:6GLMRu4E0
激しい地響きと共に、それは降り立った。
(‘_L’)えっ……ええ………?
<ヽ;`∀´>ニダァ!?
( ´ー`)…俺まだ酔っ払ってる?
('A`)マジで?
| ^o^ |ほええ
(#゚;;-゚)…………アレは、なんだ?
ミ#゚Д゚彡ふざけんな!!!!!!!どう鍛えたらなれるッてんだよあんなんよォ!!!!!!!!
(,,゚Д゚)……なるほど、流石だ
川 ゚ 々゚)おおおおおおーーーーー!!!!!!あれ見てワタナベ!!あれ!!
( ^ν^)うわスゲ
(-@∀@)………!?!!???!!?!?!
lw´‐ _‐ノv驚きモモノキ短小の木っちゅーやつだね
(´・_ゝ・`)ウソでしょ?
( ・∀・)まさしく驚愕だな…700メートル級の巨人なんて……確かにスケールが違う。違いすぎるや…
( ´∀`)だから巨神見ても動じてなかったモナね
( ´_ゝ`)まっ、そんな感じ
(´<_` )…ふっ
828
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:20:52 ID:6GLMRu4E0
(´<_` )だからさっさと逃げろと言うんだ。巻き添え食っても俺は知らんぞ
オトジャはむんずと火山の厄災を下から抱え上げた。
島の半分を、軽々と巨鯨の厄災へ向けて投げようとしているのだ。
今のオトジャにとってもはや火山の厄災はノロマな亀を超えて鈍器でしかなかった。
( ^ν^)あ。これさ…やばくね?
(;^^)おっっっっっっっっっっっっっっっそいんですよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
( ^ν^)…チッ。脱出カプセルしゃっしゅつー。目標地点は闇の門で
(;^^)ちょっ、せめて脱出するってもっと早く言ってくださいね心の準備がちょっア゛ア゛ーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!!
( ^ν^)いやあすんませんね皆さん。俺らお先で。残ったロマキング2号は自爆しまーっす
829
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:21:44 ID:6GLMRu4E0
(-@∀@)バカどもが……僕は逃げやしない。あれを…あそこに存在させておくわけにはいかない……!
頭上で大きな爆発が起こったが、巨鯨の厄災はまるで気にせずエネルギーを集中し始めた。
仕掛けてくる前に潰す。
オトジャと巨鯨の厄災は、まったく同じ目つきで睨み合った。
その時、巨大な火の玉がオトジャの身体に飛び込んだ。
凄まじい衝撃と共に、島が落ちる。
(´<_` )むぐっ……!
( ゚∋゚)偽神、滅ぶべし…!
(;‘_L’)でででで出たァーーーーっ!!魔法局、全員撤退ーーーーっ!!!!!巨鯨と火山ともう共倒れを願うしかないよ!!!!!
(#-@∀@)来たか!!クックルゥァァァ!!!!!!
lw´‐ _‐ノvうんまあ、来ると思ってたよ。いるだけでメーター振り切ってるもんね
(#゚;;-゚)言ってる場合か。我々も撤退するぞ
830
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:22:35 ID:6GLMRu4E0
( ・∀・)…僕は、残る
lw´‐ _‐ノv…モラちゃん?
( ・∀・)…シンガリってやつさ。オトジャさんの魔力が切れて身動き出来なくなった時、誰が回収するんだ?それにアサピーのバカもクックルに掴みかかってる
( ・∀・)全力を尽くすよ。みんなで生き残って帰るためにね
モララーは自信たっぷりに微笑んでみせた。
('A`)なあ、嘘や妙な演出はナシだぜ
| ^o^ |たいちょう
(´・_ゝ・`)その「みんな」に、貴方は含まれてますよね?
( ・∀・)当たり前さ。やれるだけの事をやってから僕も逃げる。信じてよ
( ´ー`)あらかた飛び込みましたぜ、隊長!隊長?
( ´∀`)モララー
( ・∀・)わかってる。僕らは3人じゃなきゃな
( ´∀`)モナモナ
831
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:23:32 ID:6GLMRu4E0
(´<_` )(残り時間は少ない……数を減らすのが先決だ、だったら……)
(´<_` )ふんッッ!!
オトジャはもう一度火山の厄災を持ち上げ、天に掲げた。
そのまま勢いよく、火山の厄災の身体を膝で真っ二つにへし折ったのだ。
圧倒的な暴力の前に為す術もなく蹂躪され火山の厄災は悲鳴を上げた。
( ´_ゝ`)その咄嗟の判断…流石すぎるな。おせんべいかよ
( ´_ゝ`)…!?弟者、そいつをそのまま投げろ!巨鯨の厄災が攻撃してくるぞ!!
(´<_` )むッ!?
オトジャはアニジャの声に一瞬反応が遅れた。
巨鯨の厄災は大きくそのおぞましい口を開き、その目はどこか勝利を確信したかのように嗤っていた。
( ゚∋゚)………!!!!!!!
(-@∀@)な……何をする気だ…?
クックルが巨神の手を振りほどき、目の前に炎の防壁を張った。
何かが来る。
クックルすら恐れる何かが。
アサピーは震える手でロマキングの光波防壁を展開させた。
モナーとモララーは高く上昇し、アサピーの頭上に回った。
832
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:24:40 ID:6GLMRu4E0
光が走った。
白い、量感に溢れた光と熱の塊が広がって、こちらに襲いかかるのをモララー、モナー、アサピー、アニジャ、オトジャは見た。
それはこの世の何よりも圧倒的で、衝撃的な光景だった。
それが恐るべきスピードで近づいてきた瞬間、オトジャは巨大化を解除した。
投げ込まれた火山の厄災は彼らの盾となったが、瞬時にその姿を消滅させた。
その光が過ぎ去った後、彼らが目にしたのはクックルが血反吐を吐いて倒れる姿だった。
自らの行き着く先。
生命を創造するという人間の力を超えた技術の果てに、人はいつか神を造り出す。機械仕掛けの神を。
それは紛れもなく禁忌への道であり、その道の出発点に立ってしまったという罪がアサピーにはあった。
その罪に対して突きつけられた罰が、魔科学の果てが、厄災という姿で海を裂いて、大きな脚を生やして上陸してくる。
(-@∀@)…………くっそおおおおおおおおっ!!!!!!
アサピーは髪を掻きむしった。それは自分の人生そのものが粉々に破壊された瞬間だった。
833
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:25:40 ID:6GLMRu4E0
(;´_ゝ`)弟者!
蒼竜に姿を変えたアニジャが、オトジャを咥えた。
(´<_`;)すまん……あれだけもったいつけておいて…身体が動かん、筋肉という筋肉が痛みを上げている……こりゃあマジに3ヶ月は寝たきりになりそうだ兄者…
(;´_ゝ`)バカ野郎ソウサク人の前だからって見栄張っていつもより200メートル大きくなったりするからだ!ただでさえお前の変身の法は負荷が大きいのに!
( ´_ゝ`)……じゃなくて、よくやった。火山の厄災を殺れただけでも充分だ。帰ろう、シベリアへ…
(;´∀`)アサピー、モナたちも撤退するモナ!
(-@∀@)…ダメだ
(;・∀・)確かにクックルに固執する気持ちはわかる!けど!けど今は意地より生命だ!逃げなくちゃならないんだよ!!
(#-@∀@)ダメだ、ダメだぁっ!!!僕から意地を取ったら、それこそ何が残ると言うんだね!!?!!?
(;´∀`)今更プライドの話モナか!?お前にはまだ未来が残るモナ!残さなきゃあいけないモナ!!
834
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:26:22 ID:6GLMRu4E0
モナーが声を張り上げている。
その横でモララーの脳裏をあの声がよぎった。
あの目が。
あの目が再びこちらを見ている。
( <●><●>)『どう歴史が変わろうと、死ぬ順番も、死ぬ人間も、変わりません』
( <●><●>)『アサピエーラ・ガデライトは、死ぬ』
(;・∀・)
( <●><●>)『で?モーラ・モラール・マタリウス。あなたはどう止めますか?いや、そもそも』
( <●><●>)『止める気があるのですか?』
(;・∀・)!
( <◎><◎>)『偽善者のあなたが、誰よりも自分本位のあなたが…』
( <◎><◎>)『できませんよね。人の器に収まったあなたは、非力で、脆く、そして、醜い。誰も救うことなどできない……!それが運命………!!』
835
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:26:58 ID:6GLMRu4E0
モララーは激しく首を振って、巨神ロマキングを見据えた。
( ・∀・)まったくどいつもこいつも…好き勝手な事ばかり…
( ・∀・)…人の生き方を光だ影だ当たり外れだ仕組まれた運命だとか言うヤツにロクな奴は居ないんだよなあ!
( ・∀・)…最初から決められた運命なんてあるもんか
(#・∀・)僕を誰だと思ってる!?僕は!君と同じ!!アカデミー472期生のモーラ・モラール・マタリウスだぞ!!!
(#・∀・)ふざけるな、アサピエーラ・ガデライト!!
(#・∀・)僕たち3人の進んできた道の果てが!こんな終わりで良いはずがあるまい!?
(-@∀@)…!
836
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:27:39 ID:6GLMRu4E0
辛うじて自分とアサピーを結んでいた細い糸が、アサピー自身の決意によってぷっつりと音を立てて切れたのはわかっていた。
それでもモララーは諦めずに手を伸ばし、糸を手繰り寄せた。その身が穢れようと、そうせずにはいられなかった。
(# ´∀`)アサピー!
(# ´∀`)死者を振り向かせたいのなら、奴らが羨むほど眩しく生きてみせろモナ!
(-@∀@)ふ…フハハハ、ハハハハハハハハハハ……!
(#-@∀@)見くびるな、モーラ・モラール・マタリウス!モナー・マエモゼム!僕はシィなんかの仇を討つために死ぬつもりはない!!
(#-@∀@)キミたちは目先の恐怖で本質を見失っているようだな!ヤツは海と陸を制する力がある!たとえどれほど離れた距離からでも、僕達を攻撃できる力がある!
(#-@∀@)なんの変哲もなく過ぎゆく日常が、予測や防壁の準備なんてする暇もなく不可視の攻撃で消滅させられるかもしれないんだぞ!!?
(;・∀・)………………!
(;´∀`)…っ
837
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:28:34 ID:6GLMRu4E0
(#-@∀@)あそこに!!あんなものを残しておくわけにはいかないんだよ!!!
(#-@∀@)僕は僕自身のために!あいつを否定しなければならない!たとえ時代がいずれ僕を追い越したとしてもだ!!
(#-@∀@)僕は魔術核を使う!使うべき時は、今しかないんだよ!!
(;´∀`)魔術核!?
(;・∀・)バカな、アレは全て闇に葬られたはずじゃ………!
モララーはハッと見上げた。そうだ。何故忘れていたのだろうか。いくらデータを処分したところで、設計者の頭から取り除く事は不可能だと。
最初からアサピーは厄災を葬って死ぬつもりでここに来ていた。いや……
( ・∀・)…おまえ、最初から僕らに反対される事を予想した上で…厄災どもを倒して全部抱えて死ぬために魔術核を製作したのか………
838
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:29:25 ID:6GLMRu4E0
(#-@∀@)僕は魔科学と共に生き、魔科学と共に死ぬ!今更なんのためらいがあろうか!?ハハハハハ…!!
(# ・∀・)答えろっ!アサピー!!ディはどうなる!?
(;-@∀@)……!ディは!ディの家族は、僕じゃない!スナールの小娘どもだ!!
(# ・∀・)アサピー!!!!!おまえは!!おまえは……!!
(# ・∀・)おまえはあいつの親なんだぞ!!
([-@∀@)ぬうっ……!?
(# ・∀・)今すぐそこから出るんだ!キミが生きる道はなんとしてでも僕が作る!早く!!
(-@∀@)ふっ…ふふ、ははははは…!他人の敷いた道を歩むことの何が面白いものか、モララー!!
(-@∀@)……でも、ありがとう。起動したよ、1分後には全てが消し飛ぶ
839
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:30:47 ID:6GLMRu4E0
(-@∀@)僕に残された出来ることといえば、君たちを全力で生かすことくらいだ
(-@∀@)フフ、ハハハハハ…ヨダメ・ラタデ……デタラメダヨ、だったか?キミらしい馬鹿馬鹿しい呪文だ
(-@∀@)風よ、彼らを居るべき場所へ
ロマキングが掌をモララー達の前に突き出した。
フィレンクトが撤退した後も、闇の門は開き続けている。だが、それは少しずつ小さくなっていた。フィレンクトの魔力で維持し続けるには限界が来ていたのだ。
巨神の掌から生じた突風が、モララー達を吹き飛ばした。
(;´∀`)アサピー!!
(# ・∀・)………っ
風の中で、モララーは時間を停止させた。
(;´∀`)モララー!!おまえ、止め……!
(;´∀`)待っ、モナも……!モララァァーーッ!!
モナーの背後から、黒く大きな影が伸びた。
それは腕を形作り、モナーの身体を掴んで吸い込んだ。
(# ・∀・)アサピーッ!!!!!
840
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:31:31 ID:6GLMRu4E0
クックルは膝をついたままだ。
アサピーは上陸してきた巨鯨の厄災にしがみつき、押さえつけた。
だが、巨鯨の厄災もまた再びあの光を放たんとエネルギーを集中している。
アサピーはそれをまじまじと見ていた。
アサピーの眼鏡に、数字が反射していく。
20、19、18…
(-@∀@)(バハムートが何処から来たのか、誰が造った存在なのか、それら全てがまとめて海の底へ沈む)
(-@∀@)(残った連中は惜しがるだろうが、それだけ想像の翼を羽ばたかせる余地もある)
(-@∀@)(せいぜい「わからない」ということ、不確かな未来、見えない絆…それを愛おしく思うことだよ)
『アサピエーラ』
(-@∀@)(…なんだろうなあ)
『アサピエーラ・ガデライト』
(-@∀@)(ひどく騒がしくて、不満もあったし…不甲斐なさを感じる時や、劣等感を感じる時もあった)
(-@∀@)(けど、不思議と、今とても満足している自分がいる)
841
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:32:25 ID:6GLMRu4E0
「アサピー!!おい、アサピー!!操縦席を開けろ!!」
(-@∀@)…僕はキミになんかなれないとずっと思っていたのになあ
(-@∀@)今頃になって初めて理解してしまうところが、それを快感と感じてしまうところが……僕の愚かしさというべきか
『目をお開けなさい、アサピエーラ』
(-@∀@)しっかり見据えているさ
(-@∀@)なあ、モララー、モナー。キミたちは知っていたかもしれないが、僕らはずっと同じだったんだ。ずっと、ずっと、時間をかけてそれぞれの命を問いかけ続けていたわけだ
(-@∀@)キミたちと出会わなければそんな風には変われなかったのにな。だのに僕は僕の事を何も知らなかったくせに、一丁前にね
(-@ー@)でもな
(-@∀@)知ったかぶりで損をした人生だったとは思わないさ、僕は
842
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:33:04 ID:6GLMRu4E0
(-@∀@)ふふ、ふふふ…僕は勝ったんだ。この3人の中で!このアサピエーラ・ガデライトが!『答え』に1番乗りで到達した!無脳な諸君らはせいぜい長いこと長いこと悩みぬけば良いのさ!
『アサピエーラ』
「アサピー!!!」
(-@∀@)ハーーーーッハッハッハッハッハッハッ!!!!!!ハーーーーーーーッハッハッハッハッハッハ………!!!!!!!!
.
843
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:33:28 ID:6GLMRu4E0
.
844
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:33:59 ID:6GLMRu4E0
全てがかき消えた。
戦場は爆心地となり、野太い虹の柱が雲を貫いた。
それは魔力でできた膨大なエネルギー。
シベリアの平原でそれを見ていた魔法使いと魔闘家たちは、戦いの終息を悟らざるを得なかった。
最後に闇の門から出てきたのはモナーだった。
呆然としたまま、「モララーとアサピーは?」という問いに首を振っていた。
あの暖かな日々への郷愁が、狂気が、憧憬が、執念が、歓喜の声が、影が。全て、全てあの虹の光の中へと消えていった。
845
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:35:21 ID:6GLMRu4E0
虹の柱が消えて、モナーは一人闇の門へ入り込んだ。
同行は禁じた。自分一人だけで行くと、そう睨みつけたモナーの目をフィレンクトは止める事は出来なかった。
闇の門が閉じかけていた時、何かしたかとモナーは問いただした。
ドクオが咄嗟に回復と闇の門の維持を手伝ってくれたのだとフィレンクトは語った。
それで納得したわけではなかった。
( ´∀`)………サダコ
( ´∀`)なぜおれを生かした?
( ´∀`)……わかってるよ。キミが生きている限り、おれはまだ死んじゃいけないんだ
( ´∀`)そう願ったんだものな
846
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:35:56 ID:6GLMRu4E0
モナーは魔法靴で浮き、空から島全体を見回した。
全てが静かだった。ただ、大きな変化があった。
痕跡がない。
抉れた山、割れた大地、燃え落ちた森…戦いの痕跡が、欠片もない。
厄災戦が始まるずっと前に、時間が巻き戻ったかのように。
不気味なほど、島は元の状態を保っていた。
海にも陸にも厄災の姿はない。奴らは完全に蒸発したのだろうか?
モナーはふわりと着地した。
そして自分が立っている場所の景色が、モララーの果たした最後の仕事だったと理解した。
( ・∀・)『これでノーカンさ』
そんな呑気な声が、モナーの耳元で囁いた。
無論幻聴だと、モナーは理解していた。
847
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:36:41 ID:6GLMRu4E0
( ・∀・)『ああそうか、君が例の奇跡の子モナーか』
( ´∀`)…お前も同じモナか?
( ・∀・)『けどそうなると僕にはお仲間がいなくなってしまうな。今のアカデミーに特殊属性持ちは僕らだけだというのに』
( ´∀`)…そうモナ!モナとキミは、おんなじ仲間モナ!
( -∀-)『そうだね。…羨ましいよ、キミみたいな生き方は』
( ´∀`)
( ´∀`)ちげえモナ
(;・∀・)『そうだ、そうだったんだよ!僕が勝手にキミに抱いていたシンパシー!それをキミは利用してまるでもう一人の自分と話しているような気分に浸らせる言葉を並べて!僕を弄んだんだな!!』
( ´∀`)そうでもしないとお前はいつまでもモナと自分を別枠に置いたままグズグズしてるだけモナ
( ´∀`)『むふふふ。嘘は「心があったかくなったことがない」くらいモナ』
( ´∀`)これ大嘘モナ
848
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:37:52 ID:6GLMRu4E0
( ・∀・)『たとえ残ったとしてもたった1年弱だろ?そんな心配はいらないさ。すぐにまた一緒に居られるよ、モナー・マエモゼムなら』
( ´∀`)お前にとってたった1年でもモナにとっては長い長い1年モナ
( ・∀・)『僕だって魔法局に行けば、もっと自分の可能性が開けると思うんだ』
( ´∀`)モナたちといる時間に満足してないモナか?
( ・∀・)『つくづく思うんだが、君ほど並び立った時に安心するやつは居ない。けれど僕と君が背中合わせで戦えるかって言ったらきっとそれはノーなんだ』
( ・∀・)『そうなった場合、多分足手まといになって先に死ぬのは僕なんだよ。君の強さに甘えちゃって全力出しきれないからさ』
( ´∀`)お前でかくなっても何にも変わってないモナ
( ・∀・)『僕がやられたら困るから、身を挺してでも守らないといけないって危機感を抱くくらいにほどほどに弱くて、僕にもこいつが欠けたらまずいって思わせてくれるような強みがあるヤツ』
( ´∀`)モナにそんな思考がないと本気で思ってるモナか?
849
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:38:36 ID:6GLMRu4E0
( ・∀・)『まあ一応ね。花言葉は他にもいろいろあったはずなんだけど、そこんところは忘れちゃったんだ』
( ´∀`)うそつけアホ
( ・∀・)『アカシアとかどうかな。花言葉は「魂の不死」ステキだろ?』
( ´∀`)「友情」もすてきモナ
( ´∀`)魂の不死か。モナは信じてなんかいなかったモナ
( ´∀`)でもお前が格好つけのロマンチストで
( ´∀`)ベストマンだなんだって言ってたら妙に本気出して馬鹿正直に信じ込んで薦めてくれたから
( ´∀`)モナにも良いことあったモナ
( ・∀・)『…人に言えない理由でもさ。あまり独りで悩まないで欲しいんだよ、モナー・マエモゼム』
( ´∀`)
( ´∀`)モナは
( ´∀`)そんな格好つけて抱え込んでブーメランよく刺さるアホのお前だから契約したモナ
850
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:39:38 ID:6GLMRu4E0
(-@∀@)『天才の僕を助けて感謝の言葉でも貰いたかったか!?ハハハハ、残念!僕は一人でも生きていけるのさ!君たちが出せるような発想が僕に出来ないわけはないだろう?ハハハハハハ!』
( ´∀`)おもしれえ〜
(-@∀@)『フン!モナー・マエモゼム、氷の魔法使いねえ!だが僕の方がもっと凄くて、偉大だとも!何故か?氷は炎に勝てない!!サルでもわかるだろ!?はーーーっはっはっはっはっは!』
( ´∀`)おもしれ〜
(-@∀@)『ふむ、シィ・ニャイッキーの最短卒業記録が破られる可能性もあるな。それでは困る、僕の偉業が霞むじゃないか』
( ´∀`)…そういうヤツだからお前好きモナ
(#-@∀@)『ば、馬鹿だと!?言うに事欠いてモナー!!君は天才たるこの僕を!馬鹿と言ったのかい!!?』
( ´∀`)お前は本当に今までの人生で初めて見るタイプのバカモナ
(-@∀@)『透明で、純粋で、水晶ォ!?これが!?ははははははは!!』
( ´∀`)よーくわかってるモナねー
(-@∀@)『キミは僕と同じ天才なのだから!はーーーーっはっはっはっ!』
( ´∀`)そ。おんなじモナ
851
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:40:55 ID:6GLMRu4E0
(-@∀@)『……魔法術式ね。やはり壁があるということか…天才と、凡人には……』
( ´∀`)そういうお前嫌いモナ
(-@∀@)『フハハハハハハハハ!!時代は魔科学が切り開くのさ!僕の、そう僕の魔科学が!』
( ´∀`)そう。その鬱陶しいのがお前モナ
(;-@∀@)『き、君は客人に唾を吐きかける癖でもあるのかい!?直した方がいい!直した方がいいぞ!!』
( ´∀`)ペッペッ
(-@∀@)『な、なんだい…ぐす』
( ´∀`)モナはモナの代わりに泣いてくれるヤツが好きモナ
(-@∀@)『ふふ、うふふふ…ああ、紹介するよ。僕が生み出した人造生命体第1号ディだ。美しいだろう?』
( ´∀`)ちげえモナ
( ´∀`)お前そんなんじゃねえモナ
852
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:41:56 ID:6GLMRu4E0
(#-@∀@)『……………ああ、そうだよ、僕は凡人さ。愛する人と並び立つ事も出来ない、君の背中に一生追い縋るだけの凡人だ!どうして引き止める!?どうして言葉にする、どうしてタガを外させてくれない!!せめて狂人にでもなれれば僕は凡人以外の何かになれたはずなのに!!』
( ´∀`)そういうお前本当マジで嫌いモナ
( ´∀`)凡人とか天才とかじゃなくてお前はアサピエーラ・ガデライト。それでいいモナ
(;-@∀@)『なあ、頼むよ、モララー…時の魔法使いだろ?巻き戻してくれよ…そうだ、17年前がいい。あの時が一番楽しかった…』
( ´∀`)そこに関しちゃ異論ねえモナ
(#-@∀@)『見くびるな、モーラ・モラール・マタリウス!モナー・マエモゼム!僕はシィなんかの仇を討つために死ぬつもりはない!!』
( ´∀`)うそつけバカ
( ´∀`)そもそもお前を見くびったことなんか
( ´∀`)けっこうあるけど
( ´∀`)…やっぱモナお前のこと心の底から嫌いモナ
( ´∀`)死ななきゃ治らないレベルのバカでもモナはバカ野郎のお前でよかったモナ
853
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:42:57 ID:6GLMRu4E0
『モナー』
『モナー!』
『モナー君』
( ´∀`)まったく…みんな本当に……
( ´∀`)文句の一つも言う暇もなく……
( ´∀`)…みんな嘘つき野郎モナ
( ´∀`)けど、ずっと言わなかったのもモナには違いないモナ
モナーは目の辺りに何か暖かいものがじんわりと広がる感触を覚えた。
ぽた、ぽた、と何かがモナーの手に触れた。
拭った指を舐めてみる。
しょっぱかった。
854
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:43:46 ID:6GLMRu4E0
ああ、自分は泣いているのか。
泣けるのか。
意識した瞬間、一気に目に涙が溢れる。
モナーの身体を包んだ熱は、怒りへと変わって絶望ごとその身を焼き尽くした。
ああ、サダコが死にかけた時にも、自分は泣けなかったのに。どうしてこんな時に溢れるのだ。
気にしないようにしてきた数々の悔やみが溢れ出して、心の氷を溶かしていく。
薔薇のせいだ。
全て。
悔しげに地面を叩き、その土を掻き抱く。
そうしたところでモララーも、アサピーも、そこにはいない。
( ∀ )……寒い
暫く嗚咽を止める事が出来なかった。
855
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:45:27 ID:6GLMRu4E0
(´・_ゝ・`)ニガティタ島、厄災討滅作戦…死亡者数、2700名。ソウサクとシベリアの総力戦ですから…数字としては、奇跡的です
(´・_ゝ・`)討滅された厄災はレイヴン5体、ポーキュパイン、ボルケーノ、バハムート、クックル。結論から言うと、全てです
(´・_ゝ・`)後半2体はまだ不確定ですが…海にバハムートの残骸が多数浮いているのが確認されてます
(´・_ゝ・`)再生されても困るので、そちらはモナー様に凍結処理を後程
デミタスの声が冷たく会議室に響く。
憮然とした表情で、ただ淡々と結果を告げていく。
最も4番隊の人間らしい不器用な生真面目さは、それを率いる隊長が居なくなっても変わらなかった。
その姿にシュールは泣き腫らした目で無言の非難をぶつけた。
けれどデミタス・モリオカウルは曲げなかった。曲げられなかった。
それが自分の生き方であり、4番隊の副官らしいあり方だからとデミタスは言い聞かせた。
フィレンクトはデミタスの報告にただ頷いた。頷くほかなかった。
856
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:46:15 ID:6GLMRu4E0
驚くほど静かだった。
発言する事が罪悪であるかのような空気が辺りを包んでいた。
しかし黙っていても、沈黙はその喪失を物語るばかりだ。
周りをきょろきょろと見渡しながらそっと小さく挙手して、ニダーが口を開いた。
<ヽ`∀´>…魂の重さは21グラムだとかなんとか、大昔のヤブ医者は言ったらしいニダ
<ヽ`∀´>確かに島の全ての厄災を討滅したことは喜ばしいことニダ。けど数字で命はくくれないニダ
<ヽ`∀´>モーラ・モラール・マタリウスとアサピエーラ・ガデライトの魂がそんな軽いわけないニダからな!
視線が一斉にニダーへ注がれた。
それはここにいる全員が沈黙する事で目を背けていた事実を改めて突きつける行為だった。
遅かれ早かれ誰かが切り出さなければならないことだ。
その憎まれ役を、ニダーは買って出たのだ。
<ヽ`∀´>屍を乗り越えることは、忘れることでも目を背ける事でもないニダ…それだけニダ
857
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:47:48 ID:6GLMRu4E0
lw´‐ _‐ノv…あたし達、いつまで生きていられるんだろう。9体も厄災ぶっ殺したってさ、これで終わりじゃないんだよね
両手を組んで俯き、シュールが呟いた。
(‘_L’)『これより先の物語に光はない』
(‘_L’)『時計の針は折れ、ただ暮れなずむ夕日の姿だけが汝の瞳に映るだろう』…
(‘_L’)第二部の書き出しとしては些か悪趣味だな…
(‘_L’)私より若い連中ばかりが去っていく…私に、私に何が出来ただろうか…
フィレンクトの声は、その場に耐え難いやるせなさを与えた。彼の瞳は、必死に涙を堪えているように見えた。
858
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/29(土) 15:49:34 ID:6GLMRu4E0
( ´∀`)ここに居ると気分が沈むモナ
( ´ー`)隊長……?
また暫くの沈黙を破り、モナーが席を立った。
( ´∀`)フィレンクトさん
いつものモナーの柔和な笑みはなかった。
泣くのに疲れ切った、乾いた笑みだけだ。
( ´∀`)折れたのは長い針だけモナ
(‘_L’)モナー君…
( ´∀`)急いで回れなくても、進めないとモナ達はどうにもできんモナ
そう告げると、モナーは毅然とした態度で歩き退室した。
それを見て一人、また一人と彼らは席を立ち、歩みだした。
続く
859
:
名無しさん
:2022/01/29(土) 16:00:59 ID:uhrddVNo0
乙
内容が濃厚過ぎて何も言えねえ
860
:
名無しさん
:2022/01/29(土) 16:35:25 ID:BiHe6G.k0
嘘でしょ……
861
:
名無しさん
:2022/01/29(土) 20:54:47 ID:IkT1NqQQ0
こういう鬱と絶望が取り巻く物語、正直大好物です
862
:
名無しさん
:2022/01/30(日) 17:13:01 ID:O15mexc.0
乙
モナー…
863
:
名無しさん
:2022/02/01(火) 19:40:02 ID:tJ/Lp3ns0
続きが気になる…
支援
https://downloadx.getuploader.com/g/3%7Cboonnews/228/%E6%95%91%E5%87%BA2.jpg
864
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/01(火) 20:32:36 ID:NZ.U48Uk0
>>863
ありがとうございます…ありがとうございます…
気長にお待ち下さいませ。
背景色が……たまりませんね…好き
865
:
名無しさん
:2022/02/06(日) 11:22:26 ID:TEYrM.Yw0
モナーが好きすぎる
866
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/09(水) 21:23:19 ID:f5lyWG5s0
4番隊の隊舎に秒針の音だけが響いていた。
ぼやき声も聞こえず、ただ静かに、ペンを走らせる音だけが響いている。
コーヒーを入れてきたペニサスの姿に一瞥もせず、デミタスは黙々と机の上に積み上げられた書類と格闘していた。
(´・_ゝ・`)・・・・・・
('、`*川…はぁ
ふと、大きくため息が漏れた。
音を立てないようにカップを皿に置く。
ペニサスは窓の外の景色を見た。雲一つなく、ひどく爽やかで、煩わしいくらいの青さが遠く遠く広がっている。
867
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/09(水) 21:24:32 ID:f5lyWG5s0
ぐう、と大きく腹が鳴った。2日前からペニサスの喉を通ったのはコーヒーだけだ。
咀嚼というプロセスを踏まずに済むのが今の自分にとってはありがたかったから。
食べるという行為は生きている者にこそ出来る行為なのだが、今何かを噛み締めると口中に泥が詰まって息が出来なくなるような恐怖心があった。
('、`*川…あ、今の音聞いた?
デミタスは沈黙で答えた。
('、`*川…そ
日が陰った。
荒唐無稽、支離滅裂、無理難題を自分達に押しつけながら賑やかな罵声、ぼやき、皮肉の中をけらけらと笑っていた男の姿がそこには無かった。
変わりゆく窓の外の景色が彼の痕跡を全て持ち去ろうとしている、そんな気がした。
慣れきってしまったのかもしれない。
几帳面に働き続ける秒針の動きとデミタスの姿が重なって奇妙な違和感をペニサスの胸の中に作る。
('、`*川・・・・・・
何かを言いかけるように口を開いて、また唇を噛むように閉じる。
喉が乾けばコーヒーを飲み、出すものは出し、また机に向かい、脚を揺らしたり。そうするのにも飽きてぼんやりと椅子を回し、また何かを言おうとしてやめる。その繰り返し。
868
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/09(水) 21:25:28 ID:f5lyWG5s0
張り詰めた空気とひどく脱力した空気が、見えない一つの壁を挟んで充満していた。
しばらくしてドアの開く音が沈黙を破り、ペニサスは振り向いた。
('A`)ただいま
| ^o^ |ただいまかえりました
('、`*川ん、おかえり。結果は?
ドクオはただ首を振り、ブームは遠くを見つめた。
('A`)…ここに戻りゃ案外ひょっこり居るんじゃないかって話してたんだがな
| ^o^ |わたしたちのどりょくをむだにして ごくろうさんとわらいとばしてくるのだろうなとおもっていたのですが
('、`*川ざんねん。私ももしかしたら二人が連れて帰って来るんじゃないかと思ってたんだけどさ
| ^o^ |…きのうもみつからなかったので だめもとではありましたけど
('A`)……チッ
4番隊隊長、モーラ・モラール・マタリウスは死んだ。
.
869
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/09(水) 21:26:07 ID:f5lyWG5s0
『救出の魔法使いたちのようです』
その17
『残響の魔法使いたちのようです』
870
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/09(水) 21:27:34 ID:f5lyWG5s0
(´・_ゝ・`)…揃いましたね。少し話があります
それは2日ぶりにデミタス・モリオカウルが発した言葉だった。ペンを動かす手を止め立ち上がり、ただまっすぐに三人の表情を見つめていた。
(´・_ゝ・`)昨日ロマネスク王から通達がありました。4番隊は解散、デミタス・モリオカウル、ドクオ・マンドリューク・テネブリスは2番隊へ。ペニサ・スイートゥは5番隊、ブーム・ソヤナルカは6番隊へ編成されます
(°、°;川はァ!?
| ^o^ |どういうことですか?
(´・_ゝ・`)どういうことも何も命令です
('A`)…そうじゃねえ。1番隊はシィ様が死んだ後もギコを隊長代理に置いてそのままなんだぜ?どうして俺たちがここを去らなきゃならないんだよ
(´・_ゝ・`)事情が違うんです。1番隊に限らず他の隊は大人数ですし、そもそも魔物や厄災の討伐を主としていますから
(´・_ゝ・`)モララー様の居なくなった4番隊に価値はないということです。元々我々の生産力はモララー様の時魔法ありきのものでしたからね
(´・_ゝ・`)種類にもよりますが…魔法術式は一つ完成させるまでに早くて10年、長くて50年以上かかります。実質的に新しいものはもう作れないんですよ
871
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/09(水) 21:28:08 ID:f5lyWG5s0
デミタスの答えはこれ以上ないほど冷たく、正しかった。
ドクオは苦々しく唇を噛み、ブームは遠くを見つめ、ペニサスは憤りを隠さず拳をきゅっと握りしめて呟いた。
('、`#川…それでハイそうですねって答えたのあんたは
(´・_ゝ・`)まあ、これ以上ここに居てもお互いもたれすぎるだけですし我々としてもありがたい話です。これからは別々の場所で、フラットな関係に戻るだけですよ
(´・_ゝ・`)…それに周期表にはここしばらくしばらく新しい厄災が目覚める記述もないですから。我々にはまたゼロから歩き出すチャンスが与えられたということです
(´・_ゝ・`)わかりましたか?
| ^o^ |すぐにわかりましたとはいえません
('A`)…お前はありがたい機会かもしれねえけどな。俺たちにはこれっぽっちも嬉しかねえよ
('A`)…いや、まだそもそも嬉しい嬉しくないって整理がつけらんねえ
872
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/09(水) 21:29:27 ID:f5lyWG5s0
(´・_ゝ・`)いいですか?私はこれ以上ここを悲劇の稽古場にするつもりはありません。そうなるよりは、いっそのこと全て取っ払って前を向く道の方が私にとっても、あなた方にとっても都合が良いんです
(´・_ゝ・`)モーラ・モラール・マタリウスは死んだ。死んでしまった
('、`#川…………!
('A`)・・・・・・
| ^o^ |?
デミタスはブームに歩み寄り、力強くその肩を掴んだ。
(´・_ゝ・`)目を背けるな
| ^o^ |
(´・_ゝ・`)…彼は自分が主役だと気づかず演出家と勘違いし続けたまま亡くなった。それも好き放題に、我々の台詞を踏みにじってね。最後まで身勝手なクソ上司だ
(´・_ゝ・`)…こんな台詞を吐いている時点であの人の掌の上なのかもしれませんが。観客なら観客らしく石でも投げ込んでやりたい気持ちですけれど、ぶつける相手も見つからないとくればどうしようもない…
(´・_ゝ・`)……ペニサスさん、ドクオ、ブームくん。荷物は早めに片付けておいてください。では
そう告げてデミタスはつかつかと靴音を響かせ退室した。
873
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/09(水) 21:30:15 ID:f5lyWG5s0
('A`)…過去に縋るより問題はこれからだ、そりゃあわからないでもねえけど
('A`)一人欠けただけでこんな風になっちまうんじゃ、俺たちもだらしがなくていけねえ…
| ^o^ |なさけないですねドクオ
('A`)お前も含めて言ってんだぜ、お前も…
| ^o^ |?わたしはつよいこですよ
('A`)ムリすんな
('、`*川じきにソウサク国のほとんどがああなる。時魔法が使えないなら、復興作業だって今までみたいに手早くいかなくなるからね…
('、`#川でも、それとここが無くなっていい理由は結びつかないよ…!でしょう!?
机を叩きペニサスが声を震わせ二人を睨んだ。
ブームは先程掴まれた肩が妙に重たい気がして、ぼんやりとした表情でさすっていた。
('A`)…そこんところは、俺もそう思うけどさ。あいつはあいつなりにもがいてるんだよ。付き合いが一番長いのはデミタスだしな
('、`#川…だったら尚更じゃないかな。……………私、行ってくるから!
(;'A`)あ、おい……!
874
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/09(水) 21:31:15 ID:f5lyWG5s0
(;'A`)出てっちまった………
「追いかけますか」と言いたげに、ブーム・ソヤナルカがちらりとこちらを見る。ドクオはそれに視線を合わせると、しばらく俯いて考える仕草をした。
('A`)…正直な話感情としては俺もペニサスさんの側に立つが、理屈はデミタスが正しい
('A`)だったら俺たちに出来るのは両方うまい具合にとりなす案を考えることじゃねえかな……
| ^o^ |ほほう わたしたちのあふれんばかりのちえのいずみのみせどころですね
| ^o^ |n このうえはちからをつくさなければ ふふ
ブームはぐっと拳を握りしめて微笑んだ。
こういう時に迷いなく賛同してくれるブームの存在はドクオの胸にこみ上げる虚しさを打ち払うのに充分すぎる力を持っていた。
('A`)…眩しいな
| ^o^ |なにか?
('A`)ん?いや、改めてスゲーやつだなってさ。しかし知恵の泉ね…ブームの頭じゃあ少し深さが足りないんじゃねえの?
| ^o^ |むむむ しつれいなやつですね
('∀`)b ま、お互い様ってやつだよ。学のねえ元魔抜けのガキなりになけなしの知恵を絞らなきゃあな
| ^o^ |b ふふふ チームめいはフレッシュボンクラーズでいきましょう
875
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/09(水) 21:31:58 ID:f5lyWG5s0
('A`)(………光だ。俺たちには今、少しでも人の支えになれる大きな光が必要なんだ)
('A`)(正直頭抱えちまうけどさ。シィ様、モララー…たとえあんたらの肉体が滅びても、その光は俺が守り、俺たちで繋がなきゃいけない。そうしなきゃ…勝てない)
ムニュ | ^o^ |σ)'A`)ナンダヨ
| ^o^ |なにかスカしたせりふでかんがえごとしてたんでしょう?ちゅうにびょう おつ
('A`)うるせー。犠牲ゼロなんて無理かもしれないけどな、俺には俺なりの足掻き方ってもんがあんだよ
| ^o^ |ふむ わたしたちのしごとはいつだってわるあがきのてだすけです
| ^o^ |となればわたしも わたしらしくしごとにはげむのが あるべきすがただとおもいます
('A`)…サンキュ。行こうぜブーム。まずは1番隊だ
876
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/09(水) 21:32:39 ID:f5lyWG5s0
( ´・_ゝ)・・・・・・
('、`;川ちょっと待ってよ!デミタスさん!ねえ!ねえってば!
( ´・_ゝ)・・・・・・
('、`;川ちょっ、ねえ…ホントに…あっ今気づいたけどあんた脚長ッ!歩幅!!ずるいよ!ヒキョー者!…待ってってばー!
( ´・_ゝ)ビュオオオ
('、`;川風纏ってスピード上げんな!このっ…!だったら私も!
(´・_ゝ・`)・・・・・・
('、`;川ぜーっ、ぜーっ……コヒュー…ホントに…待っ…スヒュー………話…スーーーッ…聞けってば………
('、`;川やっぱごめんちょっと今膝と脇腹がヤバいからもうちょい待って……
(´・_ゝ・`)ほら、大人しく待っていますよ。とりあえず息を整えなさい
('、`;川はぁ……いやだって…………スヒュー………あんたが……ずっと…スーーーッ…無視して……先行くから……何を他人事みたいに…………
(´・_ゝ・`)私から伝えるべき事は伝えましたからね
('、`*川…それだよ、それ。デミタスさんらしくないよ
(´・_ゝ・`)…ほう?
877
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/09(水) 21:34:18 ID:f5lyWG5s0
('、`*川…デミタスさんならあんな穴のある事言わないよ。ホントは納得してないんでしょ?
('、`*川しばらく厄災が出てこないったって、既に目覚めてる連中の事完全に忘れてるし。それに魔法術式が作れなくても厄災の研究ってお仕事がウチにはあんのよ?
(´・_ゝ・`)研究データは第7に回すことになっていますよ
廊下にへたりこんだ自分を見下ろす姿をペニサスは射るように睨みつけた。
いつもどおりの手を後ろで組んだ立ち方、汗にまみれた自分とは対照的なつるんとした気のない顔つき。
その変わらなさが却って痛々しい印象を与え、ペニサスを苛立たせた。
('、`*川答えなよ。覚醒済みの厄災が来た時の対策は?
(´・_ゝ・`)・・・・・・
('、`*川そいつらに誰かが殺されたとして、またゼロからスタートなんて言う気?
('、`*川デミタスさんはさっぱりしてゼロから始めたいかもしれないけど…みんなで一緒に居る限り、こっちはまだ50くらい残ってるんだよ。どっちの条件から進むのが得かなんてわかるじゃん
(´・_ゝ・`)
(´・_ゝ・`)…50くらいねえ。私たちの存在だけで、モーラ・モラール・マタリウスの半分を担えると。本気でそう思います?
('、`*川…っ、思ってるよ!
(´・_ゝ・`)それは自惚れです
('、`#川・・・・・・
(´・_ゝ・`)・・・・・・
878
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/09(水) 21:35:13 ID:f5lyWG5s0
('、`*川…そっか。そうだわ、あんたモララー隊長の屍の上に自分の権力を据えるのが嫌なんでしょ?それなら私にだってわかるよ
(´・_ゝ・`)見当違いの同情はやめてください
('、`#川見当違いなもんですか!あんたはモララー隊長を乗り越える事に囚われ過ぎてるってのよ!
('、`*川そうしたいなら、必要なのは忘れる事じゃないよ…ねえ…みんなで一緒にやろうよ…まだヴィップへ観光だって行ってないんだよ…?
(´・_ゝ・`)………やれやれ。本質を見失ってませんか?どうにもできないんですよ、相手はロマネスク王で私個人の感情だけの話ではないのですから
('、`*川……それは、そうだけどさ
(´・_ゝ・`)話はそれだけですか?でしたら私、そろそろ資料を提出しに行かなければなりませんので。さよなら
('、`*川……また戻って来ないと承知しないから
(´・_ゝ・`)考えておきます
879
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/09(水) 21:35:54 ID:f5lyWG5s0
1番隊の隊舎を訪れたドクオとブームを迎えたのは、見せつけるようなわざとらしいため息だった。
ミ,,゚Д゚彡断る
(;'A`)まだ何も言ってねえ!
ミ,,゚Д゚彡マヌケの浅い考えなんざお見通しだってんだよ
('A`)ひっぱたいたろかこのガキ…
| ^o^ |どうどう どうどうどう
ミ#゚Д゚彡(#'A`)馬扱いしてんじゃねえよ!?
| ^o^ |うふふ
ミ,,゚Д゚彡…4番隊の解体はこっちの耳にも届いてる。ギコの野郎が唸ってたからな
ミ,,゚Д゚彡この状況で4番隊を残すためには、相応の価値をロマネスク王に認めさせなきゃいけねえ。1番隊から500人ほど引き抜いて、他と同じさや戦力部隊として再編成する必要がある。だからここに来た。違う?
| ^o^ |いちごんいっく ちがいありません
880
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/09(水) 21:38:12 ID:f5lyWG5s0
1番隊の隊舎を訪れたドクオとブームを迎えたのは、見せつけるようなわざとらしいため息だった。
ミ,,゚Д゚彡断る
(;'A`)まだ何も言ってねえ!
ミ,,゚Д゚彡マヌケの浅い考えなんざお見通しだってんだよ
('A`)ひっぱたいたろかこのガキ…
| ^o^ |どうどう どうどうどう
ミ#゚Д゚彡(#'A`)馬扱いしてんじゃねえよ!?
| ^o^ |うふふ
ミ,,゚Д゚彡…4番隊の解体はこっちの耳にも届いてる。ギコの野郎が唸ってたからな
ミ,,゚Д゚彡この状況で4番隊を残すためには、相応の価値をロマネスク王に認めさせなきゃいけねえ。1番隊から500人ほど引き抜いて、他と同じ戦力部隊として再編成する必要がある。だからここに来た。違う?
| ^o^ |いちごんいっく ちがいありません
881
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/09(水) 21:38:38 ID:f5lyWG5s0
(;'A`)フサに見透かされるってことはやっぱ少ない脳ミソなんだな、俺たち……
ミ,,゚Д゚彡あ?
('A`)なんでもないでーす
ミ,,゚Д゚彡…とにかく。俺はテメーの下につくつもりはねえ。断固お断りだ
('A`)え?
ミ,,゚Д゚彡は?
('A`)いや…お前はお前でちゃんと1番隊でやるべき事があるだろ……
ミ,,゚Д゚彡・・・・・・
| ^o^ |にこにこ
ミ#゚Д゚彡帰れクソボケども
882
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/09(水) 21:39:13 ID:f5lyWG5s0
('A`)なんで追い出されるかな……
| ^o^ |さっしがわるいからじゃないですか?
('A`)あン?
| ^o^ |さきをよまれたというより ちょうどおなじことをかんがえていたということですよ
('A`)…あー、そっか…うん。わかりづれえよあのクソガキ
ドクオはきまりが悪そうに頭を掻いた。
| ^o^ |ふふ しゅぎょうがたりん
('A`)何のだよ……どうしよ、謝りに行くべきかな?いや別に改めてこっちの要求通したいってわけじゃなくてさ
| ^o^ |ださんぬきにせよ ひにあぶらをそそぐだけだとおもいますが ああいうタイプは
('A`)…だよな、やっぱし。やっべえ、俺掴めそうな手を自分で突っぱねてんじゃん…
| ^o^ |さきがおもいやられますな
('A`)うっせ
883
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/09(水) 21:39:40 ID:f5lyWG5s0
| ^o^ |というかフサギコくんはたいいんにすぎません かれにはなんのけんげんもありませんよ
('A`)…そういやそうだ。勢いで引き下がっちまったけど、あいつ副官でもなんでもねえんだよな
| ^o^ |おばかさん
('A`)うるへえ。てか分かってたんなら最初からそう指摘すればよかったろ
| ^o^ |おもしろかったので
(;'∀`)いい性格してるぜ、マジで………
| ^o^ |それで つぎはどうしますか?
('A`)ギコも不在だしなー。来るまで待ってる時間がわりと惜しいし、こっちから探すのも手かもしれん…
| ^o^ |1ばんたいがだめなら 2ばんたいというてもありますよ
('A`)2番隊?
884
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/09(水) 21:40:13 ID:f5lyWG5s0
| ^o^ |ドクオはなかがいいでしょう フィレンクトさんと
| ^o^ |そしてフィレンクトさんはおうさまとなかがいい これはやくそくされたしょうりでは?
('A`)あー、ちょっと考えたけどそれはナシ
| ^o^ |おや?
('A`)…あんましそういう感じにあのおっさん頼りたくないんだよ、コネっぽくてさ。それにあの人だって今すっげえ忙しいだろうし
('A`)つーかフィレンクトには既に借りがありすぎる。これ以上返済額増やしたら首が回らねえんだよな
| ^o^ |そういうことなら それもいいんじゃないですか
('A`)…おう。悪かったな
| ^o^ |で?これからどうしますか ボンクラーズにごう
('A`)んー……………
('A`)えっ待って、俺が2号?
| ^o^ |わたしのほうがとしうえなので
('A`)…年上なら年上らしく道を示してくれませんかね、先輩よォ
| ^o^ |よかろう
885
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/09(水) 21:41:15 ID:f5lyWG5s0
カーテンの隙間から差した光だけが、薄暗い第7研究所を照らしていた。
無造作に床へ投げつけられた酒瓶を見下ろし、ディはニュッケン・ニューソックスの顔へ視線を移した。
やるせない感情を浮かべる他の研究員と比べると、やはり平然としている。
そこに居たアサピエーラ・ガデライトの影を追わず、むしろその椅子をふてぶてしくも独占し、何か作業をしているのだ。
(#゚;;-゚)…ニュッケンは悲しくないのか、アサピエーラが死んで
( ^ν^)さ〜〜〜〜なァ。別に悲しさって強要するもんでもされるもんでもねーし?てゆーか正直知らん方が良いことじゃね
( ^ν^)ま、この辺俺の価値観だからあんまガチに受け取らなくてもいーんだけどさ。ぶっちゃけお前が辛気くせー連中の傷舐めてやりたいってんなら好きにすれば〜?って感じ
(#゚;;-゚)分からない、私には。お前の在り方が正しいのか、正しくないのか…
( ^ν^)あーうぜ。だから強要すんなつってんだろ。誰かが死んだ後の気持ちの後始末に正しいも正しくないもねーよ、バカが
( ^ν^)そういう結論出ねえ馴れ合い話がしてえならヤマサキとやれし
(;^^)えっ僕!?
886
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/09(水) 21:42:12 ID:f5lyWG5s0
(#゚;;-゚)…なら、何故お前はその椅子に座っているんだ?
( ^ν^)ん〜?虹だよ、虹…虹の柱。アレをどうにかもう一度作れないかと思って色々と調べてる感じ。しっかしあのクソメガネほとんど一人で作ってのけちまったもんだからロクな記録が残ってねえわけ
( ^ν^)巨鯨の厄災の残骸やらデータやらがあれば俺は俺で新しいプランに手をつけられるんだけどな。マジどうしようもねーからウケる
( ^^)所長が一つ残らず吹っ飛ばしてしまいましたからね…
( ^ν^)地下の自室に入れば魔術核について何かあるかもしれんが、どうせ処分済みだろうし。例の合言葉を言うのも人間としてのランクが下がるしな
887
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/09(水) 21:42:49 ID:f5lyWG5s0
( ^ν^)要するに、今は必死に何か役に立つ遺産でもねーかなって探してんのさ。パッと目につくのはお前くらい
(#゚;;-゚)……遺産か
( ^ν^)ホントあいつはろくでもねえクソメガネだよ
「まったくだ。こんな後始末に困る死に方があるか…!所長…!」
「島さえ残っていればロマキングやドラグーンの残骸を回収して修理出来たものを、私達これでどうやって今後戦えってんでしょうね…」
(;^^)ニュッケンさんはここにいる全員の20年分の給料前借りで予算もぎ取るって言ってましたよ…厄災特別手当も今後ナシで…
「はァ!?本気!?」
「ニュッケンさん!?」
「冗談じゃない!所長はともかく、ロマキング2号を乗り捨てたニュッケンの責任を俺たちが取るのか!?」
(#゚;;-゚)チラッ
( ^ν^)〜♪
888
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/09(水) 21:43:36 ID:f5lyWG5s0
「それもこれもアサピエーラ所長が無責任に死んじまったからだ!」
「そうだそうだ!後に残る僕らの事なんか考えちゃいないんだ!」
「天才様だもんな…器が俺たちとは違うよ、まったく…」
(;^^)あ、あの……!
「結局の所、あの人の生涯は最後まで自分の才能に酔っ払った自己満足だったのさ。ロマキングも、ディも自分の目的のためにまとめて捨てやがった。まったく無様なもんだよ…!」
(#゚;;-゚)貴様…!
( ^ν^)悪口ってのはもっとデカい声で言うんだよ。もういっぺん言ってみ?特に最後のヤツ
ニュッケンは何度か頷いた後、立ち上がって一人の研究員にじりじりと詰め寄った。
( ^ν^)どうした、言ってみろよ。少なめの脳ミソと僅かな想像力で考えて、もう一度な。島行って命張ってきた連中と魔法局に残って事が終わるまでぬくぬくと過ごしてたヤツ、どちらに文句を言う資格があるかね?
「くっ……!」
( ^ν^)答えは「後から文句垂れるヤツはどれも等しくカス」だ。ま、俺は自他共に認める恥知らずのカスだから好きにあれこれほざくとして。ラインってもんがあるわけよ
(#゚;;-゚)……ニュッケン
( ^^)(傍若無人が服着て歩いてる人の台詞とは思えないなあ…)
889
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/09(水) 21:44:01 ID:f5lyWG5s0
( ^ν^)言っとくがテメーの身をガチで心配して言ってんだかんな、俺は。ディが本気で怒ってみ?お前さん消し炭。俺なら生きたまま魔動炉に突っ込んで巨神のエネルギー源にするがね
( ^ν^)まー現状フラってもしゃーないし言論の自由ってもんもあらあな。代わりっちゃアレだけどさ、俺の悪口なら好きに言っとけ?ノーダメなんで
ほら、と胸を突き飛ばしてニュッケンはかすかに笑った。
ひょっとしたら、彼はそれほど他の人間の事を突き放して考えてはいないのではないだろうか。
彼の淡白さは、去来する陰惨な気持ちや悔しさの裏返しなのではないだろうか。ディは願望にも似た思いを抱く。他者の中で、自分の中で渦巻く感情に答えを見いだせない故に。
ニュッケンはポケットに手を突っ込み、飄々と続けた。
( ^ν^)ただな、これからはソウサク国の役に立てねえヤツに居てもらう必要はない。成果上げてねえ時点でここにいる全員アレと比べたらゴミクズの集まりだからな
( ^ν^)俺らが挽回しなきゃいけねー時なんだよ
890
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/09(水) 21:45:54 ID:f5lyWG5s0
(,,゚Д゚)お疲れ様。これから帰りか?
(´・_ゝ・`)ええ、そんな所です
(,,゚Д゚)………マジなのか、クックルが味方かもしれないって
(´・_ゝ・`)モナー様の証言と、火山の厄災があまりこちらを攻撃せず巨鯨の厄災を見た瞬間覚醒した件を考えて…クックルとボルケーノはカテゴリとしては海の厄災に分類されるものと考えられる、というのが私の結論です
(,,゚Д゚)しかしな……あの船が天の側で、クックルが海?もうごっちゃごちゃだな
(´・_ゝ・`)海月の厄災や汚泥の厄災の例もありますよ。海から来たからといって派閥も海の側とは限らないと思われます
(,,゚Д゚)オトジャさんが巨大化したタイミングで降臨したってのは確かに辻褄が合う。クックルの威容とバハムートのおぞましさを比べればどっちに悪意があるかは一目瞭然だろう。ゴーレムとの戦いの時もそういうことになるな
(´・_ゝ・`)受け入れ難いですか?
(,,゚Д゚)いや。クックルは確かにシィ様の生命を奪った。だがそこに囚われ続けては本質を見失うだけだ
(,,゚Д゚)一応、これからは柔軟に生きようと思っててな
(,,゚Д゚)それに仇ならアサピエーラが討った。他に憂いがないわけじゃないが、幾分か気も楽になったよ
891
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/09(水) 21:46:54 ID:f5lyWG5s0
(´・_ゝ・`)………これはあくまで推測に過ぎませんが、天の神々は母なる海から現れる事によって自らの力を誇示しているのではないのでしょうか。相手のテリトリーを侵しているわけですから
(,,゚Д゚)だとすれば神様ってのも随分と器が小さいもんだな、クックルだって張り合ってか知らんが天から現れるし。ギコハハハ
(´・_ゝ・`)迂闊な発言は気をつけてください。ソウサク国にだってマジモンの神がいるんですから
(,,゚Д゚)……なあ、デミタス。4番隊の解体を自分から申し入れたってマジなのか?
(´・_ゝ・`)ええ、本当です
(,,゚Д゚)……理由によっては俺、お前を殴るかもしれないぞ
(´・_ゝ・`)へえ。こわいですねえ
(,,゚Д゚)微塵も思ってねえな
(´・_ゝ・`)『時魔法の使えぬモーラ・モラール・マタリウスに用はない』
(´・_ゝ・`)じきにソウサク国で誰かが言う言葉です
(,,゚Д゚)・・・・・・
(´・_ゝ・`)私、それを聞きたくないんですよ。だから自分の口で一番最初に言うことにしたんです
(,,゚Д゚)それは………
892
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/09(水) 21:47:39 ID:f5lyWG5s0
(´・_ゝ・`)仕方がないでしょう。本来魔法術式は誰もが当たり前のように時属性や他の特殊属性の魔法を使える世界を作るためのものですから
(´・_ゝ・`)けれど彼はその夢を見果てることなくこの世を去りました。となれば、もはやそれを継ぐことも我々には叶いません
(´・_ゝ・`)モララー様の死は即ち4番隊の死。4番隊の否定は即ちモララー様の否定。それを誰かに勝手に告げられるのは、我慢ならなかったのですよ
(,,゚Д゚)お前……
(´・_ゝ・`)バカですよね。笑ってくれても構いませんよ
(´・_ゝ・`)みんなが時間という夢の中に溺れて、それでも諦めずに足掻いているというのに
(´・_ゝ・`)私は身勝手にもモララー様の時間を守るために…自分の心を守るために、モララー様の時間を否定したのですから
893
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/09(水) 21:48:18 ID:f5lyWG5s0
(,,゚Д゚)……バカなんかじゃねえよ。笑いもしねえ
(,,゚Д゚)必死こいて当たり前だ。それが他人から憎まれる決断でも…守ろうとするのは当たり前なんだ
(´・_ゝ・`)・・・・・・
(,,゚Д゚)…これは俺自身に言い聞かせてる面も大きい
(,,゚Д゚)隊長代理を任されてから、自分の未熟さに恥じ入ってばかりだった。部下を叱責するのにも「シィ様なら」「シィ様なら」の繰り返しだ
(´・_ゝ・`)だからフサギコくんも反発したのでしょうね
(,,゚Д゚)ちげえねえ。結局の所俺はシィ様の作った型通りの生き方でしか部下をまとめることが出来なかった。だがお前は違う
(,,゚Д゚)モララー様の影を振り切る事で、周りをまとめようとしている。俺には一生かかってもそんな発想は出来ねえ
(´・_ゝ・`)他人の分の影を抱え込んでいるだけですよ
(´・_ゝ・`)やっぱり私達は、どこまで行っても副官なのかもしれません
(,,゚Д゚)……かもな。これからどうする?
(´・_ゝ・`)アレのせいで休日の正しい過ごし方を忘れてしまったので。天井でも見て時間潰しますよ
894
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/09(水) 21:49:01 ID:f5lyWG5s0
('A`)…なあブーム
| ^o^ |なんですか ぺろぺろ
('A`)お前さあ……4番隊なんとかする気あんのか?
| ^o^ |ソフトクリーム おいしいです
('A`)話聞けよ……さっきから街中ブラブラしてばっかじゃねえかよ………
| ^o^ |こういうときこそ りら〜っくす
('A`)しすぎだアホたれ。…時間、ねえんだぞ
| ^o^ |9m ではあらためてドクオ・マンドリューク・テネブリスにとう!
(;'A`)何だよ急にデカい声出して……
| ^o^ |9m あなたの4ばんたいをまもりたいというねがいは そのりゆうは どのあたりにあるのか!
(;'A`)……………!
895
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/09(水) 21:49:52 ID:f5lyWG5s0
| ^o^ |これはいちどあしをとめ なにもかもわすれてあそんでみて そういうことをかんがえるじかんです
| ^o^ |そんなのなっとくがいかないと がむしゃらにつきすすむ それもけっこう
| ^o^ |しかし ししんをさだめないことには それはほどなくしてめいそうとなりますよ
(;'A`)なんつーか、デミタスに似てきたよなお前………
| ^o^ |しゃべりかただけでひとをはんだんしてます?
(;'A`)そうじゃなくて…生暖かい目で年上風ビュービュー吹かすとこが……
('A`)強い子だよな、お前。本当に………
| ^o^ |ただあそびまわりたかっただけかもしれませんよ?
('A`)テレんなよ
896
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/09(水) 21:50:41 ID:f5lyWG5s0
('A`)……思い返してみると、こうして街に降りてみるの初めてかもしれねえ
| ^o^ |ほう
('A`)奴隷やってた頃は船暮らしだし。モララーに助けてもらった後はずっと魔法局で仕事してるか討伐に出るかだし
('A`)死骸の厄災の時にいっぺんざっと通った事はあるけど、それも空から見下ろすだけだしな………
| ^o^ |わたしたちががんばることが このまちこのくにへのおんがえしです
('A`)恩返しね。元魔抜けの奴隷なもんで国に恩を感じたことなんてぶっちゃけ一度もねーけど…まあ人の役に立ててるのはうれしいよ
| ^o^ |このソフトクリームのあじも まけたらあじわえませんしね
('A`)お前の戦いに対する甲斐ってもんはそこかよ
| ^o^ |ほかにもいろいろありますが まありゆうのひとつに
('A`)へー。…まあ命かけてるわけだから動機付けくらい欲しいわな
897
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/09(水) 21:52:51 ID:f5lyWG5s0
('A`)この数ヶ月、いろんなことがあったよ。辛いこともたくさんあったけど……俺の感想としちゃ、魔法局に来てしばらくは人生で一番楽しかった
| ^o^ |それはなにより
('A`)やっぱさ。それもこれも…そこにモララーが居たってのが、でけえんだと思う
('A`)あいつが居ないと、きっと色々な初めてに出会えないまま過ごしてたんじゃねえかな。俺に限らず、デミタスも、ペニサスさんも、お前もさ………
| ^o^ |それで?シィ・コンプレックスのつぎはモララー・コンプレックスですか?
('A`)…そういうのとはまた違うんだよな。みんなモララーの居た時間に囚われてるのは確かだけど、だからこそっていうかさ
('A`)…みんなが、俺が守りたかった、居場所っつーのはさ。必ずしもモララーだけで成り立ってるものじゃなくて……
| ^o^ |ほう
('A`)だから、ええと、その……つまり………
('A`)俺たちがめくるべきは過去の日記じゃなくて、未来のカレンダーにある……的な
| ^o^ |
('A`)
| ^o^ |きまりきらないですね
(;'A`)うるせえよ。やっぱフィレンクトの真似やめるわ…
898
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/09(水) 21:54:08 ID:f5lyWG5s0
<ヽ`∀´>シュール隊長
lw´‐ _‐ノv…なあに
<ヽ`∀´>大丈夫ニダ?
lw´‐ _‐ノvんーと、ね………
<ヽ`∀´>言っとくけどフツーこんな事聞かんニダ。大丈夫なわけ無いニダからな
<ヽ`∀´>それでもウリは副官を任された身ニダ。これは務めというやつニダ
<ヽ`∀´>大丈夫ニダか?
lw´‐ _‐ノv…ぶっちゃけだいじょばない
<ヽ`∀´>ホルホルホル。素直でよろしいニダ
lw´‐ _‐ノvナベちゃんと約束したんだ。みんなを忘れないために、後を追うんじゃなく並んで歩くために戦うって
lw´‐ _‐ノvちゃんと胸張って歩いて生き残ってやるつもり、終わりが来るまではね。けど…ちょっと考えてた。終わりっていつ来るのかなって
lw´‐ _‐ノv………正直、今は先が見えないかも
899
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/09(水) 21:55:13 ID:f5lyWG5s0
<ヽ`∀´>…ウリも子供たちがいるニダ。ウリが生きている間にその子に厄災の居ない世界を残してやれるか、考える事があるニダ
lw´‐ _‐ノv
<ヽ`∀´>正直無茶だとは思うニダ。おそらく天寿を全うする前に、志半ばに死を突きつけられるかもしれんニダ
<ヽ`∀´>それでも、肉体が滅びたとて戦おうとしたウリの意志は消えることはない。それは誰かが受け止め、また戦うための力として繋いで行くニダ
<ヽ`∀´>血縁だけじゃない。師であれ、友であれ、人と人が繋がりゆく限り人の魂に終わりというものはないのかもしれんニダ
<ヽ`∀´>…でも隊長は、その増え続ける魂の重みに押し潰されそうになっているニダ。然らばどうするべきか?
lw´‐ _‐ノvわかんない……どうすんのさ…
<ヽ`∀´>答えは単純。貴方達若者が志を最後に継ぎ、後世にて静かな語り部となる事ニダ
lw´‐ _‐ノv・・・・・・
<ヽ`∀´>・・・・・・
lw´‐ _‐ノv………この時代の中で厄災を皆殺しってわけか。カゲキだね〜
<ヽ`∀´>ホルホル!そういう理解でいいニダ!
900
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/09(水) 21:55:53 ID:f5lyWG5s0
lw´‐ _‐ノvそうだね…ニダー・チャンガの言もまた善哉
lw´‐ _‐ノv…………やってやろうじゃん?クルウの台詞じゃないけど、あたしだって今後こんな思いする連中を増やしたくはないしね。きるぜむおーる
<ヽ`∀´>その意気ニダ!ウリ達を滅ぼそうとする意志が絶対的な力を持ったものであるならば、こちらも奴等を徹底的に滅ぼそうとする意志で戦えば良いだけのこと!
<ヽ`∀´>そして驕り高ぶる孤独な天の神々どもには、背負う魂が無い!奴等が敗北するのはたったそれだけの差ニダ!ウェーーーーッハッハッハッハ!
lw´‐ _‐ノv…したためとくか。にしても「生存第一」の6番隊の次なるキャッチが「皆殺し」か〜〜〜
lw´‐ _‐ノvおもくそタカ派じゃんね?
<ヽ`∀´>それはまあ…そうニダね…
lw´‐ _‐ノv死を知れば生を知り、生を知れば死を知るか。ま、改めて信念に立ち返ることが大切なわけだ
lw´‐ _‐ノvサンキュね、ニダちゃん
901
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/09(水) 21:56:57 ID:f5lyWG5s0
ニダー・チャンガは本来、フィレンクトに“お目付け役”として6番隊副官の役割を任じられた。
2番隊の激務による長期的な不在期間もあるが、ニダーはあまり家庭で好かれるタイプではない。むしろ子供が幼い内はとことん嫌われてしまう方の人間である。
大魔導師とはいえ未だ年頃の少女たるシュルルド・ライスィ・スナールの補佐として自分が選ばれたのは、己の厳しさ、口うるささがこの隊に求められているのだと彼は理解していた。
時としてそれはアカデミー上がりの新人隊員達を一端の戦士として統率する力になり、隊のメリハリをつける役割を担った。
しかしながら、自分が最も果たすべき役割は現実を突きつける憎まれ役だともニダーは思っていた。
シュールが掲げる「全員で生き残る」という理想は、一概に荒唐無稽と断ずることは出来ない。むしろ魔法局の全員が掲げるべきものだ。
なればこそその理想に現実をぶつけ、そう簡単に折れないように、より研ぎ澄ます人間が必要になる。
その役割を弁えニダーはなるべく空気を読まずつまらない言葉を並べ立てるよう努めた。
902
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/09(水) 21:57:30 ID:f5lyWG5s0
けれど今、自分は本来の役割を忘れ「これ以上苦しみを味わいたくないのであれば、この世代で厄災を撃滅すればよろしい」と誰より極端で荒唐無稽な理想論を唱えている。
その矛盾と変質は6番隊の気風に染められたからだろうか。
それとも彼女が自分の長女と歳が近い故か。
一度休暇を頂きゆっくり家族との時間を作ろうとニダーは思った。
lw´‐ _‐ノvシニカル マジック キルゼムオール〜
<ヽ`∀´>(……フィレンクト隊長。ウリは親しい人物を亡くした一人の少女に戦いを強い続け、口八丁でどんどん修羅へと仕立て上げようとしているニダ)
<ヽ`∀´>(それが副官として良い選択か悪い選択であったかは………おそらく未来が決定するニダ)
lw´‐ _‐ノv…モラちゃん
lw´‐ _‐ノvあたし、みんなが安心できるまでまだそっち行けないから
lw´‐ _‐ノv…ぼちぼちやってやるかな〜
903
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/09(水) 21:58:06 ID:f5lyWG5s0
('、`*川さよなら、かあ……
('、`*川なんとな〜くぼーっとしてたら夜になっちゃったし………なんとな〜くシベリア来ちゃったんだよねえ…さみ〜…………
('、`*川まあ、いつまでもジメジメしてんのもやだし……ソウサクよか悪かないよね。ちょっとノリが暑苦しいけど
(´・_ゝ・`)『どうにもできないんですよ、相手はロマネスク王で私個人の感情だけの話ではないのですから』
('、`*川な〜んかバシッと言い返せなかったかな、あそこで……
('、`*川分かっちゃいたけど…どこまで行っても私は結局主人公じゃなくてただのフツーのボボンの凡太郎のヘタレなわけでさ
('、`*川…まいっか。お酒飲んじゃおう、お酒!お賃金そこそこあるし、この国の熱気に任せてもうなるようになっちゃえ!
('、`#川お酒ェーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!!!!
「!?」
「なんだァ!?」
(;^ω^)往来で何を叫んでるんだお…
('、`*川……お、主人公スキル持ち
904
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/09(水) 21:58:55 ID:f5lyWG5s0
('、`*川…っつーわけよ
(;^ω^)おーん………
('、`*川なんだ「おーん」て
(;^ω^)なんというか…そういう話、身につまされるお………
('、`*川…どうすれば良かったのかな、って考えるにはまだ早いのかもしれないけどさ。かといってどうしたらいいかわかんないのよね
( ^ω^)ぼくが迷った時、立ち上がるチャンスをくれたのはあなた方ソウサク国とシベリアの人達だったお
( ^ω^)ならば不肖ブーン・ホライゾン、ヴィップの騎士として全力でこの局面を乗り切る支えとなり恩義に報いる所存ですお!
('、`*川ん〜名演説名演説。で?なんかある?
( ^ω^)・・・・・・!
(;^ω^)・・・・・・
( ´ω`)
('、`*川………まあ、飲もうよ
905
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/09(水) 21:59:49 ID:f5lyWG5s0
('、`*川なんかさ。あんまりにも物事が突然過ぎてだんだん意識が薄れてく感覚があるんだよね…最初からモララー隊長なんて居なかったような……
('、`*川それ、すごくイヤ
( ^ω^)…確かに、死というものは受け止めるのに時間がかかるものですお
('、`*川でもさあ……………やっぱし…足掻きたいよ………
('、`*川隊長はさ。神様にいきなり奪われちゃったけどさ……でも、4番隊はまだ残ってるんだよ?しがみついたっていいじゃん…
( ^ω^)……いっそ、作ったらどうですかお?
('、`*川は?
906
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/09(水) 22:00:12 ID:f5lyWG5s0
( ^ω^)いやだって、4、5人で10年〜50年かかるんだったらもっと大人数で力を合わせて作業すれば…なんとかなりませんかお?
('、`*川あのねえ……あんたバカ?
(;^ω^)や、やる前から諦めてたらどうにもなりませんお!!
(;^ω^)出来るだけやってみて、存在価値を叩きつけてやれば…!
('、`*川……そっか、なるほどね。うん…案外簡単だったかも!
('、`*川っし!戻るよ、ナイトーくん!4番隊に!!
(;^ω^)えっぼく所属はヴィップで…
907
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/09(水) 22:01:13 ID:f5lyWG5s0
きっと彼らの机は散らかったままだろう。足を進める度に、何故だかそんな期待を覚えた。
静まり返っていても、それはそれで自分の意図を理解してくれたということだ。
翌朝、デミタス・モリオカウルは4番隊隊舎のドアを静かに開いた。
そこに居たのは三人だけではなかった。
そこに居るはずのないブーン、ディ、シュール、ギコ、モナー、シラネーヨも何食わぬ顔で作業をしていた。
(´・_ゝ・`)なんですかこの騒ぎは
('A`)デミタス、話がある
(´・_ゝ・`)ほう?
('A`)俺たちがやる事は、モララーの居た時間にしがみつく事じゃない。あんたの言う通りにするよ…でも
('、`*川私たちは、私たちの時間を守るためにここに居るの。私たちの一番好きだった時間。……いや、それを過去形にしたくないから…!
| ^o^ |そのためには ここがひつようなんです
| ^o^ |ここですごしたじかんこそが わたしたちのじかんなのですから
(´・_ゝ・`)…一日与えて出た屁理屈がそれですか?
('A`)ああ。屁理屈だよ、笑わば笑え
(´・_ゝ・`)……いえ、笑いはしませんが
908
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/09(水) 22:02:04 ID:f5lyWG5s0
(´・_ゝ・`)それで?私達には魔法術式はもう作れませんが、どうするつもりです?
( ^ω^)作るお!
('A`)…シンプルだけどな。全力で頑張る
(´・_ゝ・`)無茶です
('、`*川今回は特別として。人手は奴隷階級の人を積極的に雇うことでどうにかしようと思う
(´・_ゝ・`)費用は?
('、`*川しばらくはポケットマネー。軌道に乗ったら経費
(´・_ゝ・`)あのですね、闇雲に努力したってどうにもならないんですよ。特殊属性の魔法を発現させるための調合方法だって
lw´‐ _‐ノvあ、これレシピね。モラちゃんの部屋勝手に漁ったら出てきたぜぃ
| ^o^ |しにんにくちなし
( ´∀`)文句は寿命使い切ってからゆっくり聞けばいいモナ
('A`)とりあえず、全力で頑張って一個作る!そしたらロマネスク王も納得するだろ!
909
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/09(水) 22:02:56 ID:f5lyWG5s0
(´・_ゝ・`)……で、これ何の魔法作ってるんですか?
(#゚;;-゚)時間停止だ
(;´・_ゝ・`)!?
('A`)実績はデカけりゃデカいほどいいからな。メモの中から一番重要そうなやつにした
(;´・_ゝ・`)な………いや………あの………ドクオ……君たちは…………
('、`*川ふふ、ふふふ!言葉に詰まってるよ、あのデミタスさんが!やったね!まいったか!!
( ´ー`)呆れてるだけとも言うぜ、ありゃ……
(,,゚Д゚)ギコハハハ!悪いなデミタス。昨日あんなこと言っといてなんだが、こいつらバカだぞ!
| ^o^ |ほめことばとしてうけとっておきます
(#゚;;-゚)(……悲しむだけが死との向き合い方じゃない。わかってきたぞ…ニュッケン、アサピエーラ)
910
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/09(水) 22:03:58 ID:f5lyWG5s0
o川*゚ー゚)oみんなで魔法術式作るんだって!?
从*'ー'从そういうことなら5番隊も人回すから!困った時はお互い様だもんね!
(‘_L’)……シュール君に事情は聞かせてもらったよ。ロマに話もつけてきた。とりあえず1ヶ月の猶予をもらってきたよ
(;´・_ゝ・`)な………あの………フィレンクトさん…………?
ミ,,゚Д゚彡………魔物どもから必要な素材、剥ぎ取ってきた
('A`)サンキュー。そっち置いててくれたら助かるぜ
ミ,,゚Д゚彡つーかここ狭いんだけど!?1番隊の隊舎でやりゃあいいだろ!!
('、`*川あー……そうだわ、どうする?どっか借りる?
| ^o^ |これをはこびだすの めんどうすぎないですか
(;´・_ゝ・`)えぇ………いや………あの、えぇ…………?
911
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/09(水) 22:04:29 ID:f5lyWG5s0
( ´ー`)!!!!!
( ´ー`)そうだ、やってねえじゃん!副官会!!結局まだ隊長と酒も飲んでねえし!!!!!ね!!!!
( ´∀`)お前
( ´ー`)こういう時こそ!!こういう時こそみんなでパーッとですよ!!!やりましょうよ!!!!
o川;゚ー゚)oここまで来ると執念だね
从;'ー'从見ちゃいけません
( ´∀`)……まあ、モナも約束を守らないヤツになる気はないモナ。とりあえず今日の分の作業が終わってから。それでいいモナ?
(* ´ー`)即日ゥ!!!?っっしゃあァァァ!!!!イヤッホォォォォォウ!!!!!
( ´∀`)マジでうるせぇ
912
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/09(水) 22:05:36 ID:f5lyWG5s0
(;´・_ゝ・`)・・・・・・・・・
lw´‐ _‐ノvどったの、信じてた未来図にハンマー叩き込まれたような顔して
| ^o^ |ここまでおおごとになるとはおもわなかったでしょう?ん?
<ヽ`∀´>デミタスくん。荒唐無稽な事に、力を合わせて挑む。やることはいつもと変わらないニダよ?
(;´・_ゝ・`)いや…荒唐無稽にも限度というものが……
(‘_L’)いつまでも悲哀に沈んでいることを死者は良しとしないさ。だろう、デミタスくん
('A`)そういうこと。モララーだって今頃大笑いしてるぜ
913
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/09(水) 22:08:08 ID:f5lyWG5s0
('、`*川デミタスさん
(´・_ゝ・`)はぁ…なんですか、もう………
('、`*川これが私達の答え。どうよ?
(´・_ゝ・`)どうよ、と言われましても…なんというか、バカバカしいというか…マジでやる気なんですか?
('A`)絶対ってことはないんだぜ、何事も
('∀`)ニコヤカ
(´・_ゝ・`)・・・・・・
(´・_ゝ・`)クオリティの低いモノマネはやめてください
(´・_ゝ・`)やれやれ、本当に……本当に……上司が上司なら部下も部下だ。仕方がありませんね……
(´・_ゝ・`)仕事、始めましょうか。ふふ
d('、`*川
(*'∀`)b
| ^o^ |b
(´・_ゝ・`)・・・・・・
(´・_ゝ・`)b
続く
914
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/09(水) 22:12:39 ID:f5lyWG5s0
( ・∀・)中途半端にスレが余っちゃったね
(´・_ゝ・`)というか跨ぐ予定すらなかったですから。できて次1話分くらいなんですけど、なにしろ跨ぐの初めてで…
(´・_ゝ・`)次、『( ・∀・)救出』から『('A`)残響』にしますか?
( ・∀・)え〜〜〜〜〜〜〜〜やだ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
('A`)文句があるなら生き返れ
( ・∀・)主人公よ僕〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(*゚ー゚)ならダダをこねるんじゃありません
(-@∀@)………え?主人公、僕では?
( ´∀`)モナだろ
('A`)俺だと思ってたんだけど
( ・∀・)ニコヤカ〜
915
:
名無しさん
:2022/02/09(水) 22:36:59 ID:U9mOEjCA0
おつおつ
何か凄くスッキリした回
916
:
名無しさん
:2022/02/09(水) 22:42:47 ID:80OYE53o0
今回も面白かった乙
1番主人公感あるのは断トツでドクオだ
917
:
名無しさん
:2022/02/09(水) 23:06:56 ID:61YLj/LM0
モララーは死んだまま出しゃばって来そうでなんかあれ
918
:
名無しさん
:2022/02/10(木) 02:43:12 ID:JUHQ9TQs0
はー、本当面白い…
最初は心配になったけど、未来に向かってみんなが歩み出して嬉しい
919
:
名無しさん
:2022/02/10(木) 05:08:20 ID:yHLg5oHY0
乙
最後みんな自分のことを主役だと思っていたのは草生える
まあ全員キャラが立ってるから誰を主役にしても成り立ちそうなのは確か
920
:
名無しさん
:2022/02/10(木) 10:33:15 ID:D43YsZ6U0
Channelers のようですのスレタイ交代制思い出した
921
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/20(日) 23:11:35 ID:SwNBB9uo0
同じ夢を見ることが多くなった。
見上げた先に映ったのは灰色の空。よく目を凝らすと、細かい網のようなものが広がり続けている。
膝まで浸かった状態で、海に立ち尽くす。
まだ自分がそこにいる感覚が掴めずただ見つめていると、切り裂かれた空から黒い何かが這い出して来た。
猛スピードで突っ込んできた黒い何かを避けたのも束の間、轟音と共に二体の巨人が降り立った。
( ゚∋゚)・・・・・・
(´<_` )・・・・・・
巨人は雄々しく歩を進め、拳を突き合わせた。
殴る、蹴る、撃つ、倒す、切る、千切る、燃やす。
眼前で繰り広げられる異様な光景の中に、眩い光が二つ。それに気付いてしばらく目で追っていると、それはこちらに微笑んだように見えた。
「キミは行かないのか?」
突き刺してくるような、冷たく恐ろしい声。
僅かに頭を振って後退りすると、何かにぶつかった。
爪'ー`)y‐ そりゃそうだろうな。奴等はキミが立つ所とは別の場所にいるのだから
振り向くとこちらの肩に手を置く長身の男の姿があった。男は顔を近づけて、にかりと笑みを浮かべた。
爪'ー`) しかしだ。俺がキミに気に食わない連中を好きに黙らせる力を与えてやれるとしたら、どうする?
ミ,,゚Д゚彡……俺は
爪'ー`)y‐ヒトには生き甲斐ってものが必要なんだろ?強くなりたいんなら、チャンスを掴みたいなら俺の所へ来たまえ
その声の響きにぞっとして、俺の意識はその世界から抜け出した。
922
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/20(日) 23:13:16 ID:SwNBB9uo0
(;´ー`)隊長ー………俺魔力切れ起こしたんですかね………頭痛がひどいしえげつない書類の山の幻が見えるんスけど……………
( ´∀`)それは現実で今のお前の状態は単なる二日酔いモナ
(;´ー`)でっっっすよねーーー……………いやホント、30本は反省してます………
( ´∀`)モナはお前が赤紫になったあたりで一度止めたモナ。結局物理的に頭を冷やしてやる羽目になったけど
(;´ー`)いやホント、効きましたよアレは……マジで………
( ´∀`)『うるせーぞモナっ面ァ 飲める時に飲んで何が悪いんだヨォ〜〜〜〜〜』
(;´ー`)あ、あはははー…………
( ´∀`)まあ今更そこに文句つけても仕方がないモナ。4番隊がやらない分はこっちに回ってくるモナ
(;´ー`)ま…そりゃ当然必要っスけどねー、4番隊が失敗した時のためのプランは…全賭けってわけにもいかないし…
( ´∀`)こういうチマチマ下準備してから運任せなんてどっちつかずのやり方はアレの領分モナけどな
( ´ー`)アレ?
( ´∀`)モララー
( ´ー`)あー……アハハ、じゃあやっぱ隊長もスタンス自体はあいつらに全賭けなんスね。俺と同じで
( ´∀`)モナモナ
( ´ー`)(んー、結構……機嫌良いのかな?)
( ´∀`)昨日話したこと覚えてるモナか?
( ´ー`)ええと…俺の前に副官やってたサダコさんの話でしょ?いやあ……なんつーか、完全に元に戻るようになるまで俺たちが頑張って国守んないとっスよね…
( ´∀`)・・・・・・
( ´∀`)ちゃあんと覚えてくれてるならそれでいいモナ
923
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/20(日) 23:14:21 ID:SwNBB9uo0
8月27日 雨
以前の日記が5ヶ月前で笑う。
他の隊の負傷者の手当やら引きこもって訓練やらに時間を割くよりは実戦に出て外の空気を吸っていた方が気が楽。なので魔物を狩ってた。そんだけ。
正直に言うとドラグーンに乗って一面の青空を自由にかっ飛ばしたい。突き詰めたい。もっと速く、もっと強く、凶鳥の厄災なんか目を回してぶっ倒れちまうようなスピードを。
乗り捨てた分は島と一緒に消滅してしまったのでギコに新しいやつを寄越せと頼んだけど「遊ぶための道具じゃない」と拳骨を落とされた。
あいつマジでなんにもわかってないのでそろそろ血の繋がりを疑う。
─────────────────────────
924
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/20(日) 23:15:09 ID:SwNBB9uo0
『救出の魔法使いたちのようです』
その18
『答えを知らぬ俺に出来るのは』
925
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/20(日) 23:16:14 ID:SwNBB9uo0
「しかし本当に派手にやられたなフサ、先にシャワーは浴びないのか?」
同じ1番隊のボラーフが俺の背中を叩いた。
たっぷり蓄えた顎髭と髪の毛の境目がわからない、そういう毛玉の生き物みたいな大男だ。「お前もじきにこうなる」とよく言っているが、勘弁して欲しい。
ミ,,゚Д゚彡4番隊に素材持ってってからだ。無駄口叩いてないで運べ
「その態度に身長が釣り合うのはいつの日かねえ」
ミ,,゚Д゚彡…うるせぇ
奴はそこそこ気さくで、魔法使いとしてもまあそこらの凡人よりはマシって感じの人間だが、大きな欠点があった。
スキンシップが激しく、見た目通りに力加減を知らないこと。撫でられたり叩かれたりする側を知らない蛮族だ。当然モテるタイプの人種ではない。シベリアなら上手く生きれたんじゃないかと最近思う。
ボラーフのことは心底どうでもいいとして、俺は今とても困っていた。
細身の身体や荒々しく伸びた茶髪にべっとりとまとわりつく毒々しい色彩の粘液。
四方八方からペンキでもぶっかけられたような今の俺の姿は傍から見ればどっかのマヌケよりよっぽどマヌケなのだろう。
いろいろと、本当にいろいろと鬱陶しい。ちらりとボラーフの野郎を見る。少し口角を上げた姿がマジで鬱陶しい。
926
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/20(日) 23:16:48 ID:SwNBB9uo0
('A`)やっと第一段階終了ってとこか…
ドクオは床に敷いた魔法陣の書かれた布へ目を向けた。水色の光を放つそれは、異空間へ繋がる魔力の泉となっている。
('、`*川ん〜っ…と。5日で仕上げたにしては上出来じゃない?
大きく伸びをした後笑いかけたペニサスを見て、デミタスも軽く首を鳴らしひとまずの達成感を感受した。
(´・_ゝ・`)…さて、混ざり具合も安定してます。後はこの中でまた素材や魔力を注ぎ込んで調整して属性の再現ですね
('、`*川光、闇の配分は私たちだけでもできる程度には確立されてんだけど、時や鉄はね……
| ^o^ |なかば オンリーワン
(´・_ゝ・`)モララー様もあくまで研究途中でしたから。このメモに従ったところで完璧に出来上がるとは限りませんが…
('A`)モララーが数百年かけても成し得なかった時属性の再現…逆に言えば、すでに数百年分の試行錯誤があるってわけだ。そのメモだって一番上手く行った時のやつだろ?
('、`*川柄にもなく文章が興奮気味よね、これ…
('∀`)b やってみる価値はあるよな
(´・_ゝ・`)はぁ……あまりそう簡単なものでもないのですけれど……
('、`*川デミタスさん
(´・_ゝ・`)はい、自重しますよ
927
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/20(日) 23:17:39 ID:SwNBB9uo0
ミ,,゚Д゚彡よう。頼まれたヤツこれで全部だ
('A`)おー、フサ。お疲れさん
極彩色の辛うじて人間と判断できる何かを特に気にせずにドクオは応えた。
他の4番隊の人間も、特に笑うような素振りはない。
('、`*川いやー派手にぶちまけられたみたいね、レインボースライムの体液。核25個も集めるの大変だったでしょ?
(´・_ゝ・`)あまりその有様でいろいろ触らないでくださいね。なんならここのシャワー使います?
ミ,,゚Д゚彡正直途中からはいかに消し炭にしないよう加減するかの戦いだったな
| ^o^ |あまりこらえしょうのなさそうなタイプですからね フサギコくんは さぞストレスがたまったことでしょう
ミ,,゚Д゚彡あァ!?
('A`)そういうとこだ、そういうとこ…ブームも弄りすぎんなって
| ^o^ |おやおや
そう言うとドクオは窘めるように横からブーム・ソヤナルカのとんがり帽子を掠め取り、左手の指先でくるくると回転させた。
2歳ほどしか違わないのに、その大人びた余裕はどうも癇に障った。
ミ,,゚Д゚彡…俺なら笑うぞ、こんな姿してるヤツ
('A`)笑うかよ。力になってもらってんのは俺たちなのにそんな失礼なマネできるか
('、`*川そういうこと。褒めこそすれ笑う趣味はないかな〜
ミ,,゚Д゚彡…面白い面白くないで言えば?
('A`)こういう状況じゃなかったら一生ネタにする程度には面白い
| ^o^ |みぎにおなじ
ミ,,゚Д゚彡ボケナス
928
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/20(日) 23:18:45 ID:SwNBB9uo0
そういえば着替えを持ってきていないな、と気がついたので浴室からドクオを呼びつけた。
「召使いじゃねえんだぞ」と不満そうだったので、貸し借りゼロにするだけだろうと返すとどうやら納得したようだ。
わざわざ1番隊まで足を運んで持ってきたらしい。
川,,゚Д゚川サンキュー。助かった
(´・_ゝ・`)・・・・・・
| ^o^ |だいそうげんふかひ
('A`)流す前より面白くなってんな
川,,゚Д゚川ホントてめえらのそういうダルいノリ嫌いだ
川,,゚Д゚川…一人足りなくねえか?
('A`)ペニサスさんには帰って二日ほどゆっくり休んでもらうことにした。しばらくは回復でなんとかなる俺とデミタスで回す
| ^o^ |わたしはこれからいちおうおやすみですけど なんとなくここにいたいので
川,,゚Д゚川ふーん…お前らさ、ホントに出来ると思ってんの?
('A`)そう簡単に諦められるもんなら最初からこんな大勢巻き込んじゃいないわな
| ^o^ |なー
川,,゚Д゚川…だって出来るわけねえだろバカ。短くて10年だぞ?それを1ヶ月で…頭ぶっ飛んでるとしか言えねえ
(´・_ゝ・`)後半に関しては私もそう思います
| ^o^ |∩わたしも
( 'A`)∩実を言うと俺もだ
川,,゚Д゚川マジでイカれてんのか?
929
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/20(日) 23:19:47 ID:SwNBB9uo0
8月29日 晴れ
昨日書き忘れてた。まあいいや、3日以内ならマメな方だろ。
飛びてー、ってなる天気。箒でちょっと回ってみたけどやっぱスッキリしない。
第7にでも行って直談判してやろうか、とか思ってる。
あそこの副官はえらく性格が悪いって噂だけど。名前さえ書いてなければ相手がどんなに大事に取っておいた物でも食うとか。
一度金を借りると「迷惑料」とかなんとか日常のあれこれをネタにくどくどと文句つけて際限なく利子増やしてくとか。
最近だと勝手に隊の全員の給料前借りで予算もぎ取って来たとか。
面と向かって話したことはねーけどある意味ギコやデミタスとかよりタチ悪い大人、って気がする。
─────────────────────────
930
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/20(日) 23:20:40 ID:SwNBB9uo0
廊下でばったりディと出会ったのは昼下りの事だった。
俺も大概可愛げのねーツラしてんのは自覚してるけど、あいつはなんか…何考えてるかわからない感じ。
ブームとかデミタスとか、あの辺の類。
まじまじと見ると、やっぱ似てるなーって思う。
特に何か、自分を試しているような目つきとか。
ミ,,゚Д゚彡…少し、話がある
(#゚;;-゚)何だ
ミ,,゚Д゚彡今の第7の状況はどうなんだ
(#゚;;-゚)皆新しい巨神の製作に集中しているが、ニュッケンは…
ミ,,゚Д゚彡副官は?
(#゚;;-゚)……やるべきことはちゃんとやっているが、時々急に出かけたり好き勝手に遊んでたりする
言って良いのか悪いのか、という感じでディは答えた。
やはり相手はよほどの変人らしい。あまりアテにはできなさそうだ。
(#゚;;-゚)何故急に我々について聞く?
ミ,,゚Д゚彡いや、ドラグーンの修理まだかなーって……
(#゚;;-゚)何故魔竜を欲する?飛ぶだけなら魔法靴でも出来るし箒もあるだろう
ミ,,゚Д゚彡いちいち何故ばっかだな。お前あそこに太陽があるのも何故何故どうしてーって悩むのか?あ?
(#゚;;-゚)ふむ……
ミ;゚Д゚彡真面目に「その発想はなかった」みたいな顔すんじゃねえよ!
931
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/20(日) 23:21:41 ID:SwNBB9uo0
ミ,,゚Д゚彡…なんつーかな、違えんだよ。魔力の伝わり具合ってのもあるけどさ…………俺の力って感じがしねえんだ、箒や靴って
(#゚;;-゚)聞くに君は魔竜を自分自身の力として見ているようだが
ミ,,゚Д゚彡チッ、悪いかよ
面白くない、と直感的に心が不快を訴えてくる。
次に何と言うかもだいたい予想はつく。
結局優れてるのは機体で俺の実力じゃないとかそういうのだろ、知ってる知ってる。
(#゚;;-゚)私は否定しない
ミ,,゚Д゚彡あァ?
(#゚;;-゚)自らの可能性を広げるための材料は多い方がいい。より知見を得て他者の存在を自分の力にすることや甲斐というものが人には必要なのだと思う
ミ,,゚Д゚彡・・・・・・
(#゚;;-゚)できればもう少し聞かせてくれないか?
ミ,,゚Д゚彡………………いやだ
言い捨てた後、ハッとしてディの顔を見た。表情は変わらなかったけれど、より不思議そうな目をしていた。
彼女は「何故だ」と言わなかった。俺も答える気はなかった。
これ以上奪われてたまるか、と感じた。
何を奪われるというのだろう。
奪われるほどのものが残っているのだろうか。
けど、そんなこと考えたってしょうがない。
それっきり話すことは特になく俺たちは別れた。
932
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/20(日) 23:22:27 ID:SwNBB9uo0
8月30日 曇り
隊舎がうるさいなと思ったらドクオとフィレンクトが特訓を再開していた。
お前ら今そんなことしてる暇あんのかよ、って思ったけど「それはそれ」ということらしい。
いつかマジで過労死するだろあいつら。
─────────────────────────
933
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/20(日) 23:23:03 ID:SwNBB9uo0
特訓を終えて1番隊を去ろうとするフィレンクトを見つけて俺は声をかけた。
改めて見ると本当にでかい。しかし不思議と威圧感を感じないのはそいつの人徳によるものだろうか。
(‘_L’)おや、君は……フサギコくんと言ったかな。私に何か?
ミ,,゚Д゚彡あんたそんなとこでボサッとしてて良いのかよ
(‘_L’)……ボサッと?ははは、ボサッとかあ……
フィレンクトの仕草はなんだか照れくさそうで、妙にわざとらしかった。
ミ,,゚Д゚彡だってそうだろ。あんた今シィに代わって序列1位の大魔導師なんだぞ?
(‘_L’)地位に見合った行動を心掛けよ、ということかな。なるほど、助言には感謝しよう
(‘_L’)しかし私は自分の立場に対してこれ以上ないほど真摯に向き合っているつもりだよ、フサギコくん
ミ,,゚Д゚彡マヌケに長々時間を割くことがか
(‘_L’)…ん?ふふ、そうかそうか………
ミ,,゚Д゚彡なんだよ
(‘_L’)私は畑を耕しているに過ぎないんだよ、フサギコくん。彼に生き残れるだけの力がつけば、自ずと他の若者達も生き延びる事ができるさ
(‘_L’)それと私は売る気のない喧嘩は買わないようにしている。同じテーブルにつき茶を嗜むことならできるがね
ミ,,゚Д゚彡あいつ一人でソウサク全部の命を背負えるわけねえだろ。それにさ、そこで雨や風に晒されても芽が育っていけるかは結局一人一人の意思によるものじゃねえのか?
ミ,,゚Д゚彡……ドクオ・マンドリューク・テネブリスは畑や器じゃない。あいつだって一個人だ
934
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/20(日) 23:24:00 ID:SwNBB9uo0
そう突っかかるとフィレンクトは嬉しそうに腕を組んで頷いた。おそらく自分の返答は予想されていたものだったのだろう。
本人からすれば出来のいい生徒に感心しているのだろうが、こちらとしては掌の上で転がされているようで不愉快この上ない。
(‘_L’)それがわかっているならよろしい。高値で売りつけたつもりだったが、いやはや…流石に連戦は堪えるし、助かったと言わせてもらおうか
(‘_L’)そうだ、フサギコくんは何歳だったかな?
ミ,,゚Д゚彡……13
(*‘_L’)13歳!羨ましいことだ、なんという余白の広さか!
(‘_L’)ふふ、時代の担い手はたった一人では出来んさ、特にこんな世界ではね。よく覚えておくことだよ
とん、と肩に手を置いてからフィレンクトは去っていった。
ぽつんと残されてみて思う。
あのおっさんの言うことは正しい。
正しい、けど。
ミ,,゚Д゚彡…結局あのマヌケを特別扱いしてるのにはなんら変わらねえじゃん
935
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/20(日) 23:24:34 ID:SwNBB9uo0
8月31日 晴れ
「何もなし」と書くほどではないものの、なんてことはない一日だった。
そういうことにして切り替えたい。
ひどく疲れた。以上。
─────────────────────────
936
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/20(日) 23:25:30 ID:SwNBB9uo0
カサカサ…………
('A`)……あれ?
('、`*川んー、どうかした?
('A`)いや急になんか妙な音がしたような…気のせいかな
カサカサカサカサカサカサ
(;'A`)ウワーッ!?
(´・_ゝ・`)急に大きな声出さないでください……うわ
(;°A°)ゴキだーーーッ!!!?ちょっとデミタスなんとかしてくれよ!俺これだけは無理なんだよーッ!!
(´・_ゝ・`)はぁ……魔法や魔物や厄災まである世界でGの一つくらいなんですか。ちょっと光魔法でジュッと焼けば済むでしょ
(;'A`)いやなもんはいやだっ!お前がやれって!お前がやれってえええええええ!!
(´・_ゝ・`)……頼み方ってもんがあるんじゃないですか?
(;'A`)たのむううう!お願い!お願いします!!
(´-_ゝ-`)私だってイヤです
(;°A°)やっぱお前そういうやつだよな!やっっっっぱお前そういうやつだよな!!
(´・_ゝ・`)早く処理してくださいよドクオ、うっかり魔法陣の中に入って妙な変化起こされたら今までの苦労が水の泡ですよ?
('、`*川……………いまだっ
グシャ
(´・_ゝ・`)…あ、ありがとうございます
(;'A`)躊躇なく踏み潰した…………
('、`*川片付けといて
(´・_ゝ・`)('A`;)はい…
937
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/20(日) 23:26:44 ID:SwNBB9uo0
色々と考え事をしていてよく眠れなかった。
隊舎とは別に大きな塔が立っていて、そこで1番隊の隊員達は過ごしている。基本的には二人部屋だが、ルームメイトはもうずっと前から居ない。根気強く起こしに来る奴も居ないので、9時過ぎまで平気で寝てしまうのも仕方がないこと。
のそりと布団から抜け出しぼーっとしたまま歯を磨いていると、俺は思わず目を剥いた。
窓の外から侵入しようとしている何者かの足を見た時、もはや寝ぼけている暇などなかった。
バニラの香りが妙に鼻につく。
ミ,,゚Д゚彡なんでいるんだよ
(#゚;;-゚)失礼。そしておはよう、フサギコ・ダカラ・ゴウラ。いい朝だな
ミ,,゚Д゚彡何が良いもんかよ
| ^o^ |ぐっもーにん
ミ;゚Д゚彡げっ…
| ^o^ |「げっ」はないでしょう 「げっ」は
ちっこい竜に乗っかって窓の外に現れたのはブーム・ソヤナルカだった。こめかみを押さえて唸る俺を見ながら、ブームはにこにことしたままこちらを見ている。
| ^o^ |そらをとびたがっていると ききました
ミ,,゚Д゚彡お前な………
(#゚;;-゚)君のために一番穏便に済む手段はこれしかないと思ったんだ
| ^o^ |のりな ぼーい
ミ,,゚Д゚彡いらねえ気ィ回しやがって…術式の製作はどうしたんだよ!
| ^o^ |さしたるもんだいにあらず
ミ,,゚Д゚彡大問題だろうがよ!?お前……自分の隊の存続かかってんだぞ?危機感とかそういうの無いのか!?
| ^o^ |?だってできますもん
938
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/20(日) 23:27:43 ID:SwNBB9uo0
ブームは俺を乗せて魔法局を一周した後、広い野原を選んで降り立った。
俺はブームの魔竜に乗せてもらうことになったのだが、それからが最悪だった。
まず、乗ることから躓く。
図体は小さいのでひょいと飛び乗ることは出来るのだが、その瞬間ひどく暴れて振り落とされてしまう。
「ふんわりと」とブームから教えられ、ほんの少し浮いてから尻を落とすように騎乗する。
ほっとして手綱に魔力を注いだ瞬間、長い尻尾が顔面に叩きつけられた。
ミ#゚ー゚彡このクソ竜…………
| ^o^ |サルサはのりものではなく おともだちです まごころでつきあいたまえ
ミ,,゚Д゚彡あ?
(#゚;;-゚)落ち着け。魔力を通してコントロールする必要はない
| ^o^ |のびのびといきましょう
「ブァルルッ」
ミ,,゚Д゚彡……のびのびと?
| ^o^ |のびのびと
ぎろりと睨みつける魔竜の唾まみれの俺に対してまるで動じすブームはちっ、ちっと舌を鳴らした。どうやら警戒を解くように合図しているらしい。
最初からやれ、そういうことは。
939
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/20(日) 23:28:41 ID:SwNBB9uo0
ミ,,゚Д゚彡しばらく飛んでみてわかったよ
小さく呟いた後、ディが静かにこちらを見た。
ミ,,゚Д゚彡この竜がそう単純な存在じゃないってのも、そこにいる阿呆の力だってのも理解した。お前が気晴らしの場を設けてくれたのもわかってる
ミ,,゚Д゚彡…けど、俺の求めてるものじゃないんだ。俺が欲しい特別じゃない
(#゚;;-゚)特別……
ミ,, Д 彡強くなりたいんだ…もっと、こんなんじゃ駄目なんだよ……俺の、俺の力を引き出すには……アレが必要なんだ
| ^o^ |あなたが最初にその夢を抱いた時、雷の属性を自由に使えるようになった時、そこに魔竜の姿はありましたか?
ブームがサルサの顎を撫でる手を止めて言った。その声色はひどく重々しいようで、何か気もそぞろな俺を面白がっているようでもあった。
苛つきが込み上げて来て、気がつけば胸ぐらを掴んでいた。
奴の瞳は透き通ったままだった。背丈の割に幼さを秘めた瞳の中に、ほんの少し滲んだ確固たる意思の輝き。
マヌケや、ギコや、シィと同じ、俺を映す目。
ミ,,゚Д゚彡………お前、マジでなんなんだよ
震えた声で問いかけると、ブームは笑顔で答えた。
| ^o^ |せかいがこいするてんさいじです
940
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/20(日) 23:29:27 ID:SwNBB9uo0
9月1日 雨
今日も寝不足。多分明日も眠れなさそうだ。
スナール姉妹が派手に模擬戦をやるってんで、俺も少し見物に5番隊に行ってた。
なんつーか、みんな考えることは同じって感じ。いろんなとこから野次馬が集まってた。
賭けの対象にする奴まで出る始末だし。
やっぱノーテンキだろ、この国。
─────────────────────────
941
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/20(日) 23:30:22 ID:SwNBB9uo0
「キュートだ!」
「シュールだ!」
「ウチの隊長に決まってる!」
<ヽ`∀´>静粛に!
その場に居る誰よりもデカい声で制し、バカ騒ぎの中をかきわけて6番隊のニダーが前へ出た。
その後ろにはディがついている。
二人は最前列で見ていた俺の隣に立ち、下の階にある闘技場に視線を移した。
ミ,,゚Д゚彡…よう
(#゚;;-゚)元気がないな。……昨日のこと、出過ぎた真似をしたなら謝る
ミ,,゚Д゚彡別にいい。一応空飛べて気分転換はできたしな
(#゚;;-゚)そうか…
ふわりと微笑むディの姿に俺は「それから金輪際ブーム・ソヤナルカに相談するのはやめろ」「悩みが余計に酷くなる」と続けることは出来なかった。
ミ,,゚Д゚彡あんたらも野次馬?
<ヽ`∀´>その表現は正しくないニダ。我々は副官であり、あそこで戦っているのは敬愛すべき隊長。よって我々には見届ける義務があるニダ
一度咳払いをしてからムッと眉間に皺を寄せてニダーが答えた。言っていることは正しいのだから、そのわざとらしいくらいに陰険な仕草はどうにかした方が良いんじゃないか。
俺が言えた台詞じゃないけど。
942
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/20(日) 23:32:44 ID:SwNBB9uo0
<ヽ`∀´>まったく賭け事に興じるなど言語道断ニダ
从;'ー'从そこはごめんなさい…みんな祭り好きですから……
脇で小さくなっているのはキュートの副官のワタナベだった。
やたら血気盛んな連中が多い5番隊や、若者揃いの6番隊を見ているとこの二人は浮いた存在に思えた。
ニダーはどう見たって口やかましい枯れた中年だし、ワタナベは血気盛んな5番隊には似つかわしくない穏やかさを持っている。
あえてそういう存在を配置することで隊の空気を引き締める狙いがあるのだろうか。
それとも、周りには面倒そうなおっさんに見えるニダーにも実は若い情熱が隠されていたり、穏やかそうなワタナベにもキュートのような猛獣の本性があるのだろうか。
ミ,,゚Д゚彡…あんたらはどっちが勝つと思うんだよ?
(#゚;;-゚)ふむ…
<ヽ`∀´>瞬発力、視力、反射スピード、魔力。確かにその点はキュート隊長の方が勝るニダ
<ヽ`∀´>しかし勝つのはシュール隊長以外あり得ないニダ
从'ー'从…どういうことですか?
燃えるような目つきが突き刺してきた。
どうやらニダーは猛獣の尾を踏んだらしい。
943
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/20(日) 23:33:56 ID:SwNBB9uo0
o川*゚ー゚)o本気でいいんだよね?
lw´‐ _‐ノvかまわんよ カモンよー
キュートの杖が光を放ち、大剣へと姿を変えた。
湧き上がる歓声に一瞥して応え、キュートが跳躍する。
一度地面に背をつけるか、気絶か、降参。それ以外で決着はつかない。
キュートの方が圧倒的に攻めには優れているため、この時点でほぼ勝ちは見えている。
ミ,,゚Д゚彡(だが守りにはシュールの方に一日の長がある)
空中に出現した岩石が、四方八方からキュートを押し潰さんと襲いかかった。
o川#゚ー゚)oこのっ!
大剣を力いっぱい振り回して、一つ一つ岩を砕いていく。だが、それはキュートの気を逸らすための手段に過ぎなかった。
lw´‐ _‐ノvピッチャー、6番シューちゃん。おおきく振りかぶって……投げたッ!
掌に収まる程度の大きさの小石が、キュートの額に勢いよくぶつかった。
「うわっ……」
「あれは痛いな」
o川*゚ー゚)oえへへー。そうこなくっちゃ…!
o川;゚ー゚)oぎっ!?
lw´‐ _‐ノvあんまし余裕カマしてたらいかんぜデコちゃん
静かに笑ったキュートの額に容赦なく小石の追撃が飛んだ。
川 ゚ 々゚)オーケー…必死にやろうぜ…お互いになベイビー……
lw´‐ _‐ノvかむかむレモン
944
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/20(日) 23:35:17 ID:SwNBB9uo0
一度地に背中をつければ負けというルール上、空に逃げることは卑怯な行いとはされない。むしろ鉄則と言える。
見下ろす側に居れば、たとえ後方からの攻撃でも回避行動に移りやすい。
もう一つの利点は、多少バランスを崩しても空なら魔法靴を使って浮けば姿勢は容易に制御できるということ。
しかしキュートはそのまま空に居ることを良しとしないはずだ。直撃はさせず、叩きつけた剣の衝撃波で相手が倒れるのを狙うのがキュートの想定していた戦法だろう。
出鼻を挫く、距離を測る、突破口を開く。
シュールの戦法はあくまで「崩し」。それは前提であって繰り返した所で詰みの一手にはならない。
突っ込んで行く石つぶては牽制。パワーの差がある以上、近寄らせないのが最適解。そしてキュートはその攻撃を一つ一つ叩き潰して接近戦に持ち込む必要がある。
从;'ー'从けど、シューちゃんが後手に回ってるようには見えない、よね
(#゚;;-゚)…真正面からぶつかり合っているように見える
ミ,,゚Д゚彡同感だな………
<ヽ`∀´>気づいたニダか?
ミ,,゚Д゚彡何をだよ
<ヽ`∀´>今のシュール隊長には予備動作が無いニダ。傍から見ればただ突っ立ってるだけニダが…
从;'ー'从直線的な動きで狙いに行くキュートちゃんに比べて行動の選択肢が多い!
<ヽ`∀´>そういう理屈もあるニダ。けど事はもっと単純ニダよ
(#゚;;-゚)意思か
<ヽ`∀´>正解。キュート隊長には理屈を押し切って進む力があり、シュール隊長には能力差を蹴っ飛ばす力がある。戦意で言えば彼女らは対等と言えるニダ、相手を通して見ている物が何かと考えれば当たり前ニダけどな
从;'ー'从で、でもそれって…
<ヽ`∀´>殺す気ではあるニダ
从;'ー'从シューちゃんも!?
<ヽ`∀´>それくらいの気持ちでやってくれないと今は困るニダ。大魔導師も四人きりニダからな
945
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/20(日) 23:38:22 ID:SwNBB9uo0
まっすぐに、強引に突き進んで行くだけ。
そそり立つ土の壁を砕いて、少しずつ勢いを増しながらキュートが向かっていく。
シュールは毅然と立ち続け、それに相対する。
ぎらりと光るキュートの目はもう完全に姉しか見えていない。ならば次に打つ手は何か。
ミ,,゚Д゚彡(俺なら…)
o川*゚ー゚)o(シュー姉なら!)
川#゚ 々゚)真横から殴りつけるね!!
舞うように回転して、剣が閃く。挟み込むように出現した岩石弾の破片が飛び散り、勢いのまま剣はキュートの手から離れて飛んでいく。
それは上階で観戦していた俺達の頭上を駆け、大気を震わせるほどの轟音を上げて壁に突き刺さった。
川 ゚ 々゚)いっけねー……!
間髪入れず空に攻撃が撃ち込まれる中、キュートは口をひん曲げてケラケラと笑った。
その掌から長い鎖が生成され、鞭のようにしなる。
遠く離れた剣の柄を絡め取り、力いっぱいに引き抜く。
川#゚ 々゚)どうだぁっ!!
投げ飛ばされた剣が猛烈なスピードで空気を切り裂きシュールへ突っ込んだ。扱いはほぼ鉄球のそれだった。
その攻撃に正確さはなかった。ただ、巨大な鋭い鉄の塊が圧倒的な破壊力で蹂躪する。地を割る凄まじい音と少女の高笑いを伴って、突き刺さっては引き上げられ、また突き刺さっては引き上げられ。
それでもシュールは立っていた。
土煙の中、一つ一つの衝撃を見事に避け続けて立っていた。
川 ゚ 々゚)さっすがお姉ちゃん!最ッ高だよ!それだけやってくれるならこっちも…
lw´‐ _‐ノv…最近思ったんだけどさ、自分にしろ他人にしろ余命ウンヶ月ってなるとパニックになると思うんだよね。片付けるにしたって何から手をつければいいかわかんなくなるし
lw´‐ _‐ノvじわじわ現実だって理解していくのとさ、理解できないフリして苦しむのとさ
lw´‐ _‐ノvそう考えると目糞鼻糞ではあるけどウチら恵まれてんのかなーって。一度一度の戦いすらどうなるかってレベルだし、そうウジウジしてもいらんねーじゃん?
lw´‐ _‐ノvだからさあ…
lw´‐ _‐ノv「切り替えが出来ていいね」川 ゚ 々゚)
946
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/20(日) 23:39:44 ID:SwNBB9uo0
再び大剣を握り締め、一直線に飛びかかる。
その瞬間に尖った岩が出現しキュートの胸に吸い込まれるように空を滑る。
川 ゚ 々゚)甘いッ!効果は今ひとつだァーーッ!!
到達する寸前で岩を粉々に砕き、そのまま着地してシュール目掛けて一歩踏み込む。
彼女が地面に立った時点で勝敗は決した。誰もがそう思った。
が、剣を突き出したままキュートの身体は前のめりに転倒した。
lw´‐ _‐ノvうむうむ。猪突猛進、それも善哉。でも力任せじゃ守れないもんもあるのよね
lw´‐ _‐ノvあんたが空で斬った張ったしてる間に地面をね、柔らか〜〜くしておいたんだ。動くだけなら充分だけどさ…その鉄の脚、まだまだ改良すべき点はあるよ。第7に頼んでみな
泥の中へ沈んだキュートがゆらりと亡霊のように起き上がり、にかりと口の端を吊り上げた。
川 ゚ ヮ゚)あんまし余裕カマしてたらいかんぜ、おねえちゃん……
生きているかのように地面から飛び出した鎖がシュールの脚に巻き付いた。
川 ゚ 々゚)勝ちはもらったァーッ!
lw;´‐ _‐ノvうわっと!?
lw´‐ _‐ノvあー…さっき倒したは倒したけど背中じゃないからセーフか……そっかそっか………
倒れている間に地中へ潜り込ませていたのを理解した瞬間、シュールの身体は大きく仰け反りばしゃりと音を立てて地へ沈んだ。
947
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/20(日) 23:41:36 ID:SwNBB9uo0
lw´‐ _‐ノvんー、猿も木から落ちる、弘法も筆の誤り。河童の川流れ〜。上手の手から水ザバー…
lw´‐ _‐ノvま、それくらいよくあるってことで。収穫は上々。ありがたいことに活かすための「次」もあるしね
<ヽ`∀´>然らば問うニダ、隊長。何を掴んだ?
lw´‐ _‐ノv何が何でもってハングリー精神かな。おなかすいたね
<ヽ`∀´>善哉。それも貴方を強くするニダ
lw´‐ _‐ノvせっかくだからおフロ借りてる間にご飯作っててくれる?ハングリー精神実践編
从;'ー'从それはまた意味が違うと思うけどなあ……
<ヽ`∀´>ホルホルホル。謹んでお引き受けするニダ
o川*゚ー゚)oシュー姉
lw´‐ _‐ノvなんぞよ
o川*゚ー゚)o……私のこと、殺る気だった?
lw´‐ _‐ノvうん。そりゃね…でもさ。「キュートならそんなもん跳ね除けられる」って思考は常にあったかな
o川*゚ー゚)oふふ、そっか…ちょっと安心したかも
lw´‐ _‐ノvもう感覚狂ってきてんなー…ってなるけどね。まあ強くなんないとってことだよ、私も、キュートもさ
ミ,,゚Д゚彡…やっぱり頭一つ違うんだよな。大魔導師って
遠くから眺めつつ、ほとんど独り言のような声量で呟いた。
(#゚;;-゚)…フサギコ?
ディが見上げた先に、その姿はなかった。
948
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/20(日) 23:43:16 ID:SwNBB9uo0
9月12日 雨
だいぶ日が空いてしまった。
明日も訓練に励むので、簡易的に済ませてさっさと寝ることにする。
9月16日 曇り
しばらく空を飛んでいない。カンが鈍るのも困るので、明日は箒でも使うことにしておく。
9月18日 雨
ギコのバカが俺に話す言葉の6割は命令形と禁止系で残りの4割はシィの話だった。
だった、と表現したのは今日はそういう日じゃなかったってこと。
明日はどうか知らないけど。
─────────────────────────
949
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/20(日) 23:44:48 ID:SwNBB9uo0
ゆっくりとまぶたを開けた。
周りが薬臭い。
白い布団。
ベッドの傍ら、やけに充血した目でぼんやりとこちらを見ている男。
いつからいたかは覚えていない。目が覚めたら、ただいつの間にかそこにいた。俺も、そいつも。
まだ頭に鈍い痛みが残っていて、それがどうにも不快だった。
ミ,,゚Д゚彡・・・・・・
(,,゚Д゚)起きたか、フサ
目が合って、ギコが短く語りかけてきた。
俺は無意識に視線をギコから窓際の花瓶へ移して、頬杖をついていた。
ミ,,゚Д゚彡…何だよこれ、魔力切れ?
(,,゚Д゚)の状態から無理に力を絞り出そうとした結果だ
(,,゚Д゚)お互い、しばらく休みを取ろう。そうだ、二人でどこかに遊びに行ってもいい
ミ,,゚Д゚彡また随分とお優しいじゃん。それも「シィ様ならそう言うだろう」か?
(,,゚Д゚)…これは俺の言葉だ
怒るような様子はなかった。それはいつもの、1番隊の副官をしていたギコではなかった。
それは暖かかったけどどこか遠慮がちで、よそよそしくも感じられた。
950
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/20(日) 23:45:58 ID:SwNBB9uo0
ミ,,゚Д゚彡…怒鳴れよ
(,,゚Д゚)・・・・・・
ミ,,゚Д゚彡もっと年上ぶって怒れよ。隊長代理やってんだろ?1番隊背負ってるんだろ、ならもっとそれらしく振る舞ってろよ
(,,゚Д゚)…なら言わせてもらう。自分を追い込み過ぎだ、それじゃ実力は出し切れない
ミ,,゚Д゚彡次は上手くやる
(,,゚Д゚)これ以上無理をするんじゃない…こうして意識が戻った事だって奇跡的なんだ
ミ,,゚Д゚彡…倒れようが俺の勝手だ、何が悪い
ミ#゚Д゚彡お前だってそうだろ、お前だってずっとそうしてた!弱っちい癖に全部背負い込んで!身の丈に合わないものに囚われて!
怒ってみろと言っておきながら、声を張り上げている自分が余計に惨めで、少し目を伏せて拳を握った。
脱力したようにベッドにもたれかかる。
ミ,,゚Д゚彡…自分を追い込んででも、魔法使いとして…常に上を目指さなきゃ…
それを聞いてギコは噛み締めるように沈黙し、かと思えばゆっくりと笑おうとして、やがて眉間に皺を寄せた。片手で顔を押さえて、泣くのを堪えていた。
951
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/20(日) 23:46:42 ID:SwNBB9uo0
ミ,,゚Д゚彡情緒不安定かよ、バカギコ
(,,^Д^)いや、お前の言う事は正しい…でも今は少し正しすぎちゃってるな。ギコハハハ
ミ,,゚Д゚彡笑ってんじゃねえよ…
ミ,,゚Д゚彡…掴んでも、誇っても、自信ってやつが逃げていく時があるんだ。そういう時、どうすればいい?
少し考えてからギコは返した。
(,,゚Д゚)必死こいて追いかけて、捕まえる。二度と逃さない。そうしようとして躓いて来たが…それでも諦めたくない
(,,゚Д゚)ここ数日のお前を見ていると、特にそう思った。こうなる前に止めるべきだったとも後悔はしているが…お前の足掻く姿を見て、嬉しかったんだ
ミ,,゚Д゚彡・・・・・・
(,,゚Д゚)兄としても1番隊の副官としても、隊長代理としても俺は中途半端だ。だからこそ今度は自信を裏切らないし、裏切らせない
ミ,,゚Д゚彡……相変わらず綺麗事しか言わねえバカ兄貴だ
(,,^Д^)相変わらず口の減らない弟だな
なんとなく思ったことがある。
笑うって事に比べたら、どんな強い魔法もちっぽけかもしれない。
952
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/20(日) 23:47:33 ID:SwNBB9uo0
(#゚;;-゚)ニュッケン、例の件だが
( ^ν^)何度も言うけど却下。ドラグーンは優先順位だいぶ低いんだよ、こっちは巨神のアイデア出すのに精一杯だ
後方から話しかけてきたディに振り向かずにニュッケンは制した。
ディの顔がいつもの無表情から駄々をこねる子供のような顔になったが、ニュッケンはそれを見ることはなかった。
( ^ν^)…なあディ、弟欲しくね?
ディは理解出来ず固まった。大きくため息をついたニュッケンはまた下を向いてぽつりぽつりと喋りだした。
( ^ν^)…誰かさんに姿は似せてあるがな、血を採りゃわかる。お前の身体を構成するほとんどはあのメガネの物だ
( ^ν^)だからさ。多分…調整次第でな?やろうと思えば出来んだよ。実質的にアレを生き返らせること
(#゚;;-゚)そうなったとして、そこでニュッケンは笑っていられるのか?
( ^ν^)あ?
(#゚;;-゚)…質問が悪かった。その子をニュッケンはどう使う?
( ^ν^)・・・・・・
二人とも鏡合わせのように痛みを伴った表情をしていた。我ながらとてつもなく恐ろしい事を言おうとしている、とニュッケンの瞳はより暗い色に染まった。
(#゚;;-゚)たとえどんなに愛情を注がれて成長しても、その子は結局お前にとっては人の形をしたパズルのピースに過ぎない
(#゚;;-゚)…お前が欲してるのは答えの見つからない現状から楽にゴールへ着ける手段だ。アサピエーラの頭脳だけだ、違うか?
953
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/20(日) 23:48:47 ID:SwNBB9uo0
( ^ν^)サンキュー、一言一句ちげえねえ
( ^ν^)…最初から利用されるために生み出された命なんざ呪いしか作らねえわな。冗談ってことにしてくれ
言い終えてニュッケンは珍しく、自分の口から出た言葉を失言と認識した。ディが僅かに青ざめたのもはっきりとわかった。
厄災と戦うため、厄災を殺すため。彼女の生まれてきた理由をしばらく忘れていた。ニュッケンにとって良い傾向だと受け入れていたその認識が、いつの間にか鋭利な刃となっていた。
( ^ν^)あー、悪ィ。違う
(#゚;;-゚)…構わない。私は今が幸福だから
僅かに伸ばした手をディは縋るように握った。
(#゚;;-゚)生産性のある思考をするのは私にはまだ難しい。だが…アサピエーラほどではないが、彼ならどうするかと考えることなら出来る
(#゚;;-゚)駄目か?
( ^ν^)
( ^ν^)いや、不服は無ェ。せいぜいアレに追いつけるように無い脳ミソ絞れし
(#゚;;-゚)………りょ
( ^ν^)俺のボキャブラリーは学習しなくていい
954
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/20(日) 23:49:42 ID:SwNBB9uo0
9月21日 晴れ
久しぶりにマヌケに会った。
色々と踏ん切りがついて少しばかり気が楽になった、そんな気がする。
賭けには勝った。
後は奴がやるだけだ。
─────────────────────────
955
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/20(日) 23:51:44 ID:SwNBB9uo0
嫌に見慣れた姿に出会った。
街中でよたよたと袋を抱えて歩いてるドクオの姿を見かけて、少し足を止めた。
どうやら買い出しに出ていたらしい。袋の上からリンゴがこぼれて、勝手に転がっていく。
「わ、わ、わっ」なんて慌てながら、ホントにそういうマヌケを演じてるみたいに走っている。それ、余計にバランスを崩すんじゃないだろうか。
ちょうど自分の足元にやってきたリンゴを拾い上げ、軽く水魔法で洗う。
(;'A`)あ…フサ!いや助かったぜ、サンキュ…
ミ,,゚〜゚彡
(;°A°)食ってるーーーーーー?!!!!!!?
ミ,,゚Д゚彡リアクションがいちいちうるせぇ
荷物の半分を詰めてなんとなくついて行くと、ドクオはベンチを指差した。
ミ,,゚Д゚彡良いのかよ、こんなチンタラしてて
('A`)まあ、時間なんてもうほとんど無いけどさ。それでも…まだ無理だなんて思いたくないかな。というか全然思ってねえ
ミ,,゚Д゚彡…おめでたい奴
('A`)かもな
ため息をついてちらりとドクオを見た。
少し卑屈気味な笑顔だったので、ほんの少し身構えた。
('A`)そう楽観的ってわけでもねえけどな…
('A`)日替わりでブーンやモナー隊長や、いろんな人が助けてくれた。それでようやく最終段階までこぎつけた、けど…今、何も変化が無くて困ってる
956
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/20(日) 23:53:02 ID:SwNBB9uo0
目線をどこかに漂わせて、ドクオは呟いた。
('A`)…聞いたよ、訓練中に倒れたって
ミ,,゚Д゚彡別になんでもねえよ。今はピンピンしてるし
('A`)ちょっと焦る気持ち、分かるぜ。凶鳥とか、巨鯨とか、火山とか…あとシベリアのでっかい人とか。ああいうの見るとさ
('A`)俺も強くならなきゃって、がむしゃらになって、そうなってたと思う
ミ,,゚Д゚彡イヤミか?
見透かされたようで咄嗟に目を背けた。
そう言いながらも、ドクオはあの島で厄災を一体討滅しているのだ。改めて自分の苛立ちの理由を再確認できた気がした。
ついふてくされたような口調になったのを自覚して、また唇を噛む。
('A`)そんなつもりは…
ミ,,゚Д゚彡だったら尚更タチ悪いぜ。自分を抜かしてんだからな
ミ,,゚Д゚彡結局お前も見下ろす側なんだよ。シィやブームとかみたいにさ。自分だけの物を持ってる
ミ,,゚Д゚彡…お前と一緒に厄災ぶっ殺した時はスカッとしたな、やっぱ俺強え!って。でもだんだんみんな遠くへ行っちまって、現実がどんどん惨めになって、なんだか俺の全部を持っていかれてるような気がした
ドクオは向き直り、しばらくしてから微笑んだ。
('A`)…殴ってみろよ、俺を
ミ,,゚Д゚彡急なマゾへの目覚めか?
('A`)ちげえよ。いいからやってみろって
ミ,,゚Д゚彡前時代的だな
957
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/20(日) 23:53:53 ID:SwNBB9uo0
そこまで言うなら、と殴った。
ドクオの身体は派手に吹っ飛んで、地面に無様にごろごろ転がった。
ミ,,゚Д゚彡…何がしたいんだてめえ
('A`)あのさ。俺…お前が思ってるほどそんな遠くにいるようなヤツじゃないんだよ。殴られたら痛いし、泣くし、敵わないってなったらとりあえず逃げて、挙げ句コケるし……
('A`)鉄針の厄災だって、俺一人で殺れたんじゃない。ブーンが足になってくれなきゃ死んでたし、なんならペニサスさんだって殺しかけた
('A`)無の厄災だなんて御大層な名前もあるけどさ。結局はただのガキなんだよ
ミ,,゚Д゚彡・・・・・・
('A`)…何度も言うけどさ。お前、一人じゃないんだぞ
ミ,,゚Д゚彡反吐が出るね
たまらなくなって、立ち上がって頭を掻いた。
薄っぺらくて、誰にでも言えるような言葉で、でも妙に説得力があって。
呆けたマヌケ面を見ていると、不意にふっと息が漏れた。
958
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/20(日) 23:55:12 ID:SwNBB9uo0
ミ,,゚Д゚彡…同じだって分かり合うのが美徳だと思うならずっとそうやってればいい。けど、それを独り善がりだって思うヤツだって居るんだ
ミ,,゚Д゚彡俺は俺で居たい、誰かと違う存在で居たい。俺だけの何かを見つけたいんだ
('∀`)…良いんじゃねえかな、それも
('∀`)俺は勝手に信じてるし
突き放すように答えても、全く怖気付くことなくドクオは笑っていた。
そのぶれない姿に目を丸くした後、すぐに眉根を寄せた。何か言い返そうとするが、結局何も言えずに黙ってしまう。
ミ,,゚Д゚彡…そのパンちょっと寄越せよ
('A`)急だな。いいよ、どうすんの
ミ,,゚Д゚彡賭けだ。あそこに止まってる鳩が浅ましく寄ってきたら、俺もそういう選択を取れる
('A`)見向きもしなかったら?
ミ,,゚Д゚彡…自分なりに、まだ足掻いてやる。必死こいて追いかけて、いつか俺を掴んでみせる
('∀`)…結果見えてんじゃねえの?
ミ,,゚∀゚彡ハッ、だから賭けるんだよ
('∀`)だよな
爪'ー`)…………鳩風情に負けるか。それも連中に言わせりゃ聖タナシンのお導きってやつかね
爪'ー`)y‐……………だから面白い、今度のヒトは
959
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/20(日) 23:56:30 ID:SwNBB9uo0
(*‘_L’)っ旦 む、こいつは演技がいい!茶柱が……!!
(;‘_L’)ああっつい興奮しすぎて茶柱が!茶柱が沈んでいくううううううっ!!!?
/ ゚、。 /………………縁起物頼りか
/ ゚、。 /縋られても困るんだがな
(;‘_L’)誰かおかわりを!おかわりをーーーーッ!!
从'ー'从間に合う、間に合わない、間に合う、間に合わない……間に合う、間に合わない………
川 ゚ 々゚)てめぇらァ!!花ありったけ持ってきなァーーー!!!!!!
「「「「よっしゃあーーーーーッ!!!!!」」」」
960
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/20(日) 23:57:51 ID:SwNBB9uo0
(´・_ゝ・`)……魔法陣は安定してるけど、それだけですね
('、`*川もーー何入れりゃ正解なのコレ!?
( ^ω^)迂闊に変なもん入れてもヤバいのが問題なんですお………
('A`)ただいも
| ^o^ |おや フサギコくんもですか
ミ,,゚Д゚彡ちょうど通りかかったんでな
('A`)術式は?
('、`*川憎たらしいほどに変化なしー
( 'A`)・・・・・・
ミ,,゚Д゚彡・・・・・・
「「全部ブチ込もうぜ」」
(´・_ゝ・`)…………は?
('、`*川へ?
d('A`)
ミ,,゚Д゚彡b
961
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/20(日) 23:58:56 ID:SwNBB9uo0
o川*゚ー゚)o間に合う!
lw´‐ _‐ノv間に合わない!
(#゚;;-゚)…間に合う
<ヽ`∀´>間に合わない!
(;´ー`)ま、間に合う……………
从;'ー'从間に合わな……わな………な………間に合わない〜〜〜〜〜〜〜!!
( ´∀`)花占いなんてアテにならんモナ
(;´ー`)空気読んでくださいよ隊長!!!!!!
( ´∀`)いいからみんな揃ってこっち来いモナ
(#‘_L’)っ旦 同士ダイオード!!もう一杯だ!!!
/ ゚、。 /…10杯目だぞ
(#‘_L’)次こそは…次こそは……来い、茶柱……!!
/ ゚、。 /なんでそんなものに今世紀最大の真面目な顔をするのか
( ^ν^)あのー、なんか4番隊が呼んでるみたいなんで。とりあえず言っといたスからね。じゃお先〜
(;‘_L’)……なんて?
962
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/21(月) 00:00:29 ID:KCWzqlvE0
('A`)集まったな…
(#゚;;-゚)…眩しい
| ^o^ |あふれんばかり
( ^ω^)これだけ魔力が集まれば!
ミ,,゚Д゚彡下手に安定させたままで停滞するよりも、いっそイカれた量を注いだ方が変化は見込める
('A`)モララーから継いで、俺たちが作る光の形。そう考えれば簡単な事だったのかもな
(´・_ゝ・`)大爆発してないだけマシですけど…出来ると思います?
('、`*川…デミタスさんは?
(´・_ゝ・`)現状はまあ荒唐無稽ですけど、そこはまあ今更なんで
(´・_ゝ・`)ですが案外、ギリギリでやればできるんじゃないかなって思わせる材料も揃ってるんですよ
('A`)材料?
(´・_ゝ・`)ええ。あなた達若者のことですよ
デミタスが黒い瞳でこちらを見つめた。
(´・_ゝ・`)だってそうでしょう?たった一人でごく当たり前のように属性を合わせられる人間が居て
| ^o^ |いえす あいあむ
(´・_ゝ・`)平凡な生まれから努力に努力を重ねて特殊属性のレベルにまで昇華した雷の魔法使いが居て
ミ,,゚Д゚彡・・・・・・
(´・_ゝ・`)厄災の中から生還してきた、光と闇を司る魔法使いが居る。これだけトンデモが溢れてるんですから、賭けてみたくもなります
( ´∀`)モナたちも居るモナ
('、`*川もう一個魔法陣重ねて蓋するよ!いいね!?
(´・_ゝ・`)魔力の収束に入ります。危険ですので少々お下がりください
963
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/21(月) 00:02:44 ID:KCWzqlvE0
('A`)…なあフサ
ミ,,゚Д゚彡なんだよ
('A`)賭けるか?
ミ,,-Д-彡いや?…結果見えてるだろ
('∀`)だから賭けんのさ
ミ,,゚Д゚彡だよな
('∀`)俺、完成する方
ミ,,゚ー゚彡だからそれじゃ賭けが成立しねえってんだよマヌケ
964
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/21(月) 00:04:54 ID:KCWzqlvE0
(-@∀@)…なあ、モララー
( ・∀・)「うん?」
(-@∀@)僕はもうすぐ完全にこの世から消えるんだな
( ・∀・)「…ああ。そうなるね」
(-@∀@)だったら最後に頼みがあるんだ
( ・∀・)「何かな?まだディが心配かい?」
(-@∀@)いや、さほど心配はしていないさ。あっちにはスナールの小娘達も、ニュッケンも、ついでにヤマサキもいるからな
(-@∀@)僕の頼みというのはだな、モララー
( ・∀・)・・・・・・
(-@∀@)僕達の好きだった、モーラ・モラール・マタリウスのままでいてくれ
( ・∀・)「…それ、呪いだなあ」
(-@∀@)ははは、呪いか。ならばおあいこだな、僕とモナーだってキミからの呪いは受けてる
( ・∀・)「………ずっと後悔してるよ」
(-@∀@)そう落ち込むな。僕だってキミのおかげである程度のケリはつけられた。これでも出会えて感謝しているんだよ?
( ・∀・)「…お前、死んでから素直になったよね」
(-@∀@)かもな。それにしてもこの不思議な気持ちにはどうにも慣れんよ、二度死ぬというのにな……
( ・∀・)「……またね、アサピー」
(-@∀@)ああ。モララー、僕は……
(-@∀@)僕は君を、助けなければよかったのかもしれないな
( ・∀・)
( ・∀・)ニコヤカ
続く
965
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/21(月) 00:07:07 ID:KCWzqlvE0
>>1
その1 ( ・∀・)
>>30
その2 (*゚ー゚)
>>79
その3 ( ・∀・)lw´‐ _‐ノv/('A`)(‘_L’)
>>156
その4 ( ´∀`) / ゚、。 /
>>197
その5 ( ´∀`)( ´_ゝ`)(´<_` )
>>263
その6 (-@∀@)/( ^ω^
)
>>314
その7 (`・ω・´)
>>368
その8 | ^o^ |
>>421
その9 ミ,,゚Д゚彡('A`)
>>480
その10 ( ・∀・)lw´‐ _‐ノv
>>517
その11 ( ・∀・)(´・_ゝ・`)
>>556
その12 ('A`)('、`*川( ^ω^)o川*゚ー゚)o
>>613
その13 ( ・∀・)( ´∀`)(-@∀@)
>>652
その14 (-@∀@)
>>704
その15( ´∀`)
>>748
その16 ( ・∀・)( ´∀`)(-@∀@)
>>866
その17 (´・_ゝ・`)('A`)('、`*川| ^o^ |
>>921
その18 ('A`)ミ,,゚Д゚彡(#゚;;-゚)
966
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/02/21(月) 00:10:10 ID:KCWzqlvE0
まだギリギリ残ってますけどひとまずこのスレで投下する分はこれで終わりです
たくさんの支援、乙、感想など、とってもとっても嬉しかったです ペース早めに行けたのも皆様のおかげですありがとうございます
次スレもよろしくお願いします!
967
:
名無しさん
:2022/02/21(月) 00:14:50 ID:PnTyBqDE0
一スレ完走乙です
968
:
名無しさん
:2022/02/21(月) 02:13:21 ID:I7ZVPV160
乙!
引き続きさわやか
969
:
名無しさん
:2022/02/21(月) 22:11:09 ID:yloEty0w0
おつ!
アサピーはまじで退場なのか…悲しい
モララーがどうなるかわからんけど今後もすごい楽しみ
970
:
sage
:2022/02/24(木) 18:50:27 ID:iLLky6vw0
生きてる魔法使いたちの未来は明るい方に向かってると思ったのに、アサピーの台詞…
次スレも楽しみにしてる
971
:
名無しさん
:2022/03/08(火) 00:56:27 ID:o6zzSLT60
作者氏はご存知、支援曲漸く完成でござい
モノクロームの双翼
https://piapro.jp/t/AQsD
972
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/03/08(火) 01:46:08 ID:0Rj6xEpM0
>>971
カッコよすぎる……………最ッ高……………
脳溶けるくらいアツくて凄まじい活力を貰いました
ものすっっっっごく嬉しいです。ありがとうございます!
973
:
名無しさん
:2022/03/10(木) 21:10:46 ID:gAo4XxK.0
めっっっちゃめちゃ面白かった
続きも期待してる
乙!
974
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/04/02(土) 00:57:12 ID:nmdJHPA60
嘘ばっかつく男
http://imepic.jp/20220402/021700
第7
http://imepic.jp/20220402/030850
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