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( ・∀・)救出の魔法使いたちのようです
574
:
◆vkc4xj2v7k
:2021/12/24(金) 00:45:42 ID:lvgPL.wg0
(°、°;川ばか!!ドックン!来ちゃ駄目なんだってば!!
(;^ω^)ドクオっ!!
背後から厄災の針が発射される音と、ブーンがそれを弾く音がする。
このままペニサスを放っておいて、助けが呼べたとしても彼女が力尽きては意味がないのだ。
本人の制止の声も聞かず、ドクオは走った。走って、走って、小石に躓き、こけた。
背後から風を裂く音が聞こえる。
ペニサスを貫くのか、自分の身体を貫くのか。
どちらにせよはっきりとした事がある。
しくじった。
自分の判断ミスで混乱を広げた挙げ句結果がこれだ。
悔しげに見上げた目には涙が溜まり、今にも溢れ出しそうだった。
575
:
◆vkc4xj2v7k
:2021/12/24(金) 00:46:41 ID:lvgPL.wg0
(;A;)俺は、俺は、なんて───
ドクオの身体がふわりと浮かんだ。
かと思うと、そのまま凄まじい勢いで風が顔面に叩きつけられ涙を拭い去ってしまった。
( ^ω^)──なんてバカな真似を、とは言わせませんお
身体に伝わる硬く冷たい鎧の感触はブーンだ。
防戦一方だったブーンが、咄嗟に神速の脚でドクオを抱えて駆け出したのだ。
( ^ω^)助けようと思ったのなら、最後まで望みを捨ててはいけませんお!
('、`*川ドックン、手!手ぇ出して!!
(;'A`)どどどドクオ・都合により略が命じる、汝の生命に再びひかりぇ噛みましたァーーーーッ!!!!!!!!!!
ほんの一瞬の交差。だが、瞬時にドクオの掌から放たれた魔力はペニサスの傷を塞いだ。
ペニサスとブーンはそれを確認すると、示し合わせたように別々の方向へ駆けて行った。
576
:
◆vkc4xj2v7k
:2021/12/24(金) 00:49:12 ID:lvgPL.wg0
『救出の魔法使いたちのようです』
その12
ポーキュパイン
『狙撃手を討て!〜ホライ損ヤクサイダービー〜』
577
:
◆vkc4xj2v7k
:2021/12/24(金) 00:49:53 ID:lvgPL.wg0
('A`)…デミタスに叩き込まれたやつ、今思い出したわ
しばらく逃げ回って落ち着いて来たのか、ブーンの背中に乗ったままドクオが呟いた。
('A`)「まんまだな」ってやつの一つ。鉄針の厄災、ポーキュパイン・ディザスター。名前を知ったところでどうこうなるわけじゃあないけど
( ^ω^)でもヤツの敵意はこちらに向いている。狙い通りですお
事実、ちょうど追いつけそうな速度まで落として一気に加速するブーンの走りと厄災の脳天を直撃するドクオの光線は相手を苛立たせるのには充分な効果を発揮していた。
ドクオが指示したその戦法はおおむねフサギコにおちょくられた時のそれだと、ブーンは知る由もない。
ドクオに足りない機動力をブーンがカバーし、ブーンに足りない中〜遠距離の攻撃力をドクオが補う。
あまり軽口を飛ばす余裕がないのではっきりと口に出さなかったが、お互いに相性の良いコンビだと思えた。
578
:
◆vkc4xj2v7k
:2021/12/24(金) 00:51:26 ID:lvgPL.wg0
( ^ω^)攻撃が止んだお、もしかして追いかけるのを諦めて狙いをペニサスさんに…?
('A`)…いや、俺もわりかし鼻が利くんだ。近くに居る
ドクオはブーンにおぶさったままきょろきょろと辺りを見回す。
同じ厄災の勘、というやつである。
不意を突くつもりか?それとも消耗したのか?
答える者は誰もいない。林の中は静寂に包まれたままだ。
('A`)…!ブーン、右だ!右へ思いっきり避けろ!!
(;^ω^)おおーーっ!!
ドクオの声に反射的に飛び退くと、巨大な刺々しい鉄球が突っ込んできた。
衝撃と共に大きく地面が抉れる。身体を丸めた鉄針の厄災が体当たりを仕掛けて来たのだとブーンにはすぐにわかった。
579
:
◆vkc4xj2v7k
:2021/12/24(金) 00:53:11 ID:lvgPL.wg0
(;^ω^)自分の身体まで弾丸にするつもりかお!?
('A`)なりふり構わず潰しに来たって感じか…!
不気味な地響きを立てながら巨体に似合わぬ凄まじいスピードで厄災が跳ね回る。
あえてめちゃくちゃな動きをして、周囲の大木を次々に倒して行く。道を塞ぐつもりだ。
ブーンは木が倒れる寸前で通り抜け、跳び、死にものぐるいで駆け抜けた。
ドクオは背後へ全力で光線を撃ち続けたがどれほど焼き尽くしてもあまり効果はないと悟り、逃げながら策を練ることにした。
580
:
◆vkc4xj2v7k
:2021/12/24(金) 00:55:07 ID:lvgPL.wg0
(;'A`)(弱点は頭だ。だがあの丸まった体勢でいる限り魔法での破壊はほぼ不可能…生半可な火や水じゃ弾かれる…風で向きを逸らすとか、土で落とし穴にブチ込むとか、足止めはできるがあいにく俺にその適性はない)
581
:
◆vkc4xj2v7k
:2021/12/24(金) 00:57:01 ID:lvgPL.wg0
('A`)(物理的な衝撃を与えるのが有効か?でもブーンじゃ突っ込んだって蜂の巣だろ…)
(;^ω^)上手く真下へ誘い込んで…ロマキングに踏み潰してもらうのはどうですかお!?
まるでドクオの思考を読んだかのように、ブーンが提案した。逃げ続けるのにも限界がある。
多少疲弊してきた面もあるが、それはブーンにとっては大した問題ではない。まだ走れる。
だが、いつか行き止まりにぶち当たりでもしたらそれこそどうしようもない。今、無い知恵を絞ってでも自分で活路を開く以外に術はないのだ。
('A`)ダメだ、誘うにしても潰されるギリギリまで留まるのはリスクが高すぎる…それにデカすぎて狙いもバレバレだし、避けられたら終わりだ
582
:
◆vkc4xj2v7k
:2021/12/24(金) 00:58:54 ID:lvgPL.wg0
(;'A`)ああっ、クソっ!ダメだ、出てこねえ!こういう時自分のオツムの無さを呪うぜ!
(;^ω^)空ならまだしも陸での戦いならなんとかなると思ったけど…やっぱりそう簡単に行かないもんだお…!
(;°A°)…っ、嘘だろ、おい…!!
ドクオはその高速で飛来してくる物体を目視し、息を飲んだ。
何故自分はその存在を脳内から排除していたのだろう。凶鳥が複数いるなら、その可能性があってもおかしくないというのに。
背後から迫る厄災、眼前に迫るもう一つの鉄の球体。
二匹目だ!
583
:
◆vkc4xj2v7k
:2021/12/24(金) 01:00:14 ID:lvgPL.wg0
(;`ω´)うおおおおおおおっ!!
ドクオを背負ったまま、ブーンは跳び上がり、二つの厄災を正面衝突させようとした。
狙い通り、強い衝撃と共に厄災は後ろへ倒れた。
何かがおかしい。
確かに高速で向かってくる大質量の鉄の塊がぶつかった衝撃は凄まじいものがある。
だが、相手は厄災だ。そう脆くは出来ていないはずなのに…
もう片方の鉄球は、跡形もなく粉々に砕け散っていた。
(;'A`)あ…ああ…!!
ドクオは喜びの声を上げた。
自分の身の丈以上の巨大な剣を振り上げた勇ましい少女の姿に。
o川*゚ー゚)oふっふーん。鉄の大魔導師…キュートちゃん、参上っ!
川 ゚ 々゚)死ねええぇぇぇぇぇーーーっ!!!!!
ダアンッ、と勢いよく地面を踏んでキュートが襲いかかった。
突然与えられた衝撃にまだ理解が追いつかない様子の厄災に向けてキュートは大剣を槌矛に変化させ、横から乱暴に叩きつけた。
たまらず厄災の身体は林の奥へ吹き飛んだ。
584
:
◆vkc4xj2v7k
:2021/12/24(金) 01:02:31 ID:lvgPL.wg0
(;'A`)(;^ω^)
ドクオとブーンは思わず目が点になった。
相性の差もあるが、ここまで苦戦した相手をものの一発で叩きのめすとは。スケールの違う化け物と化け物がぶつかっただけ、ドクオはそんな感想を抱いた。
厄災である自分でも仰天するのだから、ただの騎士であるブーンは相当だろう。そう同意を求めるようにブーンの顔を見る。
川 ゚ 々゚)何処へ逃げやがったァ!!
しかしブーンが慄いたのはキュートのもう一つの人格、クルウに対してだった。先程まで天真爛漫に、かつれっきとした戦士の誇りに満ち溢れた名乗りを見せた12歳の少女が一転して獣のような雄叫びをあげているのだから。
キュートとは初対面ではなかったがこうして間近で見るとその豹変ぶりは恐ろしいものがある。
ソウサク人の多くは、ミスリル鉱石を加工した装飾品で魔法の詠唱を短縮したり魔力を増幅させる。
キュートの装備は、ミスリルの施された木製の短めな魔法の杖とグローブだ。
杖はキュートの魔力を通して大きさや形を問わず様々な武器へ自在に変化する。
そしてグローブは、そんな巨大な武器を支えるだけの力をキュートに与えている。その魔力の使い方はシベリア人の身体能力強化にもよく似ていた。
585
:
◆vkc4xj2v7k
:2021/12/24(金) 01:03:46 ID:lvgPL.wg0
川*゚ 々゚)ブーーーンちゃ〜〜〜〜ん!
( ^ω^)お、おーー!
ルビーのように赤い瞳をきらめかせて、ざりざりと大剣を引きずる音を立てながら、キュートが嬉しそうに手を伸ばし駆け寄る。
ブーンも戸惑いつつ暖かく両手を広げ待ち構えた。
「なんでお前も受け止めようとしてんだよ」「せめて両手伸ばして駆け寄れよ」「片手が物騒なんだわ」と次々突っ込みを入れたくなるほど可笑しな光景だが、自分がこの少女に追われている立場だったらそれはそれは恐ろしい姿に映るのだろうなとドクオは思った。
笑顔が発する威圧感がネジ飛んだ殺人鬼のそれだもの。
ブーンの胸に飛び込もうとした直前で、キュートは立ち止まる。
川 ゚ 々゚)よくよくよーく考えたら再会をハグして喜び合うほど親しくはなかったね!
ずるっ、とブーンが体勢を崩し、ドクオはため息をついた。
586
:
◆vkc4xj2v7k
:2021/12/24(金) 01:05:41 ID:lvgPL.wg0
鉄針の厄災が攻撃してくる様子はない。
やっと脚を休められる、とブーンは息を吐く。
( ^ω^)いつまで乗っかってるんですかお
('A`)今はまだ砲台と頭脳役に集中してえ
( ^ω^)まるでぼくが脚と力しかないような言い方!
('A`)違うのか?
( ^ω^)だいたい合ってますお
ははは、と笑い合う余裕すら二人の間には生まれていた。
( ^ω^)この辺、ミスリル鉱石が多く生えてるんですおね
('A`)魔力に満ちた島ってとこだな…シベリアからしたらここを取れればでかい収入源になるのかもな
o川*゚ー゚)o休んでる暇はないよ。まだ追いかけられてる側なんだからね
('A`)わかってる。チャンスをこのまま逃すわけにはいかない、今度はこっちから追い詰める!
もう一度走れ、とブーンの背中を叩く。ドクオにもはやブーンへの遠慮はなかった。
587
:
◆vkc4xj2v7k
:2021/12/24(金) 01:06:29 ID:lvgPL.wg0
林の奥で何かをばりばりと食べる音がする。その音に向かってブーン、キュートは迫った。
お互い脚力には自信がある。ブーンほどの速度は当然出せないが、キュートの魔法靴も鉄属性の性質に合わせた特注品だ。
厄災が、三人が互いの姿を捉え攻撃に移る。
ドクオはブーンの背中から降りて、光線で向かってきた針を一つ一つ撃ち落とした。
厄災に接近すればするほどその針に貫かれる危険性は上がって行く。それどころか、斬りつけることもままならない。
だが、撃つということはそれだけ針を消費するということ。
初めてその姿を視認した時よりも、針は少しばかり少なくなってきている。つまり、奴に再生能力は無いと見ていいだろう。
撃てば撃つほど奴の弱点は露出していく。追いかけられている時は気がつかなかったが、一度追い詰める側に回ってしまえば恐れる必要はない。
588
:
◆vkc4xj2v7k
:2021/12/24(金) 01:07:23 ID:lvgPL.wg0
( `ω´)そこだおっ!!
針の乱射を物ともせずブーンは肉薄し、体表の最も針と針の隙間が大きい部分に剣を突き立てた。
厄災が苦痛の声をあげる。
川#゚ 々゚)今度はロマキング用のサイズだよ!!ぶっ潰れろぉぉぉぉぉぉぉ!!!!
ブーンが飛び退いた瞬間、容赦なくキュートはその大剣を力の限り振り下ろした。
鉄針の厄災の身体に大きくヒビが入り、砕け散った。
( ^ω^)おぉぉぉぉぉ!!勝ったお勝ったおー!やったぁぁ!!
厄災が完全に停止したのを見て、ブーンが勝利の雄叫びをあげた。
だが、ドクオとキュートは安心しきってはいなかった。
589
:
◆vkc4xj2v7k
:2021/12/24(金) 01:08:43 ID:lvgPL.wg0
敵はまだ生きている。
llllllll
ミФ彡・・・・・・
砕け散った残骸の中に佇んでいたのは、細身の人の形に姿を変えた厄災だった。
天を衝くように逆立った長い銀色の髪の毛と下半身を覆う体毛。そして一つ目の顔面以外の特徴はほぼ人間のそれだ。
厄災はドクオに向けて薄笑いを浮かべ大きく飛び跳ねると、また森の中へ姿を隠していった。
ドクオは身構えた。
厄災の見せた微笑は、追い詰められた者の放つそれではない。
いい気になっていた人間を見下すような、ここからが本番だと戦いを楽しんでいるような。
あの姿では力任せに突進してくるのは難しいだろう。
ならば、次の手は───
ザシュッ
o川;゚ー゚)oな……えっ……?
気付いた時には遅かった。キュートの額と足に、細く小さな針が三本突き刺さったのだ。
額から血を噴き出したまま、キュートの背中が仰け反ってどさりと渇いた地面に落ちた。
590
:
◆vkc4xj2v7k
:2021/12/24(金) 01:10:08 ID:lvgPL.wg0
ドクオも、ブーンも、何も出来なかった。
針が放たれた方向すら捉えることが出来なかったのだ。
(;'A`)隊長!キュート隊長!?回復だ、今なら間に合う!汝の生命に再び光を!
力なく仰向けに倒れ込んだ救世主の姿に、ドクオは必死に叫んだ。ほぼ半狂乱だった。
放たれたのは先程のような大きな針ではない。目視で弾いたりするのは絶対に無理だ。
だが貫通力はあまりないらしい。震える手でドクオは針をそっと引き抜き、黒いローブの一部をブーンから取り上げた剣で裂いて止血させた。
(;'A`)足元の格好いいヒラヒラを失うのは男心に惜しい!なんてピンチの時に言ってる場合じゃないもんな!キュート隊長!目を覚ませ!
o川;゚ー゚)oあ…ありがとう…だいじょうぶ…でも、満足に動くのは難しいかな……
キュートは手を伸ばして、大剣を握り締めた。
o川;゚ー゚)oこれで私の両足を切り落として
(;'A`)は…?
(;^ω^)え?
591
:
◆vkc4xj2v7k
:2021/12/24(金) 01:11:01 ID:lvgPL.wg0
キュートの言葉に、ドクオ達は身体が凍りつくような感覚を覚えた。この少女はいったい何を言っているのか?
わなわなと怯え震える二人の男に痺れを切らしてキュートは叫んだ。
川#゚ 々゚)クルウちゃんが斬れっつってんですよ!!斬れよ!!奴の針の中には“毒を仕込んでる針”がある!!!!今のは私達を精神的に追い込むための攻撃!回復される事は想定済み、じわじわといたぶって殺す気なんだよ!!!!!!
川#゚ 々゚)ア゛ァーッ毒が回る!早くしないと全身に毒が回るううううううううううううう!!!!!!!!!!!
(;^ω^)そんな事言ったって…足を切り落としたりしたら本当に死んでしまうお!?
('A`)ブーン、剣を貸せ。俺の細腕じゃあキュート隊長のは無理だ
(;^ω^)ドクオ!?
592
:
◆vkc4xj2v7k
:2021/12/24(金) 01:12:49 ID:lvgPL.wg0
('A`)それに鉄の魔法なら瞬時に義足を作ることくらいわけない。出来なくても俺がいる限り刺さった部分を切断すれば、闇魔法で欠損した部位をなんとか出来る…だろ?キュート隊長
先程までは大慌てしていたのに、急に落ち着いて闘争心を奮い立たせるこの少年の精神は歪なバランスで成り立っているとブーンは思った。
ドクオは基本的に死を鋭敏に感じ取った時以外は冷静だ。ペニサスが肩を貫かれた時もそうだった。
あの時確かに、ペニサスには死が迫っていた。
厄災が自分とドクオだけを狙って無事に一人で逃れられたとしても、あの傷でペニサスが生存することはほぼ不可能だった。
だから彼は自分の身を投げ出して助けようとした。
厄災に追いかけられた時もそうだ。
自分の背中を握る手に、焦りが滲んでいた。
だがこの男は、一度「このくらいで死ぬわけがない」と納得したら途端に一切の疑問を持たなくなり、それを受け入れてしまう。
最終的に生きるためなら、自分にも、相手にもどんな事をしてでも足掻く姿勢。多くの厄災と戦ってきたソウサク人らしい姿といえばらしいが、命知らずなんてものではない。
そんなドクオの年相応の少年らしい部分と、妙に戦馴れした魔法使いとしての歪な精神構造の形成にはモーラ・モラール・マタリウスの過酷な労働環境の影響があることをブーンは知らない。
593
:
◆vkc4xj2v7k
:2021/12/24(金) 01:14:51 ID:lvgPL.wg0
('A`)痛みは魔法で和らげる。我慢しろよ
ドクオはブーンの剣を取ると躊躇なくそれを振り下ろし、キュートの足を切断した。
固く歯を食いしばり激痛による悲鳴と涙を堪えながらもキュートは義足を生成する。
申し訳無さを感じながらも、どんなに幼くてもやはり彼女は大魔導師なのだとドクオは思った。
o川;゚ー゚)oフーーーーッ……!フーーーーッ……!!
息を荒げ悶えながら、「行け」とキュートが小さく首を振った。
その瞬間、ドクオの足元近くに針が鋭く突き刺さった。先程キュートの額を貫いたものとは違う。確かなパワーを持った一発だ。
外れた?
そうではない。わざと外したのだろう。
お前たちは“狩られる側”だとプレッシャーを与えるために。
ドクオは急いでブーンの背中に飛びついた。
594
:
◆vkc4xj2v7k
:2021/12/24(金) 01:16:12 ID:lvgPL.wg0
(#'A`)走れ!ブーン、走れ!!力強く、荒々しく大地を踏み込んで!!そしてカッチリとした規則性を持って走るんだ!!
(;^ω^)な、なんて!?
(#'A`)なんだっていい!目につく「光」!そいつをしつこく追うんだよ!
(;^ω^)ひ、光!?キュートさんはどうする気だお!?
(#'A`)希望的観測かもしれんが…あいつは見えているけど聞こえてはいない!あいつにとって今の俺たちは蘇生を試みるも諦めて逃げ出したように映っている、はずなんだ!
さっきの一発はおそらく「次はお前だ」のサインだ。
だからキュートではなく、自分の足元を撃ったのだ。
奴はもはやキュートは脅威ではないと認識したのかもしれない。そうなると鎧が剥がれた今、鉄針の厄災にとって最も脅威になるのはドクオのはずだ。
595
:
◆vkc4xj2v7k
:2021/12/24(金) 01:17:25 ID:lvgPL.wg0
('A`)(…いや、やっぱり違う。こちらを絶対的な力で蹂躙するのを楽しむヤツの性格からしたら狙われるのはブーンの足だ)
(;^ω^)(ぼくの脚がやられた時、ドクオに逃げ場はなくなる…なら、針が到達するより早く駆け抜けるだけのこと!)
('A`)ブーン、そこだ!そこで一瞬、一瞬だけ止まれ!
(;^ω^)はぁ!?止まる!?君はいったい何を…
( ^ω^)そうか…光…!!
('A`)そうだ、そういうことだ。避けろ!針が来る!!
llllllll
ミФ彡・・・・・・
鉄針の厄災は頭から一本髪の毛を引き抜くとそれを鋭い針に変え、魔力を込めた。
それを口に含み、ふっ、と飛ばしていく。
あの二人はまだ逃げ続けている。女はじきに死ぬだろう。
だいぶ魔力を消耗している、長期戦になると不利なのはこちらも同じだ。二、三針を放った後、獣のように四つん這いになり厄災は駆け出した。
596
:
◆vkc4xj2v7k
:2021/12/24(金) 01:18:42 ID:lvgPL.wg0
llllllll
ミ;Ф彡
光、光、光だ、光がない!
一刻も早く光を食らわねば、魔力を補給せねば!
追撃を止めなりふり構わず猛スピードで森を駆ける。だが、厄災が求めるミスリルの輝きはどこにも見当たらない。
厄災は焦っていた。
見つけた!
その美しい緑の輝きに飛びかかった厄災の身体に、熱い痛みが走った。
これは!
この光は魔法!
('∀`)おたく、好きな物は真っ先に食うタイプ?いけないなあ〜〜〜〜。嫌いなモンもしっかり食べろよな
('∀`)ニコヤカ
('A`)アーンド
('∀`)フテキ
597
:
◆vkc4xj2v7k
:2021/12/24(金) 01:20:01 ID:lvgPL.wg0
('A`)ただ一つ残ったミスリルの生えた地点…そこに来ると思ってたぜ。その細い針一本一本に込める魔力もバカにならないもんな
('A`)逃げ回ってる時、お前が自分の身体を丸めて突撃してきた時…不思議な間があった。不意を突くつもりなんだろうなとばかり思ってたよ。だがお前がミスリルを食らってる音を聞いた時確信に変わった
厄災は危険を察してか反射的に飛び退いた。
('A`)っと、逃さねえ!
( ^ω^)そんなに欲しけりゃこれを食らうがいいお!!
ブーンが厄災の前に思い切りミスリルの欠片達を投げつけた。が、無論何の意味も成さずそれらは地面に落ちていく。
598
:
◆vkc4xj2v7k
:2021/12/24(金) 01:21:24 ID:lvgPL.wg0
llllllll
ミ;Ф彡!?
('A`)ビビったな?「なぜ今そんなことを」って…そいつを引き出したかったのさ
('A`)ブーンがお前の針を避け続けてた時、その背後には必ずミスリル鉱石があった。俺たちはお前に“周囲のミスリルを砕かせるように”逃げてたんだよ
( ^ω^)光を追うってそういうことかおって気付くのは案外早かったお。キミの目がぼくたちを捉える前に毎度毎度破片を回収するのもヒヤヒヤもんだったお
(#'A`)そして今ばらまいた光の破片は!俺の光線を吸収し威力を増幅させ!四方八方からお前の硬い身体を貫くってワケなのさ!!
llllllll
ミ;Ф彡!!!?!!?!??!!!!
その身を焼かれ、厄災が強烈な痛みに呻く。
それを見逃さず、剣に風を纏ってブーンは突進した。
厄災は猛り狂い身体中の針を放出する。
だが、小さな針であればブーンの纏った緑色の嵐がそれを弾くのは容易いことだったのだ。
ブーンの剣が厄災の身体を切り裂いた。
599
:
◆vkc4xj2v7k
:2021/12/24(金) 01:22:05 ID:lvgPL.wg0
一撃与えて、後ろに下がりブーンは間合いを取る。
それに応えるように背後からドクオが駆け、ブーンの背中を踏み台にして跳び上がった。
('A`)乱戦じゃあ俺の全力は出せない…加減は出来ないし周りにも被害が出るからな、だから出力を抑えて確実に倒す方法を大魔導師から教わってきた…
('A`)けど…こうやれば周りを気にせずお前達厄災を殺れる。この極限状態で気づかせてもらったぜ…!
右手に光と闇が混ざりあう。焼けつくような熱さが、ドクオの腕に宿る。
そのまま急降下しながらドクオは掌全体で相手の顔面を掴み、ありったけの力を流し込んだ。
内側から一気に魔力が膨れ上がり、破裂する。
厄災の身体は塵も残さず消滅した。
('A`)ふぅ…今度の走りはマヌケじゃなかったぜ……!
ドクオは汗を拭い、空を見上げて誰にともなく呟いた。
600
:
◆vkc4xj2v7k
:2021/12/24(金) 01:23:09 ID:lvgPL.wg0
その時である。
火山が噴火し、轟音が響いた。
大地が大きく揺れている。いや、何かが、立ち上がっている!
異変に気付いて飛び去っていく魔法使い達を見て、余韻に浸る暇もなく襲ってきたその現象の正体をドクオは瞬時に理解した。
(;'A`)鉱山でもないのにミスリルが生える大地なんて、どうしておかしいと思わなかったんだ…
(;^ω^)ヴィップを襲ってきたレイヴン・ディザスターが何を食料にして大きくなったのか…!
(;'A`)こいつは!この島の半分は!!厄災の身体の一部だったんだぁーーーっ!!!!
601
:
◆vkc4xj2v7k
:2021/12/24(金) 01:24:23 ID:lvgPL.wg0
( ^ν^)おーおー、やっべ。なんか亀っぽいぞ、アレ
ロマキング2号の下半身を海に浸からせ、ニュッケン・ニューソックスが呟いた。
( ^^)周期表の情報と一致するのは…火山の厄災、ボルケーノ・ディザスターです。気をつけてくださいね
( ^ν^)気をつけるもクソもロマキングよりでかい奴多すぎだろ。まともにやりあえるか
( ^^)まだ所長は健在ですよ?めちゃくちゃ親鳥相手に食らいついてます
( ^ν^)あれはアホ
( ^ν^)はァ〜〜〜〜…森に隠れてなんとかしろっつったのに結局大多数は空へ叩き出されてるしな……となると俺らがやれる事は空の敵を減らすくらいか
602
:
◆vkc4xj2v7k
:2021/12/24(金) 01:25:18 ID:lvgPL.wg0
( ^^)雛鳥、追って来ます!
( ^ν^)りょー。そんじゃロマキング有線式超高速鉄拳弾、発射
突如として巨神ロマキング2号から飛び出した豪腕。
それに驚いた凶鳥の厄災は逃げる事もできずに捕まえられた。
( ^ν^)糸だからな。撃ちっぱなしってわけじゃなく…こういう事もできるのさ!
巨神は厄災を引き寄せ、そのまま海へ叩き込む。
沈めてしまえばこちらのものだ。
飛び立つこともできずに見悶えする厄災を抑えつけたまま、ロマキング2号の指から複合属性弾が撃ち込まれた。
( ^ν^)海の中じゃ悲鳴で攻撃できねーだろ。バカなヒヨコちゃんだから分からんかもしれんがここまで追ってきた時点で負けだったのさ
603
:
◆vkc4xj2v7k
:2021/12/24(金) 01:26:34 ID:lvgPL.wg0
[2ФωФ]ぬううううううう!!!!!!
ロマキング2号は両腕を力いっぱい広げ、厄災の翼を掴んだままその腕を発射した。その勢いに負けて厄災の両翼は無惨に引き裂かれてしまった。
ロマキングの拘束から逃れても厄災に反撃の手段は残っていない。ただもがき、呻くだけである。
( ^ν^)こうなったら終いだな。もう一発撃ち込んで黙らせるぞ
( ^^)了解。複合属性弾、発射します
雛鳥の頭が弾けた。親鳥のように動き出す気配もない。
( ^ν^)討滅確認。複合属性弾の残りは?
( ^^)あと74発。節約しましたねー
604
:
◆vkc4xj2v7k
:2021/12/24(金) 01:27:50 ID:lvgPL.wg0
( ^ν^)雛鳥を引き付けるってのもあるけど、本来は別の厄災相手に全弾ブチ込むつもりだったからな。出来るだけ海辺に来たかったんだ
それを聞いてワタル・ヤマサキはニュッケンの考えを理解してにやりと笑った。
だが、みるみるその顔は青ざめていく。
(;^^)にゅ、にゅにゅ、ニュッケンさん…!
( ^ν^)あー?何だヤマサキ。どした?
(;^^)前方に高エネルギー反応あり。その……別の厄災です、今すぐ飛んで逃げてくださいね!!!!
( ^ν^)チッ
ニュッケンは舌打ちをして、面倒そうに頭を掻いた。
605
:
◆vkc4xj2v7k
:2021/12/24(金) 01:28:57 ID:lvgPL.wg0
波を蹴立てて新たなる厄災は姿を現した。
巨鯨の厄災、バハムート・ディザスターである。
が、その確信をニュッケン達は持てなかった。
(;^^)牙がある、目がある、尻尾がある…けど、けど……あれって………!
( ^ν^)…うん。アレどう見てもさ、巨鯨ってより…
( ^ν^)人間の作った船じゃね?つーか戦艦じゃね?
続く
606
:
名無しさん
:2021/12/24(金) 19:22:28 ID:ugnKvN7c0
おつ!
まるで厄災のバーゲンセールだな…
607
:
名無しさん
:2021/12/25(土) 01:17:59 ID:.5N28vB20
おつです
608
:
名無しさん
:2021/12/25(土) 13:16:06 ID:HRLe1WVc0
やっと追い付いた
しかし絶望要素が多すぎる……
どうにかなるのかマジでこれ
609
:
名無しさん
:2021/12/26(日) 00:20:51 ID:oPARrfEA0
支援
全員好きだけど、ドクオとブームくんの話好きだな
これからの展開も期待
https://downloadx.getuploader.com/g/3%7Cboonnews/219/%E6%95%91%E5%87%BA.jpg
610
:
名無しさん
:2021/12/26(日) 00:23:34 ID:JuKfx2iQ0
また宇宙がくる
611
:
名無しさん
:2021/12/26(日) 09:15:20 ID:khwwkObs0
乙
デミタスは風属性の割に真面目な苦労人だし血液型占いみたいなもんか
612
:
名無しさん
:2021/12/27(月) 00:16:36 ID:KzIv58v.0
乙
これからどうなってしまうんだ
613
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/01(土) 01:01:33 ID:pvdatSxg0
「お前は生まれてくるべきではなかった」
( ・∀・)…へえ、そうなの
モララーは目を逸らさずまっすぐに見つめ返した。当惑することもなく、涙も流さず、「それで僕をどうする気?」と小馬鹿にしたような目で。
じんわりと広がってきた痛みに、自分は頬をぶたれたのだと少し遅れて理解した。
父の冷たい目に、自分が“魔抜け”として映っていることはわかった。
軽蔑するような、恨むような。それとも身を食いちぎられてなお往生際悪く道端で悶える虫でも見るような。
人間に、およそ息子に向ける視線のそれではなかった。
入学して2日目にしてアカデミーを早退させられ、それはもう申し訳無さそうに父と話す教師の顔や意味不明な言葉を並べて喚く母の姿を見れば自然と察することはできた。
息子が虫以下の魔抜けであったこと。
魔法使いの国の人間にとってこれほど惨めなことはない。
それでも愛そうとする親も居る。愛情を注いできた日々を忘れて侮蔑的な視線をぶつける親も居る。
モララーの家族は後者だった。
614
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/01(土) 01:02:55 ID:pvdatSxg0
狂ったように泣きながら詰る母。ただ淡々と息子へ乾いた憎しみをぶつける父。
淀んだ空気の中でなんとなく、自分はこの家から取り除かれるのだろうなとモララーは感じていた。
結論は見えているのだからせめて早くこの無意味な時間が過ぎてくれないかなあ、なんて心の中でぼやきながら。
「こんな馬鹿な話があるか」
吐き捨てるような父の声。
心臓が締め付けられるような感覚と共に、何かがぷつりと切れたような気がした。
それはこちらの台詞だ。
3歳だぞ?
さして脳味噌も使わず我儘や願望をぶちまけて押し通す権利を無邪気に行使する年頃に何を言わせるのかと。
615
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/01(土) 01:03:49 ID:pvdatSxg0
ぎろりと睨みつけたまま、モララーは手を父の前にかざした。無意識の内の行動だった。
その瞬間、父の腕が身体中の水分を抜き取られたように枯れていった。その力は腕から這い上がるように蠢いて首元まで到達し、顔まで皺だらけの老人にしようとしていた。
(;・∀・)なっ、何…これ…
モララーは父の異常に戸惑い両手で顔を覆った。加速した時は緩やかに元のスピードにまで減速し、その肌に瑞々しさを呼び戻す。
その力に口元をひくつかせ恐怖しながらも父は、確かに歓喜の声をあげた。
「ああ、モーラ、おまえはやはり私の子だ。おまえは魔法使いの子なのだ!ハハ、ハハハハ……」
616
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/01(土) 01:04:41 ID:pvdatSxg0
手のひらを返したように、家族は優しくなった。ふざけた家だなとしか思えなかった。
4歳になった。僅かな時間だけだが、自由に時を止められるようになった。
7歳になった。同居人の男の人が死んだ。何時間でも、何日でも時を止められるようになった。
8歳になった。止まった時の中で、自分の身体を動かせるようになった。止まった時の中で、物に触れるようになった。
617
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/01(土) 01:05:37 ID:pvdatSxg0
「うそつきのモララー」という渾名も少しずつ払拭できてきた。他人でも現象を目に見える形で認識できるようになったからだ。
それでも馬鹿にしてくる生徒には、軽く時間を止めて帽子や杖を取り上げて見せたりした。
アカデミーにはそこそこ馴染めてはいたが、時たま盗人として謂れのない疑いをかけられることも多くなった。
身の潔白を証明しようとしても「止めている間に盗んだ物を元の場所に戻したんだ」と言われ、困り果てることもあった。
( ・∀・)…顔だけでもマシに産んでくれただけ感謝をするべきかな?
モララーは可能な限り、人に良く見られようと努めた。事実、いざという時に庇ってくれる大人には恵まれた。けれど、大人だけだ。
モーラ・モラール・マタリウス個人ではなくその才能を珍重しているだけの大人。自分がいつか成長して、この国の戦力になる姿を勝手に描いているだけの大人。
ほんの少し、ほんの少しだけ、寂しくはある。
けれど重荷に感じた事はないし、将来的にも魔法局に入るのは一番マシな選択肢だろうとモララーは理解していた。
618
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/01(土) 01:06:21 ID:pvdatSxg0
( ・∀・)それに何より、いち早く楽に死ねる。ふふ
馬鹿馬鹿しさにも似た浮世疲れが8歳の少年の中には既にあった。人より思考する時間の余裕がある分、モララーは自らの生きる意味について考える事も多かった。
他者から隔絶された時間の砦の中で過ごすのはそれほど好きではないが、何も考えずに過ごしていると逆に奇妙な焦燥感を覚えるのだ。
未だ答えは見出だせていない。この人生にそんなもんはもともと無かったと取るか、この若さで結論を出すには経験が足りないと取るか。
( ・∀・)経験というか、見たくもないものなら散々見てきてるけど
( ・∀・)8歳の思考じゃあねえなあー
そんな風に独り言ちて、適当な木の枝を拾う。
放課後、誰も居ない校庭で一人魔法陣を描く。モララーはこの遊びが好きだった。
619
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/01(土) 01:07:26 ID:pvdatSxg0
( ・∀・)はは、こないだは朝っぱらからみんな水浸しにさせたっけ
( ・∀・)今日は土魔法の呪文にするかなー
モララーが使えるのは時魔法だけだ。火も風も起こせない、魔法靴がなければ自由に空も舞えない。自分ではほとんど何も出来ない人間である。
だから他人に魔法を使わせる事しかできない。
要するに他愛のない悪戯だ。
さして後ろめたい気持ちはない。
詰め寄られても「自分はただ落書きをしただけだ、好奇心で魔力を注いで魔法陣を発動させる馬鹿が悪い」と言い張ればいい。いや、その前に時間を止めてその場から逃げ出そうか。
背にした柱にもたれて、しばらく誰かが罠にかかるのを待っていると苛ついたような歩調と共に甲高くヒステリックな声が聞こえてきた。
620
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/01(土) 01:09:02 ID:pvdatSxg0
(#-@∀@)まっっっっっっったくどいつもこいつも!まるで僕を価値が無いかのように!僕は天才、アサピエーラ・ガデライトだぞ!?それをたかが実戦訓練で一度負けたくらいで!
( ・∀・)(普段から大言壮語が過ぎるからじゃないかな)
(-@∀@)だいたい僕の強みはここだぞ、ここ!?肉体労働は主義じゃないんだ、まったく!
( ・∀・)(説明するみたいにこめかみを指でつついてる、誰も居ないのに。誰も居ないのにずっとぶつくさ一人で怒りをぶつけてる)
( ・∀・)(変なヤツ)
名前を知らない人間ではなかった。
同じ学級の、同じクラスの、少し前の席の人間、アサピエーラ・ガデライト。モララー自身はあまりこの男と話した事はないが、大仰な身振り手振りで騒ぐこの男の人となりは知っている。
621
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/01(土) 01:11:03 ID:pvdatSxg0
( ・∀・)(でもこんな日暮れ時まで一人ぼっちでアカデミーうろついてるって事は文句言いながらも特訓とかしてたのかな)
( ・∀・)(天才様が?…やっぱないか)
(-@∀@)…あ?魔法陣?なんだってこんな時代遅れの物が…
(-@∀@)ほう!「汝の前」「地」「噴き上がる」…………土魔法だねッ!
( ・∀・)くっ……ふ、んふぅッ……!!!
( ・∀・)(ま、間違ってるし読めないとこ飛ばしてる!天才様が!)
( ・∀・)(いやあ危ない危ない…まあよっぽどの歴史好きかこういう不純な目的じゃないと覚えないもんね、旧ニチャン語)
( ・∀・)(ちなみに組み合わせは「汝の前」「地」「揺るがす」「深く」「門を開く」……おおむね落とし穴だよん)
622
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/01(土) 01:11:43 ID:pvdatSxg0
(-@∀@)ふむ、なるほど。かなりの高等魔法と見た…しかしなんでこんなものが書いてあるんだ?以前も妙な魔法陣騒ぎはあったが…
(-@∀@)ふふ、ははは…神は天才の僕にさらなる高みへ登る新たな力を与えようと!そういうわけだね!ハーーーーーッハッハッハッハッハ!いいだろう!習得してやろうじゃないか!
(-@∀@)我が魔力よ!魔法陣に記されし力を示せ!
どさりという音がして、アサピエーラの身体が瞬時にその場所から消えた。
( ・∀・)
( ・∀・)アホだなあいつ
623
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/01(土) 01:12:26 ID:pvdatSxg0
( ・∀・)・・・・・・
( ´∀`)上がってこないモナね
突然の声に血の気がサッと引いていき、「ほえっ」と気の抜けた声が出た。
いつの間にか隣にニコニコと笑顔を浮かべた小さな男の子が立っている。誰かが近づいてきたらすぐに分かるはずなのに、気配すら感じさせずにその子供はモララーの世界に侵入してきたのだ。
( ・∀・)…っ、ああ、うん…そうだね
( ´∀`)モナモナ
男の子は笑みを崩さない。けれどその瞳は、不意を突かれておどおどとしたモララーを刺すように見据えていた。身長は同じ年齢の生徒達と比べてもかなり低い方に入るモララーより低い。下級生だろうか?
( ・∀・)失礼。キミ、おいくつ?
( ´∀`)モナは6歳モナ
( ・∀・)年下か。よかったよかった、同じ年齢の子をチビ扱いして怒られずに済んだよ
( ´∀`)そういうとこまで言葉にしなけりゃモナはなんとも思わなかったモナ
( ・∀・)はは。正直者なんだよ、僕
( ´∀`)うそつきモララーがよく言うモナ
( ・∀・)へえ!僕をご存知か、嬉しいね。でも僕だけキミの名前を知らないってのはズルくないかい?
( ´∀`)モナはモナー・マエモゼム。満足モナか?
624
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/01(土) 01:13:30 ID:pvdatSxg0
( ・∀・)ああそうか、君が例の奇跡の子モナーか
( ´∀`)勝手に呼ばれてるだけモナ
( ・∀・)奇遇だなあ僕もなんだ。誤解されやすいから困っちゃうよね
( ´∀`)うそつきは事実モナ。初めて会ったモナにもわかるんだから相当モナ
( ・∀・)僕、そんな胡散臭いかい?
( ´∀`)だいぶ
( ・∀・)だいぶかあ こんなに良い子なのに
625
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/01(土) 01:14:33 ID:pvdatSxg0
( ´∀`)わざわざ勉強してまで毎日人に嫌がらせするのがよいこモナか?
( ・∀・)嫌がらせ?とんでもない。手品師が悪意を持って観客にマジックを見せたりするかよ
( ´∀`)あれショーのつもりだったモナ?
( ・∀・)うるさいメガネが地面に開いた穴にキレーに落ちた時、スカッとしたろ?
( ´∀`)したモナ
( ・∀・)正直でよろしい
( ´∀`)でもやっぱりモララーはうそつきモナ
( ・∀・)おやあ?僕らは意気投合できると思ったんだがね
( ´∀`)うそつきモララーとは一生できんモナ
わざとらしく首をかしげておどけてみるも、モナーの声は冷たかった。
626
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/01(土) 01:15:57 ID:pvdatSxg0
( ・∀・)どうしてだい
( ´∀`)モナはあいつが落ちるのを見てスカッとしたモナ。けどモララーはちっとも気持ちよくなんかなってないモナ
( ・∀・)
( ´∀`)モナたちは多分とっても遠くてとっても近いモナ
( ・∀・)…そうかもしれんね、キミと僕は
モララーは足を組んで、いかにも動じていない風を装った。
確かに自分とモナーは真逆だ。その性格が形成されるに至るまでも、多分。
氷の魔法使い、モナー・マエモゼム。
彼は小さい頃から、目に見える形でその力を行使できたのだろう。強さにしろ人柄にしろ、人間はわかりやすいものを好む。
だから彼は奇跡の子なんて御大層な渾名で呼ばれ、誰からも愛される。もちろん全部が純粋な好意ではない。
光に吸い込まれる羽虫のように力の象徴にまとわりついて自分の価値を上げようとする者や迂闊に彼を怒らせては最悪自分の身が危ない、そんな恐れを抱く者も居たはずだ。
それでも彼は気にもせず一緒くたにまぶしい笑顔で応えてきた。
627
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/01(土) 01:16:30 ID:pvdatSxg0
こうしている今も、モナーの微笑は無理を滲ませない。
自分が同じ立場だったら向けられる愛情にいい加減飽き飽きして少し疲れてしまうだろうに、どうしてだろう?
モララーは疑問に思った。
( ´∀`)もらったものはきちんとその場で返してるだけモナ
視線を合わせずに答えたモナーの声に思考を止められ、モララーは思わず苦笑した。
( ・∀・)…氷属性って他人の心を読めたりするのかい?
( ´∀`)みんな同じような疑問が顔に出やすいだけモナ
( ・∀・)ふむ、なるほどね。満たされすぎもせず、飢えすぎもせず…好きになりすぎもせず、嫌いになりすぎもせず。貸し借りなく他人にもたれることもなく平坦を保って生きてるわけだ
( ´∀`)モナモナ
( ・∀・)いやいや、ご立派様だね。僕が言うのもなんだがマジに6歳かキミ?
( ´∀`)モニャ〜
628
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/01(土) 01:18:12 ID:pvdatSxg0
( ・∀・)けどそうなると僕にはお仲間がいなくなってしまうな。今のアカデミーに特殊属性持ちは僕らだけだというのに
( ´∀`)あ、開き直ってホントのこと言ったモナ
( ・∀・)嘘ついたってしょうがないさ。二人しかいないのは事実だもの
( ´∀`)むふふ。認めるモナね
( ・∀・)なあにが
( ´∀`)わかってるなら言うこともないモナ
( -∀-)そうだね。…羨ましいよ、キミみたいな生き方は
( ・∀・)キミの飾らない物言いが好かれるのは、多分そういうまっすぐな心のおかげなんだろう
( ・∀・)トゲがあっても花は綺麗だ
そう乾いた笑いで言うと、モナーはモララーをじとりと見つめたまま黙りこくった。
ずっと微笑を浮かべ続けていた男の子が急に真顔になるのを見て、モララーもつい戸惑った顔のままその視線に吸い込まれてしまった。
629
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/01(土) 01:19:14 ID:pvdatSxg0
しばらくして、またふわりと笑いモナーは切り出した。
( ´∀`)モナはモララーの生き方のが好きモナ
( ・∀・)・・・・・・
( ´∀`)ホントはずっと冷めてるくせに、必要な時だけ明るく振る舞えるモナ
( ・∀・)人によっては最も冷たく人間らしくない生き方に見えるだろうね。その場の都合で、建前だけで生きてるんだから
( ´∀`)でもそういう明るい人のマネっこができるのも、嘘がつけるのも、元々あったかいものを知ってるからモナ
( ´∀`)知ってるから怖がることが出来るモナ
( ・∀・)へえ、僕が何を怖がってるっていうんだ?
( ´∀`)失うこと
( ・∀・)
630
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/01(土) 01:20:32 ID:pvdatSxg0
( ´∀`)属性のせいかもしれないけど、モナは昔から人から何をされても心があったかくなったことなんてないモナ
( ・∀・)でもキミの笑顔はどう見たって本心から来るものだと思うよ
( ´∀`)笑うだけなら誰でもできるモナ。満たされることはとってもとっても難しいモナ
( ・∀・)僕に言ったってどうしようもないだろ
モララーは俯いてふてくされたように言った。何故そんな風に言葉を発したのかは、自分でもわからないことにした。
( ・∀・)なあ
( ´∀`)何モナ?
( ・∀・)…自分で言ってておかしかないか?温もりを感じたことがないなんて。魔力の属性なんて単なる目安だろ?
( ´∀`)だからモナたちは遠くて近いと言ったモナ
( ・∀・)あ?
631
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/01(土) 01:22:29 ID:pvdatSxg0
( ´∀`)キミは常に飢えていて、モナは飢えることすら知らんモナ
( ・∀・)…自分だけが世界で一番不幸みたいなツラして遠くを見るのはやめろよ。お前のは諸々自分の生まれのせいにして「自分は世界から外れてしまった人間だ」なんて勝手に被害者気取って周りに壁作ってるだけだ
( ・∀・)お前は僕なんかよりずっと恵まれた人間なんだぞ。温もりを感じたきゃ一度後ろを振り返ってみればいいじゃないか
しらけきった顔で吐き捨てたが、モナーはその言葉を待っていたとばかりに笑いだす。それを聞いてモララーの心に動揺が生まれた。
ハッとした顔を見て、モナーはさらに腹を抱えて笑う。
( ´∀`)…むふ、むふふ、むふふふふ!認めたモナね、わかってたモナね!やっぱりうそつきモナ!
(;・∀・)お…お前……お前!おまえ!
(;・∀・)おまえ!おまえおまえおまえーっ!!モナー・マエモゼム!!僕を嵌めたな!?
632
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/01(土) 01:23:12 ID:pvdatSxg0
(;・∀・)そうだ、そうだったんだよ!僕が勝手にキミに抱いていたシンパシー!それをキミは利用してまるでもう一人の自分と話しているような気分に浸らせる言葉を並べて!僕を弄んだんだな!!
(;・∀・)僕すら知らなかった僕の本音を引き出すためだけに!どこからだ!どこからがキミの嘘だ!?
( ´∀`)むふふ、むふ!むふふふふふふふ!モーナモナモナモナモナ!
(;・∀・)笑い声で「モナ」は出ないだろォ!?
胸ぐらを掴まれガックンガックンと頭を揺すられてもモナーは能天気な笑い声を上げ続けた。
さすがにモララーも揺さぶるのに疲れたのか、それとも煩悶するのに疲れたのか。
怒ればいいのか、呆れればいいのか、それともお礼を言えばいいのかわからなくなってつい笑ってしまった。
633
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/01(土) 01:24:34 ID:pvdatSxg0
( ´∀`)むふふふ。嘘は「心があったかくなったことがない」くらいモナ
( ・∀・)はぁ…はぁ…はは、それも嘘だな。嘘なんだろ。もう信用なんてしないんだからな!
( ´∀`)モナはいつだって正直モナ。モララーが勝手に自爆しただけモナ
( ´∀`)モナはもらったものはその場で返す主義と言ったモナ。素敵なショーのお礼と酔っぱらいに巻き込まれた被害者の仇討ちモナ
( ・∀・)やられたよ。なんて酷い人間なんだキミは
( ´∀`)ん
参った参ったとぽりぽり頭をかいていると、モナーが手を差し出した。
( ・∀・)なんだい
( ´∀`)契約の握手モナ
なんとなくこいつは自分にだけ見えてる悪魔か何かの類ではなかろうかと考えていた矢先に発せられた言葉があまりに悪魔そのものだったので、モララーは苦笑した。
634
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/01(土) 01:26:22 ID:pvdatSxg0
( ´∀`)ぐっふぉっふぉ。モララーが払う代償はただ一つ。モナに面白いものを見せてくれればいいモナ
( ・∀・)キミやっぱり心読んでるだろ
( ´∀`)その代わりにモナがそう簡単に失うことのできない友達になってやるモナ
( ・∀・)ふふ…色々と言いたいことはあるけどさ。キミ、もしかして友達作ることを「契約」って呼んでる?やめたほうがいいよ
( ´∀`)モニャ?
( ・∀・)まあ、その…なんだ。ありがとうね、モナー・マエモゼム
モララーはモナーの小さな手を握った。氷の魔法使いの手からじんわりと温かいものが伝わって、モララーは満足げな顔をした。
( ・∀・)ニコヤカ
( ´∀`)モナモナ
( ・∀・)そうだなあ…面白いやつね。心当たりはあるよ
モララーは校庭に空いた大きな穴を指し示した。
635
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/01(土) 01:28:04 ID:pvdatSxg0
( ´∀`)そういや長いことあそこにいるモナね
( ・∀・)深さは指定してないからなあ
( ´∀`)死んでるかもしれんモナ
( ・∀・)そりゃ困るよ。おーい、誰かそこにいるのか?
( ´∀`)白々しいモナ
( ・∀・)うっせ
(#-@∀@)ん…?君たちは……フン!モーラ・モラール・マタリウスにモナー・マエモゼムじゃないか。特殊属性持ち二人がこんな時間に揃って何の用だい?僕は忙しいんだが?
( ・∀・)くっ…ふふ、穴の中で何が忙しいんだよ
(#-@∀@)やかましいな。僕を助けるのか?助けないのか?
( ´∀`)そこに居るのに忙しいんじゃないモナ?
636
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/01(土) 01:29:15 ID:pvdatSxg0
( ・∀・)それなんだけどさ。君、魔法靴で飛べるし風魔法だって使おうと思えば使えるだろ?
(-@∀@)・・・・・・!!!!!!
( ´∀`)すごい今気づいたみたいな顔モナね
( ・∀・)(むしろあれだけ穴の中に居てその発想に行き着かないのがすごいな…狭いとこや暗いとこ苦手なタイプなのかな…)
(-@∀@)ふ、ふん!僕だってそうするつもりだったさ!しかしこんなチンケな罠を誰が仕掛けたのか、そいつを捕まえた時どうしようか考えていてね!
(-@∀@)天才の僕を助けて感謝の言葉でも貰いたかったか!?ハハハハ、残念!僕は一人でも生きていけるのさ!君たちが出せるような発想が僕に出来ないわけはないだろう?ハハハハハハ!
( ´∀`)おもしれえ〜
( ・∀・)ニコヤカ
(#-@∀@)何か言ったか君たち!?
637
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/01(土) 01:31:08 ID:pvdatSxg0
20歳になった。うそつきモララーは時の大魔導師なんて偉そうな称号をもらった。モナーもアサピーもほとんど同じタイミングで、偉そうな格好してふんぞりかえるようになった。
( ´∀`)大魔導師就任おめでとうモナ
( ・∀・)ああ。似合うだろ?このマント。特注品だぜ
( ´∀`)アサピーも思えば可哀想なやつモナ
( ・∀・)んー?どうしてだい?
( ´∀`)いっつも先にモララーがいるせいで常に話題の半分をかっさらわれる宿命の下にいることモナ
( ・∀・)そうでもないよ。魔科学の有用性認めさせて7番隊発足させたのはあいつの実力
( ・∀・)まあ僕が隊長になれたのもほぼ魔法術式の功績ありきなんだけどさ
( ´∀`)それがつまらんモナ
638
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/01(土) 01:32:01 ID:pvdatSxg0
( ・∀・)え〜っ 結構面白い発明だと思うんだけどな
( ´∀`)要するに昔やってた悪戯とそう変わらんモナ
( ・∀・)わざマシンとひでんマシンくらいの差だね
( ´∀`)?
( ・∀・)こっちの話
( ´∀`)二人とも裏方仕事なのがつまらんモナ。モナは前線でわいわいやってた方が楽しいモナ
( ・∀・)魔物退治に楽しいもクソもないだろ。僕たちはこれから君たちを多少なりとも楽にしてやるための仕事をするんだぞ
( ´∀`)モニャ〜〜〜〜〜
( ・∀・)それにさ、僕は前に出たってあんまり君の助けにはなれないと思うよ?
( ´∀`)なんで
( ・∀・)強すぎるからさ。もちろん君が
639
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/01(土) 01:32:54 ID:pvdatSxg0
( ・∀・)つくづく思うんだが、君ほど並び立った時に安心するやつは居ない。けれど僕と君が背中合わせで戦えるかって言ったらきっとそれはノーなんだ
( ・∀・)そうなった場合、多分足手まといになって先に死ぬのは僕なんだよ。君の強さに甘えちゃって全力出しきれないからさ
( ´∀`)じゃあモララーが100%を出せる組み合わせって何モナ?
( ・∀・)ふむ、そうだなあ…ほどほどに強いヤツだね
( ・∀・)僕がやられたら困るから、身を挺してでも守らないといけないって危機感を抱くくらいにほどほどに弱くて、僕にもこいつが欠けたらまずいって思わせてくれるような強みがあるヤツ
( ・∀・)危なくなったら本気出せる人材が一番欲しいね
( ´∀`)だいたいモナとは合致しないモナ
640
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/01(土) 01:33:39 ID:pvdatSxg0
( ・∀・)あと嘘みたいなことに乗ってくれるヤツかな
( ´∀`)モナモナ
( ・∀・)君は察しが良すぎるからなあ。ハッタリかましたってすぐわかっちゃうだろ?
( ´∀`)
( ´∀`)モナのいいとこモナ
( ・∀・)そうだけどさ。僕は嘘みたいなことにそれっぽい理屈並べ立てて周りをその気にさせるのが好きなんだよ。壇上に登られてタネを明かされたらたまらない
( ´∀`)術式研究の話モナ?
( ・∀・)そうそう。最終目標は僕らのような人間がなんのしがらみも無く生きられる世界だからね
( ´∀`)それに関しちゃいまだに半信半疑なとこがあるモナ
( ・∀・)最初はそうやってぶーぶー言う癖にさ。ふとした偶然を見せるとコロッと落ちて、僕以上に必死こいて夢のために頑張ってくれるような単純なヤツが4番隊に欲しいな〜
641
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/01(土) 01:34:22 ID:pvdatSxg0
( ´∀`)そんな都合良いヤツ転がってるわけないモナ
( ・∀・)絶対なんてことはないんだよ、何事も
( ´∀`)…聞いてるとなんかふわふわしたイメージが急に鮮明になってきたモナ
( ・∀・)へえ!心当たりがあるのかい?
( ´∀`)よく燃えて、ふとした風ですぐぱたっと消えて、また火がつくとドロドロに燃え尽きるまでバカみたいに頑張る蝋燭みたいなバカ男
( ・∀・)っふ、ふふふ…そうだね…あいつあんな感じだわ…
642
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/01(土) 01:37:23 ID:pvdatSxg0
( ´∀`)…モララーは変わったモナ
( ・∀・)そうかな?
( ´∀`)生きてるだけで面白いヤツになったモナ
モナーはバシバシと背中を叩いて、鼻歌を交えて踊るように駆けていった。
( ・∀・)廊下走んなよ、子供じゃあるまいし…
( ・∀・)君は君で変わらないなあ!
緑のマントをはためかせてモララーはその背をどこまでもどこまでも追って行った。
643
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/01(土) 01:41:05 ID:pvdatSxg0
8歳になった。世界に色がついていくのを感じた。
初めての親友ができた。
変わっていこうと思った。
11歳になった。
変えていく方法を見つけた。
20歳になった。大魔導師になった。お母さんは泣いて喜び、僕を抱きしめた。僕も強く、強く強く抱きしめ返した。
22歳になった。
時の結界の中へ、誰かを入れられるようになった。
28歳になった。
見つかって、無くして、それでも。
今がとても愛おしく、生きていたいと強く思った。
僕はまた変わっていこうとしている。
<●>
“目”が僕を見ている。
<●><●>
誰かが僕においでおいでと手を振っている。
( <●><●>)
( <●><●>)( <●><●>)( <●><●>)( <●><●>)( <●><●>)( <●><●>)( <●><●>)( <●><●>)( <●><●>)( <●><●>)( <●><●>)( <●><●>)( <●><●>)( <●><●>)( <●><●>)( <●><●>)( <●><●>)( <●><●>)( <●><●>)( <●><●>)( <●><●>)( <●><●>)( <●><●>)( <●><●>)( <●><●>)( <●><●>)( <●><●>)( <●><●>)( <●><●>)( <●><●>)( <●><●>)( <●><●>)( <●><●>)( <●><●>)( <●><●>)( <●><●>)( <●><●>)( <●><●>)( <●><●>)
僕の世界に、黒い波紋が広がっていく。
644
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/01(土) 01:42:51 ID:pvdatSxg0
『救出の魔法使いたちのようです』
その13
『あいつの青春は何処へ埋めてやればいい』
645
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/01(土) 01:46:51 ID:pvdatSxg0
新年あけましておめでとうございます。
昨年は素敵な乙、感想、支援絵などたくさんの物をいただきお世話になりました。
今年もよろしくお願いいたします。
…………年内にいけるとこまでいこうと思ったら年明けちゃったし続くって書き忘れちゃったし新年早々色々と躓いてるNE!
646
:
名無しさん
:2022/01/01(土) 01:50:04 ID:CzUT1Ooc0
乙ことよろ
647
:
名無しさん
:2022/01/01(土) 09:11:35 ID:UpAVDMq60
おつおつ
今年も楽しませてもらおう
648
:
名無しさん
:2022/01/02(日) 17:31:13 ID:mvQoW2hI0
あけましておめでとうございます 続きを楽しみにしているよ
これは好きなシーンの一つ
ttp://imepic.jp/20220102/628080
649
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/02(日) 22:13:58 ID:5BHKXAZM0
>>609
ありがとうございます!大切に保存させていただきます
ドクオくんの方がちょっと前に出て格好つけていて、ブームくんが後ろの方で暖かい視線を送ってるとことか同じ年少組でも微妙にお兄さん風の吹かし方の表現が違う描き方がたまらなく素敵です。ブームくんこの作品だともう18だけど
塗りの温かみもとても癒やされます…
>>648
ありがとうございます!こちらもバッチリ保存させていただきました
ペニサスさんの口元に手を当ててさらっととどめ刺すとこやら覗き込むブームくんやら白々しい笑顔のモララーやらもう全てが可愛らしいです
さらっと余計に仕事増やされてるデミタスのつるんとした表情がとても好き。セクシー。
650
:
名無しさん
:2022/01/03(月) 01:12:01 ID:JBgtvflQ0
今年も本当に面白い…乙
友達になることを契約っていうの好きすぎるw
651
:
名無しさん
:2022/01/04(火) 00:47:01 ID:bC.iueJU0
乙ん
三人の関係いいよね
652
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/12(水) 06:22:00 ID:zCJIX08Q0
『なあ、アサピー』
『目を開けてみろよ』
『アサピエーラ』
誰かが呼びかけてくる。
それは時に男性の声で、時に女性の声で。そっと撫でるように。肩を叩くように。
その柔らかな優しさが、どうにも不快に思えた。
(* ー )『アサピエーラ・ガデライト』( ∀ )
耳元で囁きかける声に振り向けば、それはたちまち自分から遠ざかっていく。ずっと近くにあるはずなのに、手を伸ばせば消えていく。
『目を開けろよ、アサピー』
(-@∀@)…ああ、やかましいな。わかってるさ、言われなくとも
追いかけても、追いかけても、遠くへ。こっちへおいでよと笑いながら声はやがて白い世界へ溶けていく。
それでもと追いかけて、追いかけて、とうとう息を切らした僕はその場にへたり込んだ。
まったくなんと腹立たしいことか。その苛立ちの本質が不思議と理解できてしまうのがとても悔しくて、虚しくて、思わず歯ぎしりをしてしまった。
653
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/12(水) 06:23:18 ID:zCJIX08Q0
『アサピエーラ』
上体をどたりと後ろへ倒して、アサピーは“それ”を見上げた。
光の中でうっすらと二つの影がゆらめくのが見えた。
僕は腕で目を覆うと、少し笑った。
(-@∀@)……太陽
(-@∀@)はは、はははは…僕の、太陽……
届くわけはないのに。
火も、水も、風も、大地の恵みも。ありとあらゆるものをその手に出来る魔法使いにも、手に入らないものがある、自由に出来ないものがある。
天を、太陽を、魔法使いは奪うことができない。
どんなに凄い魔法使いでも曇り空を自由に塗り替えることなんて出来やしないんだ。
ほとんどの人間はそれに文句なんて言わない。疑問一つ抱かない。それが当たり前だと分かっているからだ。人間はそこまで上等な存在ではないと知っているから。
654
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/12(水) 06:24:20 ID:zCJIX08Q0
おかしいだろう。ありえない事象を現実にするのが魔法じゃあないのか。
僕たちが空を飛べるのも、人が空に憧れ続けたからじゃないのか。
何故この僕が君たち才能の無い凡人の諦めに付き合って夢を捨てなきゃあいけない?
僕に、魔法に、科学にできないことはない。
僕は天才、アサピエーラ・ガデライトだぞ。
そんな言葉を噛み締めたのは、どれくらい前だっただろうか。
655
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/12(水) 06:25:55 ID:zCJIX08Q0
『アサピー』
…ああ、だが今はわかるよ、凡人諸君。僕もそうだ。
わかってしまうんだよな、どうにもできない隔たりを見せつけられてしまうと。
僕たちが頑張って、頑張って、死ぬほど頑張っても出来ない事が当たり前のように出来て。
それ以上の事を成せてしまう存在を見ると。
空の向こうにいる存在と、地べたに這いつくばって生きるしかない命。自分は後者の人間だ。
『アサピー』
『アサピエーラ』
(-@∀@)…ずるいじゃないか、おまえ。独り占めなんてさ
(-@∀@)・・・・・・
(-@∀@)まぶしい…
.
656
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/12(水) 06:27:10 ID:zCJIX08Q0
『アサピー』
(-@∀@)…くどい、うるさい、やかましい。言われなくともこんな悪夢からはとっとと出てってやるさ、出てってやるとも
(-@∀@)だからその光をなんとかしてくれないか
(-@∀@)その眩しさに、その熱に耐えうる魂を、僕は持ち合わせていないのだから
『目を開けてみろよ』
(-@∀@)…そこまで僕をおちょくって楽しみたいか?
(-@∀@)なら僕は、君たちが望むこととは反対のことをしてやろう。君たちが目を覚ませと言い続けるなら僕は聞く耳持たずいくらでも眠り続けてやる。それで満足かね?
答える声はない。奴らは一方的に語りかけてくるだけでコミュニケーションも何もあったもんじゃない。夢らしい理不尽さだ。たとえ文句を言っても結果は変わらないだろう。
腕を枕にしてため息をつき、ゆっくりと瞼を閉じる。それでも世界は闇に染まらずに、うっすらと僕の目に光を届けてくる。
『アサピエーラ』
(-@∀@)…沈まぬ太陽か
ああ、なんと無粋な。無粋で、不条理で、無神経で。
だのに何故こうも暖かいのだろう。
657
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/12(水) 06:28:53 ID:zCJIX08Q0
『目を開けろよ、アサピー』
(-@∀@)…くどいぞ、僕は眠るんだ
『アサピエーラ』
(-@∀@)いい加減にしてくれ
「アサピエーラ所長」
(-@∀@)うるさい
「おい」
( ^ν^)起きろクソメガネ
(;-@∀@)ぼへあっ!?
だんっ、と額を机に打ちつけられアサピーは目を覚ました。きょろきょろと周りを見回して、そこが自分の所属する7番隊の隊舎、もとい、第7科学研究所であることを理解した。
後ろから頭をどついたのはニュッケン・ニューソックスだ。あまりに手荒い起こし方だったのでアサピーはじんわりと残る痛みを感じながら「僕は目覚まし時計じゃない」と恨めしそうな視線を向けたが当のニュッケンは意に介さず、「ん」と顎を挑発的に突き出して机を指す。
そんな仕草が少し気に障った。
658
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/12(水) 06:29:57 ID:zCJIX08Q0
(-@∀@)…なんだね
( ^ν^)はァ〜〜。しょーるーい。地図。やべーぞ
(-@∀@)あ?…あー…ははは、涎を垂らして眠りこけるなんて随分と久々だな
( ^ν^)額縁に入れて「阿呆の肖像」なんて題名つけたくなるアホ面だったわ
(-@∀@)やかましい。さて、巨神ロマキングの量産計画の続きへ取り掛かろうか…まずは1号機の改修プランを…
( ^ν^)つーかさ、あんた、風呂。何日入ってないんスか?くせーよ
(-@∀@)いいかねニューソックス君。この僕はソウサクの未来のために身を粉にして働いているんだぞ?たかだか4日風呂に入らないくらいでなんだ
( ^ν^)テメーの身の垢なんぞとソウサク国の未来を天秤にかけんな
659
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/12(水) 06:31:42 ID:zCJIX08Q0
( ^^)あの、所長。申し訳無いんですけど…臭いです
( ^ν^)うん。くせーんスよあんた
(-@∀@)あのな…そう連呼しないでくれよ…
袖を嗅ぎながら周りを見渡してみたが、アサピーを見る目は一様にして冷たいものだった。
( ^ν^)な。わかったろ、他の研究員もだいたい同じ気持ちなんですよ
( ^^)一旦疲れを取ってくださいね
(-@∀@)あー…わかったわかった。眠気覚ましに少し浴びてくる。それでいいだろ?
すごすごと去る背中にニュッケンが無感動に「いてら〜」と手を振るのを見て、ヤマサキはふと浮かんだ疑問を口に出した。
( ^^)…今気がついたんですけど、あの人今入ってるんじゃないですか?
( ^ν^)あ?あぁ…あ〜はいはいはい、そうだわ。やべ〜
( ^^)棒読みやめてくださいね。故意でしょ?けしかけましたよね?目が笑ってますし
( ^ν^)ンなこたねえよ
( ^^)面白半分で所長おちょくるのもほどほどにしてくださいね、本当に…
( ^ν^)オモシロ全部じゃねえと付き合えねえだろあのメガネは
660
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/12(水) 06:33:01 ID:zCJIX08Q0
7番隊の隊舎はかなり大きく、地下にまで規模を広げているのは魔法局の中でもここだけだ。
研究設備も充実しているが、その分生活環境は劣悪と言っていい。
モララー率いる4番隊、シュール率いる6番隊を除いた他の隊と同じ大人数の職場でありながら用意された研究員達の部屋は狭い狭いと噂の4番隊よりも狭く、それを2人で共有するのだからたまらない。
もっとも個室を利用する研究員はほとんど居なかった。
最近は特にプライベートに割ける時間が無いことと、床で寝た方が身体を大きく伸ばせるからである。
そんな「うさぎ小屋の方がマシ」「監獄以下」「地獄」と評判の7番隊だが、唯一褒められる点といえば浴場の広さであった。
(-@∀@)……ふふっ
アサピーはここに来るたびに馬鹿らしい気持ちになり、ふと笑みをこぼしてしまう。
661
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/12(水) 06:34:29 ID:zCJIX08Q0
「せめて風呂くらいはマシにしろメガネ」と新人の研究員が大いに火を煽り、研究員達が揃って抗議活動を起こしたのがつい3年ほど前のこと。
最初は一つの要望を通すために結束していた集団も次第に一人また一人とどんどん好き勝手な要求を掲げるようになり、内部分裂を起こし選挙演説まがいの真似や隊長であるアサピーの襲撃を企てる者まで出た。
挙げ句火付け人の新人ことニュッケン・ニューソックスはこの狂乱の中終始他人事のように淡々と仕事をする始末である。
この騒動にとうとう音を上げたアサピーが妥協点として作ったのがこの大浴場だった。
もちろん作業は一人で、湯より先に熱い罵声を浴びながら。
その後仕返しとばかりに内側からロックをかけ一番風呂をかっさらい、研究員達がやっとの思いで勝ち取った浴場を占拠する暴挙に出たアサピーによって再び戦争が引き起こされたのは言うまでもない。
(-@∀@)思えばあのあたりから他の研究員にも舐められ始めた気がするな…ニューソックスめ…
662
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/12(水) 06:35:32 ID:zCJIX08Q0
(-@∀@)ふう…今日も立派に胸を張ってるな。羨ましい限りだよ
軽く身体を流し、アサピーは視線の先に佇む影へ声をかけた。腰に両手を当てて高笑いする純金のアサピエーラ・ガデライト像だ。
「この場所で身体の疲れを癒せるのも天才アサピエーラ・ガデライトの努力のおかげである」という感謝を忘れさせないための匠の心配り、という名目のささやかな嫌がらせである。
自分の像の隣に浸かって上体を少し反らしながらゆっくりと両手両足を伸ばし、大きく息を吐いていくと、疲れと共に脳にこびりつく奇妙な夢の不快感も白い湯気に溶けていくような気がした。
663
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/12(水) 06:36:27 ID:zCJIX08Q0
(-@∀@)…む、先客かい?誰だね
ゆったりと身体を伸ばしきっているとすぐそばからちゃぷちゃぷと湯の揺れる音がして、アサピーはこの空間に他の誰かが居る事に初めて気がついた。
ちょうど湯気とアサピエーラ像に隠れて相手の姿が見えなかったのだ。
(#゚;;-゚)私だ
(;-@∀@)な、え、はっ?ええっ!?
誰何の声に応えたのはディだった。
予想外の声の主に気が動転するあまり、アサピーは激しく水音を立て溺れたような動きになってしまった。
少し落ち着いて、鼻柱まで湯に浸かり後悔した。いくら男しか居ない隊でもいずれ来る誰かのためにせめて仕切りくらいは作っておくべきだったと。
664
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/12(水) 06:37:48 ID:zCJIX08Q0
沈黙の味が苦く、かといってそれを破る勇気もない。
何よりアサピーにとって、その声は忘れかけていた先程の夢を思い出させるものだった。
しかしディはお構いなしに腰を浮かし、アサピーの眼前へ移動して両足を抱きしめるようにうずくまった。
(#゚;;-゚)…何故黙る、アサピエーラ?
(;-@∀@)何故って…そりゃあ、気恥ずかしいからだよ!君こそなんだ、どういうつもりだ!?
(#゚;;-゚)「相手の目を見て話せ」とお前がニュッケンによく怒鳴っているのを私は聞いている
(;-@∀@)いいかい、シィ?頭の中に一冊のノートを思い浮かべろ。そして勝手に書き記された僕の言葉の全てに小さく書き込むんだ。『時と場合による』
(#゚;;-゚)時と場合による
(;-@∀@)よろしい
(#゚;;-゚)…それと、私はディだ
その一言にぞくっと首筋を悪寒が走った。
(-@∀@)ああ…はは、すまないね。ディ
665
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/12(水) 06:39:19 ID:zCJIX08Q0
(#゚;;-゚)何故私と向き合って話すのが気恥ずかしいんだ
(-@∀@)トリ頭かい?時と場合による、復唱
目を反らしたまま言ったアサピーに、ディは素直に従い復唱した。
(#゚;;-゚)だが私はこの隊にあるアサピエーラの発明の一つだ。誇るならまだしも恥と思われる理由が分からない、不愉快とさえ思う
(-@∀@)…それはおそらく、君が生きているからさ。僕の脳が、君を人間として認識しているからだよ
(#゚;;-゚)生きている?
(-@∀@)そうとも、君は人形じゃない。僕が産んだ命だ
(#゚;;-゚)ならなおさら自分の頭脳を誇るべきではないのか
(-@∀@)普段ならそうしただろうな…だが近頃は少しそういう気分にはなれなくてね。この状況ならなおさら
666
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/12(水) 06:41:14 ID:zCJIX08Q0
(#゚;;-゚)…黙っているアサピエーラは、気持ちが悪い
(-@∀@)ははは、随分な口だ。ニューソックスの影響だろう?あいつめ…
(#゚;;-゚)お前の惑いはシィという人物に関係があるのか?
(-@∀@)……そうさ。だが知りたければ時の大魔導師に訊ねることだ。僕から話した所で君には聞き慣れぬ言葉が行き交うだけだからな
ディは俯いて「そうか」とだけ返すと、そのまま黙り込んでしまった。
その様子に耐えきれず、アサピーは視線をディへ向けた。濡れた髪、ほんのり赤く染まった艷やかな肌、線の細い身体、それらをまるで気にせずはっきりと彼女を見据えて語りかけた。
(-@∀@)…誰にでも触れて欲しくない事があるんだ、覚えておくといい。だが僕は後ろめたいから君の疑問に答えないんじゃあないぞ。答えないことで、その先にある君の成長を願ってるからさ
(#゚;;-゚)…アサピエーラの言葉はわからない
(-@∀@)そう、『わからない』だよ。その探究心が大切なのさ、生きていく上ではね。だからシィについての答えはお預けなんだ
667
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/12(水) 06:42:51 ID:zCJIX08Q0
(-@∀@)…まあ、僕が言うと何もかも話を誤魔化すための言い訳になってしまうな。代わりと言ってはなんだがひとつ、僕の理想の生き方ってやつを教えてやろう
(#゚;;-゚)理想?
(-@∀@)正直な所、話すのも癪だがね。君なら良いと今は思う
(-@∀@)…真実とは問いかけることにこそ、その意味もあれば価値もある。答えはどうだっていいんだ。追い求め、向き合って、積み重ねた時間こそが素晴らしいのだと、奴は信じ込んでいる。僕の勝手なイメージに過ぎないかもしれんが
(-@∀@)辿り着いたとしても、そこが終着点じゃない。長い長い時間をかけて掴み取った真実から、新しい何かが産まれることもある
(-@∀@)そいつの前には常に新しい挑戦があり、絶える事の無い喜びがある。思考を止める暇もなく先へ先へと歩み続ける、そんな生き方が僕は素敵だと思う
668
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/12(水) 06:44:18 ID:zCJIX08Q0
(-@∀@)疑え、ディ。追求しろ。世界に問いかけ続けたまえ。君の人生の余白は広い、それはとても素晴らしいことなのさ…最初から何でもかんでも分かった気で居たら、つまらないからね
(#゚;;-゚)それは命令か?
(-@∀@)人生の助言だ
(#゚;;-゚)…ならば問いたい。アサピエーラはその生き方ができたのか?
(-@ー@)できなかったよ。だから君にこんな大人にならないように伝えるのさ
我ながら、傷を抉るような質問をしたとディは思った。
けれどアサピーは先程までのようにたじろぐことなく答え、穏やかなトーンで笑いかけた。
小さな子供に手を差し伸べるような優しさと、諦めと、冷たい拒絶とどうしようもない渇望。その矛盾に満ちたぐちゃぐちゃな感情を宿した瞳が、ディにはとても不思議に思えた。
669
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/12(水) 06:46:59 ID:zCJIX08Q0
(#゚;;-゚)アサピエーラ、最後にもう一つ聞きたい
(-@∀@)いいだろう。天才たるこの僕が答えられる範囲で答えてあげようじゃないか
(#゚;;-゚)私はお前を、何と呼べばいい?
沈痛な声。無表情で、右も左も分からないような魂の抜けた少女の瞳はどこにもなかった。この少女は想像が及ばないなりに、自分を理解しようとしている。
(-@∀@)(…寄り添おうとしている、このアサピエーラ・ガデライトの心に、心から)
(#゚;;-゚)創造者か?博士か?所長か?…父親か?
(-@∀@)よしておくれ。僕はまだ親父なんて歳じゃないからな
(#゚;;-゚)…28歳にもなって?
(-@∀@)うるさいぞディ
(-@∀@)“友人”でいい。それが僕らを示すにちょうど良い言葉だ
(#゚;;-゚)…ありがとう、アサピエーラ。お前と話せた時間は実りの多いものだった
(-@∀@)ディ。友人として、君の未来に強く好奇心をくすぐるような人間との出会いがある事を祈ってるよ
湯船から立ち上がり歩き出すディの後姿をアサピーは笑顔で見送った。
670
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/12(水) 06:49:10 ID:zCJIX08Q0
(-@∀@)……あの子はディだ
言い聞かせるように独り呟いた。
姿形を似せて造られた生命でも、彼女はディという存在なのだ。シィ・ニャイッキーの物語を重ねる必要もなぞらせる必要もない。
ただ与えられるのではなく、他者と繋がり、自分で導き出すべき答え。
たとえシィについて質問されたとしても、モーラ・モラール・マタリウスならそれを理解して多少想像の余地を残す理想的な答えをくれるはずだ。
彼なら、きっと。
それが彼女にとって最善であるとアサピーは信じた。
(-@∀@)……では何故、僕は彼女をシィに似せて作った?
そう口に出して、もう少しロケーションを選ぶべきであったとアサピーは思った。ここでは声が響く分、余計に心の影が大きくなるような気がしたからだ。
一度脇に置いた辛苦が、煩悩が、溢れ出すようだ。
671
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/12(水) 06:50:51 ID:zCJIX08Q0
影。
光に遮られて出来るものが影であって、闇は闇として影とはあくまで別軸の存在ではないかとアサピーは思う。
光には光の、闇には闇の生き方がある。
日が沈む事もあれば、夜明けもある。
喜びを知る事もあれば、憎しみを知る事もある。
だが、白にも黒にも染まりきれずに中途半端に地べたをうろつく影はどう生きれば良いのか。
この燻る感情を、どこへ向ければ良いのだろう。
自分に、ソウサク国に救いを求めて僕はあの子を造った。
あの時ディを量産していれば、僕の心は真っ黒に染まれたのか?
ディには僕と同じようになって欲しくはない。僕の影に、シィ・ニャイッキーの影にはならないで欲しい。
彼女にはまだ、いくらでも生きる道がある。
だから僕は彼女に火、水、風、土と光の属性を与えた。
だから僕は彼女に自我を与えた。
だから僕は彼女に妹達を作らなかった。
だから僕は巨神をもっと強くしようとした。
だから僕は少しでも影から抜け出そうと、彼女に年長者ぶった話をした。
(-@∀@)けど、余計にもう自分が変わることは出来ないとわかった
だから、僕は。
(-@∀@)……独りぼっちを選ぶしかないじゃないか
672
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/12(水) 06:52:09 ID:zCJIX08Q0
『アサピー』
『アサピエーラ』
(-@∀@)…うるさいな。僕はまだ眠った覚えはないぞ
『アサピー』
(-@∀@)なんだね
『死んだらここから逃げられるなんて思うなよ』
(-@∀@)
(-@∀@)知ってるさ、それくらい…………
湯船に底が無ければ良いのに、とアサピーは静かに願った。
このまま何処までも何処までも沈んでいけたらいい。
全部全部、何もかも洗い流して溶けてしまうくらいに。
隣で胸を張ったアサピエーラ像が、嫌味な輝きを放っていた。
673
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/01/12(水) 06:53:07 ID:zCJIX08Q0
後日、アサピーはディの6番隊副官への異動をすんなりと許可した。
「シュール隊長のとこなら第7よりはマシだ」と安堵する者。
男所帯から華が失われる事を嘆く者。
「育児放棄だ」「父親の意識なんか元からなかったんだ」と無責任に噂する者、研究員達の反応は様々だった。
ただ、ディを6番隊に預けた張本人であるニュッケン・ニューソックスはそれをからかう事は無かった。
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