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β r ∴ i n L σ s t の よ ぅ τ゛す

11 ◆VNhr99ZsyI:2021/10/24(日) 00:11:06 ID:ViiJbL6I0

今朝ここを通る際にふとひまわりを見て、無意識の内に気持ち悪いと感じてしまった。
過密な種の集合に、花弁のその有機物が腐敗してゆくような、#ffd900の色合い。

そうしてひまわりに嫌悪感を抱いた直後、私は得体の知れない恐怖に駆られる。
私がひまわりにそんな印象を受けるなんて、絶対にありえないのだ。

けれど何故そう断言できるのか、この頼りない脳のどこにも答えが見つからない。
きっと私とひまわりに関する何かがあったはずなのに、粒子はそれを奪ってしまった。

(*゚∀゚)「あっ、あれに乗るよ!」

o川*゚ー゚)o「青い車?」

(*゚∀゚)「そう!」

私たちは走りながら短い会話を重ねる。

息を切らさないように最低限の会話なのだと、私は自分に言い聞かせる。
……まだ大丈夫、少なくとも必要な言葉を交わせることができるのだ、と。

12 ◆VNhr99ZsyI:2021/10/24(日) 00:12:14 ID:ViiJbL6I0

汚染ワイル粒子は、言葉を単なる記号へと、退行性変化させてゆく。
人間の持つあらゆる観念が、脳内からぽつぽつと消えてゆく。

言葉が無ければ、何も存在しない。
町の名前を知らなければ、自分がどこにいるのかすら分からないのと同じだ。

疲れ切った身体が勝手に立ち止まろうとするなか、やがて私たちは自動車まで辿り着いた。

助手席に o川*゚ー゚)o を乗せ、キーを回してエンジンを掛ける。
○ の入ったダンボール箱は、後部座席に投げ置いた。

o川*゚ー゚)o「誰か、追いかけてきてる!」

(*゚∀゚)「大丈夫」

ここまでくれば、いくらか精神的余裕を感じられる。
男が走りながら何か叫んでいたが、そんなことはどうでもよかった。

( ゚д゚ )「どの √ を歩もうとも、必ず人は素粒子に詰め寄るのを理解しているだろう!」

( ゚д゚ )「無駄な抵抗はやめて ○ を返すんだ!!」

冗談じゃない。
もっと科学の発展した未来で、適切なタイミングでまた詰め寄ってくれ、と心から思う。

私はレバーブレーキを解除し、アクセルを思い切り踏みつけた。
荒々しい運転で研究所の敷地を後にして、やがて男の姿は見えなくなった。

13 ◆VNhr99ZsyI:2021/10/24(日) 00:13:43 ID:ViiJbL6I0


しばらく車を走らせ、一旦ひと気のない場所で停車した。
木々に囲まれた山沿いの路上で、疲れ果てた身体を休ませる。

今は、何か素朴な物が食べたい。

思い浮かぶのは、とうもろこしやジャガイモ、そういった食材だ。
それらはきっと、素朴な食べ物が持つ明るさと温かさで、きっと私たちを迎えてくれる。

o川*゚ー゚)o「これ、開けていい?」

(*゚∀゚)「……いいよ」

道ばたに置いたダンボール箱の中から、彼女は ○ を取り出す。

○ の扱い方を o川*゚ー゚)o が知っているのか、分からない。
私は自動車にもたれながら、彼女がそれをどうするのか見つめる。

おもむろに o川*゚ー゚)o は ○ を身体に通し、腰の位置で回し始める。
気付けば光が溢れていた。

14 ◆VNhr99ZsyI:2021/10/24(日) 00:14:41 ID:ViiJbL6I0

o川*゚ー゚)o「あはは!」

(*゚∀゚)「……」

フラフープの輪郭から、色とりどりの輝きが飛び散っている。
発生した粒子と汚染された粒子が衝突し、対消滅して光へと変わっている。

私は失くした理性と、言葉を取り戻したかのような錯覚に襲われる。
と、同時に、それは単なる偶然であることを悟る。

手のひらから空へと投げたパズルのピースが噛み合うような、そんな奇跡的な偶然だった。

o川*゚ー゚)o「うまく回せてる?」

(*゚∀゚)「うん……」

輝きがあまりに眩しすぎて、フラフープそのものは私の目には見えない。
鮮やかなフラフープの軌道は、まさにゴッホの描く光の乱流だ。

キュートが楽しそうに回しているその姿を、私はただ黙ったまま眺め続ける。
光が辺りの景色を塗り消してゆくのを、揺れる彼女の姿を、無秩序に跳ねる長い髪を。

全てが光に溶けてゆく空間で、それでも彼女は笑いながら腰を振っている。
あるいはキュートは、フラフープの輪が粒子を壊してゆくことを、単に楽しんでいるのかもしれなかった。

15 ◆VNhr99ZsyI:2021/10/24(日) 00:15:21 ID:ViiJbL6I0

偶然舞い戻った理性と言葉に、私はむしろ落ち着かず、キュートに話しかける。
声が聞こえて初めて私に気が付いたかのように、彼女はこちらへと視線を投げる。

(*゚∀゚)「拝鳴産のとうもろこしなんだけどさ」

o川*゚ー゚)o「……あの黄色いつぶつぶの、とうもろこし?」

なぜそんなことを聞いたの、といった様子で、キュートはきょとんとした顔をしていた。

彼女の口から不意に現れた懐かしい言葉に、私は驚きはっとする。
……ああ、あれは黄色だったのだ。

私を元気付けるその色は、すぐさまひまわりを想起させ、やがて私は辿り着く。
どうしてその花を特別に想っているのか、何故こんな簡単なことを忘れていたのだろう。

来年の誕生日は、その誕生花とともにありたい。

16 ◆VNhr99ZsyI:2021/10/24(日) 00:16:03 ID:ViiJbL6I0

(*゚∀゚)「……品種はなんていったっけ? たしか、スイート何とかってやつ」

o川*゚ー゚)o「聞くからに甘そうだね」

(*゚∀゚)「実際美味いらしい。私は食べたことないんだけどね」

笑いながら「食べなよ」と言い、キュートは再度フラフープを回し始める。
目に見えない輪は順調に回り、きっと粒子を打ち消している。

確かにこれで、汚染された粒子は消えてゆくのだろう。
けれど一度変性してしまった脳は、もう元には戻らない。

今はただ、眺めていたい。
一秒でも長くこの瞬間を、涙で曇った私の目に、一秒でも長く、この瞬間を。


The end (of my brain).

17名無しさん:2021/10/24(日) 03:27:28 ID:iMJxvmI60
乙、おもしろかった。

18名無しさん:2021/10/24(日) 15:26:53 ID:zQ73eoVI0
otsu

19名無しさん:2021/10/24(日) 23:17:56 ID:.1dbJfyA0
乙である

20名無しさん:2021/10/28(木) 23:09:10 ID:diPk35VU0
絵文字で星月夜とは考えたなあ

21名無しさん:2021/11/13(土) 18:44:44 ID:N/nEANbk0
穴抜けになってるような表現うまいな



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