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( ^ν^)うさぎのこころのようですζ(゚ー゚*ζ

1 ◆zPaBylEEnw:2021/10/18(月) 23:28:50 ID:rh4dN39c0








言葉に出来なかったモヤモヤを言い当てられたあの日から、
俺の心はうさぎになった。





( ^ν^)うさぎのこころのようですζ(゚ー゚*ζ






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19名無しさん:2021/10/18(月) 23:37:39 ID:rh4dN39c0
かすれる声で俺は答えた。そう答えるしかなかった。
津出の仰せのままに。

( ^ν^) 「ああ、俺は津出の味方だ」

津出が微笑んだ。今まで見た中で一番の笑顔だった。
でも俺は知っている。俺にとっての一番よりはるかに素晴らしい笑顔を津出は隠し持っていて、そして俺じゃない奴に向けるんだ。

( ^ω^) 「ふたりは友達だったのかお?」

話してるとこ、初めて見たお、と戸惑う男に津出は告げる。

ξ゚⊿゚)ξ 「ギターの先生よ」

( ^ν^) 「……ああ」

ξ゚⊿゚)ξ 「この先も、応援よろしくね」

ξ゚⊿゚)ξ 「私の、デレのファン一号として」

異議あり! と男が口を挟んできた。

( ^ω^) 「僕は一号じゃないのかお」

ξ゚⊿゚)ξ 「あのねぇ、ファンとは付き合えないけどいいの?」

( ^ω^) 「一号じゃなくていいお」

ξ゚⊿゚)ξ 「いい子ね」

じゃ、またね、と津出は言う。
困ったら、いつでもレッスンに来いよ、俺はいつでもあそこにいるから、と俺は言うしかなかった。

日が暮れる。
夕焼けが暗闇に飲まれる瞬間を、俺はただ、一人で見ていた。
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20名無しさん:2021/10/18(月) 23:38:01 ID:rh4dN39c0

多分、俺は津出のことが好きなんだと思う。
たくさんのうさぎを殺した。多くの血を流した。それでも胸の痛みは治まらず、時折不規則に飛び跳ねた。
初めのころは、津出と喋ってるときにしか現れなかったうさぎたちが、俺の身体を支配していく。
夜も眠れない。足音がうるさい。胸が苦しい。辛い、苦しい。

津出のことをもっと知りたくて、知れば知るほど苦しくて、でも知りたいんだ。
苦しくなりたいがために、俺は津出を探している。

教室に行けば津出と会える。
その思いが俺を奮い立たせる。
教室で出会ったって、言葉を交わすどころか、目を合わせることもできないのに。

放課後は街に出る。
どこかに津出がいやしないかと目を凝らして歩く。
出会ったからって、話しかける言葉など持ち合わせてはいないのに。

津出に想いを打ち明けるなんてつもりはさらさらなかった。

だって俺はファン一号だから。
アイドルはファンに恋しちゃいけないんだ。

津出がアイドルになりたいなら、俺は応援しなければいけない。

だから伝えたくても伝えられないんだ。
伝える勇気がないわけじゃないんだ。
応援してるから。ただ、それだけ。
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21名無しさん:2021/10/18(月) 23:38:21 ID:rh4dN39c0

いいのかよ。
アイドルになるのに、アイツと付き合っていて。

恋人関係でいることは、結果的に津出のことを困らせるんじゃないのか。

俺は真に津出の幸せを願っている。
一番の理解者として応援し続けたいと思っている。

だから、あえて告白はしない。
想いを伝えたりはしないんだ。
それが津出のためなら。


俺だけが津出の理解者だ。

津出は夢を捨てて、実を取った。
芸能界に入ることを優先して、

一匹ずつ、殺すんだ。
うさぎを殺していくんだ。

津出はアイドルになるんだから。
色恋沙汰なんてご法度なんだ。

俺は津出の一番の理解者でありたいと切に願う。
津出の本当の夢を知っているけれど、津出が選んだ道なら、応援してあげたいと思う。

学校で、津出は俺を無視する。
俺なんていないみたいに振る舞う。

いいんだ。それでいいんだよ。
だって君は、みんなのアイドルなんだ。

俺と君の関係は、俺たちだけが知っていればいいんだ。

あの日から津出は河川敷には訪れない。それでいいんだ。
でも俺はずっと待っているよ。
津出の選択を応援する。
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22名無しさん:2021/10/18(月) 23:38:56 ID:rh4dN39c0


ふわふわしている。
最近ずっと、ふわふわしている。
細くて柔らかい毛がびっしりと生えていて、触ると温かい。
短い呼吸を繰り返しながら一生懸命生きている、俺の心。

撫でる手を止めると地団太を踏んでねだってくる。


ξ゚⊿゚)ξ 「うさぎって、寂しいと死ぬんだって」


津出の声が脳裏に響く。
条件反射のように心が跳ねる。高く飛ぶ。
ここにいるよと叫び始める。
もっと高く、もっと強く。

愛してくれと叫んでいる。
気づいてほしいとアピールしている。精一杯高く飛んで。

一番元気で一番煩い足音の奴を捕まえる。
足音が外に響く前に。君に悟られぬように。

息をのんで殺すんだ。
うさぎのこころを殺すんだ。

小さなからだを大きく震わせて、俺のこころは血を流す。
痛いかい?
血を流して、命は消えていく。
静寂を取り戻すために、血の一滴も残さないように綺麗に片づけて、
誰にも気づかれぬように去るんだ。
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23名無しさん:2021/10/18(月) 23:39:21 ID:rh4dN39c0


踏み潰すのが楽しくなってきた。
てんでばらばらに飛び跳ねる奴らを一思いに踏み潰す。
ぎゅっと一瞬抵抗を感じて、さらに強く踏み潰すと、うさぎはただの肉になる。
命が肉になる瞬間には、もっと重みがあると思っていた。
想像していたよりずっと軽く命は消える。あっさりと、後腐れもなく。

苦しい心もこうやって消えてくれたらいいのに。
そうだったらこんなに何度も血を流すこともなかったのに。

心を殺す方法があるなら、とっくの昔に試してる。
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24名無しさん:2021/10/18(月) 23:39:46 ID:rh4dN39c0


今日は家から出られない。
再配達をこの時間に指定しているからだ。
不在票に書かれた送り主は父だ。一人暮らしの息子を心配した仕送りだろう。

宅配を待つ間は水を飲むのもためらう。
トイレにいる間にインターフォンがなるのではないかと余計なことばかり頭をよぎる。
こんなに待つなら15分前に飲んでおけばよかった、などとささやかな後悔を繰り返しひたすら待つばかりなのが再配達というものだ。
休日、時間があるときにやろうと先送りにしていた不急の家事をこなすにはうってつけの時間なんだろう。そう思いつつもただ怠惰に空虚な時間を貪る。

インターホンがなったのは、正午を少し過ぎたころだった。



荷物は予想していたよりはるかに冷え切っていた。
唐突なクール便より迷惑なものなどこの世にはないと俺は常々思っている。
送り主の欄には父親の名が母親の筆跡で書かれている。
心配性で几帳面な性格が窺い知れる字だといつも思う。
線の始まりは震えていて、終わりに向かって力強くなる。

冷えた箱の中で眠る、ジップロックの中で凍った母の手料理。
丁寧に一つづつ袋詰めしている老いた母の様子を想像するとどうにも食欲は失せた。
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25名無しさん:2021/10/18(月) 23:40:10 ID:rh4dN39c0

とりあえずの収納先として冷凍庫を開けると、隙間はない。
だから冷凍便は嫌なんだ。

積み重なった冷凍物を詰めなおし出来たわずかな隙間にいくつか詰め込む。
どうしても入らなかったものは冷蔵庫に転がす。
適度に冷えた箱の中で、罪悪感が消えるまで置いておけば、捨てるころには気が楽だ。

 「パッキング上手! パッキングゥ〜」

聞きなれた声がテレビから聞こえた。振り返る。
CMに映るのはデレだった。星空デレ。


  【  ζ(゚ー゚*ζ  】


( ^ν^) 「似合わねー恰好しやがって」

俺と同じだけ歳を重ねた津出は、年齢とともに露出が減ることもなく、順調に仕事の幅を増やしていた。
アイドルとして歌って踊るだけでなく、女優として映画にも出た。コメンテーターとしてワイドショーのレギュラーにもなっているし、夜にはバラエティでおちゃらけている。

多角的に活躍している津出だが、あんなに憧れていたアーティストとしての活動は全くなかった。
あんなに弾きたがっていたギターを抱える姿は見たことはなかった。
全ての仕事内容を追っている俺がいうんだから間違いない。

( ^ν^) 

いつか津出の夢が叶うといい。
ギターをかき鳴らして歌う姿を見てみたい。俺が育てたと言いたい。
自慢する相手はいないけれど、俺は俺に俺を誇りたい。
.

26名無しさん:2021/10/18(月) 23:40:35 ID:rh4dN39c0


職場と自宅を往復する日々が際限なく続いていた。
津出の情報、星空デレの情報を集めるのが日課となっていた。

津出のブログやSNSは抜けもれなく追い、常に動向を確認していた。
ファンクラブにも入っていた。
一方で、ライブやファンイベントに行こうと思ったことはなかった。

津出のファン第一号としての誇りだけが俺の矜持だった。
イベントに行けば、他のファンと一緒くたになって、あほ面下げてステージを眺めるしかできない。

俺は津出の一番のファンだ。それは誰にも譲れない。
スマホにはまだ、津出の電話番号が入っている。卒業以来一度もダイヤルしたことはないけれど、書けようと思えばかけられるんだ。

手に入れようと思えば、手に入れられるんだ。
津出を応援するために、あえて身を引いているだけで、声を聴こうと思えばいつでもできるんだ。

( ^ν^) 「俺は、お前らとは違う」

アンチスレで好き勝手言い殴る有象無象を眺めながら独り言ちる。

人の夢と書いて儚いと読む。だからってあんまりにも空しいじゃないか。
何もかも似合っていない。明るく染めた髪も、今どきのファッションも、綺麗に弧を描く唇も。
全部君が嫌っていたものじゃないか。作り笑い、百合営業、握手会。
きっと今も不平不満を吐きながら、厚化粧で覆い隠して仕事しているんだろう。

俺の前では無理に笑わなくていいのに。
俺だけは本当の君を受け止めてやれるのに。

助けを求められたらすぐにでも、俺は助けてやる。
いつだって、俺は津出の味方なんだ。
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27名無しさん:2021/10/18(月) 23:41:05 ID:rh4dN39c0



 「津出、内藤と結婚したんだってよ」


同級生のSNSで、津出の結婚相手を知った。

予感はしていた。
公式のアカウントでも、なんとなく家庭的になってきていて、ファンの交流用の掲示板でも予想されていた。近々結婚発表があるんじゃないかと。

もっと前から気づいていた。
津出の公式な情報だけでなく、地元の友人などのつぶやきも日々チェックしている俺には、予想できることだった。

いつでも拾えると思っていたら、いつの間にか手の届かないところに行ってしまった。

俺はただ、津出を応援していただけなのに。
津出の真の幸せを想って、身を引いていただけなのに。

あまりにも大きな裏切りに、全てを捨ててしまいたかった。
写真も、データも、電話番号も、思い出も。

でも捨てることさえできない。
荒れるアンチスレを見ながら、ただ、怒りに震えていた。
.

28名無しさん:2021/10/18(月) 23:41:25 ID:rh4dN39c0


光に透ける髪をぼうっと見ていた。
夕焼けがいよいよ赤くなり、夜空が迫りつつあった。

暗がりで手先が見えづらくなってきたことにも気づかず、必死に目を凝らしてコードを抑える津出の姿はいじらしかった。

( ^ν^) 「なぁ」

ξ゚⊿゚)ξ 

( ^ν^) 「そろそろ帰ろうぜ」

ξ゚⊿゚)ξ 「いやよ」

( ^ν^) 「は?」

ξ゚⊿゚)ξ 「これだけはマスターして帰りたいのよ」

( ^ν^)

( ^ν^) 「まあ、いいけど」


ξ゚⊿゚)ξ 「あんたにも、優しいところあるのね」

( ^ν^) 「……俺は」

津出のことが好きだから。ずっと一緒にいたい、なんて、口が裂けても言えなかった。
言えるわけがなかった。
.

29名無しさん:2021/10/18(月) 23:41:49 ID:rh4dN39c0

代わりの言葉を探す。
いくつか言葉を思い浮かべて、一番うさぎがおとなしかった言葉を選んで唇に乗せた。

( ^ν^) 「津出のこと、応援したいから」

ずっと、と付け加える。
津出の口元が弧を描いた。

ξ゚⊿゚)ξ 「へぇえ」

ξ゚ー゚)ξ 

ξ゚ー゚)ξ 「ありがと」

君はいつだって、俺の目をまっすぐに見つめる。
そうやって無遠慮に心に入り込んでは、そのまま居座るんだ。
暴れまわる心臓の音が聞こえそうなくらい近くに。
手に入りそうなくらい、近くに。
勘違いしそうなくらい、近くに。
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30名無しさん:2021/10/18(月) 23:42:33 ID:rh4dN39c0



侵入者が現れて、眠りを邪魔されたうさぎ達は縦横無尽に跳び跳ねる。
一番高く飛び上がる奴、そいつの耳を掴んで、躊躇なく首を裂く。

この鼓動が、君に届く前に。
俺の恋心が悟られぬように。

君がいるから跳ねるうさぎを、君がいるから殺して回る。

命を奪われてもなお、俺の心は温かかった。


深夜の街は懐が深い。
攻撃的な踵の音を響かせて遠ざかるOLも、座り込む若者も、疲れた俺も、
すべてをあるがままに受け入れてくれる。
だけど、受け入れてくれるだけじゃ駄目なんだ。
夜の中では、孤独はただ孤独なままなんだ。

凍えた指先で鞄をまさぐり、さらに冷え切った鍵を取り出す。
いのちの温度はまだ鞄の底にある。

靴を脱ぎ、冷凍庫に心を閉じ込めてから風呂場に向かう。
浴槽の隣に備え付けられたささやかな洗面台は素直でかわいいやつだ。
時計回りに蛇口をひねれば水が出るし、反対に回せば止まる。
人もみなこうだったらいいのに。蛇口をひねるたびに俺は思う。

ちびた石鹸を濡らしてしっかりと泡立て、念入りに手を洗う。
指先のしわの一つ一つまで、爪の先のわずかな溝まで、濃密な泡が包み込む。
洗えばいいのよ、と母は言う。
汚れたら洗えばいいのよ。

デレのブログは本日何度目かの更新がされていた。
最新記事を開く。
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31名無しさん:2021/10/18(月) 23:42:57 ID:rh4dN39c0


星空デレ オフィシャルブログ「今宵も満天の星空の下で」

NEW 2021-10-16
今夜はね

ねぇ見て!
めっちゃ美味しそうな温泉卵でしょ〜(笑顔)(笑顔)

おんたま乗っけたらさ
何でも美味しそうに見えちゃうよね〜

実はね
最近レンジで温玉作れるようになったの!(ハート)

……



( ^ν^)カタカタ……

定住する星空デレアンチスレを開く。
最新記事の魚拓のURLを貼り付け、手抜き乙と書き込めば、すぐに反応が返ってくる。

‐‐‐

>>256
drってなんでも乗っけりゃいいと思ってるよね

>>256
夕飯これだけ?息子かわいそ

>>256
貼り乙
馬鹿の一つ覚え

>>256
似合わないカラコンほんとやめたらいいのに

‐‐‐

32名無しさん:2021/10/18(月) 23:43:35 ID:rh4dN39c0


確かに俺は、君を手に入れられなかった。
でも君も、君の夢を手に入れられなかったじゃないか。

その事実だけが俺を温める。





( ^ν^)うさぎのこころのようですζ(゚ー゚*ζ  終

33名無しさん:2021/10/18(月) 23:44:00 ID:rh4dN39c0
ブーン系秋の短編祭2021参加作品
使用曲 ウサギのバイク/スピッツ

34名無しさん:2021/10/19(火) 00:31:32 ID:CimfYWsg0

ブーンだけが良心

35名無しさん:2021/10/19(火) 01:12:14 ID:L1gyCrP.0
乙。

36名無しさん:2021/10/19(火) 01:49:16 ID:xlxheX7E0

これ好きだ

37名無しさん:2021/10/20(水) 19:27:53 ID:PdQ/yTdY0

降りる電車を間違えるくらい読みふけってしまった

38名無しさん:2021/10/24(日) 21:43:25 ID:RUF7A6Js0
なんだこれめちゃくちゃいいすごく素敵

39名無しさん:2021/10/25(月) 17:03:06 ID:LQAha9l.0
うさぎを殺す痛みでしか繋がりを保てなくなってしまったんですねぇ

40名無しさん:2021/10/25(月) 19:12:30 ID:gUCh54Ek0
>>2>>18の「か」の文字がなぜか半角クエスチョンマークになってるな

41名無しさん:2021/10/25(月) 20:41:33 ID:VCY068YI0
漢字化け?

42名無しさん:2021/10/26(火) 00:54:13 ID:vh/BfWYc0
テスト
掻く
�惜く

43名無しさん:2021/10/26(火) 13:49:47 ID:Ah9YXBCg0
ニュッくんはこじらせ役似合うな

44名無しさん:2021/10/28(木) 11:00:07 ID:kSPE6yGk0

すごい面白かった

45名無しさん:2021/10/29(金) 18:42:09 ID:AdW4k6h.0
乙乙
好きです


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