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それは砕けし無貌の太陽のようです

7 ◆HQdQA3Ajro:2021/10/16(土) 00:04:06 ID:jePDeZ3M0
『だからね――』


「先生?」


『お前はお前を――』


――ダメだ。

「先生、どうしたんですか? 先生?」

どこにある。どこにしまった。家の中をひっくり返す。
棚の中を、机の後ろを、時計の裏を、床の下を。ない、ない、どこにもない。
使い切ってしまったのだろうか。使い切ってしまったのだ。

前回の時に、前の本の時に全部使い切ったのだ。
次は頼らぬと、もう必要ないと、補充しておかなかったのだ。
でも――ダメだ。“アレ”がないと。“アレ”を手に入れないと、このままでは俺は、俺は――。

「先生!」

肩に、熱。人の手。動悸が止まる。瞬間、冷静になる。
「先生」。女の声。不安を帯びた。懐の携帯。既に我が手の先に触れたそれ。
いまここで使うのは、得策でない。顔を合わせぬまま、告げる。

「帰れ」

「先生、でも――」

「帰れ」

痛みを伴う乾いた呼吸。やがて、肩に触れていた熱が離れていった。女が、離れていった。
ぎぃぎぃと、フローリングの硬い床が軋む音。こすれる音。右往左往する人の気配。
不必要な所作を感じさせるそれは、しかして遂に、宅の入り口にして出口でもある場所へと到達する。
かたこんと、下ろした鍵が上げられる。


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