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Ammo→Re!!のようです

950名無しさん:2024/08/11(日) 18:33:49 ID:XZZ24kQc0
そして、ゴングが鳴った。
その刹那、ブーンはキャンバスが大きくたわむほどの力で踏み込み、一気に接近した。
放ったのは至近距離から放つ右ストレート。
身長差が防御を困難にする一撃だ。

( ''づ)「ちょまっ!?」

腹部を狙った一撃を、ジョージは身をよじって回避。
急停止した勢いを乗せた左フックを改めてジョージの腹部に放つ。
グローブ越しに感じた確かな感触。
柔らかなグローブとはいえ、その使い方一つで十分な武器になる。

ロウガに教わった戦い方が生きた。

( ''づ)「ごっ……!!」

ジョージがその場に膝を突くと、一瞬の静寂が訪れる。
そして、大歓声が上がった。

( ''づ)「すげぇな……いつつ……」

(∪´ω`)ノ「やたー」

( ''づ)「……なぁ、もう一回いいか?」

(∪´ω`)「お、いいんですかお?」

立ち上がり、ジョージは呼吸を整える。
ブーンを見る目は、先ほどとは違って警戒心の宿るそれになっていた。

( ''づ)「次は油断しないさ。
     よし、こい!!」

再びゴングが鳴り響く。
踏み込み、距離を詰める。
バックステップで器用に距離を取るジョージに対し、ブーンは持ち前の脚力でその差を詰めてゆく。
リーチの差を埋めるためには、相手の反射神経を上回るだけの速度が必要になる。

しかし、ブーンが踏み込むとジョージは的確な方向に移動し、避難を成功させる。
背中に目がついているかのようにロープ際から離れつつ、ブーンの攻撃が当たらない位置を陣取っていく。

(∪´ω`)「おー」

( ''づ)「ふーっ」

立ち止まり、二人は呼吸を整える。
静かに息を吐きだし、そして、ブーンは動いた。
初戦で見せた加速力で距離を詰め、勢いをそのままに右ストレートを放つ。
ジョージはそれをバックステップで回避し、連打を阻止する。

951名無しさん:2024/08/11(日) 18:35:17 ID:XZZ24kQc0
一歩の踏み込みで詰められる距離は後退よりも前進の方に分がある。
二歩目で更に左ストレート。
これはサイドステップで回避される。
目の前に迫るロープを見て、ブーンは覚悟を決めた。

自分には正面から挑むだけの力がない。
力がなければ、技術で補うしかない。
勝利条件はただ一つ。
拳を当てるだけでいいのだ。

(∪´ω`)「ふっ!!」

姿勢を反転させ、背中をロープに思いきり沈みこませる。
反動を利用した攻撃だが、ジョージはそれを予想していたかのように数歩後退した。
だが、彼には大きな誤算があった。
すでにブーンはジョージの動きを何度も見て、移動可能な距離と速度を覚えていた。

単純な速度であればブーンが負ける道理はないが、そこにフットワークという技術が壁となっているのだ。
その技術を学んだブーンは、それを真似するだけの余裕があった。
踏み込み、同じ速度で直角に曲がる。
その先にあるのはジョージの腹部。

次の動きを見るまでもなく、ブーンの左ジャブが的確に彼の腹部を打ち抜いた。

( ''づ)「ぐっ……」

そして、再びの大歓声が二人を包み込む。
ゴングが鳴ってから僅かに30秒。
攻防の時間としては短いが、その濃度は極めて高い。

(∪´ω`)「ありがとうございましたお」

礼を言ったブーンに、ジョージは心底悔しそうに苦笑いを浮かべた。
だがそれは、すぐに清々しい笑顔に変化する。

( ''づ)「いや、負けた。 完敗だよ、ブーン。
     商品を受け取ってくれ」

リングの外に待機していた人間から封筒を受け取り、それを手に、ジョージがブーンを含めたその場の全員に聞こえるように言う。

( ''づ)「ホールバイトで使える食事券だ!!
     一枚で好きな食事と交換が出来るし、無期限で店の指定もない!!
     それが100枚!!」

(∪*´ω`)「100枚も!!」

( ''づ)「食い倒れてくれ、ブーン。
     いやはや、君はいいボクサーになるよ。
     俺が保証する」

952名無しさん:2024/08/11(日) 18:35:44 ID:XZZ24kQc0
ブーンの手からグローブを外しながら、ジョージは周りの歓声に紛れさせるように小さく囁いた。

( ''づ)「昔、俺はライト級のチャンプだったんだ。
     もしもボクシングに興味が湧いたら、いつでも俺を訪ねてくれ。
     ジョージ・ミケルセンだ」

手を差し伸べられ、ブーンは迷いなくそれを握る。

(∪´ω`)゛「分かりましたお」

受け取った封筒から食券を2枚取り出し、ブーンはそれをジョージに差し出す。
困惑するジョージに、ブーンは気恥ずかしそうに言った。

(∪´ω`)「お昼ご飯に使ってくださいお」

( ''づ)「……君はいい教育を受けたんだな。
     ありがとう、ちゃんと使わせてもらうよ。
     絶対にまた会おう、次は友人として」

(∪´ω`)゛「はいですお!」

食券を手に、ブーンは街中へと再び戻ったのであった。
その時である。
まずは衝撃。
全身が痺れるような衝撃が、体を襲う。

そして、鼻孔の奥で感じ取った匂い。
それは間違いなく、ブーンが追い続けた人間の懐かしい匂いだった。
ブーンは走り出していた。
走りたいから、走るのだ。

――走らなければならないと思うからこそ、走るのだ。

953名無しさん:2024/08/11(日) 18:36:06 ID:XZZ24kQc0
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人混みを通り抜け、匂いを辿っていく。
多くの料理と人間の匂いに紛れる、愛しい存在を追うのは容易なことではない。
容易ではないが、不可能ではない。
困難は諦める理由にはならない。

走る。
駆ける。
奔走する。
疾走する。

どこかにデレシアがいる。
それが分かるだけで、全力で走るには十分な理由になる。
か細い糸を追うように。
ブーンは僅かな希望を追い続ける。

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954名無しさん:2024/08/11(日) 18:36:34 ID:XZZ24kQc0
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日が暮れ、空が黄昏色に染まる。
やがてホールバイトを一周し、より強く彼女を感じる場所へと辿り着く。
息は上がり、喉の奥から血の匂いがする。
足は疲労と乳酸でまともに動かない。

歩く以上の速度で動くことが出来ない。
ホールバイトの南端。
奇しくもブーンがディを停めた場所と真逆の方角に位置する、もう一つの入り口。
臨時駐車場には溢れるほどの量の車両が押し寄せ、ヘッドライトが星のようにきらめいている。

濃紺に染まりつつある空の下、ブーンは視線を周囲に巡らせる。
人の姿は濃い影にしか見えない。
表情も人相も、全て闇の中に溶け込んでいる。
気が付けば、ブーンは人混みの中に立ち尽くす形になっていた。

自分よりも背丈のある人に囲まれ、視覚情報は人影に占領される。
話し声や音楽、時折聞こえるクラクションがうるさい。

(∪;´ω`)

前夜祭が始まることをアナウンスが告げ、盛り上がりが最高潮に達する。
音楽がひと際大きく鳴り響く。
花火が打ち上がり、悲鳴に似た歓声があちらこちらで上がる。
音は、判断材料にならなくなった。

955名無しさん:2024/08/11(日) 18:36:55 ID:XZZ24kQc0
匂いもダメだった。
食べ物の匂いと人の体臭が周囲に充満し、デレシアの匂いを探し出せなくなっている。
だがこの辺りにいる予感はするのだ。
確信めいた予感の根拠は何もない。

それでも、デレシアが近くにいる気がするのだ。
頭上で花開く鮮やかな花火。
熱狂する人々の声、音楽。
混沌の中でも、ブーンは一歩を踏み出すだけの気概を失わずにいた。

視覚。
聴覚。
嗅覚。
そのいずれも使えない。

進む先に何があるのかも分からない。
進んだ先で何が待っているかも想像できない。
しかし。
進むしか、道はないのだ。

956名無しさん:2024/08/11(日) 18:38:20 ID:XZZ24kQc0
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F√i-ュ| ̄|明-ュ| ̄L―┐-ュFl-ィニニユ 「 ̄|二日lニ|ロ-丑-┐「ニ´t|
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|  |  |_,,|_,|,,|_|_|



















人混みを抜け、広大な駐車場の先に広がる荒野が視界いっぱいに広がる頃。
太陽は地平線の彼方に沈み、濃いオレンジ色が今まさに消えようとしている中。
青白い月が世界に夜の到来を優しく告げる時間。
一台のバイクに背を預けた女性が、夕日を眺めているのを見つけた。

957名無しさん:2024/08/11(日) 18:38:44 ID:XZZ24kQc0
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   \ /::::::::::::::ハ  |::::::小.::::::::    _,   ∠._,'\      :::::::::::::::/
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958名無しさん:2024/08/11(日) 18:39:28 ID:XZZ24kQc0
あどけなさと大人の片鱗を漂わせる少年の顔に、喜びの感情が十分すぎるほどに満ちてゆく。
ブーンは、彼女へとゆっくりと歩み寄る。
想い続けた彼女を、見紛うはずがない。
彼女の甘い香りを、その存在を間違えるはずがない。

歩みは小走りに。
小走りは、全力疾走へと変わる。
こちらの跫音に気づいた彼女がフードを降ろし、嬉しそうに言った。

ζ(^ー^*ζ「久しぶりね、ブーン」

(∪*´ω`)゛「お久しぶりです、デレシアさん」

デレシアの前で立ち止まり、ブーンは彼女を見上げる。
蒼穹の色の瞳と、優しい黄金の色をした波打つ髪。
声は柔らかく、笑顔は今にも溶けてしまいそうなほど。

(∪*´ω`)「ディはデレシアさんがいるって知ってたの?」

(#゚;;-゚)『途中で知ったんです。
    インカムさえあれば、私に声は届きますから』

(∪*´ω`)「おー!」

(#゚;;-゚)『それに、見届けたいこともありましたので。
    乙女同士の約束は、いつの時代も秘密に満ちているのですよ』

その言葉を肯定し、かつ友人同士で共有する秘密を楽しむ様に、デレシアがディにウィンクをする。
どうやら、ブーンの知らないところで何かしらの話があったようだ。
だがそれは些事だ。
今は、デレシアが目の前にいるという事実だけが重要なのだ。

ζ(゚ー゚*ζ「どう? あれから宿題は進んだ?」

(∪*´ω`)゛

ブーンは頷く。
まだ完全ではない。
不完全だが、分かったことがある。
“愛”とは何か。

その片鱗を伝える手段を、ブーンは今ようやく理解したのだ。
デレシアがブーン視線を合わせたまま、問いかける。

ζ(゚ー゚*ζ「教えてくれる?」

959名無しさん:2024/08/11(日) 18:39:56 ID:XZZ24kQc0
ゆっくりとデレシアが屈み、二人の目線が同じ高さになる。
何度も見上げたその瞳。
正面から見つめて改めて分かったのは、その瞳の美しさ。
その瞳を見つめるだけで、ブーンの胸には熱い感情が湧き上がってくる。

空の青さに夏を感じ、風の冷たさで秋と冬の到来を覚え、小さな芽吹きに春を思い出すように。
当たり前のように胸から湧き出る感情は、決して焦ることのないもの。
感情が思考を置き去りにし、体を動かす。
後はただ、衝動に身を任せるだけ。

960名無しさん:2024/08/11(日) 18:42:30 ID:XZZ24kQc0
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                           あの日
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                             ┃
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                           ノパー゚)
無償の温もりを与えてくれたヒート・オロラ・レッドウィングがいたから、ブーンは愛の存在を疑うことはなかった。

961名無しさん:2024/08/11(日) 18:42:51 ID:XZZ24kQc0
                             |
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                             |


                           ('、`*川
未来へ導く道を教えてくれたペニサス・ノースフェイスと出会えたから、ブーンは愛という物が存在することを知った。

962名無しさん:2024/08/11(日) 18:43:15 ID:XZZ24kQc0
                             |
                             ¦
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                           (,,゚Д゚)
同じ師を持つギコ・カスケードレンジの生き様が、受け継いだ意思に宿る別の感情を教えてくれた。

963名無しさん:2024/08/11(日) 18:43:39 ID:XZZ24kQc0
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                            (゚、゚トソン
命を救ってくれたトソン・エディ・バウアーがいたからこそ、他人を助ける行為に秘められた物を知ることが出来た。

964名無しさん:2024/08/11(日) 18:44:00 ID:XZZ24kQc0
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                           ミセ*゚ー゚)リ
初めての友達となったミセリ・エクスプローラーがいてくれたから、友情という尊いものを得ることが出来た。

965名無しさん:2024/08/11(日) 18:44:23 ID:XZZ24kQc0
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                           ¥・∀・¥
金の正しい使い方を見せつけたリッチー・マニーがいなければ、金はただの無機質な力の一つでしかなかった。

966名無しさん:2024/08/11(日) 18:44:44 ID:XZZ24kQc0
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                          ( ФωФ)
義を教えてくれたロマネスク・O・スモークジャンパーがいたからこそ、人が生きる上で忘れてはならないことを知った。

967名無しさん:2024/08/11(日) 18:45:24 ID:XZZ24kQc0
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                           リi、゚ー ゚イ`!
武を手ほどきしてくれたロウガ・ウォルフスキンがいなければ、ブーンは自分の身を護ることも、誰かを守ることも出来なかった。

968名無しさん:2024/08/11(日) 18:46:10 ID:XZZ24kQc0
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                         ミ,,゚Д゚彡从´ヮ`从ト
家族を想う気持ちをフサ・エクスプローラーとチハル・ランバージャックがいて初めて、ブーンは家族という物の姿を知ることが出来た。

969名無しさん:2024/08/11(日) 18:46:31 ID:XZZ24kQc0
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                           (`・ω・´)
戦場の中でシャキン・ラルフローレンが教えてくれたことが、戦いの中でも変わらない人間の本質を見るだけの力を与えてくれた。

970名無しさん:2024/08/11(日) 18:47:00 ID:XZZ24kQc0
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                            (=゚д゚)
己の正義を貫き通す姿を見せたトラギコ・マウンテンライトの存在が、この世界には善悪を超越した物があるのだと信じさせてくれる。

971名無しさん:2024/08/11(日) 18:47:21 ID:XZZ24kQc0
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                            (#゚;;-゚)
友情に垣根はない事を教えたディがいてくれたから、ブーンは孤独に押し潰されずに旅を続けることが出来た。

972名無しさん:2024/08/11(日) 18:47:44 ID:XZZ24kQc0
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                          ζ(゚ー゚*ζ
そして、地獄の底から救ってくれたデレシアがいなければ、今の自分は存在していなかった。

                             |
                             ¦
                                  !
これまでの旅で出会った全ての人間がブーンに見せ、伝え、教えたこと。
その全ての根底にあるものこそが――

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

973名無しさん:2024/08/11(日) 18:48:26 ID:XZZ24kQc0
ブーンはデレシアの首元に手を回し、抱きしめた。
静かに。
確かに。
ゆっくりと、そして、伝えたいことを胸に秘めて。

――愛とは。
言葉でも、文字でも。
行動でも、感情でも。
ましてや、目に見える何かでもない。

ただ、愛としか言い難い何かの事なのだ。
それ以上もなければ、それ以下でもない。
恋でもなければ、依存でもなければ、崇拝の類でもない。
どれだけの時間を経ても色褪せず、減退しない何か。

人を導き、人を強くもする。
人を惑わし、人を弱くもする。
人を誑かし、人を狂わせもする。
人を鼓舞し、人を前に進めもする。

人を導き、人と人を繋ぐこともする。
争いを産み、争いを収めることもする。
それはあらゆる場所に、時代に、生物に、物質にさえ影響を与える何か。
人はそれを愛と呼び、口にし、追い求める。

これが、今のブーンが辿り着いたペニサスの宿題に対する最善の答えだった。
説明するだけの語彙力のないブーンにとって、伝えるための手段はこれしかない。

(∪*´ω`)ζ(゚ー゚*ζ

デレシアの手が、ブーンの背中に回される。
同じぐらいの力で、優しく抱きしめられた。
それだけで、ブーンにもデレシアの感情が伝わってくる。
情欲でも性欲でもない、甘い痺れを伴う温もりが全身に満ち溢れる。

自惚れではない。
誤解でもない。
断言できる。
この温もりもまた、愛なのだと。

ζ(^ー^*ζ「よくできました」

ブーンを抱きながら、デレシアは嬉しそうにそう言ったのであった。

974名無しさん:2024/08/11(日) 18:49:08 ID:XZZ24kQc0
.












ζ(^ー^*ζ「ご飯にしましょうか」

(∪^ω^)「はい!」





                       /
                       ,



                       ;          i   /
                       ;          | /
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                 ,     i |
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                   ;     .ノ  ;
               i     /   .ノ
               |    ,' `!  /
               |ヽ  , / /     旅はまた、ここから始まる。
               | | /ヽ{  {
                  /lノ| i  `i l
                /    | |   ,}ー'
               _l_   | l   〕
              /    `ヽ. ヽ_}   )
           /        ヽ    ∧
         /⌒`ヽ      ゙  ノ`´
        /     \     |´
      /                 |
     /´ ̄ ̄`ヽ     i   |

975名無しさん:2024/08/11(日) 18:50:25 ID:XZZ24kQc0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━













                  これは、愛に満ちた旅の物語













━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

                                     Ammo→Re!!のようです 完

976名無しさん:2024/08/11(日) 18:52:01 ID:XZZ24kQc0
これにて『Ammo→Re!!のようです』は完結となります。
始まってから12年という月日が流れましたが、確かにこうして終わらせることが出来たのは読者の皆様のご協力のおかげです。
冷静に考えると連載開始した時に生まれた子供は小学6年生になっているんですよね……
そんな中でも、最後まで読んで下さり、応援して下さった皆様には感謝してもしきれません。
連載開始してほどなくして心が折れかけた時、皆さんの声があったから今があります。
本当にありがとうございました。

ブーン系小説に関わってから最も長い時間をかけて書き上げた作品だけに、こうして終わらせられて一安心しています。
今後はひっそりと各キャラクターの過去を別媒体等で書いたりしつつ、やりたかった事をやって過ごそうと思います。
その辺のことはブログやTwitter(新:X)にて報告とかしていく予定です。
ともあれ、この場で絶対に言わないといけないことがあります。

いつも校正してくれたみんな―!!
ありがとー!!
いつもプロレベルの校正してくれたひとー!!
本当にありがとー!!

それではまた、いつかどこかで。

977名無しさん:2024/08/11(日) 21:49:09 ID:GDfjXQBk0
おつ、本当におつ
ブーン系史上最長期間最大文量の作品を完結させたこと、尊敬します
この作品が読めて良かったです
ありがとう

978名無しさん:2024/08/11(日) 22:23:41 ID:JX5OKWJI0
乙!!
完結に立ち会えて最高です!!

979名無しさん:2024/08/12(月) 07:10:49 ID:ruRww4cc0
完結乙!

980名無しさん:2024/08/12(月) 09:30:21 ID:sob1rOzM0
終わってしまった……スピンオフも含めて最高の作品でした
この作品を読ませてくれてありがとう
本当にお疲れ様でした!

981名無しさん:2024/08/12(月) 16:45:55 ID:hQKLtFP20
乙!!
うわああああいつもしょぼくれていたブーンがついに笑ったあああああ!!!!!
それだけでも涙がこみ上げてくる…
旅をしながら今まで出会った人たちと再会するっていいよねぇ
魅力的な登場人物が多く生き残った人もいなくなった人もお気に入りの人達がたくさんいます!!

最後までしつこいとは思いますが、お約束という事で

>>924
ブーンは"に"ディを修理に出すことにした。

ここは"に"が多いですね

>>944
渋滞に"掴"まり

ここは"捕"まりの方がいいかもしれません

長期の連載本当にお疲れ様でした。
こんな素敵な作品に出会えた本当に幸せです。
完結おめでとうございます!!!!

982名無しさん:2024/08/12(月) 16:56:18 ID:rbe3If0k0
>>981
いつもいつも本当にありがとうございました。
そして最後まで結局お世話になりっぱなし……
心からの感謝を申し上げます。

         /             ` 、       感謝するぜ  あなたにしてもらえた
       /          ノノ  ヽ
      ,     ニニ彡'⌒    /`ヽ        これまでの  誤字脱字指摘に
      '   ニミ ニニ彡      〈rう├--ミ
       { { ニミ } j j jノx'ィイく  }し{\   `丶、___/ニニニ
      j_ニニミV ハレノ x<⌒ヽ  V ヘ  \    \ニニニニニニニ
      {xミミー'ヾ(、ル( 厶tァァく⌒ヾ}  )ハ::::::.    \ニニニニニニ
     彡ィ'">tァ} \(`ニ彡 ノ` /ト=く   ::::::i     \ニニニニニニ
     (   V^`こ7  _, \``ヾヽ` ノ|`ヽ ヽ l:::::|       \ニニニニニ
         ∧  { '  ` ノ^ヽ    { ノ     !:::::|   ___ノ^ヽニニニニニニ
      /.::::\ゝヽ. _ノヽ``ヽ, -――- 、 /:::::/ /      ̄`ヽニニニニニ
     /.::::::::::::::::>'"ノルハヽ`/ -―- 、⌒V::::::/.// j___ノ、  ヽニニニニニ
  /ニニ、`ヽ`ヾヘ{ {、ムイ 、_(   >  \/ (__ ノニニニ     \ニニニニ
 ,仁ニニニ\ヽヽヽ ∨   /ニニ>彡>--')__ ノ    `ヽニ     \ニニニ二
 ニニニニニニヽ   /     {ニニ> ´ `¨¨´         ニ}      \>''"´
 ニニニニニニニニ/     ∨ /               }八
 ニニニニニニニ./        }ニ{                ノニヽ     ノ
 ニニニニニニニ/       }ニハ               /⌒ヽヽヽ ___彡
 ニニニニニニニ!        ノニニヽ、            /     ` ー=彡'ニニニニニ
 ニニニニニニニ}          ⌒`丶、     /⌒ヽ  ノ     ノ_____
  / ̄ ̄ ̄`ヽ/ヽ、 _彡ヘ{ {        > 、 /     /  ̄ ̄ ̄
     ) 、    /   ヾ、    ヽ ヽ      (    `{    /
 // ⌒ヽ  /    〃 トミ  ___ >--‐=、   ヽ _ノ
  {       /    //     /         \__ノ

983名無しさん:2024/08/12(月) 23:17:34 ID:dCHsVmmM0
ほんっと乙
ハッピーエンドで終わってほんとよかった
ところで最終決戦でビロードって出てきてたっけ?

984名無しさん:2024/08/12(月) 23:35:54 ID:rbe3If0k0
>>983
良くお気づきになりました。
彼は最終決戦に姿を出しておりませんが、その後についてはティンバーランドの残党ということで遠回しに存在が匂わされています。

985名無しさん:2024/08/16(金) 13:54:09 ID:zphZRDpQ0
完結乙です!
歯車の頃から大好きでずっと追いかけていました。
壮大な物語の完結を見ることが出来て幸せです。
本当にお疲れ様でした。
素晴らしい作品をありがとうございます。

986名無しさん:2024/08/20(火) 05:12:54 ID:f6PNlfbg0
おつ!
素敵な完結を観ることができてとても幸せです!
本当にありがとうございました!

987名無しさん:2024/08/25(日) 22:06:10 ID:3yoBdm.g0
久々に見に来たら完結してた 乙 強化外骨格に対してデレシタが強化"内"骨格なのは痺れるね
また一から読み返してくるかあ

988名無しさん:2024/09/21(土) 09:48:01 ID:vI73hRVE0
遅くなったが本当に乙
このボリュームの作品を完結させられるの本当に凄い
自分が好きだったトラギコアサピーシナーが生きててよかったシナー大出世してるし
ところでキャラエピソードは別媒体ってファイナル板以外での投稿ってこと?

989名無しさん:2024/09/21(土) 19:42:37 ID:TPOPaFdk0
>>988
別媒体としての候補はひとまずKindleなどを考えております。

なお、現在はペニサスのスピンオフをゲーム化してDMMで配信中です(宣伝)

990名無しさん:2024/10/11(金) 23:36:40 ID:j5obufMU0
乙!!!!!!!!!!!!!

991名無しさん:2025/06/22(日) 22:31:02 ID:8izIhYHM0
時事ネタでアモーレで見た兵器見るとうおぉ…てなる


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