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844
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:01:35 ID:K.ug12hY0
途端に慌ただしくなる中、二人のジュノはアンストッパブルへと戻る。
ここから先は、定刻通りにはいかない。
彼らの得意分野である、精巧な時計じみた動きで戦うしかないのだ。
豸゚ ヮ゚)「当列車周辺の全友軍に通達します。
間もなく弾着観測射撃を行います。
お気を付けください」
イルトリア軍との回線を確認し、列車砲の照準を動かす。
そして、カルディ・コルフィ・ファームに砲塔が向き、角度が整った瞬間。
自分の隣に雷が落ちてきたのではないかと錯覚するほど砲声が響き渡る。
弾着観測を担う偵察部隊から、少しして報告が入った。
『弾着確認。 接岸した敵部隊の左翼の一部を削った。
修正座標を送る』
修正後の座標を受け取り、そして二発目。
『弾着確認。 いい腕だ。
誘爆を確認。 このまま砲撃を続けてくれ』
これにより、カルディ・コルフィ・ファームから迫る陸軍に対しての砲撃が本格的に始めることができた。
砲弾をフレシェット弾に切り替え、三発、四発と続け様に放つ。
着弾の報告を受け、更に焼夷弾へと切り替えた。
『この後は我々も連中を歓迎する。
砲撃に感謝を。
継続して砲撃を頼む』
威力偵察に向かった部隊の数は、精々50人程度だ。
今の砲撃でどれだけの敵を無力化できたかは不明だが、不思議とイルトリア軍人が言うと無謀とは思えない。
『威力偵察を担当するのは、陸軍の狙撃部隊だ。
安心しろ、狂ってなどいないさ』
単純な計算で25組の狙撃手。
それでも、それでも、だ。
イルトリア陸軍の狙撃手と言えば、その全員が例外なくペニサス・ノースフェイスの教えを引き継いだ恐るべき兵士だ。
手持ちの弾薬の数だけの死体を生み出すことは、約束されたようなものだ。
後は、砲撃がどの程度まで相手の数を減らせるか。
そして、イルトリア陸軍がどれだけの速度で辿り着けるかが重要だ。
イルトリア陸軍の保有する列車砲を連結させ、アンストッパブルはその砲門を初期の倍以上に増やしており、その破壊力は文字通り地上最強の物となった。
複数同時に砲をコントロールできるという強みを生かし、地平線の先にある別の土地に向けて続々と砲撃を行う。
砲弾の装填作業はそれに慣れたイルトリア陸軍と海軍の人間が行うことで、極めて早い間隔で砲撃が実行出来ていた。
一度でも戦場で砲弾の雨に遭遇すれば、その脅威は骨身に染みて理解できる。
それ故に、民間人で構成された部隊が相手の姿も見えないというのに受けた砲撃は、彼らの正気と統制を奪うのには十分すぎた。
夜明けが近いにもかかわらず太陽は未だ見えず、空が白むこともない。
845
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:02:42 ID:K.ug12hY0
気温が低下し、泥濘の上をタイヤが空転することも増え、車のバッテリー消耗が激しくなるにつれて焦りが生まれてくる。
果たして、このまま無事にイルトリアにまでたどり着けるのだろうか、と。
彼等はまだイルトリアの街の光を目視していないが、降り注ぐ砲弾がもたらした被害だけは嫌でも分かってしまう。
更に、砲弾が耕した地面に転落して身動きが取れなくなる車両もあった。
彼等は舗装路に合流するまでの間、そうした地獄を味わわなければならない。
イルトリアへと続く舗装路は戦車の重量にも耐え得るほどの強度を持っているが、しかし、砲弾の直撃には耐えられない。
土と違い、舗装路はある程度自然に直るものではない。
一度壊れてしまえば、車両の通行を妨害する悪路へと変貌する。
車という文明の利器を使う者にとって、それを放棄するという選択肢はまず浮かんでこない。
ましてや、戦場に向かう中、雨が降り注ぐ中という心理的にも環境的にも安心が欲しい人間にとって、鉄の塊である車は手放しがたい存在だ。
イルトリア陸軍の威力偵察部隊はそれらを遠方から見て取り、砲撃の合間に狙撃を行う。
狙撃と砲撃に誘導される形で、敵部隊が舗装路に続々と合流する。
車列を成したところで、先頭車両から狙撃の対象となる。
前輪を撃ち抜き、シャフトを撃ち抜き、もしくは運転手の額を撃ち抜く。
あっという間に渋滞が起き、溜まったところに砲弾が落ちてくる。
それでも、その勢いは萎えることなくイルトリアへと進軍が続いた。
完全装備の陸軍が各地で撃破に向かうも、取り漏らしがある可能性は否定できない。
それらがイルトリアに侵入する前に対応するのが、イルトリアの最高戦力である。
南部から北上してくるカルディ・コルフィ・ファームとその他の軍を合算すれば、3万人を下ることのない部隊が迫ってくることになる。
陸軍が対応して数を減らしたとしても、連隊規模は想定しなければならない。
対応するのはイルトリア陸軍大将、“左の大槌”トソン・エディ・バウアー率いる300人の最優秀の狙撃部隊。
ペニサス・ノースフェイスが残した教え、そして、彼女が確立した単独での狙撃戦を得意とする殺しの精鋭。
さながら蜘蛛の糸のように、互いの死角を補う形で配置についている。
狙撃に特化した装備のソルダットは、有効射程3キロの狙撃銃を構え、いつでも戦える準備が整っていた。
イルトリアまで1キロの地点で彼らは構えているが、最後の砦として立ちはだかるのは、陸軍大将その人である。
(゚、゚トソン「見つけ次第殺せ。
見つけ次第叩き潰せ」
手短な命令を下し、それを狙撃手たちは無言で了解した。
東部から迫りくる敵に対しては、海軍大将“右の大斧”シャキン・ラルフローレンが対応する。
海兵隊の猛者を50人、そして海軍の選りすぐりを50人。
荒地から迫ってきているのは、車両を用いた部隊。
その機動力を奪うための罠が設置され、足場の悪くなった荒野での撃ち合いに引きずり込む準備が整っていた。
最前線で腕を組み、シャキンは部下と共に最悪に備える。
(`・ω・´)「見つけ次第殺せ。
見つけ次第叩き切れ」
こちらもやはり、短い命令を下すだけに留まる。
部下たちは刻一刻と迫る戦闘を前に、武者震いを押さえるのがやっとだった。
海軍所属の人間にとって足場の悪い環境での戦闘は当たり前の事であり、むしろ地面があるだけありがたいというものだった。
南下してくる残党に対しては、“戦争王”フサ・エクスプローラーと海兵隊大将チハル・ランバージャックの二人だけが対応にあたった。
846
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:03:41 ID:K.ug12hY0
ミ,,゚Д゚彡「さて、どう来るかな」
市長の背負う“ロード・オブ・ウォー”は大量の敵を相手にすることに特化した棺桶で、チハルの使用する“シューテムアップ”と合わせて使用することで、優に三桁の敵を相手取ることができる。
放たれる銃弾の数は、数万発を越えることだろう。
从´ヮ`从ト「そら死に物狂いでしょうよ」
迫ってきているのは数千人規模の部隊が複数だと予想されている。
幸いにしてラヴニカからの増援が失敗に終わったため、敵の勢いは決して驚異的なものではない。
二人がそれぞれ用いる棺桶は、こうした状況下でこそ力を発揮するものだ。
そして。
( ФωФ)「とりあえず、落ち着いて飯を食おうではないか。
交代制で、とにかく全員に飯が行き渡るようにな」
!ヽ, __ ,/{
リi、゚ー ゚イ`!「賛成です、主」
イルトリアの街を守る最後の要は、前イルトリア市長“ビーストマスター”ロマネスク・O・スモークジャンパーと、彼の部下である“ビースト”の代表者。
ロウガ・ウォルフスキンはロマネスクの隣に立ち、彼の意見に賛成の声を上げる。
ロマネスクの使う“アンタッチャブル”は集団に穴を開けることに特化し、ロウガの使う“ザ・グレイ”は孤立した敵を確実に仕留め得る棺桶だ。
二人が合わさればロマネスクの通った後に残るのは、無残な死体のみである。
ジュスティアからの客人が三人と、耳付きの少年一人もまた、賛同した。
(*‘ω‘ *)「腹減ったっぽ!!」
ティングル・ポーツマス・ポールスミスは机の上を叩き、料理の催促をする。
それを白い目で見ていたニダー・スベヌは、だがしかし、首肯する。
<ヽ`∀´>「……そうニダね」
(=゚д゚)「餃子だろ? 楽しみラギ」
漂う香りに前のめりになるのは、トラギコ・マウンテンライトとブーンの二人だ。
すでにその料理を食べたことのある二人は、小皿にポン酢を注ぎ、すぐに食べ始められるように準備を終えている。
(∪´ω`)「餃子!!」
そして、彼等が一堂に会した軍食堂の厨房で鍋を振るい、黙々と食事を作るのはティンバーランドの幹部だった男。
シナー・クラークスは無言で料理を作り、そして、大皿いっぱいに盛った餃子を机に置く。
湯気の立ち昇る餃子の表面には黄金色ともきつね色とも言い難い焦げが残り、それでいて包んだ皮から肉汁があふれ出すことのないよう、丁寧に作られていた。
一同が一斉に箸を伸ばし、一心不乱に食べ始める。
その姿は、とても戦争中とは思えない程に微笑ましい物だった。
砂時計から砂が消えて行くように、一定の速度で餃子が皿から消えて行く。
追加の餃子の調理が終わる前に、最初の皿から餃子は姿を消していた。
呆れながらも、新たな皿と交換する。
847
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:04:05 ID:K.ug12hY0
一組に対して大皿2枚分の餃子を提供すること。
それが、捕虜である彼に課せられた仕事だった。
片腕片足を骨折しながらも、その動きは素人目に見ても実に無駄のない奇麗なものだった。
( `ハ´)「次の連中は何人ぐらいアルか?」
新たな餃子の仕込みを始めたシナーの言葉に、ロウガが明るい口調で答えた。
リi、゚ー ゚イ`!「多分50人ずつだ」
野菜を刻む包丁を止めずに、だがしかし、声には確かな動揺をにじませながらシナーが尋ねる。
( `ハ´)「……ずつ?
何組来るアル?」
リi、゚ー ゚イ`!「さぁな」
(;`ハ´)「時間も人手も足りないアルよ」
リi、゚ー ゚イ`!「安心しろ。 民間人と待機中の軍人に振舞うだけだ」
(;`ハ´)「せめて、下ごしらえの手伝いと配膳の手伝いが必要アル」
幸いにして食材は大量にある。
不幸にして、軍内部の調理担当者は皆戦場にいた。
リi、゚ー ゚イ`!「次に来るのは、ビーストの連中だから急いで大量に作らないとすぐに不足するぞ」
ビーストはロマネスク直属の部隊であり、単独任務を得意とする。
耳付きという人種は優れた身体能力を持つ一方で、その消費カロリーは普通の人間とは比較にならない程のものになる。
激しい運動をせずとも、その体を維持するための凝縮された筋肉、動かすための強靭な心臓を支えるためには食事は欠かせない。
(;`ハ´)「だったら、なおさら手伝いが必要アル!!
ビースト50人分の餃子なんて片手じゃ無理アル!!」
半ば悲鳴のような言葉だった。
己の身分を考えればそれを言える立場ではないが、それでも、彼は意見を言わずにはいられなかった。
意外なことに、助け舟を出したのはロマネスクだった。
( ФωФ)「ならば、下ごしらえの途中まであいつらに手伝わせるならどうだ?」
リi、゚ー ゚イ`!「あぁ、それなら出来そうですね」
(;`ハ´)「野菜を切って、規定量の調味料を混ぜて、後は包んでくれればいいアル!!」
大振りの包丁を使い、シナーは野菜をみじん切りにしていく。
それらはまるで魔法のように刻まれ、積まれ、そして混ざっていった。
野菜には塩がまぶされ、もまれ、余分な水分が排除されている。
これを冷蔵庫から出したばかりの、即ち低い温度の状態の挽肉と合わせることによって餡が作られる。
848
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:04:27 ID:K.ug12hY0
更にそれを冷蔵庫で寝かせて冷やし、皮に包んでようやく焼き上げるのがシナーの餃子の調理行程だ。
全ての作業に時間がかかるため、同時並行で行えば一食当たりの提供時間が送れる。
戦場において時間は何よりも重宝する物であることは言うまでもない。
これから戦場に身を投じる人間達にとって食事が重要であるのと同時に、それを楽しむ時間を重んじるのが人間というものだ。
食事が早く提供されれば、それだけ時間を贅沢に使うことができる。
リi、゚ー ゚イ`!「分かった。 ……聞いていたな?
各位、手伝え」
次々と現れた人影は、恐ろしく正確かつ素早く調理の準備を始めた。
シナーの指示に従って野菜を切り刻み、絞り、合わせ、寝かせ、そして包む。
そうして手元にやってきた餃子をシナーが焼き始めると、たちまち香ばしい匂いが厨房に漂い始める。
人間以上の嗅覚を持つ耳付きの彼らは、その匂いだけで破顔していた。
準備をする人間、そして食べる人間でローテーションすることで全員に食事と時間が平等に与えられた。
殺し合いの中、何気のない時間こそが何物にも代えがたい物であることを、イルトリア人は誰よりも知悉している。
ビーストたちが食事をする間、ブーンはロマネスクに連れられ、遺体安置所に向かっていた。
小さな手をロマネスクの大きな手が包むようにして繋ぎ、ヒートの元へと向かう。
道中、二人は無言だった。
安置所に到着し、そして、ヒートの遺体を通称ではない“本物の棺桶”へと移す。
その作業は粛々と行われた。
奇麗に整えられた遺体の周りに色鮮やかな花を供えていく間、ブーンは奥歯を噛み締め、感情が溢れ出ないように耐え続けた。
ヒートはまるで花で作られた布団で眠る様にして棺桶の中に横たわり、そして、もう二度と起き上がらないことをブーンに強く認識させる。
出会い、過ごした日々は決して長いとは言えない。
しかし、その間に交わされた言葉や想いは両者の人生を大きく変えるだけのものがあった。
まだ話したいことも、聞きたいことも、教えてもらいたいことも、山のようにあった。
二度とそれが叶わないと思うだけで、悔しさと寂しさが胸に去来する。
言葉に出さず、ブーンは胸中で彼女に伝えたかった言葉を反芻しながら、ヒートの顔の傍に花を添えた。
自らの手で棺桶の蓋を閉め、そして、火葬に送り出した。
ただボタンを押すだけの作業ではあったが、それはブーンの心の中での区切りの儀式でもあった。
:;(∪; ω );:
( ФωФ)
火葬が終わるまで、ロマネスクは無言でブーンの傍にいた。
手を繋ぎ、ただ静かに、傍にいた。
ただ、手を繋ぎ。
ただ、傍にいる。
それだけで人は――
849
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:04:49 ID:K.ug12hY0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
どんな夢でも、力があれば叶えることができる。
夢を叶えられないと嘆く人間は、ただの弱者である。
叶うまで行動し続ければいいだけなのだから。
――ウォルマート・ディズィー
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
世界が戦争に夢中になる中、恐らくは世界で最も平和な街となったオセアンにはティンバーランドの幹部が集っていた。
それは一部の人間だけが知る集まりであったが、目的を知るのはさらに少ない四人だけだった。
四人は一軒のレストランを貸し切り、食事をしながら船の最終点検が終わる報告を待っていた。
o川*゚ー゚)o
キュート・ウルヴァリン。
ジュスティア殲滅後、予定通りにオセアンに到着した彼女は身なりと装備を整え、悠然と紅茶を堪能している。
その青い瞳は部屋を反射しているが、見ているのは別の物だった。
夢が叶う寸前、夢が現実になる一歩手前の心地。
その目が見るのは、これから別れを告げる世界の姿だった。
夢が現実と置き換わる。
後は、時が来るのを待つのみ。
ξ゚⊿゚)ξ
内藤財団副社長、西川・ツンディエレ・ホライゾン。
ニョルロックから直接オセアンに向かい、そこで世界情勢を収集しつつ、夢に至る最後の一歩に向けた準備を行っていた。
決して誰かに悟られず、知られず、気づかれないように進めてきた計画の最終段階。
その準備が、もう間もなく完了する。
彼女の中で考え得る全ての準備、想像し得る全ての障害に対抗する手段は実行済みだ。
後は、時が来るのを待つのみ。
( ^ω^)
内藤財団社長、西川・リーガル・ホライゾン。
生まれながらにして役割を与えられ、それをこなし続けてきた男。
世界を一つにするために粉骨砕身の努力を惜しまず、25歳になるまでを日々過ごした。
準備された日常、用意された友人、与えられた夢。
後は、時が来るのを待つのみ。
( ^ω^)
そして、内藤財団総帥、内藤・ネイサン・ホライゾン。
その存在を極限まで秘匿しつつ、世界に干渉してきた内藤財団の中心人物。
彼の存在を知るのは、ティンバーランドの最高幹部である三人だけだ。
他の幹部はその名前程度の存在しか知らず、公に顔を見たことのある人間は皆無と言っていい。
850
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:05:13 ID:K.ug12hY0
彼はこの日を待ち続けた。
夢を引き継ぎ、そして間もなく夢だったものが現実となる。
後は、時が来るのを待つのみ。
そう。
後は、時が来るだけなのだ。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
夢の成就とは、夢が終わることではない。
新たな夢の始まりなのだ。
――内藤・ネイサン・ホライゾン
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
世界が戦争という行為を許容する中、一機のヘリコプターがニョルロックからラヴニカに向かっていた。
バッテリーの残量を考慮し、高度は低めに設定されたまま一直線に向かう。
既にヘリはラヴニカに迫り、海が見える場所にまで来ていた。
操縦桿を握るのは元イルトリア軍人のギコ・カスケードレンジ。
その隣で地図と方位磁針を使って指示を出すのは、デレシアだった。
暗闇と悪天候の中でも彼女の指示は完璧で、日中と変わりのない安定した航路を取ることが出来ていた。
(,,゚Д゚)「そろそろ作戦を教えてくれてもいいんじゃないか?」
その言葉にデレシアは少し考える仕草を見せ、そして言った。
ζ(゚ー゚*ζ「そうね。 とりあえずラヴニカに寄って、バッテリーの交換をしましょう。
後は、あなたの棺桶の受け取りね。
それからあいつらを追うわ」
(,,゚Д゚)「なら、次の場所はオセアンか?」
二人の乗るヘリでは、バッテリー容量の問題でニョルロックから直接オセアンに行くことも、クラフト山脈を越えることもできない。
故に、クラフト山脈を大きく回り込み、それからオセアンに向かうことが最短の道のりだった。
内藤財団の幹部がオセアンに向かっていることを把握していたギコの言葉に、デレシアは頭を振る。
ζ(゚ー゚*ζ「いいえ、別の場所。 やつらの目的地に行きましょう。
“バミューダトライアングル”よ」
ギコの眉が僅かに動く。
いくつもの船舶が行方不明になり、不気味な噂だけが取り残された地域の名前だ。
実在はするが、すでにその存在が残っているかは分かっていない。
(,,゚Д゚)「ここまで来てオカルトかよ」
851
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:05:43 ID:K.ug12hY0
ζ(゚ー゚*ζ「ふふっ、そうね。
オカルトのようなものをあいつらが追っているからこそ、私達もそこに行くのよ。
行き先が分かっているのなら、それが一番。
まぁ、多分道中で会うでしょうけど」
(,,゚Д゚)「詳しく訊いても?」
大真面目に語るデレシアの口調に、冗談やからかうような物は含まれていない。
ラヴニカの明かりが大きくなってくるにつれ、街の輪郭が薄らと見えてきた。
ζ(゚ー゚*ζ「少しだけなら教えてあげる。
バミューダトライアングルは実在するわ」
(,,゚Д゚)「……捜索隊が出て、その場所を再々調査したんだろ?
で、見つからなかった。
実在する、しないの議論は終わったはずだ。
実在はした、だが今は行方不明である、って答えのはずだと思ったが」
ζ(゚ー゚*ζ「違う場所を探したのよ、彼らは。
そして正しい場所を見つけた連中が、その研究の為に情報封鎖したの」
理屈としては正しい。
ただし、理由が分からない。
(,,゚Д゚)「仮にバミューダトライアングルが実在するとして、連中がそこに行く意味は?
もっと言えば、何でこのタイミングなんだ?
このタイミングでなければならない理由は?」
ζ(゚ー゚*ζ「その辺はまだ秘密。
ギコ、あなたには復讐の機会をあげる。
それで十分でしょう?」
それ以上は質問を受け付けないし、答えることもないと分かる口調だった。
実際、ギコは復讐さえできればそれでいいと考えている。
世界の命運も、世界の秘密も、どうでもいいのだ。
(,,゚Д゚)「……あぁ、そうだな」
デレシアはそれに満足したのか、笑みを浮かべる。
そして、懐中電灯を使いラヴニカに向けて光信号を送り始めた。
ここまできて撃ち落とされたら笑うに笑えない。
幸いにしてラヴニカからも光信号が返ってきて、無事に二人を乗せたヘリが着陸することが出来た。
( "ゞ)「……驚いた、本当に、いや驚いた」
雨の中で出迎えたのは、フォクシーギルドのデルタ・バクスターだった。
レインコートに身を包むデルタの声は、ヘリのローターが回転を止める前に口から漏れ出たものだった。
その驚きの声は、ヘリが来たことに対してではないのだと表情が物語っている。
まるで、幽霊の類を目撃したかのような驚きの色があった。
852
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:06:09 ID:K.ug12hY0
それは間違いなく、デレシアに対して向けられた感情だった。
ζ(゚ー゚*ζ「バッテリーの交換を急ぎでお願い。
後、ギコが預けていた棺桶を受け取りに来たわ」
( "ゞ)「えぇ、それは勿論。
他に必要な物は?」
ζ(゚ー゚*ζ「カフェインレスコーヒーを淹れた魔法瓶と軽食をもらえるかしら?
少し冷えてきたわ」
( "ゞ)「かしこまりました」
無線機でデルタが指示を出す間、ギコは腕を組んで考えていた。
ラヴニカがかなりの打撃を受け、今復興中であることは言を俟たない。
その中でもデルタが担う役割は大きなものであり、少しでも現場で指揮をしたいことだろう。
それでも、デレシアに会いに来て要望を叶えるというのは間違いなく特別待遇だ。
(,,゚Д゚)「先生もあんたの事を知っていた。
それも、随分と昔からだ。
顔が広いんだな」
ζ(゚ー゚*ζ「運がいいだけよ」
ほどなくして、大きな魔法瓶が運ばれ、アルミホイルに包まれたハムとチーズのホットサンドが振舞われた。
コックピット内で包みを開き、大きく頬張る。
ピザソースとレタス、そしてからしマヨネーズが味の調和と旨味の相乗効果を生み出していた。
カフェインレスとはいえ、コーヒーの程よい苦みと香ばしさが操縦で疲れた体に染み渡る。
(,,゚Д゚)「こんなにゆっくりでいいのか?」
世界を変えようと試みる戦争が始まって、もう間もなく一日が経とうとしている。
それだけの時間があったのであれば、とうに目的を達成するには十分な時間だったことだろう。
ζ(゚ー゚*ζ「えぇ。 あいつらは夜明け前にしか動けないもの」
(,,゚Д゚)「こんな空で夜明けも何もないだろ」
世界が暗闇に染まったのは午後のこと。
日の光が失われた今、夜明けと日暮れの違いを知るには時計を見るしかない。
ζ(゚ー゚*ζ「バミューダトライアングルの周りにある嵐が最も弱まるのは夜明け。
そこを狙わないとその先には行けないの。
ギコ、あなたは嵐の手前で復讐を果たせばいいわ。
その先は私のやるべきことだから」
それは有無を言わせぬ言葉だった。
復讐の機会を与えられた以上、他には望むべきではないと暗に伝えているのだ。
(,,゚Д゚)「……分かった」
853
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:06:53 ID:K.ug12hY0
嵐の手前で復讐を果たすために、選べる手段はそう多くない。
ホットサンドの残りを一口で頬張り、ギコは瞼を降ろす。
コーヒーを一口飲み、嚥下する。
そして、静かに息を吐く。
(,,゚Д゚)「俺も、俺のやるべきことをやる」
バッテリーの交換が終わった連絡が届き、ほどなくして棺桶が後部座席に積み込まれる。
重量が一気に増えたことで機体バランスとバッテリーの消耗が心配だったが、ローターを再始動して聞こえてきた音に問題がない事を確認して安堵する。
離陸の準備を始めると、デルタがデレシアの元に歩み寄ってきた。
( "ゞ)「デレシア様、お気をつけて」
ζ(゚ー゚*ζ「ありがとう。 ラヴニカをよろしくね」
そして握手を交わし、デレシアがギコに目線を向ける。
ゆっくりと離陸し、ラヴニカの街並みが消える頃、ギコが口を開く。
(,,゚Д゚)「方角は?」
ζ(゚ー゚*ζ「ジュスティアとイルトリアの間よ。
そこにバミューダトライアングルがあるわ」
世界の両端。
世界の天秤を保ってきた街の間に、それがある。
その事実について、ギコは初耳というわけではなかった。
ジュスティアとイルトリア間での戦争は、常に陸での戦闘が主となることが想定されていた。
海路を使えばすぐにでも攻撃が可能だというのに、彼らは常に睨み合い、そして互いに干渉しないようにしてきた。
歴代の市長たちが幾度もあった戦争勃発の危機に際して、決して最後の一線を踏み越えなかった理由。
クラフト山脈という巨大な壁が世界を二分し、そして、それが不可思議な均衡を保ち続けていた。
海路が作戦の前提から外され続けた最大の理由。
その正体こそが、バミューダトライアングルの存在だったのだ。
実績のある怪異、あるいは事実と認識された悪夢。
にわかには受け入れがたい事実であるが、今はそれを受け入れる他なかった。
(,,゚Д゚)「なるほどな」
機体を旋回させ、南東に進路を取る。
後は、指針がずれないことだけを意識して進むだけだ。
無言の間が気まずいということではないが、何故かデレシアを前にするとギコの口は自然と独白の様な言葉を紡いでしまう。
(,,゚Д゚)「……先生は、あまり自分について話さない人だった」
ζ(゚ー゚*ζ「そうね、ペニーはそういう人だったわね」
(,,゚Д゚)「もしよければ、教えてくれないか?
勿論、話せる範囲でいいんだが」
854
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:07:14 ID:K.ug12hY0
ζ(゚ー゚*ζ「教えられる範囲で、か……」
デレシアは考え込み、そして、ゆっくりと口を開く。
ζ(゚ー゚*ζ「昔も今も、外も中も美人だったわよ」
(,,゚Д゚)「あぁ、知ってるよ。 いい歳の取り方をしているって、もっぱら評判だった」
人は歳を取るにつれ、それまでの生き方が顔に現れてくる。
特に、老人と呼ばれる年齢になるにつれ、それは如実に顔に現れてくる。
不思議なことに、懐疑的な人間は狐に似た表情に寄り、沸点の低い人間は最初から怒りの表情が顔に張り付いている。
ペニサスは年老いてもなお、軍人とは思えぬ慈悲深い性格がそのまま表情に現れていた。
狙撃手として生き、そして多くの死体を積み上げてきた“魔女”は、その実誰よりも優しい人間だった。
少なくとも、ギコにとって彼女は家族と同じだけの優しさと厳しさを向けてくれた存在であり、かけがえのない存在だった。
ζ(゚ー゚*ζ「ふふっ、それは良かった」
(,,゚Д゚)「いつ頃から知り合いなんだ?」
ζ(゚ー゚*ζ「親しくなったのは会ってから少ししてだから、そう言う意味では知り合いになったのはティンカーベルね。
あの時はあそこまで仲良くなるとは思っていなかったけど、出会えてよかったわ」
(,,゚Д゚)「確かに、あの人は時々ティンカーベルの話をする時があったな。
バイクで旅をするのが好きだった、って聞いたことがある」
ζ(゚ー゚*ζ「そうね。 その時も休暇を利用してバイクで来ていたわね。
その時のバイクが色々な人の手を渡って、今は“ディ”って名前で一緒に旅しているわ」
(,,゚Д゚)「世の中の狭さを感じるな」
デレシアの相槌は、ギコにとって一切のストレスを与えることはなかった。
故に、頭の中に溜まっていた疑問や想いが次から次に出てくる。
しかし、これ以上は口に出さない方がいい。
口に出すべきこと、そしてそうでない物の分別はつけられる。
だから、彼女の知り合いであるデレシアに対してギコが言うべき言葉は一つだけだった。
(,,゚Д゚)「……俺は、事ある度にあの人の教え子で良かったと心底思うよ」
ζ(゚ー゚*ζ「きっと、ペニーもあなたに教えられて良かったと思っているわ」
軍隊に入ってから、自分の生き方について悩むことが多々あった。
人を殺して金をもらう。
人殺しとの違いを考えれば考えるほど、自分の生き方が正しいのかと疑問に思う日が続いた。
己を殺しながら訓練と実戦を積み重ねる日々の中で、明らかに年寄りの女に負けた日のことは鮮烈に記憶に刻まれている。
855
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:07:37 ID:K.ug12hY0
その日から教えを請い、自分の中にある才能を見出された。
それは狙撃の才能だった。
本来は精密な計算を必要とする狙撃に対して、ギコは驚くべき直感と感覚によってそれを不要とした。
いつ銃爪を引けば銃弾がどの方向に飛び、そして曲がり、命中するのかを想像できた。
訓練の中で、彼に観測手は不要だった。
銃爪を引けば命中させられる。
それは狙撃手として恐るべき才能だったが、彼には優しさという欠点があった。
どこまでも冷酷非道にならなければならない狙撃手が甘さを持つということは、言うまでもなくあまりにも致命的な欠点だった。
ペニサスは、それを彼の愛すべき欠点だと言った。
その言葉は、彼の中で今も生き続けている。
軍を引退し、人を救うことに死力を尽くして今に至っても、なお色あせることのない言葉だ。
彼に狙撃の才能と欠点があったからこそ救えた命もあり、変えられた戦局もあったのだ。
その言葉があったからこそ、今のギコがある。
それから無言の時間が続いたが、気まずさは感じなかった。
黒曜石のように黒い海の上に広がるのは、灰色と黒の混じった空。
フロントガラスに叩きつけられるのはコールタールじみた黒い雨粒。
計器類が放つ淡い光とローターの轟音だけが、機内に漂っている。
海上で今自分がどこにいるのかを把握するためには、方位磁針か星に頼るほかない。
しかし、デレシアは一切の迷いなくギコに指示を出していく。
彼女が出発してから方位磁針を一度も見ていないことに、ギコは気づいていた。
ζ(゚ー゚*ζ「このままで大丈夫。
そろそろ準備しておいた方がいいわよ」
ギコは頷き、オートパイロットに切り替えてから後部座席に移動する。
自然と高度が上昇し、より広い視野が確保される。
(,,゚Д゚)「どっちを使うかは到着してから決める。
連中の船の種類は想定できるか?」
チェイタックカスタム“ネイラー”を使う狙撃特化の“シューター”。
そして、彼が使ってきた要塞攻略特化の“マン・オン・ファイヤ”。
この2機の棺桶が今ヘリに積まれており、それぞれの長所と短所がある。
相手の正体に応じて使い分けるのはあまりにも自然なことだ。
ギコの質問に対して、デレシアは驚くほど滑らかな口調で答えた。
ζ(゚ー゚*ζ「最低でも4人乗りの船で、そして余計な機械を積んでいない船ね。
最悪帆船の可能性もあるけど、多分原始的なエンジンを積んだ船が現実的ね。
足が速くないから、途中まで牽引してもらっているかもしれないわね。
場合によっては、ギリギリまで別の船に格納していて、嵐の中で出発するかも。
後は、護衛艦がいると考えるのが自然ね」
(,,゚Д゚)「嵐を抜けるにしちゃ、そりゃ随分とラフだな」
856
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:08:00 ID:K.ug12hY0
ζ(゚ー゚*ζ「そうね。 ラフだけど、それ故に頑丈よ」
あらゆる人工物に言えることだが、作りがシンプルであればあるだけ、それは頑丈さにつながる。
嵐の中を進むのであれば頑丈さを求めるのは道理だが、帆船は流石に原始的すぎる。
無論、木造ではなく金属製の船体で、尚且つ帆も最新の素材なのだろう。
しかしながら、嵐の中で帆を張るなど自殺行為にも等しい。
確実性を求めるのであれば、最新の電子機制御を用いたエンジンを使うのが道理だ。
理にかなっていない。
そんなギコの疑念の応えるようにして、デレシアは続けた。
ζ(゚ー゚*ζ「精密機器を持ち込むとすぐに壊れるのよ、あの辺り。
だから単純な方がいいの」
(,,゚Д゚)「雷とかの影響か?」
ζ(゚ー゚*ζ「そんなところ。 さぁ、夢見がちな連中の目を覚まさせに行きましょうか」
そして眼前に航海灯の赤と緑の光を見つけ出す。
やがて巨大な船のシルエットが見えた瞬間、機内の空気が変わった。
(,,゚Д゚)「……あれか」
それは、それ一隻が街にある港程の大きさを持つ三隻の巨大な船だった。
まるで動く城壁そのものと言える直線の多い造形、そして槍衾のように突き出したアンテナ類と銃腔。
帆船とは程遠い、近未来的な物だが、間違いなく船の類ではあった。
全体のシルエットをよく見れば三角形に近い姿をしているが、強引に着陸できないというわけでもなさそうだった。
その直後、まばゆい光がヘリコプターを照らし出す。
急いで席に戻り、自動操縦から手動へと切り替える。
機首を下に向け、重力を味方につけて急降下させる。
(,,゚Д゚)「気づかれたな」
ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、そうね」
(,,゚Д゚)「ここから先は別行動だ」
ζ(゚ー゚*ζ「気を付けてね」
敵の数は不明。
しかし、戦力の差は数百倍以上。
墜落寸前の速度での降下を終えて機首を強引に持ち上げ、射線に入らないように海面ギリギリを飛行させる。
曳光弾が後を追うようにして放たれるが、もう遅い。
超低空からの接近は、船が大きければ大きいほど迎撃が困難になる。
雨とも海水とも分からない水を受けながら、ヘリが中央の一隻に接近する。
857
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:08:25 ID:K.ug12hY0
ζ(゚ー゚*ζ「……大型原子力ステルス艦“ヘミングウェイ・ペーパー”。
随分とまた、珍しいのを引っ張り出してきたわね。
ギコ、操縦は私がやってあげる。
降りてからは好きにしていいわよ」
(,,゚Д゚)「そうさせてもらう」
そして、機首がほぼ真上を向いて一気に加速。
急上昇を始め、船の直上にまで舞い上がる。
銃弾が機体を削る音が聞こえてきたところで、ギコは棺桶を背負い、ライフルケース型のコンテナを落とす。
躊躇うことなく背を下に向けて飛び降り、そして、起動コードを口にする。
(,,゚Д゚)『目には目をではない。貴様らの全てを奪い取る』
コンテナに体が取り込まれ、彼の体に強化外骨格が取り付けられていく。
そして、重装甲の棺桶“マン・オン・ファイヤ”が姿を現す。
ム..<::_|.>ゝ『いくぞぉぁあああああああ!!』
空中でもう一つのコンテナを掴み、そして、着地。
船体が傾くほどの衝撃は、だがしかし、装甲の一部を歪めただけだ。
並の船舶であれば転覆させるほどの勢いだったのだが、とギコは内心で相手の船への評価を改めた。
直後に頭上で花火かと見紛う爆発が起きたが、その正体を仰ぎ見ることはしない。
〔欒゚[::|::]゚〕『るぁあああああ!!』
雄叫びと共に大振りの剣を振り下ろしてきた男の一撃を回避し、回避した際の遠心力を利用してギコの左拳がその頭部を捉える。
Bクラスの棺桶とCクラスの棺桶の膂力は、その種類にもよるが基本的には倍以上の差がある。
全力で放たれた左ジャブは、ジョン・ドゥのマスクを砕いて使用者の顔を潰した。
ム..<::_|.>ゝ『バンカーバスター!!』
武器の使用コードを入力し、右腕の武装規制を解除する。
目を覚ました右腕のコンテナ“ヘックス”を船の装甲に叩きつけ、そこから強力な対地下施設攻撃用の特殊貫通弾を放つ。
一撃で複数の装甲を一瞬で貫通し、船底にまで続く大穴を開けた。
遅れて爆炎がその穴から吹き上がる。
〔欒゚[::|::]゚〕『炉をやらせるな!!』
更に複数のジョン・ドゥが姿を現し、銃弾を浴びせかけてくる。
あらゆる船舶における弱点。
それは、内側からの攻撃への脆弱性である。
強力な火砲は全て外側に向けられるものであり、内側へは間違っても攻撃が出来ないようになっている。
更に、船の設計にもよるが、真上からの攻撃に対抗する手段はほとんどない。
取り付けられた機銃も真上を向く前提で作られていないため、ギコの降下を止められなかったのだ。
故に、船に乗り込んでしまえば後は船に残っている人間だけが頼みの綱なのである。
そして彼らは炉を破壊されることを恐れている。
858
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:08:48 ID:K.ug12hY0
デレシアの言うところの原子力がニューソクを意味していることは分かる。
ニューソクによる爆発をここで起こせば、彼らが守ろうとしている対象も消し飛ぶことになるからだ。
自爆覚悟で攻撃すれば、ギコの目的は達成される。
だがそれでは意味がない。
奪うのだ。
彼らの命を、夢を。
こちらが死ぬことなく、ただ一方的に奪うのだ。
バンカーバスターを撃ち込んだのは、その先に炉がない事を確信しての一撃だった。
仮にあったとしても、重装甲の船でその個所を強固にしない理由はない。
ニューソクという取り扱いに慎重さを要するものは、総じて強力な安全装置も備わっているものだ。
彼らの重鎮を運ぶ、もしくは守るための船であればその機能は必須である。
しかし、船底に穴を開けられれば船の中に隠れている人間は皆姿を現す。
船と共に死ぬのは船長だけだ。
蜂の巣を叩き落すように、ギコはマン・オン・ファイヤの兵装で攻撃を続行する。
ム..<::_|.>ゝ『テルミットバリック!!』
特殊焼夷弾のコンテナを左手に装着し、そして、開けた穴に容赦なく炎を投じる。
一瞬、船体が大きく膨らんだような気がしたが、直後に熱風が穴から噴き出した。
続けてもう一隻の船に狙いを定める。
デレシアがどの船にいるのかは分からない。
しかし、こちらの攻撃で死ぬような人間ではないはずだ。
放った一発の特殊焼夷弾が船に命中すると、白い炎が船体を覆った。
日中の太陽が出現したかと思うほどの光と共に六千度の炎が周囲百メートルを焼き尽くし、酸素を獰猛に消費する。
暴風にも似た風が周囲に吹き荒れる中、ギコの目は信じられない物を目の当たりにしていた。
船は燃えておらず、悠々と航行を続けているのだ。
船は無事だが、周りにいた船員は皆炭化していた。
ム..<::_|.>ゝ『耐熱装甲か』
先ほどバンカーバスターで開けた穴からも終ぞ炎が出ておらず、この船全体が高い耐熱性を要していることが分かった。
テルミットバリックの炎を防ぐほどとなると、マン・オン・ファイヤに使用されている装甲と同じものが使われているのだろう。
ならば、テルミットバリックは目くらましにしかならない。
潔くテルミットバリックを切り離し、投棄する。
残った最後の一隻の船から大量の銃弾が浴びせかけられる。
曳光弾が花火のように飛来し、周囲の全てを薙ぎ払おうとする。
おぞましいほどの暴風は、とてもではないが回避は出来ない。
銃装甲のマン・オン・ファイヤの装甲に触れるたび、そこが削られている感覚が伝わってくる。
左手でコンテナを構え、盾の代わりにする。
ム..<::_|.>ゝ『切り札は俺が使いたいときに使う』
859
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:09:12 ID:K.ug12hY0
そして、“シューター”の起動コードを入力。
解放されたコンテナからライフルだけを手に取り、ギコは片手でそれを構えて発砲した。
スコープを覗かずとも、距離が300メートル以内であれば当てられる自信があった。
そしてそれは裏切られることなく、ギコに機銃掃射を行っていたジョン・ドゥの胸部を貫く。
ライフルを横に構え、反動を利用して連続射撃を行う。
チェイタックカスタムの“ネイラー”は機械によって自動で棹桿操作を行うことが可能であり、今のように片手でも狙撃が行えるようになっている。
セミオートと違い、排莢の際の反動などを利用するわけではなく、ボルトアクションを機械が代行するという仕組みのため、狙撃性能に影響は出ない。
あらゆる状況下で観測手なしでの狙撃が可能、というコンセプトを実現するためのその銃は、一発が必殺の威力を持つものだ。
十発込められた弾倉を一つ使いきり、新たな弾倉と入れ替える。
この十発が、ネイラーで使用できる最後の弾倉である。
船が傾き始めたことを沈没の前兆と捉え、ギコは助走をつけて隣の船へと飛び移る。
ギリギリで着地に成功し、再び右腕を振り上げる。
しかし、振り下ろすことなく動きを止めた。
ム..<::_|.>ゝ『……お前か』
それは、直感だった。
何者かがギコに対して殺意を抱き、向け、そして決意を固めた意志を感じ取った故の言葉だった。
( ^ω^)「私だよ、闖入者」
内藤財団社長、西川・リーガル・ホライゾン。
背負うのは見るからにCクラスの棺桶だ。
顔には笑顔を、しかし、それは決して友好的なものではない。
成形された笑顔を貼り付けているだけで、その裏に潜む殺意と敵意は隠しきれていない。
周囲に漂うテルミットバリックの熱が、その姿を揺らめかせる。
( ^ω^)「お前は誰だ?」
船が大きく揺れる。
風が強い。
周囲の天候が変わっていることにギコは気づいた。
今彼らは、嵐に触れているところだ。
これから間もなく嵐の中に入り、そしてその先を目指すことになるはずだ。
深入りすればギコも無事では済まない。
しかし、復讐を果たさずにこの場から立ち去るつもりはなかった。
ム..<::_|.>ゝ『お前らに先生を殺された、ただの一般人だよ』
( ^ω^)「先生? ……あぁ、ペニサス・ノースフェイスか。
どうせ老い先短いんだ、別に構わないだろう」
860
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:09:33 ID:K.ug12hY0
その言葉は、どこか演技じみていた。
己の本心で語る言葉と違い、どこかに脚本があるかのような虚無感があった。
何にしても、安い挑発に乗る程ギコは若くはない。
幾つもの戦場、死地を越えて今に至る彼にとって、その程度の言葉は意味がないのだ。
正確に言えば、ペニサスが殺された時点で、彼の怒りはこれ以上ないほどに燃え上がり、燃料の投下は意味を成さなくなっていた。
今が怒りの頂点。
彼女を奪われてから、彼の心は怒り一色に塗りつぶされ、復讐を果たすための装置と化していた。
今更どのような挑発の言葉が投げかけられようとも、意味はないのだ。
ム..<::_|.>ゝ『挑発は意味がないぞ。
棺桶を使うんだろう?
来いよ、それまで殺さないでやる』
決して慢心ではない。
ギコの目的は完璧な復讐である。
内藤財団の幹部がこうして出てきてくれるのならば、十把一絡げで処理するのはあまりももったいない。
一人ずつ、丁寧に夢を踏みにじって殺したいのだ。
横から殴りつけるように降ってくる雨の勢いが強くなる。
蒸発した水分が白い湯気を上げる。
リーガルは雨に濡れ、風で乱れた髪をかき上げた。
( ^ω^)「そうか」
そして、リーガルは覚悟を決めた様に口を開く。
紡がれるのは、必然、コンセプト・シリーズのそれだと分かる言葉の羅列。
( ^ω^)『私は今までに幾つか恥ずべきことをしてきたが、地獄をこれほど身近に感じるのは初めてだ。
しかし、私はこの道を歩み続ける。色褪せぬグリーンマイルを』
現れたのは、蜘蛛の様な四脚を持つ異形の棺桶だった。
本体の大きさはよくてBクラス。
コンテナの大きさがCクラスだったのは、間違いなく大型の四脚を収納しているからだろう。
身の丈と同じだけの脚部には見るからに堅牢な装甲が備わっており、機動力と防御力の両立を狙っているのが分かる。
脚部の先端はナイフの様に鋭く尖っており、それを攻撃に使用するために必要不可欠な関節部は複数存在していた。
問題は、何に特化した棺桶なのかということだ。
マン・オン・ファイヤは単純な破壊力であれば恐らくは最高の物だが、先ほど最大火力のテルミットバリックが防がれたことを思えば、絶対ではない。
そして装着と同時に攻撃を仕掛けてこないことを考慮すると、防御力には自信があるのだろうが、攻撃に関して近距離が専門なのだろう。
< ゚ |゚>『同じ夢を見ることはできないか』
手に武器らしい武器は見られない。
ム..<::_|.>ゝ『無理だな。 今ここで潰える夢など興味もない。
死ぬ準備は出来たか?』
< ゚ |゚>『死ぬ? 私は死なない。
ここで敗れたとしても、夢と共に生き続ける』
861
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:09:55 ID:K.ug12hY0
頭上で雷鳴が響いたと同時にギコは踏み込み、一気に接近する。
相手の攻撃と強みを同時に理解するため、ギコが選んだのはバンカーバスターによる速攻の一撃だ。
当然の動きとして、相手は両足を目の前に掲げる。
収納されていた盾が展開し、防御の姿勢を取る。
そこでギコは、違和感に気づいた。
こちらの一撃がいかなるものか、知らないはずがない。
なのに、そんな薄い装甲で防げると本気で思っているのだろうか。
だが試してみなければ真意は分からない。
叩きつけられたバンカーバスターの先端部に青白い光が光ったのを見た時、真意に気づく。
バンカーバスターを緊急排除し、その場に投棄する。
直後に起きた大爆発に身を委ね、あえて爆風に吹き飛ばされる。
それは衝撃を受け流し、吹きすさぶ風が彼の体を船上にとどめるだけに十分な手助けをした。
ム..<::_|.>ゝ『電磁反応装甲……とは違うな』
< ゚ |゚>『いい勘をしているな。 流石イルトリア軍人』
恐らく、その正体は高圧電流。
金属の類が触れようとした瞬間に放電され、それを警手して精密機器を無力化、暴走させる類の物だ。
コンテナが叩きつけられたのをきっかけに電気が流され、制御システムが破壊されたことからも、その可能性が高い。
近接戦では恐らくこれ以上ないぐらいの盾になるだろう。
無論、無傷で済む類の盾ではない。
攻撃を受ける前提の盾であるため、一度攻撃を受けた個所は使えなくなることが前提になっているはずだ。
ギコの攻撃を誘発したのは、ギコならば違和感に気づいてバンカーバスターを投棄することを予期していたからだろう。
あのまま攻撃を続けていれば殺せたかもしれないが、ギコの右腕は無事では済まなかった。
主兵装を二つ失った状態のマン・オン・ファイヤは、だがしかし、攻撃の術を失ったわけではない。
ム..<::_|.>ゝ『その自信、つまりは』
左手で構えたライフルの銃爪を引く。
対強化外骨格用の弾頭であれば、盾を貫通してその先にある肉体を抉るはず。
しかしながら、構えた脚部の前で青白い光が煌めいただけで、銃弾が当たった様子はない。
ム..<::_|.>ゝ『なるほど電気、強力な磁場か』
< ゚ |゚>『この短時間でそこまで推測するとは、いやはや、ここで殺すには惜しい』
ム..<::_|.>ゝ『素人のお前に俺が殺されると?
勘弁してくれ、全く笑えない』
< ゚ |゚>『できれば避けたいんだがね。
どうだろう、今からでも?』
ム..<::_|.>ゝ『さっきから全然動いていないのは、腰でも抜けたか?
それとも、そこから動けない理由でもあるのか?』
862
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:10:18 ID:K.ug12hY0
これだけ強力な防御手段を持っているのならば、今のギコに攻め込まないのは理にかなわない。
理にかなっていないということは、理由があるということだ。
< ゚ |゚>『そんなもの』
ム..<::_|.>ゝ『もう一人、こっちを見ている奴だな。
ほら来いよ、仲間はずれになんてしないさ。
仲良くぶっ殺してやる』
船内に続く扉が開き、金髪の女が姿を現す。
ξ゚⊿゚)ξ「傲岸不遜な態度だな。
自分の立場が分かっていないようだ。
……デレシアかと思えば、ただの雑魚か」
内藤財団副社長、西川・ツンディエレ・ホライゾン。
社長と副社長が同時に接待をするとは、よほどの人手不足かギコを重要視しているに違いない。
これ以上ないぐらい、ギコにとっては喜ばしい展開だった。
相手が逃げ出さずにわざわざ来てくれるのだ。
ム..<::_|.>ゝ『客じゃないし、知り合いでもない。
俺はお前らの全部を奪いに来たんだ。
夢も希望も、お前らには残しはしない』
鋭い眼光がギコを睨みつける。
その種の眼光にギコは見覚えがあった。
これは、パラノイアを抱く類の人間が他人に向けるそれ。
即ち、高純度の敵意と狂気。
ξ゚⊿゚)ξ『いい物は決して滅びない。 だから、夢も希望も滅びない』
紡がれるのは、やはりコンセプト・シリーズと分かる起動コード。
そして姿を現したのは、リーガルのそれと同じく蜘蛛じみた関節の長さを持つ四脚の棺桶。
ただし、その四脚は全て履帯。
一目で特化している設計とその思想が分かった。
悪路の走破。
あらゆる道を突き進むという意思を持ち、それを体現した棺桶だ。
その走破性を生かし、どんな場所でも難なく戦闘をこなし、支援することができるのだろう。
それが例え揺れる船上であっても、濡れる足場であっても関係はないはずだ。
後は、武装として何を選択しているか。
〔:::゚占゚:〕『お前に殺された同志たちの無念は、ここで晴らす』
ム..<::_|.>ゝ『何でもいい、さっさとしてくれ』
863
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:12:42 ID:K.ug12hY0
狙いは時間稼ぎ、あるいは足止めなのだろうかと思うほどに悠長に構えている。
すでに部下の大半を失い、後はデレシアという厄介な存在が控えているのだ。
確かに、目的地に到着するまでの時間を稼ぎたいのだろう。
手の内を全て出させた後で殺せればギコとしてはどうでもいいため、相手の寸劇に付き合うことにした。
こちらは時間に追われていないのだ。
じっくりと料理してもいいし、早々に殺してもいい。
< ゚ |゚>『らあっ!!』
リーガルが飛び掛かってきても、ギコは驚かなかった。
この状況ではそれが最も好まれることは言うまでもないため、予想される行動の中に入っていないはずがない。
連携も糞もない一撃。
素人の喧嘩に毛が生えたようなものだが、一撃の持つ威力は馬鹿にできない。
頭上から振り下ろされた二振りの足をバックステップで回避し、続くツンディエレの突進を飛びあがって回避。
そして、ツンディエレの背に取りつき、素早く羽交い絞めにして溜息を吐く。
獲物はブルパップのアサルトライフルだったが、それを撃つ間も構える間も与えない。
そして、一気に力を入れる。
〔:::゚占゚:〕『ぐっ、こいづっ……!!』
仮に装甲に守られているとは言え、Cクラスの棺桶が放つ羽交い絞めは同じ程度の装甲がなければ防げるものではない。
むしろ身に着けた装甲が更に首を圧迫し、生身で首を絞められるよりも早く苦しみが訪れる。
ム..<::_|.>ゝ『……』
振りほどこうと暴れるが、羽交い絞めの状態に持ち込まれてしまえばそれは無理だ。
格闘技の知識が豊富で実戦経験も豊富であれば、何かしらの解決策を思いつけただろうが、少なくともこの女にはその手段が取れるはずがない。
となると、もう一つの手段。
仲間の助力を待つしかなくなる。
< ゚ |゚>『離れろおぉぉ!!』
ム..<::_|.>ゝ『……ほら来いよ』
多脚での戦闘はかなりの神経を使うものだ。
特に近接戦。
足運び一つが自らの弱点を晒すことになるため、本来は慎重にならなければならない。
だが相手は攻防が一体となった棺桶。
攻め込むことに躊躇する理由がない。
足さばきを始めとした技術は無視していても、立派に戦闘を行うことができる。
この場合、相手が気を付けることはただ一つ。
その攻防一体の仕様こそが最大の問題であるという点だ。
< ゚ |゚>『後ろを!!』
864
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:13:03 ID:K.ug12hY0
言葉通りに背を向けたツンディエレ。
そしてそこに放たれる一撃は、確認するまでもなく多脚での刺突だ。
ギコは手を離し、その一撃を回避すると同時にチェイタックを構えて銃爪を引いた。
銃弾は展開していた盾を貫通し、リーガルのヘルメットを吹き飛ばす。
(;゚ω^)「お……がっ……?!」
掠めていれば殺せただろうが、ヘルメットが衝撃を吸収したせいで脳震盪止まりとなった一射。
弾が当たった理由に気づけないまま、リーガルは頭を押さえたままたたらを踏む。
〔:::゚占゚:〕『何っ?!』
そしてそれは、ツンディエレも同様だった。
絶大な信頼を置いていた盾が機能しなかったのだ、無理もない。
ム..<::_|.>ゝ『だから素人なんだよ』
更にもう一発、今度はツンディエレに向けて銃弾を放った。
最早回避も防御もできない状態の彼女は、それを右腕の付け根に受けることになる。
根元から腕が吹き飛び、悲鳴が響き渡る。
ツンディエレの精神状態を反映するかのように四脚の履帯が高速で逆回転を始め、その場から急速に退避した。
ム..<::_|.>ゝ『威勢がよかったのは最初だけか』
甲板の広さなどたかが知れている。
ギコから距離を取ろうとも、いくら超越した安定性を持っていたとしても。
船の下は海なのだ。
多脚など、この場では意味を成さない。
(;゚ω^)「かあ……様……!!」
ム..<::_|.>ゝ『お前は後だ。 丁寧に殺してやるから安心しろ』
視界が歪んだままのリーガルにそう言い放ち、ギコはツンディエレに歩み寄る。
〔:::゚占゚:〕『来るな!! こっちに!!』
ム..<::_|.>ゝ『時間稼ぎが願いなんだろう?
最後までちゃんとやり通せ』
話している途中でチェイタックが火を噴く。
多脚の構造的な弱点である脚部の中心に命中し、ツンディエレの棺桶はその場に座り込む様にして倒れた。
〔:::゚占゚:〕『馬鹿なっ……!! 仮にもキング・シリーズが……!!』
ム..<::_|.>ゝ『相手が悪かったな』
865
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:13:34 ID:K.ug12hY0
ツンディエレが口にしたキング・シリーズはもちろん知っている。
棺桶開発の中でも末期の方に開発されたもので、極めて優れた性能を有する棺桶の開発シリーズである。
そして末期に開発された棺桶は如何なる理由かは分からないが、悪路走破に重点を置いた多脚の物が多い。
それ故に、開発の完成度は二脚の棺桶に比べて非常に低く、弱点の克服は出来ないままだった。
多脚型の棺桶はその設計上、脚部の中心に関節が集中することが多く、隙間が多く生まれてしまう。
その弱点が克服できていない以上、多脚型の棺桶は戦場の後方に控えておくべきもので、前線に投入するべきではない。
シリーズの名前は確かに魅力的だが、それは所詮ブランド名だ。
実戦では、いつだって実用性が求められる。
ム..<::_|.>ゝ『さぁ、解体ショーでもするか。
お前のママがバラされるのをよーく見ておけよ』
( ;ω゚)「きっ……!! さ……まぁああああ!!」
ム..<::_|.>ゝ『お前に俺を止めるのは無理だ、止めておけ。
順番を守れ』
リーガルが叫びながら接近し、四本の足がギコを襲う。
体を僅かに反らせて攻撃を回避し、こちらから接近する。
対処法はもう分かっている。
ム..<::_|.>ゝ『どうした、俺はここだぞ』
( ゚ω゚)「無礼るなぁぁ!!」
二本の足がマン・オン・ファイヤの装甲に触れる。
そして流される高圧電流。
( ゚ω゚)「はははっ!! 死ねっ!!」
流される高圧電流によってマン・オン・ファイヤの装甲に埋め込まれていた回路がショートし、火花が散る。
持てる最大出力の電流が流される中、その目は青白い光の先にあるギコの苦悶の表情を見ていた。
そんなもの、幻想でしかないというのに。
(,,゚Д゚)「どこ見てんだゴルァ!!」
リーガルの足の隙間から身を出したギコは彼の首を掴み、一気に力を入れた。
喉仏を握り潰す勢いで、手に力を込めていく。
( ゚ω゚)「へぷっ?!」
(,,゚Д゚)「頼りすぎなんだよ、棺桶に。
ほら、どうにかしてみろ。
このままだと、縊り殺されるぞ」
( ゚ω゚)「あっ……まかっ……」
866
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:13:54 ID:K.ug12hY0
酸素が顔に回らないため、どんどんと紫色に染まっていく。
目玉が眼窩から飛び出し、ギコの手をどうにかしようと両手が彼の手首を掴もうとするが、手は空を切る。
体を覆う外骨格を正しく使えば、ギコを引きはがすことが出来ただろう。
今まさに縊り殺されようとしている状況下では、正しく使うことが頭に浮かぶはずもない。
抵抗しようとするも徐々に力を失い、目があらぬ方向を向いてリーガルの生命活動が停止したことを示した。
死体を手放し、ギコはゆっくり振り返る。
(,,゚Д゚)「さて、西川・ツンディエレ・ホライゾン。
死ぬにはいい日だな」
〔:::゚占゚:〕『まだ……まだぁ!!』
棺桶を脱ぎ捨て、ツンはその場に降り立つ。
片手でライフルを構え、雨に濡れ、涙で濡れた顔でギコを睨めつける。
右腕の付け根からは夥しい量の血が流れ出ており、意識は朦朧としているはずだった。
しかしそれでも、視線はぶれない。
ξ;゚⊿゚)ξ「いい気になるなよ!!」
対強化外骨格用の強装弾が装填されたライフルを訓練もしていない人間が片手で構え、撃とうとすればどうなるかは火を見るよりも明らかだ。
故に、ギコはその視線と銃腔を正面から受けたまま近づいていく。
足元に落ちていたチェイタックを拾い上げ、棹桿を引いて薬室を確認。
(,,゚Д゚)「お前にゃ無理だ」
ξ;゚⊿゚)ξ「あああぁ!!」
銃爪を引いた瞬間、ツンディエレの手から銃が吹き飛んだ。
無事だった左腕はありえない方向に曲がっている。
反動を吸収しきれない形で構えて撃てば、必然、そうなる。
(,,゚Д゚)「さっきそこのブタは答えないままだったが、教えてもらいたいことがある。
何故、ペニサス先生を殺す必要があった?」
ξ;゚⊿゚)ξ「誰が喋るか!!」
(,,゚Д゚)「お前だよ」
銃床で右の眼球を殴りつける。
間違いなく破裂した感触があった。
ξ; ⊿゚)ξ「あぐっ?!」
体を丸めて防御態勢を取ろうとする顎を銃床で殴り上げる。
骨が砕けたのが分かった。
ξ; ⊿゚)ξ「ぶっ……!!」
(,,゚Д゚)「お前が、その口で、喋るんだよ」
867
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:14:21 ID:K.ug12hY0
今度は鼻を殴り、これも折れたことが分かる。
次は前歯を根元から折った。
腹を蹴り、体をくの字に折り曲げたところで、膝を踏み砕く。
倒れたツンの首を足で踏みつけ、体重をかける。
(,,゚Д゚)「さぁ、どうする?」
ξ; ⊿゚)ξ「ごろ……ぜ……!!」
(,,゚Д゚)「……ここまでお前らの相手をして時間を潰してやったんだ、借りを返すぐらいのことはしろよ」
ξ; ⊿゚)ξ「……すべ……て……おうご……んの……」
(,,゚Д゚)「ちっ」
これ以上話しても無駄だと分かったギコはつま先に力を籠め、ツンの首を踏み潰して殺した。
口から血の泡を吐いた女の目は満足そうだった。
(,,゚Д゚)「……行ったか」
気が付けば、ツンの視線の先にいたもう一隻がどこにもいなかった。
嵐の先に向かったことは容易に想像できるが、何がどうなったのかは分からない。
ギコはデレシアがどう動いたのかを見送ることはできなかった。
だが、見送ったところでこの先の何かが変わることはない。
ここから先は、デレシア自身の決着の場なのだ。
そこに立ち入ることができるのは彼女とその関係者だけ。
そして、そこに立ち入ろうとする並外れた勇気を持つ者だけである。
(,,゚Д゚)「帰るか」
船の制圧と操縦権の奪取のため、ギコは船内へとゆっくりと進み始めたのであった。
手にするのは一挺の狙撃銃。
近接戦では圧倒的なまでに不利な上に弾もほとんどない銃だが、ギコの使い方は常識の範疇に収まらない。
残党の一掃は骨の折れる作業だが、彼にとっては決して不可能なことではない。
更なる死体を生み出すため、ギコは艦内へと進み始めた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
夢はいつか覚めるからこそ夢である。
しかし、夢とは叶えることではなく追うことにこそ真の意味があるのだ。
追いかけ、追いつけば夢は必ず叶う。
追いかけなければ夢が叶うことはない。
――西川・リーガル・ホライゾン
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
868
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:14:52 ID:K.ug12hY0
最後の一隻となった“ヘミングウェイ・ペーパー”内部では、これから訪れる更に激しい嵐への備えと侵入者に対する対応とが渾然一体となり、混沌を産んでいた。
ヘミングウェイ・ペーパーは汎用型のステルス艦で、輸送艦としても運用が出来るようにウェルドックを有している型の物もある。
そして、嵐の奥へと突き進むそれはまさにドックを有する型のものであり、そこには最新でありながらも高性能な電子機器をあえて廃した上陸艇が鎮座していた。
o川*゚ー゚)o「……侵入者はまだか?」
キュート・ウルヴァリンの一言は、その場の緊張しきった空気が生み出されている原因を的確に表現していた。
内藤財団の威信をかけた、数百年規模の大願。
その巨大な影の中、内藤財団創立以前から続く夢があった。
ヘミングウェイ・ペーパーに搭乗した全ての兵士はその夢の存在について、今も知らないでいる。
キュート達がバミューダトライアングルを目指す、ということ以外は何も知らないままだ。
それでも命をかけるというのだから、その忠誠心の高さは大したものである。
〔欒゚[::|::]゚〕『この艦内のどこかにいるのは間違いないのですが、依然として見つかっておりません。
戦闘さえ起きていないです。
隠れ潜んで様子を窺っている可能性が高いです』
o川*゚ー゚)o「相手はあの女だぞ? 常にスリーマンセルで行動し、奴の居場所と動向を確認しろ。
何があっても各階層のロックを解除するな。
間もなく我々は出航する」
〔欒゚[::|::]゚〕『はっ!!』
船内で発見されていないということが、必ずしもデレシアが不在ということを意味するわけではないことを、キュートはよく知っている。
空中で爆散したヘリに巻き込まれて死んだとも、海に落ちて死んだとも思っていない。
あの女がここに現れた以上、必ずキュート達の前に姿を見せるはずなのだ。
現にデレシアは、絶対にあり得ないという可能性を越えてこの場に現れたのだ。
o川*゚ー゚)o「……やっぱり、絶対、なんてありませんでしたね」
上陸艇に戻ると、そこにいた老人にキュートは友人に声をかけるような気軽さで言葉を投げかけた。
( ^ω^)「あの女なら、こうなってもおかしくはない。
だからこそ、我々は備えている。
ギコを切り離せただけでまずよしとしよう」
o川*゚ー゚)o「ここに降りてくる可能性は、考えないのですか?」
( ^ω^)「可能性はあるだろうね。 だが、だからどうした。
船の外からここに入るには、穴を開けて真下に行く以外、どう進んでも全て遠回りの道になる様になっている。
最短でも30分、それだけの時間が確保してある。
……さぁ、そろそろ行こうじゃないか」
o川*゚ー゚)o「西川親子は?」
あえて彼の妻子であることを無視した言葉を投げかけたが、内藤はまるで意に介した様子を見せずに答える。
まるで他人事のように。
まるで、捨て石のように。
869
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:15:13 ID:K.ug12hY0
( ^ω^)「死んだのだろう? 流石にギコを相手にしてあの二人が生き延びるとは思っていないよ」
o川*゚ー゚)o「おや、冷たい反応ですね」
( ^ω^)「ギコという男の性質を少しでも知っていれば、諦めた方がむしろ二人のためだ」
無線機を取り、キュートは外に指示を出す。
内藤という男は目的達成のためにはあらゆる感情を廃することが出来る男だ。
ここで議論をする意味はない。
o川*゚ー゚)o「出発する。 準備を」
『了解。 注水開始、前後ハッチ開放準備。
ダミー船展開準備急げ。
各位、引き続き警戒を怠るな』
船底から海水が注入され、上陸艇が波に揺れる。
キュートは舵輪を握り、エンジンをかける。
電気ではなく、ガソリンを燃料にして動き始めた原始的構造をしたエンジンの振動は力強く、生命の放つ鼓動の様でもある。
前後の扉が開き切ったのを鏡で確認し、キュートは複数のダミー船と共に船外へと移動を始めた。
船の外は、雨と風、そして雷が躍る世界だった。
高い波がうなる中、キュートは羅針盤を見て進路を確認する。
スピードを上げ、嵐のその先へと向かう。
( ^ω^)「逃げ切れたな」
o川*゚ー゚)o「あの船は予定通りに?」
( ^ω^)「当然だ。 だが恐らくは、こちらの電波が届くことはない。
我々が生きて戻った時に発動するだろう」
o川*゚ー゚)o「……」
別に、キュートは残された彼らに同情心を抱いたわけではない。
これから先、彼らが向かう先に何が待っているのか、その情報を聞かされてはいる。
しかし、その情報はあくまでも今の情報ではなく、昔の話だ。
この後、ヘミングウェイ・ペーパーは全て自爆することになっている。
乗員はそのことを知らない。
こちらの船が一定距離離れ、そこから時間経過で自爆する様に設定されているのだ。
だがこの先、電波が乱れる可能性が非常に高く、位置情報が伝達されなければ爆発することはない。
ここまでして追跡される可能性を消したいというのは、ある意味でデレシアへの信頼でもある。
彼女の理不尽さを考えれば臆病とも言えるし、当然の警戒とも言える。
相手はデレシア。
世の中の理不尽を煮詰めたような存在だ。
窓の外に見える景色に若干の変化を感じ取った時、内藤が静かに口を開いた。
( ^ω^)「……前をよく見たまえ」
870
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:15:39 ID:K.ug12hY0
言われた通り、内藤の指の先に視線を向ける。
他の場所と比べ、明らかに波の荒れ具合が穏やかだ。
o川*゚ー゚)o「嵐の……境目ですか」
正しくは、嵐の中心点。
台風の目と呼ばれる領域だ。
頭上の雲の厚みは周囲と比べて明らかに薄く、空の色が透けて見える。
それは夜明けの空の色。
夜と化した世界の中で唯一、本来の空の色が見えている場所である可能性は高い。
( ^ω^)「そうだ。 更に海水温の違いや海底の形の問題で、あの辺りからは荒れることがない。
……そろそろ投薬の時間だ」
懐から取り出したアンプルの先端を折り、その中身を呷る。
それに倣い、キュートも薬品を摂取する。
僅かな甘味を持つその液体は、内藤財団が長期にわたって研究を重ねて開発した一つの特効薬の様なものだった。
そして腕時計のストップウォッチを起動した。
それをきっかけに、内藤が口を開いた。
( ^ω^)「バミューダトライアングルについて、君はどこまで知っている?」
間もなく夢が実現することもあってか、内藤の口調は明らかに上機嫌だった。
普段は無口な彼が饒舌に質問をしてくるということに、キュートは僅かに面食らったが、即座に対応する。
今しか聞けない情報があるのならば、それは聞くべきだ。
これから自分が対面する光景をより鮮やかにするためには、情報はあって困ることはない。
情報は人間だけが感じることのできる唯一の快楽なのだから。
o川*゚ー゚)o「自然が生み出したある種の特異点である、ということぐらいです」
もっと言えば、この先に何があるのかについてもキュートは知らされていない。
内藤財団の悲願が叶う場所、ということぐらいしか察することができていない。
先ほど摂取した薬の正体も分かってはいない。
薬品を生み出すのに携わった人間も、その正体は知らないまま開発を進めていたという。
間もなく全ての謎が明らかになると思うと、キュートの心臓は高鳴りを押さえられなかった。
これは自分が生まれてきた意味を知ることでもあるのだ。
当然、何もかもを知りたいと思うのは自然な感情だ。
( ^ω^)「ある意味では正解だ。 だが、完全に自然の産物というわけではない。
簡単に言えば、人間の生み出した兵器が天候に大きな影響を及ぼし、それが今も続いているということだ。
故にこの海域には嵐が常に生まれ、海が荒れ電子機器が意味を成さないというわけだ」
o川*゚ー゚)o「天候に影響を及ぼすほどの兵器?」
ニューソクの爆発がそうであったように、使い方と方向性を絞ればそれも可能なのだろう。
実際、複数のニューソクが爆発しただけで世界は日光と青空を失い、夜になったのだ。
871
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:16:04 ID:K.ug12hY0
( ^ω^)「その兵器は人体と電子機器に多大な影響を及ぼす猛毒を生み出す。
その毒から身を守るための薬が、先ほどの物だ。
世界大戦時では構想だけだったものだが、それをようやく実用化させることが出来たのだよ」
o川*゚ー゚)o「なるほど。 つまりは、この先は毒に溢れている、と」
( ^ω^)「あぁ、そうだ。 だからこそ、運悪くこの海域に入ってきてしまった船の乗組員は死んだのだよ。
体内、そして体外を蝕む無味無臭の毒に体を蝕まれ、発狂しながらね。
きっと彼らは、体が焼けるような錯覚を覚えたことだろう。
少しでも冷やそうと、皆海に飛び込んだ。
だから死体のない船だけが発見されたのだ」
バミューダトライアングルの正体が、空気中にある毒だったと、誰が想像しただろうか。
だが無味無臭の毒ともなれば、確かに何かしらのオカルト的な噂が真実味を持つというものだ。
( ^ω^)「薬の効果は8時間だ。 連続での服用は命にかかわる」
o川*゚ー゚)o「それで時間は足りるのですか?」
( ^ω^)「分からない。 しかし、この先にある場所にこそ私が望み続けた物がある。
その時間内に探し出す」
o川*゚ー゚)o「物、ですか」
世界で最も権力と財力のある人間が求めているのが、物というのは意外としか言いようがない。
金さえあれば何でも生み出せるはずだ。
世界中のあらゆる知識も、技術も、材料さえも手に入れることのできる金。
それでも求めているのが物であるということは、現代の技術ではどうしようもない何かであることは確かだ。
( ^ω^)「おお、見えてきたぞ」
o川*゚ー゚)o「……」
視線の先。
凪いだ海の果てに、白い雲が漂っている。
海上に漂うのは、入道雲の様な大きく白い雲だ。
まるで何かを覆い隠すような雲の先に、キュートの目は確かにそれを見出した。
直線で構成された、複数の構造物。
建ち並ぶ高層ビル。
それは、間違いなく大都市の影。
872
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:16:26 ID:K.ug12hY0
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873
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:16:53 ID:K.ug12hY0
o川*゚-゚)o「……街」
( ^ω^)「そうだ。 あれが、バミューダトライアングルの中心にある街――」
まるで、旧友に会った老人のように。
故郷の街を目の前にした老兵のように。
死に分かれたと思っていた恋人に再会したかのように。
うっとりとした様子で、内藤が続ける。
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( ^ω^)「――“最果ての都”、ノ・ドゥノだ」
874
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:17:26 ID:K.ug12hY0
それは初めて聞く街の名前だった。
徐々に迫ってくる街並みは、ニョルロック、ジュスティアそしてイルトリアのそれに酷似している。
背の高いビル群の密度はまるで森のようであり、生き物の様でもあった。
圧倒的な高層ビル。
それらを建設するには、当然それなりの技術が必要になる。
そこに見えるビルの高さは、キュートが見てきたビルよりも優に倍以上は高く、それでいて堅牢さを維持していた。
まるで大樹だ。
悠久の時を過ごしてもなお朽ちない大樹。
揺るぎのない安定感を醸し出すそれは、だがしかし、間違いなく人工物だ。
o川*゚-゚)o「あれは、あの街は生きているのですか?」
街の生き死にとは、そこに住まう人間の事を指し示す。
建物とは不思議なもので、人間が使っていなければ倍近い速度で朽ちてしまうものだ。
今キュートの目に映る建物は長らく使われてきたのか、朽ちている様には見えない。
ガラスの輝きも、建物の表面も、まるで今も人々が使用しているかのような瑞々しさがある。
( ^ω^)「いいや、死んでいるよ。
ニューソクによる汚染を受け、今もなお毒に汚染されているんだ。
言ってしまえば、毒漬けの街だよ。
だからこそ、風化せずにここまで当時の姿を保っていられる」
o川*゚-゚)o「つまり我々は、その毒漬けの街にある物を回収するのが目的である、と」
( ^ω^)「不満かな?」
o川*゚-゚)o「世界中を巻き込んでこれだけの事をしたのですから、それだけ意味ある物だと、そう期待しても?」
( ^ω^)「あぁ、期待してもらって構わない」
物を回収するだけであれば、何もこのタイミングでなくても良かったはずだ。
もっと前の段階、薬が完成した段階で密かに回収に向かえば良かったのだ。
あえてこれだけの騒ぎを起こし、その陰に隠れるようにして物探しをすることが目的というのは、あまりにも割に合わない。
確実に理由がある。
キュートの疑念に対し、内藤は普段通りの口調で答えた。
( ^ω^)「あの街は、デレシアの故郷だ」
o川*゚-゚)o「デレシアの?」
これまでティンバーランドに対し、頑なに抵抗を続けてきた存在の名前。
今もその名前は現役であり、複数の作戦を破綻させた人間である。
間違いなく、ティンバーランド内で最も警戒すべき人間の名前としてリストに名前が載っているはずだ。
( ^ω^)「踏み荒らそうとすれば、たちどころにそれを嗅ぎ付け、防いでくる。
だから奴を別の場所に釘付けにするために、我々は世界を巻き込んだ。
ギリギリだったが、どうにか我々の目的は達成される」
875
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:19:40 ID:K.ug12hY0
キュートは目頭を押さえ、ゆっくりと深呼吸をする。
頭の中にある情報の整理をしなければついていけない。
o川*゚-゚)o「……デレシアは何者なのですか?」
徐々に姿がはっきりと見えてくるノ・ドゥノの存在は、今日まで誰かの耳に入ることはなかった。
それがデレシアの故郷であるならば、それは間違いなく街が毒に汚染される前に彼女が生まれたことを意味する。
しかし、バミューダトライアングルの存在が確認された時期などを考えれば、彼女の年齢には疑問しかない。
今いるデレシアは、ノ・ドゥノの存在が誰かに認知されるよりも後に誕生していなければ整合性が取れない。
キュートの困惑を楽しむ様に内藤が言葉を続ける。
( ^ω^)「それについて、ジョルジュは熱心に推理をしていたね。
残念だが、今のデレシアについて私が分かっていることはほとんどない。
だが、“デレシア”という名前の存在についてであれば教えてあげよう。
あいつは、ノ・ドゥノの市長だ」
雨が止んだ。
風が弱まり、静かな世界が訪れる。
o川*゚-゚)o「市長…… ですがそれでは――」
( ^ω^)「第三次世界大戦が起きた時点での話だ。
その時にデレシアという人間が“都市国家”のノ・ドゥノを統べていた。
分かるのはそれぐらいだね」
理解が追い付かない。
デレシアという存在は人名でありながらも、まるで概念のように存在している。
確実に言えるのは内藤は、否、ティンバーランドはデレシアを恐れている。
彼女の介入を恐れ、世界を巻き込んだ作戦を展開している。
そうなると、考え得るデレシアという存在の正体は限られる。
o川*゚-゚)o「歴代のデレシアが存在する可能性もある、と」
人間の命が有限であることは、時代によって変わるものではない。
つまり、昔から今に至るまでデレシアが存在しているということは、複数の人間がその名を引き継いでいると考えるのが自然。
現に似たような存在が今、目の前にいる。
( ^ω^)「ジョルジュはそう考えていたみたいだね。
だが、答えなど今はどうでもいい。
全てはあと少しで報われるのだから。
“虹の女神”は我々の手に落ちる」
虹の女神の正体についてここで質問をしたところで、答えを得られないのは明白だった。
故にキュートは口を噤み、沈黙を守ることにした。
そこから先は無言の時間が流れた。
これ以上の問答で得られるものはほとんどない。
876
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:21:12 ID:K.ug12hY0
今日に至るまでの何もかもが報われることに喜びを感じつつ、一縷の不安を抱かずにはいられなかった。
本当にこのまま終わるのだろうか、と。
やがて、船が港らしき岩礁へと到着した。
街を覆う雲のようなものは、恐らくは霧の類だった。
護身代わりの棺桶と拳銃を手にしたキュートを先頭に、二人はノ・ドゥノへと上陸した。
内藤が懐から紙製の地図を取り出し、それを広げた。
仄かな青空から差し込む光がそれを照らす。
かなりの時間が経過していると思わしき地図は、極めて詳細に街の建物の位置が記されていた。
o川*゚-゚)o「この街の地図、ですか」
( ^ω^)「あぁ。 後は、市長室を中心にさが――」
――その時だった。
背筋に氷のような冷たい感覚が走り、全身が総毛立った。
振り向く、という動作をしようとすることがこの上なく恐ろしい。
何をしても命にかかわるという確信めいたその感覚の正体は、紛れもなく殺意だ。
あり得ない、と内藤の口から小さな悲鳴のような声が洩れる。
キュートは確かにその殺意に恐怖を感じ取っていたが、それ以上に喜びがあった。
遂に。
ようやく。
デレシアと対面することが叶う。
歓喜で全身が絶頂直前の痺れに似た喜びを感じる。
o川*゚ー゚)o「……初めまして、かな」
振り返ったキュートの眼前には、果たして、ローブを身にまとったデレシアが立っていた。
波打つ黄金色の髪。
蒼穹色の瞳。
世界の美をそこに結集したかのような整った容姿は、悪魔的でさえある。
どのようにしてそこに現れたのかも。
どうして今まで何もしてこなかったのかも。
あらゆる疑問の答えは、彼女がデレシアだから、という一言で片づけられる。
不条理を煮詰めて抽出した純然たる理不尽の結晶体。
877
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:21:34 ID:K.ug12hY0
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ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、初めましてね。
あなたが、キュート・ウルヴァリンね」
o川*゚ー゚)o「光栄だな、名前を知っていてもらえるとは。
お前が、デレシアだな」
ζ(゚ー゚*ζ「そしてそっちの老いぼれは……
内藤・ネイサン・ホライゾンね」
名を呼ばれた瞬間、内藤は肩をびくりと震わせた。
ゆっくりと振り返り、ひきつった笑みを浮かべる。
そこにいつもの余裕も、不敵さもない。
( ^ω^)「……」
天敵を前にした動物のような姿に、だがしかし、キュートは失望することはなかった。
彼女を前にすれば、その実力を知らない人間でも同じ反応をすることだろう。
ζ(゚ー゚*ζ「会ったことはないはずだけど、私の事もこの街の事も良く知っているみたいね。
この街に来たってことは、“アイリス・システム”を探しに来たって感じかしら?」
その名が出た瞬間、内藤の顔色が変わる。
(;^ω^)「お見通しか……」
878
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:22:41 ID:K.ug12hY0
ζ(゚ー゚*ζ「オセアンを手中に収めたのは何もハート・ロッカーの入手だけでなく、安全な港を手に入れることが目的だった。
ペニーを殺したのは、万が一にもオセアンから出港する自分たちが狙撃されるのを回避したかったから。
オアシズのドリームキャッチャーを狙ったのは、自分たちの敵になる棺桶を無力化するための保険。
わざわざ内陸にあるニョルロックを内藤財団の本拠地に選んだのは、私をおびき寄せた時に移動手段を限定できるから。
世界中のニューソクを集めたのは自分たちの兵器への転用もあるけど、そもそものニューソク研究に使って、薬を作るため。
イルトリアとジュスティアを一気に攻撃したのは、ノ・ドゥノに通じる海路を断つことで自分たちの安全を確実なものにするためね。
ここまで徹底して私を海から遠ざけるということは、ノ・ドゥノに用があるってことはすぐに分かるわ。
そしてノ・ドゥノに用があるってことは、アイリス・システムが目的だってことは明らか。
兵站を無視して短期決戦を目論んでいたのは、アイリス・システムが手に入るという大前提があったからでしょう。
あれがあれば、最低でも戦いの目が自分たちに向けられていない限りは戦争に勝てたでしょうね。
長い間よく頑張ったけど、やり方が相変わらず乱暴なのよ」
まるで出来の悪い生徒の悪戯を全て指摘する教師のように、デレシアはこちらが用意した策とその裏側を全て言い当てた。
キュートの知らない情報も出てきたが、内藤の反応を見ればそれが正解であることは間違いない。
事実、作戦の根幹は内藤財団幹部が確実に目的地を目指すということにあった。
最悪の想定としてニョルロックの空路を断つという保険も残していたが、ギコ・カスケードレンジの介入によってそれは失敗に終わった。
完璧な作戦における予想外の介入というのは、総じて作戦に致命的な破綻をもたらすことになる。
今回の場合、ギコの介入を誘発してしまったことが失敗だった。
ペニサスを殺したことでリスクを一つ削り、そして新たなリスクを産んでしまったことが悔やまれる。
デレシア一行の排除ではなく、ギコの動向についてもっと注意を向け、ニョルロックでの戦闘で殺しておくべきだったのだ。
o川*゚ー゚)o「アイリス・システム…… あぁ、虹の女神とはそういうことか」
ζ(゚ー゚*ζ「あら、あなたは知らされていないのね。
内藤財団がずっと血眼になって探している装置の名前よ」
o川*゚ー゚)o「後学の為に教えてもらっても?」
ζ(゚ー゚*ζ「お断りよ。 私、あなたのこと嫌いだし、後学なんて必要ないもの。
そこの老人に聞いたら?」
o川*゚ー゚)o「教えてもらえなくてね」
他愛のない女同士の会話だが、漂う殺意は変わらない。
常に喉元にナイフを突きつけられている様な感覚は消えず、この問答が彼女の気まぐれで続けられているのは間違いない。
仮にここで死ぬとしても、それまでの間に一つでも多くの謎を知り、心残りを減らしてから死にたい。
ζ(゚ー゚*ζ「あら、それは残念ね。
つまりそこまで信頼されていないってことね。
こ の 日 の 為 に 作 ら れ た の に、残念ね」
その言葉は一瞬でキュートの堪忍袋の緒を切り、逆鱗に触れ、激憤させた。
頭も心も怒りで燃え上がり、手のひらに汗を感じる。
自分の立場も忘れ、キュートは心からの言葉に殺意を添えて言い放つ。
o川*゚-゚)o「……ぶち殺すぞ」
879
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:23:36 ID:K.ug12hY0
ζ(゚ー゚*ζ「遺伝子操作は出来ないから、優れた遺伝子の人間同士を掛け合わせていって…… って感じでしょうね。
確かに望まれて生まれたのでしょうけど、ふふっ、残念。
不純物は取り除けなかったみたいね」
どうして知っているのか、とは言葉が出てこなかった。
デレシアの言う通り、キュートは優れた因子を持つ人間同士で交雑を繰り返して生み出された存在だ。
誰よりも優れた知識、身体能力、容姿、そしてカリスマ性。
それを目指し、何世代にも渡って交配して生まれた存在であることは、内藤財団の社長と副社長、そして内藤しか知らない事実だった。
世界で最もその誕生を望まれたことは彼女の誇りでもあったが、同時に、それが彼女のコンプレックスでもあった。
即ち。
デレシアという存在に対抗するため、デレシアに近い人間を生み出すという計画の産物であるという点だ。
誰よりもその誕生を望まれ、祝福されながらも、周囲の目に映るのは結局のところデレシアの代用品でしかない。
デレシアに至るための試作品、実験結果の産物という評価が覆ることはない。
それが、キュートという人間の正体なのである。
ζ(゚ー゚*ζ「何年かけたかは知らないけど、ここまでね。
でも、ここまでよく頑張ったわね。
そこだけは褒めてあげる」
いつの間にか、デレシアの右手には黒塗りのデザートイーグルが握られていた。
だが銃腔はこちらに向けられていない。
いつでも撃ち殺せるという姿勢。
優位なのはどちらなのか、それを何よりも雄弁に物語る。
o川*゚-゚)o「……」
ζ(゚ー゚*ζ「棺桶を使いたいのならどうぞ、邪魔はしないわよ」
それは慢心。
自分の力を過信した愚かな女の戯言だ。
しかし、キュートはその誘いに乗らなかった。
o川*゚-゚)o「……いいや、使わない。
使えないんだろう、ここでは」
ζ(゚ー゚*ζ「あら、気づいた?」
o川*゚-゚)o「電子機器にとっての毒であれば、棺桶が使えるはずがない。
それに、棺桶が使えるのであれば薬を開発する必要もないはずだ。
だから私は、これでお前を殺す」
コンテナを捨て、もう片方の手に持っていたコルト・ガバメントの遊底を引く。
世界を変えるための最も小型で最も強力な道具。
長い間人間に愛用され、戦場でも日常でも小さな変化を生み出し続けた傑作拳銃。
人間を殺すのであれば、この大きさと口径で十分だ。
880
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:24:08 ID:K.ug12hY0
相手は人間。
化け物じみた戦闘能力を持つだけの人間だ。
人間相手にこれ以上恐れを抱くなど、耐えられない。
o川*゚-゚)o「しっ……!!」
そして、短く息を吐いて疾駆する。
恐怖に縛られた感情のまま、怒りを抱いたまま。
拳銃同士の必殺の間合いのその先へと持ち込み、技術による一騎打ちでデレシアの殺害を試みる。
至近距離で構えたコルトの銃腔をデザートイーグルの銃床が横合いから弾き飛ばし、近距離で放った膝蹴りは同じ膝蹴りで防がれる。
この攻防は一瞬でもタイミングを間違えても、一手でも間違えれば死につながるもの。
持てるだけの力を吐き出し、キュートは攻撃を続ける。
空いた手で顔に向けて突き出した目つぶしを額で受け止められ、指が壊される。
弾かれたコルトを元の軌道に戻そうとするが、デレシアの左の貫手が右肩に突き刺さる。
コルトを握っていた腕に激痛が走り、指に力が入ってあらぬ方向に発砲してしまう。
心に焦りが浮かんだ時には、容赦のないデレシアの攻撃がキュートを襲う。
デザートイーグルが足元で発砲され、キュートの左脚が付け根から千切れた。
バランスを崩したところに続く二発目の発砲。
胸に大きな穴が開き、そして、キュートの全ての感覚が遮断された。
痛みはもう感じなかった。
あったのは衝撃と驚き、そして悲しみ。
生まれた意味を自問自答しながら、彼女は血溜まりの中に倒れ込む。
o川* - )o
答えを得ることもなく、キュートは静かに絶命した。
虚ろな目には、水色と灰色を混ぜたような色の空が映っていたのであった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
何のために生まれて。
何をして喜ぶ。
答えは私が用意するのだ。
誰かに用意されるなど、冗談ではない。
――絵本作家、ヤセタ・カナシー
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
イルトリアへ攻め入った部隊の最期は、あまりにも呆気なかった。
イルトリア軍の前衛が報告しつつ、狙撃部隊が攻撃を加えたことによる士気の低下は著しかった。
戦争の経験がほとんどない状態で気が付けば撃たれ、殺され、そしてパニックになるのは必然だった。
そこにすかさず撃ち込まれる砲弾が、彼らの命を容赦なく奪った。
881
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:24:43 ID:K.ug12hY0
泥濘と臓物と肉片とが混ざり合った何かが空中に舞い上がり、自家用車のフロントガラスに付着したことで急停止する車が続出。
ぬかるみにタイヤが取られ、横転や追突が続発。
慌てて車に積んであった棺桶に手を伸ばしたところで、狙撃手たちがそれを阻止する。
寡黙なことで知られる狙撃手の一人が、思わず口から感想を漏らすほどの容易さだった。
(,,゚,_ア゚)「……こいつら、本当にただの素人集団だ」
物量で攻め込まれたことにより、ある程度の取りこぼしは考えられていた。
だが、戦闘力の低さと経験の浅さがその予想を裏切った。
味方の死体で進軍速度が低下し、士気も落ち、指揮を執ることのできるだけの経験者は早々に死体と化している。
戦場において、指揮官のいない部隊ほど脆い物はない。
イルトリア軍を相手にその状態で戦いを挑むということの愚を、彼らは命を持って理解した。
砲弾の音が彼らに恐怖を植え付け、前進するだけの気力を奪うのに、そう時間はかからなかった。
後退しようにも、後ろにあるのは味方の膨大な死体の山。
砲撃が耕した地面が前後への移動を困難にし、彼らの進路を奪った。
電撃戦は一度でも停滞すれば、その鮮度と威力を失う。
特に、戦闘力で劣っている側からすればそれは致命的な展開である。
砲撃を受けるほどの戦闘を経験したことがないことが、彼らにとっては大きな失敗だった。
そしてそれは、作戦を立案した人間にとっては予想外の事だった。
作戦の立案者は元イルトリア軍人、クックル・タンカーブーツとミルナ・G・ホーキンスだった。
彼等は砲弾の雨の洗礼を当たり前の物だと思っており、それが作戦の中においては前提条件となっていた。
否、むしろ考慮すべきことですらなかった。
二人にとっては、銃が撃てるかどうかを作戦立案の際に考えるような物だったのだ。
戦争を知る人間がいない以上、意図的に砲撃が後方と前方に集中して行われていたことに気づいた人間は、誰もいなかったはずだ。
進路と退路を同時に塞ぐ砲撃の雨が彼らに驚くほど有効だったのは、イルトリア軍が与えた被害を見れば明らかだ。
敵の本質が素人集団であり、臆病であることが分かった以上イルトリア軍が防戦ではなく迎撃戦を選んだのは必然だった。
そして、後はただの蹂躙だった。
悪路でも問題なく戦闘行動が可能なソルダットが展開し、逃げ惑う敵を容赦なく殺して回る。
味方の数が減る度、士気はその倍以上の速度で低下。
車を置いて逃げ出す者、棺桶を身に纏おうとしてコードの入力に失敗する者。
遮蔽物のない荒野での戦闘は狩りを思わせるほど、一方的に死体の数が増えていった。
イルトリア包囲網は瞬く間に瓦解し、やがて敗走した。
無論、敗走する人間は全てその背中を狙撃手によって撃たれ、時には仲間にも撃たれた。
運よくイルトリアへと向かうことのできた部隊は、イルトリアの最高戦力によって過剰な歓迎を受け、数分の内に全滅した。
時刻が夜明けを告げるが、世界は依然として夜の色をしたままだった。
雨脚は弱まり、世界は静かな夜明けを迎える。
砲声も、銃声も。
ゆっくりと消え、やがては冷たい風が吹く音だけが何事もなかったかのように戦場に新鮮な空気を運ぶ。
イルトリアに攻め入ろうとした最後の生き残りは、コルトを口に咥えて銃爪を引き、命を絶った。
882
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:25:13 ID:K.ug12hY0
各地での戦闘が終結し、イルトリアの復興が静かに始まった。
ニョルロックでは突然途絶えたラジオ放送に市民が困惑し、世界情勢の変動に関する情報を入手することに注力することにした。
世界の天秤は狂ったまま。
世界のどこにも、自らを勝者だと言い張る街はなかった。
内藤財団の声掛けで生まれた国は、指導者を失ったことに気づかないまま。
戦闘行動が終わり、残党を排除し始めたイルトリアは、だがしかし、その戦線をいたずらに広げることはしなかった。
各軍は追撃を終え、慎重に街へと帰還を始めた。
イルトリア軍は連続した戦闘を終え、街に戻ると同時に即座に街の復興へと任務を切り替えた。
街の外に向けた警戒は続いていたが、損耗は弾薬と電力だけで済んだ事実だけを見れば完勝だった。
それでもイルトリア軍の誰もが勝利を認めていないのは、彼らが街を侵略されたという事実があるからだ。
自分たちが守るべき場所に傷を負ったということ、決して勝利とは言えない醜態なのだ。
そして彼らは次なる戦争に備えなければならなかった。
即ち、復興という名の戦争である。
戦うよりも遥かに難しいこの戦争は、イルトリア人をもってしても困難を極める戦いだった。
壊すよりも直す方がずっと時間がかかるのは言うまでもないが、この戦災復興というのは単純な修理とは話が違う。
取り戻さなければならないのは人々の日常であり、その日常というのが難しいのだ。
一度戦争で壊された物は、決した同じ形には戻らない。
心に負った傷。
失われた命。
そして、周辺の街との関係。
大規模な戦闘はひとまず終わったが、イルトリアがその力を取り戻す前に攻め込もうとする街は皆無ではない。
漁夫の利を狙うのであれば、今が好機だ。
街の復興と防衛の両方に軍隊を総動員し、戦いから戻った者達に向けて市民たちが臨時でレストランなどを開放し、温食を提供した。
コーヒーや暖かいスープは、季節を無視した肌寒い気候の中で雨に濡れた者達の体を芯から温める。
消えかけていた街の光が戻りつつある中、市長の娘であるミセリ・エクスプローラーとブーンは基地の貯蔵庫から毛布などの備品をトラックに積む作業の手伝いをしていた。
街の復興が始まったとはいえ、住む場所を失った人間は大勢いる。
ましてや、傷を負った人間も大勢いるのだ。
彼らに最優先で提供されるのは食事と雨風を凌げるシェルターだった。
予め定められていた大型施設を避難所とし、その中に小型のテントが設置された。
避難する人間達が抱えるストレスは、目に見える物以上の負荷があり、個人の空間を確保することはそれを和らげる手助けになる。
そうした時に、毛布や枕、クッキーと紅茶などといった日常生活を少しでも感じさせる品があれば、幾分か心が救われる。
備品をトラックに積むためには、どうしても人手が必要だった。
基地内でその作業をする軍人はほとんどいないのは、少しでも動ける軍人は街の復興と防衛に割いているためだ。
だからこそ、イルトリアでは有事の際に民間人の徴用が義務とされている。
この街に移住する条件として誓約書に記載されている通り彼等の肩書は民間人だが、実質的にはイルトリアの戦闘員として登録される。
諸事情で軍関係の仕事を続けられなくなった人間達は、こうした有事の際に率先して動くことになっており、現にトラックのハンドルを握るのはかつて陸軍の参謀長だった男だ。
ミセリとブーンに指示を出すのは、海軍の中将だった男である。
イルトリア軍の内情と歴史に詳しい人間がその場にいれば、常に敬礼と昔話で身動きが取れなくなったことだろう。
ある種の同窓会じみたその集団は、現役時代がいかに優秀な軍人だったかを思い起こさせる動きと指揮で物流を途絶えさせなかった。
情報が入れば柔軟に対応し、そしてそれに従って次々と品物が送り届けられる。
883
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:26:05 ID:K.ug12hY0
ブーンの目は赤くなっていたが、それでも、心は既に前を向いていた。
ヒート・オロラ・レッドウィングを失い、自らの手で火葬に送り出した後だというのに、その気持ちの切り替えは大人でも難しいものだ。
(∪;´ω`)□□
つ□□□
小さな体で大きな荷物を運び、文句ひとつ言わずに働き続けるその心境を、その場にいる誰もが分かっていた。
今は動き続けていなければ自分の気持ちを保てないのだ。
動くことで悲しみに浸る時間を削るという、ある種の自棄にも似た行動だった。
それが悪いとは、ミセリは思っていなかった。
彼女自身、四肢と視力を奪われた時に味わった絶望感を癒すには時間が必要だった。
ギコ・カスケードレンジに救われなければ、きっと今も生きることに対して絶望を抱いていたことだろう。
今では失った物を補うための強化外骨格があるため、彼女は再び世界の美しさと醜さとを甘受することが出来ている。
歳の近い弟であり、友人であるブーンに手を差し伸べるのは自分に与えられた役割であると、ミセリは考えていた。
ミセ*゚ー゚)リ「ねぇ、ブーン」
大きな段ボールを移動させながら、ミセリが声をかける。
作業から2時間近くが経過して、初めての会話だった。
(∪;´ω`)「お?」
手を止めずに、ブーンは宝石の様に輝くつぶらな瞳を一瞬だけミセリに向けた。
荷物を台車の上に置いて、それからブーンは改めてミセリを見つめた。
ミセ*゚ー゚)リ「一緒にお茶しようよ」
(∪;´ω`)「お……でも、仕事が……」
ミセ*゚ー゚)リ「こういう時は、休むのも仕事なんだよ」
(∪;´ω`)「で、でも……」
( *´艸`)「ブーン君、休まないと駄目だよ!!
その方が効率的だから、ほら、行ってきなよ!!」
軍人の夫を持つ、元軍人の主婦が背を押してくれる。
ミセリは荷物を所定の場所に積み終え、手を差し出して言った。
ミセ*゚ー゚)リ「おいで」
ミセリが差し出した手を、ブーンは僅かな躊躇いを見せながらも掴んだ。
傷だらけの小さな手。
子供の手だが、その手は一人の男の手だった。
(∪*´ω`)゛
884
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:26:59 ID:K.ug12hY0
二人は基地内にある食堂に向かい、そこでミルクティーと茶菓子を注文した。
食堂は民間人に向けて解放されており、飲食店を営んでいる人間達が手伝いに参加しているため、いつでも温かで美味い食事が提供される準備が整っていた。
避難している人間に向けての大規模な炊き出しの準備もここで行い、尚且つ基地で働く人間への食事を提供する一つの拠点と化していた。
( `ハ´)「……お疲れさん」
厨房からそのような声がかけられたような気がしたが、ブーンの意識は皿いっぱいに盛られた大きなクッキーに向けられていた。
漂う主な香りは小麦の焼けた甘い匂いとシナモン、そしてハチミツの交わったそれ。
だが注意して匂いに意識を向けると、そこには他のものが隠れている。
マグカップいっぱいに注がれたミルクティーは、ブーンが長い時間休むことができるようにという心遣い。
手近な席に腰かけ、ミセリは早速クッキーに手を伸ばした。
手のひらほどの大きなクッキーは、よく見れば一枚一枚違った味や香りづけがされているようだった。
口に運び、そしてミセリは眉を顰めた。
これは、ブーンのためのクッキーだと一瞬で理解した。
歯を立てた時、ミセリの脳裏に去来したイメージは、鉄の板。
自分の歯がクッキーの表面を削るというイメージが一切湧かない。
小麦で作られているはずなのに、その硬度は尋常ではない。
ミセ;゚-゚)リ「かっ……たいっ……!!」
巷では時折堅焼き、と呼ばれるクッキーの類が出回ることがある。
それが児戯にも思えるほどの硬度。
文字通り歯が立たない。
ミセ;゚皿゚)リ「ぐおっ……!!」
(∪*´ω`)バリバリ
が。
ブーンはまるで気にした様子もなく、実に美味しそうにそれを噛み砕いていく。
どうにかミセリが一片口に含むことに成功した時、ブーンは二枚目に手を伸ばしていた。
厨房の男が静かに口を開いた。
( `ハ´)「姉さん、それはミルクティーに浸して食べた方がいいアルよ」
言われた通りにミルクティーに浸し、それから口に運ぶと、程よい歯応えのままクッキーをかみ砕くことが出来た。
紅茶の風味がクッキーの風味と合わさり、魔法の様に柔らかい味になる。
( `ハ´)「ブーン、美味いアルか?」
(∪*´ω`)゛「美味しいですお!」
久しぶりに、ブーンの明るい声を聞くことが出来た気がした。
ミセリはその姿を見て、自らの涙腺が僅かに刺激されたことに驚かなかった。
彼の成長も、彼の感情の揺れも、全てが愛おしく思える。
それはきっと、弟妹のいない自分にとって歳の離れた彼に対する母性本能が刺激されているのだろう。
885
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:27:33 ID:K.ug12hY0
友人であり、弟でもある不思議な存在。
死地にありながらも足手まといでしかなかった自分を助けてくれた彼に対する信頼は、家族に匹敵するほどだ。
彼の見せた小さな笑顔は、ミセリも思わず笑顔を浮かべたくなるほどに尊い物だった。
もっと長い時間を日常の中で過ごしたかったが、それでも、愛おしいと思えるほどの感情を彼は与えてくれる。
ミセ*゚ー゚)リ「大変な時、忙しい時こそ休憩が大切なんだよ。
ゆっくり休んで、それからまた頑張ろう」
(∪*´ω`)゛「お」
( `ハ´)「仕事の途中でも食べられるように小さいのも焼いたから、後で持っていくといいアル」
ミセ;゚-゚)リ「……同じ硬さですか?」
( `ハ´)「ブーン用の特別クッキーだから、そりゃ同じ硬さアルよ」
ミセ;゚-゚)リ「じ、じゃあミルクティーもお願いします」
男は口元を僅かに釣り上げ、言った。
( `ハ´)「勿論アルよ。 お茶とクッキーはセットが基本アル」
――雨が完全に上がり、夜明けの空気が街に漂い始めたのは、そんな時だった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
世界の果て、ノ・ドゥノ。
全てはそこから始まり、そこで終わる。
それ故に、そこは“最果ての都”なのだ。
――スパイク・アケーディア
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
――世界に夜明けが訪れる少し前、一人の男が己の人生がもう間もなく終わることを受け入れ終えた。
内藤・ネイサン・ホライゾンは、瞼を降ろし、ゆっくりと呼吸を整える。
これ以上の戦闘も抵抗も不可能だ。
切り札であるキュートが一瞬で殺され、そして、今の自分には戦う力がない。
どこで間違えたのか、必死に頭を回転させるが答えは出ない。
だが、完敗ではない。
少なくとも、この世界を変えるという大きな目的は達成することが出来た。
世界に国という概念を知らしめ、実際に国が形を成している。
もう、世界は後退することはない。
このまま進めば遅かれ早かれ、世界は国という概念を受け入れることになる。
ジュスティアが消えたことで、世界は新たなルールを受け入れる態勢が整う。
イルトリアが疲弊したことで、世界は抵抗力を失う。
ここで内藤が死んだとしても、世界は回るのだ。
886
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:28:23 ID:K.ug12hY0
それでも、死にたくはない。
夢の成就を見届けたい。
死は避けられない。
それでも、それでも、なのだ。
この世に生まれた以上は、何かを成し遂げたい。
ただの人形もなく、代用品でもなく、一人の人間として。
(;^ω^)「……」
ζ(゚ー゚*ζ「解せないことがあるの。
思想を引き継ぎ続けたにしては、どうにも詳しく知りすぎているのよね。
この街についても、色々なことについてもそう。
ノ・ドゥノの地図なんて、現存しているはずがないもの」
(;^ω^)「語るとでも思うか、この私が」
ζ(゚ー゚*ζ「いいえ、ただの答え合わせをしたいだけ。
“誰かの思想と記憶”がそのまま引き継がれるなんて、普通は出来ない。
だから普通じゃないことが起きたのでしょうね。
例えば、そうね……」
デレシアはどこかで答えに辿り着いているのだろう。
故に、この時間は内藤にとっては延命しているだけの不毛な時間だ。
生殺与奪は全て、デレシアの手中にある。
ζ(゚ー゚*ζ「“ベンジャミンバトン”、使ったのね」
その名が出て、内藤は肩を落とした。
もう、逃げられない。
ベンジャミンバトンの存在を知られている以上、逃げ道はない。
ζ(゚ー゚*ζ「記憶の引継ぎを可能にするあれなら、そうね、思想が今も生きている理由が分かるわ。
でも残念ね、あなたたちの記憶や想いは誰にも引き継がせない。
その装置がどこにあるのかを見つけて壊せば、もうこんなことは起きないもの」
ベンジャミンバトンとは、ティンバーランドに代々伝わる装置の名称である。
棺桶と同じく起動コードが存在し、その入力を行うことで自分の記憶を機械に保存することも、機械から取り入れることも出来る。
第三次世界大戦当時から脈々と受け継がれ続けたその記憶と知識が持つ価値は、計り知れないものだ。
人類の宝と言っても過言ではない。
不老不死を実現するための装置であり、同時に、想いを次世代につなぐためのバトンでもある。
蓄積され続けた知識と経験と情報の塊であるそれは、いうなればティンバーランドその物だ。
当然、装置が破壊されればそれらは失われる。
彼らが計画し、今日まで続いた想いも何もかもが失われてしまう。
安全な場所にあるとは言っても、デレシアがその存在を認識した以上は、破壊されることは必至。
全ては時間の問題だ。
(;^ω^)「何故……」
887
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:28:44 ID:K.ug12hY0
自分の人生の全てをこの日の為に捧げてきたのだ。
父親から引き継いだベンジャミンバトンにより、彼は子供の頃から自分というものの存在理由を上書きしてきた。
その父も、そのまた父も、ベンジャミンバトンを用いて世界の秘密を知り、世界の為に動き続けた。
世界を変える、世界をあるべき姿にするという目的の為に生きてきたのだ。
遥か昔から脈々と受け継がれてきた夢の成就の為に貢献し、そのために西川・ツンディエレ・ホライゾンとの間に子供も作った。
次は息子が彼の意思を引き継ぐはずだったのだが、ギコを足止めするために仕方なく犠牲にした。
失ったのは何だったのか。
そして得た物は何だったのか。
今ここで殺されれば、その全てが分からないまま終わる。
ζ(゚ー゚*ζ「何が?」
(;^ω^)「何故、世界が平和になる道を邪魔する?
何度も、何度も。
第三次世界大戦の悲劇を忘れたのか!!」
内藤の中にある第三次世界大戦の記憶は、あくまでもそれを記憶していた人間の主観のコピーでしかない。
しかし、世界中が暴力の限りを尽くした世界大戦は二度と繰り返してはならない悲劇だということだけは断言できる。
無関係でいられる人間は誰もおらず、無傷で済む国はなかった。
やがて世界中が核の冬で凍り付き、人類史の失われた時間が今も世界に刻み込まれている。
決して癒えることのない、恐ろしいほどの傷跡。
それを再び繰り返すことだけは、人類として決して看過し得る物ではない。
ζ(゚ー゚*ζ「邪魔なんてしていないわ。
勝手に失敗しているだけじゃない。
人のせいにしないでよ」
(;^ω^)「世界は一つになるべきだ。
その為には今こそ、世界を一つの国にするべきなんだ!!
国という概念は、人類には必要なんだ!!」
心からの叫びも、デレシアの前にはただのそよ風でしかない。
それでも、一縷の望みをかけて内藤は声を荒げ、説得を試みる。
ここでの説得に失敗すれば、夢が完全に途絶えることになる。
跡継ぎも失い、ベンジャミンバトンの存在が露呈した今、世界の命運は内藤の言動にかかっている。
世界が混沌を歩み続けるか、それともあるべき姿を取り戻すかは、この会話の着地点次第なのだ。
ベンジャミンバトンが残れば、世界があるべき姿でいられる。
思想が引き継がれるということは、夢が続くということなのだ。
888
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:30:01 ID:K.ug12hY0
ζ(゚ー゚*ζ「いらないのよ、そんなものは。
国があったから世界が滅んだのに、どうしてまたそれが成功すると思うの?
複数の思想を一つにまとめれば、いつかは破裂するわ。
ただそれだけの話よ」
(;^ω^)「何故我々の邪魔をする!!
破裂するかどうかは、やってみなければ分からない!!」
ζ(゚ー゚*ζ「イルトリアやジュスティアの抵抗がその証拠でしょう?
ましてや、力で世界を変えようっていうのなら、この世界のルールの正しさを証明しているようなもの。
同じ土俵で同じことをして、そこに立派な大義名分を添えているだけの違いじゃない。
結局は、そのルールが変わることはないのよ。
そもそもアイリス・システムを手に入れようって時点で、もう何を言っても言い訳でしかないわ。
結局は力で世界を支配するって気持ちが隠しきれていないもの。
だから嫌われるのよ、昔も今も」
(;^ω^)「……それは、正しい使い方をすれば問題ない話だ。
お前がかつて使ったようにしなければ、アイリス・システムは抑止力として力を発揮する!!」
強大な力とは、抑止力でなければならない。
それを使っていいのは、その力の強大さと愚かさを知る人間だけだ。
世界でただ一つだけ存在するアイリス・システムは、世界の平和を心から願う人間の手が使うべきなのだ。
かつての核兵器の様に各国が持つことで作られる均衡は、いつか破綻する。
核兵器の最大の失敗はその製造方法の流出に他ならない。
誰もが再現可能になった兵器など、抑止力にすらならなくなるのだ。
しかし、アイリス・システムはその心配がない。
当時の技術者たちをもってしてもその仕組みが分からず、再現が出来なかったのだ。
加えて、デレシアがその所有を公言してはいたが、使用を最小限にしていたために誰もその痕跡を見つけることが出来なかった。
確かに存在し、その力が本物であると分かる兵器であれば、発展した世界の均衡を保つのに役立つのである。
完璧な抑止力として世界を統治することができるだけの力がある。
使い方を間違えれば世界を滅ぼしかねない装置だが、ティンバーランドは間違えない。
デレシアが世界に対して使用したような、あまりにも横暴な使い方さえなければ。
ζ(゚ー゚*ζ「その抑止力を寄越せ、寄越せと言い寄ってきた人間の言葉とは思えないわね。
自分たちの力を誇示したいがために、アイリス・システムを欲する気持ちは分からないでもないわ。
でも知っての通り抑止力っていうのはね、最低でも一度は使われないと意味がないのよ。
あなたたちは間違いなく、アイリス・システムを使ってその力を世界に誇示する。
それが平和のためだって断言するあなたたちが、私は大嫌いなの。
世界は、今のままでいいの。
誰かの意思で変えるんじゃなくて、世界の意思で自然と変わるものよ」
もう、この問答に生産性はない。
デレシアの意見は変わらない。
変わることなどありえない。
待っている結末に変化はない。
889
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:30:45 ID:K.ug12hY0
目の前にいるのは理性と知性を持った頂点捕食者。
何も変わらないとしても、彼は心の叫びを口から出さないという選択はなかった。
(;^ω^)「……何が」
――声は、震えていた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
此処は最果ての地。混沌と整然、栄華と零落、生と死の共存する都。
――エリシア・D“ダナー”・エリクソン
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
(;゚ω゚)「……何が、何がお前をそうさせるんだ!!
世界を犠牲にして!!
世界を滅茶苦茶にして!!
それでも何が!!
何が、お前を!!」
叫ぶのは内藤・ネイサン・ホライゾンという男。
狂気と妄執の生み出した不老不死の一つの形。
己の夢を叶えるために全てを捧げ、全てを犠牲にした成れの果て。
大陸の形が変り果てるまでの時間をかけてでも、世界を変えようと試みた男の残滓だ。
その本質はかつて対峙した時とほとんど変わっていなかった。
全くの別人であっても、記憶を全て移植したとなれば、顔つきや言動が同じになるのが道理だ。
そこまでしてアイリス・システムを求めた愚かさに、そして今も昔も変わらない夢を抱き続ける姿。
デレシアは手向けの意味も込めて、それを見せることにした。
890
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:31:13 ID:K.ug12hY0
問答の果てに送るのは、彼女の胸に今も昔も消えることなく残り続ける言葉。
世界を変え続けてきた、人間が今もなお答えの出ないたった一つの感情の名前。
Ammo Re
ζ(゚ー゚*ζ「 愛 よ 」
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Ammo→Re!!のようです
Ammo for Rebalance!!編
最終章『Ammo Re-【 愛 】-』
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891
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:31:48 ID:K.ug12hY0
それは。
世界でただ一つだけ存在する、第一世代強化内骨格“デレシア”の起動コードだった。
独自のアクセントと原語で愛を語る起動コードは、彼女の体内に埋め込まれている“アイリス・システム”を起動するためのコードでもあった。
虹の女神の名を持つ兵器が起動したのは、第三次世界大戦以降初めての事だった。
それは、第三次世界大戦を終わらせた兵器であり、ノ・ドゥノを滅ぼすきっかけになった兵器でもある。
アイリス・システムは空気中、あるいは地表に存在するほぼ全ての物質を介して遠く離れた場所にあるあらゆる電子機器への侵入と操作が可能な兵器だ。
電波や環境に依存せずに稼働し、例えシェルター内に避難していたとしてもその追跡から逃げることはできない。
文明レベルがある一定の水準を越えなければ意味のない兵器だが、一度電子機器の味を覚えた文明においては最強の兵器である。
軍用第七世代強化外骨格が世界に根付き、今も戦場から消えていない以上、その絶大な力は健在だ。
EMPよりも確実に、そしてより強力に戦場を支配できるシステムは当時も危険視され、それを保有していたノ・ドゥノが狙われることとなった。
ζ(゚ー゚*ζ「……夢は覚めるものよ」
笑顔を浮かべ、人差し指で虚空をかき回す仕草をする。
それはただのパフォーマンスでしかない。
分かりやすいきっかけ。
見せかけの仕草はだがしかし、遥か遠方の地に秘匿されていたベンジャミンバトンへの侵入と破壊を一瞬で成功させていた。
そしてバックアップが保存されている場所も見つけ出し、それを破壊した。
彼らの遺産は、一つの例外なくアイリス・システムによって発見され、破壊された。
その仕草に思い至る物があったらしく、内藤が顔面を蒼白にした。
(;゚ω゚)「ま……さか……!!」
ζ(゚ー゚*ζ「想いを次の世代に残したいのなら、自分の口と行動ですることね。
本当にいい物は滅びないんでしょう?」
ベンジャミンバトンの存在をデレシアに知られたことが、そもそもの失敗だ。
もしも本当に次の機会を狙っていたのであれば、何も言わずに死ねばよかったのだ。
誰かの記憶を引き継いだからこそ、彼は自分自身の気持ちを前面に押し出したいという欲求に逆らえなかったのだろう。
(;゚ω゚)「なん……なんてことを……!!
夢を……わ、我々の夢を……!!」
今にも泣きそうな内藤を見て、デレシアは落胆を禁じ得なかった。
もしも本当に自分たちの夢を信じているのであれば、機械が壊れたところで慌てふためく必要はない。
所詮は傀儡ということなのだろう。
最初の人間が持っていたであろう信念も覚悟も、所詮は上辺だけの継承なのだ。
ζ(゚ー゚*ζ「あら、忘れたの?
この世界のルールはこの上なくシンプル」
デザートイーグルの銃腔が内藤の顔を睨みつける。
ζ(゚ー゚*ζ「力が全てを変えるのよ」
892
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:32:17 ID:K.ug12hY0
銃声が響き、内藤の下顎を残して頭部が吹き飛んだ。
地面に落ちる薬莢の乾いた音は、長年にわたる夢に終わりを告げる鐘の音のそれ。
頭上に広がっていた薄い青空は、ほどなくして灰色に染まり始める。
湿気を含んだ風が吹き、どこかへと消えてゆく。
ノ・ドゥノの街並みは薄暗い霧の中。
目を凝らせば、その陰の中に更に濃い影を見つけられることだろう。
永遠に消えることのない影。
建物に焼き付けられた人影が、街の至る所に残されている。
それが何を意味するのか、今の時代を生きる人間で知るのはデレシアだけである。
ζ(゚、゚*ζ「……お花もなくてごめんね」
デレシアの呟きは風が運び去る。
そして彼女は寂しそうな笑みを浮かべ、ゆっくりとした歩みで船に向かう。
彼女にだけは、その街のかつての姿が見えていた。
そこにあった建物の本来の姿も。
そこに生きていた人々の事も、彼女だけは知っていた。
ζ(゚ー゚*ζ「少し、見て回ろうかしら」
そして、デレシアは静かに歩き始めた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
世界が終焉から抜け出せなくなったのは、間違いなくその日である。
カリメア合衆国がノ・ドゥノの市長暗殺を実行に移した日だ。
それは、誰にも止められない巨大な津波の様に世界を終わらせることだろう。
だが。
私は、それでもこの人に生きていてほしい。
世界の終わりが来ても、この人にだけは生き続けてほしい。
そう切望し、私は今からこの手術を開始する。
一切の弁明の余地なく、徹頭徹尾これは私の我儘だ。
この我儘の名前こそが――
――セファリド・ブーン・アケーディア
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
893
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:32:40 ID:K.ug12hY0
――ノ・ドゥノを統べていたデレシアが瀕死の重傷を負ったのは、第三次世界大戦末期の事だった。
街を戦渦に巻き込まれないように守っていたデレシアは、遂にある日、凶弾に倒れる。
心臓を直撃した銃弾により、デレシアは死の淵を彷徨うこととなった。
しかし、彼女を強く想う人間が彼女を救うために世界を変えたのだ。
強化外骨格の研究が煮詰まり、瓦礫と化した戦場を舞台に展開するための多脚構想が主流となる中、彼は外骨格という概念を捨てることにした。
命を救うために彼が行ったのは、代替可能な人間の臓器や骨格を全て機械に置き換えるという物だった。
それは、デレシアの命を救いたいという一念によって完成された世界で唯一の技術。
故に、世界唯一の強化内骨格には“デレシア”の名が冠されることとなる。
( ;ω;)「絶対に……あなたを死なせない……!!」
デレシアの義理の息子として、そしてノ・ドゥノの技術者として傍にいたセファリド・ブーン・アケーディアの彼女を失いたくないという想いが、時代を変えた。
構想自体は存在したが、それを緊急時に実用化させるという荒業は、恐らくどの歴史書にも記されていないはずだ。
まずは置き換えた人工心臓を核戦争後の世界でも半永久的に稼働させるため、アイリス・システムを補助装置兼動力源として使用した。
アイリス・システムは蓄電能力に優れており、デレシアが食事によって体内で生成する熱をエネルギーとして充電する仕組みを確立させた。
同時に、アイリス・システムは彼女の身を守るための盾としても機能を発揮する。
EMPを始めとした電子機器に対する攻撃手段に対して、アイリス・システムは絶対の防御を誇る。
これで、物理的な攻撃手段以外で彼女の命を動かす動力を止めることはできない。
少なくとも心臓と脳は無事で済むはずだと、ブーンは考えた。
彼女を瀕死にせしめた銃弾の問題は解決したが、彼女が浴びた銃弾の雨は、彼女の四肢を生成不可能なまでに傷つけた。
臓器の置換だけでは足りない。
( ;ω;)「我儘なのは知っています……だけど……それでも!!
僕は、あなたに……生きてほしい!!」
骨格を特殊合金製の物に置き換え、筋肉を人工筋肉に置き換えた。
皮膚を始めとする人工の素材は放射線に対する圧倒的なまでの耐性を備え、膂力は常人の数倍を容易に発揮する。
骨格の頑強さに至っては例え車が激突しても問題のないレベルの物となった。
可能な限り彼女のありのままの姿を生かそうと努力し、そして、それは結実した。
手術を終えたデレシアが目を覚ますのは、その手術を終えた一週間後のこととなる。
ただし、それはノ・ドゥノにとって。
そして、世界にとってはあまりにも遅すぎた。
894
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:34:02 ID:K.ug12hY0
――ノ・ドゥノを統べていたデレシアが瀕死の重傷を負ったのは、第三次世界大戦末期の事だった。
街を戦渦に巻き込まれないように守っていたデレシアは、遂にある日、凶弾に倒れる。
心臓を直撃した銃弾により、デレシアは死の淵を彷徨うこととなった。
しかし、彼女を強く想う人間が彼女を救うために世界を変えたのだ。
強化外骨格の研究が煮詰まり、瓦礫と化した戦場を舞台に展開するための多脚構想が主流となる中、彼は外骨格という概念を捨てることにした。
命を救うために彼が行ったのは、代替可能な人間の臓器や骨格を全て機械に置き換えるという物だった。
それは、デレシアの命を救いたいという一念によって完成された世界で唯一の技術。
故に、世界唯一の強化内骨格には“デレシア”の名が冠されることとなる。
( ;ω;)「絶対に……あなたを死なせない……!!」
デレシアの義理の息子として、そしてノ・ドゥノの技術者として傍にいたセファリド・ブーン・アケーディアの彼女を失いたくないという想いが、時代を変えた。
構想自体は存在したが、それを緊急時に実用化させるという荒業は、恐らくどの歴史書にも記されていないはずだ。
まずは置き換えた人工心臓を核戦争後の世界でも半永久的に稼働させるため、アイリス・システムを補助装置兼動力源として使用した。
アイリス・システムは蓄電能力に優れており、デレシアが食事によって体内で生成する熱をエネルギーとして充電する仕組みを確立させた。
同時に、アイリス・システムは彼女の身を守るための盾としても機能を発揮する。
EMPを始めとした電子機器に対する攻撃手段に対して、アイリス・システムは絶対の防御を誇る。
これで、物理的な攻撃手段以外で彼女の命を動かす動力を止めることはできない。
少なくとも心臓と脳は無事で済むはずだと、ブーンは考えた。
彼女を瀕死にせしめた銃弾の問題は解決したが、彼女が浴びた銃弾の雨は、彼女の四肢を生成不可能なまでに傷つけた。
臓器の置換だけでは足りない。
( ;ω;)「我儘なのは知っています……だけど……それでも!!
僕は、あなたに……生きてほしい!!」
骨格を特殊合金製の物に置き換え、筋肉を人工筋肉に置き換えた。
皮膚を始めとする人工の素材は放射線に対する圧倒的なまでの耐性を備え、膂力は常人の数倍を容易に発揮する。
骨格の頑強さに至っては例え車が激突しても問題のないレベルの物となった。
可能な限り彼女のありのままの姿を生かそうと努力し、そして、それは結実した。
手術を終えたデレシアが目を覚ますのは、その手術を終えた一週間後のこととなる。
ただし、それはノ・ドゥノにとって。
そして、世界にとってはあまりにも遅すぎた。
895
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:35:37 ID:K.ug12hY0
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抑止力だったデレシアが不在であることを察知したとカリメア合衆国が、ノ・ドゥノに向けて核兵器を複数発射。
爆発の威力ではなく、放射線による人体の破壊にのみ重点の置かれた核兵器は建物だけを残し、ノ・ドゥノの街を一瞬で無人に変えた。
それだけではなく、街を中心とした周囲一帯に長期にわたる放射能汚染の被害をもたらし、天候をも変えるほどの甚大な被害を与えた。
殺意の一点に注力して作られた核兵器は、減退という概念を持たないように設計された人類史上最悪の兵器となった。
その兵器が持つ悪意と殺意は、今なおノ・ドゥノを中心としたバミューダトライアングルという地帯の存在が物語る。
そしてそれをきっかけに、世界は自制心を失った。
撃たれる前に撃つ。
世界がギリギリで守っていた最後のルールはノ・ドゥノの壊滅と共に、完全に姿を消すこととなった。
大国が小国に、小国が大国に核を撃ち合い、人類史上最悪の核の冬が訪れたのである。
目を覚ましたデレシアが見たのは、死体とも呼べるものすら残らない、無人と化した街並みと変わり果てた空だった。
混濁する意識の中、デレシアは静かに歯噛みし、そして涙を流した。
生きている人間の姿は、どこにもなかった。
部下も。
友人も。
家族も。
ノ・ドゥノで生きているものは、何もなかった。
896
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:36:22 ID:K.ug12hY0
デレシアは街のシェルターに向かい、そこに生存者がいないかを確認したが、誰もいなかった。
街は彼女一人を残して滅んだのだとようやく受け入れたのは、全てのシェルターを見て回り終えてからの事だった。
変わり果てた空の正体を知ろうとしても、電波が乱れ、EMPの影響を受けた電子機器は軒並み役に立たなくなっていた。
極めて強力な放射能が影響を及ぼしているのだと推測し、自ら用意したシェルターへと向かった。
そこには、電波を利用しない通信機器も用意されており、万が一の際には外部との連絡が取れる準備が整っていた。
インターネット上には、核戦争を生き延びた人間達による情報共有が行われていた。
自分たちの置かれた状況などを共有することで絶望感を和らげ、生存率を高めようという一種の生存本能による行動だったのだろう。
互いの過酷な状況や、生き延びるための術を伝え合い、励まし合っていた。
デレシアは、とにかく情報を手に入れることにした。
少しでも世界に何かしらの救いを見出そうとしたのだ。
人類がそこまで愚かではないことを期待し、そして、それは打ち砕かれた。
皮肉なことに、それが世界の終わりを観測する手段の一つになったのである。
世界最悪の核戦争、そしてそれがもたらした核の冬の被害は甚大だった。
シェルターに避難できなかった人間は、暖房設備の有無と放射能影響によって被害状況が大きく異なった。
核兵器の影響が少ない地域でさえも、唐突に訪れた冬は甚大な被害をもたらした。
平均気温が2桁低下し、水は凍り、電気は止まり、最後にガスが止まって全てが凍り付いた。
その様子を克明に配信していた若者の最期の言葉は、吹雪の音にかき消されて誰にも届かなかった。
最終戦争に備えていた多くの人間がシェルターに避難したが、そのシェルターの違いによっても人々の生存率は変動した。
真っ先に死者を出したのは、核兵器に対する対策をしていなかったシェルターである。
放射能によって徐々に空調設備からシェルター内部が汚染され、そして全滅した。
庭の地下に作られるような簡易的なシェルターは当時の民間人の間では最も多く使用されており、結果としてはただの墓場にしかならなかった。
核の冬に備えていた一部の民間人とシェルターがそれに耐えたが、限界があった。
日光を失ったことにより多くの発電装置は1年で活動を停止し、世界各地の様々なサービスが機能を失う。
自然のエネルギーを活用した設備は稼働していたが、生み出した電力を分配する施設が極低温の気候によって機能を停止し、無駄に終わる。
やがて、無人となった通信会社の非常用電源も底を突き、世界は最大の通信手段を失った。
電波と電力を失ったことで人類の通信手段は急激に退化し、遂には途絶えることとなる。
人類最後のシェルターでは発電機の故障により、空気の供給が停止。
まるで沈没した潜水艦の最期のように、一人、また一人とそれぞれの形で死を選んだ。
こうして、ゆっくりと眠る様にして人類は滅んだ。
一方、ノ・ドゥノの核汚染は非常に深刻で、普通の生物であれば近づいただけで即死する状況だった。
更に、街を覆うようにして発生する異常気象は時間が経っても収まることがないと分かるが、世界を襲う氷河期じみた気象の中で生きられる保証はない。
ノ・ドゥノに用意したシェルターは小型の原子力発電が用意されているため、無理をして外に出る必要はなかった。
核汚染と極低温の世界は、地上に残された多くの生物を淘汰することだろう。
地下での生活は規則正しく、そして決められたことをする日々だった。
彼女自身を生かすためには食事が不可欠であり、その食事を用意するために作物を育てることを始めた。
限られた環境下でデレシアは作物を育て、これまで無縁だった生きるための術を学んだ。
幸いにして、そのための時間はいくらでもあった。
897
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:36:58 ID:K.ug12hY0
何より、街の地下に張り巡らせるようにして作られた巨大なシェルターには彼女一人しかおらず、備蓄された食料や水は十分すぎるほどにあったのだ。
失敗を繰り返し、デレシアは生きる術を一つ一つ手に入れた。
それは来るべき日に向けての準備でもあった。
核の冬には終わりがある。
地球全土が凍結したとしても、それでも、必ず終わりは来るのだとデレシアは知っていた。
そしてその日が来れば、自分が向かうのは文字通り凍り付き、滅んだ世界。
その世界の中で、生きていかなければならないのだ。
知識を蓄え、それを実際に試し、多くの技術と知恵を手に入れた。
結果、彼女は職人たちが連綿と伝えてきた技術の再現が可能になった。
自分の体にも慣れ、一人でいることにも慣れた。
後はその日に向け、装備の用意と見直しが連日行われた。
長距離を歩き続けるためのブーツは、当然ながら丈夫さと機能性を失わないようにしつつ、各部の交換修理が可能な手入れの容易さを確立。
銃は以前から扱っていたデザートイーグルに加えて、ソウドオフショットガンを用意した。
こちらも手入れの容易さを重視し、尚且つ弾種を変えやすいという点で採用を決定した。
備蓄品にあった革製のカバンを分解し、それをホルスターに改造した。
革製の備品は手入れさえ怠らなければ長期間の使用が可能だからだ。
そして、服の用意が最も困難を極めた。
地上に出たとして、待っているのは極寒の大地と予想不可能な天候だ。
それに耐えられ、尚且つその後の世界でも使えるような素材が必要だった。
DATに保存されているデータをもとに、世界最新最高峰の繊維を復元することに成功した。
幸いしたのは、シェルター内部にある備蓄品の中にその繊維のサンプル品があったことだった。
ノ・ドゥノに亡命してきた技術者の一人が持ち込み、万が一の際にとシェルターに入れておいたのだ。
防弾、防刃、防風、防水、防炎、防爆、防汚、防寒等あらゆる負の要素に対して優れた防御力を持つその繊維を使い、ローブを作った。
マントではなくローブにしたのは動かしやすさを重視するためで、尚且つ冷気を塞ぐためでもあった。
――恐らくは十数年後、外部の温度を計測する装置に変化が見られた。
気温の上昇が核の冬が終わりを告げたのを機に、デレシアはノ・ドゥノを発つことにした。
極めて高性能な素材で作られたローブと武器、そして旅に必要な食料品などを詰めたリュックを背負って、静かに街に別れを告げる。
瓦礫と骸、そして破滅の坩堝と化した世界の鍋底を歩くように、デレシアは世界を旅し始めた。
デレシアは滅んだ街を転々とし、仄暗い世界で続ける旅の中、景色は日に日に変化していった。
核の影響が地表からなくなり、太陽の光が地上に降り注ぐようになって、生態系は青々とした色を取り戻した。
汚染の影響を乗り越え、生き延びた生物たちは独自の進化を遂げたが、一巡してかつての世界と同じ動植物が世界に広がる。
大都市だった場所は軒並み荒れ果て、コンクリートの欠片や鉄塔の残骸が唯一の名残。
灰色だった空が徐々に青みを増し、陽の光を感じられるようになった時、世界はその美しさをデレシアの前に広げて見せた。
898
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:37:49 ID:K.ug12hY0
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. . . . . .: .. . .
.:.... :. :. .... .. .. . .
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世界が澄み切った青空を取り戻した日、デレシアは頭上に広がる圧倒的な光景に心を打たれた。
白く、薄らと見える巨大な月。
手を伸ばせば届きそうなほどにそれは近く、そして幻想的な光景だった。
夜空はこれまで見てきたどんなそれよりも輝き、煌めいていた。
星空に圧倒され、銀河がよく見える空の下、旅は続いた。
動物たちが地上を支配する時代が訪れた時、デレシアは第三次世界大戦から随分と長い時間が経っていることに気づいた。
滅んだ文明の跡地を見て歩き、一台のバイクをシェルターの中で見つけた。
それは、少数のみ生産されたジャネーゼ産の大型バイク“アイディール”だった。
水を燃料にして動くそれは、複数のパーツを交換することで稼働できるほどに状態が良く、デレシアはそれを旅の友とすることにした。
濃厚な蒼穹の下、デレシアは旅をしながら多くの事を考えたが、やがてそれを止めた。
考えたところで事態が変わることもない。
それ故に、彼女は世界そのものを楽しむことにした。
生態系が滅んでから一巡する程の時間が経っても死なないのであれば、止まるまで旅を続ける。
世界の行く末を見届け、見守ることこそが、彼女にとっての楽しみとなった。
世界大戦の傷跡は、自然がそのほとんどの痕跡を消してくれていた。
街の中で時折見かける人工物の中でも、棺桶に関しては極めて状態が良く、中には何もせずとも稼働するものまであった。
世界大戦中に人類が生み出した多くの合金は、耐腐食性に優れ、更には風化に対する圧倒的なまでの防衛力を有していた。
だがそれも、瓦礫や土の中に沈み、化石の様に地層の中に消えて行った。
変わり果てた世界も、やがて落ち着きを見せ、生態系の進化も戦前に近づいてきた。
恐らくは、人間が愛玩動物や家畜として管理していた動物が逃げ出し、生き延びたことで生態系のサイクルに補正がかかったのだろう。
おかげでデレシアは食事に困ることはなく、原始的な武器を使って動物を狩り、旅を続けることが出来た。
アイリス・システムの維持に必要だったのは、デレシアの食事によるエネルギー摂取行為だけだった。
そのため、どれだけ酷い状況下でもデレシアは必ず食事をして、生きることだけは忘れなかった。
何万回目の春を迎えたかも忘れ、アイディールが遂に動かなくなった頃、人類に似た生物が誕生した。
899
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:38:11 ID:K.ug12hY0
二足歩行の猿が登場し、やがて、それは道具を使って集団生活を始めたのである。
火を扱い、石器を作り、集落を作った。
縄張り争いも起きるほどの知性と社会性を持ったその旧人類には、大きな特徴があった。
争いの絶えない世界を生き延びるために彼らの耳は獣のそれであり、瓦礫の多い地面でバランスを崩さないために獣の尾を持っていた。
いずれも猿とは違った動物の特徴が表れており、進化の過程でネコ科やイヌ科の物が多く見られた。
後に“耳付き”と呼ばれる現在の人類の始祖である。
耳付きは平均寿命が長く、その容姿がある一定の段階――精通、あるいは月経――を迎えたところで停滞する特徴を持っていた。
その特徴は、自分たちの数を増やすための生存本能だったのかもしれない。
人類の数がある程度増えてくると、それに合わせて耳付きの数は減り、尾を持たない人間の方が多くなった。
気が付けば人類は小さな集落から町を作り、それを広げて街を作った。
農耕技術も発達し、彼らは飢えに苦しむことがほとんどなくなった。
いざとなれば近くの町を襲えば、それだけで事足りるのだ。
ある日を境に、世界各地でほぼ同時多発的に一つの変化があった。
旧時代の遺産の発見と復元である。
それまで弓と槍が主な武器だった時代が、大きく変わった。
まず初めに、拳銃が戦いの中で登場するようになった。
地面の中ではなく、劣化のほとんどないシェルター内に侵入することに成功した人間が銃と弾を見つけ、それを使ったのだろう。
銃の恐ろしさと便利さは瞬く間に世界に広がり、世界は自らの足で進歩するのではなく、過去の遺産に頼ることにしたのだ。
人類の誕生からその成長を見てきたデレシアとしては、この変化は少し悲しくもあったが、これが人類の進歩を飛躍的に進めることを確信した。
事実、彼らはDATの発掘に成功し、多くの知識を手に入れて瞬く間に文明レベルを向上させていった。
知識の入手において必要不可欠だった言語は、だがしかし、彼らが進化の過程でかつての世界共通語とほぼ同じ言葉を使っていたことが幸いした。
DATに表示される言葉に沿うようにして、人類の言語は変化した。
やがて、それが世界共通語へと変わり、大戦以前の世界では実現できなかった言語の統一に成功したのである。
皮肉なことに、自発的な進化ではなく技術に追いつくために自らを変化させたという点で言えば、進化というよりも退化か停滞と表現したほうが相応しいだろう。
街に並ぶ建物がコンクリート製の物に代わり、ひび割れていた地面が舗装され、電気が当たり前の存在となる頃には人類のほとんどは旧時代と同じ姿をしていた。
稀に生まれる耳付きと呼ばれる人間達はその姿から、奴隷や道具として扱われることとなり、差別がなくなる気配はなかった。
後にジュスティアと呼ばれる街の誕生に、気まぐれで携わったデレシアはその時の長に人として間違った道を歩まないように伝えた。
それがいつの間にか、正義を貫徹せよ、という解釈で伝わり続けて街の名前はジュスティアと命名されたのである。
イルトリアという国の跡地に行った時、そこは暴力で満ちていた。
己の力を持て余す者が多く闊歩し、その力の矛先をどこに定めるべきか迷っていたのである。
偶然そこで知り合った人間に食事を振舞われ、その恩返しとしてデレシアは強大な力には鎖が必要であることを教え広めた。
やがてその考え方が浸透し、力で雌雄を決し、その力を振るうことが自分たちの得意分野であることに気づき、街が生まれた。
後のイルトリアとして知られる街は、デレシアによって秩序を手に入れ、街は武力を商品とすることにした。
奇しくも、東と西の端にある街が後に世界の天秤を担うとは、この時のデレシアは思ってもいなかった。
それよりも彼女の関心は、世界の行く末だった。
かつて滅んだ世界の途中から始まったかのように見えて、その実、進化の停滞が見える。
本来、進化とは時間をかけて蓄積して行われるものであって、いくつもの段階を飛ばしていくものではない。
後世に多くの情報を残すために作られたDATの影響は、あまりにも大きかった。
彼等は数世紀以上の過程を飛ばし、今に至るのだ。
次なる進歩に際して、その倍以上のずれが生じることは間違いなかった。
900
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:38:52 ID:K.ug12hY0
そして、いつしか世界のどこかで“ティンバーランド”という組織が生まれたことが分かり、デレシアは久しぶりにその名前を思い出した。
かつてデレシアがノ・ドゥノの市長だった時にも、その名前を聞いたことがあったのだ。
世界を一つの国にするという、あまりにも馬鹿げた理想を掲げる集団。
その長は、かつての合衆国大統領。
世界統一という夢が生まれるには、世界は圧倒的に未熟。
国という概念さえ生まれていない中で世界を統一するというのは、誰かの入れ知恵がなければ浮かばない物だ。
そこで考えついたのが、書物を見つけたか、DATに情報が残っていたのかのどちらかだ。
あえて泳がせておいたところ過激派の集団と化したので、デレシアは彼らを全滅させた。
時代を幾重にも越えたが、国が生まれることはなかった。
それまで世界を支配していた暴力の色は鳴りを潜め、イルトリア的でありジュスティア的な考え方が世界に浸透していった。
暴力は知性と秩序を手に入れ、奇妙な調和が世界にもたらされた。
変わりゆく世界を旅しながら、デレシアは多くの出会いに恵まれた。
世界の形や時代が変わろうとも、言葉が通じればこれまでとは違った出会いを楽しむことができる。
過干渉にならぬよう、デレシアは世界を旅した。
デレシアは世界の天秤を担う街の市長にティンバーランドの存在について軽く伝え、流されないように誘導をした。
若かりし頃のペニサス・ノースフェイス、理想的な警官だった頃のジョルジュ・マグナーニ達との出会いは、実に興味深かった。
危惧はしていたが、やはりティンバーランドの思想は水面下で動いていることが確認された。
何度もその芽を潰したのは、今の時代に無理矢理干渉しようとする過去の意思の不要さが際立っていたからだ。
確かに今の時代は過去の遺産によって作られたことは否めない。
だが、だからと言って過去の思想をそのままに持ち込むというのはまた別の話だ。
国という概念がそもそもない場所に国という考え方を持ち込めば、また同じことの繰り返しとなる。
人類が再び核の力を手に入れた今、国はただ争いの種にしかならない。
しかし、今を生きる人類がそれを思いついたのであればそれは構わない。
問題なのは、その考え方を盲信した人間が世界と統治しようと試みることにあった。
単一国家という夢の産物は、今の世界から多くの物を奪い取る。
彼らの思想がどこから蘇っているのかを考えつつ、デレシアは長い目で世界を見守ることにした。
少なくとも、世界中を旅していて飽きることはなかった。
例え――
ζ(^ー^*ζ
――例えそれが数億年続いている旅だとしても、彼女はそれを愛してやまなかった。
ζ(゚ー゚*ζ
そして何度目になるか分からない7月31日。
:;(∪;´ω`);:
デレシアは、彼に出会うことになる。
彼女の息子と同じ瞳をした、耳付きの少年に。
何度も蔑まれ、暴力に染め上げられながらも、瞳の奥に宿る光は息子と同じだった。
彼を助けようと思ったのは、その瞳に魅入られたこともあったが、息子との出会いを思い出したのもあった。
901
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:40:17 ID:K.ug12hY0
そうして助け、ブーンの名前を与えたことで彼女の旅が大きく変わり始めた。
オセアンからティンカーベル、オアシズやラヴニカといった大きな街を訪れた。
ヒート・オロラ・レッドウィングとの出会いやペニサスとの再会。
そして、これまでと違ってより大々的に世界に介入している内藤財団という名のティンバーランドの隠れ蓑。
可能な限り彼らに関わらないように旅を続けたが、デレシアの存在に気づいた彼らがそれを許さなかった。
結果として第四次世界大戦にも似た戦争が始まり、終わった。
これまでに使おうとしなかったアイリス・システムを使ったのは、彼らが再び世界に出現しないためだ。
過去の人間の思想をそのまま現代に持ち込もうなどと、一体誰が許すだろうか。
この先、一度広まった国という概念が世界をどう変えるのかは分からない。
だが変えていくのは今を生きる人間達だ。
デレシアが介入することでもなければ、過去の人間の意思が介入することはない。
後はただ、時代に任せるだけなのだ。
(<::ー::::>三)「……懐かしいわね」
デレシアはフードを目深に被り、ノ・ドゥノを闊歩する。
かつてそうだったように。
かつての空気を味わうように。
街並みを名残惜しむ様に。
そこにあった光も、影も、人の営みも。
今は全て、彼女の記憶にしかない。
しかしその記憶も永遠ではない。
彼女を今も生かしているのはアイリス・システムのおかげであり、先ほどの大規模な機能の使用は、彼女の命に必要な電力を消費することになった。
アイリス・システムが電力を使用すれば、その分だけデレシアを動かす電力が減ることになる。
その結果が何を生み出すのか、デレシアは理解した上でアイリス・システムを起動した。
起動してでも、この世界から屠るべき過去の遺産があるからだ。
(<::ー::::>三)「……」
902
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:41:05 ID:K.ug12hY0
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雲の覆う街、ノ・ドゥノ。
恐らくは今後、誰にも発見されて語り継がれることのない、死が支配する最果ての都。
視界はほとんどないが、彼女だけはその地図を持たずに目的地に行くことができる。
足取りも、息もこれまでとはまるで比べ物にならない程に弱っていた。
やがて、デレシアの目の前には朽ち果てた像らしきものが見えてきた。
否、最早それは像ですらない。
風によって静かに侵食され、台座と像だった何かが残された、ただの岩だ。
岩を背に腰かけ、デレシアはゆっくりと瞼を降ろした。
静かに風が吹き、彼女の頭からフードを優しく取り除く。
静寂が周囲を覆う。
しかし彼女の瞼の裏には、全く別の光景が映っていた。
在りし日のノ・ドゥノ。
息子となる少年と出会った、その日の光景。
903
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:41:39 ID:K.ug12hY0
ζ(´、`*ζ「ふぅ……」
呼吸はやがて静かに、確実に少なくなる。
今はただ、ゆっくりと休むだけ。
久しぶりに訪れた故郷を楽しむだけ。
そして、口元に笑みをたたえて、ただ眠るだけ――
ζ(´ー`*ζ
――四度の夏を迎え、二度目の核の冬が終わっても、ブーンとデレシアが再会することはなかった。
┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
Ammo→Re!!のようです
Ammo for Rebalance!!編
/ i : | | :/ .:/ / :/ |: ; |: : |
/ / |│ :│ | /| :// /// ─-i :|八 !
//∨|八i | | ヒ|乂 ///イ | j: : : . '.
///: : i: : : :i i │∠ : イ// ミ=彡 ; /: : :八: :\
/{:八: : :i/: :八: ∨|八| |/ :j / /: : :/ ハ : \
. / /: :\ \ \ : : \\ 〈| . / / : : / } : | 、ヽ
/ : : : : \ \ \: :从⌒ ∠/ //: / ノ.: :リ 〉: 〉
/ 人 : : : -=ニ二 ̄}川 >、 `''ー 一 ∠斗匕/´ ̄ ̄ ̄`Y: :{/: /
{ { 厂 . : { /⌒\ .イ///: : : .____ 人: :\/
': ∨} _: : : : 二二/ / | \_ -=≦⌒\く_: : /: : : : : : :_:): :\: :\
最終章『Ammo Re-【 愛 】-』
了
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻
904
:
名無しさん
:2024/07/14(日) 20:42:28 ID:K.ug12hY0
これにて今回の投下は終了です
質問、指摘、感想等あれば幸いです。
次回Epilogueをもって、Ammo→Re!!のようですは完結いたします。
もう少しだけお付き合いいただければ幸いです。
905
:
名無しさん
:2024/07/15(月) 07:14:53 ID:qyOfuMGA0
おつ
あまりにも膨大すぎる量でいろいろと書きたいけどとりあえずデレシアさんのスケールが違いすぎた
神じゃん
906
:
名無しさん
:2024/07/15(月) 08:50:21 ID:z71KQtaY0
読み終えてないけど乙
200レスぎっちり文章つまってておったまげた…
907
:
名無しさん
:2024/07/15(月) 12:36:02 ID:NbHFqzVo0
ものすごい文量だ…本当に乙!!
終わってしまうのが寂しいけど楽しみにしてます
それまで読み返して待ってる
908
:
名無しさん
:2024/07/15(月) 13:23:09 ID:mpCFUdUM0
乙
909
:
名無しさん
:2024/07/16(火) 18:56:20 ID:MjFk3yRw0
おつ!
この回で生き残った人は生存確定か?
・アサピーがなんだかんだで一番ブレてない気がする力もないのに
・トラギコとシナー好きだから生きてて本当によかった
・マンオンファイアで暴れてるギコ見れてよかった
まさか西川親子やるのがギコとは
・キュート呆気ねぇ…
・デレシアさんの脳と心臓とその他数億年劣化なしってこと…?棺桶も…?
次で終わるのが本当に寂しい
910
:
名無しさん
:2024/07/20(土) 04:15:01 ID:UgHSdHiA0
>>811
>もしも以前の自分ならば、アサピーの名を叫んで追いかけていたことだろう。
「ニダーの名」の間違い?
>>814
>( `ハ´)「馬鹿か、そいつらは。
> 今の状況で戦闘以外に何が出来るニダ」
シナーさんがニダーさんになっちゃってる
911
:
名無しさん
:2024/07/20(土) 05:37:38 ID:mzYDw5A.0
>>910
\(^o^)/
やっちまいました……
912
:
名無しさん
:2024/07/20(土) 05:52:01 ID:UgHSdHiA0
>>893
>彼女を瀕死にせしめた銃弾の問題は解決したが、彼女が浴びた銃弾の雨は、彼女の四肢を生成不可能なまでに傷つけた。
ここも多分「再生不可能」かな?
デレシアさんなら生成しそう
913
:
名無しさん
:2024/07/20(土) 10:17:12 ID:W6/O1pX60
乙
デレシアさんも愛によって生かされてたんだなって
登場人物があっさり死んでくのは誰だって劇的に死ねるわけじゃあないからねぇ
シリアスな話なのにちょいちょいネタ挟んでくるんだもん油断してたから吹き出しちゃったww
個人的にルノアの戯言の諺がお気に入りです。
>>735
最数的に作戦が全て成功
ここの最数的にって最終的に? それとも作戦数的になのかな?
指摘が間違ってたらごめんなさい……
次回で終わりなのは寂しいけど待ってます!!
914
:
名無しさん
:2024/07/20(土) 10:35:54 ID:Adqi4q0A0
乙
30分時間を稼ぐために何年(何千年?)かけて組織を立ち上げ秘密裏に計画進めて世界大戦まで引き起こしたのに
普通に追いついてるの怖すぎる
そりゃラスボスさんも引きつった笑顔するしかないわな
これからみんながどうなるのか気になりすぎる
エピローグ、待ってます!
915
:
名無しさん
:2024/07/21(日) 16:38:30 ID:UKoCGjM.0
とんでもない文量乙!
ようやく読み終えた…
この物語がどういう結末迎えるか想像つかない、最終回も楽しみ
ちなみにキュートってティンバーランドに監視付けられるような立場だった気がするんだけどなんか説明あったっけ
後ローブの復元ってペニサスがしたんじゃなかったっけ?
916
:
名無しさん
:2024/07/21(日) 21:40:29 ID:L8/kM8pM0
>>915
キュートは秘密兵器的なポジションなので、表立って護衛をつけることができないので、常に誰かに見られるように誘導されておりました。
ローブはデレシア、そしてペニサスが復元に成功している設定になっております。
917
:
名無しさん
:2024/07/21(日) 21:41:39 ID:L8/kM8pM0
>>912-913
(´・ω・`)その通りでございます
918
:
名無しさん
:2024/08/04(日) 12:16:20 ID:mbK6Pnew0
来週11日、上手くいけばVIPでお会いしましょう
919
:
名無しさん
:2024/08/04(日) 16:02:35 ID:KGkyGMJc0
はっや!やった!
いまさら気づいたけど最後デレ死にかけてるんだな
ほぼ自爆とはいえ相打ちに持ち込むとはやったなティンバーランド
920
:
名無しさん
:2024/08/11(日) 18:09:28 ID:XZZ24kQc0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
三度の秋を越え。
三度の冬を越え。
三度の春を越え。
四度目の夏を迎え。
今も、僕は彼女を想い続ける。
――ブーン
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
世界を変える大規模な戦争の行く末は、世界を襲った未曽有の大寒波があやふやにした。
内藤財団の代表者からの言葉がなくなれば、それまで世界が熱狂していた一つの思想をまとめる存在はなくなる。
理想だけで生きられないと分かった以上は、その理想は早々に捨て去られた。
国という概念はさながら半熟のスクランブルエッグのような物となり、結実することがないままに核の冬を迎えた。
核の冬が訪れ、真っ先に人々が行ったのが熱の確保だった。
電気が使えなくなれば、熱を生み出す手段は薪を燃やすかガスに頼る以外にない。
電力が失われたことにより、ガスは供給手段と採取手段を失った。
人類が一気に退化を強いられたことに気づいたのは、冬の訪れの翌日に身近な人間が凍死した姿を見てからの事だった。
薪を手に入れるためには伐採をするしかない。
伐採をするためにはチェンソーがいる。
チェンソーを動かすためには電気がいる。
電気がないのならば、斧で切り倒すしかない。
芯まで凍り付いた樹木の硬度は時としてコンクリートを越えることもあると、森に住む人間は心得ていた。
その為、停電と同時に彼らは町中総出で森に向かい、木を切り倒した。
限界まで木を切り倒した後、作業用強化外骨格のバッテリーが底を尽きるまでそれを運搬。
小さな町や村の中心に続々と薪が用意され、各家庭へと厳格に調整された数が配給された。
奪い合いが余計なリスクを生み出すと知る町の指導者は、武器を手にその配給を完遂させた。
防寒対策として次に彼らが選んだのは、食料の確保と地下シェルターへと生活の基盤を移動させることにあった。
当然ながら、食料の調達は困難を極めた。
急激な気温変化により野菜は全滅し、果実や木の実は凍り付いていた。
動物も生きたまま凍り付いた姿で発見されたが、それは極めて貴重な食料として重宝された。
天然の冷凍庫があるのならば、危険を冒して狩りをする必要がないのだ。
幸いにして肉類は手に入ったが、魚は凍り付いた川の下にいるため、氷を砕かなければ捕まえられなかった。
だがこれは、自然豊かな町での話。
開墾して作られた近代的な街は、十分な食料を確保することも薪を確保することも出来なかった。
その代わり、生活の知恵として巨大な台風の際に避難することを目的とした地下シェルターが各家庭に用意されていた。
後は、薪と食料が尽きないよう、定期的に森に遠征するしかなかった。
自家発電機や街に大型の発電施設があれば、どうにか凍死だけは避けることが出来たが、以前の豊かさは失ってしまっていた。
921
:
名無しさん
:2024/08/11(日) 18:09:49 ID:XZZ24kQc0
自然発電の電気と他の街からの輸入に依存していた街は、混沌と化していた。
太陽光発電の代わりに用意されていた風力は、あまりの寒さに風車の潤滑油が凍結し、損壊。
波力は流氷によってその機能をほとんど失い、辛うじて生み出される電力はあまりにも心もとなかった。
海辺ですらない内陸の街は火力発電によってどうにか難を凌いだが、燃料を供給していた町がそれを止めた為にほどなく稼働を停止。
それまで街を照らしていた煌びやかなライトは消され、静かに耐え凌ぐしかなかった。
数世紀も昔、電気のない時代へと逆行することになった彼らは、だがしかし生きることを諦めなかった。
彼らの住むのは人類の到達した近代建築の完成系であり、電気さえあれば従来の暮らしに戻ることができる。
要となる発電所の再稼働に向け、彼らは武器を手にした。
火力発電所の燃料となるガスと石炭の確保のため、大規模な遠征部隊を編成。
周辺で同じ状況にある街と協定を結び、石炭採掘場を目指した。
凍てつく寒さの中、彼らは生きるために石炭を奪い、帰路で食料になりそうな物を確保して街へと持ち帰った。
だが、それを聞いていた別の街が帰り道にその部隊を襲撃し、醜い殺し合いが始まったのである。
より強い力を持つ街だけが生き延びるかに思われたが、人の持つ道徳心に付け込むことで生き延びる手段が生まれた
安定した電力を持っている街に他所の人間が一斉に訪れ、そのまま住み着くという行為が横行し始めたのだ。
初めはほとんどの街も避難民を受け入れたが、彼等の傲慢さが増長されるにつれ、憎しみが積もった。
避難先での食事提供や住居提供を強要し、拒否をすればすぐに暴動まがいの行動に出た。
自衛手段を持つ街はその避難民を力で排除したが、交渉で解決できると考えて排除を躊躇った街は悲惨だった。
交渉を侮辱、あるいは排除の宣言と捉えて略奪を伴った大規模な暴動が発生。
それは不思議と示し合わせた様に世界中で起き、町の統廃合が連鎖していった。
侵略行為とも取れる戦いによって滅んだ街がいくつも生まれたが、その中でも悲惨な戦いを起こした最たる例として、カルディコルフィファームがあった。
元々複数の町を統合した街だったが、内藤財団の力が失われ、彼らを導く存在が不在になったことによって助け合いの名の内戦が起きたのだ。
戦闘の経験のある男たちが皆イルトリアへの侵攻作戦で帰らぬ人となっていたこと、そして残された武器の貧弱さが問題だった。
更にその武器の扱いでさえおぼつかないため、残された人間たちの争いは実に原始的かつ暴力的な形で実行された。
ナイフ、斧、そしてそれらを長いパイプに括り付けた槍など、直接的な暴力を伴う武器での殺し合いが行われた。
殴り、刺し、切り、潰してその手に殺しの感触が残るという後進的戦闘は人間の持つ残虐性を助長させ、理性を低下させた。
燃料となるものを奪うため、襲った町の家を破壊。
食料を得るためにペットさえ殺し、あまつさえ人間を食べることさえもあった。
だがそんな状況が長く持つはずもなく、カルディコルフィファームは核の冬を迎えて1年も経たずに滅ぶことになる。
寒さは動きを緩慢にするだけでなく思考さえも凍り付かせるのだと、人々は痛みを伴って学んだ。
この状況下で最も多くの人間が目指したのは、意外なことにシャルラだった。
人々は広大な土地の下に隠された巨大な地下施設についての話を聞き、地上よりも地下に安全を見出したのだ。
地熱発電と安定した燃料の確保で可能となった火力発電設備は、極寒の地で今まで生きながらえてきた理由を人々に思い出させた。
食糧事情だけは変わらなかったが、ニューソクがない街の中で最も栄えた街となったのは言うまでもない。
こうした争いは世界中で繰り広げられたが、小さな町が互いに手を取り、助け合うという姿もあった。
そうした中、内藤財団の膝元であるニョルロックは瞬く間に没落してしまった。
指導者を失ったニョルロックはそれでもどうにか世界を束ねようとしたが、自分たちの暮らしを守るだけで精いっぱいだった。
冬となった世界で最も力を持つのは、ニューソクを所有する街だった。
無尽蔵に生み出される電力により、街が凍えることはなかった。
だが、食料の確保が問題となった。
そこで各地でラジオを介して世界中に声をかけて始まったのが、電力と食料の共有だった。
922
:
名無しさん
:2024/08/11(日) 18:10:11 ID:XZZ24kQc0
必要になるのが巨大で長大な送電ケーブル。
そして、安定した食料の生産と輸送網の確立だった。
日光を失った世界でも得られる食料の多くが大規模な養鶏場などで得られる肉で、野菜は極めて貴重なものとなった。
しかし、電気があれば野菜の生産もある程度安定させることができることを、多くの街が知っていた。
こうして世界が冬になって1週間後、間違いなく人類史上最大規模の工事が計画された。
ニューソクを有する街から別の町へと送電線が建築され、それがまた別の場所へと向かう。
その工事は驚くべき速度で進められ、冬を越えるための備えは2年で完了した。
その最大の貢献者がエライジャクレイグだったのは、言うまでもない。
世界中に広がる線路を利用して送電線を配置し、協力に同意した街に電気を送る助力をした。
送電線の製造と量産はラヴニカ。
設置中の護衛は、イルトリアが請け負った。
後に世界の天秤の担う新三大勢力となったのは、こうした貢献の賜物という他ない。
ニョルロックを始めとした内藤財団に同調した街々はこの三大勢力と敵対していたこともあり、計画に参加することを渋り、見送った。
その結果、ニューソクで生み出した電力を共有する術を持たない彼らは孤立と衰退を始めた。
内藤財団の援助によって成り立っていたオセアンは、大きな変化を強いられることとなった。
財団の庇護下にあった彼らは、内藤財団の持っていた海軍と陸軍を受け入れたことで、食料と家屋に一切の余裕がなかった。
更に海沿いであることから、普通以上に寒さと戦うことを強いられ、身動きが取れない状況にあった。
そんな中、ニューソクによる安定した電力の供給に目を付けられ、近隣の街から一斉に避難民が殺到し、支配権を奪われてしまったのだ。
武器弾薬食料の供給が途絶えた軍隊は、文字通り死に物狂いの人間達と寒さと飢えで淘汰された。
街の支配者が不在となったオセアンにとって、それはある意味でかえって良かったことなのかもしれない。
クロジング、フォレスタを始めとするニューソクを持たない町がオセアンに流入し、合併し、巨大な湾岸都市が誕生した。
その名を、ニューオセアン。
新三大勢力に次ぐ、巨大な街だった。
世界が徐々に形を変えていく中、長い冬が終わりを見せたのは4年後の事だった。
その日、世界は僅かな時間ながら争いが止まる程の歓喜に包まれ、青空に涙を流す人間が続出した。
凍り付いた地表が溶け、夏の空の下に夏の熱気が戻ってくる。
浮かぶ入道雲は空の高さを思い知らせる。
比類なき蒼穹は果てしのない世界の広さを物語る。
一人の少年が一台のバイクに跨り、旅を再開したのはそんな日の早朝の事だった。
923
:
名無しさん
:2024/08/11(日) 18:10:35 ID:XZZ24kQc0
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ノ(ノ(ノ(%‰ ┬┐r┐- ┌‐┐_ ┌「|T「|卩叩┐‐┐rnⅵ - - - -
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The Ammo→Re!!
原作【Ammo→Re!!のようです】
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924
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名無しさん
:2024/08/11(日) 18:11:08 ID:XZZ24kQc0
核の冬が本格的なものとなる中、イルトリアの復興の手伝いをしながらブーンはデレシアの帰還を待っていた。
世界中が冬を越えるため、敵味方の区別なくラジオなどの道具を使って連絡を取り合い、乗り越えようと画策した。
その中でも大きく活躍したのがエライジャクレイグの鉄道網、そして外洋を航行していたオアシズの海運能力だった。
人類が生き延びるためには輸送網が必要不可欠であり、どちらも戦争の影響を受けずに安定した輸送が可能な状態だったのだ。
デレシアの帰還をただ待つことを止めたのは、核の冬から1ヶ月後のことだった。
ブーンは防寒装備を身に着け、“ビースト”の面々と共に世界各地を移動する列車の護衛を手伝うことで広い地域で情報を集めることにした。
世界規模となるこの作戦を実施するために選ばれた最初の車両は、スノー・ピアサーだった。
現存する中で寒さに最も強い乗り物であり、その防御力と走破性は実証済みである。
スノー・ピアサーが道を確保し、陸路の要となる土台を作る。
その後に他の列車が追従し、作業要員の展開と素材等の補給を連続して行う。
一度に全てを行うほど世界に余裕がなかったことと、効率化を最優先に考えた計画がこれだった。
必然、複数の作業を効果的に、そして決して途絶えないように続けていく必要があった。
そのため、人類の全滅を防ぐ列車の全てに、完全武装したイルトリア軍の人間が同乗した。
熱源感知式暗視装置付きのライフルの銃腔は全て列車の外に向けられ、銃爪が引かれない日は極めて少なかった。
銃腔の先にいるのは当然、野生動物ではなく武装した人間だ。
悲しいことに、世界が危機に瀕すればするほど、人の本質が剥き出しになったのだ。
大寒波が導いた圧倒的なまでの資材不足がもたらすのは、物理的、そして精神的な貧困である。
その貧困が冷静な判断力を低下させ、送電線を奪おうという短絡的発想に至るのは自明の理だった。
更には、エライジャクレイグが使用する線路の枕木さえ燃料にしようという輩が少なからず現れたため、武装は不可避の選択となった。
線路上の整備と警護を行う小型車両が絶えず巡回し、対応をしても決定的な抑止力にはならない。
そのため、エライジャクレイグはイルトリアの力を利用することにしたのである。
武力で徹底的に叩きのめすことで、同じ真似をすればどうなるのか、その場に放置した死体が雄弁に物語る。
それが何よりの見せしめになるのと同時に、野生動物達の貴重な餌となって自然界の円環に役立つのだ。
食い荒らされた死体の効果は絶大で、道中の安全に一役買った。
資材を積み込むために立ち寄ったラヴニカで、ブーンはにディを修理に出すことにした。
ディに使用されている様々な部品は、そのどれもが極めて繊細かつ緻密な計算によって作り出された物であり、イルトリアでの修理は困難だったからだ。
人間を跳ね飛ばしたことでフレームへの歪みなど、微細な不具合が積み重なっている可能性があり、専門家に任せるのが最善だと判断された。
街の復興がおぼつかない中での依頼だったが、ラヴニカの技術者達は二つ返事で受け入れた。
|゚レ_゚*州「こういうのが好きだから、俺たちは職人をやってるんだよ」
嬉しそうにそう言った職人に、ブーンは心からの礼を告げた。
そして、ディにしばらくの別れを伝える。
まるで馬が嘶くように、ディがエンジンを吹かした。
(#゚;;-゚)『次に会うときは、お互い元気な姿でいましょう』
世界を回れば、いつかデレシアに会える。
そう信じて、ブーンは列車に乗って世界を巡ることにした。
凍結した世界の中でデレシアの情報を集めるのは、あまりにも途方もないことだ。
例えるなら砂漠に隠した一粒の砂金を探すような、終わりさえ見えない日々。
925
:
名無しさん
:2024/08/11(日) 18:11:35 ID:XZZ24kQc0
それでも、ブーンは諦めることなく根気強く情報を集めた。
当初は一人のつもりでいたが、一人ではなかった。
その情報収集に手を貸したのは、イルトリアから同行を申し出たトラギコ・マウンテンライトだった。
理由について訊くと、彼はただ一言で答えた。
(=゚д゚)「ガキ一人じゃ心配ラギ」
補給を終えたスノー・ピアサーは海岸沿いに東に向かい、各地で物資の交換を行いつつ、大規模な送電網工事の補助をしていった。
季節が変わり、巡り、日々が過ぎていく。
2年目にして、世界はようやく寒さに対しての戦い方を身につけ、安定した生活を送ることが出来るようになった。
太陽の代わりに電気が熱と光を生むことで、農作物や家畜を屋内で育てることができた。
大規模な電力と引き換えに食料が提供されることで、余計な争いが生まれることは無くなった。
世界を巡り、デレシアに関する有益な情報を一つだけ得ることができた。
奇しくもそれは、ニョルロックから避難してきた人間から得た情報だった。
デレシアと共にギコ・カスケードレンジが行動していたという情報は、値千金のものだった。
(,,'゚ω'゚)「天使みたいな人だったから、よく覚えているよ」
長い時間をかけてイルトリアに帰ってきたブーンは、すぐにまた発つことになる。
今度は、ジュスティアからラヴニカに避難した大勢の人間と彼らを引き連れるトラギコに同行し、ジュスティアのあった場所へと向かう。
イルトリアから再び海岸沿いに進み、今度は停車せずに最高速度で目的地に向けて走った。
道中、車内はピリピリとした空気に包まれていた。
到着すると、そこは雪が覆い隠した瓦礫の街になっていた。
だが、確かにジュスティアが存在していたことを、その場にいる誰もが知っている。
持ち込んだ大量の重機によってジュスティアの瓦礫が撤去されていく間、ブーンは街の人間達の手伝いをすることにした。
炊き出し、作業員のための仮設家屋等の設営、時には護衛や警備などの危険の伴う仕事もした。
当初、ジュスティアの人間は耳付きという人種に対しての嫌悪感を露わにしていたが、やがてそれが無駄な感情だったと気づいた。
(=゚д゚)「腹減ってねぇラギか?」
(∪´ω`)゛「減りましたお」
(=゚д゚)「サンドイッチでよければ作ってやるラギ」
(∪*´ω`)「わーい」
彼らの命の恩人であるトラギコがまるで友人のように接している様子を見れば、差別する対象ではないことは明らかだったのだ。
円卓十二騎士のティングル・ポーツマス・ポールスミスとニダー・スベヌ、そしてアサピー・ポストマンの言葉が後押しした。
(*‘ω‘ *)「彼の勇敢さは我々が良く知っている。
彼がいなければ、間違いなく皆死んでいるぞ」
<ヽ`∀´>「彼がイルトリアでどれだけ危険な戦いに参加して勇敢に活躍したか、私が証言するニダ。
彼を侮辱することは我らの騎士道に泥を塗るのと同義ニダ」
(-@∀@)「えぇ、僕も戦場で見ました。
本当に勇敢な少年で、イルトリア軍の将軍たちでさえ一目置いていました」
926
:
名無しさん
:2024/08/11(日) 18:12:04 ID:XZZ24kQc0
一週間もすれば、ブーンに敬意を払わない人間は一人もいなくなっていた。
それと同時に、自分たちが耳付きを差別していたことに対する恥を抱かなかった者もいなかった。
半年近く復興作業に従事したブーンは、ニューオセアンを目指すことにした。
街には大きな港があり、多くの情報が集まることが期待されたためだ。
治安も落ち着きを見せているとのことだったため、そこから先は1人で進むことにした。
別れ際、トラギコがブーンに握手を求めてきたのは意外だった。
だが、2人の間には奇妙な友情があったため、そこに抵抗はなかった。
(=゚д゚)「またいつか会えるといいラギな」
大きく、傷だらけの手がブーンの手を握る。
小さく、傷らだけの手がトラギコの手を握り返す。
ぐい、と引き寄せられ額をぶつけられる。
痛みはなく、そこに込められた想いを感じ取った。
(∪´ω`)「はい」
それ以上の言葉はいらなかった。
言葉以上のものが、その手を通じて伝わったのだから。
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脚本・監督・総指揮・原案【ID:KrI9Lnn70】
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927
:
名無しさん
:2024/08/11(日) 18:12:34 ID:XZZ24kQc0
結論から言えば、ニューオセアンはブーンを歓迎することはなかった。
彼は街に一歩踏み入った瞬間、敵意のこもった視線を向けられ、そして襲われた。
だが、ブーンはその障害をものともせずに情報収集を行なった。
知りたかったのはギコの居場所だった。
直接デレシアの位置が分からないのであれば、直前まで一緒にいた彼に聞くしかない。
混沌が日常と化したニューオセアンを探索し、そして、ギコを見つけた。
彼は、元フォレスタにあるペニサス・ノースフェイスの墓のそばに暮らしていた。
大型の輸送用コンテナを改造し、電気ではなくガスと薪を使った暮らしは実に質素なものだった。
だが、フォレスタにいた誰もがニューオセアンに移住した今、大量の木が森には残されていた。
ガスだけは買わなければならなかったが、なくても彼は生活できるほどの準備をしていた。
正確に言えば、ガスについてはペニサスが用意をしていたのだ。
家から離れた地下に十分すぎるほどの量を、まるで、いつかこの日が来ることを予期していたかのように。
(,,゚Д゚)「よく見つけたな」
甘い匂いの紅茶を淹れ、ギコは突然の来訪にもかかわらずブーンを歓迎した。
2年ぶりに見る彼の表情は穏やかで、まるで別人のように見えた。
復讐を果たした人間の表情とは、皆このようなものなのだろうかとブーンは不思議に思うほどだった。
(∪´ω`)「せっかく近くに来たから、先生のお墓参りに来たんですお。
デレシアさんの居場所、知りませんか?」
紅茶を飲み、ブーンはすぐに本題に入った。
それに対して、ギコは落ち着いた様子を崩さずに答える。
(,,゚Д゚)「正直に言うと、分からない。
分からないが、向かった先なら知っている。
バミューダトライアングルの中心だ」
その海域の名前は学んでいた。
イルトリアとジュスティアの間にある海域、その名である。
どういう場所なのかも分かっていたが、ギコは続けた。
まるで、ブーンが知っている情報は間違っている、と言わんばかりだった。
(,,゚Д゚)「嵐が停滞しているだけじゃない。
生物にとっての猛毒が広がっている、そういう場所だ。
連中が最新の装備と最善の準備で向かうほどな」
(∪´ω`)「じゃあ、デレシアさんは……」
(,,゚Д゚)「すでにそこから逃げたか、まだそこにいるか。
さっきも言ったが、俺には分からん。
内藤財団が表に出てこなくなった、ってことは中でデレシアに殺されたんだろうさ。
連中の用意した道具を奪えば、バミューダトライアングルから逃げられるだろう。
俺が教えられる情報はこんなもんだ」
928
:
名無しさん
:2024/08/11(日) 18:13:03 ID:XZZ24kQc0
ブーンはギコに礼を言い、紅茶を飲み干した。
別れ際、ギコは特に多くの言葉語らなかった。
荷物は大丈夫か、という一言だけで、彼の言いたいことはよく分かった。
その目に宿る優しい光が、ペニサスがかつて自分に向けたものと同じだったからだ。
(∪´ω`)「また来てもいいですかお?」
(,,゚Д゚)「あぁ、いつでも来い」
ブーンはギコと抱擁を交わしてフォレスタを出立した。
体に残る温もりは、決して体温だけのものではないことは確かだった。
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三三三三≧ュxム三」///////////,!
総合プロデューサー・アソシエイトプロデューサー・制作担当【ID:KrI9Lnn70】
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それからそのまま列車や乗り合いバスを使って南下し、今まで見たことのない世界を見ることにした。
気候が荒れている以上、海の向こうを目指すのは今ではない。
宿題の答えを知る為に踏み出した初めての一人旅。
過酷な世界での旅は、だが、新しい発見の連続の日々だった。
街を転々とし、ニョルロックに到着したのは、秋のことだった。
街の光は煌々と輝いているが、どこか活気に欠ける街だった。
食料が安定して入ってこないという状況は人間である以上は死活問題だったが、街の人間達は内藤財団という巨大な組織がどうにかしてくれることを期待しているだけだった。
幹部を一気に失った財団は、手探りで街の復興に取り掛かっていたが、安定しているのは電力だけだった。
少なくとも、街を訪れたブーンが食事をする場所はどこにもなかった。
ブーンがニョルロックを訪れた翌日、そこで意外な人物に出会うことになる。
( `ハ´)「1人で何しているアルか?」
929
:
名無しさん
:2024/08/11(日) 18:13:27 ID:XZZ24kQc0
大量の物資を積んだトラックの一団を引き連れたシナー・クラークスだった。
彼は街に持ち込んだ苗や家畜を増やす術を伝授し、ニョルロックが単独でも生きていけるよう、指導を始めた。
ブーンはその手伝いをしていたこともあり、自発的に補佐を行なった。
痩せ細るばかりだった街が、わずかにだが活気を取り戻していく。
そして、シナーは到着してから僅か3ヶ月で内藤財団の実質的な指導者になった。
まるでそれを待っていたかのように彼は街の人間達、そして世界に向けてラジオで声高らかに宣言した。
( `ハ´)「内藤財団は只今より、イルトリアが掲げる計画に参加し、全力で支援と協力をするアル。
世界は一つである必要はないが、孤立する必要もないアル。
我々人類がこの冬を越えるためであれば、あらゆる助力も惜しまないアル。
遺恨も、面倒も、何もかもは冬を越えてからにするアル!!」
深く息を吸い、全てをゆっくりと吐き出すようにシナーは続けた。
( `ハ´)「耳付きと呼ばれる人種は、決して見下して良い人種ではないアル。
私自身、過ちを犯したアル。
だがだからこそ、ここで宣言するアル!!
あらゆる差別をなくさない限り、人類に未来はないアル!!
私は今ここで、あらゆる差別と貧困に対して宣戦布告をするアル!!」
事実上の敗北宣言と同時に、自分たちが掲げた国という概念の放棄。
そしてこれが、第四次世界大戦の終結宣言でもあった。
内藤財団は腐っても世界最大の企業であるため、多くの資材と人材を有していた。
明確かつ適切な指示さえ出れば、後は人海戦術によってその達成に向けて止まることなく動き続ける。
エライジャクレイグが使用するための線路の増設、資材を持っている街に送電線の製造を依頼し、その見返りとして食料と電力を提供。
今回の戦争を繰り返してはならないと戒めるため、貴重な資材を投じて世界中に号外を配布し、ラジオで戦争の悲惨さと無意味さを訴える。
新聞というよりも写真集と言うほどの量が掲載された号外がティンバーランドの残党の心を折り、新たな争いを未然に防いだことは、誰にも知られていない。
撮影者であるアサピー・ポストマンの名前は、新聞に小さく載っていた。
耳付きの地位向上に関する演説も新聞とラジオによって世界中に流布され、世界が変わり始める。
差別を助長するような奴隷制度は即刻世界中で排除され、囚われていた耳付きたちが解放、保護された。
内藤財団という巨大な企業が後ろ盾となれば、それに逆らうだけの奴隷商はいない。
こうして全てが迅速に行われ、世界は人類史上最速でつながり始めた。
その様子を間近で眺め、陰でシナーを支えたブーンはバミューダトライアングルに関する情報を集めるため、ニョルロックを後にした。
街を出る際、見送りに来たシナーは拳を差し出してきた。
それに自らの拳をそっとぶつけると、彼は笑顔で言ったのだ。
( `ハ´)「いつでも来るといいアル。
その時は、餃子を作ってやるアル」
(∪´ω`)「はい、必ずまた来ますお」
握り拳で握手はできない。
しかし、握手以上に通じるものもあるのだ。
930
:
名無しさん
:2024/08/11(日) 18:13:49 ID:XZZ24kQc0
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、 ____/-= ’ `ー― - ― `´ ∨ /
編集・録音・テキストエフェクトデザイン【ID:KrI9Lnn70】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
海に関しての情報を最も有しているのは、間違いなくオアシズだとブーンは考えた。
港のある街に向かい、そこでオアシズの情報を集めることにした。
数少ない安全かつ確実に使える海運の手段としてイルトリアと協力している以上、オアシズの居場所は明らかになっているはずだ。
数ヶ月後にラヴニカに到着するという情報を得て、ブーンは移動を始めた。
それが三度目の冬のこと。
空が徐々に光を取り戻し、間も無く冬が終わることを世界中が確信していた。
黒かった空が灰色になるまで、長い時間がかかった。
ブーンは自分が成長し、今までとは違う視線の高さで世界を見ていることに、久しぶりに気づいた。
ラヴニカに到着したのは、三度目の春がもう間も無く終わろうかという時。
ラヴニカを指揮するデルタ・バクスターはブーンを見て大いに喜んだ。
( "ゞ)「君を待っていたんだよ、我々は!!」
そう言った彼の後ろから、一台のバイクが現れた。
無人で走行しつつも、転倒する気配さえ見せない。
見紛うはずもない。
ディ、と名付けられた世界でたった一台のバイクだった。
(#゚;;-゚)『お久しぶりです、ブーン』
その女性の声はディに内蔵されたスピーカーから流れ、彼を驚かせた。
久しぶりに会う友人の声が、インカムを使わずに聞くことができるというのは感動するのに十分なことだった。
(∪´ω`)「ディ!!」
( "ゞ)「ただ修理するだけってのも味気ないって話になってな。
インカム経由で要望を聞いたもんだから、少しだけ改造したんだ。
後は、ディの要望でコーティングをしたんだが、これがまた素材が貴重で素材がないのなんのって騒ぎになってな。
とにかく、間違いなくディは世界最高のバイクになった。
旅を楽しんできてくれ!!」
931
:
名無しさん
:2024/08/11(日) 18:14:11 ID:XZZ24kQc0
肉体的な接触や、言語でのやり取りを抜きにしても伝わるものがある。
託した物と、託された物。
それがどのような扱いを受け、どのように受け渡されたのかを見れば一目瞭然だ。
ましてや、言葉を介する存在のやり取りであれば、それは如実に分かる。
(∪´ω`)「ありがとうございます!!」
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Vニニハ / `::.._
V::ニ:ハ / .:::::::.. . >.、
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. ゞ<ニr≦三三ニ=-=ニニ>r≧≦三≧s、ニニニ> " ̄ __,.イヘVハニ
>--<ニニニニニ/イ/,>----ミ:i `<ハ _.-イヘ::::::::::::::ヘVニ
_ノ::::::::::::`<ニニニ/-<r<:ニ:ハ ノハーイ<i:i:i:i:i:i:i)ー---->
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,.イ ..:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::>- i三ニニr≦i 「ニ>、マニ>イ ノニ
.. ,イ :::::::::::::::::::イ:::::::,、:::::::::::::::::: ̄>-<ニニトミハ Vニニイ ,イニ
..{ ::::::: ,.イ /ハ:::::::::::::: :::::::::::::::::>:.、-ニニ<ニイ.,イニ
イV__ ,.イ:::::,.イ /::::::::::リ ::::::::::::::::::Vニニニニ,イ /
撮影監督・美術監督・美術設定・ビジュアルコーディネート【ID:KrI9Lnn70】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
それから、ブーンはラヴニカに停泊したオアシズに向かい、市長のリッチー・マニーと話をすることにした。
彼はブーンとディのことを知っているだけに、会話が可能になったディにいたく感動していた。
ブロック長達とも久しぶりの会話を楽しみ、食事を振舞われた。
その中で、ブーンはバミューダトライアングルについての質問を投げかけた。
するとマニーは思案顔で腕を組んで瞼を閉じ、そして意を決したように目を開き、静かに言った。
932
:
名無しさん
:2024/08/11(日) 18:14:32 ID:XZZ24kQc0
¥・∀・¥「実はそのことに関して、ここに来る途中で大きな変化があったんだ。
あの海域の嵐が弱まって、消滅する気配があるんだ。
おそらく、急激な気温変化で異常気象が上書きされたんだろう。
そこで、私は見たんだ。
望遠鏡で、確かに。
街があったんだ」
その街について、ブーンも実のところ何度か見たことがあった。
水平線の向こうに浮かぶ、幻のようなビル群。
蜃気楼の類ではなく、実在する街の姿。
そのことをブーンが話すと、マニーは半分悔しそうに、そしてもう半分は嬉しそうに言うのだった。
¥・∀・¥「ただ、我々には仕事があるからね、行って確かめる訳には行かない。
大人になって嫌なことは、冒険ができなくなることだ。
立場も、体力も、色んなものが冒険から大人を遠ざけるんだ。
……行ってみたいのかい?」
(∪´ω`)゛
ブーンは頷く。
デレシアの目撃情報がない以上、手掛かりを得られる可能性が最も高いのはあの街だ。
¥・∀・¥「では、イルトリアから出発するといい。
ちょうど、沈没船が撤去され始めている。
今なら、誰にも邪魔はされないよ。
少しここで船の操縦を勉強してから行くといい」
彼が作り出した時間と機会。
そして、食事や些細な言動一つから伝わる丁寧な気遣い。
それら“マナー”と呼ばれるものは何の為に、誰の為に行われているのか。
数週間も彼の近くで過ごせば、否が応でも理解することが出来た。
頭上に青空が広がったその日、ブーンはディに乗ってイルトリアへと向かった。
デレシアが消息を絶って四年。
四度目の夏。
――水平線の向こうにある入道雲に誘われるようにして、旅が始まった。
933
:
名無しさん
:2024/08/11(日) 18:15:29 ID:XZZ24kQc0
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Ammo→Re!!のようです
Ammo for Rebalance!!編
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Epilogue 【All My Memory Of the Road to the lovE-愛に満ちた旅の物語-】
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934
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名無しさん
:2024/08/11(日) 18:17:08 ID:XZZ24kQc0
青空の下で感じる夏の風。
それは、久しぶりの日差しと相待って官能的なまでの心地よさだった。
ラヴニカからイルトリアに通じる道は少し荒れていたが、そんなことが気にならなくなるほどの空気だった。
会えるかどうかの保証はないが、会えないという確信もない。
デレシアにまた会いたいという気持ちは、四年前から少しも衰えていない。
寂しさはある。
悲しみはない。
そして今は、喜びがある。
胸の鼓動と連動するように、ブーンはスロットルを捻って速度を上げていた。
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総作画監督・脳内キャラクターデザイン・グラフィックデザイン【ID:KrI9Lnn70】
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935
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名無しさん
:2024/08/11(日) 18:17:30 ID:XZZ24kQc0
イルトリアに到着したのは、その日の昼のことだった。
久しぶりに訪れたイルトリアは復興が進んでおり、街中が活気付いていた。
そして彼を出迎えたのは、共に仕事をしたビーストの面々、そしてミセリ・エクスプローラーだった。
ミセ*゚ー゚)リ「久しぶり、ブーン!! おっきくなったねぇ!!」
ミセリの笑顔は昔と変わらないが、どことなく漂わせる大人の雰囲気にブーンは覚えがあった。
彼女の母親、チハル・ランバージャックのそれだ。
抱擁で再会を喜び合い、すぐにブーンは用件を告げた。
(∪´ω`)「船で行きたい場所があるんだお」
ミセリは詳しくは聞かなかった。
ブーンの言葉を聞き、それを受け入れた。
ミセ*゚ー゚)リ「分かった、先に港に行ってて。
お父さんにお願いしておく!」
復興の様子を見てブーンは人間の底力というものに感動した。
人間は、前に進もうと思えばここまでやれるのだ、と。
港に着くと、そこではイルトリア二将軍と市長、そして前市長が待っていた。
一人一人がブーンと抱擁を交わし、互いの健康と再会を喜んだ。
( ФωФ)「ははっ、大きくなったな、ブーン。
この調子ならすぐに追い越されそうだ」
(∪*´ω`)「お! 頑張って追い越すお!」
(゚、゚トソン「顔つきが凛々しくなりましたね」
(∪*´ω`)「ありがとうございますお!」
(`・ω・´)「あぁ、雰囲気が男らしくなった。
やっぱり男の成長は速いな」
(∪*´ω`)「頑張って、もっと男らしくなりますお!」
自分でさえ気づけない、自覚のない成長を褒められたことは嬉しい事だった。
再会を喜びあうが、ブーンが急いでいることを誰もが分かってくれていた。
フサはブーンの頭を撫で、それから勇気づけるように両肩を叩く。
ミ,,゚Д゚彡「話は聞いている。
俺たちは、お前を全面的に助けるよ。
お前はデレシアとヒートの縁者で、尚且つミセリの友人だ」
(∪*´ω`)「助かりますお!」
936
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名無しさん
:2024/08/11(日) 18:17:50 ID:XZZ24kQc0
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そして、すぐに用意された一隻の船に乗り込み、ブーンはコンパスに従って進む。
予め言われていた海域を越えると、巨大な航空機の残骸が海面に突き出ていた。
まるで山だ。
それは、ブーンとヒート・オロラ・レッドウィングが落とした航空機だった。
どうやらしばらくの間飛行し、ここで墜落したようだった。
改めて見ると、その馬鹿げた大きさに驚くばかりだ。
それを通り過ぎ、やがて、それは見えてきた。
幻とばかり思っていた街の影。
世界の果てにある街の姿だった。
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撮影・演出・音響・衣装・演技指導・編集【ID:KrI9Lnn70】
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937
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名無しさん
:2024/08/11(日) 18:24:57 ID:XZZ24kQc0
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澄んだ青空。
穏やかな波。
そして、朽ち果てた巨大な船舶の残骸が2つ。
内側から破裂したような姿となった船は、恐らくティンバーランドのものなのだろう。
船の中を探したが、白骨化した人間の残骸と砕け散った様々な電子機器しか見つけられなかった。
傾いた船体に、巨大な棺桶を身にまとった死体が2つあった。
その造形は明らかにコンセプト・シリーズのそれであり、船の中で唯一見つかったコンセプト・シリーズでもある。
2つの死体は寄り添うようにしてそこに鎮座しており、まるで母親が子に膝枕をするような姿をしていた。
それが何者なのか、ブーンには分からない。
間違いなく、誰かに殺されたのだろう。
だが。
志半ばで殺された姿であったとしても。
何故かそれは、幸せそうな姿に見えた。
ヽ. \`ート、゙い } -t¬ァ'´__/^Y:1i. /|! :',iiiiii!
\ Y_ヾソ ` ̄ `'_ ノ\__ト-'_ i:| / :| l ',iiii!
ヽ ヾ, 、 __ /^Y `!__ノr‐く_ノi:| 1 ! :',ii
Y''く `i |、_,ノrベ!_ } Y! /ハ }!
\ハ___jニr'⌒ト、_}. `′ ハ_八_i〃 /
亡「\ `r:J r〜',x'^⌒ヾJ| _, イ! /
ヽrヘ┘, _,x:+く __,比ィイ //::::
\.メ^ , ',∠=イ //::::::::::
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入:' ..:.:.::::::::::::::::::
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制作協力【全てのブーン系読者・作者の皆さん】
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938
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名無しさん
:2024/08/11(日) 18:25:22 ID:XZZ24kQc0
その街は、以前に見た時よりもずっと古びて見えた。
聳え立つビルの高さは、イルトリアやニョルロックのそれとは比べ物にならない程だ。
しかし、その朽ちた姿は寂しさと賑やかさを感じさせる。
朽ち果てる前は、果たしてどのような姿だったのだろうか。
どのような人がいて、どのような生活があって。
どのような人生があって、どのように終わったのだろうか。
全ては想像でしか補えない。
割れた窓ガラスの残骸も、砕けた壁の一部も、鉄だった物だと思われる残骸も。
この街の全てが、ブーンにとっては未知のもの。
ここがデレシアにとってどのような意味を持つ場所なのかは分からない。
しかし、この街が今日まで世界から隔離されていたという事実だけは分かる。
(∪´ω`)「お……」
ディと共に上陸した時。
二つの死体が、そこに転がっていた。
頭部のない死体。
そして、胸部に大きな穴の開いた死体だ。
死体は腐敗がほとんどなく、ゆっくりとしぼむ様にして朽ち果てたのだと分かる姿をしていた。
デレシアでないことだけは間違いなかった。
少し離れた場所に転がる真鍮製の薬莢が、間違いなくデレシアがここに上陸したことを表している。
(∪´ω`)「……この二人は」
(#゚;;-゚)『腐敗がほとんどありませんね。
……なるほど、“ニューソク”の影響ですね』
(∪´ω`)「ニューソクって、発電の何かじゃないのかお?」
(#゚;;-゚)『半分は合っています。
ですがそれを兵器として転用すると、大きく二つの力に分かれます。
一つは圧倒的な破壊力を生み出し、毒素を出さない力。
もう一つは、破壊力は全くなく、高濃度の毒素を出してあらゆる生物を滅殺する力。
ここに使われたのは後者だったようですね。
極めて強い毒素を持つ反面、桁外れの保存力を持つのが特徴です。
毒素の残留は若干ありますが、耐性のあるブーンには影響はないです』
(∪´ω`)「僕、耐性あるの?」
(#゚;;-゚)『えぇ、ブーンにこの毒はほとんど効果がありません』
(∪´ω`)「ディは大丈夫?」
その言葉に、ディは自慢げに答えた。
(#゚;;-゚)『世界で数発のニューソクが爆発したことを鑑みて、コーティングを頼みましたから』
939
:
名無しさん
:2024/08/11(日) 18:25:52 ID:XZZ24kQc0
街をゆっくりと走りながら眺めていく。
どれだけ昔の建物なのかは分からないが、これだけの規模の街が今日まで現存しているという事実が意味することは一つだけ。
誰にも侵略されなかった世界最古の街並みであり、最新の街並みであるということだ。
この場所をティンバーランドの人間達は目指し、デレシアがそれを追ったということも考えれば、この街は普通ではない。
世界の命運を分ける戦争の影にあった、最重要の価値を持つ街だ。
(#゚;;-゚)『……データに該当する街がありました』
街を半周する頃に、ディが唐突に声を出した。
それはまるで、街の様子を確認してから告げようとしていたかのような絶妙な間があった。
出し惜しみではない。
確信が得られるまで答えるべきではないと判断し、そして告げるべきだと判断したからだ。
(∪´ω`)「何ていう街なんだお?」
(#゚;;-゚)『ノ・ドゥノ。 “最果ての都”、ノ・ドゥノです。
私の中にある最新のデータでは、市長はエリシア・D・エリクソン。
“ダナー”と呼ばれる女性であることは分かっています』
(∪´ω`)「ダナー?」
(#゚;;-゚)『彼女のミドルネームですね。
親しい者は、彼女の事をこう呼んだそうです――』
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/ / |│ :│ | /| :// /// ─-i :|八 !
//∨|八i | | ヒ|乂 ///イ | j: : : . '.
///: : i: : : :i i │∠ : イ// ミ=彡 ; /: : :八: :\
/{:八: : :i/: :八: ∨|八| |/ :j / /: : :/ ハ : \
. / /: :\ \ \ : : \\ 〈| . / / : : / } : | 、ヽ
/ : : : : \ \ \: :从⌒ ∠/ //: / ノ.: :リ 〉: 〉
/ 人 : : : -=ニ二 ̄}川 >、 `''ー 一 ∠斗匕/´ ̄ ̄ ̄`Y: :{/: /
{ { 厂 . : { /⌒\ .イ///: : : .____ 人: :\/
': ∨} _: : : : 二二/ / | \_ -=≦⌒\く_: : /: : : : : : :_:): :\: :\
ウルトラスーパースペシャルサンクス
【いつも校正して下さった皆さん】
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940
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名無しさん
:2024/08/11(日) 18:26:31 ID:XZZ24kQc0
街を吹き抜ける風は冷たく、だが、やはり夏の香りを孕んだ不思議な匂いがした。
淀んでいたものがなくなったばかりの独特の匂い。
街全体が今こうしている間にも長い眠りから覚め、ゆっくりと起き上がっているような不思議な感覚がする。
軋む音も、崩れる音も、全てが血の巡った体が動き出すような音に聞こえる。
この瞬間を待ち望んでいたかのような悲願の音。
巨大な生物が老衰で息を引き取る直前のような終末の音。
雪解けを喜ぶ草木の息吹を思わせる歓喜の音。
そして、まるで万雷の拍手のような祝福の音。
終わりの音が街中から聞こえてきたのは、ブーンがノ・ドゥノを一周し終えた頃だった。
(∪´ω`)「街が……」
(#゚;;-゚)『ニューソクの影響が薄れた為に、一気に風化が進んだのでしょう。
あまり長く滞在はできませんね。
ビルの崩落に巻き込まれる前に行きましょう』
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|i|i|i|| |丁丁丁/\丁i| | | |ニ| |7777| | |]|工工工
.. |i|i|i|| |二二/ .:/>-| | | |ニ| |'/゙//,| :| |]|工工工
' |i|i|i|| |丁丁\/|___|‐| | |_|__| |── | ,|_|_|----─
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し( i}:;::;/⌒ 〈/.:.:.:/ 「/´ へ,|| ̄||´i| :| (_ _ノ  ̄ ̄
「i ル' 〈 ノリ ノ′ \:|| ̄||¨i|^~|¨:|¨¨¨|¨¨|]|¨|¨|ア⌒ マ丁
__ノ ,′ ` てγ( ) /.:|| ||_,i| :| | :| |_|‐|‐|{"~~~}|::|
::(⌒ 乂(;;__ノ´√^レ'⌒' || ̄||ノ| :| | :| |_|‐|‐|乂_乂|::|
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/ヽ . 〈ー-=ニ三/[ ∨:::∧ 乂(\>ji:i:/匚] ノ \/ xへ \
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941
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名無しさん
:2024/08/11(日) 18:26:55 ID:XZZ24kQc0
街全体が連鎖的崩壊を始めたのを、ブーンは港だった場所から眺めていた。
ビルがまるで砂のように崩れ、消え、それがまた別のビルを倒していく。
その光景は絶望的な物にも思えるが、一つの終わりを見届けるという誇らしさが胸に去来していた。
全てをやり切ったからこそ誇りを胸に朽ちる大樹を見届けるような、言葉にしがたい光景だった。
(∪´ω`)「……デレシアさん、いなかったおね」
(#゚;;-゚)『恐らく、この街から出立したのでしょうね。
仕入れた情報だと、オセアンを出た船は3隻でしたね』
(∪´ω`)「沈んでいたのは2隻だったお。
ギコさんが使ってオセアンに帰ったのを考えれば、計算は合うお。
でも、じゃあどうやって……」
(#゚;;-゚)『沈んでいた一隻から、小型艇が出たのでしょう。
船の大きさと沈んでいた場所から考えれば、それ以外の手段でノ・ドゥノに辿り着けません。
そして私達が上陸した港には、他に船はありませんでした』
ひと際巨大なビルが驚くほど静かに、沈む様にして消える。
舞い上がる砂煙は、街の輪郭を曖昧にしていく。
(∪´ω`)「確かに」
視線を街から離すことが出来なかった。
バミューダトライアングルの中心点にあった街が終わる瞬間を目撃しているのは、恐らく、ブーンだけなのだ。
縁も所縁もないが、それでも。
せめて、最期の時を看取ることだけはしたいと思ったのだ。
(#゚;;-゚)『この後はどうします?』
(∪´ω`)「お? デレシアさんを探すお」
当たり前の事を聞かれ、ブーンは驚きと共に答えた。
覚悟は既に済ませている。
目の前で街が消えたところで、気持ちが変わることはない。
彼女に会いたい。
会いたいから、往くのだ。
ブーンの返答に満足したかのような声色で、ディは言った。
(#゚;;-゚)『では、旅を続けましょう』
消えゆく街を見送り、ブーンは旅を続けることにした。
いつか必ず、デレシアに会うために。
942
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名無しさん
:2024/08/11(日) 18:27:35 ID:XZZ24kQc0
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 ̄  ̄ ̄  ̄ ` ̄ー-
オセアンに帰ってきたブーンは、改めて街で情報を集めることにした。
デレシアがどのタイミングでノ・ドゥノからこちらに帰ってきたのかが分かれば、それだけでも進む道が分かってくる。
幸いなことに、情報を一つだけ手に入れることが出来た。
所属不明の船がある日オセアンに漂着したが、誰も乗っていなかった、というものだった。
船は既に解体されてしまっていたため、具体的にデレシアに繋がる情報はない。
しかし、彼女がノ・ドゥノから生還してオセアンに近郊で降り、旅を始めたという推測をするだけの材料にはなった。
ではデレシアがどこに、どのようにして向かったのか。
それは、まるで見当がつかない。
だからこそ、ブーンは自分が知らない道を選んで旅をすることにした。
小さな町。
大きくなった街。
滅んだ街。
夏の日差しに目を細めながら、大きな入道雲に心を躍らせながら。
時には激しい雷雨が降り注ぐ大地を進み、砂の海を越え、鬱蒼と生い茂る森を抜け。
白夜の街を訪れ、凍り付いた大地の果てを見た。
だがデレシアに関する情報は、何も得られなかった。
――季節が変わり、冬になった。
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943
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名無しさん
:2024/08/11(日) 18:27:56 ID:XZZ24kQc0
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雪が降り積もる冬の間、ブーンはポルタレーナという街で情報を集めながら滞在することにした。
ポルタレーナはカニ漁の為に多くの漁船と人が集まるため、情報収集には最適だったのだ。
特に、長い間漁に出られなかった漁師たちにとってはこの時期は心から待ち望んだ時期なのだ。
漁師たちを相手に商売をする人間達が集まれば、自ずと世界中の情報が集まってくる。
デレシアに関する情報は特になかったが、ふと、“食い倒れの街”ホールバイトの噂が耳に届いた。
いつかヒートとデレシアと共に行くことを約束した街。
今となっては果たされぬ約束の街だ。
長すぎる冬が終わったことを祝し、春に盛大な祭りを行うために街の復興が始まったという情報を得て、ブーンは次の目的地をそこに設定した。
恐らく、その祭りの噂がこうして広まっているのであれば、世界中の人間が集まってくるはずだ。
デレシアに関する情報を手に入れるいい機会だと考え、ブーンはポルタレーナでその年を明かすことにした。
ホールバイトを訪れるのは、祭りの前日である四月三日に決めた。
それまではゆっくりと他の街を経由し、情報を集めて旅を続ければいい。
――雪解けと共に、ブーンは旅を再開した。
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