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Ammo→Re!!のようです
184
:
名無しさん
:2022/03/07(月) 20:49:01 ID:a3wuzEho0
乙
アベさんのカットインがすごくカッコいい!!
円卓十二騎士が続々と出てきててこれからの活躍が楽しみ!!
更新されるたびに続きが気になって仕方ない
>>149
始めて彼の知的好奇心が満たされたのは
ってのは"初めて"の方がいいかも
185
:
名無しさん
:2022/03/07(月) 23:40:34 ID:5ZaNpD820
乙
第一と第十ニが同時に明らかになるの熱い
186
:
名無しさん
:2022/03/08(火) 20:09:34 ID:6yEfD5Fs0
>>184
あぱぱー!! 毎度ありがとうございます!!
187
:
名無しさん
:2022/03/09(水) 19:56:28 ID:.palMB0c0
おつおつ
ティンバーランドの幹部陣はこの前まで拷問受けてたのに元気だな
どのくらい時間経ってんだろ?
188
:
名無しさん
:2022/03/09(水) 20:31:47 ID:OlmPGljg0
>>187
拷問を受けていたのは下の面々で、大体2週間経過した状態になります。
lw´‐ _‐ノv
( ><)
( `ハ´)
_
( ゚∀゚)
酷い尋問を受けたのに動けるって
/ \:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::>r''
ヽ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;/
ス ゴ い ね トーーーー--t----、;__;;;;;;;;l 人体(はあと
.l _,,,三三ヽ."':-、,,_;;;;;;;;;l
ヽ / .r彡'''"~"'ミミミ、_;;;;;;;;ヽ、:::ヽ
ヽ , _ _// _,,,,,,,,,,,__:.:.:.:.:.ミ\;;;;;;;;;;:\ゝ、_ _,,r'
. ,イ "'l''''ー--ー^Y" <,(o) ヾヽ:.:.:.:.:.:.:.ヽ、;;;;;;::. ト-'"''''''7/''''''"
'">' 'l l '-:: \ ミミヽ.__.l ':.:.:.:.:.:.:.:.:.:.ill-:、、 i.
l i,`' ,i ヽ-' :.:.:.:.:.:.:.:.:./==、:.:`i、 l,
\ `''"i :.:.:.:.:.:.:... :.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:i(o)._ ) ノ;' i
\ ヽ :.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:._,r-ミミ三l'''''' '/;;;;;;;;; l
\ ヽ :.:.:.:.:.:.,rー='ー、 _,,-イ ミ ヽ:.:.:.:.:.ト、,___jl
\ ヽ :.:.:.:.:.l:.:.:.:ヽ. __ `@ヽ ):.:.:.:.j
丶 :::. :.:.:.:i:.:.:.:.:.:fo=-ー-ニ_-、_:`-イ:.:.:.:.:./
ヽ :.:.:.:.:.:.:.:. .:.:.iY''7-、___"''ー、ヽj. /
\:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:i ''-,,、 ''、イノ /
i.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.ミ、_"~='-' イ:.:./
'i:.:.:.:.:.:' ''''''ミ-,,,,ノ":ノ
ヽ:.:.:.:.:.:... :.:.:.:./
189
:
名無しさん
:2022/03/09(水) 22:22:15 ID:.palMB0c0
人体すげぇ…
190
:
名無しさん
:2022/03/12(土) 17:40:24 ID:HcgCplqE0
手足失ったのに元気に空飛んでた人もいたしみんな丈夫か
かがくのちからってすげー!な世界なんでしょ
191
:
名無しさん
:2022/04/04(月) 19:47:55 ID:GsrDANGs0
今度の日曜日にVIPでお会いしましょう
規制されていたらごめんなさい
192
:
名無しさん
:2022/04/04(月) 20:43:24 ID:uTN1q8Vk0
やったー待ってます
193
:
名無しさん
:2022/04/10(日) 20:15:41 ID:Cvf6ktEw0
Ammo→Re!!のようです
https://mi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1649589232/
始まったよ!
よろしくお願いします
194
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 19:51:37 ID:E.efjM1g0
┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
もし、この世界から争いがなくなるのだとしたら。
私は喜んでこの手を汚す。
他人の血と、己の涙で汚れた手で、明日を作り上げるのだ。
流れたあらゆる液体が、明日という大樹を育て上げる。
あるべき世界を取り戻すために。
私は、今日も人を殺す。
私の妻と娘に祝福を。
私の家族に幸多からんことを。
――とある民兵の手記、最後のページより
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻
September 25th AM08:55
世界は完全に平穏を失い、あらゆる場所で争いが起きていた。
それはたった一人の男の言葉がこれまでに蓄積した鬱憤、不平や不満に引火し、計画的に爆発させた結果だった。
街と町の争いはこれまでもあったが、今日ほど表立って一斉に起きることは無かった。
長年の不満と怒りが紛争に至ったきっかけは、内藤財団社長が行ったラジオ放送だった。
ラジオで行われた宣戦布告は、世界中の街に散らばっていた彼らの同胞に対しての号令でもあった。
一斉に蜂起し、紛争を開始することで世界が一つになるという目的の号令は、世界中隅々にまで響き渡った。
結果、地上は銃声と悲鳴で溢れ返り、街の数が変化していくこととなる。
滅び、吸収され、新たな一つの姿になる様は森で形成される生態系の一つの様にも見える。
しかし、そうした争いとは遠い場所が世界にはあった。
日の光さえ届かない深海。
頭上にあるはずの太陽さえまるで見えず、夜の闇よりも暗い世界にも関わらず、どこか優しさや温もりを感じることが出来る。
その世界に、一隻の潜水艦がいた。
原子力潜水艦、“レッド・オクトーバー”はストラットバームを目指し、最高速度で深海を進んでいた。
その名の通り、船体が赤く塗装された潜水艦の中は通常のそれよりも広く、空調も優れた装置が導入されているために快適であるはずだった。
だが、艦内は快適さとはまるで無縁の空気が漂っていた。
普段は陽気な整備士、厳格な性格の艦長、そして精神的に鍛えられているはずの戦闘員も皆無言だった。
誰もが沈黙しているのは、予定外の事態が起き、それに対応しきれないことが確定していることに対しての動揺だった。
彼らの属する組織が世界全土を相手にした宣戦布告と号令を行ったのは、決して単一の目的ではなかった。
世界中が混乱したのに乗じてイルトリアを攻略する予定だったのだが、直前になって事態が急変した。
彼らの聖地、本拠地であるストラットバームが何者かに襲撃を受け、作戦の要であるハート・ロッカーが擱座してしまったのだ。
イルトリア攻略、そしてジュスティアの攻略にハート・ロッカーの存在は極めて大きい。
確かになくても作戦は遂行できるが、しかし、だ。
ハート・ロッカーがあるだけで、攻略の難易度はぐっと下がる。
どちらの都市も世界最高の武力と経験を持ち、全力で抗ってくるだけの高い戦意がある。
195
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 19:52:00 ID:E.efjM1g0
(::0::0::)「艦長、どうしても到着まで後30分はかかります」
時間はこちらの都合など考えてくれはしない。
与えられた時間とその意味を考えても、足りないものは足りないのだ。
距離と時間。
この二つが目の前に障害として立ちはだかる時、人間はあまりにも無力だ。
(+゚べ゚+)「最大船速でもダメか…… 同志ジョーンズにはつながるか?」
彼らを呼び戻したのは他でもない、ハート・ロッカーの改修を担当したイーディン・S・ジョーンズその人だ。
彼は2時間で戻るようにと命令を下したが、時間が足りない。
急ぐ気持ちはこちらにもあるが、それでも、物理的な問題は解決しない。
これ以上速力は上がらず、これ以上の最短距離もない。
距離と時間が、彼らには問題だった。
それが分からない人ではない。
彼はこちらを試しているのだ。
果たしてこの難題を、こちらがどう解決するのか。
まるで学生に難問を突き付け、それを解く過程を見守る教授のように。
或いは、猿が道具を使えるのか、それを観察する科学者のように。
(::0::0::)「ダメです、緊急回線を使っても応答ありません。
基地経由で伝えようにも、そちらも通信が繋がりません」
これ以上ないほど手を尽くしているが、どうしようもない。
確実に依頼を達成できないことが、彼らの夢に影を落とす可能性を生む。
それが、艦内の空気を重く、気まずいものにしていた。
(+゚べ゚+)「非常電源も潰されたのか……
だが、ハート・ロッカーの通信が潰れる理由にはなるまい?」
ハート・ロッカーはそれ単独で基地と同じ役割を果たすことのできる存在だ。
無線の拠点であり、兵士たちの帰る場所でもある。
内部に電源を組み込んでいる以上、外部の電源が落ちたところで問題はない。
起きてはならないことが起きている。
既に数人がその可能性を考え、到着次第戦闘が出来るように備えていた。
叶うはずの夢が叶わなくなることを、こうして艦内で待って見ているしかできないという焦燥感。
(::0::0::)「はい、そのはずなのですが……
現地でジャミングされている可能性があります」
こちらの動きが読まれていたのか、それとも偶然なのか。
考えたくもないが、基地との通信が途絶している以上は前者の可能性が正解だろう。
ジャミングをするにはそれなりの装備と電源がいる。
(+゚べ゚+)「電波妨害までするとなると、よほど警戒されていたのか……
ちっ、急がなければな」
196
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 19:52:23 ID:E.efjM1g0
――しかし、彼らが到着する前に、事態は再び大きく動き出していたのであった。
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}.:.:.:.;.:.:}V/ハ.:.:.:.:.:..:.:.:.:.:.\
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第七章 【 Ammo for Rebalance part4 -世界を変える銃弾 part4-】
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同日 AM09:11
モーターが動き、金属が軋む音。
機械が放つ電子音。
人間が機械に命令を下すためにコンソールを指が叩く音。
その空間は、人間の作り出した音で満ちていた。
もっとも、その空間では人造音以外は全て雑音として扱われているため、それ以外の音が聞こえることは無いのだが。
その空間は程よい明るさの光で照らされてはいるが、外の世界を表示する大型モニターには1面を除いてほぼ全てが暗い色を映し出している。
頭上に設置されたモニターには、白い雲が世界の喧騒とは無縁の穏やかさを見せて漂っている。
そのモニター以外には壁と床だけが映っている。
一片の雲がモニターの端から消えたのを契機に、それを眺めていた一人の男が深く息を吸った。
イーディン・S・ジョーンズは溜息を吐く代わりに、手を打ち鳴らし、愉快そうな声を出す。
(’e’)「さて、時間だ。
無線妨害までされてしまった以上、連携も糞もあったものじゃない。
ここで披露するのは癪だが、まぁいいさ。
登るぞ!!」
――ジョーンズは常々考えてきたことがあった。
人が動かす兵器は目的を果たすために多くの進化を遂げてきた。
車輌は2輪、もしくは4輪が主流で、重量のあるものは無限軌道を使用した。
太古の資料を読み漁ると、4足歩行の兵器もあったが、それは支援用の物でしかなかった。
それが、疑問の始まりだった。
もしも無限軌道というものが重量のあるものを支えるのに適しているのであれば、どうして自然界にはそれに近い概念の物がないのだろうか。
無限軌道に近い物としてはその名の通り“芋虫”が挙げられるが、しかし、彼らの目的は安定だ。
尚且つ、全てが手足の役割を果たしており、無限軌道とは形と目的が異なる。
197
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 19:52:43 ID:E.efjM1g0
その違和感の中、ジョーンズは兵器の目指す形を再構築することにした。
そこで大きくヒントになったのが、“棺桶”の存在だった。
人間が自ら纏い、戦場に出るということの利点は、小回りが利くことにある。
強力な武装を持っている棺桶でも足を使うのは、その利点が絶対的な物であるからだ。
だがハート・ロッカーは強化外骨格という枠組みでありながら、その巨体を支えるために無限軌道を採用している。
これだけの巨体を支えるには、それに見合った太く強靭な足が必要になるため、無限軌道の方が理にかなっている。
重力と重量には逆らえない。
だが、歩かない脚であれば問題はない。
二足歩行の問題点はバランス制御の難しさと、脚部の強度にある。
それを克服しつつ、安定性を確保できる形状に進化すればいい。
要は上下移動に対しての柔軟性が手に入れば、ハート・ロッカーは自由を手にすることが出来る。
ジョーンズの解答は実に単純ではあったが、短期間で実現するには効果的だった。
(’e’)「腕部、脚部共に展開」
『腕部、脚部展開します。
該当箇所にいる者はすぐに体を固定してください』
ハート・ロッカーの内部に警報音が鳴り響く。
盾の付いた両腕が大きく開き、そこに隠れていた巨大な鉤爪が勢いよく壁に突き立てられる。
姿勢固定用のアンカーとアイゼンを兼ねた鉤爪は深々と壁に突き刺さり、ハート・ロッカーをその場に固定させる。
無限軌道がゆっくりと、それがまるでつま先であるかのようにそれぞれ外側を向く。
そして、それぞれの先端が45度回転し、壁に押し当てられる。
戦車などで使われる無限軌道は設計上、左右で向きを変えることは無い。
しかし改修されたハート・ロッカーはどんな姿勢からでも確実に砲撃を行うために、無限軌道の高さと向きを左右で変えることが出来る。
脚と無限軌道の両方の利点を生かすための結果であり、その結果が今の状況を変えることになる。
壁を押し開くほどの力で脚部が展開してハート・ロッカーと壁とを固定させ、無限軌道がその強靭な力で天を目指すのだ。
特殊強化合金製の壁が抉れるも、その体は着実に進んで行くことが出来る。
この施設はその全てが極めて強靭な合金で作られており、ハート・ロッカーがエレベーターのように上昇していくことが可能なのだ。
故に、施設の電源を奪われたとしても彼らの計画に変更はないのである。
『姿勢安定、オートバランサー良好。
各部問題なし』
(’e’)「よし、確実に行くぞ」
ジョーンズの指示は短く、一切の焦りも迷いもない。
彼にとっては頭の中にある計画が別の計画に変化しただけであり、対処方法は事前に固まっている。
フローチャートに沿って指示を出すだけであり、焦りも迷いも不要なのだ。
『上昇予定時間算出完了。
20分で地上に到着します』
198
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 19:53:06 ID:E.efjM1g0
奇しくもそれは、レッド・オクトーバーの到着予定と同じ時間だったが、今となってはどうでもいい問題だ。
レッド・オクトーバーを呼び寄せたのは、彼らがどこまで柔軟に頭を使えるか試したかったのだが、彼の期待を越えることはなかった。
土壇場でも不可能を可能にできる存在など、やはりこの世にはいないのだ。
結局、彼の予想は裏切られなかった。
ハート・ロッカーは地上に出て、レッド・オクトーバーによって基地に電力が戻り、遅かれ早かれ侵入者は死ぬ。
全ては予定通り。
歯車が回り、予定通りに物事が進む。
計画に支障はない。
(’e’)「上出来だ」
両腕の鉤爪が上方の壁に突き立てられ、それに続いて履帯が壁を削るようにして進む。
圧倒的な質量を持つ存在が外の世界を目指すにつれ、ストラットバームの地下設備全てが揺れる。
一度ハート・ロッカーが外に出れば、リフトの必要性はなくなる。
それどころか、ストラットバームの存在自体失われても痛手はない。
既にあらゆる駒が動き、世界に散って動いている。
身を護るための繭が用済みになる様に、この施設はもうじき必要性がなくなる。
多くの研究成果は全てジョーンズの頭の中にあるため、他の物が失われたところで、彼が生きている限りいくらでも取り返しはつく。
(’e’)「ま、所詮はネズミのあがきだったか」
彼の知的好奇心は満たされることは無く、彼の夢は成就へと近づいていく。
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/ //| | | __|/|∨ヽ| | i :.
. / |」」_j_八人 ,.斗ャヵ┐ .| | | :..、
| N 抖ゥミ \代,ソ ノ__,| / .人\ \\
| 小乂ソ}ハ{_ノ ̄ ̄/ / / \\ \)
| | ゞ--<  ̄ / / /| \\ \
| :::| / / /:.:| | ハ. \ \
人 :::人 ´` / / /: :./ / / | ハ }
/ \ :::::: \ | / /: : : /ヽ / . :/ :|,ノ /
/ //\ ::::::个-=T´| ハ |: : / |. . . : :/\ \/
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同日 同時刻
ハロー・コールハーンは施設全体に響き渡る金属の悲鳴から、状況が悪化したことを察した。
リフトを使わずにハート・ロッカーが浮上できる可能性は全く考えていなかったが、この音と振動が、その可能性が現実のものであることを如実に物語っている。
既に彼女が地上に戻るための道は見つけ出し、後は時間をかければ問題なく脱出は出来る状況にあった。
しかし、ハート・ロッカーがまだ動けるというのに逃げ出すという選択肢はなかった。
通気口から抜け出し、ハローは管制室の一つに降り立った。
この空間にハート・ロッカーを閉じ込めておくのが不可能である以上は、時間稼ぎはもはや必要ない。
遅かれ早かれ地上に出てしまうのであれば、現状での最適解は言うまでもなく、ハート・ロッカーの無力化である。
外部的要因でハート・ロッカーを止めることが出来ない以上は、乗り込むしかない。
199
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 19:53:27 ID:E.efjM1g0
ビル1つが動いているようなものだが、今ならば問題はない。
覚悟を決め、計画を決めれば、必要なのは実行するという気持ちだけである。
彼女にとって、覚悟も計画も、実行するという決断力も問題にはならない。
管制室にある強化アクリル製の窓から見下ろすハート・ロッカーの姿は、あまりにも現実離れした巨大さをしていた。
距離にして300メートル下。
ハハ ロ -ロ)ハ「……ふム」
彼女にとっての思案は、手段の確認に過ぎない。
ここから垂直降下するにはまずアクリル製の窓を開き、そこから体を出し、目的の場所に到達するまでのロープがいる。
ロープが確保できないのが現状であるため、彼女にできるのは適切な高さで飛び降りること。
ならば、ハート・ロッカーがその位置に来るまではまだ時間は僅かだがある。
その間に強化アクリルの窓を破る手段を見つけなければならない。
道中で手にした武器を使うのも一つの手だが、それが今ではないのは明らかだ。
あらゆる電力が使えない今、この施設内で原因を究明しようとする人間は間違いなく機械の目を使う。
つまり、現状ハローの持つ棺桶、“キングスマン”は優位性を失っているということだ。
その状況で派手な方法で窓を破れば、たちまち増援が駆けつけてきてしまう。
見つかるわけにはいかないが、姿を晒さないで済むかと言われれば、当然答えは否。
これだけ閉鎖的な空間で見つからずに行動するには限界がある。
特に今は、ギン・シェットランドフォックスならばいざ知らず、棺桶の補正がない以上戦闘は必至。
確実に、そして一方的な戦闘は難しいだろう。
窓枠は壁と完全に固定されており、破壊以外の手段はない。
銃弾がこの窓を破壊できるかどうか、ハローは軽くノックをし、その厚みに嘆息を吐いた。
対強化外骨格用の強装弾でなければ貫通は出来ない程の厚み、そして強度がある。
高周波振動装置が付いた武器であれば、難なく切断できるだろうが、今は手元にない。
ならばそれを確保するしかない。
ハローは管制室から廊下に出て、跫音のする方に向かってあえて進みだした。
彼女が持つのは警備兵が持っていたコルト・ガバメント一挺。
装填されているのは通常弾。
棺桶を相手にするにはいささか不安だが、使い方次第だ。
暗闇の中、背の高い影が二つ、ハローの前にあった。
それは白い塗装をされたジョン・ドゥの背中だった。
〔欒゚[::|::]゚〕『……こんなんで見つかるのかよ。
何人いるのかも分かってないんだろ?』
〔欒゚[::|::]゚〕『カメラも全部使えない以上、こうするしかないだろ。
だけど、正直俺は嬉しいよ』
〔欒゚[::|::]゚〕『なんでだよ』
〔欒゚[::|::]゚〕『俺はこういうシチュエーションに憧れてたんだ。
ずっとこういう戦いがしてみたかった。
ストラットバームの防衛よりも、本当は前線に行きたかったんだ』
200
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 19:53:50 ID:E.efjM1g0
〔欒゚[::|::]゚〕『仕方ないだろ。 俺たちは俺たちで、やらないといけないことがあるんだ。
だけど、侵入者なんてどうやってここにき――』
恐らく。
二人が最初に感じたのは、腰の辺りで鞘走る金属音か、それによって生じる僅かな振動、もしくはその両方だったに違いない。
そしてその正体を知るべく、どちらともなく振り返ろうとして、断末魔の叫びのように甲高い音を立てる高周波刀が顔に突き立てられた。
鋭利な刃は顔面の装甲を容易く貫き、その奥にある脳幹を破壊した。
それは僅か1秒の出来事であった。
スイッチを切った高周波刀を抜き、血を振り落とす。
音は最小限で済ませたが、聞かれていないという保証はない。
ハハ ロ -ロ)ハ「練度は下の下、カ」
世界中に根を張るだけの力があっても訓練だけでは強固な軍隊は生み出せない。
実戦に勝る教育は存在しないのだ。
その点、今しがた殺した二人は素人だった。
同じ方向を見て歩き、死角をかばい合うことさえしなかった。
全体の練度が低いとは言えないが、高いとも言えない。
ともあれ、二人の死体から武器と弾薬を奪い取ることが出来た以上、文句はない。
だが、驚いた点が一つだけあった。
ハハ ロ -ロ)ハ「タヴォール……」
それは、彼らが使用しているアサルトライフルだった。
手にしたライフルの仕組みも、その名も、その性能もハローは知っている。
だが、それを軍、あるいは集団に対して大量生産して配備する組織は聞いたことも見たこともなかった。
ブルパップ式と呼ばれる、弾倉が銃爪よりも後ろに設置される形式の銃は高い命中精度と取り回しを両立した機構であり、屋内においては高い優位性を持つ。
しかし、その価値は勿論だが、再現するだけの手間を考えて採用する集団は極めて稀だ。
あのイルトリアでさえ、ブルパップ式の銃は採用しておらず、ジュスティアも同様だった。
その銃を採用していることで最も有名なのは、屋内での任務の多い人質解放専門の企業、“ホステージ・リベレイター”ぐらいなものだ。
それだけ避けられている銃をあえて使う理由が、彼らにはあるのだろう。
ハハ ロ -ロ)ハ「豚に真珠だナ」
ブルパップ式の欠点はその長所でもある銃身の短さだ。
銃身下部に取り付けることのできる追加装備などが制限されるだけでなく、狙いが定めにくいという点がある。
それに、普通の銃と違って装填作業に慣れる必要がある。
つまり彼らはコストのかかる大量の銃を大量に製造し、それを配り、それなりの訓練を受けさせるだけの時間があったのだろう。
徹底した準備をしながらも、この場所に配置されているのは素人そのものというのが、すでにこの場所が用済みとなっている何よりの証だ。
だが、まだハート・ロッカーがいる。
この場所が埋立地となるかどうかは、これからの動き次第である。
正直なところ、ハローはこの場にハート・ロッカーをこれ以上留めておくことは無理だと考えていた。
201
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 19:54:11 ID:E.efjM1g0
無限軌道相手ならば確実にここに釘付けにした上で埋め立てることが出来るが、腕を持ち、芋虫のように動く足を持つ相手は止められない。
外部からの干渉が無理なら、内部からの破壊しかありえない。
そのために必要な武器は手に入れたが、ビル一棟をナイフとライフルで倒すのは不可能だ。
内部からの破壊を試みなければならない。
例えそれが、命と引き換えになるとしても、ハローにとっては十分に見返りのある展開だった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
/:::::::::::::::::::/l /::::::::/ /:::::/ ヽ:::::l, -、
/:::/ /:::/ ヽ| /:::::/ ヽ、 /::::/ _ - ――― |:/ /、 l
' ´ /:/l l ( l/:::/  ̄ ̄ `ヽ /::/ -´____ // ヽ |
/:/ ヽヽ /:::/ /:/ '´ ` | l |
/ ヽ// // l / //
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| / /ヽ /
| | / ヽ ,--' ̄./
, ヽ .l 、 ヽ /:::::ヽ―'
/、 ヽ 、 ヽ /::::::::::::::ヽ
| ヽ 、 ヽ ` ――― ヽ/ ヽ、:::::::::::::ヽ
| ` ―i 、 / | )::::::::::::::::ヽ
ヽ | ヽ /-― ' ' ' ´ /::::::::::::::::::::::
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同日 AM09:15
円卓十二騎士の第五騎士“花屋”こと、ニダー・スベヌはニョルロックにいた。
彼には複数の顔があった。
ジュスティアでは警察所属の尋問官として働き、その裏では円卓十二騎士としてジュスティア内部の治安を守る為に活動していた。
他にも様々な名目で与えられる役職があったが、今の彼は、外部において情報を収集する役割を担っている。
ニョルロックは昨夜起きたテロの爪痕の修復と共に、内藤財団が発表した構想と世界規模で発生した戦争に対する興奮で熱せられていた。
正義のための戦争。
それも、世界を二分していた街に対しての宣戦布告は経済の街であるニョルロックに恐ろしいほどの熱気を与えている。
戦争経済は機を逃せば大損するが、波に乗れば一瞬にして大富豪となる。
幸運と不幸。
その両方がニョルロックの滑車を回し、悲しみと喜びに街を染め上げているのだ。
ニダーにとって、その状況は歓迎すべきものだった。
混沌の中にこそ、活路があるのだ。
レンタルしたセダンのフロントガラスの向こうを睨んでいたニダーは、シフトレバーに手を伸ばした。
<ヽ`∀´>「……アサピー、そろそろ行くニダよ」
彼は内藤財団の所有するビルの傍から重武装の車列が姿を現し、その最後の一台が街から遠ざかったのを確認し、言った。
既に荷物は全てまとめられ、出発する準備は終わった状態だった。
助手席で仮眠していたアサピー・ポストマンは素早く起き上がり、眼鏡をかけた。
(-@∀@)「了解です」
202
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 19:54:32 ID:E.efjM1g0
<ヽ`∀´>「朝飯は何買ってきたニダ?」
エンジンが静かにかかり、セダンはゆっくりとニョルロックの目抜き通りを走り出す。
隣で超高倍率のカメラを構え、その先にいる車列の最後尾を睨むアサピーは、レンズから目を離さず答えた。
(-@∀@)「冷めてもいいように、サンドイッチにしました。
後は、魔法瓶に入れてもらったカフェインレスコーヒーですね」
ニダーはシフトレバーの傍に置かれた紙袋に手を伸ばし、そこからワックスペーパーに包まれたサンドイッチを取り出す。
一瞥し、手に持ったそれの重さを確かめるように上下に軽く振る。
<ヽ`∀´>「おっ、これは結構食べ応えありそうニダね」
(-@∀@)「ハムチーズサンドなんですけど、すっごい量ですよ。
一応、レタスもたっぷり目で頼んでおきました」
<ヽ`∀´>「そりゃ楽しみニダ」
器用に片手で包みを剥がし、ニダーは大きく口を開いてそれを頬張る。
レタスが弾けるような、瑞々しい音を立てる。
<ヽ`∀´>「んー!」
満足そうに唸り、ニダーは咀嚼する。
片手で運転しながらも、そのハンドルがぶれることは無い。
街のはずれから抜け出し、綺麗に舗装されたアスファルトの道路を道なりに進む。
道路の両脇には木が植えられ、街灯もついていた。
栄えている街に通じる道路は例外なく整地されており、ニョルロックが持つ経済力を象徴するかのように整然と、そして立派な物だった。
アスファルトの一部が抉れ、その破片をタイヤが踏む度、鼓動の様な音が鳴った。
ニダーはサンドイッチを一つ胃袋に収め、ナプキンで指を拭いた。
(-@∀@)「――あの書類から何が分かったんですか?」
<ヽ`∀´>「大したものはなかったニダよ。
と、言いたいところだけど、一つだけ収穫があったニダ」
(-@∀@)「それは?」
<ヽ`∀´>「同一の棺桶の復元に関する、発注書ニダ。
それも、すんごい数ニダ。
“エアベンダー”って棺桶、聞いたことあるニダ?」
(-@∀@)「あー、聞いたことありますね。
空が飛べる棺桶でしたっけ?」
人類にとって空を飛ぶことは夢の一つだ。
それを実現させる棺桶として広く知られているのがエアベンダーという棺桶だが、その名は別の意味でも知られていた。
203
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 19:54:56 ID:E.efjM1g0
<ヽ`∀´>「そうニダ。 いっつもぶっ壊れた状態で見つかるからハズレ呼ばわりされているニダ。
正直見つかるだけで迷惑な棺桶ニダ。
だけど、連中はそれを大量に買い上げていたニダ。
……多分、飛行部隊でも作ろうとしているはずニダ」
耐衝撃に特化させた関節部の機構を謳いながら、実際のところ、想定されている以上の衝撃が加わると一気に破損するという欠陥がある。
故に、発掘されるときにはどこかが破損しており、その修復をしなければならない。
簡単に復元が行えるのであればいいが、破損している個所は複雑な仕組みをしているために手間と費用がかかってしまう。
費用面だけでなく、そこに費やした時間を考えてもそれほど優秀な棺桶ではない。
発掘後は他の棺桶に流用するための部品取りを行われ、後は鉄屑として鋳つぶされるのが通常だ。
金になるのであれば、世界中から簡単に集まるだろう。
その名目が何であろうとも、まさかそれを大量に採用するとは誰も考えない。
(;-@∀@)「飛行部隊……それって、結構厄介じゃないですか?」
<ヽ`∀´>「厄介ニダ。 偵察、強襲、支援、何にでも優位性を得られるニダ。
撃ち落とそうとすれば、視界が上方に固定されるし、そもそもほとんどの街が対策していないニダ。
ニョルロックを飛んでいたアレとは別物だろうけど、報告によれば通常のエアベンダーとは異なる物が使用されているニダ。
つまり、改修型が作られて実用化されて量産されたはずニダ。
そもそもエアベンダー自体が長距離、長時間の飛行に向いていないニダ。
なら、それを最大限有効活用には目的地に近づく必要があるニダ。
勿論、バッテリーを大型化したんなら話は変わるニダ」
(-@∀@)「その報告はしたんですか?」
<ヽ`∀´>「そりゃ勿論、それが仕事ニダ。
どういう運用をするかは、まぁ想像したところで意味ないニダね。
空が飛べるんなら、陸からでも海からでも、どうにでも出来てしまうニダ」
(-@∀@)「なるほどですね。
で、あの車列はどこに行くと思います?」
<ヽ`∀´>「方角的にはイルトリアニダね。
立ち寄る場所があるかもしれないけど、あの物量はまぁ間違いなく大きな戦争をするはずニダ」
(;-@∀@)「うへぇ…… 戦争かぁ」
ティンカーベルでの戦闘も半ば戦争じみたものではあったが、本物の、それも大規模な戦争を目撃するのは初めてになる。
無論、世界では紛争などは日常茶飯事であり、珍しい物ではない。
だが、相手が違えばそれだけ規模が違う。
大量の死傷者が避けられない戦争が待っているだけでなく、アサピー達はそこに入り込もうとしているのだ。
<ヽ`∀´>「物量戦で勝負するつもりニダね。
まぁ、物量よりも質が勝るのは世の常ニダ。
あれだけならイルトリア陸軍で十分対処できるはずニダ」
(;-@∀@)「あれだけなら、ってことはやっぱり別動隊が?」
204
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 19:55:32 ID:E.efjM1g0
<ヽ`∀´>「ここから先はウリの推測だけど、多分海側からも来ているはずニダ。
イルトリアの立地的に、海側から攻め入らない理由がないニダ」
(-@∀@)「そう言えばジュスティアも海沿いにありますね」
<ヽ`∀´>「その通りニダ。 だから、ジュスティアも陸と海の両方から攻め込まれるはずニダ」
故に、二つの街は陸軍、海軍、そして海兵隊を所有している。
(-@∀@)「なーるほど。 それで、聞きたいことがあるんですが」
<ヽ`∀´>「何ニダ?」
(-@∀@)「僕たち、このまま何をするので?
ほら、市長が僕らに言った任務って今回の宣戦布告でパーになっちゃったじゃないですか」
内藤財団が世界に向けて行った放送で、アサピー達が報告すべきこと、調査すべきことは白紙に戻った。
イルトリア方面に向かっている車列を追い、果たして、どのような情報を得るのだろうか。
任務として、あまり実のあるものとは思えなかった。
<ヽ`∀´>「白紙になったのは残念ニダね。
でも、やることは同じニダ。
情報を集めて、それを報告するニダよ。
後は写真を撮って、それを送るニダ」
(-@∀@)「写真を送るって、郵便でですか?
どれだけ速さ自慢の会社を使っても三日はかかりますよ。
それとも、シェルブリット便を使うとか?」
唯一の例外は、“ホーリー社”が提供するシェルブリット便と呼ばれる、郵送する物を砲弾に詰めて射出するサービスだけだ。
着弾地点から更にリレー形式で送るそれは、現代において最速の輸送手段である。
ただし、このスクライド社も内藤財団の傘下にあるため、ジュスティア行の荷物が無事である保証はない。
<ヽ`∀´>「それにはやり方ってのがあるニダ。
うーん……これを教えてもいいものか悩むけど、まぁ、ここまで来たらアサピーも関係者だから教えるニダよ。
写真は、電話で送るニダ」
(-@∀@)「……はい?」
電話で送ることが出来るのは音声だけだ。
ついにニダーは度重なる緊張と疲労で壊れてしまったのかと、アサピーは怪訝な声で聞き返していた。
だがその反応にニダーは怒る様子はなく、むしろ笑みを浮かべて答えた。
<ヽ`∀´>「仕組みを聞けば簡単ニダよ。
網戸を白黒写真の上に乗せるイメージが分かりやすいニダね。
全部の光景がマス目で区切られるニダ。
そのマス目の座標と濃度を電話で伝えるニダよ。
輪郭はギザギザになるけど、口頭で写真の特徴を伝えるよりもよっぽど正確に伝わるニダ」
205
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 19:55:56 ID:E.efjM1g0
(-@∀@)「マス目が細かいほど正確な写真の情報が伝えられるってことですか?」
<ヽ`∀´>「その通りニダ。 だから既定のマス目のシートを使い分けて、情報を送るニダ。
ただ、難点が1つあるニダ」
(-@∀@)「それは一体?」
<ヽ`∀´>「当たり前だけど、変換するのが滅茶苦茶面倒くさいニダ。
座標はまだしも、濃度も人力ニダ。
実験は済んでいるけど、面倒すぎてあまり使われていないニダ」
(;-@∀@)「ま、まぁそりゃそうですよね」
<ヽ`∀´>「だから、その問題を解決してくれるのがそのカメラニダ。
撮った写真を白黒に変換できるニダ。
で、操作すると濃淡の情報を10段階で全部表示してくれるニダ。
後はそれを伝えるだけニダ。
慣れれば1枚の写真を送るのに5分で済むニダ」
電話が通じる相手であれば、距離に関係なく写真の情報をほぼ正確に伝えられる。
それが生み出す価値はあまりにも圧倒的だ。
新聞社はスクープとなる写真を撮影したら、ネガのコピーを作成し、配達屋を通じて各支社に届けることになる。
四方八方に一気に展開するが、最も離れている場所に届くまでには時間がかかってしまう。
単純な方法だが、圧倒的なまでの速度と精度を両立させているのは事実だ。
偵察に活かせば、間違いなく世界が変わる。
<ヽ`∀´>「前にも言ったかもしれないけど、写真がもたらす影響力と情報は大きいニダ」
(-@∀@)「で、でも、ですよ?
イルトリアの情報をジュスティアに伝えてどうなるというので?」
ジュスティアが欲しているのは当然、ジュスティアに関係のある情報だけだ。
僅かの間、沈黙が車内に流れた。
ホルダーから魔法瓶を取り、器用に片手で蓋を開く。
湯気の立ち昇るコーヒーを一口すすり、ニダーは溜息を吐く。
<ヽ`∀´>「この情報は、イルトリアにも伝えるニダ」
(;-@∀@)「えぇ?! いいんですか? ジュスティア的に」
<ヽ`∀´>「勿論、理由があるニダ。
相互に情報を交換し合うことで、相手の用意している兵器や武装を把握できるニダ。
戦争は情報が重要ニダ」
(;-@∀@)「でも、互いに嫌い合っているのに、大丈夫なんですか?」
206
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 19:56:20 ID:E.efjM1g0
<ヽ`∀´>「それは大丈夫ニダ。
確かに、ウリたちはイルトリアをライバル視しているニダ。
まぁ、部外者には分かりづらいだろうけど、ライバルだからこそ互いを信頼し合っているニダよ。
それに、ウリたちにとっては実戦でのデータが収集できるというメリットもあるニダ」
(-@∀@)「なるほどですね。
……ありゃ? ちょっ?!」
レンズの向こうの光景にアサピーが狼狽の声を上げるのと、ニダーがハンドルを大きく切るのは同時だった。
――直後、爆発と共にアスファルトが爆ぜた。
<ヽ`∀´>「あ、やっぱりばれたみたいニダね」
(;-@∀@)「や、やっぱりって?!」
<ヽ`∀´>「そりゃ、ずーっとついてくる車がいたらばれるニダよ」
殿を務めていた戦車がその場に留まり、主砲をこちらに向けている。
既に砲塔は微調整を行い、偏差砲撃に備えていた。
(;-@∀@)「こ、この後の…… よ、予定は?!」
ギアをトップに入れ、ニダーはセダンを加速させる。
ハンドルを片手で握り、もう片手は懐の拳銃に伸びている。
<ヽ`∀´>「変更ニダ。 連中の実力をちょっと確かめてから写真を送るニダ」
遊底を口で引き、薬室に初弾を送り込む。
その粗暴な動作はどこかトラギコを彷彿とさせるものがあった。
ジュスティア警察という枠組みで見れば同じ組織の人間なのだから、共通点があってもおかしくはない。
人間性がまるで違うと思っていただけに、その姿は新鮮に映った。
<ヽ`∀´>「一人ぐらい生け捕りにして、話し合いをするニダ。
ハンドルよろしくニダ」
(;-@∀@)「えぇぇ?!」
――アサピーの悲鳴にも似たその声は、再びの砲声によってかき消えたのであった。
207
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 19:56:42 ID:E.efjM1g0
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同日 同時刻
イルトリアを双眼鏡で目視できる距離に捉えた二機の原子力空中空母は、高度約一万メートルを維持しつつ速度を落とした。
眼下の海にはイルトリア海軍の艦隊が白波の尾を引いて並んでいる。
更に、イルトリアから離れた場所の荒野には陸軍が防衛用の陣地を敷き、かなりの数の車列が南下していく様子が見える。
こちらの存在に気づきながらも、陸軍も海軍も攻撃をしてくる様子がない。
正確に表現するならば、攻撃したが届かないことを文字通り一発で理解した後の様子、だ。
この高度は計算され尽くした高度であり、自慢の野砲も、戦艦の主砲もここまでは届かない。
攻撃を加えるには航空兵器しかない。
ヘリを使っても到達できない上空を陣取ったのは、安全かつ圧倒的な優位性を確保するためだった。
航空兵器が乏しいということは、この戦争における優位性の一切を失うことになるのは明白だ。
拮抗状態ではない。
世界最強の軍隊を有すると謳われていたイルトリアでさえ、高高度の敵に対しては無力なのだ。
攻撃が届かないのであれば、負けることは無い。
一方的な爆撃も侵略も、全ては頭上を統べる者にこそ許される特権だ。
優位性が揺るがない限り、あらゆる決定権は優れた者にある。
人類史を紐解いても、遺伝子的な優劣によって貧富や将来が決定しているのがその証拠だ。
肌の色も、生まれた人種も、全てに優劣がある。
その中でも最も劣った人種である“耳付き”は、淘汰されて然るべき存在なのだ。
人間の体に獣の耳と尾を持つなど、狂気の沙汰としか思えない造形。
人ならざる膂力、身体能力を有し、感性も獣に近しい物がある点を考えれば、自然界の生み出した失敗作と言う他ない。
それこそが、クール・オロラ・レッドウィングの価値観であり、ティンバーランドに参加する最大の理由だった。
208
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 19:57:08 ID:E.efjM1g0
クールは巨大な操縦室の中央に作られた指揮用の席に腰かけ、時が来るのを静かに待っていた。
足を組みなおし、忌々し気にイルトリアの街並みを睨めつける。
この世界で耳付きを擁護し、役職を与えるほどの愚かな思考を持つ街はイルトリアだけであり、それが如何に異端なのかは議論の余地を挟まない。
世界から耳付きを淘汰することがクールの念願である以上、イルトリアはこの世界にとって不要な存在だ。
人が人であるために。
この世界が人間の物であるために、彼女は家族を捨て、ここまで来たのだ。
空中空母から見下ろすイルトリアの小さな姿は、これまで世界が恐れていたにしては、あまりにも矮小に見えた。
川 ゚ -゚)「空挺部隊の準備は?」
両機の情報を統率している管制官が、クールの質問に即座に答えた。
(::0::0::)「全員完了しています。
後は、所定の場所まで接近すればいつでも降下可能です。
予定まで、後5分です」
空挺部隊として用意したのは、世界中でゴミのように扱われていた棺桶だった。
エアベンダーを改修し、“ラスト・エアベンダー”として大量生産することが出来ていた。
ラスト・エアベンダーは10分間しか飛行することが出来ない。
降下すれば高度の優位性を毎秒失うことになるため、適切な場所で実行しなければならない。
六連発のグレネードランチャーを標準装備し、焼夷手榴弾なども携行させているため、小型の爆撃機としての機能を果たせる。
数は用意した。
武装も用意した。
後は時が来るのを待てば、これまでに用意した一切合切の答え合わせをするだけだ。
立ち上がって一斉放送用のマイクを手に取り、クールは厳かに、だがはっきりとした力強い声で言葉を紡いだ。
川 ゚ -゚)】『同志諸君。 見えるか、あれがイルトリアだ。
我々が忌むべき世界の汚点だ。
これより諸君は、あの街を攻撃することになる。
……躊躇いがある者はいるか?
当然だ。
それは当然の躊躇いだ。
我々が殺そうとする人間の中には、無辜の人間もいるかもしれないからな。
だが考えてほしい。
我々が草刈りをする時でもいいし、殺虫剤を蒔く時でもいい。
その時に、本来の目的以外の命に気持ちを向けることがあるか?
否、ないだろうさ。
なぜなら、そうしなければならないと心が分かっているからだ。
これから我々がするのは、それと同じ行為だ。
害獣をかくまっている連中を。
世界の病巣を滅ぼすためには、多少の犠牲はやむを得ないのだ』
沈黙を挟み、聞く者が集中する間を与える。
口調を僅かに感情的なそれに変え、クールは続けた。
209
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 19:57:58 ID:E.efjM1g0
川 ゚ -゚)】『……私自身、家族を犠牲にした。
忌むべき存在をこの世から少しでも減らすために、私はこの手を汚した。
だが後悔はない。
微塵も、だ。
世界をより良いものにするためならば、その犠牲は無意味ではないからだ。
故にこそ、私は同志諸君に言いたい。
躊躇うな、その歩みは世界を変える。
悲観するな、その歩みこそが悪を滅ぼすのだと。
世界最後の戦争に後悔はいらない。
我々がこの手を汚すことで、後世の手を汚さずに済むのだ』
(::0::0::)『第一陣降下1分前。 後部ハッチ開放。
機内気圧安定確認。
降下準備用意』
機体の後部から大きな振動が生じ、それが全体に広がっていく。
川 ゚ -゚)】『故にこそ。 イルトリアという街を、我々は完膚なきまでに破壊しつくさなければならない。
覚悟はいいか。
決意は固めたか。
銃爪を引くたび、心に刻んだ言葉を思い出せ。
我々の歩みは、世界が大樹となるためにあるのだと』
管制官が親指を立てる。
川 ゚ -゚)】『さぁ、空を落とす時間だ』
(::0::0::)『戦車部隊降下開始。
続いて、ヘリ部隊降下開始。
落下予想地点、変更なし。
ヘリ部隊、予定高度到達まで30秒。
ラスト・エアベンダー部隊、準備完了。
……戦車部隊、ヘリ部隊のパラシュート展開確認。
ラスト・エアベンダー部隊、降下開始』
そして。
空が落ちてゆく。
210
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 19:58:21 ID:E.efjM1g0
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|i: : : : : : :', : {i>- : |_: : : :{! : : : : l| l : : : : 从l : :_l斗l七|/: :/: : : : : : i|
|i: : : : : l : ',: :|从─┴‐─ゝミー‐┘ ゝ‐‐>七'ー┴从//: :/: : : : : : : i|
|i: : : : : l: : :',: l ャセ=芹圷心ミー ,ャセチ示7气ミ 7: : : l: : : : : i|
l: : : : : :l: : : l: l ` V辷ツ_, 、_ V辷少 '′ /|i : : l: : : : : i|
: : : : : : : : : :|ヾl |i : : l : : : : : :
. : : : : : : : : : |ヽ’ /ノ |i : : l : : : : : :
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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
同日 AM09:10
从´ヮ`从ト「その後の動きは?」
地下に作られた通路を歩きながら、チハル・ランバージャックは後ろをついてくる部下に言葉をかけた。
( 0"ゞ0)「依然として接近中です。
偵察兵の報告では、ニョルロックから大規模な部隊が北上してくるとのことです」
部下が手渡したグローブを両手にはめる。
指を動かし、支障がないことを確認する。
両手にピッタリと吸い付くような感触に、チハルは満足した。
从´ヮ`从ト「どちらも全力で臨んでくるか。
……ふん、ただの泥棒よりはやりがいがあるな」
紺色の上着のファスナーを首まで上げる。
その服は強烈な重力変化から使用者を守る、パイロットスーツと呼ばれる特殊な物だった。
チハルは手に持っていたヘルメットを被り、顎下の留め具をはめる。
そのヘルメットはカーボンファイバーで作られ、棺桶に使用されている様な精密機器が搭載されていた。
彼女の全身を覆うそれらの装備を今の状態にまで復元するには、億単位の金と数十年の時が必要だった。
( 0"ゞ0)「部隊はいつでも離陸可能です」
从´ヮ`从ト「そろそろ仕掛けてくるだろうが、ギリギリまで待て。
得意顔で降りてくる連中を出迎えて、プロとアマの違いを教えてやればいい。
せっかくだ、連中の空を落としてやれ」
211
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 19:58:43 ID:E.efjM1g0
階段を上り、秘匿されている格納庫へと入る。
そこは限られた人間だけが存在を知り、尚且つ中に入ることのできる格納庫だった。
格納庫の中心には、洋上迷彩が施された一機の大型戦闘機が佇んでいる。
巨大な翼による威圧感と相反するように、エアインテークからエンジンにかけての洗礼された細さはどこか官能的ですらある。
ハードポイントには増槽と四門のガトリング砲、2発の無誘導弾が取り付けられており、長時間の格闘戦に重きを置いた装備をしていた。
それは世界で唯一復元、修理が施され、実用することのできる戦闘機だった。
柔軟に向きを変えることのできる推力偏向ノズルと特徴的なカナード翼を持ち、低速での圧倒的な機動性と格闘性能を有している。
設計に問題があった為に一度は開発が中止されながらも、第三次世界大戦の数年前に再設計され、再び世に姿を現すことになった。
奇しくもそれは、世界を終わらせる福音を響かせた物と同型機――
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|||||!  ̄}{⌒`ー‐〈三三三/´ ̄ ̄ ̄ヽ___ノ 二二У
ヾリ r=ュ}:{ ` ̄ ̄´ }{Ⅳ }{r=x
i∩!!!{ ソj} {:::}ll∩!
i∪!iij i||||! └||∪!
`ー"′ i||||! `ー'′
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Terminator
――終焉を運ぶ者の名を持つ、改修型Su-37だった。
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チハルは飛び込むようにしてコクピットに乗り込み、計器類の確認を行う。
ほぼ全ての計器類が別の戦闘機の残骸から回収し、復元した高性能な電子部品を取り付けた物に換装されていた。
そのため、彼女の被るヘルメットのバイザーには機体に関する様々な情報が視界と重なる様にして表示され、計器類の確認はすぐに終わった。
背後も足元も透過して見ることが出来るため、その視野に死角はない。
しかしそれ以上に特殊な機能がそのヘルメットには備わっていた。
棺桶の一部でも使われている機能であり、それを流用するのは多くの棺桶を所有するイルトリアだからこそ出来たことだった。
エンジンが起動し、格納庫内に轟音が響き渡る。
だがヘルメットに備わっているノイズキャンセリング機能により、彼女の耳に届くはずの轟音は全て消え去っていた。
212
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 19:59:06 ID:E.efjM1g0
フラップとラダーが正常に動いていることを確認してからキャノピーを降ろし、マスクを装着する。
从´ヮ`从ト『本部、聞こえる?』
答えたのは、低く響く男の声だった。
ミ,,゚Д゚彡『あぁ、聞こえている。
連中はまだ動いていないが、そろそろ仕掛けてくるはずだ。
こっちの砲撃に巻き込まれないようにな』
それは彼女の夫である、フサ・エクスプローラーの声だった。
从´ヮ`从ト『分かってる。 そっちも落ちてくる残骸に気をつけて』
ミ,,゚Д゚彡『あぁ。 今なら滑走路は空いている。
遠慮なく飛んでくれ』
从´ヮ`从ト『えぇ、遠慮なく飛ぶつもり。
やつらの空を落としてやる』
格納庫の扉が開き、日光が差し込んでくる。
視線の先には、遠くまで透き通るような夏の青空が広がっていた。
白い雲に混じり、異質な影が空に浮かんでいる。
その巨体はまるでクラフト山脈のように圧倒的で、見上げる者に畏怖の念を抱かせるには十分すぎるほどの姿だ。
だがそれは、空に手が届かない人間が抱く感情だ。
空を落とすことのできる力があれば、恐れる必要はない。
機体が格納庫から姿を現す。
巨大な航空機から無数の黒い点が落ち始めたのを、彼女の超人的な視力が捉えた。
ミ,,゚Д゚彡『観測手からだ。 連中、戦車とヘリを降下させ始めた』
从´ヮ`从ト『みたいだね。
じゃあ、行くね』
ミ,,゚Д゚彡『あぁ、行ってこい』
二人の会話はそれで終わった。
戦場での別れは短く済ませるのが二人の通例だった。
普段から必要な言葉は告げており、言いそびれた言葉はないようにして過ごしているのだ。
砲音と銃声が響き渡り、空に炎が浮かぶ。
パラシュートを広げて降下する戦車が爆散し、破片が海に落ちてゆく。
曳光弾の尾が空に逆さまに降る雨を作り出し、空中でローターを始動させた直後のヘリを撃ち落とす。
撃ち漏らした戦車が風に乗って降下を続け、ヘリは散開して弾幕を避けつつ、イルトリアを目指してくる。
戦場の光景だ。
213
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 19:59:27 ID:E.efjM1g0
これまでイルトリアが経験してきた中でも、最も大きな戦争の姿だ。
攻め入られることがほとんどなかったイルトリアにとって、これはある意味で記念日となるだろう。
ジュスティア以外の存在がここまで攻め入ることになった、不名誉な記念日。
今日この日は、間違いなく歴史に名を刻む戦争の開始日となるはずだ。
自然と笑みを浮かべながら、チハルは離陸させる為に機体を加速させた。
体が座席に押し付けられる。
機体が推力を得て空に浮かび上がり車輪が自動で格納される。
それまで見えていた景色が瞬く間に遠ざかる。
眼下の格納庫から空軍に属するヘリが一斉に姿を現し、空へと飛び立ってゆく。
まるでタンポポの種が空を舞うように。
一つ一つ、殺意を持って飛翔する。
それを見届け、チハルはアフターバーナーを使用して機体を加速させた。
一気に垂直に上昇し、雲の上に飛び出す。
機体の向きを水平に戻し、巨大な航空機二機と対峙する。
こうして見ると、改めてその馬鹿げた巨大さがよく分かる。
空飛ぶ基地か、山そのものだ。
正面から攻撃しても落とすのは無理だが、狙いすました攻撃を与えれば、必ず落とせる。
現に今、彼らは一つ致命的なミスをしてしまっている。
そのミスを容赦なく狙う。
从´ヮ`从ト『お前らの空はここまでだ』
――イルトリア海兵隊兼空軍大将の言葉に呼応するようにして、Su-37の全兵装の安全装置が解除された。
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214
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 19:59:50 ID:E.efjM1g0
同日 AM09:30
イルトリアで空戦が始まった頃、ジュスティア沖では海戦が始まってから1時間が経過していた。
砲声と銃声は絶えず奏でられ、その合間には海が爆ぜるような音が続く。
ジュスティア海軍所属の巡洋艦と駆逐艦が連携を取り、巨大な空母と戦艦に対して攻撃を仕掛けているが、成果は得られていない。
巨体は戦場では不利に働く。
よほどの防御力がない限りは、格好の的になるからだ。
戦艦の周囲に壁のように立ちはだかる13隻の空母に対して、ジュスティア海軍は喫水線を集中的に攻撃するようにと厳命していた。
動力源として使われているのがニューソクである可能性があり、迂闊に撃沈させようものなら、その爆発に巻き込まれないとも限らない。
だが、そんな気遣いが出来るような状況ではなかった。
ジュスティア海軍の指揮官であるゲイツ・ブームは、ジュスティア沖1キロほど離れた場所にいる旗艦で戦況を確認していた。
| ^o^ |「……一隻も沈められんか」
川_ゝ川「はい。 特に、喫水線の装甲が極めて厚いようです。
まさに動く壁です」
敵の巨大戦艦が主砲を使用してから即座に攻勢に転じたのだが、敵戦艦を守るようにして立ちはだかる13隻の存在が邪魔だった。
情報によれば空母と呼ばれるもので、航空兵器を積載する船だそうだ。
事実、その甲板からエアベンダーによく似た棺桶と攻撃用のヘリコプターが蜂のように飛び立ち、次々と戦闘を開始している。
迎撃するために機銃掃射と艦砲射撃が行われるが、目立った戦果は挙げられていない。
まだジュスティアに到達してはいないが、こちらも相手に打撃を与えられていないのは苦しい所だ。
| ^o^ |「戦艦を潰さない限り、脅威は一向に減らない。
連中の動きはどうだ?」
川_ゝ川「オセアンに向かっていましたが、そちらの進路をこちらが封鎖したので現在停滞中です。
こちらの主力を回してはいますが、空母が敵戦艦を囲む様に配置されているため、手出しが出来ません。
ですがおかげで、主砲の射線上に空母がいる状態になっています」
配置的に海上基地と化したのは、一つの大きな変化と言える。
それが良い変化か、悪い変化なのかはまだ分からない。
| ^o^ |「小型艇で隙間を縫って行く作戦は?」
各艦には小型艇が積み込まれている。
大型の船相手であれば空母の合間を縫って、戦艦内に入り込むことが出来る。
問題は、相手も小型の護衛がついているということだ。
川_ゝ川「ヘリが低空で警戒しており、まだ破れていません。
味方の船にもすでに損害が出ています。
……それとは別に、問題が生じています」
| ^o^ |「何だ?」
部下の声に明らかな動揺を聞き取ったブームは、静かに目をそちらに向けた。
215
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 20:00:11 ID:E.efjM1g0
川_ゝ川「ピク支部に保管していた水中戦特化の棺桶のバッテリーが軒並み劣化、使用不可となっています」
| ^o^ |「管理はどうなっていた」
棺桶に使用するバッテリーはそう簡単に劣化するものではない。
発掘された時でさえ、その劣化はほとんどない。
人が手を加えなければ、使用不可となる程の劣化はしない。
川_ゝ川「間違いなく行われていましたが、その劣化の報告は一切ありませんでした。
現場に運び込まれ、いざ運用となった時に……」
海軍内部の情報を詳しく知る人間でなければ、ピク支部に水中戦用の棺桶が保管されていることを知らないはずだ。
管理は厳重に行われていたはずだが、その担当はピク支部に一任されていた。
つまり、支部そのものが機能を失っていたと考えていい。
| ^o^ |「中に虫が入り込んでいたか」
川_ゝ川「それは間違いないようです。
ピク支部に配属されていた兵の家族から、まだ帰宅していないと連絡がありました。
……その連絡もピク支部にいっていたため、今に至るまでまるで報告がありませんでした。
家族には秘密作戦に参加しているから、の一点張りで押し通していたようです」
| ^o^ |「では、その情報はどうやって得たんだ?」
川_ゝ川「即応部隊を向かわせ、判明しました。
基地の中は全員入れ替わっており、現在交戦中です」
| ^o^ |「それは問題だな。
となると……あぁ、ほとんど全てが問題になるな」
基地内に残っていた敵との対峙は問題ない。
問題は、今現在基地の中に残っていない敵の存在だ。
数も姿も分からないという、圧倒的な問題だ。
既にピク支部以外の場所に移動し、作戦行動に参加している可能性もある。
川_ゝ川「この情報はまだ本部とこちらにしか届いていません」
| ^o^ |「まぁいいだろう。
海軍には鉄の掟がある。
ならば、掟破りが裏切り者だ。
多少の混乱はあるだろうが、すぐに自浄する」
川_ゝ川「ですな」
ジュスティア海軍に所属する以上、決して忘れることのない鉄の掟がある。
それはイルトリアの海軍でも同様であり、それが破られることは決してない。
一度下された命令は、決して変更しない。
例えそれが市長であるフォックス・ジャラン・スリウァヤからの指示だとしても、海軍は決して命令の変更をしない。
216
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 20:00:58 ID:E.efjM1g0
| ^o^ |「着任後、日の浅い人間は甲板に出すよう、艦長たちに伝えろ。
少なくとも、連中の想定している戦場が海上ならば問題はない。
我々はとにかくジュスティアへの攻撃を防げばいい。
直線での砲撃が出来ないが、上空からの砲撃が来る」
正面からの砲撃であればスリーピースと防御装置がある。
しかし、上空から落下するようにして放たれた砲弾はスリーピースで防ぐことはできない。
川_ゝ川「それをしてこない理由が、何かあるのでしょうか」
| ^o^ |「空中で連中の砲弾が爆発したのを見ただろう?
スリーピースには対砲撃用の迎撃装置がある。
それを警戒しているのだろうさ」
迎撃装置の詳細はおろか、存在すら末端の兵士は当然知らない。
大将レベルの人間でさえ、その装置の詳細は分からない。
“存在を知っているが、そして詳細を知らないこと”を知られないように、というのが大将になる際に厳命される。
ブームがその命令を守り続け、そして今ここでそれを口にしたのは、すでにその装置が起動したからだった。
情報の下手な封鎖は混乱と不信を生む。
戦場でそれを生んでしまえば、軍は息が出来なくなる。
軍の呼吸が止まれば、街の防衛は不可能だ。
川_ゝ川「なるほど」
だが、疑問は解決されていない。
直上からの砲撃を迎撃すれば、破片が街に降り注ぐことになる。
それは彼らにとって歓迎すべき展開のはずだ。
ましてや、爆薬の入っていない質量弾を使えば迎撃は困難になるのではないだろうか。
そこまで頭が回っていないのか、それとも、回した結果の選択なのか。
意図があってこの状況を保っているのだとしたら、非常に気味が悪い。
川_ゝ川「……本部より通信です」
部下から通信機を受け取り、耳に当てる。
市長の静かな言葉が、すぐに耳に入ってきた。
爪'ー`)『ブームか?』
| ^o^ |「はい、私です」
爪'ー`)『簡潔に言う。
これから10分間、徹底的に奴らを攻撃しろ。
理由は聞くな。
それが勝利につながるのは間違いない』
| ^o^ |「分かりました。
問題はありません」
217
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 20:01:22 ID:E.efjM1g0
フォックスの指揮に疑問を挟む必要はない。
彼の言葉は常に的確で、そして、意味があるのだ。
通話を終え、ブームは部下を見て言った。
| ^o^ |「全艦に通達をする。
通信を用意しろ」
川_ゝ川「緊急回線を使用します。
用意できました」
部下もまた、ブームの言葉を疑問に思うことはしない。
軍隊である以上、上官の命令に従うのが絶対なのだ。
| ^o^ |『全艦に通達。
これより10分間、全火力を用いて敵艦を攻撃しろ。
出し惜しみは一切なしだ!!
それが勝利に通じる!!』
その言葉を受け、即座に配置についていた艦隊が苛烈な攻撃を開始した。
砲弾と魚雷が放たれ、空母の周囲に水しぶきが上がる。
空中を飛んでいたヘリコプターと棺桶が次々と被弾し、落ちてゆく。
しかし、敵からの反撃もまた一層厳しい物へと変わり、ついに戦況が大きく変わる。
『こちらアトラス、敵に取りつかれた!!
これより艦上での戦闘を行う!!
万が一の時には介錯を頼む!!』
飛行する棺桶が船に乗り込めば、砲撃は出来なくなる。
先ほどまではこの事態を避ける為に慎重に立ち回らせていたが、事態が変化を始めた以上、対応するしかない。
空母の横腹に集中的に撃ち込まれた砲弾が遂に穴を開けることに成功し、そこから炎が上がった。
『敵空母に損害確認。
焼夷弾に切り替え、攻撃を続行します』
『こ、こちらキルコン!!
ダメだ、エンジンがやられた!!
沈没する!!』
『こちらベルトルッチ、これよりキルコンの救助に向かう。
近くの艦は援護を頼む』
『全艦に伝達。
敵空母より更に増援を確認』
『補給艦第二陣、所定位置に到着。
弾薬補給が必要な艦はすぐに後退し、補給を受けるように。
護衛艦が途中までエスコートする』
218
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 20:01:46 ID:E.efjM1g0
無線が飛び交う。
まるで蜂の巣を突いたかのような騒ぎだが、ブームは内心で笑みを浮かべていた。
この感覚だ。
彼が長い間求めていたのは、この戦場の混沌とした空気と感覚なのだ。
幼少期、彼は人一倍正義感の強い男だった。
同時に、その正義感に従って拳を振り下ろすことに快感を覚えた。
暴力に溺れることのないよう、彼は自制しながら日々を過ごした。
そして自然と、彼は軍人への道を選んだ。
軍人は平和の為に戦うのではない。
戦うために軍人となり、その結果に平和があるのだ。
戦いが肯定される唯一の職業は軍人だけである。
ブームは生まれ持った膂力と胆力を正しく使うために海軍に所属し、一心不乱に戦い続けた結果大将になった。
イルトリア相手に振るうはずだったジュスティア海軍の力を、この機会に世界に向けて見せつける。
世界最強の海軍はジュスティア海軍なのだと、知らしめるのだ。
フォックスに命令された時間まで残り2分となった時、背筋に冷たい物が走った。
『敵戦艦に動きあり!!
かなり上向きに砲が向いています!!
全艦警戒を!!』
直後、耳を弄する砲声が聞こえた。
| ^o^ |「懲りずにまた撃ってきたか!!」
ややあって、頭上から何かが飛来する気配と不気味な音が聞こえてきた。
ブームは直感した。
そして、瞼をゆっくりと降ろし、やや不服そうに言った。
| ^o^ |「……くそっ」
――圧倒的質量と破壊力を持った砲弾が、ブームを乗せた旗艦を木端微塵に吹き飛ばした。
219
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 20:02:09 ID:E.efjM1g0
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第七章 【 Ammo for Rebalance part4 -世界を変える銃弾 part4-】 了
220
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 20:02:41 ID:E.efjM1g0
これにて今回の投下は終了です
質問、指摘、感想等あれば幸いです
221
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 21:18:38 ID:fRykyyhE0
乙!状況が目まぐるしく変わっていくけどどれも熱いな
クーさん偉そうだけど一度も安全圏から出てきてないな…
222
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 21:40:00 ID:z.4Zhrn20
おつです
223
:
名無しさん
:2022/04/12(火) 12:15:38 ID:mH9dk4G60
味方側を有能に書きすぎて敵側がマヌケしかいない、セントですらフラグ乱立させてるから脅威に感じない
224
:
名無しさん
:2022/04/12(火) 20:45:13 ID:lSfNjygM0
乙!
クーさん耳付き劣等遺伝子扱いしてるけど、身体能力とかは人間よりも優れてるんだけどねぇ……
でも「」でも『さぁ、空を落とす時間だ』ってセリフは格好良くて好き
今回は特に何も見つけられませんでした。
一応
>>218
の直後、耳を弄する砲声が聞こえた。
の"弄"するは"聾"するの方がいいと思うけど、まあ気にしなくていいと思うんだよね。
225
:
名無しさん
:2022/04/12(火) 20:56:14 ID:Zs9bI8RE0
>>224
今回もご指摘ありがとうございます!
あともう一歩及ばずでしたか……
226
:
名無しさん
:2022/04/13(水) 21:48:06 ID:LW9lr03M0
おつおつ
正直ブーンよりアサピーの成長率の方が凄いと思ってるわ
>>223
今んところ敵はやらかしまくったやつしか描かれてないからきっとこれから頑張るさ
227
:
名無しさん
:2022/04/14(木) 18:02:57 ID:PQ6NQmsw0
一気読みしてとうとう追いついた、それぞれの物語が複雑に絡む群像劇大好き……
事態の規模がはちゃめちゃにでかいけど、デレシアはどこまで展開を読んでいるんだろうか
228
:
名無しさん
:2022/04/14(木) 20:30:10 ID:1YAmloTw0
敵側がやらかしたのってデレシアが絡んできたとき以外あったっけ?
どっちかというと街(イルトリア以外)がスパイに潜り込まれたり島ごと沈められたりと散々な目にあってないか
?
てかイルトリアはともかくジュスティアは侵攻を防ぎきれるのか…?
敵側のNo.3も潜伏してるだろうし惨敗もありえるだろうな
229
:
名無しさん
:2022/04/14(木) 22:09:30 ID:tzmvs9uo0
海軍大将爆散してるしな
230
:
名無しさん
:2022/04/15(金) 03:00:24 ID:/LNih3tM0
ティンカーベル編であれだけ色々やった本命がデレシア襲撃で物凄くあっさりあしらわれてたのはちょっと面白かった
231
:
名無しさん
:2022/04/30(土) 12:06:31 ID:O86jCzyg0
今更だけど円卓の騎士の過半数がレジェンドって残り5人の格落ち感が半端無いな
232
:
名無しさん
:2022/05/10(火) 18:44:48 ID:TfkreoaU0
今度の日曜日にVIPでお会いしましょう
233
:
名無しさん
:2022/05/10(火) 22:23:32 ID:TQG26wWk0
やったぜ
234
:
名無しさん
:2022/05/17(火) 19:52:33 ID:EzOowemM0
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信念の為に死ぬことが出来る、などという言葉は嘘だ。
我々は信念の為に死ぬのではない。
未来の為に死ねるのだ。
我々の死が未来に繋がりさえすればいい。
その未来こそが、我々の憧れた明日なのだ。
故にこそ。
嗚呼。
今日は、死ぬにはいい日だ。
――エドガー・ランボー著 『最初で最後の血』 最終章より抜粋
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{::!:!イ=ミ、 \: }:!: 〉. 、:ヽ:{
从{:i 沁, -=云=ミ}从(. : : :\{
゙ ./ ゙ ゞツ ` }:\: : : :{
{ く /⌒. \乂
/ ̄`Y_ 厶 -.、 __ r-イ. :/
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} {.:.:>rく:.:.:.:.:∧ ./.:.//.:.:.:.:.:.:.:.:`:..<
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September 25th AM09:28
何もかもが時間の問題だった。
ハート・ロッカーの上半身は既に朝日を拝んでおり、残すは脚部のみとなっていた。
イーディン・S・ジョーンズはエスプレッソを飲んでから溜息を吐き、再度腕時計を見た。
予定に変更はないまま、ここまで来てしまった。
せっかくの侵入者も、彼らの地上進出を防ぐことは叶わなかった。
何かを起こしてくれることを期待していただけに、極めて残念だった。
(’e’)「残念だなぁ」
その声は部下たちにも聞こえているはずだったが、誰も反応しようとはしない。
彼の言葉に反応すれば、たちまち講義が始まってしまう。
彼との会話は、一般人にはあまりにも退屈な物であり、一方的な物になってしまう。
大学での講義に似た部分があるのかもしれないが、それが彼という人間なのだ。
235
:
名無しさん
:2022/05/17(火) 19:53:04 ID:EzOowemM0
彼に歯向かう人間はあまり多くない。
誰もが彼との会話を忌避し、当たり障りのない言葉だけを返してくる。
彼が欲しいのは対話なのだ。
なんなら、苦手だが行動でもいい。
彼の意見に対して異を唱える存在が欲しかった。
(’e’)「ねぇ、侵入者がどうなったか分かる?」
カメラに映る青空とクラフト山脈は、いつもと変わらない色をしている。
これから世界が変わるというのに。
これまでの世界が終わるというのに。
世界は、人間の思惑などまるで気にせずに回り続ける。
「電波障害は依然として継続しており、報告はありません」
(’e’)「そっか」
唯一、彼の思惑を裏切ってくれるのは人間だけだ。
人間の意思というものだけが、いつの日もジョーンズに驚きをもたらしてくれる。
しかしどうやらそれもあまり長く続かないようだ。
ティンバーランドの夢が形となれば、彼らに反抗する人間はいなくなる。
仮にいたとしても、“国”に歯向かう人間の力も数もたかが知れている。
そこに驚きがあるとしたら、そのような無謀なことを考える愚か者がまだ生きていたということだけだろう。
目標の達成はいつでも空しいものだ。
夢の達成の為に努力する日々は失われ、一歩を踏みしめる喜びも彼方に消えてしまう。
「脚部、地上に到着します」
(’e’)「最後まで油断しないでよ。
接地完了後、念のために試射するから」
「了解しました。
目標はジュスティアですか、それともイルトリアですか?」
(’e’)「いいや、ここだ。
ストラットバームを砲撃する。
こんなデカイ穴が開いたままにしておけば、何が起きてもおかしくないだろう?
それこそ、ここにはニューソクがあるんだ。
悪用されたら大変だ」
ニューソクの威力はティンカーベルで見ることが出来た。
実際に目撃したあの威力は、島一つを吹き飛ばすのには十分すぎるものだったが、指向性を持たせれば安全に観測が出来るはずだ。
ストラットバームは極めて分厚い壁に覆われた太古のシェルターだ。
その頑丈さは第三次世界大戦中でさえ、中の設備を損傷することなく守り抜いたほどだ。
詰まるところ、ストラットバームはそれ自体が頑丈な箱であり、指向性を持たせた爆発ならばハート・ロッカーは被害を受けない計算になる。
勿論、爆発させないことにこしたことは無いが、今一度あの爆発を目にしたいという欲もあった。
236
:
名無しさん
:2022/05/17(火) 19:53:45 ID:EzOowemM0
「で、ですが同志がまだ大勢います。
せめて通信が回復してからの方が」
(’e’)「じゃあ通信が回復するまでは好き放題、ってことかい?
あのねぇ、それじゃあダメなんだよ。
リスクは最速で管理すればするだけメリットになる。
ナパームを撃ち込めば火葬の手間も省けて一石二鳥だ」
「防壁はレッド・オクトーバーが到着すれば閉鎖できます。
どうか、ここへの攻撃は……」
(’e’)「ふぅん…… レッド・オクトーバーが無事なら、ね」
恐らく、レッド・オクトーバーは無事ではないだろう。
侵入者がどこの所属なのか、考えるまでもない。
それが可能なのはイルトリアかジュスティアだけだ。
しかもその中でも選りすぐりの人間が派遣されたはずだ。
ならば地下の更に地下にある埠頭の存在にも気づいているはずであり、対策をしていないなど、考えられないのだ。
故にこそ、この基地は放棄しなければならないのだ。
船着き場を見つけられたということは、地下道も見つけられたということ。
つまり、侵入者にとっては逃走経路と同時にこちらの地上部隊の背中を狙う道が両方手に入るということになる。
ヴェガとニョルロックに通じる二つの道の存在が明るみに出れば、いずれにしてもストラットバームは壊滅することになる。
先んじてこちらが手を打っておけばリスクは最小で済むが、味方を思う優しい心が彼の想像とは違う結末をもたらしてくれるかもしれない。
(’e’)「分かったよ。 ただし、何かあった時にはガス弾を撃ち込んででも殲滅するように。
試射は見送ろう」
「了解いたしました」
(’e’)「それと、万が一がある。
ハート・ロッカー内の警備を強化しておいてくれ。
ほら、よくあるだろう?
油断していたらすでに敵に取りつかれている、なんてさ」
それは彼にとって、残された数少ない希望の内の一つだった。
期待と予想を裏切る存在が現れるとしたら、今しかない。
だから。
(’e’)「万が一にも、奴らに希望を与えるなよ」
その言葉の直後、ハート・ロッカー全体が大きく揺れる。
ハート・ロッカーの巨体が立ち上る積乱雲のように、完全にその姿を地上に見せたのであった。
それはハート・ロッカーがこの世に生み出されてから初めてのことであり、ジョーンズの能力が開発当時の人間達を凌駕したことを証明していた。
(’e’)「各部動作確認を行い、その後砲塔を展開。
電波障害のない場所まで移動後、観測手からの情報を得て砲撃を開始する。
照準はジュスティアに向けようか」
237
:
名無しさん
:2022/05/17(火) 19:55:19 ID:EzOowemM0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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同日 AM09:40
戦艦“ロストアーク”内は興奮で満ちていた。
彼らの乗るロストアークの艦長である、スパム・シーチキンを称える声が艦内に木霊する。
ロストアークの主砲を操作する方法は二つある。
一つは、コンソールを用いては発射する方法。
そしてもう一つは、ほとんどの“強化外骨格”にも使用されている人と機械とをつなぐ装置を使い、より直感的に武器と船の操作を行う手段である。
この戦艦を始動する為に艦長が起動コードを入力する必要があるのはそのためだ。
ロストアークを囲む形で配置された13隻の原子力空母“オーシャンズ13”もまた、起動コードが必要であると同時に人間の思考による直感的な操作を全艦同時に行える仕様だった。
13隻の巨大な空母が得る視覚的情報は膨大であり、その全てがロストアークへと集約され、精密な砲撃を行うことが出来たのだ。
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「……ふん、他愛ないな」
しかし、彼女は満足感を覚えていなかった。
街を砲撃するよりも先に旗艦を狙ったのは、彼女の私怨だった。
彼女は小さな港町で漁師の親を持つ、平凡な子供だった。
小さく、古く、そして丁寧に使い込まれた漁船に父親と共に乗り、沖で漁をするのが日課だった。
彼女の18歳の誕生日の時、事件は起きた。
両親が漁から帰ってこなかったのだ。
数か月前から漁に行く頻度が増え、時間が遅くまでかかるようになったのが彼女の学費とプレゼントを稼ぐためというのは分かっていた。
だが、どれだけ遅くても両親は家に帰り、彼女の寝顔を見ては愛を囁いた。
238
:
名無しさん
:2022/05/17(火) 19:55:39 ID:EzOowemM0
後日、両親の乗っていた漁船の残骸が漁師仲間によって発見され、何が起きたのかを説明された。
ジュスティア海軍の軍事演習に巻き込まれ、殺されたのだ。
その日から彼女はジュスティア海軍に対して復讐の機会を伺いつつ、力を溜めることにした。
ある町では海賊として奇襲戦法を学び、また別の街では海兵として戦術と技術を身につけた。
そして、ティンバーランドからの誘いが彼女の人生に大きな意味をもたらすことになった。
復讐の対象が現海軍大将のゲイツ・ブームであることが分かってからは、彼女は来る日も来る日も実戦と訓練に明け暮れた。
世界最大の戦艦にして、強化外骨格と同様の技術を使用した最新鋭の戦艦である、“ロストアーク”の艦長を任され、計画実行日を言い渡された時、彼女は泣いて喜んだ。
だが蓋を開けてみれば、結果は呆気のないものだった。
最初の砲撃が失敗してから、彼女は戦艦を護衛する“オーシャンズ13”と飛行部隊による情報収集を行った。
必要だったのは相手の位置と、目の精度だった。
それを把握するために大勢の命を使うことになったが、その結果、スパム率いる艦隊に死角はなくなった。
情報を統合し、戦況を詳細まで理解できた今、彼女たちが恐れるものはない。
第一陣は捨て駒。
大勢が海に散り、そして、種を蒔いた。
機は熟した。
収穫の時は、今。
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「予定変更だ。 連中の技量が知れた今、オセアンに寄る必要はない。
ここで転じるぞ!!」
その言葉が引き金となり、海が爆ぜた。
撃墜された第一陣のラスト・エアベンダーには大量の高性能爆薬が取り付けられており、任意のタイミングで爆破させることが出来る。
使用者である彼らは、最初から死ぬことを覚悟していた。
重要なのは、その死体が爆破対象の近くに存在することだった。
海面に浮いていた残骸が爆ぜ、その近くにいたジュスティア海軍の軍艦に打撃を与える。
種は蒔かれ、芽吹きの時を待ち続けている様に。
取りつかれていた船は直接爆破され、合えなく轟沈することになった。
最も不運だったのは、補給中に近くで爆破の直撃を受けた船だった。
補給中の弾薬が誘爆し、巨大な爆発を起こしたのだ。
次々と爆発が起こり、軍艦の動きに明らかな動揺が見られる。
旗艦を吹き飛ばしたことで指揮権がグルジア・“ストーム”・セプテンバーに移行することも想定通り。
今日までの日々は、この時のための準備に費やしてきたのだ。
今や彼女率いる部隊は、ジュスティア軍を凌駕するのに必要なあらゆる準備を済ませた状態にある。
今のところ想定外だったのはスリーピースの防衛機能と、海軍の力が想定以下だったことだけ。
体勢を整える前に一気に攻め入れば、ジュスティアは落ちる。
市街戦に発展するかはまだ分からないが、砲撃だけで終わる可能性は十二分にある。
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「“ダニー”、損耗報告を」
『予定よりも被害は少なく済みました。
“ラスティ”が被弾しましたが、問題ありません』
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「よし。 では、“ワイヤード――有線式――”を出撃させつつ、ジュスティアに向かうぞ。
なぁに、ノックもアポも必要ない」
239
:
名無しさん
:2022/05/17(火) 19:56:25 ID:EzOowemM0
『了解。 ワイヤード部隊出撃』
そして、オーシャンズ13の甲板に待機していたラスト・エアベンダー達が一斉に飛び立つ。
しかしその姿には、これまでのラスト・エアベンダーとは大きく異なる点があった。
背中のジェットパック兼バッテリーに細長い線が繋がっている点である。
その線は甲板に繋がっており、その先にあるのは発電装置“ニューソク”だ。
バッテリー容量の限界で10分しか飛べないラスト・エアベンダーだが、こうして電源を確保してしまえば、非常に優秀な攻撃手段に転じる。
特に空母の様に巨大で足元への攻撃に対処できない艦に関しては、理想的な防御手段ともなる。
一本の巨大な植物から無数の蔦が伸びるようにして、ケーブルのつながったラスト・エアベンダー達が飛翔する。
その手に持つのは徹甲焼夷弾が装填されたM134ミニガンだ。
強力な銃弾の驟雨が接近していたジュスティア海軍の船に降り注ぎ、次々と爆発炎上させる。
既に敵の動きについてはパターンが確認されており、事前情報殿すり合わせも終わっている。
こちらの方が圧倒的に有利だ。
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「進路をジュスティアに変更。
各艦、各位、前戯は終わりだ。
本 番 用 の 砲 弾 を 装 填 し ろ」
ロストアーク、オーシャンズ13が一斉に進行方向を変える。
艦首がジュスティアを向く間も、ジュスティア海軍は一切の手出しが出来ないでいた。
事前に得ていた内部情報によれば、ロストアークの主砲はスリーピースの壁を破壊できるほどに強力である。
しかし、ワカッテマス・ロンウルフからの情報が確かであれば、相手はこちらの砲弾に対して正確に砲弾を当ててくるそうだ。
迎撃装置がどこまでの精度で、どこまで動けるのかを想像し、スパムは獲物を前にした肉食獣の様な笑みを浮かべた。
用意している本番用の砲弾はあらゆる壁を貫通することに特化させた物。
砲弾が当たったところで、その砲弾の威力を減退させるのは困難だ。
減退した砲弾でもスリーピースの壁を貫通させられるか、実際に試してみなければ分からない。
再び、主砲が火を噴いた――
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240
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名無しさん
:2022/05/17(火) 19:58:27 ID:EzOowemM0
同日 同時刻
――スリーピースの防壁は長い時間をかけて建造され、改築された物だ。
その内部は勿論だが、外部に至るまで常に点検が行われ、一切の不備もない状態が維持されていた。
いつイルトリアが攻めてきても平気なよう、極めて分厚く特殊な合金を使っていた。
爆発反応装甲は勿論だが、衝撃に反応する特殊素材を使用するなどの更新を密かに行っていた。
その情報はイルトリアの諜報網にさえ網羅されなかった秘中の秘。
つまりは、ジュスティアの守りの要だった。
しかし。
だが、しかし。
その壁が、三枚同時に撃ち抜かれ、街の建物に被弾することは当然だが歴史上初のことだったのは勿論だが、市長の想定を遥かに超えた事態だった。
報告よりも先に目視と衝撃によって事態を把握し、フォックス・ジャラン・スリウァヤは口に咥えていた棒付き飴を噛み砕いた。
爪;'ー`)y‐「馬鹿な!! 防御装置が効かないだと?!」
彼にとって、防御装置とスリーピースは心の壁でもあった。
絶対の自信の表れであり、それを保証するものだった。
その壁とジュスティアの歴史に今、大きな穴が開いた。
爪;'ー`)y‐「糞ッ、質量弾か……!!」
スリーピースの壁に埋め込まれた防御装置は同時に200以上の標的を捉え、迎撃することが出来る優れた装置だが、弱点が1つだけある。
それは、レーザーによる迎撃装置であるため、対象となる物が爆発しない場合はその効力を発揮できないのだ。
単純な硬度、速度、重量による質量兵器が相手に対しての迎撃装置は備えがない。
その為の壁が、スリーピースなのだ。
絶対的な硬度と特殊な設計があれば、予想していた質量兵器――戦艦の主砲レベルの物――でさえ防げるはずだった。
予想以上の威力を持つ弾が放たれ、スリーピースに大きな穴が開いた。
つまりそれは、防御装置のいくつかが失われただけでなく、相手の攻撃が通用してしまうことを意味していた。
最高速に達した砲弾を止め得る設計だったが、それを破る手段が一つだけある。
高周波振動だ。
軍用第三世代強化外骨格と比較すると大人しい平気だが、その実、単純な破壊力で言えば現代では最高の物と言える発明だ。
現に、棺桶と戦う際に攻撃にも防御にも転用し得るその発明があるとないとでは状況が大きく違ってくる。
高周波振動ナイフ一本で棺桶と戦える生身の人間の存在が何よりの証明だ。
それを砲弾に転用すれば、吹き飛ばせない壁はない。
規格外の財力と開発力を持つ組織であれば、それを開発している可能性は大いにある。
爪;'ー`)y‐「手段は問わない、敵戦艦の主砲を今すぐ無力化しろ!!」
悲鳴じみたフォックスを嘲笑うように、二発目の砲弾がスリーピースに再び大きな穴を開け、街の建物を吹き飛ばした。
241
:
名無しさん
:2022/05/17(火) 19:58:56 ID:EzOowemM0
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第八章 【 Ammo for Rebalance part5 -世界を変える銃弾 part5-】
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同日 AM09:44
常に。
そう、常にその男は悩み続けていた。
騎士としての称号を与えられてから、果たして何が自分の本性なのかと。
与えられた仕事を全て果たし、完璧以上を追求してきた。
気が付けば階段を上る様に、エスカレーターに乗っているだけで登頂できるような感覚だった。
彼にとって困難は非日常の存在だった。
何度も求め続けても、彼の手をすり抜けていった。
満たされることのない日常は、難事件を解決する部署に配属されても変わらず、いつの間にかその責任者になっていた。
やがてその実績が買われ、騎士としての地位を得た。
彼の生まれた街でその地位を得ることは、夢を叶えることに等しい出来事だが、彼にとっては日常の一つだった。
実感も、満足感も、何も得られない人生の中で唯一、彼を満たすものがあった。
それは、未知の存在だった。
――デレシア。
242
:
名無しさん
:2022/05/17(火) 19:59:17 ID:EzOowemM0
その名前は、ジュスティアの深部に触れない限り聞くことのない名前だった。
それはまるで、神話の中の存在のように圧倒的な物だった。
当初、彼はその存在をただの書類上の名前でしか記憶していなかった。
名前は彼にとって覚えるのにわけのないものだった。
それが現実のものとして彼の耳に届いた時、彼の興奮が始まった。
あり得ない、あるいは、その名を語る偽物とだと思っていた。
期待が常に裏切られ続けてきた処世術だった。
だがしかし、現実のものとして目の前に現れた時、彼の心は決まった。
積み重ねてきた何もかもを失っても構わないと思えるほどの、圧倒的な興奮。
組織から与えられた任務は、彼にとって極めて都合のいい物だった。
二重スパイとしての役割を与えられたが、その実、彼はどちらにも組しない存在として立ち回る自由を得たのだ。
( <●><●>)「何の用ですか、いきなり呼び出して」
ロストアークの食堂に呼び出されたワカッテマス・ロンウルフは、目の前で腕を組む禿頭の男に溜息交じりにそう言葉をかけた。
その声には明らかな怒りが込められ、それは言葉にも表れていた。
度重なるストレスと心労で、その目は以前よりも小さくなっているようにも見えたが、瞳の奥にあるどす黒い執念の炎は揺らぎがない。
(´・ω・`)「お前の目的は何だ?」
ショボン・パドローネの語気はどこか穏やかですらあったが、それは間違いなく嵐の前の静けさと呼ばれる物の類だった。
潮風と爆風が壁を隔てた向こう側から聞こえてくる。
二人の世界にあるのは、静寂と緊張、そして密かな興奮。
( <●><●>)「……何の話ですか」
(´・ω・`)「今、報告があったんだよ。
ラヴニカが蜂起したそうだ。
お前が殺したはずの人間が先導している。
死を偽装できたのはお前だけだ」
( <●><●>)「おや、それは不思議ですね。
亡霊でも出たんじゃないですかね」
しかし、ワカッテマスの冗談を無視し、ショボンは続ける。
(´・ω・`)「ところが、だ。
お前は俺ですら知らない、ジュスティアに不利な情報を流した。
まぁそれが真実かどうかはさておいて、現実に起きていることだからな。
お前は、何がしたいんだ」
お互いに、利き手がそれぞれの得物を潜ませた場所に自然に向かう。
そのことをお互いが視野の中に入れている。
後は機会だけだ。
機会が訪れれば、自ずとやるべきことをやるだけだ。
( <●><●>)「私が何を言っても信じないのでしょう?」
243
:
名無しさん
:2022/05/17(火) 19:59:40 ID:EzOowemM0
(´・ω・`)「円卓十二騎士がジュスティアを裏切るなんてこと自体があり得ないが、今回は状況が状況だ。
お前が本当のことを話せば、俺は安心してお前を殺せる。
話さなければ少し痛い目を見てもらってから殺す」
静かに。
ただ、極限まで集中した二人の世界からは、音が消えていた。
( <●><●>)「真実から逃げ出した男が、私を殺すと?
そうやってまた、真実を一つ手放すつもりなのですか」
(´・ω・`)「饒舌な野郎だな。 そういう男は嫌いだ」
( <●><●>)「妻子の仇に組している哀れな人間を前にしたら、誰だって饒舌になります」
(´・ω・`)「お前は前から嘘の吐き方は一流だが、交渉術は三流だな」
緊張の糸。
両者の間にある、あるいは、両者が乗る極めて細い均衡が音を立てて切れる寸前の気配。
今まさに、坩堝が溢れ返ろうとしていた。
( <●><●>)「二人が死んだ内戦は、内藤財団が原因だというのに」
(´・ω・`)「もう黙れよ!!」
ショボンの叫び声とほぼ同時。
二人の頭上で主砲が爆発し、衝撃波と振動が二人を襲った。
その爆発に備えることが出来ていたのは、爆発がいつ起きるのかを正確に知っていたワカッテマスだけ。
爆発の衝撃と音でショボンは耳を押さえてその場に膝を突くが、辛うじてワカッテマスを睨み上げるだけの気力は残っていた。
だが爆発音の影響で彼の聴力は著しく低下し、三半規管に影響が出ていた。
視線の先にある拳銃の撃鉄が起きているのを見て、ショボンは忌々し気に歯ぎしりする。
暗い銃腔の奥に待ち構える銃弾の気配を、ショボンは確かに感じ取ってしまったのだ。
(;´・ω・`)「……くそっ!!」
( <●><●>)「大丈夫ですか? 私の声、聞こえていますか?
争っても仕方がないんですよ」
(;´・ω・`)「うるさい……
仇なんてのはな、最初から知ってるんだよ」
( <●><●>)「なのに手助けをするなどと、あなたらしくない」
ショボンといえば、多くの犯罪者を牢屋に入れ、然るべき罰を受けさせてきた熟練の警官だった男だ。
腐っても警官だった過去を考えれば、怪しげな新興宗教の様な類に騙される人間ではない。
引退後、住んでいた街で起きた内戦に巻き込まれ、妻子を失ったことが組織に入るきっかけとなった。
しかし、その内戦が起きたのは内藤財団が持ちかけた商売の話が原因だった。
244
:
名無しさん
:2022/05/17(火) 20:00:26 ID:EzOowemM0
賛成派と反対派。
その二つの意見と鬱憤が武力という形でぶつかり、最悪の結果を生んだ。
ならば、最初に内藤財団が声をかけなければよかったのでは、と考えるのが人間だ。
復讐の為に世界を敵に回そうとする人間の思考などどこか狂っている物だが、根底は人間の持つ感情に根差したものである。
だが――
(;´・ω・`)「仇討ちをしたら世界が変わるのか?
正義を成せば世界が正しいものになるのか?
いいや、違うね。
ルールが変わらない限り、世界は変わらない。
復讐なんてのは、海を変えようと海に小便をするようなもんだ。
海の本質が変わらない限り、ただの自己満足で終わるんだよ。
死者への最大の弔いは、その死を無駄にしないことだ!!」
――土壇場で彼の理性が復讐の無意味さを悟り、それを別の何かに転化させたのであれば、一応の説明はつく。
実に人間らしく、正義の都に長くいた男の発想といえる。
むしろ、倫理的に考えて彼の言葉は非常に模範的でさえある。
( <●><●>)「その為であれば、妻子の仇に手を貸す、と。
いやはや、随分と素晴らしい人間性ですね」
(;´・ω・`)「二人の死に意味を持たせる。
ワカッテマス、お前も気づいているんだろ?
この世界のルールが、どうしようもなく正義から遠ざかっていることに」
( <●><●>)「あなたたちのしていることも、大分正義から遠いように思えるんですがね。
奥方、あぁ、この場合は何と言えばいいんでしたっけ?
まぁひとまず、隠居生活を送る場所を間違えたのは、あなたのミスです。
自分たちも同じようなことをしているのに、随分と虫のいい話ばかりしますね」
ショボンに非があるとしたら、やはり隠居先だった。
長らく争いから離れていた街ではあったが、歴史を紐解けばその争いがいつ再発しても不思議ではないことは明らかだった。
言わば、着火の瞬間を待っている爆弾の様な街だ。
表向きは平穏な街だが、ほんの少し対立の要素を投げ込めば、それだけで街の人口が半分以下になるような場所なのである。
(;´・ω・`)「何?」
( <●><●>)「耳付きに対しての強い差別は、あなたの奥方が殺されたのと根底が同じです。
差別するという気持ちがある以上、あなた方が掲げる新ルールも今のルールも、大差はありませんよ」
内戦で殺されたショボンの妻は、その実、性自認が逆転している人間だった。
表向きはただの夫婦だが、実際にはジュスティアの法律では認められていない同性婚なのだ。
そして、内戦では徹底して敵対する人間と異端者が殺されることになった。
特に、外部から移住してきた人間は街に余計な物を持ち込んだ存在として、保守派の人間の標的となってしまった。
結果、ショボンの妻子はその標的となり、彼は家族を奪われたのだ。
(#´・ω・`)「耳付きとあいつを一緒にするな!!」
245
:
名無しさん
:2022/05/17(火) 20:01:29 ID:EzOowemM0
( <●><●>)「差別、という点が一緒なんですよ。
自分と異なる物を排除することが続く限り、世界の名前を変えただけで終わりです」
(#´・ω・`)「何だ、お前。 分かってないな。
耳付きは差別の対象じゃなくて、駆除の対象なだけだ。
病原菌を根絶やしにする、それだけだ」
( <●><●>)「その発想で言えば、同性愛者も同じことかと。
あなたが率先して自分の頭を撃ち抜けばいいのでは?」
(#´・ω・`)「個人の性は自由であるべきだ。
だが耳付きは人間じゃない。
正常な人間の遺伝子に異常が出た、突然変異種だ。
ここで絶やさなければ、人間はいずれ獣に落ちぶれる。
だから、ジュスティアでも耳付きは人間としては扱わない。
お前もその内の一人のくせに、よくも好き放題言えるな」
( <●><●>)「まぁ正直、私も耳付きを気持ちよく思ってはいませんよ。
ですが、だからと言って根絶やしにしたりする必要はないと考えています。
ほら、私はトマトが苦手ですが、それを絶滅させようとは思っていないのと同じですよ。
嫌な物は無関心が一番です」
(#´・ω・`)「やっぱりお前はぶっ殺す」
( <●><●>)「正義の味方で在り続けられなかった人に、私は殺せませんよ」
ワカッテマスの持つ拳銃が火を噴いた。
無慈悲に放たれた銃弾。
それは彼の狙い通りの場所に撃ち込まれたが、その場にショボンはいなかった。
( <●><●>)「……マックスペインですか」
懐に入れていたのが銃だと勘違いしていたが、彼が使用したのは身体能力を劇的に向上させる薬物だった。
一瞬にして銃腔から姿を消したショボンは、ワカッテマスのすぐ隣に移動しており、容赦のない鉄拳をその顔に放った。
寸前でその攻撃を手のひらで受け止めつつ、威力を殺すために自らその場を軽く飛ぶ。
驚くほどあっさりとワカッテマスの体が宙を舞い、テーブルに激突した。
そのままテーブルの上を滑り落ち、姿勢を整える間もなくショボンが両腕を鎚のように振りかぶって頭上から襲い掛かってくる。
丸椅子を投げつけ、牽制する。
それはショボンにかなりの速度で当たったが、着地後の彼に怯む様子はなかった。
(´・ω・`)「効かねぇよ」
( <●><●>)「そんなことは分かってますよ」
牽制はフェイント。
本命は拳銃。
二発の銃弾はむなしく虚空を貫き、辛うじて視界の端にショボンの姿を捉える。
反応速度だけでなく、肉体の挙動も通常のマックスペインでは考えにくいレベルだ。
246
:
名無しさん
:2022/05/17(火) 20:01:52 ID:EzOowemM0
マックスペインを2本使用した、もしくは濃度の高い物を使ったのだろう。
( <●><●>)「ドーピングのし過ぎは脱毛を早めますよ」
(´・ω・`)「ははは!! もうねぇよ!!」
( <●><●>)「毛だけに?」
(#´・ω・`)「やかましい!!」
今度はショボンが椅子を投げつけてきた。
ワカッテマスの数倍の速度で放られた椅子は、それだけで十分な威力を持つ。
殺傷力は文句がないだろう。
手近な椅子を蹴り上げ、それを空中で椅子に激突させる。
その隙にワカッテマスは牽制射撃を行いながらキッチンに逃げ込み、適当な武器を見繕う。
銃弾が当たらなければ近接戦しかない。
シンクの上にあったラックから包丁を手に取り、躊躇いなく連続で投擲する。
(´・ω・`)「……刃物は駄目だろ。
男らしく殴り合いだ」
だが最初に投擲された二本の包丁の柄を掴み取ると、残った全ての包丁が冗談のように打ち払われ、地面に転がった。
腕力だけで人間を殺せる状態にあるショボンの提案に、ワカッテマスは苦笑交じりに答えた。
( <●><●>)「自前の筋肉ならいいのに、ドーピングしている人間にそれを言われても」
(´・ω・`)「いいじゃねぇか」
( <●><●>)「良くないですね、そんなゴロツキみたいな真似」
シンク下に隠していた小型コンテナを掴み、ワカッテマスは挑発的に言った。
( <●><●>)『私がゴロツキでないことを、この拳が証明する』
その起動コードは近接戦闘用の棺桶の中でも、非常に異色なコンセプトの元に設計された“拳闘用強化外骨格”。
名持ちの棺桶として量産されたが、その利点は拳の一撃を強化することだけで、他にはない。
腕力の強化という点で言えば、他にも優れている物は多々ある。
つまり、棺桶としての魅力は極めて低く、使用者の自己満足を満たす目的が非常に強い物だ。
合計で6種存在する“ロッキー”の名を持つ棺桶は非常にコンパクトで、尚且つ携帯性に優れている。
こうしてキッチンの調理器具の間に隠しておくことが出来るのが、数少ないメリットだろう。
一瞬にして両の拳を覆うのは、ハンマーのように武骨な指を持った手甲だ。
それを振るうための補助はなく、人間の力のみで使わなければならない。
言わば金属製のグローブだ。
あまりの重さに、棺桶の筋力補助を受けていないワカッテマスの両肩が下がってしまう。
最も軽量かつ秘匿性に優れる最初期のロッキーは、拳を保護することに重きを置いている。
故に、使いこなすためにはそれなりの筋力が必要になる。
247
:
名無しさん
:2022/05/17(火) 20:02:17 ID:EzOowemM0
( <●><●>)「これでフェアですね」
(´・ω・`)「使い慣れてない武器で、どこまでやれるかな」
( <●><●>)「こう見えても、私は円卓十二騎士ですからね」
(´・ω・`)「仮に“ロールシャッハ”だろうが何だろうが、武器の優劣は覆せない。
得意不得意も同様だ」
( <●><●>)「……ふふっ、あなたも随分と可愛らしいことを言いますね」
(´・ω・`)「あん?」
( <●><●>)「私と殴り合うのが怖いんでしょう?
鶏 野 郎」
激怒した人間がその怒りを暴力として速やかに実行出来る時、そこに言葉はいらない。
結果を生み出す。
ただ、それだけの為に動く。
椅子を手に持っているはずのショボンの姿は一瞬にして移動し、キッチンにいるワカッテマスの胸倉を掴み、片手で空中に放り投げた。
身動きの取れない空中にいるワカッテマスに向け、やり投げの要領で椅子が投擲される。
装甲の付いた両腕で顔を守っていなければ、彼の顔は奇妙なオブジェと化してロストアークの天井に縫い付けられていただろう。
落下する寸前に再びショボンが現れ、殺意のこもった後ろ回し蹴りを繰り出した。
狙いは頭。
命中すれば脳への深刻なダメージは避けられず、頚椎が折れることは間違いない。
仮にかすったとしても脳震盪によって動きが鈍り、そこに追撃を加えれば十分に絶命させ得る一撃だ。
腕の上からでもその威力は十分であり、何の装甲もない生身の体に受ければ最低でも骨を砕く。
(;´・ω・`)「何?!」
だが、彼の足裏が感じ取ったのは骨を砕く感覚ではなかった。
硬い金属か、もしくはそれに準じる硬度を持った何かの存在に思えただろう。
( <●><●>)「重要なのは筋力だけじゃないんですよ」
離れた位置に互いに着地し、睨み合う。
(;´・ω・`)「棺桶をもう一つ使っているな、お前。
何だ、“キャッツ”か?」
( <●><●>)「小説の悪役じゃないんですから、そんなもの、35分前にとっくに装着してありますよ」
(´・ω・`)「何かしてくると思ったが、やっぱり狡い真似をしてきたか」
( <●><●>)『私は世界が滅びようとも妥協はしない。それが私とあなたとの違いですね』
248
:
名無しさん
:2022/05/17(火) 20:02:40 ID:EzOowemM0
それは、起動していない時は衝撃によって硬化し、その表面にモノクロの迷彩を施すことが出来る特殊繊維で作られた棺桶の起動コード。
一度起動すれば筋力補助と光学不可視化迷彩を使用することのできる、名持ちの棺桶“ウォッチメン”のそれだった。
しかしそれがコードであることを、ショボンは認識できていなかった。
既に着用した状態のウォッチメンへのコード入力は特に目立った動きも何もなく、特徴的な何かがあるわけでもない。
ましてやその存在を同僚の前で晒したことは一度たりとも無い。
“モスカウ”の統率者は秘密を暴く人間であると同時に、最も秘密の多い人間でもあるのだ。
複数の棺桶を同時に使うことに関して、彼ほど長けた人間はジュスティアにはいない。
会話中に自然に起動コードを織り交ぜ、戦闘能力の低いAクラスの棺桶を使い分ける。
簡単そうな動作だが、実戦で実施するとなるとその難易度は極めて高い物となる。
そんな彼の功績も能力も、モスカウ内で知る人間は一人としていなかった。
彼は謎の中に生き、謎を追い、謎を蓄える存在なのだ。
( <●><●>)「さぁ、拳で語り合うんでしょう?」
(´・ω・`)「あぁ、丁度いいハンデだ」
直後、ショボンの足が床に固定されていた金属製のテーブルを蹴り上げ、ワカッテマスに蹴り飛ばした。
それを拳で撃ち落とすと、その向こう側からドロップキックが襲い掛かってきた。
(;<●><●>)「っと?!」
(´・ω・`)「実戦経験の差だな!!」
テーブルを盾のように掴んで後退したワカッテマスに対し、テーブル越しにショボンの蹴りが連続で襲い掛かる。
全てを防ぐことが出来ないと判断したワカッテマスは、左の拳を握り固め、力強くテーブルに向けて放った。
呆気なくテーブルは砕け、両者の攻撃が直に激突する。
競り勝ったのは当然、ワカッテマスだった。
(;´・ω・`)「ちっ……!!」
攻撃において、硬度、重量、そして速度は破壊力に直結する重要な要素だ。
ショボンに欠けているのは硬度と重量だった。
三つの要素の内、二つで劣っているショボンがワカッテマスの攻撃に勝る道理はない。
理屈をねじ伏せるための技術を発揮しようにも、両者の間にあるテーブルという壁が搦め手を許さない。
それはワカッテマスも同様であり、勝っているとしても、追撃をかけることができない。
床にテーブルが落ちて互いの姿が見えた時、両者は示し合わせたように距離を取っていた。
(´・ω・`)「案外、動けるんだな」
( <●><●>)「言ったでしょう? 妥協はしないんです。
……では、遊びはこのぐらいにして、本気で行きましょうか」
(´・ω・`)「面白い、かかってこい!!」
ショボンが身構える。
それを見て、ワカッテマスは悪戯っぽく笑みを浮かべた。
249
:
名無しさん
:2022/05/17(火) 20:03:02 ID:EzOowemM0
( <●><●>)「やるべきことはやったので、私はさっさとこの船から逃げさせてもらいますね」
(´・ω・`)「……え」
――唖然とするショボンを置いて、ワカッテマスは何の躊躇いもなくその場から走り去った。
(#´゚ω゚`)
残されたショボンは呆然としたが、瞬時に顔を赤くして激怒し、その後を追ったのであった。
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同日 AM09:48
海上で異常が生じている間、ジュスティア陸軍はオリノシという町で大規模な戦闘を強いられていた。
北から接近してきた大規模な部隊を相手に、陸軍は最初から全力を出さざるを得なかった。
相手の指揮官が元イルトリア軍人で尚且つ、対ジュスティア戦に並々ならぬ意欲を持つ人間だったことがその原因だった。
先行していた偵察部隊から、敵がオリノシを横断してイルトリアに向かうという情報を得たことで、戦場は必然的に町の中で行われることになった。
オリノシの町はどの建物も薄汚れており、耐久性は低い物ばかりだが、その密集率は大規模な部隊の展開を拒む姿をしている。
だがそれは、両者にとって同条件だった。
互いに率いる車輌部隊は町の道を一列になって横断せざるを得ず、戦車はその砲塔を自在に使うことが出来ない。
数年前から増え続けた家屋が町そのものを飲み込むような形となっており、優劣を決するのは市街戦に長けているかどうかという点に絞られた。
250
:
名無しさん
:2022/05/17(火) 20:03:24 ID:EzOowemM0
敵がオリノシをあえて通過するということがジュスティア陸軍への挑戦であることは明白であり、オリノシそのものが内藤財団によって買収されているのは明らかだ。
それでも、陸軍は正面からそれを迎え撃つことに何一つ躊躇うことはなかった。
罠があったとしても、それを踏み越えることが出来るという自負があったのだ。
そして今、陸軍大将のオワタ・ジョブスはライフルと無線機を手に、最前線にいた。
その顔は土と砂利にまみれ、汚れた姿をしていた。
一般人と戦闘員の区別がつかないことは最初から分かっていたため、陸軍は自軍以外全てを敵として対応することを徹底した。
女子供が相手であっても、彼らは攻撃の手を緩めることはしなかった。
最初、民間人に攻撃を加えることに躊躇いがあったが、対戦車ロケット砲を持っている子供が民家から現れた時、その気持ちは霧散した。
陸軍は部隊を二分し、敵が町の外に出ないように車輌部隊でオリノシを囲うことにした。
そして、オリノシの中で戦うことになったのは歩兵だった。
強化外骨格という鎧があれば、例え戦車が相手でも戦い方次第では圧倒的な力で排除することが出来る。
最新の対強化外骨格用の武装を与えられた民兵を相手に、陸軍は当初の予想に反して苦戦を強いられていた。
敵の指揮官を探そうにも、相手の正確な位置が分からないため、小隊に分かれて戦闘を行った。
町の構造をよく知る相手を前に、一人、また一人と兵士が倒れていく。
オワタ率いる小隊は一時的に近くのアパートを退避場所に選び、即座に制圧した。
ようやく安全を確保した二階建てのアパート内で、オワタは周囲の銃声と爆発音にかき消されないよう、無線機に向かって怒鳴り声をあげた。
\(^o^)/「砲撃支援はどうなってる?!」
一応はコンクリートで作られた建物だが、爆風で絶えず振動しており、天井から埃や粉塵が降っている。
『観測手からの通信が来ません!!
それに、味方に当たる可能性が高いです!!』
敵の攻撃に対抗するには、砲撃をするしかない。
建物を吹き飛ばし、敵の潜伏している場所を減らしていくのが最適解だった。
幸いなことに味方の位置は分かっているため、敵のいる可能性のある場所だけを攻撃することが出来る。
問題があるとしたら、攻撃地点に敵がいない可能性があることと、倒れた建物に味方が巻き込まれないかどうか、という点だ。
その為の観測手が各小隊に配置されているが、通信による指示が可能な状態ではないのだろう。
通信兵でさえ戦闘に積極的に参加しなければならない程の苛烈な状況になるとは、当初は考えられていなかった。
\(^o^)/「ならこっちで座標を指示する!!
超至近距離着弾でもいい!! とにかく、連中を吹き飛ばしてくれ!!」
指揮官が最前線で戦わなければならないという彼の信念は誰よりも素早い決断を可能にし、軍全体の指揮の向上につながった。
オワタの指示から1分もせず、砲撃が行われた。
ジュスティア陸軍の砲兵隊による砲撃は味方を巻き込みかねない超至近距離への攻撃ではあったが、それは極めて精密なものだった。
砲撃は町の外から行われ、指定された座標にある建物が吹き飛ぶ。
しかし、砲撃の間でも敵は姿を現し、攻撃を続けてきた。
敵部隊の戦車、装輪装甲車が道を塞ぎ、歩兵がそれを乗り越えようとすると撃たれてしまう。
対強化外骨格用の銃弾が雨のように降り注ぐため、Bクラスの棺桶が生身の人間に撃ち殺されるという事態が生じている。
オワタのいる建物の近くに着弾し、爆風が窓ガラスを割った。
\(^o^)/「いいか、絶対に町から外に連中を出すなよ!!」
251
:
名無しさん
:2022/05/17(火) 20:03:49 ID:EzOowemM0
『了解です!!』
この場所を通過させてしまえば、ジュスティアに残されたのはスリーピースだけになる。
ここで食い止めなければならないことは、兵士全員が分かっている。
それでも、飛び交う銃弾が負傷者を増やし、死体を増やす。
更なる攻勢に出るためには、砲撃支援が欠かせない。
『こちらゼロナナ小隊、弾薬がそろそろ尽きそうだ!!
連中の銃を鹵獲して使う!!』
それは初めての報告だった。
弾薬が尽きれば、残された道は白兵戦しかない。
敵の使う武器を鹵獲するのは最後の手段だったが、この状況でその判断は正解だ。
対強化外骨格用の弾が装填されていれば、こちらの武器としても十分に使える。
しかし、それを急いで否定する通信が入った。
『駄目だ、あいつらの銃には罠がある!!
使ったら弾倉が暴発する仕組みだ!!
さっき部下の手首から先が吹き飛ばされた!!』
\(^o^)/「ちいっ……!!」
戦闘開始から絶えず発砲すれば、いくら予備の弾を装備していても弾薬が尽きるのは時間の問題だった。
そして、補給路がないことも問題だった。
分散した結果、一時退却するにも時間がかかってしまう。
戻ろうとする小隊の背中からは銃弾と砲弾が飛んでくる。
相手は町中に弾薬を隠し持っているらしく、補給路を作る必要がないのだ。
ジュスティア軍が採用している銃と相手の銃では弾薬の規格が異なり、現地調達も不可能だった。
これがオリノシを戦場に選んだ理由なのだとしたら、大した相手だ。
戦いの舞台としてこの町を用意し、こちらが誘い込まれることを想定して行動していたのだから。
この状況を悲観する兵士は恐らく一人もいないだろう。
むしろ、これまで培ってきた技術の全てを出せるとあって、喜んでいる者もいるはずだ。
オワタ自身、久方ぶりに戦場に足を運んで指揮を執っているが、高揚感は否めない。
\(^o^)/「……」
不意に、オワタは首筋に悪寒を感じ取った。
彼と部下は建物を完全に制圧していた。
敵となり得る存在は全て排除した。
一階と屋上に通じる通路には部下を配置し、敵の侵入には細心の注意を払っている。
しかし、彼が感じた悪寒は間違いなく殺気の類だ。
部屋に持ち込んだ棺桶を背負う。
直後、足元が揺れたかと思うと、視界が一気に傾く。
\(^o^)/「な、何だ?!」
252
:
名無しさん
:2022/05/17(火) 20:04:15 ID:EzOowemM0
彼と小隊のいたアパートは根元を切り払われ、倒壊した建物に小隊全員が埋もれることになった。
[,.゚゚::|::゚゚.,]『いい墓標になったな』
瓦礫の山の前に、一機の棺桶が立っていた。
左腕からは排熱した湯気が立ち、地面には使い果たしたバッテリーが転がっている。
大出力の戦術高エネルギーレーザーによる比類のない一刀両断。
障害物除去に特化したその棺桶は、市街戦でこそ、その力を発揮できる。
その声は瓦礫の下にいる人間には届かなかった――
[,.゚゚::|::゚゚.,]『ん?』
――だが、声が届かなくとも問題はなかった。
オワタにとって必要だったのは、相手の位置であり、姿であり、そして何よりも指揮官の存在だった。
瓦礫の山が、巨大な爆発によって吹き飛ぶ。
男は反射的に右腕で顔を庇い、カメラへの損傷を防ぐ。
爆炎の中、1機のユリシーズが仁王立ちになっていた。
追加装甲と追加武装によって歩く爆薬庫と化した、オワタ専用のユリシーズ・カスタムだ。
〔 <::::日::>〕『お前が指揮官だな』
[,.゚゚::|::゚゚.,]『驚いた、生きていたのか』
巨大な爪を持つ白い棺桶の使用者が、心底驚いた風に声を上げた。
倒壊する直前に棺桶の装着を完了させていたため、オワタはこうして生還することが出来たのである。
彼の使用するユリシーズは全身に大量の榴弾を装備しており、彼の体に乗っていたコンクリートの山も容易く吹き飛ばすことが出来る。
通常のユリシーズよりも堅牢な対爆装甲で全身を覆っているのは、榴弾を多用する彼の戦い方を支援するためだ。
〔 <::::日::>〕『……その声、聞き覚えがあるな。
イルトリア人だな』
[,.゚゚::|::゚゚.,]『陸軍大将に覚えてもらえているとは、光栄だよ。
だが俺は覚えてない』
〔 <::::日::>〕『あぁ、思い出したよ。
小便を漏らしながら命乞いをしたクソッタレだ』
すかさず戦闘が始まるかに思われたが、男は寸前で踏みとどまった。
踏み込みかけただけで足元の瓦礫が砕けていた。
そのまま飛び込んできていれば体勢を崩し、その隙に間違いなく高威力の打撃が襲ってきたことだろう。
それと同時に、勝敗は決していたはずだ。
[,.゚゚::|::゚゚.,]『見えすいた罠だな』
〔 <::::日::>〕『そう思うか? 臆病者』
[,.゚゚::|::゚゚.,]『安い挑発は買わないことにしている』
253
:
名無しさん
:2022/05/17(火) 20:04:41 ID:EzOowemM0
〔 <::::日::>〕『はははっ、なるほどな。
遊び心のない奴だ。
いいさ、別に』
両腕を胸の前で交差させ、オワタは静かに言った。
〔 <::::日::>〕『お前が逃げなければ、別にいい』
全身に仕込んでいた榴弾が四方八方に射出される。
着弾と同時に爆発が起き、炎が上がり、周囲一帯を瓦礫の山と火の海に変える。
[,.゚゚::|::゚゚.,]『派手な演出だが、陸軍大将の葬式にはちょうどいいな』
〔 <::::日::>〕『お前の葬式になるかもしれないぞ。
どうした、参列者は呼ばなくていいのか?』
[,.゚゚::|::゚゚.,]『人望のある方の参列者が来るのが常識だろ』
〔 <::::日::>〕『ほう』
ならば、とオワタは声なく続ける。
ならば、最も熱烈な参列者が来るのはオワタの方だ。
オワタの意図にようやく気付いた男が、震える声で言った。
だが遅い。
既に榴弾に紛れて信号弾を打ち上げており、味方の行動が始まる頃だ。
[,.゚゚::|::゚゚.,]『……お前、まさか』
〔 <::::日::>〕『もう遅い。 さぁ、勝負といこうか!!』
二人の頭上から、砲弾が雨のように降り注いできた。
砲撃によって地面は抉れ、瓦礫が砲弾のように水平に飛んでいく中、炎の嵐が吹き荒れる。
防爆に特化した装甲を持つオワタの戦い方は非常にシンプルだ。
自分のいる場所に敵を集中させ、自分ごと砲撃させる。
僅か3分。
しかし、苛烈極まりない3分間だった。
周囲500メートルは全て更地と化した。
Cクラスの棺桶の装甲でも無事では済まない。
〔 <::::日::>〕『……ほう』
だが、彼の目の前にいる敵は健在だった。
それどころか、もう1機棺桶が増えていた。
まるで傘のように頭上に薄い装甲が展開され、その下にいる先ほどの棺桶は無傷の状態だった。
間違いなく防御特化の棺桶だ。
[,.゚゚::|::゚゚.,]『危うく泣かされるところだった』
254
:
名無しさん
:2022/05/17(火) 20:05:03 ID:EzOowemM0
〔 【≡|≡】〕『ああいう爆弾馬鹿は痛い目を見せたいと思っていた。
見ろ、味方まで巻き込んでやがる。
さっさと殺るぞ』
確かに、更地と化した場所には味方がいたかもしれない。
崩れた建物の下に生存者がいたかもしれない。
それでも、正義執行のためには誰もが命を懸ける覚悟があった。
せめて彼らが安らかに死ねた事を願うばかりだ。
〔 <::::日::>〕『面倒だ、まとめてかかってこい!!』
――その時、頭上から飛来した物体の存在に気づいたのは僅かに一人だけだった。
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同日 同時刻
『……着弾確認、恐らくこれで全滅です』
255
:
名無しさん
:2022/05/17(火) 20:05:26 ID:EzOowemM0
(’e’)「そっか、ありがとう」
オリノシが瓦礫の町と化すのに必要だった砲弾は、僅かに二発だけだった。
着弾地点は観測手のおかげでずれはなかった。
ジュスティア陸軍内部に潜んでいた細胞は砲兵として所属しており、戦闘を通じて詳細な情報を手に入れ、蓄積していたのである。
皮肉にも、陸軍大将は自らの正確な位置を信号弾で教えており、その地点に対しての一斉砲撃で更に詳細な情報が手に入っていた。
砲兵部隊と戦車隊による集中攻撃によってオリノシにいた人間はほとんどが死んだが、ティンバーランドの人間の被害は予定よりも少なく済んだ。
こちらの想定した通り、こちらが手に入れていた情報通りに陸軍は動き、そして壊滅した。
使用した砲弾はDAT内に保存されていた資料を基に、長年研究と実験を繰り返し、現代に復元した気化爆弾を詰め込んだものだった。
通常の砲弾や爆弾とは違い、爆発の継続力が桁違いであり、街中で使用すればかなりの威力を発揮できる。
一発を復元するだけでも数億ドルの費用が必要であるため、まだ100発程度しか量産に成功していない。
小規模な町であれば二発で壊滅させられることが分かったのは、あまり実りのある情報とは言えない。
それはジョーンズの予想と同じであり、何一つ面白くない。
何より、味方であったとしてもその砲撃を生き延びた人間がいる以上、この砲弾は完璧ではないのだ。
〔 【≡|≡】〕『危うく死ぬところだったんだ、何かないのか?』
それは、ミルナ・G・ホーキンスからの通信だった。
彼の持つ“マン・オブ・スティール”があれば、気化爆弾の衝撃からも身を護ることが出来る。
装甲を展開すれば味方を守ることも出来る。
ただし、失われる酸素のことを考えていなければ保護下にあっても十分に死に得る状況だった。
(’e’)「君達なら大丈夫だと思っていたよ」
[,.゚゚::|::゚゚.,]『どうだかな。 俺たちを消耗品――エクスペンダブルズ――だとでも思ってたんじゃないのか』
クックル・タンカーブーツの声に感情はあまり感じられないが、内心で憤っていることは流石のジョーンズでも分かる。
ミルナの防御が間に合わなければ、町で唯一の生存者はミルナだけになっていたはずだ。
(’e’)「はははっ、上手い事を言うね。
君たちはかけがえのない存在だと思っているんだよ、僕ぁ」
実際に戦闘を行っていたのは、最初に動員した半分の兵士と町の人間だけだ。
ジュスティア陸軍を町に釘付けにし、そこを試射がてら遠距離から砲撃する。
消耗品がいるのならば、それはミルナとクックルを除いた人間達のことだ。
量産機の棺桶に大した価値はない。
コンセプト・シリーズは替えが効かず、一度失えば二度と戻らないのだ。
クックルが使用している物も一度は壊されたが、修理と改良を施すことでこうして戦場に戻ることが出来ている。
[,.゚゚::|::゚゚.,]『あぁ、そうかい。
とにかく、残党を処分したら次は本丸だ。
頼んだぞ』
(’e’)「任されよう」
256
:
名無しさん
:2022/05/17(火) 20:06:17 ID:EzOowemM0
こちらが本気を演じ、哀れにも陸軍兵士がそれに応じて全滅したというのは、あまりにも滑稽だった。
複雑に入り組む形をあえて取らせていた町がこちらの戦力を相手に錯覚させ、結果として一網打尽にすることが出来た。
町の外に待機している砲兵部隊と戦車隊が滅びるのは時間の問題だ。
積み重ねていた準備と作戦が、一つずつ消化されていく。
結局、世界最強に名を連ねるジュスティアでさえも、ジョーンズの予想を裏切りはしなかった。
(’e’)「焼夷弾を装填しておけ。
次はジュスティアに撃ち込むぞ」
しかし。
ジョーンズの計算は完璧ではなかった。
人間とは常に予想外の動きをするものであり、そして何より、ジョーンズが計算に入れていない要素を持つのが人間なのだった。
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{.:.:.:.{ ー-=ミ:i.:.:.:.:.{
∨/⌒ーミ ≠=ミx从.:.:.:. 〉 「紅茶、誰か淹れてくれるかな?」
{v ィェェハ イ、_ }.:.:.:.:.{
{.i .} ^"⌒ ノイ^Y
人:, 〈:. , : fリノ
从 f _ _ /.イ
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/:i:i:i:i:i:i:i「く^iヽ / {:i:i:i:i:i: ..,
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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
同日 同時刻
通信障害に気づいたのは、クックルだった。
味方にいくら話しかけても通じず、ジョーンズにもつながらない。
ジュスティアの砲兵隊が妨害電波を使用しているのだとしたら、少し遅すぎる。
何か意味のある通信障害であると考えた時、背後の瓦礫がゆっくりと持ち上がった。
[,.゚゚::|::゚゚.,]『……驚いた、まだ生きていたのか』
恐らく、ジュスティアで最も爆破に慣れている人間を前に、ミルナは冷静に分析をした。
〔 【≡|≡】〕『体に仕込んでいた榴弾が、爆発反応装甲の役割を果たしたらしいな』
そこに立ち上がっていたのは、装甲の大部分が炭化したユリシーズだった。
機敏さはなく、まるで各関節が錆びついているかのように、動きに繊細さはない。
気化爆弾の爆風に耐えるために、己の持つ爆薬を使って防御に使った機敏さは流石だ。
陸軍史上最も死地に立った回数が多いと言われるだけあり、彼が正当な評価を受けていることは間違いないだろう。
〔 <::::日::>〕『行かせるか!!』
257
:
名無しさん
:2022/05/17(火) 20:06:39 ID:EzOowemM0
〔 【≡|≡】〕『その体で止めるつもりか?
せっかく拾った命だ、祈る時間ぐらいはくれてやるよ』
〔 <::::日::>〕『はっ、そいつはいいな。
お前らの魂とやらが地獄に行くことを祈ってやる』
強がりを言っているが、棺桶の要であるバッテリーも損傷を受けていることは間違いない。
装甲を取り外さなければ、文字通りの棺桶と化し、誰かに救助されるまでそのままになる。
[,.゚゚::|::゚゚.,]『減らず口はそこまでだ』
エクスペンダブルズの両腕にある爪を一つに束ね、クックルは容赦なくその両腕を振るってオワタを切り裂く。
胴体が二分された棺桶が地に伏す姿を、その場にいた誰もが幻視した。
[,.゚゚::|::゚゚.,]『……ちっ』
だが、その一撃は寸前で防がれた。
クックルの懐に入り込んだ棺桶によって両腕が空に向けられ、無駄撃ちをすることになったのだ。
バッテリーが排莢されなければ次の攻撃が出来ない。
目の前にいる小柄な棺桶は、的確にこちらの腕を掴み、排莢作業を防いでいる。
似`゚益゚似
棺桶の性能に頼らず、己の四肢を鍛え抜き、そして武術を極めた人間の動き。
驚くほど真っすぐな肉弾戦を仕掛けてくるタイプだと一目で分かったが、それ故に、クックルは身動きが取れない。
〔 【≡|≡】〕『気をつけろ、そいつは円卓十二騎士の“番犬”だ』
[,.゚゚::|::゚゚.,]『分かってる!!』
クックルの攻撃を防いでいた棺桶が一瞬で深々とその場に屈みこみ、後ろ回し蹴りを膝関節に向けて放った。
[,.゚゚::|::゚゚.,]『くそっ!!』
辛うじて避けつつ、両腕からバッテリーを排莢する。
それと同時に鉤爪を展開し、近接戦に備えた。
[,.゚゚::|::゚゚.,]『名乗るんなら今の内だ』
クックルのその声に対し、“番犬”ダニー・エクストプラズマンは返答しなかった。
似`゚益゚似
無言のまま、その拳を握り固める。
どこまでも武人。
しかし、その真っすぐな気持ちは戦場では命取りになる。
全身が高周波振動兵器である“ダニー・ザ・ドッグ”に対抗できる棺桶がこちらにはいるのだ。
〔 【≡|≡】〕『俺がそいつを抑える。
その間に殺せ』
258
:
名無しさん
:2022/05/17(火) 20:07:04 ID:EzOowemM0
[,.゚゚::|::゚゚.,]『あぁ、そうする』
ジュスティア最高戦力の一人とこうして戦えるのは、元イルトリア軍人としてはこの上のない喜びだった。
時代錯誤な称号を与えられて喜んでいる様な人間を暴力で組み伏せることの楽しみ。
これは、持つ者にしか分からない優越感だ。
力が全てを支配できるというこの世界のルールに則った、いわば許容された暴力の正しい使い方だ。
似`゚益゚似
武術など、優れた兵器の前には無力なのだ。
いくら拳を鍛え上げ、拳足を刃の様に武器化したところで、銃弾一発で人は死ぬ。
兵器の使用に長けていることの方が、肉体の研鑽よりも遥かに意味がある。
〔 【≡|≡】〕『悪く思うなよ』
全身の装甲が花弁のように広がり、制圧の構えを取る。
似`゚益゚似『……哀れな』
ようやく放った一言は、憐みの言葉だった。
それは所詮、騎士としての一言。
矜持の鎧を心にまとった人間の言葉など、響きはしない。
マン・オブ・スティールの巨躯が一気にダニー・ザ・ドッグに向かって疾駆した。
展開した装甲でダニー・ザ・ドッグを包むようにしてやれば、活路は前か後ろだけに絞られる。
物理的に捕まえた後は、エクスペンダブルズのレーザーで首を切れば終わりだ。
この上なく分かりやすい作戦に、だがしかし、円卓十二騎士の男は正面から迎え撃つ形で駆けだした。
見た目には勇ましいが、結局のところ、自ら掴まりに行くだけの行為だ。
[,.゚゚::|::゚゚.,]『耄碌したか』
そう、思った。
そう思ったからこそ、そう口にした。
だが。
だが――
〔 【≡|≡】〕『ぬうっ?!』
捕まえようと伸ばした両腕が内側から払い除けられ、胸部に拳が押し当てられる。
身長の差は歴然だったが。
頭三つ分はマン・オブ・スティールの方が高く、拳は垂直ではなく斜め上を向いていた。
それを辛うじて目視した次の刹那、マン・オブ・スティールの巨体が宙を舞った。
似`゚益゚似『イルトリア軍人だと思って少しは期待していたが、兵器の力を己の力と過信した類の間抜けとはな』
[,.゚゚::|::゚゚.,]『しっ……!!』
両腕の合計8本の爪の先端からレーザーが放たれ、ダニー・ザ・ドッグを八方から襲う。
高熱で物質を焼き切るこの攻撃は、高周波振動で防げるようなものではない。
サイコロステーキのようにバラバラに切り裂かれる姿を想像したが、それは一瞬で打ち砕かれた。
259
:
名無しさん
:2022/05/17(火) 20:07:27 ID:EzOowemM0
似`゚益゚似『その攻撃の報告は受けている』
全身が振動したかと思うと、レーザー光が装甲の表面で霧散し、淡い光がダニー・ザ・ドッグの周囲を照らす。
驚く間もなく距離を詰められると、拳が腹部に押し当てられ、馬鹿げた衝撃が内側にまで貫通してきた。
[,.゚゚::|::゚゚.,]『うがっ?!』
高周波振動による打撃。
その本質は破壊力の向上だが、装甲を貫通しての一撃は聞いたことがなかった。
内蔵に重い一撃を食らったクックルは呼吸を乱し、その場に膝を突く。
棺桶の体格差、重量を無視したような打撃は体だけでなく、心にも傷を負わせた。
似`゚益゚似『装甲の頑丈さ、レーザーの破壊力。
そんなもの、誰が使っても同じだ。
で、ある以上はそれを使う人間の技量に帰結する』
言葉を置き去りに、ダニー・ザ・ドッグの姿がクックルの視界から消失する。
培った戦闘本能に従い、視線を上方に向ける。
飛び蹴りを放つ仕草を、ただ茫然と見つめるしかなく、防御行動に入る前に胸部に強烈な打撃。
重量級のエクスペンダブルズが呆気なく蹴り飛ばされ、瓦礫の山に背中から激突する。
〔 【≡|≡】〕『なめるなよ、犬の分際で!!』
ミルナの怒号と重なった突進。
その一撃は戦車すら横転させ得る砲弾並みの威力を秘めた物だったが、ダニー・ザ・ドッグは回避行動にすら移ろうとしなかった。
左腕をただ静かに、舞うような優雅ささえ感じさせる動きで空に向けて払う。
直後、マン・オブ・スティールは宙を舞い、優に10メートル離れた瓦礫に突っ込んだ。
似`゚益゚似『……』
クックルは否が応でも思い出さざるを得なかった。
ジュスティアが誇る最高戦力の12人。
その実力はイルトリア二将軍にも匹敵すると言われ、与えられた称号に決して恥じない者で構成されていると。
以前相対した“左の大槌”は生身でこちらを圧倒したが、目の前にいる男の力は間違いなくそれに迫るものだ。
[,.゚゚::|::゚゚.,]『ジョルジュ!! どこにいる?!
こっちに来て援護しろ!!』
二人で分が悪いなら、三人がかりで対応するしかない。
しかし、その声に答えたのは切羽詰まった様子のジョルジュ・マグナーニの声だった。
_
(;゚∀゚)『駄目だ!! 今こっちも戦闘中だ!!』
無線機の向こうからは銃声だけでなく、爆発音がいくつも重なって聞こえてきている。
ジョルジュがこれほどまでに慌てた様子を見せているのは、これまでに初めてのことだった。
[,.゚゚::|::゚゚.,]『何?!』
260
:
名無しさん
:2022/05/17(火) 20:07:56 ID:EzOowemM0
回り込まれるような愚策はしていなかったはずだ。
ジュスティア陸軍が移動したのであれば、その連絡が入り、即応している。
つまり、相手は軍隊ではなく個人。
個人で軍隊を相手にするということは必然――
_
(;゚∀゚)『円卓十二騎士だ!! それも、レジェンドセブンの!!
くっそ、さっさと……!!』
[,.゚゚::|::゚゚.,]『たった二人の援軍で、俺たちを止めるつもりなのか?』
追加の砲撃支援を要請しようにも、今は味方も巻き込みかねない状況だ。
それに、まだジュスティア陸軍には残党の砲兵隊がいる。
この見晴らしがよくなった状況であれば、さぞや狙い撃ちやすくなることだろう。
入り込ませた細胞は5人。
その5人がどう動くのかは、こちらでは指示が出来ない。
彼が行うのは精確な座標を小型端末を使用して伝えることであり、基本としては怪しまれないよう、陸軍として動いてもらうことになっている。
[,.゚゚::|::゚゚.,]『なめられたものだな、流石に!!』
新たなバッテリーを装填し、クックルは呼吸を整えた。
[,.゚゚::|::゚゚.,]『本気でやれそうだ、久しぶりに!!』
左右八本の爪を展開。
レーザー攻撃が対策されているのならば、肉弾戦だ。
技術をねじ伏せる膂力を見せれば、こちらが負ける道理はない。
〔 【≡|≡】〕『あぁ、騎士を相手にできるなんて、願ってもみなかった!!』
そうだ。
この時を願っていたのだ。
イルトリア軍人として生きていた時も、除隊してからも。
胸の中に生まれるざわめきだけは、どうしても消えなかった。
長年にわたって積み重ねられてきた戦闘衝動はやがて夢となり、願いとなり、そして実現すべき目標と化した。
強者のための世界の実現。
それこそが、二人がティンバーランドに参加する理由だった。
似`゚益゚似『……そうか。
ぬんっ!!』
気合を込めた一声が響いたかと思うと、いつの間にか傍に立っていたオワタの棺桶の装甲が左右に分かれて落ちた。
恐ろしく速い手刀。
クックルでなければ見逃していただろう。
\(^o^)/「ふぅ……!!
モナーじいさんと殺りあった時以来だ、ここまで追い詰められたのは」
似`゚益゚似『まだ動けますか?』
261
:
名無しさん
:2022/05/17(火) 20:08:24 ID:EzOowemM0
\(^o^)/「あぁ、勿論だ」
似`゚益゚似『では、この場はひとまず私が。
ジュスティアに戻り、陸軍への指示を継続してください』
傷で歪んだ顔を更に歪ませ、不承不承、オワタは頷いた。
\(^o^)/「……ここは頼んだ」
[,.゚゚::|::゚゚.,]『大将を逃がすと思うか、しかも生身の』
〔 【≡|≡】〕『石で殺してやろう。
部下と同じように、な!!』
生身の人間であれば石を投擲してやるだけで殺せる。
ミルナが拳大の瓦礫をオワタの後頭部目掛け、目にも止まらぬ速度で投げる。
それをエクストプラズマンが投げた石で撃ち落とした。
拳をゆっくりと前に出し、言った。
似`゚益゚似『駄目だ。 お前たちには、もう何も奪わせない』
――その堂々たる佇まいは、正に騎士そのものだった。
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l //K マム .|ii| ムマ、////>-‐イ≧イ///////,イ ̄
ヽr‐=>-‐=ニ三ニ、 /  ̄人/7777777ゝ、_ イ^
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第八章 【 Ammo for Rebalance part5 -世界を変える銃弾 part5-】 了
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262
:
名無しさん
:2022/05/17(火) 20:08:46 ID:EzOowemM0
これにて今回の投下はお終いです
質問、指摘、感想等あれば幸いです
263
:
名無しさん
:2022/05/17(火) 22:16:03 ID:lceAJZGQ0
乙!!
見どころ満載の回だな
武人として戦うエクストがまじでかっこいい
264
:
名無しさん
:2022/05/18(水) 10:42:52 ID:uVs8SH1.0
おつです
265
:
名無しさん
:2022/05/18(水) 20:12:27 ID:Hc41LLqY0
乙!
ワカッテマスあんた最高だよwww
ティンバーランド組じゃショボンが一番好きだなぁ
後、"恐ろしく速い手刀。クックルでなければ見逃していただろう。"
シリアスなシーンにネタ仕込むんじゃないよ笑っちゃったじゃないのさww
>>239
事前情報"殿"すり合わせも終わっている。
事前情報"との"だね
>>240
軍用第三世代強化外骨格と比較すると大人しい"平気"だが
ここは"兵器"だね
>>259
"内蔵"に重い一撃を食らった
体の一部だから"内臓"の方だね
266
:
名無しさん
:2022/05/18(水) 20:55:57 ID:uUQ4ePYg0
>>265
ネタに気づいてもらえて幸いです!
そして今回もまた変換ミスがあぁぁぁぁ!!
ご指摘ありがとうございます!!
267
:
名無しさん
:2022/05/19(木) 20:52:12 ID:6ty1OAqw0
おつ
兵器とか身体能力とかのゴリ押しばかりのところに武道が入るの熱いな
268
:
名無しさん
:2022/05/20(金) 17:08:41 ID:yUCF7m4I0
おつ!
269
:
名無しさん
:2022/05/20(金) 21:30:36 ID:o56gcreo0
乙
なんで大将が最前線に出張ってきてんだ…?
270
:
名無しさん
:2022/05/21(土) 06:06:45 ID:0bUMUqo.0
>>269
>>250
にちょっとだけ書いてあるのですが、
『指揮官が最前線で戦わなければならないという彼の信念』のため、大将なのに最前線にいる次第です。
271
:
名無しさん
:2022/05/23(月) 21:42:55 ID:1ylXCPwg0
乙乙
ダニーに勝って欲しいけどどうなるかね
272
:
名無しさん
:2022/07/10(日) 20:14:10 ID:C6.mBjdg0
来週の日曜日VIPでお会いしましょう
273
:
名無しさん
:2022/07/10(日) 20:31:50 ID:TGQySG7I0
2ヶ月ぶり!楽しみ!
274
:
名無しさん
:2022/07/17(日) 09:03:41 ID:FeHM4xO.0
今日だな
待ってる
275
:
名無しさん
:2022/07/18(月) 07:39:03 ID:C7JjIM2M0
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原初より人と十字は常に共に在り。
視線を巡らせれば、必ずや視界に入ることだろう。
即ちそれは神の分身。
我ら、常に神と共に在り。
故に我ら、死地に赴くも恐れることなし。
例え命を落とそうとも、我らの傍に神は在り。
我らの心に刻まれた十字が、必ずや神の元へと導くことだろう。
――十字教聖書 序章 より抜粋
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┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻
September 25th AM08:12
――世界が誕生した時、最初に光があった。
十字教の使用する聖書はこのように書き始められている。
彼らにとって信仰の対象は存在の疑わしい不実在の概念的な物ではなく、十字そのものにあった。
机、椅子、家屋、ナイフ、果ては衣類を代表するように人の生活には常に十字があったことがその起源である。
十字教聖書によれば十字は盾であり剣であり人であり、そして神として定義されている。
同時に、十字教徒にとって人と人とが交わって作る交配の十字は神聖な行為として見なされていた。
それは男女、あるいは雌雄によってのみ作ることのできる十字。
決して同性で作ることが許される物ではなく、それを許容することは神の作った世界の仕組みに対する冒涜そのものだった。
故にこそ、十字教の人間達は同性愛者を嫌悪し、世界から滅ぼす必要があると考えていた。
穢れを取り除かなければ世界に広まり、不浄な十字が増えることになってしまう。
同性愛者は人間の言葉を口にするが、その実、彼らは悪魔に魂を売った外道なのだ。
“クルセイダー”の中でも信仰心が強く、異教徒を誰よりも多く屠ってきたグノール・クニスは戦車の銃座に腰かけ、目の前から迫ってくる敵を睨みつけていた。
常に最前線で戦うことを良しとし、最初に神の敵を殺すことを意識し続けている男の視線は険しさの中に嗜虐心の色が浮かんでいた。
Ie゚U゚eI「接敵までは?」
戦車のエンジン音とキャタピラの駆動音がうるさいため、怒鳴るような大声で足元の操縦士にそう声をかける。
ヘッドセットを付けていても、大してその恩恵を感じられない。
「間もなくです!!
……っ連中、散開してます!!」
Ie゚U゚eI「絶対に逃がすなよ!!
各位、これは聖戦だ!!
一人も逃がすな!!」
276
:
名無しさん
:2022/07/18(月) 07:39:28 ID:C7JjIM2M0
グノールは背後を振り返り、怒鳴るように命令した。
先頭を走る数十台の戦車の背後には、土煙を上げながら追走する数千の兵士がいる。
この戦いの為に用意されたレリジョン・シリーズの棺桶を纏った聖戦士達。
これだけの数を復元するためには、内藤財団の力が必要不可欠だった。
彼らは十字教に多額の支援をし、技術と兵器の提供もしてくれた。
世界中から集めた十字教徒たちがこうして一堂に会し、怨敵を屠る機会を得られたのも彼らのおかげだ。
Ie゚U゚eI「数も質もこちらが有利だ!!
逃げる者も命乞いする者も、全て等しく忌々しい人の道を外れた外道だ!!
神の威光をここに示せ!!」
その言葉が、戦闘の火蓋を切って落とすことになった。
クルセイダーが用意した棺桶は全部で5種類。
その内4種類が、細かな武装が異なる同型機だ。
第三次世界大戦時にも十字教が使用していた、“アポストル”と呼ばれるBクラスの棺桶。
装飾品や調度品としての使われ方が多いレリジョン・シリーズの棺桶だが、アポストルは戦闘に特化して設計された戦闘用の棺桶だ。
銀色の装甲は三重の装甲版で構成され、高周波振動を用いる兵器に対しても絶対ではないが高い防御力を誇る。
それでいて装甲は薄手で、追加装備が容易に接続できるように洗練された造形をしている。
頭部を覆うヘルメットは円と流線型を主に使用しており、銃弾を受け流しやすい設計をしていた。
一瞥すれば甲冑そのものだが、観察すれば近代兵器の造形なのは間違いない。
その設計は信者にいた兵器設計者が行ったため、実用性は信頼できるものだ。
多才な戦場に対応できるよう、装備を変えるだけでなく細かな調節を同型機に行うことでジョン・ドゥなどの汎用型のそれとは一線を画すことができた。
基本形のアポストルを使用し、4種の棺桶が作り出された。
(||[╋]||)
近接戦に特化したアポストル・マルコ。
中距離支援に特化したアポストル・マタイ。
遠距離攻撃を得意とするアポストル・ルカ。
そして、防御による支援を行うアポストル・ヨハネ。
この4機を1班とし、更に世界に点在する教会中から集めたデヴォティーが随伴している。
戦場となったのが荒野だったのは神の采配だと言わざるを得ない。
あらゆる戦況下で対応が出来る棺桶が一丸となって対応できる場所は、正に、この荒野を置いて他にないのだ。
猛烈な速度で戦車隊の横を、その4種の棺桶たちが通り過ぎていく。
『敵、後退していきます』
すぐに届いたその報告に、若干の苛立ちを覚えながら答える。
Ie゚U゚eI「だったら追え!!」
圧倒的な数を前にすれば、どれだけ崇高な目的を掲げていたとしても現実がその心を折ってくれる。
戦力差を見て撤退の判断をしたのは賢明だが、すでに手遅れだ。
277
:
名無しさん
:2022/07/18(月) 07:39:48 ID:C7JjIM2M0
『そ、それが!!
連中、逃げる方向がバラバラで!!
対赤外線センサーのスモークを炊いているので、向かう場所が分かりません!!』
Ie゚U゚eI「ちっ、それぐらい……!!」
――神がこの世に姿を現し、信者たちを救うために舞台を整えたとしても。
決して手出しできない領域がある。
それは、人間の根底にある愚かさだ。
戦闘経験の浅い人間が武器を手にしたところで、結局こちらの戦力の大半を占めるのは素人の集団。
手痛い所を突かれてしまった。
『ど、どうすれば?!』
侵略行為に対して何度も立ち向かい、迎撃してきた人間達とは覚悟も何もかもが違う。
少人数だからこそ考え、身につけ、そして生き延びてきた経験は誰かに与えられるものではない。
彼らが煙幕によって姿をくらまし、数の不利を補うための戦い方を選んだ理由を素人のクルセイダーが考えることなど出来ない。
正義感を胸に暴力に酔い痴れた人間達に出来るのは、頭の悪い犬のように影を追いかけるだけだ。
煙幕が有効であると判断したのか、続々と視線の先で煙が発生している。
最早、こうなってしまえば煙がなくなるまでは混乱が収まることはない。
無線機から聞こえてくる声は無視し、状況が凪ぐことをひたすらに待つ。
戦車で突撃したところで、煙幕に紛れた対戦車地雷を踏めばそこまで。
Ie゚U゚eI「戦車隊は待機。 砲撃もするな」
今戦車隊に出来るのは砲撃による支援だが、味方に当たらないようにするのは不可能だ。
故に、待つだけしか出来ない。
気が狂いそうになるほど長く感じた時間が過ぎ、ようやく朗報が耳に入ってきたのは10分が経過してのこと。
『煙幕が切れてきました!!
交戦開始しまっ……ああ!?』
Ie゚U゚eI「どうした!!」
狼狽した味方の声に、怒鳴る様に答える。
『て、敵が……!! ああ、あり得ない!!』
Ie゚U゚eI「報告は正確にしろ!!」
『よ、4人しかいません……!!』
戦力差は数百倍。
しかし。
そこにいる4人は道理の通らない世の中に、あえて道理を通そうとする人間達。
胸に秘めた覚悟がその戦場にいる誰よりも強く、そして――
278
:
名無しさん
:2022/07/18(月) 07:40:08 ID:C7JjIM2M0
( 【ΞVΞ】)『覚悟があるなら来なよ。
俺達は聖職者でもかまわないで殺っちまう男だぜ』
――何よりも厄介な戦力であることは、明白だった。
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同日 AM08:35
“Aチーム”。
それは、完璧を目指して設計された棺桶だった。
コンセプト・シリーズでありながら、“4機揃って初めて性能が発揮される”ことを前提とした設計は他に類を見ない。
開発当時、出された条件は『独立して戦闘が可能で尚且つあらゆる局面に対応が可能』という無理難題だったが、設計者の機転によってそれは実現した。
単独での戦闘ではなく、性能の異なる同型機が一つとなって戦うことで、全局面に対応可能な棺桶を作り出したのである。
完全独立型相互データ共有システムは音声のみならず、それぞれが手に入れた様々な情報を共有することで比類のない連携を可能にした。
データ中継用のポールを要所に設置すれば、極めて広範囲での情報共有も可能だった。
この棺桶が発掘された時、その損傷具合は素人目に見ても復元は不可能な物に思われた。
しかし、ストーンウォールには世界中から集まった人間がおり、その中にはラヴニカからの技術者も大勢いた。
彼らは街を守る要石としてその棺桶が役立つことをいち早く見抜き、数に対抗するための質を確保するため、街の収入の多くがその復元作業に投じられた。
技術者たちの手によって4機は復元され、備わっていたデータ共有システムは無傷のまま使用することが出来た。
求められていたのは重装甲、高火力、高機動の全てをこなせるオールラウンダーだったが、高機動だけは元の設計でも切り捨てられたものだった。
ラヴニカの技術者はこのままでは要石としての役割を果たすのは不十分であると考え、苦肉の策を生み出すことによってそれを攻略した。
それは高火力との併用だった。
主兵装である砲を使って加速、跳躍を可能にするという狂気の発想。
圧縮空気を使っての飛翔についてはラスト・エアベンダーが実用化させており、その技術を転用すればその発想は現実のものとなる。
両肩、両腕の大口径滑腔砲を改造し、火薬ではなく圧縮空気によって砲弾を射出させるという形を取った。
そして、その圧縮空気を任意の方向に噴出させることで一時的な加速力と跳躍を可能にさせた。
その代償は大きかった。
両腕は従来の折り畳み式の砲身から一転し、より軽量な砲身の短い物へと変更した。
279
:
名無しさん
:2022/07/18(月) 07:40:30 ID:C7JjIM2M0
腕そのものを砲に変えることになったため、ライフルなどの装備を使用できない、細かな作業が出来ないという大きなハンデを背負うことになった。
それを補うため、技術者たちは更なる改造を施した。
滑腔砲であることを生かし、砲身に入る岩や瓦礫でも射出できるように大きな改造が行われた。
それによって戦闘時にバッテリーを大量に消費することを懸念し、両腕と背中の滑腔砲には独立したバッテリーを採用した。
合計で5つのバッテリーを搭載し、それらは分厚い装甲の下に隠された。
棺桶同士の戦闘の概念を変え得るその機能は、事実、四方を埋め尽くすクルセイダーを相手にしても圧倒的だった。
アベ・サンタマリア率いるA班が相手にするのは数百倍の数だが、一度の戦闘で相手にするのを四人に限定することが出来れば問題はない。
意図的に接近し、四方向に注意しながら戦えば数の不利を補える。
( 【ΞVΞ】)『デヴォティーにだけ注意しろ!!』
デヴォティーの主兵装である火炎放射兵装は味方をも巻き込みかねない兵装であるため、こちらが近接戦をする限り使われる可能性は低くなる。
十字教の教えでは味方殺しは大罪という特性を利用した戦法は、てき面だった。
圧縮空気を利用した三次元的な戦い方はジュスティア軍人はおろか、イルトリア軍人でさえ経験がほとんどない物だ。
空を舞うことのできる量産型の棺桶は現代においてラスト・エアベンダーのみであり、それはほとんど戦場に姿を見せないという稀有さがあった。
日々戦場にいる人間ならばまだしも、そうでない素人にとって立体的戦闘は異次元のそれだ。
攻撃の手段を有していながらも、その有効的な使い方が思い浮かばない。
仮にその戦い方を指示されたとしても、実行に移せる人間はその場にわずかしかいなかった。
(||[╋]||)『くっ、こいつら!!』
狼狽する人間に向けて次々と滑腔砲を放ち、吹き飛ばしていく。
短い砲身が可能にする近接戦によって、アポストルたちは成す術なく文字通り吹き飛ぶ。
(||[╋]||)『援護を!! 狙撃部隊は何やってるんだ?!』
銃弾はすぐに味方同士の撃ち合いになるため、クルセイダーにできるのは白兵戦だけだ。
相手が苦手としている接近戦に持ち込む際に、圧縮空気による高速移動は極めて高い効果を発揮した。
戦闘の素人は接近戦に持ち込まれると正常な判断力を失う。
その結果、面白いほどに棺桶が宙を舞い、地面に叩きつけられる光景が広がっていた。
遠距離狙撃と火炎放射にさえ気をつければ、アベ達の目的が達成されるのは間違いない。
唯一警戒すべき遠距離からの一撃は、周囲の物陰に配置されたアンテナと観測手によって警告音に変換され、回避が可能となる。
( 【ΞVΞ】)『どうってことないね、当たらなければさ!!』
クルセイダー達にとって、この開けた戦場は極めて不自由に感じることだろう。
起伏が少ない場所であるが故に、銃を持つ人間は満足に優位な位置からの射撃が出来ない。
少し頭を使えば少人数で遠距離からの攻撃を考えつくものだが、Aチームの加速力がその発想を根底から否定する。
それでいて、Aチームにとっては砲弾になる物がいくらでも転がっている場所だった。
装甲があるとはいえ、纏っているのは人間だ。
飛来する岩石や味方のパーツから顔を守り損ねると、たちまち脳震盪を起こしてしまう。
首が繋がっているだけでも防御力に感謝しなければならない次元なのだが、素人には棺桶の性能不足に感じることだろう。
至近距離で食らえば重量のある棺桶でさえ、簡単に宙を舞う。
アポストルの性能は正しく使えばジョン・ドゥをも上回るものだが、使う人間次第ではただの防弾着程度に成り下がる。
激しい戦闘中にも関わらず、アベは無線を使い、味方との通話を継続していた。
280
:
名無しさん
:2022/07/18(月) 07:40:50 ID:C7JjIM2M0
( 【ΞVΞ】)『ハンニバル、相手の動きはどうだ?』
同じA班のハンニバル・スミスから返ってきたのは、どこか楽しそうな声だった。
( 【ΞVΞ】)『面白いぐらいこっちの予想通りだ。
ただ、狙撃手がそろそろ面倒になってきたな』
被せるようにして、アーサー・マードックが続く。
( 【ΞVΞ】)『こっちの人数に気づいたからね。
デヴォティーだけ残してストーンウォールに向かうみたいだ。
少し予定よりも遅いぐらいだ』
( 【ΞVΞ】)『せめてデヴォティーを何体か壊しておこう。
燃料タンクを壊せばあっという間だ』
コング・バラカスの提案はもっともだった。
クルセイダーの中で最も注意しなければならないのは、やはり、火炎放射器の存在だ。
粘性が高く、装甲に着いたら簡単には消えることのない炎は、街を地図上から消すのにも極めて有効な物。
街を守る人間達の負担を減らすことを考えれば、デヴォティーの数は少なければ少ないほどいい。
デヴォティー最大の弱点は背負った燃料タンクそのものにある。
黄金を燃やす、と比喩される兵器である火炎放射器を使用する棺桶でありながら、燃料タンクは排熱の関係でその装甲に穴がある。
そこを狙えば一撃で破壊することが出来る。
( 【ΞVΞ】)『アベ、連中が残しているのは腕利きの奴らだ。
さっきまでとは攻め方が違う!!』
冷静さに定評のあるハンニバルの言葉は、その場に残る人間に強い警戒心を植え付けた。
彼はこれまでに幾度となく死線を越え、不可能とも言える防衛線を可能にしてきた歴戦の猛者だ。
十字教がこれまで栄えてきた背景を考えると、汚れ仕事を請け負ってきた人間がいても不思議ではない。
ならば、多少の苦戦は仕方がない。
それは織り込み済みだ。
しかし、可能であれば ま だ 苦 戦 を 演 じ 続 け る 必 要 が あ る。
( 【ΞVΞ】)『誰も欠けずにこの場を切り抜けるぞ!!』
アベ達に必要なのは時間だった。
いつの時代も、時間があれば大抵のことは解決できる。
圧倒的な数の差とは、数字上の差でしかない。
それを補うだけの策があれば、その数字は意味がない。
策は質に勝り、質は数に勝る。
策と質、その二つを両立させることが出来るのがストーンウォールのA班なのだ。
( 【ΞVΞ】)『さぁて、もうひと踏ん張りだ!!』
今は、可能な限り相手の主戦力をこの場に釘付けにし、時間を稼ぐことが重要なのであった。
281
:
名無しさん
:2022/07/18(月) 07:41:10 ID:C7JjIM2M0
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ノ⌒: : : 〉⌒ ギルドの都
_,...-、 --く⌒: : :〈 ラヴニカ
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二二二二二l|| |ヽ|_|_l:|ト、| |ニニニニニ| |ニニニ| ト、────ト ≧s。 _
二二二二二l|| | ̄..ア|ト、| |ニニニニニ| |ニニニ| ト、\ ̄ ̄ヽ..| l≧s。 ``lー─────
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同日 AM08:45
ティンバーランド、あるいは内藤財団からの申し出を暴力によって拒絶したラヴニカでは、史上最大の戦闘が起きていた。
街は二つの勢力が入り混じった状態から戦闘を開始し、その影響はほんの一分続くだけでも世界経済に多大な打撃を与えるほどだった。
少なくとも戦闘が終わるまでは街中の工場が停止し、ラヴニカを出入りする車輌が停止したことによって物流も止まらざるを得ないためだ。
それでも、ラヴニカの人間達が戦うことを選んだこの内戦は後に“灯内戦”と呼ばれることになる。
それは世界で最新かつ最も希少な棺桶が大量に投入された、経済的にも世界最大の内戦だった。
<=ΘwΘ=>『チップを持っている奴を探せ!!
ビプロマイヤー・ニューリか、裏切り者のモーガン・コーラだ!!
とにかく探せ!!』
街中に展開する軽量の棺桶、“ハムナプトラ”が街を飛び回る。
屋根の上を走り、路地を走り、時には壁に足を突き立てて走る姿は異様と形容するのが相応しいだろう。
だが混戦状態の街の空気に飲まれないよう、効率だけを重視した動きだ。
それは影を生きてきた者ならではの動きであり、棺桶の特性を生かした戦い方を知る者の動きでもあった。
目的は一つ。
ビプロマイヤーが復元に成功した高性能な誘導チップの試作品の奪取である。
それがあれば今後、世界のバランスを保ち続けるために大いに役立つ。
シナー・クラークスが率いる私兵部隊“テラコッタ”はその連絡を受け、チップを手に入れるべく街の戦闘には関わらないように動いていた。
だがそれは、決して順調ではなかった。
282
:
名無しさん
:2022/07/18(月) 07:41:30 ID:C7JjIM2M0
([∴-〓-]『行かせるかよ!!』
ラヴニカの人間達はハムナプトラを見つけ次第、容赦なく撃ってきた。
戦闘が始まってから十分ほどしか経過していない中、シナーたちが相手にしている人間達の持つ情報は正確だった。
その上、準備が万端。
まるでこうなることが分かっていたかのようであり、苦戦は必至だった。
量産機であるはずのソルダットでさえその動きはコンセプト・シリーズを思わせるほどに機敏で、武装が充実している。
市場に流れるカスタム用のパーツをふんだんに取り入れた機体は、名持ちの棺桶と同等の力を有していた。
しかし、厄介なのはそれだけではなかった。
〔欒゚[::|::]゚〕『くそっ、通信がノイズだらけで聞こえない!!』
通信妨害が酷く、味方の連携が行えないのだ。
直接会っての会話だけでしか彼らは意思の疎通が出来ず、遠方に向けての伝達はハンドサインを使うか、昔ながらの伝令係を立てるしかない。
対してラヴニカの反乱分子たちは何らかの手段で通信を取り合い、連携しながら戦況を有利に運んでいる。
( `ハ´)「腹立たしいアルね」
万全の状態ではない上に、土壇場で期待を裏切られたのは手痛い展開だ。
だがしかしシナーは銃弾と怒号の飛び交うラヴニカの街を、まるで散歩するかのように優雅に眺めながら歩いていた。
彼の周囲にはハムナプトラが10機以上待機し、全方位に対して警戒をしている。
その手が持つM60機関銃の銃爪には指が添えられ、いつでも発砲が可能な状態になっている。
前後左右を囲む四機は対戦車砲でも貫通させることが出来ない盾を構え、彼らの主を守っていた。
そして、その集団から離れた前後にはジョン・ドゥが二機ずつ位置し、露払いと殿の役割を担っている。
腕利きの人間が担当しているだけあって、襲撃に対して難なく対応している。
ただし、チップの行方が分からない以上、余裕があるわけではない。
少なくともモーガンかビプロマイヤーを確保し、情報を吐き出させなければならない。
誘導チップは手のひらに収まる程の大きさであり、どこかに隠されてしまえば、このラヴニカの広い街の中から探すのは至難の業だ。
隠されているならばまだしも、破壊されてしまえば取り返しがつかなくなる。
<=ΘwΘ=>『シナー大兄、そろそろ棺桶を装着してください。
前方から戦闘音がします』
( `ハ´)「私は大丈夫アル。
お前たちが護るから、それは必要ないアル」
<=ΘwΘ=>『ですが、万全の状態ではないのですから』
ジュスティアで受けた激しい尋問の影響は、シナーの体に深い傷を残している。
両膝の火傷は未だに完治しておらず、走るだけで激痛が走る。
本来であれば走って追いかけたいが、それが出来ないためにこうして歩くしかない。
( `ハ´)「いいから、チップを手に入れるアル」
283
:
名無しさん
:2022/07/18(月) 07:41:50 ID:C7JjIM2M0
シナーの私兵部隊“テラコッタ”の最大の強みはその数にある。
街中に散らばってもなお余りあるその兵力は、実に8000。
訓練と実戦を経て鍛え上げられたその部隊は、シナーがティンバーランドに参加する前から目をかけていた人間達で構成されている。
ティンバーランド内でこうした私兵部隊を持っているのは、シナーとキュート・ウルヴァリンだけだ。
だが大規模な部隊であったとしても、今のラヴニカではあまり有利に働いていない。
強みである通信による連携が絶たれた以上は、古典的な人海戦術で攻めるしかない。
地の利は相手にある。
弱小ギルドがいくつかこちら側についてはいるが、恐らく、早々に全滅していることだろう。
ラヴニカは街を守る為に徹底して戦っている。
殺されたはずのギルドマスターたちが生きていたということは、今日という日に備えて何かしらの準備をしていたと考えるのが普通だ。
ゲリラ戦を挑まれると、時間の経過と共にこちらが不利になるのは明白だ。
短期決戦が出来なければ、チップの入手は不可能。
( `ハ´)「……」
しかし。
正直なところ、シナーはチップについて諦めていた。
彼らがそれを持ち去るだけならばまだ手に入るという可能性が残るが、破壊されるという選択が下される可能性の方が高い。
今の段階でこうして追っているのは、壊されたという明白な証拠がないからに過ぎない。
こうしてラヴニカが蜂起したことは、組織にとっては著しくマイナスだ。
騒動の鎮圧化が最優先となるが可能性がゼロというわけではないのが惜しい所だ。
( `ハ´)「2000を動かして、相手の指揮官を殺すアル。
それと、今すぐ街中に伝えられる放送手段を手に入れて、チップを渡さなければ街を焼き払うと放送するアル。
放送からきっかり30分後、街を燃やすアル」
家があれば敗北したとしても生きていく希望を持てるが、帰るべき場所を奪われれば、それだけで街の復興は遅れる。
嫌がらせとしては十分だ。
復興が遅れれば、周囲にいる他の街に飲み込まれるのはあまりにも簡単なのだから。
<=ΘwΘ=>『承知』
無論、ラヴニカを火の海にするのは最後の手段である。
この街の利用価値は極めて高いが、この世界から争いがなくなれば棺桶は必要なくなる。
優れた職人と技術さえ確保できれば、街に用はない。
脅しではなく、シナーの命令は面倒を省くための手段でしかない。
手に入らないのであれば、そのどちらも燃やすに限る。
炎こそ、世界を変えてきた原初の力なのだ。
世界最大の組織を敵にした見せしめとして滅びるか。
それとも――
( `ハ´)「どうするか、見せてもらうアルよ」
――世界が一歩前進するための灯になるのか、それだけだ。
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