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Ammo→Re!!のようです
155
:
名無しさん
:2022/03/06(日) 19:27:27 ID:L8ix.Wrs0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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_|/ / :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: ヽ ヽ >、
_... -── '' ¨´/ / :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: |丶 ヘ ` '' ─-
/_ / /.::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::! : :ヽ ヘ _.. ---
./ /  ̄¨ヽ二ニフ〈 、{: :',:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::,': : : : } }∠二ア
i / 、 >' マ 人 ',::::::::_.. -=ニニ=- .._::::::/: :__..ノ / `¨ ─‐ マ´
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
(:::::::::::)「……知らネーヨ」
(●ム●)「迷ったなら、案内を――」
(:::::::::::)「いらネーヨ」
口の悪い老人だった。
シュマーグの下に見えるのは、堀の深い皺だらけの顔。
白くなった無精ひげ。
古い傷が幾つも刻まれた浅黒い肌は、彼が砂漠の民の血を引いていることを示している。
そして。
スカイブルーの瞳が放つ鋭い眼光が、ビルボードに向けられた。
たじろいだその刹那。
太い腕が服の下から伸び、ビルボードの首を掴んだ。
(●ム●)「げっ……ぐ……」
首の骨が軋む。
酸素が絶たれ、意識が遠のく。
目に血が集まる感覚。
片手で持ち上げられ、バイクが倒れる。
悲鳴さえ上げられない。
抵抗を考える前に生命の危機を覚え、思考がまるで定まらず、恐怖が全身を支配する。
(:::::::::::)「十字教の集会にしちゃあ、随分と物騒だな」
(,,゚,_ア゚)「何やってんだ、あのジジイ!!」
怒声が遠い。
銃声が聞こえたような気がしたが、彼が最後に感じたのは背中を強烈に殴られたような衝撃だった。
神の言葉は、彼には届かなかったが、彼らが信仰する神の間近に行けたのは間違いなかった。
死体と化したビルボードは肉の壁として、男に掲げられて銃弾を一身に受け続ける。
(,,゚,_ア゚)「襲撃だ!! 訳の分からない糞ジジイが!!」
(:::::::::::)「口の悪い連中だな……」
156
:
名無しさん
:2022/03/06(日) 19:28:44 ID:L8ix.Wrs0
だが男は、まるでそれを気にも留めない。
ゆっくりと、そして優雅に紡がれるのは背負った棺桶の起動コード。
(:::::::::::)『夜、疲れた心の片隅で夢見る者は、目覚めとともに夢の空しさを知る。
だが、真昼に夢見る者たちには心せよ。
彼らはしかと目を見開き、夢を実現させるであろう』
一瞬にしてその体をコンテナ内に収め、銃弾の雨から遣い手を守る。
数秒の後、コンテナから一機の強化外骨格が姿を現した。
それは、滑らかな流線型の装甲を持つ爬虫類の様な印象を与える棺桶だった。
(,,゚,_ア゚)「糞ッ、急げ!!
早くあいつを!!」
从´_ゝ从「棺桶を使え!!」
<::::_/''>『それよりも聖書を用意しておけヨ』
――“ロレンス・オブ・アラビア”。
足場が不安定な場所での戦闘、特に砂漠地帯での戦闘に特化したコンセプト・シリーズの棺桶。
実戦向けの一点特化設計が多いコンセプト・シリーズの中でも、これほどまでに使い勝手の悪い棺桶はそうない。
足場の安定した場所、例えば市街戦ではまるで恩恵がない。
だが。
その棺桶を使いこなす人間がいるのも事実。
数十年も同じ棺桶を使い続け、戦い続け、守り続ければ一点特化の棺桶でも十分な戦闘力を発揮することが出来る。
ましてやそれが、棺桶の能力を発揮するのに最適な場所ともなれば、その能力は一騎当千の力と化す。
世界を二分する際、指標に挙げられるのがイルトリアとジュスティアだ。
その基準となるのが、それぞれが誇る軍事力。
そして、互いが世界に知らしめる最高戦力の存在だ。
イルトリアは二人の将軍。
対して、ジュスティアは騎士の称号を持つ十二人。
これまでその存在は秘匿され、彼らが残した功績が存在を証明していた。
だが、その時代は過ぎた。
ジュスティア市長、フォックス・ジャラン・スリウァヤによってその存在は大々的に表に出ることになった。
十二人の騎士は全員が同じ階級を有しており、決してその中に優劣があるわけではない。
功績、実力、そういったあらゆる要素によって彼らは騎士の称号を得たのであり、序列をつけることに意味はなかった。
特に優れていると称される七人、“レジェンドセブン”はあくまでも周囲が格付けたものであり、本人たちが決めたものではない。
しかし、階級や序列、そう言った物とは別の次元にいる騎士が一人だけいる。
即ち、最古参の騎士。
円卓十二騎士が作られ、幾度も世代交代がされる中、歴代最長の騎士が一人存在する。
生涯現役にして、恐らくは知れ渡っている中では最も有名な騎士。
手にした二振りのショーテルの内、左手のそれを地面に突き刺し、男はしわがれた声で告げた。
<::::_/''>『祈りは済んだな?』
157
:
名無しさん
:2022/03/06(日) 19:29:37 ID:L8ix.Wrs0
円卓十二騎士、レジェンドセブンの一人として謳われる第一騎士“魔術師”シラネーヨ・ステファノベーメルは息を吐き、疾駆した。
両足には砂上でも安定感を欠くことのない特殊なバランサーが備わり、両足の付け根からは武骨な補助脚が展開されている。
多脚という特異な設計が生み出すのは、比類のない安定感だけではない。
足の裏にある機構が足場にしている砂を吸い込み、補助脚がそれを吐き出すことで生み出す推進力。
そしてその機動力は――
〔欒゚[::|::]゚〕『はぁ!?』
<::::_/''>『神によろしく』
――その場にいた全員の想像を遥かに超えた速度で、彼らに死を運んできたのであった。
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同日 AM07:35
賭博産業を語る上で、ヴェガという街は決して欠かすことのできない存在だ。
“砂金の城事件”以降、ジュスティアとの契約を行っておらず、独自に警備員を雇い入れることで治安の維持をしていた。
治安維持組織は今、全く機能していなかった。
それは彼らの怠惰でもなければ、内藤財団からの融資があったためにある程度のことに目を瞑る様にしていたからでもない。
戦力差が一目で分かる程、突如として現れた大部隊は圧倒的だったのだ。
装甲車。
戦車。
歩兵を運ぶためのトラック。
ヴェガから少し離れた山岳地帯から突如として現れたその一団を前に、最初にそれに気づいた警備隊は不運にも発砲をしてしまった。
それが彼らの仕事であり、与えられていた任務だったからだ。
最初は威嚇、警告のつもりだった。
アサルトライフルが放った十数発の銃弾への応酬は、戦車の主砲十数発だった。
一瞬にして壊滅した部隊の情報を聞き、ヴェガ中に警報が鳴り響いた。
そうでなくとも戦車砲の音で街中がパニックに陥り、誰かの指示を待つことなく避難が始まった。
即応部隊は特別に与えられた名持ちの棺桶を使い、応戦を試みた。
対応だけを見るならば、彼らに落ち度は一切なかった。
158
:
名無しさん
:2022/03/06(日) 19:31:50 ID:L8ix.Wrs0
カジノによって街は潤っており、その治安を守る為に治安維持組織は高い給与が支払われていた。
更に、末端の人間はヴェガで作った借金の返済をする為に雇い入れた生粋の先兵。
金による忠誠心は確かな物だった。
だが。
だが、しかし。
相手があまりにも悪すぎた。
先頭を走る戦車に乗り、微動だにしない棺桶が一機いた。
〔 【≡|≡】〕
戦場には似つかわしくない黒に近い青の装甲。
右手が携えるミニガンですら小さく見えるほど、その装甲は分厚く、大きい。
使用者が望めばその装甲は花弁のように展開し、周囲に防護壁を作ることも出来る。
左肩には弾薬の詰まった巨大なコンテナがかけられ、フィーダーがミニガンに繋がっている。
その後ろを走る戦車には、別の棺桶がいた。
黒曜石を思わせる黒い装甲の下に、更に別の純白の装甲を纏う棺桶。
四本の巨大な爪は猛禽類のそれを想起させ、攻撃性の高さを連想させる。
[,.゚゚::|::゚゚.,]
戦力差を考えれば撤退すべきだったが、治安維持組織の人間達は果敢にもそれぞれの得物を手に、反撃に転じようとした。
ミニガンに装填されていた弾が炸裂徹甲焼夷弾だと分かっていれば、指揮官はすぐに近接戦を中止させていたかもしれない。
だが遅かった。
建物に隠れていた者も、正面から高周波刀を構えて突撃した者も。
皆等しく撃ち抜かれ、悲鳴だけを残して死んでいった。
銃弾は差別することなく、その射線上にいる人間の命を奪い、貪った。
避難せず、建物の中でほとぼりが冷めるのを待っていた人間も。
逃げようと車のドアに手を伸ばした人間さえも。
誰もが、その弾に撃ち抜かれ、絶命した。
爆散し、即死できた人間は幸せだったが、運悪く直撃を避けた人間はゆっくりと激痛の中で死んだ。
降伏という選択肢は彼らに与えられていなかった。
それを強く印象付けるように、市長の邸宅に向けて一筋の光が走る。
[,.゚゚::|::゚゚.,]『……ふん』
それは四本の爪から一束となって放たれた超高出力の一撃であり、あらゆるものを切断し得る熱線だった。
邸宅は斜めに切断され、自重に耐えかねて倒壊し、市長は圧死した。
これが侵略を目的とした戦闘集団であれば、相手の戦意を奪ったところで街を奪う行動に移すところだったが、そうはならなかった。
この地に現れた彼らの目的は侵略ではなく、殲滅だった。
彼らの多くが実戦経験不足であり、人間を撃ち殺すという行為に慣れていなかった。
集団で一つのことをする。
集団で残虐なことをする。
集団で同じ経験を通し、同じ感情を抱く。
159
:
名無しさん
:2022/03/06(日) 19:32:16 ID:L8ix.Wrs0
そうすることで集団はより強い結束力と攻撃性を手にすることができる。
それが、彼らの先頭で指揮を執る二人の元イルトリア軍人の判断だった。
クックル・タンカーブーツとミルナ・G・ホーキンスの二人は素人同然だった歩兵たちが次々と家屋になだれ込み、銃爪を引く喜びを味わっている姿に満足していた。
ヴェガの治安維持隊は戦闘開始から30分で壊滅し、後は街にいる生き残りを殺し尽くすだけだった。
こちらの犠牲は1人もいない。
全ての部隊がヴェガ内で一時停止し、本番直前のウォームアップに興じる中、二人だけは戦車の上から動こうとしなかった。
[,.゚゚::|::゚゚.,]『……体よくやったな』
クックルの言葉はミルナに向けられ、それに対してミルナはどこか含みのある声で答えた。
〔 【≡|≡】〕『……何の話だ』
[,.゚゚::|::゚゚.,]『あの兄弟だよ。 お前、手を貸さなかったそうじゃないか』
それがスコッチグレイン兄弟を指しているのは明らかだった。
弟はフートデンバーで狙撃され、兄はニョルロックで妹を殺した末に死んだ。
アニーが死んだ際、ミルナはその場に居合わせていた。
それは公然の事実であり、確かに、彼が手を出せば防げたかもしれない事件だった。
所詮は可能性だ。
もしもあの時、別の行動をしていれば、などというのはいくらでも言える。
故に、組織内でミルナを糾弾する人間は誰もいなかった。
〔 【≡|≡】〕『手出しできなかったんだよ』
[,.゚゚::|::゚゚.,]『そういうことになっているようだな。
技術屋が戦闘でどうにかなるはずもないのに、ねぇ』
〔 【≡|≡】〕『俺はあいつの気持ちを尊重しただけだ。
それに、俺の任務は護衛だ。
あいつのお守じゃない』
実際、ミルナはスコッチグレイン兄弟を好ましく思っていなかった。
技術屋であり、戦闘については素人そのものだ。
傭兵派遣会社を営みながら、その経営者が素人というのは何とも皮肉な話であり、現場にいたことのある人間にとっては面白くない話だ。
そんな彼らが組織に入り、あまつさえ幹部級の席を与えられたのは、ひとえに生まれた家と持っている財力が理由だ。
フィンガーファイブ社の傭兵たちは今、ティンバーランドの兵士として動いている。
そうなる様に再教育を行い、選別し、配置した。
その地盤さえ手に入ってしまえば、スコッチグレイン兄弟は組織にとって不要の存在だ。
確かに、彼らが入るにあたっての試験としてペニサス・ノースフェイスの殺害を提示し、それをクリアしたのは事実だ。
だが、試験をクリアしたからと言って彼らが有能とは限らない。
実際問題、ペニサスを殺害してから彼らがこれと言って作戦に大きく貢献したことは無いのだ。
所詮は素人。
ミルナが望む世界に、そんな人間はいらないのだ。
160
:
名無しさん
:2022/03/06(日) 19:33:56 ID:L8ix.Wrs0
[,.゚゚::|::゚゚.,]『それが本音か。
まぁいいさ。
ギコは相変わらずだったか?』
〔 【≡|≡】〕『あぁ、相変わらずの青二才だったよ』
二人ともギコ・カスケードレンジとの面識があり、彼が部下だった過去がある。
そして二人とも、ギコのことを疎ましい存在だと思っていた。
彼は青い。
戦場での青さは命取りになる。
非情にならなければならない場面で、彼は非情に徹しきれない。
アニーを殺した時も、最後の最後で甘かった。
狙撃手、そして軍人としての欠点だ。
〔 【≡|≡】〕『ところで、部隊の仕上がりぐらいはどうだ?』
[,.゚゚::|::゚゚.,]『練度はどうしようもないが、まぁ、やる気は十分だな』
街の至る所から銃声と悲鳴が聞こえてくる。
やはり、戦場はいい。
訓練では引き出せなかった兵士の残虐性や才能が開花し、強固な精神力を持った人間が生み出される。
戦場に優しさは不要なのだ。
これから彼らが行うのは侵攻。
一般市民も軍人も区別なく殺す戦いだ。
中途半端な優しさを持ち込むことのないよう、ここで最終的な振るいにかけなければならない。
大義を前に彼らは動き、大義を盾に人を殺す。
指示に従い、疑問を抱くことなく銃爪を引く兵士が必要なのだ。
そのためには多少乱暴な儀式を通じてでも、戦闘に無関係な人間でも殺せるように仕込まなければならない。
ヴェガの犠牲は致し方ない犠牲なのだ。
いわば、よりよい成長のための間引き。
必要な犠牲を生み出すためであると自分に言い聞かせて行動できるようになれば、立派な兵士になる。
「お、お願いします!!
この子は、この子だけは――」
( 0"ゞ0)「ダメだ」
命乞いを聞き届けず。
乳飲み子だろうとも殺す。
撃ち殺した死体に唾を吐き捨て、念のために死体に確認の一発を撃ち込む。
生きた人間を走らせ、それを背後から撃つのも効果的だ。
そうして周囲が残虐性と冷徹さを手に入れ、ならば自分も、と考え始めて動けばそれでいい。
それは実戦でなければならず、無辜な人間達が相手でなければ身に付けられない感覚だ。
こうすればいつでも心が思い出せる。
自分は、いつでも人を殺せるのだと。
161
:
名無しさん
:2022/03/06(日) 19:34:18 ID:L8ix.Wrs0
『……報告です。
街から逃げ出した民間人を全員安全な場所に移動させました。
もう傷つくことはありません』
それは別動隊からの報告だった。
近隣に住まうティンバーランドへの賛同者で構成され、彼らに与えられたのは街から逃げ出す人間の一掃だった。
昨晩の内に街から外部に通じる道路に対車両用の地雷を埋め、伏兵を用意していた。
これで、ヴェガが壊滅した事実はこちらの思惑通りに捻じ曲げて知らしめることが出来る。
[,.゚゚::|::゚゚.,]『よくやった。
燃やしておけ』
新兵が仕上がっていく姿は、二人を十分に満足させた。
調節を済ませた兵士を回収し、興奮が冷める前に彼らは移動を始める。
目指すはジュスティア。
世界の正義を名乗り、彼らの夢を邪魔する正義の都。
大規模な戦闘を前に、二人の元軍人は胸を高鳴らせていた。
その一方で、その虐殺風景を顰め面で見る男がいた。
_,
( ゚∀゚)「……」
だが男は、何も言わず、何もしなかった。
そこに正義がないことは、その男が良く分かっていた。
彼らの行いに正義などないが、その目的は誰もが理解している。
この世界に正義を取り戻すための下地作り。
世界に平和を取り戻すため、彼らは世界最後の戦争をするのだ。
1万を殺したとしても、その結果、後の1億に繋がるのならば。
選ぶべき道は決まっている。
そのために彼らは誰かに悪と呼ばれても構わないと、覚悟を決めていた。
後世の為であれば、彼らは悪鬼でも虐殺者にでもなるのだ。
162
:
名無しさん
:2022/03/06(日) 19:34:38 ID:L8ix.Wrs0
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同日 AM07:56
ストーンウォールではラジオの放送後でも、大した変化も混乱もなかった。
彼らにとって外界は無関係な世界であり、内藤財団の布告の対象とは考えていなかったのだ。
だがしかし。
内藤財団がそうでなくても、彼らを目の敵にする組織の存在は承知している。
十字教はこれまでに何度も秘密裏に部隊を派遣し、彼らの街を侵略しようと試みてきた。
セントラスの西に位置するストーンウォールは、かねてよりこの時がいつか来ることを危惧していた。
故に、驚きはない。
来るべき時が来た、というだけのこと。
彼らの情報網が接近するクルセイダーの姿を捉え、街の中にいる武闘派たちが動き出していた。
性的少数者、即ちマイノリティが生き残るためには武力を持っていなければ話にならない。
会話で彼らを受け入れるようであれば、誰も苦労はしないのだ。
彼らの対話方法はライフルと対戦車砲だけでなく、強化外骨格もあった。
特に何か統一した装備を持っているわけではないが、彼らは皆、その武器の使用に長けていた。
少なくとも、街の中で銃を扱えない人間は一人としていない。
穏便に物事を済ませたいという人間が過半数を占めているが、そうならない場合は、街全体が武装蜂起し、外敵に対して全力で抵抗を試みる。
蜂の巣、の名を持つストーンウォールは一度火が付けばその苛烈さは他の巨大な街の軍隊にも匹敵するほどだ。
N| "゚'` {"゚`lリ「セントラスからこうして本格的に来るとはな……長生きはしてみるもんだな」
163
:
名無しさん
:2022/03/06(日) 19:36:15 ID:L8ix.Wrs0
市長、アベ・サンタマリアはクルセイダーを迎撃する為に出発した部隊の最後尾にいた。
軍隊の様な装甲車などはないため、彼らが乗るのは民間車輌だ。
積載している武器、弾薬は街中から集めた物だ。
数も質も、セントラスのクルセイダーの方が上回っているのは誰の目にも明らかだ。
だが、それが諦めを認める理由にはならない。
ストーンウォールはそこに住む人間達にとっての楽園であり、最後の砦なのだ。
ここで諦めるということは、彼らの生き方を諦めるということ。
生き方を諦めるということは、自分自身を諦めるということ。
それは、死ぬよりも辛いことだ。
生きながらに己を否定し続け、偽り続け、日々を過ごす屈辱。
己を解放できない圧迫感は、毎秒ことに彼らから生きるという実感を奪い取る。
生物としての根底を否定する生き方など、受け入れられるはずがない。
それならば最後まで抗い、戦う。
それが、街の総意だ。
アベの言葉に、ワゴン車のハンドルを握るクロマララー・バルトフェルドは普段と変わらない口調で答えた。
(;;・∀・;;)「どうせなら、もっと別の機会に立ち会いたかったっす」
N| "゚'` {"゚`lリ「例えば?」
(;;・∀・;;)「アベさんの結婚式とか」
N| "゚'` {"゚`lリ「はははっ、そりゃ無理だ。
もう30年前だぞ? お前が来る前に終わらせちまったよ。
順番で行けばお前が結婚するんじゃないのか?
ジャンヌとはどうだ、上手くいってるか?」
ジャンヌ・ブルーバードはクロマララーの恋人で、街の中では技術屋として生計を立てているトランスジェンダーの女だ。
(;;・∀・;;)「えぇ、まぁ……」
N| "゚'` {"゚`lリ「あー、ちょっと待った。
実は結婚するんですよ、とか今言うなよ」
(;;・∀・;;)「花束とかももう買ってあったりして……なんて言いませんよ!
まぁ、まだもうちょっとお互いに分かり合いたいなぁ、なんて……」
バイセクシャルのクロマララーとジャンヌは、互いに求めている物が一致してるため、出会ってからすぐに親密な関係になっていた。
アベは二人の橋渡し役として準備をしたこともあり、二人がこの先どうなるのか、誰よりも楽しみにしている人間の一人だった。
(゚A゚* )「お二人さん、先頭車両からの情報が来たで」
助手席でDATを触りながら耳に付けたインカムで情報を集めていたノー・ガンズライフの言葉に、二人は気持ちを切り替えた。
(゚A゚* )「数は2000以上。
棺桶の種類までは分からんが、全員けったいな恰好しているみたいやね」
164
:
名無しさん
:2022/03/06(日) 19:36:41 ID:L8ix.Wrs0
N| "゚'` {"゚`lリ「きっと、大切に保管しておいた奴だろうね。
ほら、前に式典の時に並んでいたって話があったろ?
なんて名前だったっけか……」
(゚A゚* )「確か、マタイ、マルコ、ヨハネと……ルカやったな。
まぁデヴォティーもいるやろな」
N| "゚'` {"゚`lリ「どう攻め込んでくるか、が問題だな」
双方の戦力差は約3倍以上にもなる。
こちらが勝つためには、正攻法以外の方法で戦闘をしなければならない。
冷静な判断を下せる指揮官であれば、街をあげての撤退か、降伏を選ぶだろう。
しかし、彼らにはその選択肢がない。
ましてや、戦闘が数ではないということを彼らはよく知っている。
戦闘はいかに相手に力を出させず、こちらが余裕をもって相手を殺せるかに尽きる。
これまでに何度もストーンウォールが外敵を追い払ってきたのは、決して偶然の産物ではない。
必勝に裏打ちされた戦略があり、装備があるからだ。
(゚A゚* )「後20分もすれば接敵するで」
膝の上に置かれた地図に目を向けると、予定地点は荒野の真ん中だった。
背の高い丘もなければ、身を隠せる岩もない。
荒涼とした大地が広がる、正に不毛地帯。
となれば、こちらが視認されるのは時間の問題だ。
だが、手はある。
相手の動きが速かったのは幸いだ。
セントラスからストーンウォールに最短で行くためには、モーゼ大渓谷を通過しなければならない。
そこをこちらが通るならば、渓谷の上から襲撃される心配があったが、今の状況ではそれがない。
蜂の巣を突こうとするならばどういう目に合うか、聖書には書かれていないようだ。
N| "゚'` {"゚`lリ「相手の配置はどの程度まで分かっている?」
(゚A゚* )「9割9分やな。
あいつらが伏兵を用意していない限りは10割や」
必勝の為に必要なものとして、まずは情報があげられる。
相手の規模、装備、位置などの細かな情報が分かれば相手が次に何をしてくるのかが分かる。
そして。
ストーンウォールがこれまでに勝利を収めてきたのは、その情報を活用する術について世界屈指の力があるためだった。
情報がある程度集まったところで、アベは無線機に向かって指示を出した。
N| "゚'` {"゚`lリ「……プランFで行く。
陽動はA班が請け負う。
行くぞ」
165
:
名無しさん
:2022/03/06(日) 19:37:07 ID:L8ix.Wrs0
一団は細かなグループとなって移動し、扇状になってそれぞれの目的地に向かって走り出す。
その結果、最後尾にいたアベ率いるA班はクルセイダーに向かって、正面から攻撃を仕掛ける形となる。
圧倒的な戦闘量の差を目の当たりにしながらも、彼らは一切怯まない。
勝利は必然を集め、当然の結末に向けて突き進んだ結果だ。
N| "゚'` {"゚`lリ「戦術データリンク起動」
『了解、戦術データリンク起動』
無線機の向こうから、次々と同じ文言が繰り返される。
(;;・∀・;;)「全班データリンク接続確認。
ポイントマン配置完了。
各自、安全を最優先に行動をするように」
(゚A゚* )「データリンク感度良好。
……敵が食いついたで、A班これより交戦。
それじゃ、行くで!!」
車が急停車し、棺桶を背負ったアベが飛び降りる。
彼を残し、ワゴン車はその場からすぐに離れていく。
アベは静かに、目の前から迫りくるクルセイダーを睨みつける。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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__ ヽ.. ー }. | } ゝ _,,.ィ´ ___
.`マ  ̄ f≧z \:::ー、 { .! /::::::/: : __,.. -=  ̄ ア
ヾミ 乂zツ`''- 、 : :\::::', 〉 { ./::/: : : _,,. -=弋z_ツ´ /
ヾミ=-- _ \ミ、 ヾ .ノ、 __ ,乂__/: : : :/´ __ ..z彡
`  ̄ ̄ ` : : : `ミ 、: : . `ヽ /´ /´ ̄ : : : :=- ´
` : : : : : : :. } .Y .: : : ´
ヽ: : : : : .: ;
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: :
N| "゚'` {"゚`lリ『我らは道理の通らぬ世の中に、あえて挑戦する者。
筋を通すのであれば我らは不可能を可能にし、勝利をもたらす』
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
――そして紡がれたのは、“Aチーム”の名を持つ棺桶の起動コードだった。
166
:
名無しさん
:2022/03/06(日) 19:37:28 ID:L8ix.Wrs0
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゙ | ~"'''〜、、 | _ --==ニ¨ ̄| / /
. | ,。≠''" ⌒>--=< ̄``丶、 /〉 j/ /_,,.. -=≦
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....|¨¨二ニニ7' ァ'",ィケノ…‐‐-ミー-ミ(__)\(⌒)\\(__) // .| ,| |__,,,,....
| ̄__」=≦-‐(())…(())-ミCヘ 0CY^Yハ`¨´ ,,リ 「」// _,|─__¨| |_,,,.... | |¨¨
.│ ̄ ∪ _二|ニニニニT冖T¨~丁|¨~f´)) ̄ ̄) ̄),ィァ'⌒|⌒Y:、::| |::::::::::::::| |
. |┬…rf宀T(ニニ)「 ̄|.|:::::::| |:_| |:,,| |;;;;;| |__| |:::::`TT¨¨¨Π¨´|:::|{:O:|O: }: |::| |::::::::::::::| |
.│||:_:_」」二乂__ソ¨(__)、 ̄__,ィ≠ミ(_)(_)\ ̄ ̄八 ̄ ̄ ̄ |:::|ゝ-ゝ‐ィ:::|┘ L_:::::::| |
| ̄ |: :.:| \ノ,,| ̄| | ̄77´ニニ>ィ <===> 乂二二二乂≧=- _┴ ∟
....| @ |: : :| }(__),|¨|_|_{ :{::|: : : :|: :| .| ̄匚]| /7 i|: :.:|
._ l: | | |: : :| /77゙||: : : |::∧∨: : : |: : ~|`ヽ | :||_| // /|: : :|,
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|i _」」 -‐'''|: : :| ̄{ {..| ||: : : |:.:.:.|_}|: : : :|: : : | 乂__ノ| | :| | j|: : : : :.|
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同日 AM07:59
ジュスティアの東、そこに広がる広大な海に、巨大な原子力空母が13隻、そして戦艦が1隻いた。
決してジュスティアに近づきすぎることなく、ゆっくりと弧を描くようにしてオセアンを目指す。
しかし、超ド級の戦艦“ロストアーク”の砲門は全てジュスティアに向けられていた。
艦隊の指揮官であり、ロストアークの艦長、スパム・シーチキンは深く腰掛けた椅子の上で足を組み換え、溜息を吐いた。
彼女のいる艦橋は四方全てを特殊ガラスで覆われ、電子機器や操舵、果ては攻撃に必要な制御系の一切がその場に集約されている。
ロストアークは全長300メートル、多彩な装備を乗せ、圧倒的な破壊力を誇る規格外の戦艦だ。
ロストアークには60cm五連装砲が前後に4基ずつ、合計40門の主砲が備わっている。
自動排莢、装填が可能だが、細かな狙いは全て人の手で行われる。
船員は延べ5000名以上だが、そこに男女の区別はない。
だが誰一人として、艦長が女性であることに異論を唱える者はいない。
小柄な女傑の視線は鋭く、低い声はこれまでに彼女がどのような人生を過ごしてきたのかを如実に物語っている。
海で戦い、生きてきた人間の声は皆等しく海鳴りじみた音になるのだ。
目深に被った帽子を僅かに持ち上げ、周囲を一瞥する。
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「さぁ、て。 おい、ジュスティアの動きは」
椅子に座って計器類に目を向ける部下たちにそう声をかける。
返答したのは、傍らに控えていた副艦長だった。
(^J^)「内部からの情報では、すでに複数の艦隊がこちらに向かっているとのことです」
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「なのにまだ接敵しないってのは、どういうことだ。
こっちを認識したのなら、もう会ってもいい頃だろう」
主砲の有効射程にジュスティアを捉えているが、確実に当てられるという保証のない、ギリギリの距離だった。
当初の作戦通り、まずはオセアンに向かってはいるが、スパムは苛立ちを露わにしていた。
戦闘がしたい。
そのためには、ジュスティア海軍がいち早くこちらの主砲の射程内に入る必要がある。
167
:
名無しさん
:2022/03/06(日) 19:39:20 ID:L8ix.Wrs0
確実に当てられる距離は20キロまで。
それ以上は運次第の距離となる。
(^J^)「はい、恐らくこちらの主砲を警戒しているのだと」
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「奴らに分かるのはこちらに戦艦が一隻いるということだけで、他のことは知らないはずだ。
なら、威力偵察でも何でもいいが、攻めてこないのはおかしい。
空母について連中が知っているはずがない、と聞いていたが。
協力者のあいつは無能の類なのか」
空母の存在は今日初めて公になった物だ。
巨大な輸送艦か護衛艦の類だと思っているのならば、迷わずに接近してくるはずだ。
こちらの所有している空母は敵との距離が近くなければ、大した優位性を確保できないという欠点がある。
積載している飛行可能な棺桶はあくまでも中距離の飛行を得意としており、長距離の飛行は撃ち落とされる可能性が高くなってしまうのだ。
上陸作戦に使うのと同時に、接近してきた船を蹴散らすための空母だ。
ジュスティア海軍が絶妙な距離を保ったままでは、力を発揮することが出来ない。
逆に、空母を警戒しているのであれば、それは極めて間抜けな話だ。
空母には攻撃用の装備が機関銃しかついていない。
超高倍率の望遠鏡でこちらを見れば、それぐらい分かるはずだ。
(^J^)「所詮は管理職。 現場の仔細までは知らないということですね」
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「ちっ、“オーシャンズ13”の後ろから接近されたら面倒だな。
よし、とりあえず撃つか」
高速艇であれば弾幕を掻い潜り、オーシャンズ13の喫水線に穴を開けられかねない。
如何に巨大で力強い空母でも、喫水線に穴が開けば沈没するしかない。
今最も警戒しているのは潜水艦の存在だが、情報ではまだ出航していないらしい。
だが今の状況では、その情報さえ信憑性に欠けると言わざるを得ない。
(^J^)「準備は整っています、いつでもご指示を」
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「よし、それじゃあ――」
だが、彼らの会話に割り込む男がいた。
( <●><●>)「あー、ちょっと待ってもらっても?」
ワカッテマス・ロンウルフ。
組織に途中から参加してきた、ジュスティアの人間。
円卓十二騎士に所属しており、“ロールシャッハ”の渾名を持つ男だった。
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「何だ」
苛立ちを隠そうともせず、スパムがワカッテマスを睨みつける。
ワカッテマスはそれを静かに受け流し、答えた。
( <●><●>)「多分、撃っても今は撃ち落とされますよ」
168
:
名無しさん
:2022/03/06(日) 19:41:41 ID:L8ix.Wrs0
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「何を根拠に」
( <●><●>)「私があの街のことについて知らない、なんてことはありませんからね。
まぁ論より証拠を求めるのなら、どうぞ撃ってみてください」
挑発的な物言いに、スパムは片眉を吊り上げた。
男勝りの性格をしているが、冷静さを欠くほどのことではないと判断し、視線を副艦長に向ける。
(^J^)「はっ!! 主砲発射用意!!
照準、ジュスティア!!」
『角度ヨシ、狙いヨシ』
(^J^)「撃て!!」
直後、彼らの知覚する全てが振動した。
衝撃と砲声を緩和するはずの分厚いガラスも震え、計器類も、人間も、全てが衝撃によって震えた。
耳を塞ぐほどではないが、巨大な砲声が鼓膜を叩く。
ロストアークの主砲が放った圧倒的な質量と破壊力を持つ砲弾は、だがしかし、ジュスティアに到達する前に空中で爆散した。
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「なっ?!」
( <●><●>)「だから言ったじゃないですか」
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「原理は何だ?!」
( <●><●>)「カウンターですよ。
こちらの動きに合わせて、向こうも砲弾を撃ってきたんです。
ただ、相手の砲弾を撃ち落とす用のですがね。
要するに散弾銃で鳥を撃ち落とすようなものです」
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「き、聞いていないぞっ……!!」
( <●><●>)「協力者が誰だか私は知りませんが、まぁよっぽどの無能なんでしょうね。
ちなみにどなたで?」
重要な情報が何一つとして入ってきていない事実に、スパムは激昂した。
振るえる声で、ジュスティア内部にいる内通者の名前を口にする。
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「……タカラ・クロガネ・トミーだ」
ジュスティア軍の元帥。
その協力者は組織内でも極めて重要な存在として受け入れているが、役立ったのは数えるほどだ。
ドクオ・バンズが囚われていた同志を助ける際にも彼の情報は精確ではなかった。
情報提供者を偽ってこちらの組織内に入り込んでいるのだとしたら、早い段階で切り捨てなければならない。
偽の情報を流し、組織を内部から瓦解させようという目論見があっても不思議ではない。
上層部はまだ気づいていない、極めて重要な問題だ。
169
:
名無しさん
:2022/03/06(日) 19:43:31 ID:L8ix.Wrs0
( <●><●>)「あぁ、彼ですか。
若くて優秀だから元帥になったのは事実ですが、如何せん、若すぎですね。
これは現場でもっと長く働いた人間でないと知らない情報ですから」
若さは優秀さと同時に、経験不足を表す。
彼が元帥になった年齢を考えれば、確かにこちらの思想に至るまでには若すぎるとも言える。
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「あの……野郎!!」
( <●><●>)「ひょっとして、二重スパイなのかもしれませんね。
まぁこれで私の情報を信じてもらえると嬉しいのですが」
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「……私はお前も信じ切ってはいない。
ジュスティアの連中は腹に一物を持っているとしか思えない」
( <●><●>)「どうぞお好きに。
ただ、それで作戦が少しでも破綻してしまうと誰がどう責任を取るのか、少しばかり気になるところですね。
同志ショボン・パドローネとジョルジュ・マグナーニの貢献をなかったことに出来るとは思えませんね」
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λ ノ ゝ__ノ
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同日 AM08:42
イルトリアから飛び立った高速ヘリは高度を上げ、雲の上へと至っていた。
酸素マスクを着けた2人の乗客は思い思いの作業に耽っていた。
市街用の灰色の明細を着た、頬に二本の大きな傷を持つ男、トラギコ・マウンテンライトは弾を込めながら、向かい側に座る女を一瞥し、すぐに視線を手元に戻した。
これまで無言を貫いていたが、彼はゆっくりと口を開いた。
(=゚д゚)「なぁ、手前はなんなんラギ?
これまで俺ぁ何人も犯罪者やらを見てきたが、手前みたいなのは見たことがねぇラギ。
戦い方もそうだし、人脈も異常ラギ。
手前の根底にあるのは何ラギ」
170
:
名無しさん
:2022/03/06(日) 19:45:43 ID:L8ix.Wrs0
それは独白に近い言葉だった。
答えが得られるとは全く期待していない、彼の心からの言葉だった。
ジュスティア警察で長らく刑事として仕事をする傍ら、難事件専門の部署である“モスカウ”に配属された男の言葉とは思えないものだ。
今、彼の目の前にいる女は彼が生涯をかけても逮捕したいと思える事件の容疑者だった。
オセアンで起きた大規模なテロ行為。
それを契機に、大掛かりな事件が続々と発生し、今は彼の目の前で起きている。
世界を巻き込んだ大騒動。
その根底に目の前の女が関連しているとトラギコは確信していた。
オリーブ色のカーゴパンツにポロシャツ、そしてその上からカーキ色のローブを着た女は小さな子供に言い聞かせるように答えた。
ζ(゚ー゚*ζ「私は私、それだけよ」
デレシア、という名前と美貌だけがトラギコの唯一知り得る確かな情報だ。
その戦闘力は比類なきもので、彼が見てきたどこの誰よりも強い。
武器が優れているというよりも、それを使う彼女自身の持つ身体能力とセンスが並外れているのだ。
(=゚д゚)「知ってるラギ。
……あいつらと手前、どういう関係ラギ?」
ζ(゚ー゚*ζ「別に、特に関係性はないわよ」
ティンバーランドという組織は何世紀にも渡って力を蓄え、今日に備えてきたことは間違いない。
これまで静かに潜伏し、根を張っていくには外部からの協力と理解がなければならない。
その隠れ蓑として内藤財団が生み出されたのであれば、始まりは内藤財団の設立以前にまで遡らなければならない。
むしろ、内藤財団という圧倒的な企業団体の始まりがどこにあるのかも、トラギコは知らなかった。
(=゚д゚)「あいつら、手前に相当ご執心だからよ。
無関係ってことは無いはずラギ」
ζ(゚ー゚*ζ「一方的な片思いなんでしょ。
迷惑な話よね」
(=゚д゚)「俺がこうして連中の施設を潰すのに協力してやるんだ、ちょっとぐらい情報を出しても損はないと思うラギ」
ζ(゚ー゚*ζ「選んだのは刑事さん自身でしょ?
なら、私が何か情報を出す道理はないわね。
……と、言いたいところだけれど、一つだけ教えてあげる。
ジュスティアもイルトリアも、連中の存在には気づいていたわよ」
(=゚д゚)「……いつぐらいからラギ?」
ζ(゚ー゚*ζ「明確にその存在を確認したのは、“デイジー紛争”の時ね。
あの時、事件の背後に大きな組織がいることを市長たちは確認していたはずよ」
イルトリア軍の狙撃手、ペニサス・ノースフェイスとジュスティア軍がティンカーベルで起こした紛争。
それは歴史の教科書にも載り、当時を知らない若い世代でも知っている戦争だ。
人数比は150対1。
軍の壊滅とペニサスの撤退により幕を引いたが、それが両者の溝をより一層深めたのは間違いない。
171
:
名無しさん
:2022/03/06(日) 19:48:11 ID:L8ix.Wrs0
同時に、ペニサスという人間に対する軍全体の危険意識が高まり、対抗するための狙撃手育成に力を注ぐきっかけになった。
そうして生まれたのがカラマロス・ロングディスタンスだったが、その彼もまたティンバーランドの息がかかった人間だった。
(=゚д゚)「ってことは、今の市長も知ってる可能性はあったラギか」
トラギコは普段の素行から市長と話す、あるいは質問をする機会に恵まれていたが、この組織のことについては一度も聞いたことがない。
ζ(゚ー゚*ζ「えぇ。 両者をぶつけることを目的としていたことが分かったの。
といっても、当時の市長たちは賢かったから、それは代々市長にだけ伝えていたのよ」
(=゚д゚)「どうしてそんな面倒なことをしたラギ?」
ζ(゚ー゚*ζ「内部に根が張られている可能性は十二分にあったからよ。
当時のジュスティアの准将がそうだったもの」
(=゚д゚)「随分と内部事情に詳しいラギね」
ζ(゚ー゚*ζ「ふふっ、聞いただけよ。
後はそうね……“茶会事件”もそうだったはずよ」
“茶会事件”とは、イルトリアとジュスティアの諜報部が例外的に手を組んだ事件であり、それを知るのは一部の人間だけだ。
諜報戦が激しかった頃に起きたその事件は、ある意味で、二つの街が直接的に激突することを避けた事件とも言える。
モスカウの人間は全員知っているが、その背後にティンバーランドがいたことは知られていない。
(=゚д゚)「あぁ、これまでのことを考えるとそうラギね」
ζ(゚ー゚*ζ「後は自分で色々と調べてみればいいんじゃないかしら?
私の口から出る言葉が、いつだって真実とは限らないわよ」
(=゚д゚)「真実なんてのは、俺が見極めて判断すればいいものラギ。
だから今の話、情報の一つとして覚えておくラギ」
本当に欲しかった情報は得られなかったが、デレシアという人間の底がまた一つ遠ざかったのは確かだ。
情報に精通しているという次元ではなく、まるで生き証人のように語る口調は、情報に対しての絶対的な自信の表れだ。
ジュスティアとイルトリア、その両方の情報を知るということは容易なことではない。
どちらの陣営にもつかず、どちらにも精通した存在。
いわば、でたらめな存在だ。
しかしそれがデレシアという人間であり、トラギコの中で彼女に関して断言できる数少ないことの一つである。
(=゚д゚)「……連中の施設で、何か知ってることがあれば教えてほしいラギ。
正直、この装備だけでどこまでやれるか不安ラギ」
ζ(゚ー゚*ζ「うーん、位置的なことを考えると地下にあるシェルターね。
私も全部を知っているわけじゃないから、あまり情報をあげられないわ。
ねぇ、その後の情報は何かあった?」
デレシアの言葉は操縦席にいるイルトリア軍人に向けられていた。
『偵察部隊からの報告では、現在ハート・ロッカーは地下からのリフトアップの途中で止まっているようです』
172
:
名無しさん
:2022/03/06(日) 19:49:22 ID:L8ix.Wrs0
ζ(゚ー゚*ζ「ありがとう。 ということは、電源を落としたのね」
(=゚д゚)「余裕はあるラギか?」
ζ(゚ー゚*ζ「多分、それでもあまりないはずよ。
ハート・ロッカーが外に出たら、施設よりも先に潰さないと駄目ね。
そうなったら、施設は今潜入している2人に任せましょう」
(=゚д゚)「おいおい、俺一人でハート・ロッカーを止めるラギか?」
ζ(゚ー゚*ζ「止めるか、それとも壊すかのどっちかね。
リフトアップをしているということは、連中は外部からの電源供給が不要な構造にしたみたいね。
と、いうことはニューソクを使って動かしていると考えられるわ。
電源の壊し方に気をつけないと、刑事さんごと吹き飛ぶから気をつけてね」
(;=゚д゚)「気をつけろって言われてもどうしようもねぇラギ」
ζ(゚、゚*ζ「私にはそうとしか言えないわよ」
『……本部より緊急入電。
デレシア様、トラギコ様。
お二人宛にジュスティア市長より通信です』
二人が座る場所に、スピーカーからフォックス・ジャラン・スリウァヤの声が降り注ぐ。
ノイズが混じった聞き取りづらい声だったが、彼の言葉は端的だったため、すぐに何を言っているのかは分かった。
爪'ー`)y‐『ラヴニカが動いた――』
――その報告は、完全に予想外のものだった。
173
:
名無しさん
:2022/03/06(日) 19:49:46 ID:L8ix.Wrs0
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「n |ニ|‐|i | _n_ [] n, | |(|ニ||: | i|_| 「:| |ニi |
j| |c|ニ|-|i | i|三| _ .|弖i | |_| | | ||: | Л_|_8__| | ||0|l |
| |0|ニ| :|リ _i|∩| | |_,,|竺| |__||_|_|_r「i|._|_ rz| |=|=|=l=|=| |__o j||0||i |
. |丕| |_|0|ニ| :|<, |(|三| | ]ニ|竺| |__||=|¨|| |:| | _[]__| |=|=|=l=|=| |=|j' 〔||0||/⌒ |
〈|三|_|_|0|ニ| :|=|ニ|_|f⌒Tニ|¨:|竺|┐|__||=|=|| |:| | ,ィ㌻TTT| |=|=|(:|]|⌒|=|`Y^||0|||:||こ|
‐|ji⌒i=| |T0(| :|=|ニ7⌒゙く三| |竺|||__||=|=|| 「|_}i,∩≦ニTニT「| |=|=|..)|]| |=| | ̄ ̄:|:|lこ|
 ̄| |=| |i^i|⌒i⌒i||o|T=|l=l| |竺|⊥{__``'く⌒i=|=}i,8T8T8T「 |三|「 ̄|_|_|_|TニT |:||0|-
三| |=| |i0i|三「|i8||ニ| |=|l=l| |丕|Ξ|8ハ i8T「|=込ニTニ|ニiT0T0T>''^' <::`'く⌒ヽ Л|ニ|ニ
三三三| |¨|ニ||ニニ||ニ| |ニニ] |竺|==|8Tj| |¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨[T0T0T| ̄ ̄ ̄| ̄ |竺竺竺竺竺竺
|:¨¨¨¨¨|¨¨¨¨¨¨¨¨|¨¨¨¨¨ |¨¨ |竺|==|==]| |8T8T⊂二⊃┼≦≧=TニTニ|=| ̄ | ̄ |二二二[三
| | , -─-ミ. | |==l=|¨¨¨| | ̄ ̄|i| |_」斗匕[|=i|=|=|=||=||=|().._|__| _|_
|─‐く二二⊃`¨¨¨¨´| | |==l=| :| |_,.、rセ〔〕〔=i|::||==||ニニニT=||=||=|() | |──「] | | |
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|乂_ __乂| | | :|`¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨´|「「=]]: : : : :|¨|======
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同日 AM08:35
ラヴニカではこれまでと変わらない日常が来るはずだった。
だが、ラヴニカ内に入り込んでいた内藤財団関係の輸送車両から続々と兵士が現れ、街を占拠し始めた。
ラジオによる宣戦布告の対象とは誰も考えていなかったが、街の職人たちはこの日がいつか来ることを予期していた。
街に深く入り込もうと画策していたことは周知の事実であり、実際、ギルドマスターたちが大勢殺害された事件の黒幕が彼らなのは間違いない。
ギルドが実質半壊状態にあるラヴニカで、内藤財団に正面から抵抗するという人間は誰もいなかった。
やり方は気に入らないが、それでも経済は回る。
経済が回るのならば死なずに済む。
ラヴニカにとって最も重要なのが、彼らの技術に賃金を払う存在だ。
174
:
名無しさん
:2022/03/06(日) 19:50:22 ID:L8ix.Wrs0
今の世界は争いが絶えないため、彼らの仕事が絶えることも衰退することもなかった。
これから先の未来はどうなるか分からない。
内藤財団の掲げる世界平和が実現すれば、間違いなくラヴニカは衰退する。
その時に資金援助をする存在がいなければ、街は滅びる。
不服でも内藤財団に従えば生き残ることが出来るのであれば、今はそれが最善の道の一つであることは明白だ。
そうだ。
経済を守ることが己を守ることにつながるのならば、それが賢い選択だ。
この世界は力があれば、己の思うままの世界に変えられる。
内藤財団はそのルールに則り、動いているだけ。
ヌルポガギルドに所属するビプロマイヤー・ニューリは工房の隅に作られた客間で腕を組み、目の前に置かれたアタッシェケース一杯の金貨を前に溜息を吐いた。
向かい合って座る男は切れ長の目を持ち、まるで刃のように鋭く剣呑な雰囲気を放っている。
彼の後ろには2機のジョン・ドゥが控えているが、男の方が格上なのは間違いない。
ボロボロのソファに座りながらも、男の放つ異質さも威圧感も弱まらない。
身を乗り出し、改めてアタッシェケースをこちら側に押しやる。
( `ハ´)「チップの試作品、この金で譲ってほしいアル」
|゚レ_゚*州「……」
ビプロマイヤーが取り扱う商品は非常に特殊で、様々な棺桶に使用される基板など、“どういう理屈かは分からないが役に立つ物”ばかりだった。
直し方は分かるが、その部品の何がどういった意味を持っているのかは、見ただけでは全く分からない。
しかしそうした物が棺桶の復元には重要であり、コンセプト・シリーズの復元の際には非常に重宝される物だった。
そして今、彼が持ちかけられているのは、彼が気まぐれに復元したある部品の売買についてだった。
( `ハ´)「量産に必要なものがあれば何でも聞くアル。
以後の生活には不自由させないアルよ」
|゚レ_゚*州「なぁ、何度も来てもらって悪いけどな、俺は別にこんなのを作りたいわけじゃないんだよ。
俺はな、もっと別のを作りたいんだ」
支払いに不満があるのならば、最初からそう言っている。
職人として半世紀以上生きてきた彼にとって、賃金など興味がない。
彼にとって今、興味の対象は自分が復元している基板についてだけだった。
誰にも話はしていないが、独自に分析を行い、解析が少しずつ進んでいる状態にある。
結果、分かったのはこの基板は対象物を指定した場所まで誘導するために必要な物だということだった。
( `ハ´)「それも自由アル。
だから、我々が欲しいのはそのチップと量産の手順だけアルよ」
|゚レ_゚*州「はぁ……分かってねぇな。
職人ってのはな、手前の作りたいものを誰かに持っていかれるのが気に入らねぇのさ」
( `ハ´)「なら、どんな条件なら引き受けるアルか?」
溜息を吐き、答える。
175
:
名無しさん
:2022/03/06(日) 19:52:21 ID:L8ix.Wrs0
|゚レ_゚*州「悪いが、今は引き受けるつもりはねぇよ」
彼が復元に成功したある基板は、間違いなく世界のバランスを崩すものだ。
持っているだけでも脅威となるが、量産に成功すれば止められる者はいない。
内藤財団がどこでその基板の情報を聞いてきたかは分からないが、ここで譲るつもりはなかった。
大企業が求める物と職人が求める物は相容れない。
ましてや、世界平和などと宣う連中に手を貸す必要はない。
平和を求める者が世界に向けて宣戦布告したという矛盾が、世界から争いがなくなることがないのを何よりも証明している。
( `ハ´)「脅しは好きじゃないアル」
|゚レ_゚*州「俺もだよ。 だけどな、信念を曲げるのも好きじゃねぇんだ。
俺を殺すか?」
やりたいことをやった後だ。
今更、殺されたところで痛くもかゆくもない。
彼の復元させた基板を使って世界の姿が変わるのを眺めている方が、よっぽど苦痛だ。
高威力の砲弾を誘導することが出来るようになってしまえば、人は離れた場所から相手を殺すことが出来てしまう。
つまり、脅しの材料としてはこの上ない兵器を生み出してしまうのである。
( `ハ´)「まさか。 脅しは相手が痛がる場所を触る行為アル」
|゚レ_゚*州「俺に家族はいねぇぞ」
( `ハ´)「だから一つずつ探すアル。
友人、色々と潰していくアル」
|゚レ_゚*州「時間の無駄だな。
この街の人間はな、手前らみたいな連中には――」
被せるようにして、男が言葉を続けた。
( `ハ´)「だから困るアルね」
しかし、それでも男は焦る様子も苛立つ様子も見せない。
予期していた答えだというのならば、この後に何が出来るというのだろうか。
男の傍らで大口径ライフルを抱える強化外骨格から、苛立ちを含んだ男の声がする。
〔欒゚[::|::]゚〕『同志シナー、ご命令を』
( `ハ´)「他者に依存しない人間は、自分の中で物事を完結させるものアル。
つまり、痛みはそこにあるってことアルね。
工房にある道具、工房、作品を鋳つぶすアル。
あ、ついでに弟子とその家族の腕、後は足も全部切り落とすアル」
|゚レ_゚*州「……手前っ!!」
176
:
名無しさん
:2022/03/06(日) 19:53:25 ID:L8ix.Wrs0
職人にとって、馴染んできた道具も工房も決して替えの効かない物だ。
作品が戦闘で壊れるのならばいい。
不具合で壊れるのもいい。
心血を注いで作り上げた作品を無駄に潰されるのは我慢ならない。
だが何より、彼がこれまでに世に輩出してきた弟子に手を出すのも許せない。
弟子の命が生み出す可能性は、何物にも代えがたい。
己の命を奪われるよりも業腹なことだけに、流石に反応せざるを得ない。
( `ハ´)「人の心が折れるのは、その心を注いだものを失う時アル。
早めに受諾してくれると、後片付けが楽アルよ」
|゚レ_゚*州「そうかよ……」
心が折れかかったその時。
男の背後から、この場にそぐわない明るい声が響いた。
それまで姿があったのかさえ分からない女が、笑顔と共に男の肩に手を乗せた。
( *´艸`)「まぁまぁ、そこまでにしましょうよ」
( `ハ´)「……同志、何がアルか?」
( *´艸`)「だって、そろそろ時間ですよ?」
( `ハ´)「ん? 何が言いたいアル?」
( *´艸`)「えへへっ!! ってことで、ビプロマイヤーさん!!」
|゚レ_゚*州「あ?」
急にこちらを見た女は、ウィンクと共に言った。
( *´艸`)「ごめんなさいねっ!!」
直後。
その空間を、強烈な光と音が支配した。
聴覚は完全に失われ、耳鳴りだけがする。
視界は白く染まり、何もかもが漂白された。
(;`ハ´)「何してるアル?! さっさと殺すアル!!」
叫ぶ声は誰の聴覚にも届かない。
彼の傍らに控えているジョン・ドゥでさえ、標的を見失ったばかりか、聴覚も失っていた。
それがラヴニカで開発された新型のフラッシュバンであることを知る者は、その場に誰もいなかった。
〔欒゚[::|::]゚〕『なっ……何も……見えないっ……!!』
ビプロマイヤーは幸いなことに、彼を助けた女が彼の顔を胸に抱きとめていたため、視力だけは失わずに済んでいた。
|゚レ_゚*州「な……何なんだ?!」
177
:
名無しさん
:2022/03/06(日) 19:53:53 ID:L8ix.Wrs0
二人は彼の工房を飛び出し、ラヴニカの街に躍り出る。
女は彼を抱えたまま、迷路のように入り組んだ背の高い建物の間を信じられない速さで走り、そのまま大通りへと到着した。
例えラヴニカの住民でも、ここまでスムーズに移動は出来ないだろう。
逃走慣れしているのもそうだが、ラヴニカの地形に詳しいのは明らかだった。
( *´艸`)「よっこい……しょっと!!」
女はビプロマイヤーを降ろすと腰から小型の筒を取り出し、それを掲げた。
赤い信号弾が3発打ち上がり、それがきっかけとなり、信号弾が次々とラヴニカの上空に打ち上がる。
それはまるで花火。
あるいは、地上から空に向けて降り注ぐ流れ星のようだった。
徐々に回復してきた聴覚が、街に起きた異変を聞き取った。
銃声。
爆発音。
暴動を彷彿とさせる喧騒。
漂う空気に火薬の匂いを感じ取り、同時に、ビプロマイヤーは寒気を覚えた。
これは、戦場の空気だ。
|゚レ_゚*州「あ、あんた一体……」
( *´艸`)「私のことはいいじゃないですか。
ところで、ビプロマイヤーさん。
今街に起きていることを教えるので、どうするか考えてくださいね」
|゚レ_゚*州「あ……?」
( *´艸`)「ラヴニカは街に入ってきた内藤財団に対して宣戦を布告しました。
今、街中が内藤財団の派遣してきた兵士に抵抗しています」
|゚レ_゚*州「馬鹿な、指揮を執る人間がいないだろうに……!!」
街の治安を維持する“ゲートウォッチ”の長は、緊急の会合が行われた夜に死亡した。
あの夜、多くのギルドマスターの命が失われ、街から力を奪った。
キサラギギルドのハスミ・トロスターニ・ミームの謀略によってギルドパクトは確かに揺らいだが、街が円滑に循環していくためには必要不可欠なものだと誰もが知っていた。
弱小ギルドは事件を企てたとして、街中から敵視され、居場所を失った。
弱りかけたラヴニカを狙っていたのが内藤財団であることは明白だったため、街として彼らを受け入れることは断固として受け入れがたい事だった。
しかし、ラジオ放送から間髪入れずに街に押し入ってきた内藤財団の軍隊を撃退できるほど、街には力が戻っていなかった。
何もかもが彼らの策略だったと分かっても、ゲートウォッチ最強の男が失われた事実はあまりにも手痛い。
( *´艸`)「いますよ。 ゲートウォッチの彼が」
その言葉を裏付けるように、街のスピーカーから声が聞こえた。
( "ゞ)『ラヴニカに告ぐ!! 反撃するぞ!!』
178
:
名無しさん
:2022/03/06(日) 19:54:21 ID:L8ix.Wrs0
それは間違いなく、デルタ・バクスターの声。
ゲートウォッチの長であり、最強の男。
死人の声が聞こえるはずはない。
|゚レ_゚*州「ど、どうして?!」
( *´艸`)「敵を欺くにはまず味方からって言うじゃないですか」
|゚レ_゚*州「お前、一体何者だ」
( *´艸`)「私ですか? 私はモーガン・コーラっていいます。
さぁ、ビプロマイヤーさん。
ゲリラ戦ですよ!! 一緒に参加して、街を取り返しましょう!!」
モーガンと名乗った女は、いつの間にかに手にしていたコルトM1911を渡してきた。
反射的にそれを受け取ってしまう。
予備弾倉を三つ、ビプロマイヤーの手に乗せる。
|゚レ_゚*州「あ、あぁ」
( *´艸`)「それじゃあ、またどこかで!!」
これ以上の問答を避けるように、モーガンはその場を走り去った。
街中に喧騒が満ちる。
未だかつて、これほどまでにラヴニカ中が戦いの色に染まることは無かっただろう。
少なくとも、彼が生きている間には、そんなことは無かった。
|゚レ_゚*州「……やるか」
手にしたコルトの遊底を引き、薬室に初弾を送り込む。
生きるために。
勝ち残る為に。
そして、取り戻すために。
――また一人、ラヴニカの人間が武器を手にして蜂起したのだった。
179
:
名無しさん
:2022/03/06(日) 19:55:19 ID:L8ix.Wrs0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
_┐
二ニ=‐- __
7゚ ゚̄マー‐}===- _
{ } ‐7‐‐‐‐‐ニ=- _
h、,,,,ノー/‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ニ=- _
‐‐‐‐‐/‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ ニ=- _ r┐
‐‐‐‐/ー‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ニ=-厂L
‐‐‐/ニ=‐ ‐‐‐‐‐‐‐ニニニニニ////r =-┤
二/三三三 ‐‐ニニ二二二//ニ//=|iLi|.i||
 ̄¨ -=ニ三三ニ=‐ -==//ニニ//==|iLi|.i||
. └-=ニ三三三ニ=‐ ー//===|iLi|.i|ァ‐-ミ
 ̄ -=ニ三三三ニ=ーア |
/|ニ]|`''< 二|ア ⌒ヽ |
〈 :|ニ]| 丶 Υ=|{、ヽ ノ ,, ィ(
|ニ]| /.ノニ|ァ=─ '" /^,
/  ̄```‐-‐ ̄rーヽ ./ }
∧_ } },,. ⊥〈 .ノ
Υ ¨ ニ=‐-‐<{ } }`¨゚¨´}
| } j_ └ }
--ミ ー- 。、。 `} >…‐- \
{ ノ \ 丿 / /
. 〈Υ `` ー ./ /
∧ `丶、 /
∧ { ``〜、{、丶"゚~ ̄ -‐ /
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
同日 AM08:41
ラヴニカの路地裏を使い、誰にも見られることなくセーフハウスに入った途端、でモーガン・コーラは溜息を吐いた。
今のところは予定通りだが、予定が狂う可能性は十分にある。
火は点いた。
後は、灯が絶えることなく燃え続けるように補助するだけだ。
それが最も困難で、最も神経をすり減らす作業だが、彼女にとってはこれまでの仕事と何ら変わりがない。
違いはただ一つ。
公にするか、しないか、だけだ。
これまで影に生きてきた彼女にとって、ここまで大規模な仕事は初めてだった。
無線機を使って暗号文を送り、作戦が予定通り進んでいることを報告する。
返答はない。
そもそも、必要とすらしていない。
彼女の仕事においては、基本的に大きな目的を達成するためであれば臨機応変に何をしても許される。
今回、ラヴニカで起きたこの騒動が同僚の直感によるものだとしても、結果が伴っているために咎められることは無いだろう。
ミネラルウォーターをコップ一杯飲み、服を脱ぎ、シャワールームに入る。
シャワーを浴びる彼女の足元に落ちるのは服だけではなかった。
ウィッグ、年齢を偽る為に体の各所に張り付けていた偽の肉、そして肉を固定するためのテープ。
180
:
名無しさん
:2022/03/06(日) 19:57:12 ID:L8ix.Wrs0
そして現れるのは、円卓十二騎士の第十二騎士に名を連ねる人間だった。
“レジェンドセブン”の一人として数えられ、“ミラーフェイス”の渾名を持つ女。
警察官、軍人、そして諜報員という異例の経歴を持つ騎士は、彼女しかいない。
諜報員の中で唯一、イルトリアに潜入して生還を果たした伝説的な諜報員。
( *´艸`)
鏡に映る顔が、徐々に別の物に変わって行く。
( *´ω`)
( *´ω‘)
(*‘ω‘ *)
ティングル・ポーツマス・ポールスミスは、鏡に向かって満面の笑みを浮かべ、新たな顔を作り始めたのであった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
,′ : : : i: : :i : : :| : : : : : :! : ': : : : :゙:,: : : ゙, : : : :.
/. : ゙i: : : i :i :i: :i :|: : : :i : :|:.:ハ| : i : ハ: : : ゙ : : : : 、
.: : /: i : : :i :i :|:i i :|\: :i: : i: i : | : Ⅳ: :i: : : :゙: : : : : :、
.: : / i :i : : :i :i八「|八 `メ: : i: i: ∧:│ : :i: : : : \: : : : \
.: : //゙i :i : : :iL|二,,__`ヽ ∨i/|/斗八‐ ∧ : : : 「 \: : : : \
,:′/,:': :i :i:.: :小弋:._㌻ヾ /二,,__ Ⅵ∧: :i八: : : : : :\: :\
.: : / : : : i: : : : :i人 弋:._㌻=ァ/ )八|: : : : : : : : : :\: :\
,: : :,′: : 八:.: :.i八 \ / ´ 厶ィ゙.: : : : : : : :\ : ;\:\: : .、
': :,:′ : : : :∧: :jハ.ヽ }〉 \\: :\: :\: : : : : ∨ : : ヽ: :'.
/: ,: i : : /:│ :{ム i: : :. '. .イ丶: : : : : : : :\: \ハ ゙,: jハ: :'.
// i: :./! : i.イ{{∧ : : ヽi ` 一 ィ升トミ\:\ : : : : iハ : : : i: |八 ∨
/ :| / j/....| {\)八: :i \ _... -=チー===}} .........トミ\: : .iハ : : :!
!/...........゙...Ⅵ/:I:Iハ:|: ∧====}トミ .......... ∨: :リ │ : i|
第六章【 Ammo for Rebalance part3 -世界を変える銃弾 part3-】 了
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181
:
名無しさん
:2022/03/06(日) 19:58:27 ID:L8ix.Wrs0
1週遅れてしまいましたが、これにて今回の投下は終了です
どうやらVIPはURLを貼ると一発で規制されるっぽですね、学びました
質問、指摘、感想等あれば幸いです
182
:
名無しさん
:2022/03/06(日) 22:04:09 ID:FsBG3GU20
おつ!
各勢力目まぐるしく動くな
ずっと追ってきてるからそれぞれの動きが楽しくてしょうがない
次も楽しみに待ってます!
183
:
名無しさん
:2022/03/07(月) 02:48:48 ID:KnqHcQMM0
乙です
184
:
名無しさん
:2022/03/07(月) 20:49:01 ID:a3wuzEho0
乙
アベさんのカットインがすごくカッコいい!!
円卓十二騎士が続々と出てきててこれからの活躍が楽しみ!!
更新されるたびに続きが気になって仕方ない
>>149
始めて彼の知的好奇心が満たされたのは
ってのは"初めて"の方がいいかも
185
:
名無しさん
:2022/03/07(月) 23:40:34 ID:5ZaNpD820
乙
第一と第十ニが同時に明らかになるの熱い
186
:
名無しさん
:2022/03/08(火) 20:09:34 ID:6yEfD5Fs0
>>184
あぱぱー!! 毎度ありがとうございます!!
187
:
名無しさん
:2022/03/09(水) 19:56:28 ID:.palMB0c0
おつおつ
ティンバーランドの幹部陣はこの前まで拷問受けてたのに元気だな
どのくらい時間経ってんだろ?
188
:
名無しさん
:2022/03/09(水) 20:31:47 ID:OlmPGljg0
>>187
拷問を受けていたのは下の面々で、大体2週間経過した状態になります。
lw´‐ _‐ノv
( ><)
( `ハ´)
_
( ゚∀゚)
酷い尋問を受けたのに動けるって
/ \:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::>r''
ヽ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;/
ス ゴ い ね トーーーー--t----、;__;;;;;;;;l 人体(はあと
.l _,,,三三ヽ."':-、,,_;;;;;;;;;l
ヽ / .r彡'''"~"'ミミミ、_;;;;;;;;ヽ、:::ヽ
ヽ , _ _// _,,,,,,,,,,,__:.:.:.:.:.ミ\;;;;;;;;;;:\ゝ、_ _,,r'
. ,イ "'l''''ー--ー^Y" <,(o) ヾヽ:.:.:.:.:.:.:.ヽ、;;;;;;::. ト-'"''''''7/''''''"
'">' 'l l '-:: \ ミミヽ.__.l ':.:.:.:.:.:.:.:.:.:.ill-:、、 i.
l i,`' ,i ヽ-' :.:.:.:.:.:.:.:.:./==、:.:`i、 l,
\ `''"i :.:.:.:.:.:.:... :.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:i(o)._ ) ノ;' i
\ ヽ :.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:._,r-ミミ三l'''''' '/;;;;;;;;; l
\ ヽ :.:.:.:.:.:.,rー='ー、 _,,-イ ミ ヽ:.:.:.:.:.ト、,___jl
\ ヽ :.:.:.:.:.l:.:.:.:ヽ. __ `@ヽ ):.:.:.:.j
丶 :::. :.:.:.:i:.:.:.:.:.:fo=-ー-ニ_-、_:`-イ:.:.:.:.:./
ヽ :.:.:.:.:.:.:.:. .:.:.iY''7-、___"''ー、ヽj. /
\:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:i ''-,,、 ''、イノ /
i.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.ミ、_"~='-' イ:.:./
'i:.:.:.:.:.:' ''''''ミ-,,,,ノ":ノ
ヽ:.:.:.:.:.:... :.:.:.:./
189
:
名無しさん
:2022/03/09(水) 22:22:15 ID:.palMB0c0
人体すげぇ…
190
:
名無しさん
:2022/03/12(土) 17:40:24 ID:HcgCplqE0
手足失ったのに元気に空飛んでた人もいたしみんな丈夫か
かがくのちからってすげー!な世界なんでしょ
191
:
名無しさん
:2022/04/04(月) 19:47:55 ID:GsrDANGs0
今度の日曜日にVIPでお会いしましょう
規制されていたらごめんなさい
192
:
名無しさん
:2022/04/04(月) 20:43:24 ID:uTN1q8Vk0
やったー待ってます
193
:
名無しさん
:2022/04/10(日) 20:15:41 ID:Cvf6ktEw0
Ammo→Re!!のようです
https://mi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1649589232/
始まったよ!
よろしくお願いします
194
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 19:51:37 ID:E.efjM1g0
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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
もし、この世界から争いがなくなるのだとしたら。
私は喜んでこの手を汚す。
他人の血と、己の涙で汚れた手で、明日を作り上げるのだ。
流れたあらゆる液体が、明日という大樹を育て上げる。
あるべき世界を取り戻すために。
私は、今日も人を殺す。
私の妻と娘に祝福を。
私の家族に幸多からんことを。
――とある民兵の手記、最後のページより
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┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻
September 25th AM08:55
世界は完全に平穏を失い、あらゆる場所で争いが起きていた。
それはたった一人の男の言葉がこれまでに蓄積した鬱憤、不平や不満に引火し、計画的に爆発させた結果だった。
街と町の争いはこれまでもあったが、今日ほど表立って一斉に起きることは無かった。
長年の不満と怒りが紛争に至ったきっかけは、内藤財団社長が行ったラジオ放送だった。
ラジオで行われた宣戦布告は、世界中の街に散らばっていた彼らの同胞に対しての号令でもあった。
一斉に蜂起し、紛争を開始することで世界が一つになるという目的の号令は、世界中隅々にまで響き渡った。
結果、地上は銃声と悲鳴で溢れ返り、街の数が変化していくこととなる。
滅び、吸収され、新たな一つの姿になる様は森で形成される生態系の一つの様にも見える。
しかし、そうした争いとは遠い場所が世界にはあった。
日の光さえ届かない深海。
頭上にあるはずの太陽さえまるで見えず、夜の闇よりも暗い世界にも関わらず、どこか優しさや温もりを感じることが出来る。
その世界に、一隻の潜水艦がいた。
原子力潜水艦、“レッド・オクトーバー”はストラットバームを目指し、最高速度で深海を進んでいた。
その名の通り、船体が赤く塗装された潜水艦の中は通常のそれよりも広く、空調も優れた装置が導入されているために快適であるはずだった。
だが、艦内は快適さとはまるで無縁の空気が漂っていた。
普段は陽気な整備士、厳格な性格の艦長、そして精神的に鍛えられているはずの戦闘員も皆無言だった。
誰もが沈黙しているのは、予定外の事態が起き、それに対応しきれないことが確定していることに対しての動揺だった。
彼らの属する組織が世界全土を相手にした宣戦布告と号令を行ったのは、決して単一の目的ではなかった。
世界中が混乱したのに乗じてイルトリアを攻略する予定だったのだが、直前になって事態が急変した。
彼らの聖地、本拠地であるストラットバームが何者かに襲撃を受け、作戦の要であるハート・ロッカーが擱座してしまったのだ。
イルトリア攻略、そしてジュスティアの攻略にハート・ロッカーの存在は極めて大きい。
確かになくても作戦は遂行できるが、しかし、だ。
ハート・ロッカーがあるだけで、攻略の難易度はぐっと下がる。
どちらの都市も世界最高の武力と経験を持ち、全力で抗ってくるだけの高い戦意がある。
195
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 19:52:00 ID:E.efjM1g0
(::0::0::)「艦長、どうしても到着まで後30分はかかります」
時間はこちらの都合など考えてくれはしない。
与えられた時間とその意味を考えても、足りないものは足りないのだ。
距離と時間。
この二つが目の前に障害として立ちはだかる時、人間はあまりにも無力だ。
(+゚べ゚+)「最大船速でもダメか…… 同志ジョーンズにはつながるか?」
彼らを呼び戻したのは他でもない、ハート・ロッカーの改修を担当したイーディン・S・ジョーンズその人だ。
彼は2時間で戻るようにと命令を下したが、時間が足りない。
急ぐ気持ちはこちらにもあるが、それでも、物理的な問題は解決しない。
これ以上速力は上がらず、これ以上の最短距離もない。
距離と時間が、彼らには問題だった。
それが分からない人ではない。
彼はこちらを試しているのだ。
果たしてこの難題を、こちらがどう解決するのか。
まるで学生に難問を突き付け、それを解く過程を見守る教授のように。
或いは、猿が道具を使えるのか、それを観察する科学者のように。
(::0::0::)「ダメです、緊急回線を使っても応答ありません。
基地経由で伝えようにも、そちらも通信が繋がりません」
これ以上ないほど手を尽くしているが、どうしようもない。
確実に依頼を達成できないことが、彼らの夢に影を落とす可能性を生む。
それが、艦内の空気を重く、気まずいものにしていた。
(+゚べ゚+)「非常電源も潰されたのか……
だが、ハート・ロッカーの通信が潰れる理由にはなるまい?」
ハート・ロッカーはそれ単独で基地と同じ役割を果たすことのできる存在だ。
無線の拠点であり、兵士たちの帰る場所でもある。
内部に電源を組み込んでいる以上、外部の電源が落ちたところで問題はない。
起きてはならないことが起きている。
既に数人がその可能性を考え、到着次第戦闘が出来るように備えていた。
叶うはずの夢が叶わなくなることを、こうして艦内で待って見ているしかできないという焦燥感。
(::0::0::)「はい、そのはずなのですが……
現地でジャミングされている可能性があります」
こちらの動きが読まれていたのか、それとも偶然なのか。
考えたくもないが、基地との通信が途絶している以上は前者の可能性が正解だろう。
ジャミングをするにはそれなりの装備と電源がいる。
(+゚べ゚+)「電波妨害までするとなると、よほど警戒されていたのか……
ちっ、急がなければな」
196
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 19:52:23 ID:E.efjM1g0
――しかし、彼らが到着する前に、事態は再び大きく動き出していたのであった。
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第七章 【 Ammo for Rebalance part4 -世界を変える銃弾 part4-】
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同日 AM09:11
モーターが動き、金属が軋む音。
機械が放つ電子音。
人間が機械に命令を下すためにコンソールを指が叩く音。
その空間は、人間の作り出した音で満ちていた。
もっとも、その空間では人造音以外は全て雑音として扱われているため、それ以外の音が聞こえることは無いのだが。
その空間は程よい明るさの光で照らされてはいるが、外の世界を表示する大型モニターには1面を除いてほぼ全てが暗い色を映し出している。
頭上に設置されたモニターには、白い雲が世界の喧騒とは無縁の穏やかさを見せて漂っている。
そのモニター以外には壁と床だけが映っている。
一片の雲がモニターの端から消えたのを契機に、それを眺めていた一人の男が深く息を吸った。
イーディン・S・ジョーンズは溜息を吐く代わりに、手を打ち鳴らし、愉快そうな声を出す。
(’e’)「さて、時間だ。
無線妨害までされてしまった以上、連携も糞もあったものじゃない。
ここで披露するのは癪だが、まぁいいさ。
登るぞ!!」
――ジョーンズは常々考えてきたことがあった。
人が動かす兵器は目的を果たすために多くの進化を遂げてきた。
車輌は2輪、もしくは4輪が主流で、重量のあるものは無限軌道を使用した。
太古の資料を読み漁ると、4足歩行の兵器もあったが、それは支援用の物でしかなかった。
それが、疑問の始まりだった。
もしも無限軌道というものが重量のあるものを支えるのに適しているのであれば、どうして自然界にはそれに近い概念の物がないのだろうか。
無限軌道に近い物としてはその名の通り“芋虫”が挙げられるが、しかし、彼らの目的は安定だ。
尚且つ、全てが手足の役割を果たしており、無限軌道とは形と目的が異なる。
197
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 19:52:43 ID:E.efjM1g0
その違和感の中、ジョーンズは兵器の目指す形を再構築することにした。
そこで大きくヒントになったのが、“棺桶”の存在だった。
人間が自ら纏い、戦場に出るということの利点は、小回りが利くことにある。
強力な武装を持っている棺桶でも足を使うのは、その利点が絶対的な物であるからだ。
だがハート・ロッカーは強化外骨格という枠組みでありながら、その巨体を支えるために無限軌道を採用している。
これだけの巨体を支えるには、それに見合った太く強靭な足が必要になるため、無限軌道の方が理にかなっている。
重力と重量には逆らえない。
だが、歩かない脚であれば問題はない。
二足歩行の問題点はバランス制御の難しさと、脚部の強度にある。
それを克服しつつ、安定性を確保できる形状に進化すればいい。
要は上下移動に対しての柔軟性が手に入れば、ハート・ロッカーは自由を手にすることが出来る。
ジョーンズの解答は実に単純ではあったが、短期間で実現するには効果的だった。
(’e’)「腕部、脚部共に展開」
『腕部、脚部展開します。
該当箇所にいる者はすぐに体を固定してください』
ハート・ロッカーの内部に警報音が鳴り響く。
盾の付いた両腕が大きく開き、そこに隠れていた巨大な鉤爪が勢いよく壁に突き立てられる。
姿勢固定用のアンカーとアイゼンを兼ねた鉤爪は深々と壁に突き刺さり、ハート・ロッカーをその場に固定させる。
無限軌道がゆっくりと、それがまるでつま先であるかのようにそれぞれ外側を向く。
そして、それぞれの先端が45度回転し、壁に押し当てられる。
戦車などで使われる無限軌道は設計上、左右で向きを変えることは無い。
しかし改修されたハート・ロッカーはどんな姿勢からでも確実に砲撃を行うために、無限軌道の高さと向きを左右で変えることが出来る。
脚と無限軌道の両方の利点を生かすための結果であり、その結果が今の状況を変えることになる。
壁を押し開くほどの力で脚部が展開してハート・ロッカーと壁とを固定させ、無限軌道がその強靭な力で天を目指すのだ。
特殊強化合金製の壁が抉れるも、その体は着実に進んで行くことが出来る。
この施設はその全てが極めて強靭な合金で作られており、ハート・ロッカーがエレベーターのように上昇していくことが可能なのだ。
故に、施設の電源を奪われたとしても彼らの計画に変更はないのである。
『姿勢安定、オートバランサー良好。
各部問題なし』
(’e’)「よし、確実に行くぞ」
ジョーンズの指示は短く、一切の焦りも迷いもない。
彼にとっては頭の中にある計画が別の計画に変化しただけであり、対処方法は事前に固まっている。
フローチャートに沿って指示を出すだけであり、焦りも迷いも不要なのだ。
『上昇予定時間算出完了。
20分で地上に到着します』
198
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 19:53:06 ID:E.efjM1g0
奇しくもそれは、レッド・オクトーバーの到着予定と同じ時間だったが、今となってはどうでもいい問題だ。
レッド・オクトーバーを呼び寄せたのは、彼らがどこまで柔軟に頭を使えるか試したかったのだが、彼の期待を越えることはなかった。
土壇場でも不可能を可能にできる存在など、やはりこの世にはいないのだ。
結局、彼の予想は裏切られなかった。
ハート・ロッカーは地上に出て、レッド・オクトーバーによって基地に電力が戻り、遅かれ早かれ侵入者は死ぬ。
全ては予定通り。
歯車が回り、予定通りに物事が進む。
計画に支障はない。
(’e’)「上出来だ」
両腕の鉤爪が上方の壁に突き立てられ、それに続いて履帯が壁を削るようにして進む。
圧倒的な質量を持つ存在が外の世界を目指すにつれ、ストラットバームの地下設備全てが揺れる。
一度ハート・ロッカーが外に出れば、リフトの必要性はなくなる。
それどころか、ストラットバームの存在自体失われても痛手はない。
既にあらゆる駒が動き、世界に散って動いている。
身を護るための繭が用済みになる様に、この施設はもうじき必要性がなくなる。
多くの研究成果は全てジョーンズの頭の中にあるため、他の物が失われたところで、彼が生きている限りいくらでも取り返しはつく。
(’e’)「ま、所詮はネズミのあがきだったか」
彼の知的好奇心は満たされることは無く、彼の夢は成就へと近づいていく。
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| N 抖ゥミ \代,ソ ノ__,| / .人\ \\
| 小乂ソ}ハ{_ノ ̄ ̄/ / / \\ \)
| | ゞ--<  ̄ / / /| \\ \
| :::| / / /:.:| | ハ. \ \
人 :::人 ´` / / /: :./ / / | ハ }
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同日 同時刻
ハロー・コールハーンは施設全体に響き渡る金属の悲鳴から、状況が悪化したことを察した。
リフトを使わずにハート・ロッカーが浮上できる可能性は全く考えていなかったが、この音と振動が、その可能性が現実のものであることを如実に物語っている。
既に彼女が地上に戻るための道は見つけ出し、後は時間をかければ問題なく脱出は出来る状況にあった。
しかし、ハート・ロッカーがまだ動けるというのに逃げ出すという選択肢はなかった。
通気口から抜け出し、ハローは管制室の一つに降り立った。
この空間にハート・ロッカーを閉じ込めておくのが不可能である以上は、時間稼ぎはもはや必要ない。
遅かれ早かれ地上に出てしまうのであれば、現状での最適解は言うまでもなく、ハート・ロッカーの無力化である。
外部的要因でハート・ロッカーを止めることが出来ない以上は、乗り込むしかない。
199
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 19:53:27 ID:E.efjM1g0
ビル1つが動いているようなものだが、今ならば問題はない。
覚悟を決め、計画を決めれば、必要なのは実行するという気持ちだけである。
彼女にとって、覚悟も計画も、実行するという決断力も問題にはならない。
管制室にある強化アクリル製の窓から見下ろすハート・ロッカーの姿は、あまりにも現実離れした巨大さをしていた。
距離にして300メートル下。
ハハ ロ -ロ)ハ「……ふム」
彼女にとっての思案は、手段の確認に過ぎない。
ここから垂直降下するにはまずアクリル製の窓を開き、そこから体を出し、目的の場所に到達するまでのロープがいる。
ロープが確保できないのが現状であるため、彼女にできるのは適切な高さで飛び降りること。
ならば、ハート・ロッカーがその位置に来るまではまだ時間は僅かだがある。
その間に強化アクリルの窓を破る手段を見つけなければならない。
道中で手にした武器を使うのも一つの手だが、それが今ではないのは明らかだ。
あらゆる電力が使えない今、この施設内で原因を究明しようとする人間は間違いなく機械の目を使う。
つまり、現状ハローの持つ棺桶、“キングスマン”は優位性を失っているということだ。
その状況で派手な方法で窓を破れば、たちまち増援が駆けつけてきてしまう。
見つかるわけにはいかないが、姿を晒さないで済むかと言われれば、当然答えは否。
これだけ閉鎖的な空間で見つからずに行動するには限界がある。
特に今は、ギン・シェットランドフォックスならばいざ知らず、棺桶の補正がない以上戦闘は必至。
確実に、そして一方的な戦闘は難しいだろう。
窓枠は壁と完全に固定されており、破壊以外の手段はない。
銃弾がこの窓を破壊できるかどうか、ハローは軽くノックをし、その厚みに嘆息を吐いた。
対強化外骨格用の強装弾でなければ貫通は出来ない程の厚み、そして強度がある。
高周波振動装置が付いた武器であれば、難なく切断できるだろうが、今は手元にない。
ならばそれを確保するしかない。
ハローは管制室から廊下に出て、跫音のする方に向かってあえて進みだした。
彼女が持つのは警備兵が持っていたコルト・ガバメント一挺。
装填されているのは通常弾。
棺桶を相手にするにはいささか不安だが、使い方次第だ。
暗闇の中、背の高い影が二つ、ハローの前にあった。
それは白い塗装をされたジョン・ドゥの背中だった。
〔欒゚[::|::]゚〕『……こんなんで見つかるのかよ。
何人いるのかも分かってないんだろ?』
〔欒゚[::|::]゚〕『カメラも全部使えない以上、こうするしかないだろ。
だけど、正直俺は嬉しいよ』
〔欒゚[::|::]゚〕『なんでだよ』
〔欒゚[::|::]゚〕『俺はこういうシチュエーションに憧れてたんだ。
ずっとこういう戦いがしてみたかった。
ストラットバームの防衛よりも、本当は前線に行きたかったんだ』
200
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 19:53:50 ID:E.efjM1g0
〔欒゚[::|::]゚〕『仕方ないだろ。 俺たちは俺たちで、やらないといけないことがあるんだ。
だけど、侵入者なんてどうやってここにき――』
恐らく。
二人が最初に感じたのは、腰の辺りで鞘走る金属音か、それによって生じる僅かな振動、もしくはその両方だったに違いない。
そしてその正体を知るべく、どちらともなく振り返ろうとして、断末魔の叫びのように甲高い音を立てる高周波刀が顔に突き立てられた。
鋭利な刃は顔面の装甲を容易く貫き、その奥にある脳幹を破壊した。
それは僅か1秒の出来事であった。
スイッチを切った高周波刀を抜き、血を振り落とす。
音は最小限で済ませたが、聞かれていないという保証はない。
ハハ ロ -ロ)ハ「練度は下の下、カ」
世界中に根を張るだけの力があっても訓練だけでは強固な軍隊は生み出せない。
実戦に勝る教育は存在しないのだ。
その点、今しがた殺した二人は素人だった。
同じ方向を見て歩き、死角をかばい合うことさえしなかった。
全体の練度が低いとは言えないが、高いとも言えない。
ともあれ、二人の死体から武器と弾薬を奪い取ることが出来た以上、文句はない。
だが、驚いた点が一つだけあった。
ハハ ロ -ロ)ハ「タヴォール……」
それは、彼らが使用しているアサルトライフルだった。
手にしたライフルの仕組みも、その名も、その性能もハローは知っている。
だが、それを軍、あるいは集団に対して大量生産して配備する組織は聞いたことも見たこともなかった。
ブルパップ式と呼ばれる、弾倉が銃爪よりも後ろに設置される形式の銃は高い命中精度と取り回しを両立した機構であり、屋内においては高い優位性を持つ。
しかし、その価値は勿論だが、再現するだけの手間を考えて採用する集団は極めて稀だ。
あのイルトリアでさえ、ブルパップ式の銃は採用しておらず、ジュスティアも同様だった。
その銃を採用していることで最も有名なのは、屋内での任務の多い人質解放専門の企業、“ホステージ・リベレイター”ぐらいなものだ。
それだけ避けられている銃をあえて使う理由が、彼らにはあるのだろう。
ハハ ロ -ロ)ハ「豚に真珠だナ」
ブルパップ式の欠点はその長所でもある銃身の短さだ。
銃身下部に取り付けることのできる追加装備などが制限されるだけでなく、狙いが定めにくいという点がある。
それに、普通の銃と違って装填作業に慣れる必要がある。
つまり彼らはコストのかかる大量の銃を大量に製造し、それを配り、それなりの訓練を受けさせるだけの時間があったのだろう。
徹底した準備をしながらも、この場所に配置されているのは素人そのものというのが、すでにこの場所が用済みとなっている何よりの証だ。
だが、まだハート・ロッカーがいる。
この場所が埋立地となるかどうかは、これからの動き次第である。
正直なところ、ハローはこの場にハート・ロッカーをこれ以上留めておくことは無理だと考えていた。
201
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 19:54:11 ID:E.efjM1g0
無限軌道相手ならば確実にここに釘付けにした上で埋め立てることが出来るが、腕を持ち、芋虫のように動く足を持つ相手は止められない。
外部からの干渉が無理なら、内部からの破壊しかありえない。
そのために必要な武器は手に入れたが、ビル一棟をナイフとライフルで倒すのは不可能だ。
内部からの破壊を試みなければならない。
例えそれが、命と引き換えになるとしても、ハローにとっては十分に見返りのある展開だった。
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同日 AM09:15
円卓十二騎士の第五騎士“花屋”こと、ニダー・スベヌはニョルロックにいた。
彼には複数の顔があった。
ジュスティアでは警察所属の尋問官として働き、その裏では円卓十二騎士としてジュスティア内部の治安を守る為に活動していた。
他にも様々な名目で与えられる役職があったが、今の彼は、外部において情報を収集する役割を担っている。
ニョルロックは昨夜起きたテロの爪痕の修復と共に、内藤財団が発表した構想と世界規模で発生した戦争に対する興奮で熱せられていた。
正義のための戦争。
それも、世界を二分していた街に対しての宣戦布告は経済の街であるニョルロックに恐ろしいほどの熱気を与えている。
戦争経済は機を逃せば大損するが、波に乗れば一瞬にして大富豪となる。
幸運と不幸。
その両方がニョルロックの滑車を回し、悲しみと喜びに街を染め上げているのだ。
ニダーにとって、その状況は歓迎すべきものだった。
混沌の中にこそ、活路があるのだ。
レンタルしたセダンのフロントガラスの向こうを睨んでいたニダーは、シフトレバーに手を伸ばした。
<ヽ`∀´>「……アサピー、そろそろ行くニダよ」
彼は内藤財団の所有するビルの傍から重武装の車列が姿を現し、その最後の一台が街から遠ざかったのを確認し、言った。
既に荷物は全てまとめられ、出発する準備は終わった状態だった。
助手席で仮眠していたアサピー・ポストマンは素早く起き上がり、眼鏡をかけた。
(-@∀@)「了解です」
202
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 19:54:32 ID:E.efjM1g0
<ヽ`∀´>「朝飯は何買ってきたニダ?」
エンジンが静かにかかり、セダンはゆっくりとニョルロックの目抜き通りを走り出す。
隣で超高倍率のカメラを構え、その先にいる車列の最後尾を睨むアサピーは、レンズから目を離さず答えた。
(-@∀@)「冷めてもいいように、サンドイッチにしました。
後は、魔法瓶に入れてもらったカフェインレスコーヒーですね」
ニダーはシフトレバーの傍に置かれた紙袋に手を伸ばし、そこからワックスペーパーに包まれたサンドイッチを取り出す。
一瞥し、手に持ったそれの重さを確かめるように上下に軽く振る。
<ヽ`∀´>「おっ、これは結構食べ応えありそうニダね」
(-@∀@)「ハムチーズサンドなんですけど、すっごい量ですよ。
一応、レタスもたっぷり目で頼んでおきました」
<ヽ`∀´>「そりゃ楽しみニダ」
器用に片手で包みを剥がし、ニダーは大きく口を開いてそれを頬張る。
レタスが弾けるような、瑞々しい音を立てる。
<ヽ`∀´>「んー!」
満足そうに唸り、ニダーは咀嚼する。
片手で運転しながらも、そのハンドルがぶれることは無い。
街のはずれから抜け出し、綺麗に舗装されたアスファルトの道路を道なりに進む。
道路の両脇には木が植えられ、街灯もついていた。
栄えている街に通じる道路は例外なく整地されており、ニョルロックが持つ経済力を象徴するかのように整然と、そして立派な物だった。
アスファルトの一部が抉れ、その破片をタイヤが踏む度、鼓動の様な音が鳴った。
ニダーはサンドイッチを一つ胃袋に収め、ナプキンで指を拭いた。
(-@∀@)「――あの書類から何が分かったんですか?」
<ヽ`∀´>「大したものはなかったニダよ。
と、言いたいところだけど、一つだけ収穫があったニダ」
(-@∀@)「それは?」
<ヽ`∀´>「同一の棺桶の復元に関する、発注書ニダ。
それも、すんごい数ニダ。
“エアベンダー”って棺桶、聞いたことあるニダ?」
(-@∀@)「あー、聞いたことありますね。
空が飛べる棺桶でしたっけ?」
人類にとって空を飛ぶことは夢の一つだ。
それを実現させる棺桶として広く知られているのがエアベンダーという棺桶だが、その名は別の意味でも知られていた。
203
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 19:54:56 ID:E.efjM1g0
<ヽ`∀´>「そうニダ。 いっつもぶっ壊れた状態で見つかるからハズレ呼ばわりされているニダ。
正直見つかるだけで迷惑な棺桶ニダ。
だけど、連中はそれを大量に買い上げていたニダ。
……多分、飛行部隊でも作ろうとしているはずニダ」
耐衝撃に特化させた関節部の機構を謳いながら、実際のところ、想定されている以上の衝撃が加わると一気に破損するという欠陥がある。
故に、発掘されるときにはどこかが破損しており、その修復をしなければならない。
簡単に復元が行えるのであればいいが、破損している個所は複雑な仕組みをしているために手間と費用がかかってしまう。
費用面だけでなく、そこに費やした時間を考えてもそれほど優秀な棺桶ではない。
発掘後は他の棺桶に流用するための部品取りを行われ、後は鉄屑として鋳つぶされるのが通常だ。
金になるのであれば、世界中から簡単に集まるだろう。
その名目が何であろうとも、まさかそれを大量に採用するとは誰も考えない。
(;-@∀@)「飛行部隊……それって、結構厄介じゃないですか?」
<ヽ`∀´>「厄介ニダ。 偵察、強襲、支援、何にでも優位性を得られるニダ。
撃ち落とそうとすれば、視界が上方に固定されるし、そもそもほとんどの街が対策していないニダ。
ニョルロックを飛んでいたアレとは別物だろうけど、報告によれば通常のエアベンダーとは異なる物が使用されているニダ。
つまり、改修型が作られて実用化されて量産されたはずニダ。
そもそもエアベンダー自体が長距離、長時間の飛行に向いていないニダ。
なら、それを最大限有効活用には目的地に近づく必要があるニダ。
勿論、バッテリーを大型化したんなら話は変わるニダ」
(-@∀@)「その報告はしたんですか?」
<ヽ`∀´>「そりゃ勿論、それが仕事ニダ。
どういう運用をするかは、まぁ想像したところで意味ないニダね。
空が飛べるんなら、陸からでも海からでも、どうにでも出来てしまうニダ」
(-@∀@)「なるほどですね。
で、あの車列はどこに行くと思います?」
<ヽ`∀´>「方角的にはイルトリアニダね。
立ち寄る場所があるかもしれないけど、あの物量はまぁ間違いなく大きな戦争をするはずニダ」
(;-@∀@)「うへぇ…… 戦争かぁ」
ティンカーベルでの戦闘も半ば戦争じみたものではあったが、本物の、それも大規模な戦争を目撃するのは初めてになる。
無論、世界では紛争などは日常茶飯事であり、珍しい物ではない。
だが、相手が違えばそれだけ規模が違う。
大量の死傷者が避けられない戦争が待っているだけでなく、アサピー達はそこに入り込もうとしているのだ。
<ヽ`∀´>「物量戦で勝負するつもりニダね。
まぁ、物量よりも質が勝るのは世の常ニダ。
あれだけならイルトリア陸軍で十分対処できるはずニダ」
(;-@∀@)「あれだけなら、ってことはやっぱり別動隊が?」
204
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 19:55:32 ID:E.efjM1g0
<ヽ`∀´>「ここから先はウリの推測だけど、多分海側からも来ているはずニダ。
イルトリアの立地的に、海側から攻め入らない理由がないニダ」
(-@∀@)「そう言えばジュスティアも海沿いにありますね」
<ヽ`∀´>「その通りニダ。 だから、ジュスティアも陸と海の両方から攻め込まれるはずニダ」
故に、二つの街は陸軍、海軍、そして海兵隊を所有している。
(-@∀@)「なーるほど。 それで、聞きたいことがあるんですが」
<ヽ`∀´>「何ニダ?」
(-@∀@)「僕たち、このまま何をするので?
ほら、市長が僕らに言った任務って今回の宣戦布告でパーになっちゃったじゃないですか」
内藤財団が世界に向けて行った放送で、アサピー達が報告すべきこと、調査すべきことは白紙に戻った。
イルトリア方面に向かっている車列を追い、果たして、どのような情報を得るのだろうか。
任務として、あまり実のあるものとは思えなかった。
<ヽ`∀´>「白紙になったのは残念ニダね。
でも、やることは同じニダ。
情報を集めて、それを報告するニダよ。
後は写真を撮って、それを送るニダ」
(-@∀@)「写真を送るって、郵便でですか?
どれだけ速さ自慢の会社を使っても三日はかかりますよ。
それとも、シェルブリット便を使うとか?」
唯一の例外は、“ホーリー社”が提供するシェルブリット便と呼ばれる、郵送する物を砲弾に詰めて射出するサービスだけだ。
着弾地点から更にリレー形式で送るそれは、現代において最速の輸送手段である。
ただし、このスクライド社も内藤財団の傘下にあるため、ジュスティア行の荷物が無事である保証はない。
<ヽ`∀´>「それにはやり方ってのがあるニダ。
うーん……これを教えてもいいものか悩むけど、まぁ、ここまで来たらアサピーも関係者だから教えるニダよ。
写真は、電話で送るニダ」
(-@∀@)「……はい?」
電話で送ることが出来るのは音声だけだ。
ついにニダーは度重なる緊張と疲労で壊れてしまったのかと、アサピーは怪訝な声で聞き返していた。
だがその反応にニダーは怒る様子はなく、むしろ笑みを浮かべて答えた。
<ヽ`∀´>「仕組みを聞けば簡単ニダよ。
網戸を白黒写真の上に乗せるイメージが分かりやすいニダね。
全部の光景がマス目で区切られるニダ。
そのマス目の座標と濃度を電話で伝えるニダよ。
輪郭はギザギザになるけど、口頭で写真の特徴を伝えるよりもよっぽど正確に伝わるニダ」
205
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 19:55:56 ID:E.efjM1g0
(-@∀@)「マス目が細かいほど正確な写真の情報が伝えられるってことですか?」
<ヽ`∀´>「その通りニダ。 だから既定のマス目のシートを使い分けて、情報を送るニダ。
ただ、難点が1つあるニダ」
(-@∀@)「それは一体?」
<ヽ`∀´>「当たり前だけど、変換するのが滅茶苦茶面倒くさいニダ。
座標はまだしも、濃度も人力ニダ。
実験は済んでいるけど、面倒すぎてあまり使われていないニダ」
(;-@∀@)「ま、まぁそりゃそうですよね」
<ヽ`∀´>「だから、その問題を解決してくれるのがそのカメラニダ。
撮った写真を白黒に変換できるニダ。
で、操作すると濃淡の情報を10段階で全部表示してくれるニダ。
後はそれを伝えるだけニダ。
慣れれば1枚の写真を送るのに5分で済むニダ」
電話が通じる相手であれば、距離に関係なく写真の情報をほぼ正確に伝えられる。
それが生み出す価値はあまりにも圧倒的だ。
新聞社はスクープとなる写真を撮影したら、ネガのコピーを作成し、配達屋を通じて各支社に届けることになる。
四方八方に一気に展開するが、最も離れている場所に届くまでには時間がかかってしまう。
単純な方法だが、圧倒的なまでの速度と精度を両立させているのは事実だ。
偵察に活かせば、間違いなく世界が変わる。
<ヽ`∀´>「前にも言ったかもしれないけど、写真がもたらす影響力と情報は大きいニダ」
(-@∀@)「で、でも、ですよ?
イルトリアの情報をジュスティアに伝えてどうなるというので?」
ジュスティアが欲しているのは当然、ジュスティアに関係のある情報だけだ。
僅かの間、沈黙が車内に流れた。
ホルダーから魔法瓶を取り、器用に片手で蓋を開く。
湯気の立ち昇るコーヒーを一口すすり、ニダーは溜息を吐く。
<ヽ`∀´>「この情報は、イルトリアにも伝えるニダ」
(;-@∀@)「えぇ?! いいんですか? ジュスティア的に」
<ヽ`∀´>「勿論、理由があるニダ。
相互に情報を交換し合うことで、相手の用意している兵器や武装を把握できるニダ。
戦争は情報が重要ニダ」
(;-@∀@)「でも、互いに嫌い合っているのに、大丈夫なんですか?」
206
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 19:56:20 ID:E.efjM1g0
<ヽ`∀´>「それは大丈夫ニダ。
確かに、ウリたちはイルトリアをライバル視しているニダ。
まぁ、部外者には分かりづらいだろうけど、ライバルだからこそ互いを信頼し合っているニダよ。
それに、ウリたちにとっては実戦でのデータが収集できるというメリットもあるニダ」
(-@∀@)「なるほどですね。
……ありゃ? ちょっ?!」
レンズの向こうの光景にアサピーが狼狽の声を上げるのと、ニダーがハンドルを大きく切るのは同時だった。
――直後、爆発と共にアスファルトが爆ぜた。
<ヽ`∀´>「あ、やっぱりばれたみたいニダね」
(;-@∀@)「や、やっぱりって?!」
<ヽ`∀´>「そりゃ、ずーっとついてくる車がいたらばれるニダよ」
殿を務めていた戦車がその場に留まり、主砲をこちらに向けている。
既に砲塔は微調整を行い、偏差砲撃に備えていた。
(;-@∀@)「こ、この後の…… よ、予定は?!」
ギアをトップに入れ、ニダーはセダンを加速させる。
ハンドルを片手で握り、もう片手は懐の拳銃に伸びている。
<ヽ`∀´>「変更ニダ。 連中の実力をちょっと確かめてから写真を送るニダ」
遊底を口で引き、薬室に初弾を送り込む。
その粗暴な動作はどこかトラギコを彷彿とさせるものがあった。
ジュスティア警察という枠組みで見れば同じ組織の人間なのだから、共通点があってもおかしくはない。
人間性がまるで違うと思っていただけに、その姿は新鮮に映った。
<ヽ`∀´>「一人ぐらい生け捕りにして、話し合いをするニダ。
ハンドルよろしくニダ」
(;-@∀@)「えぇぇ?!」
――アサピーの悲鳴にも似たその声は、再びの砲声によってかき消えたのであった。
207
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 19:56:42 ID:E.efjM1g0
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同日 同時刻
イルトリアを双眼鏡で目視できる距離に捉えた二機の原子力空中空母は、高度約一万メートルを維持しつつ速度を落とした。
眼下の海にはイルトリア海軍の艦隊が白波の尾を引いて並んでいる。
更に、イルトリアから離れた場所の荒野には陸軍が防衛用の陣地を敷き、かなりの数の車列が南下していく様子が見える。
こちらの存在に気づきながらも、陸軍も海軍も攻撃をしてくる様子がない。
正確に表現するならば、攻撃したが届かないことを文字通り一発で理解した後の様子、だ。
この高度は計算され尽くした高度であり、自慢の野砲も、戦艦の主砲もここまでは届かない。
攻撃を加えるには航空兵器しかない。
ヘリを使っても到達できない上空を陣取ったのは、安全かつ圧倒的な優位性を確保するためだった。
航空兵器が乏しいということは、この戦争における優位性の一切を失うことになるのは明白だ。
拮抗状態ではない。
世界最強の軍隊を有すると謳われていたイルトリアでさえ、高高度の敵に対しては無力なのだ。
攻撃が届かないのであれば、負けることは無い。
一方的な爆撃も侵略も、全ては頭上を統べる者にこそ許される特権だ。
優位性が揺るがない限り、あらゆる決定権は優れた者にある。
人類史を紐解いても、遺伝子的な優劣によって貧富や将来が決定しているのがその証拠だ。
肌の色も、生まれた人種も、全てに優劣がある。
その中でも最も劣った人種である“耳付き”は、淘汰されて然るべき存在なのだ。
人間の体に獣の耳と尾を持つなど、狂気の沙汰としか思えない造形。
人ならざる膂力、身体能力を有し、感性も獣に近しい物がある点を考えれば、自然界の生み出した失敗作と言う他ない。
それこそが、クール・オロラ・レッドウィングの価値観であり、ティンバーランドに参加する最大の理由だった。
208
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 19:57:08 ID:E.efjM1g0
クールは巨大な操縦室の中央に作られた指揮用の席に腰かけ、時が来るのを静かに待っていた。
足を組みなおし、忌々し気にイルトリアの街並みを睨めつける。
この世界で耳付きを擁護し、役職を与えるほどの愚かな思考を持つ街はイルトリアだけであり、それが如何に異端なのかは議論の余地を挟まない。
世界から耳付きを淘汰することがクールの念願である以上、イルトリアはこの世界にとって不要な存在だ。
人が人であるために。
この世界が人間の物であるために、彼女は家族を捨て、ここまで来たのだ。
空中空母から見下ろすイルトリアの小さな姿は、これまで世界が恐れていたにしては、あまりにも矮小に見えた。
川 ゚ -゚)「空挺部隊の準備は?」
両機の情報を統率している管制官が、クールの質問に即座に答えた。
(::0::0::)「全員完了しています。
後は、所定の場所まで接近すればいつでも降下可能です。
予定まで、後5分です」
空挺部隊として用意したのは、世界中でゴミのように扱われていた棺桶だった。
エアベンダーを改修し、“ラスト・エアベンダー”として大量生産することが出来ていた。
ラスト・エアベンダーは10分間しか飛行することが出来ない。
降下すれば高度の優位性を毎秒失うことになるため、適切な場所で実行しなければならない。
六連発のグレネードランチャーを標準装備し、焼夷手榴弾なども携行させているため、小型の爆撃機としての機能を果たせる。
数は用意した。
武装も用意した。
後は時が来るのを待てば、これまでに用意した一切合切の答え合わせをするだけだ。
立ち上がって一斉放送用のマイクを手に取り、クールは厳かに、だがはっきりとした力強い声で言葉を紡いだ。
川 ゚ -゚)】『同志諸君。 見えるか、あれがイルトリアだ。
我々が忌むべき世界の汚点だ。
これより諸君は、あの街を攻撃することになる。
……躊躇いがある者はいるか?
当然だ。
それは当然の躊躇いだ。
我々が殺そうとする人間の中には、無辜の人間もいるかもしれないからな。
だが考えてほしい。
我々が草刈りをする時でもいいし、殺虫剤を蒔く時でもいい。
その時に、本来の目的以外の命に気持ちを向けることがあるか?
否、ないだろうさ。
なぜなら、そうしなければならないと心が分かっているからだ。
これから我々がするのは、それと同じ行為だ。
害獣をかくまっている連中を。
世界の病巣を滅ぼすためには、多少の犠牲はやむを得ないのだ』
沈黙を挟み、聞く者が集中する間を与える。
口調を僅かに感情的なそれに変え、クールは続けた。
209
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 19:57:58 ID:E.efjM1g0
川 ゚ -゚)】『……私自身、家族を犠牲にした。
忌むべき存在をこの世から少しでも減らすために、私はこの手を汚した。
だが後悔はない。
微塵も、だ。
世界をより良いものにするためならば、その犠牲は無意味ではないからだ。
故にこそ、私は同志諸君に言いたい。
躊躇うな、その歩みは世界を変える。
悲観するな、その歩みこそが悪を滅ぼすのだと。
世界最後の戦争に後悔はいらない。
我々がこの手を汚すことで、後世の手を汚さずに済むのだ』
(::0::0::)『第一陣降下1分前。 後部ハッチ開放。
機内気圧安定確認。
降下準備用意』
機体の後部から大きな振動が生じ、それが全体に広がっていく。
川 ゚ -゚)】『故にこそ。 イルトリアという街を、我々は完膚なきまでに破壊しつくさなければならない。
覚悟はいいか。
決意は固めたか。
銃爪を引くたび、心に刻んだ言葉を思い出せ。
我々の歩みは、世界が大樹となるためにあるのだと』
管制官が親指を立てる。
川 ゚ -゚)】『さぁ、空を落とす時間だ』
(::0::0::)『戦車部隊降下開始。
続いて、ヘリ部隊降下開始。
落下予想地点、変更なし。
ヘリ部隊、予定高度到達まで30秒。
ラスト・エアベンダー部隊、準備完了。
……戦車部隊、ヘリ部隊のパラシュート展開確認。
ラスト・エアベンダー部隊、降下開始』
そして。
空が落ちてゆく。
210
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 19:58:21 ID:E.efjM1g0
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|i: : : : : l: : :',: l ャセ=芹圷心ミー ,ャセチ示7气ミ 7: : : l: : : : : i|
l: : : : : :l: : : l: l ` V辷ツ_, 、_ V辷少 '′ /|i : : l: : : : : i|
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同日 AM09:10
从´ヮ`从ト「その後の動きは?」
地下に作られた通路を歩きながら、チハル・ランバージャックは後ろをついてくる部下に言葉をかけた。
( 0"ゞ0)「依然として接近中です。
偵察兵の報告では、ニョルロックから大規模な部隊が北上してくるとのことです」
部下が手渡したグローブを両手にはめる。
指を動かし、支障がないことを確認する。
両手にピッタリと吸い付くような感触に、チハルは満足した。
从´ヮ`从ト「どちらも全力で臨んでくるか。
……ふん、ただの泥棒よりはやりがいがあるな」
紺色の上着のファスナーを首まで上げる。
その服は強烈な重力変化から使用者を守る、パイロットスーツと呼ばれる特殊な物だった。
チハルは手に持っていたヘルメットを被り、顎下の留め具をはめる。
そのヘルメットはカーボンファイバーで作られ、棺桶に使用されている様な精密機器が搭載されていた。
彼女の全身を覆うそれらの装備を今の状態にまで復元するには、億単位の金と数十年の時が必要だった。
( 0"ゞ0)「部隊はいつでも離陸可能です」
从´ヮ`从ト「そろそろ仕掛けてくるだろうが、ギリギリまで待て。
得意顔で降りてくる連中を出迎えて、プロとアマの違いを教えてやればいい。
せっかくだ、連中の空を落としてやれ」
211
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 19:58:43 ID:E.efjM1g0
階段を上り、秘匿されている格納庫へと入る。
そこは限られた人間だけが存在を知り、尚且つ中に入ることのできる格納庫だった。
格納庫の中心には、洋上迷彩が施された一機の大型戦闘機が佇んでいる。
巨大な翼による威圧感と相反するように、エアインテークからエンジンにかけての洗礼された細さはどこか官能的ですらある。
ハードポイントには増槽と四門のガトリング砲、2発の無誘導弾が取り付けられており、長時間の格闘戦に重きを置いた装備をしていた。
それは世界で唯一復元、修理が施され、実用することのできる戦闘機だった。
柔軟に向きを変えることのできる推力偏向ノズルと特徴的なカナード翼を持ち、低速での圧倒的な機動性と格闘性能を有している。
設計に問題があった為に一度は開発が中止されながらも、第三次世界大戦の数年前に再設計され、再び世に姿を現すことになった。
奇しくもそれは、世界を終わらせる福音を響かせた物と同型機――
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|||||!、_ 羽:ト、 ̄ ̄/三三三/;:;:;:;:;:;:;:ヾヽ___ゝ三三/
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ヾリ r=ュ}:{ ` ̄ ̄´ }{Ⅳ }{r=x
i∩!!!{ ソj} {:::}ll∩!
i∪!iij i||||! └||∪!
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Terminator
――終焉を運ぶ者の名を持つ、改修型Su-37だった。
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チハルは飛び込むようにしてコクピットに乗り込み、計器類の確認を行う。
ほぼ全ての計器類が別の戦闘機の残骸から回収し、復元した高性能な電子部品を取り付けた物に換装されていた。
そのため、彼女の被るヘルメットのバイザーには機体に関する様々な情報が視界と重なる様にして表示され、計器類の確認はすぐに終わった。
背後も足元も透過して見ることが出来るため、その視野に死角はない。
しかしそれ以上に特殊な機能がそのヘルメットには備わっていた。
棺桶の一部でも使われている機能であり、それを流用するのは多くの棺桶を所有するイルトリアだからこそ出来たことだった。
エンジンが起動し、格納庫内に轟音が響き渡る。
だがヘルメットに備わっているノイズキャンセリング機能により、彼女の耳に届くはずの轟音は全て消え去っていた。
212
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 19:59:06 ID:E.efjM1g0
フラップとラダーが正常に動いていることを確認してからキャノピーを降ろし、マスクを装着する。
从´ヮ`从ト『本部、聞こえる?』
答えたのは、低く響く男の声だった。
ミ,,゚Д゚彡『あぁ、聞こえている。
連中はまだ動いていないが、そろそろ仕掛けてくるはずだ。
こっちの砲撃に巻き込まれないようにな』
それは彼女の夫である、フサ・エクスプローラーの声だった。
从´ヮ`从ト『分かってる。 そっちも落ちてくる残骸に気をつけて』
ミ,,゚Д゚彡『あぁ。 今なら滑走路は空いている。
遠慮なく飛んでくれ』
从´ヮ`从ト『えぇ、遠慮なく飛ぶつもり。
やつらの空を落としてやる』
格納庫の扉が開き、日光が差し込んでくる。
視線の先には、遠くまで透き通るような夏の青空が広がっていた。
白い雲に混じり、異質な影が空に浮かんでいる。
その巨体はまるでクラフト山脈のように圧倒的で、見上げる者に畏怖の念を抱かせるには十分すぎるほどの姿だ。
だがそれは、空に手が届かない人間が抱く感情だ。
空を落とすことのできる力があれば、恐れる必要はない。
機体が格納庫から姿を現す。
巨大な航空機から無数の黒い点が落ち始めたのを、彼女の超人的な視力が捉えた。
ミ,,゚Д゚彡『観測手からだ。 連中、戦車とヘリを降下させ始めた』
从´ヮ`从ト『みたいだね。
じゃあ、行くね』
ミ,,゚Д゚彡『あぁ、行ってこい』
二人の会話はそれで終わった。
戦場での別れは短く済ませるのが二人の通例だった。
普段から必要な言葉は告げており、言いそびれた言葉はないようにして過ごしているのだ。
砲音と銃声が響き渡り、空に炎が浮かぶ。
パラシュートを広げて降下する戦車が爆散し、破片が海に落ちてゆく。
曳光弾の尾が空に逆さまに降る雨を作り出し、空中でローターを始動させた直後のヘリを撃ち落とす。
撃ち漏らした戦車が風に乗って降下を続け、ヘリは散開して弾幕を避けつつ、イルトリアを目指してくる。
戦場の光景だ。
213
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 19:59:27 ID:E.efjM1g0
これまでイルトリアが経験してきた中でも、最も大きな戦争の姿だ。
攻め入られることがほとんどなかったイルトリアにとって、これはある意味で記念日となるだろう。
ジュスティア以外の存在がここまで攻め入ることになった、不名誉な記念日。
今日この日は、間違いなく歴史に名を刻む戦争の開始日となるはずだ。
自然と笑みを浮かべながら、チハルは離陸させる為に機体を加速させた。
体が座席に押し付けられる。
機体が推力を得て空に浮かび上がり車輪が自動で格納される。
それまで見えていた景色が瞬く間に遠ざかる。
眼下の格納庫から空軍に属するヘリが一斉に姿を現し、空へと飛び立ってゆく。
まるでタンポポの種が空を舞うように。
一つ一つ、殺意を持って飛翔する。
それを見届け、チハルはアフターバーナーを使用して機体を加速させた。
一気に垂直に上昇し、雲の上に飛び出す。
機体の向きを水平に戻し、巨大な航空機二機と対峙する。
こうして見ると、改めてその馬鹿げた巨大さがよく分かる。
空飛ぶ基地か、山そのものだ。
正面から攻撃しても落とすのは無理だが、狙いすました攻撃を与えれば、必ず落とせる。
現に今、彼らは一つ致命的なミスをしてしまっている。
そのミスを容赦なく狙う。
从´ヮ`从ト『お前らの空はここまでだ』
――イルトリア海兵隊兼空軍大将の言葉に呼応するようにして、Su-37の全兵装の安全装置が解除された。
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214
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 19:59:50 ID:E.efjM1g0
同日 AM09:30
イルトリアで空戦が始まった頃、ジュスティア沖では海戦が始まってから1時間が経過していた。
砲声と銃声は絶えず奏でられ、その合間には海が爆ぜるような音が続く。
ジュスティア海軍所属の巡洋艦と駆逐艦が連携を取り、巨大な空母と戦艦に対して攻撃を仕掛けているが、成果は得られていない。
巨体は戦場では不利に働く。
よほどの防御力がない限りは、格好の的になるからだ。
戦艦の周囲に壁のように立ちはだかる13隻の空母に対して、ジュスティア海軍は喫水線を集中的に攻撃するようにと厳命していた。
動力源として使われているのがニューソクである可能性があり、迂闊に撃沈させようものなら、その爆発に巻き込まれないとも限らない。
だが、そんな気遣いが出来るような状況ではなかった。
ジュスティア海軍の指揮官であるゲイツ・ブームは、ジュスティア沖1キロほど離れた場所にいる旗艦で戦況を確認していた。
| ^o^ |「……一隻も沈められんか」
川_ゝ川「はい。 特に、喫水線の装甲が極めて厚いようです。
まさに動く壁です」
敵の巨大戦艦が主砲を使用してから即座に攻勢に転じたのだが、敵戦艦を守るようにして立ちはだかる13隻の存在が邪魔だった。
情報によれば空母と呼ばれるもので、航空兵器を積載する船だそうだ。
事実、その甲板からエアベンダーによく似た棺桶と攻撃用のヘリコプターが蜂のように飛び立ち、次々と戦闘を開始している。
迎撃するために機銃掃射と艦砲射撃が行われるが、目立った戦果は挙げられていない。
まだジュスティアに到達してはいないが、こちらも相手に打撃を与えられていないのは苦しい所だ。
| ^o^ |「戦艦を潰さない限り、脅威は一向に減らない。
連中の動きはどうだ?」
川_ゝ川「オセアンに向かっていましたが、そちらの進路をこちらが封鎖したので現在停滞中です。
こちらの主力を回してはいますが、空母が敵戦艦を囲む様に配置されているため、手出しが出来ません。
ですがおかげで、主砲の射線上に空母がいる状態になっています」
配置的に海上基地と化したのは、一つの大きな変化と言える。
それが良い変化か、悪い変化なのかはまだ分からない。
| ^o^ |「小型艇で隙間を縫って行く作戦は?」
各艦には小型艇が積み込まれている。
大型の船相手であれば空母の合間を縫って、戦艦内に入り込むことが出来る。
問題は、相手も小型の護衛がついているということだ。
川_ゝ川「ヘリが低空で警戒しており、まだ破れていません。
味方の船にもすでに損害が出ています。
……それとは別に、問題が生じています」
| ^o^ |「何だ?」
部下の声に明らかな動揺を聞き取ったブームは、静かに目をそちらに向けた。
215
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 20:00:11 ID:E.efjM1g0
川_ゝ川「ピク支部に保管していた水中戦特化の棺桶のバッテリーが軒並み劣化、使用不可となっています」
| ^o^ |「管理はどうなっていた」
棺桶に使用するバッテリーはそう簡単に劣化するものではない。
発掘された時でさえ、その劣化はほとんどない。
人が手を加えなければ、使用不可となる程の劣化はしない。
川_ゝ川「間違いなく行われていましたが、その劣化の報告は一切ありませんでした。
現場に運び込まれ、いざ運用となった時に……」
海軍内部の情報を詳しく知る人間でなければ、ピク支部に水中戦用の棺桶が保管されていることを知らないはずだ。
管理は厳重に行われていたはずだが、その担当はピク支部に一任されていた。
つまり、支部そのものが機能を失っていたと考えていい。
| ^o^ |「中に虫が入り込んでいたか」
川_ゝ川「それは間違いないようです。
ピク支部に配属されていた兵の家族から、まだ帰宅していないと連絡がありました。
……その連絡もピク支部にいっていたため、今に至るまでまるで報告がありませんでした。
家族には秘密作戦に参加しているから、の一点張りで押し通していたようです」
| ^o^ |「では、その情報はどうやって得たんだ?」
川_ゝ川「即応部隊を向かわせ、判明しました。
基地の中は全員入れ替わっており、現在交戦中です」
| ^o^ |「それは問題だな。
となると……あぁ、ほとんど全てが問題になるな」
基地内に残っていた敵との対峙は問題ない。
問題は、今現在基地の中に残っていない敵の存在だ。
数も姿も分からないという、圧倒的な問題だ。
既にピク支部以外の場所に移動し、作戦行動に参加している可能性もある。
川_ゝ川「この情報はまだ本部とこちらにしか届いていません」
| ^o^ |「まぁいいだろう。
海軍には鉄の掟がある。
ならば、掟破りが裏切り者だ。
多少の混乱はあるだろうが、すぐに自浄する」
川_ゝ川「ですな」
ジュスティア海軍に所属する以上、決して忘れることのない鉄の掟がある。
それはイルトリアの海軍でも同様であり、それが破られることは決してない。
一度下された命令は、決して変更しない。
例えそれが市長であるフォックス・ジャラン・スリウァヤからの指示だとしても、海軍は決して命令の変更をしない。
216
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 20:00:58 ID:E.efjM1g0
| ^o^ |「着任後、日の浅い人間は甲板に出すよう、艦長たちに伝えろ。
少なくとも、連中の想定している戦場が海上ならば問題はない。
我々はとにかくジュスティアへの攻撃を防げばいい。
直線での砲撃が出来ないが、上空からの砲撃が来る」
正面からの砲撃であればスリーピースと防御装置がある。
しかし、上空から落下するようにして放たれた砲弾はスリーピースで防ぐことはできない。
川_ゝ川「それをしてこない理由が、何かあるのでしょうか」
| ^o^ |「空中で連中の砲弾が爆発したのを見ただろう?
スリーピースには対砲撃用の迎撃装置がある。
それを警戒しているのだろうさ」
迎撃装置の詳細はおろか、存在すら末端の兵士は当然知らない。
大将レベルの人間でさえ、その装置の詳細は分からない。
“存在を知っているが、そして詳細を知らないこと”を知られないように、というのが大将になる際に厳命される。
ブームがその命令を守り続け、そして今ここでそれを口にしたのは、すでにその装置が起動したからだった。
情報の下手な封鎖は混乱と不信を生む。
戦場でそれを生んでしまえば、軍は息が出来なくなる。
軍の呼吸が止まれば、街の防衛は不可能だ。
川_ゝ川「なるほど」
だが、疑問は解決されていない。
直上からの砲撃を迎撃すれば、破片が街に降り注ぐことになる。
それは彼らにとって歓迎すべき展開のはずだ。
ましてや、爆薬の入っていない質量弾を使えば迎撃は困難になるのではないだろうか。
そこまで頭が回っていないのか、それとも、回した結果の選択なのか。
意図があってこの状況を保っているのだとしたら、非常に気味が悪い。
川_ゝ川「……本部より通信です」
部下から通信機を受け取り、耳に当てる。
市長の静かな言葉が、すぐに耳に入ってきた。
爪'ー`)『ブームか?』
| ^o^ |「はい、私です」
爪'ー`)『簡潔に言う。
これから10分間、徹底的に奴らを攻撃しろ。
理由は聞くな。
それが勝利につながるのは間違いない』
| ^o^ |「分かりました。
問題はありません」
217
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 20:01:22 ID:E.efjM1g0
フォックスの指揮に疑問を挟む必要はない。
彼の言葉は常に的確で、そして、意味があるのだ。
通話を終え、ブームは部下を見て言った。
| ^o^ |「全艦に通達をする。
通信を用意しろ」
川_ゝ川「緊急回線を使用します。
用意できました」
部下もまた、ブームの言葉を疑問に思うことはしない。
軍隊である以上、上官の命令に従うのが絶対なのだ。
| ^o^ |『全艦に通達。
これより10分間、全火力を用いて敵艦を攻撃しろ。
出し惜しみは一切なしだ!!
それが勝利に通じる!!』
その言葉を受け、即座に配置についていた艦隊が苛烈な攻撃を開始した。
砲弾と魚雷が放たれ、空母の周囲に水しぶきが上がる。
空中を飛んでいたヘリコプターと棺桶が次々と被弾し、落ちてゆく。
しかし、敵からの反撃もまた一層厳しい物へと変わり、ついに戦況が大きく変わる。
『こちらアトラス、敵に取りつかれた!!
これより艦上での戦闘を行う!!
万が一の時には介錯を頼む!!』
飛行する棺桶が船に乗り込めば、砲撃は出来なくなる。
先ほどまではこの事態を避ける為に慎重に立ち回らせていたが、事態が変化を始めた以上、対応するしかない。
空母の横腹に集中的に撃ち込まれた砲弾が遂に穴を開けることに成功し、そこから炎が上がった。
『敵空母に損害確認。
焼夷弾に切り替え、攻撃を続行します』
『こ、こちらキルコン!!
ダメだ、エンジンがやられた!!
沈没する!!』
『こちらベルトルッチ、これよりキルコンの救助に向かう。
近くの艦は援護を頼む』
『全艦に伝達。
敵空母より更に増援を確認』
『補給艦第二陣、所定位置に到着。
弾薬補給が必要な艦はすぐに後退し、補給を受けるように。
護衛艦が途中までエスコートする』
218
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 20:01:46 ID:E.efjM1g0
無線が飛び交う。
まるで蜂の巣を突いたかのような騒ぎだが、ブームは内心で笑みを浮かべていた。
この感覚だ。
彼が長い間求めていたのは、この戦場の混沌とした空気と感覚なのだ。
幼少期、彼は人一倍正義感の強い男だった。
同時に、その正義感に従って拳を振り下ろすことに快感を覚えた。
暴力に溺れることのないよう、彼は自制しながら日々を過ごした。
そして自然と、彼は軍人への道を選んだ。
軍人は平和の為に戦うのではない。
戦うために軍人となり、その結果に平和があるのだ。
戦いが肯定される唯一の職業は軍人だけである。
ブームは生まれ持った膂力と胆力を正しく使うために海軍に所属し、一心不乱に戦い続けた結果大将になった。
イルトリア相手に振るうはずだったジュスティア海軍の力を、この機会に世界に向けて見せつける。
世界最強の海軍はジュスティア海軍なのだと、知らしめるのだ。
フォックスに命令された時間まで残り2分となった時、背筋に冷たい物が走った。
『敵戦艦に動きあり!!
かなり上向きに砲が向いています!!
全艦警戒を!!』
直後、耳を弄する砲声が聞こえた。
| ^o^ |「懲りずにまた撃ってきたか!!」
ややあって、頭上から何かが飛来する気配と不気味な音が聞こえてきた。
ブームは直感した。
そして、瞼をゆっくりと降ろし、やや不服そうに言った。
| ^o^ |「……くそっ」
――圧倒的質量と破壊力を持った砲弾が、ブームを乗せた旗艦を木端微塵に吹き飛ばした。
219
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 20:02:09 ID:E.efjM1g0
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第七章 【 Ammo for Rebalance part4 -世界を変える銃弾 part4-】 了
220
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 20:02:41 ID:E.efjM1g0
これにて今回の投下は終了です
質問、指摘、感想等あれば幸いです
221
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 21:18:38 ID:fRykyyhE0
乙!状況が目まぐるしく変わっていくけどどれも熱いな
クーさん偉そうだけど一度も安全圏から出てきてないな…
222
:
名無しさん
:2022/04/11(月) 21:40:00 ID:z.4Zhrn20
おつです
223
:
名無しさん
:2022/04/12(火) 12:15:38 ID:mH9dk4G60
味方側を有能に書きすぎて敵側がマヌケしかいない、セントですらフラグ乱立させてるから脅威に感じない
224
:
名無しさん
:2022/04/12(火) 20:45:13 ID:lSfNjygM0
乙!
クーさん耳付き劣等遺伝子扱いしてるけど、身体能力とかは人間よりも優れてるんだけどねぇ……
でも「」でも『さぁ、空を落とす時間だ』ってセリフは格好良くて好き
今回は特に何も見つけられませんでした。
一応
>>218
の直後、耳を弄する砲声が聞こえた。
の"弄"するは"聾"するの方がいいと思うけど、まあ気にしなくていいと思うんだよね。
225
:
名無しさん
:2022/04/12(火) 20:56:14 ID:Zs9bI8RE0
>>224
今回もご指摘ありがとうございます!
あともう一歩及ばずでしたか……
226
:
名無しさん
:2022/04/13(水) 21:48:06 ID:LW9lr03M0
おつおつ
正直ブーンよりアサピーの成長率の方が凄いと思ってるわ
>>223
今んところ敵はやらかしまくったやつしか描かれてないからきっとこれから頑張るさ
227
:
名無しさん
:2022/04/14(木) 18:02:57 ID:PQ6NQmsw0
一気読みしてとうとう追いついた、それぞれの物語が複雑に絡む群像劇大好き……
事態の規模がはちゃめちゃにでかいけど、デレシアはどこまで展開を読んでいるんだろうか
228
:
名無しさん
:2022/04/14(木) 20:30:10 ID:1YAmloTw0
敵側がやらかしたのってデレシアが絡んできたとき以外あったっけ?
どっちかというと街(イルトリア以外)がスパイに潜り込まれたり島ごと沈められたりと散々な目にあってないか
?
てかイルトリアはともかくジュスティアは侵攻を防ぎきれるのか…?
敵側のNo.3も潜伏してるだろうし惨敗もありえるだろうな
229
:
名無しさん
:2022/04/14(木) 22:09:30 ID:tzmvs9uo0
海軍大将爆散してるしな
230
:
名無しさん
:2022/04/15(金) 03:00:24 ID:/LNih3tM0
ティンカーベル編であれだけ色々やった本命がデレシア襲撃で物凄くあっさりあしらわれてたのはちょっと面白かった
231
:
名無しさん
:2022/04/30(土) 12:06:31 ID:O86jCzyg0
今更だけど円卓の騎士の過半数がレジェンドって残り5人の格落ち感が半端無いな
232
:
名無しさん
:2022/05/10(火) 18:44:48 ID:TfkreoaU0
今度の日曜日にVIPでお会いしましょう
233
:
名無しさん
:2022/05/10(火) 22:23:32 ID:TQG26wWk0
やったぜ
234
:
名無しさん
:2022/05/17(火) 19:52:33 ID:EzOowemM0
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信念の為に死ぬことが出来る、などという言葉は嘘だ。
我々は信念の為に死ぬのではない。
未来の為に死ねるのだ。
我々の死が未来に繋がりさえすればいい。
その未来こそが、我々の憧れた明日なのだ。
故にこそ。
嗚呼。
今日は、死ぬにはいい日だ。
――エドガー・ランボー著 『最初で最後の血』 最終章より抜粋
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September 25th AM09:28
何もかもが時間の問題だった。
ハート・ロッカーの上半身は既に朝日を拝んでおり、残すは脚部のみとなっていた。
イーディン・S・ジョーンズはエスプレッソを飲んでから溜息を吐き、再度腕時計を見た。
予定に変更はないまま、ここまで来てしまった。
せっかくの侵入者も、彼らの地上進出を防ぐことは叶わなかった。
何かを起こしてくれることを期待していただけに、極めて残念だった。
(’e’)「残念だなぁ」
その声は部下たちにも聞こえているはずだったが、誰も反応しようとはしない。
彼の言葉に反応すれば、たちまち講義が始まってしまう。
彼との会話は、一般人にはあまりにも退屈な物であり、一方的な物になってしまう。
大学での講義に似た部分があるのかもしれないが、それが彼という人間なのだ。
235
:
名無しさん
:2022/05/17(火) 19:53:04 ID:EzOowemM0
彼に歯向かう人間はあまり多くない。
誰もが彼との会話を忌避し、当たり障りのない言葉だけを返してくる。
彼が欲しいのは対話なのだ。
なんなら、苦手だが行動でもいい。
彼の意見に対して異を唱える存在が欲しかった。
(’e’)「ねぇ、侵入者がどうなったか分かる?」
カメラに映る青空とクラフト山脈は、いつもと変わらない色をしている。
これから世界が変わるというのに。
これまでの世界が終わるというのに。
世界は、人間の思惑などまるで気にせずに回り続ける。
「電波障害は依然として継続しており、報告はありません」
(’e’)「そっか」
唯一、彼の思惑を裏切ってくれるのは人間だけだ。
人間の意思というものだけが、いつの日もジョーンズに驚きをもたらしてくれる。
しかしどうやらそれもあまり長く続かないようだ。
ティンバーランドの夢が形となれば、彼らに反抗する人間はいなくなる。
仮にいたとしても、“国”に歯向かう人間の力も数もたかが知れている。
そこに驚きがあるとしたら、そのような無謀なことを考える愚か者がまだ生きていたということだけだろう。
目標の達成はいつでも空しいものだ。
夢の達成の為に努力する日々は失われ、一歩を踏みしめる喜びも彼方に消えてしまう。
「脚部、地上に到着します」
(’e’)「最後まで油断しないでよ。
接地完了後、念のために試射するから」
「了解しました。
目標はジュスティアですか、それともイルトリアですか?」
(’e’)「いいや、ここだ。
ストラットバームを砲撃する。
こんなデカイ穴が開いたままにしておけば、何が起きてもおかしくないだろう?
それこそ、ここにはニューソクがあるんだ。
悪用されたら大変だ」
ニューソクの威力はティンカーベルで見ることが出来た。
実際に目撃したあの威力は、島一つを吹き飛ばすのには十分すぎるものだったが、指向性を持たせれば安全に観測が出来るはずだ。
ストラットバームは極めて分厚い壁に覆われた太古のシェルターだ。
その頑丈さは第三次世界大戦中でさえ、中の設備を損傷することなく守り抜いたほどだ。
詰まるところ、ストラットバームはそれ自体が頑丈な箱であり、指向性を持たせた爆発ならばハート・ロッカーは被害を受けない計算になる。
勿論、爆発させないことにこしたことは無いが、今一度あの爆発を目にしたいという欲もあった。
236
:
名無しさん
:2022/05/17(火) 19:53:45 ID:EzOowemM0
「で、ですが同志がまだ大勢います。
せめて通信が回復してからの方が」
(’e’)「じゃあ通信が回復するまでは好き放題、ってことかい?
あのねぇ、それじゃあダメなんだよ。
リスクは最速で管理すればするだけメリットになる。
ナパームを撃ち込めば火葬の手間も省けて一石二鳥だ」
「防壁はレッド・オクトーバーが到着すれば閉鎖できます。
どうか、ここへの攻撃は……」
(’e’)「ふぅん…… レッド・オクトーバーが無事なら、ね」
恐らく、レッド・オクトーバーは無事ではないだろう。
侵入者がどこの所属なのか、考えるまでもない。
それが可能なのはイルトリアかジュスティアだけだ。
しかもその中でも選りすぐりの人間が派遣されたはずだ。
ならば地下の更に地下にある埠頭の存在にも気づいているはずであり、対策をしていないなど、考えられないのだ。
故にこそ、この基地は放棄しなければならないのだ。
船着き場を見つけられたということは、地下道も見つけられたということ。
つまり、侵入者にとっては逃走経路と同時にこちらの地上部隊の背中を狙う道が両方手に入るということになる。
ヴェガとニョルロックに通じる二つの道の存在が明るみに出れば、いずれにしてもストラットバームは壊滅することになる。
先んじてこちらが手を打っておけばリスクは最小で済むが、味方を思う優しい心が彼の想像とは違う結末をもたらしてくれるかもしれない。
(’e’)「分かったよ。 ただし、何かあった時にはガス弾を撃ち込んででも殲滅するように。
試射は見送ろう」
「了解いたしました」
(’e’)「それと、万が一がある。
ハート・ロッカー内の警備を強化しておいてくれ。
ほら、よくあるだろう?
油断していたらすでに敵に取りつかれている、なんてさ」
それは彼にとって、残された数少ない希望の内の一つだった。
期待と予想を裏切る存在が現れるとしたら、今しかない。
だから。
(’e’)「万が一にも、奴らに希望を与えるなよ」
その言葉の直後、ハート・ロッカー全体が大きく揺れる。
ハート・ロッカーの巨体が立ち上る積乱雲のように、完全にその姿を地上に見せたのであった。
それはハート・ロッカーがこの世に生み出されてから初めてのことであり、ジョーンズの能力が開発当時の人間達を凌駕したことを証明していた。
(’e’)「各部動作確認を行い、その後砲塔を展開。
電波障害のない場所まで移動後、観測手からの情報を得て砲撃を開始する。
照準はジュスティアに向けようか」
237
:
名無しさん
:2022/05/17(火) 19:55:19 ID:EzOowemM0
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_,,... --─  ̄\ \ ___x==ミヽ''7ニL|_|。s≦圦| _⊥‐/¨~三三| |∠_ ̄__/|/ 「
|::\ \_ --==ニニ二 /、、、、,ヘ|_LL/__////>''"´: : /___三三| |三三 | | ∨
| ̄,,>-  ̄二-=ニ⌒.:.:.:.:ヽイ tッ rッ「 \\ノ|'": : : : : : : : : /: : : : : ̄ /¨¨¨¨¨¨ ̄ γ
厂_二─  ̄.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:;:;:;:;:_」乂 __' }ヽ } }__|: : : : : : : : /: : : : :::::::::/_ニニ: : : : : γ´{ハ
了 ̄.:.:.:.:.:.:.:.:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:/〉 {__{≧=彡 /^'< }: : : : : : /: : : : :::::::::/_二二: : : : : : { ル
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二ニ=- ``〜、///////////>'x‐‐ _  ̄/ /\/_/ {== / ̄/ { { { T
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同日 AM09:40
戦艦“ロストアーク”内は興奮で満ちていた。
彼らの乗るロストアークの艦長である、スパム・シーチキンを称える声が艦内に木霊する。
ロストアークの主砲を操作する方法は二つある。
一つは、コンソールを用いては発射する方法。
そしてもう一つは、ほとんどの“強化外骨格”にも使用されている人と機械とをつなぐ装置を使い、より直感的に武器と船の操作を行う手段である。
この戦艦を始動する為に艦長が起動コードを入力する必要があるのはそのためだ。
ロストアークを囲む形で配置された13隻の原子力空母“オーシャンズ13”もまた、起動コードが必要であると同時に人間の思考による直感的な操作を全艦同時に行える仕様だった。
13隻の巨大な空母が得る視覚的情報は膨大であり、その全てがロストアークへと集約され、精密な砲撃を行うことが出来たのだ。
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「……ふん、他愛ないな」
しかし、彼女は満足感を覚えていなかった。
街を砲撃するよりも先に旗艦を狙ったのは、彼女の私怨だった。
彼女は小さな港町で漁師の親を持つ、平凡な子供だった。
小さく、古く、そして丁寧に使い込まれた漁船に父親と共に乗り、沖で漁をするのが日課だった。
彼女の18歳の誕生日の時、事件は起きた。
両親が漁から帰ってこなかったのだ。
数か月前から漁に行く頻度が増え、時間が遅くまでかかるようになったのが彼女の学費とプレゼントを稼ぐためというのは分かっていた。
だが、どれだけ遅くても両親は家に帰り、彼女の寝顔を見ては愛を囁いた。
238
:
名無しさん
:2022/05/17(火) 19:55:39 ID:EzOowemM0
後日、両親の乗っていた漁船の残骸が漁師仲間によって発見され、何が起きたのかを説明された。
ジュスティア海軍の軍事演習に巻き込まれ、殺されたのだ。
その日から彼女はジュスティア海軍に対して復讐の機会を伺いつつ、力を溜めることにした。
ある町では海賊として奇襲戦法を学び、また別の街では海兵として戦術と技術を身につけた。
そして、ティンバーランドからの誘いが彼女の人生に大きな意味をもたらすことになった。
復讐の対象が現海軍大将のゲイツ・ブームであることが分かってからは、彼女は来る日も来る日も実戦と訓練に明け暮れた。
世界最大の戦艦にして、強化外骨格と同様の技術を使用した最新鋭の戦艦である、“ロストアーク”の艦長を任され、計画実行日を言い渡された時、彼女は泣いて喜んだ。
だが蓋を開けてみれば、結果は呆気のないものだった。
最初の砲撃が失敗してから、彼女は戦艦を護衛する“オーシャンズ13”と飛行部隊による情報収集を行った。
必要だったのは相手の位置と、目の精度だった。
それを把握するために大勢の命を使うことになったが、その結果、スパム率いる艦隊に死角はなくなった。
情報を統合し、戦況を詳細まで理解できた今、彼女たちが恐れるものはない。
第一陣は捨て駒。
大勢が海に散り、そして、種を蒔いた。
機は熟した。
収穫の時は、今。
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「予定変更だ。 連中の技量が知れた今、オセアンに寄る必要はない。
ここで転じるぞ!!」
その言葉が引き金となり、海が爆ぜた。
撃墜された第一陣のラスト・エアベンダーには大量の高性能爆薬が取り付けられており、任意のタイミングで爆破させることが出来る。
使用者である彼らは、最初から死ぬことを覚悟していた。
重要なのは、その死体が爆破対象の近くに存在することだった。
海面に浮いていた残骸が爆ぜ、その近くにいたジュスティア海軍の軍艦に打撃を与える。
種は蒔かれ、芽吹きの時を待ち続けている様に。
取りつかれていた船は直接爆破され、合えなく轟沈することになった。
最も不運だったのは、補給中に近くで爆破の直撃を受けた船だった。
補給中の弾薬が誘爆し、巨大な爆発を起こしたのだ。
次々と爆発が起こり、軍艦の動きに明らかな動揺が見られる。
旗艦を吹き飛ばしたことで指揮権がグルジア・“ストーム”・セプテンバーに移行することも想定通り。
今日までの日々は、この時のための準備に費やしてきたのだ。
今や彼女率いる部隊は、ジュスティア軍を凌駕するのに必要なあらゆる準備を済ませた状態にある。
今のところ想定外だったのはスリーピースの防衛機能と、海軍の力が想定以下だったことだけ。
体勢を整える前に一気に攻め入れば、ジュスティアは落ちる。
市街戦に発展するかはまだ分からないが、砲撃だけで終わる可能性は十二分にある。
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「“ダニー”、損耗報告を」
『予定よりも被害は少なく済みました。
“ラスティ”が被弾しましたが、問題ありません』
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「よし。 では、“ワイヤード――有線式――”を出撃させつつ、ジュスティアに向かうぞ。
なぁに、ノックもアポも必要ない」
239
:
名無しさん
:2022/05/17(火) 19:56:25 ID:EzOowemM0
『了解。 ワイヤード部隊出撃』
そして、オーシャンズ13の甲板に待機していたラスト・エアベンダー達が一斉に飛び立つ。
しかしその姿には、これまでのラスト・エアベンダーとは大きく異なる点があった。
背中のジェットパック兼バッテリーに細長い線が繋がっている点である。
その線は甲板に繋がっており、その先にあるのは発電装置“ニューソク”だ。
バッテリー容量の限界で10分しか飛べないラスト・エアベンダーだが、こうして電源を確保してしまえば、非常に優秀な攻撃手段に転じる。
特に空母の様に巨大で足元への攻撃に対処できない艦に関しては、理想的な防御手段ともなる。
一本の巨大な植物から無数の蔦が伸びるようにして、ケーブルのつながったラスト・エアベンダー達が飛翔する。
その手に持つのは徹甲焼夷弾が装填されたM134ミニガンだ。
強力な銃弾の驟雨が接近していたジュスティア海軍の船に降り注ぎ、次々と爆発炎上させる。
既に敵の動きについてはパターンが確認されており、事前情報殿すり合わせも終わっている。
こちらの方が圧倒的に有利だ。
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「進路をジュスティアに変更。
各艦、各位、前戯は終わりだ。
本 番 用 の 砲 弾 を 装 填 し ろ」
ロストアーク、オーシャンズ13が一斉に進行方向を変える。
艦首がジュスティアを向く間も、ジュスティア海軍は一切の手出しが出来ないでいた。
事前に得ていた内部情報によれば、ロストアークの主砲はスリーピースの壁を破壊できるほどに強力である。
しかし、ワカッテマス・ロンウルフからの情報が確かであれば、相手はこちらの砲弾に対して正確に砲弾を当ててくるそうだ。
迎撃装置がどこまでの精度で、どこまで動けるのかを想像し、スパムは獲物を前にした肉食獣の様な笑みを浮かべた。
用意している本番用の砲弾はあらゆる壁を貫通することに特化させた物。
砲弾が当たったところで、その砲弾の威力を減退させるのは困難だ。
減退した砲弾でもスリーピースの壁を貫通させられるか、実際に試してみなければ分からない。
再び、主砲が火を噴いた――
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 ̄ ̄__ ̄ ̄_ ≡=─ /\:::.:.. : :..:::゙:、::;;.:.. . ..:.::-=彡'=- : ..:.:-=彡
=二 __ ̄ ̄ ・ / __>、: :..:,: :..:ミ=:.. :._.:-::=彡'::ミ=-:.._ ..:.:::-=彡;
 ̄ ̄__二≡=─ - /__/:::::::::::::>: ,':=-:.:..::=::._.: ::三ミ:、:r ─── 、:=_:彡'::{
─ = 二  ̄ ̄ く> レ'::::::::::::/  ̄. :.::{=-::. :. >' ̄ ̄ ̄|::| |::
◇  ̄ ̄ . . : : : :::.::ミへ/ |::| |::
─ = ── = 二__ . . . . : : : ::::::::::l:!______!_| !::______!_|
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. , ' . :,rへ、 , . ’ ' _>: : : : : ::::::::::::__}/| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|::|
: . ' : .; /:| く__ ; '  ̄ ̄`ヽ,へ::::::::::://.::: |______|::|
∠フ ; ' ヾ! _/ !:::::::)::__l/::::::://|:::::::::::::::::::::::: |::|
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∧::::/く く> l//::::::://;';';| ! :::::::::::::::::::::: |::|
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240
:
名無しさん
:2022/05/17(火) 19:58:27 ID:EzOowemM0
同日 同時刻
――スリーピースの防壁は長い時間をかけて建造され、改築された物だ。
その内部は勿論だが、外部に至るまで常に点検が行われ、一切の不備もない状態が維持されていた。
いつイルトリアが攻めてきても平気なよう、極めて分厚く特殊な合金を使っていた。
爆発反応装甲は勿論だが、衝撃に反応する特殊素材を使用するなどの更新を密かに行っていた。
その情報はイルトリアの諜報網にさえ網羅されなかった秘中の秘。
つまりは、ジュスティアの守りの要だった。
しかし。
だが、しかし。
その壁が、三枚同時に撃ち抜かれ、街の建物に被弾することは当然だが歴史上初のことだったのは勿論だが、市長の想定を遥かに超えた事態だった。
報告よりも先に目視と衝撃によって事態を把握し、フォックス・ジャラン・スリウァヤは口に咥えていた棒付き飴を噛み砕いた。
爪;'ー`)y‐「馬鹿な!! 防御装置が効かないだと?!」
彼にとって、防御装置とスリーピースは心の壁でもあった。
絶対の自信の表れであり、それを保証するものだった。
その壁とジュスティアの歴史に今、大きな穴が開いた。
爪;'ー`)y‐「糞ッ、質量弾か……!!」
スリーピースの壁に埋め込まれた防御装置は同時に200以上の標的を捉え、迎撃することが出来る優れた装置だが、弱点が1つだけある。
それは、レーザーによる迎撃装置であるため、対象となる物が爆発しない場合はその効力を発揮できないのだ。
単純な硬度、速度、重量による質量兵器が相手に対しての迎撃装置は備えがない。
その為の壁が、スリーピースなのだ。
絶対的な硬度と特殊な設計があれば、予想していた質量兵器――戦艦の主砲レベルの物――でさえ防げるはずだった。
予想以上の威力を持つ弾が放たれ、スリーピースに大きな穴が開いた。
つまりそれは、防御装置のいくつかが失われただけでなく、相手の攻撃が通用してしまうことを意味していた。
最高速に達した砲弾を止め得る設計だったが、それを破る手段が一つだけある。
高周波振動だ。
軍用第三世代強化外骨格と比較すると大人しい平気だが、その実、単純な破壊力で言えば現代では最高の物と言える発明だ。
現に、棺桶と戦う際に攻撃にも防御にも転用し得るその発明があるとないとでは状況が大きく違ってくる。
高周波振動ナイフ一本で棺桶と戦える生身の人間の存在が何よりの証明だ。
それを砲弾に転用すれば、吹き飛ばせない壁はない。
規格外の財力と開発力を持つ組織であれば、それを開発している可能性は大いにある。
爪;'ー`)y‐「手段は問わない、敵戦艦の主砲を今すぐ無力化しろ!!」
悲鳴じみたフォックスを嘲笑うように、二発目の砲弾がスリーピースに再び大きな穴を開け、街の建物を吹き飛ばした。
241
:
名無しさん
:2022/05/17(火) 19:58:56 ID:EzOowemM0
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第八章 【 Ammo for Rebalance part5 -世界を変える銃弾 part5-】
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同日 AM09:44
常に。
そう、常にその男は悩み続けていた。
騎士としての称号を与えられてから、果たして何が自分の本性なのかと。
与えられた仕事を全て果たし、完璧以上を追求してきた。
気が付けば階段を上る様に、エスカレーターに乗っているだけで登頂できるような感覚だった。
彼にとって困難は非日常の存在だった。
何度も求め続けても、彼の手をすり抜けていった。
満たされることのない日常は、難事件を解決する部署に配属されても変わらず、いつの間にかその責任者になっていた。
やがてその実績が買われ、騎士としての地位を得た。
彼の生まれた街でその地位を得ることは、夢を叶えることに等しい出来事だが、彼にとっては日常の一つだった。
実感も、満足感も、何も得られない人生の中で唯一、彼を満たすものがあった。
それは、未知の存在だった。
――デレシア。
242
:
名無しさん
:2022/05/17(火) 19:59:17 ID:EzOowemM0
その名前は、ジュスティアの深部に触れない限り聞くことのない名前だった。
それはまるで、神話の中の存在のように圧倒的な物だった。
当初、彼はその存在をただの書類上の名前でしか記憶していなかった。
名前は彼にとって覚えるのにわけのないものだった。
それが現実のものとして彼の耳に届いた時、彼の興奮が始まった。
あり得ない、あるいは、その名を語る偽物とだと思っていた。
期待が常に裏切られ続けてきた処世術だった。
だがしかし、現実のものとして目の前に現れた時、彼の心は決まった。
積み重ねてきた何もかもを失っても構わないと思えるほどの、圧倒的な興奮。
組織から与えられた任務は、彼にとって極めて都合のいい物だった。
二重スパイとしての役割を与えられたが、その実、彼はどちらにも組しない存在として立ち回る自由を得たのだ。
( <●><●>)「何の用ですか、いきなり呼び出して」
ロストアークの食堂に呼び出されたワカッテマス・ロンウルフは、目の前で腕を組む禿頭の男に溜息交じりにそう言葉をかけた。
その声には明らかな怒りが込められ、それは言葉にも表れていた。
度重なるストレスと心労で、その目は以前よりも小さくなっているようにも見えたが、瞳の奥にあるどす黒い執念の炎は揺らぎがない。
(´・ω・`)「お前の目的は何だ?」
ショボン・パドローネの語気はどこか穏やかですらあったが、それは間違いなく嵐の前の静けさと呼ばれる物の類だった。
潮風と爆風が壁を隔てた向こう側から聞こえてくる。
二人の世界にあるのは、静寂と緊張、そして密かな興奮。
( <●><●>)「……何の話ですか」
(´・ω・`)「今、報告があったんだよ。
ラヴニカが蜂起したそうだ。
お前が殺したはずの人間が先導している。
死を偽装できたのはお前だけだ」
( <●><●>)「おや、それは不思議ですね。
亡霊でも出たんじゃないですかね」
しかし、ワカッテマスの冗談を無視し、ショボンは続ける。
(´・ω・`)「ところが、だ。
お前は俺ですら知らない、ジュスティアに不利な情報を流した。
まぁそれが真実かどうかはさておいて、現実に起きていることだからな。
お前は、何がしたいんだ」
お互いに、利き手がそれぞれの得物を潜ませた場所に自然に向かう。
そのことをお互いが視野の中に入れている。
後は機会だけだ。
機会が訪れれば、自ずとやるべきことをやるだけだ。
( <●><●>)「私が何を言っても信じないのでしょう?」
243
:
名無しさん
:2022/05/17(火) 19:59:40 ID:EzOowemM0
(´・ω・`)「円卓十二騎士がジュスティアを裏切るなんてこと自体があり得ないが、今回は状況が状況だ。
お前が本当のことを話せば、俺は安心してお前を殺せる。
話さなければ少し痛い目を見てもらってから殺す」
静かに。
ただ、極限まで集中した二人の世界からは、音が消えていた。
( <●><●>)「真実から逃げ出した男が、私を殺すと?
そうやってまた、真実を一つ手放すつもりなのですか」
(´・ω・`)「饒舌な野郎だな。 そういう男は嫌いだ」
( <●><●>)「妻子の仇に組している哀れな人間を前にしたら、誰だって饒舌になります」
(´・ω・`)「お前は前から嘘の吐き方は一流だが、交渉術は三流だな」
緊張の糸。
両者の間にある、あるいは、両者が乗る極めて細い均衡が音を立てて切れる寸前の気配。
今まさに、坩堝が溢れ返ろうとしていた。
( <●><●>)「二人が死んだ内戦は、内藤財団が原因だというのに」
(´・ω・`)「もう黙れよ!!」
ショボンの叫び声とほぼ同時。
二人の頭上で主砲が爆発し、衝撃波と振動が二人を襲った。
その爆発に備えることが出来ていたのは、爆発がいつ起きるのかを正確に知っていたワカッテマスだけ。
爆発の衝撃と音でショボンは耳を押さえてその場に膝を突くが、辛うじてワカッテマスを睨み上げるだけの気力は残っていた。
だが爆発音の影響で彼の聴力は著しく低下し、三半規管に影響が出ていた。
視線の先にある拳銃の撃鉄が起きているのを見て、ショボンは忌々し気に歯ぎしりする。
暗い銃腔の奥に待ち構える銃弾の気配を、ショボンは確かに感じ取ってしまったのだ。
(;´・ω・`)「……くそっ!!」
( <●><●>)「大丈夫ですか? 私の声、聞こえていますか?
争っても仕方がないんですよ」
(;´・ω・`)「うるさい……
仇なんてのはな、最初から知ってるんだよ」
( <●><●>)「なのに手助けをするなどと、あなたらしくない」
ショボンといえば、多くの犯罪者を牢屋に入れ、然るべき罰を受けさせてきた熟練の警官だった男だ。
腐っても警官だった過去を考えれば、怪しげな新興宗教の様な類に騙される人間ではない。
引退後、住んでいた街で起きた内戦に巻き込まれ、妻子を失ったことが組織に入るきっかけとなった。
しかし、その内戦が起きたのは内藤財団が持ちかけた商売の話が原因だった。
244
:
名無しさん
:2022/05/17(火) 20:00:26 ID:EzOowemM0
賛成派と反対派。
その二つの意見と鬱憤が武力という形でぶつかり、最悪の結果を生んだ。
ならば、最初に内藤財団が声をかけなければよかったのでは、と考えるのが人間だ。
復讐の為に世界を敵に回そうとする人間の思考などどこか狂っている物だが、根底は人間の持つ感情に根差したものである。
だが――
(;´・ω・`)「仇討ちをしたら世界が変わるのか?
正義を成せば世界が正しいものになるのか?
いいや、違うね。
ルールが変わらない限り、世界は変わらない。
復讐なんてのは、海を変えようと海に小便をするようなもんだ。
海の本質が変わらない限り、ただの自己満足で終わるんだよ。
死者への最大の弔いは、その死を無駄にしないことだ!!」
――土壇場で彼の理性が復讐の無意味さを悟り、それを別の何かに転化させたのであれば、一応の説明はつく。
実に人間らしく、正義の都に長くいた男の発想といえる。
むしろ、倫理的に考えて彼の言葉は非常に模範的でさえある。
( <●><●>)「その為であれば、妻子の仇に手を貸す、と。
いやはや、随分と素晴らしい人間性ですね」
(;´・ω・`)「二人の死に意味を持たせる。
ワカッテマス、お前も気づいているんだろ?
この世界のルールが、どうしようもなく正義から遠ざかっていることに」
( <●><●>)「あなたたちのしていることも、大分正義から遠いように思えるんですがね。
奥方、あぁ、この場合は何と言えばいいんでしたっけ?
まぁひとまず、隠居生活を送る場所を間違えたのは、あなたのミスです。
自分たちも同じようなことをしているのに、随分と虫のいい話ばかりしますね」
ショボンに非があるとしたら、やはり隠居先だった。
長らく争いから離れていた街ではあったが、歴史を紐解けばその争いがいつ再発しても不思議ではないことは明らかだった。
言わば、着火の瞬間を待っている爆弾の様な街だ。
表向きは平穏な街だが、ほんの少し対立の要素を投げ込めば、それだけで街の人口が半分以下になるような場所なのである。
(;´・ω・`)「何?」
( <●><●>)「耳付きに対しての強い差別は、あなたの奥方が殺されたのと根底が同じです。
差別するという気持ちがある以上、あなた方が掲げる新ルールも今のルールも、大差はありませんよ」
内戦で殺されたショボンの妻は、その実、性自認が逆転している人間だった。
表向きはただの夫婦だが、実際にはジュスティアの法律では認められていない同性婚なのだ。
そして、内戦では徹底して敵対する人間と異端者が殺されることになった。
特に、外部から移住してきた人間は街に余計な物を持ち込んだ存在として、保守派の人間の標的となってしまった。
結果、ショボンの妻子はその標的となり、彼は家族を奪われたのだ。
(#´・ω・`)「耳付きとあいつを一緒にするな!!」
245
:
名無しさん
:2022/05/17(火) 20:01:29 ID:EzOowemM0
( <●><●>)「差別、という点が一緒なんですよ。
自分と異なる物を排除することが続く限り、世界の名前を変えただけで終わりです」
(#´・ω・`)「何だ、お前。 分かってないな。
耳付きは差別の対象じゃなくて、駆除の対象なだけだ。
病原菌を根絶やしにする、それだけだ」
( <●><●>)「その発想で言えば、同性愛者も同じことかと。
あなたが率先して自分の頭を撃ち抜けばいいのでは?」
(#´・ω・`)「個人の性は自由であるべきだ。
だが耳付きは人間じゃない。
正常な人間の遺伝子に異常が出た、突然変異種だ。
ここで絶やさなければ、人間はいずれ獣に落ちぶれる。
だから、ジュスティアでも耳付きは人間としては扱わない。
お前もその内の一人のくせに、よくも好き放題言えるな」
( <●><●>)「まぁ正直、私も耳付きを気持ちよく思ってはいませんよ。
ですが、だからと言って根絶やしにしたりする必要はないと考えています。
ほら、私はトマトが苦手ですが、それを絶滅させようとは思っていないのと同じですよ。
嫌な物は無関心が一番です」
(#´・ω・`)「やっぱりお前はぶっ殺す」
( <●><●>)「正義の味方で在り続けられなかった人に、私は殺せませんよ」
ワカッテマスの持つ拳銃が火を噴いた。
無慈悲に放たれた銃弾。
それは彼の狙い通りの場所に撃ち込まれたが、その場にショボンはいなかった。
( <●><●>)「……マックスペインですか」
懐に入れていたのが銃だと勘違いしていたが、彼が使用したのは身体能力を劇的に向上させる薬物だった。
一瞬にして銃腔から姿を消したショボンは、ワカッテマスのすぐ隣に移動しており、容赦のない鉄拳をその顔に放った。
寸前でその攻撃を手のひらで受け止めつつ、威力を殺すために自らその場を軽く飛ぶ。
驚くほどあっさりとワカッテマスの体が宙を舞い、テーブルに激突した。
そのままテーブルの上を滑り落ち、姿勢を整える間もなくショボンが両腕を鎚のように振りかぶって頭上から襲い掛かってくる。
丸椅子を投げつけ、牽制する。
それはショボンにかなりの速度で当たったが、着地後の彼に怯む様子はなかった。
(´・ω・`)「効かねぇよ」
( <●><●>)「そんなことは分かってますよ」
牽制はフェイント。
本命は拳銃。
二発の銃弾はむなしく虚空を貫き、辛うじて視界の端にショボンの姿を捉える。
反応速度だけでなく、肉体の挙動も通常のマックスペインでは考えにくいレベルだ。
246
:
名無しさん
:2022/05/17(火) 20:01:52 ID:EzOowemM0
マックスペインを2本使用した、もしくは濃度の高い物を使ったのだろう。
( <●><●>)「ドーピングのし過ぎは脱毛を早めますよ」
(´・ω・`)「ははは!! もうねぇよ!!」
( <●><●>)「毛だけに?」
(#´・ω・`)「やかましい!!」
今度はショボンが椅子を投げつけてきた。
ワカッテマスの数倍の速度で放られた椅子は、それだけで十分な威力を持つ。
殺傷力は文句がないだろう。
手近な椅子を蹴り上げ、それを空中で椅子に激突させる。
その隙にワカッテマスは牽制射撃を行いながらキッチンに逃げ込み、適当な武器を見繕う。
銃弾が当たらなければ近接戦しかない。
シンクの上にあったラックから包丁を手に取り、躊躇いなく連続で投擲する。
(´・ω・`)「……刃物は駄目だろ。
男らしく殴り合いだ」
だが最初に投擲された二本の包丁の柄を掴み取ると、残った全ての包丁が冗談のように打ち払われ、地面に転がった。
腕力だけで人間を殺せる状態にあるショボンの提案に、ワカッテマスは苦笑交じりに答えた。
( <●><●>)「自前の筋肉ならいいのに、ドーピングしている人間にそれを言われても」
(´・ω・`)「いいじゃねぇか」
( <●><●>)「良くないですね、そんなゴロツキみたいな真似」
シンク下に隠していた小型コンテナを掴み、ワカッテマスは挑発的に言った。
( <●><●>)『私がゴロツキでないことを、この拳が証明する』
その起動コードは近接戦闘用の棺桶の中でも、非常に異色なコンセプトの元に設計された“拳闘用強化外骨格”。
名持ちの棺桶として量産されたが、その利点は拳の一撃を強化することだけで、他にはない。
腕力の強化という点で言えば、他にも優れている物は多々ある。
つまり、棺桶としての魅力は極めて低く、使用者の自己満足を満たす目的が非常に強い物だ。
合計で6種存在する“ロッキー”の名を持つ棺桶は非常にコンパクトで、尚且つ携帯性に優れている。
こうしてキッチンの調理器具の間に隠しておくことが出来るのが、数少ないメリットだろう。
一瞬にして両の拳を覆うのは、ハンマーのように武骨な指を持った手甲だ。
それを振るうための補助はなく、人間の力のみで使わなければならない。
言わば金属製のグローブだ。
あまりの重さに、棺桶の筋力補助を受けていないワカッテマスの両肩が下がってしまう。
最も軽量かつ秘匿性に優れる最初期のロッキーは、拳を保護することに重きを置いている。
故に、使いこなすためにはそれなりの筋力が必要になる。
247
:
名無しさん
:2022/05/17(火) 20:02:17 ID:EzOowemM0
( <●><●>)「これでフェアですね」
(´・ω・`)「使い慣れてない武器で、どこまでやれるかな」
( <●><●>)「こう見えても、私は円卓十二騎士ですからね」
(´・ω・`)「仮に“ロールシャッハ”だろうが何だろうが、武器の優劣は覆せない。
得意不得意も同様だ」
( <●><●>)「……ふふっ、あなたも随分と可愛らしいことを言いますね」
(´・ω・`)「あん?」
( <●><●>)「私と殴り合うのが怖いんでしょう?
鶏 野 郎」
激怒した人間がその怒りを暴力として速やかに実行出来る時、そこに言葉はいらない。
結果を生み出す。
ただ、それだけの為に動く。
椅子を手に持っているはずのショボンの姿は一瞬にして移動し、キッチンにいるワカッテマスの胸倉を掴み、片手で空中に放り投げた。
身動きの取れない空中にいるワカッテマスに向け、やり投げの要領で椅子が投擲される。
装甲の付いた両腕で顔を守っていなければ、彼の顔は奇妙なオブジェと化してロストアークの天井に縫い付けられていただろう。
落下する寸前に再びショボンが現れ、殺意のこもった後ろ回し蹴りを繰り出した。
狙いは頭。
命中すれば脳への深刻なダメージは避けられず、頚椎が折れることは間違いない。
仮にかすったとしても脳震盪によって動きが鈍り、そこに追撃を加えれば十分に絶命させ得る一撃だ。
腕の上からでもその威力は十分であり、何の装甲もない生身の体に受ければ最低でも骨を砕く。
(;´・ω・`)「何?!」
だが、彼の足裏が感じ取ったのは骨を砕く感覚ではなかった。
硬い金属か、もしくはそれに準じる硬度を持った何かの存在に思えただろう。
( <●><●>)「重要なのは筋力だけじゃないんですよ」
離れた位置に互いに着地し、睨み合う。
(;´・ω・`)「棺桶をもう一つ使っているな、お前。
何だ、“キャッツ”か?」
( <●><●>)「小説の悪役じゃないんですから、そんなもの、35分前にとっくに装着してありますよ」
(´・ω・`)「何かしてくると思ったが、やっぱり狡い真似をしてきたか」
( <●><●>)『私は世界が滅びようとも妥協はしない。それが私とあなたとの違いですね』
248
:
名無しさん
:2022/05/17(火) 20:02:40 ID:EzOowemM0
それは、起動していない時は衝撃によって硬化し、その表面にモノクロの迷彩を施すことが出来る特殊繊維で作られた棺桶の起動コード。
一度起動すれば筋力補助と光学不可視化迷彩を使用することのできる、名持ちの棺桶“ウォッチメン”のそれだった。
しかしそれがコードであることを、ショボンは認識できていなかった。
既に着用した状態のウォッチメンへのコード入力は特に目立った動きも何もなく、特徴的な何かがあるわけでもない。
ましてやその存在を同僚の前で晒したことは一度たりとも無い。
“モスカウ”の統率者は秘密を暴く人間であると同時に、最も秘密の多い人間でもあるのだ。
複数の棺桶を同時に使うことに関して、彼ほど長けた人間はジュスティアにはいない。
会話中に自然に起動コードを織り交ぜ、戦闘能力の低いAクラスの棺桶を使い分ける。
簡単そうな動作だが、実戦で実施するとなるとその難易度は極めて高い物となる。
そんな彼の功績も能力も、モスカウ内で知る人間は一人としていなかった。
彼は謎の中に生き、謎を追い、謎を蓄える存在なのだ。
( <●><●>)「さぁ、拳で語り合うんでしょう?」
(´・ω・`)「あぁ、丁度いいハンデだ」
直後、ショボンの足が床に固定されていた金属製のテーブルを蹴り上げ、ワカッテマスに蹴り飛ばした。
それを拳で撃ち落とすと、その向こう側からドロップキックが襲い掛かってきた。
(;<●><●>)「っと?!」
(´・ω・`)「実戦経験の差だな!!」
テーブルを盾のように掴んで後退したワカッテマスに対し、テーブル越しにショボンの蹴りが連続で襲い掛かる。
全てを防ぐことが出来ないと判断したワカッテマスは、左の拳を握り固め、力強くテーブルに向けて放った。
呆気なくテーブルは砕け、両者の攻撃が直に激突する。
競り勝ったのは当然、ワカッテマスだった。
(;´・ω・`)「ちっ……!!」
攻撃において、硬度、重量、そして速度は破壊力に直結する重要な要素だ。
ショボンに欠けているのは硬度と重量だった。
三つの要素の内、二つで劣っているショボンがワカッテマスの攻撃に勝る道理はない。
理屈をねじ伏せるための技術を発揮しようにも、両者の間にあるテーブルという壁が搦め手を許さない。
それはワカッテマスも同様であり、勝っているとしても、追撃をかけることができない。
床にテーブルが落ちて互いの姿が見えた時、両者は示し合わせたように距離を取っていた。
(´・ω・`)「案外、動けるんだな」
( <●><●>)「言ったでしょう? 妥協はしないんです。
……では、遊びはこのぐらいにして、本気で行きましょうか」
(´・ω・`)「面白い、かかってこい!!」
ショボンが身構える。
それを見て、ワカッテマスは悪戯っぽく笑みを浮かべた。
249
:
名無しさん
:2022/05/17(火) 20:03:02 ID:EzOowemM0
( <●><●>)「やるべきことはやったので、私はさっさとこの船から逃げさせてもらいますね」
(´・ω・`)「……え」
――唖然とするショボンを置いて、ワカッテマスは何の躊躇いもなくその場から走り去った。
(#´゚ω゚`)
残されたショボンは呆然としたが、瞬時に顔を赤くして激怒し、その後を追ったのであった。
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同日 AM09:48
海上で異常が生じている間、ジュスティア陸軍はオリノシという町で大規模な戦闘を強いられていた。
北から接近してきた大規模な部隊を相手に、陸軍は最初から全力を出さざるを得なかった。
相手の指揮官が元イルトリア軍人で尚且つ、対ジュスティア戦に並々ならぬ意欲を持つ人間だったことがその原因だった。
先行していた偵察部隊から、敵がオリノシを横断してイルトリアに向かうという情報を得たことで、戦場は必然的に町の中で行われることになった。
オリノシの町はどの建物も薄汚れており、耐久性は低い物ばかりだが、その密集率は大規模な部隊の展開を拒む姿をしている。
だがそれは、両者にとって同条件だった。
互いに率いる車輌部隊は町の道を一列になって横断せざるを得ず、戦車はその砲塔を自在に使うことが出来ない。
数年前から増え続けた家屋が町そのものを飲み込むような形となっており、優劣を決するのは市街戦に長けているかどうかという点に絞られた。
250
:
名無しさん
:2022/05/17(火) 20:03:24 ID:EzOowemM0
敵がオリノシをあえて通過するということがジュスティア陸軍への挑戦であることは明白であり、オリノシそのものが内藤財団によって買収されているのは明らかだ。
それでも、陸軍は正面からそれを迎え撃つことに何一つ躊躇うことはなかった。
罠があったとしても、それを踏み越えることが出来るという自負があったのだ。
そして今、陸軍大将のオワタ・ジョブスはライフルと無線機を手に、最前線にいた。
その顔は土と砂利にまみれ、汚れた姿をしていた。
一般人と戦闘員の区別がつかないことは最初から分かっていたため、陸軍は自軍以外全てを敵として対応することを徹底した。
女子供が相手であっても、彼らは攻撃の手を緩めることはしなかった。
最初、民間人に攻撃を加えることに躊躇いがあったが、対戦車ロケット砲を持っている子供が民家から現れた時、その気持ちは霧散した。
陸軍は部隊を二分し、敵が町の外に出ないように車輌部隊でオリノシを囲うことにした。
そして、オリノシの中で戦うことになったのは歩兵だった。
強化外骨格という鎧があれば、例え戦車が相手でも戦い方次第では圧倒的な力で排除することが出来る。
最新の対強化外骨格用の武装を与えられた民兵を相手に、陸軍は当初の予想に反して苦戦を強いられていた。
敵の指揮官を探そうにも、相手の正確な位置が分からないため、小隊に分かれて戦闘を行った。
町の構造をよく知る相手を前に、一人、また一人と兵士が倒れていく。
オワタ率いる小隊は一時的に近くのアパートを退避場所に選び、即座に制圧した。
ようやく安全を確保した二階建てのアパート内で、オワタは周囲の銃声と爆発音にかき消されないよう、無線機に向かって怒鳴り声をあげた。
\(^o^)/「砲撃支援はどうなってる?!」
一応はコンクリートで作られた建物だが、爆風で絶えず振動しており、天井から埃や粉塵が降っている。
『観測手からの通信が来ません!!
それに、味方に当たる可能性が高いです!!』
敵の攻撃に対抗するには、砲撃をするしかない。
建物を吹き飛ばし、敵の潜伏している場所を減らしていくのが最適解だった。
幸いなことに味方の位置は分かっているため、敵のいる可能性のある場所だけを攻撃することが出来る。
問題があるとしたら、攻撃地点に敵がいない可能性があることと、倒れた建物に味方が巻き込まれないかどうか、という点だ。
その為の観測手が各小隊に配置されているが、通信による指示が可能な状態ではないのだろう。
通信兵でさえ戦闘に積極的に参加しなければならない程の苛烈な状況になるとは、当初は考えられていなかった。
\(^o^)/「ならこっちで座標を指示する!!
超至近距離着弾でもいい!! とにかく、連中を吹き飛ばしてくれ!!」
指揮官が最前線で戦わなければならないという彼の信念は誰よりも素早い決断を可能にし、軍全体の指揮の向上につながった。
オワタの指示から1分もせず、砲撃が行われた。
ジュスティア陸軍の砲兵隊による砲撃は味方を巻き込みかねない超至近距離への攻撃ではあったが、それは極めて精密なものだった。
砲撃は町の外から行われ、指定された座標にある建物が吹き飛ぶ。
しかし、砲撃の間でも敵は姿を現し、攻撃を続けてきた。
敵部隊の戦車、装輪装甲車が道を塞ぎ、歩兵がそれを乗り越えようとすると撃たれてしまう。
対強化外骨格用の銃弾が雨のように降り注ぐため、Bクラスの棺桶が生身の人間に撃ち殺されるという事態が生じている。
オワタのいる建物の近くに着弾し、爆風が窓ガラスを割った。
\(^o^)/「いいか、絶対に町から外に連中を出すなよ!!」
251
:
名無しさん
:2022/05/17(火) 20:03:49 ID:EzOowemM0
『了解です!!』
この場所を通過させてしまえば、ジュスティアに残されたのはスリーピースだけになる。
ここで食い止めなければならないことは、兵士全員が分かっている。
それでも、飛び交う銃弾が負傷者を増やし、死体を増やす。
更なる攻勢に出るためには、砲撃支援が欠かせない。
『こちらゼロナナ小隊、弾薬がそろそろ尽きそうだ!!
連中の銃を鹵獲して使う!!』
それは初めての報告だった。
弾薬が尽きれば、残された道は白兵戦しかない。
敵の使う武器を鹵獲するのは最後の手段だったが、この状況でその判断は正解だ。
対強化外骨格用の弾が装填されていれば、こちらの武器としても十分に使える。
しかし、それを急いで否定する通信が入った。
『駄目だ、あいつらの銃には罠がある!!
使ったら弾倉が暴発する仕組みだ!!
さっき部下の手首から先が吹き飛ばされた!!』
\(^o^)/「ちいっ……!!」
戦闘開始から絶えず発砲すれば、いくら予備の弾を装備していても弾薬が尽きるのは時間の問題だった。
そして、補給路がないことも問題だった。
分散した結果、一時退却するにも時間がかかってしまう。
戻ろうとする小隊の背中からは銃弾と砲弾が飛んでくる。
相手は町中に弾薬を隠し持っているらしく、補給路を作る必要がないのだ。
ジュスティア軍が採用している銃と相手の銃では弾薬の規格が異なり、現地調達も不可能だった。
これがオリノシを戦場に選んだ理由なのだとしたら、大した相手だ。
戦いの舞台としてこの町を用意し、こちらが誘い込まれることを想定して行動していたのだから。
この状況を悲観する兵士は恐らく一人もいないだろう。
むしろ、これまで培ってきた技術の全てを出せるとあって、喜んでいる者もいるはずだ。
オワタ自身、久方ぶりに戦場に足を運んで指揮を執っているが、高揚感は否めない。
\(^o^)/「……」
不意に、オワタは首筋に悪寒を感じ取った。
彼と部下は建物を完全に制圧していた。
敵となり得る存在は全て排除した。
一階と屋上に通じる通路には部下を配置し、敵の侵入には細心の注意を払っている。
しかし、彼が感じた悪寒は間違いなく殺気の類だ。
部屋に持ち込んだ棺桶を背負う。
直後、足元が揺れたかと思うと、視界が一気に傾く。
\(^o^)/「な、何だ?!」
252
:
名無しさん
:2022/05/17(火) 20:04:15 ID:EzOowemM0
彼と小隊のいたアパートは根元を切り払われ、倒壊した建物に小隊全員が埋もれることになった。
[,.゚゚::|::゚゚.,]『いい墓標になったな』
瓦礫の山の前に、一機の棺桶が立っていた。
左腕からは排熱した湯気が立ち、地面には使い果たしたバッテリーが転がっている。
大出力の戦術高エネルギーレーザーによる比類のない一刀両断。
障害物除去に特化したその棺桶は、市街戦でこそ、その力を発揮できる。
その声は瓦礫の下にいる人間には届かなかった――
[,.゚゚::|::゚゚.,]『ん?』
――だが、声が届かなくとも問題はなかった。
オワタにとって必要だったのは、相手の位置であり、姿であり、そして何よりも指揮官の存在だった。
瓦礫の山が、巨大な爆発によって吹き飛ぶ。
男は反射的に右腕で顔を庇い、カメラへの損傷を防ぐ。
爆炎の中、1機のユリシーズが仁王立ちになっていた。
追加装甲と追加武装によって歩く爆薬庫と化した、オワタ専用のユリシーズ・カスタムだ。
〔 <::::日::>〕『お前が指揮官だな』
[,.゚゚::|::゚゚.,]『驚いた、生きていたのか』
巨大な爪を持つ白い棺桶の使用者が、心底驚いた風に声を上げた。
倒壊する直前に棺桶の装着を完了させていたため、オワタはこうして生還することが出来たのである。
彼の使用するユリシーズは全身に大量の榴弾を装備しており、彼の体に乗っていたコンクリートの山も容易く吹き飛ばすことが出来る。
通常のユリシーズよりも堅牢な対爆装甲で全身を覆っているのは、榴弾を多用する彼の戦い方を支援するためだ。
〔 <::::日::>〕『……その声、聞き覚えがあるな。
イルトリア人だな』
[,.゚゚::|::゚゚.,]『陸軍大将に覚えてもらえているとは、光栄だよ。
だが俺は覚えてない』
〔 <::::日::>〕『あぁ、思い出したよ。
小便を漏らしながら命乞いをしたクソッタレだ』
すかさず戦闘が始まるかに思われたが、男は寸前で踏みとどまった。
踏み込みかけただけで足元の瓦礫が砕けていた。
そのまま飛び込んできていれば体勢を崩し、その隙に間違いなく高威力の打撃が襲ってきたことだろう。
それと同時に、勝敗は決していたはずだ。
[,.゚゚::|::゚゚.,]『見えすいた罠だな』
〔 <::::日::>〕『そう思うか? 臆病者』
[,.゚゚::|::゚゚.,]『安い挑発は買わないことにしている』
253
:
名無しさん
:2022/05/17(火) 20:04:41 ID:EzOowemM0
〔 <::::日::>〕『はははっ、なるほどな。
遊び心のない奴だ。
いいさ、別に』
両腕を胸の前で交差させ、オワタは静かに言った。
〔 <::::日::>〕『お前が逃げなければ、別にいい』
全身に仕込んでいた榴弾が四方八方に射出される。
着弾と同時に爆発が起き、炎が上がり、周囲一帯を瓦礫の山と火の海に変える。
[,.゚゚::|::゚゚.,]『派手な演出だが、陸軍大将の葬式にはちょうどいいな』
〔 <::::日::>〕『お前の葬式になるかもしれないぞ。
どうした、参列者は呼ばなくていいのか?』
[,.゚゚::|::゚゚.,]『人望のある方の参列者が来るのが常識だろ』
〔 <::::日::>〕『ほう』
ならば、とオワタは声なく続ける。
ならば、最も熱烈な参列者が来るのはオワタの方だ。
オワタの意図にようやく気付いた男が、震える声で言った。
だが遅い。
既に榴弾に紛れて信号弾を打ち上げており、味方の行動が始まる頃だ。
[,.゚゚::|::゚゚.,]『……お前、まさか』
〔 <::::日::>〕『もう遅い。 さぁ、勝負といこうか!!』
二人の頭上から、砲弾が雨のように降り注いできた。
砲撃によって地面は抉れ、瓦礫が砲弾のように水平に飛んでいく中、炎の嵐が吹き荒れる。
防爆に特化した装甲を持つオワタの戦い方は非常にシンプルだ。
自分のいる場所に敵を集中させ、自分ごと砲撃させる。
僅か3分。
しかし、苛烈極まりない3分間だった。
周囲500メートルは全て更地と化した。
Cクラスの棺桶の装甲でも無事では済まない。
〔 <::::日::>〕『……ほう』
だが、彼の目の前にいる敵は健在だった。
それどころか、もう1機棺桶が増えていた。
まるで傘のように頭上に薄い装甲が展開され、その下にいる先ほどの棺桶は無傷の状態だった。
間違いなく防御特化の棺桶だ。
[,.゚゚::|::゚゚.,]『危うく泣かされるところだった』
254
:
名無しさん
:2022/05/17(火) 20:05:03 ID:EzOowemM0
〔 【≡|≡】〕『ああいう爆弾馬鹿は痛い目を見せたいと思っていた。
見ろ、味方まで巻き込んでやがる。
さっさと殺るぞ』
確かに、更地と化した場所には味方がいたかもしれない。
崩れた建物の下に生存者がいたかもしれない。
それでも、正義執行のためには誰もが命を懸ける覚悟があった。
せめて彼らが安らかに死ねた事を願うばかりだ。
〔 <::::日::>〕『面倒だ、まとめてかかってこい!!』
――その時、頭上から飛来した物体の存在に気づいたのは僅かに一人だけだった。
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同日 同時刻
『……着弾確認、恐らくこれで全滅です』
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