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Ammo→Re!!のようです

55名無しさん:2021/12/20(月) 18:02:58 ID:3mky2adU0
きたか!!楽しみ!!

56名無しさん:2021/12/21(火) 22:17:55 ID:LQkR8OAM0
次回楽しみです!
これまでの世界の有り様見てると世界征服も選択肢の一つとしていいのでは?と思っちゃったり

57名無しさん:2021/12/27(月) 19:29:02 ID:5a5RWm0c0
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夢は叶えれば実現する。

        ――ヴェルター・ディスティニー著『夢を実現するたった一つの方法』より抜粋


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昔。
気の遠くなるほど昔。
天才と謳われた誰かが言った。

            __, --──-、_
           /::_, -‐─ ‐-、_::::`‐-、
.           /::/        `‐i:::::::ヽ
           |:./           ',ミ::::::}
           }:l             lミ::::::l'
         _!,'_ ,..-- ..、   __ !::::::::|
        lヽ! `i ィェッ、.i'゙"i';;;ィェッ;,`i===,、
         ',.l  ゙、゙゙゙゙゙,ノ  ヽ_"゙゙゙/ r;;;;;;/
          i|    ̄,'  ::::ヽ `''" .,{;;;;;;/
           ',.    ゙`-"゛''   ,};;;;;;'
          !   ,_、,___,  /;;;/"
         _,` 、       /;;r'
   _,, -─ '';;;;;;;;;| 、ヽ,,____,,-‐';;;;;;;;;;;\_
   ;;;;;;;;;;;;;;;;;;『第三次世界大戦は最新の武器と兵器による戦争になるだろう。
   ;;;;;;;;;;;;;;;;;; その時の武器は想像も出来ないが、その次なら断言できる。
   ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;; 石と棍棒だ』

しかし、それは誤りだった。
確かに、第三次世界大戦は最新の武器と兵器が飛び交う戦争になった。
世界は焼け野原と化し、人類史に大きな傷を残した。
戦術核の炎が生物を焼き払い、舞い上がった粉塵と灰が青空を奪い、太陽の光と熱を地球から遠ざけた。

世界は再生を始めたが、人々の生活の基盤には第三次世界大戦が起きた当時の文明の力があった。
偶然発見された文明の利器が人類の進化を停止させると同時に、その水準にまで進化させた。
手にしたのは石と棍棒ではなく、銃と“棺桶”と呼ばれる強化外骨格。
世界を支配するのは、力という単純なルール。

そして、時が経った九月二十五日。
世界が失ったものを取り戻すための戦争が、幕を開けた――

58名無しさん:2021/12/27(月) 19:30:02 ID:5a5RWm0c0
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Ammo→Re!!のようです
Ammo for Rebalance!!編

第四章【 Ammo for Rebalance part1 -世界を変える銃弾 part1- 】

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September 25th AM06:04
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                 √ハ             |::::|::|:::i|::|_|_| |     川
                   ̄    只     |〕   |::::|::|:::i|::|_| |_|  /| /::|::|
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‥…━━ ジュスティア ━━…‥
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59名無しさん:2021/12/27(月) 19:33:24 ID:5a5RWm0c0
街に設置されたラジオから放送された内藤財団の発言は、世界の正義を掲げるジュスティアの街の隅々に響き渡っていた。
それは内藤財団傘下の企業が作ったラジオに組み込まれた一声放送装置を利用した強制的な放送で、まだ眠っている人間もいたが、ほぼ例外なく、その発表を聞くことになった。
電源さえ確保されている状況であれば、主電源に関係なく放送をかけることが出来る仕組みを知るのは今日の放送に関わる人間達だけだ。
状況を正確に理解していない人間が多くいる中、放送を聞いていたジュスティア軍の人間は宣戦布告の対象になっていることを理解し、即座に行動に移していた。

後に、ジュスティアの命運を分けることになったのがジュスティア海軍の初動だった。
ジュスティア海軍が所有するレーダーとブイは東の海に正体と所属不明の艦隊がいることを捕捉し、基地中にけたたましいサイレンを響かせた。
そのレーダーとブイはいつの日か、イルトリアが攻めてくることを想定して設置され、数十年間一日も休むことなく稼働していたものだった。
レーダーを担当していた人間も、その場で指揮をする人間も、この事態がイルトリア海軍による侵略行為であるとは考えなかった。

イルトリアであれば、レーダーに捕捉されるというヘマはしない。
イルトリアであれば、捕捉された瞬間に砲撃を始めている。
イルトリアであれば、海だけでなく陸からも攻撃が来ている。
そうしたあらゆる“イルトリアであれば”が、今回はあまりにも欠落していたのである。

連絡は迅速かつ訓練通りに海軍大将、海兵隊大将、陸軍大将、軍の元帥、そして市長へと通達された。
宣戦布告が現実のものとなったと断言するには、あまりにも十分すぎる情報だった。

(ΞιΞ)「東の海上に所属不明の艦隊を確認。
     数、14。
     進路は西南西」

連絡を受けたフォックス・ジャラン・スリウァヤは連絡を即時修正させた。
攻めてきているのは所属不明の団体ではなく、内藤財団である、と。
それと同時に、フォックスは一般市民の避難誘導を陸軍と警察に命じた。
この間、僅かに2分。

指示を受けた各組織の末端が動き始めるのには1分。
ラジオによる宣戦布告から3分で、ジュスティアは体制を整えることに成功した。

爪'ー`)y‐「避難先は予定通り、地下シェルターを開放しろ。
      避難させる人間はジュスティア内の全員とするが、避難を拒否するのならば構わん、放っておけ。
      警察は火事場泥棒、略奪者の類を射殺することを許可する。
      この期に及んで治安を乱す、避難の邪魔をする輩は老若男女、理由を問わず殺して構わない。

      スリーピースは現時刻をもって閉鎖、あらゆる物流を停止させろ。
      誰も入れるな。
      文句を言う輩は壁の上からでもいい、外に叩きだせ。
      対イルトリア用のマニュアルに従って、迅速に行動しろ。

      発砲、逮捕は各位の判断に委ねる。
      あらゆる責任は私のものとする。
      スリーピースの防御装置を起動。
      艦隊を出撃させ、攻撃がなくても現場の判断で戦闘を開始しろ」

その指令は訓練以上の速度で各部署に伝わり、実行された。
スリーピース前に並んでいた車列は全て物理的に排除され、代わりに、陸軍の戦車が現れてその場を封鎖した。
強引にその場に留まろうとした車輌は容赦なく踏み潰され、蹴散らされた。
戦車の砲塔は海に、そして陸に向けられ、完全武装歩兵を乗せた輸送車が現れて所定の位置に向かう。

60名無しさん:2021/12/27(月) 19:33:45 ID:5a5RWm0c0
海軍が保有する最新鋭の艦隊が襲撃者を迎え撃つために出航し、ジュスティアの早朝は騒々しいものとなった。
汽笛が鳴り響き、海鳥は空と海と大地を行き交う。

『これは訓練ではない。
繰り返す、これは訓練ではない。
内藤財団の艦隊による襲来を確認、各位、完全装備で配置に着くように』

基地を走り回る兵士たちの顔には焦りがあったが、その口元には、笑みを浮かべている者が多かった。
ある意味でこの瞬間は、彼らが待ちわびた時なのだ。
この時に備えて訓練を積み重ね、この時の為に軍に入隊したのだ。
大規模な戦闘において英雄として称えられることこそが、彼らの誉であり憧れなのである。

相手がイルトリアではないこと以外、何一つとして訓練内容に変更はない。
世界最大の企業を相手取るということは、世界のほとんどを敵に回すということ。
奇しくも、その布告を受けたのは彼らが日々仮想敵としていたイルトリアも同じだった。
これまでは互いに睨み合う関係だったが、今だけは、その視線を僅かにずらして互いの背中に向けるしかない。

イルトリアも、この状況ではそうするはずだ。
それはジュスティア軍人ならば誰もが信じて疑わない、絶対的な信頼だった。
野生の世界でも、殺し合っていた獣同士が共通の外敵が現れた時は殺し合いを止めて協力し、絶妙な連携を見せて対処するという。
今は目の前に現れた強大な敵を、全身全霊で迎え撃つことこそが最優先であることを疑う余地はない。

彼らの故郷の平和を脅かす愚劣な輩を、正義の鉄槌によって打破するのである。

爪#'ー`)y‐「ちっ、ノースエストの氷山に隠れていたか、あるいは流氷に偽装していたのか……
      ……なるほど、そういうことか。
      そのための陽動だったのか」

市長室で情報の整理を行い、統制し、指揮をする市長の顔にはまだ余裕が見て取れるが、その実、腸が煮えくり返る思いだった。
昨夜地図上から姿を消したブーオへの攻撃を経て、いきなりの今日である。
対策を練る間もなく行われた一連の動きは計画的、そして用意周到なものだ。
数年単位ではなく、数十年、それ以上のスパンで考えられたものだとしても驚くことは無い。

少なくとも、内藤財団が街に支援をしていたのはこの時のため。
宣戦布告の対象となる街の周辺を静かに、根を張るように着実に駒を置いてきたのだ。
気付けるはずがない。
ただの企業が行う、ただの商業活動がこの日に結びついていると予測できる要素がない。

開戦時の優位性は当然向こうにあるが、大きな違いがある。
実戦経験の差だ。
充実した装備を整え、素人を戦いのプロへと昇華させる棺桶を持ち出そうとも、結局殺し合うのは人なのだ。
治安維持のため、世界中に派遣された経験のあるジュスティア軍人に棺桶持たせれば、経験のあるこちらが有利。

苦戦はするだろう。
死者も出るだろう。
だが、負けはしない。
ジュスティアにある組織の最高責任者に向け、フォックスは無線越しに檄を飛ばした。

61名無しさん:2021/12/27(月) 19:34:11 ID:5a5RWm0c0
爪'ー`)y‐「糞忙しくなるぞ、諸君。
      相手は世界最大の企業だ。
      我々を差し置いて世界の正義を名乗る不逞の輩だ。
      イルトリア相手でなくて残念だが、最大限の敬意を表して、完膚なきまでに叩き潰してやれ!!」

彼らにとって警戒すべき最大の敵はイルトリアであり、企業人ではないのだ。
この程度を乗り越えられなければ、イルトリアとの戦争に勝てるはずがない。
彼らにとって、この戦争に敗北していい理由など、何一つないのである。

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同日 AM06:04
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ト        イト      )  \|:|:::|¨¨¨¨¨¨¨´_、-''":..: _|:|:::::::レイ_|ー:|`¨¨~|⊥」::| ̄| :| \
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‥…━━ イルトリア ━━…‥
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62名無しさん:2021/12/27(月) 19:34:36 ID:5a5RWm0c0
世界で最も宣戦布告に慣れている街は、イルトリアを置いて他にはない。
小さな町から恨みを買うだけでなく、イルトリアから小さな町に対して宣戦布告をすることもある。
それは彼らが契約によって傭兵を派遣する関係もあるが、それを生業とする街であるが故の宿命でもあった。
内藤財団の宣戦布告の相手に自分たちが含まれていることを理解できない人間は、イルトリアの中には一人としていなかった。

常に争いに身を投じるために、いつ復讐の対象になってもおかしくないということは、彼らが幼少期の頃に親と学校から教え込まれることだ。
“武人の都”という呼び名は、断じて過大評価による渾名ではない。
それはイルトリア人の心得であり、そこに生きる人間の覚悟の現れでもある。
宣戦布告を受けるのと同時に、イルトリア軍は一気に厳戒態勢へと転じ、陸軍と海軍は索敵を行った。

戦争の始まりは宣戦布告よりも前に始まっている。
布告が終わると同時に攻め込むためには、すでに行動は始まっていなければならないのは常識だ。
内藤財団ほどの大企業が相手であれば、その行動は迅速であり、尚且つ最大級の警戒に値するものだ。
ジュスティアからの宣戦布告に備えていたイルトリア軍にとって、今回は図らずもそれが役に立つことになった。

(●ム●)「……は?」

対ジュスティア海軍の監視用にブーオ近海に設置された、ブイ型のレーダーが反応を示した。
レーダースクリーン上にその影を見つけた時、あまりの巨大さに担当者はレーダーの故障を疑った。
通常の機影の優に10倍、いや、それ以上の影の出現は訓練でも想定したことのないものだった。
だがしかし、担当者はそれを報告した。

例え彼の目には信じられなくても、今の状況ではそれが事実である可能性の方が大きい。
即座に対応することになったのは、同じく遠海にいるイルトリア海軍の高速哨戒艇だった。
船に積んだ高性能な望遠鏡を使い、夜の名残が霧散する空の向こうに浮かぶ異形を捉えた。
渡り鳥のように大きな羽を広げて飛来する2機のそれは、あまりにも現実離れした巨体をしていた。

望遠鏡から目を離さず、軍人は無線機に手を伸ばした。

(,,゚,_ア゚)『……こちらアルバトロス・スリー。
     ネスト、応答せよ』

軍人らしく、落ち着いた声で軍人は報告を行う。
無線機の向こうではレーダーを見ている管制官が同じく落ち着いた声で答える。

『こちらネスト』

(,,゚,_ア゚)『バカでかい航空機が12時の方向から接近中。
     数は2。
     進路はイルトリアで間違いなさそうだ』

『大きさはどの程度だ?』

(,,゚,_ア゚)『目視でしか言えないが、全幅1キロはあるように見える……
     速度はそこまでではないが、とにかく大きい』

『了解した。
他の情報があれば随時報告を』

(,,゚,_ア゚)『了解』

63名無しさん:2021/12/27(月) 19:35:09 ID:5a5RWm0c0
全ての報告は適切に処理され、統合され、現実の侵略行為が目前に迫っていることが確定した。
対処すべく、すでに抜錨までを終えていた海軍の艦隊が出航する。
戦艦、駆逐艦、護衛艦。
イルトリア海軍の所有する全兵力が、空からの災厄に立ち向かうべく動き出した。

最短距離を来るのならば内陸を飛べばいいが、彼らはそうしなかった。
腹を海に向けて飛行するということは、陸上からの砲撃を避けたいという考えがあるためだろう。
更に、どこかの港から随伴の艦隊が出撃して同時に攻撃が行えるという利点もある。
陸上であれば、出撃前にイルトリアによって潰される可能性があると考えてのことだろう。

巨体は目立つ。
目立つ分、そちらに目が行きがちになる。
それが攪乱を兼ねていることを考え、防衛における重要性は陸上の方が大きかった。
海に面している為に、挟撃されることは避けたいのだ。

そのため、陸軍は海軍よりも動きが早かった。
戦車、装甲車が海岸線と街に通じる道に配置され、提携している街に避難する人間は優先的に誘導された。
街に入る全ての車輌と人間は理由の如何に関わらず拒否され、抵抗する意思を見せた者はその場で足か腕を撃たれた。
一切の慈悲も例外もなく行動し、迎撃の準備が整うまでには5分の時間を要した。

イルトリア市長、フサ・エクスプローラーは執務室の椅子に腰かけ、飛び交う情報に耳を傾けていた。
万年質を紙の上に走らせ、必要と思われる情報だけを整理していく。
各軍への指揮は責任者に一任されており、フサは彼らの決断に全幅の信頼を寄せていた。
彼が行うべき仕事は、別にあった。

ミ,,゚Д゚彡「ブーオを吹っ飛ばしたのは、空路と海路を確保するためか」

フサの言葉は、来客用のソファに腰かける女性に向けられていた。
朝日に照らされる彼女の物憂げな横顔は、ともすれば、その内に激情を秘めているようにも見える。
黒のジーンズと黒のシャツ、そして黒のジャケットが彼女の豪奢な金髪の美しさをより一層引き立てている。
澄んだ蒼穹色の瞳が、静かにフサに向けられた。

ζ(゚、゚*ζ「まぁセフトートは、砲撃性能の確認でしょうね。
      ジュスティアもイルトリアも間違いなく射程圏内ね。
      大丈夫かしら」

デレシアはそう言って、紅茶を一口飲んだ。
自分が砲撃の危険に晒されているとは微塵も感じさせない優雅な動きだった。

ミ,,゚Д゚彡「あいつらも昨夜の一件は知ってるし、対処用の人間は送っているさ。
      うちも一人、手練を送ってる。
      向こうで合流してしばらくの間、砲撃は防ぐさ。
      それで、連中が使っている兵器だが、何か心当たりはあるか?」

ζ(゚、゚*ζ「砲撃に使ったのは“ハート・ロッカー”ね。
      空にいるのはニューソクで動いている、棺桶と同時期ぐらいに出た航空空母ね。
      ニューソクを集めていたのはアレを動かすためで間違いないわね。
      あの兵器に燃料切れ、という概念はないと思っていいわ。

      むしろ、落とし方を間違えるとそれだけで街が吹き飛ぶわよ」

64名無しさん:2021/12/27(月) 19:35:41 ID:5a5RWm0c0
ミ,,゚Д゚彡「空飛ぶ爆弾、って感じか」

ζ(゚、゚*ζ「そうね。 落とすなら、海上で落とさないとだめよ。
      海に落としさえすれば、後は海軍の火力でどうにか出来るわ」

ミ,,゚Д゚彡「分かった。
     連中の拠点は、恐らくハート・ロッカーのある場所だろう。
     ウチの陸軍を送るとしたら、どれだけ急いでも3日はかかる。
     一握りの精鋭なら数時間で送れる」

ζ(゚、゚*ζ「一握りの人数は?」

ミ,,゚Д゚彡「どれだけ頑張っても3人が限界だ。
     とりあえず、連中の拠点を叩き潰さないと話が終わらない。
     制空権を取られる前に、諸々片付けないとな」

その言葉を聞いて、デレシアはすぐに答えた。

ζ(゚、゚*ζ「拠点には私が行くわ。
      でも、拠点を潰したところで連中は止まらないわ。
      これで少しでも連中が優勢だと分かれば、周辺の街が一気に攻めてくるわよ」

圧倒的な武力があるからこそ、イルトリアやジュスティアに恨みのある町は決して歯向かうことをしなかった。
武力による抑止力。
皮肉なことに、暴力が平穏を保っていると言ってもいい。
その均衡が崩れる時、間違いなく争いが始まる。

グラスに並々と注がれた水が溢れるかどうかは、今後そこに注がれる水の量による。
それを止めなければ、間違いなく、水が溢れ返る。
溢れ出た水が何をもたらすのか、それは考えるまでもない。

ミ,,゚Д゚彡「世界中が敵に回るってことか。
      いやはや、これは楽しくなってきた。
      電撃戦に対抗するには電撃戦しかない。
      ……ちょっと電話をしよう」

フサはそう言って、赤い電話を取り出し、受話器を持ち上げた。
そしてボタンを押し、通話をスピーカーに切り替える。
数回の呼び出し音の後、不機嫌そうな男の声が返ってきた。

『何だ、この忙しい時に』

ミ,,゚Д゚彡「こんな時だからだよ、フォックス。
      ちょっと情報の整理をしておきたくてな。
      こっちの方には二機、バカでかい飛行機が来てる」

65名無しさん:2021/12/27(月) 19:36:06 ID:5a5RWm0c0
爪'ー`)y‐『あぁ、知ってるさ。
      そっちも知っているだろうが、ウチは船が14隻。
      その内一隻はド級の戦艦、正直見たことのない大きさだ。
      航路的に、ノースエスト地方の流氷に紛れてたんだろうな。

      やられたよ、ノーマークだった。
      連中、氷の下で建造していたんだろうな』

ジュスティア市長とイルトリア市長がこうして電話しているとは、当事者たち以外、誰も想像したこともなかっただろう。
世間では犬猿の仲である街同士の最高責任者なのだ。
そして、そんな彼らが独自の直通電話を用意しているなど、夢にも思うまい。

ミ,,゚Д゚彡「ウチはこれから連中の拠点を叩こうと思うんだが、どうだ」

爪'ー`)y‐『そりゃ奇遇だな。
      こっちもそれを考えていた。
      “影法師”にそれを任せている』

“影法師”。
それは、円卓十二騎士の中でも、優れた功績を持つ七人にのみ与えられる“レジェンドセブン”の称号を持つ者の渾名だった。
優れた諜報員であると同時に、暗殺の名手であると言われ、その姿が公に出ることはほとんどない。
残るのは名前だけだが、実態を持つ影として、他の街の諜報員に恐れられている。

本来それは超極秘情報にあたるのだが、彼らの間にそれを気にする様子はない。

ミ,,゚Д゚彡「だろうな。 その前に、ちょっと連中の詳細について知っておいてもらいたいことがあってな」

爪'ー`)y‐『手短に頼む』

ζ(゚ー゚*ζ「お久しぶりね。
      それとも、覚えていないなら初めましての方がいいかしら。
      フォックス・ジャラン・スリウァヤ」

その瞬間、フォックスの声を覆っていた冷静さの仮面は音を立てて砕け散った。

爪;'ー`)y‐『……嘘だろおい、お前、デレシアか?!』

電話越しにでもフォックスの動揺が目に映るようだった。
彼にしてみれば、捕らえようとしている大物が緊急時用の電話に出てきたのだ、無理もない。
その反応が面白く、デレシアはからかうように言った。

ζ(゚ー゚*ζ「あら、よく分かったわね」

爪;'ー`)y‐『おい、フサ、どういうことだ?
      どうしてデレシアがそこにいるんだ?』

ミ,,゚Д゚彡「どうしてって言われても、俺の古くからの友人だからな」

66名無しさん:2021/12/27(月) 19:36:26 ID:5a5RWm0c0
爪;'ー`)y‐『ちっ、だったら教えてくれればいいものを。
      まぁいい、今はそれどころじゃない。
      それで、何の用だ』

切り替えの早さは優秀さの証だった。
少なくとも、宣戦布告を受けた二つの街が協力関係にあれば、状況の打破は夢ではない。
そこにデレシアという存在が加われば、それは現実味を強く帯びることになる。
フォックスの状況判断は流石だった。

ζ(゚ー゚*ζ「連中の本拠地にこっちでも攻め込むんだけど、ちょっと借りたい人がいるの。
      いいかしら?」

爪'ー`)y‐『今の状況で貸せるような人間がいればな。
      どこの誰だ?』

ζ(゚ー゚*ζ「トラギコ・マウンテンライトを借りたいのよ」

爪'ー`)y‐『……いいだろう、丁度、今イルトリアにいるんだろ?
      ただ、おまけが一緒にいるはずだが』

オサム・ブッテロは、正直なところデレシアとしてはどちらでもいい存在だった。
輸送する人数制限を考えると、雑魚はいらない。
働いてもらうとしたら、別の場所の方が適任だろう。

ζ(゚ー゚*ζ「そっちはいらないわ」

爪'ー`)y‐『彼は、多分そう言わないだろうね。
      まぁいいさ、好きにしてくれ。
      いちいち許可を求めたってことは、こっちは何か見返りがあるんだろう?』

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、勿論。
       これは私の予想だけど、そっちに攻めてきている船、全部大きいでしょう?
       一隻は戦艦なのは分かったけど、後の種類は分からないんじゃない?」

爪'ー`)y‐『……それが分かれば苦労はしないさ。
      バカでかい甲板を持ったバカでかい船だ。
      見たことのない種類だ』

確かに、その種類の船は現代では使われることは無い。
それは人類が空を支配できる力を持っていた頃の産物なのだ。

ζ(゚ー゚*ζ「それは海上基地として使う、空母ね。
       甲板上に飛行可能な棺桶やヘリがいるはずよ」

爪'ー`)y‐『ちっ、やっぱり海だけじゃなくて空からもか。
      あれだけの巨体だが、動力は何なんだ?』

67名無しさん:2021/12/27(月) 19:36:51 ID:5a5RWm0c0
その巨大さは、船上都市“オアシズ”に匹敵するほどのものだ。
積載されている様々な物を考えると、フォックスの疑問は当然だ。
客船と軍艦では、そもそもの装甲の厚みなどによる重量差がある。
巨体で尚且つ重量のある船を動かすためのエネルギーは、自然の力を利用した物では賄いきれない。

ζ(゚ー゚*ζ「ニューソクよ。
       だからエネルギー切れについては期待しないで。
       エンジン部を破壊したら大きな爆発が起きるから、出来るだけ沖合でやるのをお勧めするわ。
       ティンカーベルで起きた爆発と同規模よ」

爪'ー`)y‐『なるほどな。
      攻め込むしかないか』

空を飛ぶことのできる兵器がある以上、早い段階で迎え撃たなければ街に攻め入られる。
可能な限り早い迎撃が必要になるため、現実的なところで言えば、足回りの速い船で喫水線に穴をあけるのが一番だ。
今の段階で攻め入ってこないということは、彼らの所有する棺桶や航空兵器が十分に活動できる距離にいないということ。
接近を許さなければ、まだ戦う余地はある。

ミ,,゚Д゚彡「こっちもそんな感じだ。
      昨晩と今朝の砲撃の件は聞いただろ?
      あれがある以上、守りの戦いはできない。
      拠点にいるハート・ロッカーを潰せば、こっちは余計なことを気にしないで自由に動ける。

      後は、内藤財団のトップも殺せば色々と陽動も出来るだろうさ」

爪'ー`)y‐『ふむ……
      ニョルロックにいいのが二人、あー、場合によっては三人か。
      いるが、そいつらも使った方がいいな。
      こちらの管轄で二人、そっちの元管轄で一人だ。

      ギコ・カスケードレンジがニョルロックで大暴れしたという情報がある。
      ひょっとすれば、この騒動を聞いたギコが動く可能性があるだろうさ』

ミ,,゚Д゚彡「連絡手段がないな。
      まぁ、あいつなら間違いなくこっちの期待通りかそれ以上に上手く立ち回るさ。
      そっちの管轄ってのは誰だ?」

爪'ー`)y‐『“花屋”と写真家だよ。
      となると、こっちからは影法師、トラギコ、花屋と写真家。
      そっちからは“惑狐”、ギコそしてデレシアか。
      やれるか?』

デレシアは即答した。

ζ(゚ー゚*ζ「内藤財団のトップ連中をまとめて潰すのは私がやるわ。
       聞きたいことも、言いたいこともあるから。
       残りの人たちでハート・ロッカーと拠点をどうにかしてちょうだい」

68名無しさん:2021/12/27(月) 19:37:17 ID:5a5RWm0c0
とにかく、最優先で潰すべきはハート・ロッカーの砲撃能力だ。
頭上から飛来する砲弾を迎撃するのは容易ではない。
視認する頃には着弾するため、弾幕を張ってどうにかする他ない。
フレシェット弾などの特殊なものが使われれば、その被害は計り知れない。

だが、疑問になるが連日の砲撃がありながら、まだ二つの街に砲撃がされていないことだった。
すでに潜入している“惑狐”が何かしらの対応をしているのかもしれない。
それがいつまで続くのか、そして今の状況がどうなっているのか、それはイルトリア側でもまだ把握できていないことだった。

ミ,,゚Д゚彡「だ、そうだ。
      ギコについては正直分からんが、まぁ、どこかで役には立つはずだ」

爪'ー`)y‐『そうであると願うよ。
      悪いが、ウチは今の状況的に街にいる“騎士”を現地に送るだけの余裕がないんだ。
      砲撃がいつ、どう来るか。 それが一番の懸念だな。
      ハート・ロッカーと戦艦の砲撃を同時に防ぐだけでも、中々厳しい話なのは分かってくれるよな。

      内藤財団の息のかかった街から攻め込まれることも考えると、流石に溜息が出る』

スリーピースの防壁があれば、正面からの攻撃にはしばらくは耐えられる。
戦艦の砲撃を真正面から受けてどこまで耐えられるのか、それは相手の使用する砲弾次第だ。
こうして通話しているが、ジュスティアは今銃口を向けられている状況であり、余裕などないだろう。

ζ(゚ー゚*ζ「誘導弾じゃないから、どこか街を見下ろせる位置に観測手がいるはずよ。
       とりあえずはそいつらを始末しておけば、砲撃をある程度は回避できるわ。
       “腕のいい狙撃手”がいれば、すぐにできると思うけど」

砲撃には観測手が必要となる。
特に、精密な砲撃が必要となればなおさらだ。
着弾との誤差を常に報告し続ける人間がいなければ、超遠距離の砲撃は大した脅威ではなくなる。

爪'ー`)y‐『なるほどな、そうさせてもらおう。
      ……あぁ、だからか、カラマロス・ロングディスタンスが連中に取り込まれていたのは』

ミ,,゚Д゚彡「こっちも、ペニサス・ノースフェイスが殺された理由が分かったよ。
      あのばあさんなら、この街から見つけて撃ち殺せるからな。
      ってことは、観測手の距離も分かるな。
      公式記録は5キロ、非公式を含めると7キロ以内だ」

半径7キロ以内に街を見下ろせる場所となると、それはかなり限られてくる。
特に二つの街は海に隣接していることも有り、方向も限定できる。
逆に観測手が潜んでいそうな場所に向けて迫撃砲で砲撃をすることも可能だ。

爪'ー`)y‐『こっちもそれぐらいを目安に索敵してみよう。
      他に何か有益な情報はあるか?』

ζ(゚ー゚*ζ「ハート・ロッカーは電源がないと動けないの。
       多分、もう対策されているとは思うけどね」

69名無しさん:2021/12/27(月) 19:37:48 ID:5a5RWm0c0
爪'ー`)y‐『分かった。
      ともかく、やれるだけのことをやるさ。
      ではな』

ミ,,゚Д゚彡「あぁ、またな」

そして通話が終わると、フサは溜息を吐いた。
ゆっくりと右手で髪をかきあげ、そして、デレシアを見た。

ミ,,゚Д゚彡「ふむ……
     なぁ、デレシア。
     お前の連れはどうする?」

旅の連れである、ヒート・オロラ・レッドウィングとブーンはこの戦争に参加する義務はない。
デレシアはこの戦争を引き起こした組織との因縁があるため、参加するのは当然だった。
むしろ、どう芽吹くかを見守っていた立場である以上、それを踏み潰して摘み取るのは彼女の責任だ。
二人を無理矢理危険に巻き込むのはデレシアの本意ではない。

彼女たちの意思が最優先だ。

ζ(゚ー゚*ζ「私と一緒である必要はないわ。
       本人たちに訊いてみましょうか」

ミ,,゚Д゚彡「ブーンもか?」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、あの子が行きたいって言うのなら、ね。
      ペニーの最後の弟子よ?
      どんな選択をしようとも、あの子の選択は尊重したいの」

彼は今、拳銃を取り扱えるようになっていた。
以前までのブーンではない。
射撃が出来るのならば、人を殺せる。
人を殺せるのならば、己の道を作ることが出来る。

だが不必要に人を殺す必要はない。
人を殺せば、その先は決して終わらない人殺しの道を歩くことになる。
子供にその道を歩ませるのはデレシアもヒートも、そしてペニサスも望んではいない。
しかし今の時代では、例え子供でも人を殺さなければ生きられないことがある。

もしもティンバーランドの掲げる夢が成就すれば、世界は今よりも整理されることだろう。
国家という枠組みを用意し、そこに適さない人間や街が力によって姿と形を変える。
己の在り方を変えなければ生き残ることのできない時代が来る。
例えば。

彼らが劣等種として見下している“耳付き”は奴隷としての人生すら歩むことはなくなり、この世界から文字通り駆逐される。
同性愛者は異常者として扱われ、十字教以外の宗教は異教として排除される。
さながら疫病であるかのように、徹底してこの世界から居場所を奪われる。
そしてその思想に従えない人間、街が集まり、新しい国が生まれる。

70名無しさん:2021/12/27(月) 19:38:12 ID:5a5RWm0c0
国が生まれ、争いが生まれ、そして火種を残して争いが終わる。
春に芽吹くように火種が新たな国を生み出し、争いが始まるのだ。
統一国家という考えは第三次世界大戦の影に存在していたもので、カリメア合衆国が密かに実行しようと計画していた考えだ。
世界最大の軍隊と権力を持つ国が抱いた夢が、今、こうして現代に蘇るのは趣味の悪いホラー映画を思わせる。

だがしかし、これもまた世界の在り方の一つとしては理想なのだ。
力による支配は変わらないが、それが誰によって、どのように行われるかの違いでしかない。

ミ,,゚Д゚彡「そうか。 だが、こっちが回せる輸送機は一機だけ。
      デレシア、トラギコが乗ると、後一人しか乗せられない」

ζ(゚ー゚*ζ「積載重量の問題かしら?」

ミ,,゚Д゚彡「席の都合だ。
     量で考えればまだいける」

デレシアには考えがあった。
重量の問題でないのであれば、まだ用意は出来る。

ζ(゚ー゚*ζ「なら、どうにでもなるわね。
       ちょっと話をしてきてもいいかしら?」

ミ,,゚Д゚彡「あぁ、勿論だ。
     出発は七時、でどうだ?」

ζ(゚ー゚*ζ「十分よ。
       ありがとう、フサ」

ミ,,゚Д゚彡「なぁに、気にするな。
     じゃあまた後で陸軍の“404”兵器庫前で合流しよう」

デレシアは立ち上がり、その場を立ち去った。
ブーンとヒートの姿はイルトリア軍の食堂にあった。
ラジオからの放送は既に終わり、慌ただしい食事風景が広がっていた。
戦闘服を着た人間がひっきりなしに行き交う中、ヒートとブーンは軍人に混じって黙々と食事を続けている。

食べることの重要性を知る者達は、必要なエネルギーを補給し、活力を得ることの重要性を知っている。
今こうしている間は配置についている仲間が必要な行動を行っているという信頼があるからこそ、食事をする余裕があるともいえる。
近くのコーヒーマシンから紙コップに注ぎ、それを手に持って二人の姿を探す。
探す時間は、ほんの数秒で済んだ。

(∪´ω`)

ノパ⊿゚)

二人は揃って同じ朝食を食べていた。
カリカリになるまで焼かれた分厚いベーコンにケチャップとマスタードを添え、両面焼きの目玉焼き。
小皿にはトマトとレタス、そして人参のサラダが盛られ、フルーツの入ったヨーグルトが並んでいる。
違いは二人の選んだ飲み物だけだが、トーストにたっぷりのバターを塗って食べているところも同じだった。

71名無しさん:2021/12/27(月) 19:38:32 ID:5a5RWm0c0
ζ(゚ー゚*ζ「お待たせ」

ノパ⊿゚)「おう」

ヒートはトーストを飲み込み、口の端を拭ってそう言った。
一方、ブーンは口の中に入ったトーストを懸命に咀嚼していた。

(∪´ω`)ザフザフ

ζ(゚ー゚*ζ「無理して喋らなくていいわよ。
      しっかりと味わうのよ」

(∪´ω`)゛

ノパ⊿゚)「どうする?」

二人の前の席に座り、デレシアは端的に伝えた。

ζ(゚ー゚*ζ「私は連中の頭を潰すわ。
      まぁ、その場にいなければその場所を消すだけ」

ノパ⊿゚)「そっか。 状況はどうなってるんだ?」

湯気の立ち昇るコーヒーを一口すすり、デレシアは答えた。

ζ(゚ー゚*ζ「ジュスティアに13隻の空母、とド級の戦艦が1隻ね。
      オセアンで見たハート・ロッカーが拠点にいるから、それを潰すためにそれぞれ動くわ」

ノパ⊿゚)「で、後はこっちに向かってるバカでかい飛行機か。
    ……デレシアが頭を叩くんなら、あたしはこっちに来てる連中をやるよ」

ζ(゚、゚*ζ「いいの?」

ノパ⊿゚)「こんな状況で何もしないなんて、あたしには無理だよ。
    正直、あたしがデレシアと一緒にいても足を引っ張りそうだからね。
    あたしも連中の夢を潰す理由があるし、あいつなら、きっとこっちに来るだろうさ」

ヒートは母親に家族を殺され、自分自身も殺されかけた。
母親を動かしたのは、耳付きと呼ばれる人種に対する並々ならぬ嫌悪感。
彼女の母親であるクール・オロラ・レッドウィングはティンバーランドの夢に賛同したから家族を殺したのか、それとも殺してから夢に賛同したのかは分からない。
だが間違いなくヒートの敵であり、その人生を狂わせた張本人だ。

復讐に身を焦がし、殺し屋として生きた彼女なら、間違いなく夢を潰す道を選ぶと分かっていた。
推測だが、クールはイルトリアを攻め込むチームにいるとデレシアも考えていた。
耳付きに対する異常なまでの殺意。
世界でも類を見ない、耳付きに対する偏見のない街。

72名無しさん:2021/12/27(月) 19:38:59 ID:5a5RWm0c0
耳付きの持つ類まれなる身体能力を生かして軍人として雇用し、高い階級を得られるなど、他にはありえない。
あの女からすれば、イルトリアは魔窟の様なものに見えていることだろう。
ならば自らの手でその街と共に耳付きを滅ぼしたいと考え、その役割を喜んで果たそうとするはずだ。
駆除をする人間は、すべからくその手で息の根を止め、完遂された状態を自分の目で見たいと考えるものだ。

ζ(゚ー゚*ζ「ブーンちゃんはどうする?
       ここにいれば安全よ」

(∪´ω`)「僕も何かしたいです」

一切の迷いもなく、ブーンはそう返答した。
基地の中に漂う空気の中でも、彼は周囲の軍人と同じくおびえた様子がない。

ζ(゚ー゚*ζ「なら、ヒートと一緒に行動してちょうだい」

(∪´ω`)゛「分かりましたお」

ノパ⊿゚)「あたしとか? いいのか、デレシアとじゃなくて」

どちらと一緒に行動したとしても、ブーンは必ず何かを学ぶ。
今のブーンが学ぶべきものは、過去の妄執が終わる瞬間よりも、復讐に人生を狂わせた人間の背中の方にこそ多くある。
ティンバーランドとの因縁は、デレシア一人で請け負えばいい。

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、いいのよ。
       あと、ディも一緒に連れて行ってあげて」

(∪´ω`)「おー」

ζ(゚ー゚*ζ「私は後50分ぐらいで出発するから、その間に何か訊きたいことがあれば――」

(∪´ω`)「――デレシアさん」

ζ(゚ー゚*ζ「あら、何?」

ブーンは席を立って、デレシアの傍に歩いてくる。
そして、デレシアに抱きつき、不安そうな声で言った。

(∪ ω )「大丈夫ですかお?」

表情は分からない。
だが、感情は痛いほどに分かる。
一時的な別れで済めばいいが、永遠の別れになるかもしれないと危惧しているのだ。
事実、そうなる可能性は十分にある。

この三人がこうして会えるのは、これが最後になるかもしれない。
今までとは規模も相手も違うことを、ブーンは情報ではなく空気から察しているのだろう。
賢い子だった。

ζ(゚ー゚*ζ「ふふっ、大丈夫よ」

73名無しさん:2021/12/27(月) 19:39:30 ID:5a5RWm0c0
(∪ ω )「また、会えますかお?」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、会えるわ」

小さな手に、力が込められる。

(∪ ω )「また、ぎゅーってしてくれますかお?」

ζ(゚ー゚*ζ「勿論」

背中を優しく撫でさすり、落ち着かせる。
デレシアの胸から顔を離すと、そこにはいつものブーンの笑顔があった。

(∪´ω`)「お!」

ノパー゚)「……」

ヒートは多くを語らなかったが、その目が雄弁に告げていた。
デレシアは微笑み、右手を差し出した。
握手に応じ、ヒートは言った。

ノパー゚)「さっさと終わらせて、旅の続きに行こう」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、そうしましょう。
      次はホールバイトにみんなで行きましょう」

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                / / |│ :│  | /| ://  /// ̄:|メ|     |八 !
              //∨|八i |  | ヒ|乂 /// イ弐示く |    :j: : : . '.
              ///: : i: : : :i i  │∠ : イ//   弋少 刈   //: : :八: :\
              /{:八: : :i/: :八: ∨|八|  |/ :j         `` /    /: : :/ ハ :  \
            /   /: :\ \ \ : : \\     〈| .       /   / : :  / } : | 、ヽ
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       /   人 : : :  -=ニ二 ̄}川 >、  `''=こ=一   ∠ -匕 /´ ̄ ̄ ̄`Y: :{/: /
       {   { 厂      . : { /⌒\   ー       イ///: : : .____   人: :\/
       ':   ∨} _: : : : 二二/ /   | \_   -=≦⌒\く_: : /: : : : : : :_:): :\: :\
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September 25th AM06:15

トラギコ・マウンテンライトとオサム・ブッテロは朝食の途中でイルトリア陸軍に連れられ、兵器庫の中で状況の説明を受けていた。
出されたホットドッグの最後の一口を口に押し込み、咀嚼しながらトラギコが言った。

(=゚д゚)「俺が拠点を叩く班に入る理由は何ラギ?」

74名無しさん:2021/12/27(月) 19:39:56 ID:5a5RWm0c0
口の横に着いたケチャップを親指で拭い取り、口に運ぶ。
紙ナプキンで手を拭くトラギコに、軍人が機械じみた口調で答えた。

(,,゚,_ア゚)「作戦上必要な人材だからだ」

( ゙゚_ゞ゚)「じゃあ俺が空の方に行くのはなんでだ?」

(,,゚,_ア゚)「作戦上必要な人材だからだ」

先ほどと全く同じトーンの言葉。
紙コップに注がれたコーヒーを飲み、トラギコは息を吐くように言葉を発する。

(=゚д゚)「詳細は話せないって事ラギね。
    まぁいいラギ。
    俺は乗った」

( ゙゚_ゞ゚)「ちっ、結局ここに来たのは無駄足だったのかよ。
    とりあえず、俺も乗った」

既にこの騒動に無関係とも無関心とも言えない以上、トラギコとしては結末を見届けたいという気持ちがあった。
犯罪者が大義名分を掲げて世界に混沌をもたらすというのを見過ごすのは、彼の流儀に反する。
少なくとも彼らが動かなければ無事であった命があったはずだ。

(=゚д゚)「この機に乗じて逃げようなんて思うなよ」

( ゙゚_ゞ゚)「どうだろうな。
    その時になったら決める。
    ただし、条件がある」

その言葉は軍人に向けられていた。

(,,゚,_ア゚)「何だ」

( ゙゚_ゞ゚)「俺に棺桶をくれ。
    コンセプト・シリーズか名持ちのだ」

(,,゚,_ア゚)「……いいだろう。
     ただし、軍で保管している物だけだ」

( ゙゚_ゞ゚)「中長距離の攻撃が出来る重装甲のやつがいい。
     何がある?」

(,,゚,_ア゚)「そうだな……」

軍人が考えを巡らせていると、トラギコとオサムの背後から静かに鉄色の髪の女が姿を現した。
市街戦用の迷彩服を着た女は氷の様な視線を一瞬だけ二人に向け、無感情に告げる。

(゚、゚トソン「その男にはユリシーズのカスタム機を用意してください。
     元々はエイブラハムを使っていたはずですので、重装備の方がいいでしょう」

75名無しさん:2021/12/27(月) 19:40:24 ID:5a5RWm0c0
(,,゚,_ア゚)ゞ「はっ!!」

軍人はより一層に背筋を伸ばし、敬礼をしてその場から駆け足で移動した。
女は改めて二人の前に立ち、腕を胸の下に組みながら言った。

(゚、゚トソン「他に何か質問は?」

(=゚д゚)「……あんた、確か」

トラギコは女に見覚えがあった。
ワタナベ・ビルケンシュトックと殺し合っていたとき、間に入ってきた女だ。
本名は知らないが、ニクラメンから脱出する時に近くにいた女に間違いはない。
並みはずれた雰囲気と言葉のアクセントからイルトリア人であることは分かっていたが、この場で会うとは想像すらしていなかった。

有無を言わせぬ命令と、その雰囲気は女の存在が並々ならぬものであることを雄弁に物語っている。

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               V: :、_ゝ、 \!`>t::ァフ : : : : l⌒; : : :.}/:./
              Y: :ヽ弋ッヽ   ´ ̄ ´l: : : : :.lヽ.} : : /: :/-:.、
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(゚、゚トソン「トソン・エディ・バウアーです。
     質問がなければ、トラギコさんはここに残っていてください。
     ディキンス上等兵、オサムさんを案内してください」

( 0"ゞ0)ゞ「はっ!!」

( ゙゚_ゞ゚)「よろしく頼む、俺は気が小さいんだ」

オサムは大人しく軍人の後ろについて兵器庫を出て行った。
残されたのはトラギコ、そしてトソンだけとなった。

(=゚д゚)「あんた、あの時の女ラギね」

(゚、゚トソン「会うのは二度目ですね」

(=゚д゚)「……あんたの階級は?」

(゚、゚トソン「今、それを教える必要が?」

(=゚д゚)「俺の興味ラギ」

76名無しさん:2021/12/27(月) 19:40:46 ID:5a5RWm0c0
(゚、゚トソン「で、あればお答えする必要はありませんね」

その答えには一切の感情は込められていなかった。
オサムがいなくなったところで、改めて、トラギコは質問をした。

(=゚д゚)「まぁいいラギ。
    それで、どうして俺が連中の基地を叩く役割になったラギ?」

(゚、゚トソン「ご指名です」

(=゚д゚)「指名?」

(゚、゚トソン「はい」

(=゚д゚)「誰の指名ラギ?」

(゚、゚トソン「それは後々分かります。
     さて、私からは状況の説明をさせていただきます」

(=゚д゚)「……あぁ」

(゚、゚トソン「先ほど説明があった通りですが、敵の拠点にはハート・ロッカーという棺桶があります。
     規格外の大きさなので、Cクラスというレベルではありません。
     対都市攻略用に設計された棺桶で、超長距離の砲撃が可能です。
     昨晩ブーオがこれによって文字通り壊滅しました。

     恐らく生存者はいません。
     ブーオはガス弾、フレシェット弾、焼夷弾など様々な弾種の実験台となりました。
     そして今朝、セフトートが砲撃され、消し飛びました。
     トラギコさんにはチームを組んでいただき、ハート・ロッカーと基地の無力化を行っていただきます」

(=゚д゚)「チームって言ったラギね。
    メンバーを知りたいラギ。
    経歴とか、そういう具体的な話をしてくれラギ」

(゚、゚トソン「現地にはすでに2人、潜入しています」

(=゚д゚)「2人? たった2人だけラギか」

拠点を制圧するのであれば数は必須だ。
特に、相手が質と量を持っているのであれば、油断や慢心をするだけの余裕のある立場ではない。
状況を逆転させるには、それを可能にさせるだけの圧倒的な質と作戦が不可欠である。

(゚、゚トソン「一人はイルトリアの“惑狐”、そしてもう一人はジュスティアの“影法師”です」

(;=゚д゚)「マジか、“レジェンドセブン”ラギよ?
    よく共闘できるラギね……」

(゚、゚トソン「ご存知の方でしたか」

77名無しさん:2021/12/27(月) 19:41:06 ID:5a5RWm0c0
(;=゚д゚)「そりゃ、“モスカウ”の特別指導官ラギよ。
    流石に知ってるラギ」

ハロー・コールハーン。
モスカウでは潜入捜査の特別指導を行い、トラギコもその指導を受けたことがある。
円卓十二騎士の一人で尚且つ限られた七人にのみ与えられたレジェンドセブンの称号を持つとされる、若き天才潜入工作員である。
トラギコ自身も彼女のことをよく知っているわけではない。

幾つもの通り名を持ち、幾つもの過去を持つ人間だ。
何が真実で何が偽りか、それを知るのは本人ぐらいだろう。
ジュスティアには彼女の様な潜入工作員が多数おり、世界中の街の情報が集約されるようになっている。
同様に、“惑狐”はイルトリア屈指の諜報員であり、ハローと同じく名前だけが伝わる影の存在だ。

惑狐が関わったとされる事件をモスカウが担当したことがあるが、何一つとして痕跡はつかめなかったと聞いている。
敵に回すと厄介だが、味方である限りはかなり心強い。

(゚、゚トソン「後はニョルロックから2人。
     “花屋”とアサピー・ポストマンというカメラマンですね」

“花屋”はニダー・スベヌだ。
トラギコとは違った点から事件を解決するためのスペシャリストであり、円卓十二騎士の一人である。

(;=゚д゚)「アサピー?!
    ダメだ、わけが分からなくなってきたラギ……
    円卓十二騎士が二人、そんでもってカメラマンかよ」

(゚、゚トソン「で、こちらからはトラギコさんとあともう一人派遣することになります。
     そのもう一人が、相手の頭を叩きます。
     情報によれば、相手の頭がいる施設はハート・ロッカーのいる施設から離れているとのことです。
     他のメンバーでハート・ロッカーの無力化を最優先で行ってください。

     基地内の詳細等は現在報告を待っていますが、何せ潜入任務ですので、情報があるとは思わないでください」

(=゚д゚)「そのもう一人が誰なのか、教えちゃもらえねぇラギか?」

(゚、゚トソン「えぇ、無理です。
     ですが出発時には分かるはずです」

(=゚д゚)「そうラギか。
    規模は分かるラギか?」

(゚、゚トソン「花屋とこちらの持っている情報をすり合わせると、少なくとも千単位でいるはずです。
     無論完全武装の戦闘集団と想定していただいて構いません。
     ですが電撃戦で物を言うのは質と速度です」

(=゚д゚)「……そうラギね、あんたの言うことは信用できそうラギ。
    ところで、俺には何か棺桶を支給してくれたりするラギか?
    俺の“ブリッツ”でやりあえっていうラギか?」

78名無しさん:2021/12/27(月) 19:41:31 ID:5a5RWm0c0
ブリッツは近接戦闘に特化した棺桶で、尚且つ緊急時に限られる。
携帯性に優れているという点を除けば、高周波刀を使う別の棺桶の方が優れている。
相手の拠点に対する強襲作戦では大した優位性はない。
しかし、トソンはきっぱりと言い切った。

(゚、゚トソン「はい、そのつもりです。
     少なくとも野外戦ではなく、屋内戦です。
     強力な銃弾も砲弾も、爆薬も必要ありません。
     しかし、銃は好きなのをお渡しします。

     あって困るものではないでしょうから」

暴れるのであればCクラス、もしくはBクラスの棺桶が必要だろう。
だが陽動する人間が別にいれば、狭い空間に隠れることのできる携帯性が必要だ。
そう考えれば、確かにAクラスであるブリッツと強力なライフルがあれば十分かもしれない。

(=゚д゚)「そうラギね。
    弾と銃と爆薬、それと防弾装備とバッテリーが欲しいラギね。
    ブリッツの充電が切れると厄介ラギ」

(゚、゚トソン「用意しておきます。
     好みの銃があればお伝えください」

(=゚д゚)「最低限Bクラスの装甲を撃ち抜ける強装弾が使えりゃいいラギ。
    あと、試射したいラギ」

(゚、゚トソン「かしこまりました。
     ではこちらに」

案内されたのは、兵器庫の裏側にある簡易的な射撃場だった。
そこに用意されていたライフルの中で、トラギコが目を付けたのはH&KG36A2だった。
イルトリア軍で正式採用されているアサルトライフルで、部品を変えるだけで支援火器としても活用できる。
ジュスティア軍と方向性が似ているが、目的が異なる。

ジュスティア軍はアタッチメントによる拡張性を重要視しており、基本的に支援火器は別の銃を用意している。
ライフルを手に取り、百連装のドラムマガジンを装填する。
棹桿操作を行い、初弾を送り込む。
射的の的として置かれているのはジョン・ドゥの外装だった。

(゚、゚トソン「反動がいくらかありますが、ジョン・ドゥレベルの装甲であれば貫通可能です」

レールと一体化しているドットサイトを覗き込み、銃爪に指をかける。

(=゚д゚)「どれど――」

ジョン・ドゥの装甲は優秀なことで知られており、通常のライフル弾では貫通も難しい。
しかし、トラギコが発砲した瞬間、ジョン・ドゥの外装が吹き飛んだ。
それと同時に、トラギコが肩に当てた銃床を伝って凄まじい衝撃が襲う。

(;=゚д゚)「――れぅおわっ?!」

79名無しさん:2021/12/27(月) 19:41:51 ID:5a5RWm0c0
(゚、゚トソン「対強化外骨格用の徹甲弾ですが、ジュスティアに納品されているのとは少し違いますね」

(;=゚д゚)「少しってレベルじゃないラギね。
    だけど、これなら十分やれそうラギ」

(゚、゚トソン「現地で弾の調達が出来ないので、その点に注意をしてください」

(=゚д゚)「分かったラギ。
    Cクラスの棺桶用に、マスターキーを付けてほしいラギ」

(゚、゚トソン「散弾ですか?」

(=゚д゚)「いや、スラッグ弾で頼むラギ。
    どうせ散弾なんて効く相手は出てこないラギ」

(゚、゚トソン「ではそれも用意しておきましょう。
     しばらくの間は射撃をしていますか?」

(=゚д゚)「あぁ、そうするラギ」

再び銃爪を引き、その衝撃を体で味わう。
これから先の展開を考えれば、射撃に慣れていなければならない。
残された時間は多くない。
後悔をしている時間もないだろう。

世界がこれから大きく動こうとしている中では、僅かな躊躇さえも大事に至る。
内藤財団という巨大な組織、企業が相手となる事件は始めてだ。
極めて興味深い。
非情に楽しい。

トラギコは、今、興奮を覚えていた。
だがその興奮は、彼の中では二番目のものだった。
足りないのだ。
この程度では、足りないのである。

彼が生涯最後の事件と決めたその時の興奮に比べれば、まだ物足りないぐらいだ。
デレシアという、この世界の謎全てを内包したような存在を追うことこそが、トラギコにとっては最も心躍る事件なのだ。

80名無しさん:2021/12/27(月) 19:42:20 ID:5a5RWm0c0
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同日 AM07:00

イルトリア陸軍の兵器庫が並ぶその敷地内に、ひと際大きなかまぼこ型の兵器庫があった。
陸軍の管理下にありながら、その兵器庫には陸軍の所属を示すエンブレムはない。
他の兵器庫からは慌ただしく兵器と弾薬が運び出される中、その“存在しないはずの”兵器庫だけは分厚いシャッターを下ろしていた。
この兵器庫こそが、イルトリアにとっての切り札であり、今日まで秘匿され続けた“第四の軍隊”の兵器庫なのだった。

そこに集められたのは、限られた情報を知る人間の中でも更に限られた人間だけ。
灰色の迷彩服を着た軍人が2人。
彼らは一様にHMD付きのヘルメットを被り、兵器庫の中央に置かれた特殊なプロペラを持つヘリコプターの前にいた。
二重反転プロペラを採用し、通常のヘリとは異なり、テイルローターの向きが魚雷と同じく機体の横ではなく真後ろにあった。

そのヘリの詳細を知るのはその場にいるイルトリア人と旅人だけだった。
ヘリの前に立つのは、ジュスティア警察の男が一人。
だがその全身を包むのはイルトリア軍の装備で、背中には充電用のバッテリーを取り付けた小型コンテナを背負っている。
“虎”と呼ばれ、数多くの難事件を解決してきた側面にだけ目を向ければ優秀な警察官だ。

その反面、数多くの規律違反と命令違反を積み重ね、凶悪犯でさえ彼の名を聞けば怯えすくむほどの凶暴性のある男だった。

(=゚д゚)

旅人が一人。
カーキ色のローブで体を覆い、そのローブの下には二挺の拳銃とソウドオフショットガンが隠されている。
黒のジーンズ、デザートブーツ。
彼女が纏い、手にする全ての物は長い旅を経て今日まで残ってきた一品ばかりだということは、目の肥えた識者であれば分かっただろう。

しかし、例え歴史に名を遺すほどの偉人であっても、最初に目に付くのは旅人の美貌であることは間違いない。
黄金色の髪は仄かに波打ち、同じ色の長い睫毛の下にある蒼穹色の碧眼は宝石を思わせる。
世の美術家がその生涯をとして作り出したどの作品よりも整い、そして、慈愛に満ちた面影を持つ旅人。
その旅人が持つ危険性を、その場にいる全ての人間が理解していた。

仮に空腹の灰色熊がいたとしても、より恐ろしいのはその旅人だと断言するだろう。

81名無しさん:2021/12/27(月) 19:42:41 ID:5a5RWm0c0
ζ(゚ー゚*ζ

そして、イルトリア市長がいた。
世界を二分するとしたら、イルトリアとジュスティアに分けることが出来る。
即ち、世界の半分を支配するだけの力を持つとされる街の最高権力者。
事実、彼の力は世界最強の市長と言わしめるだけの物があった。

単純な腕力、膂力ならば恐らくは世界一。
積み重ねてきた戦歴は間違いなく、世界一の男である。

ミ,,゚Д゚彡

必要な人員が揃ったことを改めて確認し、イルトリア市長、“戦争王”フサ・エクスプローラーは腕時計を一瞥して厳かな声で話を始めた。
その仕草は軍人のそれであり、尚且つ、多くの人間を指揮することに慣れている人間のそれだった。
低く、心臓を震わせるように響くその声が兵器庫内に反響した。

ミ,,゚Д゚彡「作戦の説明を始めよう。
      目標はここから南にあるクラフト山脈の麓だ。
      超高高度で飛行し、そのままそこで降ろす。
      以降は標的を潰し、即時撤退だ。

      基地を強襲するチームはハート・ロッカーの排除、そして基地の無力化。
      残りは、連中の頭を潰してもらう。
      内藤財団の社長、副社長等々だな。
      戻る場所はイルトリア、もしくはジュスティアだが、手段は問わない。

      何か質問は」

その言葉が主に向けられていることを自覚するトラギコ・マウンテンライトは、挙手することなく口を開いた。
イルトリアの市長と言えば世界最強の市長であり、恐れるべき相手としてジュスティアでは教え込まれる。
一対一の素手で戦っても、トラギコが勝てる見込みはない。
権力、腕力、戦闘力、どれをとっても圧倒的な格上なのは本人も自覚しているところだ。

理不尽なまでの戦力差を有することを知りつつ、トラギコの態度はいつもと変わらない物だった。
彼にとって戦力差とは態度に現れるものではなく、戦いの手段に現れるものなのだ。

(=゚д゚)「正直、算段はあるラギか?
    仮にこっちが連中の基地と頭を潰して、いざ帰ってきたら街がなくなってるなんてのは嫌ラギよ」

勝利条件はイルトリア、もしくはジュスティアの存続、各都市に向かっている大型兵器の撃墜、そして相手の司令塔の排除である。
仮に相手の司令塔を潰したとしても、思想が根付いている組織は決して息絶えることは無い。
徹底的に潰さなければ、いくらでも蘇るのだ。
それこそ、雑草のように。

ミ,,゚Д゚彡「ジュスティアの奴がいるが、この際だから教えてやるよ。
     ウチには陸、海、海兵隊そして空軍がある」

聞きなれない単語を耳にしたトラギコは、思わず聞き返した。

(=゚д゚)「空軍? 空を云々するラギか?」

82名無しさん:2021/12/27(月) 19:43:05 ID:5a5RWm0c0
ミ,,゚Д゚彡「あぁ、そうだ。
      空を制すれば、陸を制するのが容易だからな。
      各軍に分散させておいた連中だ。
      攻撃用のヘリ、輸送用のヘリ、そしてこのジェットヘリだ。

      まぁ、空についてはこっちの方でどうにかする」

機密中の機密情報を、市長自ら公にしたことに対する衝撃はあったが、状況を考えれば出し惜しんでいる暇がないということなのだろう。
空軍という存在があれば、イルトリアからジュスティアへの進攻は容易になっただろう。
ヘリは極めて高価かつ貴重な兵器であるため、数を揃えるには相当な時間が必要になる。
長い時間をかけて用意し、軍内部でも知られないように分散して管理し続けていたために、ジュスティア軍も気づけなかったのだ。

(=゚д゚)「それならいいラギ。
    結局この基地から出るのは二人だけラギか」

ミ,,゚Д゚彡「あぁ、残念だが後は現地で合流してくれ。
     ギコについては考えずに行動してくれ」

(=゚д゚)「分かったラギ。
    ……デレシア、どうして俺を指名したラギ?」

ζ(゚ー゚*ζ「この事件、解決したいと思ってるんでしょう?」

(=゚д゚)「俺が手前を逮捕するってことは考えていないラギか」

トラギコは笑み一つ浮かべずそう言ったが、デレシアは全てを見透かしたように答える。

ζ(゚ー゚*ζ「できるならそうしているでしょう?
      それに、刑事さんは戦争よりもこっちの方が得意だと思うんだけど、違うかしら?」

(=゚д゚)「いいや、あってるラギ」

ミ,,゚Д゚彡「話し合いは終わりか?
     なら、さっさと出発だ」

三人は黒塗りのヘリに向かって歩いていく。
ヘリには翼があり、本来はその翼の下に武装を吊り下げることになっているのだろうと予想が出来た。
しかし、今は武装の代わりに両翼には追加のバッテリータンクが2つずつ取り付けられている。
武装は機首の下に取り付けられた機銃が一機のみだ。

(=゚д゚)「どれくらいで現地に到着するラギ?」

ミ,,゚Д゚彡「予定では6時間ほどだ。
      可能な限り急ぐが、これよりも短縮は難しい」

ζ(゚ー゚*ζ「急ぎましょう。
      こっちの動きを観測している連中がいるなら、ヘリが来ると分かれば対空砲の準備をするはずよ」

ミ,,゚Д゚彡「あぁ、分かってる。
     向こうが何かやる前に、こっちで動かないと手遅れになる」

83名無しさん:2021/12/27(月) 19:43:31 ID:5a5RWm0c0
――その発言から数分後、フサの予言は的中することになる。
相手は妄執に取りつかれた夢追い人の集団。
あらゆる可能性を考慮し続け、模索し、研究し、試行錯誤を繰り返して対抗勢力の予想を裏切ることに注力してきたのだ。
その執念と実行力は、デレシア達の予想を越えたものだった。

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同日 AM07:05

(’e’)「あぁ、やっぱり?」

イルトリアを見下ろすことのできる山岳地にいる観測手からその報告を受けた時、イーディン・S・ジョーンズはさほど驚きもしなかった。
これから彼らが攻め入ろうとする2つの街は、決して一筋縄ではいかない。
それは作戦を考えるよりも前に分かっていたことであり、計画実行において必ずクリアしなければならない関門だった。
その関門を越えられなければ、彼らが相手にしようとする旅人には到底太刀打ちは出来ない。

彼女の想像を超えるものを用意し、運用しなければならなかった。
ハート・ロッカーが発見され、その運用を考えた時、ジョーンズはその構造上の矛盾に気づいていた。
そして、発見されたハート・ロッカーは未完成の状態のまま戦場に投入されることになったのだと推測した。
それは確信に近かった。

ハート・ロッカーは都市攻略用の棺桶であり、巨大な砲を用いて砲撃し、敵の都市を壊滅させるという使い方が示されていた。
だがそれならば、約240メートルもの巨体を有する必要はなく、砲だけで十分なはずだ。
砲撃場所に制限をなくすために無限軌道による移動が可能であるとはいえ、あまりにも大きすぎる。
装備している武装と稼働のための機構を考えても、理にかなっていない。

あまりにも小規模すぎる装備。
対人用の装備と言ってもいい。
つまりは、対都市用の砲は備えているが、それ以外の装備は街を攻め落とすにはあまりにも不似合いな物なのだ。
更なる大口径、更に強力な武装がなければ対都市攻略用強化外骨格としてのコンセプトから逸脱してしまう。

解体し、運び出す段階でいくつもの発見があった。
巨体を覆う装甲は、その実、武装を収納するための空間を無理矢理に覆った物であること。
有線式の給電方法以外にもハート・ロッカーを動かす術があり、そのための空間が設けられていること。
そのため、外部からの攻撃を受けたとしても本体に直接深刻なダメージを受けることは無く、意図的に作られた空間がそれらを無力化する設計であること。

84名無しさん:2021/12/27(月) 19:43:51 ID:5a5RWm0c0
ハート・ロッカーが陸上母艦としての役割を果たせるということ。
湾岸都市にあったのは、海上、陸上のどちらにも対応することができるためで、かつてハート・ロッカーを所有していた街が追い詰められた状況だったということが分かった。
未完のまま完成を迎え、その役割を果たすことなく街の地下深くで眠っていた哀れな棺桶だ。
これは世紀の大発見であると同時に、過去から現代に向けての巨大な宿題でもあった。

再構築をする中で、ジョーンズは自分たちの手に余る装備を外すことを決めていた。
作られた時と今とでは、このハート・ロッカーが担う役割が違う。
防衛用ではなく攻撃用。
固定ではなく遠征するため、有線式の給電方法を廃した。

強力な砲は折り畳み式にすることで、超長距離への精密な砲撃を可能とした。
不安定な巨体は台形になるように再設計し、前傾姿勢の物へと変えた。
これによって足元の安定性が向上すると同時に、無駄に巨体を晒さずに済む。
代わりに、取り払った装甲を両腕部に取り付け、巨大な盾とした。

対人用の装備も随所に復元し、設計者が意図した対都市攻略用強化外骨格としての目的を果たせるものになった。
ニューソクを電源とする方法は既に実用化しており、ハート・ロッカーに積み込むのは容易だった。
設計者もこれを考えていたのだろうと思われる痕跡が電源周りにあったのを発見した時は、ジョーンズは密かに射精していた。
彼の知識と発想力は、今よりもはるかに優れた文明力を持つ太古の人間に追いついたか、凌駕したのである。

都市攻略。
そのために必要なのは火力、速度、そして意外性。
昨晩と今朝の砲撃は、全て地下からの射程内にある街だけに限定されていたが、これからは世界中全てが射程圏内に入る。
ギリギリまでその姿を見せないことにより、こちらの本気を悟らせないという涙ぐましい努力の甲斐もあり、今に至るまで攻撃は受けていない。

(’e’)「いいさ、こっちの動きが分かったところで関係ない。
   よぅし、我々も行こうか!!」

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        |)__((/二二二二二二二二二二二二二二二二二)
       Foro_. -/ r┐ =iT三l ̄ ̄ ̄|i_r-、___........r‐-、
       |)=ニ}_./| ̄|ー| ̄ ̄レ(Oj`i ̄ ̄日 ━┷╋ ̄|i ___ ̄ ̄))
         ̄フ |丁天了ト'´'´  | |ニ二二l----、_ / |―‐' ̄ ̄
        ∠ -┘`フ‐'フ´ ̄`▽三 ̄7   ̄¨`''ーッ< /
        _,r-=j<} l li.   li ̄ ̄:l      イ   \
    _,. -‐''7   √ ,ヘ. ヽ.    lZ__|  . ‐'´ .l   /
  ∠=ァ  ム=≠ヲ、 ̄ヽ._}ー、∧ノ `i レ 'i´    l  l
  `ー‐<  〉li `YT王三|「| ̄}_, -r''"   i.     レ'′
      `エ -、∠_ム.__三j|.jへ,l   i    l.   /
       }lヽr┴く(ェrェr/`ヽ(=)   l    l. .ィく
    __∠..,_/ /√¨i/ . '  ノ彡  .i   ,‐'´   ヽ,  ィヘ
   /" rー-- ̄¨`、/. '  ,∠-ァへ.  !‐'´       'く/
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その言葉をきっかけに、一斉に低い唸り声の様な音が響き渡る。
世界を変える咆哮。
鋼鉄の装甲同士が擦れ、軋み、それの悲鳴が咆哮と化す。
ハ ー ト ・ ロ ッ カ ー
傷だらけの箱に、新たな傷が刻まれる。

85名無しさん:2021/12/27(月) 19:44:17 ID:5a5RWm0c0
『作業員退避完了を確認。
リフトアップ開始。
補助電源ケーブル切断、主電源への切り替え開始』

一瞬、ハート・ロッカーの動きが止まる。

(’e’)「コード再入力。
   さぁ、頼むよシィ君!!」

『そして、大好きだった物も忘れていく。 私には一つだけ残っている』

無感情な音声が響き、ハート・ロッカーに再び命が吹き込まれる。
軋みが頭頂部から脚部にかけて駆け巡り、振動が足場に伝わる。
足場となるリフトはその衝撃を吸収しつつ、圧倒的質量のハート・ロッカーを地上へと押し上げる。
そのまま巨体の頭部が朝日に照らされ――

(’e’)「……ん?」

――そこで、リフトが動きを止めた。
ハート・ロッカーの中に作られた指令室で椅子に座っていたジョーンズは首を傾げた。
彼の疑問に対する答えは、すぐに出てきた。

『施設全体に停電発生。
主発電室より応答なし。
非常用電源に切り替わりましたが、リフトアップに必要な電力を確保できません』

(’e’)「不要な電力を全て回してくれ」

『それでも足りません。
非常用電源の発電量では、今の状態でリフトを固定するので精一杯です』

(’e’)「急いでくれたまえよ」

『現在、発電室に対応班を向かわせています。
状況が分かり次第お伝えしま――』

通信もそこで途絶し、ジョーンズは深い溜息を吐いた。
問題が発生してしまったのであれば、早急に処分しなければならない。

(’e’)「担当者が誰だか知らないが、やってくれるなぁ」

言葉とは裏腹に、苛立ちも焦りも込められていなかった。
彼にとっての真の目的はハート・ロッカーの起動でも、イルトリアの殲滅でもない。
これはあくまでも目的に続く道中であり、道を外れたとしても、別の手段がある。
そう。

焦る必要は、何一つとしてないのだ。
依然として状況は彼らにとって有利なままであると同時に、ジョーンズにとって理想的なものであることに変わりはない。
仮にこの基地に侵入者がいてこの状況を生み出したのだとしても、羽虫が巨象に抗う程度の時間稼ぎしか出来ないだろう。
何が起きても、ジョーンズの夢はここで潰えることは無い。

86名無しさん:2021/12/27(月) 19:44:42 ID:5a5RWm0c0
一方。
発電室ではその時間を稼ぐために抗う者たちがいた。

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    ゙':., "7__| | :|    `丁う元対「 ̄\   'マ¨¨⌒\   ./ / . :/ ̄ ̄\_/ . : : :/
       ̄√ | |_\__}/{_少’八  \\  \   \__/ / . :/    : : :\__/
       ∧__|/^yf元k==く___/ ∨  |\\__`ニ=-< ̄ ̄ ̄\   . : : : : :\__
     /  | _j{ {少’))   ̄   |  |  \∨ ___{_ 〕 ̄}  /⌒\: : : :\: : : : :\
      | |  弋_/ ` _    |  /   リ/ ◇  ̄\:.{ 〈: : : : / ̄ ̄ ̄``ヽ、: :\
      | \  ∧    ´ ゚     |: /    /´ _√ ̄⌒^\  >: :´ ̄ ̄ ̄\    \ ハ
      人  \_公。           ,ふ    /\厂:::::::::::::::::::::::::::\_: : |\: : \: : \    \|
    /  \_  \>。,    / |'    /\/:\:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::\: :|: : |: :\_|    ヽ

ハハ ロ -ロ)ハ「これでどれくらい稼げル?」

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―― ̄ ̄___ ̄―===━___ ̄―  ――――    ==  ̄―― ̄ ̄___ ̄―===━

        .∧/∨ i   / !/ / i  |  V/  |:\  \     ´_
      {∨ { |     /:イ :|  |    v/ :|i V:≧=-
      {   八 |:.   |:.  .:|  リ^Ⅵ  '/:i|         \  |
      |:{, {  :.    |  ./.厶r─ -.|. '/. | \: \``〜、、 |
      |:. .{\. \、 |.   ィぅ示ミk. |   |    ``〜、、__彡
      ||  | /」L__.\ イ ^   Vrソ ,   ノ }/}   i!、  \.:|
      i|  |\,ィ笊ミk \|       / /: / }/} }  .i!:i     |
        i: :|  \..ゞ'       ノ ,  /   :} / :|:i    |
         ',.| ト {⌒ ヽ      .⌒ ,/, イ〈/:}  } | |:i    |.
        Ⅵ:{ { 从     __    ./'^ / / /  八.|:i     i|.
            /人.|i|:\  ‘ '     |..:'⌒i /. ./:. :|:i     i|

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「良くて一日。 悪くて半日、といったところかのぅ。
       あのバカでかい奴が日の目を見る前に、どうにかするぞ」
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ハハ ロ -ロ)ハ「しかたなイ」

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「たまには日の下で労働したいものじゃな」

ハハ ロ -ロ)ハ「日陰者には影の中での仕事が一番ダ。
       じゃあナ」

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「うむ。 また、いつか、どこかでな」

非常口を示す電灯の明かりが消えた時、二人の姿はその場になかった。
彼女たちは影の中を動く存在。
月明かりの下、闇よりも濃い影として生きる存在。
逆転の要であり、ティンバーランドの宣戦布告に対して誰よりも速く対応した人間だった。

87名無しさん:2021/12/27(月) 19:45:19 ID:5a5RWm0c0
.









             話は前夜に遡る――











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Ammo→Re!!のようです
Ammo for Rebalance!!編

第四章【 Ammo for Rebalance part1 -世界を変える銃弾 part1 - 】 了

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88名無しさん:2021/12/27(月) 19:47:19 ID:5a5RWm0c0
これにて今回、今年の投下は終了です
今年も大変お世話になりました
来年も誠心誠意頑張ってまいります

質問、指摘、感想等あれば幸いです

89名無しさん:2021/12/27(月) 20:45:16 ID:j2r6kqbM0
おつ!
まさに佳境って感じで最高すぎる
主人公勢だけでなく街のトップがしっかり優秀なのいいね
そしてトラギコ好きだから重役に選ばれて嬉しい
来年も楽しみにしてます!

90名無しさん:2021/12/27(月) 22:41:03 ID:j1QY9B1Q0
乙乙

91名無しさん:2021/12/28(火) 20:26:37 ID:ra5UryMM0
乙!
最高に盛り上がってきて敵も味方も活躍が楽しみすぎる
オサムとデレシアさんの再会はまだならなかったか……オサムの告白はまたの機会にってことで

今回自信がないんだけど

>>63
万年質を紙の上に走らせ

万年筆だよね? 万年質っていうのがあるのかな?

今年も素敵な作品をありがとうございました!
来年も楽しみに待ってます!!

92名無しさん:2021/12/28(火) 20:42:45 ID:lYor.uhQ0
>>91
ああああ!!直したと思っていたのにいいいい!!
ありがとうございます!!

93名無しさん:2021/12/28(火) 21:09:58 ID:JoFP1njw0
乙です
シィってお前死んだはずじゃ!
侵入者が入り込んでも平然としてるしジョーンズさんの底が見えないぜ
ジュスティア・イルトリアvsティンバーランド、どっちが勝ってもおかしくないから今後の展開を見るのが楽しみ

94名無しさん:2021/12/29(水) 05:02:14 ID:ruo.qBiI0
>>92
もはや様式美の様なやり取り

95名無しさん:2021/12/29(水) 05:40:47 ID:boulR.yY0
ここまで4年近く、長かったなあ

96名無しさん:2021/12/29(水) 10:43:44 ID:AJWL10JQ0
コンスタントに4年間更新し続けてるだけでも凄いのにここにきて更に面白くなったからたまんねぇな

97名無しさん:2021/12/30(木) 16:41:14 ID:RxI89Pp20
乙乙
今年も楽しめました また来年もお願いします

98名無しさん:2021/12/30(木) 20:42:43 ID:LCgQ3m3s0

ティンバーランドの幹部陣がどう動くか気になるなズタボロっぽいけど
円卓の騎士って今何人明らかになってたっけ

99名無しさん:2022/01/02(日) 11:05:46 ID:PnDTMwmw0
>>98
第一騎士
第二騎士 ハハ ロ -ロ)ハ ハロー・コールハーン “影法師”
第三騎士
第四騎士 (´・_・`) ショーン・コネリ “執行者”
第五騎士 <ヽ`∀´> ニダー・スベヌ “花屋”
第六騎士
第七騎士 <_プー゚)フ ダニー・エクストプラズマン “番犬”
第八騎士
第九騎士
第十騎士
第十一騎士 ( <●><●>) ワカッテマス・ロンウルフ “ロールシャッハ”
第十二騎士 ???

現段階ではこのようになっております

100名無しさん:2022/01/03(月) 11:59:13 ID:w9AgyN.20
>>95
最初の投下は2012年2月12日でした……そろそろ10年……

101名無しさん:2022/01/15(土) 22:08:42 ID:CJ0sxd7o0
円卓の騎士もまだまだ枠があるんだな先は長そう
あえて12を???にしてるの気になる

102名無しさん:2022/02/04(金) 17:28:35 ID:AQwkEqtg0
今度の日曜日にVIPでお会いしましょう

103名無しさん:2022/02/04(金) 19:04:50 ID:9lszu0Xk0
やったー!!

104名無しさん:2022/02/06(日) 21:07:54 ID:NUEjUIFc0
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              影こそが、より明るい場所を生み出すのだ。

                                 ――ジュスティア軍諜報員の心得


               より明るい場所ほど、影は濃いものだ。

                                  ――イルトリア軍諜報員の心得

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September24th PM08:15

七年前、ニクラウス・ビーバービレッジはかつて、ライフルを手にしたことも、人を撃ったこともない小心者の男だった。
生真面目な性格の彼は鍬を手に、畑を耕し、農作物を売って生計を立てていた。
そうして生きることが幸せだと思っていたが、六年前にその思いは打ち砕かれた。
近くの街がより安価で種類の豊富な農作物を出荷し始め、ニクラウスの住んでいた町は瞬く間にやせ細った。

収穫した作物は出荷されることなく町の間で交換され、互いの食卓に並んだ。
食事は問題なかったが、収入がないため、電気を止められる家がすぐに溢れた。
最終的に街の9割の家が電気代、ガス代を払えず、水道代も払えなくなった。
薪を蓄え、井戸から水を汲み、蝋燭で夜を過ごす生活が始まった。

畜肉は金と同等の価値を持ち、牛乳は嗜好品と化した。
酒は各家庭で作られ、粗悪な酒のせいで体を壊す人間が後を絶たなかった。
若い娘は大きな街に体を売りに行き、若い男は鉱山に出稼ぎに行き、町では老人が田畑を耕していた。
一人、また一人と町から人が消えていく。

町が滅びると思われたその時、内藤財団が高品質な野菜の栽培を町に持ち掛けてきたのが全てを変えた。
小さな町だからこそできる、野菜の徹底した品質管理。
それは町の農家同士でも話し合われたことだが、費用とそれを必要とする顧客の獲得が難しいという点で見送られたことだった。
更に、安定した供給を得るために、内藤財団が町の運営に手を貸すことになり、町に金が流れてきた。

それとほぼ同時に、町の治安を守るための訓練が行われた。
急成長を遂げた町に対する妬みで嫌がらせをしてくる可能性があるため、それは当然の備えだった。
そして、その中でも義憤を持つ者が選ばれ、ある話を持ち掛けられた。
世界を変える、その手伝いをしないか、と。

それからニクラウスは銃を手にし、世界に本当の平等と正義を取り戻す戦士となることを決意した。
訓練は秘密裏に、そして着々と行われた。
訓練を終えた者は次の者にその技術と知識を引き継ぎ、町全体がティンバーランドという組織の一員となるのには3年かかった。
彼が初めて殺した人間は、かつて彼らの町を滅びの直前まで追い詰めた町の代表者だった。

105名無しさん:2022/02/06(日) 21:08:20 ID:NUEjUIFc0
指導者を失ったその町は、今では彼の生まれた町と一つになった。
争いはなくなり、平和が訪れた。
人と人とが助け合い、分かり合うことが出来るのだと、彼は己の行いの正しさをその時に改めて理解した。
明日、いよいよ彼らの夢が実現に向けて動き出す。

ストラットバームはその存在が公になっていない。
聳え立つクラフト山脈に見下ろされ、雪解け水によって生まれた巨大な湖と豊かな自然がその存在を完璧に隠しているためだ。
稀に猟師、あるいは冒険家がその存在に気づいてしまうことがあったが、彼らが生きてそのことを誰かに伝えることは無かった。
ニクラウスを含め、分散して警戒に当たる人間達の手は血で染まっていたが、後悔はなかった。

肩にかけたライフルの位置を直し、ニクラウスは白い息を吐いた。
彼が担当するのはクラフト山脈の麓にある巨岩が幾つも転がる場所で、夜間に降りてくる冷気はマイナスの域にある。
防寒装備をしていても、服の隙間から入り込む冷気は完全に遮断できない。

「ふぅ…… こりゃ、コーヒーにウィスキーを入れて飲まないとな」

月に雲がかかり、辺りから光が失われる。
星明りが彼の視界を濃い群青色に染め上げる。
腕時計に目をやり、交代の時間が迫っていることを確認する。
不意に誰かが背中を触った気がしたと思った時、彼の体は嘘のように地面に向かって顔から倒れていた。

顔が地面にぶつかり、視界が黒になる。
意識は、そこで途絶えた。
背中から心臓に向けて精確に突き立てられたのは、先端を鋭く尖らせた木の枝だった。
そして死体は岩陰に運び込まれ、石で覆い隠された。

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、

影の中、ニクラウスを刺殺した女は跫音一つ立てずに移動した。
その身のこなしはまさに獣のそれであると同時に、狩人の物だった。
風になびく銀色の髪は、さながら彼女の持つもう一つの尾の様だ。
髪の毛とは逆に、暗闇によくなじむ褐色の肌には、汗ひとつ浮かんでいない。

狐の耳付きはそう多くいないが、彼女のような肌を持ち、妖艶さと生娘じみた若さを両立させた人間は世界で一人しかいない。
女の名前はギン・シェットランドフォックス。
“惑狐”の渾名を持つ、イルトリアの隠密偵察部隊“FOX”の長であると同時に、優れた諜報員としてその界隈で知られる人間である。
彼女の足は迷うことなく、地下にある実験施設に通じる出入り口に向かっていた。

106名無しさん:2022/02/06(日) 21:08:45 ID:NUEjUIFc0
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同日 同時刻

その日、キャスパー・キャルミバイゼンはストラットバームに通じる入り口近くの哨戒を担当していた。
入り口はなだらかな丘の地面に隠されており、そうした自然を利用した入り口は周囲に複数個所存在している。
二人一組で行う哨戒は一日も欠かされたことのないもので、一か月に数回、迷い込んできた人間をやんわりと遠くに追いやることしかなかった。
稀に、その場から動かないだけでなく、入り口を見つけて中に入ろうとする者がいた。

その場合は警告なしで射殺し、近くの森に遺棄して獣の餌にした。
肩に下げたカラシニコフの金属部は氷のように冷たくなっており、革手袋伝いでもその冷たさがよく分かる。
一緒に哨戒するケッツィー・ケストラルに至っては、口の前に両手を持ってきて息を吐きかけているありさまだ。
今夜はよく冷える。

腕時計で時間を確認すると、交代までまだあと2時間だった。
ふと視線の端に、何か光るものを見たような気がした。
森の方角。
獣の住まう森だ。

できるならば夜間に近づきたくはないが、異変を目にしてしまったのであれば、行くしかない。

「森で何か光った」

断言したのは、かもしれない、ではケッツィーが動かない可能性があるからだ。
ケッツィーは両手を口の前から降ろし、すぐに銃を構えた。

「行こう」

107名無しさん:2022/02/06(日) 21:09:09 ID:NUEjUIFc0
キャスパーもカラシニコフを構え、安全装置が解除されていることを確かめる。
彼はケッツィーよりも銃の扱いには慣れている自負があった。
彼が育った町は争いの絶えない町で、銃声が聞こえない日はなかった。
争いが日常だった。

前日まで虐げられていた人間が、拳銃と銃弾一発で翌日には虐げる側になる日があった。
彼にとって、それはあまりにも自然なことだった。
しかし、彼は旅が趣味だった。
ネイキッドバイクで知らない土地を訪れるたび、新たな発見と気づきがあった。

町にそれを持ち帰っても、改善はなかった。
理由は簡単だった。
彼に力がなかったからだ。
しかし、契機は突然訪れた。

内藤財団によって町が買い上げられ、町全体である植物の栽培を行うことになった。
その栽培は困難だったが、それに見合った報酬が人々の心を満たした。
金の力だ。
暴力以外の力を知り、町はこれまでとは違った発展を遂げることになった。

得た金をどう利用するか、考えなければならない展開。
即ち、暴力ではなく知力、発想力が必要とされる展開だ。
町の人間達は銃ではなくペンを。
防弾チョッキではなく本を常に携帯するようになり、町全体が大いに変化した。

もう、銃を手にしなくてもいい時代が目の前にある。
それこそが、彼が旅を通じて確信した一つの真実だった。

「どんな光だったんだ?」

「小さな点、だ。
ほんの一瞬だが、確かに光った」

「熊じゃないといいな」

人の死体に味を占めた獣が森に居ついているという噂は、警備を担当する人間の中では真実として定着していた。
天然の警備を行う存在が生まれたのは歓迎だが、獣は人間を区別しない。
ライフル弾を頭部、もしくは心臓に撃ち込まなければどちらかが殺されるかもしれない。
頭上に浮かんでいるはずの月は雲に隠れ、彼らが頼りにしている視覚が奪われる。

目が慣れているとはいっても、獣には勝てない。
影の中にある影は、当然、目視することはできない。
暗視装置は希少な物であると同時に、一般的な人間が持っている装備ではない。
仮に旅行客や旅人と遭遇した時、可能な限りの殺生は控えるように言われている。

ジュスティアやイルトリア軍を名乗るのは簡単だが、装備で疑われたり、この場に敵対する人間を呼び寄せる噂になりかねない。
そのため、装備は怪しまれないよう、付近の街で多く使われている物が選ばれた。
暗視装置を使うほどの大規模な街がないため、彼らはそれを装備することが出来ないのである。
かくして、二人は虫の鳴き声と木々のざわめきが支配する夜の森の前に来たのであった。

108名無しさん:2022/02/06(日) 21:09:35 ID:NUEjUIFc0
「……どうする」

ケッツィーの言葉に、キャスパーは一つ息を吐いて答えた。

「……そ」

答えたつもりだった。
だが、声が出なかった。
まるで穴の開いた風船に空気を吹き込むような、そんな感覚が一瞬。

「ど――」

ケッツィーの言葉はそこで止まり、それ以上彼が何か言葉を発することは無かった。
首を一撃で切断された彼らが痛みを感じる前に、その意識と命は夜の森へと溶けて消えた。
事前におびき寄せられていた獣たちが死体を食い荒らす頃には、彼らの命を奪った女は地下への入り口に到着していた。

ハハ ロ -ロ)ハ

ハロー・コールハーンは赤い縁の眼鏡を指で押し上げ、周囲を見渡した。
伝説的な諜報員として名を馳せる彼女だが、その姿を見た人間はほとんどいない。
名前だけが残り、その名前に、多くの人間が恐れを抱いている。
剃刀のように鋭い視線である一点を見つめると、白い息を吐いて言葉を発した。

ハハ ロ -ロ)ハ「……まさかここで会うとは思わなかっタ」

彼女が影に向かって声をかけると、その陰からゆっくりと別の影が姿を現した。
ギン・シェットランドフォックスは驚きもせず、級友に答えるように言葉を返した。

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「久しぶりじゃの。
       “茶会事件”以来じゃな」

ハハ ロ -ロ)ハ「目的が同じなら、また協力し合うカ?
        それこそ、茶会事件と同じようニ」

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「お主からそう言われるとは意外じゃが、そうじゃな。
       それがよかろう」

言葉の裏側を探ることはいくらでも可能だ。
だが、今は時間がない。
敵対する街の諜報員同士ではあるが、共闘するのはこれが初めてではない。
彼女たちは状況を好転させるための影であり、そのためには不要な矜持や意地は簡単に捨てられる。

例え殺し合った仲だとしても、目の前に共通の脅威があれば、それを排除するために協力し合う。
それが最も効率的かつ、効果的であることを知っているのだ。
背中を預けるのは己と同等の力を持つ人間。
相手への警戒心は転じて相手の力に対する信頼でもある。

――二人の影は、静かにストラットバーム実験場へと侵入したのであった。

109名無しさん:2022/02/06(日) 21:09:59 ID:NUEjUIFc0
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第五章【 Ammo for Rebalance part2 -世界を変える銃弾 part2-】
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同日 PM08:20

隠密偵察に特化した棺桶は数多く生産されたが、試行錯誤の歴史の賜物として現在まで残り、復元された物は僅かしかない。
単純な物であれば周囲の景色に同化する装甲を持った棺桶が挙げられるが、バッテリーの消費が激しく、実用段階にある物は迷彩の色とパターンを変更する物ぐらいだ。
しかしそれも、人間の肉眼と光学レンズを誤魔化す物であり、温度探知などの特殊なカメラの前では全くの無意味だ。
そのため、復元されたものの諜報員が現場にそれを持ちこむことはほとんどなかった。

無論、例外もある。
その目的に特化した設計により、生み出された“コンセプト・シリーズ”であれば、実用に足る物ばかりだ。
例えば。
ハロー・コールハーンが使用する“キングスマン”は極めて特殊な棺桶であり、装甲と呼べるものはない。

電流によってその性質を変える特殊素材で作られた、紳士用の上下セットのスーツ、そしてベストの姿をしており、眼鏡型のデバイスがセットとなっている。
それは“人の目を欺く”に特化した棺桶で、筋力の補助は一切行わない。
無論、防弾ですらない。
ベスト型のバッテリーは体温と周囲の温度差によって蓄電が可能な物で、破損しない限りは電力を安定して供給できる優れものである。

キングスマン最大の特徴は、その繊維にこそある。
眼鏡型デバイスで認識した周囲の風景に同化させることは勿論、他者の服装に偽装することも可能であるため、あらゆる目を誤魔化すことが出来るのだ。

ハハ ロ -ロ)ハ

それに対し、ギン・シェットランドフォックスが使用する“グランドイリュージョン”は“機械の目を欺く”ことに特化していた。
肉眼以外の物で彼女の姿を認識しようとしても、その像は決して本来の姿を映すことは無い。
仮に光学レンズで彼女を見ても、機械経由でその姿を見る場合、その姿は決して見られないのだ。
キングスマンと同様に特殊繊維で作られ、体に密着する形をしているために運動の邪魔にはならない。

キングスマンが赤外線センサーや熱源感知カメラには反応するのに対し、グランドイリュージョンはそれを欺くことが出来る。
そして、至近距離であればカメラの機能そのものに干渉し、無力化することも出来た。

110名無しさん:2022/02/06(日) 21:10:32 ID:NUEjUIFc0
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、

どちらも復元するまでに膨大な費用を要し、ラヴニカの職人の腕をもってしても、数十年の歳月を必要とした。
異なる職人によって復元され、異なる街に納品された棺桶が同じ目的の為に同じ場所に集まるのは公には一度もないが、実際にはこれで二回目だった。
地下に作られた実験場の深部に向かってエアダクトを使い、二人は着実に進んで行く。
大規模な施設であることは、そのエアダクトの大きさからも窺い知ることが出来た。

何せ、小柄とはいえ人が直立した状態で移動することのできるダクトというのは、少なくとも二人にとっては初めて見る規模の物なのだ。
ダクト内は音が反響するため、二人は無言だった。
むしろ、言葉など不要とも言えた。
潜入を得意とする二人にとって、必要なのは互いの気づきと情報の共有。

それは言葉ではなく、目線と仕草で十分に伝わっていた。
例え双子、あるいは数十年を共に過ごし、訓練を積んだ諜報員でもここまで臨機応変に連携をとることは出来ないだろう。
彼女たち一流の人間は、自分の動きを相手に合わせることを考えないのだ。
身体能力は常人のそれをはるかに凌駕しており、ギンに至っては人間離れした膂力と五感を持ち合わせている。

長く続いたエアダクトの起点に到着した時、時刻は九時を少し過ぎたところだった。
そこが何階なのか。
そもそも、この施設が何階層あるのかも定かではないが、最下層であることは間違いなさそうだった。
外の様子をハローが確認する。

ハハ ロ -ロ)ハ「……」

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「……」

ハローとギンは互いに視線を合わせ、静かにエアダクトの蓋を外し、音もなく地面に着地した。
そこは巨大な空間の上部に作られたキャットウォークだった。
足場は金属の足場を岩肌に取り付けたもので、壁は垂直に加工された天然の地層だった。
遥か眼下に見える床は光沢のない金属製の板で整えられ、コンテナが等間隔で設置され、ケーブル類が血管のように張り巡らされている。

ケーブルの巨大さは、近くを歩く人間の大きさと比較しても圧倒的な物だった。
それ一つで自動車並みの大きさを持つものもあれば、人の腰ほどの大きさの物もあった。
巨大な空間の中央に灰色の何かが鎮座していることに気づくのが遅れたのは、そのあまりにも馬鹿げた大きさ故の物だった。
初めは施設の一部だと思ったが、優に200メートル以上はあるそれは、明らかに兵器の姿をしていた。

二人は呼吸を整え、冷静に観察を始めた。

ハハ ロ -ロ)ハ「何ダ、あれは」

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「知らんな。 だが、ワシらが調べるべきものなのは間違いないのぅ」

事前の情報と呼べるものはほとんどなく、現地で何かを見つけ、それを報告することが主な任務になるはずだった。
だが、臨機応変が求められる現場経験が豊富な彼女たちでも、目の前にある規格外の兵器を前にしては狼狽を禁じ得ない。
多少の覚悟はしていたが、その覚悟を優に超える現実を前に、二人の胸はかつてない高鳴りを見せていた。

111名無しさん:2022/02/06(日) 21:10:55 ID:NUEjUIFc0
ハハ ロ -ロ)ハ「この施設についても調べないといけなイ。
       電波は……ないナ」

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「これだけの巨体が入るということは、少なくとも、300メートル以上は地下にいるからのぅ。
       問題は、この兵器の目的じゃな。
       連中に関しての情報も、持っていけるだけ持っていこうかの」

ハハ ロ -ロ)ハ「二手に分かれるカ?」

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「効率で言えばそうじゃろうな。
       じゃが、それはワシらの知っている経験の中での効率じゃ」

ハハ ロ -ロ)ハ「だナ。 ここから下に向かうにも、少し苦労しそうだナ」

ハローの言葉通り、二人がこれから向かうのは200メートル以上も下の場所なのだ。
キャットウォークを伝い、別の降り口を見つけて下に向かうしかない。

ハハ ロ -ロ)ハ「お前、私の隣を歩ケ。
       少しは隠れられル」

イ从゚ ー゚ノi、「そりゃありがたい。
       とりあえずは……ふむ、この道を進んだ先の扉まで頼もうかの。
       扉はワシが開ける」

キャットウォークの端には下に向かう階段と、壁に作られた扉があった。
階段を使って降りれば、流石に目撃者が大勢出る可能性がある。
現に、空間に鎮座している巨大な兵器の周囲に組まれた足場には作業服に身を包んだ人間が数人おり、いつこちらを見るか分からない。
万に一つ見られたとしても、ハローの棺桶の能力によって誤魔化すことはできる。

しかし、それは絶対ではない。

ハハ ロ -ロ)ハ「よシ」

二人は即座に移動を始めた。
静音性に優れたソールを使ったブーツを履いているとはいえ、移動時にはほとんど音が出ていないのは、奇術めいたものがあった。
そして二人の手にはいつの間にか、サプレッサーのついた拳銃が握られている。
薬室には初弾が装填され、撃鉄は起き、安全装置は解除されていた。

両者の拳銃は消音性を重視した設計と専用の弾を使うため、近距離の運用が前提となっている。
彼女たちがその銃を使うのは稀だが、目撃者がいた場合、躊躇なく発砲するだけの覚悟と経験がある。
不運にも遭遇した者は、幸運にも即死することが出来るのが唯一の救いになるだろう。
扉の前に到着するまでの間、二人は呼吸を止め、気配を完全に消していた。

扉には電子錠はおろか、物理的な錠もなかった。
観音開き式の扉の上部をギンが確認し、扉の向こうに人がいないことを確認する。
彼女の耳であれば、その向こうにいる人間の息遣いや跫音を聞き漏らすことは無い。
ギンが扉を押し開き、僅かな隙間からハローが中に入る。

112名無しさん:2022/02/06(日) 21:11:28 ID:NUEjUIFc0
光学迷彩を可能にする彼女の棺桶によって、仮にその向こうに人間がいたとしても風のいたずらで扉が開いた程度にしか思われない。
安全が確認されると、次にギンが入る。
扉の向こうには無機質な白い壁と床が広がり、天井の蛍光灯がその景色をぼんやりと照らし出している。
見る限り通路が丁字路になっており、それぞれがどこに通じているのかは突き当りの壁にあるフロアマップに書かれていた。

二人は壁沿いに進み、曲がり角のところで同時に両側に銃を構えてクリアリングを行う。
フロアマップに書かれていたのは、ここがA棟と呼ばれる場所の地下40階の地点であるということだった。
トイレ、更衣室、そして主に武器管理室がこのフロアを占めていた。
書かれている情報を統合すると、施設は地下80階まであり、AからDまでの4つの棟で構成されているということが分かった。

先ほどの巨大兵器も格納できるだけのこの膨大な施設を、気づかれずに作り上げることが果たして本当に可能だったのだろうか。
一つの巨大な街そのものを埋めたような施設を作るには数年のレベルではなく、数十年、あるいはそれ以上の歳月が必要になるはずだ。
二人はひとまず、武器管理室に向かい、この施設に保管されている武器の種類や質を確認することにした。
あれだけの巨大兵器があるのであれば、所有している武器は一介のテロリストを凌駕するはずだ。

互いの死角をカバーしながら廊下を進み、最も近い武器管理室の扉を開いた。
先ほどの扉もそうだが、この施設は外敵の侵入を想定していないのか、鍵による管理が甘かった。
その自信が過信でなかったことの証に、誰にも発見されなかった今日この日があるのだ。
最初に足を踏み入れた武器管理室は、壁一面に拳銃がかけられ、展示されていた。

部屋に監視カメラの類は見られないため、二人はそのまま部屋に入る。
一挺ずつ名前のプレートがつけられ、その下には外された弾倉があった。
まるで博物館の拳銃コーナーのようだったが、二人の注意は空間の異質さではなく、展示されている銃そのものに向けられていた。
並ぶ拳銃の一部は彼女たちも知る物だったが、半分以上は見たことのない物だった。

ハハ ロ -ロ)ハ「見たことない銃だナ」

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「型番がワシらの知る銃と離れているな」

ハハ ロ -ロ)ハ「ベレッタ、グロック、S&W…… どれも知っているが」

ハローはそう言いつつ、壁にかかる拳銃を一つ手に取る。

ハハ ロ -ロ)ハ「バッテリー駆動の銃ダ……」

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「テーザーガンとは違うようじゃの」

ハハ ロ -ロ)ハ「あぁ、銃身の形状も見たことナイ。
       “M003A15レールガン”、だとサ」

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「弾は流石にないか」

他にも彼女たちの知る銃器メーカーの知らない型番の銃が並ぶが、あくまでもそれは展示されているだけだ。
必要な弾薬は当然、そこにはなかった。
武器管理室という名の展示場か、あるいは、資料室として使われているのか。

113名無しさん:2022/02/06(日) 21:12:18 ID:NUEjUIFc0
ハハ ロ -ロ)ハ「とりあえず、武器管理室は一見の価値ありだナ。
       時間があればナ」

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「そうじゃな、銃の種類が分かったところで得られる物は少ないからの。
       下に向かおう。
       この施設、間違いなく現代の物ではない」

ハハ ロ -ロ)ハ「恐らく、世界大戦の時の物だろうナ。
       部屋の作りが居住用のそれダ」

今は武器管理室として使っているが、その前は居住スペースとして使っていたであろう名残が床や壁に見られる。
特に、湿度の管理をするための器具が備え付けでないという点が、明らかに不自然だった。
つまりここは、大昔のシェルターとして使われていた可能性が高かった。
無論、それは推測でしかない。

これだけ大規模な施設、更には、あの巨大な兵器を管理するための空間を考えるとシェルターの一言では片付けられない物がある。
部屋を一通り物色し終え、部屋を出ようとした時、戸に手を伸ばしたギンがその動きを止めた。

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「……」

視線でハローに合図を送り、扉の向こう側に人の存在を感知したことを伝える。
しかしこの部屋には隠れる場所はない。
四方の壁に拳銃がかけられているだけで、他にあるのは温度と湿度を管理するための機械だけ。
扉は向こう側から押し開く形の物であるため、一人は扉の裏に隠れられるが、もう一人は隠れる場所がない。

ギンは扉の裏に身を隠し、ハローは頷き、その場で棺桶の機能を使用した。
まるで魔法のように彼女の全身が周囲の風景に溶け込み、姿が消えた。
動きさえしなければ、その存在を直視することは困難だ。
ただし、足元に現れる影だけはどうしようもない。

果たして、どうなるか。
扉が開いた時、二人は即座に覚悟を決めた。

「何で電気がついてるんだ?」

「誰かつけっぱなしにしたんじゃないか?
どうせ、また間抜けのマーロウだろうさ」

「あぁ、あり得るな。
なぁ、ちょっと一服しないか?」

「ばれたら怒られるだろ」

「今日は皆忙しくて、それどころじゃないさ。
いよいよアレを動かすだろ?」

114名無しさん:2022/02/06(日) 21:12:42 ID:NUEjUIFc0
「“ハート・ロッカー”な。
あそこまで復元できたのも凄いけど、いや、やっぱりジョーンズ博士は天才だよ。
棺桶に関しちゃ、あの人は世界最高の人だな」

男二人は部屋に入り、扉を閉めて懐から煙草を取り出した。
その瞬間。
ギンは彼女に背を向けている男の背後に立ち、一撃で首を折った。
そして彼女の姿を目視できる位置にいた男も同様に、ハローの手によって首を折られ、絶命した。

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「ジョーンズ博士、ということはイーディン・S・ジョーンズか」

ハハ ロ -ロ)ハ「厄介だナ。 あのデカイのは棺桶の分類みたいだナ」

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「嬉しくない事ばかりが分かったの。
       さて、他に何かないかの」

会話をしながらも死体の装備を確認する。
家族の写真が挟まった手帳が見つかり、それを開いて流し読みする。
手帳はこの場所での身分証明書を兼ねたもので、名前と顔写真があった。

ハハ ロ -ロ)ハ「……おい、これを見てみロ」

もう一人の死体を漁っていたハローがそう言って、一枚の紙を見せてきた。
それは、この施設全体のフロアマップだった。
これで時間の短縮が出来るが、最も注目すべきはこの建物が80階建てではなく、85階建てであるという事実だった。
80階はハート・ロッカーと呼ばれる兵器がある格納庫兼兵器試験場。

その更に下にあるのは、地下通路と船着き場だった。
先ほどのフロアマップとは違い、細かな名称が書かれている。
恐らくはこちらが新しい物、あるいは、内部の人間にだけ与えられている特別なマップなのだろう。

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「地下に船着き場じゃと?」

ハハ ロ -ロ)ハ「連中、潜水艦を持っていル」

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「あぁ、それはワシらも確認しておる。
       ティンカーベルでの襲撃に使ったものか。
       地下ならデカイ船でも隠せるからの。
       地下通路が4種、というのも気になるのぅ」

書かれているのはあくまでも名称であり、何に使うのかまでは記載がない。

ハハ ロ -ロ)ハ「ここが40階だから、このまま下まで行こウ。
       役に立ちそうなのは70階からダ。
       実験室、資料保管庫……宝の山だゾ」

115名無しさん:2022/02/06(日) 21:13:06 ID:NUEjUIFc0
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「同感じゃな」

そして、彼女たちは死体を天井にある通気口に押し込んで隠した。
定期的な見回りがあるのであれば、彼らが定時報告、あるいは定時で交代しなければならないのは明白だ。
彼らに問題が起きたと分かるまでにかかる時間は不明だが、少なくとも、死体が見つからなければ時間を稼ぐことが出来る。
彼女たちが外で殺した人間にも同じことが言えるが、二人は死体をそのままにする愚を犯さなかった。

しかし異変に気付かれるのは時間の問題だ。
それがどれだけかかるか、それは二人には分からない。
一つ言えるのは、彼女たちの行動でこの先の何もかもが大きく変わり得るということだ。
情報を集め、必要であれば混乱を招く。

それこそが、影の仕事なのだ。

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同日 PM11:02
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

二人がその部屋に入ったのは、全くの偶然だった。
A棟からD棟を順に回りながら情報を集めていく中で、その部屋は札もなければ、フロアマップにも記載のないものだった。
場所はA棟の地下79階。
扉を開き、安全を確認してから二人が入り、最初に目にしたのは高さ150センチほどの金属製の箱だった。

黒い金属製の箱は丁度人間一人が収められるような長方形をしており、周囲に置かれた様々な機器とケーブルで接続されていた。
ハローが別の角度に回り込み、そこで眉をしかめた。
無言でギンを手招き、そこにある物を見るようにジェスチャーで伝える。

ハハ ロ -ロ)ハ「……」

116名無しさん:2022/02/06(日) 21:13:52 ID:NUEjUIFc0
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「……」

――職業上、二人は多くの物を見てきた。
しかし、今二人が目にしている物は、これまでに見たことのないものだった。
それは間違いなく機械だった。
紛れもなく機械だが、人の生首が備え付けられた機械だった。

【(* - )】

首の持ち主の顔は傷だらけで、不気味なほどに肌が白くなっている。
加えて、髪の毛は頭皮ごと剥ぎ取られ、代わりに数本のケーブルが突き刺さっている。
延命したい一心で人と機械をつなげるならばまだ分かるが、これは明らかに、人間の体を機械の一部として使っている類の物だった。
これが一体何の実験で生み出された物なのかは分からないが、作った人間は間違いなく倫理観のタガを失っている。

何故に人間の首を使わなければならないのか、理解に苦しむ。
この部屋はこの機械を管理するためだけの部屋のようで、これが重要な役割を担っているのは疑いようがない。
頭の上にあるプレートには、“Amelia Brooklyn Cmart”と書かれていた。

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「……む」

人の跫音がギンの耳に届く。
隠れる場所が何もない空間であるため、ギンはハローと共に部屋の隅に移動した。
ハローがギンを覆うことで、その姿が周囲の風景に溶け込む。
近づかれない限りは平気だが、万が一に備え、拳銃の銃腔は扉の方に向けられている。

「俺この“鍵”を見るのが嫌いなんだよ」

「好きな奴はいねぇよ」

男が二人。
電動補助装置のついたストレッチャーを押しながら、部屋の中に入ってきた。
既にこの場所に来るまでに二人は数人を屠っており、明らかに重要な機械の運搬を任されているこの二人を殺せば大事になるのは明らかだ。

「でもよ、どうして首が必要なんだろうな」

「お前知らないのか? 棺桶のシステムの問題だよ」

ストレッチャーに機械を乗せ、男が答えた。
しかしその続きは部屋の中で語られることは無かった。
手を止めることなくストレッチャーを部屋から出し、二人は消えた。
しばらくして安全を確認し、二人は顔を見合わせた。

ハハ ロ -ロ)ハ「肉声の問題を、まさかこうして回避するとはナ」

棺桶は音声によるコード入力で起動する。
しかし、その声を何かしらの手段で録音してコードとして使うことが出来てしまえば、そもそものセキュリティが成り立たなくなる。
そのため、肉声でなければ棺桶は基本的に起動しないようになっている。
発掘された棺桶はその全てがコード使用者の保持期間が過ぎ、リセットされているために再設定が出来る。

117名無しさん:2022/02/06(日) 21:14:48 ID:NUEjUIFc0
量産機はDATを接続すれば前使用者が死亡して保持期間が継続していたとしても、その権限を移行することが出来る。
コンセプト・シリーズにおいては生前に使用者を複数登録していない限り、ラヴニカなどにいる専門家に依頼し、権限の書き換えを行わなければならない。
おおよそ一か月から二か月で作業は完了するが、中にはそれが出来ない物もあるだろう。
こうして死者を使ってセキュリティを突破するなど、誰も考えたことがない。

否、考えたとしても、それを実行に移すだけの発想力はないはずだ。
棺桶に魅入られ、棺桶の研究に全てを注ぐ科学者、ジョーンズならではの発想だ。

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「技術を持つ者ならでは、といったところかの。
       まだ調べることがありそうじゃの」

ハハ ロ -ロ)ハ「あぁ、多すぎるぐらいダ。
        だが今夜、何かが起きるのはこれで確定したナ」

正義の味方、という短絡的な思考をしているのであれば、そもそもこの仕事は務まらない。
円卓十二騎士にその名を連ねているとはいえ、ハローは諜報員だ。
皮肉にも、円卓十二騎士の多くが諜報活動を通じて伝説的な成果を残している。
ギンにとって、商売敵の多くが円卓十二騎士であり、その中でも何かと接点があるのがハローだった。

故に、例え非人道的な何かを目撃したとしても、彼女が暴走しないということは良く分かっている。
例え子供が目の前で侵されていたとしても、眉一つ動かさずに己の任務を遂行できる精神力と自制心を持っている。
そうでなければ、円卓十二騎士という称号は与えられない。
騎士は主人の命令に忠実に動き、目的を達成するための刃となって働く存在だ。

並みはずれた自制心がなければ、この界隈の人間は長生きが出来ない。
諜報員、隠密偵察部隊の人間は任務のためであれば心を殺すのだ。

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「なればこそ、だな。
       通信室については記載がないから、見つけなければ何も伝えられんぞ」

そう。
二人の前には大きな問題があった。
手に入れた新たなフロアマップには通信室の記載がなく、しかし、それがこの規模の施設にはありえないということを二人は理解していた。
そのため、全ての棟の全ての部屋をしらみつぶしに調べ、正解の部屋を見つけなければならなかった。

この時間まで二人が部屋の捜索で時間を要したのは、その部屋を探すという作業を行っていたからに他ならない。
警戒しつつ、更には見つからないように行動しながらの作業は、常人離れした能力がなければすぐに破綻する。
様々な命運をかけた綱渡りのようなものだ。
互いの棺桶の特性を生かすのもそうだが、それを即座にやってのける連携力の高さがなければ成り立たない。

潜入開始から約3時間で見つからずにこの階まで来られたのは、二人の実力が桁外れだからに他ならない。
そして、分かったことがある。
実験施設に近くなるにつれ、各フロアには棺桶の研究に関する物が多くなっていた。
中でもとりわけ二人の目を引いたのは、保管されている棺桶の数と種類だった。

大量に並ぶ白いジョン・ドゥは塗装だけでなく、装備の一部が別の物に置き換えられ、機動性と対弾性能が向上するように改造されていた。
この手の改造は稀に見ることがあるが、質を維持したまま大量にそれを用意できるのはこの施設を使う組織の背後にいる者の財力があるからだ。

118名無しさん:2022/02/06(日) 21:15:09 ID:NUEjUIFc0
ハハ ロ -ロ)ハ「このフロアをもう少し探してみるカ。
       少なくとも、上の階よりもよっぽど情報がありそうダ」

これまでに見つけた資料保管室にあったのは、銃器の性能に関する資料や、発掘された棺桶に関する資料ばかりだった。
役立つ情報であることに変わりはないが、今すぐ必要な情報というわけではなかった。

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「奴らがこれから何をするのか、も確認せんといかん。
       じゃが、とにかく通信を確保せんとな。
       探せるだけ探そう」

部屋を出て、二人は再び影の中に溶け込むようにして情報収集を始めた。
地下80階に到着したのは、日付が変わる30分程前。
そして、辺りが騒々しくなり始めたのも、その辺りだった。

ハハ ロ -ロ)ハ「……」

二人は間もなく何かが起こることを察し、身を隠しつつ、周囲の状況を把握できる場所を探した。
あるのは発電室、整備室、性能試験場、模擬戦闘場、第1管制室だった。
管制室は他のフロアにもあったが、どこも共通しているのが館内限定の放送設備、ガラス越しに巨大兵器を見下ろせる位置にある、という点だった。

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「……」

二人が選んだのは、そのいずれでもなかった。
先ほどの兵器の傍にあるコンテナ、その足元に隠れることを選んだのである。
多くの整備員が歩き回っていたが、二人にとって、彼らの目を欺くことはあまりにも簡単だった。
彼らの視線は人を探すように動いておらず、侵入者の存在など想像もしていないのだ。

ハローの棺桶がその性能を最大限に発揮し、壁沿いに移動するだけで問題は解決した。

『兵器試験場にいる各位へ通達。
定刻通り、ハート・ロッカーの起動実験を行う。
各箇所の最終点検を行い、持ち場に着くように。
繰り返す、起動実験は定刻通りに行う』

施設全体に放送が入り、人の動きが一層慌ただしくなる。
作業員はケーブル類の確認、DATを使って何かのデータを確認し、管制室にも人の出入りが確認できた。
起動実験。
それは、あの巨大兵器が動き出すことを意味し、二人にとっては決して見逃すことのできない瞬間の到来を意味している。

ハート・ロッカーの周囲から移動式の足場が離れ、数本のケーブルが切り離されていく。
コンテナの下から見上げてもまだハート・ロッカーの全貌は見えない。
しかし、先ほどから何度もその巨体を見てきたから分かる。
この兵器は、非常に危険な存在である。

棺桶は戦車にも勝る程の優秀な兵器だが、ハート・ロッカーに勝ることが出来るかと問われれば、誰もが首を横に振ることだろう。
それほどまでに圧倒的な質量。
金属が擦れる音、機械から発せられる警告音が鳴り響く。

119名無しさん:2022/02/06(日) 21:15:35 ID:NUEjUIFc0
ハハ ロ -ロ)ハ「本当に動くのか、あれガ」

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「にわかには信じがたいが、動くのじゃろうな」

――そして、その時が訪れた。

『“天蓋”を展開する。
作業員は安全を確保せよ。
繰り返す、“天蓋”を展開する。
各種ロック解除』

『ロック解除、了解。
10番から5番天蓋、解除確認。
10番から5番、展開。
続いて4番から1番天蓋、解除開始。

……解除確認、4番から1番展開』

『各天蓋の展開を開始。
落石に注意』

巨大で重厚な金属がこすれ合う、獣の様な音が警告音と共に響き渡る。
二人は耳栓をし、周囲の様子を観察する。
人工の光ではなく、月光が天井から差し込んでくる。
やがて落雷じみた音を発し、その音が止む。

『天蓋の展開終了。
各所、報告を』

『地上、問題なし』

『天蓋の固定問題なし』

『射線確保問題なし。
リフト計器異常なし』

『各作業員、作業開始。
異常があれば速やかに報告を』

天井と壁と一体になった大型のクレーンが動き出し、同時に、作業員たちが駆け足で動き出す。
ハート・ロッカーの周りに取りつき、大声で各所の報告を行う。

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「……足元にジョーンズがおるぞ」

ハハ ロ -ロ)ハ「……本当ダ」

イヤーマフを片耳にだけ装着したイーディン・S・ジョーンズが複数人の部下を引き連れ、ハート・ロッカーの足元に現れる。

120名無しさん:2022/02/06(日) 21:16:03 ID:NUEjUIFc0
(’e’)『よし、まずはここまでは予定通り。
   みんな、いいぞ。
   観測手との通信接続開始』

『通信接続開始。
……接続完了』

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「……」

二人はその会話を聞いて、すぐに自分たちの通信機を取り出し、確認した。
電波を掴んでいた。
天井が開けたことにより、電波の通り道が出来たのだ。
音声での通信ではなく、独自の暗号通信を選んだ。

信号のオンとオフをある一定の間隔で送ることで、それが文字となって相手に伝わる。
これならば周囲の音を気にする必要はない。

『スカイアイ、接続状態良好。
視界良好。
作戦は予定通りに進行、ブーオより離脱との報告あり』

(’e’)『うんうん、それは重畳。
   鍵を入れてくれ、くれぐれも慎重にね』

そして、先ほどのストレッチャーに乗せられた機械がハート・ロッカーの胸部にクレーンで持ち上げられ、その奥に入れられた。
分厚い装甲版が閉じた瞬間は、まるで納棺のようだった。

『接続状態確認。
システム上に問題はありません』

(’e’)『予定通りだね。
   では……そろそろ始めよう』

121名無しさん:2022/02/06(日) 21:16:26 ID:NUEjUIFc0
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       ./  /  / i i          i i    .i i 三三三三  三三三三  j i    i i
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       i─/  /  i  i          .i i    i i 三三三三  三三三三 .i i   .i i
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同日 PM11:59
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(’e’)『よーし、準備はいいかな?』

ジョーンズのその言葉は、決して確認のための言葉ではないのはすぐに分かった。
これから始めるための前置きでしかなく、すでに準備が完了していることを彼は知っている口調だった。
片耳にだけかけていたイヤーマフをかけ直し、位置を整える。

(’e’)『よし、位置につきたまえ』

誰も返事をしない。
それもまた、彼にとっては事務作業的な言葉に過ぎないのだ。
しかし、次の一言が重要な意味を持っていることは明白だった。

(’e’)『コードの入力だ』

僅かの間。
そして、聞こえてきたのは機械的に淡々と紡がれる女の声だった。

『そして、大好きだった物も忘れていく。 私には一つだけ残っている』

直後。
ハート・ロッカー全体が僅かに軋み、各部位が微振動を始める。
命を吹き込まれたかのように、圧倒的な巨体が生き物のような熱を帯び始める。

122名無しさん:2022/02/06(日) 21:16:51 ID:NUEjUIFc0
『砲身展開開始』

その放送すらも、巨大な履帯が地面を踏みしめる音によってほとんど聞こえることは無かった。
巨体がゆっくりと前傾姿勢になるのと同時に、背負っていた砲身が動き出す。
折り畳まれていた砲身が繋がり、一本の長大な砲身と化す。
その砲は天井に開いた大きな穴に向けられた。

微調整をするように、無限軌道が後退する。

(’e’)『うんうん、いいぞ。
   さて、後は微調整だな。
   砲身をもうちょっと下にしてくれ』

指示通りに砲身が動き、更にそれからも細かな指示が続いた。
ハローとギンは顔を見合わせ、耳を思いきり塞ぎ、口を開く。

(’e’)『じゃあ、撃ってみよう』

直後、衝撃波を伴う爆音が施設を震わせた。
狭い空間であるが故に、ここは銃身と同じような環境になっている。
イヤーマフをしていても、あれだけの至近距離であれば、聴覚には相当な支障が出るはずだ。
現に、人よりも聴覚が敏感なギンは耳栓を用いても軽い眩暈と頭痛を覚えていた。

しかし、それでも無線機を使っての報告は止めなかった。
砲撃の対象になっているのがブーオであり、それには巨大兵器が使われているということ。
それは間違いなく伝えなければならないことだ。
3分ほどして、放送が入った。

『……ちらスカイアイ。 繰り返す、こちらスカイアイ。
聞こえるか?』

(’e’)『あぁ、聞こえるよ。
   で、どうだった?
   修正はどれくらい必要かね?』

『着弾先は市長邸宅。
市街地への被害は見られません』

(’e’)『ひとまずは命中か。
   よし、次は焼夷弾とフレシェット弾を連続で撃ってみよう』

大型クレーンがハート・ロッカーの巨砲から薬莢を取り除き、吊り下げられた砲弾が装填される。
その間、ジョーンズは腕時計に目を向けていた。

(’e’)『装填完了に15秒だ!! 次はもっと短縮してくれたまえ!!
    ようし、座標の修正を完了したかな?
    では二発目、いってみよう!!』

123名無しさん:2022/02/06(日) 21:17:17 ID:NUEjUIFc0
これは、ブーオを射的の的にした砲撃の演習だ。
二度目の爆音が響き渡り、すぐさま装填作業が行われる。

(’e’)『12秒!! いいぞ!!
   着弾点はどうだ?!』

『市街地に着弾、山にも引火しました。
消防隊が動き出しています』

(’e’)『うんうん、いい判断だ。
   フレシェット弾、いってみよう!!』

三度目の砲撃。
報告すべきは、複数の種類の砲弾を用意し、それを放てるという事実。
ブーオが地図上から消え去るかもしれないという危惧は、伝えるまでもなかった。

『着弾を確認。
まだ生存者がいる模様』

(’e’)『うーん、そうなると後は……
   毒でもまいてみようか。
   よし、装填作業開始!! 今度はベストタイムを頼むよ!!』

それから何度も砲撃と修正が行われ、火薬の匂いが地下に充満した。
二人は途中から報告するのを止め、耳を押さえて鼓膜を保護することに必死だった。
合計で数十発の砲弾が放たれ、地面には人間ほどの大きさのある大量の薬莢が落ちていた。

(’e’)『はい、ごくろうさん。
   フィードバックはどんな細かい事でもいいから、各所でするように。
   私は仮眠するから、後片付けとこの後の準備を頼むよ』

ハート・ロッカーの砲身が折り畳まれ、姿勢が戻っていく。
その動きは生き物じみた滑らかさがあり、あれが棺桶の一種だと言われても納得のいくものだった。
二人は周囲から人がいなくなり、耳が回復するのを静かに待った。
既に日付は変わり、朝の2時になっていた。

ハハ ロ -ロ)ハ「……どうダ」

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「……うむ、大分いなくなったな」

薬莢も片付けられ、ハート・ロッカーの背中に砲弾を詰め込んでいる人間ぐらいしか残っていない。

ハハ ロ -ロ)ハ「これからどうすル?」

天井が閉じた時、再び電波は通じなくなっていた。
少なくとも報告が済んでいるため、二人の任務は失敗ではない。
しかし、あれだけの物を見た以上、ここを放っておくことはできない。
ハート・ロッカーが砲撃先としてブーオを選んだのは、射角の問題でしかないはずだ。

124名無しさん:2022/02/06(日) 21:17:42 ID:NUEjUIFc0
あの巨体は、間違いなく地上を目指す。
地上に出てしまえば、世界中全ての場所が砲撃の対象になることだろう。
そうなればジュスティアもイルトリアも、ブーオの二の舞になる。
頭上から降り注ぐ砲弾を迎撃するための備えはあるが、精度は100%ではない。

撃たせないことが重要だ。

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「連中、今日にでも動き出すらしいからの。
       邪魔をするしかあるまい」

ハハ ロ -ロ)ハ「やっぱりそうなるカ。
       多分だが、あの床はリフトアップできるはずダ。
       ハート・ロッカーが外の世界に出るには、それしかなイ。
       そこを狙ウ」

たった二人で巨大な組織の陰謀を防ぐことが出来るのは、あまりにも現実的ではない。
これほどまでの技術力と規模であれば、邪魔をするのが関の山だ。

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「同感じゃ。
       となると、電力系を落とすのが一番じゃな」

砲身が折り畳み式というのは幸いだった。
リフトアップの際、砲身は折り畳まれたままだろう。
その狭い空間に閉じ込めることが出来れば、砲撃性能は著しく落ちるはずだ。
後は、二人の報告を受けた街がどう動くのか、それを待つしかない。

ハハ ロ -ロ)ハ「結局、得られたのはハート・ロッカーの情報だけカ」

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「うむ、これだけでも十分だと思うしかあるまい。
      じゃが、どうにもまだ何か見つけられそうな気がしての」

ハハ ロ -ロ)ハ「お前もそう思うカ。 私もダ。
       この規模で全然有用な情報が見つからないのは、不自然なぐらいダ」

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「と、なると……地図にはない部屋かのう。
       ほれ、さっきの悪趣味な機械があった部屋も無記名じゃった」

ハハ ロ -ロ)ハ「だが、フロアはしらみつぶしに調べただロ?
       残っているのはここと、後は更に下だけダ」

どんな組織でも、全ての情報を全ての人間が知っているということは無い。
特に、末端に近くなればなるほど、情報には靄がかかる物だ。
明らかに重要な拠点であるこの場所を担当する人間であっても、知らされていない情報があるはずだ。
情報を隠すならば情報の中。

125名無しさん:2022/02/06(日) 21:18:07 ID:NUEjUIFc0
即ち、末端の人間でも持っているフロアマップそのものに足りない要素がある可能性。
それは既に彼女たちが目視しており、その部屋に迷いなく現れた担当者の存在が裏付けしている。
建物の規模がフロアマップと異なるという可能性は、非常に高い。

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「誰でも気軽に入れない場所か……
       そうなると、最下層が怪しいの」

ハハ ロ -ロ)ハ「マップにない階層、があるかもしれないからナ。
        探せるだけ探すしかない、カ」

隠すとしたら最下層、もしくは最上階。
あるいは、階層と階層の間だ。

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「後は、連中の目論見の邪魔をする算段じゃな。
       リフトアップの途中で止めるのが一番じゃが、どう思う?」

ハハ ロ -ロ)ハ「同意ダ。 あの怪物が地上に出る前に潰したいが、それは難しいだろうナ。
        地上との距離が分かればいいんだガ……」

二人がいた場所からでは、天井から差し込む光だけがこの施設の深さを測る唯一の情報だった。

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「500メートル以上はあるじゃろうな。
       エアダクトは滑るように降りてきたから、正直、直線距離での計算はしておらん。
       浅い場所に作るはずがないから、700あるかもしれんな」

ハハ ロ -ロ)ハ「天井が開いた時に確認するしかないナ」

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「理想は、リフトアップの途中で天井を閉鎖してあの化け物をぶつ切りにすることじゃな」

ハハ ロ -ロ)ハ「それが出来ればいいけどナ。
       さっきのを見ている限り、操作系統は割と分かれているみたいダ」

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「ふむ……とりあえず、このフロアも探してみよう。
       先ほど外部との通信が出来ていたのなら、やはり、どこかに通信設備があるはずじゃからの」

ハハ ロ -ロ)ハ「急ごウ。 次にあれがいつ動き出すか分からなイ。
       管制室が怪しそうだナ」

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「そうじゃな」

周囲に警戒しつつ、二人はコンテナの下から出た。
それからすぐに、明かりの灯る管制室に向かって走り出す。
管制室に通じる扉まで駆け抜け、身を顰める。
中には作業中の人間が数名おり、ギンが指を四本立てて見せた。

126名無しさん:2022/02/06(日) 21:18:30 ID:NUEjUIFc0
その後、ハローが指を二本立て、お互いを指さす。
一人が二人を相手にするという意味だった。
しかし、ギンは首を横に振り、指を四本立てて自分を差した。
恐らく、管制室には監視カメラの類があるはずだ。

これまで彼女たちが立ち入った部屋の一部には監視カメラがあり、その際はギンが対処した。
管制室は間違いなく基地の重要な施設になる。
そこで何か異変が起きたとしても問題がないように、互いを監視できる状況にあるはずだ。
全ては憶測だが、ここで見つかれば脱出は絶望的になる。

監視カメラが熱源感知式、あるいは光学迷彩を看破できるものである可能性があるため、用心しすぎるということは無い。
ハローは頷き、音もなく扉を押し開く。
その一瞬の内に、ギンが一気に中に入った。
人一人がようやく通れるほどの幅しか開かれなかった扉の存在に気づけた者は、その場には一人としていなかった。

ましてや、首の骨が折れる音を聞いたことのある人間は誰一人としていない。
最初の犠牲者が絶命した時、すでに二人目の男の首に手がかけられ、人が倒れた音に気付いた男は回し蹴りによって頭部を蹴り潰され、即死した。
最後の一人はそれら全てを一瞬だけ視界に入れたが、後ろ回し蹴りが彼の全てを終わらせた。
瞬く間に四人の命を奪い、ギンは監視カメラの機能に干渉し、その目を節穴にした。

一部始終を聞いていたハローは中に入ると同時に扉に鍵をかけ、床にあったメンテナンス用の配線スペースに死体を押し込めた。
監視カメラの不備に気づくことは無いが、ここにいた四人の不在については後数時間、あるいは数十分で気づかれる。
タッチディスプレイ式のコンソールを一瞥し、ハローは忌々しそうに言った。

ハハ ロ -ロ)ハ「ダメだ、これは無線式ダ。
       私達の端末は繋げられなイ」

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「決断が速いのう。
       ……あぁ、なるほど。
       茶会事件の時にも見た型じゃな。
       となると、茶会事件の裏にいたのはこやつらか」

ハハ ロ -ロ)ハ「だろうナ。 ちっ、腹立たしイ。
       あの後な、ジュスティアで“残骸”を調べたが、何も分からなかっタ。
       タッチディスプレイだから、何がどう動くのかも分からないんダ」

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「……のぅ、この機会じゃから聞いておきたい。
       ジュスティアではタッチディスプレイ式の何かを採用しておるか?
       イルトリアは、本当にごく一部じゃ。
       それこそ、DATのような、こちらが手出しが出来ないものに限るがの」

ハハ ロ -ロ)ハ「うちもダ。 タッチディスプレイの復元には莫大な金と時間がかかル。
        しかも、メリットが少ないからナ」

現場で物を言うのは確実な操作性だ。
それはイルトリアもジュスティアも同じ考えで、タッチディスプレイについてはそれしか選択肢がないのであれば仕方がないが、そうでなければ真っ先に切り捨てるものだ。
だがセキュリティの高さはアナログ式のそれとは比較にならない。
この施設が重要な役割を担っているのであれば、やはり、セキュリティや細かな調節については拘りがあるのだろう。

127名無しさん:2022/02/06(日) 21:18:51 ID:NUEjUIFc0
ハハ ロ -ロ)ハ「つまり、私達はこれをいじれないってことだナ」

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「そうじゃな。 通信は天井が開いた時だけか。
       ならば諦めもつくし、次の手も考えられるな。
       役立ちそうな情報を探そうかの」

端末から情報を得るのが難しいと分かった以上、役立つ情報はアナログなものに頼らざるを得ない。
書類で管理されている物、もしくは現物として価値のある情報を入手できれば重畳だ。
管制室から抜け出し、二人は地下に通じる道を探し始めた。

「……なぁ、定時連絡すっぽかしてる連中が結構いるらしいぞ」

その言葉は、二人が整備室の本棚に並ぶファイル類を見ていたときに聞こえてきた。
扉を一枚挟んだ向こう側を二人組の男が歩いている。

「本番が近いからって、浮かれてるのか」

「どっかで酒でも飲んでるんじゃないかって話なんだが、上の人間に知られる前に俺たちで解決しないかって。
ほら、前にあっただろ?
飲酒が見つかって、ってことが」

「あぁ……確かに、このタイミングであの人たちに心配をかけたら支障が出かねないからな」

「だろ? だから、さっきから俺たちの“雑談用”周波数のところで話が進んでるんだ。
俺もさっき入ったばかりなんだが、この時間の警備を探索にあてないか?」

「勿論だ」

「じゃあこのまま――」

そして跫音と会話が遠ざかり、ギンとハローは今の状況が好機だと考えた。
襲撃されているとは考えていないのは、平和ボケしている証拠だ。
この場所が襲われるわけがないと本気で考えているのだ。
実戦経験の浅い人間がいたおかげで助かったが、結局は見つかる時間が引き延ばされただけに過ぎない。

――二つの影は再び移動を始めたのであった。

128名無しさん:2022/02/06(日) 21:19:11 ID:NUEjUIFc0
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同日 AM04:12

地下通路、そして船着き場。
そのどちらも、二人にとっては重要な情報と熱気で溢れ返っていた。
道理で上の階の警備がいい加減なわけだと、納得のいく光景だった。
数十メートルはあるトンネルは足元に道を照らす明かりが果てしなく続き、その先は暗闇にしか見えない。

武器弾薬を積んだトラック、銃装甲戦車、そしてまるで列車のように複数の荷台を連結した超大型のトラック。
そのトラックは衝角と銃座を持つ戦闘車輌でもあり、兵士を運ぶ車輌でもあった。
積み込みと調整を行い、確認が済んだ車輌から続々と出発していく。
この地下通路が地上のどこに通じているのか、それを調べている内に数時間を費やしていた。

分かったのは、二人が最初に到着した地下通路はヴェガに通じており、もう一つはニョルロックに通じているということだった。
地下通路であれば誰かに目撃されることも、天候や地形に左右されることなく目的地に向かうことが出来る。
その先にあるのが西と東の重要な場所であることは、間違いなく偶然ではなく必然。
長い時間をかけて用意したのは、何も施設だけではないということだ。

二人は更に下に向かった。
四つある地下通路の内、二つは車輛と兵士で溢れていたが、もう二つにはほとんど人間がいなかった。
不気味に風が吹き抜け、その先にあるどこかに向かっていく。
進まなければ分からないため、二人は先に船着き場に向かった。

129名無しさん:2022/02/06(日) 21:19:34 ID:NUEjUIFc0
だがそこには、ただ船着き場があるだけで、潜水艦も船も姿がない。
それどころか、警備をしている人間が3人いるだけだった。
警備が手薄な場所に反して、上の階が慌ただしいのは、人員がそちらに割かれているのかもしれない。
ハート・ロッカーの砲撃によってブーオが壊滅したことはすぐに知れ渡るだろうが、そうなってしまえば、世界に対して宣戦布告をするようなものだ。

ならば、彼らが世界に対して何らかの行動を仕掛けるのはもう目前と考えるしかない。
それも、後数時間の内に。
そしてそれは避けられず、防ぎようがない事態だ。

ハハ ロ -ロ)ハ「……どうすル」

ハローのその言葉の意味をギンは汲み取り、答えた。

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「やれることをやるしかあるまいて」

伝えるべき情報は今の段階ではこれ以上は期待できない。
二人は再び地下80階に向かい、これからのことを考え、発電室に身を顰めて黙々と作業を始めた。
幸いなことに発電室には窓がなく、周りから見られる心配がなかった。
当然、監視カメラは無力化されており、二人の邪魔をするのは時間だけだ。

発電室には背丈ほどの配電盤が並び、そこから伸びたケーブルが床に繋がっている。
五時に差し掛かった時、施設全体に慌ただしさが戻ってきた。
作業の手を止め、周囲の音や移動する人間が発する声に耳を傾ける。

『天蓋を再展開。
各セクションは動作確認を』

そのアナウンスと共に鳴った警告音の後に、天井が開く重々しい音が響く。
ハート・ロッカーが再び起動し、射角の調整を行っていくのが音だけで分かる。
これから始まるのは砲撃。
果たして、それだけだろうか。

二人は胸騒ぎがする中、天井が開いたことによって通信環境が回復した機会を逃さなかった。
無線機を使い、簡潔に情報を送り始めた。

『こちらグラウンド・アルファ、視界良好。
いつでも始めてOKです』

『グランド・ベータ、チャーリー、こちらも大丈夫だ』

『グラウンド・デルタ、エコーも準備完了。
こちらの動きに気づいた様子もない。
情報通りだ』

『グラウンドマスターより報告。
現在予定のルートを進行中。
予定に変更なし』

130名無しさん:2022/02/06(日) 21:19:58 ID:NUEjUIFc0
幸いなことに、発電室内にあるスピーカーから通信内容が聞こえてくる。
先ほどの砲撃でとは違ったコールサインが聞こえてきたが、少なくとも三か所の観測手の報告だった。

『グラウンドフォース、準備完了を確認。
エアフォース、オーシャンフォース報告を』

『あー、こちらエアフォース。
ちょっと待ってくれ、積み込みの確認がまだ完了していない。
……確認完了。
準備よし!! いつでも飛び立てるぞ!!』

『オーシャンフォース、出港準備完了している。
既に抜錨し、予定通りに動いている』

続々と連絡が入り、その度、二人は今こうしてそれを聞くことしか出来ない。
情報は湯水のように飛び込んでくるが、報告できるほどの正確な物がない。
確かなことは、相手の計画通りに全てが進み、危機的な状況が迫っているということだ。
どこかのタイミングで介入しなければ手遅れになるのは間違いない。

『全部隊確認完了。
現地天候良好。
ここまで予定時間よりマイナス14秒』

『諸君、後10分で放送が始まる。
持ち場につき、傾聴するように。』

放送の内容からも、状況が切迫してきているのは明らかだった。

ハハ ロ -ロ)ハ「……想像以上に相手の規模がでかいかもしれないナ」

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「やつらの言葉がどこまでの物かは分からんが、陸海空の部隊がいるようじゃな。
       部隊なのか、それとも軍隊なのかは分からんがな」

ハハ ロ -ロ)ハ「空は厄介だナ、正直。
       だが、ハート・ロッカーも厄介ダ。
       ちっ、厄介だらけダ」

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「とりあえず、放送とやらが流れるのを待つしかできんな。
       連中が次にハート・ロッカーで何をするのか、それを見て報告じゃ」

潜入任務が終わる時が近いことを、二人は肌で感じていた。
極限まで情報を収集し終えたら、後は、この基地に混乱を残して去るだけだ。
彼女たちに今できる最大の嫌がらせは、発電室の機能を停止させることだった。
先ほどからこうしてこの部屋にいるのは、施設全体に供給される電力の管理を行う部屋であるこの場所を調べ、より効果的な混乱をもたらせる方法を模索していたからだ。

そして、放送が始まった――

131名無しさん:2022/02/06(日) 21:20:21 ID:NUEjUIFc0
( ^ω^)『世界の皆さん、おはようございます。
     私は内藤財団社長、西川・リーガル・ホライゾンです――』

――放送を聞きつつ、二人は発電室の電力が何から生まれているのかを調べていた。
これだけ大規模な施設であれば、よほどの巨大な発電施設が必要になる。
しかし、それに反して発電室は一か所。
小型で大規模な電力を生み出せる手段を、二人は一つしか知らない。

答えに辿り着いたのは、ケーブルのつながる床に潜り込んでいたハローだった。

ハハ ロ -ロ)ハ「あったぞ、やっぱりニューソクを使っていル。
       後は別の発電機……多分、予備の発電機ダ」

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「ニューソクの解体の経験は?」

ハハ ロ -ロ)ハ「なイ。 お前は?」

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「ワシもない。 となると、下手には手出しができんな」

ニューソクは安定して大規模な電力を供給できる反面、その管理を間違えれば辺り一帯を吹き飛ばす事故につながる。
この施設を吹き飛ばすだけではとても足りない程の爆発が起きるのは歓迎だが、二人がいる内にはまだそれをする気にはならなかった。
万が一、このニューソクに安全装置のようなものがあり、自爆を頼りにしてそれが失敗すれば元も子もない。
ニューソク本体はこの発電室の下に埋蔵されているため、彼女たちにできるのは間接的に施設を停電状態にすることだ。

( ^ω^)『争いが起きる原因は、街にあります――』

ハハ ロ -ロ)ハ「ははっ、街のせいだってサ」

作業をしながら、ハローがそう言った。

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「よく言うの。 争いは人が起こすものじゃというに」

だが、その直後に続けられた言葉に、二人は笑うことを止めた。

( ^ω^)『世界中、全ての、あらゆる街を一つの共同体にいたします。
     経営が困難になった街は滅びるのではなく、助け合いによって存続し続ける形となるのです。
     そう、家族が家族を助けるのと同じように、街が互いを助け合うのです。

     この世界はまるで森の様だと思いませんか。

      T i m b e r l a n d
     大小さまざまな木々が生える、そんな森です。
     我々は、その木々全てが寄り添い、一つの巨大な大樹となることを心から望んでいます。
     我々は、この考えを、こう呼ぶことにしました』

132名無しさん:2022/02/06(日) 21:20:51 ID:NUEjUIFc0
紡がれる言葉は、その全てに意味が込められ、嘲笑するにはあまりにも本気だった。
聞く者全てに理解させる為に工夫され、発せられる声量にさえ計算された効果が垣間見える。
果たしてどれだけの時間をかけ、この言葉を練習してきたのだろう。
台本を読んでいるのではなく、己の言葉を心から発していると思えてしまうほどの演説。

そして、沈黙。
沈黙こそが最良の演説であることさえも理解し、内藤財団の社長は締めくくりの言葉を最後に。

( ^ω^)『国家、と』

その概念は聞いたことはある。
少なくとも、棺桶に関する多少の知識を持っている人間であれば誰でも聞いたことがあるはずだ。
ジョン・ドゥを筆頭に、いくつもの棺桶が起動コードに採用している言葉だ。
果たしてこの声の主の思惑通り、二人の諜報員は紡がれていく言葉に意識を向けざるをえない。

( ^ω^)『――この考えに反対する街に対し、我々はこの世界のルールに従い、宣戦を布告します』

ハハ ロ -ロ)ハ「まさかとは思ったが、本当に戦争を始めるつもりだったのカ。
       街の復興に手を貸していたのもこれが狙いだったカ……」

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「ブーオを吹き飛ばしたのにも説明がつく。
       と、なると後はジュスティア、イルトリア、セフトート、それとストーンウォール辺りが布告の対象か」

( ^ω^)『セフトート、という街があります』

『合図を確認。
これよりハート・ロッカーの単独砲撃最終試験を行う。
砲撃用意。
撃て!!』

その言葉の直後、部屋の全てが震えるほどの振動が発生する。
二人は既に耳を塞ぎながらも、聞こえてくる放送に耳を傾けていた。

『着弾報告。
誤差なし。
引き続き砲撃を』

砲撃は4回で終わった。
それはつまり、4度の砲撃でセフトートが滅びたことを意味している。
この場所からセフトートはブーオの二倍以上離れているが、超長距離砲撃をそれだけの精度で行えるのは脅威としか言いようがない。
最も恐ろしいのは、ジュスティアはそれよりも近い距離にあるという事実。

最大の違いはクラフト山脈の有無だけだ。
ブーオとセフトートを砲撃し、ジュスティアに砲撃をしなかった理由はそれだ。
つまり、この地下では必要な射角が確保できないのだ。

( ^ω^)『――ですが、まだ足りません。
     我々の考えに頑なに首を横に振る街があることでしょう。
     その街に対抗するために、我々はあらゆる武力を行使します』

133名無しさん:2022/02/06(日) 21:21:13 ID:NUEjUIFc0
『“スカイフォール”、“ムーンフォール”離陸確認。
エンジン安定。
予定高度に到達次第、予定地に向かいます』

( ^ω^)『我々は夢を。
     あまりにも荒唐無稽な、子供じみた夢を見ています――』

『マリーンフォース、Aポイントを通過。
“ロストアーク”、“オーシャンズ13”エンジン安定。
航路に変更なし』

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「随分と演出に力を入れておるの。
       それだけ世界に知らしめたいのか、それとも刻みたいのか」

ハハ ロ -ロ)ハ「こういう形式的なやり方は宗教がらみの連中が好きそうだナ。
       セントラスが内藤財団の影響下にあるのも、この一件と関係ありそうダ」

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「“クルセイダー”を動かすいい口実にもなるからの。
       やれやれ」

( ^ω^)『全 て は。
     そ う 、 我 々 の 全 て は。
     世 界 が 大 樹 と な る 為 に あ る の で す』

演説放送が終わり、世界に向けての宣戦布告と号令が終わったのが分かった。
施設中から歓声が聞こえる。

ハハ ロ -ロ)ハ「さて、やれることがないかを調べよウ」

二人はまだこの発電施設を無力化する術を模索している途中だった。
工作において必須なのは最適なタイミングで相手にとって最悪の状況を生み出すこと。
今はまだ、彼らは喜びの最中。
長年思い描いてきた夢が成就したと思い込み、勝利を微塵も疑っていない。

それが証拠に、この段階でもまだ侵入者の存在はおろか、仲間が数人姿を消していることに気づいた様子がない。
これでいい。
ハート・ロッカーの砲撃能力は脅威だ。
地下からとれる射角の問題で、その砲撃が出来る場所は限られる。

地上に出てこそ、このハート・ロッカーは真の性能を発揮することになる。
そうなればもう、並みの戦力では止められないだろう。
動き回る基地、あるいは陸上の戦艦といったところだ。
閉じ込めるならば施設諸共埋めるか、身動きの取れない場所に閉じ込めるしかない。

ハハ ロ -ロ)ハ「ハート・ロッカーの動きを止めるところまでの関係でいいカ?」

下から這い出てきたハローの言葉に、ギンは驚いた様子もなく答えた。

134名無しさん:2022/02/06(日) 21:21:45 ID:NUEjUIFc0
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「そこまでは共通じゃからな。
       それ以降はまぁ、それぞれのやり方で仕事をしようかの」

ハハ ロ -ロ)ハ「あぁ、邪魔はしないでくれヨ」

そして、七時を少し過ぎたあたりで周囲の変化が起き始めた。
ハート・ロッカーが再び起動し、軋み始める。
慌ただしく走る跫音が聞こえてくる。

『グラウンド・アルファより報告。
イルトリアに動きあり。
見たことのないヘリコプターが5機、離陸した。
それぞれ別の方角に飛んでいる。

一機はこっちに向かっている様子だ。
っ……速い!!』

(’e’)『あぁ、やっぱり?
   ……いいさ、こっちの動きが分かったところで関係ない。
   よぅし、我々も行こうか!!』

『作業員退避完了を確認。
リフトアップ開始。
補助電源ケーブル切断、主電源への切り替え開始』

ハハ ロ -ロ)ハ「ちっ、結局分からずカ」

予想通り、リフトが上昇していく。
ハート・ロッカーの巨体が天井の穴に向かって消えていく。
最早、手段は選べない。

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「仕方ない、あの手を使うか」

ハハ ロ -ロ)ハ「あの手……あぁ、あの手だナ。
       それなら得意ダ」

二人はそれぞれケーブル類に手を伸ばし、力任せに全てを引きちぎった。
確実性は高いが、危険性が最も高い手段。
最悪の場合はニューソクが爆発する可能性もあったが、二人は躊躇いなく実行した。
これが最善の手段であることは間違いない、合理性のある手段だと判断したからだ。

果たしてその賭けの結果は、辺り一帯から明かりが失われたことによって証明された。
しかし、すぐに明かりが戻る。
先ほどまでよりも光力が落ちているように見えた。

ハハ ロ -ロ)ハ「ちっ、やっぱりカ。
       やるゾ」

135名無しさん:2022/02/06(日) 21:22:06 ID:NUEjUIFc0
言われるよりも先に、ギンはその場から一歩離れ、ハローと同じ結論を導き出して行動していた。
サプレッサーの付いた拳銃を構え、配電盤に銃弾を撃ち込む。
火花が散り、電流が流れ、そして黒煙を噴き出して全ての明かりが消えた。
これで予定通り、ハート・ロッカーを閉じ込めることに成功した。

その代償として、電波の通り道を失った。
だが奪ったものは大きい。
光、そして時間だ。

ハハ ロ -ロ)ハ「これでどれくらい稼げル?」

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「良くて一日。 悪くて半日、といったところかのぅ。
       あのバカでかい奴が日の目を見る前に、どうにかするぞ」

ギンは破壊した配電盤を引きずり倒し、入り口の扉を塞ぐ。
人間離れした膂力が為せる技だが、状況を正しく判断した人間であれば棺桶を持ち出してくるだろう。
この行いがどこまでの混乱と遅延を生み出せるのかは、まだ分からない。
口にした時間も、あくまでも目安だ。

ハハ ロ -ロ)ハ「しかたなイ」

この状況で最も不利なのはハローだ。
彼女の棺桶は機械の目を欺けない。
しかし、焦った様子はない。

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「たまには日の下で労働したいものじゃな」

ハハ ロ -ロ)ハ「日陰者には影の中での仕事が一番ダ。
       じゃあナ」

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「うむ。 また、いつか、どこかでな」

その言葉に合わせるように、最後の明かりだった非常灯すら消える。
そして、ギンとハローはその場から姿を消した。
ハローは天井の通気口に。
ギンは物陰に気配と姿を隠す。

太陽光が一切差し込まない地下であれば、人間は機械の目に頼らざるを得ない。
ライトは暗闇をより暗いものとする。
それこそが、ギンの姿を彼らの視界から消すことになる。

『扉がふさがっている!! 誰かいるぞ!!』

『離れろ、俺が開ける!!』

136名無しさん:2022/02/06(日) 21:22:33 ID:NUEjUIFc0
扉の向こうから聞こえてきた声は、機械を通じた声だった。
強化外骨格を身にまとった人間がいる。
ギンの耳が聞き取る駆動音はジョン・ドゥに酷似しており、細部が洗礼されたような音がした。
例のカスタム機だろう。

〔欒゚[::|::]゚〕『おるぁぁああ!!』

だが彼らが見るのは、誰もいない、荒らされた発電室。
実際は、目の前にそれを実行した人間がいたとしても。
機械の目が映し出す映像が正しいと信じ込む人間には、決して気づけない。
己の感覚を信じる類の猛者であれば気づけたかもしれないが、それが出来るのはジュスティアの円卓十二騎士に名を連ねる者だけだろう。

装甲を身にまとい、重武装をした彼らに気づくことなど到底できない。
それが優れた機械の目を持つ以上、ギンを見ることはできない。

〔欒゚[::|::]゚〕『くそっ……!! 侵入者だ!!
      アラートを鳴らせ!!
      技術者を呼べ!! ニューソクに何かあればこの基地が吹き飛ぶぞ!!』

入ってきたのは、やはりハローと見た白いジョン・ドゥだった。
数は3機。
排除は可能な数だが、ギンは開かれた扉から堂々と出て行った。
彼女の目は例え光ひとつない闇夜の中でも、足元に落ちた針でさえ見逃さない。

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、

発電室から外に出たギンは、暗闇の中で頭上を見た。
そこに鎮座するのはハート・ロッカー。
ギンが行うべきは、それの無力化。
この施設そのものの無力化も、可能であれば行う。

イルトリアの隠密偵察部隊“FOX”とは、ただの情報収集するだけの部隊ではない。
音もなく忍び寄り、獲物を観察し、そして襲い掛かるための部隊。
イルトリアにとっての脅威となり得るもの、排除を命じられたもの

必要に応じて火を点け、火の粉と共に炎の中で踊る存在だ。
全てが灰燼に帰す頃には、すでに影も形もなくなっている。
だが確かに、炎に焼き殺された人間はその姿を目視するのだ。
炎の中に、火狐の姿を。






――後続部隊が到着するまで、残り6時間。


.

137名無しさん:2022/02/06(日) 21:22:57 ID:NUEjUIFc0
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                   ./:::::/`T::`T::::{ }√7_/
                   f::::/  人_人__h | ̄ハ     火は、まだ燻ぶったまま。
                 _ |::::|__ム廴タ-〈|:::::|
              _,,z=└┴―‐┬:::|:::::/::∧}::::/   /〉
              (:::::::::::::::::::::::::: └__レく:::::::::::ノ-:{  /〉´
              }:::::::( ̄; ̄じイ;”   .V::::::レi::::/〉´
              .V::::::} ;" ";;;;    マ::::::r=ュ ´
               .}::::::|    ;     .マ::辷ヲ
      rァ    r-、___,,.|::::::|ィ-、         マ:::::ハ、
      | ヲ  _,,ム斗--':::::::/  >-、       `Y::::::)
  人____./ 廴_,人 (__>-へ、-==、`ヽ、___    辷::ヘ、
. /: : :/゚、{./--、f::::::::::::::::::::::::::::::::\::::::::`ー-、__:\___ .V:::::::}
ム--:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::\::::::::::::::::::::\:::`Y-V::::|   ,-、   r、ffi
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:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::{:弋:::::::、_ ---} | .f
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::T:∧::::::::::::::::::::::::、::`ー、_
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::廴__):::::::::::::::::::::::/::::::::::::>--、
第五章【 Ammo for Rebalance part2 -世界を変える銃弾 part2-】 了
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

138名無しさん:2022/02/06(日) 21:23:19 ID:NUEjUIFc0
これで今回の投下は終了です

質問、指摘、感想等あれば幸いです

139名無しさん:2022/02/06(日) 22:06:58 ID:3eog0FWc0
おつ!
かっこいいな諜報部パワープレイで笑ったけど
耳付きは動物の種類で能力も変わるのかな?
続きが待ち遠しい

140名無しさん:2022/02/07(月) 08:35:12 ID:wxaDex4Q0


141名無しさん:2022/02/07(月) 20:31:09 ID:CItO8pRI0
乙!
実力者の二人が組んでるから安心感があったけど、いつか見つかるんじゃないかってひやひやしながら読んでた。
こっからさらにどんな活躍をしてくれるのか楽しみ!!

間違ってたら申し訳ないんだけど話の流れ的に

>>104
近くの街がより安価で種類の豊富な農作物を出荷し始め

って部分の後

かつて彼らの町を滅びの直前まで追い詰めた町の代表者だった。
指導者を失ったその町は

この最初の街と後の町は同じ場所だと思うんだけど、規模が変わっちゃってるんだよね。

>>117
例え子供が目の前で侵されていたとしても

これは"犯されて"の方が表現がいいと思う。

あと最後にくっそ細かくて本当に申し訳ないんだけど

>>28 >>110 >>126 >>136
では気づくって使ってて

>>28 >>60 >>115 >>126
では気付くって使ってるんだよね

142名無しさん:2022/02/07(月) 20:33:45 ID:CaOZBIBA0
>>141
ぐわああああああああああああ!!
今回は何度か推敲したつもりだったのにぃいいい!!

いつもいつも本当にありがとうございます……!!

143名無しさん:2022/02/12(土) 19:09:29 ID:HxkEO3So0
今日でAmmo→Re!!のようですは初投下から10年を迎えました。
正直ここまで長くなるとは思いませんでしたが、ここまで頑張れたのは皆さんの支援や応援のおかげです。
物語はもうしばらく続きますが、最後まで書き切るつもりですので、どうかお付き合いいただければ幸いです。

144名無しさん:2022/02/12(土) 21:44:06 ID:kCrhwGRI0
10年とかすげえ乙
多分連載期間も量もブーン系No.1だよね
今一番好きなのでこれからも楽しみに待ってます

145名無しさん:2022/02/23(水) 19:14:52 ID:QFarir1U0
生きていれば今度の日曜日にVIPでお会いしましょう

146名無しさん:2022/02/25(金) 19:54:30 ID:1aiAcmSU0
やったー!

147名無しさん:2022/02/27(日) 20:35:38 ID:K68PON8U0
VIPが規制されているため立てる事も書き込むこともできません……

148名無しさん:2022/03/05(土) 23:54:21 ID:fwAUT2KA0
今気づいたわまじかよ

149名無しさん:2022/03/06(日) 19:21:14 ID:L8ix.Wrs0
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汝、汝の敵を慈しみの心を持って殺すべし。
異教徒にも慈悲を見せよ。
さすれば、汝と異教徒は天国への切符を手にすることであろう。

我らは道先案内人。
一人でも多くの人間を天国へと導くため、誰よりも多くの苦行を積む者。

苦行を積む者は徳を積む者。
即ち。
我らは世界を改善するための先兵。
苦行の果てに我らが求めるはただ一つ。

神の愛を世界に知らしめること。
世界を神の愛で満たすこと。

                      ――十字教派遣戦闘部隊“クルセイダー”の教えより

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻

September 25th AM07:10

幼少期のイーディン・S・ジョーンズにとって、世界とは巨大な実験施設のような物だった。
他人より優れた頭脳が頭角を現したのは、5歳の頃だった。
玩具ではなく生物で遊び、機械で遊び、それでも知的好奇心が満たされることは無かった。
始めて彼の知的好奇心が満たされたのは、飛び級で入った大学の講義の一環として参加した軍用第三世代強化外骨格“棺桶”の復元体験の作業だった。

それは研究者達を対象とした作業だったが、それに参加する頃に彼は神童として知れ渡っていた。
最初は、単純なパズル、あるいは玩具の類だと思っていた。
だが、即座にそれが否定された。
彼の全く知らない、思いついたことのない概念の集合体。

それから研究にのめり込み、発掘作業を行い、彼は太古の技術に陶酔した。
彼は蜜月の日々を過ごした。
これまで決して満たされないと考えていた知識欲が刺激され、満たされ、そして飢え続ける幸せの虜になった。
自分の頭脳が遥か昔の人間にも劣っている事実は、彼の中に欠如していた劣等感を刺激し、更なる欲をもたらした。

気が付けば5年が過ぎ、10年が過ぎ、40年以上が過ぎた。
彼にとっての仕事は棺桶の復元だけであり、実入りは決して多くはなかった。
そんな時、内藤財団から声がかけられ、彼は天職を見つけた。
全ては、彼の中にある知識欲を満たすためだった。

9月25日。
世界を変えるために極めて長い時間備え、そして、迎えたXデー。
今、彼は自ら復元の指揮を執り、手を出した“ハート・ロッカー”の中で腕を組んで目を瞑っていた。
空間は大型モニター類が多く占め、“鍵”に電気信号を送ってハート・ロッカーを操縦する装置は複数に分散し、モニター前にいる担当者が操縦する手はずになっている。

150名無しさん:2022/03/06(日) 19:21:43 ID:L8ix.Wrs0
モニターにはハート・ロッカーのカメラが捉えた周囲の映像が映し出されているが、今は金属の壁と床、そして頭上の青空しか見えていない。
人間が一度に捉えられる情報は多くあるが、処理できるものは少ない。
そのため、人間が各所を個別に操縦することでより死角のない動きが可能になった。
ハート・ロッカーの操縦者は皆ベテランの棺桶持ちで、元軍人の肩書を持つ者がほとんどだ。

そのため、操縦については何も心配がいらない。
彼らは椅子に座り、モニターや計器類に目を向け、必要な動きをするだけでいい。
それ以外にもハート・ロッカーには人間が乗っている。
これだけ巨大な兵器を動かせば、必ずどこかにメンテナンスの必要性が生じることになる。

整備士を含む技術者も乗り合わせており、今、慌てているのはまさに彼らだった。
移動式の基地として機能をする棺桶の中で過ごす時間は、まるで愛する女と過ごす時間のように甘いものだったが、彼以外の人間は皆焦っていた。

「電源復旧までどれくらいだ!!」

無線機で交わされる会話を、他人事のように右から左に聞き流す。
当然、操縦者は計器類から目を離すことは無い。
これはこれでいいデータが取れると知っているのだ。

『駄目だ、見当もつかない!!
非常電源までやられたから、警報も発令できないぞ!!
間違いない、侵入者だ!!』

「何でもいい、急いでくれ!!」

(’e’)「はぁ……」

ジョーンズにとって、この状況は大した脅威でも問題でもない。
侵入者がいたとして、何が出来るというのだろうか。
このストラットバームは侵入者には想像も出来ない場所だ。
内藤財団のトップとジョーンズだけが知る、この施設本来の姿。

第三次世界大戦前に建造された、とある大国の所有していた大規模なシェルター。
選ばれた国民だけが避難することを許された、世界最大規模のシェルターは結局誰一人として住まうことはなかった。
シェルターの本質は荒廃した世界でも生きながらえる点にある。
つまり、主となる発電装置と予備電源が使えなくなったとしても、別の手段によってこの施設が電力を取り戻すことが出来るように設計されているのだ。

(’e’)「修理はどうでもいい、“レッド・オクトーバー”を呼び戻せ。
    ハート・ロッカーを無事に地上に運びさえすればいいんだ」

リフトが動きさえすればそれでいい。
ハート・ロッカーが地上に出れば、世界中あらゆる場所が砲撃の対象となる。
極論だが、ストラットバームは放棄しても問題がないのだ。

『レッド・オクトーバーは現在イルトリア沖にいて、到着まで3時間はかかります』

(’e’)「まぁ、それも仕方ないか」

151名無しさん:2022/03/06(日) 19:22:05 ID:L8ix.Wrs0
彼にとって、ティンバーランドの作戦が成功することについては大して興味がない。
むしろそれは、彼の真の狙いにとっての副産物でしかない。
ハート・ロッカーがその真価を発揮することが出来れば、彼はひとまずは満足なのだ。
オセアンの地下で眠っていたこの棺桶を、本来の設計者が意図した通りの姿に戻し、使うこと。

それはつまり、彼の優秀さの証明であり、次のステージに彼が昇り詰めることが出来る何よりの証となるのだ。

(’e’)「2時間だ。
   2時間待ってやるから、さっさとこっちに来てくれ」

本来であればそこまで時間を作らずとも、この地下からハート・ロッカーを地上に出すことが可能だ。
だが。
彼は研究者だ。
予期していなかった事象が発生した際、それを観察し、記録したいと思うのは性のようなものだ。

ましてや、この場所を見つけ出し、あまつさえ妨害工作をしでかすほどの相手。
どこまであがけるのか。
どこまで彼の予想を裏切ってくれるのか。
メインディッシュに手を付ける前のオードブルが運ばれてきたと考え、ジョーンズは僅かばかりの時間的な猶予を設けることにした。

(’e’)「退屈しのぎぐらいにはなるといいなぁ」

――研究者にとって、己の予想を裏切られることはこの上ない悦びなのだ。

152名無しさん:2022/03/06(日) 19:24:04 ID:L8ix.Wrs0
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第六章【 Ammo for Rebalance part3 -世界を変える銃弾 part3-】
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同日 AM07:25

――争いは、世界中で起きていた。

153名無しさん:2022/03/06(日) 19:25:20 ID:L8ix.Wrs0
“クルセイダー”は、十字教が持つ唯一認めている戦闘集団である。
異教徒との来るべき戦闘、聖戦を理由に編成されたその戦闘集団は最高責任者である教皇の命令によってのみ、行動することが許されている。
現教皇クライスト・シードによって下された聖戦の号令は、世界中にいる信者たちの耳に届いていた。
巨大な街から、小さな町。

世界中にいる十字教の信者たちの総数は、どの街の軍よりも多い。
そして、展開している地域の広さも比類のないものだ。
宗教による精神的な安寧と引き換えに、彼らは死を恐れない兵士としていつでも転じることが出来る。
教会にある十字架はほぼ例外なく棺桶のコンテナであり、並ぶ椅子の下にもコンテナが収納されている。

信者たちは教会から銃器を受け取り、一切の訓練を受けることなく戦場に足を踏み入れる。
それだけならば素人の集団であり、何一つとして脅威になり得ない。
最大の脅威は数、そして命令に対する盲従である。
少しでも考える力のある兵士であれば反発し、拒否するような命令でも、十字教の信者たちは迷いなくそれに従う。

十字教の信徒たちにとって、ジュスティアとストーンウォールは常に目の上の瘤。
機会があれば即座に滅ぼすべき街として教え込まれ、常にその機会をうかがっていた。
ストーンウォールは同性愛、あるいは自認している性が狂った人間達の楽園。
神の言葉に唾を吐くだけでなく、人間としての尊厳そのものを冒涜する街だ。

そして忌々しくもジュスティアは、世界の正義を名乗り、名立たる聖職者たちを逮捕しただけでなく、毎年数人を死刑にしている。
十字教の教典において、死刑は決して認められることのない大罪だ。
どれだけ重い罪を犯した人間でも、更生する可能性を捨ててはならない。
布教活動に出向いた聖職者達が一時の欲に負け、あるいは、罠にかけられてその町の法律を破っただけなのに。

それなのに。
死刑にされれば地獄に落ちてしまうから十字教徒は死刑にするなと何度歎願しても、ジュスティア警察は耳を貸さなかった。
積年の恨みを果たしたいと志願したクルセイダーは、一万にも達する勢いだった。
だが数だけではジュスティアを攻め落とせないため、質を重視した部隊を用意した。

ジュスティアの北、クラフト山脈の麓にはナミヒ砂漠という砂漠地帯がある。
乾燥した砂漠地帯には周囲の町から集まったクルセイダーが列を成し、ジュスティア侵攻の準備をしていた。
トラックに積まれた棺桶を降ろし、武器を降ろし、無線機を使ってこれからまだ集まってくる仲間に指示を出す。
ジュスティアに攻め入るには、西以外の土地が最適だ。

西に控えるクラフト山脈がある限り、普通に考えれば大規模な進撃が出来ない。
しかし、現実は違う。
西にあるヴェガからも部隊が現れる予定であり、東の海上には大船団が控えている。
南からは別の部隊がすでに動き出しており、北からも攻撃を仕掛ける予定だ。

四方からの攻撃があれば、例えスリーピースがあろうとも関係ない。
コツは同時攻撃ではなく、時差攻撃だ。
タイミングが自然とずれた攻撃を与えれば、指揮系統に混乱が生じる。
そして、後は雪崩のように攻め入るだけだ。

彼らがナミヒ砂漠を集合地点に選んだのは、ジュスティアの影響力が少ないだけでなく、大規模な部隊を集めても人に見られる心配の少ない場所だからだ。
周囲のどこを見渡しても砂が広がり、小高い丘の様な砂山が幾つか点在している。
砂漠色のタープを用意し、砂丘を利用すれば、数百人からなるクルセイダーを隠すことは容易。
細かな穴の開いたタープの向こうを見ることは出来るが、遠方からこちらの姿は視認できなくなる。

154名無しさん:2022/03/06(日) 19:25:51 ID:L8ix.Wrs0
ここを越えれば、彼らの聖戦が始まるのだ。

(●ム●)「……ん?」

最初に気づいたのは、タープの外側で哨戒をしていたビルボード・レイヴァンだった。
サングラス越しに見えるのは、地平線の向こうに浮かぶ、小さな人影。
観光客か、あるいは旅人か。
人影は一つだけで、軍隊や斥候の類ではないのは間違いなかった。

双眼鏡でその姿を見ると、ぼろ布のような服を身にまとった人間がいた。
しかし、その背中には砂漠用迷彩の施された棺桶――大きさはCクラス――があった。
敵か、それとも味方か。
この距離、この状況では分からない。

たった一人の人間というのが、彼の判断を鈍らせていた。

(●ム●)「おい、誰か来るぞ」

傍で銃の手入れをしていた仲間が、軽くその姿を一瞥して答えた。

(,,゚,_ア゚)「迷ったのかもしれないな、手を貸してやろう」

(●ム●)「棺桶を背負ってるぞ」

(,,゚,_ア゚)「護身用か、それとも荷物なのかも分からない」

(●ム●)「あー、だけどありゃあ……
     爺さんだ、どう見てもジジイだ。
     俺の親父と同じぐらいか、それ以上だ」

シュマーグで顔を覆っているが、口元には白いひげと皺だらけの顔が見える。
男が立ち止まった。
そして400メートルは離れたこちらに気づいているかのように、視線を向けてくる。
目はいいらしい。

(●ム●)「どうする」

(,,゚,_ア゚)「……ジュスティアに通報されたら厄介だ。
     神の元に送ろう」

(●ム●)「ちょっと待ってくれ。
     俺に話をさせてくれないか?
     ひょっとしたら同じ神の僕かもしれない」

砂漠用のタイヤを履かせたバイクに乗り、ビルボードは男の元に向かう。
男はまるで動く様子がなかった。
背の高い男の前で停車し、穏やかな口調で問う。

(●ム●)「どうしました?」


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