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Desperado Chariots
480
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:14:29 ID:0tGXVO1.0
―――――
―――
―
合宿三日目
( ^ω^)「ふんふんふーん♪」
昨日は語尾が『だお』から『帰りたい』に変わるほど消耗していた文彦が、どういうワケか朝からゴキのゲンだった
('A`)「調子良さそうだな」
( ^ω^)「とっくん!!おはようだお!!」
元気に挨拶まで返す程だ。昨日の朝なんて推しを殺されたかのような憎しみの籠った目で睨まれただけだと言うのに
『毎日こんなんだったらまだ可愛げの一欠片くらいあるだろうになぁ』。儘ならない人の心に、徳雄は小さく溜息を吐いた
( ^ω^)「聞いてくれお!!実は今日、シンクロナイズドスイミング部の団体客が来るんだお!!」
('A`)「へぇ」
( ^ω^)「今までずっと一人で歩いて限界だったけど、今日から華やかになるお!!ひたむきに努力する僕を見てワ、ワンチャンあるかもしれんおグフフフフフ」
徳雄はグフフフフフと笑い鳴く豚を初めて見た。サーカスの前座くらいにはなりそうだなぁと思った
('A`)「なぁそれ」
( ^ω^)「なんだお?羨ましいのかお?っかー!!ごめん!!とっくんは今日も一人で寂しくチャリ漕いでてくれお!!」
('A`)「……」
『女子シンクロ部なのか?』と訊こうとしたが、調子乗った文彦の言う通り徳雄には関わりない場所での団体客であるのは確かなので
大いに期待を裏切られるのを願いつつ、『なんでもねえよ』と会話を打ち切った
そして話は
>>432
レス目に戻るのである
481
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:14:55 ID:0tGXVO1.0
(; ω )「ブヒー!!ブヒー!!」
「ナイスガッツ!!」
「偉いぞデブちん!!」
「お前ら!!彼を見習ってもう一丁舞うぞ!!」
「「「「「ウーーーーーーーーーーーーーーッス!!!!!!」」」」」
逞しき漢(オトコ)人魚達が、一切の脂肪を感じさせないしなやかな肉体を、輝く水面へと投じる
文彦にとっては徳雄の顔面くらい見たくない光景であった。朝は元気いっぱいだった小さな小さな、そりゃあもう小さなムスコも今や見る陰もない。陰茎だけに
(´・_・`)「ほれ、水分補給しろ」
(; ω )「くたばれ」
(´・_・`)「最近のガキは口が悪ぃな。彼らを見習って爽やかに生きたらどうだ」
(; ω )「イケメンリア充くたばれ」
嫉妬に塗れた人間ってここまで卑屈になるのかと、小練はなんだか文彦が肥った哀しい生き物に見えてきた
482
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:17:17 ID:0tGXVO1.0
(´・_・`)(しかし……)
『よくやってる方』ではある。数日経ってもモチベーションが失くなる様子も無いし、消費カロリーも緩やかではあるが右肩上がりで増えている
褒めてやりたい所だが、文彦は恐らく一ミリも喜ばないのだろう。『同居人』に代弁して貰ってもいいが、気遣いの出来ない二人と変態が一匹だ。下手に拗れてしまう危険がある
その上、文彦にとっては酷な話も一つ。このまま続けていても、どこかで『頭打ち』が来るのだ
(´・_・`)「もう一時間、追い込んでいくぞ」
( ^ω^)「は?無理。動けない。競走馬だって一レース終えたらゆっくり休ませるお。そんな事もわからないのに指導者やってんの?ハァー、やめたらこの仕事?」
(´・_・`)「そうだな。明日は終日休みにしようかと思ったんだが、お前がそう言うなら今日は切り上げて続きは明日に回すか」
( ^ω^)「とまぁ、凡人ならこう言うでしょうね。ま、僕は元気と才能に満ち溢れた天才なんであと一時間くらい余裕ですけど」
毎日こんな可愛げの無いクソガキを相手してる徳雄が不憫でならなかった
( ^ω^)「っしゃあ!!休みって聞いた途端、やる気と希望がムンムン湧いて来たお!!」
(´・_・`)「あー、待て待て」
マジでサッサと終わらせたいんだろうなと感じる程に嫌そうな顔を向けた文彦に、小練は一枚のTシャツを投げ渡した
(´・_・`)「それ着ろ」
(;^ω^)「え?どうしてだお?もしかして、僕の透け乳首が見たいってコト!?幻滅しました実家に帰らせて頂きます」
(´・_・`)「乳首千切るぞ」
文彦は汚ねえ乳首を手ブラで隠した。お見苦しい物を見せてしまい大変申し訳ございません
(´・_・`)「いいからそれ着て歩いてみろ」
(;^ω^)「何だお注文の多い……偉そうに……美女と美少女侍らせやがって……クソがよ……」
(´・_・`)「……」
小練は『一発くらい全力で殴っても許されるんじゃないか』と思えてきた
483
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:18:20 ID:0tGXVO1.0
(;^ω^)「おっほ、新感覚……」
『服を着て水に入る』。ウェットスーツやラッシュガードはともかく、普段着のまま泳ぐというのは、余程切羽詰まった状況下か青春映画に脳を焼かれた学生しか行わないだろう
そもそも、何故泳ぐのには『裸』が適しているか。それは前述の通り『水の抵抗力』が関係する
(;^ω^)「っ、ふっ……」
肌の表面積よりも広く、ウエットスーツのように身体に密着しない布製品は、より多くの抵抗力を受けやすい
その上、水を吸った分重さが生じ、クロールやバタフライのフォームの妨げとなる
水難事故に遭った際、もがけばもがく程に体力を大きく消耗し、溺れてしまう要因の一つである
尚、有事の際は慌てずに『背面で静かに浮く』事で、衣服内の空気が抜けずに浮き輪の役割を果たす為、一概に悪条件とは言い切れない
(;^ω^)「んぐぐ……キチィお……!!」
(´・_・`)「せやろがい」
(;^ω^)「僕に何の恨みがあってこんな仕打ちを……?」
(´・_・`)「さっき吐いた暴言思い返してみ??????」
思わず本音が出た
484
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:21:04 ID:0tGXVO1.0
(´・_・`)「同じ事を続けてても何処かしらで効力は横ばいになる。これから三日ごとに一枚ずつ、着るもんを増やしていくぞ」
(;^ω^)「お、溺れ死んじまうお!!!!!!!!」
(´・_・`)「面倒見てくれる優しいお兄様方が側にいるだろうが」
「お任せください!!我々、海上保安官志望も多いので!!」
「速攻で助けてやるぜ!!」
「人工呼吸も任せろ!!」
「「「「「ウーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッス!!!!!!!!!」」」」」
逞しい上に心優しく頼もしい漢人魚達。輝く笑顔は真夏の太陽に匹敵するほどだ
(#^ω^)「チッ……脳筋低知能のクソ共がよ……」
文彦は意地でも世話になってやんねぇと心に誓った。同じ人間なのにこの差はなんだと言うのだろうか
かたやイケメン海上保安官候補のシンクロナイズドスイミング選手。そしてかたや性格ゴミクズの豚オタクだ。神は残酷ではなかろうか?文彦作った時なんか嫌なことあった?話聞こか?つかLINEやってる?
(;´・_・`)「……」
イケメンを妬んで憎んだところで別にお前がモテるワケじゃないと正論で聡そうかと考えたが、『豚の耳に念仏か』とすぐさま諦めたのだった
485
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:23:33 ID:0tGXVO1.0
(,,゚-゚)「せんせー」
( ^ω^)「!!」
豚は正論に聞く耳を持たないが、女の子の声にはいち早く反応する。背筋は瞬く間にピンと伸び、歩幅は広がった
( ^ω^)+「ほっ、はっ!!ヌルいですお!!まだまだやれますよ僕ぁ!!」
(´・_・`)「じゃあもう二時間追加するか。どうした?」
(,,゚-゚)「なんかねぇ、昨日来たサッカー部団体いるじゃん。そいつらとブサイクが揉めてる」
(;´・_・`)「ハァ〜?」
( ^ω^)+「ハッハッハ!!そんなもん放っといて大丈夫ですおしずくさん!!ブサイクなら三秒以内にボコボコにしてグラウンドに埋めてますお!!全くこれだから暴力に抵抗のない野蛮人は困る!!男は優しさ!!!!!そう!!!!!僕のように一度も拳を振るった事のない男こそ、真に愛されるべき者とは思いませんかお!!!!!?????」
儀社は人間なので豚語がわからなかった
(;´・_・`)「どこで?」
(,,゚-゚)「地下階段の踊り場。なんか絡まれてた」
(;´・_・`)「あー……悪さするなら人気のねえそこだろうなぁ……わかった。すぐ向かう。その間コレの面倒見てくれるか?」
(,,゚-゚)「……?」
(;´・_・`)「ああもういい。戻っていい」
『マジで何言ってんのかわかんない』という表情に、小練は早々に監視役を置くのを諦めた
486
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:24:36 ID:0tGXVO1.0
(´・_・`)「ちょいと外すが、しっかりやれよ」
( ^ω^)+「この僕がしっかりしていない時がありました?バッチリ仕上げときますよハッハッハ!!」
露骨な態度の豹変に、苦笑いも浮かばなかった
(;´・_・`)「オイ」
(,,゚-゚)「えー……」
(;´・_・`)「いいから」
『サービスしとけ』と暗に伝え、儀杜はしぶしぶと、嫌々ながら、最悪なまでに本意では無く、駅前に吐き捨てられ悪臭を放つゲロを見るような目と、何一つ感情の入っていない機械的な声で
(,,゚-゚)「ガンバッテー」
と、無感情の応援を放った
(#^ω^)+「ウオオオオオオオオ!!!!!!気合いが入りまくりましたお!!!!!!!見ててくださいしずくさん!!!!!!!貴女の為にきっと!!!!!!僕は生まれ変わりますおーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
それでも童貞オタクデブには絶大な効力だったようで、通常の二倍速で水中を歩き進めた
(,,゚-゚)「もう二度としないから」
(;´・_・`)「ああ……」
何もしてないのにここまで異性に嫌がられるのも、ある種の才能なのかもしれない
文彦に若干の同情をしながら、小練は急ぎ足で件の現場へと向かった
487
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:28:57 ID:0tGXVO1.0
―――――
―――
―
(;´・_・`)「徳雄!!」
小練たちが駆けつけた頃には、既にサッカー部の姿は無く
('A`)「ああ、小練さん。どうしたんです?」
頬に青痣を作り、壁にもたれ掛かる徳雄だけが残されていた
(;´・_・`)「誰にやられた!?」
('A`)「言えません」
(;´・_・`)そ「ハァ!?」
('A`)「大ごとにもしないでください。それより今、時間あります?ちょっと見てもらいたくて」
ダメージを一切感じさせない足取りで立ち上がり、トレーニングルームへと向かっていく
複数人から暴行を受けた後にはとても見えない。小練と儀社は顔を見合わせた
(;´・_・`)「しずく、『人間の仕業』か?」
(,,゚-゚)「間違いないよ。ほら、ここに悪さの跡が残ってる」
床にはリキッドタバコの空カプセルが捨てられている。真面目かつ成人済みの徳雄なら、隠れてコソコソと吸いはしないだろう
その上、不良の二、三人程度で遅れを取るようなタマでは無い。文彦や依頼主から聞いた話では、むしろ喜々として相手を痛めつけるタイプの人間だ
(;´・_・`)「大ごとにすんなっつってもな……」
管理人という立場上、ルールを破った利用客を野放しにするわけにも行かない
しかし今の徳雄は、『何かを掴んだ』と言いたげな態度だった。沙汰を下すのは、それを目の当たりにしてからでも遅くはないだろう
(´・_・`)「後でシメればいいか……」
(,,゚-゚)「悪いとこ出てるよ先生」
488
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:30:28 ID:0tGXVO1.0
二人がトレーニングルームに入室すると、既に徳雄はセッティングを済ませていた
('A`)「この三日間の成績っす。どう思いますか?」
モニターに夥しい数の戦績が表示される。順位は多少上がったものの、トップスリーにランクインしている試合は無い
(´・_・`)「頑張ってるなって感じ」
('∀`)「ハハ、努力賞もいいとこっすよね」
たかが三日だ。『男子三日会わざれば』とは良く言うが、短時間で劇的に成長する者などフィクションの中だけの出来事である
例え徳雄が今の騒動で『何か』を掴んだとしても、目を剥くほどの変化は無いのだろう
('A`)「この一レース、ちょっと見といてください」
(´・_・`)「ああ……構わねえが……」
小練は別に、初心者である徳雄を甘く見ているワケではない。期待をしていないのは、これまでの『統計』から基づく認識なだけだ
素質があり、根性があり、向上心がある。この場合で鍛錬を行った者は、皆等しく培った努力の数だけ、地道に上達していった
その積み重ねあってこそ、数多の尊敬と栄冠を勝ち取るチャリオッツプレイヤーとして成り立つものなのだ
しかし小練は知らなかった
(;'∀`)「ハァーッ、ハァーッ……」
『暴力』を行使する時のみ発揮される、徳雄のポテンシャルを知らなかった
489
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:32:08 ID:0tGXVO1.0
(;´・_・`)「……」
『1st 6kill』
それは、小練が見た中で最も信じがたいスコアだった
これまでのセオリーも指示も、何もかもを無視した、無茶苦茶な走り
前を走るラビットを撥ね飛ばし、側面のホースを殴り飛ばし、砲火に曝されようと、眼前の敵を踏み荒らした
破壊に次ぐ破壊を、これでもかと堪能した後、当初の目標である『ゴールでの勝利』を達成した
ステージに残ったのは、へしゃげて横たわる屍と、怯えているかのように後を追う僅かな対戦相手だけだった
(;'∀`)「ハァーッ、なんっ、か、ずっと、ゲホッ、ここに、来る前から……」
息絶え絶えに。だが、これまでにない満足感を見せながら、徳雄はハンドルに両肘をついてもたれ掛かった
(;'∀`)「なんか足んねえって……ハァ、思ってたんす……申し訳ねえけど……小練、さんの、メニューも……『こんなもんか』って、思ってました……」
(´・_・`)「……これまで手ぇ抜いて走ってたってわけじゃねえよな?」
(;'∀`)「勿論すよ……」
(´・_・`)「ふむ……」
小練は、徳雄が掴んだ何かの見当は付いていた。『スイッチ』である
『ルーティン』とも呼ばれるそれは、特定の動作を繰り出すことで集中力を呼び起こし、パフォーマンスの向上へと繋げるのだ
某メジャーリーガーがバッターボックスに立った際、袖を捲るように、人それぞれに『スイッチ』の作法がある
それは音楽であったり、ミントガムであったり、アロマであったり
気合いを入れ直す為に頬を叩いてみたり、仕事の前に缶コーヒーを飲んだり
チャリオッツのプロプレイヤーの中には、仮面を被って別人になりきる事で、緊張とプレッシャーから解き放たれる者もいる
徳雄の場合は、『被虐』であった
490
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:34:05 ID:0tGXVO1.0
(;'∀`)「蟒蛇と揉めた時……一回殴られてんすよね……そん時、めちゃくちゃ力入って……今みてーに、思いっきりやれたんすよ……結果として、文彦に、華を持たせたんすけど……多分、俺一人で全部やれました……」
(´・_・`)「……そんで?」
(;'∀`)「『この感覚』さえモノに出来れば、俺は今度こそあいつを殺せる。これが俺の必殺技なんす。だから小練さん、お目溢し願えませんか?」
これまで徳雄が歩んだであろう、『虐げられ、虐げ返した人生』に、小練は憐れまずにはいられなかった
学校で大人がしたり顔で説く道徳など、目の前にいる『虐めやすい者』に何の救済も与えない
攻撃に対する最高の抵抗は、防御では無い。受けた痛みを上回る『反撃』なのだ
小さく醜い男は、幼き頃からそれを頭では無く身体で理解し、実践した。その生き方が、歪んだスイッチを作り出したのだろう
小練は無責任かつ頭ごなしに、徳雄の生き方を間違っているなど説くつもりは無かった。右の頬を殴られたのなら、前歯の一、二本へし折って然るべきなのだ
むしろ、よくぞ今まで腐らず、突っ張って生きてこれたなと褒めてやりたいくらいだった
その上で、彼はこう返した
(´・_・`)「アホかオメー」
.
491
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:35:17 ID:0tGXVO1.0
(;'∀`)「ハハ……やっぱ、ダメっすよね……」
(´・_・`)「ちょっと考えたらわかるだろ。お前、一試合毎に一発ぶん殴られるつもりか?」
これまで通用したやり方が、これからも通じるとは思えない。リング上で行う格闘技ならいざ知らず、チャリオッツはあくまで『eスポーツ』なのだ
(´・_・`)「確かにお前のポテンシャルは凄まじいよ。だが、本番は長丁場になる。最初に一回スイッチ入れて、それがゴールまで続く保証はねえだろ。必殺技ならもっとシャープに、そして頻繁に使えるように『入れ方』を更新すべきだ」
(´・_・`)「それに俺はお前らの先生でもあるが、ここの『管理人』でもある。そりゃ、どっか他所でやってくれんなら口出しなんてしねーが、他にも利用客がいるんだ。キッチリ取り締まらねーと示しがつかねーだろうが」
(;'∀`)「返す言葉もねえ……」
(´・_・`)「しずく、クソガキの顔覚えてるか?」
(,,゚-゚)「え?」
儀社は爪見てたんで話を全然聞いてなかった。微塵も興味が無かった
(,,゚-゚)「あ、サッカー部?知らないよ別に興味ないし」
(´・_・`)「オーケーお前に期待した俺がバカだった。徳雄」
('A`)「俺にチクりみてーな真似しろっつーんですか?」
(;´・_・`)「もぉ〜……プライド高い〜……」
管理職はツラいよだった
492
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:37:01 ID:0tGXVO1.0
(;´・_・`)「あーもー……とりあえず、今回は注意喚起だけで済ます。次はちゃんと逃げるかシメるかしろよ……」
('A`)「シメて良いんすか?」
(;´・_・`)「暴力抜きでな……」
('A`)「了解っす」
儀社は「なんか可笑しいこと言ってない?」と思ったが、ブサイクが何しようが興味がないので爪を見るのに戻った
ネイルをやってみたはいい物の、やっぱベタベタのベタになって気になるのだ。今夜あたり同居人の姉代わりに直して貰おうと思った
(´・_・`)「さて……」
『物足りない』。不満があるならすぐに解消するに尽きる。レース感覚を掴む為のNPCとの模擬戦だったが、徳雄の『感覚』を刺激するには少々役不足だったらしい
(´・_・`)「トレーニングのレベルを前倒しにする」
本当ならば合宿の終盤、総仕上げの『試練』として経験させようとしていた強豪との練習試合
ある程度の練度を貯めて挑んで貰おうと考えていたが、もはや徳雄は『初心者』で片付けられるレベルを当に越えている
時間は有限なのだ。程度が知れたなら、より効果的な訓練を積ませるべきだ
493
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:38:51 ID:0tGXVO1.0
(´・_・`)「言っとくが、これまでのクソザコ共とはワケが違うぞ」
チャリオッツのトレーニングモードには、AI学習による『プレイヤー再現機能』が搭載されている
挙動、エイム、攻撃、ペース配分、アビリティの発動タイミングやスパートの入れどころまで
メモリー内に保存された選手データをNPCとして反映し、より高いレベルの練習相手として利用出来る
引退した元プロプレイヤーの中には、後輩の育成の為、あるいは最後の一稼ぎ目的で自身のデータを配布する者もいる
(´・_・`)「これからお前が相手にするのは、かつてのレジェンドだ」
('A`)「……」
『一進不退』、『スリップ・バナナ』、『ドルバッキー』、『ff(フォルティッシモ)』、『4分33秒』
('A`)(何これ……)
こんなんバァー挙げられても徳雄には何のこっちゃヨイヨイセブンだった
そう、皆さんご存知、歴代のチャリオッツタイトル獲得チーム名なのである。2122年のナウなヤングの間では常識なのである。もしかして2122年の人間じゃ無いんですか?百年も時代遅れで恥ずかしくないの?
('A`)「ん……?」
その中に一つ、見覚えのある名前があった
『アンラ・マンユ』
('A`)「オッサンの推しチームも入ってんすか」
(´・_・`)「そうだ。お前らをここへ推薦した三浦さんが所属していたチームだな」
チームデータはまだまだアップロードされていく。カウンターが丁度100を表示した辺りで、エントリータブを押した
(´・_・`)「総勢100チームのデータだ。これを一試合毎に17チーム、ランダムに選出する」
('A`)「ランダム?」
(´・_・`)「同じ相手とばっかやって変なクセつけたくねーだろ。AIは『基本に忠実』がウリだが、『応用』は効かねえ。細かいフェイントや余計な遊びも入れたりしねえから、本番で引っ掛かる可能性も出てくる。せめて組み合わせで変化はつけとかねえとな」
('A`)「良いっすね。より楽しめそうだ」
(´・_・`)「だと良いがな……」
494
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:39:44 ID:0tGXVO1.0
難易度が上がっても目標は依然変わらない。レースの勘を掴み、順位に関わらずゴールを目指す
また新たに、被虐以外でのスイッチの取得も追加された
(´・_・`)「一騒動あったが、自分の武器を明確に自覚できたのは大きな進歩だ。その調子で励めよ」
('A`)「はい。ありがとうございます」
感情が込められていない形式的な感謝に、小練は苦笑いを浮かべる他なかった
誰しも認められるのは嬉しく喜ばしいものだが、徳雄はその辺の感受性が著しく低く見える
(´・_・`)(まぁ……ええか……)
徳雄は勝利への渇望と、暴力と破壊の快感を知っている。他人から与えられるモノではなく、自ら勝ち取るモノへの執着心がある
自己完結で済むモチベーションは、孤独で過酷な訓練への耐久力だ
('A`)「っし……そんじゃ、やってみます」
徳雄は殴打によって出来た青痣に触れ、サドルに跨った
痛みと屈辱が全身に行き渡り、疲労した身体に新たな活力が漲る
('∀`)「へへ……」
今の自分が、自分の武器が、かつてのレジェンドにどれほど通用するのか
仮に全く歯が立たなくても構わない。まだまだ『伸び代』があるという事だからだ
高鳴る鼓動に共振するかのように、スタートのシグナルが鳴った―――――
495
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:42:31 ID:0tGXVO1.0
―――――
―――
―
(#^ω^)「ハァーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!うっぜえうっぜえうっぜえお!!!!!!!」
マジで三時間歩かされて文彦は疲労と怒りでAdoになっっていた。ねぇアンタわかっちゃいない可能性がある
『叫ぶだけの元気ある分際で何キレてんのこの豚?死ねよ』と思われそうではあるが、こう見えて産まれたての汚豚のように脚ガクガクなのである
(#^ω^)「ったく、みんな僕を蔑ろにし過ぎじゃないかお?こんなに頑張ってんだから、労いのご褒美があって然るべきだと思うお」
デカい独り言であった。そもそも、労いの言葉はシンクロナイズドイケメン軍団に発狂するほど浴びせられたし、小練からもガッツを褒められているにも関わらず
しかし豚が欲しいのは黄色い声援。女性からの甘やかし。そして関係&ラッキースケベなのである。野郎の言葉なんてただの不愉快なノイズでしか無く、それが更に苛立ちを助長させていた
(#^ω^)「っかーーーーーーー!!!!!!とっととミセリのサマーフェスの日になってくんねーーーーーーかなーーーーーーーー!!!!!!二度と帰ってこねえおこんなクソ合宿!!!!!!!!」
声はデカいが這う這うの体である。せめてもの気休めは、明日はオフだと言うことだ
気分を切り替えようと、休みの予定を脳内で組み立てる。食堂で一日中調理員さんを眺めるのも良いし、しずくさんや事務員さんにミセリの魅力を説くのも良い
ブヒヒと気持ち悪くて臭い笑いをしながら、ボロボロの身体を引き摺って食堂へと向かう
496
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:43:28 ID:0tGXVO1.0
その道中である
( ^ω^)「お……?」
廊下の先に、小汚い誰かが倒れているではないか
(;^ω^)そ「うわ、めんっ……」
本音が出た。国産の豚らしい事なかれ主義であった
しかしこのまま見過ごすのも文彦の心に後味の悪いものを残す。クッソ嫌々ながら、様子を見に近づいた
(;^ω^)「あ、あのー……大丈……」
( A )「」死ゾ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
(;^ω^)そ「うわブッッッッッッッッッッッサ!!!!!!?????とっくん?」
見覚えのあるブサイクが、醜い顔面に痣を作って倒れているではないか
『ほな放っといて大丈夫か』と一瞬思ったが、まぁまぁ事件の香りがせんでもないので一応揺すって反応を確かめた
( ^ω^)「おーい、ブサ」
お茶みたいに呼びかけた
497
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:45:14 ID:0tGXVO1.0
('A`)「ん……おお、文彦か」
ブサイクの自覚があるのか、徳雄は何事も無かったかのように上半身を起こす
( ^ω^)「寝てたのかお?」
('A`)「そうらしい。ちょっと手ぇ貸してくれるか?」
自力で立ち上がるのも困難なのか、徳雄にしては珍しく助けを求めた
文彦はそれに応え、両手で腕を掴み立ち上がらせる。放した後に汚いモノでも触ったかのようにしつこく手を服で拭ったのは無意識の行動であった
( ^ω^)「喧嘩したんだって?」
('A`)「してねえよ一方的に殴られただけだ」
( ^ω^)「ほぉーん。遂にとっくんも非暴力に目覚めたのかお」
('A`)「世話になってる身だしな。TPOくらい弁えらぁ」
口より手が出る野蛮人が珍しいと思ったが、顔に見合わずクレバーな面もあるのを知っている
今回も例に漏れずキッチリ報復するのだろう。つくづく、恐れ多くブサイクな男である
( ^ω^)「僕に迷惑だけはかけないで欲しいお」
('A`)「あー、善処するよ」
気の抜けた返事に苦言の一つでも返そうとした時、背後から『ダン、ダン』と大きな足音が反響し
(;'A`)そ「ウッ!?」
背中に飛び蹴りを喰らった徳雄がつんのめり、顔面で廊下を滑った。ブサイクを擦り付けられた廊下が不憫である
498
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:47:35 ID:0tGXVO1.0
(;^ω^)そ「ブスーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」
(;TДT)「哀しい……」
(;^ω^)そ「えっ誰!!!!!!??????」
徳雄の二回りは大きいであろう人物が、文彦の首に腕を回し、締まらない程度にロックした
(;TДT)「『密告』はこの世で最も卑屈で卑怯な『罪』(ギルティ)……そうは思わぬか?贅を尽くした肉体の持ち主よ」
『なんか濃いの来たな』。恐らくこの男が徳雄と揉めた人物なのだろうが、いい歳してキャラがアレなんで思ったより冷静だった
(;^ω^)「はぁ……そっすね」
彡 l v lミ「なんだぁ!?!!!????望火(のぞか)さんの言うことが間違ってるってかぁ〜!!!!!?????」
( l v l) 「オイオイ僕ちゃんよぉ!!!!!!!誰を前にしてんのかわかってんのかぁ〜!!!!!?????」
その後ろから、太鼓持ちであろうザコチンピラ感丸出しの双子がひょっこりと顔を出す。宮下 聡の可能性があった
(;^ω^)「そ、そう言われましても……」
(;TДT)「やめぬか……贅肉よ、彼奴は我らの『罪深き深煙の休息』を覗き見ただけに飽き足らず、その行いを『管理者』に密告した罪人なのだ……然るべき罰を与えてやるのが『救済』に繋がるとは思わぬか?」
「もう何言ってるのかわっかんねーよこの悲鳴嶼さんのなり損ない」とお考えの読者諸兄の為に翻訳すると
『隠れてタバコ吸ってたのをチクっただろテメーブサイクが殺すぞ』
である。言うわけないだろうそんなこと!!!!!!!!!!!!みんなの岩柱が!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
499
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:50:46 ID:0tGXVO1.0
(;^ω^)「その……今からあのブサイクをボコボコにするって事ですかお?」
(#TДT)「『救済』だッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
(;^ω^)「はぁ……そっすか……」
余りに不憫でそんなに怯えなかった。彼が蹴飛ばしたのは、疲れてようがブサイクの形をした『鬼』である
('A )「ってぇ……」
むしろ、鬼がTPOを弁えなくなる方が恐ろしかった
(;^ω^)「あ、あのぉ……不躾ながら申し上げますお」
(;TДT)「殊勝な豚よ、申すが良い」
(;^ω^)「早く謝った方が宜しいかと……あのバケモノみたいなザコ顔面でも一応!!一応話が通じる方の人間ですので、誠心誠意の謝罪をすれば骨の一本程度で済ませるはずですお……」
(#TДT)「我があのブサイク如きに遅れを取ると申すか!!!!!!!!!!!!??????????」
(;^ω^)「え?はい」
正直は美徳だ。だが口は災いの元ともいう。文彦は頭愉快な偽岩柱に突き飛ばされ、双子に両脇を羽交い締めにされた
500
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:53:02 ID:0tGXVO1.0
(#TДT)「そこで見ておくと良い!!愚かな惰豚よ!!あの醜き小さな罪人に然るべき報いを受けさせた後は貴様の番だ!!!!!!」
彡 l v lミ「へへっ、死んだぜお前ら〜!!何てったってサッカーの名門、樹恵努学園(中高一貫)の守護神、『山の望火』さんを本気で怒らせちまったんだからなぁ〜!!」
( l v l) 「無事に家に帰れると思うんじゃあねえぞ〜!!合宿が終わるまで俺らの憂さ晴らしに付き合って貰うんだからなぁ〜!!」
(;^ω^)「はぁ………………そうなんすか………………」
この塩対応である。文彦自身、こんなに危機感を覚えないのは初めてでびっくらこいていた。くら寿司の可能性がある
徳雄はと言うと、うつ伏せに倒れたまま動こうとはしない。山のなんとかさんはフンと鼻を鳴らして近づいていく
(;TДT)「身の程を知るが良い!!!!!!!」
高く右足を上げ、先ほどの飛び蹴りで背中についた足跡に、重ねるようにストンピングを放つ
(;^ω^)「あーあ……」
目を背けるまでも無かった。きっと大した驚きも無いのだろう
『身の程』を思い知らされるのは、恐らく尊大不遜な大男の方であろうと、確信までしていた
501
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:54:19 ID:0tGXVO1.0
〜見つめる割愛〜
https://www.youtube.com/watch?v=gwQ3tu7pfGo
.
502
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:56:24 ID:0tGXVO1.0
(;TДT)「すいませんでした!!すいませんでした!!」
彡; l v lミ「勘弁してください大会があるんです!!」
(;l v l) 「スポーツ推薦も懸かってるんです!!」
一分も経たぬ内に、立場は逆転していた。某動画サイトなら赤文字でなんかいっぱいコメントがつく光景だった
( ^ω^)「ナイスTPO」
('A`)「どうもありがとう。スッキリしねえよ」
ストンピングを背中の押し上げで跳ね返した後、尻餅をついた山の望火さん(笑)の側頭部に向けて後ろ回し蹴りを放ち、小指の先ほどの近さで寸止めした徳雄は、欲求不満とでも言いたげに鼻を鳴らした
無様を晒すアホの三人組だが、蟒蛇とは違って『格の違い』を理解してからの土下座は早かった。三下のムーブではあるが、防衛反応の観点から見れば利口であった
('A`)「小練さんに、暴力はやめとけって言われてたからな」
( ^ω^)「そう……ん???????」
『確かに怪我はさせてないが、命に関わるレベルの蹴りは寸止めであっても立派な暴力では??????』
思わず理性と道徳がツッコミそうになったが、別に自分に危害が及んだわけでは無いのですぐさま頭から掻き消えた
503
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:56:54 ID:0tGXVO1.0
(;TДT)「すんません……しゅ、周囲の期待が、プレッシャーになっ、なってて……イライラしてタバコに手ぇ出しちまって……」
('A`)「訊いてもいねえのに俺らに関係ねえことベラベラ喋んな」
真っ先に保身に走る変わり身の早さに、唾を吐き捨てるかの如く制止する。自分が不利な立場になると言い訳を重ねる頭の悪い連中は不愉快極まりなく
いつもなら口が利けなくなるまで痛めつけるのだが、今回ばかりは辛うじてTPOと師への義理が勝った
('A`)「俺は何もチクってねえし、小練さんも誰がヤニ吸ったかなんて把握してねえ。テメーの人生設計が大切なら、ザコらしく身の丈に合った生き方したらどうだよ」
彡;l v lミ「仰る通りです!!サーセン!!」
(;l v l) 「頭に乗ってました!!態度を改めます!!」
('A`)「わかったらさっさと消えろ。今度小練さんに迷惑掛けたら、二度と球蹴り出来ねえ身体にしてやる」
( ^ω^)「僕は????????」
三馬鹿は弾けるように立ち上がると、元来た道を一目散に逃げて行く。徳雄は名残惜しそうに見送った
504
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:58:04 ID:0tGXVO1.0
('A`)「割と便利な連中だったんだけどなぁ……」
(;^ω^)「とっくん、いくらクズでも人間サンドバッグはマズいお。そんなんやるのデッカード・ショウくらいだお」
('A`)「誰?」
ワイルド・スピード ジェットブレイクは未履修だった
( ^ω^)「先生に報告しなくて良いのかお?追い出した方が(僕の)身の為だお」
('A`)「いいよ別に……タバコくらい可愛いもんだろ……」
(;^ω^)「このヤンキーホンマ……」
('A`)「オメーも悪さする時は、他人の目に付かないとこでやるこったな」
(;^ω^)「しねーお人聞きの悪い!!」
あっけらかんと食堂へ向かう徳雄だったが、文彦は不安気に三人が去った方を振り返った
『これで終われば良いけど』。虐げられる立場だった文彦は、ああいう人種のしつこさもよく知っていた
('A`)「食堂閉まんぞー」
(;^ω^)「おっ、そりゃいかんお!!」
無力な文彦は、早く彼らがここから出ていってくれることを祈る他なかった
505
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:59:03 ID:0tGXVO1.0
―――――
―――
―
一日休みを挟み、鍛錬が再開される
(;'A`)「フッ、フッ……」
(´・_・`)「うんうん」
日が増すごとに、負荷も増やし
(;^ω^)「マジですかお!?僕もミンミン民ですお!!」
「おっ、同志だったか!!どうだい、今夜の配信を一緒に見ようじゃないか!!なぁ、みんな!!」
「「「「「ウーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッス!!!!!!!」
(´・_・`)「うんうん」
合宿の成果は、着々と身についていった
そんな矢先である
506
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 22:01:33 ID:0tGXVO1.0
( ^ω^)「いやぁ、話せばわかるんだおね!!人って見かけによらないお!!」
(;'A`)「そりゃ、良かったな……」
暫くの間、共にプールで鍛錬したイケメン人魚達とすっかり仲良くなった文彦を余所に、徳雄の顔はいつも以上に酷かった
( ^ω^)「とっくん?ウンコでも我慢してるのかお?」
(;'A`)「ああ……いや……ちょっと今朝から……」
言い終わらぬ内に、徳雄は倒れるように食堂机に突っ伏した
(;^ω^)「ちょ、とっくん!?」
(;´・_・`)「どうしたァ!!」
(;^ω^)そ「うわ速ァ!?せ、先生!!とっくんがブサイク拗らせてぶっ倒れたお!!」
(;´・_・`)「ブサイクは健康状態に影響しねえよ!!医務室に運ぶ!!着いてこいデブ!!」
(;^ω^)「はいですお!!とっくん、顔が酷い!!でも大丈夫!!ブサイクは命に関わらないらしいお!!」
文彦もだいぶ混乱していた
507
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 22:04:34 ID:0tGXVO1.0
イ从゚ -゚ノi、「疲労と軽い脱水症状ね」
保健医の資格も持っているのか、小練に呼び出され自動診察機を扱って診断した事務員は、落ち着いた様子で診断結果を告げた
イ从゚ -゚ノi、「熱も無いし虫刺されの跡も見当たらないから、感染症じゃない。腸の動きも穏やかだから食あたりでも無さそうだし、脈も呼吸も正常値」
(´・_・`)「『アレ』は?」
イ从゚ -゚ノi、「『アレ』でもない」
(;^ω^)「そ、想像妊娠ですかお?」
(´・_・`)「落ち着け」
(;'A`)「終わったんなら練習に戻っていいすか……?」
診察を終えた徳雄は、寝かされたベッドから立ちあがろうと上半身を起こす
(´・_・`)「今日は休め」
(;'A`)「休みなら二日前に取りましたよ……」
(´・_・`)「二度も言わすな」
有無をも言わせぬ静かな迫力に、文彦は思わず小さな悲鳴を上げた。漏らす寸前だった
尚も食い下がろうと徳雄は口を開き掛けたが、観念して再びベッドに身を預けた
508
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 22:05:19 ID:0tGXVO1.0
(´・_・`)「よし。銀、少しの間頼めるか?」
イ从゚ -゚ノi、「はいはい。仕事に戻んなさい」
( ^ω^)「あの!!ボボボボ僕も今日はとっくんに付きっきりで看病しますお!!ほら、大親友の僕がいないと心細いと思うので!!」
(´・_・`)「オメーは元気いっぱい高校鉄拳伝タフやろがい。行くぞオラ」
(;^ω^)そ「ああ!!下心とか無いのに!!医務室で事務員さんに悩み相談とかしてもらいたいとか一切考えてないのに!!友情なのに!!」
イ从゚ -゚ノi、「早く出てって」
('A`)「早よ行け」
四面楚歌だった
509
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 22:05:46 ID:0tGXVO1.0
小練はうるさい豚を片腕で担ぎ上げ、医務室を後にする
引き戸が閉まり、室内には豚の鳴き声と利用客の喧騒が静かに響いた
('A`)「……みっともねえ」
イ从゚ -゚ノi、「そう思うんなら、明日から身の程に合った鍛錬をする事ね」
冷たく言い放たれた言葉は、つい先日に徳雄が三人組に吐き捨てた啖呵に良く似ており
('A`)「反省しますよ……」
イ从゚ -゚ノi、「そう。素直で結構」
図らずも、自分を見つめ直す良い機会となった
510
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 22:09:16 ID:0tGXVO1.0
一方で
( ^ω^)「やれやれ、ブスも倒れる事あるんだおね。鍛え方が足りんと思わんですか奥さん」
自分を一向に顧みない性格デブは昼からの運動を再開する為プールへと向かっていた
徳雄の過労は一日の回復量を上回る運動量が原因なのだが、他人を下げる事に余念がない豚は当然そこまで頭が回らない。脳の代わりに脂肪が詰まっていた
( ^ω^)「おっと、忘れ物したお」
防水仕様のワイヤレスイヤホンを取りに回れ右をして部屋に戻る。辛い運動もミセリの配信アーカイブを聴きながらだと割と耐えられると気づいたのは四日目からであった
文彦がここまでの合宿で、着々と『運動する習慣』が身に付いていた。スポーツとは一重に勝負を通じた交流やプレイ中のストレス解消だけが楽しみでは無く、疲労を癒す行程へのスパイスとなる
水分が喉を通る快感。舌に染み入る食事の旨み。泥のように溶けて味わう睡眠の心地良さ
これを一度でも経験してしまえば、怠惰な豚も自主的に動くのである
( ^ω^)「♪〜」
加えて、過酷な鍛錬に『あの徳雄』よりも耐えきっているという優越感。文彦は自分が一回りも二回りも強い存在になっているという陶酔に浸っていた
それ故に
(;TДT)「豚よ……」
(;^ω^)そ「うわ出た!!!!!!!!!!!!」
『あの徳雄が過労で休んでいる』という、危機的状況に気づくのが遅れてしまった
511
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 22:10:54 ID:0tGXVO1.0
彡 l v lミ「ヘイヘイ豚ちゃ〜ん!!ゴキゲンじゃないのぉ〜!!」
( l v l) 「豚ケツ振ってどこ行くんでちゅかぁ〜?」
徳雄に理解らせられて以降、姿を見る度にそそくさと逃げていた三人組が、ここぞとばかりに文彦を取り囲んだ
(;^ω^)「なっ、なな、何の用だお!!僕に手ぇ出したら大親友のとっくんが黙っちゃいないお!!」
ブスの威を借る豚。しかし三人組はニヤニヤと薄ら笑いを浮かべた
(;TДT)「フン、あの醜き小鬼が消耗していることは承知済みよ。弱った化け物など恐るるに足りぬわ」
(;^ω^)「ち……ちっせえぇ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!名門校ってこんな小物が仕切ってんのかお!?お里が知れるお!!」
臆病な文彦ですら馬鹿に出来るレベルの三下ムーブである
彡 l v lミ「おうおう、言ってくれるじゃあないの豚ちゃんが……よっ!!」
(;^ω^)そ「危なっ!!」
顔目掛けて放たれた軽いパンチを、身を引いて避ける
彡 l v lミ「ほぉん?身軽じゃないの」
(;^ω^)「僕も今ビックリしてるお」
運動の成果か。それとも修羅場を目の当たりにし続け手に入れた胆力か
反撃こそ気が引けるものの、悪意ある暴力を回避できる程度の身軽さを手に入れていた
そう、これが俗に言う『身体が軽い……こんな気持ち初めて……もう何も怖くない!!』である。目覚めた心は走り出したのである(未来を描くため)
512
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 22:12:13 ID:0tGXVO1.0
しかし、多勢に無勢であった
(;TДT)「破ッ!!」
(;^ω^)そ「うわ何をするモガガ!!!!!」
背後から羽交い締めにされ、助けを呼べないように口を塞がれる。豚の汚い汁が手に着くのもお構い無しだった
(;^ω^)「モガガモガモガガモガモガッガ!!!!!!!!!!!!エロ同人モガガガ!!!!!!!」
不思議なことに何て言っているのか理解出来る筈である。どのエロ同人作者かにも寄るが、少なくともイチャラブでは無いことは確かだった
(;TДT)「恨みは無いが、やられっぱなしは性に合わないのでな……連れて行くぞ」
彡 l v lミ「ヘイ、アニキ!!ヘヘッ、良い場所に連れてってやるよ豚ちゃあ〜ん!!」
( l v l) 「誰にも見つからずに忘れ去られちゃうかもなぁ〜!!」
(;^ω^)「モガガ!!!!!?????」
ズルズルと引き摺られながら、文彦は『良い場所』とやらへ連れて行かれる
昼間にも関わらず、『誰ともすれ違わず、誰にも目撃されない』事態と、こんな時に限ってダウンしているブサイクを怨みながら
513
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 22:13:10 ID:0tGXVO1.0
(;^ω^)「モガー!!モガー!!!!」
拉致という未曾有の危機でパニックに陥り、文彦は二つの異変に気づかなかった
一つは、三人組の瞳孔が、日が高いにも関わらず収縮していた事
もう一つは、二階建ての校舎には絶対に無いであろう
『三階へ向かう階段を昇っている事』だった
.
514
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 22:15:17 ID:0tGXVO1.0
次回、『Desperado Chariots』
.
515
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 22:20:33 ID:0tGXVO1.0
次回、『Desperado Chariots』
https://www.youtube.com/watch?v=H4dGpz6cnHo
.
516
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 22:21:58 ID:0tGXVO1.0
イ从゚ -゚ノi、「あっ、ヤバ」
('A`)「?」
イ从゚ -゚ノi、「席を外すわ。そこを動かないで」
事務員は微睡みの最中にあった徳雄に釘を刺し、i-ringで小練に連絡を取りながら慌しく退室する
徳雄は掛け布団を退けベッドから立ち上がる。まだフラつくものの、体調は多少回復した
('A`)「ボヤでもあったのかね……」
冷蔵庫を失敬して、スポーツドリンクを口にする。少し外の空気を吸いたくなり、窓辺へと移動しカーテンを開けた
('A`)「よっ……?」
クレセントを解除しようとした手は、偶然目に入った『有り得ない光景』によって止まる
(;'A`)「え???????」
ちょうど宿舎の辺りであろうか。外壁にポッカリと黒い大穴が開き、そこから見覚えのある少年と、先日灸を据えたばかりの問題児たちが
(;'A`)そ「えええええええええ!!!!!??????」
『階段を昇るかのように』、空中浮遊を行っていた
517
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 22:22:51 ID:0tGXVO1.0
(;うA`)「うん!!!!???あれ!!!!!????」
目を擦ろうとも、その異常な光景は消えて無くならず
(;'A`)「痛でででででで!!!!!!」
頬を抓ると、しっかり痛い
(;'A`)「なん……?????」
当の本人達は、確かな足取りで宙を歩む。三人組が強引に文彦を連れているのを見るに、恐らくは自分が倒れたのを察して報復に出たと見ていい
そこまでは理解出来る。しかし彼らに超能力が備わっているなど想像も出来ない
三人組も文彦も、自身が置かれている異変など気にも留めず、そこに『階段があって当たり前』のように、歩く速度で空へと昇っていく
(;'A`)そ「なんっ……!?」
目の乾きに耐え切れず、無意識に行った瞬き。その僅かな視線の隙を突き、四人は消え去っていた
518
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 22:23:28 ID:0tGXVO1.0
(;'A`)「夢か……?」
外壁の穴も、最初から無かったかのように塞がっている。グラウンドでは、少年野球チームが活発に声を出しながらノック練習を受けていた
複数人が通り抜けられるほどの穴だ。外からでも、外の方が、AI生成された画像のようにトンチキな光景に気づく筈
(;'A`)「そうだ、連絡……!!」
i-ringで文彦との通話を試みる。無機質なコール音が二度、三度と繰り返される中、徳雄は壁のL字フックに紐を通して掛けられている『施設案内図』が目についた
(;'A`)「……」
初日に流し見した後、一度も手に取らなかったそれに、答えは載っていた
裏面の『注意事項』。朝昼晩の食事時間から始まり、飲酒、喫煙に関する注意喚起。BBQや花火を行う場合、事前予約が必要等―――――
(;'A`)「『三階』」
『三階への立ち入り禁止』
.
519
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 22:24:04 ID:0tGXVO1.0
徳雄は再び盛岡の言葉を思い出していた
「泊まる場所なんかおどろおどろしくて雰囲気あるよ」
虚しく響くコール音は十回目に到達すると、呼びかけを諦め、プツリと途切れたのであった
520
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 22:25:28 ID:0tGXVO1.0
次回、『The Demon Village.』
『狭間 “In The Backrooms.”』
.
521
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 22:27:03 ID:0tGXVO1.0
終わりですお疲れさまでした
次の話は鬼ヶ村スレにて投下します
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1634993171/1-100
522
:
名無しさん
:2023/05/05(金) 23:47:43 ID:UbyMOIpU0
乙!読み応えがありすぎる
文彦がちょっと成長したの感動した
523
:
名無しさん
:2023/05/06(土) 15:55:30 ID:nhTmZYLM0
乙です
524
:
名無しさん
:2023/05/06(土) 19:36:53 ID:21L3yE8s0
乙!豚に対する当たり強くない?豚だから仕方ねえかガハハハ
525
:
名無しさん
:2023/05/07(日) 13:48:28 ID:S01Oemjw0
>>305
526
:
名無しさん
:2023/05/11(木) 23:48:47 ID:5cFmQsUM0
おもしれぇ
突然怪奇現象始まってドクオたちがどう巻き込まれるのか全く予想つかん
527
:
名無しさん
:2023/05/28(日) 08:47:44 ID:XzCV3zas0
小練さん有能すぎんか?さぞ名のあるトレーナーと見受けられるが山奥に隠れるような暮らし、今回の怪現象と関係ありそう
あと久々に銀のAA見れて懐かしさが押し寄せてきた。正◯ヒーローの作者今何やってんだろ
528
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 12:51:13 ID:xsbgfEYE0
できた
529
:
名無しさん
:2025/01/05(日) 15:44:15 ID:4d2Sqhos0
待ってる
530
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 16:42:51 ID:xsbgfEYE0
前回までのあらすじ
なんか色々あって『ねぐら』からクソヤバい場所に連れてかれちゃったけど帰って来れた。その間一年半くらい経った(体感)
文彦はアホにアホを重ねてるオタクデブなんで何も覚えてなかった。良かったね。何も良くねえよバックルームくらい一人でどうにかしろデブ臭ぇんだよ
(ゝ^ω^)
('A`)「お前……」
(ゝ^ω^)「あんだお」
('A`)「痩せ……いや、やつれたな……」
(ゝ^ω^)「うるせえ」
('A`)「やさぐれてもいるな……」
(ゝ´・_・`)
('A`)「あの……」
(ゝ´・_・`)「あんだお」
('A`)「小練さんもド疲れてません?」
(ゝ´・_・`)「うるせえ」
('A`)「……」
徳雄はめんどくさくなって訊くのをやめた
531
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 16:44:03 ID:xsbgfEYE0
第八話
『男子、一月会わざれば』
.
532
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 16:46:17 ID:xsbgfEYE0
徳雄が倒れてから五日が経過した。計画にない休息というタイムロスは、図らずも『オーバーワーク』という問題点を自覚する良いきっかけとなった
しかしここに来て文彦のモチベーションが著しく減少する出来事があった
(ゝ^ω^)「もう嫌」
ミセリのサマーフェス当日、文彦は『ねぐら』に残っていた。案の定というか想定の範囲内と言うべきか、彼の望みは叶えられなかったのだ
当然、運動が身に入るわけもなく、合宿を終えて帰宅した男子アーティスティックスイミング部員がいないガランとしたプールで、水面に沈んだ豚面を向けながらダラダラと歩いていた
('A`)「……小練さん」
(ゝ´・_・`)「あんだお」
('A`)「いつまでやつれてんすか……本当に大潮のクズから何の連絡も?」
(ゝ´・_・`)「少なくとも、フェスの為に一旦帰せとは聞いてな……お前の上司だよな?????」
('A`)「にしたってこれは……」
運動をより効果的に行うにあたって必要なのは、鍛える部位への『意識』だ。筋トレに球技のフォーム。有酸素運動も例外ではない
今の文彦が行なっているのは、服を着てプールに浸かってるだけの、運動とは呼べない時間の無駄な浪費である
本八も文彦の不貞腐れ易い性格は理解している筈だ。用意周到な彼が何の手も打っていないとは考えづらいが、それにしてはアクションが遅いように感じた
(ゝ´・_・`)「感情の起伏が激しめのガキは、別のきっかけでガツンと再燃することもあるからな。オメーらの大将もそれはちゃんと理解してるだろう」
('A`)「だといいんすがね……」
533
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 16:47:11 ID:xsbgfEYE0
『別のきっかけ』。文彦にとっては言うまでもなく『推し』に関する事だろう。フェスに行けなかった代わりにまたもやグッズやら何やらを用意するのだろうか
しかし、同じ手が何度も続くとは思えない。文彦ほど面の皮が厚いV豚なら、それを受け取った上で更なる無茶な要求をするのは目に見えている
そもそも、悪いのは個人の予定を無視してスケジュールを組んだ本八なのだ。身銭を切ろうが腹を切ろうが、応えて然るべきではあるのだが、それはあくまでも『賠償』として受け取られる
『ガツン』とやる気が上がるかと問えば、文彦はきっとこう答えるだろう。「え??????約束を破ったのは向こうなのになんで僕がこれ以上頑張らないといけないんですか??????」と。心底憎たらしいオタクデブである
(ゝ´・_・`)「俺ァそろそろ行くから、サボらねえよう見ててくれ」
('A`)「あんな状態なら見てても見てなくても一緒でしょうよ」
(ゝ´・_・`)「それもそうだな。水泳を楽しめ」
軽く手を振ってプールサイドから去った小練からは深刻さは微塵も感じられなかった
('A`)(何考えてんだかね、あのオッサンも)
かく言う徳雄自身、文彦のモチベーションを回復させる手段も策も持ち合わせてはいない。慰めの言葉など掛けたところで、汚豚の耳に念仏なのは明白だ
それに、今し方小練が迎えに行った『客人』が、文彦の再起を促す何かを持ってきてくれるかもしれない
どのみち、合宿も後半に差し掛かりつつある今、他人の面倒を見ている暇は無いのだ。徳雄は水中ゴーグル装着すると、頭からプールへと飛び込んだ
534
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 16:47:44 ID:xsbgfEYE0
午前の運動を終え、食堂に向かう道すがら、事務室から聞き覚えのある独特のオタク早口が聞こえてきた
ノックしてから顔を覗かせると、先程到着したばかりであろう二人が、旅行鞄を足下に置いてアイスコーヒーを頂いている所であった
(;@з@)「おお、宇都宮氏ではござらんか!!」
⌒*リ´・-・リ 「ご無沙汰してます。宇都宮さん」
『木本 王太郎』と『高梨 莉花』。二人がねぐら訪れると小練から知らされたのは、徳雄が倒れた当日の夜のことだ
木本は夏休みが始まって早々に、アプリ開発会社のインターンに参加しており、高梨は先日まで徳雄が抜けた穴を埋める為に労働に勤しんでいた
インターン終了と高梨の休暇が重なったタイミングで、二人は応援を兼ねて遊びに訪れたのだ
⌒*リ´・-・リ 「倒れたと聞きましたが、大丈夫なんですか?」
('A`)「問題ねぇっすよ。職場はどうです?」
⌒*リ;´・-・リ 「あ、あはは〜……社長さんが毎日ヘルプに入ってて、店長が死にそうになってる以外は順調ですよ」
('A`)「あのパワハラクズはホンマ………」
パワハラを自分から受け続けてきた男は面構えが違った
535
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 16:49:04 ID:xsbgfEYE0
イ从゚ -゚ノi、「……」
('A`)「おっと……」
イ从゚ -゚ノi、「何が?」
('A`)「いえ、なんでも」
いつも通りの仏頂面で、コーヒーに意味わからん量のガムシロを注ぎ込む氷の事務員の姿に姿勢を正す
見た目の通り、騒がしいのは好まなさそうな彼女が、来客を自身の仕事場へ招き入れているのが少々意外だった
('A`)「そのー、木本?盛り上がってたようだが……」
見た目はともかく、あの性格ゴミカスの文彦を親友と呼ぶほど人の出来た木本だが、彼は残念ながらオタクである
もしかして、銀が微塵も興味のない『皆鳴ミセリ』の話題を一方的にワッと浴びせているのではないかと、徳雄は内心気が気でなかった
(;@з@)「いやー、銀女史が読まれていたSF小説が拙者の愛読書でしてな。つい熱く語ってしまったでござる」
銀の事務机の上には、今時珍しいハードカバーの紙書籍が置いてある
無重力空間に浮く宇宙飛行士の絵に、表紙の三分の一を埋め尽くす大きさで『プロジェクト・ヘイル・メアリー』とタイトルが記されていた
神が書いたSF小説である。これを一度でも読んでしまうと、普通の本では満足できない身体になってしまう
イ从゚ -゚ノi、「柄にもなく盛り上がっちゃったわ」
(;'A`)「アッエッ、そうなんすか……」
イ从゚ -゚ノi、「何?」
(;'A`)「あっなんでもないっす」
共通の話題があったとはいえ、彼女から『盛り上がった』という言葉を引き出した木本に対して、動揺が抑えきれなかった
536
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 16:49:58 ID:xsbgfEYE0
(;'A`)「それはそうとお前……?」
文彦の処遇について、本八から言伝がないか訊こうとしたその時、背後から妙な気配を感じて振り返る。そこには
扉だ|^ω^)
(;'A`)そ「うおっ」
今にも人を刺しそうな目で親友を睨め付ける話題の引き出しがミセリしかない非モテキモオタクデブの姿があった
扉だ|^ω^)「なんであいつだけ……いつもいつも……僕の方が……チクショウ……」
(;@з@)「ふ、文彦氏?どうなされたのでござるか?」
扉だ|#;ω;)「うっせーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!オタクが!!!!!!!!バーカバーカ!!!!!!!!!リア充爆発しろ!!!!!!!!」
在らん限りのクソしょうもない捨て台詞を吐いて、負け豚オタクデブは去っていった。リア充爆発しろは令和の世でも既に死語である
537
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 16:50:52 ID:xsbgfEYE0
(;@з@)そ「り、リア充!?文彦氏、待ってくだされ!!」
人が良すぎる木本も、普通なら縁切って然るべきゴミカスを追って事務室を飛び出した
退室する際、一度室内へと向き直り、『失礼しました』と一礼して静かに扉を閉めていく所作に育ちの良さを感じた。一人っ子の甘やかされオタクデブも見習えばいいのに
(;'A`)「チームメイトがすみません……」
イ从゚ -゚ノi、「構わないわよ。どうせ今月だけの付き合いだし、我慢してあげる」
⌒*リ;´・-・リ 「銀さん」
あまりの間の悪さに、徳雄は内心ため息を吐いた。素っ気なく接され続けている事務員が、今日訪れたばかりの親友とは会話を弾ませているのを目の当たりにしたのだ
不貞腐れ易い上に嫉妬深い救いようのないキショ豚の事だ。楽しみにしていたイベントには行けない上にこの仕打ちとでも捉えているに違いない。徳雄はこの時点で、文彦の夏合宿はこれ以上続けられないのではないかと諦めに入っていた
(;'A`)「ハァ……高梨さん。クズはどうしてます?」
⌒*リ;´・-・リ 「しゃ、社長ですよ宇都宮さん。特に普段と変わりない……そう言えば、チャリオッツの古い業務用筐体を購入したそうです」
(;'A`)「あんなデカいもん置く場所……あるんだろうな……」
環境こそ着々と整えているようだが、文彦との口約束を放棄しているのが腑に落ちない
本八は良くも悪くも手加減をしない男だ。自身や文彦の獲得に、犯罪スレスレの行為をしてまで臨んだのだ
そこまでして手に入れたガンナーを裏切るような真似をするだろうか?ましてや、長年メンバーに恵まれなかった男が
538
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 16:52:19 ID:xsbgfEYE0
('A`)「……」
徳雄は今朝の小練との会話を思い出した。『別のきっかけで再燃することもある』
もしや、狙っているのは『それ』では無いだろうか。だとすると、一向に連絡がつかないのにも納得がいく
('A`)「ほっとくか……」
⌒*リ´・-・リ 「え、いいんですか?」
('A`)「木本に任せた方が楽なんで。それじゃ、失礼しました」
それならば、気を揉むだけ損だと割り切り、徳雄は事務所を後にした
/ ゚、。 /「あ、こんにちわ」
('A`)「こんちわ」
入れ違いで高身長和装美女が入っていったが、ここ最近毎日見かけるので特に気にならなかった
539
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 16:53:14 ID:xsbgfEYE0
【アメイジング・ブス(驚異的ブス)と入れ違いで入ってきた高身長和装美女に度肝抜かれる高梨の図】
⌒*リ;´・-・リ そ「ぎえー!!」
/ ゚、。 /「ぎえーて何なん?」
⌒*リ´・-・リ 「これは良い意味のぎえーなんで!!」
/ ゚、。 /「またおもろいお友達やなぁ」
イ从゚ -゚ノi、「でしょう?」
540
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 16:54:09 ID:xsbgfEYE0
【アメイジング・ブス(驚異的ブス)と入れ違いで入ってきた高身長和装美女に度肝抜かれる高梨の図】
⌒*リ;´・-・リ そ「ぎえー!!」
/ ゚、。 /「ぎえーて何なん?」
⌒*リ´・-・リ 「これは良い意味のぎえーなんで!!」
/ ゚、。 /「またおもろいお友達やなぁ」
イ从゚ -゚ノi、「でしょう?」
541
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 16:54:42 ID:xsbgfEYE0
―――――
―――
―
('A`)「……」
(,,゚-゚)「あれ?最近ずっと一人だね」
('A`)「ん?ああ……文彦なら視聴覚室だ」
(,,゚-゚)「いや、会いたいわけなくない?」
(;'A`)「何がそんな嫌なんだよ……」
木本らが訪れて三日が経ち、ミセリサマーフェスも最終日となった
文彦と木本は、この三日間午後から夜に掛けて開催される推しの祭典に集中するため、半日を視聴覚室で過ごしている
その間、全くと言っていいほど二人の顔を見ていない。別に特段仲が良いわけではないので、徳雄としても落ち着いて過ごせて快適であった
彼もこの日は休養日であり、静けさと涼を求めて図書室で模擬戦の振り返りを行っていた所
暇を持て余した儀杜が、向かいの席に着き話しかけてきた。身長にそう差が無いからか、同年代と思われているらしい
(,,゚-゚)「休みの日までチャリオッツ漬け?他に趣味ないの?」
('A`)「躾のなってねえガキが来たら知らせてくれ」
(,,゚-゚)「終わってんね、性格」
('A`)「よく言われる」
飄々と軽口を返しながら、徳雄は映像と共にプロチーム相手の鍛錬を振り返る
最初の二日は試合にもならなかった。元々、『二枚落ち』の不利な条件でのゲームである。捕捉されてしまえば逃げる間も無く砲撃を喰らって終了した
そこで思い切って、『ラビット』の戦法を取ることにした。スタートダッシュで砲撃の射程圏外まで逃げ切る先行策である
結果として、『対戦相手』からダウンを取られる回数は減ったが、今度はステージギミックやエネミーに足を取られた
敵対CPUとの遭遇はランダムではあるが、先頭ともなると、見つかる確率は大きく上がる。だからこそ愚鈍な『タートル』戦法にも一定の勝率がある
次はその『亀』を見習って、後方から一気に捲る戦法を取ってみたが、これが致命的に性に合わない
542
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 16:55:40 ID:xsbgfEYE0
何故タートルは重装甲であるか。スピードと引き換えに破壊のリスクを負ったラビットとは正反対で、安定感に重きを置いているからだ
車輌破壊によるリタイアのリスクを減らし、最後まで生き延びてゴールする。生存力を高める為の『甲羅』なのだ
つまり、殴られようが蹴られようが多少の『辛抱』を求められる。生来、攻撃的な性格である徳雄にとって、『反撃しない』という選択は耐え難いものであった
その上、妨害は何も前を行く車輌だけに向けられる物では無い。後続に追い抜かれない為の装備も当然用意しているものだ
ステージギミックに足を取られる代わりに、今度は相手チームの『尻』から放たれるトラップに走行の邪魔をされた
此方はランダムなんてものじゃなく、後ろにつけば確定で放たれるものだ。当然、タートルは前からの妨害も見越した装備で備えておく必要がある
結論として、人員と装備に乏しい身一つの今、敵チームと競り合いながら、エネミーの遭遇率を分散する方法が一番マシであると到った
事実、上記二つの戦法よりも、オーソドックスな『ホース』、攻撃主体の『バッファロー』の使用率は飛び抜けて高い。レースとバトルの二つの要素を有するチャリオッツにとっての基礎であるからだ
徳雄としても、バチバチの鍔迫り合いは大歓迎であるし、素人が下手に奇を衒うよりも、基本を忠実に遂行する方が勝算があると踏んでいた
と、ここで問題は回帰する。『車輌破壊によるゲームオーバー』。結局、この敗因の解決には到らないのである
『人が居ない』『反撃出来ない』と理由を並べるのは簡単だが、それでは辺境くんだりまで出向いた意味が無くなる。そこで徳雄は思い切って考えを切り替えた
これまでのゲームログを洗いざらい振り返り、破壊に到るまでの敵車輌の挙動の理解に時間を費やしたのである
総勢100のプロチームデータ。一見気が遠くなるような作業であるが、攻撃には一定のパターンが存在する筈である
例えるなら、野球選手の挙動は人によってフォームが異なるが、『振りかぶって投げる』『バットを振って打つ』といった挙動自体は共通している
つまり、『攻撃に到るまでの予備動作』を見極めさえすれば、被弾率を抑えられるのでは無いかと考えたのだ
('A`)「……」
この事を小練に相談した所、彼は疲弊した様子で「どうとも言えない」と難色を示した
ログの振り返りは経験値として糧になる。ただ、相手はあくまでAIである。以前にも小練が言ったように、AIは基本に忠実だが『遊び』がない
射程内に車輌が収まればAIは自動的に発砲するが、生のプレイヤーには常に『撃つ』『撃たない』の二択があり、行動タイミングに制限はない
頭と身体に『相手は必ず撃ってくる』という認識を刷り込ませるのは、『フェイント』という戦術への致命的な弱点となる危険がある
更に前提として、敵チームの挙動把握は『ジョッキー』よりも視野の広い『キャプテン』の仕事であるとも指摘を受けた
一人プレイの為に運転席の視野を広げている現在はともかく、本番では第二、第三の目を積んでいる。この場合、ジョッキーの視界確保よりも、装甲を厚くさせた方が生存率が高まる
ご尤もである。勝負に固執して負担を増やしてしまえば、合宿で得られる成果も減ってしまう。徳雄の目的は『チャリオッツへの慣れ』なのだ
そこで小練が提案したのは、攻撃パターンの把握では無く、『撃たれる前』と『撃たれた後』の対処法の会得だった
攻撃手段こそ千差万別あれども、被弾する側の対応はある程度に限定される。撃たれる前なら『躱す』か『逸らす』か。撃たれた後は『逃げる』か『耐える』か
この場合ジョッキーに必要なのは、司令塔であるキャプテンの指示を介さない『瞬間的な判断力』だ。それには、『車輌感覚』を養う必要がある
車を運転する際、フロントの位置はどこか。サイドミラーの死角はどれほどか。ブレーキを踏んでから停車するまでの距離はどれほどか
運転手が皆、愛車のスペックを正確に把握しているわけではない。だがこれらは全て『感覚』として身に付いている。そうでなければ、街を行く車体には痛ましい擦り傷で溢れている
徳雄の大きな課題である『運転に慣れる』。訓練のレベルを上げた事で、次の目標が浮き彫りになった
敵の撃破を目的とした『攻めの走り』から、自らの生存時間を伸ばす『守りの走り』の体得に、ここ数日を費やしていた。首尾はと言うと―――――
543
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 16:58:21 ID:xsbgfEYE0
('A`)「……」
('A`)=3「ふーっ……」
(,,゚-゚)「行き詰まってんの?」
('A`)「いいや、順調だ」
拍子抜けするほど着実に、生存時間は伸びていた。単純にチャリオッツというゲームに慣れ始めたのもあるが
合宿が開始してから二日置きに行なっている『山降り』による反射的なルート判断能力が身に付いているのが大きな理由だ
無造作に点在する『障害物』は、何も走行の妨げの為だけに置かれているものではない。言い換えれば、砲弾から身を守る『遮蔽物』だ
出来るだけ射線上に身を晒さぬよう、岩場や建築物へ『ハイド』する。FPSシューターさながらの走法が、最も生存時間を稼げた
順調だ。しかし、こうも思う。「これで勝てるのか?」と
八月も半ばで、予選までは三ヶ月を切ったにも関わらず、自分は今だに『基本のき』で足踏みしている
面にこそ出さないが、じくじくと湧き出す焦りに悩まされている。その影には、いつも自分の前を行く親友の背中があった
('A`)「フゥ……」
(,,゚-゚)「あれ?もういいの?」
('A`)「ああ……」
見返したところでさっぱり頭に入らない映像を打ち切り、凝り固まった眉間を指で揉みほぐす
時間は惜しいが、オーバーワークを反省したばかりだ。休息に努めようとするものの、気持ちばかりが逸って落ち着けない
気分転換をしようにも、CGの女にお熱のオタクデブとは違って無趣味であった。何が楽しくて生きとんねんこの生き方ブス
('A`)「なんか……」
(,,゚-゚)「なんか?」
('A`)「……仕事ねえか?」
(,,;゚-゚)「ええ……この期に及んで働く気……?」
生来のストイック。ワーカーホリック化するのは自明の理である
儀杜は、何かとイキリ散らかす身の程知らずのオタクデブとは別種の薄気味悪さを感じた
544
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 17:00:05 ID:xsbgfEYE0
(,,゚-゚)「あのさぁ、ずっと思ってたんだけど生きるの下手すぎない?」
('A`)「む……」
儀杜の歳は確か14か15。片手以上の歳の差がある小娘に生き方を問われるとは情けのない話である
事実、指摘されれば言い返せないくらいには不器用であるという自覚はある。手本を探そうにも、身近には悪例しかいないのだ
(´^ω^`)「え!!!!!!!!!!!!!????????」
うわ出てくんな生き様クズ
(,,゚-゚)「何の為にここに来たのさ?一ヶ月もウジウジ悩む為?」
('A`)「そんなわけねえだろ……」
(,,゚-゚)「だったらもっと先生を頼ったら?」
('A`)「何言ってやがる。これ以上頼れるかよ」
小練の激務は目に見えている。施設運営に加えて、『別の業務』もこなしているのも薄々勘付いてはいた
そんな彼にこれ以上の負担を強いるわけにはいかない。それは徳雄よりも身近にいる儀杜の方がずっと理解している筈だ
(,,゚-゚)「使い潰したらいいよ」
(;'A`)「ええ…………」
ただこの少女、身内にすんごい厳しかったのである
545
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 17:01:10 ID:xsbgfEYE0
(,,゚-゚)「たっけー金払ってやってんのにこの程度かよって言ってやればいいじゃん」
(;'A`)「充分だよ。これ以上望めるか」
(,,゚-゚)「それだよ。生き方が下手ってのはさ」
徳雄の鼻先に、ビシリと人差し指が向けられる
(,,゚-゚)「『望んで然るべき』だよ。じゃなきゃ、欲しい物は手に入らない。サンタさんだって手紙を貰わないとプレゼントの用意のしようがないんだから」
(;'A`)「ううむ……」
(,,゚-゚)「アプローチを変えようか?宇都宮くんの欲しい物って何?」
(;'A`)「欲しい物……」
暫く頭を捻って考えてみる。合宿二日目に立てた目標で、まだ達成されていないのは何か
まず思い浮かんだのは、目下特訓中の『守る走り』。回避と受け身の会得だ
(;'A`)「技術……いや、違うな」
それは手段であって『目的』ではない。では『ジャパンカップ制覇』か?それもあくまで『舞台』であって、徳雄の目指す所ではない
('A`)「……」
『親友に勝つ』。それも、大舞台で凄惨に、心に深く苦痛を刻み込むような勝ち方で
自らの『得意』ではなく、彼方の『得意』で上から捻じ伏せるような、『鬼』に相応しい勝ち方で
546
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 17:02:02 ID:xsbgfEYE0
('A`)「なるほど」
『初志貫徹』。驚くほどストンと腑に落ちた徳雄は、ゆっくりと席を立った
('A`)「仰る通りだ。そもそも、遠慮なんて性に合わねえ。ちょっくら文句言ってくる」
(,,゚-゚)「ボロクソにしてやんなよ」
『生き方上手』は悪戯っぽくニヤリと笑った。釣られて口角を上げた徳雄は、一つのセリフを返した
('∀`)「終わってんな、性格」
(,,゚-゚)「よく言われる」
儀杜は気を悪くする様子もなく、肩をすくめたのであった
547
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 17:03:08 ID:xsbgfEYE0
―――――
―――
―
(´・_・`)「……」
《どうだい先生?これが必要最低限の構築だ》
小練は厨房にて、僅かな休憩時間を使って『宿題』を見ていた
それを課したのは、この場にいない残り一人のメンバー。徳雄と文彦を合宿へ送り出した依頼主である本八だ
(´・_・`)「率直に申し上げますと」
《おお!!言ってくれ言ってくれ!!》
(´・_・`)「『死ぬ気か?』ってのが第一印象ですね」
i-ringのスピーカーから下品な笑い声が響き、小練は思わず眉間に皺を寄せた。苦手なタイプであった
躾のなっていないデブガキはまだ可愛げがあるものだが、大人となると笑って見過ごせない。金払いが良くとも、人の好き嫌いまで割り切れはしなかった
(´・_・`)「ですが、現状では特に口出すような箇所は無い。言うまでもなく無いですが、先ずは試運転ですね」
《先生は聞き分けが良いなぁ!!三浦の大将は頭抱えてたぜ!!》
チャリオッツの操縦は、主にジョッキーが担うものだが、その他のポジションも関与が出来る
ガンナーは言わずもがな砲塔の回転だ。だが文彦の愛砲『6shooter』は固定砲であり、操縦に影響を及ぼさない
キャプテンは『アビリティ』の種類によって、任意のタイミングで操縦に手出し出来る。これは『アイテム』や『トレジャー』とは違い、クールタイムありのスキルで、ゲームが始まれば切り替えは出来ない
チャリオッツの個性は、『アビリティ』で決まると言っても過言ではない。かつて三浦 紘一が所属していた『アンラ・マンユ』では、一発限りの超強力アビリティ『ショットパージ』を使用した
アビリティを操縦の一環として組み込むか、アンラ・マンユのように一発逆転の切り札として温存するか。こういった『構築』も、チャリオッツの醍醐味の一つだ
では、一体何が問題なのか?
ゲームの歴史の上、プレイアブル・キャラや装備品、魔法やスキルにカード。『プレイヤー』に関わる全てに『アタリ』と『ハズレ』が在った
チャリオッツも例外ではなく、特に『主砲』と『アビリティ』は顕著に表れる
現在の6shooterの立ち位置を見ればわかりやすい。固定砲かつ射程は短く、唯一の取り柄である連射力もガンナーの技量次第。余程のこだわりがなければ、クセが無い強力な主砲を選ぶ者が多くを占める
だが、これでも操縦、延いては『車輌の動きと連動するコクピット内の挙動』に影響を及ぼすアビリティと比べれば、マシな部類である
問題は、本八が選んだ『アビリティ』にあったのだ
548
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 17:04:14 ID:xsbgfEYE0
(´・_・`)「よく三浦さんが許しましたね」
《デブのスペックを最大限に活かすなら『これ』しかねえってのは共通認識だったんでな。アンタもそうだろ?先生?》
(´・_・`)「異論はありませんよ。それに、最終的に決めるのは皆さんだ」
このチームで最も価値のあるメンバーは、間違いなく文彦だ。本八が提出したのは『ガンナー優先』の構築だった
小練も実際に文彦のプレイログを確認したが、ガンナーの腕だけは国内屈指の実力と言い切れる
その実力を如何なく発揮する為には、三位一体となって『6shooterという固定砲と向き合わねばならない』
即ち、他の主砲ならば発生しない負担が、キャプテンとジョッキーにのし掛かるのだ
僅かな期間だが、所属していたプロチーム『蟒蛇』で、他のチームメンバーとそりが合わなかったのも頷ける。蟒蛇でなくとも、持て余すチームは多いことだろう
それを承知で、本八は思い切った選択をした
文彦の武器は、6shooterの性能を最大にまで発揮した『連射力』と
どのような状況下であっても、『照準』が合った瞬間に撃ち抜く『速射力』
優先されるのは当然、速射の方である。だが、これを発揮するには車体の方向転換が必要不可欠だ
徳雄もチャリオッツの経験を着実に積んではいるが、来るXデーまでに完璧なサポートまで修得するのは難しいだろう
ならばいっそ、照準合わせを『キャプテン』だけが担えばいいと、本八は結論づけたのである
(´・_・`)(にしても、マジで使う気かね。コレを)
『エイム合わせ』のアビリティは数多く存在する。最も代表的なのは、初心者向けアビリティの『オートエイム』だ
敵がいる方向へ自動で砲身を向け、仰角の調整まで行ってくれる。これは回転砲塔だけでなく、6shooterのような固定砲でも適応される
しかしこの場合、オートエイム発動時に『ジョッキーがハンドルを向けている方角』より、『敵がいる方角』が優先され、勝手に方向転換を行う。バグと見紛うレベルで相性が悪い
これはオートエイムだけに限らず、エイム合わせアビリティほぼ全般に言えることだ。もっとインチキくさいアビリティもあるにはあるが、強力になればなるほどクールタイムを要する
本八の要求は、多少無茶な挙動でも、手早く手軽に、ジョッキーの邪魔をしないアビリティだった
数えきれないほどの試行錯誤の末、本八の眼鏡にかなうアビリティが、『たった一つだけ』あった
膨大なアビリティ・カタログの片隅にひっそりと眠っていたそれには、幾つかの蔑称が付けられている
曰く、『開発者の悪ふざけ』。曰く、『プレイヤー殺しアビリティ』。曰く、『世界最悪のコーヒーカップ』。曰く、『チャリオッツの悪意』
強力過ぎるが故に忌避された『ショットパージ』とは、全く別の理由で使われない『ハズレ中のハズレ』アビリティ
その名も、『スピンミキサー』
.
549
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 17:05:19 ID:xsbgfEYE0
効果は、『車体を高速回転させる』だけ。搭載コストもクールタイムも軽く、何度でも使いまわせるシンプルなアビリティだ
これがテレビゲームであったなら、何人かの使い手もいただろう。だが、ゲーム内の車体の挙動と、プレイヤーが乗り込むコクピットの動きが連動するチャリオッツに置いては、実際に『予備動作無しで操縦席が回転する』のだ
この連動が、アビリティ発動時に様々な弊害を生み出した。言わずもがな、回転による酔いだ。スピンミキサー発表当初は、怖いもの見たさで使ってみたプレイヤーは総じて吐き気に襲われた
また、ジョッキーとキャプテンの意思疎通が不十分だと、発動後に進行方向を見失い、タイムロスやコースアウトへと繋がった
そもそも、スピンミキサーは接近した敵車両を回転で弾き飛ばす『変則チャージ』を想定して開発されたアビリティだが
通常のチャージとは異なり、砲身や車輪といった比較的デリケートな部分への衝突も充分にあり得る
また、装甲も軽量だと、一回の使用で容易く破損してしまう。本来の用途で運用する場合、それ相応の重装甲をカスタムしなければならない
装甲を重くすれば、当然速度も落ちる。チャリオッツレースに置いて、『足の遅い亀にわざわざ当たりにいく』メリットは皆無に等しい
バトルロワイヤルでは、チャージ主体の近距離車両で使用するチームも僅かに見受けられたが、どれもパッとした成績を残した記録はない
そんな誰もが見向きもしないハズレアビリティに、本八は目をつけた
ご察しの通り、スピンミキサーの挙動を回転砲塔の代わりとして利用するのである
実装当初、この無謀を試みた者も少なからず存在した。しかしそもそもの話、砲撃とは精密さを要する
『戦車』の撃ち合いなら尚更だ。目押しの当てずっぽうか、装甲の薄い箇所へ狙いすまして撃ち込む一撃か。どちらが有効かなど問うまでもない
だがこれが、『内藤 文彦』と『6shooter』であるならば、話は変わってくる
極めて優れた動体視力と、最速の主砲を組み合わせることで、スピンミキサーは『二つ』の持ち味を発揮する
『車両の回転を利用した最速エイム』と、『複数同時砲撃』である
前者は言わずもがなである。文彦は『吹き飛んだ車両から相手チームを撃破』した実績がある。それに比べたら、アビリティの挙動など止まって見えるようなものだろう
もう一つは、6shooterが六発まで連続発射出来る性能に因るものだ。射程圏内で複数のチームと競り合っていた場合、自車両を中心に『全方位』へ即座に砲撃を与えられる
連射力に回転を加えることで、『一対多』のシチュエーションにも対応が可能になるのである。当然、敵対CPUであるエネミー相手にも通用する
スピンミキサーは固定砲のデメリットを打ち消し、文彦の才能をフルに発揮できるアビリティだ。小練も三浦も、そこに異論は無い
しかしながら、『シナジー』が生まれた所で、『乗り心地の悪さ』という致命的なデメリットまで相殺されるわけではない。三浦が頭を抱えたのはそれが理由だった
550
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 17:06:22 ID:xsbgfEYE0
(´・_・`)「もしも徳雄か文彦が異論を唱えた場合、再考はされますか?」
《あたぼうよ。候補は他にもあるからな。だが、色々試して『これ』が一番だったってのは覆らねえ》
(´・_・`)「ふむ……」
だとすると、二人はこの編成を高い確率で引き受ける。文彦は6shooterの使い手として、確固たる自信とプライドがある
それを存分に振るえる機会。文彦流に言い換えるなら、『国内最高峰ガンナーである自分が華々しく活躍するチャンス』を、乗り心地の悪さ程度でみすみす逃しはしない
徳雄は元より、文句を垂れはしないだろう。『それ』が最も勝利に貢献するのであれば、淡々と受け入れる。そういう人種だ
(´・_・`)(いや……)
『淡々』ではなく、『喜々として』が正しい。勝利もそうだが、何より『破壊と暴力』に飢えた男だ
そんな『騎手』には、従順な優駿よりも凶暴なじゃじゃ馬がお似合いではないだろうか
(´・_・`)(シナジーねぇ……)
深く読み解いていけば、スピンミキサーはこのチームに『しっくりくる』感じがする。なんとなく、上手く機能しそうな気がする
ただ、やはり懸念は本番まで時間がないと言うことだ。急ぎ対策と訓練を行わねばならない
合宿後半の為に出した本八への宿題だったが、課題はより大きくなって小練へと帰ってきた。思わず、天井を仰いで大きく唸る
思いがけず舞い込んできた『本業』との兼ね合いもあってか、ここ数日まともに眠れていない。体力なら世界中の誰よりも自信があるが、強靭な金属だって疲労で折れるものだ
おかげで大好きな『メタル・スマッシュ』の試合中継が見られない日々が続いている。推し選手であるドラム・ドクの復帰試合は、アーカイブで楽しむことになりそうだ
551
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 17:07:48 ID:xsbgfEYE0
(´・_・`)「わかりました。頂いた構築は、合宿後半の訓練に活用させて頂きます。他に慣れさせておきたいアビリティがあれば、都度ご連絡ください」
《おう、よろしく頼まぁ。ガキ共の様子はどうよ?》
(´・_・`)「ご想像通りですよ。徳雄は真面目で鍛え甲斐のある奴で、文彦は……まぁ、『素直な』子どもですので」
小練は、徳雄と文彦に嘘を吐いていた。文彦がミセリのサマーフェスの為に一時帰宅したいという旨は聞いていたのだ
当然、本八は一日どころか一分一秒たりとも、文彦を帰す気はなかった。となると、甘やかされて育った一人っ子のクソガキの機嫌を損ねない別の『ご褒美』が必要だった。手間のかかるオタクデブだった
本八はいっぺん女を味わせたらCGの女なんて見向きもせんようになるんちゃうかと、本気でねぐらに送り込むつもりだった。プロは金さえ受け取ればどんな汚いブタ男も満足させるのだ。文彦だろうとギリ許容範囲だろう
当たり前だが、盛岡と小練はこれを断固として却下。文彦は高校生である上、ねぐらは休憩可能ホテルではない。他の利用者もいる中で、『デリバリー』なんて到底許可出来なかった。赤ちゃんを極めた男、権田原組長ならワンチャン呼んでもかまへんかもしれへん
『アンダーマイニング効果』もある。そもそも、文彦はサマーフェスという『特別な体験』を求めている。それを越えるとなると、生半可な代物では却って不満を煽る
ここに来て、ようやくチャリオッツの女神が本八に微笑んだ
二つの僥倖に恵まれた。一つは、小練が皆鳴ミセリと交友関係にあった事。これは厄介オタクデブの文彦に伝えると確実に面倒になる為、徹底して伏せられた。クリスマス数日前に体調不良で配信を休む理由などしつこく訊かれるハメになる
幸いな事に、一番口を滑らせそうな儀杜も、肥えた臭いイキった非モテオタクデブとは極力関わろうとしなかったので、話題にすらならなかった
二つ目は、ミセリが『ある重大な情報』を半年ほど前にうっかりポロリしていた事だ。これにより、本八サイドは莫大な調査費用を節約出来た
それが今日、ミセリサマーフェスで発表される。これを聞いた本八は、文彦のダイエット意欲が加速度的に上昇するのを確信した
その事を今まで報告しなかったのにも理由はある。合宿前に知らせるのと、実際にミセリ本人の口から発表するのでは、本人、いや本豚への突き刺さり具合が全く異なる
よしんば本八の口から直接伝えたとしても、やる気の持続力は長くは保たない。サマーフェスの参加も諦めたりはしないだろう
では、会場で直接知るのが、文彦にとってベストな選択ではないか?これも必ずしもそうとは言い切れない
552
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 17:08:40 ID:xsbgfEYE0
<ブヒィィイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
厨房にまで響き渡る豚の鳴き声。小練は、搬入業者が間違えて豚肉を生きたまま届けたのかなと思った
それ以外だと、ねぐらで豚に該当する生き物は一匹しかいない。豚は興奮を抑えきれないのか、汚い鳴き声を上げながら廊下をドタバタと豚足で走る
<ふ、文彦殿ーーーーーーーーー!!!!!!!まだサマーフェスは終わってませんぞーーーーーーーーーー!!!!!!
<ブヒィッ、ブヒヒィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!
《あいつか?》
(´・_・`)「そのようで」
小練は監視カメラアプリ立ち上げ、廊下の映像を映し出す。案の定、興奮した豚が二郎ラーメンの具みたいな腕を振り回しながら廊下を駆け巡っていた
すれ違った女性利用者は、その余りの見苦しさと喧しさに心底迷惑そうな目を向ける。そんな彼女達に、後を追う木本が申し訳なさそうに頭を下げた
途中、何もない空間にも頭を下げていたが、ねぐらでは日常茶飯事なんで特に異常はなかった
(´・_・`)「プールに向かってますね。狙い通りに奮起してますよ」
《良いねえオタクってのは情熱的で。やる気も出した所だし、更にビシバシ絞ってくれや》
(´・_・`)「承りました」
553
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 17:09:42 ID:xsbgfEYE0
通話が終わると
('A`)「小練さん。文彦が張り切ってんすけど、何かあったんすか?」
徳雄が厨房へと足を踏み入れる。本来、ねぐらの利用客は立ち入り厳禁だが、小練本人が指導をしている『生徒』である故に、多少の粗相は見逃している
小練は、最速でアップされたネットニュースを見つけると、ホログラムウィンドウに映し出す。それを見た徳雄は、「ああ」と納得した
('A`)「『皆鳴ミセリ、今年度ジャパンカップ実況に抜擢。サマーフェス最終日に電撃発表』……なるほど。オッサンの差し金か」
(´・_・`)「いいや、こういうのは昨日今日で決まるもんじゃねえ。前はどうだか知らんが、オメーらのボスは関与してねえよ」
('A`)「運が味方したってワケですか。アレの日頃の行いが良いとはとても思えませんがね」
(´・_・`)「言ったろ?きっかけさえあれば再燃するって」
文彦が会場でこの情報を知ったのなら、興奮と『後悔』を覚えた筈だ
サマーフェス以上の体験。『ジャパンカップという大舞台で推しに認知してもらえる』という特大のチャンス
それを掴む為の合宿の期間を、サマーフェスの為に自ら縮めてしまったという『後悔』は、本人にとって良い影響を与えるとは思えない
反面、ねぐらで報せを聞けば、興奮を原動力にすぐさま鍛錬に移行できる。サマーフェスに行けなかった『落胆』も反動として作用し、文彦はこれまでに無いほどのやる気を漲らせたのだ
('A`)「全部アンタらの掌の上すか。恐れ入りますよ」
(´・_・`)「偶然偶然」
554
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 17:10:18 ID:xsbgfEYE0
通話が終わると
('A`)「小練さん。文彦が張り切ってんすけど、何かあったんすか?」
徳雄が厨房へと足を踏み入れる。本来、ねぐらの利用客は立ち入り厳禁だが、小練本人が指導をしている『生徒』である故に、多少の粗相は見逃している
小練は、最速でアップされたネットニュースを見つけると、ホログラムウィンドウに映し出す。それを見た徳雄は、「ああ」と納得した
('A`)「『皆鳴ミセリ、今年度ジャパンカップ実況に抜擢。サマーフェス最終日に電撃発表』……なるほど。オッサンの差し金か」
(´・_・`)「いいや、こういうのは昨日今日で決まるもんじゃねえ。前はどうだか知らんが、オメーらのボスは関与してねえよ」
('A`)「運が味方したってワケですか。アレの日頃の行いが良いとはとても思えませんがね」
(´・_・`)「言ったろ?きっかけさえあれば再燃するって」
文彦が会場でこの情報を知ったのなら、興奮と『後悔』を覚えた筈だ
サマーフェス以上の体験。『ジャパンカップという大舞台で推しに認知してもらえる』という特大のチャンス
それを掴む為の合宿の期間を、サマーフェスの為に自ら縮めてしまったという『後悔』は、本人にとって良い影響を与えるとは思えない
反面、ねぐらで報せを聞けば、興奮を原動力にすぐさま鍛錬に移行できる。サマーフェスに行けなかった『落胆』も反動として作用し、文彦はこれまでに無いほどのやる気を漲らせたのだ
('A`)「全部アンタらの掌の上すか。恐れ入りますよ」
(´・_・`)「偶然偶然」
555
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 17:11:13 ID:xsbgfEYE0
小練は「さて」とウィンドウ表示を切り替え、徳雄に先程受け取った本八の構築を見せる
(´・_・`)「不服ってツラで入って来たな。喜べ。ここからが地獄の本番だぜルーキー」
('A`)「……お見通しっすか。これは?」
(´・_・`)「お前らのボスから受け取った、チャリオッツ車両の構築データ。明日からこいつを組み込んで訓練してもらう。それと、文彦にも参加させる」
('A`)「けど小練さん。俺はまだ今の条件で一位を獲れていない」
(´・_・`)「一朝一夕で獲れるわけねーだろ。AIでもレジェンド級のプロチーム達だ。今のチャンピオンチームのジョッキーだって苦戦するだろうぜ」
('A`)「あの条件下で勝つのが目標じゃないんすか?」
(´・_・`)「それに越したこたぁねえが、まず最初に『困難』を教えたかった」
「その上で」と前置きし、小練は言葉を続ける
(´・_・`)「『ガンナー』を乗せて走った時、そいつがジョッキーにとってどれだけありがたい存在かを、頭と身体に叩き込め。文彦は性格こそ終わってるが、ガンナーとしては一線級だ。太っているのを除けばな」
('A`)「わかってますよ」
(´・_・`)「いいや、理解が足りてない。だからお前は今まで文彦に『相談』すらしていない。チャリオッツは三位一体となって行うゲームだ。テメーにばかり向き合ってねえで、そろそろ仲間を知るこったな」
('A`)「……」
556
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 17:11:50 ID:xsbgfEYE0
思えば、文彦と出会ってからの数ヶ月、合同でチャリオッツの練習した覚えがない
なんでだろうと振り返ってみると、ほとんどの日数を文彦のダイエットに費やしていたからだった
('A`)「多分それ俺の……」
(´・_・`)「え?」
('A`)「いや……なんでもないっす」
既に過ぎた事なので、徳雄は早々に切り替えた
('A`)「間に合いますかね」
(´・_・`)「不安か?」
('A`)「そりゃあね。全員揃って練習出来んのも三ヶ月ちょいしかねえんだ。焦りもしますよ」
(´・_・`)「そうか。なら、明日にでも確かめてみるか?」
('A`)「確かめる?」
小練はニヤリと笑った。奇しくも、先程向けられた儀杜からの笑みと良く似ていた
(´・_・`)「まさか、ウチにある設備があんなチャチなもんだけたぁ思ってねえだろうな?」
557
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 17:12:35 ID:xsbgfEYE0
―――――
―――
―
翌日
(;'A`)「ええ……」
(´・_・`)「おったまげるだろ?」
ねぐらから十分ほど歩いた場所にある比較的新しい体育館。その中には、四メートルを超す『球体』が収まっていた
言わずもがな、チャリオッツの『業務用筐体』である。室内は排熱を促す為に温度管理もされており、山奥とは思えないほど設備が整っていた
合宿後半から始まる特訓に興味を惹かれ着いて来た木本と高梨も、徳雄と同じくポカンと筐体を見上げていた
⌒*リ;´・-・リ 「これ……幾らします?」
(´・_・`)「え?知らん」
⌒*リ;´・-・リ 「ええー……」
唯一、昨日から人が変わり、やる気に満ち溢れた文彦だけは、落ち着いた様子で筐体に乗り込む。それを見た徳雄も後に続いた
( ^ω^)「……」
('A`)「ゲーセンにあるのと……全く変わんねえな」
( ^ω^)「型はちょっと古いけど、バージョンは最新。オンラインプレイも可能だお」
('A`)「ってこたぁつまり……」
( ^ω^)「この場で『対人戦』が出来るお」
558
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 17:20:49 ID:xsbgfEYE0
『対人戦』。その言葉に、徳雄の心は踊った。彼もまた文彦と同じく、チャリオッツで勝つ快感を味わった者
CPUとの対戦では得られない、『生のプレイヤー』を下した時の優越感。ゲームを趣味とする者ならば、誰もが渇望する瞬間である
('A`)「そいつぁ……」
( ^ω^)「なんかおかしくないかお?」
一人盛り上がる徳雄を他所に、文彦は冷たく言い放った
('A`)「何が?」
( ^ω^)「スポーツ目的の利用者が多い宿泊施設とは言え、『こんなもの』まで常備してる所、他に無いお」
('A`)「そりゃ……」
言われてみれば異質である。業務用筐体を使ってガッツリとチャリオッツが出来るとあれば、『ウリ』として宣伝されて然るべきだ
しかしこの場所は、母屋から見えづらい位置にあるばかりか、看板の一つも立っていなかった。初日に確認した設備案内図にも、筐体がある事など一つも書いていない
つまりここは、『一般の利用客には解放されていない設備』なのだ。文彦は楽観的甘ったれクソオタクデブの分際で一丁前に訝しんだ
( ^ω^)「となると、本来ここは『誰か専用』の設備である可能性があるお」
('A`)「誰かって……」
( ^ω^)「最もあり得るのが、どこかのプロチーム。それも、太いスポンサーが付いてる所だお」
('A`)「その……つまりー……どこかのプロチームの『秘密の特訓場』を使わせて貰ってるってことか?」
( ^ω^)「僕はそう思うお」
559
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 17:22:03 ID:xsbgfEYE0
徳雄は暫し、『ううむ』と腕を組んで唸り
('A`)「別に不都合は無くね?向こうが良いっつってんならありがたく使わせて貰おうや」
特に気にすることはないと結論を出した
(#^ω^)「そういう問題じゃないんだお!!」
(;'A`)そ「うおっ」
文彦にしては珍しいシリアスな雰囲気に、百戦錬磨の鬼も怯む。昨日、小練が言ったようにチャリオッツに関しては文彦に一日の長がある
素人に毛が生えた程度の自分には到底想像の及ばない問題があるのではないか?徳雄は思わず縮こまり、声を顰めた
(;'A`)「じゃ、じゃあ……何がマズいんだ?」
(#^ω^)「決まってるお……」
(#^ω^)「どこの馬の骨ともしらないイキリプレイヤーがしずくちゃんと銀さんをてごm('A`)「小練さーん。早速始めてーんすけどー」
聞くだけ損した
560
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 17:22:56 ID:xsbgfEYE0
準備運動の為に二人は一度降りた後、小練は筐体のオートメンテナンスモードを実行する
古い型は専用のエンジニアを招集しなければならないが、ねぐらにある第四世代からは日々のメンテナンスは自動で行われるようになった
見上げるほどの球体は前後左右とその場で回転する。整備の行き届いていない物は異音が発生しやすいが、よく手入れしてあるのか、静かなものだった
やがて、ピタリと動作を止めると、異常無しを伝える緑のランプが点灯する。それを見た小練はうんと頷いた
(´・_・`)「さて、早速だがオンラインプレイに挑戦してもらう」
( ^ω^)「ランクとルールは?」
(´・_・`)「マスターで4ステージレース」
( ^ω^)「把握したお」
('A`)「木本、解説頼む」
(;@з@)「オンラインプレイのあるゲームは、公平性を保つ為に腕前ごとにランクがあるのでござるよ。マスターは最上位ランクで、言わばアマチュアの頂点と言ったところですかな」
('A`)「そいつぁご機嫌だな」
(´・_・`)「お前らが目指すジャパンカップはプロアマ混合の国内最大グランプリだ。マスターランクのアマチュアからも出場チームは多い」
561
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 17:24:45 ID:xsbgfEYE0
準備運動の為に二人は一度降りた後、小練は筐体のオートメンテナンスモードを実行する
古い型は専用のエンジニアを招集しなければならないが、ねぐらにある第四世代からは日々のメンテナンスは自動で行われるようになった
見上げるほどの球体は前後左右とその場で回転する。整備の行き届いていない物は異音が発生しやすいが、よく手入れしてあるのか、静かなものだった
やがて、ピタリと動作を止めると、異常無しを伝える緑のランプが点灯する。それを見た小練はうんと頷いた
(´・_・`)「さて、早速だがオンラインプレイに挑戦してもらう」
( ^ω^)「ランクとルールは?」
(´・_・`)「マスターで4ステージレース」
( ^ω^)「把握したお」
('A`)「木本、解説頼む」
(;@з@)「オンラインプレイのあるゲームは、公平性を保つ為に腕前ごとにランクがあるのでござるよ。マスターは最上位ランクで、言わばアマチュアの頂点と言ったところですかな」
('A`)「そいつぁご機嫌だな」
(´・_・`)「お前らが目指すジャパンカップはプロアマ混合の国内最大グランプリだ。マスターランクのアマチュアからも出場チームは多い」
562
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 17:26:46 ID:xsbgfEYE0
小練は説明をしながらも、淡々と筐体にプレイ設定を組み込んでいく
(´・_・`)「言わば、今から行うゲームは『試金石』だ。アマチュアトップレベルを難なくクリアして、初めて頂点へのスタートラインに立てる」
言い換えるなら、『これをクリア出来ない程度では、ジャパンカップなど夢にまた夢』ということ
言わずもがな、キャプテン不在の『一枚抜き』である。これは『アビリティ』『アイテム』『トレジャー』の使用不可に加えて、何より重要な『広い視野』の制限を課せられる縛りプレイだ
(´・_・`)「アシストは必要か?」
チャリオッツのオンラインプレイでは、プレイ人数が揃わなくてもゲームが楽しめるようにAIプレイヤーの搭乗も可能である
人間ほど的確な判断を下せるわけではないが、上記のアシストがあるだけでも快適度は天地の差だ。となれば当然
('A`)「いらねえっす」
(´・_・`)「だよなぁ」
頷くはずがなかった
(´・_・`)「文彦はどうだ?」
( ^ω^)「え?とっくんはともかく僕にキャプテンが必要に見えますかお?マスター帯wwwwwwwww如きでwwwwwwwww」
(´・_・`)「よし、でけぇ口に見合った成績を期待するぞ」
( ^ω^)「見といてくださいよwwwwwwwwwなんなら、オーディエンス増やしても構いませんお?しずくちゃんとか銀さんとか」
(´・_・`)「あの二人クソほどお前に興味ねえから来ねえよ」
( ^ω^)「え……?」
⌒*リ;´・-・リ 「言い方!!」
563
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 17:27:10 ID:xsbgfEYE0
( ^ω^)「……」
( ^ω^)「じゃあ、僕の華々しい活躍を見せれば一気に意中のお相手になっちゃうってコト……?」
(´・_・`)「すげーな無敵かオメー」
('A`)「一々相手しないでいいっすから」
564
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 17:29:09 ID:xsbgfEYE0
( ^ω^)「ッシャア!!足引っ張るんじゃねえおとっくん!!」
文彦は数回の屈伸をして、指先をほぐし意気揚々と筐体に乗り込む
数ヶ月前とは心構えが違うからか、その姿が徳雄の目にはやけに軽快に見えた
('A`)「何かアドバイスは?」
(´・_・`)「楽しめ」
('A`)「了解」
徳雄もまた、足取り軽く乗り込むと、筐体の扉がゆっくりと閉まる
残された三人の視線は、プレイ内容を表示するディスプレイへと向けられた
(´・_・`)「うん……じゃあ俺仕事に戻るから」
⌒*リ;´・-・リ そ「え!?見ていかれないのですか?」
(´・_・`)「この後団体の受け入れがあんだわ。それに、見なくても結果は知れてる」
⌒*リ;´・-・リ 「え……それってどういう……」
(´・_・`)「教え甲斐のねえ生徒だってこった。終わったらまた呼んでくれや」
小練は大きな欠伸を一つ吐き出し、ゆったりとした足取りで母屋へと戻っていく
含みのある物言いに、残された二人は不安気に顔を見合わせる。そうとも知らず、モニターの中では勢いよくゲートが開き、球体は激しく回転し始めた―――――
565
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 17:30:09 ID:xsbgfEYE0
―――――
―――
―
⌒*リ;´・-・リ 「……」
(;@з@)「……」
『教え甲斐がない』とはどういう意味か?人によっては幾つかの解釈に分けられるだろう
馬に念仏を聴かせるように、教えても学ぼうとしない不真面目さ。はたまた、1を教えれば10を理解する賢明さ
それとも、逆に先人へ教えを説こうとするような見当違いの図々しさか
(;'A`)「ハァ……ハァ……」
( ^ω^)「とっくん……」
(´・_・`)「な?面白くねえ」
スクリーンに映る準備は、堂々の『1st』
教え甲斐のない生徒が、ズル無し真剣一発勝負で掴んだ、初めての一着であった
⌒*リ;´・-・リ 「いやエグ……って、教え甲斐が無いってのは!?」
(´・_・`)「あー?徳雄は来た時から既に身体は仕上がってたし、文彦もチャリオッツに関しちゃ言うことねーだろ。俺ぁ内心ガッカリしてたんだぜ?いじめ甲斐のねえ連中が来ちまったって」
⌒*リ;´・-・リそ 「高評価故の失望!?」
(´・_・`)「ほらよく言うじゃん?出来ない子ほど可愛いって。だからしずくは可愛い」
⌒*リ;´・-・リ 「それ絶対しずくちゃんの前で言わないでくださいね!?」
566
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 17:31:20 ID:xsbgfEYE0
(´・_・`)「それで……」
高梨から連絡を受けてダラダラと戻ってきた小練の前では、息を切らして正座する徳雄と、それを仁王立ちで見下す文彦の姿
ゲームが終わって間もないのは見て取れるが、今の位置関係は普段の二人を知ってる者からすれば奇妙極まりない
(´・_・`)「早速ダメ出しか?」
小練はこの構図も、ある程度は予想していた
( ^ω^)「あの、さぁ」
(;'A`)「はい…………」
(#^ω^)「もう一回言うけどスタートダッシュから走り過ぎどう考えてもとっくんの脚質はラビット向きじゃないお今までの特訓でその自覚もないのかお?まぁそれはいいお問題はその後だお遠ぉーくの相手にまで過敏に反応してちょこちょこちょこちょこハンドル動かしやがってよ幾ら戦車だからといっても有効射程ってもんがあんだお撃たれたところで当たりゃしねえんだよ小心者のザコがよ!!確かに蛇行運転ってのは回避の基本テクだけど意味ない所でジグザグやっても体力の無駄そう無駄!!そんで遮蔽物を積極的に使うのはいいおでも車体が全然隠れない壁選んでも意味ねえだろブス!!遮蔽ってのは防弾だけじゃなくて車体を隠して見失わせる事にも意味はあるんだおその場にある一番使える壁を即座に見抜くのもジョッキーには必要不可欠なスキルだおわかってんのかアメイジングブス!!それとこれレースルールって理解してるかお?なんかチャンスあったらバカスカ当たりに行ってるけどへばった相手にまで喧嘩売る必要は全っっっっっっっっっっっっっっっっっっっったくこれっっっっっっっっっっっぽっっっっっっっっちもねーーーーーーーーーーーーんだおアレか?蟒蛇の時の成功体験が忘れらんなくて死体蹴りに興じてるんですか?っかーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!顔もブサけりゃ性格も腐ったドブみたいだお臭っっっっっっ!!!!!!!!そういう無駄に積み重ねで体力使って終盤のスパートが伸びなかったんだおとっくんはクソ呑気にやったー初勝利だーとか思ってんだろうけどハナ差の勝利なんて勝った内に入んねーんだおましてやプロ不在の素人に毛が生えた程度のマスター帯で辛勝とか僕のキャリアにクソみたいな戦績が付いてしまったおあのさぁとっくんいや時間をドブに捨てた顔面ドブスくんはさぁ本当にジャパンカップ勝つ気ありますか〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜??????????」
(;'A`)「はい…………」
(;@з@)「文彦氏!!手心!!」
(;´・_・`)「……」
高梨がエグいとドン引きした理由がそこにあった
567
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 17:32:05 ID:xsbgfEYE0
⌒*リ;´・-・リ 「小練さん、早く助けてあげてくださいよ。宇都宮先輩があれだけ萎縮するの相当ですよ。普段は社長に平然と手を上げるような方なんですから」
(;´・_・`)「そ……それはそれで大問題じゃねえの?」
しかし、このほぼ罵倒目的のダメ出しも、小練の狙いであった
(´・_・`)「はいはいそこまで!!振り返りだ!!」
(#^ω^)「あ??????」
(;´・_・`)「殺気立ち過ぎだろ……」
(;@з@)「申し訳ござらん。昨日から文彦氏の情熱はフルスロットルで留まるところを知らぬのでござる」
情熱も結構だが脂肪を燃やして欲しいものである
(´・_・`)「どーれ……」
小練はリプレイデータを五倍速で見返しながら、気になったシーンをキャプチャーしていく
その間、高梨と木本の応援組は落ち込む徳雄を励まし、怒り立つ文彦を宥めたりと八面六臂の大活躍を見せた
(;´・_・`)「……」
なんかこっ酷く負けた後みたいな光景だった
568
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 17:34:20 ID:xsbgfEYE0
(´・_・`)「先ずは初勝利おめでとう。文彦は不満げだが、一枚落ちというデカいハンデを背負ってこの結果は上々だ」
( ^ω^)「……ま、それは評価してやるお。仕方なく」
(;'A`)「アリガトウゴザイマス…………」
⌒*リ;´・-・リ 「声ちっさ!!」
(;@з@)「胸張っていいんでござるよ宇都宮氏!!」
励ましを他所に、小練は「残念ながら」と続ける。徳雄の肩がビクリと跳ねた
(´・_・`)「癪に触るが、文彦の指摘は概ね当て嵌まってる。大雑把に言えば『無駄』が多い。今回はアマチュア戦だったが、プロは一瞬の隙を余裕でぶち抜いてくる連中だ。このままだと、予選は抜けられても本戦は1ステージも突破出来んだろう」
( ^ω^)「ハァーーーーーーーーーー……甘く見てんすよねぇ、チャリオッツを。これだから甘い見積もりでジャパンカップ優勝とか目標立てた素人はさぁ」
⌒*リ;´・-・リ 「……」
高梨は、儀杜らがどうしてあそこまで文彦を毛嫌いするのかを、なんとなく察せた
(´・_・`)「素人ね。本当にそうか?」
( ^ω^)「お……?」
(´・_・`)「身体が仕上がっていたとは言え、チャリオッツを初めて数ヶ月。合宿に到ってはたったの二週間足らずだ。その僅かな期間だけで、徳雄は『マスター帯』で通用するレベルにまで成長している」
(´・_・`)「これは既に、素人から脱していると捉えて良いんじゃないか?」
徳雄の成長にはからくりがあった。合宿中は二枚落ちの状態で、最高クラスのCPUやプロチームのゴーストと渡り合ってきた
そんな過酷な環境下から、マスターランク帯の対人戦へに挑戦。一見、難易度に差は無いように見えるが
最高ランクとは言え、プレイチームは玉石混交である。AIとは言え国内最高峰プロチームと比べれば、文彦の言う通り『素人に毛が生えた程度』と呼んで差し支えない
プロに匹敵するレベルのアマチュアも当然存在するが、それもマスター帯の上澄みであり、おいそれとマッチングするようなものでもない
結果、今回のオンラインプレイは、徳雄にとっては比較的難易度が低いものだったのだ
569
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 17:36:35 ID:xsbgfEYE0
(´・_・`)「時間をドブに捨てたと言ったがな、徳雄の大まかな課題はなんだった?」
( ^ω^)「チャリオッツに慣れる、だお」
(´・_・`)「で、お前から見て今のプレイはどうだった?」
文彦は不満気に唇を尖らせながらも、先ほどより怒気を潜めて答えた
( ^ω^)「チッ……『ダメ出し出来るレベル』にまでは、成長してると認めてやってもいいお……クソが……」
(;'A`)「文彦……」
(#^ω^)「あ???????」
すぐさま元の剣幕に戻り、徳雄は小さく縮こまった
(´・_・`)「そうだ。つまり、チャリオッツの『いろは』はクリアしたと見ていい。ここからは磨き上げる期間だ。その為に文彦、お前の力がいる」
( ^ω^)=3「フゥー、やれやれ。その理由をこの凡骨に教えてやってくださいよ」
クソほど調子に乗ってた。キモ豚もおだてりゃ木に登るとは正にこの事である
(´・_・`)「元プロ選手の観点を活かす。今のダメ出しを食らったら嫌でもわかるだろうが、文彦は改善点の抽出に優れてる。オメーが見る影もなくボロクソにされて何も言い返せないのがその証拠だ」
(;'A`)「その通りっす…………」
もう半泣きだった
570
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 17:37:36 ID:xsbgfEYE0
(´・_・`)「裏を返せば、文彦が文句の一つすら言わなくなれば、ジョッキーとしての腕前は『プロ級』だ。そうだよな?文彦」
( ^ω^)「ま、とっくん、いや、マスター帯程度で手こずる程度のクソザコブサイクにそれを成し遂げられたらの話、で・す・け・ど・ねぇ〜〜〜〜〜〜〜〜っと」
調子と脂が乗り過ぎてクソデブを高く買ってる小練と木本も流石に顔を顰めた
(´・_・`)「それとだな、お前らの大将は文彦を攻撃の要として運用するそうだ。昨日受け取った車両構築を送る。確認しろ」
小練は二人それぞれに本八の『仮組み』データを転送する。それを見た文彦はブヒと鼻を鳴らした
( ^ω^)「『スピンミキサー』かお。クズにしちゃ思い切ったチョイスじゃねーか」
⌒*リ´・-・リ 「ねぇ人のこと見下すのカッコ悪いからやめな?」
(;^ω^)「あっ、すっ、すみません……」
⌒*リ´・-・リ 「謝るの私じゃないよね?」
(;^ω^)「ご、ごめんだおとっくん……」
(;'A`)「い、いいよ……」
大人の女性のマジトーンに、野郎四人の肝がガチガチに冷えたのであった
571
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 17:39:28 ID:xsbgfEYE0
⌒*リ´・-・リ 「失礼しました。続きをどうぞ」
(;´・_・`)「お、おう……み、見ての通り、スピンミキサーは車両を高速回転させるアビリティだ。ぶっちゃけ、ジョッキーにとってメリットはほぼ無い。砲塔の無い固定砲で素早く照準を合わせる為に使用する代物だな」
(;@з@)「となれば、宇都宮氏と大潮氏は、ガンナーである文彦氏と息を合わせる必要が出てきますな」
(´・_・`)「そうだ。6shooterの特性上、ガンナーは独立して砲撃は出来ない。ジョッキーの操縦技術で補う場面もあれば、スピンミキサー込みでエイムを合わせる場面も出てくる」
(;'A`)「するってーと、『チャリオッツ慣れ』を、ガンナーである文彦込みで次の段階へと進めるって事っすね」
(´・_・`)「その通りだ。ところで徳雄、ガンナーを乗せて試合した感想はどうだ?」
('A`)「……」
徳雄はリザルトとリプレイを映すモニターに目をやる。初めての対人戦レースで掴んだ『1st』は、今までのやり方で手に入る物ではなかった
('A`)「……文彦と出会う前、オッサンが言ってたんすよ。『脚』と『オツム』しか揃ってねえ現状じゃ、実戦訓練も儘ならねえって」
(;^ω^)「お……」
('A`)「実際、そん時の戦績は散々だった。でも、さっきの試合は『オツム』が無くても成り立ってた。照準だってまともに合わせてねえのに」
(´・_・`)「そりゃ、どうしてだろうな?」
('A`)「簡単な話だった。主砲は単に攻撃手段ってだけじゃなく、『牽制』の役割も担っている。だからこのレースの最後、俺は先頭を維持してハナ差で勝てた」
銃を突きつけられた時、人は思わず両手を上げて無抵抗になるが、それに『弾が込められていない』と知られれば、脅しの効力を失う
文彦はこの試合、何度か発砲した。命中せずとも、発砲することで相手に『脅威』を認識させられる
破壊されない為に慎重に動くようになり、備えるようになる。言い換えれば、『引け腰』になるということ
妨害の無いレースであるならば、スパートを邪魔される事はない。だがチャリオッツは違う。砲撃という脅威への『警戒』は、大いに脚を引っ張るのだ
('A`)「小練さんの言ってた事、よく理解出来ましたよ」
(´・_・`)「フン、首尾は上々だな」
572
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 17:40:27 ID:xsbgfEYE0
面白く無さげに鼻を鳴らした小練は、場を切り替えるように手を叩いた
(´・_・`)「合宿後半戦は、これまでの練習メニュー+業務用筐体での実戦を行う!!ハードになるが気合い入れろよガキ共!!」
('A`)「臨むところっすよ」
小練の激励に徳雄は勿論
(#^ω^)「やってやるお!!ミセリに認知されてオフコラボする為に!!そしてついでにジャパンカップ優勝の為に!!」
目的が明後日の方向へ大きくズレを起こした文彦も、豚鼻息荒く応えたのであった
573
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 17:44:10 ID:xsbgfEYE0
―――――
―――
―
(´・ω・`)「……」
(´・_ゝ・`)「……」
徳雄が勤務している参羽鴉グループ飲食店『OHANAMI』の休憩室にて、二人の視線はホログラムディスプレイに釘付けだった
それは緊急で行われた記者会見であり、長机には徳雄、文彦とそれぞれ関わり深い人物が着席していた
『この度、ハヤテのチャリオッツジャパンカップ参加にあたり、年内の芸能活動縮小のご報告をさせて頂きます』
スーツに身を包んだ猫山 義古が、決意を漲らせた面持ちで立ち上がり発表すると、記者のどよめきとフラッシュの羽ばたきが辺りに満ちた
猫田は暫く、会場が落ち着くのを待ってから、予めまとめてきた原稿に目を落とす
両隣には、メンバーの高岡波音。そして、徳雄の親友にして『標的』である獏良 良樹の姿があった
(´・ω・`)「奴らもとうとう宣戦布告か。引く手数多の大人気アイドル様が、良くスケジュールを合わせたもんだ」
(´・_ゝ・`)「それが、我々と会う以前から計画的に進められていたようです。ここ半年ほどのライブ活動や俳優業は極端に少ない。あまり時間を食わない収録やミニイベントで回してたみたいです」
(´・ω・`)「勝良祭もその一環か。規模は大きめとはいえ、ローカルな祭だからな。ちょうど良かったのかもしれねえ」
574
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 17:45:43 ID:xsbgfEYE0
『ジャパンカップの目標は?』
『無論、優勝のみです』
若い記者の質問に、猫山は毅然と返答する。画面越しでもわかるくらい、会場の熱気が伝わってくる
今や日本を代表するイケメンアイドルグループの、『最も過酷なeスポーツ』グランプリ参戦
日本中の興味を表すように、ネットニュースの記事数は瞬く間に膨れ上がっていく
『それはつまり、『クワイエット』の三連覇を阻むという事ですが、自信の程は?』
『小心者の僕以外は、勝つ気満々です』
ドッと笑い声が上がった
575
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 17:46:35 ID:xsbgfEYE0
『冗談はさておき、クワイエットの連覇阻止は、今年出場する全てのチームの悲願でしょう。僭越ながら、彼らを代表してクワイエットに宣言致します』
『首を洗って待っていろ、と』
笑いは瞬く間に感嘆へと変わる。最年長リーダーなだけあって、話術の緩急の付け方が絶妙だった
性格、人柄、ルックス共に厄介オタクデブと血が繋がっているとは思えない。アレは一族の負の遺伝子を一身に引き受けて誕生した哀れな醜い豚なんじゃないかと本八は訝しんだ
(´・_ゝ・`)「大きく出ましたね」
(´・ω・`)「上の指示なんじゃねえの?猫山は謙虚な野郎だった。本心じゃ胸を借りるつもりで挑むってとこだろ」
(´・_ゝ・`)「しかし、他二人はそうでもなさそうですね」
『ガンナーの高岡さん。ジャパンカップへの想いをお聞かせ願えますか?』
『えー?オレは正直、二人ほど経験も熱意もあるわけじゃないんだけどさぁ〜』
猫山は渋い顔を、獏良は呆れたように苦笑いを浮かべた
『でもよ、やるからには全力を尽くすぜ!!オレァ負けんのが大っ嫌いだからな!!クワイエットだかクインテットだか知らねえけど、全員ぶっ潰してやらぁ!!』
(´・ω・`)「アツいねぇ。女にモテんのも頷けるぜ」
(´・_ゝ・`)「それに、ガンナーとしての腕も確かのようですね。愛砲は『2hand』。二箇所の同時攻撃が可能の変則主砲です」
(´・ω・`)「上下に重なった二つの砲を、それぞれ別の方向へと向けて発射出来る代物か。あの嬢ちゃん、単純そうに見えて器用なモン使うじゃねーか」
576
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◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 17:49:32 ID:xsbgfEYE0
『ジョッキーの獏良さんに質問です。ズバリ、ジャパンカップ参戦候補の中で最も注目しているチームは?』
『……』
『……あの、獏良さん?』
獏良はすぐには答えず、カメラの向こう側を見透かすようにジッと見つめる
それはまるで、『今、自分を見ているであろう誰か』に向けて挑発をしているかのようであった
『ふふ、ごめんなさい。本番までのお楽しみってことで』
獏良は口元に人差し指を立て、質問した記者にウインクを放つ
『魔性』という言葉が似合うイケメン仕草である。とてもゲロ以下顔面の腐れ暴力ブサイクの親友とは思えなかった
(´^ω^`)「煽るねぇ〜。ブサイクの野郎、これを見たらきっと燃え上がるぜ」
(´・_ゝ・`)「思いがけない燃料投下ですね」
(´・ω・`)「ま、ブスに限った話じゃなさそうだがな」
チャリオッツのプレイ人口が多いとはいえ、ジャパンカップ参戦の報告を大々的にするチームは滅多にいない
時折、ハヤテのような芸能人が番組の一環として発表することもあるが、その殆どが予選の高い壁を越えられずに消えていく
だが、ハヤテには『実績』があった。昨年十月に行われた配信者最強決定戦『ライバーズ・ライバルズ』にて、ジャパンカップ常連のプロチーム『NOOD(ノード)』を下し、優勝を果たしている
その勝利は素人目から見ても偶然の賜物では決して無く、確固たる実力を万人へと示したのだ
勢いづいたハヤテはその後も大小問わずチャリオッツの大会へと参戦し、全て勝利を飾っている。デビュー以来無敗という称号を抱えたまま、ジャパンカップへと挑むのだ
(´・ω・`)「これで、今年のジャパンカップは二つの伝説が鬩ぎ合う形になった」
最強王者、『クワイエット』のジャパンカップ三連覇か
新進気鋭、『ハヤテ』の無敗優勝か
(´^ω^`)「ぶっ壊し甲斐のある舞台じゃねえか!!ガハハ!!」
(´・_ゝ・`)「ええ、そのようで」
この二つの偉業を阻むのも、また『偉業』である
二人は、彼らと同じく挑もうとせん年末の大舞台に、これまでにない大きな嵐を予感した
577
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 17:50:19 ID:xsbgfEYE0
斯くして、ハヤテの参戦発表は
( ,,^Д^)「……」
(-_-)「どうしたの?」
( ,,^Д^)「こいつが……」
日本中に犇めく数多の強豪たちの
_
( ∀ )「おいおい、これって完全に俺のこと言ってやがんな」
胸中に抑え込んでいた野望の炎を
ζ( ー *ζ「お姉ちゃん。図らずも、アイドル頂上決戦になりそうだね」
『大炎』へと昇華させたのであった
( _ゝ )「は?ミセ×トソこそ正義だが?」
( <_ )「トソ×ミセだろ殺すぞカス」
578
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 17:50:43 ID:xsbgfEYE0
だが、残念なことに
(;'A`)「ハァッ、ハァッ!!」
(# ゚ω゚ )「スピンにハンドル持っていかれてんじゃねえお!!回転が止まったらキチッと固定して真っすぐ走るんだお!!ちょっとブレただけで後隙狩られるお!!」
(;'A`)「はい!!スワセン!!」
『ハヤテ』が送った果たし状は、山奥で更に過酷な修練に励む二人には届かなかった
579
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◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 17:53:43 ID:xsbgfEYE0
―――――
―――
―
♪Gonna Fly Now
https://www.youtube.com/watch?v=LOyHMftfbGA
木本と高梨が帰宅し、合宿も残すところ一週間となった。追い込みの時期である
(;'A`)「有効射程!!遮蔽意識!!」
午前中は、それぞれ合宿前半と同じトレーニングメニューをこなす。徳雄は、文彦のアドバイス(ほぼ罵倒)を意識してプロチームのゴーストデータとの対戦である
文彦の無遠慮な改善点の指摘は、徳雄が会得しようとしている『守りの走り』への明確な指針となり、今となっては漠然とした焦りも消え失せた
未だゴール出来た試しは無いが、日に日に到達地点は伸びていく。その度に徳雄は、かつて学生時代に味わった成長の悦びを噛み締めていた
(;^ω^)「フーッ、フーッ!!」
文彦の水中ウォーキングも、上下共に着衣した状態で行われた。五十分のウォーキングを、十五分ずつ休憩を挟んで3セット
始まった当初は毎日のように文句を溢していた文彦も、推しに認知されるという大いなる目標を得たことで、歯を食いしばって励むようになった
(´・_・`)「トラーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーインハーーーーーーーーーーーードナーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーウ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
その間、小練は指導しつつすっごく歌った
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