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Desperado Chariots

178 ◆L6OaR8HKlk:2021/09/12(日) 20:36:51 ID:BqAN.9rU0
(´・_ゝ・`)「一回限り、ですか……」


やはり引っかかるのは、余りに短いプロ期間だ。スポーツ、eスポーツに関わらず、プロへの入団は狭き登竜門
ましてや、チームに所属したばかりなら『これからだ』という意気込みで取り組む筈。それを短期間で脱退するということは


(´・_ゝ・`)「……チームに問題が?」

(,;-Д゚)「そうですね……私からは『恐らくは』としか言えません。あまり素行の良い団体ではありませんので」

(´・ω・`)「蟒蛇って言やぁ……」


『ゴール』ではなく『ラスト・ワン』での勝利を目的とするプロ団体『蟒蛇』
そのこだわりは徹底されており、例え目と鼻の先にゴールがあろうとも、踵を返して背後の敵チームの撃破を優先する
こと『攻撃』に関しては、猫山が率いる『ハヤテ』を遥かに凌ぐ実力を持つアタッカー集団なのだ

ここまで早口で説明した本八を見て徳雄は


('A`)「オタクって知識開示する時は決まって早口になるよな」


と、オタクが閉口するキラーワードを放った


(´・ω・`)「人気と実力を兼ね備え、サポーターやファンの層も厚い。だが、オフェンス主体の気質からか、暴言や煽りが多く炎上沙汰はしょっちゅうだ。最古にして最強のチーム『トップ・ギア』や、猫山のあんちゃん率いる『ハヤテ』が王道ベビーフェイスだとするならば、『蟒蛇』はヒールだな」

('A`)「へぇ。そんじゃあイジメにでも遭ったんじゃねーの?そういうツラしてるぜこいつ」

(´・_ゝ・`)「もう少し言葉を選べよ」

(,,゚Д゚)「いや、伯父から聞いた話では『蠱毒』までそのような素振りは無かった。俺も幾度か連絡を取ったが、毎日が楽しいと言っていたよ。その言葉に偽りはないと思う」

(´・ω・`)「そんじゃあやっぱターニングポイントは『蠱毒』か。試合映像は?」

(,,゚Д゚)「あります。映し出しましょう」

179 ◆L6OaR8HKlk:2021/09/12(日) 20:38:15 ID:BqAN.9rU0
i-ringからホロスクリーンを空中に投影し、件の試合映像が流し出される
チャリオッツの『バトルロワイヤルモード』は、円状のステージで行われ、時間経過毎に縮小していくエリア内で最後の1チームになるまで対戦する
長期戦になりがちなレースモードと比べ、プレイ時間は短く、試合の回転数も早い。野良ゲームとしても人気の高いモードだ


(,,゚Д゚)「大蛇のロゴが付いた戦車が蟒蛇です」


戦車に齧り付き、邪悪にニヤつく大きな蛇。相手を丸飲みにする姿が、『蟒蛇』の名を表している
通常の戦車には存在しない、六連回転式『シリンダー』が搭載された特殊砲を見て本八は感心したように『ほう』と声を上げた


(´・ω・`)「『6shooter』か。渋いもん使ってんな」

('A`)「あのマグナムみてーな砲か?」

(´・ω・`)「ああ。通常砲なら一発撃つ毎に再装填を行う必要があるが、こいつは六発連続でブチ込める。ガンナーの腕次第じゃ西部劇のガンマンさながらの早撃ちも可能だ」

('A`)「めちゃくちゃつえーじゃねーかそんなもん」

(´・ω・`)「勿論、デメリットもデカい。六発撃ち切ったらその分再装填に時間を使うし、射程距離も短い上に威力も命中精度も高くはねえ。近距離なら無類の強さを誇るが、中距離は不安が残り長距離は絶望的。そんな武器だ」

('A`)「ピーキーだなオイ」


《さぁ注目のチーム『蟒蛇』!!バトル・ロワイヤルは正に主戦場でしょう!!新たに加入したガンナー『内藤 文彦』選手の活躍にも期待出来ますね!!》


実況に耳を傾け、一同は閉口して映像を眺める。ステージは廃墟の市街地。蟒蛇の戦車は荒れたアスファルトを駆けながら、指定エリアを目指す
すると、向かって斜め右から砲撃、地面へと着弾する。右車輪が一瞬浮かび、すぐに沈んで車体を揺らした
前輪は右に向き、発砲した敵戦車へと照準を合わせて走り出す。撃った側は再装填の為か、後退しながらビルの陰に車体を潜ませようとした


(´・ω・`)「遅い。射程圏内だ」


しかし、隠れるよりも先に蟒蛇が『6shooter』の射程距離内に相手を収める。威力が低くとも6発という連射力が売りの大砲だ
このまま連続して撃ち込めば、1キルは確実。そう思った矢先、異変は起きた

180 ◆L6OaR8HKlk:2021/09/12(日) 20:39:26 ID:BqAN.9rU0
(´・ω・`)「は?」


『撃たない』。何かを警戒してか、撃鉄が下される気配はない。しかし罠の可能性があるのなら、キャプテンの指示の元、全体へと共有されている筈だ
だがハッチから身体を出すキャプテンは足下のガンナーに困惑と怒りを交えて怒鳴りつけており、ブレーキは踏まれず間合いを縮めている
導き出される結論は、『ガンナーが独断で引き鉄を引かない』。ようやく異変に気づいたジョッキーが、ハンドルを切り射線から逃れようとしたがーーーーー


('A`)「あっ」


相手の再装填が済み、すぐさま発砲。砲弾は車体の『脇腹』へと突き刺さり、呆気なく横転した


《あーーーーーーっと!!まさかの事態だ!!悪名高い『蟒蛇』が開始五分足らずで討ち取られたーーーーーーーーーッ!!!!!!!》


実況の叫び声と共に、参戦リストボードから『蟒蛇』の名前が削除される。試合時間、『4分18秒』。まだ一度目のエリア縮小が始まったばかりの出来事であった

181 ◆L6OaR8HKlk:2021/09/12(日) 20:41:16 ID:BqAN.9rU0
(,,゚Д゚)「……以上です」


スクリーンを閉じ、やや消沈した声色で終了を告げる。いとことしても、あまり気分の良い映像では無いのだろう
ましてや『デビュー戦』。実況の言った通り、多くの期待を寄せられた上での参戦だった筈だ


(´・ω・`)「……上がったか?」


期待は重圧の裏返しだ。緊張で身体が強張り、撃つべきタイミングを逃したのではないか
本八が立てた推測を、猫山は首を振って否定した。代わりに差し出された『謎』の答えは、事態を更に混迷させるものだった


(,,゚Д゚)「『トリガーがロックされていた』そうです」

(´・ω・`)「何……?」


『ロック』。ゲームが開始されるまで、悪戯防止の為にトリガーやペダルは固定されている
実際に始まれば、問題なく動くように設定されているが、稼働初期にはロックされたままという不具合も多々あった
現在も部品の経年劣化や整備不良などで起こる不具合だが、公式の大会で起こった前例は今の所一つも『無かった』


(´・_ゝ・`)「でしたら、運営から必ずアナウンスがされる筈です」

(,,゚Д゚)「……」


本来、大会で不具合などあってはならないものであり、被害を被ったチームは大会運営に対して謝罪とやり直しを求める権利がある
それはどの大会に置いても参加登録書に明記されている項目であり、一大プロ団体である蟒蛇全体が声を上げて抗議を行うべきだ
それが、『誰も声を上げないどころか、運営すら口を閉ざしている』。明らかに『異常』と呼べる事態であった


(,,゚Д゚)「チャリオッツ公式にも大会運営にも問い合わせましたが、答えは決まって『異常無し』でした」

(´・_ゝ・`)「それについて蟒蛇はなんと?」

(,,゚Д゚)「……選手本人の緊張による錯乱であり、それ以上でも以下でもない。内藤選手の大会参加は時期尚早であり、今後の課題としていきたい。と」

182 ◆L6OaR8HKlk:2021/09/12(日) 20:43:23 ID:BqAN.9rU0
(´・_ゝ・`)「それは……」

(,,゚Д゚)「ええ。責任は文彦一人に科せられました。程なくして、蟒蛇を脱退。大きな大会でしたから、メディアにも広く取り上げられてしまいました。それ以降、学校にも行けず、部屋に引きこもっているそうです」

('A`)「仮にもチームメイトだってのに、庇いだてもしねえのか。チャリオッツってのはあったけえスポーツだな」

|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「お待たせしました。お団子セットでございます」

('A`)「店長タイミング」

(´^ω^`)「おお来た来た!!これこれぇ!!世界で一番美味え食いもんよ!!ガハハ!!!!!」


マジ空気読めないタイミングで訪れた団子を頬張った本八は、渋い顔を崩さない猫山へ行儀悪く串先を突きつけた


(´・ω・`)「そのお坊ちゃんがどんな理由で引き鉄を引かなかったのかはこの際どうでもいい。裏で潜んでる陰謀にも興味ねえし、蟒蛇がどれほどのクソ団体かも関係ねえ」

('A`)「このオッサンホンマ……」

(´・ω・`)「黙れ拗らせブサイク。肝心なのは、俺のお眼鏡に適う実力があるかどうかだ。知っての通り、俺は引きこもり専用のカウンセラーじゃねえ。要求する基準をクリアしてなければ、ご親族の問題は引き続きお前らで解決していく事になる」

(,,゚Д゚)「存じ上げております」


突き放すような物言いに、猫山は強い口調で返した。そこには、必ずお気に召すだろうという、強い自信が込められていた


(,,゚Д゚)「贔屓目抜きにしても、文彦の実力は唯一無二と言っても過言ではございません。本来の力をお見せしましょう」

183 ◆L6OaR8HKlk:2021/09/12(日) 20:44:04 ID:BqAN.9rU0
(´・_ゝ・`)「それは……」

(,,゚Д゚)「ええ。責任は文彦一人に科せられました。程なくして、蟒蛇を脱退。大きな大会でしたから、メディアにも広く取り上げられてしまいました。それ以降、学校にも行けず、部屋に引きこもっているそうです」

('A`)「仮にもチームメイトだってのに、庇いだてもしねえのか。チャリオッツってのはあったけえスポーツだな」

|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「お待たせしました。お団子セットでございます」

('A`)「店長タイミング」

(´^ω^`)「おお来た来た!!これこれぇ!!世界で一番美味え食いもんよ!!ガハハ!!!!!」


マジ空気読めないタイミングで訪れた団子を頬張った本八は、渋い顔を崩さない猫山へ行儀悪く串先を突きつけた


(´・ω・`)「そのお坊ちゃんがどんな理由で引き鉄を引かなかったのかはこの際どうでもいい。裏で潜んでる陰謀にも興味ねえし、蟒蛇がどれほどのクソ団体かも関係ねえ」

('A`)「このオッサンホンマ……」

(´・ω・`)「黙れ拗らせブサイク。肝心なのは、俺のお眼鏡に適う実力があるかどうかだ。知っての通り、俺は引きこもり専用のカウンセラーじゃねえ。要求する基準をクリアしてなければ、ご親族の問題は引き続きお前らで解決していく事になる」

(,,゚Д゚)「存じ上げております」


突き放すような物言いに、猫山は強い口調で返した。そこには、必ずお気に召すだろうという、強い自信が込められていた


(,,゚Д゚)「贔屓目抜きにしても、文彦の実力は唯一無二と言っても過言ではございません。本来の力をお見せしましょう」

184 ◆L6OaR8HKlk:2021/09/12(日) 20:44:34 ID:BqAN.9rU0
猫山のi-ringから新たなホログラム映像が映し出される。一本道を真っ直ぐに進むチャリオッツの車体
砲は先ほどと同じく『6shooter』。ただ、ハッチから顔を覗かせているのは猫山本人だった


(,,゚Д゚)「5年前の映像です。文彦は11歳でした」

(´・_ゝ・`)「小学生ですか」


小学生のチャリオッツプレイヤーも数多い。12歳以下の選手が競い合う『金の卵杯』という大会も開催されている
五歳で年齢制限のない大会に出場した歴代最年少のキャプテンもいるほどだ。11歳という歳若さは、チャリオッツを知ってる者にとっては特に珍しくもなかった


(´・ω・`)「……」


やがて、道を挟んで向かい合う、二重丸の的が二つ見えた


(´・ω・`)「ほぉー……」


『6shooter』は固定砲、駆逐戦車と同じく『ヤークトパンツァー』であり、回転する砲塔は無い
射線を変える為には車体ごと旋回させねばならず、車体横にいる敵への即応は難しい
実際の戦場ならば、陣地防御や待ち伏せとして運用されるヤークトパンツァーであるが、これはゲームである『チャリオッツ』


(´^ω^`)「クク……」


『面白えもんが見れそうだ』。本八の期待は、裏切られることなく実現される事となる

185 ◆L6OaR8HKlk:2021/09/12(日) 20:45:07 ID:BqAN.9rU0
的まで十メートル地点。猛烈なスピードで進んでいた車体は、急ブレーキと共に右に旋回。タイヤは滑り、スピンを始める
射線が右側の的へと重なった瞬間、『6shooter』は砲音と共に口から閃光を放つ。瞬きすら憚られる速度で、的の上半分が吹き飛んだ


(;´゚ω゚`)そ「!!」

(,,゚Д゚)「まだです」


声を上げようとした本八を猫山が制する間に、回転を続ける車体は次の獲物を『左的』に定める。続け様に発砲
左の的も後を追い、電子の金属片と化して標的の役目を終える。車体はややぐらつきながらも進路を正面へと修正し、再びスピードを乗せて走り出した
映像の中の若き猫山は、興奮と喜びが入り混じった表情で足下のいとこへと賞賛の言葉をかける。車体の背が遠ざかっていく最中に、再生は終わった


(;´゚ω゚`)「……」


本八は、若干11歳が今しがた魅せた『御業』に身震いを起こす。手から団子の残った串が滑り落ち、ペチャリと蜜を跳ばした
一方、チャリオッツに精通していない徳雄は、「おー」と間抜けな声と共に力ない拍手を贈った


('A`)「すげーな」

(;´゚ω゚`)「バカおめえすげえなんてもんじゃねえぞ……」

('A`)「は?」

(#´゚ω゚`)「何もわからねえのかバカが!!!!!!!ブサイク!!!!!!節穴野郎!!!!!!いいか、今のはな!!!!!!!」

186 ◆L6OaR8HKlk:2021/09/12(日) 20:45:41 ID:BqAN.9rU0






(#´゚ω゚`)「一つの的につき『三点バースト』!!!!!!それも停止せずに的確にぶち抜いてんだよ!!!!!!」





.

187 ◆L6OaR8HKlk:2021/09/12(日) 20:48:15 ID:BqAN.9rU0
(,,゚Д゚)「その通りです」


猫山は映像を巻き戻し、発砲から的の破壊までのシーンをスローで再生する
徳雄の耳には、『一発分』にしか聞こえなかった砲音だったが、砲口からは連続して『三発』の砲弾が放たれている
砲弾は若干のラグこそ生じているものの、一つ残らず的の中心部へと吸い込まれるように衝突。三回分の衝撃に耐え切れず、千切れ飛んだ
左の的も同じく、一発分の砲音で三発を連射。これも寸分違わず的を撃ち抜き、破壊した


(#´゚ω゚`)「射線が的と重なる一瞬でエイム合わせて早撃ちしてんだ!!それも動きながら、視野も限られた車内でよぉ!!嘘だろオイこんな才能を放ったらかしにしてんのかよチャリオッツ界隈は!!」

('A`)「へぇ……」

(#´゚ω゚`)「獏良以外興味ねえのかテメェは!!!!!!!!??????」

('A`)「うん」

(´・_ゝ・`)「因みに、タイムなど計っていますか?」

(,,゚Д゚)「これまでの最高記録が0.1秒以下です。公式には記録されていませんがね」

(#´゚ω゚`)「ボブ・マンデンかよ!!!!!!!」

('A`)「いやもう誰……?」

188 ◆L6OaR8HKlk:2021/09/12(日) 20:53:44 ID:BqAN.9rU0
(#´゚ω゚`)「いいか!!!!!????6shooterは唯一無二のシングルアクション式トリガーシステム!!!!発砲する為には撃鉄を起こす+トリガーを引くの2つのアクションを要する!!!!!」

(#´゚ω゚`)「それを0.1秒未満で行うって事はだ!!!!!!!6shooterのポテンシャルである連射速力を最高値で叩き出してんだよ!!!!!!それもエイムを損なわずだ!!!!!!!」

('A`)「あーもーわーったようっせえな。結論だけ先に出せよ。迎えるのか?迎えねえのか?」

(#´゚ω゚`)「言うまでもあるかブサイク!!!!!!!!!猫山ァ!!!!!!その引きこもりオタクデブの所に案内しろ!!!!!!!!今すぐ!!!!!!ナウ!!!!!!」

(,;゚Д゚)「ちょ……ちょっと待ってください。先に連絡して都合がつくかどうかだけ確認してきます」

(#´゚ω゚`)「金なら幾らでも出す!!!!!!!!!!!!金なら幾らでも出す!!!!!!!!」



<金なら幾らでも出すからーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!



そう、第一話ラストの再現であった

189 ◆L6OaR8HKlk:2021/09/12(日) 20:54:47 ID:BqAN.9rU0
―――――
―――



〜二時間後〜


(#´゚ω゚`)「大阪や!!!!!!!!はよ開けんかいゴルァ!!!!!!!!」ドドンドドンドンドン!!!!!!!!

(,,゚Д゚)「ちょっ……やめてください!!」

(#´゚ω゚`)「やかましいはよ開けんかいゴルァ!!!!!!!!!!」ドンドンドンドン!!!!!!!!!


内藤 文彦の実家へ訪れた本八一行は、チャイムを無視して扉をバンババ叩き恫喝
道中でスカウトからガサ入れへと目的が変換されたんじゃないかと疑るほどの剣幕だった。アホなんで致し方なかった
盛岡が警察への対応策と保釈金の勘定を始めた時、家内から返事が返ってくる


<なんやぁお前ェ!!!!!!!ふざけてんじゃねえぞこの野郎!!!!!!!!


ひょっとしてVReスポーツ物からアウトレイジに変わった?って感じの怒声だった


(#´゚ω゚`)「てめえがふざけてんじゃねえ開けろっつってんだろゴルァ!!!!!!!令状あるんやぞゴルァ!!!!!!!」

<関係あるかぁボゲェ!!!!!!!入れるもんなら入って来いやゴルァ!!!!!!!

(#´゚ω゚`)「うるせえはよ開けろゴルァ!!!!!!!!!!」

<開けるかボゲェ!!!!!!!!!

190 ◆L6OaR8HKlk:2021/09/12(日) 20:55:22 ID:BqAN.9rU0
('A`)「もしかしてどっかの組に属してらっしゃる?」

(,,゚Д゚)「いいや。だが六馬(ろくま)伯父さんは建設業者でな。少々、気性が荒いんだ」

('A`)「少々どころじゃねーっすけど?アレ本業レベルなんすけど」

(,,゚Д゚)「その……何度か権利関係で揉めて反社とバチバチにやり合ったことは……ある……」

('A`)「楽しそうっすね」

(´・_ゝ・`)「飢えてるねー……これじゃ埒が明かない。徳雄くん」

('A`)「うっす。死ねオラ!!!!!!!!」

(;´゚ω゚`)・'.。゜「シチー!!!!!!!!!!!!」


背後から脇腹に突き刺さる鋭いボディフック。本八は静かに膝を着き、横たわった

191 ◆L6OaR8HKlk:2021/09/12(日) 20:55:59 ID:BqAN.9rU0
(´・_ゝ・`)「お騒がせして申し訳ありません。文彦くんの件で参りました盛岡と申します。このクズがひと暴れした後で大変恐縮ではございますが、お話を聞かせて頂けませんでしょうか?」

<ああ、義古の!!これは失礼致しました!!


情緒やべえなと思いつつ、暫く待っていると


(;ФωФ)「お待たせ致しました。内藤 六馬と申します」


浅黒い日焼け肌と、『どけ!!俺はお父ちゃんだぞ!!』とだけプリントされたクソTシャツがパツンパツンになるほどの肉体を持つ中年男性が扉を開けた


(;ФωФ)「どうぞお上がりください」

(´・_ゝ・`)「はい。失礼致します」

('A`)「お邪魔しまsあっなんか踏んだ邪魔だなこれ死ねよクズ」ドゴォ!!!!!!!


<ぐえーーーーーーーー!!!!!!!!


(;ФωФ)そ「い、行き倒れ!?この方も介抱しなければ!!義古!!手伝いなさい!!」

(,;゚Д゚)「あ、ああ……」


凄く良い人だった

192 ◆L6OaR8HKlk:2021/09/12(日) 20:56:42 ID:BqAN.9rU0
( ФωФ)「どうぞ、お寛ぎください。コーヒーで宜しいでしょうか?」

(´・_ゝ・`)「はい。お気遣いありがとうございます」


徳雄は用意された座布団に脚を崩して座り、軽くリビングを見回す
くたびれたソファーには脱ぎっぱなしの衣服が掛けられ、ダイニングキッチンのカウンターにはインスタント食品と酒瓶が並び、目に悪い色合いを生み出している
リビングの窓からは雑草が伸びっぱなしの庭が見え、朽ち果てた犬小屋がポツンと鎮座し、廃屋のようなもの悲しさを演出していた


(´・_ゝ・`)「徳雄くん」

('A`)「おっと、失礼」


行儀の悪い行いを窘められ、徳雄は背筋を正した。やがて、人数分のカップが置かれ、家主も席に着く
コーヒーの香りを鼻にして、ダウンしていた本八もムクリと起き上がった


(;ФωФ)「おお、ご無事のようで何よりです」

(´・ω・`)「ご無事じゃねえよ脇腹クッソ痛えわ。あ、これ我が社のお饅頭です皆さんでどうぞ」

( ФωФ)「これはこれはご丁寧に。頂戴致します」


手土産を渡すと、本八は先ほどまでのマル暴振りとは打って変わり、背筋を伸ばして正座した

193 ◆L6OaR8HKlk:2021/09/12(日) 20:57:26 ID:BqAN.9rU0
(´・ω・`)「参羽鴉グループ代表取締役、大潮 本八です。この度は息子さんを我がチャリオッツチームに引き入れたく参った次第です」

(;ФωФ)「社長さんでありましたか。愚息の為、遠路遥々ご足労頂き感謝申し上げます」

(´・ω・`)「早速、文彦くんご本人と面会したいのですが……彼の部屋は二階ですか?」

(;ФωФ)「はい。ですが、何分頑固で臆病な息子でして、すんなりと出てくれるかどうか……」

(´・ω・`)「結構。此方から参ります。デミー、あれを」

(´・_ゝ・`)「はい。どうぞ、お納めください」


階段へと向かう本八を引き留めようとした内藤を遮るように、盛岡は胸ポケットからクレジットコードが記載されたカードを一枚差し出した
桁にして七桁。札束一つ分の電子通貨を前に、内藤は慌てて掌を向け拒否をした


(;ФωФ)そ「しまってください!!お金など受け取れません!!」

(´・_ゝ・`)「いえ、受け取らざるを得なくなります」

(;ФωФ)「は……?」

(´・_ゝ・`)「リフォーム代金としては心許ないですが、『扉一枚分』ならおつりも出るでしょう」


ここで、内藤は電子マネーを差し出した『意味』を理解した。これは賄賂でも契約の前金でもなく


<大阪や!!!!!!!!!はよ開けんかいゴルァ!!!!!!!!


『息子の部屋の修繕費』であると

194 ◆L6OaR8HKlk:2021/09/12(日) 20:58:22 ID:BqAN.9rU0
(;ФωФ)そ「うおおおおおおおおそういう事かよ!!!!!!!!待て待て待てーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」

(,;゚Д゚)「大潮さん無茶はやめてください!!」


親族がバタバタと二階で暴れん坊ガサ入れ将軍する本八を止めに行くのを余所に、盛岡は落ち着いた様子で熱いコーヒーを啜った


('A`)「アンタら、いつもこんな手段で人集めしてんすか?」

(´・_ゝ・`)「心外だな。僕はフォローをしているだけで、主犯は全部あのクズだよ」

('A`)「共犯の時点で言い逃れ出来ねーっすよ?」


<やめんかいこのボゲェ!!!!!!!!!!!

<やかましいはよ開けんかいゴルァ!!!!!!!!

<二人とも落ち着いてくれ!!文彦が怯える!!!!


(´・_ゝ・`)「確かに強引が過ぎるよね。人は煽るわ暴力も辞さないわ、挙句の果てには金と権力を振りかざして、人の心の柔い所を面白半分に抉り回すわ」

('A`)「人の形をしたクソじゃん……」

(´・_ゝ・`)「それでも、奴はとことん気に入った人材を確実に手に入れてきた。ここにいるマヌケ二人が良い例さ」


コーヒーではなく、記憶の苦みに盛岡は渋い顔を浮かべる。そんな『被害者』の姿を見て、徳雄は呆れたように笑った
まんまとしてやられた側としては、あの奇行も作戦の一つなんだろうなと、妙に腑に落ちている自分もいたからだ


('A`)「心中、お察しします」

(´・_ゝ・`)「いやいや、僕はキミよかまだマシだったよ。家族には絶縁を突き付けられたけどね」

(;'A`)「……」


コーヒーを飲み終えた盛岡は、カップを置くと「よっこらせ」と立ち上がり、騒がしい二階の騒動を収めるためにゆっくりと向かい始めた
「アンタが一番のイカレだわ」。思わず徳雄が呟いてしまった一言に返事こそしなかったが、鼻で笑って肩をすくめて見せた

195 ◆L6OaR8HKlk:2021/09/12(日) 21:00:20 ID:BqAN.9rU0
まぁそれはそれとして


(#´゚ω゚`)「開けんかいゴルァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

(#ФωФ)「扉から離れんかいゴルァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

(,,;Д;)「うおおおおおおおおおおおおお手が付けらんねえええええええええええええ!!!!!!!」


文彦の部屋の前では発狂した野郎三人による地獄絵図が広がっていた。フロア盛り上がってんな


<うっせえお!!!!!!!!!! ※うるさすぎてAdoになった


扉の向こう側から、何かを投げつけた音と共に絶叫が返ってくる。普通ここで一瞬静かになるところだが


(#´゚ω゚`)「何がうるさいじゃゴルァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!開けんかいゴルァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

(#ФωФ)「お前がうるさいんじゃボゲェ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!離れんかいゴルァ!!!!!!!!!!!!」

(,,;Д;)「うおおおおおおおおおおん!!!!!!!!!!!うおおおおおおおおおおおおおおん!!!!!!!!!!」


全然静かにならなかった。そう、ガサ入れはビビった方の負け。大阪府警の迫力はヤクザをも凌ぐのであった


(;´・_ゝ・`)「うわめんどくさ……僕らだけ先に帰る?」

('A`)「アンタの上司だろ早く何とかしろよ」

196 ◆L6OaR8HKlk:2021/09/12(日) 21:01:07 ID:BqAN.9rU0
(,,;Д;)「も゛う゛や゛め゛て゛よ゛ぉ゛ぉ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!!!!!」


反抗期の息子と父親の喧嘩を見てパニックになる母親みたいになるイケメンアイドルの姿。映像は高く売れそうだった


(´・_ゝ・`)「さて、徳雄くん。この場を収めてみるかい?」

(;'A`)「俺ぇ……?まぁ、やるだけやってみるっすけど……」


徳雄は頭を掻きながら、とりあえず猫山をスッと脇に避け


('A`)「ッスゥーーーーーーー……」

(#´゚ω゚`)「大阪や!!!!!!!!!!はよ開けんかいゴルァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

(#ФωФ)「何が大阪や!!!!!!!!!!!はよどかんかいゴルァ!!!!!!!!!!!!!!!」




(#゚A )「ど け」




ご自慢の殺気を放ち


(;´゚ω゚`)そ「ヒンッ」

(;ФωФ)そ「ヒャンッ」


うるせえオッサン共を黙らせた


:(;´・_ゝ・`):「うおお……」


この場で一番カタギから遠い若者がそこにいたのであった

197 ◆L6OaR8HKlk:2021/09/12(日) 21:02:08 ID:BqAN.9rU0




('A`)「……」

(;´・ω・`)「……」

(;ФωФ)「……」




(#゚A )「耳 が 腐 っ て ん の か ?」




(;´゚ω゚`)そ「スッマセ!!!!!!!!!!!!!」※すいません

(;ФωФ)そ「ドキャッス!!!!!!!!!!」※どきます


扉の前からサッと身を引いた二人に変わって、徳雄が前に立つ。拳を軽く握ると、扉を『コン、コン』と叩く


<うっせえうっせえうっせえお!!!!!!!!!!! ※実は中にいるのはAdoなんじゃない?


それはノックというよりも、『扉の材質を確かめている』ように見えた


('A`)「内藤さん。この部屋、鍵掛かってんすよね?電子ロックっすか?」

(;ФωФ)「いや、そんな大したものじゃない。旧式の円筒錠……ボタンを押して施錠するタイプだ。解錠は内ノブを回せばいい」

('A`)「ふぅん……鍵穴は、パテか何かで塞がれてんな」

(;ФωФ)「ま、待ちなさい。先に何をするつもりか言ってくれないか?」

('A`)「え?いや、時間無いんで引きずり出そうと思って」

(;ФωФ)「で、出来れば穏便に済ませて貰えないだろうか?」

('A`)「こちとら元より悠長に構えるつもりはねえんすよ。見ての通り、引きこもりのカウンセラーじゃねえもんで。あ、ちゃんと金は受け取ってくださいね。まぁ、大工さんなら修理もお手のもんでしょうけど」

198 ◆L6OaR8HKlk:2021/09/12(日) 21:02:42 ID:BqAN.9rU0
今度はギチと音が聴こえるほど、握力の限り拳を握りしめる。内藤にとっては頭二つも小さな若者だったが


(;ФωФ)「っ……」


その小さな肉体は、拳を構える様は、建物を破壊する『重機』を思わせる迫力を放っていた


('A`)「一、二ぃの……」


素振りをしながらリズムを作り、そこから―――――


(#'A゚)「シッ!!!!!!!!!!!!!!!!」


息を素早く吐き出す。脚、腰、肩を経由した力が、『破壊力』に昇華して拳から放たれ―――――


<わぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!????????


ドアノブの真横を粉砕した


(;ФωФ)「」


ポカンと呆ける内藤の肩にポンと手を置いた本八は


(´^ω^`)「あれね、俺がスカウトしたんすよwwwwwwwww」


自慢げに親指で自身を指さした

199 ◆L6OaR8HKlk:2021/09/12(日) 21:03:30 ID:BqAN.9rU0
('A`)「この辺かな……?」


扉に出来上がった拳一つ分の穴に腕を突っ込み、内側からドアノブを回して解錠する


(´・_ゝ・`)「手慣れてるね」

('A`)「喧嘩相手をこうして追い詰めたことあるんで。はい、御開帳っと」


なんでこいつ格闘技せずにチャリ乗ってんだろうという疑問はさておき、一行はようやく引きこもりの部屋へと足を踏み入れた
若干の汗の臭いが混じった生温く湿り気のある濁った空気が真っ先に出迎え、肌と鼻に不快感をもたらす
壁一面に貼り付けられた人気バーチャルアイドル『皆鳴(みなみ) ミセリ』のデジタルポスターが、一定の周期で踊ったりウインクしたりを繰り返している
床は足の踏み場が無いほど、インスタント食品やお菓子、清涼飲料のゴミや衣服、雑誌が散乱しているが、皆鳴 ミセリのフィギュアを飾った棚だけは埃一つない
PCデスクに浮かぶホログラムスクリーンには、彼女の配信アーカイブ映像が流れていた。その傍らで―――――


(; ω )「キュウ」


当の本人は驚きの余り、死んだ蛙のようにひっくり返って気を失っていた

200 ◆L6OaR8HKlk:2021/09/12(日) 21:04:35 ID:BqAN.9rU0
('A`)「うわっ、オタクの部屋……アンモニア水あります?」

(;ФωФ)「な、何に使う気だ?」

('A`)「嗅がせたら一発で起きるんで」

(;ФωФ)そ「手慣れ過ぎだろ!!義古!!こいつどこの組から連れて来たんだ!?」

('A`)「カタギですけど?」

(,,;Д;)「知らねえよ……獏良のダチだよ……」

(´・ω・`)「ちょうど持ってたわ」

('A`)「何で持ってんだよ気持ち悪ぃ。まぁいいわ、早く寄越せよクズ」

(#´^ω^`)「死ね!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


顔面に向かって投げつけられたアンモニア水の瓶を片手で難なく受け取ると、ティッシュを数枚引きぬいて少量染み込ませる
それを、覆い打ちのように顔面に掛けて少し待つ。すると


(; ゚ω゚ )そ「オウェッ!!!!!!!!!!!!!!!!くっっっっっせ!!!!!!!!!!!!!!!!!」


アンモニアの激臭で粘膜が刺激され、思いの外力強く目を覚ました ※絶対に真似しないでください


('A`)「おはよう」

(; ゚ω゚ )「ゲッホアッ!!!!????オウェッ!!!!!!!!!!!!」


知らない人が部屋に上がっている事よりも、鼻の痛みの方が深刻であった

201 ◆L6OaR8HKlk:2021/09/12(日) 21:05:24 ID:BqAN.9rU0
―――――
―――



(#^ω^)「うっせえうっせえうっせえお!!!!!!!!!!!!!帰れ!!!!!!!!!親父!!!!!!!!!塩撒けお!!!!!!!!!!!」


そう、これが噂のうるさすぎてAdoになったわである。運転中に踊聴いてたらクラクションの音が入っててビックリした


(;ФωФ)「ふ、文彦……わざわざ出向いてくださったんだから、少しくらい考えても……」

(#^ω^)「だからって部屋のドア壊していいわけじゃないお!!!!!!!!!!!」

ご尤も過ぎてもっともっとタケモットでお馴染みのタケモトピアノになったのであった。電話して頂戴である
文彦を無理やり、もうほぼ凌辱じゃんみたいなやり方でリビングに引きずり出したはいいが、高待遇の契約を提示しても『帰れ』の一点張りであった


(´^ω^`)「いけずせんといてぇや文彦ちゃぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!!!!!!ワイとチャリオッツやろうや〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!」

(#^ω^)「僕はもうチャリオッツなんてやらないんだお!!!!!!!!これからは配信業で食っていくんだお!!!!!!!!」

(´^ω^`)「たまにはすんなり人集めしたいわぁ……」

(´・_ゝ・`)「拒否から入られると厄介ですよねぇ……」

('A`)「だからって拉致までするか?ねぇ、猫山さん」

(,;゚Д゚)「同意はするが人ん家のドア殴り壊したキミが言えた義理じゃないぞ」


内藤(父)は思った。『こりゃ早いとこ帰した方が身のためだわ』と

202 ◆L6OaR8HKlk:2021/09/12(日) 21:07:56 ID:BqAN.9rU0
(,;゚Д-)「コホン……まぁ、少々不安になるのも分かるが、彼らは『ジャパンカップ』の制覇を目標に掲げるチームだ」

(#^ω^)「それとドアの破壊に何の関係があるんだお!!」

(,;゚Д゚)「それはやり過ぎだと思うが……」

('A`)「ごめ」

(,;゚Д゚)「とにかく、お前をこのまま腐らせて置くわけにはいかない。ここはいとこの顔を立てると思って、まずは『仮契約』という形からでも力を貸してやってはくれないか?」

(#^ω^)「……チッ」


落ち着きなく貧乏ゆすりをしながら、参羽鴉のメンバーを見定めるように睨め付ける。一方本八は貧乏ゆすりと共に揺れる顎の贅肉を見て笑った


(#^ω^)「……誰が出るんだお」

(´^ω^`)「俺がキャプテンの大潮 本八様だお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!だおだお!!!!!!!!!!!!!」


盛岡の肘が鼻っ面に突き刺さり、本八は静かになった


('A`)「俺がジョッキーの宇都宮 徳雄だ。チャリオッツの経験はねえが、元チャリ乗りだった」

(#^ω^)「ふぅん……それで、残り七か月強で、ジャパンカップ制覇?」

(´メ)ω(メ`)「できらぁ!!!!!!!!!!」


またうるさなった

203 ◆L6OaR8HKlk:2021/09/12(日) 21:09:35 ID:BqAN.9rU0
(#^ω^)「チャリオッツを無礼んじゃねえお!!!!!!!!!!!!!!」


テーブルに拳が振り下ろされ、カップが一斉に驚き跳ねる。ここは普通シンと静まり返る所だが


(#´゚ω゚`)「無礼てねえわバカ野郎俺の二分の一も生きていねえクソガキの分際でわかったようなクチ利いてんじゃねえぞゴルァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


本八はノータイムで怒号を返し、文彦のよれよれトレーナーの胸倉を掴もうと手を伸ばす。流石に手は不味いと、徳雄は手首を掴み止め


('A`)「静かにして」

(#´゚ω゚`)そ「ターボ!!!!!!!!!!!!!???????????」


そのまま肩の関節を極めてテーブルに組み伏せた。この間、僅か二秒である


('A`)「坊主」

(;^ω^)そ「な、なんだお!!やんのかお!?」

('A`)「いや、やんねえけど……だってお前弱そうだし……そりゃ、殴り甲斐はありそうだけど、面白くはねえだろうから……」

(´・_ゝ・`)「どういう判断基準で生きてんだお前」

(;ФωФ)「もう帰ってくれねえかなぁ……」

('A`)「さっき言った通り、俺ぁチャリオッツに関しちゃからきしでね。ジャパンカップってのも、どう凄ぇのかいまいちわかってねえ。このオッサンも喚き散らすばかりでその辺の説明はしてくれねえからな」

(´・ω・`)「だって勝てばいいだけじゃん痛たたたた折れるっつーかもう折れてない?すっごい痛いわこれ」


猫山は深く後悔した。「人選ミスったわ」と

204 ◆L6OaR8HKlk:2021/09/12(日) 21:11:16 ID:BqAN.9rU0
('A`)「だからその口で、教えちゃくんねえか?ジャパンカップとやらがどれだけ高ぇ壁なのかってのを」

(; ω )「……」


思わぬ形で訪れた静寂。文彦は、しばし下唇を噛み締め、下ろした拳をゆっくりと引いた


(; ω )「……十一月、二回に分けて行われる予選。プロアマ問わず、参加するチームは三万を超えるお。その中から、わずか十八チームだけが、年末の本選に出場出来るお」

(; ω )「確立にして0.0006%以下って言えば、これがどれだけ絶望的な数字かよくわかるお?この狭すぎる出場権も、ほぼ有名チームが掻っ攫っていくお」

(; ω )「文字通り『三万が一』、出場が叶ったとしても、対戦相手は『連続出場』が当然の強豪と、それすらも容赦なく飲み込む敵対NPCだお」


「お前大晦日って言ったけど本番は一か月前から始まるじゃねーか先に言えそういうのは」の意味を込め、徳雄は肩の関節をキツめに締め上げた。ブチ折れる一歩手前である


(; ω )「口では何とでも言える。けど、現実は有言実行を叶えてくれるほど甘くはない。僕は『負け戦』に付き合うなんて御免だお」


『チャリオッツ』を知っているからこそ、僅かな時でもプロプレイヤーであったからこそ、その厳しさは身に染みて理解している
そして、プロとしての道が閉ざされた今となっては、万人が『無謀』とあざけ嗤う行為に挑戦するほどの熱意は無い
改めてお引き取り願おうと顔を上げた文彦は、その『無謀』に挑もうとする者達の表情を見てしまった


('A`)「へぇ……」


一方は、別に大したこと無さそうに


(´^ω^`)「クク……」


もう一方は、『だからこそ面白い』とでも言いたげに

205 ◆L6OaR8HKlk:2021/09/12(日) 21:12:09 ID:BqAN.9rU0
(;^ω^)「なっ……話、聞いてたかお!?」

('A`)「どうせ一位しか狙ってねえから確率とか参加人数の話されてもピンとこねえ」

(´^ω^`)「ハハァ!!その通り!!おいそろそろ放せよお行儀良くするから」


『新入社員』の拘束から解放された『社長』は、肩を解すようにグルンと回す。これまでジャパンカップの詳細を徳雄に伝えなかったのは、『こうなる』ことが見えていたからだ
どれだけ狭き門か、どれだけ過酷かを説こうとも、彼に見えているのは『獏良 良樹に勝つ』の一点のみ。その他である29998のチームなど元から眼中に無いのだから


(´・ω・`)「おめえの言い分も理解できるぜデブガキ。だがよ、29999の軍勢を1チームで相手するわけじゃねえ。多少のチーミングはあるだろうが、『周りは全部敵』なのはプロもアマも変わんねえだろうが」


ここで大げさに、「ああ!!違う違う」と頭を振り、本八本来のペースを整えていく


(´・ω・`)「有名な分、虎視眈々と下剋上を狙う連中からのマークだってキツくならぁな。アマが本選に出場できる最大の狙い目が、『ノーマーク』って所だ」

(´^ω^`)「おめえ、体感したくはねえか?即席の無名チームが、日本最高峰の大会で優勝する瞬間を。どんな極上の女を抱くよりも、遥かにぶっ飛ぶ快感を得られるぜ?」

(;^ω^)「ッ……い、いや……それでも」

(´^ω^`)「おお、おお!!わーってるわーってる!!それでも狭き門なのに変わりはねえ!!だからこそ、究極の『質』を揃える必要がある!!」


徳雄の背中をバンと強く叩く。反射的に顔面へ肘を入れようとしたが、盛岡のアイコンタクトによって寸前で思いとどまった ※後でやる


(´^ω^`)「ここにいるブサイクはな!!『ハヤテ』の獏良 良樹が宣戦布告した最大のライバルだ!!その素質は誰よりも『超新星』の一人が認め、そして恐れている!!こいつは『鬼』だってな!!」

(´^ω^`)「だが舞台は『自転戦車』!!!!!未経験のぺーぺーには荷が重い戦場だ!!!!!脚が速いだけじゃ勝ち残れないのは百も承知!!!!!」


背中を叩いた手を高々と掲げ、振り下ろし、宙で止める。テーブル越しに差し出された手に、文彦は困惑した表情を浮かべた


(´^ω^`)「脚を使う『鬼』に、頭使う『司令塔』!!残りは邪魔者を蹴散らす『金棒』だけだ!!内藤 文彦よ!!!!!お前の腕に惚れた!!」

206 ◆L6OaR8HKlk:2021/09/12(日) 21:14:21 ID:BqAN.9rU0




(´^ω^`)「俺と、俺達とチャリオッツをや――――――




最高のタイミングで放たれた口説き文句は




(# ω )「……ッ!!」




差し出した手を力強く叩きはらう音と痛みに遮られた

207 ◆L6OaR8HKlk:2021/09/12(日) 21:15:03 ID:BqAN.9rU0
(# ω )「……帰ってくれお」

(,;゚Д゚)「文彦……」

(# ω )「帰れッ!!!!!!!!!!!」


とりあえず徳雄は激昂したクズが暴力振るわないように暴力を振るう心構えをしといた


(´・ω・`)「……」

(´・_ゝ・`)「……そうですね。今日の所は、お暇致しましょう」


徳雄の心配を余所に、本八は珍しく極めて冷静に、盛岡へ目配せをして撤収の指示を伝える
盛岡を皮切りにそそくさと立ち上がると、本八は内藤に向かって一礼した


(´・ω・`)「お騒がせして大変申し訳ございませんでした。また後日、改めてお伺い致します」

(;ФωФ)「え……また来るの……?」


もう勘弁して欲しかった


('A`)「……」

(; ω )「……」


文彦は下を向き、苛つきと不安で親指の爪を噛み始めた。惨めな姿を一瞥した徳雄は、いつも通りの冷めた表情だったが


('A`)「……」


無意識の内に眉間に皺が寄っているのに気づき、指で揉み解しながら玄関へと向かう
他人の家特有の落ち着かない匂いから抜け出し、外の空気を胸一杯に吸って気持ちをリセットさせた
『あれが、俺が駄々を捏ねていた姿だったか』。得も言われぬ気色の悪さと気恥ずかしさは、多少解消された気がした

208 ◆L6OaR8HKlk:2021/09/12(日) 21:17:25 ID:BqAN.9rU0
(´・ω・`)「どうした大将?あの僕ちゃんの姿が少し前のお前と被って見えたか?」

('A`)「アンタはホントによぉ……」


クズはクズなんで他人の痛いところをほじくり回すのが大好きだった


(,;゚Д゚)「待ってくれ!!」

(#´゚ω゚`)「待つーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」

(,;゚Д゚)そ「待っ……待つのか!!一々騒がないと意思疎通出来ないのか!?」

(´・_ゝ・`)「ああ、猫山さん。力になれず申し訳ありません」

(,;゚Д゚)「いえ、全然諦めてないのは目に見えてわかるので謝る必要は……それより、これからどうするつもりですか?」

(´・ω・`)「ああ、続けるよ。何なら拉致も視野に入れてる」

(,;゚Д゚)そ「入れんな!!!!!!とんでもねえなアンタ!!!!!!!」

(´^ω^`)「ガハハ!!!!!!冗談冗談マイケル・B・ジョーダン!!!!!!!」


そう、クリード 〜チャンプを継ぐ男〜であった


(´・ω・`)「心配しねえでもあいつはチャリオッツの未練を捨て切れてねえよ。手荒な真似しねえでもいずれ落ちる」

(,;゚Д゚)「どうしてそう言い切れる?」

(´・ω・`)「あいつが『チャリオッツプレイヤー』だったからだ」

209 ◆L6OaR8HKlk:2021/09/12(日) 21:19:17 ID:BqAN.9rU0
要領を得ない答えに、猫山は首を傾げる。本八は近くに停めている車へと向かいながら、指で拳銃の形を作った


(´・ω・`)「『ガンナー』ってのはな、チャリオッツで一番気持ちの良いポジションだ。トリガーを引いて相手をキルする瞬間ってのは、誰しも脳汁が出る『成功体験』。抜け出そうと思って簡単に抜け出せるもんじゃねえよ」


古くから数多くのゲーマーが、寝食すら疎かにしてオンラインゲームにのめり込むのは単に『快感』を手にする為であり
『ビデオゲーム』という文化が誕生してから『依存症』という社会現象にまで発展するほど、その依存性は極めて高い


(´・ω・`)「生粋のガンナーなら尚更だ。それも、6shooterなんてトリッキーなモン使ってたなら、こだわりも矜持も人一倍あった筈。それを証明する物も部屋に残ってた」


今度はi-ringから、先ほど踏み入れた文彦の汚い部屋の画像を浮かび上がらせる
「隠し撮りしたのか!?」という猫山の苦言を、指を立てて黙らせた。そのまま、PCデスクに乗っている『ある物』を指差した


(,;゚Д゚)「あ……」

(´・ω・`)「未練がないのなら、『連想させるもの』を手近に置いとかねえよなぁ?」


西部開拓時代に活躍した名銃。『平和を作るもの』の通称を持つ、回転式拳銃
『コルト・シングル・アクション・アーミー』のモデルガンが横たわっていた


(,;゚Д゚)「気づかなかった……」

(´・ω・`)「オメーもキャプテンなら周囲に気を配るこったな。ま、大船に乗ったつもりでドンと構えとけよ。いとこの社会復帰は俺らが成し遂げてやっからよ」


パーキングに到着し、後部座席に乗り込む。猫山とはここでお別れだった


(,;゚Д゚)「船底に穴が開いていないことを祈るよ」

(´^ω^`)「馬鹿言うんじゃねえ俺ァバトルシップ・ヤマトよ!!!!!!!!!」


真っ二つになって沈んだ戦艦である。猫山の不安は余計に増したのであった

210 ◆L6OaR8HKlk:2021/09/12(日) 21:21:32 ID:BqAN.9rU0
(´^ω^`)「じゃあな!!紹介ありがとよ!!デブガキによろしく伝えとけーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」


走り去る車を見送った猫山は、しばしその場で立ち尽くす。今日一日の出来事は、間違いなくいとこに変化をもたらしたが


(,;゚Д゚)「判断誤ったかもしれないな……」


それが『良い方向』に働くとは到底思えず、反って悪化させてしまったのではと自責の念に駆られてしまう
しかし本八には、一髪即発の状況から『宇都宮 徳雄』の獲得に到った実績と、僅かな判断材料から文彦の心境を読み取った洞察力が備わっている
『彼にはこの盤上をひっくり返せる術があるのだろう』。猫山は一先ず、都合よく自分を納得させることにした


(,;゚Д゚)「もう少し行儀が良ければ、これほど心配にはならないってのに……」


肩にずっしりと圧し掛かる疲れを感じながら、猫山は内藤宅への帰路に就く
ここまでの行程と比べて歩みが遅いのは、叔父への上手い言い訳を考える時間が欲しかったからだ


(,;゚Д゚)「あー、クソ……」


結論から言うと、この後メチャクチャ文句を言われたのであった

211 ◆L6OaR8HKlk:2021/09/12(日) 21:23:38 ID:BqAN.9rU0
―――――
―――



(´・ω・`)「女でも用意するか……」

(;'A`)「ええ……」

(´・ω・`)「親子共々、性の悦びに浸らせたら一発で落ちるだろ」

(;'A`)「嫌すぎる……」

(´・_ゝ・`)「社長、倫理的に問題になる方法は後々禍根を生み出します。あまり褒められた策ではないですね」


帰りの車内では、どう考えてもダメそうな作戦会議が繰り広げられていた


(´・_ゝ・`)「アンダーマイニング効果を御存じないワケじゃないでしょう?目先の報酬で釣るより、自らやる気になってくれた方が熱意も長続きします」

('A`)「なんすかそれ?」

(´・_ゝ・`)「心理効果さ。物でやる気を引き出しても、いざそれが無くなれば、同じくやる気も失せる」

('A`)「あー、テストで百点取って親からゲームソフト買って貰っても、その次のテストで何も無ければ勉強する気失くすやつっすか」

(´・_ゝ・`)「そう。だから自発的にやる気を出して貰う方がいいんだ。幸いにも、文彦くんには取っ掛かりがある。そこを攻めれば加入してくれるんだろうけど……」

(´・ω・`)「めんどくせえなぁ……」

212 ◆L6OaR8HKlk:2021/09/12(日) 21:24:29 ID:BqAN.9rU0
文彦がチャリオッツから身を引く一因となった『蟒蛇』。この辺りの調査を進めた上で、加入への糸口を掴まねばならない
問題は、蟒蛇側がそれを望み、協力してくれるかどうかだ。徳雄の場合は、獏良が再戦を望んだからこそ、スムーズな契約へと移れたが
猫山からの話と、文彦の拒絶を見る限り、円満な脱退とは言い難い。協力を申し出ても、話が余計に拗れる可能性が高い


(´・ω・`)「蟒蛇の本部に殴りこんでもまともに取り合ってくれるか疑問だし、内情を知る関係者を探して聞き出すのも手間だな……」

(´・_ゝ・`)「徳雄くんの時のようにはいかないでしょうね。稲荷先生ほどチョロ……快い協力者もそういないですし」

(;'A`)「あの場に校長先生がいたのはそういう……あの狐ジジイがよ……っつーか、アンタら一々回りくどいんだよ」


二人は『おや?』と、助手席に座る小男に目を向ける。視線が集中した徳雄は、やや戸惑いながらも言葉を続けた


(;'A`)「本人の事情は本人に訊けばいいじゃねえか。どうせあいつは自宅から一歩も動かねえ引きこもりだろ?根負けするまで通いつめれば、いずれ口を割るんじゃねえのか?」

(´・ω・`)「……」

(´・_ゝ・`)「……」

(;'A`)「な、なんで黙る?」


長い間、相手の退路を断ってから本番に挑むのを得意としていた彼らにとって、徳雄の提言は目から鱗だった
頑固な相手を篭絡させる為に粘り強く通いつめる。交渉術の基本だが、それ故に根気を求められる長期戦となる
これまで最大の武器を用意して、短期間で目標を仕留めてきた。しかしここに来て、徳雄の鶴の一声で、二人は初心に返った


(´・ω・`)「『急がば回れ』か」

(´・_ゝ・`)「悪くない」

(;'A`)「は?え?」

213 ◆L6OaR8HKlk:2021/09/12(日) 21:25:34 ID:BqAN.9rU0
(´・ω・`)「よし、この件お前に預けた」

(;'A`)「は?マジ?自分で言ってなんだが、アレのいとこである猫山さんだってその辺の事情聞き出せてないんだぜ?」

(´・_ゝ・`)「だからだよ。彼は甘いし、その上親族だ。何かと言い難いことだってあるさ」


思いもよらぬ無茶振りに、徳雄は額を拳で叩いて唸る。つまり二人は、『強引な手段を用いてでも、文彦に取り入って来い』と求めている
元より人付き合いが得意ではない彼にとっては、部屋のドアを殴り壊すよりも難しい注文だった


(;'A`)「出来っかな……」

(´・_ゝ・`)「歳が近い分、僕らより成功率は高い。どうせチームメイトになる子だ。親睦を深めるついでだと思ってさ」

(´・ω・`)「遊ぶ為の時間と金は幾らでも用意してやる。接待の練習も兼ねて挑戦してこい」

(;'A`)「マジかよ……オタクって何して遊ぶんだ?」

(´・ω・`)「そらお前……なぁ?」

(´・_ゝ・`)「エッチな漫画買いに行ったり……とか?」

(´・ω・`)「コンカフェで高ぇオムライス食ってメイドと写真撮ったり……?」

(´・_ゝ・`)「缶バッヂジャラジャラ付けた服着て街を闊歩したり……?」

(´・ω・`)「臭ぇカードゲームショップでカードゲームに興じたり……?」

(;'A`)「偏見入ってねえか?」


偏見なのである

214 ◆L6OaR8HKlk:2021/09/12(日) 21:26:51 ID:BqAN.9rU0
(´・ω・`)「別に方法は指定しないから好きにやれ。お前の土俵に引きずり込む方が楽だってんならそっちでも良い」

(;'A`)「俺の土俵か……」


しばし自分を省みて、土俵とは何かを探し始める。正直なところ、徳雄は多趣味な人間では無かった
幼少期から中学までは、容姿や身長をバカにする者を暴力で黙らせ続けてきた
高校に入ってからは、親友兼ライバルの出会いによってスポーツに打ち込んだ
社会人になってからは、自身を律するために理不尽に身を置き続けた


(;'A`)「う〜ん……」


どれもピンとは来ない。『今からそいつを殴りに行こうか』なんて誘いに乗るなんて思えないし
かと言って『スポーツで気持ち良く汗を流す』タイプには到底見えない。文彦の身体にでっぷりと乗った脂肪がその証明だ
『パワハラ社会見学』なんて以ての外だ。そもそも、徳雄自身好き好んで耐え忍んでいたワケではない。もしも今、榊原から同じ仕打ちを受ければすぐさま半殺しにするだろう


(´・_ゝ・`)「『好き』の共有は仲良くなる為の第一歩だよ徳雄くん。何か無いかい?漫画でも音楽でも」

(;'A`)「いやぁ、とんと見つかんねえっすね。その手の類のもんは手ぇ出さねえっすし」

(;´・_ゝ・`)「修行僧かいキミは……何して暇潰してたんだ?」

(;'A`)「そりゃあ、もっぱら喧嘩……」


ここでハッと気づく。変えたくても変えられなかった、産まれながらの『喧嘩屋気質』
相手とバチバチに睨み合い、拳に物を言わせて屈服させた瞬間のドス黒い快感と自己陶酔
あの感覚は恐らく、先ほど本八が猫山へと説いた『ガンナーが得られる成功体験』と同じものでは無いだろうかと
その矛先が憎い相手なら、気持ちの良さも一入だ。復讐は何も生まぬと知った顔で言う者もいるが、それは違う


『胸がすくような爽快感』は、間違いなく得られるのだから

215 ◆L6OaR8HKlk:2021/09/12(日) 21:27:56 ID:BqAN.9rU0
(;'∀`)「ハハ……やれそうだぜ」


文彦を土俵へと引きずり込むプランが、着々と構築される。立ち会う側も面白い、最高の『果たし状』になる予感が、徳雄の口から笑いを溢した


(´^ω^`)「おいデミー、こいつぁ……」

(´・_ゝ・`)「ええ、良い悪党になれそうですね」


タダでさえ顔面と肉体と性格がヤベーのに、更にオツムの方までヤベー方向に加速させちまったオッサン二人は、表面上では大物を装ったが
内心は『死人出さねえだろうなこいつ』と、莫大な不安を抱える羽目になったのであった

216 ◆L6OaR8HKlk:2021/09/12(日) 22:00:43 ID:BqAN.9rU0
次回予告


(´・ω・`)「金と時間を与えたのは良いが、悠長に構えてられるほど時間ねえんだよな。あのブサイクちゃんとやれっかな?」

(´・_ゝ・`)「我々も手助けしたので、今のところは順調のようですよ。なんでも、外に連れ出すことには成功したんだとか」

(´^ω^`)「おっ!!やるねぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!ブサイクとデブの非モテ同士、気が合うんじゃねえかぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜??????」

(´・_ゝ・`)「最底辺のクズに比べれば相当まともですけどね」

(´^ω^`)「殺すぞハゲ。って、今から蟒蛇のメンバーと接触するだぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜??????」

(´・_ゝ・`)「おや、思い切りましたね」

(;´^ω^`)「こうしちゃいられねえ!!!!!!今すぐポリに手ぇ回せ!!!!!!最悪の場合死人が出るぞ!!!!!!!!」

(´・_ゝ・`)「流石に殺人まで見逃すほどこの国の警察は腐っちゃいねーよ。それに、徳雄くんは他人の喧嘩に介入するような男じゃありません」

(´・ω・`)「っつーことは?」

(´・_ゝ・`)「文彦くんを、『土俵』に上げる為でしょう。見に行きませんか?腰抜けが『男』になる瞬間を」

(´^ω^`)「そいつぁ最高のショーじゃあねえか!!こうしちゃいられねえぜ!!」

(´・_ゝ・`)「次回、『Desperado Chariots』第五話。『撃鉄を起こせ!!』」

(´^ω^`)「他人の喧嘩を安全圏から見るのは楽しいからなぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!」

(´・_ゝ・`)「そういう所がクズだっつってんだよクズ」

217名無しさん:2021/09/12(日) 22:13:52 ID:5/g3MsPA0
激重の中投下乙
支援したら邪魔かと思ってリロードしまくりながら追ってた
仲間になる瞬間が楽しみ

218名無しさん:2021/09/12(日) 22:25:11 ID:7nm2WVt60
乙 相変わらずの激アツ展開続きが楽しみすぎるぜ

219 ◆L6OaR8HKlk:2021/09/12(日) 22:31:33 ID:BqAN.9rU0
終わりです。お疲れさまでした

今回登場した6shooterという砲なんですが、Coyote Kissesの『Six Shooter』という曲が元ネタとなってます。かっこいいですね。デブの分際で

220名無しさん:2021/09/21(火) 22:05:18 ID:3e.Af0Vg0
乙!激アツすぎてたまらん…徳雄がどう陥落させるか楽しみすぎる

221名無しさん:2022/02/05(土) 15:51:30 ID:9UtTu2CI0
面白い。待ってるぜ

222 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 19:25:04 ID:.SPGic020
このままだと絶対スプラテーンやるので今日五話を投下します
でもみんなスプラテーンやってるから読まれないんじゃないか???????じゃあいいか投下しなくて

223名無しさん:2022/09/09(金) 19:55:06 ID:6Bc9X3Ic0
しろ

224名無しさん:2022/09/09(金) 19:55:38 ID:YTQPeMls0
俺はスプラトゥーンやってないから最新話読みたいな!!

225名無しさん:2022/09/09(金) 20:24:20 ID:.zfB1B3w0
ずっと待ってたぞ!!

226 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:04:25 ID:Y6pO/fks0
下心が無いと言えば嘘になる。人気者になりたかった。女性にモテたかった。決して褒められた動機じゃないが、非難される謂れも無い
だが、根底にあったのはやっぱり憧れだった。『蟒蛇』。バトル・ロワイヤルルールでは敵なしとも言われる戦闘のプロ集団
相手を容赦なく追い詰め、破壊し、『ラスト・ワン』のみの勝利を目的とする美学もまた、男心に突き刺さった


「キミの腕に惚れた!!」


唯一誇れる射撃の腕は、プロテストの審査員を務めたトレーナーに大きく買われた。憧れの団体で、プロとして華々しい活躍が出来る筈だった




誰よりも頼れる『相棒』と一緒に―――――




.

227 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:05:20 ID:Y6pO/fks0




第五話


『撃鉄を起こせ!!』




.

228 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:06:43 ID:Y6pO/fks0
(;‐ω‐)「……」


<文彦くーん、あーそーぼー


内藤 文彦は世間で言う所の『引きこもり』である。だからと言って日々を怠惰に過ごしているワケではない。学生という身分ではあるが、22世紀現在では登校は義務化されていない
リモートで授業に参加し、オンラインテストでは小言を言われない程度の成績を収め、卒業に問題ない単位は十分に取得している
昨晩も遅くまで、お気に入りのバーチャル・アイドルの歌ってみたを聴きながら課題を消化していたのだ。つまりは、寝不足だ


(;‐ω‐)「……」


<文彦くーん、あーそーぼー


にもかかわらず、修理されたばかりのドアの向こう側では、『ドアを壊した奴』の声が聴こえる。あれ?まだ悪夢見てんのかな?文彦は毛布で頭まですっぽり覆って、早く目覚めるように念じた
しかし寝ても覚めても……いやもう覚めてんだけど、ドアを壊したブサイクの声は消えることがない。嘘じゃん……親父がまた招き入れたって……コト!?ワァ……ワ……



(;‐ω‐)「……」


<いち、にぃの……


(#^ω^)「やめるお!!!!!!!!!!どんだけ家壊したら気が済むんだお!!!!!!!!!!!!」


耐え切れず部屋から飛び出すと、紙袋を手に腕を組み、廊下の壁際にもたれ掛かって待ち構えていたヤバい男が


('∀`)「なんだよ。やっぱいるじゃねえか」


長い付き合いの友人でも訪ねたかのように、気さくに笑いかけたのであった

229 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:11:20 ID:Y6pO/fks0
(#^ω^)「親父なら仕事でいねえ筈だお!!どうやって入ったんだお!!」

('A`)「そらぁお前、玄関からでしょうよ」


そう言ってi-ringから見せびらかしたのは内藤家のセキュリティ・コードが記されたホログラム。一昔前の言い方をするなら、所謂『合鍵』であった
文彦がアメリカかぶれだったら思わず『ジーザス……』と呟いてしまうところであった


(;^ω^)「ジーザス……」


アメリカかぶれだった。だからそんなポンポン膨らんでるし顎もダルンダルンなの??????形から肥満大国に入るタイプ??????資本主義が生んだ豚じゃん


(#^ω^)「い、いや!!親父なんて関係ねえお!!僕はチャリオッツを辞めたし、復帰するつもりもねえお!!帰れお!!じゃないと……」

('A`)「『じゃないと』、なんだ?」

(;^ω^)「っ……」


文彦は言葉に詰まった。目の前の男がドアを拳で突き破った危険人物でなくとも、家宅に侵入した不審者に抵抗出来る者は少ない
それも、一歩踏み出せば手すら届く範囲内だ。i-ringの緊急通報機能を使うよりも先に危害を与えるなど造作もないだろう
力づくで追い出すなんて以ての外だ。紙袋の中身が何なのか知る由もないが、例え文彦が武器を持っていたとしても徳雄には敵わない
チェスや将棋でいう『詰み(チェック・メイト)』にはまってしまった。文彦の膝(爆発はしない)は恐怖でゲラゲラと笑いだした


文彦の膝「ダーーーーーーーーーーーーーーーーーッハッハッハッハ!!!!!!!!こいつぁ傑作だァ!!!!!!!!!!!!」


何が傑作なのだろうか?ブサイクの顔?正直言って徳雄の顔はそう神様が左手で描いたみたいってこと!?


('A`)「そう緊張すんなよ。取って食いやしねえって。コレステロール値高そうだし」


そんな彼を余所に、不審者は結構な無茶を要求する。誰だって自分以外誰もいない自宅で


『君は、普通の人間にはない特別な能力を持っているそうだね?ひとつ……それをわたしにみせてくれるとうれしいのだが』


と言って髪から肉の芽を飛ばしてくる変態に話しかけられたらアヴドゥルさんだってウオオオ言うて窓からグワガシャアッって飛び出して迷路のようなスークで追走から逃れようとするのだから

230 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:13:20 ID:Y6pO/fks0
(;^ω^)「……帰る気はねえのかお?」

('A`)「残念ながらな。いや、そうでもねえか?ほれ」


そう言って差し出した紙袋を受け取った文彦は、恐る恐る中身を確かめた
女性の左手とか入ってたらどうしよう。お尻拭いてもらって幸せな気持ちになるしかないのかな?だいぶ冷静さを欠いていたが、土産の内容を理解すると


(;^ω゚ )「な……これ……?」


驚きと共に、脳の奥から幸福になれる汁がジワリと漏れ出した


('A`)「社長が持ってけってうるさくてな。なんでも、我が社とタイアップした限定商品らしいぜ。知らんけど」


三十センチ大のボックスに描かれているのは『推し』の顔。ポリスチレン製のショー・ウィンドウの中では、和装姿の女性キャラが抹茶と団子を乗せた盆を持ってウインクを放っている
大人気ヴァーチャル・アイドル『皆鳴 ミセリ』と、参羽鴉グループの経営する高級茶房『天華』とのコラボレーションフィギュアであった


(;^ω゚ )「な……え……は……?」

('A`)「それ十万くらいするらしいぜ?」

(; ゚ω゚ )「ええええええええええええええええええええええ!!!!!!!????????」

231 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:14:01 ID:Y6pO/fks0
マリィのSRが二枚と半分買える値段である(2022年の相場)。それもオタクにぶっ刺さる限定商品。加えて、販売前である
ミセリの情報は欠かさず追っていたデブオタクすら知らなかった、寝耳に水どころかスピリタス流し込まれたかのような手土産だ
文彦自身を狙い撃ちした賄賂だ。袖の下だ。黄金色の饅頭だ。どう考えたって甘い罠でしかない。頭の中では警鐘が鳴り響く
十万なんてするような品物、受け取れるはずがない。受け取ったら最後、骨の髄までしゃぶられるのは目に見えている。目の前のブサイクを従えるボスは、それくらいやりかねないのではないか?
返すべきだ。そもそも、推しのグッズ購入はファンの義務であって、それでミセリたゃが美味しいご飯食べてくれるのが一番の幸せで、商品が届けば僕も幸せになれる。Win-Winでなければならない
タダで推しを迎え入れるなんて彼女への冒涜で、志同じくするミンミン民(皆鳴ミセリのファンの総称)への裏切りに他ならない。返せ、返せ、返せ!!


( ^ω^)「あ……ありがとござぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっす!!!!!!!!!!」


身体と欲望は正直だった。だって向こうが勝手に押し付けてきたんだし?据え膳食わねば武士の恥とも言うし?僕は仕方なく受け取っただけで別に裏切りとかじゃないし?
ツラツラと自分自身への言い訳を並べているが、結局は欲に負けたクズデブだった。それでもいいじゃない。人間はみんなクズだもの。この世に天使はミセリたゃしかいない。ミセリしか勝たん


( ^ω^)「お茶でも……飲んでいってくださーーーーーーーーーーーーーーーい!!!!!!!!!!!!」

(;'A`)「お、おう……」


徳雄はオタクの変わり身の早さに圧倒されながら、作戦の第一段階をクリアした事に小さく安堵のため息を漏らした
それと同時に、信念も意志もクソ弱いこのオタクデブを仲間に引き入れていいものかと、靄のような不安も湧いて出るのだった

232 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:17:28 ID:Y6pO/fks0
―――――
―――



自主的なやる気の奮起を促す為に、まずは文彦と親密になる必要がある。人付き合いが得意ではない徳雄は、不本意ながら頼れる年長者に案を求めた
数日もせず返ってきたのは、インテリアとして飾るには少々憚られる、やけに露出の多い和装に身を包む美少女フィギュアだった


('A`)(金のねえオタクの学生は、餌を前にしたら意志が弱くなる……オッサン共の言った通りだな)

( ^ω^)「粗茶ですお」

('A`)「ああ……どうも」


にしても、この様変わりようには少々どころか多大な気持ち悪さを禁じ得ない
一応、予習として『皆鳴 ミセリ』の動画アーカイブをある程度漁ってみたが、癪に障る媚びた声色で当たり障りのない雑談を垂れ流したり
ホラーゲーム配信では、鼓膜が劈くほど喚き散らしてロクに前へ進まない、フラストレーションの溜まる映像が二時間弱ほど続いてるだけで、特に深く突き刺さっていくようなコンテンツにはとても思えなかった
それでも、動画サイトのチャンネル登録者数や再生数は日本有数で、数多くのメディアミックス展開を繰り広げている人気ヴァーチャル・アイドルの一角ではあるらしい
結局、徳雄が若干の睡眠時間を犠牲にして得られた情報は、『オタクのツボはわからん』という事だけであった


('A`)「あの……ミセリだっけ?」


だが会話のきっかけにとして使える。茶を啜って準備を整えた徳雄はおずおずと切り出した


( ^ω^)「はい!!セミ系ヴァーチャルアイドルの皆鳴ミセリたゃですお!!!!!!」

('A`)「セミ系……?」


徳雄は知らなかった。オタクに推しの話をさせるという行為の恐ろしさを
そして思い知った。オタクという人種が持つ熱意と知識、聞き手側への一切の配慮が無い怒涛の会話量を

233 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:18:08 ID:Y6pO/fks0



( ^ω^)「孵化後のセミの寿命は七日!!だけどうっかり七百年生きちゃったセミが人の姿を成したのがミセリたゃですお!!彼女はセミ特有の声量を活かしてアイドルとして活動してますお!!だけどただ五月蠅いってだけじゃなくて面白さも兼ねてるのがミセリたゃの魅力で大体のミンミン民ならまずレトロゲームの金字塔バイオハザードシリーズの絶叫実況を勧めるんですが僕のオススメは何と言っても野生のセミとの合唱ASMR!!真夏の公園で配信した伝説の回なんですがマジでセミの声が五月蠅くてミセリたゃの声が何一つ聞こえないんですお!!これで炎天下の中ヨ時間配信してたんですお!!伝説ですおねあれは!!おっと、ええ、言いたいことはわかりますお!!上級者過ぎてついていけないって顔してますおね?そうですね入門ならまず歌ってみたを触ってみたらどうでしょうかお?21世紀のJ-POP中心にカバーソングを精力的に配信してるので古いアニソン好きなら確実にぶっ刺さりますお!!セミっていうイメージから音痴だと思われがちですがとんでもない!!鼓膜から胸にすっ……と通り抜けるような透き通る歌声に心が震える事間違いなしですお!!僕が好きなのはやっぱり21世紀の陰キャ共を夢中にさせた美少女RPGの主題歌『Lost Princess』!!これをトソンちゃんと歌ったデュエット動画は二千万再生を叩き出し……あ、トソンちゃんっていうのは暴走ドライバー系ヴァーチャルアイドルで、週に二回は交通事故を起こしていることから交通ルール注意喚起動画や勉強動画を主に配信してる配信者で、仲良しのミセリたゃとは少なくても月に一回はコラボ動画を出しているんですお!!『百合営業きっしょ』とかほざくカスは死ねお!!コラボ動画のオススメは勿論まだあって、チャリオッツ大会の同時視聴動画なんかも人気ですお!!コラボ動画はやっぱりオフの酒飲み配信がてぇてぇの極みでして酔ってぽわぽわになったミセリたゃがトソンちゃんに甘えるのを聞いてるだけで『ああ壁になりてぇ……』ってなるんすお!!わかりますかお!!もう辛抱堪らんって感じじゃないですかお!?」




ここまで聞いて徳雄はこう返した


(;'A`)「お、おう」

234 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:19:16 ID:Y6pO/fks0
( ^ω^)「わかって……くれますかお?」

(;'A`)「あ、ああ……」


カルト宗教の勧誘が下手くそな人ってこんな感じなんだろうなってのはわかった(上手い奴は外堀から埋める)。もし文彦がその手の野郎なら鼻と指の骨を折った後、口にちょうどいいサイズの石か折った鉛筆を入れて顎を下から殴り上げて終わりだが、彼との関係構築はここがスタートラインだ
『好きの共有は仲良くなる為の第一歩』。盛岡のアドバイスに従い、徳雄は皆鳴ミセリという活路から己の土俵に引き摺り込む算段を企てた
誤算だったのは、徳雄が想定していた『共有』が、遥かに規模の大きな情報量だったという事。この言葉には『共感』と『肯定』の意味も含まれている
情報を飲み込んだ上で理解し、『わかる?』と問われたのならば『わかる』と返さねばならない。これはオタクに限らず、どのような人種との会話でも必須の基本的なテクニックだ


(;'A`)「か、可愛い……よな……うん」


しかしこれまでの人生の中でオタクと関わった事も、ましてやアニメや漫画、ゲームすらほとんど触れてこなかった徳雄にとっては未知の領域だった
なので、癇癪持ちでどこに地雷が埋まっているかわからない文彦を相手に、探り探りかつ慎重に親睦を深めていかねばならない
ぎこちなく言葉を返しながら、もっと勉強しておけば良かったと後悔をした。だが、内心一杯一杯な徳雄とは裏腹に


( ^ω^)「ですおね〜!!やっぱキャラデザから神ってるっていうか……あ、キャラデザを担当したママはあの有名絵師で……」


文彦はまたもや徳雄の返事の数十倍の文章量を早口に乗せてイキイキと語り始めた。前回の薄暗い陰はなく、年相応に明るく気持ち悪いオタクデブと言った様相であった


(;'A`)「ようよう待てよ待てよ。そんないっぺんに来られても理解できねえって」

(;^ω^)「お……す、すみませんお。ミセリたゃのことになるとつい熱くなっちゃって……」

(;'A`)「いや、謝る必要はねーんだがよ……」


気持ち悪いが、同時に少し羨ましくもあった。『自分が胸張ってのめり込めるものなんて無いからな』と
喧嘩は楽しい。だが、暴力など褒められる行為じゃない。自転車だって、一度は降りた身だ
そもそも、『あいつ』が関わってなければ、あいつが別の競技をやっていれば、ペダル漕いで山登りなんてしなかった
趣味と呼べる趣味なんて、今まで作ったことがなかった。正直、あまり興味も無いし唆られる要素も無いが


(;'A`)「もう一回、ゆっくり教えてくれよ。どの動画から見るのがいいんだ?」

( ^ω^)「おっ!!そうですねまずはやっぱり」※クソオタク早口

(;'A`)「ゆっくり頼む」


これを機に、新しい世界に踏み込むのもいいかもしれないと思うのであった

235 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:24:54 ID:Y6pO/fks0
―――――
―――



(ヽ'A`)「ソロソロカエルネ……」

(;^ω^)そ「えー!!ここからがいいところなんですお!!」

(ヽ'A`)「アシタオシゴトダカラ……」


凄まじいミセリの供給量を長時間詰め込まれたブサイクは、帰るタイミングをようやく掴めた
なんか聞いてる内に興味とか湧いてくるかなって思っていたが、ゼロに何を掛けてもゼロなのである。何が新しい世界だぶち殺すぞカス


( ^ω^)「あ……そう言えば、ご用件があったんじゃないんですかお……?」


流石にこのまま帰すのは気が引けたのか、おずおずと用件を聞いてきたが、今の徳雄は本題に入る気力すら尽きていた


(ヽ'A`)「マタコンドネ……」

( ^ω^)「あ、はい……」

(ヽ'A`)「ジャマタ……」

( ^ω^)「はい、また……」


這う這うの体で内藤宅を後にした徳雄は、頭の中でキンキンと鳴り響くヴァーチャル・アイドルの声に悩まされながら、i-ringから連絡を入れた
暫く歩き、待ち合わせ場所であるコンビニに到着すると、さっきまで散々画面の中で騒ぎまくってたセミ畜生が描かれたノボリが立てられていた


:(ヽ'A`):「ァ……ウワァ……」


何の変哲もないただのタイアップキャンペーンだったが、情報を詰め込まれすぎて幻覚と勘違いした徳雄はその場で腰を抜かした
道行く人やコンビニの利用者が『なんやこいつ顔キッショ』と訝し気な目で見て来たが、手を差し伸べようとする者は一人もいなかった。世間はブサイクに厳しいだけでなく、ヤク中みたいな挙動を取る奴に近づこうとはしないのである

236 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:25:43 ID:Y6pO/fks0
(;´・_ゝ・`)「徳雄くん!?どうしたんだい!?」

:(ヽ'A`):「キンニクタカラサン……」

(;´・_ゝ・`)「え?なんて?」


それから十分ほど経過し、迎えに上がった盛岡が駆け寄るまで徳雄はノボリの前で動けずにいた
『これがあの悪鬼の姿か?』と、たった一日でここまで憔悴したブサイクの姿に、盛岡は戦慄を覚えた。内藤 文彦は徳雄以上に、厄介な相手であると


(;´・_ゝ・`)「とにかく、ここは目立つ。さぁ、車に乗って」

:(ヽ'A`):「ハァイ……」

(;´・_ゝ・`)「声ちっさ」


徳雄に肩を貸して後部座席へと座らせた盛岡は、本八へ連絡を入れようかほんの一瞬だけ迷ったが


『(´^ω^`)「え!!!!!!!!???????ブサイク死にかけてんの!!!!!!!!????????見てえ!!!!!!!!!連れて来いよ!!!!!!!!!!!」』


と返ってくるのが目に見えていたので、今日はこのまま自宅へと帰す事にした


(ヽ'A`)「好きの共有って難しいんすね……」

(;´・_ゝ・`)「僕だって想定外だよ。まさかキミがここまで追い込まるなんてね」

(ヽ'A`)「止まんねえんすよ……ずっと喋ってるんすよ……どの動画が良いとかライブのコールがどうのこうのとか……」

(;´・_ゝ・`)「耐えられそうかい?」


忍耐力の限界もあるが、何より『時間』という制約がある。大晦日まで半年と少ししか残っていない
文彦を含む三人がそれなりの力量を持っていたとしても、それを一纏めにする為の訓練は必要不可欠なのだ。猶予は多いに越したことは無い
徳雄が『出来ない』と判断を下したのならば、早急に次の手を打たねばならない。意固地になってズルズルと引き延ばされるより、スパッと切り替えた方が良い

237 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:28:00 ID:Y6pO/fks0
(ヽ'A`)「人間、そう簡単に潰れやしませんよ……」

(´・_ゝ・`)「その考えは身を滅ぼすよ」

(ヽ'A`)「テメーのことはテメーが一番よくわかってんでね……それに、たった一日でアンタらに泣きつくのも癪じゃないっすか……」

(´・_ゝ・`)「逞しいね。だけど、目的を忘れちゃいけない。あのクズだって、そりゃ多少は煽るだろうけど、非難はしないさ」

(ヽ'A`)「それが我慢ならねえっつってんすよ……」


『良くないな』と、盛岡は危惧した。頑固な人間が破滅するパターンに似通っている
確かに徳雄の言う通り、たった一日で見限るのも考えものだ。しかしこうも言い換えられる。『もう一日経った』のだと
彼に任せたのは本八と自身とは言え、この有様を目の当たりにしてしまうと多少の不安も湧いて出てしまう。しかしバックミラー越しに


(ヽ'A`)「余計な心配も手出しもしないでくださいよ……元より、こちとらトコトンまで追い込まないとマジになれねえタチでね……」

(´・_ゝ・`)「……」


悪い癖だ。全て自分で何とかしようとして、他人を信じることが出来ない。能力にそれほど差がない本八との決定的な違いが『そこ』なのだ
文彦獲得の為に必要なのは、心配ではない。上部が責任を持った上で部下に託す『経営者視点』だ
進捗状況や成果を受け取り、その都度アドバイスやバックアップを行う。焦らず、長い目で見て、攻略の手助けをせねばならない


(´・_ゝ・`)「わかった。本当に限界なら早めに言ってくれ。クズが気に食わないなら半殺しにしても構わない」

(ヽ'A`)「言われんでもそうしますよ……ところでデミさん」

(´・_ゝ・`)「なんだい?」

(ヽ'A`)「近い内に、ミセリなんちゃらのイベントなんかありますかね?」

238 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:29:17 ID:Y6pO/fks0
(´・_ゝ・`)「……」


攻略の糸口として皆鳴ミセリの情報を予め調べた限り、直近でイベントを行うといったスケジュールは見当たらなかったが、こう言う時こそ彼らが持つ最大の武器が活かされる


(´・_ゝ・`)「ねじ込もう。いつがいい?」


今も昔も、世の中は『金』で動いているのだから


(ヽ'A`)「その辺も含めて今から打ち合わせがしたいんで、本社の方に寄ってもらっていいっすか……?」

(´・_ゝ・`)「大丈夫かい?」

(ヽ'A`)「あのクソ野郎が気に食わねえ態度取ろうもんなら、話が出来る程度に痛めつけるまでですよ……」


『話は終わりだ』と手を振った徳雄は、そのままシートにもたれ掛かって目を閉じた
盛岡は交差点で大きくUターンを行い、本社へ向けて車を走らせる。頭の中では既に、予算の算盤勘定と獲得に到る最短スケジュールを組み立てていた

239 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:30:26 ID:Y6pO/fks0
―――――
―――



( ^ω^)「やったわこれ……」


十万するフィギュアを前に、文彦は頭を抱えていた。いやこんなもんあからさまな餌に決まってんだろバカ!!ぽっちゃり系!!うっかりアメリカかぶれ!!
幾ら自分を罵倒しようとも、覆水盆に返らず。受け取ったことを口実にチャリオッツへの復帰を迫ってくるに違いない
早急に返そう。そしてもう二度と関わるなとキッパリ突っぱねよう。あの界隈に、もう自分の居場所は無いのだから


( ^ω^)「……」

( ^ω^)「めっちゃ出来ええわ……」


返却するまで記憶と網膜に焼き付くまで眺めるくらいは良いじゃないか。だって押し付けられたんだもの


('A`)「文彦くーん」ガチャ

(;^ω^)そ「うおおおおおおおおおおおおお!!!!!???????」


ノックも無しに突然訪れた望まぬ客に、文彦は椅子から転げ落ちた。デブのデカい尻に日々虐げられている可哀想な椅子からだ。前世でどんな業を犯したらこんな酷い目に遭わねばならぬのだろう


(;^ω^)「い、いいいいい……インターホンくらい鳴らすお!!アンタいつも唐突すぎるんだお!!」

('A`)「今日はウチの会社とのコラボで店頭に飾る皆鳴ミセリの等身大パネル(非売品)を持ってきたんだけど」

( ^ω^)「ここを自分ちだと思って寛いでいってくださーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!!!!!!!!!!!」


即堕ちだった。人は推しを前にすると自制心が狂うのである。キング・オブ・ポップことマイケル・ジャクソンのライブで興奮の余り失神するファンと一緒だった
ウキウキとお茶を淹れに行った文彦に、徳雄は「よくもまぁここまで他人に気を許すものだ」と、ブサイクで呆れた表情を浮かべた

240 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:31:00 ID:Y6pO/fks0
その後は、前と同じパターン


( ^ω^)「ベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラ!!!!!!!!!!!!!!」


妖怪人間の名前を連呼しているのではない。皆鳴ミセリの推しポイントを描写するのが面倒なので省略しているだけだ。早く人間並みの一般体重に戻れたら良いのになデブ


(ヽ'A`)「わかるー」


言ってる内容の十分の一も理解出来ず、共感も出来ないまま、徳雄はその日もただ憔悴させられただけだった
ブサイクな顔面が幸いして、顔に出た疲労感は、まだ年若い文彦には読み取れなかった


( ^ω^)ノシ「いつでも遊びにきてくださーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!!!!!!!!!!!」

(ヽ'A`)「ウン……」


豪華な土産と推し語りにすっかり気を良くした文彦は、徳雄が訪れた理由を尋ねることも忘れ、その日はにこやかに見送ったのだが


( ^ω^)「バカタレ…………」


後になって着々と懐柔され始めている事に気づき、深く後悔するのだった

241 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:37:08 ID:Y6pO/fks0
しかし人間、労なく甘い蜜にありつけた時、怪しいと思えど簡単に手放すことは出来ない。世に蔓延る詐欺という犯罪がどれだけ長い年月をかけても撲滅できないのがその証明と言える
その根底には、嘘によって築き上げられた虚偽の信頼感と、『自分だけは大丈夫』といった、根拠のない自信が存在するからだ。悪意で食ってる犯罪者に言わしてみれば、そう言った人種を総じて『カモ』と呼ぶ


( ^ω^)「……」


内藤文彦も多分に漏れず、ミセリ依存に苛まれ、欲望に支配され始めたカモであり、チャリオッツ復帰を迫られ続けている苛立ちと危機感を


_人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人_
> ( ^ω^) 貰えるもん貰ってから断ればいいや!!!!!!!!! < ドッコイショオオオオオオオオオオ!!!!!!!!
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄


楽観で塗り潰す、典型的な詐欺被害者の道を辿っているのであった

242 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:38:10 ID:Y6pO/fks0
そんなカス野郎に対して、本八陣営は大々的な一手を即座に打った。それが―――――


『皆鳴ミセリ×天華コラボ記念 ゲリラライブ』である


発表から三日後の週末に開催し、チケットは『完全先着順』という余りに性急かつ無謀な内容。案の定販売サイトは鯖落ちし、炎上するかに思えた
だが、主催があの参羽鴉グループ。そう、一族代々頭可笑しいドクズで有名な大潮家である。民衆は揃ってこう思った


「まぁクズやしな……」と


そしてヴァーチャルタレントという文化が誕生してから、歴代のレジェンドが起こした奇行、奇イベントの数々。それは皆鳴ミセリとその運営も例に漏れず。鍛え上げられたミンミン民は揃ってこう思った


「まぁミセリやしな……」と


こうして、世が世なら普通に大炎上するであろうイベントは、特に波風立たずに無事開催に到った。うーん平和平和!!!!!!!!!現実の人間もこれくらい寛容だったらいいのにな


当然、一ミンミン民である文彦にもその一報は即座に届いた。ほぼ反射的にチケットサイトを開き、脂ぎった図体からは想像も出来ないほど俊敏に支払いフォームへ各情報を入力し
購入確定のアイコンを爪の付いてるソーセージでタップしようとした時になってようやく我に返った。このイベントが、何の為に行われるのかに気づいたのだ


(;^ω^)「……」


他でもない、『自分』の為だけに開かれるライブであろうことに
それを自覚した瞬間、文彦は初めて『血の気が引く』という感覚を体験した。テーブルを濡らすほどの脂もとい冷や汗が流れ出るのも、この時が初めてだった
全身凶器顔面便器のチビブサイクが高価なフィギュアを持ってきた時に気付くべきだったのだ。彼らは、自分を手に入れる為には『ここまでやる』だけの権力と財力、そして狂気を持ち得ているのだと


(;^ω^)「に……」


『逃げなくては』。ブルブルと震える豚よりも肥えた豚足もとい脚を何とか踏ん張り、デスクチェアを体重という拷問から解放させたその時

243 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:38:56 ID:Y6pO/fks0



<文彦くーん



(; ゚ω゚ )「」



悪魔が呼ぶ声が、文彦のハツもとい心臓を鋭く穿った


ドアだ|A`)「今日はさぁ、とっても良いもの持ってきたんだけど……」


(; ゚ω゚ )「お……おお……」


ドアだ|'A`)「お気に召して貰えるかなぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜……」


文彦はほんの数秒間、中腰のままであったが、ソトモモもとい尻を再び可哀想な椅子へと崩れるように落とした。腰を抜かしたのではなく単純に膝が少しの負荷にすら耐えられなかったからだった
徳雄が持ってきた『良いもの』の内容など、聞かずとも察せられた。そして、自分はそれに抗うことなど出来ないことも


:(; ゚ω゚ ):「は……はわわ……」


('A`)「……」


('A`;)「ん、なん?なんか憑いてたりする?」


文彦が余りにも戦々恐々とするので、徳雄は思わず背後を振り返った

244 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:40:25 ID:Y6pO/fks0



 バッタリサン
 
川д川('A`;)




(゚A`;)そ「おわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!????????オバケだーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」


川;д川そ「おわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!????????ブサイクだーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」


(;^ω^)そ「おわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!????????お母ちゃんだーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」




お母ちゃんだった

245 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:41:55 ID:Y6pO/fks0
―――――
―――



(´・ω・`)「よう、どうだった?」


事務仕事を片付けに職場へと戻ると、バックヤードでは本八が団子をアテに茶を啜っていた
最高責任者にこうも頻繁に来訪されては、店長も堪ったものでは無いだろうな。徳雄は若干の同情を荷物と共にロッカーへと仕舞いこんだ


('A`)「多少渋られたが、思わぬ援護射撃があってな。予定通り連れ出せそうだ」

(´・ω・`)「援護射撃?」

('A`)「ママだよ」

(´^ω^`)「人妻かァ……」ニチャァ……


やっぱぶっ殺した方が世の為人の為文彦の為になるんじゃないか。徳雄は真剣に消す方向で考えを進めた


('A`)「そっちは?」

(´・ω・`)「順調よ。隣のロッカー開けてみろ」

('A`)「隣?」


隣接する店長のロッカーを開いた瞬間、徳雄の頭二つ分大きく、長い『荷物』が倒れ込んで来る
ズタ袋に包まれたその荷物は、殺虫剤をかけられた芋虫のように激しく身悶えし、くぐもった悲鳴を上げている
徳雄はそれをゆっくりと床へと降ろすと、眉間を抑えて大きくため息を吐いた


(;'A`)「この手しか知らねえのかアンタは……」

(´^ω^`)「だって楽なんだもん☆」


あたしさくらんぼとでも歌いだしそうなノリの軽さだった

246 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:43:57 ID:Y6pO/fks0
(´・ω・`)「そら俺だって最初は穏便に済まそうと思ってたよ?でもこいつクソヤンキーだからめんどくせえ絡みされてさぁ」

(;'A`)「わかったもういい」


『荷物』の頭に被さる袋を剥ぎ取り、次いで口を塞ぐガムテープを遠慮なく剥がす


(=#゚д )「ッ……おいゴラテメェふざけてんじゃねえぞ!!」


部屋の明かりに目を眩ませながらも、拉致されたヤンキーは威勢よく啖呵を切る
低くドスのある声色であったが、徳雄は眉すら動かさずに見下し、本八はザコが粋がってる姿を見て笑った


(=#゚д゚)「俺を誰だと思ってやがる!!蟒蛇の新進気鋭……」


そんな威勢も、目が慣れるにつれて尻つぼみになっていく


(=#゚д゚)「プロ……ジョッキー……」


('A`)「少し見ねえ間に大層な御身分になってるようで何よりですよ」


彼と対面するのは、徳雄が最も荒んでいた中学生以来だった。二つ年上の先輩で、地元でも札付きのワルとして有名だった男だ
『親友』ほどでは無いが美形の類で、右頬に走る二本の傷跡が猫の髭を思わせることから、『片髭の虎猫』と呼ばれていたのを覚えている
だが、徳雄の顔を見た瞬間、怒りに吼える『虎』の部分は鳴りを潜め、自身より強く大きな存在に怯える『猫』の側面が強制的に引き出されていく


:(=;゚д゚):「う……宇都宮……さん……」


震える唇からやっとの思いで絞り出せたのは、敬称を付け加えた小さく醜い『トラウマ』の名前であった

247 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:45:13 ID:Y6pO/fks0
('A`)「どうも、貴虎(たかとら)先輩」


『高城 貴虎』。かつての顔馴染みが『蟒蛇』のメンバーリストに入っていたのは、本八陣営にとっては僥倖の一言に尽きる
文彦の脱退と入れ替わるように加入した彼は、新入り故に組織に馴染みが浅く、そして深い事情を知る由もない。だが、藪蛇との『接触』を図るきっかけとしてはこれ以上ない逸材だった
不可解な敗北を喫した『蟲毒』で、文彦と組んでいたかつてのチームメンバーを呼び出し、再起を促す機会を作り出そうというのが、徳雄の立てた作戦だったが―――――


(;'A`)(なーんで強硬手段しか出来ねえんだこのオッサンはホンマ……)


問題は作戦内容ではなく、交渉の為に派遣を依頼した『キャプテン』にあった。徳雄は間違いなく、確実に、なんなら誓約書も書かせた上で


『事を荒げず穏便に交渉のテーブルを用意すること』


と、本八と約束を交わした筈だった。だが蓋を開けてみれば、交渉など出来そうにない最悪の再会
到底、協力など求められそうにないシチュエーションからのスタートだった。どう考えても頼む相手が悪かった。ハゲはミセリ関連で忙しくて手が回らなかった


('A`)「いやぁ、新進気鋭の?プロジョッキー?流石は片髭の虎猫さんだ。同校出身として俺も鼻が高いですよ」

:(=;゚д゚):「なんっ……にゃ、何が目的だ!!おm、アンタ、こんなこと許されると思ってんのか!?」


('A )「……」


:(=;゚д゚):「ヒッ……」


立ち上がってデスクチェアを引き寄せ、背もたれを抱くようにドカリと座る。しばし無言で高城を見下し、圧力をかけた
本来ならば、ちゃんとした席を構えた上で頭を下げて『お願い』する立場だった。だがクズの起こした拉致のお陰で、穏便なプランを取れなくなった
部分的な拘束の解放から現れた高城の人間性は、中学の頃から変わりない不良気質。言い換えるなら、『下手に出ればつけあがるタイプ』
此方に非があるなら猶更だ。学生時代に植え付けられた恐怖の恨みを晴らさんと、正義と正当性を盾に反撃をされてしまえば、今後の活動の支障に成り兼ねない


('A`)「誰が、何を、許さないって?」


ならばいっそのこと、とことんまで『悪役』を演じきった方がマシ。徳雄が僅かな時間で出した回答は、荒んでいた学生時代への『回帰』であった

248 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:46:06 ID:Y6pO/fks0
:(=;゚д゚):「ア……エト……ソノ……」


忙しなく視線を泳がせ、今にも失禁と共に号泣をかましそうなほどに怯える高城を前に、百戦錬磨クズの本八も口角が僅かに引き攣る
『一体、過去にどんな仕打ちを与えればこれほどまで恐怖するようになるのか』。財力や口車とは一味違う、『暴力』という直球の支配手段が成しえる業であった
だが、人は脅かせば素直に要求を飲むほど簡単には出来ていない。鞭を与えたならば次は『飴』。緩急をつけて揺さぶりを掛けるのが大人のやり方だ


(´・ω・`)「徳雄、引っ込んでろ」

('A`)「誰に向かって偉そうな口利いてんだオッサン」

(´・ω・`)「新入社員だ。テメーこそ立場を弁えろブサイクが」


徳雄が本八へと目線を向けると、『後は任せろ』と言わんばかりの冗談まじりのウインクを投げられた。そう、落第忍者。打ち返されたよ肘鉄砲


('A`)「……チッ」


本八の老獪さは嫌と言うほど経験している。自分が高城を脅すのも計算の上で拉致したのだろう
まんまと利用されたという不愉快さはあったが、頼んだのは此方から。文句を言えた立場ではない
デスクチェアから立ち上がり、わざと大きな音を立てながら元の場所へと乱暴に戻し、徳雄はバックヤードから隣接する厨房へと移った


|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「」


('A`)「あ」


そして出た先で死にそうな顔してる店長とばったり出くわすのであった

249 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:47:01 ID:Y6pO/fks0
暫くして


(´^ω^`)「話ついたわ!!!!!!!!!!!やっぱり金なんだよなぁ!!!!!!!!!!!」


ゴキゲンな表情をした本八がクズ丸出しの発言をしながら厨房へと現れる


('A`)「あのカスは?」

(´・ω・`)「帰した」

('A`)「テメーの足でか?」

(´・ω・`)「丁重に送り出したよ」


「何が丁重だよ」とボヤく徳雄を余所に、本八は自らの手で茶を淹れ直し、作り置きの団子串を一つ手に取った


|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「あのそれ商品……」

(´^ω^`)「え!!!!!!!!!!!!!????????????????」

|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「アッスナンデモナイッス」


長い物には巻かれるタイプの店長はそそくさとホールへと退散する。言いたいことも言えないこんな世の中じゃポイズンって感じだった


('A`)「……それで?」

(´・ω・`)「お望み通り、『会場』に足を運んでくれるそうだ。お駄賃程度のはした金でな」

('A`)「そりゃ結構だが、まさか口約束で済ましたとか抜かさねえよな?」

(´・ω・`)「違えた時にゃ今度こそオメーに任せるよ。あのアンちゃんに何したのかは知らねえがな」

('A`)「気になるなら再現してやろうか?」

(´・ω・`)「ふざけんな死ね」

250 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:55:35 ID:Y6pO/fks0
(´・ω・`)「さて、後は決行を待つばかりだが……」


食べ終えた団子の串を指で弾いてゴミ箱へと捨て、本八はいつになく真剣な表情を徳雄へと向けた


(´・ω・`)「オメーの作戦であのボーヤは奮い立ちそうか?」

('A`)「知らねえよ」

(#´゚ω゚`)「こんだけ時間と金掛けてんだから出来るって言えやブサイク!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

('A`)「うるせっ」


文彦との交流の中で、徳雄は一度もチャリオッツの話題を口にしていない
『デブはチャリオッツへの想いは断ち切れていない』。本八はこう言ったが、チャリオッツを始めたばかりの自分が、『そこ』を攻めるには少々パンチが足りないと考えた
だからこその『策』ではあるが、もしも文彦が救いようのないほどの腑抜けであるならば通用しない。自信を持って『出来る』と言えるはずもなかった


('A`)「俺は神様みてーに万能じゃねえんだ。無責任なこたぁ言えねえよ。それに任したのはアンタらだ。どう転ぼうと文句は言わせねえ」

(#´^ω^`)「ブスの癖に正論を言うな!!!!!!!!!!!!」

('A`)「なんなのお前。それに、幾らゲームの腕が上手かろうとよ……」


三位一体のチーム戦。メンバーに妥協したくないのはチャリオッツに疎い徳雄も同じ気持ちだ。だが、スキルよりも優先すべき事項が伴っていなければ


('A`)「お膳立てされて尚も腰抜けのままなら、迎え入れない方がマシだ。そうだろ?」


『相手をぶち殺す』という闘争心が伴っていなければ、居ないのと同じなのだから

251 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:58:33 ID:Y6pO/fks0
―――――
―――



そして迎えたライブ当日―――――




会場にはチケット争奪戦を勝ち抜いたオタクブス共が所狭しと集まっていた
しかしブスと言えども洗練されたミンミン民(ミセリファン総称)。地下で眠る蛹が如く、彼らの女王がステージ上で羽を広げるまで、込み上げるオタクパワーを抑え込みながら黙しての待機
その熱気、口を閉ざした程度で止まる物ではない。すし詰めのライブハウスの中は、荒い鼻息とオタク臭でムンムンのムンであった


そんな中、唯一ミセリに微塵の興味も無い2121年度日本ベスト・オブ・ブスは既にグロッキー状態に陥っていた


('A`)「……」


まだ初夏とはギリギリ言えない時期であるが、生き物が密集することで籠る湿り気を帯びた室温と、生臭みを含む汗臭が、徳雄の辛抱強さを激しく削っていく
2121年帰りたいオブザイヤーを全身から放ちながら、徳雄は外へ連れ出した引きこもりデブを横目でチラリを覗った


( ^ω^)「ハァ……ハァ……」

('A`)「……」


凄く見苦しかったんで目を逸らして逆隣を見た


ブス「ハァ……ハァ……」


('A`)「……」


もうずっと足下だけ見てようと思った

252 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:00:48 ID:Y6pO/fks0
照明が消えゆくと共にポップなBGMがフェードアウトしていく。徳雄以外のオタクブス共の視線が、円状のステージへと注がれる
スピーカーからは一足早い蝉の鳴き声。天井スクリーンには濁った臭い空気には似つかわないカラッと晴れた青空が広がる


「ミミミン!!ミミミン!!ミーーーーーーーーセリ!!!!!!!!!」


え!!!!!!?????ウサミンのコール!!!!!!!?????しかし百年も前のアイドルゲームの一キャラクターなんて今の時代のオタクは知らなかった
前列から聞こえてきたコールを皮切りに、オタクブス共は夏の蝉が如くの大合唱を始める


(#^ω^)「ミミミン!!ミミミン!!ミーーーーーーーーーーセリ!!!!!!!!!!」

('A`)「……」


徳雄はなんだか悲しくなってちょっとだけ泣きそうだった

253 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:02:45 ID:Y6pO/fks0
コールに合わせるように、ステージ下から迫り上がるようにホログラムCGが映し出されていく


ミセ*゚ー゚)リ「……」


(;'A`)「ヒィッ……」


ちょっとトラウマになった徳雄が小さく上げた悲鳴は、オタクブス共のコールに飲み込まれた
やがて全身が投影されたミセリは、右拳を勢い良く、高く掲げる。訓練されたミンミン民は、寸分の狂いも無く口を閉ざした
再び訪れた静寂。ミセリは客席に広がるブス共へ花咲くように笑いかけると、やたら露出の多い胸部を大きく膨らまし―――――


ミセ*゚ー゚)リ「七日で恋などーーーーーー!!!!????」


コールを求め、ミンミン民はそれにーーーーーーー


「「「「出来やしなーーーーーーーーい!!!!!!!!!!」」」」


一糸狂わぬレスポンスを返した


('A`)「??????」


徳雄は何が起こってるのか全然わからんかった

254 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:03:59 ID:Y6pO/fks0
ミセ*゚ー゚)リ「ミンミンミーセリ♪年中無休で大声量!!セミ系Vアイドルの皆鳴ミセリでーす!!」


<オンギャーーーーーーーーーーーーーーーーーーッス!!!!!!!!!!!!


え!!!!!!!?????コンコンきーつね!!!!!!?????しかしミセリの所属はホロのライブではないのである
ここで一般男性ブサイクはある事に気づく。『セミって鳴くのオスだけじゃね??????』と
しかしミンミン民にとってミセリの性別など取るに足らぬ些事。口に出して問い質した所で『興奮する』と返されるまで
推しとは絶対的な崇拝対象であり正義。中の人のスキャンダルが公にされない限り、オスだろうがメスだろうが『推す』事に変わりないのだ


ミセ*゚ー゚)リ「ミンミン民のみんなーーーーーーーーーー!!!!!!今日は急な開催なのに集まってくれてありがとーーーーーーーーー!!!!!!!!」


<ミセリーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!

<ミセリうおーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!

<ミッ、ミッ、ミミミミィィィイイイイイイーーーーーーーー!!!!!!!!


( ;ω;)「ミセリィィイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!ブヒッ、ブヒヒィーーーーーーーーーー!!!!!!!!」

ブス「ミセリママーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!オギャーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」


('A`)「……」


ママなわけないのである。産声を上げるのをやめろ
隣のブスを産んだ母親が泣くような光景に徳雄の頭はどうにかなりそうだった


ミセ*゚ー゚)リ「それじゃあ早速一曲目いっくよー!!『Cicada Dream』!!!!」


曲の開始に合わせてオタクブス共の着てる臭い服がミセリのイメージカラーである緑に発光し出した辺りで、徳雄は考えるのをやめた

255 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:05:44 ID:Y6pO/fks0
―――――
―――



今回も大盛況で幕を閉じたミセリのゲリラライブ。興奮冷めやらぬと言った様子で物販に並ぶオタクブスの列を横目に


('A`)「……」


ブサイクは自販機で購入したミセリコラボデザインのエナドリを手に憔悴しきっていた
ライブどころか大多数の人間が集まり盛り上がるイベントなどまともに参加したことのない人生だったのだ
それがパリピカスだろうとオタクブスだろうと、徳雄にとって大きな違いは彼らの顔面と体臭以外特に無い
飛び跳ね、喚き、歓喜に震える人間の群。その流れに乗れず過ごした二時間という長い時は、パワハラを耐え忍んできたあの日々を遥かに凌駕するほどの苦痛であった


('A`)「しんど……」


ホログラムヴィジョンの光源と鼓膜を大きく揺らし続けた立体音響
そしてキンキンと響く媚びた女の声色に、逐一盛り上がるオタクブス共の鳴き声。頭にズッシリと疲れがのし掛かる
それでも徳雄はカフェインの経口摂取でそれを紛らわせながら、文彦の動向を注意深く監視していた
作戦はここからが本番である。筋書きとしては、ライブハウスと隣接する、チャリオッツがプレイ可能なゲームセンターに『偶然』訪れた蟒蛇の面々が、同じく『偶然』ライブに訪れていた文彦と接触
どのような反応を起こすかは不明瞭だが、場合によってはこちらから因縁を吹っ掛けチャリオッツでの決着を要望する
向こうはプロの集団。負ける筈のない勝負には当然乗っかるだろう。もしそうでなくても、喧嘩など幾らでも売りようがある


('A`)「……」


『協力者』が指示通りに動いているのは、盛岡からの連絡で確認済みだ。だが接触の細かいタイミングまでは合わせられない
兎にも角にも久々の、『競技』と名のつく殺り甲斐のある喧嘩。その時を今か今かと待ち侘びているその時


「あの、失礼仕るが……」


('A`)「あ?」


予期せぬ出来事と遭遇した

256 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:07:54 ID:Y6pO/fks0
(;@з@)「ふっ、ふみっ、ふみ文彦氏のご友人でござろうか?」

('A`)「……あー」


聞き取りづらい早口に鼻につく古風な話し方。ミセリの横幅が二倍ほどに引き伸ばされた、着用者の正気を疑うキャラクターシャツ
額に絶えず汗が滲むニキビ面。丸っこい鼻の上に鎮座するメガネは、呼吸の度に白く曇っては晴れるを繰り返す
ミセリの限定グッズが詰まった紙袋を両手に携えているのを見るに、どうやら文彦よりも早く用事を済ませたのだろう
失礼な物言いになるが、チャリオッツのプロプレイヤーには天地がひっくり返っても見えないオタクブスが話しかけてきた


('A`)「友人……まぁ、はい、そうですね。貴方は?」

(;@з@)「あっ、申し遅れたでござる。拙者、文彦氏の学友にしてミンミン民の同志、『木本 王太郎』(きもと おうたろう)でござる。気さくに『キング』と呼んでもらってもよろしいですぞ?」メガネクイッ


お決まりの自己紹介なのだろうか。キング(オタクブス)はニチャと粘着質なキメ顔をする ※キメェ顔
普段なら『そうですか、では』と冷たくあしらってしまうだろうが、文彦の学友という肩書きがそれを思い留まらせた
文彦は引きこもりである。しかし、学内ではちゃんと趣味を共有できる友人もいた。使い方によっては、文彦のチャリオッツ復帰への大きなアドバンテージとなる


('A`)「宇都宮 徳雄です。文彦くんとは共通の趣味で仲良くなりまして」


『どの口が』と徳雄は内心自嘲した。同時に、盛岡の言葉も思い返される
『好きの共有は仲良くなる為の第一歩』。ミセリのライブが行われた後なら、その一歩は大きな歩幅となる


(;@з@)「おお!!やはりお主もミンミン民でござったか!!宇都宮氏は我々と同じく重度のミンミン中毒者であることなど、このキングの目にはお見通しですぞ!!!!」

('A`)「ところで木本さん」


『節穴かよ』という言葉をすんでのところで飲み込み、オタクブス特有の早口語りが始まるよりも先に先手を打った

257 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:10:15 ID:Y6pO/fks0
('A`)「今日は文彦くんと会う約束を?」

(;@з@)「いえいえ、全くの偶然でござるよ。しかし文彦氏がこのゲリライベントを見逃す筈がないと踏んでおりました。拙者も幸運に恵まれ席を取れたので、ひょっとしたらと思って軽く見回ったのであります」

('A`)「仲が良いんですね」

(;@з@)「そりゃあ勿論、ミンミン民は志同じくする同士!!中でも文彦氏とは盃を交わした兄弟分と言っても過言ではござらん!!」

('A`)「ですが、彼は最近……」


と、文彦の近況を切り出した途端、木本は真剣な眼差しでズイと顔を寄せた。酷い体臭が徳雄を襲う。カードゲームショップみたいな臭いだった


(;'A`)「なん、な、なんすか?」

(;@з@)「文彦氏とは『あの日』以来、連絡が取れず仕舞いでありました。足繁く自宅へと通いましたが、今日の今日まで会えた試しはござらなかった」

(;'A`)「はぁ……それで?」

(;@з@)「宇都宮氏をミンミン民の同士と見込んで、恥を忍んでお頼み申し上げたい。どうか文彦氏を、チャリオッツの世界へと連れ戻す手伝いをしてもらえませぬか?」

258 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:11:54 ID:Y6pO/fks0
(;'A`)「はっ?ちょ、ちょっと待て」


友人である筈の文彦を差し置いて、真っ先に『友人の友人』である徳雄に声を掛けた理由が判明したが、それにしては『出来過ぎている』
『クズの差し金か?』と考えたものの、アレはここまで回りくどい手段を使わないだろう
文彦の両親か猫山が手を回したのだろうか?だとしても、徳雄の周りにはまずいない真っ当な常識人が、連絡を怠るとは考え辛い


(;'A`)「お前、それ……」


混乱した徳雄の頭が導き出した返答は


(;'A`)「誰かに指示でもされたのか?」


我ながら素っ頓狂だなと呆れるものだった


(#@з@)「し、指示!?失敬な!!キングたる者、誰に指図されずとも、友の助けになるのは当然でござる!!」

(;'A`)そ「っ……!!」


そして、プンプンと汚らしく憤慨する木本を見て、『当然の反応か』と反省した
ここ暫く、陰謀と策略にまみれた日々を送っていたからか、人の『真心』というものを忘れてしまっていた
陳腐な言葉は好きではないが、ここまでくると『運命』とやらの存在を信じざるを得ない
それも腹立たしいことに、徳雄にとっては苦痛しか生まなかった『ミセリ』という存在のお陰だった
この時ばかりは、あの虫けらの化身が女神に思えてしまった。崇拝こそしないが、徳雄は内心で感謝を告げた


(;'A`)「木本!!」

(;@з@)そ「お、おお!?な、なん、拙者が何か!?」


この出会いを活用しない手はない。手早く事情を説明しようとしたその時、徳雄のi-ringの通知音が、彼の興奮を鎮めた


(;'A`)「ッ!!」


地理情報と一緒に、簡潔なテキストメッセージが一文添えられている。『出会った。急げ』。徳雄が木本と会話している少しの内に、作戦は本番に入っていた
既に物販の待機列に文彦の姿は無い。間の悪さに思わず舌打ちをし、ゴツゴツと親指の関節で額を叩いて切り替えた

259 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:13:07 ID:Y6pO/fks0
('A`)「お前、時間あるか?」

(;@з@)そ「う、打ち上げにござるか!?ちょ、ちょっと待って下され。母上に連絡を……」

('A`)「後にしろ。着いてこい」

(;@з@)「え、ええ〜……同じタイプのオタクだと思っていた人が豹変してタイプ:ワイルドになった件について……」


そう、いつの間にかタイプ:ワイルドなのである。なんかボソボソうるさい木本を半ば強引に連れ出し、地理情報に示された場所を足早に目指す
マップのポインターは予定通り会場横のゲームセンターに刺されている。歩いて向かってもさほど時間は掛からない。つまり、文彦の過去を深く聞き出す猶予もない
しかし、木本の登場は元々想定外の出来事。文彦の蟒蛇脱退の真相は、この先にいる連中に直接訊けば良いだけの話


(;@з@)「宇都宮氏!!狭い日本そんなに急いでどこに行くのでござるか!?」

('A`)「喧嘩を売りに」

(;@з@)そ「なぬーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!?????せ、せせせ、拙者、暴力など振るったことはござらんぞ!!!!!????」

('A`)「だろうな」

(;@з@)「そ、それに!!失礼ながら宇都宮氏も強そうには見えませぬ!!再考を進言いたしますぞ!!」

('A`)「あのデブを助けてえんじゃねえのか?」


徳雄は足を止め、彼へと向き直る。大きなロスタイムだが、木本の存在は文彦の強い後押しになると確信している以上、得られるリターンは大きい


('A`)「お前は言ったな?『文彦をチャリオッツの世界へ連れ戻す手伝いをして欲しい』と。俺の目的も同じだ。奴には、俺の目標をぶっ殺す為の露払いをして貰いたい」

(;@з@)「う、宇都宮氏……?お主、何をするつもりでござるか……?」

('A`)「これから向かう場所に、蟒蛇の連中がいる。俺が文彦に絡むように仕組んだ」

(;@з@)そ「は?え?な、なな、なんてことを……」

('A`)「言葉で立ち直れねえってのは、俺より付き合いの長ぇお前も分かってるはずだ。トラウマの乗り越え方は人それぞれだが、俺は『ブチのめす』のが一番手っ取り早いと思う」

(;@з@)「ま、まさか……け、喧嘩というのは……」


察した木本は震える指先で、喧嘩の舞台となるゲームセンターを指さした

260 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:13:29 ID:Y6pO/fks0



(;@з@)「プロ団体『蟒蛇』と、チャリオッツで対戦するということでござるか!?」




血の気が引いた木本へ、徳雄は不敵な笑みを返す




('∀`)「そのまさかよ」




木本はここに来てようやく、自分の目は節穴だと気付いたのであった

261 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:15:49 ID:Y6pO/fks0
(;@з@)「わ、我々の他に助っ人を呼んでおられるのでござるか?」

('A`)「いいや?俺とお前だけ」

(;@з@)そ「無理無理無理無理!!蟒蛇は国内トップクラスのアタッカー集団ですぞ!?開始数秒もせずスクラップになるなど火を見るよりも明らか!!下手すると文彦氏は二度と立ち直れませぬ!!ここは穏便に連れ戻し、力強く説得を……」

('A`)「木本」


僅かに放たれた殺気が、木本より小さく醜い徳雄の姿を『鬼』のように恐ろしいモノに見せた
それと同調するように、混乱と焦りも一気に引いていく。彼の頭に、徳雄の言葉が入り込む隙間が出来た


('A`)「出会って間もねえ俺を信じろってのも無理な話なのは重々承知してる。無茶を頼んで済まないとも思っている」

(;@з@)「……」

('A`)「だが俺だけじゃ、文彦を連れ戻す自信がない。俺も最近、たった一人のダチに救われたクチだ。お前はお前が思っている以上に、あいつを助けられる力がある」

(;@з@)「せ、拙者が……?」

('A`)「俺も最善を尽くそう。だからここは一つ、お前の『男気』を貸してはくれねえか?」


宇都宮 徳雄は人生の半分を暴力で過ごしてきた男である。時には他人の手を借りて、大規模な喧嘩を楽しんだ事もあった
そんな連中を説き伏せる時の常套句として有効だったのが、『男気』という言葉だった。徳雄にとっては二字熟語以上の意味を持たないその言葉は


(;@з@)「わ、わかり申した!!この木本王太郎、一世一代の大喧嘩に助太刀致す!!」


『フィクション』を嗜む者にとっては、絶大な効力を発揮したのだ


('A`)「助かるよ」


『扱い易くて』と無言で付け足し、まんまと発破に掛けられた木本を引き連れ再びゲームセンターを目指す
他人を意のままに操るのは、何にも代え難い快楽だ。邪悪に引き上がった口角は、熱に当てられた木本の目には映らなかった

262 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:17:19 ID:Y6pO/fks0
―――――
―――



( ^^)「オタクくんさぁ、別に取って食おうってんじゃねーんだから逃げなくてもいいじゃんwwwww」

(; ω )「お、す、すいません……」

(  ゚∀゚ )「チームメイトだったんだからよぉ!!挨拶の一つくらいすんのが筋ってもんじゃねーの!?」


ゲームセンター横の自動販売機が立ち並ぶエリア。絶妙に人目を避けられる場所で、文彦は複数人に絡まれていた
『蟒蛇』らしき連中は、どれもチャリオッツのプロ集団なだけあって体躯が良く、そして周りを威嚇するかのような派手な髪色やピアスが、道行く人々の足を早まらせた
そんな中、落ち着きなく周囲を見回す男が一人。それは徳雄にとっては見知った顔で、この計画の仕掛け人として利用している者であった


(=;゚д゚)そ 「ッ!?」


高城 貴虎の視線が徳雄を捉えた瞬間、顔色が一気に青ざめる。徳雄は人差し指を唇の前に立て、『余計な事を抜かすな』と釘を刺した
文彦に絡むその他五人は、如何にもなヤンキーのようで、狙い通り小馬鹿にするような言動を繰り出していた。好都合だった


('A`)「手筈通りに行くぞ木本。ビビらずにガツンとブチかませ」

(;@з@)「りょ、了解したであります!!お、おい!!お前ら!!」


制止の声にビクリと肩を弾ませた蟒蛇は、その声の主を確認した途端、元のニヤケ面に戻った
傍から見ればオタクブスが二人現れただけ。彼らにとっては見下す対象が増えただけだ


:(=;゚д゚): 「……」


仲間内の一人が必死に身体の震えを必死で抑えようとしているのにも気づかなかった

263 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:19:49 ID:Y6pO/fks0
(;^ω^)「き、木本くん……と」


ほんの少しだけ、文彦の表情に安堵の色が見えた。それは木本の登場よりも、その隣にいるヤベー奴の存在からであった


( ^^)「おっ、ヒーローくんとうじょーwwwwww良かったな内藤wwwww」

(  ゚∀゚ )「つーか何勘違いしてんのか知らねーけどよぉ、俺ら元チームメイトと親睦を深めてただけだべ?」


('A`)(あーあー……)


取り囲んで交流もクソもあるものか。これまたいじめっ子の常套句。猫山から『素行が悪い』と聞いていたが、ここまでコテコテとは
徳雄は失笑を抑え込みながら、蟒蛇のメンバーのとある『共通点』に気が付いた。高城を始め、全員が美男子の類なのだ


('A`)(なるほど……)


何となく、文彦が蟒蛇を脱退させられた理由がわかったような気がした


(#@з@)「ふ、ふみ、ふみ文彦氏を解放するであります!!彼はミンミン民の同士!!貴様ら如きが愚弄していい者ではござらんぞ!!」

「くはっwwwwそうなんだwwwww『ふみふみひこ』くんwwwwww」

(;^ω )「は、ははは……」


文彦は同調するように笑いながら、媚びた目つきで徳雄に助けを求めた


('A`)「……」


当初の作戦では、木本の役回りは徳雄が行う手筈であった。徳雄の外面である『醜い弱者』を利用して、相手に挑戦を受けさせるよう誘導するつもりであった
人は自分より弱い者からの挑戦であるなら、胸を貸す想いで。もしくは、『虐げて楽しむ為』に、快く引き受ける。
人気ゲームのプロ集団と比べ、ただの一介のオタクでは、社会的ヒエラルキーに大きな差がある。その為のきっかけを作るために、滑稽な抵抗を演じる筈だった
だが、友の為に必死に勇気を振り絞る者と、ただ黙して強者に縋る者を見て、思ってしまったのだ。『アホくさい』と


(#@з@)「な、なにゅが可笑しい!!」


怒りが先走り舌が回らない木本に対してドッと笑い声が沸き上がる。彼の健気な友情と勇気すら、連中にとっては嘲笑の種にしかならない
ミセリグッズが詰まった紙袋を持つ木本の手が、怒りでブルブルと震え出した

264 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:21:00 ID:Y6pO/fks0
(#@з@)「文彦氏!!このような低俗な輩に付き合う必要などござらん!!早くここから立ち去りましょうぞ!!」

(;^ω^)「あ……」


頭に血が昇って作戦内容を忘れたのか、輪の中で小さく縮こまる文彦を連れ出さんと力強く詰め寄ったが


(  ゚∀゚ )「低俗ってなんだよオイ」

(;@з@)そ「うっ!?」


金髪坊主頭の側面にハートラインの剃りこみを入れた男が、強く身体を突き飛ばす
木本の手から離れた紙袋が、地面を滑って中身を曝け出した


(  ゚∀゚ )「お前らみたいなキモオタがアニメの女でシコってる間、俺らプロは鎬削ってファンを盛り上げてんだよ。偉そうに説教できる立場か?あ?」

( ^^)「あー、これこれ。ミセリだっけ?内藤も好きって言ってたよっ……」


(;@з@)「や……」

(; ω )そ「……ッ!!」


( ^^)「なぁッ!!」


彼らの偶像を足蹴にしようと、優男が大きく脚を上げる。そして―――――




('A`)「……」




靴底は、小さく醜い男が差し出した、足の甲で受け止められた

265 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:23:16 ID:Y6pO/fks0
(;^^)そ「なっ……!?」


踏み込みによって多少沈んだものの、徳雄の足はミセリグッズの頭上でピタリと止まった
そこから軽く蹴り上げると、優男はもんどりを打って尻もちを突く。蟒蛇は驚嘆の声を上げ、身構えた


(;@з@)「???????」

('A`)「……」


(#^^)「な……なんだテメエ!?」


恥をかかされた優男には見向きもせず、徳雄は散らばったミセリグッズを丁寧に袋へと仕舞い、倒れた木本に手を貸して立ち上がらせる


('A`)「平気か?」

(;@з@)「あ、あり、ありが?」

('A`)「大丈夫そうだな」


何を見てそう思ったのか。徳雄は紙袋を木本へと返し、蟒蛇と文彦へと向き直る


('A`)「人の趣味にケチつけるのは勝手だが、足蹴にするのは良くねえな。兄さん方」

( #゚∀゚ )「何かっこつけてんだ殺すぞゴルァ!!!!!」


胸倉を掴み上げ恫喝する金髪坊主に、徳雄は声一つ震わせずこう返す


('A`)「落ち着けよ。こんな往来で暴力沙汰起こすつもりか?鎬削ってファンを喜ばせるプロのプライドはそんなに安いか?」

( #゚∀゚ )「こいつッ……!!」


人目に付きづらいと言っても、商業施設の真横である。喧嘩の一つでも起これば通報する者も出てくるだろう
しかし、『ザコ』にやり込められた屈辱と、それに伴う怒りは、発散の機会を求めて胸中で沸き立った

266 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:24:13 ID:Y6pO/fks0
('A`)「わかるよお兄さん。オタクくんにいい様にやられて悔しいんだよな?一発ぶん殴ってスッキリしてえんだよな?」

( #゚∀゚ )「一発で済むと思ってんのか……?」

「なぁ、ちょっと落ち着けって……ほっとけばいいじゃねえかそんな奴ら……」

(#^^)「蟒蛇が無礼られたまま黙ってろってのか!?ああ!?」


冷静なメンバーもいるようだが、優男の一喝で口を閉ざした。どうやら、この二人がグループのリーダー格らしい
看板の威光を借りるのはさぞかし心地よいのだろう。汚名を被るのがどうにも我慢ならないように見えた


('A`)「そんなら、ちょうどいい決着の付け方があるじゃねえか」

( #゚∀゚ )「あ!?」

('A`)「『プロゲーマー』なんだろ?」


親指で示す先には、ゲームセンターの野外広告スクリーンに映る、爆炎をバッグに戦場を駆ける『自転戦車』
金髪は暫くポカンと呆けた後、徳雄の行動の意味を飲み込むと、額の青筋をもう一本増やし


( #゚∀゚ )「ふざけてんじゃねえぞッ!!!!!!!!!」


徳雄の頬に拳を浴びせた

267 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:25:46 ID:Y6pO/fks0
('A )「っ……」

(;@з@)「宇都宮氏!!」

「何考えてんだやり過ぎだ馬鹿!!」


怒りに任せもう一撃喰らわせようとした金髪を、仲間が羽交い絞めにして引き剥がす


( #゚∀゚ )「なんで俺らプロがお前らみたいなザコ相手にしなきゃならねえんだよ!!勝負になると思ってんのか!?あ!?」

( ^^)「もういいわ殺そうぜこいつら」

「やめろって!!蕗也さんにバレたら今度こそ追い出されんぞ!!」

「お前らはサッサと消えろ!!」


怒りを全面に露わにする金髪とは対照的に、冷たい真顔へと変化した優男が、仲間の制止を振り切って徳雄の胸倉を掴み路地裏へと引き込もうとする


('A`)「……」

(;^^)「あ、あれ?」


ただし、優男よりも頭一つ低く醜い男は、その場から一歩も動かなかった。優男は二度、三度と力を込めて引っ張るが、下手なパントマイムが繰り広げられるだけだ

268 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:27:05 ID:Y6pO/fks0
(; ω )「……」

(;@з@)「う、宇都宮氏……?」


異様な光景に、オタクもヤンキーも困惑を浮かべる。ただ一人、徳雄の過去を知る者だけは


:(=;゚д゚) :「……」


血が滲むほど親指を噛み締め、治まる所を知らない震えを止めようとしていた
そして鉄の味が広がる口内の奥、誰にも聞こえない声量でひっそりと呟いた


『始まった』と


('A`)「俺は、別に」


抑揚無く淡々と、感情も熱も無い静かな声は、『この場の誰一人としての口答えを許さない』と圧を放つ
一番興奮していた金髪が、荒い息を唾液と共に嚥下したのを見計らって、徳雄は言葉を続けた


('A`)「ヒト気のねえ場所でフクロにされても構わねえがぁー……あー、非力で陰湿なオタクなもんで、SNSで陰口溢すくらいが精いっぱいだな」


トン、と優男の胸を人差し指で突く。胸倉から手がこと切れるかのように離れ、押されるがままに後ずさった


('A`)「ああでも、アンタらデカデカと公言してたよな?蟒蛇だ、プロだの。俺ぁ、あんまチャリオッツの事ぁ知らねえんだけどよ。『ジャイアンツ』や『タイガース』みたいなもんだよな?」

('A`)「良いねえ紙面が盛り上がりそうだ。俺の名前は隅っこで構わねえから、一面はアンタらがデカデカと飾れよ。頭も丸めてサッパリするチャンスだぜ?」

269 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:28:31 ID:Y6pO/fks0
トン、トンと立て続けに胸を突く。後ずさりを続ける優男の足は、仲間の身体にぶつかって止まった
何てこともない脅しだった。蟒蛇は元々『ワル』を売りにしている。妬みによる事実無根の悪質なデマなどネット上に幾らでも転がっている
ネームバリューも何も無いブサイクが一人、SNSで被害を報告しようとも、熱心な『ファン』によるありがたい援護で掻き消えてしまう
そんな堅固な後ろ盾が、この男の前では急に頼りのない紙切れに思えてきたのだ


(;^^)「……」


怒りとはまた違う、有無をも言わさぬ静かな迫力に飲まれた優男は、目の前の妙で醜い小男から目を逸らせ無かった
しかし、間もなく我に返り始める。『何故ここまで怯まなければならないのか』と
芝居がかった台詞で怯ませているだけだ。今までおちょくってきた、何にも成れない有象無象の弱者共が取らなかった行動に少し驚いただけだ
化けの皮を剥がしてしまえばこれまで通りのザコなのだからと


(#^^)「やってやるよ……」


再燃した怒りは、プロプレイヤーの矜持を激しく燃やし尽くした。あるのは『叩き潰す』という殺意だけ
元より、彼らが背負う看板は撤退を許さない。『蟒蛇』は、戦いを挑む者を全て呑み込む自転戦車界の破壊王でなければならない
老若男女、プロアマ、オタクだろうと見境なく、容赦なく。恐れ多くあらねばならない


('A`)「賢明な判断だな」


徳雄の言葉とは裏腹に、彼らは賢明から程遠い状態にあった。爛々と据わった目は、生きるか死ぬかの瀬戸際で狩りを行う獣の様であった
宇都宮 徳雄は人生の半分を喧嘩で過ごした男である。長年の経験から、この手の連中の心理状態は手に取るように理解出来た

『我慢ならない』

見下していた者に見下され、馬鹿にしてた者に馬鹿にされ、支配していた者に支配される
立場が逆転する事に対して恐れを抱き、目の前の敵を排除しようと心理が働く
これまでの人生で、劣位の立場にいる時間が少ない者ほど、侮辱は的面の効果を発揮した
宇都宮 徳雄は自身の容姿から、物心ついた時より『底辺』と見做され人生を歩んできた。その最大の強みは


('A`)「『対戦よろしくお願いします』」


『無価値』であること。そしてそれは敵を作るのに最も適した立場であった

270 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:30:29 ID:Y6pO/fks0
―――――
―――



チャリオッツの筐体の前では、人だかりが出来上がっていた
『蟒蛇』が一般人、それも『スポーツ』から程遠い風貌のオタクを相手にすると聞き、ある者は推しチームのプレイを見学に、ある者は時間潰しに
また、ある者は一方的に蹂躙される弱者の哀れな姿を笑いに。誰もが軽い気持ちで集まっていた


(  ゚∀゚ )「ハンデはいるか?」

('A`)「欲しいならくれてやるよ。なんなら目を瞑ってやろうか?」


身の丈に合わない大きな口に、観衆から「おお」と、嘲笑混じりの感嘆が上がる。録画まで始める者もいた


( #゚∀゚ )「なら全力で殺してやるよ。こっちはフルパで行く。お前から売った喧嘩だ。卑怯だなんて言わせねえからな」

('A`)「それで足りんのか?大した自信だな」


飄々と軽口を返す徳雄に、青筋を浮かべながら威嚇のように歯を剥き出して嗤う
チャリオッツは自らの土俵。相手は名も知れないただの『カモ』だ。後悔するのは時間の問題だと


(;^ω )「……」


( ^^)「ふ・み・ひ・こ・くぅ〜ん」


青白い顔でミセリの紙袋の取っ手を両手でギュウと握りしめる文彦に、優男がおちゃらけた調子で肩に腕を回す
木本が咄嗟に引き剥がそうと動いたが、徳雄が腕を掴み引き留めた

271 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:31:15 ID:Y6pO/fks0
(;@з@)「宇都宮氏、あれは見過ごせませんぞ!!」

('A`)「良いんだほっとけ。それよりお前、『キャプテン』の経験はあるか?」

(;@з@)「ご、ございませぬ。それに、拙者のようなズブのふくよか素人を乗せるくらいなら、キャプテン不在の2名で走った方が幾分勝機があるかと」

('A`)「……」


『ふくよかで済むレベルかよ』という言葉は、すんでの所で飲み込んだ


('A`)「わかった。他にアドバイスは?」

(;@з@)「短期決戦、これに尽きるでしょうな。それと、文彦氏が得意とする6shooterはご存知の通り固定砲で射程距離も短い。照準は宇都宮氏の手腕に掛かっていると心得るでござる」

('A`)「つまりどうすりゃいいんだ?」

(;@з@)「『目の前』に相手がいる場面を作り出すのでござるよ。照準が合いさえすれば、文彦氏は敵が誰であろうと反撃の余地を与えず屠るであります」

('A`)「なるほど、了解した」


優男が文彦から離れ、ニヤニヤと徳雄を嘲笑いながら金髪と同じ筐体へと乗り込む


(=゚д゚) 「……」


影の協力者は乗り込む間際、徳雄にチラと目配せし


(=#゚д゚) 「……殺してやる」


過去の怨恨をこの場で晴らそうと、堂々の宣戦布告を放った

272 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:32:26 ID:Y6pO/fks0
('A`)「……」


『堪らない』。身も心もズタズタにした筈の喧嘩相手が、舞台を変えただけで二度も牙を剥いてくれる
それをもう一度へし折る機会が巡っただけでも、彼を巻き込んだ甲斐はあった


('A`)「オラ行くぞ」

(;^ω )「い、嫌だお」

('A`)「間違えた。『行け』」


蟒蛇が乗り込んだのを確認し、徳雄は文彦の首根を引っ掴んで筐体の中へと蹴り入れる。前列の観衆は、その乱暴で容赦無い扱いに、ピタリと嗤うのをやめた


(;@з@)「宇都宮氏!!」

('A`)「木本、世話になったな。万が一ってことがあるから、お前は先に……」


(;@з@)「『本気で勝つ気』で居られますか!?」


助言でも、応援でも無く、木本は真っ直ぐに徳雄へ問うた。自らの湿気で曇るメガネの奥、瞳に力強い決意の光が灯る
徳雄は直感的に、彼が何らかの手を打とうと考えていると悟った。その為に、『2対1』の不利な戦いに勝利する必要があることも
『万が一』、そう言った。だが、元より敗北を勘定に入れた喧嘩を起こすはずもない。徳雄の返答は


('A`)「当然」


二文字。此方も揺るぎない決意の表れであった

273 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:33:52 ID:Y6pO/fks0
(;@з@)「左様でござるか。なら拙者も、拙者に出来る戦いをするでござる」

('A`)「頼もしいな。煮え切らねえデブにお前の爪の垢を煎じて飲ませてえよ」

(;@з@)「こんな血の沸る戦い、挑まねばオタクの名折れでありますからな!!奴らに、本気を出した『ミンミン民』の恐ろしさ、思い知らせてやるであります!!」


最後に、木本は直立不動の敬礼を贈る。仰々しい行動に、観衆からはまた笑いが起こったが、黙らせるのも馬鹿らしくなる程に、徳雄の目には誇り高く映った


(;@з@)「ご武運を!!」

('A`)「ありがとよ」


感謝と共にサムズアップを返し、徳雄は筐体へと乗り込み扉を閉める
ゲームセンター内で渦巻いていた喧騒と電子音はピタリと止み、球体の中では二人の息遣いだけが聴こえた

274 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:34:52 ID:Y6pO/fks0
(;^ω )「帰りますお」

('A`)「帰さねえよ」

(; ω )「帰る」

('A`)「ダメ」


( ;ω;)「帰るっつってんだお!!!!!!!!これ以上僕を虐めてどうするつもりなんだお!!!!!!!!」


オウオウと両手で顔を覆い大号泣を始めてしまった文彦に、徳雄は大きな溜息を吐く。そして胸倉を掴み上げ、叩きこむようにガンナーの席へと座らせた


('A`)「今から送るプリセットデータを入力して機体をセットアップしろ」

( ;ω;)「ああああああああああああああ!!!!!!帰る、帰るうううううううううううううう!!!!!!」


まだ子供とは言え、十六にもなる男は三歳児のように駄々をこねる。淡く光るドームスクリーン内に、酷く耳障りな泣き声が響いた
徳雄はそんな哀れで情けない文彦を前に、怒鳴りも諭しもしなかった。ただ両手を広げ勢いよく―――――


( ;ω;)そ「ヒッ!!!!」


『叩き鳴らした』。狭い球体の中で乱反射した破裂音が、頬をぶったかのような錯覚を起こさせる
文彦を痛みを伴わないショックで黙らせた徳雄は、調子を崩さず淡々と語り掛ける

275 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:36:03 ID:Y6pO/fks0
('A`)「あのクソザコに何言われたかは大体の見当がつく。いじめっ子の手口なんざ訊くまでもねえよ。だがな」


座席の背もたれにドンと肘を突き、徳雄は顔を文彦にグイと寄せた


('A )「連中の何倍も恐ろしい仕打ちを、今すぐ与えてやってもいいんだぞ?」


『ミシ』と軋んだ背もたれの音に、文彦の心臓は縮み上がった
美味しい土産を受け取って、ズルズルと関係を引き延ばしたツケが、今まさに巡って来たのだと、余りに遅い後悔をした
文彦がかつてのチームメンバーに囁かれた甘言は、『わざと負けたら見逃すどころか、蟒蛇に戻れるように口を利いてやってもいい』
完全な口約束で、守られる保証などこれっぽっちも無い。仮に指示通り負けたとしても、それをネタに徳雄共々嘲笑われるだけだろう
だが、馬鹿にされるだけで済むなら耐え忍んでおしまいだ。これまで通り、いや、これまで以上に、チャリオッツから離れて自宅という砦に籠る日々に戻れる


(; ゚ω゚ )「」


涙は血の気とパニックと共にサァと引いていく。誰にも聞こえない、誰にも見られない密室の中で、『殺人鬼』と閉じ込められたようなどうしようもない恐怖が襲う
これまでの付き合いで、文彦は徳雄の身の上も、足繁く通うワケも、全くと言っていいほど訊かなかった。それでも、これだけは理解できる


('A`)「どうすんだ?え?」


遊び半分でからかってくる蟒蛇や、学校の連中とは比較にならないほどに、目の前の男は『凶悪』なのだと

276 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:36:58 ID:Y6pO/fks0
(; ゚ω゚ )「やり……ます……」


拒否権など最初から与えられていなかった。目的を達成しなければ、彼は『恐ろしい仕打ち』を何の躊躇いもなく行使するのだろう
自身の過去も、蟒蛇を脱退したワケも、引きこもっている理由も、癒えずにいる心の傷も、その全てを自力で乗り越えようともしない自己嫌悪すら
文彦に関するありとあらゆる『言い訳』が、徳雄には『関係がない』のだ。優しさを持って悩みに寄り添い牛歩の速度で問題解決に臨むよりも


対象を『恐怖』で支配して、意のままに操る方が手っ取り早いのだから


('A`)「助かるよ」


『これまで』そうしてきたように、『これから』もそうしたまで。徳雄は文彦の肩を労うように軽く叩くと、ジョッキーの操縦席に乗り込んだ


(;^ω^)「フッ、フゥッ、あの、そっ、それで……?」

('A`)「ちょっと待て……送った」


文彦のi-ringに、チャリオッツ用のカスタマイズデータが受信される。文彦はホログラムとして掌に投影し、スクリーンへ向けて押し出した
四角い光体がスクリーンに吸い込まれていくと、立体音響スピーカーからドンと腹に響く砲撃音と共に、『Chariots』とタイトルロゴが映し出された
奥から湧きあがった爆炎がそれを飲み込み、晴れていくと共に『ガレージ』の内装へと変化していく。スクリーンの上部に表示された『60』の数字は、戦闘開始までの残り時間だった
チャリオッツはアーケード主体のゲームであり、回転率を損なわない為に敢えて余裕のない準備時間を設けている。チャリオッツを始めてプレイする者は、『オススメカスタマイズ』に表示された機体を使ってゲームを行う
常連プレイヤーとなれば、60秒以内にカスタマイズを完了させる者もいるが、専用のアプリを使って予め機体のプリセットを済ませておくのが大半だ

277 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:37:24 ID:Y6pO/fks0
(;^ω^)「これ……」


チャリオッツは細かな追加装備を除いて、主に五つのカスタマイズ要素がある
防御性能を担う前・後・側の装甲。厚ければその分砲撃への耐性が上がるが、重量負荷も増加する
走行の面ではタイヤ。ステージ毎に変化する路面に合わせ、ある者はオールラウンドに。もしくは、ジョッキーの脚質に合わせて付け替える
チームによって最も色濃く特徴が現れるのは、最もオーソドックスな攻撃である『主砲』。爆発、貫通といった破壊目的の砲弾を放つ火力自慢の大砲や
手数で攻め落とす連射力に優れた機関砲。長距離からの狙撃が可能な長砲身タイプ。はたまた、妨害トラップを放ち相手の足止めを目的としたトリッキーな代物まで多種多様だ


('A`)「気に食わなければ好きに替えろ」

(;^ω^)「いや……」


前面には『チャージング・グリル』。車体から伸びる二枚のブレードの先端を合わせ、山型に取りつけた装甲だ
正面から衝突した際、敵の車体を抉り、側面へと突き飛ばす効力を持つ。また、傾斜装甲となっている為、砲弾によるダメージ分散にも繋がる

重厚な前面装甲に対し、側・後は共に『クリアボディ』という、防御力を犠牲に大幅な見晴らしと軽量化を得られる透明板となっていた
チームの『眼』となるキャプテンの不在を補う為の仕様だが、ゲーム用語で言う所の『紙装甲』であり、一発でも喰らえば即致命傷へと到ってしまう

タイヤは悪路特化のニードルスパイクが付いた『ヘッジホッグ』。荒野、砂漠、氷路では抜群の安定性を誇る反面、舗装された路面では最悪の乗り心地を車内へと届ける荒くれ者だ


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