[
板情報
|
カテゴリランキング
]
したらばTOP
■掲示板に戻る■
全部
1-100
最新50
|
1-
101-
201-
301-
401-
501-
601-
701-
この機能を使うにはJavaScriptを有効にしてください
|
ξ゚⊿゚)ξツンちゃん夜を往くようです
1
:
名無しさん
:2020/10/14(水) 17:28:46 ID:YvZFQxxU0
タクシー
(゚」゚)ノ
ノ|ミ|
」L
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
_/ ̄ ̄\_
└-○--○-┘=3
428
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 21:08:02 ID:q9XV82ww0
ノハ; ⊿ )「……ぁ、ぅ」
ξ#゚⊿゚)ξ「……まだ意識があるのね」
ξ#゚⊿゚)ξ「でも私は優しいから。この1回で見逃してあげるのだわ……」グリグリグリグリ
しっかり地面に埋めてなお、ヒートの顔面を掴んだまま徹底的に当てこするツン。
今のヒートは人並み以上に頑丈だが、頭部から全身に響くダメージは凄まじいものだった。
――あと1回でも繰り返されれば最悪死ぬ。殺せるだけの余力もしっかり残っている。
しかしツンは言葉の通り、それ以上の追撃をしようとはしなかった。
ここまで散々うるさかった相手が沈黙してしまったのだ。決着は誰の目にも明らかだった。
ノハ; ⊿ ) ……
ξ#゚⊿゚)ξ「……そこで寝てればいいのだわ」スッ
ξ#゚⊿゚)ξ
、 ペッ
ツンは身軽に立ち上がって血反吐を吐き捨てた。
その血反吐がヒートに当たってたらいよいよ道徳的に問題だったが、流石にそんな事はしなかった。
ξ#゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ(……って、もう倒したんだから試験終了よね。
どうしよう。ここで待ってればいいのかしら……)
頭に昇った血が落ち着くと、ツンは試験のあれこれをふと思い出した。
ヒートが他の3人を解放していないのだから試験は終わりだ。
終了の合図はいつ来るのかと、ツンはそれらしいものを探して周囲に目を向けた。
試験の様子はミセリが見ている。終了ならば、すぐにでも動きがあるはずだった。
.
429
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 21:11:53 ID:q9XV82ww0
ξ゚⊿゚)ξ「……?」
しかし辺りは静寂するのみ。
ツンが期待するような号令はなく、無為な時間が流れていく。
ノハ; ⊿ )「……ごめん」
lw´‐ _‐ノv「しゃーなし」
――途端、小さな話し声が静寂を破った。
ツンは気付いて視線を戻した。足元を見下ろし、真っ先にヒートを確認する。
ξ;゚⊿゚)ξ「……えっ」
ヒートの姿が無い。
そこにあるのはふわりと舞った砂埃だけで、彼女はどこにも見当たらなかった。
ξ;゚⊿゚)ξ(しまっ――)
逃がしただけならまだ追える。だが見失うのはマジでダメだ。
ツンには彼女を見つけ出す術がない。だから絶対に目を離してはならなかったのに――。
ξ;゚⊿゚)ξ(――敵を、見失った)
.
430
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 21:13:18 ID:q9XV82ww0
「――腕を上げたようだな」
ξ;゚⊿゚)ξ !
そんな時、意識の外から声をかけられた。
狼狽するツンは否応なくその声に振り返った。
川 ゚ -゚)
声の主は数十メートル離れた先。
見知った顔の、素直クールだった。
ξ;゚⊿゚)ξ(落ち着け、ちゃんと考えろ私……!)
抜刀済みの素直クールがこちらに向かって歩いてきている。
これは今起こりうる最悪の事態、一対多に向かう最悪の展開だ。
――こうなったらもうやるしかない。
ツンは強引に切り替えて応戦に臨む。
赤マフラーで口元を隠し、せめて動揺だけでも悟らせないようにする。
外套の方にも魔力は十分。体力は幾分削られたが、まだやれる。
ξ;゚⊿゚)ξ(何としてでも各個撃破、合流される前にこいつを倒さなきゃ――!)
川#゚ -゚)「……凝血解除」
その囁きが堰を外し、素直クールの黒髪が赤色を帯びる。
開始の合図はそれで十分。両者は同時に地面を蹴り出した。
.
431
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 21:14:07 ID:q9XV82ww0
#05 ラザロと畜群 その5
.
432
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 21:17:15 ID:q9XV82ww0
o川*゚-゚)o「血の使いすぎ」
ノハ; ⊿゚)「……ごめん」
o川*゚-゚)o「止めなかったら普通に続けてたでしょ。
ここで全力出しても意味ないのに……」
ヒートの容体をチェックしながら呆れ気味にぼやくキュート。
2人の傍らには素直シュールも座っており、彼女達は身を寄せ合うようにして岩陰に潜んでいた。
lw´‐ _‐ノv「でもまぁ時間は稼げたよ。ヒートは十分やってくれた」
ノハ; ⊿゚)「……え、予定ってなに?」
o川*゚-゚)o「いや合図あったじゃん。見なかったの?」
ノハ; ⊿゚)
ノハ; ⊿゚)「デカい犬が……」
lw´‐ _‐ノv「ダメだ脳をやられてる」
o川;*゚ー゚)o「シュールちゃんみたいなこと言ってるし本当にヤバそう……」
.
433
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 21:23:03 ID:q9XV82ww0
ノハ;゚⊿゚)「……なあ、あいつ急に動きが変わったよな?」
lw´‐ _‐ノv「もちろん全部見てたよ。十中八九あのマントが理由だろうね」
ノハ;゚⊿゚)「ああ、だよなぁ。理由なんてそれしかねえもんな……」
得心しながら地面に倒れ、ヒートは特大の溜息を吐いた。
自分の愚行を戒めるように、あびゃあうぎゃあと呻きを上げる。
ノハ;´⊿`)「あ゙ーもう、血ぃ使うとバカになんの嫌すぎる……」
o川*゚ー゚)o「今日は魔王軍から連戦だし当然でしょ。1人でよくやったよ」
ノハ;´⊿`)「あーもう、妹が優しくてつらい……」
lw´‐ _‐ノv「ヒートはそのまま休んでな。続きはこっちでやっとくから」
シュールは立ち上がって遠くを見遣った。
ヒートの負傷は想定以上だったが、その分の見返りは情報となって仲間に届いている。
数で押し切る作戦は未だ有力。戦況は大詰めを迎えていた。
ノハ;゚⊿゚)「ほんとごめん。あと任せた」
o川;*゚ー゚)o「頑張ってね、お姉ちゃん」
lw´‐ _‐ノv「うむ」テクテク
長女のもとへと向かうべく、短く応えて歩き出すシュール。
lw´‐ _‐ノv「――凝血解除」
ヒート、クールと同じ言葉を呟いて、彼女はふっと姿を消した。
.
434
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 21:23:49 ID:q9XV82ww0
ノパ⊿゚) …
o川*゚ー゚)o …
ノハ;゚⊿゚)「いや、お前行かねえの?」
o川;*゚ー゚)o「……あっさりサボれてしまった……」
.
435
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 21:25:43 ID:q9XV82ww0
≪2≫
川#゚ -゚)「八刀剣撃……!」
追跡側から追われる側へ、素手同士から武器相手へと一転した今現在。
ツンは戦いの変遷にギリギリ適応していたが、その動きは露骨に精彩を欠いて崩れかけていた。
ただでさえ少ない戦闘経験の中、素直クールとの戦いはまさに完敗だった。
そこで根付いた苦手意識はかなり深刻であり、1ヶ月以上経った今でも克服には至っていない。
特訓により何通りかの模範解答は用意できても、腹を斬られたトラウマは単純にキツかった。
ξ;゚⊿゚)ξ(八刀剣撃、あの技の受け方は――!)ダッ
刀を構えて眼前に迫る素直クール。
ツンは彼女に背を向けて駆け出すと、赤マフラーを解いて空中に放り投げた。
脱兎のような即断即決。トカゲの尻尾切りめいたその行動に、素直クールは僅かに眉を動かす。
川# -゚)
ツンの赤マフラーは『本体への攻撃』に反応して防御を行うもの。
マフラー自体への攻撃には無反応だし、本体との距離が開けば単純に防御が遅れるだけ。
遠隔操作による攻撃でも出来ない限り、ここで彼女がマフラーを捨てる意味はまったく無いのだ。
川 ゚ -゚)(――今のお前は、それが出来るんだな?)
恐らくこれは搦め手だ。本体を狙いに行けば虚を突かれる。
素直クールはそう確信し、攻撃目標を赤マフラーに切り替えた。
.
436
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 21:30:20 ID:q9XV82ww0
川# -゚)「――八重小太刀!」
刹那の思考を終えた後、クールは一刀八斬の銀閃を赤マフラーに放った。
しかし手応えは浅く、彼女の斬撃は赤マフラーの端々を数センチ切る程度に終わっていた。
赤マフラーは地面に落ちて、以降なんの反応も示さない。
川 ゚ -゚)(……やはり借り物ではダメか。斬り方は分かるんだが……)
不満げに思いながらも彼女の狙いは果たされていた。
彼女がいま確かめたのは刀の強度であり、赤マフラーの切断はむしろ二の次。
数センチでも刃が通るなら切れ味は十分。一役買うには事足りていた。
ξ゚⊿゚)ξ …?
音がしない、と違和感を覚える数秒後。
ツンは逃げながら僅かに振り返り、素直クールの姿を再確認した。
川 ゚ -゚)「これを捨てたのは軽率だったな、魔王城ツン」
そのとき、彼女は赤マフラーの真上に立って刀の切っ先をそれに合わせていた。
まるで杭の狙いを定めるように――ツンは、反射的に彼女の思惑を理解していた。
.
437
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 21:32:32 ID:q9XV82ww0
川#゚ -゚)「はあ――ッ!!」
直後にクールは腰を落とし、渾身の力で赤マフラーに刀を突き立てた。
その切っ先が布地を貫いて地面に届き、さらに深々と地中に押し込まれていく。
ξ;゚⊿゚)ξ(あっ)
刀によって地面に釘付けにされた赤マフラー。
ツンは流石に足を止めて、素直クールの方を見ながら呆気に取られた。
ξ;゚⊿゚)ξ
ξ;゚⊿゚)ξ(これ、かなりマズいのでは……)
ツンが模範解答として持ってきた作戦は事も無げに失敗。
自動防御にタイムラグを作って云々〜という考えだったが、初見で看破され、終わった。
川 ゚ -゚)
ξ;゚⊿゚)ξ
肝心要のアイテムは回収困難。素直クールも赤マフラーを刺し貫いたまま動こうとしない。
彼女達の戦いはふと熱を失い、そこでじっくりと膠着した。
――それ自体がクールの狙いだと気付いた瞬間、ツンは全速力で彼女に立ち向かっていた。
ξ;゚⊿゚)ξ(止まってる場合じゃない! マフラーなしで敵が増えたら終わりなのだわ!)
ヒートを取り逃がした段階で素直四天王の集結は時間の問題。
だから最速でクールを倒さなければならなかったのに、相手に釣られて行動を遅らせてしまった。
クールが赤マフラーを食い止め続けるとしても残りは2人、手負いが1人。
どれほどの危険を冒すとしても、ここで彼女達を間に合わせる訳にはいかなかった。
lw´‐ _‐ノv「ごめん遅れた」
川 ゚ -゚)「問題ない」
ξ゚⊿゚)ξ
即来た。
.
438
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 21:38:15 ID:q9XV82ww0
ξ;゚⊿゚)ξ(――それでも攻め込む! 立ち止まってる余裕はもう無い!)ダッ
勝負どころは今この瞬間。
赤マフラーを半ば諦め、ツンは彼女達を同時に相手取ることを覚悟した。
川 ゚ -゚)「……結局、4対1にはできなかったな」
lw´‐ _‐ノv「ごめん。2人とも脳がヤバくて」
川 ゚ -゚)「刀はここに置いていく。素手の私にあんまり頼るなよ」
刀を手放し、彼女はシュールの隣に並び立った。
lw´‐ _‐ノv「そのマフラー絶対暴れるでしょ。ここで待っててよ」
川 ゚ -゚)「いや、魔王城ツンは戦いに慣れ始めている。長引かせるのは得策じゃない」
lw´‐ _‐ノv「だったら最初から、……まぁいいけどさ」
シュールは呑気に応えてからツンを見遣った。
ツンはこのとき上空に跳んでおり、シュールめがけて一直線に飛び込んできていた。
.
439
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 21:42:17 ID:q9XV82ww0
ξ#゚⊿゚)ξ「おおおおッ!」
lw´‐ _‐ノv(……戦い方がヒートに似てんなぁ)ダッ
シュールは地を蹴ってツン同様に空に上がった。
正面切っての空中衝突。ツンは咄嗟に彼女を迎撃しようとした。
ξ#゚⊿゚)ξ「だァッ!」
大きく引き絞った拳の威力は相変わらずの人外相当。
ツンはタイミングを合わせてシュールの顔面を横から殴りつける。
lw´ _‐ノv「――ッと」
そして直撃。
シュールとしては、狙い通りだった。
ξ;゚⊿゚)ξ「!?」
直撃と同時にシュールの五体がぐるりと翻り、地面に向かって墜落を始める。
その寸前、シュールはツンの外套を掴んで彼女を落下に巻き込んでいた。
ξ;゚⊿゚)ξ「ちょっ――!」
lw´‐ _‐ノv「うわぁ大変だぁ」
ダメージの大半を落下と回転のエネルギーに変換し、ツンごと地面に急降下していくシュール。
2人分の体重に十分な速度と回転を加えた直線落下。もし下敷きになれば間違いなく重傷を負う。
ツンは暴れて逃げようとするが、シュールにとってはそれすらも予定調和に過ぎなかった。
.
440
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 21:54:08 ID:q9XV82ww0
ξ;゚⊿゚)ξ「このォ!」ブンッ
lw´‐ _‐ノv(これも軽率)
落下しながらツンの攻撃を逆手に取り、その腕を絡め取って関節技へと移行する。
シュールは瞬く間に彼女の腕を股に通し、背中に乗りあげてオモプラッタの形で極めに入った。
ξ; ⊿゚')ξ「んぎッ……!」
ぎち、と音を立ててあらぬ方向に圧し曲げられるツンの右腕。
関節技は相手の肉体に無理を言わせるもの。下手な対処は逆効果にしかなりえない。
唯一それだけは弁えていたツンは最低限の力で抵抗、破壊されないギリギリの所で態勢を維持した。
ξ; ⊿゚)ξ(だけど、これじゃ……!)
目まぐるしく回る視界、凄まじい速度で迫ってくる地面。
一瞬先に訪れる最悪の衝撃に、ツンは成す術なく目を塞ぐしかなかった。
関節技を極められた状態で人間の下敷きになればどうなるか――その想像さえ最早手遅れだった。
ξ; ⊿ )ξ
――全ての認知を追い抜いて、ばきゃ、という破裂が聞こえてきた。
その瞬間に五感は途絶え、瞬きした訳でもないのに視界が暗転する。
しかし鮮明な感触が暗闇の幕を開け、彼女の意識を強制的に現実に引きずり戻す。
彼女はそこで、現実の直視を余儀なくされた。
lw´‐ _‐ノv「すまんね」
ξ;゚⊿゚)ξ
ツンが正気を取り戻した時、彼女は既に地面に転がされていた。
シュールもとっくに背中を降りていて、少し離れたところからツンを眺めている。
先程までの不自由もなく、ツンの体は完全な自由を取り戻していた。
ただ一箇所、300度以上ねじ曲がった右腕を除いて。
.
441
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 21:58:12 ID:q9XV82ww0
ξ;゚⊿゚)ξ
ξ;゚⊿゚)ξ「……ぁ」
すべての顛末を理解すると、ツンは言葉を失って絶叫を上げた。
壊れた右腕を抱えて暴れ、大きな痛みを小さな痛みで誤魔化そうとする。
動かせないのに痛みと熱だけが収まらない。細長い芋虫の群れが血管の中を泳いでいる。
人生最大の苦痛がコンマ1秒ごとに更新されていく。耐えても叫んでもそれは止まらなかった。
lw´‐ _‐ノv(……物理は得意そうだったけど、この手の痛みは初めてだったのかな)
lw´‐ _‐ノv(捻挫とか断裂とか捻転とか脱臼とか一気にだもんな、ちょっとやり過ぎた……)
何をどうやっても逃げ場のない、とにかくひたすら痛いだけの時間。
峠を超えるのに1分。それから更に数分を要し、ツンはようやく叫びを途絶えさせた。
――痛みが収まったのではない。諦めがついたのだ。
この現実を薄めるには、彼女はそうして最後のプライドを捨てるしかなかった。
lw´‐ _‐ノv「次は左腕を狙う」
地面に伏したまま、痛みに対する反射のみでピクピクと蠢くツン。
彼女をじっと見下ろしながら、シュールは淡白にそう告げた。
w´‐ _‐ノv「ヒートに倒されてた方が楽だったと思うよ。
それと同じこと、残りの2人もやれるからね」
ξ; ⊿ )ξ
1から10までを経て打ち出される打撃に対し、固めた後の関節技は-1にポキッとやるだけ。
赤マフラーがあったとしても、知恵の輪のように密着する2人を解くには相当の精密さを求められる。
対応ひとつに多くの技量を必要とする組技に、今の彼女はまったくの無力だった。
.
442
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 22:01:29 ID:q9XV82ww0
lw´‐ _‐ノv(服を狙えば問題ないのはヒートの時に確認済み。
固めを解くような動作が出来ないのも割れてるし、マフラーはもう問題じゃない)
ξ; ⊿゚)ξ
lw´‐ _‐ノv(……でも、これで立つから厄介なんだよな、魔物は)
膝を震わせながら立ち上がってくるツンを認めて、シュールは半ば呆れたように頭を振った。
戦意喪失に足る痛みは与えた。この戦いを放棄する猶予も十分に与えた。
――それでもツンは立って見せ、戦意をしっかり残している。
であれば必然、戦闘を長引かせたくないという姉の意見にも得心がいった。
lw´‐ _‐ノv(あいつら、殺害禁止のルールで戦いを間延びさせようとしてるのか。
そりゃ体力勝負にした方が勝ち目あるか。小賢しい……)
lw´‐ _‐ノv(それにあの試験官、こっちが死にかけてても無視しそうだし。
かと言って、こっちが殺す気になったら絶対止めに来るし)
lw´‐ _‐ノv(私達に忖度させようって魂胆のルールなのね。分かりましたよっと)
lw´‐ _‐ノv(――だったらまぁ、急いで両手足バキバキにしないとな)
すっと体を沈めた直後、シュールは容赦なくツンに襲いかかった。
左腕、と宣言したけどやっぱり右腕を完全破壊しに向かう。
ξ; ⊿゚)ξ !
無音の急接近にツンは動じた。反応が鈍り、然るべき対応が頭からすっぽ抜ける。
シュールはそこに付け入り絶好の位置を陣取った。
反射的に突き出されたツンの手を払い除け、後ろに逃げた右腕に狙いを定める。
.
443
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 22:04:44 ID:q9XV82ww0
川;゚ -゚)「――ダメだシュール! 避けろ!」
lw;´‐ _‐ノv「むっ――!」
しかし瞬間呼び止められ、シュールは弾けるようにその場所から離脱した。
直後、彼女と入れ替わるように赤い軌跡が空を横切る。
シュールはそれを睨みながら遠間の岩場に着地。ツンを目視し、一時の安全を確保する。
lw;´‐ _‐ノv「……なんで止めたん」
川;゚ -゚)「マフラーが暴れてそっちに飛んでいったんだ。避けなきゃ直撃してたぞ」
隣に現れたクールが慌てた様子でシュールに答える。
それほどの緊急事態。ツンを含めたこの場の3人、誰も状況をよく分かっていなかった。
lw;´‐ _‐ノv「ああ、やっぱり動いたんだね」
川;゚ -゚)「気付いて止めに行ったんだが間に合わなかった。すまん」
lw;´‐ _‐ノv「いいよ。私も気ぃ抜いてたから……」
.
444
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 22:09:54 ID:q9XV82ww0
lw´‐ _‐ノv「……いやぁ、どうすっかな」
シュールは口元に手を当てながら精神を仕切り直した。
やっぱり4人でという考えが第一に浮かび上がるも、それはそれで大きな不都合があった。
――勝つだけだったらそれでいい。
だが、そこまでやったら本当に後に引けなくなる。
彼女個人の考えによると、それは極めて不本意な展開だった。
あくまでも一個人として、素直シュールはこの戦いが中途半端に終わることを望んでいたのだ。
今は魔王城ツンの温情に期待しつつ、適当にこの場を収めるのが得策だと彼女は考える。
川 ゚ -゚)「マフラー単体であの挙動、もはや2対2と考えるべきだな」
lw´‐ _‐ノv「参ったもんだよね。ヒーキューが居れば楽かもだけど」
川 ゚ -゚)「それはダメだ。勢い余って魔王城ツンを殺したらどうする。あの試験官に即殺されるぞ」
lw´‐ _‐ノv「なら脱出は? ここから逃げ出す当初の予定、もうかなり厳しそうだけど」
川 ゚ -゚)「……逃げたとしても最初に息切れするのはヒートだ。
そこで絶対に足並みが崩れる。4人で逃げ切れないなら、逃亡はありえない」
――ヒートの負傷は魔王城ツンの実力を計り損ねた私のせいだ。
素直クールは己を叱責しながら、それでも冷静に戦場を俯瞰していた。
ヒートには後で謝る。今は仇討ちなど考えない。
そう割り切って、長く息を吐く。
川 ゚ -゚)「……なあシュール。あいつら、試験が済んでも私達を生かすと思うか?」
lw´‐ _‐ノv「命乞いなら任せろー」バリバリ
シュールの軽い反応に、クールは仄かに微笑んで見せた。
.
445
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 22:11:55 ID:q9XV82ww0
≪3≫
. _ ∩
レヘヽ| | テテーン
(・x・)
c( uu}
ξ;゚⊿゚)ξ
突然シュールが消えたかと思えば、ツンの前には1匹のウサちゃんが現れていた。
しかもその口には赤マフラーをくわえており、かわいい。
. _ ∩
レヘヽ| |
(・x・)
”c( uu} ,,ノミ入
丿 ノ
´~~~
ξ;゚⊿゚)ξ「どうして……」
ウサちゃんは赤マフラーを置いて毛玉のような尻尾を振ったかわいい。
暴力表現から一転してSo Cute。感情の行き場を失ったツンはその場にぺたんと腰を落とした。
ξ;゚⊿゚)ξ
. _ ∩
レヘヽ| |
(・x・)
c( uu}
◎ ◎ ティウンティウンティウン
◎ ◎
◎ ◎
◎ ◎
◎ ◎ ◎
そしてウサちゃんは消滅した。
.
446
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 22:14:00 ID:q9XV82ww0
ξ;゚⊿゚)ξ「――……えっ?」
その時、ツンは右腕に違和感を覚えて我に返った。
確認すると彼女の右腕は元に戻っており、さっきまでの痛みも嘘のように消え去っていた。
ξ;゚⊿゚)ξ「……は?」
感覚が戻っている。軽く動かしても違和感はない。
ツンは呆気に取られて目を丸くした。幻覚でも見ているのかと、本気で自分を疑ってしまう。
目に映るのは『完治』という事実のみ。過程を飛ばしたその現象に、ツンの思考はまるで追いつかない。
ξ;゚⊿゚)ξ(……貞子さんが治してくれたとか?
でもまだ試験中よね? いったい何が……)
――と、そこまで考えて試験の事を思い出す。
ツンは縋る思いで赤マフラーを拾い上げ、素直四天王を探して周囲を見渡した。
ξ;゚⊿゚)ξ(そうよ! ぺたんこ座りしてる場合じゃないのだわ!)
岩場の上に敵影を見つける。ツンは即座に腰を上げた。
それが再開の合図となり、素直四天王の2人も岩場から降りて左右に散開していった。
猶予は数秒。ツンは急いでマフラーを巻き、先行してきたシュールに対して両拳を構えた。
.
447
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 22:18:13 ID:q9XV82ww0
lw´‐ _‐ノv(さて、またマフラー奪えりゃいいけど――)
シュールは囮を買って出たつもりで先陣を切っていた。
今のところ防具を着けているのは自分だけ。被弾があっても少しは軽く済む。
魔王城ツンが『魔物らしさ』に馴染みつつある現状、多少のリスクは覚悟の上だった。
ξ#゚⊿゚)ξ「――だあッ!!」
シュールを狙って直線的なパンチが迫る。
彼女は屈んでそれを避けると、赤マフラーを片手に巻き取ってさらに襟首へと――
lw;´‐ _‐ノv「!?」
襟首へと伸ばした手が、しかし届かない。
思いがけない齟齬に一瞬思考を止めるシュール。
次の瞬間、彼女の体は凄まじい力で上空に放り投げられていた。
川;゚ -゚)「シュール!!」
ξ;゚⊿゚)ξ「――えっ!?」
素直クールの声は背後から聞こえていた。
ツンは即座に踵を返したが、彼女もまた空に上がったシュールを見上げて足を止めていた。
lw;´‐ _‐ノv「こっちはいいから!!」
シュールは目算30メートルはあろう高度からクールに呼びかける。
今の一瞬でどうやってそこまで行ったのか、それを分かっていたのは当の本人だけだった。
lw;´‐ _‐ノv「マフラー!!」
川;゚ -゚)
ξ;゚⊿゚)ξ
だが、その一単語で情報共有は完了した。
ツンとクールは一瞬目を合わせ、直後に戦闘を再開した。
.
448
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 22:23:36 ID:q9XV82ww0
川#゚ -゚)「――六刀剣撃!」
鬼気迫る一歩を踏み込み疾風と化すクール。
刀は既に回収済みで、彼女の手中にしかと握られていた。
ξ;゚⊿゚)ξ「くッ!」ダッ
ツンは即刻その場から飛び退いた。
関節技でなくとも武器は天敵。誰と戦うにしても戦況は不利だ。
特にクールは複数種類の剣技を備えている。シュール以上に初見殺しが怖かった。
川#゚ -゚)「千手六花――」
ツンを追いかけ一刀六斬の軌跡が光る。
回避を早めにしたおかげで、ツンは余裕をもってその攻撃を避けることができた。
しかしクールは承知の上だと言わんばかりに更に踏み込み、流れるような連撃を後に続けた。
ξ;゚⊿゚)ξ(まだ来るの!?)
川#゚ -゚)「二の太刀ッ!」
ぐんと近づく彼女に威圧され、ツンは思わず足をもつれさせた。
転びかけ、致命的な隙が刹那に生まれる。
クールは正確に狙いを定め、ツンに向かって三の太刀を放った。
.
449
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 22:27:59 ID:q9XV82ww0
――赤マフラーの始動はその瞬間だった。
それはすぐさま刀を捌くと、布地の端を固めるや否や、突き上げるような打撃で反撃を行った。
クールの腹部を抉るような重量級の一撃。瞬間、彼女の足が地面から浮かび上がる。
川; -゚)「な、あ゙……ッ!?」
ξ#゚⊿゚)ξ「――!」
ツンは急いで姿勢を整え、無防備を晒すクールを全力で殴りつけた。
それと同時に真紅の魔力が爆風を帯びて弾け、彼女は一撃で場外へと弾き飛ばれていった。
大小無数の岩をブチ抜きながら荒野の向こうに吹っ飛んでいく素直クール。
ツンの拳には、びりびりとした手応えが返ってきていた。
ξ#゚⊿゚)ξ「……」
ξ;゚⊿゚)ξ「あっ」
やべ、と囁いて青ざめるツン。
どう見ても手加減をミスっている。練習通りにやったつもりがその数十倍は威力が出ている。
咄嗟だったからつい――しかしそれ以前の疑問が脳裏を過ぎり、彼女は慎重に考えを巡らせた。
.
450
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 22:32:55 ID:q9XV82ww0
ξ;゚⊿゚)ξ(咄嗟だったけど、このマフラーでも攻撃ができた。
怖いくらいに調子が上がってきてる。理由は分かんないけど……)
ξ;゚⊿゚)ξ(……もしかして、今ならもっと自由に動かせるの……?)
――そこまで考えた直後、爆発音にも似た地鳴りが周囲に響き渡った。
lw;´‐ _‐ノv「……っふう」
ξ;゚⊿゚)ξ(考えるより、今はこっちが先か……!)
音の方には大きな砂埃が立ち込めており、その中には素直シュールの姿があった。
数十メートルの落下から見事に着地。彼女はアイアンマンもかくやという姿勢で地面に膝をついていた。
しかしすぐには攻めてこない。ツンは様子を見られていた。
ξ゚⊿゚)ξ
lw´‐ _‐ノv
ξ#゚⊿゚)ξ「――その手はもう食わないのだわ!」ダッ
lw;´‐ _‐ノv(時間は稼げないか……!)
タイマン勝負は望む所。調子づいたツンはここで勝負を決めにいった。
距離を詰めては拳を引いて、片膝をつくシュールに容赦なく振り下ろす。
シュールはこれを上体をそらして避け、立ち上がりながらツンの懐に潜り込んだ。
lw;´‐ _‐ノv(ったく、殺していいならどんなに楽だったか――!)
苦悶の表情を浮かべつつ、シュールはツンの喉輪に手を伸ばした。
これはツン本人を狙う攻撃。当然のように赤マフラーに防がれたが、もはや構わなかった。
.
451
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 22:41:38 ID:q9XV82ww0
シュールは再度赤マフラーの一端を掴み、今度はそれをツンから奪おうとした。
これさえ取り上げれば戦況は覆る。かなり危険だがやるしかないと、彼女は秒で腹を括っていた。
lw;´‐ _‐ノv !
しかし思惑はすぐに裏切られた。
どれだけ力を込めて引っ張っても、赤マフラーがぴくりとも動かなかったのだ。
ξ;゚⊿゚)ξ
――主人である魔王城ツンの意思に従い、頑なに動かない。
lw;´ _‐ノv「こ、のォ……ッ!」
綱引きのように互いを引き合うシュールとマフラー。
力の均衡は次第にマフラーに傾き始め、逆にシュールの方が手を握り潰されていく。
こうなっては逃げる事も叶わない。ここで決着をつけるしかない。
シュールは軋むほどに歯を食いしばり、相打ち覚悟で近距離戦を受け入れた。
lw;´‐ _‐ノv(こうなりゃ取っ組み合いに持ち込んで――!)
ξ;゚⊿゚)ξ「――ああああああ!!」ガバッ
そんな覚悟を直感したのか、ツンは反射的にシュールに飛びついてた。
シュールの脇腹に首を通し、腰回りにがっちりと腕を回す。
lw;´‐ _‐ノv「なっ……!」
ξ;゚⊿゚)ξ(この人とは絶対まともに戦わない!! 絶対にだ!!)
この形なら双方互角。こうも密着していては小細工を挟む余地もない。
つまりはゴリ押し。魔物の耐久力に物を言わせた捨て身の作戦である。
.
452
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 22:44:37 ID:q9XV82ww0
lw;´‐ _‐ノv(まさかこいつ、マフラーを完全に操って――!?)
即死が見える致命的な間合い。シュールは必死で離脱を試みた。
空いた手足をがむしゃらに使い、ツンの背中や顔面をめちゃくちゃに殴打する。
それでもツンは拘束を解かなかった。単なる気合いでそれに耐えていた。
lw;´ _‐ノv「――んぐ、お゙……!」
技術皆無の素人ホールドでも相手は魔物。引き崩して寝技を仕掛けるような余裕も既にない。
五臓六腑がぎゅっと絞られ、肺の空気がどんどん口から飛び出していく。
そういえば装着していた縄鎧もこの攻撃にはなんら無力。刻一刻と、彼女の手足は力を失っていった。
lw;´ _‐ノv
lw;´ _‐ノv「背骨折れたら死ぬ。失格だよ」
進退窮まる彼女が最後に頼ったのは話術だった。
一瞬でもいい。人間的な理性を取り戻し、人間だからと躊躇してくれれば活路が開ける。
騙し討ちになろうが知った事ではない。今はとにかくこの窮地を脱しなければ――。
ξ;゚⊿゚)ξ
ξ;-⊿-)ξ
ξ;゚⊿゚)ξ「……貞子さんなら、すぐに治してくれるのだわ」
lw´‐ _‐ノv
lw;´‐ _‐ノv「あっ、はい」
.
453
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 22:46:30 ID:q9XV82ww0
ξ#゚⊿゚)ξ「――あ゙あ゙あ゙ッ!」
ツンは膂力を振り絞り、シュールを引っこ抜いて空に放り投げた。
先程のような高度はないが、それでも10メートル前後の高さには優に達している。
頭上に放った彼女を見据えて、ツンはぐぐっと拳を溜めた。
lw;´‐ _‐ノv(しめた! 放してくれりゃあ後はどうとでもなる!)
どんな形であれ自由は自由。
束縛を解かれたシュールはこの好機を手にすべく、眼下で待ち構えるツンを強く睨んだ。
こちらの落下を狙うならばタイミングを計るのは難しくない。反撃は後手、次は確実に四肢を破壊する。
lw´‐ _‐ノv「……?」
だが、数秒経って彼女は早合点を自覚した。
いつまで経っても落下が始まらない。それどころか、片手片足も自由に動かせなくなっていた。
まるで空に浮いているような感覚。しかし理由はすぐに分かった。
ξ# ⊿゚)ξ
このとき、シュールの手足は赤マフラーに捕らわれていた。
赤マフラーの両端が彼女を支える柱となり、空中に晒し上げたまま制止している。
束縛は解かれたのではない。より逃げ場の無い空中へと、単に場所を移しただけだった。
.
454
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 22:51:11 ID:q9XV82ww0
lw;´‐ _‐ノv「……あー」
直後、シュールは赤マフラーに引っ張られて垂直に落下した。
もちろん着地点には魔王城ツンが待ち構えている。逃げ場はなかった。
ツンは彼女の落下に合わせ、全身を使って右拳を突き上げた。
ξ# ⊿゚)ξ「――――ッ!!」
――閃光の如き真紅が矢風となって空を奔る。
次の瞬間、彼女の拳は芯を貫き、シュールの腹部に爆発的な衝撃を叩き込んでいた。
lw;´ _ ノv「……ごぷッ」
吐血と同時に爆散する轟音。地表に迸る赤の波動。
決定打の残響はシュールの心身を闇へと落とし、彼女はそれきり微動だにしなかった。
ξ#゚⊿゚)ξ
ξ#゚⊿゚)ξ「……うっし」
ずるり、とツンの拳から地面に転げ落ちていくシュール。
ツンはしばらく彼女を見つめ、呼吸の音を確かめ、程なくして戦いの決着を悟った。
ξ#゚⊿゚)ξ(加減はまた間違えたけど、死んでないならOKよね)
思った以上に赤マフラーの力が強く、慌ててタイミングを合わせたのでうっかり力んでしまった。
それでも生きてる辺りシュールも人外染みた耐久力だったが、ツンはとにかく相手を倒したのだ。
ξ゚⊿゚)ξ
ξ;゚⊿゚)ξ(――よし、よし! 初めてまともに勝った、気がする!)
自分の力で4人中3人に直撃を食らわせた事実。
ツンは特訓の成果を肌で感じ、大きな深呼吸と共に余韻を味わった。
.
455
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 22:53:18 ID:q9XV82ww0
≪4≫
ミセ*゚ー゚)リ「――お疲れさまでした、お嬢様」
やがて現れたのは素直四天王の残り1人ではなく、ミセリだった。
すこし気を抜いていたとはいえツンは彼女に気付けなかった。気配もなく、無音で背後を取られている。
ξ゚⊿゚)ξ
ξ;゚⊿゚)ξ「……あ、えっと」
ツンは振り返って話しかけたが言葉に詰まった。
平時と戦闘中の思考回路がこんがらがって、普通の会話が重度コミュ障のそれになる。
ミセ*゚ー゚)リ「試験終了ですよ。あとの1人は降参らしいので」
ξ;゚⊿゚)ξ「……ヒートは?」
ミセ*゚ー゚)リ「喋れはしますが戦えません。本人はやる気ですけど」
ξ;゚⊿゚)ξ「じゃあ素直クールは? ブッ飛ばしたままなんだけど……」
ミセ*゚ー゚)リ「あっちで伸びてますよ。叩き起こします?」
ξ;゚⊿゚)ξ「いやどす」
いつもの調子で受け応えると、ようやく思考が切り替わった。
ツンは安堵したように笑みを浮かべ、腰に手を当て、ぐったりと首を傾げた。
.
456
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 22:54:23 ID:q9XV82ww0
ξ;´⊿`)ξ「あーそう。終わったなら、それが一番なのだわ……」
ミセ*゚ー゚)リ「はい。あとはとどめを刺すのみです」
ミセリはそう言って素直シュールを一瞥した。
興味なさげな軽い口調に、ツンはとぼけて曖昧に返した。
ξ;´⊿`)ξ「あーうん。とどめね……」
ミセ*゚ー゚)リ
ξ;´⊿`)ξ
ミセ*゚ー゚)リ「やってください。殺すと書いてやると読む方を」
ξ;´⊿`)ξ「……マジ?」
ミセ*^ー^)リ「もちろんです! 生かしておく理由も無いですから!」
満面の笑みで言い切るミセリ。
だがその言外にはあからさまな意図があり、ツンは探るまでもなく彼女の本意を見抜いていた。
ξ;´⊿`)ξ(殺せって、これ絶対私が嫌がるの分かってるじゃん……)
ミセ*^ー^)リ ニコニコ
ξ;´⊿`)ξ(……素直に言うかちゃんと隠すか、どっちかにしてほしいのだわ)
.
457
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 22:56:38 ID:q9XV82ww0
ξ;-⊿-)ξ …ハァ
ξ;゚⊿゚)ξ「素直四天王を生かしておく理由なら、あるのだわ」
ミセ*´ー`)リ「えーそんなぁ! 殺しましょうよー!」
ミセリは猫撫で声にデタラメを乗せて言う。
呆れて調子が崩れるも、ツンは持ち直して台詞を続けた。
ξ;゚⊿゚)ξ「私が嫌なのよ。とっくに疲れてるし、冗談じゃないのだわ」
ミセ*´ー`)リ「でも私にも立場があって(ry」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ;´⊿`)ξ「……なんすか、じゃあ私がミセリさん倒せばいいんですか」
ミセ*´ー`)リ「そうなりますねぇ不本意ながら。ああーすこぶる不本意で困るしかし心を鬼にして(ry」
ツンの粗雑な口振りに、ミセリはまんまと乗っかってきた。
要するに彼女は手合わせを望んでいるのだ。殺し云々はただの口実である。
――従者としては歓喜の意味で、魔物としては歓迎の意味で。
試験突破のご褒美も兼ねて、ミセリはツンに『まだまだこれからだよ』といった激励を伝えたがっていた。
物理的に。ちゃんと言葉にした方が伝わるのにも関わらず。
ミセ;*゚ー゚)リ「はいどうぞ! 私にもお嬢様の成長を味わわせてください!」
ξ;゚⊿゚)ξ
ξ;´⊿`)ξ「うおおお〜……」
勝利の余韻をかなぐり捨ててミセリに立ち向かっていく殊勝なツンそして負けた。
ものの20秒で全部が終わり、ツンは目の前が真っ暗になった。
.
458
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 22:59:44 ID:q9XV82ww0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
(´・_ゝ・`)「起きろ〜〜〜〜い」
ξ;´⊿`)ξ「うう……理不尽な暴力が……」
数分後、そこには金髪ツインドリルを持ち手にされて振り回されるツンの姿があった。
ミセ;*゚ー゚)リ「ちょっと聞いてよ貞子! お嬢様ってば私と20秒も戦ってくれたのよ!?」
川; д川「……様々な齟齬にツッコミを入れたいとこだけど、一旦黙って」
ミセ;*゚ー゚)リ「前は5秒と続かなかったのに! 今日は1割は本気だったのに!」
川; д川「だから、大事な記憶を探ってるんだから待ちなさいってば……!」
貞子は溜息で話を区切り、集中を取り繕った。
魔力の燐光を纏う彼女の手は、気を失って地面に横たわる素直シュールに向けられていた。
記憶を読み取る魔術はこれでもかなり神経を使う。話しながら実行できるのは貞子くらいのものだった。
川д川「……うん。ハインの居場所は大体分かった」
ミセ*゚ー゚)リ「おお早い! さすがは魔導宮廷のインテリジェンスね」
川д川「はいはい。邪魔が無ければもう少し早かったわよ」
ラノベタイトルみたいな褒め言葉をさらりと受け流す貞子。
彼女は続けてハインに関する情報を話した。
川д川「あいつ、市外の山中で野営生活してるみたい。
でも正確な位置までは教えられてないわね。わざわざ仲介役まで使ってるし」
ミセ*゚ー゚)リ「……あの男にしてはやる事が半端じゃない?
逃げるなら逃げるで徹底的に逃げそうだけど」
川д川「だったら罠なんでしょうね。山に誘い込んで各個撃破、人間が考えそうな話よ」
ミセ;*゚ー゚)リ「え、それじゃあ素直四天王の役割って……」
川д川「捨て駒よ。自分の居場所をこの子達に教える意味、それしかないもの」
うわぁ陰湿、とミセリは鼻をつまんで目を細める。
.
459
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 23:01:37 ID:q9XV82ww0
川д川「とりあえずエクストには連絡を入れとく。
ミセリもあっちに合流してきて、明日の朝には全部終わらせといて」
ミセ*゚ー゚)リ
ミセ*゚ー゚)リ「山ごと焼いてもいいのよね?」
川д川「あのねミセリ、地上には犯罪という概念が――」
瞬間、2人は会話を切って同じ方向に目を見張った。
o川;*゚ー゚)o「……えっ?」
そこに居たのは素直キュートで、彼女は突然向けられた視線にひどく驚いている様子だった。
o川;*゚ー゚)o「……あの、えっと、今どんな感じですかね……?」
素直キュートはへりくだって尋ね、貞子とミセリの顔色をそれぞれ窺った。
彼女の質問には貞子が答えた。
川д川「こっちの用は終わったわ。治療なら順番にやってくから」
o川*゚ー゚)o「分かりました。なら向こうの2人も運んで来ますね」
どこか安心したように頬を緩め、キュートはくるりと身を翻した。
今朝の魔王軍襲撃から一貫して無傷の体。
この期に及んでなお万全を保つ彼女の背中を、ミセリはどこか口惜しそうに眺めていた。
ミセ*゚ー゚)リ「……今更だけど、全員本気でやらせた方がよかったかもね」
川д川「なに言ってるの。殺し合いなんかさせたらお嬢様に嫌われるわよ?」
ミセ*゚ー゚)リ
川; д川「……ちょっと」
ミセ*´ー`)リ「それじゃあ自分は現場に戻りますんで……」
貞子の追求をはぐらかし、ミセリは逃げるように去っていった。
.
460
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 23:03:46 ID:q9XV82ww0
(´・_ゝ・`)「いやぁ〜素直四天王は強敵でしたね」
面倒な話が済んだのを見計らい、盛岡はツンを持ったままこっそりと近づいてきた(図1)。
それを横目に捉えたまま、貞子は通信用の魔術を組み立てて方々に連絡を入れる。
ハインの居場所はこれで知れ渡った。魔王軍はすぐにでも彼を捕らえるだろう。
川д川「盛岡、あなたも仕事に戻りなさい。傷は十分癒えてるでしょうに」
(´・_ゝ・`)「俺はいつでも仕事中だよ。見たことないだろ? 俺がスーツ着てないとこ」
川д川「報酬に見合うだけの働きをしなさいって話よ。私の話し相手があなたの仕事?」
(´・_ゝ・`)「舞台裏が主戦場なもんで。振ってくれれば仕事はするからさ、勘弁して」
川д川「……だったらお嬢様をそこに寝かせて。素直四天王にも拘束を」
(´・_ゝ・`)「わぁい雑務だ〜」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
∧_∧
,-―――――(´・_ゝ・`)
《rcノー―――-、〉 ⌒ヽ
ξ ξ | ヽ \
(´⊿`) | l \ \
U U) l ヽ \ \
v-v l、 l レへ__)
/ | |
/ | |
/ | .|
( .| |
\.| |、_
l l )
__/ l| l
(___ノ_/
(図1:ツンを持ったままこっそりと近づいてきた盛岡)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
.
461
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 23:05:49 ID:q9XV82ww0
川д川(これは……)
デミタスが適当なところにツンを寝かせると、貞子はすぐに彼女の治療を開始した。
しかし、ひしゃげた右腕から四肢の端まで異常は見当たらず、貞子はすとんと拍子抜けした。
戦闘中に見受けられた謎の回復が効いたのだろう。以前までの負傷に比べれば、傷は浅かった。
川д川(いや、ていうかこれ殆どミセリの物理ダメージなんじゃ……)
貞子は自分を魔力を調整し、ツンの赤色の魔力に性質を寄せていった。
そうしてツンの手を握り、輸血の要領で彼女に魔力を分け与えていく。
(´・_ゝ・`)
(´・_ゝ・`)「なあ貞子、それが済んだら次はあいつを治してくれよ」
川д川「……その注文ってなにか意味ある?」
順に治すと言った通り、貞子は素直四天王を含めた全員に治療を施すつもりだった。
盛岡が視線を送っている素直シュールも例外ではないし、彼の注文は余計なものでしかなかった。
lw;´ _ ノv
(´・_ゝ・`)「大した話じゃない。ただちょっと財布の事を聞きたいだけだ」
盛岡はポケットから財布を出して答える。
(´・_ゝ・`)「ほら、俺って仁義を重んじるタイプだろ?
拾ってくれた手前、礼を欠くわけにもいかねえじゃん」
川д川「……分かったわよ。そうする」
彼の言動に思うところがあったのだろう。貞子はすんなりと注文を聞き入れた。
ハインの一件に火が点いたのも彼の働きがあってこそだ。敵対しない限り、行動を縛る理由もない。
川д川「なんでもいいけど、次は上手くやるのよ」
(´・_ゝ・`)
(´・_ゝ・`)「任せてくれって。俺は毎回そう思ってるから」
貞子からの思わせぶりな忠告。
盛岡は禁酒禁煙のプロのように軽口を返した。
.
462
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 23:15:51 ID:q9XV82ww0
#1
>>2-65
#2
>>74-117
#3
>>122-160
#4
>>169-212
#5-1
>>231-266
>>271-289
#5-2
>>294-324
#5-3
>>330-363
#5-4
>>371-416
#5-5
>>422-461
妖精円卓領域に時間を取られて少し遅れました 許されよ許されよ
次回投下は今月末で、その次は10月になると思います
463
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 23:36:34 ID:cJ6b8Bjg0
乙だす
464
:
名無しさん
:2021/08/11(水) 16:33:26 ID:EC906xQw0
大人たちの思惑がわからんねぇ
465
:
名無しさん
:2021/08/16(月) 14:38:21 ID:QQuh5jjc0
ツンちゃん成長してるー!
相変わらず面白い、乙です
466
:
名無しさん
:2021/08/22(日) 21:15:32 ID:xk5v7xNI0
乙!ツンちゃんが超真面目なバトルできるようになってて凄い
467
:
◆gFPbblEHlQ
:2021/08/30(月) 04:10:02 ID:je6Z08Ao0
≪1≫
朝霧漂う明朝4時。
素直四天王から引き出された情報のもと、魔王軍は一晩かけて対象を山の中腹へと追い込んでいた。
夜明けが先か決着が先か、それを決める自由さえもハインリッヒには残されていなかった。
<_プー゚)フ「観念しな。老いぼれにしちゃよくやったと思うぜ」
体躯の端々に雷鳴を纏う魔物、エクストプラズマンは満面の笑みで称賛を述べた。
バキバキの金髪に魔王軍規定軍服の襟を立てたそのビジュアル、紛うことなき厨二病の体現である。
<_プー゚)フ「人間の小細工ってのは存外おもしれえな。
いい経験をさせてもらった礼だ。殺さねえからもう諦めろよ」
从;゚∀从「……おいブーン。この程度でもう息切れか?」
(; ´ω`)「そ、そんなこと言われても……」
楽しげに微笑むエクストから数十メートル離れた木々の陰。
ハインとブーンはそこで肩を貸し合いながら、満身創痍の体を急ピッチで休めていた。
一夜を終えて万策を使い果たし、もはや正面切っての決着以外に活路を開けない窮地。
対魔物を熟知しているハインであっても、これを無傷でひっくり返すことはほぼ不可能だった。
彼らを追うのは魔王軍の選抜戦力。その頭数は百を超え、エクストの後ろに一人残らず健在のまま。
多勢による緩やかな圧倒、統率された数の暴力。
一切の予断なく自分達を包囲する魔王軍を相手に、ハインリッヒは最後の勝負を仕掛けようとしていた。
(; ´ω`)「おじいちゃん、これもう勝ち目ないと思うお……」
从;゚∀从「……だったら1人で逃げやがれ。俺は死んでもここを切り抜けるぞ」
(; ´ω`)「死んだら意味ないお。今まで仲良くできてたんだから一回落ち着いて……」
从;゚∀从「あーもーうっせえな! お前いつからそんな甘チョロになりやがった!?」
( ^ω^)
(^ω^)
.
468
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 04:13:02 ID:je6Z08Ao0
<_プー゚)フ「……投降してくる気配なし。決着がお望みか」スッ
聞こえるようにあえて声に出し、エクストは適当な方角に片手を突き出して見せた。
彼の雷撃をもろに受ければ、いかに鍛えた人間であってもそれだけで戦闘不能に陥ってしまう。
ただ何気なく片手を突き出しただけに見えようと、ハインは彼の煽動に乗らざるを得なかった。
从#゚∀从「――どこ見てやがる!」
<_プー゚)フ !
死角からの不意打ちを気取った瞬間、エクストは振り向きざまに片腕を振り上げていた。
ハインの刀をそれで受け止め、ようやくまともに攻め込んできた彼に歓喜の視線を投げかける。
<_#プー゚)フ(期待を裏切らねえ奴は好きだぜ――!)
もうやるしかないという予定調和の正面衝突。
エクストは心底嬉しそうに笑みを浮かべ、それと同時に魔力のボルテージを数倍に引き上げた。
<_プー゚)フ「――雷を落とす。避けろよ、現魔戦争の生き残り」
从;゚∀从「ブーン! 絶対にタイミング間違えんなよ!!」
噛み合わない会話の直後、朝霧を伝って周囲に雷鳴が炸裂する。
そして周囲の水分が一気に蒸発した瞬間、真白の閃光が2人の影を消し飛ばした。
.
469
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 04:17:38 ID:je6Z08Ao0
ミセ;*゚ー゚)リ「あーもーまた雷、もっと静かにやりなさいよ……」
一方その頃、遠く離れた山中から戦場を眺めていたミセリは巨大な閃光が山を呑むのを目視していた。
デカすぎる落雷の音に耳朶を打たれ、激しい耳鳴りに脳を貫かれる。
ミセリは押し潰すように両耳を塞ぎ、顔を歪めて戦場を見回した。
ミセ;*゚ー゚)リ「……はいはい、あそこに居ましたよ。
ハインリッヒは健在です。戦争経験者はやはり違いますね」
( <●><●>)「加減したのでしょう。彼はあれでも律儀ですから、殺すなと言えば命令は守ります」
ミセリの背後には燕尾服を着込んだ長身の魔物が佇んでいた。
異様に青白い肌と暗黒が渦巻く瞳。
振る舞いこそ丁寧でも、彼の風貌は間違いなく異形のそれだった。
ミセ*゚ー゚)リ「そうですかねえ。私には遊んでるように見えますけど」
( <●><●>)「成果が十分であれば過程はどうでも。
とは言っても、当初の予定を死ぬほどオーバーしているのも事実ですが」
――魔王軍総指揮官、異名を『魔眼のワカッテマス』。
今回彼は現魔王ロマネスクの特命を受け、魔王城ツンの試験相手として地上に来ていた。
話の流れでその任務は立ち消えたものの、もし実際に戦っていればツンに未来は無かった。
詰みポイントである。
.
470
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 04:28:07 ID:je6Z08Ao0
( <●><●>)「そういえば、そちらの試験はどうなりましたか」
暇潰しの雑談がてら、ワカッテマスが他愛なく話を切り出す。
そのときミセリは彼からの視線を強く感じ取り、背を向けたままぎゅっと肩を縮こめてしまった。
魔眼の、と称されるだけあって彼の双眸には稀有な能力が宿っている。
魔眼の射程は視界全域。その名実にも嘘はなく、宇宙からなら地球全体をも標的にできるほどだ。
とてもつよく、強い。
ミセ*゚ー゚)リ「……無事に終わりましたよ。お嬢様が勝ちました」
仲間相手に取る態度ではないと理解していても、死に直結する視線など本能が受け入れない。
恐怖や反骨心もなしに自然と体が反応してしまう辺り、さしものミセリもワカッテマスを格上と認めていた。
――それがワカッテマスという魔物の立ち位置。
そして、魔王が本気でツンを連れ戻そうとしている事の証左だった。
( <●><●>)「順調であれば何よりです。魔王様への土産話も心配なさそうですね」
ミセ*゚ー゚)リ「記録もあるので好きなように審査してください。
今のままでも最低限の実力はあると思いますよ」
ミセ*゚ー゚)リ
ミセ;*´ー`)リ「……だってのに、魔王様もやる事が極端なのよ。
話が変わったからいいものを、あんた相手じゃ今頃どうなってたか……」
彼の視線に狼狽えた自分を誤魔化そうとしてか、ミセリは口調を崩して小言を垂れ流した。
魔王軍において2人はほとんど同期であり、これくらいの不躾はユーモアの範疇だった。
同期にはまだ棺桶死オサムという魔物も居るのだが、彼の出番は最終章まで一切ない。
.
471
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 04:29:32 ID:je6Z08Ao0
ミセ*゚ー゚)リ「……あ、また動きが」
ミセリがそう言って顔を上げた直後、視線の先で凄まじい爆発が起こった。
真っ赤な火の手が空に立ち上り、黒い煙がすっごいモクモクしている。
だがエクストにしては規模が小さい。ハインが何かをしたのだと、ミセリはすぐに勘付いていた。
( <●><●>)「一杯食わされた、といった感じでしょうか」
黒煙がモクモクしている辺りに目を向けて、ワカッテマスは魔眼の力を行使した。
瞬間、爆発による火事のすべてが彼の瞬きひとつで一掃され、鎮火する。
やろうと思えばこれでハインを捕まえる事も可能だったが、本来の任務ではないので手柄は取らない。
( <●><●>)「あなたも向こうでハインの相手をしてきて下さい。
これ以上は時間の無駄です。エクストが遊びだす前に決着を」
ミセ*゚ー゚)リ「……ご自分で済ませた方が早いのでは?」
( <●><●>)
( <●><●>)「失礼ながら――今のあなたは少々肥えて見える。
動ける時に動いておきなさい。地上の暮らしは我々には緩慢すぎる」
ミセ;*´ー`)リ「うわぁ本当に失礼。ちょっと目潰ししていいですか」
( <●><●>)「御冗談を。昔ならまだしも、今のあなたでは――」
ミセ*゚ー゚)リ
ミセリは静かに振り返り、言葉を遮るようにワカッテマスの魔眼をじいっと見つめた。
彼も応えてミセリを見るが、彼女を煽ってしまった自分の非を認め、あっさりと魔眼を閉じて見せた。
( <─><─>)「ミセリ、任務を最優先でお願いします」
ミセ*゚ー゚)リ「……分かってますとも。行ってきます」
.
472
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 04:37:11 ID:je6Z08Ao0
――ハイン捕獲のために動員された魔王軍100名以上のうち、最終的に7名が戦闘不能。
ハイン、エクストプラズマン、ミセリ3名による大規模戦闘を支援した約20名が重軽傷を負って戦線離脱。
その後内藤ホライゾンが逃亡を図るも、ワカッテマスの助力もあって魔王軍は対象の捕獲に成功する。
内藤ホライゾンを気絶させ、強制的に激化能力を解くとハインの戦闘能力は著しく激減。
能力により復元されていた武器防具類と全盛期の肉体を失うが、彼は以降も変わりなく戦闘を続行した。
ツンの試験終了から半日以上が経過した翌朝8時。
ハインはすっかり力尽き、内藤ホライゾンと一緒にその身柄を拘束された。
.
473
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 04:38:50 ID:je6Z08Ao0
≪2≫
〜学校 放課後〜
ξ゚⊿゚)ξ「そこで私はやったったのよ」
ξ゚⊿゚)ξ「オラァ! はい、一発ダウン(笑)なのだわ」
「そうなんだ、すごいね!」
('A`)「……そろそろ帰ろうず」
ξ゚⊿゚)ξ「うるさいわねドクオ。魔王降誕の序章を語ってるんだから邪魔しないでよ」
('A`)「序章の自慢話だけで数日経ってまつが……」
試験が終わって数日後。かくして私は普段の生活に戻っていた。
いつも通りに学校に行き、まゆちゃん相手に試験結果を語り聞かせる毎日をエンジョイ中である。
ちなみに私は健康そのもの。心身ともに傷は癒えていた。でもやっぱり長期休暇がほしい。
('A`)「いいから今日は帰ろうって。用事もあんだから」
ξ゚⊿゚)ξ「なんだと私は魔王城だぞ。すこぶる失礼なドクオだな貴様」
('A`)「まゆちゃんもマジでごめんな。眼輪筋ピクピクさせるレベルでストレス溜めさせて」
馴れ馴れしくまゆちゃんを気にかけるドクオ。やめろ私の友達だぞ馴れ馴れしくするな。
しかしまゆちゃんが眼輪筋をピクピクさせてたのは本当で、心なしか笑顔も引きつって見えた。
「あはは、でも大丈夫だよ。3回目以降ほぼ聞いてないし」
ξ゚⊿゚)ξ !?
('A`)「驚くことじゃねえよ。普通3回も序章繰り返したら飽きるっての」
ξ;゚⊿゚)ξ「そんなありえない! 5回目からは神アレンジまで加えてたというのに……!」
(;'A`)「飽きてアレンジ加えてる辺りで罪を自覚しろって。むしろよく4周目まで駆け抜けたな」
ξ;´⊿`)ξ「次からは来場者特典(よく喋る!ツンちゃんミニカー)をプレゼント……」
(;'A`)「しょうもないとこで粘りづよい……」
.
474
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 04:39:48 ID:je6Z08Ao0
そんな感じで私の日常が普段通りになった一方、嬉しい誤算がひとつだけあった。
ξ゚⊿゚)ξ「今日は特別に試作段階のツンちゃんミニカーをプレゼント。
つ凸つ 全120種類+シークレット3種をがんばって揃えよう」
゚ ゚
(;'A`)「いやお前、そんな馬鹿げた生産能力を持った奴がどこに……」
(; ´ω`)「あの、ツンちゃんミニカーの納品に参りました……」ソロリ
つ凸と
゚ ゚
('A`)
ξ゚⊿゚)ξ「あ、それまゆちゃんに渡してあげて」
(; ´ω`)「はい……」
('A`)
('A`)「お前、まさかこんな苦行に激化能力を……?」
(; ´ω`)「いや普通に手作業」
('A`)「そっちのがキツいよ」
ξ゚⊿゚)ξ「いや〜人件費が安くて助かるのだわ」
どういう訳だか、魔王軍に捕まっていた内藤くんが突然の恩赦を受けたのである。
もしこれが試験突破のご褒美なら嬉しい限り。ミセリさんにボコられた甲斐もあるというものだ。
ξ゚⊿゚)ξ「それじゃあ私達は帰るのだわ。
まゆちゃんそれプイプイ鳴るからね。よろしくね」
「はい」
ξ゚⊿゚)ξ「えっ冷たい」
('A`)「モルカーのパチもんを押し売りするからだよ」
ξ゚⊿゚)ξ「そんな……」
終わりだ
.
475
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 04:40:35 ID:je6Z08Ao0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
かくして学校を出た私達はハインさんの屋敷に向かっていた。
なんか試験結果とか諸々教えてくれるらしい。さっき言ってた用事とはその事だった。
ξ゚⊿゚)ξ「えーどうしようインタビューとかされちゃったら。今ちくわしか持ってないのだわ」
('A`)「俺からは『いつかやると思ってました』って言ってやるよ」
( ^ω^)「昔から変な人でした。アニメもよく見てたし……」
ξ゚⊿゚)ξ「被告の古い知人は語る――じゃないのよ殴るわよ」
('A`)「だったら今日のメンツをよく考えろ。そして頼むから落ち着いてくれ……」
屋敷に着くなりチャイムを鳴らしてドカドカ侵入していく私達。
庭の方から話し声が聞こえてくる。そっちに行くと見知った顔が勢揃いしていた。
テテーン
川 ゚ -゚) ´‐ _‐ノパ⊿゚)*゚ー゚)o
ミ.三三)三三)三三)三三)
し_)_)_)_) _)_)_)_)
ξ゚⊿゚)ξ「素直四天王がギチギチに詰めて並べられている」
しかも処刑寸前といった風情で地面に座らされている。
生きた心地はしてないだろうな、と一目で伝わってくる悲痛さがすごかった。
.
476
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 04:45:23 ID:je6Z08Ao0
ミセ*゚ー゚)リ「まったく、遅いですよお嬢様」
ξ゚⊿゚)ξ「すまぬ」
ミセ*゚ー゚)リ「これで色々決まるんですからね。ちょっとは緊張してください」
( <●><●>) ジロッ
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ「アッ(蚊のような悲鳴)」
いつメンに加え、今日はミセリさんの後ろにヤバいのが控えていた。
私はすぐさま顔をそらした。死にたくないので急いで体裁を整えていく。
ミセ*゚ー゚)リ「彼については知ってますよね。魔眼の御方ですよ」
ξ;゚⊿゚)ξ「どどどどうしてあんな大物が!!!?!」
ミセ*゚ー゚)リ「ほんとは彼が試験相手だったんですよ。見たかったなぁ2人が戦ってるとこ……」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ; ⊿ )ξ(――戦っとったら死んどるんじゃい!!)
目ぢからヤバめの彼はワカッテマスさんという激ヤバ魔物だった。
魔王軍最上位の実力を備える例外戦力。なんかもうインフレの擬人化みたいな存在である。
私のパパとも親交があり、時には魔王の右腕として動くこともあったりするらしい。
とにかく間違いなく私より強く、試験なんかに駆り出していい人材ではないのである。
ξ;゚⊿゚)ξ「ごごごごきげんうるわしう」
( <●><●>)「はい、お久し振りです」
死物狂いで声をかけるとワカッテマスさんは遠巻きから会釈をしてくれた。
私も目を細めて辛うじて彼を見遣り、同じように会釈を返した。
彼の視界に入ってる時点でもうめちゃくちゃに危険である。生きた心地がしなさすぎる。
.
477
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 04:47:26 ID:je6Z08Ao0
__
( ̄ (´・_ゝ・`) ) 「いいからさぁー、揃ったんなら話を進めようぜ」
``ヽ /⌒ヽ,-、
ヽ__,,/⌒i__ノ バァーン
(_)
とぼけた野次に振り返ってみると、縁側に転がり死ぬほど寛いでいる盛岡と目が合った。
ワカッテマスさんの前であんな態度を取れる盛岡に逆に驚く。彼には心が無いのだと思った。
(´・_ゝ・`)「どうせ説明回だろ? 話は短く、内容はハッキリよろしくな」
川д川「だったら態度を直しなさい。あなたの立場はドクオと大差ないんだからね」
彼の傍らに立つ貞子さんが甲斐甲斐しく注意を挟む。
いいぞ貞子さんもっと正論を述べてくれ。一緒に常識が機能する世界を目指そう。
(´・_ゝ・`)「話を聞くだけなんだから横でいいだろ。縦がそんなに偉えのかよ」
お前はちょっと黙れ。
ミセ*゚ー゚)リ「……まぁとりあえず、最初に試験の結果を」
ξ゚⊿゚)ξ「うん」
ミセ*゚ー゚)リ「ワカッテマスさんの方から聞いといてください」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ;゚⊿゚)ξ「――えっ!? そこブン投げるの!?」
ミセ*゚ー゚)リ「2人で話したいそうですよ。我々はあっちで待ってますのでごゆっくり」
('A`)「ツン、骨は拾うから安心して逝ってこい」
( ^ω^)「きっと合格してるから大丈夫だお!」
ミセリさんがドクオ達を連れて縁側の方に引いていく。
それを見るなり貞子さんも身を引いてしまい、私はこの場で一番怖い存在との対峙を余儀なくされた。
川 ゚ -゚)(残された我々はなにを……)
ノパ⊿゚)(黙って待つしかないんじゃ……)
.
478
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 04:50:23 ID:je6Z08Ao0
( <●><●>)
ξ;゚⊿゚)ξ ヒェェ
噂に名高い彼の魔眼、その視界に収まっていると思うと足が竦んで仕方がなかった。
しかし先日の試験では一応勝利を収めたのだ。そう悪いことにはならない筈だ、と切実に願う。
( <●><●>)「試験の記録は見せてもらいました。
なんというか、随分と慌ただしい戦いをされていましたね」
ξ゚⊿゚)ξ「ごめんなさい」
私は即謝った。
――弱点を利用され、武器を奪われ、シュール戦に至っては完敗同然の一幕さえあった始末。
結果的には勝てたものの、私の右腕を治した例の謎回復が無ければ戦況は大きく違っていたはず。
かくして実力で勝ったとは到底言えないのだから、彼の皮肉染みた見立てにも文句は言えなかった。
あと単純にワカッテマスさんの機嫌を損ねたくなかった。
物理でちょこまかするしかない私ではどうあっても彼には逆らえない。
もし怒られたら本当に泣いてしまう。ここは誠実な対応に徹して切り抜けるしかないのだ。
( <●><●>)「では試験で使っていたマントを見せてもらえますか。少し興味があります」
ξ;゚⊿゚)ξ「……えっ、マフラーじゃなくて?」
( <●><●>)「あっちは別に。まだ未完成のようですし」
ξ゚⊿゚)ξ(渾身の赤マフラーなのにな……)ショボヌ
私はいそいそと魔力をこねてマントを作った。
緊張してかなり手間取ったが、また失敗してウサちゃんにならなかったのでよかった。
黒いマントを彼に差し出し、私はやや大袈裟に引き下がった。
ξ;゚⊿゚)ξ「あの、ダメ出しだったら優しい言葉でお願いします……」
( <●><●>)
ξ;´⊿`)ξ(……表情が無さすぎて怖い……)
.
479
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 04:52:52 ID:je6Z08Ao0
( <●><●>)「……これは、やはり制御装置ですか」バサッ
程なくすると、ワカッテマスさんはマントを広げながら自信げに呟いた。
これの仔細は魔物には分からないはずだが、彼の慧眼もまたすごいものだった。
現に一目で役割を見抜かれている。私はマントの仕様を少しだけ明かすことにした。
ξ;゚⊿゚)ξ「見ての通り、それは大して複雑なものではないのだわ。
魔力を編んで作っただけの、ほんとにただの黒いマントで……」
( <●><●>)「そうですね。年頃の魔物なら誰でも作れます。
しかし気になったのは用途と中の構造です。教えてもらえますか」
ξ;゚⊿゚)ξ「……えっと、それの構造は人間の知恵にすごく依存してるのだわ。
私もあんまり分かってないけど、なんとか力学とか色々……」
( <●><●>)
( <●><●>)「ハインリッヒに教えられたのでしょう。隠さず言いなさい」
ξ;゚⊿゚)ξ ヒェェ
人間風情に頼りおって的な原理主義に配慮して言葉を濁したのだが、思いっきり逆効果だった。
死にたくないので全部話そう。誠実にならねば。私はハインさんの受け売りを急いで語り始めた。
ξ;゚⊿゚)ξ「な、なんかそれ、風とかを上手に掴める構造らしいのよね。
ハインさんから聞いた話だと、それは舵とかブレーキみたいに使うとのことで……」
――かねてより、私のノーコンっぷりは致命的な問題であった。
しかしハインさんが教えてくれた『空気力学』の概念は、その問題をかなり改善に導いてくれたのだ。
制御装置という見立てもその通りだ。私にはない機能を持つもの、それがこのマントの正体だった。
.
480
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 04:55:35 ID:je6Z08Ao0
ξ゚⊿゚)ξ「揚力が〜抗力が〜ダウンフォースが〜」
つ と
ハインさん曰く、揚力とかを適切に利用すれば貧弱な人間でも強い力を制御できるらしい。
たとえば飛行機やフォーミュラカーといったものは魔物に匹敵するパワーを持つが、
人間は力学というものを広く活用し、そういう身に余るパワーを平然と使いこなして日々を過ごしている。
――私がハインさんから教わったのはまさしくその文脈。
力なき者がより強大な力を制御する術を、彼は私に『空気力学』という形で教えてくれたのである。
( <●><●>)
ξ;゚⊿゚)ξ(ちゃんと聞いてるなら相槌くらい欲しいのだわ……!!)
私はこのマントを操作することで空気力学の恩恵を受け、要するにスムーズに動けるようになった。
ちょっと力んでパンチを出しても、マントをいい感じに動かせば間接的に精度と威力を調整できる。
これに関する最大のネックは『マントを適切に動かし続ける』という部分だが、
マントの向きや形状を変えるだけで苦手な魔力制御をカバーできるなら安い買い物だ。
技術的には基礎の塊。習得コストに対するリターンは高効率と言うほかない。
――他力本願おおいに結構。楽して強くなれるなら何だっていい。
私は私の努力を見限り、多様な他力とつながることで自身の弱点を埋め合わせたのである。
ξ゚⊿゚)ξ「つまりそういうことです」
( <●><●>)「完全に理解しました」
そして今ので完全に理解してくれたらしい。
私もあんまり分かっていないので彼の理解力には心底感謝であった。
(´・_ゝ・`)「……なるほど、あのマントはいわゆるエアロパーツみたいな装備なのか。
根本的な力の強弱はさておき、全体の流れをまとめて最終的にバランスを取るという発想。
進化の為に火や雷といった強大なエネルギーと共存してきた人間ならではの考えだな」
盛岡の説明台詞がココイチで光る。
いいぞ盛岡、もっと輝け。
.
481
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 05:00:38 ID:je6Z08Ao0
( <●><●>)「彼らがこういった形で力を制御するのは知っていましたが、いや面白い。
あらゆる力と感覚的な付き合いをしている我々とは最初からアプローチが違う」
やや早口に言いながらワカッテマスさんがマントを返してくる。
私はそれを受け取って、今のくだりにほんのりとした手応えを感じていた。
ワカッテマスさんの反応が妙にオタクっぽく見えたからである。
でも面白いなら少しは顔色を変えてほしかった。冷静になるとやっぱり怖い。
ξ;゚⊿゚)ξ「か、鑑定やいかに」
( <●><●>)「……そうですね、ハインリッヒを生かす理由がひとつ増えました。
お嬢様の特訓に関しては真剣だったようですね。成果もあったと」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ;゚⊿゚)ξ(……生かす理由って、これ下手な対応してたらハインさん死んでた……?)
だが、裏を返せばハインさんはまだ生きているという事である。
思わぬタイミングで吉報が舞い込んできた。だったらここは勇気を出してもう少し立ち入ってみよう。
ワカッテマスさんへの恐怖を押し殺しつつ、私はさりげなく今の話題を掘り下げにかかった。
ξ;゚⊿゚)ξ「そういえばその、ハインさんって今どこに……?」
( <●><●>)「彼なら魔界に送りましたよ。逃げ出せないよう厳重に監視しています」
ξ゚⊿゚)ξ「ああ〜」
ああ〜もう魔界か。
ごめんハインさん、それは詰みです。
.
482
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 05:00:58 ID:je6Z08Ao0
( <●><●>)「さておき、試験の結果についてですが」
ξ;゚⊿゚)ξ「あっえっはい」
急に本題が出てきて驚く私。
居住まいを正し、必死の思いでワカッテマスさんの瞳を捉える。
( <●><●>)「……個人的には魔界にお戻りになるべきだと考えます。
ハインや勇者軍の事もあります。せめて半年、魔界に戻られてはいかがですか」
ξ;゚⊿゚)ξ
ξ;゚⊿゚)ξ「それは、個人的には、でしょう? 形式的にはどうだったのかしら」
死を覚悟して強めに聞き返すと、ワカッテマスさんは分かりやすく目をそらして返事を出し渋った。
だが数秒と続かない。彼は小さく息を吐き、調子を戻してから私に答えた。
( <●><●>)「もちろん合格ですよ。勝ったんですから、そこは絶対です」
ξ;゚⊿゚)ξ「……ほんとに?」
( <●><●>)「ほんとです。ハインの件が無ければ、なんて私が言うと思いますか?」
ξ;゚⊿゚)ξ
合格。
私の人生にほぼ存在しなかった2文字が明示され、肩の力がふっと抜け落ちる。
.
483
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 05:01:41 ID:je6Z08Ao0
( <●><●>)「――ですがお忘れなく。結果はどうあれ厳戒態勢は変わりません。
地上での暮らしはそのままでも、勇者軍の件が落ち着くまでは護衛を付けます」
( <●><●>)「今後ともじっくりと鍛錬に励んで下さい。
今のままでは赤点回避がやっとですから、思い上がらぬよう」
ξ;´⊿`)ξ「思い上がりね、それは重々分かっているのだわ……」
嬉しさのあまり限界になったかと思えば、今度は重苦しい疲労感がどっと湧き上がってきた。
みんなの期待を裏切らずに済んだのなら――という自己肯定感に欠けた喜びで熱が冷めていく。
とにかく試験は合格とのこと。それに関して彼が二言を付け足すことは無かった。
ξ;゚⊿゚)ξ「……あの、ちょっといいかしら」
( <●><●>)「はい。なにかご質問ですか」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚ー゚)ξ「……いえ、わざわざこっちに来てくれてありがとう。それだけ」
なので、私もあえて二言を述べるような真似はしなかった。
.
484
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 05:02:35 ID:je6Z08Ao0
≪3≫
ξ゚⊿゚)ξ「勝ったわ」
('A`)「嘘乙。もうちょい笑えるの頼むわ」
ξ゚⊿゚)ξ
('A`)
ξ゚⊿゚)ξ
γ/ γ⌒ヽ (゚A゚;) ヴェッ…
/ | 、 イ(⌒ ⌒ヽ
.l | l } )ヽ 、_、_, \ \
{ | l、 ´⌒ヽ-'巛( / /
.\ | T ''' ――‐‐'^ (、_ノ
.| | / // /
ミセ;*゚ー゚)リ「――お嬢様、マジでもう本当におめでとうございます!!」
ミセ;*´ー`)リ「一時は私の教育方針が間違っているのかと己を疑う日もありましたが(ry」
試験の結果を報告してみて、一番必死で喜んでくれたのはミセリさんだった。
手のかかる魔王城ツンで申し訳ない。もうゴールしていいよね……。
ミセ*゚ー゚)リ「やはり強靭な肉体こそが正義! 今後ともよろしくお願いします!」
ξ゚⊿゚)ξ「ありがとう。でも今後のトレーニングは自分で考えるから大丈夫なのだわ」
ミセ*゚ー゚)リ
ミセ;*゚ー゚)リ「は、反抗期をば……!?」
ξ゚⊿゚)ξ「窓ガラスを割って回るなどしたい」
.
485
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 05:03:19 ID:je6Z08Ao0
(´・_ゝ・`)「あーはいはいおめでとう。俺は最初から信じてたよ」ペチペチペチペチ
相変わらず縁側で寝てる盛岡が心にもない称賛を送ってくる。
ぺちぺちぺちぺちと適当に太ももを叩いて拍手してるのがシンプルに腹立たしい。
おててとおててを合わせるくらいやってほしかった。
(´・_ゝ・`)「よーしどんどん話を進めておくれ。次は素直四天王の処遇についてか?」
川; д川「……帰りにケーキ買っていきましょうね、お嬢様」
話を急かす盛岡を横目に見つつ、申し訳程度に断りを入れてから貞子さんが前に出てくる。
そういえば居たな素直四天王。一場面にキャラが集中すると話題が渋滞して困る。
川д川「彼女達なんですけど、盛岡の進言でこっちに引き込もうという流れになっています。
利用価値は色々あると思いますが、どうされますか?」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ「え、別にいらないけど」
川д川「なら処刑ですが」
ξ゚⊿゚)ξ「2択が極端なんな」
(´・_ゝ・`)(即答すんのもどうなんだよ)
.
486
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 05:05:27 ID:je6Z08Ao0
(´・_ゝ・`)「なんだよなんだよ、俺がポケットマネーで雇う分には構わないだろ?
女友達を一気に4人。しかも仕事の付き合いだ、お前が気負う必要はない」
ξ;゚⊿゚)ξ「友達を金でって……バカじゃないの!?
あのね、友情ってのはお金じゃ買えないものなのよ!?」
人の心をなんだと思っているんだ。
私は盛岡を叱責した。
(´・_ゝ・`)
(´・_ゝ・`)「ところでお前、俺がやった財布はどうしたんだ?」
ξ゚⊿゚)ξ「えっ」
なぜ今その話題が出てくるのだ。
嫌なタイミングで重箱の隅をつつく盛岡はやはり陰湿だと思った。
(´・_ゝ・`)「どうなんだよ」
ξ;゚⊿゚)ξ「……カ、カラオケで落としました」
嘘をついても仕方がないと思い、私は正直に白状した。
彼に対して誠実になる必要はないのだが、事が事だけにやむをえない。
(´・_ゝ・`)「本当にか? 奪われたとか、なんか取り引きがあったとかじゃなく?」
ξ;゚⊿゚)ξ「はい」
(´・_ゝ・`)「普通に? なんの捻りもなく?」
ξ;´⊿`)ξ
(´・_ゝ・`)
冷たい視線に重い無言。
あれだけ口達者な盛岡が今までになく言葉を失っていて、流石に私も負い目を感じてきた。
(´・_ゝ・`)「……で、その財布をたまたま素直四天王に拾われたと」
ξ゚⊿゚)ξ「えっそうなの」
(´・_ゝ・`)「そうだよ」
そうらしかった。
.
487
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 05:07:44 ID:je6Z08Ao0
(´・_ゝ・`)「そんで財布の中身だが、もちろん素直四天王が綺麗に使い切ってた。
口座も含めりゃ1000万以上はあったと思うが、さて、これはどういう意味だろうな?」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ「うーんとね、わかんない」
(´・_ゝ・`)「お前にお小遣いをやるのはいいんだよ。日本円なんて魔物には大して価値ないしな。
うちの議会もそれくらいの予算は下ろしてくれてる。財布を落としたのも別にいい」
(´・_ゝ・`)「でもな、『財布を落としました、それが敵の軍資金になりました』ってのは問題になる。
分かるか? こんな間抜けな話はな、やろうと思えばいくらでも枝葉が付くんだよ」
ξ゚⊿゚)ξ「わかんないて」
(´・_ゝ・`)
(´^_ゝ^`)「あ〜あ! 用途不明の1000万円を上にどうやって説明しようかな!
素直四天王を雇った事にすれば誤魔化せるけど、それが無理ならどうしようかな!」
(´^_ゝ^`)「財布を落とした、それをたまたま敵に拾われたなんて信じてもらえるのカナ!?
むしろ敵との癒着を疑われて立場が悪くなりそう! 議会にも色んな派閥があるしなぁ!」
(´^_ゝ^`)「どうにか埋め合わせないと政治的に面倒そうだけどいいのかなぁ!
まぁ俺が揉み消せばいいんだけど、頼まれてもない不正で手を汚すのは嫌だなぁ!」
ξ゚⊿゚)ξワカラヌ
(´・_ゝ・`)
(´・_ゝ・`)「俺が敵になるかも」
ξ;゚⊿゚)ξ「――昨日の敵は今日の友、素直四天王とは今からズッ友です!!!!」
(´^_ゝ^`)「う〜〜〜ん大変よろしい! それしか聞きたくなかった!」
友情とか金とかさ、そういう話じゃないんだよな。
人間関係っていうのはもっとこう、もっとなんか手遅れになってから良し悪しが分かるんだよな。
始まんなきゃ何も分からない。最初から他人を取捨しようだなんて最低の発想だ。
たとえ傷つくことになっても構わない。私はずっとそうしてきたのだ。本当である。
.
488
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 05:10:37 ID:je6Z08Ao0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
盛岡のゴリ押しに負けた後、私は貞子さんに呼び寄せられて小声で話しかけられていた。
川д川「実のところ、最初に彼女達を庇ったのは盛岡なんですよ」ヒソヒソ
ξ゚⊿゚)ξ「えーそれは嘘でしょw」
川д川「さっきのゴタゴタも最初は言ってませんでしたし、間違いなく何かあります」
貞子さんの話によると、なんとあの盛岡が率先して人間を庇ったというのである。
日和見主義者のコウモリ野郎が人間に化けたのが盛岡だろうに、正味信じられない話だった。
というか、こっちの話を疑われても貞子さんに記憶を見てもらえば一発で解消できるではないか。
さっきは彼に気圧されたが、そもそも貞子さんが居れば大抵の問題は何とかなるのだ。
他にも女衒として素直四天王を売り飛ばすなどできるはずだし、さっきの一幕はどうにも杜撰である。
何かあると言われると、まぁ確かに何かあるんだろうなと思わなくもなかった。
川д川「別にこっちも処刑とかするつもりはなかったんですよ。
それでも一応記憶の消去をと思ってたところ、そうする前に食い気味に止められて」
ξ;゚⊿゚)ξ「なんぞそれ……やっぱ議会絡み?」
川д川「可能性は高いです。少なくとも彼には別の目的があると思うべきでしょう。
彼は試験突破のサポートとして来てる訳ですから、それが済んだ今何をするのか……」
ξ;´⊿`)ξ「……言いたいことは分かったのだわ。
みんなの立場も分かってるから、私は何も言わないのだわ」
川д川「はい。ご迷惑にならない範囲で動いてみます」
魔王軍政治戦略議会の盛岡。魔導宮廷所属の貞子さん。魔王の右腕であるワカッテマスさん。
ミセリさんはまた別としても、私の周りには実に多様な立場と考えがある。
ドクオにしたって龍族の掟には従っているし、私にだって個人的な思いがある。
ξ;´⊿`)ξ
この多様性に対して繊細な立ち回りを求められる感じ、魔界に居た頃のストレスが甦るようだった。
.
489
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 05:13:17 ID:je6Z08Ao0
≡┌( ^ω^)┘「ツーーーーン!!!」ドテドテ
ξ゚⊿゚)ξ「ええいあデブが突っ込んできた」
そのとき内藤くんが突然私達のところに飛び込んできた。
呼び捨てを許す仲でもない筈だが、ここ最近の彼の人懐っこい雰囲気はやけに子供っぽい。
恐らくハインさんが捕まったせいで気が触れたのだろう。そっとしておこう。
川д川
ξ゚⊿゚)ξ”
お気をつけて、と視線を送ってくる貞子さんに軽く頷いて応える。
ひとまず面倒事は後回しにして、私は内藤くんにツッコミを入れることにした。
ξ゚⊿゚)ξ「内藤くん、ぶつかり稽古なら柱にやった方がいいと思うのだわ」
(; ^ω^)「全然違うお! 確かにツンは柱みたいな体型してるけどそんな失礼な真似はしないお!」
ξ゚⊿゚)ξ「体型でイジった私が悪かった。私にだって曲線はあるぞ」
( ^ω^)「マジで!? 触らせてほしいお!」
急にスケベだなお前。
.
490
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 05:15:43 ID:je6Z08Ao0
ヘ(* ^ω^)ノ「とにかく試験合格おめでとうだお!
早速どっか遊びに行こうお! 祝勝会とかやりたいお!」
ξ;゚⊿゚)ξ「ええ〜そんな急な……」
ミセ*゚ー゚)リ「別にいいですよ。今日は私も付き合いますから」
('A`)「意向を無視して付き合わされる俺も居るぞ」
ξ;゚⊿゚)ξ
ξ;´⊿`)ξ「ええ〜……」
いつメンがぞろぞろと出揃ってきてなんかもうわちゃわちゃ感がすごい。
だが私が気後れするのも仕方がなかった。今の私はどちらかというと疲れているのだ。
今日まで溜め込んできた疲労がどっと溢れてきた感じで体が重い。
このプレッシャーが半端に残った感じの胃もたれ、1回自分で整理しないと絶対に片付かない。
要するに1人になりたい。帰って寝たい。今の私は帰って寝たいマンだった。
ミセ*゚ー゚)リ「だったら今日は健康ランドにでも行きます? 各自適当に過ごす感じで」
ξ;´⊿`)ξ「健康ランドって、なにその絶妙に惹かれる提案は……」
とは思うが、なまじ善意が相手なので「行かなくてよくねえか?」とは少し言いにくい。
ああ〜流される。もうこれ流れで行くんだろうなと諦めのように悟ってしまう。
でも健康ランドならいいかという気持ちもちょっとあった。健康ランドだしな。
ミセ*゚ー゚)リ「貞子、あっちの素直ズも連れてくけどいいわよね?」
川д川「大丈夫よ。変なことしたら内蔵全部爆発して死ぬよう制約掛けてるから」
川 ゚ -゚)「――えっ?」
川;゚ -゚)「おい待て貴様! 今なにか物騒なことを言ったな!?」
ノハ;゚⊿゚)「やめとけねーちゃん! 逆らったらここで爆破されちまうよ!」
o川*゚-゚)o「……健康ランドって何?」
lw´‐ _‐ノv「お風呂屋さん。エロくない方の」
インフォームドコンセントの欠如を感じる。
.
491
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 05:16:15 ID:je6Z08Ao0
ミセ*゚ー゚)リ「お嬢様もそれでいいですか?」
ξ゚⊿゚)ξ「いいよ」
⊂( ^ω^)「よーし! それじゃあみんなで健康ランドだお!」
( と)
/ >
かくしてみんなで健康ランドに行った。
素直四天王とも裸の付き合いを経てそれなりに仲良くなった。
まゆちゃんも誘えばよかったなぁ。
.
492
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 05:17:20 ID:je6Z08Ao0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
(´・_ゝ・`)「お前、けっきょく最後まで言わなかったな」
川д川「……どれを?」
ツンちゃん御一行が去った後、残された2人は短く言葉を交わしていた。
ハインの屋敷は貞子によって十分な結界が施されている。
ここで何を話そうと、秘密が外に漏れる事はなかった。
(´・_ゝ・`)「妖刀首絶ちの洗脳についてだよ。
自分があの刀の影響を受けてたって話、あいつ知らないだろ?」
川д川「……知らなくていいでしょ。教えたところで話が拗れるだけよ」
(´・_ゝ・`)「内藤ホライゾンや毛利まゆについても同じか?
従者のくせして不誠実な対処をするんだな。おお怖い」
川д川「余計な情報はシャットアウトする。世話役としては当然の仕事」
(´・_ゝ・`)「よく言うぜ、恣意的な情報操作だろうが。俺の仕事と大差ねえぞ」
ハインリッヒを捕らえてすぐ、貞子はハインの記憶を探って一連の情報を抜き出していた。
彼の来歴と目的、妖刀によって洗脳を施した対象などはとっくに確認済み。
しかしそれらの情報は魔王城ツンには一切伝わっておらず、つまり完全にハブられていた。
ツンが必要以上に人間に肩入れしていた訳。
内藤ホライゾンのキャラがいまいち安定しなかった理由。
一般人の毛利まゆがハインの手駒に使われていた事実。
妖刀云々を話してしまえば以上の事柄が一挙に片付くのだが、貞子はあくまでそれを隠した。
彼女は、魔王城ツンに行動の動機を与えたくなかったのだ。
(´・_ゝ・`)「――ま、もう手遅れだと思うけどな」
そんな彼女の思惑を知ってか知らずか、盛岡はまた主語曖昧な台詞を空に投げた。
貞子は彼を一瞥し、事務的に言い返す。
.
493
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 05:19:23 ID:je6Z08Ao0
川д川「妖刀の影響が特に強かった彼にも即死レベルの制約は課してあるわよ。
怪しい動きをしたら大量の魔力が体に流れ込んで木っ端微塵。血の一滴も残らない」
(´・_ゝ・`)「で、内藤ホライゾンの記憶は見たのか? どうだったよ」
盛岡は食い気味に追及した。
川д川「それも異常なし。汚れ仕事に巻き込まれてて同情したくらい」
(´・_ゝ・`)「行動に一貫性はあったか? 全部の行動、ハインを理由に説明できるか?」
川; д川「……概ねそうだと思うけど妙に食いつくわね。今度は情報収集が仕事なの?」
(´・_ゝ・`)
(;´-_ゝ-`)
彼は項垂れ、己を戒めるように強く口をつぐんだ。
数秒を経て、彼はすぐ元に戻った。
(´・_ゝ・`)「まぁそんなとこ。素直四天王を引き込んだのも手遅れに対する備えだよ」
(´・_ゝ・`)「勇者軍には居場所がバレてる訳だしな。いつ行動を起こされたって不思議じゃない。
ツンを名指しで『あいつは魔物です』って喧伝される可能性もゼロとは言えないだろ?」
川д川「そうなったら魔界に連れ帰るだけよ。仕方なくね」
(´・_ゝ・`)「……へえ、そおなんだぁ」
勇者軍を放置していれば遠からずツンの日常は崩壊する。
そんな分かりきっている未来に対し、彼女は対策もせず『仕方なく』で済ませようとしている。
盛岡は、貞子という一個人の狙いはそこにあるのだと推察した。
( <●><●>)
(´・_ゝ・`)
そして次に、ここまですっかり存在感を消していたワカッテマスに一瞥を送る。
魔王の意向に従う彼は 『魔王城ツンを魔界に連れ帰りたい』 と明け透けに明言していた。
敵への対処に集中するべく、せめて一時でもツンを盤外に移したいというのが現場の本心なのだろう。
貞子はツンの味方だが、敵の侵攻を危惧してその考えに同調したとしても不思議ではない。
合理的な判断だ。それが彼女の役割なのだろうと、盛岡は暗に事情を悟っていた。
.
494
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 05:20:55 ID:je6Z08Ao0
(´・_ゝ・`)(……かといって、貞子の魔術は万能じゃあない。
俺の記憶を読みきれてないのがいい証拠だ。内藤ホライゾンも要注意のままか)
(´・_ゝ・`)(ここまで話が拗れるならいっそ全部見抜いてくれた方が早いんだけどな。
そうなりゃ俺も清々しく元の予定に戻れるものを……)
狂いまくった予定を惜しみながら、盛岡は先日見つけた手掛かりの事を思い返した。
巡り巡って自分のもとに帰ってきたエルメスの長財布、その中にあった他愛のないメモ。
彼はメモの内容を頭に浮かべ、今後の身の振り方をどうするべきか考え始めた。
(´・_ゝ・`)(メモに書かれていた文言はひとつ、『誰も死なせるな』)
(´・_ゝ・`)(……どこにあんだよ、そんなルート)
孤立無援、ヒント皆無での一発勝負を強いられる盛岡デミタス。
行き先不明の片道切符は、彼を鈍行列車に乗せて次の舞台へと送り出していた。
.
495
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 05:22:53 ID:je6Z08Ao0
≪4≫
〜健康ランド〜
ξ゚⊿゚)ξ「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙」
マッサージチェアに全身の筋肉をめちゃくちゃにほぐされ始め、30分が経過していた。
諸々の経過を省いて言うと、今の私は健康ランドの女と言っても差し支えない有り様だった。
気持ちいいのは当たり前。甘い快楽の中でくつくつと煮え続ける喜びは決して私を逃さない。
これが終わったら次は足のマッサージをしてもらおう。それも済んだら次はメシを食おう。
ミセ;*゚ー゚)リ「お嬢様、流石にそろそろ帰りませんと……」
ξ゚⊿゚)ξ「もういいの。私はここで怠惰を貪るのよ」
こちらの健康ランドはなんと24時間営業である。
しかもエロくない方のエステとか仮眠スペースとか色々あって従業員の態度もよい。帰りたくない。
ミセ;*゚ー゚)リ「ダメですって! 明日の学校はどうなさるんですか!?」
ξ゚⊿゚)ξ「1日くらいサボっても大丈夫なのだわ」
ミセ;*゚ー゚)リ「ダメだ、快楽に弱すぎる……」
ゆるゆるモードに火を点けたのはミセリさんなのだ、私は悪くない。
もうこのまま健康ランド巡りに人生を費やすのも吝かではないな。いつか魔界にもテルマエを作ろう。
.
496
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 05:26:32 ID:je6Z08Ao0
川;゚ -゚)「……あの、我々はもう帰っていいだろうか。
というか私以外は先に帰らせたんだが……」
そんな折、低頭平身でやってきた素直クールがミセリさんに声をかけてきた。
帰り支度も済んでいるのか、彼女は既にコスプレ用学生バッグを小脇に抱えていた。
夜はまだまだこれからだというのに何という体たらくだ。寂しいからもっと居てほしい。
ミセ;*゚ー゚)リ「あーうん、いいわよ全然。日付も変わっちゃってるしね」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ;゚⊿゚)ξ「え待って、日付が!?」
ミセ;*゚ー゚)リ「いやもうクソ夜中ですって! だから何度も帰りましょうって!」
時計を見ると時刻は深夜3時。名実ともにクソ夜中だった。
仮眠スペースに行ったきりドクオと内藤くんが帰ってこないのはそういう理屈だったか。
あいつら私を放ってガチ寝してやがるな。
ξ;゚⊿゚)ξ「えー帰んないでよクーちゃん! 爛れた恋バナとかないの!?」
川;゚ -゚)「こっちにも都合があるんだよ。あとクーちゃん呼びはやめてくれ距離感が狂う」
クールは腰に手を当てて黒髪をなびかせた。
相変わらずのコスプレ制服姿、しかし風呂上がりだと妙に色っぽく見える。
この人と裸の付き合いをしたのか。男子中学生基準の感動がぐっと込み上げてくるな。
ミセ;*゚ー゚)リ「ほらほらお嬢様も帰りますよ! 荷物取ってきますから、はい、ロッカーの鍵!」
ξ;´⊿`)ξ「ウグゥー! とんだ失楽園なのだわ……」
クソ深夜だしみんなお開きムードだし、私も諦めてミセリさんにロッカーの鍵を明け渡した。
それを受け取るやいなや、彼女は瞬時に踵を返してロッカーの方へと駆けていった。
あと数分もしたらマッサージチェアともお別れである。とてもつらい。
.
497
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 05:28:37 ID:je6Z08Ao0
ξ;゚⊿゚)ξ「あ゙あ゙あ゙帰りたくないのだわ……」
川;゚ -゚)「散々エンジョイしただろうが。お前けっこう貧乏性だな……」
素直四天王の長女らしく小言を並べる素直クール。
私はそれを真摯に受け止め、強い決意をもってマッサージチェアを脱出した。
ξ;゚⊿゚)ξ「あ゙あ゙あ゙でも帰りたくない!!」
川 ゚ -゚)「ああそう。じゃあ私は帰るから。また明日、朝一番で顔を合わせよう」
クールはそう言ってバッグをまさぐり、中からビー玉付きのストラップを取り出した。
そのビー玉は、彼女と初めて戦った時にも見かけた謎アイテムにそっくりだった。
ξ゚⊿゚)ξ「……ねぇそれ、周囲に結界を張るヤツ?」
私は少し警戒して彼女に尋ねた。
裸を見せあった手前こんなに早く裏切るとは思えないが、とりあえずシリアスぶってみる。
川 ゚ -゚)「勘違いするな。これはまた別のヤツだ。
移動用のアイテムというか、こいつを割ると瞬間移動できるんだよ」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ「なんでそんなもん人間ごときが……」
想像してない答えがきて、私はまたしても人間見下しムーブを漏らしてしまった。
結界とか瞬間移動とか、私にもできないスゴ技をビー玉なんかで実現しないでほしかった。
ワザップか、ワザップで調べればいいのか。
.
498
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 05:30:16 ID:je6Z08Ao0
ξ;-⊿゚)ξ「……そのビー玉、貞子さんに渡したらすごい喜ぶと思うわよ。
私が言っても説得力無いけど、魔術的には絶対に一級品だし……」
川 ゚ -゚)「そうでもないって。これの移動先は一箇所だけだし、大して便利じゃないぞ」
彼女はビー玉をつまみ指先で転がして見せた。
あれを割ったら一瞬でテレポートできるのだろうか。便利の基準が違いすぎて吐きそうだった。
川 ゚ -゚)「まぁ媚びを売る必要が出てきたら考えるよ。じゃあまたな」
ξ゚⊿゚)ξ「うむ」
彼女はそのまま指先に力を入れ、パキ、と音を立ててビー玉を砕いた。
それと同時にビー玉から溢れ出す異様な魔力。
彼女の姿はすぐさまその魔力に取り囲まれ、一瞬にして私の視界から消え――
.
499
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 05:34:28 ID:je6Z08Ao0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ミセ*゚ー゚)リ「お嬢様〜、支度が済みましたよ〜」
( ´ω`)「んお……眠いお……」スピスピ
(;'A`)「起きろ内藤。帰んねえと」
数分経って支度を終えると、ミセリは仮眠スペースに居たドクオ達を連れてツンのもとに戻ってきた。
しかしツンが座っていたマッサージチェアはもぬけの殻で、目の届く範囲にも彼女の姿はなかった。
ミセ*゚ー゚)リ
ミセ*゚ー゚)リ「ドクオ、今すぐお嬢様を探すわよ」
('A`)「――ちょいミセリさん、あれ」
2人はほぼ同時に言い、それぞれが発見した緊急事態に表情を曇らせていた。
ツンを最優先とするミセリはドクオを無視して話を進めようとしたが、
( ^ω^)「……勇者軍」
内藤ホライゾンの無視できぬ独り言が聞こえ、ミセリは咄嗟に彼らの視線を後追いした。
ミセ;*゚ー゚)リ「……ちょっと、これって」
そうして彼女は壁際の大型テレビに目を奪われ、その直後、アナウンサーの語りに耳を疑った。
.
500
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 05:35:23 ID:je6Z08Ao0
|~二二二二二二二~| 『――繰り返します。臨時ニュースです』
| | | |
| | | | 『特例外来生物、通称魔物の現存が都内で確認されました』
| | | |
|_二二二二二二二 ,,| 『これを受け、政府は先ほど当該地域への自衛隊派遣を閣議決定しました』
|二二二二二二二二|
| [::=====:::○:]...| 『マニー防衛大臣は閣議後の会見で「すべて金で解決する」と述べ――』
|二二二二二二二二|
.
501
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 05:35:46 ID:je6Z08Ao0
#06 幕間 〜群盲撫ツン〜
.
502
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 05:37:19 ID:je6Z08Ao0
#1
>>2-65
#2
>>74-117
#3
>>122-160
#4
>>169-212
#5-1
>>231-266
>>271-289
#5-2
>>294-324
#5-3
>>330-363
#5-4
>>371-416
#5-5
>>422-461
#6
>>467-501
今回でAルートの序盤が終わりました
次回投下は10〜11月になりそうです 2年目もぼんぼる!(^ω^)
503
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 08:09:45 ID:k6hZdaiA0
乙乙
504
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 21:09:00 ID:oH7qdkuY0
うおー投下早くて嬉しいおつ!
内藤の性格もハインが妖刀で改造してたってこと?
やべえな妖刀
次も楽しみに待ってます
505
:
名無しさん
:2021/08/31(火) 18:43:14 ID:nXM1egM.0
安定した更新で助かる
ツンちゃんが心配だ
506
:
◆gFPbblEHlQ
:2021/11/05(金) 15:47:57 ID:vOUx5rwE0
お待たせしました。今月13日くらいに7話目を投下します
突然こんなこと言ってごめんね。
でも本当です。
次回ちょっとだけ考察を要するので気をつけて
それがやんだら少しだけ間をおいて、戦争が始まります
よろしくお願いします
>>503
ありがとうございます!
>>504
実際そうだと思っている人達と、そうじゃない人達が居ます!フクザツ!
>>505
すまない…
507
:
名無しさん
:2021/11/05(金) 16:00:36 ID:McInbeeo0
うおわ〜〜〜〜たのしみだ〜〜〜〜〜〜
508
:
名無しさん
:2021/11/05(金) 22:18:46 ID:f6b5XDtE0
よっしゃ、生きる理由が増えたぜ
509
:
名無しさん
:2021/11/13(土) 00:09:32 ID:5UWcgKYM0
今日追いついたので近日中に投下あるっぽい発言に歓喜
全裸待機するわ
510
:
◆gFPbblEHlQ
:2021/11/16(火) 23:52:07 ID:lQcTlYWQ0
≪1≫
川 ゚ -゚)「――……っと」スタッ
健康ランドの景色が消えて、視界のすべてが薄暗く塗り替わる。
素直クールは静まり返った周囲にさっと目を配り、テレポートの成功を事実として確認した。
山小屋のように粗野な室内。暖炉の火種は残っているが、窓を見遣るに夜更けの頃合い。
先に帰った素直四天王達も彼女を待たずに床についたのだろう。部屋に人気はなく――
\川 ゚ -゚)/ 「よ〜し私もさっさと寝、」
ξ゚⊿゚)ξ
川 ゚ -゚)「る、」
――部屋に人気はなく。
ξ;゚⊿゚)ξ「ここisどこ」
否、その声は素直クールのマブダチ、魔王城ツンではないか。
クールは視界の隅にあったツンを改めて直視すると、数度瞬きを繰り返し、露骨に眉をひそめて見せた。
_,
川;゚ -゚)「……ああ?」
ξ゚⊿゚)ξ(お前なんで居んのという視線キツいキツすぎる)
さっき健康ランドで別れたはずの2人。
それが相変わらず顔を突き合わせている現実、双方にとって等しく意味不明だった。
状況への理解が及ばず、合わせ鏡のように動かない2人。しばし沈黙が流れていった。
.
511
:
名無しさん
:2021/11/16(火) 23:54:04 ID:lQcTlYWQ0
川;゚ -゚)
ξ;゚⊿゚)ξ
川;゚ -゚)「いや、お前なんで居るんだ?」
ξ;゚⊿゚)ξ「こっちが聞きたいのだわ」
川;゚ -゚)
川; - )「……いや待て、一旦ここで待て。私では無理だ。家主を呼んでくる」
クールは片手で目元を覆い、そのままツンを置き去りにして部屋を出ていった。
かくして数分後、彼女はオイルランプを携えて部屋に戻ってきた。
('、`*川
――見知らぬ女性を、ひとり引き連れて。
.
512
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 00:01:35 ID:pFrDK2CI0
川;゚ -゚)「ほらあれですよアレ。師匠にも見えてますよね?」
('、`*川「うーん、確かに居るねえ」
ξ゚⊿゚)ξ(扱いが心霊現象)
ボリュームのある黒の長髪を腰下まで伸ばした大人の風体。
着ている衣服はもろにパジャマ(水玉)だが、低めの声に飾らない素振りが相まって幼くは見えない。
どこか気が抜けた大人。彼女を一目で評するならば、これが最も端的な第一印象になるだろう。
ξ;゚⊿゚)ξ(……えっ?)
しかし、そういう無難な第一印象はあくまで一目に基づくもの。
彼女は素直クールが『師匠』と呼んだ人物なのだ。その実力はとても気になる。
だからツンも安易には印象を定めず、興味本位で彼女の実力を見定めようとしたのだが――
ξ;゚⊿゚)ξ(こ、この人……!)
レベル
ξ;゚⊿゚)ξ(私のパパとか、ワカッテマスさんとか、そういう領域に居るのだわ……!)
――結果、ツンの内から引き出されたのは最上級の比喩であった。
ツンの父親である現魔王のレベルとは、即ち『測定不能』を意味する天上の領域。
今ある物差しではこれ以上は測れない。いずれ自分も到達するはずの雲の上。
('、`*川「いや〜ほんとに実物なんだねえ。まさかそっちから来るとは思ってなかったよ、マジで」
そんなところに生身の人間が、これまた突拍子もなくエントリーしてきた衝撃たるやとてもすごい。
そう簡単に飲み込めるものではない。いかな自分の見立てと言えど、信じられなかった。
川 ゚ -゚)「これどうしましょう。私のテレポートに巻き込まれたんですかね」
('、`*川「だろうねえ。不慮の事故でもない、まさかの正規入場だ」フムフム
息を呑んで立ち尽くすツンを肴に推察を進めるパジャマの彼女。
やがてその推察も落着したのか、彼女はツンの前に立って背筋を伸ばし、得意げに深く頷いていた。
('、`*川「いやー、クールもまた珍しいお客さんを連れてきたね。
初めましてを2度言う相手、めちゃくちゃ久し振りだ」
ξ;゚⊿゚)ξ「……?」
川 ゚ -゚)「ああ、独り言は気にしないでくれ。話が拗れる」
.
513
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 00:03:14 ID:pFrDK2CI0
('、`*川「――はい、こんにちは。そっちの時間だとこんばんは?
ついでにおはようとおやすみ。そして何より初めまして」
('、`*川「よく来たね、また会えて嬉しいよ」
ξ゚⊿゚)ξ
_,
ξ;゚⊿゚)ξ「は、はじめまして……?」
優しい声色で発せられた挨拶全部盛りみたいな言葉の羅列。
ツンはその中から最も無難なやつを選び、恭しく繰り返した。
.
514
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 00:06:12 ID:haZuTTNw0
来てるじゃん!
515
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 00:15:40 ID:pFrDK2CI0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
川 ゚ -゚)「そんじゃ私はこれで。おやすみなさい」
('、`*川「はいはい。今日もおつかれ〜」
暖炉の薪がパチパチと燃える中、素直クールは我先にと部屋を後にした。
面倒臭いしもう寝たいんだよ。彼女の去り際の視線はツンを無言で突き放していた。
ξ゚⊿゚)ξ Help me.....
('、`*川「それじゃあ早速、質問があれば」
残された2人は暖炉前のソファにそれぞれ座っていた。
ソファの間には小さなテーブルが置かれており、心ばかりの水と焼き菓子が用意されている。
ツンは焼き菓子(かなり焦げているクッキー)を1枚かじり、今一度現状を整理しつつ言葉を選んだ。
ξ;゚⊿゚)ξ「……あの、じゃあ名前から。私は」
('、`*川「魔王城ツンでしょ。それは知ってる」
彼女は言葉尻を横取りしてほくそ笑み、切れ長の垂れ目でツンを覗き込んだ。
出鼻を挫かれたツンは萎縮して目を細める。助けを求める気持ちがより強くなっていた。
('、`*川「あなた、『テストで0点にならないため』に名前から書くタイプでしょ?
『普通そうするから』って理由じゃなくてね。人間関係も狭く深くって感じかな?」
ξ;゚⊿゚)ξ
('、`*川「あ、そんで私は伊藤ペニサスね。先周はどうも」
一方的に話を広げ、彼女は肘掛けに乗せた腕をくるりと翻した。
そのまま「おはよう!朝4時に何してるんだい?」めいた姿勢になり、質問を続けるよう静かにツンを促す。
ツンはめげずに続けた。
.
516
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 00:24:10 ID:pFrDK2CI0
ξ;゚⊿゚)ξ「えっと、……私達って会ったことないわよね?
どうしてそんな顔見知りみたいな、でも初見とも取れる感じで喋るの?」
('、`*川「……あーそこから。まぁそうだよね、あー」
ペニサスと名乗った女性は優柔に呟いて頬杖をついた。
それから少し唸って見せて、遠くを見つめながら口を開く。
('、`*川「なんてーか、私ってそれが両立するタイプなんだよね。
深層干渉防御の副作用って言い方もできるけど、まぁ聞き流すのが無難だと思うよ」
_,
ξ;゚⊿゚)ξ シンソ…カンショ…?
ツッコミどころが多いな。さては誘い受けか?
先程の印象が無ければ間違いなくそう言っていたツン、ここもぐっと堪えた。
ξ;゚⊿゚)ξ「あの、だったらもう本題なんだけど、私ここから帰れるのよね?
なんか流れでこうしてるけど、正直さっさと帰りたいのだわ……」
ツンは身を乗り出してペニサスに尋ねる。彼女が事を急く理由は健康ランドに居るミセリ達だった。
向こうからすれば突然ツンが消えたようなもの。無用な心配をかけて大事になっても困るのだ。
色んな意味で早く帰りたい。面倒事に直面したツンは大体いつも帰りたがっている。
ξ;゚⊿゚)ξ「あとなんていうか、事と次第によっては素直四天王の内臓も爆発しちゃうのよ。
結構のんびりしちゃったし、すぐ帰れるなら急ぎたいんだけど……」
('、`*川「あーあの内臓のやつ? あの術式なら適当にイジっといたから問題なし。
今の仕様でも血を吹いて胃がひっくり返る程度には痛いけどね。まぁいいでしょ」
ξ;゚⊿゚)ξ
ξ;-⊿-)ξ「いいからとにかく帰らせて。みんなを心配させたくないのだわ」
貞子の魔術をイジったとか、気になる部分も全力で聞き流していく。
ツンはコップの水を一気に飲み干すと、あえて無作法に立ち上がって結論を確言した。
ξ;゚⊿゚)ξ「はいごちそうさま! もう帰るのだわ!」
('、`*川「えーほんとにもういいの? 聞けば色々答えるのに」
ξ;゚⊿゚)ξ「とにかく素直四天王の知り合いなんでしょ?
それだけ分かってれば別にいいのだわ。機会があればまた今度、ゆっくり話しましょう」
.
517
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 00:36:16 ID:pFrDK2CI0
('、`*川
('、`*川「だったら逆に質問があるんだけどさ」
途端、ペニサスは声を強めて別の話題に入ろうとした。
言外に込められた強かな意図――これに付き合わなければ絶対に帰さない。
ξ;-⊿-)ξ「……どうぞ」
ツンは甘んじて彼女の話を受け入れ、小さな嘆息と共にそう応えた。
('、`*川「急いでるのにありがとね。じゃあ聞くけどさ、その右腕ってどうしたのかな?」
彼女はツンの右腕を指差して、それからあえて数秒の間を作った。
薄暗い気迫。それがぴたりと首筋に張りつく。
ツンは右腕を隠すように身を捩り、弱々しく表情を曇らせた。
ξ;゚⊿゚)ξ「……な、なんで今、それを」
('、`*川「誘導尋問だよ。だって話してくれないんだもん、あなたが本当に聞きたがってる事」
ξ;゚⊿゚)ξ「本当、って……そんなん……」
右腕と聞いて、なにより先に思い出されたのは試験中の出来事だった。
━━━━━━━━━━
lw´‐ _‐ノv「すまんね」
ξ;゚⊿゚)ξ
━━━━━━━━━━
あのとき、素直シュールによって完全に破壊されたツンの右腕。
そしてその腕は意味不明な過程を経て完治、かくしてツンは勝利を収めるのだが――。
実際のところ、件の謎回復について分かっている事は何もない。
後日貞子が詳しい調査を行う予定だが、あれについての説明は、今は誰にもできなかった。
だからそもそも『他人に聞く』という発想がなかった。ペニサスの意図はあまりに唐突だった。
.
518
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 00:43:16 ID:pFrDK2CI0
ξ;゚⊿゚)ξ「……答えたいけど、分からないのだわ。
気がついたら治ってて。そのうち調べる予定なんだけど……」
('、`*川「またまたぁ、分からないって事はないでしょう。
なにか予兆があったはずだよ。こじつけでもいいから考えてみて」
ξ;゚⊿゚)ξ「あの、ペニサスさんは答えを知ってるの?」
('、`*川「私は知らないよ。知ることもないだろうし」
ξ;゚⊿゚)ξ
━━━━━━━━
. _ ∩
レヘヽ| |
(・x・)
”c( uu} ,,ノミ入
丿 ノ
´~~~
━━━━━━━━
ξ;-⊿-)ξ「……でも私、治癒魔術なんて使えないのだわ」
('、`*川「だったら別の方法で元に戻ったのかも? ほら、ちょっと考えてみようよ。
別の腕と交換したとか、時間を進めたり戻したりとか、なんかあるでしょ?」
ξ;´⊿`)ξ「いや無いでしょなのだわ。そんなんもっとできんが……」
('、`*川「可能性の話なんだから気楽にいこうよ。結果としてその腕は治っているんだから。
ほらあれ、マインドマップとかってやつ? ヒューリスティクスも無駄じゃないよ」
ξ;´⊿`)ξ「いやぁ、だからって今ここで掘り下げなくても……」
('、`*川「……あー、答えしか知りたくない感じ? 現代っ子だね〜」
というか、今こっちには貞子という魔術関連の大御所が居る。
そんな相手が身近に居るなら、ここでどういった考察をしても最終的には的を外してしまうのだ。
なのでとりあえず安静にして、後日ちゃんとした医者に診てもらって、それから考える。
謎回復も一旦 『そういうものだから』 で片付けといて、なんかもう、そんな感じだった。
.
519
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 00:48:39 ID:pFrDK2CI0
('、`*川「とはいえ、流石にそこまで消極的だとちょっと心配かな」
('、`*川「再現、再走、再生、再会、……あいつの狙いは再命名だっけか。
装われた形式的無知の読解、その外側にある点はまだ結べないか……」
ξ゚⊿゚)ξ「そう……ですね」
ツンは全てを理解したような真剣さで頷いた。
実際のところ何も理解していない。大体いつもそう。
('、`*川「ツンちゃんはどう思う? けっこう厳しいスタートでしょ」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ「絶好調を100とするなら40、……いや35ってところですね」
('、`*;川「……ああ、そう」
.
520
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 00:53:30 ID:pFrDK2CI0
('、`*川「あーそうだ、そっちの盛岡とはどのくらい腹割って話してるの?
それ次第では私の動きも変わってくるんだけど……」
続いての質問には聞き馴染みのある名前が含まれていた。
どこか既視感のあるペニサスの言動が彼の名前と結びつき、「ああ〜なるほどね」となるツン。
ξ゚⊿゚)ξ(でも……)
でもあいつと腹を割って話す機会など一度でもあっただろうか。いや無い。
誰彼構わず煙に巻いて好き放題してるオッサン相手にそんな殊勝なことするか? いやしない。
ξ゚⊿゚)ξ「ははは」
結果、ツンは笑って誤魔化すしかなかった。
('、`*川「……なるほどね、オッケー分かった。
そっちとの距離感は掴めたよ、もう引き止めない」
そう言いながらペニサスは悠長に立ち上がり、部屋のドアに向かってパチンと指を鳴らした。
たったそれだけの動作を終えると、彼女は素直に道を譲り、片手を広げてツンを振り返った。
('、`*川「はいどうぞ、出口はこちらです。健康ランドのトイレに繋げといたよ。
向こうも2分くらいは経ってるけどいい? 一応時間も合わせとく?」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ;゚⊿゚)ξ「えっ、繋げたってなに、別々の空間を!?」
('、`*川「うん」
Σξ;゚⊿゚)ξ「指パッチンだけで!?」
('、`*川「なしでもできるよ。やり方知りたい?」
ξ゚⊿゚)ξ「えーめっちゃ気になるんですけd……」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ;-⊿-)ξ「――いや帰る! 今はとにかく帰るのだわ!」
正直めちゃくちゃ気になる。しかしツンは頑なに帰りを急いだ。とてもえらい。
ただでさえ現状は意味不明なのだ。『そういうものだから』を多用しなければキリがない。
ここで盛岡の名前が出てくるのもかなり縁起が悪い。ツンは早く帰って寝たかった。
.
521
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 00:57:32 ID:pFrDK2CI0
≪2≫
ξ;´⊿`)ξ「うう〜……これ絶対まともな帰宅ルートじゃないのだわ……」
帰りのドアを開け放つと、その向こうには視界のすべてを塗り潰す暗闇が広がっていた。
健康ランドに続いているとは到底思えない異様な有様。ツンも人並みに二の足を踏んでいた。
そんなツンを励まそうと、ペニサスは何食わぬ顔で彼女の肩を揉みほぐした。
('、`*川「これ慣れると結構楽しいんだよ? こないだなんてダークライとかゲットできたし」
ξ;゚⊿゚)ξ「それ万歩計持ってないと詰まない?」
('、`*川「まぁ変なことしなければ大丈夫だって。
ツンちゃん■■■■の■■とか持ってないでしょ?」
ξ゚⊿゚)ξ「ええ、持ってないけ――」
ξ;゚⊿゚)ξ「……え? いまなんて言っ」
('ー`*川「なら大丈夫だよ死にゃしないから! ほら元気出してこ!」
ξ;゚⊿゚)ξ
('、`*川
ξ;゚⊿゚)ξ「あ、はい」
ペニサスとの対話を諦めたツンは暗闇に手を突っ込み、続けて数歩、ゆっくりと前に進んだ。
.
522
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 00:59:42 ID:pFrDK2CI0
('、`*川「あーそうそう。そんな感じでいけば大体オッケーだから」
ξ;゚⊿゚)ξ「んなこと言っても光すらな――い……ッ!」
――暗闇に踏み込んだ直後、ぐわんと体が傾く感覚に襲われて足を止める。
三半規管が異常をきたしている。平衡感覚が一気に崩壊した。
ツンは遠心力を伴う錯覚に大きくよろめき、その場で千鳥足を踏んで頭を抱えた。
ξ; ⊿゚)ξ(この空間、やっぱりまともじゃ……!)
肢体を引き千切らんほどの浮遊感が四方八方に暴れ回り、体の感覚が端から蒸発していく。
しかし不思議と倒れはしない。ツン自身でもそれが奇妙で、五感の混乱はさらに悪化した。
ξ; ⊿゚)ξ …
ξ゚⊿゚)ξ(あっダメだ吐く)オロロロロ
船酔いと陸酔いと高山病と減圧症が同時に襲ってくるような即死攻撃。
ツンは真顔で嘔吐を終えると、やや青ざめた表情で背後のペニサスを振り返った。
('、`*川
ξ;゚⊿゚)ξハァ…ハァ…
('ー`*川「あっ忘れてたんだけどさ、ついでに伝言頼んでいいかな?」
ξ;゚⊿゚)ξ(こっちのゲロは無視か、強いな……)ハァハァ
部屋の中から柔らかい声をかけてくるペニサス。
彼女はゆっくりドアを閉めながら、残った話題を手短にツンに伝えていった。
.
523
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 01:05:33 ID:pFrDK2CI0
('、`*川「――唐揚げどうも。約束は守ってるよ、って。
あなたの知ってる盛岡に伝えといてくれればいいから」
('、`*川「あとそれ、ガンガン進めば意外と楽になるから安心してね。
トンネルを抜けると健康ランドだった的な着地するからさ」
ξ; ⊿゚)ξ(そんな雪国的イントロで済む異常じゃねえのだわ……!)
('、`*川「そんじゃあね。また会えたらよろしく〜」
ぱたん、と軽い音を立てて閉じるドア。
そうしてツンは完璧な真っ暗闇に取り残され、もう自分の体の輪郭さえ捉えることはできなかった。
ξ;-⊿-)ξ「……ふぅ、はあ……」
ξ;゚⊿゚)ξ(こんなゲームのバグみたいなとこ、早く出ないと絶対ヤバいのだわ……)テクテク
口元を拭って立ち直り、荒れ狂う五感を宥めつつ前進を再開するツン。
彼女は既に方向感覚さえ失いかけていたが、なすべきことはすべて、彼女の細胞が記憶していた。
.
524
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 01:06:04 ID:pFrDK2CI0
┌───────────────┐
│ │
│ ┌─────────┐ │
└──┼─────────┼──┘
│ ┌─────┐ │
└─┼─────┼─┘
└─────┘
┌───┐
└───┘
┌─┐
└─┘
□
.
525
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 01:06:34 ID:pFrDK2CI0
#07 幕間 〜逃亡暦201X年の断片〜
.
526
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 01:07:28 ID:pFrDK2CI0
≪?≫
――荒野の最中に、3人の少女が打ち捨てられていた。
辛うじて人間の形状を保つそれらは、たった数分前まで素直四天王として動いていたものだった。
そして間もなく絶命に至る。魔王城ツンはそんな彼女達を眺め、しかし一切の情動に至らなかった。
自分でやったという自負が感情に蓋をしている。
苦しみはない。もう慣れたものだった。
.
527
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 01:14:19 ID:pFrDK2CI0
(´・_ゝ・`)「……お疲れさま。流石は魔王の娘だよ、あっさり終わらせやがった」ザッ
(´・_ゝ・`)「まぁ魔物が本気でやりゃこうなるわな。苦戦する方がおかしいか」
音を立て、あからさまに歩み寄ってきた盛岡デミタスがタオルを投げる。
ツンは一目もくれずにそれを掴み取り、自分の顔に飛び散っていた返り血の塊をざっと拭き取った。
(´・_ゝ・`)「って、なんだよ殺しきってないのかよ。
お前なあ、こういう甘さで味方が死ぬんだからな。気をつけろよな」
ξ゚⊿゚)ξ「……まだ使えると思ったのよ。
人間の駒は貴重でしょ。あとは任せるのだわ」
(´・_ゝ・`)「そうやってまた要らないものを増やす。おめー健康器具とか無駄にするタイプだろ。
使い道を考える身にもなってほしいね。処分も手間だしさぁ」
ξ-⊿-)ξ「そうね。あなたを信頼しているのだわ」
ツンは慣れた口振りで言い返し、赤黒くなったタオルを地面に投げ捨てた。
.
新着レスの表示
名前:
E-mail
(省略可)
:
※書き込む際の注意事項は
こちら
※画像アップローダーは
こちら
(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)
スマートフォン版
掲示板管理者へ連絡
無料レンタル掲示板