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ξ゚⊿゚)ξツンちゃん夜を往くようです

1名無しさん:2020/10/14(水) 17:28:46 ID:YvZFQxxU0

         タクシー
      (゚」゚)ノ
    ノ|ミ|
     」L
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
        _/ ̄ ̄\_
       └-○--○-┘=3

383名無しさん:2021/08/01(日) 21:15:40 ID:ht6TpCT20


ノパ⊿゚)(にしても自力で抜け出すとかすげーな。やっぱねーちゃんは頼りになるぜ……)スッ

 構えを解いて足を止め、ここまで続けてきた防戦に幕を下ろすヒート。
 苦手な仕事が消えた今、彼女の全力を邪魔するものは何もなかった。


ξ;゚⊿゚)ξ「ッ!」

 ――反撃の予兆。
 ツンは即座にブレーキを掛け、一定の距離を取って彼女を注視した。

ξ;゚⊿゚)ξ(……やっと動きを止めたけど、チャンスじゃない)

 逃げ回り、準備を整えてから反撃に出るという戦法には覚えがあった。
 最終的には負けたものの、素直クールと戦った時のツンも大体そんな感じだった。
 すぐに攻め込んで勝負を決したいのは山々だったが、安易な接近はダメだと肉体の方が予期していた。

ノパ⊿゚)「……どうした、攻めて来ねえのか?」

ノパ⊿゚)「こっちは逃げりゃあ勝ちなんだぞ。
     それが分かんねぇほどバカじゃないだろ」

 言葉に反して緩やかに両拳を上げていくヒート。
 十分に脱力した肢体は特定の型には至らず、自然体を維持したまま戦闘準備を終えていた。

ξ;゚⊿゚)ξ「んなこと言うなら尻尾巻きなさいよ。そこ狙うんだから」

ノパ⊿゚)「やだよ」

ξ;゚⊿゚)ξ「見りゃ分かるわよ」

.

384名無しさん:2021/08/01(日) 21:21:18 ID:ht6TpCT20


ノパ⊿゚)

ノハ-⊿-)「……凝血解除」

 一言唱えて息を吐くヒート。その瞬間、彼女の体を覆うように真紅の靄が浮かび上がった。
 魔力とは違う別のなにか。ヒートの気配が、魔物にも似た人外のそれへと変化していく。

ノパ⊿゚)「……悪かったな手ぇ抜いてて。ここからはちゃんと戦うぜ」

ノパ⊿゚)「第2ラウンドだ」

 近い実力、同じ素手ゴロ、同色のオーラ。
 初めて戦う互角の相手――対するツンは今までにない高揚感を味わっていた。
 素直ヒートは好敵手に値する。そんな思いが熱を帯びて膨れ上がる。

ξ;゚⊿゚)ξ(全員、ただの人間じゃないとは思ってたけど……)

ξ;゚ー゚)ξ(……なんかもう、普通に楽しくなってきたのだわ)
                           センス
 ――武器を持たない者同士による『感覚』の戦い。
 ツンの実力を十二分に引き出すための状況は、これ以上なく完璧に整っていた。

.

385名無しさん:2021/08/01(日) 21:21:57 ID:ht6TpCT20



          #05 ラザロと畜群 その4


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386名無しさん:2021/08/01(日) 21:22:19 ID:ht6TpCT20



 ――1ヶ月前。

 ハインとツンの特訓中へと時は遡る。


.

387名無しさん:2021/08/01(日) 21:23:35 ID:ht6TpCT20


 〜ハインの屋敷〜


从 ゚∀从「弱点が多すぎる」


ξ#)⊿゚)ξ …


从 ゚∀从「そのマフラー、はっきり言って俺の下位互換だぞ」


ξ#)⊿゚)ξ「はい」


 基礎訓練を終えたのち。
 暗雲立ち込める未来に向けて、その日2人は手加減無用のスパーリングを行っていた。

 諸般の悪癖を直すため、ツンはなるべく全力戦闘&赤マフラー常備。
 そんな彼女が心置きなく戦えるよう、ハインの方も激化能力を解禁して相手を務めていた。

ξ#)⊿゚)ξ(なのに、どうしてこんなことに……)

 そして結果はツンがボコボコ。見るも無惨なボロ負けであった。
 赤マフラーの自動防御はハインの手管に翻弄されて機能不全。
 なのにツンの攻撃は何もかも通じないのだから全部クソだった。

从 ゚∀从「ツンちゃん、俺の能力はブーンから聞いてるんだよな?」

ξ#)⊿゚)ξ「……今見たばっかりだし分かるわよ。そっちも自動防御なのよね」

 ネタが被ってて複雑なのだわ、と不満げに呟くツン。
 思春期的には父親と同じ靴下を履いてるような気分だろう。その心境は筆舌に尽くしがたい。

.

388名無しさん:2021/08/01(日) 21:27:19 ID:ht6TpCT20


从 ゚∀从「そのとおり。ツンちゃんのマフラーとは似たタイプになるな」

 ハインはツンから少し離れ、再度そこで激化能力を発動して見せた。
 一瞬待つと、彼の手元にアメーバめいた運動を見せる玉虫色の液体が浮かび上がった。

                フェイル・アグレッサー
从 ゚∀从「こいつの名前は ≪制空衛星≫ 。簡単に言うと攻撃を受け流しまくる」

ξ#)⊿゚)ξ「散々やられたわよ。陰湿で腹立たしい能力しやがって」

 幾何学的に蠢くアメーバはサッカーボール程度の大きさに膨張。
 その状態を液体から固体の球形へと推移させると、己の役目を探すように空中を飛び交った。
 ハインを中心にして動く衛星の軌道。彼は視線でそれを追い、話に戻った。

从 ゚∀从「自動防御――そうまとめるのは簡単だが語弊も多い。
      この能力の核心は、防御運動を構築する諸々の処理速度にある」

从 ゚∀从「何を攻撃と捉え、どう防御するかって小難しい計算の部分だな。
      俺の場合はその計算式への理解が能力向上に直結した。つまりは勉強」

ξ#)⊿゚)ξ「……その勉強って簡単?」

从 ゚∀从




从;゚∀从「マジで地獄だった。宇宙工学は死ぬほど頭抱えた。二度とやりたくない」

ξ#)⊿゚)ξ「ではやめておきましょう」

 ツンは極めて冷静に判断して言った。
 経験豊富なジジイのハインが地獄と言い切ったのだ。ツンは一瞬で怖気づき、諦めていた。

从;゚∀从「まぁそうしときな。やって無駄になるもんでもねえけどキツすぎるから……」

ξ#)⊿゚)ξ「いっそ私も“ヤク”をキメたいのですが」

从 ゚∀从「……いや、激化薬だけはやめといた方がいい。
      あれは研究途中かつ人間用の薬物だ。何が起こるか俺にも読めねえ」

 ハインは適当にはぐらかした。

.

389名無しさん:2021/08/01(日) 21:29:47 ID:ht6TpCT20


从 ゚∀从「そんでもって、今日のうちに言っときたい事が2つある」

从 ゚∀从「その1。ツンちゃんはそのマフラーの核心を知る必要があるって事だ」

 声色を落として言い、ハインは人差し指を立てて見せた。

ξ#)⊿゚)ξ「核心って、さっき言ってた処理速度とかって話?」

从 ゚∀从「そうだ。だけどツンちゃんの場合はまた別だろうな。
      魔物の力は俺にも分からん。頑張って自分で見つけるしかねえ」

ξ;#)⊿゚)ξ「……えっ、そこでこっちにブン投げるの!?」

从 ゚∀从「おうよ。ゼロからやってくんだし固定観念なんて無い方がいいしな。
      だからこっちもヒントは出さねえよ。出来る限り自分の頭で考えてもらう」

ξ#)⊿゚)ξ「そんな……」

 マニュアルなしでは生きられない現代っ子お嬢様のツンは絶望した。
 ハインは無視した。

从 ゚∀从「続けてその2。弱点が多すぎる」

ξ#)⊿゚)ξ「それさっき聞いた」

从 ゚∀从「そのマフラー、はっきり言って俺の下位互換だぞ」

ξ#)⊿゚)ξ「さっき聞いたってば」

.

390名無しさん:2021/08/01(日) 21:31:24 ID:ht6TpCT20


从 ゚∀从「だから今日のところはその弱点だけ教えておく。でもすぐに直そうとしなくていい。
      魔力関連で俺が力になれない分、この分野は間違いなく時間かかるからな」

ξ#)⊿゚)ξ「答えは自分で、よね」

从 ゚∀从「そうだ。今はそれ自体が糧になる」

ξ#)⊿゚)ξ「……ねえ、言いたくないけどやり方が古臭くない?
       序盤のスピード感は大切だしもっと手軽に強化をですね」

从 ゚∀从「そう言うなって。赤マフラーの弱点はかなり露骨で見抜かれやすんだぞ。
      狙われる可能性はかなり高い。よくよく考えても損はねえさ」

ξ#)⊿゚)ξ「もう何を言っても楽ができない」

 ツンはその場に崩れ落ちてめちゃくちゃに暴れ回った。
 そういう妄想をした。

从 ゚∀从「それじゃあ弱点言ってくぞ。ちゃんと聞けよな」

ξ#)⊿`)ξ「オブラート多めでお願いします……」


 〜回想つづく〜

.

391名無しさん:2021/08/01(日) 21:35:33 ID:ht6TpCT20

≪3≫


ξ;゚⊿゚)ξ

ξ; ⊿ )ξ「――ぐ、あ……ッ!」フラッ

 腹部に打ち込まれた縦拳が、ツンの骨身に痛烈な衝撃を響かせていた。
 その一撃、赤マフラーによる防御は間に合っていなかった。
 素直ヒートの攻撃は、十分な形でツンを打ち貫いていた。

ノハ-⊿-)「……ふぅ……」

 静かな呼吸に伝わる手応え。
 よろけて退くツンを前に、ヒートは呆気なく拳を下ろした。

ノパ⊿゚)(……ったく、ハインリッヒから聞いてた弱点は据え置きなのかよ。
     この程度なら本気出す意味なかったな。完全にオーバーキルだ)

 ヒートは棒立ちになって目を細めた。
 意味するところは呆れと失望――ツンに対する決定的な軽蔑であった。
 それは、ツンにとっては一番の苦痛だった。

.

392名無しさん:2021/08/01(日) 21:39:50 ID:ht6TpCT20


ξ; ⊿゚)ξ「――こ……の……ッ!!」ダッ

 彼女の視線に痛みを覚え、ツンはよろけながらも威勢を取り戻した。
 勢いづけて再度飛び出し、真紅の尾を引く打撃の連携でヒートを狙う。
 その後、ツンの拳が14回ほど空を切った。

ξ;゚⊿゚)ξ「くっ……!」

 対人間なら掠るだけでも威力は十分。
 弾かれ避けられ受け流さても、攻撃自体はヒートに届き、確かにダメージを与えているはずだった。

 しかしヒートに衰えはなく、返ってくる手応えは着実に弱まっている。
 理由は明白。『凝血解除』の一言が、ヒートの中でなにかを変えたのだ。

ξ;゚⊿゚)ξ(こいつ、明らかに強くなってる――!)

 ツンは焦り始めていた。
 頼りの赤マフラーは弱点を見抜かれており、人と魔物の性能差も大きく縮められている。
 これまでツンが『勝ち目』として頼ってきた長所は機能不全。もはや当てにもならなかった。


ノパ⊿゚)「もういい」


 やがてヒートは冷淡に呟き、目先に飛んできたツンの拳を片手で受け止めた。
 空気が弾けて突風が巻き起こる。威力はすぐさま地面に流れ、周囲数メートルに地割れを引き起こす。

ξ;゚⊿゚)ξ「……えっ」

ノパ⊿゚)「こんだけ見てりゃあ威力も読める。お前、やっぱり下手な手加減してやがるな?」

ξ;゚⊿゚)ξ「ちょっ、離してよッ……!」グググッ

 掴み取られた拳を引き戻そうと力を入れるツン。
 ヒートは合わせて握力を上げた。浮かび上がった血管の輪郭が更に際立ち、腕全体が顫動を始める。
 だがその震えはヒートのものではなく、拳を全力で引き抜こうとするツンのものだった。

ξ;゚⊿゚)ξ(う、嘘でしょ――!?)

 足腰背中に腹筋と腕の力、そのほか全てに全力を込めてもヒートの握力に敵わない。
 明らかな異常事態。人間相手に起こる訳がない単純なパワー負け。
 ――たかが人間に、と。思い上がりを戒めた心がその外殻を破られていく。

.

393名無しさん:2021/08/01(日) 21:43:26 ID:ht6TpCT20


ノパ⊿゚)「まぁ安心しろって。握り潰すまでは出来ねえから」

 軽く言ってから、ヒートは小さく首を傾げた。

ノパ⊿゚)「にしても不思議だな。お前、どうして戦ってるんだ?」

ξ;゚⊿゚)ξ「……あなた、私と喋りがしたくて手を取ったの?」

ノパ⊿゚)「え? そうだけど」

 ツンの皮肉を意に介さず、ヒートは素直に受け答えた。

ノパ⊿゚)「んでどうなんだよ。金か名誉か趣味か義務か、それ以外。
     なんでもいいけど教えてくれって。気になる」


ξ;゚⊿゚)ξ

ξ;-⊿-)ξ「……義務よ。その中から、強いて言うなら」

 ツンは少し迷ってから答えた。


ノパ⊿゚)「強いて? 煮えきらねえな」

ξ#゚⊿゚)ξ「……いいでしょ別に! だからさっさと離せってのよ――!」グイッ

 声を荒らげ力を込めるも、やはり拳は微動だにしない。
 いっそ蹴りでも入れれば早いだろうに、ツンは頑なにこの真っ向勝負から降りようとしなかった。

ξ; ⊿゚)ξ

 ――人間相手に負けを認めるなんて絶対にありえない。
 彼女の心根にある魔物としてのプライド、いつか魔王の座を継ぐ者としての矜持。
 それら全てが撤退を許さないのだ。搦手という訳でもない、素の能力での負けを断固拒否している。

 常日頃から人に寄り添い、さも滑稽に振る舞おうとも彼女は魔物だ。
 魔王の血筋にあるなら尚更、彼女の本心には人間を見下すような発想が未来永劫残り続ける。
 人に対して優しくある為の理論武装――そんなもの、いざとなったらなんの意味もないのだから。

.

394名無しさん:2021/08/01(日) 21:52:18 ID:ht6TpCT20


ノパ⊿゚)「ここで離してどうなるんだよ。勝ち目ねえだろ」

ξ; ⊿ )ξ「……黙れ、勝手に終わらせるな……!」

 数秒待ってから、ヒートは顔を背けて溜息を吐いた。


ノパ⊿゚)「……うちらは傭兵だ。色んなもんを相手にしてきた。
     その経験に言わせるとお前は普通すぎる。それを不気味と言えなくもないがな」

ノパ⊿゚)「別にこっちも見境なく化け物狩りをしてる訳じゃない。
     金になる仕事を心置きなく。殺すのは悪いヤツだけ、慎ましくってな方針だ」

ノパ⊿゚)「となるとだ、今回の依頼はまるで筋が通らねえ。
     金にならない、悪いヤツでもない。これを殺せってのは話が変だ」

ノパ⊿゚)「いつか魔王になるって言っても今すぐじゃないなら私らには関係ねえし。
     てかお前魔王になっても人間殺さねえだろ? ハインの話とイメージが違うんだよな……」


ξ;゚⊿゚)ξ「……あなた、結局なにが言いたいのよ」

ノハ-⊿-)「分かんねえかなぁ、仕事になんねえって話だよ。
      納得いかねえ。やりにくい。ハインにぜってー騙されるしムカつく。そんだけだ」

 困ったように間延びした声。
 ヒートはそこでツンの拳を手放した。それからすぐに頭をかいて、もどかしそうに腰に手を当てる。

.

395名無しさん:2021/08/01(日) 21:56:12 ID:ht6TpCT20


ノパ⊿゚)「無害な相手は殺さない。金にならない相手も同上。
     お前はとっくにそういう相手なの。直接やって、私は個人的にそう判断した」

ξ;゚⊿゚)ξ(こ、こいつ……私みたいな事を……!)

 自分より弱い相手に対する同情的な優しさ。一方的な倫理道徳。
 それは身に覚えがある言動だったが、反論は思いつかなかった。
 彼女にはそれを口にできるだけの実力があるのだ。ツンのように分不相応ではない。

ノパ⊿゚)「戦うの自体は好きだから別にいいんだよ。
     この試験だって付き合わなきゃ何されるか分かんねえし」

ノパ⊿゚)「かといって、こんな半端に戦うってのも気分が悪い。
     嫌々ながら、敵でもない奴を倒して生き延びるなんざ死ぬほどダセえだろ」

 二律背反を呆気なく口外し、彼女は鼻で笑った。

ノパ⊿゚)「そもそもお前さ、弱点が多すぎるんだよ」

ξ;゚⊿゚)ξ「なッ――!」

 ハインに続き、このタイミングで3度目の死体蹴り。
 衝撃のあまりツンはのけぞり、ぎょっとした風に胸に手を当てた。

ノパ⊿゚)「ねーちゃんの居合技を受けた時、そのマフラーは反応が遅れたんだよな?
     さっき拳を掴んだ時なんて反応すらしなかったよな? なんでだと思う」

ξ;゚⊿゚)ξ

ξ;-⊿-)ξ「……攻撃に、意識を割いてたから」

 ――その指摘は1ヶ月前にハインからも教えられている。
 故に答えは用意してあった。口にすべきか迷ったが、ツンは正直に答えていた。

ノパ⊿゚)「いや自覚あんなら直しとけよ」

ξ゚⊿゚)ξ「はい」

 ごもっともだった。

.

396名無しさん:2021/08/01(日) 22:01:26 ID:ht6TpCT20



ノハ;゚⊿゚)「……んだよ、分かってんのかよ……」ポリポリ

 試験ならばと助け舟を出した瞬間、それが沈没。
 ヒートは首を回して考えあぐね、どうしたもんかと呻きをこぼした。

ノハ;゚⊿゚)「なんつーかさぁ、私は張り合いが欲しいんだよ。
     これもう仕事じゃねえし。殺し合いでもねえし。お前弱いし……」

 言葉の後、溜息未満の呻き声が句点を打つ。
 顔を上げたヒートの視線は、そのまま特訓場の天井を仰ぎ見た。

ノパ⊿゚)「……あー、もういいか……」

ノパ⊿゚)「善人殴るのは気が引けるけど、まあ、しょうがねえか……」

 一人合点、そしてヒートは拳を構えた。
 すっかり覇気を失った心のまま、第3ラウンドのゴングに手を掛ける。


ノパ⊿゚)「他の弱点とかも分かってんだろ? なのに直せてないと。
     だったらもう言うことねえわ。さっさと終わらせ――」

ノハ#゚⊿゚)「――るッ!」

 それは瞬間移動に等しい踏み込みだった。
 またたく間もなく、一瞬にしてツンの眼下に陣取る素直ヒート。
 彼女は即座に狙いを絞り、ひねりを乗せたショートアッパーでツンを急襲した。

ξ#゚⊿゚)ξ「ッ!!」

 しかしヒートの不意打ちは不発だった。ツンの認識が追いついていた。
 ヒートの拳は赤マフラーに止められており、それ以上の接近を許されなかった。

ノパ⊿゚)「……ほんと、マフラーだけは一級品だな」

ξ#゚⊿゚)ξ「だけじゃねえっての……!」

 不意打ちに備えていたのではない。ツンはそもそも気を抜いていなかったのだ。
 取ってつけたる常在戦場――各種弱点を補う努力の結果、ツンも少しは戦場に慣れてきていた。

.

397名無しさん:2021/08/01(日) 22:05:50 ID:ht6TpCT20


ノハ#゚⊿゚)(――だったら弱点を突く!)

 ヒートは僅かに拳を引いて、赤マフラーとの間に数センチの隙間を空けた。
 鼓動1回分にも満たない短い呼吸。それで準備は終わっていた。

ノハ# ⊿ )「すゥッ……!」

 瞬間繰り出されたのはジークンドーの流れを汲むワンインチ・パンチ。
 その一撃は爆発的な衝撃を生み、防御の隙もなくツンを上空に打ち上げた。

ξ; ⊿゚)ξ(マフラーごと押し込まれた――ッ!)

 本体のツンではなく赤マフラーそのものを狙った機転の技。
 空に上ったツンを見ながら、ヒートはなおも赤マフラーの性質を読み解いていた。

ノハ#゚⊿゚)(やっぱりマフラーを狙えば反応してこねえな!
      つまりあれごと殴れば問題なし! 下がった威力は数で補う!)

 数多くの実戦で鍛えられた直感的な目算。
 この経験則の有無こそがツンとヒートの決定的な差異だった。

.

398名無しさん:2021/08/01(日) 22:14:16 ID:ht6TpCT20


ノハ#゚⊿゚)「おらっ! 死ね!」

ξ;゚⊿゚)ξ「表現が愚直!」

 着地と同時に後ろに跳躍。ツンは急いで距離を取った。
 もちろんヒートは後退を許さない。瞬時に追いかけ、弱点通りに赤マフラーを狙う。

ノハ#゚⊿゚)(私の読みが合ってるなら――これも通る!)

 今度の攻め手は打撃ではなく掴みだった。
 ヒートは赤マフラーを片手に巻き取り、たぐり寄せると同時にもう一方の拳を奔らせた。

ξ#゚⊿゚)ξ(大丈夫、防御は余裕で間に合ッ――)

 ヒートの攻撃に合わせて自動防御が発動、マフラーの端が彼女の拳を受け止める。
 しかしそれとまったく同じタイミングで、ツンの頬にはヒートの拳が打ち込まれていた。


ξ;#)⊿゚)ξ(――えっ)


 自動防御は確かにパンチを受け止めている。
 打ち込まれたのは赤マフラーを巻き取った方の、マフラーを掴むのに使った最初の一手だった。

 そもそも赤マフラーは1本の布地である。片側を引っ張ればもう片方はそれだけ短くなる。
 自動防御を行う場合その一方に布地が集約されるのだから、そこで生まれる伸縮も当然大きくなる。

 ヒートは初手でマフラーを掴み、続く二手目で自動防御をあえて発動させた。
 彼女はその際に生まれた伸縮に拳を乗せ、ツンの顔面に当たるよう僅かに軌道を修正したのだ。


 結果からすると、マフラーに引っ張られた拳がたまたま攻撃の体を成してしまっただけ。
 彼女の意思による攻撃ではないので、こっちの攻撃に自動防御が反応する理由も存在しない。

ノハ#゚⊿゚)(――なるほど)

 赤マフラーを逆手にとった攻撃でも自動防御を突破できる。
 それに気付いた素直ヒートは、もはや赤マフラーを脅威だとは思わなかった。

.

399名無しさん:2021/08/01(日) 22:17:16 ID:ht6TpCT20


ξ; ⊿゚)ξ(こんの 【※放送禁止用語※】 が……ッ!)

ノハ#゚⊿゚)(間接的な攻撃にも反応しねえ、なら――!)

 この瞬間の主導権はヒートにあった。
 彼女の方が動きも速く、ツンの対応は間に合わない。

 次の瞬間、ヒートは既に赤マフラーの両端をその手に握り込んでいた。

ノパ⊿゚)「――このままブン投げたらどうなる?」

ξ;゚⊿゚)ξ「……やッ」

 ヒートは一気に布地を巻き取り、背負投の要領でツンを放り投げた。
 ツンの制止は半ばで途絶え、地面の砕ける音があとに続いた。

.

400名無しさん:2021/08/01(日) 22:22:19 ID:ht6TpCT20


ξ; ⊿ )ξ「――あ゙……ッ!」

 振り子のように加速をつけられ、脳天から一気に地面に叩きつけられるツン。
 彼女の体はボールのようにバウンドし、ヒートは続けて2回目の投げに移った。

ノハ#゚⊿゚)「いくぞォォォォォッ!!」

 マフラー自体に害がないならこれほど掴みやすいものもない。
 そして当然2回では終わらない。3回、4回、5回と、ヒートは休む間もなく同じ動きを繰り返した。

ξ; ⊿ )ξ(――ヤバい、これすごい効く)

 首や背中や脳天などに次々と衝撃が迸る。
 マフラーのせいで首元は特に締め付けられており、1回ごとに気道が押し潰れていく感触があった。
 しかしヒートは意に介さない。ツンを使って地面を叩き、徹底的に同じことを繰り返す。

ノハ;゚⊿゚)「――……ふう」

 分速60回をキープして4分後、ようやく一息。
 そして彼女はプロなので、続けてもう1セット同じことをした。
.

401名無しさん:2021/08/01(日) 22:25:10 ID:ht6TpCT20

≪4≫


 〜回想シーンの続き〜


从 ゚∀从「と、以上がツンちゃんの弱点だ」

ξ゚⊿゚)ξ「穴だらけじゃないですか自分……」

 赤マフラーの弱点を一通り聞いたツンは地面に横たわっていた。
 情緒はめちゃくちゃになり、全部おしまいだった。

ξ゚⊿゚)ξ「なんでそんなマジレスするん……」

从;゚∀从「今後の為だよ。なんとか持ち堪えてくれ」

 自動防御の抜け穴はハインから見てもかなり多かった。
 防御するものしないもの、その判別があまりにガバガバなのだから。

从 ゚∀从「ツンちゃん、そのマフラーって実際どのくらい操れてるんだ?
      マニュアル操作の目があるなら自動防御の欠点も穴埋めできそうだが」

ξ゚⊿゚)ξ「耳を動かすレベルですが」

从 ゚∀从

ξ゚⊿゚)ξ


从;-∀从「……あのな、勝手に動くものと連携が取れないってのは相当ヤバいからな。
       いざって時に逆手に取られたら一発で終いだ。場馴れした相手はすぐ狙ってくるぞ」

ξ;゚⊿゚)ξ「そうよね、私も本当は自由自在に操作したいんだけど……」

从 ゚∀从「いや本人が弱かったら操れても意味ねえよ」

ξ゚⊿゚)ξ「なんなのよなんなのよなんなのよ」ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ

 ツンは転がり回って抵抗した。
 なにもおこらなかった。

.

402名無しさん:2021/08/01(日) 22:26:00 ID:ht6TpCT20


从 ゚∀从「要するにさ、ツンちゃんに足りてないのは危機感なんだよ」

ξ゚⊿゚)ξ「こんな最初から戸愚呂弟レベルの指摘まで来るのかよ……」

 もっと楽して強くなりたい。帰って寝たい。
 ただそれだけがツンの本心だった。

从 ゚∀从「身の危険を感じてる時なら赤マフラーはちゃんと動く。でもその意識は永続じゃない。
      攻撃なんざ身の危険を承知でやるもんだしな、そこでマフラーの防御判定が途切れちまうんだ」

从 ゚∀从「そんで何よりヤバいのがマフラー自体への攻撃に無反応なことだ。
      相手の敵意がツンちゃん自身に向かない限り、そのマフラーは殆ど無価値だぞ」

ξ゚⊿゚)ξ「むかちて」

从 ゚∀从「そこに加えて、今のツンちゃんは戦うってこと自体にも慣れてねえ。
      色んなもんに気を取られて、随所で動きが鈍っちまうのも当然ではある」

ξ゚⊿゚)ξ

ξ゚⊿゚)ξ「もう心の眼とかで何とかなりませんか」

从 ゚∀从「おお、その方面なら自信あるのか?
      だったらもうちょい簡単に――」

ξ゚⊿゚)ξ「ないですわよ」

从 ゚∀从

ξ゚⊿゚)ξ

.

403名無しさん:2021/08/01(日) 22:28:03 ID:ht6TpCT20


从 ゚∀从「……とまぁ、今のツンちゃんがマジ最悪なのはよく分かったと思う」

ξ゚⊿゚)ξ「マジ最悪で申し訳ない」

从 ゚∀从「かといって、残り時間を考えると弱点を克服してる余裕もない。
      さっきも言ったが、こればっかりは急がば回れだ。弱点はゆっくり直すしかない」


从 ゚∀从「――だが解決策はある。とびきり無難で簡単な方法がな」

ξ;゚⊿゚)ξ「えっ、ここから入れる保険があるんですか!?」

从 ゚∀从「ぶっちゃけマジで死活問題だしな。でも練習量はかなり多いぞ?」

ξ;゚⊿゚)ξ「練習します!! それが一番楽ならば!!」

从 ゚∀从「そりゃよかった! 安心しな、空気力学の実用性は俺が保証する!」


ξ゚⊿゚)ξ


 空気力学(くうきりきがく、英語: aerodynamics)とは流体力学の一種、天使の科学。
 空気(または他の気体)の運動作用や、空気中を運動する物体への影響を扱う。(wikipedia)


ξ゚⊿゚)ξ

ξ゚⊿゚)ξ「あー……」

从 ゚∀从「勉強、頑張ろうな」


 〜回想おわり〜

.

404名無しさん:2021/08/01(日) 22:30:22 ID:ht6TpCT20


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



ξ; ⊿ )ξ「……ぅ……」



ノハ;゚⊿゚)「ハァ……ハァ……」

 ヒートは呼吸を荒らげて肩を上下させ、やりきったと言わんばかりに額の汗を拭っていた。
 9割殺すつもりでやってしまったため、結局500回以上は地面に叩きつけてしまった。
 体力の消耗はかなり激しい。ヒートも地面に腰を落とし、ツンを見ながら体力回復に努めた。

ノハ;゚⊿゚)(いやはや、体の頑丈さはしっかり魔物だな。こんだけやっても鼻すら潰れてねえわ……)

 ツンの体は無数に傷つき、露出した肌は例外なく血に濡れている。
 切傷、青あざ、血だらけの状態で地に伏せった魔王城ツンは、しかし辛うじて意識を保っていた。
 無論ヒートもそれを分かっている。場合によっては続きがあると、彼女は早くも次に備えていた。

.

405名無しさん:2021/08/01(日) 22:33:43 ID:ht6TpCT20


ξ; ⊿ )ξ「……あなた、優しいのね。ミセリさんなら蹴って起こすのに……」

ノハ;゚⊿゚)「……頼むから寝ててくれって。魔物相手に体力勝負なんかやりたかねえんだよ。
     それでもやるなら覚悟しろよ。色々折ったり潰したりするからな」

ξ; ⊿ )ξ「お生憎様。このくらいの物理攻撃だったら――」ググッ…

 ツンはそう言いながら両足を上げ下ろし、跳ねるような勢いで地面に立ち直った。

ξ;゚⊿゚)ξ「――食らい慣れちゃってるのよ!!」

ξ;゚⊿゚)ξ(ミセリさんでも滅多にやらないレベルだけどね!!)

 ミセリのおかげと言うべきか、ツンの物理に対する耐性はめちゃくちゃすごい。
 刃物相手では相性的に発揮されない努力の賜物が、ヒートを相手にようやく日の目を拝んでいた。


ξ;゚⊿゚)ξ

ξ;-⊿-)ξ ハァ…



⊂ξ#゚⊿゚)ξ  いらんわもう!!
 /   ノ∪
 し―-J |l| |
        人 ペシッ!!
       〜


 そしていよいよ、ツンは赤マフラーを脱いで地面に投げ捨ててしまった。
 そりゃ相手にこれだけ悪用されたらキレたりもする。
 AA表現が死ぬほど簡略化されている辺り、すごく怒っている。


ξ#゚⊿゚)ξ「クソが!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

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406名無しさん:2021/08/01(日) 22:36:39 ID:ht6TpCT20



ノハ;-⊿-)「……ま、そりゃもう頼れねえわな」ヨッコラセ

 ツンに応えてふらりと立ち上がるヒート。
 かといって、一度冷めきった彼女の心が再び熱気を取り戻すこともなかった。

ノパ⊿゚)「で、なんか変わんのかよ。勝ち目どんどん無くなって――」

ξ#゚⊿゚)ξ「変わるわよ!!」
 つ魔と

 ヒートの小言をかき消すように、キューティーハニーめいた一声が戦場に響き渡る。
 ツンはキレ気味で魔力を再生成、魔力の成形へと一瞬で工程を進めていく。
 堰を切るように溢れ出す真紅の魔力。彼女を起点に激流が渦巻き、大量の砂塵が空に舞う。

ノハ;゚⊿゚)「――な、」

 その驚嘆は無理からぬものだった。
 魔王城ツンの魔力制御が今なお壊滅的なのは赤マフラーの挙動からして明白。
 そこに更なる負担をかければどうなってしまうのか、それを想像できないヒートではなかった。

ノハ;゚⊿゚)「おい待ておい待ておい待て!! それ下手にやるとオーバーヒートするヤツだろ!?
      ちょい1回落ち着けって!! 暴走とかマジでやめろ、せめて真面目に考えてから――!」

ξ#゚⊿゚)ξ「ミセリさん居るし大丈夫よ!! 最悪もう道連れにして死ぬ」

ノハ;゚⊿゚)「ほらもう危険思想がチラついてんだよバカッ!」ダッ

 ――本来ならば即撤退を決める場面。
 しかし相手は自爆覚悟。素直クールが近くに居るなら巻き込まれる可能性はかなり高い。
 何としてでも止めなければ。素直ヒートの脳内に、ここで退くという発想は少しも過ぎらなかった。

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407名無しさん:2021/08/01(日) 22:42:01 ID:ht6TpCT20






 ――魔力生成は必要最小限。制御が効くよう、なるべく抑えて流れを作る。
 成形ではとにかく簡単なものをイメージ。赤マフラーは一旦忘れ、望むものへと想像力を分配する。

ξ# ⊿゚)ξ

 この1ヶ月、ツンが魔力に関して徹底してきた注意は以下の通り。
 ひたすら基本に忠実に、勢い任せにせず、手を抜かないこと。

 よくよく思えば赤マフラーは「なんか布になれ!」で生まれたような代物だ。
 そんなもん制御が効かなくて当然。全容が不透明な道具など当てにする方が間違いだったのだ。

 ――だからこそ、今度のイメージは『糸』にまで遡る。
 一旦そこまでパーツを分解し、赤マフラーに欠けていた細部の情報量を徹底的に底上げする。
 作業としては単なる編み物。しかし、魔力成形が苦手なツンはここで全力を出さねばならなかった。

ξ; ⊿ )ξ(集中しろ、集中が途切れたら糸もダメになる……ッ!)

 ツンがこれから編み上げる物質はマフラーではない。
 構造的にはより単純だが、その設計には人間界の知識が多く含まれている。
 彼女は今、魔力成形の初歩技術だけでは作り出せないクオリティを人の知識で実現しようとしていた。

ξ; ⊿゚)ξ(……図面通りに、綺麗に、私は線をなぞるだけ……!)

 集中して基本を徹底すれば糸は作れる。問題は糸の量産とそれを編み上げる最終工程。
 失敗は多いが構わない。糸はあくまでイメージの最小単位、最終地点はこの先にある。
 とにかく基本を第一に。他に手段は無いのだから、初期装備でも可能なブラッシュアップに全力を尽くす。
 魔力の糸を平織りに、速く、正確に、目指す形へと着実に近づけていく――。


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408名無しさん:2021/08/01(日) 22:46:58 ID:ht6TpCT20





ノハ;゚⊿゚)「――ッ!?」 ズザッ


 異様な気配を感じ取り、ヒートは咄嗟に足を止めた。
 ツンの暴挙を止めるべきだという直感は、『これ以上近付くな』という真逆の意見に切り替わっていた。

 ――ツンの周囲に吹き荒ぶ真紅。その一切が唐突に勢いを失い、色彩を失っている。
 そこにあるのは真っ黒な暗雲。魔王城ツンを丸ごと覆い隠して余りある、底の見えない真っ暗闇だった。
 動から静へと一転する空気。戦闘開始から10分以上が経過して、ヒートは初めて身の危険を感じていた。。

ノハ;゚⊿゚)(……なんだ、どっちだ?)

 どんよりと棚引く暗雲の中に、ヒートはハッキリとした実像を捉えた。
 風に揺らめくカーテンのようなものがはたはたと波を打っている。

 しかし、ヒートの視線はその更に奥へと釘付けになっていた。
 こちらは逆に姿が薄く、実像と言えるだけの輪郭は見えてこなかった。




(::::::⊿)


 ――だが、闇の向こうには間違いなく何かの影があった。
 この場でただ1人、素直ヒートだけが、そこに揺らめく正体不明の影を目視できていた。

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409名無しさん:2021/08/01(日) 22:50:54 ID:ht6TpCT20



ξ; ⊿ )ξ「……かなり練習したのに、実戦だとボロ布ね……」グッ

 暗闇の中、ツンは波打つカーテンを手に取って暗雲を薙ぎ払った。
 ぶわ、と一掃されて掻き消える黒の檻。
 魔力成形を終えた彼女の手には、身の丈ほどの黒いボロ布が握られていた。

ξ;゚⊿゚)ξ「……驚かなくていいのだわ」

ξ;゚⊿゚)ξ「このマント、本当に初歩的なやつだから」バサッ

  マント
 外套と呼ぶにはあまりに拙い一枚布。
 そのボロ布を広げて羽織ると、ツンは再び戦意に火を灯した。


ノハ;゚⊿゚)

ノハ;゚⊿゚)(いや、そっちは別に……)

 あんな外套くらいで私が足を止めるはずがない。
 それよりも、さっきの暗雲には絶対に何かが潜んでいた。

 暗雲と一緒に消えはしたが、ヒートの危機感は未だあの影に囚われたままだった。

ノハ;゚⊿゚)(……さっきのヤツ、ねーちゃんが見たっていう『倒した後に現れた何か』か?
      魔王城ツンの想定外のひとつ。すぐに消えた辺りも一致するけど……)

 しかし確たる答えはない。記憶は早くも朧げで、件の存在は頭の中からするすると抜け落ちていった。
 まぁいいか、消えたし。
 ヒートはあっさり切り替えて目先のツンに集中した。


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410名無しさん:2021/08/01(日) 22:54:27 ID:ht6TpCT20



ノパ⊿゚)「……で、なんだよその布。ていうか最初から作っとけよ」

ξ;゚⊿゚)ξ「こっちは集中しなくちゃ作れないのよ。
       足止めできてれば普通にやってたし、本当はもっと綺麗に作れるし……」

 言い訳半ばで膝を折り、ツンは地面の赤マフラーを拾い直した。
 砂を払って綺麗に整え、いそいそと首に巻き直していく。

ノハ;゚⊿゚)「えっ、お前それまた巻くの? もう使わねえ方がいいって……」

ξ#゚⊿゚)ξ「つーかーいーまーすー!!」

ノハ;゚⊿゚)「1回投げ捨てたじゃん……」

 赤マフラーに黒い外套、中には普通の制服という完全防備の冬仕様。
 ついにビジュアル面での完成を果たしたツン。意気揚々と両拳を作り、ヒートの闘志を挑発して見せる。


ノパ⊿゚)

ノハ-⊿-)「……続ける気なら、さっき言った事は覚えてるよな」

 するとヒートは呆れたように首を鳴らし、

ノハ#゚⊿゚)「後悔すんなよ」

 次の瞬間ハートに火を点け、最後のゴングを打ち鳴らした。

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411名無しさん:2021/08/01(日) 22:57:30 ID:ht6TpCT20

≪5≫



(´・_ゝ・`)「……お前あっちに居なくていいの? いま試験中でしょ?」

川д川「いいのよ。いざとなったら空間ごと止めるし」

(´・_ゝ・`)

(;´・_ゝ・`)「そんな事までやれんの!? 逆に今まで何してたんだよ……」

 試験開始からちょっと経ったくらい。
 別段仕事のない貞子は魔王城家のリビングに戻っており、盛岡デミタスと一緒に暇を潰していた。
 傷を負った首元――ひいては喉が本調子に戻っていないのか、盛岡の声色は少し濁っている。

(´・_ゝ・`)「あーあ、試験どうなるんだろうね。気になるね」

川д川「当初の予定に比べれば簡単すぎるくらいよ。可能性は十分ある」

(´・_ゝ・`)「……可能性だけ? 案外厳しいのな」

川д川「当然でしょ。今のお嬢様がどんな状態か、分かってないあなたじゃないと思うけど」

 ツン本人はまだ知らないが、今の彼女は平常とは言いがたい状態にあった。
 それがどちらにどう転がるのか――貞子の憂慮は未だ明確な結論には至っていなかった。

.

412名無しさん:2021/08/01(日) 22:59:26 ID:ht6TpCT20


(´・_ゝ・`)「……妖刀首断ち、あれの話か」

 シリアス気味な貞子に合わせ、盛岡は神妙な顔を作って呟いた。
 大体全部ハインが悪いソードこと妖刀首断ち。
 今となっては破壊済みだが、あの舞台装置が持つ役割を盛岡は熟知していた。

川д川「私が作ったあの妖刀、ただの人間に使えるわけないんだけどな……」

(´・_ゝ・`)「そうだね」

 そうだね、という優しい気持ちで彼は頷く。

(´・_ゝ・`)「でも俺が破壊したんだろ? 暗示は消えた、なんの問題もない」

川; д川「いやそんな簡単じゃないってば。悪影響が残ってても不思議じゃないし……」

 楽観的な盛岡に釘を刺す意味で、貞子は内心の不安を語り始めた。

川д川「重りを外せば身軽にはなるけど、制御できない身軽さなんて自滅を招くだけ。
     お嬢様はその辺のコントロールが壊滅的だから特にね。最悪死ぬと思う」

(´・_ゝ・`)「えー死ぬの。死ぬのはよくないよ」

 命をなんだと思っているんだ。
 盛岡は胸を痛めた。泣いちゃうかと思った。

.

413名無しさん:2021/08/01(日) 23:01:41 ID:ht6TpCT20


川д川「……あのね、勝手に刀を破壊したあなたにも責任はあるのよ。
     せめて暗示の内容さえ分かれば対処も可能だったのに……」

(´・_ゝ・`)「だからごめんって。じゃあもう止めに行く? 水を差すのは得意だぞ」

川д川「そうしたいのは山々だけどね。見守りはすれど、こうなったらもう邪魔はできないわ」

 入り組んだ杞憂を噛み潰して頭を振る貞子。
 打算を伴うその判断、罪悪感が無いと言えば嘘になる。

川д川「私とミセリは今回の試験を切欠として利用することにしたの。
     今後も地上で暮らしていくなら、いつかお嬢様には『あの力』が必要になる」


(´・_ゝ・`)

(´^_ゝ^`)「へぇ〜!!!!!! 『あの力』ですか!!!!」

(´^_ゝ^`)「それは気になるなあ!!!!! 見てみたいなあ!!!!!!!」


川; д川「……いきなり大声出さないでよ。そこは周知の事実でしょ。
      大界封印とお嬢様の関係、魔王軍なら誰でも知ってるじゃない」

(´・_ゝ・`)「ああそうだっけ? 最近ちょっと記憶がね、すげぇ古い話だし……」



.

414名無しさん:2021/08/01(日) 23:03:53 ID:ht6TpCT20






(´・_ゝ・`)(……魔王城ツンの弱体化、その要因は色々ある)

(´・_ゝ・`)(妖刀による抑圧と錯誤の暗示、内藤ホライゾンの不在。
      なぜかこの2つだけは解決してるが、特に厄介な『大界封印』がまだ残ってやがる)


(´・_ゝ・`)(なので、そこは無視して魔王化に特化させていく。
      予定じゃそうするはずだったんだが、どういう訳だかまだ誰も死んでない)

(´・_ゝ・`)(相談しようにも上司は音信不通。借りてた特権も残ってない。
      あの大層なネーミングの計画はどうなったんだよ。どうしてこうなってる)



(´・_ゝ・`)(……というか、なんで俺がハインと戦ってて、しかも負けてるんだ?)

(´・_ゝ・`)(刀を壊した覚えもない。でも貞子の調べじゃ俺が破壊したらしい)

(´・_ゝ・`)(ここも記憶が食い違ってる。あの妖刀は『殺して奪う』が正解なのに)

(´・_ゝ・`)(どうして壊したんだ俺。あれすげー悪用しなきゃいけなかったのに……)



(´・_ゝ・`)(いやー)

(´・_ゝ・`)

(´・_ゝ・`)(なんだこれ)


.

415名無しさん:2021/08/01(日) 23:12:45 ID:ht6TpCT20



川д川「あーそうそう。あなたに返すものがあるんだった」

(´・_ゝ・`)「しっぺ返しなら受取拒否だぜ。一発そこらじゃ済まないからな」

川; д川「違うわよ。素直四天王の押収品にあなたの所持品があったの。
      見ると面倒な気がしたから中身は見てない。危ない仕掛けが無いのはチェックしといたけど」

(´・_ゝ・`)「……えっ? 財布? それ俺の話?」

川д川「……うん、お財布。まさか気付いてなかったの?」

(´・_ゝ・`)

(´・_ゝ・`)「いや、それまったく心当たりが無いんだが」

 盛岡は素で答え、顔に出さないまでも強い困惑を覚えていた。
 『彼ら』の目的において素直四天王の存在はほぼ無意味。接点は何も無いはずだった。
 またも何かが食い違っている。自分自身の行動なのに、盛岡は少しも理解ができなかった。

川д川「でもあなたがお嬢様に渡したんでしょ? あなたの記憶にもそんなシーンが残ってたし。
      それがどうして向こうに渡ったかは知らないけど、財布くらい大事に持っときなさい」

(´・_ゝ・`)「……俺もそう思うよ……」

 そうして盛岡が受け取ったのはエルメスの長財布。
 大した思い入れはないが、これを他人に渡す自分というのを盛岡は想像できなかった。

 他人の記憶を読み取るくらい貞子には朝飯前だ。
 そんな彼女の魔術によると、先日盛岡は自分の財布を魔王城ツンに明け渡していたらしい。
 で、回り回って素直四天王の手に渡ったとのこと。ちなみに中身は全部使い込まれていた。

.

416名無しさん:2021/08/01(日) 23:14:38 ID:ht6TpCT20


(´・_ゝ・`)

 ――ありえない、と盛岡は脳裏で断言する。

 金銭はどうでもいい。ありえないのは欠落した記憶の中に居る『盛岡デミタス』の言動だ。
 予定にない台詞、予定にない行動、意味のない選択の数々。
 今の自分からでは考察も間に合わないほど、その『盛岡デミタス』は別人として機能し過ぎていたのだ。


(´・_ゝ・`)(……まさか個人単位でミッシングリンクを引き起こされるとはな。
       しかも恐らく自作自演だ。『盛岡デミタス』は自分で自分を排除している)

(´・_ゝ・`)(記憶は消した。だが消したこと自体には気付かせようとしている。
      俺に限界が来たなら誰かしら始末に来てるはずだし、恐らくこれは深入り厳禁の……)


 そこまで推察を進めておきながら、盛岡は誘惑に負けて財布をおっ広げた。
 不完全な情報をつなぐ手掛かりが目の前にあるのだ。暴かない理由は無い。


(´・_ゝ・`)
  つ□

 ――そして彼は、財布の中にメモを見つけた。

.

417 ◆gFPbblEHlQ:2021/08/01(日) 23:19:03 ID:ht6TpCT20

#1 >>2-65 #2 >>74-117 #3 >>122-160 #4 >>169-212
#5-1 >>231-266 >>271-289 #5-2 >>294-324 #5-3 >>330-363

#5-4 >>371-416

次回投下は1週間後くらいです
物理ばかりなので魔法などの描写がしたいなと思いました
書き溜めはあと3話分あるので順次投下していきたいと思います

418名無しさん:2021/08/02(月) 00:14:16 ID:vSvJeoDA0
楽しみにしてたんだ、完結するまで追い続けるぜ

419名無しさん:2021/08/02(月) 03:52:26 ID:OJByGvDI0


420名無しさん:2021/08/02(月) 19:57:04 ID:3Xg0YNFU0
1週間後!?めちゃ嬉しいな…

421名無しさん:2021/08/03(火) 22:17:17 ID:yDJ05fuo0

ツンちゃんが一矢報いる日は来るのだろうか

422名無しさん:2021/08/10(火) 20:45:29 ID:q9XV82ww0

≪1≫



ノハ#゚⊿゚)「後悔すんなよ」

 吐き捨てるように言った直後、ヒートは影を切るような速さでツンに迫った。
 電光石火の火花が奔り、ツンの背後に最速で回り込む。ヒートは再三マフラーを掴もうとした。
 しかしその直前にツンが振り向き、勢いづいた肘鉄が顔面へと飛んでくる。

ノハ;゚⊿゚)(――反応だけは一級品かよ!)

 頭を引いてヒートは辛うじて肘を避けた。
 そのまま向き合う形になった両者は即座に構え直し、先手は取られまいと互いに拳を打ち出した。

ξ; ⊿ )ξ「……ッ!」

ノハ#)⊿゚)

 早撃ち勝負は互角の末、2人それぞれが一撃を貰っていた。
 しかし当たりどころが悪いのはツンの方。前回同様のショートアッパーを下顎に打ち込まれている。
 この一撃でツンの視線は空を向き、激しく揺れた脳みそが一瞬思考を止めてしまう。

ノハ#)⊿゚)

 ヒートにとっては完璧な間合い、勝負を決する絶好の瞬間。
 逃すべきではない勝機――ヒートはそれを分かっていながら瞬時に後退を選んでいた。
 引いて数メートルの間合いを作った後、彼女は頬の痛みを乱暴に拭い取った。

ノパ⊿゚)(……威力が、上がった?)

 さっきまで大した威力ではなかった攻撃が無視できないダメージを与えてきた。
 ヒートはその事実を重く受け止め、一旦頭を冷やして長考に入った。

                        マント
ノパ⊿゚)(間違いねえ。あいつ、あの外套で何かを変えやがった)

 ツンの動きが想定から外れつつある。
 先程作ったあの黒い外套を中心に、ヒートは改めてツンを注視する。

.

423名無しさん:2021/08/10(火) 20:51:02 ID:q9XV82ww0


ノパ⊿゚)(……魔力による身体強化が妥当な線。
     だけどそれよりマフラーが気になる。自動防御はどこいった?)

 さっきのショートアッパーは赤マフラーに防御されなかった。
 ツンは初動でヒートの動きについてきている。ヒートの攻撃も奇を衒ったものではない。
 防御判定には間違いなく引っかかったはずだが、その前提に違和感を覚える。

ノパ⊿゚)(取って絞めて投げる、はもう無理そうだな。
     不意に一撃食らう可能性が高すぎる。打ち合いに戻した方が今は無難か)

ノパ⊿゚)(なんにしたって単純にパワーアップしてやがる。
     だったら単純、こっちもギアを上げるだけだ――!)

 頬の傷口からじわりと血液が滲み出てくる。
 ヒートはその血を指先に取り、口に運んでにやりと笑った。

ノハ#゚ー゚)「……いいぜ、張り合ってやるよ」

 張り合うように気合いを入れ直し、それと同時に異変がひとつ。
 ヒートの赤い頭髪が、更なる淡い輝きをもってゆらりと逆立ち始めた。

ξ;゚⊿゚)ξ !

 ――轟音と同時にヒートの姿が視界から消える。
 残されたのは爆砕された地面の跡のみ。
 ツンは咄嗟に空を見上げ、振り返り、四方八方を駆け巡るヒートを辛うじて目で追い続けた。

.

424名無しさん:2021/08/10(火) 20:54:38 ID:q9XV82ww0


ξ;゚⊿゚)ξ(――来るッ!)

 ヒートの影がふっと途絶え、ツンの五感が一斉に警鐘を鳴らす。
 ツンはその瞬間に両腕を立て、真正面からの衝撃に固く身構えた。

ノハ#゚⊿゚)「――――オラァッ!!」

 一瞬遅れてヒートの実像が目の前に現れる。繰り出されたのは上半身への足刀。
 ツンは両腕でこれを受けたが、余りある衝撃に足を浮かされ後方へと弾き飛ばされてしまった。

ξ; ⊿ )ξ「ごぶっ……!」

 軌道上の岩に全身を打ちつけながら凄まじい速度で終着点へと叩きつけられるツン。
 彼女を受け止めた岩壁は大きく凹み、方々に走り抜けた亀裂から呆気なく瓦解していった。

ξ; ⊿゚)ξ「……いってえな……」

 しかし、当の本人はそれでも健在だった。細かいダメージはあるが気合いで誤魔化せるレベル。
 赤マフラーが背中に割り込み、緩衝材として機能していたおかげだった。

 ――もちろん、赤マフラーのこの挙動は彼女の意思に他ならない。
 マントを羽織った今の彼女は、少なからず自分の意思で赤マフラーを動かせていた。

ξ;゚⊿゚)ξ(大丈夫、マフラーもマントもなんとか動かせてる。
       でもこの威力はもう受けられない。2度目は腕が折れる、絶対……)

 ツンは瓦礫の下で数秒休んでから外に飛び出した。

 びりびりと痺れる両腕をもたげ、活を入れるように腰だめに構え直す。
 待ちの姿勢が許される相手ではない。だが闇雲に動いても意味がない。
 ツンは咄嗟に思慮を巡らせ、そして――

ξ;゚⊿゚)ξ

ξ;-⊿-)ξ

 ――彼女は目を閉じ、構えを解いて脱力した。
 その無防備は意図されたもの。ヒートを謀る即席の一計であった。

.

425名無しさん:2021/08/10(火) 20:56:31 ID:q9XV82ww0




ノハ#゚⊿゚)(見え透いたカウンター狙い、受けて立ってやるよ!)ダッ

 ツンの謀略を認めた上で、ヒートはあえて正面から向かっていった。
 先程同様に加速を乗せて跳躍し、全身回転を加えた回し蹴りでツンに差し迫る。

 だが、やはりそこには待ち受けるものがあった。
 ヒートの蹴りは赤マフラーに遮られ、ツンの側頭部には僅かに届かない。

ノハ;゚⊿゚)(――まさか、こいつ)

 今度は赤マフラーの自動防御が正しく動作している。
 なにより、ツンはそれを見越したように無防備を晒していた。

 そこから導き出される結論はひとつ、ツンは自分の意思で自動防御のオンオフを切り替えたのだ。
 制御不能であったものが彼女の制御下に置かれた、という事は――。
 ヒートはその推察に判断を鈍らせ、一撃離脱のタイミングを完全に間違えてしまった。

ノハ;゚⊿゚)(――ダメだ、だとすればこの距離はマズい!!)

ξ# ⊿゚)ξ

 刹那の最中、最初に動き出したのはツンの赤マフラーだった。
 赤マフラーはツンの思いに応じると、ヒートの蹴り足にくっついて彼女の動きを妨害した。
 本当にただくっつく程度の甘い妨害――しかし、彼女達の攻防はこの一幕で逆転していた。

.

426名無しさん:2021/08/10(火) 20:59:29 ID:pPs3ccVs0
お、ktkr

427名無しさん:2021/08/10(火) 21:05:03 ID:q9XV82ww0


ノハ;゚⊿゚)(こいつ、マフラーで私の足を……!)グイッ

 蹴り足を戻そうとするヒートは赤マフラーを解くのに一瞬を浪費。
 ツンはその一瞬で前に出ると、ヒートの顔面を思いっきり鷲掴みにして全力で握り締めた。

ノハ;゚⊿゚)「――むごッ!?」

ξ# ⊿ )ξ「……ここまで散々……ッ!」ギチギチギチ…

 彼女の顔面を圧砕する勢いで握力を奮うツン。
 こめかみに引っ掛けた指には殊更強い力を込め、万全のホールドでヒートを逃さない。
 視界を塞がれ宙ぶらりんになったヒートは脱出を試みて暴れるが、もう間に合わなかった。

ξ゚⊿゚)ξ

ξ# ⊿゚')ξ「死ねよやーーーーーーッ!!!!!!!」

 オブラートもクソもない、試験のルール的にも完全アウトな怒号が辺りに轟く。
 ツンは背中を反るほどにヒートの頭を振りかぶると、瓦割りの要領で真下の地面に叩きつけた。

ξ# ⊿゚')ξ「死ぃぃぃぃぃぃぃねぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 上から下へと勢いよく、地面に当たった反動ごと地中にねじ込んで全衝撃を送り込む。
 ヒートの頭部はバキバキと音を立てて地面に埋もれ、頭3つが入る深さにまで達してようやく止まった。

.

428名無しさん:2021/08/10(火) 21:08:02 ID:q9XV82ww0





ノハ; ⊿ )「……ぁ、ぅ」



ξ#゚⊿゚)ξ「……まだ意識があるのね」

ξ#゚⊿゚)ξ「でも私は優しいから。この1回で見逃してあげるのだわ……」グリグリグリグリ

 しっかり地面に埋めてなお、ヒートの顔面を掴んだまま徹底的に当てこするツン。
 今のヒートは人並み以上に頑丈だが、頭部から全身に響くダメージは凄まじいものだった。

 ――あと1回でも繰り返されれば最悪死ぬ。殺せるだけの余力もしっかり残っている。
 しかしツンは言葉の通り、それ以上の追撃をしようとはしなかった。
 ここまで散々うるさかった相手が沈黙してしまったのだ。決着は誰の目にも明らかだった。


ノハ; ⊿ ) ……


ξ#゚⊿゚)ξ「……そこで寝てればいいのだわ」スッ

ξ#゚⊿゚)ξ
     、 ペッ

 ツンは身軽に立ち上がって血反吐を吐き捨てた。
 その血反吐がヒートに当たってたらいよいよ道徳的に問題だったが、流石にそんな事はしなかった。

ξ#゚⊿゚)ξ

ξ゚⊿゚)ξ


ξ゚⊿゚)ξ(……って、もう倒したんだから試験終了よね。
       どうしよう。ここで待ってればいいのかしら……)

 頭に昇った血が落ち着くと、ツンは試験のあれこれをふと思い出した。

 ヒートが他の3人を解放していないのだから試験は終わりだ。
 終了の合図はいつ来るのかと、ツンはそれらしいものを探して周囲に目を向けた。
 試験の様子はミセリが見ている。終了ならば、すぐにでも動きがあるはずだった。

.

429名無しさん:2021/08/10(火) 21:11:53 ID:q9XV82ww0



ξ゚⊿゚)ξ「……?」

 しかし辺りは静寂するのみ。
 ツンが期待するような号令はなく、無為な時間が流れていく。



ノハ; ⊿ )「……ごめん」

lw´‐ _‐ノv「しゃーなし」


 ――途端、小さな話し声が静寂を破った。
 ツンは気付いて視線を戻した。足元を見下ろし、真っ先にヒートを確認する。


ξ;゚⊿゚)ξ「……えっ」


 ヒートの姿が無い。
 そこにあるのはふわりと舞った砂埃だけで、彼女はどこにも見当たらなかった。

ξ;゚⊿゚)ξ(しまっ――)

 逃がしただけならまだ追える。だが見失うのはマジでダメだ。
 ツンには彼女を見つけ出す術がない。だから絶対に目を離してはならなかったのに――。


ξ;゚⊿゚)ξ(――敵を、見失った)


.

430名無しさん:2021/08/10(火) 21:13:18 ID:q9XV82ww0




 「――腕を上げたようだな」



ξ;゚⊿゚)ξ !

 そんな時、意識の外から声をかけられた。
 狼狽するツンは否応なくその声に振り返った。

川 ゚ -゚)

 声の主は数十メートル離れた先。
 見知った顔の、素直クールだった。

ξ;゚⊿゚)ξ(落ち着け、ちゃんと考えろ私……!)

 抜刀済みの素直クールがこちらに向かって歩いてきている。
 これは今起こりうる最悪の事態、一対多に向かう最悪の展開だ。

 ――こうなったらもうやるしかない。

 ツンは強引に切り替えて応戦に臨む。
 赤マフラーで口元を隠し、せめて動揺だけでも悟らせないようにする。
 外套の方にも魔力は十分。体力は幾分削られたが、まだやれる。

ξ;゚⊿゚)ξ(何としてでも各個撃破、合流される前にこいつを倒さなきゃ――!)

川#゚ -゚)「……凝血解除」

 その囁きが堰を外し、素直クールの黒髪が赤色を帯びる。
 開始の合図はそれで十分。両者は同時に地面を蹴り出した。

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431名無しさん:2021/08/10(火) 21:14:07 ID:q9XV82ww0



          #05 ラザロと畜群 その5


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432名無しさん:2021/08/10(火) 21:17:15 ID:q9XV82ww0






o川*゚-゚)o「血の使いすぎ」

ノハ; ⊿゚)「……ごめん」

o川*゚-゚)o「止めなかったら普通に続けてたでしょ。
       ここで全力出しても意味ないのに……」

 ヒートの容体をチェックしながら呆れ気味にぼやくキュート。
 2人の傍らには素直シュールも座っており、彼女達は身を寄せ合うようにして岩陰に潜んでいた。

lw´‐ _‐ノv「でもまぁ時間は稼げたよ。ヒートは十分やってくれた」

ノハ; ⊿゚)「……え、予定ってなに?」

o川*゚-゚)o「いや合図あったじゃん。見なかったの?」


ノハ; ⊿゚)

ノハ; ⊿゚)「デカい犬が……」


lw´‐ _‐ノv「ダメだ脳をやられてる」

o川;*゚ー゚)o「シュールちゃんみたいなこと言ってるし本当にヤバそう……」

.

433名無しさん:2021/08/10(火) 21:23:03 ID:q9XV82ww0


ノハ;゚⊿゚)「……なあ、あいつ急に動きが変わったよな?」

lw´‐ _‐ノv「もちろん全部見てたよ。十中八九あのマントが理由だろうね」

ノハ;゚⊿゚)「ああ、だよなぁ。理由なんてそれしかねえもんな……」

 得心しながら地面に倒れ、ヒートは特大の溜息を吐いた。
 自分の愚行を戒めるように、あびゃあうぎゃあと呻きを上げる。

ノハ;´⊿`)「あ゙ーもう、血ぃ使うとバカになんの嫌すぎる……」

o川*゚ー゚)o「今日は魔王軍から連戦だし当然でしょ。1人でよくやったよ」

ノハ;´⊿`)「あーもう、妹が優しくてつらい……」

lw´‐ _‐ノv「ヒートはそのまま休んでな。続きはこっちでやっとくから」

 シュールは立ち上がって遠くを見遣った。
 ヒートの負傷は想定以上だったが、その分の見返りは情報となって仲間に届いている。
 数で押し切る作戦は未だ有力。戦況は大詰めを迎えていた。

ノハ;゚⊿゚)「ほんとごめん。あと任せた」

o川;*゚ー゚)o「頑張ってね、お姉ちゃん」

lw´‐ _‐ノv「うむ」テクテク

 長女のもとへと向かうべく、短く応えて歩き出すシュール。

lw´‐ _‐ノv「――凝血解除」

 ヒート、クールと同じ言葉を呟いて、彼女はふっと姿を消した。

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434名無しさん:2021/08/10(火) 21:23:49 ID:q9XV82ww0



ノパ⊿゚) …

o川*゚ー゚)o …


ノハ;゚⊿゚)「いや、お前行かねえの?」

o川;*゚ー゚)o「……あっさりサボれてしまった……」

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435名無しさん:2021/08/10(火) 21:25:43 ID:q9XV82ww0

≪2≫


川#゚ -゚)「八刀剣撃……!」

 追跡側から追われる側へ、素手同士から武器相手へと一転した今現在。
 ツンは戦いの変遷にギリギリ適応していたが、その動きは露骨に精彩を欠いて崩れかけていた。

 ただでさえ少ない戦闘経験の中、素直クールとの戦いはまさに完敗だった。
 そこで根付いた苦手意識はかなり深刻であり、1ヶ月以上経った今でも克服には至っていない。
 特訓により何通りかの模範解答は用意できても、腹を斬られたトラウマは単純にキツかった。

ξ;゚⊿゚)ξ(八刀剣撃、あの技の受け方は――!)ダッ

 刀を構えて眼前に迫る素直クール。
 ツンは彼女に背を向けて駆け出すと、赤マフラーを解いて空中に放り投げた。
 脱兎のような即断即決。トカゲの尻尾切りめいたその行動に、素直クールは僅かに眉を動かす。

川# -゚)

 ツンの赤マフラーは『本体への攻撃』に反応して防御を行うもの。
 マフラー自体への攻撃には無反応だし、本体との距離が開けば単純に防御が遅れるだけ。
 遠隔操作による攻撃でも出来ない限り、ここで彼女がマフラーを捨てる意味はまったく無いのだ。



川 ゚ -゚)(――今のお前は、それが出来るんだな?)

 恐らくこれは搦め手だ。本体を狙いに行けば虚を突かれる。
 素直クールはそう確信し、攻撃目標を赤マフラーに切り替えた。

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436名無しさん:2021/08/10(火) 21:30:20 ID:q9XV82ww0


川# -゚)「――八重小太刀!」

 刹那の思考を終えた後、クールは一刀八斬の銀閃を赤マフラーに放った。
 しかし手応えは浅く、彼女の斬撃は赤マフラーの端々を数センチ切る程度に終わっていた。
 赤マフラーは地面に落ちて、以降なんの反応も示さない。

川 ゚ -゚)(……やはり借り物ではダメか。斬り方は分かるんだが……)

 不満げに思いながらも彼女の狙いは果たされていた。
 彼女がいま確かめたのは刀の強度であり、赤マフラーの切断はむしろ二の次。
 数センチでも刃が通るなら切れ味は十分。一役買うには事足りていた。



ξ゚⊿゚)ξ …?

 音がしない、と違和感を覚える数秒後。
 ツンは逃げながら僅かに振り返り、素直クールの姿を再確認した。

川 ゚ -゚)「これを捨てたのは軽率だったな、魔王城ツン」

 そのとき、彼女は赤マフラーの真上に立って刀の切っ先をそれに合わせていた。
 まるで杭の狙いを定めるように――ツンは、反射的に彼女の思惑を理解していた。

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437名無しさん:2021/08/10(火) 21:32:32 ID:q9XV82ww0


川#゚ -゚)「はあ――ッ!!」

 直後にクールは腰を落とし、渾身の力で赤マフラーに刀を突き立てた。
 その切っ先が布地を貫いて地面に届き、さらに深々と地中に押し込まれていく。

ξ;゚⊿゚)ξ(あっ)

 刀によって地面に釘付けにされた赤マフラー。
 ツンは流石に足を止めて、素直クールの方を見ながら呆気に取られた。

ξ;゚⊿゚)ξ

ξ;゚⊿゚)ξ(これ、かなりマズいのでは……)

 ツンが模範解答として持ってきた作戦は事も無げに失敗。
 自動防御にタイムラグを作って云々〜という考えだったが、初見で看破され、終わった。

川 ゚ -゚)

ξ;゚⊿゚)ξ

 肝心要のアイテムは回収困難。素直クールも赤マフラーを刺し貫いたまま動こうとしない。
 彼女達の戦いはふと熱を失い、そこでじっくりと膠着した。


 ――それ自体がクールの狙いだと気付いた瞬間、ツンは全速力で彼女に立ち向かっていた。


ξ;゚⊿゚)ξ(止まってる場合じゃない! マフラーなしで敵が増えたら終わりなのだわ!)

 ヒートを取り逃がした段階で素直四天王の集結は時間の問題。
 だから最速でクールを倒さなければならなかったのに、相手に釣られて行動を遅らせてしまった。

 クールが赤マフラーを食い止め続けるとしても残りは2人、手負いが1人。
 どれほどの危険を冒すとしても、ここで彼女達を間に合わせる訳にはいかなかった。

lw´‐ _‐ノv「ごめん遅れた」

川 ゚ -゚)「問題ない」


ξ゚⊿゚)ξ

 即来た。

.

438名無しさん:2021/08/10(火) 21:38:15 ID:q9XV82ww0


ξ;゚⊿゚)ξ(――それでも攻め込む! 立ち止まってる余裕はもう無い!)ダッ

 勝負どころは今この瞬間。
 赤マフラーを半ば諦め、ツンは彼女達を同時に相手取ることを覚悟した。


川 ゚ -゚)「……結局、4対1にはできなかったな」

lw´‐ _‐ノv「ごめん。2人とも脳がヤバくて」

川 ゚ -゚)「刀はここに置いていく。素手の私にあんまり頼るなよ」

 刀を手放し、彼女はシュールの隣に並び立った。

lw´‐ _‐ノv「そのマフラー絶対暴れるでしょ。ここで待っててよ」

川 ゚ -゚)「いや、魔王城ツンは戦いに慣れ始めている。長引かせるのは得策じゃない」

lw´‐ _‐ノv「だったら最初から、……まぁいいけどさ」

 シュールは呑気に応えてからツンを見遣った。
 ツンはこのとき上空に跳んでおり、シュールめがけて一直線に飛び込んできていた。

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439名無しさん:2021/08/10(火) 21:42:17 ID:q9XV82ww0


ξ#゚⊿゚)ξ「おおおおッ!」

lw´‐ _‐ノv(……戦い方がヒートに似てんなぁ)ダッ

 シュールは地を蹴ってツン同様に空に上がった。
 正面切っての空中衝突。ツンは咄嗟に彼女を迎撃しようとした。

ξ#゚⊿゚)ξ「だァッ!」

 大きく引き絞った拳の威力は相変わらずの人外相当。
 ツンはタイミングを合わせてシュールの顔面を横から殴りつける。

lw´  _‐ノv「――ッと」

 そして直撃。
 シュールとしては、狙い通りだった。

ξ;゚⊿゚)ξ「!?」

 直撃と同時にシュールの五体がぐるりと翻り、地面に向かって墜落を始める。
 その寸前、シュールはツンの外套を掴んで彼女を落下に巻き込んでいた。

ξ;゚⊿゚)ξ「ちょっ――!」

lw´‐ _‐ノv「うわぁ大変だぁ」

 ダメージの大半を落下と回転のエネルギーに変換し、ツンごと地面に急降下していくシュール。
 2人分の体重に十分な速度と回転を加えた直線落下。もし下敷きになれば間違いなく重傷を負う。
 ツンは暴れて逃げようとするが、シュールにとってはそれすらも予定調和に過ぎなかった。

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440名無しさん:2021/08/10(火) 21:54:08 ID:q9XV82ww0


ξ;゚⊿゚)ξ「このォ!」ブンッ

lw´‐ _‐ノv(これも軽率)

 落下しながらツンの攻撃を逆手に取り、その腕を絡め取って関節技へと移行する。
 シュールは瞬く間に彼女の腕を股に通し、背中に乗りあげてオモプラッタの形で極めに入った。

ξ; ⊿゚')ξ「んぎッ……!」

 ぎち、と音を立ててあらぬ方向に圧し曲げられるツンの右腕。
 関節技は相手の肉体に無理を言わせるもの。下手な対処は逆効果にしかなりえない。
 唯一それだけは弁えていたツンは最低限の力で抵抗、破壊されないギリギリの所で態勢を維持した。

ξ; ⊿゚)ξ(だけど、これじゃ……!)

 目まぐるしく回る視界、凄まじい速度で迫ってくる地面。
 一瞬先に訪れる最悪の衝撃に、ツンは成す術なく目を塞ぐしかなかった。
 関節技を極められた状態で人間の下敷きになればどうなるか――その想像さえ最早手遅れだった。




ξ; ⊿ )ξ

 ――全ての認知を追い抜いて、ばきゃ、という破裂が聞こえてきた。

 その瞬間に五感は途絶え、瞬きした訳でもないのに視界が暗転する。
 しかし鮮明な感触が暗闇の幕を開け、彼女の意識を強制的に現実に引きずり戻す。
 彼女はそこで、現実の直視を余儀なくされた。


lw´‐ _‐ノv「すまんね」

ξ;゚⊿゚)ξ


 ツンが正気を取り戻した時、彼女は既に地面に転がされていた。
 シュールもとっくに背中を降りていて、少し離れたところからツンを眺めている。
 先程までの不自由もなく、ツンの体は完全な自由を取り戻していた。

 ただ一箇所、300度以上ねじ曲がった右腕を除いて。

.

441名無しさん:2021/08/10(火) 21:58:12 ID:q9XV82ww0


ξ;゚⊿゚)ξ

ξ;゚⊿゚)ξ「……ぁ」

 すべての顛末を理解すると、ツンは言葉を失って絶叫を上げた。

 壊れた右腕を抱えて暴れ、大きな痛みを小さな痛みで誤魔化そうとする。
 動かせないのに痛みと熱だけが収まらない。細長い芋虫の群れが血管の中を泳いでいる。
 人生最大の苦痛がコンマ1秒ごとに更新されていく。耐えても叫んでもそれは止まらなかった。

lw´‐ _‐ノv(……物理は得意そうだったけど、この手の痛みは初めてだったのかな)

lw´‐ _‐ノv(捻挫とか断裂とか捻転とか脱臼とか一気にだもんな、ちょっとやり過ぎた……)

 何をどうやっても逃げ場のない、とにかくひたすら痛いだけの時間。
 峠を超えるのに1分。それから更に数分を要し、ツンはようやく叫びを途絶えさせた。

 ――痛みが収まったのではない。諦めがついたのだ。
 この現実を薄めるには、彼女はそうして最後のプライドを捨てるしかなかった。


lw´‐ _‐ノv「次は左腕を狙う」

 地面に伏したまま、痛みに対する反射のみでピクピクと蠢くツン。
 彼女をじっと見下ろしながら、シュールは淡白にそう告げた。

w´‐ _‐ノv「ヒートに倒されてた方が楽だったと思うよ。
       それと同じこと、残りの2人もやれるからね」

ξ; ⊿ )ξ

 1から10までを経て打ち出される打撃に対し、固めた後の関節技は-1にポキッとやるだけ。
 赤マフラーがあったとしても、知恵の輪のように密着する2人を解くには相当の精密さを求められる。
 対応ひとつに多くの技量を必要とする組技に、今の彼女はまったくの無力だった。

.

442名無しさん:2021/08/10(火) 22:01:29 ID:q9XV82ww0


lw´‐ _‐ノv(服を狙えば問題ないのはヒートの時に確認済み。
       固めを解くような動作が出来ないのも割れてるし、マフラーはもう問題じゃない)

ξ; ⊿゚)ξ

lw´‐ _‐ノv(……でも、これで立つから厄介なんだよな、魔物は)

 膝を震わせながら立ち上がってくるツンを認めて、シュールは半ば呆れたように頭を振った。
 戦意喪失に足る痛みは与えた。この戦いを放棄する猶予も十分に与えた。

 ――それでもツンは立って見せ、戦意をしっかり残している。
 であれば必然、戦闘を長引かせたくないという姉の意見にも得心がいった。

lw´‐ _‐ノv(あいつら、殺害禁止のルールで戦いを間延びさせようとしてるのか。
       そりゃ体力勝負にした方が勝ち目あるか。小賢しい……)

lw´‐ _‐ノv(それにあの試験官、こっちが死にかけてても無視しそうだし。
       かと言って、こっちが殺す気になったら絶対止めに来るし)

lw´‐ _‐ノv(私達に忖度させようって魂胆のルールなのね。分かりましたよっと)



lw´‐ _‐ノv(――だったらまぁ、急いで両手足バキバキにしないとな)

 すっと体を沈めた直後、シュールは容赦なくツンに襲いかかった。
 左腕、と宣言したけどやっぱり右腕を完全破壊しに向かう。

ξ; ⊿゚)ξ !

 無音の急接近にツンは動じた。反応が鈍り、然るべき対応が頭からすっぽ抜ける。
 シュールはそこに付け入り絶好の位置を陣取った。
 反射的に突き出されたツンの手を払い除け、後ろに逃げた右腕に狙いを定める。

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443名無しさん:2021/08/10(火) 22:04:44 ID:q9XV82ww0



川;゚ -゚)「――ダメだシュール! 避けろ!」


lw;´‐ _‐ノv「むっ――!」

 しかし瞬間呼び止められ、シュールは弾けるようにその場所から離脱した。
 直後、彼女と入れ替わるように赤い軌跡が空を横切る。
 シュールはそれを睨みながら遠間の岩場に着地。ツンを目視し、一時の安全を確保する。

lw;´‐ _‐ノv「……なんで止めたん」

川;゚ -゚)「マフラーが暴れてそっちに飛んでいったんだ。避けなきゃ直撃してたぞ」

 隣に現れたクールが慌てた様子でシュールに答える。
 それほどの緊急事態。ツンを含めたこの場の3人、誰も状況をよく分かっていなかった。

lw;´‐ _‐ノv「ああ、やっぱり動いたんだね」

川;゚ -゚)「気付いて止めに行ったんだが間に合わなかった。すまん」

lw;´‐ _‐ノv「いいよ。私も気ぃ抜いてたから……」

.

444名無しさん:2021/08/10(火) 22:09:54 ID:q9XV82ww0


lw´‐ _‐ノv「……いやぁ、どうすっかな」

 シュールは口元に手を当てながら精神を仕切り直した。
 やっぱり4人でという考えが第一に浮かび上がるも、それはそれで大きな不都合があった。

 ――勝つだけだったらそれでいい。
 だが、そこまでやったら本当に後に引けなくなる。

 彼女個人の考えによると、それは極めて不本意な展開だった。
 あくまでも一個人として、素直シュールはこの戦いが中途半端に終わることを望んでいたのだ。
 今は魔王城ツンの温情に期待しつつ、適当にこの場を収めるのが得策だと彼女は考える。

川 ゚ -゚)「マフラー単体であの挙動、もはや2対2と考えるべきだな」

lw´‐ _‐ノv「参ったもんだよね。ヒーキューが居れば楽かもだけど」

川 ゚ -゚)「それはダメだ。勢い余って魔王城ツンを殺したらどうする。あの試験官に即殺されるぞ」

lw´‐ _‐ノv「なら脱出は? ここから逃げ出す当初の予定、もうかなり厳しそうだけど」

川 ゚ -゚)「……逃げたとしても最初に息切れするのはヒートだ。
     そこで絶対に足並みが崩れる。4人で逃げ切れないなら、逃亡はありえない」

 ――ヒートの負傷は魔王城ツンの実力を計り損ねた私のせいだ。
 素直クールは己を叱責しながら、それでも冷静に戦場を俯瞰していた。

 ヒートには後で謝る。今は仇討ちなど考えない。
 そう割り切って、長く息を吐く。

川 ゚ -゚)「……なあシュール。あいつら、試験が済んでも私達を生かすと思うか?」

lw´‐ _‐ノv「命乞いなら任せろー」バリバリ

 シュールの軽い反応に、クールは仄かに微笑んで見せた。

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445名無しさん:2021/08/10(火) 22:11:55 ID:q9XV82ww0

≪3≫



.   _ ∩
  レヘヽ| | テテーン
    (・x・)
   c( uu}


ξ;゚⊿゚)ξ

 突然シュールが消えたかと思えば、ツンの前には1匹のウサちゃんが現れていた。
 しかもその口には赤マフラーをくわえており、かわいい。

.   _ ∩
  レヘヽ| |
    (・x・)
  ”c( uu} ,,ノミ入
      丿 ノ
     ´~~~

ξ;゚⊿゚)ξ「どうして……」

 ウサちゃんは赤マフラーを置いて毛玉のような尻尾を振ったかわいい。
 暴力表現から一転してSo Cute。感情の行き場を失ったツンはその場にぺたんと腰を落とした。


ξ;゚⊿゚)ξ

.   _ ∩
  レヘヽ| |
    (・x・)
   c( uu}



◎     ◎   ティウンティウンティウン
  ◎ ◎
 ◎    ◎
   ◎ ◎
 ◎  ◎  ◎


 そしてウサちゃんは消滅した。

.

446名無しさん:2021/08/10(火) 22:14:00 ID:q9XV82ww0




ξ;゚⊿゚)ξ「――……えっ?」

 その時、ツンは右腕に違和感を覚えて我に返った。
 確認すると彼女の右腕は元に戻っており、さっきまでの痛みも嘘のように消え去っていた。

ξ;゚⊿゚)ξ「……は?」

 感覚が戻っている。軽く動かしても違和感はない。
 ツンは呆気に取られて目を丸くした。幻覚でも見ているのかと、本気で自分を疑ってしまう。
 目に映るのは『完治』という事実のみ。過程を飛ばしたその現象に、ツンの思考はまるで追いつかない。

ξ;゚⊿゚)ξ(……貞子さんが治してくれたとか?
       でもまだ試験中よね? いったい何が……)

 ――と、そこまで考えて試験の事を思い出す。
 ツンは縋る思いで赤マフラーを拾い上げ、素直四天王を探して周囲を見渡した。

ξ;゚⊿゚)ξ(そうよ! ぺたんこ座りしてる場合じゃないのだわ!)

 岩場の上に敵影を見つける。ツンは即座に腰を上げた。
 それが再開の合図となり、素直四天王の2人も岩場から降りて左右に散開していった。
 猶予は数秒。ツンは急いでマフラーを巻き、先行してきたシュールに対して両拳を構えた。

.

447名無しさん:2021/08/10(火) 22:18:13 ID:q9XV82ww0


lw´‐ _‐ノv(さて、またマフラー奪えりゃいいけど――)

 シュールは囮を買って出たつもりで先陣を切っていた。
 今のところ防具を着けているのは自分だけ。被弾があっても少しは軽く済む。
 魔王城ツンが『魔物らしさ』に馴染みつつある現状、多少のリスクは覚悟の上だった。

ξ#゚⊿゚)ξ「――だあッ!!」

 シュールを狙って直線的なパンチが迫る。
 彼女は屈んでそれを避けると、赤マフラーを片手に巻き取ってさらに襟首へと――

lw;´‐ _‐ノv「!?」

 襟首へと伸ばした手が、しかし届かない。
 思いがけない齟齬に一瞬思考を止めるシュール。

 次の瞬間、彼女の体は凄まじい力で上空に放り投げられていた。

川;゚ -゚)「シュール!!」

ξ;゚⊿゚)ξ「――えっ!?」

 素直クールの声は背後から聞こえていた。
 ツンは即座に踵を返したが、彼女もまた空に上がったシュールを見上げて足を止めていた。

lw;´‐ _‐ノv「こっちはいいから!!」

 シュールは目算30メートルはあろう高度からクールに呼びかける。
 今の一瞬でどうやってそこまで行ったのか、それを分かっていたのは当の本人だけだった。

lw;´‐ _‐ノv「マフラー!!」

川;゚ -゚)

ξ;゚⊿゚)ξ

 だが、その一単語で情報共有は完了した。
 ツンとクールは一瞬目を合わせ、直後に戦闘を再開した。

.

448名無しさん:2021/08/10(火) 22:23:36 ID:q9XV82ww0


川#゚ -゚)「――六刀剣撃!」

 鬼気迫る一歩を踏み込み疾風と化すクール。
 刀は既に回収済みで、彼女の手中にしかと握られていた。

ξ;゚⊿゚)ξ「くッ!」ダッ

 ツンは即刻その場から飛び退いた。
 関節技でなくとも武器は天敵。誰と戦うにしても戦況は不利だ。
 特にクールは複数種類の剣技を備えている。シュール以上に初見殺しが怖かった。

川#゚ -゚)「千手六花――」

 ツンを追いかけ一刀六斬の軌跡が光る。
 回避を早めにしたおかげで、ツンは余裕をもってその攻撃を避けることができた。
 しかしクールは承知の上だと言わんばかりに更に踏み込み、流れるような連撃を後に続けた。

ξ;゚⊿゚)ξ(まだ来るの!?)

川#゚ -゚)「二の太刀ッ!」

 ぐんと近づく彼女に威圧され、ツンは思わず足をもつれさせた。
 転びかけ、致命的な隙が刹那に生まれる。
 クールは正確に狙いを定め、ツンに向かって三の太刀を放った。

.

449名無しさん:2021/08/10(火) 22:27:59 ID:q9XV82ww0


 ――赤マフラーの始動はその瞬間だった。
 それはすぐさま刀を捌くと、布地の端を固めるや否や、突き上げるような打撃で反撃を行った。
 クールの腹部を抉るような重量級の一撃。瞬間、彼女の足が地面から浮かび上がる。

川; -゚)「な、あ゙……ッ!?」

ξ#゚⊿゚)ξ「――!」

 ツンは急いで姿勢を整え、無防備を晒すクールを全力で殴りつけた。
 それと同時に真紅の魔力が爆風を帯びて弾け、彼女は一撃で場外へと弾き飛ばれていった。
 大小無数の岩をブチ抜きながら荒野の向こうに吹っ飛んでいく素直クール。
 ツンの拳には、びりびりとした手応えが返ってきていた。


ξ#゚⊿゚)ξ「……」

ξ;゚⊿゚)ξ「あっ」

 やべ、と囁いて青ざめるツン。
 どう見ても手加減をミスっている。練習通りにやったつもりがその数十倍は威力が出ている。
 咄嗟だったからつい――しかしそれ以前の疑問が脳裏を過ぎり、彼女は慎重に考えを巡らせた。

.

450名無しさん:2021/08/10(火) 22:32:55 ID:q9XV82ww0


ξ;゚⊿゚)ξ(咄嗟だったけど、このマフラーでも攻撃ができた。
       怖いくらいに調子が上がってきてる。理由は分かんないけど……)

ξ;゚⊿゚)ξ(……もしかして、今ならもっと自由に動かせるの……?)

 ――そこまで考えた直後、爆発音にも似た地鳴りが周囲に響き渡った。



lw;´‐ _‐ノv「……っふう」

ξ;゚⊿゚)ξ(考えるより、今はこっちが先か……!)

 音の方には大きな砂埃が立ち込めており、その中には素直シュールの姿があった。
 数十メートルの落下から見事に着地。彼女はアイアンマンもかくやという姿勢で地面に膝をついていた。
 しかしすぐには攻めてこない。ツンは様子を見られていた。

ξ゚⊿゚)ξ

lw´‐ _‐ノv



ξ#゚⊿゚)ξ「――その手はもう食わないのだわ!」ダッ

lw;´‐ _‐ノv(時間は稼げないか……!)

 タイマン勝負は望む所。調子づいたツンはここで勝負を決めにいった。
 距離を詰めては拳を引いて、片膝をつくシュールに容赦なく振り下ろす。
 シュールはこれを上体をそらして避け、立ち上がりながらツンの懐に潜り込んだ。

lw;´‐ _‐ノv(ったく、殺していいならどんなに楽だったか――!)

 苦悶の表情を浮かべつつ、シュールはツンの喉輪に手を伸ばした。
 これはツン本人を狙う攻撃。当然のように赤マフラーに防がれたが、もはや構わなかった。

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451名無しさん:2021/08/10(火) 22:41:38 ID:q9XV82ww0


 シュールは再度赤マフラーの一端を掴み、今度はそれをツンから奪おうとした。
 これさえ取り上げれば戦況は覆る。かなり危険だがやるしかないと、彼女は秒で腹を括っていた。

lw;´‐ _‐ノv !

 しかし思惑はすぐに裏切られた。
 どれだけ力を込めて引っ張っても、赤マフラーがぴくりとも動かなかったのだ。

ξ;゚⊿゚)ξ

 ――主人である魔王城ツンの意思に従い、頑なに動かない。

lw;´ _‐ノv「こ、のォ……ッ!」

 綱引きのように互いを引き合うシュールとマフラー。
 力の均衡は次第にマフラーに傾き始め、逆にシュールの方が手を握り潰されていく。
 こうなっては逃げる事も叶わない。ここで決着をつけるしかない。
 シュールは軋むほどに歯を食いしばり、相打ち覚悟で近距離戦を受け入れた。

lw;´‐ _‐ノv(こうなりゃ取っ組み合いに持ち込んで――!)

ξ;゚⊿゚)ξ「――ああああああ!!」ガバッ

 そんな覚悟を直感したのか、ツンは反射的にシュールに飛びついてた。
 シュールの脇腹に首を通し、腰回りにがっちりと腕を回す。

lw;´‐ _‐ノv「なっ……!」

ξ;゚⊿゚)ξ(この人とは絶対まともに戦わない!! 絶対にだ!!)

 この形なら双方互角。こうも密着していては小細工を挟む余地もない。
 つまりはゴリ押し。魔物の耐久力に物を言わせた捨て身の作戦である。

.

452名無しさん:2021/08/10(火) 22:44:37 ID:q9XV82ww0


lw;´‐ _‐ノv(まさかこいつ、マフラーを完全に操って――!?)

 即死が見える致命的な間合い。シュールは必死で離脱を試みた。
 空いた手足をがむしゃらに使い、ツンの背中や顔面をめちゃくちゃに殴打する。
 それでもツンは拘束を解かなかった。単なる気合いでそれに耐えていた。

lw;´  _‐ノv「――んぐ、お゙……!」

 技術皆無の素人ホールドでも相手は魔物。引き崩して寝技を仕掛けるような余裕も既にない。
 五臓六腑がぎゅっと絞られ、肺の空気がどんどん口から飛び出していく。
 そういえば装着していた縄鎧もこの攻撃にはなんら無力。刻一刻と、彼女の手足は力を失っていった。

lw;´  _‐ノv

lw;´  _‐ノv「背骨折れたら死ぬ。失格だよ」

 進退窮まる彼女が最後に頼ったのは話術だった。
 一瞬でもいい。人間的な理性を取り戻し、人間だからと躊躇してくれれば活路が開ける。
 騙し討ちになろうが知った事ではない。今はとにかくこの窮地を脱しなければ――。


ξ;゚⊿゚)ξ

ξ;-⊿-)ξ


ξ;゚⊿゚)ξ「……貞子さんなら、すぐに治してくれるのだわ」


lw´‐ _‐ノv

lw;´‐ _‐ノv「あっ、はい」

.

453名無しさん:2021/08/10(火) 22:46:30 ID:q9XV82ww0


ξ#゚⊿゚)ξ「――あ゙あ゙あ゙ッ!」

 ツンは膂力を振り絞り、シュールを引っこ抜いて空に放り投げた。
 先程のような高度はないが、それでも10メートル前後の高さには優に達している。
 頭上に放った彼女を見据えて、ツンはぐぐっと拳を溜めた。

lw;´‐ _‐ノv(しめた! 放してくれりゃあ後はどうとでもなる!)

 どんな形であれ自由は自由。
 束縛を解かれたシュールはこの好機を手にすべく、眼下で待ち構えるツンを強く睨んだ。
 こちらの落下を狙うならばタイミングを計るのは難しくない。反撃は後手、次は確実に四肢を破壊する。




lw´‐ _‐ノv「……?」

 だが、数秒経って彼女は早合点を自覚した。
 いつまで経っても落下が始まらない。それどころか、片手片足も自由に動かせなくなっていた。
 まるで空に浮いているような感覚。しかし理由はすぐに分かった。

ξ# ⊿゚)ξ

 このとき、シュールの手足は赤マフラーに捕らわれていた。
 赤マフラーの両端が彼女を支える柱となり、空中に晒し上げたまま制止している。
 束縛は解かれたのではない。より逃げ場の無い空中へと、単に場所を移しただけだった。

.

454名無しさん:2021/08/10(火) 22:51:11 ID:q9XV82ww0


lw;´‐ _‐ノv「……あー」

 直後、シュールは赤マフラーに引っ張られて垂直に落下した。
 もちろん着地点には魔王城ツンが待ち構えている。逃げ場はなかった。
 ツンは彼女の落下に合わせ、全身を使って右拳を突き上げた。

ξ# ⊿゚)ξ「――――ッ!!」

 ――閃光の如き真紅が矢風となって空を奔る。
 次の瞬間、彼女の拳は芯を貫き、シュールの腹部に爆発的な衝撃を叩き込んでいた。


lw;´  _ ノv「……ごぷッ」

 吐血と同時に爆散する轟音。地表に迸る赤の波動。
 決定打の残響はシュールの心身を闇へと落とし、彼女はそれきり微動だにしなかった。



ξ#゚⊿゚)ξ

ξ#゚⊿゚)ξ「……うっし」

 ずるり、とツンの拳から地面に転げ落ちていくシュール。
 ツンはしばらく彼女を見つめ、呼吸の音を確かめ、程なくして戦いの決着を悟った。

ξ#゚⊿゚)ξ(加減はまた間違えたけど、死んでないならOKよね)

 思った以上に赤マフラーの力が強く、慌ててタイミングを合わせたのでうっかり力んでしまった。
 それでも生きてる辺りシュールも人外染みた耐久力だったが、ツンはとにかく相手を倒したのだ。

ξ゚⊿゚)ξ

ξ;゚⊿゚)ξ(――よし、よし! 初めてまともに勝った、気がする!)

 自分の力で4人中3人に直撃を食らわせた事実。
 ツンは特訓の成果を肌で感じ、大きな深呼吸と共に余韻を味わった。

.

455名無しさん:2021/08/10(火) 22:53:18 ID:q9XV82ww0

≪4≫





ミセ*゚ー゚)リ「――お疲れさまでした、お嬢様」

 やがて現れたのは素直四天王の残り1人ではなく、ミセリだった。
 すこし気を抜いていたとはいえツンは彼女に気付けなかった。気配もなく、無音で背後を取られている。

ξ゚⊿゚)ξ

ξ;゚⊿゚)ξ「……あ、えっと」

 ツンは振り返って話しかけたが言葉に詰まった。
 平時と戦闘中の思考回路がこんがらがって、普通の会話が重度コミュ障のそれになる。

ミセ*゚ー゚)リ「試験終了ですよ。あとの1人は降参らしいので」

ξ;゚⊿゚)ξ「……ヒートは?」

ミセ*゚ー゚)リ「喋れはしますが戦えません。本人はやる気ですけど」

ξ;゚⊿゚)ξ「じゃあ素直クールは? ブッ飛ばしたままなんだけど……」

ミセ*゚ー゚)リ「あっちで伸びてますよ。叩き起こします?」

ξ;゚⊿゚)ξ「いやどす」

 いつもの調子で受け応えると、ようやく思考が切り替わった。
 ツンは安堵したように笑みを浮かべ、腰に手を当て、ぐったりと首を傾げた。

.

456名無しさん:2021/08/10(火) 22:54:23 ID:q9XV82ww0


ξ;´⊿`)ξ「あーそう。終わったなら、それが一番なのだわ……」

ミセ*゚ー゚)リ「はい。あとはとどめを刺すのみです」

 ミセリはそう言って素直シュールを一瞥した。
 興味なさげな軽い口調に、ツンはとぼけて曖昧に返した。

ξ;´⊿`)ξ「あーうん。とどめね……」

ミセ*゚ー゚)リ

ξ;´⊿`)ξ



ミセ*゚ー゚)リ「やってください。殺すと書いてやると読む方を」

ξ;´⊿`)ξ「……マジ?」

ミセ*^ー^)リ「もちろんです! 生かしておく理由も無いですから!」

 満面の笑みで言い切るミセリ。
 だがその言外にはあからさまな意図があり、ツンは探るまでもなく彼女の本意を見抜いていた。

ξ;´⊿`)ξ(殺せって、これ絶対私が嫌がるの分かってるじゃん……)

ミセ*^ー^)リ ニコニコ

ξ;´⊿`)ξ(……素直に言うかちゃんと隠すか、どっちかにしてほしいのだわ)

.

457名無しさん:2021/08/10(火) 22:56:38 ID:q9XV82ww0


ξ;-⊿-)ξ …ハァ

ξ;゚⊿゚)ξ「素直四天王を生かしておく理由なら、あるのだわ」

ミセ*´ー`)リ「えーそんなぁ! 殺しましょうよー!」

 ミセリは猫撫で声にデタラメを乗せて言う。
 呆れて調子が崩れるも、ツンは持ち直して台詞を続けた。

ξ;゚⊿゚)ξ「私が嫌なのよ。とっくに疲れてるし、冗談じゃないのだわ」

ミセ*´ー`)リ「でも私にも立場があって(ry」

ξ゚⊿゚)ξ



ξ;´⊿`)ξ「……なんすか、じゃあ私がミセリさん倒せばいいんですか」

ミセ*´ー`)リ「そうなりますねぇ不本意ながら。ああーすこぶる不本意で困るしかし心を鬼にして(ry」

 ツンの粗雑な口振りに、ミセリはまんまと乗っかってきた。
 要するに彼女は手合わせを望んでいるのだ。殺し云々はただの口実である。

 ――従者としては歓喜の意味で、魔物としては歓迎の意味で。
 試験突破のご褒美も兼ねて、ミセリはツンに『まだまだこれからだよ』といった激励を伝えたがっていた。
 物理的に。ちゃんと言葉にした方が伝わるのにも関わらず。

ミセ;*゚ー゚)リ「はいどうぞ! 私にもお嬢様の成長を味わわせてください!」

ξ;゚⊿゚)ξ

ξ;´⊿`)ξ「うおおお〜……」

 勝利の余韻をかなぐり捨ててミセリに立ち向かっていく殊勝なツンそして負けた。
 ものの20秒で全部が終わり、ツンは目の前が真っ暗になった。

.

458名無しさん:2021/08/10(火) 22:59:44 ID:q9XV82ww0


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



(´・_ゝ・`)「起きろ〜〜〜〜い」

ξ;´⊿`)ξ「うう……理不尽な暴力が……」

 数分後、そこには金髪ツインドリルを持ち手にされて振り回されるツンの姿があった。



ミセ;*゚ー゚)リ「ちょっと聞いてよ貞子! お嬢様ってば私と20秒も戦ってくれたのよ!?」

川; д川「……様々な齟齬にツッコミを入れたいとこだけど、一旦黙って」

ミセ;*゚ー゚)リ「前は5秒と続かなかったのに! 今日は1割は本気だったのに!」

川; д川「だから、大事な記憶を探ってるんだから待ちなさいってば……!」

 貞子は溜息で話を区切り、集中を取り繕った。
 魔力の燐光を纏う彼女の手は、気を失って地面に横たわる素直シュールに向けられていた。
 記憶を読み取る魔術はこれでもかなり神経を使う。話しながら実行できるのは貞子くらいのものだった。

川д川「……うん。ハインの居場所は大体分かった」

ミセ*゚ー゚)リ「おお早い! さすがは魔導宮廷のインテリジェンスね」

川д川「はいはい。邪魔が無ければもう少し早かったわよ」

 ラノベタイトルみたいな褒め言葉をさらりと受け流す貞子。
 彼女は続けてハインに関する情報を話した。

川д川「あいつ、市外の山中で野営生活してるみたい。
     でも正確な位置までは教えられてないわね。わざわざ仲介役まで使ってるし」

ミセ*゚ー゚)リ「……あの男にしてはやる事が半端じゃない?
      逃げるなら逃げるで徹底的に逃げそうだけど」

川д川「だったら罠なんでしょうね。山に誘い込んで各個撃破、人間が考えそうな話よ」

ミセ;*゚ー゚)リ「え、それじゃあ素直四天王の役割って……」

川д川「捨て駒よ。自分の居場所をこの子達に教える意味、それしかないもの」

 うわぁ陰湿、とミセリは鼻をつまんで目を細める。

.

459名無しさん:2021/08/10(火) 23:01:37 ID:q9XV82ww0


川д川「とりあえずエクストには連絡を入れとく。
     ミセリもあっちに合流してきて、明日の朝には全部終わらせといて」

ミセ*゚ー゚)リ

ミセ*゚ー゚)リ「山ごと焼いてもいいのよね?」

川д川「あのねミセリ、地上には犯罪という概念が――」

 瞬間、2人は会話を切って同じ方向に目を見張った。

o川;*゚ー゚)o「……えっ?」

 そこに居たのは素直キュートで、彼女は突然向けられた視線にひどく驚いている様子だった。

o川;*゚ー゚)o「……あの、えっと、今どんな感じですかね……?」

 素直キュートはへりくだって尋ね、貞子とミセリの顔色をそれぞれ窺った。
 彼女の質問には貞子が答えた。

川д川「こっちの用は終わったわ。治療なら順番にやってくから」

o川*゚ー゚)o「分かりました。なら向こうの2人も運んで来ますね」

 どこか安心したように頬を緩め、キュートはくるりと身を翻した。
 今朝の魔王軍襲撃から一貫して無傷の体。
 この期に及んでなお万全を保つ彼女の背中を、ミセリはどこか口惜しそうに眺めていた。

ミセ*゚ー゚)リ「……今更だけど、全員本気でやらせた方がよかったかもね」

川д川「なに言ってるの。殺し合いなんかさせたらお嬢様に嫌われるわよ?」

ミセ*゚ー゚)リ

川; д川「……ちょっと」

ミセ*´ー`)リ「それじゃあ自分は現場に戻りますんで……」

 貞子の追求をはぐらかし、ミセリは逃げるように去っていった。

.

460名無しさん:2021/08/10(火) 23:03:46 ID:q9XV82ww0


(´・_ゝ・`)「いやぁ〜素直四天王は強敵でしたね」

 面倒な話が済んだのを見計らい、盛岡はツンを持ったままこっそりと近づいてきた(図1)。
 それを横目に捉えたまま、貞子は通信用の魔術を組み立てて方々に連絡を入れる。
 ハインの居場所はこれで知れ渡った。魔王軍はすぐにでも彼を捕らえるだろう。

川д川「盛岡、あなたも仕事に戻りなさい。傷は十分癒えてるでしょうに」

(´・_ゝ・`)「俺はいつでも仕事中だよ。見たことないだろ? 俺がスーツ着てないとこ」

川д川「報酬に見合うだけの働きをしなさいって話よ。私の話し相手があなたの仕事?」

(´・_ゝ・`)「舞台裏が主戦場なもんで。振ってくれれば仕事はするからさ、勘弁して」

川д川「……だったらお嬢様をそこに寝かせて。素直四天王にも拘束を」

(´・_ゝ・`)「わぁい雑務だ〜」




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                ∧_∧
     ,-―――――(´・_ゝ・`)
     《rcノー―――-、〉  ⌒ヽ
    ξ ξ       |   ヽ \
    (´⊿`)       |    l \ \
     U U)      l    ヽ  \ \
     v-v        l、   l   レへ__)
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             \.|  |、_
              l   l  )
            __/  l|  l
           (___ノ_/

 (図1:ツンを持ったままこっそりと近づいてきた盛岡)

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461名無しさん:2021/08/10(火) 23:05:49 ID:q9XV82ww0


川д川(これは……)

 デミタスが適当なところにツンを寝かせると、貞子はすぐに彼女の治療を開始した。
 しかし、ひしゃげた右腕から四肢の端まで異常は見当たらず、貞子はすとんと拍子抜けした。
 戦闘中に見受けられた謎の回復が効いたのだろう。以前までの負傷に比べれば、傷は浅かった。

川д川(いや、ていうかこれ殆どミセリの物理ダメージなんじゃ……)

 貞子は自分を魔力を調整し、ツンの赤色の魔力に性質を寄せていった。
 そうしてツンの手を握り、輸血の要領で彼女に魔力を分け与えていく。

(´・_ゝ・`)

(´・_ゝ・`)「なあ貞子、それが済んだら次はあいつを治してくれよ」

川д川「……その注文ってなにか意味ある?」

 順に治すと言った通り、貞子は素直四天王を含めた全員に治療を施すつもりだった。
 盛岡が視線を送っている素直シュールも例外ではないし、彼の注文は余計なものでしかなかった。

lw;´ _ ノv

(´・_ゝ・`)「大した話じゃない。ただちょっと財布の事を聞きたいだけだ」

 盛岡はポケットから財布を出して答える。

(´・_ゝ・`)「ほら、俺って仁義を重んじるタイプだろ?
      拾ってくれた手前、礼を欠くわけにもいかねえじゃん」

川д川「……分かったわよ。そうする」

 彼の言動に思うところがあったのだろう。貞子はすんなりと注文を聞き入れた。
 ハインの一件に火が点いたのも彼の働きがあってこそだ。敵対しない限り、行動を縛る理由もない。

川д川「なんでもいいけど、次は上手くやるのよ」

(´・_ゝ・`)

(´・_ゝ・`)「任せてくれって。俺は毎回そう思ってるから」

 貞子からの思わせぶりな忠告。
 盛岡は禁酒禁煙のプロのように軽口を返した。

.

462名無しさん:2021/08/10(火) 23:15:51 ID:q9XV82ww0

#1 >>2-65 #2 >>74-117 #3 >>122-160 #4 >>169-212
#5-1 >>231-266 >>271-289 #5-2 >>294-324 #5-3 >>330-363
#5-4 >>371-416

#5-5 >>422-461


妖精円卓領域に時間を取られて少し遅れました 許されよ許されよ
次回投下は今月末で、その次は10月になると思います

463名無しさん:2021/08/10(火) 23:36:34 ID:cJ6b8Bjg0
乙だす

464名無しさん:2021/08/11(水) 16:33:26 ID:EC906xQw0
大人たちの思惑がわからんねぇ

465名無しさん:2021/08/16(月) 14:38:21 ID:QQuh5jjc0
ツンちゃん成長してるー!
相変わらず面白い、乙です

466名無しさん:2021/08/22(日) 21:15:32 ID:xk5v7xNI0
乙!ツンちゃんが超真面目なバトルできるようになってて凄い

467 ◆gFPbblEHlQ:2021/08/30(月) 04:10:02 ID:je6Z08Ao0

≪1≫


 朝霧漂う明朝4時。
 素直四天王から引き出された情報のもと、魔王軍は一晩かけて対象を山の中腹へと追い込んでいた。
 夜明けが先か決着が先か、それを決める自由さえもハインリッヒには残されていなかった。

<_プー゚)フ「観念しな。老いぼれにしちゃよくやったと思うぜ」

 体躯の端々に雷鳴を纏う魔物、エクストプラズマンは満面の笑みで称賛を述べた。
 バキバキの金髪に魔王軍規定軍服の襟を立てたそのビジュアル、紛うことなき厨二病の体現である。

<_プー゚)フ「人間の小細工ってのは存外おもしれえな。
         いい経験をさせてもらった礼だ。殺さねえからもう諦めろよ」



从;゚∀从「……おいブーン。この程度でもう息切れか?」

(; ´ω`)「そ、そんなこと言われても……」

 楽しげに微笑むエクストから数十メートル離れた木々の陰。
 ハインとブーンはそこで肩を貸し合いながら、満身創痍の体を急ピッチで休めていた。

 一夜を終えて万策を使い果たし、もはや正面切っての決着以外に活路を開けない窮地。
 対魔物を熟知しているハインであっても、これを無傷でひっくり返すことはほぼ不可能だった。

 彼らを追うのは魔王軍の選抜戦力。その頭数は百を超え、エクストの後ろに一人残らず健在のまま。
 多勢による緩やかな圧倒、統率された数の暴力。
 一切の予断なく自分達を包囲する魔王軍を相手に、ハインリッヒは最後の勝負を仕掛けようとしていた。

(; ´ω`)「おじいちゃん、これもう勝ち目ないと思うお……」

从;゚∀从「……だったら1人で逃げやがれ。俺は死んでもここを切り抜けるぞ」

(; ´ω`)「死んだら意味ないお。今まで仲良くできてたんだから一回落ち着いて……」

从;゚∀从「あーもーうっせえな! お前いつからそんな甘チョロになりやがった!?」

( ^ω^)

(^ω^)

.

468名無しさん:2021/08/30(月) 04:13:02 ID:je6Z08Ao0


<_プー゚)フ「……投降してくる気配なし。決着がお望みか」スッ

 聞こえるようにあえて声に出し、エクストは適当な方角に片手を突き出して見せた。
 彼の雷撃をもろに受ければ、いかに鍛えた人間であってもそれだけで戦闘不能に陥ってしまう。
 ただ何気なく片手を突き出しただけに見えようと、ハインは彼の煽動に乗らざるを得なかった。

从#゚∀从「――どこ見てやがる!」

<_プー゚)フ !

 死角からの不意打ちを気取った瞬間、エクストは振り向きざまに片腕を振り上げていた。
 ハインの刀をそれで受け止め、ようやくまともに攻め込んできた彼に歓喜の視線を投げかける。

<_#プー゚)フ(期待を裏切らねえ奴は好きだぜ――!)

 もうやるしかないという予定調和の正面衝突。
 エクストは心底嬉しそうに笑みを浮かべ、それと同時に魔力のボルテージを数倍に引き上げた。

<_プー゚)フ「――雷を落とす。避けろよ、現魔戦争の生き残り」

从;゚∀从「ブーン! 絶対にタイミング間違えんなよ!!」

 噛み合わない会話の直後、朝霧を伝って周囲に雷鳴が炸裂する。
 そして周囲の水分が一気に蒸発した瞬間、真白の閃光が2人の影を消し飛ばした。

.

469名無しさん:2021/08/30(月) 04:17:38 ID:je6Z08Ao0





ミセ;*゚ー゚)リ「あーもーまた雷、もっと静かにやりなさいよ……」

 一方その頃、遠く離れた山中から戦場を眺めていたミセリは巨大な閃光が山を呑むのを目視していた。
 デカすぎる落雷の音に耳朶を打たれ、激しい耳鳴りに脳を貫かれる。
 ミセリは押し潰すように両耳を塞ぎ、顔を歪めて戦場を見回した。

ミセ;*゚ー゚)リ「……はいはい、あそこに居ましたよ。
       ハインリッヒは健在です。戦争経験者はやはり違いますね」

( <●><●>)「加減したのでしょう。彼はあれでも律儀ですから、殺すなと言えば命令は守ります」

 ミセリの背後には燕尾服を着込んだ長身の魔物が佇んでいた。
 異様に青白い肌と暗黒が渦巻く瞳。
 振る舞いこそ丁寧でも、彼の風貌は間違いなく異形のそれだった。

ミセ*゚ー゚)リ「そうですかねえ。私には遊んでるように見えますけど」

( <●><●>)「成果が十分であれば過程はどうでも。
        とは言っても、当初の予定を死ぬほどオーバーしているのも事実ですが」

 ――魔王軍総指揮官、異名を『魔眼のワカッテマス』。
 今回彼は現魔王ロマネスクの特命を受け、魔王城ツンの試験相手として地上に来ていた。
 話の流れでその任務は立ち消えたものの、もし実際に戦っていればツンに未来は無かった。
 詰みポイントである。

.

470名無しさん:2021/08/30(月) 04:28:07 ID:je6Z08Ao0


( <●><●>)「そういえば、そちらの試験はどうなりましたか」

 暇潰しの雑談がてら、ワカッテマスが他愛なく話を切り出す。
 そのときミセリは彼からの視線を強く感じ取り、背を向けたままぎゅっと肩を縮こめてしまった。

 魔眼の、と称されるだけあって彼の双眸には稀有な能力が宿っている。
 魔眼の射程は視界全域。その名実にも嘘はなく、宇宙からなら地球全体をも標的にできるほどだ。
 とてもつよく、強い。

ミセ*゚ー゚)リ「……無事に終わりましたよ。お嬢様が勝ちました」

 仲間相手に取る態度ではないと理解していても、死に直結する視線など本能が受け入れない。
 恐怖や反骨心もなしに自然と体が反応してしまう辺り、さしものミセリもワカッテマスを格上と認めていた。

 ――それがワカッテマスという魔物の立ち位置。
 そして、魔王が本気でツンを連れ戻そうとしている事の証左だった。

( <●><●>)「順調であれば何よりです。魔王様への土産話も心配なさそうですね」

ミセ*゚ー゚)リ「記録もあるので好きなように審査してください。
       今のままでも最低限の実力はあると思いますよ」

ミセ*゚ー゚)リ

ミセ;*´ー`)リ「……だってのに、魔王様もやる事が極端なのよ。
       話が変わったからいいものを、あんた相手じゃ今頃どうなってたか……」

 彼の視線に狼狽えた自分を誤魔化そうとしてか、ミセリは口調を崩して小言を垂れ流した。
 魔王軍において2人はほとんど同期であり、これくらいの不躾はユーモアの範疇だった。
 同期にはまだ棺桶死オサムという魔物も居るのだが、彼の出番は最終章まで一切ない。

.

471名無しさん:2021/08/30(月) 04:29:32 ID:je6Z08Ao0


ミセ*゚ー゚)リ「……あ、また動きが」

 ミセリがそう言って顔を上げた直後、視線の先で凄まじい爆発が起こった。
 真っ赤な火の手が空に立ち上り、黒い煙がすっごいモクモクしている。
 だがエクストにしては規模が小さい。ハインが何かをしたのだと、ミセリはすぐに勘付いていた。

( <●><●>)「一杯食わされた、といった感じでしょうか」

 黒煙がモクモクしている辺りに目を向けて、ワカッテマスは魔眼の力を行使した。
 瞬間、爆発による火事のすべてが彼の瞬きひとつで一掃され、鎮火する。
 やろうと思えばこれでハインを捕まえる事も可能だったが、本来の任務ではないので手柄は取らない。

( <●><●>)「あなたも向こうでハインの相手をしてきて下さい。
        これ以上は時間の無駄です。エクストが遊びだす前に決着を」

ミセ*゚ー゚)リ「……ご自分で済ませた方が早いのでは?」

( <●><●>)

( <●><●>)「失礼ながら――今のあなたは少々肥えて見える。
        動ける時に動いておきなさい。地上の暮らしは我々には緩慢すぎる」

ミセ;*´ー`)リ「うわぁ本当に失礼。ちょっと目潰ししていいですか」

( <●><●>)「御冗談を。昔ならまだしも、今のあなたでは――」

ミセ*゚ー゚)リ

 ミセリは静かに振り返り、言葉を遮るようにワカッテマスの魔眼をじいっと見つめた。
 彼も応えてミセリを見るが、彼女を煽ってしまった自分の非を認め、あっさりと魔眼を閉じて見せた。

( <─><─>)「ミセリ、任務を最優先でお願いします」

ミセ*゚ー゚)リ「……分かってますとも。行ってきます」

.

472名無しさん:2021/08/30(月) 04:37:11 ID:je6Z08Ao0



 ――ハイン捕獲のために動員された魔王軍100名以上のうち、最終的に7名が戦闘不能。
 ハイン、エクストプラズマン、ミセリ3名による大規模戦闘を支援した約20名が重軽傷を負って戦線離脱。
 その後内藤ホライゾンが逃亡を図るも、ワカッテマスの助力もあって魔王軍は対象の捕獲に成功する。

 内藤ホライゾンを気絶させ、強制的に激化能力を解くとハインの戦闘能力は著しく激減。
 能力により復元されていた武器防具類と全盛期の肉体を失うが、彼は以降も変わりなく戦闘を続行した。

 ツンの試験終了から半日以上が経過した翌朝8時。
 ハインはすっかり力尽き、内藤ホライゾンと一緒にその身柄を拘束された。


.

473名無しさん:2021/08/30(月) 04:38:50 ID:je6Z08Ao0

≪2≫


 〜学校 放課後〜


ξ゚⊿゚)ξ「そこで私はやったったのよ」

ξ゚⊿゚)ξ「オラァ! はい、一発ダウン(笑)なのだわ」

 「そうなんだ、すごいね!」


('A`)「……そろそろ帰ろうず」

ξ゚⊿゚)ξ「うるさいわねドクオ。魔王降誕の序章を語ってるんだから邪魔しないでよ」

('A`)「序章の自慢話だけで数日経ってまつが……」

 試験が終わって数日後。かくして私は普段の生活に戻っていた。
 いつも通りに学校に行き、まゆちゃん相手に試験結果を語り聞かせる毎日をエンジョイ中である。
 ちなみに私は健康そのもの。心身ともに傷は癒えていた。でもやっぱり長期休暇がほしい。

('A`)「いいから今日は帰ろうって。用事もあんだから」

ξ゚⊿゚)ξ「なんだと私は魔王城だぞ。すこぶる失礼なドクオだな貴様」

('A`)「まゆちゃんもマジでごめんな。眼輪筋ピクピクさせるレベルでストレス溜めさせて」

 馴れ馴れしくまゆちゃんを気にかけるドクオ。やめろ私の友達だぞ馴れ馴れしくするな。
 しかしまゆちゃんが眼輪筋をピクピクさせてたのは本当で、心なしか笑顔も引きつって見えた。

 「あはは、でも大丈夫だよ。3回目以降ほぼ聞いてないし」

ξ゚⊿゚)ξ !?

('A`)「驚くことじゃねえよ。普通3回も序章繰り返したら飽きるっての」

ξ;゚⊿゚)ξ「そんなありえない! 5回目からは神アレンジまで加えてたというのに……!」

(;'A`)「飽きてアレンジ加えてる辺りで罪を自覚しろって。むしろよく4周目まで駆け抜けたな」

ξ;´⊿`)ξ「次からは来場者特典(よく喋る!ツンちゃんミニカー)をプレゼント……」

(;'A`)「しょうもないとこで粘りづよい……」

.

474名無しさん:2021/08/30(月) 04:39:48 ID:je6Z08Ao0


 そんな感じで私の日常が普段通りになった一方、嬉しい誤算がひとつだけあった。

ξ゚⊿゚)ξ「今日は特別に試作段階のツンちゃんミニカーをプレゼント。
 つ凸つ  全120種類+シークレット3種をがんばって揃えよう」
   ゚ ゚
(;'A`)「いやお前、そんな馬鹿げた生産能力を持った奴がどこに……」


(; ´ω`)「あの、ツンちゃんミニカーの納品に参りました……」ソロリ
 つ凸と
   ゚ ゚

('A`)

ξ゚⊿゚)ξ「あ、それまゆちゃんに渡してあげて」

(; ´ω`)「はい……」

('A`)

('A`)「お前、まさかこんな苦行に激化能力を……?」

(; ´ω`)「いや普通に手作業」

('A`)「そっちのがキツいよ」

ξ゚⊿゚)ξ「いや〜人件費が安くて助かるのだわ」

 どういう訳だか、魔王軍に捕まっていた内藤くんが突然の恩赦を受けたのである。
 もしこれが試験突破のご褒美なら嬉しい限り。ミセリさんにボコられた甲斐もあるというものだ。

ξ゚⊿゚)ξ「それじゃあ私達は帰るのだわ。
      まゆちゃんそれプイプイ鳴るからね。よろしくね」

 「はい」

ξ゚⊿゚)ξ「えっ冷たい」

('A`)「モルカーのパチもんを押し売りするからだよ」

ξ゚⊿゚)ξ「そんな……」

 終わりだ

.

475名無しさん:2021/08/30(月) 04:40:35 ID:je6Z08Ao0


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 かくして学校を出た私達はハインさんの屋敷に向かっていた。
 なんか試験結果とか諸々教えてくれるらしい。さっき言ってた用事とはその事だった。

ξ゚⊿゚)ξ「えーどうしようインタビューとかされちゃったら。今ちくわしか持ってないのだわ」

('A`)「俺からは『いつかやると思ってました』って言ってやるよ」

( ^ω^)「昔から変な人でした。アニメもよく見てたし……」

ξ゚⊿゚)ξ「被告の古い知人は語る――じゃないのよ殴るわよ」

('A`)「だったら今日のメンツをよく考えろ。そして頼むから落ち着いてくれ……」

 屋敷に着くなりチャイムを鳴らしてドカドカ侵入していく私達。
 庭の方から話し声が聞こえてくる。そっちに行くと見知った顔が勢揃いしていた。



                  テテーン

  川 ゚ -゚) ´‐ _‐ノパ⊿゚)*゚ー゚)o
  ミ.三三)三三)三三)三三)
  し_)_)_)_) _)_)_)_)


ξ゚⊿゚)ξ「素直四天王がギチギチに詰めて並べられている」

 しかも処刑寸前といった風情で地面に座らされている。
 生きた心地はしてないだろうな、と一目で伝わってくる悲痛さがすごかった。


.

476名無しさん:2021/08/30(月) 04:45:23 ID:je6Z08Ao0


ミセ*゚ー゚)リ「まったく、遅いですよお嬢様」

ξ゚⊿゚)ξ「すまぬ」

ミセ*゚ー゚)リ「これで色々決まるんですからね。ちょっとは緊張してください」


( <●><●>) ジロッ

ξ゚⊿゚)ξ

ξ゚⊿゚)ξ「アッ(蚊のような悲鳴)」

 いつメンに加え、今日はミセリさんの後ろにヤバいのが控えていた。
 私はすぐさま顔をそらした。死にたくないので急いで体裁を整えていく。

ミセ*゚ー゚)リ「彼については知ってますよね。魔眼の御方ですよ」

ξ;゚⊿゚)ξ「どどどどうしてあんな大物が!!!?!」

ミセ*゚ー゚)リ「ほんとは彼が試験相手だったんですよ。見たかったなぁ2人が戦ってるとこ……」

ξ゚⊿゚)ξ

ξ; ⊿ )ξ(――戦っとったら死んどるんじゃい!!)

 目ぢからヤバめの彼はワカッテマスさんという激ヤバ魔物だった。
 魔王軍最上位の実力を備える例外戦力。なんかもうインフレの擬人化みたいな存在である。
 私のパパとも親交があり、時には魔王の右腕として動くこともあったりするらしい。
 とにかく間違いなく私より強く、試験なんかに駆り出していい人材ではないのである。

ξ;゚⊿゚)ξ「ごごごごきげんうるわしう」

( <●><●>)「はい、お久し振りです」

 死物狂いで声をかけるとワカッテマスさんは遠巻きから会釈をしてくれた。
 私も目を細めて辛うじて彼を見遣り、同じように会釈を返した。
 彼の視界に入ってる時点でもうめちゃくちゃに危険である。生きた心地がしなさすぎる。

.

477名無しさん:2021/08/30(月) 04:47:26 ID:je6Z08Ao0


        __
( ̄ (´・_ゝ・`) )  「いいからさぁー、揃ったんなら話を進めようぜ」
 ``ヽ   /⌒ヽ,-、
    ヽ__,,/⌒i__ノ  バァーン
       (_)

 とぼけた野次に振り返ってみると、縁側に転がり死ぬほど寛いでいる盛岡と目が合った。
 ワカッテマスさんの前であんな態度を取れる盛岡に逆に驚く。彼には心が無いのだと思った。

(´・_ゝ・`)「どうせ説明回だろ? 話は短く、内容はハッキリよろしくな」

川д川「だったら態度を直しなさい。あなたの立場はドクオと大差ないんだからね」

 彼の傍らに立つ貞子さんが甲斐甲斐しく注意を挟む。
 いいぞ貞子さんもっと正論を述べてくれ。一緒に常識が機能する世界を目指そう。

(´・_ゝ・`)「話を聞くだけなんだから横でいいだろ。縦がそんなに偉えのかよ」

 お前はちょっと黙れ。



ミセ*゚ー゚)リ「……まぁとりあえず、最初に試験の結果を」

ξ゚⊿゚)ξ「うん」

ミセ*゚ー゚)リ「ワカッテマスさんの方から聞いといてください」

ξ゚⊿゚)ξ

ξ;゚⊿゚)ξ「――えっ!? そこブン投げるの!?」

ミセ*゚ー゚)リ「2人で話したいそうですよ。我々はあっちで待ってますのでごゆっくり」

('A`)「ツン、骨は拾うから安心して逝ってこい」

( ^ω^)「きっと合格してるから大丈夫だお!」

 ミセリさんがドクオ達を連れて縁側の方に引いていく。
 それを見るなり貞子さんも身を引いてしまい、私はこの場で一番怖い存在との対峙を余儀なくされた。

川 ゚ -゚)(残された我々はなにを……)

ノパ⊿゚)(黙って待つしかないんじゃ……)

.

478名無しさん:2021/08/30(月) 04:50:23 ID:je6Z08Ao0


( <●><●>)

ξ;゚⊿゚)ξ ヒェェ

 噂に名高い彼の魔眼、その視界に収まっていると思うと足が竦んで仕方がなかった。
 しかし先日の試験では一応勝利を収めたのだ。そう悪いことにはならない筈だ、と切実に願う。

( <●><●>)「試験の記録は見せてもらいました。
        なんというか、随分と慌ただしい戦いをされていましたね」

ξ゚⊿゚)ξ「ごめんなさい」

 私は即謝った。

 ――弱点を利用され、武器を奪われ、シュール戦に至っては完敗同然の一幕さえあった始末。
 結果的には勝てたものの、私の右腕を治した例の謎回復が無ければ戦況は大きく違っていたはず。
 かくして実力で勝ったとは到底言えないのだから、彼の皮肉染みた見立てにも文句は言えなかった。

 あと単純にワカッテマスさんの機嫌を損ねたくなかった。
 物理でちょこまかするしかない私ではどうあっても彼には逆らえない。
 もし怒られたら本当に泣いてしまう。ここは誠実な対応に徹して切り抜けるしかないのだ。

( <●><●>)「では試験で使っていたマントを見せてもらえますか。少し興味があります」

ξ;゚⊿゚)ξ「……えっ、マフラーじゃなくて?」

( <●><●>)「あっちは別に。まだ未完成のようですし」

ξ゚⊿゚)ξ(渾身の赤マフラーなのにな……)ショボヌ

 私はいそいそと魔力をこねてマントを作った。
 緊張してかなり手間取ったが、また失敗してウサちゃんにならなかったのでよかった。
 黒いマントを彼に差し出し、私はやや大袈裟に引き下がった。

ξ;゚⊿゚)ξ「あの、ダメ出しだったら優しい言葉でお願いします……」

( <●><●>)

ξ;´⊿`)ξ(……表情が無さすぎて怖い……)

.

479名無しさん:2021/08/30(月) 04:52:52 ID:je6Z08Ao0


( <●><●>)「……これは、やはり制御装置ですか」バサッ

 程なくすると、ワカッテマスさんはマントを広げながら自信げに呟いた。
 これの仔細は魔物には分からないはずだが、彼の慧眼もまたすごいものだった。
 現に一目で役割を見抜かれている。私はマントの仕様を少しだけ明かすことにした。

ξ;゚⊿゚)ξ「見ての通り、それは大して複雑なものではないのだわ。
       魔力を編んで作っただけの、ほんとにただの黒いマントで……」

( <●><●>)「そうですね。年頃の魔物なら誰でも作れます。
        しかし気になったのは用途と中の構造です。教えてもらえますか」

ξ;゚⊿゚)ξ「……えっと、それの構造は人間の知恵にすごく依存してるのだわ。
       私もあんまり分かってないけど、なんとか力学とか色々……」

( <●><●>)

( <●><●>)「ハインリッヒに教えられたのでしょう。隠さず言いなさい」

ξ;゚⊿゚)ξ ヒェェ

 人間風情に頼りおって的な原理主義に配慮して言葉を濁したのだが、思いっきり逆効果だった。
 死にたくないので全部話そう。誠実にならねば。私はハインさんの受け売りを急いで語り始めた。

ξ;゚⊿゚)ξ「な、なんかそれ、風とかを上手に掴める構造らしいのよね。
       ハインさんから聞いた話だと、それは舵とかブレーキみたいに使うとのことで……」

 ――かねてより、私のノーコンっぷりは致命的な問題であった。
 しかしハインさんが教えてくれた『空気力学』の概念は、その問題をかなり改善に導いてくれたのだ。
 制御装置という見立てもその通りだ。私にはない機能を持つもの、それがこのマントの正体だった。

.

480名無しさん:2021/08/30(月) 04:55:35 ID:je6Z08Ao0


ξ゚⊿゚)ξ「揚力が〜抗力が〜ダウンフォースが〜」
 つ と

 ハインさん曰く、揚力とかを適切に利用すれば貧弱な人間でも強い力を制御できるらしい。
 たとえば飛行機やフォーミュラカーといったものは魔物に匹敵するパワーを持つが、
 人間は力学というものを広く活用し、そういう身に余るパワーを平然と使いこなして日々を過ごしている。

 ――私がハインさんから教わったのはまさしくその文脈。
 力なき者がより強大な力を制御する術を、彼は私に『空気力学』という形で教えてくれたのである。

( <●><●>)

ξ;゚⊿゚)ξ(ちゃんと聞いてるなら相槌くらい欲しいのだわ……!!)

 私はこのマントを操作することで空気力学の恩恵を受け、要するにスムーズに動けるようになった。
 ちょっと力んでパンチを出しても、マントをいい感じに動かせば間接的に精度と威力を調整できる。
 これに関する最大のネックは『マントを適切に動かし続ける』という部分だが、
 マントの向きや形状を変えるだけで苦手な魔力制御をカバーできるなら安い買い物だ。

 技術的には基礎の塊。習得コストに対するリターンは高効率と言うほかない。
 ――他力本願おおいに結構。楽して強くなれるなら何だっていい。
 私は私の努力を見限り、多様な他力とつながることで自身の弱点を埋め合わせたのである。

ξ゚⊿゚)ξ「つまりそういうことです」

( <●><●>)「完全に理解しました」

 そして今ので完全に理解してくれたらしい。
 私もあんまり分かっていないので彼の理解力には心底感謝であった。



(´・_ゝ・`)「……なるほど、あのマントはいわゆるエアロパーツみたいな装備なのか。
      根本的な力の強弱はさておき、全体の流れをまとめて最終的にバランスを取るという発想。
      進化の為に火や雷といった強大なエネルギーと共存してきた人間ならではの考えだな」

 盛岡の説明台詞がココイチで光る。
 いいぞ盛岡、もっと輝け。

.

481名無しさん:2021/08/30(月) 05:00:38 ID:je6Z08Ao0


( <●><●>)「彼らがこういった形で力を制御するのは知っていましたが、いや面白い。
        あらゆる力と感覚的な付き合いをしている我々とは最初からアプローチが違う」

 やや早口に言いながらワカッテマスさんがマントを返してくる。
 私はそれを受け取って、今のくだりにほんのりとした手応えを感じていた。
 ワカッテマスさんの反応が妙にオタクっぽく見えたからである。

 でも面白いなら少しは顔色を変えてほしかった。冷静になるとやっぱり怖い。

ξ;゚⊿゚)ξ「か、鑑定やいかに」

( <●><●>)「……そうですね、ハインリッヒを生かす理由がひとつ増えました。
        お嬢様の特訓に関しては真剣だったようですね。成果もあったと」

ξ゚⊿゚)ξ

ξ;゚⊿゚)ξ(……生かす理由って、これ下手な対応してたらハインさん死んでた……?)

 だが、裏を返せばハインさんはまだ生きているという事である。
 思わぬタイミングで吉報が舞い込んできた。だったらここは勇気を出してもう少し立ち入ってみよう。
 ワカッテマスさんへの恐怖を押し殺しつつ、私はさりげなく今の話題を掘り下げにかかった。

ξ;゚⊿゚)ξ「そういえばその、ハインさんって今どこに……?」

( <●><●>)「彼なら魔界に送りましたよ。逃げ出せないよう厳重に監視しています」

ξ゚⊿゚)ξ「ああ〜」

 ああ〜もう魔界か。
 ごめんハインさん、それは詰みです。

.

482名無しさん:2021/08/30(月) 05:00:58 ID:je6Z08Ao0


( <●><●>)「さておき、試験の結果についてですが」

ξ;゚⊿゚)ξ「あっえっはい」

 急に本題が出てきて驚く私。
 居住まいを正し、必死の思いでワカッテマスさんの瞳を捉える。

( <●><●>)「……個人的には魔界にお戻りになるべきだと考えます。
        ハインや勇者軍の事もあります。せめて半年、魔界に戻られてはいかがですか」

ξ;゚⊿゚)ξ

ξ;゚⊿゚)ξ「それは、個人的には、でしょう? 形式的にはどうだったのかしら」

 死を覚悟して強めに聞き返すと、ワカッテマスさんは分かりやすく目をそらして返事を出し渋った。
 だが数秒と続かない。彼は小さく息を吐き、調子を戻してから私に答えた。

( <●><●>)「もちろん合格ですよ。勝ったんですから、そこは絶対です」

ξ;゚⊿゚)ξ「……ほんとに?」

( <●><●>)「ほんとです。ハインの件が無ければ、なんて私が言うと思いますか?」

ξ;゚⊿゚)ξ

 合格。
 私の人生にほぼ存在しなかった2文字が明示され、肩の力がふっと抜け落ちる。

.


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