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ξ゚⊿゚)ξツンちゃん夜を往くようです
348
:
名無しさん
:2021/04/24(土) 17:38:27 ID:EB69w2Q20
川д川「――それでも、多少は善戦してましたよ」
その瞬間、不意に上空から補足が飛んできた。
私が真上を見上げると、当然のように空に浮いていた貞子さんが降りてくるタイミングだった。
いいよな当然のように浮かべるの。あれできたら絶対楽しいもんな……。
川д川「あのエクスト相手に数十秒は持ち堪えましたからね。
4人掛かりだったとはいえ、人間基準なら十分です」
ξ;゚⊿゚)ξ「えっ、あのエクストさん相手に!?」
今後数十話は登場しないキャラを引き合いに驚くのもどうかと思うが、事実であれば確かにすごい。
エクストさんはバリバリの超武闘派。脳筋具合ではミセリさんをも超えてくる手合いだ。
それを相手に生き残れた素直四天王の実力など、私の感覚ではとても計りきれない。
そして同時に、先日の素直クールが少しも本気じゃなかったという事も判明してしまった。
私は私で彼女を殺さないよう加減していたが、彼女はそれ以上の技術で微細な手加減をしていたのだ。
コントロールは私の弱点。そこで競ってしまったのだから、そりゃあ負ける。
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ「で、結局私は何すればいいの? 拷問?」
川; д川「……なんか妙にあっさりしてますね」
ミセ*゚ー゚)リ「今日はそういう気分なんだって」
.
349
:
名無しさん
:2021/04/24(土) 17:41:17 ID:EB69w2Q20
川д川「――それではまず、今朝の事から話しましょうか」
〜中略!〜
ξ;゚⊿゚)ξ「ま、まさかそんな事が……!?」
川д川「今朝の襲撃、それはもう見事な大立ち回りでしたよ。
結果だけならこちらの圧勝ですが、模擬戦闘としては丁度いい相手でした」
川д川「戦闘に関しては以上。問題は次です」
改まり、貞子さんは素直四天王の方を向いた。
彼女達の大立ち回りに胸打たれている場合ではない。私も気持ちを切り替えていくぞ。
川д川「彼女らは引き際もキッチリしていました。負けた瞬間に即時降伏。
更には取り引きまで持ちかけてきて、それがまた変に方向に転がって……」
ξ゚⊿゚)ξ「……歯切れが悪いのだわ。向こうの要求って、つまり私なんでしょう?」
私はあけすけに言って肩を落とした。
次の話も大体読める。ここは早めに開き直っておくのだ。
川д川「……その通りです。今日は本当にあっさり系ですね」
ξ゚⊿゚)ξ「サクサクいくのよ」
.
350
:
名無しさん
:2021/04/24(土) 17:42:42 ID:EB69w2Q20
||
||
||
川 ゚ -゚) 「 ――こちらの要求はたったひとつ。
ミ≡≡≡j 魔王城ツンとの一騎打ち、それだけだ 」
ミ≡≡≡j
ミ≡≡≡j
∪∪
ξ゚⊿゚)ξ
||
||
ξ ゚⊿゚)ξ スッ… 川 ゚ -゚) !?
γ/ γ⌒ヽ ミ≡≡≡j
/ | 、 イ ミ≡≡≡j
.l | l } ミ≡≡≡j
{ | l、 ´⌒ヽ-'巛( ∪∪
.\ | T ''' ――‐‐'^
.| |
ミセ;*゚ー゚)リ「お嬢様!? いったい何を!?」
ξ゚⊿゚)ξ「お望み通りの一騎打ちよ。そして今がチャンス」
ミセ;*゚ー゚)リ「いやそれ処刑ですよ! 例の試験も絡んでるので落ち着いて下さい!」
ξ゚⊿゚)ξ !
ξ-⊿-)ξ「……ごめんなさい。話を聞くのだわ」
ミセ;*゚ー゚)リ(これ止めなかったら本気でやってたわね……)」
.
351
:
名無しさん
:2021/04/24(土) 17:45:59 ID:EB69w2Q20
川д川「この子達、ハインリッヒの居場所を知っているそうです」
本題の口火を切ったのは貞子さん。
私のペースに合わせてくれたのか、要点らしき部分から話が始まる。
川д川「そして、さっき話に出た取引もここに繋がります」
川д川「彼の居場所を知りたければ一騎打ちをさせろ、と」
ξ゚⊿゚)ξ「……確認だけど、それってそもそも成立してないわよね?」
前提として、貞子さんの魔術があれば人間の記憶など簡単に覗けてしまう。
なので、素直四天王が持ちかけてきた取り引きに効力は無いはずだ。
どこかに恣意がない限り、貞子さんがその辺を失念するとは到底思えなかった。
川; д川「ええそうです。まったくもってその通りです。
なんですけど、『じゃあついでに試験を』なんて流れになっちゃいまして……」
ξ;゚⊿゚)ξ「ああ、妙な方に転がったってそういう……」
そんでやっぱり恣意があった。
あのエクストさんが出てきてて、貞子さんすら手を止められている。
今回の一件、多分めちゃくちゃな権力パワーが蠢いているぞ。
ミセ*゚ー゚)リ「とは言っても、試験相手が務まるだけの実力も見ちゃいましたからね。
本来の相手もハインの方に出張ってますし、代役としてピッタリというか」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ;゚⊿゚)ξ「えっ、試験の相手ってもう来てるの? 聞いてないんだけど……」
ミセ*´ー`)リ「そこも予定が狂いすぎましたからねー。
顔合わせもなにも後回しですよ。全部ハインリッヒのせいです」
ξ;゚⊿゚)ξ「……ついでに聞くけど、その人と素直四天王ってどっちが強い?」
ミセ*゚ー゚)リ「それはもう完全に前者ですね。圧倒的に。
なので彼女達と戦った方が無難ではあります。一応」
.
352
:
名無しさん
:2021/04/24(土) 17:47:08 ID:EB69w2Q20
ミセ*゚ー゚)リ「……で、どうされますか?」
ミセ*゚ー゚)リ「ここで試験をするもよし、事が落ち着くまで延ばすもよし。
決定権はお嬢様にありますから、お好きに決めて下さい」
川д川「そして、可能であれば即決をお願いします。
彼女達の処遇はともかく、ハインリッヒの件は急ぎたいので」
ξ;゚⊿゚)ξ「うっ、確かにそうよね……」
ミセリさん達だって時間を作ってここに来ている。
私がここで戦わないなら、貞子さんはすぐにでも素直四天王の記憶を探るのだろう。
いま優先すべきはハインさんの捜索だ。私の気分で進捗を遅らせる訳にはいかない。
ξ;゚⊿゚)ξ ウーン…
( ∞(
――試験を先延ばしにしたとして、それでもハインさんは数日以内に捕まるはず。
であれば、ここでやってもやらなくても時間的猶予に大差はない。
個人的な特訓も煮詰まってきた所だ。試験突破を考慮しても、今すぐやるのはそう悪くない。
ξ-⊿-)ξ
ξ゚⊿゚)ξ「分かった。試験を受けるのだわ」
ミセ*゚ー゚)リ「おお! またもあっさりと!」
川д川「なんと目覚ましい成長……!」
この間たったの5秒である。
内藤くん相手にあれだけ渋った手前、この即決はかなり高印象だろう。
試験結果に関係するかは知らないが、できる子アピールをしておいて損はない。
.
353
:
名無しさん
:2021/04/24(土) 17:48:36 ID:EB69w2Q20
ミセ*゚ー゚)リ「それでは早速準備をば!
お嬢様、いつ頃スタートされますか?」
ミセリさんが張り切った様子で躍り出る。かわいい。
しかし私は『いつ頃』というのがピンと来ず、彼女に聞き直されるまで言葉を失ってしまった。
ミセ;*゚ー゚)リ「あの、お嬢様?」
ξ゚⊿゚)ξ「……え? うん」
ミセ*゚ー゚)リ「私達も今晩中は空けておりますから、どうされますか?
食事やウォーミングアップをする余裕はありますが……」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ「やるんじゃないの? 今、ここで」
ミセ*゚ー゚)リ
川д川
ξ゚⊿゚)ξ「……えっ?」
答えると、なぜか2人が硬直してしまった。
変なことは言っていないはずだが、また私なんかやっちゃいましたか?
ξ;゚⊿゚)ξ「あっ、夕飯もう作ってあるとか……?」
ミセ;*゚ー゚)リ「……いえ、少々面食らったというか、ねえ?」
川; д川「いや話振らないでよ。私も驚いてるけど」
ξ;´⊿`)ξ「な、なんだってんだよぉ……」
.
354
:
名無しさん
:2021/04/24(土) 17:50:15 ID:EB69w2Q20
||
||
||
川 ゚ -゚) 「 ――どうした、さっさと話を進めてくれないか。
ミ≡≡≡j やる気があるならいいだろ。あと早く下ろしてくれ 」
ミ≡≡≡j
ミ≡≡≡j
∪∪
ξ゚⊿゚)ξ
||
||
ξ ゚⊿゚)ξ スッ… 川 ゚ -゚) !?
γ/ γ⌒ヽ ミ≡≡≡j
/ | 、 イ ミ≡≡≡j
.l | l } ミ≡≡≡j
{ | l、 ´⌒ヽ-'巛( ∪∪
.\ | T ''' ――‐‐'^
.| |
ミセ*゚ー゚)リ「そんじゃスタートで」
川;゚ -゚)「おい待て!! 処刑呼ばわりした状態のままだぞ!?」
ξ゚⊿゚)ξ「スト2ボーナスステージなのだわ」
川; д川「……私が仕切るのでみんな落ち着いて。
急拵えでも、せめて試験の体裁くらいは整えますよ……」
.
355
:
名無しさん
:2021/04/24(土) 17:51:34 ID:EB69w2Q20
――貞子さんが間を取り持ち、私達と素直四天王、それぞれの要求を試験内容に落とし込んでいく。
途中で話が拗れる事もなく、試験の取り決めは速やかに決着した。
川д川「それでは最後に確認だけ」
川д川「試験は1対1。素直四天王側は素直ヒートのみを解放し、他3人は特訓場の方々へと移す」
貞子さんの一瞥が私と素直四天王に配られる。
私は黙って頷いた。向こうからも異議は無い。
川д川「ただし、素直ヒートは捕まっている3人を救出し、戦力に加えてもよい」
川д川「禁止行為は故意の殺害のみで、どちらかの全滅をもって決着とする」
\了解なのだわ/ ||
||
ξ ゚⊿゚)ξ 川 ゚ -゚) <こちらもだ
γ/ γ⌒ヽ ミ≡≡≡j
/ | 、 イ ミ≡≡≡j
.l | l } ミ≡≡≡j
{ | l、 ´⌒ヽ-'巛( ∪∪
.\ | T ''' ――‐‐'^
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.
356
:
名無しさん
:2021/04/24(土) 17:55:24 ID:EB69w2Q20
川д川「ではみんな準備に取り掛かりましょう。開始の合図はミセリに任せます」
ミセ*゚ー゚)リ「こっちも了解。試験官は任されましたよっと」
短くまとめて話し終えると、貞子さんは素直四天王を地面に下ろした。
そうして素直ヒートだけを解放し、彼女達に作戦会議の猶予を与えた。
試験の初動は1対1でも、向こうには戦力増強のチャンスがある。
まず摘むべきはその一手。開戦直後は、互いに戦略の潰し合いになるだろう。
川 ゚ -゚)「いいかヒート、最初は逃げて私達を探すんだぞ」
o川*゚ー゚)o「お姉ちゃんズがんばってー」
lw´‐ _‐ノv「すいませんトイレどこですか」
川; д川「……途中で寄るから」
ノパ⊿゚)「みんな、あとは任せてくれよな!」
ξ゚⊿゚)ξ(とてもわちゃわちゃしている……)
かくして貞子さんは素直ヒート以外の3人を連れてどこかに瞬間移動した。
魔術、便利すぎて本当に羨ましい。
.
357
:
名無しさん
:2021/04/24(土) 17:58:20 ID:EB69w2Q20
〜5分後〜
ミセ*゚ー゚)リ「お嬢様、着替えはよろしいんですか?」
ξ゚⊿゚)ξ「……あ、忘れてた」
言われて気付いたが、そういえば学校から帰ったきり着替えていなかった。
動きやすさに大差は無いが、制服を汚してしまうのはちょっと気掛かりだ。
ミセ*゚ー゚)リ「持ってきましょうか? 貞子に言えばポイっと出してくれそうですけど」
ξ;゚⊿゚)ξ「うーん、もう始めるし構わないのだわ。ありがとね」
ミセ*゚ー゚)リ「……頑張ってください。応援しています」
ξ゚⊿゚)ξ「うん。行ってくる」
適当にストレッチを終え、ミセリさんから少し離れる。
今の彼女は試験官であって私の味方ではない。馴れ合ってても始まらないし、邪魔になる。
励ましをもらえただけで今は十分だ。ぶっつけ本番、意外と緊張していない。
.
358
:
名無しさん
:2021/04/24(土) 18:00:18 ID:EB69w2Q20
ξ゚⊿゚)ξ(……さて)
何があってもギリ即死しない距離として、私は素直ヒートとの間隔を10メートルくらい空けた。
ミセリさんはその中間に立ち、試験官らしい泰然とした様子で私達を一瞥した。
こっちの準備は出来ているから、あとは素直ヒートがOKなら試験開始である。
ミセ*゚ー゚)リ「素直ヒート、そっちも準備はいい?」
ノパ⊿゚)「いっつ、でっも、どー、ぞっ」
深々と腰を落とし、伸脚を繰り返しながらリズムよく答える素直ヒート。
うなじを隠すくらいの赤いポニテは、溌剌とした彼女の雰囲気によく似合っていた。
しかし問題は彼女の――いや素直四天王のグループ衣装だ。
素直クールとまったく同じのドンキで買ってきた感しかない制服、あれだけはない。
気にする私もどうかと思うが、彼女の制服姿は素直クールのそれより違和感がすごかった。
ノパ⊿゚)「……んだよじっと見て。緊張してんのか?」
ξ;゚⊿゚)ξ「そうじゃないけど……あなた達って何歳なの?
その制服、見た感じコスプレのやつよね?」
ノパ⊿゚)「……は?」
結果、試験直前にまったく無関係な質問をしてしまった。
素直ヒートもキョトンとしてしまい、数秒間の無音が過ぎていく。
ノパ⊿゚)「あー……なんつーか、私ら学校とか通った事なくてさ。
まぁ形だけでも着てみるかって感じで、そのまま定着しちゃった的な……」
彼女は制服の胸元をつまみ、気恥ずかしそうに苦笑した。
ノハ;゚ー゚)「てかそれ今聞くか? お前どういう心境なんだよ」
私だってそう思う。だが違和感が口をついてしまったのだ。
『そういうものだから』で片付ければよかったなと、今になって思う。
.
359
:
名無しさん
:2021/04/24(土) 18:02:48 ID:EB69w2Q20
ξ-⊿-)ξ「……別に。ちょっと気になっただけよ。
なんか違和感あったから聞いただけ。余裕の表れなのだわ」
ノパ⊿゚)「へっ、大して強くねぇのに吠えやがるぜ」
ξ゚⊿゚)ξ …
ξ;゚⊿゚)ξ「いや、強くないとかあんま言えなくない? お互いにだけど」
ミセリさん達の見立てのもと、私達はほぼ互角だろうと判断されていた。
そこから考えると、素直ヒートは四天王最弱である可能性がかなり高い。
仲間を増やせる追加ルールも、これがなければ試験が単調になると判断されたからだろう。
ξ゚⊿゚)ξ
要するにザコ2人なのだ。
急に自信なくなってきたな。
.
360
:
名無しさん
:2021/04/24(土) 18:04:51 ID:EB69w2Q20
ノパ⊿゚)「――おうとも。私は弱いぜ。みんなに比べりゃ2枚は落ちるな」
しかし素直ヒートは快活に開き直り、私の小言を一蹴してみせた。
敵なのに、なぜだか無性に励まされてしまう。
ノパー゚)「だからその分、『弱い奴の役割』ってもんは弁えてるんだ。
ねーちゃん達もそれを認めてる。だから私に勝負を預けた。信頼関係だぜ」
自信たっぷりに断言し、満面の笑みを浮かべる素直ヒート。
雰囲気からしてアホの子かと思っていたが、その考え方は存外クレバーだった。
なんかもう精神的な気位で負けている気がする。がんばれ私、がんばるぞ!
――恐らく、私には無いチームワークが向こうにはあるのだ。
そしてその地盤作りを任された素直ヒート、彼女を低く見積るのは危険かもしれない。
ξ;゚⊿゚)ξ
ξ;-⊿-)ξ
思い上がりは私の大敵、それを努めて自覚する。
一発勝負は魔界の常。ここでやらねば魔の字がすたる。
.
361
:
名無しさん
:2021/04/24(土) 18:06:41 ID:EB69w2Q20
ミセ*゚ー゚)リ「はーい、そろそろ始めますよ」
途端、ミセリさんが呑気な催促を入れてきた。
私はその場で身構えて、真紅の魔力を首に纏った。
ξ゚⊿゚)ξ(……うん、魔力も安定してくれてる)
ハインさんが消えて以降、赤マフラーの成形は妙に調子がよかった。
魔力の生成&コントロールも淀みが無くなった感じで、これまた好調だった。
その辺の描写が一行足らずで済んでるあたりすごい成長だ。過程は全カットだけども。
ノパ⊿゚)(……あの野郎、例の赤マフラーを一瞬で作りやがったな)
ノパ⊿゚)(ねーちゃんの時と同じ、事前情報とのギャップってヤツか。
みんなを助けに行くのは確定として、まずは探りを入れとくべきか)
.
362
:
名無しさん
:2021/04/24(土) 18:11:18 ID:EB69w2Q20
ミセ*゚ー゚)リ「……時間はまだありますけど、待ちましょうか?」
険しい表情を浮かべるヒートにミセリさんが確認を取る。
だがその配慮は無用に終わった。
彼女は途端に調子を戻し、鋭い視線で私に敵意を向けてきた。
ノハ#゚⊿゚)「――いつでもどうぞ、だ!」
腰をかがめ、両手を広げてぐっと構える素直ヒート。
どうやら彼女は真正面から私とやりあうらしい。
まずは逃げ出し仲間を助ける、それが無難だと分かっているだろうに。
ξ゚⊿゚)ξ(敵ながら見上げた根性。場数の違いなのかしら)
彼女の威風を眺めていると、今までない高揚感が湧いてくる。
雑念が晴れていき、どこか懐かしさすら感じるワクワクで頬が緩む。
子供っぽいかもしれないが、私は今、彼女との戦いをとても楽しみにしていた。
ξ゚⊿゚)ξ …?
でも、私はここまで好戦的だっただろうか?
まぁ私だって戦いには慣れてきたしな。大体そういうものなんだろう。
.
363
:
名無しさん
:2021/04/24(土) 18:12:49 ID:EB69w2Q20
_
( ゚∀゚)o彡゜「うおお頑張れツンちゃん!! ぶっとばせ!!」
ミセ*゚ー゚)リ「──双方準備よし! 合図で試験を始めます!」
ミセ*゚ー゚)リ「3、2、1……!」
ξ#゚⊿゚)ξ(今日は私が追う側だ、絶対に目を離すな――!)
ミセリさんのカウントがゼロに迫る。
私は咄嗟に地面を踏みしめ、完璧なタイミングで前に飛び出した。
.
364
:
名無しさん
:2021/04/24(土) 18:15:20 ID:EB69w2Q20
#1
>>2-65
#2
>>74-117
#3
>>122-160
#4
>>169-212
#5
>>231-266
>>271-289
#6
>>294-324
#7
>>330-363
ちょっと進捗が掛かり気味なので次の投下は8月頃にします(うまだっち)
年内に12話目くらいまでは投下したいNE…(^ω^)
365
:
名無しさん
:2021/04/25(日) 08:37:28 ID:dze8U3/s0
乙乙乙
366
:
名無しさん
:2021/04/25(日) 08:53:47 ID:EcmN9UG.0
乙!今回も面白い
367
:
名無しさん
:2021/05/01(土) 22:08:44 ID:qktqfzc20
一気読みした、面白い
八月が楽しみ
368
:
名無しさん
:2021/05/03(月) 01:40:16 ID:82B4uvrw0
乙!素直四天王のキャラ好きだ
369
:
◆gFPbblEHlQ
:2021/05/26(水) 17:12:51 ID:g2SMlm3o0
進捗です
8話目が書けました
9話目は10レスくらい書けています
訂正です
>>246
>>307
>>340
の話数表記が#05になっちゃっていますが完全に手違いです
今回のは「ラザロと畜群は一括りの話なんだよ〜」的な解釈でゴリ押せそうなのでそうします('A`)
ミスはなるべく自供するので怪しいのがあったら教えてNE…(^ω^)
370
:
名無しさん
:2021/05/28(金) 08:33:13 ID:YTmqm.qg0
やったー!
371
:
名無しさん
:2021/08/01(日) 20:39:57 ID:ht6TpCT20
≪1≫
〜特訓場〜
川 ゚ -゚)「……ふむ」
遠くの方から聞こえてくる轟音。地べたに伝わる振動の数々。
素直クールはそれらを吟味し、素直ヒートの戦況を事細かに思い描いていた。
――手数、威力は共に五分。
これはしばらく助けは来ないな、と彼女は落ち着いて一考した。
lw´‐ _‐ノv「ごめん、待った?」
川 ゚ -゚) !?
lw´‐ _‐ノv「ううん、今来たとこ」(萌え声)
と、一息ついた途端に現れる素直シュール。
早々に予想を裏切られたクールだったが、その内心にさしたる驚きはないようだった。
川;゚ -゚)「……そうだよな、お前だったら1人でも抜け出せるか」
lw´‐ _‐ノv「まぁね。拘束用の縄が普通ので助かったよ」(萌え声)
そう言いながら片膝をつき、彼女は見せびらかすように両手をひっくり返した。
見るべき部分はその指先――研削用の仕込みが施された十の爪。
束ねて使えば金属にも通用する使い切りの保険。縄を切るくらいなら造作もなかった。
lw´‐ _‐ノv「とりあえず縄切っちゃうから動かないでね」ザリザリ
川 ゚ -゚)「すまぬ」
lw´‐ _‐ノv「おかげでネイルがめちゃくちゃなのよ」ザリザリ
シュールは縄を擦り切って、素直クールを娑婆に解き放った。
.
372
:
名無しさん
:2021/08/01(日) 20:44:02 ID:ht6TpCT20
川 ゚ -゚)「……これでこっちは3人だ。勝つだけだったらこれでいけるな」
シュールのおかげで自由になれた素直クール。
すらりとその場に立ち上がり、凝り固まった体をぐっと伸ばす。
川 ゚ -゚)「とはいえ、剣士としては刃物のひとつでも欲しいところなんだが……」
lw´‐ _‐ノv「あ、私は一応装備あるよ。縄を適当に編み直しただけだけど」
クールの懸念を先回りするように語るシュール。
彼女は上の制服をめくって見せ、すでに体に巻き付けておいた即席の縄鎧をアピールした。
川;゚ -゚)「うわぁ、手が早い」
lw´‐ _‐ノv「素手ゴロ多そうなんで防御重点よ。姉さんもいる?」
川;゚ -゚)「……いや、お前はお前で装備を整えてくれ。そうしてくれた方が心強い。
今回私は出番少なそうだしな。このままキュートを探しに行くよ」
o川*゚ー゚)o「私なら居るけど」
lw´‐ _‐ノv「居ますが」
川 ゚ -゚)
o川*゚ー゚)o「いや普通に居ますけど」
川 ゚ -゚)「えっ?」
素直キュートの呆気ない登場。またしても出鼻を挫かれたクール。
妹達の頼もしさを実感すると同時に、彼女は長女としての威厳に危機感を覚えた。
lw´‐ _‐ノv「えー早いね。どったん?」
o川*゚ー゚)o「関節外したり内蔵動かしたり。縄は噛みちぎってみた」
lw´‐ _‐ノv「全部物騒でワロタ」
川;゚ -゚)「私そんなの教えてない……」
lw´‐ _‐ノv「末妹の成長速度には参ったな」
.
373
:
名無しさん
:2021/08/01(日) 20:47:19 ID:ht6TpCT20
o川*゚ー゚)o「んでこれ武器ね、日本刀」スッ
川 ゚ -゚)「えっ」
o川*゚ー゚)o「普通に落ちてたから拾っといたよ」
川 ゚ -゚)
o川*゚-゚)o「……いらなかった?」
lw´‐ _‐ノv「違うよキュート、今回姉さんは参謀的なムーブをやりたかったんだよ。
でも全部こっちで解決しちゃったからできないんだよ。悲しいね」
o川;*゚ー゚)o「えーなにそのダルいやつ」
川;゚ -゚)「いいだろ別に! キュートありがとな!」
複雑な長女心は置いといて、素直クールはしかと刀を受け取った。
まずは鞘から抜いて刀身を仰ぎ、武器としての質を吟味し始める。
o川*゚ー゚)o「それほんとに普通に落ちてたんだよね。なんか支給品ぽくない?」
川 ゚ -゚)「……ああ、魔物を斬るには心許ないがナマクラでもない。
無いよりは断然マシだが、この刀、少し妙だな……」
怪訝そうに呟き、目を細める。
浅い目利きでは製作者の影が見えなかったのか、彼女は殊更丁寧に刃を読んだ。
.
374
:
名無しさん
:2021/08/01(日) 20:52:34 ID:fSmKEoZA0
おいおい来てるよおいおいおい
375
:
名無しさん
:2021/08/01(日) 20:53:53 ID:ht6TpCT20
川;゚ -゚)「……やっぱり手入れが巧妙すぎる。この刀、完全に人間業じゃないか」
o川*゚ー゚)o「人間業ならよくない? ダメなの?」
川;゚ -゚)「いや、手に馴染むって意味ではむしろありがたい。
でも絶対に地上の作りじゃないんだよ。なのにやたらと人間臭いのが引っ掛かる……」
lw´‐ _‐ノv「だったら魔界に居るんだよ。人間、しかも刀匠の」
川;゚ -゚)「うーん、そんな話は聞いた事もないがな……」
結局それらしい結論は思い浮かばず、素直クールは疑問を抱えたまま刀を納めた。
もしこれが新キャラ登場の布石だった場合、今後数十話は登場しなさそうだった。
川 ゚ -゚)「まぁそろそろ行ってみるか。ヒートの居場所は大体分かってるしな」
o川;*゚ー゚)o「えーもう疲れてるんだけど。それ行かなきゃダメ?」
川 ゚ -゚)「いや別に? 呼べる範囲に居てくれるなら休んでていいぞ。
私もすぐに加勢するつもりはないしな」
lw´‐ _‐ノv「……それマジで言ってる? ヒートだけじゃ勝ちきれなくない?」
川 ゚ -゚)「分かってはいるが、最初に一騎打ちって言った手前すぐに囲んで殴るのも可哀想だろ。
こっちも体力温存したいし、ヒートもやる気みたいだし、一旦これで様子を見てみる」
そう言いながら鞘を携え、クールは戦いの轟音に向かって一歩踏み出した。
川 ゚ -゚)「という訳で、ヒートには悪いがギリギリまで1人でやってもらう。
ヤバくなったら当然助ける。異論があるなら早めに言ってくれ」
o川*゚ー゚)o「すごい楽そうだしそれで」
lw´‐ _‐ノv「……ヤバい判定やらせてくれるなら」
素直四天王は足並みを揃え、行動を開始した。
.
376
:
名無しさん
:2021/08/01(日) 20:55:59 ID:ht6TpCT20
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
――武器、という概念にはそれ自体に威力がある。
たとえその実態が玩具や嘘の類でも、『武器として使う』と想像させた時点で効果は絶大だ。
それが生身相手なら殊更顕著に、相手の理性を強制的に引き出す道具として大きな意味を持つ。
だから武器には素手で挑まない。備えがあっても基本は逃亡、コスパを考えれば当然の判断となる。
ξ゚⊿゚)ξ
ここで前回までのツンちゃんを振り返ってみよう。
各話における戦闘を思い返すと、ツンちゃんの相手は誰もが武器を携えていた。
そこに加えて激化薬というイレギュラーまで存在する始末。
人と魔物の性能差はあれど、素手で戦うツンちゃんにはつらく厳しい環境だったと言わざるをえない。
長所は潰され致命的な短所を伸ばされる不利な展開。対策なしでは負けて当然であった。
.
377
:
名無しさん
:2021/08/01(日) 20:57:15 ID:ht6TpCT20
優しさとか自虐心とか、なまじ人間的な理性を持っているのも悪い方に働いてきた。
相手の武器によってそれを引き出されたツンはまさに壊滅的。
魔物のレベルでも人間のレベルでも戦えない、ひたすら中途半端な金髪ドリル女に落ちぶれてしまう。
そしてなにより、人の理性など魔物にとってはノイズでしかないのだ。
人の理性に魔物の素養――その相性は事実最悪だった。
ξ゚⊿゚)ξ「すみません、そふとうえあが動かないのですが」
( ´∀`)「あーこれwin用だね。マックじゃ動かないよー」
ξ゚⊿゚)ξ「win用? 私はwinnerですが…」
( ´∀`)
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ「モス行ったら動きますか?」
これくらい最悪だった。
.
378
:
名無しさん
:2021/08/01(日) 21:00:04 ID:ht6TpCT20
彼女は魔王の娘であり、その行く先は間違いなく覇道に続いている。
それがまさか人間用スペックの演算装置で動いていたとは誰も考えない。
とどめの不運はこの状態でも多少の成長が見て取れた事。
確かな努力と決してゼロではない成長。周囲がそれらを多分に認め、本人のやる気を尊重した事。
――信頼を寄せ合うからこそ見落とされる齟齬の数々。
誰かがそれを壊さねば、魔王城ツンの成長は早々に頭打ちになっていただろう。
ハインリッヒ高岡、盛岡デミタス、あるいは顔すら持たない第三者。
誰でもいい。魔王城ツンという人物を前進させるには何らかの毒が必要だったのだ。
極端な話、卵の殻を破るだけなら床に叩きつけちゃった方が早い。
雛鳥だったらそれで死ぬかもしれないが、魔物だったら多分大丈夫だ。
ハンプティ・ダンプティと出るかイースターエッグと出るか、寓意表現の孵化は目前に迫っていた。
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379
:
名無しさん
:2021/08/01(日) 21:01:48 ID:ht6TpCT20
≪2≫
勝手知ったる荒野の特訓場。
近距離での戦闘に終始しているため、彼女達の戦いは極めて小規模に展開されていた。
ξ#゚⊿゚)ξ「――ッ!」
戦闘開始の初動として、ツンが真っ先に接近を選んだのは正解であった。
相手の準備が整う前に、武器を抜かれる前にまずは動く。
この反省は内藤ホライゾンとの一合で得られたものだった。
ノパ⊿゚)(……現状単なる打撃戦。あのマフラーも攻撃には使ってこない)
ノパ⊿゚)(威力はともかく動きはシンプル。応用の幅は狭いし、この感じだとアドリブにも弱そうだな。
これで全力ならいいが、……まさか手加減されてんのか?)
逃げる素振りでツンを誘い、防戦ながら情報収集をこなす素直ヒート。
対魔物における鉄則はそもそも攻撃を受けないこと。
その点で言えば、彼女は現在パーフェクトゲームを進行中だった。
ξ#゚⊿゚)ξ「だァらッッッ!!」
もう何度目かも分からない必殺の拳撃が目前に迫り、空を切る。
ヒートの回避は完璧だった。両手はひたすら捌きに徹し、必要分だけ後ろに引き下がる。
しかし、たとえ捌くだけでもツンの打撃は驚異的だった。
直撃せずとも余波が響き、通過列車が鼻先を掠めるような迫力に体を引っ張られてしまう。
ノハ;゚⊿゚)「ちッ――!」
ヒートは即座に身を翻し、数度の跳躍で間合いを作り直した。
流れをリセットし、ダメージの蓄積を確認し、ペース配分を考え直す。
細かくクールタイムを確保して無難に立ち回る。彼女の動きは徹底的に強かだった。
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380
:
名無しさん
:2021/08/01(日) 21:08:58 ID:ht6TpCT20
ノハ;゚⊿゚)(避けても伝わるこの感じ、素の状態での直撃は流石にキツそうだな)
ノハ;゚⊿゚)(個人的には倒せそうなんけど、……仕方ねえ。ここらが引き際と見たぜ)
試験に際し、素直四天王側にだけ追加された特別ルール。
『素直ヒートは捕まっている3人を救出し、戦力に加えてもよい』。
このルールの存在からして素直ヒートの勝ち筋はじつに明瞭。
逃げて助けて4人でボコる。単純ゆえに堅実で、そして誰でも思いつける強力な勝ち筋だ。
しかし、その一方で『読まれやすい』という当然の欠点がある。
たとえそうする事がベストであっても、既に読み切られている行動には多くのリスクが伴ってくる。
魔物の攻撃は基本的には一撃必殺。魔力からくる初見殺しも数多く、低リスクでも軽視は危うい。
即死攻撃を避け続けるしかない魔物戦、こちらの行動を読まれる事は即死に直結する。
だからヒートも序盤は逃げず、魔王城ツンの実力を見ることにコストを割いてきた。
彼女もプロの端くれである。自分らしからぬ判断とはいえ、そこにはしっかりと打算が組み込まれていた。
ノパ⊿゚)(最初の仕事は済ませた。向こうの基礎能力も大体測れた。
こっちの居場所もねーちゃん達には伝わってるはずだ。こんだけうるさく戦ってるしな)
ノパ⊿゚)(――みんなだったら私を待たない。転がってでも近くに来てくれる。
それを見つけて一旦離脱、数を増やせりゃ上々なんだが……)
ξ#゚⊿゚)ξ
ノパ⊿゚)(……難しいのは背を向けるタイミングか。決め手があるならそこで使われる。
このまま膠着状態になっても体力負けしちまうし、どっかでアドリブ決めねえとな……)
ツンを見据えて緩やかに拳を上げるヒート。
彼女の武器は徒手空拳。ツンとは奇しくも同じ構えであり、ゆえに彼女には油断がなかった。
私達はどこか似ている。ヒートは心の片隅で、ツンに対してそんな思いを抱き始めていた。
.
381
:
名無しさん
:2021/08/01(日) 21:11:23 ID:ht6TpCT20
ミセ*゚ー゚)リ(……さて、お嬢様はどう出るのか)
主戦場から遠く離れた岩場の頂。
ミセリはそこから目を凝らし、ツンと素直四天王の動向をそれぞれ観察していた。
ミセ*゚ー゚)リ(素直四天王はとっくに自由。集合されたらそれだけで終わる。
あの子達の拘束を甘くしたつもりはないけど、お嬢様には酷になった)
ミセ*゚ー゚)リ(正直かなりマズい。4対1が確定してるのが何よりも厳しい。
向こうは装備が貧弱だけど、それを加味しても相当不利な気が……)
ミセ*゚ー゚)リ(……お嬢様ってパワーは無いし動きは遅いし、技術も知識も未熟だし)※ミセリ基準
ミセ;*゚ー゚)リ(勝つだけだったら簡単なのに絶対にそれをやらないし。
持ってる御方は発想が贅沢で困るわ。お嬢様、ここからどうするんだろ……)
.
382
:
名無しさん
:2021/08/01(日) 21:13:35 ID:ht6TpCT20
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
岩| -゚) チラリ
ノパ⊿゚)(……ん?)
攻防の最中、ヒートの視界で人影が動いた。覗く黒髪からして素直クールだった。
彼女は大岩の陰から顔を出すと、ヒートに対して素早くハンドサインを送ってきた。
∩
川 ゚ -゚)ノ ※デカい犬が居る
川 ゚ -゚)
⊂⊂ ) ※荻窪に
ノパ⊿゚)
⊂ヽ
川 ゚ -゚) ) ※がんばれ
ノパ⊿゚) …?
しかしヒートはハンドサインの大半を忘れ去っていた。
デカ犬at荻窪という情報しか得られなかった(がんばれは合ってた)。
ノパ⊿゚) …ハッ
ノパ⊿゚)(なるほど! がんばればいいのか!)
だが彼女の理解は奇跡的に要点を抑えていた。
素直クールは自由の身、つまりもうインテリ思考で戦う必要はなくなったのだ。
根っからの感覚派であるヒートにとって、その負担軽減は何よりの助力になっていた。
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383
:
名無しさん
:2021/08/01(日) 21:15:40 ID:ht6TpCT20
ノパ⊿゚)(にしても自力で抜け出すとかすげーな。やっぱねーちゃんは頼りになるぜ……)スッ
構えを解いて足を止め、ここまで続けてきた防戦に幕を下ろすヒート。
苦手な仕事が消えた今、彼女の全力を邪魔するものは何もなかった。
ξ;゚⊿゚)ξ「ッ!」
――反撃の予兆。
ツンは即座にブレーキを掛け、一定の距離を取って彼女を注視した。
ξ;゚⊿゚)ξ(……やっと動きを止めたけど、チャンスじゃない)
逃げ回り、準備を整えてから反撃に出るという戦法には覚えがあった。
最終的には負けたものの、素直クールと戦った時のツンも大体そんな感じだった。
すぐに攻め込んで勝負を決したいのは山々だったが、安易な接近はダメだと肉体の方が予期していた。
ノパ⊿゚)「……どうした、攻めて来ねえのか?」
ノパ⊿゚)「こっちは逃げりゃあ勝ちなんだぞ。
それが分かんねぇほどバカじゃないだろ」
言葉に反して緩やかに両拳を上げていくヒート。
十分に脱力した肢体は特定の型には至らず、自然体を維持したまま戦闘準備を終えていた。
ξ;゚⊿゚)ξ「んなこと言うなら尻尾巻きなさいよ。そこ狙うんだから」
ノパ⊿゚)「やだよ」
ξ;゚⊿゚)ξ「見りゃ分かるわよ」
.
384
:
名無しさん
:2021/08/01(日) 21:21:18 ID:ht6TpCT20
ノパ⊿゚)
ノハ-⊿-)「……凝血解除」
一言唱えて息を吐くヒート。その瞬間、彼女の体を覆うように真紅の靄が浮かび上がった。
魔力とは違う別のなにか。ヒートの気配が、魔物にも似た人外のそれへと変化していく。
ノパ⊿゚)「……悪かったな手ぇ抜いてて。ここからはちゃんと戦うぜ」
ノパ⊿゚)「第2ラウンドだ」
近い実力、同じ素手ゴロ、同色のオーラ。
初めて戦う互角の相手――対するツンは今までにない高揚感を味わっていた。
素直ヒートは好敵手に値する。そんな思いが熱を帯びて膨れ上がる。
ξ;゚⊿゚)ξ(全員、ただの人間じゃないとは思ってたけど……)
ξ;゚ー゚)ξ(……なんかもう、普通に楽しくなってきたのだわ)
センス
――武器を持たない者同士による『感覚』の戦い。
ツンの実力を十二分に引き出すための状況は、これ以上なく完璧に整っていた。
.
385
:
名無しさん
:2021/08/01(日) 21:21:57 ID:ht6TpCT20
#05 ラザロと畜群 その4
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386
:
名無しさん
:2021/08/01(日) 21:22:19 ID:ht6TpCT20
――1ヶ月前。
ハインとツンの特訓中へと時は遡る。
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387
:
名無しさん
:2021/08/01(日) 21:23:35 ID:ht6TpCT20
〜ハインの屋敷〜
从 ゚∀从「弱点が多すぎる」
ξ#)⊿゚)ξ …
从 ゚∀从「そのマフラー、はっきり言って俺の下位互換だぞ」
ξ#)⊿゚)ξ「はい」
基礎訓練を終えたのち。
暗雲立ち込める未来に向けて、その日2人は手加減無用のスパーリングを行っていた。
諸般の悪癖を直すため、ツンはなるべく全力戦闘&赤マフラー常備。
そんな彼女が心置きなく戦えるよう、ハインの方も激化能力を解禁して相手を務めていた。
ξ#)⊿゚)ξ(なのに、どうしてこんなことに……)
そして結果はツンがボコボコ。見るも無惨なボロ負けであった。
赤マフラーの自動防御はハインの手管に翻弄されて機能不全。
なのにツンの攻撃は何もかも通じないのだから全部クソだった。
从 ゚∀从「ツンちゃん、俺の能力はブーンから聞いてるんだよな?」
ξ#)⊿゚)ξ「……今見たばっかりだし分かるわよ。そっちも自動防御なのよね」
ネタが被ってて複雑なのだわ、と不満げに呟くツン。
思春期的には父親と同じ靴下を履いてるような気分だろう。その心境は筆舌に尽くしがたい。
.
388
:
名無しさん
:2021/08/01(日) 21:27:19 ID:ht6TpCT20
从 ゚∀从「そのとおり。ツンちゃんのマフラーとは似たタイプになるな」
ハインはツンから少し離れ、再度そこで激化能力を発動して見せた。
一瞬待つと、彼の手元にアメーバめいた運動を見せる玉虫色の液体が浮かび上がった。
フェイル・アグレッサー
从 ゚∀从「こいつの名前は ≪制空衛星≫ 。簡単に言うと攻撃を受け流しまくる」
ξ#)⊿゚)ξ「散々やられたわよ。陰湿で腹立たしい能力しやがって」
幾何学的に蠢くアメーバはサッカーボール程度の大きさに膨張。
その状態を液体から固体の球形へと推移させると、己の役目を探すように空中を飛び交った。
ハインを中心にして動く衛星の軌道。彼は視線でそれを追い、話に戻った。
从 ゚∀从「自動防御――そうまとめるのは簡単だが語弊も多い。
この能力の核心は、防御運動を構築する諸々の処理速度にある」
从 ゚∀从「何を攻撃と捉え、どう防御するかって小難しい計算の部分だな。
俺の場合はその計算式への理解が能力向上に直結した。つまりは勉強」
ξ#)⊿゚)ξ「……その勉強って簡単?」
从 ゚∀从
从;゚∀从「マジで地獄だった。宇宙工学は死ぬほど頭抱えた。二度とやりたくない」
ξ#)⊿゚)ξ「ではやめておきましょう」
ツンは極めて冷静に判断して言った。
経験豊富なジジイのハインが地獄と言い切ったのだ。ツンは一瞬で怖気づき、諦めていた。
从;゚∀从「まぁそうしときな。やって無駄になるもんでもねえけどキツすぎるから……」
ξ#)⊿゚)ξ「いっそ私も“ヤク”をキメたいのですが」
从 ゚∀从「……いや、激化薬だけはやめといた方がいい。
あれは研究途中かつ人間用の薬物だ。何が起こるか俺にも読めねえ」
ハインは適当にはぐらかした。
.
389
:
名無しさん
:2021/08/01(日) 21:29:47 ID:ht6TpCT20
从 ゚∀从「そんでもって、今日のうちに言っときたい事が2つある」
从 ゚∀从「その1。ツンちゃんはそのマフラーの核心を知る必要があるって事だ」
声色を落として言い、ハインは人差し指を立てて見せた。
ξ#)⊿゚)ξ「核心って、さっき言ってた処理速度とかって話?」
从 ゚∀从「そうだ。だけどツンちゃんの場合はまた別だろうな。
魔物の力は俺にも分からん。頑張って自分で見つけるしかねえ」
ξ;#)⊿゚)ξ「……えっ、そこでこっちにブン投げるの!?」
从 ゚∀从「おうよ。ゼロからやってくんだし固定観念なんて無い方がいいしな。
だからこっちもヒントは出さねえよ。出来る限り自分の頭で考えてもらう」
ξ#)⊿゚)ξ「そんな……」
マニュアルなしでは生きられない現代っ子お嬢様のツンは絶望した。
ハインは無視した。
从 ゚∀从「続けてその2。弱点が多すぎる」
ξ#)⊿゚)ξ「それさっき聞いた」
从 ゚∀从「そのマフラー、はっきり言って俺の下位互換だぞ」
ξ#)⊿゚)ξ「さっき聞いたってば」
.
390
:
名無しさん
:2021/08/01(日) 21:31:24 ID:ht6TpCT20
从 ゚∀从「だから今日のところはその弱点だけ教えておく。でもすぐに直そうとしなくていい。
魔力関連で俺が力になれない分、この分野は間違いなく時間かかるからな」
ξ#)⊿゚)ξ「答えは自分で、よね」
从 ゚∀从「そうだ。今はそれ自体が糧になる」
ξ#)⊿゚)ξ「……ねえ、言いたくないけどやり方が古臭くない?
序盤のスピード感は大切だしもっと手軽に強化をですね」
从 ゚∀从「そう言うなって。赤マフラーの弱点はかなり露骨で見抜かれやすんだぞ。
狙われる可能性はかなり高い。よくよく考えても損はねえさ」
ξ#)⊿゚)ξ「もう何を言っても楽ができない」
ツンはその場に崩れ落ちてめちゃくちゃに暴れ回った。
そういう妄想をした。
从 ゚∀从「それじゃあ弱点言ってくぞ。ちゃんと聞けよな」
ξ#)⊿`)ξ「オブラート多めでお願いします……」
〜回想つづく〜
.
391
:
名無しさん
:2021/08/01(日) 21:35:33 ID:ht6TpCT20
≪3≫
ξ;゚⊿゚)ξ
ξ; ⊿ )ξ「――ぐ、あ……ッ!」フラッ
腹部に打ち込まれた縦拳が、ツンの骨身に痛烈な衝撃を響かせていた。
その一撃、赤マフラーによる防御は間に合っていなかった。
素直ヒートの攻撃は、十分な形でツンを打ち貫いていた。
ノハ-⊿-)「……ふぅ……」
静かな呼吸に伝わる手応え。
よろけて退くツンを前に、ヒートは呆気なく拳を下ろした。
ノパ⊿゚)(……ったく、ハインリッヒから聞いてた弱点は据え置きなのかよ。
この程度なら本気出す意味なかったな。完全にオーバーキルだ)
ヒートは棒立ちになって目を細めた。
意味するところは呆れと失望――ツンに対する決定的な軽蔑であった。
それは、ツンにとっては一番の苦痛だった。
.
392
:
名無しさん
:2021/08/01(日) 21:39:50 ID:ht6TpCT20
ξ; ⊿゚)ξ「――こ……の……ッ!!」ダッ
彼女の視線に痛みを覚え、ツンはよろけながらも威勢を取り戻した。
勢いづけて再度飛び出し、真紅の尾を引く打撃の連携でヒートを狙う。
その後、ツンの拳が14回ほど空を切った。
ξ;゚⊿゚)ξ「くっ……!」
対人間なら掠るだけでも威力は十分。
弾かれ避けられ受け流さても、攻撃自体はヒートに届き、確かにダメージを与えているはずだった。
しかしヒートに衰えはなく、返ってくる手応えは着実に弱まっている。
理由は明白。『凝血解除』の一言が、ヒートの中でなにかを変えたのだ。
ξ;゚⊿゚)ξ(こいつ、明らかに強くなってる――!)
ツンは焦り始めていた。
頼りの赤マフラーは弱点を見抜かれており、人と魔物の性能差も大きく縮められている。
これまでツンが『勝ち目』として頼ってきた長所は機能不全。もはや当てにもならなかった。
ノパ⊿゚)「もういい」
やがてヒートは冷淡に呟き、目先に飛んできたツンの拳を片手で受け止めた。
空気が弾けて突風が巻き起こる。威力はすぐさま地面に流れ、周囲数メートルに地割れを引き起こす。
ξ;゚⊿゚)ξ「……えっ」
ノパ⊿゚)「こんだけ見てりゃあ威力も読める。お前、やっぱり下手な手加減してやがるな?」
ξ;゚⊿゚)ξ「ちょっ、離してよッ……!」グググッ
掴み取られた拳を引き戻そうと力を入れるツン。
ヒートは合わせて握力を上げた。浮かび上がった血管の輪郭が更に際立ち、腕全体が顫動を始める。
だがその震えはヒートのものではなく、拳を全力で引き抜こうとするツンのものだった。
ξ;゚⊿゚)ξ(う、嘘でしょ――!?)
足腰背中に腹筋と腕の力、そのほか全てに全力を込めてもヒートの握力に敵わない。
明らかな異常事態。人間相手に起こる訳がない単純なパワー負け。
――たかが人間に、と。思い上がりを戒めた心がその外殻を破られていく。
.
393
:
名無しさん
:2021/08/01(日) 21:43:26 ID:ht6TpCT20
ノパ⊿゚)「まぁ安心しろって。握り潰すまでは出来ねえから」
軽く言ってから、ヒートは小さく首を傾げた。
ノパ⊿゚)「にしても不思議だな。お前、どうして戦ってるんだ?」
ξ;゚⊿゚)ξ「……あなた、私と喋りがしたくて手を取ったの?」
ノパ⊿゚)「え? そうだけど」
ツンの皮肉を意に介さず、ヒートは素直に受け答えた。
ノパ⊿゚)「んでどうなんだよ。金か名誉か趣味か義務か、それ以外。
なんでもいいけど教えてくれって。気になる」
ξ;゚⊿゚)ξ
ξ;-⊿-)ξ「……義務よ。その中から、強いて言うなら」
ツンは少し迷ってから答えた。
ノパ⊿゚)「強いて? 煮えきらねえな」
ξ#゚⊿゚)ξ「……いいでしょ別に! だからさっさと離せってのよ――!」グイッ
声を荒らげ力を込めるも、やはり拳は微動だにしない。
いっそ蹴りでも入れれば早いだろうに、ツンは頑なにこの真っ向勝負から降りようとしなかった。
ξ; ⊿゚)ξ
――人間相手に負けを認めるなんて絶対にありえない。
彼女の心根にある魔物としてのプライド、いつか魔王の座を継ぐ者としての矜持。
それら全てが撤退を許さないのだ。搦手という訳でもない、素の能力での負けを断固拒否している。
常日頃から人に寄り添い、さも滑稽に振る舞おうとも彼女は魔物だ。
魔王の血筋にあるなら尚更、彼女の本心には人間を見下すような発想が未来永劫残り続ける。
人に対して優しくある為の理論武装――そんなもの、いざとなったらなんの意味もないのだから。
.
394
:
名無しさん
:2021/08/01(日) 21:52:18 ID:ht6TpCT20
ノパ⊿゚)「ここで離してどうなるんだよ。勝ち目ねえだろ」
ξ; ⊿ )ξ「……黙れ、勝手に終わらせるな……!」
数秒待ってから、ヒートは顔を背けて溜息を吐いた。
ノパ⊿゚)「……うちらは傭兵だ。色んなもんを相手にしてきた。
その経験に言わせるとお前は普通すぎる。それを不気味と言えなくもないがな」
ノパ⊿゚)「別にこっちも見境なく化け物狩りをしてる訳じゃない。
金になる仕事を心置きなく。殺すのは悪いヤツだけ、慎ましくってな方針だ」
ノパ⊿゚)「となるとだ、今回の依頼はまるで筋が通らねえ。
金にならない、悪いヤツでもない。これを殺せってのは話が変だ」
ノパ⊿゚)「いつか魔王になるって言っても今すぐじゃないなら私らには関係ねえし。
てかお前魔王になっても人間殺さねえだろ? ハインの話とイメージが違うんだよな……」
ξ;゚⊿゚)ξ「……あなた、結局なにが言いたいのよ」
ノハ-⊿-)「分かんねえかなぁ、仕事になんねえって話だよ。
納得いかねえ。やりにくい。ハインにぜってー騙されるしムカつく。そんだけだ」
困ったように間延びした声。
ヒートはそこでツンの拳を手放した。それからすぐに頭をかいて、もどかしそうに腰に手を当てる。
.
395
:
名無しさん
:2021/08/01(日) 21:56:12 ID:ht6TpCT20
ノパ⊿゚)「無害な相手は殺さない。金にならない相手も同上。
お前はとっくにそういう相手なの。直接やって、私は個人的にそう判断した」
ξ;゚⊿゚)ξ(こ、こいつ……私みたいな事を……!)
自分より弱い相手に対する同情的な優しさ。一方的な倫理道徳。
それは身に覚えがある言動だったが、反論は思いつかなかった。
彼女にはそれを口にできるだけの実力があるのだ。ツンのように分不相応ではない。
ノパ⊿゚)「戦うの自体は好きだから別にいいんだよ。
この試験だって付き合わなきゃ何されるか分かんねえし」
ノパ⊿゚)「かといって、こんな半端に戦うってのも気分が悪い。
嫌々ながら、敵でもない奴を倒して生き延びるなんざ死ぬほどダセえだろ」
二律背反を呆気なく口外し、彼女は鼻で笑った。
ノパ⊿゚)「そもそもお前さ、弱点が多すぎるんだよ」
ξ;゚⊿゚)ξ「なッ――!」
ハインに続き、このタイミングで3度目の死体蹴り。
衝撃のあまりツンはのけぞり、ぎょっとした風に胸に手を当てた。
ノパ⊿゚)「ねーちゃんの居合技を受けた時、そのマフラーは反応が遅れたんだよな?
さっき拳を掴んだ時なんて反応すらしなかったよな? なんでだと思う」
ξ;゚⊿゚)ξ
ξ;-⊿-)ξ「……攻撃に、意識を割いてたから」
――その指摘は1ヶ月前にハインからも教えられている。
故に答えは用意してあった。口にすべきか迷ったが、ツンは正直に答えていた。
ノパ⊿゚)「いや自覚あんなら直しとけよ」
ξ゚⊿゚)ξ「はい」
ごもっともだった。
.
396
:
名無しさん
:2021/08/01(日) 22:01:26 ID:ht6TpCT20
ノハ;゚⊿゚)「……んだよ、分かってんのかよ……」ポリポリ
試験ならばと助け舟を出した瞬間、それが沈没。
ヒートは首を回して考えあぐね、どうしたもんかと呻きをこぼした。
ノハ;゚⊿゚)「なんつーかさぁ、私は張り合いが欲しいんだよ。
これもう仕事じゃねえし。殺し合いでもねえし。お前弱いし……」
言葉の後、溜息未満の呻き声が句点を打つ。
顔を上げたヒートの視線は、そのまま特訓場の天井を仰ぎ見た。
ノパ⊿゚)「……あー、もういいか……」
ノパ⊿゚)「善人殴るのは気が引けるけど、まあ、しょうがねえか……」
一人合点、そしてヒートは拳を構えた。
すっかり覇気を失った心のまま、第3ラウンドのゴングに手を掛ける。
ノパ⊿゚)「他の弱点とかも分かってんだろ? なのに直せてないと。
だったらもう言うことねえわ。さっさと終わらせ――」
ノハ#゚⊿゚)「――るッ!」
それは瞬間移動に等しい踏み込みだった。
またたく間もなく、一瞬にしてツンの眼下に陣取る素直ヒート。
彼女は即座に狙いを絞り、ひねりを乗せたショートアッパーでツンを急襲した。
ξ#゚⊿゚)ξ「ッ!!」
しかしヒートの不意打ちは不発だった。ツンの認識が追いついていた。
ヒートの拳は赤マフラーに止められており、それ以上の接近を許されなかった。
ノパ⊿゚)「……ほんと、マフラーだけは一級品だな」
ξ#゚⊿゚)ξ「だけじゃねえっての……!」
不意打ちに備えていたのではない。ツンはそもそも気を抜いていなかったのだ。
取ってつけたる常在戦場――各種弱点を補う努力の結果、ツンも少しは戦場に慣れてきていた。
.
397
:
名無しさん
:2021/08/01(日) 22:05:50 ID:ht6TpCT20
ノハ#゚⊿゚)(――だったら弱点を突く!)
ヒートは僅かに拳を引いて、赤マフラーとの間に数センチの隙間を空けた。
鼓動1回分にも満たない短い呼吸。それで準備は終わっていた。
ノハ# ⊿ )「すゥッ……!」
瞬間繰り出されたのはジークンドーの流れを汲むワンインチ・パンチ。
その一撃は爆発的な衝撃を生み、防御の隙もなくツンを上空に打ち上げた。
ξ; ⊿゚)ξ(マフラーごと押し込まれた――ッ!)
本体のツンではなく赤マフラーそのものを狙った機転の技。
空に上ったツンを見ながら、ヒートはなおも赤マフラーの性質を読み解いていた。
ノハ#゚⊿゚)(やっぱりマフラーを狙えば反応してこねえな!
つまりあれごと殴れば問題なし! 下がった威力は数で補う!)
数多くの実戦で鍛えられた直感的な目算。
この経験則の有無こそがツンとヒートの決定的な差異だった。
.
398
:
名無しさん
:2021/08/01(日) 22:14:16 ID:ht6TpCT20
ノハ#゚⊿゚)「おらっ! 死ね!」
ξ;゚⊿゚)ξ「表現が愚直!」
着地と同時に後ろに跳躍。ツンは急いで距離を取った。
もちろんヒートは後退を許さない。瞬時に追いかけ、弱点通りに赤マフラーを狙う。
ノハ#゚⊿゚)(私の読みが合ってるなら――これも通る!)
今度の攻め手は打撃ではなく掴みだった。
ヒートは赤マフラーを片手に巻き取り、たぐり寄せると同時にもう一方の拳を奔らせた。
ξ#゚⊿゚)ξ(大丈夫、防御は余裕で間に合ッ――)
ヒートの攻撃に合わせて自動防御が発動、マフラーの端が彼女の拳を受け止める。
しかしそれとまったく同じタイミングで、ツンの頬にはヒートの拳が打ち込まれていた。
ξ;#)⊿゚)ξ(――えっ)
自動防御は確かにパンチを受け止めている。
打ち込まれたのは赤マフラーを巻き取った方の、マフラーを掴むのに使った最初の一手だった。
そもそも赤マフラーは1本の布地である。片側を引っ張ればもう片方はそれだけ短くなる。
自動防御を行う場合その一方に布地が集約されるのだから、そこで生まれる伸縮も当然大きくなる。
ヒートは初手でマフラーを掴み、続く二手目で自動防御をあえて発動させた。
彼女はその際に生まれた伸縮に拳を乗せ、ツンの顔面に当たるよう僅かに軌道を修正したのだ。
結果からすると、マフラーに引っ張られた拳がたまたま攻撃の体を成してしまっただけ。
彼女の意思による攻撃ではないので、こっちの攻撃に自動防御が反応する理由も存在しない。
ノハ#゚⊿゚)(――なるほど)
赤マフラーを逆手にとった攻撃でも自動防御を突破できる。
それに気付いた素直ヒートは、もはや赤マフラーを脅威だとは思わなかった。
.
399
:
名無しさん
:2021/08/01(日) 22:17:16 ID:ht6TpCT20
ξ; ⊿゚)ξ(こんの 【※放送禁止用語※】 が……ッ!)
ノハ#゚⊿゚)(間接的な攻撃にも反応しねえ、なら――!)
この瞬間の主導権はヒートにあった。
彼女の方が動きも速く、ツンの対応は間に合わない。
次の瞬間、ヒートは既に赤マフラーの両端をその手に握り込んでいた。
ノパ⊿゚)「――このままブン投げたらどうなる?」
ξ;゚⊿゚)ξ「……やッ」
ヒートは一気に布地を巻き取り、背負投の要領でツンを放り投げた。
ツンの制止は半ばで途絶え、地面の砕ける音があとに続いた。
.
400
:
名無しさん
:2021/08/01(日) 22:22:19 ID:ht6TpCT20
ξ; ⊿ )ξ「――あ゙……ッ!」
振り子のように加速をつけられ、脳天から一気に地面に叩きつけられるツン。
彼女の体はボールのようにバウンドし、ヒートは続けて2回目の投げに移った。
ノハ#゚⊿゚)「いくぞォォォォォッ!!」
マフラー自体に害がないならこれほど掴みやすいものもない。
そして当然2回では終わらない。3回、4回、5回と、ヒートは休む間もなく同じ動きを繰り返した。
ξ; ⊿ )ξ(――ヤバい、これすごい効く)
首や背中や脳天などに次々と衝撃が迸る。
マフラーのせいで首元は特に締め付けられており、1回ごとに気道が押し潰れていく感触があった。
しかしヒートは意に介さない。ツンを使って地面を叩き、徹底的に同じことを繰り返す。
ノハ;゚⊿゚)「――……ふう」
分速60回をキープして4分後、ようやく一息。
そして彼女はプロなので、続けてもう1セット同じことをした。
.
401
:
名無しさん
:2021/08/01(日) 22:25:10 ID:ht6TpCT20
≪4≫
〜回想シーンの続き〜
从 ゚∀从「と、以上がツンちゃんの弱点だ」
ξ゚⊿゚)ξ「穴だらけじゃないですか自分……」
赤マフラーの弱点を一通り聞いたツンは地面に横たわっていた。
情緒はめちゃくちゃになり、全部おしまいだった。
ξ゚⊿゚)ξ「なんでそんなマジレスするん……」
从;゚∀从「今後の為だよ。なんとか持ち堪えてくれ」
自動防御の抜け穴はハインから見てもかなり多かった。
防御するものしないもの、その判別があまりにガバガバなのだから。
从 ゚∀从「ツンちゃん、そのマフラーって実際どのくらい操れてるんだ?
マニュアル操作の目があるなら自動防御の欠点も穴埋めできそうだが」
ξ゚⊿゚)ξ「耳を動かすレベルですが」
从 ゚∀从
ξ゚⊿゚)ξ
从;-∀从「……あのな、勝手に動くものと連携が取れないってのは相当ヤバいからな。
いざって時に逆手に取られたら一発で終いだ。場馴れした相手はすぐ狙ってくるぞ」
ξ;゚⊿゚)ξ「そうよね、私も本当は自由自在に操作したいんだけど……」
从 ゚∀从「いや本人が弱かったら操れても意味ねえよ」
ξ゚⊿゚)ξ「なんなのよなんなのよなんなのよ」ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ
ツンは転がり回って抵抗した。
なにもおこらなかった。
.
402
:
名無しさん
:2021/08/01(日) 22:26:00 ID:ht6TpCT20
从 ゚∀从「要するにさ、ツンちゃんに足りてないのは危機感なんだよ」
ξ゚⊿゚)ξ「こんな最初から戸愚呂弟レベルの指摘まで来るのかよ……」
もっと楽して強くなりたい。帰って寝たい。
ただそれだけがツンの本心だった。
从 ゚∀从「身の危険を感じてる時なら赤マフラーはちゃんと動く。でもその意識は永続じゃない。
攻撃なんざ身の危険を承知でやるもんだしな、そこでマフラーの防御判定が途切れちまうんだ」
从 ゚∀从「そんで何よりヤバいのがマフラー自体への攻撃に無反応なことだ。
相手の敵意がツンちゃん自身に向かない限り、そのマフラーは殆ど無価値だぞ」
ξ゚⊿゚)ξ「むかちて」
从 ゚∀从「そこに加えて、今のツンちゃんは戦うってこと自体にも慣れてねえ。
色んなもんに気を取られて、随所で動きが鈍っちまうのも当然ではある」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ「もう心の眼とかで何とかなりませんか」
从 ゚∀从「おお、その方面なら自信あるのか?
だったらもうちょい簡単に――」
ξ゚⊿゚)ξ「ないですわよ」
从 ゚∀从
ξ゚⊿゚)ξ
.
403
:
名無しさん
:2021/08/01(日) 22:28:03 ID:ht6TpCT20
从 ゚∀从「……とまぁ、今のツンちゃんがマジ最悪なのはよく分かったと思う」
ξ゚⊿゚)ξ「マジ最悪で申し訳ない」
从 ゚∀从「かといって、残り時間を考えると弱点を克服してる余裕もない。
さっきも言ったが、こればっかりは急がば回れだ。弱点はゆっくり直すしかない」
从 ゚∀从「――だが解決策はある。とびきり無難で簡単な方法がな」
ξ;゚⊿゚)ξ「えっ、ここから入れる保険があるんですか!?」
从 ゚∀从「ぶっちゃけマジで死活問題だしな。でも練習量はかなり多いぞ?」
ξ;゚⊿゚)ξ「練習します!! それが一番楽ならば!!」
从 ゚∀从「そりゃよかった! 安心しな、空気力学の実用性は俺が保証する!」
ξ゚⊿゚)ξ
空気力学(くうきりきがく、英語: aerodynamics)とは流体力学の一種、天使の科学。
空気(または他の気体)の運動作用や、空気中を運動する物体への影響を扱う。(wikipedia)
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ「あー……」
从 ゚∀从「勉強、頑張ろうな」
〜回想おわり〜
.
404
:
名無しさん
:2021/08/01(日) 22:30:22 ID:ht6TpCT20
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ξ; ⊿ )ξ「……ぅ……」
ノハ;゚⊿゚)「ハァ……ハァ……」
ヒートは呼吸を荒らげて肩を上下させ、やりきったと言わんばかりに額の汗を拭っていた。
9割殺すつもりでやってしまったため、結局500回以上は地面に叩きつけてしまった。
体力の消耗はかなり激しい。ヒートも地面に腰を落とし、ツンを見ながら体力回復に努めた。
ノハ;゚⊿゚)(いやはや、体の頑丈さはしっかり魔物だな。こんだけやっても鼻すら潰れてねえわ……)
ツンの体は無数に傷つき、露出した肌は例外なく血に濡れている。
切傷、青あざ、血だらけの状態で地に伏せった魔王城ツンは、しかし辛うじて意識を保っていた。
無論ヒートもそれを分かっている。場合によっては続きがあると、彼女は早くも次に備えていた。
.
405
:
名無しさん
:2021/08/01(日) 22:33:43 ID:ht6TpCT20
ξ; ⊿ )ξ「……あなた、優しいのね。ミセリさんなら蹴って起こすのに……」
ノハ;゚⊿゚)「……頼むから寝ててくれって。魔物相手に体力勝負なんかやりたかねえんだよ。
それでもやるなら覚悟しろよ。色々折ったり潰したりするからな」
ξ; ⊿ )ξ「お生憎様。このくらいの物理攻撃だったら――」ググッ…
ツンはそう言いながら両足を上げ下ろし、跳ねるような勢いで地面に立ち直った。
ξ;゚⊿゚)ξ「――食らい慣れちゃってるのよ!!」
ξ;゚⊿゚)ξ(ミセリさんでも滅多にやらないレベルだけどね!!)
ミセリのおかげと言うべきか、ツンの物理に対する耐性はめちゃくちゃすごい。
刃物相手では相性的に発揮されない努力の賜物が、ヒートを相手にようやく日の目を拝んでいた。
ξ;゚⊿゚)ξ
ξ;-⊿-)ξ ハァ…
⊂ξ#゚⊿゚)ξ いらんわもう!!
/ ノ∪
し―-J |l| |
人 ペシッ!!
〜
そしていよいよ、ツンは赤マフラーを脱いで地面に投げ捨ててしまった。
そりゃ相手にこれだけ悪用されたらキレたりもする。
AA表現が死ぬほど簡略化されている辺り、すごく怒っている。
ξ#゚⊿゚)ξ「クソが!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
.
406
:
名無しさん
:2021/08/01(日) 22:36:39 ID:ht6TpCT20
ノハ;-⊿-)「……ま、そりゃもう頼れねえわな」ヨッコラセ
ツンに応えてふらりと立ち上がるヒート。
かといって、一度冷めきった彼女の心が再び熱気を取り戻すこともなかった。
ノパ⊿゚)「で、なんか変わんのかよ。勝ち目どんどん無くなって――」
ξ#゚⊿゚)ξ「変わるわよ!!」
つ魔と
ヒートの小言をかき消すように、キューティーハニーめいた一声が戦場に響き渡る。
ツンはキレ気味で魔力を再生成、魔力の成形へと一瞬で工程を進めていく。
堰を切るように溢れ出す真紅の魔力。彼女を起点に激流が渦巻き、大量の砂塵が空に舞う。
ノハ;゚⊿゚)「――な、」
その驚嘆は無理からぬものだった。
魔王城ツンの魔力制御が今なお壊滅的なのは赤マフラーの挙動からして明白。
そこに更なる負担をかければどうなってしまうのか、それを想像できないヒートではなかった。
ノハ;゚⊿゚)「おい待ておい待ておい待て!! それ下手にやるとオーバーヒートするヤツだろ!?
ちょい1回落ち着けって!! 暴走とかマジでやめろ、せめて真面目に考えてから――!」
ξ#゚⊿゚)ξ「ミセリさん居るし大丈夫よ!! 最悪もう道連れにして死ぬ」
ノハ;゚⊿゚)「ほらもう危険思想がチラついてんだよバカッ!」ダッ
――本来ならば即撤退を決める場面。
しかし相手は自爆覚悟。素直クールが近くに居るなら巻き込まれる可能性はかなり高い。
何としてでも止めなければ。素直ヒートの脳内に、ここで退くという発想は少しも過ぎらなかった。
.
407
:
名無しさん
:2021/08/01(日) 22:42:01 ID:ht6TpCT20
――魔力生成は必要最小限。制御が効くよう、なるべく抑えて流れを作る。
成形ではとにかく簡単なものをイメージ。赤マフラーは一旦忘れ、望むものへと想像力を分配する。
ξ# ⊿゚)ξ
この1ヶ月、ツンが魔力に関して徹底してきた注意は以下の通り。
ひたすら基本に忠実に、勢い任せにせず、手を抜かないこと。
よくよく思えば赤マフラーは「なんか布になれ!」で生まれたような代物だ。
そんなもん制御が効かなくて当然。全容が不透明な道具など当てにする方が間違いだったのだ。
――だからこそ、今度のイメージは『糸』にまで遡る。
一旦そこまでパーツを分解し、赤マフラーに欠けていた細部の情報量を徹底的に底上げする。
作業としては単なる編み物。しかし、魔力成形が苦手なツンはここで全力を出さねばならなかった。
ξ; ⊿ )ξ(集中しろ、集中が途切れたら糸もダメになる……ッ!)
ツンがこれから編み上げる物質はマフラーではない。
構造的にはより単純だが、その設計には人間界の知識が多く含まれている。
彼女は今、魔力成形の初歩技術だけでは作り出せないクオリティを人の知識で実現しようとしていた。
ξ; ⊿゚)ξ(……図面通りに、綺麗に、私は線をなぞるだけ……!)
集中して基本を徹底すれば糸は作れる。問題は糸の量産とそれを編み上げる最終工程。
失敗は多いが構わない。糸はあくまでイメージの最小単位、最終地点はこの先にある。
とにかく基本を第一に。他に手段は無いのだから、初期装備でも可能なブラッシュアップに全力を尽くす。
魔力の糸を平織りに、速く、正確に、目指す形へと着実に近づけていく――。
.
408
:
名無しさん
:2021/08/01(日) 22:46:58 ID:ht6TpCT20
ノハ;゚⊿゚)「――ッ!?」 ズザッ
異様な気配を感じ取り、ヒートは咄嗟に足を止めた。
ツンの暴挙を止めるべきだという直感は、『これ以上近付くな』という真逆の意見に切り替わっていた。
――ツンの周囲に吹き荒ぶ真紅。その一切が唐突に勢いを失い、色彩を失っている。
そこにあるのは真っ黒な暗雲。魔王城ツンを丸ごと覆い隠して余りある、底の見えない真っ暗闇だった。
動から静へと一転する空気。戦闘開始から10分以上が経過して、ヒートは初めて身の危険を感じていた。。
ノハ;゚⊿゚)(……なんだ、どっちだ?)
どんよりと棚引く暗雲の中に、ヒートはハッキリとした実像を捉えた。
風に揺らめくカーテンのようなものがはたはたと波を打っている。
しかし、ヒートの視線はその更に奥へと釘付けになっていた。
こちらは逆に姿が薄く、実像と言えるだけの輪郭は見えてこなかった。
(::::::⊿)
――だが、闇の向こうには間違いなく何かの影があった。
この場でただ1人、素直ヒートだけが、そこに揺らめく正体不明の影を目視できていた。
.
409
:
名無しさん
:2021/08/01(日) 22:50:54 ID:ht6TpCT20
ξ; ⊿ )ξ「……かなり練習したのに、実戦だとボロ布ね……」グッ
暗闇の中、ツンは波打つカーテンを手に取って暗雲を薙ぎ払った。
ぶわ、と一掃されて掻き消える黒の檻。
魔力成形を終えた彼女の手には、身の丈ほどの黒いボロ布が握られていた。
ξ;゚⊿゚)ξ「……驚かなくていいのだわ」
ξ;゚⊿゚)ξ「このマント、本当に初歩的なやつだから」バサッ
マント
外套と呼ぶにはあまりに拙い一枚布。
そのボロ布を広げて羽織ると、ツンは再び戦意に火を灯した。
ノハ;゚⊿゚)
ノハ;゚⊿゚)(いや、そっちは別に……)
あんな外套くらいで私が足を止めるはずがない。
それよりも、さっきの暗雲には絶対に何かが潜んでいた。
暗雲と一緒に消えはしたが、ヒートの危機感は未だあの影に囚われたままだった。
ノハ;゚⊿゚)(……さっきのヤツ、ねーちゃんが見たっていう『倒した後に現れた何か』か?
魔王城ツンの想定外のひとつ。すぐに消えた辺りも一致するけど……)
しかし確たる答えはない。記憶は早くも朧げで、件の存在は頭の中からするすると抜け落ちていった。
まぁいいか、消えたし。
ヒートはあっさり切り替えて目先のツンに集中した。
.
410
:
名無しさん
:2021/08/01(日) 22:54:27 ID:ht6TpCT20
ノパ⊿゚)「……で、なんだよその布。ていうか最初から作っとけよ」
ξ;゚⊿゚)ξ「こっちは集中しなくちゃ作れないのよ。
足止めできてれば普通にやってたし、本当はもっと綺麗に作れるし……」
言い訳半ばで膝を折り、ツンは地面の赤マフラーを拾い直した。
砂を払って綺麗に整え、いそいそと首に巻き直していく。
ノハ;゚⊿゚)「えっ、お前それまた巻くの? もう使わねえ方がいいって……」
ξ#゚⊿゚)ξ「つーかーいーまーすー!!」
ノハ;゚⊿゚)「1回投げ捨てたじゃん……」
赤マフラーに黒い外套、中には普通の制服という完全防備の冬仕様。
ついにビジュアル面での完成を果たしたツン。意気揚々と両拳を作り、ヒートの闘志を挑発して見せる。
ノパ⊿゚)
ノハ-⊿-)「……続ける気なら、さっき言った事は覚えてるよな」
するとヒートは呆れたように首を鳴らし、
ノハ#゚⊿゚)「後悔すんなよ」
次の瞬間ハートに火を点け、最後のゴングを打ち鳴らした。
.
411
:
名無しさん
:2021/08/01(日) 22:57:30 ID:ht6TpCT20
≪5≫
(´・_ゝ・`)「……お前あっちに居なくていいの? いま試験中でしょ?」
川д川「いいのよ。いざとなったら空間ごと止めるし」
(´・_ゝ・`)
(;´・_ゝ・`)「そんな事までやれんの!? 逆に今まで何してたんだよ……」
試験開始からちょっと経ったくらい。
別段仕事のない貞子は魔王城家のリビングに戻っており、盛岡デミタスと一緒に暇を潰していた。
傷を負った首元――ひいては喉が本調子に戻っていないのか、盛岡の声色は少し濁っている。
(´・_ゝ・`)「あーあ、試験どうなるんだろうね。気になるね」
川д川「当初の予定に比べれば簡単すぎるくらいよ。可能性は十分ある」
(´・_ゝ・`)「……可能性だけ? 案外厳しいのな」
川д川「当然でしょ。今のお嬢様がどんな状態か、分かってないあなたじゃないと思うけど」
ツン本人はまだ知らないが、今の彼女は平常とは言いがたい状態にあった。
それがどちらにどう転がるのか――貞子の憂慮は未だ明確な結論には至っていなかった。
.
412
:
名無しさん
:2021/08/01(日) 22:59:26 ID:ht6TpCT20
(´・_ゝ・`)「……妖刀首断ち、あれの話か」
シリアス気味な貞子に合わせ、盛岡は神妙な顔を作って呟いた。
大体全部ハインが悪いソードこと妖刀首断ち。
今となっては破壊済みだが、あの舞台装置が持つ役割を盛岡は熟知していた。
川д川「私が作ったあの妖刀、ただの人間に使えるわけないんだけどな……」
(´・_ゝ・`)「そうだね」
そうだね、という優しい気持ちで彼は頷く。
(´・_ゝ・`)「でも俺が破壊したんだろ? 暗示は消えた、なんの問題もない」
川; д川「いやそんな簡単じゃないってば。悪影響が残ってても不思議じゃないし……」
楽観的な盛岡に釘を刺す意味で、貞子は内心の不安を語り始めた。
川д川「重りを外せば身軽にはなるけど、制御できない身軽さなんて自滅を招くだけ。
お嬢様はその辺のコントロールが壊滅的だから特にね。最悪死ぬと思う」
(´・_ゝ・`)「えー死ぬの。死ぬのはよくないよ」
命をなんだと思っているんだ。
盛岡は胸を痛めた。泣いちゃうかと思った。
.
413
:
名無しさん
:2021/08/01(日) 23:01:41 ID:ht6TpCT20
川д川「……あのね、勝手に刀を破壊したあなたにも責任はあるのよ。
せめて暗示の内容さえ分かれば対処も可能だったのに……」
(´・_ゝ・`)「だからごめんって。じゃあもう止めに行く? 水を差すのは得意だぞ」
川д川「そうしたいのは山々だけどね。見守りはすれど、こうなったらもう邪魔はできないわ」
入り組んだ杞憂を噛み潰して頭を振る貞子。
打算を伴うその判断、罪悪感が無いと言えば嘘になる。
川д川「私とミセリは今回の試験を切欠として利用することにしたの。
今後も地上で暮らしていくなら、いつかお嬢様には『あの力』が必要になる」
(´・_ゝ・`)
(´^_ゝ^`)「へぇ〜!!!!!! 『あの力』ですか!!!!」
(´^_ゝ^`)「それは気になるなあ!!!!! 見てみたいなあ!!!!!!!」
川; д川「……いきなり大声出さないでよ。そこは周知の事実でしょ。
大界封印とお嬢様の関係、魔王軍なら誰でも知ってるじゃない」
(´・_ゝ・`)「ああそうだっけ? 最近ちょっと記憶がね、すげぇ古い話だし……」
.
414
:
名無しさん
:2021/08/01(日) 23:03:53 ID:ht6TpCT20
(´・_ゝ・`)(……魔王城ツンの弱体化、その要因は色々ある)
(´・_ゝ・`)(妖刀による抑圧と錯誤の暗示、内藤ホライゾンの不在。
なぜかこの2つだけは解決してるが、特に厄介な『大界封印』がまだ残ってやがる)
(´・_ゝ・`)(なので、そこは無視して魔王化に特化させていく。
予定じゃそうするはずだったんだが、どういう訳だかまだ誰も死んでない)
(´・_ゝ・`)(相談しようにも上司は音信不通。借りてた特権も残ってない。
あの大層なネーミングの計画はどうなったんだよ。どうしてこうなってる)
(´・_ゝ・`)(……というか、なんで俺がハインと戦ってて、しかも負けてるんだ?)
(´・_ゝ・`)(刀を壊した覚えもない。でも貞子の調べじゃ俺が破壊したらしい)
(´・_ゝ・`)(ここも記憶が食い違ってる。あの妖刀は『殺して奪う』が正解なのに)
(´・_ゝ・`)(どうして壊したんだ俺。あれすげー悪用しなきゃいけなかったのに……)
(´・_ゝ・`)(いやー)
(´・_ゝ・`)
(´・_ゝ・`)(なんだこれ)
.
415
:
名無しさん
:2021/08/01(日) 23:12:45 ID:ht6TpCT20
川д川「あーそうそう。あなたに返すものがあるんだった」
(´・_ゝ・`)「しっぺ返しなら受取拒否だぜ。一発そこらじゃ済まないからな」
川; д川「違うわよ。素直四天王の押収品にあなたの所持品があったの。
見ると面倒な気がしたから中身は見てない。危ない仕掛けが無いのはチェックしといたけど」
(´・_ゝ・`)「……えっ? 財布? それ俺の話?」
川д川「……うん、お財布。まさか気付いてなかったの?」
(´・_ゝ・`)
(´・_ゝ・`)「いや、それまったく心当たりが無いんだが」
盛岡は素で答え、顔に出さないまでも強い困惑を覚えていた。
『彼ら』の目的において素直四天王の存在はほぼ無意味。接点は何も無いはずだった。
またも何かが食い違っている。自分自身の行動なのに、盛岡は少しも理解ができなかった。
川д川「でもあなたがお嬢様に渡したんでしょ? あなたの記憶にもそんなシーンが残ってたし。
それがどうして向こうに渡ったかは知らないけど、財布くらい大事に持っときなさい」
(´・_ゝ・`)「……俺もそう思うよ……」
そうして盛岡が受け取ったのはエルメスの長財布。
大した思い入れはないが、これを他人に渡す自分というのを盛岡は想像できなかった。
他人の記憶を読み取るくらい貞子には朝飯前だ。
そんな彼女の魔術によると、先日盛岡は自分の財布を魔王城ツンに明け渡していたらしい。
で、回り回って素直四天王の手に渡ったとのこと。ちなみに中身は全部使い込まれていた。
.
416
:
名無しさん
:2021/08/01(日) 23:14:38 ID:ht6TpCT20
(´・_ゝ・`)
――ありえない、と盛岡は脳裏で断言する。
金銭はどうでもいい。ありえないのは欠落した記憶の中に居る『盛岡デミタス』の言動だ。
予定にない台詞、予定にない行動、意味のない選択の数々。
今の自分からでは考察も間に合わないほど、その『盛岡デミタス』は別人として機能し過ぎていたのだ。
(´・_ゝ・`)(……まさか個人単位でミッシングリンクを引き起こされるとはな。
しかも恐らく自作自演だ。『盛岡デミタス』は自分で自分を排除している)
(´・_ゝ・`)(記憶は消した。だが消したこと自体には気付かせようとしている。
俺に限界が来たなら誰かしら始末に来てるはずだし、恐らくこれは深入り厳禁の……)
そこまで推察を進めておきながら、盛岡は誘惑に負けて財布をおっ広げた。
不完全な情報をつなぐ手掛かりが目の前にあるのだ。暴かない理由は無い。
(´・_ゝ・`)
つ□
――そして彼は、財布の中にメモを見つけた。
.
417
:
◆gFPbblEHlQ
:2021/08/01(日) 23:19:03 ID:ht6TpCT20
#1
>>2-65
#2
>>74-117
#3
>>122-160
#4
>>169-212
#5-1
>>231-266
>>271-289
#5-2
>>294-324
#5-3
>>330-363
#5-4
>>371-416
次回投下は1週間後くらいです
物理ばかりなので魔法などの描写がしたいなと思いました
書き溜めはあと3話分あるので順次投下していきたいと思います
418
:
名無しさん
:2021/08/02(月) 00:14:16 ID:vSvJeoDA0
楽しみにしてたんだ、完結するまで追い続けるぜ
419
:
名無しさん
:2021/08/02(月) 03:52:26 ID:OJByGvDI0
乙
420
:
名無しさん
:2021/08/02(月) 19:57:04 ID:3Xg0YNFU0
1週間後!?めちゃ嬉しいな…
421
:
名無しさん
:2021/08/03(火) 22:17:17 ID:yDJ05fuo0
乙
ツンちゃんが一矢報いる日は来るのだろうか
422
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 20:45:29 ID:q9XV82ww0
≪1≫
ノハ#゚⊿゚)「後悔すんなよ」
吐き捨てるように言った直後、ヒートは影を切るような速さでツンに迫った。
電光石火の火花が奔り、ツンの背後に最速で回り込む。ヒートは再三マフラーを掴もうとした。
しかしその直前にツンが振り向き、勢いづいた肘鉄が顔面へと飛んでくる。
ノハ;゚⊿゚)(――反応だけは一級品かよ!)
頭を引いてヒートは辛うじて肘を避けた。
そのまま向き合う形になった両者は即座に構え直し、先手は取られまいと互いに拳を打ち出した。
ξ; ⊿ )ξ「……ッ!」
ノハ#)⊿゚)
早撃ち勝負は互角の末、2人それぞれが一撃を貰っていた。
しかし当たりどころが悪いのはツンの方。前回同様のショートアッパーを下顎に打ち込まれている。
この一撃でツンの視線は空を向き、激しく揺れた脳みそが一瞬思考を止めてしまう。
ノハ#)⊿゚)
ヒートにとっては完璧な間合い、勝負を決する絶好の瞬間。
逃すべきではない勝機――ヒートはそれを分かっていながら瞬時に後退を選んでいた。
引いて数メートルの間合いを作った後、彼女は頬の痛みを乱暴に拭い取った。
ノパ⊿゚)(……威力が、上がった?)
さっきまで大した威力ではなかった攻撃が無視できないダメージを与えてきた。
ヒートはその事実を重く受け止め、一旦頭を冷やして長考に入った。
マント
ノパ⊿゚)(間違いねえ。あいつ、あの外套で何かを変えやがった)
ツンの動きが想定から外れつつある。
先程作ったあの黒い外套を中心に、ヒートは改めてツンを注視する。
.
423
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 20:51:02 ID:q9XV82ww0
ノパ⊿゚)(……魔力による身体強化が妥当な線。
だけどそれよりマフラーが気になる。自動防御はどこいった?)
さっきのショートアッパーは赤マフラーに防御されなかった。
ツンは初動でヒートの動きについてきている。ヒートの攻撃も奇を衒ったものではない。
防御判定には間違いなく引っかかったはずだが、その前提に違和感を覚える。
ノパ⊿゚)(取って絞めて投げる、はもう無理そうだな。
不意に一撃食らう可能性が高すぎる。打ち合いに戻した方が今は無難か)
ノパ⊿゚)(なんにしたって単純にパワーアップしてやがる。
だったら単純、こっちもギアを上げるだけだ――!)
頬の傷口からじわりと血液が滲み出てくる。
ヒートはその血を指先に取り、口に運んでにやりと笑った。
ノハ#゚ー゚)「……いいぜ、張り合ってやるよ」
張り合うように気合いを入れ直し、それと同時に異変がひとつ。
ヒートの赤い頭髪が、更なる淡い輝きをもってゆらりと逆立ち始めた。
ξ;゚⊿゚)ξ !
――轟音と同時にヒートの姿が視界から消える。
残されたのは爆砕された地面の跡のみ。
ツンは咄嗟に空を見上げ、振り返り、四方八方を駆け巡るヒートを辛うじて目で追い続けた。
.
424
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 20:54:38 ID:q9XV82ww0
ξ;゚⊿゚)ξ(――来るッ!)
ヒートの影がふっと途絶え、ツンの五感が一斉に警鐘を鳴らす。
ツンはその瞬間に両腕を立て、真正面からの衝撃に固く身構えた。
ノハ#゚⊿゚)「――――オラァッ!!」
一瞬遅れてヒートの実像が目の前に現れる。繰り出されたのは上半身への足刀。
ツンは両腕でこれを受けたが、余りある衝撃に足を浮かされ後方へと弾き飛ばされてしまった。
ξ; ⊿ )ξ「ごぶっ……!」
軌道上の岩に全身を打ちつけながら凄まじい速度で終着点へと叩きつけられるツン。
彼女を受け止めた岩壁は大きく凹み、方々に走り抜けた亀裂から呆気なく瓦解していった。
ξ; ⊿゚)ξ「……いってえな……」
しかし、当の本人はそれでも健在だった。細かいダメージはあるが気合いで誤魔化せるレベル。
赤マフラーが背中に割り込み、緩衝材として機能していたおかげだった。
――もちろん、赤マフラーのこの挙動は彼女の意思に他ならない。
マントを羽織った今の彼女は、少なからず自分の意思で赤マフラーを動かせていた。
ξ;゚⊿゚)ξ(大丈夫、マフラーもマントもなんとか動かせてる。
でもこの威力はもう受けられない。2度目は腕が折れる、絶対……)
ツンは瓦礫の下で数秒休んでから外に飛び出した。
びりびりと痺れる両腕をもたげ、活を入れるように腰だめに構え直す。
待ちの姿勢が許される相手ではない。だが闇雲に動いても意味がない。
ツンは咄嗟に思慮を巡らせ、そして――
ξ;゚⊿゚)ξ
ξ;-⊿-)ξ
――彼女は目を閉じ、構えを解いて脱力した。
その無防備は意図されたもの。ヒートを謀る即席の一計であった。
.
425
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 20:56:31 ID:q9XV82ww0
ノハ#゚⊿゚)(見え透いたカウンター狙い、受けて立ってやるよ!)ダッ
ツンの謀略を認めた上で、ヒートはあえて正面から向かっていった。
先程同様に加速を乗せて跳躍し、全身回転を加えた回し蹴りでツンに差し迫る。
だが、やはりそこには待ち受けるものがあった。
ヒートの蹴りは赤マフラーに遮られ、ツンの側頭部には僅かに届かない。
ノハ;゚⊿゚)(――まさか、こいつ)
今度は赤マフラーの自動防御が正しく動作している。
なにより、ツンはそれを見越したように無防備を晒していた。
そこから導き出される結論はひとつ、ツンは自分の意思で自動防御のオンオフを切り替えたのだ。
制御不能であったものが彼女の制御下に置かれた、という事は――。
ヒートはその推察に判断を鈍らせ、一撃離脱のタイミングを完全に間違えてしまった。
ノハ;゚⊿゚)(――ダメだ、だとすればこの距離はマズい!!)
ξ# ⊿゚)ξ
刹那の最中、最初に動き出したのはツンの赤マフラーだった。
赤マフラーはツンの思いに応じると、ヒートの蹴り足にくっついて彼女の動きを妨害した。
本当にただくっつく程度の甘い妨害――しかし、彼女達の攻防はこの一幕で逆転していた。
.
426
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 20:59:29 ID:pPs3ccVs0
お、ktkr
427
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 21:05:03 ID:q9XV82ww0
ノハ;゚⊿゚)(こいつ、マフラーで私の足を……!)グイッ
蹴り足を戻そうとするヒートは赤マフラーを解くのに一瞬を浪費。
ツンはその一瞬で前に出ると、ヒートの顔面を思いっきり鷲掴みにして全力で握り締めた。
ノハ;゚⊿゚)「――むごッ!?」
ξ# ⊿ )ξ「……ここまで散々……ッ!」ギチギチギチ…
彼女の顔面を圧砕する勢いで握力を奮うツン。
こめかみに引っ掛けた指には殊更強い力を込め、万全のホールドでヒートを逃さない。
視界を塞がれ宙ぶらりんになったヒートは脱出を試みて暴れるが、もう間に合わなかった。
ξ゚⊿゚)ξ
ξ# ⊿゚')ξ「死ねよやーーーーーーッ!!!!!!!」
オブラートもクソもない、試験のルール的にも完全アウトな怒号が辺りに轟く。
ツンは背中を反るほどにヒートの頭を振りかぶると、瓦割りの要領で真下の地面に叩きつけた。
ξ# ⊿゚')ξ「死ぃぃぃぃぃぃぃねぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
上から下へと勢いよく、地面に当たった反動ごと地中にねじ込んで全衝撃を送り込む。
ヒートの頭部はバキバキと音を立てて地面に埋もれ、頭3つが入る深さにまで達してようやく止まった。
.
428
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 21:08:02 ID:q9XV82ww0
ノハ; ⊿ )「……ぁ、ぅ」
ξ#゚⊿゚)ξ「……まだ意識があるのね」
ξ#゚⊿゚)ξ「でも私は優しいから。この1回で見逃してあげるのだわ……」グリグリグリグリ
しっかり地面に埋めてなお、ヒートの顔面を掴んだまま徹底的に当てこするツン。
今のヒートは人並み以上に頑丈だが、頭部から全身に響くダメージは凄まじいものだった。
――あと1回でも繰り返されれば最悪死ぬ。殺せるだけの余力もしっかり残っている。
しかしツンは言葉の通り、それ以上の追撃をしようとはしなかった。
ここまで散々うるさかった相手が沈黙してしまったのだ。決着は誰の目にも明らかだった。
ノハ; ⊿ ) ……
ξ#゚⊿゚)ξ「……そこで寝てればいいのだわ」スッ
ξ#゚⊿゚)ξ
、 ペッ
ツンは身軽に立ち上がって血反吐を吐き捨てた。
その血反吐がヒートに当たってたらいよいよ道徳的に問題だったが、流石にそんな事はしなかった。
ξ#゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ(……って、もう倒したんだから試験終了よね。
どうしよう。ここで待ってればいいのかしら……)
頭に昇った血が落ち着くと、ツンは試験のあれこれをふと思い出した。
ヒートが他の3人を解放していないのだから試験は終わりだ。
終了の合図はいつ来るのかと、ツンはそれらしいものを探して周囲に目を向けた。
試験の様子はミセリが見ている。終了ならば、すぐにでも動きがあるはずだった。
.
429
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 21:11:53 ID:q9XV82ww0
ξ゚⊿゚)ξ「……?」
しかし辺りは静寂するのみ。
ツンが期待するような号令はなく、無為な時間が流れていく。
ノハ; ⊿ )「……ごめん」
lw´‐ _‐ノv「しゃーなし」
――途端、小さな話し声が静寂を破った。
ツンは気付いて視線を戻した。足元を見下ろし、真っ先にヒートを確認する。
ξ;゚⊿゚)ξ「……えっ」
ヒートの姿が無い。
そこにあるのはふわりと舞った砂埃だけで、彼女はどこにも見当たらなかった。
ξ;゚⊿゚)ξ(しまっ――)
逃がしただけならまだ追える。だが見失うのはマジでダメだ。
ツンには彼女を見つけ出す術がない。だから絶対に目を離してはならなかったのに――。
ξ;゚⊿゚)ξ(――敵を、見失った)
.
430
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 21:13:18 ID:q9XV82ww0
「――腕を上げたようだな」
ξ;゚⊿゚)ξ !
そんな時、意識の外から声をかけられた。
狼狽するツンは否応なくその声に振り返った。
川 ゚ -゚)
声の主は数十メートル離れた先。
見知った顔の、素直クールだった。
ξ;゚⊿゚)ξ(落ち着け、ちゃんと考えろ私……!)
抜刀済みの素直クールがこちらに向かって歩いてきている。
これは今起こりうる最悪の事態、一対多に向かう最悪の展開だ。
――こうなったらもうやるしかない。
ツンは強引に切り替えて応戦に臨む。
赤マフラーで口元を隠し、せめて動揺だけでも悟らせないようにする。
外套の方にも魔力は十分。体力は幾分削られたが、まだやれる。
ξ;゚⊿゚)ξ(何としてでも各個撃破、合流される前にこいつを倒さなきゃ――!)
川#゚ -゚)「……凝血解除」
その囁きが堰を外し、素直クールの黒髪が赤色を帯びる。
開始の合図はそれで十分。両者は同時に地面を蹴り出した。
.
431
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 21:14:07 ID:q9XV82ww0
#05 ラザロと畜群 その5
.
432
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 21:17:15 ID:q9XV82ww0
o川*゚-゚)o「血の使いすぎ」
ノハ; ⊿゚)「……ごめん」
o川*゚-゚)o「止めなかったら普通に続けてたでしょ。
ここで全力出しても意味ないのに……」
ヒートの容体をチェックしながら呆れ気味にぼやくキュート。
2人の傍らには素直シュールも座っており、彼女達は身を寄せ合うようにして岩陰に潜んでいた。
lw´‐ _‐ノv「でもまぁ時間は稼げたよ。ヒートは十分やってくれた」
ノハ; ⊿゚)「……え、予定ってなに?」
o川*゚-゚)o「いや合図あったじゃん。見なかったの?」
ノハ; ⊿゚)
ノハ; ⊿゚)「デカい犬が……」
lw´‐ _‐ノv「ダメだ脳をやられてる」
o川;*゚ー゚)o「シュールちゃんみたいなこと言ってるし本当にヤバそう……」
.
433
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 21:23:03 ID:q9XV82ww0
ノハ;゚⊿゚)「……なあ、あいつ急に動きが変わったよな?」
lw´‐ _‐ノv「もちろん全部見てたよ。十中八九あのマントが理由だろうね」
ノハ;゚⊿゚)「ああ、だよなぁ。理由なんてそれしかねえもんな……」
得心しながら地面に倒れ、ヒートは特大の溜息を吐いた。
自分の愚行を戒めるように、あびゃあうぎゃあと呻きを上げる。
ノハ;´⊿`)「あ゙ーもう、血ぃ使うとバカになんの嫌すぎる……」
o川*゚ー゚)o「今日は魔王軍から連戦だし当然でしょ。1人でよくやったよ」
ノハ;´⊿`)「あーもう、妹が優しくてつらい……」
lw´‐ _‐ノv「ヒートはそのまま休んでな。続きはこっちでやっとくから」
シュールは立ち上がって遠くを見遣った。
ヒートの負傷は想定以上だったが、その分の見返りは情報となって仲間に届いている。
数で押し切る作戦は未だ有力。戦況は大詰めを迎えていた。
ノハ;゚⊿゚)「ほんとごめん。あと任せた」
o川;*゚ー゚)o「頑張ってね、お姉ちゃん」
lw´‐ _‐ノv「うむ」テクテク
長女のもとへと向かうべく、短く応えて歩き出すシュール。
lw´‐ _‐ノv「――凝血解除」
ヒート、クールと同じ言葉を呟いて、彼女はふっと姿を消した。
.
434
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 21:23:49 ID:q9XV82ww0
ノパ⊿゚) …
o川*゚ー゚)o …
ノハ;゚⊿゚)「いや、お前行かねえの?」
o川;*゚ー゚)o「……あっさりサボれてしまった……」
.
435
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 21:25:43 ID:q9XV82ww0
≪2≫
川#゚ -゚)「八刀剣撃……!」
追跡側から追われる側へ、素手同士から武器相手へと一転した今現在。
ツンは戦いの変遷にギリギリ適応していたが、その動きは露骨に精彩を欠いて崩れかけていた。
ただでさえ少ない戦闘経験の中、素直クールとの戦いはまさに完敗だった。
そこで根付いた苦手意識はかなり深刻であり、1ヶ月以上経った今でも克服には至っていない。
特訓により何通りかの模範解答は用意できても、腹を斬られたトラウマは単純にキツかった。
ξ;゚⊿゚)ξ(八刀剣撃、あの技の受け方は――!)ダッ
刀を構えて眼前に迫る素直クール。
ツンは彼女に背を向けて駆け出すと、赤マフラーを解いて空中に放り投げた。
脱兎のような即断即決。トカゲの尻尾切りめいたその行動に、素直クールは僅かに眉を動かす。
川# -゚)
ツンの赤マフラーは『本体への攻撃』に反応して防御を行うもの。
マフラー自体への攻撃には無反応だし、本体との距離が開けば単純に防御が遅れるだけ。
遠隔操作による攻撃でも出来ない限り、ここで彼女がマフラーを捨てる意味はまったく無いのだ。
川 ゚ -゚)(――今のお前は、それが出来るんだな?)
恐らくこれは搦め手だ。本体を狙いに行けば虚を突かれる。
素直クールはそう確信し、攻撃目標を赤マフラーに切り替えた。
.
436
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 21:30:20 ID:q9XV82ww0
川# -゚)「――八重小太刀!」
刹那の思考を終えた後、クールは一刀八斬の銀閃を赤マフラーに放った。
しかし手応えは浅く、彼女の斬撃は赤マフラーの端々を数センチ切る程度に終わっていた。
赤マフラーは地面に落ちて、以降なんの反応も示さない。
川 ゚ -゚)(……やはり借り物ではダメか。斬り方は分かるんだが……)
不満げに思いながらも彼女の狙いは果たされていた。
彼女がいま確かめたのは刀の強度であり、赤マフラーの切断はむしろ二の次。
数センチでも刃が通るなら切れ味は十分。一役買うには事足りていた。
ξ゚⊿゚)ξ …?
音がしない、と違和感を覚える数秒後。
ツンは逃げながら僅かに振り返り、素直クールの姿を再確認した。
川 ゚ -゚)「これを捨てたのは軽率だったな、魔王城ツン」
そのとき、彼女は赤マフラーの真上に立って刀の切っ先をそれに合わせていた。
まるで杭の狙いを定めるように――ツンは、反射的に彼女の思惑を理解していた。
.
437
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 21:32:32 ID:q9XV82ww0
川#゚ -゚)「はあ――ッ!!」
直後にクールは腰を落とし、渾身の力で赤マフラーに刀を突き立てた。
その切っ先が布地を貫いて地面に届き、さらに深々と地中に押し込まれていく。
ξ;゚⊿゚)ξ(あっ)
刀によって地面に釘付けにされた赤マフラー。
ツンは流石に足を止めて、素直クールの方を見ながら呆気に取られた。
ξ;゚⊿゚)ξ
ξ;゚⊿゚)ξ(これ、かなりマズいのでは……)
ツンが模範解答として持ってきた作戦は事も無げに失敗。
自動防御にタイムラグを作って云々〜という考えだったが、初見で看破され、終わった。
川 ゚ -゚)
ξ;゚⊿゚)ξ
肝心要のアイテムは回収困難。素直クールも赤マフラーを刺し貫いたまま動こうとしない。
彼女達の戦いはふと熱を失い、そこでじっくりと膠着した。
――それ自体がクールの狙いだと気付いた瞬間、ツンは全速力で彼女に立ち向かっていた。
ξ;゚⊿゚)ξ(止まってる場合じゃない! マフラーなしで敵が増えたら終わりなのだわ!)
ヒートを取り逃がした段階で素直四天王の集結は時間の問題。
だから最速でクールを倒さなければならなかったのに、相手に釣られて行動を遅らせてしまった。
クールが赤マフラーを食い止め続けるとしても残りは2人、手負いが1人。
どれほどの危険を冒すとしても、ここで彼女達を間に合わせる訳にはいかなかった。
lw´‐ _‐ノv「ごめん遅れた」
川 ゚ -゚)「問題ない」
ξ゚⊿゚)ξ
即来た。
.
438
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 21:38:15 ID:q9XV82ww0
ξ;゚⊿゚)ξ(――それでも攻め込む! 立ち止まってる余裕はもう無い!)ダッ
勝負どころは今この瞬間。
赤マフラーを半ば諦め、ツンは彼女達を同時に相手取ることを覚悟した。
川 ゚ -゚)「……結局、4対1にはできなかったな」
lw´‐ _‐ノv「ごめん。2人とも脳がヤバくて」
川 ゚ -゚)「刀はここに置いていく。素手の私にあんまり頼るなよ」
刀を手放し、彼女はシュールの隣に並び立った。
lw´‐ _‐ノv「そのマフラー絶対暴れるでしょ。ここで待っててよ」
川 ゚ -゚)「いや、魔王城ツンは戦いに慣れ始めている。長引かせるのは得策じゃない」
lw´‐ _‐ノv「だったら最初から、……まぁいいけどさ」
シュールは呑気に応えてからツンを見遣った。
ツンはこのとき上空に跳んでおり、シュールめがけて一直線に飛び込んできていた。
.
439
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 21:42:17 ID:q9XV82ww0
ξ#゚⊿゚)ξ「おおおおッ!」
lw´‐ _‐ノv(……戦い方がヒートに似てんなぁ)ダッ
シュールは地を蹴ってツン同様に空に上がった。
正面切っての空中衝突。ツンは咄嗟に彼女を迎撃しようとした。
ξ#゚⊿゚)ξ「だァッ!」
大きく引き絞った拳の威力は相変わらずの人外相当。
ツンはタイミングを合わせてシュールの顔面を横から殴りつける。
lw´ _‐ノv「――ッと」
そして直撃。
シュールとしては、狙い通りだった。
ξ;゚⊿゚)ξ「!?」
直撃と同時にシュールの五体がぐるりと翻り、地面に向かって墜落を始める。
その寸前、シュールはツンの外套を掴んで彼女を落下に巻き込んでいた。
ξ;゚⊿゚)ξ「ちょっ――!」
lw´‐ _‐ノv「うわぁ大変だぁ」
ダメージの大半を落下と回転のエネルギーに変換し、ツンごと地面に急降下していくシュール。
2人分の体重に十分な速度と回転を加えた直線落下。もし下敷きになれば間違いなく重傷を負う。
ツンは暴れて逃げようとするが、シュールにとってはそれすらも予定調和に過ぎなかった。
.
440
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 21:54:08 ID:q9XV82ww0
ξ;゚⊿゚)ξ「このォ!」ブンッ
lw´‐ _‐ノv(これも軽率)
落下しながらツンの攻撃を逆手に取り、その腕を絡め取って関節技へと移行する。
シュールは瞬く間に彼女の腕を股に通し、背中に乗りあげてオモプラッタの形で極めに入った。
ξ; ⊿゚')ξ「んぎッ……!」
ぎち、と音を立ててあらぬ方向に圧し曲げられるツンの右腕。
関節技は相手の肉体に無理を言わせるもの。下手な対処は逆効果にしかなりえない。
唯一それだけは弁えていたツンは最低限の力で抵抗、破壊されないギリギリの所で態勢を維持した。
ξ; ⊿゚)ξ(だけど、これじゃ……!)
目まぐるしく回る視界、凄まじい速度で迫ってくる地面。
一瞬先に訪れる最悪の衝撃に、ツンは成す術なく目を塞ぐしかなかった。
関節技を極められた状態で人間の下敷きになればどうなるか――その想像さえ最早手遅れだった。
ξ; ⊿ )ξ
――全ての認知を追い抜いて、ばきゃ、という破裂が聞こえてきた。
その瞬間に五感は途絶え、瞬きした訳でもないのに視界が暗転する。
しかし鮮明な感触が暗闇の幕を開け、彼女の意識を強制的に現実に引きずり戻す。
彼女はそこで、現実の直視を余儀なくされた。
lw´‐ _‐ノv「すまんね」
ξ;゚⊿゚)ξ
ツンが正気を取り戻した時、彼女は既に地面に転がされていた。
シュールもとっくに背中を降りていて、少し離れたところからツンを眺めている。
先程までの不自由もなく、ツンの体は完全な自由を取り戻していた。
ただ一箇所、300度以上ねじ曲がった右腕を除いて。
.
441
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 21:58:12 ID:q9XV82ww0
ξ;゚⊿゚)ξ
ξ;゚⊿゚)ξ「……ぁ」
すべての顛末を理解すると、ツンは言葉を失って絶叫を上げた。
壊れた右腕を抱えて暴れ、大きな痛みを小さな痛みで誤魔化そうとする。
動かせないのに痛みと熱だけが収まらない。細長い芋虫の群れが血管の中を泳いでいる。
人生最大の苦痛がコンマ1秒ごとに更新されていく。耐えても叫んでもそれは止まらなかった。
lw´‐ _‐ノv(……物理は得意そうだったけど、この手の痛みは初めてだったのかな)
lw´‐ _‐ノv(捻挫とか断裂とか捻転とか脱臼とか一気にだもんな、ちょっとやり過ぎた……)
何をどうやっても逃げ場のない、とにかくひたすら痛いだけの時間。
峠を超えるのに1分。それから更に数分を要し、ツンはようやく叫びを途絶えさせた。
――痛みが収まったのではない。諦めがついたのだ。
この現実を薄めるには、彼女はそうして最後のプライドを捨てるしかなかった。
lw´‐ _‐ノv「次は左腕を狙う」
地面に伏したまま、痛みに対する反射のみでピクピクと蠢くツン。
彼女をじっと見下ろしながら、シュールは淡白にそう告げた。
w´‐ _‐ノv「ヒートに倒されてた方が楽だったと思うよ。
それと同じこと、残りの2人もやれるからね」
ξ; ⊿ )ξ
1から10までを経て打ち出される打撃に対し、固めた後の関節技は-1にポキッとやるだけ。
赤マフラーがあったとしても、知恵の輪のように密着する2人を解くには相当の精密さを求められる。
対応ひとつに多くの技量を必要とする組技に、今の彼女はまったくの無力だった。
.
442
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 22:01:29 ID:q9XV82ww0
lw´‐ _‐ノv(服を狙えば問題ないのはヒートの時に確認済み。
固めを解くような動作が出来ないのも割れてるし、マフラーはもう問題じゃない)
ξ; ⊿゚)ξ
lw´‐ _‐ノv(……でも、これで立つから厄介なんだよな、魔物は)
膝を震わせながら立ち上がってくるツンを認めて、シュールは半ば呆れたように頭を振った。
戦意喪失に足る痛みは与えた。この戦いを放棄する猶予も十分に与えた。
――それでもツンは立って見せ、戦意をしっかり残している。
であれば必然、戦闘を長引かせたくないという姉の意見にも得心がいった。
lw´‐ _‐ノv(あいつら、殺害禁止のルールで戦いを間延びさせようとしてるのか。
そりゃ体力勝負にした方が勝ち目あるか。小賢しい……)
lw´‐ _‐ノv(それにあの試験官、こっちが死にかけてても無視しそうだし。
かと言って、こっちが殺す気になったら絶対止めに来るし)
lw´‐ _‐ノv(私達に忖度させようって魂胆のルールなのね。分かりましたよっと)
lw´‐ _‐ノv(――だったらまぁ、急いで両手足バキバキにしないとな)
すっと体を沈めた直後、シュールは容赦なくツンに襲いかかった。
左腕、と宣言したけどやっぱり右腕を完全破壊しに向かう。
ξ; ⊿゚)ξ !
無音の急接近にツンは動じた。反応が鈍り、然るべき対応が頭からすっぽ抜ける。
シュールはそこに付け入り絶好の位置を陣取った。
反射的に突き出されたツンの手を払い除け、後ろに逃げた右腕に狙いを定める。
.
443
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 22:04:44 ID:q9XV82ww0
川;゚ -゚)「――ダメだシュール! 避けろ!」
lw;´‐ _‐ノv「むっ――!」
しかし瞬間呼び止められ、シュールは弾けるようにその場所から離脱した。
直後、彼女と入れ替わるように赤い軌跡が空を横切る。
シュールはそれを睨みながら遠間の岩場に着地。ツンを目視し、一時の安全を確保する。
lw;´‐ _‐ノv「……なんで止めたん」
川;゚ -゚)「マフラーが暴れてそっちに飛んでいったんだ。避けなきゃ直撃してたぞ」
隣に現れたクールが慌てた様子でシュールに答える。
それほどの緊急事態。ツンを含めたこの場の3人、誰も状況をよく分かっていなかった。
lw;´‐ _‐ノv「ああ、やっぱり動いたんだね」
川;゚ -゚)「気付いて止めに行ったんだが間に合わなかった。すまん」
lw;´‐ _‐ノv「いいよ。私も気ぃ抜いてたから……」
.
444
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 22:09:54 ID:q9XV82ww0
lw´‐ _‐ノv「……いやぁ、どうすっかな」
シュールは口元に手を当てながら精神を仕切り直した。
やっぱり4人でという考えが第一に浮かび上がるも、それはそれで大きな不都合があった。
――勝つだけだったらそれでいい。
だが、そこまでやったら本当に後に引けなくなる。
彼女個人の考えによると、それは極めて不本意な展開だった。
あくまでも一個人として、素直シュールはこの戦いが中途半端に終わることを望んでいたのだ。
今は魔王城ツンの温情に期待しつつ、適当にこの場を収めるのが得策だと彼女は考える。
川 ゚ -゚)「マフラー単体であの挙動、もはや2対2と考えるべきだな」
lw´‐ _‐ノv「参ったもんだよね。ヒーキューが居れば楽かもだけど」
川 ゚ -゚)「それはダメだ。勢い余って魔王城ツンを殺したらどうする。あの試験官に即殺されるぞ」
lw´‐ _‐ノv「なら脱出は? ここから逃げ出す当初の予定、もうかなり厳しそうだけど」
川 ゚ -゚)「……逃げたとしても最初に息切れするのはヒートだ。
そこで絶対に足並みが崩れる。4人で逃げ切れないなら、逃亡はありえない」
――ヒートの負傷は魔王城ツンの実力を計り損ねた私のせいだ。
素直クールは己を叱責しながら、それでも冷静に戦場を俯瞰していた。
ヒートには後で謝る。今は仇討ちなど考えない。
そう割り切って、長く息を吐く。
川 ゚ -゚)「……なあシュール。あいつら、試験が済んでも私達を生かすと思うか?」
lw´‐ _‐ノv「命乞いなら任せろー」バリバリ
シュールの軽い反応に、クールは仄かに微笑んで見せた。
.
445
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 22:11:55 ID:q9XV82ww0
≪3≫
. _ ∩
レヘヽ| | テテーン
(・x・)
c( uu}
ξ;゚⊿゚)ξ
突然シュールが消えたかと思えば、ツンの前には1匹のウサちゃんが現れていた。
しかもその口には赤マフラーをくわえており、かわいい。
. _ ∩
レヘヽ| |
(・x・)
”c( uu} ,,ノミ入
丿 ノ
´~~~
ξ;゚⊿゚)ξ「どうして……」
ウサちゃんは赤マフラーを置いて毛玉のような尻尾を振ったかわいい。
暴力表現から一転してSo Cute。感情の行き場を失ったツンはその場にぺたんと腰を落とした。
ξ;゚⊿゚)ξ
. _ ∩
レヘヽ| |
(・x・)
c( uu}
◎ ◎ ティウンティウンティウン
◎ ◎
◎ ◎
◎ ◎
◎ ◎ ◎
そしてウサちゃんは消滅した。
.
446
:
名無しさん
:2021/08/10(火) 22:14:00 ID:q9XV82ww0
ξ;゚⊿゚)ξ「――……えっ?」
その時、ツンは右腕に違和感を覚えて我に返った。
確認すると彼女の右腕は元に戻っており、さっきまでの痛みも嘘のように消え去っていた。
ξ;゚⊿゚)ξ「……は?」
感覚が戻っている。軽く動かしても違和感はない。
ツンは呆気に取られて目を丸くした。幻覚でも見ているのかと、本気で自分を疑ってしまう。
目に映るのは『完治』という事実のみ。過程を飛ばしたその現象に、ツンの思考はまるで追いつかない。
ξ;゚⊿゚)ξ(……貞子さんが治してくれたとか?
でもまだ試験中よね? いったい何が……)
――と、そこまで考えて試験の事を思い出す。
ツンは縋る思いで赤マフラーを拾い上げ、素直四天王を探して周囲を見渡した。
ξ;゚⊿゚)ξ(そうよ! ぺたんこ座りしてる場合じゃないのだわ!)
岩場の上に敵影を見つける。ツンは即座に腰を上げた。
それが再開の合図となり、素直四天王の2人も岩場から降りて左右に散開していった。
猶予は数秒。ツンは急いでマフラーを巻き、先行してきたシュールに対して両拳を構えた。
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名無しさん
:2021/08/10(火) 22:18:13 ID:q9XV82ww0
lw´‐ _‐ノv(さて、またマフラー奪えりゃいいけど――)
シュールは囮を買って出たつもりで先陣を切っていた。
今のところ防具を着けているのは自分だけ。被弾があっても少しは軽く済む。
魔王城ツンが『魔物らしさ』に馴染みつつある現状、多少のリスクは覚悟の上だった。
ξ#゚⊿゚)ξ「――だあッ!!」
シュールを狙って直線的なパンチが迫る。
彼女は屈んでそれを避けると、赤マフラーを片手に巻き取ってさらに襟首へと――
lw;´‐ _‐ノv「!?」
襟首へと伸ばした手が、しかし届かない。
思いがけない齟齬に一瞬思考を止めるシュール。
次の瞬間、彼女の体は凄まじい力で上空に放り投げられていた。
川;゚ -゚)「シュール!!」
ξ;゚⊿゚)ξ「――えっ!?」
素直クールの声は背後から聞こえていた。
ツンは即座に踵を返したが、彼女もまた空に上がったシュールを見上げて足を止めていた。
lw;´‐ _‐ノv「こっちはいいから!!」
シュールは目算30メートルはあろう高度からクールに呼びかける。
今の一瞬でどうやってそこまで行ったのか、それを分かっていたのは当の本人だけだった。
lw;´‐ _‐ノv「マフラー!!」
川;゚ -゚)
ξ;゚⊿゚)ξ
だが、その一単語で情報共有は完了した。
ツンとクールは一瞬目を合わせ、直後に戦闘を再開した。
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