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('A`)( ゚∀゚)川 ゚ -゚)( ^ω^)の話のようです

128名無しさん:2020/10/04(日) 22:06:16 ID:QqQaeR920
 
 ハインリッヒ高岡は、写真で見るより実物の方が美しく、しかし威圧感のある雰囲気をしていた。

 オーラがあるとでも言えばいいのだろうか? 自分の通う学校のお偉いさんの親族だということを知っているからそう感じるのかもしれないが、なんだか近寄りがたいものを感じる。

 初対面からそうだった。

从 ゚∀从「お前がドクオか、オレはハインだ、よろしくな」

 集合場所だったバス停で高岡さんはそう言い、僕に右手を差し出してきた。僕はその手を取っていいものか逡巡したが、結局頭を下げるようにして握手した。

('A`)「ドクオです。よろしくお願いします・・」

从 ゚∀从「なんだァ? お前、オレとタメなんだろ、タメ口で話そうや」

('A`)「・・はい」

ξ゚⊿゚)ξ「いやいやその圧で来る相手にいきなりタメ口は無理よ」

( ^ω^)「タメ、というか、同格の相手にする態度じゃないお」

从 ゚∀从「あぁんそうかァ!? ハ! それはすまんかったな!」

 僕は彼女に対してジョルジュと同じ種類の匂いを感じた。つまり、第一印象は最悪だった。

129名無しさん:2020/10/04(日) 22:08:08 ID:QqQaeR920
 
そのジョルジュはというと、白を基調としたタンクトップと半ズボンに身を包み、体育館の床の上で入念なストレッチを行っているようだった。

 初めて来たVIP総合体育館は非常に立派で、『体育館』などといった俗っぽい呼称はふさわしくないようにさえ僕には見えた。スタジアムとかアリーナとか、そういった呼び方の方が適切だ。外見も洒落ている。

 バスケの試合の用意を施された会場内は壮観で、天井からは立方体のような巨大モニタが設置されている。プロの試合もできそうだ。

 そのような僕の疑問は口にした途端に解消された。実際プロの試合も行われることがあるらしい。

ξ゚⊿゚)ξ「VIP総合体育館っていうのは正式名称よね? ネーミングライツは企業に売って、プロリーグなんかで使われる時はそっちの名前で載る筈よ」

('A`)「へぇ、国体の時は正式名称を使うんだ?」

从 ゚∀从「国のやるイベントだからな。命名権にもいくつか種類があって、どの状況でどの名前を使うかとかで値段が変わったりするんだよ。これは一応市か県の持ち物だから、フルライセンスはそもそも販売されなかった筈だ」

('A`)「ほぉ〜、なるほどね。高岡さんは詳しいんだね」

从 ゚∀从「そりゃあ自分の家のことだからな。あ、それと、オレのことはハインでいいぜ、オレもお前をドクオと呼ぶから」

(;'A`)「・・・・はぁ!?」

 僕は時間差で驚きの声を上げた。

130名無しさん:2020/10/04(日) 22:09:42 ID:QqQaeR920
 
从 ゚∀从「なんだァ? 嫌か!?」

(;'A`)「いや、嫌じゃあないけど・・ええと、ここのネーミングライツを買った企業って、高岡さんのお家なの!?」

从 ゚∀从「そうだよ。ここはVIP総合体育館、別名シタラバ・タカオカ・アリーナだ。覚えとけ」

('A`)「シタラバ・タカオカ・アリーナ・・」

 まさか自分の通う学校名がこんなところにも登場してくるとは思わなかった。純粋に驚きだ。

从 ゚∀从「ドクオは転校生なんだよな? やっぱよそではこのくらいの知名度か、ウチもなかなかどうして、まだまだだな」

('A`)「というか、学校やってる家じゃなかったの?」

从 ゚∀从「学校? やってるぜ」

( ^ω^)「学校もやってる、って感じだお」

('A`)「も」

 学校法人を副業でやっているような口調で言われ、その規模の大きさは僕の想像力を超えていた。

131名無しさん:2020/10/04(日) 22:12:09 ID:QqQaeR920
 
('A`)「う〜ん、よくわからない。とりあえずわかったのは、高岡さんは僕が思ってたよりずっとお嬢様らしいということだけだ」

ξ゚⊿゚)ξ「それだけわかってりゃいいんじゃない? あたしらもハインの家が実際どのくらい大きいのか、よくわかっていないもの」

从 ゚∀从「気にするな、実はオレもよくわかってねぇ!」

( ^ω^)「まあ、とにかく凄いと思ってれば、あまり困ったことにはならないお」

 会場内にブザーが響いた。どうやら試合開始が近づいているらしい。依然としてストレッチをしていたジョルジュも立ち上がり、ベンチの方へと集まっている。先日目にした流石兄弟の存在も確認できた。

 派手ではないがしっかりとした選手紹介が行われ始めた。宙づりにされた巨大なディスプレイに所属と名前、学年などの情報が表示され、名前がアナウンスされた選手は大きな声で爽やかな返事を返して試合会場の中央へと整列していく。

('A`)「おお〜、高校生の爽やかな部活って感じ!」

 ジョルジュの番だ。VIPのしたらば学園から来た高校2年生であることが紹介される。その紹介の中で知ったのだが、なんとジョルジュは4月1日が誕生日であるらしく、嘘のような話だなと僕は思う。
  _
( ゚∀゚)「ハイ!」

 名前を呼ばれたジョルジュはハツラツとした返事で右手を挙げた。

132名無しさん:2020/10/04(日) 22:13:33 ID:QqQaeR920
 
('A`)「ん・・ひょっとして、2年生までしか出ないのか?」

 知っている選手などジョルジュと流石兄弟くらいしかいないので、選手紹介をぼんやりと眺めるしかなかった僕は呟くようにそう言った。さらには2年生も少数派であり、高校1年生が主力メンバーであるかのような印象だ。

 その呟きも終えないうちに、驚愕のアナウンスが場内に響いた。

('A`)「え、中学3年生!?」

ξ゚⊿゚)ξ「そう、中学3年生。ジョルジュが参加する国体少年部は、中学3年生から早生まれの高校2年生までが対象なの。ジョルジュも流石兄弟も早生まれなのよ」

('A`)「4月1日生まれって早生まれなのか!?」

ξ゚⊿゚)ξ「そうよ、早生まれは4月1日まででしょ、次の学年になるのは2日からよ。知らなかった?」

('A`)「知らなかった・・」

 嘘のような話だな、と僕は再び思ったのだった。

ξ゚⊿゚)ξ「だからジョルジュは、同級生の中では絶対一番年下なのよ。もちろんあたしたちの中でも一番下ね」

( ^ω^)「ジョルジュが一番年下って、なんだか面白い話だお〜」

133名無しさん:2020/10/04(日) 22:14:47 ID:QqQaeR920
 
 痛感した。どうやら僕は知らないことだらけであるらしい。

 何よりバスケがわからなかった。試合開始前の雑談タイムに色々聞こうと思っていたのだが、高岡家の話をしていてその時間は潰れてしまっていたのだ。

ξ゚⊿゚)ξ「さてと、そろそろ始まるわよ」

 試合に出場する選手たち全員の紹介が済み、ティップオフの儀式が行われるまでに僕が得られたバスケの知識は、バスケでは試合を行うフィールドのことをコートと呼ぶことくらいのものだった。

 つまり、ほとんどゼロだ。

 ティップオフで試合が開始する。会場中に歓声が響く。深緑を基調とした相手の選手に弟者が競り勝ち、こぼれたボールをジョルジュが拾って歩き出す。

 9月生まれの僕からしたら半年以上年下の男は、堂々とした態度でバスケットボールをコートに弾ませていた。

134名無しさん:2020/10/04(日) 22:16:55 ID:QqQaeR920
 
 矢のようなパスだった。

('A`)(この間みたいに、遠くからいきなり打つのかな?)

 そんなことを考えていたら、ジョルジュはドリブルの中でボールを左手に受け渡し、それを自然な動きから投射していたのだった。

('A`)「うおッ」

 驚きに小さく声が出る。大きく振りかぶったわけでもないのに、ジョルジュから放たれた茶色のボールは、定規で引いた直線のようにまっすぐ飛んでいく。

 速い。ハンドボールのシュートのような弾道だ。こんなの誰が捕るんだよ、と思っていると、その行き先にはさっきまでコートの中央でボールを競い合っていた弟者が走り込んでいた。

(´<_` )「・・オラァ!」

 いつの間に。そう思う間もなく弟者はボールを掴んでジャンプした。ビッグマンと呼ばれる体躯が宙に浮く。

 そして弟者は、十分に飛び上がった空中で、リングにボールを直接叩きつけるようにして入れたのだった。

135名無しさん:2020/10/04(日) 22:18:06 ID:QqQaeR920
 
('A`)「うおおすっげェ!」

( ^ω^)「スラムダンクってやつかお!?」

 僕らは声を上げて興奮する。会場中が沸いていた。

 高岡さんも手を叩いている。そして彼女は右手の指で輪を作り、それを口にくわえて指笛を鳴らした。

从 ゚∀从「ヒュー! かっけぇぜ!」

ξ゚⊿゚)ξ「まずはかましてやったわね。この次の守備が大事よ」

 そうツンに言われたからというわけではないだろうが、相手の攻撃を迎えるジョルジュ達には闘志が漲っているように僕には見えた。

 腰を落として両手を広げ気味に、ジョルジュは相手のボール保持者を睨みつけているようだ。絶対にこの先には行かせない、といった雰囲気である。

 練習と本番は違うということなのだろうか。この前ツンと観戦した練習試合では見られない圧力を相手に与えているように僕には見える。

136名無しさん:2020/10/04(日) 22:19:08 ID:QqQaeR920
 
 結局相手はジョルジュを抜くことは考えず、少し離れて隣にいる味方の選手にパスをした。僕はその選手の守備につく男を知っている。

('A`)「お、兄者だ。控えなんじゃなかったっけ?」

ξ゚⊿゚)ξ「今日はスタメンみたいね。まあ実力は十分あるし、2年生だし、作戦によってはありじゃない?」

( ^ω^)「ジョルジュは右利きじゃあなかったかお?」

ξ゚⊿゚)ξ「利き手? そうね、ジョルジュは右利きよ」

( ^ω^)「おっおっ、右利きなのに、左手であんな正確で強いパスを出せるなんて、ジョルジュは凄いお〜」

('A`)「確かに。練習してもできる気がしないな」

ξ゚⊿゚)ξ「ボーラーは皆そうだけど、特にポイントガードは両手を自在に使えないとね」

( ^ω^)「皆できるのかお? 凄いお〜」

ξ゚⊿゚)ξ「もちろんできない人も中にはいるでしょうけどね。でも、ジョルジュはできるわ」

 ふふん、とツンは出来の良い息子を自慢する母親のように得意げな顔をした。

137名無しさん:2020/10/04(日) 22:20:24 ID:QqQaeR920
 
 やはりジョルジュについての話をするツンの口ぶりからは特別な関係性がひしひしと感じられる。何も知らないのだろう、観戦しながら色々とツンに質問をするブーンにツンは楽しそうに語って返す。

 隣で繰り広げられるそんな話をどんな顔で高岡さんが聞いているのか、彼女と一番離れた席についている僕にはまったくわからないのだった。

 積極的に会話に加わってくることはないが、高岡さんは高岡さんなりに声を上げたり膝を叩いたり、派手なプレイには指笛を吹いたりしている。おそらく楽しめてはいるのだろう。本心はどうであれ。

('A`)(ま、高岡さんの本心なんて僕の知ったことじゃあない。揉めそうにないなら何でもいいさ)

 もっとも、揉めたところで僕にできる介入はひどく限られているのだが。

 コート上では兄者がボールを持っていた。ダムダムと床にボールを弾ませながら、何やらチームメイトたちに身振りを交えて指示を出している。その指示に従って白いユニフォームの選手たちが立ち位置を変え、それに伴い緑色のユニフォームの選手たちが立ち位置を変える。

 その配置の何が良いのかサッパリ僕にはわからないのだが、とにかく兄者は満足した様子でドリブル突破を仕掛けていった。その先には兄者とよく似た見てくれで、体格だけが明らかに勝った弟者が気をつけのような姿勢で立っている。

('A`)「似た顔同士でパス交換して混乱させようとでもしてるのか?」

 そんな僕の頭に浮かんだ素朴な疑問はただちに否定されることとなる。

138名無しさん:2020/10/04(日) 22:21:31 ID:QqQaeR920
 
ξ゚⊿゚)ξ「違うわよ、あれはスクリーンプレイ」

('A`)「すくりーんぷれい」

 僕の持つ『スラムダンク』由来の辞書には載っていない単語だ。まったく意味がわからない。

 しかし結果から過程の狙いを逆算的に考えることは僕にもできた。弟者は兄者の担当ディフェンスの邪魔をしようとしたのだろう。兄者よりも大きな体を利用して、ただ立っているだけで邪魔をする。兄者は弟者の脇をかすめるようにしてドリブルをつく。

('A`)「こんな妨害、反則じゃないの?」

 僕は素直にそう思ってしまうのだった。

 しかし僕がどのように思ったところで審判の笛は吹かれない。兄者はゴールに向かってぐんぐんと進む。このまま進んだら簡単なレイアップシュート、通称庶民シュートが打ててしまうことだろう。

 相手チームはそれを阻止するべく、こぞってゴール下へとディフェンスが集まる。それをかいくぐるようにしてシュートを打つのか? 打たなかった。兄者は向かってくるディフェンダーのすぐ隣を通り抜けるような軌道で、地面にワンバンするパスを出した。

 そしてその先にはジョルジュがいたのだ。

139名無しさん:2020/10/04(日) 22:24:03 ID:QqQaeR920
 
 ジョルジュがボールを受けたのはスリーポイントラインの外だった。当然シュートを打つだろう。

ξ゚⊿゚)ξ「スリー!」

 ジョルジュを応援する金髪の少女から声援が飛ぶ。僕は食い入るようにジョルジュを見つめる。

 美しい動きだ。

 茶色のボールを両手に持ったジョルジュは一瞬沈むような動きを見せ、そこから縮められたバネが解放されるように、まっすぐ真上に飛び上がった。滑らかな動作でボールが宙へと運ばれていく。そのシュートの邪魔ができるものはどこにもいない。筈だった。

 僕はそう思っていたのだが、爆発的な速さでジョルジュに向かっている緑色のユニフォームがいた。

 すさまじい勢いだ。

 一歩一歩のシューズと床との摩擦がここまで伝わってくるようだった。

 冗談のような動きで空中のジョルジュへ飛びかかったその男が指の一本一本を広げて右腕を伸ばしてくる。重力加速度に従い空中で動きが止まったジョルジュの元へと伸びていく。

('A`)「ぅお届くのか!?」

 僕は反射的に背筋を伸ばした。

140名無しさん:2020/10/04(日) 22:25:25 ID:QqQaeR920
 
 審判の笛が鳴っていた。

 ファウルだ。どうやら彼のシュートに対する妨害は、ボールではなくジョルジュの右手に当たってしまっていたらしい。

('A`)「あ〜あ・・しかし、あんなとこから届くのか!?」

 僕にはそのこと自体が驚愕だった。

ξ゚⊿゚)ξ「今のはジョルジュが悪い。フリーだと思ってシュートに時間をかけすぎたわね。慎重に狙おうと思ってのことなんだろうけど」

( ^ω^)「僕にはとても滑らかで自然な、良いフォームに見えたお?」

ξ゚⊿゚)ξ「時間があればそれでいいんだけどね、あいつはもっとクイックに打てるシュートも持ってるのよ。相手にクックルがいるのにそれは駄目」

('A`)「クックルって、今のブロックした選手?」

ξ゚⊿゚)ξ「そうよ。留学生で、身体能力がケタ違いなの。クックルでもなければあれでよかったんだろうけど」

('A`)「まぁ確かに、陸上選手みたいな速さだったもんな」

从 ゚∀从「まあまあ、でもファウルだろ。3本フリースローならいいじゃんか」

141名無しさん:2020/10/04(日) 22:26:26 ID:QqQaeR920
 
ξ゚⊿゚)ξ「それはそうね。でも、ファウルじゃなくてもおかしくなかった。やっぱりクックルは恐ろしいプレイヤーだわ」

 それまでほとんど会話に加わることのなかった高岡さんの発言にも、ツンは特別な反応をしなかった。ブーンもそうだ。

 彼らに不協和音はないのだろうか? 僕ひとりがソワソワしているようである。ツンは何の引っかかりも感じさせない口調で言葉を続ける。

ξ゚⊿゚)ξ「それにね」

 僕らの視線の先ではジョルジュがフリースローを打つためのラインの上に立っている。スローラインだ、と僕はそこからダーツを連想する。

 フリースローを打とうとするジョルジュの構えは少しだけ左足を後ろに引いたほとんど正面を向いた形で、ダーツフォームのセオリーからは外れているな、と僕は思う。ダーツだったらもっと半身に近い方が良いことだろう。

('A`)「・・あ」

 ガシャンとボールがゴールリングに当たる音。金属製の輪っかに弾かれたボールはネットをくぐることなく床に弾んだ。

 スローフォームに僕が心の中で難癖をつけたことが原因では決してないだろう。しかし、それでも僕は何となく気まずい気持ちになるのだった。

142名無しさん:2020/10/04(日) 22:27:11 ID:QqQaeR920
 
 ツンが大きくひとつ息を吐く。そして呟くようにして言った。

ξ゚⊿゚)ξ「それにね、ジョルジュはフリースローがへたくそなのよ」

('A`)「へたくそ」

( ^ω^)「へたくそ」

从 ゚∀从「・・へたくそ」

ξ゚⊿゚)ξ「そう、へたくそ。ひどい日は半分くらいしか入らなかったり、下手したら半分以上外したりするからね」

( ^ω^)「・・それって、練習で何とかならないのかお?」

ξ゚⊿゚)ξ「どうにかなるならとっくにどうにかしてるわよ。こればっかりは無理なんじゃないかしら、才能のせいにするのはあまり好きじゃあないんだけど、恵まれなかったとしか言いようがないわ」

 熱心に応援してくれる女の子がボロカスに評したからか、ジョルジュは続く2投目のフリースローも見事に外した。

('A`)(フリースロー・・下手なのか)

 僕は心の中で呟いた。

143名無しさん:2020/10/04(日) 22:28:10 ID:QqQaeR920
 
 3本目のフリースローは何とか成功した。

 本当に“何とか”成功したという感じだった。やはりリングに当たったボールは上に弾かれ、その後2度ほどリングの上を成功と失敗の狭間で飛び跳ね、ようやく気が済んだといった調子でゴールしたのだ。

 フリースローの成功を褒めるというよりは安堵したような声援が飛ぶ。

从 ゚∀从「普通の上手いやつらはフリースローってどのくらい入れんの?」

ξ゚⊿゚)ξ「そうねぇ、やっぱり人によってまちまちだけど・・それこそ、上手な人は9割がた成功させたりするわね。ほぼ完ぺき」

从 ゚∀从「9割! サッカーのPKより全然決まるんだな」

ξ゚⊿゚)ξ「あっちはキーパーがいるじゃない。フリースローは純粋に自分との勝負だから、極端なことを言ったら決まらない方がおかしいのよ」

( ^ω^)「それはまた極端な意見だお〜」

ξ゚⊿゚)ξ「もちろん100パーはありえないんだけどさ、でも、だってそうじゃない?」

('A`)「まあ、十分練習した上で、同じ動作で同じように投げれば、同じように成功する筈なわけだからね。理論上は」

ξ゚⊿゚)ξ「そうそう。リロンジョウはそうじゃない?」

144名無しさん:2020/10/04(日) 22:29:27 ID:QqQaeR920
 
 ダーツプレイヤーである僕にはツンの言っている理論上の話がよくわかった。しかし同時に、それがたいへん難しいことも同時に実感できる。

('A`)(ダーツとフリースローは似てると貞子さんが言ってたな・・)

 それではジョルジュはダーツもへたくそなのだろうか?

 容姿に恵まれたバスケ部のエースで可愛い彼女を持っている上、また別の種類の美しさをした浮気相手にも事欠かないのであろう、完璧超人のような同級生の数少ない短所を知った僕はなんだか楽しいような気分になった。実に愉快なことである。

 しかしフリースロー以外のプレイではジョルジュはきわめて優れているようだった。

 県選抜チーム同士を戦わせる全国規模の試合だというのに、ジョルジュのプレイは明らかに目立っているのだ。

 コート上を支配しているようである。ジョルジュがボールを持つと、次はどのようなドリブルを見せ、どのようにパスを出すのかと楽しみになってしまう。そしてそのように思っていたら、不意にシュートを自分で放って決めるのだ。

 今度もまたそうだった。

 僕には反則にしか見えないスクリーンによる妨害だ。それでマークを剥がしたジョルジュは、クックルが到底追いつくことができない位置から長いスリーポイントシュートを成功させたのだ。

145名無しさん:2020/10/04(日) 22:31:01 ID:QqQaeR920
 
 単純に考えて、相手がいる状態で動きながら放つロングシュートより、自分ひとりの時間を与えられて近い距離から放つ方がどうやったって簡単だろう。しかしジョルジュにとってはそうでないらしい。

 とても不思議なことだが、事実そうなのだから仕方がない。ツンが言う通り、ジョルジュはフリースローが下手だった。

 本格的にそれが相手にバレてからは、ジョルジュがシュートをしそうになると、ファウル前提の激しい当たりに晒されることになった。ドリブルもそうだ。決定的な突破ができそうになると、半ば強引に止められる。

 パスはできるが、パスしかできない状況でのパスに意外性は生まれないことだろう。明確な欠点があるというのは大変なことだな、と僕は思った。

 笛が鳴って試合が中断された。ジョルジュはベンチに深々と腰掛ける。

ξ゚⊿゚)ξ「ジョルジュ、交代かもね」

 肩をすくめたツンがそう言った。

( ^ω^)「う〜ん、残念だお」

ξ゚⊿゚)ξ「いつもはもうちょっとマシなんだけどね、流石に今日のフリースローはひどすぎる」

146名無しさん:2020/10/04(日) 22:31:50 ID:QqQaeR920
 
 はたしてジョルジュは交代となり、コートには帰ってこなかった。

 もっとも興味を引かれる選手がいなくなったのだ。観戦への熱も自ずと冷める。僕は素朴な疑問を口にした。

('A`)「なんでスリーポイントシュートは入るのにフリースローが下手なんだろうね?」

ξ゚⊿゚)ξ「さぁねえ。昔はそんなことなかったんだけどね」

从 ゚∀从「むかし?」

ξ゚⊿゚)ξ「特にミニバスの頃なんかはね。あいつ、早生まれじゃん? 子どもの頃の半年や1年ってほんとに大きな差だから、フィジカル的に相当苦労してて、邪魔せず打てるフリースローが一番の得点源だったのよ」

从 ゚∀从「へぇ〜。今ではでかい方だけどな。180いってるのか?」

ξ゚⊿゚)ξ「180はないんじゃないかな。177とかだったと思う。ポイントガードとしては十分ね、ただ」

从 ゚∀从「ただ?」

ξ゚⊿゚)ξ「NBAプレイヤーになるなら183センチは欲しい」

147名無しさん:2020/10/04(日) 22:33:13 ID:QqQaeR920
 
 その単語を聞いた瞬間、僕は軽く吹き出してしまった。

('A`)「NBA!? って、あのアメリカの?」

ξ゚⊿゚)ξ「そうよ、あのNBA。ナショナル・バスケットボール・アソシエーション」

( ^ω^)「そんな正式名称だったのかお」

('A`)「NBAプレイヤー・・そんなの、なれるのか?」

ξ゚ー゚)ξ「さあね。そんなの知らないわ」

从 ゚∀从「いや言い出したのお前だろ」

ξ゚⊿゚)ξ「だってそんなのわからないもの。ただ、ジョルジュには一番上を目指して欲しいなって思ってるだけよ」

('A`)「ふえぇ〜凄い話だな」

( ^ω^)「歴史上で何人かしか日本人NBAプレイヤーはいないお? たとえば総理大臣になる! って方が確率的には現実味がある筈で、う〜ん、同級生がそんなことになってるなんて、なんだか不思議な感じだお」

从 ゚∀从「・・可能性は、ゼロじゃあないのか?」

148名無しさん:2020/10/04(日) 22:34:38 ID:QqQaeR920
 
 そんなの知らないと言われた僕の質問と同じような内容だったが、高岡さんの質問に対してはツンはきちんと答えようとしているようだった。少し唸るようにして考え込み、カールがかった金髪を指先でいじる。

ξ゚⊿゚)ξ「ゼロでは、ないと思う。思いたいってのもあるけどね」

从 ゚∀从「ほ〜う。その場合、いったん日本のプロチームに入るのか?」

ξ゚⊿゚)ξ「いいえ。もっとも理想的かつ現実的なのは、大学からアメリカのところに行って、そこで結果を残してドラフトされるパターンなんじゃあないかなと思う。Bリーグがだめってわけではないけどね」

 そしてツンはアメリカにおけるバスケットボール文化の背景や、大学から留学するメリットについて説明してくれた。残念なことに、僕にはよくわからない部分が多かったのだが。

 そもそもバスケにそれほど興味がなかったのだからしょうがない。かつて『スラムダンク』を読んだ時分に心を熱くしたのは事実だが、『ヒカルの碁』に感動した読者の内、いったい何人が碁を打てるようになったというのだろう?

 そんな僕でもNBAプレイヤーが凄いというのはわかる。総理大臣になるというのとどちらの方が将来の夢としてぶっ飛んでいるのかは判断ができないが、どちらも同様に僕には一生考えもしないことだろう。

149名無しさん:2020/10/04(日) 22:36:11 ID:QqQaeR920
 
 そんなことをぼんやりと考えながら試合を眺める。どうやらジョルジュがいなくなった後のVIP選抜チームの中心は流石兄弟であるようで、先日何の気なしに観戦した彼らとジョルジュの練習試合は、実は県内屈指の好カードだったのかもしれない。

('A`)(もっとバスケに詳しくなってから見てればよかったのかな、もったいなかったことだなあ)

 それまでジョルジュと兄者が分担してタクトを振っていた白いユニフォームの攻撃はほとんど兄者が起点となっているようだった。そこに主に弟者が絡み、コンビネーションを使ってできるだけフリーでシュートを打っていくようなイメージだ。

 流石は県選抜チームということだろう、ジョルジュがいなくなってもそれほど機能性が失われているようには見えなかった。ツンが言うところによると、そもそも県選抜チームはチーム練習をろくに積むことができないので、基本的に同じ高校出身選手のコンビネーションや純粋な個人技に頼ることになるのだそうだ。

ξ゚⊿゚)ξ「もちろん簡単な約束事や、ボーラーなら常識だろって連携はできるんだけどね。代表チームって性格上、どうしてもそうなってしまうよね。だから機能性が損なわれないというよりも、そもそも損なわれるような上等な機能性はないと言った方が正しいのかも」

 サッカーの代表チームに関する話題を頭に浮かべる。バスケと比べてよっぽど接する機会があるからだ。

 僕はサッカーについてもズブの素人だが、クラブチームに比べて代表チームの方が連携面や戦術の習熟度で拙い傾向にあり、そのせいもあってチームでは圧倒的な存在感の選手が代表では意外と活躍しない、といった現象が起こりうることくらいは知っている。

150名無しさん:2020/10/04(日) 22:37:18 ID:QqQaeR920
 
 ジョルジュはVIP選抜チーム唯一のシタガク出身の選手である。それが全体の攻撃を司るような働きをしていたというのは――

('A`)(ひょっとしたら、ジョルジュはバスケを知らない僕が今思っているよりずっと、凄いことをしているのかもしれない)

 試合を眺めながらそんなことを頭に浮かべていると、再び笛が鳴って試合が中断された。作戦タイムか? 違った。選手交代だ。

 コートの脇にジョルジュが立って待っている。

( ^ω^)「お? ジョルジュ入るのかお?」

ξ゚⊿゚)ξ「そうみたいね。知ってると思うけど、バスケは出入り何回でもできるから」

( ^ω^)「おっおっ、またフリースロー地獄にならないといいお」

从 ゚∀从「あれって何か対策あるのか?」

ξ゚⊿゚)ξ「フリースローをちゃんと入れる」

从;゚∀从「いやそれは」

ξ゚⊿゚)ξ「でもそれしかないもん。フリースローは本来もっとも得点効率の高い、相手に対するペナルティ的なものだからね、フリースローが入らないって、ぶっちぇけふざけんなって感じだと思う」

151名無しさん:2020/10/04(日) 22:39:19 ID:QqQaeR920
 
(; ^ω^)「こりゃまた辛辣な意見だお」

ξ゚⊿゚)ξ「それにファウルする回数にも限度があるからね。試合も終盤になってきたし、とはいえファウルゲームをするような状況でもないから、相手がどうするか見ものね」

('A`)「――今のジョルジュが取るべき対策は?」

ξ゚⊿゚)ξ「やっぱり何が何でもフリースローをきっちり決める。特に最初。最初で印象が決まるでしょ。あとは」

('A`)「あとは?」

ξ゚⊿゚)ξ「ボールハンドラーは兄者に譲る」

 実際にジョルジュはそのようにした。

 バスケにおける司令塔のポジションはポイントガードだ。とはいえこの呼称は僕らが勝手にそう呼んでいるだけで、たとえば野球のようにピッチャーだからマウンドに上がっているというわけではないし、サッカーのようにキーパーだからグローブをはめているというわけではない。ポイントガードの性質をもった選手が何人コートの上にいてもいいのだ。

 しかしボールは1個なので、それを持って攻撃をコントロールする選手が、その攻撃ではポイントガードの役割をするということになる。先ほどジョルジュと兄者はそれを分担して行っていた。それをジョルジュはしなくなったわけである。

152名無しさん:2020/10/04(日) 22:40:53 ID:QqQaeR920
 
 ではジョルジュは何をするのかというと、動き回ってフリーの状態を作り出し、出されたパスをもらってシュートを打ったり、ドリブル突破を試みたりするようになったのだった。

('A`)(でもそれってやっぱりファウルで止められるんじゃないの?)

 そう思った僕の疑問は見事に却下された。

( ^ω^)「なるほど、ボールを持っていない動きの中でマークされる選手を入れ替えさせて、簡単にファウルをできない相手を標的にするのかお」

ξ゚⊿゚)ξ「ご名答。それが上手くいった時だけジョルジュで攻める。これならシュートの妨害は試みるけどなるべくファウルは犯せない、“普通”のディフェンスを相手にすることになる」

 言われるまでまったく気づかなかったが、確かに白いユニフォームの選手たちはそれを目的として動き回っているようだった。

 時にはその狙いを逆手にとって、できたフリーの選手がシュートを放つ。ゴールへ突進した選手へパスを通そうと試みる。しかし、基本的には、ジョルジュの担当ディフェンダーが特定の選手になるよう働きかける。

 簡単にファウルをできない選手。それは替えの利かない選手、多くの場合はエースと呼ばれる存在だろう。

 つまりそれは異常な身体能力を持つ留学生、クックルだったわけである。

153名無しさん:2020/10/04(日) 22:43:28 ID:QqQaeR920
○○○

川д川「留学生との1on1祭りか〜 熱いね! 私も見たかった!」

 ダーツ練習がひと段落つき、だらりと行う雑談の中で提供した国体バスケ見学の話は貞子さんに食いつかれていた。

('A`)「ほとんど知識がない僕でも面白かったですよ。貞子さんならなおさらだったでしょうね」

川д川「やっぱり行けばよかったな。クーがやっぱやめとこうって言うから〜」

川 ゚ -゚)「だってこいつマジで怒りそうなんだもん。思春期かよ」

('A`)「こちとら高2の思春期じゃい」

川д川「まあでも確かに、ヘソ曲げられてもうご飯作ってくれないとか言い出したら困るからねぇ」

川 ゚ -゚)「思春期の少年が友人の前でかかされる恥の恨みは深いからな。君子は危うきに近寄らないのだよ貞子くん」

川д川「勉強になります。でも行きたかったな」

 楽しかったですよ 、と僕は言った。

154名無しさん:2020/10/04(日) 22:45:01 ID:QqQaeR920
 
川д川「まあいいや。それで、その1on1祭りはどうだったの?」

('A`)「おっしゃる通り、熱かったですよ」

 実際あれは熱かった。

 緑色のチームはこちらの狙いを察すると、やがてクックルを直接ジョルジュのマークにつけるようにしてきたのだった。それを見たこちらはジョルジュにボールを持たせるようになる。そうして祭りは始まった。

 クックルを攻めるというのなら、受けて立とうというのだろう。

 クックルになら攻めさせてやるというのなら、攻めてやろうというのだろう。

 お互いの一番の長所のどちらが長いのかを比べ合うような争いだった。

 とても効率の良い攻撃だったようには見えなかった。しかしジョルジュはそれを制した。

ξ゚⊿゚)ξ「クックルが一番怖いのは、ヘルプで飛んでくるディフェンスよ。最初から対峙するのは、もちろんとってもしんどいんだけど、見えないところから殴られるわけではないというところがキーポイントだったかしらね」

 その争いをツンはそのように評していた。

155名無しさん:2020/10/04(日) 22:47:13 ID:QqQaeR920

 とても効率が良いわけではなかったが、優位に立ったのはジョルジュだった。そしてその優位性は、そのまま相手のオフェンスにも影響してきたのだった。

 リズムが狂ったというやつだろう。それまで決められていたシュートが決まらないようになり、加えてジョルジュはディフェンダーとしても優れているようだった。

 相変わらずフリースローはよく外していたが、最初に交代させられた時のような壊滅的な状況では決してなかった。2本に1本は入るという印象だ。

 どうやらバスケットボールの常識としては、シュートは半分入れば上出来らしいので、半分以上入るフリースローを闇雲に与えるのは得策ではないらしい。

('A`)(・・しかし、フリースローがへたくそなバスケ部のエースね)

 彼はダーツも下手なのだろうか?

 スローラインに立ってダーツ盤を睨み、僕はそのような疑問を持った。



   つづく

156名無しさん:2020/10/05(月) 01:51:11 ID:2Qm8d9Eo0
otsu

157名無しさん:2020/10/05(月) 14:21:23 ID:qlWx/ZDU0
乙です!

158名無しさん:2020/10/09(金) 02:07:56 ID:.GGYo3hY0
乙です。
スラムダンクすら読んだことないけど、戦略というか心理的な攻防があるもんなんだな。
ドクオとジョルジュがダーツ勝負する日なんて来るのかな?

159名無しさん:2020/10/11(日) 21:58:34 ID:qY12WmSQ0
1-6.ダーツとフリースロー


 中間試験はいつもと同じ出来栄えだった。

 以前ブーンにも言った通り、僕は試験前に気合を入れた対策勉強ということをまったくしない。単純に面倒臭いというのと、勉強自体が好きなわけではないからである。

 ではどうやって成績を維持するかというと、試験勉強をしない分、日ごろの日常生活に勉強内容を組み込むように心がけている。具体的には、雑談の話題にお勉強のことを取り上げる。クーや貞子さんは薬学部に通う、どちらかというと高い受験偏差値を持つ大学生なので、僕が精一杯の知識で放り込んだ知識をいとも簡単に受け入れてくれるわけである。

 僕自身の脳みそ的な素質はおそらく大したことがないのだろうが、トップクラスの成績を望むわけでもないので、今のところ何とかやっていけている。こうした僕の勉強法を知ってか知らずか、彼女たちもそうした会話を進んで交わしてくれるのだ。

 今日もそうだった。僕らはそれぞれダーツ盤に向かってタングステン製の矢を投げていた。

('A`)「最近、カウントアップの平均得点がようやく完全に下がり止んだ気がする」

川 ゚ -゚)「ほう、おめでとう。・・どうして下がり止んだかわかるか?」

('A`)「僕が上達したからじゃあないの?」

川д川「そもそもどうしてダーツの腕が上達すると、一時的にせよ平均得点が下がるのか、ということをクーは訊いているんだと思うよ」

160名無しさん:2020/10/11(日) 22:00:09 ID:qY12WmSQ0
 
('A`)「どうして?」

川 ゚ -゚)「ドクオがダーツを始めて少し経って、まあまあブルに入れられるようになったあたりでわたしたちは言ったよな、そろそろそういう時期がくるぞ、と」

('A`)「言ったね」

川 ゚ -゚)「それは何故だ?」

('A`)「世のしきたりだからじゃあなくて? ほら、2年目のジンクスみたいな」

川 ゚ -゚)「違うな、これには数学的な根拠がある。数学的と言ったら大げさに聞こえるかもしれないが」

('A`)「数学的? う〜ん、トリプルに入らなくなるからじゃあなくて?」

川 ゚ -゚)「それそれ、そうだよ。ダーツを始めると、上達して狙ったところに当てられるようになるに従って、当然得点は伸びていく。ただ、一定の上手さになると、偶然トリプルやダブルに入ることがなくなり、しかしブルにはそこまで入らないから、得点期待値は一時的に下がるんだ」

161名無しさん:2020/10/11(日) 22:01:45 ID:qY12WmSQ0
 
('A`)「なんだ、そういうことか」

 それなら僕にも実感があった。自信を持って頷ける。クーと目が合い、僕らは黙って頷き合った。

川 ゚ -゚)「それじゃあもう少し考えようか。トリプルライン以内には入るがブルを狙うことはできないドクオと、ブルを狙って投げられはするがトリプルラインまで外れることはないドクオ、いったいドクオは何パーセントの確率でブルに入れられるようになればカウントアップの平均得点が下がり止んでくれるのだろう?」

('A`)「う〜ん? 確率で計算できるのか?」

川д川「たぶんできるよ。確率というか、期待値あたりの範囲だね」

川 ゚ -゚)「仮に今ドクオが下がり止んだ瞬間だとするならば、自分が今どの程度の確率でブルを狙うことができる腕前になっているのか、数字として証明することができるんだ」

 たまらないだろう? と言ってクーはニヤリと笑って見せた。

 前言を撤回するべきかもしれない。おそらくこれは僕のお勉強のためというよりは、純粋に彼女の趣味として行っていることだろうからである。

162名無しさん:2020/10/11(日) 22:03:58 ID:qY12WmSQ0

 結局、僕はダーツの練習もそこそこに、確率と期待値の分野についての課題に取り組むことになったのだった。

 拒否をすることもできるだろう。このような問題を解いたり、自分のダーツのブルヒットパーセンテージを算出したところでその数字が上がるわけでもないし、何か良いことがあるわけでもない。知るかそんなの、と突き放してしまえばそれで終わりだ。

 しかし僕はそんな気にはならなかった。なんせ、僕のダーツ仲間はこのふたりだけであり、彼女たちは僕より明らかにダーツが上手く、自分のダーツの腕前とその根拠を数字の上でも証明することができるだろうからである。

 頭の中に収めることができなくなった思考を紙と鉛筆で形に残し、僕は計算を進めていく。

川 ゚ -゚)「ああ、そこはその考え方では行き詰まるぞ」

川д川「まずは考えを整理して、場合分けや定義とその統合の流れをデザインした方がいいと思うよ」

('A`)「うるさいなぁ! アドバイスは乞われた時だけにしろよ!」

川 ゚ -゚)「ひゅー怖い」

川д川「キレる10代」

 こうしてちくちくと横から邪魔をされたり助言を得られたりしながら、なんとか僕は自分のダーツレベルを数字で表すことに成功した。

163名無しさん:2020/10/11(日) 22:06:41 ID:qY12WmSQ0
 
 クーは塾講師を、貞子さんは家庭教師を、といった次第に彼女たちはアルバイトでそれぞれ日常的に人に勉強を教えているので、確かに教え方は上手かった。

 ただし、彼女たちとの話の中で、当然知っているべきと思われた知識を僕が知らないことが発覚すると、僕はボロクソに貶される。それがクーだけならただ聞き流せば良いのだが、貞子さんにもその様が見聞きされるとあっては機会をなるべく少なくしたいので、必然的に僕にはなるべく色々なことを覚えたり考えておいたりするような習慣がついているというわけだ。

 恐怖心と必要性。僕はお勉強をするにあたってもっとも必要な要素はこのふたつなのではないかな、と勝手に結論づけている。道具として利用することのない知識を記憶に定着させるのはどうやらとても難しい。

川д川「いやしかし、中間テストなんて響きがもう懐かしいわ。――と、そのように言いたい時期が私にもありました」

川 ゚ -゚)「本当に」

('A`)「? 大学生にも中間テストってあるの?」

164名無しさん:2020/10/11(日) 22:08:32 ID:qY12WmSQ0
 
川 ゚ -゚)「ある〜。あるんだよこれが! しかもほとんど丸暗記なの。やってらんね〜」

川д川「私は薬学部がはたして理系の学部としてふさわしいのか、時々わからなくなるよ」

川 ゚ -゚)「植物の名前をひとつひとつ覚えるなんて種類の課題は小学校で卒業した筈なのに!」

川д川「ぐぐれ、画像検索しろ、と常々思うわ。花の顔見てピンとくるのは芥子の花だけで十分よ・・」

 学校のカリキュラムを憎む大学生たちの姿を横目に見ながら、僕はフォームを作ってダーツを投げた。本当に嫌なのであれば学校など辞めてしまえばいいのに、といった類の意見をわざわざ口にする必要はないだろう。

 計算で求めた数字とは関係なく、ダーツはその都度ブルに入ったり外れたり、入らなくなった筈のトリプルエリアに突き刺さったりと奔放に振る舞った。理論上の自分の実力を数字で表すことができたとしても、実際その通りの結果がいつも返ってくるとは限らないのだ。

 僕の投げたダーツがひどい位置に刺さった瞬間、僕は姉から罵倒された。

165名無しさん:2020/10/11(日) 22:09:30 ID:qY12WmSQ0
○○○

 中間試験の結果がいつも通りだったのは僕だけに限ったことではなかったらしい。

 ツンは相変わらずトップクラスの出来栄えで、今回は総合得点で学年2位になっていた。もちろん学年1位はブーンだ。依然変わりなく。

('A`)「いやぁお見事。今回もトップで安心か? それともやった〜! って感じなの?」

 体操服で体育館の床に座り込み、僕はブーンにそう訊いた。純粋な好奇心からである。

 ブーンは肩をすくめて見せた。

( ^ω^)「いやぁ、別に、どっちでもないお。1位だろうと違おうと、僕にとって何かが変わるわけではないお」

('A`)「ツンがトップクラスの成績を保つのは推薦のためだって言ってたな。ブーンはそういうのもないのか?」

( ^ω^)「ないお。別に大学行きたいわけでもないし」

166名無しさん:2020/10/11(日) 22:10:26 ID:qY12WmSQ0
 
('A`)「え、ブーン、進学しないのか?」

 驚いて僕はそう訊いた。したらば学園はそれなりの進学校だ。その学年トップが高卒で働くとなったら学校側が黙っていないことだろう。

 即座に跡取りが必要となるほど『バーボンハウス』関連の事情が切羽詰まっているようにも思えない。じっと見つめる僕の視線が居心地悪いのか、ブーンは苦笑いに近い笑みを浮かべた。

( ^ω^)「いや、進学しないってわけじゃあないお。就職したいわけでもないし、たぶん普通に大学には行くお。ただ、推薦なんかで話す志望動機はどの学部にも何もないから、一般試験で行かせてもらうお」

('A`)「なるほどね。ま、学年トップなんだもんな、推薦なくてもどうとでもなるか」

( ^ω^)「おっおっ、純粋にチャンスが1回増えるわけだから、ツンみたいに行きたい分野が決まってるなら良い制度だとは思うお」

 話題の女の子は僕らの視線の先で茶色いボールを床に弾ませ、体育の授業に取り組んでいた。

167名無しさん:2020/10/11(日) 22:11:29 ID:qY12WmSQ0
 
 バスケットボールだった。

 ツンがドリブルをついている。授業中のことなので、ノースリーブのユニフォームではなく体操服に短パンで、足元は体育館シューズだった。背筋がすらりと伸びていて、決して高い方ではないツンの背丈が大きく見える。

 なんというか、新鮮な光景だ。

('A`)「・・あれだけバスケ好きなんだから、そりゃ自分でもプレイするか。うち、女子バスケ部ってないんだっけ?」

( ^ω^)「もちろんあるお。でも、ツンは部活には入ってない筈だお」

('A`)「ふぅん、なんでだろうね?」

 お勉強時間を確保するためだろうか?

 学年トップクラスの成績を維持する少女の動きを僕は目で追う。鋭いドリブル突破から、ツンはレイアップシュートを決めた。

('A`)「おお、鮮やか」

168名無しさん:2020/10/11(日) 22:12:37 ID:qY12WmSQ0
 
 ツンの動きは明らかに一般的な女子高生とは一線を画していた。熟達した経験者の雰囲気を僕は感じる。スローラインに立つ貞子さんのようだなと僕は思った。

 そういえば貞子さんもバスケ経験者と言っていた。

 スローラインに立ってダーツを構えるツンを僕は頭に思い浮かべる。やはり貞子さんのようにひと目でわかるバランスの良さをしているのだろうか?

('A`)(ダーツに関しては素人だろうから、それはないか・・)

 そんなことを考えるのは、今まさにツンがフリースローを打とうとしているからだった。どうやら相手チームに現役バスケ部員がいるらしく、ツンと彼女の白熱した攻防の末にファウルを受けたものらしい。

 フリースローライン上でツンがボールを扱っている。自分ひとりの時間で行う儀式めいたルーティンだろう。僕はダーツとフリースローが似ていることを知っている。

('A`)(なるほどな――)

 見ているだけでも同じような性質をもっていることが僕にはわかった。誰にも邪魔されることなく、自分のペースで行うスローだ。その分正確さを要求される。基本的に、同じフォームで同じように行動し、同じような結果を作り上げなければならない。

 ツンの放ったフリースローはゴールリングをくぐり、ざっくりとネットに包まれた。

169名無しさん:2020/10/11(日) 22:13:45 ID:qY12WmSQ0
 
 貞子さんはフリースローのみならず、シュート自体にもダーツとの類似性がみられると言っていた。

 経験日数はそこまで長くないけれど、僕はそれなりにダーツができる。おそらくこのクラスの中では少なくともトップクラスの腕前だろう。あるいは学年トップであるかもしれない。

 だから授業で定められたチーム分けに従ってバスケのミニゲームに参加した僕は、ひょっとしたら上手にシュートができるのではないかと思い、思い切って遠目からボールをゴールへ放ってみることにしたのだった。僕にしてはとても珍しい積極的な参加の態度だ。

 それはパスが通されてきたからだった。茶色のボールを受け取った僕は落ち着いて構え、ゴールを見据え、シュートを放つ。すると貞子さんが嘘をついていたことがわかった。まったくダーツとは似ていない。

 僕が放とうとしたシュートは、放物線を描く前にディフェンダーによって叩き落されていたのだった。これはダーツではありえない出来事だ。

 ブロックというやつだ。そんなことなど想定していなかった僕の初動は遅れる。失敗した僕のシュートもどきが相手の速攻に利用される。追うこともできずに振り向いて眺めると、視線の先では、クラスの陽キャのひとりが簡単なレイアップシュートで得点を重ねていた。

170名無しさん:2020/10/11(日) 22:14:46 ID:qY12WmSQ0
 
(;'A`)(うひゃ〜 慣れないことなんてやるもんじゃあないな)

 僕は大いに恥じ入った。

 少なくともシュートを試みる必要はなかった。変な汗が全身から噴き出している。耳が熱く、おそらく真っ赤になっていることだろう。人体の構造上、赤くなった耳が自分の視界に入らないことを僕は神に感謝した。

 もう慣れないシューティングはコリゴリだ。

 とはいえミニゲーム中に運動量がいきなり衰えるというのもなんだか悪目立ちしそうなので、僕は試合の流れに沿ってコート上を走り回った。攻撃になったら味方のゴールに向かって走り、パスが回ってきたらドリブルはせずに他へと回し、守備になったら適当なところへマークに向かう。

 僕のマークを受け、肩をねじこむようにしてドリブル突破を図ってきた陽キャの人を簡単に通してしまうのは、そこまで大きな罪とは言われないことだろう。

 大きくひとつ息を吐く。だいぶ平常心を取り戻してきた。

('A`)(ふい〜。このまま何事もなくミニゲームが終わればいいな)

 そんなことを考えながら守備につく。そして相手のパスミスを見て取った僕が何の気なしに走り出すと、何故だか僕の視界の中にはどこにも敵の姿がいないのだった。

171名無しさん:2020/10/11(日) 22:17:07 ID:qY12WmSQ0
 
('A`)「あれ? 誰もいないな」

 不思議に思いながらも立ち止まる理由はないため、僕は前へと足を進める。手を振り足を出す。ランニングのサイクルをとりあえず続ける。

 ソッコー! と、誰かが上げた声が耳に届いた。

('A`)「そっこー? 速攻か? え、僕が?」

 後方からボールが投げ入れられたのが空気でわかる。はたして、僕の視界には速攻を防ぐディフェンダーの手ではなく、床に弾む茶色いバスケットボールが入り込んできたのだった。後方から投げ入れられたというわけだろう。

 ボールが跳ねる。目標を見定めた僕の体が、全力で足を踏み込み、加速を始める。それまでのアリバイ的な走り込みから全力疾走に切り替えたのは、僕がこのボールに追いつくことができず攻撃失敗となるのはご勘弁願いたかったからである。

 そんな打算的な速攻の動きが奏功するとは思えなかった。僕は決して体力があるわけでもないし、足が速いわけでもない。しかし、どういうわけだか、僕はディフェンスに妨害されることなくボールに何とか追いつけていた。

172名無しさん:2020/10/11(日) 22:18:49 ID:qY12WmSQ0
 
 ボールを掴む。バスケットボール特有の質感が手の平に伝わる。しかし、そんなものを感じ取っている余裕などはなく、僕は次のアクションを決断する必要があった。すなわち、ドリブルだ。

 この全力疾走の動きからの、ドリブルをついてレイアップ。シュートのイメージはできた。バスケットボール経験者ならば難なくこなせる動作だろう。

 ただし、ずぶずぶの素人である僕にそれが実行できるかどうかは、まったく別の話である。

(;'A`)(できるわけねぇ〜!)

 僕はゼロ秒でそう判断した。上手にドリブルをつける自信も、床から跳ね返ってきたボールをキャッチする自信も、スムースにレイアップシュートに持っていく自信も僕にはなかった。

 シュートだ。誰にも妨害されないシュートであれば、僕にもそれなりのことができるかもしれない。

 はたしてこの一瞬の間に本当にそんなことを考えたのかは定かでないが、とにかく僕はその場に留まり垂直に飛び上がるべく、全身全霊でストップをした。床と体育館シューズが最大限の摩擦を強いられ悲鳴を上げる。なんとか止まった。

173名無しさん:2020/10/11(日) 22:20:33 ID:qY12WmSQ0
 
 両手で保持したボールを体ごと一瞬沈めるようにしてシュート動作に入っていく。

('A`)「!」

 このタイミングで僕が急ブレーキをかけるなど思ってもみなかったのだろう、おそらく慌てて僕を追いかけていた相手チームの陽キャが止まりきれずに僕の視界を横切っていった。無理やりその位置その体勢から反転して向かってきたところで絶対に間に合わないことだろう。

 それがわかった僕は、彼の姿を見たことで、かえって落ち着いてボールを扱うことができたような気がする。体全体とボールをひとつの動作の中に置き、その場に飛ぶイメージのままに右手から放つ。

 会心のダーツスローをした時と同じような感触が指に伝わる。何とも言えない手ごたえだ。

 まるで自分の体の一部を伸ばして宙を進んでいくような感覚。ボールの回転する様を僕は感じる。そして、その手を伸ばしてリングを通過させるようにして、僕のシュートはゴールした。

 前言撤回、貞子さんは嘘をついていなかった。

 その感覚は、思い通りのスローでダーツをブルに突き刺した快感に酷似していたわけである。

174名無しさん:2020/10/11(日) 22:21:31 ID:qY12WmSQ0
○○○

 ミニゲームを終えた僕はブーンにシュートを褒められた。

( ^ω^)「ナイスシュートだったお! 見事だお〜」

(*'A`)「いやぁ、えへへ。入っちゃた」

( ^ω^)「嬉しがり方きめぇお。でも本当に良いプレイだったお」

(*'A`)「そうかな。えへへ」

( ^ω^)「たぶん安易にレイアップに行ってたらディフェンスに追いつかれてたお。それを止まってシュートの判断力、僕も負けてられないお!」

(;'A`)「お、おぅ・・!」

 むしろ自分の実力と相談した結果の安易な判断でのシュートを褒められ、僕は平常心を取り戻す。ブーンは鼻息荒く自分に気合を入れていた。

('A`)「ええと、ブーンは次の試合?」

( ^ω^)「そうだお。打倒ジョルジュだお!」

('A`)「おお、それはなんとも高い目標。頑張ってくれ」

( ^ω^)「頑張るお!」

175名無しさん:2020/10/11(日) 22:23:12 ID:qY12WmSQ0
 
 実際ブーンは頑張っていた。

 表情が柔和で、それに負けず劣らず顔立ち自体が丸く柔らかいので雰囲気的に小太りなように感じられるが、ブーンは実際のところ引き締まった体をしている。肉体労働の色合いが濃い飲食業の下働きで鍛えられているのかもしれない。

 体育の授業中の動きも俊敏だ。それほど積極的に目立とうとするわけではないけれど、成績面で学年トップということもあってか、ジョルジュとはまた違った感じで一目置かれているという印象である。

 そのジョルジュは言わずもがなのエリート・アスリートだ。特にバスケは専門分野、おそらくこのクラスの誰を相手取っても好きなように振る舞えることだろう。

 今回ジョルジュが選択した役割は“大人のバスケットボールプレイヤー”だったのかもしれない。

 オラオラじみた振る舞いはせず、ボールをパスで皆に回し、素人の犯したミスの尻拭いをするような仕事に終始していた。

('A`)(確かにあれだけ卓越した実力があるなら、単純に無双するより、完全にゲームをコントロールする方が楽しいのかもしれないな)

 僕はそのような感想をもった。

176名無しさん:2020/10/11(日) 22:24:02 ID:qY12WmSQ0
 
 神になったような気持ちになるのかもしれない。完全に自分の手の平の上で両チームを競い合わせ、接戦を作り出し、どちらに転ぶかわからないという白熱の中で、最終的には自分のチームをギリギリ勝たせる。

(;^ω^)「ぶは〜、まったく歯が立たなかったお!」

 そう感じたのは僕だけではなかったらしく、たったの2点差で敗れた筈のチームの選手は両手を挙げた降参のポーズでそう言った。

( ^ω^)「やっぱりジョルジュは流石だお。完全にやらされただけって感じだったお」

('A`)「お疲れ。頑張りは伝わったよ」

(*^ω^)「そう、僕は頑張ったお!」

('A`)「よしよし」

 頑張りを認められたブーンは一定の満足を得られたようで、胸を張って大きく頷いて見せたのだった。可愛らしいやつである。

 そしてミニゲームの時間は終わり、授業最後の10分間程度は各々自由に過ごして良いような状態になった。僕はブーンを誘ってシューティング練習を試みた。

177名無しさん:2020/10/11(日) 22:25:06 ID:qY12WmSQ0

('A`)「ちょっとあのシュートが気持ちよかったから付き合ってくれない? もうちょっと打ってみたい」

( ^ω^)「なんというストレートな欲求、断る理由はどこにもないお」

('A`)「悪いね」

 僕とブーンはシュートを打つ役とボール拾いをする役を代わりばんこに務め合い、しばらくシューティングの時間を過ごした。

 集計を取ったわけではないけれど、おそらく僕の方が成功率が高かった。それほどの情熱を持てないのか、途中からブーンはシュートを打つのをやめてゴール下に陣取り、シューティングをする僕のための球拾いの役割を買って出てくれるようになった。

( ^ω^)「おっおっ、マジでドクオは結構シュートが上手いお。何かコツがあるのかお?」

('A`)「コツ? やっぱり正しい打ち方ってあるんだろうから、ゴールする打ち方を見つけたら、毎回その通りに体を動かすことなんじゃあないの?」

( ^ω^)「なんか凄い真理みたいなことを言ってるけど、そんなのいきなりできる筈ないお」

('A`)「う〜ん、そうかな、そうかもな。まあでも僕はそういう練習というか訓練というか、そういうのをやってるからさ、それで応用が利いてるのかもしれない」

( ^ω^)「何言ってんのかサッパリだお」

178名無しさん:2020/10/11(日) 22:26:00 ID:qY12WmSQ0
 
 転校時の自己紹介では話題に出さなかったが、別に僕はダーツをしていることを隠すようなつもりはない。だからブーンに対してもそれを打ち明けることにした。

('A`)「僕さ、ダーツやってんだよ。ダーツって基本的に毎回固めたひとつのフォームをなぞることの繰り返しだから、自然とそういうのが身に付いてるんじゃないかと思う」

( ^ω^)「ほぉ〜、ダーツって、あのダーツかお?」

('A`)「どのダーツが他にあるのか知らないけど、たぶんそうだ」

( ^ω^)「キルアが6歳か7歳で極めたやつだお!?」

('A`)「僕は足元にも及ばないけど、まあそうだ」

( ^ω^)「大人の趣味って感じだお〜」

('A`)「うん、だからなんだか気取ってる感じがしてペラペラ喋る気にはならないんだ。隠してるわけじゃあないけど、そのへんよろしく」

( ^ω^)「なんとも面倒くさいやつだお〜」

('A`)「うるさいなぁ。ブーンにも人にはあまり言わない趣味のひとつくらいあるだろ?」

( ^ω^)「僕・・? う〜ん、まあ、確かに訊かれなきゃわざわざ言わないことも中にはあるお」

 実際、尋常じゃなく優れた学業成績をまったく自分からアピールすることのなかった僕の友人はそう言った。

179名無しさん:2020/10/11(日) 22:27:14 ID:qY12WmSQ0
 
 自由時間が終わり、片付けをし、ブーンと並んでクラスへ戻る。あまり学校で話したくないと言ったつもりであるにも関わらず、道中の話題は容赦なくダーツだった。

 もっとも僕もダーツについて話すことが嫌いではないので、それはそれで楽しい時間だったのだが。

('A`)「――それでまあ、思ったわけだよ。ダーツとシューティングは似ているなあ、と。だから僕がシュート上手なのだとしたら、それはダーツのおかげだね」

( ^ω^)「おっおっ、フリースローなんてその最たるものじゃないかお?」

('A`)「まさにそうだね。ダーツとフリースローは似てると思う。楽しいよ」

( ^ω^)「そんなに楽しいなら僕もやってみたいものだお」

('A`)「ふ〜ん、やりたいなら今度連れて行ってやろうか?」

( ^ω^)「行けたら行くお」

('A`)「それ行かないやつじゃねえか」

( ^ω^)「フヒヒ、そうだな、今日はどうだお? バイトは入っていない筈だお」

('A`)「シフトを完全に把握されているのが恐ろしいけど、僕は構わないよ。おデートしようか」

180名無しさん:2020/10/11(日) 22:30:36 ID:qY12WmSQ0
 
 着替えも済ませた僕らを待つのは昼休みだった。ブーンと並んでお弁当を広げながら、僕は学校の友人と初めてすることになるかもしれないダーツに思いを馳せる。

('A`)(練習用の真鍮ダーツがある筈だから、とりあえずブーンにはあれを使ってもらおう。一応クーに連絡入れて許可取っといた方がいいだろうな・・)

 ダーツが趣味だと言いながら、家以外の場所でダーツをやったこともなければ、自分でダーツショップに行ってグッズ購入もしたことがないのが僕だった。お金は払っているけれど、消耗品に関してはクーや貞子さんのおすそ分けをされているのが現状である。それらを他人に使用させるには前もって一言伝えておくべきだろう。

 今は誰も座っていない、前の空席を僕は眺める。ツンの席だ。女子は男子と比べて着替えや準備に時間がかかる傾向にあるのが世の常なので、彼女もまたご多分に漏れず、体育の授業からまだ帰ってきていないのだった。

('A`)(おデートね・・しかも、これは、いわゆるお家デートだ)

 ツンも誘ってみたいものだと僕は思った。ブーンも来るのだから変な誘いにはならない筈だ、と僕は自分に対する理論武装を開始する。

 ブーンが興味を持った、僕の趣味であるダーツを僕の家でするのだ。ついでにお喋りしたり、他の遊びをしたり、望むなら一緒に勉強をしてもいい。そしてそれなりに時間が過ぎて、夕飯を食べても良いような流れになるのだとしたら、僕は自分で作ったオムライスをツンに食べさせることができるだろう。

 それはとても素晴らしいことであるように僕には思えた。

181名無しさん:2020/10/11(日) 22:31:53 ID:qY12WmSQ0
 
('A`)(どうする、いつ話しかける・・? 午後の授業のどこかの合間か、それともブーンとそんな感じの話をして、ふと思いついたような感じでメッセージでも送るか・・?)

 そんなことをぐるぐると考えていると、脳裏にクーの顔が不意に浮かんだ。

('A`)(うおおツンが来るかもしれないことをクーに報告するというのか!? それは絶対に嫌だ! 絶対に学校サボったりバイト抜け出したりしてチラ見しに来るに決まってる・・!)

 唸りたくなるようなテンションで僕は頭を働かせる。

 とりあえずブーンを来させる以上、連絡は必要だ。ひょっとしたら必須ではないかもしれないけれど、ここを怠るのには様々なリスクが伴うことが容易に想像できる。少なくとも、単純に忘れるのではなく見られたくないものがある、といったような後ろ暗い理由ではやめるべきだ。

('A`)(どうするか・・!?)

 結局僕はブーンのことを報告することにした。友達がダーツに興味あるみたいなんだけれども連れて帰ってやらせていいか、といったような内容の確認に留めるのだ。その友人がどのような人物なのか、性別がどうなのか、来る予定が立ったのはいつのことなのか、などをわざわざ書いておく必要はない。

 ブーンが来るから許可を取る。詳細を訊かれたらブーンことを言えばいい。許可を取った後でツンをも誘う機会が生じ、付いて来ることになるわけだが、これに追加の許可をわざわざ取る必要はないだろうと考えた。

('A`)(・・これだ!)

182名無しさん:2020/10/11(日) 22:33:18 ID:qY12WmSQ0
 
 僕がそのように結論付けて、高校の友達が家に来るかもしれないよ、といった内容のメッセージをクーに送った。そのメッセージに既読が付き、返信が返ってくるのにほとんど時間は必要なかった。

川 ゚ -゚)『ドクオもついに友達を家に連れてくるようになったか。実に微笑ましい』

('A`)『ダーツの道具借りるよ』

川 ゚ -゚)『どうぞお好きに。あるものは勝手に飲み食いして良いから、おもてなししてあげなさい』

('A`)『さんくす』

川 ゚ -゚)『お姉ちゃんも顔を見せようか? ご挨拶しとかないとな』

('A`)『来るなよ、親か』

川 ゚ -゚)『行けたら行くから』

('A`)『それ来ないやつだろ。正しい振舞いだよ』

川 ゚ -゚)『ふふん』

 もう一度重ねて来ないよう依頼するのはかえって不信感を与える結果になるだろう。そのように考えた僕はやり取りの締めくくりに無難なスタンプを注意深く選んで送信し、大きくひとつ息を吐く。

 そうしてひと息ついたのとほとんど同時に、ツンが教室に入ってきた。

183名無しさん:2020/10/11(日) 22:35:20 ID:qY12WmSQ0
 
(;'A`)(わ〜お すごいタイミング!)

 ――どうする、すぐに声をかけるか!?

 そう考えたのがいけなかった。思考は躊躇を誘引する。反射的に話しかけられなかった僕はツンへのアプローチのタイミングを失っていた。

 残る望みはツンから何らかの働きかけをしてもらうことだけれど、彼女には僕に話しかけることよりよっぽど重要な用事があったのだった。

ξ゚⊿゚)ξ「おまたせジョルジュ、勝手に取ってくれてもよかったのに」
  _
( ゚∀゚)「さんきゅー、ハハハ! 一応女子の鞄だからな!」

 どうやら今日はジョルジュへお弁当を提供する日だったようなのである。

 ツンはジョルジュへ弁当を手渡すと、自分の分のお弁当を持って昼食を共にするメンバーのところへと向かおうとした。その日常的に行われる流れの途中に僕が口を挟めるようなタイミングはどこにもなかった。

 立ち去り際、ツンが一瞬だけこちらに顔を向けた。

ξ゚ー゚)ξ「あ、そうそうドクオ、最後のはなかなか良いシュートだったわね」

 ニヤリと笑ってそう言ったツンを呼び止めることなど僕にはできず、再度声をかけようかと思った時には彼女は完全に僕に背中を見せていた。

184名無しさん:2020/10/11(日) 22:37:45 ID:qY12WmSQ0
 
 大きくひとつ息を吐く。

('A`)(――まあいいや)

 少なくとも僕は何かを失ったわけではない。そのように考え自分を納得させていると、驚くべきことに、後ろの席から声をかけられた。

 僕の後ろの席に座っているのは当然ジョルジュだ。彼はいつも集中してご飯を食べた後、即座に席を離れるため、僕はあまり昼休みにその存在を意識することがない。
  _
( ゚∀゚)「なぁ、あのシュートは確かになかなか良かったゼ」

 思いがけない声かけ、それも褒めるような内容の発言に、僕は正直戸惑った。

 何と返答して良いものか、口ごもってしまう。ようやくお褒めの言葉に対するお礼が口から小さくでてきた。

('A`)「・・どうも。バスケ部のエースに褒めてもらえて嬉しいよ」
  _
( ゚∀゚)「そうだろそうだろ! そういやお前、こないだ試合観に来てたよな?」

('A`)「国体の話かな。行ったよ、準優勝おめでとう」

 結局僕はあの後連日何試合か観戦し、決勝戦でジョルジュ率いるVIP選抜チームが惜しくも敗れる様までをこの目に収めていたのだった。

185名無しさん:2020/10/11(日) 22:39:20 ID:qY12WmSQ0
  _
( ゚∀゚)「準優勝で褒められるってのもあれだけどな! おれは優勝したかった!」

('A`)「いやでも日本で2位だったってことだろ? 十分凄いと思うけどな」

 実際ジョルジュは凄かった。決勝戦も敗れたとはいえ、ひとつのシュートの結果が違っていれば勝っていたような試合だったし、ジョルジュはすべての試合で活躍していた。少なくとも僕にはそう見えた。

 ブーンも隣の席で頷いていた。

( ^ω^)「僕も行ったお。ジョルジュのプレイは凄かったお〜」
  _
( ゚∀゚)「ブーンもいたよな、珍しい面子に見られていたからフリースローが外れたのかもしれねぇ!」

(;^ω^)「もしそうだったとしたらすまんかったお・・」
  _
( ゚∀゚)「ハハ! もちろん冗談だよ! 来てくれてありがとな!」

 必要最低限以上の会話をジョルジュとするのはおそらく初めてのことだったが、彼の陽キャさがそうさせるのか、思いがけず朗らかな雰囲気となった。

 なんだ、意外といい奴じゃないか、と僕は現金にも思ってしまった。わずかにあった緊張感も次第に溶けてなくなっていき、僕はさほど気をつけずに発言するようになっていく。

 それがいけなかった。

186名無しさん:2020/10/11(日) 22:40:37 ID:qY12WmSQ0
 
 会話の流れの中で訊かれたのだ。
  _
( ゚∀゚)「いやぁでも、わざわざ国体に来てくれるとは思ってなかったよ。バスケ部でインターハイとかウィンターカップとかならわかるけどさ、おれ以外皆知らない奴らだろ? バスケが好きにでもなったのか?」

('A`)「バスケが好きか、か。どうだろうな、見た試合は面白かったけどな」
  _
( ゚∀゚)「はぁん? どういう意味だ?」

('A`)「競技自体が好きかというと、正直まだよくわからないな、と思ってさ」

 何故って僕はバスケの詳しいルールさえもまだよくわかっていないのだ。『スラムダンク』を読んだ経験とツンから教えてもらった知識くらいが僕のバスケに関するもののほとんどすべてだ。

 やや強引にシュートが防がれ審判の笛が吹かれたとしても、オフェンスとディフェンスどちらのファウルになるのか僕には判断基準がよくわからないし、いまだにスクリーンプレイは理不尽に思える。こんな状態で好きも嫌いもないだろう、というのが僕の正直なところである。

 しかしこの返答は、バスケ部のエースであり、ひょっとしたら国を代表するレベルのバスケットボールプレイヤーなのかもしれないこの男の気に入るものではなかったらしい。
  _
( ゚∀゚)「なんだよバスケ好きで観に来たんじゃないのかよ。あれか、ツン目当てか?」

187名無しさん:2020/10/11(日) 22:42:26 ID:qY12WmSQ0
 
 そしてその発言は僕の気に入るものではなかった。何故ならほとんど図星だったからだ。

 バスケ観戦に足を運ぶ動機としてツンの存在を否定することは僕にはできない。

 そのような下心を、おそらくツンの恋人なのだろう男から直に指摘され、僕は糾弾されているような気分になったのだった。
  _
( ゚∀゚)「・・まったく、あれにも困ったもんだな。おれは観に来てくれるのは嬉しいが、あいつ目当てで付き合ってるだけならオススメしないぜ」

('A`)「――」
  _
( ゚∀゚)「ツンはバスケ布教に狂信的なだけだからなァ、やめとけやめとけ、あいつもそういうのはもうやめた方がいいけどな」

( A )「――なんだよ」
  _
( ゚∀゚)「んん、何だァ?」

( A )「――なんだよ、その言い方は」

 下心を持ってバスケに接しているような僕を咎めるのはもっともなことだろう。恥じ入りはすれど、そこに反論する余地はない。ただし、その責がツンにも及ぶというなら話は別だ。

 僕はツンに誘われたのが嬉しかったし、何よりその誘いに乗って観たバスケの試合は面白かったのだ。

188名無しさん:2020/10/11(日) 22:43:38 ID:qY12WmSQ0
  _
( ゚∀゚)「言い方? おれは正直に話してるだけだぜ。おれはバスケが好きで得意だが、元々興味をもっていない男に声をかけて観戦させる女の気持ちも、興味がないくせにその女が可愛いからってのこのこ付いていく男の気持ちもわからねぇよ」

(;^ω^)「まあまあ、そのくらいにしておくお? 大人げないお」
  _
( ゚∀゚)「はぁん? おれの方が悪いのか? 確かにムカついてはいるけどよ、女目当てでバスケ観に来て、こうしておれと話しているのに、バスケが好きなわけじゃあないとか言うんだぜ、おれにムカつくなって方が無理だろうよ」

(;^ω^)「ドクオも別にそういう意味で言ったわけじゃあないと思うお・・」

 ちらりとブーンが僕を見る。弁明しろと言いたいのだろう。

 確かに僕はジョルジュが受け取っているような意味でバスケについて話したわけではない。どちらかというと好きで、おそらく好きになるのだろうが、まだその評価をする資格が僕にはないと思っているだけである。

 僕の言った文言もあるいは誤解を生みかねないものだったのかもしれないが、僕にそのことについて申し開きや謝罪をするつもりはさらさらなかった。

 僕もムカついていたからである。

189名無しさん:2020/10/11(日) 22:45:24 ID:qY12WmSQ0

 僕は腹が立っていた。表に出していなかっただけで、ずっとこの男に対してどこかで度し難い感情を抱いていたのだ。

 今この場で僕に対して“正直なところ”をぶちまけてくれたのもそうだが、何よりツンという存在がいながらにして高岡さんとラブホテル通いをしていることがそもそも理解不能なのである。さらにはツンと高岡さんは友人関係にあるというではないか。

 あまつさえ、そもそも高岡さんとの繋がりは、ツンに紹介されてできたものだったらしい。

 僕も男だ。そうした欲望が存在するのはよくわかるし、まったく羨ましく思うところがないといったら嘘になる。環境と状況が用意されれば僕も同じような行動を取ることもあるかもしれない。

 しかし、とにかくムカつくのだ。

 これが僕の正直なところだ。

 僕も僕なりの正直なところをジョルジュにぶちまけても良かったのだが、そのようなことをしたところで誰の得にもならないだろう。それで僕の気が晴れるとも思えない。

('A`)「いいんだ、ブーン。僕に弁解をするつもりはない。おそらく僕とジョルジュはどの道、解り合うことなんかできなかったんだ」
  _
( ゚∀゚)「ほ〜う、珍しく意見が合ったな」

190名無しさん:2020/10/11(日) 22:46:49 ID:qY12WmSQ0
 
 勝負だよ、と僕は口に出していた。

('A`)「ジョルジュ、僕と勝負しよう。こうなったら男と男は決闘をしなければならない」
  _
( ゚∀゚)「喧嘩でおれに勝てると思うのか?」

('A`)「もちろん喧嘩では勝てないだろう。ジョルジュのバスケットボール人生としても喧嘩なんてやってられないだろうしね」
  _
( ゚∀゚)「なんだよ意外と冷静じゃあないか。それならそうだな、相撲でも取るか?」

(;'A`)「なんでだよ!?」
  _
( ゚∀゚)「男と男の勝負は相撲と相場が決まってるだろ・・?」

(;^ω^)「そんなの聞いたことねーお。・・それに、喧嘩と同じくドクオに勝ち目があるとは思えないお」
  _
( ゚∀゚)「それもそうだな。おい言い出しっぺ、もちろん何か考えがあるんだろうなァ?」

 ジョルジュ長岡の挑戦的な視線を受け、僕は大きくひとつ息を吐いた。小さく頷く。決闘の手段として考えていたわけではないが、ずっと気にはなっていたのだ。

('A`)「フリースローだよ・・。お前のへたくそなフリースローより、僕の方がひょっとしたら上手なんじゃあないか?」

 今度は意識した挑発的な内容の発言だ。もちろんバスケ部のエースにはこれを聞き捨てることなどできなかった。


   つづく

191名無しさん:2020/10/11(日) 23:52:31 ID:WEfdwnV20


192名無しさん:2020/10/13(火) 03:30:30 ID:erxGQMfo0
乙です
ジョルジュには、下心のために、試合や自分自身がダシにされていると見えるんだろうか?
ブーンは「僕は頑張った」のを大事にしているみたいで、前向きだし健康的でいいなって思う

193名無しさん:2020/10/13(火) 22:22:39 ID:dntx.3960
おつ
ドクオのインキャ感がやばいな

194名無しさん:2020/10/14(水) 14:33:01 ID:qpVnrX6Y0
ドクオがんばれ

195名無しさん:2020/10/26(月) 23:08:39 ID:FHFYNzvs0
1-7.スローライン


 放課後僕らはバスケットボールゴールの設置されている公園に来ていた。僕とジョルジュと、そしてブーンだ。ブーンは勝負の見届け人としてジョルジュによって指名され、抗うことなく付き合ってくれている。

('A`)「ふぅん、こんな場所が近所にあったんだ」
  _
( ゚∀゚)「おれの秘密の練習場所だ。学校の連中はなかなか来ない」

( ^ω^)「まぁ学校内に自由に遊べるコートがあるから、わざわざ公園まで来る奇特な学生はいないだろうお」
  _
( ゚∀゚)「ここなら自由に決闘ができる。おれとフリースロー対決なんかしてたら、お前明日から学校中の笑いものだぞ」

('A`)「それはどうも、お気遣いありがとう」

 僕は慇懃な態度でそう言った。そして同時に考える。フリースロー対決なんてして、僕に万が一負けることがあったら、この男こそ明日から学校中の笑いものになってしまうに違いない。

 僕を守るようなことを言いながら、実のところ守っているのは己なのだ。完璧超人のように見えるバスケ部エースの矮小さを僕は初めて感じていた。
  _
( ゚∀゚)「ボールはこっちに隠してる。練習したけりゃしていいぞ」

196名無しさん:2020/10/26(月) 23:10:11 ID:FHFYNzvs0
 
 これから対決する相手の申し出など拒否しても良かったのだが、フリースローの練習風景を見られたところでこちらに害はまったくない。どころか、このような野外の公園に保管されたバスケットボールのコンディションを知っておくという点では非常に有益なことだろう。

 これは勝負だ。勝利条件さえ満たすことができれば、そのほかの事項はすべてがどうでも良い筈だ。僕はこのしっかりとした眉が印象的なスポーツマンから茶色のボールを受け取った。

('A`)(――空気がまるで入ってない、なんてこともなさそうだな)

 僕はジョルジュが足で引いたフリースローラインに立った。ゴールを見上げる。

 体育館と公園の違いなのだろうか? 僕にはゴールが遠く感じられる。

( ^ω^)「ラインとゴールの距離ってどのくらいなんだお?」
  _
( ゚∀゚)「あぁん? 大体4メートル半くらいだ。適当に引いたけどそんなもんだろ」

( ^ω^)「4.5メートル・・ま、こんなもんかお」
  _
( ゚∀゚)「気になるならブーンが引き直してもいいぜ」

( ^ω^)「僕は別に構わないお。若干短いと思うけど、ドクオはきっかり4.5メートルがいいかお?」

 むしろ若干短いのかよ、と僕は思った。

197名無しさん:2020/10/26(月) 23:11:03 ID:FHFYNzvs0
 
('A`)「いやこのままでいいよ。引き直そうとこのままだろうと、どうせ同じところから投げるんだ」

( ^ω^)「というか、短いのと長いのと、どっちの方が有利なのかもわからないお〜」
  _
( ゚∀゚)「ハ! ろくにボール触ったことない素人がセンチ単位の距離を気にしたところで変わらねぇだろ。きっかり規定の距離じゃあないのはおれにとっては不利だろうけどな」

( ^ω^)「納得」

 僕も納得したので、線を引き直すことはせずに僕はそこからボールを放った。

 重い。

 ボールが指から離れた瞬間わかる失敗だった。ボールがゴールに届いていない。

 かろうじてリングに当たる程度には飛距離が出ていた。ゴィンとゴールリングの手前ギリギリにボールはぶつかり、当然弾かれ、鎖製のネットをくぐることなく地面に落ちる。

(;'A`)(あれ!?)

 同じように行ったフリースローシューティングがまったく同じ結果を残さない。

 僕は大きく動揺していた。

198名無しさん:2020/10/26(月) 23:12:53 ID:FHFYNzvs0
○○○

 勝負がつくのに時間は10分とかからなかった。計ったわけではないけれど、いずれにせよ、ほとんど瞬殺だったと言っていいだろう。

 もちろん僕がだ。
  _
( ゚∀゚)「お〜い、まだやるかァ?」

('A`)「・・黙ってろよ」

 ジョルジュを睨んで僕が放った5本目のフリースローはリングに弾かれた後ボードに当たり、なんとかゴールリングをくぐった。ざくりと鎖のネットを通過する手ごたえ。僕は大きくひとつ息を吐く。

 後攻を選んだ僕のスローが成功し、5本ずつ放ったフリースローの成功数は、5対2で僕の方が負けていた。

('A`)「入れたぜ」
  _
( ゚∀゚)「いやまァ入れたけどよ。3本差だぜ」

( ^ω^)「まだドクオの勝つ確率はゼロパーセントではないお」
  _
( ゚∀゚)「ま、いいけどよ。あらよっと」

 簡単そうにジョルジュが放ったフリースローはやはり簡単そうにゴールした。

199名無しさん:2020/10/26(月) 23:16:26 ID:FHFYNzvs0
 
 ようやくコツを掴み直した僕はその後スローを失敗させなかったが、いかんせん序盤に犯した3度のミスが痛かった。

 10本勝負プラス必要に応じてのサドンデス、というのが当初の取り決めだった。途中でジョルジュが1本のミスショットを挟みながら、8本中7本目となるスローをジョルジュが成功させた時点で、僕が勝つ見込みはサドンデスでしかありえなくなる。

('A`)「・・あっ」

 ゴィンとボールがリングにぶつかる。こうして僕は敗北をした。

( ^ω^)「・・なんというか、ドンマイだお」
  _
( ゚∀゚)「そこそこ良い追い上げだったぜ。惜しかったな」

 2本のスローを投げることなく勝敗の決した僕らの最終スコアは7対4だった。かろうじてダブルスコアは免れているので、惜しかったと言ってもあるいは怒られはしないのかもしれない。

('A`)「・・ぐう」
  _
( ゚∀゚)「おいそれぐうの音か? 現実世界で出すやついるのか」

( ^ω^)「まあまあ、これで決闘はおしまい、ドクオは負けを認めるお」

('A`)「負けた負けた! くそったれ! フリースローへたくそじゃあないじゃねぇか!」

200名無しさん:2020/10/26(月) 23:17:33 ID:FHFYNzvs0
 
 半ばやけっぱちのようになって言った僕の言葉にブーンは深く頷いた。

( ^ω^)「確かに。試合中はあんまりフリースロー入ってなかったけど、あの日は調子が悪かったのかお?」
  _
( ゚∀゚)「べっつに〜? まあただ当然練習の方が成功率は高いさ。練習でできないことが試合でできるわけないだろう?」

( ^ω^)「それはそうかもしれないお」
  _
( ゚∀゚)「やれやれだ。ハ! 身の程知らずがバレなくてよかったな!」

 バスケットボール・エリートにとって、フリースローレースで僕に勝ったことなど当然どうでもいいのだろう。僕の敗北を鼻で笑い飛ばし、ジョルジュはボールを地面に弾ませ複雑怪奇な動きを始めた。

 ドリブルだ。それはわかる。ただし、ジョルジュが両手を駆使して行っているボールの動きが、どうしてそんなにコントロールされるのか、どのような力の加え方をしたらそのようにボールが動くのか、どうしてそのような神業テクニックをまったく手元を見ることなく行えるのか、僕にはまったくわからないのだった。

( ^ω^)「うお〜凄いお! 上手だお!」
  _
( ゚∀゚)「ハ! これでもエース様だからなァ。フリースローが苦手に見えたとはいえ、よくもまあおれにバスケで立てつこうと思ったもんだな。どこに自信があったんだ?」

201名無しさん:2020/10/26(月) 23:18:38 ID:FHFYNzvs0
 
 ちょっと遊びで調子が良かったからか、とからかうような口調で続けたジョルジュを、ブーンは制した。

( ^ω^)「いや、満更それだけじゃあないみたいだお」
  _
( ゚∀゚)「あァん何かあんのか? そいつバスケは素人だろ?」

( ^ω^)「確かにドクオはバスケに関しては素人だけど、ダーツが上手なんだお!」
  _
( ゚∀゚)「ダーツ!? って、あのダーツか?」

( ^ω^)「あのダーツだお」
  _
( ゚∀゚)「キルアが6歳で極めたあれか?」

( ^ω^)「いや、7歳だったかもしれないって言ってたお」
  _
( ゚∀゚)「そうだっけ? ていうか今どうでもよくないかそれ」

( ^ω^)「よくないと言う理由はどこにもないお」
  _
( ゚∀゚)「ん、それどっちだ? どうでもいいのか?」

( ^ω^)「それこそどうでもいい話だお」

202名無しさん:2020/10/26(月) 23:19:31 ID:FHFYNzvs0
 
 ブーンとの問答で煙に巻かれたようなジョルジュは首を捻って肩をすくめた。
  _
( ゚∀゚)「というか、ダーツとバスケって関係あるのか?」

 ブーンはそれに答えることなく僕に視線を投げてよこした。どうやら僕に返答させるつもりらしい。

 大きくひとつ息を吐く。僕はゆっくり頷いた。

('A`)「直接の関係はないかもしれないけれど、ダーツとフリースローは似てるんだ。フリースロー以外にも、シュート全般がそうかもしれない」
  _
( ゚∀゚)「は〜ん? あ、そういや確かにお前良いシュート打ってたな。あれもダーツのおかげなのかい?」

('A`)「僕はそう思ってる」

( ^ω^)「おっおっ、ドクオのシュートは上手だったお。きっとダーツも上手いに決まってるお」
  _
( ゚∀゚)「ふゥ〜ん」

 何かを考えこむように長い息を吐いたジョルジュは、やがて何かを思いついて決めた様子で顔を上げた。
  _
( ゚∀゚)「よし、やろうかダーツ!」

('A`)「はァ?」
  _
( ゚∀゚)「ダーツだよダーツ! ダーツ勝負だ! どこでやるのか教えやがれィ」

203名無しさん:2020/10/26(月) 23:20:16 ID:FHFYNzvs0
 
 そのジョルジュの言動に驚きの声を上げたのは僕だった。

(;'A`)「はぁあ!? ダーツすんのジョルジュが?」

 当の本人、ジョルジュは涼しい顔をしている。まるで既に決定した事項に僕が後から文句を言っているとでも言いたげな態度だ。わけがわからない。

 助けを求めようとブーンを見ると、僕の視線を受けた柔和な表情の男は深く頷いた。

( ^ω^)「ちょうど僕らは今日ダーツしようと思ってたところだお。ジョルジュもご一緒したらどうかお?」

 どうかお? じゃねぇ! と僕は憤ったが、抗議をの声を上げるより先に彼らは勝手に話をまとめようとしているかのようだった。
  _
( ゚∀゚)「なるほど! それじゃあそうさせてもらいましょうかね。おいドクオ、そのダーツってのは、いったいどこでやるんだい!?」

('A`)「えッ・・ああ、う〜ん、ブーンとは僕の家でやるつもりだったけど」
  _
( ゚∀゚)「お家ね! おっけ〜☆」

( ^ω^)「建もの探訪するお〜」

('A`)「・・ほんとに来るのかよ」

204名無しさん:2020/10/26(月) 23:23:02 ID:FHFYNzvs0
 
 うんざりした態度を見せながら、その実、正直なところ僕は悪い気がしていなかった。

('A`)(・・どうしてだろう)

 出発する前に部活をサボった分のトレーニングをすると言ってはブーンを補助に、ボールを使ったトレーニングや公園にある鉄棒などの施設を利用した筋トレを行うジョルジュを眺め、僕はぼんやり考えた。

 僕はジョルジュに苛立っていた筈だ。彼はツンや高岡さんといった、僕には到底手が届かないであろうクオリティの女の子たちを二股にかけ、あまつさえツンを軽んじるような発言をした。僕はそれに苛立った。

('A`)(それが、今はどうだ?)

 僕はジョルジュとフリースロー対決をし、惨敗を喫した。それを海の深さで悔しがるでもなく、ほかの勝負をけしかけるでもなく、ただ敗北を受け入れ彼の仕度が済むのを待っている。

 いや、敗北を受け入れてなどいないのかもしれない。僕はジョルジュにわざわざ負かされたような気はしていない。それは彼が勝者としての振舞いをことさら僕らに見せていないからなのかもしれないし、バスケ部のエースとしての実力を目の当たりにして、勝敗を論じる立場に自分がいないと思ったからかもしれない。

 あるいは彼の明るい言動がそう思わせないのかもしれないし、

('A`)(――そういえば、初めてだ。僕がジョルジュから名前を呼ばれたのは)

 単純に、彼から初めてドクオと名前で呼ばれたのが嬉しかったのかもしれない。

205名無しさん:2020/10/26(月) 23:26:19 ID:FHFYNzvs0
○○○

 結局僕らは3人揃って僕の家に向かうことになった。正確には、僕の家の敷地内にある、ほとんどクーが独占している離れだ。ここにはトイレも簡易キッチンも付いているので母屋に顔を出す必要はないだろう。

 離れの鍵を開けながら、母屋の家事担当者である僕は、今すぐ処理しなければならない家事が残っていないことを頭に浮かべて確認する。彼らとダーツに興じた後でも十分間に合う範囲だろう。なんなら今日はサボってもよい。日ごろの自分の働きぶりに感謝である。

( ^ω^)「おじゃましますお〜。本当に何も買ってこなくてよかったかお?」
  _
( ゚∀゚)「いいって言うんだからいいんだろ。邪魔するぜ〜」

('A`)「たぶん何かあるから大丈夫だけど、人から言われるとむかつくな」
  _
( ゚∀゚)「うっひょ〜広ぇ! あれがダーツか!?」

( ^ω^)「ダーツボードだお! カッコイイお〜」
  _
( ゚∀゚)「確かにそうだ。おいダーツはどこだよ投げてみたい、おれらに投げ方教えろよ」

('A`)「う〜んと、ここらへんに真鍮ダーツがある筈だけどな・・」

 僕はそう言って消耗品ストックの入っている棚を探り、ダーツプレイヤーから見たらオモチャのようにしか見えない真鍮製のダーツを6本取り出した。

206名無しさん:2020/10/26(月) 23:27:13 ID:FHFYNzvs0
 
('A`)「うわ、チップがハードダーツになってる。ちょっと待ってな付け替えるから」

( ^ω^)「ハードダーツ?」
  _
( ゚∀゚)「なんだよハードとかソフトとか。SMの話でしか聞いたことねぇぞ」

('A`)「僕はSMの話を現実世界で聞いたことないよ。ハードダーツってのはチップ、この先端部分が金属製なんだ。プラスチック製なのがソフトダーツ」

( ^ω^)「軟球と硬球みたいな感じかお?」

('A`)「大体そうだな、ハードダーツの方が硬派っぽい感じもするし」
  _
( ゚∀゚)「ルール違うのか? ていうかダーツってルールあるのか?」

('A`)「いやルールはあるだろ・・競技なんだから」
  _
( ゚∀゚)「ハ! そりゃそうか!」

('A`)「ほら、これでいいんじゃないかな」

 僕は彼らに金色に輝く真鍮製のダーツをそれぞれ3本与えた。そして投げ方、というより持ち方の説明をしようとして、見本を見せようにも自分のダーツがないことに気がついた。

207名無しさん:2020/10/26(月) 23:29:41 ID:FHFYNzvs0
 
('A`)「まず持ち方だけどさ・・ちょっと1本貸してみ」
  _
( ゚∀゚)「嫌だよ。これはおれンだ!」

(;'A`)「嘘だろなんで拒否するんだよ、大体それって貸してるだけなんだけど」

 後頭部をポリポリと掻き、この不遜な態度の男に強く言ってダーツを1本提供させるのと、その隣で初めて手にする道具をまじまじと観察し、自分からこちらに手を差し伸べようとはしない学年トップの成績上位者に声をかけること、そして棚から僕のマイダーツを持ってくる労力のどれが一番マシかを僕は頭の中で考えた。

 当然自分で動くのが一番楽だ。僕はタングステン製のマイダーツを取り出し手に取った。
  _
( ゚∀゚)「おぉ〜それが本物のダーツか! ちょっと見せろよ!」

('A`)「本物って何だよ、それも本物だよ」
  _
( ゚∀゚)「いいや嘘だね。だってこれから投げるってのに、こいつは部品が間違っていたんだろ? とても日常的に使ってる道具じゃないだろ、偽物だ」

 もしくは安物だ、とジョルジュは続けた。

('A`)「う〜ん、安物ってのは正解だ。たぶんこっちの方が高い」

( ^ω^)「僕らを騙していたのかお!?」

('A`)「騙したわけじゃあねぇよ。なんだよそのテンション」

208名無しさん:2020/10/26(月) 23:30:28 ID:FHFYNzvs0
 
 僕は彼らに、渡したダーツが真鍮製である旨の説明を行った。

('A`)「お前らに持たせたダーツは真鍮でできてるんだ。確かに比較的安いけど、別に性能が悪いわけでもないし、初めて投げる練習に使うのに不備はないと思う」
  _
( ゚∀゚)「しんちゅう・・って、何だ!?」

( ^ω^)「銅と亜鉛の合金だお。黄銅なんて呼ばれたりもするお」

(;'A`)「・・そうなの!?」

( ^ω^)「? 5円玉とか真鍮だお?」

(;'A`)「・・知らなかった」
  _
( ゚∀゚)「おいおい頼むぜダーツの先生よォ」

('A`)「5円玉はダーツじゃあないし、ジョルジュも知らなかっただろ・・」
  _
( ゚∀゚)「ハ! 知らね〜なァ!」

('A`)「説明先に進めていいかな?」

 どうぞどうぞ、と彼らは言った。

209名無しさん:2020/10/26(月) 23:33:15 ID:FHFYNzvs0
 
( ^ω^)「僕らのこれが真鍮製ってことは、ドクオのそれは違うのかお?」

('A`)「ああ、これはタングステン製だ」
  _
( ゚∀゚)「タングステン! 知ってるぞ!」

( ^ω^)「お、何で知ってるのか知ってるかお?」
  _
(;゚∀゚)「何で!? う〜ん何だっけかなァ、理科かな〜?」

('A`)「化学と言えよ・・」

( ^ω^)「でもタングステンを習うのって理科の時代のことじゃあないかお? 高校化学でタングステンって、遷移金属元素だし、2次で要るやつくらいしか勉強しないお」

('A`)「そういやそうか。『元素記号Wとか草生えるわwwwタンwwwグwwwステンwww』とか言って、僕がたまたま覚えてるだけだった」
  _
(;゚∀゚)「なんじゃあその覚え方わ・・」

('A`)「どうでもいいだろ! そしてブーンは知ってるのかもしれないけど、タングステンはとても比重が重い。めちゃくちゃ重い。だから、同じ重さのものを作ろうとしたらタングステン製だと凄く小さく作れて、頑丈だし、コスパ的に最適なわけだな」

( ^ω^)「なるほど。確かに真鍮製よりタングステン製の方がだいぶスリムだお!」

('A`)「僕のもそっちも、重さはせいぜい1グラムとか2グラムとかしか違わない筈だ」

210名無しさん:2020/10/26(月) 23:34:25 ID:FHFYNzvs0
 
 比べて見ると如実にわかる。金色に輝く真鍮製のダーツはずんぐりとしたフォルムをしている。それに比べて、タングステン製の僕のダーツはシュッとした直線形で、それはもちろんダーツのデザインにもよるのだけれど、説明を聞いた後だとことさら洗練されたものに見えることだろう。
  _
( ゚∀゚)「そっちをおれに使わせな!」

 そう言うジョルジュを退ける理由は特になかった。

('A`)「別にいいよ、基本的な投げ方は変わらないし」

 ジョルジュとダーツを取り換え、僕は真鍮製のダーツを少し眺めた。ずんぐりとしたフォルムは確かに野暮ったい印象を与えるかもしれないが、機能として劣っているようなことはない。

 確かにダーツ技術が向上し、同じ小さな範囲内に3本を集められるようになってくると、その太さが障害となることもあるだろう。単純に邪魔だからだ。だからほとんどすべてのダーツはタングステン製の細い造りとなっているわけだが、ダーツ初心者に見捨てられたような今では、真鍮製ダーツの野暮ったいダサさも、僕にはなんだか可愛らしく感じられるものである。

('A`)「こうやって、バレル――胴体の、中心あたりに重心の位置を探るんだ」

211名無しさん:2020/10/26(月) 23:42:55 ID:FHFYNzvs0
 
 人によって微妙に異なるが、概ねダーツは重心か、重心のやや後ろを握るのが良いとされている。それは力学的に、効率的に力を伝えられるからなのかもしれないし、毎回同じ場所を握る際の目印となるからかもしれないし、あるいはただの迷信のようなもので、実はより良い握り方があるのかもしれない。

 その根拠のほどは知らないが、僕はとにかく教科書的な投げ方を彼らに教えた。重心のあたりを持って、半身に近いスタンスで立ち、必要に応じてやや前のめりになってダーツを投げる。同じダーツを同じ投げ方で同じように投げれば、理論上毎回同じところに飛んでいくというわけだ。フリースローと同じである。

 この離れの広いLDKには2枚のダーツ盤が設置されている。ひとつはアプリと連動させて備え付けのモニタへゲーム状況を表示させられる、お高いデジタル仕立てのダーツ盤と、もうひとつは単純にダーツを刺しては抜くのに使う、いわゆるブリッスルボードと呼ばれる練習用のダーツ盤だ。元々はハードダーツ用のものなのだろうが僕たちは関係なく使用している。

 ジョルジュの初めて投げたダーツは凄い勢いでブリッスルボードに突き立てられた。軽く僕の口から驚きの声が漏れるくらいの勢いだった。
  _
( ゚∀゚)「うっひょ〜当たった! 気持ちイィ〜」

(;^ω^)「めちゃくちゃ刺さってるけど・・大丈夫なのかお?」
  _
( ゚∀゚)「え、うそ。壊れるとかある?」

('A`)「ないよ」

 大丈夫だ、と僕は言った

212名無しさん:2020/10/26(月) 23:44:26 ID:FHFYNzvs0
 
('A`)「これはブリッスルボードって種類のダーツ盤なんだけど、麻をぎゅうぎゅうに寄せ集めて作ってるんだ。だからどんなに深く突き刺さっても実際穴は空いてない」

( ^ω^)「へぇ〜。面白い構造だお」

('A`)「死ぬほどの回数抜き刺しするわけだからな。考えたひとは凄いよな」
  _
( ゚∀゚)「よくわかんねぇけど、大丈夫だってことはよくわかった。ドクオ、あれは何点なんだ? 変な色のところに刺さってるけどよ」

 必要十分な理解力を見せたジョルジュはそう聞いた。彼のダーツはトリプルラインに刺さっている。

 僕はダーツ盤を指さし説明をした。

('A`)「ああ、これはいわゆるトリプルってやつだ。その一帯に入った場合は3倍の得点が得られる」

( ^ω^)「お得だお」

('A`)「お得だ」
  _
( ゚∀゚)「で、おれの今のは何点なんだ?」

('A`)「2点のトリプルだから、2かける3で6点だ。お得だったな。ちなみに、おそらく狙った真ん中のブルと言われるところは50点」
  _
(#゚∀゚)「めちゃくちゃ少ないじゃねぇか!」

('A`)「お得と言うより焼け石に水だったな」

213名無しさん:2020/10/26(月) 23:45:16 ID:FHFYNzvs0
 
 ジョルジュは気を取り直して残り2本のダーツを放った。

 元々肉体的に優れているというのもあるのだろうが、力の使い方におそらくセンスがあるのだろう。腕だけを振るシンプルなフォームから放たれたダーツは直線的な軌道で勢いよくダーツ盤に刺さっていく。
  _
(#゚∀゚)「うォい真ん中にいかねぇぞ!」

 しかしそう簡単にブルには入らないようだった。

('A`)「3点と、16点だ。合計25点でこのラウンドは終了」

( ^ω^)「3本で1ターンみたいな感じかお。25点ってどうなんだお?」

('A`)「どう・・? 何とも答えようがない質問だけど、ダーツ盤は20等分されたエリアに1から20の得点が振り分けられているから、期待値的には1投につき10点ちょっとになる筈なんだ」

( ^ω^)「ということは、3投で25点は期待値以下だお!」
  _
( ゚∀゚)「うるせぇな! わざわざ計算してんじゃねぇよ」

('A`)「狙ったところに入らなかった得点は、多かろうが少なかろうが単なる運に過ぎないから、あまり考えることに意味はないと思うよ。ジョルジュは初めて投げたにしては上手な方なんじゃあないかな」

 知らんけど、と付け加え、僕は彼らにそう言った。

214名無しさん:2020/10/26(月) 23:45:55 ID:FHFYNzvs0
 
( ^ω^)「さてと、それじゃあ僕も投げてみるお〜」

('A`)「タングステンの投げるか?」

( ^ω^)「いやいいお。性能が違うわけじゃあないんだお?」

('A`)「そうだ、と、思う」

( ^ω^)「ま、違いなんてわかんないだろうし、違うなら違うでこっちを先に投げといた方がありがたみが感じられそうなもんだお!」

 スローラインに立ったブーンはゆっくりとした動作でダーツを投げた。なんとなく堂に入っているように感じられ、僕は小さく感心する。

 トスン、とブリッスルボードにダーツの衝撃が吸収される。ダーツの飛んだ先はトリプルラインの外だった。

( ^ω^)「お〜、確かにこれは気持ちがいいお!」
  _
( ゚∀゚)「な。何ていうか、刺さった手ごたえが気持ちいいよな」

 ブリッスルボードにダーツを突き刺す感触は僕も好きだ。安価であるのに加えて、単純に投げるのが気持ち良いというのが、このダーツ盤を練習用に備え付けている理由である。

215名無しさん:2020/10/26(月) 23:46:59 ID:FHFYNzvs0
 
 彼らはしばらく思い思いのペースで交互にブリッスルボードの前に立ち、ダーツを3本ずつ投げていた。僕は冷蔵庫の中身を確認してお湯を沸かし、楊枝を刺した一口大フルーツの盛り合わせと紅茶を用意した。

 もちろん汚れた手でダーツを触って欲しくなかったからである。

 皮ごと食べられる種なし品種のブドウを齧る。バスケ部のエースは流石の運動神経ということなのか、ダーツ盤から矢を外すことなく練習を重ねている。これはなかなか凄いことだ。

('A`)(このブリッスルボードは、というか、ブリッスルボードはハードダーツ用だからな・・ソフトダーツ用の板と比べて一回り小さいんだ)

 彼らに一度貸し与えた真鍮製のダーツにハードダーツ・チップが装着されていたのも、完全にパーツを間違えていたり、ジョルジュが言うように偽物だったからではない。差し心地という点で考えると、餅は餅屋というわけではないが、ハードダーツを投げた方が確かに気持ち良いのだ。

 実際僕もハードダーツを時々投げてみたくなる。ゲームをするにはアプリによるデジタル処理がありがたいのだが、少し気分を変えた練習をするにはとても優れた選択肢なのである。

216名無しさん:2020/10/26(月) 23:47:49 ID:FHFYNzvs0
 
( ^ω^)「なかなか上手く狙ったところに行かないお。何かコツとかってあるのかお?」

 カットパイナップルを頬張りながらブーンが訊く。僕は唸るような声を出した。

('A`)「う〜ん、そうだな、よく言われるのは投げた後の手の形かな」

( ^ω^)「フォロースルーってやつかお?」

('A`)「そうなのかな? 僕はその単語の方がよくわからないけど、そうかもしれない。投げ終えた後、目的地に向かってまっすぐ指さすつもりで腕を伸ばすといいらしいんだ」

( ^ω^)「指さす」
  _
( ゚∀゚)「指さす」

 どうやらブーンの質問への返答に聞き耳を立てていたらしいジョルジュも自分に言い聞かせるように呟いた。

 そしてジョルジュは改めて立ち直し、大きくひとつ息を吐く。ダーツを構え、腕を引き、引き絞られた弓矢の弦が解放されるようにして腕を振る。ダーツが飛んだ。

 飛んだダーツはまっすぐな軌道を描き、勢いよくブルへと吸い込まれていった。

217名無しさん:2020/10/26(月) 23:49:18 ID:FHFYNzvs0
  _
( ゚∀゚)「! これか!?」

('A`)「お〜、やるじゃん」

 輝く瞳でこちらを向いたジョルジュに僕は拍手を贈ってあげた。実際見事だ。

('A`)「今とまったく同じイメージでもう2本投げてみな」

 ジョルジュは無言でダーツ盤を睨みつけ、再び大きくひとつ息を吐く。僕とブーンは果物にもお茶にも手を伸ばすことなく彼がダーツを放つのを見守る。

 トスン

 と、ブリッスルボードにダーツが刺さる時特有の、触感を含有したような静かな音が僕の耳に届く。ダーツはブルをわずかに外れていたが、これまでにないグルーピング精度でダーツ盤へと収まっている。

 続く3投目、今度はガシャリと音が鳴った。

 刺さったダーツに投げたダーツが衝突する音だ。細いタングステンのバレルはこの衝突に負けることなく、1本目のダーツのすぐ隣に深く突き刺さる。

 すなわちブルだ。ブル、13点、ブル、という優秀なラウンドをジョルジュは体験したのだった。

218名無しさん:2020/10/26(月) 23:50:49 ID:FHFYNzvs0
  _
( ゚∀゚)「ウヒョ〜 ど真ん中に2本いった! 凄くねぇ!?」

( ^ω^)「凄いお〜」

('A`)「流石バスケ部、大したもんだな。今のは合計113点、ロートンとか、単にトンとか呼ばれる点数だ」
  _
( ゚∀゚)「とん? なんじゃそら」

('A`)「僕も詳しくはわからないけど、たぶん100点のことをトンって言うんだよね」

( ^ω^)「ローってのは低いのかお?」

('A`)「151点以上、3本すべてブルに入れるハットトリックが150点だから、ブル狙いじゃ取れない高得点を出した場合をハイトンって言うんだ。だから100から150点までがロートン。3本中2本はマグレじゃなかなか入らないから、ダーツ始めた初日でロートン出すのはなかなか凄いことかもしれない」
  _
( ゚∀゚)「よっしゃ凄いのか。よしよし!」

( ^ω^)「僕もロートン目指して頑張るお〜」

219名無しさん:2020/10/26(月) 23:52:12 ID:FHFYNzvs0
 
 頑張るのは良いことだ。練習を重ねるふたりを眺め、その様子を僕は好ましく思った。

 ダーツの最適なスローフォームはおそらく人によってかなり異なる。利き手はもちろんのこと、利き足や効き目、体格自体が違うのだから当然といえば当然なのだが、ダーツプレイヤーは自分に合ったスローフォームを手探りで求める必要がある。

 大変なことだけれど、しかしそれは同時に喜びでもある。工夫を凝らした結果、スローの精度が向上し、狙ったところにダーツを射られるようになる快感は、本能に訴えかけてくるような強烈なものなのだ。

 大げさに言って良いならば、それは僕たちがかつて狩猟民族だったことの証明なのだろう。

('A`)(ん、でも、日本人って農耕民族か? 稲作が伝来するまでは狩猟民族だったりするのかな? 農耕できないわけだからな・・)

 自分で勝手に思い浮かべた考えへの疑問を呈していると、ダーツ盤から3本のダーツを引き抜いたジョルジュが僕を見つめていることに気がついた。

 何か質問でもしたいのだろうか? それは違った。
  _
( ゚∀゚)「――そろそろ、やろうか」

 不適な笑みを浮かべたジョルジュは、僕にそう言ってきたのだった。

220名無しさん:2020/10/26(月) 23:52:54 ID:FHFYNzvs0
 
('A`)「やるって、何を?」
  _
( ゚∀゚)「対戦だよ。勝負しようや」

('A`)「いいけど――ジョルジュ、ダーツにどんなルールのゲームがあるのかも知らないんじゃあないの?」
  _
( ゚∀゚)「ああ知らないねェ! そこから教えてもらおうじゃあないの」

('A`)「そうだなぁ、代表的なのはゼロワンかクリケット、ゲーム性はなくなるけどシンプルなのはカウントアップってところかな」
  _
( ゚∀゚)「どれも皆目見当がつかないじゃないの!」

( ^ω^)「カウントアップはその名の通りかお?」

('A`)「そうだね、それぞれ3本ずつ8ラウンド投げ合って、単純に得点が高い方が勝ちって感じだ」
  _
( ゚∀゚)「ふゥ〜ん。でもまあやってて面白くないのはなァ」

( ^ω^)「他のはどんなルールなんだお?」

('A`)「話すのはいいけど、たぶんやってみないとよくわからんよ」

221名無しさん:2020/10/26(月) 23:54:16 ID:FHFYNzvs0
 
 そうしてゼロワンとクリケットのルールを彼らに説明した結果、僕らはゼロワンに興ずることになった。ダーツ初心者の彼らにとって、クリケットのルールはわかりづらく、その面白さもまったく伝わらなかったのだ。

 それぞれが予め点数を持ってそれを削り合い、最終的にぴったりゼロになるところを目指す、というゼロワンのルールは比較的飲み込みやすいようだった。

('A`)「それじゃあゼロワンにしようか。普通僕らは501をするんだけど、ジョルジュとやるなら301の方がいいかもな」
  _
( ゚∀゚)「さんまるいち? アパートの部屋番かよ、何だそれ」

('A`)「最初に持ってる点数が501点か301点かってことだよ。あまり高い点数から始めて全然終わらないなんて嫌だろ、試合を終わらせる最後の1投がキモなんだから」
  _
( ゚∀゚)「試合を終わらせる最後の1投ね、気に入った。それにしようや」

('A`)「それじゃあ301で、ゼロになった瞬間決着だから先攻が有利だ、お先にどうぞ」
  _
( ゚∀゚)「ふふん。舐めんなよ、おれのダーツぢからを」

( ^ω^)「わざわざ倒置法で言うとは恐れ入ったお」
  _
( ゚∀゚)「ハ! 見てな!」

 スローラインに立つジョルジュが放った第一投は、はたしてブルへと突き刺さった。

222名無しさん:2020/10/26(月) 23:55:35 ID:FHFYNzvs0
 
 一応試合ということで、お高いデジタル仕立てのダーツ盤を僕たちは使用している。ブルに入った際に上がる銃撃のような効果音がひとつ飛び、モニタの表示が301から251へと変化した。
  _
( ゚∀゚)「うおゲーム的な音! テンション上がるな!」

 ウキウキとジョルジュは2の矢3の矢を放っていく。それらはブルには当たらなかった代わりに1本は20シングル、1本は11トリプルへと突き立った。

 合計103点だ。ロートンである。このアワードを表す火の鳥が飛び立つようなエフェクトがディスプレイに表示され、ジョルジュは大いに調子に乗った。
  _
( ゚∀゚)「ウッヒョ〜楽しい!」

( ^ω^)「またロートンだお!」
  _
( ゚∀゚)「偶然の要素も大きいけどな。それじゃあひとつ、ドクオさまのお手並み拝見といこうかね」

('A`)「はいはい」
  _
( ゚∀゚)「早くしろよ! この感触のままで次を投げてぇ」

('A`)「はいはい」

223名無しさん:2020/10/26(月) 23:57:20 ID:FHFYNzvs0
 
 ジョルジュのおどけた口調に急かされ僕はスローラインの上に立った。

 大きくひとつ息を吐く。

 左手に束ねて握っているのは真鍮製のずんぐりとしたダーツが3本だ。決して投げ慣れてはいない。

 しかしそんなことはどうでもよかった。僕はそのうち1本を右手の人差し指に乗せて重心の位置を確認すると、そのやや後ろ側を親指と人差し指でつまむ。そして中指をそこに添わせる。

 僕のダーツの握り方だ。

 ラインに足の位置を合わせる。つま先だ。そこから足首、膝、腰、体幹部と、意識を下から上に登らせる。肩の位置までセットしたところでダーツを構える。ダーツ盤に向かった僕の視線の上にダーツの先端を揃えてあげる。

 視野が狭くなっているのがわかる。集中できているのだろう。集中力によって、脳が不必要な視覚情報を無視するようになっているのだ。

 16ダブル。そこが僕の今狙っている箇所だった。

 意識することなく僕の腕が後ろへ引かれる。その肘を支点とした円運動はやがて一瞬静止し、そして自然と投射の動作に入る。

 自分の放ったダーツが思い描いた通りの軌道を通過し、ダーツ盤へと到達するのが、ダーツが指から離れたその感覚だけで僕にはわかった。


   つづく

224名無しさん:2020/10/27(火) 01:01:29 ID:bb7EgyQ60

予想以上にことが進んでいた
ドクオのフォーム確認、落ち着いていてかっこいいな

225名無しさん:2020/10/27(火) 21:19:30 ID:.vPeb5JA0
おつ
ジョルジュ大人だなぁ
これはいいやつ

226名無しさん:2020/10/27(火) 23:51:12 ID:u.ysYGMM0
乙です

227名無しさん:2020/11/07(土) 22:33:00 ID:WszZjNtQ0
1-8.動揺


 僕の勝利はあっさりと決まった。

 元から勝負になる筈がないのだ。数ヶ月のこととはいえ、僕はそれなりの時間をダーツに費やしてきており、それと引き換えに知識と技術と自信を得ている。

 最後に僕が残した点数は32点だった。クーや貞子さんとゼロワンで戦う場合に彼女たちがよく残す点数だ。こうした残点を調節する作業を僕たちダーツプレイヤーはアレンジと呼ぶ。

 思い通りのアレンジができた僕は、その時点で勝利を確信していた。

 この32点残しというアレンジは、ダブルアウトを狙う上で、プレイヤーの未熟さをある程度受け入れてくれる優れた数字なのである。その後16ダブルを狙ってわずかに外した僕はこのアレンジの有益性を実感した。

 ダーツ盤における16点の区域の隣には8点の区域が存在している。16ダブルを狙って8ダブルに刺した場合、残りは16点となり、そのままもう一度8ダブルを射られればゲームを締めることができるのだ。

 8ダブル、8ダブル、と連続して同じ区域にダーツを投げ入れた僕は、モニタに自分の残点が0と表示され、祝福のエフェクトが表示されるのを悪くない気持ちで眺めたのだった。

( ^ω^)「うおお〜凄いお! 上手だお!」

 まあね、と僕はブーンに頷いた。


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