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(,,゚Д゚)クリフォトに微笑むようです

337名無しさん:2019/09/09(月) 05:15:22 ID:OB475Izk0
乙ううううう

338名無しさん:2019/09/09(月) 06:14:03 ID:T0chyzww0
おつ 熱い展開でめちゃくちゃ面白かった
次回作も期待して待ってる

339名無しさん:2019/09/09(月) 18:45:23 ID:N4YSlv7U0
おいブーン生きてんのかよ楽しみすぎるわ
頼んます投稿してください

340 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/14(土) 17:35:44 ID:OerRe5g60



ξメ゚⊿゚)ξ微笑みの休日のようです


.

341 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/14(土) 17:36:07 ID:OerRe5g60





 カラン カラン

ξメ゚⊿゚)ξノシ「ちーっす、布佐さん」

ミ,,゚Д゚彡「おう、津出。仕事ご苦労さん」

ξメ゚⊿゚)ξ「いやぁマジ疲れたわ、今回の案件。寝る間もないってね」

ミ,,゚Д゚彡「先の宝木組、荒巻組の騒動からずっと働き通しだな、お前も」

ξメ゚⊿゚)ξ「そりゃ休めるもんなら休みたいけどさ?」

ミ,,゚Д゚彡「そんな暇はない、って?」

ξメ゚⊿゚)ξ「ええそうよ。どっかの誰かさんが現場を退いて私に序列一位なんて席を譲ったからさぁ?」

ミ;-Д゚彡「おーおー、耳がいてえ。いいじゃねえか、俺だってもう爺様だぜ、ゆっくりさせてくれよ」

ξメ゚⊿゚)ξ「ま、そこは別にいいわよ。今まで散々働いてたんでしょ、布佐さんも?」

ミ,,゚Д゚彡「まーな……煙草、吸うぞ?」

ξメ゚⊿゚)ξ「どーぞどーぞ」

ミ,,゚Д゚彡-~「おう」

342 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/14(土) 17:36:44 ID:OerRe5g60

ミ,,゚Д゚彡-~「……よし。津出」

ξメ゚⊿゚)ξ「なにさ?」

ミ,,゚Д゚彡-~「お前、今日休みでいいぞ」

ξメ゚⊿゚)ξ「……は? 何よ急に」

ミ,,゚Д゚彡-~「優秀な道具と言えど手入れを怠ったら壊れるのは当然だろ?」
  _,
ξメ゚⊿゚)ξ「ちょっとぉ、人を道具呼ばわりするのやめてくれない?」

ミ,,゚Д゚彡-~「そんなもんだろ、俺達殺人鬼なんてもんは……いや、お前は少々、いやかなり特殊な立場だが」



ミ,,゚Д゚彡-~「兎に角、今日は休日だ。映画でも観たりスタバで映えそうな自撮りしたりタピオカでも飲みまくってろって」

ξ;゚⊿゚)ξ「意外と若者の流行りをよく知ってるのね」

ミ,,゚Д゚彡-~「情報こそが戦略の全てだからな。つーかタピオカなんて十年前に流行ったものがリバイバル化しただけだろ」

ξメ゚⊿゚)ξ「あ、そういうところがおっさん臭いわ。滲み出る加齢臭っていうか」

ミ;-Д゚彡-~「うるせぇなぁ……ほれ、いいから行け行け、俺も忙しいんだから」

ξメ゚⊿゚)ξ「はいはい。んじゃまた後日ね」

343 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/14(土) 17:37:26 ID:OerRe5g60



 カランカラン



ミ,,゚Д゚彡-~「……ふむ」

ミ,,゚Д゚彡-~「ぴ、ぽ、ぱ……と」

ミ,,゚Д゚彡-~「おう、俺だ。今し方目標は移動を開始した」

ミ,,゚Д゚彡-~「ああ、滞りなく……うまくやれよ」

ミ,,゚Д゚彡-~「ぴっ、と……」

ミ,,゚Д゚彡-~「……あれから十年、か」

ミ,,゚Д゚彡-~「本当、あっと言う間で、昨日のことのようなのに……」

ミ,,゚Д゚彡-~「お前は祝福されて然るべきだろう、津出……?」

344 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/14(土) 17:37:48 ID:OerRe5g60

ξメ゚⊿゚)ξ「はー、首都は今日も変わらず賑やかだわね……」

ξメ゚⊿゚)ξ「取り敢えず、映画……映画ねぇ……」

ξメ゚⊿゚)ξ「なぁんか、この歳になると一人での行動も慣れたもんっつーか」

ξメ゚⊿゚)ξ「むしろ自然な振る舞いと言うか……おひとり様ってのも今時珍しくないものね」

ξメ゚⊿゚)ξ「言うても映画館って久しぶりだわ」

ξメ゚⊿゚)ξ「取り敢えず……これにしようかしらね」




ξメ;⊿;)ξ「めっちゃ泣いた」

ξメ;⊿;)ξ「はー、素晴らしいわ映画……世のエンターテイメントの極致だわ……」

ξメ゚⊿゚)ξ「さて……この後はどうしようかしらね」

ξメ゚⊿゚)ξ「スタバねぇ……タピオカもあんま興味ないし、適当にぶらつこうかしら」

345 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/14(土) 17:38:22 ID:OerRe5g60

ξメ゚⊿゚)ξ「しっかし、急に休日だなんて言うから、てっきり何かしらの案件かと思えば……」

ξメ゚⊿゚)ξ「驚くほどに何もないわね。接触はなし、監視は通常と同じく二、三人くらいかしら」

ξメ゚⊿゚)ξ「毎度毎度ご苦労なこったねぇ」

ξメ゚⊿゚)ξ「さぁて、そうなると本当に今日は何もない日な訳だけど……」

ξメ゚⊿゚)ξ「もう夕暮れ時だしなぁ……ご飯でも食べに行こうかしら」



ξメ゚⊿゚)ξ「…………」



ξメ゚⊿゚)ξ「……いや。久しぶりに、あそこに行こうかしらね」




.

346 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/14(土) 17:38:45 ID:OerRe5g60






 ガチャリ

ξメ゚⊿゚)ξ「ふいぃ……この建物も、最早廃墟も同然なのねぇ、人っ子一人いやしない」

ξメ゚⊿゚)ξ「けれど、やっぱりここの建物の屋上が、一番好きなのよね」

ξメ゚⊿゚)ξ「おー、綺麗な夕焼け……」



ξメ゚⊿゚)ξ「…………」

ξメ゚⊿゚)ξ「……空、零。もう十年だよ」

ξメ゚⊿゚)ξ「あの頃からずっと、この夕焼けは変わらない気がする」

ξメ゚⊿゚)ξ「それを見上げ続ける私も、きっと、何一つ変わってない気がする」

347 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/14(土) 17:39:25 ID:OerRe5g60





「全身に刺青をいれて、何も変わってないは無理があるよ、ツン」



ξメ゚⊿゚)ξ「……あら」

ξメ゚⊿゚)ξ「今日の監視員は『国解機関』でも最恐の異名を持つあんたなの?」

ξメ゚⊿゚)ξ「でい?」


(#゚;;-゚)「最強の異名を欲しいがままにしたお前にそう言われると少し腹が立つけどね」

ξメ゚⊿゚)ξ「しかも序列二位だしねぇ?」

(#゚;;-゚)「絶対ボクの方が強いのに……ま、別に構わないけどさ」

(#゚;;-゚)「ほら、ツン。これ」

348 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/14(土) 17:40:07 ID:OerRe5g60

ξメ゚⊿゚)ξ「……何よ、この凄いバラの花束ってば」

(#゚;;-゚)「お誕生日でしょ。今日」

ξメ゚⊿゚)ξ「あー……そう言えばそうだっけ?」

ξメ゚⊿゚)ξ「ここ十年、ずっと戦い通しで休む暇もなかったから、すっかり忘れてたわ」

(#゚;;-゚)「その十年という節目に、機関からもお祝いとしてさ、こうして一日の自由をくれたんだってさ」

ξメ-⊿゚)ξ-3「自由ねぇ、行動を常に監視されてる身で自由?」

(#゚;;-゚)「そもそも体内に埋め込まれたGPS発信機があるから完全な自由なんてないんだけどね」

ξメ゚⊿゚)ξ「今更過ぎね、まったくもって。久しぶりな休日に戸惑ってばかりだったわ」

(#゚;;-゚)「うん、面白かったよ今日のツン。何をすればいいのかさっぱりって感じで」

ξメ゚⊿゚)ξ「はーあぁ、本当ならさ、今頃の私は……ふっつーにOLしつつ、ふっつーにバンドしたり、ふっつーに……」



ξメ-⊿-)ξ「……空や零と、日々を過ごしていたのかもしれないわね」

(#゚;;-゚)「……それは、無理な景色だ」

ξメ゚⊿゚)ξ「でしょうね」

(#゚;;-゚)「その普通の景色に男の影は?」

ξメ゚⊿゚)ξ「いらね。空と零と……あんたが、でいがいれば、何もいらないもの」

(#゚;;-゚)「……これだからスケコマシは困る」

349 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/14(土) 17:40:40 ID:OerRe5g60

ξメ゚⊿゚)ξ「……十年。私ももう、二十七歳よ」

(#゚;;-゚)「ボクなんて二十九歳だよ。じきに三十路だ」

ξメ゚⊿゚)ξ「男の影がないけど?」

(#゚;;-゚)「お前の相手をするのに忙しいからね、そんな暇はないよ」

ξメ゚ー゚)ξ「ふふっ……あっそ」



(#゚;;-゚)「……ねぇ、ツン」

ξメ゚⊿゚)ξ「なによ?」

(#゚;;-゚)「ボクは変わった。あの十年前から。未だ殺意に狂う時もあるけど、それでもお前と過ごし、多くの戦場を渡り歩き、今はこうして国事に従う身だ」

ξメ゚⊿゚)ξ「……ええ、そうね。あんたが一番様変わりしたわ」

(#゚;;-゚)「ツンは……変わらないまま?」

(#゚;;-゚)「ずっとこの景色に、燃える空に心を置いたまま……今もまだ、あの夕焼けの空を見上げたまま」

(#゚;;-゚)「それがお前の……ツンの心の支えであり、強さの全てなの?」

350 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/14(土) 17:41:11 ID:OerRe5g60

ξメ゚⊿゚)ξ「……それを、弱さとしてもいいのよ」

ξメ゚⊿゚)ξ「だけどね、それであるからこそ、強さにもなり得るのよ、でい」

(#゚;;-゚)「…………」

ξメ゚⊿゚)ξ「あの日、あの二人が死んで――……殺しを手段としてしまった日から、もう、私は戻れない立場になったのよ」

(#゚;;-゚)「……死んだ二人の為にも?」

ξメ゚⊿゚)ξ「そして自分自身が正常を保ち、生き続ける為にも、よ」

(#゚;;-゚)「……常に『発狂覚醒状態』か。そんな特異な『鬼狂(きちが)い』だってのに、今も存在を許されてるのが奇跡だよ」

ξメ゚⊿゚)ξ「何せ私の戦力は規格外だからねぇ。あんたとコンビ組んだら正しく天下無敵、一騎当千、常勝不敗の戦夜叉よ」


ξメ゚⊿゚)ξ「生き残ってしまったのなら、やらなきゃいけないことがある」

(#゚;;-゚)「……戦い続けた先に、何が待つと思うんだい?」

ξメ゚⊿゚)ξ「さあ? 結局、人は必ず死ぬでしょう? その今際の姿に変化があるだけよ」

ξメ゚⊿゚)ξ「私はさ、こうして……マッシブな身体になって、全身の古傷を隠す為に刺青をいれて、過多な装備に身を包んで……」

ξメ゚⊿゚)ξ「何もかもが十年前とは違う。けれど、本質はずっとずっと変わらないままよ」

351 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/14(土) 17:42:05 ID:OerRe5g60



ξメ゚⊿゚)ξ「――戦い、生き残り、歩き続けていく。それだけよ」

(#゚;;-゚)「……あの二人が地獄で手招きしてるかもよ?」

ξメ゚⊿゚)ξ「ならもう少し待ってもらうだけよ。未だ死ぬ訳にはいかないのよ。ほら……」

ξメ゚⊿゚)ξ「こぉんな所に、わざわざ薔薇を届けに来てくれるあんただとか――」


.

352 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/14(土) 17:42:46 ID:OerRe5g60





ξメ゚⊿゚)ξ「こぉんなところに、一本の薔薇を添えていく、どこぞの腐れ殺人鬼をぶん殴ってやるまでは、ね」




.

353 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/14(土) 17:43:08 ID:OerRe5g60

(#゚;;-゚)「……近く、動きがあると思うよ」

ξメ゚⊿゚)ξ「了解。しかしまぁこれだけの監視網にすら引っかからないとは、『千里眼』でも開眼させたのかしらね、あのバカってば」

(#゚;;-゚)「“あれ”もこの十年で随分と変化しただろうね。身体も……“使い捨て”に近いだろう」

ξメ゚⊿゚)ξ「いい実験装置になり下がった、とも言えるわよ。軍部のデータ収集にとってね」

(#゚;;-゚)「けれども流石は殺し屋を極めた存在だよ。諜報活動こそが彼の最も得意とすることだ。破壊工作なんて尚更さ」

ξメ゚⊿゚)ξ「……世界各国、忙しなく飛び回って、いいように国に使われて、生きながらえて……」

ξメ-⊿-)ξ「……それでも、きっと、あいつの魂は……変わっちゃいないのよ、でい」

(#゚;;-゚)「……そうだね。きっと、そうだと思うよ」

354 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/14(土) 17:43:53 ID:OerRe5g60

ξメ゚⊿゚)ξ「そんじゃ、私達も行動しますか」

(#゚;;-゚)「……なぁんか、またあの子達を巻き込みそうな気がするんだよね」

ξメ゚⊿゚)ξ「ああ、銀の坊や達? 下手に首を突っ込まなければ大丈夫じゃない?」

(#゚;;-゚)「けど椎名しぃの“体質”がね……」

ξ;-⊿゚)ξ「あー、それはまぁ……けど、もしも関わることになるんだったら、そりゃ当然庇護下におくわよ」

(#゚;;-゚)「お優しいねぇ。流石は説教かますほどに情熱的だっただけはあるよ」

ξメ゚⊿゚)ξ「仕方ないじゃない。だってあの“目”よ? それこそ……“最強無敵の殺人鬼と同じ能力”なんだもの。将来有望は間違いないでしょ」

(#゚;;-゚)「けどまだ拙いし、完璧ではないよ。本人の殺しに対する嫌悪感等も、あれは確実に治らないよ」

ξメ゚⊿゚)ξ「……手遅れになる前に躾なきゃね」

(#゚;;-゚)「……理想的なんだけどね、活人剣」

ξメ゚⊿゚)ξ「そりゃね。けど椎名しぃを取り巻く環境はそんな生易しいものじゃないでしょう。だったら血に塗れることも受け入れなきゃ」

(#゚;;-゚)「そりゃそうだけど……はーあぁ、まぁたお前と埴谷くんとで衝突がありそう……」

ξメ゚⊿゚)ξ「そうならない為にも、フォローよろしくね、相棒さん?」

(#゚;;-゚)-3「はいはい」

355 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/14(土) 17:44:36 ID:OerRe5g60

ξメ゚⊿゚)ξ「しっかし、こんな立派な花束ったら、どこに飾ろうかしらねぇ……」

(#゚;;-゚)「居間とか? いや溢れ返るか」

ξメ゚⊿゚)ξ「庭に植えるとか……? そもそも、繁殖? 出来るのかしら?」

(#゚;;-゚)「立派な薔薇園かぁ、欲しいねぇ」

ξメ゚⊿゚)ξ「どっちが管理するやらねぇ」

(#゚;;-゚)「そこは交代制でしょ、公平に」

ξメ゚⊿゚)ξ「つっても、お互いほとんど家に帰れないじゃない?」

(#゚;;-゚)「あー……なら、やっぱり管理する人を雇うしかないのかなぁ」

356 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/14(土) 17:45:13 ID:OerRe5g60

ξメ゚ー゚)ξ「……ふふっ」

(#゚;;-゚)「何さ急に」

ξメ゚ー゚)ξ「ううん……どうあっても、私達は生きてるんだなぁって。未来のことを、先のことを、当たり前のように話すからさ」

(#゚;;-゚)「…………」

ξメ゚ー゚)ξ「ありがとうね、でい。大事にするからね、この薔薇」

(#゚;;-゚)「……ツン」

ξメ゚ー゚)ξ「ん、なぁに?」

357 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/14(土) 17:45:45 ID:OerRe5g60





(#゚;;-゚)「改めて、さ。お誕生日おめでとう。ずっと元気でいてよね」



ξメ^ー^)ξ「ふふ、そうありたいものね。ありがとう、でい」




.

358 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/14(土) 17:46:15 ID:OerRe5g60














「ボス、何してたの〜?」

「あ、さっき薔薇買ってたでしょ、ボスさぁー」

「なぁボスぅ、本当お願い、勝手なことしないで、俺の胃が荒れるからマジで本当……」

「うっるさいおねぇ……ったく……」

359 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/14(土) 17:46:36 ID:OerRe5g60




( メω^)「……誕生日おめでとうだお、津出さん」




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360 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/14(土) 17:47:08 ID:OerRe5g60





ξメ゚⊿゚)ξ微笑みの休日のようです



          終


.

361 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/14(土) 17:49:01 ID:OerRe5g60
と言う訳で本日、九月十四日はAAツンデレの誕生日になります。
おめでとうツン。
微笑むシリーズの続きですが、現行の二作品を終えるまで、もう少々お待ちください。
それではおじゃんでございました。

362名無しさん:2019/09/14(土) 19:29:03 ID:ymzMVmNI0
おつ

363名無しさん:2019/09/14(土) 23:23:06 ID:LF3MwBbM0
え、現行教えて

364名無しさん:2019/09/14(土) 23:36:31 ID:Ys8qH7JQ0
>>363
ξ゚⊿゚)ξお嬢様と寡言な川 ゚ -゚)のようです
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1568383920/
( ^ω^)病んでヤンでレボリューションのようです
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1568382305/

365名無しさん:2019/09/16(月) 14:20:20 ID:Aov9ufwM0
バトルとシリアスとギャグを同時並行するとか流石ですわ

366名無しさん:2019/09/21(土) 02:55:41 ID:jp.ExnUY0
ブーン生きてた!(≧∇≦)、ならそれよりダメージの低いクーとデレも復活するんかな?……だったらいいなぁ

367名無しさん:2019/09/21(土) 14:12:31 ID:9un8PiSM0
あの現行お前だったのか
嬉しい乙乙

368 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/12(土) 23:28:38 ID:J.CVf42g0

 お久しぶりです。
 ようやっと現行の二つを終了させたので、これから微笑むシリーズの書き溜めに移ろうと思います。

 が、少々忙しない状況になってきまして、早くても年末くらいから投下出来るかどうか、と言った具合です。
 仕事も含め、他の趣味等、様々なものがあります。その点、御理解いただけたらばと思います。

 予想としては微笑むシリーズの完結まであと三、ないしは四章程度でしょうか。
 兎角、お待ちいただけたらば幸いです。

 もしもよろしければ先の現行二つにもお目を通して頂けたら嬉しいです。
 それでは次回作でお会いしましょう。
 おじゃんでございます。

369名無しさん:2019/10/12(土) 23:59:16 ID:3GOBbEGw0
おつおつ待ってるぞ

370 ◆hrDcI3XtP.:2020/07/26(日) 07:35:05 ID:QwkdNUWQ0


 僕が“僕として”……そして“最期”として見た景色は、眩むほどに眩い真っ赤な空だった。
 冷めていく体温や、僕を抱きしめる“彼女”の慟哭や、紫に染まった雲や、遠くから響くプロペラ音。
 それらを感じ、或いは包まれながらに、僕は漏れだすように言葉を紡いだ。


.

371 ◆hrDcI3XtP.:2020/07/26(日) 07:35:26 ID:QwkdNUWQ0



(  ω )『良い……人生……だったお……』



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372 ◆hrDcI3XtP.:2020/07/26(日) 07:36:01 ID:QwkdNUWQ0

 僕の生涯は凡そ普通とは呼び難く、生まれながらに殺しを当然のこととし、多くの人々の命を奪ってきた。
 肌の色も問わず、老若男女も問わず、幼い頃は生き残る為に闇を受け入れ、闇から這い上がっても尚、僕は殺しを受け入れた。
 僕に確かな情報はなく、戸籍は義姉が用意したものであり、正確な年齢は不明だが、それでも当時は十代の後半程度で、しかしてそれでも死を受け入れることが出来た。
 己は幸福を得られるような、そんな存在ではないと自覚をしていたし、人を殺すのであれば己が殺されることを受け入れなければならないだろう。
 ただ一つ、僕は死ぬ間際に、一つの後悔を抱いた。
 死に至るまで、僕は贖罪の為だけに生を紡いできたようなものだが、それらの完遂はまた別にしても、僕の生き残った友人が気がかりだった。

ξ。;Д;)ξ『うわあああああぁああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!』

 大きな声で泣き叫ぶ彼女は、もう、普通の状況では生きてはいけない。
 それは日常生活を意味するわけではなくて、つまり、彼女は、闘争の中でしか安寧を得られない程の危機的状況を経験してしまった。
 彼女の特異な点は今更ながらに語る必要もないが、己の手で人を殺めた事実や、まして肉親の一人に親友を一人まで失い、僕をも失うとなると、最早沙汰を問うまでもないだろう。
 これから彼女は鮮血淋漓を臨み、または望み、屍山血河を越え、或いは己から赴くだろう。
 何せそこにしか彼女を満たすものがない。生死の狭間のみにしか、最早彼女の狂気を抑制するものはないだろう。

(  ω )(頼んだお、横堀)

 僕の好敵手と呼ぶべきか迷うが、共に怨敵を斃した間柄であるから、過去はどうあれ、僕は彼女のことを敵とは思えないでいる。
 元より同じく殺しを手段とする同士であり、機関もなんだかんだで彼女を戦力として迎え入れたい腹積もりなのは明白だった。
 兎角、僕は彼女こそが僕の友人を、津出鶴子を救う最大の人物であると確信した。
 そんな彼女は僕を見下ろし、震える拳を握りしめている。僕の最期の頼みを聞いて、今更己にどうしろというのかと、そんな表情だった。
 けれども僕は彼女を信じることにした。何せ、全ての終わりである津出零との死闘において、決定打を齎したのは彼女自身――横堀でいだからだ。
 だから、きっと大丈夫だ。彼女は自身の生存や他者の存在を心底憎んでいるが、それでも彼女の中には確立された善悪や正否の判断がある。

(  ω )(あー……思考が、ざわつさdkbさ……あれwしんふvん:)

 鼓動はもう、止まるだろう。血液の循環はままならず、言葉も理解出来なくなってきた。
 視界は最早映らない。五感も鈍く、果たして今、僕は彼女に、津出鶴子に抱きしめられているのかも分からなかった。

373 ◆hrDcI3XtP.:2020/07/26(日) 07:36:30 ID:QwkdNUWQ0

 けれども、そんな僕の聴覚が、最後の役割を果たした。

『生存者発見! 二名です!』

『恐らく機関の一名である津出鶴子と、殺戮魔の横堀でいです!』

『首謀者である津出零の死体、及び直空の死体も発見!』

 先のプロペラ音の正体であるヘリが着陸し、そこから降りてきた複数の戦闘員が駆けまわっているのだろう。
 何もかもが終わりを告げた今になって、ようやく糞垂れた上層部が重い腰を上げたようだ。或いは必要としたポーズなのかもしれない。
 幕僚長にでも殴り込みをかけたいところだがそれも叶わない。兎角として、今は早く僕の友人たちを助けて欲しい。
 言わずもがな津出鶴子も横堀でいも、両者共に瀕死の状態だ。いつ死んでもおかしくはない。
 だから僕は胸を撫で下ろしたい気持ちだった。これで彼女達は救われる――

『内藤平助を発見!』

 その一言と、浮遊感らしきものを得たのは同時だった。
 既に視覚を失い、五感はあやふやだったが、それでも培われてきた危機察知能力は健在だった。
 その声には端から僕を目的としていたような、そんな感情が窺えた。
 僕は担架らしきものに乗せられると、そのままにヘリに詰め込まれたような、そんな気がした。

『おい、何すんのよ!! 内藤をどこに連れてく気だぁ!! はなせぇ、なんだお前等っ、おい!! 内藤ぉ!!』

『ボクたちは大丈夫だっ……何をそうも、無理矢理に連れていく気だ、貴様等……!!』

 遠くで友人たちが何かに抵抗している気がする。それは恐らく、彼女達を保護しようと駆けつけた部隊に対しての声だ。

『落ち着いてください! 暴れないでください!』

『おい、彼女達が暴れているんだ! こっちにきてくれ! 恐らく錯乱状態に――』

『ふざけんな!! お前等がっ、お前等が勝手におさえつけてんだ!! おい、やめろ、返せよっ……内藤をどこに連れてくのよ!! はなせええええ!!!!』

 今すぐに立ち上がり、彼女達の下へと駆けつけたかった。
 状況は不明だ。だがそれは一つの危機であり、彼女達には必死で抵抗をする理由があるはずだった。
 だから僕は最後の力を振り絞る。失いかけた鼓動を、止まりかけていた心臓を、再度突き動かし、今度こそ絶対の安寧を取り戻す為に――

374 ◆hrDcI3XtP.:2020/07/26(日) 07:37:04 ID:QwkdNUWQ0

『いやぁ、無理無理』

 胸に、何かが突き刺さったような、そんな気がした。
 左胸の、それは心臓の真上だった。
 途端に口から何かが溢れ、それが自身の血潮だと理解するのに、然程時間は要らなかった。

『凄まじい執念だねぇ、いやぁだからこその伝説的存在かな? マイスウィートボーイ……』

 頬を撫でられている気がする。その手を噛みちぎりたいのに、もう、完全に身体は動かなかった。
 それでも、それこそ僕の意地か、はたまた超絶の執念によるものか、僕の視界が刹那程、世界の色彩を取り戻した。

ハハ ロ -ロ)ハ『安心したまえ、君はもう死ぬ。だが死にはせど、君という存在には途方もない価値がある』

 金髪碧眼の、眼鏡をかけた女だ。白衣を纏い、狭いヘリの中で僕を見下ろしている。
 その手にはナイフが握られていて、その刃で僕の心臓を貫いたらしい。
 駆け上がるのは戦意だが、再度視界は薄れてきていた。流石の僕であっても、心臓を貫かれたら終わりだった。

 だが――

(  ω )『面ぁ……覚えたお、クソアマ……』

 僕の左手が女の腕を掴む。
 人は心肺が止まれば死ぬ。出血死は誰もが理解出来るだろうし、死にかけの人間が息を吹き返すことはまずあり得ない。
 だが歴史上にそういった鬼は複数実在していた。名高きは我が大日本帝国軍の彼の者であり、つまり、人は心臓が止まり、死んだとしても、執念だけで蘇ることが出来る。
 だから僕はそうした。何せ僕も鬼だからだ。人々を殺すことで日々を生きながらえ、闇に身を投じ、『鬼違い』と呼ばれる精神病質――サイコパシー共を駆逐してきた身だから。

――最強無敵の殺人鬼だから。
 だから、そうした。

(  ω゚)『今度目が覚めたら、手前、ぶち殺してやるお』

 それが、僕の“最期の”言葉だった。
 そこから先に、もう、僕の意識はなく、息もなく、鼓動もなく、つまり、完全な死と呼べるものとなった。

375 ◆hrDcI3XtP.:2020/07/26(日) 07:37:33 ID:QwkdNUWQ0

 だが、それなのに、時々聞こえてくるものがあった。
 時にそれは音楽であり、時にそれは囁きであり、時にそれは仄暗い海を浮かぶような気持ちだった。

『君には価値がある。途方もない価値が』

『死んだとしても、いや死んだ程度だとして、手放す訳にはいかない』

『例えば君ほどの戦力を誇る兵士を育て上げるとしよう。どれだけの歳月と金銭が必要になるか』

『考えて見給え。それは途方もないことであり、つまり、それを成し遂げた君は、やはり途方もない価値がある』

『近代の世においては白兵戦など時代遅れであり、無人機による戦闘が最先端と呼べる』

『ようはゲームの感覚であり、実際、優秀な無人機パイロットの多くは有能なゲーマーに一任することもある』

『しかし我が国において白兵戦はとても重要な意味を擁する』

『況や仮想敵国として古くからソ連があった。更に辿ればロシア帝国で、北の大地こそが決戦の地だという認識がある』

『しかし最早、そうではなくなった。ソ連崩壊に至る過程の冷戦期も含め……時代の敵は彼等ではなくなった』

『それを含め、我々には直接の軍事力というものがない。恐ろしい状況だ。兵の練度、まして軍(いくさ)の練度は一部を除いて弱小に尽きる』

『……強い兵が必要だ。だが誰もが皆、覇者にはなれない』

『幸いにも我が国の民とは勤勉であり、その技術力は語るに及ばず、経済大国としても推して知るところがある』

『必要なのはね、実戦におけるデータと、それを可能にする“もの”だろう』

『それを君一人で賄えたとしたら、そしてその得られたものから我が国の戦力を増強できるのなら、それはとても、とても喜ばしいことだ』

『分かるね。君を失うことは、我が国にとっては絶望を意味する。君の死は即ち、我々を脅かす敵の進攻を許すことをいう』

『時は最早、只今だ。この只今こそが未来をつくり、或いは……平成の時代が終わったらば、新時代はいよいよ敵と呼べる存在を確立するかもしれない』

『だから……我々の為に。国家の為に。民草の為に」

『……生き給え、内藤平助くん』

376 ◆hrDcI3XtP.:2020/07/26(日) 07:38:00 ID:QwkdNUWQ0

 人殺しにハッピーエンドは有り得てなるだろうか、と僕は思う。
 犯罪に至る過程において、背景は勿論様々だ。或いは憎しみや復讐のそれだとか、気のままに人を殺す人物だっているだろう。
 情状酌量という言葉は、実際の問題、感情の含みであり、その人物の境遇や経緯や心情によっては減刑もあり得るという。
 結局、それはある程度の一般的な認識ではあるが、僕にとって、どんな理由や経緯があれど、人を殺したならばハッピーエンドは有り得てはならないと断ずる。
 何せ命を奪う行為だからだ。自然社会、野生の世界において弱肉強食は当たり前で、捕食される側こそが悪とされるが、それが人の社会で通じる訳がない。
 友人や、親やら、親しい人物を殺された。だがその殺した人物にも親や友はいるだろう。そんな背景など知ったことかと言うのなら、きっと殺した側も同じように言うだろう。
 そこに至っては全てが感情論であり、それはとても人間らしいことだと僕は思う。思うが故に、やはりハッピーエンドは有り得てはならない。
 何かをするというのであれば何をされても文句は言えない。それが自由であり、代償の理由にもなる。
 だから人殺しの身であるならば全てを受け入れなければならない。それが罪であり罰であり、背負うべき業だからだ。

『――全て異常なし。成功ですね、ハロー博士』

『一大事なのに、この事実が世に発表されることはないっていうんだから悲しいな』

『仕方がないさ、科学の世界は往々がそういう結果だろう。ねえ、博士』

 僕は死んだ。あの日、怨敵と呼べる『躯』を殺し、『ν』の首魁である津出零を殺し、朝焼けに包まれながらに、確かに命を散らした。
 だけれども、僕は死を許される立場にはなかったらしい。
 長らく揺蕩っていた気がする。取り戻された視界は、最初、とても眩しくて、特に白い発光なんかは焼き尽くされるように鮮烈で、次に感触に気が付く。
 地べたに寝転がり、微かな肌寒さを感じ、咽喉の乾きや、胸の奥の肺の苦しさや、込み上げてくる吐き気や、途端に始まる胃腸の運動に困惑する。
 立ち上がろうと思った。だが力が入らず、そこで僕はようやっと自分の身体を理解する。
 細くて、白くて、あれ程誇った筋肉なんて見当たらなかったし、身体を見てみれば傷跡の一つもなく、それは宛らに真新しいキャンバスのようだった。

ハハ ロ -ロ)ハ『ふふ、ふふふ……発表できる訳がない。公表が許される訳がない。これこそは世で言うところの、悪の所業だろうから』

 僕が最後に敵と認識した女が歩いてくる。彼女は僕を見下ろし、何故にと思う程に鋭利なピンヒールを鳴らし打ち、屈むと、僕の顔を覗き込んできた。

ハハ ロ -ロ)ハ『おはよう、マイキャンディボーイ。気分は如何――』

 その面を忘れないと僕は言ったはずだ。そしてその後に続けた台詞だって穏やかじゃなかったはずだ。
 それを忘れていたのか、はたまた覚えていたとしても油断をしていたのか、いやそもそもとして実行できる訳がないと高を括ったか。
 いずれにせよ、それらは全て僕を理解していない人物にのみ許される所業と言えるのかもしれない。
 僕の生涯は暴力に埋め尽くされてきた。殺すことで生の権利を得てきた。
 そんな僕が、例えこんな新品同様の、以前の僕の身体とはまったく違う“モノ”だとしても、筋肉がなかろうとも――

ハハ #)-ロ)ハ『ぼぐぇっ!?』

 我が執念こそがそれを可能にするだろう。
 僕は彼女の胸倉をつかみあげ、ありもしない筋肉を総動員させ、彼女の顔面に拳を打ち込む。
 それに威力なんてものはない。だが彼女は鼻血を倒して倒れ込む程で、その様子を僕は立ち上がって見下ろす。
 そうして僕は辺りを見回し、一つ頷くとこう呟いた。

377 ◆hrDcI3XtP.:2020/07/26(日) 07:38:28 ID:QwkdNUWQ0



( ^ω^)『めっちゃうんこしてえ』



 その言葉の後、僕の肛門から白色の物体が吹き出し、豪快な音と共に辺りは阿鼻叫喚の騒ぎとなった。



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378 ◆hrDcI3XtP.:2020/07/26(日) 07:38:50 ID:QwkdNUWQ0




( メω^)殺人鬼へ微笑むようです




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379 ◆hrDcI3XtP.:2020/07/26(日) 07:39:11 ID:QwkdNUWQ0


 赤く燃える空に、君は何を思うだろう。

 僕の空と君の空は同じ赤だろう。

 けれど、暮れる空を映すというのであれば。

 君にもまた、僕と同じ、夜明けの赤を取り戻して欲しい。


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380 ◆hrDcI3XtP.:2020/07/26(日) 07:39:37 ID:QwkdNUWQ0



 零



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381 ◆hrDcI3XtP.:2020/07/26(日) 07:40:54 ID:QwkdNUWQ0

( ^ω^)「四年も寝てた、ですかお」

 招かれた部屋には錚々たる顔ぶれが揃っていた。
 見やれば機関にも面を貸していた連中が数人いて、目を見張るべきはやはり、円卓の中心に腰を据えている時の首相だろう。

N| "゚'` {"゚`lリ「その通りだ、内藤くん。君はあのテロ事件から四年もの間、眠り続けていたんだよ」

 言わずと知れた“超極右”とは彼、阿部総理だった。
 世間に公表されることのない若かりし頃の空白の数年間がある。巷では遊びほうけていた時期だの金持ち坊ちゃんの放蕩の証拠だのと言われるが事実は大きく違う。
 とある右巻き代表の女性の右腕とはつまり、彼だった。学生運動時の彼は武闘派の代表と言える。その事実の隠蔽っぷりは舌を巻く程で、ネット検索をかけたところで証拠は出てこない。

( ^ω^)「寝てただのなんだの、僕は死んだはずなんですけどお」

N| "゚'` {"゚`lリ「事実、君は死んでいる。身体も灰と化したし墓もたててある」

( ^ω^)「んじゃこりゃ何だってんですかお?」

 僕が白色の大便をぶちまけた明くる日、半ば拘束される形で招かれたのは秘密の会談クラブだった。
 居並ぶ有権者共といえば僕の面を見ると、まるで信じられないかのような表情で、本当に蘇ったのかと腰を抜かす年寄りまでいた。
 それらを無視し、用意されている円卓に腰かけると、僕は差し出された茶を啜る。味覚はまだぼんやりとしていて、今一味が分からなかった。

N| "゚'` {"゚`lリ「何、とは?」

( ^ω^)「この身体ですお。元の僕の身体じゃない。おまけに生きてる事実がまず意味不明ですお、阿部さん」

N| "゚'` {"゚`lリ「奇跡が起きたのさ」

( ^ω^)「さっき死んだっつったでしょうお」

N| "゚'` {"゚`lリ「ああ、それが故の奇跡といえる」

 彼の視線が僕の後ろに立つ女性、ハローと呼ばれた科学者に向けられた。
 それに僕もつられて彼女を見る。

N| "゚'` {"゚`lリ「彼女が奇跡を起こした人物だ。名をハロー博士という。アメリカ人だ」

( ^ω^)「知ってますお。こいつにとどめ刺されましたし」

 僕の言葉にハロー博士が咳払いをし、いらないことを言うなと耳打ちされる。
 が、それを僕は無視し、再度阿部首相に視線を向けた。

382 ◆hrDcI3XtP.:2020/07/26(日) 07:42:38 ID:QwkdNUWQ0

( ^ω^)「何をしたんですかお」

N| "゚'` {"゚`lリ「……死んでは困る人物を死なせなかった。それだけのことだよ」

( ^ω^)「そんな簡単なことじゃあないでしょう。それに通常、死んだ人間を蘇らせることなんて出来ない。まして心臓を貫かれたってのに」

 確かに僕は死んだ。それも心臓を刺されていた。
 故に自身が今、こうして生存している事実が理解出来なかったし、そも、先に首相がいった、葬儀は済ませてある旨の内容も分からなくなってくる。

N| "゚'` {"゚`lリ「人の死とは何を指すと思うかね、内藤くん」

( ^ω^)「……哲学ですかお? 勘弁してくださいお、こちとらまだ目覚めてすぐですお」

N| "゚'` {"゚`lリ「ふっふ……心肺停止や他者の記憶から消え去った時だの、まあ科学的なものや哲学的なものを口にするのは存外簡単だろう?」

 だからこそだ、と彼は言葉を続ける。

N| "゚'` {"゚`lリ「死とは曖昧だとは思わないかね。まして個人を個人と断定するものも同義じゃないかな」

( ^ω^)「……アホくさい話するんなら帰りますお」

 まるで要領を得ない。何故にこう、偉い人間という人種は語りたがりなのだろうか。僕からすれば結論だけが欲しい。
 不要な問答はそれこそ時間の浪費だし、そも、死んだ人間を死なせなかったというのであれば、単純に言えば僕個人に要件があるということだろう。

ハハ #)-ロ)ハ「HAHAHA! まあそうも焦るなよキャンディーボーイ?」

( ^ω^)「……馴れ馴れしく肩を触るんじゃないお、クソアマ」

 眉間に皺を寄せ、不満を隠そうともしない僕の肩を件の女が叩く。
 それを手で払いのけるが、彼女はめげもせずに再度肩を掴み、僕の顔を覗き込んできた。

ハハ #)-ロ)ハ「君は何故君を君自身と認識しているのか、って話はね、ボーイ。単純なことさ。君は自分の身体を見て以前とまったくの別物だと言ったろう?」

( ^ω^)「…………」

ハハ #)-ロ)ハ「それでも君は君のことを内藤平助本人であることを自覚しているし、それを疑いもしない」

 それは何故だと思う、と彼女は問う。

383 ◆hrDcI3XtP.:2020/07/26(日) 07:46:07 ID:QwkdNUWQ0

ハハ #)-ロ)ハ「己を己として認識するというのは、超絶簡単にかみ砕いて説明するならば、脳が全ての答えになるのさ」

 その言葉に僕は溜息を吐く。全ての答えがその一言に集約されていたからだ。
 呆れたままに僕は再度首相を見つめ、いよいよをもって最大の禁忌であるだろう言葉を口にした。

( ^ω^)「脳移植しやがったんだおね、あんたら。僕の身体から脳味噌ぶっこ抜いて」

N| "゚'` {"゚`lリ「……理解が早いな。無用な問答が省けて最高だよ」

( ^ω^)「くっそ退屈な演説続けるあんたよりかは耐え難い性分ですからお、僕」

 脳移植――辿れば一世紀以上も前から歴史は存在し、勿論学術的に語れば難解であり一般的な部類には扱われない。
 要約すれば頭部、または脳そのものを別の容器に移植することであり、これは勿論ながらに医療の発展にとってはかかせない超重要なファクターであり課題と言えるだろう。
 これが科学的に可能か否か、というのは、数件の成功例からしても十分に可能で、パーキンソン病を対象とした神経組織の移植などは人類科学の大きな進歩と呼べた。

ハハ #)-ロ)ハ「自我の全ては我々のここに詰まっている。催眠学習により人格の形成だって思いのままさ。つまり人を人足らしめるのは脳さ」

( ^ω^)「その脳さえ手に入れりゃガワ……身体はなんでもいいってかお。あんたらふざけてんじゃねえお」

 僕は己の身体を見る。凡そからして二十代中頃の雰囲気だ。
 しかしそれにしたって身体は綺麗すぎたし、筋力はないに等しいし、単純に脆弱な印象だった。
 脳移植を認めた事実は別として、僕の思う最大の悪事はこれだった。
 これ、と言うのは改めて語ることでもないだろうが、僕は不機嫌なままに己の身体を指し、首相に言葉を叩きつける。

( ^ω^)「クローンだお、この身体。あんたらマジで頭とち狂ってんのかお。国際法に唾吐きかけるとは、いよいよを以って度し難い」

 法治国家とはなんぞやと叫びたくなる。僕の身体は複製されたものだった。
 通常、肉体を用意したとして、それは元は生体である訳だから内臓等も含めて劣化や成長は当然のことといえる。
 が、それが見受けられない。或いは死にかけの検体でも使用したというかもしれないが、思い出せば肛門から噴出した白い固形物からしてそれには疑問が挙がる。

N| "゚'` {"゚`lリ「気に入らないか。君のDNA製だから馴染みは最高だろうに」

( ^ω^)「ほー、流石は超絶武闘派のゴリゴリ右翼だおね……まるで罪の意識がない」

N| "゚'` {"゚`lリ「罪を意識し、それを数えたらば国を、民を護れるのか、内藤くん」

 悪しき所業を糾弾されたらば、だからどうしたと踏ん反り返る姿勢。見上げたものだと嫌味を言うが、しかし彼は己の正義を主張する。

384 ◆hrDcI3XtP.:2020/07/26(日) 07:48:47 ID:QwkdNUWQ0

N| "゚'` {"゚`lリ「建設的な話をしよう、内藤くん。これは国事のそれだ。個人の感想やらを語る状況じゃないんだ」

( ^ω^)「重要なのは僕の意思を全て無視したこの状況と現実にあるでしょうお。自分達がなにをしてんのか本当に分かってんですかお」

N| "゚'` {"゚`lリ「禁忌を犯し、倫理を無視し、道徳を足蹴にする所業……十分に理解している。だが君も忘れているわけじゃないだろう。君自身の罪を」

( ^ω^)「……それは当然でしょうがお」

 罪、と口にされて僕は押し黙る。僕にとっての罪とは即ち殺人の経歴だ。
 殺した数なら恐らく今世紀、いやさ人類史においては最悪だろう。それを自覚しているし、贖罪の為にと国に従い生き続けてきた。
 それが終わることなどない。いつの日か、僕は世話になっていた鍛冶師に問われた際に、罪から逃れる術も、ましてや贖罪に終わりなどないと断言した。
 首相は僕が沈黙したことに一つ頷くと改めて言葉を重ねる。

N| "゚'` {"゚`lリ「申し訳ないと心の底から思っている。それは事実だ。我々は我々の意思によって君の死を奪い、永久とも呼べる安寧を簒奪した」

 そこで言葉を切り、頭を下げた彼に周囲の愚鈍共も続く。
 ハゲ散らかした老人共の頭頂部など見る気もない。僕は肩を竦め、結構だ、とだけ言った。

N| "゚'` {"゚`lリ「だが当然ながらにその理由がある。端的に言おう、内藤くん」

 彼は言葉を切ると鋭い眼光となり、射るように僕を見つめる。

N| "゚'` {"゚`lリ「我々の為に、今一度戦って欲しい」

 戦う――何とだ、と僕は思った。
 敵と呼べる存在は多く、これまでの僕は『国解機関』と呼ばれる組織に所属し、『鬼違い』と呼ばれる異常者達を抹殺してきた。
 全ては国事の令だった。世を脅かす存在を狩り殺す日々で、先の美歩町一帯を巻き込んだ大規模なテロの首謀者も、忌まわしき『鬼違い』の扇動によるものだった。
 またそれ等を殺す日々になるとして、別に文句はない。同じことの繰り返しといえど、そこには大義があるし、己の贖罪にもやはり、終わりなどあってはならない。
 だが状況や目的が違う気がした。そも、この場に義兄である布佐さんの姿もなく、いつもの面子やら、僕の友人である津出鶴子の姿もない。
 そうなるとこれは彼等――有権者達による密なる作戦内容だろう。それも主動の人物こそはこの阿部首相のようだった。

( ^ω^)「……何をやらせようってんですかお、僕に」

N| "゚'` {"゚`lリ「君にしか出来ないことだ」

 闘争を前提とする作戦。敵と呼べる存在を敢えて口にしない事実。
 その二点がどれほどの重要性を秘めるか、というのは語るに及ばない。
 つまり、それは時の情勢だとか、国家間における信用や信頼による変化を前提としているわけで、僕が要求される内容というのは、不特定な国家の敵の排除だった。

385 ◆hrDcI3XtP.:2020/07/26(日) 07:51:36 ID:QwkdNUWQ0

N| "゚'` {"゚`lリ「何故に蘇らせたか、など今更なことだろう。君の戦闘力を単純に見れば、それは非凡の域であり、仮にそれ程の戦力を育成すれば二桁億を優に超える」

( ^ω^)「相変わらず軍事で物事を考えますおね。首相でしょう、政治で考えたらどうですかお」

N| "゚'` {"゚`lリ「政治外交も軍事も同じくさ。特に君の立場とはその均衡を保つ……いや、その裁量そのものこそが役割となるからだ」

( ^ω^)「こりゃまた大役ですおね……」

 想像に及ばない仕事の内容に僕は更に嫌な顔になる。

( ^ω^)「……所属は? どこになるんですかお?」

N| "゚'` {"゚`lリ「そんなものはない。いうならば中央、それか私個人の私兵にも等しいだろう」

( ^ω^)「懐刀ってやつですかお。今時古臭い」

N| "゚'` {"゚`lリ「だがその魁となるのは事実だ」

 その言葉に僕は度肝を抜かれる気持ちだった。
 何せ彼の台詞は、単純に言えば、今後の日本の内部の変革を意味するからだ。

(; ^ω^)「……交戦を前提にしようってんですかお」

N| "゚'` {"゚`lリ「今はね、無理さ。国際法がそれを妨げ、無知な者等が扇動されては我が足を鈍らせる」

(; ^ω^)「僕が死んでる間、どんだけの変革があったんですかお。僕を魁とするってのは、要するに……今後、荒事が罷り通るようになるってことでしょうお」

 日本は世界に知られる非戦闘国家だ。軍隊を持たず、交戦権もなく、非核推進国家でもあり、ようするに平和主義そのものだ。
 近年、犯罪の発生率は爆発的に急増しているし、『鬼違い』の発症率も異常値の極みと言えた。
 だがそれでも表立って殺しをしていた訳ではない。警察組織とはまた別に、国の根幹に至る者達の支持を得て『国解機関』は存在していた。
 そんな国が、裏でなんとか平和を保とうとしていた日本が、時の首相によって大きく様変わりをしようとしている。

N| "゚'` {"゚`lリ「時代は変化する。今となってはソ連は存在せず、彼の国は脅威とは呼べなくなった。だがそれでも我が国には、日本には敵と呼べる存在がある」

(; ^ω^)「…………」

 彼の決意、または決心は相当なものだと感じた。
 何があり、また、どのような背景があるのか僕には分からないが、兎角としてこの四年間の情報が必要だった。

386 ◆hrDcI3XtP.:2020/07/26(日) 07:54:39 ID:QwkdNUWQ0

N| "゚'` {"゚`lリ「……別に大日本帝国のそれをやろうって言う訳じゃない。大東亜共栄圏とは事実としてアジアの支配化を意味したが、私はそんなものを目指さない」

(; ^ω^)「じゃあ、何を」

N| "゚'` {"゚`lリ「富国強兵のそのものだ。これ以上の微温湯は死を招く。こと、時世は大きく様変わりを続け、この先の戦闘の在り方も変わってくるだろう」

(; ^ω^)「成程……“既存の在り方じゃ亡ぼされるだけ”ですかお」

N| "゚'` {"゚`lリ「ああ、その通りだよ、最強無敵の殺人鬼くん」

 時代に適応する為に、その混乱に呑まれないように、低迷の脱却をはかるべく――ではない。
 彼はそれらをも越え、いっそそれらを齎し、世界をリードする国としたいのだろう。
 それは途方もない夢物語に思えた。けれども、その瞳に宿る熱意や、或いは狂気とも呼べるものが、この場にいる全ての人物たちから笑顔を奪う。

(; ^ω^)「成程ですお。何をしたいか、どうありたいかってのは理解しましたお。けど……僕にも落ち着ける根が欲しい」

N| "゚'` {"゚`lリ「……拠り所が、かね。君は変わらずに組織に拘るね」

(; ^ω^)「国事といえど走狗にゃ小屋がいるでしょう。犬小屋が」

N| "゚'` {"゚`lリ「私の膝元は御免だ、と?」

(; ^ω^)「おーおー、そりゃお。あんたの股座なんぞに腰かけた日にゃケツが火を噴きそうで……」

 別に組織に所属する必要はない。或いは一時的に他の組織と協力関係になるとしても、その関係が解消された時、僕は一方的な不利になる。
 だから根が欲しい。僕の身を秘匿し、かつ、自由的に動けるだけの権限が許される、そんな都合のいい組織が。

N| "゚'` {"゚`lリ「ふっふ……ならばあるよ、それに向いたのが一つ。それこそ私の持ち物と言ってもいいだろう」

 なあ、と彼は声をかける。
 それに頷いた人物は立ち上がると、僕を見つめるが、しかしその表情は決して晴れやかだったり、気持ちのいいものではなかった。
 しかしそれも仕方がない。僕が元々所属していた組織とその組織とは、ある種は敵対関係にあったし、彼個人からすれば僕を認める訳にはいかないだろう。
 何せそれは国家の安全安心を保つ、国の秩序そのものと言えるからだ。

( ゚д゚ )「……本気ですか、総理。彼を我が“公安部”に、ですか」

“公安部”――それは首都に根差した警察組織の一部であり、彼はそれの統括者だった。
 名を呼ばれた彼、東風南(こちみなみ)部長は確かめるような口調だったが、黙して頷く首相を見ると瞳を伏せ、苦虫を噛み潰したような表情になる。

(; -д゚)「……警視庁に、首都の本営に、この殺人鬼を迎え入れろ、と」

N| "゚'` {"゚`lリ「別に名だけでいい。元より彼の能力は“特高”のそれに相応しい。“チヨダ”や“アカサカ”の後続こそは彼に任命したい」

387 ◆hrDcI3XtP.:2020/07/26(日) 07:56:38 ID:QwkdNUWQ0

(; ゚д゚)「横暴が過ぎます」

N| "゚'` {"゚`lリ「だが彼ほどに殺しも破壊も得意な人物もいまい」

(; -д゚)「……戦後の闇に戻す、と」

N| "゚'` {"゚`lリ「ああ。その引き金に指をかけるだけの最悪な事態が今、我々に突き付けられているからだ」

(; ゚д゚)「……“あの事件”ですか」

N| "゚'` {"゚`lリ「ああ、そうだ」

“あの事件”と言うワードに誰しもが額に汗を滴らせた。
 その様子に疑問を抱くも、やはり情報不足により僕は理解が及ばない。
 だが、僕をこの只今の時代に起こしたのには理由があるだろうし、それこそが確信に迫るものだと僕は理解する。

N| "゚'` {"゚`lリ「内藤くん……先の美歩町でのテロ。あれは我が国においては未曽有の事態だった。だが世界においてはその限りではない」

 世界とはまた大袈裟な、と僕は思う。
 しかし、それは確かなことだった。世界各地でテロは当たり前のように横行している。彼の米国においても記憶に新しいのは旅客機によるビルへの突撃テロだ。
 そんな世上において、テロは確かに珍しくもない。だが規模には勿論大小があり、そこには宗教的なものも絡んできたりと中々に複雑を極める。

N| "゚'` {"゚`lリ「ここ最近、話題に挙がる組織がある。過激派の代表的なテログループだ」

( ^ω^)「……それが、なんだってんですかお?」

N| "゚'` {"゚`lリ「当然我が国は関与しない組織だ。パイプは幾つか浮上してはいるが、それでも直接的な関係性はないに等しい」

 しかし、と彼が言葉を続ける。

N| "゚'` {"゚`lリ「互い、無関係な間柄でいることは不可能になってしまったんだよ」

 その言葉に彼の目付きが再度鋭くなる。

( ゚д゚ )「……数日前のことだ、内藤。その過激派組織から声明が発表された」

( ^ω^)「はぁ」

( ゚д゚ )「お得意の脅しだ。捕まえた一般市民やらを殺す、殺して欲しくないなら金を寄越せといった、毎度のな」

 そこまできて嫌な予感がする、と言うか最早答えを得たも同義で、僕は、まさか嘘だろ、と顔を歪ませる。

388 ◆hrDcI3XtP.:2020/07/26(日) 07:58:19 ID:QwkdNUWQ0

( ゚д゚ )「困ったことに、そう、非常に辛い現実だが……その人質の中に日本人が含まれていてな。国としては当然助ける姿勢だ。しかし当たり前のことだが、金なんぞ払う訳にはいかない」

( ^ω^)「払いましょうお、そうすりゃ僕の面倒がなくなるでしょう」

( ゚д゚ )「百億だぞ、請求された金額は」

( ^ω^)「いいじゃあないですかお。あんたら私腹肥えすぎてんだから、丁度いい機会だし皆でカンパしなさいお」

( ゚д゚ )「……冗談を言う時じゃないんだぞ、内藤」

 いや、冗談の一つも許して欲しい。何せだ、このパターンは分かり切っているからだ。
 人質がいて、それを国としては見捨てる訳にはいかない。だが要求される金額は現実的ではない。しかし要求を無視すれば人質が殺されてしまう。
 ではどうするか。民草を見捨てるとして、それで世論はどうなるか――

N| "゚'` {"゚`lリ「そこでだ、内藤くん。君に最初の仕事を頼みたい」

( ^ω^)「……その国にいって、その人助けろってやつでしょう。アホ言わんでくださいお、あまりにも割にあわな――」

N| "゚'` {"゚`lリ「いいや、違うよ」

 刹那で否定され僕は拍子抜けしてしまう。
 普通、こういう時、映画なんかではスパイの主人公が敵地に乗り込んで人質を救出するのが鉄板だろう。
 だのに、彼は違うと言った。戦闘やら諜報を僕に頼むと言っておいて、この事実は奇妙にも程がある。
 しかし僕は次の一言によって、いよいよを以って現実を理解することになった。

N| "゚'` {"゚`lリ「その人物を殺し、敵地に赴いて米国との共同作戦に参加してほしい」

( ^ω^)「…………」

 ああ、成程、と氷解する。彼は問題を解決する気でいる。
 その組織を壊滅させることに本腰を入れたようで、つまり、彼の最大の目的というのは――

389 ◆hrDcI3XtP.:2020/07/26(日) 07:59:01 ID:QwkdNUWQ0



( ^ω^)(殲滅……かお)



 米国主導のもとに行われる、その過激派組織の殲滅こそが最大目標だった。



.

390 ◆hrDcI3XtP.:2020/07/26(日) 08:01:02 ID:QwkdNUWQ0

 そりゃ叩き起こされる訳だ、と思う。
 何せそういう状況に軍部を動かす訳にはいかない。イラクの時のような派兵という形式上で済ます程に彼の胸中は穏やかではない。
 僕という、身軽で、自由で、しかして戦力が確かで、如何なる状況でも対応出来る兵士が必要という訳だ。
 更には米国との連携ときた。僕個人でだ。

( ^ω^)(……CIAかお。大統領の私兵組織だおね。成程……こりゃあマジで、しんどい作戦だお)

 段々と背景が見えてくると、僕はいよいよ天を仰ぎ、参ったように顔を手で覆う。
 こちらの戦力は少人数で敵地への潜入と暗殺、更には決定的な一打となる“敵首領の特定”が作戦内容だろう。
 花を持たせる形で、それは米国の特殊部隊に引き継がれるだろう。
 この作戦に失敗は許されず、日本人の“公開処刑はあってはならない”とし、“我々の存在もあってはならない”らしい。
 あまりにも欲しがり屋で、貪欲で、無謀にも思える。だがやらなければならないのだと首相は断ずる。

N| "゚'` {"゚`lリ「明後日、現地に到着し、米国の者と協力して作戦を実行してくれ」

( ^ω^)「……僕が死んだ場合は?」

N| "゚'` {"゚`lリ「有り得てはならないことを訊くね、君も」

 ここにきて死ぬことは即ち“国家最大の機密漏洩に等しい”ときた。
 そりゃそうだ。僕が死体となった日には各国に日本の闇が暴かれる。
 脳移植にクローンの生産という、たった二つのワードだが、世界からの非難の程は想像に難くない。

N| "゚'` {"゚`lリ「それでは……健闘を祈る」

 その一言で秘密クラブの面々は立ち上がり、まるで素知らぬような、何もなかったかのような表情で部屋を去っていく。
 僕は去り行く首相の背中を見つめながら、よくもまあ恐ろしい人物を国の代表に選んだものだと溜息を吐く。

( ゚д゚ )「……お前が私の管轄にくるとはな」

( ^ω^)「よしてくださいお、東風さん……あんたらだって殺しのプロでしょう」

( ゚д゚ )「お前には劣るさ」

 そんな最中、去り行く東風さんが僕に話しかけてきた。
 どこかぶっきらぼうで、声色からしても信用は微塵もされていないように思える。
 だがそれも当然だろう、と僕は結論し、立ち上がって彼の真正面に立った。

391 ◆hrDcI3XtP.:2020/07/26(日) 08:03:09 ID:QwkdNUWQ0

( ^ω^)「これから、よろしくお願いしますお」

( ゚д゚ )「……お前は、己の状況を受け入れられるのか? 理不尽にしか思えない状況を」

 寄越された台詞に僕は言葉を探せないでいた。何せ理不尽が僕の生涯における常だったからだ。
 故にかどうかは分からないが、僕は仕方なしと諦めることが出来るし、形はどうあれ、結局、国事に従うのは以前と変わらない。
 その対象が異常者から国家の敵に変化しただけで、手段はいつもの通り、殺し屋のそれだ。

( ^ω^)「これもまた、己の負うべき業ですからお。受け入れるしかないでしょう」

( ゚д゚ )「自死もまた、手段の一つだろう」

( ^ω^)「その度に蘇るんでしょうお。見えてんですお、オチなんて。だったら適応するのが手っ取り早い」

 諦念のそれにも思えるかもしれない。実際に、それに近い考え方なのかもしれない。
 だが、生きるが故に成し得ることもある。それこそは贖罪の道であり、僕がまたも生を授かったという事実は、即ち、まだ道は半ばであるということなのかもしれない。

( ゚д゚ )「……まるで宗教家の様だ。神に祈るか?」

( ^ω^)「あんな下痢便ファッカーに祈ってやるもんですかお」

( -д- )「はっ、酷い言いようだ……」

 小さく笑うと、彼は懐から飴を取り出し、それを口に放り込んだ。
 その仕草がどことなく懐かしく思えて、僕は義兄の間柄に等しい恩人、布佐さんを脳裏に浮かべる。

( ^ω^)(……もう、会うことは難しいだろうお)

 顔を見たい人物は当然いる。あの事件から四年の月日が流れたという実感は薄い。だがそれが事実であれば、誰が死んでいても可笑しくはない。
 それを確認したい気持ちは強いが、状況からして、僕が外部の人間と接触することは不可能だろうし、僕の存在が知られることもアウトだろう。
 何とも面倒なことになったな、と頭をかく。こんなことなら死んでいた方が億倍も楽だったろうに、けれども、やはり罪滅ぼしを思えばこそ、自死という決断は浮かばなかった。

392 ◆hrDcI3XtP.:2020/07/26(日) 08:05:27 ID:QwkdNUWQ0

( ゚д゚ )「……今後、作戦時におけるお前を『ライドウ』と呼ぶ。過去、中央直下特設部の役割を持った組織の後継だ」

( ^ω^)「『ライドウ』……雷同、ですかお。こりゃまた厭味のつもりですかお?」

( -д- )「贐さ、蘇った殺人鬼へのな」

 雷同――己の考えをもたず、無暗に他人の説や行動に同調することを意味する。
 それが僕の役割であり、僕の存在意義なのだろう。
 個人の意思を持つことは許されず、国という母体から与えられた任に疑問を持つことも許されず、ただただ令にのみ突き動かされる存在。
『ライドウ』の名を与えられた僕はそれに小さく笑みを零し、去り行く上官の背を見送った。

ハハ #)-ロ)ハ「意気込みの程は、最強無敵殿?」

( ^ω^)「……今の身体じゃそれこそ自殺行為だお」

 己の身体を見て僕は溜息を吐く。そんな僕に彼女はまた馴れ馴れしく話しかけてくるが、素直に感想が出てきた。
 それに彼女は得意気な笑みを浮かべると、任せたまえ、と自身の胸を叩く。

ハハ #)-ロ)ハ「この脳医学の権威とまで謳われるハロー・ハローが君の手助けをしようじゃないか、キャンディーボーイ!」

(; ^ω^)「不安しかねえお……」

ハハ #)-ロ)ハ「おぉっと、そんな心配は御無用だぞぉ? 何も脳味噌をこねくり回すだけが得意という訳じゃない。その分野も含め、私はね、得意なのだよ! 改造がさ!」

 改造、と言われて尚更不安になる。
 何せその瞳に浮かぶのは狂気で、眼鏡越しから浮かぶ禍々しい色合いに僕は後退った。

ハハ #)-ロ)ハ「まぁ任せたまえよ! 君の為に費用はめっちゃんこガメっといたし、その分備えもある! 何せ最強無敵の君を“最強にしなきゃ”私の仕事に意味がなくなる!」

 果たして僕の身体にどれ程の価値があるんだろうか。元より『超感覚』と特殊にも等しい身体が僕を僕足らしめていたが、この身体でそれが通用するのかは不明だ。
 しかしてそんな不安要素は数時間後に意味を失うことになる。何せ僕の身体をつくり脳を弄繰り回した彼女こそは真の天才だったからだ。
 それは医学の問題ではなく、彼女の最も得意とする分野こそは――

ハハ #)-ロ)ハ「だからほんの数時間、君の身体をぶち壊すけど許してね☆」

( ^ω^)「……終わったら顔面ぶっ潰すくらいには殴りまくってやるお、クソアマ」

 生体を利用した兵器開発、つまりはマッドサイエンティストのそのものだった。

393 ◆hrDcI3XtP.:2020/07/26(日) 08:05:54 ID:QwkdNUWQ0



 零 了



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394 ◆hrDcI3XtP.:2020/07/26(日) 08:07:30 ID:QwkdNUWQ0
という訳で長らくお待たせして非情に申し訳ありません。
投下は週に一度程度となります。
章の内容としては幕間のような形なので、然程長くはならないと思います。
それではまた次回。おじゃんでございました。

395名無しさん:2020/07/26(日) 08:35:16 ID:C0r4VhpU0
乙〜〜〜

396名無しさん:2020/07/26(日) 17:39:11 ID:mscrw6e60
ウルフェンシュタインだな

397名無しさん:2020/07/27(月) 11:54:29 ID:nhbAw7b60

楽しみにしてた

398 ◆hrDcI3XtP.:2020/08/02(日) 17:38:48 ID:2ga1gPtA0



 一 上



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399 ◆hrDcI3XtP.:2020/08/02(日) 17:40:04 ID:2ga1gPtA0

ハハ ロ -ロ)ハ「知っているかい、キャンディーボーイ。脳はね、歳をとらない」

 半覚醒の下、ハロー博士の言葉が中耳に木霊する。
 言葉の向こう側では金属的な音や粘性を思わせる音が渦巻き、視界の迷彩には虹がかかったような不思議な色合いが浮いていた。

ハハ ロ -ロ)ハ「身体の多くの細胞は不可避的に老化していく。理由は単純さ。増殖することでDNAにダメージを蓄積させ、ついには細胞死に至るからだよ」

 僕の顔を彼女が覗き込む。眼鏡越しに狂気を宿した瞳が僕を見つめていた。

ハハ ロ -ロ)ハ「しかしニューロン、日本的に言えば神経細胞体――ソーマ――は、一度分化するとそのまま残る。おまけに海馬等の再生における神経幹細胞の存在がある。
       これらのことだけでも最早明らかだが、脳という物体は回復を恒久的に繰り返す、人体の神秘と言えるねぇ」

 理解の及ばない内容に僕はちんぷんかんぷんだった。
 専門的な用語を持ち寄られ、それを並べられたとて、そも、学のない僕からすれば退屈な内容だった。
 何故に科学者は得意気に熟語を連ねるのだろう、と自己陶酔に浸っている彼女の表情にうんざりとした気持ちだった。

ハハ ロ -ロ)ハ「だが……脳とて不死不滅ではない。適応能力が実際にある。脳への入力、また出力を許容する相互的な関係性はキッズにだって分かるだろう」

 考えて見給え、と彼女は続ける。

ハハ ロ -ロ)ハ「身体の出力は実際のところ、リミッターさえなければ車一台を持ち上げることができる。過去の事例でも幼児が軽自動車を受け止め、持ち上げたなんて話もあるねぇ」

 言葉の嵐を聞き流しつつ、僕は固定されているだろう自身の身体、及び頭に意識を向ける。
 先から視界の奥で火花が散るような感覚があり、それは複雑なもので、指先の末端から心臓の奥深くまで疼く居心地の悪さがあった。

ハハ ロ -ロ)ハ「だが常にリミッターが外れていたら筋肉は弾け飛ぶだろう、脳の処理もままならずオーバーヒートのそのものに陥る。実にありふれた、分かりやすい例さぁ」

 嗅覚が充満する血液、らしき香りを認識する。だが色味は赤ではなく灰色のような、白色のようなものだった。
 眼球の運動を確認し、出来る限り下部――自分の四肢、あるいは体躯を見る。
 みやれば、僕の外皮は取り除かれ、どころか筋肉の向こうの内臓すらも晒しの状態になっていた。

ハハ ロ -ロ)ハ「けど理想がある。もしもレブにぶち当たる程の限界値を常のものとし、更にそれを脳が処理しきれるだけの能力を持ったら、人間は新たなステージに立てるんじゃあないか、って」

 まるでその光景はプラモデルを作るような、そんな味気無さだった。
 骨格も、筋肉も、内臓も、その全てが人工物へと挿げ替えられ、ほんの数時間前までの僕は骨と皮だけの頼りない外観だったのに、特殊被膜で全身を覆えば、筋骨隆々とした偉丈夫な姿となる。

ハハ ロ -ロ)ハ「そのハシリが君だよ、キャンディーボーイ……内藤平助きゅん?
       君の鍛え上げられた情報処理速度、おまけに意味不明な『超感覚』とやらで培われ育まれてきた脳なら、或いはなんとかなるんじゃね、ってさぁ」

 人間とは何ぞや、と疑問が浮かび、最後の調整――脳の適応化の為に電極やらをぶっ刺し、その反応を確認する為の半覚醒状態の今に至って僕は散々な気分だった。
 まるで映画や漫画のそれだった。完全にサイボーグ的に思えて、しかして現代の科学の進歩に内心では感嘆の極みだった。
 二千年代中頃においては既にナノテクノロジーは確立されていたと聞くし、軍事の発展こそが人類史の豊かさを証明してきた事実もあり、僕はSF映画も用なしだなと感想を抱く。

400 ◆hrDcI3XtP.:2020/08/02(日) 17:40:43 ID:2ga1gPtA0

ハハ ロ -ロ)ハ「科学的に説明するならば君の『超感覚』とやらは異常発達した“観察眼”の極地だね。時にいるだろう、イーグルアイと呼ばれる銃の名手やカジノを荒らし回る博打狂い。
       それと同じだ。君は一目みただけでその人物の特徴を掌握することができる。幼少時の極限状態が君にそれをプレゼントしたのかもね? 早く相手を殺す為に、生き残る為にって」

 頭蓋を閉じられ、溶接するような、或いは接着するような音がし、頭皮を縫われ、毛髪を植え付けられ、全身に繋がれたケーブルを引っこ抜かれる。
 これが人間と呼べるのかは不明だ。これで蘇ったと言えるのかも不明だ。

(  ω )(お人形遊びかってんだお、ふざけやがっておぉ……)

“その為の素体、或いは検体”でもあると何となく理解はしていたが、つまり、僕を以って実戦におけるデータの収集が必要だということだ。
 日進月歩と呼ぶに相応しく、現代での戦闘――戦争を意味する――においてはICBMや航空機による直接攻撃、或いは無人機による敵地制圧、偵察等が当然だ。
 それは二千年代から変わらない。だが白兵戦における進歩も当然であり、例えば強化外骨格は各国で事実として実用段階まで研究が進み、それの投入も儘見受けられる。
 日本も軍隊を持たないにせよ、その研究が進んでいるのは生きている頃から知っていた。が、どうやらその段階は次のステップ、生体に対する直接的な強化に進んだらしい。

ハハ ロ -ロ)ハ「コスト的に考えれば最悪だね、何せ一人につき二桁億が余裕で吹っ飛ぶ。強化外骨格なんて機械で身体を補助する目的だよ? そんなパワースーツなんて精々が一着数百万程度で済む」

 贅沢なやつだよ、と彼女は僕に微笑みかける。
 何とも特徴的な微笑みだった。それを浮かべる人間というのは数少なく、その少ない内には僕や、横堀でいや、『国解機関』の人物達が挙げられる。
 つまり、彼女も異常者であり、しかして今更ながらにその狂気を疑う必要もなく、僕は施術が終了すると全身に電気を浴び、焦げるような熱量に身を起こした。

ハハ ロ -ロ)ハ「……ビューティフル。やはり愛しいマイスウィートキャンディーは、実に見た目も人間のままで、一見した程度じゃまるで分らん程に、人間そのものだ」

 起き上がり、自分の身体を見る。
 生前の姿に瓜二つだった。背は数センチ程伸びたが、全身を鎧うように張った筋肉に触れると、お帰り我が友よ、と感動すら覚える。
 立ち上がり、平衡感覚に違和感がないと知る。ついで全身を軽く動かしてみると、成程どうして、自身で出力を意のままに制御出来ると悟り、元の身体の燃費不良からすると夢のようだった。
 頭、及び脳内は特に異常はない。言語を失うこともなく、識別に不良もなく、ノイズもなく、自我の疑いすらない。

ハハ ロ -ロ)ハ「夢の体現さ。疑似血液により君の身体は動き、身体の出力限度は脳の限界と同等だ。脳波や心拍等の情報も全て遠隔から管理し、君が頭で考えるだけで我々が受け答えを可能にする」

 なんともまあ、至れり尽くせりというか、スーパーマンというか、あまりにもお買い得過ぎる特典の品々だった。
 それらの情報だけで自分が真の意味で“最強無敵”になった気がする。しかしそうも上手いことばかりならば、わざわざ僕のような死者を叩き起こす必要などなかったはずだ。
 だから僕は用意されていた灰色のシャツを着て、黒い細みのスラックスを履き、革靴を履きこみ、準備を整えると彼女へと振り返り、核心へと迫った。

( ^ω^)「じゃあ脳の限界がきたら、処理が追い付かずオーバーヒートになったら、僕は死ぬわけだおね」

 結局、全てはそこだった。どれだけ身体を強化しようと、脳の処理速度を強化しようと、突き詰めれば脳を破壊されたり、または脳の限界値を超えれば終わりだ。
 それは普通に考えて、通常の生体でもそうだ。だが戦闘を前提に僕の身体はつくられている。その状況に至ってどのような結果になるかは不明だ。
 そもそもとして前例もなく、僕は実験の段階によるプログラムの被験者でもある。どれだけ優位性を持とうが、ナチュラルやアナログに比べたデジタル技術は信用やら信頼には乏しい。

ハハ ロ -ロ)ハ「……その時は私も涙を流すよ、キャンディーボーイ。敵に捕まればアウトだ。痕跡を残すのもアウトだ。君はその完全な姿での帰還のみを許される」

( ^ω^)「結局、不自由極まりないおねぇ……強さってのは、別に身体のつくりどうこうじゃあないってのに」

401 ◆hrDcI3XtP.:2020/08/02(日) 17:41:42 ID:2ga1gPtA0

 僕の言葉に彼女は驚いた顔をする。

ハハ;ロ -ロ)ハ、「お、おやおや、日本の闇で名を轟かせた最強の殺人鬼の台詞とは思えないなぁ? 数字が全てだろう?」

( ^ω^)「おっおっ……まあ、あんたらみたいなのは計測された数字や結果でしか物事を判断できないだろうからお。そりゃそうだろうけども……」

 他に用意されていた装備はない。無装備で敵地に潜入し、誰に見つかることもなく、或いは発見されても痕跡の一つも残さずに目的を達成しなければならない。
 となれば殺しは最低限だ。元より素手でも他者を殺めることは可能だが、やはり僕にとっては刃物が何よりもの頼りになる。
 つい、癖で僕は腰へと手をやる。だがそこには当然ながらに愛用していた牛刀も、ペティナイフも、最後の戦闘で使用していた鯨包丁もない。
 銃の扱いは勿論出来る。だがあんな不出来な武器を使うくらいなら肉弾戦で上等だと思った。仕方なしに僕は溜息を吐くと、彼女へと背を向け、迎えにきた黒服たちへと迫っていく。

( ^ω^)「本当の強さをあんたらは見たことないんだお」

ハハ;ロ -ロ)ハ「本当の、強さ……?」

 僕は確かに最強だ。誰にだって負けない。
 相手が特殊部隊の総長だろうが暗殺拳の使い手だろうが古武術の総帥だろうが全て返り討ちにするだけの矜持や歴史がある。
 だが、それが、力任せな強さが真の強さとは思えない。

( ^ω^)「四肢を銃で撃ち抜かれて、愛する親友が目の前で殺されても尚、立ち上がるようなのが……僕は真の強さだと思うし、信頼の全てだと思えるんだお」

ハハ;ロ -ロ)ハ「は、はぁ? おいおい、君ねぇ、足を撃ち抜かれたら立ち上がれる訳がないし、そもそも不覚をとる時点でだねぇ……」

 どうのこうのと口にする彼女に僕は微笑む。
 僕は知っている。本当の強さを。僕もそれを成し遂げた身ではあるが、僕にとって強さの証明とは、ただ一人生き残った友達、津出鶴子こそをいう。
 弱いくせに、泣き虫なくせに、ヤンキーなんて気取ったってダサイだけなのに、そのくせ上等根性剥き出しで、かと思えば不屈の精神に駆り立てられ、しまいには生存を掴み取った。

( ^ω^)(“失ってたまるか”と……それに魂を燃やし続けることが出来る人こそが、本当の意味で強いんだお)

 僕は友達の顔を思い浮かべる。あれから四年の月日が経ち、今の時代に僕は目覚めた。
 彼女はどうなったのだろうか。今も生きているのは間違いない。あれは世界が亡びようとも抗い続ける性格だし、彼女の傍には僕とタメを張った殺し狂いもいる。

( ^ω^)「会いたいおねぇ……津出さん、横堀……」

 小さく呟き、僕は踏み出す。
 向かうは中東。現在、苛烈極まる虎口の最前線へと、僕は国の害悪を潰す為にジェット機へと乗り込んだ。

402 ◆hrDcI3XtP.:2020/08/02(日) 17:42:35 ID:2ga1gPtA0

 ◇


(;´ω`)「ふいー……中東の空気はカラッとしてるおねぇ……」

 数時間のフライトと車両移動を経て、僕は中東の某国へと到着した。
 一月の中旬、雨季であるこの国の空にはどんよりとした雲が漂っていたが、乾燥した空気に肌が馴染まない。
 目覚めてから改造に至るまで、僕は未だボケている感覚だったが、施術後の感覚はどことなく鋭敏で、それは察知能力の向上を意味するのかもしれない。
 僕は適当な露店で飲み物を買い、それを啜りながら街の景色を眺めている。
 長旅の疲れは未だ癒えず、兎角として一旦の休息と洒落込んでいた。

( ^ω^)(しっかし、情勢からして……やっぱ緊張状態だおねぇ)

 流れとしては友好国であるトルコに降り立ち、そこからは車両で移動し、現地に見合った格好をすると、厳戒態勢である目的の国へと侵入を果たした。
 テロ組織によって国が支配されている、というのは我々日本人からすれば信じ難く、それこそ中国の民ならば“辛いよな、組織が運営する国家は”と散々な愚痴を聞けそうだ。
 兎角、国内ではしきりに軍用車両が駆けまわり、そこら辺で銃声が響き渡り、ともすれば外出する民間人らしき人々は普通に生活をしていて、現実味のない世界に思えた。

( ^ω^)(まー日本が特別平和過ぎるってのもあるけどお……しかし軍が追い出されてるのと、そのうちのテログループに寝返った数が多いのも問題だお)

 最早治安の維持などありはしない。死体も複数そこら辺に転がっていたし、それ等は放置されたままで、たかる蠅や唸る野犬共によりそれ等は餌食となるのだと分かった。
 民族間における虐殺も当然のようで、先に通りすがった道では、生きたままに鉈で首を掻き切られる、中々にショッキングな情景と出くわした。
 吹きあがる血飛沫にテログループは雄叫びをあげ、その光景を遠間で覗いていた人々は神に祈っていた。
 中々大変そうだな、なんて他人事のような感想を抱きつつ、僕は今現在、目的であるテログループの根城から数ブロック離れた地域にまで潜入していた。

( ^ω^)(倫理や秩序の崩壊、とまではいかないおね。ポル・ポト並みの独裁って訳でもない。ただ、こりゃ止まらん流れだおねー……)

 聞けば複数回の爆撃を受けても尚、テログループによる中東制圧作戦はさっぱり止まらないそうで、どころかその被害は拡大しているらしい。
 先の二千年初期、崩壊した過激派代表のグループよりも凶悪に思える。
 ただ、歴史は繰り返すのだと、そんな感想を抱いた。
 今回もまた世界の英雄である米国様が敵組織の壊滅の為に各国で取り決めをしたり、裏で暗躍しているようで、僕もその計画に組み込まれたパーツの一つだ。

( ^ω^)(けども、本営のここに敵の首領が潜んでいるとしても、流石に攻め入る訳にもいかんおね)

 単純に考えて敵地制圧というのは至極シンプルなやり口だ。爆撃での局地焦土化で目的の人物を殺すことが出来れば最高だが、その確実性は乏しい。
 理由は簡単だ。本当にその人物が死んだか確認が取れない。何せ木っ端微塵に吹き飛ばすのだから証拠が残っても判断が難しい。
 おまけに爆撃の情報を逆手に取られて現地から離脱されていれば無駄な破壊活動だ。そも、爆撃は世論で言うと非難の的であり、強行しようとも狙いを外せば道化のそれだった。
 故に先の主導者の暗殺も特殊部隊による作戦によって確実な抹殺を実行した。
 或いは爆撃で敵を誘致してから仕掛けた伏兵で殲滅するのも戦術的にはありだが、はてさて、今回の米国はどのようなストーリーを練っているのか。

403 ◆hrDcI3XtP.:2020/08/02(日) 17:44:35 ID:2ga1gPtA0

( ^ω^)(えーと、情報によると、このブロックよりももう少し先のエリアに捕虜をぶち込んでる施設が複数あるんだおね)

 脳内でそう思考すると、視界に情報が浮かんだ。
 浮かんだ――そう、浮かぶのである。
 なんともSF的だが、僕の視界には直接の景色とタブのような情報が表示され、更にその内容を読まずとも脳が勝手に情報を理解、処理する。

(; ^ω^)(……情報連結、所謂“新世代の戦術システム”かお。この先の戦闘の在り方が変わる、って阿部さんは言ってたけど……こりゃもう見えたも同然だおねぇ……)

 いずれきたるであろう“通信、情報システムの争奪戦”――“新生代の通信システム”を巡る闘争は既に幕を開けたか。
 或いは“平成の終わりと共にアジア諸国を代理として米、中、露とで争うだろう”と理解する。
 遠くない未来だ。所謂“5G”とは、恐らく民間においては便利、且つ超高度のシステムに思えるだろうが、これを巡っては途方もない経済戦争と実質的な世界の闇が垣間見えるだろう。
 兎角、僕は情報を整理するとかぶりを振り、目的のエリアへの侵入経路を観察する。

( ^ω^)(この大通りを抜けていけばほぼ直結する形だけども、検問があるおね。他の小道も結果集合する形で中央に分岐してるお。こりゃ潜入するにしても面倒が一つや二つあるおね〜)

 第一の目標は人質の暗殺だ。救助ではない。確実にその命を奪い、敵方による公開処刑を阻止しなければならない。
 別に邦人一人が殺されたとて、それが何の問題になるか、というのは単純明快な理由だ。
 日本は専守防衛しか許されない。特殊な状況においては派兵も可能だ。しかしそれは“現地国の承諾”がない限り介入も阻止も許されず、この状況に至っても尚、当局から許可は下りていない。
 普通の国家であるならば即座に軍事展開をする。報復による攻撃は“当たり前”のことであり、救助も当然のことだ。
 それが出来ないのが日本という国だ。それは国際法により定められたものだが、今回、この公開処刑が実行された場合、世論は対テロの意識から対政府に移行する。
 別に政府は何も悪くない。だが民衆や、はたまた各国は、行動もせず死を間抜けのように許した愚鈍に思うだろう。
 それがどのような悪影響を及ぼすか、というのは凡そ一般市民には想像に尽くし難いだろうが、国力の低下を意味し、最悪は現状の日本の立場、或いは優位性や信用は最底に陥る。
“そんな程度でなるかものかよ”と思うのならばテロ活動においての“人質を確実に公開処刑する”必要性はなくなる。何せ適当に殺して事実だけ公表すればいい。
 その残虐性と実効性にこそ意味がある。それこそが軍事戦略でもあり、現状、我が国が困窮する理由でもある。

( ^ω^)(猶予は……十二時間程度かお。情報によると阿部さんが今、友好国に来て、各国と対策と支援のやり取りをしてるのかお。んで本国では対策室の立ち上げ、及び実行……資金調達かお。どこに流す金だお?)

 更新されていくトピックを確認しつつ、僕は小高い丘にまで移動をする。
 道中、すれ違う人々は皆武装していて、少年兵だろう子供達は全身に弾丸を巻き、体躯に不釣り合いなアサルトライフルを担いでいた。
 誰も彼も瞳の中に狂気を、そして恐怖や後悔の色を浮かべていた。適当な民家の軒下では主婦達や子供達が爆弾の制作に勤しみ、広場では死体を的に少年達が狙撃の練習をする。
 香る臭気は硝煙と血が濃く、果たして中東の平和とは何なんだろうかと、それこそ半世紀以上にも及ぶ闘争の結末を思う。

( ^ω^)(国としての認可……国という単位として一つの民族を認めてくれ、かお。日本人には分からん宗教観だけども、彼等にはジハードを掲げるだけの意味があるんだおね)

 始まりまで辿る必要はないが、結局、彼らの目指すゴールはそこだ。奪われた己等の意味や種族としての独立を世界に認めて欲しい。
 だがそれを許さない中東における正義と、その背後で睨みを利かせる米国の図が、世の恐ろしさを如実に語る。
 何もかも第二次世界大戦が世の明暗を分けた。その結果、今の世に至って、正義の行方など問う方が愚かなのかもしれない。

404 ◆hrDcI3XtP.:2020/08/02(日) 17:47:30 ID:2ga1gPtA0

( ^ω^)「世界の闇ってのは、果てしないおねぇ……」

 藪と分かり切っているものを突く気はない。
 ただ僕は国事に従い、我が国にとっての益を得る為だけに奔走する走狗だ。
  _
( ゚∀゚)「その闇ってのを照らすのが我が国さ、ミスターキラーマシン」

 丘に立ち、景色を眺め、複雑な心境でいた僕の背後から声がかかった。
 誰が某ゲームのモンスターだ、と突っ込みたくなったが、振り返った先に見たのは、アジア系の顔をした人物で、僕は情報通りの外観に頷く。

( ^ω^)「ジョルジュ・ナガオカさんですおね。初めましてですお、僕は内藤平助ですお」
  _
( ゚∀゚)「ははは、噂はかねがね。いやはや大量殺人鬼と仕事を共に出来るとはねぇ、捕まえるべきはあんたなんじゃないか?」

 太く、凛々しい眉毛と長躯、且つ鍛え上げられた体躯。そしてその鋭い相貌、または双眸。
 今回、僕がバディを組む米国お墨付きのCIA局員、ジョルジュ・ナガオカと言う男だった。
 日系アメリカ人であり、元はグリーンベレーの出身だと言う。歳は三十二と若く、しかしてその実力は確かだという。

( ^ω^)「まぁ一回死んでるんで逮捕は勘弁してくださいお」
  _
(;゚∀゚)「平然と言うけど、あんた、それ普通ありえないからな? マジで日本の方が闇深いと思うぜ?」

( ^ω^)「闇の深さはまぁ、お互い様でいいじゃないですかお。そっちだって民間人ぶち殺しまくってんでしょ、警察機関が」
  _
( ゚∀゚)「おーおー、人聞きの悪い。そっちと同じく、こっちも精神病質――サイコパシーの駆逐にゃ手を焼いてんだぜ? 違いは単純、それが警察機関によるものか否か、だろう?」

 軽い調子のやり取りだったが、隙の一つも見当たらない。
 流石は特殊部隊出身だなと感心する。我々日本国もこのグリーンベレーを模範として特殊作戦群――通称“特戦郡”を設立した経緯がある。
 世界各国、特殊部隊は当然のように存在する。それが公認であれ非公認であれ、彼らの存在なくして現代の戦争が終結することは確実にないだろう。

( ^ω^)(現役時にはイラクの経験も……第五特殊部隊かお。こりゃ超絶の殺し屋部隊だおね、いやはや恐縮だお)

 何故に特殊部隊と呼ばれる組織が現代で重要視されるか、という理由は、僕が今、この中東某国にいることに繋がる。
 過去、大軍同士で殴り合いをしていた中世から時は進み、車両や銃器の登場と共に連隊規模は散兵を基本とした分隊となり、今に至れば無人機と遠隔攻撃が主流となる。
 だが現地での戦闘は避けて通れない。それは何故かとなれば、ずばり民間人の存在があるからで、答えを言うならば、現代の戦闘の多くは対軍や対国家ではなく対テロ、対組織の図式になっている。

405 ◆hrDcI3XtP.:2020/08/02(日) 17:50:15 ID:2ga1gPtA0

( ^ω^)「最早CIAも特殊部隊の役割ですおね。諜報も敵地での人員育成も、グリーンベレー時代のそれでしょうに」
  _
( ゚∀゚)「まぁね、米国は何でもかんでも出しゃばりだから。管轄が違えど目的は同じになることもある。スパイ活動だってデルタじゃ当然、敵地潜入や攻略なんざ糞のシールズが我が物顔をしやがる」

( ^ω^)「おー、それっぽい。凄いグリーンベレーの人間っぽい。やっぱ犬猿の仲なんですおねぇ」

 対テロ、対組織となった時、正規軍では突破できない壁は無数にある。
 その壁を乗り越え、或いは無視し、隠密のそれに倣って国家の為に激戦区を駆け抜けるのが特殊部隊だ。
 特殊技能も勿論持ち合わせ、非正規戦においてはその実力を惜しみなく発揮する。
 敵地に一人舞い降りたとしても彼等は“敵地で反乱分子を自軍に引き入れ育成して戦力として取り込む”恐ろしい手腕を持っている。
 そんな特殊部隊の、これまたイラクでテロ組織と殺し合いを日常としていた男が、只今においては中央情報局――通称CIAに籍を置き、僕の隣に立って景色を観察していた。
  _
( ゚∀゚)「けれども、そんな元軍人よりもヤベーのがいるだろう? それも俺の隣にだ」

( ^ω^)「そうですかお? 僕、戦争屋程のプロ根性はないですお」
  _
( -∀゚)「ははは……そりゃ俺達は戦争を生業としてきたし、隠密活動も得意だ。敵地潜入に制圧は任務として幾つもこなしてきた。けども……」

 彼は辺りを警戒しながらも僕へと視線を寄越す。
  _
( ゚∀゚)「単純な殺しのスキルに関して……かつ対人の、それも限定された環境や条件においちゃ、敵いやしねえよ」

 そういう彼の表情に笑みはない。
 幾度か軍人と手合わせをしたことがある。それは自衛隊も含め、各国の軍部に所属する猛者共だった。
 結果としては、そも、僕には卑怯にも思える特殊な“体質”に『超感覚』まであったから、それもタイマンの状況であったから、負けたことは一度もない。
 強いには強い。それは誰と手を合わせても同じ感想だった。だが根底にあるものはやはり違う。
  _
( ゚∀゚)「俺達軍人の目的は救出、突破、撃破……殺しは手段であっても目的にはなり得ない。だから感覚そのものが違う。殺し屋の恐ろしさとはずばりそこにある」

( ^ω^)「……規律、ですかお」
  _
( ゚∀゚)「ルールと呼んでもいい。あんたらに捕虜だなんて概念はないだろ? 生かす理由がまず存在しない。殺さなきゃ始まらない。手段と目的が同一であることの恐ろしさ……躊躇いがない事実が恐怖だ」

 なんとも人間らしいことをいうものだ、と思う。だが軍(いくさ)の能力とはそこにある。
 彼等の最大理念こそは“国家、或いは国民の為”であり、僕のこれまでは確かに大義名分として国事の令があったが、根底にあるのは“己に対する罰、清算の意味合いでの贖罪”であり、対象はその供物の認識だった。
 今もそれは変わらない。例えば先も人が無残に殺されている景色に遭遇したが、それでも感想としては“大変そうだなぁ”くらいで、特別なものを抱くことはなかった。
 彼等は違う。人らしく、人のままに、人の為に攻撃し守護を司る。それが諜報を司る立場となっても変わらないだろう。
 国益の為にと泥を啜り、己等の正義を信じて邁進する様は、ある種は言い訳じみている気もするが、それもまた正しさなのだろうと僕は思う。

406 ◆hrDcI3XtP.:2020/08/02(日) 17:52:12 ID:2ga1gPtA0
  _
( ゚∀゚)「その上、元は弩級の腕力家で、今となっちゃサイボーグマンだ。最早勝てる要素が見当たらねえよ」

( ^ω^)「そりゃタイマンならでしょうお。軍事なら僕は勝てませんお」
  _
( ゚∀゚)「おー、百人規模で取り囲みゃ簡単に勝てるだろうよ。だがこの状況であれば勝てる気は微塵ともしない」

 そう言って彼は笑う。なんとも血気盛んな性分だと僕は結論した。

( ^ω^)「んで、どう行動しますかお?」

 観察を終え、腰に手を宛がう彼に僕は問いかける。
 それに彼は一つ頷き、取り敢えず歩こうかと促す。
 彼に伴う形で現地を見て回るが、こうして人と共に歩くと、それも国の違えた人だと、果たして自分は何人だったかと疑問すら浮かぶ。

(; ^ω^)(そこばっかはマジで不明だからおぉ……アジア系で間違いないとは思うんだけども、姉さんですら特定できなかったって言ってたし……うーむ、分からんお……)

 勝手に一人で唸っていると、彼が先の答えを紡ぎ始めた。
  _
( ゚∀゚)「まあ分かってる通りに、先にある検問をどうにか突破しなきゃならねえ訳だな。中央に至るどの道も、結局は巨大な検問へと導かれるように収束されてる。
     或いは封鎖された区間や建物を突破してもいいが……あんたならこっちを選ぶか?」

 安全策としては間違いなくそちらを選ぶだろう。僕は頷きたくなるが、けれども首を横に振る。

( ^ω^)「リハーサルがないですし、突入は夜間だから視野も悪いし確実性も、ましてや地の利もないし人の動きすら未確定ですお。
      夜戦の装備をあなたが持ってるなら候補に入れてもいいですけどお、それでも突入までに時間がかかりますお」
  _
( ゚∀゚)「ほ〜、えらく現実的だな。正しくリハーサルがない一発勝負がこういう状況での最大の不安要素だわな。だから現地に特化した兵員を育てて経路を確保するのが鉄則なんだけどよ」

 それこそは特殊部隊の、更にはCIAの得意分野だった。僕はそれを聞いて期待を抱くが、しかし彼は肩を竦める。

407 ◆hrDcI3XtP.:2020/08/02(日) 17:55:01 ID:2ga1gPtA0
  _
( ゚∀゚)「残念ながらに、件の組織に介入することは極めて難しかった。そもそもの相互監視がキツイし育成した人物が本営に留まることも考えにくい。行動が活発的だからな」

( ^ω^)「おー……中東の制圧作戦、大分抵抗が激しいみたいですおね」
  _
(;-∀゚)「奴らめ、今回の支援組織から潤沢にも程があるくらいの資金と兵器を保持してやがる。これを止めるにゃ根っこに、それこそ支援を繰り返すどこぞの国に一喝せにゃならん」

 ああ、露助だな、と言いたくなるが敢えて口にはせず僕は適当に頷いた。
  _
( ゚∀゚)「兎角、人員の育成は期間の不足で出来ずじまいだ。昨年から邦人が捕まってたのは分かっちゃいたが、やれ爆撃支援だなんだで落ち着ける環境がない。どこもかしこも人手不足さ」

( ^ω^)「したらどうするんですかお? 死角は幾つかあるみたいですから、そこから?」
  _
( ゚∀゚)「まぁ、それがベストにも思えるくらい切迫してる状況ではある。監視員の一人や二人、殺すなりして、騒ぎになる前にトンズラこきてーが……」

 それではあまりにもお粗末だし、不安要素が多すぎる。
 かつ、それは突入に至るまでの経路確保の段階だ。まるでお話にならない、と僕は呆れる。
  _
( ゚∀゚)「しかしだ、お忘れかと思われるかもしれねーが……俺達CIAってのは目的の組織と敵対関係にある存在を手懐けるのが大の得意でな?」

( ^ω^)「……おー。イラクの再現ですかお」
  _
( ゚∀゚)「いやさ、それも少し違う。そもそも俺達が攻略する対象ってのは、いわば内部分裂から生じた一派なんだよ」

 その言葉と共に僕の視界に複数のトピックが表示される。
 確かに、過去に壊滅した某組織から派生した形のようで、それが膨れ上がり、今の規模にまで成長したようだった。
 武力により併合、よりかは支配を繰り返し、国内の多くを蹂躙すると、そこで建国の何がどうのと騒ぎ始め、ジハードを掲げて更に狂暴化を為したとみられる。
  _
( ゚∀゚)「これがまずかった。その元の本流に、片割れのような組織が今も残ってる。
     しかし彼の組織の独立を境に対立する間柄になってな、幾度となく交渉やらは続いてるようだが、にべもなく一蹴されるんだと」

 そう言うと彼は小さく笑い、先程僕が立ち寄った露店に寄ると、彼も同じ飲み物を買い、それを啜る。

408 ◆hrDcI3XtP.:2020/08/02(日) 17:56:45 ID:2ga1gPtA0
  _
( ゚∀゚)「けれどだ。そんな片割れの組織がな、今回ばかりは御立腹なのさ」

( ^ω^)「……あんたぁ、まさか」

 その片割れの組織の情報を洗っていると面白い情報が出てきた。
 過激派の一つとして数えられているが、しかし実利をとる性分で、獰猛という訳でもなく、部外者であっても好意的に接する組織のようだった。
 そして近年、この組織について回っていた人物がいた。それも邦人で、長らく中東の景色を記録し、その護衛やら面倒を片割れの組織がみていたようだった。
  _
( ゚∀゚)「人質の交渉が続いてたんだ。幾度となく。その邦人を返してくれと、その片割れの組織から請われてたんだよ」

( ^ω^)「…………」
  _
( ゚∀゚)「それに応じる訳がない。何せアジア系の中でもとびきりのレア度を持つ日本人だ。その存在は世間からすれば注目度が果てしない。
     これを手放す筈がない。どうあってでも世論を揺るがす存在なのは間違いないからな」

 故に、と語る。
  _
( ゚∀゚)「片割れの組織も必死だ。日本人が仮にも公開処刑になんぞなってみろ、あとは簡単な流れだ。
     日本の友好国からは支援を断ち切られ、世論は敵になり、これまでの活動なんぞ儘ならなくなる」

( ^ω^)「……どうしても取り返したい、と」
  _
( ゚∀゚)「そうさ。どちらの組織も手放したくないんだよ。たった一人の日本人が先の命運を分かつだなんて誰が思う?
     だがそれが世の周りだ。一人の命が政治を突き動かし人心をも掌握する」

 彼の言葉が全てだった。今回、過激派のテログループも、その片割れの組織も、そしてそれ等に加担する複数の国家――黒幕と呼べる者達も、どうにかしてでも日本人の命を我が手にしたい。
 それぞれに利益があり、それぞれに損失が生じてしまう。日本というブランドは日本人からすれば理解し難いだろう。だが世界の基準値で見れば日本人というのは特殊に匹敵する程の保護対象だ。

409 ◆hrDcI3XtP.:2020/08/02(日) 17:59:01 ID:2ga1gPtA0
  _
( ゚∀゚)「だから……殺すんだ。その状況を完遂し、敵首謀者を特定し、存在を確認するだけで俺達の仕事は終わりだ」

( ^ω^)「正義の下に、ですかお。或いは秩序の下に、ですかお」

 保護すりゃいいじゃん、と思う誰彼もいるだろう。
 どうやってだ、と問おう。深く政治に介入し注目を集め時の存在となり、下手をすれば均衡を崩す程の立場になった人物を、日本や米国が助けたとあれば日本は根本から政治を見直す羽目になる。
 米国に至ってはマッチポンプだなんだと非難の的だ。またしてもありもしない敵を作り上げて戦争を引き起こすつもりだと騒ぎになるのは明白だ。
“誰の手に渡っても厄介”な訳だ。その存在が明るみになり、世論の対象になった時点で生存を望む有権者は消え去った。
  _
( ゚∀゚)「嫌いか、普通の人種を殺すのは」

( ^ω^)「それを護るために殺し続けてきましたから」

 問いに対して僕は刹那で返す。その答えに彼は冷めたように笑った。
  _
( ゚∀゚)「ならこう考えろ。俺達は国賊を殺す為に遥々海を越え山を越えやってきた。糞みたいな戦場にな。
     正義の下にあんたは蘇り、俺はそのバックアップを担当し、つつがなく全てを終え、帰ったら糞をひりだすんだよ。“くそったれ”ってな」

 そのアメリカンジョークに、果たして笑うべきかどうか迷った。何せ“糞程に”そして“下らない”からだ。
 そんな僕の脳内を読み取ってか、僕の視界にハロー博士からの言葉が表示される。
“ナイスジョーク”――後でぶん殴ろうと思う。

( ^ω^)「……いいですお、別に、何であれ。今や僕は走狗のそれですからお」
  _
( ゚∀゚)「まるで諦めたような物言いだな。それが諦念ってやつか?」

( ^ω^)「適応するためのコツですお。先輩からのアドバイスだお、受け取れおジョルジュくん」
  _
( ゚∀゚)「……へへ。ガキが一丁前に言いやがる」

 さて、と僕は彼に振り返り、改めて今夜の作戦を問う。

410 ◆hrDcI3XtP.:2020/08/02(日) 17:59:30 ID:2ga1gPtA0



( ^ω^)「……作戦内容は?」



  _
( ゚∀゚)「……片割れの組織に夜襲を実行させ、その混乱に乗じて突入、第一目標を殺害の後に最大目標の確認後、離脱だ」




 世に血の降らぬことがあろうか。
 僕は頷くと、彼と拳を打ち交わした。


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411 ◆hrDcI3XtP.:2020/08/02(日) 18:00:04 ID:2ga1gPtA0



 一 上 

 了



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412 ◆hrDcI3XtP.:2020/08/02(日) 18:01:30 ID:2ga1gPtA0
本日はここまで。なんとかこのスレ内で幕間を終わらせたいんで1レスの内容が膨大ですが御理解いただきたく
外道は明日にでも、それではおじゃんでございました樹液啜ってきます

413名無しさん:2020/08/02(日) 19:05:22 ID:iC4eufPc0
乙津

414 ◆hrDcI3XtP.:2020/08/12(水) 01:24:59 ID:qd1M4sss0



 一 下



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415 ◆hrDcI3XtP.:2020/08/12(水) 01:25:22 ID:qd1M4sss0

 轟、或いは弩という音が連なり、戦塵に包まれた中東某国は阿鼻の地獄と化した。
 吹き荒れる熱波は防衛線を境にして、時に擲弾が宙を泳ぎ、建物へと着弾すると破壊を振り撒いた。
 築かれた塁壁には応戦の為にと武装した民兵が身を伏せ、迫る敵兵へと銃火を浴びせる
 逃げ惑う市民は避難用のシェルターへと向かい、我先にとひた走り、その大河に呑まれた者は大人であれ子供であれ抗う暇もなく踏みつぶされていく。
 荒れ狂う景色の中、僕は四年前の光景を思い出していた。

( ^ω^)(……戦場だお)

 国も違えば敵も違う。だが香る臭気や張り詰めた空気を感じると、ああ、己はやはり蘇ってしまったのだと自覚する。
 鉄火場において正常と呼ばれる言葉は意味を失う。そこに必然はなく、無慈悲なままに人々の命が散っていく。
 ましてや苛烈極まる虎口となればその勢いは烈火の様で、死も生も曖昧となり、強きも弱きもなく、運と、それを呼び込み己の力とすることが命運を別つことになる。
  _
( ゚∀゚)「気分はどうだい、大将」

 僕の隣で身を伏せているのは元特殊部隊の人物、ジョルジュ・ナガオカだった。現在はCIAに籍を置き、只今においては僕の相棒だ。
 一度の作戦における仲とはいえ、彼の存在に安堵を抱く。無能な人材ならば、それこそ足手まといでしかないが、武装もない割に平然とした様子が胆力を物語っていた。
 彼の言葉に適当に頷くと、僕は景色に注意を払いつつ、彼の目線に合わせて屈みこんだ。

( ^ω^)「思った以上に派手だおね。やっぱ紛争の最前線なだけはあるお」
  _
( ゚∀゚)「そんだけの武器や支援組織が互いにあるってこったな。嫌になるねぇ。結局は冷戦の延長だぜ、実態はよ」

 既に彼との間柄においては砕けたような具合になっていた。彼自身がひょうきんな性分でもあるし、僕も僕で無駄な距離感は煩わしいし作戦の障害にすらなり得る。
 単純な信用問題であり、言葉の一つでそれを表現できるのだから、アメリカナイズもそう悪くはないもんだな、と適当な感想を抱いた。

( ^ω^)「まぁ背後で暗躍する米と露、中のいがみ合いは別として……こんだけ混乱すりゃ応戦で手一杯だろうお、奴さんも」
  _
( ゚∀゚)「とは言え指揮系統はよく練り上げられてるな。寝返った軍部の連中も無駄な教育しやがって、ちゃっかり攻撃線も伸びてる。こりゃ完全に殲滅するつもりだろうよ」

( ^ω^)「因縁の関係も今夜で終わりかお。まさかそれを米国が裏で操作しただなんて、こりゃスクープ確定だおね」
  _
( ゚∀゚)「おいおい、俺の隣にいるお前はどこの所属だよ? こりゃ米日の共同作戦だぜぇ? 呉越同舟だ、加担してんのは事実だろ」

( ^ω^)「アホ言えお、同床異夢だお。そもそも敵対関係でもないしお」

 軽いやり取りの最中に頭上をロケット弾が飛んでいった。少しもすれば領土内の幾らかで小さな爆発が相次ぎ、こりゃおちおちしていられん、と僕達は同時に頷く。
 そうして顔を引き締めると、荒れ狂う戦火の中を走りだした。

416 ◆hrDcI3XtP.:2020/08/12(水) 01:26:09 ID:qd1M4sss0

( ^ω^)「先導するお。はぐれないでくれお?」
  _
( ゚∀゚)「少しは“情報連結”の恩恵を賜りたいもんだけどな。やっぱダメ?」

( ^ω^)「専用の“戦術システム”共有デバイスはあるけど目立つお、ゴーグルだし。ここら辺の地域はまだ旧世代の装備だお、状況に同化は出来んおね」
  _
( ゚∀゚)「はーあー、折角こっちは秘伝の変装技術を惜しみなく披露してやったってのによぉ、そりゃずるいって」

(; ^ω^)「その代わりに僕が先行するんだからいいだろうお、文句言わんでくれお」

 落胆した声に呆れるが、しかし彼の施したスパイ技術は流石のそれと言えた。
 僕達の身体は浅黒い肌となり、顔も掘りの深い印象へと変貌した。毛髪も傷んだ具合になり、ニオイも硝煙や泥土に塗れている。
 アジア系の顔立ちが珍しい訳ではないが、それでも変装後の見てくれは地域的に見て“馴染みのある、それでいて記憶に残り難い一般的な外観”だった。
  _
( ゚∀゚)「潜入ってのはつまりはそこに帰結すんのさ。バレるバレないはガキのレベルだ。そこにいたのかどうか、そもそも印象すら覚えられない程度に”その目的地の普通”を徹底するわけ」

( ^ω^)「流石は元グリーンベレー、そんで現役のCIA局員ってかお。武器の一つもなく通信機器すらない、或いは……肉体に直接埋め込んであるとかかお?」
  _
( ゚∀゚)「ははは……それもまた“旧世代的”だぜ、大将。俺もお前も……ゴーストでなきゃいかんだろう。ファントムと呼んでもいい」

 彼の言葉はつまり、簡単にいうならば“身元を特定する物は何一つとして装備していないし通信機器や発信機等も論外”というものだ。
 恐れ入る。ある意味では国に見放されているような気までしてくる。
  _
( ゚∀゚)「ま……仲良くやろうぜ。死人同士さ」

( ^ω^)「…………」

 含みのある言い方だったが僕は追及せず、自身の視界に表示されている攻略ルートを指示の通りに駆け抜けていく。
“情報連結”――軍事衛星を介して中央、或いは司令部と呼んでもいいが、そこと現地とでの意思疎通と情報交換を簡潔に済ませるような、適当に言うならばこの程度の説明で十分だろう。
 それに何の意味があるか、というのは語るまでもないが、軍事衛星、つまりスパイ衛星から在地の情報を観測し、リアルタイムで現時点にどこに誰がいてどのような武装があり、またどのような行動をしているかも直接に理解出来る。
 しかも言葉を交わす必要がない。僕の脳内では情報が常時更新され、最新の戦略が練られていく。

( ^ω^)(シールズとかの特殊部隊も現在はこれが主流だけども……よもや生体を通して、しかも神経速度でやり取りが出来るってんだから、そりゃ欲しいだろうお、この軍事技術)

 衛星を介しての戦術は現代では当然だ。遠隔攻撃もこれを元に作戦が実行される。
 しかし現代兵器の精度は期待に届かない。対して直接の人力――生体を意味する――による白兵戦術ならば確実性は天地の差と言えるだろう。

417 ◆hrDcI3XtP.:2020/08/12(水) 01:27:13 ID:qd1M4sss0

( ^ω^)(お……目的のルートだお。検問も開放されてる……こりゃほとんどの兵力が前線に駆り出されてるのかお。戦略としては悪くはない……かおねぇ。現代戦においては攻撃は防御に勝るし)

 第一目標に迫り、複数の情報項目を脳内で処理すると僕達は様々な音と衝撃が飛び交う検問を突破する。
 この検問を超えた区画が軍事の拠点であり、複数ある施設では人の波が出たり入ったりを繰り返している。
 近くの幕舎には負傷兵が担ぎ込まれていた。並べられたそれらの状態で対応が変わってくる。

( ^ω^)(……足が残ってるやつには特攻自爆用の爆弾を、凡そ復帰出来ないであろう兵士には銃、あるいは刃物……かお)

 様々な結果があり、それが戦場の全てだった。紛争の地帯で、ましてやまともな医療施設もないだろう激戦区ではそういったことが罷り通る。
 眉間を打ち抜かれ血の海を作る男性がどこぞへと運ばれていくのを後目に、僕は相棒――ジョルジュを誘導しつつ目的の施設を目指す。
  _
( ゚∀゚)「照明の数がすくねえな……奴さんら、流石に爆撃でよく学んでやがる。こうも暗い環境であっても肉眼で戦闘出来る程度の明かりしか焚いてねえ」

( ^ω^)「お蔭で夜分の、しかも戦闘の最中じゃさっぱり概要が分からなくなるけども……あれだお」

 如何にテロ組織に占拠された土地とは言え、流石に首都に爆撃は早々出来たものではない。
 だがそれを理解した上でも、敵戦力からの高度爆撃等の攻撃を想定し、情報を隠蔽する目的で軍事領域は闇と同化している。
 それでも僕には何の問題もなかった。夜戦の装備は端から備わっている――己の視界そのものを意味する――し、相変わらずの優位を誇る“情報連結”から正確な情報を処理していく。
 衛星からでは夜間の観測は不利だが僕の視界から直接在地の情報を取得出来る。双方から得たソースを元に現在進行形で作戦は洗練化され、僕の視界に確定された目標ルートが表示された。
  _
(; ゚∀゚)「ひゃー、おっそろしい……情報処理早すぎだろ」

( ^ω^)「まぁそもそも、目標人物の特定はそっちで済んでた訳だし、確かな道順さえ確立出来ればそう難しくはないお」
  _
(; ゚∀゚)「簡単に言うなぁ……特殊訓練の経験もあるのかよ?」

( ^ω^)「軍事的なものは何一つ学んじゃいないけどお、子供の頃に似たようなこと、やらされてたからお」
  _
(; ゚∀゚)「似たようなことってのは――」

( ^ω^)「暗殺」

 脳裏におぞましい記憶が過るが、それは中央側からの意識操作により記憶に蓋をされる。
 またこりゃ便利なもんだ、と感心しそうになるが、こうなるといよいよ僕は人間の扱いではないな、と少々の虚しさを覚えた。
  _
(; -∀゚)「おーおー、流石は世の暗がりで名を馳せただけはあるってこったな。端からこっちの仕事が向いてたわけだ。破壊工作や暗殺なんかの特殊任務に」

( ^ω^)「……どうだかお」

418 ◆hrDcI3XtP.:2020/08/12(水) 01:27:54 ID:qd1M4sss0

 厭味と取るか単純な感想と取るかは難しかったが、僕は素っ気ない返事をして会話を終わらせる。
 何故ならばここからが本番だったからだ。
 確かに混乱に乗じて敵地に潜入するというのは作戦内容としては儘見受けられるし、隠密行動において強行手段は最低な所業であるからして、現地での直接的な支援が望めない場合は選択として優良かもしれない。
 だが敵方にとってすれば人質というのは“生かしておかなければならない大切な材料”だ。故に、こういった状況であるならば、予想されるケースとして――

( ^ω^)「……あれだお」
  _
( ゚∀゚)「おーおー、丁重なこって……」

 真っ先に保護を優先されることになる。
 僕とジョルジュはそれを見た。複数の兵士に誘導され、回廊を駆け抜けていく件の男性――百億円の値札をつけられた日本人を。
 手枷から伸びる鎖は四つあり、手綱を握るのは当然のように武装した四人の兵士だった。
 更に前衛、後衛共に一人ずつ、計六名によって護衛される姿はまるで王族の扱いで、彼等は地下へ続くと思われる階段を目指しているようだった。

( ^ω^)(地下……脱出用のトンネルがあるのかお、この施設。或いは複数棟に用意されてるのかもしれんけど、うーん……)

 仮に彼等が外へと飛び出し、車両か何かに乗り付けて脱出するのであれば目標の一つは楽に済んだ。
 理由は単純だ。外であるならば幾らでも始末のしようはある。爆発に巻き込むなり銃火に巻き込むなり、闇に乗じて狙撃するなり楽な部類だ。
 ところが地下の空間は限定的な上に戦域の他所だ。逃走用の経路であるならば一本道だろうが、どこぞへと合流する形か、はたまた単一の出口にのみ通じるものなのかは不明瞭だった。
 如何に軍事衛星を複数持つ我が国であっても地中の観測は不可能だし、こういった逃走経路を発見するのは現実的に言えばとても困難だ。
 となれば今すぐに追いかけて、他の誰とも接触する以前に、あの六名と一名を標的の数と確定し、殺してしまわなければ面倒が極まる。

( ^ω^)「ジョルジュ。そっちは頼んでいいかお」
  _
( ゚∀゚)「おー、いいぜ。いいのか、楽だぜぇ、こっちの方がよ?」

( ^ω^)「逆だお。君はこの戦域全ての人員が敵になり得る状況だお。そんな最中に敵首領の発見なんてのは死兵のそれだお?」

 僕の場合はスピード勝負だ。さっさと追いついて一分以内に敵戦力を殲滅し、邦人男性を殺さなければならない。
 或いは内部では混雑が起きている可能性もあるし、後続がないとも限らない。
 施設内では段々と檻の開く音がし、軍靴が至るところからしてくる。優先的に邦人男性が保護されたが、続々とそれに続く波が形成されようとしていた。
 これ以上の猶予はない。僕は言葉を終えると駆け出し、先の連中が潜っていった地下へと向かう。
  _
( ゚∀゚)「それもまた慣れっこさ。目標を殺したらよ、出口まで突っ走って脱出してくれ。俺のことは放っておいてさ。
     んで、トルコでまた会おうぜ。会えなかったら……死神に誘われたとでも思ってくれよ、相棒」

 それが最後の会話となるかは分からない。彼の表情を見る暇もなく、それを確認するつもりもなかったからだ。
 彼が異物であるとバレた時、敵の陣中で武装した敵勢力との戦闘に陥った場合――他にも不安の様々が浮かぶ。浮かぶが、それでも信じるだけだった。
 お互いの役目を終え、トルコで再会を果たし、“散々な任務だったよな”と、笑い合う未来を強く願った。

419 ◆hrDcI3XtP.:2020/08/12(水) 01:28:36 ID:qd1M4sss0

( ^ω^)(敵戦力は六名。全員が武装をしてて、時間的猶予は皆無。内部の情報がないのが最悪だおね……先行する他の隊があったら迎撃されて終わりかお。なんちゅー運任せ……)

 これだから戦場は嫌なんだ、と内心で悪態をつく。
 だがどうあれなんであれ、僕は己の役割を果たす為に階段を駆け下りると、地下道入り口へと辿り着き、先へと続く方向を見据えた。
 内部は人力によるものだろう、荒く削られたトンネルがあり、木組みで補強された通路が続いていた。
 光源には松明が等間隔で設置されており、通路の幅は狭く、成人男性二人が横に並ぶのが精いっぱいだった。

( ^ω^)(声……まだ全然移動してないおね。様子からして邦人男性がぐずってんのかお)

 通路の先から声が反響する。聞き慣れた言語――日本語だった。
 どうにも足掻いているようで、放してくれ、助けてくれ、この人殺し、等々思いの丈を情熱的に叫び散らしている。
 実にありがたく、僥倖の限りだった。僕は意識を集中させ、全身の筋肉を緊張させると、地面を強く蹴り抜く。

( ^ω^)(さあ、初陣だお――ぉおお!?)

 蹴り抜き、景色を駆けると、その出力や速度に心底驚愕した。
 今の身体は重いつくりだ。凡そ百十キロある。背は百七十八程度だが、そのアンバランスにも程がある身体が、思い通りのままに、いっそ描かれた理想のままに、忠実に運動をする。

(; ^ω^)(はっえぇ!?)

 嘗ての己の身体を思いだす。まるで全出力時の同程度、どころかそれよりも更に使い勝手がよくて、それと言うのも疲労の一つも感じないしストレスもない。
 ハロー博士の話では出力の制御は自身の意のままとのことだったが、戦闘状態による高揚感からか、僕が予想していた出力よりも馬力が勝っていた。
 率直な感想を抱くと共に、視界の先で立ち往生している群れを発見する。やはり予想通りに邦人が抵抗をしていたようで、小隊の動きが鈍っていた。

『お!? なんだおm――』

 揺れる松明の炎を掻き消し、僕は最後尾の男と接敵する。
 運動能力に未だ感覚が追い付かないままで、ああ、よもや会敵したかと内心では焦燥を抱いていた。
 だが、男は言葉の先を紡ぐことも出来ず、その命を散らして終わるだけだった。理由は単純だ。接敵と同時に、僕は右手を伸ばし、その男の首を掴み、圧し折ろうと思っていた。
 思っていたが、その先の必要を失ってしまった、というのが結果だった。

『――ぇげ?』

 首を握りしめただけで男の首を圧潰してしまい、皮だけで繋がっている頭部が垂れ、漏れだした言葉と同時に男が倒れる。
 その一連の流れは接敵から殺害までに二秒程度の時間で、男が倒れ伏す寸前に胸にあったナイフを頂戴し、手綱を握る四名へと迫る。

420 ◆hrDcI3XtP.:2020/08/12(水) 01:29:06 ID:qd1M4sss0

『おっ――』

『え゙っ――』

 最初に、後方二名の首を一つの剣閃で刎ねる。
 刃の質は大した程度ではないが、無理矢理に、それこそ力任せに振るった結果、一閃のみでことは終了した。

(; ^ω^)(――……サイボーグ体なんてまったく信用してなかったけども、これは……この感覚は……)

 吹きあがる血飛沫を既に通り過ぎ、拘束されていた邦人男性を地面に叩きつけ、その先にある残り三名へと刃を振るう。
 残る三名はようやっと僕の存在――敵による奇襲に気が付いたようで、最前線の一名がアサルトライフルを構え、残る前衛二名が短銃を構える。
 が、その速度だ。その行動の全てが僕にはスローに見えていた。

(; ^ω^)(全盛期のまま――いや、それよりも尚感覚が鋭敏化してる……僕の『超感覚』まで強化されてんのかお……!?)

“視える”――どこまでも透き通って、男達の鼓動までもが輪郭を帯び、全ての音が巨大に聞こえ、己の目に映る景色の情報が津波のように押し寄せ、脳内で最適化の処理が施されていく。

(; ^ω^)(一人目、右前衛――心臓に一突きだお……構えが遅かった。右足、怪我してんのかお……耳も負傷してる、っぽい?)

 一人目の敵の心臓へと刃を突き立てる。短銃を引き抜いた時点で僕の接近速度が勝っていた。
 完全に銃口を定める以前に僕は眼前へと迫り“刃ごと身体を貫通しない程度の出力”に抑え、的確に心臓の半ばで刃を止め、引き抜くと同時に景色へと更に踏み込む。

(; ^ω^)(二人目、左前衛――トリガーを弾く瀬戸際だけども、左足で銃を構える両腕諸共に蹴り上げて、そのまま顔面を拳で“ぶちぬく”――)

 二人目の敵の反応速度は優秀だった。既に銃口は僕の胴体へと定められていた。頭部ではなく即座に行動を止める為に面積の広い部位を狙う手腕、見事だ、と内心で感想を零す。
 だがそれを許す訳にはいかない。構えられたと同時にその両腕を回し蹴りの要領で蹴り飛ばす――程度では済まず、両腕は拉げたように砕け、刹那の時を挟んで僕の右拳が顔面を打ち抜く。
 ほぼ全力に近い出力で殴った結果、頭蓋が破裂し、その内容の全てを景色にぶちまけ、僕はそれを浴びながらも更に前進した。

(; ^ω^)(最後の敵――構えられている事実、距離もリーチ外……もう二、三歩踏み込めば届くだろうけど、恐らくトリガーを絞られるのとほぼ同時になる。だったら――)

 最後の敵は既に攻撃の姿勢であり、その距離は凡そ七歩程の差だった。無理矢理に駆け抜けて無力化するのも手だ。
 しかし幸いにも、今、僕の手の中にはナイフがある。それを見つめ、構えれば、ああ、やはり己には刃物が最適だと結論付けることが出来た。
 何故ならば僕の投擲――“飛刀”は“最強無敵”を誇った我が姉直伝の奥義だからであり、僕もそれを得意としている。
 故に、僕の投げ放ったナイフは見事に敵の咽喉へと突き刺さり、衝撃と共に最後の敵は倒れ、血の泡と声にもならない断末魔を零して命を手放した。

『――見事、お見事だよキャンディーボーイ。君の手腕を疑っていた訳ではないが……会敵から殲滅まで凡そ九秒。最早化け物だよ、君は』

 敵戦力を無力化し、その事実を実感したのは耳元に届いたハロー博士の言葉を認識した時だった。
 生前の最高出力に程近い具合を試した形だったが、違和感はなく、どころか自身の感覚が追い付けない事実。

(; ^ω^)(化け物……かお)

 それで正しいと思った。存在してはならない程の脅威だと自身を恐ろしく思えた。
 そしてこのデータを元に、更なる飛躍がなされる“新世代”の戦争を思えば、平和を得ることとは破壊を手にすることなのかと、そう、思えた。

421 ◆hrDcI3XtP.:2020/08/12(水) 01:29:51 ID:qd1M4sss0

「いっ、ぐぇっ……いででっ……な、何が起きてんだ……!?」

 敵を無力化する際、先の邦人男性を一度地面に叩きつけていた。
 顔面から地面に突っ込んだせいで、更に僕の雑な加減のせいで、彼の鼻骨は折れ、右目が大きく腫れ、前歯の二本も折れている。
 状況に追いつけないながらも存在を証明する声に僕は立ち上がる。立ち上がり、呼吸を整えると、着実な足取りで男へと迫った。

「あ……!? なんでこいつら、死んで……!? あ、あああ、あんたなんだよ、何者だよ!? もしかして、たす、助けにきてくれた、とか……!?」

 邦人男性は理解の及ばない状況ながらも、己を拘束していたテロリスト達が葬られた事実から、どうやら助けられたと勘違いをしていた。
 そう思うのも仕方がないだろう、と思う。だがそんな優しい事実は存在しなかった。

「分かったぞ、あれだろ!? あんたぁ、あの組織の、片割れのさ、ほら! 俺が世話になってた、あそこの――」

 希望に夢を抱き、生存の望みを実現する為に、彼は一縷に縋る獄の鬼にも見えた。
 だが、もう、その言葉の続きはない。そしてこの先に紡がれるべき人生も、果たせなかった情熱の数多も、この遠い中東の地で終わりを告げる。

「あでっ――おでっ――なんでっ――」

 躊躇いもせず、僕は男の首を掴み、それを圧し折る。
 その音と衝撃によって男の呼吸が一度止まるが、肺に残された息が漏れると、咽喉を鳴らし、彼の今際の台詞が零れてきた。
 間もなく、瞳の色合いは黒一色となり、身体からは力が失せ、呆けたように開いた口元から舌が伸びてきて、その隙間から泡立った血潮と唾液が混ざって滴る。

( ^ω^)「……すまないお。我が国の為に、どうか……許してくれお」

 彼は『鬼違い』と呼ばれる存在でもなく、人々を脅かす思想を持つだとか、危険な組織を運営指揮するだとか、悪のそのものとは程遠い、しがない普通のジャーナリストでしかなかった。
 ただそれだけの人間だった。偶々のことだった。だがその偶々によって多くの有権者達に危険視され、不用な人物と見なされ、その生存を許されない結果となってしまった。

( ^ω^)(これもまた、一つの正しさなだお)

 まるで自分に言い聞かせるような台詞だった。
 ずっとそうやって生きてきた。遣える組織は違えど、僕の生涯とはつまり、他者の意思により行動を決定され、生存の為に殺しを手段とし、贖罪の為にと悪と定めた誰ぞかを葬り続けてきた。
 握り潰した首の感触が、まるで消しゴムで消すように感覚から消え去り、抱いていた筈の罪の意識すらも溶け、僕の脳内がクリアになっていく。
 けれども――

422 ◆hrDcI3XtP.:2020/08/12(水) 01:30:37 ID:qd1M4sss0






( ^ω^)「……消えないおね、声……」





 耳朶を濡らす声。存在しえない筈の姿。
 それらに今、僕は包まれ、或いは囲まれ、そうして囁かれる。





『人殺し』





 幻聴だと理解していた。
 心理の操作、記憶の制御の弊害か、或いは副作用と呼ぶべきか。
 それらは幻だと分かってはいても、それでも、僕は血で満ちた闇の中、死者の山を背負い、怨嗟の声を聞いた気がして、己の生は許されてはならないと痛感した。

423 ◆hrDcI3XtP.:2020/08/12(水) 01:31:45 ID:qd1M4sss0

 ◇


 東欧はトルコ、イスタンブルに僕はいた。
 先の目標を達成した後、死力を尽くす勢いでトンネルを駆け抜け、凡そ十キロものマラソンを終えると地上へと這い出た。
 幸運にも先行した部隊はなく、地上では避難民の扱いを受け、ああ、至極幸運であると胸を撫で下ろす。
 その後は適当に状況を離脱し、途中で車両を拝借し、約一日と半をかけて約束の場所に到着した。

( ^ω^)『これくださいお』

『はいね! どうぞ!』

 特殊強化体になって臓器の全てが人工物となろうとも腹は減るし咽喉も乾く。この撤退の最中食わずや寝ずやのままで、僕は目抜き通りの隅で芳しい香りを聞くと、ケバブを豪快に貪った。
 差し出されたジンジャーエールを啜りつつ、ただ飢えと消費した体力を回復する為だけに食事をする。
 味覚はある。だがそれも鈍く、最早美食の云々など語ることも出来ず、食後、脂に塗れた手を適当に拭うと曇った空を見上げた。

( ^ω^)-3「げぇっぷ……はてさて、ここで待つのはいいとしても、猶予は半日くらいだおね」

 目覚めてから未だ日は浅く、それでも寄越された特殊任務を完遂し、誰に特定されることもなく僕は生存を果たした。
 だが今回の任務には目標が二つある。うち、一つは僕が確実に果たしているからノルマの半分はクリアしたと言えるが、僕の相棒を務めた彼の生存が確認できないとあれば、実質的に任務は失敗したともいえる――
  _
( -∀゚)「行儀のわりーゲップなんざしてんなよ、大将」

( ^ω^)「お……ジョルジュ」

 そんな風に、空を見上げてぼうと考えていると、背後から肩を叩かれる。
 そのままに彼は僕の横に並び、先の僕と同じようにケバブを頬張っては、こりゃいい食い物だと至極満悦とした表情だった。
 何ともないような、まるで生存も作戦も万事完全に終えるのは当然ともいうような態度に僕はかぶりを振り、要らぬ心配だったと小さく笑う。

( ^ω^)「……いいとこだおね、トルコ。嘗てはオスマン帝国と名乗って他国を蹂躙支配していたとは思えんくらいに」
  _
( ゚∀゚)「実質、最強の国家だったさ、オスマンは。東ローマ帝国をぶっ潰して近隣諸国を飲み込んで、ハンガリーと常に敵対して、んでその勢いのままにロシア帝国に喧嘩を売れば……結果は惨敗だ」

( ^ω^)「歴史家の間じゃあ、別にオスマンは特別な強さはなかったって言われてるらしいお。単純にその地域で強い国家がなかったからって」
  _
( ゚∀゚)「かもな。けれども時の覇者を謳うに足る呼ばれ名こそが“キリスト教最大の敵”だろうよ」

 その言葉に僕は頷き、ジンジャーエールを啜る。
 やはり味わいがよく分からない。恐らく強い生姜の風味がするだろうに、それでも刺激は然程感じなかった。

424 ◆hrDcI3XtP.:2020/08/12(水) 01:32:50 ID:qd1M4sss0

( ^ω^)「結局、いつの世であれ、キリスト教に敵対する存在は粛清される運命なのかおね」
  _
( ゚∀゚)「どうかな。例えば十字軍遠征や、魔女狩りなんかも含めていいが……それを正しさと証明付けるのは不可能だ。手段は闘争であり結果は虐殺だぜ」

( ^ω^)「おー、欧米生まれの人間とは思えん……宗派は?」
  _
( ゚∀゚)「ないさ、そんなもん。無宗教だよ。聖母マリアを見上げたところでヤれねえなら女としての価値はねえだろ?」

 そう言って笑う姿に、つられて僕も笑う。
 晴れやかな気分であり、やはり、それというのも、彼の生存が何よりもの理由だろう。
 その実力を疑うことはなかったが、それでも絶対の生存なんてものは有り得ない。無敵を誇った我が姉ですら『躯』の手により殺された。
 僕自身も、最強を謳ってはいたものの、どこぞの科学者に心臓を刺されて一度死んでいる。
 必然的な生や死はない。いつだってそれは唐突にやってきて、抗うことも出来ずに生きる者達は運命と呼ばれる糞の流れに呑み込まれていく。
  _
( ゚∀゚)「……最大目標の首領な。あの場にいたよ、驚きだ。とっくに撤退してるかと思えば現地で迎撃するってよ、暴れてんのよ、最前線で」

( ^ω^)「……そりゃ“恐ろしい”おね。米国からすりゃ心底不安だったろうお」

 そうだろう、と僕は彼の瞳を見る。

( ^ω^)「殺すべき時期に殺したいんだろうお。もう直にそっちじゃ大統領選だし、次に腰を据える人物は、恐らく……我が国との共同戦線を以って世の混迷を粉砕したいんだろうお」

 核心に触れるものだった。それに触れる必要なんてない。僕達のような走狗は疑問を抱いたり追及することは許されやしない。
 だが、僕にとって、そんなことはどうでもよかった。任務を終えた今、共に死線を潜り抜けた友とも呼ぶべき彼の生存を喜び、また、一身に背負っているであろう責任を憂う。
  _
( ゚∀゚)「……時代は変わるよな、大将。最早“次世代”へと移行する最中で、その野心を平然と晒す中や、赤の連合の長とも呼べる露の存在は世界の均衡を崩すに足る脅威だろうよ」

( ^ω^)「変わるようで変わっていないんだろうお。冷戦の続きだお。ずっとずっと、その睨み合いは続くだろうお」
  _
( ゚∀゚)「繰り返される争い……経済戦争から通信技術の争奪戦、果ては各国間におけるチームワーク……仲良しグループの形成がなければ、彼の両国を抑えることなんて出来やしねえ」

 その言葉に僕は無言で頷き、曇る空を見上げる。
 果たして真なる平和とはなんなのだろう、と空に問う。様々な思想や文化の差異、信仰の差異。人と人は相対的な関係であり、その垣根を超えない限り、きっと、“敵”を消すことは不可能だ。
 では敵とは何だろう。生活を脅かす、生命を脅かす、環境を脅かす、それらを齎す存在は、果たして本当に敵と呼ぶべき存在なのだろうか。

425 ◆hrDcI3XtP.:2020/08/12(水) 01:34:50 ID:qd1M4sss0
  _
( ゚∀゚)「二分化されたこの世界は、結局、住み分けることも出来ないまま、果てのない牽制を繰り返しちゃ、また世の空気を悪くし経済の流れを狂わせ、人々の生活を滅茶苦茶にするだろうよ」

( ^ω^)「…………」

 多くの景色を見てきただろう彼は、先のイラクで何を思っただろう。
 当時、そこには大量破壊兵器があるとされ、時の大統領は軍を派兵し、それのバックアップとして我が国家からも自衛隊が派遣された。
 だが先の戦争の結果に判明したことは、大量破壊兵器と呼ばれる存在はどこにも見当たらず、結果的に、米国による制裁と地域の蹂躙こそが人々の記憶に強く残る形となった。
  _
( ゚∀゚)「……生かしておかなきゃよ、あの首領を。密なる関係になって、いずれ必要とされる最大の機会を得た時、我が国の精鋭が組織を粉砕する。
     邦人一人の命よりもテロリストの親玉こそが我々にとっては重要だったなんて……酷い話だろう」

 それが今回の任務の本当の目的だった。
 邦人男性の処刑を防ぎ、己等の手で殺し、件の組織を運営指揮する人物の“安全、撤退の確認とパイプの確保”こそが我々の真なる目的だった。
 僕はそれを伝えられちゃいなかった。だが夜襲を嗾けることすら可能であり、多くの必要な条件をつくり出せただろう米国が敵首領の断定のみを目的に特殊戦闘員二名を派遣するのは割に合わない。
 一つに、僕の試験的な運用もあっただろう。それに我が国は頷き、結果として見れば大きな損害はなく、寧ろ僕から測定されたデータに値千金と歓喜の様だろう。

( ^ω^)「罪なき民間人の命と大量虐殺者の命は同じ程度ではない、と思うかお」
  _
( ゚∀゚)「さあな、それこそは哲学の域だろう。ただ、俺は世に正しさなんてもんはねーんじゃねえかと、ずっと思ってる」

( ^ω^)「なら何で国の為に戦ってんだお?」

 僕の言葉に数瞬、彼は言葉を探し、口をまごつかせ、けれどもやっとのように言葉を零した。
  _
( ゚∀゚)「……死人だからさ」

( ^ω^)「…………」

 彼は遠くを見つめ、悲しいような、けれども虚しいような表情をしていた。
  _
( ゚∀゚)「俺はよ、先のイラク戦で死んだことになってる。最早IDもなく、存在そのものが禁忌のようなもんだ。そうであっても存在が許されるのは、まあ……使い勝手のいい、優秀な死人だからさ」

 その台詞に僕は親近感を覚えた。
 成程、と思える。お互い、この世に存在していい人物ではないようで、不思議とウマが合うというか歳の差すらも気にならないほど気が合うのは、同じ境遇だったからなのかもしれない。
  _
( ゚∀゚)「きっとよ、生きてる身じゃ出来ないことや託せない事柄は無数にあるんだ。倫理や人道を含めてな。
     だが死人であれば、その存在そのものが世に認められていなければ、ヘマこいて死のうが国は何食わぬ顔で切り捨てられるだろう」

( ^ω^)「……その露払いかお。国家の為にと戦う兵士達や、国で平和を信じる国民に降りかかるであろう悪や害を、その身で受け止めようっていうのかお」
  _
( ゚∀゚)「それが米国が仕出かした悪の清算になると信じている。それがイラクでの強行殲滅作戦に対する己の罪であり、果たすべき贖罪だと信じている」

 強い双眸はまるで当時の地獄を思い返しているようで、向けられた鋭い眼光に僕は言葉を失うだけだった。

426 ◆hrDcI3XtP.:2020/08/12(水) 01:35:25 ID:qd1M4sss0
  _
( ゚∀゚)「それで、それはきっと……お前もそうなんだろう、内藤平助」

 その筈だろうと問われ、僕は語ることもなく、それでも刹那の速度で頷く。
 互い、やはり似た者同士であり、根底にある罪の意識や、それに対する贖罪を全ての理由にして闘争に身を置いていた。
 その贖罪には、罪なき人々を殺めた事実や、救えた筈だろう人々を護れなかった苦しみや、含めれば更に複雑な様々がある。

( ^ω^)「……敵ってのは、なんなんだろうかおね、ジョルジュ。それを殺しまくって驀進を続ければ、僕達は僕達を許せるんだろうかお」

 その問いは残酷だったが、きっと、僕と彼にとっては死ぬその今際に至るまで抱え続けるべき最大の問題だった。
 それは自戒であり、僕は彼にもそれを与え、生まれた沈黙に互いは何を言うでもなく、静かにジンジャーエールを傾ける。
  _
( ゚∀゚)「……なあ、大将。日本はどんな具合だい」

( ^ω^)「お? そうだおねぇ、夏は多くの外国人からすると地獄みたいだおね。冬も冬で雪がとんでもないし。まあそれらも地域によるけどお。でも……」

 唐突な質問だったが、僕はそれに素直な個人的な感想で答えた。
 果たして我が国はどのような国か。世界的に見て平和であり、軍隊も持たず、非核を謳い、各国との連携や信頼関係も十分なレベルと言える。
 昨今急増する『鬼違い』に関連した事件は別としても、やはり過ごしやすく、物価も安定していて、何よりとして、僕にとっては命を散らした思い出の詰まった母国だ。
 だから僕は、内容が空になった容器を潰し、それを手元のビニル袋に入れて一つ息を吐くと、ジョルジュを見つめ、屈託の一つもなく微笑んでみせた。

( ^ω^)「最高な国だお。凄く、凄く……いい場所だお」
  _
( -∀-)「ははは……あんたぁいい人間だな。そんな最高な国にこき使われてるってのに、脳裏に浮かぶのは、そこで平和に暮らす人々なんだろう」

 彼が手を差し出し、僕を見つめる。
  _
( ゚∀゚)「……どうやらよぉ、大将。俺はその日本って国の“公安部”ってところで、更には『ライドウ』とか言う特務機関に暫く厄介にならなきゃいけねえらしくてよ?」

( ^ω^)「おー、こりゃ分かりやすい人身御供だおね。その変わりにこっちの軍事技術を寄越せ、かお」
  _
( ゚∀゚)「ま〜いいじゃねえの、そう悪くはない関係性じゃねえか。一回りも年下の小僧のもとに降るってのは癪だけどよ、そんでも不思議とあんたが俺は好きさ」

( ^ω^)「おっお。僕も君が嫌いじゃないお、ジョルジュ」

 ここからが本当の始まりなんだろうと理解した。
 僕と彼、たった二人の死人だが、そんな死人二人が、後の世界の暗部の均衡を監視し、操作し、時に他国へ出向いては誰ぞかを殺し、或いは誰ぞかを生かす。
 その行動の背後には国家という大正義の御旗が揺れ、吹き荒れる神風を止めぬようにと、僕達は闇へと沈んでいくのだろう。

427 ◆hrDcI3XtP.:2020/08/12(水) 01:36:34 ID:qd1M4sss0





  _
( ゚∀゚)っ「つーわけで……これからよろしく頼むぜ、ボス?」




( ^ω^)っ「おっおっ……背中は任せたお、相棒」




 僕と彼は、死者と死者は握手を交わす。
 共に生存が許されな立場であり、共に闘争の中でしか役割を果たせない国家の道具でしかない。
 けれどもきっと、人切り包丁は有り得ることであり、その道具が意思を持つこともあるだろう。
 或いは走り回る犬こそがそれを銜え、血に塗れる刃を振るい、大きな遠吠えを響かせ、朱に染まる漣と燃える潮を夢見て、闇を駆け抜けるのだろう。





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428 ◆hrDcI3XtP.:2020/08/12(水) 01:37:29 ID:qd1M4sss0



 一 下 

 了



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429 ◆hrDcI3XtP.:2020/08/12(水) 01:38:53 ID:qd1M4sss0
本日はここまで。恐らく今週中に終わらせますが残るエピソードは二つ程度になります
一気に投下するか悩みますが、それではまた次回。おじゃんでございました

430名無しさん:2020/08/12(水) 04:22:47 ID:lDCi9mng0
乙 面白かった
内藤の化け物具合に拍車がかかっててやべぇわ

431名無しさん:2020/08/12(水) 09:47:26 ID:Ab3nlpcM0
乙です

432 ◆hrDcI3XtP.:2020/08/13(木) 07:31:56 ID:zc0oUUpo0



 二 上



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433 ◆hrDcI3XtP.:2020/08/13(木) 07:32:23 ID:zc0oUUpo0

 目覚めてから約二年の歳月が経ち、僕はジョルジュと共に世界各国を渡り歩いた。
 全ては我が国における益が由来するものであり、僕達は正義を掲げて多くの組織や人物達を殺してきた。
 例え悪と疑わしき存在であろうとも敵と見なせば殺しの対象だ。一家諸共に海の底へ沈めたり、必要とあれば己で首を括らせたりもした。
 そういった連続する死の景色の中、まともに休める時などなく、三日、四日を寝ずや食わずで過ごし作戦に身を投じることも少なくはなかった。

( ^ω^)「……制圧完了、かお。ジョルジュ、そっちは?」

 とある時期、僕はトルコを経由してロシア以東にある某地区へと訪れていた。
 近年、ロシア近辺で人攫いが頻発しており、それらは様々な用途を理由に必要とされ、中でも子供の拉致が各国で相次いだ。
 子供は商品として申し分のない価値を誇る。性別や出身地や見てくれにもよるが、子供一体につき平均して二百万円程度が相場だった。
 今回の作戦における僕達の役割というのはロシア近隣国にある特別自治区からの支援要請であり、支援国でもある我が国の令に従い僕とジョルジュは現地へと潜入する。

『おー、こっちも完了だぜ、ボス。そのまま先行しちゃってくれ。俺は近辺の調査をしとくよ』

( ^ω^)「了解。ついでだし回収用のヘリ呼んどいてくれお。一旦トルコを経由してそっからジェット機で帰国するお」

『あいさ了解。油断すんなよ、未だ武装したガキがいる可能性もある』

( ^ω^)「おー……中々に組織立ってたのは事実だおね。よもや兵士化……洗脳までしやがるとは。これもまた貴重な戦争の道具かお」

 僕は周囲に転がる死体の複数を見る。その中には洗脳教育の果てに武装し、組織の為にと従属した少年少女の亡骸もあった。
 幼い頃の己を思い出す。珍しい結果ではない。人員の洗脳や教育というのは存外楽な部類であり、元は被害者の立場であれ、自然と銃を握るよう教育を施されることもある。
 本能を支配された時、人は突き動かされる装置と化す。それを引き出すものとして恐怖による支配、薬物による破壊、心理的な操作が挙げられるだろう。

( ^ω^)(……或いは、姉さんや兄さんの助けがなければ、僕もこうなってたのかもしれんおね)

 同じ立場ではあったが、僕と彼等の違いは救いがあったか否かに尽きるだろう。
 過去の環境は劣悪のそれだったが、今、こうして二度目の生涯を手にし、闘争に身を捧げている現状というのは、ある意味では地獄に舞い戻ったともいえる。
 兎角、僕は敵組織の根城である某地区某施設における戦闘を終えると、内部の探索を進めた。
“情報連結”から得られる最新の情報と自身の視界から得られる情報から、敵と判断出来る人物は皆無であると理解する。
 が、最大の目的は、この組織の壊滅に繋がるであろう必要な情報と、微かに感知された生体反応から憶測できる、拘束されているだろう人質の解放だ。

( ^ω^)(生体反応……あるおね。この少し先、かお)

 果たして組織の真なる目的は、恐らくは戦地へと送る子供達の商品化で間違いはないと思われる。
 子供の使い勝手は最高だ。それは恐らく、闇を知らない人間にも理解が及ぶ内容だろう。
 現代においても戦地では傭兵の存在は大きく、正規軍だろうが非正規軍だろうが戦力増強の為にそれらを金で雇いもする。
 だが高い。勿論訓練された人員というのは非常に強力な戦力だが、しかし単純に戦術ではなく戦略として見た場合、必要なのは武装をし銃を撃つことを可能とする装置だ。
 そんなものは子供にだって出来る。故に少年兵というのは非常に使うのも棄てるのも気が楽で、これは未だにどこの紛争地域でも最先端の流行だ。
 そして他にも性処理の為の携行必需品の扱いにもなる。荷物になると判断したらその場で適当に殺して棄てていけばいい。

( ^ω^)(糞がお……)

 下手に成長し、確立された人格を持つ大人よりも、拙く、幼く、洗脳効果をより覿面に発揮できる子供はどう考えても単純な部類だ。
 それに輸出の幅を広げることも容易だ。子供を趣味とする腐れ外道は多い。それらが大陸を経由して世界各国の闇で売りさばかれ、ブラックマーケットでは今日も今日とて子供たちの泣き声が溢れ返っている。

434 ◆hrDcI3XtP.:2020/08/13(木) 07:32:57 ID:zc0oUUpo0

( ^ω^)「……中々に冷静な判断してたのかお、こいつら」

 とある区画、扉を押し開けば無残に射殺された子供達の死体が転がっていた。死屍累々の様に僕は表情を失くし、途端に怒りが湧いてくるがそれを中央により制御される。
 しかし、そうであっても他人事には思えなくて、僕は屈むと、その一人一人の死体の顔を見つめる。

( ^ω^)(……ごめんお。助けてやれなくて)

 恐らく、僕達の突入と同時に殺されたのだと悟る。大切な商品ではあるが子供は世に溢れ返る程にそこらへんに在る。
 つまり国を問わず商品はいつでもどこでも簡単に入手が可能であり、組織の下した決断は己等の生存と危機からの脱出だ。
 殺す必要があったのか、と問う人物がいるならこう返そう。言語が通じずとも組織の人員を見て外観的特徴すら把握していて、構成すらも凡そで理解している人物を生かす理由がどこにある。
 だからこの子供たちは殺された。口封じを含め、お荷物になるからと、適当な具合で即座に、第一に、殺されてしまった。

『そうも憤るなよ、キャンディーボーイ。ことは既に事後だ。今更どうのこうのと言っても仕方あるまい?』

( ^ω^)「分かってんだおクソアマ……しかし奴さんら、相当に訓練積んでたお。この判断能力もそうだし即座に武装展開して迎撃も見事に思えたお。軍事の出じゃないかお」

 耳元に冷めたような台詞が寄越されるが、しかしそれはご尤もな意見だった。ハロー博士の台詞は現場を知らぬ立場特有の他者の客観的意見だ。しかしそれが気に入らない。
 とは言え現状は作戦の最中にある。僕は先までの戦闘を思い出し、その手馴れた手腕や組織立った動き――隊による構成を前提にした各チームでの連携戦闘のデータを再生する。
 視界の端で先までの戦闘風景が再生される。便利な身体なのは今更な話だが、僕の経験した事柄は全て余すことなく記録されており、屋内戦での対応の様子に彼女は唸った。

『うーむ、そこなんだがね……結構多国籍な構成だったんだよ。いくらかの顔から情報は割れてるんだが、ロシアを筆頭に、朝鮮やらトルコ近辺の元軍事従事者やら、暗部組織に所属する人物も確認されている』

( ^ω^)「おーおー、今時じゃどこもかしこも金を稼ぐ為とあれば共謀、画策は当然ってかお。つーか露助はもっと洗えないのかお、中の人民解放軍もいい話さっぱり聞かんお」

『そんなもの枚挙に暇はないだろう。世界各国の闇を暴こうだなんて途方に暮れる愚行だ。我々は要請の通りに必要条件だけ達成するだけ、あとは当局に委ねたまえよ』

( ^ω^)「へいへい……」

 うんざりとした博士の台詞に僕の方こそ参った顔をしてしまう。やはり正義なんてものは大衆に向けられたものではないな、と肩を竦めた。
 兎角、僕は子供達の死体が横たわるエリアを抜けると、その先にある両開きの扉を開け、生体反応の残る部屋へと踏み入った。

( ^ω^)(……大分弱ってるおね。こりゃもう手遅れかお……)

 部屋の中の様子に僕は何も思うことはない。
 例えば複数設置された光源だとか、適当に放置されている撮影機器や音響機器、更には血に塗れた複数のベッドに怪しく点滅を繰り返す生命維持装置のそれらに、僕は特別な感想を抱かない。
 それもまた、闇では当たり前のように横行しているものであり、僕も元を辿ればこの糞垂れた映像作品の出演から自我の芽生えはスタートした。
 複数あるベッドや倒錯した趣味を思わせる三角形の器具、或いはどう考えても生存不可能な鉄の揺り籠やら。それらは全て血に塗れ、或いは拭いきれぬ程の大小便やらで染まっている。
 蠅がたかっていて、空気は鼻をもぎ取りたくなるほどに醜悪で、衛生的にも精神的にも最悪極まるものだった。

( ^ω^)「…………」

 そんな景色を歩き、僕はようやく室内の中央へと辿り着く。
 スポットライトで照らされたそこには乱雑に敷かれたマットがあり、その上には血塗れの、最早絶命寸前の二人の少女の姿があった。

435 ◆hrDcI3XtP.:2020/08/13(木) 07:33:18 ID:zc0oUUpo0

ミセ* - )リ「――……っ……――……」

( 、 トソン「kjl;……あぇうい;:……」

 片割れの少女の手足はなかった。傍には空になった注射器が幾つも落ちていて、切り落とされた四肢が妙に丁寧な具合で並べられていた。
 切断された部位には包帯が適当に巻かれ、腹部には刃物が四、五本突き立てられている。
 もう一方の少女の腹部は切り開かれ、内臓が露出していた。皮下脂肪や内臓から滲み出る組織液や、緩く垂れ流れる血液が小さな川をつくる。
 両の胸は切り落とされており、そこには釘がいくつも打たれ、半身は火で炙られたのかケロイド状になっており、凄惨な光景に僕は数瞬、正常を失いかける。

( ^ω^)「…………」

 だが、微かに、彼女達には息があった。
 人は簡単な具合で死ぬ。だがそう簡単に死なないようにも出来ているし、薬物投与の証拠の数々や、生命維持装置による無理を押し通した延命活動により、彼女達は命を手放せないでいる。
 片割れの少女はか細く息をし、もう一方の少女は言語にならない言語を呼吸と共に吐き出していた。
 僕は屈みこみ、傍に落ちていた凶器――大振りのナタを掴むと、彼女達へと接近する。

( ^ω^)「ごめんお……今、楽にしてあげるからお」

 或いは、もっと丁寧に作戦を実行していたら、彼女達は“楽に死ぬことができていた”かもしれない。
 撮影の最中に乱入した結果、彼女達は長い時間を放置され、生き地獄を味わう羽目になり、終わらぬ覚醒と死の予感に、それこそ死を熱望する程の絶望の只中にいた。
 僕達にとって今回の作戦は他国での出来事だし、要請されたから応じた程度であり、事実、その重要度で考えると、単純な支援の形でしかない。
 だからどのような被害があれども我が国に直接的なものはない。故にそこで生じた被害など一切知ったことではない。
 だが、それは国の意思であり、僕個人の意思ではない。僕も同じく闇に生かされ闇により散々の地獄を味わった身だ。だからその苦しみや恐怖や、死を懇願する程の絶望を誰よりも知っている。
 故に、僕は刃を構え、それを天へと掲げると、今、不必要にも程があるくらいの全出力を以って、少女達の首を刎ねようとした。

( 、 トソン「――い……」

( ^ω^)「っ――……」

 だが、そんな時だった。もう一方の少女が、最早碌に動ける訳もないのに、震える右手で僕の手を、空いた方の手を掴んだ。
 そうしてか細く、それでも出来得る限りで、最後の死力を尽くすように、必死で、全力で、言葉を紡いだ。

( 、 。トソン「い――たい……いき――たい……」

 僕は刃を急停止させる。その刃は一閃を描く寸前であり、僅か一寸程度の距離で、少女達の首元で止まった。
 更には、その声に反応するように、もう一人の少女までもが言葉を発する。

ミセ*。 - )リ『――な、い……しに、たくな……い……』

( 、 。トソン「いき……たい……――い、き……」

436 ◆hrDcI3XtP.:2020/08/13(木) 07:33:44 ID:zc0oUUpo0

 己を見た気がした。
 去来する過去の出来事を思い出していた。
 僕が全てを失い、僕が全てを手にした時のことを思い出し、その姿を彼女達に重ねていた。

( ^ω^)「……辛いお、世の中は」

 僕は、聞こえているかも分からない、ましてや通じるかも分からないのに、自然と言葉を口にしていた。

( ^ω^)「世には、溢れ返る程の闇がある。世界各国、真なる平和と呼べるものは少なくて、その陰では多くの人々が理不尽に晒され、嬲られ、殺されていくお」

 少女達の身体に触れる。
 もう、すぐに、この鼓動は止まる。助かる見込みは端からない。助かったとしても、その先を考えた時、彼女達には数多の障害と、崩壊しているだろう精神を取り戻す為の、想像を絶する程の苦しみが待ち構えている。
 殺してしまった方がいい。それこそが救いであり、例え悪の所業だとしても、一体どうして彼女達を救う手立てがあるだろう。
 この状況に至ってどこに希望がある。そんなものはないし、現実的に言えば、やはり、早く苦しみから解放してやることこそが彼女達に対する手向けと言える。

( ^ω^)「けれども、そんな闇に沈んでも、どうしても死にたくないと、まだ終わりたくないと……そう思えるのは、きっと……まだ諦めたくないという、強い思いがあるからだろうお」

 僕は彼女達の鼓動を聞いている。最早途絶える間際なのに、それでも、僕はその鼓動を、魂の躍動を、己の肌で感じ続けていた。

( ^ω^)「……それは戦うことを意味するお。例え己の命を散らす羽目になろうとて、どうあってでも闇を、魔を、悪を粉砕し、その理不尽を許してなるものかと叫ぶのなら、手段は闘争以外になくなるんだお」

 聞こえている。まるで祈るように、幾度と幾度と口にする、生の懇願と死の拒絶。
 それを聞いて僕は問う。最早まともな意識もないだろうに、それでも僕は彼女達へと強く言葉を紡いだ。

( ^ω^)「生きたいかお。死ぬほどの地獄を味わっても。この先、待ち受けるのが戦いの道しかなくても。それでも……生きたいかお」

 その言葉に、確かに、か弱く途切れそうだった脈動が、一度だけ強く跳ねた。
 彼女達は最早言葉を出す力もない。それでも溢れ出る涙と、僕の手から伝わる体温を受けて、彼女達は己等の意思を以ってして、その魂で強く僕の言葉に頷いてみせた。

( ^ω^)「……ジョルジュ。生存者二名発見だお。トルコには寄らずにそのまま日本に急行するお」

『……あ!? おいおい、ボス、おめーは何を言ってっ……』

『ま、待ちたまえ、キャンディーボーイ! よもやその二名を君は持ち帰るとでもいうつもりか!?』

 僕は少女二名を抱きかかえ、急ぐ足取りで施設の内部を駆け抜ける。
 そんな僕の台詞と行動に関係各位は驚愕の限りだったが、僕は確かに当人達から魂の返答をもらっている。
 そうであるならば僕はそれに応える。例え地獄を渡る程の絶望を味わい、この先、生還を果たしたとしても待ち受けるのが新たな地獄だとしても、彼女達は闘争の未来を受け入れてみせた。
 ならば僕は応える。彼女達を救う為に。彼女達に散々な地獄を与える為に。そしてその地獄を生き抜くだけの技術や力を与える為に、僕は通信機越しに怒鳴り散らした。

(# ^ω^)「いいから従えお、この馬鹿野郎共が!! 『ライドウ』総長、内藤平助の命令だお!! とっととヘリを回せお!!」


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