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(,,゚Д゚)クリフォトに微笑むようです
437
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/13(木) 07:34:14 ID:zc0oUUpo0
国際法のどうだのと、領空のどうだのと、隠密行動がどうだのと、知ったことではない。
これ程の状態の人間を助ける術など探してもありはしないし、医療の技術で済む程度の話でもない。
だったらば、僕は僕の知る最高の技術者を頼る。僕はその人物が大嫌いだが、それでもその技量は確かだし、彼女を以ってすれば――ハロー・ハロー博士を以ってすれば、失った部位とて取り戻すことも出来る筈だ。
『わ、分かっているのかい、キャンディーボーイ……そんな君の独断専行に、上の連中が頷く訳が……!』
(# ^ω^)「生体強化の検体だお、しかもこの二名は死んだ扱いも同義だお。いい材料じゃあないかお、好き放題に科学が出来るんだからお」
『おいおいおいおい、正気なのかよボス!? そりゃ哀れだけどよ、そんでもお前、流石に状況を無視して帰国しようなんてよぉ!?』
(# ^ω^)「既に目標は達成してんだろうお、あとの捜査は当局に丸投げで上等だってんだお。碌な能力もない、他国に助けを請わなきゃならない程度の国でもお、そんくらい手前でやれってんだお」
意見は受け付けん、とばかりに僕は寄せられる言葉を叩き伏せる。
そうして怒りのままに、中央の抑制すらも受け付けないままに僕は外へと飛び出す。
待ち構えていたジョルジュを確認すると同時、彼方からヘリのプロペラ音が聞こえてきて、僕はその方角を見上げた。
_
(; ゚∀゚)「おい、ボス!! 本気なのか、本気で持ち帰るのか!?」
(# ^ω^)「おー、我が『ライドウ』の戦力として迎え入れんだお。教育もしやすいし、端から強化体だお、将来有望だろうお」
_
(; ゚∀゚)「っ〜〜〜……だぁっ、もう!! おめーはよぉ、そりゃ俺だってよぉ……」
(# ^ω^)「ジョルジュ……」
僕は振り返り、どうしたものかと苦悩を抱く彼を見つめる。
(# ^ω^)「死人なんだお。彼女達も」
_
(; ゚∀゚)「…………」
(# ^ω^)「それでも生きたいってお、諦めたくないってお……確かに言ったんだお」
_
(; ゚∀゚)「ボス……」
(# ^ω^)「……僕達も、彼女達も、きっと同じなんだお。それを見捨てることは僕には出来んお。彼女達を絶対に助ける。例え如何なる障害があっても」
僕の言葉と表情にジョルジュは挙措を失う程で、表情すらも失う。
だが、僅かもすれば彼は一度俯き、それから大きな息を吐くと、その強い眼差しで僕を見つめ返した。
_
( -∀゚)「……しゃあねえなあ、っとによお。そうも言うんなら……仕方ねえ。助けようじゃねえかよ、その二人をよぉ」
( ^ω^)「……すまんお」
_
( -∀-)「いいさ、お前の魂がそう言うんなら……それがお前の正義であり為すべきことであるなら、そうするべきだ」
438
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/13(木) 07:34:42 ID:zc0oUUpo0
空を飛ぶ軍用ヘリが僕達の付近へと降下してくる。その様子を見ながらに、僕は彼女達の身体を強く抱きしめた。
ミセ*。 - )リ「――っ……っ……――……」
( 、 。トソン「……っ……っ……――」
小さく、それでも未だ熱は絶えず、呼吸を続けるその姿こそが彼女達の示す心であり、魂が抱く情熱だろう。
僕とジョルジュは顔を見合わせた。彼は少女達の有り様や、それでも未だ生き続けている事実に目を伏せると、再度強い眼光となって僕を見る。
_
( ゚∀゚)「強くなれるなぁ、この子達は。間違いなく」
( ^ω^)「だおね……きっと、どんな地獄をも渡っていけるくらいに、おぉ……」
片やロシア語を話す少女、片や日本語を口にした少女。
それ程に世界の至る国で子供達はターゲットにされ、どことも知れない土地で売りさばかれ、或いはこうして絶望へと突き落とされる。
だが、僕は掴んだ。彼女達が伸ばした強い気持ちを、確かにこの手で掴んでみせた。
( ^ω^)(……横堀)
嘗て、僕は彼女にそれを告げたが、結局、僕はそれを果たすことが出来なかった。
けれどもきっと、彼女の傍には、僕と同等の、或いはそれ以上の魂の熱を持つ、とんでもない具合の女性が今も傍にいるはずだ。
僕の脳裏に過る彼女達は強く、美しく、きっとどんな窮地に陥っても決して諦めず、どころかそれを上等だと叫び、突き進み、やがては降りかかる数多の障害をも粉砕していくだろう。
( ^ω^)「なれるお、君達も。あの殺人鬼や僕の弟子みたいに、強く……なれるお」
地上へと舞い降りたヘリへと僕達は駆けていき、迷いもなく即座に乗り込む。
着陸から僅か数秒で非公式の飛行機械は飛び立ち、我等が母国、日本へと航路を定めて空中を駆け抜けていく。
『……覚悟はしておいてくれよ、キャンディーボーイ。既に上の連中はお怒りだよ。阿部氏からも説明を求められている』
( ^ω^)「おーおー、どうせ露と中から何してやがんだって文句の嵐寄越されてんだろうお。こっちはステルス機能もない乗り物だし、そりゃ最悪だろうお」
『独断専行で、しかも感情的になるのはタブーもタブーだ。プロだろうに……』
( ^ω^)「そのプロだからこそ、だお。人間性を手放せば最早使い物にならなくなるお。そんなことは分かってるだろうお。感情の抑制やら思考の制御は、単純に言って僕個人の主観性を必要とするから、だろうお」
『分かっているのなら尚のこと忠実であってほしいね。我々にも我々のプログラムがある』
( ^ω^)「全機械化の有用性……それを否定する為の僕という人格。大成功だろうお、これこそが、この事態こそが?」
『あー、大失敗だよスカトロキャンディーボーイ……頼むから上の連中とは穏便に済ませてくれよ。君を失いたくないんだよ、私は……はーあぁ……」
439
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/13(木) 07:35:16 ID:zc0oUUpo0
ハロー博士の大きな溜息に僕もジョルジュも笑いを零し、さあ大変だぞ、と僕達は適当に伸びをして簡単な感想を零す。
_
( ゚∀゚)「まずはお偉いさん方に対しての謝罪と言い訳の用意だなぁ」
( ^ω^)「そっからこの子達を迎え入れる為の準備と資金の調達、確保だおね。ハロー博士に支給されてる研究費用じゃ足りんお」
_
( ゚∀゚)「そうなると有用性をアピールしなきゃな。さもなきゃ『ライドウ』そのものの存在意義を失って組織は解体だぜぇ?」
( ^ω^)「しかも僕の人格が多分消されてプログラムで駆動するだけの完全ロボット体になるかもおぉ」
_
( ゚∀゚)「お〜、恐ろしや。今度はAIによるアンドロイド理論の実験かよ。寂しくなるなぁ、今日でお別れかよボスぅ」
( ^ω^)「そうならない為にもなんとかしてくるお。あー胃が痛い……いや痛くないけど。気が重いお」
_
( ゚∀゚)「おーおー、大変だねぇ御大将は。俺も俺で逃げる準備でもしとくか」
( ^ω^)「いやいや巻き込むから。逃がさないから」
_
( ゚∀゚)「いやいや逃がして。無理そういうの俺、ほんとマジで」
( ^ω^)「仮にも自分の親分の瀬戸際なんだから協力的になるべきだお? ジョルジュくん?」
_
( ゚∀゚)「おいおい自分の責任だろう? それとも手前のケツを人に拭かせる趣味でもあんのかよ?」
( ^ω^)「ほら、呉越同舟だお?」
_
( ゚∀゚)「あの時のまんまこたえてやるよ、同床異夢ってな」
言い合いながらも、二人の少女に生命維持装置を繋ぎ、僕達はこの先に待ち構えているだろう面倒に盛大な溜息を零す。
だが不思議と後悔はなく、ジョルジュもなんだかんだで受け入れているようで、云々と言う割に、その表情は朗らかだった。
_
( ゚∀゚)「ま、骨は拾ってやっからよ……頼んだぜ、ボス」
( ^ω^)「ったく、なんでこう、一々面倒なやり取りをせにゃならんのかおね……」
やがて見えてきた我が国の領土を見下ろし、僕はうんざりしつつも顔を引き締める。
一つの正念場でもあったが、それでもこれまでに僕が築いてきた信用が確かにある。
(; ^ω^)(兄さんの苦労がようやく分かったお……嫌だおねぇ、責任を問われる立場ってのはおぉ……)
そんな信用だけを頼りに、僕は肚を括ると、有権者達が浮かべているだろう憤怒の形相を思い浮かべ、改めて大きな溜息を吐いた。
440
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/13(木) 07:35:38 ID:zc0oUUpo0
二 下
.
441
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/13(木) 07:36:01 ID:zc0oUUpo0
N| "゚'` {"゚`lリ「――……認めよう」
(; ^ω^)「……マジですかお?」
結果的に言うと、阿部首相は僕の言い分に何を言うでもなく、どころか素直に頷き、その様子を見た有権者達、更には僕も含め、全員が呆けた表情になってしまった。
語るまでもなく僕の行動は独断専行であり、帰還に際してはステルス機能もない軍用ヘリ、一応は未登録の出所不明の飛行機械だが、それでも各国領域を無視して突っ切り、しかも日本に直接凱旋した事実は最悪な事態だ。
そこから今に至る約二日の間、防衛庁やらは必死で言い訳を並べ、最終的に金銭的な解決案で無理矢理に各国を黙殺し、これにて一つの騒ぎは一件落着となった。
が、そうは言ってもことを仕出かした僕には当然ながらに責任があり、それを非難するのは国の根幹に至る者達からすれば当然であり、僕はそれを甘んじて受け入れ、さてどういった処罰があるだろうかと覚悟を抱く。
如何に多くの実績を持ち信用やら信頼を得ていたとしても、僕個人が巻き起こした暴走でどれだけの政治的なマイナスが生じたかは想像に難くない。
N| "゚'` {"゚`lリ「当然一つの大騒ぎだ。トルコからも心配の言葉を寄せられたよ。件の特別自治区からは散々に謝罪を頂いた」
(; ^ω^)「……聞けば中露と一触即発になりかけた、とかなんとか」
それなのに、阿部首相は簡潔に、なんともシンプルに僕の行動やその理由に頷くと、今回は不問にすると答えを口にした。
流石に衝撃的だし納得し難いが、しかし誰の意見も受け付けぬと彼は手を翳し、円卓から立ち上がると僕へと歩み寄る。
N| "゚'` {"゚`lリ「それはいつものことだろう。寧ろ常々領域に侵入しては散々煽ってくるあの両国に何を遜る必要がある」
(; ^ω^)「……他国での作戦行動ですお?」
N| "゚'` {"゚`lリ「それは支援による行動であり軍事的意味を為さない。更には領域の通過は救助という名の人道的な理由によるものだ、国際法に違反している訳でもない」
(; ^ω^)「おー……マジで強気ですおね、阿部さん……」
何の問題があるんだ、と逆に彼は皆に問う。あまりにも強気な姿勢だったが、しかしこれこそが現在の日本の姿勢でもあり、つまり、断固とした意思を持ち、強く立たねばならぬと彼は言っていた。
N| "゚'` {"゚`lリ「強気で結構。我等は我等の目的の為に行動し、国を運営する。他国の益の為に日本国は存在する訳ではない。尚且つ、今回は逆に……面白いものが見れた」
(; ^ω^)「……?」
含みのある言い方だったが、しかし、その言葉が全てを意味していた。
(; ^ω^)(……僕の暴走で得たものがあった、のかお……?)
それは恐らく国際的なものだろうが、しかし僕はこの二日の間、様々な人々に叱られまくり茶をぶっかけられまくり突き飛ばされたり泣き叫ばれたりで忙しなく、更新された情報項目を碌に理解していない。
常時更新され脳が処理をすると言えど重要項目の選択は僕の意思によるものだ。僕は彼の発言から疑問を抱くと、改めて情報を整理する。
(; ^ω^)(お……おぉ? 中露が騒いだのは事実みたいだけども……北まで騒いでんのかお?)
何故にだ、と思う程で、彼の国が何故に騒ぐ必要があるのだろう、と単純に不思議で、僕は首を傾げた。
そんな僕の様子に阿部首相は小さく笑うと、兎角、これにて解散だ、と一言を告げ、僕を一瞥すると促す形で歩き始める。
442
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/13(木) 07:36:34 ID:zc0oUUpo0
N| "゚'` {"゚`lリ「……今回も御苦労だったね、内藤くん」
( ^ω^)「ええ、まあ……」
秘密クラブは国内首都の某所に存在するが、そんな彼に促された僕は彼の後をついていく。
施設の地下に向かえばそこには黒塗りのセダンが停車しており、状況により使い分けられる車両は日本車であるとは限らない。
運転手の男性が扉を開け、僕は阿部首相と同じく後部席へと乗り込む。
( ^ω^)「ほー、ミュルザンヌ……いい車持ってますおねぇ。私物ですかお?」
N| "゚'` {"゚`lリ「イギリス車が好きでね……出してくれ」
音の一つもせずに車両は発進し、僕は彼の隣でスモーク越しの景色を見つめる。
立ち並ぶ高層ビルの合間を縫うように車道は張り巡らされ、古きと新しきが信号を超える度にあべこべに交互し、けれども手馴れたように運転手は道路を走り続け、大した腕前だと勝手に感心していた。
N| "゚'` {"゚`lリ「……情報は更新したかい?」
( ^ω^)「お。ええ……なんでも北まで騒いでいた、とか」
N| "゚'` {"゚`lリ「ああ、何故か不思議とね。中の奴隷であり露の傀儡とも呼べるあの独裁国家が、今回は何故か声を大にして主張していたよ」
( ^ω^)「……妙ですおね、それ」
語るに及ばず、彼の独裁国家の立ち位置は非常に厄介、かつシビアであり、アジアの問題児と言えば筆頭として挙げられる。
時に名ばかりの飛翔体、とやらを打ち上げては世界を混乱させ、核実験を繰り返しては主要国家を悩ませ人々に恐怖を抱かせる。
だがその程度の国家と言える。直接の軍事力は大した程度とは言えないし文明のレベルも旧世代のそれに等しく、国民の全ては奴隷の扱いであり軍部であっても貧富の差は明らかだ。
それでも国として機能をしている事実。兵器開発も可能であり、不思議なくらいに“先の大戦で活躍した大陸由来の兵器、武器”が現存していて今も使用されているし、実を言うと資源も豊富だ。
N| "゚'` {"゚`lリ「例えば二十世紀末の例の地下鉄事件だ。彼の組織は北との繋がりもあったんだが……彼の組織には確かな兵力があった」
( ^ω^)「……軍用ヘリやロケット砲ですおね。結局使用されることはなかったですけどお、それが何だってんですかお?」
思わせぶりに語る阿部首相に僕は首を傾げる。
N| "゚'` {"゚`lリ「最早明らかな事実ではあるが……その兵器類は全て北で買い付けたものだ。彼の独裁国家には古くからそういう役割めいたものがある」
( ^ω^)「……国家規模での兵器類等の売買ですかお」
N| "゚'` {"゚`lリ「だが近年ではそればかりではなくなっている。況やアジア一帯における麻薬等の覚せい剤だが、主要原産国と言えば……その国家だろう?」
443
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/13(木) 07:37:28 ID:zc0oUUpo0
彼の言うことは事実だ。薬物には多くの種類があるが、二十世紀末から現代にかけて、流行しているそれらの原産国は九割方が彼の独裁国家だ。
バブルの時代、大変に流行した薬物により北の国家は大いに儲けを出した。
我が国でもそれは大流行し、時にホテルの一室が吹き飛べば、ああ、室内で覚せい剤を精製していたのだとその道の人間なら早々に理解をする。
N| "゚'` {"゚`lリ「ところが近代における各国での違法薬物の取り締まりは強化に次ぐ強化……比に至っては所持しているだけで処刑だから恐ろしいものだ」
( ^ω^)「いい流れ、と言えると思いますお。そういう思想であるべきですお」
N| "゚'` {"゚`lリ「だが縛りがキツくなればなる程に、暗部は更に闇に沈み、やがては目の届かない、手の届かない場所にまで潜ってしまう」
流れる景色を見つめながらその言葉に頷く。
事実だ。厳罰化したところで犯罪行為はこの世から消えやしない。寧ろ結束力を高め、地下移行に気付かぬままに闇の拡大を許してしまうことが多々ある。
N| "゚'` {"゚`lリ「更には代替の品や、或いは取り扱う商品を増やすことになる。理由は他の組織との併合単一化による。結束力の強化とはつまり、敵方の意思の共通化を許すことだね」
言葉を連ねるうちに、段々と見えてきた筋に僕は眉根を寄せ、至極堪ったものではないとうんざりな表情を浮かべた。
( ^ω^)「まるで湧いて出る虫ですおね。成程……今回、その北が吠えた理由ってのは……北が関与する重要な組織だった訳ですかお」
N| "゚'` {"゚`lリ「未だ確かな情報はないがね。だが姑息な手段を得意とするのが彼の国家だ。
中と露に散々脅しをかけられ、その尖兵として威張り散らすことがある意味では最大の役割と言える。が……それでも己等の益は重要だろう」
特別自治区におけるその組織は、恐らくはかなり広範囲に展開される犯罪組織だったと思われる。
それを陰ながらに運営していたのは彼の国で、昨今の世界情勢から様々な人種、或いは組織との併合を繰り返し、薬物のみならず人身売買や兵器の売買をも含め、下衆な手段を生業としているようだった。
そんな組織の、ほんの一部ではあるが、僕という個人が国の令に従って壊滅させた事実。彼の国家からすれば大陸の諸事情に関与するな、と怒り心頭なのだろう。
あまりにも下らなくて僕は再度うんざりとした表情になる。
( ^ω^)「んじゃ彼の国に対する制裁は不可能、ですかお? なんやかんやと騒いで関係性を有耶無耶にしたい訳ですおね」
N| "゚'` {"゚`lリ「そこは米国からすればなんとしてでも手に入れたい確証だろう。だが北は確実にその手綱を放す。そうしなければ中露に嫌なくらい叱られるからね。だからこそのあの怒りようだよ。
益となる組織が潰された、しかしそれに直接関与していると知られたら秘密裡に組織運営を仕出かしていたと中露にバレる。かと言って執拗に日本を非難すれば今度は米国に付け込まれる。
偶然とはいえよくやってくれたよ、内藤くん。非常にスカっとして気分がいい。中露もそれを見過ごしていただろうが表立てば突かない訳にはいかない。立場の明確化もあるからね」
( ^ω^)「おー……その偶然が発覚しなかったら、或いはその関係性がなかったら、僕の処遇ってのはどうなってたんですかお?」
N| "゚'` {"゚`lリ「ははは……聞いてどうするね。その先は闇だよ」
何とも恐ろしいことを笑いながら言うもので、僕はそんな笑みに冷や汗を垂らす。
やがて車両はとある施設へと向かい、見慣れた風景になると僕は背もたれから身をはなす。
N| "゚'` {"゚`lリ「それにね、被害者の少女二名を救った事実だが……私個人としては賞賛に尽きるよ。そういう仁義は私の好むところだ」
( ^ω^)「ほお……意外な台詞ですおねぇ。まるで超絶武闘派のゴリラ右翼とは思えんくらいに」
施設へと到着すると地下の格納庫に車両は自動移動し、僕と阿部首相は車両から出ると、地下入り口で待ち構えていた人物に視線を向ける。
444
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/13(木) 07:37:51 ID:zc0oUUpo0
ハハ ロ -ロ)ハ「やぁやぁ総理、どうもどうも」
なんとも軽い口調に馴れ馴れしい態度で出迎えてくれたのは僕の管理者でもあるハロー博士だった。
そのままに彼女はゆったりと歩いてきて、これまた適当な具合で敬礼をとる。
N| "゚'` {"゚`lリ「こんにちは、ハロー博士。如何ですかな件の少女達は」
ハハ ロ -ロ)ハ「えーそりゃもう、どこぞの誰かさんが有難くもたっぷりお金くれましたからねぇ。何の問題もなく、最早施術も終わってぐっすりスリーピングですよ」
結局、資金の調達は僕達が奔走する以前に完了していたのが現実だった。
帰還し、急いでこの施設――ハロー博士の研究施設へと飛び込んできた僕達だったが、何故か小躍りする彼女を不思議に思えば、三桁億の資金を与えられたと舞い上がっていた。
こりゃ文部科学省が確実に怒り狂う案件だろうな、と思いつつも、搬送された少女二名を彼女に任せ、僕は僕で有権者等にひっ捕らえられ、我が相棒と言えば”公安部”に出向いて東風部長に約五時間にも及ぶ折檻を喰らう羽目になった。
( ^ω^)「お……ジョルジュはどこだお、博士。まだ警視庁かお?」
ハハ ロ -ロ)ハ「いやぁ、本当についさっき拘束から解放されてこっちにきてるよ。いや危なかったね、彼も。下手すれば殺されてたよ」
その言葉から察するに、どうやら散々な程の拷問を喰らっていたようだ。
“公安部”の全体からすれば『ライドウ』を含め、日本国に存在する全暗部が制裁の対象であり、その正義が崩れることは確実に有り得ない。
今回の騒動はどうあっても粛清の対象であり、ある意味では人質の役割を担ってくれた彼はとても優秀な部下であり頼れる相棒だった。後でジュースでも奢ってあげようと思う。
_
( #)∀゚)「いやもっと奢れ、もっとましなのを。あと特別給与くれマジで」
( ^ω^)「おー、ジョルジュ。なんだぁ、存外平気じゃないかお」
_
( #)∀゚)「いや左腕と左足折られてるから。おまけに全身痣だらけだっつーの」
回廊を進み、目的の区域に到着すると見るも無残な姿をしたジョルジュが椅子に座って僕達を待っていた。
顔の右半分は数倍にも膨れ上がり、見やれば左腕と左足にギプスをしていた。容赦の一つもされずに折られたようで、これは逃亡を防ぐ為のよくある手段と言える。
兎角、僕の為に人質としての立場を受け入れてくれた彼は、思ったよりも平然としていて、軽い冗談をいう彼に僕は歩み寄り、拳を打ちつけ合う。
( ^ω^)「こりゃ暫く作戦には参加できないおねぇ」
_
( #)∀゚)「へへへ、ある意味はラッキーさ。ここ数年間まともに休みなんてなかったろう? そんな訳でだ、ボス。俺はしばらくの暇をいただく――」
ハハ ロ -ロ)ハ「ああ、その程度なら三日で復帰できるよ。ただの骨折だろう? あとで治してあげるから待っていてくれよ、ピンキー・パイ?」
( ^ω^)「……だってお」
_
( #)∀゚)「……マジかー……」
畜生、と項垂れた彼の肩を叩き、僕はそんな様子をにこやかに見つめている阿部首相へと振り返る。
445
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/13(木) 07:38:33 ID:zc0oUUpo0
N| "゚'` {"゚`lリ「いやはや現代医療……いや、医療を含めた科学、と呼ぶべきか。大した進歩だと感動させられるよ。骨折が三日で治るのか」
ハハ ロ -ロ)ハ「ぶっちゃけ代謝の促進……原理は省くとして、自己再生を促進させてやれば理屈としては可能ですんでねぇ。ただ無理矢理の方法だから世に出回っちゃよくない」
N| "゚'` {"゚`lリ「成程……やはり君を我が国に招いたのは正解だったね。思う以上の成果をあげてくれる」
彼の視線がとある隔離室へと向かう。強化ガラスが一面を覆うその室内には、ベッドに横たわる二名の少女の姿があった。
N| "゚'` {"゚`lリ「……新たな検体、か。これもまた内藤くんのように特殊な身体なのかな?」
ハハ ロ -ロ)ハ「まあ……特殊っちゃ特殊ですけどね。けれどもまあ、今回は無理のない程度ですよ。何せキャンディーボーイのような、人類を超越し得る人間なんて数少ないものですから」
まるで人を人じゃないように言いやがって、と文句を言いそうになるが、僕は会話をする彼等を他所にジョルジュを手招く。
松葉杖を突いて彼は立ち上がると、僕はそれを支えてやり、二人で隔離室へと足を踏み入れた。
振り返れば首相と博士は会話に夢中のようで、重畳、重畳と呟きつつも僕はようやっと生還を果たした少女二名と対面する。
ミセ*-ー-)リ
(-、-トソン
呼吸器越しに彼女達の息遣いを聞き、バイタルから表示される情報を見つめ異常がないことを察する。
横に並ぶ二つのベッドの合間へと僕とジョルジュはやってきて、その幼気な寝顔や、まるで何事もなかったかのような健やかな姿に安堵のような息を漏らした。
_
( #)∀゚)「……二人のIDは取得済みだ。そっちの子がミセリ・スヴォーロフ、ロシア人だ。んでそっちの子が都村兎歌……みやむら、とそん? だそうだ」
( ^ω^)「また二人とも可愛らしい名前だおね。そうかお、やっぱり日本人だったかお……」
拉致は何処の国でも起こり得ることであり、その手段は様々であり、更に運び出す手段も様々ある。
今回は北の独裁国家を経由した形であるから洗いやすい部類だ。あとで東風部長に掛け合おうと思う。
_
( #)∀゚)「二人とも、約半年前から捜索されてたんだと。行方知れずでその足取りも不明……んでこうして辿り着けば、悪の根城で半年間にわたり悲惨な目に遭ってた訳だ」
( ^ω^)「……生きていればそれでいいお。悪の被害者なのは間違いないし、それを掘り返す必要もないだろうお」
ジョルジュが纏めたであろう資料に目を通す。
二人とも同時期に行方不明となっていたようで、時期や経緯は明らかではないものの、先の施設で半年間監禁されていたようだ。
_
( #)∀゚)「……二人とも性器を破壊されている。おぞましくもドリルかなんかで膣内を抉ったようだ。下手すると肛門と直結する部位もあったようだ」
( ^ω^)「何だってこう、そういう連中はいつもいつも、子供達をそういう風に扱うのかおぉ……」
_
( #)∀゚)「胃腸から食事の内容も凡そ判明されたが……未消化のプラスチック片まで出てきた。藁やらの痕跡もある。衰弱の状態からして……最早終わりの際だったんだろうな。だからこその“最期”の撮影だったのかもしれん」
( ^ω^)「……その記憶は――」
_
( #)∀゚)「完全に消すことも可能だそうだ」
446
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/13(木) 07:39:03 ID:zc0oUUpo0
ハロー博士の技術を以ってすれば、特定の時期の記憶を消すことは可能のようで、ジョルジュの言葉に僕は拳を握る。
それはきっと、可能であるならば誰もが推奨することであり、彼女達の味わったであろう地獄の数多を思えばこそ、確実にそうするべき事柄だろう。
( ^ω^)「けどそれをしたら歯止めがきかなくなる。彼女達は本能の域にまで情報を操作されるだろうお」
_
( #)∀゚)「純然足る、生まれながらの人間兵器としてか。記憶や思想の操作は間違いなくその人物を形成する上で強力な効果を発揮するからな。上の連中からすれば願ったり叶ったりだろうよ」
( ^ω^)「けど……それは本当の意味で“生きている”とは言えないだろうお」
_
( #)∀゚)「…………」
僕は彼女達の頬に触れる。
温かかった。呼吸も確かであり、上下する胸の運動も自然的であり、悲しみの痕跡はやはりどこにも見当たらない。
ミセリの四肢は全て人工物だが、その自然な外観から、とても特殊強化義肢だとは思えない。兎歌の半身は溶け崩れていたが、それでも真新しい特殊強化被膜は歳に見合った、少女の肌そのものだった。
その他、悲しみの痕跡には全てハロー博士が必要なだけの技術を施し、彼女達の見た目はとても人間の様であり、それを疑う誰ぞかもいやしないだろう。
それが生存を果たし、生を懇願し、僕に魂を叩きつけた果てに彼女達が手にしたものだ。
( ^ω^)「どうあってもお、そういった記憶ってのは忌まわしいもので、呪いにも等しいんだお。焼き付いて離れないおぞまじい記憶は確実にその人を苦しめる。解放される日なんてこない」
_
( #)∀゚)「……ボスもかい」
( ^ω^)「衝動を抱かない日なんてありゃしないお。今となっちゃ博士の手によって感情も記憶も全て制御される身だけどお、それでも生前の僕は、やっぱり蘇る過去の記憶に散々苦しんだお」
果たして正しさを求めた時、そのおぞましく悲しい記憶は消すべきと断言出来るだろうか。
消すべきと答える人々が圧倒的多数だろう。そうするべきであり、それこそが真の平和を取り戻す最後の手段とも言えるだろう。
だが、僕はそれに頷けないでいる。
( ^ω^)「彼女達がそれを決めればいい。或いは衝動に支配されて自死を選ぼうとするのなら、やっぱり消すべきだろうお。でもその怨嗟を糧に、強さを求めるのであれば、僕はそれを間違いとは呼べないお」
_
( #)∀゚)「都合のいい楽園に逃げ込むな、ってことかい?」
( ^ω^)「いいや……無力な己を忘れてはならないということと、その憎しみによって生を渇望したことと、己の果たすべき義務を強く刻み……楽園など世に存在しないのだと、現実と対峙する道を求めること……自戒的なものだお」
それもまた己に対する呪いと言える。どうあっても、そしてどう考えても辛い過去の全ては忘れるべきだ。
だが彼女達は闘争の道を選んだ。死を望めたろうに、それを拒み、僕の手を彼女達は魂そのもので掴んでみせた。
それは理不尽が齎した環境だったろうし、抗いようのない状況だっただろう。
けれども、もしもその理不尽や抗いようのない状況に巻き込まれたとして、その時に力があったのなら、或いはその地獄から抜け出し、更には粉砕出来ていたかもしれない。
全ては偶々の出来事であり、彼女達に非はない。だがそれが世の理不尽の全てだ。それを理解出来るのはその地獄を経験した者のみだろう。
( ^ω^)「お前も、記憶を消したいとは思わないだろうお。真っ直ぐに歩きたいから。ブレずに、己と世界との対峙に背を向けたくないから……その呪いを手放したくないだろうお」
_
( #)∀゚)「……他人様から見りゃ残酷で、且つ、外道なものに見えるだろうなぁ。けどそうしなきゃ俺達は歩けねえんだって……きっと、理解はしてもらえねえわな……」
447
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/13(木) 07:39:28 ID:zc0oUUpo0
きっと、本来のハロー博士ならば有無を言わさずに記憶を消しているだろう。そうして新たな人格を植え付け、己にとって扱いやすい、優秀な検体として彼女達を操作しただろう。
だがそうしなかったのは、きっと、この数年間の僕を見ているからだろう。
人はその実、感情や魂によって突き動かされる、理解し難い“何か”を持っている。それは非科学的な領域だろうが、それを体現せしめた人物を僕は複数知っているし、僕自身もそうだった。
彼女の興味は、今、そこに向かっている。凡そ非科学的な、人の持つ爆発的な謎のエネルギーを観測し、研究し、理解をしたいから、その不要で使い勝手の悪い記憶を消さずに残したままにしている。
_
( #)∀゚)「或いは、心優しい組織だったなら、このまま彼女達の記憶を消して、それぞれの生きるべき環境に帰しただろうよ」
( ^ω^)「けれどもそれは許されないことだお。彼女達の身体は最早普通じゃない。特殊な義肢とその運動能力を発揮する為に強化された脳、
或いは神経は世に知られる訳にいかないし、彼女達が僕達の手で救助された事実は世界の多くが既に把握してるだろうお」
辿るならば、彼女達が闇の組織に拉致されていなければこんなことにはならなかった。
結果だけを見ればやむを得ない事柄であり、今更どうのこうのと、ましてや他人の僕達が彼女達の傍で語らうのは、それこそが無粋というか野暮なのかもしれない。
( ^ω^)「……歳は」
_
( #)∀゚)「ミセリが十六、兎歌が十七だ」
( ^ω^)「おーおー、若いおね。変な気起こさんでくれお、ジョルジュ。ぼかぁ友人を手にかけたくはないからお」
_
( #)∀゚)「アホ言えよ、俺ぁもっとバインバインでボインボインでくっそグラマーでセクシーダイナマイトファッキンビッチが好みなんだよ」
( ^ω^)「おっおっ……あとでお礼のお小遣いあげるから、怪我治ったら好きなだけ抜き屋にいくといいお」
_
( #)∀゚)「え、マジ!? うーん流石はボスだぜぇ、やっぱ持つべきは共に死線を潜り抜けた友だよなぁ! うんうん!」
大袈裟に騒ぐ彼に僕は笑いを零す。心配だった少女二名の無事も確認出来たから、これ以上ここに留まるのは単純に騒がしいし邪魔でしかないだろう。
故に僕はジョルジュの身体を支え、外で未だに会話を続けている首相と博士の下へと歩みを進めた。
しかし、そんな去り際に、僕の聴覚が確かに情報を捉える。
(゚、-トソン「う……ん……」
それは兎歌が発した声だった。未だ施術から間もなく、覚醒段階ではないと思われていたが、予想に反して彼女は意識を取り戻した。
僕は振り返り、ジョルジュから離れると、ゆっくりとした足取りで彼女の傍に再度立った。
( ^ω^)「……おはようお」
(゚、゚トソン「…………」
未だ意識は混濁としているようで、彼女は曖昧な瞳で僕を見つめている。
そんな様子に対し、僕はあまりにも平凡な挨拶を口にした。その言葉に返答はないが、大きな瞳が瞬くと、それだけで僕は満足をしてベッドから距離を取ろうとする。
448
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/13(木) 07:39:51 ID:zc0oUUpo0
(゚、゚トソン「……まっ、て」
( ^ω^)「お……」
だが、そんな僕の手を彼女は握りしめた。
あの時と同じだった。今にも死にそうだった彼女は最後の力を振り絞って僕の手を取り、死にたくないと口にした。
そんな今際の台詞が脳内で蘇る中、彼女は未だ満足に動かせない口で、ゆっくりと時間をかけ、小さな、か細い声量だったが、確かに言葉を紡いだ。
(゚、゚。トソン「あ……り、が……と、う……」
( ^ω^)「――……」
その言葉を口にすると、彼女は涙を一筋零し、再度瞳を伏せてしまった。
少しもせずに呼吸は睡眠時特有のものになる。それでも彼女の手は僕の手を掴み、放す気配もない。
_
( #)∀゚)「……俺はさ、ボス。思うんだけどよ。あんたぁやっぱ、いい人間だよ。殺すことを手段とするけど、でも、その根底にあるのは……優しさと、人間臭さだろうよ」
( ^ω^)「…………」
ジョルジュは壁に凭れかかってそんなことを言う。もう必要なものはないのに、彼は出ていく素振りもない。
だが、それは僕も同じで、僕は兎歌の手を放すことも出来ず、その場を動くことも出来ず、眠り続ける少女二名の顔を見つめ続けていた。
_
( #)∀-)「二人にとっちゃ……あんたはヒーローさ。それだけは受け取ってやれよ。呪いにばかり身を焦がさずに、偶には、さ……」
僕は言葉を紡げないでいる。別に泣きそうだとか感動してるだとか、或いは自己嫌悪に浸っているわけでもなければ、どうしたらいいのかと混乱している訳でもない。
ただ、それは、父性のような、愛しさに似た感情だった。
( ^ω^)「……目覚めたらお、散々なくらいの地獄が待ってるからお。だから……覚悟しとけおぉ、ミセリ、兎歌……」
_
( #)∀-)「はっは、不器用な総長さんだぁねぇ、いやはや、っとに……」
動けないまま、僕もジョルジュも、ただただ二人の少女を見つめている。
或いはそれは、よくぞ死なずに生きてくれたと、諦めずに抗ってくれたと、賞賛の気持ちだったかもしれないし、或いは未だ弱々しい様子を護ろうとする庇護欲の表れだったのかもしれない。
どちらにせよ、数多の理由や言い訳を持ち寄ったとしても、それらは全て適当なものではなく、きっと、言語で表現することこそが、無粋であり野暮なのかもしれない。
だから、僕もジョルジュも、ただただ静かに彼女達を見守り、いずれ目が覚めた時に、彼女達を祝福出来たらばと、そう、穏やかな気持ちで胸中は溢れていた。
449
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/13(木) 07:40:16 ID:zc0oUUpo0
二 了
.
450
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/13(木) 07:42:13 ID:zc0oUUpo0
「( メω^)殺人鬼へ微笑むようです」ですが残るエピソードは一つとなり、次の投下で章は幕を下ろします
そうしましたらようやっと最終章になります。まだまだ先は長いな、と思いつつ、それではまた次回
おじゃんでございました
451
:
名無しさん
:2020/08/13(木) 10:32:48 ID:cSqsyaes0
乙どす
452
:
名無しさん
:2020/08/13(木) 10:53:17 ID:ouXlbGlU0
乙です!
453
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 04:51:23 ID:3WxIOFCE0
これにて一つの区切りとなります
が、めちゃんこ量が多いので、そこだけご勘弁ください
454
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 04:51:47 ID:3WxIOFCE0
三 上
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455
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 04:52:16 ID:3WxIOFCE0
ハハ ロ -ロ)ハ「目覚めたまえ、キャンディーボーイ」
( ^ω^)「お……もう終わったのかお?」
五年の月日が経っていた。その日、僕は定期的な人工透析を終えると博士に起こされる。
全身を繋ぐケーブルを解除され、ゆっくりと起き上がり、身体を適当に動かして異常がないことを確認する。
ハハ ロ -ロ)ハ「……既にそのボディは五年も使用されている。そろそろ考えてみたらどうだい、次のボディへの移行を」
目覚めてから今日に至るまで、僕は多くの特殊強化を施されたクローン体に意識を宿し続けてきた。
人工物とはいえ劣化は当然のことだった。今となっては蓄積された害と仲良く日常を過ごすのが常で、この急速な変化は二年前、ミセリと兎歌の救出から始まった。
特別に支障があるか、と問われたらなんてことはない、以前の肉体と同じだ。
人の身体には必ず限界が訪れる。それは老化であれ劣化であれ、事実、生前の僕の身体は薬物投与で無理矢理に動かしていたようなものだ。
只今に至っては人工腎臓の機能は一割を切り、疑似血液の循環すらままならない。とは言えその使い勝手は正しく科学の恩恵と言おうか、必要行動の以前に確実に検査を受けてしまえば問題なく活動は出来た。
( ^ω^)「この身体が気に入ってんだお。それに、物は大切にしなきゃいかんだろうお?」
ハハ ロ -ロ)ハ「……我々を信用してくれ。大丈夫だ、君の脳を強制的に弄ろうだなんて考えはない」
( ^ω^)「要らん勘繰りってやつだお、博士。そういうんじゃあないお」
口ではそういうものの、それこそが僕の最大の懸念であり、果たして身体を入れ替える際にどのような手を加えられるかは分かったものではない。
確かに博士本人、或いは彼女の誇るスタッフ達にそういった考えはないかもしれない。だがその他の人々の考えは、或いはそうではないかもしれない。
( ^ω^)「使い勝手は言わずもがな。疑似血液の採用のお蔭で僕に血液関連の負傷やら不足やらの心配はなくなったお。凄いおね、これが医療でも実用に至れば、最早献血だとかの意味もなくなるお」
ハハ ロ -ロ)ハ「確かにね。その試験段階でもあるのは事実で、それを君の身体で実行しているんだよ。けども、やっぱり生体に完全適応するか、というのは、やはり難しいみたいだ」
生物を活動させる為に最重要な役割を持つのは脳だが、エネルギーとして必要不可欠なのは血液だ。
だが血液には多くの問題がある。適応性であり、血液型だとかが分かりやすいが、万人に通用するものではなく、人の数だけ血液は必要とされる。
疑似血液とは言葉の通りに疑似的な、科学的な方法で精製された血液の役割を持つ液体であり、これの有用性とは語るに及ばず、血液型を問わずに使用が可能であり、それが僕の体内を駆け巡っている。
ハハ ロ -ロ)ハ「臓器の複数も……劣化が早い。生体を人工物で動かすのは、どうにも上手くいかないものだね」
( ^ω^)「身体はクローンだけどお」
ハハ ロ -ロ)ハ「だがそれは機械ではない。リアルな生体だ」
室内には僕と彼女以外の誰も存在せず、この事実は僕達だけの秘密だった。
幾度となく身体の交換を勧められたが、やはり僕は頷けず、限界に至るその時まで、この紛い物の身体で生きると決めている。
456
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 04:52:42 ID:3WxIOFCE0
ハハ ロ -ロ)ハ「……母親の気分なのさ、私は。君の身体をつくり、脳を弄り、内臓を造り出して血液を注ぎ込んで、いざ目覚めさせれば、とんでもない寝起きの挨拶だったが……」
窓辺に歩み寄り、彼女は雲一つない空を見上げる。そんな彼女の背に何を言うでもなく、僕はベッド脇にある籠の中から衣服を掴むとそれに袖を通す。
穏やかな午後だった。いつもの地下施設ではなく、ここは懇意にしてくれる大学病院の一室であり、医療施設の提供と協力には頭が上がらない。
これもまた“公安部”の力が示すものだろうかと笑いそうになるが、僕は灰色のシャツと黒いスラックスに着替えると、革靴を履きこみ、腕時計をして立ち上がる。
ハハ ロ -ロ)ハ「けれども、そんなやんちゃ坊主の身体は、いつ限界がくるとも知れない」
( ^ω^)「そんなのはお、博士……普通の人間でも当たり前なんだお。癌だとか心不全だとか、人の命は常に危険に脅かされているだろうお?」
ハハ ロ -ロ)ハ「だが助かる見込みはある。君は特別な立場だからだ」
未だ空を見上げる彼女は、この五年間ですっかり人間らしい様で、あの日、僕の心臓を貫いた時の彼女と比べると、やはり大きく変化したと感じた。
それが何だか可笑しくて、僕は小さく笑みを零すと彼女に背を向けて室内から踏み出そうとする。
ハハ ロ -ロ)ハ「――右目。気付いていないと思うかい」
( ^ω^)「――……」
その言葉に足が止まり、僕は肩を竦める。
( ^ω^)「そりゃバレるかお。まあ当然っちゃ当然だけども……」
ハハ ロ -ロ)ハ「……眼球移植、何度やってもダメか、キャンディーボーイ」
( ^ω^)「おー……いやまあ、視界は生きてるし、なんだったら“情報連結”もあるからお。別に大した問題じゃあないお」
僕の右目は既に正常な視力を失っていた。
それもまた二年前からの変化だった。徐々に視界を失い、いつしか白一色に染まり、既に十度もの交換を繰り返しても、不思議と視力は低下し、今もやはり世界の迷彩は薄れている。
とは言え左目は健在だし、僕の身体には“戦術システム”として“情報連結”がある。左目によって直接の景色を観測し、右目によって衛星からのリアルタイム観測、及び備わっている熱源感知等で必要な役割を分けていた。
( ^ω^)「別に平衡感覚も距離感も狂ってないからお、問題ないお。いっそこれぞ科学の恩恵と呼べるだろうお?」
ハハ ロ -ロ)ハ「……そうもお気楽な話なものか」
ほら、と彼女は振り返ると僕に何かを投げて寄越す。
受け取った僕はそれを覗き込むと、おいおい、と溜息を吐いた。
ハハ ロ -ロ)ハ「眼帯だ。いいだろう、それっぽくて。きっと似合うよ、キャンディーボーイ」
(; ^ω^)「おー……でもお、さっきも言ったけど、特に問題は――」
ハハ ロ -ロ)ハ「母からの贈り物だ。いいから着けてみるといい」
要らぬ世話に心配だ、と文句を口にしつつも僕はそれを装着した。
途端に右目の世界は暗黒に支配されるが、しかしてそれは単なる暗黒ではなく、それに施された機能を実感すると、自然と感嘆の息が漏れた。
457
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 04:53:05 ID:3WxIOFCE0
( メω^)「こりゃあ……いいおね。成程、より高度なセンサーに“三つ目の視界”……広範囲の主観映像かお」
僕の視界は三つに増えた。左目は変わらずに直接の視界を、右目は“情報連結”による統合情報を、そして第三の目として与えられた眼帯は高度感知センサー内臓、及び広範囲主観映像が追加された。
こりゃ便利だ、と僕は満悦の笑みを浮かべる。少なからず上機嫌な僕を見て、彼女は微笑むと、また、呆れたような溜息を吐いた。
ハハ ロ -ロ)ハ「ある意味、初の外部支援デバイスだね。拡張装備とも呼べる。これで処理の並列が可能だ。視覚情報は事実、とんでもない処理能力を必要とするからね。幾分か軽減できるだろう」
( メω^)「……その並列処理は博士の陣営がやるのかお?」
ハハ ロ -ロ)ハ「そりゃね。手間のかかる息子だよ、君は。感謝したまえ」
いつも中央から僕の制御をし、中継として情報処理までこなしているのに、更に仕事を請け負うという事実。
僕からすれば、最早彼女達に憎しみの気持ちはなかったし、再度誕生した際にそのケジメはつけていた。だからやはり、彼女達に嫌悪感らしい感情はない。
ただ、そこまでしなくてもいいのではないか、と思うが、母性を抱く彼女の台詞に、僕もまた近い感覚を知るが故に、ただシンプルな感謝の言葉を零すだけだった。
( メω^)「……ありがとうお、博士。これでまだまだ戦えそうだお」
ハハ ロ -ロ)ハ「……矍鑠と過ごして欲しいものだがね、キャンディーボーイ」
( メω^)「おっおっ、人を老人呼ばわりすんじゃあねえお、クソアマめが」
無理はするなよ、と改めて注意を受けつつ、僕は病室を後にする。
平日の大学病院は存外人が多く、そんな人の波を掻き分けて僕は外へと出て、眩しい太陽に手を翳した。
ミセ*゚ー゚)リ「あ、ボス! お疲れ様ー!」
(゚、゚トソン「って……何その眼帯?」
外に出て暫く景色を眺めていると、馴染みのある声がやってきた。
その方向を見やれば我が『ライドウ』のお転婆娘二名であり、二年前の姿など最早どこにも見当たらない程、彼女達は強く、逞しく育った。
駆け寄ってきた彼女達は僕の顔を覗き込むと、なんだそれ、へんなの、格好つけか、等々言葉を寄越してくる。
それに適当な対応をしつつ、兎角としてここから出るぞ、と促した。
_
( ゚∀゚)「おう、終わったかボス……って、なんだぁそりゃ、まるで歴戦のそれじゃねえか?」
( メω^)「おー、新しい武装的なやつだお。これが存外、使い勝手もいいし便利でお。さっき博士から渡されたんだお」
駐車場に向かうと、そこには黒いセダン車が停まっていて、運転席から顔を出すのは僕の相棒でもあるジョルジュ・ナガオカだった。
彼に茶化されつつも後部席へと乗り込み、そんな僕の隣には兎歌が座り、助手席にミセリが座ると、ジョルジュは静かに車両を動かす。
458
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 04:53:30 ID:3WxIOFCE0
_
( ゚∀゚)「しかしよぉ、ボス。やっぱ身体を変えちまった方が早いんじゃねえか? 適合化だって山程データがある訳だし、問題なく済むだろ?」
ミセ*゚ー゚)リ「そうだよボスぅ! ここ最近なんて週に三回は透析してるし……見てて心配だよ!」
静かに加速を続ける車両は、首都の高速環状線に合流すると、とある方面を目指してひた走った。
そんな最中、前に座る二名が僕に心配を寄せる台詞を口にする。それに僕は頬を掻き、適当に流そうとするが、隣に座る兎歌までもが不安そうな眼差しで僕を見た。
(゚、゚トソン「出来るんならやった方がいいっすよ、ボス。大丈夫だって、変なことする輩がいたら私達がぶっ潰すし……」
なんとも穏やかじゃない台詞だったが、こうも部下三名に心配をされるとどことなく罪悪感が芽生えてくる。
だが、そういった頼もしい彼らの気持ちを受けても、やはり僕は頷けないままで、外の景色へと視線をやると、ぽつりと言葉を零した。
( メω^)「まぁ、いいじゃあないかお。この身体がいいんだお、僕は」
それを聞いて部下三名は渋い面となり、何かを言いたそうにするが、結局誰もが溜息を吐く結果となり、それ以上の言及はなかった。
重畳、重畳と呟く合間に、やがて車両は目的の付近へと迫り、環状線を抜け出すと、威圧感を放つ高層ビルの前に到着する。
_
( ゚∀゚)「しっかし珍しいよな、よもや東風部長から直接にお呼び出しとはよ。それも『ライドウ』の全員だぜ」
ミセ;゚ー゚)リ「あの人苦手なんだよねー……なんか堅苦しくて」
(゚、゚トソン「どっか見下したような態度あるよね、鼻につくっていうか」
なんとも散々な評価をするな、と少女二名に呆れつつも、僕はジョルジュに指示を出し、ビルの地下駐車場に車両を停止させる。
それから降りてみれば、既に地下入り口では噂の人物が待ち構えていた。
( ゚д゚ )「遅かったな、内藤。てっきりすっぽかされたかと思ってたぞ」
( メω^)「早々に厭味なんて勘弁してくださいお、東風さん。ちゃんと時間に間に合ってるでしょう」
彼こそは首都“公安部”を纏め上げる人物であり、名を東風南と言った。
実質的に言えば日本の闇を取り締まるボスだろう。彼に指示される“公安部”は世界各国で活動を続け、無論国内でも様々な作戦を行っている。
そのうちに、僕達の『ライドウ』も含まれる。立場としては特殊であり、中央直下――政府、或いは首相の個人組織――ではあるが、管轄としては“公安部”に属する。
我々の直接の上司とは言えないが、しかし“公安部”に根差していることは事実であるからして、僕達と彼とは切っても切れない関係性だった。
そんな彼に本日、僕達『ライドウ』は呼び出され、本営とも呼べる警視庁へとやってきた。
相も変わらずに鋭い相貌の彼は僕達に対して歓迎しない態度だったが、それもまた毎度のやり取りだった。
( ゚д゚ )「……とりあえず地下の作戦室に向かうぞ」
( メω^)「お茶ぁ飲む時間くらいあってもいいじゃないですかお。そんな張り詰めんでも」
( ゚д゚ )「ガキの遊びじゃないんだぞ、内藤」
459
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 04:53:51 ID:3WxIOFCE0
彼の台詞に肩を竦める。背後では少女二人が何かを言いたそうにするが、そんな二名をジョルジュが宥めていた。
兎角、彼の言葉に従い僕達は地下入り口から内部へと踏み入り、そのまま更に階下にある特殊作戦室へと案内された。
室内には他の誰もおらず、その事実に僕は疑問を抱くが、東風部長の不機嫌極まった態度やら、急な全員呼び出しを鑑みて、何となく事態の重要性を察する。
( ゚д゚ )「……長らく海外での作戦に従事してもらっているな、内藤」
( メω^)「ええ、まあ」
適当に並んでいるパイプ椅子に促され、僕達はそれに腰かける。
対面する位置に座った東風部長は、まるで労うような、しかしてそんな気持ちは微塵とてありはしない口調で会話を切り出した。
( ゚д゚ )「今となってはお前を含めて四名の戦力となっている。うち、三名は強化体だ。その戦力は初の作戦内容でもある中東某国において明らかとなった。各国特殊部隊に負けず劣らず、と言える」
( メω^)「そいつはどうもですお」
( ゚д゚ )「だが我々は軍隊ではない」
断ずるような剣幕に僕は頬を掻く。
( メω^)「ですが必要とした戦力でしょうお。それに応え続けた結果、今の『ライドウ』にまで成長しましたお。語るに及ばず個々人の教育も万遍なく。ミセリ、兎歌の実力もこの一年半の実戦環境で証明されていますお」
( ゚д゚ )「ああ、それは確かだ。最早多国籍の組織だが、君達は確かに我等が国益に叶う仕事をこなしている。だが先にも言ったように……我々の能力は軍隊とは違う」
( メω^)「交戦を前提とした条件ですお」
( ゚д゚ )「その交戦を未然に防ぐのが我々“公安部”だ」
先からの会話に違和感を覚えた。今まで何度も衝突を繰り返しはしたが、しかして活動内容に対する非難はなかった。
その事実に僕は疑問符を浮かべるが、彼が何度も口にする“軍隊”というワードにようやく合点となった。
( メω^)「自衛隊からの……幕僚長からの圧力ですかお、東風さん」
( ゚д゚ )「…………」
その言葉に彼は寡言になる。それを口には出来ない、という意思表示であり、更に意味を深く掘り下げれば――語らせないでくれ、というものだ。
つまり、この状況は彼の意思によるものではなく、更に上からの、一部の有権者達からによる圧力だった。
それに気が付いた僕と、僕の言葉に理解を示した我が人員三名は、大きく溜息を吐き、なんとも世知辛い世だ、と同時に文句を零した。
460
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 04:54:28 ID:3WxIOFCE0
( メω^)「管轄を違えるな、ですかお。中央直下だってのにですかお」
( -д- )「……それが我々のあるべき姿だ。だがその実績も実力も疑う者はいない。下される評価も勿論、お前達の能力に見合っていると言える。そのお蔭で各国との協力関係が強まったのも事実だ」
( メω^)「…………」
恐らく、今、この状況は外部によって監視されている。その事実を理解するが、しかし東風部長の態度を前に、僕は彼の気持ちを汲むことにした。
敵ではない。だが明らかな阻遏であり、終ぞ我々『ライドウ』に我慢がならなくなった軍部が東風部長に“相談を持ち掛け”僕達の海外における作戦活動を鈍らせようとしているようだった。
( メω^)「海外での特殊作戦による実務訓練、あるいは実戦訓練を必要とする、となると……特殊作戦群、“特戦群”ですおね」
( ゚д゚ )「…………」
( メω^)「他に秘密裡に組織された部隊はないですし、先のイラクでの経験からまったく進展はないですし、そりゃいい加減に“国の意思による実行と必要性”を確立したいでしょうお」
( ゚д゚ )「……昨年、中東での対テロ戦は一旦の幕を下ろした。理由は米国の特殊部隊による首謀者の暗殺達成が由来する。残る掃討作戦も実質は米国の独壇場だ。現地からの要請もないまま、我が国の部隊は歯痒い思いだったろう」
僕とジョルジュが与えられた初の任務は、昨年、我々の思っていた通りに米国の特殊部隊により殲滅が行われ、首謀者の殺害も成功に終わった。
その間、我々の国では自衛隊の派遣もままならず、結局は軍事支援とは名ばかりの寄付とお布施くらいしか協力は出来なかった。
( メω^)「阿部さんは……首相はなんて?」
( ゚д゚ )「……必要な戦力増強と育成であるならば、と」
( メω^)-3「まーそりゃそうでしょうお、あの人らしい……実利をとるのは当然ですおね」
この状況に至った事実が全てだ。最早僕達は上層部からの圧力に応じるしかない。頼みの綱である阿部首相だって、何も僕ばかりを贔屓する訳にもいかず、そも、特殊部隊として設立された組織を放置したままにするのは惜しいだろう。
結果として、僕達はお役御免、というよりは首都“公安部”で一度身を落ちつけ、今までのような戦地での活動よりかは、その発端となる事件の解決へと能力を定められる形となったようだ。
( ゚д゚ )「お前達の心の内を聞くつもりはない。結果としてお前達は現状、あるべき形……私の手元にある。今後の活動の主は国内になるだろう」
( メω^)「おーおー、正に公安らしい仕事をしろってことですかお。スパイの特定やら危険思想の組織の監視、ですかお?」
これまでの僕達は目まぐるしい程に世界各国を渡り歩き、激戦区を突破し、暗殺を繰り返し、人員の救助や他の国家との橋渡しをしたりと多くの役割を求められてきた。
が、それが今後、国内での活動が主になると言われると、内心では安心したような気分になり、実質的な格下げはともかく、他の三名も安堵のような息を吐いていた。
461
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 04:55:03 ID:3WxIOFCE0
( ゚д゚ )「その仕事を甘く見ているだろう、内藤」
( メω^)「元は『国解機関』で働いてた身ですお、僕は。そんな訳がない。状況は戦場でないだけで、命の奪い合いが前提にあるのは変わりませんお」
果たして国内での活動と国外での活動のどちらが過酷か、というのは、勿論国外での活動だ。
理由は様々あるが、第一に見知らぬ土地であり文化も違うし、常に敵に狙われているとも言えるし逃げ場という逃げ場もない。
だが作戦内容は様々だ。殺すこともあれば外交的なものも含まれる。つまり時世により僕達の仕事内容は大きく変化してきた。
対して日本国内での活動は精神的に言えば楽だろう。何せ慣れた土地であり文化も同様だ。言語や思想も強く根付いているものであり、単純に母国の空気は肌に合う。
しかし国内で、更に僕達のような交戦を前提とした特務機関はどうあっても殺しを求められる。それが対組織であることも少なくはない。
つまり、どちらも過酷と言える。真なる安全を失うのは母国であれ異国であれ変わらない。
( メω^)「ですから……嘗めちゃいませんお。他の組織との軋轢や確執も踏まえて、敵が内にいるというのはとても恐ろしい状態と言えますお」
( -д- )「……模範的ではあるが、とても現実に沿った、正しい意見だろう。ならば安心だ」
彼の感想もまた、重みがある。
殺しのプロとはずばり、彼だ。東風南とは戦後から続く闇――主に対第三国人――を相手に様々な作戦を実行してきた。
その時代に名を馳せた実力者であり、最早高齢ではあるものの、未だにその座を退くこともなく、“公安部”に拘り若い人員を育てては国益の為にと組織を運営している。
そんな人物は海外でも長く作戦行動を強いられてきたし、それらを完遂してきた。一度のミスもなく、上層部からも強い信頼を寄せられていることから、彼は言わば、我が国の暗部におけるアイドル的存在だった。
( ゚д゚ )「今後は我が麾下となる。無論中央直下であるのは事実だが“中央そのものが人員で溢れているから”協力して欲しい」
( メω^)「指揮下っつっといて要らない建前用意するってんだから、中々にあなたも据えかねる思いってとこですかお。お気持ち察しますお」
( -д- )「要らん労いだ。睥睨に慄くのはお互い様だろう」
まるでらしくない台詞だったし、他者の威圧なんぞに怯む人品でもないだろうに、と僕は笑いたくなる。
だが彼にも立場があり、僕も一つの組織を束ねる身でもある。ここはお互い、大人を演じて、頷き難くとも手を取り合うのがベストなのだろう。
僕は部下の三名に目配せをする。そうすると三名は複雑そうな表情だったが、しかして渋々と頷くと、それに僕も頷きを返す。
( メω^)「了解ですお、東風部長。それで、そんなお話程度で終わるってことはないでしょうお? わざわざ呼び出したんですから」
( ゚д゚ )「早速仕事を寄越せ、と。勇ましい限りだな」
( メω^)「まぁそれが得意ですからお」
( -д- )「ふっ……」
彼の笑顔をようやく見ることが出来て、心なしか室内の張り詰めた空気が緩和した気がした。
次いで彼は懐から煙草を取り出すとそれに火を灯し、深く煙を喫むと静かに口を開いた。
462
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 04:55:34 ID:3WxIOFCE0
( ゚д゚)-~「……とある地域の話だ。ここから遠くはない。寧ろ隣なんだがな」
( メω^)「お〜、海の風が気持ちのいいところですかお」
( ゚д゚)-~「そうだ。そこでな、幅を利かせる暴力団の存在がある」
_,
( メω^)「ぼうりょくだんん?」
ああ、おいおい、と僕は渋い顔になり眉根を寄せた。
( ゚д゚)-~「まあ聞け。別にそこをぶっ潰してこいって話じゃない。ここからだ、重要なのは」
( メω^)「おー……それがなんだってんですかお」
( ゚д゚)-~「そこの組織の直系にな、困った事業を展開されている」
困った事業とはなんだ、と疑問に首を傾げるが、彼はそんな僕の態度に何を言うでもなく、淡々と言葉を続ける。
( ゚д゚)-~「国内外への遺体配送だ。お察しの通りにその中身は様々だ。武器弾薬、麻薬も当然、遺体そのものにも問題があるケースがある」
( メω^)「ほぉ……結構な金になりそうな内容ですおね。それが問題なんですかお?」
( ゚д゚)-~「……実はな、とある時期に必要な調べは終わっていたんだ。つまり犯罪の経緯も結果も答えは出ている」
( メω^)「……? なら僕達の出番なんて……」
仕事の内容に更に疑問が深まるが、とどめの情報に僕達の表情は険しくなった。
( ゚д゚)-~「問題はその組織を洗っている最中に別件で発見された“麻薬の大量輸入”だ」
( メω^)「――……シャブですかお」
今となってはそれの存在は珍しくもないし、手に入れる手段も簡単と言える。適当に歩いていればそこらへんで買えてしまう。
日本における末端価格は各国のそれと比肩すれば信じ難い程に高額だが、しかしそれこそが日本国内での流通量を物語る。
つまり、日本における麻薬を含め、覚せい剤や大麻等の出回る数というのはとても少ない部類であり、更には厳罰化により更に流通量は減少した。
今では若い少年少女が脱法ハーブ等に手を出したり、或いは咳薬を弄ってシャブの真似事をしたりするが、けれどもその程度で済むレベルだ。
463
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 04:56:35 ID:3WxIOFCE0
( ゚д゚)-~「偶然の出来事だったんだがな。発見されたブツの内容はコークだ。量にして百トンある」
( メω^)「ほ〜、そりゃまた豪勢な。国が買えますお」
( ゚д゚)-~「ブツの件と遺体配送の件は我々にとっては別件の扱いだと思えたが、どうやらその遺体配送で稼ぎをしていた人物と、大量に麻薬を仕入れた人物とが、裏で繋がっているようだ」
( メω^)「ほぉ……でも情報は割れてる訳ですおね?」
( ゚д゚)-~「……片割れはな。遺体配送をしている人物の名前は宝木琴尾という。白根組直系の人間で宝木組の組長だ」
そこまでの特定が済んでいる事実には納得だった。だが“片割れはな”と口にした事実が引っかかる。
( メω^)「百トンものコカインの仕入れですお。そんな大胆不敵な真似しちゃあ即座に足はつくでしょう? 誰なんですかお、その時代を無視したアホは」
(; -д゚)-~「それがな……分からないんだ」
その言葉に、それまで黙っていた我が人員三名が揃いも揃って立ち上がり、何を言ってんだ、と捲し立てる。
_
(; ゚∀゚)「い、いやいや可笑しいだろそれ? そんだけのブツを仕入れることが出来る人物なんて数が限られるし、その量を国外に運び出して、しかもそれを受け取って国内に運び入れるのにだって多くの人員が関係するはずだろ?」
ミセ;゚ー゚)リ「しかも片割れのヤクザの特定が出来てるなら人間関係洗うのなんて訳ないはずでしょ? もっと言えばそれって仕入れの状態で、まだ差配される以前でしょ?」
(゚、゚;トソン「麻薬関連のデータ洗い直して関係ありそうなブローカーを片っ端から潰してきゃ特定簡単じゃん……何してんすかマジで?」
三者三様の言葉はまったくもってその通りで、何故に特定できないのかと僕達は理解が及ばない。
単純に言えば、そんな大胆不敵な真似をするのは自殺行為だし、それだけ大それた所業が日本の闇で罷り通るとなれば、それこそ出来る人物は数が限られる。
ましてやコカインは麻薬の王様とまで謳われる程に高価な部類だ。女王と謳われるヘロインと比べればその作用は穏やかであり健全とも言えるが、百トンものシャブを原価で買い付ける程の財力なんてそれこそ殿上人くらいだろう。
( メω^)(いや……そんだけ複雑化してる、或いは……背景が不透明なのかお)
僕は“情報連結”から日本における麻薬関連のトピックを幾つか掘り起こし、その情報を脳内で理解、処理していく。
どうにも日本国内での末端価格に変化はない様子だった。通常、ブツが溢れた場合は当然ながらに価格は下がる。飽和とはそれを指す。
百トンともなれば日本国内で流通する量を大きく凌ぐというのに、相場が崩れていない現状。つまり、この大量の麻薬というのは――
( メω^)「……市場に出ていないんですおね、コカ」
(; -д゚)-~「……そうなるな」
つまり、その百トンものコカインはそこに放置されているだけであり、いつ、誰が、どのようにして、何故に国内に運び込んだのかが不明だということだ。
464
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 04:57:08 ID:3WxIOFCE0
( メω^)「今のところ、それに関係する人物は宝木琴尾ってやつだけなんですおね」
( ゚д゚)-~「把握しているところではな。ただ……関与している人物は“数え切れない”程だろう」
その台詞の意味は語るまでもない。世に悪が溢れる時、それに群がるのはいつだって利権を手にする腐れの外道共だ。
果たしてその闇を暴くのは中々に危険であり、こりゃ下手な連中ならば即座に抹殺されるだろう、と考えると、成程、故に僕達のような戦闘集団が必要だったという訳だ。
つまり、東風部長からすればベストのタイミングであり、交戦を前提とした場合、僕達にとってもそれが第一の得意分野であるからして、双方は大変に満足する作戦内容と言える。
( メω^)「どこまで暴いたもんですかおね、東風さん。こりゃ難しいですお。或いはあなたの首が飛ぶかもですお」
僕の心配はそこへと向かう。
恐らくこの件は“介入が許されない”部類であり、多くの捜査員が関わっている現状にあってもまともな情報がないのは“何かしらの力が働いている”からだ。
だが僕の言葉に東風部長は不敵な笑みを浮かべると、僕を見つめてこう返す。
( ゚д゚)-~「その程度で腰が引けるとでも思うか、内藤。己の部下達の命ならば全力で護る。だが己の命であるならばとうの昔に国家の為に捧げてある」
( メω^)「おっおっ……その部下に僕達も含まれてるんでしょう?」
( -д-)-~「ふっふ……アホを言え。お前等に心配を抱く方が無粋だろう。何せ“最強無敵”が指揮する中央直下の特務機関だ、幾度もの死地を越えてきた我が国の走狗達だぞ」
そうだろう、と彼は言う。
それに僕達は何を言うでもなく、ただ頷き、次いで笑みを浮かべると彼へと強い眼差しをおくる。
僕達のそれを受けた彼もまた鋭い相貌となり、改めて向き直った僕達は彼からの指令を受けた。
( ゚д゚)-~「『ライドウ』一同に特殊任務を与える。目的地に潜伏し、宝木組と関係するであろう、麻薬の大量密輸犯の特定に尽力しろ」
( メω^)「……了」
多くの力が関わっているのは明らかだ。或いはパンドラの箱と呼んでもいいのかもしれない。
幾つもの死線を潜り抜けてきた僕だが、しかし、今回の任務を受けて、不思議と感じる不吉な何かがあった。
( メω^)(或いは、予想だにしない巨大な力が関わっているのかもしれんお)
それこそはこの日本国をも揺るがすような、或いは暗部の均衡を崩し、社会に強い影響を与える程の巨大な闇があるのではないか。
勘と呼べるものだったが、それこそが僕をここまで導いてきた。生存を確かなものとしてきた。
故に、僕はそれを信じ、己の部下三名へと視線を配ると、即座に作戦行動へと移った。
465
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 04:57:29 ID:3WxIOFCE0
三 中
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466
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 04:57:57 ID:3WxIOFCE0
_
( ゚∀゚)「んで? なぁ〜んで俺がバーなんぞやらんといかんのよ?」
三月の末、適当に買った物件をジョルジュに宛がい、一つの活動拠点として偽りの店を経営させる。
勿論、拠点と言えどもここに留まる必要もなく、情報収集における在地での最前線基地のような役割だった。
僕はミセリと兎歌を従えて彼とは別行動を取る。しかし、そんな采配に彼は納得がいなかいようで、似合わないバーテンダーの格好に僕は笑いながらも答える。
( メω^)「丁度中継地点みたいなもんだお。それにお前の存在は然程割れてないしお」
_
( ゚∀゚)「いやいやいつもみたいにさっさと仕事終わらせようぜ? 潜伏ったって必要なのはその宝木とかいう野郎から得られる情報だろう?」
( メω^)「んまぁそうなんだけどお……」
僕は“情報連結”から件の男に関する情報を複数ピックアップし、その概要を理解すると少々口を閉ざす。
( メω^)(……こりゃ間違いなく『鬼違い』だおね。首都との距離も近い。間違いなく管轄は兄さん……布佐さんだお)
我々が必要としているのは宝木という人物の持つコネクションだ。更に金の流れの詳細や裏稼業のやり取りに関係する組織、人物等の情報も不足している。
曰くは白根組における稼ぎ頭のようで、その手腕から全国でも名の知れる組であると察する。
ただ、宝木の趣味嗜好には大きな問題があった。稼ぎの筆頭として遺体配送の事業を得手としているが、どうにもこれは表向きであり、実態は己の求める遺体の保管庫であると理解する。
複数の少女を違法な手続きで己の家族として迎え入れ、そのほとんどの人物の消息は不明となっている。
問題の施設――遺体保管所――に関する情報も不足しているが、僕の経験上から、間違いなく宝木の手により多くの女性の遺体がここに収納されているはずだと悟る。
( メω^)(……噂は絶えず耳にしてたけども。首都を中心に幅を利かせる二人組がいるとかなんとか……しかもその手腕は圧倒的、かお……)
脳裏に過る乙女二名の表情。『国解機関』も先のテロ事件から大きく様変わりをしたと聞く。
『ライドウ』を中央直下の対国敵に特化した殺し屋組織と言うのであれば、『国解機関』は法を度外視し、対危険因子に特化した殺し屋組織と呼ぶに相応しい。
その差と言うのは御上の意見など端から知ったことではないという、それこそ独断専行を旨とし、更にそれを多くの有権者等によって支持される無法の集いと言える。
危険因子の排除が如何程に重要か、というのは日本国民の誰しもが痛感するところだろう。先の地下鉄事件を含めてもいいが、最大の恐怖こそは十年前のテロ事件だ。
一人の人間が世を狂わせることは十分にあり得る。その狂気によって支配されることは儘見受けられる。蓋を開ければ第二次大戦こそはヒトラー個人の狂気によって引き金を絞られたとも言える。
つまり、因子の排除こそが平和の前提であるという意識がある。その為ならば法をも無視する。例え有権者が相手であれど、その対象が王族であれど、『国解機関』は対象を殺すまで絶対に止まらない。
( メω^)(もうじきに、会うことになるのかおぉ……)
会いたいとずっと思っていた。だが会う訳にはいかなかったし、互い、こうして十年の月日が流れると、相応の立場となってしまった。
よもや愛弟子が序列一位に君臨するとは思いもよらず、いやいや『屍』こそが勝るだろう、と思えども、彼女の精神性は僕と同等か、或いは凌ぐ程に不屈のそれだ。
そんな彼女達にとって、強大な組織に君臨する『鬼違い』こそは妥当な相手と言えるだろう。そこに関連する障害の数多――無関係な一般人、あるいは宝木の私兵すらも殺し回り、宝木を殺すまで止まらないだろう。
_
( ゚∀゚)「おい……ボス? 聞いてんのか?」
( メω^)「お? お、おぉ、聞いてるお」
我に返ると不思議そうにしているジョルジュを見やる。何を呆けてんだ、と言われると、僕は再度唸り、よし、と言葉を零した。
467
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 04:58:22 ID:3WxIOFCE0
( メω^)「他所の手を借りようお」
_
( ゚∀゚)「……はい?」
突然の提案だった。しかも未だ作戦の前段階だというのに、僕は外部に仕事を委託しようと口にする。
流石のジョルジュも理解が及ばず、ついぞイかれたか、と肩を竦めた。
_
(; ゚∀゚)「あのなぁボス……そんな適当な具合でいいわきゃねえだろ? まずを以ってして、ミセリと兎歌の存在もあるんだぜ?」
( メω^)「まあ聞けお。どうにも情報を整理していくとお、こりゃ少しばっか仕事が他所の組織と被りそうでお?」
_
(; ゚∀゚)「あ……?」
僕はカウンターに腰かけ水の入ったグラスを傾ける。
結局、五年経った現在ですらも味覚は狂ったままだ。苦みの強いそれを咽喉へと流し込み、僕は濡れた唇を適当に拭う。
( メω^)「結構障害が多いんだお、今回の仕事。そもそもは最大機密の立場である『ライドウ』だからお、表立って行動するのはマズいお。しかも国内とあっちゃ尚のことだお。僕達は非正規の組織だお」
_
( ゚∀゚)「……そりゃまあ当然だろうよ。御上の連中からしても本当なら大人しくしていて欲しいだろうよ。しかも当たるヤマと言えばキナくせえにも程がある案件だし」
( メω^)「恐らく、探っていく最中で割れる人脈は山ほどもあるだろうお。そうなった時、もしも最悪のケースとして僕達の存在がバレた時……被害は最小で済ませたいおねぇ」
_
(; ゚∀゚)「そのスケープゴートとして、在地に俺一人って?」
( メω^)「んまぁそれもある。けどもその目くらましが欲しいおね。ジョルジュの存在が霞むくらい、注目がそっちに釘付けになるくらいの……」
_
(; ゚∀゚)「そんな組織あるかぁ? 対ヤクザだろ? 公安の“対組”とかだってほぼ使い物にならねえし、協力関係にある暗部なんて――」
( メω^)「敵対関係だからこそ利用しやすいこともあるお、ジョルジュ?」
彼の言葉を遮り、僕は人差し指を立てるとそう言う。
ジョルジュはなんのこっちゃ、と呆れた顔になるが、僕は手元にある携帯端末に、自身で整理した宝木琴尾に関する情報を表示すると、それを彼に投げて寄越す。
端末を受け取ったジョルジュは、最初は興味のなさそうな顔だったが、次第に眉がつり上がり、終いには僕へと驚きの顔を向ける。
_
(; ゚∀゚)「ほーん……こいつ、精神病質――サイコパシーか。となると、この国での管轄は……ボスが所属してた『国解機関』じゃねえのよ」
( メω^)「その情報を、東風さんから件の組織に流してもらうお」
_
(; ゚∀゚)「いやちょい待ち、確かにいい使い勝手だけどよ、奴さんらは絶対の殺しを信条にしてんだろ? 俺達が欲しいのは死体じゃなくて奴個人が持つであろう情報だぜ? そうなると向かねえだろ、仕事」
468
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 04:58:49 ID:3WxIOFCE0
( メω^)「んやぁ、それでいいお。殺してもらう」
_
(; ゚∀゚)「えええ……マジぃ? それどういった勝算があってのことぉ……?」
まるで訳が分からん、と彼は首を傾げる。
( メω^)「そりゃ生け捕りにして尋問出来りゃ最高だけどお。何も奴だけが情報の在処でもないだろうお?」
_
(; ゚∀゚)「つったってよ、“公安部”ですら割れねえ情報だぜ? そんなもん、宝木に無理くり吐かせちまった方が、楽……」
楽だろう、と言いかけて彼は気付いたようだ。
_
(; -∀゚)「……お前さん、マジか。有権者の複数に殴り込みかよ」
( メω^)「それこそが戦略ってなもんお。『国解機関』が動けば関係するであろう有権者等も確実に反応する。何せその手腕を誰よりも知るのは本人達だからお。また、『国解機関』も標的として『鬼違い』と断定すれば確実に殺す。
宝木が標的となることで、それまで個人間での付き合いのあったアホ共は金勘定に走るだろうお。それが誰であれ何であれ、たったの一人でも動けば、そいつを抑えちまえば後は簡単だお」
_
(; -∀゚)「おーおー、また大胆な策だな。よもや『国解機関』をデコイの扱いにするとは……しかもその材料もちゃんと揃ってるし、事実として“警察組織による武力行使は不可能”だ。
踏み込めない領域だからこそ奴等を動かせる……建前も上等だぁな」
( メω^)「んで彼女等の注意はジョルジュにのみ向かうことになるお。それらしく匂わせてくれお、『ライドウ』全体の動きに勘付かれちゃ堪らんお」
_
(; ゚∀゚)「ひえ〜、マジでおっそろしいなお前。そんなんだから血も涙もないって言われんだぜ、ボスぅ……」
今回の作戦概要は単純だ。標的である宝木琴尾は『国解機関』に殺害を任せる。遅かれ早かれその異常性が知られる恐れがある。だったらば敢えて情報を渡して仕事として処理をさせてしまえばいい。
その間に『国解機関』が動いたという情報が暗部を通して有権者達に知れ渡る。そうなれば関係を持っていた人物達は証拠の隠滅と関係性の否定の為に“金を洗浄”する為に海外の口座に駆け込む。
流れを逐一観察し、動きがあれば即座にミセリと兎歌に対象の拘束と尋問を任せ、情報が割れたらば僕が最後の行動として関係を持つ人物達を余さずに捕らえる。
後にミセリか兎歌、どちらかに協力を頼むだろうが、最も重要なことは“僕達の存在と『ライドウ』と言う組織の露呈”を防ぐことだ。
これは中央の為であり、つまり、我々の存在が知られた場合、交戦を前提とした特殊任務を請け負う非公式の暗殺組織が世に知られてしまう。
我々の存在を知る者は少ない。その少ない人物達は誰一人として欠けてはならない日本国の重要人物達だが、中央においては様々な思惑があり、現政府の崩壊を望む国敵も多い。
そればかりは許されてはならない。重要度は国外での特殊任務と変わらない。我々はどういった状況であれ秘匿された、誰の目にもとまらぬ存在でなければならない。
( メω^)「んでその傍らに……いい人材の勧誘をしてほしいんだお」
_
(; ゚∀゚)「いい人材だぁ? 誰だよそれ、そんなのいたか?」
僕の得た情報では、この近辺に面白い血筋の人間が存在していた。
曰くは“人斬り一家”の名で通り、世の暗がりにおいては悪の象徴とされ、僕もその名を聞いた覚えが確かにあった。
( メω^)「暗部はいつだって人手不足だからお。しかもその道に向いた生まれであるならば尚のこと逃す手はないお」
よもや“埴谷の血”が未だに残っているとは思いもよらず、埴谷銀と呼ばれる少年の情報に目を通せば、成程、磨けば確実に光る原石であると悟る。
469
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◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 04:59:25 ID:3WxIOFCE0
_
(; ゚∀゚)「はー、所謂殺しの家系って奴か。幼い頃に一族が全滅してんのね……あれ、一族を全員ぶった斬った殺人鬼を殺したのが、その小僧なわけ?」
( メω^)「状況は不明だけども、結果的に腹部への刺突が致命傷だったみたいだおね。まあ子供の頃だし、よもや殺せるとも思わないだろうから、警察は祖父の自死と判断したみたいだけどお」
この人材を捨て置くのはあまりにも勿体無い。同じく鬼として生きてきた身であるからこそ、埴谷銀という少年に興味が尽きない。
( メω^)(……生まれながらに殺人鬼、かお。しかもこの少年、恐らくは僕と同じ類の『超感覚』を……)
僕の興味は宝木よりも彼へと向かう。作戦はどう動こうが、不慮の事態があろうが挽回するだけの自信もあるし、そこに不安はなかった。
頼るアテとして『国解機関』の存在があるし、更には彼女達の存在もある。或いは、僕は彼女達の実力を知る機会でもあると判断し、もしも可能であれば、彼女達すらも我が戦力に迎え入れたい気持ちだった。
( メω^)(相応に、大人として成長しているならば……彼女達を迎え入れるのも簡単な具合になるんだけどお……)
同じ闇であるからこそ、組織を違えたとしても、居場所になり得ると僕は思う。
大人であればその理解も当然だろう。無駄に固執する必要などなく、己等の存在意義こそは『国解機関』でしか果たせないと思う必要だってない。
或いは、やはり、それもまた僕のエゴなのかもしれない。十年前に彼女達を完全に救えず、抵抗すらも出来ずに命を散らした己の無様を恥じてのことかもしれない。
どうあれなんであれ、今回の作戦は様々な事柄が絡み合い、複雑化しているが、それこそが僕達にとっては好都合であり、入り乱れた闇の景色を誰にも悟られぬままに駆け抜ける。
( メω^)「忙しくなるおねぇ。取り敢えず数カ月は地域に馴染む為にも行動は控えるお」
_
( ゚∀゚)「よもやこういう形での休息とはなぁ……まんまスパイ活動だぜ。久しぶりだよな、潜伏。ブラジルで半年間色々あったの思い出すわ」
( メω^)「あ〜、例の人身売買組織かお。ありゃ面倒だったおね。しかも当局に裏切られたりお、散々だったお」
_
( ゚∀゚)「そうそう、正しく四面楚歌でさ。結局は当局ごと制圧して、後続の組織にさんざっぱら説教して、おまけに帰国すりゃ有権者等との怒鳴り合いだよ。あいつら最前線知りもしねーくせにぎゃーぎゃーと……」
( メω^)「まあ分かりゃしないだろうお、彼等は戦う立場じゃないんだし。実際、僕らみたいな人員がどうやって行動してるかなんて興味ないだろうし」
この世界はどこも変わらずに、いつだって欲によって満たされ、世の暗がりでは多くの人々が犠牲になっている。
それに巻き込まれる国民を救い、或いは我が国にとっての害となり得る存在を抹殺し、果たすべき仕事を終えて母国に戻れば“人殺し”となじられる。
別に正義を気取るつもりはない。正しさと信じることもない。ただ、そこで命を散らした人々に、救えずに済まなかったと、助けてやれずに申し訳ないと、そういった罪の意識だけは募っていった。
ミセ*゚ー゚)リ「ちょいーす、お二人とも! ありゃ、ナガオカさん、バーテンダーだねぇ?」
(゚、゚トソン「なんか似合わないっすね〜。ま、格好つける程のイケメンじゃないか」
ミセ*゚ヮ゚)リ ドッワハハハハ (゚、゚*トソン
_
( ゚∀゚)「ねえボスこいつら殴っていい?」
( メω^)「許してやれお、まだ歳若いんだし。ある意味は懐いてる証拠だろうお」
470
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:00:23 ID:3WxIOFCE0
迎えにやってきた少女二名。僕は立ち上がるとジョルジュへと振り返り、渡し忘れていた物を授ける。
( メω^)「ほい名刺。職業柄、必要になるだろうお」
_
( ゚∀゚)「あー……長岡譲二、ながおかじょうじぃ? なんだぁ、名字がまんまじゃねえかよ?」
( メω^)「まーまー、お前は世界に存在していないことになってるし、その出自すら抹消されてるからお。いざって時にうちの小娘二名が呼び間違えちゃまずい。だったら長岡譲二でいいだろうお」
_
( ゚∀゚)「え……待ってこいつらこのバーにも時々くるってこと? なんで? いらなくない?」
ミセ*゚ー゚)リ「ちょいと、何さその言い種?」
_
( ゚∀゚)「いやだって定期連絡とかさ、電話とかで……」
(゚、゚トソン「そんなの論外に決まってんじゃん。明確な敵が分からないのに通信機器なんて使えると思う?」
ミセ*゚ー゚)リ「本当、頭悪いなぁナガオカさん……長岡さんは!」
(゚、゚トソン「ボスから爪の垢もらえばいいのに。あ、馬鹿に効く薬はないか」
_
( ゚∀゚)「ねえマジでこいつら殴っていい?」
( メω^)「どーどー、落ち着けおジョルジュくん。大人なんだから」
いがみ合う少女二名と大人一名の間に割って入り、僕は彼女達を無理矢理に担ぐと出口へと向かう。
_
( ゚∀゚)「……表には出れないな、ボス。今回ばかりは裏方だぜ」
( メω^)「……おっお。端から裏方だし、暗部は暗躍してこそ、だお」
去り際に寄越された台詞は彼なりの心配だった。僕はそれに適当な返事をするが、事実、今回の件に関して僕は一切の行動が出来ない。
理由は『国解機関』、そして最強コンビとして闇で名を馳せる彼女達の存在があるからだ。
その存在があるからこそ有権者等の油断を誘えはするが、それが故に僕は今回の件に直接的な介入が出来ないでいる。
( メω^)「そんじゃま、頼んだお、ジョルジュ。件の少年はこっちで操作するから、バイトとして雇ってあげてくれお」
チャームを鳴らし、僕は外へと踏み出すと、直に訪れるだろう春の香りと風を浴びて清々しい気分になる。
やはり日本は居心地のよい国で、こうして感じる四季の変化もまた、己が生きていることを強く実感させられる。
471
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:01:10 ID:3WxIOFCE0
ミセ*゚ー゚)リ「……その津出鶴子って人と横堀でいって人は、友達なの?」
(゚、゚トソン「やっぱり会うのはマズいっすかぁ? 昔は一緒に仕事してたんでしょ?」
( メω^)「おー……そうだおねぇ……」
両脇に抱えていた少女達を解放してやると、彼女達は群がるように問いを寄越す。
どことなく、そこには嫉妬心のような、或いは対抗心のようなものを感じた。
未だ歳若く、けれども僕とジョルジュの下で鍛え上げられた彼女達にも相応の自負心はあるだろう。それを抱くに足る多くの死地も渡ってきた。
そんな二人を伴いながら、僕は優しい風の吹く街を歩き出す。遅れたようについてくる彼女達に、さて、何と答えたらいいだろう、と言葉を詰まらせていた。
( メω^)「友達だからこそ……会えないんだお」
_,
ミセ*゚ー゚)リ「えぇ〜? 何それ?」
(゚、゚トソン「なんか大人って面倒っすね〜……」
僕の言葉に彼女達はさっぱり理解が出来ない様子で、けれども、それこそが彼女達の若さであり、僕は嫌な気分になるでもなく、自然と笑みを浮かべてしまった。
( メω^)「おっおっ。そうそう、大人は色々と複雑なんだお〜」
ミセ*゚ー゚)リ「あー、なんか余裕だぁ! ずっこい!」
(゚、゚トソン「ふーん……でも直接見て見たいっすね、その二人」
兎歌の言葉にミセリも頷くが、そればかりは止した方が身の為、と言える。
それを口に出すことはないが、この十年で彼女達の実力も相当に練り上げられているだろう。
元より横堀でいの誇る『超感覚』は我が姉と同じ類のものであり、その特異性を前にしては“初見では確実に勝てない”と僕は知っている。
その特異性を経験していた僕であっても横堀とは引き分ける結果で終わった。
では残る津出鶴子はどうだろう。あのお転婆でアホ程に喧しくて、常々ハイテンションでヤンキー気取りで泣き虫で弱虫で、なのに諦めを受け入れず、何度も立ち上がる人物は――
( メω^)「……鶴子の名は伊達じゃあねえんだおねぇ」
風に浚われ、その言葉は誰の耳にも届かない。
嘗て己の姉が確立した地位に腰を据える津出鶴子。同じ名を持つのは偶然だとしても、そして『鬼違い』であり『鬼狂い』でありながらも、その生存を許される程に暗部では特別の扱いだ。
僕が伝説と囁かれるのならば彼女こそは王道だ。数多の戦地を渡って地獄を味わっても尚、『鬼違い』を殲滅する為に日夜を血で染め上げている。
( メω^)(……“そうはなるな”って、言ったんだけどおぉ……)
果たして彼女を突き動かすものはなんだ。今際の際に僕がやった台詞を忘れたのか。
どちらにせよ、それを確かめる術はただ一つ。彼女と対峙し、直接に訊く以外にはない。
472
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:01:54 ID:3WxIOFCE0
( メω^)「ミセリ、兎歌。暫くは僕の代わりに行動してもらうお」
ミセ*゚ー゚)リ「んー、了解ボス!」
(゚、゚トソン「まぁ、それがあるべき形っすよ、ボス。王様が最前線に出ちゃまずいでしょ、本来なら」
兎歌は心配性だ。或いはそれも感謝の表れだろうが、僕の身体の機能の低下を知った日からは、まるで母親のようにどうのこうのと申し立ててくる。
有難い心配ではある。だが僕にとって行動しないことは即ち生の意味を失うも同義だ。
故に、今回は仕方のない形ではあるが、水面下での行動と、指揮をするだけの立場であり、まるで歳を召した官僚の様だ、と己の無様に落胆する。
( メω^)「古い王様はお、最前線に出てばったばったと敵を薙ぎ倒したもんだお。それこそ鉞を手にしてお」
ミセ*゚ー゚)リ「マサカリ? って斧?」
( メω^)「おー、そうそう。戦斧ともいうけどお、これが力の象徴でもあり、王家の象徴でもあったんだお」
(゚、゚トソン「また世界的に古い話だなぁ……バイキングとかもそうだったっすよね。何故か古代からそういう認識だけど、普通は剣とかじゃ?」
或いは僕はそれになろうという、強い覚悟を抱いているのかもしれない。
古来から鉞とは力の象徴であり、王を守護する象徴としても知られている。
鉞の歴史は古く、紀元前まで遡れば、その誕生の由来やらは様々だが、獲物を仕留めることを可能とし、また敵対する勢力をも薙ぎ払うことも可能で、多くの役割を担った鉞は神性を意味した。
( メω^)「王を守護せしめ護国を為さんが為に、迫る“魔を裂く為に”……鉞ってのは“魔裂かり”なんだお。悪、魔、闇と言った恐ろしいものを切り裂く、絶対的な力の象徴なんだお」
蘇ってから五年。僕の身体は外見的には普通と言える。
それでも中身は既にボロボロだった。それをハロー博士は知っているし僕も自覚はしている。
だが、まだ止まる訳にはいかない。僕が僕として自己を認識し、身体が動くうちは、僕は戦い続けなければならない。
( メω^)「だからお、やっぱ僕は最前線でなきゃいけないお? お前達のことも心配だしおぉ」
ミセ#゚ー゚)リ「あ、まーた子ども扱いしてる! もう私達大人だし!」
(゚、゚トソン「……格好つけだなぁ、ボスは。無理はしないでよ、お願いっすから」
( メω^)「おっおっ……心得てるお」
己の為すべきことを果たす為に、贖罪の道を歩み続ける為に、己の仲間達を護る為に、そして我が弟子とその親友の行く末を憂うが故に、僕は戦い続ける。
それこそが我が道の全てであると信じて。
473
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:02:22 ID:3WxIOFCE0
三 下
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474
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:03:29 ID:3WxIOFCE0
夏の終わりに事態は大きく動いた。
『ボス〜! 『国解機関』の二人組が動いた〜!』
『しかもあの埴谷って子まで巻き込んでるっすよ! どうなってんのあの二人!? 一般人巻き込むなんて信じられない!』
脳に直接突き刺さる乙女二名の台詞に僕は苦い笑みを浮かべてしまった。
(; メω^)(ま〜津出さんの性格からしてやるだろうな、とは思ってたけど……これはしゃあないお。彼の戦力分析になると切り替えるかおぉ……)
状況をリアルタイムで観測し情報を寄越す彼女達だが、僕もスパイ衛星を介して超上空から『国解機関』と埴谷銀の行動を監視していた。
なんとも大胆不敵と言うか、あまりにも滅茶苦茶なやり口だったが、思い返せば僕もそうやって彼女を巻き込んだ立場だ、非難することは出来まい。
(; メω^)「ったく、相変わらずのお転婆だおねぇ、いい歳した大人だろうにおぉ……」
そんなことを呟き、僕は椅子に腰かけ、対面する位置に腰かけている人物を見やる。
場所は郊外にある豪邸だった。内装と言えば派手な具合で、金銀細工の数多やら、或いは高級な絨毯の踏み心地やらには呆れの溜息すら漏れる。
周囲を適当に眺めると、改めて己の座る椅子の心地よさにも参りつつ、僕は面をあげて対面する人物へと言葉を紡いだ。
( メω^)「……こういう結果は残念ですお、某氏。下手な遊びなんぞに手を出さなきゃよかったのに」
「ひぐーっ……あぃぅーっ……!!」
対面する人物の四肢は粉砕してある。その人物は名の知れた議員だったが、そんな彼もこの後には海の藻屑となってもらう。
ストーリーは“公安部”が適当に用意するだろう。阿部首相にも事前に報告を済ませ、了承の返事を得ている。その了承とは暴力を意味し、首相は彼の命を見限った。
それも当然だ、と結論する。世に溢れる闇は実に複雑だが、その糸口さえ掴めば後は芋づる式だった。
( メω^)「すんませんお、うちの子達、加減できないんで……まあけども、これも当然の結果ってことで受け入れてくださいお」
作戦は半年前に描いた筋書き通りだった。『国解機関』の動きと同時に身の危険を悟った某氏は即座にミセリ、兎歌により特定され、行動に移される寸前となって彼女達の手により拘束される。
その際、逃亡しないようにと四肢を粉砕し、椅子に固定し、更には片目をもいでいったようで、恐怖の全てを植え付けたようだ。
入れ違うように僕が訪れ、彼女達は状況の観察の為に最前線へと向かい、それからほんの少しもせず、今に至る。
「ころっ、ころすのかっ……内藤ぉ……!! わしをっ、殺すのかっ、この義士をっ、国の誉れを……!!」
( メω^)「殺しますお。それが国の意思ですお」
「〜〜〜っ……!! この、人殺しめ……!! ふざけおって、わしらが国をつくったのに、戦後の混乱から護ったのにっ……!! こんな所業が許されるのか……!! 阿部めぇ、奴めがぁ!!」
口から血と唾液の混ざった液体を零しながら某氏が恨み節を吐く。
しかしそんなものに付き合っている暇はなく、余裕もありはしない。故に、僕は立ち上がると彼の傍へと歩み寄った。
( メω^)「全てはそういうものですお。あなたはもう助からない。僕の存在をこういう形で見たのならば、それが終わりの際なんですお」
「うっ、ひぎっ、ぎざっ、まらぁ……!!」
475
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◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:04:03 ID:3WxIOFCE0
これまでの生涯において某氏は確かに特別な立場だったろう。多くの実績も残してきただろうし、彼を称える人々だっているだろう。
だが既に手遅れだった。悪事に加担し、あまつさえ罪を退けて逃げようとした事実。そうなってしまってはもう、彼に生き残る道は残されていない。
( メω^)「お願いですお、某氏。僕はあなたを殺す。でも必要なことを、大切なことをちゃんと喋ってくれれば……辛い思いをさせずに、一瞬で殺しますお」
「うっ、ふっ……ひうっ……!!」
( メω^)「だから、教えてくださいお。お願いですお」
よく言われることに“人は己だけは助かる”と盲信すると聞く。それは確かなことだ。中世の時代も、断頭台に首を据えるまで、処刑された人物達は己だけは助かると信じていた。
だがその死が覆ることはなかったし、今、この状況も変わらない。
ただ、僕は提案をするだけだ。楽に殺してあげますよ、と。結果として死ぬことに変わりはないが、それでも絶望に沈むか、刹那でこと切れるか、選ぶことは可能だと彼に伝える。
「うっ、うぅっ、ううぅぅう〜〜〜……!!」
( メω^)「……泣かないでくださいお。大丈夫ですお、痛くないですから。だから……喋ってくださいお」
それは甘言だ。人は今際の際において、安楽を望む。
この瞬間に至るまでに痛い思いをしているからだ。ミセリと兎歌は確かに容赦の一つもなく暴力を振り撒いたが、それは“僕が施した教育”によるものだ。
人は痛みには耐えられない。苦しみにも耐えられない。延々と続くその痛みこそは拷問を意味し、その立場になった時、人は解放を、即ち死を懇願する。
それによって柵から解き放たれるからだ。再度殴られたり骨を折られたり眼球をもぎとられたりしなくて済む、想像を絶する苦痛を味わわずに済む――楽になれると。
それこそが心理的なものであり、軍事的な教育でもこれは必須の項目となっている。悪戯に傷つける訳でも、憂さを晴らす為でもない。全ては“時の節約と人道的な意味での暴力”だ。
「きっ、きょ、かいぃ……」
( メω^)「……教会?」
某氏は涙を流し、震えながらも言葉を紡ぐ。
その言葉を途切れさせないように、そして焦らせないように、僕は穏やかな口調で彼に問いかけた。
「きょう、かい、首都、きょうかい、十字の、きょうかいっ……あれが、あそこ、宝木と、コネ、がっ……!!」
( メω^)「……そうですかお」
「ほかっ、他はしらなっ……わからないっ……あそこで、大きな取引、ある、って……ひぐぅっ……!! 麻薬を、あそこに、ってぇ――」
( メω^)「ご協力、ありがとうございますお、某氏」
言葉を遮り、僕は彼の首を圧し折った。
刹那の速度に彼の意識は追いつかぬままで、きっと、己が死んだことにも気づかずにあの世へと参っただろう。
脱力した遺体から離れると、僕は必要な情報を即座に重要項目として“情報連結”に発信し、それを確認した我が人員達の驚愕による声が鳴り響いた。
476
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:05:10 ID:3WxIOFCE0
『おいおい……こりゃ、マジか……どーりで誰も手出しできねえ訳だよ……』
『十字教の……? あの量を必要とするってなると、本営だよね、ボス……』
『ってことは、首都の、大司教区……?』
各々の台詞は予期せぬ事態からか上ずっていた。僕自身も信じ難い情報だったが、しかし古くからそういった面があったのは歴史が物語る。
それが現代でも起こった、という認識で済ませなければ、僕達はこれから己等が仕出かすであろう行動に自身等で納得が出来なくなってしまうだろう。
『内藤……一度本営に戻れ』
( メω^)「東風さん……」
通信に割り込んできたのは作戦の総指揮を任されている東風部長だった。
彼の一言により緊張がはしった。如何に国事のそれと言えども対する存在はあまりにも強大であり、即座に攻め入る訳にはいかないと判断しての通信だろう。
それには僕も納得をするが、しかしこの流れは確実に――
( メω^)(隠滅するだろうかお……)
相手が悪すぎるのは間違いないことだった。それに手を出せば世界をも敵に回すと言っても過言ではない。
切羽詰まった状況でもあったが、兎角として僕は外へと出ると残りの始末を“公安部”の下っ端に任せ、空を見上げる。
( メω^)(……じきに夜が明けるおね。首都に帰還しないとお)
各々での行動は決まっている。
ジョルジュは基地の証拠隠滅、ミセリと兎歌に彼を回収してもらいつつ、僕は僕で撤退行動となる。
悶々とした、気分の悪い何かが胸にあった。それは不快感を意味し、今回の決着にはまったく納得がいなかい。
( メω^)「……退くべきなのかお、僕は」
声に出た疑問だった。それに対する返答はなく、緩やかな風が静かに頬を撫でるだけだった。
だが、そんな僕の背に、何故かは知らないが、本当に不思議だが、懐かしい声で言葉を紡がれた気がした。
477
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:05:50 ID:3WxIOFCE0
『しゃっきりしなさいよ。それでも“最強無敵”の殺人鬼かってーのよ、腐れ内藤』
( メω^)「――……」
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478
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:06:32 ID:3WxIOFCE0
それは間違いなく幻聴だったし、振り返った先に彼女の姿はなかった。
先程の更新された情報から、既に宝木組本営での戦闘は終わりを告げ、件の宝木も『国解機関』の手により抹殺されたと知る。
五十人のヤクザを相手に、よくもまあ圧倒的な力を振り翳して大袈裟に暴れ回るものだと、僕は笑ってしまう。
( メω^)「……上等きられたんじゃあ、こっちも上等せにゃあならんおねぇ……」
僕は車両に乗り込み、エンジンに火を灯すと豪快にアクセルを開いて景色を駆けだした。
向かう先は当然ながらに首都だ。しかし首都と言えども警視庁への呼び出しに応えるつもりはない。
ただ、懐かしい風と、懐かしい声と、懐かしい情熱を受けた僕は、この十年間、決して近寄るまいとしていたとあるバーへ向かうことを決意した。
それに意味があるのか、と己で問う。だがそれにこそ意味はあるのだ、と己に対して答える。
( メω^)「ヘタレてちゃあ、笑われちまうおねえ……ダチ公におぉ……」
十二気筒のクーペは夜の景色に咆哮を残し、法定速度を超過したスピードで駆け抜けていく。
やがて目的の場所へと到着し、僕はヴァンキッシュから降りると、地下へと降る階段に足音を響かせ潜っていく。
そうして懐かしくも優しい香りのする店内へと踏み込めば、相も変わらない樫木張りの床を鳴らし、煙草と酒の溢れるアダルトな空気を割き、驚いた顔をする彼の前に腰を掛けた。
ミ,,゚Д゚彡-~「……おいおい。別にお前の実力からすりゃ驚きゃしねえが、しかしまぁ……」
一度紫煙を喫み込み、それから肺を満たすと、彼はゆっくりと大きく息を吐く。
放出された煙は、あの十年前と変わらない銘柄特有のもので、バラン葉の誇る芳醇な香りに至極満悦とした表情を彼は浮かべる。
ミ,,-Д゚彡-~「……久しぶりだな」
( メω^)「おー、相変わらず煙草吸ってるのかお、布佐さん」
僕の命を救い上げ、兄と慕う程に世話になった人物。名を布佐と呼び、僕は彼と十年ぶりの再会を果たした。
彼は驚いた顔だったが、しかし僕の生存に驚愕している訳ではない。
大胆不敵にも敵対組織の親玉に、何の前触れもなく、しかも監視の目すらも躱しながらに、かと思えば最早正体を隠しもせずに姿を見せた事実に驚いていた。
ミ,,゚Д゚彡-~「で……色々今回はやってくれたみたいだな?」
( メω^)「ありゃ、それもバレてーらかお?」
ミ,,゚Д゚彡-~「そりゃな。何の作戦行動かは今一ハッキリしんかったが……我が最高戦力二名のデータなんて今更必要か?」
( メω^)「それもそうだけど、ほら、あの少年……“埴谷銀”。彼は将来有望だからお、まぁテストも兼ねて」
ミ;゚Д゚彡-~「あ、ああ〜……やっぱそっちも欲しいか、あの少年」
何ともない会話だった。だがそれだけで十分にも思えた。互いの立場は明らかであり、本来ならばこうして会話をすることすら有り得てはならない。
だが、それでもよかった。これも一つの決心であり、僕が僕である為に必要な行動でもあり、己の在り方を見つめ返すに足る、ささやかな時間だった。
479
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:07:10 ID:3WxIOFCE0
ミ,,゚Д゚彡-~「またな――ブーン」
( メω^)「おっおっ」
何ともない会話を終えれば、外に待ち受けていたのは我が部下の三名だった。
三名には散々“情報連結”から連絡を寄越されていたが、次第に僕の気持ちを察したのか、以降は大人しくなり、こうして目の前にすれば、三者は三様の反応を示す。
ミセ*゚ー゚)リ「あ、ボス! おっそーい!」
(゚、゚トソン「なぁに一人で『国解機関』の大将と密会してんすかぁ? 怒られますよぉ?」
_
( ゚∀゚)「いや本当……好き放題し過ぎだから、ボス……マジ、俺の苦労を知って、お願い……」
僕の決心に彼等は気付いていた。けれどもどうのこうのと言わず、なんともいつも通りに愚痴だけを吐き、僕を真っ直ぐに見つめてくる。
それに救われる思いだった。故に、僕は彼等を促し、景色へと踏み出す。
( メω^)「次の駒を動かしに……『ライドウ』、作戦開始だお」
一つの山場だった。己等の在り方を疑いもせず、国敵と定め、僕達はその了承を得る為に、駒を動かす為に首都本営、警視庁へと向かう。
到着すれば当然のように一つの騒ぎとなっており、僕を出迎えた東風部長と言えば怒り心頭の様で、目が合うと同時に頬を殴られた。
(# ゚д゚)「正気か、内藤!! 何を思って『国解機関』に近づいた!!」
( メω^)「おーいってぇ……いやぁ、ちょいと懐かしい顔が見たくなりましてお?」
(# ゚д゚)「直ぐに地下の作戦室にこい!! 総理がお待ちだ……!!」
( メω^)「……おー。よもや即座に阿部さんが動きますかお、はーあぁ……」
その事実に溜息を吐きもするが、内心ではしてやったり、と言った感想だった。
何せことは前代未聞の敵であり、それを相手取るとなれば、それこそ首相クラスの了承を得なければならない。
そうともなれば僥倖だ、と僕は密かに笑みを浮かべ、我が人員三名を伴って地下へと向かう。
480
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:08:18 ID:3WxIOFCE0
N| "゚'` {"゚`lリ「やぁ……内藤くん」
( メω^)「阿部さん……ご無沙汰してますお」
到着すれば、室内では既に彼が待ちかねていた様子で、僕を見ると椅子から立ち上がる。
僕は簡単な挨拶を済ませると、さて、どこから切り出すか、と悩むが、彼に対する遠慮というのは意味を為さない。そういう人品であり、僕も同じ好みだ。
つまり、単刀直入こそが求められる。故に僕は臆面もなく、彼へと要件を口にした。
( メω^)「首都大司教区に向かいますお」
N| "゚'` {"゚`lリ「……まったくもって話が早いねぇ、君は。まあそれが私の好むところでもあるが……」
着席を促され、僕は彼と対面する。背後には緊張の面持ちの部下三名と東風部長が不動に立ち、固唾に喉を鳴らした。
N| "゚'` {"゚`lリ「情報によれば、件の薬物はその教会に持ち込まれる予定である、と」
( メω^)「との話ですお。密輸の犯人は未だに不明ですけどお、ここを洗えば特定は確実ですお」
N| "゚'` {"゚`lリ「しかしリスクが大きいし相手は宗教のそれだ。それも世においては最大の力を持つ」
( メω^)「開ければ諸悪の根源に辿り着けますお。或いはそれに連なる存在に、ですお」
分かり切っていることだ。それ程の巨大、且つ強大な組織が関与しているとなれば、それに加担する存在も、また、それに連なる程の巨悪だろう。
蓋を開ければ正しくパンドラのそれと言える。だがそんな前代未聞の闇が、よもやの日本国内で行われている事実。
これを前にしては、当然ながらに誰だって手を引く。何せ相手の規模が想定外だからだ。直接の関与がなかったとしても、手引きしていた事実だけでも恐ろしい事態だろう。
故に阿部首相ですらも判断を下せないでいる。それは当たり前だろうが、しかし僕は諦めるつもりは微塵もない。
( メω^)(必要な布石は打ってきたからお)
僕の暴走にも思える行為はいつだって周囲を騒がせてきた。
例えば二年前、某自治区において僕がミセリと兎歌を救助するために領域侵犯すら度外視し、直接に日本へと帰国した際は、あわや中露との争いにまで発展する勢いだった。
それはある種、大きな切っ掛けになったと言えるだろう。曰くは世の闇においては僕は有名人のようで、それも世界規模で活動を可能にする特殊な身体を持つ殺しのプロだ。
そんな人物が、秘匿されるべき人物が、先の事件では何もかもを無視して暴走し、世界各国に緊張を抱かせた事実。
最早その情報だけでも十分だが、つまり、僕と言う存在は、その実、秘匿されていたとしても――超絶の注目度を誇る。
( メω^)「阿部さん。確かに相手は恐ろしく強大で、且つ未知数な存在ですお。その門戸を叩いて話をさせてくれっつったって無理でしょうお」
N| "゚'` {"゚`lリ「……それが分かっているのなら、尚のこと今回は難しい事案だとも理解しているだろう、内藤くん」
( メω^)「正攻法でいったって門前払い、んで知らぬ存ぜぬで押し通されるでしょうお。だったら強行手段っていう手もある。ですが……それを決断できない。そうでしょう」
N| "゚'` {"゚`lリ「……その通りだ」
481
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:09:15 ID:3WxIOFCE0
さて、そんな僕の注目度というのは御理解いただけただろう。その実力やらも今更疑う必要もないだろう。
ところで、僕は本日の行動において、途中、この本営に帰着するまでに、思いにもよらぬ行動を取っている。
それは普通に考えればタブーであり、互いの関係は決して相容れぬものであり、故に我等が上司である東風部長は散々に怒り狂っていたし、こうして阿部首相まで僕を抑えにやってきた。
だが、それでよかった。これでよかった。僕は確かに暴走をしていたが、しかし、何も無計画に、それこそ出鱈目にガキの具合で感情に振り回されていた訳じゃない。
N| "゚'` {"゚`lリ「これまでの作戦とは大きく異なる内容だ。悪いが、今回ばかりは――」
( メω^)「阿部さん、勘違いしないでくださいお」
N| "゚'` {"゚`lリ「んん……?」
僕は一度も“攻め入る”とは言っていない。
僕は一度も“潜入”するとも“突撃”するとも“急襲”するとも言っていない。
( メω^)「僕は、これから、首都大司教区に……“向かう”と言ったんですお。その強大な組織にケツを拭かせる為に」
N| "゚'` {"゚`lリ「……よもやの話し合いに応じるとでも思うのかい。先に君も言ったろう、今回の相手は一つの国家程度に応じる程、やわな精神は――」
例えば――例えばだ。
世の裏側で暗躍する伝説的な存在が、その日、強大な組織を殲滅する覚悟を決めるとする。
しかし戦力が不安だ。敵と仮定した組織の全貌は不明瞭だし目的や犯罪における思想も不明だ。
ではそうなった時、その怒り狂った伝説的存在は諦めるか。きっと否だ。
何せ凡そ六年分にも及ぶ実績がある。数多の国を飛び回り、多くの人々を殺し、また、多くの人々を助け、国と国の橋渡しを完了させ、休む間もなく戦いに明け暮れる。
そんな人物が諦めるか――否だ、例え強大であろうがそいつは挑む。何せ敵と見定め、その確証に程近い物を得たとなれば大義名分も成り立つ。故に彼は攻め入る。
だがそんな戦夜叉と誇る三名の精鋭のみで足りる事案か否か。それもまた難しい。不慮の事態も含め、危険性は計り知れない。
しかしそんな戦夜叉だが、実を言うと、過去に殺人集団によって組織されるとある機関に所属していた事実がある。
長く関係を断ち、先のテロ事件から十年の歳月を経ても尚、敵対関係にある互いだった。だのにもかかわらず、そんな母体に、本日、戦夜叉が立ち寄った。
――立ち寄り、何かのやり取りをしてから、首都本営へと舞い戻った。
( メω^)「してるんですお、やわな精神。不動の城であれ鉄壁の要塞であれ……それをも崩さんとする兵力を前にすれば、外交に応じるのは世の理……幾千年も前から繰り返されてきた、兵法のそれですお」
その会話の内容など誰にも分からない。だが時が、タイミングが、あまりにも“何かを思わせる”動きだ。
如何に戦夜叉が脅威と言えど個人の戦力ならば組織が全面で相手取ったとて問題はない。
だが――“その戦夜叉に並ぶ戦力によって構成される組織”までもが協力関係となり、攻め入られたらば――
(; ゚д゚)「総理……お電話が、入っております」
N| "゚'` {"゚`lリ「こんな時にか……一体誰だ、どこのどいつが――」
(; ゚д゚)「だっ……大司教猊下です。首都司教区庁の御方から、お電話が、直通で、こちらに」
N| "゚'` {"゚`lリ「んなっ……!?」
ああ、釣れた、釣れた――僕は笑う。歪に、大きく、悍ましくも、それでいて愉快で堪らなくて、どうにも抑えがきかない。
482
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◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:10:07 ID:3WxIOFCE0
( メω^)「ほらね、阿部さん……門戸が重くて、とても開きそうにないのなら……」
僕は立ち上がる。
背後に立つ己の部下三名へと振り返り、阿部首相の護衛として残れと命令を下す。
それに各々は力強く頷き、よくぞやってみせた、と僕を見つめていた。
( メω^)「開かせるんですお、そいつら自身の手で」
迷いの一つもなく、僕は一歩を踏み出し、更にもう一歩と踏み込むと、未だ混乱の最中にある作戦室を飛び出す。
今現在、対応をしているのは阿部首相だ。ついでのこととして、これから僕が単騎で向かうと告げてもらえたなら、会話は穏やかに済むだろう。
断罪は不可能に近い。だが罪を認めさせることは可能だし、更に、例の大量密輸犯の確たる情報を得られるならば、寧ろ勝利の形と言える。
『――恐ろしいやり口だよ、キャンディーボーイ。混乱こそを逆手にとるか。ありもしない兵力を想像させてまで』
脳に響き渡るのはハロー博士の声だった。
それは呆れたような、しかして感心したような、こりゃしてやられた、と言った感じで、僕は景気よく口笛を鳴らす。
( メω^)「現代戦の最たる弱点とは、つまり情報戦そのものにあるお。それこそが戦局を左右するけどお、それこそが盤上の全てを狂わせるんだお」
僕はただ世間話をしに行っただけであり、懐かしい顔に安堵を抱いただけのことだが、他の人々の心理はそうとは思えまい。
『心理を用いた戦略、まさに三国志の再現だね。古い時代の戦略は現代でも十分に通じる訳だ』
( メω^)「おっおっ……温故知新ってお。時代が変われど、根本的なものってのは、兵站の概念も含めて……変わりゃしないんだお」
僕は回収されていたヴァンキッシュに乗り込むと、クリスタルキーを押し込み、始動ボタンを指で押す。それにより十二気筒が垂涎物のサウンドを吐き出す。
乾いたような、けれども切り裂くような鋭いエキゾーストを響かせ、僕は次第に明るくなり始めた夜の狂騒へと飛び出す。
『しかし……一体どこでそんなやり方を決断したんだい? まるで唐突過ぎる気がするけれども……』
車を操作する最中に彼女から問いを寄越される。
それに僕は微笑み、素直に答えることにした。
( メω^)「ダチ公にお、呆れられつつも背中を押されたからお。だったら……突っ走んないと、笑われちまうだろうお?」
『だ、ダチ公? 背中を押されたぁ? 何を意味不明な……あ、そうやって私達をからかってるのかい? まったく、君はお茶目極まるスウィートキャンディーベイビーだよ……』
きっと信じてはもらえないと分かっている。けど、それでも、僕の背を押したのは、間違いなく僕の友人である彼女――津出鶴子だ。
483
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◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:10:42 ID:3WxIOFCE0
◇
( メω^)「見事な中庭じゃないですかお、大司教猊下。立派な薔薇園ですおね」
「ええ……我が教会の自慢ですので」
( メω^)「まるで心が洗われるようですお……いや本当、素晴らしい」
辿り着いた教会で、僕はとある人物に案内されるがまま中庭へと招かれた。
場所は首都の某所にあり、一般的にここは司教区と呼ばれ、言うなれば日本における十字教の本山のような扱いだった。
次第に明るくなる空を見上げると、ああ、これはまた僕の心境を映すかのようで、つまり、この中庭での対峙が半年間に及ぶ作戦へと終止符を打つことを意味した。
( メω^)「……端的に訊きますお。ここに運ばれてくる予定だったんですかお」
僕の問いに、大司教という立場を持つ人物は寡言になり、一つの薔薇を手に取ると、それを大切な手の動きで見て、それから茨へと指を這わせた。
「……我が教会の象徴を御存じですかな、内藤氏」
( メω^)「……無原罪の聖母、マリアですおね」
「そう、我等の愛は全て彼女の御元へと向けられるものです。それはとても尊いものであり、この日本国における我等が同士もまた、普遍なる愛を抱き、或いは祈り、世の安寧を信じ続けています……」
彼の指が棘を強く押すと、それに伴って血が垂れた。
だが、彼はそれを見つめるだけで、表情には痛みによる苦悶もなく、どころか白紙のようにも思える程に無の一色だった。
「その安寧においては、きっと……聖母マリアも涙を流すことでしょう」
( メω^)「…………」
「今だ紛争は絶えず、それは商売の形に発展し、この日本国においても殺人等の犯罪は増加し、しかしてそれは全世界でも同じく……闇が跋扈しています」
( メω^)「それを……癒す為のものである、と」
彼が明言することはない。だが、彼の口から溢れる、まるで慈悲を思わせる言葉の数々だが、その実は建前と言い訳でしかなかった。
僕の言葉に彼は頷き、その穏やかな瞳で僕を見つめた。
「……それもまた、神の愛であり、聖母マリアの慈しみなのでしょう。そうだとは思いませんか、内藤氏」
( メω^)「……慈しみの手段としてシャブかっ喰らうような阿婆擦れにゃあ、死んでも心酔せんですお、僕は」
「辛辣ですね。ですが、これで十分ではないですか。よもやのお一人でのご来訪、真に、真に驚かされましたが……お優しいご判断に、我等首都本営は大層感激しております」
484
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◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:11:34 ID:3WxIOFCE0
勘ぐった挙句、僕の策略にはまり、見事騙された彼等からすれば、畜生めが、と叫び散らして散々に暴れ回って大小便でも垂れ流したい気分だろう。
だが僕は構わない。外面だけで対応する大司教とやらの言葉に適当な返事をし、僕は薔薇園から見る、美しい朝焼けを視界の中心へと据える。
( メω^)「……必要なことは、また、後々。門を開いた時からあなた方の負けなんですお。受け入れなさいお、この現状を」
「世に知れる内藤氏でありますから、当然に備えは必要でありましょう」
( メω^)「ああ、もういいですお、吐き気がする……」
何とも清らかなことで、と厭味を言いたくなるが、けれどもそれすら紡ぐ気は失せ、僕は全ての終わりを実感すると、なんとも面倒の極まった作戦だった、と伸びをする。
( メω^)(友好的な関係になれないのは明らか、それでも情報の一つは吐くだろうお。けども……)
本当にこれで終わりなのだろうか、と疑問が浮かんだ。
確かに百トンもの麻薬は前代未聞とまではいかないが耳に慣れないレベルだ。それを司教区で配布し、信者の大多数がそれを求めるとしても、それでも割に合わない。
( メω^)(それだけのお布施はあるけどお、普通、教会の目的は金稼ぎだお。だっつーんなら、あの百トン全ては手に余る……そうなりゃ市場に流れるだろうに……)
実際に日本国での相場に変動はない。その事実からして流通量にも変化はないと判断できる。
或いは、他に関係を持つ組織があるとして、どうして手をつけもせず、あの沿岸倉庫に放置したままにあるのか、僕は理解が及ばないでいる。
何かしらの目的があるとしても、それもやはり見えてこない。それとも、まるでその麻薬そのものが――
( メω^)「――……デコイ、なのかお?」
呟くが、その答えは不明だ。
何にせよ、そういった必要な情報も今後に得られる事柄だろう。
兎角として、僕は半年間も続いた仕事の終わりにしみじみと浸ると、腰を伸ばし、身体を適当に動かし、首を回し、そうして最後に朝焼けの空を見る。
( メω^)「綺麗だおー……まるで、あの時の空みたいだおぉ……」
赤く燃える空を見上げ、僕はこの十年間の様々を思い出す。
実質的に目覚めてから五年の歳月ではあるが、それでも新たに得たこの身体での歴史も踏まえ、僕は何だかんだと往生際が悪いままに生き残ってきた。
僕は空へと手を伸ばし、朝焼けに燃える太陽を手におさめようとする。
だがそれに意味はなく、閉ざされた拳の中は空っぽで、そんな己の行動にガキかよ、と呆れた笑いすら零れた。
けれども――
485
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:12:27 ID:3WxIOFCE0
燃える太陽によって透ける己の身体を見る。
白い疑似血液は、それでも陽によって赤く染められた。
それはまるで生前の姿のようだった。
この朝焼けの景色の中でのみ、僕は本当の意味で生きていると言えるのかもしれない。
あの日、全てを手放し、彼女達を救えないままで終わりを告げた。
その後悔は今も僕の中にある。
けれども時は巻き戻せず、今、十年の月日が流れた果てに、僕は在る。
あの朝焼けに終わった僕は、今、この朝焼けの中でこそ生きることが出来る。
死を幾度と思った。
だがその度に、未だ死ぬわけにはいかないと強く思った。
果てなき贖罪の道を歩むが故に。
救えなかった人々を想うが故に。
そして、あの朝焼けに置き去りにしてしまった――
友達の泣き声を忘れることが出来ないが故に。
だから、僕は生き続けている。
あの朝焼けの中で途方に暮れ、泣き続ける彼女と。
そんな彼女を支え続けている彼女の為にも。
僕は生き続けていく。
この身体が動かなくなる、最後のその時まで。
.
486
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:12:55 ID:3WxIOFCE0
( メω^)「――……いい、風だお」
通り抜ける風が薔薇の薫香を纏い、まるで僕を包むようだった。
それを受け、僕は再度朝焼けに微笑む。
僕の背後では大司教と呼ばれる人物が立っているが、不思議と彼は何も言わずに、僕の自由を許してくれていた。
それに甘んじつつも、けれども先から“情報連結”により様々な呼び出し音が連続していて、忙しない事実に首を傾げる。
( メω^)「ったく……なんだおぉ、さっさと帰還しろってのかお?」
脳内は完全に怠けていて、先から更新され続けている情報を碌に処理しないままでいた。
流石に騒がしいからと僕は“戦術システム”に意識を向ける。
( メω^)「……なんだお、これ?」
脳内に、大量のトピックが飛び交い、それらは信じられない速度で蓄積されていく。
その事実に今更ながら気が付いた僕は、とある内容に意識が向かう。
その情報を処理、理解すると同時に、僕は目を見開いた。
( メω^)「まさか――」
.
487
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:13:27 ID:3WxIOFCE0
「久しぶりだね、殺人鬼」
.
488
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:14:01 ID:3WxIOFCE0
僕はすかさずに腰から得物を引き抜く。
その装備こそは相も変わらずの包丁――牛刀だった。
それを構えると同時に僕は大司教へと避難するように叫ぶ。
「まったく、大した手腕と言えるよ。まさかこちらが利用されるだなんて……流石は伝説の人物と言えるのかな」
逃げ出す彼に視線を向けることはなかった。
そんな余裕などないからだ。
僕は自然と粟立った項に空いた手を這わせる。
.
489
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:14:29 ID:3WxIOFCE0
「しかしまるで普通の人間のようにしか見えないね。これも現代最先端の科学技術の齎すものかな、凄い凄い」
そいつは、あまりにも不用心に歩いてきた。
腰には大小を差していて、まるで時代を間違った侍のようだった。
だが、それが不思議と似合う程に、大小は腰で落ち着いている。
「……ふふふ。思い出さないかい、殺人鬼。あの日のことを」
そんな大小の、小の側を、脇差を、そいつは引き抜く。
それに伴って打刀が納まったままの鞘を放り投げた。
通常ならば太刀に手をかけるだろうに、この光景はあまりにも“懐かしい”思い出を蘇らせる。
.
490
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:15:21 ID:3WxIOFCE0
「結局、あの日あの場で決着はせず、その後の大騒ぎでも……お前はボクに背を向けた。あれは酷い振られ方だったよ、ショックそのものだ」
だが、その微笑ましくも血生臭い思い出に気を取られていたら、僕は死ぬだろう。
そいつの身体が動く。一歩を踏み出す。
だがその時点で強い違和感を得て、僕は咄嗟に牛刀を押し出すように振り抜いた。
「十年越しのことだ。それも必要のないことだ。だがお互い、募る気持ちはあったろう、殺人鬼――」
.
491
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:15:53 ID:3WxIOFCE0
そいつは――彼女は急接近すると、世界に大きな弧の字を描く。
振り抜かれた剣閃を僕はジャストのタイミングで受け、それと同時に後方へと下がる。
だが、それすらも彼女は気にせず、僕へと突っ込んでくると、互いは終ぞ鍔迫り合いとなった。
ああ、懐かしい。懐かしきは我が宿敵、我が永遠の果たせぬ雌雄の果て。
忘れられる訳がない。こいつを、このイかれを。
数多の戦地を駆け抜けても尚、血を求め闘争の中にこそ癒しを得る稀代な殺人鬼。
この朝焼けの景色に介入し、まるで怨敵得たりと大きく微笑む彼女を――
.
492
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:16:19 ID:3WxIOFCE0
(#゚;;-゚)「そうであるならば、滾る魂を持つというのであれば――決着のその時だろう、我が怨敵……!!」
(; メω^)「おっおっ……十年越しの決着なんぞ、今更にも程があるだろうお――横堀でい、『屍』ぇ!!」
.
493
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:17:06 ID:3WxIOFCE0
――鮮血淋漓に微笑む殺人鬼を忘れた日なんて、一度としてありはしない。
.
494
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:17:33 ID:3WxIOFCE0
エピローグ
血闘 対 『屍』横堀でい
.
495
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:18:00 ID:3WxIOFCE0
先から溢れる情報の海は全てが危険を意味するものであり、つまり、この司教区へと敵となり得る人物が接近していたことを警告していた。
まったくもって油断をしていた僕は、そんな危険人物と――『国解機関』が誇る序列二位の肩書を持つ最強の殺人鬼と刃を交える。
相も変わらずの出鱈目な速度、足すことの理解の及ばない歩法に、やはり相手取るのは生半ではないと実感する。
(; メω^)「ぉおっ!!」
鍔迫り合う最中、尚も顔を寄せてくる彼女を見て僕の背に嫌な汗が垂れ流れた。
普通ならばこうも好戦的に、しかも反撃も鑑みずに超接近することはあり得ない。
だが彼女はそれすらも気にしていない。その様子は闘争を心底から楽しんでいる証拠であり、相も変わらずの気狂いめが、と言葉が漏れた。
拮抗を解く為にと僕は膝蹴りを彼女へと叩きこむが、しかしそれは虚空をとらえて終わる。
何事かと視覚情報を全力で解放すれば、己の頭上にまで跳びあがった横堀がいた。
(#゚;;-゚)「ふぅっ!!」
蹴りを見舞われるがそれをいなし、その僅かな攻防の最中に僕は彼女の右足首を掴む。
そのままに遠心力を利用し、彼女を地面へと叩きつけようとするが――
(; メω^)「――っ……!!」
そんな僕の腕を、彼女の右足首を掴む僕の腕を、彼女は幾度も刺し貫く。
通常ならばもがいて脱出を試みる。だが彼女は地面に叩きつけられることを受け入れ、それよりも直接に僕を傷つける手段を選んだ。
それは武の在り方ではない。武とは端的に言って自己防衛を目的とする術だ。故にこう言った状況であれば攻撃よりも防御を選ぶ。
だが彼女はそうではない。ダメージ上等、骨折上等、顔面陥没大歓迎――そんな風に歪な笑みを浮かべ、更には空いた左足で僕の顔面へと蹴りを叩きこむ。
(; メω^)「んのっ――相変わらずの腐れボケカスがおぉ……!!」
衝撃と痛覚により彼女を手の内から逃がしてしまった。
衝突から僅か数秒で既に僕の方が負傷をしている。彼女に対する直接的なダメージはない。
その事実に“情報連結”越しに様々な声が生まれ、終ぞ暗部の内でも特殊に位置する『国解機関』の戦力、それも最強に位置する人物の実力が知られてしまった。
だが僕もやられっぱなしとはいかない。彼女が着地すると同時に牛刀を逆手に構えると両手に握り拳をつくり、徒手格闘で彼女へと迫る。
(; メω^)(この速度だお……そして横堀が誇る『超感覚』を前にしちゃ刃物が当たる気は微塵もしねえお……!!)
刃を振るうよりも早く拳を振るう。咄嗟にガードを固めた彼女だが、そのガードすら気にせずに僕は“全力の出力”で拳を振り抜いた。
流石の彼女と言えども超人のそのものではない。故に僕の拳は彼女の両腕を砕き、その先にある水月へと突き刺さる――
(#゚;;-゚)「あま、い――」
言葉が途切れ、彼女が吹き飛んだのと、己の右拳に違和感を覚えたのは、全てが同時進行の出来事だった。
確かに彼女の両腕をぶち抜いたはずだった。しかし感触がおかしくて、僕は己の右拳へと視線をやる。
496
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:18:34 ID:3WxIOFCE0
(; メω^)「ってぇな、おい……」
僕の右拳に、深く、深く、ナイフが突き刺さっていた。
真正面から刃は生えていて、その深さは手首にまで達するだろう。
その証拠に右手首の感覚までもが消え失せ、僕は役割を失った右手に舌打ちを一つする。
『ボス!? おい!? 大丈夫かよ!?』
『やだぁ、ボス!! お願い逃げて!!』
『有り得ない強さっす!! 逃げて、ボスぅ!!』
脳内で我が部下達が喧しく騒いでいる。だがそれらを無視し、僕は左手に意識を集中させると、正常の握りで牛刀を構えた。
左半身を押し出し、右腕はだらしなくも脱力しているが、刃を構える左腕は真っ直ぐに、まるで張り詰めた弓のように伸びきっている。
(# ;;- )「いてえな、ってのは、こっちの台詞だよ……げぇっほ……まるで十年前の出力と違わないなぁ、殺人鬼……」
カウンターは確かに見事と言えたが、それでも彼女の被害も相当だ。
何せ僕に全出力でぶん殴られたとなればその威力は語るまでもなく、それこそ僕の全力となると車を蹴り飛ばしたりそれを持ち上げて投げ飛ばすことすら可能にする。
そんな果てしない膂力で殴られた彼女と言えば――
(# ;;-゚)「右腕、おしゃかだよ……まさかぶち折られるとは、どうなってんだい君の身体は……」
(; メω^)「――……お前も、強化体かお、横堀……」
右腕が拉げた程度であり、その息は通常のままで、左腕は健在だった。
先の衝撃で吹き飛べば、仮に打撃そのものに耐えられたとしても、壁に激突した際に全身の骨が砕けて終わるはずだ。
だが、彼女は平然と立ちあがった。その事実の様々から導かれる答えこそは半機械化――強化体だろう。
(# ;;-゚)「何も君だけがその恩恵を得られる訳じゃあない……分かるだろう。暗部はそうやって力を増してきた」
(; メω^)「糞にも程があるお、阿呆臭い……どこまで改造してんだお、横堀」
(# ;;-゚)「さてね。それを確かめるのが――君の役割だろう!?」
その言葉を皮切りに、終ぞ僕と横堀は形振り構わぬ本気の戦闘へと移行する。
497
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:19:51 ID:3WxIOFCE0
(; メω^)(この感覚の気持ち悪さは幾度味わっても慣れんおね……完全なタイム感によって対峙する人物の挙動の全てを掌握しちまうから、
こっちの苦手なタイミングや意識の誘導で翻弄されちまうんだお……!!)
その攻撃のどれもが“早すぎるのか遅すぎるのか分からない”妙な感覚でやってくる。
或いはそれをいなし、無効化すれば次の手を抑えることが可能であると思えても、実質は攻撃そのもののタイミングが大幅にずれているが故に己の組み立てる戦略が意味を失う。
そうなるとどうなるか――その瞬間瞬間で攻撃に対応しなければならなくなる。その一つ一つに気を抜けばどうなるか、適当で済ませたらどうなるかなんてことは語るまでもない。
圧倒的な殺傷能力を誇る彼女の攻撃は全てが致命傷を齎す。
振りかざす刃の軌道の一つ一つはどれもこれもが必殺必死であり、何一つとして容赦はなく、僕はそれを牛刀で受け、いなし、天地左右からやってくる攻撃を全て迎え撃つ。
(# ;;-゚)「――十年の月日が流れたよ、殺人鬼……」
(; メω^)「――……」
幾度目の鍔迫り合いとなり、僕と彼女は再度拮抗する。
僕の出力に対応している事実――有り得ない、と思う。だが僕との戦闘を前提としてここにきたのならば万全の状態だろう。
だが、そこだった。何故に僕は襲われているのか、という事実だ。
それこそ、彼女の言う決着が由来するのかもしれないが、この事態は大変に大きな意味を持つ。突き詰めれば“公安部”と『国解機関』における代理戦争だ。
(# ;;-゚)「大人しく死んでいればよかったろうに。幾度となく蘇る結果になろうとも、その度に自死を選べばよかっただろう」
(; メω^)「…………」
(# ;;-゚)「だのにお前は生を選んだ。そして闘争をもだ。或いは己の負う業の為にそれを選択したのかもしれない。だが――」
信じ難い膂力で僕は迫られる。互いの刃は激しい火花を散らし、その拮抗の様は眼前にまで迫る程で、僕と彼女はほぼ零に近い距離にまで顔が寄った。
(# ;;-゚)「救えなかったんだ、お前は。ツンを」
( メω^)「――……」
(# ;;- )「あの日、お前は死んで、ツンを置き去りにしたんだ。そんなままで、ずっとずっと、ツンを苦しませてきたんだぞ――内藤……!!」
その言葉を受けて僕の脳内で様々な色が溢れ、まるでぶちまけたペンキの海のように広がり、やがては手足の末端部位にまで広がっていく。
次第に気持ちが萎れ、力までもが薄れていく。
突き刺さる程に、彼女の言葉は強烈で、それをいざ向けられると、その重みも含め、僕はようやく、本当の意味で現実の世界に蘇ったのだと悟った。
498
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:21:00 ID:3WxIOFCE0
(# ;;д )「お前はヒーローなんかじゃない……お前は何も救えない、ただ人を殺し続けるだけの、大切な人を置き去りにして死ぬだけの、殺人鬼でしかない……!!」
その表情は、苦しそうで、辛そうで、きっと、ずっと溜め込んでいたものだったんだろうと、僕は理解した。
叫びを受け、僕は、何故にこの十年間、彼女達の前に現れもせず、世界各国を忙しなく飛び回り、奔走していたのだろうと思った。
(# ;;д )「そんなお前が、あまつさえ『国解機関』に面まで出した事実……!! ふざけるのも大概にしろ、腐れ殺人鬼がぁ!!」
轟、と迫る勢いがあった。
信じ難いものだった。あまりにも現実離れした剣技であり、僕は制止したと錯覚する程の刹那の剣閃を見て驚愕に尽きる。
( メω^)(どんだけの地獄を渡ってきたってんだお、横堀……)
それは無拍子の、完全に空白の、刹那のタイミング――つまり人が認識できる範囲に収まらない、無意識化の域にある速度で振り抜かれる横一文字だった。
捉えることが出来ても身体が反応出来ない、正確に言うならば“身体が反応出来ない速度域”であり、僕はその一閃に死を想う。
( メω^)(そりゃまあ、お怒りだろうおぉ。お前に僕は勝手に託したようなもんで、しかもそんなお前達をほっぽって、国事に奔走し続けておぉ……)
だが――だが。
その一撃を受け入れる訳にはいかない。
それは死を意味するものであり、それを許せば、僕は完全にこの場で終わってしまう。
( メω )「流石の『超感覚』――『絶対時感』ってかお。けどおぉ、横堀ぃ……お忘れじゃあねえだろうお――」
だったらば、僕はそれを否定する。
例え人の反応速度の外にある超絶の速度だろうが、認識出来ないタイミングから放たれる一撃だろうが、僕はまだ死ぬわけにはいかない。
何故ならば――
499
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:21:37 ID:3WxIOFCE0
ξ。;Д;)ξ『うわあああああぁああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!』
.
500
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:22:01 ID:3WxIOFCE0
彼女の泣き声が。
我がダチ公の泣き声が。
今も尚、朝焼けに響き続けているから。
だから僕は――ここで終わる訳にはいかない。
.
501
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:22:46 ID:3WxIOFCE0
( メω゚)「さんざっぱら味わっただろうがお、横堀――僕の『慧眼』の恐ろしさをおぉ!!」
“視える”――例え常人では観測も理解も出来ない一撃だろうが、僕のこの『超感覚』こそがそれを理解し把握し観測する。
僕の身体は未だ止まらない。その速度が果てのないものであるとしても、お生憎様だ。何せ僕には誇れる人材がいる。
この僕を五年間も支え続け、誰よりも僕の身体を知り尽くす人物が常にバックアップとして控え、そしてこの只今においても、僕の情報処理と運動補助を遠隔から支援してくれている。
『――負けるなよ、我が子よ!!』
( メω゚)「ったりまえだろうがおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
我が刃が、牛刀が、横堀の左腕へと叩きつけられる。
ほぼ同時の拍子にまで迫った結果、先を制したのは僕だった。
ああ、やはりこの世において力とはパワーであり、つまり筋肉こそは全世界に共通する正義であり、突き詰めるのならば――馬鹿力こそがシンプルな強さを証明する。
( メω゚)「置き去りがどうのこうのと!! 甘えたこと言ってんじゃねえお!! ましてや僕の弟子が、あのアホバカクソボケヤンキー女がぁ!!」
轟、と僕の拳が振るわれる。
それは先程散々なまでに刺されまくった右腕だ。
だが、そんな程度、たかだか刃で手首まで貫かれた程度で、この僕の身体が止まる訳がない。
それを幾度となく証明してきた。限界を超えても尚、諦めをも粉砕し、絶望をも乗り越えて、そして死をも超越した果てに、この僕――内藤平助は今を生きている。
( メω゚)「そんな程度で――絶望に沈むわけがねえだろうがおおおおおおお!!!!!!!」
(; ;;д )「ごっ、あっ――……!?」
確かに僕は彼女を、そして横堀を置き去りにした。彼女達を完全に護れなかった。
今もその罪の意識はある。それを償えないままで十年の時が流れた現実には申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
だが――僕の知る津出鶴子は、そんな程度で絶望に蹲って、延々と恨み節を口にして、呪詛に溺れる人間なんぞではない。
彼女こそは、だからどうしたと息巻いて、本当は苦しくて辛い癖にそれを見せようともせずに、だのに堪え切れずに涙を流しては、畜生めがと這い上がり、上等だこの野郎と叫び散らす、そんなイかした人間だ。
( メω )「手前の腹の虫がおさまらない、そんな程度の話だろうがお、横堀……この十年間、それほどまでに大切な存在になったかお、津出さんが……」
(; ;;д )「はぁっ、はぁっ……ははは、そりゃね、何せお前に頼まれたんだもの……それにこんだけ一緒にいれば、そりゃあ、情もわくさ……!!」
( メω )「そんで殴りにきたってかお、このクソアマがおぉ……上等じゃあねえかお、散々なくらいに躾けてやっからおぉ、覚悟しろお……!!」
(; ;;д )「上等だよ腐れ殺人鬼が……その息の根を、今度こそ止めてやるぞ……!!」
立ち上がった彼女を見据え、僕は先の一撃によって砕けた左腕に意識を向ける。
如何に反応が可能であっても、やはり無理が続けば、それも彼女の出力と真っ向から対峙すれば、そりゃこうもなるだろう。
502
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:23:39 ID:3WxIOFCE0
『もういいよ、ボス!! もう十分だろう!? あんたの勝ちでいい、だから退け、頼むから!!』
『ねえ、死んじゃうよぉ!! もう両腕、使い物になってないよ、ボスぅ!! ねえ!! ねえってば!!』
『帰ってきてよ、ボスぅ!! やめて!! お願いだから!!』
ああ、なんとも愛しい心配の数々だ。
けれどもここで終わらせることなんて出来やしない。
それ程に僕と彼女の関係とは根深く、複雑であり、他者が口を挟む余地などありはしない。
( メω )「立てお、横堀……今度こそ決着だお」
(; ;;д )「ははは……上等。ぶち殺してやる……!!」
さあ、この因縁も終わり時だろう。いつまでも昔を引きずり続けていては、互い、先に進むことは出来まい。
だったらば彼女の為にも僕はそれを甘んじて受け入れる。その責任が僕には確かにある。
故に、僕と彼女は対峙する。
僕は牛刀を銜え、彼女は脇差を銜え、まるで両者は獣のように見合い、怒涛の殺意を抱き、確実に殺すと決めて歩み寄る。
(# メω )「おぉおおおおおおおおおおおお!!!!!!――」
(; ;;皿 )「――らぁあああああああああああああ!!!!!!」
終ぞ衝突する、その瞬間だった。
ふと、懐かしい香りがした。
それはたった一度だけ嗅いだ香りだった。
忘れようにも忘れられないもので、ああ、それこそは十年前、僕が朝焼けの景色の中、彼女の膝で息を引き取った時と同じ香り――
503
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:24:12 ID:3WxIOFCE0
「ばぁっかよねえ、でい。その辺にしときなさいよ」
(# メω )
.
504
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:25:15 ID:3WxIOFCE0
僕の背後で声がする。
だが、僕は振り向けないでいる。
ここで今、振り返れば、僕は横堀によって殺されるからだ。
「あんたが私のこと大好きなのは十分に分かったから。ほら、もう十分でしょうよ」
(; ;;皿 )「……ダメだ、頷けないよ。ボクはどうしても、この糞馬鹿に一撃叩き込まないと――」
「い〜いから! もう……っとにさぁ、困った子よねぇ、あんたってばさ……」
(# メω )「――……」
懐かしい声だった。
今すぐに振り返りたかった。
だが、それはしなかった。」
その声の主もまた、僕の視界に入ろうともせず、まるで“僕の死角”すらも知っているように――
広範囲主観映像にすらも映らない、丁度真後ろにいた。
.
505
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:26:22 ID:3WxIOFCE0
「……相変わらず、むちゃくちゃよね、あんたって」
(# メω )「……どうだかお。そりゃお互い様ってとこでいいだろうお」
「ふふっ……元から人間やめてたも同義だし、まあ意外性はないけどね」
(# メω )「おっおっ……よく言うもんだお。そっちこそ未だにヤンキー気取ってんのかお」
「生まれながらに私はそうなのよ――アホ内藤」
.
506
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:27:31 ID:3WxIOFCE0
僕の名前を呼ぶその人物は、視界外で横堀を手招く。
それに渋々と頷いた横堀は、僕を睨み付けたままに、それでも戦域外へと下がっていった。
少しもせず、沈黙が生まれ、また、優しい風が流れる。
その風にのってやってくるのは、懐かしい香り――
彼女の、我が友の、津出鶴子の香りだった。
.
507
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:28:04 ID:3WxIOFCE0
「これきりよ、内藤。次に調子に乗った真似したらこんな程度じゃ済まさないからね」
(# メω )「布佐さんを怒んないでやってくれお。あの人も巻き込まれただけだからお」
「それは……師としての命令? それとも――」
(# メω )「言わせんじゃあねえお、ったく――」
.
508
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:28:40 ID:3WxIOFCE0
(メω #)「ダチ公がおぉ……」ξメ - )ξ
僕は振り返らない。
そこに誰がいるか分かっている。
けれども、僕は、絶対に、振り返ろうとはしない。
.
509
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:29:45 ID:3WxIOFCE0
ξメ ⊿ )ξ「……お互い、長生きしたいものよね。そうでしょう、内藤」
(メω #)「だったら……そうも身を削るように生きちゃあいかんお」
ξメ ⊿ )ξ「それは……無理ね。私の空はずっと燃え続けているから。あの夕日の中にあるから」
(メω #)「……それが君を支える全てなのかお」
ξメ ⊿ )ξ「……ええ、そうよ、ダチ公」
(メω #)「そうかお……」
僕は立ち上がり、背後にあっただろう気配が消えたのを理解すると、改めて振り返る。
もう、そこには誰もいないし、残り香すらもなく、ただ、強く光を放つ朝焼けのみが映る。
それを受け、また、その中に立ち、僕は空を見上げると、大きく息を吐いた。
.
510
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:30:26 ID:3WxIOFCE0
赤く燃える空に、君は何を思うだろう。
僕の空と君の空は同じ赤だろう。
けれど、暮れる空を映すというのであれば。
君にもまた、僕と同じ、夜明けの赤を取り戻して欲しい。
きっとそれは難しいことだ。
十年という月日が経ち、今、僕達はそれぞれの立場を持つ。
或いは憎しみに燃える気持ちを正しさと呼ぶ誰かもしるかもしれない。
けれども、夕日は宵へと移り、やがては夜になるだろう。
その狭間で生き続けることは、とても辛く、苦しいことだ。
今更なことかもしれない。
だが、それでも、僕はどうあっても君の友達だから。
だから、君の夕焼けに燃える空を。
朝焼けの朱に染め上げ、共に燃える潮に耳を傾けたい。
.
511
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:31:25 ID:3WxIOFCE0
『ボス、おいボス!! 今のってまさかよぉ……!?』
『あ、もう現場近いよ……!! すぐ行くからねボス、待ってて!!』
『もう、なんでこう無茶ばっかなんすか……!! 『国解機関』め、絶対に許さない……!!』
(# メω )「……おっおっ。ったく、本当、お互い……偉い立場になったもんだおぉ」
薔薇園に身を沈め、僕は意識が途切れる寸前、確かに見た気がした。
遠くの彼方に、あの日、失ってしまった親友の姿を。
僕に銃口を向けてでも彼女を護ろうとした親友を。
そんな彼女が、嘗ての我が部下が、口を動かし、こう言った気がした。
.
512
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:31:48 ID:3WxIOFCE0
川 - )『助けてやれよ……ツンを』
(# メω )「……言われなくったって、お、おぉ……」
.
513
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:32:13 ID:3WxIOFCE0
間もなく、視界を失い、意識が途切れた僕は闇へと沈みこむ。
けれども、それは安寧を意味する訳ではなく、すぐに僕はまた、求められるだろう。
それが己の役割であり、それが故に僕は死を剥奪されたのだから。
だからまた、僕が目覚める時。
死の淵から蘇り、大きな産声をあげたらば、微笑みながらにこう言ってくれ。
.
514
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:32:37 ID:3WxIOFCE0
ハハ ロ -ロ)ハ「――おはよう、マイスウィートキャンディ。ご機嫌は如何?」
( メω^)「おー……くっそ腹減ったお……」
.
515
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:33:01 ID:3WxIOFCE0
――死ぬには未だ早すぎるだろう、って。
.
516
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:33:43 ID:3WxIOFCE0
( メω^)殺人鬼へ微笑むようです
了
.
517
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:34:05 ID:3WxIOFCE0
.
518
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:34:28 ID:3WxIOFCE0
超過時間――オーバータイム
.
519
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:35:03 ID:3WxIOFCE0
カラン カラン
(,,゚Д゚)「いらっしゃいませ――」
( ・∀・)「いよう、埴谷」
(,,゚Д゚)「……ご利用ありがとうございました。またのご来店を――」
( ・∀・)「いやまだ席にもついてねーだろうがよ、そこまで邪険にすんなって」
(,,-Д-)「何の用だってんだよ、茂良。忙しい身のお前がわざわざ面なんぞ見せにきやがってよ」
( ・∀・)「いやな? お仕事だよ、お仕事。いつものようにお前に渡すお仕事だよ」
(,,゚Д゚)「……それを先に言えってんだよ」
( ・∀・)「にべもなく一蹴したのは手前だろうが……まあ何にせよ、今回もまた強豪揃いだぜ。いよいよお前も終わりか〜?」
520
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:35:43 ID:3WxIOFCE0
(,,-Д-)「さぁな……兎角、分かったよ。受けるぜ、その仕事」
( ・∀・)「……もう一年にもなるか。お前が地下の何でもありのデスマッチに出るようになって」
(,,゚Д゚)「お前が警備会社立ち上げた時期と同じだ。ジャスト一年だな」
( ・∀・)「んま、うちの主催でやってる大会だしなぁ〜。何でもありの血みどろのデスマッチ……普通なら出ようとも思わねえだろうに」
( ・∀・)「あの事件以来、お前、ずっと必死だよな」
(,,゚Д゚)「…………」
( ・∀・)「強さを求めまくって、相手がどんな野郎でも構わずにぶちのめして……何をそうも燃えてんだ?」
(,,-Д-)「別に、小遣い稼ぎだよ。世は金って言うだろう、貧乏学生には金が必要なんだよ、金が」
( ・∀・)「はっは〜、言うねえ、嫁ちゃん養う為の金すら稼ごうってんだから一石二鳥だぁな?」
(;゚Д゚)「何が嫁だ、アホかおめえは――」
カラン カラン
(*゚ー゚)「銀くーん、遊びにきたよ……あれ? 茂良さん、こんばんは」
( ・∀・)「おーおー、噂をすればなんとやら、だな?」
(;-Д゚)「あー……ったく、なんちゅー面倒な……」
(*゚ー゚)「あ、その顔。まるで“この二人が揃うと始末におえねえ”って顔だよ、銀くん」
(;-Д゚)「その通りだよアホしぃ。なんだってお前等が合わさると喧しくなるんだよ、ったく……」
521
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:36:58 ID:3WxIOFCE0
(*゚ー゚)「おーっとぉ? 彼女を相手にこの台詞はよくないですよねぇ、茂良さん?」
( -∀-)「あーあー、有り得ないね、最低最悪のレベルだ。こりゃ涙も流れるってもんだ、なぁしぃちゃんよぉ?」
(*;ー;)「うっ、うぅっ……銀くんにアホって呼ばれた……もう嫌、死んでやる……!」
(;゚Д゚)「分かった、分かったよ俺が悪かったから……もういいだろ、ほれ、飲めよミルクカクテル。茂良も、メーカーズマークのシングルロックだ」
(*;ー;) ・∀・)「「お値段は??」」
(;-Д-)「……いつも通りだよ、畜生め。そいつだけはサービスだ、いいから飲みやがれってんだよ」
(* ゚ヮ゚)*・∀・)「「いえーい、流石は最強無敵の埴谷銀!! よっイケメン!! その強面がもう堪らないね、このこの!!」」
(;゚Д゚)(あああああうるせえうるせえ)
( ・∀・)「……けどよ、しぃちゃんはいいのか? 埴谷がそう言った、あぶねえ大会に出続けんのは」
(*゚ー゚)「え? ああ、まあそりゃ少しは不安ですけど……でも、うちの銀くん、最強ですから」
( ・∀・)「え、何この平然としたノロケ攻撃。俺殺す気?」
(*゚ー゚)「それに、銀くんにとっては……大切なことですから」
( ・∀・)「……大切、ねぇ」
522
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:37:35 ID:3WxIOFCE0
(,,゚Д゚)(……あの日から、ずっと強さを求め続けている)
(,,゚Д゚)(けど、明確な物は見えてこない。己の定めた“道”に迷いはない。けど……)
(,,゚Д゚)(斬らずに、それでも敵対する存在を斬り伏せる……その為には、強く、もっと今以上の高みを目指さなきゃいけねえはずだ)
(,,゚Д゚)(いずれ、また津出達と関わる時がくる。不思議とそれは予感としてある)
(,,゚Д゚)(そうなった時……俺は以前のままじゃ絶対にあいつらには敵わない)
.
523
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:38:09 ID:3WxIOFCE0
(,,-Д-)「護る為に、誰も傷つけない為に……もっと強く、強く……!!」
.
524
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:38:38 ID:3WxIOFCE0
ハハ ロ -ロ)ハ「まったく、なんて恐ろしい出力だろうね……よもや君の身体をこうも破壊するとは」
( メω^)「まー横堀は別格だからお、その精神性もぶっ飛んでるし、この結果も納得だお」
ハハ ロ -ロ)ハ「君の部下達ときたら、完全に『国解機関』を敵と認識しているよ。次に見かけたらぶっ潰す、とかなんとか」
(; メω^)「おー……むしろ被害が増えるだけだからやめてほしいけどお」
ハハ ロ -ロ)ハ「だが……この実害は大きな益だよ、キャンディーボーイ」
( メω^)「お……?」
525
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:39:22 ID:3WxIOFCE0
ハハ ロ -ロ)ハ「先の強化体、恐らくは独自に発展した技術だ。概要は不明であれ、私のキャンディーボーイをメタクソにするだなんて信じ難い」
( メω^)「まあ、あのまま続けてても勝てたけどお」
ハハ;ロ -ロ)ハ「いやそうじゃなくて、それはいいんだけどね、我が子よ。兎角として暗部では最早生体への人体強化も当然の流れになりつつある、ということだよ」
( メω^)「おー……実際、僕が目覚めてから五年だお。それだけの時が過ぎれば、そりゃ各組織で科学的な発展はあるだろうお。それに、僕のデータは……」
ハハ ロ -ロ)ハ「……軍部の管轄になるが、そこからダダ漏れのようなものだね。特に国内の組織にとっては有難い恩恵だろう」
ハハ ロ -ロ)ハ「ま、それもこれも全ては私の能力があってこそだがね! HAHAHAHA!」
( メω^)「おーおー、その調子でさっさと僕の身体ぁ治してくれお」
( メω^)(……未だ事態は完全解決とはなってないお)
( メω^)(横堀の邪魔があったけど、お蔭で件の大司教は“公安部”で保護する形となった……)
( メω^)(……まさか、それを見越してた、訳はないだろうけどお……)
( メω^)(しかし、ある意味では最先端の現代白兵戦闘のデータが記録できたおね)
( メω^)(暗部全体が、横堀のような特殊強化を可能とするなら、こりゃ最早マジで堪らん現実だおねぇ……)
( メω^)(この程度で負傷してちゃ話にならんお……もっと、もっともっと、今よりも更に……)
526
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:39:57 ID:3WxIOFCE0
( メω^)「強く……ならなきゃいけんお」
.
527
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:40:44 ID:3WxIOFCE0
ξメ ⊿ )ξ「アホよねぇ、あんたは……何もタイマンせんでもよかったでしょうに……」
(# ;;- )「……別に。ただ最強面してんのがむかついたから殴りこんでやっただけのことだよ」
ξメ ⊿ )ξ「また説教よ、でい。布佐さんが大激怒」
(# ;;- )「受け入れるよ、それも。兎角としてさっさと身体を修復しないと……」
ξメ ⊿ )ξ「それ直ったなら、行動するわよ、でい」
(# ;;- )「……もう、直ぐにかい」
ξメ ⊿ )ξ「ええ。銀の坊や達にヤキ入れにいって、ついでにお小遣いもあげるわよ」
(# ;;- )「よっぽど気に入ったんだね、彼が」
ξメ ⊿ )ξ「いいえ、逆よ……気に入らないからこそ、説教かましにいくのよ」
(# ;;- )「……まるで昔の自分を見る気分かい、ツン」
ξメ ⊿ )ξ「……教えてあげないといけないのよ、先達である私達が。理想に夢見て闘争を否定するならば、待つのは死のみだ、ってね」
.
528
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:41:15 ID:3WxIOFCE0
ξメ゚⊿゚)ξ「強く、強く……強く。それを求め、歩み続け、血に塗れることこそが……平和を手にする、絶対の手段だってことを」
.
529
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:41:46 ID:3WxIOFCE0
微笑むシリーズ
最終章
.
530
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:42:10 ID:3WxIOFCE0
ξメ-⊿-)ξ「さもなきゃ……これから巻き起こる動乱を前に、ただただ……無力に死んでいくだけよ」
.
531
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:42:33 ID:3WxIOFCE0
ξメ゚⊿゚)ξだから、殺人鬼は微笑むようです
続
.
532
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/08/15(土) 05:45:51 ID:3WxIOFCE0
読了、お疲れ様です。以上で幕間は了となります。長ったらしいお話でしたが目を通して頂きありがとうございました。
次が最終章となりますが、未だ書き溜めもなく頭の中に構想がある程度ですので、しばしお待ちください。
感想や乙等、有難う御座いました。励みになりました。
宜しければ現行で「外道の花道」というお話を書いておりますので、そちらにも目を通して頂けると幸いです。
それではこれにて。おじゃんでございました、また次回作でお会いしましょう。
533
:
名無しさん
:2020/08/15(土) 05:47:02 ID:T0G6gD2M0
乙です!
534
:
名無しさん
:2020/08/15(土) 13:47:23 ID:xSAI7aEY0
乙乙
535
:
名無しさん
:2020/08/16(日) 21:30:40 ID:krPOiS/20
一気に読んだ乙です
536
:
名無しさん
:2020/08/17(月) 10:55:36 ID:kqQmCgU.0
乙
内藤と横堀の再戦とか熱すぎるだろ
朝焼けの内藤と夕焼けのツンの対照的ながらも対称的な燃える赤い空という表現も良すぎる
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