したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |
レス数が900を超えています。1000を超えると投稿できなくなるよ。

Ammo→Re!!のようです

298名無しさん:2019/12/10(火) 23:37:06 ID:cXARxwxM0
うおおおっ!!!平日が長く感じる!!!!

299名無しさん:2019/12/12(木) 22:37:35 ID:sYJlnUiQ0
(∪´ω`)ブーンちゃん

https://i.imgur.com/MjOIfjC.jpg

300名無しさん:2019/12/13(金) 07:00:48 ID:.Jqzrmeo0
>>299
はわわっ!いつも素敵なイラストありがとうございますっ!

301名無しさん:2019/12/15(日) 07:25:51 ID:MDeLAg0E0
┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

理想はジュスティア方式。
現場はイルトリア方式。
これが警備のあるべき姿だ。

                     ――“ビーマル”所属ゲートウォッチ、ブル・ターンガース

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻

店内の一部で空気が悪化したと思った次の瞬間、ゲートウォッチに属するシルヴァー・カーンの目の前で男が投げ飛ばされていた。
ガラスの割れる音が聞こえた時、懐からゲートウォッチの身分証を兼ねたテーザー銃を取り出し、すぐにその場に駆け付けた。
非番とはいえ、目の前で暴力事件が起きることを見逃していい理由にはならない。

「動くな!!」

壁際のテーブル席と窓際の席とで、その両者は明確に対峙する形でにらみ合いになっていた。
凶器と化した瓶を手に持つ男の視線はカーンには向けられることなく、壊れた机の上に横たわる禿頭の男に固定されている。
机を破壊する程の威力で人間を投げる男もそうだが、それを受けてもまだ呻き声をあげつつ上体を起こしている男も常人ではない。
紛れもなく何かしらの訓練を受けた人間であり、双方とも喧嘩ではなく戦闘に長けている。

「その瓶を捨てて、地面に腹ばいになれ!!」

双方の間に何があったのかを聞くつもりはなかった。
むしろ、そのような発想よりもまずは事態の鎮圧を優先したのである。
彼が目の当たりにしているのは、正に、火薬庫に投げ入れられたタバコが足元にあるような状況。
それがもたらす被害を考えれば、一切の容赦や無駄な問答は必要ない。

( ゙゚_ゞ゚)「どうした、禿ダルマ?
    これで終わりか?」

二度の警告を無視した男に向け、テーザー銃の銃爪を引いた。
これまでに対応した人間達がそうだったように、カーンは射出された二本の針がワイヤーの尾を引いて男に命中する瞬間を幻視した。
男が握っていた瓶を放り、発射して間もない針を落としたのを見た時でさえ、彼はその光景が信じられなかった。
テーザー銃の最大の欠点はその貫通力と推進力の低さにあり、瓶は勿論、薄いベニヤ板にさえその攻撃を阻まれてしまうほどだ。

非殺傷性の武器であるため、それは仕方のないことだが、本当の緊急時にその配慮は致命的だ。
実銃が手元にない以上、カーンが取った手段に誤りはない。
相手が普通の人間であれば確かに、今の一発で決着がついていた。
だが男は普通ではなかった。

テーザー銃は集弾性が悪く、狙った場所ではなく狙った対象のどこかに当たるようになっている。
言い換えれば、ピンポイントでその針を防ぐことは極めて困難であり、人間の動体視力だけでどうにか出来る一撃ではないのだ。
そこで男は唯一迎撃が可能な瞬間である、発砲直後を狙ってきたのだ。
瓶は蓋の役割を果たし、発砲直後の針とワイヤーを封殺し、その場に落としたのである。

302名無しさん:2019/12/15(日) 07:26:18 ID:MDeLAg0E0
彼がテーザー銃を撃ってその場に昏倒しなかった人間は見たことはあるが、このように迎撃した人間は見たことがない。
理屈で理解できても実践に移すことのできる人間など、そうそういない。
というよりも、存在するということを想像したこともなかった。
床に瓶が落ちて砕け、その音で本格的に暴れられる前に確保することが困難であると彼は理解した。

それと同時に、彼は今、歴史を更新しかねない現場に居合わせてしまっていることに気づいた。
この男たちの騒動を鎮圧できなければ、十年にわたる歴史がここで終わることになる。
その責任は極めて重く、彼の心に焦りを生じさせた。
偶然この場に居合わせてしまった非番の人間ということは十分に考慮されるし、一人の責任として処理されないことも分かっているが、それでも、だ。

「このっ!!」

彼は、ゲートウォッチとしての誇りをもっていた。
困難を理由に背を向けてるような働き方はしていない。
これまでに積み重ねてきた現場での経験が、彼の体を動かした。
銃が使えなくても、彼らゲートウォッチは訓練を積んだ体が十分な武器になる。

使い物にならなくなったテーザー銃を捨てて駆け出し、近くにあったガラス製の灰皿を手に取ると同時にそれを男の頭に向けて振り下ろした。
この際、殺してしまっても構わないとさえ思っての一撃だった。
容赦のない一撃は、腕で防がれたとしてもその骨を砕くことだろう。

――後に、カーンは同僚、そして多くの関係者に同じ話を何度もすることになる。

確かに振り下ろした灰皿は男の頭に直撃するはずだった。
威力、そしてそれを繰り出した速度。
いずれも申し分なく、彼が幾度となく体験してきた、相手に攻撃が命中するという確信をその手が感じ取っていた。
しかしそれは、彼の錯覚だった。

男は攻撃を予期しきっていたのか、それとも見切られたのか。
それを判別するだけの技量は今の彼にはなく、そして、それだけの余裕もなかった。
分かったのは己の手首が掴まれ、何故か地面に向かって体が勢いよく叩きつけられていることだけ。
冷たい床の感触と激痛が顔を襲ってからも、彼は自分が何をされたのか理解できなかった。

「ぐぅっ?!」

( ゙゚_ゞ゚)「俺に構うな」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ゙''、..゙'' 、      \、      n        ,   /   ノ///// ノ
  ,,....ヽ、_  ヽ、   \;、   :..  ヽ i  // ,/´ __,ィ’///./
''´,,......,,....⌒ヾミニ≧__  ゙ミミ;、 ゙:.  .| .| l //∠=,≡´ }/////
''",. ''"      `ー-≧、_ ゙゙ミヽ、_ノ ノ U∠イ´::.. /イ′/
  ∩   ... n  .. ̄ ̄`ヽ、゙ミ!‐<ニイr⌒....、 l彡イ|.| |   「野郎っ……!!」
   .. ''"´,..    ,,,....n   \ ≧ーイ´,,.. .. '' /彡ノl.| |
 .:::...,, ''´,,.. '''""´ ....,,.....   ヽ lli |,..:::.''ヽ/ミニノノ !リ
::::::''´,,. ''´  ''´...::'''"´  ''´/´`ヽ ! ! .. n |ミ三彡'ノノ
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

303名無しさん:2019/12/15(日) 07:26:39 ID:MDeLAg0E0
引き倒され、一瞥されることなく頭上からかけられたその言葉はカーンの闘志に火をつけた。
越えるべき壁。
倒すべき敵。
頭に一瞬で血が上った彼に、互いの戦力差を冷静に考えて撤退をしたり応援を呼んだりするような考えは浮かばなかった。

今ここで彼が立ち向かわなければならないと思い立ち、彼は拳を床に叩きつけるようにして立ち上がる。
相手にされていないのならば、力でそれを後悔させる。
力が及ばないのならば、及ぶまで挑み続ける。
それが彼の信条であり、生き様だった。

仮にこの時、カーンが男の正体を知っていたらそのような愚行に走ることはなかったことだろう。
少なくとも武器も策もなく立ち向かって勝てることはなく、勝算は万が一にもないことだと理解したはずだ。
相手を知らないということの愚。
彼の最大の失敗は、正にその点だった。

不安定な態勢から、まるで不意打ちにならない攻撃。
男は一瞬だけ目を向け、そして、つまらなそうに眉を顰めて貫くように鋭い右ストレートをカーンの胸部に放った。
呼吸が止まり、意識が混濁する。
その場に跪き、再び地面に倒れこむ。

視界に黒い幕がかかり、次に目を覚ました時、二人の男が彼の頭上で殴り合っていた。
これが彼にとっての第二幕。
止めることのできなかった争いを最も近くで見届けることになる、屈辱的な時間の始まりだった。

(#´・ω・`)「調子に乗ってん.じゃねぇぞ、若造が」

禿頭の男が、彼の心を代弁するような言葉を口にして戦っている。
その姿は嵐に立ち向かう巨木の様に雄々しく、そして、争いを持ち込んだ人間にも関わらず頼もしいとさえ感じてしまっていた。
それはつまり、彼が無意識下で争いを望んでいることの現れであり、その男に対しての本能的な憧れがあったのだと後に述懐する。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
       /.:::::::            、ミミミ
      ./.::::::::::'"  `ヽ      彡羽羽
     .,' /::::::      `:,    _三羽羽
      .{ :{:::::::     ..::::!:    -ミミ羽羽
     .'; {:::::::::.............:::::::ノ'_",     :ミ羽羽
      .>ゝ:-=・ァ‐-::;-'"二_`    ミ羽/:'
     /:/:::::;::ミ:´:::::   `ヽ     彡ミ       第八章 【fire up-着火-】
     .{ ::::::::::ヽ::!::::::           ノミ
     .| ::::::::;:-:';ヽ::::.          ノ::'
      .{:::::::::  ::ノ::ヽ、:::::..     /:::'
     .ヽ===-イ; , , ヽ:::、::::....  /:::ノ
       ´てi:i:i:i:i:i:i/ッ;.,.';::::::  ./::'      `
       `ーニヽ: ':'i:i:}:::::  :::;'
        (::::::...  ` ,i:i!:::  :::'
        .)ヽ:::::::: 彳i:::  ´      ...::
       .'ノシ;:;::;、.,i;i.iシツミ     ....:::::;ノ:
       シツシツシツシi:ミミミ..........::::;::-‐'´::/
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

304名無しさん:2019/12/15(日) 07:27:00 ID:MDeLAg0E0
ショボン・パドローネは不意打ちを受けたとはいえ、相手の技量が並外れていることを認めざるを得なかった。
これほどの力を持った人間は珍しい。
イルトリア出身の人間か、あるいは豊富な経験の持ち主であることは間違いない。
そしてデレシアと接触した経験があり、この男が狂っていることも間違いないだろう。

ショボンは上着を脱ぎ捨て、ワイシャツの袖をまくった。
殴り合いの喧嘩は久しぶりだが、果たして、この体がどこまで持つか。
今しがたテーザー銃を構えていた男は非番のゲートウォッチだろう。
通報を受けた仲間たちがやってくれば、二人ともまとめて確保される。

出し惜しみが全てを狂わせることを学んだショボンは、今この段階で切り札を使うことに躊躇はなかった。

(´・ω・`)「後悔しても遅いぞ」

( ゙゚_ゞ゚)「いいから来いよ、ハゲ」

隠し持っていたカプセルを口に入れ、奥歯で噛み砕いた。
緊急時に短時間だけでも戦えるようにと備えていた薬物。
セカンドロックを襲った際にも服用していた“マックス・ペイン”は、すぐに彼の全身に作用した。
十分間だけの間ではあるが、彼の身体能力は十倍になる。

基礎的な技量や体力で劣っていたとしても、この状態であれば負けることはない。
短く息を吐き、その瞬間に足に力を入れる。
その爆発的加速は、視認してから回避するのは不可能な領域にあった。

(;゙゚_ゞ゚)「ぬっ?!」

男も例外ではなかった。
だが、男は本能的、もしくは衝動的に両腕で腹部を守る形を取った。
猛烈な勢いで繰り出したタックルは男が背にしていた壁を破壊し、その裏にあった厨房に二人は文字通り転がり込んだ。
壁は木製の物だったために、致命傷は与えられなかったが、相当なダメージになったはずだ。

木片や調理器具を払い除け、ショボンは立ち上がった。

(´・ω・`)「ベテランなめんじゃねぇぞ」

この一撃で十分ではないとショボンが考えた刹那、瓦礫の下から手が伸び、彼の胸倉を掴んだ。
今の彼をそれで引き倒せはしないが、逆に、男が立ち上がるための丁度いい支えとなってしまった。

(;゙゚_ゞ゚)「いいタックルだ、老いぼれにしちゃやるな。
    今からラガーマンになれるぞ」

(´・ω・`)「大した頑丈さだな。
     だが、もう寝てな」

この至近距離。
ショボンの左拳は必殺の砲弾と化して内臓を破壊し、間違いなく男の命を絶つだろう。
慢心することなく放った一撃は、骨の砕ける嫌な音と共に悲鳴を招く結果になった。

(;´・ω・`)「ぐおおっ?!」

305名無しさん:2019/12/15(日) 07:27:23 ID:MDeLAg0E0
(;゙゚_ゞ゚)「おおっ、凄いパンチだな」

男はいつの間にか拾い上げていた鉄製のフライパンでショボンの拳を受け、変形したそれを眺めてそんな言葉を残した。
マックス・ペインは身体能力の強化は出来るが、人間の頑丈さや人体構造を超越することはできない。
彼の骨が必殺の意思を込めた力で鉄のフライパンに叩きつけられれば、その結果は火を見るよりも明らかである。

(;゙゚_ゞ゚)「若造をなめんじゃねぇよ」

(;´・ω・`)「ははっ…… はははっ!!」

久しぶりに骨のある若者を前にしたショボンは笑うしかなかった。
この男は敵にしておくにはあまりにも惜しい。
彼と共に同じ夢を見てみたいものだと、この緊迫した状況下でもショボンは願わざるを得なかった。

(´^ω^`)「はははっ!! 気に入った、気に入ったぞ!!」

(;゙゚_ゞ゚)「壊れやがった……」

(´^ω^`)「君が欲しくなった、だから奪う!!」

右で殴ると見せかけ、折れた左拳で男の顔を殴った。
殺さないように手心を加えはしたが、脳震盪は不可避の一撃。
冷蔵庫に激突し、男は力なく倒れた。
呆気ないとも思えるが、薬物投与をしているショボン相手に二発も耐えたのだから大したものだ。

「好き勝手暴れやがって、この野郎が!!」

背後からそんな声が聞こえたと同時に、ショボンの背中に鋭い痛みが走り、同時に全身の力が抜けた。
味わったことのある痛みと感覚。
テーザー銃によるものだと分かった時には、ショボンは床に倒れていた。
その時に見えたのは、二人のゲートウォッチだった。

(;´・ω・`)「ぐぐっああああっ……!!」

「こいつは警戒しておけ、膂力が人間離れしてるぞ」

強化された状態とはいえ、電流による一撃は人間である以上は抵抗が出来ない。
電流を流され続ける限り、ショボンは自らの意思でまともに動くことさえできないのだ。
しかし、チャンスはある。
拘束の手段が手錠や結束バンドであるにしても、電流を流し続けてということはない。

ならば、後数分間は自由に戦える。
ここは抵抗の意思を見せず、電流が止められるのを待つのが得策だ。

(;゙゚_ゞ゚)「ああっ、面倒な街だなここは」

虎視眈々とチャンスをうかがっていたショボンの耳に、聞こえてはならない男の声が届いた。
あれだけのダメージを受けて、もう回復したというのか。
幸いなことに今はゲートウォッチがいるため、彼もまたテーザー銃の餌食となってショボンと共に捕らえられることだろう。
そうなればショボンは堂々と男を説き伏せ、味方に引き入れることが出来るかもしれない。

306名無しさん:2019/12/15(日) 07:27:46 ID:MDeLAg0E0
デレシアに対しての執着心を利用し、デレシアに差し向ければいい駒として働いてくれることだろう。
相手が抱いているデレシアへの気持ちを逆なでしないよう、こちらが協力する姿勢を見せれば態度が変わるかもしれない。
そう、思っていた。

( ゙゚_ゞ゚)「さぁ、立て。
     立って続きをするぞ」

「ちっ、こっちもさっさと確保だ!!」

テーザー銃が発砲され、鮮やかな紙が舞う。
この時、ショボンは男に対しての評価を変えざるを得なかった。
その手には厨房に置かれていたと思われるエプロンが握られており、飛来した針を鮮やかに防いだ。
貫通力に劣るテーザー銃の弱点、それはよほど薄手の物でない限り、その攻撃を防ぐ盾になり得るという点だ。

針が体に刺さらない限り、電流が彼を襲うことはない。
その点、飲食店で使用される耐久性の高い布を使用したエプロンは十分すぎるほどの効力を発揮した。
環境を利用した戦いは誰にでも出来るわけではない。
冷静に状況を見定め、それに応じた動きを的確に行う技量、そして度量が必要だ。

二度もテーザー銃の攻撃を防いだその実力は、運の良さや喧嘩自慢の領域ではない。
この男は、実戦経験が豊富で在り、尚且つ逆境に慣れている。
一発を防げば、後は引き算による答え合わせだ。
テーザー銃は単発式であり、再装填には時間がかかってしまう。

展開を予期して拳銃でも構えていれば別だが、どうにもその素振りはなかった。
店から他の客を逃げることに意識を向けていたと考えれば、彼らにはそのような余裕も発想もなかっただろう。
つまり、この状態は彼らにとっては歓迎できない危機的な状況と言うわけだ。

     My turn.
( ゙゚_ゞ゚)「俺の番だ」

あれだけの攻撃を受けていながら、男の動きは俊敏そのものだった。
エプロンを目くらまし代わりに投げ捨て、ショボンの近くに立っていた男の服を掴み、地面に投げ倒した。
背中から倒れた男の懐に銃が見えたと思った時には男はそれを奪い取り、もう一人のゲートウォッチに銃腔を向けた。

( ゙゚_ゞ゚)「銃を捨てろ」

「こんなことをして、どうなるか分かってないようだな」

だがゲートウォッチの反応は冷静だった。
まるで、男の銃が脅威ではないと思っている態度だった。
その余裕の源は経験か、それとも無知から来るものか。
後者であれば哀れな話だが、どうやら、何か確信めいた自信があるように見える。

( ゙゚_ゞ゚)「分かってるさ。
    これで俺の存在が伝わる。
    それだけで十分だ」

307名無しさん:2019/12/15(日) 07:28:06 ID:MDeLAg0E0
緊迫した空気が流れる。
その隙を、ショボンは決して逃さなかった。
四肢が動くことを確認し、素早く立ち上がってゲートウォッチの足を蹴り砕き、銃を奪い取った。
不用意に殺す必要はないと咄嗟に判断し、男の喉に軽い一撃を与え、悲鳴を上げさせずに悶絶させる。

(´・ω・`)「どうした、色男?
     これで終わりか?
     俺とやるんだろ」

奪ったシグの弾倉を抜き、遊底を引いて薬室が空であることを確認する。
そしてそれを地面に捨て、ショボンは中指を立てた。

(´・ω・`)凸「お前の銃にはこれで十分だ」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
           r─
           l ̄l |
           |ー' |
           |_, |
         _|´  |
.          | ̄lー |'⌒ヽ
        _,ノ  |   |   |⌒i
       //  /   〉   |  |
.      | {   ヽ    ヽ   |
        | ∨  |     ,ノ  〉|
       |  |  │       |
       人        i     |
.         \       │  /
         }        |  {
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

( ゙゚_ゞ゚)「はははっ!! テーザーで頭がマヒしたらしいな、禿ダルマ!!」

男は銃腔をショボンの胴体に向け、銃爪を引いた。
――否、正確に言えば、引こうとした。

(;゙゚_ゞ゚)「あっ?」

(´・ω・`)「残念だったな」

ラヴニカには世間にまだ周知されていない多くの技術が溢れており、街の治安を守る集団は当然、その恩恵を受けた装備で身を固めている。
その最たる例の一つが、個人認証式の安全装置を備えた銃器類だ。
指紋を登録した人間だけが使用できる装置を組み込んだ銃の存在は、この街に仕事関レベルで関わったことのある人間ならば聞いたことがある。
この男がラヴニカに対して明るくないことはフィッシュアンドチップスの一件で十分分かっており、また、先ほどのゲートウォッチの態度が安全装置の存在を物語っていた。

接近し、男の手ごと銃を握る。

(´・ω・`)「そうら、握手をしようじゃないか」

308名無しさん:2019/12/15(日) 07:28:33 ID:MDeLAg0E0
近接戦闘に持ち込めたことで、ショボンが圧倒的優位な位置に立っていることは間違いない。
指の骨が折れない限界のところまで力を入れ、男が悶絶する様子を至近距離から観察する。

(´・ω・`)「どうだろう、話を聞く気になってくれたかな?」

(;゙゚_ゞ゚)「ないねっ!!」

空いた手がショボンの顔を襲うが、それを避けることはしない。
逆に額でその拳を受け、骨を砕いた。
額の骨の強靭さは指の骨を凌駕するほどであり、互いに勢いをつけて激突すれば、その結果は見るまでもない。

(;゙゚_ゞ゚)「ぐぅっ!?」

激痛を味わったのは男だけではない。
ショボンもまた、その額に極めて強烈な痛みを感じている。
半ば我慢比べのようなものだが、それならばショボンは負ける気がしなかった。
殺さない程度に痛めつけて連れ帰る為には、心を折る必要がある。

心が折れた時、体に残された最後の力は風前の灯火と化す。
武器を使えない以上、男に勝ち目はない。
そして万が一にも、肉弾戦でショボンが負けることはないのだ。
それをこうして体に教え込むことで抵抗力を奪い、容易に拉致することが出来る。

これは犯罪者たちがよく使う手口であるのと同時に、警察が犯人を確保する際に行う技術だった。
男を掴み上げ、地面に叩きつける。
硬い床が男の全身に適度なダメージを与え、抵抗することが出来ない体勢になることで、絶望感を与える。
一瞬の内に男の上に馬乗りになり、拳を構える。

反射的に男は両腕で顔を守るが、ショボンの拳の前にガードなど意味をなさない。
腕の上から容赦なく拳を振り下ろし、顔面に打撃を与える。

(´・ω・`)「素直になりなよ!!」

連打。
負傷した拳を振り下ろし、狂気にも似た笑顔を浮かべながらショボンはそんな言葉を投げかける。
返答など聞くつもりはない。
聞きたいのは屈服の言葉なのだ。

増援が来ない内に決着をつけたいが、この男の精神力がどこまでの物かにもよる。
屈服する前に気絶させたとしても、ショボンが潜水艦まで持ち運ぶ時間を考えれば目覚めて反撃される可能性もある。
マックス・ペインの副作用によって動きが鈍り、戦闘力が極端に落ちた状態では手負いの男に負けることは十分に考えられた。
精々、後三十秒といったところだろう。

諦めることも重要であることを承知しているショボンとしては、ここで男を殺さないで逃がすことのメリットも考えていた。
理由と目的はどうあれ、この男はデレシアを追うことになる。
結果としてデレシアの邪魔と命を脅かすことが出来れば、それはそれで組織の利益に繋がるのだ。
仲間に引き入れられなくとも、この男は十分役に立つ。

この状況からどう転んでもショボンにとっては利益でしかなかった。

309名無しさん:2019/12/15(日) 07:28:55 ID:MDeLAg0E0
『我らは平和を願い、勝利を求める。
どうか名も無き我らに、気高き白の祝福があらんことを』

強化外骨格、エーデルワイスの起動コードが遠くから耳に届いた時、ショボンの体は反射的に男の上から飛び退いていた。
反応が僅かにでも遅れていたら、ショボンの体はその筋力に関わらず店の壁に叩きつけられていたことだろう。
白いフレームを身に纏った襲撃者は、ショボンを一瞥し、それから男に目を向けた。

(::[∵/.゚])『……薬を使ったな。
      力具合を見る限り、それはマックス・ペインか』

(´・ω・`)「ドーピングはこの街のルールに反しているのかな?」

薬の使用を見破られたのも、その種類を言い当てられたのも初めてのことだったがショボンは動揺しなかった。
この街の人間達はショボン以上に多くの技術の知識を持っているため、彼らからしたら大したことではない。
手品のネタが見破られれば、ショボンがこの場で抗戦するメリットがない。
非常に惜しいが、この男はここに置いていくしかない。

(::[∵/.゚])『薬をキメようが構わないが、街の平穏を脅かしたことは罪だ。
      しかも、お前のせいでこの店のフィッシュアンドチップスがしばらく食えないのは、重罪だ。
      俺が逃がすと思うなよ』

(´・ω・`)「はははっ、勇ましいことだ。
     じゃあ、僕はここで退散するよ」

その場から脱兎のごとく逃げようとしたショボンの前に、もう一機のエーデルワイスが立ち塞がっていた。

(::[∵/.゚])『まぁそう焦るなよ!!』

咄嗟に上半身で防御の姿勢を取るが、エーデルワイスの薙ぎ払うようなローキックはショボンの左太ももを襲った。
相手が軽量のエーデルワイスで、尚且つ全身の筋肉に力を込めて防御していなければ筋肉の下にある骨が折れていたかもしれない。
装甲の鋭利な部分が肉を割き、血が噴き出た。

(#´・ω・`)「くっ!!」

今は反撃よりも撤退の方が重要だ。
脚力も同時に強化されているショボンは、その機会を決して逃すまいと周囲の状況を観察した。
それは一瞬の時間。
そして、ショボンにとっては十分な時間だった。

足元にあった壁の破片を蹴り飛ばす。
それは眼前にいるエーデルワイスの股を通り抜け、店の壁に新たな穴を開けた。
相手の意識をそちら側に向けさせ、ショボンはエーデルワイスの足を掴み、天井に向けて放り上げた。

(::[∵/.゚])『ぬあっ!?』

上半身が天井にめり込んだのを見届けることもなく、ショボンは疾走した。
店の外に出るとやじ馬で混雑していたが、すぐにその人混みに紛れ込み、細い路地を使って遠回りをして再び大通りに何食わぬ顔で戻った。
軽く変装をした状態のショボンは完全に街の人間に溶け込み、逃げおおせた。
止血をした太ももは焼けるように熱く、傷の上に巻いた布には血が滲んでいる。

310名無しさん:2019/12/15(日) 07:31:03 ID:MDeLAg0E0
安全に潜水艦に逃げるにしても、現在地からはいささか離れており、不審がられずに到着できる見込みは少なかった。
ゲートウォッチの目はどこにでもある。
先ほどの店に非番の人間がいたように、この街の至る所にゲートウォッチはいるのだ。

(;´・ω・`)「ちっ、ツイてない……」

せっかくジュスティアから逃れられたというのに、ここで捕まっては何もかもが台無しだ。
シナー・クラークスがその身を挺して救ってくれたというのに、こんなところで歩みを止めるわけにはいかない。
地下にでも逃げ込んで一時的に姿を隠そうにも、地下にすらこの街はギルドがうごめいており、素性の知れない余所者をかくまう人間はいないだろう。

「見つけましたっ!」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
          / /イ ″/,′〃 :i   :  ,イ.l: |  ! | i '.
          / / /    l |: ! i|  !  ′/!| l: | j  | | ‘
       / ー'  ′:!  :lィ!┼!トl |! 〃/' +lA-、/| i.  | |  ゜
             イハ. j!|ィ气ミ!ハ/〃' ム!斗レ、ノイ: リ !  i
           ,′i i:、冫{ひ'ソム ハ/j/ノ、_)'うヾミx ,′.   |
           ゜ ::  ::iヾ:、辷匕′/'   弋zシノ尨i| ,′ |
          /イ i:|  l:!ハ\""      "" ̄ノイ'}リ     !
            /'^| :!  l:、 ト    、_′ _,  ´ 厶1! .゜  リ
            ,′ : ヾ:、l:i:. |リ丶        /八 :! ,゜  〃
         {  乂_ 丶l:i |′ノ、> _   < 乂ヾ:!,′/ヘ.
            ヽ ,ィリ ト=ミ从イ:i }\  / 〃ハミⅤ//,′ }}
          /.:/ !ヾ:、`ヾリ:ノ }/∨\ {{ i: |!:㍉' ,゙イ  リ
            /.:人 ヾミ=、`ソ'//)/)\ヽ\、ヾ//-=彡ヘ
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

その耳障りなほど威勢のいい女の声に、ショボンは自分が話しかけられたと認識していないにも関わらず、思わず振り向いてしまっていた。

( *´艸`)「同志ショボン、お迎えに上がりましたっ!!」

311名無しさん:2019/12/15(日) 07:31:28 ID:MDeLAg0E0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::/
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::/
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::/
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::/´\::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::/;:;:;;;;ヽ
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::,′   \::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::/ィハトト、;;;;;!
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::!      `ヾ::::::::::::::::::::,、‐'"´-‐',`''', ''´;シヽ-- r- 、_
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::l         ̄ ̄   ,.イ l  /ハ r ォ /l  !  !    ヽ
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::!            _∠  リ  l 7` ='_ノ く   !  ,.イ
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::l       ,. -‐'"`ヽ 〉 l  l/.:.:.:.::::::::l /_  レ'⌒V
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::!     ,.ィ "⌒ヽ_ノ_/"´i  !.:.::::::::::::::l/レ′ ヽ
:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;/      └'"``ソ      /  l.:.::::::::::::::.',    〉
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;/                l  /1:.:.:::::::::::::.ヽ.   /
;;;i;;;;;i;;;;;i;;;;;i;;;i;i                  |/ 「`ー-----‐ヽ_/同日 某時刻
;;;i;;;;;i;;;;;i;;;;j;;;j;j_                    !   i l    ',
""""¨¨',´ ̄   ̄``ゝ- 、                  l   、j .レ'´    !
      ',       1  \__            |  .`ミi     !
      i     /      ``''ー- 、、..       |    |.    ,′
  .    l    / .:.:l           ``''ー- 、l    |   /
      |   / .:.:/                 \  ト、 _/
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

小さな店で起きたたった二人の諍いは、彼らが想像している以上に成長し、街の中に広がっていた。
それはまさに、蝶の羽ばたきが嵐になるように連鎖的に繋がり、燃え広がったのである。
最初はほんの些細な口論から始まった。
争いに巻き込まれまいと店の外に出た男が別の男とぶつかり、口論になり、掴み合いの喧嘩に発展した。

それを止めようとした複数の人間、そしてそれを見ていた人間にも被害が及ぶようになり、乱闘が起きた。
乱闘が発生した時、奇しくも店内では強化外骨格を身に纏ったゲートウォッチ二人が戦いを始めたところだった。
いつもであれば乱闘は起きるはずもなかったが、不運なことに、衝突したのは渦中のキサラギギルドの人間と、それをよく思わない他のギルドメンバーだった。
何もかもがおかしくなり始めた理由や、最近の不満を口にして小突き、そして大火へと発展したのである。

ショボンが店を飛び出した時にほとんどの人間が気に留めなかったのは、路上で起きたもう一つの争いを見ていた為である。
当然、店から逃げ出したもう一人の男の存在に気づくこともなかった。
ほどなくしてゲートウォッチが大挙して乱闘を鎮圧させ、その場を収めることはできたが、巨大な亀裂がギルド間にはっきりと形となって表れてしまった。
事態を重要視したギルドマスター達は緊急招集をかけ、ギルド間における争いをすぐに終息させることで話を終えた。

キサラギギルドのギルドマスター、ハスミ・トロスターニ・ミームは不服そうにではあるがその提案に頷かざるを得なかった。
そしてその様子を見ていた他のギルドマスター達は緊急会議が終わり、彼が部屋からいなくなった後にもう一つの会議を始めた。
議題は勿論、キサラギギルドについてだった。
重要な客であるエライジャクレイグとの契約に傷をつけ、信用を落とした罪は重い。

その罪を償わせるためには、当然、ギルド解体しか手はない。
観光関係を一手に担っているギルドを解体し、新たなギルドを設立するには時間がかかる。
そのため、慎重に話を進めなければならないのだが、容易に手出しが出来ない理由がもう一つあった。
街の経済が成り立つためには、当然、街で生み出された商品を外の世界に持ち運ぶ必要がある。

312名無しさん:2019/12/15(日) 07:31:56 ID:MDeLAg0E0
そこで必要になるのが交通手段であり、運送会社である。
陸路、水路を使った輸送会社をも取りまとめているのがキサラギギルドなのだ。
交通を使わない輸送はなく、どこのギルドも必ずキサラギギルドに所属している輸送会社を使うしかない。
逆に輸入品についてもキサラギギルドの力なくしては成立しないため、容易に解体は出来ないのである。

解体するのであれば、その前に後釜となるギルドマスターを選出しなければならない。
果たして、内藤財団との癒着が濃厚なギルド内からまともな人間が選びだされるかと言えば、非常に疑わしい。
最も現実的なのは、交通や観光に関する案件をギルドに任せるのではなく、新たなギルドが生まれるまでの間は個人に委ねるという道だ。
汚れのないギルドが誕生するまでの時間は最低でも一か月以上必要であり、それまでの間に同業者の間でつぶし合いが起きないように第三者が監視をしなければならない。

事態が今よりも悪化するようであれば、流石にキサラギギルドを庇い続けることは出来ない。
市民たちの感情もあるため、早急な決断に迫られる日はそう遠くないだろう。
フォクシーのギルドマスターにしてゲートウォッチで最も優れた才能を発揮する男、デルタ・バクスターはコーヒーを飲みながら会議の中身を思い返していた。
会議を終えた彼は今、自らが代表を務める警備会社のオフィスへと戻り、提出された報告書に目を通している途中だった。

死者はいないが、負傷者が多く出てしまったことによる市民からの不満は消えることはない。
店の中で騒ぎを起こした二人の男は依然として見つかっておらず、彼らが出した損害は多大なものだった。
由緒ある店がしばらくの間営業を停止することになり、ゲートウォッチが四人出し抜かれてしまった。
最悪なのは、強化外骨格を使っている人間が不審者を逃すという事態が起きてしまったことである。

現場にあった防犯カメラの映像を解析したところ、先日ジュスティアが取り逃した元刑事の罪人が特に大きな被害を生み出した張本人であることが分かった。
この問題についてジュスティアに報告し、尻拭いの話をしたほうがいいだろう。
そう思いつつ、再度コーヒーを口にする。
苦みの中にある仄かな香りによって彼の思考が調律されていく。

激情はいらない。
彼がジュスティアとイルトリアに留学し、そこの治安維持組織で学んできた多くの知識と経験が確かに伝えているのだ。

( "ゞ)「こいつぁ、まだ始まりか」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
  "''- ,,.  . '-,,_ |  .|'-,, |\  i:;li:li:;| _______
     |. : .     "   |//.| |  \| ;li;li:| ._________ |         /::::::::::::
 .゙ / / |    |"''- , .   "-,| | |'-; .|\ :;| .___|____|____| |TTTTTTTTT./::::::::::::::
 -,,,_  |    | // | . .   . |_~'' .|  \ ゙._______ | ̄ ̄ ̄ ̄~ /:::::::::::::
,,,_   "'-'.  ゙ | // |  |'-,,. |`-,,\| | || | .___|____|____| | [三三三 /:::::::::::/
  ̄"''- ,,_   '-- ,,_|  |  | |;;;;; ;;;i | | || | ._________ |      /::::::::/  _
    :::| "''-- ,,,__   "-'. |; ;;;;;;;i | | || | .___|____|____| | [三三 /::::/  _-'''
    :::|  |"'''-- ,,, ゙̄''- ,,,__|;;; ;;;;;i | | || | ._________ |     <::/ ,-" || ixX
    :::|  |     i'| |「 |- ,,_~''- _ ,, . || | .___|____|____| | [三三 |-'ii: : ::::|| ixX
    :::|  | ゙// .i:| || 」 i|.|~"''';; iニ==;i   ______ .┌┐   :|       | |i  : :|| ixX
    :::|  |     i:| |::::  i|.|  || | ii |  ||| └┘   :| [三三 | |i   || ixX
同日 某時刻
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ノパ⊿゚)「次はどんなのが見たい?」

ヒート・オロラ・レッドウィングは頭上に向けて、そう声をかけた。
彼女の肩に乗って高い視点から世界を眺め、はしゃいでいるブーンが反応を示したのは、半瞬遅れてのことだった。

313名無しさん:2019/12/15(日) 07:33:01 ID:MDeLAg0E0
(∪*´ω`)「このまま街を見てみたいですお」

ノパー゚)「りょーかい」

頭上から降り注ぐ日光。
それ自体は珍しい物ではないが、建物や街灯から放たれる輝きはまるでミラーボールの様に壁や地面に太陽の明かりを届けている。
まるで魔法の様だ。
そしてヒートの頭上でその光景を全身で感じるブーンにとっては、今こうしているだけでも楽しい時間なのだろう。

ヒートもこの時間を楽しみ。改めてラヴニカの持つ技術力を思い知った。
ブーンは昼食を食べることも忘れて街の景色に魅了され、圧倒され、そして刺激されていた。
どこか丁度よさそうな店がないかと見ながらの散策ではあるが、それだけでもウィンドウショッピングじみた楽しさがある。

ノパ⊿゚)「昼飯はどうする?」

(∪´ω`)「お……」

ヒートの言葉にブーンが一瞬黙り込む。

ノパ⊿゚)「どうした?」

(∪´ω`)「読み方が分からないですお……」

ブーンの視線の先にある看板には、確かに初見の人間では読めない文字が書かれていた。
それは失われた太古の文字が元だと言われており、今ではシンボルとして使われているものだ。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
????■??????????????
???■■???■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■????■■■????
???■■???????■■?????
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
???■■???■■?■■?■■?■■
■■■■■■■■■■?■■■■■?■■
■■■■■■■■■■?■■?■■?■■
??■■????■■?■■?■■?■■
?■■■■■■■■■?■■■■■?■■
?■■■■■■■■■?■■?■■?■■
■■■■?■■?■■?■■?■■?■■
■■■■?■■?■■?■■?■■?■■
■■■■■■??■■■■■■■■■■■
???■■■??■■■■■■■■■■■
??■■■■■■???????????
■■■■?■■■■■■■■■■■■■■
■■??????■■■■■■■■■■■
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ノパ⊿゚)「ありゃあ、読み方のない文字だ」

314名無しさん:2019/12/15(日) 07:33:34 ID:MDeLAg0E0
(∪´ω`)「読み方のない?」

ノパ⊿゚)「シンボルってやつさ。
    それ単体が意味を持っているけど、読み方の決まりはないんだ。
    デレシアが言ってたけど、この街のギルドも同じようにシンボルを使ってるんだってさ」

(∪´ω`)「何で文字にしないんで……
      見て分かるからですか?」

ノパー゚)「あぁ、そうだ。
    言葉は読む必要があるが」

(∪*´ω`)「シンボルは見るだけでいいんですおね」

ブーンの理解力の速さはもって生まれた物か、もしくは、デレシアとの旅で培ったものなのかは分からない。
分からないが、彼の成長する速度はヒートが考えていたよりも早い。
つい先日までは言葉の発音もたどたどしかったのに、今では難しい言葉も問題なく口に出来ている。
そしてこちらの話そうとしていることも先んじて理解するだけの処理能力があり、それを臆さず発言できる力もある。

自分たちの見立てが間違っていたどころか、それ以上であることにヒートは自分のこと以上に喜びを感じた。
ブーンの成長をこうして感じられたことは、朝食の場で目撃した忌々しい男を見過ごしたことさえも、まるで苦にならない。
この成長した姿は圧倒的にそれに勝り、そして、何よりもヒートの心を温めてくれる。

ノパー゚)「そういうことだ。
    ちなみにあれは、麺類を取り扱ってるって意味のシンボルだ。
    せっかくだし、今日の昼飯は麺にするか」

頭上でブーンの尻尾が揺れるのを感じる。

(∪*´ω`)「はいですお!」

果たしてどのような種類の麺料理が楽しめるのか、ヒートはブーンを肩から降ろし、手をつないで期待を胸に店の中に入った。
ガラスの戸を開けた先の店内は狭く、洒落た雰囲気とは真逆の大衆食堂的な趣があった。
この方が落ち着いて食事に専念できるため、ヒートはさっそくこの店の料理に期待を寄せ始めた。
料理の味は客の質が証明する、というのが彼女の持論だ。

観光客、もしくは地元の人間ばかりの店はあまり期待が出来ない
その点、店内を見渡してもその偏りのある客層ではなく、ますます期待が高まる。
天井は木漏れ日の様に輝きを放ち、店内はまるで公園にあるテラスの様に穏やかな姿をしていた。
席に案内され、木製の椅子とテーブルが二人を迎えた。

ブーンを壁側に座らせ、ヒートは通路側の席を選んだ。
これでブーンの背中が危険にさらされる心配はない。
厚紙に印刷されたメニューを広げ、ブーンはそこに並ぶ色とりどりの料理の写真に目を輝かせた。

(∪*´ω`)「おおー」

ノパ⊿゚)「なるほど、ここは“そば”を売ってるのか」

(∪´ω`)「そば?」

315名無しさん:2019/12/15(日) 07:33:58 ID:MDeLAg0E0
ノパ⊿゚)「あぁ、そばだ。
    パスタとは別の粉を使った麺で、変わった風味がするんだ。
    熱い汁に浸かったやつか、それとも冷えた汁に浸けて食べるやつか選べるんだ。
    どんなのが食べたい?」

(∪´ω`)「おー…… この“かきあげ”って、何ですかお?」

ノパ⊿゚)「早い話が野菜のフライだ。
    熱いそばの汁に浸すと衣の油が溶け出して、衣が汁を吸う。
    肌寒い時に食べると美味いぞ」

複数の野菜を千切りにし、それを衣でまとめて油で一気に揚げた料理であるかき揚げは野菜の種類に関係なしに作れるため、このような店でなくても置いている場合がある。
大きさも味も店によって違うが、熱い汁と一つになった時の味の美味さはほぼ共通していると言っていい。

(∪´ω`)「この“おあげ”は?」

ノパ⊿゚)「あー、それはちょっと説明が難しいな。
    二つとも頼んだ方が早いな。
    あたしと半分こしよう」

(∪*´ω`)「わーい」

ヒートは給仕に注文を告げて料金を支払い、僅か数分で二人の料理が運ばれてきた。
これがそばの特徴でもあった。
高級な店はそうではないらしいが、大衆向けのこうした店は速度も売り物の一つであり、客もそれを期待している。
ヒートの前に置かれた丼には黒に近い茶色の汁と麺、そしてその上には彩のための刻みネギが散らされ、こげ茶色のお揚げが麺を覆い隠すように置かれていた。

ブーンの丼にはお揚げは乗っていないが、代わりに平皿に盛られたこぶし大のかき揚げがある。
玉ねぎと人参、それと何か細長く刻まれた野菜が入っている。

(∪´ω`)「おー」

ノパー゚)「フォークでも箸でも、好きなので食べるといい。
    まずはかき揚げを食べてみな」

ブーンはフォークを使い、自分の顔程も大きなかき揚げを持ち上げ、一口かじった。
ざふり、と小気味のいい音が鳴る。
衣と野菜の奏でるその音と、ブーンの顔が味を物語っている。

(∪*´ω`)ザフザフ

ノパ⊿゚)「美味くてよかったな」

ヒートは自分のそばを箸ですくい、啜った。
これは奇妙なことだが、同じ麺類でも音を立てて食べないものと食べるものが分かれている。
そばは後者に分類され、ヒートは音を立てて麺を食べ始めた。

ノパπ゚)ズゾゾ
 つワφ

316名無しさん:2019/12/15(日) 07:34:18 ID:MDeLAg0E0
どんなパスタとも違い、するすると口に吸い込まれていく。
濃い醤油味の汁によるシンプルな味の奥に潜むのは、カツオブシと昆布で取られた出汁の奥深い味。
汁に溶けたお揚げの僅かな甘味を舌が感じ取る。
複雑な味付けでなく、このような単純な味の料理も十分に美味い。

(∪*´ω`)「次はどうしたらいいんですかお?」

ノパ⊿゚)「次は丼の中のそばを食べるんだ。
    音を立てても立てなくてもいいぞ」

フォークと箸で迷っていたが、ブーンはヒートの手元を見て、箸を選んだ。
ヒートと同じように啜って食べようとするが、少しためらいがちなため、音はあまり鳴らなかった。

(∪´π`)チュルル
 φワと

咀嚼し、味わい、嚥下した。

(∪´ω`)「おー」

少し首を傾げ、ブーンは再び啜った。
そして再び同じ反応を繰り返す。

ノパ⊿゚)「どうした?」

(∪´ω`)「どうしてそばは音を立ててもいいんですかお?
      、 、 、 、
      スパゲチーは立てない方が良いって、デレシアさんが言っていましたお」

どうやらブーンの思いにあったのは、麺の種類による食べ方の違いだったようだ。
デレシアの様に学のある回答は出来ないが、ヒートは感覚的なもので答えることはできた。

ノパ⊿゚)「これはもう料理と好みの問題だな。
     例えば、ブーンはバゲットをどうやって食べる?」

(∪´ω`)「んあーって、かじりますお」

ノパ⊿゚)「あたしもそうだ、その方が気持ちいいからな。
    だけど、世の中にはちぎって食べたい人もいる。
    お互いにその食い方に色々言われたらいやだろ?」

(∪´ω`)゛

ノパ⊿゚)「そんなものさ。
    で、そばが生まれた場所では啜って食べるのがマナーだった、らしい。
    だから啜って食べるのがマナーだと思う人もいるし、音を立てるのが嫌な奴もいる」

(∪´ω`)「おー 難しいですおね」

317名無しさん:2019/12/15(日) 07:34:38 ID:MDeLAg0E0
確かに、難しい問題ではある。
個人のマナー、その場のマナーなど、食事には多くの制限が状況次第で付きまとってしまう。
しかし、本質的な部分は食事を楽しめればそれでいいのだというのがヒートの考えだった。

ノパー゚)「難しく考えればそうなるさ。
    飯の時は、難しく考えちゃだめなんだ。
    もっと気楽に食べよう、それが一番のマナーってやつさ。
    ってことで、あたしもそのかき揚げ食べさせてもらってもいいか?」

笑顔でブーンは頷き、フォークに刺したかき揚げをヒートに差し出した。
少し気恥ずかし気に笑み、ヒートはそれを一口かじった。
歯応えの奥にある素材の甘味とみずみずしさが生きている感覚は、極めて爽快だった。
程よい熱さも、衣の薄さも、全て含めての美味さ。

ノパー゚)「美味いな」

(∪*´ω`)「おっ!」

ノパ⊿゚)「じゃあ、次はこれをそばの上に乗せて、それからそばを食べてみようか。
    油が染み出して味がちょっと変わってるぞ」

言われた通りにブーンはかき揚げをそばの上に乗せ、それから箸に持ち替え、丼の端から器用にそばを啜った。
味の変化に気づいたブーンの顔があまりにも可愛らしく、ヒートは破顔してしまった。
一心にそばを啜り、思い出したようにかき揚げを食べ、汁を吸ってふやけたことによる味と食感の変化にブーンは歓喜していた。
出汁のよく効いた汁を吸った衣は味の変化と共に非常に柔らかくなるが、中に使われている野菜の食感が歯ごたえを残すため、絶妙なものになる。

汁に沈んでいたかき揚げの最後の一片まで食べ、ブーンは満足げな溜息を吐いた。

(∪*´ω`)=3「ほふー」

ノパー゚)「お揚げは食べられるか?」

(∪*´ω`)「はいですお!」

ヒートは自分の丼から半分に分けたお揚げを箸でつまんで移動させた。
ブーンは興味深そうにそれを見つめてから、一口で食べた。

(∪*´ω`)「おー! 甘くておいしいですお!」

ノパー゚)「そりゃよかった」

暖かい“ほうじ茶”を飲み、二人は一息ついた。
午前中は主に街を見て回るだけだったが、午後は何か買い物に時間を充てた方がいいだろう。
ヒートとデレシアが考えているのは、彼に合う護身用の武器の購入だ。
状況が日々不安定になっていく情勢下で、特に気をつけなければならないのがティンバーランドの襲撃である。

すでにラヴニカも安全な場所ではなく、内藤財団がこの街に深く入り込むだけで瞬く間にここは彼女たちにとって危険な街になる。
襲撃は既に何度も行われ、デレシアと共にいるというだけでもその対象になることが分かっている。
しかも、ブーンを標的にされたこともあるため、油断は全く出来ない。
オアシズでブーンが行った射撃練習の結果から、彼には小口径の拳銃がふさわしいことが分かっている。

318名無しさん:2019/12/15(日) 07:34:59 ID:MDeLAg0E0
そしてその大きさは彼の両手で握れるものでなければならず、銃種は限りなく狭い。
この街であれば多様な武器を見繕えるはずだ。
となると、銃砲店に行く必要がある。
場所についてはブーンと街を歩いて把握しており、それぞれが掲げているギルドのマークを記憶している。

ヌルポガ。
そのギルドに組している店であれば、安心して購入できる。
その店になくても、同じギルドの店を館内してもらえれば解決だ。

ノパ⊿゚)「じゃあ、そろそろ行くか」

(∪´ω`)「はいですお」

二人は店を出て、外の冷たい空気に身を軽く震わせた。
冬用の服を着ているが、顔が受ける風は防ぎようがない。
身を寄せて自然と手を握り、二人は眩い街の中へと繰り出した。

(∪´ω`)「おー」

ブーンの手は暖かく、まるで暖房の様にも感じられる。

(∪´ω`)「ヒートさん、手が冷たいですお」

ノパ⊿゚)「あぁ、ちょっと冷え性なのさ」

(∪´ω`)「ひえしょー」

ノパ⊿゚)「寒がりみたいなもんだ」

(∪´ω`)「おー、大変ですお」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
      ',             丶    : |  :| |: :_ ‐ <
.     i、      _,,.. -―┴- 、 : 」.. -‐"´    `丶、_
     ',',    _,r'´/  ___,.-    `<__           ` ー―-
      ',',   / | ノ  / , '´        \
      ',', ∧ 〈__/- 、/           丶                . :_
       ',', {、ヽ} } 、 , '   ,r          ヽ             .  _ ´/
       ',V } : }〈__゙ソ  /  _           、          . _ -". イ
        \`: :{ /  , '   /ノ          ヽ       . ∠ - '´ 「
         `ヽ}/  /   //  , -、      ,.-‐i    . : _ ´. . . .|
           /  /  , '/ , ', '´   _.. -''´/ }  . _ -'´. . . . . .|
           `"トト /'  / '´ _ .. -‐''ミヽ_/  /. : / . . . . . . . |
             |.`く{__..イ' //: : : . \`<__/. . . . . . . . . |
            |. .ヽ}. `く , ': : : : : : . \‐、. . . . . . . . . . |
            'i. . .\ /: : : : : : : : : `丶、 . . . . . . . . |
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

319名無しさん:2019/12/15(日) 07:35:21 ID:MDeLAg0E0
ブーンが両手でヒートの左手を握る。
小さな彼の二つの手でようやく彼女の手が覆われたが、まだ隙間がある。
しかしその暖かさ、そして感じ取る温もりは十分すぎた。

ノパー゚)「ありがとな」

(∪*´ω`)「おー」

最寄りの銃砲店に立ち寄り、銃器を物色することにした。
だが小型の銃を見て回るも、ブーンが握ってしっくりくるものは見つからなかった。
気を取り直して数件見たが、結果は同じだった。
時計が予定の時刻に差し迫ってきたのを確認し、ヒートは予定通りの店に向かった。

予定の店は通りに面した路地にある喫茶店だった。
丁度いい時間帯にもかかわらず客はほとんどおらず、小さな音量で流されるジャズに二人の跫音が伴奏の様に合流した。
カウンター席に立つ壮年の男が店主だろう。
軽く会釈をされ、二人はそれに倣って返した。

裏口に近い席を選び、ヒートは再びブーンを壁側に座らせた。
ヒートは上体の向きを変えてカウンターに顔を向け、ブーンのリンゴジュースと自分のカフェインレスコーヒーを注文した。
予定の時間になる直前、新たな客が店に現れた。

ζ(゚ー゚*ζ「お待たせ」

ローブに身を包んだデレシアが店に入り、フードを外しながらヒートの隣に座った。
その一連の動作は流れるように自然で無駄がなく、それでいて可憐ですらあった。

ζ(゚ー゚*ζ「二人はお昼に何を食べたの?」

(∪´ω`)「そばを食べましたお。
      おっきなかき揚げと、あまいお揚げのやつですお」

ζ(゚ー゚*ζ「あら美味しそう。
      ブーンちゃんはどっちが好きだった?」

(∪*´ω`)「どっちも好きですお」

ζ(゚ー゚*ζ「それは良かったわね。
      ジャスミン茶をお願い」

カウンターの方でカップを磨いている店主に顔を向け、デレシアは注文をした。
声を張り上げたわけではないが、デレシアの言葉は店主に届いたようだ。

ノパ⊿゚)「首尾は?」

ζ(゚ー゚*ζ「面白いことになってきたわよ。
      サム、っていたじゃない。
      記憶が戻った上にティンバーランドの一人と大喧嘩よ」

320名無しさん:2019/12/15(日) 07:35:44 ID:MDeLAg0E0
ログーランビルから落とされてもなお生存し、記憶を失っていたあの男が正気になったという知らせは確かに面白いが、厄介な話だ。
元同業者として、ヒートも“葬儀屋”の噂を聞いたことがある。
当時は気にも留めていなかったが、かつての依頼主がヒートの実力を比較する際に例として挙げたのがその渾名だ。

ノハ;゚⊿゚)「えぇ……」

確かに、すれ違う人々が喧嘩について話していたが、その中心にあの男がいたとは驚きだ。
何がきっかけとなって記憶を取り戻したのか気になるところだが、聞く限りではティンバーランドの人間に原因があるのだろう。

ζ(゚ー゚*ζ「街全体でもそうだし、ギルドの方でもその一件でキサラギギルドへの責任追及が起こりそうね」

キサラギギルドにしてみれば、弱り目に祟り目、といったところだろう。
“レオン”の修理に影響が出なければいいが、ギルド間で何がどう繋がっているのか知り得ないヒートにはその推測も出来ない。
それよりも気になるのは、この街にティンバーランドの影響が及ぼうとしているのは聞いていたが、そのメンバーが行動に移ったことだ。

ノパ⊿゚)「厄介なことになりそうか?」

ζ(゚ー゚*ζ「何とも言い難いわね。
      この街はバランスが良い分、それを崩そうとするなら力でやるしかないの。
      事前に相当準備をしていればすぐにでもやるでしょうね、あいつらなら」

ノパ⊿゚)「というか、やっぱりティンバーランドの連中がいるのか。
    どこに行ってもあいつらがいるな」

ζ(゚ー゚*ζ「そうね、正直な話をすると多分どこの街にも多かれ少なかれ細胞がいるはずよ。
      特徴を聞いた限りだと、この街に来ているのはショボン・パドローネね。
      となると、トラギコたちと鉢合わせるともっと面白いことになるかもしれないわね」

ジュスティアにとって見れば、ショボンは面汚しの象徴そのものだ。
警察から転身して殺人犯になり、多くの事件に関わった元警官は今すぐにでも屠りたいに違いない。
トラギコともう一人いた男――名前を失念した――も、ショボンがここにいると分かれば逮捕するために動き出すかもしれない。
絶妙なタイミングで透明なポットに淹れられたジャスミン茶が運ばれ、デレシアの前に置かれた。

ζ(゚ー゚*ζ「ありがとう」

店主はまた軽く会釈をし、デレシアの言葉を受け止めた。
聞き逃しがなければ、店主はヒートが店に入ってから一言も口を開いていない。

ノパ⊿゚)「変わった店主だな」

ζ(゚ー゚*ζ「彼、耳が不自由なの。
      だから私たちの会話は聞こえていないわよ」

ノパ⊿゚)「あたしたちの注文はどうやって分かったんだ?
    口でしか…… 読んだのか、唇を」

確かに、読唇術を使うのであれば、店主に背を向けているデレシア達の唇は見ることが出来ない。
そのため、会話を読み取られることはない。
聞かれたくない会話をするにはうってつけの店と言うわけだ。

321名無しさん:2019/12/15(日) 07:36:11 ID:MDeLAg0E0
(∪´ω`)「お? 唇を、読む?」
  つ凵と

ζ(゚ー゚*ζ「そう、唇の動きを見て言葉を読み取るの。
      読唇術、っていうのよ」

デレシアは自分の唇に人差し指を当て、言った。

ζ(゚ー゚*ζ「声に出さずに、何か話してみて」

論より証拠。
不思議そうな顔をしながらも、ブーンはデレシアの指示通りに声に出さずに言葉を発した。

(∪´ω`)モゴモゴ

ζ(゚ー゚*ζ「リンゴが好き、でしょ」

(∪*´ω`)「おー! すごいですお!」

過去の経験からヒートも多少は心得があるが、それを使いこなすには訓練を積み重ね、精度を上げていく必要がある。
読唇術といってもその幅は広く、簡単な単語単位からビジネス会話のような複雑な内容の理解にまでその範囲は広がる。
デレシアが見せた読唇術は初歩中の初歩で、ヒートでも分かる物だったが、彼女であればさらに高度な芸当も出来ても不思議はない。
ブーンは耳が良く、更には目もいい。

彼が読唇術を身に付ければ必ず役立つことだろう。

ノパ⊿゚)「コツみたいなもんはあるのか?」

ζ(゚ー゚*ζ「そうねぇ…… 最初の音を見逃さない、ってことかしら。
       その音がどうつながるのかを考えれば自ずと見えてくるわよ。
       そのためにはたくさんの言葉を知る必要があるんだけどね」

(∪´ω`)゛「おー」

ノパ⊿゚)「なるほどな。
    そういや話は変わるが、シングルカラムの銃を探したけどブーンにしっくりくるのは見つからなかったよ」

反動のことなども考え、彼女たちの間ではブーンが使う拳銃は小口径になるであろうと結論付けていた。
更に、子供の手にも扱えるよう、シングルカラムの弾倉を使う銃に限られるため、選択肢は極めて狭くなる。
銃の扱いに慣れている人間ならまだしも、全くの初心者であるブーンの銃選びに妥協は一切許されない。
命を守り、命を奪う最初の道具はどれだけ金がかかっても、彼に相応しい物でなければならないのだ。

ζ(゚、゚*ζ「こればかりは焦ってもいいことはないから、気にしなくて平気よ。
      それより、この後の予定ね。
      レオンの修理如何で滞在時間も変わるから、それまでの間に揉め事に巻き込まれないようにしないと」

ノパ⊿゚)「大人しくどこかで時間でも潰してるか?」

街に繰り出して事件に巻き込まれれば、それだけここに長く滞在することになる。
別に何かを追い求める旅ではないが、ティンバーランドの脅威が近くにあると分かっている場所に長居をするのは得策ではない。

322名無しさん:2019/12/15(日) 07:36:32 ID:MDeLAg0E0
ζ(゚、゚*ζ「あいつらが先に街を出てくれればいいんだけど、どうなるかしらね。
      なーんか、きな臭い動きがあるのよ。
      ティムもワカッテマスも、何かありそうなのよね」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
:|  |:::l  r:、 \:ヽ__: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : /          . . : : :
:|  |:::l  |::|  、\:::::::: ̄}: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : ;        . . . : : : : : : :
:|  |:::l  |::|  |:l   \::::::::\: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :|       . . . : : : : : : : : : : :
、  'ー'  |::|  |:l f:i   \::::::::ヽ : : : : : エ: : : : : : : : : : : : : : : : .、        . : : : : : : : :
`ヽ     `   l:j |:|  ト   \::::::}: : : : :、」L : : : : : : : : : : : : : : : : \    . . : : : : : : : : : : : :
>' ト..、\   ヾ  |:|   \::.、 : : : |::::| : : : : : : : : : : : : : : : : : : :` ー- -‐. ´: : : : : : : :
r:、 |::::|   \.     |:|     `i、: : : :}べヘ  ィ: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :
|::| |::::|  |ヽ  \  ゙   ト   ト、,/△ | Y |: : : : : : : : : : : : : : : : 同日 某時刻
l::|_r::シ:⌒ヾ:| |:l `     |:|   :!  !    l ヾ、:|: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :
_`''ー'::_:::::::::}| l」   ` ヽ    |  |   |   |: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :
    "'-::L  /::^ヽl::i  _ `ヽ,::|  |ー:::::: ト,, _!: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :
  |`::、    :ヾl::::::::::}::| |:|    |  |:::::::::::|:::::::::|: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

事件は、その日の夜に起きた。
ギルドマスター達が定期的に集まる会議とは異なり、その夜に開かれたのはキサラギギルドによって召集された臨時会議だった。
日頃は店を経営する人間達がギルドマスターを兼任していることもあり、本日二回目の臨時会議に参加できない者もいた。
そのため、ギルドの中には代理人を立てて参加するところもあった。

キサラギギルドが指示したビルの会議室を使っての会議は予定時刻を二十分過ぎても始まる気配がなく、参加者の間に苛立ちが募っていた。
議題もなく、ただ緊急で集まってもらいたいという我儘な言葉を発した張本人がいないことが、何よりも彼らの機嫌を損ねている原因だった。
ようやく表れたキサラギギルドのハスミ・トロスターニ・ミームは、悪びれもしない様子で席に着いた。
既に予定は三十分もずれ、忙しい中この場にやってきたギルドマスター達は怒りをあらわにしたが、彼はまるで気にした様子もなかった。

何か、吹っ切れている。
その場にいた人間は、皆そう思った。
水からまいた種とはいえ、かなりのストレスを抱えているはずの男が、会議に遅れてきても余裕のある様子を見せている。
不自然、あるいは不気味。

失うもののない人間が最後に何かを起こす際に共通している、一切の後悔も抱かない状態に酷似していた。

(^J^)「さて、話を始めましょう。
   端的に言います。
   内藤財団ギルドの参入を認めます」

静寂。
それは思考が唐突な展開に対して、適切な、そして目の前にいる頭のネジが外れた大馬鹿者でも理解できる的確な言葉を必死に探したために生まれた時間だった。
十のギルドを代表する人間達が集まる場所で最初に口を開いたのは、リマータギルドのギルドマスターだった。

「は?」

(^J^)「内藤財団ギルドですよ、前から話に挙げていましたよね。
   私が許可をして、彼らがこの街での活動に参加を――」

323名無しさん:2019/12/15(日) 07:37:00 ID:MDeLAg0E0
「違う、そうじゃない。
お 前 が 何 を 一 人 で 勝 手 に 決 め て い る ん だ、と言っているんだ」

(^J^)「私以外の賛同者はいない、と。
   そう仰るんですか?」

「当たり前だ。
お前たちのギルドが暴走したせいで、どれだけの被害が出ているのか分かっていないようだな」

(^J^)「そんな些細な経済的打撃は、内藤財団が補填してくれます」

「ついにおかしくなったみたいだな、お前」

(^J^)「ふむ、では皆さんが納得するような話を一つしましょう」

「あぁ?」

(^J^)「交渉をしよう、というのですよ。
   ……これを見てください」

直後、入り口の扉が勢いよく開かれ、武装した屈強な男二人が現れた。
その手に構えているのがショットガンで、優れた性能から高額で取引されているケル・テックKSGであることにヌルポガギルドのギルドマスター、アララト・シャダは気づいた。
チューブマガジンを二本備え、弾種を使い分けることで様々な状況にも対応することが出来る物で、つい最近ようやく量産に成功したばかりのものだ。
在庫管理をしている店が襲われたのか、それとも買い取られたのかはこの際問題ではない。

あの銃腔が火を噴けば、彼はひき肉かばら肉のどちらかになるという事実が問題なのだ。
懐に忍ばせていたグロックで対抗できる銃ではないこと、そして何より、彼らが背負っているコンテナが圧倒的な戦力差を物語っている。
Aクラスの棺桶でも、人間が生身で対抗できるものはほとんどない。
チャンスを窺い、相手の油断によって生き残るしかない。

(゜д゜@「……抵抗はしない方が無難だな」

他のギルド代表者たちも、アララトと同じ判断を下した。
建物の外に待機している各ギルドの用心棒たちは、恐らくもう皆殺しにされているだろう。
抵抗は得策ではなく、異常事態に気づいた誰かの救援を待つのが最善である、と誰もが考えた。

(^J^)「どうです? 返事は?」

アゲサーゲギルドのギルドマスターが静かに口を開いた。

「一つ、聞いてもいいか?」

(^J^)「いいでしょう、どうぞ」

「拒否したらどうなる?」

(゚J^)「……拒否?」

張り付いていた笑みが、ハスミの顔から消えた。

324名無しさん:2019/12/15(日) 07:37:32 ID:MDeLAg0E0
(゚J゚)「拒否なんて選択肢、あると思ってんのか!!」

慟哭と銃声は同時だった。
アゲサーゲギルドのギルドマスターの頭が爆ぜ、血肉が白い壁に花を咲かせた。
顔には下あごだけが残り、権威あるギルドマスターはゆっくりと床に倒れた。

(^J^)「これで一人欠席。
   残ったギルドの承認が得られるまで続ける。
   分かったか?」

再び銃声。
今度は、ビットピアギルドのギルドマスターが喉を撃たれ、机の上に倒れ伏した。
ごぼごぼと音にならない声を発し、苦しみ、やがて自らの血に溺れて二度と言葉を口にしようとはしなくなった。

(゚J^)「返事ぃ!!」

次に撃たれたのはビーマルギルドの人間だった。
銃弾は肩の肉をえぐり取り、ギルドマスターを悶絶させた。

「ぐあぁあっ!? この野郎!!」

(^J^)「んー? この野郎って返事は拒否と受け止めていいんですよねぇ!!」

狂気じみた笑みを浮かべ、硝煙を紫煙のように吐き出している銃腔を向けた。
アララトはこの時点で、ハスミが何かの目的をもってギルドマスター達を射殺していると推測した。
先ほどの彼の言葉を引用すれば、ギルドの承認が得られるまで、という言葉と今の行動は一致しない。
ギルドマスターを殺したところでギルドが消滅するわけではない。

有事の際には後任が新たなギルドマスターとなり、ギルドは存続していく。
つまり、ここで彼がギルドマスター達を殺すことに大きな意味はないはずなのだ。
それを知らないはずもなく、また、ギルドの承認が得られないという現実は銃で覆る物ではない。
特定の人間を殺し、内藤財団に有利になるような何かを狙っている。

保険関係のアゲサーゲ、不動産関係のビットピア、そして金融関係のビーマル。
アゲサーゲとビーマルは密接に関係しあっているというぐらいしか共通点を見いだせない。
無慈悲な銃声が鳴り響き、ビーマルの長の悲鳴が止んでもなお、アララトは思考を停止しなかった。
銃に酔いしれ、暴力に飲まれた男の思考とその裏側。

ハスミの背後にいる内藤財団の目的を読み解き、この事態を終息させる最善手を思い浮かべなければならない。
内部からこの状況を打破するのは不可能だが、銃声に気づいた誰かがゲートウォッチに通報していれば、まだ可能性はある。
時間を稼げば店の人間が不審がって様子を見に来る可能性も有る。
とにかく、今は時間が必要だ。

(^J^)「さぁ、皆さん。お返事は」

325名無しさん:2019/12/15(日) 07:39:29 ID:MDeLAg0E0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
              ノイ : :: l:.::::... ::..   ::::. ..   ヽ:.::::::::...\ゝ
                 l.:!.i: :::l:!:::ヽ:::.. :::::.. \:::::..::::... \:::::\ー`
               ' l;l l 「l!¬lヽ:::::\:::.ヽ,.. -、:::::、::...\:.`ー
                ゙、l. !` てッヽ.、::ヽ\ヾツ7`、ー、`;丶、
                    ヽ l      .:! 、  丶   ; ,'/
                     /i      :::!       ,'イ,、
              _ -///∧       `´      l//∧
          _, -ニニ////l  ヽ  `    ´  .'/ l///∧二=- _
     _-‐=ニニニ二/////!  、\     //  !'///∧二二ニニニ=- _
.   /ニニニ二二二二/////,l    \   -  /    |////∧二二二二ニニニニニヽ
.   ,ニニニニニニニニ//////!!    \  ./     l/////∧ニニニニニニニニニ!
同日 同時刻
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

送り出したギルドの人間が帰ってこないことに最初に違和感を覚えたのは、デルタ・バクスターだった。
警備関係の仕事で使うための新たな備品と弾薬を購入するために訪れていたナヒリ銃火器店で、彼は無線機を使って会議に出ている代理人に合図を出した。
その合図に対しては、何かしらの反応を返すように決めていた。
応答不可能であれば二度無言でノイズを送り、緊急事態であれば三度のノイズといった具合だ。

だが返答はなかった。
そう、何もなかったのである。

( 0"ゞ0)「どうした?」

箱詰めされた弾薬がトラックに積まれていくのを見ていたデルタの後ろから、店主のソリン・マルコフが声をかけてきた。
職業柄、二人は長い付き合いをしており、デルタにとってソリンはもう一人の父親のような存在だった。

( "ゞ)「いや、今日の臨時会議が妙に長引いてるみたいでしてね」

( 0"ゞ0)「臨時会議をまたやってんのか、お前らは」

( "ゞ)「キサラギギルドの提案で、今夜いきなりですよ。
    代理人を送ったんですが、返事すらないんです」

デルタが部下と取り決めている無線の合図についてはソリンのアイディアであるため、彼の言葉の意味をソリンはすぐに理解した。
無線機のノイズを利用した合図は口に出さなくても状況を伝えられるため、取込み中であったとしても返事をすることが出来る。
更に、ラヴニカ中には無線機の中継局が幾つも点在しており、小型の無線機だとしてもその電波は電話のように遠方に届けることが出来る。
街中限定の話ではあるが、ラヴニカの複雑な街並みの地上、そして地下さえも網羅するこの電波網は他の街が真似できない程の精度を誇っていた。

つまり、電波の受信状態の悪さによって相手に届かないということはまず有り得ないのである。

( 0"ゞ0)「キサラギギルド、ってのが引っかかるな。
      何人か迎えを…… いや待て、迎えの人間に連絡を取ってみろ」

( "ゞ)「あっ、そうか」

326名無しさん:2019/12/15(日) 07:39:49 ID:MDeLAg0E0
仮に会議が白熱しているために返答できない可能性も、ゼロではない。
送迎と護衛を兼ねた人間にも無線機は持たせているため、デルタはすぐに周波数を合わせてノイズを送った。
所定の動作を数度繰り返したが、全く返答はなかった。
異常は会議の現場だけでなく、その周囲でも起きている。

突如として自覚した自分の迂闊さに、デルタは背筋が凍る思いだった。
キサラギギルドの人間が何かをしでかすことは予想されていたが、それはまだ先の話であると楽観視していた。
ギルドマスターの性格から考えて、今日の騒動によって組織内は大きく混乱し、首が回らなくなるはずだと、そう考えていた。
ましてや、絶対不可侵の会議の場で何かを起こすだけの力も胆力もあるはずがない。

だが、万が一。
万が一というものが、世の中にはあってしまうのだ。
失うものさえも失った人間が銃を手にすることは、不思議な話ではない。
その瞬間が今夜訪れてしまったのだとしたら、これは昼間の争いなどまるで気にならないレベルの大問題になる。

ゲートウォッチがその仕事を果たすべき瞬間が最悪のタイミングで最悪の場所で起きたと考え、やるべきことを実行に移す。
焦りは今、鋼鉄の意思の下に押し隠され、体と頭が機械的な反応を始めた。

( "ゞ)「すみませんが、この話は」

( 0"ゞ0)「分かってるよ。
      道具はいるか?」

( "ゞ)「いえ、こちらで対処します」

一礼して、すぐに建物の外に出た。
待機していた運転手に指で合図を出し、彼を乗せた車はすぐに目的地に向かって走り出した。
デルタは無線機の周波数を変更し、呼びかけた。
その呼びかけに応じたのは、少ししわがれた声の男だった。

男の名前はリロイ・F・ジェンキンス。
デルタに次ぐフォクシーギルドの重鎮であり、ゲートウォッチの大ベテランである。

(`・益・´)『状況は』

( "ゞ)「B7R――最高レベルの緊急事態・人質救出任務――が発生した。
    ホステージ・リベレイターで働いていた人間を含めたチームを編成して、十分以内に作戦を開始したい」

(`・益・´)『集合場所は?』

( "ゞ)「ACZに」

話はそこで終わり、無線機が切られた。
彼を乗せた車は事件が発生していると思わしき建物に最も近い集合場所に到着し、急ぎ足で建物の中に入る。
丸まる一棟をフォクシーギルドで借り上げた地下室を含む地上二階建ての建物。
指紋認証式の錠を開き、建物の中に入って準備を始めた。

建物の中には家具は一切なく、あるのは装備品を管理するためのコンテナだけ。
しかし、一見すれば屋内は打ちっぱなしのコンクリートの床と壁、そして天井があるだけに見えるだろう。
彼は迷うことなくその壁に手をかざした。

327名無しさん:2019/12/15(日) 07:40:09 ID:MDeLAg0E0
( "ゞ)「デルタ・バクスター。
    出棺しろ」

直後、コンクリートの壁面が静かに動き、そこから都市迷彩の施された大型のコンテナが姿を現した。
コンテナを開き、その中から更にアタッシェケースを取り出す。

( "ゞ)『ジェリクルキャッツはできるのさ』

紡がれた起動コードに従い、アタッシェケースが解錠される。
中には厚手の黒い布で作られた服が入っていた。
大規模な戦闘行動ではなく、迅速かつ隠密行動が求められる作戦時に効果を発揮する強化外骨格。
体を覆う特殊な繊維を電力で操作することで筋力補助、硬化、更には変色をも可能にした“キャッツ”は、その復元の難しさから市場にも出回っていない物だ。

まだ状況の確認が出来ていない間は作戦行動を起こさない方が良いのかもしれないが、状況が異常を物語っている以上、動かないで様子見をするのは愚策。
手遅れになる前に動く。
その考えは、ジュスティアとイルトリアの両者に共通した考え方として広まっており、デルタはその考えに賛同していた。
顔を除いた全身をキャッツで覆い、都市迷彩のパターンに柄を変更させる。

やがて、招集された人間達が続々と現れ、彼と同様にキャッツを身に纏った。
総勢十五名のゲートウォッチが揃ったのは、デルタの招集からわずかに七分後のことだった。
装備を整え終えたのは、それから二分後。
無論、集まっているのは彼と同じフォクシーギルドに所属する人間の中でも信頼のおける者たちだ。

黒いケブラーマスクで統一された集団を前に、デルタだけがマスクを被っていなかった。

( "ゞ)「ギルドパクトに対する重大な裏切り行為が予想される。
    会議の場に向かい、状況が確認され次第救出を行う。
    全て不確定情報をもとに行う作戦であるため、市民に目撃されないよう、迅速に行動する必要がある」

(<:::>|<:::>)「監視カメラへの侵入もダメでした。
      非常用の電源も落とされています」

それはリロイの声だった。
彼はデルタの次に到着し、状況を聞いてから僅か一分で建物の周囲にある監視カメラに接続を試みた。
映像も音声もない代わりに分かったのは、会議の場にはキサラギギルドによる罠が用意され、呼び出された人間達はそれにまんまとかかったということだった。

( "ゞ)「犯人は恐らくハスミ・トロスターニ・ミームだ。
    キサラギギルドが主犯で間違いないだろう。
    難しいようであれば射殺してもいいが、可能なら拘束して真意を聞き出す」

これはイルトリアの考え方だ。
人質救出作戦において最優先にするのは当然、人質の命。
犯人の命は最も優先度の低い物であり、手を焼くようならば直ぐに切除される対象だった。
そのため、彼らが使用する銃火器はコルトカービンライフルの銃身下にM26ショットガンを装着した特製の物。

殺傷のための装備であり、捕獲のための装備ではなかった。
作戦は速度が求められる。
人質が殺される前に相手を無力化しなければ、作戦は意味を失うどころか、街全体が大打撃を受けるきっかけになりかねない。
デルタが腕時計を見ると、全員がそれに倣って時計を見た。

328名無しさん:2019/12/15(日) 07:40:31 ID:MDeLAg0E0
青い蓄光塗料が示す時間は、夜の九時。
全員が無言で頷き、そして、建物から音もなく移動を開始した。
デルタも仮面を被り、先陣を切って目的の建物に向けて疾走する。
彼らの脚力はキャッツの効果によって高められ、更には着地の瞬間に繊維が変化することで跫音はほとんど聞こえていない。

聞こえるのは夜風の音と、街のざわめく伊吹だけ。
しなやかな動きで暗闇に乗じて駆け抜ける彼らを目視できるものは、よほど注意深く暗闇を見ていた者だけだろう。
街灯は彼らの持つ装置に反応し、接近すると同時に明かりを消し、影さえも目撃されないように配慮がされていた。

十五人のゲートウォッチは僅か三分足らずの内に目的地に到着し、ビルを見上げた。
そして、一人がその場で倒れた。
何かの予兆があったわけでも、不自然な反応があったわけでもない。
まるで糸が切れた操り人形のように、声も上げずに倒れたのである。

(<:::>|<:::>)「どうし――」

隣にいた男も言葉の途中で倒れ、その異常な展開に対応できたのは、僅かに二名だけ。
デルタ、そしてリロイである。
素早く防御の姿勢を取りつつ、両者の死角を補うようにして銃を構えた。

(<:::>|<:::>)「何だ、これは……」

思わず呟いたリロイもまた、次の瞬間には倒れていた。
彼は本能的なもので対応したに過ぎず、デルタのようにこの事態に対して確信めいた何かを持っていたわけではなかったのだ。
デルタは倒れた仲間たちに声をかける愚を犯さなかった。
声を発すれば息をすることになり、彼らと同じように倒れるのは目に見えているからである。

これはガスによる攻撃だと、デルタは看破していた。
音もなく、姿もなく、そして屈強な男たちが声を上げる間もなく倒れるということは、彼らの身体機能を停止させる何かがあったということ。
鼻に届いた僅かな異臭が、デルタの想像と一瞬で結びつき、唯一適切な対応を取ることが出来たのである。
その場に留まれば呼吸をするだけでデルタも彼らと同じ道を辿ることになるため、彼は前に進むことを選んだ。

仮にガスが使われたとして、それをどのように準備したのかを考える間もなく、建物の入り口の扉に手をかけた。

「それは駄目ですね」

声は背後から聞こえた。
聞いたことのないその男の声が、デルタの心臓を鷲掴みにし、無理矢理に振り向かせた。

( <●><●>)「こんばんは」

スーツ姿の男を見咎め、その場違いな服装と声にデルタの体は咄嗟に動くことが出来なかった。
敵意や悪意、あるいは殺意といったものが感じ取ることのできない物を目の前にした時、その男が敵ではないと思ってしまったのだ。
それは多くの人間を見てきたからこそ起きた現象であり、彼にとっては致命的な隙を作るきっかけとなった。
まるで握手をするかのような自然な手つきでデルタのライフルに手が伸ばされる。

発砲もやむなしと判断したデルタのその決断力は流石と言えたが、あまりにも遅すぎた。
銃爪を引いても弾が出ないのだ。

( <●><●>)「おや、残念」

329名無しさん:2019/12/15(日) 07:40:59 ID:MDeLAg0E0
陽気な男の声に、デルタは恐怖に似た感情を抱いた。
圧倒的なまでの力量の差。
そして相手の目的の不明瞭さ。
間違いなく敵であるのにも関わらず、すぐに殺さずに玩ぶ余裕。

デルタは一日たりとも自己鍛錬を欠かしたことはない。
その鍛錬の日々は彼の地震の源であり、どんな悪漢が相手でも臆さないための秘訣だった。
それが今、数秒のやり取りの間で崩れ落ちようとしている。
鋼の精神に、間違いなく亀裂が走っている。

だがそれでも、ここで彼が倒れればギルドの行く末に暗雲が立ち込めることになる。
男がマスクもしていないのに話をしていることに気づき、ガスが薄れているのだと推測。
コンマ数秒の思考の後、彼は格闘戦を挑んだ。
筋力補助による攻撃の速度、そして威力は生身の人間の比ではない。

溜めていた息を吐きだすのと同時に至近距離から放ったのは、ジュスティアでの訓練から一日も鍛錬を欠かしたことのない正拳突き。
胸骨を粉砕し、心臓の動きを停止させ得るその一撃は目視してからの回避は不可能な一撃だ。

( <●><●>)「いいパンチですね」

男はその拳を難なくいなすと、デルタの首を掴んだ。

( <●><●>)「でも、真っすぐすぎるのは良くないと教わらなかったのですかね」

ぞっとするような優しい声が、デルタの耳をくすぐった。
直後、万力に引き倒されるかのようにその場に引きずり倒され、仮面が正面から地面と激突した。

(<:::>|<:::>)「ぬぐっ?!」

そして、彼が思わず息を吸った瞬間、鼻孔に甘い香りが届いた。
ガスの警戒をしていたデルタは息を止めようとしたが、背中を踏みつけられ、反射的に呼吸をしてしまった。

( <●><●>)「ここで全員死んでもらわないと、色々と困るんですよ。
        近所迷惑にならないよう、この辺りで諦めてください」

なるほど確かに、理にかなった言葉である。
強化外骨格を使っている様には見えない男に、ここまでやられればその言葉を受け入れるのがいいのかもしれない。
しかし彼はゲートウォッチ。
この街を守る盾であり、鉾なのだ。

意識が若干朦朧としたが、恐らくガスの量が少なくなっていた為か、まだ動くことはできる。
強烈な眠気にも似た感覚が全身の筋肉から力を奪うが、彼が今身に纏っているのはその筋肉を補強するためのテクノロジーの塊。
僅かでも力を入れることが出来れば、後は機械が補ってくれるのだ。

(<:::>|<:::>)「……っめるなよ!!」

彼の背中を踏みつけていた足を掴み、一気に体をひねる。
人間の片足が生み出す力は非常に強力だが、全身を総動員させたデルタの一撃は耐えられるものではない。

( <●><●>)「っと、やりますね」

330名無しさん:2019/12/15(日) 07:41:52 ID:MDeLAg0E0
如何なるわけか、デルタの一撃を男は耐えきった。
何が起きたのか、彼が答えを知ったのは自らの体が想像した以上に動いていないことに気づいてからだ。
強化外骨格が途中で機能を停止している。
その理由は、バッテリーが破壊されているためだった。

僅かな黒煙がその証拠であり、男が使った手口は分からなかった。
全ては一瞬の合間に彼が見た視覚情報に過ぎない。
細かく考察するだけの時間は、与えられていなかった。

( <●><●>)「徒労と騒音は嫌いでしてね。
       なぁに、ちょっとの間死ぬだけですから何も怖くないですよ」

その言葉の通り、もう一度彼が嗅いだ匂いを最後に、その意識は眠るように暗闇へと落ちた。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
: : [只:只:只只:只:只:只只:|: : : ::|:::::::::: : : ::::::::__|__:::::::.:.:.:.: : : : . .
口||__||__||__||__||__||__||__||__|:|口: ::|:::::: : : : : ::::::|//|///|:::::::.:.:.:.: : : .
: : |二二二二二二二二二:|: : : ::|:::::: : : : : ::::::|//|///|:::::.:.:.: : : : . .
─|只只::,-、:| ̄ ̄| ̄只只|─‐┤::: : : : : : :::::| ̄| ̄ |::::.:.:.:.: : : : . .
: : ||__|__|_{,_,}:|__|_|__|_,x-x: :.:|::::: : : : : : :::::|//|__|.:.:.: : : : . . .
─|¨¨¨「{::::::「}¨¨¨¨¨¨¨¨¨{,--:}ー:|───‐‐ァ=ミ「⊆二r‐ー┐‐- _  x==ミ 
: : |: : : {ニЦニ}: : : : : : : :/{   ハ |::::::::::::::::::/i:i:i:i:い::::::::/`¨¨´',.:.:.:.:.: ̄{'"''7i:i}ー-
_|__}_:|:_{_______{_}  {_}_|_::::::::::::::::{i:i:i:i:ノノ::::::::|::::::::::::::|::::.:.:.:.:.: >-少ヘ.:.:.:.:.
二二二二二二二二二::r'‐‐‐ヘ二|::::::::/ ̄`'く´_ゝ_、__,ノ_..:.:.://`Y´ ゚。.:.:.:.:
ニi: : : : : i二二i: : : : : :.:「i≧≦i:: :|:::: /   、 \冂 ̄ ̄二二 ̄``{┴r─┘ }.:.:.:.:.
: |:|: : : : :.:|:|: :.:|:|: : : : : :.:|」:|:.:|」:|:: :|:::/   ..::}\_}┘  `¨¨¨¨´  `¨"''ー--'゙ 、、.:.:.
‐|」──‐|」─|」───‐|」─|」‐┘{  ....::ノ \_____________>。,.:
                  | ̄{`¨¨¨¨7冖┐ ̄| ̄ ̄| ̄| ̄ ̄ ̄ ̄| ̄ア< ̄ ̄ニ=‐
同日 同時刻
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

その時、トラギコ・マウンテンライトは暖房のよく効いた酒場でジョッキになみなみと注がれたビールを飲んでいた。
上司であるワカッテマス・ロンウルフと別れて捜査を始めてから、ようやく口にした最初の飲み物だった。
警察の力の及ばない街で聞き込みをすれば不審がられることを承知していたトラギコは、素直に情報屋を探して使うことにした。
そこで得た情報には金がかかったが、有益なものが得られた。

昼間に起きた喧嘩はオサム・ブッテロとショボン・パドローネが起こしたものであることまで突き止め、その行方もある程度の推測が出来ていた。
だが動くつもりはなかった。
ワカッテマスに報告をしたところ、今はまだ動く時ではないと、彼は珍しく圧迫的な口調でトラギコにそれを守るよう誓わせた。
思えばそのようにして上司の権限を使ってトラギコの行動を制限するのは、初めてのことだったようにも思える。

仕事に一区切りがついたところで、トラギコは軽い観光を楽しむことにし、肉の焼ける香ばしい香りを漂わせるこの店の暖簾をくぐったのである。
トラギコの選択は正解だった。
注文してから一分も経たずにビールが運ばれ、酒類の注文に合わせて料理が一品付いてくるのだが、それが大当たりだったのである。
ビールに合わせて同時に運ばれたのは、表面に焦げ目のついたベーコン三切れだった。

わずかに三切れではあるが、そのしっかりとした厚みと香ばしい香りには文句のつけようがない。
ベーコンを噛み締めるたびに口の中に広がる油の濃厚な味わいに、トラギコはジョッキから手を離せなかった。
一切れ、それだけでトラギコはジョッキの半分のビールを飲み干していた。

331名無しさん:2019/12/15(日) 07:42:35 ID:MDeLAg0E0
(=>д<)つ凵「くはあっ!!」

ベーコンもさることながら、このビールも絶妙な旨味を持っていた。
酒を料理の一品と考えて作られたであろう、苦みと炭酸の程よい塩梅。
それでいて食事を邪魔しない後味は、正に副菜のような立ち位置で料理を引き立てている。
出されたベーコンとビールを同時に平らげ、トラギコは一息ついてからすぐに次の酒を注文した。

「いい飲みっぷりですね」

その言葉は、隣の席にいた若い男からのものだった。
一目で上質なオーダーメイドと分かる黒いスーツに身を包み、赤いネクタイを締めた男はサケを飲んでいた。
背が高く、そして何より目を引くのが雪のように白い髪と血のように赤い瞳だ。
短く刈り込まれた白髪と鉄を削りだして作ったようなその彫りの深い顔は、力強さよりも神秘性を相手に印象付ける。

(=゚д゚)「肴が旨いと酒も美味いラギよ」

恐らく、トラギコよりも二回りは年下だろう。
苦労を知るいい顔をしており、身に付けているものは自分自身を程よく演出する道具として活用している。
時計にしても、タイピンにしてもそうだ。
成金趣味の下品な色ではなく、落ち着いた色合いの物を選んで着飾っており、この男が相当な身分の人間であることは言うまでもない。

だがラヴニカの人間でないのだろうと、トラギコは予想していた。
これほどの身分となると、ギルドマスターの可能性が非常に高いだけでなく、ギルドに所属しているはずなのだが、彼はその所属を示す物を何も身に付けていなかった。
トラギコ同様、外部からの人間なのだろう。

「なるほど、ぜひご教授いただきたい。
あまり酒には詳しくなくて」

(=゚д゚)「人に教えられるような人間じゃねぇラギよ、俺は」

「では、真似をさせていただいても?」

(=゚д゚)「親父なり母親のでも真似ればいいじゃねぇか」

「ははっ、実は父とはなかなか会えなくて……
酒を飲める歳になってからも会えていないんです、実は。
母は教育熱心でしたが、そういったことについてはまるで教えてもらえなくて」

(=゚д゚)「そりゃあ残念ラギね。
    だけどな、こんなおっさんと飲む酒は退屈ラギよ。
    特に、お前ぐらいの年齢だと友達と馬鹿みたいに騒いで飲む酒の方が楽しいラギよ」

酒の飲み方は人の成長度合いによって変化するものだ。
価値観の変化。
共にいる人間によって、いくらでも変わる。
トラギコが酒を飲み始めた頃と今の飲み方を比べても、間違いなく変化をしている。

誰かに習うのもいいだろうが、自分で見つけ出すことにこそトラギコは意味があると考えていた。
酒はタガを外し、自分と向き合ういいきっかけになる道具だ。
こうして酒を飲むのは、捜査や連日のストレスを少しでも和らげるためであり、自分自身への労いのためだ。

332名無しさん:2019/12/15(日) 07:43:01 ID:MDeLAg0E0
「気心の知れた友人というのがいなくて……
皆、対等には扱ってくれないんですよ」

(=゚д゚)「言っちゃあれだが、手前がそれに甘んじてるだけじゃねぇのか?
    友達ってのはな、利害関係でつながるもんじゃねぇ。
    そんなもん、気にしないような奴を探すんだな」

「同じ夢を語る人はいるんですが、やはり距離感があるように思えて」

(=゚д゚)「夢が語れるんなら上出来じゃねぇか。
    お前が距離作ってるんだろ、何だかんだ理由をつけてよ」

注文したレモンサワーが到着し、一緒に運ばれた鉄板にはチョリソーとホウレンソウ、そしてにんにくの炒め物が盛られていた。
オリーブオイルと唐辛子を使って炒めたのが一目で分かるが、チョリソーだけは別に調理したものを乗せたのだろう。
香りだけで酒が飲めるほど濃厚で、期待を裏切らない味を予感させる。
若者への話を中断させ、氷代わりに冷凍された輪切りのレモンがどっさりと入ったレモンサワーを一口飲んだ。

強烈な酸味が、体中を一気に駆け巡った。

(=゚д゚)「〜んんっ!!」

そしてすかさずチョリソーを一口かじる。
油の甘味を押しのけるようにして、辛みが訪れる。
見た目では分からなかったが、一度茹でてから鉄板で軽く焦げ目がつけられており、香ばしさと肉の食感を両立させていた。
この一手間が料理なのだ。

レモンサワーの鋭い酸味とチョリソーの辛みが口の中を蹂躙し、唾液腺が刺激された。
鼻を突き抜けるにんにくの香りが食欲を増進させ、トラギコは喉を鳴らしてレモンサワーを飲む。
視線が気になり、若者の方を見る。
口の中身を飲み込んでから、トラギコは言った。

(=゚д゚)「あんだよ。
    お前は自分で頼んだサケを飲めばいいラギ。
    いいか、この店は社交の場じゃねぇラギ。
    酒を飲む店ラギよ」

ホウレンソウにはしっかりとにんにくの香りが移っており、程よい塩気が優しく口に広がる。

「厚かましいお願いなのですが、私と酒友達になってはもらえませんか?」

(=゚д゚)「あ?」

「正直に話すと、私は自分の意志で何かをすることに慣れていないんです。
もしよければご教授いただけると」

身なりと話し方から大体の察しはついていたが、金持ちの一人息子のような育てられ方をしたのだろう。
実に哀れだ。
金と地位があっても人間としての力は得られず、意志を持ちながらも傀儡として動くしかできないのだ。
その内、取り巻きに持ち上げられるままに育ち、組織を腐らせるような人間になる。

333名無しさん:2019/12/15(日) 07:43:22 ID:MDeLAg0E0
気が付いた時には手の施しようがないまでに組織が腐敗するまでが典型例だが、この男はまだ救いが残されているのかもしれない。
少なくとも、自分の弱さを認めている内は改善の余地がある。
後はそれを受け入れ、行動するかどうかだ。

(=゚д゚)「嫌ラギ。 絶対に、嫌ラギ。
    俺はそういう柄じゃねぇラギ」

とはいえ、トラギコは人生相談を生業にする人間ではない。
無論、それを趣味にしていることもない。
自らの道は自らで切り開いてこその物であると考えている彼にとって、そのように迫られても対処できない。
ましてや相手は素性も名前も知らない赤の他人であり、手助けする義理はない。

「うーん、ではあなたの飲み方を真似しても?」

(=゚д゚)「それは自由ラギ。
    だけどな、俺を見ながら酒を飲むなよ。
    気色悪いラギ」

「ありがとうございます。
せめてお名前を教えてもらっても?」

本名を名乗ろうとは思えず、トラギコは適当に考えた偽名を口にした。

(=゚д゚)「ブラントって呼べばいいラギ」

「分かりました、ブラントさん」

334名無しさん:2019/12/15(日) 07:43:46 ID:MDeLAg0E0
(=゚д゚)「で、手前は?」

男は屈託のない作り笑顔を浮かべ、その名を口にした――





( ^ω^)「リーガルです。
     西川・リーガル・ホライゾン」





――それは、世界最大の企業、内藤財団社長の名前だった。






━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
            _、V\/{ィ7___
          _r-`        <__
         <   , ,  ,ィ ,   ,  <_,
         /  /|/ V ∨|∧∧イ  <
         イ N' --- 、     V r
          }_ ミ ィt戎、 ,   ---、}イ
         / V         t戎ミ ,
          V( ,    、 _,   /}
           {八   _     /ノ
          | 、   乂⌒ソ ヽ'
          |  \      イ
         「 ̄ ̄ \ー< -┴,
Ammo→Re!!のようです
Ammo for Rerail!!編 第八章 【fire up-着火-】 了
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

335名無しさん:2019/12/15(日) 07:44:14 ID:MDeLAg0E0
これにて今回の投下はお終いです
質問、指摘、感想などあれば幸いです

336名無しさん:2019/12/15(日) 12:58:12 ID:ONzAYf6I0
おつ
西川お前まともに喋れたんか!
とうとうトップが出てきたのか
トラギコがどう動くのか楽しみだ

337名無しさん:2019/12/15(日) 15:50:28 ID:bbOfjPOc0
乙です
ワカッテマスの考えが読めないな…敵味方がごっちゃごちゃになってきた

338名無しさん:2019/12/16(月) 00:34:06 ID:z8IMk1BA0
おつおつ。粛々と事を進めるのかと思いきや一転、突如としての自体の急変。思惑が見えないワカッテマスの行動に、予想外の社長の登場に、目が離せないですね。

続きが待ち遠しいです。

>>322 水からまいた種とはいえ
自らまいた種とはいえ、では?

>>329 この街を守る盾であり、鉾なのだ。
鉾じゃなくて、矛では?

339名無しさん:2019/12/16(月) 06:57:45 ID:CCMB4B660
>>338
おぎゃああ!!いつもありがとうございます!
水耕栽培始めちゃったよ……

鉾は一応金属的な硬さを含めてあえて使ってみたのですが、ちょっと分かりにくかったですかね

340名無しさん:2019/12/16(月) 18:56:09 ID:RRDJPyfg0
おつ
トラギコは顔見たことないんか
大企業のトップの顔ならメディアとかに取り上げられてそうだけどそんなことはないのかな?

341名無しさん:2019/12/17(火) 14:57:23 ID:8ARomvp60
おつです
起動コードのジェリクルキャッツでおお、と思ったよキャッツいいよね
まさかの西川も登場してきたし、これからどうなるのかわくわくしてるよ

342名無しさん:2019/12/17(火) 20:12:58 ID:wu/4Y1v60
>>340
この世界にあるメディアは基本的に
・ラジオ
・新聞
・雑誌
ぐらいで、テレビはお金持ちしか見れない上に番組はほとんどない状態です。
そしてメディアに率先して登場しているのは別の人物なので、名前ぐらいしか知られていません。
社長の顔が雑誌に顔写真が乗ったことは何度もありますが、トラギコが読まないような雑誌なので分からなかったわけなのでございます。

という設定でございます

343名無しさん:2019/12/18(水) 13:01:12 ID:cRI2nx9s0
乙乙
二人の殴り会うシーン最高に燃えたわ

>>329
その鍛錬の日々は彼の地震の源であり
自信の源じゃないかな

344名無しさん:2019/12/18(水) 17:38:32 ID:pVJncZ8Q0
>>343
グラグラの実の能力者が紛れ込んでしまいました、すみません……

345名無しさん:2019/12/20(金) 00:47:51 ID:eIqMDNxs0
>>318
館内→案内

346名無しさん:2019/12/20(金) 06:31:48 ID:eEAqIPLM0
>>345
/(^o^)\
ありがとうございますっ……!

347名無しさん:2020/01/25(土) 16:42:26 ID:bGEkp6e60
明日の夜VIPでお会いしましょう

348名無しさん:2020/01/25(土) 18:45:35 ID:hjSdhQcs0
全裸待機

349名無しさん:2020/01/26(日) 12:34:33 ID:78tP.Amk0
あけおめ
待ってます

350名無しさん:2020/01/27(月) 18:19:32 ID:gatB74V60
┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ラヴニカの歴史は、変化の歴史である。
街が生まれてから今日に至るまで、彼らは常に変化し続けている。
街も、人も。

/三三三| ̄≡≡ ̄|/二三   〉====Π/  ゙.ヘ_===_\_ |FF|ニ|i ̄ ̄i| /⌒\ /二三
/二二 /∧ ̄∧\ 「 ̄ ̄ ̄/「 ̄ ̄二二|j  ゙、_三__|  i|三三三三|i |二二! 三\
__,,.‐',. ‐'i| 田|「| | 田,. イ___/´|    |  il   |\ __] Πпr―.、=ニ二>、|| 田 |
ェェェ=‐´ 田|/二ニ,ハ_,.-_‐=_二l  |__|  '|___|   |l二ニ‐- 、 ,,_丶、` ‐ 、_,,...> ___
≡≡===> ,. - ‐''´‐ '' "´i i i i i i i| /             \ |l i l i l i`''ー-.、`、‐-、|皿皿|丶、_
ニ―-┐γ´  r''´i i| i| i_l⊥l,.-‐''´       ::'' i ''::     `''‐-.l l_i l| i| il|`ヽ、`゙ヽ、  .vi==
_,,... -┤ゝ、_゙丶i,''"´        \  .:'  :i:  ':.  /         `ヽl| il| i|ノ   )、 |! ロ
  r┐:|-‐''´/|_ `ー-ァ―ァ、 _   |圭圭圭圭圭|   _   ._,,...-‐''´  _,.イj:::丶| l^
」 .i__| :|_,,/n |  / / / ||       ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄      |ヽ  ._,,..-‐<´-‐||:::::::::ヽ!
    :| | / ヽ|/∧’/ / i||    /         \       |丶\ \ | | | 川 ノ::::::::::::::ヽ
-‐  /|| ̄〒 ̄〒 ̄〒 ̄〒 ̄〒 ̄〒 ̄〒 ̄〒 ̄〒 ̄〒 ̄〒 ̄〒 ̄〒 ̄〒 ̄〒 ̄||\
  /川||_⊥_⊥_⊥_⊥_⊥_⊥_⊥_⊥_⊥_⊥_⊥_⊥_⊥_⊥_⊥_||川
/川 /                                                  \
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻

August 21st PM08:22

ラヴニカの街に流れる空気は極めて冷たく、夜空を覆う空気は済みきっていた。
透き通った星空の下に広がる眠ることのないギルドの都は、人々の生活の明かりでもう一つの星空を作り出している。
聳え立つ歪なまでに成長した建物の足元は人口の光で明るく照らし出され、光の川があちらこちらに生まれている。
店の軒下で軽食を販売する店もあれば、寒空の下で酒を飲む場所を提供する店もあった。

夜も九時を過ぎれば、そこから先はより密度の高い飲食業や風俗業の時間になってくる。
トラギコ・マウンテンライトにとって、その時間はまさに濃厚な時間となることは間違いなかった。
彼は今、自称ではあるが世界最大の企業の社長である、西川・リーガル・ホライゾンと酒を酌み交わしていた。
内藤財団は先日新単位を発表した時もそうだが、基本的に世界に向けての情報発信や交渉の場には社長が赴くことはない。

副社長である西川・ツンディエレ・ホライゾンがそれらを行い、社長の存在はほとんど名前だけのものと化してる。
それが企業の方針なのかどうかはトラギコの興味の範疇ではないが、こうして目の前にいる男が口にした名前は、お飾りと言われている内藤財団の社長の名前だった。
そして、内藤財団はトラギコが追う秘密結社ティンバーランドの大きな後ろ盾であり、彼の見込みではその活動をしている直接的な団体だ。
即ち、リーガルはティンバーランドの最高責任者であると考えることも出来る。

ここで彼を拘束し、連れ帰れば組織の全貌を知ることが出来るかもしれない。
だがトラギコは己の狙いを相手に悟られないよう、そして、口にしないようにしていた。
相手がトラギコのことを知っていて名前を明かしたのか、それとも知らずに明かしたのかはまるで判断が出来ない。
これが罠である可能性も有るため、迂闊に反応してティンバーランドを知っていることが分かれば、ここで襲われる可能性も否定できない。

まずは相手が本物であるかどうかを確認するために、トラギコはティンバーランド以外の側面から話を引き出すことにした。

(=゚д゚)「ってことは、あんた内藤財団の社長ラギか?」

351名無しさん:2020/01/27(月) 18:19:56 ID:gatB74V60
( ^ω^)「ははっ、肩書はそうなっていますが、この場では気にしないでもらえると助かります」

(=゚д゚)「肩書は人を見る指標にはなるが、人間自身とは別ラギ。
    気にしねぇよ」

レモンサワーを飲み、チョリソーをかじる。
アルコールがトラギコの思考を鈍らせることはないが、酒を飲むことで場の空気を緩和させる効果はある。
万が一の場合は彼の懐にあるベレッタM8000が雄弁に語ってくれることだろう。
つまみと酒を交互に口に入れ、胃袋に収めていく。

( ^ω^)「ありがたい」

西川はそう言って、スルメを食べサケを一口飲んだ。

(=゚д゚)「何しにこの街に来たラギ?」

( ^ω^)「仕事でちょっと」

一旦はここまでだ。
これ以上踏み込んで聞き出すのは尋問じみて不自然であるため、今は出来ない。
彼の言う仕事が何を意味しているかは分からないが、それについては何かきっかけを見つけて聞き出せればいい。

(=゚д゚)「そりゃあご苦労なこった」

( ^ω^)「ブラントさんは?」

(=゚д゚)「休暇でな。
    仕事のし過ぎは不健康ラギ」

( ^ω^)「ははっ、耳の痛い話です。
     そういえば、レモンサワーとはどんなお酒なのですか?」

トラギコは最大限の警戒をしていたつもりだったが、この発言には思わず目を丸くした。
てっきり仕事の中身や、業種を聞かれるものだと思って備えていたが、酒の種類について聞かれるとは思わなかった。

(;=゚д゚)「あ? レモン味のサワーラギ」

レモンサワーという名前からの連想が出来ないのだろうか。

( ^ω^)「サワー、というものは一体?」

(;=゚д゚)「スピリッツとかで割った酒ラギ。
    飲んだことねぇのか」

( ^ω^)「機会がなくて…… 結局、付き合いで飲むのはいつもワインやサケでして。
     発泡性の物はビールとシャンパン、それとスパークリングワインだけです」

352名無しさん:2020/01/27(月) 18:21:25 ID:gatB74V60
この男は思った以上に哀れな育ちをしているのかもしれない。
社長の椅子が生まれた時から決められている人間は、育ち方まで決められているのだろう。
所作然り、友人作り然り。
トラギコには理解のできない世界に生きてきた男に対する哀れみは、すぐに頭から霧散した。

同情はこの年齢まで生きてきた相手に対して失礼であり、尚且つ、この年齢になってもまだ自分の育ちを客観視できないという救い難さにつながる。
人格形成に失敗したことを認識しなければならない立場であればなおのこと、自覚して改善しなければならないのだ。
警察の中にも親の敷いたレールを忠実に守り、出世の道を進もうとする人間がいる。
大抵は部下の信頼を得られず、地方に飛ばされることになるのだが。

(=゚д゚)「気になるんなら自分で頼んでみな」

これ見よがしにサワーを飲み干し、つまみを全て平らげた。
それはちょっとした意地悪心だったが、同時に、彼の人間性を見てみたいという純粋な気持ちもあった。
ここで激昂するようなら、この男はその程度の器ということだが、果たしてどう動くのか。

( ^ω^)「すみません、グレープフルーツサワーを一つ」

なるほど、とトラギコは内心で感心した。
若いながらに社長として働いているだけはあり、この程度では怒らないようだ。
運ばれてきたサワーを一口飲んで、リーガルは目を丸くして驚いた。

( ^ω^)「う、美味い!」

(=゚д゚)「気に入ったラギか?」

( ^ω^)「酸味と炭酸の刺激がいい、これは美味しいです!」

上品な味に慣れた人間にとって、それはジャンクフードや駄菓子に近い驚きの味だったのだろう。
子供の頃に抑圧されてきた人間が大人になって子供のような趣味に没頭するのは、ある種人間らしい反応だ。
彼にとってのサワーは、トラギコにとっての高級料理のような衝撃があったのかもしれない。
無知の幸せ、という言葉をトラギコは久しぶりに思い出した。

(=゚д゚)「あまり飲みすぎるとすぐに酔っぱらうラギよ」

お世辞かどうかは分からないが、本当に気に入ったのであれば嬉しい話だ。

( ^ω^)「しかし、これは美味しい!
     うん、シャンパンなんかよりもよっぽど美味い!」

何かのスイッチが入ったかのように、リーガルはすぐにグラスを空にした。
サワー系の酒に共通しているのはその飲みやすさだ。
甘い味、あるいは分かりやすい単調な味がアルコールの存在を希薄にしてしまう。
その結果、一種のソフトドリンクのようにして飲んでしまうのである。

ジュースのようにアルコールを摂取すれば、酒に対しての耐性があまりない人間はすぐに酔いが回ってしまうことだろう。
トラギコの危惧は、数十分後に現実のものになった。

(〃^ω^)「うはは、はは……」

353名無しさん:2020/01/27(月) 18:22:30 ID:gatB74V60
(;=゚д゚)「……」

一人で酒を飲み、笑い、何かを口にして一人で納得している。
典型的な酔っ払いだ。
この調子で行けば後一時間もすれば泥酔状態になり、後は嘔吐を繰り返す装置と化すだろう。
だが同時に、心や頭にあるタガが外れやすくもなる。

タイミングを見計らって話をすれば、何かしらの情報を引き出せるかもしれない。
トラギコも新たな酒を注文し、長い夜に備えることにした。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
     '           ☆       . ゚   。
  .  。    ゜    +   ゜      。     。 ゚  。    ゚
。   ' o ゜          ☆       ゜    +.  ;/  ゜'
  ゜     。  ゜   。  o   ゚    ゚'  ☆  .  '  。
   * .      ゜         。 ゜     +  。  ゜    ゚
  ゚        。  .  +     。   +      ゜   。     ゚
。      +       。     *  .    ゜ ゜ ゜ 。     。
   ゚   ,;/    。   .          +      。  .     '
  。   ゚   。.     +  。.  ' ゚ 。 *  . ゜   +  ゜
     。          ,;/   '   ゜ o     ゚   ゚  .
 。             *'' *       .゜     。゜ 。
'      ゜       。   ゚  ゚   ゜   + ゜ 。  '   ゜
        /   /  ,。 ・ :* :・゚'
同日 某時刻
  _   __   _    _   _ _ _ _  __
_|田|_|ロロ|_| ロロ|_|田|.|ロロ|_| ロロ|_|田|.|ロロ|_|田|.|ロロ|_| ロロ|_
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

フートクラフトとは比較対象にはならないが、それでも、ラヴニカの夜風は冬のそれだった。
夜空に向かって立ち上る湯気を見上げながら、デレシアとヒート・オロラ・レッドウィング、そしてブーンは白い息を吐いていた。
彼らはナヒリ銃火器店の隠し部屋ともいえる場所に駐留している立場ではあるが、その店が持つ設備はそこで生活するには十分すぎるほどに充実したものだった。
連日の徹夜が当たり前の職業であるため、その仕事に就く人間達は家に帰ることが出来ないことが珍しくない。

そのストレスを緩和させるための措置として、居心地のいい空間の提供がヌルポガギルド間で義務化されていた。
そしてこの時間は、店の店主であるソリン・マルコフの計らいによって彼女らだけが浴室を使えることになっていた。
店主の昔なじみの客であることが周知されると、従業員たちは不満一つ口にすることなくそれに従った。
ラヴニカにおいても、耳付きと呼ばれる人種は軽視される傾向にあり、ブーンの耳と尻尾を見せるのを避けるための手段だった。

湯船に浸かり、三人は鉄格子のはめられた窓から見上げる夜空を見て、再び溜息を吐く。

ζ(゚ー゚*ζ「ふぅ……」

三人は木製の浴槽に浸かり、デレシアとヒートは髪が湯船に入らないよう、頭上で束ねている。
ヒートは負傷している右肩を濡らさないために、上半身を湯に浸けないようにしていた。

ノパ⊿゚)「いい湯だな、ここの風呂は。
    湯が柔らかい」

354名無しさん:2020/01/27(月) 18:22:57 ID:gatB74V60
ζ(゚ー゚*ζ「地下からくみ上げた天然の温泉なの、ここのは。
      疲労回復と傷の回復に効果があるらしいわ」

ノパー゚)「そりゃ嬉しいね。
    晩飯も美味かったし、この街は色んなものがあって面白いな」

(∪*´ω`)「おー」

ブーンはヒートの傍で湯に浸かり、顔を僅かに赤らめている。
ステンレス製の水筒に入れた水を時折飲み、体の芯にある疲労感を回復させていた。
もともと体温の高いブーンは頻繁に湯から上がり、夜風と水で体を冷まして再び湯に浸かった。
その間も絶えずヒートの傍から離れようとはせず、気を遣い続けている姿は姉想いの弟そのものだ。

デレシアはそんな彼の成長を目の当たりにして、やはり自分の見込んだ通り、ブーンは知識だけでなく人間としても成長していることを再確認した。
彼が得た知識量は既に同年代のそれを凌駕し、過ごしてきた過酷な人生を考慮してもなお余りある人間性を身に付けている。
ただ、彼にはまだ学んでもらいたいことが山のようにある。
それはこれからの旅路で彼が気づき、学ぶことだろう。

ペニサス・ノースフェイスが彼に課した課題への答えも、その内見つけ出してくれるとデレシアは信じている。

ζ(゚ー゚*ζ「ラヴニカは絶えず変化しているから、そうでない場所にいた人にとってはそうね。
      でも、ここで生活をするのは思いのほか大変なのよ」

その言葉はヒートに対しての言葉であり、ブーンに対しての言葉でもあった。
ヒートはそれに気づいており、すぐに答えを出さず、傍らのブーンを見つめた。

(∪*´ω`)「お?」

ノパ⊿゚)「何でか分かるか、ブーン?」

(∪´ω`)「お…… いつも変わっているから、ですかお?」

ζ(゚ー゚*ζ「正解。 変化に適応できないと、この街での商売は成立しないの。
      商売が出来ないとお金が入らない。
      お金が入らないと生活が出来ない、ってことね」

彼がここまで考えられたのかは分からないが、それでも答えに辿り着けたのは見事だ。
重要なのはそこに至るまでの経過はどうあれ、答えに辿り着き、その後にその答えをどう解釈するかなのである。

(∪´ω`)「考えるのって、大変じゃないんですかお?」

ζ(゚ー゚*ζ「そうね、いつも新しい物ばかりというわけでもないの。
      昔のものを引っ張り出したり、以前の物に戻したり、色々試し続けていると言った方がいいかもしれないわね。
      試行錯誤、って言うの」

(∪´ω`)「しこーさくご」

ζ(゚ー゚*ζ「試してミスをしても、それでも試していくってことね」

ノパ⊿゚)「発明なんかはどうなるんだ?」

355名無しさん:2020/01/27(月) 18:24:10 ID:gatB74V60
ζ(゚ー゚*ζ「発明というよりも、発見ね。
      ダットの中にある色々なデータを復元して、それを現代の技術で再現することで新しい物が生まれていくことが多いわ。
      あれを解析できる人は少ないし、それを解析したとして再現できるのはもっと稀なの」

かつて栄華を極めた時代の知識を集約した装置があっても、それを読み解けなければただの鉄と貴金属の塊でしかない。
起動が出来たとして、その続きは手探りでの作業になる。
複雑な暗号化が為された装置を読み解くための手段は全てその都度変化し、同じ手段が通じることはない。
解読をする人間は歴代の解読術を参考に記録されているデータを抜き出していく。

そうして抜き出されたデータは知識として現代に蘇るが、そこに書かれている知識を正しく理解し、形にするのは職人の力が必要になる。
確かな知識と経験に基づいて行われる作業は、所属しているギルドの垣根を越えて行われることが多く、対立ではなく協力してその課題に取り組むことがほとんどだ。
利益のためというよりも、それは自分たちの力がどこまで通用するのかを知りたいという、純粋な挑戦意欲がそうさせるのであった。
こうして発明の再発見が行われ、現代に蘇るのである。

ラヴニカはその最前線であり、変化こそが日常と化しているのだ。
即ち、変化に大して柔軟に対応できない人間はこの街で生きていくことが出来ないのである。

ノパ⊿゚)「そいや、前に単位の話をしてただろ?
     内藤財団の発表についてこの街の人間はどう反応してるんだろうな」

ζ(゚ー゚*ζ「ソリンに訊いたけど、職人たちは結構怒っているみたいね。
       他の商人たちも元々使っていた単位だけに、内藤財団が発明をしたと言っていることは気に入らないみたいね。
       それもあって、この街は内藤財団が街に入り込むことを嫌っているそうよ」

それでも街の人間たちはそのことについて、世間に向けて何かを発表する気はないとの方針を固めていた。
確かに単位について、現在の社会ではメートル法ではない規格が主として使われており、メートル法を使っている街や人間は極めて稀だった。
ラヴニカが外部から発注を受けたり、輸出したりする商品についてメートル法をほとんど用いていないのはそういった背景があるためだ。
いわば、メートル法は一部の人間だけが使う特殊な単位でしかなく、世界では認知されていないという問題があった。

使う人間のいない言語が滅びるのと同じように、単位の規格も消え去るしかない。
ラヴニカの人間は二種類の単位を学び、基本的にはメートル法が街の中にある様々なものの基準として用いられている。
つまり世間からすれば、ラヴニカなどで使われている単位も内藤財団が生み出したものであると認識されたとしても、どちらもその起源をこれまでに主張していなかったため、真偽は分からないのだ。
内藤財団に言及したとしても、彼らが以前から発明していて、それが何かの拍子にラヴニカに伝わったのだと言えばそれまで。

内藤財団の前身となる組織は遥か昔から存在しており、異議を唱えても不毛なことを理解しているのかもしれない。
商業的には正しいことだが、職人気質のラヴニカの人間たちからすれば、これは好ましいことではなかった。
街全体とまではいかないまでも、ほとんどの人間は好意的な印象を抱いていない。
そんな中に介入をしようとする彼らの意図を、デレシアは街の様子を見ながら考えていた。

介入できる可能性が極めて低い中で、キサラギギルドという弱小ギルドを焚きつける意図。
デレシアの予測では、今夜にでも何かをするだろう。
あれだけの問題が起こって、今更静観させる必要はない。
捨て駒として、何かしらの行動を起こさせ、ラヴニカに傷跡を残すつもりなのかもしれない。

残した傷跡に種を植え付ける算段を立てているのだとしたら、その傷のつけ方が問題だ。
だがここでデレシアが手を出すつもりはなかった。
今はレオンの修理が最優先であり、ギルドのバランスよりも気を付けなければならないことが多いのだ。
その一つにヒートの負傷があり、彼女が使用しているバイク――ディ――の改造も含まれていた。

356名無しさん:2020/01/27(月) 18:25:14 ID:gatB74V60
ζ(゚ー゚*ζ「そうそう、ディを少しバイク屋に預けたのよ」

(∪´ω`)「ディ、何かあったんですかお?」

ディの名付け親であるブーンは、デレシアの言葉に不安そうに質問をした。

ζ(゚ー゚*ζ「塗装とタイヤね。
       ここから先、結構荒れた道を走るから傷と汚れが付きにくいようにコーティングしてもらったの。
       あと、タイヤにもちょっと加工してもらったから雪道でも問題なく走れるわ」

元々の塗装も十分な性能を持っていたが、今回はその上に重ねるようにして車体全体にコーティングを施した。
透明のコーティング剤であるため、本来の蒼いカウルの色は失われることはない。
未舗装の道もそうだが、水に長時間さらされても問題のないようにしておけば、これからの旅路でディが足を引っ張ることはない。

ノパ⊿゚)「この街を出ていく方法を考えたのか?」

聡いヒートは、デレシアがこの街を出ていく手段としてディを使うことに気づいたようだ。
街から外に出るための道はキサラギギルドが管理しているため、すぐに出ていくことはできない。
更に、ティンバーランドの関連した組織となると、デレシアたちに対しての妨害行動などが予想される。
正攻法では街を出る際に生じるリスクを管理できない。

一度外れてしまったレールをどう元に戻すのか、それが重要だ。

ζ(゚ー゚*ζ「プランをいくつか考えてあるから、心配しなくて平気よ」

レオンの修理に必要な道具は揃ったようだが、ソリンの師匠も克服できなかった問題がまだ残されているとのことだった。
それは完全な失われた技術であり、その結晶だった。
左腕に施す技術についての答えを模索するため、ソリンは他に手掛けていた仕事を素早く片付け、こちらのことに専念しようとしてくれている。
久しぶりに彼の前に現れた大きな壁を前に燃えているとのことだった。

彼の努力に水を差すつもりはないため、デレシアは彼が答えに辿り着くことを期待しつつ、彼がイーディン・S・ジョーンズに接触したことを思い出した。
ショボン、クックル、そしてジョーンズ。
こうしてこの街に彼らが来ているのは偶然ではないだろう。
仮にもショボンはジュスティアからの脱走者であり、その彼が共に行動をしているということは、残りの二人が手を貸したということだ。

あれだけの厳重な警備を突破してショボンを奪還した以上は、彼らはその数を補って余りある戦闘力を持っているはずだ。
円卓十二騎士が導入され、それでも完全に止められなかった
デレシアは円卓十二騎士の実力を評価しており、その彼らが防げなかった相手に対しては無策の状態で怪我人と子供がいる中で関わろうとは思わない。
ヒートが万全の状態になるまではまだ時間がかかり、更にはそこを狙ってくる可能性がある。

ハチの巣には迂闊に手出しをしない。
燃やし尽くす算段が整ってから手を出せばいい。
そのためには巣の規模を知ってからの方が、効率がいい。
今回のティンバーランドは彼女がこれまでに潰してきたものとは、動きがかなり違う。

学習をしている動きなのだ。
確かに、根こそぎ潰すことは彼らの根底にある物が思想である以上、不可能なことは分かっている。
そのような気が起きないようにするために、潰すときは念入りに行ったが、まだ不完全だったということだろう。
これまでの動きの反省点をいくつか理解し、確実に反映させているのは生き残りが脈々とつないできた成果に違いない。

357名無しさん:2020/01/27(月) 18:26:05 ID:gatB74V60
内藤財団がその巣窟と化していることに気が付いたのも、彼らの動きが活発化してからのことだ。
それまで一瞬たりともデレシアに知られることなく、それを育んできた忍耐強さと用意周到な姿勢は警戒に値する。
長い間隠してきたことが表に出てきても、何ら臆することなく彼らは活動を続けている。
知られても止められない段階にきている自信があるのだ。

その自信の源は、間違いなく、他者を圧倒する力の保有によるものだ。
棺桶を潤沢に使用していることからも分かる通り、彼らには兵器がある。
ニューソクの保有が彼らの目的の一つである以上、それを運用するための兵器を保有しているのは確実だ。
現代において最も強力なエネルギーであるニューソクを用いる兵器はいずれも強力なもので、それをミサイルの弾頭に搭載するだけでも街一つを消すことは容易い。

それならば、やはり今はこの街にかかわる騒動には手を出さないのが賢明というものだ。
介入をしない理由はもう一つある。
ラヴニカの歴史は侵略との戦いの歴史でもある。
変化をもたらす侵略に抗い続け、淘汰の末に今がある。

この街はデレシアが何かをしなくても、自ずとあるべき形に落ち着くのだ。

(∪´ω`)「明日は何をするんですかお?」

街がこれからどうなるのか、さほど興味を持っていないブーンがそんな質問をした。
彼が見ているのは明日のこと。
今日でも昨日でもなく、明日なのだ。

ζ(゚ー゚*ζ「うーん、観光かしらね。
      何か興味のあることはあるかしら?」

(∪´ω`)「街をもう少し見てみたいですお」

ζ(゚ー゚*ζ「今日はどの辺りを見たのかしら?」

(∪´ω`)「えっと……」

ヒートが助け舟を出す。

ノパ⊿゚)「ひとまず川に近い目抜き通りをまっすぐだったな。
    その後ぶらぶらと歩いて武器屋を探して、って感じだったからそこまで細かい道は選んでないはずだ」

ζ(゚ー゚*ζ「プレーン通りかしらね、そうすると。
      じゃあ明日は、ちょっと職人の多い場所に行ってみましょうか」

ノパ⊿゚)「職人って固まってるもんなのか?」

ζ(゚ー゚*ζ「そうすることで利便性を得られる職人は固まっているのよ。
      銃器の販売店よりも前になると、その組み立てと製造になるでしょ?
      鉄の加工や弾丸の製造なんか、離れていたらそれだけ無駄が多くなるから近場で済ませるようになったのよ。
      ドワーフ通りっていう場所が主に鉄を扱う職人の集まる場所ね」

ラヴニカの職人は、大きく分けて五つの領域に分けることが出来る。
そのため、街の全貌を表す地図を見る際はその領域を把握していることが何よりも重要になってくる。
職人の街である以上、無駄は省かれ続けているのだ。

358名無しさん:2020/01/27(月) 18:27:05 ID:gatB74V60
(∪´ω`)「あの……」

ζ(゚ー゚*ζ「あら、何?」

(∪´ω`)「明日の朝ごはん、何ですかお?」

このナヒリ銃火器店に滞在している間、食事の問題は特にないが、メニューを考えるのはこちらの役割だ。
調理器具も設備もあるが、食材の確保が必要になる。
現段階で、彼女たちは食材を何一つとして買いためていなかった。
それには理由があった。

ζ(゚ー゚*ζ「何が食べたい?」

育ち盛りのブーンが何を食べたいか。
そして、それに合わせて彼に何が必要になるのかという栄養バランスを考えなければならない。
この場所での滞在期間も変動的であるため、買い置くよりも食べに行った方が速いのだ。

(∪´ω`)「お……ぼく、あまり知ってる食べ物なくて……」

ζ(゚ー゚*ζ「なら、ベジタブルサンドにしましょうか。
      生ハムが入っているけど、後は新鮮な野菜を使ったサンドイッチよ。
      凄い有名、ってわけではないけど美味しいのは保証するわ」

ノパ⊿゚)「そりゃあいい、美味そうだ」

ピクルスなどの野菜は勿論、この寒冷地でも育てられるように品種改良が施された野菜を用いたサンドイッチは絶品とまではいかないが、あっさりとしていて食べやすいのだ。
基本の味付けはレモンとビネガーを使ったドレッシングで、そのあっさりとした味付けは例え二日酔いの後でもすんなりと胃袋に収まっていくほどだ。
食事的な意味での名産品がほとんどないラヴニカだが、ある意味で、そう言った調味料を生み出すことに関しては名産と言ってもいいかもしれない。
特に、フィッシュアンドチップスの味をいかに美味なものにしようと努力と工夫を積み重ねてきた歴史は確かなものである。

ζ(゚ー゚*ζ「そうだ。 せっかくだから、ブーンちゃんの銃を探すついでに、これからの旅に必要な備品を揃えましょうか。
      パニアがあるから、調理器具とかテントとか、そう言ったものを調達しましょう」

ここから先、街に寄ることが増えるのは間違いないが、そこに長居できるとは限らない。
特に、この地方は雨風をしのぐことのできる設備がないと野宿は死に至る。
雪があれば緊急避難用のシェルターを作ることが出来るが、それは豪雪地帯でなければ成立しない。
山の中には凍る程の寒い風が吹く中でも、雪がない、もしくは雪が岩のように固くなっている場合がある。

ノパ⊿゚)「まぁ服も地域に合わせてあるからな。
    ってぇと、キャンプっぽくなるのか」

心なしか、ヒートの声が嬉しそうに聞こえる。

ζ(゚ー゚*ζ「キャンプは好き?」

ノパー゚)「あぁ、昔は結構やったもんさ。
    といっても、子供のキャンプだけどな。
    この歳になってからは、そこまで本格的なもんはないな」

(∪´ω`)「キャンプ……?」

359名無しさん:2020/01/27(月) 18:28:12 ID:gatB74V60
ζ(゚ー゚*ζ「早い話が建物じゃなくて、外にあるテントの中で寝泊まりして、食事をするの。
      何かの制約も、何かの干渉も受けないで済むから気分転換には最適ね」

ただし、ブーンは出自が出自であるため、屋外での生活体験は多いだろう。
彼の場合は放り出され、自ら生き残る為にあらゆる手段を選んだことだろう。
それはキャンプやアウトドアなどというものではなく、生きるための行動だ。
彼にとっては嫌な思い出に直結するかもしれないが、デレシアはここで彼には克服してもらいたいと考えていた。

ζ(゚、゚*ζ「外で寝泊まりするのは好きじゃないかしら?」

(∪´ω`)「いえ……あの……」

ブーンは少し考え、口を開いた。

(∪´ω`)「よく分からなくて……だから、やってみたいですお」

ζ(゚ー゚*ζ「それは良かった。
      大丈夫、色々と教えてあげるわ」

いつか彼が独り立ちをした時、サバイバル技術は必ず役に立つ。
この世界のバランスが崩れ、今とはまるで異なる姿になる日はいつ訪れてもおかしくないのだ。
特に、ティンバーランドが動いている以上は、それを望む人間がおり、それを強行しようとする。
第三次世界大戦が世界の何もかもを白紙に戻したように、この文明が失われ、己の力だけで生きていこうとするのならば間違いなく技術・知識が必要になる。

火や水の確保など、彼には覚えてもらいたいことが山のようにある。

ノパー゚)「あたしも教えてもらうよ。
    一緒に勉強しような、ブーン」

(∪´ω`)゛「はいですお」

ζ(゚ー゚*ζ「うふふ」

デレシアは夜空を見上げた。
この街がどうなるのか、お手並み拝見と行きたいところだ。
街の均衡を崩そうとする者に対して、果たしてどのような反応が現れるのか、その答えは今夜にでも分かるだろう。
彼女の予想した展開になるかは、翌朝になれば分かることだ。

――だが、その予想は思いもしない形で裏切られることになった。

360名無しさん:2020/01/27(月) 18:28:45 ID:gatB74V60
┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

Ammo→Re!!のようです
Ammo for Rerail!!編
第九章 【break down-破壊-】
                     /´ ̄ ̄ ̄  ̄ ヽ
                    /           \
                       /:::::             \
 _______ +      /:::::::::                 ヽ
 |i:¨ ̄ ,、    ̄¨.: i       |:::::::::::                    |
 |i: /ヘ:\     :i|     _ |::.:. : :     ,,ノ:..:ヾ、       |
 .|i:〈`_、/´_`>.、  :i| ,.r:;'三ヽ:: :: . ー'"´   ,,、  ー‐‐,,     /`、
  |ii~~'、;'´`,'~,;~~~~:i|;イ:;:":::::::::::\;;。(ー一)   (ー一)。;:;:. /::::: ヽ
  |i`::;:':::::;::;:'::::::::::;.:i|`。⌒/7, -──〜 、(___人___,)"⌒;;::/::|:::::〆::\
  |i::::::;:':::::::::::::::::::::::i| ::::://,::::..    " ニニヽ、⌒ij~";_ ィ /:::::::|:::::〃::: : ヽ
─|`ー=====一 | ::::::|_|;;、:::.__y-ニニ'ー-ァ ゚‐─'───┴────── ‐
::::::`ー―――‐一´ ̄~   ̄       ̄    同日 某時刻
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻

(〃^ω^)「うえへへ……」

既に十杯目のサワーを飲むリーガルの呂律は回っておらず、完全に泥酔していた。
トラギコは独り言をぶつぶつと口にするリーガルを無視して、店に流れる音楽に耳を傾けていた。
どこかのロックバンドの曲だ。
ボーカルが社会への不満を込めた歌を歌い、ギターが慟哭のように音を鳴らし、ドラムが雷鳴じみた衝撃を奏でる。

控えめな音量で流れる曲を聞きながら、トラギコはこの状況をどう利用するかを考えていた。

(〃^ω^)「だから僕は、言ってやったんですよぉ……ひっく」

(=゚д゚)「ああ、そりゃすげえラギね」

適当な相槌を返す。
先ほどからリーガルが口にしているのは、会社での愚痴だ。
若くしてトップの椅子に座る気苦労というのがあるのだろうが、その重圧によるストレスを吐き出す場を彼はほとんど持っていなかったようだ。
次から次へと愚痴があふれ出し、トラギコはその内容を聞き返すことを諦めていた。

何かのきっかけでティンバーランドについての話が出ればいいが、こちらからそれを聞くのは危険な行為である。
街の中にいる細胞に襲われでもしたらこのチャンスを失うことになってしまう。

(〃^ω^)「ブラントさぁん、いいですか、夢っていうのはれすねぇ」

話題はどうやら愚痴から夢の話になったようだ。

(〃^ω^)「叶えなきゃ意味らんてらいんれすよ」

361名無しさん:2020/01/27(月) 18:29:42 ID:gatB74V60
果たしてそうだろうか。
夢を叶えるのは実に素晴らしいことだが、それを全ての人間が叶えられるわけではない。
夢を見て、例え叶わなくてもその夢に向かって進み続けることは意味があるのではないだろうか。
気が付けば、トラギコは口を出していた。

(=゚д゚)「意味はあるラギ」

すると、酒を飲んで言葉を吐き出すだけの装置と化していたリーガルが反応を示した。

(〃^ω^)「どうしてれすか?
     らって、夢っていうのが人の目指すものれすよれぇ?
     それが実現しらかったら、それまれのろりょくがぱー!になっちゃうんれす」

(=゚д゚)「お前の理屈で言えば、夢を叶えない奴の努力は無意味ってことだろ?
    結果だけを見るのも結構だが、その過程で得られる物を無視するのは感心しないラギね」

(〃^ω^)「……ブラントさんの夢ってなんれすか?」

(=゚д゚)「さぁな、何だったか忘れちまったラギ」
  _,
(〃^ω^)「えぇー」

(=゚д゚)「夢なんていうのはな、変わっていくものなんだよ。
    そんなものに依存するようじゃ、この先大変ラギよ。
    そういや、飲みすぎていいのか?
    明日二日酔いになって取引がパーになっても知らねぇぞ」

(〃^ω^)「あぁ、大丈夫れすよ!
      今頃土台がれきているころれすから」

(=゚д゚)「土台?」

(〃^ω^)「こーしょーっていうのは、積み重ねの答え合わせなんれすよ。
     うへへ、らから、こーしょーのろらいをつくっれおけば……」

そしてそのまま、リーガルは突っ伏すようにカウンターの上で眠り始めた。
起こすことはしない。
それよりも、彼が言った土台作りの意味が気になる。
交渉を進めるにあたっての土台作りと言えば、外堀を埋めることを意味するが、この街において内藤財団は招かれざる客。

外堀を埋める余地はないと言っていいだろう。
だがそれを埋める方法が一つだけある。
対立するものを屠るのだ。
そうすれば交渉は一変してスムーズに進む。

これまでのやり方から考えても、ラヴニカでそういった行動を起こすことは容易に想像できる。
つまり、ギルドマスター達に何か危害を加える可能性があった。

(=゚д゚)「なぁ、おっちゃん」

362名無しさん:2020/01/27(月) 18:30:12 ID:gatB74V60
「何だい」

(=゚д゚)「ギルドマスターは今、どっかに集まってるとか知ってるラギか?」

「さぁね。 連絡はギルドマスターにしかいかないから、偉い人たちじゃないと知らないよ。
何かあったのか?」

(=゚д゚)「社会見学をしたくなってね」

リーガルの言葉の裏を読めば、どこか一か所にギルドマスター達が集まっていると考えるのが自然だ。
分散している場合、それを襲う過程で街全体に内藤財団の関与が知れ渡ってしまう。
やるならば秘密裏の会合を襲うのが理にかなっている。
泥酔したリーガルからこれ以上情報が引き出せないと判断したトラギコは二人分の代金を机の上に置き、店を後にした。

冷たい夜風の中、トラギコは人気のない路地裏を選んで歩いた。
こうしていれば素行不良の人間がトラギコを襲いやすくなる。
そうすれば逆に彼らを制圧し、ギルドマスター達の会合について知っている情報を引き出せるかもしれない。
そう思っていたのだが、トラギコが歩き始めて五分後に目の前に現れたのは、予想外の人物だった。

( ゙゚_ゞ゚)「あ」

(=゚д゚)「あ」

オサム・ブッテロ。
トラギコがデレシアを追うきっかけになった事件における、唯一の生き証人。
彼女と戦闘し、生き残ったと思われるただ一人の人間だ。
偶然出会った二人が取った行動は全く同じで、双方が銃腔を向け合ったのは僅かな狂いもなく同時だった。

(=゚д゚)「具合は良いラギか?」

その動きから、オサムの記憶が元に戻っている可能性は十分にあった。
酒場や街中で噂になっている暴行事件の犯人の一人は、間違いなくこの男だ。
この男があの状態のまま暴行が出来るとは思えず、その噂を聞いた時からオサムの記憶が戻っていることに確信を持っていた。
そして今、この瞬間にその確信が正しかったことが証明された。

この男は記憶を取り戻し、独自の目的のために動いている。

( ゙゚_ゞ゚)「まぁな。
     ところで、何で俺に銃を向けるんだ?」

(=゚д゚)「さぁね。
    俺も質問だが、どうして俺に銃を向けるラギ?」

撃とうと思えば二人は銃爪を引くことが出来る状況にあり、それを躊躇いなく出来る性格をしている。
だがそうしない。
二人は分かっているのだ。
銃爪を最初に引いた方が負ける、と。

363名無しさん:2020/01/27(月) 18:30:51 ID:gatB74V60
殺し屋と刑事。
互いに銃を向けられることには慣れており、それを向けることの意味、そして向けられることの意味をよく理解している。
銃爪を引こうと思ってから実際にそうするまでに生じる僅かな時間。
それこそが命取りになることも分かっており、この緊張感に押されて悪戯に銃爪を引くことは避けたかった。

そして二人は察していた。
相手が銃爪を引かないということは、こちらに用があるということ。
確信めいたその考えは伝播し、どちらともなくゆっくりと銃を降ろした。
だが警戒心は決して緩めず、常に相手の一挙手一投足を視界に収める。

( ゙゚_ゞ゚)「あんたには世話になったみたいだから、殺したくはない」

(=゚д゚)「優しさに涙が出るラギね。
    ……で、何してるラギ?」

( ゙゚_ゞ゚)「教える義理はない、って言いたい所だがいいだろう。
     探し物だ」

(=゚д゚)「探し人の間違いだろ?
    当ててやるよ、デレシアだろ、探してるのは」

その名を聞いた瞬間、オサムの目がトラギコを鋭く睨んだ。
それは極めてはっきりとした殺意を孕んだ目線で、これまでに何度も見てきたものだった。
並みの警官であればその目に臆し、銃を構え直していたかもしれない。

(=゚д゚)「落ち着けよ、別に手前の恋路を邪魔するつもりはねぇラギよ」

( ゙゚_ゞ゚)「なら、何が目的だ?
     こうして俺と話をするのが目的じゃないだろ」

トラギコにとって、今優先すべきはデレシアやこの男の逮捕ではなかった。

(=゚д゚)「まぁな。
    なぁ、デレシアを追ってる人間がお前以外にいるってことは知ってるラギか?」

( ゙゚_ゞ゚)「あぁ、知ってる。
    ムカつく禿げ頭が言ってたな」

その言葉で、オサムが対立したもう一人の人間の正体が分かった。
間違いなく、ショボン・パドローネだ。

(=゚д゚)「……そいつ、マッチョだっただろ」

( ゙゚_ゞ゚)「知り合いか?」

(=゚д゚)「そんなところラギ。
    なぁ、そいつだけど――」

364名無しさん:2020/01/27(月) 18:32:03 ID:gatB74V60
言葉の途中で、トラギコは跫音に気づき、振り返った。
街灯の下に、禿頭の男が立っていた。
その男はまるで鋼から削り出した彫像のような引き締まった体つきをしており、鋭く、それでいて硝子玉のように感情のない瞳をトラギコたちに向けていた。
そして男は、身の丈以上の長方形のコンテナを背負っていた。

それは疑う余地もない、軍用第三世代強化外骨格の運搬用コンテナ、しかも大型のCクラスのそれだった。

( ゚д゚ )「あぁ、ここにいたか」

低い声だった。
そして、その声だけでトラギコは全身の毛穴が開く思いがした。
この男は、普通ではない。
隙のないその立ち振る舞いから、軍人に近い存在であることは窺えるが、何よりもその目が普通ではない。

瞳に映る物は取るに足らない石の類であると認識し、それを蹴り飛ばし、踏みにじることのできる実力を持つからこそできる、高圧的な視線。
他の命を叩き潰し、目的を達成するためには子供であろうとも容赦しない鋼鉄の意志の表れ。
その目に似た人間をトラギコは何人か知っているが、いずれも生粋の、掛け値なしの外道だ。

(=゚д゚)「誰だ、手前」

( ゚д゚ )「……社長、いましたよ」

だが男はトラギコの言葉を完全に無視し、自らの後ろに声をかけた。
少しして現れたのは、リーガルだった。
酔ってはいるが、呂律は元に戻っていた。

( ^ω^)「あのまま置いていくなんて酷いなぁ、ブロントさん。
    もう一軒行きましょう、今度は私の奢りで」

経験が最大級の警報を発している。
冷や汗が額に浮かび、思考が高速で回転する。
この場は、非常に危険だ。
相手は内藤財団のトップであり、ティンバーランドの人間。

ならば、その彼を社長と仰ぐ男もティンバーランドの人間であり、背負う棺桶はトラギコとオサムを一瞬で屠ることのできる物。
誰かが次に口を開き、紡ぐ言葉がこれから先の展開を大きく変える。
間違えれば死。
紛うことなき死だ。

何よりも、リーガルがトラギコのことを知らなくても、もう一人の男が知っていれば、彼らに敵対している人間であることが分かるはずだ。
更に不安要素はトラギコの後ろで同じように立っているオサムも該当する。
この男はショボンに手を出している。
どちらかが該当するだけでも、一触即発の空気に変化することは間違いないだろう。

状況を変化させる第一声を発した人間は、トラギコ自身だった。

(=゚д゚)「一つ覚えておくといいラギ。
   そのもう一軒って考えが二日酔いにつながるラギよ」

365名無しさん:2020/01/27(月) 18:33:05 ID:gatB74V60
( ^ω^)「あはははっ!!
    二日酔いが怖くてお酒が飲めるかってんですよ」

(=゚д゚)「そのセリフ、二日酔いの時の自分に言い聞かせたことはあるラギか?
    いいか、酒っていうのは楽しく飲むのはいいが、それは一夜限りの夢と割り切ることラギ。
    いつまでもそのままが良いっていうのは、アル中って言うラギよ」

選んだのは、リーガルとの接触をここで断つことだった。
一分一秒でも一緒にいればどこかに問題が生じる。
そうなる前に安全な場所まで移動し、鳴りを潜めるのが正解だ。
しかしそれはトラギコの中の正解であり、もう一人の人間が導き出した正解とは異なっていた。

( ゙゚_ゞ゚)「奢ってくれるのか?」

話題の中に入っていない男が首を突っ込み、トラギコは今すぐ撃ち殺したいという気持ちをどうにか自制した。

( ^ω^)「えぇ、好きなだけ奢りますよ。
    ところであなたは?」

( ゙゚_ゞ゚)「こいつのマブダチだ」

今すぐ殴り倒したい気持ちを抑え、トラギコはオサムを睨んだ。
相手の戦力を把握した上での発言ならば、その意図がまるで分らない。
Cクラスの棺桶は生身の人間が無策で勝てるようなものではない。
コンテナ自体が強力な盾となり、装着する前に殺すということは無理だ。

殺し屋としての腕がどの程度の物か分からないが、戦力差を理解できない程の阿呆がこうして生き残っているのが不思議だ。

( ^ω^)「なるほど! なら私と同じですね!」

(;=゚д゚)「……」

どのようにすればこの状況を変えられるか、トラギコは思考していた。
一人は酔っ払い。
一人は脳みそに白子が詰まっている男。
そして控えている圧倒的戦力。

( ゙゚_ゞ゚)「あぁ、俺たちは同志ってわけだ」

( ^ω^)「嬉しいなぁ!! そう言ってもらえるなんて、今日はいい日だ!!」

果たして、リーガルともう一人の男は本当にこちらの正体に気づいていないのだろうか。
今は気づいていなくても、何かのきっかけで明らかになるかもしれない。
やはり、これ以上時間をここで使うのは得策ではない。
飲み屋で得た情報だけでも良しとして、今は退くべきだ。

深追いと長居が命取りとなる。

(=゚д゚)「俺は帰るラギ。
    後は好きにしてくれや」

366名無しさん:2020/01/27(月) 18:33:31 ID:gatB74V60
オサムをかばう義理も、その義務もない。
彼が相手に捕縛されたとしても、トラギコにとっての痛手はそこまでではない。
デレシアに通じる手がかりを失っても、目下の目的とは関係がないのだ。
彼女を逮捕するための証拠はこれからもまだ出てくるはず。

生贄を一人置いてこの場を立ち去れば、ひとまずの危機から逃れることが出来る。
“ブリッツ”でCクラスを相手にするには今は何もかもが不都合すぎた。

( ゚д゚ )「社長、あまり無理を言っては」

( ^ω^)「うるさいなぁ、ミルナ君はぁ!!」

(=゚д゚)「とにかく、俺は――」

――その後の言葉は、誰の耳にも届かなかった。

367名無しさん:2020/01/27(月) 18:34:34 ID:gatB74V60
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
.   _.. -''″     .__..__,、           -=ニ゙゙ニ--- -......,,,,,_、     .'`-┷lli..,, ,_
. ‐'″  _,,.. -ー''''^゙゙二ri'ニ.... ....、............. ...._,,,_            ゙゙゙゙̄''''lllll,,,,_
..,.. -''"゛          _,,,.. --ー''''."゙.´                       ̄''''―
    _,,,,,       ` ̄ ̄ ゙゙゙̄! ,,__      .,,,,..uuii、;;;;;;y ......,,,,_,i-............ ......,,,,
-''''゙彡'"゛    ._,,..yr‐ ._,,.. -ー''''''゙  ̄ |!i州i州i州i州i| :     ´`゙'''― ,,,_
...ノ'"  .,.. -''',゙..r''“゙゙“´         |!州i州i州i州i| i             `'''ー、、
  _..-'"゛ _..-                   |!i州i州i州i州i∨|                  `'ゝ
'"  .,..ッr'"                  |!州州州州州州i!                  ヽ
.., ''ソ゛                     i  |!州i州i州i州i州ii|
゛ l゙                  i! |!州州州州i州州i|
. !                      |∨州i州i州州州i州i!
  ヽ                  i|!州州i州州州州i州i|
.   `'-、、,.               |!州州州i州i州i州i州i|                _..-'´
      `''ー  ,,_          |!州州州i州i州l州l州i|.         _,,,.. -‐''"
              ´゙'''ー . ,_    |!州州州i州i州i州i州i|.  __ii;;;;;;ニ二......、
.,,_. : =i i ,,、              |!州州州州州州州州i|.          '''''''''''''''''''''''''''
.  `゙''''〜 .`''ー .. ,,,,____ .__     |!州州i州i州i州i州i州i|  三゙゙..........---;;;;='   ._,,
'''ー ...,,,_          ̄ ̄..  |!州州州州州州州i州i|     -―''''"´  . --l∋´
¬――ー`-′.          i! |!州州州州州州i州l州i|.       _,,.. -‐''"゛
`゙"'''―- ....,,,_     `゙`-`-. |i |!州州州州州州i州i州i| i.¬''"´    .__,,,,,,,_,,,,..
'―-- 、..,,,,_、 . ̄''-.. ,,_、... i|∨州州州州i州i州i州l州i∨|...ー¬''''゙゙゙ ̄´゛
        ̄ ゙゙゙゙゙゙゙゙゙̄ '''''゙゙. |l州州州州州州州州i州i州l|
                  |l州州州州州州州州l州l州il|  !
                  |l州州州州州州州i州i州|州l| i!
.           、          |l州州州州州州州州州州州∨|          /
         \         |l州州州州州州州i州i州|州i州i|
                     |l州i州i州i州i州i州州州州州州l|     /
              \ _ノ,'州i州i州_州..|!州州州州州州|     /
....   く>         ヾ<州州州州/Υ 〉 !|州i||_州..|]i州l州ー '´/
                    }l州州州 〈_::」/  :!:i:州〈/州i州l__州州l {      /
        \、    /,州i州l_州州州...:|.:|:州州州i_ノ::::\\州、ヽ. __/
.            \ー '州州..「::::://州州. :.:|:.:.v!:州州i \::::://州州ー州 (       /
.             ) )州州 〈::::://州州 : ::!:.: .:|: :州州州i ̄州州州i州州i州iー '/
   \ 、    // l7州州 ̄州i : :|: :: :!: :. :|: : :州州州州i l>州 il州l州l州iフ∠/
..    \ー 'i州i州i!州州州州州..゙: : :|!: : |..: . :l : く]: . i州州州州 !il州州州//
.        \\州州il 、〈〉州i . . : <>!|: :,' .:: .: | : : !: : !州州州州ノiリ州州// l7
.          ):.:\i|l八:.\_ 人 )、 : : ノ.:V.: : .::.: :!: :人 八,、 ノl|l|/ : ノ,、 /: (
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

夜を欺く程の閃光と爆音。
そして彼らを襲った衝撃波。
それは不運なことに、彼らのすぐ近くの雑居ビルが発生源だった。
爆風が止むまでの間、四人は腕で目を庇い、吹き飛ばされないようにその場に蹲っていた。

猛烈な吹き戻しが終わり、ようやく立ち上がって爆音の方を向くことが出来た。

(;=゚д゚)「な、何だ……」

自分でも呆れるような情けのない声が口から出たが、誰もそれを気にすることはなかった。

368名無しさん:2020/01/27(月) 18:35:36 ID:gatB74V60
(;^ω^)「な……」

(;゚д゚ )「馬鹿な……」

トラギコは爆発の原因はこの二人に関係していると思ったが、反応が違う。
犯罪者たちの対応は嘘や演技の対応にもつながるところがあり、トラギコはそれを見破る技術を持っていると自負している。
今、目の前の二人が浮かべている反応は間違いなく本物だ。
期待していたものとはまるで異なる結果が、全く予期していないタイミングで起きてしまった時のものだ。

彼らが演者として一流の才能と訓練を積み重ねずに今の演技が出来ているのであれば、彼らはその世界で天下を取れるだろう。
眩い黄金色に輝く劫火が夜を忘れさせる。

(;゙゚_ゞ゚)「何だ、ありゃあ……」

その場に居合わせた誰もが、突如として起きたその異常事態を理解できていなかった。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
                ,'::::::::::::::::: ..::::::::..     :::::\::::::::::>、,_::ム _ノ:'i,
               |::::::::::::::::::::::::::_、'"\     ::::::::::::::::::::::::::::::"~:::::::|
               |:::: ..:::::z'":::::\ム  ::\      :::::::::::::::::::::::::::::ノ:|
               キ .:: |    キ.|  ::::::\   ::::::........::::::::::::::::イ::/
               ,.∨  /::/≧z、ソ キ   ::::'<    ::::::::::::::://
               | 、∨':::/'"`~"'、ム '.,  /  ./"'z、__  _,.-'|'
               | 、〉'i::::   __ムヽ、) .〈_,、-'/__::::::::::|::/:::!.|
               ヘ::|ヘ::  '_,、-tr-、:::::: .i:::::::_,.tz--、,_  |.ノ:::..ノ
               .∧ヽ:| ´ ゝ-ー'"/   !  ゝー-ー ` /ノ/
                 \'、        .|:        .//
                  .∧        |::       ../、
                  ,!:::|::.      ..::::j::::     .::Y:)'i     同日 某時刻
                  |::|:::|、  、_     _、  .::/|:!'::|
               _,.、.-ト、\|\  ∨i ̄ ̄ ̄´r./'ヽ .:/::|/::∧-z、._
          _,.、-''"~::::::::::/ ∧ \ .\ ,\ー--ー/ ::/:::/::/:::ト、:::::::::≧z-、,_
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

爆発の起こる数分前、そのビルで異変が起きていた。
異変はまるで暴風のようにビル全体に広まり、そして、烈火のごとく状況を一変させた。
あまりにも突発的で、尚且つ容赦のない展開に巻き込まれた人間達は抗おうとしたが、その異変は不退転の厄災としてその抵抗を踏みにじった。
そして最後に残されたのは、ビルを最初に支配していた男だけだった。

生者よりも死者の方が多くなったそのビルには、硝煙と同じぐらいに血の匂いが濃厚に漂っていた。
唯一の生者はその香りを肺一杯に吸い込み、まるでワインの香りを堪能するようにそれを味わった。
それはキサラギギルドを統べる男であり、同時に、ビルに変革をもたらした男だった。
ハスミ・トロスターニ・ミームは生殺与奪の一切合切をその手にし、命を蹂躙した興奮で軽く射精をしていた。

彼は今、正気を失っていた。
許しがたい展開に発狂寸前だった精神は一瞬で蒸発し、理性は彼方へと消え、彼を支配するのは怒りの感情だけだった。
一刻も早くその怒りを開放することだけが彼の行動を決定し得る基準であり、目的だった。
その顔には、かつてのギルドマスターの威厳はどこにも見られず、狂人が作り出すおぞましい笑顔が貼り付いている。

369名無しさん:2020/01/27(月) 18:36:19 ID:gatB74V60
(^J^)「はっはっは!!
   不愉快だよ、本当に!!
   一人残らず全員ぶっ殺してやる!!」

思えば、彼の人生は常に苦難と葛藤の日々に彩られていた。
ラヴニカにおけるキサラギギルドの影響力と立場は常に中の上であり、それ以上に上がることが出来なかった。
観光地としてラヴニカを盛り上げようにも、実際に訪れる層はビジネスマンばかりであり、キサラギギルドに所属する者たちで利益を出せるのは宿泊施設関係がほとんどだ。
無意味な存在ではないが、大きな存在でもなかった。

彼はキサラギギルドに所属する両親のもとに生まれ、育ち、観光関係の仕事に就いた。
交通と観光、この二つが彼に許された武器だった。
武器の使い方を学ぶため、彼は両親の経営する旅行案内所に就職せず、他の店で多くを学ぶことにした。
最初は三年、そしてそこから一年ごとに店と業種を変え、知識と技術、人脈を作り上げることに成功した。

それでも彼は努力を惜しまなかった。
決してその姿を誰かに見せず、天才のように振舞うことで人の上に立つことのできる人格者としての姿を見せ続けた。
家業を継いでも、それが軌道に乗るまでには時間がかかった。
従業員たちから親の七光りだと揶揄されないよう、彼は圧倒的なまでの経営手腕を発揮した。

知らない者からすれば彼が天才に見えたことだろう。
だが実際は、天才を演じていただけであり、従業員の誰よりも長時間労働を行い、最も給与が低いように努めていた。
無論、それは彼の策略だった。
これまでに働いてきた場所で従業員たちのストレスの矛先は、大抵経営者に向けられていた。

事実、彼が今の場所で働き始めてから三か月で陰口をたたかれるようになった。
それが起きるのは想定内だった。
一部の人間が経営状況改善のため、彼らの賃金を上げることを提案してきた。
実入りが少ないのに賃金の向上という矛盾に頭を痛めたが、彼はそれを保留するように提案した。

すると、彼らは予想通りの反応を示した。
ハスミの給与や賞与を下げるべきである、と。
そこで満を持してハスミはこれまでの給与、そして労働時間を提示し、経営状況が芳しくないという資料を彼らに見せた。
その瞬間、彼の努力は実を結んだ。

それまで敵対心をあらわにしていた従業員たちは彼に従うようになり、批判の代わりにより建設的な意見を口にするようになった。
そこから長い月日を経て、彼はキサラギギルドのギルドマスターとして認められ、今の地位を得た。
そこがゴールだと思っていたが、実際はそうではないことに気づいたのはギルドマスターの座について間もなくのことだった。
街で最も大きな十のギルドが集まって行う会合の場で、彼が持つ発言力は小さなものだった。

全てはギルドパクトの機能が問題だった。
どこか一つのギルドが強い発言力を持たないように配慮されたギルドパクトは、彼のこれまでの努力が求める結果とは相反するものだった。
実力ではなく、全体の調和を主とした発想は彼が育つ中でいつしか失われていた感覚であり、同業他社よりも強い発言力を手にするためには忘れるべきことだった。
ギルドパクトさえなければ、彼はこの街の頂点に立つことも可能だと信じていた。

だが機会はそう簡単に舞い込んでくることはなく、時間だけが過ぎた。
そんな折、内藤財団の特使が彼の元を訪れ、声をかけてくれたのだ。
ラヴニカへの参入を後押しすれば、彼に相応の地位を約束すると。
小さなギルドたちを集め、ハスミは己の道を切り開くことを選んだ。

370名無しさん:2020/01/27(月) 18:37:29 ID:gatB74V60
彼は未来を獲得するために。
そして、自らの証明のために積み上げられたラヴニカの歴史に挑んだのだ。
内藤財団の使者から伝えられた作戦があと一歩のところで完了するはずだった。
そのはずだったが、全てが狂い始めていた。

今、彼は正気を失っていた。
手のひらにあった成功は消え去り、彼の激情だけがその手に残されている。
一度壊れた心は戻ることはない。
彼の中にあった理性が声を上げるが、それが届くことはない。

彼は今、殺戮と破壊だけを一心に願っている。
足元に転がるギルド代表者たちの死体では足りない。
内藤財団の指示など関係ない。
これは、彼が彼であるために必要な衝動なのだ。

誰かに指図されて決める未来ではなく、自分の手でつかむ未来にこそ価値がある。
奪われ続けてきた彼の矜持、そして失われ続けてきた希望は今、この手で変えるのだ。
内藤財団から最後の手段に、と言い渡されて受け取ったコンテナに手を伸ばす。
一目でCクラスの棺桶と分かるそれを背負い、ハスミは背を向けて必殺の呪詛を口にした。

(^J^)『光あれ!』

曰く、世界で最も輝かしい功績を残した棺桶。
強化外骨格史上最高のコストパフォーマンスを誇り、ソルダットやジョン・ドゥに引けを取らない程の殺傷数を記録した棺桶。
短い起動コード。
圧倒的火力を瞬間的な装着によって実現できると聞いた棺桶の威力を、今ここで発揮する。

その名は“ファーウェルソング”。
そして、眩い閃光がその空間全てを照らし出し、一切の影の存在をも許さない圧倒的な光が全てを覆った。
それは化学物質による極めて強力かつ急速な燃焼反応であり、生命を焼き殺すための邪悪な意思の表れ。
数千度に達する炎が壁を、床を、そして天井を一瞬で溶かし黄金色の輝きを放つ。

爆発は隣接する上下階を瞬く間に無菌の空間にし、空気を焼き尽くされたその他の階は自重によって呆気なく崩落した。
ハスミにとっての幸運は、彼が感じたのは苦痛ではなく解放。
あらゆる苦痛、憎しみ、悩みなどの負の感情からの解放が最後の感覚になったことだ。
それが幸せなどの感情さえも失う感覚だと感じる間もなく、彼は世界から姿を消した。

この日、十のギルドの代表者が集まる会議の場に現れた人間は、全員が蒸発した。
その中にはヌルポガギルドのギルドマスターも含まれていた。

371名無しさん:2020/01/27(月) 18:38:54 ID:gatB74V60
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
                                   -}ト         、 ト、   /T|::|:::::::|:::
                                    Y:ヒ、  ,、   || r┘.:|-┐|.;|:|::|:::::::|:::
工|工|工l工エエエl\                        `=|;:{二  |:| /\.||...::/〉:::::::,⊥;:|::rェェェェ
__|___|_,工工]エエ}ニTニ7〉ェェェュ                |;:厂 .r┴:/.::.:.└┐/.::: __|_rェェエlエ工
_|_|_;工工]エlエ|-[]─[[:ロ::ロ:{                  |:;|   |..::::':::: .r:、:...|:::::r┘..;;'エエ工[工[
__|_|_l工工;エエ|____]〕ニlニl               、.v,,!;:.v、ミ.:ゞ;yv;ゞ;ゞv;ゞ ,工/\>工工工
_|工|_;工工]エlエ|┴┬/>─‐>          、.v,,;..v、ミ.:ゞ;yv;ゞ;ゞv;ゞ.v;ゞゞ,上/ ./|エエ;工工
__|_|二l工工;エエ}┬//.::::/   、.v,,;..v、ミ.:ゞ;yv;ゞ;ゞv;ゞ,v,,v,vゞゞ;;ゞv;ゞゞ,.上ェΥエlエ[工:[工[
_|_|_,工工]エlエ}//.::::/v、::.;.;...       ;.w;ヾ.:゙;;ミ゙':ヾvv'w:,ゞ;;;ヾ.:;ゞ彡ゞ/.\\:|エエ{工[工工
__|二l_l工工;エエl/,,;;,/    ....-::.;.;::.::::-..... .. .... . ... ... .`"''、v,;.wVゞ;v;ゞ;';\::..:\{エlエ[工工工
_|_|_l;;工工;エエl-_L-|,,;..v、       ....::. ::: .:.;:へ.;.'.. ._... .'.. __ `.';;::.._/\二:トニH.{エエ[工l工工
、.v,,;..v、, 工工エエ|-l_ L|vゞ;ヾ.:゙;;ミ゙',,,ゞ、.v,,;..v、 ~~. .::/vへ\-/:/\へ . 、.v,,;.v<|ニHニ|エエ}工]工[ニ
August 22nd 某時刻
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

夜に起きた被害状況は、翌日の昼になってようやくまとめられることになった。
物的証拠はほとんど焼失し、ビルの瓦礫の中から発見された複数の空薬莢と焦げ付いた血痕から、状況の推測が行われた。
一夜にしてギルドマスターのほとんどが蒸発し、今、街で生き残っているのは会議に代理人を出席させたキュヒロギルドのギルドマスターだけとなっていた。
史上最大数の捜査員を導入し、キサラギギルドのギルドマスターによる暴挙が引き起こした大惨事であるとフォクシーギルドは結論付けた。

ギルドマスターが引き起こした惨事ではあるが、ギルドに向けられる怒りはゼロにすることは不可能だった。
ギルドに所属していた店は軒並み臨時休業状態にし、今後の身の振りを考えなければならなかった。
このような事態に備えて、全てのギルドはギルドマスターの後任候補を用意しており、キュヒロギルドを除く全てのギルドが代表者を変えざるを得なかった。
街全体の治安に影響が出た物の、店や職人たちの日常には大きな影響は出なかった。

あくまでもギルドの最高意思決定者が変わっただけであり、商売が不可能になることはないのだ。

ζ(゚、゚*ζ「……」

デレシアは街の状況をソリンから聞き、少しの間思案していた。
間違いなくティンバーランドが介入した事件だが、その手段があまりにも露骨で短絡的だった。
聡い者はキサラギギルドのギルドマスターが自爆した理由を察し、これまでよりも一層内藤財団に対しての警戒心を強めることだろう。

ノハ;゚⊿゚)「しっかし、ギルドマスターが自爆ってのはやることがすげぇな」

ζ(゚、゚*ζ「多分、これは予想の範囲外なんじゃないかしら?
      自分たちのやり方を暴露したようなものよ。
      爆発の規模からして、あれはファーウェルソングを使ったんでしょうね。
      あれは発掘がほとんどないし、再現は難しいから関係者もすぐにばれるし……」

ノパ⊿゚)「やり方っていうと、ギルドマスターを無理矢理世代交代させて、ってやり方か?
    真っ先に棺桶を供給した人間と引き継いだ人間の関係が疑われるだろうな……」

ζ(゚、゚*ζ「そうなのよ。
      自爆は最後の手段に取っておくのが定石なのに、最後の最後に台無しにしたから変なのよねぇ。
      もう少し慎重にやるもんだと思っていたんだけど、こうも一気にやられると別の可能性を考えないといけないのよ」

372名無しさん:2020/01/27(月) 18:39:57 ID:gatB74V60
それが問題だった。
デレシアの予想では分散されるはずのギルドマスターの実質的な支配は、たった一晩で動いてしまった。
遅かれ早かれ入れ替わるとしても、それは長期的な目線で行うべき作戦だが、そうならなかった。
別の目的を考えるが、これはかなり強引な、そして短絡的な手段――

ノパ⊿゚)「誰かが何かした、ってことか」

ζ(゚、゚*ζ「そう考えるのが自然だけど……
      だとしたら誰がやったのか、が気になるのよね」

ティンバーランド以外の勢力で自爆をさせるようなことをする人間となると、ジュスティアの人間達しか考えられない。
道中で会い、この街で列車を下りた三人のジュスティア人ならば誰がこの騒動を起こしたとしても不思議ではない。
記憶を取り戻したオサムも可能性の一つに入るが、それはあくまでもデレシアの知る範囲内での話だ。
全く別の組織の思惑が動いているとしても、この街ならば不自然さはない。

ギルドパクトを文字通り崩壊させたい人間は地下にも、そして地上にも多くいる。
キサラギギルドに煽動された弱小ギルドが徒党を組んで反旗を翻したのがその証拠だ。

(∪´ω`)「おー」

デレシアの傍で服を着終えたブーンが、心配そうに見上げている。

ζ(゚ー゚*ζ「そうね、ちょっと予定が変わったけど朝ごはんを食べに行きましょう」

考えたところで答えが出るわけでもなく、また、彼女たちの旅にはすぐに支障の出ない話だ。
ソリンが作業を終わらせることが出来れば、それで十分だ。
作業場で修復作業に没頭するソリンに一言声をかけ、ナヒリ銃火器店を後にする。

ノハ;゚⊿゚)「うへっ、やっぱり寒いな……」

ζ(゚ー゚*ζ「そうね、やっぱりこっちの方は寒いわね。
      そうすると、ベジタブルサンドと一緒にスープを頼みましょう」

(∪´ω`)「おー、どんなスープがあるんですかお?」

ζ(゚ー゚*ζ「これから行くお店はミネストローネかシチューが人気ね。
      トマトを使ったスープが多くて、酸味がいい味になってるの」

(∪*´ω`)「美味しいんですかお?」

ブーンの尻尾が揺れている。
それは期待を込めた問いかけだった。

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、とっても。
       色々と食べ比べてみるのもいいわね」

三人は朝方の冷たい風の中、夏の日差しの下を歩いていくのであった。

373名無しさん:2020/01/27(月) 18:40:46 ID:gatB74V60
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
.      /////////////////////'!//////l'/!/////∧
    / //////////////////\l'/////,.―、!///////
.      /////////////'///⌒ヽ .l'///' .f:;;;j l/////!/
    /////////l/// ./'イ、{:;;;;j ).l/ ! ー '"l/l// l'  同日 某時刻
    /'l/////V∧l//,  .    ̄´ ´   ',    / !'::::\
/::::::::::::l/‐'":::::V::::l/ヽ,.:'           ノ:.    ,:::::::::::::::\
:::::::::i:::::::::::::::::::l{:::::::l:!;;;ヽ{        `     , ,::::::::::::::::;:- ._
::::l:::::K´\:::::::::!::::::';;;;;;;;;;,        ,       ,. く `ヽ;::>'"    `
:::::!:::::l:::\ \::::';:::::::ヽ;;;;;;;;,     },. -―'": : : : :ヽ. _,. -=、 、
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

( <●><●>)「いやぁ、お待たせしましたね」

ワカッテマス・ロンウルフの声を聞いて、トラギコは食べかけていたホットサンドを皿の上に戻した。
ホイルを剥いたばかりのホットサンドからは湯気が立ち上っている。

(=゚д゚)「……何してたラギ?」

二人は昨日地下の世界を見学した後に街で分かれ、それぞれの捜査を進めていた。
トラギコとは異なった視点での捜査をすると言って姿を消したワカッテマスだが、事前に取り決めていた集合場所と時間は守られた。
問題は、互いに捜査をした結果があるかどうか、である。

( <●><●>)「あ、私はホットコーヒーをLサイズで。
        後はベーコンストリップパンケーキをバターたっぷりで」

席に着くなり、ワカッテマスはメニューを一瞥することなく注文をした。
トラギコはその間にホットサンドを一口食べ、咀嚼しながらもう一度同じ質問をした。

(=゚д゚)「昨日はどこで何をしていたラギ?」

( <●><●>)「まぁまぁ、まずは朝食にしましょう。
        昨日はお疲れでしたでしょう」

(=゚д゚)「大して疲れちゃいねぇラギ」

これ以上言及しても、ワカッテマスは喋らないだろう。
彼の性格上、トラギコがいくら押そうとも彼が口を開くことはないことをトラギコはよく知っている。
仮にも彼はトラギコの直属の上司であり、トラギコのような曲者たちの長なのだ。

( <●><●>)「昨晩、西川・リーガル・ホライゾンと話したのでしょう?
        どうでした、彼?」

どこで知ったのか、とは口にしない。
この男は間諜のプロであり、情報を入手する手段を豊富に持っている。
気にしたところで答えは得られず、期待するだけ無駄というものだ。

(=゚д゚)「……さぁな、よく分からないままラギ」

374名無しさん:2020/01/27(月) 18:41:35 ID:gatB74V60
これは正直な感想だ。
あの男とは結局あの場で分かれることになり、それきりだ。

(=゚д゚)「ただ、寂しい奴だなって思ったぐらいラギ。
    後は、ミルナってボディガードがいたラギね。
    多分イルトリア人だと思うラギ」

( <●><●>)「あぁ、ミルナ・G・ホーキンスですね。
        お察しの通り、イルトリア人です。
        元イルトリアの軍人で、“鉄の男”として中々に有名な方だったみたいです。
        ティンカーベルからの移送を襲ったのも彼ですね」

(=゚д゚)「ところで、オサムが記憶を取り戻していたラギよ。
    どうすんだ、あいつ」

昨夜の爆発の直後、オサムの姿は気が付けばトラギコの前から消えていた。
貴重な生き証人の行方を見失ったのは手痛いが、ワカッテマスがこうなることを考えていないとは思えない。

( <●><●>)「彼はデレシアを追うでしょうね。
        なぁに、いずれ合流するから大丈夫ですよ」

(=゚д゚)「あんたがそう言うんなら、きっとそうなるんだろうな」

給仕がコーヒーと甘い香りのするパンケーキを運んできた。
メープルシロップとバターの香りに紛れて、肉の香ばしい香りが漂う。
皿を見ると、ベーコンとパンケーキが一体となった上に、たっぷりのシロップとバターが乗っている。

(=゚д゚)「……何ラギ、それ」

( <●><●>)「ベーコンストリップパンケーキですよ。
        甘じょっぱくて美味しいんですよ、これ」

コーヒーを一口飲んでから、ワカッテマスはナイフとフォークでそれを上品に切り分けて食べ始めた。
トラギコはその様子を見ながら、自分のホットサンドを口にした。

( <●><●>)「うん、この味だ。
         食べてみますか?」

(=゚д゚)「遠慮しておくラギ」

チーズとハムのホットサンドが今のトラギコにはごちそうだ。
一緒に頼んだコンソメスープも、酒で水分と塩分が失われた体には何よりも染みる。

( <●><●>)「それは残念。
        このシロップとバターの組み合わせがたまらないんですよ」

それからしばらくの間無言の食事が続き、トラギコは追加でヨーグルトを注文した。
一口大の果物が乗せられたヨーグルトは甘く、そして美味だった。

375名無しさん:2020/01/27(月) 18:42:16 ID:gatB74V60
( <●><●>)「さて、結論から聞きますか?
        それとも過程から?」

(=゚д゚)「結論から頼むラギ」

ワカッテマスは頷き、口を開いた。

( <●><●>)「では、トラギコ君。
        君はこの件をどこまで知っていますか?
        それによっては、私は結論を変えないといけません」

(=゚д゚)「どこまでも何も、連中が存在して滅茶苦茶やってるところまでラギよ」

( <●><●>)「そうですか、詳しいところまでは知らないのですね。
        それなら、結論は一つです」

もったいぶるように、ワカッテマスはコーヒーを一口飲んでから溜息交じりに言った。

( <●><●>)「この一件から手を引いてください」

(=゚д゚)「ふざけるなよ、おい」

( <●><●>)「いえ、いたって真面目です。
        君が思う以上にこの一件は根が深いし、世界中に影響を及ぼします」

(=゚д゚)「いつから俺が世界を憂うようになったラギ?
    連中がイルトリアやジュスティアに細胞を持っていることなんて知ってるラギ。
    それで今更怖じ気づくとでも思うラギか」

( <●><●>)「うーん、本当に考え直してはもらえませんか?」

ワカッテマスがコーヒーカップを右手に持ち替え、左手を腰に当てた。
トラギコはそれを見て、ワカッテマスの目を見た。
困ったように笑ってはいるが、彼の目は真剣そのもので、黒曜石で作られたナイフを連想させる。

( <●><●>)「悪いことは、言いませんから」

腰に添えられたワカッテマスの指が、人差し指だけになる。
それは彼の癖だった。

(=゚д゚)「しつこいラギよ。
    俺はな――」

直後、トラギコはその場に伏せた。
ほぼ同時にワカッテマスが腰からベレッタM8000を抜き放ち、発砲している。
連続して発砲された銃弾はトラギコの背後に吸い込まれ、そこで新聞を広げていた男に襲い掛かる。
穴の開いた新聞が派手に宙を舞うが、その先には巨大な黒い布が花弁のように広がっていた。

( <●><●>)「ほぅ、動きは流石ですね」

376名無しさん:2020/01/27(月) 18:43:26 ID:gatB74V60
布の向こうに誰がいるのか分からないが、ワカッテマスが発砲した相手となるとよほどのことだろう。
彼らモスカウにはいくつものハンドサインないしは合図が存在する。
先ほどワカッテマスが見せた動作も、その内の一つである。
視線の先に脅威があり、必要であれば発砲をするという合図に加えて、彼は発砲までのカウントダウンを指でする癖があった。

曰く、それは彼なりの優しさと覚悟を決めるための予備動作とのことだ。

( <●><●>)「変装の技術は相変わらずですが、如何せん、手負いの身で何をしに来たんですか?
        ショボン・パドローネ」

すると、布の向こうからショボンの声が聞こえてきた。

「久しぶりだね、ワカッテマス。
再会の挨拶が鉛弾ってのは感心し――」

トラギコは会話の途中を狙い、自らのM8000を構え、撃った。
先ほどの銃弾が9ミリの銃弾であったのに対して、トラギコのM8000は45口径。
防弾布を貫けるかは雲泥の差がある。
だが鉛弾はマッシュルームのように潰れて地面に落ちた。

銃を胸のホルスターに戻し、次の動きに移る。

(=゚д゚)『これが俺の天職だ』

間髪入れずにトラギコは足元に置いてあったコンテナを掴み、起動コードを入力する。
防弾であろうと、高周波刀の一撃は防げない。
腕甲を装着し、高周波刀を握りしめて飛び掛かった。
ショボンは捕らえずに殺してしまっても構わないと、トラギコは判断していた。

情報を引き出すことが出来る相手ならばいいが、そうでない相手の区別と諦めはついている。
身を低くしながら横一閃。
呆気なく両断された布の向こう、そこに立っていたのは紛れもなくショボンだった。

(#´・ω・`)「ったく、同窓会の誘いなんて届いてないのに、どいつもこいつも!!」

彼の手にはアタッシェケースが握られており、それがトラギコのブリッツと同じく棺桶のコンテナであることはすぐに証明された。

         Fuck the truth!!
(#´・ω・`)『真実なんて糞くらえだ!!』


Aクラスの棺桶にほぼ共通している強みは、装着速度の速さだ。
ほぼ一瞬の内に彼の両腕に装着された腕甲と、それを覆うように付着した青白い光を放つ正方形の物体。
起動コードとその異質な姿は、コンセプト・シリーズに相違なかった。
性能の分からないコンセプト・シリーズには近づかないのが鉄則だが、トラギコの棺桶は接近しなければ真価を発揮できない。

(=゚д゚)「娑婆の空気はどうだ、おい!!」

(#´・ω・`)「うるせぇんだよ!!」

377名無しさん:2020/01/27(月) 18:44:04 ID:gatB74V60
振り上げる形で高周波刀を振りぬこうとしたトラギコの一撃を、ショボンは両手で防いだ。
正確に言えば、いつの間にか彼の手のひらに移動してきた手のひらに収まる程の正方形の集合体によって防がれていた。
そこで察したのは、彼の棺桶は正方形の物体を動かすことで何かをすることに特化しているということだ。
正方形の数は十六。

向こうも接近戦に特化しているのであれば、ワカッテマスが援護をするはず――

(;=゚д゚)「あ?!」

――だが、期待していた援護はなく、店の中にはワカッテマスの姿はなかった。

(´^ω^`)「あははは!!
     どうした、何か不都合でもあったか、おい!!」

(;=゚д゚)「うるせぇハゲ!!」

理由は知らないが、援護が得られないのであれば自力で解決するしかない。
筋力は互角。
補助を得ての腕力も互角。
ならば後は、棺桶の性能と精神力が優劣を決定する。

(´・ω・`)「ちったぁその生意気な口、直す努力をしな!!」

正方形がショボンの声に呼応するかのように動き、高周波刀を挟む形に変化した。
急造の鞘と化したその正方形によって、高周波刀はその優位性を失った。
先ほどの一撃を防いだこと、そして今こうして間近で見ると正方形からは振動音が聞こえる。

(=゚д゚)「切れねぇんなら!!」

ショボンを蹴り飛ばし、鍔迫り合いを終わらせた。
切れないのならば叩くだけである。
右肩に乗せるように構え、単純な腕力による一撃を狙う。

(´・ω・`)「やれるもんならやってみな!!」

自信に満ちた声と共に、ショボンは両手を目の前にかざす。
降伏をするつもりではないのはすぐに分かり、その行動の意味は直後に分かった。
高周波刀にまとわりついていた正方形が全て離れ、ショボンの両手に勢いよく戻る。
戻すということが出来るのならば、当然、その逆も出来るはず。

トラギコは高周波刀を構えたまま、左手で懐からM8000を抜き出し、発砲した。
遊底が完全に後退し、ロックされる。
薬室に残っていた一発だけの発砲だが、ショボンは正方形を菱形に並べた左手を掲げた。

(;´・ω・`)「ちっ」

これで確信が持てた。
ショボンの棺桶は、あの正方形の物体を自在に動かして戦うことに特化したものだ。
恐らくは打撃、投擲、防御に割り当てることが出来るもので、ある一定の距離が開くと使えないのだろう。

378名無しさん:2020/01/27(月) 18:44:24 ID:gatB74V60
(´・ω・`)「っらぁ!!」

遊底が固定される音を聞いてトラギコの銃に弾がないことを確信したショボンは掲げた正方形から一つを掴み取ると、それを投擲した。
筋力補助によってその一撃は必殺に等しい威力を持ち、当たってやるわけにはいかない。
背後に誰か民間人が残っている可能性もあったが、それを考慮していられるほどの余裕はない。
上半身をずらしてその一撃を避け、次の攻撃に備える。

奇妙なことに、ショボンの右手は投擲をした後のままの状態で固定されている。
背筋に寒い物が走る。
気付いた時にはもう遅かった。
先ほどショボンは離れた距離からも正方形の物体を回収していた。

つまり、一度投げた正方形を途中で手元に引き寄せることも可能。
死角に入り込んだ正方形はトラギコの予想と違わず背後から襲い掛かり、背中に激突した。
一瞬死を覚悟したが、正方形がトラギコの体を貫通することはなかった。
それでも衝撃はかなりのもので、トラギコはその場に倒れかける。

振動を停止させた高周波刀を支えに踏みとどまり、歯を食いしばりながらショボンを睨む。

(´・ω・`)「君は昔から真っすぐすぎるんだよ」

(;=゚д゚)「うるっせぇ……」

息をするのもやっとの状況。
非常に危険であることは言うまでもなく、生殺与奪はショボンの意志一つ。
ワカッテマスがいなくなったことも、ショボンの棺桶の性能が分かったことも、今は重要ではない。
この状況をどう脱するのか、それだけが重要だった。

十六の正方形が全て腕甲に貼り付く。
今の状態ならば相手の攻撃全てを回避することはできない。

(´・ω・`)「……これに懲りて、もう関わるなよ」

そう言って、ショボンがトラギコに背を向ける。
殺すならば今が絶好の機会なのに、である。

(;=゚д゚)「あ?」

思わず口から出た言葉に、背中越しにショボンが答える。

(´・ω・`)「さっきあいつが言ってただろ?
     手を引けって」

(;=゚д゚)「……」

(´・ω・`)「正義を信じたいんなら、僕たちと来るべきだ。
     だが自分の路を行きたいなら、僕たちに関わるな。
     次に会った時は、間違いなく殺す」

(;=゚д゚)「へっ、どんな心境の変化だよ」

379名無しさん:2020/01/27(月) 18:45:24 ID:gatB74V60
(´・ω・`)「君のその真っすぐさは、世界のために使うべきだ。
     この世界は根本のルールが間違っている。
     正直者がバカを見る世の中が許せない、って気持ちがあるならなおさらだ」

人のいなくなった喫茶店に、ショボンの声が響く。
冷たい風がまるで意志を持った生き物のように、トラギコの頬を舐める。
この期に及んでトラギコを勧誘するのは、本気なのか、それとも馬鹿なのか。
そう思った刹那、店の扉が開き、トラギコの見知った人間が現れた。

( ゙゚_ゞ゚)「見つけたぞ、ハゲ!!」

(´・ω・`)「待ってたよ、君を!!」

興奮した様子のショボンがトラギコを飛び越え、オサムに向けて疾駆する。
オサムは近くにあった盆を掴んで投げ、ショボンをけん制した。
それを意に介さず、ショボンは正方形を槍のように配列させた物を構え突き出す。

( ゙゚_ゞ゚)「ふんっ!!」

しかしオサムは、人間離れした跳躍を見せてその一撃を回避し、そのままショボンに向けて飛び蹴りを放った。
瞬間的にオサムの身体能力が普通でないことを見破ったショボンは握っていた正方形を手放し、両手で顔面を守った。
金属と金属がぶつかる鈍い音が響き、オサムはショボンの腕を足場にしてもう一撃を放つ。

(;´・ω・`)「ちっ!!」

床に落ちていた正方形が一斉にショボンの元に集まる。
それはオサムを狙って動いているというよりも、最短を直線的に動いているように見えた。
ようやっと、トラギコはその正体に察しがついた。
あれは磁力の類だ。

細かい理屈や性能は分からないが、あの正方形は発光して振動している間、磁力によって操作することが出来るのだろう。
背中の鈍痛は相変わらずだが、戦うことはできる。
M8000の弾倉を交換し、スライドストップを開放する。
初弾が薬室に装填された。

高周波刀は磁力によって満足に稼働しないために、その切れ味を発揮することが出来なかった。
回転力を奪われた銃弾もまた然り。

(´・ω・`)「やっぱりいい人材だね、君は」

二人はいつの間にか距離を取っている。
会話の内容から、ショボンと接触した際にオサムも勧誘を受けたようだ。
この街に来たティンバーランドの目的は、あるいはトラギコが考えているものよりも厄介なものなのかもしれない。

(´・ω・`)「そろそろ僕は退散するよ。
     じゃあね、二人とも」

380名無しさん:2020/01/27(月) 18:45:45 ID:gatB74V60
どこからか取り出した閃光音響手榴弾が中空に放られる。
トラギコとオサムは反射的に耳を塞ぎ、目を閉じた。
想像通りの爆音と閃光が世界を上塗りする。
視力と聴力を取り戻した時には、そこにショボンの姿はなかった。

(;=゚д゚)「糞が」

( ゙゚_ゞ゚)「ちっ、ハゲが……
     おい、お前。
     礼ぐらい言ってもいいんだぞ」

(=゚д゚)「あ? あぁ、ありがとよ」

( ゙゚_ゞ゚)「ふん、その代わりに二ついいか」

(=゚д゚)「何だよ」

( ゙゚_ゞ゚)「一つ目は、あいつらについて教えろ」

ティンバーランドについて教えたところで、トラギコの邪魔にはならない。
むしろ、対立している人間である以上は相手にとっての邪魔になるはずだ。

(=゚д゚)「……いいだろう。
    もう一つは?」

( ゙゚_ゞ゚)「朝飯、奢ってくれ。
    この棺桶を買ったら財布が空になった」

朝食を奢るのも、この男に情報を提供して行動を共にするのも構わなかった。
まずはこの店をお咎めなしで退店できるか、それが問題なのであった。

┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

Ammo→Re!!のようです
Ammo for Rerail!!編
第九章 【break down-破壊-】 了

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻

381名無しさん:2020/01/27(月) 18:48:40 ID:gatB74V60
これにて今回の投下は終了です

質問、指摘、感想などあれば幸いです

382名無しさん:2020/01/27(月) 19:51:22 ID:vTNrZ0jU0
おつ!
ワカッテマスがますますわからんどっちなんだろう
そしてオサムがだんだんいいキャラになってきて楽しみ

383名無しさん:2020/01/28(火) 19:36:14 ID:tohwpqIg0
乙です
社長がやるおになっててわろた
あの爆発でどう物語が動くのか気になるな

384名無しさん:2020/01/29(水) 12:58:31 ID:svJoUkrM0
乙乙
みんないいキャラしてるわ〜
続きが待ちきれない

385名無しさん:2020/03/21(土) 20:32:10 ID:O3PLDmSM0
明日の夜VIPでお会いしましょう

386名無しさん:2020/03/21(土) 21:46:54 ID:7dIJaH0Q0
よっしゃあ待ってる

387名無しさん:2020/03/23(月) 07:54:49 ID:gqdL6qvY0
┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


世界は変化を待ってくれない。
変化に翻弄されないためにはどうすればいいか。
――我々が変化そのものになればいいのだ。

                            内藤財団 社長 西川・リーガル・ホライゾン


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

                                変化を失った世界は確実に死に至る。
                               無秩序な変化は世界に混沌をもたらす。
                           秩序のある変化こそが世界には必要なのだ。


内藤財団創始者の言葉


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻

August 22nd 某時刻

騒動の起きた店で優雅にコーヒーを飲んでいた二人の男は、ゲートウォッチによって地下にある調室に連行された。
一人はテイクアウト用のカップに注ぎ直してから、ゲートウォッチが用意した馬車に乗せられた。
マジックミラーで囲まれた取調室の中央にはパイプ椅子と、コンクリートの床に固定された机があり、二人は椅子の前に案内され、手錠を外された。
座って最初に口を開いたのは、トラギコ・マウンテンライトだった。

(=゚д゚)「暴れたのは俺じゃねぇラギ」

( ゙゚_ゞ゚)「俺もだ」

オサム・ブッテロはトラギコの隣に座り、足を組みながらコーヒーを飲みつつ、そう言った。
ゲートウォッチは二人が犯罪者である可能性も、そうでない可能性も分からない以上は手荒に扱えず、手荷物は部屋の隅に置かれていた。
無論、トラギコの拳銃も強化外骨格の入ったアタッシェケースもそこにある。
ただし、オサムのコーヒーについては、特に没収されることがなかった。

不遜な態度の二人に対応したのは、今回の担当者であるビブリアント・バリアスキーと名乗る男だった。
緊急時の対応にはギルドマスターが対応する規定ではあったが、昨夜の事件によって姿を消してしまっていると彼は説明をした。
それからビブリアントはノートとペンを取り出し、それを机の上に置いた。

(HнH)「ふむ……」

意外な反応に、トラギコは目の前の男が次に机を投げるか、それとも蹴り上げるかするのかと期待をした。
手を出されればこちらも正当防衛を理由に反撃できる。
だが予想に反して、男は薄ら笑みを浮かべてトラギコを見つめた。

388名無しさん:2020/03/23(月) 07:55:11 ID:gqdL6qvY0
(=゚д゚)「何ラギ?」

(HнH)「お前、トラギコだろ?
     トラギコ・マウンテンライト」

名乗った覚えも、名前のある所有品も預けた覚えがない。
この男はトラギコのことを知っているようだが、トラギコは彼のことを知らない。

(=゚д゚)「悪い、あんたに会った記憶がねぇラギ」

その言葉を聞いた男は少し自嘲気味に鼻で笑い、両手を机の上で組んだ。

(HнH)「警察学校で同じだったんだけどな、残念だ。
     俺が周りにいじめられてる時に、お前だけは俺を助けてくれたんだよ。
     おかげで俺は落ちこぼれないで済んだし、こうしていられる。
     その発音の癖で確信したよ」

ゲートウォッチには元軍人、元警官など、様々な経歴の人間が採用される。
当然、ジュスティアの人間がその経歴を見込まれ、雇われることもあるのだ。
警察学校はトラギコにとって思い出深い経験ではなく、当時のことはあまり詳細に思い出せない。

(=゚д゚)「そんなことあったとしても――」

(HнH)「――助けたやつのことなんていちいち覚えちゃいねぇラギ、だろ?
     本当に昔と同じだよ、お前は」

昔からトラギコが口癖のように使っている言葉を、ビブリアントは完璧に繰り返してみせた。
どうやら本当に昔の知り合いのようだ。

(HнH)「だから他の連中にするような取り調べはしない。
     俺が聞きたいのは、誰がどうして暴れたのか、ってことだ」

店の中には監視カメラもあった。
つまり、これからトラギコに聞き取る情報というのは彼が言う通り、カメラだけでは分からないものになるだろう。
隠したところでトラギコにはメリットがない。
危惧するべきはビブリアントという男が、ティンバーランドの人間である可能性ぐらいだろう。

(=゚д゚)「あの店で暴れたのはショボン・パドローネラギ」

(HнH)「あのショボンか……」

彼の名前はジュスティア警察内ではかなり有名だ。
ジョルジュ・マグナーニとは対をなすような性格をしていながらも、検挙率の高さはジョルジュに引けを取らない程だった。
この男が仮に警察官だったとしたら、その名前を聞いたことがあっても不自然ではない。
警戒を緩めないまま、トラギコはビブリアントの次の言動に注意を向ける。

( ゙゚_ゞ゚)「なるほど、あいつはショボンって言うんだな」

空になったコーヒーのコップを机に置いて、オサムはそう言った。

389名無しさん:2020/03/23(月) 07:55:34 ID:gqdL6qvY0
(HнH)「……こいつは?」

(=゚д゚)「変態ラギ」

トラギコはオサムを見ることなくそう言い放つ。
その言葉を気にした様子もなく、オサムが続けた。

( ゙゚_ゞ゚)「紳士だ。
    コーヒーをくれ。
    舌が焼けただれるぐらい熱いやつだ」

全く自分の置かれている状況を理解していないのか、オサムはまるで客人の様に振舞った。
ビブリアントは驚きと呆れの表情を浮かべつつ、マジックミラーの向こう側にいる人間に指で指示を出した。
これにより、人のいるマジックミラーの場所が分かった。

(HнH)「ま、まぁいい。
     で、どうでしてショボンが暴れたんだ?
     むしろお前らとどういう関係にあるんだ?」

(=゚д゚)「お前はどう考えているラギ?
   昨夜の爆発と関係があると思ってるんじゃねぇのか?」

無駄な時間をここで過ごして肝心な相手を取り逃したくない。
知りたいことは、ワカッテマス・ロンウルフの動向だ。
あの土壇場で姿を消した理由と、その行き先が気になるところだ。

(HнH)「まぁ、正直そうだ。
     俺たちはこう考えている。
     店の一件と昨夜の爆発、そして一昨日の列車の一件。
     これらは偶然じゃなくて、全部繋がっていることだってな」

(=゚д゚)「当たりと言えば当たりだろうな。
    だが、列車から降りてきた人間の一人が俺ラギ。
    他の人間も知ってるが、少なくとも爆破をするような奴はいねぇよ」

強いて言うならデレシアだが、それは言う必要のないことだった。
彼女なら平気でビルの一つを爆破するだろうが、それをする理由がない以上、あの女はそれをしない。
本名も知りもしない人間に対して奇妙な信頼を抱いていることに、トラギコは何の違和感も覚えることはなかった。
少なくともデレシアはこの場にいる誰よりも信用できる人間だ。

(HнH)「そうか、分かった。
     ところで、どうしてこの街に?
     確か今はモスカウにいるんだろ?
     誰か犯罪者でも追ってきたのか?」

(=゚д゚)「……思い出したにしちゃあ、随分と俺のことに詳しいラギね」

390名無しさん:2020/03/23(月) 07:56:10 ID:gqdL6qvY0
睨みつけながら放った言葉に、ビブリアントが僅かに怯んだように見えた。
トラギコがモスカウに所属していることはイルトリア警察の中でも、トラギコについて興味を持つ人間だけしか知らないことだ。
警察官としては異質な存在である彼の動向に興味を持つ人間は少なくない。
特に、彼が来る場所には絶えずトラブルが発生するため、同じ管轄を持つことになる人間は覚悟を決めなければならない。

しかしそれは、彼がモスカウに所属してから警察内で広まった話であり、現役時代の物とは違う。
問題になのは、どうしてトラギコがモスカウにいることを知っているのか。
そして、それをどうしてこの瞬間に思い出せたのか、だ。

(HнH)「いや、お前のことは有名だったからさ。
     俺たちの同期の中で一人だけだぞ、モスカウに抜擢されたの」

それも事実だ。
立ち上がって間もないモスカウに抜擢された人間はその時点で優秀と認められ、難事件を解決するのに足る能力を有する人間だけだ。
試験的な存在であったため、決して失敗のないよう、メンバーは慎重に選ばれた。
その伝統は今も続いており、トラギコの同期は一人もいない。

能力的、経験的に優れた人間が足りないというだけでなく、彼の同期は多くの問題を抱えていたのである。
本来はトラギコもモスカウに入る予定はなかったのだが、事情があって所属することになっただけに過ぎない。

(=゚д゚)「随分と記憶力がいいみたいだが、警官を辞めたのはいつぐらいラギ?」

(HнH)「十六年前だったな。
     キャリア組の上司にコーヒーをぶちまけちまってな。
     運よくこの街で雇ってもらえたのが幸いだった」

その答えに、トラギコは思わず鼻で笑った。
椅子を少し引いて、体と机の間を開ける。
前のめりの姿勢で、トラギコは言葉を紡いだ。

(=゚д゚)「後一年ぐらい頑張ってれば、退職金ぐらいもらえただろうよ」

(HнH)「まぁあの時は転職に必死だったからな。
     ともあれ、こうしてここで働いている方が俺には合っているみたいだよ」

(=゚д゚)「で、誰に入れ知恵されたラギ?
    俺たちのことを捕まえて、どうしろって言われたラギ?」

(HнH)「おいおい、だから――」

(=゚д゚)「手前が警察にいたのが本当だとしても、知りすぎているってのがミスだったラギね。
    モスカウが出来たのは十五年前ラギよ。
    そのメンバーをどうして辞めたお前が知ってるラギ?
    悪いが、あの職場の人間は口がアホみたいに硬いか、脳みそにババロアが詰まってるような連中ラギ。

    同僚ならまだしも、辞めた人間に言う訳がねぇ」

391名無しさん:2020/03/23(月) 07:56:57 ID:gqdL6qvY0
彼の同期でモスカウに所属している人間はいない。
しかしそれは内部機密の情報であり、退職した人間に届くような情報ではない。
ショボンもモスカウの所属だったこともあり、その話を聞かされていたのだろう。
この男はティンバーランドの細胞に相違なさそうだった。

(HнH)「誤解だって、話を聞いてくれよ」

( ゙゚_ゞ゚)「何だ、喧嘩か?
     やるんなら静かにやってくれ、俺はコーヒーを待ってるんだ」

(=゚д゚)「コーヒーは一生こねぇラギよ。
    俺はここを出て行くラギ」

トラギコが席を立つと、隣のオサムが不思議そうな顔で見上げてきた。

( ゙゚_ゞ゚)「おい待てよ。
     コーヒーをもらってからでも遅くはないだろ」

(HнH)「と、とにかく座ってくれ。
     俺は本当に訊いたんだって」

( ゙゚_ゞ゚)「はあ゛っ」

焦るビブリアントをよそに、オサムはこれ見よがしに溜息を吐いた。
それからビブリアントを一瞥し、心底呆れた口調で言葉を発した。

( ゙゚_ゞ゚)「ったく、面倒くせぇ連中だな。
    勝手に連れてきたくせにコーヒーはない、おまけに喧嘩まで始めやがって。
    ホスピタリティの心はどこにいったんだよ」

(=゚д゚)「ゴミ捨て場でさっき見たラギ。
    で、お前はどうするラギ?」

( ゙゚_ゞ゚)「俺も帰る。
     それより、話の続きを適当なコーヒーショップでするぞ。
     カフェインが足りない」

(HнH)「だから、ちょ――」

一緒に立ち上がろうとしたオサムを制止するため、ビブリアントが手を伸ばす。
刹那、オサムは手に持っていたコーヒーの中身をビブリアントの顔に浴びせた。
彼が飲むペース、そして机に置いた時の音から中身がある程度残されていることは分かっていた。
また、トラギコだけが彼の服の下にある強化外骨格の存在に気づいていた。

それは、ショボンとの大立ち回りを見て確信を持っていた。
戦闘中の明らかな身体能力の向上と、それを可能にしている存在が見えないという二点。
それが導く答えは、オサムが身に付けているのは極めて薄い素材で作られた筋力補助の棺桶。
種類までは断定できないが、彼が財布の中身を失ったのはそれを買ったからだろう。

392名無しさん:2020/03/23(月) 07:57:19 ID:gqdL6qvY0
液体は激突する際の速度によってその硬度を変える。
人間の体が作り出せる液体の速度な程度が知れているが、棺桶の力を借りたのならば、水は兵器となる。
決して熱くはないが、凄まじい速度で激突した液体が目に入ったことによって彼は動きを止めざるを得なかった。
その隙にオサムの左ジャブが彼の顎を的確にとらえ、意識を虚空へと離脱させた。

机の上に突っ伏すように倒れたビブリアントは、そのまま床に倒れこんだ。

(=゚д゚)「やるじゃねぇか」

( ゙゚_ゞ゚)「ふん。さっさとここを出て行くぞ」

二人は増援が来る前に手荷物を回収し、入ってきた扉に机と気絶したビブリアントを立てかけた。
それからパイプ椅子を持ち上げ、マジックミラーに向けて振り下ろした。
砕け散ったミラーの向こうにいた複数の男女が狼狽をあらわにし、蜘蛛の子を散らしたように逃げ出した。
その動きを見てトラギコはこの場所がゲートウォッチの管轄外にある施設であると判断した。

(=゚д゚)「回転式ラギね」

この場所に連れてこられた時点で、二人は自分たちの手荷物が没収されずに部屋に置かれていることに少なからず違和感を覚えていた。
常識的な考えを持っている人間であれば、その不用心さに驚くことだろう。
しかしこの場に居合わせた二人は、その不用心さは自信の表れであることを見抜いていた。
仮にこの場を抜け出そうとする者がいても、持ち込みを認めたものがあってもこの場から抜け出すことは不可能だという自信があるのだ。

地下に作られる取調室には、いくつもの種類がある。
強固な外壁で囲むことで力による脱出が不可能になる箱庭型や、出入り口を一か所に制限する蟻地獄型などがある。
その中でも最も新しく、最も脱出が困難と言われているのが回転式という型だ。
地下に埋設された取調室に通じる道は複数存在するが、取調室そのものがゆっくりと回転し、入ってきた場所から出口を目指しても決して辿り着くことが出来ないという迷路のようなものだ。

共通しているのは誘導される人間に見せられる入り口が一か所だけであり、一見すれば蟻地獄式だが、僅かに聞こえてくるモーターの回転音に気づければ問題はない。
設備を作るのに極めて膨大な時間と費用がかかるため、ジュスティアでも限られた場所にしか設置されておらず、その数も非常に少ない。
だがその装置を売りに出したのは他ならぬここ、ラヴニカの企業であり、それがゲートウォッチの管理外の施設にも導入されている可能性は皆無ではない。
ましてや潤沢な資金を持つ組織が相手であればなおのことだ。

彼の推理を裏付けするように、目の前に見える空間が少しずつ動いていく。
二人が入ってきた場所はもう二度と回ってくることはないだろう。
最悪の場合、回転を途中で停止されて出入口を完全に封じられてしまう。
そうなる前に手を打たなければならない。

(=゚д゚)「行くんなら早めが一番ラギよ」

( ゙゚_ゞ゚)「みたいだな」

そして二人は、それぞれの武器を手に、割れたマジックミラーの向こうに進んだのであった。

393名無しさん:2020/03/23(月) 07:57:39 ID:gqdL6qvY0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

Ammo→Re!!のようです
Ammo for Rerail!!編
                  | / ::::::::/::: \\\::::::::..\\\::::..\
                  |:l: /|: ∧:::::::::..\\\ ::::::..\\ :::::::: \
                  / l/ :|/ :: '. : \ ::..\\ :::::::::::..\::::::::::::::::::.
                    〈 :::::: l| ::|\\::..\ :: |\::::::::::l :::::::::::::::::::.\|
                  '. :l:: |:::::|\\\|: \|><l\:: |: |il::::::::::::::::.
                      '.ト、|:::::|㌃洵\|\: |ィf洵ハ,ハノノ}::::: |\:::.
                  _∧ \| ゙¨¨´   Ν ゙¨¨´ /ノ∧ :: |、、\
             ..ァ7 /////7'.        .l    .//∧\|   .,,_
        __,,..ァ7///////⌒\∧     、 ─ァ    /////∧    \\..,,_
.    / ////////////     }'∧ 丶.,___,,.ノ ///////∧      \\ \\
第十章【Rerail-仕切り直し-】

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

同日 AM11:12

朝食を終え、デレシア達は予定通りにラヴニカの街を探索していた。
ヒート・オロラ・レッドウィングの肩の上にはブーンが乗り、上機嫌に街並みを見下ろしている。
街は少しも変わった様子もないように見えるが、実際にはゲートウォッチの数が増えており、厳戒態勢が敷かれているのだと分かった。
恐らくは非番の人間達も緊急で配備され、不穏分子がこれ以上街を混乱させないようにしているのだろう。

監視の目が広がり、デレシアにとってはあまり面白くない展開になっていた。
監視者が増えるということは、それだけティンバーランドへの情報も増えるということになる。
二人を引き連れた状態で襲われることは避けたいが、それは恐らく難しい願いだろう。

ζ(゚ー゚*ζ「キャンプ用品はあの鹿の看板のお店が一番ね」

ヒートの横を歩くデレシアが、進む先にある看板を指さす。
鹿の角を模した看板を掲げるビル。
そのビル全てがキャンプ用品を取り扱う店であり、最新のキャンプ用品や試験的に作られた物が並ぶ店なのだ。
筆で書いたような書体で、“雪鹿番長”とある。

ノパ⊿゚)「変わった店だな、見たことねぇや」

ζ(゚ー゚*ζ「主にこの店から他の店に商品が出荷されて、それを加工したりロゴを入れたりして売るの。
      だからこのお店が発信して、他のお店が追従するからあまり知られていないの。
      個人よりも企業を相手に商売をしているお店なのよ」

店に到着し、ブーンがヒートの肩から降りる。
そしてヒートの手を握り、彼女をエスコートするようにして半歩先を歩く。
七階建てのビルの案内板を見上げながら、ヒートが質問する。

ノパ⊿゚)「まずは何を見る?」

394名無しさん:2020/03/23(月) 07:57:59 ID:gqdL6qvY0
ζ(゚ー゚*ζ「外で泊まる時に気にしないといけないのは、テントね。
      この辺りの気温を考えれば雨風を凌ぐのは勿論だけど、人が入らないと論外だし、耐久性がなければ意味がない。
      でもディに積む以上は大きさと重さが重要になるわ」

ノパー゚)「なるほど。後は寝袋も見ないとな」

(∪´ω`)゛

二人の会話を聞いて、ブーンは納得したように頷く。
テントコーナーには色とりどり、多種多様なテントが並んでいた。
非常に軽量な物もあれば、極めて広い空間を持つテントもあった。
三人でそれぞれ、よさそうなテントを見繕い、実際に手に取ってその重さや質感を確かめる。

ζ(゚ー゚*ζ「これなんか面白いわね」

ノパー゚)「これもいいな。
    骨が全部カーボンだから軽い」

(∪´ω`)「これ、バイク用のお部屋があるんですおね。
      前にティンカーベルでやったのがキャンプだったの、思い出しましたお」

ζ(゚ー゚*ζ「その通り、良く思い出せたわね。
      でもあの時は色々あって、落ち着けなかったからね。
      覚えられなくても仕方ないわよ」

実際、あの時はキャンプを楽しむ余裕があまりなかった。
オアシズでの騒動の後、初めてディに乗ってキャンプ場に行ったはいいが、そこからは多くのことが同時に起こりすぎた。
この街に来るまでの間にも、ブーンは新しい物を見て、知って、学んだ。
新しいことを覚えた勢いで昔のことが抜け落ちることは、決して叱りつけたり落胆したりするような事ではない。

(∪*´ω`)「おー」

三十分近く探し、最後に風を防ぎ、保温性のいい物がこれからの旅には必要だという結論になり、軽量で高性能なテントに落ち着くことになった。
オリーブドライの袋に入ったテントは三人が川の字になって寝ても余裕のある広さでありながら、ディの後ろに積載することの出来るほどの大きさだった。
リハビリがてらヒートがそれを背負い、店内を見て回る。
ステンレスのマグカップや調理器具を見つつ、目的の商品をカートに入れていく。

最上階の試作品コーナーに立ち寄り、新素材のナイフなどを見ていた時に、事件は起きた。

( ゚д゚ )「……」

厳めしい顔をしたその男は周囲に目を向け、何かを探している様子だった。
デレシアはそれが、人間を探しているのだと気づいた。
彼が背負っているのは紛れもなくCクラスの棺桶で、堅気の人間でないことは明らかだった。
そして可能性として、男がデレシア達を探しているのだと連想するのに時間は必要なかった。

全身が殺気を感じ取り、敵対心を持つ人間だと判断した。

ζ(゚、゚*ζ「……ブーンちゃん、ヒートのサポートをよろしく」

395名無しさん:2020/03/23(月) 07:58:30 ID:gqdL6qvY0
そう呟いて仕掛けたのはデレシアだったが、男は一切の躊躇なく背中を向けて対応した。
脇の下から抜き放った黒いデザートイーグルを構えるまでに要した時間は刹那。
男の対応もまた、それに劣ることなく電光石火のそれだった。
間違いなくこちらの情報を聞いた上で判断した、最良の一手だ。

こちらを認識してすぐに行うべきは回避行動、もしくは防御行動。
それさえ守れば、棺桶を使うだけの猶予を稼ぐことが出来る。
民間人と敵対勢力の明確な違いは攻撃を仕掛けてくる、もしくは顔を知っている場合に限る。
逡巡する僅かな時間を利用され、一気に状況が悪化してしまった。

雰囲気から分かっていたが、男は明らかに素人ではなかった。
人の多い場所で躊躇うことなく棺桶の起動コードを入力し、尚且つ男が陣取っているのはこのフロアと下とをつなぐ階段。
逃げ道を塞ぎ、デレシア達に残された道は非常階段のみ。
飛び降りるには高すぎる選択肢だけが残され、ケガ人と子供を同伴するこちらの動きを制限してきた。

発砲は間に合わず、デレシアは人差し指をトリガーガードに添えて、すぐに二人を連れて非常階段に向かうことにした。
棺桶である以上、装着までの間にはわずかの時間がある。
起動コードからその時間を判断すれば、次に行うべきことが自ずと決まってくる。

( ゚д゚ )『己の力を知るためには、限界に挑戦してみることだ』

起動コードを聞いた瞬間に、デレシアは一切の発砲を諦めた。
デレシアの腰にあるソウドオフショットガンに強化外骨格用の強装弾を装填したとしても、相手が悪すぎる。
例え急所的であるカメラ部分を狙ったとしても、それは全く意味をなさないのだ。
勝負をつけるにはあの男が棺桶を装着する前に殺していなければならなかったが、今となっては完全に手遅れである。

男が使っているのは世界最高の硬度と防御力を持つ、拠点防衛特化のコンセプト・シリーズ。
“マン・オブ・スティール”の装甲を貫通し得る銃弾は、すでに失われた技術でしか作り得ないのだ。
弱点があるとすれば装着時間の長さ、そして装甲によって犠牲にした機動性ぐらいだろう。
棺桶を装着する前に殺せなかったのであれば、今はヒートたちを安全にこの場所から退避させなければならない。

単純な防衛手段として、あれ以上の棺桶はこの世界にはない。

ζ(゚、゚*ζ「面倒なのが出てきちゃったわね」

突如として強化外骨格を使用した人間が出たのを見て、店にいた人間が悲鳴を上げるのと同時に非常ベルを鳴らした。
店内に凄まじい音の警報音が鳴り、商品を見ていた客たちが非常階段を目指して逃げていく。

ノハ;゚⊿゚)「撃たねぇのか?」

ζ(゚、゚*ζ「撃っても無駄なの、あの棺桶はね。
      レオンの対と言えばいいかしら。
      強化外骨格の攻撃ならほとんど防ぐから、道具を揃えておかないと弾の無駄ね」

それに、とデレシアは内心で続けた。
護る対象が二人もいるのであれば、相手を殺すだけの戦闘はここで行えない。
姿が見えていない内にデレシアは非常階段を降りようとしたが、そこで思いとどまった。

ζ(゚、゚*ζ「ブーンちゃん、テントの中からロープを取り出して」

396名無しさん:2020/03/23(月) 07:58:53 ID:gqdL6qvY0
(∪´ω`)「お!」

もしも、デレシア達がこのビルに入るのを目撃して追いかけて来たのであれば、逃げ道を全て塞ぐはずだ。
ならば非常階段などという分かりやすい場所を抑えずに正面から来るはずがない。
二か所を同時に封鎖し、確実に追い詰めようとするはずだ。
慌てて逃げ出す客達の中にデレシアが紛れ込まないよう、何かしらの手を打っていると考えなければならない。

ブーンはこの状況下でもパニックにならず、デレシアの指示した通り、ヒートからテントを受け取り、袋から一番太く長いロープを取り出して手渡した。
階段が使えないのであれば、窓を使うしかない。
デザートイーグルをホルスターに戻し、ブーンから受け取ったロープで結び目を作っていく。

ζ(゚ー゚*ζ「片手で私に掴まれるかしら?」

ノパー゚)「あぁ、それなら出来るさ」

ロープを窓枠に括り付け、デレシアはブーンを背負い、ヒートを抱き上げた。
彼女の手がデレシアの首に回され、しっかりと力が込められる。
その手を更にブーンの小さな手が掴み、デレシアはその健気な姿に思わず微笑んだ。

ζ(゚ー゚*ζ「ふふっ」

ロープを右手で掴み、デレシアは窓枠から身を乗り出して躊躇うことなく虚空にその身を放り出した。
半月を描くようにしてデレシア達はビルの壁を伝って下に向かう。
冷たい風に背中を押されつつ、ロープの長さが終わる五階の窓を蹴破って中に入った。
着地と同時にヒートをその場に降ろすと、彼女は素早く懐からベレッタを抜いていた。

片手でも射撃であれば問題なく行える。
怪我人という立場に甘んじることなく、彼女は最適な選択を行った。
デレシアの背中から降りたブーンはやはり、ヒートの傍に立った。

ζ(゚ー゚*ζ「さ、降りましょう」

改めて目指すのは通常の階段だ。
待ち伏せされている可能性のある非常階段よりも、すでに一人姿を現している通常階段を選んだ方が戦闘を回避できる可能性がある。
階段を使う客がいない今なら、誰が敵なのかもすぐに分かる。
幅の広い階段を下り始めたところで、男がゆっくりと階段を上がってきた。

それは、ワカッテマス・ロンウルフだった。

( <●><●>)「なるほど、こうなるだろうなと思っていましたが、こうなりましたね」

彼の背中には棺桶があり、デレシアはその姿を視認した瞬間に発砲していた。
巨大な銃声が鳴り響き、ワカッテマスの足元に大きな弾痕を生んだ。

ζ(゚ー゚*ζ「何の用かしら?」

( <●><●>)「なぁに、借りを返そうと思いましてね。
       スノー・ピアサーではおちょくられましたが、どうにも私の性分に合わないんですよ。
       だからここらで一つ、私という人間を知ってもらおうと思いまして」

397名無しさん:2020/03/23(月) 08:11:30 ID:gqdL6qvY0
ζ(゚、゚*ζ「嫌よ、面倒くさい。
      ……ヒート、ブーンちゃんと一緒に先に行ってて。
      絶対に手を出させないわ、信じて。
      三十秒で追いつくわ」

ノハ;゚⊿゚)「あぁ、一応気を付けてな」


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板