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198名無しさん:2019/08/05(月) 07:18:45 ID:N8Hjim3Y0
( <●><●>)「誰にでも失敗はあります。
       さぁ、話をしましょう。
       組織について、知っている限りを私にも話してください」

(=゚д゚)「……俺の知ってることなんて一部だけラギよ。
    それに、あんたも察している通り警察内にも組織の人間がいるラギ。
    あんたがベルベットを保護する名目で連れ出していないなんて保証、どこにもないラギよ」

( <●><●>)「だったら今頃私は君を殺していますよ。
       ま、疑い深くなる気持ちも分かります。
       かつての先輩二人が裏切り、あちらこちらに組織の細胞が入り込んでいるとなれば迂闊な行動や発言は出来ませんからね。
       私が知り得ている限りの情報を並べると、組織は内藤財団とつながりがある可能性が高いのですが、合っていますか?」

(=゚д゚)「オープン・ウォーターの一件で、俺もそれは思ったラギ。
    西川・ツンディエレ・ホライゾンがデレシアが主犯だと言っていたらしいが、事実は逆ラギ。
    あんたも知ってるかもしれないが、ワタナベ・ビルケンシュトックが入り込んでいたラギ。
    ってぇことは、警備体制に意図的な穴があったとしか思えないラギ」

( <●><●>)「ほぅ、あのワタナベ……ですか。
        ……会ったのですか、彼女と。
        いかがでしたか?」

(=゚д゚)「ん? あぁ、そりゃあ会ったし、ろくでもない奴だったラギ。
    何か問題でもあるラギ?」

( <●><●>)「いえ、気にしないでください。
        よく生きていられたな、と感心しているのです。
        他のメンバーで知っている人間はいましたか?」

(=゚д゚)「イーディン・S・ジョーンズだ。
    あいつが棺桶を流してるはずだ」

(;<●><●>)「博士もあちら側だったとは……
       でも、名持ちの棺桶を多数持っているのは説明が付きますね。
       組織自体の目的と言うのは……分かりませんよね」

(=゚д゚)「あぁ、まるで見えてこねえラギ。
    ろくでもないってのは間違いなさそうだけどな」

( <●><●>)「デレシアなら知っているんでしょうか」

トラギコは一瞬その質問に答えそうになったが、これが罠であることに気づき、無難な返答を口にした。

(=゚д゚)「本人に聞いてみるのが一番ラギ」

本部への報告でもそうしている通り、トラギコはデレシアとの接触をしていないことになっている。
接触どころか、彼女と協力してティンカーベルやオアシズの事件に挑んだとは口が裂けても言えない。
この男の実績や実力は信頼しているが、その背景等については信頼していないのだ。

199名無しさん:2019/08/05(月) 07:19:08 ID:N8Hjim3Y0
( <●><●>)「また今度機会があればそうしてみましょう。
       デレシアについて君が知っていることはありますか?」

(=゚д゚)「女でおっかねぇってことぐらいラギ。
    なぁ、ツーが言ってたんだが、ジュスティアの歴史に出てくる名前だってのは本当なのか?」

( <●><●>)「えぇ、本当ですよ。
        今回の仕事はそういった諸々の背景を含めて彼女を観察しなければなりませんからね。
        ただの偶然か、それとも関係者なのか。
        時間がかかりそうですから、しばらくは旅行を楽しみましょう」

(=゚д゚)「デレシアが次にどこで降りるのか分かってないとそうもいかねぇだろ」

( <●><●>)「目的地は分かっていますよ。
       彼女が買ったのはラヴニカ行きのチケットです。
       我々もそこで降ります。
       二人っきりで旅行も悪くはないですが、サイレントマンも行動を共にしてもらいましょう」

(;=゚д゚)「野郎三人の旅行かよ……」

( <●><●>)「んっふっふ」

トラギコの嘆きを聞き、ワカッテマスは意味ありげな笑みを浮かべたのであった。

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  」| |‐|..| ̄| |_    _|口|__   August 20th PM07:15      /:|`| ||_|_|」「¨ |口口
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」」「j||_l_l|_|_|_|    //||ハ|∧爻爻Xxx、               n.|丁「 | l__,| |'⌒'| |
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三| || | | ||  | | |二二二二二|二二二|兀兀兀兀兀_」       |_L_丁 ̄ | |  | |
兀兀兀兀兀兀[| ̄ ゙̄|⌒| |⌒||^|⌒|⌒|⌒|_⊥-_|^|{      x<^\| |⌒iTTT乢L_|_|_|_
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ニニニ|=ニア´//|'、 `ヽ  |  | |´||了||'^|_,|⌒|  イ淵ハ~~|'´ \∧|^|i|`'| ̄| 圦||  | :|
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_,|_|: : | | ||/| | | | | | リxi     ギルドの都 ラヴニカ        |¨||、||_|ヘ| i^| |^|::|
/:}‐⊥/;';'ミh、|_|_,,|xi(㌻                            |    ΤL|乂_|_|
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200名無しさん:2019/08/05(月) 07:19:34 ID:N8Hjim3Y0
スノー・ピアサーが巨大な門を潜り抜け、巨大な尖塔の数々に見下ろされた時、ブーンとヒートは月光に照らされる頭上の光景に圧倒されていた。
近代的なビル群ではなく、趣のある古い建物がまるで一つの生物であるかのように重なり、絡み合い、繋がり、山のように聳え立っている。
建物と建物の間には橋が渡され、大地を歩く人と同じかそれ以上の人間がヒートたちの頭上を歩いている。
街の中を流れる川には小舟が浮かび、小さな明かりを頼りに何かをしているのが見えた。

遥か昔から建物の増改築を繰り返し続け、街全体が建物のような様相を呈し、今日に至ってもその増改築は止まることを知らない。
これがギルドの都、ラヴニカである。

ノハ;゚⊿゚)「すっげぇ……」

ζ(゚ー゚*ζ「地上だけじゃなくて、地下にも同じように街が広がっているわ。
      街の規模はジュスティアにもイルトリアにも負けないぐらい立派なんだけど、建物が少し古いのが最大の違いね。
      道幅が狭いから移動は基本的に徒歩、バイクや自転車、馬、そして運河になってくるの。
      交通の便があまりよくないといえばそうね」

大都市と呼ばれるオセアンにも多くのビルがあったが、この街は建物と建物の間隔が非常に狭く、凝縮したような形になっている。
それが生み出す圧迫感と存在感は、比類なきものだ。

ノハ;゚⊿゚)「迷子になったら一発だな、これは」

ζ(゚ー゚*ζ「自警団――“ゲートウォッチ”――が街中にいるから、万が一の時には案内してもらえるわ。
      運よくキサラギの担当者だったら観光案内もできるわ」

ノパ⊿゚)「どういうこっちゃ?
    キサラギが自警団の担当、ってわけでもないのか」

ζ(゚ー゚*ζ「最古参のギルドからそれぞれ推薦した人間で構成されているの。
       だからどこのギルドのゲートウォッチなのか、それはもう運次第ね。
       逆にリマータならいい飲食店を教えてくれるし、ヌルポガなら身を守るいい護衛になるわ」

デレシアはペンの蓋を取り、白紙にサラサラとギルドの名前を書き綴った。
そこに矢印を付け加え、更に、それぞれが取り扱う物についても書き加えた。

ζ(゚ー゚*ζ「細かいのは把握しきれないぐらいあるから、最古参のこれだけ覚えておけば大丈夫よ」

法律や規律を取り締まる“キュヒロ”と協力し、護衛や逮捕、処罰の実行をする“フォクシー”。
賭博、風俗などの取り仕切りを行う“スネッグ”は勿論、この街に店を構えようとする者に場所の提供をする不動産担当の“ビットピア”。
金融関係の“ビーマル”と蜜月の関係にある、揺篭から墓場に至るまでに関わるあらゆる保険、福祉を担当する“アゲサーゲ”。
棺桶の修復から銃弾の製造、果てはその販売まで武器全般を取り仕切る“ヌルポガ”と同様に、嗜好品を始めとした商品の取り扱いと輸出入に強い影響力を持つ“バボンハウス”。

飲食店関係の新規参入や食品の仕入れなどを指揮する“リマータ”に加入している店は、その特徴の一切合切を観光や交通を一手に担う“キサラギ”に捕捉され、ガイドの対象にされる。
これらはあくまでも最古参のギルドであり、それ以外の商品や権利を取り扱うギルドは多数存在する。

(∪´ω`)「おー」

デレシアの書いた文字を食い入るようにブーンが見つめる。
ギルドの構造は相互補助を基本としており、どれか一つだけでは独立できないようになっている。
それらをまとめる不可侵の戒律が“ギルドパクト”であり、キサラギが崩そうとしているルールである。

(∪´ω`)「数が多いですお……」

201名無しさん:2019/08/05(月) 07:20:48 ID:N8Hjim3Y0
ζ(゚ー゚*ζ「そうね、でもあまりギルドの名前を覚える必要はないわよ。
      あくまでも街を動かすときに便利な形態ってだけだから、観光客には無縁に近いわ」

ノパ⊿゚)「これだけ厄介な仕組みをまとめる市長はどんな人間なんだ?」

ζ(゚ー゚*ζ「それぞれのギルドの代表者、ギルドマスターと呼ばれる人が集まって政をするの。
      だから正確なことを言えば市長は十人いる、ってことになるわね。
      これもギルドパクトの一つね」

(∪´ω`)「ギルドパクトって、すごいんですおね」

ノパ⊿゚)「確かに、拘束力が凄いよな。
    破ろうとしたギルドってのは、今回が初めてなのか?」

ζ(゚ー゚*ζ「締結してから落ち着くまでの間に小規模なのは何度かあったけど、私の知る限り、今回みたいに古参のギルドが大々的に動いたのは一回だけあったわね。
       ただ喧嘩の売り方と相手が悪くて、そのギルドは解体されてフォクシーに吸収されたはずよ」

反旗を翻そうとしたのは、処罰専門のギルドに属する一部の人間達だった。
彼らは超法規的な存在であることをラヴニカ全体に認めさせることで、より幅広い処罰を実行できる権限を求めた。
それが私的な罰にまで発展することが明らかであったため、他のギルドマスター達はそれを否決した。
否決されたその場で当時のギルドマスターは脅しの言葉を口にし、そして、ギルドは解体が決定された。

あくまでもギルドの解体であり、それに属していた企業などが潰れることはなかったが、ラヴニカの中でギルドに所属していないことによる不利益の大きさは看過できない。
そのため、属していた団体や企業はフォクシーへとギルドを変更することになった。
不利益を被った存在がいるとしたら、その時に災いの言葉を口にしたギルドマスターとその取り巻きだけだった。

ζ(゚ー゚*ζ「街としては今回の一件は寝耳に水だったでしょうね。
      なーんか作為を感じるのよね、部外者の」

ノパ⊿゚)「まぁ、武器屋が言い出すんならまだしも観光業の連中が言い出すってのはなぁ。
    何かそれだけでかい儲け話があったのかもしれねぇな」

『まもなく、ラヴニカ駅。 ラヴニカ駅に到着いたします。
ラヴニカ駅でお降りの方は、お忘れ物などございませんよう、お気を付けください』

202名無しさん:2019/08/05(月) 07:21:14 ID:N8Hjim3Y0
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..{二二二二|二二二二二 |ニニニ|ニ|::::::::|二二二二二二|:|::::          ラヴニカ駅
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放送が入り、デレシアたちの正面に白いドーム状の駅が見えてきた。
街の中央に位置する評議会堂の足元に作られたラヴニカ駅は、エライジャクレイグの車輌だけでなく、ラヴニカ内を移動するための鉄道のために作られたものだ。
故にその駅は巨大で、上下に入り組んだ構造をしている。
豪雪地帯や悪天候に見舞われやすい街での採用が広まっている地下鉄をいち早く取り入れ、蜘蛛の巣のように街の中に短距離鉄道が張り巡らされている。

ドーム内はオレンジ色の明かりに薄らと照らされ、濃い影が落ちていた。
線路を跨ぐように設置された足場やそこを歩く人影が、不気味なシルエットとなって映っている。
姿は見えてもその詳細が見えない状態は、まるで黄昏時のそれだ。
漂う空気に、ヒートは眉を顰めた。

ノパ⊿゚)「暗いな…… 節電中ってわけじゃなさそうだな」

ラヴニカの街の明かりを見る限り、節電をしている雰囲気ではなかった。
つまり、これはドームを管理する人間が意図的に行っていること。
サプライズを用意しているにしては、やることが雑だ。

ζ(゚、゚*ζ「……」

(∪;´ω`)「……ぉ。
      なんか、きらいな感じがしますお」

ブーンはデレシアとは異なる観点から移譲を察知したようだ。

ノパ⊿゚)「嫌いな感じってぇと、あんまり穏やかな空気じゃないな」

ζ(゚、゚*ζ「間違いなく、歓迎ムードじゃないわね」

スノー・ピアサーが停車すると同時に、車内放送が入った。

203名無しさん:2019/08/05(月) 07:22:49 ID:N8Hjim3Y0
『お客様にお伝えいたします。
現在ラヴニカ駅に到着いたしましたが、トラブルが発生したため――』

放送の途中で、外から機械によって拡大された男の野太い声が響いた。

『遠路はるばるようこそ、ラヴニカへ。
ただし、この街に足を踏み入れることはできない。
この駅はキサラギギルドの管理下にあり、今現在、我々の方針として諸君らを受け入れることは出来ない。
列車から一歩でも踏み出せば、即拘束させてもらう。

規定により、諸君らは明朝この場を立ち去ってもらう。
こちらから諸君らに危害を加えるつもりは一切ない。
これは街の問題であり、諸君らを巻き込むことは有りえないと断言しておく。
ラヴニカに用のある人間には申し訳ないが、街の問題が解決するまでは訪問を延期してもらう』

その高圧的な声は車輛全体に向けて降り注ぐように告げられ、その言葉の真意を全員が理解するよりも早く防弾チョッキを着た男たちが列車を囲むようにして小走りに現れた。
手にはMP7短機関銃を持ち、眼はスノー・ピアサーに向けられている。
外装の外側から内側は一切目視することが出来ないため、彼らが乗客を見ることはない。
そして、ほぼ一瞬の内にその映像は車掌の判断によって強制的に遮断された。

ζ(゚、゚*ζ「あら」

ギルド同士の揉め事が外部にまで波及したのは、恐らくこれが初めてのことだろう。
何せ、巻き込む利点が何もないからだ。
となると、この暴挙は何かしらの目的があって行っているものであり、こうして言いなりになっているのは彼らの思惑に沿うことになる。

ノパー゚)「着いて早々これかよ。
     一応聞いておくけど、どうする?」

ヒートが答えを知ったうえであえてその質問をしたことは、彼女の笑顔が物語っている。
勿論、デレシアたちの目的地はこの街であるため、ここで降りる以外の選択はない。
自然災害ではなく人の手によって道が凍てつくというのなら、デレシアが躊躇うことはない。

ζ(゚ー゚*ζ「無論、降りるわよ」

――道が凍り付いたのであれば、踏み砕いて進めばいいのだ。

204名無しさん:2019/08/05(月) 07:23:15 ID:N8Hjim3Y0
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込ヘ,| | | | | | | | | | | |i::/ | :|//.::| | | \\\ ,、<ニ=-    _ = ̄___   | |--¬¨¨| | |¨¨¬--| |
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Ammo for Rerail!!編
第五章【Frozen road-凍てついた道-】 了
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205名無しさん:2019/08/05(月) 07:23:35 ID:N8Hjim3Y0
これにて今回のお話はお終いです

質問、指摘、感想などあれば幸いです

206名無しさん:2019/08/05(月) 18:06:34 ID:XAAsI1QA0
乙乙。

待ちに待ったラヴニカ編。敵も打って出てくるだろうけど、デレシアは赤子の手をひねるようにあしらうんだろうな。
そろそろ、ダブルギコの片割れのギコ・カスケードレンジの姿がみたい。

誤字報告>>202

× 異なる観点からの移譲〜

〇異なる観点からの異常〜

207名無しさん:2019/08/06(火) 08:49:02 ID:n63m/q0g0
おつ

208名無しさん:2019/08/07(水) 23:00:53 ID:3XzalRXU0

トラギコの足はもうだいぶ良くなってるんだな

209名無しさん:2019/08/08(木) 17:16:11 ID:B/q/1y5w0
>>206
ぎえー!ありがとうございます!

>>.208
走り回れる程度には元気になっております
曰く、怪我をした時には肉とワインがいいんだとか

210名無しさん:2019/09/07(土) 21:30:39 ID:MJ/HBSng0
明日の夜VIPでお会いしましょう

211名無しさん:2019/09/08(日) 12:06:21 ID:ueor4n4U0
キターーーーー待ってた!!

212名無しさん:2019/09/08(日) 15:16:46 ID:7MwcHikw0
休日の楽しみになってます…!

213名無しさん:2019/09/09(月) 12:17:07 ID:8iQOqpxg0
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ラヴニカには二つの顔がある。
職人たちが集まる、ギルドの都という顔。
世界の市場を動かす、商人の都という顔。
どちらが表で裏なのかは、訪れる人間によって異なる。

                         ――企業人向け雑誌『エゴノミー』1月号より抜粋

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August 20th PM07:16

事態は緊急を要するものだったが、すぐに対応したのは双子の妹、ジャック・ジュノだった。
彼女はすぐに乗客名簿を確認し、ラヴニカで下車する客の人数を調べた。
果たして何人に影響を与え、どれだけの時間を割くことになるのかを計算しなければならない。
目的地で降りられない客を連れて次の街に向かうことも、ここで降りられるように居座って交渉することも出来ない。

定刻通りに全てを進めるには、どうあってもこの街で対象者を降ろし、本来の出発予定時間である明日の朝七時までに全てを完了させなければならない。
時間を捻出したとしても、精々五分程度だ。
しかもそれは彼女の計算上の話であり、キサラギギルドが話を受け入れなければ一分たりとも引き延ばせないだろう。
リストの人間を調べ終え、ジュノは米神に親指を押し当てた。

豸゚ ヮ゚)「十四人も……」

一人ごとに対して謝罪をしている時間はあるが、それでは説明をする際に時間を悪戯に消費してしまう。
状況を打破する時間を稼ぐには、対象になる客を一か所に集め、説明と謝罪をする必要があった。
すぐに内線用の受話器に手を伸ばした時、空電の直後に兄の声が聞こえた。

(^ム^)『やぁ、ジュノ。
    対象者を集める場所だけど、こっちで指定してしまってもいいかな?
    後部機関室、つまりは君のいる車輌なんだが』

双子故の思考の相似、もしくは伝播は稀に起こることだった。
片方の考えていることがまるで自分のことのようであるかのように思い浮かび、例え連絡手段がなくても連携を取ることが出来る。
何か確信めいたものがあるわけではないが、自分と最もよく似た存在だからこそある信頼がそれを可能にしているのだろう。
故に、彼がこちらの思考を察知して提案をしてきても、彼女は驚くことはなかった。

豸゚ ヮ゚)「それでいこう、ジュノ。
     三分後に私から説明をするけど、何か補足的なことは必要かい?」

(^ム^)『いや、君に任せるよ。
    その代わりといっては何だけど、対象の乗客を誘導する人間を指定させてもらいたい。
    ティングル・ポーツマス・ポールスミス、彼女に一任したいんだ』

豸゚ ヮ゚)「ティムに? 彼女、ボーナスでも出さないと流石に働きづめだな。
    勿論、彼女さえよければぜひ任せたい」

214名無しさん:2019/09/09(月) 12:17:27 ID:8iQOqpxg0
(^ム^)『あぁ、それは私からも言っておくよ。
    その間に私は何か出来ることがないか、動いてみる』

豸゚ ヮ゚)「頼んだ。 嗚呼、自分が原因でない事に対する謝罪と言うのはどうにも気が重い」

(^ム^)『そうだな。 だが、謝罪と言うのはそういうものさ』

通信を終え、ジュノは溜息の代わりに勢いよく立ち上がった。
三分で十四人に対してこの場で謝罪が行われるのに相応しい空間にしておかなければならない。
後部機関室は会議などで使われることが想定されて設計されており、彼女が普段いる管制室とは別に広い応接室がある。
簡易的な机のついた椅子二十脚と、回転式のホワイトボードが一枚あり、最低限の応接と会議が可能だった。

そこを執務室代わりに使ってもよいとされているが、彼女はその部屋を使おうとはしなかった。
自分の空間を広げればそれだけ時間をかける作業が増え、効率が悪くなる。
彼女の仕事場は常に整理整頓が心掛けられており、書類探しなどで無駄な時間を浪費することがないように気を遣っていた。
人数分のカフェインレスコーヒーを淹れ、紙カップを用意した時丁度、扉がノックされた。

豸゚ ヮ゚)「どうぞ」

(*‘ω‘ *)『入りますっぽ!!』

威勢のいい声を上げて扉を開いたのは、誘導係のティムだった。
開いた状態で扉がロックされ、ティムが恭しく一礼する。
その後、彼女が連れてきた客たちが応接室に入ってきた。
並べられた椅子に腰かけ、十五脚用意した椅子が全て埋まった。

それは奇妙なことだった。
念のために用意された一脚は、十四という数字が間違っている、もしくは別の客がいる可能性があった。
だがその疑問を顔に浮かべることなく、ジュノはまず深々と首を垂れた。

豸゚ ヮ゚)「度重なるご迷惑、ご心配をここにお詫びいたします」

彼女が謝罪の言葉を口にした時、最前列に座る恰幅のいい男が眼鏡を指で持ち上げ、大きな声を上げた。

|/-O-O-ヽ|「ふざけるな!! あんたがたの失点がどこにあるんだ!!
       あれだけの災害でも定刻通りの運航ができたのに、あんたが謝る必要はないだろ!!」

その声に対して、他の客たちも口々にエライジャクレイグ側に非がないことを述べた。
これほど心強い展開になることを、彼女は想像もしていなかった。
嬉しさのあまり目頭が熱くなるのを、どうにか堪える。

d-lニHニl-b「それよりも、今はこの状況が知りたいですね。
       ラヴニカで起きている揉め事、誰か知っている人は?」

先ほどの男の隣にいたもう一人の男が周囲に問いかけると、一人の男が静かに立ち上がった。
身なりの整った男性は滑らかな口調で言葉を紡ぐ。

( <●><●>)「ギルドパクトに関する意見の相違、と私は聞いています。
       キサラギギルドから何か話はあったのですか?」

215名無しさん:2019/09/09(月) 12:17:50 ID:8iQOqpxg0
豸゚ ヮ゚)「いえ、この駅に入った時にいきなり緊急停止命令の指示があって、後はあのような話が」

当初の予想とは異なり、この場は謝罪の空間ではなく現状の打破をする場へと変化をしている。
ジュノはこれを好機と捉え、乗客たちと共にこの状況をどのように切り抜けるのかを模索することにした。
そのためには情報の出し惜しみはするべきではない。
こちらの置かれている状況を正確に共有し、理解しなければ打破は望めない。

( <●><●>)「つまり、状況としては未然に防ぐことは勿論、予期することも不可能だったわけですね。
        となると、これは間違いなくキサラギギルドの独断行動で、他のギルドは関わっていないのですね」

豸゚ ヮ゚)「はい、その通りです。
     ただ厄介なのが、交通を取り仕切っているのはキサラギギルドであるため、その決定を覆すのは外部の人間では出来ないという点です。
     ギルドパクトを確認してみましたが、ギルドで決められたことに関しては基本的に他のギルドは不介入とされています」

ギルドとは即ち、同業の商人による組合。
ギルド内での取り決めは、そのギルドに組している者たちにとっては絶対の掟だ。
それを他業の人間達に変更など出来ようはずはない。
ただし、街全体の利益を損なうような取り決めの場合は他のギルドマスター達の意見のもとに変更することが可能である。

特例としての前例がいくつか記録に残されており、不可能ではないことはないが、時間がかかるのは間違いない。

( <●><●>)「ふぅむ……
       他のギルドの協力を得るしか手立てはない、そして今は時間もない、ということですね」

分かってはいたことだが、改めて男性の言葉で全員がその現実を再認識し、沈黙が流れた。
打破し得ない状況を前に、この場にいる人間は耐え忍び、そして目的を達成できないことを静観するしかないと納得せざるをえない。
そう、誰もが思っていた。
涼やかな鈴の音を彷彿とさせる女性の声で奏でられた、その言葉が聞こえるまでは。

ζ(゚ー゚*ζ「なら、問題は何もないじゃない。
      交通以外の手段でラヴニカに行けばいいだけよ」

金細工のような豪奢な金髪、そして蒼穹を思わせる澄み渡った碧眼。
同性のジュノは一瞬、彼女の声と瞳に吸い込まれるような錯覚を抱く、我を忘れた。

ζ(゚ー゚*ζ「輸出入に関して、そしてラヴニカ全体との取り決めにはキサラギは介入できないんでしょう?」

豸゚ ヮ゚)「え、えぇ、仰る通りです」

輸出入について大きな力を持っているのはバボンハウスギルドであり、キサラギギルドに対してそうであるように、他のギルドは介入が出来ない。
街の決定事項を破るということは、この街の居場所を失うことを意味し、ギルドは勿論だがそれを扇動した店は街から追放される。

ζ(゚ー゚*ζ「輸入品に紛れ込ませて降りる人を街に入れれば問題はないわ。
      補給に関しても、キサラギに禁止する権限はないはずよ」

その女性の話に、先ほどの男性が立ったまま頷いた。

216名無しさん:2019/09/09(月) 12:18:31 ID:8iQOqpxg0
( <●><●>)「確かに、彼らは乗客を外に降ろさせないという目的がありますが、輸入品等については規制対象には指定できません。
       この列車の水や食料の補給、廃棄物の引き取りについても同様です。
       ですが、どうやって降ろすのですか?
       輸入品にもよりますが、大きなものがなければ偽装はまず無理ですよ」

補足をするために、ジュノは一つの情報を口外することにした。
これについては緊急事態であるため、輸送に関する契約書に書かれている範囲内に収まる。

豸゚ ヮ゚)「輸入品はシャルラからの衣類が少量だけです。
     段ボールに入り切る程度なので、人が隠れるのは無理です。
     精々、子供一人です」

その答えを予期していたかのように、女性がすぐに問いを投げかけた。

ζ(゚ー゚*ζ「ねぇ、車掌さん。
      スノー・ピアサーに棺桶は何を何機積んであるのかしら?」

豸゚ ヮ゚)「作業用のジョン・ドゥが六機ですが……」

恐らく女性は、崩落したトンネルでこちらが強化外骨格を使用していることを知ったのだろう。
そして作業となると、確実に一機以上の物があると予測したに違いない。
果たしてただの予測なのか、それとも別の情報なのかはこの際些細な問題だった。

ζ(゚ー゚*ζ「コンテナからジョン・ドゥを抜いて、そこに人を入れればいいじゃない。
      ジョン・ドゥ用のコンテナは別の街で仕入れれば済む話でしょう。
      ヌルポガに仕入れる予定の品がある、って言えば管轄はバボンハウスとヌルポガになるわ。
      流石にそれを止めたら、キサラギは他のギルドの商売に対して介入したことになって、すぐに大きな問題になるはずよ。

      今揉めているんなら、余計な火種は生みたくないと思うのが自然な反応だと思うんだけど、どうかしら」

|/-O-O-ヽ|「一つのコンテナに入る人間の数を計算してみましたが、一つにつき大人二人。
       小柄の女性なら三人が限界ですね」

d-lニHニl-b「つまり、最大でも十二から十三人。
        しかしこの場にいるには十五人。
        全員が行くのは不可能です」

ζ(゚ー゚*ζ「私のグループは別の方法で行くから、そこは計算から外してちょうだい。
      十二人、丁度入り切るはずね」

豸゚ ヮ゚)「別の方法、についてお聞きしてもいいですか?」

コンテナに隠れて脱出するという方法は理にかなっているが、それ以上の方法がジュノには思い浮かばなかった。
女性は笑顔のまま、あっさりととんでもないことを答えた。

ζ(゚ー゚*ζ「万が一、キサラギが勘付かないとも限らないでしょう?
      だから、陽動をするわ」

豸゚ ヮ゚)「お客様を危険にさらすことはできません。
     せっかくのご提案ですが――」

217名無しさん:2019/09/09(月) 12:19:32 ID:8iQOqpxg0
言葉の途中で、男がそれを遮った。

( <●><●>)「陽動の方法にもよるのでは?」

ζ(゚ー゚*ζ「それを話したら陽動にならないでしょう。
      あくまでも、私たちが勝手に動くだけよ」

豸゚ ヮ゚)「私たち?」

その時、ジュノは用意されていた席から二人、人がいなくなっていることに気が付いた。
いつの間に消えたのか全く知覚できなかったが、その二人が彼女の発言にあった“グループ”ということなのだろう。

ζ(゚ー゚*ζ「そう。 私たち三人はここで降りるわ。
      私の提案はあくまでも他の人たちが降りる時に使える手段。
      それをしようがしまいが、ここで私たちが降りることに変わりはないわ。
      ただ、私たちの降り方が陽動になるから教えてあげただけよ」

決して力強い語気で言った言葉ではなかったが、女性のその言葉には有無を言わせない何かがあった。
それは瞳の奥に浮かんだ揺るがぬ決意を、ジュノが見てしまったからなのかもしれない。

(*‘ω‘ *)「……車掌、この提案が今は最適だと思いますっぽ。
      動くなら早めでないと、輸出入について不審がられる可能性があるっぽ」

d-lニHニl-b「私は賛成だ」

|/-O-O-ヽ|「私も」

次々に賛同の声が挙がり、結局、その場にいた全員が女性の提案を支持したのだ。
こうなってしまえば、後は動くしかない。
ティムの言う通り、これは時間が経てばそれだけ怪しくなる。
本当に輸出入に関しての問題が発生するのであれば、連絡はすぐさま行わなければならない。

そして陽動による助力があれば、本命から相手の目をそらすことが出来る。
悩んでいる時間はない。
様々な観点で計画を練るだけの時間がない以上、今優先するべきことだけを念頭に置いた作戦を展開するしかない。
念には念を入れ、この作戦に彼女なりの保険をかけることを心に決めた。

瞼を降ろし、僅かに思考を巡らせる。
不可能ではない。
全ては可能の範囲内。

218名無しさん:2019/09/09(月) 12:21:05 ID:8iQOqpxg0
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後は兄が賛成してくれるかどうかだが、彼女にはその確信があった。

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               i!{  i!圭仞 キ|::ヽ                /: |{ {圭圭i! キi! ./
             マ、 ` ¨ ´ リ                    キ ゞ≠゙′,リ /
              ㍉、__ ノ                     マ.、_弋 ′
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August 20th PM07:28
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豸゚ ヮ゚)「……関係各所に連絡をいたします。
     その間に皆様でコンテナに入ることのできるよう、ペアを決めておいていただいてもよろしいですか?
     もちろん、ラウンジ車輌での飲食費については、こちらが負担いたしますので。
     時計をお持ちの方は、現在時刻をご確認ください。

     開始時刻は、八時ちょうどにいたします。
     どうか、よろしくお願いいたします」

――残り三十分弱。
やれるだけのことをやる。
それが、今の彼女たちにとって一番の行動に違いなかった。

219名無しさん:2019/09/09(月) 12:22:54 ID:8iQOqpxg0
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(し' .) | | | | | | | | | | |/| |  |//| | | | | | | | \/ニ=-' ̄|l  _ = ̄_ ‐' ̄ |   | |\\  | | |  //| |
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Ammo for Rerail!!編
第六章【ancient rules -古の規則-】

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August 20th PM08:00

その放送は突如として、そして、八時ちょうどに行われた。
個人が持つ無線機に対してではなく、車輛に備わったスピーカーから駅構内に向けての放送。
それは男の声をしており、状況的に、車掌のジャック・ジュノであると推察された。

『キサラギギルドの代表者に通達いたします。
ラヴニカとエライジャクレイグにおいて交わされた契約にある、補給措置の実施を速やかに行うことを要求いたします。
この契約は街と街の間で交わされた物であり、貴ギルドの独断で変更、停止できるものではありません。
一分以内に回答をいただけない場合、それは契約違反とみなし、罰則金及び外部団体による制裁を実施いたします』

現場を訪れていたキサラギのギルドマスター、ハスミ・トロスターニ・ミームは逡巡し、答えを出した。
一分と経たずに回答を出せたのは、好感度を下げないようにするための行動指針がすでに決まっていたからだ。
彼もまた、拡声器を使って対応した。

(^J^)「その要求は正当なものであり、我々が妨害することはない。
    補給の要望を規定通り伝達してもらえれば、すぐにでも対応する」

『では伝達係を一人、先頭機関室に送っていただきたい。
それと、輸出入の作業も同時に行ってもらいます』

(^J^)「こちらでは今のところ、輸出品については預かっていない。
   そちらからの輸入品は何だ?」

『ヌルポガへ強化外骨格、そしてバボンハウスへ衣類を段ボール一箱。
これは先方の取引における信頼関係の問題に発展するため、早急な対応を求めます』

220名無しさん:2019/09/09(月) 12:23:23 ID:8iQOqpxg0
(^J^)「その話は――」

『企業間の取引について、貴ギルドは介入する権利を持たないはずです。
対応できないようであれば、この件について各ギルドへの連絡を行い、対処を依頼します』

ハスミは一瞬答えに迷った。
現在、ラヴニカ内は火薬庫のような状況になっている。
キサラギギルドが代表として小ギルドを率いて、ギルドパクトを変えようとしているのだ。
他ギルドとの摩擦を今以上に強くするのは、まだ時期ではない。

十分に熟したところで爆ぜなければ、彼らの努力が水泡に帰す。
それに、ギルドパクトを変えた後に悪評が残ってしまえばそれは街全体の不利益につながり、後の大きな代償となってしまう。
後援者との相談をする時間もない今、彼が下す最善の答えは一つだった。

(^J^)「分かった、すぐに対応する。
   駅の外に運び出し、それからバボンハウスを経由して納品を行う。
   他に何か要望は?」

『速やかにして適切な対応、それだけが要望です。
全ての作業は八時半までに完了させていただきたい。
ここでの下車が出来ないのであれば、補給後、ここから立ち去らせてもらいます』

(^J^)「いいだろう、我々は外部の人間に危害や不利益を被らせるのは本意ではない。
   事態が収束したら、再度訪問されることを願う」

直後、貨物車輌と思わしき車輌の白い外装が翼の様に上向きに開き、鋼鉄製コンテナの扉が姿を現した。
輸送中の事故などから中を守る為に作られたというそのコンテナは、戦車砲の直撃にさえ耐え、中の貨物は無傷でいられるという。
そのコンテナや外装も含め、スノー・ピアサーに用いられている多くの部品がラヴニカからの輸入品であることは、ギルドマスターであれば誰もが知っている。
コンテナの扉が静かに横に開く。

駅に待機させている部下や同業者たちが駆け付け、すぐに補給と輸入品の受け取りを行う。
武装をしている部下たちは列車から離れ、作業を見守った。
作業は迅速に行われ、棺桶はフォークリフトに積んで駅から運び出された。
少しでも不満を溜めないよう、すかさずその報告を行う。

(^J^)「棺桶七機と段ボール一箱は、たった今納品先に向かった。
   後は補給品だけだ」

だが返答はなかった。
立腹しているのか、それとも答える必要はないと判断したのか。
いずれにしてもこちらは伝えるべきことを伝えたため、問題はない。
残り五分になったところで、作業終了の報告があった。

川_ゝ川「補給品、交換終了いたしました」

スノー・ピアサーはその外装を元の状態に戻し始め、出発に向けて準備を進めている。

(^J^)「よし。 後は――」

221名無しさん:2019/09/09(月) 12:24:19 ID:8iQOqpxg0
その時だった。
聞いたことのない、低い唸り声のようなものが聞こえた気がした。

(^J^)「……何だ、今の音は」

川_ゝ川「駆動音とかですかね」

確かに、スノー・ピアサーから聞こえている音が大きくなり、今にも動き出しそうな状態になっている。
駅中にその音が響き渡る中、ハスミはどうしても違和感を拭いきれなかった。
汽笛が鳴らされ、スノー・ピアサーが前進を始める。

(^J^)「気のせいか?」

ところが、何の前触れもなしに、車輌の一つの扉が開いた。
列車が動いている中で扉が開くのは、明らかな問題である。

(;^J^)「おっ、おい!! 扉が開いているぞ!!」

拡声器を使って伝えるが、スノー・ピアサーは止まる様子を見せない。
そして次の瞬間、先ほど聞いた音の正体が目の眩む光と同時に姿を現した。

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(;^J^)「ば、バイクだと?!」

222名無しさん:2019/09/09(月) 12:24:48 ID:8iQOqpxg0
三眼のライトを輝かせる大型のバイクが扉から飛び出したかと思うと、光の尾を残して凄まじい速度で彼の横を通り過ぎた。
それと同時にスノー・ピアサーの扉が閉まり、加速を始める。
明らかに連携された動きだったが、理由を考えるよりも先に彼はこの事態の収束を急いだ。

(;^J^)「いかん、ゲートを封鎖しろ!!」

最後の一両が駅から消えた時に発された彼の判断は適切だった。
飛び出してきたバイクとスノー・ピアサーの扉が開いたことには、因果関係がある。
より動きの緩慢で人質にし得る人間の数が多い列車を止めて、その真意を問いたださなければならない。
不正な侵入や犯罪者の逃亡を防ぐために、ラヴニカ市街の入り口には線路を封鎖するための特殊合金製の扉がある。

その扉がある限り、スノー・ピアサーはラヴニカから出ることは出来ないのだ。
しかし、彼の予想は部下の泣きそうな声によって裏切られた。

川_ゝ川「ほ、報告です!!
     ゲートを突破されました!!」

(;^J^)「なっ……そうか、高周波振動っ……!!」

巨大な高周波振動発生装置を備えたあの列車は、速度が出ていなかったとしても、巨大な攻城兵器として運用できるレベルだ。
こちらが用意した特殊合金の扉は、それへの対策を行っていない物であり、ましてやあれだけの質量と速度の物体が突撃してくることは想定していなかった。

(;^J^)「バイクはどうした!!」

答えが返ってくる前に、彼はその答えを知ってしまった。
遠ざかるエンジン音が、何よりも雄弁に語っているのだ――

         Gatecrash
川_ゝ川「し、侵入されました!!」

(#^J^)「追えっ!! 追って捕まえろ!!
    殺してでも捕まえろ!!」

――その命令は、同盟関係にある地下ギルドの人間へと速やかに伝えられた。

223名無しさん:2019/09/09(月) 12:25:31 ID:8iQOqpxg0
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  / 二二二二二二二二二二二二二二二、ヽ` ‐- 、 | |               |
  / /                      ヾi´ ̄`i i | |               |
 ,l l                        l l   l l |               |
 l l                            l l_.  l l |               |
..l l                              l i///l  l l |               |
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,l l                           l ゙ー;;‐' ,;- i |               |
i ,`‐- _ /二二二二_ /二二二_ -‐―'  /.     l |               |
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ト 、  l                   l   ,ィ'i l    |;| l |               |
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August 20th PM08:30 / ラヴニカ市街
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フォークリフトから貨物トラックに積み替えられた七つのコンテナは、街で定められた速度で順調に進んでいた。
その後ろから、一台の青いセダンが急接近し、クラクションを鳴らしながらライトを瞬かせた。
ドライバーは怪訝そうにミラーを見て、それが自分と同じキサラギギルドに所属する人間であることに気づいて速度を落とした。
すぐにセダンはトラックの横に並び、窓を開けて運転席の男が大声で叫んだ。

Ie゚U゚eI「停まって積み荷の確認をするんだ!!」

訳も分からず、ドライバーは指示に従って路肩に停車させた。
セダンは荷台の後ろに並んで停まり、助手席と運転席から短機関銃を持った男が二人降りる。
ドライバーは途端に緊張し、荷台の扉の前で立ち止まった。

(●ム●)「どうしたんだ?」

ドライバーの問いに、先ほどの男が銃を構えながら答えた。

Ie゚U゚eI「さっき、スノー・ピアサーの発車と同時にゲートクラッシュが発生した。
      なら、この荷物にも何かあるはずだって、上からの命令でな」

(●ム●)「まぁ、ロクでもないことにならないといい――」

――爆発したような勢いで蝶番ごと吹き飛んだ扉が、銃を構えていた男を正面から直撃した。
男はセダンのフロントガラスに背中から突っ込んでガラス片と共に車内に倒れ込み、扉はフロントグリルに突き刺さった。
悲鳴はあったのかもしれないが、それは誰の耳にも届くことはなかった。
その代わりに車のクラクションが鳴り続け、通行人たちの注意を引いた。

〔 ゚[::|::]゚〕

224名無しさん:2019/09/09(月) 12:27:38 ID:8iQOqpxg0
白い鎧に、真紅のマスク。
異様な雰囲気の強化外骨格が蒸気を身に纏い、幽鬼めいた姿を現す。
それはジェーン・ドゥのカスタム機のように見えたが、仔細を観察するだけの余裕はなかった。
何故なら、次の瞬間にその棺桶は荷台を変形させるほどの踏み込みで目の前から消失し、もう一人の男の胸倉を掴んで人形を放るかのように軽々と投げ飛ばしてしまっていた。

「あぁぁぁぁ……!!」

悲鳴が遠くに消え、ややあって、ガラスが砕け散る音が聞こえてきた。
強化外骨格の見せつける圧倒的な暴力を前に、ドライバーは逃げることさえ忘れてしまった。
その強化外骨格はフロントグリルに突き刺さっていた扉を投げ捨て、それからセダンのエンジンを殴り壊し始めた。
ボンネットは変形し、その下にあった複数のパーツで作り上げられたエンジンは二回目の拳で原型を完全に失い、三回目の拳によって大きく二つに分解された。

エンジンから黒煙が昇ったところで破壊活動を停止し、強化外骨格のカメラがドライバーに向けられた。
無機質なカメラの奥にある何かが、男の本能に明確なメッセージを伝える。

〔 ゚[::|::]゚〕

(●ム●)「あ……あぁっ……」

殺されると本能が警告している。
この兵器は拳一つで人の頭を潰すことが出来る上に、こちらの抵抗などまるで意味がない。
無論、抵抗する気力は最初からなく、彼が生き残るためには使用者の慈悲が必要不可欠だった。
しかし今は命乞いをするだけの余裕も、それに最適な言葉さえも思い浮かばないまま立ち竦むしか出来ない。

悲鳴を聞いたからか、それとも騒音を聞いたからかは分からないが、ゲートウォッチのワゴン車がサイレンを鳴らしながら現れた。
ワゴン車のスライドドアが開き、そこから素早く現れたのは二機の強化外骨格。
その姿に、ドライバーは一瞬だけ安堵したが、依然として体は言うことを聞かない。

([∴-〓-]『動くな!!』

ソルダット二機が構えるのは、ショットガンの弾を連射することが可能なSPAS12。
装填されているのが散弾であればドライバーに危害が及ぶが、そういったことを考えて恐らくはスラッグ弾が使用されている可能性が高い。

〔 ゚[::|::]゚〕『……』

白い棺桶は無言のまま、そして、ゲートウォッチの警告を無視して彼らに向けて一歩を踏み出した。
突風が吹いたかと思うと、ソルダットが構えていたはずのSPASを白い棺桶がその手に握り、懐に現れている。
抱きかかえるように短く持ち、姿勢は低く構えられていた。

([∴-〓-]『ちっ!!』

ソルダットの装甲は分厚く、例えスラッグ弾が装填されていても装甲の薄い部分を狙われない限り大したダメージにはならない。
だがセミオートマチックの連射力と合わされば、それも絶対ではなくなる。
銃声が連続して響き渡り、ソルダットが大きくのけぞる。
バランスを崩したソルダットを情熱的に抱き寄せ、白い棺桶が瞬間的に力を込めた。

([∴-〓-]『がぁぁっ?!』

225名無しさん:2019/09/09(月) 12:28:52 ID:8iQOqpxg0
鯖折り。
その一撃は強化外骨格に包まれている人間に対して、そこまで大きなダメージにはならない。
しかし、外部に露出しているバッテリーは別だ。
例え装甲に守られていても、同じ強化外骨格による強烈な一撃は本体よりも薄い装甲を破壊し、バッテリーを損傷させるのには十分すぎる。

バッテリーを破壊するための一撃は、だがしかし、多大な隙を生んだ。
もう一機のソルダットが回し蹴りを放ち、逆に白い棺桶のバッテリーを破壊しようとした。
その一撃は奇襲として、そして逆襲として理にかなったものだった。
だが問題は、その白い棺桶にもう二本の腕があったことだ。

脚を掴んだ二本の腕はソルダットの動きを止めたが、ソルダットの使用者は冷静だった。

([∴-〓-]『やるじゃないか……だがっ!!』

その右手に握られたSPASの銃腔が白い棺桶のバッテリーに向けられ、間髪入れずに銃爪が引かれた。
銃声は二回で途切れ、次に聞こえてきたのは金属同士が激しくぶつかる音。

〔 ゚[::|::]゚〕『ふっ!!』

四本の腕が鮮やかな動きでソルダットの手からSPASを奪い取り、折り曲げ、掌底を胸部に放った。
それを受け、ソルダットの機体が僅かに宙に浮かぶ。

([∴-〓-]『ぬんっ!!』

が、踏みとどまってすかさず反撃を試みる。
四本の手を相手にすることが分かっていても、まるで怯む様子を見せなかった。
構えを取ったソルダットだったが、白い棺桶はそこで追撃をせず、一歩後退して同じように構えた。
同じ、二本の腕で。

〔 ゚[::|::]゚〕『……』

([∴-〓-]『……はっ、面白い奴だ』

そしてどちらともなく踏み出し、拳を繰り出し、迎撃するために拳を払い除け、再び拳を振るう。
彼らが行っているのはただのボクシングではない。
一撃が砲弾の直撃に相当する打撃であり、まともに頭部に受ければ如何に堅牢な装甲に守られていても、死は免れられない。
決着は、ほんの数秒後に訪れた。

([∴-〓-]『ぬぐっおおっ?!』

一瞬の隙を突いて放たれた腹部へのアッパーカットによってソルダットの巨体が持ち上がったかと思うと、背中から地面に叩きつけられた。
背面にあるバッテリーケースが自重とアスファルトの衝突により破損し、爆発を起こした。
衝撃で浮かぶも、その爆風はソルダットによってほとんど封じ込められた為に、白い棺桶は無傷のままだ。
二機の強化外骨格が僅か二分で戦闘不能に陥り、白い棺桶は悠々とした足取りでトラックに歩み寄った。

〔 ゚[::|::]゚〕

226名無しさん:2019/09/09(月) 12:30:18 ID:8iQOqpxg0
圧倒的な暴力の化身である白い装甲が目の前に迫る。
風圧が顔を撫で、心臓を鷲掴みにするようだ。
指一本動かすことも出来ず掠れた声を口から漏らすドライバーの横を通り過ぎ、走り去っても彼はしばらくの間放心状態になっていた。
遠くで銃声とクラクションが鳴り響いていることに気づく余裕は、微塵も残されていなかった。

失禁していることに気づいたのは、彼がゲートウォッチに保護されてからのことであった。

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August 20th PM08:30 / ラヴニカ市街
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“定刻通り”、デレシア達はスノー・ピアサーからラヴニカへと無事に入ることが出来た。
強化外骨格が入ったコンテナをサイドカーのように車体の左側に取り付けたアイディール――“ディ”――は久しぶりの疾走を喜ぶように夜風を切り、入り組んだ街の路地を走り抜ける。
ハンドルを握るデレシアは、この街の地形についてよく知っており、目的地までの道のりを理解していた。
フルフェイスのヘルメットを被った三人を乗せてもなおディのエンジンは力強く脈打ち、後方から迫ってくる五台のバイクを完全に凌駕した走りを見せている。

段差の多い市街を走るため追手のバイクはモタードタイプだったが、ディは地形に合わせて車高やサスペンションを自動で調整する機能が備わっており、車種の違いは問題になっていなかった。
建物の密度が高く、整備された道路ではあるが、車が交差するだけの幅しかなく、路上駐車されているバンやトラックがデレシアの行く手を阻んでいる。
デレシアはそれをまるで意に介さずアクセルを捻り、速度を落とさずに走った。
しかし追手はこの街に住んでいるだけあり、デレシアの速度と運転技術に後れを取るまいと、絶えず視界にディを収めていた。

交差点で引き離そうと、デレシアは速度をほとんど落とさない状態でスライドし、左折した。
数秒遅れてモタードが同じ道を選ぶが、その内一台は対向車線にはみ出してトラックに突っ込んだ。
続けてデレシアは、裏路地に通じる細い道に向けて直角に侵入する。
相手から見れば逃げ道を自ら狭めるような自爆行為だが、デレシアの狙いは相手が直線状に並んでくれることだった。

車一台分の幅しかない路地を猛スピードで駆けつつ、ミラーを見て相手の出方をうかがう。
狙った通りにバイクが現れ、ハイビームのライトがディを照らした。
ヒート・オロラ・レッドウィングもまた、この時を待っていた。

ノパ⊿゚)「ストライクだ」

デレシアから借り受けた水平二連式ソウド・オフ・ショットガンの銃腔が火を噴き、二発の散弾がバイクと運転手を襲った。
ヘルメットをしている人間を殺傷するには距離が開きすぎており、振動する中で正確な射撃は出来ない。
ましてやヒートは利き手が満足に使えない状態であり、狙いすました一発は平常時でも困難だ。
だが散弾であれば正確に狙う必要はなく、そうしなくても相手を足止めするだけの十分な制圧力がある。

227名無しさん:2019/09/09(月) 12:32:20 ID:8iQOqpxg0
銃弾で彼らを殺す必要はなく、彼女たちは追手をまければそれでいいのだ。
銃で撃たれれば、その威力を知る人間は反射的に身を守ろうと防御行動に出る。
運転手であれば急ブレーキ、生身の人間であれば急所を覆い隠すのは生物的に正しい反応だ。
そして、デレシアとヒートの読み通りに急ブレーキをかけたバイクに後続車が激突し、転倒した。

それらを乗り越えて二台、距離を開けて現れる。
ショットガンをデレシアの腰のホルスターに戻し、ヒートはデレシアの耳元に顔を寄せて大きな声を出した。

ノパ⊿゚)「後二台来るぞ!!」

ζ(゚ー゚*ζ「あらあら、それじゃあもう少し難易度を上げてもいいかしらね」

せっかくのモタードなのだから、エンデューロ――不整地を走るバイクのレース――になってもいいだろう。
列車旅で体があまり動かせなかったデレシアはディの中にある地図情報更新のついでに、体操がてら少しばかり寄り道をすることにした。

ζ(^ー^*ζ「ちょっと寄り道するわね。
        二人とも、しっかり掴まっていてね」

肩を負傷しているヒートが万が一にも落下しないよう、彼女の腰と右腕はデレシアの腰に器具を使って固定されている。
そのため、乱暴な運転をしてもデレシアが踏ん張れば彼女が落ちる心配はなかった。
アクセルを更に捻って速度を上げ、そして、分かれ道に差し掛かった瞬間に後輪をスライドさせて右に曲がった。
そこは道路とは呼べない程狭く、車では通れないような道だった。

デレシアは躊躇うことなくその道を進み、一棟の古びた四階建てのビルを通り過ぎた直後に滑るように急旋回をしてディの前輪を持ち上げた。

ノハ;゚⊿゚)「うおぉっ?!」

再びアクセルを捻り、速度を上げて走り出す。
ビルの横にあった鉄製の非常階段をその体勢のまま登り始め、一気に最上階を目指した。
段差を乗り越える衝撃は全てサスペンションによって吸収され、ディに備わった各種センサーが転倒を防ぐために総動員される。
ちらりと下を見ると、一台がついてきているのが見えた。

そうでなくては面白くない。
ギルドパクトを破棄せんとするだけの気概があるのであれば、それなりの実力と覚悟がなければならない。
ではその息のかかった者たちはどこまでの気持ちで動いているのか。
果たしてどこまでの実力があって反旗を翻すような真似をしたのか、それが気になる。

この街の歴史を変えるのであれば、この街が積み上げてきた歴史以上の、あるいはそれを覆しても余りあるメリットを提示できなければならない。
ここは商人、そして多くの職人たちによって作り上げられた商の最古にして最先端の街。
何の算段もなく動いている、もしくは踊らされている人間はすぐに波に飲まれて藻屑と消える。
ならば追うべき相手をどこまでの覚悟で追い続けるのか、まずはそこから見定める。

彼らの計画を台無しにするかもしれない人間が入り込んで何もしないようであれば、それは、彼らがいかに計画を甘く見ているかを表している。
背後から迫ってくるはずだったバイクの音は聞こえなくなり、代わりに、階段を駆け上る音が聞こえていた。
屋上に到達し、そして、ラヴニカの夜景を見下ろす。
冷たい夜風が熱を持ったディのエンジンを冷やし、デレシア達の吐いた白い息を夜空へと舞い上げる。

束の間、デレシアはその風を楽しんだ。

ζ(゚ー゚*ζ「さぁ、行きましょう」

228名無しさん:2019/09/09(月) 12:32:57 ID:8iQOqpxg0
後輪が白煙を上げて回転し、そして、ディは一気に加速した。
屋上の淵を乗り越え、三人と一台は空を舞う。
浮遊感は一秒にも満たない間に終わり、三人は隣のビルの非常階段の踊り場へと着地した。
そこにあった扉を着地の衝撃で破壊し、建物の中へと入りこむ。

打ちっぱなしのコンクリートの天井と床、そして部屋番号のついた扉が並ぶそこは集合住宅に違いなかった。
流石にこの場所にまで追手が来ることはないだろうから、デレシアは悠々と、そして遠慮なしに加速させた。
廊下の突き当りにある扉を再び前輪で破壊し、三人は再度ラヴニカの夜空を跳んだ。
その先には新たなビルの窓があり、ディの前輪がそれを粉々に粉砕した。

新たな廊下に着地するよりも早くブレーキを握り、デレシアは急制動をかけた。
ガラス片と共に着地し、後輪のタイヤが床に黒い跡を残す。
焦げたゴムの匂いが風に漂い、すぐに霧散した。

(∪*´ω`)「おー!! すごいおー!!」

デレシアとヒートに挟まれたブーンが、大きな声を上げて喜ぶ。
デレシアの腰に回されたヒートの右手に力が込められる。
二人の反応は非常によく似ていた。
ブーンは浮遊感への高揚を、ヒートはそこに若干の恐怖を感じている。

ノハ;゚⊿゚)「す、すげぇ…… なぁ、スタントマンの経験でもあったのかよ」

ζ(゚ー゚*ζ「うふふ。
      良かった、二人とも怪我はないわね」

もしも二人がデレシアの運転技術を称賛するのであれば、それは間違いだ。
デレシアの運転技術に全く問題なくついてくるディこそ、称賛されて然るべき存在なのだ。
世界最高にして最新の運転補助システムは彼女の運転の癖などを学習し、理解し、予測し、そしてそれ以上の補助をした。
このアイディールという車種は初期設定時の段階で当時のライダーから膨大な運転データをインストールされ、更に経験から自己学習を行うことで常に最適な設定で走行することが出来る設計になっている。

復元されるまでに、果たしてどれだけ多くの乗り手がこのハンドルを握ったことだろうか。
“魔女”と呼ばれた軍人から稲妻の腕を持つと称された軍人へと譲られ、オアシズへと渡り、今に至るよりも前。
時代の流れに奔流されたのは何も人だけではない。
生み出された技術、培われた経験、育まれた知識と才能、そして誕生するかもしれなかった可能性。

成長し続けるバイクとして世界に生まれ出たディは、今まさに、他のバイクを圧倒的に凌駕するだけの性能を発揮するに至った。
これから先、このバイクが走り続ける限りその人工知能は成長を続けることだろう。

(∪*´ω`)「ディって、何でもできるんですおね」

二人に挟まれて座るブーンは、この状況を嬉々として受け入れていた。
彼にとっての保護者であるこの二人が傍にいれば、それだけ安心するのだろう。

ζ(^ー^*ζ「えぇ、この子は走った分だけ成長するの」

ディのメーターが喜びを表す色を表示し、デレシアは思わず微笑んだ。
ブーンによって個としての名を与えられたこのバイクは、彼の期待以上の働きを見せてくれることだろう。
成長する人工知能の成長もまた、デレシアは楽しみの一つにしていた。

229名無しさん:2019/09/09(月) 12:35:07 ID:8iQOqpxg0
ノパ⊿゚)「で、ここからどうやって目的地に行くんだ?」

ζ(゚ー゚*ζ「相手の出方次第だけど、そうねぇ……」

あまりサスペンションに負荷をかけすぎるのも問題だが、何よりディの横に固定しているコンテナが落下しないようにしなければならない。
走行自体に問題は起きない上に横方向からの攻撃を防ぐ盾の役割を果たしているが、ディがその性能で補えるのは搭乗者だけだ。
しかしこの大型バイクを専用の昇降機もなさそうなこの建物から降ろすには、階段では時間がかかりすぎる上に目立ってしまう。
ウィリーをした状態であれば昇降機を使えば降りられるが、逃げ道がなくなる。

ζ(゚ー゚*ζ「跳びましょう」

(∪*´ω`)「やたー」

ノハ;゚⊿゚)「平気なのか、ディは?」

普通のバイクであれば無論不可能だが、ディはバイクの到達点に位置する存在だ。
多少の無茶は許容範囲の内に収まっている。

ζ(゚ー゚*ζ「勿論、ほどほどにね」

ジャンプ台でもない限り、跳んだバイクは自重と重力によって同じ階、もしくは下の階層に進むしかない。
ラヴニカの隣り合った建造物の距離が近いこともあり、デレシアは今のところ五階の高さを移動しており、ここからは一気に降りることはできない。
適切な高さとして、二階まで降りたところで道路に戻ればいい。
廊下の突き当りがエレベーター乗り場になっているのを見て、デレシアは来た道を引き返すことに決めた。

その場で素早く方向を変え、非常階段へと向かう。
金属製の階段を固定しているのはボルトと溶接であり、そこまで頑丈ではないことが分かった。
スラッグ弾を装填したショットガンを腰から抜き、建物と繋がっているボルトを二か所破壊した。
自重によって傾き、軋みが上がる。

この状態でディの重量には耐えられないのは明らかだが、それが狙いだった。

ζ(゚ー゚*ζ「ちょっと揺れるから、ちゃんと掴まっているのよ」

ノパ⊿゚)「あぁ、喜んでそうさせてもらうよ」

腰に回されたヒートの手に力がこもったのを確認してから、デレシアは前輪を持ち上げた状態でディを進めた。
踊り場に後輪が乗った瞬間、足場が大きく傾いた。
だがデレシアはその場でディをジャンプさせ、足場に対して更なる負荷をかけた。
結果、足場は脆くも崩れ落ち、三人と一台は一階層分落下する。

そしてその下にあった踊り場に足場ごと着地すると、衝撃に耐えかねて更に足場が崩れ落ちる。
そのまま三人は二階の高さに到着すると、デレシアはギアを変えてその場から飛び立った。
人通りのほとんどない道路に着地し、何事もなかったかのようにその場を走り去る。
あれだけの物音が響いたこともあり、建物の前には人だかりが生まれ始めていたが、すでに彼女たちの姿は彼らには見えていないだろう。

ヒートが苦笑いを浮かべながら呟いた。

ノハ;゚ー゚)「……ちょっと、ねぇ」

230名無しさん:2019/09/09(月) 12:37:53 ID:8iQOqpxg0
ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、ちょっとよ」

デレシアが冗談で返すと、ヒートがくすりと笑ったのが聞こえた。
バックミラーに眩いライトが見えた瞬間、デレシアは急加速し、再び道路を疾走し始めた。

ノハ;゚⊿゚)「っと!!」

ζ(゚、゚*ζ「ごめんなさいね、お散歩はもう終わりにするわ」

先ほどまでとは違い、相手がこちらを殺しに来ていることが分かった以上、遊ぶのは終わりにしなければならない。
流石にウィンチェスターを構えていれば、捕獲ではなく殺害に指示が切り替わったことが分かる。
交差点にスライドで侵入し、素早く曲がり切る。
車のクラクションや歩道にいる通行人の悲鳴が後方に遠ざかる。

ζ(゚、゚*ζ「……」

三秒後、相手も同様にほぼ直角に曲がってきた。
路上駐車している車の数が多く、対向車と衝突する可能性を考えると、デレシアはどこかであの追手を潰さなければならない。
市街地で散弾を撃ってくるとは考えにくいが、狭くて人通りのない道を選んでいれば撃たれるのは現実的な展開になる。
目的地は大通りを使うことはない上に、ラヴニカの大通りの広さもたかが知れている。

決着をつけるべく、デレシアは今一度交差点を前にしてブレーキをかける。
しかし今度は先ほどとは違い、曲がるためのブレーキではない。
前輪と後輪を同時にロックさせ、車体を横向きにスライドさせる。
バイクの真横を見せるということは急所を晒すようなものだが、デレシアが向けたのは左側。

そこにあるのは対人用の銃弾であれば対物ライフルであろうとも防ぎ得るコンテナ。
つまりこれは、迎え撃つためのブレーキであり、方向転換。
散弾の弱点である距離を利用し、今まさに、デレシアは相手を迎え撃つ。
背後から迫っていた追跡者は面食らったようにその様子を見たが、左手をウィンチェスターに伸ばす。

ζ(゚ー゚*ζ

デレシアは紫電めいた速さで懐から黒塗りのデザートイーグルを左手で抜き放ち、銃爪を引く。
勝負はその一発で終わりを迎えた。
エンジンを撃ち抜かれたバイクはバランスを崩し、追跡者はその場に投げ出され、バイクは路肩にある店のショウウィンドウに突っ込んだ。
地面に転がる人間が僅かに身じろぎしたのを見て、デレシアはデザートイーグルをしまった。

悲鳴とクラクション、そしてサイレンが鳴り響く中、デレシアは素早くその場を走り去ったのであった。

231名無しさん:2019/09/09(月) 12:40:15 ID:8iQOqpxg0
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「Τh。.::| | |TTTTTT |::::|lTTTTTTTTTTTT|::::|ハニニ7 |  jI斗ャヤI「_ニ=-..ァ''//|
]| | | | |ΤZZZZZZZZZZZZZr┴┴┴┴┴|::::|]| マニ7,.。oS'"~| ̄ ,ィ::|´ ////,|::
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August 20th PM09:44

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ヌルポガギルドに所属するナヒリ銃火器店はラヴニカの中でも老舗で、店主のソリン・マルコフによる棺桶の復元技術を求めて世界中から注文が殺到する。
川沿いにある広い工場には世界中から依頼された棺桶が並び、彼の弟子たちが昼夜を問わず復元に明け暮れている。
ソリンが手掛けるのは主に技術と知識が要求される“名持ち”の棺桶の復元であり、その日は三機の復元を完了させたところだった。
七十歳の峠を越えてもなお、ソリンは現役で仕事に従事しており、その技術はラヴニカで最高の物であると称賛されている。

彼が得てきた棺桶に関する知識は世界でも五指に入るほど膨大で、そしてより実用的なものばかりだ。
昔は艶のある磁器のような白い肌も傷が刻まれて浅黒くなり、黒かった髪は一本残らず白くなってしまっている。
鋭い眼光と整った顔は昔から変わらずに残り、年々その魅力は熟成されている。
色褪せて水色になっている紺色のツナギは、すでに十年以上愛用している立派な相棒だ。

作業がひと段落したため、ソリンは工場内にある自動販売機でトマトジュースを買って、外に出ることにした。
ラヴニカの夜は冷えるが、工場内の熱気で温まった体と頭を冷やすにはちょうどいいぐらいだ。
夜風に当たる為に工場の外に出たところで、遠くからバイクのエンジン音がゆっくりと近づいてくるのが聞こえた。
音の方に目をやると、そこには極めて珍しいバイクの姿が見えた。

( 0"ゞ0)「ありゃあ……アイディールじゃねぇか」

世界で現存するのは僅か三十台。
そして実際に動いているのを見るのは、これが初めてのことだった。
果たしてどんな人物が運転しているのか、ソリンは珍しく他人に興味を持った。
アイディールはゆっくりと彼の前で停車し、ヘルメットを被った人物が降りた。

驚くべきことにバイクには三人乗っていた。
しかも一人は背丈から察するに、小さな子供だ。
ハンドルを握っていた人物がヘルメットを取ると、その下に隠れていた金髪が星空の下で輝いた。
工場から漏れ出る光が女の瞳を照らし、ソリンは我が目を疑った。

232名無しさん:2019/09/09(月) 12:41:31 ID:8iQOqpxg0
( 0"ゞ0)「お、おまっ……!!」

ζ(゚ー゚*ζ「お久しぶりね、ソリン。
      白髪が似合う顔になったじゃない」

それは、デレシアだった。
長らく会っていなくても、彼女の顔と名前を忘れるわけはない。

( 0"ゞ0)「うっそだろおい!! デレシアじゃねぇか!!
      し、信じられねぇ……」

ζ(゚、゚*ζ「あら、失礼ね」

( 0"ゞ0)「その声も、服も、あんたほんとに変わってねぇな」

ζ(゚ー゚*ζ「一応誉め言葉として受け取っておくわ。
      今日はお願いをしに来たんだけど、いいかしら?」

( 0"ゞ0)「悪いけど仕事で手いっぱいだ……って言いたいところだが、あんたのお願いってんなら聞かないわけにはいかねぇよ。
      俺に出来ることなら手を貸すぜ」

ζ(゚ー゚*ζ「棺桶を一機、修理してほしいの」

( 0"ゞ0)「あんたが? 棺桶を使うのか?」

彼は、デレシアが棺桶を使うところを想像できなかった。
彼女であればそんなものは必要ないはずだ。
出会った時の言葉などはもう遠い昔のことだが、彼女の見せつけた圧倒的な力は今でも鮮明に覚えている。

ζ(゚ー゚*ζ「いいえ、私の友達のなの」

デレシアの視線の先にあるコンテナを見て、ソリンは納得した。
コンセプト・シリーズは今までに何百も相手にしてきたが、デレシアが持ってきた棺桶はその中でも更に特別な物。
生きている間にそれを見られることに喜びを覚えさえする棺桶なのだ。
設計段階から全てが規格外の棺桶。

Bクラスの棺桶に迫る大きさでありながら、Aクラスの取り回し易さの範囲内に収め、その性能は大きさの不利を補って余りある。
単一の目的をもって開発されたコンセプト・シリーズは、実際のところ、同じ目的で製造された異なる機体が存在している。
しかし、レオンは唯一無二であると彼は師匠からよく言い聞かされていた。
対強化外骨格用強化外骨格は、一機しかこの世に存在しないのだと。

それは全ての強化外骨格の頂点に立つことを目的に作られた、ただ一機の強化外骨格。

( 0"ゞ0)「……レオンか」

ζ(゚ー゚*ζ「どう?」

( 0"ゞ0)「具合にもよるから何とも言えねぇが、復元した奴の腕も関係してくる。
      おい、そこのデレシアのダチ。
      誰が復元したのか知ってるか?」

233名無しさん:2019/09/09(月) 12:43:22 ID:8iQOqpxg0
フルフェイスヘルメットを取らず、バイクに乗ったままの女が応えた。

(:::::::::::)「さぁ? オセアンにいた修理屋に頼んだから知らねぇな。
    白いひげの爺さんだったが、名前は知らねぇな。
    あたしはただ、スミスのじいさんって呼んでたよ」

価値を知らない人間とはこれだから恐ろしい。
偶然にもその人物が修理できたからよかったものの、最悪の場合は二度と使い物にならなくなっていたかもしれないのだ。
溜息交じりにバイクの方に歩いて行き、コンテナをバイクから取り外す。
そして把手を握った時、そこについていた傷に気づいた。

( 0"ゞ0)「おいおい、こいつは……
      デレシア、あんた、気づいていてこれをここに持ってきたな?」

ζ(゚ー゚*ζ「ふふ、やってくれるかしら?」

彼の記憶の中にいるのと相違ないデレシアの反応。
久しぶりにソリンは胸がときめくのを覚え、少年の頃の気持ちが蘇ってきた。
顔中を皺くちゃにさせて笑顔を浮かべ、ソリンは工場を顎で指した。

( 0"ゞ0)「詳しいことは中で話そう。
      街中のサイレン、大方あんたが原因だろうからな。
      泊まる場所はあるのか?
      いや、言い方が悪かった。

      うちの店に泊っていきな、そこいらのモーテルよりはよっぽど安全だ」

ζ(゚ー゚*ζ「そうさせてもらうわ。
      ディ、付いてきて」

二人を乗せたまま、運転手不在の中でアイディールが動き出す。
ソリンとデレシアの後ろを、まるで馬のように従順について来る。
工場の地下にある搬入口に案内し、シェルターを兼ねた貯蔵庫へと入る。
電気を点けると、壁一面に取り付けられた鋼鉄製の棚に細かく仕分けられた非常食と水が並んでいるのが見え、天井付近の空間を有効活用するために張り巡らされたキャットウォークが独特の影を落とす。

白いリノリウムで加工した床の下には住居スペースに加えて更に多くの備蓄品があり、この工場で働く人間が一か月生き延びられるだけの備えがあった。
故に長期の潜伏場所としても十分な機能を有する場所であり、今のデレシア達には最適な場所でもあった。
武器に関してはこの工場全体の至る所にあるため、心配はまるでない。
アイディールから二人が降り、ヘルメットを脱いでシートの上に置いたのを見計らって、ソリンはデレシアに質問を投げかけた。

( 0"ゞ0)「まず、何があったんだ?」

ζ(゚ー゚*ζ「キサラギギルドがスノー・ピアサーを止めたのは知っているかしら?
      とどまる気はないから、そこから降りてきたの。
      私たち以外の人たちはトラックに載せて、ギデオンのところに送ったわ。
      その後どうなったかは知らないけど、きっと大丈夫よ」

234名無しさん:2019/09/09(月) 12:44:24 ID:8iQOqpxg0
頭痛の種が増えたことで、ソリンは溜息を吐かざるを得なかった。
ただでさえ街全体を巻き込みかねない勢いで揉めているのに、ついに強硬手段に出たのだ。
これは外交にまで関係してくる問題であり、キサラギは禁忌を犯したことになる。
大論争で済めばいいが、内戦に発展しないことを願うばかりだ。

( 0"ゞ0)「マジか、あいつら……
      これは誓って言えるが、ギルドマスター達はそのことを聞いてねぇぞ。
      これでまた対立が深まっちまうな」

ζ(゚ー゚*ζ「ギルドパクトへの反抗って聞いたけど、発端は何だったの?」

( 0"ゞ0)「まず、ギルドへに参加しない企業の参入を認めるように求めてきたんだ。
      この街の構造的に、それはできねぇって話になったんだが、あいつらは頑なにギルドパクトの大改訂を要求したのさ。
      次から次に要求が増えて、今じゃギルドパクトそのものをなくすべきだ、なんて言い始めてな」

ζ(゚、゚*ζ「キサラギの他に賛同しているのは?」

( 0"ゞ0)「弱小ギルドの連中さ。
      公にはしてないが、あいつら地下ギルドとまで繋がりを持ってる。
      大した影響力はないが、暴れられると厄介だ」

ζ(゚、゚*ζ「……誰かが裏で手を引いているでしょうね」

やはり、デレシアも気づいているようだ。
街の外にいる人間にまでそれを悟られるまでに、事態は深刻化しているのだ。

( 0"ゞ0)「証拠はないが、予想は出来てる。
      内藤財団だ」

ζ(゚、゚*ζ「あら、根拠はあるのかしら」

( 0"ゞ0)「何回か打診があったんだ、内藤財団がこの街に店を構えることについて。
      で、ギルドパクトにのっとってギルドへの加入が必須だといったら引き下がってな。
      その後にもう一度来て言ったのが、内藤財団ギルドの参入の話だ。
      あいつらは子会社も孫会社も持っているから、一夜で大型のギルドになるだろ?

      しかも厄介なのが、業種が絞られていればいいものを、あいつらは武器から風俗まで何でもやる。
      そんなギルドが存在したら、そもそもギルドの意味がなくなるんだ。
      ギルドマスター達が反対する中で、キサラギだけが違った反応をしていたらしい。
      柔軟にしたほうがいいんじゃないか、ってな。

      音声議事録にも残っていたから、まず間違いない」

世界最大の企業、内藤財団。
その影響力は計り知れないところがあり、一度でも街で自由に動かれれば、街の崩壊は免れられないだろう。
ギルドは同業他社が互いに潰し合わないようにするための抑止力でもあり、生き延びるための保険でもあるのだ。
ラヴニカが発展しているのは、悪戯に企業間での価格競争などに走らないように調整が行われ、技術的な企業間競争を促進してきたからだ。

235名無しさん:2019/09/09(月) 12:44:44 ID:8iQOqpxg0
同じヌルポガギルドに所属していても、それぞれが取り扱う武器の値段にはそこまで大きな差異はない。
売られている武器の整備やアフターサービスにこそ大きな違いがあり、それぞれが工夫と努力、そして技術で生き延びている。
世界中にある銃器メーカーの人間がこの街を訪れて新たな武器の製造、復元を依頼するのは確かな技術を持った職人が多く、安定した量産と開発が出来るからなのだ。
閉鎖的な場所だからこそできる利点を、内藤財団の介入によって全て失うのは長い目で見ずともラヴニカの存亡にかかわってしまう。

ζ(゚、゚*ζ「キサラギはご褒美とその後の地位でも約束されているのか、それとも何か弱みでも握られているんでしょうね」

( 0"ゞ0)「上の独断ってわけでもないらしいから、多分前者だな。
      ま、今回の一件で奴らは終わりだよ」

ソリンは肩をすくめ、それから棺桶の持ち主に声をかけた。

( 0"ゞ0)「メンテナンスモードにしてくれ。
      方法は分かるか?」

ノパ⊿゚)「あぁ、分かる」

赤毛の女はソリンの足元にあるコンテナの前に立ち、起動コードを入力した。

ノパ⊿゚)『あたしが欲しいのは愛か死か、それだけだ』

コンテナのセンサーがメンテナンスモードに切り替わり、中に納まっていた棺桶が姿を現した。
重厚な装甲のほとんどない、軽量化されつくした特異な棺桶。
傷だらけの外装、巨大な杭打機、そして激しく損傷した左手。
強力な酸で溶かされたようで、歯形まで付いてる。

流石に装甲の厚い左腕とは言っても、酸で攻撃を受ければ変形してしまう。
一歩間違えれば左腕を失っていたことだろう。

( 0"ゞ0)「ひでぇな、こりゃ」

ノパ⊿゚)「で、直せそうか?」

( 0"ゞ0)「結論から言えば、直せる。
      この棺桶を復元したって奴だが、何か言ってたか?」

ノパ⊿゚)「さぁ、仕事のこと以外は無口なじいさんだったからな。
     何も言ってなか……いや、言ってたな。
     これが最後だから、もう来るな、ってぐらいだ」

( 0"ゞ0)「……そうか。
      実はな、この棺桶を復元した人間を俺は知ってるんだ。
      先代ギルドマスターの爺さんで、俺の師匠だ」

職人気質な彼の師匠、アーカム・ダグソンは自ら復元を手掛けた棺桶に印をつける癖があった。
彼の弟子であるソリンはその印がどこにつけられるのかをよく知っていた。
コンテナの把手を高性能なグリップに交換し、その付け根に三又の傷を彫るのだ。

( 0"ゞ0)「だからこいつの復元は完璧なもんだったって信頼できる。
      問題があるとしたら、俺が師匠の腕を越えられるかどうかがこいつの修理で分かるぐらいだ」

236名無しさん:2019/09/09(月) 12:45:06 ID:8iQOqpxg0
ζ(゚ー゚*ζ「ふふっ、きっと大丈夫よ。
      それで、何日ぐらいかかりそう?」

改めて損傷部分を確認し、デレシアの問いに答える。

( 0"ゞ0)「一週間以内、ってところだ。
      悪いが俺にも仕事があるし、何よりも時間を取るのは部品の選定だ。
      そっちの姉ちゃんに分かるように言うと、コンセプト・シリーズは一点物だから、一度損傷すれば同じ形にはならない。
      できる限り設計図通りの物を用意してそれに近づけるが、下手なものを選べば性能を殺すことになる。

      量産機の部品はたかが知れているから、復元が不可能な、例えば腕だけしか見つかっていないコンセプト・シリーズとかの部品を探すんだ。
      日によって集まってくる部品は変わってくるし、慎重にやらなきゃガラクタを買うことにもなる。
      基盤はやられてないから外装だけで済むが、レオンの売りは軽量さだから素材が限定されてくる。
      間違いなく直すから、しばらく待っていてもらうぞ」

ノパ⊿゚)「あぁ、あたしは構わないよ。
    むしろ修理できるだけ感謝だ、助かるよ」

そう言って、女はコンテナの中にあるスイッチを押した。
これでコンテナは自動で閉じることなくメンテナンスに専念することが出来る。
棺桶の使い方を理解していることから、デレシアと共に旅をしていると推測できるこの女は、素人の棺桶持ちではない。
負傷しているにも関わらずまるで隙を見せようとしない佇まいは、歴戦の猛者が醸し出すそれだ。

( 0"ゞ0)「じゃあこいつは少しの間預かるぞ。
      ところで一つ個人的なことをいいか?」

ノパ⊿゚)「……何だい?」

( 0"ゞ0)「師匠を越える機会はもうないと思っていたが、ありがとな。
      間違いなくこいつを完璧以上に修理してやる」

その言葉に、女は口の端を僅かに上げて答えた。

ノパー゚)「礼を言うのはあたしの方さ。
    よろしく頼むよ」

決して気取らず、清々しさを感じる対応だった。
彼女はまだ一度も名乗っていないが、ソリンはその正体について確信を持っていた。
この強化外骨格は一点物で、更には強固なセキュリティシステムによって所有者の変更にはかなりの時間と技術が必要だ。
そのため、使用者が死なない限りその持ち主が変わることはない。

極めて貴重な棺桶である“レオン”を使う殺し屋の話は、数年前に彼の耳に届いていた。
ヨルロッパ地方で猛威を振るい、多くのギャングやマフィアを恐怖の底に叩起き落とした殺し屋。
“レオン”の通り名を持つ非情な殺し屋、それがこの女の正体だ。
標的の家族を皆殺しにする冷血な殺し屋にしては、隣にいる少年に向けられる笑顔と視線はあまりにも慈愛に満ちている。

少年との血の繋がりはないだろうが、まるで歳の離れた姉と弟のような親密な雰囲気がある。
本当に殺し屋のレオンなのかと疑いたくもなるが、デレシアと共に旅をしている時点で、一般人である可能性はまずない。
何が彼女を殺し屋へと変え、今に至るのか。
ソリンは彼女の過去に若干の興味を抱き、その姿を改めて見た。

237名無しさん:2019/09/09(月) 12:46:27 ID:8iQOqpxg0
ノパー゚)

ζ(゚ー゚*ζ

だが人の過去など、見た目では分からないものなのだとすぐに思い出し、レオンを持って工場へと戻ったのであった。

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August 20th PM11:00 ラヴニカ / 港

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ラヴニカの北部にある港は静まりかえり、人気はまるでなかった。
停泊している漁船を波が揺らし、波が奏でる安定した音だけが星空の下で奏でられている。
海面が盛り上がり、人工物による不自然な波が生まれた時でさえ、目撃している人間は一人としていなかった。
水中から鯨のように原子力潜水艦“オクトパシー”が現れた時に反応をしたのは、港で眠っていた野良猫ぐらいだ。

ハッチが開き、そこから冬用のコートを着込んだ男が顔を出した。

(’e’)「寒っ!!
    いやぁ、やっぱり自然の空気はイイねぇ!!
    寒いけど!!」

イーディン・S・ジョーンズは年甲斐もなくはしゃいだ声を上げ、周囲を見渡した。
船体は絶妙な舵捌きで接岸の態勢に移行し、協力者の登場を待つだけとなった。
船内から彼を含めた数人が甲板に移動する。
白い息を吐きながら、しばらくぶりの空気を吸い込み、それを堪能した。

( ゚∋゚)「ふぅ……」

(´・ω・`)「ひゅう……」

(’e’)「おいおい、大の大人二人がそんな溜息吐いてどうしたんだい?
   もっと喜ばないかね、この状況を。
   ラヴニカだよ、君たちぃ」

ニット帽を被ったショボン・パドローネは、にこりともせずに返した。

(´・ω・`)「博士、どうしてラヴニカに?
      別に我々が来る必要はないはずですが」

238名無しさん:2019/09/09(月) 12:46:47 ID:8iQOqpxg0
鈍痛による寝不足から、彼の目の下には隈が出来ており、眉間に寄せた皺は彼が今不機嫌であることを如実に物語っている。
だがそれを知っていながら、ジョーンズは全く態度を改めることなく続けた。

(’e’)「ん? だってほら、君たちはデレシアたちの動きに興味があるだろう?
   私はある、だから来たんだ」

クックル・タンカーブーツは暗視装置付き双眼鏡を覗いたまま、独り言のように言葉を発した。

( ゚∋゚)「だったら、ラヴニカではなくスノー・ピアサーを追うべきでは?」

(’e’)「はははっ、クックル君は面白いことを言うね。
   スノー・ピアサーを追ったところで、デレシア一行を見つける確率は極めて低い。
   どうだね、賭けてみるかい?
   私は来ている方に百ドル賭けるよ」

二人の反応とはまるで逆の陽気な口調でジョーンズは提案し、それに対して帰ってきたのは、やはり冷め切った口調で紡がれた言葉だった。

(´・ω・`)「じゃあ僕は来ていないほうに」

( ゚∋゚)「同じく」

(’e’)「ひゅう、辛辣だなぁ。
    まぁいい、何にしても賭けは僕の勝ちだ。
    さっき通信があってね、スノー・ピアサーからラヴニカに侵入したバイクが確認されているんだ。
    最低でもローブを着た人間が二人乗っていた、ってね。

    となれば、事前にスノー・ピアサーにバイクを持ち込んだ人間を考えればいい。
    目撃情報を統合すれば、乗っていたバイクはアイディールだ。
    リッチー・マニーからデレシアが譲り受けたというバイクと同型だが、あれは世界に三十台しか現存していない上に、ほとんどがコレクション扱いだ。
    ここまで情報が揃えば流石に答えは分かるさ」

その言葉を聞いて、ようやく二人が感情のこもった声と共にジョーンズを見た。

(#゚∋゚)「なっ?!」

(´・ω・`)「博士、それは賭けとして不成立です」

(’e’)「何故だね?
   私は情報が来る前からここに彼女たちが来ることを予想して動いていた。
   フェア以外の何物でもない勝負だ。
   ははっ、二百ドルの臨時収入とは、やっぱり今日はいい日だ」

賭けとはイチかバチかではなく、勝てる算段がある時にこそ行うものだ。
少しでも賭けを提案したジョーンズを疑わなかったことが、彼らの敗因である。
流石に彼らも大人であるため、この賭けのことについてはこれ以上言及しようとしなかった。
溜息を吐いてショボンが口を開く。

(´・ω・`)「何故ここに来ると?」

239名無しさん:2019/09/09(月) 12:47:11 ID:8iQOqpxg0
(’e’)「レオンにかなりの損傷を与えたことは分かっていたからね。
   これまでの傾向から、別に急いでいる旅でもないことが予想できた。
   ならば、立ち寄れるところでレオンを確実に修理できる街となると、ラヴニカしかないわけだ。
   後は修理できる技量を持った職人のいる店を訪問すれば、あっという間に見つけられる」

(´・ω・`)「……こちらの勝算は?」

真面目な口調のショボンの言葉に対して、ジョーンズは思わず鼻で笑った。
それから、理解の悪い学生に教えるように説明を始めた。

(’e’)「勝算? そんなものはね、君ぃ、ただの慰めだよ。
    デレシアがいる以上、そう簡単には勝てるもんじゃあない。
    いい加減学習したまえよ。
    狙うのは棺桶だけで、後は放っておくんだ」

ティンカーベルでの失敗は、ジョーンズに大きな教訓を与えた。
彼らのトップが排除を切望しているデレシアが持つ力と対応力は、生半可な計画を立てたところで全く意味をなさない。
戦闘においてはこちらが高性能な強化外骨格を使用していてもそれを上回り、一瞬で戦局を覆す。
いっそのこと触れないでおくのが最適解だが、ティンバーランドに敵対する存在である以上、見過ごし続けることは出来ないとの判断だ。

確かに、いつか必ず彼らの前に立ちはだかり、それまで積み重ねてきたものを台無しにすることだろう。
そうなる前に殺さなければならないが、それは今ではない。
少なくとも、こちらの主戦力が各地に分散している今は直接的に彼女を狙うのは自殺行為だと考えている。
無論、彼女と一緒にいる二人を襲おうものなら、デレシアを襲うのと同じような意味を持つため、却下だ。

ならば、彼女たちの意識の外にある物を狙って徐々に弱体化を図るのが良いのは明らかだ。
当初より狙っていたレオンを奪取するか、それが出来なければ破壊する。
四六時中棺桶と共にいるわけではないだろうから、修理中の時を狙って襲撃すれば何かしらの成果は得られるはずだ。

(’e’)「この街にいる同志たちに手を借りれば、なぁに、何かしらの戦果は挙げられるさ」

(´・ω・`)「できればもう少し頼りになる同志が欲しいところですが、スコッチグレイン兄弟はまだ戦線復帰は難しそうなのかな?」

( ゚∋゚)「弟はいいんだが、兄の怪我が酷い。
    右腕右足、睾丸が失われている上に、入院中に左足の健が切られた。
    戦線復帰するにはそれなりの強化外骨格が必要だ。
    当分は実家のミザリーで療養するように伝えてある」

(´・ω・`)「まぁ、“魔女”を殺した分の代償と思うしかないか。
     それだけの結果を出したんだ、休んでいても文句は言えないな」

(’e’)「この街にも案外使える連中がいるはずさ。
   何せここは世界で一番コンセプト・シリーズが集まる場所なんだ、私の知らないものが山のようにある。
   想像するだけで興奮するねぇ、未知と言うものは!!」

それから十数分後、黒塗りのバンが三台連なって港に現れ、彼らは予定通りラヴニカの地を踏みしめた。
キサラギギルドと繋がりのある人間たちの運転するバンが港を去り、辺りは再び静寂に包まれた。
星明りの下、波の音が夜風と共に穏やかな音色を奏で、夜が更ける。

(:::::::::::)「……」

240名無しさん:2019/09/09(月) 12:47:33 ID:8iQOqpxg0
――ジョーンズたちが終始監視されていたことを知るのは、港にいた野良猫たちだけだった。

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二二二二二二二ニニ>';二ニニニニニニニニニニム
ニニニニニニニニニニ> ´ ./x≦⌒ヽ}ニニニニニニニム
/}ニ7|ニニ> ´   〃   x≧;、^}ニニニニニニニニ_
  }/ |>'"     {{ {   f〃^リ }ニニニニニニニニニ
              乂乂_∨ノ/ニニニニニニニニニヲ
            ー─‐/ニニニニニニニxイ7
              /ニニニ=‐^マニ/ '/
         、     /-‐      マ′ /′
\     ヤ^         、 _     ∨ノ
\\     ∨`≧x、      ー=ニ≧ュ___〉
  \\   乂⌒ー- ≧ 、   f⌒¨¨ ´
   \\      ̄ ̄⌒ヾア'^人
August 21st AM00:11 ラヴニカ
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トラギコ・マウンテンライトは目を覚ました時、目の前に見知った男の顔があることに危うく声を出して驚きそうになった。
喉のところまでせり上がってきた声を殺し、それから自分が揺られるうちに眠りに落ちていたことを思い出した。
僅かの時間だったのか、それとも長い時間だったのかは感覚的なものでしか判断が出来ないが、恐らく数時間は眠っていただろう。
腕時計の蓄光塗料が狭い空間の中で光っているが、顔を動かしてもその文字盤を見ることが出来ない。

その僅かな明かりが照らし出すのは、彼が監視しているオサム・ブッテロの寝顔だった。

(;=゚д゚)「……」

( ゙-_ゞ-)「……」

体で感じている揺れは、まだ移動が続いている証拠であり、完全に安全な状態になっていないことを表している。
随分と長い時間車を走らせているが、目的地にはまだ到着したないのだろうか。
追跡から逃れるためにわざと遠回りをしているのだとしたら、今の状況が芳しくないことを何よりも物語っている。
それから体感で十分後、ようやく車が動きを止め、エンジンが切れた。

すこししてから車の扉が開かれ、事前に決めていた目的地到着の合図がされた。
コンテナを内側から開き、外気を肺に取り入れる。
冷たい空気に眠気が一気に体から消え失せた。
他のコンテナも開き、予定通りの人数が無事にラヴニカ内に到着できたようだ。

(=゚д゚)「随分時間がかかったラギね」

運転手を買って出たワカッテマス・ロンウルフに向かって、トラギコは声をかけた。
コンテナから出てくる人間に手を貸しているワカッテマスは、トラギコの方を見ずに声だけで答えた。

( <●><●>)「尾行車がいましてね、それを振り切るのに時間がかかってしまいました。
        さぁ、ここから後は皆さんの予定通りに動いてください。
        長旅お疲れさまでした。
        すぐそこの掲示板にラヴニカの地図が貼ってあるので、参考にしてください」

241名無しさん:2019/09/09(月) 12:47:57 ID:8iQOqpxg0
予定の形とは異なる時間、方法でラヴニカに到着した人間達は不平を一言も口せず、代わりに礼を述べてそこから三々五々に散って行った。
その場に残ったのは三人。
いや、四人だ。

(*‘ω‘ *)「お客さんたちはどうしますっぽ?」

ティングル・ポーツマス・ポールスミス。
彼女はジャック・ジュノが寄越した見送り用の護衛だった。
コンテナを偽装して街に入るグループに危険が及ぶ可能性を危惧し、列車に乗り合わせているブルーハーツの中で一番優秀な人間が宛がわれたのである。

( ゙゚_ゞ゚)「と、とりあえず宿を探したいな、なんて……」

オサム・ブッテロは若干怯えていたが、前向きな考えを持っていた。
腕時計を見ると、日付を跨いで三十分近くが経過している。
確かに、ラヴニカの夜を宿なしで過ごすのは様々な面から見ても利口ではない。
痛み止めが切れ始めたらしく、トラギコは右足の太ももの痛みに眉を顰めた。

 _,
(=゚д゚)「そうラギね。
    今は安全な宿を探すのが得策ラギ。
    俺は早く肉とワインが欲しいラギ」

( <●><●>)「なら、私がどちらもいい所を知っています。
        お姉さんはどうされますか?」

(*‘ω‘ *)「せっかくだからお兄さんたちと一緒に行くっぽ!!
       列車に戻るまでは有休扱いだから、観光なんかしたいっぽね!!」

(=゚д゚)「ちょっと待て、あんた――」

トラギコの言葉を遮ったのは、ワカッテマスだった。
ここは自分に任せろと目で圧され、トラギコは大人しく引き下がることにした。

( <●><●>)「一つ訊いてもいいでしょうか」

真剣そのものの口調で尋ねたワカッテマスに対し、ティムもまた、真剣な表情で頷いた。

( <●><●>)「何故、私たちなのですか?
        他の方々でもよかったのではないでしょうか」

沈黙が流れるかに思われたが、ティムは即答した。
その時に浮かべた無邪気そうな笑顔は、トラギコの目には不気味な怪しさが滲み出ているように見えていた。

(*‘ω‘ *)「お兄さんたちと一緒にいれば面白いことがあると思ったからっぽ!!
      乙女の勘は昔っからよく当たるっぽよ!!」

242名無しさん:2019/09/09(月) 12:49:09 ID:8iQOqpxg0
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            |:.i:.:.:.:./:.:.:.:/  // !:′      ト:.:.:.:.、:.:.:.{:.:.:.:.:.: !
            |:.l:.:.:/:.:.:.:/ \〃   |l       {:.:.\:ヽ:.:.:.:.:.:.:.:.:l|
            l∧/{:.:.:./ `トミ{'   |! --───',:.:.:.:.:\>:.:.:.:.:.:.:リ
            {! {! V/   {じ!   l! ____   ',:.:.:i:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:′
                 }l、≧=イ    ヽ.´ ̄{!じド=ァー}:.:.l:.:.:.:、:.:.:.:.:.:ヽ
                 イ{   ノ       戈zリ , ∧:.ト、:.:.:.\:.:.:.:.:.\
              イ:.:.∧  丶       丶ー==彡./:.:/ヾ 7、:.:.:》:.:、:.:.:.:.\
           /:.:.:.ォ,イ:.:.:.、   、__ __        /:.:/{!  イ:.:.:\{:.:.:.`ト..:.:.:.\
        ./:.: /// !:.:.:.:.:.:.... `こ_ノ        /:.:.:爪イ:.:!:.:.:.:.:.:、:.:.∧ `:<:.:\
        イ:.:./ 〃 |!:.:.:.:.:.:.:.:\ ___ . -- イ:.:./ }:.}:.!:.:l:.:.:.:.:.:.:.ヽ:.:.:.:\  `:<\
       /:./   ./   :|i:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.イ廴_ /:.:.:.イ=:{:.{《:.:.:ゝ:.:.:.:.:.:.:.:\:.:.:.:\   ヾ:..、
Ammo for Rerail!!編
第六章【ancient rules -古の規則-】 了
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243名無しさん:2019/09/09(月) 12:49:31 ID:8iQOqpxg0
これにて今回の投下は終了となります

質問、指摘、感想などあれば幸いです

244名無しさん:2019/09/09(月) 15:43:28 ID:RZRB70OY0
乙乙。
こっちに更新がきてよかった。
ラヴニカが騒がしくなるなぁ……デレシアがどう騒動を収めるのか気になるところ

245名無しさん:2019/09/09(月) 19:37:28 ID:q/KGlbzI0
乙です
色んな勢力が絡み合って面白くなりそうですな
今のところ敗戦続きのショボン一行がどうなるかな

246名無しさん:2019/09/13(金) 03:01:54 ID:BS0U.5hk0

ソリンさん…岩からずいぶん立派になって…

247名無しさん:2019/10/08(火) 22:08:36 ID:qo1Vgz2g0
来週の日曜日、もしくは月曜日にVIPで投下を予定しております
今しばらくお待ちくださいませ

248名無しさん:2019/10/08(火) 23:24:44 ID:dWXDGeHs0
今週生きる活力になったよありがとう待ってる

249名無しさん:2019/10/09(水) 01:03:18 ID:tRjbaHIs0
全裸になって皮膚も脱いで待機しとくか

250名無しさん:2019/10/09(水) 10:39:37 ID:P5KQ6Gxk0
楽しみでにやにやしてきた
待ってるよー

251名無しさん:2019/10/09(水) 17:09:43 ID:7G73.2KU0
靴下だけ履いて待ってます

252名無しさん:2019/10/10(木) 21:36:05 ID:8XdvJEfo0
60歳の乙女の勘て…

253名無しさん:2019/10/13(日) 08:10:24 ID:.1dkZCWs0
今夜VIPでお会いしましょう

254名無しさん:2019/10/14(月) 09:25:12 ID:Z.2.vlmE0
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この街でルールは破られるためにある、と口にするならば覚悟が必要である。
代金を支払って商品が手渡されるのと同じように、お前の命は簡単に取り扱われるのだ。

                          ――ラヴニカの武器商人、ローガン・ブリーチマン

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August 21st AM07:13 ラヴニカ
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トラギコ・マウンテンライトは朝食のビュッフェを満喫し、山盛りにしたベーコン、ソーセージ、サラダ、そしてトーストを頬張ってそれをホットミルクで飲み下した。
塩気もドレッシングも丁度よく、給仕は余計なことを話しかけてこないため、彼好みのホテルだった。
上司であるワカッテマス・ロンウルフが勧めるだけあり、サービスも食事も満足だったが、不満なのは隣の席に座ってジャムとマーガリンを厚く塗ったトーストを食べる女の存在だった。
ティングル・ポーツマス・ポールスミスというその女は、スノー・ピアサーが雇い入れたブルーハーツの一人で、この街には乗客を送り届ける役を与えられたからだという。

しかし、トラギコは彼女の何もかもが信じられなかった。
上手く隠しているが、この女の実年齢は見た目よりもずっと上のはずだ。
更に、漂わせる雰囲気が昔の同僚であるショボン・パドローネにどことなく似ているのも原因の一つだ。
仮面を被った人間と話しているような、そんな気持ちになる。

本心を隠し、こちらの本心を覗いてこようとする助兵衛な態度が気に入らない。

(=゚д゚)「……」

ボイルした後に軽く焼き目がつけられたソーセージを一口で食べ、無言で食事を続ける。
香ばしい香りと油の甘味、そして塩気が唾液腺を刺激した。
口に常に食べ物を入れていれば、余計なコミュニケーションを取らずに済む。
だが彼がいくら自らコミュニケーションをとらずとも、彼の上司はそうではなかった。

( <●><●>)「ここのジャムは自家製で、味が濃厚なんですよ」

(*‘ω‘ *)「確かに、美味いっぽ!!
      こいつはイイっぽね!!」

255名無しさん:2019/10/14(月) 09:25:34 ID:Z.2.vlmE0
隣で喧しくされるのは嫌いだが、それを制止するために話しかけるのはもっと嫌だった。
ワカッテマスの隣で相槌を打つオサム・ブッテロ――サムと呼ばれている――は、二人のやり取りに笑みを浮かべつつ上品にオムレツを食べている。
彼の方からバターの香りが漂い、鼻孔をくすぐる。
我慢する場面でもないため、トラギコは無言のまま席を立ってオムレツを取りに行った。

白衣を着たコックの男が注文を受け、その場で卵を割ってフライパンにオムレツを作り、客に提供している。
たっぷりのバターの上に濃厚な黄色の溶き卵を注ぎ、鮮やかな手つきで形を整えて艶のある見事なオムレツが小皿に載せられる。
手渡された時に皿の上で揺れる姿は、その柔らかさを雄弁に物語る。

(=゚д゚)「二つ分のでかいやつ、作れるラギか?」

深い皺の刻まれた顔を微塵も変化させることなくコックは無言で頷き、熱したフライパンにバターを入れ、先ほどと同じように一片の無駄もなく作り上げた。
湯気の立つオムレツの乗った皿を受け取り、トラギコはコックの隣に置いてあったケチャップを小さじ一杯分かける。
トマトの粒が残ったケチャップがまるで血痕のようにオムレツの上に模様を作り、トマトの濃厚な香りが鼻にまで届いた。
席に戻ると三人は別の話題で盛り上がっており、トラギコは一安心した。

彼らの間で勝手に話が進んでいれば、トラギコがそこに入り込む必要はない。
トラギコは孤独が好きだった。
誰かと組んで行動すること自体が彼にとっては苦手なものであり、警察学校時代からの課題でもあった。
人間が嫌いなわけではないが、必要以上に他人とコミュニケーションを取るのがどうにも性に合わないのだ。

誰かに気を遣わないのであればいいが、複数人ともなると気を遣わずには済まない。
だが彼抜きで話題が盛り上がっているのであればそこに無理に入らずにいられるため、好都合な状況だった。
オムレツをフォークで崩して食べようとした時、隣から視線を感じるのと同時に声がかけられた。
喉元まで落胆の溜息がせり上がったが、彼はどうにか堪えることが出来た。

(*‘ω‘ *)「美味そうっぽね!!」

(=゚д゚)「ああ」

(*‘ω‘ *)「分けてほしいっぽ!!」

(=゚д゚)「絶対に嫌だ。 心から断る。 冗談じゃねぇラギ。
    自分で取ってくればいいラギ」

(*^ω‘ *)「素直じゃないっぽねぇ!!」

年甲斐もなくウィンクをされても、何一つとして嬉しいことはない。
が、ここで年齢のことについて言及したら後で面倒になるのは明白だった。
化粧が上手な人間は己を隠すのが上手いが、その下に隠れた物を見られるのを何よりも嫌う。
就寝時にも化粧をする女の心理など、トラギコにはまるで理解の及ばないことである。

(;=゚д゚)「……」

無視をすることにし、トラギコは気にせずオムレツをいそいそと口に運んだ。
バターと卵の甘い香りと優しい舌ざわり、そしてトマトの酸味と濃厚な甘味が口の中で混ざり合う。

( <●><●>)「朝食を食べながらでいいのですが、そろそろ今日の動きを考えましょう。
       私とトラギコ君はちょっと仕事を片付けないといけないので、ティムさんとトムで観光をしていてもらいたいのですが、いいでしょうか?」

256名無しさん:2019/10/14(月) 09:25:55 ID:Z.2.vlmE0
スノー・ピアサーで合流してから、トラギコはワカッテマスが世界を股にかけるサラリーマンという肩書の人間を演じていることを聞いていた。
トラギコは便宜上彼の部下兼用心棒として、旅先で合流する予定だったということになっている。
性格を理解しているワカッテマスの配慮もあり、トラギコは用心棒として多少は暴力的な言動が不自然の無いように偽装されている。
迂闊な発言などで身分が露呈しないようにという配慮だろう。

(*‘ω‘ *)「いいっぽよ!!
      サムさえよければ一緒にデートするっぽ!!」

それに、記憶を失っているオサムは戦力としてはまるで役に立たず、誰かの護衛があった方が安心できる。
デレシアに通じる数少ない生き証人として、可能であればジュスティアの拘置所に住み込んでもらいたいぐらいだ。
荒療治ではあるが彼の記憶が蘇れば、デレシアがログーランビルの襲撃の主犯であることが分かるだろう。
だがそれが分かったところで、トラギコは自分がどうするべきなのか迷っていた。

早急に取り掛かるべきはデレシアの逮捕や彼女の起こした事件の全容解明ではなく、この世界に起ころうとしている大騒動を未然に防ぐことだ。
すでに起きてしまった事件を後回しにすることは、これまでのトラギコの信条的に一度もなかった。
必ず解決し、それから次の事件に向かって歩き続けてきた。
しかし今は状況が極めて切迫し、複雑化している。

長らく変わることのないと思われた彼の価値観は変化しつつあり、事件の解決よりも事件を未然に防ぐことに重きが置かれつつあった。
残った人生をかけて追うべきであると見定めた女が関わっているのは、彼がこれまでに見逃し続けてきた何よりも大きな犯罪の影だった。
内藤財団を後ろ盾にする巨大な組織の存在と、その暗躍。
世界のパワーバランスを根底から覆しかねない組織の全貌も、その目的もトラギコにはまだ理解が及んでいない。

ジュスティア警察からの裏切り、世界的権威の協力など、関与している人間や団体の素性は彼の想像を超えており、底を見ようとしてもまるで見えてこない存在でしかない。
まるで深海を覗き込もうとする漁師の気分だ。
それと同時に、自分の中に奇妙な感情が芽生え始めていることに気づきながらも、それを否定する気持ちにはならなかった。
それは、デレシアへの信頼である。

確かにあの女は多くの人間を殺し、事件を起こしてきたことだろう。
だが果たして、その行動の根底には何があったのか。
それを考えれば間違いなくトラギコは思考の迷路に叩き込まれる。
犯罪者の気持ちなど分かりたくもないし、その気持ちに同調することも、ましてや信頼することなどありえないと思っていた。

しかし、彼女の行動には隙がなく、決して到達できない領域にその思考があることは断言できる。
今はまだ彼女に手を出すべきではないと、彼のこれまでの人生で培ってきた全てが、そう告げている。
そう、今ではないのだ。
ある種確信めいたその考えは、日に日にトラギコに変化をもたらした。

他者への興味。
これまではまるで意識しなかった他者という存在への興味は、人間関係の変化は勿論だが、彼の視野を広める大きな要因になっていた。

( <●><●>)「トラギコ君、と言うわけで我々は仕事をしに行きますよ。
       九時にホテルのロビーに集合でいいですね?」

いつの間にか話を終えていたワカッテマスがずい、と身を乗り出した。
反射的に身を後ろに仰け反らせ、トラギコは気の抜けた返事と共に頷いた。

(=゚д゚)「あ、あぁ。 分かったラギ」

257名無しさん:2019/10/14(月) 09:26:21 ID:Z.2.vlmE0
新たにライ麦パンとコーンポタージュを取りに席を立ち、腹八分目まで食事を続けることにした。
満腹の状態は仕事の能率を下げ、動きを鈍らせるというのが彼の持論だった。
それから三十分ほど食事をした後、最後にオレンジジュースで痛み止めを飲んでから、自室へ戻った。
部屋に戻ってからトラギコはクローゼットに下げていたジャケットと防寒用の上着をハンガーから取り、ベッドの上に投げた。

空の色は夏ではあるが、北風は真冬のそれだし、漂う空気は間違いなく冬の物だ。
防寒用の装備と合わせて、トラギコは四十五口径に変えたM8000を枕の下から取り出して分解し、細部の点検を行う。
いつこの街で撃ち合いになっても問題がないようにしておくが、決してそれを望んでいるわけではない。
今回ばかりは騒動が起きた際、彼一人の力でどうにか出来るものではないのだ。

この街は警察との契約がなく、独自の治安組織であるゲートウォッチを持っている。
それは警察と軍隊の役割を果たしており、有事の際には武力をもって鎮圧も殲滅も行える集団だった。
ここで騒動を起こせば、トラギコは彼らと対峙する必要に迫られる可能性がある。
そうなれば、装備が充実していて尚且つ数で勝る相手に拳銃と小型の強化外骨格で立ち向かうなど不可能だ。

協力が得られない中、トラギコに出来るのはあまり騒ぎ立てずに立ち回ること。
そして最も警戒しなければならないのは、ギルドの存在だった。
ギルド一つが敵に回るだけでもそれは驚異的な戦力であり、街中で戦闘行為が始まればギルド同士の内戦へのきっかけになり兼ねない。
ラヴニカ内での内戦は通常のそれとは異なり、世界中にその影響を与えることになる。

世界に散らばる多くの兵器にはラヴニカが深く関わっており、この街が機能を失うだけで世界のバランスが狂いかねない。
流石のトラギコも、この街でいざこざを起こすのは気が引けた。
それは街全体も考えていることで、外部の人間がこの街で暴力行為などの治安を乱す行為を行った場合は、極めて厳しい罰が与えられることになっている。
徹底して周知され、徹底して守られ続けたそのルールは今のところ十年近く破られていないという。

そのルールを意図的に破ろうとするような人間はこの街には来ないだろうが、来た場合に備えてゲートウォッチの予備員が街中にいる。
非番時にでも動ける要員が用意されていることも有り、大きな騒ぎになる前にすぐに収束されているのが十年という数字に表れているのだろう。
迅速に動き、かつ隠密性も高いことから警察よりも優秀な準備態勢と言ってもいい。
僅かな火種さえ見逃さず、未然に防ぎ続けた彼らの手腕は見事なものだ。

この土地を訪れたのはワカッテマスがデレシアを追うためであり、トラギコとしては特に用のある街ではない。
ましてや街での乱闘も、デレシアとの接触も出来れば避けたかった。
顔見知りであることをあの女が隠さなければ、トラギコは本部に吐いた嘘の数々が露呈し、呼び戻される可能性もある。
ワカッテマスが何を考えて街中にデレシアを探しに行くのか、皆目見当もつかない。

正体がばれたと言っていたが、それでもなおデレシアの後を追って列車から降りる必要性があったのだろうか。
トラギコは獲物に執着する性格を自負しているが、彼はそれ以上なのかもしれない。
モスカウの統率者は貪欲で、そして非情なまでの徹底さを持たなければその椅子に座ることはできないという。
広域犯罪への捜査権を与えられているとはいえ、この街で起きる犯罪行為について、彼らは何かをする権限を持っていない。

ジュスティアと契約関係にある街で指名手配されている人間であれば、例えそれがイルトリアの中であってもトラギコたちは容赦なく動くことが出来る。
逆を言えば、契約の範囲外で起きる犯罪については一切関知しないのだ。
これがジュスティアの持つ歪な正義の正体であり、トラギコが嫌悪する問題の一つでもあった。
街のルールに従って罰を与える警察など抑止力にすらならないことを、トラギコは多くの事件に関わっていく中で誰よりもよく分かっていた。

モスカウはその点、契約先で起きた事件の関係者限定とは言え、独自の裁量で罰することが出来ることもあって、トラギコにとっては非常に動きやすい職場だった。
一般の警察に戻る気はまるでなく、恐らく上層部もそれを望んでいる。
しかしあまりにも目に余る行動が増えるようであれば、戻される可能性も有り得た。
そうなった時、トラギコは警察を続けていける自信がなかった。

258名無しさん:2019/10/14(月) 09:26:47 ID:Z.2.vlmE0
人生最後の事件、標的に見定めたデレシアの逮捕を果たすことなく終わるなど、決して受け入れられることではない。
くれぐれもこの街で余計な事件に首を突っ込まないよう、そしてぼろを出さないよう、細心の注意を払って行動しなければならない。
言ってしまえば、この街は火薬庫のようなものなのだ。
装備を全て身に着け、最後に防寒用にと昨夜購入した厚手のコートで左の肩から下げたホルスターを隠した。

今日一日、このホルスターからM8000を取り出すことがないことを願うばかりだ。
そして、自分が火種とならず、争いごとに巻き込まれないこと。

(=゚д゚)「何もねぇといいラギね……」

――M8000の安全装置はかかっていたが、彼の言葉とは裏腹に薬室には初弾が装填され、撃鉄は起こされていたのであった。

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August 21st AM08:37
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ラヴニカの街中に太陽の光が満遍なく降り注がれるのは正午から、というデレシアの言葉の意味をヒート・オロラ・レッドウィングは思い出していた。
地平線の向こうから姿を見せた太陽も、建物が密集して積み重なったラヴニカの街並みによって遮られてしまうのである。
故に、太陽が頭上に輝く時間帯にならなければ、街の中に太陽光が取り入れられることは難しい。
だが日陰が多くなればそれだけ気温も下がり、街に住む人間にとってのデメリットが増え続けることになる。

そこでラヴニカには、太陽光を取り入れるためにいくつかの工夫が凝らされていた。
昨夜は気づかなかったが、街にある建物の表面に光沢のある塗装が施され、それが鏡のように光を乱反射させて日光を街の中に運び込んでいる。
無論、その光が地上に降り立つ頃にはすでに木漏れ日にも劣る程度の力になっていて、僅かな照明の役割しか果たしていない。
最大の工夫は、ヒートが初めて見る道具による太陽光の運搬だった。

街灯の様に道に並ぶ細長い円筒の先端から、背の高い建物の淵、果ては小さな店の中に置かれた透明な物体から優し気な光が溢れている。
彼女のいるダイニングにもある物体もまた、街中のそれと同じように発光していた。
デレシアによれば、これは特殊なケーブルの束で、屋上に設置された取り入れ口から日光をその場所まで運んでいるらしいが、ヒートはその話がよく分かっていない。
分かってはいないが、これが良い物であることは間違いなかった。

眩しすぎず、そして自然な光はまるでそこに太陽の光が差し込んでいるかのような錯覚を抱かせる。
今までにヒートが訪れた街では見たことのない、奇妙な、そして魅力的な道具だった。
みじん切りにされたキュウリのピクルスと皮に焦げ目のついたソーセージを挟み、その上にたっぷりのマスタードとケチャップをかけたホットッドッグに齧り付く。
口の横にソースが着いたのが分かったが、どうせ二口目で汚れるのだからと、ヒートはそれをそのままにした。

(∪´ω`)っ◇「口の横が、よごれてますお」

ノパ⊿゚)「おっ」

紙ナプキンを取って、ブーンが向かい側の席から身を乗り出してその小さな手でヒートの口に着いた汚れを拭った。
ぎこちのない仕草だったが、それがヒートやデレシアの行為を真似ているのだと分かり、大人しく受け入れた。

259名無しさん:2019/10/14(月) 09:27:16 ID:Z.2.vlmE0
ノパー゚)「ありがとな」

(∪*´ω`)「おっ」

この日、デレシアからの提案によって三人は別行動を取ることにしていた。
スノー・ピアサーからデレシアに目を付けている人間もこの街に降り、更には内藤財団の影が濃くちらつく状況であれば、リスクの分散をしたいとのことだった。
負傷者でなおかつ棺桶を修理に出しているヒートは、ブーンと共にラヴニカの観光をしつつ、何か買い物をすることにした。
デレシアはというと、彼女なりに考えることがあるようで、再集合の時間と場所だけを告げてどこかへと去っていた。

アイディールはその目立つ外観もあり、デレシアが使うことになった。
これで、昨夜鬼ごっこを楽しんだギルドの人間達はデレシアだけを狙うことだろう。
彼女ならば一人でも大丈夫だと考え、ヒートとブーンは二人で行動することになった。
たっぷりのバターとハチミツをかけたホットケーキをナイフとフォークで上品口に運ぶブーンの仕草は、なかなか様になっていた。

(∪*´ω`)「んあー」

同い年の子供よりもナイフとフォークを上手に使えているかもしれないと、ヒートは内心で感心していた。
ブーンの学習力と吸収力、そしてそれをすぐに実践に移す行動力はなかなかに見どころのあるものだ。
オレンジジュースと合わせて朝食を楽しむブーンの表情も、出会った時に比べて豊かになった。
多くの経験が彼を変え、そしてヒートもそれに同調するように変わっているのが分かった。

復讐に明け暮れた日々からは、今の自分が信じられない。
抜け殻と化し、殺戮だけを繰り返す非情な人間に徹していた日々。
指についていたのはケチャップではなく、自分以外の人間が流した血だったあの頃。
殺し屋“レオン”だったあの頃は、もう遠い過去にも思えた。

(∪´ω`)「お?」

ノパー゚)「あぁ、気にすんな。
    ちょっと考え事してただけさ」

誤魔化すようにして二口、三口とホットッドッグを頬張る。
酸味と甘みが程よく口の中で一つになり、単純な旨味を味わった。
細かな手を加えられた料理もいいが、やはり、たまにはこうしてジャンクな料理に舌鼓を打つのもいい。
健康には良くないかもしれないが、心の健康には丁度いい刺激になる。

付け合わせのポテトを食べ終え、口の周りをナプキンで拭う。
最後に湯気の立つコーヒーで口の中をリセットし、満足げに溜息を吐いた。

ノパー゚)「ふぅ……
    なぁ、ブーン。
    何か見たいものとかあるか?」

リンゴのシャーベットを黙々と食べていたブーンは顔を上げ、ヒートの目を見た。

(∪´ω`)「ヒートさんと一緒がいいですお」

ノパー゚)「ははっ、そりゃあいい。
    せっかくだから市場でも見てみるか」

260名無しさん:2019/10/14(月) 09:27:46 ID:Z.2.vlmE0
(∪´ω`)゛「はいですおー」

良い品はラヴニカから、という言葉が指す通りこの街には世界中の企業が新商品の買い入れに訪れる。
そして売れることが見込まれた商品の製造店は企業と契約し、世界の市場へと流れていく。
その商品の中には外部の企業が依頼した物も紛れており、試験的な商品も店頭に並ぶことがある。
ラヴニカと言う巨大な市場を経由して世界中の企業が新たな商品を売買し、反応を見る巨大な実験場でもあった。

ノパー゚)「まぁ、店が開くのは十時ぐらいらしいから、もう少しゆっくりしていこう。
    ほれ、クロスワード買ってきたんだ」

(∪*´ω`)「わーい」

ノパー゚)「飯が終わったら一緒にやろうな。
    しっかり噛んで、ちゃんと味わうんだぞ」

頷き、ブーンは少しだけ食べる速度を上げてシャーベットを口に運んだ。
一口ごとに笑顔を浮かべ、ヒートを見る。
その仕草は仔犬そのものだった。
少しずれた彼のニット帽を整え、耳が不自然にならないようにする。

耳付きに対しての差別は根強く、そしてこの世界では広く浸透している。
歴史のある街、そして閉鎖的な場所であればあるほど、差別の色は濃くなっていく。
多分に漏れず、ラヴニカもそういう街だ。
ただ、この街が差別的な思考を持っているのは歴史的な問題があったとデレシアから聞かされた。

曰く、侵略者に対して街が総出で抵抗した歴史だとのこと。
それ故に外部の異質な存在に対しては敏感で、排除する傾向になったようだ。
ジュスティアの様に外壁を設けているのは列車の道だけで、それ以外は比較的自由に出入りができる。
それは逃げ道を限定しないための工夫で、仮に街の中で内戦が起きてもどこからでも外に逃げることが出来、外部からの応援も駆け付けられるという。

(∪*´ω`)「ごちそうさまでしたー」

ブーンは小型の辞書を傍らにおいて、クロスワードパズルの本を開いた。
鉛筆を持ち、コツコツと穴を埋めていく。
以前よりも言葉を理解し、使えるようになったブーンが問題を解くスピードも精度も、もう同年代のそれを越えている。
それが嬉しくもあり、誇らしくもあった。

(∪´ω`)φ″

ノパー゚)

何気なく窓の外に目を向け、ヒートはそこに見覚えのある人間の姿を見つけた。

( ゚∋゚)

以前、ニクラメンの地下で見た大男。
ブーンに暴行を加えた忌まわしき男だった。
彼女の懐にしまわれたベレッタM93Rはいつでも発砲できる状態にあり、ラヴニカのルールを破ることができる。
だがここで破れば、発砲した瞬間にゲートウォッチが彼女とブーンを拘束することだろう。

261名無しさん:2019/10/14(月) 09:28:31 ID:Z.2.vlmE0
両腕が無事であればまだいけたかもしれないが、今は片腕。
そして何より、ブーンがいる。
今は彼を守らなければならない立場にいる以上、万全の状態でないのに戦闘行為は始めるのは愚の骨頂だ。
果たしてどうするべきか、ヒートの思考は目まぐるしく交錯していた。

無意識の内に左手はその銃把に伸び――

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              {;;;;; .. :. :. :. :.::.::::.:.:.:.ノ′     !
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       / ̄\'´   . ://⌒ヽ .    `ーtrrt'´',
      /     ヽ   : { { ;:::.:く  ';     ゙゙゙´  ゙、
  _ ノ;::く       \  ';: : `ヽ'´  `ヽ     ーr ‐'
'´::::::::::::::.:.ヽ、       \j: : ,': : .``      ,. ‐‐{
:::::::::::::::::::::::::.:.\       \{ : : . }第七章【broken rules-破られた規則-】
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ソリン・マルコフは知り合いの輸入業者の大型倉庫を訪れ、そこに並ぶ強化外骨格を見ていた。
発掘された棺桶の修理の腕を見込まれ、彼の元を多くの人間が訪れる。
そのため、彼に修理を依頼するには最低でも五年以上の待ち時間が必要だった。
日に修理出来て最大でも五機、それも運よく部品が揃っているものに限る。

部品の欠けている物に関してはこうしてジャンク品を扱う業者の元を訪れ、使えそうなものを仕入れるしかない。
コンセプト・シリーズが完全な状態で発見される棺桶自体が珍しく、未使用品で見つかることは極めて稀なのだ。
戦場で見つかるものはまず破損しているが、稀に研究所を掘り起こした時には損傷のまるでない物が運ばれてくる。
“レオン”はそうした稀有な棺桶であったが、設計図と実際に復元された物の差異にソリンは疑問を抱いていた。

彼の師匠であるアーカム・ダグソンは棺桶の復元について、決して妥協をせず、本来の性能以上を目指して作業をする男だった。
特殊なDATを用いて抽出したレオンの設計図――全ての棺桶がその内部に設計図を保存している――には、いくつか不明瞭な記述があった。
発見当時の状態がよほどでない限り、彼ならば完璧な復元ができたはずだ。
恐らく問題になったのは、その不明瞭な部分だったのだろう。

隠居後の彼が手元に用意できる道具、そして材料ではその肝心の部分を再現できなかったのかもしれない。
防御と攻撃の役割を持つレオンの左手を復元するとしたら、その素材を吟味し、一から作り出さなければ再現は不可能だろう。
盾としての大きな役割を果たすための強度、そして重量を極限まで減らし、なおかつ様々攻撃に対しての耐性。
電撃、銃弾、爆風、レーザー、そして酸。

その内の一つ、もしくは二つまでならば一つの素材でも対処は出来るが、全てと言うのが問題だった。
相当な加工技術が必要になることは間違いなく、知識も求められる。
流石のアーカムも、その全ての要件を満たす加工が施せないと諦め、レーザーと酸に対しての防御加工がされていなかった。
不明瞭な部分は、まさにその加工方法にあった。

262名無しさん:2019/10/14(月) 09:28:54 ID:Z.2.vlmE0
実際にその素材についての詳細は知っている。
コーティング用の素材としていくつもの記述のある“ぎらつく油”の製造方法については、今のところ発見に至っておらず、完全に失われた技術として知られている。
レオンの左手はこのぎらつく油で加工することで、レーザーと酸に対しての強力な耐性を獲得することになる。
この再現が不可能であると判断したアーカムは、軽量かつ強固な素材で左腕を復元したが、それは不完全な形になってしまったのだろう。

ぎらつく油の耐用年数にも限界があるのは現在もその現物が存在しないことから明らかで、ロストテクノロジーの一つとしてラヴニカの職人たちを苦悩させている。
ソリンもまた、その再現に挑んだ経験があるが、どうあがいても無理だった。
主成分も何も分かっていない状態で再現すること自体が不可能であり、性能から逆算するには現代人はあまりにも無知すぎる。
しかし、彼の心には師匠を越えるという大きな目標が生まれ、その為にぎらつく油の再現に着手すべきであると考えていた。

猶予は一週間。
自分で指定した期限内にどこまで出来るのか、ソリンは久しぶりに興奮していた。
何はともあれ外装の修理を行わなければならないため、こうしてその部品に見合いそうなものを探しに来た次第だった。

( 0"ゞ0)「何かいいのは入ったか?」

作業を指示する顔なじみの店主に声をかける。
店主は大声で返答した。

「手前の方にいくつかあるだろ、そいつを見てくれ!!」

棺桶のジャンク品は思いのほか需要が高く、特に復元業を営む人間や兵器会社には高額で取引される品だ。
決して安くはないが、それが後々大きな利益を生むことがあり、研究目的として一大市場が出来上がっているほどである。
有名な例で言えば“ジョン・ドゥ”の部品から“マハトマ”に酷似した作業補助用の強化外骨格を生み出し、それを世界中の卸売業や介護職の現場に売り出した件だ。
ばらばらになったジョン・ドゥの体を復元するのではなく、使える部品をつなぎ合わせることで新たな使い道を作り出すことで利益に繋がった。

マハトマと違ってバッテリーを腕部に内蔵せずに背負うことで驚異的な駆動時間を獲得し、更にはメンテナンスの容易さ、耐久性共に現場では大いに重宝された。
戦闘用の物ではないため、一般企業も気軽に導入することが出来、更には安価だったこともあって工事現場などでも活躍している。
それを生み出した復元業の人間は莫大な金を手に入れ、大手を振って引退をした。
考え方次第では宝の山であるジャンク品の中でも、特に気を付けなければならないのが、その部品が“名持ち”の物か否かという点だ。

量産機のパーツはコンセプト・シリーズに流用するには繊細さに欠け、また、こちらが求めている以上の性能を引き出すことが出来ない。
コンセプト・シリーズは一点物であり、使用されている素材も設計も、製造過程においても職人の技が生かされている。
どうせ使うのであれば量産機のような物ではなく、技術の粋を集めた物が最上の部品になる。
レオンほどの棺桶に使うためには、当然、それらを吟味して使用しなければならない。

どれだけ時間が経ったのか、彼の感覚は既に時間の概念から外れ去り、考えられるような状態ではなかった。
その声が聞こえた時に初めて、自分が相当な時間をここで過ごしていることを思い出した。

「おおっ、これは運がいい!!
ソリン・マルコフ、久しいねぇ!!」

どこかで聞いたことのあるような声が背後から聞こえ、振り返る。

(’e’)「ジョーンズだ、イーディン・S・ジョーンズ!!
   覚えているかな?」

263名無しさん:2019/10/14(月) 09:29:17 ID:Z.2.vlmE0
何年前だったのかは忘れたが、この男のことはよく覚えている。
職人としての訓練を経ていないにも関わらず棺桶に関しての知識と技術が世界屈指の域に達した、歴史学の権威だ。
ラヴニカには何度か訪れ、世界の歴史を紐解くヒントを収集して回っている変わり者。
ソリンの店にも何度か訪れ、棺桶の修復を依頼したことのある人間だった。

( 0"ゞ0)「あぁ、覚えてるよ。
      また講演でもするのか?」

(’e’)「いやぁ、歴史学の講演はまた別の機会だよ。
   探し物をしていてね、今色々な知己に話を聞いていたところなんだ」

ジョーンズは倉庫内を見渡し、声を潜めた。

(’e’)「最近、何か変わった棺桶を見なかったかい?」

( 0"ゞ0)「そうだな……
      そういや、“インターステラー”の一部がまた海底で見つかったってよ。
      後は頭と左脚で揃うらしいが、俺は関わっちゃいねぇからな」

(’e’)「ほぅ!! あのインターステラーか!!
   私は腕と胴体を見たが、そこから大分進んだのだね。
   相変わらず焼け焦げていたのかね?」

( 0"ゞ0)「らしいな。 世界中に散らばってるってことは、どこか高い場所から落ちたんだろうな」

(’e’)「宇宙から落ちでもしない限り、あそこまで散り散りにはならないだろうね。
   他にはないのかね?」

ソリンとジョーンズは知己の仲、というわけではない。
彼が著名なのは知っているが、その人間性までは興味がなかった。
研究者という生き物の多くが、対人関係における距離感を誤っている場合があるが、この男も多分に漏れずにその類だった。
妙に馴れ馴れしさを感じるのと同時に、何か違和感のようなものを覚えた。

この男がデレシアを追っている人間の仲間ではない、とは断言できない以上、情報を流す必要は感じなかった。

( 0"ゞ0)「あんまりないな。
      で、あんたは何を探してるんだ?」

(’e’)「“コロンビアーナ”だ。
   聞いたことはあるかい?」

( 0"ゞ0)「いや、ないな」

(’e’)「そうか、それは残念だ。
   対強化外骨格用強化外骨格でね、残っていればと思ったんだが、そうか、ないか」

( 0"ゞ0)「そのコンセプト・シリーズは一機だけじゃないのか?」

264名無しさん:2019/10/14(月) 09:29:44 ID:Z.2.vlmE0
(’e’)「ほぅ、“レオン”は知っているんだね。
   それなら話が早い、コロンビアーナとレオンは同じコンセプトを満たす機体として作られて、片方は歴史の闇に消えたのさ。
   と言っても、これは企業間の問題でね。
   要するに依頼主の出した要望を満たしていたのはレオンで、コロンビアーナは惜しくも不採用だったんだ。

   本来であれば機密保持のために廃棄処分にされているんだろうけど、私はそうは思わなくてね。
   あぁ、勿論その二機の前身と言うか、プロトタイプの“ニキータ”についても調べたんだけどね、そっちは完全に廃棄処分の憂き目に合っているよ」

今までに聞いたことのない二種類の棺桶の名前が出たことに驚きはしなかったが、その棺桶がいずれもレオンと因縁のある物だと分かり、ソリンは一気に彼を警戒した。
タイミングがあまりにも良すぎることと、目当ての物がはっきりしすぎている。
本当に探し回った末にここにいるのか、それとも何か確証をもってここに来たのか。
この男は分かりやすい顔をしているが、それが仮面なのかどうかも、ソリンは何も知らない。

( 0"ゞ0)「流石は学者さんだ、俺の知らないことまでよく知ってるな」

(’e’)「私の趣味みたいなものだからね、いや、ライフワークか。
   歴史を紐解くということは、人類の歩みを知ることだ。
   特に、終焉への歩みを知るのは非常に心躍るよ」

( 0"ゞ0)「俺には分からん話だが、楽しんでくれや」

(’e’)「あぁ、ロマンと言うのは理解を求めるものではないからね。
   ところで今日は何を探しているのか訊いてもいいかな?」

( 0"ゞ0)「部品取りに何か良いのがないか見ているだけだ。
      知ってると思うが、コンセプト・シリーズの修理依頼が絶えないんだよ」

(’e’)「なるほど、知識人じゃないと理解できない領域の問題だね。
   ふぅむ…… ここまでばらばらになっていると、流石に元の形の想像も出来ないねぇ」

( 0"ゞ0)「頭部がありゃあいいんだが、そのあたりはまず無事な状態で見つからないからな」

棺桶にそれぞれ備わっている修理を目的とした設計図もしくはマニュアルは、頭部に収められていることがほとんどだ。
しかし頭部は棺桶持ちにとっての急所であり、強力な砲などで狙い打たれたり、両断されたりと戦闘中に損傷することが非常に多い。
どこかにバックアップでもあれば復元は可能だが、大昔のバックアップなど、どこの誰がどうやって保管しているかなど分からないため、頭部を持たないコンセプト・シリーズの修復はまず不可能だった。
大量生産された物であれば容易に修理は可能だが、一点物は修理や管理が非常に難しいのだ。

(’e’)「職人ならではの勘って奴で見極めるんだろうね、性能と言うやつは。
    さて、仕事の邪魔をするわけにはいかないから私は失礼するよ。
    さっきの話だけど、もし分かったら教えてくれ。
    お礼に、“ハート・ロッカー”を差し出してもいい」

( 0"ゞ0)「ははっ、置き場がねぇよ」

ジョーンズがそのまま消え、ソリンは内心で安堵の息を吐いた。
仮にデレシアを追っているのが内藤財団だとしたら、この状態のままでいたら街の在り方に間違いなく変化が訪れる。
最悪のことを考え、ソリンは準備をする必要性がいよいよ現実味を帯びてきたことを察した。
確かに思えば、不変のものなどこの世にはなく、いつラヴニカのギルドに終焉が訪れても不思議ではないのだ。

265名無しさん:2019/10/14(月) 09:30:04 ID:Z.2.vlmE0
その昔、ラヴニカの人間達が行ったような大規模な戦闘が再び起きないとは誰にも断言はできない。
一度あった人類史は、時間が経てばまた繰り返される。
それは人間が人間である限り、決して変わることのない心理なのだと、デレシアが言っていた言葉だった。

「どうだ、何かあったか?」

( 0"ゞ0)「まだ見てるところだよ!!」

その時、ソリンの目にある部品が目に留まった。
それは黒い外装に包まれ、一見すれば左腕の部品だったが、間違いなく左脚の部品だった。
当然、その正体も素性も分からないが、その形状はまるで獣か悪魔のそれだった。
異常なまでに発達させた五指、それに相反して細身の脚部。

その在り様はまるでバレエダンサーのそれに酷似していた。
最小限にして最大限の効果を発揮し、それでいて絶妙極まりないバランス感覚を保ちつつ、柔軟性と指先に至るまでのコントロール力。
一切の無駄を削ぎ落とし、美しさと実用性を兼ね備えた筋肉を模したであろう設計。
それは紛れもなく優れたコンセプト・シリーズに見られる偏執的なまでの設計思想を持っていると、一目で分かった。

後は、この性能を知るところから始めなければならない。
未知を前に興奮しない技師はいない。
ソリンにとって、当面の間目に映るのはレオンの修復において師匠を越える方法だけだった。

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                  `二  `    ′:.:. August 21st AM09:51
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トラギコにとって一人の時間は何よりも落ち着くものだが、逆を言えば、気の合わない人間と過ごす時間は苦痛でしかなかった。
言動の全てが虚偽に思えてしまうワカッテマスとの時間は、まるで神経が休まることはない。
二人で街を歩きながら、ワカッテマスが探している何かしらの情報を集めるという作業は、トラギコにとっては苦行そのものだ。

(=゚д゚)「……」

( <●><●>)「……」

266名無しさん:2019/10/14(月) 09:31:30 ID:Z.2.vlmE0
二人は無言のまま、ラヴニカの迷路じみた街を歩き続けていた。
デレシアの行方に関する情報はおろか、それを探ろうとすらしていない。
これはつまり、ワカッテマスが追っているのはデレシア以外の相手ということになるが、せめてその対象を知らなければトラギコも助力しようがなかった。
彼の三歩後ろを歩きながら、トラギコは思案し続けた。

痛み止めの副作用か、頭の動きが少し鈍い。
脚の怪我は奇麗に銃弾が抜けていたが、抉れた肉と失った血液を取り戻さないことには以前のような動きを続けるのは難しい。
今使っている痛み止めはかなり強力なもので、ほぼ一日、その効果が継続する。
ジュスティアの病院で処方された未販売の新薬で、その副作用についてはまだ細かいことが分かっていない。

これは、現場に一刻でも早く戻りたいというトラギコの要望を聞いたツー・カレンスキーが手配してくれたことで、条件として副作用をまとめて医者に報告すべしというものだった。
分かっている限りでは思考の鈍化、部位によって異なる鎮痛効果の度合い、そして食欲の向上である。
最後の副作用については食が細りつつあったトラギコにとっては嬉しい話で、おかげで経費を使って肉とワインで傷を癒すことが出来ていた。
が、どうにも思考の隅に靄がかかったような感覚は気分が悪かった。

その内何かを見逃してしまいそう気がするのだ。

( <●><●>)「トラギコ君はラヴニカに来たことはないんでしたね」

(=゚д゚)「あぁ。 関りもあんまりないからな」

( <●><●>)「そうだろうと思いましたよ。
        だからこれから、地下の見学に行こうと思いましてね」

(=゚д゚)「地下ってぇと、地下ギルドの本拠地ラギね。
   ……ちょっと待てよ、別にそんなの見なくても」

( <●><●>)「百聞は一見に如かず。
        昨夜起きた騒動に関係しているかもしれないし、見に行って退屈はしないってことは保証しますよ」

(=゚д゚)「ここじゃ警察なんて意味のねぇ肩書ラギよ」

( <●><●>)「我々はただの善良なビジネスマンですよ、トラギコ君。
        地上にはない物が地下にはたくさんありますからね、ガイドブックを見るよりも有意義です」

腐ってもモスカウの統率者である彼の言葉には、不思議な説得力があった。
それに、統率者は知識やひらめきの才能だけではその椅子に座ることはない。
鎮圧能力を含めた犯罪の解決力を見込まれた者のみがモスカウに在籍し、更にその中で最も優れ、指導者に適任とされた人間だけがモスカウを統率できるのだ。
実際に争ったことはないが、ワカッテマスの力はトラギコと互角か、それ以上の可能性が高い。

彼の身の安全を守ろうなどとは思わないが、逆に、トラギコが守られることになるだろう。

(=゚д゚)「ところで、訊いてもいいラギか」

( <●><●>)「何ですか?」

(=゚д゚)「地下ギルドってのは、地上と比べてどんな連中ラギ?」

( <●><●>)「ギルドに属せない、というか、公には出来ない組織の集まりですね。
        ギャングとかと言ったほうが多分しっくりくるでしょう」

267名無しさん:2019/10/14(月) 09:33:08 ID:Z.2.vlmE0
(=゚д゚)「取り締まりはしないのか、この街は」

( <●><●>)「街を経営したことはありませんが、言えることはあります。
        街というのは生き物で、毒も含めた在り方なのでしょう。
        特に長い歴史と共に生きてきた毒であれば、下手に取り除けは街の存続にも関わってきます。
        君も関りのあったオリノシが浄化作戦で酷いことになり、内藤財団がその経営を行ったのがいい例です。

        身を滅ぼす毒であれば除去するしかありませんが、共存してきた毒であれば失わせる必要はないのですよ」

(;=゚д゚)「それ、あんたが言っていいラギか?
    聞かなかったことにしておくラギよ」

( <●><●>)「ははっ、まぁ警察という立場で言えば確かに不適切かもしれませんね。
        でも今の私はただのビジネスマン。
        好きに言う自由があるのですよ」

これが意外な一面と捉えるか、それとも、彼なりのジョークなのかは分からない。
トラギコにとって彼ほど真意が分かりづらい男はいない。
知る限り、彼は警察の上層部だけでなく、ジュスティアの中でも相当な地位にいるはずだった。
市長から何度も呼び出しを受け、会合に参加していることはモスカウの人間には周知の事実だ。

(=゚д゚)「ま、あんたがそれでいいんならいいけどよ。
    どうやって接触するラギ?」

( <●><●>)「彼らが地下ギルド、と呼ばれている所以は文字通り地下での活動が主だからです。
         ラヴニカの地下はなかなか壮観ですよ。
         あぁ、ちなみにですが地下の街には“ディミーア”という名前があります。
         なんでも、昔あったギルドの名前だとか」

歴史の情報について大した興味もないトラギコはその話をある程度聞き流し、要点だけを聞くことにした。

(=゚д゚)「どこから入るラギ?
    マンホールでも探すラギか」

( <●><●>)「いえいえ、そんな不便な仕様ではありませんよ。
         街角にある公衆電話が目印です。
         電話とは遠距離通信を行うもの、つまり今いる場所とは異なる空間へのつながりを暗喩するらしいですよ。
         中々凝った仕様になっていて、ジュスティアでも採用すればと進言しているんですが技術と土地がないとのことで」

いつの間にか二人は公衆電話の前に辿り着いており、ワカッテマスは芝居めいた仕草でそれを手で指した。
赤い電話ボックスの中には明るい緑色の公衆電話があった。
普通の電話ボックスにしか見えないが、何かが違うのだろう。

( <●><●>)「さ、中に入ってください」

トラギコが中に入り、そしてワカッテマスが後に続いた。
狭いボックス内で二人は密着した状態になり、トラギコは困惑した。
ある種の危機感さえ覚えた。

(;=゚д゚)「おい、くっつきすぎラギ」

268名無しさん:2019/10/14(月) 09:33:50 ID:Z.2.vlmE0
( <●><●>)「この電話ボックスは中に人が入ると外からは見えなくなりますので、気にしなくて大丈夫ですよ」

(;=゚д゚)「違う、そうじゃないラギ」

( <●><●>)「受話器を持ち上げて、それから数字を規定通りに打ち込みます。
         それが終わったら受話器を戻します」

ワカッテマスは囁くようにそう言って、トラギコの背後から受話器を持ち上げ、ダイヤルキーを押した。
受話器が置かれた直後、何故彼がこんなに密着したのかがよく分かった。
それまで二人の足が乗っていた地面が開き、暗闇に落ちて行ったのである。

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クックル・タンカーブーツの剛腕は、襲撃者の胸骨を容赦なく捉え、砕いた。
ナイフ一本で襲い掛かってきた男は軽々と殴り飛ばされ、ゴミの溢れたポリバケツに突っ込んだ。
地下に広がる迷路じみた街の、更に路地裏に響いたその音は誰かの耳に届いたかもしれないが、何かが起こる気配はなかった。
仮にこれが地上であればゲートウォッチが出てくるのだろうが、このディミーアにはそんな組織は存在しない。

クックルは地面に落ちたナイフを拾い上げ、それを見せつけるようにして折った。

( ゚∋゚)「まだやるかい?」

仁王立ちになった偉丈夫の放ったその言葉は、だがしかし、襲撃者たちの動きを鈍らせることはなかった。
襲撃者は一瞬のうちに小型の拳銃を構え、躊躇うことなく発砲した。
小口径にして静音性の高いその銃がワルサーPPKであることを一瞬で看破し、その銃腔がこちらの急所を狙っていることを把握し、クックルの体は自然と回避行動に移っていた。
回避に成功するのと同時に、折れたナイフの切っ先を投擲した。

前頭部にナイフが深々と突き刺さった男は倒れ、残ったもう一人の男は舌打ちと共に逃亡した。
狭い路地裏でクックルを襲ったことが仇となり、その逃げ道は一方通行になっている。
クックルは余裕をもってPPKを拾い、構え、撃った。
小さな銃弾は哀れな男の後頭部から侵入して脳を破壊し、その場に倒れこませた。

背中に向けて二発撃ち、息がないことを確かめた。

269名無しさん:2019/10/14(月) 09:34:11 ID:Z.2.vlmE0
(’e’)「いやぁ、流石は地下だね。
   降りて一分でカツアゲとは、恐れ入るよ」

離れた場所で観戦していたイーディン・S・ジョーンズの言葉にクックルは溜息を吐き、服についた埃を払い落とした。

( ゚∋゚)「博士、お願いですから、勝手に離れないで下さい。
    ショボンが動けない以上、私しか護衛は出来ないんですよ」

地下で合流して間もなく、ジョーンズは昨夜のバイクチェイスの情報を持っている人間と接触すると言って、クックルの制止も聞かずに走り出した。
その結果が今しがた起きた殺し合いだ。
元イルトリアの軍人であるクックルにとってはこの地下は恐れるに足らない場所だが、戦闘の素人で尚且つ子供の様に興味が移ろう大人が一緒の場合はそうも言えない。
ましてや今は強化外骨格を持ち歩いておらず、己の肉体と現地調達をする武器しか防衛手段がない。

念のためにと二人とも防弾着を着たはずだったが、ジョーンズはいつの間にかそれを脱ぎ捨てていた。
助かったからよかったものの、これで撃ち殺されていたら組織が受ける打撃は相当なものだ。
PPKから弾倉を抜き、薬室の一発を取り出してそれをゴミ箱に放り入れた。

(’e’)「ははぁん、クックル君。
   君、さては遊園地に行ったことがないね?」

( ゚∋゚)「は?」

(’e’)「私にとってラヴニカとは遊園地なのだよ。
   いいかい、ここには世界中から棺桶が運ばれてきて、修理、復元がされる。
   世界を終わらせた兵器が一堂に会するんだ、こんなに素晴らしいことはない。
   あぁ……いかん、勃起してきた」

喘ぎ声のようなものを声に出したかと思うと、ジョーンズの股間が盛り上がっていた。
これまでに見てきたどんな死体よりも気味が悪く、恐怖に似た感情を覚えた。
狂人と天才は紙一重と言うが、正にその通りだと痛感した。
言葉が通じるのに話が通じない相手とは、つまるところ会話が出来ない未知の存在と同義なのである。

(;゚∋゚)「博士、とにかく今は問題のギルドの人間と接触しましょう」

(’e’)「それはもう済んだだろう?」

(;゚∋゚)「え?」

(’e’)「君が頭をぶち抜いた男が、昨日の生き証人だよ。
   ……なーんてね!!」

拳を握りしめ、怒りを押さえ込んだ。
この男を相手に本気になってはいけない。
そして、殺してはならない男だ。
彼はこんな性格と人間性をしているが、棺桶に関しての知識は世界でも五指に入る程の物だろう。

少なくともイルトリアにも彼ほどの人間はおらず、ティンバーランドにも彼以上の人間はいない。
計画を成就させるためには彼の存在は必要不可欠であり、末端の人間が一時の感情で殺していい存在ではないのだ。
 _,
(#゚∋゚)「……」

270名無しさん:2019/10/14(月) 09:34:32 ID:Z.2.vlmE0
(’e’)「まぁそう怒るなよ、リラックスしたまえよ。
   やることはちゃんとやるさ」

そう。
この男の言動は極めて不愉快なそれだが、与えられた職務については必ず達成する。
破壊されたエクスペンダブルズを改修し、今の状態にアップグレードしたのは彼だ。
抜け目のない男だが、人を不愉快にさせる癖だけは直す気がないらしい。

(’e’)「歩きながら話そうか。
   どうにもここは空気が悪い」

ジョーンズに従って路地裏を出る。
そして、彼の半歩後ろに下がってクックルは歩き出した。
この距離であれば、いつ彼が突然走り出しても捕まえることが出来る。

(’e’)「この街にはね、まだ世界に流通していない多くの素材がある。
   例えば、この街の頭上だね」

二人のいるディミーアは地下の世界ではあるが、周囲は極めて明るく、地上と大差がなかった。
その理由に挙げられるのが強い光を発する天井だ。
如何なる原理か、太陽光の様に強く優しい光が天井全体から降り注ぎ、地下に作られたもう一つの街並みをくまなく照らしている。
先ほどの路地裏でさえ、その光の恩恵にあずかることが出来ていた。

街灯の類であることは間違いないが、圧倒的なこのエネルギーは電気による発電ではないだろう。
あまりにも強烈で、そして、自然すぎる。

( ゚∋゚)「太陽光を取り入れているのですか?」

(’e’)「うーん、まぁ、そうだね。
   特殊なケーブルを使って太陽光を運んでいるのさ。
   これがどうしても外部での再現と運用が出来なくてね」

( ゚∋゚)「原理が分かれば作れるのでは?」

(’e’)「原理は無論分かるよ。
   言ってしまえば鏡の原理だ。
   だが、問題なのは加工方法なんだ。
   ラヴニカで使われているあれのほとんどが、昔からある物を右から左に移しているに過ぎない。

   数に限りがあるが、複数のギルドがリレー形式で製造することに成功している。
   互いに秘密主義だからね、必要な工程は全て細分化して終わらせてバトンを渡す。
   前の段階で何があったかは分からない状態だから、どこかにスパイがいても分からないって寸法さ」

( ゚∋゚)「はぁ」

(’e’)「後は、この地面だ」

言われて、クックルは地面を見る。
アスファルトのような表面をしているが、これが特殊な技術を用いて作られた物なのだろうか。

271名無しさん:2019/10/14(月) 09:35:37 ID:Z.2.vlmE0
(’e’)「こいつは、どれだけ水を上からぶちまけても水がたまらない。
   地上にもこれと同じ素材が使われていて、雨水は下水処理とかに使われる。
   嵐がよく来るが、ラヴニカはこれまでに一度も河川が氾濫したことがない。
   下水施設もそうだが、地上に降り注いだ雨がとどまらないように工夫されているのさ。

   ここも恐らくは地上と同じ素材が使われているだろう。
   恐らく、というのはラヴニカの地面についてはそのまま使われているから原理も名前も分からない。
   まさに失われた技術、と言うやつさ」

( ゚∋゚)「はぁ」

どちらの技術についても、クックルは興味がなかった。
確かにこの街には多くの技術が集結し、世界中の市場に影響力を持っている。
しかし、それがどうしたというのだろうか。
世界にある街のほぼ全てが街の地下にもう一つの街を持っていない。

高度な技術だとしてもそれを必要としないことが多いのであれば、意味はないのと同じだ。

(’e’)「我々の計画の大きな割合を占める、というか要である“ニューソク”の更なる運用には、どうしても必要な技術がいくつかある。
   最後の歩みに至るには、この街はぜひとも手中に収めたい」

( ゚∋゚)「それが上手くいかない現状を知っているでしょうに」

(’e’)「だから、ここにいるんだよ。
   ま、デレシア一行云々何ていうのは実は口実でね。
   ラヴニカを制御下に置く、というのが目的さ。
   まぁ運よく出会ったら、彼女たちにちょっかいを出してやるのも悪くはないと思ったのは本当さ」

( ゚∋゚)「その方法は考えているのですか」

(’e’)「ま、それは追々話そうじゃないか。
   今はとにかく、情報が欲しいんだろう?
   私はここで商品を見て、君は情報を得る。
   これこそがウィン・ウィンってやつだ」

ジョーンズの奇行には慣れたつもりだったが、未知の領域が彼の脳みその中にはあるようだ。
一度と言わず、三度ほど頭を叩き割ることでその中身を見てみたいと心底思った。

(’e’)「君は仕事に熱心なのが長所だが、熱心すぎると時には自分を苦しめるだけだよ。
   肩の力を抜くところは抜かないと、思わぬところで躓くよ」

( ゚∋゚)「……価値観が違いますので、そこは聞くだけにしておきます」

(’e’)「ははっ、言うと思ったよ。
   お互いやるべきことをやれば、ひとまず嫌な誤解もなくなるさ。
   本気で取り組んで結果を出せば、自ずとその人間の流儀や理屈が分かってくる。
   どうれ、からかうのはここまでにしようかな」

272名無しさん:2019/10/14(月) 09:35:57 ID:Z.2.vlmE0
ジョーンズの言葉がなくなったことにより、クックルの心に多少の余裕が生まれた。
地下を歩いていくにつれ、クックルは地上との違いを少しずつ見つけ始めた。
最も大きな点は、道である。
頭上の明かりがあることから、街灯は一本も見当たらない。

更に、車道と言う概念がないのか、建物との間には段差などは一切なく、武骨なアスファルトの地面が広がっている。
付け加えるとしたら、言えば車はどこにもなく、地上では散見された馬もバイクもなかった。
地下への持ち込みを規制しているのか、それとも合理的判断に基づいてそれらを不要としたのか。
その疑問を口にしたわけではないのに、ジョーンズが答えた。

(’e’)「地下で問題になるのは空気だ。
    車もバイクも、勿論糞を出すから馬も規制の対象なのさ。
    見つけ次第即スクラップ工場か肉屋行きだよ。
    だから下手な街よりも空気が奇麗と言えるね。

    ところで馬肉は好きかな?
    あれは結構美味しくてね」

( ゚∋゚)「どうやって空気の循環を?」

(’e’)「色々な設備があるが、やはり一番は街中に張り巡らされた地下水道にある循環装置だね。
   っと、そんなことを言っている間に着いたよ」

割と真新しい四階建てのビルの前には看板も何もなく、静けさも相まってテナント待ちのそれに見えた。

(’e’)「じゃあ、後は君が好きにするといい。
   私は見ているだけにするよ」
 _,
( ゚∋゚)「……」

(’e’)「そんなに見つめないでくれよ。
   捕捉をすると、我々が介入した痕跡の一切はこの街に残さないように、って話があった。
   気乗りがしないかもしれないが、よろしく頼むよ」

キサラギギルドも、それに追従する地下ギルドも所詮は使い捨ての駒。
ティンバーランドが新たな世界を作る為に必要な踏み台であり、養分であり、切り捨てることに一切の躊躇いを抱くことのない存在だ。
だが切り捨てるには時期尚早ではないか、というのがクックルの考えだった。
まだこの街での目的が達成されていない以上、迂闊なことは出来ない。

それに、このビルの中にいる人間達の戦闘力も武装も分からないままで戦闘を挑むのはバカのすることだ。
仮に向こうが棺桶を持ち出せば、クックルに勝ち目はない。
まずは取り入り、情報を得て、それから考えればいい。

(’e’)「まぁた難しいことを考えているね、君は。
   ほら、ドカーンってやっちゃいなよ」
 _,
( ゚∋゚)「こちらにはそもそも武器がないんです、博士」

(’e’)「なら買おう。
   私についてきなさい、いい店を紹介しよう」

273名無しさん:2019/10/14(月) 09:36:19 ID:Z.2.vlmE0
ビルから数ブロック先にあった小さな店に導かれ、彼の言う“いい店”の正体が分かった。
外観は先ほどのビルと同じく無機質だが、その中にはずらりと棺桶の入ったコンテナが並んでいた。
コンテナには乱雑にシールが貼られ、そこには殴り書きで棺桶の名前が書かれている。
その雑さ加減は店と言うよりも、個人倉庫だった。

(’e’)「ここにおいてあるのは、全部ジョン・ドゥなんだ。
   世界最高のジョン・ドゥ専門店だよ」

( ゚∋゚)「何だ、ジョン・ドゥか……」

(’e’)「おおっと、クックル君そいつはいただけない発言だな。
   ジョン・ドゥは世界で最も作られた棺桶の一つだ、その理由を知っているかね?
   安定した質と互換性の高さの両立だよ。
   昔はそれこそ、言語も宗教も所属も異なる勢力が互いにジョン・ドゥを使って争っていたことも有る程だ。

   例えばこれだ、ジョン・ドゥのC型だ」

近くにあったコンテナを指で叩き、ジョーンズは熱弁を続ける。
C型と言えば、近接戦闘用にカスタムされたもののはずだ。
何度も使ったことがあるため、その運動性能の良さはよく分かっている。

(’e’)「近接戦闘用の装備に各部位をカスタムしたものだが、近接戦闘特化のコンセプト・シリーズにも比肩し得ると言われているんだ。
   狙撃型のL型なんて、中々のものだよ。
   イルトリアにいてジョン・ドゥを甘く見るとは、全く、悲しいよ。
   筋肉を鍛えるのもいいが、脳みその方を鍛えるのも悪くはないよ」

その発言を聞き流せるほど、クックルは自らの人間性が忍耐強い物ではないことを理解していた。
数値だけで語る人間と現場で使い続けてきた人間の意見と言うのは、ほぼ総じて食い違うものなのだ。
経営者と現場の人間の意見が異なるのと同じく、互いにそれが正しいと信じているからこそ起こり得る争い。
極めて不毛な争いであることを承知して、クックルは口調を荒げて反論した。

( ゚∋゚)「無論、型のことは知っている。
    しかし一周すればジョン・ドゥよりもソルダットに帰結する。
    堅牢さと剛健さはこっちの方が上だ」

強化外骨格用は戦場で使うことが前提で設計されているため、頑丈でなければならない。
そしてその頑丈さは実戦の場においてのみ検証されるものであり、量産機は総じて実用性が高い物だ。
発掘される数の多さは確かにジョン・ドゥの方が多く、かつての世界大戦で支持を得ていたことが分かるが、それでもクックルはソルダットを推していた。
最大の理由は装着に要する時間がジョン・ドゥの半分以下であることだが、それ以外にも装甲の厚さや悪条件下での不具合の無さはこちらに分がある。

ジョーンズの口が歪な笑みの形を作った。
切れたはずのスイッチを押してしまったのだと分かっても、もう遅い。

(’e’)「だが、互換性の幅広さでは勝てない。
   時代を牽引する発明と言うのは、幅広い用途とその互換性にこそあるのだよ。
   共通したパーツが多いからこそのメンテナンス性の高さもそうだが、戦場においては――」

274名無しさん:2019/10/14(月) 09:36:40 ID:Z.2.vlmE0
( ゚∋゚)「――戦場においては、何よりも使用者の命を守り、相手を殺すことが重要だ。
    フィリカ内戦の時に塹壕戦で一番人を殺した道具を知っているか?
    スコップだよ、博士。
    それも、謝りながら相手を殺すんだ。

    土に汚れたスコップを振り上げて、一撃では殺せないことに罪悪感を覚えながら何度も振り下ろして殺すんだ。
    切れ味なんていうのはあってないようなものだから、上手に殺すのが難しい。
    スコップに互換性を求める奴なんて、どこにもいなかったぞ」

(’e’)「だからこそ、フィリカ内戦にはプレイグロードが投入されたんだったね。
   ある指揮官の判断で、ね」

そして、その判断を叱咤されたことが決定打となり、クックルは除隊したのである。
弱さは罪であり、その罪は強さでのみ補える。
この世界を変えるのは力であり、力のないイルトリアには未来がないと見限ったのだ。

( ゚∋゚)「どうせ殺すなら、方法は些事だ。
    雑草を刈るのに薬を使おうが火炎放射器を使おうが、結果は同じだ」

(’e’)「そうは思わない人間もいたようだがね」

( ゚∋゚)「昔の話だ。
    ……博士、それで、ここに連れてきた理由を話してください」

気持ちを落ち着かせ、口調を戻した。
これ以上の口論は時間と体力の無駄だ。

(’e’)「まぁ、ここでの活動に棺桶があれば君が安心すると思ってね。
   さっきのビルの中に行くのにお守りぐらいは必要だろう?
   君なら余裕だ」

以前のクックルならば、ここで慎重になることはなかっただろう。
ニクラメンで味わった屈辱的な敗北は、彼に慎重さを植え付けた。
生身の人間相手に敗北するという、圧倒的な力量の差を目の当たりにして彼の価値観は変わった。
世界の広さと己の弱さを知り、クックルは慢心を捨て、軍隊時代の初心を取り戻していた。

相手を侮らず、常に最高の武力で制圧する。
これが彼の得た教訓だった。

( ゚∋゚)「余裕ということはないですよ。
    ビル内なら近接、それも得物を使わないほうがいい」

棺桶はただでさえ体が大きくなるため、屋内で刃物などを振り回して戦うのは向いていない。
散弾銃と肉弾戦で戦うのが最良の選択肢だ。
可能であればPDWと共に運用するのが理想だが、そこまでの贅沢が言えれば御の字である。
コンテナに下がっている札を見て、ジョーンズは頷いた。

(’e’)「C型になるね。
   そうしたら…… うむ、これなんかどうだろう?」

275名無しさん:2019/10/14(月) 09:37:05 ID:Z.2.vlmE0
関節の可動域を広げ、ジェーン・ドゥの部品を流用した軽量の装甲。
更に、両腕に装甲と一体型の散弾銃が仕込まれていると書かれていた。
これならば屋内でも十分に戦えるが、使い心地を確かめる必要がある。

( ゚∋゚)「そういえば、店主はいないのですか?」

(’e’)「店主はカメラでこっちを見ているから、人前には出てこない。
   こういう商売だと、売り物で殺されたり恨みを買いやすいからね。
   金を支払いさえすれば、遠隔操作で我々が殺されることはない」

天井に取り付けられているカメラが、まるで同意をするかのように駆動音を発した。
コンテナを背負い、起動コードを入力する。

( ゚∋゚)『そして願わくは、朽ち果て潰えたこの名も無き躰が、国家の礎とならん事を』

そしてコンテナ内に取り込まれ、外骨格が体に装着されていく。
着け心地も問題なく、稼働状態も良好だ。
コンテナが開き、ジョン・ドゥに身を包まれたクックルが姿を現す。

〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『悪くない』

(’e’)「じゃあ、買おう。
   そして行ってくるといい。
   私は別の店を見てくる」

金貨を無人のカウンターに置き、ジョーンズはカメラに向かって親指を上げた。
すると金貨がカウンターの中に吸い込まれ、ややあって、先ほどのコンテナの足元で小さな音が鳴った。
コンテナ内にジョン・ドゥを戻し、それからクックルはそれを背負って店を出て行った。
流石に装着した状態で訪問すれば話を聞き出すどころではなくなる。

( ゚∋゚)「……何だ」

ビルに入ると、漂う空気の異様さを察知した。
すぐにその正体が鉄と硝煙が混ざった匂いであることに気が付き、この建物が普通ではないことを強く意識させた。
彼を迎え入れたのは打ちっ放しのコンクリートの壁、床、そして天井。
その場所には何か家具の類が置いてあることもなく、ただ、匂いだけが微かに残されていた。

撃ち合いが最近あったに違いなかった。

( ゚∋゚)「ふぅむ……」

緑色の塗装が剥がれた鉄製の階段が一つだけ空間の端にあり、それを登らなければならないという、極めて単純明快な圧力があった。
ここで武器を出そうものなら、相手にとってクックルは招かれざる客になってしまう。
限界まで殺気も敵意も、そして本心すら隠し通すことで相手から情報を聞き出すことに専念しなければならない。
最上階まで慎重に上がったが、結局、全ての階層に人も家具も見当たらなかった。

この場所で合っているはずなのだがと、クックルが周囲を見渡した時、階段を上ってくる跫音が聞こえた。
跫音は一つ。
そしてその歩みは自信に満ち溢れ、恐怖や威圧感は感じられなかった。
それなのに。

276名無しさん:2019/10/14(月) 09:37:29 ID:Z.2.vlmE0
それなのにも関わらず、クックルは寒気を覚えた。
姿は見えていない。
武器も見えていない。
声も聞こえていない。

それでも確かに、彼を気圧させる何かがあった。

「なるほど、やはりこういう展開でしたか」

声が聞こえた。
それは聞いたことのない男の声だった。
姿は見えないが、跫音と声だけがクックルの背筋を不気味に撫でる。
間もなく、男の顔が現れ、双眸がクックルを見つめた。

( <●><●>)「初めまして、でいいですよね」

( ゚∋゚)「誰だ、あんたは」

( <●><●>)「まぁそう身構えないで下さい。
        私は確認に来ただけですので」

そう言いつつ近づいてくる男は、両手を軽く上げて敵意がないことをアピールしていた。

( ゚∋゚)「地下ギルドの人間か?
    返答如何によっては、豚の餌にする」

( <●><●>)「何でそう物騒なことを言うんですか、酷いなぁ。
        ねぇ……同志クックル」

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          {v ィェェハ  イ、_    }.:.:.:.:.{∨`'` ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
            {.i    .}  ^"⌒ ノイ^Y
          人:,   〈:.      , : fリノ
           从 f _    _  /.イ
       ,.. -‐≠∧  ニ==ー ^ , イ__
     /:i:i:i:i:i:i:i「く^iヽ       / {:i:i:i:i:i: .., 同時刻
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(’e’)「……誰だい、君は」

店で骨とう品じみた棺桶の部品を見ていたジョーンズは、すぐ隣に現れた女性に声をかけた。
その女性の視線はねっとりと絡みつくようで、流石に戦闘慣れしていない彼にも視線を向けられているのだと察知できるものだった。

277名無しさん:2019/10/14(月) 09:37:52 ID:Z.2.vlmE0
( *´艸`)「初めまして、私モーガン・コーラっていいますっ」

胸元が大きく開けた薄手の服に、屈めば下着が見えそうなミニスカート。
この土地で生きるにはあまりにも露出が多く、それが意味する女の職業は一つしかなかった。
地下でも地上でも消えることのない、人類最古の職業。

(’e’)「私は女を買う趣味はないよ」

( *´艸`)「うふふっ、辛辣ですねっ。
     お話がしたくて、来ちゃったんですっ」

(’e’)「私は話すことはないから、帰ってくれないか?」

ジョーンズにとって、人間と話すよりも機械との対話の方が遥かに有意義なものだった。
ましてや、女との対話は彼が最も苦手とするコミュニケーションであり、避けられるのであれば避けたいものの一つだ。
ただの女であればまだ良かったが、自らをよく見せようと飾り付けられた女の対応は極めて気乗りのしない物であり、忌み嫌うものだった。

( *´艸`)「きゃはっ!
      同志ジョーンズって、結構硬派なんですねっ」

(’e’)「……何者だね、君は」

( *´艸`)「乙女には秘密が多いんですっ、聞かないでくださいっ」

この街でティンバーランドの人間と合流する予定はない。
現在ここに到着しているのはジョーンズ達だけで、街の中をかき乱す役割を持っている細胞はキサラギギルドだ。
そして彼らはジョーンズ達のことについて何も知らないまま、ただ、内藤財団による経済支援欲しさに動いている金の亡者に過ぎない。
だが不思議と、この女からは金の匂いがしない。

売春婦とも違うが、ティンバーランドにこのような女がいるとは聞いたことはない。
ティンバーランドは大樹の様に上層部から末端へと指示が下るようになっており、末端の人間は上層部にいる人間のことは知らない。
そして、上層部の人間は極めて限られた特別な人間だけで構成されており、日々その数を増している末端部とは違って易々と参入できるものではない。
にもかかわらず、この女はジョーンズのことを知っている様子だった。

誰かの紹介で来たのだとしたら、まずその人物の名前を挙げるのが筋だ。
この女の脳みそに筋と言う言葉を理解できる回路があれば、の話だが。
どこかワタナベ・ビルケンシュトックやショボン・パドローネに似た空気がある。
つまり、狂人と道化の匂い。

(’e’)「目的は?」

( *´艸`)「今の内に顔を売っておこうと思いましてっ」

(’e’)「それなら成功だ、うん、もう覚えた。
   だから私を一人にしてくれないか?
   君みたいな人間と一緒にいると、どうにも萎える」

( *´艸`)「ひっどーいっ」

(’e’)「五月蠅い人だね、君は」

278名無しさん:2019/10/14(月) 09:39:09 ID:Z.2.vlmE0
( *´艸`)「私、モーガンって名前があるんですっ」

漂う香水の匂いに鼻が曲がりそうだった。
あまりの匂いに、ジョーンズは眉を顰めた。
女が動くたびに匂いが揺らめき、集中力が削り取られる。
まるで言葉を発するガス兵器だ。

( *´艸`)「ねぇ、博士っ!
     私、同志ショボンに会いに来たんですけど、今どこにいるんですかっ?」

(’e’)「さぁね、それより――」

( *´艸`)「――レオンの情報と交換ならどうですっ?」

この時初めて、ジョーンズはモーガンの目を見た。
その目は怪しげに、そして一部の隙も無くジョーンズを見つめ返していた。

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サイレントマンはティングル・ポーツマス・ポールスミスとはぐれてから、これ以上状況が悪化しないようにするために最寄りの喫茶店に足を踏み入れていた。
通りを眺められる窓と壁沿いには四人掛けのテーブル席が並び、カウンター席が僅かにある簡素な作りだったが、清掃は行き届いていた。
天井では巨大なファンが回転し、その中心からは陽光のような光が差し込んでいる。
壁沿いの席に案内されたサムはフィッシュアンドチップスと紅茶を頼み、冷えた体をまずは温かい紅茶で温めた。

そして、新聞紙に包まれた湯気の立ち上る揚げたてのフィッシュアンドチップスを一口食べ、一気に眉を顰めた。
記憶の中には確かにフィッシュアンドチップスの味があり、それを思い起こすことも出来た。
だがこれは、まるで別物だった。
脂ぎっていて何か臭みを感じ、べたつく感覚がますます不快感を募らせた。

備え付けられていた酢と塩をたっぷりとかけて噛り付くと、ようやく油の存在が薄れたが、それでもやはり美味くはなかった。
確かによく揚げられて衣の歯応えもあるのだが、味と風味が致命的なのだ。
一口で胸やけを起こしそうな質の悪い油。
味のない白身魚。

279名無しさん:2019/10/14(月) 09:39:32 ID:Z.2.vlmE0
口の中の水分を全て吸い尽くすのではないかと思えるほどの短冊切りのポテトには、やはり、何の味も感じられない。
結局彼が感じるのは酢と塩の織りなす質素かつ面白みも深みもない味だけ。
何かに憤るようにしてそれを口に運び、咀嚼し、水で飲み下す。
変化は期待できず、まるで壊れた機械の様に酢と塩、ケチャップをふりかけ、食べ続けた。

食べ終えた後、紙ナプキンで口の周りの油を拭い取り、紅茶で口内を洗い流す。
紅茶は美味かったが、後味は良くない。

(;゙゚_ゞ゚)「うーん……」

周囲の席では皆、フィッシュアンドチップスを注文し、彼と同じような反応をしていたが、笑みを浮かべながら食べていた。
味の好みなのか、それとも彼の食べ方が間違っていたのかは分からない。
もしくは、彼に出された物だけが粗悪品だったのかも知れない。
ティムがどこに行ったのかは分からないが、こうして街の大きな通りを歩いていれば安全そうだった。

事前に、迷った時には近くの喫茶店などで時間を潰し、それでも合流できない場合は宿泊施設に戻ることになっていた。
故に事態は悪化することはなく、むしろ、こうして一人で気ままに観光が出来るメリットも生まれていた。
彼女が言うには、この街は下手な場所に行かなければ治安は良く、ギルド間の争いに関係のない観光客は特に大事にされるという。
つまりは、この店で時間を潰せば問題は何もないということだ。

だが、見つけた店が悪かったのか、それとも頼んだ料理が良くなかったのかは、今のところ判断が出来ない。
長居をするためには注文をしなければならず、紅茶だけを頼み続ければ必然的に限界が来る。
幸いなのはこの紅茶が風味高く、味わい深い点だった。
彼の顔程の大きさがあるティーポット一つが提供されるほどの量がありながら、価格は僅か三ドルと良心的だ。

安い金額でどこまで粘れるかを試すのも面白いと、彼の中にいたずら心が芽生えたのは三杯目の紅茶をカップに注いでいる時だった。
客の動向や好みを観察しながら、この店のメニューで美味い物を見つけ出して心のメモ帳に書き留めるという遊び心を実行に移すべく、彼は覚悟を決めた。
不思議と客の数は増え続け、席はほどなくして満席状態となった。

( ゙゚_ゞ゚)「……またフィッシュアンドチップスだ」

客層は違うし、頼む飲み物も違う。
共通しているのは、注文の一言目にフィッシュアンドチップスの名が出てくることだった。
それはつまり、飲み物よりも先にそれを頼むことが決まっており、当たり前のこととして考えられているのだ。
運ばれてきたそれを食べる人間達の表情は晴れやかで、むしろ、サムだけが異端なのではないかと思えるほどだった。

あの味は幻覚だったのだろうか。

「申し訳ありません、ただいま満席でして」

「ここのフィッシュアンドチップスを楽しみにしていたんだが、残念だ……」

入口の方に目を向けると、男が一人、残念そうな顔をして店内を見つめていた。
髪が薄く、歳を取っている印象だが、健康的で筋肉質の体型は何かのスポーツをやっている人間のそれだった。
悪人にも思えず、サムは思わず声をかけていた。

( ゙゚_ゞ゚)「相席でよければここ空いてますよ」

鳶色の瞳がサムを見つめ、男は口の端を僅かにほころばせた。
老犬を思わせる男の表情に浮かんだ笑顔は、まるで子供の様に輝いていた。

280名無しさん:2019/10/14(月) 09:39:54 ID:Z.2.vlmE0
「本当かい?」

( ゙゚_ゞ゚)「食事は一人よりも二人の方が美味しいですから」

店員が特に何かを言うこともなく、男は狭い店内を滑らかに移動し、サムの向かい側に座った。
そして同時に店員を呼び、注文をした。

「フィッシュアンドチップスにタルタルソースを付けて、それと黒ビールを。
お兄さん、何か頼むんなら私が奢ろう」

( ゙゚_ゞ゚)「いえいえ、気にしないでください」

「気が変わったらいつでも言ってくれ。
じゃあ、注文は一旦これで」

紙に注文を書き終え、店員は決まり文句を述べながら別の席に向かった。

「ここのフィッシュアンドチップスはどうだったかな?」

( ゙゚_ゞ゚)「正直、あんまり……
    ところで、どうして食べたって分かったんですか?」

「ビネガーの蓋が開いている、そして机の上に衣が落ちている、といったところから推測したのさ。
味についてのレビューは、もう少し正直に言ってしまって大丈夫だ。
不味かっただろう」

(;゙゚_ゞ゚)「ははっ」

「この店に来て頼む人間は、みんなそう思ってる。
でもね、これが癖になるんだ」

先ほどとは違う店員が新聞紙に包まれたフィッシュアンドチップスと黒ビールの入ったグラスと瓶を運び、男の前に無言で置いた。
男はグラスを掲げた。
ティーカップでそれに応じ、二人は奇妙な乾杯の仕草を行った。
並々と注がれたビールを、男は眉間に皺を寄せて飲み、一気に半分まで減らした。

「ああっ、美味い。
ここのビールは絶品でね、市場に出回る前の試作品なんかが実験的に出されるんだが、今回は当たりみたいだ」

( ゙゚_ゞ゚)「へぇ……」

「フィッシュアンドチップスの食べ方は人それぞれだが、まずはビネガーをたっぷりかけて……
これで魚と油の臭みを緩和させ、そこに塩。
私はこれを下地にしてタルタルソースをかけて、最後にレモンを絞って一気に齧り付く」

文字通り男はフィッシュアンドチップスに齧り付き、衣が爆ぜる子気味のいい音を鳴らした。
口の端に衣のカスをつけながらも、男は満足そうに頷き、味わい、ビールで飲み下した。
喉の奥から満足そうな息を吐き、男は言った。

281名無しさん:2019/10/14(月) 09:40:56 ID:Z.2.vlmE0
「やっぱりこの味だ。
今日はビールはいいが、油が良くない日だったみたいだ」

(;゙゚_ゞ゚)「そこまでしないと食べられないんですか?」

「この大雑把な味が好きだって人間もいるが、基本的には元の味を消さないことには始まらないんだ。
でもね、ここに来る人間は皆この味が癖になっているんだ。
癖になる味、っていうやつだよ。
中でもハギスが私のお気に入りでね、どうだろう、食べてみるかい?」

( ゙゚_ゞ゚)「ハギス……どんな料理なんですか?」

「簡単に言えば臓物の煮物さ。
ウィスキーを振りかけて食べると美味いんだ、これが。
酒は飲めるかな?」

( ゙゚_ゞ゚)「えぇ、あまり強い酒でないなら」

「なら、奢ろう。
お姉さん、タリスカーの水割りとハギスを」

通りかかった店員は頷き、紙に注文を書いた。
そしてすぐに酒と灰色の料理が運ばれた。
細かく刻まれた肉と何かをあえたその料理は、見た目は極めて地味で、どちらかと言えばあまり食欲をそそるような物ではない。
一緒に運ばれた小さなボトルの中身をその上にこれでもかとふりかけ、男は満足そうに笑んだ。

「さぁ、これがハギスだ。
ウィスキーをまずは飲んでみてくれ」

薄い茶色の液体を口元に運ぶと、その独特の香りに驚いた。
むせかえるような、何とも言い難い香り。
煙、薬草、泥そして潮などの匂いが混ざった液体は、彼の知るどのウィスキーとも一致しなかった。
恐る恐る一口含み、それまで鼻で感じ取っていた香りが彼の口内で爆発した。

鼻から突き抜ける強烈な香り。
それは不快ではないが、快感でもなかった。
脳髄に直接電流を流すようなイメージであり、そして、自分の中の何かが開くイメージだった。

(;゙゚_ゞ゚)「ごっ」

「ははっ、強烈だろう?
その後にハギスを食べるんだ」

半信半疑でハギスをフォークで少量取り、慎重に口に運んだ。
そして、サムは奇妙な感覚を味わった。
欠けていたパズルのピースが合わさり、一つの何かが生まれる感覚。
ハギスの生臭さはウィスキーが上書きし、相殺し、後に残るのは煙のような余韻。

282名無しさん:2019/10/14(月) 09:41:52 ID:Z.2.vlmE0
確かにそこにあった朧気な何かは消え去り、荒野が現れていた。
気になり、再び同じ手順でウィスキーとハギスを口に運ぶ。
再び爆発が起こるも、それがまるで嘘のように消え、煙の余韻が残される。

( ゙゚_ゞ゚)「何だろう、これ……」

「気に入ってくれたかな?」

( ゙゚_ゞ゚)「不思議な味というか、風味というか、後味ですね」

そう言いつつ、サムは三口目を食べ始めた。
美味、というわけではないのだろうが、気になる味だった。

「美味い飯もいいが、やっぱり時にはこういう料理を食べたいと思う人間がいるんだ。
ジャンクフードも悪くはないが、結局、味の濃さの問題だ。
その点、この店の料理は間違いなく人の手と思考が入った不味い飯だ。
でもそれがいいのさ」

黙々と食事が行われ、ふと、目の前の男が気恥ずかしそうに頬に手を当てて口を開いた。

「今更だが、自己紹介をしないとな」

口元と手を拭いて、男は手を差し出した。
その手はささくれ立ち、傷だらけだった。
真新しい傷も多く、男は肉体労働者の類であることが推測された。

(´・ω・`)「ショボン・パドローネだ。
     ショボンでいい」

差し出された手を握り、サムが自己紹介をしようとした時――

(;´・ω・`)「あっ」

驚きの声と共にショボンの視線が店の外に固定され、握られた手に力が入れられた。
何事かとサムも視線の先を追う。
そこには、列車にいた金髪の女性の姿があった。

ζ(゚ー゚*ζ

ガラスを隔てた向こう側。
薄いガラスの、たった一枚の壁。

(;´・ω・`)「……デレシアっ!!」

それが、サムの脳を大きく揺さぶり、今まで感じたことのない衝動に襲われた。
思わずショボンの手を放し、胸を押さえて机の上に突っ伏す。
その行為に意味がないことは分かっていたが、心臓を何かに鷲掴みにされるような感覚を少しでも和らげられればと願った。
それは痛みに似ているが、気持ちよさを感じる痛みだった。

283名無しさん:2019/10/14(月) 09:42:15 ID:Z.2.vlmE0
心臓を甘噛みをされているような、そんな感覚。
サムの異変に我に返ったのか、ショボンが心配そうに声をかける。

(;´・ω・`)「あ、す、すまない。
      驚かせてしまったな」

(;゙゚_ゞ゚)「い、いえ、大丈夫……」

気持ちを落ち着けるため、サムはウィスキーを飲んだ。
そして、彼の脳裏に、何かの留め金が外れるイメージが浮かんだ。
決壊、崩壊、解放。
記憶の濁流が起こり、サムはそれに翻弄される。

(;´・ω・`)「おい、大丈夫か?」

サムの手からウィスキーのグラスが離れ、床に落ちて砕ける。
その終止を彼の目はスローモーションで目視し、ウィスキーが床に王冠を形作る瞬間さえ見届けた。
研ぎ澄まされた彼の聴覚が細かな破片となったガラスが床を叩き、液体が染み渡る音を聞き取った。

(;゙゚_ゞ゚)「――あ」

濁流が止み、全てが凪いだ。
サムは――否、オサム・ブッテロは全てを思い出した。
自分が何者であるかも、先ほどの女の名前も。

(;´・ω・`)「おい」

心配したショボンが、オサムの肩を揺さぶる。

( ゙-_ゞ-)「なぁ、ショボン……
     デレシアは知り合いなのか?」

(´・ω・`)「……何?」

( ゙゚_ゞ゚)「さっきの女、あれはデレシアだろう。
     あんた、何で知ってるんだ?」

(´・ω・`)「……」

( ゙゚_ゞ゚)「答えろ、禿ダルマ」

もしも戦争が起きる寸前の空気があるとしたら、まさにこの瞬間がそうだった。
氷水が一瞬で沸騰する程の熱を持ち、金属を両断する鋭い殺気を纏った髪の毛ほどの細い無数の針が全身に突き刺さる感覚。

(´・ω・`)「酔っての発言と捉えておくよ」

( ゙゚_ゞ゚)「俺の邪魔をするなら、誰だろうと容赦しない」

(´・ω・`)「邪魔?」

284名無しさん:2019/10/14(月) 09:42:35 ID:Z.2.vlmE0
( ゙゚_ゞ゚)「あいつは、俺の物だ」

(´・ω・`)「……利害が一致している場合はどうかな?」

( ゙゚_ゞ゚)「利害の一致の内容次第だな」

(´・ω・`)「僕らは彼女に消えてもらいたい、今すぐにでも。
     それ以上でも、それ以下でもない」

( ゙゚_ゞ゚)「ははっ、なら答えは出たな」

オサムは笑顔を浮かべ、左手を差し出した。
僅かに躊躇したが、ショボンはその手を握った。

(´・ω・`)「よろしく頼むよ」

瞬間的にして爆発的な力を込め、オサムはショボンを片手で隣の席に投げ飛ばした。
八十キロはあろうかと言う男の体が宙を舞う。

(;´・ω・`)「のわっ?!」

木製のテーブルもろとも皿が砕け、客の悲鳴が上がる。
ショボンが飲んでいたビール瓶を机に叩きつけて割り、即席の刃を手に持つ。



( ゙゚_ゞ゚)「お前らは俺の敵だ」



彼は“葬儀屋”。
世界でも屈指の実力ある“棺桶持ち”であり、同時に、名の知れた殺し屋だった男。
そして、十年ぶりにラヴニカのルールを堂々と破った最初の男である。

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                 ノイ|: : : : :八` 一 '"ノハ: :// '^ 一'′/ : /:/\{ ̄
                    |八 : : : ト\   /∨ ヽ     ∠ : ∧:{
                    |{ }ハ: : |         |      厶イ:{ \_
                     }∧|      、 ,.       /∧|
                         从: :\  ー_-   ___,,. /: { 八
                      /  }:ハ.| \ ` ー一 '" イ: : :∧
第七章【broken rules-破られた規則-】 了
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285名無しさん:2019/10/14(月) 09:42:55 ID:Z.2.vlmE0
これにて投下は終了です

質問、指摘、感想などあれば幸いです

286名無しさん:2019/10/14(月) 13:59:12 ID:dFYWvGTs0
乙です
これは続きが待ち遠しい…

287名無しさん:2019/10/14(月) 17:22:06 ID:nx9PD0Dg0
乙乙
怪しさ満点のワカッテマスに、明らかになったティンバーランドの上層部。
ラヴニカの街の成り立ち等いろいろ知れて楽しかった。
ショボンが厄日だなぁ

288名無しさん:2019/10/14(月) 23:06:25 ID:H0n8ki7g0
おつ
ワカッテマスは敵なのかスパイなのか…正体が楽しみ
オサムはそんな強いイメージないままだけど引っ掻き回せるんだろうか

289名無しさん:2019/10/15(火) 17:08:53 ID:pJ5yyxXE0
>>255
( <●><●>)「朝食を食べながらでいいのですが、そろそろ今日の動きを考えましょう。
       私とトラギコ君はちょっと仕事を片付けないといけないので、ティムさんとトムで観光をしていてもらいたいのですが、いいでしょうか?」

( <●><●>)「朝食を食べながらでいいのですが、そろそろ今日の動きを考えましょう。
       私とトラギコ君はちょっと仕事を片付けないといけないので、ティムさんとサムで観光をしていてもらいたいのですが、いいでしょうか?」

トムじゃなくてサムでは?

290名無しさん:2019/10/15(火) 17:24:25 ID:pJ5yyxXE0
葬儀屋復活!

291名無しさん:2019/10/15(火) 18:39:56 ID:TznCZUf.0
>>289
げぇっ! トムハンクスになっちゃってる!!
ありがとうございます!!

292名無しさん:2019/10/20(日) 20:12:06 ID:RYpnB3ss0
おつおつ
安定しておもしろいな

293名無しさん:2019/10/26(土) 12:19:29 ID:LPzrPR0U0
おつ
ショボンが関わると大体ロクなことにならない説あるな

294名無しさん:2019/11/05(火) 19:19:25 ID:xoJ3q3v20

やっぱ飯の描写がいいな
うまいものだけじゃなくてまずいものもその地域の風情を感じさせるわ

295名無しさん:2019/12/09(月) 20:19:38 ID:G91nHcks0
今週の土曜日辺りにVIPでお会いしましょう

296名無しさん:2019/12/09(月) 23:21:56 ID:eg1LOkOM0
よっしゃ頑張って生きるわ待ってる

297名無しさん:2019/12/10(火) 11:00:04 ID:vth2EKU.0
全裸待機


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