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( ^ω^)文戟のブーンのようです[4ページ目]
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≪とりあえずこれだけ分かっていれば万事OKなQ&A≫
Q.ここってどんなスレ?
A.お題に沿った作品を指定期間内に投下
投票と批評、感想を経て切磋琢磨するスレ
Q.投票って?
A.1位、2位とピックアップを選ぶ
1位→2pt 2位→1pt で集計され、合計数が多い生徒が優勝
Q.参加したい!
A.投票は誰でもウェルカム
生徒になりたいなら>>4にいないAAとトリップを名前欄に書いて入学を宣言してレッツ投下
Q.投票って絶対しないとダメ?
A.一応は任意
しかし作品を投下した生徒は投票をしないと獲得ptが、-1になるので注意
Q.お題はどう決まるの?
A.前回優勝が決める。
その日のうちに優勝が宣言しなかった場合、2位→3位とお題と期間決めの権利が譲渡されていく
Q.使いたいAAが既に使われてる
A.後述の「文戟」を参照
詳しいルールは>>2-9を参照してください!
また雰囲気を知りたい方は
スレ1
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1531744456/
スレ2
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1533540427/
スレ3
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1536071497/
へGO!!
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それは、もう何度目かも分からない夏の日暮れだった。
ξ゚⊿゚)ξ 「随分と遅くなっちゃったわね…」
廃棄されたジャンクの山から、使えそうなパーツを探してレストアする毎日。
両親に憧れて、将来は航空宇宙工学かサイバネティックス系のエンジニアになりたかったが、
そんな事を思い描いていたのも、遠い昔のようにツンは感じていた。
この星のように忘れられてしまった、かつての夢の残骸。
過去数世紀に渡って、星系の中心として発展と革新の最前線だったこの星も、
人類の太陽系外進出が本格化して以降、
今では、そこかしこに、そんな時代の名残が見られる古都というのが実情だった。
ξ゚⊿゚)ξ 「ふう…」
過去の栄光をいただく軌道エレベーターと空中都市、それを支える内郭都市。
スプロールじみた外郭がそれらを取り巻き、寄生するようにどこまでも続いている。
そこではスラム街のような場所も珍しくはない。
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そんな街並みを横目に、ツンは帰り道を急いでいた。
都市の底から覗く空は、超高層のビル群に切り取られて狭く、
その明るさで、遥か彼方の星々もかすれて見えない。
夜空を行き交う光点が流れ星などではなく、
星間シャトルの列と人工衛星だと知ったのは、随分と後になってからだ。
ξ゚⊿゚)ξ (今日も星は見えないわね…)
ある夜、そんな空から一斉に光点が消えた。
北半球ほぼ全域の警戒衛星がブラックアウトしたとか、
宇宙港の管制センターが、やらかしたとか噂は色々あった。
そんな中には流星が一つだけ見えたとか、見えないとか言うのもあった。
ツンがその話を思い出したのは、
通りがかったスクラップ置き場で奇妙な楕円球を見つけた時だった。
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差し渡し二メートルほどの大きさで、表面は焼け焦げて禿げ上がり、
そこから鈍い色の金属が所々むき出しになっている。
ξ゚⊿゚)ξ 「何かしらこれ…」
表面に描かれた文字や何かのマークは損傷が激しく、判然としない。
裏側に回ってみると球体はぽっかりと口を開け、そこから何かの操縦席のようなものが覗いていた。
ξ゚⊿゚)ξ 「これは…再突入ポッド…?」
ξ゚⊿゚)ξ !?
背後に気配を感じて、振り返る。
地面に落ちていた何かのパーツを蹴飛ばしながら体勢を変えようとするが、
金属板の陰から伸びてきた二本の腕に、首筋と右腕を締め上げられて、
ツンは地面に押し倒された。
ξ ⊿゚)ξ 「うぅ……」
覆いかぶさって来る黒い影。その向こうに広がる夕闇。
空には赤い光点がいくつも流れていた。
-
気が付くとツンはジャンク置き場から、どこかの見知らぬ裏路地にいた。
近くに人の気配を感じ、両肩を抱きすくめて座ったまま、壁に身を寄せるように後ずさる。
从 ゚∀从
室外機の向こうにいたのは、同じ歳くらいの少女だった。
白と紺で塗り分けられ、オレンジの差し色が所々に入る奇妙な服を着た彼女は、
路地に膝をついてツンの顔を覗き込んできた。
少女の銀髪が頬を流れる。
从 ゚∀从 「……大丈夫か?」
開口一番、バツの悪そうな声。
从 ゚∀从 「正直、驚いたのと、力の加減がうまく出来なくて」
ξ゚⊿゚)ξ 「……」
从 ゚∀从 「怪我してない…よな?」
少女の物腰から敵意は感じられなかった。
だが、締め上げられた首と右腕はズキズキと痛んだ。
彼女の服は所々が灰のようなもので汚れていた。
-
从 ゚∀从 「あの場所からはすぐに離れる必要があって、とりあえずここに…」
ξ゚⊿゚)ξ 「…あなた…誰?」
从 ゚∀从 「……」
ξ゚⊿゚)ξ 「見慣れない服ね…他の惑星からの不法移民なの?」
从 ゚∀从 「それが自分でもよく分からなくてな……」
そう言うと少女は夜空を見上げた。
路地裏の空は相変わらず狭くて、星は見えない。
ξ゚⊿゚)ξ 「……」
从 ゚∀从 「それじゃ、俺はこれで…」
ξ゚⊿゚)ξ 「待ちなさい、この馬鹿力女」
从 ゚∀从 「……」
ξ゚⊿゚)ξ 「乙女の柔肌を傷物にしといて、そのまま立ち去ろうっていうの?」
< 「二の腕と首にくっきり痣が出来てるじゃない!」
路地裏のガラス窓に写った体をあらためながら、ツンは語気を強める。
-
从 ゚∀从 「いやまぁ、乙女って成りでもないだろ…?」
ξ゚⊿゚)ξ 「……」
ツンは窓の中にいる自分をもう一度よく見回した。
油にまみれたツナギ、乙女と言うには幾分しっかりとした体つき。
廃品屋の冴えないロゴが入ったキャップに、化粧っ気のない顔。
ξ゚⊿゚)ξ (さいわい素材は悪くないわ…)
ξ゚⊿゚)ξ (……)
从 ゚∀从 「あのう、もしもし……?」
ξ゚⊿゚)ξ 「なによ! ジャンク屋の乙女よ! 悪いかしら!?」
从;゚∀从 「左様ですか……」
ξ゚⊿゚)ξ 「さあ、改めて洗いざらい吐いてもらうわよ!」
ξ゚⊿゚)ξ 「さもないと傷害犯として治安警察に突き出すわ」
-
从;゚∀从 「いやいや…それは困るぞ、何の為にこうして人目につかない場所に隠れていると…」
ξ゚⊿゚)ξ 「語るに落ちたわね不法入植者!」
从;゚∀从 「いやいやいや、違うんだってば、事情は話せないが追われてるんだよ俺」
ξ゚⊿゚)ξ 「ますます怪しいわ」
从;゚∀从 「頼む! 見逃してくれ!」
ξ゚⊿゚)ξ 「この星に来た目的は?」
从 ゚∀从 「実は…この星には不時着したんだ」
ξ゚⊿゚)ξ 「やっぱり、あの再突入ポッドはあなたの物ね!」
从;゚∀从 「誘導尋問じゃないか!」
ξ゚⊿゚)ξ 「それで何を企んでた? 星間条約で禁じられた密輸品の運び屋か?」
从;゚∀从 「尋問はやめろって!」
-
押し問答はしばらく続いて、二人が何かしらの合意にたどり着いた頃には、
すっかり夜の帳が下りていた。
ξ゚⊿゚)ξ 「つまり事情は話せないがとにかく追われてて」
ξ゚⊿゚)ξ 「宇宙船のトラブルでこの星に降りたと」
从;゚∀从 「最初からそう言ってるだろ…」
ξ゚⊿゚)ξ 「だからって、乙女の柔肌を傷つけていい理由には少しもならないわ」
从;゚∀从 「はい……」
ξ゚⊿゚)ξ 「それに出で立ちから言い分まで、やっぱり全てが怪しいわ…」
从;゚∀从 「……」
ξ゚⊿゚)ξ 「大体…何で追われてるのよ?」
从 ゚∀从 「……」
ξ゚⊿゚)ξ 「だんまりってわけ?」
-
ξ゚⊿゚)ξ 「まぁいいわ…それで、これからどうするの?」
从 ゚∀从 「いや、なんでそんな事まで話さないといけないんだよ?」
ξ゚⊿゚)ξ 「あいたたた〜腕と首が痛むわ〜つらいわ〜お巡りさんー」
从;゚∀从
从;゚∀从 「と、とにかく…この星に長居する気はないぞ」
从 ゚∀从 「星間航行が可能な宇宙船を見つけて、どこか遠くへ旅立つさ」
ξ゚⊿゚)ξ 「……」
ξ゚⊿゚)ξ 「あなた、そんな物が買えるようなお金持ちには見えないけど……」
从;゚∀从 「あっ……」
ξ゚⊿゚)ξ 「話にならないわね…まあ、頑張って…」
ξ゚⊿゚)ξ 「なんだか急に興味も冷めたわ……」
ξ゚⊿゚)ξ 「宇宙は広い…いろんな人がいるわねぇ…」
-
从;゚∀从 「まっ、待ってくれ…」
从;゚∀从 「他の星までいけるような星間シャトルがまじめに必要なんだ…」
ξ゚⊿゚)ξ 「盗むにしても騙し取るにしても、そんな物こんな所にはないわ」
从 ゚∀从 「人聞きの悪い事を…」
ξ゚⊿゚)ξ 「他に方法があるのかしら…?」
从;゚∀从 「……」
ξ゚⊿゚)ξ 「あるとしたら上都か宇宙港ね」
从 ゚∀从 「上都?」
ξ゚⊿゚)ξ 「降りてくる時、見えなかった?」
从 ゚∀从 「でかい塔なら見えたが、何しろ初めての再突入ってやつで余裕がなくてさ」
ξ゚⊿゚)ξ 「それが上都の中心を貫く軌道エレベーターよ」
从 ゚∀从 「軌道エレベーター……」
-
ξ゚⊿゚)ξ 「その先に宇宙港があるわ」
ξ゚⊿゚)ξ 「シャトルは宇宙港にとめおくか軌道エレベーターで宇宙港まで持っていくかね」
ξ゚⊿゚)ξ 「ようするに立体駐車場みたいなものよ!」
ξ゚⊿゚)ξ 「本当に宇宙船が欲しいなら…まずは内都に行かないとね」
从 ゚∀从 「…ナイト?」
ξ゚⊿゚)ξ 「軌道エレベーターの根本にある都市よ、そこからじゃないと乗れないわ」
从 ゚∀从 「へぇ…」
ξ゚⊿゚)ξ 「例えるならピザの中央、トッピングが集まって美味しい部分が内都、
外側の硬い耳の方が外都、そして内都の上にもう一枚重なってる小さめのピザが上都」
从 ゚∀从 「いや、耳の部分も俺は案外…」
ξ゚⊿゚)ξ 「そういう話じゃないから」
从;゚∀从 「はい…」
-
ξ゚⊿゚)ξ 「そして二枚のピザを貫いて宇宙まで続いてるのが軌道エレベーター」
从 ゚∀从 「なるほどね…」
从 ゚∀从 「しかし、ピザかぁ…」
ξ゚⊿゚)ξ 「ジャンク屋の親父が好きなのよピザ…」
ξ゚⊿゚)ξ 「それじゃあ今日はもう遅いし内都には明日行きましょう」
从*゚∀从 「案内してくれるのか?」
ξ゚⊿゚)ξ 「あら、見捨ててほしかった?」
从;゚∀从 「まさか…でも…」
从;゚∀从 「なんというか初対面だし…一応は…絞め落とされた相手だぞ…?」
ξ゚⊿゚)ξ 「それは実際すごく怖かったし、腹も立つけど…」
-
ξ゚⊿゚)ξ 「なんだろう、悪人には見えないかなあって」
从 ゚∀从 「お前さ、危機感足りてないんじゃないの…?」
ξ゚⊿゚)ξ 「この街で生き抜けるぐらいにはあるわよ」
从;゚∀从 「治安が良い街なのかな…?」
从 ゚∀从 「とりあえず…お前が働いてるジャンク屋で待ち合わせよう」
ξ゚⊿゚)ξ 「いいけど場所わかるの?」
从 ゚∀从 「地図くらい読めるっての」
ξ゚⊿゚)ξ (うちの店って地図に載るような店なのかしら…)
ξ゚⊿゚)ξ 「まあいいわ、あなた名前は?」
从 ゚∀从 「……」
ξ゚⊿゚)ξ 「そういうところは、だんまりなのね」
-
从 ゚∀从 「……」
ξ゚⊿゚)ξ 「私はツン」
从 ゚∀从 「……ハイン」
ξ゚⊿゚)ξ 「あら、そのくらいは教えてくれるのかしら」
从 ゚∀从 「まあ一応な…」
ξ゚⊿゚)ξ 「偽名じゃないといいけど」
从;゚∀从 「本名だっての!」
从 ゚∀从 (多分な……)
-
「そういえばあなた、私に怪我させたことまだ謝ってないわね」
「……」
「謝罪なさいハイン」
「ツン、お前いい性格してるよ」
「ハイン?」
「……」
「……悪かったよ」
「誠意は形のあるもので頼むわね」
「……」
-
明くる日。
ツンの予感通り、ハインはジャンク屋を見つけられなかった。
しびれを切らしたツンがジャンク屋の親父と探し回った結果、
昨夜の裏路地で膝を抱え、猫に語りかけてる哀れな少女は発見された。
ξ゚⊿゚)ξ 「…アサピーこの娘よ」
从 ;∀从 「ツン……」
(-@∀@) 「こいつか、内都行き志願は」
(-@∀@) 「なんだか聞いてたのと大分違うようだが…」
(-@∀@) 「口の悪い粗野な馬鹿力女だって話だったろ…」
ξ゚⊿゚)ξ 「まあ、昨日はそうだったのよ……」
(-@∀@) 「見たところお前より華奢な身体してそうだが…」
ξ゚⊿゚)ξ 「…ハインあんた、そんなんで今日までどうやって生きてきたわけ?」
从 ;∀从 「……」
ξ゚⊿゚)ξ (馬鹿力以外に取り柄はないのかしら…)
(;-@∀@) 「大丈夫なのかこいつ…?」
-
从 ;∀从 「俺だって頑張ったんだ…でも…」
ξ゚⊿゚)ξ 「でも…?」
从 ;∀从 「地図自体が見つからなかった……」
ξ゚⊿゚)ξ 「……」
(-@∀@) 「……」
ξ゚⊿゚)ξ 「どうしましょうこの捨て犬…」
(-@∀@) 「ケッ…野垂れ死にさせても寝覚めが悪い…」
(-@∀@) 「素性が知れないし店には上げないが、一晩ぐらいなら空き倉庫を使わしてやる…」
ξ゚⊿゚)ξ 「ありがとうアサピー」
(-@∀@) 「フン……」
从 ;∀从 「すまねえツン…」
-
近づくにつれて、内都の壁はその大きさを明らかにしていった。
それは壁というよりは、巨大な都市の基部だった
実際のところ、内都は外都よりも高所に存在する。
巨大な基礎の内部には幾つかの通路があり、それが上に建てられた都市へと続いている。
基礎部分の高さは数十メートル。
更にその外周は一体化した都市構造体、つまり、基礎と連続したビル群で隙間なく囲まれている。
それは桁外れに広大な城塞都市を思わせた。
その威容を二人は遠巻きに眺める。
从 ゚∀从 「でかいな…」
ξ゚⊿゚)ξ 「内都はね、元々軌道エレベーターを建設するための街だったの」
ξ゚⊿゚)ξ 「だからあの都市の土台は軌道エレベーターの基礎でもあるの」
从 ゚∀从 「……」
ξ゚⊿゚)ξ 「でも、あまりに大きすぎて、内部構造を把握してる人はもう少ない」
ξ゚⊿゚)ξ 「特に、初期の企業が時代と共に統廃合して、散逸してしまった資料なんかも結構あるのよ」
ξ゚⊿゚)ξ 「私達が今から行くのも、そんな風に遺棄されて忘れられてしまった道の一つよ」
从 ゚∀从 「えっ? 今から行くのか、まだ真夜中だぜ?」
-
ξ゚⊿゚)ξ 「昼に密航するアホがどこの世界に居るのよ、あなたの星じゃそうだったの?」
从;゚∀从 「くそぉ、言わせておけば…」
从 ゚∀从 「……」
从;゚∀从 「ちょっとまて、密航って…?」
ξ゚⊿゚)ξ 「内都はね…治安維持のために滞在許可がない人間は入れないの」
从 ゚∀从 「どうしてそこまでするんだ…?」
从 ゚∀从 「俺たちは出会ったばかりで…」
从;゚∀从 「しかも俺はお前に怪我させて、事情も話せない逃亡者なんだぞ…」
ξ゚⊿゚)ξ 「乙女の柔肌を傷つけたのを今更のように悔いてるわけ?」
从;゚∀从 「まあ多少はな…」
ξ゚⊿゚)ξ 「私、孤児だったのよ」
-
ξ゚⊿゚)ξ 「小さい頃、両親が宇宙船の事故で死んじゃって…」
ξ゚⊿゚)ξ 「今でも一応そうかな」
从 ゚∀从 「……」
ξ゚⊿゚)ξ 「歳も近そうだし見捨てるのもなあって…」
从 ゚∀从 「…多分お前は乙女なんかじゃないぜ、もっとずっといいものさ」
ξ゚⊿゚)ξ 「そうかしら」
从 ゚∀从 「いよっ! 女神さま!」
ξ゚⊿゚)ξ 「まあ私にも実利は当然あるわけよ」
从;゚∀从 「えぇ…!?」
「持たざる者から何を搾り取ろうってんだ!?」
「フフフ……」
「この悪魔!」
喧騒が束の間、夜の街にこだました。
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外都から内都に通じる搬入路は、全て都市政府と企業が公式に管理している。
だが、先程ツンが話したような経緯で過去に埋もれたしまった道が、人知れず再開していることもある。
ここは、そんな非正規搬入路の一つ。閉鎖された企業搬入口に併設された、
点検用のごく小規模な坑道だった。
軌道エレベーターの建設や企業の物資運搬のための巨大な搬入口とは違って、
人ひとりが通れるかという大きさの通路。こういったものは都市管理局の目を盗みやすい。
恐らく、今となってはこの点検坑の存在を認知している職員も居ない。
从 ゚∀从 「しかしだな、ツン」
ξ゚⊿゚)ξ 「なにかしら、ハイン」
从 ゚∀从 「お前が言った通り、俺はお金なんて全然持ってないぞ」
从 ゚∀从 「どうやって、その点検坑を縄張りにしてるブローカー連中に通してもらうんだ?」
ξ゚⊿゚)ξ 「そのために、こんな夜中に来たのよハイン」
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从;゚∀从 「えっ……」
从;゚∀从 「密航って二重の意味で…」
ξ゚⊿゚)ξ 「大丈夫大丈夫、私、知り合いだから」
从;゚∀从 「えぇ…」
ξ゚⊿゚)ξ 「密航者を勧誘するバイトしてたのよ」
从;゚∀从 「おい、俺は体の良いカモじゃないだろうな…?」
从;゚∀从 「まさか…実利ってのは…!」
ξ゚⊿゚)ξ 「ククク…」
从;゚∀从 「俺をどうしようってんだ! やめろ! こっちに来るな!」
「おい! お前らそこで何してる!」
警笛が鳴り響き、むくつけき男たち何処からともなく湧いてくる。
またたく間に、二人は完全に取り囲まれてしまった。
从;゚∀从 「ツンお前やっぱり!」
ξ;゚⊿゚)ξ 「馬鹿言わないで! これはアンタのせいよハイン!」
そうして二人は、怪しげな事務所へと連れて行かれた。
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ξ;゚⊿゚)ξ 「ハイン、あなたが騒ぐからでしょ!」
从;゚∀从 「そうは言ってもだな…!」
从;゚∀从 「話が上手すぎるから…本当に、はめられたかと思ったんだぞ!」
ξ;゚⊿゚)ξ 「私がそんな悪人に見えるってわけ!」
「嬢ちゃん達おしゃべりはその辺りに…」
ξ;゚⊿゚)ξ 「何よ…!」
爪'ー`)y‐
ξ゚⊿゚)ξ 「あ、フォックス……」
爪;'ー`)y‐ 「あれ…? ツンお前か…!」
爪;'ー`)y‐ 「……」
爪'ー`)y‐ 「ツン…確かに一時期ウチで働いてたとはいえだな…」
爪'ー`)y‐ 「だからって、勝手にウチのルートで密航しようってのは、いただけねぇ」
ξ゚⊿゚)ξ 「……」
-
爪'ー`)y‐ 「まさか、すんなり帰れるとは思ってないよな?」
ξ゚⊿゚)ξ 「いえ、これには事情が…私達はただの観光でして…」
ξ゚⊿゚)ξ 「友人がどうしても内都の壁と、それにまつわる密航エピソードを聞きたがったもので」
ξ゚⊿゚)ξ 「気分を盛り上げようと現地に…」
爪;'ー`)y‐ 「…話は隣の事務室で聞こう」
爪'ー`)y‐ 「おい、こっちの嬢ちゃんを見張っておけ」
「へい、ボス!」
「ボスが話してる間、お前はここで待っているんだ」
从 ゚∀从 「……」
-
<「イヤぁーッ!」
从;゚∀从 「この悲鳴…ツン!」
「おっと、ここで静かにしててもらうぜ!」
<「クソッ!こいつちょこまかと避けやがって!」
<「おとなしく喰らえッ!」
从#゚∀从 「どきやがれぇ!」
ツンの悲鳴を聞いたハインは、見張りを投げ飛ばして隣室へ乗り込む。
そこで見たのは怯えるツンと、何やら棒のような物を振り上げてるフォックスの姿だった。
从#゚∀从 「てめぇ! 何してやがるッ!」
瞬間、ハインは股ぐらを蹴り上げた。
爪;'ー゚ )y‐ 「オゥッホァ!」
間抜けな断末魔をあげて、フォックスが床に倒れ込む。
ξ;゚⊿゚)ξ 「ちょと…ハインあんた何してんの?!!」
从;゚∀从 「えっ…?」
-
从 ゚∀从 「えっ…ゴキブリ…えっ??」
从;゚∀从 「嘘だろツン…お前、ゴキブリに怯えてあんな悲鳴を…?」
从;゚∀从 「街の悪党どもを出し抜いて、密航しようとしてるお前が…?」
ξ*゚⊿゚)ξ 「仕方ないでしょ! すごく嫌いなんだから!」
从;゚∀从 「じょ、冗談じゃねえ…!」
爪゚ー゚ )y‐
从;゚∀从 「このおっさん…完全に伸びてやがる…」
「ボス、何事です?」
「一体、なんの騒ぎだ!」
騒動を聞きつけ、フォックスの部下であろう男たちが続々と集まって来てくる。
その数、総勢十数人。
-
从;゚∀从 「ち、違うんだ…これは誤解だ!」
語るも虚しいハインの弁解。
別室でハインに投げ飛ばされて気絶していた男も起こされ、
証言と犯行現場、状況証拠が出揃う。
「てめえら! よくもボスを!」
「ただじゃ済まさんぞ!」
从;゚∀从 「ええい! こうなりゃヤケだ!」
从;゚∀从 「強行突破するぞツン!」
ξ;゚⊿゚)ξ 「え、えぇ…!?」
そうして、悪党たちとの大乱闘が幕を開けた。
ハインは持ち前の馬鹿力で、悪漢どもを投げ飛ばしたり、いなして大立ち回りし、
ツンはデスクの影からその様子を伺う。
-
順調に数を減らす悪党どもだったが、ついに真打ちが姿をあらわす。
ξ;゚⊿゚)ξ 「なんだか…とんでもないのが出てきたわよハイン!」
从;゚∀从 「うわっ!」
身長二メートルは優にあろうかという大男が部屋に入ってくる。
だが、二人の視線はその長身よりも、男の両腕に釘付けになった。
丸太ほどはあろうかという金属の二の腕が肩口から覗いている。
ξ;゚⊿゚)ξ 「サイボーグ…!」
ξ;゚⊿゚)ξ 「あんたたち! か弱い乙女たち相手になんてもの繰り出してくるのよ!」
ξ;゚⊿゚)ξ 「恥を知りなさい! 恥を!」
馬鹿力のハインに投げ飛ばされた男たちが、辺りに積み上がった部屋の中で、
その抗弁は虚しく響く。
从;゚∀从 「こんなのまで出てくるのか…!」
ξ;゚⊿゚)ξ 「いくらなんでも体格差がありすぎるわ!」
从;゚∀从 「仕方ない! ここは一撃離脱だ!」
从;゚∀从 「いくぞ! ツン!」
-
哀れな断末魔と共に男は床に倒れ込み、先に悶絶していたフォックスが下敷きになる。
爪;'ー゚ )y‐ 「オホゥッ!」
爪;'ー゚ )y‐ 「ち、チクショウ…」
ξ;゚⊿゚)ξ 「ハイン、もう十分よ! むしろ、これはやりすぎだわ!」
ξ;゚⊿゚)ξ 「逃げるわよ!」
从;゚∀从 「ああ…」
ハインとツンは疾駆する。力の限り、己の限界を超えて。
青い光に彩られた少女たちは夜の外都を駆け抜けていった。
-
ξ;゚⊿゚)ξ 「一体、何なのよその腕は!」
从 ゚∀从 「ああ…時々なんか光るんだ俺の腕」
ξ゚⊿゚)ξ 「はぁ!?」
ξ゚⊿゚)ξ 「義手ってわけ?」
从 ゚∀从 「…言ってなかったけど…俺の体、大部分が…機械みたいなんだ」
ξ;゚⊿゚)ξ !???
夜の街を走り抜け、二人は何処かの路地裏に身を潜める。
ツンはうつむいて地面を凝視し何やら独り言を呟いていた。
ξ;゚⊿゚)ξ 「まさか…そんな…ありえないわ…いえ、でも…」
从 ゚∀从 「おい大丈夫か?」
ξ゚⊿゚)ξ 「いいの良くあることだから、自分には意識があると面白半分に
プログラムされたアンドロイドが妙なことを口走るのは」
从;゚∀从 !?
-
从;゚∀从 「いあや…俺はこれでも多分、れっきとした…」
ξ゚⊿゚)ξ 「あら、そのチタンの頭蓋を開いて私に脳みそを見せてくれるのかしら」
ξ゚⊿゚)ξ 「俺はサイボーグだ! って」
从;゚∀从 「……」
ξ゚⊿゚)ξ 「全身義体化したサイボーグは、アンドロイドなんかより遥かに珍しくて、お金がかかるわ」
从 ゚∀从 「詳しいんだな…」
ξ゚⊿゚)ξ 「仕事柄ね」
そう言ってツンは不意にハインに近づいて顔を覗き込む。
驚いたハインの目が見開かれ、
その瞳の奥、虹彩に擬態したシリアルナンバーは見当たらなかった。
ξ゚⊿゚)ξ 「……」
人型アンドロイドに義務付けられた識別コードが無いとすると、
近頃、流行りの不正規アンドロイド。
それにしては思考の柔軟性が高いし、躰も高品質に見える。
皮膚の質感、顔の造形、表情。どれをとっても本物の人間と見分けがつかないグレード。
ツンの思考は巡る。
-
从; ゚∀从 「いきなり何を…?」
ξ゚⊿゚)ξ 「ほんの少しだけ言い過ぎたわ…」
从 ゚∀从 「……」
ξ゚⊿゚)ξ 「人間って話はまだ疑ってるけど、ただのアンドロイドではないかもね…」
从 ゚∀从 「実は…俺もあまり自信がないんだ…」
ξ゚⊿゚)ξ 「はぁ? 思考回路が病んでるAIなんてごめんよ」
从 ∀从 「というよりは若干、記憶がないんだ」
从 ゚∀从 「ここ最近以外の記憶が全然なくてな、どうしてこんな体なのか思い出せないんだ」
ξ゚⊿゚)ξ 「最近の逃亡アンドロイドは手の混んだ芝居をするのね…」
从 ゚∀从 「だから…いや、まあ逃亡はそうなんだけど…」
ξ゚⊿゚)ξ 「語るに落ちたわね観念なさい」
从; ゚∀从 「くそっ、なんか調子狂うな…」
-
ξ;゚⊿゚)ξ 「だいたいフォックスはこの辺りの顔なのよ」
ξ;゚⊿゚)ξ 「あんなことして…どうしてくれるの?」
从;゚∀从 「いや、俺は窮地を救おうとだな…」
ξ゚⊿゚)ξ 「はぁ…人類に反旗を翻すロボットなんて太古のフィクションよ…」
ξ゚⊿゚)ξ 「私の現実が侵食されていくわ…」
从;゚∀从 「……」
ξ゚⊿゚)ξ 「この狂った世界で、この先どうすれば良いのかしら…」
(-@∀@) 「そりゃおめえ…しばらくこの地区を離れるしかないな」
ξ゚⊿゚)ξ 「やっぱり?」
(-@∀@) 「フォックスはしつこいからなあ…」
-
(-@∀@) 「基本的には経済ヤクザだ」
(-@∀@) 「金にならんことはしないはずだが…先方の怒り具合によっちゃあ…」
(-@∀@) 「とんでもない借金を背負わされたり、とっ捕まって娼館に売り飛ばされたりしかねんぞ」
ξ゚⊿゚)ξ 「はぁ…」
ξ゚⊿゚)ξ 「ごめんなさいアサピー…」
ξ゚⊿゚)ξ 「まさか、このバカが暴れるとは思わなくて…」
从 ゚∀从 (しょうかんってなんだろう…?)
-
(-@∀@) 「……」
(-@∀@) 「あんたハインとか言ったか」
从 ゚∀从 「ん、なんか用かおっさん?」
(-@∀@) 「おじさんと言え、まあいい、ツンを頼むよ」
(-@∀@) 「知ってるかもしれんが、あいつは孤児でな…」
从 ゚∀从 「…聞いたよ」
(-@∀@) 「両親の遺産も、アイツを扶養するはずだった親族だかに騙し取られてな」
(-@∀@) 「この辺りじゃ珍しくもないが、ストリートチルドレンだったのをウチで雇うことにした」
从 ゚∀从 「……」
(-@∀@) 「それで良かったのか…満足に学校へもいけず同年代の友達も出来なかった…」
从 ゚∀从 「俺だって別に仲良しごっこをしてる暇があるわけじゃ…」
-
(-@∀@) 「それでもだ」
从 ゚∀从
(-@∀@)「ツンが何で、お前みたいな見ず知らずのヤツを俺のところに連れてきたと思う?」
从 ゚∀从 「それは……」
(-@∀@)「分からないなら、それでもいい」
(-@∀@)「だが義理を働く心当たりは、お前にだってあるだろう」
从 ゚∀从 「……」
(-@∀@) 「確かブローカーと揉めたやつはもう一人居たとかなんとか…」
(-@∀@) 「そいつををフォックスに差し出して詫びを入れるって手もある」
从 ゚∀从 「……」
-
(-@∀@) 「それとも…そいつは不法入星者だって話でな」
(-@∀@) 「低軌道警備隊が血なまこになって探してるっていう…」
(-@∀@) 「この前の衛星ブラックアウト事件の原因かも知れんってな」
(-@∀@) 「突き出した報奨金でフォックスと和解してもいい」
从;゚∀从 「……」
(-@∀@) 「商売柄、事情通でな…」
从;゚∀从 「ちっ、おっさんもアイツに似て強引だな、わかったよ…」
(-@∀@) 「ありがとよ、あと、おじさんだ」
从;゚∀从 「やれやれ…お尋ね者の俺に頼むことかよ…」
-
(-@∀@) 「これもいい機会かもしれん、あいつは此処から出たがってた…」
(-@∀@) 「両親を追って宇宙に出る事が夢だったんだろう…」
(-@∀@) 「でも内都の壁を前に立ち往生してるようじゃ…上都や宇宙は遥か彼方だ…」
(-@∀@) 「あんたなら、もっとデカイ世界を見せられるだろ?」
从 ゚∀从 「…やっぱり、俺に頼むことじゃないだろ」
(-@∀@) 「あいつは俺と出会う前から一人で生きてた」
(-@∀@) 「いまさら心配はいらんと思うが一応な…」
从 ゚∀从 「たくましいんだな…」
-
ξ゚⊿゚)ξ 「できるだけ人目に付く場所は避けて行きましょ」
从 ゚∀从 「それじゃお尋ね者はお尋ね者らしくいくか」
ξ゚⊿゚)ξ 「フォックスは治安組織にもパイプを持ってて黒いお金を収めてるって噂だわ」
ξ゚⊿゚)ξ 「縄張りで揉め事があったら、後ろ盾の警察が動くって寸法ね」
ξ゚⊿゚)ξ 「下手したらこの地区にもう手配書が回ってるかも」
从 ゚∀从 「へえ、そういう風になってるのか…」
从;゚∀从 「…結構まずいことになってるのな」
ξ゚⊿゚)ξ 「今頃気がついたの…?」
ξ゚⊿゚)ξ 「あなた結構、世間知らずな所あるものね…」
ξ゚⊿゚)ξ 「その服装とかも随分と世間ずれしてるし」
从;゚∀从 「言うなよ…」
白と紺で塗り分けられ、オレンジの差し色が所々に入る奇妙な服をからかって、
二人は旅立った。
-
アサピーの元を離れて数日。
二人は人気のない廃棄区画を進んでいた。
放棄された軌道列車の線路がどこまでも続き、それを目印に徒歩で別の繁華地区を目指す。
無秩序に拡大を続ける外都には、こういった区画も珍しくない。
いずれ利用価値が出れば再開発の対象になったりもする。
既に陽は落ちて、金属のレールが夜の僅かな光を集め鈍く光っていた。
まるで水に濡れているように。
从 ゚∀从 「…ここからでも見えるんだな」
ξ゚⊿゚)ξ 「何が…?」
从 ゚∀从 「あれだよ」
そう言ってハインは、林立する廃建築群が途切れた一角を指差す。
夕闇に光る軌道エレベーターが、天まで伸びていた。
-
ξ゚⊿゚)ξ 「……」
从 ゚∀从 「ひとつ…気になってるんだが…」
ξ゚⊿゚)ξ 「なにかしら…?」
从 ゚∀从 「こんな事になって恨んでないか、俺のこと」
从 ゚∀从 「いや、そもそも、どうして俺を助けたんだ?」
ξ゚⊿゚)ξ 「……」
从 ゚∀从
しばらくの間、砂利を踏みしめる足音だけが響いて、それからツンが口を開いた。
ξ゚⊿゚)ξ 「…言ったでしょ私にも実利はあるって」
ξ゚⊿゚)ξ 「私の世界を変えてくれる、そんな出来事を待ってたのよ…」
ξ゚⊿゚)ξ 「それが、あなたのような気がして」
从 ゚∀从 「俺が…?」
-
ξ゚⊿゚)ξ 「私の実利はね、あなたに付いて行って上都を見ることだった」
いつかこの街を抜け出したかった、今までの環境も嫌いじゃなかったけど、何処か空虚で。
モラトリアム…って言うのかしら。ここでは見つからなかった、私の居場所は。
でも、信じてなかった。身よりもない孤児がここから這い上がれるなんて。
ξ゚⊿゚)ξ 「だから…」
从 ゚∀从 「……」
ξ゚ー゚)ξ 「やっぱり…矛盾してるよね」
夜の線路に、寂しげな笑い声が流れ、ツンは足を止めて遠くの空を眺めた。
その先にある軌道エレベーターは、心なしかいつもより小さく思えた。
-
从 ∀从 「……見てみるか、その上都とやらを」
ξ゚⊿゚)ξ 「?…無理よ」
ξ゚⊿゚)ξ 「ここからじゃ上都のプレートだって霞んでよく見えないわ」
从 ∀从 「……」
从 ゚∀从 「…黙ってたんだけどさ、実は俺、飛べるみたいなんだ」
ξ゚⊿゚)ξ 「えっ…?」
ハインのふくらはぎから踵にかけて、
同心円状の幾何学模様が3つほど縦に並び、蒼く発光した。
そこから青白い光の粒が溢れ、粒子は模様とおなじように円状の輪となって噴き出す。
さらに足の裏にも2つ。
音もなくハインは宙に滑り出した。
-
从 ゚∀从 「行くか?」
ξ゚⊿゚)ξ 「え…ええ…?」
恐る恐る、ツンはハインが伸ばした手を取り、
その腕に抱きかかえられた。
ξ゚⊿゚)ξ 「ちょ、ちょっと……!」
从 ゚∀从 「しっかり、つかまってろよ」
ハインがそう言った時には、今さっきまで立っていた廃棄区画は夜の闇に溶け、
外都の街が足元で夜景になっていた。
ツンが視線を戻すと、大気の層で褪せた都市の姿が、遥か彼方まで続いていた。
地平線と一つに溶けあって、都市の輪郭は複雑なスカイラインをぼんやりと形成する。
ハインは軌道エレベータの方角へ飛ぶ。
二人はさらに上昇し、ついにプレートの高さを越える。
薄暮の空の大パノラマに、うっすらとした都市の影が自らの光で浮かび上がる。
ξ゚⊿゚)ξ 「あれが…」
上都だった。
-
ξ゚⊿゚)ξ 「いつかあの街で…本物の航空宇宙工学を勉強したい」
ξ゚⊿゚)ξ 「……昔はよくそんな事を思ってたわ」
从 ゚∀从 「何かの学者になりたかったのか? 変わってるな」
ξ゚⊿゚)ξ 「そうじゃなくてエンジニアよ、本物の」
从 ゚∀从 (学者と何が違うんだ…?)
ξ゚⊿゚)ξ 「いつか自分の設計した船でこの星から出てみたい」
ξ゚⊿゚)ξ 「宇宙を自由に」
ξ゚⊿゚)ξ (父と母のように…)
从 ゚∀从 「学者先生の言うことはわからんな、星間シャトルくらい上都じゃ珍しくもないんだろ?」
ξ゚⊿゚)ξ 「そうじゃなくて…」
ツンの唇が震えて、言葉が途切れる。
-
ξ゚⊿゚)ξ 「少し…寒いかも…」
从 ゚∀从 「すまん、俺は…この体だから…」
从 ゚∀从 「…降りようか」
ハインは降下しながら、軽々と壁を越えて内都に入った。
ξ゚⊿゚)ξ 「このために…?」
从 ゚∀从 「まあな、かなり目立つからホントは飛びたくなかったけど…」
从 ゚∀从 「俺達は…もう、これくらいでしか内都に行けないだろ?」
ξ゚⊿゚)ξ 「……」
从 ゚∀从 「上都に乗り付けても良かったが、確か電磁的なバリアがあるんだろ?
軌道エレベーターからの落下物対策とかで」
ξ゚⊿゚)ξ 「そうね、外から近寄るのは危険だわ…」
-
ξ゚⊿゚)ξ 「…私の感傷に付き合ってくれたのかと思ったけど、違ったみたいね」
从 ゚∀从 「それもあるぜ」
从 ゚∀从 「こういうのさ、この星じゃあ一石二鳥って言うんだろ?」
ξ゚⊿゚)ξ 「どこで覚えたのよ…まったく趣に欠けるわアンタ」
从 ゚∀从 「へへへ…」
ξ゚⊿゚)ξ (でも、ありがとうハイン…)
从 ゚∀从 「そら着いたぜ」
一度どこかの屋上に降りてから、目立たないよう路地裏へ。
隠れるように路地裏ばかりに行きたがるハインは、やっぱり何かに追われているのだろうか。
ツンはぼんやりとそんな事を考えていた。
-
(´・ω・`) 「一応、覚醒はしてるな?」
川 ゚ -゚) 「そのようです」
(´・ω・`) 「さてどう対処したものか」
( ・∀・) 「まずは話し合いがいいんじゃないですか」
( ・∀・) 「再調整の影響や誤解なんかもありそうだし」
('A`) 「ふん、穏便なことだな流石に…」
( ・∀・) 「それより先は気をつけて発言したほうが良いよ、ドクオ」
川 ゚ -゚) 「やめないか」
('A`) 「やれやれ…洒落の通じない連中だ 俺は話し合いには興味ない、任せるぜ」
-
内都の街は外都とは別世界だった。
清潔で、秩序だった街並み、行き交う人々の活気。一人歩きの女性達。
ツンとハインはここが隣にある都市とはとても思えなかった。
城塞にも似た大企業のビル群が林立する中心街、健全な娯楽と美しい店が並ぶ表通り。
しばらくツンは夢中になって街を見て回った。
ショウウィンドウに輝く衣装や、洋菓子店などには目もくれず、
一心不乱にギアショップやサイバネティックスの専門店を巡るツンを、
ハインは呆れ顔で眺めていた。
从 ゚∀从 「お前さあ…そんなにメカが好きなわけ…?」
ξ゚⊿゚)ξ 「勿論よ、正直言って、あなたの躰もいじくり回したいくらいよ」
从;゚∀从 「えっ…! お前そういう趣味なのか…?」
ξ゚⊿゚)ξ 「純粋に学術的見地よ!」
从;゚∀从 「……」
ξ゚⊿゚)ξ 「アサピーは昔、この街で色々な研究をしてたって話よ」
ξ゚⊿゚)ξ「羨ましいわ…」
-
从 ゚∀从 「ツン、アサピーって何者なんだ?」
ξ゚⊿゚)ξ 「そうね、かなりの事情通よ…ジャンク屋の他に情報屋としての顔もあるの」
从 ゚∀从 「へぇ…どおりで…」
从 ゚∀从 「しかしツン、内都に来たのは良いが……」
从 ゚∀从 「軌道エレベーターや上都は、超リッチマンか、でかい企業の人間しかお呼びじゃないみたいだぞ…」
ξ゚⊿゚)ξ 「そうね…何か考えないと、宇宙港や上都は遠いわね…」
ξ゚⊿゚)ξ 「上都は研究機関や大学が集まってる区画があるから、学生に化けるってのも手ね」
从 ゚∀从 「でも証明書?の偽装なんて出来ないぞ…」
ξ゚⊿゚)ξ 「学校ってどんなところなのかしらね…」
从 ゚∀从 「なんか舞い上がってないかツン…?」
从 ゚∀从 (早いところ星間航行可能な宇宙船を手に入れたいが…)
-
ハインが軌道エレベーターを眺めながら思案にくれていた時、
往来の向こう側から奇妙な格好をした三人組が現れ、ツンはその姿に目を留めた。
二色で塗り分けられ差し色が所々に入る、パターン違いの服を着た一団が近づいてくる。
ξ;゚⊿゚)ξ 「ハイン見て! あんたと似たダサい服を着た人達が3人も!」
从;゚∀从 「ああ…こいつは……」
从 ゚∀从 「……」
从 ゚∀从 「…ツンお前、いま俺の服がダサいって言ったよな?」
ξ゚⊿゚)ξ 「言葉の弾みよ」
ξ゚⊿゚)ξ 「実際、そんなに格好良くないわ」
从;゚∀从 「クソッ言いたい放題いってくれるな!」
从 ゚∀从 「それよりまあ、こいつらは多分、俺の"追手"さ」
从 ゚∀从 「最初に会った時、言ったろ追われてるって」
ξ゚⊿゚)ξ 「あれホントだったのね」
从;゚∀从 「……」
-
从 ゚∀从 「まあ、いいや…」
从 ゚∀从 「そうだろう、お前ら?」
( ・∀・) 「やっと僕らにも発言が許されたようだね」
川 ゚ -゚) 「真面目にやれ、モララー」
( ・∀・) 「はいはい」
(´・ω・`) 「まずは誤解を解きたい」
从 ゚∀从 「誤解だと…?」
(´・ω・`) 「我々は基本的に君の敵ではない…」
(´・ω・`) 「我々には使命がある」
从 ゚∀从 「お前らの名前なんか知るかよ」
ξ゚⊿゚)ξ 「ハイン…この人が言ってるのは多分、その氏名じゃないわ…」
从;゚∀从 「えっ…?」
(´・ω・`) 「」
-
( ・∀・) 「ショボンさんは言葉が固いからなぁ…」
川 ゚ -゚) 「お前は砕けすぎだ」
从;゚∀从 「……」
(´・ω・`) 「…我々の使命…目的は母星を導くことだ」
(´・ω・`) 「我々は教導者なのだ」
从 ゚∀从 ???
ξ゚⊿゚)ξ 「怪しげな宗教の勧誘だわ…」
( ・∀・) 「クー先輩が話したほうが良いんじゃないですか…?」
川 ゚ -゚) 「黙ってろモララー」
ショボンの話は同じような調子で続き、見かねたクーが助けに入る頃には、
ハインは集中力を切らし始めていた。
そして、おおよその話を理解したツンが説明することで、
ようやっとハインは事情を飲み込み始めた。
-
ξ゚⊿゚)ξ 「…ということらしいわ」
从 ゚∀从 「う、うん…」
从 ゚∀从 「それでツン…」
ξ゚⊿゚)ξ 「なにかしら…?」
从 ゚∀从 「…教導者ってなんだ?」
(´・ω・`) 「……」
川 ゚ -゚) 「……」
( ・∀・) 「……」
ξ゚⊿゚)ξ 「教導者ってのは…導き手のことよ」
ξ゚⊿゚)ξ 「要は指導者よ、リーダーとか、お偉いさんよ」
从 ゚∀从
从;゚∀从 「俺が…星の…お偉いさん…」
-
(´・ω・`) 「そうだ、"我々"には君も入っている…」
(´・ω・`) 「使命を果たすため、一緒に来て欲しい」
从;゚∀从 「……」
『とにかく逃げて、どこかに隠れるんだ』
ξ゚⊿゚)ξ 「ばかばかしいわ」
从;゚∀从 「えっ…」
ξ゚⊿゚)ξ 「いきなり母星を導くだの、選ばれただの言われて」
ξ゚⊿゚)ξ 「はい そうですか、と言うとでも思ってるのかしら」
从 ゚∀从
『誰も信用するんじゃないぞ、ハイン!』
自分を送り出した人の、今日まで守ってきた言葉を、ハインは頭の中で反芻した。
そして、ショボン達とツンを見比べてから、ひとつ息を吐く。
-
ξ゚⊿゚)ξ 「第一、こんな粗暴で頭の悪いやつが、教導者なんかであるはずがn」
从 ゚∀从 「お墨付きどうも…」
从 ゚∀从 「…そういうことなんで、無理だと思うぜ?」
そう言って、ハインはツンを抱えあげる。
ξ;゚⊿゚)ξ 「ちょ、ちょと…ハインあんた!」
从 ゚∀从 「じゃあな…」
ハインは大きく跳ねるようにして、空へ飛び上がる。
その姿は一瞬にして青白い光点になり、やがて青空に溶けていった。
( ・∀・) 「どうします?」
( ・∀・) 「あの性能で逃げ回られたら、追いかけるにしても厄介ですよ」
( ・∀・) 「まして戦うなんて事になったら…」
(´・ω・`) 「基本的に戦闘は極力、回避する」
(´・ω・`) 「この星の治安組織や政府に介入されても厄介だ」
-
川 ゚ -゚) 「しかし、リーダーの指示では…」
(´・ω・`) 「……」
(´・ω・`) 「…もし、やむを得ない事態になっても、この街での戦闘は厳禁だ」
(´・ω・`) 「外周のスラムや放棄された一角のような、行政が無関心な場所を選ぶんだ」
(´・ω・`) 「いいな?」
( ・∀・) 「りょーかい」
川 ゚ -゚) 「了解」
-
強がってみたものの、突然の話にハインは動揺していた。
自身の中に眠る感覚。記憶の始まりにある、あの奇妙な文字列の夢。
機械の体とその能力。それは一体何のためにあるのか。
从 ゚∀从 「……」
星の教導者。俺が選ばれただと…? 一体どういうことなんだ。この体はそのせいなのか?
だとしたら、教導者とは一体…。
ハインの中で疑問はどんどん大きくなっていた。
自分は果たして、その答えを本当に知りたいのだろうか。
彼らの前から逃げるように去った、自分に自問する。
从; ∀从 「………」
ξ゚⊿゚)ξ 「ハイン…?」
从; ∀从 「すまん…ちょっと、考えがまとまらない…」
从; ∀从 「一旦、降りるよ…」
ξ゚⊿゚)ξ 「うん…」
-
ハインは壁を越えて外都の適当な場所へ降りた。
隠れるように雑踏に紛れ、さらに人を避けるように脇道へ抜け、繁華街を外れる。
人並みもまばらになり、遺棄された旧市街のような廃虚群を横目に、ハインは彼らの話を思い返す。
('A`) 「すみません、道を教えてほしいのですが…」
ξ゚⊿゚)ξ 「えーと、私達もこの辺りは詳しくなくて……」
('A`) 「そうですか…ところで、お連れの方は具合が悪そうですが…」
从 ゚∀从 (この感じ…)
それは、彼らに感じたものと似ていた。
本能的な危機察知能力が警告していた。こいつは同類だと。
从;゚∀从 「ツン! そいつから離れろ!」
ξ゚⊿゚)ξ 「ハイン…?」
('A`) 「もう遅い」
从;゚∀从 「こいつ…!」
-
小柄な男は、見た目からは想像もつかない機敏さとパワーでツンの腕を取り、
後ろ手に固めて、関節を決めた。
ξ;゚⊿゚)ξ 「ハ、ハイン…!」
('A`) 「迂闊だったな…?」
从;゚∀从 「ツンを離せ!」
('A`) 「離さないと、どうなるんだ?」
腕を締め上げられ、ツンが悲鳴をもらす。
从#゚∀从 「てめぇ!」
脚部に青い光が走り、ハインは地面を蹴る。
動揺していたところへの突然の男の登場に、冷静さを欠いていた。
ドクオは向かってくるハインへ向けてツンを突き飛ばした。
不意を突かれたハインは、ツンを受け止めようとして、その背中の向こうでドクオが攻撃に移る。
倒れこむツンの背後から、光撃が二人を打ち抜いた。
-
右脚を捻って無理やり姿勢を変え、紙一重で致命傷を避ける。
結んだツンの髪が解けて、かすめたハインの頬に焦げ跡が引く。
从;゚∀从 ッ……!
('A`) 「このくらいは当然か…」
光撃はそのまま廃ビルのコンクリートを穿ち、
ツンはハインの肩越しに、その性質を見て取る。
ξ;゚⊿゚)ξ 「…何かのエネルギー兵器だわ!」
从;゚∀从 !?
ξ;゚⊿゚)ξ 「ビームよ! ハイン!」
从;゚∀从 「離れてろツン! こいつの狙いは俺だ!」
('A`) 「ご明察……」
-
从 ゚∀从 「さっきの連中の…仲間だな…!」
('A`) 「それも、正解……まあ、当然の推論だが…」
从;゚∀从 「なぜ俺達を襲う 何が目的だ?」
('A`) 「いや何、お前が本当に教導者とやらなのか…」
('A`) 「もし、そうだとして」
('A`) 「ふさわしい力があるのかどうか見てみたくてな…」
从 ゚∀从 「お前は…他の奴らとは違うのな…」
('A`) 「俺は星を教導するなんてことは、それほど真面目に考えてないからな」
('A`) 「どこまで行っても、しょせん俺達は兵器さ」
('A`) 「自分で自分の脳をいじくり回したって、神様になれるわけじゃない」
从;゚∀从 「兵器だというのか…俺が…」
('A`) 「お前だって思い当たる節はあるだろ? 自分の躰が持つ力は否定できないはずだ」
从 ゚∀从 「……」
('A`) 「さあ、お前の性能を俺に見せてみろ…!」
-
ξ;゚⊿゚)ξ 「ハイン…!」
从;゚∀从 「ツン……」
从 ∀从 「最初に会った時、俺が追われてるって話、したよな?」
从 ∀从 「本当は俺が…逃げてたんだ…」
从 ∀从 「こんな体で記憶も曖昧で」
从 ∀从 「誰に何で追われてるかも、自分が誰かも分からない」
从 ∀从 「色々どうなるか分からなくて、怖くてさ…」
从 ∀从 「お前と逃げ回ったり、外都を巡るのは楽しかったけど…」
从 ゚∀从 「逃げ回っても現実は変わらないみたいだな…!」
-
ξ;゚⊿゚)ξ 「……」
('A`) 「ふっ……」
从 ゚∀从 「いくぞクソ野郎……」
('A`) 「待ちくたびれたぜ…!」
ハインは一筋の青い光跡となって加速した。
('A`) 「戦い方は忘れていないようだな」
('A`) 「それでこそ俺達は兵器だ…!」
-
遠距離攻撃が主体のドクオとの対峙。
持ち前の加速で距離を詰め、得意の打撃で相手を穿つ。
从#゚∀从 「はあああッ!」
('A`) 「ふん……」
だが、突き出された拳の先は既に空白。
放たれる光撃。続けざまに胸部と右腕を抉られ、たまらずハインが飛び退る。
ドクオのビームはムチのようにしなってハインを抉りとる。
甲高い不協和音とともに背中の後輪から幾筋ものビームがあふれる。
空中を、地面の下を、辺りの建物を通って全方位から襲いかかる。
从;゚∀从 (クソッ…かわしきれない…!)
ビームの牽制でアプローチを誘導され、攻撃を読まれている。
そして回避されると同時に、倍以上の手数で反撃をもらう。
初めての本格的な戦闘にハインは苦戦していた。
-
('A`) 「どうした? そんなもんか!?」
从 ゚∀从 「まだまだッ!」
動体視力の限界を越えた攻防で、切り替えしの一瞬一瞬に映る彼女の身体は次々に損傷を増やし、
ゆっくりと砕かれゆく彫像にも似て――。
ξ;゚⊿゚)ξ「ハイン!」
从; ゚∀从 「ぐッ…!」
銀髪が逆巻き、内容液が跳ね、皮膜を突き破った剥き出しのケーブルが右腕でスパークする。
弾けた火花は胸部の溶断面を照らし出し、醜く隆起したそれは煮えたぎる泥土を思わせた。
一刻も経たず、ハインは防戦一方になった。
('A`) 「チッ…つまらねえ…」
('A`) 「俺達と同レベルの化物と戦えるって聞いてたのに、この程度かよ…」
-
('A`) 「お前は忘れてるかもしれないが所詮、俺達は歪な存在なんだよ」
('A`) 「サイバネティクスと遺伝子工学の歪んだ落とし子に過ぎないんだ」
('A`) 「醜い殺戮マシンとしての本性を見せてみろ!」
ドクオは攻撃の手を緩めず、ハインを抉っていく。
ξ;゚⊿゚)ξ「ハイン…!」
ツンはただ叫ぶことしか出来ない自分の無力感に押しつぶされそうになった。
それはある種の孤立にも近かった。
ハインとの間にあった、あらゆる種類のつながりが途切れて行くようにも思えた。
ξ ⊿)ξ 「ハイン私…」
仲間だと思っていた相手が命をかけて戦っているのに、自分は彼女との世界の違いを心配している。
自分が受け入れられるかとか、自分の無力とか、自分のことばかり心配しそうになっている。
それが一層ツンを責め立てた。
ξ ⊿)ξ
自分は役に立たないばかりか利己的でどうしようもないクズだ。
もう、ツンはハインを真っ直ぐに見ることも出来なかった。
-
('A`) 「……」
('A`) 「お仲間に随分心配かけてるみたいだな…?」
从 ゚∀从 「……」
从 ゚∀从 「そんなに心配するなよツン」
从 ゚∀从 「所詮、俺達は互いに利用してただけの仲さ!」
('A`) 「おやおや、お熱いねぇ…」
ξ ⊿)ξ 「……」
从 ゚∀从 「いくぞッ! クソ野郎!」
('A`) 「まずは、格闘の射程に入らないとなあ…?」
-
遠距離から浴びせられる光撃は、確実にハインにダメージを蓄積させていった。
額から頬にかけて、顔を二分するように斜めに走る歪み。続けざまの光撃で右頬が破れ、
人工皮膚が千切れる。むき出しになる内骨格。苦悶に歪む残り半分。
だが、彼女は歩みを止めはしない。
はためく銀髪の奥で、その瞳は眼光鋭く、まっすぐに相手を見据えている。
('A`) 「ふん……」
从メ゚∀从
両脚から青い粒子が溢れ、高まる放出量は即座に臨界点へと駆け上がる。
そして、視界を漂白する一瞬の煌めき。
風の音が割れ、ゆっくりと色を取り戻すように浮かびあがる風景を、一筋の青が両断した。
彼我の距離が消える。
-
('A`) 「チッ!」
从メ゚∀从「はああああッ!」
ハインの打撃がドクオを捉える。
防御に上げた腕のフレームがひしゃげて弾けた。
光撃を集中して反撃するも、ビームが焦点した先は既に無人。
展開は逆転した。
('A`) (ヤツの中で確かに何かが変わった…)
('A`) (一つ一つの動きに明確で冷静な破壊の意図を感じる)
('A`) (表に出てる感情とは裏腹に、なにか詰まらないものでも解体する作業かのようだ)
('A`) (これが第四世代型の本性というわけか)
('A`) (強行偵察のつもりだったが、これは…面白い)
('A`) (しかし、きっかけは何だ…?)
('A`) ( あの女…か?)
-
('A`) 「まだ最大稼働ではないな!?」
('A`) 「見せてみろ貴様の性能を!」
从#゚∀从 「性能、性能、うるせぇんだよクソ野郎ッ!!」
('A`) 「それなら…こんなのはどうだ?」
そう言って、ドクオは光撃をツンへ向けた。
ビームでツンの腕や首に浅い傷をつけていく。
鞭でなぶるように、執拗に。
('A`) (悲鳴の一つでもあげてみせろ…!)
从;゚∀从 「ツン!!」
ξ ⊿)ξ 「ん……」
ツンは痛みと恐怖で震えていた。
だが、口元は固く結ばれ、わずかに吐息が漏れただけだった。
('A`) 「健気だねぇ…!」
-
そして、ハインは全てを漂白した。
ドクオが放つビームを、粒子が展開した右手で受ける、
干渉を起こして拡散したビームに右腕を抉られるのも構わず、
強引に懐に飛び込む。
繰り返し発光しては、白く染め上げられる視界の向こうで、
金属同士が衝突して捻れるような、不快な衝撃音が幾重にも反響する。
徐々に視界が色づき始め、風景が輪郭を取り戻すと、
仰向けに地面へめり込んだドクオの四肢は圧壊していた。
その隣でハインはよろめいて、地面に膝をつく。
从 ∀从 「一体、何なんだ俺達は…」
从 ∀从 「本当にただの殺戮マシンなのか」
('A`) 「へっ…マジに覚えてないんだな…」
('A`) 「再調整に失敗したっていうのは本当みたいだな…」
从;゚∀从 「答えろ…!」
('A`) 「……」
从 ∀从 「教えてくれ…」
-
('A`) 「まあいいだろう…どうせ俺には…もう今後の展開なんて関係がない…」
('A`) 「流石に…お前を逃したモナー博士のことは覚えてるよな…?」
从 ∀从 「いや……」
('A`) 「……」
('A`) 「俺達をデザインしたうちの一人が博士だ…」
('A`) 「俺達は…戦争で荒廃した星系と腐敗した政府を立て直す為…」
('A`) 「一からデザインされ調整された新しい人類みたいなものだ…」
('A`) 「そういう意味では…俺達は兄弟といえるかもな…」
('A`) 「中にはお前の知育を担当したやつも…」
从 ∀从 「……」
('A`) 「勿論、遺伝上の関係は無いが…」
('A`) 「目的は…人工的に強化された資質と能力で人間のサポートを行うことだ…」
-
从 ゚∀从 「それがどうしてこんな事になってる…?」
('A`) 「結局…それは表向きのお題目に過ぎなかった…」
('A`) 「実態は、強化された人間とマシンの融合による戦闘兵器計画だった…」
('A`) 「遺伝子レベルでデザインされ、更に生物化学的に強化した人脳を、背骨ごと取り出して…」
('A`) 「戦闘用のマシンに移植した合成人間…」
('A`) 「それが俺たちだ…」
ξ;゚⊿゚)ξ「そんな……」
从 ∀从
('A`) 「笑えるだろ…?」
('A`) 「そして…俺達の強化された脳はマシンとの融合を果たしたことで、
この兵器計画を命じた連中に従うような調整が可能になった…」
('A`) 「実際…そう調整されていた」
-
('A`) 「計画の全容を知ったモナー博士は悩んだ挙げ句、
俺達のリーダーギコと全員を再調整して、命令プロトコルを無効にすることにした」
('A`) 「博士は自らが生み出した……いわば子どもたちの良心を信じていた…」
('A`) 「が、作り物は所詮…作り物に過ぎない…」
('A`) 「博士は人間と協力するという、当初の理想を実現できると思っていたが…」
('A`) 「俺達はそれほどお人好しじゃなかったのさ」
('A`) 「ギコの真意を知り、袂を分かった博士は、最後の一人だったお前を逃がすために、
やむなく再調整を途中で強制終了させた」
('A`) 「そしてポッドに載せて星系から脱出させた」
('A`) 「ギコはお前の存在を不安視した、お前は完成していた唯一の第四世代型だからだ」
('A`) 「最大稼働したその力は理論上、ギコにも匹敵する」
-
('A`) 「だから説得して仲間に引き入れようとした」
('A`) 「もし、それが無理なら…」
('A`) 「……」
从;゚∀从 「それでお前たちの目的は! ギコの真意ってのはなんだ!」
ξ゚⊿゚)ξ「ハイン…もう…」
('A`)
ドクオは既に事切れていた。
从 ∀从 「ちくしょう、肝心なところは黙って逝きやがって…」
从 ∀从 (俺たちが兄弟だと…)
「クソッ…!」
-
視野全天に薄暗い空間が広がっている。
それは既に何度も見た夢だった。
かつて、全てを覆うように流れていた文字列を、ハインはあれから一度も見かけていない。
ただ例の人影はいつもそこにいた。
人影は以前よりも輪郭が明瞭になってきていた。
ハインより少し背が高い男。
人影がはっきりするにつれて、ハインはそれが一人の人物ではないことに気がついた。
何人もの人物が入れ替わり立ち替わり、夢の中でぼんやりとした人影となって現れる。
頻度が高いのは、ハインを送り出したモナー博士だった。
しかし、彼と同じくらいの頻度で現れる男が別にいた。
今、現れている男がそれで、最初に見た夢に居たのも恐らく彼だった。
規則正しく、毎夜、訪れる夢の時間。
機械も夢を見るのか。それとも記憶データのデフラグか。
これは夢というよりは、失われた記憶の断片。
自分の記憶が何かの形で整列し始めている、ということなのかも知れない。
ハインはこの現象をそう考え始めていた。
-
この人影は、馴れ馴れしい。
以前は、安心感のようなものを感じもしたが、最近では嫌悪が募るばかりだった。
自分の正体を知った今となっては。
ハインをこんな体にした研究者なのか、それとも…。
男は両腕を広げて、夢中のハインの視点に近寄る。
馴れ馴れしく、俺に近寄るな。
お前は誰だ、一体ここで何をして…。
そうしてハインは自らが殺した男の顔を思い浮かべる。
「俺達は兄弟といえるかもな…」
兄弟…。俺に近寄るな…触るな…!
ハインの思考が乱れ、記憶の夢が崩れていく。
从 ‐∀从
从 ゚∀从 「ん………」
从 ゚∀从 「ここは…?」
-
見慣れない部屋でハインは目を覚ました。
薄暗い室内は荒れ果て、壁紙は剥がれ落ち、家具や建具は壊れて、
破れたカーテンから差す夕陽に埃が踊っていた。
ξ゚⊿゚)ξ 「目が覚めたのね、良かった…」
从 ゚∀从 「…どのくらい…眠ってた…?」
ξ゚⊿゚)ξ 「今日で三日目よ」
从 ゚∀从 「…派手にやられたからな、ちょっと寝過ごしたか」
ξ゚⊿゚)ξ 「……」
ξ゚⊿゚)ξ 「顔の傷ふさがって来てるね」
从 ゚∀从 「…そうか?」
ξ゚⊿゚)ξ 「ほら、鏡見て」
差し出された手鏡を受け取ろうとして、それはハインの右手をすり抜けて、
膝の上に落ちた。
-
从 ゚∀从 「だいぶガタがきてるな…」
そう言いながらハインは逆の手で鏡を取り、自分の顔を眺める。
ξ゚⊿゚)ξ 「……」
从 ゚∀从 「確かに…なんか治ってきてるな…」
ξ゚⊿゚)ξ 「…でしょ?」
从 ゚∀从 「多分ナノマシンか何かが、それっぽく整えてるんだな…」
从 ゚∀从 「えぐられた腕と胸は全然だな、こっちはかなり時間がかかりそうだ」
从 ゚∀从 「特に右腕はもうダメだろうな」
ξ ⊿)ξ 「……」
ξ ⊿)ξ 「どうにかしようとしたんだけど、この星のテクノロジーとは体系が違うみたいで…」
从 ゚∀从 「ツンお前そんなコト考えてたのか…」
从 ゚∀从 「良いんだよ…俺が巻き込んじまったんだから…」
ξ ⊿)ξ 「でも私…」
-
从 ゚∀从 「ブローカーに追われてるのも、合成人間に追われてるのも、みんな俺のせいなんだ…」
ξ゚⊿゚)ξ 「そうじゃないわ、言ったでしょ私にも実利はあるって」
从 ゚∀从 「空で言ってたあの話か…」
ξ゚⊿゚)ξ 「ええ」
ξ ⊿)ξ 「それに…私…」
从 ∀从 「…俺さ、おまえがアイツに攻撃された時、ちょっとおかしかったんだ…」
从 ∀从 「怒りとか焦りとか、そういう感情がすっと後ろに下がって…」
从 ∀从 「少し離れたところから、自分で自分の機械の体を観察してるみたいな…」
ξ゚⊿゚)ξ 「ハイン……」
从 ∀从 「はじめて会った時も、思わずお前を絞め落としたよな…」
ξ゚⊿゚)ξ 「……」
从 ∀从 「怖いんだ…」
-
从 ∀从 「殺戮マシンとしての本性をいつ現すか…」
从 ∀从 「でも反応してしまう、スイッチひとつで切り替わるように…」
从 ∀从 「俺の頭の中に巣食う殺戮のプログラムに、俺は逆らえるのかな…?」
从 ゚∀从 「考えても、考えても、悪い方にしかいかないんだ…」
从 ゚∀从 「いつか、またお前のことを…」
从 ゚∀从 「いや、もう傷つけてるか…」
そう言ってハインは、ツンの腕や首筋に走る火傷の痕に沿って、宙を手でなぞる。
ξ ⊿)ξ 「もうやめて…」
从 ゚∀从 「悪かった…」
ξ゚⊿゚)ξ 「…少し外に出ましょう」
从 ゚∀从 「出歩くのはまずいんじゃないか?」
ξ゚⊿゚)ξ 「ここの屋上よ」
-
廃ホテルといっても規模は小さく、
数階建ての民宿のようなビルの屋上は雑然としていた。
かつてはここにも誰かの営みがあったのだろう。
夕陽は既に落ち、辺りは暗い。
从 ゚∀从 「ここからだと少し星が見えるな」
「ここは外都の端っこの方で放棄された地区だからね」
「高い建物もないし街も暗い」
「ほら軌道エレベーターがあんなに細い」
「所々、かすれて見えないな」
それは暗闇で光る絹糸のようにも見えた。
二人は屋上の出入り口によじ登って、しばらく空と都市を見ていた。
-
「そういえば、一度アサピーが来たわ」
「あの、おっさんもう知ってたのか…」
「出来ることがあれば、なんでも手伝うって…」
「……」
「さっき、上都を見るのが私の実利だって話したよね」
「ああ…」
「それだけじゃなくて、私は一緒に何かをたくらむ仲間が欲しかったのかもしれない」
「仲間ね…俺達はそんなモンなんかじゃないぜ」
「……」
「俺のお仲間はグロテスクな合成人間さ…」
「おまえと俺は…違いすぎる…」
-
ハインは顔を背けて小さくつぶやいた。
「でも俺は…」
続く言葉はジェットエンジンの爆音にかき消されて、誰にも届かなかった。
上空からVTOL機が降下し、屋上の向こうにホバリングする。
サーチライトの光が二人に集まり、
ハインは左手で光を遮りながら機体を見上げた。
人影が二人の近くに飛び降り、VTOLがそのまま飛び去る。
( ・∀・) 「やっと見つけたよ」
从 ゚∀从 「…よう、トドメを刺しにきたか?」
ξ;゚⊿゚)ξ 「……」
( ・∀・) 「…ドクオは独断専行だったんだ、できるなら戦いたくはない」
( ・∀・) 「なるべく穏便に行きたいんだ…」
-
从 ゚∀从 「ハッ…なら仲間の手綱ぐらいはしっかり握っておけよ…」
从 ゚∀从 「ボコボコにされた挙げく、戦いたくはない信用しろと言われてもな」
从 ゚∀从 「出来の悪い冗談にしか聞こえないぜ…?」
ハインは壊れかけの右腕を、抉られた胸の前でひらひらと動かす。
( ・∀・) 「……」
( ・∀・) 「仕方ない…信用を得るためにも何か少し話でもしよう…」
( ・∀・) 「僕の能力は割と地味だ」
( ・∀・) 「ナノマシンによる修復と破壊、電子戦の支配、諜報、その辺が本領さ
だからその胸も腕も直せる」
( ・∀・) 「流石に内部機構まで壊れてるのは難しいこともあるけど。形を整えるだけなら簡単だ。
-
从 ゚∀从 「……」
( ・∀・)「信じられないかい? じゃあ少しデモストレーションしてみようか」
そう言ってモララーは自分の指をへし折ると、ゆっくりそれを直してみせた。
( ・∀・) 「その腕も直してあげようか?」
从 ゚∀从 「怪しいな……」
从 ゚∀从 「そのナノマシンとやらで手っ取り早く洗脳する気なんじゃないか?」
( ・∀・)「そっか用心深いね」
从 ゚∀从 「話なら…ドクオが言ってたことが本当か確かめたい…」
ハインはモララーにドクオから聞いた事を伝えた。
時々、ドクオが話していない嘘を織り交ぜても、モララーはそれを否定してより分けた。
ドクオとモララーが共謀して嘘をついていない限り、二人の話は一致した事実だった。
( ・∀・) 「大体はその通りだね」
从 ゚∀从 「そうか…」
-
( ・∀・) 「実は僕もそれで結構、悩んだことがあってね…」
( ・∀・) 「役割を与えられて生み出された僕らについてね」
大昔の偉い人はね、最高のフルートは最高のフルート奏者に与えられるべきだと考えたんだ。
フルートが造られた目的は演奏されることだから。本質はそこにあるからって。
人間は誰にも造られなかった。だから彼らは造られた目的を持たない。
僕らは人によって殺戮と戦争を目的として造られた。
それが僕たちに生来、内在してる本質。戦闘兵器としての僕ら。
だからそういう意味でも僕らは人間ではない。
ドクオは兵器としての本質を受け入れた。
ギコも形は違うけど、そう変わらない。
ギコ達の目的は彼らが星系のリーダーになって人類を教導することだ。
二度と自分たちのような過ちが犯されないように。
一呼吸置いてモララーは続ける。
-
( ・∀・) 「ギコ達は人間に反旗を翻すつもりだったんだ」
( ・∀・) 「二度と自分たちのような事が起こらないように星系政府を掌握して管理下に置く」
( ・∀・)「要するにクーデターだ」
しかし、フルートの話を思い出して欲しい。
演奏を目的に造られたフルートとはいえ、
それは売ってお金にすることも出来るし、何ならそれで人を殴ることも出来る。
僕らが殺戮の為にデザインされた兵器だとしても、他にやりようはあるのではないかって。
だから僕は別の道を探している。
それは、かつてモナー博士が見た夢に似ていると思う。
でも僕達はフルートじゃないし、まして、それをどう使うか決める人間でもないからね…。
( ・∀・) 「そこが難しいよ」
从 ゚∀从 「博士はどうなったんだ…?」
-
( ・∀・) 「……」
从 ゚∀从 「普段は饒舌でも肝心なとこはだんまりか」
从 ゚∀从 「…俺は多分、以前お前に会ってる」
从 ゚∀从 「この、もったいぶるようで気取った、いけ好かない話し方どこか覚えがある」
( ・∀・) 「それについて、僕から君に言えることはないかな」
ξ゚⊿゚)ξ 「まさかハインの知育を担当したのは…」
从 ゚∀从 「…ツン?」
( ・∀・) 「やれやれ…ドクオは相変わらずおしゃべりだなあ…」
从 ゚∀从
夢の中の男。やたらと馴れ馴れしい、俺の兄弟。
-
( ・∀・) 「面と向かって話すのは初めてだよ」
( ・∀・) 「全ては仮想現実空間で、圧縮された時間での知育だった」
( ・∀・) 「感覚的にはフルダイブVRでおままごとをしていた、というのが近いかな」
从 ∀从 「もう帰ってくれ…」
( ・∀・) 「そうだね、ちょっとおしゃべりが過ぎたね」
( ・∀・) 「僕もドクオのこと言えないな」
( ・∀・) 「できれば、僕はいつか君とは仲間になりたいと思ってるよ」
( ・∀・) 「…こればっかりは本当にね」
从 ∀从
ξ゚⊿゚)ξ (ハイン…)
-
( ・∀・) 「……」
( ・∀・) 「言い忘れたけど…」
( ・∀・) 「僕らの拠点は軌道上にある偽装した宇宙船だ」
( ・∀・) 「座標を置いておくから、気が向いたら…」
( ・∀・) 「……」
そう言い残して、モララーは屋上から地上の闇へ溶けていった。
从 ∀从 「……」
从 ゚∀从 「ツン…アサピーと連絡取れるか?」
ξ゚⊿゚)ξ 「ええ…でもどうして?」
从 ゚∀从 「ちょっと考えがあってな…」
-
川 ゚ -゚) 「どうだった…?」
( ・∀・) 「言われた通り…この宇宙船の座標は伝えたよ」
( ・∀・) 「どういうつもりか知らないけど…」
( ・∀・) 「ショボンさんがドクオの件を報告しに行ってる今」
( ・∀・) 「彼女をここに呼び出したり、事を起こすのは反対だけどね…」
川 ゚ -゚) 「……」
( ・∀・) 「でも驚いたよ…再調整が中断された影響なのか…」
( ・∀・) 「僕の知ってるハインではあったけど…」
( ・∀・) 「結構、幼い頃みたいだったよ…」
-
( ・∀・) 「17歳くらいじゃないかな、精神の成熟度は」
( ・∀・) 「再調整前に知育と精神構造の熟成は、全行程が完了していたはずなのに」
( ・∀・) 「知育の方は…見当もつかないけど、多分、同一レベルじゃないかな」
川 ゚ -゚) 「なるほど…再調整中の強制終了で一部がロールバックしたのかも知れんな…」
川 ゚ -゚) (それとも、一時的な障害か…?)
川 ゚ -゚) (しかし、決断は変わらない…)
-
中都最大の企業インダストリアルの本社ビルは、中都の建造物の中で二番目に高かった。
一番の建造物はこのフロアからも窓越しに見える。
天を衝く軌道エレベーターは今日も変わらずにそこにあった。
(’e’) 「久しぶりだなアサピー」
(’e’) 「こうして、また顔を合わせることになるとは…一緒に働いてた頃を…」
(-@∀@)「挨拶はいい、早速だが本題に入ろう」
(’e’) 「…見せたいものがあるって聞いたが?」
从 ゚∀从 「こいつだ」
そう言ってハインは右腕をテーブルの上に出す。
(’e’) 「これは、損傷が激しいな…」
(’e’) 「人型の汎用マニピュレータ…」
(’e’) 「他星系の技術か、僕も仕事柄そういう物に触れる機会は多いが」
-
(’e’) 「こんなのは、お目にかかったことがない」
(’e’) 「にわかには信じがたいが…我々の体系とはかなり異質なテクノロジーのようだ」
从 ゚∀从 「こいつを…あんたらにあげるよ」
(’e’) 「……」
从 ゚∀从 「だいぶガタがきてるが、こういうのでもモノがあれば…」
从;゚∀从 「えーっと、何だっけ…ツン?」
ξ゚⊿゚)ξ 「リバース・エンジニアリングよ、ハイン」
从 ゚∀从 「そうそう、そのリバース・エンジニアってやつで、技術をいくらかは物にできるんだろ?」
(’e’) 「……」
(’e’) 「ただの善意や酔狂ってわけじゃないんだろう?」
(’e’) 「…要求は?」
-
从 ゚∀从 「あんたらが持ってる軌道エレベーターで低軌道センターと宇宙港まで行きたい」
从 ゚∀从 「あと宇宙船も貸してくれ、小さいクルーザーでいい」
(’e’) 「むぅ……」
从 ゚∀从 「破格の条件だと思うがなあ」
(-@∀@) 「現金も500ほど頼む」
ξ゚⊿゚)ξ 「アサピー?」
(-@∀@) 「フォックスと話したが…金を払えば許してくれるそうだ」
(-@∀@) 「しっかり取り立てたとなれば、潰れたメンツも幾らかは回復する」
(-@∀@) 「ハインとも話し合った」
从;゚∀从 「まあ…あれは俺が悪かったよ…」
ξ゚⊿゚)ξ 「ハイン…」
(’e’) 「まあ、500くらいなら構わん…」
(’e’) 「軌道エレベーターの運行コストに比べれば微々たるもんだ…」
-
(’e’) 「ではこの条件で取引しよう」
(-@∀@) 「いや、その前に二人で話したい、廊下でいいか?」
(’e’) 「…?」
アサピーが早足に廊下へ出て、怪訝そうな顔で部長も後へ続く、
しばらく外の二人の間で、何かのやり取りが走った。
部長は少し不満げな表情で部屋へ戻ってきた。
(;’e’) 「まったく…これで最終確認だが、この条件で交渉成立だな?」
(-@∀@)「ああ、書面にしてくれ」
(’e’) 「分かっている!」
-
軌道エレベーターの登り降りに利用されるハイパーループ・システムは、
企業と政府、そしてエレベーター公社がそれぞれ路線を持っていた。
運行管理と整備は公社が一括で執り行い、それぞれの権利者は管理を一任している。
高度四百KMの低軌道センターまで5分ほどの行程だった。
そこから更に宇宙港までは数時間。
从 ゚∀从 「右腕が無いと、何だか体のバランスがしっくり来ないな」
ξ゚⊿゚)ξ 「大丈夫なのハイン…?」
从 ゚∀从 「うーん、やっぱりこれは行かないといけないと思うんだ」
从 ゚∀从 「誘いだっていうのは分かるけど…」
从 ゚∀从 「向こうから乗りこんできて、この前みたいな事になったら…」
そう言ってハインは、ツンの首や腕に残る傷に目をとめる。
-
从 ゚∀从 「それに…なんというか…」
从 ゚∀从 「戦うにしても話し合うにしても、こっちから行かないとな!」
从 ゚∀从 「それじゃあ言ってくるよツン」
ξ゚⊿゚)ξ 「気をつけてハイン…」
从 ゚∀从 「まあこの機会に、俺の代わりに軌道エレベーターを見学しておいてくれ」
ξ゚⊿゚)ξ 「はぁ…そんな余裕ないわよ…」
从 ゚∀从 「まあ…それもそうか!」
低軌道センターにツンを残したハインは宇宙港へ、そこから指定の座標へと進んだ。
当初、座標にはめぼしい反応はなかった。
しかし、さらに近づくことで未知のテクノジーで空間に擬態した宇宙艦が姿を現す。
宇宙艦が格納庫を開くさまは、何の変哲もない宇宙空間に大きく穴が空いていくようだった。
大蛇に飲まれる蛙のような気分で、ハインはその大口へと飛び込んだ。
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