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( ^ω^)戦国を歩いたギタリストのようです
132
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 15:23:22 ID:2YOLjRA.0
(#´メω・`)「はああああああッ!!!」
(; ∋ )「おおおおおおおおお!!!」
渚本介の力が更に増していく。
手首が軋む。今にも折れてしまいそうだ。
いや、渚本介は折るつもりなのだろう。
力で抵抗するために上がっていた体温が、急激に下がる。
骨が、曲がってはいけない方向に曲がっていく──
(; ∋ )「──降参だ!!」
(´メω・`)「!!」
狗久流の抵抗が、消えた。
ゆっくりと、渚本介が手を離す。
.
133
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 15:24:15 ID:2YOLjRA.0
(; ∋ )「ま、参った…… 降参…する……」
力の抜けた両手を、地面に捨てるかのように下ろし。
狗久流は、負けを認めた。
項垂れたまま、大量の汗をかきながら、肩で息をしている。
(´メω・`)「…潔し」
強敵だった。
痺れた両手をはたき、虎恍丸を腰に差す。
狗久流の方を見ると、同じ体制のままだった。
どうやら完全に心を折ることに成功したようだ。
渚本介が、再度近づく。
(´メω・`)「答えろ。ブーンはどこに連れ去られた。何をする気だ」
(; ∋ )「…あの南蛮人のことか」
134
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 15:24:51 ID:2YOLjRA.0
(; ∋ )「助けるつもりなら… 急げ、あいつは間もなく殺される」
(´メω・`)「場所は」
(; ∋ )「あいつは──」
──八尾井山にいる。
渚本介の背中に、冷たい汗が走った。
第六話 終
135
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 15:25:30 ID:2YOLjRA.0
暗い夜道を進み、道が開けた頃。
月明かりに照らされて、見覚えのありすぎる光景が見えてきた。
(;^ω^)(あれは…八尾井山かお?)
聖地・八尾井山。
空流のもと、光世真宗の本殿が構えてある場所。
(;^ω^)(なんで八尾井山に向かってるんだお…)
何やら騒がしい。大勢の声が八尾井山から聞こえる。
争うような大勢の声。
嫌な予感が、ブーンの脳裏を過ぎる。
まさか。
吹連勢による攻撃が始まってるのだとしたら。
八尾井山焼き討ちが、既に始まっているのなら。
(;^ω^)(空流さん…!)
136
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 15:25:51 ID:2YOLjRA.0
( `ー´)「あれが目的地や。南蛮人」
ずっと同じ馬に乗っている男が声を掛ける。
(;^ω^)「…八尾井山で、何が起きてるんですかお」
恐る恐る、ブーンが問う。
あれだけ喋り好きだった男は、何も答えなかった。
ブーンの額に、焦りの色が見え始める。
──空流が、危ない。
.
137
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 15:26:18 ID:2YOLjRA.0
第七話
「刀無き戦い」
──
庭園の柵を乗り越える。
他の兵士達に見つからないように、という考えからだったが、渚本介はすぐにある違和感に気付いた。
(´メω・`)(静かすぎる)
そもそも兵士なんていないかのように、周りが静かなのだ。
もし、狗久流の言うことが本当ならば。
ブーンは八尾井山に向かっていると言っていたが、他の兵士も、皆向っているとしたら。
「八尾井山焼き討ち」という事件が起こるのは、まさに今日なのかもしれない。
(´メω・`)(急がねば……!)
八尾井山の本殿に居た時、吹連勢が近日中に攻撃を仕掛ける気配など、微塵も感じなかった。
つまり、奇襲なのだ。
光世真宗はすぐに落ちてしまうだろう。
光世真宗が落ちれば、出麗の身が危険だ。
何より、ブーンの命が、危ない。
138
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 15:27:16 ID:2YOLjRA.0
無人の城門を抜け、馬を止めてあった場所に走る。
幸い、二頭の馬は誰にも見つからずにいたようだ。
渚本介の姿を見るなり、二頭は体を揺らしながら寄りかかってきた。
自分の馬に飛び乗り、ブーンが乗ってきた馬の綱を外す。
何も背負わないその背中を、渚本介は優しく撫でた。
(´メω・`)「短い間だったが、ありがとう。お前のお蔭で旅は順調に終わった」
▼・ェ・▼ブルルッ
(´メω・`)「時間がない。俺はもう行くが…お前は自由だ。自然に戻るも良し、二茶根留に戻るも良し」
(´メω・`)「……さらばだ」
▼・ェ・▼…
不思議そうな目を渚本介に向ける。
渚本介は背を向け進みだした。
(´メω・`)「ハアッ!」
自分の馬を走らせる。
月明かりが強いおかげで、視界は悪くない。
ブーンの乗っていた馬は、そこから動く様子がなかった。
──
.
139
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 15:27:57 ID:2YOLjRA.0
──
山道を登る。
山頂に近づくに連れ、騒がしさは増していった。
しかし、この騒がしさはなんだろう。
争うような声だと思っていたが、何か違う気がする。
やがて、ブーンは馬から降ろされ、同じ兵士たちに囲まれながら歩かされた。
(;^ω^)(…これからどうなるんだお)
不安はある。
そもそも、何故自分だけが八尾井山に連れてこられてるのかわからないのだ。
いきなり殺される可能性だってある。
しかし、ブーンはまだ何もされていない。それが返って不気味だった。
不気味な点はもう一つある。
吹連にとって、八尾井山は敵地のはずだ。
なのに、何の障害もなく──まるで敵などいないかのように、スムーズに進んでいく。
140
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 15:29:15 ID:2YOLjRA.0
(;^ω^)(誰からも攻撃されないということは…)
空流が危険を察知して、全員で逃げたのか。
それとも、既に八尾井山は落とされているのか。
もちろん、前者であって欲しい。
そのまま本殿に入り、廊下の奥に進む。
奥の部屋は、確か空流の部屋だ。
(;^ω^)(空流さん……)
無事でいてほしい。逃げていてほしい。
少なくとも捕まっていないことだけを祈りつつ、歩き続ける。
( `ー´)「着いたぞい。ここや」
(;^ω^)「……」
( `ー´)「突っ立ってねえで、入れや」
(;^ω^)「のわっ!」
141
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 15:30:32 ID:2YOLjRA.0
背中を押され、部屋に入るよう促される。
襖を開け、一歩中に踏み込んだ。
(;゚ω゚)「え……」
愕然。
膝から崩れ落ちそうになるのを、必死に堪える。
なんだ。
何が起こった。
必死に頭を整理しようとするも、ブーンが理解できることなんか何一つなかった。
ζ(゚ー゚;ζ「ぶ、ブーン…」
中に居たのは、両手足を縛られ、泣きそうな目を向ける出麗と。
.
142
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 15:30:55 ID:2YOLjRA.0
川 ゚ー゚)「よく来たな、ブーン」
──その隣で悠々と座る、空流の姿だった。
.
143
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 15:31:31 ID:2YOLjRA.0
(;゚ω゚)「……なん、で」
言葉が出てこない。
何故そこにいる。
何故出麗が拘束されている。
何故、敵の目の前で笑っている。
素直空流。光世真宗。八尾井山。
渚本介と共に守るはずの存在が、まるで──
(;゚ω゚)「く、空流さん、あなたは…」
──まるで、吹連側に寝返ったかのように。
.
144
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 15:32:16 ID:2YOLjRA.0
川 ゚ー゚)「出麗から聞いたよ。お前、未来の日本から来たらしいな」
寒気のするほど美しい笑顔が、ブーンに向けられている。
川 ゚ー゚)「南蛮人のような恰好も、ぎたーの存在も、全部合点がいったよ。お前は──」
(;゚ω゚)「う、うるさいお!!」
思わず、叫ぶ。
空流の言葉が止まった。だが、その余裕のある表情は崩れない。
(;゚ω゚)「なんなんだお! どういうことだお!! 何で、お前が、」
川 ゚ -゚)「まだ分からないのか」
空気が一変する。
空流の表情から、笑みが消えた。
川 ゚ -゚)「吹連と光世真宗は、最初から敵対などしていない」
川 ゚ -゚)「天野が破れ、吹連が二茶根留攻めに失敗したのち、我々は天下統一のため結託した」
川 ゚ -゚)「我々の目的は同じだったからだ。この国を、この大地を治めるほどの、力が欲しかった」
145
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 15:32:57 ID:2YOLjRA.0
川 ゚ -゚)「だが、その為にはやはり二茶根留が邪魔だ。特に、天野を倒した実績と、あの戦魔の存在がな」
川 ゚ -゚)「だから、まず我々は敵対しているフリをした。戦魔が光世真宗の味方つく為だ」
川 ゚ -゚)「単独行動を好むあの戦魔なら、それでまず交渉をとると踏んだからだ」
(;゚ω゚)「…でも」
混乱した頭で必死に考える。
その流れだと、単独行動を取る渚本介を殺し、大軍で二茶根留に攻め入るつもりだったというところだろう。
だが、わからないことがまだある。
(;゚ω゚)「でも、なぜ僕と渚本介さんを分けたんだお」
川 ゚ -゚)「一つだけ予想外のことが起きたんだ」
空流が即答する。
その瞳は、ブーンを捕らえて離さない。
川 ゚ -゚)「──お前の存在だよ、ブーン」
.
146
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 15:33:40 ID:2YOLjRA.0
(;゚ω゚)「…え?」
川 ゚ -゚)「お前の存在だけが予想外だった。どう対処していいかもわからなかった」
川 ゚ -゚)「どんな役割で、何故あの戦魔と組んでいるのかも知りたかった」
川 ゚ -゚)「それを知るにはちょうど良い材料もあったしな」
(;゚ω゚)「……出麗のことかお」
出麗の方を見る。
泣きそうな顔は変わらない。空流とブーンの顔を何度も見ている。
川 ゚ -゚)「そうだ。それに、戦魔とはどうしても一騎打ちをしたいという馬鹿がいてな。今頃、戦いの最中だと思うが…」
川 ゚ -゚)「まあ、それに勝とうが負けようが、戦魔はどうせ死ぬ。私の興味はそこじゃない」
空流の口角が上がる。
川 ゚ー゚)「未来から来たと言ったな。未来では音楽で生活していくための努力をしてるんだとか」
(;゚ω゚)「だ、だったら何だと言うんだお!」
147
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 15:34:37 ID:2YOLjRA.0
川 ゚ー゚)「簡単だ。私の配下に就け」
思考が、止まった。
(;゚ω゚)「……は?」
川 ゚ー゚)「私は琴を教える立場でもある。天下統一の目的は、この地すべてに素直流の琴を広めたいというのもあるんだ」
川 ゚ー゚)「だが、私の世界観だけだと音楽は固くなる。琴には別の捉え方が必要だと思ってたところなんだ」
川 ゚ー゚)「ぎたーの音色、お前の演奏。あれは見事だった。私の配下に就き、私に未来の音楽の全てを伝授しろ」
(;゚ω゚)「い、嫌に決まってるお!」
ほとんど反射的に、ブーンが応える。
(;゚ω゚)「なんで、お、お前なんかの為に、僕がギターを教えなきゃいけないんだお! そもそも、僕はそんな事の為に来たわけじゃないお!!」
川 ゚ -゚)「…断るつもりか?」
(;゚ω゚)「当然だお!!」
148
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 15:35:39 ID:2YOLjRA.0
ブーンにとって、もはや空流は裏切り者の極悪人だった。
そんな奴に関わりたくない。関わるべきではない。
要求など飲めるはずがない。
第一、ブーンは出麗を救うために、この時代に来たのだ。
川 ゚ -゚)「なれば用済みだ。お前を殺し、出麗を殺し、これから二茶根留に攻め入る」
(;゚ω゚)「──!!」
川 ゚ -゚)「根野。こいつを始末しろ」
ブーンの後方へ、空流が声をかける。
思わず後ろに目を向ける。
(;`ー´)「………おいらが、ですかい」
根野と呼ばれた男は、此処にくる道中、ブーンの話し相手になった兵士だった。
.
149
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 15:36:06 ID:2YOLjRA.0
川 ゚ -゚)「ああ。早くしろ。戦魔への対策もしないといけないからな」
(;`ー´)「……」
根野は、腰に差した刀を抜かず、固まっていた。
空流が苛立った視線を向ける。
川 ゚ -゚)「何をしてる。やれ」
(;`ー´)「……」
川 ゚ -゚)「やれと言っている」
(;`ー´)「……」
根野の腕が、唇が、微かに震えている。
川 ゚ -゚)「根野、一体どういう──」
(;`ー´)「で、できません!!」
.
150
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 15:37:11 ID:2YOLjRA.0
空流の目が、僅かに見開いた。
ブーンと出麗は状況が掴めず固まっている。
川 ゚ -゚)「…私の命令に背くということが、どういうことか、わかっているだろう」
恐ろしいほど冷たい声を向ける。
あれだけ気さくだった根野の顔は真っ青だ。
それでも、精一杯、抵抗する。
(;`ー´)「できません…だ、だって」
震える手を握りしめ、根野ははっきりと言い切った。
(;`ー´)「だって、こいつ、音楽が好きやと言いやした」
川 ゚ -゚)「──は?」
ζ(゚ー゚;ζ「?」
(;゚ω゚)「え…」
全員が全員、固まった。
誰も理解が追いついていないといった様子だ。
.
151
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 15:38:28 ID:2YOLjRA.0
(;`ー´)「お、おいら、頼んでもねえのに武家に生まれて、好きでもねえ刀や槍の練習ばっかさせられて」
(;`ー´)「嫌やったよ。何度人生をやり直したいと思ったか、数えらんねえくらいや。みんなそうやと思ってた。でも…」
根野がブーンを見る。
固まるブーンと目が合うと、無理やり笑顔を作った。
(;`ー´)「…でも、こいつ、生まれてからずっと続けてた音楽を、好きやと言いました」
(;`ー´)「この世界に、こんなこと言えるやつが、一体どれほどいることか。 少なくともおいらは初めてや」
(;`ー´)「だから、こんな勿体ないやつ、こんな勿体ない人生を、おいらが終わらせたくありません! 少なくとも──」
(;`ー´)「──あ、あんたよりは、こいつの方が立派や!」
静まり返る。
震える根野から、カチカチと歯の鳴る音が聞こえる。
川 ゚ -゚)「…言いたいことは、それだけか」
152
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 15:39:06 ID:2YOLjRA.0
空流が静かに立ち上がる。
根野の元へ、ゆっくりと歩き出す。
ブーンは思わず距離を取った。
前を向いたまま震える根野。
その周りを、空流が歩く。
川 ゚ -゚)「失望したよ。お前、結局奴らと同じなんだな」
空流が根野の背後に来た途端。
懐刀で、根野の首を切り裂いた。
(; ー )「カッ……」
ζ(゚ー゚;ζ「きゃああああっ!!?」
(;゚ω゚)「………」
叫び声を上げる出麗。
声が出ないブーン。
空流だけが、怒気を含んだ冷静な声を漏らす。
153
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 15:40:10 ID:2YOLjRA.0
川 ゚ -゚)「結局同じだ。百合町を担わせた山田竜兵衛も、武士道とやらに拘る堂土狗久流も、糞の役にも立たない駒だ」
川 ゚ -゚)「根野。お前は少々話好きなだけで、従順な部下だと思っていた。だが結局これだ」
倒れ、痙攣する根野を見下ろすと、空流はため息を漏らした。
人の命を何とも思わない態度が、目に見えてわかる。
ζ;ー;*ζ「し、師匠、どうして…」
出麗の目から涙が溢れる。
絶望か。裏切りへのショックか。
血の滴る懐刀を握り、空流が出麗のもとへと歩き出した。
.
154
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 15:41:14 ID:2YOLjRA.0
ζ;ー;*ζ「やだ、やだ、助けて…」
川 ゚ -゚)「弟子のよしみだ。苦痛なく殺してやる」
ζ;ー;*ζ「やめて、お願い、助けて……ブーン…」
( ω )「………」
ブーンは未だ固まっていた。
様々な思いが、記憶が、ブーンの中を駆け巡っていく。
戦を止める為、心を削って光世札を流通させた、山田竜兵衛。
そのせいで、居場所を失って傷付いた、斉藤又武貴。
弟子の出麗も、本気で味方として行動した渚本介も。
そして、正義感から最後に勇気を振り絞った、根野も。
全て、利用していただけだったのか。
.
155
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 15:41:46 ID:2YOLjRA.0
(# ω )「待つお!!!」
叫ぶ。
ピクリと肩を跳ねさせ、空流はゆっくりと振り向いた。
川 ゚ -゚)「何だ。お前から死にたいのか?」
(# ω )「僕を配下にしたいと、そう言ったおね」
空流が片眉を上げる。
川 ゚ -゚)「…確かに言ったが、今更それがどうした」
(# ω )「配下に就いてやってもいいお。ただし──」
.
156
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 15:42:10 ID:2YOLjRA.0
勢い良く立ち上がり、声を上げる。
(# ω )「僕と勝負するお!! 僕に勝ったら配下にするなり殺すなり好きにするお!」
(# ω )「僕がお前に勝ったら、今すぐこの場から退いてもらうお!!」
川 ゚ -゚)「…勝負、だと?」
(# ω )「そうだお。僕と──」
怪訝な顔を向ける空流を睨む。
荷袋から飛び出たギターのネックを、無意識に握りしめた。
(# ω )「──音楽で、勝負するお」
第七話 終
157
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 15:42:57 ID:2YOLjRA.0
最近、映画『バタフライ・エフェクト』を思い出すことが増えた。
理由はよくわからない。
ただ、何となく、ふと考えてしまうのだ。
例えば、自分の先祖が結婚相手を間違えたり。
ちょっとしたすれ違いで運命の人に出会わなかったり。
結婚もしないまま人生を終えたり。
それだけで、自分という存在は無かったことになるかもしれないのだ。
『バタフライ・エフェクト』では、主人公が過去を操作することで、未来の凄惨な運命を変えようとした。
それを思い出すたびに、少し不安になるのだ。
有り得ない話だが、もし誰かが過去を操って、自分の運命を変えてしまったら。
運命どころか、自分の存在そのものに影響が出るとしたら。
ξ゚⊿゚)ξ(……私は、どうなっていたんだろう)
158
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 15:43:19 ID:2YOLjRA.0
就活に無意味さを感じるのは、自分のこれからの人生が、あまりにも見えてこないからだ。
まるで、近いうち、自分の存在が無かったことになりそうな気すらする。
妄想だと笑われるかもしれない。
だが、一つだけ、自分しか知り得ない事実がある。
時々、一瞬だけ、ほんの一瞬だけ。
自分の名前を、忘れてしまうことがあるのだ。
──
159
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 15:44:03 ID:2YOLjRA.0
第八話
「音楽史対決」
──
川 ゚ -゚)「お前と勝負だと?」
嘲笑。
空流は懐刀を振り、刃に付着していた血を飛ばした。
川 ゚ -゚)「お前如きの命一つに、二茶根留攻めを、天下統一を賭けろというのか」
川 ゚ -゚)「どうにも釣り合う気がしないな。だが…」
懐刀を布で拭く。
慣れた手付きだ。何度も使った経験があるのだろう。
鋭い視線が、ブーンに向いた。
川 ゚ -゚)「素直流の琴を進化させ、天下に広める為には、お前の…未来の音楽理論や技術が欲しいのも事実だ」
川 ゚ -゚)「面白い。お前の喧嘩を、買ってやろうではないか」
( ^ω^)「…決まりだお」
ζ(゚ー゚;ζ「ブーン!!」
160
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 15:44:28 ID:2YOLjRA.0
慌てた様子の出麗が、声を上げる。
ζ(゚ー゚;ζ「師匠は…素直空流は、音楽界では知らぬ者がいない程の琴奏者なの!」
ζ(゚ー゚;ζ「琴最大の素直流、その元帥よ!? 私なんかじゃ足元にも及ばない! 無茶よブーン!」
出麗も名の知れた琴奏者だ。その師匠というのだから、よっぽど大物なのだろう。
光世真宗の座主でもあり、素直流琴の元帥。
確かに天下統一でも出来そうな立派な肩書きだ。
出麗の言う事もわかる。無茶な勝負かもしれない。
だが。
( ^ω^)「知ったこっちゃないお。僕はこの極悪人が、許せないだけだお」
ブーンにとって、そんなことはどうでも良かった。
こいつを止めるには、音楽しかない。
音楽勝負で、心を折るほど圧倒的に勝つしかない。
それだけが狙いだった。
ζ(゚ー゚;ζ「ブーン……」
川 ゚ -゚)「私を相手に、大した自信じゃないか」
161
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 15:44:55 ID:2YOLjRA.0
川 ゚ -゚)「それで、音楽でどう勝負するつもりだ」
( ^ω^)「シックスティーン・バースだお」
ブーンが応える。
空流と出麗が首を傾げた。
( ^ω^)「ジャズなんかでよくある、ソロの掛け合いだお。南蛮式の楽譜は知ってるかお?」
川 ゚ -゚)「ああ。横書きのやつだな?」
( ^ω^)「そうだお。まず一人が楽譜の16小節分弾く、続けて相手が16小節弾く、というのを繰り返すんだお」
川 ゚ -゚)「勝敗はどう決める」
( ^ω^)「流れに乗って弾けなくなったら。つまり──」
ブーンが、空流を睨んだ。
これが狙いだ、というのを空流に解からせる為に。
( ^ω^)「──心が屈して、演奏できなくなったら、負けだお」
162
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 15:45:28 ID:2YOLjRA.0
本来、音楽に直接勝負という概念は無い。
派閥の対立やカテゴリーの分裂、競争などは一般的にある話だが、
対決し勝ち負けを決めるというのは難しい。
例えば現代で行われるギターやベースやドラムバトル。DJやバンド対決。
それらの勝敗の決め方は、大抵「客の盛り上がり」か「審査員の判断」だ。
今この場には客もいなければ、公平な判断ができる第三者もいない。
だからこそ、勝敗の決め方は本人達に委ねられる。
現代で言うなら、ラップのフリースタイルバトルに近い。通常の掛け合いではあり得ない16小節という長さにしたのも、バトルが成立しやすくするためだ。
流れに乗れなかったら。音が出てこなかったら。心が屈したら。それが勝敗になる。
空流はもちろん初めてのことだろう。
ブーンも未経験のことだ。
川 ゚ -゚)「…なるほどな。演奏技術だけでなく、流れの読みや即興力が問われるわけか。面白い」
( ^ω^)「お前は琴で、僕はギターを使うお。お前から始めていいお」
川 ゚ -゚)「曲は、何でもいいんだな?」
空流が部屋の外にいる見張りの兵達を呼ぶ。
根野の死体を片付けて琴を持ってくるように命じると、彼らは急ぎ足で取りかかった。
163
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 15:45:54 ID:2YOLjRA.0
川 ゚ -゚)「…数年前、ある南蛮船が近くに漂流してきた」
座布団に座り、突然話し出した空流。
ブーンも対面して座り、ギターを膝に乗せる。
川 ゚ -゚)「彼らの持ち物の中に、非常に興味深いものがあってな」
空流の前に、琴が丁寧に置かれた。
兵達がそそくさと退室する。
空流は琴爪を付けながら話を続けた。
川 ゚ -゚)「楽譜だった。琴の楽譜とは違い、横書きで何やら記号だらけだった」
川 ゚ -゚)「私はそれを理解するために、彼らを留め、楽譜の読み方を習った」
川 ゚ -゚)「一年以上もかかってしまったよ。それで得た曲は、実に面白かった」
.
164
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 15:46:14 ID:2YOLjRA.0
指を構える。
驚くほど綺麗な姿勢。
人を殺したばかりとは思えないほどの、綺麗な指。
世界が、止まったように感じた。
川 ゚ -゚)「この神々しき旋律。まさに光世真宗に相応しい」
美しい音色が、室内に響き渡った。
.
165
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 15:46:49 ID:2YOLjRA.0
(;^ω^)(外国音楽で仕掛けてくるとは…)
一音一音が、綺麗に伸びていく。
音自体の輪郭は非常にはっきりしている。琴の特徴だろう。
はっとするほど綺麗な音だ。
しかし、すぐ違和感に気付いた。
音の伸びはあるものの、音数そのものが非常に少ないのだ。
日本の古典的な音楽は、音数の多い流れるような曲、というイメージがブーンにはあった。
しかし、空流が今弾いてるのは本来の和製音楽ではないとは言え、これはいくらなんでも少なすぎる。
シックスティーン・バースとは言ったが、これでは掴みにくい。
リズムも難しい。
(;^ω^)(何の曲かは知らないけど、こっちも間伸びするような曲がいいのかお…)
しかし、ハードロックを好んで聴いていたブーンは、そのレパートリーは少ない。
そもそも、二人の音楽性には約500年のギャップがあるのだ。
166
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 15:47:24 ID:2YOLjRA.0
それでも、リズムをどうにか掴んだブーン。
そろそろタッチされる頃だ。
曲の雰囲気やコンセプトは、結局よくわからなかった。
しかし空流は適当に弾いてるわけではない。それだけは確かだ。
曲としては完成しているのがわかる。だが、とにかく掴みにくい。
ブーンを乗らせない為の、空流の狙いなのだろうか。
( ^ω^)(…とりあえず、耳コピで大まかな流れを弾いて、ベース音で主導権を握るお)
川 ゚ー゚)「……」
最後に丁寧な音を鳴らし、ブーンの方を見る。
さあ、お前の番だ。
そう言いたげな目を向ける。うっすらと笑みを浮かべながら。
琴の余韻が響き渡る中、頭の中でリズムに乗り、ブーンはピックでなく指を構えた。
.
167
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 15:47:51 ID:2YOLjRA.0
( ^ω^)(行くお!)
まずは、楽器が変わることによるわだかまりを消し飛ばすため、開放弦を鳴らす。
そして、空流の弾いた曲に近い高音に加え、4、5、6弦を親指で刻むようなベース音を作っていく。
川 ゚ -゚)「……」
空流の顔つきが変わった。
自分の弾いた曲がその場で再解釈されて返されるのは、初めてなのだろうか。
少なからず、驚いているようだった。
( ^ω^)(……あれ?)
弾きながら、また違和感。
ベース音が作りやすいのだ。
まるで、和音をただ丁寧に解いたような。
ブーンの弾き慣れたアルペジオが、何も考えずとも出てくる。
そうなれば、あとは簡単だ。
.
168
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 15:48:14 ID:2YOLjRA.0
( ^ω^)(主導権はこっちのもんだお!)
伸びる高音に、ベース音を刻み続ける。
リズムも取りやすい為、曲としての輪郭が明確になってくる。
川 ゚ -゚)「……」
空流は無表情でその様子を見ていた。
焦る様子は全くない。
ブーンの16小節が終わりに近づく。
川 ゚ -゚)「…勉強になったよ。これが未来の音楽か」
空流の番。
ブーンに慣い、同じような伸びのある高音に加え、弾くような低音を入れる。
琴の迫力に絶妙にマッチした音色だ。
低音が加わり、曲の全体像が見えてきた。
立体感を帯びたその曲は、まるで──
.
169
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 15:49:03 ID:2YOLjRA.0
( ^ω^)(──ルネサンス音楽かお?)
ルネサンス音楽。
ヨーロッパのルネサンス期に発祥した音楽だ。
宗教歌・聖歌として発展したものが多く、主に教会音楽として広まったと言われている。
やたら伸びのある高音にもこれで納得いく。宗教歌のメロディによくある曲の構成だ。
「南蛮船に乗っていた」というのは、恐らく宣教師か何かだろう。
それにしても、西洋音楽の知識が全く無いはずの空流が、リュートやオルガンといった西洋楽器で奏でる音楽を、琴一つで表現するとは。
それも僅か一年で。
外国の楽譜を読み、尚且つ自分の技術に当てはめたのは、この時代なら恐らく空流が初めてだろう。
なるほど、確かに大物だ。
川 ゚ -゚)「……未来には、きっと私の想像を超えるような音楽や楽器が溢れているんだろう?」
( ^ω^)「!」
空流が演奏しながら話し出す。
音色が、変わった。
.
170
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 15:49:39 ID:2YOLjRA.0
川 ゚ -゚)「正直、私は今喜んでいるんだ。未来の音楽と、私の全てを賭けて戦っているわけだからな」
神々しい旋律は、より高揚感の出る旋律へ。
川 ゚ -゚)「来いブーン。お前の、未来の全てを、私にぶつけてみろ。素直流の最強を示す良い機会だ」
いや、音色だけでない。曲そのものが変わった。
まるで、音楽のカテゴリー自体が変わったような。
不穏な流れの中、ブーンの番が来た。
( ^ω^)「…浮かれてられるのも、今の内だお」
空流は次の番で何かを仕掛けてくる。旋律の不穏さでわかる。
それを払拭するため、ブーンは違った趣向の流れを鳴らし始めた。
仕掛けさせる前に、技術で上回ってやる。
.
171
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 15:50:06 ID:2YOLjRA.0
ベース音を刻みながら、音数を極端に増やす。
その旋律は、より芸術的に。より現代的に。
ブーンは、ある曲を勝負に出した。
( ^ω^)(行くお!)
──東京事変『丸の内サディスティック』のソロギターアレンジ。
ジャズやポップスの色が強いこの曲調は、テンポをどれだけ落としても、強烈なほどメロディアスだ。
恐らくは空流が見たことのない演奏技術、感じたことのない世界観だろう。
( ^ω^)(お望み通り、これが未来のミクスチャーだお!)
川 ゚ -゚)「……」
172
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 15:50:36 ID:2YOLjRA.0
空流の表情に変化はない。
だが、ブーンの演奏から目が離せないようだった。
やがて、16小節の終わりが近づく。
空流はまだ動かない。
( ^ω^)(決まったかお…?)
川 ゚ -゚)
川 ゚ -゚)
川 ゚ー゚)
(;^ω^)「!」
.
173
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 15:51:15 ID:2YOLjRA.0
不敵な笑みを浮かべる空流。
ブーンの16小節が終わった瞬間、最初のブーンのように、空流は開放弦を大袈裟に鳴らした。
(;^ω^)(来る!!)
何かを仕掛けてくるのはわかってた。
そして、それが始まる。
直後、ブーンは全身の毛が逆立つのを感じた。
(;゚ω゚)「…そんな、バカな……」
思わず声を漏らす。
バカな。ありえない。
一体どうなっている。
川 ゚ー゚)「漂着した南蛮船の奴らを、私は数年留めた。私が作った曲を南蛮にも広めてもらう為にな」
.
174
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 15:51:42 ID:2YOLjRA.0
またも、演奏しながら話す空流。
空流が始めたそれは、聴き覚えのありすぎる曲だった。
川 ゚ー゚)「彼らにその曲を授け、ちょうど先日出航させたんだ。どう広まるか楽しみにしてたが…」
川 ゚ー゚)「……その反応を見る限り、未来にも継がれる曲と成ったようだな」
(;゚ω゚)「……」
何も言い返せない。
だが、空流の言うことが事実なら。
これが事実なら。
恐らく、世界史に影響するほどの事態だ。
空流の弾くその曲を、改めて言葉にする。
.
175
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 15:56:01 ID:2YOLjRA.0
(;゚ω゚)「それは……『カノン』、かお」
ヨハン・パッヘルベルが作曲したと言われる名曲、『カノン』。
世界中で愛される、バロック音楽の代表的な曲の一つだ。
それを、空流が、作曲した?
(;゚ω゚)「そんなはずが無いお…」
そう、そんなはずが無い。
『カノン』が作曲されたのは、1680年頃と言われているのだ。もちろんこの1499年にバロック音楽などそもそも存在しない。
だからこそ、空流が作曲したなど、あり得ない。
川 ゚ー゚)「……」
(;゚ω゚)(でも…)
だが、実際に、空流は目の前で『カノン』を弾いている。
.
176
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 15:56:31 ID:2YOLjRA.0
もし、空流の言うことが事実なら。
空流の作曲した楽譜が、南蛮船に乗って無事ヨーロッパに着いたのなら。
その楽譜を、およそ200年後に誰かが発掘したのなら。
発掘した楽譜を、パッヘルベルが再現できたというのなら。
空流は、当時の西洋音楽どころか、バロック音楽をも先駆けた日本の琴奏者であり。
音楽史上でも、トップクラスの作曲家とも言える。
川 ゚ー゚)「……」
演奏は続く。
ブーンは自らの両頬を叩き、無理やり気持ちを切り替えた。
.
177
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 15:57:00 ID:2YOLjRA.0
(;^ω^)「……邦楽アーティストがよくカノンを取り入れる理由が、今ようやくわかったお」
皮肉を込めて呟く。
が、空流に完全に気圧されてどうしていいかわからない。
空流の16小節が、もうすぐ終わってしまう。
(;^ω^)(ど、どうすればいいんだお…)
どうすればいい。
この最強の作曲家、最強の琴奏者を、圧倒する為には、一体どうすればいい。
この勝負に敗れてしまえば、自分は本当に空流の配下になるかもしれない。
そうなれば、もう元の時代には戻れないのだろうか。
出麗を救うことも、叶わないのだろうか。
.
178
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 15:57:35 ID:2YOLjRA.0
(;^ω^)(……いや、負けるわけにはいかないお)
負けるわけにはいかない。
空流を、音楽で、真っ向から倒さねばならない。
ギターのネックを握りしめて考える。
『カノン』に勝る、方法を。曲を。
頭の中に残っているレパートリーを、全て漁っていく。
(;^ω^)(……あ!)
あった。
素直空流に、勝てるかもしれない曲が。
.
179
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 15:58:17 ID:2YOLjRA.0
川 ゚ー゚)「さあ、来い」
空流の勝ち誇った笑みが、ブーンに向いた。
ピックを取り、空流を睨み返す。
16小節が、終わった。
( ^ω^)「…この曲は、僕が練習した中でも、最も難しかった曲だお」
空流の『カノン』の余韻を、ギターで引き継ぐ。
ピッキングの激しいミュートで、新たなリズム感と躍動感を作っていく。
空流の顔から、笑みが消えた。
( ^ω^)「素直空流、お望み通り聴かせてやるお!! これが、僕の全て──」
.
180
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 15:59:19 ID:2YOLjRA.0
( ^ω^)「──『カノンロック』だお!!」
川; ゚ -゚)「!?」
空流が一瞬で青ざめる。
何が起きたか、すぐに理解できたようだ。
『カノンロック』。
2000年代、台湾の作曲家JerryCにより作られた、『カノン』をメタルアレンジした曲だ。
バロック音楽をメタルアレンジすること自体は、昔からあった手法だ。
だが、『カノンロック』はその完成度の高さ、演奏力、親しみやすさなどが評価され、一躍有名になった。
一時は、世界中のギタリストが曲にアレンジを加え動画投稿するという流行を巻き起こしたほどだ。
細かい旋律。圧倒的に多い音数。
それでいて丁寧で、原曲の尊厳を保つアレンジ。
.
181
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 15:59:50 ID:2YOLjRA.0
川; ゚ -゚)(どうなっている…!)
狼狽する。
自分が数年かけて作った曲を。全身全霊をかけて作った作品を。
ブーンは、より優雅に、より激しく。
より新しく弾いている。
ビブラート、チョーキング、ハンマリング、タッピング。
この時代にはない技術を駆使し、ギターを鳴らしていく。
ζ(゚ー゚;ζ「な、何、あの弾き方…」
川; ゚ -゚)「……」
見たことないほど細かく動く左手。
見えないほど速く動く右手。
それでいて、原曲の形は、純粋な程に保たれている。
.
182
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 16:00:49 ID:2YOLjRA.0
川; ゚ -゚)「…これが、未来か」
ブーンの16小節の終わりが近づく。
だが、どうしていいかわからない。
両手が震える。
手汗が、琴爪に伝っていく。
弾かなければ。
この素直空流が作った生涯最高の曲を、ブーンは返した。
それをさらに圧し返さねば。
( ^ω^)「──さあ、お前の番だお!」
圧し返さねば。
.
183
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 16:05:11 ID:2YOLjRA.0
川; - )(圧し…返さねば……)
ブーンの16小節が終わり。
音楽が途切れる。
川; - )「……」
やがて、その震える指先から。
琴爪が、静かに落ちていった。
第八話 終
.
184
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 16:07:57 ID:2YOLjRA.0
ほい!
これで今創作板に投下した分は以上です!!
続きはここに投下していきます!
オナシャス!
185
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 17:34:19 ID:dKITcbf.0
まこと乙でござる
186
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 18:24:28 ID:QVnvPBBU0
そういえばここまで音楽的な回は何気に初?
面白かったです。引っ越しもお疲れ様でした
187
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 21:16:46 ID:QwEjIM4w0
おつおつ
188
:
名無しさん
:2018/09/02(日) 21:47:17 ID:jDKRSUKk0
前作昨日まとめで読んだばっかりでこれ見つけてホントショボンさんみたいな気持ちでいっぱいだよ嬉しい
乙です
189
:
名無しさん
:2018/09/07(金) 13:09:36 ID:mnh49NE20
皆様ありがとうございます!
引っ越しして良かったです!
続き投下させて頂きます!
190
:
名無しさん
:2018/09/07(金) 13:10:05 ID:mnh49NE20
──
(;´メω・`)(ブーン…)
馬を走らせる。
八尾井山はもう目の前だ。
ブーンを助け出し、すぐに避難せねばならない。
もうすぐ、ここは戦場になるからだ。
(;´メω・`)(…仕掛けが、間に合うといいが)
走りながら空を見上げる。
満点の星空だ。だが、そこに静けさはない。
やがて、八尾井山の方から、騒がしい気配が出てきた。
──
.
191
:
名無しさん
:2018/09/07(金) 13:10:36 ID:mnh49NE20
第九話
「消滅の足音」
──
空流は暫く動かなかった。
膝の上に両手を力無く置いたまま固まっている。
だらりと下がった髪のせいで、その表情は伺い知れない。
出麗は涙目で口角を上げていた。
と思うと、すぐに困ったような顔になり、また笑顔になり、を繰り返している。
助かったのは間違いないが、師匠が負けたことが複雑でもあるようだ。
(;^ω^)(か、勝ったお…渚本介さん……)
ブーンは勝ったにも関わらず震えていた。
恐怖が、今更になって押し寄せてきたのだ。
恐ろしい戦いだった。
そもそも勝負事などあまりしたことないし、
音楽には自信があるとは言え、流石に命を──今後の人生を賭けて戦ったのは初めてだ。
.
192
:
名無しさん
:2018/09/07(金) 13:11:09 ID:mnh49NE20
ζ(゚ー゚;ζ「ブーン…」
(;^ω^)「あっ、ご、ごめんお! 今それをほどくお!」
出麗のもとに駆け寄り、その両手足を縛る縄に手をかける。
かなりきつく縛ってあるようで、ブーンは時間がかかりそうだと思った。
( ^ω^)「ごめんお、ちょっとこれ時間かかりそうだお」
ζ(゚ー゚;ζ「早くしなさいよブス」
(;^ω^)「ええ…焦らなくていいよとか言われると思ってたお…」
(;^ω^)「まったく、君は性格もあの子に似てるおね」
ζ(゚ー゚*ζ「あの子?」
(;^ω^)「いやあの、 ……え?」
.
193
:
名無しさん
:2018/09/07(金) 13:11:30 ID:mnh49NE20
え?
ブーンの手が止まる。
あの子だ。ほら、三年も同じバイトをしてる、あの子。
この間は就活の話なんかもした。あの子だ。
ξ゚⊿゚)ξ
──名前が、思い出せない。
顔ははっきりと出てくるのに。
.
194
:
名無しさん
:2018/09/07(金) 13:11:53 ID:mnh49NE20
ζ(゚ー゚*ζ「……ブーン?」
(;^ω^)「え、あ、ごめんお!」
ζ(゚ー゚*ζ「あなた、ぎたーはあんなに器用なのに縄は苦手なのね」
(;^ω^)「やめろおそういうの…」
すぐに思い出せるだろうか。
ようやく縄を解き、出麗に手足の自由が戻る。
とにかく、ここから脱出しなければ。
ギターを荷袋に詰め、立ち上がる。
何となく空流の方を見ると、姿勢は変わっていなかった。
垂れ下がった前髪の隙間から、ようやくその表情が見えた。
それを見て、ブーンは思わず後ずさる。
川 ー )
僅かに見える口元が、笑っているのだ。
.
195
:
名無しさん
:2018/09/07(金) 13:12:28 ID:mnh49NE20
川 ー )「…見事だ、ブーン」
姿勢を変えないまま、呟く。
感情が抜け落ちたような声だ。
川 ー )「音楽で他人より劣ったのは、生まれて初めてだ」
( ^ω^)「……」
決して劣ってはない。
ブーンは既存の曲を利用し、この時代に無い技術で上回っただけだ。
空流の作曲家としての才能、演奏技術、知識のない西洋音楽を琴に変換する柔軟性。
そのどれもが目を見張るものがあった。恐らく空流は現代でもそれなりの地位まで昇るはずだ。
だが、ブーンはそれを口には出さなかった。
( ^ω^)「約束通り、退いてもらうお」
川 ー )「…ああ」
川 ー )「ブーン、最後に聞かせてくれ」
空流が、ゆっくりと顔を上げる。
.
196
:
名無しさん
:2018/09/07(金) 13:12:51 ID:mnh49NE20
川 ;ー;)「私の音楽は…どうだった?」
泣いていた。
何にも動じないような、冷静な女が。
光世真宗の座主が。素直流の元帥が。
空流の音楽はどうだったか。
正直に言うと、あまりにも優雅で、脅威的だった。
だが、それをそのまま言葉にはしづらかった。
本気で空流を潰すつもりで勝負を挑んだのだ。情けはかけられない。
数拍置いて、ブーンが口を開いた。
( ^ω^)「お前が最後に仕掛けてきた曲。確かにあれは未来でも広まってるお」
川 ; -;)「……」
( ^ω^)「ただ、あの曲はお前じゃなく、ヨハン・パッヘルベルという作曲家が作ったことになってるお」
.
197
:
名無しさん
:2018/09/07(金) 13:14:32 ID:mnh49NE20
( ^ω^)「曲が発表されたのは200年後だお。『カノン』という曲名で」
川 ; -;)「かの、ん」
空流が呟く。
自分の作った曲が数百年先まで継がれているというのは、一体どんな気持ちなのだろう。
川 ;ー;)「そうか、ありがとう」
ブーンにやっと聞こえるくらいの声で呟き、空流は俯いた。
偉大な作曲家、偉大な琴奏者であることには間違いない。
『カノン』は数百年の時を超え、様々なアレンジを経て、現代でも愛されている。
ポップス、ロック、メタル、ヒップホップ。
バロック音楽とは思えないほど、様々な姿に生まれ変わりながら。
ブーンは踵を返し、出麗とともに部屋から出ようと襖に手をかけた。
( ^ω^)「行くお」
ζ(゚ー゚;ζ「う、うん」
.
198
:
名無しさん
:2018/09/07(金) 13:15:12 ID:mnh49NE20
川 ー )「あれはな」
ピタリと、その手が止まった。
川 ー )「『雪晴』、という曲名なんだ」
( ^ω^)「…そうかお」
原題は『雪晴』。
悪くないネーミングだと思った。
『カノン』がアレンジされる際、涙の、だとか、冬の、なんていう枕詞が付いたりする。
それよりは良い。バロック音楽は複雑な感情を表現したものが多い。
曲名はシンプルな方が深みが増すものだ。
ζ(゚ー゚*ζ「『雪晴』…」
( ^ω^)「おっお。覚えておくお」
川 ゚ー゚)「ああ、ありがとう」
空流はもう泣いていなかった。
ブーンの胸の内も晴れていた。
結局のところ音楽で勝負をつけることが出来たが、音楽はしばしば平和の象徴にもなるのだ。
今度こそ部屋を出ようと踵を返し、襖を開けた。
.
199
:
名無しさん
:2018/09/07(金) 13:15:37 ID:mnh49NE20
その瞬間、ブーンと出麗の間を、矢が通り抜け。
川 ゚ -゚)「え…?」
空流の胸に、突き刺さった。
(;゚ω゚)「──!!」
ζ(゚ー゚;ζ「師匠!」
出麗が空流に駆け寄る。
ブーンは咄嗟に襖を閉めたが、防御にはならないと気づき、空流と出麗を部屋の角へ押しやった。
数本の矢が、障子を突き抜けて床に刺さっていく。
(;゚ω゚)「な、なんだお!何が!」
川; - )「…お前の反応を見る限り、二茶根留勢の仕業ではないようだな」
.
200
:
名無しさん
:2018/09/07(金) 13:16:06 ID:mnh49NE20
空流が咳き込む。
少量の血が畳に散った。
部屋の外から怒号が聞こえる。
ζ(゚ー゚;ζ「し、師匠…」
川; - )「さあ…早く行け……」
出麗を押しのける。
力が入らないのか、その手は出麗を撫でるように滑り落ちた。
(;^ω^)「や、やばいお! 早く逃げるお!」
ζ(゚ー゚;ζ「うん…」
出麗は涙を堪えているようだった。
構っていられないと、ブーンが出麗の手を引く。
途端、ブーンの脳裏にまたも別の事が蘇る。
.
201
:
名無しさん
:2018/09/07(金) 13:16:28 ID:mnh49NE20
ξ ⊿ )ξ
あの子の顔が思い出せない。
さっきまでは、顔ははっきりと覚えてたのに。
ただ、出麗に似てると思ったのは確かだ。
例えば、ブーンが今握っている、この透き通るような白い肌の手も。
.
202
:
名無しさん
:2018/09/07(金) 13:16:51 ID:mnh49NE20
ζ(゚ー゚;ζ「──ブーン! 何止まってるの!」
(;^ω^)「おっ、す、すまんお!」
慌てて走り出す。
直後、いま抜け出した部屋が赤く光った。
火が放たれている。
空流はもう助からないだろう。
(;^ω^)「出口はわかるかお!?」
ζ(゚ー゚;ζ「ええ! 本殿から出れば周りは森なの! 突っ切るわよ!」
二人で走り続ける。
あちこちから、兵士達の怒号や悲鳴が聞こえる。
何が起こったのかがわからない。
本殿が、火に染まっていく。
──
.
203
:
名無しさん
:2018/09/07(金) 13:17:24 ID:mnh49NE20
──
川; - )「…はは、もう指一本も動かないな」
燃える部屋の中で、空流は独り言を呟いた。
出血が多く、体のどの部分にも力が入らない。
ふと、部屋の中央にある琴を見る。
もう弾くことは叶わない。
だが、最後の演奏があの勝負で良かった。
未来の音楽を体感できたのは良かった。
口角が自然と上がる。
川; ー )(志半ばではあるが…楽しかったよブーン、出麗)
最後の視界に琴を収め、目を閉じようとした瞬間。
燃える襖が蹴破られた。
兵士でも入ってきたかと、もう一度目を開けてそれを見る。
.
204
:
名無しさん
:2018/09/07(金) 13:18:28 ID:mnh49NE20
その姿を見た途端。
空流の表情から笑みが消え、大きく目が見開かれた。
川; - )「……そうか…そういうことか…」
してやられた、という悔しさと共に。
空流の意識は深く沈んでいった。
──
.
205
:
名無しさん
:2018/09/07(金) 13:24:06 ID:mnh49NE20
──
──
206
:
名無しさん
:2018/09/07(金) 13:24:31 ID:mnh49NE20
──
朝。
目を覚まし、ベッドの上で今日の予定を大まかにイメージする。
大学に行く。求人サイトと求人用のメールをチェックする。
ゼミに出席する。卒論を軽く進める。
どこかの会社へのエントリーシートを書く。どこかの会社への履歴書を書く。
どこかの会社の採用担当者にメールを送る。
バイトに行く。
ξ゚⊿゚)ξ「はあ…」
忙しいと言っていいのかわからないが、憂鬱なのは確かだ。
なぜ、就活なんかしなくちゃいけないんだろう。
立ち上がり、洗面所に向かう。
今日はスーツで大学に行かなくていい。それだけは少し嬉しい。
着慣れないスーツを着たり、いつもと違うメイクをするのは、それだけで疲れるのだ。
洗面台に立ち、鏡を見る。
蛇口を捻ろうとした手が止まった。
ξ゚⊿゚)ξ(…私の顔、こんなんだっけ)
.
207
:
名無しさん
:2018/09/07(金) 13:24:55 ID:mnh49NE20
違和感がある。
顔のどこかが違って見えるというわけではない。
まるで、初めて会う人間のような。
自分の顔ではないような。
ξ゚⊿゚)ξ「顔…洗わなきゃ」
今度こそ蛇口を捻った。
手に冷たい水が貯まっていく。この感覚が、なんとなく幸せだ。
大袈裟かもしれないが、生きてる実感が湧いてくるのだ。
洗顔が終わり、乳液を手に取る。
鏡を見ると、やっぱり、違和感。
ξ゚⊿゚)ξ「…スッピンで行こうかな」
──
.
208
:
名無しさん
:2018/09/07(金) 13:25:48 ID:mnh49NE20
──
研究室のドアを開ける。
綺麗に並んだパソコンの前に、既に何名かの学生が座っていた。
ミセ*゚ー゚)リ「あ、ツンちゃんおはよ〜」
ξ゚⊿゚)ξ「おはようミセリ」
友人のミセリの隣に座り、パソコンにログインする。
彼女はツンの顔を見て、ひどく驚いたようだった。
ミセ*゚ー゚)リ「ちょ、ツンちゃんまさかスッピン?」
ξ゚⊿゚)ξ「なんか化粧のやる気出なくて」
ミセ*゚ー゚)リ「え〜! まあわかるけど、普通ファンデだけでもやらない?」
ξ゚⊿゚)ξ「いつもはやるけど…今日は説明会とか無いしもういいかなって」
ミセ*゚ー゚)リ「あ、わかった」
ミセリがニヤニヤしながら椅子を寄せる。
急に何がわかったと言うのか。
ミセ*゚ー゚)リ「失恋したでしょ!」
ξ゚⊿゚)ξ「馬鹿かお前」
.
209
:
名無しさん
:2018/09/07(金) 13:27:25 ID:mnh49NE20
もちろん失恋なんてしていない。
というより、まともに恋などしたことがない。
ミセ*゚ー゚)リ「違うかあ。そういえばツンちゃんが男子と話してるのほとんど見たことないね」
ミセ*゚ー゚)リ「いい感じの男子いないの?」
ξ゚⊿゚)ξ「いないいない。男の人とあんまり話さないようにしてるし」
ミセ*゚ー゚)リ「え〜なんで?」
ξ゚⊿゚)ξ「めんどいから」
ミセ*゚ー゚)リ「言うと思った」
ミセリが笑いながらパソコンの画面に向き合う。
彼女もメール画面を開いているところだった。恐らくどこかの会社の人事に送るのだろう。
ミセ*゚ー゚)リ「そういえば」
.
210
:
名無しさん
:2018/09/07(金) 13:27:49 ID:mnh49NE20
キーボードを叩く手が止め、ミセリはまたツンに近づいた。
ミセ*゚ー゚)リ「ツンちゃんのバイト先によく喋る男の人がいるんじゃなかった?」
ξ゚⊿゚)ξ「あー」
確かに、いる。
よく喋るというより、よく喋りかけてくる奴が。
ξ゚⊿゚)ξ「いるけどちょっと…」
ミセ*゚ー゚)リ「え、いいじゃん。どんな人? 彼氏候補?」
ξ゚⊿゚)ξ「ううんフリーターで童貞でよく恋愛ソング作ってる人」
ミセ*゚ー゚)リ「うわ怖っ」
ξ゚⊿゚)ξ「でしょ」
一応ミュージシャンなんだけどね、と付け加える。
それでもミセリは引いているようだった。
ミセ*゚ー゚)リ「あ、でも逆に聴いてみたいかも。童貞のラブソング」
ξ゚⊿゚)ξ「youtubeに何曲かあるみたいだけど、時間の無駄だと思う」
ミセ*゚ー゚)リ「辛辣だねツンちゃん…前からそうだったけど…」
.
211
:
名無しさん
:2018/09/07(金) 13:28:11 ID:mnh49NE20
ξ゚⊿゚)ξ「まあ実際そうだし。…でも」
ミセ*゚ー゚)リ「でも?」
ミセリが不思議そうに聞き返す。
奴はフリーターで童貞だけど、正直、羨ましいのだ。
ギターの話や音楽の話をする時。作った曲の話をする時。
それがあまりにも生き生きしていて。
やりたいことも無く就活に勤しんでいる自分には、それがどうしても羨ましい。
ξ゚⊿゚)ξ「…なんか、楽しそうなの。音楽を仕事にしようとしているあの人が」
ミセ*゚ー゚)リ「ツンちゃん…」
ミセリが優しく微笑む。
ツンの手を優しく握り、囁いた。
ミセ*゚ー゚)リ「それ、恋だよ」
ξ゚⊿゚)ξ「馬鹿かお前」
──
.
212
:
名無しさん
:2018/09/07(金) 13:28:40 ID:mnh49NE20
──
夕方。
大学から帰り、バイトの支度をする。
さすがに少しは化粧をしていくかと思い、化粧台に座って自分の顔を見つめた。
ξ゚⊿゚)ξ「……」
また、あの感覚だ。
自分の顔がこうだったか、わからなくなる。
まるで最初から存在しなかったかのような、ふと消え入りそうな。
漠然とした不安も込み上げてくる。
そろそろ、心療内科とやらにでも行く必要があるのだろうか。
ξ゚⊿゚)ξ「私は生きてるよね?」
鏡に映っている自分に問いかける。
何も答えない。
ξ゚⊿゚)ξ(何してるんだろ、私)
.
213
:
名無しさん
:2018/09/07(金) 13:29:26 ID:mnh49NE20
まるで本当におかしくなったみたいじゃないか。
こんなシーンは人に見せられない。
溜め息をつき、ヘアバンドをつけようともう一度鏡を見る。
ξ;゚⊿゚)ξ「──え…」
ツンの手から、ヘアバンドが滑り落ちた。
自分の顔を触り、恐る恐る鏡を触る。
当然ながら、どちらにも感触はある。
指が、震える。
ξ;゚⊿゚)ξ「…どうなってんの、これ」
.
214
:
名無しさん
:2018/09/07(金) 13:29:58 ID:mnh49NE20
正面にある化粧台の鏡。
ツンが映るはずのその鏡には、何も映っていなかった。
第九話 終
.
215
:
名無しさん
:2018/09/07(金) 13:32:58 ID:mnh49NE20
以上っす!また早いうちに投下できるようがんばります!
216
:
名無しさん
:2018/09/07(金) 21:18:17 ID:gEfr4M4.0
乙!
一難去ってまた一難だな
217
:
名無しさん
:2018/09/07(金) 22:00:28 ID:aBIF./BM0
一体何が起こってやがんだ
続きが気になりすぎる乙乙乙
218
:
名無しさん
:2018/09/16(日) 16:03:09 ID:A7Etap/g0
あざす!!
続きを投下させていただきやす!
219
:
名無しさん
:2018/09/16(日) 16:03:34 ID:A7Etap/g0
これは、自分という存在が消えていく感覚。
驚きはしたものの、やはりという思いの方が強かった。
悲しさや恐ろしさを感じないのは、感情ごと消えていくからだろうか。
.
220
:
名無しさん
:2018/09/16(日) 16:03:59 ID:A7Etap/g0
──
第十話
「時の架け橋」
──
そんなことを考えている場合じゃない、ということはわかっている。
わかっているながらも、頭から離れない。
ξ ⊿ )ξ
(;^ω^)(あの子は…)
曲がり角の多い廊下を走る。
あちこちから火や煙が立ち込んでくる。兵士達の怒号や悲鳴も絶えない。
ζ(゚ー゚;ζ「もう! ここも通れないの!?」
出麗は立ちふさがる瓦礫や火の手に苛立ちながら走っている。
その後を走りながら、ブーンはどうしても別のことに意識が向いていた。
221
:
名無しさん
:2018/09/16(日) 16:04:22 ID:A7Etap/g0
ζ(゚ー゚;ζ「三年前と同じね」
え?と聞き返す。
出麗が振り返りもしないまま続けた。
ζ(゚ー゚;ζ「ほら、あんたと巳留那様を連れて根十城を走り回った時も…て覚えてないのよね」
(;^ω^)「ご、ごめんお」
ζ(゚ー゚;ζ「いちいち謝るなブス。あの時は天野から逃げてたけど、今は何が何だかわからないわ」
(;^ω^)「そうおね…」
そう、実際のところ、何から逃げているのかわからないまま逃げている状況だ。
まず吹連ではないはずだ。光世真宗と手を組んでいたのだから。
二茶根留でもないだろう。八尾井山に攻めるという話は、少なくともブーンは聞いてない。
なら、一体何が起きている。
(;^ω^)(それに…)
それに、どうしても思い出せないことがあって、それが気になって仕方ない。
.
222
:
名無しさん
:2018/09/16(日) 16:04:44 ID:A7Etap/g0
(;^ω^)「三年前のこの状況のとき、僕は何か言ってなかったかお?」
ζ(゚ー゚;ζ「え?」
(;^ω^)「何かこう、思い出せない人がいるとか」
ζ(゚ー゚;ζ「人」
少し考える素振りを見せ、出麗が応える。
ζ(゚ー゚;ζ「言ってなかったと思うけど。どうかしたの?」
(;^ω^)「そうかお…」
外廊下を抜け、正門へ向かう。
やはり火が放たれており、兵士達がうろついている。残党狩りか。
裏手へ回るしかないと判断し、二人は来た道を戻った。
(;^ω^)「どうしても思い出せないことがあるんだお」
出麗に言ってもしょうがないと思いつつ、すっきりしない胸の内を吐き出す。
どうしてこんなに気になるんだろう。
.
223
:
名無しさん
:2018/09/16(日) 16:05:07 ID:A7Etap/g0
(;^ω^)「僕の時代にいる女の子なんだお」
ζ(゚ー゚;ζ「は? こんな時に女のこと考えてたの?」
(;^ω^)「それはちょっと語弊があるお…いやそうだけど…」
出麗が見下しきった目を向ける。
慌てて否定するも、確かにその通りだと思った。
(;^ω^)「君に似てる女の子なんだお。三年も同じバイトなのに、急に顔も名前も思い出せなくなって…」
ζ(゚ー゚;ζ「ああ、さっき言ってたわね。そんなに似てるの? …あ、ここ曲がるわよ」
(;^ω^)「了解だお。 そう、見た目と性格がめちゃくちゃ似てるんだお」
走りながら話を続ける。
もちろん全速力ではないが、さすがに息が上がりそうだ。
だが、目の前の出麗は息も切らさずに走っている。
似てると聞いた出麗が、冗談めかして笑う。
ζ(゚ー゚;ζ「あは、もしかしたらその人は私の子孫なのかもね」
.
224
:
名無しさん
:2018/09/16(日) 16:05:34 ID:A7Etap/g0
ピタリと足が止まった。
子孫。
子孫だと?
出麗のフルネームは何だった?
尾付だ。尾付出麗。
彼女がもし同じ苗字なら。
(;^ω^)「尾付……」
ζ(゚ー゚;ζ「え? ってあんた何立ち止まってるの!」
(;^ω^)「……尾付…ツン…」
(;^ω^)「尾付ツン! ツンだお! 思い出したお!」
ζ(゚ー゚*ζ「…」
あっそう。よかったね。とでも言いたげな目を向ける出麗。
今はそれどころではないのだ。
いつ兵士に見つかって殺されるかわかったものではない。
だが、ブーンにとっては無視できない事だった。
むしろ、この方が大問題な気もする。
ツンの名前を思い出してスッキリするどころか、嫌な予感が増していく。
.
225
:
名無しさん
:2018/09/16(日) 16:05:57 ID:A7Etap/g0
(;^ω^)(名前はわかったけど…)
名前はわかったが、相変わらず顔は思い出せない。
思い出せないというより、知らないと言った方が近い。
全くわからないのだ。
まるで、最初から存在しないかのように。
(;^ω^)(まさか…)
ζ(゚ー゚;ζ「ああもう! 行くわよ!」
(;^ω^)「おっ!?」
出麗に引っ張られ、また二人で走り出す。
まさか、という嫌な予感が拭えない。
出麗とツンの苗字は一緒だ。
もし、ツンが本当に出麗の子孫なら、出麗の身に何かあると未来のツンにも影響するはずだ。
例えば──出麗が死んでしまったら。
ツンは、いなかったことになるのだろうか。
.
226
:
名無しさん
:2018/09/16(日) 16:06:20 ID:A7Etap/g0
(;^ω^)(や、やばいお…)
もしそうなら非常にまずい。
実際、ブーンはツンの記憶を無くしかけているのだ。
それが、ツンの存在がなかったことになる証拠だとすれば。
逆に言えば、いま出麗の身に危険が迫っていることと同じなのだ。
ζ(゚ー゚;ζ「見えてきた! 裏口よ!」
走りながら出麗が指を差す。
そこを見ると、勝手口とも呼べるほど小さな出入口が見えた。
火も無ければ、兵士の声も聞こえない。
自然とスピードが速まる。
ζ(゚ー゚;ζ「急ぐわよ!」
(;^ω^)「了解だお!!」
足が重い。
裏口の先には小道と森が見える。うまく隠れられたら足を休めたい。
飛び出すように二人が裏口から出た途端。
(‘_L’)「読み通りだ、南蛮人」
.
227
:
名無しさん
:2018/09/16(日) 16:06:51 ID:A7Etap/g0
(;^ω^)「──え」
鈍痛。
腹と太ももに衝撃が走り、ブーンは前のめりに倒れた。
吐き気が込み上げる。
(;゚ω゚)「かっ…!」
ζ(゚ー゚;ζ「ブーン!!」
蹲りながら後ろを見ると、出麗は数人の兵士達に槍を突き付けられていた。
怯えた目で固まっている。
同時に、ブーンは自分が槍の柄で殴られたのだと理解した。
(‘_L’)「久しいな。あの時、お前に構わずあの小娘を斬るべきだったと、何度も後悔したぞ」
(;゚ω゚)「お、おまえ、は」
息が詰まってまともに話せない。
呼吸を整えないと吐いてしまいそうだ。
知らない顔だが、その立ち振る舞い、その言葉でわかる。
吹連久斗尚、本人だ。
.
228
:
名無しさん
:2018/09/16(日) 16:07:21 ID:A7Etap/g0
ζ(゚ー゚;ζ「あんたが、師匠を…?」
震える声で出麗が尋ねる。
久斗尚は口の端で笑い、「如何にも」と続けた。
(‘_L’)「光世真宗は戦魔を二茶根留から離す為に利用したに過ぎん。いずれにしても素直空流もろとも殺すつもりだった」
(;゚ω゚)「……」
ζ(゚ー゚;ζ「そんな…」
様々な感情が錯綜する。
素直空流率いる光世真宗は、結果的にブーンや二茶根留を騙した。
だが、その裏で、吹連側は光世真宗を騙していた。
いずれにしても自軍以外の全員を殺すつもりなのか。
(‘_L’)「利用できるものは利用する。味方以外は全員殺せ。天野から得た教訓だ」
ζ(゚ー゚;ζ「師匠は味方のはずじゃ…」
(‘_L’)「馬鹿を言うな。天下統一に他軍など使えぬ」
(;゚ω゚)「最初から…騙してたのかお…」
幾分か楽になったブーンが、震える膝を抑えて立ち上がろうとする。
その喉元に、久斗尚が槍を向けた。
動きが止まる。
229
:
名無しさん
:2018/09/16(日) 16:07:44 ID:A7Etap/g0
(‘_L’)「当然だ。ついでに、お前たちの命も利用させてもらう」
(;゚ω゚)「!!」
槍を投げ捨て、刀を抜く。
斬るつもりだと理解するも、ブーンの体は言う事を聞いてくれない。
刀が、振り上げられた。
(‘_L’)「楽に送ってやる、南蛮人」
(#´メω・`)「させんッッ!!」
突如、久斗尚の体がブーンの目の前から吹き飛ばされた。
一拍置いて、馬に体当たりをされたのだと解かる。
その馬に乗っていたのは。
(;゚ω゚)「しょ、渚本介さん!!」
ζ(゚ー゚;ζ「来てくれたのね…!」
230
:
名無しさん
:2018/09/16(日) 16:08:22 ID:A7Etap/g0
(´メω・`)「無事だったか。ブーン、出麗」
兵士達の気が渚本介一人に向けられる。
ブーンは今頃になって気づいたが、久斗尚以外に十人ほどの兵士がこの場に居た。
それを見据え、渚本介はどこから持ってきたのか長槍を構える。
(;^ω^)「や、やっと会えたお…」
脱力し、座り込むブーン。
出麗も同じように座り込んだ。
まだピンチなのは間違いないが、安堵感が二人を包む。
それとは対象的に、久斗尚がよろよろと立ち上がった。
(;‘_L’)「…お前が狗久流を相手する間に、八尾井山を落として二茶根留へ侵攻を始めるのが最良だったが…」
(´メω・`)「もはや叶わぬ」
(;‘_L’)「いや、こうなることも想定済みだ。むしろ──」
血の混じった唾を吐き捨て、久斗尚が笑う。
(;‘_L’)「──作戦通りだ」
.
231
:
名無しさん
:2018/09/16(日) 16:08:45 ID:A7Etap/g0
久斗尚が右手を上げる。
途端、兵士達が隠し持っていた短筒──鉄砲を取り出した。
すべての銃口が、渚本介に向く。
(;^ω^)「渚本介さん!!」
(;´メω・`)「くそっ…」
長槍を捨てながら馬から飛び降り、やむを得ず馬の腹に隠れようとする。
だが、間に合わない。
(;´メω・`)(迂闊だった…)
最初から渚本介一人を狙っていたのか。
数発の被弾を覚悟する。
久斗尚が発砲の合図を出したと同時に、渚本介の前に大きな影が立ちはだかった。
(#゚∋゚)「吹連久斗尚ッ!!」
(;‘_L’)「!?」
(;´メω・`)「なっ…」
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