[
板情報
|
カテゴリランキング
]
したらばTOP
■掲示板に戻る■
全部
1-100
最新50
|
1-
101-
201-
301-
この機能を使うにはJavaScriptを有効にしてください
|
( ^ω^)戦国を歩いたギタリストのようです
232
:
名無しさん
:2018/09/16(日) 16:09:17 ID:A7Etap/g0
十発の銃弾が一気に放たれる。
そのほとんどが、盾となった斬馬刀に弾かれた。
だが、それを構える右肩と右足にも被弾したようだった。
(;゚∋゚)「くっ…!」
(;´メω・`)「お、おい」
(‘_L’)「…堂土狗久流。どういう事だ」
久斗尚が睨む。
意図的に渚本介を守った狗久流が、片膝をつきながらも睨み返す。
(;゚∋゚)「こっちの台詞だ。貴様、この俺を騙したな」
(‘_L’)「利用したのだ。戦魔との一騎打ちを所望したのはお前だろう」
(;゚∋゚)「悪意に従うつもりはない。お前は、武士の魂を弄んだのだ」
両足でしっかりと立ち上がり、斬馬刀を構える。
その目に怒りの炎を宿らせながら。
(#゚∋゚)「覚悟しろ。もうお前の好きにはさせん!」
(‘_L’)「!」
233
:
名無しさん
:2018/09/16(日) 16:09:44 ID:A7Etap/g0
右足を引きずりながら、狗久流が駆け出す。
鉄砲を持った相手に向かっていけるのは、弾の装填に時間がかかることを知っているからだった。
このタイミングで、次の発砲は間違いなく来ない。
(;^ω^)「ふ、伏せるお!」
ζ(゚ー゚;ζ「ええ!」
ブーンと出麗が裏口の方に戻って縮こまる。
駆け出した狗久流を見て、四人の兵達が慌てて久斗尚の前に割り込んだ。
槍を向けられるも、狗久流は臆せず突っ込んでくる。
(#゚∋゚)「せいやァァッッ!!」
斬馬刀を横に一振り。
四本の槍を全て弾き飛ばし、鋭い返し胴で四人を一気に吹き飛ばす。
甲冑ごと斬られたその姿に、ブーンと出麗が目を丸くした。
ζ(゚ー゚;ζ「す、すごいわね」
(;^ω^)「化け物だお…」
(´メω・`)「怪我はないか、二人とも」
234
:
名無しさん
:2018/09/16(日) 16:10:11 ID:A7Etap/g0
渚本介が駆けつけ、ブーンと出麗の前にしゃがみ込む。
いつもの優しい目が二人をより安堵させた。
(;^ω^)「無事ですお。疲れたけど」
ζ(゚ー゚*ζ「体力つけなさいよ」
(´メω・`)「それなら安心だ。まだ油断はできないがな」
渚本介が振り向く。
見ると、狗久流が他の兵士達をも斬り伏せているところだった。
向かってくる刀や槍をものともせず、斬馬刀で縦横無尽に吹き飛ばしていく。
(;^ω^)「渚本介さん、アレと戦ったんですかお…」
(´メω・`)「二度な」
(;^ω^)「二度!?」
ζ(゚ー゚*ζ「よく生きてるわねほんと…」
死にかけたさ、と渚本介が呟く。
もう一度狗久流の方を見ると、十人目の兵士を叩き潰すように斬り終えていた。
残るは、久斗尚のみ。
235
:
名無しさん
:2018/09/16(日) 16:10:32 ID:A7Etap/g0
(#゚∋゚)「勝負あったな」
(‘_L’)「……」
返り血に塗れた狗久流が睨む。
斬馬刀を脇構えに置いている。渚本介と戦った時のように飛び掛かる気か。
(‘_L’)「ふん」
対する久斗尚は、妙に落ち着いていた。
刀を抜き、大上段に構える。
狗久流は怪訝そうに眉をひそめた。
久斗尚は自分より明らかに身長が低い。体格も普通だ。
大上段からの攻撃──例えば面打ちなどは、身長の高い相手にはきわめて決まりにくい。
(#゚∋゚)「…何を考えている」
(‘_L’)「……」
応えない。
来るなら来い、と久斗尚の目が語っている。
236
:
名無しさん
:2018/09/16(日) 16:11:04 ID:A7Etap/g0
(#゚∋゚)「──うつけが!!」
狗久流が走り出した。
斬馬刀は脇構えのまま、引きずるように駆ける。
とんでもない威圧感だ。
対する久斗尚は、大上段の構えのまま動かない。
振り上げられた刀は垂直に立っている。
(‘_L’)「……」
(#゚∋゚)「おおおおお!!」
二人の距離が、残り十歩を切った途端。
久斗尚が、刀を振り下ろした。
(;゚∋゚)「!?」
(´メω・`)(早すぎる!)
刀は届かない距離だ。
タイミングを見誤ったのかと錯覚した直後。
237
:
名無しさん
:2018/09/16(日) 16:12:05 ID:A7Etap/g0
刀は、久斗尚の手を離れ。
(; ∋ )「がはっ……!」
狗久流の喉に、突き刺さった。
(;^ω^)「!!」
ζ(゚ー゚;ζ「え!?」
(;´メω・`)(刀投げだと…)
驚く三人を後目に、久斗尚が呟く。
(‘_L’)「児戯に過ぎぬと思っていたが、意表を突くには丁度いい」
膝をついた狗久流へ、悠々と近づく久斗尚。
その喉から刀を引き抜くと、狗久流は静かに崩れ落ちる。
血みどろのその右手から、斬馬刀が滑り落ちた。
(´メω・`)「貴様…」
(‘_L’)「何だ。また仇討ちか?」
238
:
名無しさん
:2018/09/16(日) 16:12:46 ID:A7Etap/g0
ゆっくりと立ち上がる渚本介を、見下すように笑う。
(‘_L’)「お前らはいつもそうだ。いつも血筋や仇とやらに縛られている。合理の欠片もない」
(´メω・`)「……」
(‘_L’)「いいか戦魔。俺は全てを利用し、排除したが、此れも天下統一の為だ」
渚本介が久斗尚を見据えながら、その周りを円を描くようにゆっくりと回る。
攻撃のタイミングと距離を計っている。
だが、腰に下がる愛刀には触れていない。
(´メω・`)「…その口ぶりだと、素直空流も始末したようだな」
(‘_L’)「如何にも。光世真宗の兵にもはや生き残りはおるまい」
久斗尚も渚本介の動きを警戒しながら、刀を中段に構える。
(‘_L’)「聖地、八尾井山の焼き討ちはもうじき完遂する。あとは──」
.
239
:
名無しさん
:2018/09/16(日) 16:13:14 ID:A7Etap/g0
(‘_L’)「──貴様らの命を奪うだけだ」
(´メω・`)「!」
久斗尚が刀を振り上げ、渚本介の方へと投げた。
それを紙一重で避け、すぐさま久斗尚へと視線を戻す。
武器を手放したはずの久斗尚は、二丁の短筒を構えていた。
そして、二つの銃口が向いた先は。
(;^ω^)「あ…」
ζ(゚ー゚;ζ「ちょ、ちょっと」
座り込み、固まるブーンと出麗。
.
240
:
名無しさん
:2018/09/16(日) 16:13:40 ID:A7Etap/g0
(‘_L’)「さらばだ」
(;´メω・`)「ま、待て!」
口角を上げる久斗尚。
走り出す渚本介。
その全てが、ブーンにはスローモーションのように見えた。
(;゚ω゚)「──!!」
乾いた発砲音が鳴り響く。
一瞬、ツンの記憶がもうほとんど無くなっているという事実が、ブーンの脳裏をよぎった。
第十話 終
241
:
名無しさん
:2018/09/16(日) 16:15:56 ID:A7Etap/g0
今回は以上で終わりっす!
242
:
名無しさん
:2018/09/16(日) 16:23:19 ID:A7Etap/g0
「以上で終わり」という日本語の違和感
243
:
名無しさん
:2018/09/16(日) 23:54:19 ID:4LuRKaWc0
仕事おわタイミングでいいものをありがとう!!
ツン……
244
:
名無しさん
:2018/09/17(月) 00:00:04 ID:Qu2GN7tM0
あああ乙!続きオナシャス!
245
:
名無しさん
:2018/09/17(月) 18:11:16 ID:JfTwpWcc0
ありがとうございます!
ただいま執筆なうで、次で最終回になります。
近いうち投下します!
246
:
名無しさん
:2018/09/17(月) 19:56:22 ID:Ndba0Xs20
おつおつ
狗久流…
247
:
名無しさん
:2018/09/19(水) 15:35:33 ID:yAwhJitI0
ありがとうございます!
最終話、投下します!
248
:
名無しさん
:2018/09/19(水) 15:35:56 ID:yAwhJitI0
──
自分が消える感覚。
それは、予感ではなく、確信だった。
消える理由はわからない。
私が何かしたのだろう。
或いは、私の先祖が、何かしてしまったのだろう。
──
249
:
名無しさん
:2018/09/19(水) 15:39:50 ID:yAwhJitI0
──
最終話
「未来への贈り物」
──
もはや何も感じなくなっていた。
何も感じない頭で、何も感じない体で歩く。
ふらつく。
ξ ⊿ )ξ「……」
化粧なんかしていない。
着替えてもいない。
携帯電話のメモリは全て消えていた。
財布には、免許証も何もない。
鏡にも、何も映らない。
ξ ⊿ )ξ「……」
ふらつく足取りで、バイト先のコンビニに向かう。
今日は客の入りが少ない日だ。
閑散とした店内に入る。
.
250
:
名無しさん
:2018/09/19(水) 15:40:12 ID:yAwhJitI0
ξ ⊿ )ξ「…おはようございます」
( ^ω^)
そのままふらふらとレジに入った。
同じバイトの先輩が、隣で退屈そうに立っている。
いつもはセクハラ手前の挨拶をしてくるのに。
なぜ、無視をする。
( ^ω^)「今日も一人かお〜…新しい人雇ってくれないかお」
ξ ⊿ )ξ「……」
ああ。やっぱり。
無視なんかじゃない。
.
251
:
名無しさん
:2018/09/19(水) 15:40:33 ID:yAwhJitI0
ξ ⊿ )ξ「ブーンさん」
彼は、ツンと目も合わさない。
( ^ω^)「暇だお〜」
ξ ⊿ )ξ「ブーンさん、聞いて」
( ^ω^)「さっさと帰ってギターの練習がしたいお」
ξ ⊿ )ξ「私、もう消えると思うの」
( ^ω^)「ドクオさんにはボイトレしろって言われるけど…」
ξ ⊿ )ξ「ブーンさん」
噛み合わない会話。
ブーンの耳に、ツンの声は聞こえない。
見えてもいない。
ツンには、焦りも悲しみもなかった。
なぜ急に消えてしまうのかという疑問も。怒りも。
ただ、自分はもう消えてしまうのだろうという確信だけがあった。
存在していたという事実も、全て。
だから鏡にも映らないのだろう。
.
252
:
名無しさん
:2018/09/19(水) 15:40:55 ID:yAwhJitI0
なのに。
ξ ⊿ )ξ「私ね、ブーンさんが羨ましかったの」
何故か、言葉が込み上げてくる。
ξ ⊿;)ξ「就活なんか私の人生に何の意味もないもの」
何故か、涙が溢れてくる。
ξ;⊿;)ξ「私ね、小さい頃に夢があったの」
何故か、今頃になって、自分の人生が愛おしい。
ξ;⊿;)ξ「歌手になりたかったの。ステージで歌うスターになりたかった」
.
253
:
名無しさん
:2018/09/19(水) 15:41:18 ID:yAwhJitI0
ξ;⊿;)ξ「ブーンさんみたいに、音楽で生きていこうとしてるのが羨ましかったの」
( ^ω^)「はあ…」
ξ;⊿;)ξ「私だって、そうしたかった。でも」
( ^ω^)「帰ったらまずは風呂に入って…」
ξ;⊿;)ξ「怖かったの。大学を出て仕事して、無難に生きていくことのほうが、大事な気がして」
(*^ω^)「そうだお! "今日のアーティスト"でも考えとくかお」
ξ;⊿;)ξ「音楽で生きるなんて、リスクが高すぎる気がして」
(*^ω^)「こういう日はチョイ古なロックかメタルだお!」
ξ;⊿;)ξ「でもね、ブーンさん、私ね、ブーンさんみたいになりたかった」
退屈で、無意味な人生だと思っていた。
だが、それももう、終わりだ。
.
254
:
名無しさん
:2018/09/19(水) 15:41:38 ID:yAwhJitI0
ξ;⊿;)ξ「ブーンさん」
ξ;⊿;) 「私ね」
ξ;⊿ 「ブーンさんと」
ξ;
.
255
:
名無しさん
:2018/09/19(水) 15:42:04 ID:yAwhJitI0
すべてが、薄れていく。
.
256
:
名無しさん
:2018/09/19(水) 15:42:24 ID:yAwhJitI0
──
──
257
:
名無しさん
:2018/09/19(水) 15:42:51 ID:yAwhJitI0
──
(;゚ω゚)「はっ、はっ、」
ζ(゚ー゚;ζ「……え…」
へたり込むブーンと出麗。
二人の体に銃弾は届かなかった。
代わりに、二人の前に立ち塞がった男が、片膝をつく。
(;´メω `)「く……」
その姿勢のまま、渚本介の口から血が流れた。
.
258
:
名無しさん
:2018/09/19(水) 15:43:16 ID:yAwhJitI0
(;゚ω゚)「──渚本介さん!!」
ζ(゚ー゚;ζ「そんな、どうして…」
渚本介は二人に正面を向いて盾となっていた。
背中に被弾したようだが、具体的にどこに当たったのかわからない。
軽傷でないことは確かだ。
今にも倒れそうなその体を、ブーンと出麗が慌てて支える。
(‘_L’)「ようやく、獲ったぞ」
久斗尚が短筒をわざとらしく落とす。
不気味に笑いながら、刀を拾った。
(‘_L’)「天下統一には、二茶根留を潰すには、どうしてもこの男が邪魔だった」
259
:
名無しさん
:2018/09/19(水) 15:43:47 ID:yAwhJitI0
刀を持ち、三人の方へと歩いてくる。
(‘_L’)「それに、こいつには一度煮え湯を飲まされている。南蛮人、お前にもだ」
(;゚ω゚)「!」
(‘_L’)「ここでお前らを斬り、我ら吹連は、天下統一を決める」
久斗尚は、もうあと数歩の距離まで来ている。
(;゚ω゚)「……」
絶対的な危機の中に関わらず、ブーンの思考は別のところに向いていた。
ある結論が出そうだからだ。
ζ(;- ;*ζ「ああ…」
出麗は泣いている。
渚本介という唯一の希望が撃たれたからか。
260
:
名無しさん
:2018/09/19(水) 15:44:27 ID:yAwhJitI0
出麗の身が危険だ。
ブーンの中で、ツンの記憶はほとんど失われている。
出麗を守らなくてはならない。
だからこの時代に来たのだ。
(; ω )「……」
そうだ。
この時代に来て間もない時、渚本介が教えてくれた。
三年前、自分は出麗を守る為に旅をし、結果的にそれが実ったのだと。
(; ω )「……」
もし、それに失敗していたら。
出麗を失っただけではない。
ツンの存在も、無かったことになっていたのだ。
そう、今まさに無くなりつつあるツンの記憶が、それを証明している。
同じことが起ころうとしている。
.
261
:
名無しさん
:2018/09/19(水) 15:44:48 ID:yAwhJitI0
それなら、ブーンがタイムスリップした理由は。
(; ω )(僕が、この時代にきたのは…)
現世のツンを、守る為なのだ。
.
262
:
名無しさん
:2018/09/19(水) 15:45:25 ID:yAwhJitI0
(‘_L’)「あの世で仲良く暮らすがいい。この地は、我らが治める」
久斗尚が刀を振り上げる。
狙いは、渚本介と、渚本介を抱える出麗。
(;´メω `)「……」
ζ(;- ;*ζ「た、たすけ…」
(‘_L’)「安らかに眠れ」
刀が振り下ろされる瞬間。
ブーンが、ギターのネックを両手で掴み。
(#`ω´)「おおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
(;‘_L’)「!?」
──久斗尚の顔面に、ボディを叩きつけた。
.
263
:
名無しさん
:2018/09/19(水) 15:45:47 ID:yAwhJitI0
(;‘_L’)「ぐっ…!」
久斗尚がよろける。
ブーンの手に、痺れが広がった。
ζ(;ー;*ζ「…ブーン!」
(#`ω´)「ツンは消させないお!!」
そのまま、よろけた久斗尚に体当たりを喰らわせた。
二人して地面に転がる。
出麗と渚本介からは、距離が生まれた。
(#‘_L’)「…この期に及んで、まだ邪魔をするか、南蛮人!」
刀を構え直し、怒りを露わにする。
ブーンもギターのネックを持ったまま睨む。
.
264
:
名無しさん
:2018/09/19(水) 15:46:16 ID:yAwhJitI0
久斗尚が斬りかかろうと一歩踏み出したと同時に。
その目の前を、石が横切った。
(;´メω・`)「相手を間違えるな、吹連久斗尚よ」
石を投げた体制のまま、渚本介が弱弱しく立ち上がった。
(;^ω^)「渚本介さん!」
(;´メω・`)「下がってろブーン。大事なぎたーだろう」
ζ(゚ー゚;ζ「無茶しないで! 鉄砲を受けたのよ!?」
(#‘_L’)「…正義の味方気取りが」
久斗尚が渚本介を睨む。
渚本介は極端な前傾姿勢のまま、肩で息をしている。
これ以上体が上がらないようだ。
(#‘_L’)「俺を止めると抜かしたな、戦魔」
(;´メω・`)「……」
(#‘_L’)「もう一度言おう。戦魔、お前は戦乱そのものだ。お前さえいなければ、ここまで失わずに済んだ」
(#‘_L’)「天下統一とは、対立の無い世を心する! これ以上邪魔はさせん!」
265
:
名無しさん
:2018/09/19(水) 15:46:38 ID:yAwhJitI0
久斗尚が斬りかかる。袈裟切りだ。
その軌道を渚本介は転がるように避けた。
背中に、激痛が走った。
(;´メω・`)「くっ…」
(#‘_L’)「ふんっ!!」
連続で、返し胴。
距離をとってそれを避ける。
(;´メω・`)「…お前の治める世などに平和は望めぬ」
肩で息をしながら、久斗尚を睨む。
(;´メω・`)「だが、確かに俺は数多もの人間を斬ってきた。復讐の為、天野を阻む為」
(;´メω・`)「お前の言う通り、俺こそがこの戦乱を表していたのかも知れぬ」
.
266
:
名無しさん
:2018/09/19(水) 15:46:59 ID:yAwhJitI0
渚本介が刀を抜く。
何年も行動を共にした、愛刀虎恍丸。
(;´メω・`)「…だが、それももう終わりだ」
(#‘_L’)「抜かせ!!」
久斗尚が、刀を上段から振り下ろしてきた。
それを虎恍丸で受け止め、そのまま押されて後ろに転がる。
(;´メω・`)「がはっ…」
(;^ω^)「渚本介さん!!」
ζ(゚ー゚;ζ「あの傷じゃ、もう…」
いつもなら、刀を弾き返すか受け流して攻撃に出る渚本介が、圧されている。
既に鉄砲を二発喰らっているのだ。
まともに動ける筈がない。
(#‘_L’)「とどめだ、戦魔」
その姿を見下ろし、刀を持ったまま迫る。
.
267
:
名無しさん
:2018/09/19(水) 15:47:21 ID:yAwhJitI0
(;´メω・`)(…終わらせる)
久斗尚が迫る。
むき出しの殺意を纏っている。
(#´メω・`)「……この俺が、戦乱の世を終わらせる!」
途端、渚本介は虎恍丸から手を放した。
代わりに、地面に在る「それ」を、握りしめる。
(;‘_L’)「!!」
(;^ω^)(あれは…)
握りしめた「それ」を、残り少ない体力で、持ち上げる。
.
268
:
名無しさん
:2018/09/19(水) 15:47:48 ID:yAwhJitI0
(#´メω・`)「はあああああッッ!!!」
人の上半身がまるまる隠れるほどの大きな刀身。
それはかつて、渚本介を苦しめ続けた、忌まわしき刀。
(;‘_L’)(──斬馬刀だと!?)
(#´メω・`)「これが、俺の、最後の攻撃だ!!」
垂直に持ち上げたその刃を、久斗尚に向ける。
思えば、復讐の始まりは、最愛の兄を斬馬刀で斬られたことからだった。
天野を追い、戦い、また追うという日々。
立ちはだかるのは、決まってこの斬馬刀だった。
.
269
:
名無しさん
:2018/09/19(水) 15:48:10 ID:yAwhJitI0
(#´メω・`)「はあああああああああ!!」
そして今、新たな敵が、新たな「戦魔」となって立ちはだかっている。
まるで、天下統一を目論んだ天野擬古成と、復讐に明け暮れた太田渚本介の精神を受け継いだかのように。
(#´メω・`)「あああああああああああ!!」
ならば、終わらせてやろう。
その精神を断ち切ってやろうではないか。
戦いの連鎖を生み出した、この斬馬刀で。
.
270
:
名無しさん
:2018/09/19(水) 15:48:32 ID:yAwhJitI0
(#´メω・`)「はああああああああ!!!」
(;‘_L’)「あ、あ、……」
久斗尚は完全に気圧されて固まっている。
まともに斬馬刀と対峙したことがないのだろう。
(#´メω・`)「あああああッッッ!!!」
その怯んだ姿に、渚本介は斬馬刀を振り下ろした。
(#´メω・`)「……」
(; _L )「がっ…」
狗久流のように、横向きの刀身──鎬地を使って。
頭を強く打ち、勢いよく倒れる久斗尚。
衝撃で気絶したようだった。
.
271
:
名無しさん
:2018/09/19(水) 15:48:54 ID:yAwhJitI0
倒れた久斗尚を見下ろし、斬馬刀を放した。
同時に、渚本介も崩れるように膝をつく。
(;^ω^)「だ、大丈夫ですかお!?」
ζ(゚ー゚;ζ「無茶なことを…」
(;´メω・`)「ああ、すまない」
(;^ω^)「早くここから逃げますお!」
渚本介を出麗に抱えさせて、ブーンは馬のもとへ向かった。
ブーンを助ける際に渚本介が乗っていた馬が近くにいたのだ。
どうにかそれを引っ張り、二人に近づける。
(;^ω^)「ここもいつ襲われるかわかったもんじゃないですお。逃げないと…あ、三人は乗れないか」
(;´メω・`)「いや…」
渚本介が空を見る。
東側が明るくなってきている。
(;´メω・`)「…時間だ」
272
:
名無しさん
:2018/09/19(水) 15:49:16 ID:yAwhJitI0
何が、と聞くまでも無かった。
その直後、八尾井山の至るところから悲鳴が上がったのだ。
(;´メω・`)「来たか」
よろよろと山道のほうに歩く。
少し行くと開けた場所に出た。そこから麓が見える。
見ると、大軍が八尾井山に入っていくところだった。
(;^ω^)「ちょ、やばいじゃないですかお!」
ζ(゚ー゚*ζ「いえ、あれは…」
出麗が目を丸くする。
次第に、笑顔になった。
273
:
名無しさん
:2018/09/19(水) 15:49:44 ID:yAwhJitI0
ζ(゚ー゚*ζ「二茶根留勢よ!」
(;^ω^)「え!?」
よく見れば、二茶根留の旗が掲げられている。
意表を突かれた吹連勢は、多少の抵抗はしたものの、すぐに飲み込まれていった。
どういうことだ、と渚本介を見る。
渚本介は疲労の現れた顔で笑った。
(;´メω・`)「根十城から出立する前に予め言っておいたのだ。三日目の夕方に具麗芭城から狼煙を上げる。もし上がらなかったら全速力で進軍せよと」
(;^ω^)「え、聞いてないですお」
ζ(゚ー゚;ζ「私も」
(;´メω・`)「極秘にしたかった。すまない」
三日目の夕方。うまくいけば、具麗芭城で交渉だけ終わらせて帰れるタイミングだった。
失敗を見越して、軍を用意させていたのか。
(;´メω・`)「馬で全力で駆ければ一晩で到着するからな」
(;´メω・`)「どうやら成功したみたいだ。だが──」
274
:
名無しさん
:2018/09/19(水) 15:50:08 ID:yAwhJitI0
渚本介がブーンの方を向き。
力無く笑った。
(;´メω・`)「お前がいなければ、俺も出麗も死んでいた。ありがとう」
ζ(゚ー゚*ζ「…一応、私からもお礼は言っとくわ」
(;*^ω^)「お、ど、どういたしましてですお」
急に礼を言われ、照れるブーン。
さあ行くぞと振り返り、馬の方へと歩く。
直後、三人のもとに、別の馬が駆けてきた。
▼・ェ・▼ ヒヒーン
(;^ω^)「…ってマルフォイじゃないかお!!」
ζ(゚ー゚*ζ「丸…は?」
ブーンを具麗芭城まで乗せた馬が、綱を解かれた後、誰の指示も受けずにやって来たのだ。
妙な感動を覚え、その馬──マルフォイを撫でる。
(*^ω^)「マルフォイ…お前、根はいい奴だったのかお。原作と同じだおね」
▼・ェ・▼ ヒヒーン
( #)ω゚)「ぬぅふ!」
ζ(゚ー゚*ζ「…あいつ、馬に蹴られてるけど」
(;´メω・`)「結局馴染めなかったか」
275
:
名無しさん
:2018/09/19(水) 15:50:30 ID:yAwhJitI0
渚本介と出麗が同じ馬に乗り、ブーンはマルフォイに跨った。
二茶根留に巻き込まれないように八尾井山を降りる。
( ^ω^)「……」
振り返る。
山頂には、ボロボロになった光世真宗の本殿が、朝陽に照らされ輝いて見えた。
吹連久斗尚は二茶根留の兵士に見つかって捕らえられている頃だろう。
長い夜だった。
──
.
276
:
名無しさん
:2018/09/19(水) 15:50:53 ID:yAwhJitI0
──
根十城に到着し、渚本介に治療が施された。
二発の弾丸は幸いにも内臓までは到達しておらず、弾丸の摘出と止血だけで済んだ。
ブーンのギターは、人を殴ったにもかかわらず無傷だった。
ブーンもこれには心底ほっとした。パフォーマンスでギターを叩きつけて破壊するアーティストをごまんと見てきたからだ。
(´メω・`)「ははは、未来の音楽家にはそんなことをする奴がいるのか」
( ^ω^)「それで喜ぶ奴らがいるんですお。全く信じられませんお…」
ζ(゚ー゚*ζ「未来は未来で野蛮な人がいるのね。自分の琴を壊すとか私絶対無理…」
体中に包帯を巻いて布団に横たわる渚本介。
その傍にブーンと出麗が座っている。
277
:
名無しさん
:2018/09/19(水) 15:51:19 ID:yAwhJitI0
日はとっくに沈んでいた。
静かな夜だ。それまでの喧騒が嘘のように。
( ^ω^)「…この時代に来て、初めてこんなに落ち着いてますお」
(´メω・`)「確かにそうだな。この数日間は実に濃かった」
ζ(゚ー゚*ζ「でも、いい経験にはなったわ」
出麗は話した後、少し表情を曇らせた。
空流のことを思い出したのだろう。
(;^ω^)「あの、…」
ζ(゚ー゚*ζ「わかってる。師匠の件はあんたのせいじゃない」
むしろ、と出麗が続ける。
晴れ渡ったような笑顔だ。
ζ(゚ー゚*ζ「いい勉強になったわ。まさか師匠に音楽で勝る人がいるなんで思わなかった」
278
:
名無しさん
:2018/09/19(水) 15:51:43 ID:yAwhJitI0
(;^ω^)「お…」
(´メω・`)「俺も話を聞いたときは驚いたぞ。素直流の元帥と言えば、その辺の町民にも伝わるほどの音楽家だ。まさかそれに勝つとは」
空流は確かに偉大な音楽家だ。200年後の音楽を先取るなど、現代の音楽家にはできるだろうか。
音楽センスでは間違いなく負けていたはずだ。
ブーンが勝てたのは、単純に、運が良かったからなのかもしれない。
(´メω・`)「…お前は」
渚本介が微笑む。
(´メω・`)「随分と強くなったな。それに、泣かなくなった」
( ^ω^)「え?」
ζ(゚ー゚*ζ「それ、私も思った。三年前はあんなに泣き虫だったのに」
(;*^ω^)「そ、そうなのかお…」
279
:
名無しさん
:2018/09/19(水) 15:52:07 ID:yAwhJitI0
何となく恥ずかしくて、俯く。
すると、落とした視線の先──足元に、何かが落ちているのが見えた。
拾うと、それは琴爪だった。
出麗の名前が刻まれている。
それに気づき、渚本介の目が優しく細まる。
ζ(゚ー゚*ζ「ブーン、それ……」
(´メω・`)「もう、時間か」
( ^ω^)「……」
時間。ブーンはその意味を直観的に理解した。
この時代で果たすべきことは果たしたのだ。
あとは、元の時代に戻るだけ。
ギターを構え、琴爪で鳴らそうとしたところを、渚本介に止められた。
(´メω・`)「ブーン、頼みがあるんだ」
渚本介の言いたいことが、何となく伝わってくる。
(´メω・`)「ぎたーを弾いてくれ。曲は…」
.
280
:
名無しさん
:2018/09/19(水) 15:52:40 ID:yAwhJitI0
(´メω・`)「…三年前に弾いてくれた、あの曲がいい」
( ^ω^)「あの曲?」
(´メω・`)「曲名が分からないんだ。確か、孤独な人間の様子を描いたとか言ってたが」
ブーンはすぐに曲の正体がわかった。
確かに三年前にそんな曲を作ったことがある。
曲名は付けなかった。良い名前が思いつかなかったのだ。
( ^ω^)「了解ですお」
琴爪を置き、ピックを持ち直す。
落ち着いたテンポで、曲が始まった。
(´メω・`)「……」
ζ(゚ー゚*ζ「……」
演奏しながら、ブーンはこの曲のイメージを思い出していた。
孤独な男が街の中をひたすら歩いている。
その景色の一つ一つの優しさと、孤独な自分への嫌悪感。
男は悲しいような切ないような、胸が締め付けられるような想いに駆られていく。
自分は、何故、この曲を作ったのだろう。
.
281
:
名無しさん
:2018/09/19(水) 15:53:28 ID:yAwhJitI0
ゆっくりとしたF♯のアルペジオで、曲は終わった。
( ^ω^)「…この曲は」
曲の余韻が全身に広がるのを感じながら、ブーンが口を開いた。
( ^ω^)「曲名が無いんですお。だから…」
部屋を見渡す。
紙と筆を見つけ、ブーンはすらすらと筆を走らせた。
ζ(゚ー゚*ζ「それは…」
(´メω・`)「楽譜か?」
( ^ω^)「そうですお」
書き終えた簡易的な楽譜を、出麗に手渡した。
それを見た渚本介が小さく笑う。
( ^ω^)「出麗にこの曲をあげるお。今度は琴で渚本介に聞かせてあげるんだお」
ζ(゚ー゚;ζ「…南蛮の楽譜難しいし、琴で作りなおすのも難しいんだけど」
( ^ω^)「できるはずだお。素直空流の弟子なら」
.
282
:
名無しさん
:2018/09/19(水) 15:53:57 ID:yAwhJitI0
出麗も自然と笑顔になる。
手渡された楽譜に目を落とし、少しでも曲の構成を掴もうとしているようだった。
( ^ω^)「それともう一つ。渚本介さんと出麗に、曲名をつけてほしいんですお」
ζ(゚ー゚*ζ「えっ」
(´メω・`)「ははは、粋じゃないか」
渚本介が笑う。
体を起こし、ブーンと向き合った。
(´メω・`)「考えておこう。この曲は何度でも聴いていられるほど気に入ったしな」
ζ(゚ー゚*ζ「わかったわ。良い名前をつけてあげる」
( ^ω^)「ありがとうございますお」
改めて、琴爪を持つ。
本当に濃い数日間だった。何度も死にかけた。
だが、得られるものもあった。
( ^ω^)「…楽しかったですお。渚本介さん、出麗、お元気で」
ζ(゚ー゚*ζ「あんたもね」
(´メω・`)「ああ、達者でな」
283
:
名無しさん
:2018/09/19(水) 15:54:17 ID:yAwhJitI0
楽しかった。
その気持ちに嘘偽りはない。
三年前の自分もこんな気持ちだったのだろうか。
手にした琴爪で、ブーンはギターを鳴らした。
.
284
:
名無しさん
:2018/09/19(水) 15:54:39 ID:yAwhJitI0
──
──
.
285
:
名無しさん
:2018/09/19(水) 15:55:00 ID:yAwhJitI0
──
──…ちゃ──
──…ちゃん!──
(;^ω^)「──ツンちゃん! 一体どうしたんだお!」
ξ;⊿;)ξ「…え?」
.
286
:
名無しさん
:2018/09/19(水) 15:55:28 ID:yAwhJitI0
目を開ける。
そこは、通いなれたバイト先のコンビニ。
自分はレジにいるようだ。
ξつ⊿;)ξ「え? ブーンさん? 何してるんですか」
(;^ω^)「こっちの台詞だお! 気づいたらツンちゃんがレジで泣いてたんだお! 制服着てないし!」
(;^ω^)「気づかなかった僕も悪いけど、マジでびっくりしたお…とにかく事務室行くお!」
ブーンに無理やり腕を引っ張られる。
涙を拭き、ブーンに従って歩いていると、だんだん記憶を取り戻してきた。
ξ;゚⊿゚)ξ「待って!!」
(;^ω^)「え!?」
ブーンを押しのけ、事務所のドアにあるマジックミラーの前に立つ。
恐る恐るそれを見ると。
ξ;゚⊿゚)ξ「…映ってる」
(;^ω^)「は?」
ξ*゚⊿゚)ξ「私、鏡に映ってる!」
(;^ω^)「いや普通でしょ…どうしたんだお本当に…」
287
:
名無しさん
:2018/09/19(水) 15:56:17 ID:yAwhJitI0
事務室に入り、椅子に座る。
ブーンはすぐにお茶を出してくれた。童貞なのに手際がいいなと思った。
( ^ω^)「ツンちゃんなんか様子が変だし、今日は帰っていいお」
ξ゚⊿゚)ξ「ありがとうございます」
( ^ω^)「悩んでることがあるなら、僕で良ければいつでも話聞くお」
ξ゚⊿゚)ξ「童貞なのにありがとうございます」
( ^ω^)「平常運転じゃねーかお」
無意識に余計なことを言ってしまったが、ブーンはいつも通り気にしていないようだった。
その姿を見て、ふと、自分が泣いていた理由を思い出す。
ブーンが羨ましかった。
夢を追い続けるブーンが羨ましかった。こんな人生を歩みたかった。
いや、今でもそうしたい気持ちがある。だから就活もやる気が出ないのだ。
でも、よく考えると。
ブーンは23歳だけど、自分はもっと若い。
なら、自分にも、今から夢を追うことはできるのではないか。
( ^ω^)「じゃあ僕は売り場に戻るけど…何かあったら本当に行ってくれお」
ξ゚⊿゚)ξ「待って」
288
:
名無しさん
:2018/09/19(水) 15:56:44 ID:yAwhJitI0
事務室を出ようとしたブーンが、驚いて振り返る。
拳を小さく握りしめ、ツンは絞り出すように声を出した。
ξ゚⊿゚)ξ「…私、ブーンさんと」
( ^ω^)「え?」
ξ゚⊿゚)ξ「私も、ブーンさんと音楽やりたい! 歌手になりたい!」
(;^ω^)「!?」
ブーンが大きく目を見開いた。
あまりにも予想外だったのだろう。
少し考える素振りを見せた後、ブーンは満面の笑みで応えた。
( ^ω^)「本気なんだおね?」
ξ゚⊿゚)ξ「はい…」
( ^ω^)「…来週、ジャケの相談しにスタジオに行くんだお。一緒に来るかお?」
ξ*゚⊿゚)ξ「い、行きます!」
即答する。
就活なんて捨てちまえ。夢を追うほうが何倍も良い。
ミセリには文句を言われるだろうな、と苦笑した。
289
:
名無しさん
:2018/09/19(水) 15:57:08 ID:yAwhJitI0
(*^ω^)「そうと決まれば話は早いお! 早速ドクオさんに連絡いれとくお」
ξ*゚⊿゚)ξ「スタジオの人ですか?」
(*^ω^)「そうだお。あ、その前にツンちゃんの歌の感じが知りたいからカラオケにでも行くお」
ξ*゚⊿゚)ξ「はい! …え、二人で?」
(;^ω^)「なんで急に嫌そうなの……」
話がとんとん拍子で進んでいく。
胸の内に高揚感が込み上げてくる。
ξ*゚⊿゚)ξ「ブーンさん」
さっきまでの絶望感は、どこに行ったんだろう。
自分の人生が、こんなにも愛おしい。
前世の行いが良かったのかな、なんて思うほどに。
ξ*゚⊿゚)ξ「…ありがとう」
.
290
:
名無しさん
:2018/09/19(水) 15:57:33 ID:yAwhJitI0
退屈で、無意味な人生だと思っていた。
だが、それももう、終わりだ。
最終話 終
.
291
:
名無しさん
:2018/09/19(水) 15:58:22 ID:yAwhJitI0
──
エピローグ
──
今日もツンとのレコーディングを終え、ブーンは自室に戻った。
ツンの歌声は想像以上に良かった。
透明感のある声をさらにウィスパー気味に発するタイプだ。その上声量が大きい。
それが、アルペジオを多用するブーンのギターと、絶妙にマッチする。
ドクオも珍しく大絶賛した。
「とんでもない原石を見つけた」とまで言っていた。
童貞と美少女のラブソングというキャッチフレーズにするか、という話になったが、これにはツンが大反対した。
「誤解されそう」ということらしい。
(;^ω^)「誤解されそうって…」
一人で呟きながら、テレビをつける。
毎週流れている音楽番組がちょうど始まっていた。
今回は日本の名曲特集らしい。
292
:
名無しさん
:2018/09/19(水) 16:00:10 ID:yAwhJitI0
一曲目に、ある曲が取り上げられていた。
解説者がその曲の解説を始める。
「この曲の凄いところといえば、やっぱりコード進行ですね」
「コード進行?」
「はい。非常に現代的なんですね。具体的には、メジャーコードとセブンスコードの使い方が、昨今のJPOPに共通するものがあります」
「その、コードとかっていうのは、そもそもこの曲が作られた時代から知られてたんですか。コードという概念自体が近代的な気がしますが」
「どうなんでしょう。当時からコードという概念が日本にあったかどうかは…」
「不思議ですねえ。まるで未来から贈られた曲みたいだ。そんな曲が五百年前から存在するわけですから」
「そうですね。作曲者は尾付出麗という琴奏者となっています。きっと素晴らしい才能を持った作曲家なのでしょう」
( ^ω^)「ふうん…」
ベッドに座りながら、司会者と解説者の会話を聞く。
確かに不思議な話だ。やたら現代的な曲が五百年前の曲だったなんて。
だが、古くから伝わる曲が現代的な構成をしているというのは、海外では割とある話だ。
例えば、ヨハン・パッヘルベルの『カノン』のように。
実際、この曲は今や世界中で知られている。
もちろんブーンも知っている。
そして、この司会者と解説者以上に、ブーンには不思議に思えることがあった。
293
:
名無しさん
:2018/09/19(水) 16:00:31 ID:yAwhJitI0
( ^ω^)「この曲…」
解説が終わり、曲が流れる。
何度聴いても、やっぱりそうだ。
( ^ω^)「昔作った曲にめちゃくちゃ似てるお…似せたつもりはないのに」
この曲の雰囲気は、一貫して切ない。
孤独感すら覚えるほどだ。
実際、ブーンが作った曲も、孤独をイメージして作った。
なのに、テレビに映るその曲名は、あまりそのイメージにはフィットしない曲名だった。
( ^ω^)「『贈り物』……」
その曲名を呟くと、ブーンは何となく、懐かしさを感じた。
エピローグ 終
294
:
名無しさん
:2018/09/19(水) 16:00:53 ID:yAwhJitI0
以上です。長々とすんませんでした!
それと、逃亡しててほんとすんませんでした!
質問・誹謗・中傷・愛撫、なんでも受け付けます。
ありがとうございました!
295
:
名無しさん
:2018/09/19(水) 17:16:23 ID:F4/ZnoX20
二部は内容が駆け足な感じだな乙
296
:
名無しさん
:2018/09/19(水) 18:54:46 ID:ejAbJs5U0
楽しかったのにもう終わっちゃったよ・・・また戦国になんやかんや行ってもいいんだよ?チラッチラッ
まあそれはそれとして乙でした!
297
:
名無しさん
:2018/09/19(水) 20:48:10 ID:37vis1iE0
乙!面白かった
298
:
名無しさん
:2018/09/19(水) 22:14:50 ID:e/f2Ps.s0
乙!
299
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 12:45:34 ID:1kcTO8pw0
乙乙!!
またブーンに戦国にいってほしい!
番外編でまったり観光とかも|´-`)チラッ
最後の曲名にはグッときた
300
:
名無しさん
:2018/09/23(日) 09:56:14 ID:5asXlnQU0
お疲れ様!
次は欧米編だな!
301
:
名無しさん
:2020/12/23(水) 19:08:46 ID:L9irMuC20
('A`)「クリスマスソングを作れ」
( ^ω^)「は?」
ξ゚⊿゚)ξ「あ"?」
('A`)「ツンちゃん返事が怖い。まあ聞けよ二人とも」
十二月に入り、本格的な寒さが事務所の中にも蔓延する。
その事務所の一角。三人はストーブの前で縮こまりながらミーティングをしていた。
(;^ω^)「クリスマスソングって…もう12月ですお?」
音楽で生きるという夢を追うフリーター、ブーンが言い返し。
ξ゚⊿゚)ξ「私も、さすがにもう遅いと思います」
ブーンをタッグを組むボーカリスト、ツンも便乗する。
.
302
:
名無しさん
:2020/12/23(水) 19:09:46 ID:L9irMuC20
二人が一緒に音楽をするようになってはや半年。
ネット上での人気が徐々に広まり、ファン(主にツンへの)も増えてきた。
手応えを感じてきた頃ではあるが、伸びるのはまだこれからだ、と二人を担当するドクオは思っている。
('A`)「君達二人は注目されてきている…が、代表曲がまだ無いんだ。バズりが足りない」
(;^ω^)「はあ…」
('A`)「そこでだ。基本的にクリスマスソングは良い印象を与えやすい。というかバズりやすい。クリスマスソングを作るということは、お前らの躍進のチャンスなんだ!!!」
(;^ω^)「…で、なんで今このタイミングで言ってきたんですか?もう12月なのに」
('A`)「完全に今日思いついた」
ξ゚⊿゚)ξ「あ"?」
('A`)「やめてそれ怖い」
――
.
303
:
名無しさん
:2020/12/23(水) 19:10:40 ID:L9irMuC20
――
( ^ω^)「クリスマスソングって幸せ系が良いんじゃないのかお? みんながハッピーになる日なんだから、幸せな二人を歌うほうがいいお!」
ξ゚⊿゚)ξ「幸せより儚さの方が響きますよ。クリスマスソングで売れてる曲って大体そうじゃないですか」
ブーンとツンのアルバイト先のコンビニ。
相変わらず客のいない店内で、二人は商品の補充をしながら言い争っていた。
争点は、課題となったクリスマスソングのコンセプトだ。
ブーンが理想とするのは愛が成就する幸せな曲。
ツンが理想とするのは愛が成就しない切ない曲。
真っ向からぶつかり合った意見は、なかなか落としどころが見つからない。
(#^ω^)「だいたい、ツンちゃんはそうやって普段から僕に童貞とか言うけど、ツンちゃんこそデートとか恋愛とか経験あるのかお!?」
ξ゚⊿゚)ξ「あるから言ってんだろクソ童貞」
( ^ω^)「ごめんなさい」
ξ゚⊿゚)ξ「ブーンさんは幸せな曲がいいとか言いますけど、クリスマスに幸せな経験とかしたことあるんですか?」
( ^ω^)「無いから言ってるんだお。そういう傷つけ方やめろ」
ξ゚⊿゚)ξ「ごめんなさい」
.
304
:
名無しさん
:2020/12/23(水) 19:11:19 ID:L9irMuC20
ため息。
議論は平行線のまま進まない。
ブーンはいっそのこと二曲作るかとも考えたが、もうそんな時間はない。
沈黙が続いたあと、ふとツンが呟いた。
ξ゚⊿゚)ξ「…どっちでもない物語を作る、ってのはどうですか?」
( ^ω^)「え?」
ξ゚⊿゚)ξ「ちゃんと聞け童貞。成就も失敗もしてないような、どちらとも取れるような話にするんです」
ξ゚⊿゚)ξ「例えば…クリスマスまでに決めるつもりだったけど、結局距離が縮まっただけ、とか」
( ^ω^)「お、なるほどだお。確かにそのほうが共感性高そうだおね」
ブーンが繰り返し頷く。
確かに、それなら幸せな話とも切ない話とも受け取れる。その中途半端さがむしろリアルだ。
.
305
:
名無しさん
:2020/12/23(水) 19:11:54 ID:L9irMuC20
( ^ω^)「よし、この品出しが終わるまでに物語を考えるお!」
ξ゚⊿゚)ξ「えっ今ですか?」
( ^ω^)「もちろんだお!例えばこういうのはどうだお?ある男が――」
話が盛り上がる二人。
横で熱弁するブーンを見ながら、ツンはこの会話になんとなく居心地の良さを感じていた。
そういえば、以前に比べるとブーンに対しての口数が増えた気がする。
ブーンに慣れたのか、自分の性格が変わったのかわからない。
が、自分という存在にずっと疑問を抱えていた半年前に比べると、今のほうがずっと心地いい。
閑散としたコンビニの中で、二人は曲のイメージを退勤時間まで語り合った。
――
.
306
:
名無しさん
:2020/12/23(水) 19:12:27 ID:L9irMuC20
――
孤独な男が、一人寂しく過ごしていた冬の日、ある女性ミュージシャンと出会う。
彼はその出会いにより、それまで興味のなかった音楽に心奪われていく。
そしてクリスマスの日。彼女が作った曲を聴いているうちに、彼が愛しているのは彼女の音楽ではなく、彼女そのものなのだと気づく。
男は、彼女にその愛を伝えることを決心する。
――
.
307
:
名無しさん
:2020/12/23(水) 19:12:56 ID:L9irMuC20
ξ゚⊿゚)ξ「…いいんじゃないですか?」
(*^ω^)「いいおね!」
ξ゚⊿゚)ξ「正直、いいと思います」
(*^ω^)「いいおね!!!」
ξ゚⊿゚)ξ「うるさい」
( ^ω^)
ξ゚⊿゚)ξ「私のイメージ通りだし、こういうストーリーなら色々納得できます。ブーンさんにこんなこと言うの癪ですけど、理想的です」
.
308
:
名無しさん
:2020/12/23(水) 19:13:50 ID:L9irMuC20
翌日。
ブーンが家で書いた曲のコンセプトをツンに確認させてみると、予想の遥か先を行くほどの良い反応が返ってきた。
ブーンはその反応を嬉しく思いつつも、別の感覚に襲われていた。
( ^ω^)「僕としても、なんか不思議なくらいしっくりくる物語なんだお。経験したわけでもないのに」
ξ゚⊿゚)ξ「でしょうね」
( ^ω^)「やめろ」
ξ゚⊿゚)ξ「私も不思議なくらい納得できました。初めて見る物語なのに」
どうやらツンも同じ感覚を持っているようだ。
そう、自分でも不思議に思うほど、この物語が自分の理想にフィットするのだ。
まるで同じ経験があるかのように。
(*^ω^)「まあとにかく、このコンセプトで曲を作ってみるお!僕らの意見がこんなに合致するんだから、きっと良い曲ができるお」
ξ゚⊿゚)ξ「そうですね。これで行きましょう」
――
.
309
:
名無しさん
:2020/12/23(水) 19:14:30 ID:L9irMuC20
――
寒さが包み込む根十城の朝方。
兵舎の裏庭で、焚火で暖を取る男がひとり。
(´メω・`)「……」
かつて戦魔と恐れられた剣豪、太田渚本介。
小さな火の前に座り込み、両手を見ながら指を上下に動かす。
寒さで動きにくい。
ζ(゚- ゚*ζ「…アンタ、何してるの?」
二茶根留家近習一族にして、有名な琴奏者、尾付出麗が後ろから呼びかける。
.
310
:
名無しさん
:2020/12/23(水) 19:15:09 ID:L9irMuC20
(´メω・`)「出麗か」
出麗が自然と渚本介の隣に座る。
汚れるぞ、と声をかけたが、出麗はこれを無視した。
ζ(゚- ゚*ζ「中に暖かい場所はいくらでもあるのに、なんでわざわざ外で火を起こすわけ?」
(´メω・`)「慣れだな。大勢で囲炉裏を囲むより、少数で火を見る方が落ち着く」
ζ(゚ー゚*ζ「あは、なんとなく分かる気がする」
火を見ながら自然と笑顔になる二人。
渚本介の言う通り、こうして火を見ているだけで落ち着く。
思えば、ブーンと旅をしていた日々、まさにこんな雰囲気が多かった。
(´メω・`)「ブーンの残した曲、できそうか?」
渚本介がふと尋ねる。
出麗は苦笑いで答えた。
.
311
:
名無しさん
:2020/12/23(水) 19:16:04 ID:L9irMuC20
ζ(゚ー゚*ζ「かなり苦戦してる。琴の楽譜に写し始めてから気づいたんだけど、見たこともないような音階を使ってるみたいなの」
ζ(゚ー゚*ζ「暫く時間がかかりそうね。師匠の凄さを思い知らされたわ」
そうか、と呟く。
出麗が師匠と呼ぶのは、光世真宗の座主でもあり、素直流琴の元帥、素直空流のことだ。
八尾井山焼き討ちの際に出麗達は裏切られ殺されかけたが、ブーンが音楽で彼女を止め、結果的に彼女は吹連久斗尚に裏切られて命を落とした。
謀反者とは言え、惜しく思う。
二人して暫く無言で火を眺めたあと、ふと、渚本介が口を開いた。
(´メω・`)「…琴は、冬でも弾けるのか?」
ζ(゚- ゚*ζ「は?」
出麗が思いっきり怪訝な表情で渚本介を見た。
質問の意味がわからない。
.
312
:
名無しさん
:2020/12/23(水) 19:17:14 ID:L9irMuC20
(´メω・`)「武器術や徒手戦闘は、冬になると動きが圧倒的に悪くなる。寒さで鈍くなるんだ」
(´メω・`)「琴はどうなんだ?寒さの影響は指こそ受けるだろう」
考える。
確かに寒いと指が動きづらいが、弾けるかどうかで言えば、弾ける。
ζ(゚- ゚*ζ「激しい動きがあるわけじゃないし、そもそも弾くのは室内だし、弾けるわよ。武器なんかと比べないで」
(´メω・`)「そうか、そう言われるとそうだな」
ζ(゚- ゚*ζ「急にどうしたの?琴なんか興味なさそうなのに」
渚本介は両手を開き、もう一度指を上下した。
先程よりは動く。
(´メω・`)「…頼みがある。確かめたいことがあるんだ」
ζ(゚ー゚*ζ「なに?琴を教えてほしいの?」
.
313
:
名無しさん
:2020/12/23(水) 19:17:37 ID:L9irMuC20
出麗が悪戯っぽく笑う。
それに対し、渚本介は至って真剣な表情で返した。
(´メω・`)「その通りだ。琴を教えてほしい」
ζ(゚ー゚*ζ「えっ」
.
314
:
名無しさん
:2020/12/23(水) 19:18:05 ID:L9irMuC20
――
(´メω・`)♪〜♪♪〜
ζ(゚д゚;ζ
(´メω・`)♪〜♪〜♪〜
ζ(゚д゚;ζ
出麗の部屋で琴を教え始めてから数日。
渚本介の覚えの速さは異常なほどで、基礎はあっという間にできるようになってしまった。
普通なら一か月以上はかかるであろうレベルに既に達している。
ζ(゚д゚;ζ「…ほんとに琴は初めてなの?」
(´メω・`)「ああ。ぎたーなら何度かあるがな」
ζ(゚д゚;ζ「それもおかしいけど…」
それにしても、上達が速すぎないだろうか。
渚本介の持つ音楽センスに驚きつつも、出麗はふと別のことが気にかかった。
.
315
:
名無しさん
:2020/12/23(水) 19:18:52 ID:L9irMuC20
ζ(゚- ゚*ζ「そういえば、確かめたいことがあるって言ってたけど、ぎたーが弾けるから琴も弾けるかってこと?」
(´メω・`)「……いや」
琴爪を外し、丁寧に置く。
その仕草も既に様になっている。
(´メω・`)「俺は、ブーンを羨んでいた」
出麗と目を合わさず、琴を眺めながら渚本介が語る。
(´メω・`)「あいつの音楽に触れるたびに、俺は自分の人生の価値の無さを突き付けられる気分だった。俺は憎しい相手を追って刀を振っていただけだからな」
(´メω・`)「だがあいつは違った。自分の為に、ひたすら音楽の道を歩んでいた。俺が陰なら、あいつは陽だ。それが羨ましかった」
(´メω・`)「だから、天野を斬った後、俺はブーンからぎたーを習った。あいつのように、俺も音楽で人生が変わるんじゃないかと期待したんだ」
ζ(゚- ゚*ζ「……」
.
316
:
名無しさん
:2020/12/23(水) 19:19:26 ID:L9irMuC20
無言で見つめる出麗。
渚本介は相変わらず下を向いている。
(´メω・`)「…だが、あいつが最初に未来に帰ったとき、俺は音楽から離れた。あいつの音楽はぎたーだ。そのぎたーが無いなら意味がないからだ」
(´メω・`)「そして、あいつはお前に曲を託した。未来から来た音楽を、この時代の琴に託したんだ。だから、触れてみたかった」
(´メω・`)「確かめたいのは、俺も音楽で人生が切り開かれるか、ということだ。ブーンの認めた琴なら――」
ζ(゚- ゚#ζ「もういい」
出麗が静かに話を切る。
その声は明らかに怒気を含んでいる。
渚本介は、一瞬、何が起きたか理解できなかった。
.
317
:
名無しさん
:2020/12/23(水) 19:20:08 ID:L9irMuC20
ζ(゚- ゚#ζ「なら、ブーンがいなければ、私の琴は音楽ですらなかったってこと?」
(´メω・`)「いや、そういうわけでは…」
ζ(゚- ゚#ζ「そんな偉そうな姿勢で音楽に触れるのは、音楽家に対する侮辱よ。ブーンが示した音楽がすべてじゃない。ブーンだって、きっとそんなつもりでぎたーを弾いてない」
ζ(゚- ゚#ζ「気分が悪いわ。出て行って」
(´メω・`)「……」
暫く固まったあと、無言で立ち上がり、出麗の部屋を出た。
兵舎の裏庭で、ひとり座る。
渚本介は暫く戸惑った。なぜ出麗が怒ったのか理解できなかったからだ。
彼女を侮辱するつもりも、傷つけるつもりもなかった。
何が彼女を怒らせたのか、よくわからない。
.
318
:
名無しさん
:2020/12/23(水) 19:20:32 ID:L9irMuC20
(´メω・`)「…火を起こすか」
いつもそうしているように、一人で火を起こし始める。
こうして外で作業をしていると、ブーンと旅をしていた日々を思い出し、気持ちが落ち着いてくるのだ。
ブーンはいつだって平和だった。彼の住む未来では、斬り合いなんか起きていない、平和な時代なのだと教えてくれた。
緩んだ顔が一瞬で固まり、手が止まった。
(´メω・`)「……」
ブーンと出会った日の、彼のある一言が、急に脳裏をよぎったからだ。
それは、芸能は高貴なものだと教えられたブーンが、憤慨して発した言葉だった。
.
319
:
名無しさん
:2020/12/23(水) 19:20:53 ID:L9irMuC20
――音楽や芸能というものは人間すべてが楽しめるもので、愛すべきものなんですお!――
.
320
:
名無しさん
:2020/12/23(水) 19:22:14 ID:L9irMuC20
(´メω・`)(ブーン…)
体が熱くなる。
そうか。そういうことだったのか。
熱がひたすら体中を駆け巡る。
火起こしを途中で放り投げ、渚本介は自室へと急いだ。
出麗に謝ろう。それはもちろんのことだ。
そして、出麗にある贈り物をしよう。今考えられる謝罪と弁明は、これしか思いつかない。
その準備が必要だ。
飛び込むように部屋に入ると、渚本介は一晩中それに打ち込んだ。
――
.
321
:
名無しさん
:2020/12/23(水) 19:22:42 ID:L9irMuC20
――
翌日の夜。
渚本介は出麗の部屋の前に来た。
一つ深呼吸し、呼びかける。
思いっきり不機嫌な顔の出麗が、襖を開けた。
ζ(゚- ゚#ζ「…なに?」
(´メω・`)「謝りに来た」
堂々と言い切る渚本介。
謝る者の態度なのかと思いつつ、出麗は渚本介を中に入れた。
(´メω・`)「昨日のあの後、俺なりに考え込んだ。そして気づかされた。あれは音楽に対する、お前に対する非礼だった。申し訳ない」
ζ(゚- ゚#ζ「…なんで私が怒ったか、本当にわかってるの?」
(´メω・`)「勿論だ」
.
322
:
名無しさん
:2020/12/23(水) 19:23:55 ID:L9irMuC20
そう言い切るなり、渚本介は立ち上がり、部屋の端にある出麗の琴へと歩き出した。
ζ(゚- ゚;ζ「は?何する気?」
(´メω・`)「一曲、聴いてくれ」
渚本介は琴爪をつけ、琴の前に座った。
何が起きてるか、何がしたいのか理解できない出麗の前で、渚本介は構わず演奏を始めた。
途端、出麗の目が大きく見開かれた。
(´メω・`)♪〜♪♪〜
ζ(゚- ゚;ζ「え、それもしかして…」
出麗は体が崩れそうになるのを堪えるのに必死だった。
その感情を、言葉として精一杯絞り出す。
ζ(゚- ゚;ζ「どうなってんの…それ…」
ζ(゚- ゚;ζ「ブーンの曲じゃない!」
.
323
:
名無しさん
:2020/12/23(水) 19:24:44 ID:L9irMuC20
渚本介が弾いたのは、ブーンが残した名前のない曲だった。
出麗に琴を習っていた数日の間に、出麗が必死に書き写している琴用の楽譜を、渚本介は暗記していたのだ。
そして前の晩、渚本介はそれを別の紙に書き写し、自分なりに加筆し、見事その曲を完成させてしまった。
ζ(゚- ゚;ζ「……」
その才能の底知れなさに驚きながらも、出麗はやはり渚本介の考えがわからなかった。
まるで琴の腕前を自慢されているような気もしたが、渚本介がそんな嫌味なことをするはずがない。
曲が終わり、音の余韻が薄くなると同時に、渚本介は真っ直ぐ出麗を向いた。
(´メω・`)「…俺が間違っていた」
その声には、昨日の語りとは違った、明るい響きがあった。
.
324
:
名無しさん
:2020/12/23(水) 19:26:34 ID:L9irMuC20
(´メω・`)「ブーンが教えてくれたのは音楽そのものではない。音楽は誰でも平等に愛せるということだ。だから、ぎたーひとつで大勢の人間を救えた」
(´メω・`)「これは、そんなことすら理解できなかった俺にお似合いの曲だ。孤独な男の歩みの曲だ。だが、もう違う」
渚本介に笑顔が宿る。
出麗も、自分の心に少しずつ高揚が増していくのがわかった。
(´メω・`)「俺は、この曲をブーンに送り返そうと思う。俺の人生をかけて、この曲を、音楽を、音楽の持つ自由さを広め、未来に贈ろうと思う」
(´メω・`)「手伝ってくれるか、出麗」
出麗の胸には、もはや怒りも戸惑いもなかった。
この男は、音楽をまるで便利な道具のように捉えていた。そして、ブーンの音楽以外を認めていなかった。
だが今は違う。音楽に向き合い、自分の人生を、音楽に捧げようとしている。
まるでブーンの生き様のように。出麗の生き様のように。
音楽を愛する、すべての人々と同じように。
ζ(゚ー゚*ζ「…うん」
.
325
:
名無しさん
:2020/12/23(水) 19:27:32 ID:L9irMuC20
笑顔で頷く。
渚本介も笑顔を返し、立ち上がって出麗のもとに歩み寄った。
出麗の琴爪を、そっと差し出す。
ζ(゚ー゚*ζ「……」
出麗はそれを受け取る際、渚本介の手に触れた。
たまたま触れたのか、わざとそうしたのか、自分では判断がつかなかった。
指先に感じた渚本介の温もりに、心臓が反応する。
(´メω・`)「…雪か」
はっとする。
渚本介は手に触れたことなど全く意に介さない様子で、格子の外を眺めていた。
やっぱり、何を考えているのかよくわからない。
.
326
:
名無しさん
:2020/12/23(水) 19:28:03 ID:L9irMuC20
ζ(゚ー゚*ζ「そうね」
降り注ぐ雪を見つめる二人。
火を眺めるのも、雪を眺めるのも、気持ちは大して変わらない。
誰と見るかが重要なのだ。
心地の良い沈黙が、二人を包み込んだ。
明応八年、十二月二十五日のことである。
――
.
327
:
名無しさん
:2020/12/23(水) 19:28:30 ID:L9irMuC20
――
('A`)「君たちに…報告がある…!」
( ^ω^)「は?」
ξ゚⊿゚)ξ「あ"?」
('A`)「それやめてくれない?」
クリスマス当日。
相変わらず冷え切った事務所内の一角で、ストーブの前で三人は集まっていた。
('A`)「君たちの作ったクリスマスソングだが…」
('∀`)「……絶賛大ヒット中でございますッッッ!!」
(*^ω^)「マジですか!!やっほーう!!!」
ξ゚⊿゚)ξ(ネットの評価見たらわかるだろ…)
.
328
:
名無しさん
:2020/12/23(水) 19:29:15 ID:L9irMuC20
二人の作った曲は、見事に大ヒットした。
ネット販売、動画共有サイトでの急上昇ぶりは恐ろしいほどだ。
('∀`)「いやはや、恐れ入ったよ。まさか本当にバズるとは思わなかった」
( ^ω^)ξ゚⊿゚)ξ(こいつ…)
('∀`)「この調子で頼むよ!音楽の世界では、有名になればなるほど軌道に乗りやすいからな!」
('∀`)「次はお正月ソングでも作ってもらおうかな!?つって」
( ^ω^)ξ゚⊿゚)ξ「あ"?」
('A`)「すみません」
.
329
:
名無しさん
:2020/12/23(水) 19:30:04 ID:L9irMuC20
事務所を出て、同じアルバイト先に向かう二人。
夕暮れの中、街灯やイルミネーションがうるさいほど二人に降り注ぐ。
(*^ω^)「ドクオさんの言う通り、結局は大成功だったおね」
ブーンが嬉しそうに呟く。
ツンはそっけなく相槌を打った。
(*^ω^)「音楽で生きるっていう夢が、徐々に現実になりつつあるお。なんだか実感わかないお」
ξ゚⊿゚)ξ「私もです。就活もしないでこの世界に入って、本当に成功しそうなのが信じられないです」
ブーンは満足気に頷いた。
二人の夢は共通している。音楽で生きていくということだ。
その夢に日増しに近づいていく感じが、いい意味で、なんだかむず痒い。
.
330
:
名無しさん
:2020/12/23(水) 19:30:46 ID:L9irMuC20
( ^ω^)「それにしても、まさかクリスマスまでバイトのシフトぶち込まれると思わなかったお」
ξ゚⊿゚)ξ「どうせ予定ないでしょ」
(;^ω^)「いやそうなんだけど…あれ、ツンちゃんも予定ないのかお?」
ξ゚⊿゚)ξ「ないですよ。相手いないし、いてもデートとかめんどくさいので」
( ^ω^)「てことは、今日は僕とコンビニデートするようなもんだおね」
ブーンはいつもの調子で軽口を叩いた。
そして、すぐ違和感に気づいた。
いつもならメンタルを潰されるギリギリのツッコミを入れられるのだが、その反応がないのだ。
思わずツンの横顔を見ると、彼女は少し顔を赤らめ、俯いていた。
ξ*゚ -゚)ξ「…そうですね」
その声はあまりにも小さく、ブーンには届かなかった。
心地の良い沈黙が、二人を包みこんだ。
戦国を歩いたギタリスト 番外編
完
.
331
:
名無しさん
:2020/12/23(水) 19:31:35 ID:L9irMuC20
以上です!!
皆様も良きクリスマスを!!!
新着レスの表示
名前:
E-mail
(省略可)
:
※書き込む際の注意事項は
こちら
※画像アップローダーは
こちら
(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)
スマートフォン版
掲示板管理者へ連絡
無料レンタル掲示板