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( ^ω^)は街で狩りをするようです
240
:
名無しさん
:2018/09/26(水) 23:49:18 ID:fA9sLMOw0
これは10月の投下を信じていいんだよな?
241
:
名無しさん
:2018/09/27(木) 10:20:09 ID:hNeWJ9k.0
ずっと待ってた...!!待ってたんだぞ!!!おかえり!!!
242
:
名無しさん
:2018/09/27(木) 18:28:32 ID:p7AwAhgs0
マカチリ!
243
:
名無しさん
:2018/10/06(土) 13:03:34 ID:mjiQVGcQ0
そろそろくるか?
244
:
名無しさん
:2018/10/11(木) 17:48:32 ID:nOPc.33I0
こないかなー
245
:
名無しさん
:2018/10/15(月) 16:35:23 ID:7PkZGlSk0
延期するにしても知らせてくれよ
246
:
名無しさん
:2018/10/15(月) 18:39:19 ID:EfB/wTk60
>>245
とんだお客様だな
247
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/10/20(土) 21:53:59 ID:usxIxt9U0
遅くなりました
投下します
248
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/10/20(土) 21:54:42 ID:usxIxt9U0
ィ'ト―-イ、
以`゚益゚以 お待たせ
,ノ ヽ、_,,, 11月1日つまり1101はイトーイの日。祝日にするべき。
/´`''" '"´``Y'""``'j ヽ
{ ,ノ' i| ,. ,、 ,,|,,. 、_/´ ,-,,.;;l
'、 ヾ ,`''-‐‐'''" ̄_{ ,ノi,、;;;ノ 〜〜前回のあらすじ〜〜
ヽ、, ,.- ,.,'/`''`,,_ ,,/ ブーンがボコられた
`''ゞ-‐'" `'ヽ、,,、,、,,r'
,ノ ヾ ,, ''";l
249
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/10/20(土) 21:55:32 ID:usxIxt9U0
――― チーム・ディレイク ―――
( ^ω^)B00N-D1:通称ブーン。本名:ホライゾン・ナイトウ。年齢20歳。
サイボーグ「システム・ディレイク」。強力な抗ウィルス細胞を持つ。
↑↓ Awakerの集団ハングドランクとの戦闘の末、捕らわれる。
ィ'ト―-イ、
以`゚益゚以 アーマーシステム:BLACK DOGⅡが変形しブーンの強化外骨格と化す機能。
その戦闘能力の高さ故にブーンにもダメージを与える。
ξ゚⊿゚)ξツン・ディレイク:年齢19歳。
ブーンを強化人間に改造した天才。ブーンとは幼馴染。
ブーンのプロポーズを受ける。
('A`)ドクオ・アーランドソン:年齢21歳。
ブーンの強力な武器や乗り物の開発を担当する。
フォックスの計画を止めるべくショボン、クーと共に動く。
( ><)ビロード・ハリス:年齢9歳。
ブーンより強力な抗ウィルス細胞を持つようだ。
ノパ⊿゚)ヒート・バックダレル:年齢26歳。
レッドヘアー・リーパーの二つ名を持つサイボーグ。
低コストをテーマとしたシステム・ディレイクへバージョンアップ後、
ブーン奪還作戦へ投入される。
250
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/10/20(土) 21:55:57 ID:usxIxt9U0
――― チーム・アルドリッチ ―――
从 ゚∀从ハインリッヒ・アルドリッチ:年齢23歳。チームリーダー。
対セカンド人型戦闘兵器「バトルスーツ」の開発者である。
サード化したジョルジュに遂に恋心を打ち明けて実る。
ミ,, ゚∀゚シジョルジュ・ジグラード:年齢35歳。感染者。
バトルスーツ隊隊長だったが、セカンドウィルス感染後、自我を持つ異形と化す。
捕らわれたブーンを奪還しようと動く。
251
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/10/20(土) 21:56:18 ID:usxIxt9U0
――― セントラルの人々 ―――
( ´Д`)モナー・ヴァンヘイレン:年齢不明。
モララーと共に独裁制の「新セントラル議会」を設立し、独裁者となる。
セントラル内外のトラブルに対処する為に奔走。
(´・ω・`)ショボン・トットマン:年齢25歳。
スラム区のバー、バーボンハウスの店主である量産型の戦闘サイボーグ。
ドクオ、クーと共にフォックスの計画を止めようと動く。
阿部さん 阿部高和:28歳。
ディレイク系統の諜報用サイボーグ後期トライアル。
System-Hollowの中枢へハッキングするが、トラップにかかり機能停止する。
<_プ-゚)フ エクスト・プラズマン:10歳
孤児。阿部とは師弟関係を築いていた。
252
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/10/20(土) 21:57:59 ID:usxIxt9U0
――― ラウンジ社 ―――
( ・∀・)モララー・スタンレー:年齢30歳。
ジョルジュのサード化を強制させた実行犯。役目を果たし死亡する。
( 〓 )⇔川 ゚ -゚)Hollow-Soldier(虚ろな兵士):年齢不明。
クローンテクノロジーにより量産され、部隊として編成された。
阿部のハッキングにより解放された一人がフォックスの計画を阻止すべく、
チーム・ディレイクと接触。
( ^Д^)プギャー・ボンジョヴィ:年齢不明。プギャー総合病院の院長。
フォックスに従事している模様。
現在、セントラル内のどこかに身を潜めている。
爪'ー`)y‐:フォックス・ラウンジ・オズボーン年齢不明。
人類の知恵と可能性に限界を感じ、セカンドウィルスをコントロールしようと考える。
何やら恐ろしい計画を立てている様子。
253
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/10/20(土) 21:58:20 ID:usxIxt9U0
――― サード Awaker ―――
爪 ゚Ⅳ〉アノン:年齢不明。男。
自我を持つ感染者Awakerのコミュニティ「ハングドランク」のリーダー。
セントラルを接収したいと考え、ブーンを人質に取る。
(´・_ゝ・`) デミタス:年齢不明。男。
元はサイボーグだったAwaker。「ハングドランク」から逃亡し追われている。
ジョルジュと共に戦う事を決意。
(#゚;;-゚)ディ:年齢不明。女。
デミタスと共に逃亡中のAwaker。子供のような話し方をする。
/ ゚、。/ダイオード:年齢不明。女。
身を挺してアノンを庇おうとする程、アノンへの信望心は深い。
254
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/10/20(土) 21:58:40 ID:usxIxt9U0
ジョルジュの報せを受けてから『セントラル』の行動は速やかだった。
これはモナーがハインリッヒらチーム・アルドリッチに指揮権を委ねたところが大きい。
事実、地上の問題対処についてハインリッヒは防衛システムや衛星に関わる権限は無論、
各チームの戦闘員をアサインさせる権限も限定的に委譲されている。
これはモナーが内部の問題に対処する為でもあったし、
数々の地上任務をこなしてきたアルドリッチが最適であった為である。
一方で双璧を成すツン・ディレイクはというと。
モナーから報せを聞くなり卒倒してしまい、議会から自宅に運ばれた。
気を失った彼女と、強力な免疫を持つビロードの警護には春麗があたっており、
エクストも場を共にしている。
エクストに阿部の凶報は伝わっていないままだった。
勿論、ブーンが捕らえられツンが倒れたという報せはドクオらの耳にも入っているが、
彼等はモナーの要請があり内部の問題解決に尽力せねばならなかった。
地上と地下、それぞれで未曾有のトラブルに見舞われた『セントラル』。
しかし蜂の巣を突くが如く騒ぎにならなかったのは、
モナーによる情報操作と、未だカジノリゾートの名が濃く残された街の力によるだろう。
255
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/10/20(土) 22:00:53 ID:usxIxt9U0
爪 ゚Ⅳ〉「世界最大のギャンブリング・リゾートね」
古ぼけた紙製のパンフレットにそう書かれている謳い文句を、アノンは興味深くつぶやいた。
仮面の隙間から舐めるように一瞥してから、隣で歩かせているダイオードに手渡して尋ねた。
爪 ゚Ⅳ〉「なあダイオード、ここがどんな場所かもう一度聞かせてくれよ?」
/ ゚、。/「……200万人が居住可能な核シェルターも備えた施設。
戦時だったからか、あるいは地球への投資を促して所謂“地球離れ”を
防ぐために建設を開始されたのがここだった……私の覚えている限りだけど」
ダイオードは元々人間の女で、所謂“夜の女”であった。
世の仕組みの多くが機械化され体を売るしか生活の術がないという女は珍しくなかった。
ダイオードは美しかったためセレブ相手にも稼げた。
感染後もその美しさは損なわれる事無く、アノンに気に入られ常々傍に置かされている。
/ ゚、。/「長期的な運用を計画していたからインフラは完璧。
今となっては非感染者の為の最期の文明って訳か。
きっと今でも新鮮な水を飲んでいるんでしょうね」
元々人間だった感染者の話はアノンにとって貴重で、ダイオードが生かされる理由でもあった。
電気を失った地上から記録を得る事は難しく、
記憶を持つ人間の話からアノンを始めとする“進化した生物”は歴史と文化を学んでいた。
そして自分達“新人類”がどう生きるべきか考えていた。
256
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/10/20(土) 22:03:20 ID:usxIxt9U0
アノンはダイオードの話を聞くなり唸り声を上げた。
それから振り返って、自ら率いる100のAwakerの軍勢を確認し、
その中の一人を手招きして呼んでからダイオードに視線を戻した。
爪 ゚Ⅳ〉「非感染者の為の文明じゃねェ。俺達の為に今まで残った文明だ。
“飲める水”かどうか怯える必要もこれで無くなる」
爪 ゚Ⅳ〉「セントジョーンズ! 俺のブーンの様子は?」
呼ばれた男の名はセントジョーンズという。
ダイオードと同じく元は人間だが、彼女との違いはサイボーグであった事だ。
アノンはブーンと同じくサイボーグであるセントジョーンズに“柱”を持たせていた。
「……変わりない。アンタの言われた通りに呼びかけているが、この調子だ」
セントジョーンズが柱に縛り付けられたブーンを親指で指して言った。
( ゚ω。)「ツン、皆、」
「ただ虚ろにぶつぶつと繰り返すだけだ。
意識はあるし頭部の機関も最低限の動作はしているようだが、
心が折れてしまっているらしい」
爪 ゚Ⅳ〉「……それについてはブーンに同情を感じる」
257
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/10/20(土) 22:04:52 ID:usxIxt9U0
爪 ゚Ⅳ〉「だが、ブーンは俺の人材を殺っちまったんだ。
二度とそんな事が起きないよう、生き地獄を見せてやる必要がある」
ルシール――アノンの持つバットの名――をブーンに向けてアノンは言った。
ハングドランクを襲った超大型セカンドの骨から造り出したバットは、
アノンが自我を得てから最初に知った人間の女の名前を与えられ、
以来、子供、あるいは妻のように扱われている。
爪 ゚Ⅳ〉「おいブーン、もう少しでツンに会わせてやるからな?」
(;゚ω。)「あ、や、やめ、」
爪 ゚Ⅳ〉「……なんだよ、聞こえてるじゃねェか」
爪 ゚Ⅳ〉「にしてもセントジョーンズ、今や俺とお前はクールな関係だが、
以前はお前もブーンと同じように怯えていたっけなぁ」
「……ああ。アンタが人間から学ぶように、俺も学んだ。
この世には絶対に逆らっちゃいけないルールがあるってな」
爪 ゚Ⅳ〉「その通りだ、以前の世界とはまるで違うって事だ。
ブーン達セントラルは穴の中にいてそれが分かってねェ」
爪 ゚Ⅳ〉「尤もお前がデミタスを連れ戻せなきゃ、今度はミセリが柱に吊るされるぜ?」
「わ、分かってる! 分かってる……」
爪 ゚Ⅳ〉「分かってんならいい。とりあえず今晩はブーンのお守りを任せたぜ」
258
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/10/20(土) 22:07:00 ID:usxIxt9U0
爪 ゚Ⅳ〉「フフフ。地上を支配するのは俺だ。なあ俺のかわい子ちゃん?」
マンハッタン島がある方角を見つめ、アノンはルシールをさすりながら呟いた。
※
地上でのB00N-D1奪還作戦が開始された。
『セントラル』はモナー総統の迅速な対応の下、緊急事態用のマニュアルの何項目かを無視し、
取り急ぎ訓練と称し防衛システムを起動し、第2階層までの外壁を更に覆うシェルの展開、
セントラルパークの森林に隠された迎撃システムを起動する。
ハインリッヒの指揮の下ガイルがバトルスーツに搭乗し地上へ出た。
OSM-Suite隊の全隊員並びにドロイドINDIGAと共にマンハッタン島岸に配備されている。
259
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/10/20(土) 22:07:26 ID:usxIxt9U0
ガイル「嵐の前のなんとやら。久しぶりの外は妙に静かなもんだ」
ガイルがモニターの光景を眺めて呟く。
頭部に搭載されたメインカメラで映すハドソン川の向こう側に生物の気配は無い。
雷雨が過ぎ明瞭な視界が捉えるのは、星々の下で死に絶えて眠る破壊された都市だ。
そこに人格を持つ感染体、サードの集団がブーンを捕らえ、今や我が家を襲うというのだ。
あまつさえサードと呼ばれる存在は稀有だとばかり思いこんでいたガイルは、
ごく僅かな関係者のみに共有されたブリーフィング内容を思い出し、一人戦慄する。
春麗「私には、とても信じられません」
通信相手である春麗が返した。
春麗は今、ツン・ディレイクの自宅にてツン、ビロードの警護にあたっている。
ガイル「フォックスの事? サードのコミュニティ? それともブーンの事か?」
春麗「全部、です」
ガイル「……まあ、全部だよな。俺もそうさ」
春麗「あの、ガイル隊長。私は元々インターポールの刑事でした」
ガイル「へえ? 初耳だ」
260
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/10/20(土) 22:07:54 ID:usxIxt9U0
春麗「私達、タッグを組んでいるのに、お互いの事を知らなかったと、ふと思って」
ガイルは少し笑った後「確かに」と小さく返し、続きを待った。
春麗「麻薬捜査官だったんです。火星に人間が住み始めてから地上はますます荒れたでしょ?」
春麗「私は大きな組織を追ってニューヨークに来たんですけど、
そこへちょうどあのウィルス騒動、“始まりの日”が起こったんです」
春麗「皮肉なものです。敵組織が存在したおかげで私はセントラルへ逃げ込めたんですから」
ガイル「全部そうとは思わないな。君が助かったのは君の持つ正義感故にだろ?」
ガイル「俺もそんなもんさ。ジョルジュ隊長の部隊に所属していたから、
運良く生き残れたようなもんだ。始まりの時も、そして今日までも」
ガイル「誰もが皆生き残るべくして生き残っちまったのさ、春麗。
この先もきっとそうだ。各々やるべき事をやる。そうすりゃまた生きてる」
ガイルの返答に春零は思わず笑って返す。
春麗「なんだかジョルジュ元隊長に似てきましたね」
ガイル「ずっとあの人の背中を見て来たもんでな」
261
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/10/20(土) 22:08:59 ID:usxIxt9U0
春麗「明日もまたこうして昔話に花を咲かせましょう」
ガイル「ああ。グラスを交わしてな」
ガイル機ならびOSM-SUITE隊がハドソン川を越えてゆく一機をモニターで捉える。
所有者を失ったと思われていた赤い機体、ジョルジュ・ジグラート専用機だ。
※
ジョルジュ達サードとの合流を果たしたヒートは、一人西へ向かっていた。
クリストファー・コロンバス・ハイウェイと呼ばれる自動車幹道を己の両脚で走り続ける。
道中、忽然と道を失っていたりと、大型セカンドが通った痕跡などを目にしながら慎重に高速を往く。
向かう先はリンカーンパークと呼ばれるエリアだ。
マンハッタンからはおよそ2,30キロと離れるそのエリアは、
広大な面積を持つ閑静な郊外地として2040年代以降も保たれていた。
2020年から2040年時点で約1000万あった人口は600万へと減少。
反して湾岸地帯の工業地が拡大の一途を辿るが、デトロイトから全世界的に広がったアンドロイドの増加は、
リンカーンパークならび周辺地域も例外なく失業率と自殺率を急激に上昇させたのであった。
ウィルスが地球に運ばれる以前からゴーストタウンと呼ばれる街は多い。
ここもそんな背景を持つ為に都市化の立案も無く、古く寂れた田舎町のまま姿を変えずにいた。
ウィルス騒動後6年という時が経過しても尚、その姿に然したる変化は見られない。
ノパ⊿゚)「けっ! 私の地元と同じくらいのクソど田舎がよ。
アイオワを思い出すぜ」
23号線へ渡るジャンクションの手前、ナイトモードで見渡してそう漏らした。
閑散とした街並みが故郷アイオワ州で過ごしていた時分の情景を蘇らせてゆく。
実際に大都市のニューアークを過ぎてから一軒とて高層の建造物は目にしていない。
ヒートは身を隠しづらい事にも辟易としていた。
262
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/10/20(土) 22:11:02 ID:usxIxt9U0
田舎街とはいえさすがに地上、しかも夜だ。
視界を覆うマップや計測器は熱源や音源反応を示し、ヒートに異形の存在を警告している。
反応の大きさから巨大セカンドと思われる感染体が小型の群れを追っていたりと、
ヒートのマップ上の動きは夜のそれである。
風の唸りと区別のつきようのない獣の息遣いと足並みがセンサーを伝う。
ノパ⊿゚)「しかしシステム・ディレイク、とことん対セカンド用って感じだな。
低コスト仕様とはいえ、感知性能と情報処理能力は抜群だ。UIも勝手がいい」
地上の動き全てを捉えて整理し提示してくれている感覚に、ヒートは感嘆した。
ツンから特殊ラバーや金属骨格といったハード面にてコスト減を図っていると聞かされていたが、
優秀なソフト面がそれらを十分にカバーしているように思えた。
ヒートは得た新たな力に頼り、極力感染体との接触を避けて指定ポイントに向かった。
経路及び周辺の感染体の分布図をリアルタイムで常にジョルジュへと送信し、安全ルートとして共有している。
ジョルジュ達は10キロほど離れてヒートの跡を辿っていた。
視界上のマップの目的地にはリンカーンパークの公共図書館が設定されている。
ハングドランクはメインストリート沿いに建つ公共図書館を一時的な拠点としているという事を、
『セントラル』がコントロールする衛星アルドボールの精査によって明らかにされた。
デミタスによればアノンは見通しの効く場所に拠点を構える傾向があるようで、
リンカーンパークという地域はアノンの性質に適した地域だと言えた。
敵陣に易々と近づく事は許されない。
その為ジョルジュは敵の進行ルートにて一旦食い止めると策を立てた。
263
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/10/20(土) 22:12:10 ID:usxIxt9U0
高速を走り続け、ジャンクションに到着すると同時。
『ヒート、止まれ』
ノパ⊿゚)「っと」
腕に巻いた携帯端末を介し、ヒートは頭の中で鳴ったハインリッヒの声で急停止し、
その場に身を伏せて集音機能を最大限で稼働させた。
目的地からおよそ5キロの地点。
ヒートの地点から北東方向202号線へ続く方面で複数の物音をセンサーが捉えた。
数多の二足歩行での足音や話し声が重なりあっており、すぐにサードの集団のものだとヒートは勘づく。
『やはり23号線へと向かっているようだ。
お前のマップ上に示す予測ルートはこのまま維持する』
ハングドランクはヒートが来た道を辿ってマンハッタンへ向かうと思われた。
ハインリッヒがアルドボールで撮影し続けており、情報戦は『セントラル』に利があった。
ノパ⊿゚)「了解。一度Sniperで見れるか確認してみる」
自身に搭載された視覚プロセッサよりSniperのスコープの方が性能は遥かに高かった。
ヒートは背負っていたSniperを組み立て、料金所の屋根に飛び乗った。
スコープを覗き、ライフルのエイムシステムと己とを同期させ、同時にジョルジュに通信した。
264
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/10/20(土) 22:12:36 ID:usxIxt9U0
ノパ⊿゚)「ジョルジュ。ブーンと敵を視認できた。ひでえ状態だ……」
『レッドヘアー。ブーンは生きてるか?』
ノパ⊿゚)「生きてるな。でも穴倉に戻しても修復にゃ1ヶ月コースって感じだぜ」
ノパ⊿゚)「おいデミタス、画像送信するからてめーんとこの技師にアナライズさせろ。
マジで今夜の内にブーンがその殲滅能力を積んで戻って来れんのか、確かめろ」
『分かった……画像を確認した。
クソ野郎が、アノンめ。やはりHDAQまで済ませてやがる。
連中がセントラルの支配をしようと目論んでるのはこれで明白だ』
ノパ⊿゚)「ジョルジュ、本当に奇襲をかけるのか?相当な人数だぜありゃ」
『一旦戻れ。ブーンが生きてるって分かっただけでいい。
奇襲はニューアークで行う。お前は狙撃ポイントを探してくれ』
ノパ⊿゚)「任せとけ。狙撃は得意分野だ。肝心の背後はどう取る?」
『その為に懐かしい物を取り寄せている』
ノパ⊿゚)「懐かしいモノォ〜?……あ、バトルスーツか?」
『セントラル最高の火力を搭載した、な。
俺の携帯かハインの遠隔でリンカーンパークを狙う』
デミタスによればアノンは残虐ながら家族の安否が左右される事態には慎重になるらしい。
交渉の余地は敵の背後に生まれるに違いないとジョルジュは考えた。
265
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/10/20(土) 22:13:58 ID:usxIxt9U0
『人質を取られたと聞かされれば少なくともブーンは返してもらえるだろう。
あとは科学センターの技師に修復と、連中の殲滅手段をセットアップさせれば形成逆転だ』
ノパ⊿゚)「ブーンを取り戻すのはいいんだが、修復までどう持たせる?
私が言った通り1ヶ月コースだぜありゃ」
『それなら1ヶ月でも2ヶ月でも粘ってやろう。殴り合いだけが戦争じゃねえ』
ノパ⊿゚)「このまま私が狙撃でアノンの眉間に風穴ブチ空けるってのは?」
『アノンだけをやってもダメだ。
連中をヘタに刺激すれば、セントラルが更に危険な状況に追い込まれる事が考えられる。
それに狙撃自体、アノンには通用しないだろうな……』
『ヒート、デミタスの意見を尊重しよう。やはりまずは武力交渉する』
ノパ⊿゚)「OK。あと最後に確認だ。デミタス、その殲滅手段とやらは私に詰めないのか?」
『非感染のサイボーグって他にも条件はある。
免疫持ち、あるいは何らかの予防手段を持ってるって事、
それから地上で生き永らえた事が望ましいとか、色々言ってやがったな』
ノパ⊿゚)「なんだそりゃ。まるでブーンに誂えたみてえな……」
266
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/10/20(土) 22:15:53 ID:usxIxt9U0
ノパ⊿゚)「まあいい。おい、ジョルジュ」
ノパ⊿゚)「まず最初の交渉で失敗は許されねえ。しかし、失敗したらどうする?」
ヒートの問いに対し、ジョルジュは冷ややかな調子で答えた。
『その時は俺達ごとニュージャージーを徹底的に焼き尽くす』
『ジョルジュ、それは』
『ハイン、失敗したら、だ。
心配するな。必ず生きて再びお前に会いに行く』
※
ニューアーク。
沿岸部の工場地帯を抜けた先にある超高層のビル群を有する大都市。
日は落ち明かりを失った暗闇の街を数多の感染体が跋扈する中、
自我を持つ感染者3人は高層アパートの屋上にて息を殺し、
その視線の先で間違いなく歩を進める軍団の襲来に備えていた。
ジョルジュはBLACK DOGとの認証を果たしており、ブーンの装備を物色していた。
ブーンに限定していたパーソナルを解除されている事はドクオから確認を取っている。
BLACK DOGの武器庫を開く事に成功すると、Sniperやグレネードなど幾つか取り出し、
ヒートやデミタス、ディにそれら対セカンド兵器を持たせた。
267
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/10/20(土) 22:16:42 ID:usxIxt9U0
ミ,, ゚∀゚シ「お、これまた懐かしいモンがあるじゃねえかよ」
アーマーシステム化した際にパージされるケースがあるらしく、
そこにはタバコや液体化食料が収納されており、それらをジョルジュは拝借した。
タバコは以前、ブーンがボストンに出立する際にジョルジュから手渡したものだ。
久々に胸に入れた煙の味は感染前とそう変わらず、ジョルジュは充足した息を吐いた。
(#゚;;-゚)「ディにもそれちょーだい。よくわかんないけどたのしそう」
ミ,, ゚∀゚シ「お嬢ちゃんはこっちだ、甘くてうまいぞ」
(#゚;;-゚)「ほうほう、イチゴ味とな」チュー
(*゚;;-゚)「……うまし! うまし!」チューチュー
(´・_ゝ・`)「ディ、静かにするんだ。
なあジョルジュ、改めて聞くが本当にやるんだな?」
デミタスが問うと、ジョルジュはタバコの箱を取り出してデミタスに見せる。
無言で一本取り火をつけ、デミタスが深く息を吐くと、ジョルジュが返した。
ミ,, ゚∀゚シ「デミタス、あそこにゃまだ100万の人間がいるンだ」
268
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/10/20(土) 22:17:03 ID:usxIxt9U0
ミ,, ゚∀゚シ「あの穴倉以外に住める場所なンてありゃしねえ。
あそこが人類最後の砦なンだよ」
ミ,, ゚∀゚シ「俺達が6年掛けて確保した場所なンてマンハッタン島だけだ、見つかっちまう。
敵はハングドランクだけじゃねえ。夜は飢えたセカンドどもが目を光らせる」
(´・_ゝ・`)「……俺は、人間がアノンに生殺しにされる様なんて見たくない。
だが、100万の人間が地上を往くのも見たくない」
ミ,, ゚∀゚シ「だから戦うのさ。お前だって本心は連中と戦いたかったンだろ?
じゃなきゃこんな所でサイボーグ探しなンてしてっかよ」
(´・_ゝ・`)「……そうだな」
デミタスはもう一度深く煙を吸い、吐き出す。
ディがデミタスの口から煙が上がるを不思議そうにじっと見つめていると、
デミタスはディの小さな手を握った。
(#゚;;-゚)「デミタス?」
(´・_ゝ・`)「何があってもお前は俺が守る」
269
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/10/20(土) 22:18:30 ID:usxIxt9U0
(#゚;;-゚)「またそれ言う。ディはアノンが言う“できそこない”じゃないもん」
(#゚;;-゚)「ディだってデミタスをまもれるもん」
(´・_ゝ・`)「……お前に守られてばっかりじゃ男が廃るんだよ」
デミタスはハドソン川の向こう、マンハッタン島に広がる変わらぬ街並みを眺めながら呟いた。
ジョルジュの言う通り危機を舞い込んでしまったのは事実だ。
しかし数奇に思うのは、いつだって何かの始まりはマンハッタンからであった事だ。
デミタスはメモリーに色濃く残るLOGにアクセスし、6年前の日の事を遡る。
第42話「LOG Forsaken」
長くに続く中東戦争の発端は何だったんだろうか。
単なる一兵卒の俺に歴史の大きな流れを見るような余裕は無く、
ひたすら砂塵と銃弾を潜りアサインされた任務をこなしていく中でふと思う事があった。
サイバネティクスで奇妙なまでに脳とリンクするデータストレージに歴史書は無い。
Wifiでも掴めば公開されている軍のデータベースにアクセスしその片鱗は見られるのだろうが、
戦場から帰還してテーブルに肘を付きコーヒーを飲む頃にはそんな意欲は消え失せていた。
ベッドの上に座り、視界のレーダーに意識を向けながら再びそんな思考を巡らせていた。
270
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/10/20(土) 22:20:43 ID:usxIxt9U0
そういえば肉体に埋め込まれた機械も争いの種の一つだったか。
人間は神の領域に踏み込んだのだ。
細胞を機械で支配させ、ネットという数値の世界に意識を没入した。
細胞を機械で交配させ、クローンを作り出し難病を克服した。
細胞を機械で模させ、奴隷たるアンドロイドを生み出した。
それらを冒涜と叫ぶ者が国内外問わず存在した。
神の名は違えど過激な一派に攻撃の機会を与えたのは間違いなかった。
それと、セカンドウィルスが地球を欲望のままに実験場とした我々人類に対する天罰なのだと、
名も知らぬ牧師がテレビで豪語していたをよく覚えている。
最後に見たテレビ放送だった。
「まだ意識はハッキリしてる? デミタス」
(´・_ゝ・`)「ああ」
俺の胸の中に頭を埋めたディートリッヒが、俺の腹の傷に触れながら尋ねた。
中東にて、神の名のもとに殺人を続ける野蛮人の銃弾を跳ね返してきたこの体は
知性の欠片も無い生物の手によって易々と傷を付けられた。
ミルク色の疑似体液と共に人の血を流し出すのを見て、いよいよ俺にも罰が下ったのだと悟った。
271
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/10/20(土) 22:22:41 ID:usxIxt9U0
憧れた超高層のアパートを最後に楽しみたかった。
田舎から出た俺達にはまるで縁の無かった部屋に共に忍び込み、
キングサイズのベッドで最後の時を迎えようとしていた。
少なくとも俺はそのつもりでいた。
(´・_ゝ・`) 「なあ、最後にこいつを吸わないか」
胸の内側から葉巻を取り出してディートリッヒに尋ねてみたが、
彼女は鼻で笑って首を横に振った。
「デミタス、それは帰ってから吸おう」
中東戦争の頃から続く第3義体歩兵隊の習慣、勝利の葉巻。
死に際にこいつを吸おうとしたが、ディートリッヒに制されたのは忘れやしない。
橋は無事に爆破させたのだから勝利は勝利だし、ウィルスに支配されるのも時間の問題だと言うのに。
(´・_ゝ・`)「俺達は感染した。もう帰る場所なんて残っちゃいない」
トカゲに人間を混ぜたようなセカンド、牛をベースに数多の生物をごっちゃに混ぜたような、
いずれにしても気味悪いセカンド2体を相手に戦った。
俺達は何とかそいつらを殺す事が出来たが、軽傷を負ったのだ。
お互い傷の程度は軽かった。
しかし、毛筋程でも感染体に傷を付けられれば転化は免れないという噂は知っていて、
俺はとっくのとうに自決を覚悟していたのだ。
それに婚約したディートリッヒと共に最期を迎えられるのだ。
この上無い幸福とまでは思わなかったが、悲観的ではなかった。
「相変わらずお前は悲観的だな」
ディートリッヒの俺に対する評価も相変わらずだった。
傷だらけの顔を柔らかくしてそう言った彼女だが、
他人には辛辣に聞こえる言葉も全て励ます為のものであると俺は知っている。
272
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/10/20(土) 22:23:45 ID:usxIxt9U0
「最後の最後まで足掻いてみない?
ほら、病も気からと云うじゃない。最期までどうなるか分からないでしょ」
相変わらず前向きというか、だからこそ俺達部隊を引っ張ってこれたリーダーだった。
俺達に免疫が無いのは検査で明らかであった。
地球にウィルスが到着し蔓延してから即座に行政が働きかけ、
全市民に免疫チェックを行われたのはついこの前の事だった。
(´・_ゝ・`)「俺達に免疫は無いだろ」
「それでも。どんな時も貴方とは最期まで諦めたりしたくない。
約束して。絶対に諦めたりしないって」
まだ灯りを点けるスタンドに仄かに照らされたディートリッヒの顔は、
新しい朝を迎えたかのような朗らかなものであった。
俺はそんな彼女を見て、渋々と葉巻を胸ポケットに戻した。
(´・_ゝ・`)「分かった。だが俺にも約束してくれ。
どちらかが転化して理性を失ったら、その時は」
「分かってるわよ……やっぱり悲観的」
葉巻を吸わずバックパックから止血剤を取り出して傷口を押さえる。
感じるはずの強烈な痛みはサイバネティクスが遮断するが、
俺の胸の内ににまとわりつく気持ちの悪さは掻き消してくれはしなかった。
グッドラック。グッドナイト。
そう言い交わし、俺とディートリッヒはお互いに顔を向けて瞼を閉じた。
ディートリッヒの言葉をただただ繰り返し頭の中で反芻し、夜明けを待った。
街は異形の恐ろしい叫び声が絶えず響いていた。
人生で一番長い夜だった。
273
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/10/20(土) 22:24:35 ID:usxIxt9U0
カーテンの隙間から差し込む朝日に生身でない瞼を撫でられ、俺はハッとして飛び起きた。
信じられないがいつの間にか眠っていたようだ。
即座にバイタル管理システムに身体をチェックさせる。
吊橋爆破前に受けたブリーフィングで説明された、感染体の発熱症状に近い数値を検出した。
(´・_ゝ・`)「まだ変異はしていないようだ」
発熱以外に感染症状は無く、身体に変異兆候は見られなかった。
ほっと胸を撫で下ろすと、先に起きていたらしいディートリッヒが視界の外から声を掛けた。
(#゚;;-゚)「おはよう」
(;´・_ゝ・`)「ディートリッヒ……」
一晩明けて見るディートリッヒの変わり果てた姿を見て、俺は言葉を失った。
人工皮膚に覆われていたはずのディートリッヒの体の殆どが、
爬虫類を思わせる鱗肌に変わっていた。
ベッドの傍らには彼女がむしり取ったと見える血に滲んだ皮が積まれていた。
(#゚;;-゚)「どんどんこうなって……あ、でもこれ、ちょっと可愛いでしょ?」
そう言って見せたのは爬虫類の細く長い尻尾だった。
何と言っていいのか彼女を分からなかったのだろう。
ジョークのつもりで尻尾を振るって見せたらしいが、全く笑えなかった。
ただただショックで茫然とする俺の手を握り、ディートリッヒが続けた。
(#゚;;-゚)「本当に何とかなったでしょ」
(;´・_ゝ・`)「声が震えているぞお前」
(#゚;;-゚)「だって、恐ろしい。変わり果てた私を貴方が受け入れてくれるかどうか」
(;´・_ゝ・`)「ディートリッヒ……」
274
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/10/20(土) 22:25:00 ID:usxIxt9U0
そんな問いにどう応えるかなど簡単だった。
考える間もなく俺は彼女の手を握り直して言った。
(´・_ゝ・`)「どんな姿になっても、この先どんな困難があろうとも、
俺はお前と共に生きていくよ」
ディートリッヒは笑顔で頷いた後、俺の胸の中に頭を沈めた。
人工のそれから生え変わった新しい柔らかい髪が俺の鼻を擽った。
同時にこの階に人ならざる者の気配が現れたのをセンサーを介して感じた。
(;´・_ゝ・`)「セカンド」
(#゚;;-゚)「私が先導する。傷を負っても再生するだろうから」
ディートリッヒが鱗に覆われた手で銃器を掴み取る様を見て、
俺も早くディートリッヒのように変異したいなどと思った。
ディートリッヒが音を立てずドアを開け、通路の奥に立っていた“それ”に銃口を向ける。
“それ”は人に酷似した生体を持つもゼラチン質の多足と尾を持つ異形だった。
緑がかった半透明の尾の中には赤い光を持つ球体があり、否応なく目を奪われる存在感を放っていた。
275
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/10/20(土) 22:26:53 ID:usxIxt9U0
ディートリッヒと共に即座にレーザー銃のトリガーを絞った。
細い銃口から分厚い光線が生まれそいつの頭部に襲い掛かるが、首をいなして躱された。
《食べナキャ、もっと。わたシね、人ニナルの》
ミキサーにかけて固めたような気味の悪い面を歪ませてそいつは言葉を発した。
笑みを浮かべたつもりだったろうか。一生涯忘れる事の出来ない恐ろしい顔だった。
知恵はおろか人間らしい感情すら得た異形は、傍にいるだけで俺から生気を奪うような恐ろしさを秘めていた。
そいつは数十本とある足を動かしてこちらに急速に近づいてきた。
俺はその瞬間殺されると予感し固まった。
(;´・_ゝ・`)「え―――――」
茫然としていた俺にディートリッヒが強烈な蹴りを腹部に叩き込み、
その勢いのまま俺は窓を割って地上へと放り出されたのだ。
(;# ;;- )「逃げてデミタス!」
276
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/10/20(土) 22:28:08 ID:usxIxt9U0
(;´・_ゝ・`)「ディ! ディートリッヒ!!」
地面へ叩きつけられた俺は上空の部屋を見上げ叫んだ。
返ってきたのはレーザー銃独特の銃声だ。
何度も空を響かせた後、部屋の窓から聞いた事の無いディートリッヒの甲高い叫び声が飛び出した。
それからばきばきと骨が折れるような音をセンサーが拾った。
折れたのはディートリッヒの骨格ではなく、感染体のものだと分かったのは、
ディートリッヒの生首を丸呑みする為に外して大きく広げた口を見てだった。
ごりごりという音をセンサーが拾う。
歪に細めた目でこちらを見ながらディートリッヒの首を喰うそいつを望遠機能が捉えた。
次はお前だと言わんばかりの、獲物を狙う目が俺を見ていた。
(;´・_ゝ・`)「あ、あ、あああ」
恐ろしさの余り俺はその場から逃げてしまった。
ディートリッヒの仇を取ろうとか、そんな考えは奴を前にして浮かべる事は出来なかった。
きっと生物的な生存本能と恐怖のままに足を動かしたのだと思う。
気づけば俺は、大西洋に面した港に錨を下ろすタンカーの甲板に倒れ込んでいた。
何処か遠くへと行きたかったのだろうか。
277
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/10/20(土) 22:28:31 ID:usxIxt9U0
ゆらゆらと揺れる船の上、俺はがたがたと震えていた。
機械の眼に涙を流す事は許されなかったが、
脳に残された人間らしさを司る部分が恐怖と絶望を俺に与え続けた。
「ディートリッヒ、ディ……」
首に掛けたロケットを開けてディートリッヒの写真を見る。
今朝、誓いを立てた俺に見せてくれたのと変わらぬ笑顔だ。
たまらず彼女に会いたくなった俺は、太もものホルダーに掛かる銃に手を伸ばした。
口を開き、細い銃口を口内にしっかりと突っ込む。
僅かに角度を付け、間違いなく脳幹を焼き尽くすように調整する。
「うう」
トリガーに指を掛け絞ろうとした時、
記録からか記憶からか定かではないがディートリッヒの声が再生された。
絶対に諦めたりしないでという、その時の俺には残酷すぎる言葉が。
「くそ! くそったれえ!!」
銃を投げ捨て、甲板の頑丈な床をひたすら殴りつけた。
自分の非力さと残酷なまでに非情な世界を呪いたかった。
そう、なんと非力な事か。
殺し合いの為に作り出されたこの機械の体の、なんと非力な事なのだろうか。
大切な女一人守れぬどころか逃げ出した自分の矮小さが憎かった。
「あいつを殺す、それまで死ねるか」
力が欲しいと願うと、異音を立てて俺の体は変異していった。
頭部から除去されたはずの骨成分が新たに生まれ角を作り出し、人口頭蓋を突き破って外に出た。
それを合図に全身の血肉が躍り出し、非力と呪った体を作り替えていった。
278
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/10/20(土) 22:30:36 ID:usxIxt9U0
《生きてやる。そしていつか必ずあいつを殺してやる》
ディートリッヒを失ってから、俺が感染体のまま自我を保ち始めてから、1年が経った。
寒い冬の季節が再び廻り、街は容赦ない吹雪に見舞われていた。
遠い『セントラル』の事を思う。彼らは穴倉でしっかり暖を取れているのだろうか。
俺は『セントラル』から遠ざかっていた。
この姿で人に会うのは恐ろしかったからだ。
万が一『セントラル』の人間に出くわせばどうなっただろうか。
容赦なく銃で撃たれるか、それとも研究対象として捕らわれるか、なんにせよ受け入れられる事はないだろうと考えた。
孤独は辛くは無かった。
当然ディートリッヒを失った喪失感はある。
あの場から逃げ出した罪悪感も一生ついて回る。
誰かに理解されたいなどという想いは無かったし、打ち明ける事もないと思っていた。
少なくともデトロイトに辿り着くまではそうだった。
(´・_ゝ・`)「ようやく着いた」
俺は互換性のある生体部品を求めてミシガン州に向かっていた。
1年という時の経過で、転化後も戦闘に必要不可欠なプロセッサの幾つか欠損していた。
部品を求めデトロイト州を目指していただけだったが、獰猛で狡猾な化物を狩りながら進むのは途方もなく長く感じた
279
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/10/20(土) 22:32:52 ID:usxIxt9U0
デトロイトは自動車産業で有名だったか、30年代終わりにはアンドロイドの産地として名を世界に轟かせていた。
アンドロイドにより破綻した経済は回復したが、人に代わって活躍するアンドロイドは失業率を更に高めた。
それも宗教戦争の火を煽る原因の一つだっただろうか。
あの時代、軍用サイボーグの俺が飯に困る事は無かった。
案の定、ここに感染体の気配は無かった。
元々自動車産業で鳴らしていた頃よりデトロイト市は空洞化しており、
アンドロイドの登場が街に止めを刺したのは本当なのだと体感した。
俺はベル島に聳える尖塔、サイバーライフ社の本社を目印に街を進んだ。
ウィルス騒動の直前まで時価総額が1兆ドルに成長したという企業の本社だ。
アンドロイド産業で培ったナレッジをサイボーグ技術に転用し、業界進出したのは有名だ。
俺の体に使われているパーツの幾つかも同社によるものだ。
その手前には広大なデトロイト川がある。
生物の気配を失った川が寒々とした風にあたり震えているのを横目に、
開発途中のままの高層ビルが並ぶ大都市を歩き続けた。
世界中の投資家からの金の殆どはベル島に立つ巨大な塔に送られていたようだ。
道中、主人に見捨てられ、立ち尽くしたまま凍り付いたアンドロイドなどを見かけた。
彼らは健気に主人の命令を待っていたのだろうか?
聴覚プロセッサの調子が悪かった俺は、機能停止したアンドロイドの頭部を開いて中身を調べたりした。
街中にお目当ての品は無かったが、少なくともここは機械にとって宝庫と呼べる場所だったと感じた。
(´・_ゝ・`)「見捨てられた街だな」
寂れたこの街を俺は気に入った。
ずっと前から人に見捨てられ、餌を求める感染体すら寄り付かない何もない街。
残されたのは機械が生み出し続けた機械だけ。
変化した世界にすら見捨てられた街に、俺は同情を禁じ得なかったのだ。
280
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/10/20(土) 22:33:17 ID:usxIxt9U0
デトロイトに入って2週間が経過した。
巨大廃墟ビルや廃屋、廃倉庫、廃工場を巡るのは飽きが来なかった。
目当ての品も簡単に見つかったし、工場に予備電源があったおかげで自己修復もする事ができた。
しかし、アンドロイドが機械を作るこの街には食料を探すのは困難であった。
保存されていた人間用の液体化食料も少なく、この世界における俺の獲物となる生物は影すら見せやしない。
とはいえこの街から出る気にもならなかった。
恐ろしかったのだと思う。
理性の無い獰猛な生物が闊歩する外の世界は過酷で非情だ。
遠く離れた穴倉に住まう人々もきっと同じような気持ちなのだろう。
穴倉は快適なんだろうか。
(´・_ゝ・`)「誰か」
(;´・_ゝ・`)「誰か! いないのか! 誰か! なあ!?
誰でもいい! 返事をしてくれよ!」
ふと人が恋しくなり、俺は寒々とした狭い空に叫び声を上げた。
木霊す事もなく雪の中に消える自分の声がなんとも虚しく感じ、
俺は降り積もった雪の中にどさりと寝転んでひたすら笑い声を上げた。
281
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/10/20(土) 22:36:03 ID:usxIxt9U0
中東で戦争の悲惨さを目の当たりにしても心は病まなかったというのに、
どうやら孤独というのものに耐えきれない弱い人間なんだという事をようやく思い知ったのだ。
ディートリッヒがこんな俺を見たらきっと張り手を食らわすだろう。
(´・_ゝ・`)「ディ」
久しぶりに銃を手に握り、トリガーに指を掛けた。
彼女に会いたくてたまらなかった。
原動力であった復讐心すら雪の中に溶けて消えてしまったらしい。
(´・_ゝ・`)「……諦めないで、か」
それでも引き金を引かなかったのは、胸に残り続けるディートリッヒへの罪意識がそうさせたのだろう。
自分に向けていた銃口をそっと下ろし、吹雪く景色に再び視線を向けた。
(;´・_ゝ・`)「ッ!?」
するとそこには複数の人影があった。
アンドロイドだろうと一瞬頭を考えが過ぎるが、ズーム機能を起動してシルエットを捉えると、
紛れもなくサイボーグと感染体と思われる者達が俺に銃口を向けて立っていたのだ。
俺は立ち上がり銃も構えず、そいつらに問うた。
(;´・_ゝ・`)「誰だ」
彼らは息を吐いて銃口を下ろした。
282
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/10/20(土) 22:38:36 ID:usxIxt9U0
('e') 「アンタと同じだ。俺達も見捨てられた者達さ」
サイボーグの片鱗を残す感染者が被ったカウボーイハットのツバを上げ、
機械の目を穏やかな形に変えてから続けた。
('e') 「俺はセントジョーンズ・リンカーン。
ここの感染者向けのコミュニティのリーダーだ。アンタは?」
(;´・_ゝ・`)「お、俺は、」
(;´・_ゝ・`)「デミタス、デミタス・リーダス……」
これが彼等との出会いだった。
俺は忘れていた孤独感と相反する感情と、、
ディートリッヒも一緒に連れてきてやりたかったという悔しさの両方に叩き潰された。
しばらく嗚咽を漏らしながら場から動けなかった俺を、彼等はそっと見守ってくれていた。
283
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/10/20(土) 22:39:29 ID:usxIxt9U0
それから俺はセントジョーンズのコミュニティに身を寄せる事になった。
どうやらこの辺りの食糧難の事情は彼等の仕業らしく、全て彼等が確保していたらしい。
まだ漁っていない目ぼしい保管場所で俺の痕跡があった事に気づいた彼等は、
俺のみっともない叫び声を耳にしてようやく発見出来たという話だった。
('e')「ほら」
(´・_ゝ・`)「コーヒー……久しぶりだ」
嗜好品もあった。
我々機械仕掛けの人間がたかがコーヒーメーカーに文明を思い出させてくれたのは妙な話であるが、
久しく胃に熱さを感じられたのは何とも感動的なものであった。
いや、同じ感染者というだけで俺を受け入れてくれた彼等こそ、文明の復活だとも考えられた。
彼等もまたデトロイトに目を付け、ここで生活を営もうと計画していたのだ。
「郊外には裕福層の街もある。化物がいるがまともな食料や薬品がまだ残っている。
俺達はデトロイト市を中心に怪しい場所を捜索するスカベンジャーさ」
(´・_ゝ・`)「スカベンジャー? それがコミュニティの名前か?」
('e')「いや、もっと皮肉を込めた。Fosakenって名前だよ」
(´・_ゝ・`)「見捨てられた者達か……気に入った」
284
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/10/20(土) 22:41:00 ID:usxIxt9U0
Forsakenは小規模のグループで、男は俺を含めて5人、女が2人。
男がセントジョーンズ、アルタイム、ファルロ、ディク。
女はミセリ、ダイオード、という名だった。
感染者がこれだけ集まっただけのは奇跡というべきなのか、世界中でこんな感じなのかは分からない。
その内戦闘用サイボーグだった者は俺とセントジョーンズのみで、
他はウィルス感染して力を得た者だった。
誰も彼もが俺と似たような境遇の持ち主で、話せば長くなる生き別れの物語を持っていた。
とはいえ俺達には時間が有り余っていて、日が落ちれば火を囲い、
各々の思い出話に耽るそんな夜が毎日続いたのだ。
(´・_ゝ・`)「それから部品を探してここを目指して来たんだが、
ふと、忘れていた孤独感に襲われて……みっともなかったな、俺は」
ミセ*゚ー゚)リ「そんな事ないよデミタス。ここの皆が貴方と同じだもん」
(´・_ゝ・`)「そうか……ありがとう、ミセリ」
ディートリッヒとの死別を語ると皆が俺の肩を抱いて慰めてくれた。
機械の目を持たぬミセリ・グリーンはうっすらと涙を溜めて何度も頷いてくれた。
見捨てられた者達が寄り添うこのコミュニティが、すぐに俺にとっても新しい家族となったのだ。
('e')「さて、明日も早い。明日からお前も早速仕事だ」
285
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/10/20(土) 22:43:28 ID:usxIxt9U0
(´・_ゝ・`)「仕事?」
('e')「食料の確保と、それから太陽光や風力を使った電源の整備だ。
このデトロイトに文明を残してみたいと思ってな。
どうだ? わくわくしないか?」
サイボーグのセントジョーンズが屈託のない笑顔を作り語った。
非サイボーグの女達であるミセリ・グリーンとダイオード・チャンドラーも同じ顔をしていた。
(´・_ゝ・`)「そうだな……時間は無限にあるしな」
ここを否定したり去る理由は無かった俺は、
その日の夜に彼等と同じForsakenというタトゥーを肌に入れてもらったのだった。
('e')「これでお前も仲間だ」
(´・_ゝ・`)「出会えた事を感謝するよ」
('e')「神に?」
(´・_ゝ・`)「いや。メモリーの中で生き続ける俺の家族に、だな」
286
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/10/20(土) 22:44:07 ID:usxIxt9U0
それからは毎日忙しかった。
セントジョーンズ・リーダスは素晴らしいリーダーで、
コミュニティの皆それぞれに役割と責任を与える事で日々を意味あるものにした。
居住スペースの復興作業を通して確かに前進しているという実感を感じられた。
俺の次に日が浅いミセリ・グリーンはデトロイトにはドラッグを求めてやってきたと言う。
辛い過去から逃げたかったが自殺する程の勇気は無かったらしい。
俺と同じように街を漁っていたところをセントジョーンズが発見し、今に至る。
尤も薬物が俺達に有効なのかは定かではない。
少なくともアルコール類の効き目は感じられないが。
ただし、腹は人間の頃と同じ感覚で減る。
俺やセントジョーンズは元々サイボーグであった事実を忘れる程、
以前の生身であった頃のように食料を求めて止まなくなった。
セカンド共が獰猛な食欲を発揮するのも何となく頷けた。
俺達はどんな生物だろうが喰えたのだが食料にはこだわった。
まともな食事を続ける事こそ文明的と言えるからだ。
少しデトロイトから離れた都市へ行けば肉を狩れるが、それは最悪の場合の手段だった。
俺達はデトロイトからそう離れない範囲で食料を探して凌いでいた。
('e')「ミセリ、ダイオード、アルタイム、ファルロ。今日はお前らが食料を探してきてくれ」
ミセ*゚ー゚)リ「オッケー」
287
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/10/20(土) 22:45:42 ID:usxIxt9U0
(`・ι・´)「今日は偵察も兼ねてウィンザーの方に行ってみよう」
晴れた夏のある日、俺が加入して3年半経った頃だ。
スコット・アルタイムがベル島南の地域ウィンザーの偵察を持ちかけたのだ。
その提案を長年の相棒であるファルロ・コーハンもセントジョーンズも賛成し、
誰も反対する者はいなかった。
周辺の食料は取りつくしたように思えたし、安全の確認も必要だった。
('e')「安全第一でな。デカイ空港もある、エサになった人間は多かっただろう。
夕暮れまでには必ず帰ってこい」
( ̄⊥ ̄)「分かってる。無茶はしないさ」
('e')「他の皆は農場だ。楽しみだなデミタス」
(´・_ゝ・`)「ああ、そろそろ収穫だ。皆、行こう」
俺がコミュニティに入って1年が経過する頃、俺は菜園に挑戦していた。
アイオワの実家で農業を営んでいた為、幾らか農業に知識があった。
元々は都市型農業が盛んな都市だった事を思い出し、ノース・エンド地区に広がる
ファームウェイ――都市型菜園――を利用し野菜の栽培も試してみると、これがうまくいった。
俺達の食糧難を幾らか改善できるという程度だったが、この作業には皆が積極的だった。
時間を掛けて何かを生み出すという行為に大きな意味があった。
288
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/10/20(土) 22:49:30 ID:usxIxt9U0
枕を置くベル島の巨塔、その屋上から調達隊4人が飛んでいく。
その後ろ姿を見送り、ふと遠く離れたマンハッタンの方角を見つめていると、
それに気づいたセントジョーンズが俺に紙切れを見せて言ったきたのだ。
('e')「昨日見つけて、お前にも見せてやろうと思って取っといたんだ」
それはシェルターになる前の『セントラル』のパンフレットだった。
世界最大のギャンブリング・リゾートという謳い文句が書かれている。
('e')「あっちはどうなっているんだろうな」
(´・_ゝ・`)「空の上に住んだ火星人と同じさ。きっと地上の事なんて忘れている」
火星人向けのカジノスポットが今や人類最期の砦であるのは皮肉を感じ、
同時にセントラルに辿り着けなかった事を思い出すと、
自然と浮かび上がるのは愛するディートリッヒと過ごした最期の朝の事だ。
過去を背負い生きていかなければならないのはセントラルも我々も同じのような気がした。
('e')「その方がいい。俺達だってそう立場は変わらない。
デトロイトを一歩出ればそこは過酷な世界だ」
セントジョーンズの言う通り、残酷で無慈悲な世界だ。
俺がたった一人で生き延びてデトロイトに辿り着いたのは奇跡と言えたし、
“それまで”脅威という脅威に遭遇しなかったのも幸運としか言えなかった。
289
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/10/20(土) 22:49:53 ID:usxIxt9U0
ここは地上の楽園とも呼べる場所だった。
大型種がきまぐれで通りかかる事を除き全てが完璧だった。
だからか、俺達には危機意識というものが薄れていたのかもしれない。
他に生き残った者や、進化し心を歪ませた者の存在など、
まさに夢にも思っていなかったのだ。
('e')「二人とも、どう思う。アルタイム達を探しに行くべきだろうか」
セントジョーンズが、俺とディクが考えているのと同じ事を尋ねた。
食料調達と偵察に出たミセリ達の帰りが遅かったのだ。
セントジョーンズは捜索に出るべきかどうか意思決定できずにいた。
(;d・i・c)「あまりに、遅いな」
採れたてのトマトやキューカンバーがあるというのに。
そんな悠長な冗談も日の沈みにつれて消えていった。
皆が耳やセンサーに意識を向けて調達隊の帰還を待っていたが、
聞こえるのは北風の抜ける音か冷静沈着なはずのセントジョーンズが鳴らす踵の音だけであった。
290
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/10/20(土) 22:53:44 ID:usxIxt9U0
探しに向かうにしろ彼等の手掛かりは南はウィンザーの辺り、という情報しか無かった。
こんな時の為のルールがForsakenにはなく、どうすべきか答えが出ないまま刻々と日は暮れて言った。
すると堰を切らしたようにセントジョーンズは言葉を発した。
(;'e')「待とう。夜間に街を行動するのは危険すぎる。
恐らくミセリ達もトラブルがあって帰還できない。
もしかしたら何処かで身を隠して夜明けを待っているかもしれない」
セントジョーンズが同意を求めるように俺達を見た。
そうであって欲しいという都合の良い願いだったとも言えたが、
帰還出来なかったのはアルタイム達のミスである。
俺がセントジョーンズの不安一色の顔にしっかりと頷いてやったその時である。
(;d・i・c)「うお!?」
俺達が腰を下ろす屋上に、感染体とサイボーグ擬きの耳にもとらえ切れない速さで、
上空から何かが飛来してきたのだ。
夕日を受けて赤く染まった塊がコンクリの地面に衝突すると潰れ、
ジャム状のものが鉄の臭いと共に一気に広がったのだ。
俺達は一瞬にしてそれが何であるか理解し、それから遠ざかった。
(@,⊥o,.:::
(;'e')「ファルロ……? 何故、こんな、どうして……!?」
潰れて飛散した頭部にファルロの特徴的な髭を持つ口元が残っていた。
それから涙と血に濡れたのが分かるブルーの瞳を持つ目玉が俺を見つめていたのだった。
291
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/10/20(土) 22:54:36 ID:usxIxt9U0
(;d・i・c)「なんだ、あいつら……」
ディクがそう言うと同時に俺の対物感知センサーも反応し、
血の中に沈むファルロの目玉から視線を上空へと向けると、
妙に赤く燃える空をバックに羽を持つ異形達が広がっていたのだ。
異形達の全てが胸や腕に「HDAQ」の4文字を刺繍するか彫っていた。
中には旗にして掲げている者もいる。
しかしファッション以上に乱れなく統率された連隊の一体感で、
その異形の群れが俺達と同じ感染体であるとすぐに理解できた。
そして遅れて遠くからビルが倒壊する破砕音を伴い、
生物と呼ぶには余りにも大きすぎる感染体がこちらに接近していた。
巨大鮫の頭部を割って両肩に装飾しているその感染体は、
両手に大勢の異形の子供を乗せてゆっくりと歩いていた。
他の異形達がそれを「クォッチ」と呼んで招いた。
俺は「クォッチ」を見て戦意を喪失し死を覚悟した。
軍隊そのものだった。
俺達はその規模で放たれる明らかな敵意に圧倒されて震えていると、
まるでそれを嘲笑うかのような間の抜けた音階の口笛が聞こえて来たのだ。
すると群れが真っ二つに割れて離れ、全身を上等なレザーに包んだ男――アノンの姿と、
銃器を頭に突きつけられ捕らわれているアルタイム、ミセリ、ダイオードの姿が現れた。
(;`・ι・´)「す、すまないセントジョーンズ、こいつらに見つかって、」
爪 ゚Ⅳ〉「おいおい、誰が話していいって言った?」
アルタイムが眼下にいる俺達に向かってそう言うと、
アノンはアルタイムの頬にルシールを擦り付けて口を閉ざさせた。
292
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/10/20(土) 22:56:34 ID:usxIxt9U0
アノンは紅く濡れたバットで肩を叩きつつ、
左手に持った拡声器を仮面の口元に運び、男の声を聞かせた。
爪 ゚Ⅳ〉《俺はただお前達と仲良くしたかったのだが》
爪 ゚Ⅳ〉《このアルタイムがビビって俺の仲間を5人も殺しちまってな。
だからそのファルロという男が死んだ》
そいつは右手に持ったバットを夕日に当て、血を赤く燃え上がらせて続けた。
爪 ゚Ⅳ〉《これはルシールだ。彼女は素晴らしいんだ》
爪 ゚Ⅳ〉《出来れば俺だってこんな事やりたくない。だがこのルシールは違ってな……。
俺のかわいこちゃんは喉が渇いているみたいでな、まだ血を呑み足りないらしい。
あと一人くらいで満足すると思うんだが……》
爪 ゚Ⅳ〉《おい、降りるぞ》
アノンが指示し、アルタイム、ミセリ、ダイオードと共に屋上に降りると、
異形達が手に持ったレーザー銃を突きつけ俺達全員をアノンと、
無残なファルロの首の前に並べて跪かせた。
ミセリ、ダイオードからは嗚咽する声が聞こえていた。
周囲は完全に包囲されていた。
粛清を完遂させんとする暗い気配は徐々に陰りを見せる空模様と共に強まっていったように思われた。
(;'e')「と、取引だ! 取引がしたい!」
セントジョーンズはなりふり構わず言った。
293
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/10/20(土) 22:56:59 ID:usxIxt9U0
爪 ゚Ⅳ〉「取引?」
(;'e')「な、なんだって言う事を聞く! だからこれ以上仲間を殺さないでくれ!」
俺も同感で、セントジョーンズがそう言わなければ同じ事を言っていただろう。
俺達がそう懇願すると、アノンは深く溜息を吐いてから返した。
爪 ゚Ⅳ〉「慈悲深い俺はお前達を迎え入れて仲間にしてやりたいと思っていてな。
でもなセントジョーンズ。ぶっ壊れたこの世界にもルールってもんがないとダメだ。
だからこういう悲劇が起きちまう。そう思わないか?」
爪 ゚Ⅳ〉「アルタイムが子供を殺していれば虐殺していたが、そうじゃなかったから労働力にする。
人間の労働力と知恵は貴重だ。だからあと一人にしてやる。
あと一人だ。このルシールの素晴らしさをもってルールの尊さを知ってもらおう」
爪 ゚Ⅳ〉「さて……お前ら、いくら命乞いしてくれても構わない。
アルタイム以外の誰かだ。誰がいいか……な、と」
(;゚e゚)「ま、待て! 待ってくれ! 頼む! たの―――」
爪 ゚Ⅳ〉「Good Night」
セントジョーンズの声は、ディクの顔が殴られた音で掻き消された。
294
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/10/20(土) 22:58:36 ID:usxIxt9U0
(d゚i@:;.,「う、ゔー、セン、ト、じょーんズ、」
頭部を割られた頭は半分崩れ脳漿を黒い体液と共に流していた。
感染体であった彼女は死なず、金切り声を上げながら地面を這いずった。
アノンから遠ざかろうとしたディクに、今度は両足と両手にバットが振り下ろされた。
手足を微塵にされたディクはぐねぐねと虫のように蠢いていた。
(d゚i@:;.,「だす、け、たすげ、でえ」
未だディクは生きており、俺達に助けを求めていた。
それを聞きアノンは一度ルシールを俺達に向けて言った。
爪 ゚Ⅳ〉「いいかお前達、動くなよ。
もう一人こうなっちゃうのは嫌だろ? 俺だって嫌なんだから、な!」
アノンが的確にディクの顎を叩き割った。
下顎が弾けて舌や歯を血と共に俺達の前に散らばると、
隣にいたダイオードが恐怖の限界を迎えて失禁した。
(d゚@@:;.,「あ、が、ぎい、ぐ」
未だディクは生きていた。
全身に巣食うウィルスが強制的に生かしていたというべきか。
しかし、まともな食事を続けていた俺達の再生能力は弱く、
ディクの傷は塞がることなく血を流し続けていた。
295
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/10/20(土) 23:00:11 ID:usxIxt9U0
ディクの肉体が呼吸以外の動作を失うのを見届けて、
アノンは拡声器を持って群れに指示を出した。
爪 ゚Ⅳ〉《柱持ってこい、こいつをここに吊るすぞ》
(; e )「これ以上、何をするつもりだ……?」
セントジョーンズは恐る恐る聞いた。
アノンが仮面の隙間から輝かせる目を確かに曲げて答えた。
爪 ゚Ⅳ〉「ここに俺とお前達の為のモニュメントになるのさ。二度と繰り返すなかれ、とな」
「お前達はディクに、そして俺に誓うんだ。
ルールを遵守しハングドランクの為に供給し続ける事をな」
その日からベル島に聳える巨塔の頂上には、無残に変わり果てたディクが柱に吊るされた。
心臓と肺以外の臓器が引きずり出されても尚、彼は生きていた。
しばらく彼は絶命する事を求めていたが、アノンは勝手に彼を殺す事を固く禁じた。
彼の足元に掛かれたハングドランクのシンボルは、ファルロの頭を絞って書かれた血文字によるものだ。
296
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/10/20(土) 23:01:57 ID:usxIxt9U0
―――俺がデトロイトから逃げ出した夜も、彼の弱弱しい息遣いを聞いた。
未だ彼は生きていて、デトロイトの街並みを見ているんだろうか。
あの晩、皆で採って来た野菜を食べるのを楽しみにしていた。
ミセリ達が帰ってから食べようと彼は言って待っていた。
6年経った今もなお、彼は未だ俺達の帰りを待っているのだろうか。
それとも、誰かに殺されるのを待っているのだろうか。
逃げ出した夜、俺はディクの心臓を止めてやるべきだったのだろうか。
俺はディクを見捨てたのだろうか?
更にクソになった世界で6年経っても、この世界での生き方が分からない。
この地上で何が悪く何が正しいのか。
いくら自問自答を繰り返しても答えが分からなかった。
だが、今、俺の目の前にいるジョルジュは真っ直ぐな男だ。
俺とディすら見捨てたりしない誠実な男のように見える。
(´・_ゝ・`)「何があっても、ディートリッヒ、お前は俺が守る……必ず」
第42話「LOG Forsaken」終
297
:
名無しさん
:2018/10/20(土) 23:02:07 ID:W/jdyluc0
>>294
感染体であった彼女は死なず、金切り声を上げながら地面を這いずった。
>>295
心臓と肺以外の臓器が引きずり出されても尚、彼は生きていた。
しばらく彼は絶命する事を求めていたが、アノンは勝手に彼を殺す事を固く禁じた。
ディクは男?女?
298
:
名無しさん
:2018/10/20(土) 23:02:34 ID:W/jdyluc0
あ、おつです!
299
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/10/20(土) 23:04:31 ID:usxIxt9U0
今回は以上です。ありがとうございました。
次は11月予定です。
今回のように月半ばを超えそうな場合はここにご報告します。
300
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/10/20(土) 23:06:17 ID:usxIxt9U0
>>297
ありがとうございます。
彼の間違いです。男です。まとめで修正します。
301
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/10/20(土) 23:17:58 ID:usxIxt9U0
>>239
アノンの元ネタはウォーキングデッドのニーガンですね
ここまでパロったりパクったりしたもの
ストリートファイター(ガイル春麗ダルシムベガ本田ナッシュ
くそみそテクニック(阿部さん
マリオ(でっていう
メタルギアソリッド(スネーク
ウォーキングデッド(アノン
デトロイトビカムヒューマン(デトロイトのアンドロイド産業
あとなんかあったっけ
302
:
名無しさん
:2018/10/21(日) 12:16:45 ID:HKW2T0YA0
乙乙
303
:
名無しさん
:2018/10/22(月) 16:25:16 ID:ifwO9ZEk0
乙
304
:
名無しさん
:2018/10/22(月) 16:54:09 ID:2Vi...QQ0
乙乙
先が気になるな
305
:
名無しさん
:2018/10/26(金) 12:11:39 ID:HYaOwEn.0
きてたー乙!!
ブーンがどうなるのか続き楽しみにしてます
あ、セントジョーンズとデミタス名前ごっちゃになってるような
306
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 06:49:03 ID:HiFC.xiE0
乙乙
>>301
やっぱりかw
ニーガン大好きだからアノンの喋り方や雰囲気が容易に脳内再生出来て読んでて楽しい
307
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 03:15:54 ID:BBbArwtY0
ィ'ト―-イ、
以`゚益゚以 待たせたな・・・!
,ノ ヽ、_,,,
/´`''" '"´``Y'""``'j ヽ
{ ,ノ' i| ,. ,、 ,,|,,. 、_/´ ,-,,.;;l
'、 ヾ ,`''-‐‐'''" ̄_{ ,ノi,、;;;ノ 〜〜前回のあらすじ〜〜
ヽ、, ,.- ,.,'/`''`,,_ ,,/ 詳しくはまとめをご覧ください
`''ゞ-‐'" `'ヽ、,,、,、,,r'
,ノ ヾ ,, ''";l
308
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 03:17:17 ID:BBbArwtY0
――― チーム・ディレイク ―――
( ^ω^)B00N-D1:通称ブーン。本名:ホライゾン・ナイトウ。年齢20歳。
サイボーグ「システム・ディレイク」。強力な抗ウィルス細胞を持つ。
↑↓ Awakerの集団ハングドランクとの戦闘の末、捕らわれる。
ィ'ト―-イ、
以`゚益゚以 アーマーシステム:BLACK DOGⅡが変形しブーンの強化外骨格と化す機能。
その戦闘能力の高さ故にブーンにもダメージを与える。
ξ゚⊿゚)ξツン・ディレイク:年齢19歳。
ブーンを強化人間に改造した天才。ブーンとは幼馴染。
ブーンが捕らえられたと聞いて気を失った模様。
ノパ⊿゚)ヒート・ダイム・バックダレル:年齢26歳。
レッドヘアー・リーパーの二つ名を持つサイボーグ。
低コストをテーマとしたシステム・ディレイクへバージョンアップ後、
ブーン奪還作戦へ投入される。本作戦では狙撃手を担当する。
309
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 03:19:28 ID:BBbArwtY0
――― チーム・アルドリッチ ―――
从 ゚∀从ハインリッヒ・アルドリッチ:年齢23歳。チームリーダー。
対セカンド人型戦闘兵器「バトルスーツ」の開発者である。
ブーン奪還作戦には後方支援で参加。
ミ,, ゚∀゚シジョルジュ・ジグラード:年齢35歳。感染者。
バトルスーツ隊隊長だったが、セカンドウィルス感染後、自我を持つ異形と化す。
捕らわれたブーンを奪還する為ハングドランクに立ち向かう。
ガイル:年齢33歳。戦闘員パイロット。
バトルスーツ隊現隊長。
万一の作戦失敗に備えOSM SUITE部隊と防御網を張る。
310
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 03:20:40 ID:BBbArwtY0
――― ハングドランク ―――
爪 ゚Ⅳ〉アノン:年齢不明。男。
自我を持つ感染者Awakerのコミュニティ「ハングドランク」のリーダー。
セントラルを接収したいと考え、ブーンを人質に取る。
ブーンの実父ロマネスクの顔と声を持つが、形成された人格は凶悪かつ狡猾。
(´・_ゝ・`) デミタス・リーダス:年齢不明。男。
元はサイボーグ。ディと共に「ハングドランク」から逃亡し追われている。
ジョルジュと共に戦う事を決意。
(#゚;;-゚)ディ:年齢不明。女。
デミタスと共に逃亡中のAwaker。子供のような話し方をする。
デミタスの恋人ディートリッヒ・ウェインズを喰らい、その顔と声を得たようだ。
/ ゚、。/ダイオード・チャンドラー:年齢不明。女。
元々はコミュニティForsakenに属していた。
今現在はアノンの傍らに置かれ、信望心を抱いている様子。
('e')セントジョーンズ・リンカーン:年齢不明。男
Forsakenのリーダーだった男だが、今はアノンに従属している。
ミセ*゚ー゚)リミセリ・グリーン:年齢不明。女。
元Forsakenに属していた感染者。
セントジョーンズらを従属させるための人質になっている模様。
311
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 03:22:37 ID:BBbArwtY0
この世界で生きられるほど自分は成長していなかったと突きつけられた夜だった。
6年という時の経過は人を大きく変えるに十分な時間だと思えたが、
変わったのはせいぜい生身から機械へと肉体が替わった事くらいだったらしい。
誰よりも上手く街で狩りを出来る事は間違いないが、
悪意が色濃く残るこの世界で生きていくには、その覚悟がまるで足りていなかったのだ。
この心は機械ではないのだ。
あらゆる可能性を模索するのは己自身であって彼女の造り上げたシステムではない。
人格のある感染者の存在は稀なケースだと勝手に決めたのは自分自身だ。
変わり果てたこの世界で生きるシミュレーションをする時間は大いにあった。
大切なものを守る上で何が正しく、何が悪なのか、見極められたはずだ。
過ちと向き合って前に行けたと思っていたがそうではなく、
戒めたはずの弱さを忘れて置き去りにしていっただけだった。
だから剣を振り下ろせなかった。
だから我が家に影が忍び寄ってしまった。
312
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 03:24:12 ID:BBbArwtY0
我武者羅に生きていればこの手で守れたはずのものがあると、
かつて彼に言い放った言葉が自分のもとに返り、深く突き刺さった。
その覚悟が足らなかった自分の前に彼女のゴーストが現れて剣を止め、
仮面の下に存在した皮肉な運命が容赦なく心を握りつぶした。
「もう、いやだ、こんな世界。もう、殺してくれ」
それでも、そう呟いた時でも。
あの人がくれた黒いバンダナは、見捨てずに額にしがみ付いてくれていた。
.
313
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 03:25:46 ID:BBbArwtY0
※
地上に蔓延るように存在していた人間が激減し、かつての環境問題の殆どは回復しつつある。
太陽が地を焼く事も海がアラスカを喰らう事も止まり、大都市では高層の建造物を幹に蔦を這わせ、
ある意味でコンクリートジャングルを文字通り体現したような光景が、
少なくともアメリカ東海岸部の多くでは見られる。
花々の種子も季節を迎えれば地上に芽生えるはずだ。
しかし地上で新たに生まれる生命の多くは今や冬に眠るという事を必要とせず、
鋭利な牙を子宮の内から突き破り、母体を喰らいながら凶悪な産声を上げるであろう。
リ|* ヮ )| 「…………」
セリオットは視線を頭上の星々へと上げる。
星々がやけに輝かしく見えるのは、正常化され澄んだ空気の為か、
感染し変異した自分の瞳がそう見させているのかは分からなかった。
感染する前の世界がこうではなかったのは確かであった。
リ|*;ヮ;)| 「……うう……」
セリオットが気が紛れる感覚を覚えているのも束の間であった。
視線を戻せば、僅かに膨み始めた腹が嫌でも目に入るからだ。
割れたアスファルトの隙間から花々が咲く頃、腹から喰われて死ぬんだろうか。
日々膨らみつつある腹を見る度、ミセリはいつか見たセカンドの出産光景をしばしば脳裏で思い返していた。
314
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 03:26:27 ID:BBbArwtY0
腹に包丁を突き立てた事があるが、異常に発達した腹の皮が子の摘出を許さなかったし、
その現場を目撃した誰かがアノンに耳打ちし、以来、
セリオットには自殺と中絶の遂行を仲間の死とイコールされ、アノンに生かされている。
セリオットは別のコミュニティから連れられた女で、アノンの妻にあたる。
腹の子は、アノンの妻にされて間もなく出来た子であった。
ハングドランク内においても感染体同士で子を得るのは初めての事だ。
アノンの言う「子供達」とは、元々人間であった子供の感染者、
もしくはアノンのように人を喰らい人と化した者の成長途中にある存在の二つを指していた。
だからセリオットの間に出来た子はアノンにとっても特別だった。
アノンは、地上に残された文化や人間から父親というものを学び、セリオットには絶え間なく愛情を注いでいる。
セリオットを囲う部屋には上等な衣服、良質で安全な食料、花が常々並んでいる。
扉の前には屈強な女戦士が3人立ち、更に一人が常に侍女として付き添い、万全な体制が敷かれている。
「子供達の為と言うけど、アノンは貴方のお腹の子の為にセントラルを手に入れたいのよ」
セリオットは声の主である侍女には視線を向けず、その言葉の意味を考える。
恐らくは人の形状をした生命体が生まれるだろう事を、
恐ろしい想像とは裏腹にセリオットは予感していた。
となれば子供の産声や泣き声は獣を呼び寄せ、コミュニティに危険を及ばせるはずだ、と。
315
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 03:27:15 ID:BBbArwtY0
侍女が続ける。
「アノンは私達が考えている以上に人間らしい欲望、いえ、本質を得ている。
遺伝子がそうさせているのかも。
なんにせよ、アノンは貴方と子を命に代えても守りたいんでしょうね」
リ|* ヮ )| 「あいつは、この腹の子に興味があるだけよ。
私はただの生み親。あいつにそんな上等な感情があると思っているの?」
「……どうでしょうね」
リ|* ヮ )| 「あいつは、悪魔よ。自分は感染体の救世主だと言うけど、
人の皮を作って被った、恐ろしい悪魔なのよ」
セリオットが痛々しく拳に握りしめているのを見て、
侍女はセリオットの肩にそっと手を置いた。
リ|* ヮ )| 「私、感染者じゃなくても子供を得るなんて初めてだから、不安で……。
それになにより、いつか腹の子が私を喰い破って生まれるんじゃないかって」
「……大丈夫よ。貴方も、アノンも、人の形状を色濃く残した感染体だもの。
いや、気休めね、ごめんなさい」
リ|* ヮ )| 「いいの、いいのよ。うん、きっとそうよね」
316
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 03:27:39 ID:BBbArwtY0
リ|* ヮ )| 「ありがとう、ミセリ。命令とはいえ、いつも傍にいてくれて」
ミセ - )リ「そんな言い方は止してよ。気にしないで。私もそうしたいのよ」
ミセリは無意識にForsakenのタトゥーを刻んだ肩を掴んだ。
ミセ - )リ「そう、気にしないで」
セリオットを宥めるミセリの顔は終始張り付いたものだった。
ミセリにとってセリオットは間違いなく善人で、気の許せる友人同士だ。
アノンもそれを認めてミセリを大切な妻の傍らに置いている。
しかし、この友人がアノンとの子を授かってしまった以上、
ミセリにとってアノンを脅かすこれ以上無い人質になってしまったのだ。
この哀れな妊婦を見る度に、ミセリは復讐劇を幾度となく想像してしまうようになった。
死ぬのは、いや、柱に吊るされるのだけは嫌だ。
恋人でもあるセントジョーンズがデミタスを捕えなければ、
次にHDAQを描くのはミセリの血肉なのだ。
震えるセリオットから離れ、ミセリは窓辺に寄り思考を続ける。
奴等が離れた今こそチャンスなのではないか、と。
離れたセリオットに聞こえるのではないかと思うくらいに心臓が動き始めたのをミセリは感じる。
317
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 03:28:59 ID:BBbArwtY0
そこへ突如、星空の中で何かが光を伴って動いた。
確かに赤い色を持っていたようにミセリには見えた。
ミセリは獣の目を細めてその影を追おうとしたが、瞬く間に消え去った。
ミセ;゚ -゚)リ(今のはまさか、セントラルの……?)
己の暗く淀んだ願いを叶える流星のように、ミセリには思えた。
__
318
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 03:29:26 ID:BBbArwtY0
第43話「暗い穴の底で」
100を超える感染者達は死街を東の方向に歩き続ける。
四方、高所に見張りが立てられており、群れや大型の接近を警戒している。
今の所アノンらハングドランクの進軍は順調そのものであるが、
大都市ニューアークは耳の奥に痛みすら与えるような静けさに包まれている。
気配を殺しているのは他にもいる、という事だ。
アノンは部下の緊張した様相をせせら笑っている。
人為的な狩りが及んでいない大都市にセカンドがいないという事はまずあり得ない。
とすれば利口な獣共は息を殺して捕食の機会を伺っているのだろう。
アノンには心地よい緊張感だった。これぞ夜の街だ、と。
爪 ゚Ⅳ〉「セントジョーンズ、時間は?」
('e')「日付が変わるまではまだまだ、ってところだ」
カウボーイハットを被るセントジョーンズ。
かつてはサイボーグの保安官であったが、今や彼のロイヤリティはルールに向いている。
ルールを遵守する事こそが己と仲間、恋人が生きる道となっていた。
恋人のミセリを守るには、かつての親友であるデミタスを柱に送らねばならなかった。
セントジョーンズは己が担ぐ柱に吊るされたブーンを見る。
デミタスの痕跡を追ってここまでやってきたところで『セントラル』のブーンと出会った。
この男ならハングドランクを、と期待した。
だが、やはりアノンが全てに置いて上手だ。
すっかり心酔し一番の信者となり果てたダイオードがアノンの強さを語っている。
319
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 03:31:50 ID:BBbArwtY0
('e')(アノンは強い上、狡猾だ。夜襲を選んだのも理由がある)
感染者にとっても危険な夜の街を往くのには理由があった。
『セントラル』の防衛力を削ぐ事に期待が出来るからだ。
夜に機械の大部隊を出撃させる事は考えにくい。
周辺のセカンドを自ら呼び寄せる事に繋がりかねないと踏んだのだ。
現に、ブーンのバイクが去ってから数時間経つも川を挟む向こう側から大きな動きは感じられない。
しかしブーンが捕らわれたという情報は『セントラル』にも伝わっている事だろう。
少数精鋭での迎撃か、あるいはトラップでも仕掛けているか。
何かしらの準備はされているだろうと、感染者達は用心し暗闇に目を光らせる。
/ ゚、。;/「大都市なら姿を隠せる場所も多いし、待ち伏せするのは最適ね。
実際、私達もそうやってターゲットのコミュニティを襲ってきた」
爪 ゚Ⅳ〉「手荒なマネは避けたいんだがな。無駄だしよ。
それに未来の人材だからな……極力、殺したくはない」
爪 ゚Ⅳ〉「我慢だぞ、ルシール。俺のかわい子ちゃん」
軽く手のひらをルシールで叩いてアノンが呟いた。
この言葉に偽りはないと、傍のセントジョーンズとダイオードは思う。
アノンは正直で嘘を言う男ではない。
無用な殺しはしないと宣言すれば己が徹底し、そうして部下に遵守させる。
立場を変えて考えれば、『セントラル』が憂慮すべきはアノンに攻撃の機会を作らせない事だろう。
ひとたびアノンが優位に立てば、残虐性をルシールに転嫁して大いに暴れるはずだ。
320
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 03:32:44 ID:BBbArwtY0
ハングドランク往く都市ニューアークの破壊状況は凄まじいものだった。
かつて色鮮やかであったであろう建造物は総じて巨大な爪痕が残され、
刺々しく変貌した瓦礫は乾いた血に覆われているのが月明りだけの暗闇の中でも分かる。
道端には破裂した風船の如く腹の中身をぶちまけた死体が多数転がっており、
地上を生きる彼等ですら苦悶する程の死臭を漂わせていた。
爪 ゚Ⅳ〉「……へえ、これはこれは」
死臭は他の臭いを覆い隠す程に強烈だ。
しかし、その者は隠れる事をせず堂々と姿を現した。
羽を持つシルエットだが巨大なバイクに乗ってこちらに近づいてくる。
知能と理性を持つ“人間”だとハングドランクの全員に分かった。
その者はお互いから見て2cmほどの大きさにあたる距離まで近づくと、ぴたりとバイクを停止させた。
先頭を往くアノンも足を止め、ルシールを横に振って全軍停止を合図する。
全員が緊張した構えを取る中、アノンが拡声器を口元にあてがう。
爪 ゚Ⅳ〉『一匹狼気取りのAwakerか? 何の用かね?
それとも“俺達のお友達”に用があるのかな?』
アノンはセントジョーンズに手招きし、自分の顔の近くにブーンを近づけさせて囁く。
321
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 03:34:51 ID:BBbArwtY0
爪 ゚Ⅳ〉「ブーン。俺のカワイ子ちゃんが疼いてるみたいだ……イケない子だろ?
もちろん我慢させるさ。まずはお話から、だからな」
爪 ゚Ⅳ〉「ありゃAwakerに見えるがお前の仲間だろ?
じゃなきゃ俺達の前に姿を見せたりしねェよ、普通は。
まあ何にしても頭がイカれてやがるがな。死にたがりか、あいつは?」
(;゚ω。)「……あ、ああ、ああああ、」
爪 ゚Ⅳ〉「フフフ、やっぱりお前の仲間か。分かったからもう口を閉じてろ」
ブーンが叫ぼうとするや否や、アノンはルシールでブーンの顎を突いて黙らせた。
(;゚ω。)(ど、どうして……)
ブーンは生きている右目の視覚プロフェッサで情報収集と処理をさせる。
捉えたシルエットが解明され、それが我が相棒と愛機であると判明とすると、
制御機能を失ったブーンは自分の罪悪感と惨めさに身を震わせた。
(;゚ω。)(どうして、ジョルジュ隊長、ここに……?)
確かに明確な取り決めをしていなかったが、
少なくとも助けを求めるつもりでBLACK DOGをジョルジュのもとに送ったのではなかった。
ここに来たのは、何故だろうか。
瀕死のブーンには冷静な思考が出来ずにいた。
322
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 03:35:35 ID:BBbArwtY0
ジョルジュはバイクから降り、再びゆっくりとハングドランクに近づく。
武装はしておらず、指先には火種を持ったタバコが掛けられているのみ。
何をしようというのか、ブーンにも想像がつかなかった。
爪 ゚Ⅳ〉「随分いい度胸じゃねェか」
アノンがルシールを右肩に担ぎ、左手に拡声器を持ってゆっくりと前進する。
背後の軍勢もアノンとは一定距離を置いて静かに動き出す。
爪 ゚Ⅳ〉『おい、もっと近くに寄って顔を見せてくれ。話そうぜ』
応じてジョルジュも歩み寄った。
「話、ね」
拡声器が発した割れた言葉を受けて、ジョルジュは紫煙と共にそう吐く。
323
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 03:37:25 ID:BBbArwtY0
ミ,, ゚∀゚シ「だが主導権を握るのは俺だ」
ジョルジュはアノンの姿が20cmほどに見える距離に近づいたところで、
右手首に巻かれた携帯端末を操作し、ホログラムを宙に投影させる。
それは機体を遠隔操作させるワークステーションだ。
ジョルジュはタバコを口元に運び、空いた指先でホログラムをタッチする。
空の暗さを吸って膨らんだような凶悪な重低音が降り注ぐ。
瞬間、星屑をばらまいたような上空から一筋の赤光が出現し、アノンの目の前を通過してゆく。
膨大なエネルギーを収束して放たれたレーザーは俯瞰で見れば一文字を描いているだろう。
事実、衛星アルドボールのサーモグラフィは、何処までも真っ直ぐに伸びてゆく熱の跡を捉えている。
爪 ゚Ⅳ〉『ハッハッハ! 随分派手な挨拶じゃねェか!
威嚇のつもりか? 悪いがこの程度じゃ脅しにならないぜ?
話をしよう、話を。まだ夜は長いんだ』
ミ,, ゚∀゚シ「フン、後で吠え面かくなよ、アスホール」
予定通り、これで交渉の足掛かりは出来た。
溝の幅を携帯で計測させると4mに及ぶ。もはやちょっとした谷だ。
相手が感染者といえど、ジョルジュが易々と接近を許す距離ではない。
それにジョルジュ自身が危機に陥っても、ハインリッヒが遠隔で敵地を狙撃する事が出来る。
324
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 03:37:52 ID:BBbArwtY0
周囲で息を潜めていた獣達は怯えた声を響かせて場を離れてゆく。
アノンの手前、その場に留まるサード達もざわめきを隠せずにいた。
アノンには一切動揺の気配は無く、谷底を覗き見て口笛を鳴らしていた。
(;゚ω。)「バトル、スーツ」
上空を仰ぎ見るブーンがその兵器の名称を呟く。
それを聞いたセントジョーンズとダイオードが視線を上げ、再び戦慄する。
(;'e')(あ、あれが、セントラルの兵器かよ……!?)
一瞬の内にこの巨大な溝を作った正体を確かめようと全員が空を仰ぎ見た。
静かな駆動音を響かせながら、悟られぬよう超上空で待機していた機械の巨人が徐々に降下を始めていた。
地下世界が誇る最大兵器は、その姿を見せつけるように空に留まった。
ジョルジュはバイクから降り、機体を指さしてアノンに言う。
ミ,, ゚∀゚シ「赤いカラーリングは俺の趣味でね。警告を意味するのさ」
爪 ゚Ⅳ〉「そしてこれは境界線、ってところか」
アノンがルシールで溝の淵を叩きながら言った。
ジョルジュは吸い殻を底に投げ捨てて返す。
ミ,, ゚∀゚シ「人擬きの割にゃ察しが良いな、アノン。どれだけの人間を今まで喰ってきた?」
325
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 03:40:06 ID:BBbArwtY0
人擬き。それはアノンにとって最上の侮辱にあたる言葉であった。
顔を覆い隠す歪な仮面よりもその下の表情は冷たく強張る。
しかし冷静に思考し、何故名前と出生を知られているのか辿っていった。
爪 ゚Ⅳ〉「……デミタスの野郎か」
(;'e')「な、デミタスだって……!?」
/ ゚、。;/「あいつ、逃亡した挙句セントラルと手を組んだの……?」
ミ,, ゚∀゚シ「色々聞いたぜ、てめえらの事をよ」
爪 ゚Ⅳ〉「そうかい。で、俺達の事を知っておいて、のこのこ姿を現した理由は?」
腕内を構成する格納部から3つの爪が指先へと押し出される。
ジョルジュは長い爪をキンと鳴らしてアノンに見せつける。
ミ,, ゚∀゚シ「3つ要求がある」
爪 ゚Ⅳ〉「俺達を相手に取引? しかも要求を3つもだって?
ぶったまげたぜ。聞かせてもらおうじゃねェか」
ジョルジュは指を折り曲げて、爪の一つをブーンに向ける。
326
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 03:40:36 ID:BBbArwtY0
ミ,, ゚∀゚シ「まず、俺の相棒を返してもらおう」
(;゚ω。)「ジョ、ジョルジュ、隊長」
(;'e')「勝手に口を開くな」
(;゚ω。)「…………」
ブーンは回らない頭でその要求の目的を探る。
――何の為に僕を取り戻す? セントラルの為? ツンの為?
取り戻した後はどうなる? ジョルジュ隊長はどうするつもりなんだ?
修復して再びこいつらと戦わせるつもりなんだろうか?
(;゚ω。)(こいつは、アノンは……トーチャンの顔を、持っている)
父親の顔を持つこの男を、アノンを、果たして撃てるのだろうか。
躊躇してしまえばアノンはその隙を見逃さず、再び自分を柱へ送るだろう。
嫌だ、嫌だ、嫌だ。
怖い。怖い。怖い。
もう、戦いたく、ない―――――――
327
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 03:41:52 ID:BBbArwtY0
(;゚ω。)「ジョルジュ――――」
ブーンが言いかけるとアノンが割って入る。
爪 ゚Ⅳ〉「ジョルジュっつーのか。ぶっ壊れたサイボーグを引き取りに来たって?
ハハハハ、何の為にだい隊長さん? 俺達の方がよっぽどブーンを上手く扱えるぜ」
ミ,,#゚∀゚シ「そいつは俺の恩人だ。
モニュメントとして飾るような事は俺が許さねえ……!」
爪 ゚Ⅳ〉「恩人? ほう、恩人ね……なるほどね……」
爪 ゚Ⅳ〉「……悪いが飾る以外に使い道は残っちゃないさ。
もう心が折れちまってる。もしかしたらお前が顔を見せた事で
要らねェ希望を抱いちまってるかもしれねェが、そりゃ酷ってもんだぞ?」
爪 ゚Ⅳ〉「セントラルを接収するなんてベリーイージーだ、朝飯前なんだよ」
爪 ゚Ⅳ〉「そんなに仲が良いんならお前もブーンの横に並べてやってもいいが」
爪 ゚Ⅳ〉「どうもこのルシールがお前の血を啜りたいそうだ。
お前の頭を粉々に砕いて、何度も振り下ろして脳漿をぶちまけてやる。
残りカスをクソやかましいブーンの喉奥にでも詰め込んでやるよ」
ミ,, ゚∀゚シ「さっきの威嚇射撃はな、アノン」
爪 ゚Ⅳ〉「ああ?」
ミ,, ゚∀゚シ「いつでもどんな場所にも撃てるっつーデモンストレーションさ」
328
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 03:43:01 ID:BBbArwtY0
ミ,, ゚∀゚シ「俺が電話一つかけりゃお前が大事にする女子供は消し飛ぶンだよ。
あの機体が放つレーザーは的確にリンカーンパークを消滅させるぜ」
ミ,, ゚∀゚シ「空を見ろ。頭上の星のどれかは俺達が飛ばした衛星の光だ。
今こうしてお喋りしてる間もリンカーンパークを捉えている」
ミ,, ゚∀゚シ「まあ、上手くいったら炭化して残ってるかもしれねえな。
そうなったら俺達に手を出しちゃいけないって、モニュメントにしてやるよ」
爪 ゚Ⅳ〉「……イラつかせるクソ野郎だ」
ミ,, ゚∀゚シ「そりゃどうも。女子供が大事ならとっととブーンをこっちに渡せ」
爪 ゚Ⅳ〉「……セントジョーンズ。返してやれ」
(;'e')「ア、アノン。いいのか?」
爪 ゚Ⅳ〉「構わん。早くブーンを返してやれ」
アノンは激昂し反発してくるだろうととジョルジュは予想していたが、
意外にもアノンはすんなりと要求を呑み、逆に薄気味悪さをジョルジュは感じた。
表情を伺いたいにも歪な仮面がアノンの瞳以外を見せる事を許さない。
少なくとも、虎のような金色の瞳に降伏の色は微塵もない。
ジョルジュは無意識にホログラムへ指を更に近づける。
今にも触れてしまいそうなくらいだ。
329
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 03:43:24 ID:BBbArwtY0
ミ,, ゚∀゚シ「デミタス、ディ。来てくれ」
ジョルジュがアノンから目を離さないまま、潜んでいた二人を呼ぶ。
デミタス、ディが高層アパートから飛び降りてジョルジュの両脇に現れた。
両者ともSniperで武装しており、アノンにロックオンしていた。
(;´・_ゝ・`)「動くなよアノン。そのジョルジュは容赦のない男だ」
爪 ゚Ⅳ〉「これはこれは……見ねェ間に随分な口を利くようになったじゃねェか、えェ!?」
アノンが荒立った声を通りに響かせる。
爪 ゚Ⅳ〉「このクソ野郎が。よくもまあ仲間を見捨てられたな?」
(;´・_ゝ・`)「黙れ。人擬きのお前に何が分かる」
爪 ゚Ⅳ〉「人擬きか……だったら“俺達”の一人を連れているのは何故だ?
そいつこそ人の皮を被った、ロクな知性を持たない出来損ないの獣みたいなモンだぜ。
お前のエゴをディに説くのがよっぽど楽しいと見える」
(;´・_ゝ・`)「黙れ。ディはお前のような獣とは違う。
お前よりよっぽど人間らしく生きている」
(#゚;;-゚)「そうだそうだ!!」
爪 ゚Ⅳ〉「しっかり躾ちまったみてェだな……新人類Awakerの風上にも置けねェ。
恋人の生き写しが面白いと思ってお前にディを預けたが、つまらねェ結末だよ」
330
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 03:45:07 ID:BBbArwtY0
爪 ゚Ⅳ〉「なあ、我が同胞であり我が娘よ。あまり遊びが過ぎるとパパは怒っちゃうぜ?」
(#゚;;-゚)「なにが娘だなにがパパだ、死ね。動いたらうつよ。超いたいよこれ」
爪 ゚Ⅳ〉「ヒューおっかない。分かった分かった、動かないでいてやるよ」
ミ,, ゚∀゚シ「落ち着けデミタス、ディ。こいつの挑発に乗るな」
(;´・_ゝ・`)「分かってる」
デミタスが銃口をアノンからセントジョーンズへ向け、境界線へと近づいた。
(;´・_ゝ・`)「……一人でブーンを渡しに来い」
(;'e')「……分かった」
セントジョーンズは柱に縛り付けられたブーンを下ろした。
セントジョーンズの両手に抱えられたブーンはだらりと首をもたげており、
辛うじて配線に繋がれる瞳が今にも境界線の底へと転がって落ちそうだ。
331
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 03:45:31 ID:BBbArwtY0
セントジョーンズが地を蹴って境界線を超える。
デミタスが歩み寄り、血塗れのブーンを引き取って抱えた。
(;'e')「デミタス……」
(;´・_ゝ・`)「久しぶりだな、セントジョーンズ」
(;'e')「お前、何故だ。どうして本当に行ってしまったんだ?」
(;´・_ゝ・`)「……今はこのサイボーグに用がある」
(;'e')「デミタス、話を」
(;´・_ゝ・`)「下がれ、セントジョーンズ」
(;´・_ゝ・`)「線の向こう側へ、下がってくれ」
ブーンを片手で抱え、片手でSniperを持つ。
凶悪なウィルスを撃ち殺す為に造られた純白の銃身がセントジョーンズへと向けられる。
(;'e')「く……」
セントジョーンズは唖然とした表情を残したまま、谷を越えて戻る。
再び線に阻まれた両者であるが、デミタスは銃身をセントジョーンズへ向けていた。
332
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 03:46:07 ID:BBbArwtY0
ミ,,;゚∀゚シ「デミタス、ブーンを」
ジョルジュの声でハッとして、デミタスは仲間の元に戻る。
一同は変わり果てたブーンのその姿を間近にして慄いた。
まるでその体は魚を二つに割いたように開かれている。
体内には装甲で覆われた循環機関しか見当たらず、
人工骨格には体液と血に覆われた配線と肉片が付着しているのみ。
下っ腹にあるはずの長い腸は根本が僅かに残っているのが見え、
更にその下は握りつぶされ紐のように変わり果てた性器が辛うじて肉体に繋がっている。
頭部も半分を損傷しており、だらりと頬を伝う左の瞳は今にも地面に落ちてしまいそうだ。
循環機関の僅かな作動音がブーンの生を表していた。
ミ,,;゚∀゚シ「……よお兄弟。無事、って感じじゃないな」
(;゚ω。)「…………」
ブーンはジョルジュの呼びかけに応じなかった。
残る瞳も虚ろに空を見ており、ジョルジュを見ようとはしていない。
しかしジョルジュは言葉を投げかける。
ミ,,;゚∀゚シ「すまなかった。脅威を見誤った俺のミスだ……もっと良い選択があったかもしれない……」
(;゚ω。)「…………」
333
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 03:46:50 ID:BBbArwtY0
ミ,,;゚∀゚シ「いいか。これからこのデミタスがBLACK DOGでお前を安全な場所へ連れて行ってくれる。
セントラルではない。地下も今は立て込んじまっててな」
ミ,,;゚∀゚シ「酷な事を頼んでいるのは承知だが、また戻ってきてくれ。
どうなるか分からない状況だ……きっとお前の力が必要になるだろう」
(;゚ω。)「う…………」
ブーンは、先ほども言いかけた言葉を再び飲み込んだ。
ミ,,;゚∀゚シ「デミタス、ディ。ブーンを頼むぞ」
(;´・_ゝ・`)「ああ。お前の弟分は俺に任せてくれ。必ず守る」
ジョルジュは無言で頷いた。
デミタスがブーンをBLACK DOGのコクピット内に乗せる。
行先の座標は予めマークしており、BLACK DOGは自動操縦で科学センターへと向かう。
デミタスとディはその護衛を務める運びとなっている。
BLACK DOGが主人を気遣うように静かにエンジンを作動させると、
セントジョーンズがデミタスの背中に叫び声をあてる。
(;'e')「ま、待ってくれ! デミタス! お前、何故だ!?
何故俺達を見捨てて逃げたんだ!?」
334
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 03:47:20 ID:BBbArwtY0
(#゚;;-゚)「デミタスをいじめるな!!!」
デミタスは激昂するディの肩に手を置いて宥める。
そして狼狽えるセントジョーンズとダイオードに向き直った。
(;´・_ゝ・`)「セントジョーンズ、ダイオード。俺には分からないんだ。
ハングドランクに、アノンに従属してまで生きる価値があるのか。
だから俺は賭けに出て逃げ出した」
/ ゚、。;/「……それかつての恋人の生き写しだと、本気で?
私達Forsakenを裏切る程、その“出来損ない”が大切なの?」
(#゚;;-゚)「デミタスをばかにするな!!」
ダイオードが長細い腕をディに伸ばして問う。
血の気の無い蒼白な肌にはForsaken、Detroitという単語が彫られている。
デミタスの右肩から肘に掛けてもダイオードと同じタトゥーが描かれている。
かつて生死を共にしてきた仲間である事をデミタスは決して忘れてはいない。
(;´・_ゝ・`)「ディは出来損ないなんかじゃない。
お前達よりよっぽど苦悩して正しい生き方を選んでくれている」
(#゚;;-゚)「ディ、もう人間食べたりしないもん、ぜったい。かわいそうなんだもん。
それに食べなくてもデミタスがいろいろ教えてくれるの」
335
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 03:47:50 ID:BBbArwtY0
爪 ゚Ⅳ〉「……へえ」
アノンは舐めるような視線でディに興味を示す。
それに気づいたデミタスがアノンを阻むようにディの前に立って返答を続ける。
(;´・_ゝ・`)「彼女との約束を果たしたいだけの、俺のエゴだとは分かっている。
だがディは俺にとって大切な存在で、俺が生きる一番の理由となった」
(;´・_ゝ・`)「俺が歪んだ生き方しかできない男だと言うなら、ダイオード、
お前達の今の生き方も決して正しくないはずだ」
ハングドランクの鉄の掟に縛られてからは、そのタトゥーの意味も薄れていた。
デミタスには、もはやアノンや他の連中が識別する為の印にしか過ぎないように思えていた。
デミタスは声を震わせて続ける。
(;´・_ゝ・`)「俺はもう、たくさんだった! 人を襲い、奪い、殺すのは!
セントジョーンズ、どうして俺と一緒に来てくれなかったんだ!?
お前なら、デトロイトで俺に手を差し伸べてくれたお前だったら……」
(;'e')「俺は、ただ、仲間を守りたくて――――」
セントジョーンズの怯えた声をデミタスが遮る。
(;´・_ゝ・`)「ミセリとアルタイムはどこだ?」
(; e )「……ア、アルタイム、は、」
336
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 03:49:01 ID:BBbArwtY0
(;´・_ゝ・`)「まさか、お前……」
爪 ゚Ⅳ〉「アルタイムはセントジョーンズとダイオードが吊るした。ルールに則ってな。
こいつと恋仲のミセリを、そして何より自分自身を守る為にだ。
アルタイムもこいつらを殺そうとしてたがね、コミュニティに示しを付ける為によ。
お前以外は皆、仕組みってもんをよく理解してくれているよ」
関心するような口ぶりで語るアノンが代弁する。
/ 、;/「…………」
青ざめて固まるダイオードを見れば事実だろう、とデミタスは思うと同時、
胸の奥でどす黒いものが広まっていく気持ち悪さを感じて無意識に拳を握った。
その挙動を見るアノンはルシールをデミタスに向け、溜息を吐いてから呆れた調子で言葉を投げた。
爪 ゚Ⅳ〉「そもそもお前が逃げちまったからなんだぜ? デミタス」
爪 ゚Ⅳ〉「お前がそそのかし、俺の労働力と出来の悪い俺の娘を攫った、その罰を受けた」
再度俺の娘だと言われたディが、明らかな嫌悪感と敵愾心を表情に広げる。
爪 ゚Ⅳ〉「首謀者のお前がディと帰ってくればミセリにお咎めは無い。
お前の舌を抜いてセントジョーンズに喰わせる事はあるかもなぁ……」
ミ,, ゚∀゚シ「聞く耳を持つな、デミタス。連中に比べりゃお前は十分まともで善人だよ」
(;´・_ゝ・`)「だ、大丈夫だ。大丈夫……」
337
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 03:50:27 ID:BBbArwtY0
(;´・_ゝ・`)「……ジョルジュ、二つ目の要求だが」
ミ,, ゚∀゚シ「ああ……今の話で連中がどういう人間か分かった。
しかし本当にいいんだな? お前の仲間を受け入れなくても」
(;'e')「なっ」
二つ目の要求は、デミタスの仲間であるForsakenらのメンバーをこちらに渡せという内容だった。
デミタスがジョルジュに持ち掛けた事案であったのだが、
デミタス自身に果たしてそれが正しいかどうか懸念があった。
ハングドランクに接収されて以来、特にダイオードの様子はおかしかった。
生きる為ノルマを果たすべくダイオードは情け容赦なく人々を襲い、奪い、殺した。
Forsakenのタトゥーを皮膚ごと剥ぎ取ってやりたかった。
(;´・_ゝ・`)「セントジョーンズ、ダイオード……俺も大概クソ野郎だがな、
お前らだけはあの世に送ってファルロに殺させてやりたいよ」
(; e )「お、俺、は、俺達は、違う、違うんだ。だって、ルール、ルールが、」
(;´・_ゝ・`)「お前をかつての男だとは思わん。次にその顔を見せる時がお前の最期だ」
デミタスはセントジョーンズから目を離し、街の暗闇へと視覚プロフェッサを起動させる。
行く先は保身すら知らぬ飢えをただ満たそうとする獣が蔓延る道だ。
翼を広げると同時、索敵に関わるプラグインを視界のワークステーションに展開させる。
(´・_ゝ・`)「ジョルジュ、お前に会えて良かった。礼はまだ言わないぜ」
ミ,, ゚∀゚シ「ああ、また後でな。気を付けろよ、そこら中で獣共が狙ってやがる」
338
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 03:51:29 ID:BBbArwtY0
(;゚ω。)「……ジョル、ジュ、隊、長……」
(;゚ω。)「ぼ、僕は、」
ブーンが血塗れの口を動かしてか細い声を発する。
残る右目でジョルジュの顔を見つめている。
しかし、それ以上ブーンから言葉は無かった。
告げたい事があったが、意を決して臨む彼になんと言葉を選べばよいのか分からなかったのだ。
ミ,, ゚∀゚シ「無理に喋らなくていい。ここは俺に任せて、お前は回復に専念しろ」
(;゚ω。)「僕、は」
また戻ってきてくれ、というジョルジュの言った言葉がブーンの中で反復する中、
ジョルジュが爪の無い指でバンダナを摘まみ元の位置に引き上げる。
ミ,, ゚∀゚シ「お前なら、この世界で正しい選択が出来るはずだ」
(;゚ω。)「ジョルジュ、隊長……」
ジョルジュの真っ直ぐな瞳が己を見透かしているかのように、ブーンは思えた。
ブーンは目を伏せたい思いに駆られたが、ジョルジュの獣の瞳が捕らえて離さなかった。
339
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 03:53:10 ID:BBbArwtY0
(;´・_ゝ・`)「ジョルジュ、そろそろ俺達は向かう」
(#゚;;-゚)「あとでまたさっきのジュースちょーだい。だから死ぬなよジョルジュたいちょー」
頷き、ジョルジュが別のホログラムを立ち上げてタッチすると、BLACK DOGは発進した。
半身が獣であるデミタスとディは、難なく機械の快速に遅れず追従し、
暗がりと腐臭が立ち込める死街へと身を投じて行った。
ミ,, ゚∀゚シ「また文明ってモンを教えてやるよ、お嬢ちゃん。ブーンを頼むぜ……さて」
ジョルジュは3本の爪をアノンに見せつける。
ミ,, ゚∀゚シ「三つ目の要求だがな……俺を恨まないでくれって頼みだ」
爪 ゚Ⅳ〉「おいおい、この場でやっぱりズドンかよ」
ミ,, ゚∀゚シ「あいつの事だ。人間に似たお前達に情が移って意思が揺るいだンだろう。
誰よりも優しいあいつの心を怖したお前を許さン」
ミ,, ゚∀゚シ「てめえを殺せるかどうかは知らねえ。だが、今ここで鉄槌を落とす」
アノン及び配下の者全員が上空に待機する巨大な兵器に視線を集める。
右の巨腕に携えた砲は先端に赤い光を収束させており、
今にも世界を焼いてしまいそうなその不気味さに、中には怯えた声を漏らす者もいた。
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