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( ^ω^)は街で狩りをするようです
340
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 03:53:38 ID:BBbArwtY0
ミ,, ゚∀゚シ「……まるでこの線のそちら側だな。お前達は自分達が知る世界に留まるべきだった。
自由にクソを垂れようが仲間内で殺し合いしていようが構わなかったのによ。
一線を踏み越えて穴倉に近づいてしまったのが運の尽きだったな」
ミ,, ゚∀゚シ「安心しな。家族に別れを告げる必要はねえ。ちゃんと後を追わせてやる」
バトルスーツの砲のエネルギー充填音が次第に高まってゆく。
赤い光が今にも降り注がんとしているようで、砲を向けられている感染者達は叫び声を上げ始めた。
それでも逃げ出す者はいなかった。あれよりも恐ろしい存在が、目の前にいるからだ。
爪 ゚Ⅳ〉「フハハハ……痺れる啖呵だ。ムカつくが気に入ったぜ、お前」
アノンだけはジョルジュの啖呵を意に介さずの調子で、笑い声すら上げているのだ。
仮面の下でクックッと喉を鳴らし、ルシールで肩を叩きながら言った。
爪 ゚Ⅳ〉「あの機械、すげェな。巨人が葉巻の火種を落とそうとしてるみてェだ。
まともに浴びりゃあ流石の俺もやばいかもしれねェ」
爪 ゚Ⅳ〉「ジョルジュ、お前自身もどうなる事やらって感じだが?」
双方の位置関係はたかだが4m程度の谷に阻まれているだけだ。
最大兵器の射程範囲内にジョルジュも立っている。
341
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 03:54:23 ID:BBbArwtY0
ミ,, ゚∀゚シ「生憎、自分の後先の事はよく考えねえ性質でな……悪いな」
『…………』
その言葉はアノンに向けられたものではない。
携帯端末にジョルジュとアノンの声は届いており、当然ハインリッヒ、ヒート、ガイルが会話を聞いている。
だが、ここまでは概ね作戦通りに状況は進行している。
この脅迫に対し、ハングドランクのリーダー、アノンがどう返答するかだ。
期待するのは例えばジョルジュの言うように、線を境に己の世界を持ち互いに干渉しない、等の妥協策の提案だ。
仮にアノンを撃破したところで別の者がアノンになるという程連中の意識は強固で高いとデミタスは語っている。
ましてやサードという得体の知れない存在だ。
ハングドランクと真っ向からぶつかり合うのは得策とは言えなかった。
この砲が放たれるのであれば、それは間違いなく感染者との全面戦争を告げるゴングとなろう。
爪 ゚Ⅳ〉「……命が惜しくねェのか、お前。そりゃつまらねェよ」
ジョルジュを含む通信で繋がった4人全員が、固唾を飲んでアノンの言葉を待つ。
342
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 03:55:17 ID:BBbArwtY0
アノンの仮面の下から溜息を吐いた音が零れる。
少し間を空けた後、アノンが重い声色で切り出した。
爪 ゚Ⅳ〉「そもそもだ、ジョルジュ。俺はただ友好的に接したかっただけなんだぜ?
なのにブーンの奴がビビっちまってよ、先走って仲間をぶっ殺しちまったんだ。
踏む段階もクソもねェほど一方的な出来事だったんだ」
爪 ゚Ⅳ〉「柱の事は驚くだろうがよ、仕方ないのさ。文化の違いってやつだ。
俺達には俺達のやり方があって、うまくいってたんだ。分かるだろ?」
爪 ゚Ⅳ〉「まあともかくだ。俺達の出会いは最悪だった。ここは水に流して……どうだ?
お互い良い解決策を見つけようじゃないか。“取引”だよ、“取引”」
ジョルジュは髪の色と同じ銀の瞳をアノンから離さず、黙って聞く。
腕から出した爪も仕舞わず、ホログラムから手は遠ざけず。
爪 ゚Ⅳ〉「そうだジョルジュ、俺達に加われよ。感染して帰る家が無いから地上で生きてるんだろ?
それでもまだセントラルとの繋がりは保ったまま、しかも重要ポストにいるときた。
ならお前がセントラルとハングドランクの架け橋になるんだ」
343
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 03:56:30 ID:BBbArwtY0
爪 ゚Ⅳ〉「手と手を取り合って過酷な世界を生き抜こうぜ。
お前も無用な殺し合いは避けたいだろ?」
最後にアノンは手を大きく広げた演劇的な素振りと共に言った。
そのまま返答を待つアノンに、ジョルジュは間をおかず返した。
ミ,, ゚∀゚シ「ブーンにも同じ事を言ったのか?」
仮面の隙間で輝く金の瞳がぴくりと動いたのをジョルジュは見逃さず、
その反応に対し鼻を鳴らしてから続けた。
ミ,, ゚∀゚シ「そうかい。なら俺はブーンと同じ答えを返すよ」
ミ,, ゚∀゚シ「セントラルはお前達のような連中と手を取り合う訳がねェ」
爪 ゚Ⅳ〉「ジョ〜ルジュ、そりゃ自分自身の体験かぁ?」
見透かしたように嘲笑うアノンに、ジョルジュは即答する。
ミ,, ゚∀゚シ「いいや。善と悪とは、って問題だ」
344
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 03:58:32 ID:BBbArwtY0
ミ,, ゚∀゚シ「“以前”から世界は過酷で無慈悲だった」
ミ,, ゚∀゚シ「暗い穴の底みたいな世界で、何がクソで何が正しいのか俺は分かるのさ」
ミ,, ゚∀゚シ「俺はブーンのように甘くはない。お前達の誰が相手でも容赦はしねえ」
ジョルジュの言葉を聞いている内にアノンは仮面の下で浮かべていた笑みを消していた。
ルシールに肩を叩かせるのを続けさせ、溜息混じりの声を出す。
爪 ゚Ⅳ〉「……何がクソで、何が正しいか、ね」
爪 ゚Ⅳ〉「家族を守るという事はだ、俺達に共通して正しい事だと言えるよな」
ミ,, ゚∀゚シ「お前にとっての家族ってのは、お前に使役する奴隷の事なんだろ?」
爪 ゚Ⅳ〉「酷ェ事を言いやがる……まあ聞いてくれよ」
345
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 03:59:47 ID:BBbArwtY0
爪 ゚Ⅳ〉「お前が人擬きと言ってくれた俺にもよ、実は子供を授かってしまってな。
リンカーンパークで身重の妻に俺の帰りを待たせている。ああ、抱きしめてやりてェ」
爪 ゚Ⅳ〉「地上は過酷だ。何が起こるかわかりゃしない。
今にも大型セカンドや群れが妻を襲うかもしれない。
そう思うと酷く不安になる……これが人の心かって学んだよ」
アノンは空いている手で胸を押さえながら、訴えるように続ける。
ジョルジュは臨戦態勢を崩さずに聞き続ける。
爪 ゚Ⅳ〉「何とかして妻子に安心して眠れる屋根を与えてやりてェ。
仲間にもだ、大勢が家族を持っている。皆が俺の家族だ。
確かに強固なルールはあるが、それも一致団結して生きる為さ」
そこでアノンは空を見上げ、ルシールを額にあてた。
爪 -Ⅳ〉「こんな時、俺は地上で最も清らかで純粋なこのルシールに祈るんだ。
ルシール、俺に力を……ってな……」
ふー、と太く息を吐いた後、アノンは再び視界を開いてジョルジュを中心に捉える。
拡声器を口元にあてがい改めて続けた。
346
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 04:01:41 ID:BBbArwtY0
爪 ゚Ⅳ〉『ジョールジュ、地上で生きてどのくらいになる?』
ミ,, ゚∀゚シ「それが何だってんだ」
爪 ゚Ⅳ〉『長くはねェだろ? 独りで生き抜くにはまだ五感が足りてねェと見た』
ミ,, ゚∀゚シ「何を言って―――――」
爪 ゚Ⅳ〉『マジでまだ分からねェのか?』
爪 ゚Ⅳ〉『大都市は腐臭が酷くて鼻じゃ接近を感じ取るのが難しくてな。
重要なのは耳だ、耳。死の気配を聞き分ける耳がお前にゃ足りてねェ』
ミ,,;゚∀゚シ「―――――レッドヘアー、撃ち落とせ」
爪 ゚Ⅳ〉「手遅れだ。機体を見せつけたのは失敗だったな」
ジョルジュの耳に羽音が聞こえた瞬間の事であった。
突如現れた異形の“蜂”の群れが、機械の巨人に殺到していた。
アノンは首を左右に振ってぼきぼきと鳴らしながら、グローブをはめ直す。
347
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 04:02:19 ID:BBbArwtY0
“蜂”の正体はB00N-D1がボストンへ向かう際に発見し、報告にも上げていた種と酷似している。
血と臓器、糞尿に塗れた“蜂”は額びっしりに人間のものに似た瞳を数多に持っており、
側頭部には集音に特化した巨大な耳がぶらさがっている為、
遠く離れた獲物――しかも鳴動音を伴う機械を見つけるのは容易であった。
裂けた口に隙間なく並ぶ細い牙は涎が糸を引いており、
旺盛な食欲を満たさんとするだけの知性の無い虫を象徴づけている。
暗い夜空の中により色濃い墨を垂らしたかの如く空が動いているかのようだ。
深紅のバトルスーツは感染体ですら瞬く間も無く覆われてゆく。
尾の先端は蜂の特性を物語る槍のような針が存在し、
だらだらと体液で覆ったそれをバトルスーツの頑強なボディに何度も突き刺し始めた。
宇宙・深海の環境に耐えうる合成金属をみるみる溶かしてゆく。
ノハ;゚⊿゚)「数が多すぎる……!」
指示を受けたヒートは高層アパートを飛び移って狙撃ポイントを変更。
バトルスーツに群がる凶悪な蟲をターゲッティングし蒼光を放つが、余りにも数が多く、
一匹二匹撃ち落としたところで怯む様子は無いどころか、一際巨大な体を持つ者がヒートに気づき、高速で接近を始めた。
ノハ;゚⊿゚)「あれが女王蜂か? なら――」
照準を女王蜂の頭部に合わせ、射出。女王蜂は頭を失って地に堕ちてゆく。
しかし、群れはやはり撤退せずバトルスーツの体を啄む。
348
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 04:04:29 ID:BBbArwtY0
ノハ;゚⊿゚)「このクソ蜂共が! ハイン! 何とかしろ! この隙を突かれるぞ!」
ヒートは再びSniperをアノンに合わせるが、その瞬間、アノンが照準から消え去った。
ノハ;゚⊿゚)「クソが! 速ぇ!」
爪 ゚Ⅳ〉「この機会を待っていたぜェ!」
アノンは拡声器を背後に投げ、跳躍していた。
遅れてアスファルトがみしりと音を立てながら罅を走らせる頃、
アノンは既に4m超の谷を越えてジョルジュに迫っていた。
ミ,,;゚∀゚シ「バトルスーツは任せた!」
ジョルジュは携帯を通じて作戦本部のハインリッヒにそう告げて飛ぶ。
バトルスーツは既にヒートの指示を受けていて遠隔によって動いている。
全身に搭載された銃身、砲門を展開し弾丸とレーザーで群れを燃やし、突破口を開くとスラスターを吹いて上空へと展開する。
同胞が体を燃やして地に堕ちてゆく中、しかし未だ群れは物おじせず獰猛に喰らい付いてゆく。
349
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 04:05:59 ID:BBbArwtY0
ジョルジュは後方に思い切りジャンプしたが、
アノンの跳躍と飛行速度はジョルジュを遥かに凌駕しており、一瞬の内に距離が詰められてゆく。
空中でアノンが血塗れのバットを大きく振り被る。
ジョルジュは5本の爪を揃え、指先に力を込めて突き出した。
同時、超高層アパートの屋上から3条の細い蒼光が奔る。ヒートによる狙撃だ。
対セカンド用サイボーグによる正確無比な狙撃がアノンの頭部に襲い掛かる。
が、アノンはルシールを振り、体を翻し、この狙撃を回避。
爪 ゚Ⅳ〉「やっと捕まえたぜ。タッチダウンってやつだ」
ミ,,;゚∀゚シ「くっ!」
そして突き出されたジョルジュの爪を空いた手で掴んだ。
二人は膠着したまま地を転げまわる。
ノハ;゚⊿゚)「マジかよ!?」
Sniperによる狙撃を回避出来る化物がいる事を、ヒートは実際に目の当たりにして驚くも、
即座に流れるような手つきでカートリッジを交換、再び窓際に立ちスコープを目にあてる。
500メートル先のストリートをズームで見る。
ノハ;゚⊿゚)「ああああああああこんのクソ共がッ!!」
覗いたスコープにヒートへと殺到する感染者達の姿が飛び込む。
ヒートは3発の弾丸を放って全て撃ち落とし、建物を飛び移ってゆく。
350
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 04:06:28 ID:BBbArwtY0
ノハ;゚⊿゚)「ジョルジュ!」
再度Sniperでジョルジュのいる位置を覗き込もうとするが、更なる新手の襲来に阻まれる。
数は10人、囲まれた。
中にはデミタスのように元サイボーグの片鱗を随所に残す感染者もいる。
《へへ……俺達と遊ぼうぜ、ビッチ》
ノハ#゚⊿゚)「こんのクソッカスどもがぁぁぁああああああああああ!!
そこォどきやがれってんだぁぁあああああああああああああ!!」
ヒートはSniperを左手に持ち、右手にBBBladeを握らせる。
そしてアクセラレータのゲインを上げ、毛細血管が破裂する加速度を持って感染者達に襲い掛かった。
爪 ゚Ⅳ〉「女狙撃手はお前らに任せたぜ! あとの連中は周囲を警戒しろ!
獣と虫共がざわついてやがる!」
アノンは首だけ動かしてヒートの方を確認したあと、部下達に告げる。
二人一緒くたに地に転げた後、アノンがマウントを取る形となっていた。
ジョルジュの爪がアノンの心臓に迫っているが、ジャケットに触れる寸でで止められている。
351
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 04:08:22 ID:BBbArwtY0
爪 ゚Ⅳ〉「お気に入りのグローブが台無しじゃねェかよクソが! ジャケットはやらせねェぞ!」
ミ;#゚∀゚シ「ママに頼んで、新しいものを買って、もらいな……!」
ゴアテックスと書かれたグローブの裂け目から流れた血がジョルジュの顔を濡らす。
お互い悪態を吐く中、ジョルジュはアノンの喉元に左の爪を滑らせようと腕を振るう。
アノンはルシールを手放してその腕を掴んだ。
ミ;#゚∀゚シ《ウウウウヴヴヴヴヴ………!!》
ジョルジュが獣のような唸り声を鳴らして力を入れるがビクとも動かない。
やがてアノンに掴まれた腕に強烈な痛みが生じていった。
そして、ぐちゅり、という音を合図に、
ジョルジュが獣として威嚇していた唸り声は、人の叫び声となって街を木霊した。
「があぁああああああああああああああああああああああああ!!」
爪 ゚Ⅳ〉「ヒャッハッハッハッハ! その声が聴きたかったぜジョルジュ!!」
352
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 04:10:10 ID:BBbArwtY0
硬い筋繊維がぶちぶちと音を鳴らし、ジョルジュの左腕が肘から離れてゆく。
早い鼓動に合わせて撒き散らす鮮血と体液を浴びながら、
アノンは笑い声を街中に響かせてジョルジュの腕をもぎ取った。
ミ;#゚∀゚シ《う、う、うううう!!》
しかし、残る右爪を心臓に突き立てんと力は抜かない。
まるで殺意に衰えのないジョルジュを見て、アノンは感嘆の声を上げる。
爪 ゚Ⅳ〉「ったく、ブーンといい、お前といい……Fucking Awesomeだぜ!
特にジョルジュ、ここまで俺を追い詰めた人間はお前が初めてだ」
爪 ゚Ⅳ〉「悪いが念には念を入れさせてもらうぜ」
もいだ腕を逆手に持ち、その爪をジョルジュの顔の横に突き立てると、
今度は右手に万力を込めて残るジョルジュの腕を握りつぶした。
ミ;# ∀ シ「あ゙、ああああぁぁあぁぁああああああああ!!!」
再び、ジョルジュの痛烈な叫び声が街に響いた。
ジョルジュの顔の傍で動作し続ける携帯端末を通してハインリッヒの耳にも入っている。
『や、やめろ……』
爪 ゚Ⅳ〉「あん?」
353
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 04:10:50 ID:BBbArwtY0
『やめろ! 頼む! やめてくれ!!』
爪 ゚Ⅳ〉「……ジョルジュ、お前の女か」
ミ,,; ∀ シ「……ハ、ハイン。バトルスーツは、無事だな。よく、やった」
『ジョルジュ!』
アノンは地面に突き刺さっているジョルジュの腕を引き抜き、
電話のように顔の傍に近づけ、血塗れの手首に巻かれた機械に声を吹き込んだ。
爪 ゚Ⅳ〉「ハインって言うのかい。なあハイン、俺と取引しようぜ、取引」
『取引、だと……!?』
ミ,,; ∀ シ「耳を貸すな! 失敗だ、ハイン、俺ごとこいつを撃て!」
『ジョ、ジョルジュ……それは……』
ミ,,; ∀ シ「分かってくれ。お前に、この頼みはしたくなかった。
だが、この怪物だけは生かしちゃダメだ。ここで殺さなくては、セントラルは――がッ!?」
爪 ゚Ⅳ〉「黙りな、ジョルジュ。俺はハインと話してるんだぜ?」
アノンがジョルジュの顔面に拳を叩き込む。
ジョルジュの長い鼻は折れ曲がり、大量の血を噴出した。
脳を貫くような強烈な衝撃がジョルジュの意識を歪ませてゆく。
354
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 04:12:30 ID:BBbArwtY0
爪 ゚Ⅳ〉「別に俺はお前を殺したりしないさ。ルシールもそうしたくないだろう。
何たってお前はとびきり優秀! 俺が必要とする人材だ!
お前さえ俺に協力してくれたらマジで怖いモンなしの無敵だよ!」
アノンは声高らかに、やはり演劇的な調子で続けた。
爪 ゚Ⅳ〉「ハイ〜ン。ジョルジュを痛めつけられんのが嫌なら機体を撤退させてくれよ。
あのクソ忌々しい大砲がここに向いてんだろ? 不安で仕方がねェ」
ミ,,; ∀ シ「ハ、イン、よせ、そいつの要求を、呑むな……!」
ジョルジュは懸命に意識を手繰り寄せて吐き出すように発した。
携帯端末から流れたハインリッヒの声は、それよりも弱弱しかった。
『…………わかった、撤退させる。ガイル、聞いているな? お前も撤退だ』
ミ,,; ∀ シ「待て、ガイル! ここに来て、撃つンだ! 上官として、命令だ……!」
『……すまねぇ隊長……俺に、俺達にアンタを撃つ事は、出来ねぇ』
ガイルもハインリッヒと同様、ジョルジュに返す通信は絶望に染まっていた。
ハインリッヒが続ける。
355
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 04:12:52 ID:BBbArwtY0
『ジョルジュ。もしって時は覚悟はしていたつもりだった。
でも、やっぱり私にお前を撃つ事は……たとえセントラルを守る為だとしても……』
ミ,,; ∀ シ「ハイン……」
嗚咽を混じらせてそう言ったハインリッヒの通信を聞いて、ジョルジュは身を貫く思いを得る。
愛する者を殺してまで手にする安寧と自由を、ハインリッヒやガイルに強要させてまで手にさせる訳にはいかない。
セントジョーンズとダイオードが取ったような選択を、
愛する者に辿らせる事を断じて許してはならないはずだったと気づかされた。
ミ,,; ∀ シ「クソッタレ……」
睨みつける目にはうっすらと涙が浮かんでいる。
アノンはジョルジュの瞳を見つめながら静かに告げる。
爪 ゚Ⅳ〉「なあジョルジュ、学ばせてもらった事がある」
356
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 04:13:12 ID:BBbArwtY0
爪 ゚Ⅳ〉「人を愛するってのは人を強くもさせ弱くもさせるな。
守りたい人間がいるからやりたくもねェ事をやれちまえば、その逆も然りだ」
爪 ゚Ⅳ〉「もしお前らが愛し合っていなかったら、俺を殺せたからもしれねェな。
ブーンもだ。結局あいつも人に対する情を抱えたせいで、俺を殺せなかった」
爪 ゚Ⅳ〉「暗い穴の底か……クソみたいなこの世界で、確かにお前達は善悪の区別が付くんだろうな。
だが真にやるべき事とは別さ。そんなんじゃ守りたいものを守れないぜ?」
爪 ゚Ⅳ〉「俺は違う。それに俺には強くて美しいこのルシールがいるんだ。
彼女は素晴らしいんだ。俺がやりたくない事を平然とやっちまう女神なんだぜ!」
アノンはジョルジュの首を掴み、立ち上がる。
ジョルジュが蹴りを入れて抵抗し始めると、アノンは足首を握り潰した。
アノンは首を掴む指に力を込めてジョルジュが叫喚するのを制する。
爪 ゚Ⅳ〉「いいか二人とも。今からジョルジュをそっちに連れて行く。
その時俺の頼み事を絶対に断らないでくれよ?
じゃないと……やりたくない事が起こっちまう」
『わ、わかった! 頼む、お願いだ、ジョルジュを、殺さないでくれ……』
爪 ゚Ⅳ〉「それはお前達次第さ……ああ、俺も人の事は言えねェな。どうも情に弱い。
ルシールに全て任せたいくらいだ……もうこれで終わりにしたいもんだ……」
357
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 04:15:02 ID:BBbArwtY0
爪 ゚Ⅳ〉「セントジョーンズ、ダイオード!」
アノンは振り向かず、背後の二人に呼びかける。
爪 ゚Ⅳ〉「俺達の生き方は正しい。誰にも破れねェルールがあったから俺達は生きている。
今度こそ俺達は聖域に辿り着けるんだ。胸を張ろうぜ」
爪 ゚Ⅳ〉「セントジョーンズ、夜明けまでにデミタスをひっとらえて来い。
そうすりゃお前は幹部だ。俺の右腕として共に世界を支配するマジでクールな関係に――」
(;#'e')「―――――いいや、これでお別れだ、アノン」
そう語りながらアノンが振り返ると、セントジョーンズはアノンの目前に迫っていた。
感染体の骨で造った手斧を握り、視線は仮面の隙間から覗く首筋に向けられている。
爪 ゚Ⅳ〉「この野郎―――――」
アノンはジョルジュを咄嗟に投げ捨て、ルシールを構えようとしたが、間に合わない。
カーゴパンツに隠されたセントジョーンズの脚は馬のようにしなやかな筋肉を持ち、その蹴り足は目にも留まらぬ速度を生み出す。
平常のアノンであれば難なく捉えられたが、これは予想していなかった強襲、アノンを肉迫する。
傍にいたダイオードも反応できず、唖然とその背を目で追うのみだ。
358
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 04:15:40 ID:BBbArwtY0
(;#'e')「おおおおぉォォォオオオオオオオオオオオオ――――――ッ!!」
爪;゚Ⅳ〉「クソが! 色気出しやがって!」
振るわれた斧がアノンの胴体を斜に斬り込んで赤い血を宙に引く。
仮面から覗く瞳の色に変化は無く、冷静にアノンは態勢を整えて血塗れバットを振るう。
ルシールは音を置き去りにしてセントジョーンズの頭を喰らおうと襲い掛かった。
爪;゚Ⅳ〉「なっ!?」
そこへ文字通り光速を得た3つの蒼い弾丸がアノンに向かって奔る。
2つをアノンが避けるが1つがルシール直撃、凶器はアノンの手元を離れ境界線の向こう側に飛んでゆく。
凶器を失ったアノンにセントジョーンズが更なる気迫を伴って斬りかかる。
(; e )「がフゥあッ!?」
しかしアノンは巧みな体捌きで脚を繰り出し、セントジョーンズを境界線の向こうへ押し戻す。
そこへ再びアノンに対しヒートの狙撃が繰り出される。
アノンは身を捩らせて蒼光を躱し、獣の瞳を高層アパート群の一角に向ける。
が、そこには狙撃手の姿はとうに無く、既にジョルジュの傍らに立っていた。
359
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 04:17:16 ID:BBbArwtY0
ノハ#゚皿 )「しょんなモンくぁよサードどむぉ……。
ひふにゃムひゃげひ派のふぉうがにょっぽどにゃばくぁったずえ……!!」
ミ,,;゚∀゚シ「ヒ、ヒート……」
口に咥えていた人の腕をジョルジュに吐き捨てる。
ノハ#゚⊿ )「悪い、手間取っちまった。
味は保証しねーが喰っときな。ブルーエネルギーに汚染されてねぇ部位だ」
ヒートは左半身の6割を損傷し、生臭い血を赤髪と呼ばれる所以の頭に被っていた。
己の血なのか返り血なのか、ヒートにすら判断は付かない程大量に。
アクセラレータゲインを最大値に設定し動作した彼女の両脚からは煙が生じている。
彼女の全てが激戦を物語っていた。
だが残る手にはBBBladeが握られ、加速装置は起動したままだ。
尚ヒートの闘争心は潰えていない。
この程度の損傷や危機をヒートは過去に経験していた。
彼女にとっては穴倉で始めた慣れない営業の方が難敵であるのだ。
ヒートが血に汚れた口を開き、ドスの効いた声を発する。
ノハ#゚⊿ )「よう、気分を聞かせてくれよ仮面野郎。
そこのカウボーイの裏切りのおかげで再び形成逆転だぜ?」
360
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 04:17:56 ID:BBbArwtY0
爪 ゚Ⅳ〉「……ビッチ、俺の部下はお前がやったのか?」
アノンは視線を高層アパートに向けたまま尋ねる。
ノハ#゚⊿ )「ビッチ? ハッ、上等だ。男10人がかりが女一人に情けねーもんだったよ。
線の向こうで震えて生きる事を選んでりゃ良かったのによ。もう手遅れだ。
また巨人が葉巻に火をつけちまったぜ?」
爪 ゚Ⅳ〉「そうか、分かったよ……巨人の事はちゃんと考えるさ。
だからちょっと待っててくれねェか?」
ノハ#゚⊿ )「あ?」
アノンはヒートを無視しセントジョーンズとダイオードへと向く。
爪 ゚Ⅳ〉「セントジョーンズ、さっきのはどういう事だよ?」
問われたセントジョーンズは、手斧をアノンに突きつけて返答する。
(;'e')「デミタスにぶっ殺される前に良い選択ってやつをしただけさ。
そのジョルジュの言う通りだ、俺達はこの線の向こう側で十分だったんだよ」
そう言うと背後の仲間に振り返り、両手を広げて叫んだ。
(;'e')「もう分かるだろ!? 今しかない! 俺達が自由を手に入れるのは!
目を覚ませ! こいつの支配を終わらせるんだ! この機を逃すには――」
361
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 04:18:20 ID:BBbArwtY0
爪 ゚Ⅳ〉《ダイオードォ! ルシールにそのクソを殺させろォオッ!!》
/ 、 ;/「えっ……?」
感染者達のざわめきを掻き消す程大きな叫び声をアノンが上げた。
その怒号はどの感染体よりが発するよりも恐ろしい狂気を孕んでおり、
セントジョーンズの訴えに狼狽えていた他の感染者達がざわつくのをピタリと止めた。
怒りに震えるアノンは肩を上下させながら息荒く続ける。
爪 ゚Ⅳ〉「ルシールを使っていいと言ったんだ! ルシールにやらせろ!
そいつの頭をカチ割って、脳漿がどんな色だったか全員に思い出させろ!
コミュニティのルールが如何に尊いものか思い出すはずだ! やれ!」
/ 、 ;/「ルール……ルール……」
(;'e')「ダイオード! 目を覚ませ! それに皆もだ!
本当は俺達にも選択する事が出来たんだ!
デミタス達のように、もっと努力する事が出来たんだよ!」
/ 、 ;/「わ、私……わ、私、は……」
ダイオードが戸惑い目をあちこちに配らせている。
答えを、正しい選択を求め、境界線で隔たれた両方に目を行き来させている。
362
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 04:19:48 ID:BBbArwtY0
爪 ゚Ⅳ〉「ダイオード、お前の“名前”は何だ?」
アノンが静かに問う。
ダイオードはガチガチと歯を鳴らしながら、息絶え絶えに応える。
/ 、 ;/「私、は、」
/ 、 ;/「わ、私は、弱い。弱いのよ。どう生きれば、いいか、分からない。
なんで、感染したのに、こんな自我が残ってるのかも、分からない。
じ、自分が信じられない。でも、でも、アノンなら、強いアノンなら、導いてくれる」
/ 、 ;/「だから、私には、あ、アノンが、必要」
(;'e')「ダイオード!」
/ 、 ;/「私は、私は、私は……アノン……私は、アノンなのよ!」
爪 ゚Ⅳ〉「そうだ。そうこなくっちゃなぁ、ダイオード」
ダイオードが足元に転がっていた血塗れの凶器を拾い上げ、
血走った眼をセントジョーンズに向ける。
363
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 04:21:01 ID:BBbArwtY0
ミ,,;゚∀゚シ「勝手してンじゃねえよ女、アノン。
大砲がお前らのホームに向けられてンのを忘れたか?」
ジョルジュが割り込む。
善意に傾倒したセントジョーンズを見過ごす訳にはいかなかった。
だがアノンは高笑いと共にジョルジュに告げた。
爪 ゚Ⅳ〉「撃ってみろよジョルジュ、それにハイン。撃ったら最期だ。
俺とルシールだけでセントラルなんてぶっ潰せるぜ」
ミ,,;゚∀゚シ「アノン、てめえ……」
ノハ#゚⊿ )「チッ……」
/ 、 ;/「貴方を殺すわセントジョーンズ。私だって選択したのよ。
貴方を殺して、私はアノンに永遠に仕える。それで、いいのよ」
ミ,,;゚∀゚シ「やめろ!」
(; e )「ダイオード……頼む……こんな事……もう……」
364
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 04:23:26 ID:BBbArwtY0
/ 、 ;/「ルシール、私に力を貸して……」
(; e )「やめろ……やめてくれ……近づくな! く、来るな!」
セントジョーンズは震える手で手斧を構え、
アノンを象徴するバットを手にしたダイオードと対峙する。
__
そこは単なる廃墟としか見えない程に外見は著しく損傷している。
かつては家族の行楽や観光の為の場であったそこは時が巡り、
宇宙空間の長距離航行に関する技術が研究される民間の宇宙開発施設へと変貌した。
地表には週末の賑わいが残されたものの、地下では血眼になって研究を進める為の区画が根のように広がっていた。
人体実験も行われていたなんていうオカルトな噂をも持つ、秘匿された空間が、地下には存在していた。
“始まりの日”を境に瓦礫に覆い隠された箇所がある。
生き血を啜る為に獣が立ち寄る事はないが、生き残った人間であれば物資を求め発見するかもしれない。
ハングドランクの追跡から逃亡していたデミタスとディがここを発見したのは、
そんな期待が生んだ偶然によるものであった。
デミタスとディが瓦礫を押しのけ、ブーンとBLACK DOGを内部へと運ぶ。
自分達も通った後、再び瓦礫を積んで通路を塞ぐと、奥のエレベータへと進んだ。
365
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 04:24:54 ID:BBbArwtY0
デミタスは最深部へとエレベータを降下させる。
緩い引力に慣れてからしばらく経った後、ブーンがデミタスに尋ねる。
(;゚ω。)「ここは」
(´・_ゝ・`)「リバティ科学センター。その下に広がる穴の底へ向かっている。
そこに俺達を匿ってくれている凄腕のサイボーグ技師がいる」
(´・_ゝ・`)「彼が君をすぐに直してくれる……いや、
正確には新しいボディに換装させるんだろう。
恐らくは更に強力無比なセカンド殺しのサイボーグへと君は変わる」
(#゚;;-゚)「そしてジョルジュ達をたすけるの、ブーンが」
(;゚ω。)「サイボーグ、技師が、こんなところに……名前、は?
それに、僕は、ごほっ! ごほっ! も、もう、」
(´・_ゝ・`)「無理に喋るな。会えばきっと君にも分かる。
高名なサイボーグ技師だ」
エレベータが停止する。
300メートルは降下したようだと、ブーンは人の感覚でそう思った。
366
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 04:27:03 ID:BBbArwtY0
再び現れた通路を往く。
地表に残る観覧スペースとは違い、最小限度だがLEDの灯りがある。
人が生きる為なのか空調も機能しているようだ。
デミタスの言った“穴の底”という言葉で、『セントラル』をブーンに連想させた。
通路の最奥の扉が自動的に開かれる。
そこも僅かな照明がうっすらと空間を照らすのみであるが、
暗がりの中で点々と打つ光の数々が膨大な機器の存在をブーンに知らしめる。
(´・_ゝ・`)「約束通り生きたサイボーグを連れて来たぞ。瀕死だがな。
セントラルのサイボーグだ」
(#゚;;-゚)「いきてるのがふしぎ。はやく直してあげて。やばいことになってるし」
デミタスとディが暗がりに向かって言葉を発した。
BLACK DOGのコクピット内に横たわるブーンには、彼等の視線の先は伺えない。
生きている機能に気配を手繰らせるが、しかし生物はデミタスとディの二人だけだ。
何と話しているのだろうか。
ブーンの思考をよそに、デミタスが続ける。
(´・_ゝ・`)「ディの言う通り時間が無いんだ、博士。
人間達……いや、セントラルに危機が迫っている」
367
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 04:28:01 ID:BBbArwtY0
『セントラル、か……感慨深いとは恐らくこういう事を言うんだろうな。
或いは私に“感情が取り除かれて”いなければ、彼との再会を感動していたかもしれんな』
(´・_ゝ・`)「彼を知ってるのか?
博士、俺には“機械の貴方”が十分感極まっているように見えるが」
(;゚ω。)「この、声、どこか、で」
その声を聞いてブーンが無理やり体を起こそうとする。
デミタスがそれに気づき、ブーンを両手に抱きかかえながら返す。
『ああ、よく知っているとも。彼は重要人物としてデータに記録されている』
(;´・_ゝ・`)「重要人物……? ブーンが?」
デミタスに抱えられたブーンが声の主と視線を結ぶや否や、
ブーンは時が巻き戻ったような感覚に陥る。
(;゚ω。)「嘘だ」
『久しぶりか。お前がこの顔を見るのは』
(;゚ω。)「そんな、馬鹿な」
368
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 04:28:25 ID:BBbArwtY0
(;゚ω。)「どうして、な、なんで、アンタが、」
(:´・_ゝ・`)「ブーン?」
(#゚;;-゚)「このおっちゃんとしりあいなの?」
(;゚ω。)「どうしてだ……いや、でも、その、姿、は……」
『お前が驚くのも無理はなかろう。お前の目の前で死んだのだからな』
369
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 04:30:17 ID:BBbArwtY0
('_L')『私は、“私によって造られたフィレンクト”だ、ホライゾン。
この“もう一つの穴倉”に訪れるサイボーグは、やはりお前となったか』
(;゚ω。)「フィレンクト、おじさん……」
“記録”ではなく、ブーンの“記憶”に残り続けている
生前のフィレンクト・ディレイクの姿が、
空間の中心に設置された機器からホログラムとして投影されていた。
第43話「暗い穴の底で」終
370
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 04:31:26 ID:BBbArwtY0
次は12月の予定です。いつもありがトーイです。
ィ'ト―-イ、 /\ /ヽ
以`゚益゚以 ヽ、 lヽ' ` ´ \/l
,ノ ヽ、_,,, ヽ `' /
/´`''" '"´``Y'""``'j ヽ | _ノ ̄/ l
{ ,ノ' i| ,. ,、 ,,|,,. 、_/´ ,-,,.;;l .l / ̄ / |
'、 ヾ ,`''-‐‐'''" ̄_{ ,ノi,、;;;ノ l  ̄/ / |
ヽ、, ,.- ,.,'/`''`,,_ ,,/ ヽ. /__/ .|
`''ゞ-‐'" `'ヽ、,,、,、,,r' |. レ
,ノ ヾ ,, ''";l | / ̄/ l
./ ;ヽ .|. / ゙ー-; l
371
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/11/17(土) 04:37:30 ID:BBbArwtY0
>>305
一部ごっちゃになってました。
(´・_ゝ・`) デミタス・リーダス
('e')セントジョーンズ・リンカーン
372
:
名無しさん
:2018/11/17(土) 06:31:21 ID:5FtgSFLo0
乙です
今から読む
373
:
名無しさん
:2018/11/17(土) 08:48:20 ID:5FrPEkiI0
フィレンクト!!!!???
374
:
名無しさん
:2018/11/17(土) 08:48:49 ID:5FrPEkiI0
フィレンクトさん!
そいつ娘とヤっちゃいましたよ!
375
:
名無しさん
:2018/11/17(土) 15:55:35 ID:Bsfe6Fko0
フィレンクトだと!
面白すぎんよー!帰ってきてくれてありがとう(´��ω��`)
376
:
名無しさん
:2018/11/17(土) 16:23:46 ID:lOaj5lck0
フィレンクトさんだと…!?
スネークも匂わせてるし、ここからブーンはどうなるんだ?
あとヒート何て言ってるんだ
377
:
名無しさん
:2018/11/17(土) 16:57:20 ID:5FrPEkiI0
>>376
そんなもんかよサードども
イスラム過激派の方がよっぽどヤバかったぜ
378
:
名無しさん
:2018/11/17(土) 21:46:54 ID:58O1b3V20
ヒートが好きすぎるわ 続きが楽しみ 待ってるぜ
379
:
名無しさん
:2018/12/07(金) 01:58:02 ID:sET0Fi6o0
遅まきながら乙
次回も楽しみにしてるぜ
380
:
名無しさん
:2018/12/09(日) 00:57:15 ID:J.cgzIjA0
まだかなー!楽しみ!
381
:
名無しさん
:2018/12/11(火) 23:04:53 ID:pkc/zx.s0
遅ればせながら再開本当にありがとうございます!
次回更新楽しみにしています!
https://i.imgur.com/eMMlShL.jpg
382
:
名無しさん
:2018/12/13(木) 22:27:36 ID:mWIDPKCE0
>>381
かっけぇ!
383
:
名無しさん
:2018/12/14(金) 09:42:40 ID:xYmGyZTM0
>>381
イメージ通りのブーンさん!!
絵に起こすと街狩りの金髪イケメンブーンに違和感感じないなー
384
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/12/14(金) 21:01:40 ID:LgVhRRY60
ィ'ト―-イ、
以`゚益゚以 ああああああああああ!!
,ノ ヽ、_,,, 素敵なイラストありがとーいです!!
/´`''" '"´``Y'""``'j ヽ 44話は投下します
{ ,ノ' i| ,. ,、 ,,|,,. 、_/´ ,-,,.;;l
'、 ヾ ,`''-‐‐'''" ̄_{ ,ノi,、;;;ノ 〜〜前回のあらすじ〜〜
ヽ、, ,.- ,.,'/`''`,,_ ,,/ なんかフィレンクトさんが出てきた
`''ゞ-‐'" `'ヽ、,,、,、,,r' まとめはハイルイトーイなどをご利用ください
,ノ ヾ ,, ''";l ttps://hail1101.web.fc2.com/
385
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/12/14(金) 21:03:01 ID:LgVhRRY60
――― チーム・ディレイク ―――
( ^ω^)B00N-D1:通称ブーン。本名:ホライゾン・ナイトウ。年齢20歳。
サイボーグ「システム・ディレイク」。強力な抗ウィルス細胞を持つ。
↑↓ ジョルジュ達に救出された後、もう一つの穴倉にて『フィレンクト』と出会う。
ィ'ト―-イ、
以`゚益゚以 アーマーシステム:BLACK DOGⅡが変形しブーンの強化外骨格と化す機能。
その戦闘能力の高さ故にブーンにもダメージを与える。
ノパ⊿゚)ヒート・バックダレル:年齢26歳。女。
レッドヘアー・リーパーの二つ名を持つサイボーグ。
ブーン奪還作戦に投入される。損害甚大となったが戦闘続行はまだ可能なようだ。
386
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/12/14(金) 21:04:31 ID:LgVhRRY60
――― チーム・アルドリッチ ―――
从 ゚∀从ハインリッヒ・アルドリッチ:年齢23歳。チームリーダー。
対セカンド人型戦闘兵器「バトルスーツ」の開発者。
ブーン奪還作戦には後方支援で参加し、バトルスーツを遠隔操作する。
ミ,, ゚∀゚シジョルジュ・ジグラード:年齢35歳。感染者。
バトルスーツ隊隊長だったが、セカンドウィルス感染後、自我を持つ異形と化す。
ブーンの奪還後はハングドランクに立ち向かうが、狡猾で冷酷なアノンの前に屈する。
ガイル:年齢33歳。戦闘員パイロット。
バトルスーツ隊現隊長。
万一の作戦失敗に備えOSM SUITE部隊と防御網を張る。
387
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/12/14(金) 21:04:56 ID:LgVhRRY60
――― Hanged, Drawn And Quartered ハングドランク ―――
爪 ゚Ⅳ〉アノン:年齢不明。男。
自我を持つ感染者Awakerのコミュニティ「ハングドランク」のリーダー。
セントラルを接収したいと考える。
ブーンの実父ロマネスクの顔と声を持つが、形成された人格は凶悪かつ狡猾。
恐怖でコミュニティを支配するが、彼の信者は多い。
/ ゚、。/ダイオード・チャンドラー:年齢不明。女。
元々はコミュニティForsakenに属していた。
アノンに心酔し、裏切ったセントジョーンズを殺すべくルシールを握る。
ミセ*゚ー゚)リミセリ・グリーン:年齢不明。女。
元Forsakenに属していた感染者。
セントジョーンズらを従属させるための人質になっている模様。
セリオットとは友人関係を築き侍女を務めているが、アノンを脅す材料にするべきか考えている。
リ|* ヮ )| セリオット・ユアン:年齢不明。女。
別のコミュニティに所属していたがハングドランクに接収され、
その後アノンの妻にされてしまい、アノンの子をその身に宿した。
388
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/12/14(金) 21:05:43 ID:LgVhRRY60
――― Forsaken フォーセイクン ―――
(´・_ゝ・`) デミタス・リーダス:年齢不明。男。
元はサイボーグ。ディと共に「ハングドランク」から逃亡し追われていた。
ジョルジュと共にブーンを奪還し、フィレンクトの元にブーンを届ける。
(#゚;;-゚)ディ:年齢不明。女。
デミタスと共に逃亡中のAwaker。
デミタスの恋人ディートリッヒ・ウェインズを喰らい、その顔と声を得たようだ。
子供のような話し方は、人を喰らうのを止めた弊害と考えられる。
('e')セントジョーンズ・リンカーン:年齢不明。男
Forsakenのリーダーだった男。
アノンに従属していたが、デミタスとジョルジュに感化され、アノンを裏切る。
ダイオードとの戦闘を余儀なくされ、抗戦する。
389
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/12/14(金) 21:08:09 ID:LgVhRRY60
――― もう一つの穴倉 ――――
('_L')フィレンクト・ディレイク:享年46歳。バックアップ起動から約6年が経過。
ツン・ディレイクの実父でありサイボーグ開発の権威である科学者。
ワシントン・ブリッジ爆破作戦にてセカンドとの戦いの末に死亡するが、
バックアップをリバティ科学センターに残し、とある研究を進めていた。
390
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/12/14(金) 21:10:37 ID:LgVhRRY60
凶器が鳴らす硬い不協和音が街の暗闇の中に溶け込んでゆく。
ダイオード・チャンドラーは狂気と殺意に満ちた恐ろしい獣の唸りを上げ、
“ルシール”と名付けられた感染体殺しのバットを、かつての同胞に向けて振り続けている。
カウボーイハットに隠れた赤黒い中身をぶちまけようと、ただ迅速に。
セントジョーンズは手斧でそれを受け流し、足捌きでダイオードから距離を取る。
するとダイオードが再び詰めてルシールを振る。
攻防は変わらず、同じシーンを何度もリピートしているかのようだった。
セントジョーンズには攻撃の意思が全く無いと誰の目にも映っているが、
取り巻く感染者達は二人を煽る訳でもなく、固唾を飲んで行く末を見守るのみであった。
/ 、 #/「いい加減に、諦めて、死んで、セントジョーンズ……!」
肩で息をしながらダイオードが言った。
戦闘開始から優に5分が経過するもダイオードは決定打を打ち込めずにいたのは、
意外にもセントジョーンズの冷静な防御にある。
同様に荒く息を吐くセントジョーンズが、すり切れたカウボーイハットの隙間から
ダイオードを見据えて返した。
(; e )「頼む、やめてくれ。俺を殺しても、後悔するだけだ」
/ 、 #/「後悔だって? 私が?」
/ 、 #/「違う。私が殺すんじゃない。ルシールが殺すのよ。
私はただの執行人で、アノンの代理でしかない」
391
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/12/14(金) 21:11:44 ID:LgVhRRY60
ダイオードの言い分に、セントジョーンズは胸を締め付けられる。
人が死ぬのはルシールのせいであるという言葉は、アノンの常套句だ。
彼女が心の底からアノンを心酔してしまったと決定付けた瞬間であった。
/ 、 #/「後悔するのは貴方よ! あの世で――――ね!」
ダイオードは、アノンとコミュニティを象徴するルシールを振り回す。
セントジョーンズが谷の淵へと追い込まれてゆく。
ダイオードの圧力が増したと、傍で見るジョルジュにはそう見えている。
ミ,,;゚∀゚シ(セントジョーンズとか言ったな……出来れば死なせたくねえ……)
セントジョーンズはここで殺されるに惜しい男だと、ジョルジュは思う。
場を分かつ亀裂のようにデミタスとの間に軋轢は生まれてしまったが、
それを埋めるに値する選択をしたと堂々と彼に報告出来るだろう。
しかしながらこの窮地を脱する手段が思い浮かばない。
恐らくはセントジョーンズも同じ事を考えているはずだ。
仲間であったダイオードを殺して己が生き残る事は、
弱者の死の上を歩き続けるアノンの生き方を肯定するに等しい行為と言えよう。
それにどちらが倒れてもアノンを認めるという結末となる。
戦いで制してしまえば、だ。
ミ,,;゚∀゚シ(頭さえ潰せば……しかし、今の俺とヒートでやれるのか、この怪物を)
仲間同士の殺し合いを興じる仮面の男の背を睨みつける。
“線のこちら側”に悠々とその足を下ろすアノンを、線のどちら側でもない、
暗い谷の底に落として封をしてやりたいと、ジョルジュは顔を熱くして思う。
392
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/12/14(金) 21:12:48 ID:LgVhRRY60
ヒートが咥えて持ってきたサードの腕にかぶりつく。
冷える事を知らぬ肉片から溢れ出す血の旨さに、ジョルジュは一瞬我を失い欠けた。
この獣染みた行為も、弱者――この世界で死んだ者とそうでない者を分かつ行為だ。
矛盾する思考に苛立ちを感じながらも、今は生き残る事をジョルジュは考える。
ウィルスに汚染された血肉が喉を通り胃に落ちるや否や細胞は即座に反応する。
まるで職人が毛糸で裁縫するかのように血管や筋繊維が次々に紡がれていく様は、
CGで作られた映像をジョルジュに連想させた。
自分の化物染みた体にゾッとしながら、失った右手が何処にあるか目を地面に配らせる。
アノンにもぎ取られて地面に刺さったままのはずだ。
ミ,,;゚∀゚シ「チッ……」
ジョルジュの右手――携帯端末を着けた――はアノンが持っているままだった。
これではハインリッヒと連絡が取れないし、バトルスーツの操作も不可能である。
“食事”を終えたジョルジュが立ち上がり、ヒートの隣へ向かう。
ヒートは対物感知と熱源感知でジョルジュの気配を感じとる。
393
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/12/14(金) 21:14:07 ID:LgVhRRY60
ノハ#゚⊿ )(回復したか、ジョルジュ。しかし完治には程遠いか。
私も少々具合が悪ィ……こいつらと戦闘を続けるには不利だ)
大量のセカンドに襲われたバトルスーツだが、動作に問題は無いようだ。
アルドリッチ砲はスタンバイフェーズを終えて射出合図を待っている。
射出方向は遠方リンカーンパークへと向けられており、連中の女子供を人質に取る形となっているが、
アノンはその脅しには乗らず、撃てるものなら撃て、と開き直っている。
とはいえ確かに、アノンなら単独でも『セントラル』を堕とす戦闘能力を持つのは間違いない。
ノハ#゚⊿ )(しかもアノンに脅しは利かねえ。
かといってこのまま黙ってるのは性に合わねえだろ、お前も)
リンカーンパークへの砲撃は即ち『セントラル』の滅亡を合図する鐘とも言える状況だ。
ヒートはじっとSniperを構え、状況を脱する手段を講じようと頭を回転させる。
ミ,,;゚∀゚シ「やめさせろ」
ジョルジュがアノンに切り出した。
同じく線のこちら側に立つアノンの無防備な背にヒートはSniperの銃口を向けているが、
アノンはお構いなしという様子だった。
アノンがそのまま振り返る事無くジョルジュに返す。
爪 ゚Ⅳ〉「お前がそこまでセントジョーンズに固執するのは、
あいつがお前の言う“正しい”って存在だからか?」
394
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/12/14(金) 21:17:36 ID:LgVhRRY60
ミ,,;゚∀゚シ「過ちを省みて選択し直したあいつは、
お前と比較するまでもなく上等な人間だ。死なせたくねえ」
爪 ゚Ⅳ〉「それは違うな。何が上等なのか決めるのはシンプル、DeadかAliveだ。
お前達は欲張りすぎだ。そんなに選択肢が地上にあるとでも?
そこまで地上は甘くねェんだよ。何が何でも生きた奴が正しいのさ」
爪 ゚Ⅳ〉「DかAだ。俺にぴったり着いてくる奴にはDは与えられねェよ」
爪 ゚Ⅳ〉「降伏しな。命と一定の権利は保障する。
尤もそこのビッチが柱に縛り付けられるのは免れねェが」
ノハ#゚⊿ )「縛り付ける? 私を? ハッ、やってみなよ。
たとえ頭だけになってもテメエのタマに噛みついてやるよ!」
背後で吠えるヒートに、アノンは振り向かずに5本指を見せて返す。
爪 ゚Ⅳ〉「威勢だけはいいなビッチ。5分待ってやる。
DかAだ、選択しろ……考えるまでもない事だがな」
ノハ#゚⊿ )「待つまでもねえ! ジョルジュ! 今すぐこのクソ仮面野郎を――」
ミ,,;゚∀゚シ「待て……! アノン、分かった、考える時間をくれ」
ノハ#゚⊿ )「ジョルジュ! お前!」
ヒートはスコープから目を移すと、そこには降伏の気など無いという目とあった。
ジョルジュが残る指で地を示す。
指の先には血で書かれた『B』というアルファベットがあった。
ノハ#゚⊿ )(B……B00Nか。それまで持たせるってのか)
395
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/12/14(金) 21:19:38 ID:LgVhRRY60
爪 ゚Ⅳ〉「ジョ〜ルジュ〜……良い感じに分かってきてくれたかぁ?
何ならお前達を縛り上げてハインに直訴してもいいんだがよ。
いいだろう、5分と言わず、セントジョーンズが死ぬまで返事を待ってやるよ」
爪 ゚Ⅳ〉「ハイン、お前からジョルジュにも言ってやれよ……分かるだろ?」
『貴様……』
ヒートがアノンに視線を戻す。
同時にジョルジュも線の向こう側で繰り広げられる戦闘に目を向け直す。
セントジョーンズが手斧を振り回してダイオードの接近を拒んで間合いを保っている。
先程と比べ防戦一方から状況は変化しているようだった。
/ 、 #/「死んでよ! 早く、死んでよ!!」
対してダイオードは気が逸っているようだ。
大振りな攻撃は迫力こそあるが読みやすいはずだ。
セントジョーンズは手斧で受け流し、悠々とバットの描く軌跡から体を外している。
ジョルジュがセントジョーンズに視線を注ぐ。
すると一瞬だがセントジョーンズと視線を交わした。
ミ,,;゚∀゚シ(……セントジョーンズとか言ったな。会話は聞こえていたな?
何とか時間を稼げ。ブーンが戻って来ればまた機が生まれるはずだ)
(;'e')(どうやら俺の生死がセントラルの命運を左右するようだ。
……いいだろう、時間を稼ぐ)
396
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/12/14(金) 21:24:10 ID:LgVhRRY60
状況は裏切者、セントジョーンズを中心に展開し始めた。
セントジョーンズ自身もそれを悟り、手斧を握りなおす。
(; e )(……相手は、あのルシールだったな……)
その瞬間、セントジョーンズはゾッとした。
ルシールを受け続けた手斧の刃に零れが現れ始めていたのだ。
これ以上、ルシールを斧で受け続ける事は、死を意味する。
セントジョーンズの焦りを見て、アノンは仮面の下で歪に笑みを作った。
第44話「System-ZERO」
機器の放つ小さな光点が結ぶ中心で、そのホログラムはゆったりと歩いている。
投影された彼はブーンの知る生前そのものの姿が再現されている。
サイボーグ化する前の、時の流れに身を任せていた頃の彼の姿である。
齢を表す皺の数。癖のある頭髪の白髪の混じり方。
少しくたびれた白衣にはディレイク社の襟章が止められている。
(;゚ω。)「どう、して」
茫然とするブーンに対し、フィレンクトは淡々とした調子で続けた。
('_L')『事実はこのインターフェースに全て伝えさせるとプログラムされている。
私はフィレンクトが自身のパーソナルと知識を継承されたバックアップだ』
(;゚ω。)「インターフェース……? あ、アンタは、機械、いや、AIなのか?」
397
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/12/14(金) 21:26:06 ID:LgVhRRY60
('_L')『AIとは異なるが、しかし限りなく機械に近いだろう――見なさい』
フィレンクトが手で招く動きを見せると周囲の機器が動作を始め、
幾重もの分厚い壁が展開されてゆき、その内部格納されていた「脳」が現れた。
ブルーの液体に浮かぶ「脳」には小さなサイバネティクスが装着されており、
そこから伸びる数多の配線が周囲の機器と接続されているのを伺える。
血が足りず回らない頭のブーンでも、フィンレンクトの言うインターフェースの意味を理解した。
(;゚ω。)「ブレイン、マシン、インターフェース」
同時に一人の男を思い出した。
ボストンで出会った狂った研究者、オットー・サスガ。
彼はフィレンクトの講義を受けたことがあると言っていた。
その講義の内容は、System-Hollowによるブレインマシンインターフェースの完璧な制御であったと。
では、機器と接続された「脳」は、何なのだ?
ブーンの疑問と思考は、ホログラムの声で一度切り離される。
('_L')『よく知っていたな。そうだ。
では脳に接続しているサイバネティクスも知っているはずだ』
('_L')『System-Hollowによる脳制御。
フィレンクトのクローン脳に、この研究施設を操作させる為の処置だ』
398
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/12/14(金) 21:26:51 ID:LgVhRRY60
(;゚ω。)「や、やっぱり……」
(#゚;;-゚)「なるほど、わからん」
(;´・_ゝ・`)「デ、ディ、黙っているんだ……」
目の前のフィレンクト・ディレイクの正体に混乱していたのはブーンだけではなかった。
デミタスはSystem-Hollowの存在を耳にしていた事があったが、
目の当たりにするのはこれが初めてであった。
System-Hollow。
ブレインマシンインターフェースという当初の利用目的とは外れ、
兵士を死の恐怖から解き放ち命令遂行を強制させる代物に転用されていた。
戦場に投入された兵士達の間にそんな噂があったのを、デミタスは知っている。
(;´・_ゝ・`)「クローン脳、と言ったな。
何故、フィレンクト氏はそんなバックアップを準備していた?」
('_L')『その前にデミタス。ハンガーにブーンを掛けろ。時間が無いんだろう?』
(;´・_ゝ・`)「あ、ああ……そうだったな。ディ、手伝ってくれ」
(#゚;;-゚)「よしきた」
399
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/12/14(金) 21:28:12 ID:LgVhRRY60
デミタスとディがブーンの体を持ち、ガラスに隔たれた別室に向かう。
そこにはブーンがマンハッタンの地下穴倉で見慣れたドリルやカッター等が並んでいる。
全てディレイク社製の器具だ。
ハンガーと呼ばれた十字架形状の機器は施術台であるが、古いタイプに属する。
神経系統に直結しモニタリングする為の無数の鋭利なジャック、固定ベルトで構成されている。
人を機械の体に作り替える為に生まれた機械の十字架は、宗教団体を敵に回す要因の一つでもあった為、
コンプライアンスの為に寝台タイプへと姿を変えたという経緯を持っている。
(;゚ω。)「や、やめ」
(;゚ω。)「やめ、ろ! やめろ!! やめてくれ!!」
十字架式のハンガーに掛けられる寸前、ブーンの叫び声が小さな部屋に響き渡った。
酷く怯えるブーンの様子に、デミタスとディが同時にフィレンクトの顔を見るが、
('_L')『早くしたまえ』
抑揚のない声、崩れない表情でフィレンクトが促す。
ブーンは残り少ない血を吐きながら声を荒げる他に、抗いようがなく、
ハンガーにロックさせられてしまった。
しかしブーンは手足の無い体を芋虫のように動かし、叫び続ける。
血反吐と流れ続ける血混じりの疑似体液が、白く清潔な床を汚してゆく。
(;゚ω。)「やめろぉおおおお! 外せ! 外してくれ!」
400
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/12/14(金) 21:30:19 ID:LgVhRRY60
(;゚ω。)「僕はもう、あ、ああ、アノンと、戦いたくなんてないんだ! 助けてくれ!!
ツン! おい! ドクオ! 何故応答しないんだあのバカ野郎!
誰でもいい! 誰か! 誰か……」
次第に力尽きてブーンは長い髪を垂れ流し、ぶつぶつと呟くようになる。
吐く言葉はいずれも死を懇願するものだ。
デミタスはわなわなと震える手で髪を掴み上げ、残るブーンの瞳を睨みつける。
(;#´・_ゝ・`)「さっきから何を言っているんだ、お前は」
(;#´・_ゝ・`)「このままではジョルジュとヒートも、そのツンとドクオだって、
あの悪魔の奴隷になってしまうんだぞ……!?」
(#゚;;-゚)「よわむし、死ねよまじで」
ブロンドに輝く髪を面倒くさそうにかき上げてディが容赦のない言葉を浴びせる。
いつもならデミタスが黙れと言う場面であったが、咎める気にはなれなず、
(;#´・_ゝ・`)「同感だがなディ、この男には生きてもらわなければならない。
こいつにハングドランクをぶっ潰してもらう必要がある」
(;#´・_ゝ・`)「博士、何でもいいから施術を開始してくれ。
そうすれば彼も諦めも付くはずだ」
('_L')『そうか。デミタス、ディ、施術室から出てくれ。
30分もあれば新たなボディに換装し、設計変更も終えるはずだ』
デミタスがブーンの髪を払い、ディと共に施術室を出る。
ガラス越しに十字架に掛けられたブーンを見ようとすると、ブーンの呪うような片目と合う。
同時に、施術室と繋がったスピーカーから絞れたブーンの声が流れた。
401
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/12/14(金) 21:30:47 ID:LgVhRRY60
『お前達に、何が、分かる……!』
『あの、男、あ、アノンは、僕の、お、おお、親、親父の、顔が……』
(;´・_ゝ・`)「……今、何て言った……?」
驚愕してデミタスはディとブーンに視線を行き来させ
唖然としながらも聞き返そうとしたが、激情するブーンが絶え間なく続けた。
『お前達に分かるか……! 殺すべき仇が、あ、アノンが、
僕の、トーチャンの、顔と声を持っているんだ!
殺せる訳がない……僕のような、弱い、人間に……あ、あれは……』
『い、いい、いやだああ! もう! もう戦いたくない! もう生きていたくない!
こんな狂った世界で、人間が、生きていけるはず、なかったんだ!』
デミタスはマイクを見つけ、声を吹き込んでガラス越しに伝える。
(;´・_ゝ・`)「お前を死なせる訳にはいかない。ジョルジュが命を賭してお前を救出したのは、
何もお前に戦いだけを求めているのではないからだ」
(;´・_ゝ・`)「お前の事を兄弟だとそう言った男の為にも、ブーン、お前は――」
『死なせてくれ……デミタス、頼む、殺してくれ……』
402
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/12/14(金) 21:31:37 ID:LgVhRRY60
(#´・_ゝ・`)「……この、クソ野郎……!」
怒りの余りデミタスはマイクを握りつぶす。
ディがぽんと肩に手を置いて宥めようとしたが、デミタスは振り払ってブーンから目を離した。
握る拳はギリギリと音を立てながら震えている。
(#´・_ゝ・`)「俺がジョルジュ達に加勢しにニューアークへ戻る。
ディ、お前はここで待機していてくれ」
(;#゚;;-゚)「それならディも行くよ!」
(#´・_ゝ・`)「だめだ。お前は、お前だけは絶対に……。
ディ、頼む、ここにいてくれ」
(;#゚;;-゚)「やだ……! ディを一人にしないで!」
(´・_ゝ・`)「必ず戻ると約束する。だから、ここで待っていてくれ……」
デミタスは腰のパックから小さな銀箱を抜き取り、それをディの手のひらに乗せる。
箱の留め金を外すと、中には二本の葉巻が収められていた。
(´・_ゝ・`)「古いんで味はもう保証できないが……俺が帰ったら一緒に吸おう」
(#゚;;-゚)「……ディへの約束? それとも、ディートリッヒに約束?」
403
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/12/14(金) 21:33:30 ID:LgVhRRY60
困った質問だなとデミタスは思い、苦笑いを浮かべる。
それから恥ずかしそうに頭を掻いて、ディの無垢な瞳を覗き込んで言った。
(´・_ゝ・`)「両方、かな」
(#゚;;-゚)「…………わかった」
ディは観念し、笑顔でこくりと頷いて見せる。
デミタスの胸の上で弾むロケットの写真と全く同じ顔であった。
初めてディと会った日の事をデミタスは思い出す。
ロケットの中身を見たアノンが興味本位で会わせたのが切っ掛けだった。
アノンを始め、ハングドランクの古い構成員が元はセカンドであり、
数多に喰らった人間の中から理想とする者の姿を得たという話を聞いていた事もあって、
ディートリッヒ・ウェインズと瓜二つのAwakaerを見た瞬間、己の運命を呪わずにはいられなかった。
セカンドからAwakerと成りたてであったディは精神的に幼く、
容赦なく人を喰らおうとするセカンドと遜色のない存在であった。
しかし、ディの面倒を任されたデミタスは、彼女を次第に獣から人へと変えていったのだ。
それはデミタス自身の言葉で紡ぐ物語や歴史、自身の経験、中には嘘もあった。
ディには彼の話が楽しく深く突き刺さり、知識と知恵を得、
口を人の臓器で汚すのを止めてデミタスと会話する事に使い始めたのだ。
(*#゚;;-゚)「デ、デミタス……?」
デミタスがディの小さな口を見つめ、唇を近づける。
ディは鱗肌の顔を紅潮させて目を閉じ、受け入れた。
404
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/12/14(金) 21:34:18 ID:LgVhRRY60
(´・_ゝ・`)「必ず帰ってくる」
(*//;;-//)「し、死んだらゆるさない」
デミタスはBlueBulletGunのカートリッジを交換しながらエレベータへと向かう。
その途中、ブーンと再び目を交わし合う。
(;゚ω。)「あ、ああ、い、行くな……行くんじゃない! ぼ、僕と同じ過ちを……!
その子は、その子の為にも、お前は、穴倉に、留まるべきだ……!」
二人の様子を見ていたブーンは、恐怖とは異なる表情を浮かべていた。
出て行こうとするデミタスに向かって口を動かし続けているが、声は遮断され伝わらない。
デミタスはブーンが何と言っているのか気にかかったが、構わずエレベータを起動させて地上へと向かった。
(# ;;- )「デミタスを死なせたら、ディがお前をぜったいに殺す」
かつての獲物を見る目でディがブーンを睨みつける。
ブーンはディの視線に気づくと再び怯えてぶつぶつと呟く。
(;゚ω。)「あ、いい、いや、いやだ、怖い、怖いんだ」
405
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/12/14(金) 21:35:29 ID:LgVhRRY60
(;゚ω。)「やめろ、やめてくれ……そんな目で見るな、どいつもこいつも!
ぼ、僕は、もう、あんな風に戦いに行けないんだ!」
(;゚ω。)「何で、皆、戦えるんだ? そういえば、何で、僕は、戦っていた……?」
(;゚ω。)「仇討ちの為……それから、人々を守る為……今は、ツンの為に……
でも、もう、無理だ。無理なんだ……あ、あいつとは、戦えない、怖い、こわい」
(;゚ω。)「戦う? そうだ、戦うのが間違っていた。
僕は、ただ、ツンと一緒に生きていれば、平凡に生きていれば良かったんだ。
バカだったんだ。免疫があるから? それがどうしたってんだ?
選ばれた人間だなんて思ったのかよお前は?」
406
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/12/14(金) 21:36:36 ID:LgVhRRY60
(;゚ω。)「あ、荒巻……荒巻、彼は正しかった。穴倉に潜んでいればよかったんだ。
こんな地上に何を求めるってんだ。太陽? 広い大地? 自由?
セカンドウィルスからの解放? クソだそんなもん。
何を僕は偉そうにクソみたいな事を演説した? 本なんて出してた?
バカだ。地上に出たからジョルジュ隊長だって感染したんだ」
(;゚ω。)「僕が地上に出なければ、あ、あああ、し、しぃさんも死ななかった!
ボストンの穴倉で偽りでも幸せな日々を送れていたはずだ!
ギコさんだって……そ、それに、それに……」
(;゚ω。)「……スネーク、スネークのオッサン。
なんで、僕と、ビロードを残して、死んでしまったんだ……」
407
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/12/14(金) 21:36:58 ID:LgVhRRY60
フィレンクトの脳にはブーンの言葉が届いている。
フィレンクトの冷え切った声が施術室に響く。
('_L')『接続されたハンガーを経由しお前の“LOG”を読み取った。
我が娘は期待以上のサイボーグを造り上げ、お前は優秀なハンターとなった』
('_L')『だが心は脆く弱い。お前は人と戦う戦士には向いていなかった。それだけだ』
フィレンクトが間を置いて続ける。
('_L')『恐怖から解放してやる、ホライゾン』
(;゚ω。)「――――やめろ! それだけは!」
その言葉を受けてブーンが顔を上げて叫んだ。
System-Hollowの制御を受けた機械化した彼がやろうとしている事を、容易に想像できたからだ。
('_L')『地獄の戦場を歩く兵士の夢と囁かれた、まさに宝珠を与えられるのだぞ?
お前は人が得るあらゆる苦痛から解放されるのだ』
(;゚ω。)「やめろぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
('_L')『施術を開始する。シャットダウンを実行しろ』
408
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/12/14(金) 21:37:30 ID:LgVhRRY60
( ゚ω。)「フィ――レン、ク、ト――――――――」
機械仕掛けの十字架に張り付けられたブーンはシステムダウンし沈黙した。
ただ循環機能のみを微動させ最低限の生命活動を続けるブーンに、
ドリル、カッター、レーザーメス等の機器が独りでに殺到してゆく。
ホログラム・フィレンクトの前には4つのモニターが投影され、
その内一にはブーンの施術状況をモニタリングした映像が表示されている。
もう一つはSystem-Hollowとタイトルされたタブで、そのプログラムのコンパイルを始めている。
その右隣りにはBLACK DOGⅡと格納された武器類のアナライズが実行されている。
そしてもう一つ、『System-ZERO』と打たれたタブがある。
409
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/12/14(金) 21:38:26 ID:LgVhRRY60
('_L')『このSystem-ZEROがお前をあらゆる苦痛から解放される。
そしてただひたすらウィルスを駆除するサイボーグと化す』
生前のフィレンクトであれば顔を苦悶に歪ませたであろう言葉を、
漣の如きノイズすら発生しないホログラムが表情で述べる。
プログラムにとっては、完成手順を知り終えたパズルをはめていくような単純作業を淡々と続けるだけであった。
だが、
('_L')『何だ、これは』
頭部左右――耳部分に位置する対物検知と聴覚プロフェッサの解除をするにあたり、
邪魔になっている黒いバンダナをアームで掴ませた時である。
アームの先端部分のセンサーを介し、メインシステムの状況を示すタブに不可解なデータが反映されたのだ。
('_L')『分析する』
知らないピースだと一瞬思考してしまった為ホログラムに僅かなノイズが生じたが、
System-Hollowがコンプレッションレベルを上げてインターフェースを制御する。
興味を失った本体の脳が、あくまで冷静かつ客観的に異物の分析を開始する。
410
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/12/14(金) 21:40:51 ID:LgVhRRY60
('_L')『微量だがナノマシンが編み込まれ、ブーンの脳機関に癒着している。
いつからだ……? ブーンへの影響は……特に無いようだ』
スキャニングしてモニタリングする頭部の3D映像を拡大し、フィレンクトはそう呟く。
場の空間を埋める機器達が提示する幾つかのアナライズも答えは同じだった。
フィレンクトはアームを経由してナノマシンのシステム内部にアクセスを試みる。
しかし、敷かれていた防御網は複雑で一瞬では突破出来ず、アームを一度バンダナから離した。
('_L')『B00N-D1のメモリーにアクセスしLOGを参照する』
('_L')『40年代、それも初期のサイボーグが所有していた物か』
('_L')『コードネームのスネーク、名のデイビッド、
どちらもデータベースには記録されていない』
生前フィレンクトが複製したディレイク社のデータベースで検索を掛けたが、
LOGに残るデイビット、もしくはスネークという名の男は引っかからない。
そこで生体工学とその歴史を学習したクローン脳本体が改めて人物を分析する。
411
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/12/14(金) 21:41:26 ID:LgVhRRY60
配線を通じてホログラム・インターフェースが考察を述べる。
('_L')『防衛壁の分厚さから鑑み、このバンダナは情報戦上での防衛手段だと思われる。
ディレイク社のデータベースにも存在しない野良のサイボーグか、
或いは特務を担ったエージェントがハッキングを防御する為の装備』
ホログラムは左右に行き来しながら続ける。
('_L')『バンダナの破壊は容易い。だが中枢機関に癒着してしまっているのが厄介だ。
摘出も検討したがナノマシンの防衛機能が不明確、今は手が出せない』
('_L')『……システム中枢へのアクセスコードの解析は続行するが、
ブーン本体へのアクセスは可能だ。起動にも問題は無い』
考察し終えたフィレンクトはアームでバンダナを掴み、脳機関の展開を再開する。
スキャンした映像を更にズームアップし、脳機関の半分を構成する機器に着手を始める。
('_L')『System-Hollowと、ZERO BODYを』
十字架の近くの床が開かれ、そこから台座がせり上がる。
同時に天井が開かれ、数多の配線に繋がれた黒色のボディが降ろされる。
412
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/12/14(金) 21:43:28 ID:LgVhRRY60
台座では親指程のサイズの小さな機器がブルーのランプをチカチカと点滅させている。
フィレンクトのクローン脳にも同様の物が搭載されているこれが、System-Hollowである。
アームの一つがこれを掴み取り、切開されたブーンの頭の中へと忍んでゆく。
もう一つのアームと共にシステム中枢を構成する機関の一部を換装させる。
ブルーのランプが点滅から点灯に切り替わる。接続中の合図だ。
フィレンクトはその瞬間を見届けると、System-Hollowのタブにワークステーションを起動した。
あらゆる感情をカット、コンプレッションし、
冷酷なセカンド殺しへ変貌させる“調整”を始めたのだ。
並行してボディの換装作業が進められていた。
複雑極まる施術を同時進行できるのも、System-Hollowが極度に脳を制御しているのが理由だ。
通常、凄腕の技師でも息を溜めて吐き、熱い汗を滴らせる精密な作業なのである。
('_L')『我が娘がディレイク系サイボーグの設計に忠実でいてくれて良かった。
想定していた設計変更をせずに済んだな』
頭部とボディの接続完了を確認したインターフェースがそう言った。
神経系統の稼働状況を見て、クローン脳は考察、同調するインターフェースが代弁する。
('_L')『実際のSystem-Hollow制御下での運動性能は0.1101%低下か。
想定していたよりもレイテンシが生じたが、問題の無いレベルだ』
413
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/12/14(金) 21:43:59 ID:LgVhRRY60
('_L')『さて、ここからだ。フィレンクト・ディレイクの夢が果たされるのは』
ホログラムは抑揚無くそう呟き、指先をSystem-ZEROというタブ上で躍らせる。
( ω。)「う、あ、う、」
瞬間、十字架形のハンガーに掛かったブーンに変化が生じ始める。
声を漏らし、黒色の全身を痙攣させ始めた後、
そのボディと同色の霧のような何かを全身から発生させたのだ。
霧はまるで意思を得ているかのように動き、ブーンの周囲に存在する金属を覆う。
覆われた金属は瞬く間に色を黒く塗り替えてゆき、腐敗に似た症状を経て霧と同化してゆく。
霧――霧状の黒い粒子は膨れ上がってゆく。
( ゚ω;;::..「う、ううあ、うゔ」
蠅の群れを思わせる黒色のそれは垂れさがったブーンの目玉に殺到して飲み込んでいき、
ガチャガチャと金属的な音を立てながら眼底の中へと飛び込んでいった。
414
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/12/14(金) 21:52:28 ID:LgVhRRY60
( ゚ω゚)「う、ゔ、」
粒子が消え去るや否や、ブーンの左目には新たな視覚プロフェッサが埋め込まれていた。
ブルーカラーだった瞳の色は、今は漆黒に変わっている。
漆黒の瞳がぎょろぎょろと動き回る。
まだ起動されていないブーンは生体的な反射で声を漏らした。
ブーンの視覚情報は十字架を通してフィレンクトにモニターされており、
提示された数値を見たフィレンクトが結果を述べた。
('_L')『自己修復機能によって新たに生成された視覚を確認。
損傷を元に戻すSystem-ZEROは完成された』
('_L')『ただ一残る臓器、脳はナノマシンが保護してくれる。
あらゆる苦痛から解放されたお前は、永遠に街で狩りをし続けるのだ』
ホログラムが腕を上げて新たなタブを宙に開く。
パスワード入力を求められ、ホログラムはゆっくりと「dear fox」と入力した。
('_L')『フィレンクトが君に残した文書を送るよう、プログラムが組まれている。
ブーンの通信システムからセントラルの通信基地を経由して送信しよう』
415
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/12/14(金) 21:53:18 ID:LgVhRRY60
フォックスへ
このメールが送信されたという事は、どうやら私は遂に人から苦痛と苦悩を取り除く事を叶えたようだ。
君がクローンで老いと病という恐怖からの解放を目指したように、
私は機械でそれを完璧にやってのけてしまったようだ。
System-Hollowの開発には君も随分と出資をしてくれたな。
結局、学生と一緒に完成までこぎつけてしまったという話はしたよな?
それでも出来栄えを一緒に喜んでくれたのを私は覚えている。
君のクローンと私のSystem-Hollowで戦争は変わるという寸前で、このウィルス騒動だったな。
君と私は思想や考えは異なったが、しかし目指す所は一緒だった。
人間の根底にある欲望、生への限りない渇望を満たすという所だよ。
この途方もない夢を私は無機物、君は有機物という反する観点から追い求めた。
君のクローンと私のサイバネティクスは世界は大きく動き始めていた。
それでも君は、完璧な永遠を得られないと悲観した。
だから火星でセカンドウィルスに興味を持った君に、私は警戒せざるを得なかったんだ。
私は万一の備えの為にバックアップを準備し、死後もサイボーグの研究を進める事にした。
そうだ。君に用意させた私の脳クローンに作業を……これはデレにも秘密でね。
System-ZERO……System-Hollowとナノマシン技術を得た究極のサイボーグをそう名付ける。
これこそが永遠の活動機関を得た、人間の最終形態だ。
だが、これの起動は更なる危機が人類に迫った事を示すのだろう。
セカンドウィルスは危険だ。制御できるはずがない。
仮に制御が可能であっても、人とウィルスが交わるような未来を望むのは、
果たして君以外に存在するのだろうか?
もしそうなるのであれば、私や君が研究に没頭した情熱は意味を失われる。
416
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/12/14(金) 21:53:56 ID:LgVhRRY60
フォックスへ
このメールが送信されたという事は、どうやら私は遂に人から苦痛と苦悩を取り除く事を叶えたようだ。
君がクローンで老いと病という恐怖からの解放を目指したように、
私は機械でそれを完璧にやってのけてしまったようだ。
System-Hollowの開発には君も随分と出資をしてくれたな。
結局、学生と一緒に完成までこぎつけてしまったという話はしたよな?
それでも出来栄えを一緒に喜んでくれたのを私は覚えている。
君のクローンと私のSystem-Hollowで戦争は変わるという寸前で、このウィルス騒動だったな。
君と私は思想や考えは異なったが、しかし目指す所は一緒だった。
人間の根底にある欲望、生への限りない渇望を満たすという所だよ。
この途方もない夢を私は無機物、君は有機物という反する観点から追い求めた。
君のクローンと私のサイバネティクスは世界は大きく動き始めていた。
それでも君は、完璧な永遠を得られないと悲観した。
だから火星でセカンドウィルスに興味を持った君に、私は警戒せざるを得なかったんだ。
私は万一の備えの為にバックアップを準備し、死後もサイボーグの研究を進める事にした。
そうだ。君に用意させた私の脳クローンに作業を……これはデレにも秘密でね。
System-ZERO……System-Hollowとナノマシン技術を得た究極のサイボーグをそう名付ける。
これこそが永遠の活動機関を得た、人間の最終形態だ。
だが、これの起動は更なる危機が人類に迫った事を示すのだろう。
セカンドウィルスは危険だ。制御できるはずがない。
仮に制御が可能であっても、人とウィルスが交わるような未来を望むのは、
果たして君以外に存在するのだろうか?
もしそうなるのであれば、私や君が研究に没頭した情熱は意味を失われる。
フォックス、君の情熱は今どこに向いている?
フィレンクトより
417
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/12/14(金) 21:55:56 ID:LgVhRRY60
インターフェースを介して文書を読んだクローン脳が、
視覚を空間の隅で座っている感染体――サードに意識を向けて思考を始める。
('_L')『サード。プログラムを実行する為だけに存在する私が
一定以上の興味を持つ事は出来ないが』
('_L')『あくまで人に対する助言ならと思考すれば発言は可能のようだ……ディ、逃げなさい』
(#゚;;-゚)「ふぇ?」
('_L')『ブーンは君を狙う。生きたいなら今すぐ遠くへ逃げるんだ。
彼の検知範囲外から逃れ、息を潜めて生きるんだ……穴倉でも見つけてね』
ディは飛ぶように立ち上がって甲高い声を空間に響かせる。
(;#゚;;-゚)「む、むずいこと言うな! どういうこと!?」
('_L')『ブーンはセカンドウィルスを駆除する事だけに快楽を得るマシンとなった。
目の前にいる君を真っ先に殺すはずだ。彼は死なないから殺す事も出来ない』
('_L')『間もなく起動フェーズに移行し、その後すぐに現場に投入する。
対象となりたくなければ今すぐ逃げなさい』
418
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/12/14(金) 21:56:32 ID:LgVhRRY60
(;#゚;;-゚)「よ、よくわかんないけどやばいんだな! 逃げてデミタス追っかける!」
ワークパンツを突き破って出ている爬虫類科の細長い尻尾を翻し、ディはエレベータ内へと走る。
エレベータの起動スイッチを押し、ドアが閉じてゆく中、ふとガラスの向こうのブーンを見た。
(ω゚ )
(;#゚;;-)「ひっ」
金の長い髪の隙間から覗く見開かれた瞳と視線を交え、
ディは自我を得てから今日まで感じた事の無い恐怖という感情を初めて知り、
少女のような高い声を思わず漏らしたのだった。
ドアが閉まり視線が遮断された瞬間、ディは息を吐いた。
それから体が震えている事に気づいた。
(;#゚;;-゚)「ばけもの、ばけものだ……!」
――あれは街で見たことがある! わるいセカンドの瞳にそっくりだ!
ディは幼い思考力で自身の経験とフィレンクトの言葉、
それらを本能的に今のブーンと結び付けて危険性を察知した。
419
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/12/14(金) 21:58:05 ID:LgVhRRY60
(;#゚;;-゚)「デミタスとジョルジュたいちょーにしらせなきゃ!!
あれ、ぜったいやばい! 悪い予感がするよ!!」
ディはデミタスから預かった小さな銀箱をぎゅっと握りしめる、
エレベータの上昇を永遠と思える程長く感じて。
※
ジョルジュ達に加勢するべく地上へ出たデミタスはニューアークを目指していたが、
半機半獣の肉体の本領を発揮出来ず、夜の街が醸し出す静寂さに溶け込むので必死であった。
いや、半機半獣のそれぞれが持つ機能を最大限に引き出しているからこそ、慎重な行動を取っていた。
空に浮かぶ機械の巨人が街に火を放った為に、獣達は興奮している様子だった。
それに科学センターへ向かう道中、バイクとしては静かな部類のものの、
確獣達の縄張りに足を踏み入れた事を知らしめるのには十分な音を立てていた。
両眼の視覚プロフェッサ、聴覚プロフェッサが得て提示する情報に注視する。
抜き抜ける風や獣の鳴き声や足音を頼りに、元々所有していたマップを更新してゆく。
徒歩で抜けられる通りも今や倒壊したビル群で封鎖され、
コンクリに罅を入れる程の跳躍を行わなければ通行が叶わない箇所などもある。
場合によればビルを相手にクライミングなども要求されるだろう。
つまりは死活問題である音を立てずにルートを探る必要がある。
元の戦場の方がかえって安全と思える程、デミタスは孤立を感じていた。
420
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/12/14(金) 22:00:39 ID:LgVhRRY60
(;´・_ゝ・`)(だが、必ずアノンを、ハングドランクを潰してディの元に帰る)
ディと交わした約束がデミタスの心を奮い立たせている。
科学センターの地下での出来事を、デミタスは思い返す。
ブーンと呼ばれていた『セントラル』のサイボーグはこれまで何度も単独で街を往き、
何百ものセカンドを狩ってきた凄腕のハンターであると、ジョルジュから聞かされていた。
確かに装備とスペックは最新鋭だと、デミタスは自身が今握るBlueBulletGunを見て思う。
それに彼のシステムなら安全ルートの算出も容易い事であろう。
ニューアークの中心部まで途方の無い長さを作っているのは自分自身なのだと、
自虐的な思考に及ばずにはいられなかった。
しかし同時に、それほどのサイボーグが仲間の為に戦わないのは何故かとも思う。
アノンが彼の父親の姿を持っている。それは間違いなく残酷な事実ではあるが、
生きる為に仲間を差し出したセントジョーンズやダイオードと同様、
デミタスにとって許しがたい選択をブーンが取ったのは事実なのである。
命懸けで戦っているジョルジュ、ヒート。
それから穴倉のハインリッヒに何と説明すればよいのか。
彼等ならあんな男でも許すと考えるのだろうか。
(;´・_ゝ・`)(いや、立場が逆であれば、俺だって……ディと……)
デミタスは胸の内に抱えた事実に振り回され、雑念を生み出してしまう。
この夜の街では余計な思考は命を落とす原因となると知っていても。
421
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/12/14(金) 22:02:11 ID:LgVhRRY60
息を殺してデミタスを狙っていたセカンドの群れがビルから降下する。
(;´・_ゝ・`)「しまっ――――――」
人型の肉体を持つが皮膚が所々無い。
同様の頭部には数多の黒々とした小さな目玉が肉に埋め込まれており、ぎょろぎょろと動いている。
剥き出しの臓器群は、興奮に満ちた血の激流に震えている。
獲物を一瞬で息の根を止める為に発達した長い腕、その先端の爪は闇夜でも不気味に輝いた。
デミタスは空中の異形に向けてBlueBulletGunのトリガーを引く。
小さな銃口から発射されたエネルギーは増幅され45cm大の弾丸と変貌、
感染体の腹部に同等の大きさの穴を開けて、そこから融けた肉と血を降らせる。
(;´・_ゝ・`)「クソッ!」
更に一匹、二匹とデミタスは撃ち落としてゆく。
だが、数が多く、残存するセカンドの爪が振り落とされる前に地を転がって回避。
422
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/12/14(金) 22:04:22 ID:LgVhRRY60
(;´・_ゝ・`)「こんなところで!」
無意識に叫び、地に伏したまま銃を向ける。
それよりも早く、降下を終えたセカンド達がデミタスへ詰めていた。
その瞬間であった。
「死ね!!」
遠方より高速で放たれていた抗ウィルスエネルギー弾が感染体に襲い掛かる。
小型の弾丸の群が感染体の肉を削ぎ、汚染された細胞に効力を発揮して融解させてゆく。
デミタスも応戦する。
その声の主の方へと顔を向けたい気持ちは、今は抑えて。
更に降下するセカンド達は次々に弾丸を浴び、
地面に広がる死骸と同じように体をどろどろにさせながら熱量を失っていった。
423
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/12/14(金) 22:04:42 ID:LgVhRRY60
(;#゚;;-゚)「デミタス!」
走り寄って来たディを、デミタスは腕を広げて迎える。
ディは息を切らしながらデミタスの胸の中に顔を埋める。
デミタスは、ディの持つ昔と変わらぬブロンドの頭を撫でてやりながら問う。
(;´・_ゝ・`)「ディ……何故ここに……!?」
問われてディが頭を上げ、焦りを浮かべた顔を見せる。
(;#゚;;-゚)「あのね! あのね!! よくわかんないけど大変なの!!
ほろぐらむのオッチャンがブーンをやばくしてディは逃げろって!」
(;´・_ゝ・`)「落ち着け! まるで状況が分からんぞ。
ディ、一旦この建物の屋上へ退避しよう」
そう言い、二人は抱き合ったまま地を蹴り、高層ビルの屋上へ移動。
月明りに僅かに照らされた屋上は、先程のセカンドの住処であったようだ。
食事場と思われる中央では、巨大な節足動物が頭と腹の中身を失って横たわっていた。
まだ微弱な鼓動音をデミタスの聴覚プロフェッサに届けていた。
他に生体反応は無いようだ。
424
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/12/14(金) 22:05:11 ID:LgVhRRY60
デミタスが改めてディに尋ねる。
(;´・_ゝ・`)「何があったんだ?」
(;#゚;;-゚)「わかんないけど、オッチャに逃げろって言われたの。
ブーンに殺されるぞって言われて」
(;´・_ゝ・`)「どういう事だ……お前を、殺すだって?」
(;´・_ゝ・`)「ディ、フィレンクトの言葉を思い出して言えるか?
ほら、いつも俺が聞かせるお話を繰り返すように」
デミタスはディの高い記憶力を頼る。
ディには意味を理解し思考する力が足りないが、記憶力は抜群なのである。
こくりと頷いて、ディは爬虫類の金の瞳を瞬きしながら告げた。
(;#゚;;-゚)「ブーンは君を狙う。生きたいなら遠くへ逃げるんだ。
彼の検知範囲外から逃れ、息を潜めて生きるんだ……穴倉でも見つけてね」
(;#゚;;-゚)「ブーンはセカンドウィルスを駆除する事だけに快楽を得るマシンとなった。
目の前にいる君を真っ先に殺すはずだ。彼は死なないから殺す事も出来ない」
(;#゚;;-゚)「間もなく起動フェーズを終え試験運転に移行する。
対象となりたくなければ今すぐここから逃げなさい」
(;#゚;;-゚)「わけわからんけどやばいって……デミタス?」
425
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/12/14(金) 22:07:08 ID:LgVhRRY60
(;´・_ゝ・`)「殲滅方法って、そういう、事かよ……」
デミタスの手が震えている。
ディの口から告げられたフィレンクトの言葉、そしてSystem-Hollowの存在。
この二つが符合する事の意味をデミタスには理解が出来た。
ブーンはセカンドウィルスそのものを駆除する存在となり、
恐らく、もはや選択する事すら叶わなくなってしまったのだ、と。
だが利用価値はある。
問題は、果たして利用し切れるかどうか、だ。
(;´・_ゝ・`)「……ディ」
デミタスが思考を切り上げてディの金の瞳を覗き込み、
そしてディから数歩下がってから告げる。
(;´・_ゝ・`)「お前は逃げろ、ディ」
(;#゚;;-゚)「え?」
426
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/12/14(金) 22:09:33 ID:LgVhRRY60
(;´・_ゝ・`)「デトロイトを覚えているだろ?
そこで必ず落ち合おう。お前は先に行って待っていてくれ」
(;#゚;;-゚)「デトロイト? デミタスとはじめて会った場所に?
なんで? なんでまたディを置いていくの!? 意味わかんないよ!」
(;´・_ゝ・`)「頼むよディ、俺の言う事を聞いてくれ。
もうこの街にいるのは危険なんだ。今ならまだ間に合う」
(;#゚;;-゚)「やだ……! 一人はこわい……お願いデミタス……ディを一人にしないで」
(;´・_ゝ・`)「ディ……お願いだ。
必ず追って、お前を見つけると約束するから」
(;#゚;;-゚)「もう一人で待ってるのはやだ! それにデミタスが心配になる!」
427
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/12/14(金) 22:10:14 ID:LgVhRRY60
(#゚;;@:;..「ディはずっとデミタスといっ―――――」
蒼い光が音を置き去りにしてディの頭半分を通過し、
脳漿と血がデミタスの顔に飛び散った。
(´・_ゝ・`)「ディ……?」
(;#゚;;@:;..「デ……デミ、タ、ス……」
頭部を半壊したディはふらふらと歩き、残る瞳でデミタスを見つけた。
震える下顎が歯を鳴らす音よりも小さな声で、ディは言った。
428
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/12/14(金) 22:10:36 ID:LgVhRRY60
(;#゚;;@:;..「また、ディを、み、つけ、て」
右手に持っていたBlueMachingunを落とし、膝を着くと同時、
再び暗がりから放たれた抗ウィルス弾がディの残る顔半分を消し去った。
頭を失ったディがどさりと倒れ、首の断面から融解した血肉を零し始めた。
まるでキャップを開けて倒したボトルのように。
(;´・_ゝ・`)「ディ……?」
(;´・_ゝ・`)「ディ、ディートリッヒ……?」
(#゚;;@:;;.,.
(;´・_ゝ・`)「う、ううぅうおぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!
ディ!! ディー――――――――――!!」
429
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/12/14(金) 22:14:21 ID:LgVhRRY60
覚束ない足取りで首を失ったディの遺体に近づこうとした瞬間、
デミタスの情報処理システムがアラート表示と共に接近する敵影、
そして対象から膨大な熱量反応が発生していると視界に提示する。
デミタスが敵を視認するや否や、『それ』は腕から蒼光を数発放つ。
デミタスは地を蹴って弾丸を回避する。
BlueBulletGunを空中の対象――――月を背後に佇む黒い存在に向け、叫んだ。
(;#´・_ゝ・`)《殺してやる……!!》
(#´・_ゝ・`)《貴様……貴様……貴様、貴様! 貴様ぁぁあああああああああ!!
ディを、ディを返せ、ディを! 殺す、殺してやる、殺してやる!!
てめえだけは俺が殺してやる!!》
デミタスはエイムシステムに従いロックオン。
BlueBulletGunのトリガーを何度も引いた。
だが『それ』はスラスターを噴出させて悠々と弾丸を掻い潜ってデミタスに接近。
お互いの手が届く距離まで詰めると、先にデミタスが発砲、弾丸は僅かに黒い装甲をかすめ取る。
直後、『それ』は更に強い光を全身から放ち、デミタスの目の前から消え去った。
430
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/12/14(金) 22:15:29 ID:LgVhRRY60
瞬間、デミタスは腹部に強烈な痛みと熱を覚える。
そして背後から自分を貫いたレーザーブレードを愕然と見つめる。
(;#´・_ゝ・`)「が、おぶっ」
抗ウィルスエネルギーに拒絶反応を起こしたデミタスは多量の血を吐き出す。
刃を通す傷口からはじゅくじゅくと溶けた肉が零れ始めている。
徐々に末端に痺れを、視覚が暗く淀んでいく感覚に襲われてゆく。
「あ゙!? ああ゙、あ゙ぁあ゙あ………」
蒼い刃は振り上げられ、デミタスの肉体は斜めに切り裂かれる。
「デ、ディ……い、いま、そっちに……」
辛うじて上半身と下半身の繋がりを保つデミタスは、朦朧とした意識でディの元へと這う。
431
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/12/14(金) 22:17:05 ID:LgVhRRY60
「ディ……ごめ、ん……また、俺、は……お前、を……」
デミタスは銀箱を握りしめたままのディの手に、そっと手を乗せた。
ィ'ト―-イ、
以ヌ/[疲フ
それを無言で見下ろしている者がいる。
全身は漆黒の金属で固められ、「元の姿形」をイメージさせる鋭利なフォルムに施されている。
頭部は黒い犬の名を持つ獰猛且つ冷酷な猟犬を彷彿させる口先を持つ。
こめかみから後頭部に掛けては突起が伸びており、獲物の位置を聞きたてる耳のようである。
背、腰に接続された4本のノズルは異形の尾のようにも見えるだろう。
蒼色の鋭い光を放つ双眸は、地の果てまで獲物を探す瞳である。
分厚い四肢そのものが、ウィルス活動を停止させる為の武器ユニットと化す。
右腕を屋上の隅に向け、血だまりの中に沈む死骸に光弾を放ち滅菌する。
脅威となるウィルス反応が周囲から消え去った事を各センサーで確認し、
愛機に外骨格システムを終了させた。
中空で離散したパーツが元のバイク形態へと戻るその下で、
黒髪を所々に混ぜた金の前髪を垂らすブーンが現れた。
432
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/12/14(金) 22:17:25 ID:LgVhRRY60
( ω゚)
血だまりを作る二人の男女を髪の隙間から一瞥してバイタル測定を瞬間的に終える。
心音は極めて微弱。
ゼロの方へ急速に熱を下げてゆく彼等を死骸と判断し、BLACK DOGに跨った。
終始、その目は実に冷ややかである。
主と共に姿を変えられたBLACK DOGの左ボディには零という漢字が刻まれている。
ブーンはBLACK DOG零の操作システムと再リンクし、静かなエンジン音を闇夜に広げる。
( ゚ω)「BLACK DOG」
目的地は多くの感染体の反応を捉える大都市、ニューアーク。
デミタスが発砲していなければブーンはこの場に現れなかっただろう。
ただ狩るべき獲物を探す無情と化した主を乗せ、BLACK DOGは闇夜を疾走する。
黒いバンダナが風を強かに受けて靡く。
433
:
名無しさん
:2018/12/14(金) 22:18:43 ID:7jaFBzYo0
しえ
434
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/12/14(金) 22:19:06 ID:LgVhRRY60
※
ホログラム・フィレンクトがブーンの視覚情報を映す巨大なモニターの前に立っている。
ホログラムから空間の機器を通して厳重保管された脳へと情報は出力され、
脳が行った思考と考察は再び配線を辿ってインターフェースへ共有される。
眉の一つも動かさない張り付いた顔。
僅かに口元のみ動かしてインターフェースは生成されたフィレンクトの声を発する。
('_L')『System-ZEROの自己修復機能があるとはいえ、
デミタス如きの銃撃を完璧に回避出来なかったのは看過出来んな』
('_L')『稀に発生する中枢からマニピュレータへの神経伝達の遅れ。
懸念したHollow制御下で生じるレイテンシが原因だ』
('_L')『何を抗っているのだ、ホライゾン。
受け入れてしまえば楽になれるというものを』
フィレンクトはSystem-Hollowタブに指をあて、
感情抑制を示すコンプレッサーのレベルを最大限に振り、実行させる。
進行状況を示すメーターが100%に向かって埋められてゆく。
('_L')『何だ?』
だが、プロセスの98%のところでB00N-D1とのネットワークが途切れた。
別タブの、同じく機械化されているフィレンクト本体のバイタル表示に揺らぎが生まれるが、
一定値を越えさせないようSystem-Hollowが強制的に出力を上げて感情を抑え込む。
435
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/12/14(金) 22:19:34 ID:LgVhRRY60
同時、ホログラムの眉間に寄っていた皺も消える。
通信途絶の原因を探るべく、再び表情を凍らせて空中に投影されたモニター群に臨む。
('_L')『通信衛星に問題は無い。何故ネットワークが――――』
言いかけた時、ブーンの視覚情報を映していたメインモニターにノイズが発生した。
モニターは画面の四隅から次第に白く塗り替わってゆく。
不可解な現象を突き付けられたフィレンクトは思考を続けるが、言葉を失った。
完全にホワイトアウトすると、画面中央に小さな人影が現れた。
人影はゆっくりと画面に向かって歩み寄る。
『まだ迷っているのか……だが、それでいいだろう。存分に迷え。
人殺しが正当化される事などない。正当化される時代もない』
('_L')『誰だ』
人影に思考力がある事から何者かのパーソナルデータであると断定し、
フィレンクトがそのように問うた。
スピーカーを介して、その人影は返答する。
『俺にはここでタバコを吸う以外に、やるべきことが残っていた』
436
:
名無しさん
:2018/12/14(金) 22:20:55 ID:ZiuCsvi20
中々熱い
437
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/12/14(金) 22:21:09 ID:LgVhRRY60
『こいつにこれ以上脳を弄られないよう、俺が守ってやる。
あとはお前自身で何とかするんだ、“若いの”』
('_L')『貴様、ホライゾンのメモリーに記録されていた、あの男か』
『そうだ。デジタルという魔法で俺のパーソナルは存在していたらしい。
何が切っ掛けかとなったかは定かではないが、たった今俺が立ち上がった』
.
438
:
◆jVEgVW6U6s
:2018/12/14(金) 22:21:38 ID:LgVhRRY60
スネーク『待たせたな』
デジタルの中で存在するスネークが煙草を吐き捨て、
画面越しの現実世界に根を下ろす冷酷なプログラムに鋭い目を向けた。
第44話「System-ZERO」終
.
439
:
名無しさん
:2018/12/14(金) 22:22:38 ID:ZiuCsvi20
版権キャラがキーパーソン乙乙
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