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夢見る人に之聴く人のようです
1
:
名無しさん
:2017/04/25(火) 21:04:20 ID:gNviqX360
母親がわりの親戚に手を引かれ、おずおずと診察室にやって来た君は当時九歳であった。
(゜д゜@「うちの子変なんです」
変、とは一体なんだろう。
生きる意欲を失くした人のことか。
支離滅裂な妄想に囚われ習慣に固執する人のことか。
はたまた集中力が切れやすく、走り回ってしまうのか。
言葉の意味を図りかねている僕に、如何なる異常が見られるのか、その人は語り始めた。
しかしそれよりも、僕の視線は彼女に釘付けであった。
貧相な体つきに伸ばしっぱなしの髪。
頭皮は白く粉が吹き、風が吹けば雪のように舞いそうだった。
爪もまた伸びっぱなしだった。
白貝のような爪の奥には、垢がどっちゃり積もっているようだった。
そういえば微かに異臭もする。
饐えた臭いは、少女には似合わなかった。
なにより一番気になるのは表情だ。
目の下は窪み、まなこは赤く充血し、瞼は薄く晴れていた。
血色の悪い唇は噛み締められている。
針の筵に座り続けているような雰囲気が、診察室に満ち始めていた。
ともすれば、隣の夫人は彼女の獄卒であろうか。
(゜д゜@「こういうわけで」
と、どういうわけかは分からないが、夫人はとにかく困っているようだった。
(´・_ゝ・`)「お話しはよくわかりました」
分かっていない。
分かっていないが、分かることはある。
(´・_ゝ・`)「では直ちに入院ということで」
僕の申し出に、夫人は大喜びしていた。
少女は僕をちらと見た。
僕もまたちらと見返すと、少女はそっと目をそらした。
子に親は必要であるが不必要なこともある。
彼女に最適な空間を提供すべきだろう。
(´・_ゝ・`)(ところで何が変なのやら)
入院の手続きを機械的に行う一方で、僕は気になっていた。
彼女の奇妙な性質については、一夜明けてから分かった。
77
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 16:56:26 ID:pzTUlDPc0
菜箸で、ぐるぐるとフライを混ぜる。
フライ同士がくっつかないように、卵を撫でるように。
ペニサスは、ふふりと笑った。
('、`*川「うん、どこまでもいけるのよ」
ぴしゅーーー……。
と、じゃがいもの皮が破裂した。
手の甲に、赤い点を作り上げ、鳥はどこかへと飛んでいったのだろう。
僕にはそれが見えないし、誰の目にも見えるものではないだろう。
しかしペニサスの頭の中ではそうなのだ。
鳥は、たしかに飛んで行ったのであった。
朝からじゃがいものフライを作っているのには理由がある。
僕の病院では月に一度、デイケアを行なっている。
先月はお花見。
今月はピクニック。
来月は梅ジュース作り。
再来月はそれを使ったパーティーだ。
そして今日が、ピクニックに行く日なのである。
天気は良好、最近吹き荒れていた風も少なく出かけるのにはちょうどいい日であった。
あとは熱中症にならないよう、ペニサスに帽子をもたせれば完璧である。
78
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 16:56:49 ID:pzTUlDPc0
ピクニックでは、各自が料理を持ち寄ってもいいことになっていた。
もちろん持ってこなくたっていい。
バドミントンやフリスビーなどの遊び道具を持ってくる人もいれば、飲まず食わずでただそこにいる人もいる。
帰る時間は自由だし、夕方の五時までずーっと一緒にいたって構わない。
来たい人は来ればいいし、行きたくないなと思ったらそれでいい。
勇気がなかったら、その時は僕たち医者や看護師が助ける出番だ。
その人が馴染む手伝いをして、楽しく過ごす。
それがデイケアの目的であった。
(´・_ゝ・`)「じゃあ行こうか」
('、`*川「はあい」
ポテトフライにサンドイッチ、飲み物もたくさん持って、僕たちは家を出た。
79
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 16:57:18 ID:pzTUlDPc0
バスで三十分ほどかかって、自然公園に着いた。
ある程度行政の手が入っているものの、野山といった雰囲気である。
比較的麓にある広場が、集合場所になっていた。
o川*゚ー゚)o「院長おはようございますぅー」
キュートがぶんぶんと手を振りながら、挨拶して来た。
僕もそれに倣い、手を挙げた。
(´・_ゝ・`)「早かったね」
o川*゚ー゚)o「シューちゃんが早く行きたいってゆうから来ちゃった」
既に敷かれているレジャーシートの上では、少女が一人座っていた。
キュートの妹である、シュールだ。
しばらく見ないうちに随分と大きくなったな、と僕はペニサスと見比べた。
年も近いし、いい友達になれるかもしれない。
ペニサスも、シュールのことが気になっているようだった。
(´・_ゝ・`)「遊んでてもいいよ」
('、`*川「いいの?」
(´・_ゝ・`)「まだ準備があるからね」
('、`*川「……てつだわなくていい?」
(´・_ゝ・`)「じゃあ帰りに手伝ってもらおうかな。今はたくさん遊んでおいで」
途端、ペニサスはにっこりと笑った。
ありがと! と一言その場に置いて彼女は走っていった。
80
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 16:57:45 ID:pzTUlDPc0
o川*゚ー゚)o「シューちゃんも女の子が来るって楽しみにしてたんですよー」
キュートはにまにまと、ペニサスの背を見てそう言った。
(´・_ゝ・`)「それはよかった」
ホッとしたところで、僕たちは準備を始めることにした。
レジャーシートを張ったり、パラソルで日陰を作ったり。
そのうちに、
(-_-)「はよざまー、せんせ」
(´・_ゝ・`)「ヒッキーくんおはよう」
(-_-)「これ、コンビニの廃棄の」
o川*゚ー゚)o「フランクフルトに唐揚げ棒ー!」
(´・_ゝ・`)「バイト帰りかい?」
(-_-)「うす、夜勤明けっす」
(´・_ゝ・`)「大丈夫かい?」
(-_-)「昔に比べたら元気っす全然」
o川*゚ー゚)o「あ、お茶飲む?」
(-_-)「うす」
81
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 16:58:06 ID:pzTUlDPc0
ちらほらと人が集まり始めて、
从 ゚∀从「せんせーおはよ」
(´・_ゝ・`)「おはよう、ええと」
从 ゚∀从「今日はくんの気分で」
(´・_ゝ・`)「ああ、じゃあ高岡くんおはよう」
从 ゚∀从「オレ何にも持って来てないんだけどいい?」
(´・_ゝ・`)「いいんだよ、ゆっくりしていってくれ」
从 ゚∀从「はあいー」
82
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 16:58:30 ID:pzTUlDPc0
いつのまにか、
ノパ⊿゚)「す、すみません森岡さん。すっかり遅くなっちゃって」
(´・_ゝ・`)「いえいえ、今準備が終わったところです」
ノパ⊿゚)「あちゃー……」
(´・_ゝ・`)「気にしないでください、楽しみましょう」
ノパ⊿゚)「……あの、アイス買って来たんですけど」
lw´‐ _‐ノv「アイス?」
('、`*川「アイスー?」
o川*゚ー゚)o「アイスぅ!?」
(´・_ゝ・`)「キュートくんもう少し落ち着きなさい」
ノパ⊿゚)「アイス食べたい人ー」
从 ゚∀从「もらっていいんすか?」
ノパ⊿゚)「どうぞどうぞ」
83
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 16:58:54 ID:pzTUlDPc0
ピクニックは、
(#゚;;-゚)「先生こんにちは」
(´・_ゝ・`)「でぃさん、来てくれたんですね」
(#゚;;-゚)「うん、邪魔にならないようにするから」
(´・_ゝ・`)「邪魔になんて思ってないよ。好きに過ごしていいからね」
(#゚;;-゚)「…………」
(´・_ゝ・`)「困ったことがあったらなんでも言ってください。きっと力になれるから」
(#゚;;-゚)「……はい」
始まっていた。
84
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 16:59:30 ID:pzTUlDPc0
(´・_ゝ・`)「…………」
かなたから、子供の叫び声が聞こえる。
それは悲惨な色ではなく、喜びと興奮に満ちたもので。
千切れるように笑うペニサスの後を、ヒッキーが追いかけている。
疲れているだろうに、その体からはエネルギーが満ちていた。
そのまた後ろから、今度はシューが追いかけていた。
ルールは全くわからない。
わからないが、皆楽しそうに互いを追いかけ回していた。
(´・_ゝ・`)(あ、ペニサスがヒートさんにタッチした)
ちょっと待ってて、と手で制したヒートは、アイスコーヒーを飲み干した。
紙コップを置くと、ヒートは追いかけっこの輪に馴染んだ。
まるで最初から加わることが決まっていたかのように。
(#゚;;-゚)「先生」
(´・_ゝ・`)「ん?」
いつのまにか僕の横に、でぃが来ていたらしい。
全く気付いていなかった。
(´・_ゝ・`)「どうかしました?」
(#゚;;-゚)「いえ、先生がなんだか寂しそうな顔をしてたから」
(´・_ゝ・`)「…………」
(#゚;;-゚)「先生もそんな顔をするんだなと思って、珍しくて来ちゃいました」
(´・_ゝ・`)「はは、そうでしたか」
85
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 17:00:17 ID:pzTUlDPc0
笑顔を取り繕い、かなたから手元へ視線を移す。
サンドイッチ、卵焼き、佃煮、唐揚げ棒、フランクフルト、つくねハンバーグ、プチトマト、アスパラのベーコン巻き、たこさんウインナー、ポテトフライ、おにぎらず。
誰がどれを持ってくると言ったわけでもないのに、どうしてか被りは少なかった。
(#゚;;-゚)「先生も寂しいと思う時があるんですね」
長袖の先から、華奢な手が伸びた。
その指先が向かった先はおにぎらずであった。
キュートがシュールと一緒に作ったと自慢していた一品だ。
意外とこれが、食べやすくてみんなには好評であったのだ。
(´・_ゝ・`)「そりゃ僕も寂しいと思う時はありますよ」
(#゚;;-゚)「ですよね。何言ってんだろ」
(´・_ゝ・`)「何言ってもいいんですよ。言わなくてもいいですけど、でも申し訳なく思うことはありません」
(#゚;;-゚)「……そう思いたいんですけどね」
小さく口が開き、歯がおにぎらずをむしり取った。
大して咀嚼もせず、丸呑みといった風に喉を下っていった。
86
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 17:00:56 ID:pzTUlDPc0
('、`*川「つっかれたあ」
火照った顔で、ペニサスはやって来た。
(´・_ゝ・`)「大丈夫か?」
昨日見た天気予報では三十度近くまで気温が上がると言っていた。
熱中症にでもなられたら困るので、キンキンに冷えたアクエリアスを差し出した。
('、`*川「ありがとせんせい」
きゅっ、きゅっ、きゅっ、と細い喉が飲み下して行く。
('、`*川「あとねせんせい」
(´・_ゝ・`)「うん?」
ぽす、と額にペニサスの手が当てられる。
そして振り向いたかと思うと、
('、`*川「せーんせとこーうたい!」
lw´‐ _‐ノv「えー、抜けちゃうの?」
不満そうなシュールの声が、遠くから響いた。
(´・_ゝ・`)「なに、僕が今度は鬼?」
('、`*川「いっぱいタッチしたひとがかち」
(´・_ゝ・`)「勝てるかなぁ……」
運動不足にも程がある僕は、しかし不思議とやる気が湧いていた。
(´・_ゝ・`)「君はしっかり休んでいるんだよ」
なんなら日陰に行くといい、と付け加えて僕は駆け出した。
87
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 17:01:31 ID:pzTUlDPc0
('、`*川「いってらっしゃい先生」
手を振ったけれど、先生は振り返ることなく走っていってしまった。
('、`*川「…………」
なんだかそれが面白くなくて、コップを軽くにぎりしめた。
ぺこ、と透明なコップは、ジュースに波紋を作った。
(#゚;;-゚)「……先生の娘さん?」
先生の隣に座っていたお姉さんは、急に話しかけてきた。
わたしはびっくりして、首を横にふった。
('、`*川「んーん、でも先生はパパになってくれた人」
(#゚;;-゚)「……なんだか複雑そうね」
顔に火傷のあるお姉さんは、聞き取りにくい声でそう言った。
火傷は、何かしょもあった。
右目のくまからほっぺたまで、赤茶色の傷が絵の具のようについていた。
(#゚;;-゚)「……気になる?」
お姉さんは、やんわりと笑った。
わたしは正直にうなずいた。
(#゚;;-゚)「これはね、わたしがわたしのことを嫌いで罰を与えた跡なの」
分かる気はした。
わたしも、変な力を持つわたしが大きらいだった。
(#゚;;-゚)「すぐ人のこと怒らせたり、嫌われるようなことしちゃうから、嫌になってわざと焼いちゃった」
('、`*川「…………」
火傷は、すごく痛いものだ。
でも、先生も今朝火傷したけど、大丈夫そうだった。
もしかしたら大人は痛くないのかもしれない。
88
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 17:02:05 ID:pzTUlDPc0
(#゚;;-゚)「……あなた、日陰に行った方がいいかも」
ふと、お姉さんは心配そうな顔になった。
(#゚;;-゚)「顔が真っ赤よ」
('、`*川「うーん……」
(#゚;;-゚)「頭痛くなったりしてない?」
そういえば、さっきヒッキーさんを追いかけていて頭がクラクラした。
少し休めば大丈夫かと思ったけど、まだそれは治りそうになかった。
(#゚;;-゚)「一緒に行きましょ?」
と、お姉さんが指差した先にはパラソルの刺さったシート。
そこには、銀ぱつの人が寝転んでいた。
从 -∀从「…………」
すやすやと、その人は子どものように寝ていた。
瞼にはラメがキラキラと光っていて、鼻筋は高くって、すごくきれいな人だった。
(#゚;;-゚)「……そういえば自己紹介してなかったね」
お姉さんの一言に、わたしもハッと気がついた。
('、`*川「もりおかペニサスです、よろしくお願いします」
(#゚;;-゚)「桐崎でぃ、よろしくね」
お姉さんは、ちらと寝ている人を見た。
(#゚;;-゚)「そこにいるのは高岡ハインさん。何回かデイケアで見たことあるの」
('、`*川「ふうん……」
もう一度、わたしは高岡さんを見てみた。
89
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 17:02:35 ID:pzTUlDPc0
('、`*川「……この人、男の子か女の子かわかんないね」
从 ゚∀从「おー、今日は男の気分だね」
ぱち、と目が開いて、わたしは声をあげそうになった。
从 ゚∀从「あーあ、よく寝た。一ヶ月ぶりによく寝たわほんと」
(#゚;;-゚)「よかったね、高岡くん」
お姉さんの言葉に、高岡さんはにひひと笑った。
从 ゚∀从「時々ロビーで見かけるお嬢ちゃんだな」
(#゚;;-゚)「盛岡先生の娘さんみたいよ」
从 ゚∀从「ああそう」
高岡さんは、さして興味がなさそうに言った。
从 -∀从「あー……まだ寝足りねえ、眠くってしょうがねえ」
('、`*川「寝るのが怖いの?」
だとしたらちょっと前のわたしとそっくりだった。
眠いけど寝れないのはとても辛いことだっていうのはよく知っていた。
从 ゚∀从「怖いわけじゃねえんだよ」
ふわぁ、と口からあくびが逃げた。
そのかわり、しんせんな空気をぱくりと飲み込んでしまった。
从 ゚∀从「寝たいんだけど寝てるとおっかねえ夢を見ちまうのさ」
('、`*川(おっかない夢ってどんな夢だろう)
起きてから、怖いとか楽しかったとか、そう思うことはたくさんあった。
だけどどんなに怖い夢でも、飛び起きたことはなかった。
それは、わたしには関係なくて、わたしの身の回りの人に起きる夢だから。
もうすぐに現実になってしまう夢だから、あんまり怖いと思ったためしがないのだ。
('、`*川(怖いのは、現実になった後に怒る人たち)
だから、夢が怖くて眠れないというのはよく分からなかった。
90
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 17:03:02 ID:pzTUlDPc0
从 ゚∀从「……水の夢でさあ、オレは溺れてるんだよ」
('、`*川「…………」
从 ゚∀从「暗くて、冷たくて、最初は遠くに光が見えるんだ」
('、`*川「…………」
从 -∀从「……だけど、そのうち縦横上下がわかんなくなってさ」
('、`*川「…………」
从 ゚∀从「……沈むんだよ、ずっと」
そして最後には苦しくなって起きてしまうのだと、高岡さんは言った。
('、`*川「……怖い夢だね」
もしそんな夢が現実になったら、わたしだって怖いだろう。
(#゚;;-゚)「水の夢は怖いよね」
お姉さんも、はぁとため息をついた。
从 ゚∀从「しかも時々鯨が出てきてさぁ」
(#゚;;-゚)「鯨?」
从 ゚∀从「そ。でっけえやつ」
('、`*川「それが怖いの?」
从 ゚∀从「……遠くでさ、溺れてるオレを見つめてるんだよ。まるで早く死なねえかなっていう風に」
('、`*川「…………」
死ぬ。
それは、とても怖いことだった。
91
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 17:03:45 ID:pzTUlDPc0
从 ゚∀从「その鯨がゆっくり近づいてくることもあるから飛び起きちまうんだよな」
(#゚;;-゚)「やな夢ね」
从 ゚∀从「まったくな」
(#゚;;-゚)「わたしも昔、水の夢見たことがあるよ」
('、`*川「どんな夢?」
(#゚;;-゚)「綺麗な海を泳ぐ魚の夢」
从 ゚∀从「へえ、いいじゃん」
(#゚;;-゚)「だけど海底から急に網が持ち上がって、その中に捕まってしまうの」
('、`*川「…………」
(#゚;;-゚)「釣り上げられたら死んでしまうって、その時はすごく怖くて暴れるの」
从 ゚∀从「…………」
(#゚;;-゚)「でも、網にはフジツボやサンゴが生えていてね、暴れるとそれが突き刺さるの」
从; ゚∀从「…………」
(#゚;;-゚)「そのうちふと思うの。ああ、このまま釣られて死んじゃってもいいかな、って」
('、`*川「…………」
从; ゚∀从「おい……」
(#゚;;-゚)「……という夢を高校生の時に見たことがあるわ。もう七年前になるかしら」
ふ、と柔らかく微笑んで、お姉さんはそう言った。
(#゚;;-゚)「今はもう見ない夢だから、高岡くんも早く丘に上がれるといいわね」
从 ゚∀从「……ありがと」
高岡さんは、照れ臭そうにそう言った。
('、`*川「…………」
水の夢が、少し怖くなった。
92
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 17:04:38 ID:pzTUlDPc0
散々子供を追いかけ回しているうちに、帰る時間はやってきてしまった。
lw´‐ _‐ノv「きゅうと姉、またぺにちゃんと遊べるかな?」
o川*゚ー゚)o「うん、遊べるよ」
('、`*川「わたしもまたしゅーちゃんとあそびたいよ」
lw´‐ _‐ノv「約束だからね、またね」
(-_-)「あーしんどいこれもう家帰ったらばったりだわ」
(#゚;;-゚)「お疲れ様」
(-_-)「桐崎さんもおつかれー、じゃお先っす」
从 ゚∀从「またなー引津」
ノパ⊿゚)「今日は誘っていただきありがとうございました」
(´・_ゝ・`)「いえ、忙しいのにこちらこそ」
ノパ⊿゚)「また日程が合ったら来てもいいですか?」
(´・_ゝ・`)「もちろんです」
93
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 17:05:03 ID:pzTUlDPc0
楽しく時間を過ごす。
自分のペースで会話を出来るようになる。
人がいることに慣れる。
そのきっかけになるのなら、こんなにも嬉しいことはなかった。
(´・_ゝ・`)「今日はいい日だった」
バスは、少しずつ公園から遠ざかっていく。
その膝の上では、遊び疲れた少女が眠りについていた。
(´・_ゝ・`)(どんな夢を見ているのやら)
起きたらぜひ、聞かせてもらおうと思っていた。
94
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 17:06:09 ID:pzTUlDPc0
('、`*川「…………」
水の上に、わたしは浮いていた。
太陽はない。
お月様もない。
それなのに空は明るい青空で、時折黒い点が動いていた。
('、`*川(ここはどこだろう)
体を動かす気はなかった。
居心地がよくて、いつまでも浮いていたかった。
('、`*川(鳥だ)
はるかかなたの点は、鳥だったらしい。
一羽の鳥だ。
ぐるぐると、円を描いて飛んでいる。
その影が、少しずつ大きくなっていった。
95
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 17:06:37 ID:pzTUlDPc0
家に着いてもなお、ペニサスは眠っていた。
よほど疲れているのだろう。
ベットに横たえて、僕は夕飯を作ることにした。
(´・_ゝ・`)「じゃがいもが余っているんだよなあ」
ポテトサラダにでもしようか、簡単だし。
冷蔵庫にはきゅうりとハムがあった。
メインは、冷凍のハンバーグがあるし……。
96
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 17:07:04 ID:pzTUlDPc0
鳥は、少しずつ降下していく。
わたしめがけて。
('、`*川「…………」
不思議と怖くなかった。
嘴がどれほど鋭くても、射抜くようにこちらへ向かって来ても。
('、`*川(鳥……)
わたしは、怖くなかった。
ただ、欲しいものが、一つあった。
97
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 17:07:33 ID:pzTUlDPc0
(´・_ゝ・`)「……ん?」
手にしたじゃがいもの皮が、少しうねった。
(´・_ゝ・`)「……気のせいかな」
じゃがいもの皮に包丁を当て、切れ込みを入れようとした時だった。
「…………ーーー、ちちちちち」
(´・_ゝ・`)「…………」
包丁を持つ手が、止まる。
鳴いた。
たしかに、じゃがいもが鳴いた。
「……ぴーーー、ちちちちち……」
(;´・_ゝ・`)(ほら、ほら)
そのうち、じゃがいもの皮がぷつりと破けた。
ぴり、ぴり、と向こうから、嘴が見える。
かすかにじゃがいもが揺れる。
手のひらの上で、蠢いている。
明らかに生命を持った何かが、じゃがいもから生まれようとしていた。
(;´・_ゝ・`)「どうすればいいんだ」
ひとまず包丁を置いて、僕は見守る。
ゆらゆらと揺れるじゃがいも。
スリットはもう三分の一ほどになる。
その向こうから、柔らかな毛が見えた。
98
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 17:08:17 ID:pzTUlDPc0
(´・_ゝ・`)(獣だ)
爬虫類ではないらしい。
それだけでもよかった。
そして一つの可能性にたどり着く。
(´・_ゝ・`)(これは、もしや)
じゃがいもの、とりだ。
おとぎ話のような存在が、今まさに生まれようとしていた。
(´・_ゝ・`)(頑張れ……)
じゃがいもの皮はほぼ破れかけている。
(´・_ゝ・`)(生まれてくるんだよ)
生まれたら真っ先にペニサスに見せてあげよう。
君の思いつきが、現実になったのだよ、と。
(´・_ゝ・`)「頑張れ……!」
そして、
( ゚∋゚)「ちちちっ」
薄くクリームがかった色の、小鳥が生まれた。
99
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 17:08:49 ID:pzTUlDPc0
ペニサスは起きてきたのは、それからしばらく経ってからだった。
('、`*川「せんせい、ゆうはんは?」
(´・_ゝ・`)「あ」
すっかりと忘れていた。
なにせ小鳥なんか飼ったことがないし、道具もない。
そもそもじゃがいもから生まれた小鳥は、普通の小鳥と同じ世話をしていいのだろうか?
生まれて数分で飛び回る小鳥に、僕は頭がいっぱいになっていた。
('、`*川「わ、これじゃがいものことりさん?」
( ゚∋゚)「ちちっ」
ペニサスはすぐ状況を理解したらしい。
早速小鳥と遊び始めていた。
(; ゚∋゚)「ちちちっ」
心なしか小鳥は戸惑っているように見えるのは気のせいだろうか?
(´・_ゝ・`)「まあいいか」
そのまま一人と一羽をそっとしておいて、僕は再び夕食の準備に取り掛かった。
100
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 17:09:17 ID:pzTUlDPc0
4.ピクニックとじゃがいもの小鳥 了
101
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 17:09:43 ID:pzTUlDPc0
お題一覧
催花雨
狐の嫁入り
番狂わせ
パルクール
以下お題を一つ募集します
102
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 19:18:11 ID:ChOhSqhc0
乙!ペニサスかわいい
お題:海
103
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 22:09:21 ID:ql7z0N1w0
面白かった、デイケアの描写がリアルだなぁ
104
:
名無しさん
:2017/05/20(土) 06:15:52 ID:eXmXpTr.0
クックルが可愛く見えたのは初めてかもしれない……おつおつ
105
:
名無しさん
:2017/05/20(土) 17:08:35 ID:.wU3B1tk0
クックルだから一瞬ムキムキの鳥が生まれたのかと思ったけど可愛かった
乙
106
:
名無しさん
:2017/05/20(土) 19:35:52 ID:eZ915dbw0
せっかくなのでお題をさらに五つ追加しようと思います
よかったらどうぞ
107
:
名無しさん
:2017/05/20(土) 19:36:43 ID:hTCL./jI0
お題フリスビー
108
:
名無しさん
:2017/05/20(土) 19:57:46 ID:XIX68tJ60
お題 かたつむり
109
:
名無しさん
:2017/05/20(土) 20:11:08 ID:AHurv2u.0
お題ゲーム
110
:
名無しさん
:2017/05/20(土) 20:11:31 ID:qtfStNhY0
お題 マグロ漁船
111
:
名無しさん
:2017/05/20(土) 20:22:52 ID:WeXk37pI0
お題 歌
112
:
名無しさん
:2017/06/02(金) 18:57:47 ID:2mqlnhtM0
君が僕と暮らし始めてから一月が経った頃。
僕は初めて君と離れ離れになった。
('、`*川「……ほんとに行っちゃうの?」
足にぴったりとくっついてるペニサスは、不満げに僕を見上げた。
(´・_ゝ・`)「ごめんよ、ペニサス。だけど夜遅くに出かけて、もっと遅くに帰ってくるようだから、それだと君は眠くなっちゃうだろう?」
('、`*川「……なんないもん」
絶対寝ないもん、と言い切る君に、思わずため息が飛び出した。
僕が院長として勤めている病院は、今は亡き父が開業したものである。
その父の知り合いは、今でも存命で、僕のこともなお可愛がって良くしてくれていた。
僕もその人のことをとても尊敬しているし、会うのはとても楽しみであった。
ただひとつ、その人が酔っ払うと話が長いことを除けば、憂鬱なことなんて何もなかったのに。
(´・_ゝ・`)(困ったなあ)
しがみつくペニサスごと、足を進めながら僕は考える。
もうすぐ僕の友人が二人やってくる。
彼らに泊まってもらって、ペニサスの面倒を見てもらおうと思っているのだが……。
(´・_ゝ・`)(泣いて離れなかったらどうしよう)
今までペニサスが泣いたのは、あの一回以来なかった。
駄々をこねることもあまりなかったし、大人しい子供だと思っていた。
でもまあ、子供というのは大体手のつけられない存在である。
人形のように押し黙って、大人の言うがままにしていた時のことを考えると健全になりつつあるのだろう。
と、インターホンがなった。
(´・_ゝ・`)「ペニサス」
('、`*川「やだ」
113
:
名無しさん
:2017/06/02(金) 18:58:16 ID:2mqlnhtM0
離れるように、と言う前に言葉が返って来た。
友人が来ることは昨日から伝えてあった。
ますます細い腕が足に絡みついた。
仕方なく、僕はそのまま玄関へと向かった。
玄関を開けるなり、二人の友人はぽかんとそれを見つめた。
( "ゞ)「ぶふっ……」
と、デルタは控えめに笑い、
爪'ー`)「すーっかり懐かれてんじゃねえか」
と、フォックスはゲラゲラと笑った。
('、`*川「……おじさんおさけくさい」
笑われて恥ずかしかったのか、ペニサスは離れてそう言った。
酒臭いのはもちろんフォックスのことだ。
元は詩人であったが、今では日がな一日酒を浴びるように飲むダメな男である。
フォックスは、なおもケラケラと笑った。
( "ゞ)「ツボにはまったらしいな」
(´・_ゝ・`)「フォックスのツボは浅いからな」
爪'ー`)「笑いは健康にいいんだぜ」
114
:
名無しさん
:2017/06/02(金) 18:58:17 ID:W51GjhGE0
しえしえ
115
:
名無しさん
:2017/06/02(金) 18:58:38 ID:2mqlnhtM0
スニーカーを並べながら、フォックスは反論が返ってきた。
底がすり減って、ぺったんこになったスニーカーだ。
よく履いて靴がバラバラにならないな、と感心してしまうくらいぼろぼろだった。
その隣に、デルタが上質な革靴を並べた。
( "ゞ)「初めて、ペニサスちゃん。僕はデルタって言います」
190センチ近い長身を屈めながら、デルタは挨拶をした。
('、`*川「……よろしくおねがいします」
ペニサスは、観念したようにお辞儀をした。
( "ゞ)「で、あっちのフラフラしてるおじさんはフォックス」
爪'ー`)「フォックスでもおじさんでもいいぜ。オレだって分かればなんだって」
('、`*川「……」
何も言わず、ペニサスは僕を見た。
ほんとに置いていくのね、という非難の混じった視線だ。
(´・_ゝ・`)「ごめん、なるべく早く帰るようにするから」
こうして、三人を置いて僕は家を後にした。
116
:
名無しさん
:2017/06/02(金) 18:59:04 ID:2mqlnhtM0
先生がいなくなってすぐ、フォックスはリビングへ向かった。
爪'ー`)「おー、ほんとに酒がある」
先生が一生懸命用意した、お菓子の盛り合わせと、大きなウイスキーのペットボトルを見て、感動したような声をあげていた。
('、`*川(ほんとにこの人まともなのかしら)
先生の言うことは信用していたけど、フォックスに関しては違うような気がした。
( "ゞ)「ペニサスちゃん、夕飯は何がいい?」
声のした台所に行くと、デルタさんはたくさんのパンフレットを見せてきた。
そういえばここ最近、先生は宅配のチラシを熱心に集めていた。
この日のために取っておいたのかしら。
('、`*川(じゃあ、昨日言ってた、急に飲みに行くっていうのはウソだったんだ)
先生のウソつき。
( "ゞ)「……お腹すいてない?」
('、`*川「ううん、空いてます。てっか巻きがいいな」
( "ゞ)「マグロ美味しいもんねえ」
爪'ー`)「おー、なんだ、寿司か。マグロづくしってのがいいなオレ」
( "ゞ)「なんだ、寿司食べるのか」
爪'ー`)「ウィスキーのロックに寿司、最高じゃねぇか。マグロ漁船に感謝しながら食うぜ」
117
:
名無しさん
:2017/06/02(金) 18:59:26 ID:2mqlnhtM0
言いたい事だけ言って、フォックスはまたリビングへ戻った。
( "ゞ)「……じゃあ僕はちらし寿司にしようかなあ」
何事もなかったかのように、デルタさんはそう言った。
慣れているのだろう。
('、`*川(大人って大変だ)
ついそんなことを思いながら、デルタさんを見つめてしまった。
唐揚げとポテトフライもどうかな、と視線に気付いたデルタさんは言ってきた。
最初の頃、先生もよくそう言ってきた。
こういう時の大人は、わたしのことを気遣っている証拠だって分かっているから、嬉しそうに頷いてみせた。
そうだ、置いてった先生が悪いんだ。
デルタさんにはなんにも非がないのだ。
迷惑かけたりわがまま言ったりするのは、やめておこう。
('、`*川(ちょっとさみしいけど、先生が帰ってきたらうんと振り回してやろう)
絶対そうしよう、と思った。
118
:
名無しさん
:2017/06/02(金) 19:00:06 ID:2mqlnhtM0
( "ゞ)「それにしてもデミタスが子供を引き取るなんてなあ」
お寿司を食べた後、デルタさんはしげしげとわたしを見つめてきた。
爪'ー`)「どっちかいうと苦手って感じだったろ」
イチゴ味のポッキーを、ぽりぽりつまみながらフォックスが言った。
('、`*川「そうなの?」
爪'ー`)「科目は違うけどおんなじ大学に通っててさ、オレたち」
('、`*川「……大学行ってたの?」
フォックスも?
思わずそう言いかけて、飲み込んだ。
フォックスは気付かない様子で、頷いた。
爪'ー`)「オレは文学部、こいつは情報処理」
( "ゞ)「デミタスは医学部」
爪'ー`)「んでたまたま三人とも心理学取ってたんだよなー」
( "ゞ)「席が隣同士になった縁でね、そのままずっとさ」
爪'ー`)「んでさ、大学の中に小学校もあったんだけど、子供はうるさくて嫌いだって言ってたんだよな」
( "ゞ)「嫌いというか扱いに困るって感じだったけどね」
爪'ー`)「そうそう、泣かれると困るってな」
('、`*川「ふうん……」
わたしの知らない先生の話は、面白くて、意外なところもあって、だけどつまらなかった。
なんでだか、むねの中がもやもやする。
ちょっと、悔しいという気持ちに近いみたいだった。
119
:
名無しさん
:2017/06/02(金) 19:00:36 ID:2mqlnhtM0
( "ゞ)「ああ、もう十時だ……」
爪'ー`)「オレのガキの頃ならとっくに寝ろって言われてた時間だな」
('、`*川「……まだねむくない」
なんとなくまぶたは重いけど、気持ちは全然ねむくなかった。
( "ゞ)「じゃあまだ寝なくていいから、お布団でお話ししよっか」
('、`*川「したら寝ちゃうもん……」
まだ起きていたかった。
( "ゞ)「うーん……」
困ったように、デルタさんはわたしを見つめていた。
('、`*川(せんせがかえってくるまでおきるもん)
そう思っていた矢先だった。
爪'ー`)「オレもねみーや」
('、`*川「きゃあ!」
フォックスは、わたしを小脇に抱えて立ち上がった。
爪'ー`)「わりー、デルタ、もう酒片付けといてくれや」
フラフラとした足取りで、フォックスは歩き始める。
時には壁が顔すれすれに近付いたりなんかして、ひやっとした。
爪'ー`)「借りるぜぇ、デミタース」
ぼふん、とベッドに投げ飛ばされ、フォックスは倒れ込んだ。
('、`*川(……寝たかな?)
そっと音を立てないように、わたしは起き上がろうとした。
120
:
名無しさん
:2017/06/02(金) 19:01:15 ID:W51GjhGE0
フォックスへの猜疑心で笑う
121
:
名無しさん
:2017/06/02(金) 19:01:21 ID:2mqlnhtM0
でも、
爪'ー`)「寝えな、ペニサス」
たった一言で、わたしは動けなくなった。
爪'ー`)「寝ろ寝ろ、寝る子は育つんだから」
('、`*川「…………」
爪'ー`)「それともあれか、怖い夢見そうで嫌か」
暗闇の中で、柔らかく声がひびいた。
お酒のせいで、ろれつが回っていなかった今までとは全然違う声の調子だった。
爪'ー`)「オレはさー、なんにも取り柄がないけど、一個だけバカみたいな取り柄があってさ」
('、`*川「…………」
爪'ー`)「人から言われたことはなんでも信じちゃうのよ」
('、`*川「……うん」
爪'ー`)「デルタとかはさ、頭いいから、どっかで嘘っこと思いながら話の調子を合わせられるわけよ」
('、`*川「……」
爪'ー`)「……デミタスから聞いてんだよ、夢の話」
('、`*川「……うん」
爪'ー`)「デルタは知らないけど、聞いただけじゃ信じないだろうからってさ」
('、`*川「…………」
爪'ー`)「……オレは逆に、夢が正夢になる瞬間、見てみたいけどなあ」
('、`*川「……そんないいもんじゃないよ」
まぶたを閉じて、わたしは言った。
('、`*川「初めて正夢になったのは、三歳の頃で。おばあちゃんが死ぬ夢だった」
爪'ー`)「……」
('、`*川「すごく怖い夢だから、話したけど、信じてもらえなくて。その日のうちに本当に死んじゃった」
爪'ー`)「……」
122
:
名無しさん
:2017/06/02(金) 19:01:48 ID:2mqlnhtM0
('、`*川「……それから眠るたびに夢を見て、人にそれを離さずにはいられなくて」
爪'ー`)「アレだなあ、アレ」
フォックスの微睡んだ、あったかい声が言う。
爪'ー`)「言い当たるってやつだなあ」
('、`*川「……口に出すからそうなるんだっていうから、もう誰にも話さなくなっちゃった。それでも正夢になっちゃって」
爪'ー`)「……うん」
('、`*川「先生に会うまで、ほんとに一人ぼっちだった」
先生は、やっぱり特別な人だった。
どんなことを話しても、自分のことみたいに悲しんだり、喜んだりして。
普通の大人が普通の子供にするようなことを、わたしにもしてくれた。
変な子供でも、先生には普通の子供みたいにしてくれて。
だから先生は、やっぱり特別だった。
爪'ー`)「昔さ」
ぽつり、とフォックスは呟いた。
爪'ー`)「近所に住んでたお姉さんがいたわけよ。スゲー美人だったんだけど」
('、`*川「うん」
爪'ー`)「で、その時さ、ウエハースチョコにカードが入ってる駄菓子流行ってて」
123
:
名無しさん
:2017/06/02(金) 19:02:16 ID:2mqlnhtM0
('、`*川「うん」
爪'ー`)「時々そのお姉さんが選んでくれるとすげーいいカードが出たりするのよ。で、子供ながらにスッゲーと思ってたんだよ」
('、`*川「うん」
爪'ー`)「で、なんでなのってオレ、しつこく聞いたんだよ」
('、`*川「うん」
爪'ー`)「したら、夢で当たりのカードが見えたからって」
('、`*川「……」
爪'ー`)「お姉さんスゲー!って言っちゃったんだけど、それっきりもう当たんなかったね」
('、`*川「当たんなかったの?」
爪'ー`)「当たんなかったねー。予知夢とかそういうのって欲かいたら外れちゃうもんなんだろうね」
('、`*川「ふうん……」
爪'ー`)「うん、それだけ。なんか言いたいことあったけど忘れたわ」
('、`*川「なにそれ」
ふふ、と笑い声が漏れる。
つられて、フォックスも笑った。
そのうち、わたしは眠ってしまって。
夢を、見た。
124
:
名無しさん
:2017/06/02(金) 19:02:41 ID:2mqlnhtM0
子供っつうのは不思議なことに、電池が切れたみたいにして急に寝るんだなぁとつくづく思った。
笑い声が聞こえなくなって、ちょっと明かりつけて見てみたら、もうスウスウ寝息たてて寝てるもんだから羨ましくなっちまった。
爪'ー`)「たーだいまー」
( "ゞ)「おかえり」
デルタは、テレビを見ながら酒を飲んでいた。
テーブルの上にはまだグラスが残っていて、それが自分の飲みかけだってことにすぐ気が付いた。
爪'ー`)「サンキュー」
( "ゞ)「お前のことだから飲むだろうと思ったんだよ」
爪'ー`)「全くもってその通りです」
氷とウィスキーを混ぜてグイッと煽れば脳みそに直響いた。
この酩酊感がたまらないのだ。
( "ゞ)「ペニサスちゃんは寝た?」
爪'ー`)「寝た寝た。かわいいよな」
もうひと口、グビッといっちゃう。
あー、最高にうまい。
うまいってか染みる。
脳に。
125
:
名無しさん
:2017/06/02(金) 19:03:09 ID:2mqlnhtM0
( "ゞ)「さっき宅配寿司待ってる時にさ」
爪'ー`)「ん」
( "ゞ)「先生にランドセル買ってもらったのー、ってパンフレット見せてきてさ」
爪'ー`)「はー、かわいすぎか」
( "ゞ)「今まで学校行ったことないからランドセル持つの初めてだって言ってたぞ」
爪'ー`)「……マジか」
( "ゞ)「ラベンダーピンクにするって言ってた、ランドセル」
爪'ー`)「らべんだあぴんく」
またずいぶんと、おじさんには分からない色だった。
最近のランドセルは色が複雑すぎる。
オレの頃なんか赤と黒しかなかったってのに。
爪'ー`)「……なんかそのうち買ってやるか、ペニサスに」
( "ゞ)「今の小学生って何喜ぶかな」
爪'ー`)「バトル鉛筆とか」
( "ゞ)「そりゃ男子だろ」
爪'ー`)「だって女子のことなんかわかんねーもん」
( "ゞ)「俺もわからん」
爪'ー`)「わからんな」
( "ゞ)「な」
そうしているうちに、酒のボトルはどんどん軽くなり。
気付いた時にはもう、二人でソファーで寝潰れていた。
玄関から誰かが入ってくるまで。
そのままずーっと。
126
:
名無しさん
:2017/06/02(金) 19:03:47 ID:2mqlnhtM0
「っっっ、びっくりしたー!!」
目覚ましがわりに、叫び声がした。
つられてオレも飛び起きて、ソファーから落っこった。
(´・_ゝ・`)「ただいま」
デミタスは、バツの悪そうな顔でそう言った。
( "ゞ)「ずいぶん早かったな」
十二時前。
下手すると明日の朝まで帰れないかも、と言っていたデミタスは、やんわりと笑った。
(´・_ゝ・`)「うん、まあ、色々あって」
爪'ー`)「色々ってなんだよ、全然酔っ払ってねえしさー」
酒の席に行ったデミタスよりも、オレたちの方がもっとずっと酔っ払っているようだった。
それもまた、デミタスは笑って受け流す。
( "ゞ)「酔ってないならちょうどいい、二次会でもするか」
もうすっかり水桶と化したアイスペールを持って、デルタは立ち上がった。
オレは、なんだか不思議な気持ちになって、デミタスを見つめていた。
(´・_ゝ・`)「どうかした?」
爪'ー`)「……いや」
何故だろうか。
視線をそらす気にはなれなかった。
(´・_ゝ・`)「なにかあるなら言ってくれよ」
と、耳朶から、蛞蝓が這い出ていた。
127
:
名無しさん
:2017/06/02(金) 19:04:21 ID:2mqlnhtM0
爪'ー`)「…………あ?」
デミタスは、蛞蝓に気付いていないのだろうか。
ぬらぬらと光沢を帯びたそれは、首元を濡らしていく。
(´・_ゝ・`)「どうかした?」
再三の問いかけにも、声が出なくて答えられなかった。
今度は、瞼の隙間から、蛞蝓が。
(´・_ゝ・`)「どうかした?」
口からも。
泡まじりの唾液とともに、蛞蝓が、蛞蝓が。
爪;'ー`)「な、なめくじ……」
やっとのことで、声が出た。
(´・_ゝ・`)「なめくじ?」
目が、すぅと細められて、その隙間から、また、ずるりと。
(´・_ゝ・`)「かたつむりだよ、これは」
愛しそうに、デミタスは、顔を這うそれを指で捕らえた。
(´=_ゝ・`)「かたつむりだよ、これは」
薄目を閉じたまま、デミタスは言う。
そこからまた、細長く、ぬめりけを帯びたものが、床へと落ちる。
爪; ー )「ひっ……」
128
:
名無しさん
:2017/06/02(金) 19:04:54 ID:2mqlnhtM0
デルタは戻ってこない。
氷を取りに戻っただけなのに。
戻ってこない。
微動だにせず、殻のない、かたつむりを生み出すデミタスと、オレだけが、ここにいる。
爪;'ー`)(なんの悪夢だよ)
(´・_ゝ・`)「どうかした?」
壊れたゲームのキャラのように、デミタスは繰り返す。
限界だった。
オレは走って部屋を出た。
(´ _ゝ `)「どうかした?」
背後から、すぐ後ろから、そんな声が聞こえた。
気がした。
気のせいだ。
キッチンへ逃げ込む。
デルタはいない。
なぜ。
なぜいない。
どこに行った。
オレは走る。
(´ _ゝ `)「どうかした?」
爪;'ー`)「どうかしてんのはそっちの方だよ!」
精一杯怒鳴りつけて、足を奮い立たせる。
酒の飲み過ぎで酷い夢でも見ているのか。
爪;'ー`)「夢……?」
違う。
夢を見ているのは俺ではない。
デミタスの話を信じるなら、ペニサスの話を信じるなら。
129
:
名無しさん
:2017/06/02(金) 19:05:28 ID:2mqlnhtM0
爪'ー`)「ペニサス!!」
寝室に飛び込み、電気をつける。
額に汗をかきながら、ペニサスは眠っていた。
いい夢を見ているようには思えない。
爪'ー`)「ペニサス、ペニサス!」
揺さぶって、何度も呼びかける。
そのうち、微睡んだ瞳がこちらを見た。
('、`*川「…………うぅ、おさけくさい……」
爪;'ー`)「ペニサス!」
(´・_ゝ・`)「どうかした?」
爪;'ー`)「ひっ……!」
いつのまにかデミタスは、寝室のドアに立っていた。
スーツにかたつむりを這わせて、こちらを見つめている。
オレはもう動けなかった。
寝起きのペニサスは、目を見開き、オレにしがみついてきた。
(´・_ゝ・`)「ペニサス」
('、`;川「……」
(´・_ゝ・`)「ペニサス」
爪;'ー`)「どうすればいい……」
誰に向けたわけでもなく、呟いた。
目を細めて、デミタスは近付いてくる。
ぬるりとまた、かたつむりが床へと落ちた。
ぐち、と踏み潰される音。
と、同時に。
130
:
名無しさん
:2017/06/02(金) 19:06:05 ID:2mqlnhtM0
('、`;川「先生じゃない」
はっきりと、ペニサスは言った。
('、`;川「にせもの、にせもの、にせもの……」
(´・_ゝ・`)「ちがうよ」
爪;'ー`)「そうだ、にせものだ」
(´・_ゝ・`)「ちがうよ」
('、`;川「ゆめ、ゆめ、ぜんぶゆめ」
(´・_ゝ・`)「ちがぅよ」
爪;'ー`)「いいや夢だ!」
オレは、心の底からペニサスを信じた。
爪;'ー`)「夢! 夢だよ! ペニサスの夢!!」
(´・_ゝ・`)「ちがぅよぉ」
否定する口元から、かたつむりが溢れ出す。
131
:
名無しさん
:2017/06/02(金) 19:06:14 ID:W51GjhGE0
しえしえ
132
:
名無しさん
:2017/06/02(金) 19:06:38 ID:2mqlnhtM0
(´・_ゝ・`)「ちがう、ちがぅぅ、」
爪#'ー`)「ちがわねーっての!!」
('、`*川「!」
爪#'ー`)「大事にしてる子供怖がらす保護者がどこにいるー!!!! 消えろ!!!!」
瞬間、デミタスの姿は消えた。
空気と同化するように、溶け込むようにして。
('、`*川「…………」
爪'ー`)「…………」
オレたち二人は、そのまま気絶するように眠った。
133
:
名無しさん
:2017/06/02(金) 19:08:25 ID:2mqlnhtM0
(´・_ゝ・`)「…………大変だったね、それは」
事の顛末を聞いた僕は、そうとしか返せなかった。
爪'ー`)「ほんとにねー、めっちゃ怖かったんですけどー?」
(´・_ゝ・`)「ごめんて……」
爪'ー`)「しかもデルタにはペニサスに手出そうとした変態と間違えられるしぃー?」
( "ゞ)「それは本当に申し訳ないんだが、俺の身にもなってくれ……」
爪'ー`)「そーだよねぇー、デルタはずーっと、ずーっと、ずぅーっとソファーで寝てたらしいもんなー? オレが怖い目にあってたのに!!」
('、`*川「……ごめんなさい」
爪;'ー`)「あ、いや違うんだよペニサスは悪くないんだって、ほんと、ね、ごめんって、ね?」
フォックスの注意がペニサスに向いた隙に、僕は考える。
偽物のデミタス、偽物のデルタと一時消失した本物のデルタ。
どうやらペニサスの能力は、思っていたより強力らしい。
(´・_ゝ・`)(どうしたものかなあ)
わいわいと騒ぐ三人を尻目に、僕は考える。
六月。
もうすぐ、ペニサスの学校生活が始まりが、やってくる。
(´・_ゝ・`)(何事もなく無事に、とはいかないだろうな)
僕は、何度目になるかわからないため息を吐いた。
外では、鈍色の雲が空を覆っていた。
134
:
名無しさん
:2017/06/02(金) 19:14:07 ID:2mqlnhtM0
(´・_ゝ・`)「なあどうすればいいと思う?」
小声で問いかける僕に、
( ゚∋゚)「チチッ?」
昨夜はすっかり寝こけていたクックルは、存じませんとばかりに鳴いてみせた。
(´・_ゝ・`)「平和に暮らすって難しいね」
( ゚∋゚)「チチィッ」
そうだろう、そうだろう、と言わんばかりにクックルは鳴いた。
じゃがいもの小鳥は、人の話がわかるらしい。
そう思ったら、少し愉快になって、
(´・_ゝ・`)「ところで朝食は何がいい?」
僕は、エプロンを手に取った。
135
:
名無しさん
:2017/06/02(金) 19:14:36 ID:2mqlnhtM0
4.にせものとかたつむり 了
136
:
名無しさん
:2017/06/02(金) 19:15:18 ID:2mqlnhtM0
お題一覧
催花雨
狐の嫁入り
番狂わせ
パルクール
海
フリスビー
歌
あと3つお題を募集します
137
:
名無しさん
:2017/06/02(金) 19:16:00 ID:W51GjhGE0
おつおつ!デルタもフォックスも何だかんだいいやつだ
138
:
名無しさん
:2017/06/02(金) 19:16:30 ID:W51GjhGE0
お題・かんな
139
:
名無しさん
:2017/06/02(金) 19:55:53 ID:E.iIlJlc0
お題
虹
140
:
名無しさん
:2017/06/02(金) 22:22:28 ID:M5XODB8Q0
面白い乙
141
:
名無しさん
:2017/06/02(金) 22:30:32 ID:FQFD..d.0
お題 お薬
142
:
名無しさん
:2017/06/03(土) 11:04:37 ID:1tYyaric0
乙乙
デルタとフォックスのキャラ好きだ
143
:
名無しさん
:2017/06/06(火) 10:24:07 ID:0vU0vUxY0
今1話を読み終えた面白い
これから追うわ乙
144
:
名無しさん
:2017/06/14(水) 16:51:21 ID:KZBCkde.0
('、`*川「ねれないの」
書斎で本を読んでいたら、君はそう言った。
潤んだ目元は欠伸をした後のようにも、泣き出しそうにも見えた。
(´・_ゝ・`)「寝れないか」
時刻はまもなく夜中の一時だ。
寝かしつけたのは十時頃で、割合すんなりと寝付いたはずだった。
トイレか何かで起きて、目が冴えてしまったのだろうか。
(´・_ゝ・`)「おいで、ペニサス」
本を畳んで、膝の上を叩く。
半開きのドアから顔をのぞかせていた君は、ゆっくりと近付いてきた。
('、`*川「せんせい」
(´・_ゝ・`)「なんだい」
首に巻きついた手のひらは熱を帯びていた。
先を促しても、ペニサスは黙ったままであった。
特に用はなかったのかもしれない。
僕はそのまま抱き続けた。
(´・_ゝ・`)「一人で寝るのは怖いかい?」
('、`*川「……へいき」
(´・_ゝ・`)「怖いとか、寂しいとかは?」
('、`*川「……ちょっとさみしい」
(´・_ゝ・`)「……それは悪かったね」
んーん、と肩口から声がする。
('、`*川「せんせいいそがしいもん」
(´・_ゝ・`)「うん」
('、`*川「それに、もうすぐがっこうにいくもん……」
145
:
名無しさん
:2017/06/14(水) 16:51:54 ID:KZBCkde.0
いく、というあたりで、その声は弱々しくなった。
言い聞かせるような、決意を新たに固めたような。
どちらにせよぐらついている声であった。
(´・_ゝ・`)(学校、か)
そう、来週の月曜からペニサスは学校に行くことになる。
人生で初めての、学校生活だ。
つい二週間前には教科書が届き、ペニサスは熱心に読みふけっていた。
その次の日には、ランドセルもやってきた。
おぼろげな夢のような、儚いラベンダー色のランドセルだ。
届いた時には晩御飯が出来るまで、ずーっと背負って歩き回っていた。
こんなに喜んでくれるなんて、と思う反面、少し悲しく思ってもいた。
彼女は三年生として、学校に通う。
学力は本人の努力と好奇心もあって、追いつくことができた。
しかし、それでも失われた時間は戻ってこない。
入学式や初めての給食、学友たちと過ごす日々。
その全てを捧げることは決して出来ないのだ……。
('、`*川「あのね、」
(´・_ゝ・`)「……」
('、`*川「せんせい?」
(´・_ゝ・`)「……ああ、なんでもない。どうした?」
やや間をあけて、ペニサスは口を開く。
('、`*川「あのね、がっこう、いくのちょっとだけこわいんだ」
(´・_ゝ・`)「怖いか」
('、`*川「うん。はじめてだから……」
あれだけはしゃいでいた姿はどこへやら。
今目の前にいるのは、すっかり萎れているペニサスであった。
(´・_ゝ・`)「そうだな。初めては、なんでも怖いね」
('、`*川「うん」
146
:
名無しさん
:2017/06/14(水) 16:52:23 ID:KZBCkde.0
勉強のこと、友達のこと、夢のこと。
思えば僕と離れて別の時間を過ごすのだ。
毎週、五日間。
この間、僕が出かけた時とはわけが違うのだから、不安になって当然であった。
('、`*川「……ごめんなさい、こまらせて」
(´・_ゝ・`)「困ってないよ」
('、`*川「ほんと?」
(´・_ゝ・`)「ほんとほんと」
上目で視線を捉えようとするペニサスから、僕は必死に逃れる。
別に面倒だとか、持て余してるだとか、そういうことは思っていないのだ。
不安な気持ちやそれを解決するすべが思いつかない。
つまり、自分の無力さに困っているのだった。
(´・_ゝ・`)(とはいえ、僕は医者だ)
そして、学生の頃には不眠症になったこともあった。
優秀な成績を納めなくてはいけない。
完璧でいなくてはならない。
父が苦労して建てた病院を継がなくては。
その病院にやってくるのは皆、自分が生きているに値しない人間だとか、心細い思いをしている人たちだ。
だから、親身になって一人でも多くの孤独を癒さなくては。
自ら命を絶つような人は作っちゃいけない。
立派な医者にならなくては……。
(´・_ゝ・`)(若かったなあ)
147
:
名無しさん
:2017/06/14(水) 16:54:26 ID:KZBCkde.0
褒められたことではないが、当然僕の病院へ来なくなった患者はいる。
僕が気に食わなかったのかもしれないし、受付や看護師が嫌だったのかもしれない。
もしくは動けるほど元気ではなくて、予約をすっぽかしたことを、気にしながらも忘れているふりをしているのかもしれない。
それか、本当に死んでしまったのかもしれない。
医者になってからぶつかるであろう障害を、学生の僕はあまりにも深く考えすぎた。
薬を飲んでも効かないし、酒を飲むと頭が痛くなった。
両方を合わせると、まぶたは閉じても頭のなかでうわんうわんと何かがうねりを伴って住み着いた。
ヒーリング効果のある歌を聞いたこともあった。
しかし、細々とした声が逆に気になって、いつまでたっても眠れなかった。
そして、僕が見つけた対処法は。
(´・_ゝ・`)「よし、パンケーキを作ろう」
('、`*川「……いまから!?」
(´・_ゝ・`)「そう、夜更かしするんだよ」
抱き上げたまま、卓上のライトのスイッチを切った。
暗闇の中、廊下の電気がうっすらと漏れている。
呆然としているらしいペニサスは、呟く。
('、`*川「パンケーキ、どうするの」
(´・_ゝ・`)「今食べてもいいし、明日の朝ごはんにしてもいい」
('、`*川「どれくらいやくの?」
(´・_ゝ・`)「どれくらい焼きたい?」
しばしの沈黙。
('、`*川「……たくさん」
と、控えめに呟いた。
148
:
名無しさん
:2017/06/14(水) 16:55:55 ID:KZBCkde.0
キッチンに着いた僕は、明かりを灯すと、
( ´∋゚)「……ちちっ?」
リビングから、寝ぼけた囀りが聞こえた。
('、`*川「せんせい、おろして」
(´・_ゝ・`)「ああ、ごめんね」
よいしょ、と下ろすとペニサスは鳥籠まで駆けていった。
(´・_ゝ・`)「ああ、起こしちゃ……」
いけないよ、とは言えなかった。
なぜならもう既に手がカゴの中に突っ込まれていたからだ。
('、`*川「クックルもたべる? パンケーキ」
( ゚∋゚)「ちちっ!」
(´・_ゝ・`)「あーあ……」
なんて言いながらも、怒る気なんて湧かない。
少し楽しくなってきた。
クックルは正直な鳥である。
出された食べ物が気に入らなければ僕のことをつつくし、挙句に勝手に人のおかずをつまんでいる始末だ。
躾がなっていないと言われればそれまでだし、人間の食べるものをあげてもいいのか、とも思っている。
けれども仕方がないのだ。
稗や粟をあげても一向に食べないし、この小鳥が一番好きなのはふりかけご飯なのだから。
('、`*川「せんせー、クックルもたべたいって!」
さっきと打って変わって、ペニサスはにこにこと笑っていた。
その頭には、クックルがちょこんと乗っている。
(´・_ゝ・`)「じゃあ食べやすいようにうんと小さいのも作ろうか」
('、`*川「そうしよ!」
149
:
名無しさん
:2017/06/14(水) 16:56:21 ID:KZBCkde.0
かくして、夜中のパンケーキパーティーは始まった。
材料は牛乳、卵、ホットケーキミックス、それからちょっとした冒険で塩胡椒。
これはペニサスの提案である。
なにかひとつ隠し味を入れたいというから、好きに選ばせたらこれを出してきたのだ。
そんなのやめなよとかだめだよとか、そういうことは一切言わない。
夜中は何をやってもいい時間なのだ。
何をしても、寝ている人を起こさなければ、許される時間なのだ。
(´・_ゝ・`)「だからね、ペニサス」
('、`*川「うん」
(´・_ゝ・`)「僕も昔、眠れなかった時にはベッドの上でお菓子を食べたりしてたよ」
('、`*川「まよなかだから?」
ぐるぐると、ペニサスの混ぜるボウルに、ペニサスの言葉が落ちていく。
(´・_ゝ・`)「そうだよ。まよなかだからね。何やったっていいんだよ、って自分を許した」
僕の言葉も、ボウルの中へと落とし込む。
薄ベージュ色の生地は、だまひとつなく混ざったらしい。
(´・_ゝ・`)「少し冷蔵庫で冷やしてあげよう」
('、`*川「いつもすぐやいちゃうのに?」
(´・_ゝ・`)「生地を休ませるとおいしいパンケーキになるんだよ」
('、`*川「まよなかだからね」
脈絡もなく、ペニサスは言った。
どうやらその言葉が気に入ったらしい。
(´・_ゝ・`)「うん、まよなかだからね」
僕も真似して繰り返すと、妙にスッとした気分になった。
ペニサスは笑った。
僕も笑った。
150
:
名無しさん
:2017/06/14(水) 16:57:09 ID:KZBCkde.0
生地を休ませている間、どうしても暇ができた。
ペニサスは、食器棚を覗いて指差した。
('、`*川「あのおさらつかったことないね」
(´・_ゝ・`)「ああ……」
もう何十年も前に、母が買ってきた皿であった。
縁がレース生地のように穴が空いている、上等な白磁の皿だった。
(´・_ゝ・`)「でも一枚しかないんだよな」
もう一枚は小さい時いたずらで割ってしまったのだ。
そのせいだろうか、隠すように他の器の下敷きにしてしまっていたのは。
('、`*川「……いちまいにたくさんのせたらだめ?」
(´・_ゝ・`)「だめじゃないね」
('、`*川「じゃあのせよ?」
(´・_ゝ・`)「のせようか」
( ゚∋゚)「ちちちっ」
長らく日の目を見なかったその皿を出してやると、それは随分と大きかった。
これならパンケーキの山が崩れても大丈夫かもしれない。
そんなことを思いながら、僕は皿を洗った。
('、`*川「ねーね、こないだかったかみナプキンだしてもいい?」
(´・_ゝ・`)「いいよ、そこの引き出しにあるから」
('、`*川「はーい!」
(´・_ゝ・`)「ああついでだ、ナイフとフォークも準備してくれるかな」
('、`*川「はーい!」
(´・_ゝ・`)「元気でよろしい」
151
:
名無しさん
:2017/06/14(水) 16:57:34 ID:KZBCkde.0
手際よく、ペニサスはテーブルを飾り付けていた。
レモン柄の紙ナプキンに、銀のナイフとフォーク。
かとおもえばリビングを出て行って、花瓶と造花を持ってきた。
玄関に飾ってあったものを、わざわざ持ってきたのだろう。
それから椅子もちょっぴり引いて、ハンカチをのせていた。
随分と大掛かりなことになってきたな、と思いながら僕はジャムを取り出した。
いちご、ブルーベリー、あんず、マーマレード。
いつもなら一種類だけトーストに乗せているのだが、今日は大盤振る舞いである。
(´・_ゝ・`)「なんたってまよなかだからね」
小声で呟きながら、バターも取り出した。
パンケーキを焼くのには、随分と時間がかかった。
牛乳を多めにして、薄く焼くつもりだったとはいえ四袋分はちょっとやりすぎであった。
('、`*川「でもまよなかだもんね」
( ゚∋゚) ゙「ちちっ」
ペニサスの言葉に、心なしかクックルは頷いたように見えた。
(´・_ゝ・`)「席についてていいよ」
フライパン二つをシンクにつっこんで、そう言った。
片付けは後だ。
朝になったら僕が昨日の僕に怒るだろうな、とわかっていても。
(´・_ゝ・`)「出来立てが一番だ」
152
:
名無しさん
:2017/06/14(水) 16:58:35 ID:KZBCkde.0
ゆっくり、ゆっくり、タワーを壊さぬように運ぶ。
なにせ二十枚分だ。
今まで作ったことも見たこともないようなパンケーキが、二十枚。
興奮しながら、眠気を払いつつ慎重に運ぶ。
('、`*川「…………うわぁ」
無事に、テーブルに置かれた皿を見て、ペニサスは拍手した。
(´・_ゝ・`)「ジャムもバターもはちみつも、全部好きに使っていいよ」
あとは適当に取って食べるんだよ、という説明はいらなかった。
すでに二人とも、手を伸ばしていたからだ。
('、`*川「いただきまーす!」
四つに切り分けて、ペニサスはパンケーキを頬張った。
('、`*川「……おいひい」
うっとり、といった表情で言うもんだから、目は勝手に細くなった。
( ゚∋゚)「ちちちちっ!!」
('、`*川「あ、ごめんね、クックルにもあげるから」
小さく切られたそれに、クックルは早速飛びついた。
( ゚∋゚)「ちちぃ」
('、`*川「せんせい、おいしいっていってる!」
(´・_ゝ・`)「よかったね、ペニサス」
そう言って、一口食べてみた。
しゅわしゅわと口溶けがよく、バニラが香る。
それからほんの少し、ピリッとした辛さ。
甘けと、それを引き立たせるしょっぱさが、なんともいえない調和を作り出していた。
スライスチーズをのせたら、もっと美味しくなるかもしれない、とも思った。
153
:
名無しさん
:2017/06/14(水) 16:59:14 ID:KZBCkde.0
(´・_ゝ・`)「塩胡椒、いいね」
('、`*川「まよなかはなんでもゆるしてくれるんだね」
(´・_ゝ・`)「ね」
('、`*川「ねー」
二、三枚食べてしまえば、お腹はいっぱいになるだろう。
そもそも暇つぶしで作ったようなものだから、そんなに食べられないのかもしれない。
ジャムをこんなにたくさん用意したのも大げさで、本当は紙ナプキンや花瓶も要らないのだ。
だけど、用意しちゃいけないという道理もない。
(´・_ゝ・`)(なにをしてもいいんだよ)
まよなかだから。
結局、ペニサスは二枚目を食べている途中で眠ってしまった。
口を無理やり開けて歯磨きさせるのは至難の技だったし、ゆすごうにも口が閉じてて大変困ったり。
そのうちクックルまで寝付いてしまって、まとめてベッドで寝かせてしまった。
それから、やっと自分が寝る支度をして。
随分時間がかかったけれども、不思議と苛立ちはなかった。
(´・_ゝ・`)(明日が日曜日でよかった)
その次の日は、学校だ。
(´・_ゝ・`)(頑張ったらまた遊ぼう)
昼間でも、まよなかでも。
154
:
名無しさん
:2017/06/14(水) 16:59:57 ID:KZBCkde.0
5.まよなかとパンケーキ 了
155
:
名無しさん
:2017/06/14(水) 17:00:42 ID:KZBCkde.0
お題一覧
催花雨
狐の嫁入り
番狂わせ
パルクール
海
フリスビー
かんな
虹
お題を二つ募集します
156
:
名無しさん
:2017/06/14(水) 19:12:37 ID:ofl5/4Ws0
おつおつ!夜は自由な時間だもんな
お題・殺虫剤
157
:
名無しさん
:2017/06/14(水) 19:13:36 ID:ofl5/4Ws0
おつおつ!夜は自由な時間だもんな
お題・殺虫剤
158
:
名無しさん
:2017/06/14(水) 21:27:44 ID:q6NFYwnk0
かわゆす
159
:
名無しさん
:2017/06/14(水) 22:10:54 ID:yilGTzXc0
乙!ホットケーキ作ってこよ…
お題 自販機
160
:
名無しさん
:2017/06/15(木) 23:54:13 ID:Qxkok.3k0
番号振り間違えたのでついでに目次
目次
>>1
1.鉄火巻き味の歯磨き粉
>>24
2.底なし穴と熱いお湯
>>49
3.夜泣きとパパ
>>75
4.ピクニックとじゃがいもの小鳥
>>112
5.にせものとかたつむり
>>144
6.まよなかとパンケーキ
161
:
名無しさん
:2017/06/19(月) 08:08:12 ID:9V.gVJeY0
乙 いい保護者してるなぁ
お題今さらだけど
>>14
忘れてない?
162
:
名無しさん
:2017/06/19(月) 08:10:31 ID:9V.gVJeY0
すまん消化してるな、忘れてくれ
163
:
名無しさん
:2017/06/19(月) 22:46:10 ID:Su0GxiLk0
乙!
真夜中ってワクワクするよな
順調に幸せそうな家族になってて良かった
164
:
名無しさん
:2017/06/20(火) 00:52:23 ID:7hoUTXpA0
お題に
>>141
抜けてね?
165
:
名無しさん
:2017/06/20(火) 15:29:27 ID:.BO.E/CU0
>>164
>>147
でデミタスが薬を飲んでたと言っているからそれでは
166
:
名無しさん
:2017/07/11(火) 00:35:08 ID:uzuKfGak0
待ってる
167
:
名無しさん
:2017/07/11(火) 01:11:16 ID:l1WspsjQ0
紅白の準備で忙しいんだ許せ
168
:
名無しさん
:2017/07/11(火) 02:13:26 ID:uzuKfGak0
なら気長に待つぜ!
169
:
名無しさん
:2017/07/20(木) 18:00:15 ID:n0wSdUXs0
梅のへそに竹串を刺し、てこのように動かした。
ピン、という手応えとともに、へそは飛んでいく。
(#゚;;-゚)「すごい、こっちまで飛んできた」
从 ゚∀从「スイカの種飛ばしとか思い出すな」
(-_-)「スイカの種飛ばし……?」
从 ゚∀从「なんだよやったことねえのかよヒッキー」
(-_-)「俺、種も一緒に食っちまうから」
从 ゚∀从「うーわ、それ盲腸になるんだぞ」
(-_-)「ならねえよ、二十年ずっと食ってんだぞ」
从 ゚∀从「なる」
(-_-)「ならない」
从 ゚∀从「なる」
(-_-)「ならない!」
从 ゚∀从「なるったらなる!」
(-_-)「ならねったらならねーよ!」
(´・_ゝ・`)「静かに!」
ピシャリと僕が言いつけると、デイルームの空気が止まった。
170
:
名無しさん
:2017/07/20(木) 18:00:54 ID:n0wSdUXs0
(´・_ゝ・`)(ああ、しまった)
考え事に気を取られて、つい大きな声を出してしまった。
中にはこういった刺激に弱い人もいるというのに。
現に、真向かいに座っていたでぃは固まっていた。
从 ゚∀从「すんません」
(-_-)「さーせん」
上体をべったり、テーブルに押し付けるようにして二人は謝った。
僕は慌てて楽にするように言って、それからため息を吐いた。
(#゚;;-゚)「先生、どうしたんですか?」
でぃが不思議そうに、僕を見つめた。
(´・_ゝ・`)「どうって、何も……」
(#゚;;-゚)「さっきからずっと上の空でしたよ」
(-_-)「何回も手滑らせて梅落としてるし」
ぐうの音も出ないほど正論であった。
何度か意識が削がれ、その度に仕事に集中しなければと考えていた。
しかし、患者たちにはお見通しだったらしい。
从 ゚∀从「話聞くだけならオレらにもできるよな、なっ!」
小さな部屋を見回して、ハインは頷く。
ヒッキーとでぃも、それに合わせた。
171
:
名無しさん
:2017/07/20(木) 18:01:25 ID:n0wSdUXs0
(´・_ゝ・`)「……ペニサスのことなんだけれども」
(-_-)「やっぱなー、そうだと思ったんすよ」
どこか嬉しそうに言った途端、でぃがヒッキーを睨んだ。
(-_-)「ごめんって桐崎さん」
(´・_ゝ・`)「……話を続けてもいいかな?」
(#゚;;-゚)「どうぞ」
静かな促しに、僕は三日前に起きた出来事を語った。
ペニサスが小学校に通い始めて一週間が経った。
最初は、心配なことが多かった。
なにせペニサスは授業を受けたことがない。
大勢の子供と時間を共有したこともない。
おまけに六月から通い始めたものだから、転入の時期が不自然だった。
珍しがられるだけで済むならいいのだが、子供から話を聞いた親から詮索を受けるかもしれない。
それから、夢の影響が学校に現れてしまうのではないかという心配が一番大きかった。
ここ最近、夢が現実に侵食する率は下がりつつあった。
その代わり、一度見るとなかなかの大騒ぎになることが定番になりつつあった。
最近では、朝起きてカーテンを開けたら鯨がいた。
まあるくて巨大な目と、僕の目が合った日には、気絶しそうなくらいに怖かった。
幸いにも、といえばいいだろうか。
鯨は音もなく空へと翻り、そのまま空の彼方へと消えていった。
ペニサスが起きてきたのちに、話を聞けばやはり鯨の夢を見たという。
本人は至って呑気に構えていたが、内心不安で仕方がなかった。
もしも、だが。
長時間拘束されることに耐えきれず、授業中に居眠りをしてしまったら。
あるいは具合が悪くなって眠った時。
僕がそばにいないまま、ペニサスが眠って、夢を見てしまったら。
172
:
名無しさん
:2017/07/20(木) 18:01:53 ID:n0wSdUXs0
そう考えると、不安になるのも仕方がない話だろう。
しかし、目下僕の頭を悩ませているのは、誕生日会のことだった。
時間が合う限り、ペニサスを迎えに行った。
どうしても仕事で遅くなる場合には一人で帰らせるのだが、やはり心配になるのが親心というものだろうか。
その日も僕は迎えに行ったのだ。
僕たちはいつも校門で落ち合った。
本を読んでいたり、先生や同級生と思しき子供と話していたり。
ペニサスはとても楽しそうに過ごしていた。
それがいつも僕をホッとさせてくれた。
歩き出せば手をつないでほしいとせがみ、今日起きた出来事をどんどん話す。
そんなひと時が、幸せだった。
しかしその日は違った。
ペニサスは、一枚の紙を畳んだり、読んだりをずっと繰り返していた。
大きさから言って、先生から渡されるプリントではない。
それにもっと上質な紙に思えた。
(´・_ゝ・`)「ペニサス」
そう呼びかけると、ペニサスは困ったように顔をあげた。
その隣からは、クックルが顔を出した。
いつのまにやら、また鳥かごから脱走したらしい。
クックルはたびたび、ペニサスにくっついて学校へ行くことがあった。
先生からもなんとかしてほしいと言われたのだが、どんなに気をつけていても逃げ出すものだから僕は諦めかけていた。
(´・_ゝ・`)「どうしたんだい、ペニサス」
再度呼びかけると、ペニサスはこう言った。
173
:
名無しさん
:2017/07/20(木) 18:02:56 ID:n0wSdUXs0
('、`*川「おたんじょうび会にさそわれたの」
差し出され、読んでみるとそれは招待状であった。
二週間後の日曜日。
美原ミセリの家で、彼女の誕生日会を行う。
ケーキを食べて、お話しをして、ゲームをする。
よかったらペニサスちゃんも来てね。
そう書かれた文字は、ラメが入っていて、キラキラと輝いていた。
(´・_ゝ・`)「よかったじゃないか」
('、`*川「よくないもん」
暗い表情で、ペニサスは言った。
('、`*川「おたんじょうびのおいわいなんてしたことないもん……」
その時、僕はようやくとんちんかんな返事をしたことに気がついた。
考えれば気付くことだった。
ペニサスがいたあの環境では、誕生日なんか祝うはずがなかった。
一度も祝われたことのないペニサスが、こういったものをもらって戸惑うのは無理もなかった。
(´・_ゝ・`)「……ごめん、すぐに気がつかなくて」
先生は悪くないよ、とペニサスは言う。
それでも、彼女が傷付いたのは事実だった。
('、`*川「おたんじょうび会、どうしよう」
行きたいけれども、何をすればいいのかわからない。
言葉にせずとも、その気持ちはよく伝わった。
174
:
名無しさん
:2017/07/20(木) 18:03:31 ID:n0wSdUXs0
(´・_ゝ・`)「というわけでどうしようかずっと悩んでいるんだ……」
从 ゚∀从「……闇が深いな」
ぼそりとハインが呟いた。
その通りである。
だからこそ、彼女が傷付かない方法で、誕生日会へ行けるように手ほどきをしなくてはならなかった。
(-_-)「誕生日会なんてあるんすね」
(#゚;;-゚)「ヒッキーくん、やったことないの?」
(-_-)「男はあんまりやらないかもなー」
僕も同じであった。
そう、やったことがないからどうすればいいのか、余計わからないのだ。
从 ゚∀从「じゃあやればいいじゃん、ペニサスちゃんの」
(-_-)「そうそう、やっちゃえばいいんすよ」
これで安心、という空気になるが、
(´・_ゝ・`)「そうもいかないんだよ」
(#゚;;-゚)「どうして?」
(´・_ゝ・`)「ちゃんと自分の誕生日にお祝いしてほしいというんだ」
たしかに気持ちはわからなくもない。
いかにも誕生日会の予行練習のようである。
今まで祝われてこなかったペニサスにそれをやらせるのは、酷というものだろう。
175
:
名無しさん
:2017/07/20(木) 18:03:55 ID:n0wSdUXs0
ちなみに、ペニサスの誕生日は今から二ヶ月、つまり八月。
もちろん間に合うわけがない。
(#゚;;-゚)「じゃあ、」
と、でぃは口を開く。
その計画に、僕たちは賛同した。
(-_-)「こうなったらちんたら梅ジュースを作っている場合じゃないね」
一同は頷き、急いで作業に取り掛かった。
計画は、極めてスムーズに進んだ。
買い出しにセッティング、その他諸々の準備。
これら全てを二日のうちに終えられたことは、驚異的と言ってもいいだろう。
(´・_ゝ・`)(ああ、緊張する)
一、二年生からジロジロと見られながらも、全く気にならなかった。
ペニサスのことだけが気になって仕方がなかった。
176
:
名無しさん
:2017/07/20(木) 18:04:28 ID:n0wSdUXs0
この日、僕はいつもより早く校門へ向かった。
早く行ったのにはさして理由はない。
落ち着かないのと、早くペニサスを迎えに行きたいあまりに、こんな時間に来てしまったのだ。
(´・_ゝ・`)(これを渡して、不機嫌になったりしないといいが)
スーツのポケットに手をやり、嘆息が一つ。
きっともうすぐ出てくる、ペニサスがやってくる。
そう考えていた時だった。
リハ*゚ー゚リ「あの、何されてるんですか?」
(´・_ゝ・`)「…………」
車の窓からぴょこんと飛び出したのはセミロングの頭。
リハ*゚ー゚リ「学校の前で、何されてるんですか?」
(´・_ゝ・`)「…………」
乗っているのは、パトカー。
(´・_ゝ・`)「ち、違うんです子供の迎えに来てて」
リハ*゚ー゚リ「親御さんですか?」
(´・_ゝ・`)「え、ええ」
訝しげに見る婦警に、冷や汗がダラダラと流れてくる。
子供は校門の手前で固まり始めているし、先生まで出てくるんじゃなかろうか。
そう思った時、肩に衝撃を受けた。
( ゚∋゚)「チチィ!」
(´・_ゝ・`)「クックル……?」
僕の首に頭をすり寄せながら、クックルは小さく鳴いた。
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