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( ^ω^)達は今が楽しければなんでもいいようです

1ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/23(金) 23:19:53 ID:tPVEEtDg0
前スレ
( ^ω^)達は今が楽しければなんでもいいようです
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/13029/1438259918/

支援曲 Answer(すーぱーもぐりん氏より)
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/lite/link.cgi?url=https%3A%2F%2Fyoutu.be%2F-c3XqxQ_j2A


ゆっくりまったりと。2スレ目でもよろしく。

2ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/23(金) 23:22:35 ID:tPVEEtDg0

川 ゚ -゚)「煌華陣――」

 切っ先をハインに向けたまま、両足で柄を握り締める。
自身が放てる最速。
帝国の数多の剣豪が力を委ねる、刀というもの。
そしてその閃きを、限りなくゼロに近づけたと、暴力の世界に言わしめたクーが放つ奥義――

从 ゚∀从「――――!」

 声にならない怒号。
ハインが駆るその姿は獣だった。
吸血鬼の真祖の本来あるべき姿。
卑しく人の生き血を啜り、絶望を振り向く為の爪、夜を舞う翼。

 二つがぶつかる、その刹那。

 構えていたクーの両足が揺らぎ、膝が、沈む。

川  )

从; ゚∀从「は!?」

3ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/23(金) 23:23:43 ID:tPVEEtDg0
ミス。以下>>2の訂正

4ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/23(金) 23:24:07 ID:tPVEEtDg0

川 ゚ -゚)「煌華陣――」

 切っ先をハインに向けたまま、両手で柄を握り締める。
自身が放てる最速。
帝国の数多の剣豪が力を委ねる、刀というもの。
そしてその閃きを、限りなくゼロに近づけたと、暴力の世界に言わしめたクーが放つ奥義――

从 ゚∀从「――――!」

 声にならない怒号。
ハインが駆るその姿は獣だった。
吸血鬼の真祖の本来あるべき姿。
卑しく人の生き血を啜り、絶望を振り向く為の爪、夜を舞う翼。

 二つがぶつかる、その刹那。

 構えていたクーの両足が揺らぎ、膝が、沈む。

川  )

从; ゚∀从「は!?」

5ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/23(金) 23:24:40 ID:tPVEEtDg0

 地に伏しかけたクーの身体を左腕で抱え込み、ハインはそのまましゃがんだ。

从; ゚∀从「なんだお前! なに急にぶっ倒れてんだ!」

川  )「…………」

 握り締めた闘気の刀が刃を失い、へし折れた頼りない残骸に戻る。
ハインが慌ててクーの髪を払う。顔は湯でも湛えているのではないかと思うほど熱く、汗が滴り落ちていた。

(`・ω・´)「ってて……無茶しやがるぜ……」

 平地の向こうから歩み寄るシャキン。
クーの薊繚乱によって飛散した礫を浴びたのか、髪の毛まで真っ白になっている。

从 ゚∀从「おいてめえちょっとこい! こいつ急にぶっ倒れちまったぞ! どうすんだ!」

 喧しい声で騒ぐハインとは対照的に、シャキンの表情は平坦そのもので、むしろそうでなければおかしいとでも言いたげだ。

6ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/23(金) 23:25:05 ID:tPVEEtDg0

(`・ω・´)「傷が開いたんだろうよ。つい最近まで腹に穴が空いてたんだ。無理もない」

从; ゚∀从「穴ァ?」

(;`-ω-)「本人から聞けよ。まったく……柄にもなくはしゃぎすぎだろう」

 生きてるんだろう? とシャキンが声をかけると、クーはうめき混じりの返事をした。
ハインの腕の中で、小刻みに震えている。

川; ゚ -゚)「…………あせった」

 脇腹を抑えたクーは、恐らく今まで誰にも見せなかったであろう焦燥しきった表情を浮かべている。
患部を抑える左手は血に染まっていて、しかし彼女の呼吸は少しずつだが落ち着いてきていた。

(`・ω・´)「病み上がりであんな大技を使うからだ。ほんとに……結局あんたも根っから戦闘狂だな」

从; ゚∀从「てめえ! 腹に穴空いた状態で本気の俺とどうたらとか言ってやがったのか!」

7ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/23(金) 23:25:34 ID:tPVEEtDg0

 ハインの左目は元の、血を湛えたような赤色に戻っていた。
それに呼応して、右手と翼も収束してゆく。

川; ゚ -゚)「穴は空いてない……縫って塞がった」

(`・ω・´)「どうだか。その調子だと抜糸も無しに病院抜け出してきたんじゃないのか?

川; ゚ -゚)「…………」

(;`・ω・´)「冗談だろ……お前ほんとに人間か?」

 軽口を叩いたはずなのに、逆にシャキンは身震いさせられる。
夥しい出血を見れば、それが冗談ではないことなど一目瞭然だった。

(;`-ω-´)「血がたぎってるところに水を差すようで悪いが、こういうことらしい」

从; ゚∀从「…………」

 ハインすら目を丸く見開き、口は半開きになっている。

8ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/23(金) 23:26:12 ID:tPVEEtDg0

川; ゚ -゚)「ひどいざまだ」

 こんなクーの姿を、一般生徒達が見たらどう思うだろうか。
シャキンはもう、呆れすら通り越して苦笑いを浮かべていた。

从; ゚∀从「締まりがねえなぁ……ったく」

从; ∀从「よ――――」

 ハインの視界が暗転する。

 真祖としてあるべき姿。
即ち世界そのものから忌み嫌われ、排斥される力を引き出した代償。
それは誰の想像の範疇をも超えるほど大きく、苦痛を伴う。

川; ゚ -゚)「締まりがないのはどっちだ。その程度でへばってたらぐふぉっ」

川  )「ごほっ! ごええっ!」

 クーはクーで、ジョルジュとの闘いによって負った傷が完全に開き、盛大な咳と共に大量の血を吐いている。

(;`-ω-)「どっちも大馬鹿野郎だ」

 シャキンは肩を竦め、溜息をついた。
そして、きっとこの学園で、これ以上希少な場面など、第一王位のモララーが玉ねぎのみじん切りの最中に大粒の涙を零している時くらいだろうと、波乱の要である二人を皮肉った。

9ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/23(金) 23:27:10 ID:tPVEEtDg0

 後日、素直クールが第三王位をハインリッヒ・アルカードに明け渡したという噂は瞬く間に広がった。

 情報の出処がどこなのか、推測するまでもないだろう。
盛大に学園一大ニュースを広めて回ったのはシャキンだ。
アウトローにもメインストリームにも満遍なく精通している彼にとって、情報の伝播を意のままに操作することなど、造作も無かった。

 そして、その内容を改竄することも。

 吸血鬼の不死性の前には、帝国最強の剣客の技も通じなかった。
圧倒的耐久力を以て押し潰されたクーは現在意識不明の重体。

 それはシャキンとクーの間で示し合わせた改竄ではなく、あくまでシャキン独断によるものだったが、クーにとっても都合が良かった。

 陥落する第三王位。
そして、王位の内情に精通している者ならば否が応でも意識してしまう。
ハインリッヒ・アルカードの直下の王位に座すイノヴェルチ、デレ。

 新たな王位継承者の誕生に、流石兄者の時と同じように王位の会合が行なわれた。

 此度会合を取り仕切るのはモララーでも、クーでもなく、第二王位ジョルジュだ。

10ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/23(金) 23:27:59 ID:tPVEEtDg0

( ・∀・)「いやはや、最近は入れ替わりが激しいねえ……」

(,,゚Д゚)「いずれ来るとは思っていたが……」

(`・ω・´)「まさか、あの鉄血の生徒会長を押し退けていきなり第三王位、とはな」

 第三ブロック職員居住区。
事実上一国家として黙認されているVIP学園の、外交の際に使われる腫瘍の施設を占拠する形で、王位の会合が行なわれた。
絢爛豪華を好むジョルジュらしく、施設の中で最も広い客間が誂えられた。

 両開きの扉を開いた新たな王位継承者は、氷のような冷たい表情を貼り付けて、入り口に立ち尽くしたまま王位一同を一瞥する。

从 ゚∀从「まるでごっこ遊びだ」

 吐き捨てる。

 吸血鬼の真祖ハインリッヒと言えば、その不死性は王位にも知れ渡っている周知の事実だ。
空気が凍てついたように張り詰めるも、王位の中で血気盛んな者でさえ不躾に突っかかることは無かった。

11ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/23(金) 23:29:00 ID:tPVEEtDg0

(,,゚Д゚)(あの時とは雰囲気がまるで違う。何をした……?)

('、`*川「ふうん」

 先日のデレが引き起こした騒動に立ち会い、かつハインを見ていた者達の間で、彼女が放つ氷のような闘気は違和感となっていた。

( <●><●>)「…………」

 ギコと、そして上空で彼女を見ていたペニサスとワカッテマス。

 特にペニサスは、吸血鬼の不死性の解析には手を出してみたいと常々考えていた。
真祖の異変は、武人であり、ひとかどの科学者でもある彼女にとってこれ以上にない上質な研究材料であり、その艶めいた眼差しは、ハインの頭から爪先までを、舐り回すように行き来している。

从-∀从「…………」

 ペニサス邸での会合の時と同じく、王位全員分の席が用意された円卓。
空いた最後の一席に、ハインは徐ろに腰掛けた。

12ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/23(金) 23:29:43 ID:tPVEEtDg0

 漆黒のドレスの裾から伸びた細く、青白い足は、円卓の上にぞんざいに投げ出される。
  _
( ゚∀゚)「えらく行儀の悪い新入りだ」

 ハインと同じように円卓の上に足を投げ出したジョルジュは、両足を組んだまま数センチほど浮かせ、踵を仰々しく落とした。
暗に出しゃ張るなと窘めたその所作すら……

从-∀从「…………」

 ハインは歯牙にもかけない。
それどころか腕を組み、目を閉じ、徹底して我関せずを貫いている。
  _
( ゚∀゚)「へっへっへっ、おもしれえ。おもしれえよ。あの女に続いて、その椅子に座る奴は俺の神経を逆撫でするのが上手いらしい」

 両手を上げ、不遜に鼻を鳴らすジョルジュ。
他の八名の誰もが、見の姿勢を貫いている。

ζ(゚、゚*ζ「…………」

 ハインから目を切った者達の、行き場のない視線はやがて彼女と同じ姿をしたデレに注がれる。

13名無しさん:2016/09/23(金) 23:29:46 ID:cIgTM1w20
支援

14ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/23(金) 23:30:27 ID:tPVEEtDg0

 顔立ちや体型こそ違えど、吸血鬼特有の雰囲気は両者ともに似通っていて、こうして同じ空間にいるのを見比べると、姉妹のように見える。

ζ(゚、゚*ζ「なんですか皆さん揃いも揃って。そういう、取り敢えずお前何かやれよ、みたいな無言の圧力がパワハラに繋がるんですよ」

从-∀从「キャラ被りは致命的だから劣化品はとっとと消えろってよ」

( ´_ゝ`)「ぷっ」

 ζ(^ー^#ζ

(;´_ゝ`)(や、ややややややややややべっ、やべべべべべべべ、やべべやべっ! 笑っちまった! 俺死んだ! ちんだ!)

 剣呑な空気を醸し出すデレ。
そのひと睨みだけで、兄者は一瞬にして縮み上がってしまう。
王位を継承してから、彼の生活に劇的な変化はなく、しかし自分を取り残して劇的に変わりゆく周囲を認識するたびに、彼は自分が場違いな人間であると消沈する。

(;´_ゝ`)(ハインリッヒのやろーまでなんかバシバシ威圧感放ってるしよ……俺はこのまんまでいいのか? え?)

(;´_ゝ`)(あああああああ帰ってペストのチーズフォカッチャ食って昼寝してえええええ!! あ、金ねえや……弟者は貸してくれっかな……)

15ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/23(金) 23:31:16 ID:tPVEEtDg0

ζ(゚ー゚*ζ「少しはマシな力を身につけたかと思いきや、口まで悪くなってしまったみたいですね……嘆かわしいです……お姉さまはもっと品のある言葉遣いで――」

从-∀从「…………」

ζ(゚、゚*ζ「……だんまり、ですか。つまんないですねぇ、ショボンくん?」

(´ ω `)「ぐっ……くひ……」

 自身の得物である羅刹棍の鎖に縛られ、俯き、嗚咽を漏らすショボン。
その異様な光景は、彼がその手綱を握るデレと共に部屋に入ってきたときからそこに在ったが、誰もがそれに触れようとはしなかった。

 だが誰もが気付いている。
生命を冒涜する者、吸血鬼特有の、生気とは異なる死の存在感。青白い肌。
  _
( ゚∀゚)「趣味の悪い人形遊びだ」

(´゚ω `)「ふっ、ぐ……」

 呪詛を込めた眼差し。
彼はここに来て既に何度も、デレ以外の全ての人間に飛び掛かろうとしていた。
何度も自分で舌を食いちぎった。
結局残るのは、再生した舌の上で噛み砕いた自分の肉と血の味。
そして、手綱を握るデレが与える束縛の痛みだけだった。

16ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/23(金) 23:31:57 ID:tPVEEtDg0

 鼻で笑いながらも、ジョルジュはデレが着実に自分がひっくり返したVIP学園の基盤に旗を打ち立てる準備を整えるデレの強かさに、舌を巻いていた。

 誰もが彼女の強かさは認識している。
だがここに二人、更に奥深くまで思考を潜らせる者がいた。

('、`*川「あーあーきなくさいきなくさい」

( <●><●>)「…………」

 思えばハインリッヒ・アルカードの王位継承の噂が、まもなく執り行われたこの会合よりも早く出回っていて、しかもその出処すら不透明であることから違和感は滲み出ていた。ペニサスはそう振り返る。

 第二王位と第三王位の衝突。
そして陥落した新第三王位と、真祖との間で繰り広げられた王位継承の闘い。
あまりにもタイミングが出来すぎている。

('、`*川(あんたもね)

ζ(゚、゚*ζ「どうかしました?」

('、`*川

('、`*川「んにゃ、意地悪そうな顔してんなあって」

ζ(゚、゚;ζ「はあ?」

17ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/23(金) 23:33:22 ID:tPVEEtDg0

('、`*川(関連付けざるをえないんだわなあ)

 新第三王位と同じレベルの違和感。

(´゚ω `)

 まるで示し合わせたかのように、イノヴェルチの眷属となったショボン。
完璧な情報伝播の操作。消えた出処。

 たとえモララーであっても、デレの強かな性格というフィルターが邪魔をして、これらを結び付けることは出来ない。
他の誰が気付かずとも、自分にだけは解ると、ペニサスは確信していた。

('、`*川「今日は兄貴を襲わないんだね。あんた、じっとしてると結構男前だよ」

(´゚ω `)「ふっ、ぐぐぐ……」

 ショボンの唸り声と共に、彼を縛る鎖が一層強く締まる。
そしてペニサスは、視線を、シャキンに――――

18名無しさん:2016/09/23(金) 23:33:29 ID:HYgMmqpU0
しえしえ

19ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/23(金) 23:34:14 ID:tPVEEtDg0

( <●><●>)「ペニサス」

 ここまで終始無言を貫いていたワカッテマスが口を開く。
ただ端的に名前だけ呼ぶその一声。
明らかに窘めていた。だがその本意が分かるのは、彼とペニサスだけ。

( <●><●>)「やめろ」

(`-ω-´)「…………」

 そしてシャキンは悟った。
ペニサスが自分とデレ達が繋がっていることに、薄々感づいていることに。

 ワカッテマスの言葉の本意は? やめろ? ショボンを挑発することを、か? 何を、お前達は二人で、何を考えている?

 ワカッテマスの、ペニサスに対する呼称が変わっていることに、シャキンはすぐに気付いた。
不躾に諌めるようなその態度に、ペニサスは事もあろうか恭しく、悪態一つつかずに従っている。
それこそシャキンにとって、違和感でしかなかった。

( <●><●>)(使えるものはとっておきましょうかね)

 徹底的に無機質。
ワカッテマスの思考はどこまでも冷徹だった。
気付いたことと言えば、ペニサスがこの場の全員を出し抜いて何かに気付いたということだけ。

20ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/23(金) 23:35:00 ID:tPVEEtDg0

 だが彼にとってはそれだけで充分だった。
歪な秩序すらも食い潰し、波乱を引き起こそうとしている第二王位ジョルジュに代わり、自分がその椅子に座す。

 その結果に至る過程で、信用出来るものはペニサスだけ。
逆に言えば、彼はペニサスに対してだけは絶対的な信用を置いていた。
しかしそれは人間関係から成る親密な信頼ではなく、あくまで成功に至る為のツールに対する期待。

('、`*川「…………」

 ペニサスはワカッテマスにだけ分かるように目配せをして、それきり照明の光を仰ぎながら栗色の長髪を手持ち無沙汰に指で弄るだけだった。

( ´_ゝ`)(んだあいつら。デキてんのか?)

 兄者から見た俗な印象は、図らずも近かった。
"全ては"ジョルジュが上げた狼煙を契機に、回り出そうとしていた。

从 ゚∀从

 ハインリッヒ・アルカード。

 吸血鬼の真祖を中心に。

21ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/23(金) 23:35:29 ID:tPVEEtDg0

( ・∀・)「退屈だ」

 呟いたモララーの目は、この空間の中の誰も見ていなかった。
あるいは自分にとってただの有象無象、塵芥のような者達の、小賢しい思惑の鬩ぎ合い。

 ここまで、彼がジョルジュの引き起こした波乱に対して何か事を起こしたことは皆無。

 その気になれば全て、洗いざらい炙り出して白日の下に晒すことも出来ただろう。
ちらと、父親であるフォックス学長に報告しようかと彼の頭を過ぎったが、それすらも億劫だった。

 どうせ取るに足らないことだ、と。

 そしてこれから起こる出来事の全てが、自分が目をつけている玩具が関与しない限りは、自分の想定の範疇を越えないだろうと確信していた。

 椅子から立ち上がり、モララーは飄々とした足取りでその場を後にした。
誰も、彼を引き止めることなど出来なかった。
  _
( ゚∀゚)「ま、例のごとく退屈な会合でも始めましょうや。龍のことは……おいギコ、お前が話せ。多分お前が一番スムーズだろ」

(,,゚Д゚)「ちっ……」

22ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/23(金) 23:36:09 ID:tPVEEtDg0

从 ゚∀从「何がスムーズなのか知らねえけど、さっさと始めてくれや。そろそろ腹が減ってきたからよ」

 なあブーン。
 今の私を見て、お前はどんな言葉を吐くんだ?

 ハインの中には決意があった。
人知れず、しかしそれでいて確固たる意志によって具現化した悍ましい力。

 ハインは昨夜食べた人間の顔を思い出そうとした。二日前食べた人間の顔を思い出そうとした。だが思い出せなかった。

 今が楽しければなんでもいい。
いつまでもそう言ってあてもなくうろついているには、自分はあまりにも脆弱なものに関心を抱いてしまった。
そのように、ハインは自嘲する。

(`・ω・´)(偽りの王位、といったところか。確かにあの女の言う通り、読む気にすらならんが……)

 氷のようなハインの闘気にあてられて、シャキンは身震いする。
それは恐れではない。武者震いだ。

23ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/23(金) 23:36:39 ID:tPVEEtDg0

  _
( ゚∀゚)





ζ(゚ー゚*ζ

( <●><●>)

('、`*川

(`・ω・´)





从 ゚∀从

24ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/23(金) 23:37:01 ID:tPVEEtDg0







 ――――が殺る。









.

25ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/23(金) 23:43:10 ID:tPVEEtDg0
終わり。
俺乙、とは言えんわな流石に。というわけでお詫び。

前スレが半端に残ったので何か無いものかと自分で吹っかけておきながら、しかし作風が如何せんこんな感じだから、一生懸命キャラ設定集的なのを作ろうとしたんだが、ハインの設定を書き連ねている最中に「真祖」だの「同族を殺す爪」だの「不死者の王」だのアレなワードが並んだ途端うわああああ、となって今に至る。
まだこうやって話の中で書いてる分にはいいんだがね。
モチベはあるんだが進まない要因は明確なので馴れ合いはほどほどに控えます。多分、いやきっと。
ほいたらまたいつか。

26名無しさん:2016/09/23(金) 23:50:04 ID:cIgTM1w20
やっぱり面白いわ乙
兄者にまたカッコいいところがあるといいなぁ

27名無しさん:2016/09/24(土) 00:20:11 ID:6fLLDeN20
相変わらず面白い


28名無しさん:2016/09/24(土) 01:00:03 ID:ZmOF.MBY0
ハインの戦う様が見れて嬉しい
王位の中ではペニサスとワカッテマスの関係が今のところ好きだわ
おつ

29名無しさん:2016/09/24(土) 07:23:27 ID:6EQfVuWI0
待っててよかった、やっぱり最高に面白い
これからどうなるのか楽しみだ

30名無しさん:2016/09/24(土) 08:01:48 ID:KGJ/oPM.0
ショボン様……

31名無しさん:2016/09/24(土) 19:01:30 ID:EY0XJDs20
乙!!

32ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/24(土) 19:16:45 ID:vAMhjFjc0
多分今夜投下。ながらだけど。
どうしても眠くなったらその時はおつかれ。

33名無しさん:2016/09/24(土) 19:22:35 ID:JCw23Pos0
やったぜ

34名無しさん:2016/09/24(土) 19:23:22 ID:qr8vXaa.0
早えっ!

35名無しさん:2016/09/24(土) 19:27:42 ID:ZmOF.MBY0
ゆゆーがんばえー

36名無しさん:2016/09/24(土) 20:31:54 ID:pMtEZuvw0
おおお、無理すんなよ

37ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/24(土) 21:15:13 ID:vAMhjFjc0
あい、ながら投下につき間隔がめっちゃ開くことがあるかもしれないけど気長にゆっくり楽しんでって

38ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/24(土) 21:16:57 ID:vAMhjFjc0




第二十一話「禊。彼につけられた傷跡を撫でながら。」




.

39ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/24(土) 21:23:59 ID:vAMhjFjc0

 第三王位継承に際する会合が終わり、ハインは職員居住区を後にする。
バスを使っても良かったが、彼女は歩きたい気分だった。

 いくら歩こうと、その程度の消耗など吸血鬼の特性をもってすれば、疲労にすらならないのだから。
そのように、歩きながら、熱を帯びた思考を冷ましていたかった。

 第三ブロックと第四ブロックの境に差し掛かり人だかりが出来ていた。
王位システムの、一般生徒への開示に伴い、此度の王位継承も当然彼らの耳に入っていた。

 新たな王位ハインリッヒ・アルカードをその目に収めんと、あるいは、我こそが王位の座をもぎとり、座すに相応しいと、血気盛んな生徒達が今か今かと彼女を待っていた。

 やがて、群集と声を張らずとも意思疎通が出来るところまできた。
遠巻きの時とは打って変わって、静まり返った生徒達。

从 ゚∀从

 ハインは彼等を一瞥し、さして気にも留めず、変わらない歩幅で歩く。

 彼女の前に、躍り出る一つの影。

40ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/24(土) 21:35:36 ID:vAMhjFjc0

(  ゚∀゚ )「よう。あんた、吸血鬼なんだってね」

 全身に派手な装飾。
銀色のピアスが耳や口、眉など、いたるところについていて、露出の激しい細身の衣服から覗く胸元にはトライバルが彫り込まれている。

(  ゚∀゚ )「少し手合わせ願おうか。あんたのせいで外はグールが蔓延って、みんな迷惑してるんだとよ。あひゃっひゃひゃっ」

 そんな大義など無用。
それを分かっていながら、アヒャはハインを煽り立てるように高笑いを上げる。
彼は間違っていた。
まるで見世物に集うようにして注ぐ数多の視線。即ち、大衆の目。
そんなものが、惨劇を防ぐ枷になると、理性ではなく、本能のどこかで安堵してしまっていた。

(  ゚∀゚ )「あんたを捌いて売れるところに――」

 彼の高らかな挑発は遮られた。
彼の肩から上が、大の大人の胴体ならばすっぽり包んでしまうほどの大きさの、黒い手が覆う。そして、握り締める。

41ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/24(土) 21:45:19 ID:vAMhjFjc0

从 ゚∀从「そいつは悪かったな」

 異形の手の中で、アヒャが叫び声を上げている。
すっかり覆いこまれてしまって、その声はくぐもったノイズと化す。

 どこからともなく、張り詰めた空気を切り裂くような絶叫。
それを皮切りに、興味本位でハインを見に来た者達は蜘蛛の子を散らしたように逃げ惑い、残る血の気の多い者達の表情も、明らかに焦燥していた。

 肩ごと頭を握られ、宙に浮いたアヒャの足がばたつく。
その動きは、ハインの手に籠る力に応じて速くなった。

 そして、限界点――

 鈍い、様々な質感の物体が潰れる音。

 あれだけ激しく動いていた両足は真っ直ぐ地面に向かって伸び、異形の指の隙間からは血が滴り落ちる。

 頭を失い、死体と化したアヒャ。
胴回りを握るように持ち替え、ぐずぐずの肉塊と化した頭部を晒す。
潰れた脳が混じった血は深く淀み、陽の光を帯び、妖しく光る。

42ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/24(土) 21:58:20 ID:vAMhjFjc0

 一部の取り巻きは盛大に嘔吐した。
惨たらしい死体を目にする機会が多い学園のアウトローであっても、ここまで悲惨なものに対する抵抗は薄かった。
明らかに目に見える不調を示さない者も、その表情はひきつっている。

 だが、次の瞬間彼等の前で繰り広げられた悍ましい惨劇は、その心を容易くへし折った。

 ハインは露出した赤い血肉、その露出面が地面を向くよう死体を逆さにし、流れ落ちる血の落下軌道に唇を近付ける。

 この世で最も背徳的な、吸血鬼の営み。

 流れる血を飲み、そして、大口を開ける。近づく血肉の露出面。

 誰かが叫んだ。やめろ、と――

 だが、遅かった。

 露出した肉に歯を突き立て、耳を塞ぎたくなるような生々しい咀嚼音を立てる。
彼女の銀髪は血に染まり、雪のベールに落ちたようなアヒャの血は、見る者にとってこれ以上にない警告色となる。

从 ゚∀从「俺の前をちょろちょろするな」

 首回りの、食べやすい肉を一通り飲み込んでしまって、ハインは口元の血を拭うことすらせず、氷の闘気と殺意にあてられて動けない者達に告げる。

43ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/24(土) 22:08:29 ID:vAMhjFjc0







从 ∀从「腹が減って腹が減って、どうにかなっちまいそうなんだ」









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44ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/24(土) 22:09:16 ID:vAMhjFjc0
















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45ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/24(土) 22:15:23 ID:vAMhjFjc0






 私がある日突然いなくなったとして、この人はどんな顔をするのだろう。






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46ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/24(土) 22:17:44 ID:vAMhjFjc0

 たまに、この機械の身体から沸き出たとは思えない感傷的な言葉に酔うことがある。
こういうのを、悪癖というのだ。私は知っている。

('、`*川「なんか食べる?」

 私の胸の上に、耳を押し当てるように頭をのせる彼に聞く。
そんなことをしたって、心臓の音すら聞こえはしないのに。

( <●><●>)「……ああ」

 徐ろに頭を擡げながら、気怠そうな返事。
少し長い前髪が胸にちくちく刺さるけれど、不愉快じゃない。

 足の踏み場もない部屋。
ずぼらな自覚はあるけれど、今更小綺麗に保とうとは思えなかった。
なにより、ここは私の部屋なのだから、表面上は雑多に見えても、私物の位置が私にだけきちんと把握出来ていればそれでいいじゃないか、という、ものぐさの典型のような思考が腰を重くするのだ。

 私にだけ分かる場所に放り投げられているよれよれのワイシャツを掴み、雑にしわを伸ばしながらキッチンに向かう。

 幾分か伸びてましになったシャツに袖を通し、ボタンをとめながら部屋の扉を開く。

47ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/24(土) 22:29:25 ID:vAMhjFjc0

('、`*川「ふう」

 ついさっきまで、彼の好きなようにされていた自分の身体が遅れて火照っているような気がした。
あくまで生身の人間の、そういう機能の再現でしかないけれど、最早生きているのか死んでいるのかも分からないこの身体でも、下卑た快楽を欲しているのは愉快だった。

 お前が個人として旗を上げるならば、私は自分の全てをあげる。

 初めて彼が自分から部屋を訪れた日、吐いた言葉を思い出した。
我ながら強引過ぎた気もするけれど、ああいう受動的なタイプは、これくらいがちょうどいい。

 きっときっかけはジョルジュの声明だろうけれど、あの出来事の前にこうして拠り所を作っておいて、結果としては正解だった。

 これはあくまで序章に過ぎない。
いや、もしかしたら、私たちがこうして殺戮の学園で好き放題やっているこの生活も、序章の茶番劇でしかないのかもしれない。

 きっと私だけが知っている情報は、あまりにも途方が無くて、これからやらなければならないことの大きさと厳しさに目眩がしそうだ。

48ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/24(土) 22:41:51 ID:vAMhjFjc0

 冷蔵庫には何を作るにも困らない程度の食材があった。
彼が好きなものはなんだろう。
少し考えてみたけれど、大味なものでなければなんでも食べそうだ。
いや、じつは案外偏食家だったりして。

('、`*川「なーんて」

 私は何をしているのだろう。
大して上手でもない料理を振る舞って、二人でセックスの感想でも言いあおうか? 馬鹿げている。

 会合が終わり、二人で部屋に戻ってすぐに、シャワーも浴びずに繋がって。
彼も私も、きっと柄にもなく浮き足立っているのかもしれない。

 こういう時、私はどうしたらいいのかを知っている。
兎にも角にも、まずは話すことだ。
今後のこと。自分が何を知っているか。彼は、何を成したいのか。

 心に浮かんだ声をそのままアウトプットすることは、即座に自分の浮ついた頭の整理に繋がる。
きっとはたから見れば、私は独り言の多い怠惰な女なのだろう。
特に気にすることも無かったし、きっとこれからも気にしない。

 何にしても、自分だけが解っていればいいのだから。

49ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/24(土) 22:56:10 ID:vAMhjFjc0

 二人分のパスタを作って、トレイを持って部屋に戻る。戻ろう、と、振り返ってキッチンから出ようとした時。

( <●><●>)「早かったな」

 ワカッテマスと鉢合わせた。

('、`*川「なに、お腹空いてたの? 部屋で待ってりゃいいのに」

( <●><●>)「これだけ部屋があるんだからわざわざあの部屋で食べなくてもいいだろ」

 男性的な、ひどくぶっきらぼうな物言い。
きっと私しか知らない、彼の一面だ。

 ちょうど恋する女の子みたいに、口調の変化一つ垣間見えたくらいで一喜一憂する感覚は私には分からないけれど、前のような慇懃無礼な態度よりかは接しやすいので悪くない。

('、`*川「……ま、それもそうね」

 トレイを手渡して、二人並んで廊下を歩く。
特に意味はないのだけれど、彼のシャツの、脇腹の弛みを掴んでみた。

50ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/24(土) 23:03:57 ID:vAMhjFjc0

('、`*川「美味しい?」

( <●><●>)「…………」

('、`*川「ねえ」

( <●><●>)「ああ」

('、`*川「パスタって偉大よね。麺茹でて適当な具材に味付けしてのっけるだけで、なんとなーく料理出来るひとみたいに見えるもの」

( <●><●>)「…………」

('、`*川「こういうこと言うから可愛げがないんだろうね。ま、別に可愛く見せたいなんて思わないけどさ」

 それなりに広い客間で二人きり。
ワカッテマスはろくに喋ろうとしないから、心なしか部屋が一層広く、がらんどうに見えてきた。

('、`*川「機械の身体で食事なんておかしくない? 私、常々この機能いらないかなって思っててさ」

( <●><●>)「…………」

 つれないやつだ。

51ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/24(土) 23:10:48 ID:vAMhjFjc0

( <●><●>)「……お前は」

('、`*川「んー?」

( <●><●>)「これを美味いと思うのか?」

('、`*川「ぼちぼち」

( <●><●>)「じゃあいいんじゃないか」

('、`*川「んー、そんなもん?」

( <●><●>)「……俺に聞くな」

 何を話そうか、何を話そうか。
思い浮かぶ言葉のほとんどはどうでもよくて、口に出そうとする前に思考から消え失せてしまうようなものばかりだった。

('、`*川「今夜泊まってく?」

( <●><●>)「いや、帰るよ」

('、`*川「…………」

( <●><●>)「……泊まる」

v('、`*川「ぶい」

52ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/24(土) 23:20:12 ID:vAMhjFjc0

ピースサインを作って、わざとらしいしたり顔をして見せた。
けれど彼は澄ました顔でパスタを黙々と食べ進めていて、こめかみに当てた二本の指を引くタイミングを見失ってしまった。

 フォークとスプーンを使って器用に食べ進める彼。
正しい持ち方すらままならず、卑しく音を立てて麺を啜る私。

 悲観するつもりなど毛頭ないけれど、誰にでも出来る当たり前のことも出来ない自分に気付いた。

('、`*川(ずーずびびーずびびー、ってな。なにやってんだろ私)

 どんな食べ方をしても美味しいものは美味しいし、不味いものは不味いのだから、仕方ない。

( <●><●>)「お前を見てると」

('、`*川「んに」

( <●><●>)「たまに、無性にいらつくことがある」

('、`*川

('、`*川「はあ」

('、`*川(なにさ、箸の持ち方くらいで)

53ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/24(土) 23:29:21 ID:vAMhjFjc0

 あまりにも明け透けで無神経な発言に、私は珍しく自分がむっとしていることに気付いた。けれど。

( <●><●>)「へらへらしてるくせに、自分の肝心なことは絶対に話さない。ただの秘密主義なら別にいいがな」

('、`*川「別に私のことなんてどーでもいいっしょ」

( <●><●>)「そういうところだよ」

 気付けば彼は皿を空にしていた。
スプーンとフォークを置き、水を飲み干して、口を開く。

( <●><●>)「わざと砕けた口調を一貫してるのも、肝心なことを話さないのも、お前を見えなくするから妙にいらつく」

('、`*川「はーはーはーん」

('、`*川「ガキかよお前は」

 本当のところどうなのかは分からないけれど、私には彼のその言葉が、幼稚な独占欲みたいに思えた。
特に嫌悪する気も起きないけれど、肯定的でもないつもりだ。
でも、彼がそんな風にむくれているのを、なぜか嬉しく思ってしまう。

54名無しさん:2016/09/24(土) 23:30:50 ID:qr8vXaa.0
おおついにこの二人

55ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/24(土) 23:33:57 ID:vAMhjFjc0

('、`*川「ほんっと可愛いわあんた」

( <●><●>)「……知るか」

 彼はますますむくれてしまって、私はどうしても、そんな彼をからかいたくなってしまう。
食べかけのパスタをそのままに、私はワカッテマスを羽交い締めにするように、後ろから抱いた。
はじめは鬱陶しそうに手で払ってきていたけれど、やがて抵抗も無くなって、しおらしくなった猫みたいに私の腕の中に収まった。

('、`*川「可愛い男の子は好みだけど、しっかり頼れるところも見せてよね」

( <●><●>)「お前の働き次第だ」

('、`*川「まかせんしゃい。頼れる栄光へのナビゲーターペニサスちゃんだわね」

 彼が嫌いな私で、そんな風に演じてみせる。
どれだけ彼が嫌だと言っても、今は私のことを知ってもらう必要はない。
私が彼にあげられるのは、あげるべきなのは、私が知ってることだけ。

56名無しさん:2016/09/24(土) 23:34:52 ID:sSxhOmFQ0
追いつき支援

57名無しさん:2016/09/24(土) 23:40:45 ID:ZmOF.MBY0
なんだかんだ健気で可愛い

58ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/24(土) 23:41:27 ID:vAMhjFjc0

('、`*川「内藤ホライゾン」

( <●><●>)「…………」

('、`*川「気になる? あいつのこと」

( <●><●>)「別に」

 にべもなく、彼は即答した。
無理もない。現時点であの子は、波紋を投じる小石にすらならない脆弱な存在なのだから。
けれど、彼はこの王位の継承争いなど児戯に思えてしまうような、巨大な流れの一角を担う柱なのだ。

('、`*川「あの子さ、元々二茶重工の御曹司だったのよ」

 私の腕の中のワカッテマスは、僅かに肩を震わせた。

( <●><●>)「二茶……? ということは……」

('、`*川「そ、私が作った兵器開発グループの前身。正確には、私がまだちっちゃいガキんちょの時に銃士ロマネスクからぶんどった会社だけどね」

( <●><●>)「銃士ロマネスク」

('、`*川「覚えてる? 悪名高い帝国公認ブローカー」

59ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/24(土) 23:48:53 ID:vAMhjFjc0

( <●><●>)「いや、ただでさえ世の中の流れ自体に興味が無いのに。それにもう何年も前の話だ」

('、`*川「はーーーー。覚えてたら私がどんだけ凄いことしたのか分かったってのにさあ」

( <●><●>)「それは別にいいよ。それよりも……」

('、`*川「はいはい。二茶を乗っ取った事の顛末でしょ? 根こそぎ奪い取ってやりましたわよ。ロマネスクの財産も、家族も、なーにもかも」

 あの時の私は、ただ恐れていた。
幼さゆえ無防備に覗き見てしまった世界の真相。
その一角を担うあまりにも悍ましい混沌を。

('、`*川「でも、内藤ホライゾンは、ブーンだけは奪い取れなかった。せめてあいつの目の届くところからは離したかったから私も頑張ってはみたけれど……」

( <●><●>)「けれど?」

('、`*川「昔の私ったらお茶目なもんでさあ。すっかり見失っちゃったわけよ」

( <●><●>)「…………」

 彼は振り向き、じっとりとした眼差しを向けてきた。
けれどこればかりは本当のことなのだから、今更責められたところでどうしようもない。

60ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/24(土) 23:53:16 ID:vAMhjFjc0

('、`*川「まぁまぁまぁ、そんな怖い目で見なさんなよ」

 彼の頬を指で突いてみる。
じっとりした眼差しを向けたまま、されるがままなのが少し面白い。

('、`*川「あの子、フォックスが直々に招き入れる形でこの学園に入ってきたのよね」

( <●><●>)「何かある、ということか」

('、`*川「何かどころじゃない」

 そして私は、彼の表情を固める言葉を、放った。

('、`*川「あの子の中には、私らの中にいる龍の力の根源がある」

( <●><●>)

('、`*川「驚いた? ねえねえ、驚いた?」

 無理もない。
唐突に備わったこの力。やがてその意識は風化して、自分本来の力だとすら認識していた力のルーツが、あんな便りのない木偶の坊のような男に宿っているというのだから。

61ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/24(土) 23:58:07 ID:vAMhjFjc0

('、`*川「あんたの力も、あのモララーの力も、あの子の中にいる悪魔の力の残滓でしかない。その力が欲しいから、フォックスは自身の庇護の届くこの学園に、あの子を匿った」

( <●><●>)「よりにもよってこの学園に、か」

('、`*川「外であの子の力を狙う奴等と比べたらまだ生ぬるい環境ってことでしょ」

( <●><●>)「奴等、に心当たりは?」

v('、`*川「もち、ありますわよー」

 またピースサイン。
けれど今度は白けた目で見ることすらせず、彼は私の手を乱暴に握り締め、怒気のこもった目で見上げてきた。

('、`*川「……委員会。外の事情に疎いあんたでも流石に聞いたことくらいはあるでしょ」

( <●><●>)「世界を管理する五人の王」

('、`*川「せいかーい。欲張りな話だわね。既に世界を牛耳っておきながら、それ以上を求めてるってんだから」

62名無しさん:2016/09/24(土) 23:58:41 ID:MsBvZalE0
!?

63ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/25(日) 00:06:45 ID:aPhJ.GnI0

 何の因果か、私達の箱庭の中の自由は、外の世界すら揺るがす因子の入場によってあっさりと壊されてしまった。
私以外の誰も気付かなかった、この世界に走る亀裂。

('、`*川「ジョルジュ? モララー? 王位継承? 小さい小さい。そんなとこで小さく収まってちゃ男が腐っちゃうよ」

 口を固く結んだ彼を、私は徐ろに抱きしめた。
気休めのような安心感ではなくて、私があげたいものは、お前ならばこの澱んだ世界の中核に風穴を開けられるかもしれないという、心からの期待。

('、`*川「この掃き溜めみたいな学園が一国家として認められた裏には、きっとそうしなきゃいけない理由があったはず。フォックスがブーンを受け入れるのも、どこかの誰かの算段の範疇だったのかもね」

 あり得ない推測ではないはずだ。
委員会が一団体を国として認めた前例など一度もない。
その最初の例が、よりにもよってこの学園なのはあまりにも出来すぎている。

('、`*川「王位継承だの喚いて内輪で争ってるうちに、私らは好き勝手に踊らされてんのよ。それが分かったなら、やるべきことは一つでしょう?」

64ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/25(日) 00:12:03 ID:aPhJ.GnI0








( <●><●>)「ああ」

 彼は、私が今まで聞いたどの言葉よりも力強く、答えた。

( <●><●>)「VIPは俺が束ねる」









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65ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/25(日) 00:13:41 ID:aPhJ.GnI0




















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66ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/25(日) 00:18:12 ID:aPhJ.GnI0

 風が流れる音のみが支配する静寂の中で、彼女は悪趣味なグラフィティを貼り付けた雑貨屋の外壁を背に腰を下ろし、蹲っていた。

 自身の身すらもすっぽりと覆ってしまう異形の腕で、膝を、頭を抱え込み、うわ言のように小声で呟き続けている。

从 ∀从「もっと、食いたい……もっと……」

 金色に輝く左目。そこから流れる血は絶えず、白い頬を濡らし続ける。

 真祖として本来あるべき姿に近づけば近づくほど、彼女が触れたかったものから遠ざかってゆく。
けれど何をしなくても、その溝のようなものは埋まらないような気がして、それでも自分の今を、この異形の腕が浅ましいと嘲笑っているような気がして――――

 それを紛らわせるために、無尽蔵に湧き出るのは抑えがたい食肉衝動。

 学園におけるブーンの存在が、世界の巨大な意志によって捻じ込まれたものだとして、それによって変貌を遂げる真祖の姿。

 誰にも観測できるはずもなかった。

 しかしそれでいて、彼女を取り巻く禍は、確実に、この物語のような数多の意志の流れを、歪ませてゆく――――

67ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/25(日) 00:19:23 ID:aPhJ.GnI0
終わり。
流石に明日は無い。多分。いやきっと。
おつかれ。

68名無しさん:2016/09/25(日) 00:19:56 ID:xaq5vwHA0


69名無しさん:2016/09/25(日) 00:20:19 ID:firjRevQ0
乙乙
そしてハイン…

70名無しさん:2016/09/25(日) 00:21:25 ID:6Xnuq5560
おつおつ

71名無しさん:2016/09/25(日) 00:21:41 ID:K9MHsM0A0
どんどん物語が深みに潜っていくなー楽しみ


72名無しさん:2016/09/25(日) 00:22:09 ID:JQ3tTPnU0
乙!

73名無しさん:2016/09/28(水) 21:28:36 ID:cazF8jE20
ハインは龍と会ったわけではないのかな?
真祖の力出しただけ?

74ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/29(木) 20:32:09 ID:0/9ih0a20
今日か明日投下

75名無しさん:2016/09/30(金) 00:12:53 ID:ua.J0Flg0
よし

76ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 01:49:48 ID:CLErTf8A0



第二十二話「過程から抜け出せないぼく達の、結末に至る為の理由。」



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77ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 01:50:12 ID:CLErTf8A0

ζ(゚ー゚*ζ「おはよう、第九王位さん」

 打ちっ放しコンクリートの部屋。
光一つ差し込まないその暗室で、彼はイノヴェルチの視線の元、目を覚ました。

( ゚д゚ )「…………」

 ミルナは最後に自分が見た光景を、頭の中で反芻させた。
自分の脳天めがけて振り下ろされる羅刹棍。衝撃。
そして、遅れてやってくる静寂。
その闇の中を揺蕩う最中、彼は悍ましい獣の声を聞いた。

「悦びなさい、哀れな子羊。志半ばで失った命、私が呼び戻してあげましょう」

 それは刻印のようなもの。
武人として誇らしく死ぬことすら許されず、彼はその闇から掬い上げられた。

( ゚д゚ )「第四王位……」

 ジョルジュの声明の時に見た顔だと、ミルナはすぐに気がついた。
青白い顔。赤い瞳。彼女がイノヴェルチであることも。

 自身が横たわるベッドの感触を、掌で確かめる。ひどくごわついていた。
そして、血に塗れていた。

ζ(゚、゚*ζ「大変だったんですよ? なにせ首から上が木っ端微塵だったんですから。ここまで修復するのに時間がかかりました」

( ゚д゚ )「あの男は……」

ζ(^ー^*ζ「貴方が殺したショボンくんですか? ご心配なさらず。私がきちんと直しましたから」

 ミルナの表情が、硬くなる。

78ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 01:50:38 ID:CLErTf8A0

( ゚д゚ )「誰がそうしろと頼んだ」

 明確な怒気を孕んだ声。
射抜くような視線は、真っ直ぐデレに向かっていた。

ζ(゚、゚*ζ「あら、もしかして貴方も、武士道とは死ぬことと見つけたり、とか言っちゃうタイプの人ですかぁ? 最近多いんですよねそーゆーの」

(# ゚д゚ )「貴様……!」

ζ(゚ー゚*ζ「いいじゃないですかみっともなくて。死んでしまったら全部同じですよ。みーんなただの肉になっちゃうんだから」

 部屋の隅に立てかけておいた刀を握り、デレはそれをミルナに差し出した。

ζ(゚、゚*ζ「みっともなくもがいてください。貴方が嫌う、誇りのない死んだような生の中で、存分に打ち拉がれてください。あなた方が謳う価値観がどれだけ矮小なものかを、きっと知ることになるでしょうね」

(# ゚д゚ )「ならばこの場で辻褄を合わせてやるだけだ」

 差し出された刀を受け取り、即座に抜刀。

79ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 01:51:03 ID:CLErTf8A0

 その刃はミルナの腹に、真っ直ぐ突き刺さった。
熱を伴う鋭い痛みに、ミルナの脳が警鐘を鳴らす。

(; ゚д゚ )「うぐっ……」

 そのまま、真横に刃を滑らせる。
肉を、臓物を切り裂き、皮膚を突き破り、刀はミルナの身体から離れた。

ζ(゚、゚*ζ「無駄ですよー? 貴方、吸血鬼なんですから」

 ベッドに身を預けるミルナの上体に覆い被さるように詰め寄り、デレは血の泡を噴き上げる彼の腹部に腕を突っ込んだ。

(; ゚д゚ )「いぎっ……!」

 破れた胃を掴み、優しく愛撫する。
細長い指でその食感を確かめ、爪を立てた。

 直後、部屋に響き渡るのは断末魔の如き声にならない悲鳴。
始めは野太かったそれは、やがて便りのない、甲高い女の悲鳴のようなものに変わる。

ζ(^ー^*ζ「いい暇潰しになりましたよ。"第九王位さん"」

 一頻り遊び終えて、デレは満足げな笑みを浮かべて、たった一つしかない扉をくぐって部屋を後にした。

80ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 01:51:27 ID:CLErTf8A0

 閉ざされた扉の向こうで、ミルナはデレが何者かと話している声を聞いた。
それよりも、彼は再生途中の腹部が発する痛みをどうにかしてほしくて、泣き出してしまいそうだった。

 情けない話だ。
一端の武士が、痛みに涙を流すなど。

 その悔しさと共に痛感する。
自分が掲げていた誇りが、何の役にも立たないということを。

 やがて、扉の向こうの話し声は止み、再び重々しい扉は開いた。

(´・ω・`)「……よお」

 部屋に入ってきたのは、ある意味ミルナが今一番話したい人間だった。

ショボンは鎖で上体を縛り上げられていて、身動きが取りづらそうにしている。
解いてやろうとミルナは立ち上がりかけたが、再生途中の腹部から腸が溢れて、その激痛にそのままベッドから転がり落ちてしまう。

(´・ω・`)「ひどいざまだな」

(; ゚д゚ )「お互い……に……な……」

81ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 01:51:47 ID:CLErTf8A0

 冷たい床に座り込み、ショボンはミルナが芋虫のように這いずり回るのを、ただ静かに見つめていた。

(; ゚д゚ )「おもしろいか?」

 ようやく腹部の再生が終わり、痛みの残滓も噛み殺すことが出来るようになって、ミルナは自嘲を含んだ言葉を漏らした。

(´・ω・`)「いや」

 ショボンはそこで言葉を区切り、息をすることすらやめて考えこんだ。
こんな時、どんな言葉をかければ良いのだろうか。
徹底的に他人を排除し続けたこの生き様の過程で、彼にとってそれはあまりに前例が少なく、難しい問いだった。

(; ゚д゚ )「なぁ、頼みがある」

(´・ω・`)「言ってみろ」

(; ゚д゚ )「殺してくれ」

 それが敵うならば、自分はとっくに死んでいる。
ショボンは胸の中でそう毒づいたが、ミルナを責め立てはしなかった。

82ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 01:52:09 ID:CLErTf8A0

(´・ω・`)「僕から王位を奪っておいて、もう投げ捨てるのか?」

( ゚д゚ )「あれは俺の負けだ。闘いにも負けて、このまま無様に生き恥を晒し続けるなど我慢ならん」

(´・ω・`)「だが、デレがそれを許しはしねえよ」

 覚醒したばかりのミルナが知らないことを、ショボンは知っている。
一部の者たちの間で、第九王位が覆ったという噂が流れていること。

 偽りの王位。

 それが自分の役目であることを、ショボンは受け入れている。

 デレからどうこうしろと指示を受けたわけではないが、彼はこの、出処が限られた情報が不自然な速度で伝播していることに、一つ心当たりがあった。

(´・ω・`)(兄さんの仕業だ)

 デレの隣に立つシャキン。
この二人が手を組んだとなれば、今の自分達の境遇は自然なのだと、ショボンは事のきな臭さに気付いていた。

83ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 01:52:57 ID:CLErTf8A0

 意図的に情報を改竄し、伝播する。

 シャキンが得意なやり口の一つだ。
こうして、術中に嵌めた人間を解答に辿り着けなくさせる手段を、彼は電波に準えて、ジャミングと呼んでいた。

(`・ω・´)

 同じ学園にいながら、ショボンが彼に辿り着けないのは、そういうことだった。

 血を分けた兄弟であっても、彼が本気で隠そうとしたものには辿り着けない。
あるいはペニサスのように、その改竄の形跡から察知出来るほど勘が鋭ければ、ジャミングを逆手に取ることも可能だろう。

 だが当然常人には困難なことで、武に秀でていればいいというわけではなく、それ一つで天賦の才と言っても過言ではない。

(´・ω・`)「よっぽど僕らのことが大事らしい」

84ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 01:53:26 ID:CLErTf8A0

 偽りの第九王位。
あるいは、出来過ぎたタイミングで入れ替わった第三王位。
ショボンはクーとハインの間に起きた出来事を知らないが、自分とミルナのような、確かな違和感をそこに見出していた。

(´・ω・`)(兄さんとデレが何を企んでいるのかは判らない……が、何かあるとすればぼくらかハインリッヒが引き金か?)

 主であるデレの支配が唯一及ばない領域、思考を、いずれ来る大きな動きを見据えて回す。

 身体を支配の鎖で縛り付けられた自分には何も出来ない。二人の思惑の為にいいように使われるだけだ。
だが、だからといってそこで考えるのをやめてしまえば、本当に死んだような男になってしまう。

 それは、少し前のショボンには無かった感情だ。

 死の直前、刃を交えた男によって喚び醒まされた、恐怖ではなく、闘志に従って戦うということ。

( ゚д゚ )「独り言が多いな」

 ミルナに言われて、ショボンははっと我に返った。

85ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 01:54:15 ID:CLErTf8A0

( ゚д゚ )「意外だ」

 ショボンは、僅かに気恥ずかしく思っている自分に気付いた。

 自分は今、どんな顔をしているのだろうか。
分からないから彼は無闇に口を噤み、眉間に皺を寄せて眉を八の字にする。

 幼い頃からの癖だった。
 
 何か自分に不慮があっての不都合に見舞われた時、ショボンはいつだってこんな風に渋い顔をしてみせた。

「そんなに眉間に皺寄せてると、顔がしょぼくれるぞ」

(´・ω・`)「…………」

 幼い頃、よく言われた言葉だ。
なぜ今になって思い出したのか、彼に対する憎しみならば、一日たりと、一瞬たりと絶やしたことはない。

 だが、死してなお胸の中で燃え上がる火が灯る以前、ショボンが、彼を兄として慕っていた頃を思い出すのは、珍しかった。

(`・ω・´)

(´・ω・`)「ちっ……」

86ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 01:54:37 ID:CLErTf8A0

 悪くない最期だった。このまま死んでもいいとすら思えた。
感傷に泥を塗り、無理矢理引きずり上げてきたあの忌々しい吸血鬼。
主と眷属という主従関係によって縛り付けられた今、ショボンに抗う術は無い。

 だが、抗わなければならない。

 たとえそれが呪いであったとしても、この意志が尽きないのであれば、兄を殺さなければならない。

(´・ω・`)「ミルナ」

( ゚д゚ )「……なんだ」

 生前の彼からは毛ほども垣間見ることが出来なかった強い意志を孕んだ瞳。
ミルナはそれに気圧されて、怖ず怖ずと返事をする。

(´・ω・`)「機を見てハインリッヒ・アルカードと接触する。お前も手を貸せ」

 自分とデレが主従関係であるように、その血脈を辿れば、あのデレですら、吸血鬼の鎖で縛る真祖に繋がるのだ。
本来はそのような関係である筈なのに、デレはハインに縛られていない。
そこに、活路は存在する。

87ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 01:54:59 ID:CLErTf8A0









 消えかかっていた復讐の火が、風を孕んでたちまち燃え上がる。


 自身の心すら蝕むその業火を、ショボンは静かに飲みくだした。









.

88ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 01:55:29 ID:CLErTf8A0

 三日間という時が短いのか長いのか、きっと人によって、あるいはその人の置かれた状況によって捉え方は様々だと思う。
ぼくにとってこの三日間は、コマ送りの映像を見るように短かった。

 ハインが第三王位を継承した。

 その報せを受けた時は衝撃的だった。
たとえ立場がどうなろうと、あの天上天下唯我独尊の吸血鬼はどこまでいってもハインリッヒなのだと思う反面、彼女が、ぼくの及ばない遠い存在になってしまう気持ちもある。

 自ら手放した。そのくせ彼女の一挙一動が気になって仕方がない。
これではまるで…………

( ^ω^)「ストーカーだお」

 ハンバーガーをかじっていたドクオは盛大にむせた。

(;'A`)「いつからそんな色男になったんだ」

 腰に吊ったホルスターに手を伸ばし、注意深く辺りを見渡す。
どうやら気が抜けていたらしく、漏れ出た言葉は彼にとって本当にどうでもいいことなのに、狼狽えるその姿を見て少しだけ胸がすっとした。

89ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 01:55:49 ID:CLErTf8A0

 ハインが王位を継承してからの三日間で、ぼくはどう進歩したのだろう、と何度も問う。

 荒れに荒れている第四ブロックを歩いているだけで、理由もなく命を脅かす暴徒は沸いてくる。
何人も地に叩き伏せてきた。
けれどそれは、何度も解消してきた問題を片手間で処理するような、鍛錬という体を保っていることによって得られる自己満足の為の行為である気がするのだ。

 ドクオが銃器のメンテナンス用の道具を買うというので、ぼくもついてゆく。

 早々に、背後から暴徒が襲いかかってきた。

( ^ω^)「殺気を抑えきれてない。衣摺れの音が聞こえるなんて論外」

 後ろ手に、何かしら得物を握っている奇襲者の腕を掴み、脛辺りを蹴り上げる。

( ^ω^)「奇襲、闇討ちは準備が本番。これで死んでも後悔は無いってくらい、きちんと準備してくるといいお」

 次からね、と付け足して、ぼくは振り向きざまに暴徒の顔面を力いっぱい殴った。
確かな手応えと共に、大柄な男は盛大に地面を転がった。

90ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 01:57:10 ID:CLErTf8A0

('A`)「…………」

( ^ω^)「なんだお?」

('A`)「いや、お前と初めて話した時のことを思い出してな」

( ^ω^)「気持ち悪いからやめてくれお」

('A`)「はっ、減らず口が叩けるようになったな」

 吹く風が生ぬるい。
風に運ばれて漂ってくるのは、以前ならば飲食店のダクトから漏れた匂いだったが、今は、どこかの誰かの命を奪った硝煙の匂いだけがぼくの鼻をくすぐる。

( ^ω^)「変わっちゃったおね」

('A`)「そうだな」

 荒れ果てた街。それでもぼくは憂鬱になったりはしない。
それどころか、むしろ懐かしさすらある。
人々の目は澱み、希望や野心も無くて、我利我利亡者の虚ろな吐息だけが占めるこの空気感。

 ここは、ぼくが乞食として、惰性的に命を繋いでいた外の世界と、まったく同じだった。

91ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 01:57:32 ID:CLErTf8A0

('A`)「なんで乞食なんかやってたんだ?」

( ^ω^)「だから、二茶が破綻して……」

('A`)「そうじゃねえよ。その気になれば乞食なんかじゃなくて、もっと割の良いシノギがあっただろ。今のお前、外なら一組織もまとめ上げられるくらいの腕っ節だよ」

( ^ω^)「この学園で自衛を心掛けるようになってからだお」

('A`)「本当にゼロからこの短期間で? 嘘だろ」

( ^ω^)「君ほどのやつがあの時のぼくを測り損ねてたっていうほうが、ぼくからしたら嘘だお」

('A`)「…………」

 ドクオは足を止めて腕を組み、しばし何かを考え込むようにして視線を地面に落とした。
煙草に火をつけ、しまいにはシャッターを下ろしたブティックのベンチに腰を下ろしてしまう。

92ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 01:58:05 ID:CLErTf8A0

( ^ω^)「そんなに引っかかるかお?」

('A`)「……別に、俺だって考えることは腐るほどあらぁ」

 どうやらそうらしい。
それに対して、特に言及するつもりもない。

 ハインが第三王位を継承したということは、元々その椅子に座していたクーさんが負けたということだ。
第二王位から第三王位に転落して、そして今、ぼくは彼女の消息に関する噂を一度も耳にしていない。

('A`)「気になるか?」

( ^ω^)「まぁ、それなりには」

 ぼくからは踏み込みづらい話題だったけれど、ドクオの方から持ちかけてきたので、それに甘えることにした。

93ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 01:59:14 ID:CLErTf8A0

('A`)「死んではない。が、この学園にもいないらしい」

( ^ω^)「辞めちゃったのかお?」

('A`)「いや、実家で療養中、だそうだ。まぁ、それも建前だろうがな」

( ^ω^)「建前」

('A`)「あいつの実家が実の娘を悠長に休ませるわけないってことだよ」

(;^ω^)「スパルタだおね」

('A`)「ああ、超スパルタだ。俺はあいつの修行を見てきたから、あいつの強さも当然だと思える。勿論才能もあるだろうけどな」

 あの強さを以って、それすらも頷けると言わしめる修錬がどれほどのものか、純粋に興味がある。

 今のぼくには、仮に一日二十四時間の修行を十年間欠かさずにやり遂げたとしても至れない高みに思えるけれど、強さと同じように、自分を苛め抜く行為にも限界はないのだなと再認識した。

94ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 01:59:34 ID:CLErTf8A0

( ^ω^)「それにしたって、こんな形で帰省してそれはストイックだおね」

('A`)「そういうやつなんだよ」

( ^ω^)「見習わなきゃだお」

('A`)「つって、お前にとっちゃ他人事じゃないかもな」

 ドクオが、珍しく意地の悪い笑みを浮かべた。
僅かに細くなった双眸。それは真っ直ぐぼくを捉えている。
背骨が凍りついてしまったみたいに、あるいは足の裏から根が生えてしまったみたいに、ぼくは動けなくなった。

 嫌な予感が、する。

( ^ω^)「……どういうことだお?」

 そこから先の言葉を、ぼくは的確に予想出来ていた。
けれど、予想していたとしても、いざ直面すれば揺らいでしまう程度の心算しか出来ていなかったようで……

('A`)「クーが実家に来ないか、って誘ってたぞ」

95ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 01:59:56 ID:CLErTf8A0

 願ってもない話だ。
そう思えるほどには、ぼくと彼女の繋がりは薄い。
けれども実際に、彼女はぼくを誘っているらしい。
あまりに出来すぎた話だ。

( ^ω^)「どうしてぼくを?」

('A`)「さぁな。聞いてみるか?」

( ^ω^)「いや……」

 仮にきな臭い理由があったとして、きっと彼女はぼくでは絶対に看破できないようなもっともらしい理由をでっち上げるだろうし、何も無かったとしたら、それはそれで無粋な気がする。

 要するに、この時点でぼくは未知に飛び込む為の覚悟を試されているのだろう。

 まともな判断ではないと思う。
どう考えたって、小心者の捻くれた解釈だと思う。

 けれど、何故か今のぼくにはそうとしか思えないのだ。

96ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 02:00:16 ID:CLErTf8A0

( ^ω^)「……考えさせてくれお」

('A`)「だろうなぁ。お前からしてみりゃ、よく分からん女の唐突な誘いだしな」

 無理もない、とドクオは苦笑を浮かべる。
面倒臭い性格だとは思うけれど、一度勘繰るべきと判断したことを、真っさらな目で見る事が出来ない。

 いや、あるいは、ぼくは……

( ^ω^)「ごめん」

 ふとわき出てきた胸の中の言葉を押し込んで、ぼくは溜め息をついた。自然と漏れた溜め息だった。

('A`)「俺に謝ることじゃねえよ。気にするな」

 煙草の火を靴底ですり潰し、ドクオは立ち上がる。

('A`)「俺は行く。もう少しで、何か掴めそうなんだ」

97ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 02:00:39 ID:CLErTf8A0

( ^ω^)「メンテナンスの道具は、いいのかお?」

('A`)「ん、ああ、そういう気分じゃなくなっちまった。伝えること伝えられたし、もういいよ」

 来た道を戻ろうとするドクオを呼び止めてみたけれど、彼はどこか上の空で、意識が散漫になっているような気がする。

 彼には彼の、ぼくにはぼくの、解決し難い懸念事項が山のようにあるということだろう。

 そのように、他人に気が回るなど外にいる時には考えもしなかった。
こんな殺伐とした排他的な世界で、それは随分と皮肉な話だ。


 僅かに緩んだ頬。別れを告げかけたその時、轟音が、鳴り響いた。

98ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 02:00:59 ID:CLErTf8A0

( ^ω^)「っ!」

('A`)「…………」

 音がした方に振り返り、何も確認出来なかったのでドクオを見る。
彼は腕を組んで、ぼくが振り返った方向をじっと見据えていた。

('A`)「どうする?」

( ^ω^)「ただ事じゃなさそうだけど……」

 本当に暴徒が引き起こす騒動が増えたから、大抵の騒ぎは欠伸混じりでやり過ごすことが出来るけれど、今の音は尋常じゃなかった。

( ^ω^)「巻き込まれないうちに離れるかお」

('A`)「そうだな」

 嫌な予感がする。
早々にその場を去ろうと、ぼくたちは同じように踵を返した。

99ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 02:01:25 ID:CLErTf8A0

 その刹那、ぼくは確かな視線を感じた。
肌に、心臓に絡みつくようなそれは、確実にぼくの生殺与奪を握っていて、一瞬でぼくの頭から爪先までを値踏みすると、駆け抜けるように過ぎ去っていった。

(;^ω^)「ドクオ!」

 堪らず大声で彼の名を呼んだ。
彼は既にホルスターから黒銃を抜き、左手の指の骨を鳴らしていた。

('A`)「お前も感じたか」

 顔の前を、見えない何かが過ぎ去った。
目を凝らしてじっと一点を見つめていると、不可視に近い半透明の細い糸。それを辿ると、同じ糸が違う軌道でぴんと張っているのを見つけた。
彼がこの一瞬で展開させたものらしい。

('A`)「捕まった。覚悟決めとけ、多分とんでもないのが来る」

 ぼくの感覚は間違っていなかったようで、ドクオも危機を察知していた。
いやあるいは、もっと具体的な殺気を感じ取っているのかもしれない。

100ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 02:01:57 ID:CLErTf8A0

 ぼくは一歩身を引いて、ドクオが睨む方向をじっと見た。
急に何かが迫ってくるような感覚、というよりも、もっといやらしい、喩えるならば、獲物を見つけた蛇がじわじわとにじり寄ってくるような……

( ^ω^)「嫌な感じだお」

('A`)「この距離で迂闊に逃げられない、と思わせられる。かなりの使い手だ」

 自身の力を以ってすれば、相手がそう思わざるをえないと確信しているからこその、このいやらしい迫り方なのだろうか。

 だとしたら、相当性格が悪い。

 その人物像の類似として、真っ先に頭に浮かんだのはデレの顔だった。

 闘いが、一方的な蹂躙であるかのうな不遜な性格。周囲一帯を血と狂気で汚すあの吸血鬼ならば、あるいはこのように不穏を撒き散らしながら歩み寄ってくるのかもしれない。

('A`)「来るぞ」

101ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 02:04:00 ID:CLErTf8A0

 そして、ぼくは身構えた。

 視線の先。
歪んでもいない整然と建ち並ぶ建物ですら、頼りなく倒れてしまいそうな荒涼とした空気の向こう側で、黒い影が揺らいだ。

( ^ω^)「…………」

 ぼくは、ぼくは、文字通り言葉を失ってしまった。

 そこにいたのは、きっとぼくが今、最も想っている人で、そして、彼女の姿が、ぼくが知っていた彼女とはかけ離れていたから。

从 ∀从

 黒い影は、ハインは、千鳥足の酔い人のようなおぼつかない足取りで、近付いてくる。

( ^ω^)「ドクオ、銃をしまえお」

('A`)「…………」

( ^ω^)「ドクオ!」

 声を荒らげる。
そんなぼくよりも、ドクオはずっと冷静だ。

102ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 02:04:28 ID:CLErTf8A0

 銃口はハインに向いたまま。
彼の眼光は、明確に敵と定めた者を見るときにように鋭かった。

(;^ω^)「…………」

 自分の焦りの正体が、ぼくにはよく分かった。
ドクオが血迷って、ハインに銃を向けているからではない。
彼のその判断が、何一つとして間違っていないと思うからだ。

从 ゚∀从

 黒いドレスは、デレが来ていたものとよく似ていた。
むしろ今のハインが着ている方が、より悍ましく、その闇の深さを体現するのにお誂え向きだ。

 禍々しい黒い右腕が伸びて、傍に建ち並ぶ建物の壁を押さえている。
獣の腕のようで、指先、爪にあたる部分は鋭い。
そして左肩から伸びた黒い翼のようなものは不規則にはためき、その度に黒い霧を撒き散らす。

 敵性の有無を問わず、身構えざるをえない。
これじゃあ、これじゃあまるで……

( ^ω^)「バケモ……」

 無意識で漏らしかけた言葉に気付き、ぼくはその汚らしい言葉を飲み込んだ。

103ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 02:04:50 ID:CLErTf8A0

从 ゚∀从「よお」

 左目を、正常な右手で抑えたまま、ハインは弱々しい声で語りかけてきた。
その右目はぼくではなく、真っ直ぐドクオの方を見ていた。

('A`)「…………」

从 ゚∀从「美味そうな闘気が漂ってきてると思ったら、お前かよ」

 ドクオは何も答えず、代わりに撃鉄を起こした。
ドクオの隣にいるぼくは、彼女の視界に、入っているのだろうか。

从 ゚∀从「顔見知りは、食えねえなぁ」

 下卑た笑みを浮かべて、ぼくからでも見て取れる脂汗を垂らしながら、ハインはよろよろと近付いてくる。

( ^ω^)「…………」

 何か言える筈も無かった。

 ぼくは、痛々しい彼女の姿を努めて無表情で見つめていた。

104ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 02:05:14 ID:CLErTf8A0

('A`)「まるで食おうと思えば食える、みたいな口ぶりだな」

从 ゚∀从「何が違うんだ? その通りだよ」

 重く、湿った発砲音。
ハインの脳天を的確に貫いた弾丸。
木っ端微塵になった肉片が飛び散って、でも、視線は外せなかった。

 再生が始まる。
血の泡は瞬く間に彼女の肉を形成して、元通りの状態に戻った。
そして、金色の瞳が、露わになる。

从 ∀从「へへ、へへへ……」

 変わらない、今にも地に倒れ伏してしまいそうな足取りで、ハインはぼくの肩の横を、通り過ぎようとしている。

 ぼくは、何を言うことも出来ないけれど、自分の中に、確かに燃え上がる炎のようなものを感じることが出来た。

( ^ω^)「ハイン」

 本当に小さな、蚊の鳴くような声だったと思う。
事実、彼女の耳には届かなかったらしい。
あるいは、聞こえていて敢えて、何も応えないのかもしれない。

 それで、いい――

105ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 02:05:35 ID:CLErTf8A0

('A`)「人間気取りにはちょうどいい格好だな」

从 ゚∀从「まぁな。今凄く心地いいよ。人間ってのもそうなんだろ?」

('A`)「なんのこっちゃ」

从 ゚∀从「ありのままの姿でいることがよ」

 ドクオは少し間を空けて、彼女がぼくたちの背中の向こう側を歩む最中に、答えた。

('A`)「それが誇れる自分ならな」

 黒銃をホルスターに収め、左手で何かを手繰り寄せるような所作。
敵対する鋭い空気は消え失せ、泥のように沈んでしまいそうな重い空気だけが残る。

 きっと小さくなっているであろう彼女の背中を、振り向いて確認することなど出来るわけがない。

 ぼくとドクオは二人、腐ってしまったみたいに淀んだその空気の中、何も言わずにただ押し黙っていた。

106ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 02:06:06 ID:CLErTf8A0

( ^ω^)「ドクオ」

 どこまでも皮肉な、突き抜けるように青い空を仰いだまま、ぼくは彼の名を呼ぶ。
何も答えない彼はぼくの呼びかけを聞いているから、そのまま続ける。

( ^ω^)「ぼく、クーさんのところに行くお」

 未知に飛び込む覚悟?
 出来過ぎた話?

 ぼくがもっともらしく誂えようとした言葉を、胸の中で破り棄てた。
全て、詭弁でしかないじゃないか。

 ぼくは怯えていただけなのだ。

 あの絶対的な強さに辿り着くために、支払わなければならない対価を。

 強さを得る為に対価を支払わなければならない至極当然の理に、この学園に入ってから気付いたぼくは、高みに登る前から自分の爪が痛むことを嫌った。

 何度も覚悟を決めたはずの、強くなりたいという意志に対する冒涜だ。

107ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 02:06:29 ID:CLErTf8A0

('A`)「奇遇だな。俺も行ってみよう、じゃなくて、行かなきゃいけないと思ったところだ」

 ドクオにも、どんな対価を支払ってでも強者の座に辿り着かなければならない理由があるのだろう。

 けれど、それはぼくも同じだ。
昨日までは曖昧模糊としていた、理由が浮き上がって、それは火を帯びる。

 ぼく達の理由は必ずしも衝突するものではないのかもしれない。
けれど、絶対に負けたくないと、思った。

( ^ω^)「同じ釜の飯を食うことになるとは思わなかったお」

 意識的に、茶化すような言葉を選んで吐き、ドクオを見る。

('A`)「気持ち悪いからやめてくれ」

 当てつけのような言葉。ドクオの顔も、ちっとも笑っていなかった。笑えていなかった。

 ぼくは何の脈絡もなく、彼女を名前を胸の中で呟いた。

108ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 02:07:15 ID:CLErTf8A0
おわり
またいつか

109名無しさん:2016/09/30(金) 02:14:03 ID:ekiMQE2c0
乙!
ハイン…

110名無しさん:2016/09/30(金) 02:19:54 ID:zM1NXruY0
乙!!
痛ましい

111名無しさん:2016/09/30(金) 02:22:08 ID:L9et4QlU0

この作品でショボンがまともだったの初めて見た気がする……

112名無しさん:2016/09/30(金) 03:51:34 ID:ua.J0Flg0
ショボンいいなぁ凄く面白い


113名無しさん:2016/09/30(金) 07:40:33 ID:AO3bE1EY0
ショボン様すき

114名無しさん:2016/09/30(金) 13:04:07 ID:squN21i60
おつ
ショボン&ミルナがんばれ
どっちも好きだから1歩でも足掻いてほしい
ハインのブーンに対する反応がなかったのが辛いな

115名無しさん:2016/09/30(金) 14:18:39 ID:UgI9Q3hU0

ショボンの株がどんどん上がるなぁ
ブレないやつは本当にかっこいいな
そしてブーンとドクオは修行なのかな?わくわくしてしょうがない

116ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/11/27(日) 12:00:11 ID:MyRZcDlU0
誰かぼくのやる気スイッチを押してください

117ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/11/27(日) 12:01:07 ID:MyRZcDlU0

第二十三話「何百、何千年と同じ事を繰り返したぼくたち」

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118ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/11/27(日) 12:02:00 ID:MyRZcDlU0

  _
( ゚∀゚)「いつまで高みの見物を決め込んでるつもりなんだ?」

 第三ブロック職員居住区は、既にジョルジュの手に落ちたも同然だった。
モニター越しに、見世物を見るような目で観測していた大人達を蹂躙し、彼は幾分か愉快になった。

 それでも満たされない隙間があるから、彼は自身の居室を訪れた男に、そう問う。
  _
( ゚∀゚)「お前だって退屈してるんだろ? 隠そうったってそうはいかねえぜ。お前はあのいけすかねえ元会長とは違う。楽しむ為に強くなったクチだろ」

 男は、瞼を下ろしたまま、腕を組んで壁に背を預けた。
  _
( ゚∀゚)「モララー」

( -∀-)「…………」

 学園最強の男と、第二王位の接触は、誰にも知られぬ形で成った。

119ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/11/27(日) 12:02:48 ID:MyRZcDlU0

  _
( ゚∀゚)「は、すっとぼけやがって」

( ・∀・)「とぼけてなんかいないさ。僕は自分が強いことは自覚してるけど、自分が最強だなんて思ったことは一度もない」
  _
( ゚∀゚)「そうきましたか。謙虚だねえ、第一王位」

( ・∀・)「事実さ」

 モララーはソファに背を預けるジョルジュに近付き、彼の目の前のテーブルに腰掛け、片足を、ちょうどジョルジュの腰の隣に投げ出す。
  _
( ゚∀゚)「飲むかい?」

 そう言って、差し出されたワインボトルを受け取り、モララーは唇を濡らす程度にそれを飲んだ。
  _
( ゚∀゚)「酒の飲み方もお上品だな、第一王位」

( ・∀・)「そう皮肉るなよ。僻んでるように見える」

 ワインボトルを返す時、ジョルジュの目付きが一瞬だけ鋭くなったのを、モララーは見逃さない。

120ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/11/27(日) 12:03:47 ID:MyRZcDlU0


( ・∀・)「視野の問題さ。こうして一番上に立ってしまえば、王位の価値なんてどうでもよくなる。そうして初めて見えてくるものもある」
  _
( ゚∀゚)「お前らとは見てる世界が違うってことかい」

( ・∀・)「…………」
  _
( ゚∀゚)「ちっ、面白くねえやつだ」

 モララーの沈黙が、全てを物語っていた。
今の自分はモララーにとって、所詮取るに足らない有象無象の中の一人でしかないことを、ジョルジュはとうに理解している。

 理解したうえで、彼の首筋に突き立てる渾身の一撃を模索する過程。
決して道が無いわけではない。終着点が無いわけではない。
そう言い聞かせることが、彼をはじめ、有力な王位達を突き動かす。

( ・∀・)「病的だね。君らにとって僕なんて、本来どうでもいいはずだろう?」

 モララーにとって、それこそ有象無象をつまらなくさせている偏執的な動機にしか見えなかった。

121ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/11/27(日) 12:04:32 ID:MyRZcDlU0

  _
( ゚∀゚)「どういうこった」

( ・∀・)「そのままの意味さ。僕には僕の、君らには君らの、生き方や成し遂げなきゃいけない何かがある。君の過程で僕の存在が障害になるなら、ご自由にこの椅子を狙えばいい」

 けれど。と付け加え、皮肉たっぷりに深く息を吐き、モララーは続ける。

( ・∀・)「退屈だと喚き散らすだけの君には回り道を勧めるね。やるだけ無駄さ。どうせ大した志も無いんだろう?」
  _
( ゚∀゚)「…………」

 煽り立てるような口振りに、ジョルジュは激昂するでもなく、ただ目を丸くして、モララーの顔を真っ直ぐ見つめているだけだ。
モララーはそれ以上言葉を続けることはなく、ただ自身の鼻先に注ぐ視線に、同じように視線を返す。
  _
( ゚∀゚)「……あー」

 溜め息混じりに、あて先もなく発した声が、二人の間で頼りなく浮かんで、消える。

122ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/11/27(日) 12:06:39 ID:MyRZcDlU0

  _
( ゚∀゚)「あーあーあーあー」

 大仰に口を大きく開けて、ジョルジュは声を上下に揺らす。
  _
( ゚∀゚)「がっかりだよ」

 露骨に眉を顰め、今日一番大きな溜め息を吐いた。
モララーは全く意に介さず、むしろ興味すら失ったかのような、冷ややかな視線をジョルジュの眉間に注ぐ。
  _
( ゚∀゚)「闘うことに意味なんか求め始めた拳はとろくさくなっちまう。お前の栄光も長くはもたねえな」

 空気が、震える。
右手で握るワインボトルが音を立てて、弾けるように割れるのを確認するなり、ジョルジュはワインで濡れたその掌を、モララーの頬に撫でつけた。

( ・∀・)「…………」

 挑発的に自分の肌を撫でるその手首を掴み、モララーは口を開いた。
彼の言葉が紡がれるよりも速く、閃光が部屋を満たした。

 窓ガラスが爆ぜ飛ぶのとほぼ同時に、モララーの身体が空に投げ出される。

123ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/11/27(日) 12:07:35 ID:MyRZcDlU0

(  ∀ )「…………っ!」

 ジョルジュの居室は瞬く間に炎に包まれ、夜闇を煌々と照らす。
校舎塔よりも遥かに高い職員居住区の塔。高度百メートルの世界に投げ出され、斜方投射の落下を始めたモララー。その視線の先。

 炎によって形成された龍が空を舞う。
胴を曲げ、宙で落下するモララーに、大きく広げた口を向けていた。
  _
( ゚∀゚)「高度百メートルの世界で、まだだんまりを決め込むんならお前は終わりさ。俺がお前に敵わないとしてもな」

( ・∀・)「…………」
  _
( ゚∀゚)「そうかい。ならくたばれや」

 落下するモララーの頭上。楕円形の炎の渦が、轟々と畝る。
それは真っ直ぐ、モララー目掛けて降りた。いや、正確には、伸びた。
夜闇を照らす火柱が落ちる。

 モララーは無言で、右手で銃を模る。左手で右手首を掴み、その指先は、火龍を捉えていた。

 闘気の収束は火柱の落下よりも速い。世界そのものが、その指先に集っている。

 放たれるその膨大な闘気の名は――――

 ――――龍王気。

124ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/11/27(日) 12:09:02 ID:MyRZcDlU0

 火柱が大地を焼き尽くす。熱は波状に拡がり、土煙が舞い上がる。
その遥か上空、首を擡げた火龍。その首と胴が、分かたれていた。

 頭を失った龍の胴は、一層激しく燃え上がり、やがて霧のように雲散してゆく。
夜闇の下の第三ブロックに火の雨が降り注ぐその光景は異様で、これが世界の終わりだと告げられても、なんら不思議ではないだろう。
  _
( ゚∀゚)「俺はここにいるぞモララァー!!」

 首だけの龍が咆哮を上げる。
それに呼応するように、ジョルジュも雄叫びを上げた。

 分かっている。
どれだけ煽り立てたところで、モララーはその挑発に乗ってくることはない。

 ジョルジュはますます苛立った。
どこであろうと自分の意志は何かを掻き乱す強大な力を孕んでいなくてはならない。

 それなのに、あの男はいつでもどんな厄災の渦中でも素知らぬ顔で、鼻歌交じりに飄々と隅の方を歩いている。

 ジョルジュにはそれが許せなかった。

 自分を、何としてでも認識させてやる。
そんな独りよがりな自意識は、それでも強大な力を孕み、火龍と共に燃え上がる。

125ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/11/27(日) 12:09:54 ID:MyRZcDlU0








 その夜、煌々と燃え上がる炎が絶えることは無かった。








.

126ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/11/27(日) 12:10:36 ID:MyRZcDlU0

 ドクオのバイクに乗るのは、これで二度目だ。

 風を切る音が轟々と、まるでぼくの静脈血が唸りを上げているみたいで、遠い空を見上げると思わず身震いした。

 雲一つ無い青空だ。
湿っぽいこの時期にしては珍しい。
あるいは、ある意味ぼくらの門出とも言えるこの日を、天も祝福してくれているのかもしれない。

( ^ω^)「なんて」

 太陽に向けて伸ばした腕。陽光が掌をすり抜けて、降り注ぐ。
目が焼けそうなくらい眩しかったから、瞼を下ろしてみる。
途端に平衡感覚が乱れ、ぼくは風に流されているような気分になった。

('A`)「ふらふらすんな。次のサービスエリアで飯にしよう。少し飛ばすぞ」

( ^ω^)「ピザはあるかお?」

('A`)「知らん」

 ジャンクなものを食べたい気分だった。
なぜだか、身体が無性にそういうものを求めている気がした。

127ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/11/27(日) 12:11:22 ID:MyRZcDlU0

――
――――

 ピザは無かった。
ハンバーガーショップがあったので、それで妥協する。
紙袋いっぱいのハンバーガーを二人で分け、自販機で買ったコーラで流し込む。

('A`)「それピクルス抜きだろ。ちゃんと見てから食えよ」

( ^ω^)「嫌いだったかお? ピクルス」

('A`)「嫌いじゃねえけど、安いハンバーガーに入ってる安いピクルスはなんか違う」

( ^ω^)「ふうん」

 彼なりのこだわりがあるらしい。
これは勝手な偏見なのだけれど、ドクオは食事に対して無頓着で、腹に入りさえすればなんでもいい、くらいに言いだしそうな男だと思っていたので、少しだけ驚いた。

 ピクルスが無いハンバーガーは酸味が足りなくて、牛肉の生臭さが口の中に広がる。

 不味くはない。けれど決して美味しくはない。
ハンバーガーを、ただ食欲を満たす為の糧として見ているのは、彼ではなくてぼくの方なのかもしれない。

('A`)「……うめ」

 少しだけ、ドクオの頬が上を向いた。ほんの、少しだけ。

128ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/11/27(日) 12:12:13 ID:MyRZcDlU0

 こうして学園の外に出るのは、いつぞやの汚れ仕事の時以来だ。
あの時はただ仕事場に向かって、事を終えて帰宅しただけだったから、学園の外のものを食べるのは、VIPに入学してからこれが初めてということになる。

( ^ω^)「マンション、借りようかなあ」

('A`)「やめとけ。VIPの周りはボッタクリばかりだ。足元見られるぞ」

( ^ω^)「ドクオは借りてるんだっけ?」

('A`)「ああ、月に二百万」

(;^ω^)「んなアホな」

('A`)「嘘だったらいいのにな」

 どこか遠い目。
ドクオが罪の無い人間を殺して得た金は、このようにして吸い上げられているらしい。
武力とは、どこまで行ってもその程度のものなのだろうか。
考えても詮無いことなので、ぼくは手元のハンバーガーにのみ、意識を向けた。

( ^ω^)「…………」

 美味くもないし、不味くもない。

129ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/11/27(日) 12:50:09 ID:MyRZcDlU0

 素直家に着いたのは、すっかり日が沈んでしまって、更に一時間ほど経ったくらいだった。
スピードメーターは常に百キロを超える速度を指していたから、ぼくたちはこの半日で途方もない距離を駆けたことになる。
そう考えると、この尻の痛みもごくごく自然なことだった。

( ^ω^)「今から帰りが憂鬱だお」

('A`)「お前は座ってるだけだからいいだろうが」

 流石のドクオも、この長旅の疲れが顔色に現れている。
彼の視線を辿ると、このご時世明らかに浮世離れした武家屋敷。

( ^ω^)「なんというか、イメージ通り過ぎて……」

('A`)「逆に引くよな。まあ分かるよ」

 この辺りはグールが多い。
ここに来る途中ですら、既にあの食人鬼独特の呻き声がぼくの耳を掠めていった。
そういった背景があるから、近隣の住居は高層マンションが多い。
更に言うならば、セキュリティ面において信頼における建物の需要が高いであろうことは、想像に難くない。

 そんな中、むしろ周りがこの家に合わせろと言わんばかりに、堂々と構える屋敷。

 グールの気配は、無かった。

130ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/11/27(日) 13:49:26 ID:MyRZcDlU0

 グールの気配が無い理由など、誰の目から見ても明らかだ。

 バイクの排気音が鳴り止む。ぼくに少し遅れてドクオもバイクから降りた。
そして、厳かな造りの門扉を、その前に立ち尽くす男を見る。

( ^Д^)

 ぼくたちよりも、年は三つか四つほど上だろうか。
若々しい顔立ち。ぼくの目からすると、比較的男前な容姿に、彼が着込んだタイトなシルエットのスーツはよく似合っている。

('A`)「久しぶりだな。プギャー」

( ^Д^)「……ふん」

 不遜に鼻を鳴らした彼は、恐らくバイクに視線を向けていた。

( ^Д^)「かっこつけたもんに乗ってんなあ僕ちゃん。生意気な口の利き方も相変わらずそうで……」

 酷く、棘のある口調だ。
軟派な容姿だから、ただの軽口に聞こえなくもないが、怒気を孕んでいるようにも見える。

( ^Д^)「そっちは、お友達?」

('A`)「内藤ホライゾンだ」

( ^Д^)「ああ、はいはい……君が、ね」

131名無しさん:2016/11/27(日) 14:12:55 ID:3F3.nmvoO
支援ー

132ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/11/27(日) 14:43:08 ID:rrebwTac0

 値踏みするような視線が飛んできた。
今更それに対して、不愉快な思いをすることもない。
乞食時代にはこの視線の対価に飯を食べていた。
VIPに入っても、事あるごとにこういう視線を浴びてきた。

( ^ω^)「素直さんに呼ばれて参りました。お世話になりますお」

( ^Д^)「…………」

 何が気に入らないのかさっぱり分からないけれど、彼は不服そうにまた鼻を鳴らし、編み上げたネズミの尾っぽのような後ろ髪を肩の上で弄りながら、ドクオに視線を移した。

('A`)「なんだよ」

( ^Д^)「…………」

 男は何も答えない。
意味深に、ジャケットのポケットに手を突っ込み、首の骨を鳴らす。

( ^Д^)「お前ら、お嬢から何も聞いてねえの?」

 ぼくとドクオは互いに顔を合わせ、そしてほぼ同時に首を傾げた。

133ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/11/27(日) 14:49:38 ID:rrebwTac0

――
――――

川 ゚ -゚)「友人が来るんだ」

( ^Д^)「へえ」

川 ゚ -゚)「一人はお前もよく知ってるドクオ」

( ^Д^)「僕ちゃんが? 久しぶりっすね」

川 ゚ -゚)「お前はいつぶりになるんだろうな。VIPに入ってから凄く頼もしくなったよ」

( ^Д^)「あーの僕ちゃんが、ねえ。そりゃあ楽しみで」

川 ゚ -゚)「もう一人は内藤ホライゾン。VIPで知り合った奴なんだが……これが面白い奴でな……」

( ^Д^)「お嬢のお眼鏡に敵う奴、ですか。そりゃあ大層な手練れなんでしょうね」

川 ゚ -゚)「さあ、どうだろうな」

134ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/11/27(日) 14:56:38 ID:rrebwTac0

川 ゚ -゚)「友人を家に上げるのも久しぶりなんでな。ただ出迎えるのも面白くないだろう?」

( ^Д^)「はあ、なるほどなるほど……お嬢も人が悪い」

川 ゚ -゚)「母さんの娘だからな」

( ^Д^)「……お嬢、この家の敷地内でそういうことは……」

川 ゚ -゚)「母さんはさっき風呂に入った。心配ない」

(;^Д^)「お嬢もVIPに入ってからまた一段と肝が座りましたね……」

川 ゚ -゚)「どうだかな」

川 ゚ -゚)「まあそれはいいさ。出迎えはお前に任せるぞ。私の友人だ。丁重にもてなしてくれ」

( ^Д^)「丁重に」

川 ゚ー゚)「ああ、丁重にな」

135ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/11/27(日) 15:10:31 ID:rrebwTac0

――
――――

( ^Д^)「丁重なおもてなしを仰せつかっちまったもんでよ。このまま長旅ご苦労さんと通すわけにもいかねえんだ」

('A`)「ちっ」

 ぼくには、彼の言葉とドクオの表情がちぐはぐになっている理由がいまいち分からなかった。
こんな立派な武家屋敷を構える素直家のおもてなしだ。
それはもう大層な、鯛やヒラメの踊り食い。もしくはルビーと見紛うような上等な肉が出てくるか。
どちらにしても、玄関先で食べるには少しばかり品が無い気もする。

('A`)「なにヨダレ垂らしてんだ」

( ^Д^)「余裕だねえ、お客さん。大層腕に自信があると見た」

( ^ω^)「おっ?」

 ぼくの視界から、プギャーが消えた。
ほぼ同時に、鳩尾に違和感。
肉が破れ、内臓が飛び出てしまったのではないか。
激痛などとうに通り越した衝撃が爪先まで広がる。
ぼくの視界は、夜空を捉えて目まぐるしく動く。

136ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/11/27(日) 15:20:54 ID:rrebwTac0

( ^Д^)「軽いな」

 ぼくは、ようやく自分が宙に浮いているのだということに気付いた。
深々と腰を落とし、半身をこちらに向けた構え。
流派がどうだとか、そんなものは関係なくて、確かに迸る殺気がぼくの本能を駆り立てる。

 来る――

('A`)「ボサッとすんな!」

 ドクオの怒号。
鈍く、湿った発砲音が二発。
視界の端から、プギャーを狙って駆る弾丸の閃きだけが見えた。
決して常人の目では捉えられない軌道。

( ^Д^)「ナチュラルに不意打ちとは悪どくなったもんだな」

(;^ω^)「っ!」

('A`)「…………」

 受け身を取りながらも、ぼくはプギャーから視線を切らない。
信じられない、信じたくもない光景が、そこにあった。

 自身の頬の側で硬く握る拳。
ぼくの目に、予感に、狂いが無ければ、決してあり得てはならない事が、起きている。

137ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/11/27(日) 15:30:03 ID:rrebwTac0

( ^Д^)「俺は大らかだからよ。蚊トンボ飛ばして嫌がらせされたって全く応えねえんだわ」

 結んだ手を開く。
二つの銃弾が、彼の手から零れ落ちた。

( ^ω^)「…………」

 ぼくの目が狂っていなければ、彼はこの近距離から自分を狙って放たれた弾丸を、見てから掴んだということになる。

 銃弾を見切る訓練ならば、ぼくも幾らか積んだ。
だからこそ分かる。ドクオのあの銃は、規格外だ。
どういう構造なのかは知らないけれど、あれを見てから素手で掴むなんて芸当が出来る人間が、VIP学園に何人いるだろうか。

( ^Д^)「俺が素直家の門番だ。この家の敷居を跨ぎたけりゃ、俺を押し退けて行くんだな」

 ドクオではなく、彼はぼくの方を見てそう言った。
再び黒銃の啼く音。

 狼煙が上がった。

138ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/11/27(日) 15:41:30 ID:rrebwTac0

 素直の家に三つ設けられている稽古場のうちの一つ。
ただ畳を広げただけの、質素な一室は、血に染まっていた。

o川*゚ー゚)o「お客さんが来たみたいだね」

 クーの母親、素直キュートは足元で肉塊同然となっているそれを細い足で踏みつけながら、屈託のない笑みを浮かべた。

 肉塊は時折痙攣して、口から血混じりの泡を噴きこぼす。
言葉を捻り出そうするも、喉の奥で木枯らしが鳴るだけで、声は意味を成さない。

o川*゚ー゚)o「まだあと三回残ってるよ。ほら、お友達が来る前に終わらせないと!」

川  )「かっ……はっ……」

キュートは足元で、血だるまになっている実の娘を蹴り飛ばし、朗らかな笑みを浮かべたまま、彼女が立ち上がるのを待った。

139ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/11/27(日) 15:54:13 ID:rrebwTac0

川; ゚ -゚)「行きます」

 膝が震えているのは、肉体的な疲労のせいだけではない。
彼女の本能が、母親と剣を向けて対峙することを拒絶している。

 たとえばモララーと対峙したとして、自分はこのように恐怖するのだろうか。
クーは考えた。だが、そのイメージは目の前の恐怖に掻き消された。

 モララーを始め、この世界に存在するまだ見ぬ強者達。
そのイメージを消し飛ばす母親こそ、現時点で彼女が最も恐れている絶対的強者なのだ。

 自身が思い描く最強のイメージが、今こうして目の前に立っている。
クーは恐怖と同時に、血沸く闘争心を滾らせていた。

川  )(殺す気で臨まないと、本当に殺される……)

 壁に立てかけられた真剣を握り締め、力無く腕を下げる。
今日で何本真剣を折っただろうか。
考えるのも馬鹿らしくなるような些事だった。

140名無しさん:2016/11/27(日) 16:02:44 ID:lO7ZivrQ0
>>116
エレクチオンッ!

141ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/11/27(日) 16:04:57 ID:rrebwTac0

川 ゚ -゚)「月華陣――」

 疲労はピークに達している。
こうして動かしている手足も、既に彼女にとっては自分のものではないような、極限の浮遊感の中にクーはいる。

川 ゚ -゚)「薊繚乱!」

 刃を、一振り。
その所作は、無数の闘気の刃を伴って、殺戮を振り撒く。

 壁が、畳が切り刻まれてゆく。
その幾千幾万もの刃が稽古場を満たす。

o川*゚ー゚)o「うんうん! さっきよりは良くなってきてるよ!」

 少女のような笑み。
着物の袖を弛ませながら、真っ直ぐ腕を伸ばし、キュートは開いていた掌を固く結んだ。

 クーの視界が、赤く染まる。

142ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/11/27(日) 16:13:20 ID:rrebwTac0

 無理だ。

 どう足掻いても、どうイメージしても決して辿り着けない境地。

 何度手折られただろうか。
自分の鍛錬も、意志も、容易くへし折ってしまう刃。

 母親を、畏怖の対象としか見られなくなったのは、帝国一の剣士と呼ばれるようになってから。

 力を手にして初めて解る。
そして無情に心をへし折ってくる。

o川*゚ー゚)o「ほらクーちゃん。座ってる場合じゃないよ。あと二回!」

川  )「母さ……もう……ムリ……」

o川*^ー^)o「は? 死ね?」

 こめかみに衝撃。
クーは意識を手放した。
そしてその数秒後、母親の手によって無理矢理引き戻された。

143ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/11/27(日) 16:14:02 ID:rrebwTac0
おわり、しんどいねん

144名無しさん:2016/11/27(日) 16:22:19 ID:gzoT6kwM0
お疲れ様!
相変わらずのお母さん

145名無しさん:2016/11/27(日) 16:23:59 ID:gzoT6kwM0
お疲れ様!
相変わらずのお母さん

146名無しさん:2016/11/27(日) 16:32:21 ID:HSDMejg.0
乙!

147名無しさん:2016/11/27(日) 16:53:53 ID:Wohz3W7w0
乙!!
スパルタすぎる

148名無しさん:2016/11/28(月) 17:22:20 ID:zcDKxco60
お母さんでぶっ飛ばされたけどやっぱジョルジュいいな
いい意味で子供っぽくて

149名無しさん:2017/01/16(月) 05:58:11 ID:5n0yQVi20
あけおめ
続きはようはようクー母ちゃんを作者の元にぶち込もうぜ

150名無しさん:2017/01/20(金) 00:33:38 ID:tqtzyKIs0
ロリババアつえぇ、

151名無しさん:2017/01/20(金) 00:34:23 ID:tqtzyKIs0
ロリババアつえぇ、

152名無しさん:2017/02/24(金) 01:21:01 ID:8eiJeoPk0
クーの母ちゃん強すぎだろ…
モララーに勝てるんじゃね?

153名無しさん:2017/04/10(月) 20:28:38 ID:ydtkdezA0
そろそろ来ないかな?(´・ω・`)

154名無しさん:2017/06/10(土) 22:41:02 ID:5kaNEZS60
とても好き

155ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/24(月) 21:00:42 ID:iVNv6RCA0

自分、紅白のネタが進まないんで今からながら投下いいすか

156名無しさん:2017/07/24(月) 21:02:21 ID:aLES1qUI0
!!??!!!お、おう!!!

157名無しさん:2017/07/24(月) 21:03:33 ID:V/rQLvuk0
歓迎する

158ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/24(月) 21:05:19 ID:iVNv6RCA0



第二十四話「銀翼と雷鳴」


.

159ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/24(月) 21:13:34 ID:iVNv6RCA0

 格上と敵対する時に意識していることはいくつかある。
 その中の一つで、ぼくが最も重要視していることは……

 ――決して、正対しないこと。

 相手が銃器を持っている場合の相対方法もこれと同じで、自分の身を相手の直進上から逸らすことで、申し訳程度の、攻防の際のタイムラグを誘う。
 それ自体は本当に、ただの気休めだ。
 上体を少し引き、半身をプギャーに向ける。
 左手は柔剛どちらにも対応出来るよう、眼前に突き出して鉤手。
 利き腕の右は固く結び、肩と同じ高さに構える。

 どこぞのマニュアルから倣ったわけではない。
 鍛錬を積む過程で試行錯誤するうちに、自然と身についた構えだ。

160名無しさん:2017/07/24(月) 21:15:01 ID:GVyEC2xA0
更新してくれるならそれだけで紅白は成功と言えるだろう俺にとっては

161ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/24(月) 21:22:52 ID:iVNv6RCA0

( ^Д^)「……ほう」

 プギャーが僅かに目を細める。
 表情筋の動き一つ取っても、細大漏らさず感覚で捉えることが出来る。
 たとえば今のぼくの脳の動きを科学的に分析したとして、恐らく視覚がそれを脳に伝達していると言われるのだろう。
 だがそれだけでは説明しきれない感覚の刃が、ぼくのうなじあたりで燻っている。
 こういうのを、第六感とでも言うのだろうか。悪い気はしない。

 むしろ、心地いい。

( ^Д^)「良い構えだ。凡百のそれではあるが、洗練されてやがる」

 今にも鼻歌でも歌い始めそうな、上機嫌な声色。
 地を踏みしめる一歩が、やけに遅い。

 そこまでを、感覚の刃が捉えた瞬間――

( ^ω^)「……っ!」

162ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/24(月) 21:33:49 ID:iVNv6RCA0

( ^Д^)「そして何より、いい目をしてる」

 コマ送りで流れる闘いの中の時。
 それの一部がすっぱりと抜け落ちてしまったみたいだった。
 細大漏らさずプギャーの動向を捉えていた筈なのに、瞬きすらしていなかったのに――

 気付けば彼の身体はぼくの懐に潜り込んでいて、見上げる切れ長の双眸ははっきりとぼくを捉えていた。
 考えるよりも先に受けの構えを取っていたぼく。
 どこに打ち込まれるか、予想も出来ない。
 覚悟を決めた刹那、腰を引っ張られるような感覚。次の瞬間ぼくの身体は宙に浮いていた。

(;^ω^)「うおっ……!?」

 次は受け身の体勢を。考えるまでもなく、衝撃に耐えられる構えを取れるようになった自分に感心する余裕は、さらさら無かった。

 揺れる視界の中映り込むプギャーの半身。それを塗り潰す発光。

163ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/24(月) 21:53:53 ID:iVNv6RCA0

 光の次に、音。
 篝火を焚いたような音が、囀っている。
 それを認識するのと、ぼくが乾いた地面に受け身を取るのはほぼ同時だった。

 咄嗟に身を起こし、光の発生源を見る。
 真っ直ぐに突き出したプギャーの腕が青白い光を纏っていた。

('A`)「気をつけろブーン」

 肩に置かれたドクオの手は、冷たくはなかったけれど、人肌を感じた瞬間背中に鳥肌が立つのが分かった。

('A`)「あいつは電撃を出す」

 電気使いとヴァンパイアロード。果たしてどちらの方が突飛な存在か。
 それは分からないけれど、少なくともハインを始めとしたこれまで出会った多くの猛者という存在が頭の中にあったお陰で、ドクオの言葉はすんなりとぼくの頭に染み込んだ。

( ^ω^)「またファンタジーだお」

 電撃。危ない。当たったら死ぬ。オーケー。

164名無しさん:2017/07/24(月) 22:01:30 ID:thuQp/kc0
待ってた

165ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/24(月) 22:06:55 ID:iVNv6RCA0

 ( ^Д^)「優秀なバディに救われたな、ガキ」

 波動を彷彿させる一定の律動で、プギャーの右腕に纏わりついた青白い雷光は囀る。
 ちょうど、ドクオのバイクを威勢よく空吹かしするイメージとよく似ている。
 明確な威嚇の所作。しかしそれは虚勢などではなく、人が爪の先で、虫を死なない程度に弾くような、無邪気な威嚇。

 ( ^ω^)「あのさ、ドクオ」

 ぼくが語りかけると同時に、プギャーは青白い雷光を全身に纏う。
 それによって不自然に舞い上がった前髪。中性的で涼しげな顔立ちのプギャーが残虐非道な暴君のようにも見えた。

('A`)「なんだ」

 ちりちり、ぱちぱち、と。
 戦慄のオノマトペ。

( ^ω^)「丸腰のぼくが彼に一発お見舞いする方法は……」

('A`)「ねえな」

( ^ω^)「……ですよね」

 デレと対峙した時以上の無力感が、どっとぼくの双肩に伸し掛かった。

166名無しさん:2017/07/24(月) 22:46:30 ID:1bs.tRrw0
マジかよ支援するわ。

167名無しさん:2017/07/24(月) 22:55:14 ID:jSiR.nyE0
支援せざるを得ないだろ、これは。

168ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/24(月) 23:12:12 ID:iVNv6RCA0

 ブーンとドクオが素直邸に到着してから数時間後。
 VIP学園第3ブロックの夜空は煌々と燃え上がっていた。
 職員居住区だったこの場所は、施設や寮を残して、教職員の大半は居なくなっていた。

 第3ブロックの職員の凡そ半数はジョルジュに殺され、残りは既にVIP学園外に逃走した。
 残った職員はほんの数名。学園の運営をその数名で回している現状。
 ジョルジュの火で焼き殺されるのと、このまま心身ともに摩耗した挙句過労死するのと、彼らにとってどちらが幸せだろうか。

('、`*川「火龍ファフニール。どうしたもんかねえあの子は」

( <●><●>)「仰々しい。狼煙のつもりか」

 VIP学園の全ブロックを巡回するように、火龍ファフニールは上空をうねりながら懸けていた。
 炎の胴が揺らめく。目や鼻といったパーツも存在しない龍に視覚があるとは、当然の道理として考えにくい。
 それでも日が沈むと同時に上空に現れた龍に、学園の誰もが自身の敵意を気取られているような閉塞感を抱いていた。

('、`*川「あんまり悪目立ちしなさんなよ。多分というかほぼ確実に、あれには索敵能力が備わってるだろうから」

( <●><●>)「ほう」

169ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/24(月) 23:37:12 ID:iVNv6RCA0

( <●><●>)「索敵されようが消し飛ばしてしまえば関係ないだろう」

('、`*川「利口な手段とはいえないわねえ。あたしはこの世のことなら大抵なんでも分かるけど、それにしたって魔術師絡みのことに関してはさっぱりだからねえ」

( <●><●>)「火龍の召喚のメカニズムが解らなかろうがそれを壊せるかどうかには関係ないだろう」

('、`*川「ジョルジュからなにかしらのエネルギー供給が途絶えない限り延々と再生し続けるアレを? それこそアホの極みですわ」

( <●><●>)「その無理を押して打ち破れないようなら、VIPを束ねるなど到底不可能だろう」

('、`*川「……あんた、そんな脳筋的なこと言うタイプだっけ?」

 ペニサスは態とらしく肩を竦めて、深い溜息を吐いた。
 ワカッテマスは意に介さず、ふてぶてしく鼻を鳴らし、上空の火龍を見上げている。
 龍を捉えた双眸は、煌々と燃える炎を映し、揺らめいていた。

170名無しさん:2017/07/25(火) 00:20:11 ID:Pkyj08Vc0
うひょー支援

171ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/25(火) 00:40:00 ID:dL5XzqK.0

('、`*川「セントジョーンズ、現存する魔術師の中で最古にして最強の血統。これはあたしの経験則だけど、ああいうイロモノは単純に力で抑え込もうとしたって手痛い反撃を食らうわけですよ。勝ち負けはともかく、そのリスクを進んで背負う必要はないでしょ?」

( <●><●>)「そこまで言うんなら、何かしら妙案があるんだろうな」

('、`*川「まあねえ。いずれこんな日がくるだろうと思って、下調べには余念がなかったですから」

( <●><●>)「……ふん」

 少しだけ、ワカッテマスの表情が歪んだのを、ペニサスは見逃さなかった。

('、`*川(ほんと可愛いやつだわね)

 ペニサスは彼の所作を、十代半ばの少年の健全な見栄と捉え、口角を上げて微笑んだ。
 ワカッテマスに意固地に背を向ける自分の、機械らしからぬ思考すら自覚しつつ、彼女は恋慕の念とは似て非なる感情の芽生えに困惑していた。

('、`*川(誰かにお熱になる自分ってのも、ぞっとしないのよねえ。まあしゃーなしか)

 思考を意識的に雲散させ、普段と同じ蓮っ葉のような表情を作り、振り返る。

('、`*川「ねえ」

( <●><●>)「なんだ」

('、`*川「好き」

172ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/25(火) 00:41:04 ID:dL5XzqK.0

疲れた、寝る
多分明日にでも続き書く
気合を出したい

173名無しさん:2017/07/25(火) 00:44:33 ID:VEiFq7so0
くそ、こんなところで止めやがって

174名無しさん:2017/07/25(火) 00:52:49 ID:NWxdpmV60
ペニサスうううう!
乙、明日が待ち遠しい

175名無しさん:2017/07/25(火) 01:06:02 ID:gdYmdPaI0
寸止めかいいいい

176名無しさん:2017/07/25(火) 02:56:18 ID:NWxdpmV60
http://iup.2ch-library.com/i/i1833265-1500918789.png
擬人化注意 ( ^Д^)
電撃はロマン

177名無しさん:2017/07/25(火) 06:44:04 ID:ilGiBty60
so good

178名無しさん:2017/07/25(火) 19:48:39 ID:SkEM5GRI0
プギャーさんまさかのキャラ被り
しかしジョルジュはモララー相手でも死んでないのか

179ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/25(火) 23:16:33 ID:dL5XzqK.0
はい

180ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/25(火) 23:42:07 ID:dL5XzqK.0

 ワカッテマスは、何も答えなかった。
 ペニサスも、無反応という反応が返ってくることは分かっていたし、それでいいとすら思っていた。

 唐突に上空に出現した火龍ファフニール。
 それはまさに、不干渉を決め込むモララーを除き、ジョルジュの監視下に置かれたVIP学園の被支配の象徴。
 各々が被支配を良しとしないこの場所で、早々に反乱の芽が芽吹くことは、ごく自然の道理。
 その反逆の火蓋となるのが、ワカッテマスとペニサスであったということについては、王位の誰もが予想できなかっただろう。

('、`*川「ちょうど、このあたりだわね。うん。ねえ、この地盤をふっ飛ばしてくれる? 出来るだけ目立たないように」

( <●><●>)「難しい注文だな」

 ワカッテマスはしゃがみ込み、手のひらをコンクリートに押し当てた。
 次の瞬間、ペニサスの背中に槍で貫いたような鋭い衝撃。
 凡百の放つ闘気とは一線を画す龍王気。高密度の覇気が刹那のうちに収束する際の感覚だった。

 次に雪崩れ込む衝撃はまさに直下型地震のそれで、彼らを中心に、直径凡そ百メートルのクレーターが出来上がった。
 抉れると同時に破砕されるコンクリート。彼らの足元に、剥き出しの配線が広がる。

181名無しさん:2017/07/25(火) 23:45:14 ID:W3XTXLGI0
来た来た支援

182名無しさん:2017/07/26(水) 00:09:13 ID:Su.S0p4c0
よっしゃ!待ってたで!

183ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/26(水) 00:12:04 ID:6DYm.WdU0

( <●><●>)「これは……電力供給用のケーブルか?」

('、`*川「惜しいけど不正解。動力を供給してるのは合ってるけど、流れてるのは電気じゃなくて……」

 徐ろにケーブルの中の一本を引き上げ、引きちぎる。
 ワカッテマスはそれの断面から溢れ出る不可視の気を感じ取り、眉を顰めた。

('、`*川「気づいたでしょう。あたしらの足元には闘気が流れてる」

( <●><●>)「俺たちがあれだけ調査に躍起になっていた力は、既に自在に流用出来るところまで解析されていたということか」

('、`*川「あたしは最初から全部知ってましたけど?」

( <●><●>)「……」

('、`*川「……嘘だって。分かったのは最近のこと」

184ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/26(水) 01:02:59 ID:6DYm.WdU0

('、`*川「結局あたしらは大人の掌の上で踊らされてるに過ぎないってことよね」

( <●><●>)「その現状を打破するための闘いだ」

('、`*川「そゆこと」

 その返事を待っていたと言わんばかりに、ペニサスは満足げに微笑んだ。
 彼女の腰から背中にかけて、ブレザーが破れ、銀翼が突き出る。
 それはデレと対峙した際の翼の倍以上の大きさで、背後のワカッテマスから彼女の体躯は見えなかった。

 肘の関節部分から指先にかけて、人工皮膚の継ぎ目から配線が露出する。
 ちょうど引きちぎったケーブルを体内に取り込むような形で、ペニサスと、学園地下の動力源が接続された。

('、`*川「あの七面倒な火龍はあたしが引き受ける。王位の中で一番闘い方が悪目立ちするのはジョルジュ。それに次いであたしだろうしね」

( <●><●>)「関係あるのかそんなこと」

('、`*川「大アリよ。打ち上げる花火は大きければ大きい方がいいじゃない」

('、`*川(派手にドンパチやらかして応援待ちっていうのは内緒でいいか、うん)

185ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/26(水) 01:14:07 ID:6DYm.WdU0

('、`*川「あんたは確かに強いけど、その強さを遺憾なく発揮出来る持続力は所詮人間の域止まり。その瞬発力は本命とぶち当たった時にとっときなさいな」

( <●><●>)「……」

 ワカッテマスはペニサスがやろうとしていることを即座に理解した。
 そしてそれが彼女にとってこの上ない危険を伴うことも。
 生唾を飲み込むまでの間に過ぎった様々な感情を飲み下して、ワカッテマスはペニサスの隣に並ぶ。

( <●><●>)「半日……いや、三時間でかたをつける」

('、`*川「頼りにしてるわよん、あなた」

 口を閉ざしたまま、ワカッテマスはペニサスの長髪を手の甲で撫でた。
 その感触が、人間のそれと何一つ変わらないことに何を思ったか。その表情から窺い知ることは出来ない。

( <●><●>)「お前が火龍を止めている間に俺が奴を探し出して討つ。これでいいな?」

('、`*川「オールオッケーよ」

( <●><●>)「野蛮で単純なプランだ」

 ワカッテマスはこの夜、初めて笑った。

186名無しさん:2017/07/26(水) 01:31:30 ID:nD2T7WHs0
うおお更新きてる

187ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/26(水) 02:06:41 ID:6DYm.WdU0

 ジョルジュが何処にいるか、ワカッテマスには凡その見当がついていた。
 好戦的、野蛮、それでいて豪奢を好む。高いところに上りたがる馬鹿の典型だと、ワカッテマスは内心毒づく。

( <●><●>)(学園長室で間違いないだろう。アテが外れようと、ああいう手合の考えることだ。詰めるのは造作も無い)

 やや前のめりに、ペニサスに背を向けた上体。
 適度な脱力。それでいて、普段は闇を映す虚ろな双眸に、今は一筋力強い光。
 それは前向きな感情ゆえの光ではなく、薄暗く、限りなく黒に近い感情で塗り固めた衝動。
 人間の原初とも言える狩猟本能。
 王位という他者が決めた序列の上で自分を上回っている相手に対して、ワカッテマスは捕食者としての衝動を滾らせていた。

('、`*川「火龍は無視。あんたは何も気にせず真っ直ぐあちらさんの懐に飛び込みなさい」

( <●><●>)「ああ」

 剥き出しになった配線の山を踏みしめて、中腰の姿勢。そして、足に力を込める。

( <●><●>)「信用している」

('、`*川「うん」

 ワカッテマスが、地を駆る。

188ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/26(水) 02:28:02 ID:6DYm.WdU0

 矢の如く駆るワカッテマス。時間にして、三秒にも満たない間に、火龍ファフニールは自身の主を脅かす存在を捉えた。
 自律駆動する龍に自我があるのか否か、危機を察知する力があるのか否か。
 それは主であるジョルジュにしか分からない。
 だがこの時火龍は実に生物的に、咄嗟に大口を開けた。
 収束する炎。周囲の酸素を巻き込み、その口の中で燃え上がる炎は一層大きな膨らみを見せた。

( <●><●>)「……」

 ワカッテマスはそれを視界の端で捉えてなお直進する。

 彼の脳内の警鐘は喧しく鳴り響いていた。
 それを無視して一息、深く息を吸い込む所作は、自身の防衛本能のリミッターを切るには充分だった。

 常に平静である彼が、このように”腹を決める”のは生涯で初めてのことだったが、この時彼にそれを自覚する術は無い。

 火龍の口内の炎の膨らみが、ピークを迎えた。

189ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/26(水) 02:55:16 ID:6DYm.WdU0






('、`*川「さあ、セント・ジョーンズの系譜と現代の人間の技術。魔術と科学の根比べを始めましょうか」






.

190名無しさん:2017/07/26(水) 07:06:50 ID:lBbq.MmU0
いいとこで切るな
続きが読みたい!!

191名無しさん:2017/07/26(水) 08:38:31 ID:8eJaZfnw0
乙はよ

192ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/26(水) 09:31:40 ID:BBPNDufo0
すまん、寝落ちしてた
流石にこの量で投下しましたは笑えないので今日もやる

193名無しさん:2017/07/26(水) 09:52:50 ID:8F/2xFtw0
字下げの使い方が変わったな
期待してる

194名無しさん:2017/07/26(水) 13:05:31 ID:NErLEk3Q0
いいところで切るな

195名無しさん:2017/07/26(水) 19:14:15 ID:vTSNQFHU0
ワカ達には生き残ってほしいな

196名無しさん:2017/07/26(水) 23:26:35 ID:x89gl00.0
でもジョルジュに死んでほしくないなぁ

197ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/26(水) 23:43:00 ID:6DYm.WdU0
はい

198ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/26(水) 23:53:44 ID:6DYm.WdU0

 学園の動力ケーブルと接続されたペニサスの腕は真っ直ぐ火龍に向かって伸びる。
 手首の部分の人工皮膚を突き破り、物々しい銃口が露出する。

('、`*川「どれだけ再生しようと、それが永遠に続くなんてあたしは認めませんわよ」

 ちょうど火龍の口内に収束した炎と対をなすように、右手の銃口に光が集う。
 燃え、薄れゆく夜闇を更に照らすように、そしてその光は、明確な殺傷能力を孕んだ闘気の渦を纏う。

('、`*川「不可思議ファンタジーと言えど、一都市を賄う動力を相手にするのは骨が折れるでしょ?」

 その言葉は、火龍ではなく主に向けて放ったもの。
 ペニサスは確信していた。
 自分とワカッテマスだけでは、この叛逆には少し足りない。
 欠けているパーツはほんの小さなもの。だがそのままで王位逆転は成らない。

 それでも、この叛逆の最後に立ち、第二王位を継承するのはワカッテマスだと。

199ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/27(木) 00:05:26 ID:LDMHml0U0

 射出。光弾は嘶き、元職員居住寮の外壁を軽々と打ち破る。
 真っ直ぐ空を駆るそれは、寸分違わず龍の口に向かう。
 火龍の首はワカッテマスに向かっており、自身を脅かすもう一つの脅威の接近に気づかぬまま被弾した。

('、`*川「一発目は当たり。さてさてここからよね」

 噴煙立ち込める上空。

 ペニサスは火龍ファフニールが実体と非実体の二形態を取ることが出来るのを知っていた。
 被弾した形跡を残す上空の煙から、今の形態が実体であることを瞬時に察知。
 再び収束する銃口の光。一度目よりその収束速度は高かった。

 射出された光は先のような光弾ではなく、火龍目前で拡散し、無数の光の弾丸と化す。
 次々と射抜かれてゆく火龍の胴。貫く弾丸はその遥か上空へと昇る。

200ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/27(木) 00:16:20 ID:LDMHml0U0

('、`*川(非実体……あちらさん、こっちにも気付いたみたいね)

 闘気を補填し続け、固定砲台として火龍と対峙するにしても、地盤を焼き尽くされることは避けたい。
 ゆえに、ペニサスが次に取った行動は、敢えて火龍の眼前に躍り出ることだった。

('、`*川「第二陣、いってみましょー」

 銀翼が開き、内部のブースターが露出する。
 動力化された闘気は満ちている。甲高い音を立て、ブースターは光を噴出する。
 一瞬で火龍と同じ高度まで持ち上げられたペニサスの身体は風を帯び、各関節付近から金属パーツがせり上がって露出する。

 彼女は無意識的にこの形態を避けていた。
 未だ残る人間としての本能が、自身を熱持たぬ機械へと貶めることを避けていたのか。
 この時点で彼女は、それを自覚していない。

201ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/27(木) 00:31:23 ID:LDMHml0U0

('、`*川「あんたも難儀なもんよね。火龍? あんな野蛮な男が主じゃあやってらんないでしょ。たまに思わない? 好き放題こき使ってくれやがってって」

 火龍の頭はペニサスに向いていた。
 ペニサスは火龍に問いかけつつ、視界の端で地上を駆るワカッテマスの背を捉える。
 まずは第一段階クリア、と、ペニサスは内心胸を撫で下ろした。

('、`*川「そもそもあんたに自我ってやつはあるんかね。どこから来たの? それとも元々存在しなかった? ジョルジュに作られた存在なのかしらね」

 物言わぬ火龍に対して、そのような問いは何の意味も持たないことを、ペニサスは知っている。
 自我があると仮定して、少しでも自分へ意識を向けることが出来ればという、気休めのような小細工だ。
 それでも火龍の自我の有無自体には興味があった。

 自身をサイボーグに改造する過程で、彼女は似たような人造人間を多く作ってきた。
 それらは全て所詮意志を持たぬ人形でしかなく、戦闘における緻密な処理に適していなかったので、廃棄した。
 それらが残した研究成果の甲斐あって、ペニサスは今こうして人成らざる力を有して闘いの場に立っている、

 そのような経歴ゆえ、物言わぬジョルジュの傀儡と、自身が以前廃棄した人形の、無表情を貼り付けた顔が、ペニサスには重なって見えた。

202名無しさん:2017/07/27(木) 00:35:13 ID:p839ofj60
来てた!!!! 支援

203ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/27(木) 00:47:15 ID:LDMHml0U0

 更に上空に飛翔。
 ペニサスは火龍を煽り立てるように旋回する。
 再び火龍は大口を開けて、炎を吐き出す。

('、`*川「いくよヴァルキリー」

 背部より四つのユニットが飛び出し、ペニサスの眼前で止まる。
 炎はそれらに結ばれる形で発生した不可視の壁に遮られ、雲散した。
 楕円状に広がる炎を突き破り、四発の光弾。それにやや遅れて、先程の拡散する無数の光弾。

 火龍は瞬く間に龍としての形態を維持出来ぬまで貫かれ、学園上空は炎に覆われる。

 炎は踊り狂い、ペニサスを囲い込む。
 咄嗟にその場を離脱しようとした彼女だが、既に脱出する道は残されていなかった。

('、`*川「あら」

 自身を中心に、三百六十度覆う炎の壁、ぐるりと小さく旋回しながら、逃げ場がないことを悟った彼女は、銀翼を変形させ、分離させた。

204ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/27(木) 01:25:16 ID:LDMHml0U0

 足部から露出したブースターで滞空し、変形させた銀翼を手に取る。
 それは大剣の柄の形をしていた。両手で握り、頭上に掲げる。
 次の瞬間、柄から光の刃が伸び頭上を覆う炎を突き破った。

('、`*川「ヴァルキリーシステム殲滅ユニット003、魔剣グラム。とくと味わいなさいな」

 真っ直ぐ振り下ろす光の刃。
 それは目にも留まらぬ速度で伸び、振り切った時点で、地上に届いていた。
 魔剣の柄を手放すと、光の刃は粒子となって散り、ペニサスの手から離れた柄は銀翼に変形し、ペニサスの背中に収まった。

 真っ二つになった炎の壁の裂け目に向かって直進。
 ペニサスが脱出した直後に炎は球状に収束した。

205ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/27(木) 02:33:14 ID:LDMHml0U0

 炎は再び龍の形を形成してゆく。
 それを悠長に待つわけもなく、ペニサスは四機のユニットから光弾を一斉掃射する。
 が、炎の形成はそれを上回る速度で進み、散らされる以前よりも更に大きな龍と化していた。

('、`*川「ふむ……」

 一度や二度で殲滅出来るとは、ペニサスも思ってはいなかった。
 もしそうなら、初めからワカッテマスと二人で突破していた。
 しかし想定はしていても手を拱いてしまうことには変わりなく、深い溜息を吐く。

 ('、`*川「一体どういう仕組みなのやら」

 彼女の中で大雑把に考えられるのは二つ。

 一つ、主であるジョルジュからの、闘気に似た何かしらの動力供給が尽きぬ限り再生し続ける。
 二つ、ジョルジュが供給しているのはあくまで火龍という怪物を形成するシステムのみで、それ自体は何かしらの媒体(例えば空気中の酸素)がある限り永遠に再生を続ける。

 どちらにしても火龍ファフニールが顕現するという結果は変わらないが、その二択のどちらかによって、ペニサスは自身の立ち回りを大きく変えなければならない。

206ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/27(木) 03:12:29 ID:LDMHml0U0

('、`*川(前者ならこうやってうだうだやってるだけでいいんだけどねえ。後者だと)

 何かを媒体にしているならば、酸素という線は濃厚だろう。
 そして同時に、最も厄介な展開でもある。

('、`*川「どうしたもんかね」

 都合よく、こういう厄介な相手を殲滅出来る手段を持ち合わせているわけではない。
 そこを埋め合わせる可能性を拓く為に、このように敢えて目立つ形で火龍と対峙しているのだが、ペニサスの心中は煮詰まっていた。

('、`*川「モララーは、絶対来ない。流石兄弟、荷が重い。シャキンはうん、ここに来るほど馬鹿ではない。ギコ、あいつは殴るしか脳が無い……」

 上空を巡回する火龍を疎ましく思わない王位は、あれが脅威とならないモララーを除いて一人もいないはず。
 ペニサスはそう見立てていた。この場に、王位のうちの誰かが確実に現れる。
 その確信を抱きつつも、今挙げた者を除いて残った王位の顔を思い浮かべて肩を竦める。

('、`*川「デレと人形。そして真祖サマかあ……」

 自分で、出来るところまでやろうと、ペニサスは腹を決めた。

207ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/27(木) 03:47:16 ID:LDMHml0U0

从 ゚∀从

ζ(゚ー゚*ζ

 デレは論外。
 あれは狡猾に見えて考えなしの馬鹿だ。
 ペニサスはデレがこの場に現れた際のシミュレーションをすぐに止めた。

 真祖ハインリッヒ・アルカード
 デレと比較して一見すると更に馬鹿に見えるが、そうでもない。
 むしろあの冷ややかな瞳の奥に、自分の推測すらも凌駕する野心を孕んでいるようにすら見える。
 以前は人物というより、吸血鬼という事象として害意を振りまく厄災でしかなかったが、転機があるとすれば、内藤ホライゾンとの邂逅だろう。
 それ以降彼女は良い意味でも悪い意味でも、人間的になった。
 そしてその過程を踏んで今、内藤ホライゾンと行動を共にしなくなった彼女は、厄災とも人間ともとれない、得体の知れない何かとなった。

 それがペニサスの見解。
 元々吸血鬼の特性は、一対一で相手取るには厄介過ぎるものだった。
 それに加えて思考の推測すら困難とくれば、ペニサスが眉を顰めるのも当然だ。

('、`*川「…………」

 頭の端の方から霞んでいくような不吉な予感を、ペニサスは確かに感じ取っていた。

208ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/27(木) 03:47:57 ID:LDMHml0U0
ねむいっす
明日もやるんでゆるしてくださいおやすみ

209名無しさん:2017/07/27(木) 03:54:14 ID:4GRUS7kQ0
うれしい

210名無しさん:2017/07/27(木) 04:34:04 ID:Je3Di/2Y0
おつおつ

211名無しさん:2017/07/27(木) 04:35:36 ID:yMKPLcLA0
おつおつ。

212名無しさん:2017/07/27(木) 08:57:13 ID:aRyV3RUE0

待ってるぞ

213名無しさん:2017/07/27(木) 18:22:11 ID:LRjbVH6I0
サイボーグペニ△

214名無しさん:2017/07/27(木) 23:10:41 ID:fSCG./NE0
やっぱ楽しいわ
ジョルジュがんばってー

215ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/27(木) 23:16:25 ID:LDMHml0U0
既に眠たいがやれるだけやる

216名無しさん:2017/07/27(木) 23:21:45 ID:Dbo.VHfw0
待ってました

217ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/27(木) 23:40:54 ID:LDMHml0U0

 火龍は身を震わせる。
 それが何かの前兆であることを察知したペニサスは、大きく後退した。
 右手の銃口を向けたまま、龍がどのような動きを見せても即時対応出来るよう、銀翼のブースターを待機状態にする。
 そして左目を閉じる。彼女の目に搭載された汎用センサーを起動する所作だ。
 熱センサーとしての役割も持つそれで見る火龍は、みるみるうちにその色を濃くしてゆく。

('、`*川(火龍の熱が上がってる……?)

 ファフニールを取り巻く待機の歪みは大きくなり、まるで空間そのものが歪んでいるような錯覚を、見る者に与える。
 だがそれは変化の序章に過ぎなかった。
 次の瞬間、火龍の頭部の、ちょうど目に当たる部分が不自然に窪み、赤い宝石のような瞳が現れた。

 不気味な質感の半球でしかなかったそれは瞬く間に、炎の中で艶を纏い、眼球の形を成した。
 次の変化は口内だった。
 燃え盛る大顎から生えた牙は硬質を纏い、火龍は猛獣のような生々しい殺意を纏う。

 変化を見届けたペニサスは龍の初動を許さない。
 再び、拡散する光弾が火龍に襲いかかる。

218ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/28(金) 00:03:29 ID:Fj9fIdt60

 火龍をすり抜けた光弾が遥か彼方へ直進する。

('、`*川(非実体)

 そのわりにこの悪寒の正体は――と考えたところで、ペニサスはローリングした。
 元いた場所に向かって伸びた龍の顎は勢い良く閉じ、鋼鉄を打ち鳴らしたような甲高い音が鳴り響く。

 ('、`*川(実体)

('、`*川「……って区別すること自体ナンセンスだわねこりゃ」

 ヴァルキリー自体に補填されていた闘気が少ないことを確認すると、ペニサスは火龍に背を向けてブースターを起動した。
 甲高い音と一筋の光を残し、一瞬で離脱したペニサス。
 取り残された火龍は自身が取り残されたことを認識すると、実に動物的な咆哮を上げた。
 硬いもので硬いものをすり潰すような、耳障りな爆音が学園上空に鳴り響く。

 火龍は胴を丸め、自身の首を光の残滓に向け、弾丸のような速度で直進した。

219ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/28(金) 00:25:10 ID:Fj9fIdt60

('、`*川「おっほーーーーー。お速いこと。これでも全開で飛ばしてるんだけ……っど!」

 追いかけてくる火龍を視界の端で捉え、追尾する四機のユニットから光線を射出する。
 火龍の咆哮が止み、首を中心に文様で形成された炎の光輪が現れる。
 次に、先程とは打って変わって低く響き渡る唸り声。
 光輪から矢のような炎が無数に発生し、直進する。

 光弾と炎の矢は衝突し、学園上空の空が爆ぜる。

 煙幕を突き破り、火龍はなおもペニサスの背を追う。
 追われるペニサス、進行方向は変えぬまま身を反転させ、右手の銃口に闘気を収束させる。

('、`*川「さっさと堕ちなデカブツ。空中戦ではロックオンされた方が死ぬのがお約束なのよさ」

 一際大きな光弾を射出。
 ペニサスと火龍との間にある隔たりは縮まっており、その一撃は、避けられる筈もなかった。

220名無しさん:2017/07/28(金) 00:30:12 ID:tAFq5SC.0
ヒットアンドアウェイな戦い方に切り替えてるのカッコイイ

221ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/28(金) 00:42:37 ID:Fj9fIdt60

 光弾と正面衝突した火龍。
 それでも直進する速度は落ちない。
 再生能力ゆえに手こずることは想定していても、この耐久力は彼女の知るところではなかった。

 一際大きな煙幕の向こう側から炎が伸びるのを察知して、それを回避する動作が遅れた。

('、`;川「あっっぶね!」

 左手の手首から先が巻き込まれかけ、ペニサスは降り掛かった火の粉を旋回して振り払う。
 飛行する高度を下げ、建造物の間に潜り込むが、火龍は自身の体躯がそれを巻き込むことも厭わず突き進む。
その間両者の間で飛び交う光弾と炎の矢は四方八方に悲惨し、各所で爆発を起こす。  

 この時ペニサスに知る術は無いが、第三ブロックでの火龍と王位の戦闘は、既に学園中に原因不明の騒ぎとして知れ渡っていた。

222ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/28(金) 00:57:57 ID:Fj9fIdt60

 ペニサスが真っ直ぐ向かうのは最初に火龍を狙撃した地点。
 そこまで辿り着くのに十秒とかからなかった。
 剥き出しの配線の山を見つけるなり、ペニサスは更に加速し、火龍との距離を開く。
 更に高度を下げ、地面すれすれのところで手を伸ばし、千切れたケーブルに手を伸ばす。

('、`*川「頭冷やしな」

 瞬時に闘気の補填。更にケーブルを通じて、学園の動力系に呼びかけ、各種装置を起動する。

 学園は閉鎖空間ゆえ、天災、人災時の為のスプリンクラー等の性能は世界各国の最高レベルのものと比較しても遜色ない。
 周辺ビルのスプリンクラー、および遠方の放水ポンプ等が一斉に起動し、龍の起動目掛けて放水が始まる。

 瞬く間に空は水の壁で覆われ、大海嘯が如き水流が降り注ぐ。
 刹那、アーチ状になった水をくぐり抜け、ペニサスは高度を上げながら直進する。

 ヴァルキリーの闘気残量の確認に入ると、彼女の背後で水の壁が大地を叩く轟音が鳴り響いた。

223名無しさん:2017/07/28(金) 01:11:49 ID:9u6/8dpU0
支援

224ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/28(金) 01:55:40 ID:Fj9fIdt60

 文字通り大海嘯となって、水は第三ブロックを飲み込む。

 各所で警報が鳴り響き、赤いランプが夜を照らす。
 ちょうど第三ブロックと隣接ブロックの境に当たる地点から壁がせり上がる。
 流れを得て膨大な運動エネルギーを孕んだ水が壁と激突し、轟音を上げる。

('、`*川「こりゃ会長さんが戻ってきた時に大目玉食らいそうね」

 火龍がいた地点では靄が立ち込め、建造物は次々に倒壊してゆく。
 その様を上空から見下ろしながら、ペニサスは深い溜息を吐く。

 そのようにして、一瞬安堵しかけた。ゆえに彼女は――

 自身の周囲の温度が急激に上昇していることに気づくのに、遅れてしまった。

('、`;川「っ!?」

 彼女からすれば、唐突に自分の目の前が真っ赤に染まったようなもの。
 生身の脳が混乱から状況処理に切り替わる。間に合わない。ユニット展開。あるいは――

225ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/28(金) 02:02:48 ID:Fj9fIdt60





 その全てが間に合わないことを悟った彼女の身体は、打開策の残滓を脳に残したまま来たる熱量、衝撃に備える。
 ペニサスはそれでも、目を閉じなかった。

 その行為に意味が無いからではない。
 必ず生き残ると決めているからこそ、思考停止に繋がる所作を忌避したのだ。

 それは機械的な状況処理能力からくるものではなく、紛れもなく彼女の中の、人間である部分の生存本能。





.

226ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/28(金) 02:07:39 ID:Fj9fIdt60








だからこそ彼女は、突如吹いた突風に揺られた炎の裂け目から、脱出することが出来た。







.

227ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/28(金) 02:14:10 ID:Fj9fIdt60

('、`*川「……あんた」

 ブースターの限界速度から急停止をかけた為、ペニサスの身体は空中でよろめく。
 目の前で"片翼の翼で不自然に対空する異形の者”を視認し、息を飲んだ。

 自分の想定の中でも最上位の希望的シチュエーション。
 それでいて、彼女の中で最も計り知れない者との邂逅。

 そうして飛行を止めたのは、その一瞬のみ。
 ペニサスは危機から完全に離脱するため再び遥か上空に飛び、眼科に銃口を向ける。

('、`*川「何しに来たのかしら」

 一呼吸置き、生唾を飲み下す。

('、`*川「吸血鬼」

228ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/28(金) 02:21:40 ID:Fj9fIdt60

从 ゚∀从

('、`*川

 飛散した炎はペニサスではなく、漆黒の翼で滞空するハインの周囲をうねり、瞬く間に龍の形を成す。

从 ゚∀从「決まってんだろうが」

 頭上に翳した腕。
 その腕はどす黒く染まり、彼女の身の丈以上の大きさに肥大する。
 獣の腕だ――と、ペニサスは猛る獅子のそれを思い浮かべた。
 しかし実際にハインの腕は獅子の腕よりも禍々しく、鋭利に伸びたその爪は、この世のどの生物のものにも当てはまらなかった。
 未知数ゆえに悍ましい。

 ペニサスの心境を知ってか知らずか、ハインは微笑んだ。
 氷のようで、それでいて壊れた人形のような、温もりの余韻が後引く寂しさを孕んだ笑み。

从 ゚∀从「俺は人間が闘う全ての理由を、壊しに来た」

 吹き荒ぶ風。
 銀髪が舞い、露わになった金色の瞳が輝く。

229ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/28(金) 02:23:29 ID:Fj9fIdt60

二十四話おわり。
死ぬほど甘やかして褒めちぎってくれ。そして感想をくれ。
おやすみ。

230名無しさん:2017/07/28(金) 02:28:32 ID:WcNY9/Ok0
おつかれ、おやすみ。
ペニサス退場フラグかと思ったら生存フラグで、でもやっぱり死にそうだからハラハラしてる。
今のハインには勝てる気がしない。

231名無しさん:2017/07/28(金) 02:28:38 ID:rwCtJjdM0
ハイーーん

232名無しさん:2017/07/28(金) 02:35:36 ID:tAFq5SC.0
すげぇわやっぱ


233名無しさん:2017/07/28(金) 06:16:56 ID:bXj5SAzU0
ハインかわいい

234名無しさん:2017/07/28(金) 09:02:45 ID:CrJJVeVE0
おつおつー!
ペニサスが色っぺぇ美しい

235名無しさん:2017/07/28(金) 10:24:13 ID:KHs2gzfI0
来てたのか!!!乙!
引きが素晴らしい

236名無しさん:2017/07/28(金) 18:11:53 ID:8qn2N/1o0
もう血流してないのか
コントロールできてんのかな

237名無しさん:2017/07/28(金) 20:37:13 ID:296gDseI0
ハインはどこに向かっていくのか……


238ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/28(金) 20:43:01 ID:Fj9fIdt60
色々考えた結果、まぁ紅白のデモンストレーションということで、期間中体調悪い日と用事がある日以外は毎日投下していこうと思う。
というわけで今夜も手が空き次第投下。
よろしく。

239名無しさん:2017/07/28(金) 20:46:01 ID:tAFq5SC.0
うおおおおまじか、アツいな楽しみ

240名無しさん:2017/07/28(金) 21:00:00 ID:Y9EEYCNM0
マジか!!!
ありがとう。紅白自体よりもそっちのが楽しみ。

241名無しさん:2017/07/28(金) 21:28:45 ID:9WVQfHTM0
俺はもう紅白の開催者に全力で感謝してるよ
もちろん作者にも

242ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/28(金) 21:30:30 ID:Fj9fIdt60





第二十五話「野に咲く花のように」




.

243ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/28(金) 21:43:10 ID:Fj9fIdt60

  学園上空の空に浮かぶ銀翼と黒翼。
 そして、火龍ファフニール。

 一堂に会する彼女らが視線を交えたのはほんの一瞬だった。
 夜闇に覆われる空は曇天。やがて、雨が降り注ぐ。
 地上の混乱など、三者にとってはどうでもよい。

 最初に動いたのはペニサスだった。
 旋回しながら高度を上げ、四機のユニットから光弾を射出し続ける。
 その狙いはでたらめで、火龍にもファフニールにも掠らず、地上に降り注ぐ。

从 ゚∀从「そうカリカリしなさんな。何も取って食おうってんじゃないんだからよ」

 目にも留まらぬ速度で飛行する銀翼を見上げ、ハインは呆れたような溜息を漏らす。
 火龍が嘶き、直進する。標的はハイン。
 その破壊衝動の矛先がペニサスからハインに変わったのは、火龍の意志故か。
 あるいは、ジョルジュの術式が定めた攻撃優先度が切り替わったか。

 どちらにしても、ハインは歯牙にもかけなかった。

244ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/28(金) 22:14:46 ID:Fj9fIdt60

('、`*川「時代の忌み子には御誂え向きな挨拶でしょう?」

 光弾が地上に降り注ぐ。
 着弾箇所はランダムと思いきや、第三ブロックに限定されている。
 その分被害地点である第三ブロックは大波に飲まれた上、高エネルギー体に爆撃され、未曾有の大損害に見舞われていた。

从 ゚∀从「時代の忌み子か……そんな呼称もあったな。本当に好き勝手呼んでくれやがるぜ」

 それは吸血鬼の習性、力の継承に明るい一部の人間の間での、真祖を指す言葉。
 真祖はどの時代にも一人しか存在しない。
 数十億ものいる人類の中でたった一人、先代の真祖に見初められてしまった彼、彼女らの不運を憂いて、吸血鬼を知る人間はそう呼ぶ。

 同情か、畏怖か。
 その呼称に込められる念はその時々によって異なるが、今は、そのどちらでもなかった。

245ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/28(金) 22:27:45 ID:Fj9fIdt60


――――
――

「なんでだよオサム……あんただったら人間なんかに殺されるようなヘタは打たねえはずだろ!」

「……かもな」

「かもなって……お前……」

「なぁハイン」

「……んだよ」

「俺はさ、自分が人間に殺されたとは思ってないんだ」

「自分の状況考えてからもの言えよ。あんたをそんなにしたのは……」

「宿命だよ、これは」

「……宿命?」

「運命に殺された、とでも言おうか。いや、違うな。そんなちゃちなものじゃない。こう言い換えることも出来る」

――――
――

246ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/28(金) 22:28:42 ID:Fj9fIdt60







「―――――」








.

247ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/28(金) 23:07:23 ID:Fj9fIdt60

 火龍の胴がハインを巻き込み、燃え盛る。
 避ける所作を微塵も見せなかった彼女に不信感を抱くことなど出来ない火龍は、ただ動物的な咆哮を上げる。

从 ∀从『第一魔法セント・ジョーンズ。お前が喧嘩を売ったのはこの私だ』

 業火の中、焼失と再生を繰り返す彼女は、ここには居ない、いや――この世界にはいない魔術師に向けて、言霊を吐き棄てる。
 それは世界という小さな箱庭の中で、何百、何千年と同じことを繰り返してきた魂達の体現者としての言葉。

 あるいは、彼らへの手向け。

从 ゚∀从『まずはそれを解らせる』

 可視化された黒色の波動が上空に広がる。
 火龍の胴は飛散し、火の粉が地上に降り注ぐ。

从 ゚∀从『火龍の残滓如きで私を抑えられると思うなよセント・ジョーンズ。これは子供の戯れ合いではない』

 ハインを知る者ならば、彼女の喉から発せられていることを即座に疑う、低く棘々しい声。

248ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/28(金) 23:27:51 ID:Fj9fIdt60

('、`*川「……」

 ペニサスはハインに自身の戦慄を気取られぬよう、更に高度を上げる。
 雲にも届かんと空を昇る銀翼は、黒の衝撃の余波を逃れ、滞空する。

('、`*川「タチの悪いジョーカーが紛れ込んだもんよね、この学園。いや……」

 ペニサスは先程のハインの声、黒の波動に、幼い頃無邪気に覗き込んだ闇と同じものを見た。

('、`*川「この世界、か」

 委員会によって完璧に統治され、その上で彼らの思惑の中で踊らされる世界。
 その中に紛れ込んだ闇は、イレギュラー。
 世界そのものから存在を否定され、それでいて完全な世界の病巣として巣食い続ける癌。

('、`*川「あんたと真祖サマが惹かれ合ったのは、宿命ってやつだったのかもね。ブーン」

 急降下するペニサスの目的はただ一つ。
 地上で、ジョルジュの元に向かうワカッテマスを捕捉すること。

249ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/29(土) 00:14:37 ID:MJ.Sf8WE0

从 ゚∀从『嘆きのストリガ』

 黒く肥大したハインの腕を中心に魔法陣が浮かび上がる。
 陣は先の黒の波動のように広がり、青い炎に包まれた骨の群衆が咆哮を上げながら顕現する。

 散り、地上に降り注いだ火の粉は逆再生のように再び上空に集う。
 龍の形を成しながら、骨の軍勢が纏う青い炎と衝突し、空が歪む。

 火龍の咆哮と、悍ましい軍勢の嘆きが空から地上に降り注ぎ、小規模な爆発が四方八方で巻き起こる。

从 ゚∀从『意固地な奴だ。どうあっても私の言葉は聞かんと。そういうことだな?」

 邪気を含んだ笑みを湛え、ハインは空に翳した異形の手を握る。
 骨の軍勢は瞬く間に、空を覆い尽くした。

 雷が、曇天の隙間で輝いた。

250名無しさん:2017/07/29(土) 00:23:37 ID:hHyicgVs0
リアタイ遭遇!
支援!!

251名無しさん:2017/07/29(土) 00:53:13 ID:4u0BgJUc0
楽しみにしてるぞ、シエンタ

252ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/29(土) 01:18:58 ID:MJ.Sf8WE0

(;´_ゝ`)「こっちだ! 自力で逃げられるやつは第八ブロックに迎え! 腕力に自信があるやつは負傷者をトラックの荷台に積んでくれ!」

 学園第一ブロックにて、兄者の声が響き渡る。

 上空から降り注ぐ火の粉。鈍器のような運動エネルギーを孕んで落ちてくる骨。
 そして第三ブロックから漏れ出した水流によってなぎ倒される建造物。
 突如学園に襲いかかる大災害に際して、誰よりも速く混乱を諌めようと乗り出したのは流石兄弟だった。

( ´_ゝ`)「間違っても向こうで流された奴を助けようなんておもうんじゃねぇぞ! まずはてめぇらが生きることを考えろ!」

(´<_` )「兄者! もう積めない! どうする!?」

( ´_ゝ`)「第五ブロックなら飛ばして十五分で戻って来られるだろ! あのデカいテーマパークが避難所として開放されてる筈だ!」

(´<_` )「あそこは水が来るまでそう時間が無いだろ! 人数は少ないがせめてこいつらだけでも……」

( ´_ゝ`)「治療専門のスタッフが残ってる筈だ! そいつらに水の状況を伝えて、救命班と輸送班に別れるよう指示してくれ! アシがあったらあるだけ一緒に持ってこい!」

(´<_` )「分かった! 十分で戻る!」

253ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/29(土) 01:31:35 ID:MJ.Sf8WE0
しんどい、ちと休憩するわ
寝たらごめん

254名無しさん:2017/07/29(土) 02:07:29 ID:E4SnhWlE0
おk

255ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/29(土) 02:58:10 ID:MJ.Sf8WE0

ハソ;゚-゚リ「話してよ! ネーノがまだ第三ブロックいろのよ!」

 トラックを走らせる兄者の背後で、女の悲鳴にも似た甲高い声が響く。
 兄者のMCとしての活動のプロップスの男たちが、暴れる少女を取り押さえている。

(=゚д゚)「おい兄者! こいつどうにかしてくれよ! 水に飲まれた彼氏のとこに行くってきかねぇんだ!」

( ´_ゝ`)「……」

 振り返った兄者は神妙な面持ちで歩み寄り、暴れる少女の目をじっと見据える。

ハソ;゚-゚リ「ふざけんな! 助けてくれなんて頼んでない! 離せ! 離せよ!」

 少女の顔は真っ赤だった。
 その異様な興奮は今の混乱だけのせいではない。
 吐く息は荒く、アルコールの臭いが散る。
 女は、酒気を帯びていた。

256ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/29(土) 03:10:04 ID:MJ.Sf8WE0

( ´_ゝ`)「第三ブロックはもうダメだ。ネーノとやらが第三ブロックにいたのが確実なら、もう……」

ハソ;゚-゚リ「そんなの行ってみないと分からないだろ! 何の権限があってこんな真似すんだよ!」

( ´_ゝ`)「自分が助けられるやつを助けるのに権限なんているかよ。ガキの駄々っ子に付き合ってる暇はないんだ。頼むから安全な場所に避難してくれ」

ハソ;゚-゚リ「助けられる? ふざけんなよ、ここVIPだぞ分かってんのか!? お前だって気に入らないやつぶっ殺して王位とやらになったんだろ! それを今更レスキューの真似事? 笑わせんじゃねーよ! ネーノを見捨てて逃げるくらいなら死んだほうがマシだ!」

( ´_ゝ`)「……ネーノってのは、恋人か?」

ハソ;゚-゚リ「ああそうだよ!」

( ´_ゝ`)「どうしてそいつは第三ブロックなんかに……」

257ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/29(土) 03:46:43 ID:MJ.Sf8WE0

 第二王位ジョルジュが制圧してから、第三ブロックはある意味学園の中で最も危険なブロックとなった。
 元々職員の居住区ではあったものの、今ではその場を乗っ取ったジョルジュの城となっていた。

 王位の面子を公開する声明もあった。

 それはつまり、自身の首も下克上を目論む者たちの殺意の元に晒すということであり、同時に、自身の居城として構えたこの場所に不用意に立ち寄るのであれば、それなりの対応も辞さないということ。

 がらんどうなだけで、ただ立ち入るだけでそんな危険を孕んだブロックにわざわざ自分から立ち入る理由として最も考えられるのは――

ハソ;゚-゚リ「今の第三ブロックはもぬけの殻だから、職員が持ってた金目のものを盗むチャンスだって……こんな場所で、今更盗みは悪いことだなんて説教すんじゃねーぞ! ああ、大したことじゃないって、私も呑気にさっきまで酒飲んでたさ! それで、それがどうしたんだよ!」

 少女は明らかに狼狽えていた。
 倫理観などとうに崩壊しているこの学園で、恋人が盗みを働くことに後ろめたさを感じていなかったのは事実だ。
 だがそのような堕落しきった環境は皮肉にも、件の大災害の中、第十王位という大きな存在の統率によって外部のそれと似た環境と化していた。
 少女は酒気を帯びていながらもそれを肌で感じ、兄者に見据えられることによって、今どうあるべきかを突きつけられているような気持ちになった。

( ´_ゝ`)「…………」

 いっそ咎めた方が、彼女にとっては逆上するという逃避手段を得ることとなり、気が楽だっただろう。
 だが兄者は何も言わず、深く頷くだけだった。

258ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/29(土) 04:16:31 ID:MJ.Sf8WE0

ハソ;゚-゚リ「……ウリやってたんだよ私。私もネーノも、頭が回る方じゃない。かと言って腕っ節が強いわけでもないから」

( ´_ゝ`)「よく聞く話だ」

 この熾烈な環境下で金を稼ぐには、狡猾さや腕っ節、あるいはその他の突出した何かが必要だ。
 そのどれも持ち合わせていないのならば、後は身体を売るしかない。
 力の無い男が、同じような女と同居するに当たって、女が売春を稼業とするケースは少なくなかった。
 強姦を自身の美徳に反する行為として忌避し、なおかつ金銭という対価を支払い、売女を抱くことに抵抗の無い人間は一定数いる。

この少女も、この環境で生き抜く為に娼婦となった者の一人だ。

ハソ;゚-゚リ「職員は身なりがいいからきっと金目のものがたんまりあるって……そしたら、もうお前にウリをさせずに済むって……」

 言葉を重ねるごとに、威勢が悪くなってゆく少女。
 兄者にはこの二人の関係、そしてそこに確かに存在する愛情を認識するだけの理解があったが、共感は出来なかった。

( ´_ゝ`)「……」

259ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/29(土) 04:31:01 ID:MJ.Sf8WE0

 周囲を見渡し、生徒の避難が滞っていないことを確認しながら、だが口を閉じたままだった兄者が重々しく口を開く。

( ´_ゝ`)「……わかったよ」

ハソ;゚-゚リ「……」

( ´_ゝ`)「俺が探してくる。お前より俺が行った方が見つけられる確率は高い。だから頼む、お前も避難してくれ」

 兄者は目を伏せ、少女の足元を見つめながら避難を促す。
 だが少女の足は一向に動かない。

ハソ;゚-゚リ「……うそだ」

( ´_ゝ`)「…………」

ハソ;゚-゚リ「うそだ! そんなこと言ってお前はネーノを見捨てる気なんだ! そうやってこの騒ぎが収まった頃には英雄気取り! そうに決まってる!私は騙されないからな!」

(;´_ゝ`)「違う!」

ハソ;゚-゚リ「いいや、違わないね! 私が非力だからって何にでも縋ると思うなよクソッタレ!」

 自身とネーノの関係を吐露している最中とは打ってかわって、少女は再び男の腕の中で暴れだした。

260ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/29(土) 04:55:19 ID:MJ.Sf8WE0

 見かねた兄者は少女の肩を掴み、鬼のような形相を貼り付けたまま顔を寄せた。

(///_ゝ゜)「誓う。絶対にお前の恋人を助ける。誰も死なせない。それが出来なかったら、お前に殺されてやるよだから……」

ハソ;゚-゚リ「……」

( ´_ゝ`)「頼む」

ハソ;゚-゚リ「…………」

ハソ;-;リ「……この通りだ」

(  _ゝ )「…………」

ハソ;-;リ「お前にとっちゃ助けるべきたくさんの人間の中の一人かもしれないけど、私にとってはたったひとりなんだ」

(  _ゝ )「……ああ」

ハソ;-;リ「お前、他の誰よりも優先してネーノを助けろ。そんな義理なくても、頼む。お願いだ……お前の命に替えてでも……」

261ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/29(土) 05:03:57 ID:MJ.Sf8WE0







「ああ」

 涙で滲む少女の視界、彼女はもう、兄者の表情を見ることが出来なかった。

「任せとけ」

 その中で確かに聞こえた力強い声。

 極度の緊張状態からようやく解放された少女はそのまま意識を手放し、男の腕の中で崩れ落ちた。








.

262名無しさん:2017/07/29(土) 05:10:23 ID:rTH936sg0
かっこいい、でも不穏……

263ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/29(土) 05:11:49 ID:MJ.Sf8WE0

(=゚д゚)「この女、気ぃ失いやがった……」

( ´_ゝ`)「悪い、少し離れたところで寝かしといてやってくれ。弟者が戻って来たら第五ブロックに一緒に運んでもらうよ」

(=゚д゚)「あ、ああ……」

 男は少女を運ぼうと数歩歩いたところで足を止めて、振り返った。

(=゚д゚)「なぁ、本当に行くのか? いくらあんたと言えど、確実に命は無いぜ。それにネーノとかいうのも……」

( ´_ゝ`)「行かないよ。行くわけがない」

(=゚д゚)「えっ」

( ´_ゝ`)「俺がここを離れたら誰が避難を扇動するんだ。それこそ助かる筈の命も助からなくなっちまう」

(=゚д゚)「…………」

( ´_ゝ`)「さっさと行ってくれ。俺は向こうの寮を見てくる」

264ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/29(土) 05:20:16 ID:MJ.Sf8WE0

 足早にその場を離れた兄者は、行き交う人の群れの中、誰にも自身の顔を見られぬよう顔を伏せた。

(  _ゝ )「……くそ、くそ!」

 誰にも気づかれぬよう小さく吐き捨てる言葉。悪態。
 固く結んだ口の端から、握りしめた拳の中から、血が垂れる。

 なぁ王位の連中、と、兄者は胸の中で、誰にも届かない声で呼びかける。

 俺はお前らにただ一言、一言言いたいことがある。
 そこまで過ぎった頭の中の言葉を一旦堰き止めて、兄者は大きく息を吸った。

(# ´_ゝ`)「こっちだ! 自力で動けるやつは第八ブロックまで急げ!」




 ――クソッタレ!




.

265ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/29(土) 05:21:37 ID:MJ.Sf8WE0

寝る
褒めといてくれ
おやすみ

266名無しさん:2017/07/29(土) 05:27:34 ID:rTH936sg0
あーーーすごいよかった
怪獣の足元的な風景クッソツボ 乙

267名無しさん:2017/07/29(土) 07:35:20 ID:h4wB6FC60
兄者はほんと常識人のいい奴だな
登場キャラ全員の中で一番まともだわ

268名無しさん:2017/07/29(土) 08:58:30 ID:/7S91NOY0
>>267
ほんとにな性人だぜ

269名無しさん:2017/07/29(土) 13:45:33 ID:EcDpYfrA0
性人ワロタけど同意

270ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/29(土) 13:47:41 ID:MJ.Sf8WE0
投下

271ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/29(土) 14:20:14 ID:MJ.Sf8WE0

 第三ブロックは外壁に囲まれ、水が逃げる場所を失い、うねり続けている。
 降り注ぐ火の粉と骨の欠片も損害を助長する。
 次々倒壊してゆく建物の中で、未だ崩壊の兆しのない一つの塔。
 ワカッテマスはその水に流される瓦礫を次々乗り継いで、真っ直ぐそこを目指していた。

( <●><●>)(倒壊が酷い……ジョルジュはどう出る?)

 未だ火龍を使役するのみで、大きなアクションを起こさないジョルジュが、ワカッテマスにとっては不気味だった。
 彼はデレが自分を含めた複数の王位と対立した際に、自身の龍王気を軽々と食い破った火龍の覇気を思い出して身震いする。

( <●><●>)(あの時は俺とて本気じゃなかった。とはいえ……俺も腹を決めなきゃいけないだろうな)

 一際大きな瓦礫が降る。
 それを軽く払いのけるような所作で粉々に吹き飛ばし、ワカッテマスは更に加速した。

272ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/29(土) 14:36:41 ID:MJ.Sf8WE0

 見えてきたフォックスが住まう塔に向かって、大腿部に力を込め、一気に跳躍する。
 最上階付近に定めた狙いの通り、自身の身体が風を切りながら跳ぶのを感じ、ワカッテマスは全神経を研ぎ澄ませる。

 ワカッテマスが地上と最上階の間の、ちょうど中間に差し掛かった時、窓が割れた。

  _
( ゚∀゚)「よく来たな。もてなすぜ」

 半裸のまま顔を出したジョルジュ。
 そのまま窓の縁に足をかけ、ワカッテマスに向かって飛び降りた。

( <●><●>)

  _
( ゚∀゚)

 右腕に纏う炎。可視化された龍王気。
 二つの力が衝突し、衝撃波が走るのと、上空で黒の波動が広がるのは同時だった。

273ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/29(土) 15:01:40 ID:MJ.Sf8WE0

( <●><●>)(重い――)

 一瞬だけ受けて、即座に流したはずなのに、それでも痺れを訴える左腕を庇いながら、ワカッテマスは塔の外壁に片手で掴む。

 _
( ゚∀゚)「いいねぇ〜痺れるぜ」

 自身のジャブを受け流しつつ、空中という体勢の自由が利かない状況下で、すぐさま反撃してきたワカッテマスの胆力に、ジョルジュは高揚する。
 打ち込まれた脇腹への蹴撃。
 内蔵まで響くその痛みに浸りながら、ジョルジュは倒壊寸前の屋根からワカッテマスを見上げた。

 _
( ゚∀゚)「最初にやり合うのがお前とは思わなかったぜ堅物。そんなに俺が憎かったか?」

( <●><●>)「個人的な恨みは微塵もありませんよ。ただ、私には貴方の幼稚な統治に従う理由もない」

 _
( ゚∀゚)「理由が無いから歯向かう、か」

( <●><●>)「そう解釈してもらって構いません。貴女に何を説いても無駄なのは分かってます」

 _
( ゚∀゚)「はっはっは! いいねぇ、それでこそだよ。お前はここの生徒の鑑だ!」

 先日自身を訪ねてきたモララーと、今目の前にいる敵を較べ、ジョルジュは満足げに顔をくしゃくしゃにして笑った。

274ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/29(土) 15:47:04 ID:MJ.Sf8WE0

 降り注ぐ雨が両者の身体をしとどに濡らす。
 闘気の奔流は第三ブロックを流れる水の流れにも似て、微動だにせず対峙する二人の間で荒れ狂う。

 _
( ゚∀゚)「お前が今から闘うのは人類最古の奇跡だ。心してかかれよ色男」

 闘気の流れの中、際立って膨れ上がったジョルジュの闘気が周囲を燃え上がらせる。
 紅蓮の腕を翳し、ワカッテマスに向ける。そして、固く拳を握る。

 先の上空での戦闘の際、火龍が出現させた光の魔法陣と同じものがジョルジュの背を中心に展開される。

( <●><●>)「いいでしょう。奇跡とは須く人の業に踏み躙られ、その威光を失うのが道理だと知りなさい」

 大気そのものが不可視の力によって固定されたかのような閉塞感。
 達人が放つ武の顕現とも言える覇気の最上位、龍王気。

 降り注ぐ雨粒の速度を遥か遠くに置き去りにして、ワカッテマスは地上を破壊する激流に身を投じた。

275名無しさん:2017/07/29(土) 17:49:29 ID:EcDpYfrA0
乙?
初撃はワカッテマスも全く負けてないな

276ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/29(土) 17:57:06 ID:MJ.Sf8WE0

 魔法陣から炎の矢が放たれる。
 それら一つ一つが弾丸のような威力を孕んでいたが、両者の間でそれは飛び道具にすらならなかった。
 水の流れに足をつけたワカッテマスはそのまま水上を駆る。
 迎え撃たんとする炎の矢を紙一重で躱し、あっという間にジョルジュの眼前に躍り出る。

( <●><●>)

 _
( ゚∀゚)

 空気の壁すら打ち抜く、そして音すら置き去りにする正拳突き。
 ジョルジュはそれを、ワカッテマスの肩の動きから察知し、躱す。
 伸び切ったワカッテマスの腕を掴まんと手を伸ばすが、既にワカッテマスはジョルジュの懐から離脱していた。

 熱を帯びたジョルジュの掌の周囲の空気が揺らいでいる。
 もしもあのまま腕を掴まれていたら、バターでも切るように焼き切られていただろう、とワカッテマスは内心冷や汗をかいていた、

 _
( ゚∀゚)「いーいはんだ――」

 良い判断だ。と言いかけたジョルジュを遮るのは衝撃。
 側頭部に走る痛みに耐えかね、ジョルジュは激流の中に沈んだ。

277ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/29(土) 17:58:41 ID:MJ.Sf8WE0
休憩
めしふろ終わり次第投下再開
九時くらいには始めたい
よろしく

278名無しさん:2017/07/29(土) 18:11:31 ID:EcDpYfrA0
早まった 乙

279ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/29(土) 21:12:34 ID:MJ.Sf8WE0
再開

280名無しさん:2017/07/29(土) 21:29:46 ID:zFuKYGMI0
ウイまじか支援

281ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/29(土) 21:42:36 ID:MJ.Sf8WE0

 水飛沫が飛んだ直後に、その地点の水が一瞬にして蒸発する。

 _
( ゚∀゚)「はっはっはっはっはァ!! い〜ぞォ! 楽しいぞ!」

 一瞬でワカッテマスの懐に潜り込み、大振りな蹴撃。
 正拳、裏拳。前蹴り。手刀、薙ぎ払い。

( <●><●>)「――!」

 ワカッテマスはジョルジュの肉薄に対し、その全てを紙一重で躱しきっている。
 足場になる大きな瓦礫が、二人の重みで沈む度に乗り継ぎ、時には辛うじて原型を保つ建造物の外壁を滑り落ちながら。
 隙きがあれば大きく後ろに跳んで距離を空けようとするワカッテマスだが、ジョルジュはぴったり張り付くように追撃を打ち続ける。

 熱を孕んだ打撃を受けても、直ちに致命傷に繋がるわけではない。
 だがその一瞬のミスを皮切りに、圧倒的劣勢を強いられることは想像に難くなかった。

282ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/29(土) 21:58:07 ID:MJ.Sf8WE0

 ジョルジュの打撃の殆どが大振りで躱すこと自体は難しくない。
 それに加えてカウンターを浴びせることも、ワカッテマスならば可能だろう。
 だがそれだけの技量があるがゆえに、ワカッテマスは反撃しない。

 _
( ゚∀゚)「どうした!? 逃げてるだけじゃあ俺は倒せねぇぞ!」

 王位という称号を得た最上位の武人同士が拳をぶつけ合う中で、それは不自然な隙だった。
 たとえばわざと匂わせた隙にまんまと飛び込んできた自分に、最大級のカウンターを見舞うつもりだったら?
 その可能性を拭えないワカッテマスは、 その仮定の中で、ジョルジュの想定の範疇を遥かに凌駕する一撃をぶつける機会を、虎視眈々と窺う。

 _
( ゚∀゚)「俺を退屈させるなァ!!」

 後ろに跳んだワカッテマスに向かって振るったジョルジュの腕は炎を纏い、その炎は霧状に燃え広がる。

283ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/29(土) 22:37:11 ID:MJ.Sf8WE0

 両手を前方に翳し、炎に備えるワカッテマス。
 闘気は集中し、炎と掌がぶつかり、ワカッテマスの身体を避けるように炎は散る。

 _
( ゚∀゚)「悪手だぜ堅物」

 散った炎の向こう側から距離を詰めてきたジョルジュに対して、ワカッテマスの反応が遅れた。
 それは一秒にも満たない僅かな隙だったが、それだけあれば、二人にとっては充分だった。

 ジョルジュの手がワカッテマスの首に伸びる。
 それを避けるには一秒にも満たない、途方もなく長い時間が必要だった。
 そして今、ワカッテマスにその時間は、無かった。

(;<●><●>)「――――!」

 声にならない絶叫。
 ワカッテマスの首がみるみるうちに爛れてゆく。
 痛みのあまり上げる声は一瞬で喉を涸らす。ジョルジュの掌に力が籠もる。
 絶対に逃さない。このまま首を焼き切ってやると、皮膚を焼く熱がそう言って舌舐めずりする。

284ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/29(土) 22:55:34 ID:MJ.Sf8WE0

 ジョルジュの顔が下卑た笑みで歪む。
 格下を相手にする時、彼はよほどのことが無い限り積極的に命まで取ろうとはしない。
 だが今はその限りではなかった。

 闘いの中で研ぎ澄まされてゆく感覚。
 そしてそれに伴う多幸感にも似た高揚に、自身の意識がずぶずぶと沈んでゆく感覚が堪らない。
 ぎりぎりのところに身を置くからこそ、その対価として得られる快感。
 ワカッテマスを捕らえた今もそれは迸り続けている。
 ならばこそ、このまま縊り殺さなければ自分すら脅かされるのだ。

 それがジョルジュの手に力を込めさせる衝動の根源にある感情。
 ジョルジュ自身、それを自覚していなかった。

 裏を返せば警鐘とも取れる感情を、自覚していなかったがゆえに、ジョルジュは叫び散らすワカッテマスの右手が銃の象り、その指先が自分に向いていることに気づけなかった。

285ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/29(土) 23:14:04 ID:MJ.Sf8WE0

 龍王気を指先で練り上げ、気弾として撃ち出す。
 ジョルジュに悟られぬよう形成した弾は銃弾未満の大きさではあるが、その狙いは的確だった。
 がら空きになったジョルジュの胸に向かう。最小限のインパクトで、確実にその心臓を貫く為に。

(;<●><●>)(ニヤケ面のまま血をぶち撒けろ……!)

 視界の端から、世界が濁る。
 予想以上に負傷が深刻であることを悟り、ワカッテマスの心臓が暴れ狂う。

 _
( ゚∀゚)

(;<●><●>)

 気付くな――

 気付くな――――

気付くな―――――――!

.

286ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/29(土) 23:19:33 ID:MJ.Sf8WE0









   そのまま死ね!











,

287ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/29(土) 23:20:03 ID:MJ.Sf8WE0







                    `     '
                      、   ノヾ     '
                      )ヽ/  ヽ、ノ|ノ´
          ------- ―== ニ ニ二       二ニ ニ ==― --------
                       )     (
                     , '´⌒`Y´⌒` 、








,                          ,     \

288名無しさん:2017/07/29(土) 23:21:00 ID:Bdtd8xUM0
やったか?

289ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/29(土) 23:24:07 ID:MJ.Sf8WE0








(       )    _
            ( ∀  )







,

290ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/29(土) 23:38:04 ID:MJ.Sf8WE0

 _
(;゚∀゚)「こ……の……」

 夥しい血がジョルジュの身体に彫り込まれたトライデントを濡らす。
 ワカッテマスの首を握っていた掌の熱は消え失せ、ジョルジュは激痛に耐えるあまり、その手を離してしまう。
 左の肩口からの出血を庇いながら、手放したワカッテマスから離れる。

(;<●><●>)(やり損ねた……直前で気取られたか、くそっ!)

 首の火傷は深い。
 呼吸の際の僅かな喉の動きでさえも、痛みで集中力が途切れる。
 ジョルジュとて平常時と比較してままならないことは、ワカッテマスの目にも明らかだが、彼にとってこの奇襲が齎した結果は、決して十全ではなかった。

 _
(;゚∀゚)「面白え……本当に面白えよ……お前」 

 脂汗を拭いながらも、ジョルジュの顔から笑みは消えていない。
 ワカッテマスに負わせた傷と自身の傷を比較するが、戦況を正しく判断するだけの観察力も、痛みに阻害される。
 それでも溢れる笑みが、彼を生粋の戦闘狂たらしめる。

 互いに、まだ闘いは始まったばかりだと自覚すると同時に、その意識はより深く――
 より深いところへ、潜ってゆく。

291ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/29(土) 23:40:34 ID:MJ.Sf8WE0

二十五話終わり
案の定ジョルジュの眉毛がずれた
全部俺もAA弄ってみようなんて助平心を出したのが悪い
もう二度とやらねえ誰もここには触れないでくれ
紅白の書き溜めします
また明日

292名無しさん:2017/07/29(土) 23:47:07 ID:/7S91NOY0
>>289
これかww

293名無しさん:2017/07/29(土) 23:51:41 ID:8blIArcM0

お疲れ様です

294名無しさん:2017/07/30(日) 00:03:35 ID:oXs1Ts2o0
上がるなこれ

295名無しさん:2017/07/30(日) 00:14:09 ID:JeBwOSo.0
おつ
これだけ濃密に書けるだけで凄いと思うの

296名無しさん:2017/07/30(日) 01:10:35 ID:Z37SQMbE0
乙!!!
一瞬の油断が死を招く状態で
しばきあえるのかっこよすぎ

297名無しさん:2017/07/30(日) 13:19:40 ID:958ahkd.0
傷を抉るようで申し訳ないが演出クソ熱かった
AAテストのツールとか使ってなんとかできそうならまたやってくれ

298ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/30(日) 21:21:56 ID:qmYKrV7w0
眠くなるまで投下
今日もよろしく

299名無しさん:2017/07/30(日) 21:23:21 ID:e8EdphcI0
きた!!

300ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/30(日) 21:24:40 ID:qmYKrV7w0




第二十六話「どこまで行っても掌の上で踊らせれるあんた方の為の詩」




,

301ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/30(日) 21:25:21 ID:qmYKrV7w0
流石にタイトルで誤字は酷いので仕切り直し

302ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/30(日) 21:26:12 ID:qmYKrV7w0




第二十六話「どこまで行っても掌の上で踊らされるあんた方の為の詩」




,

303ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/30(日) 21:27:37 ID:qmYKrV7w0

( ・∀・】「大丈夫ですか? まぁそりゃそうですよね。よかったら迎えに行きましょうか」

( ・∀・】「いらない。はぁ、まあ僕としてはその方が楽なんでいいですけどね」

( ・∀・】「真祖の方は放置してもいいんですか? どう見てもアレはハインリッヒ・アルカードじゃないでしょう」

( ・∀・】「ふーん、まぁ貴方がそう言うならそうなんでしょうね。そういうわけで、僕はファイナルあたりにいるんで何かあったら連絡くださいな。それじゃ」

( ・∀・)「やれやれ、電話中は気を遣って離れてくれると嬉しいんだけどねぇ」


( ・∀・)、

               ζ(゚ー゚*ζ

( ・∀・)「大変な騒ぎだねぇ。君は参加しないのかい? 使える駒はそれなりにいるだろう」

ζ(^ー^*ζ「まさか。お姉様がああなった以上、私に出来ることなんてありませんよ」


( ・∀・)「へえ、君は彼女のあの力について何か知ってるのかい? 少なくとも僕が知る限りでは、彼女があんな力を発現させたことは無いけど」

ζ(゚ー゚*ζ「そりゃそうでしょうねぇ。私だって見たことありませんもの。正直嫉妬しちゃいます」

( ・∀・)「嫉妬? 何にだい?」

ζ(゚ー゚*ζ「お姉様をあそこまで怒らせた人に、ですかね」

(; ∩∀・)、「ははは……ほんとに君は健気だね」

ζ(^ー^*ζ「あら、そう言ってくれます? 貴方が理解のある方で良かったです」

304ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/30(日) 21:39:04 ID:qmYKrV7w0

ζ(゚ー゚*ζ「ま、見たことはありませんがあれがどういうものかは理解出来ます」

( ・∀・)「おかしな事を言うね。女の勘ってやつかい?」

ζ(^ー^*ζ「ふふふ、前から思ってましたけど、貴方の冗談って少し空回ってて面白いですね」

( ・∀・)、「こりゃ手厳しい」

ζ(゚ー゚*ζ「そんな冗談はさておき……女の勘、というより同族の確信と言った方がいいでしょうね」

( ・∀・)「同族の確信」

ζ(゚ー゚*ζ「はい。勘ではなく確信というのがミソですね」

305ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/30(日) 21:59:19 ID:qmYKrV7w0

ζ(゚ー゚*ζ「この学園のみならず、世界中の同胞達が同じように確信を持っているはずです。それこそイノヴェルチじゃなくとも、言葉を持たぬグールでさえもね」

( ・∀・)「不思議だ。シンクロニシティみたいだね」

ζ(゚ー゚*ζ「似たようなものでしょうね。不思議なのも同感です」

ζ(゚ー゚*ζ「産まれて初めての感覚なのに、まるでこんな日が来るのが最初から分かっていたかのような感覚。悪い気分ではないですね。むしろ胸が躍ります」

( ・∀・)「……」

ζ(^ー^*ζ「アレは私たち吸血鬼の親ですよ。永劫にも近い人類史の中で、今まで継承されてきた力の本来の持ち主」


ζ(゚ー゚*ζ「吸血鬼の王キリバリ-・アルカード」

,

306ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/30(日) 22:10:10 ID:qmYKrV7w0

( ・∀・)「聞いたことがある。確かニイタ国の伝承だ。キリバリ-の火」

ζ(゚ー゚*ζ「博識ですね。私だって吸血鬼になるまでは知らなかった伝承なのに」

( ・∀・)「仕事柄、色んな国に行くことが多くてね」

ζ(゚ー゚*ζ「あら素敵、今度ご一緒しても?」

( -∀-)「構わないがオススメはしないね。君が想像してるよりもずっと退屈さ」

ζ(゚、゚*ζ「あら……振られちゃいましたね」

307ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/30(日) 22:25:14 ID:qmYKrV7w0

( ・∀・)「それにしても、伝承のキリバリ-の顕現とはこの学園も危ない場所になったもんだね」

ζ(゚、゚*ζ「もともとそんなに安全な場所でもなかったでしょう」

( ・∀・)「そうかい? 僕からしたら外よりずっと快適だったけどね」

ζ(゚ー゚*ζ「余裕ですねえ第一王位サマは」

(; -∀・)「いやいやほんとに。余裕とかじゃなくてね」

ζ(^ー^*ζ「ふふふ、からかってみただけですよ。その椅子からしか見えないこともあるんでしょう?」

( ・∀・)`「……へぇ」

ζ(゚、゚*ζ「あら?」

308ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/30(日) 23:01:38 ID:qmYKrV7w0

( ・∀・)「申し訳ないけど、君にそういう言葉をかけられるとは思わなかったな」

ζ(゚ー゚*ζ「酷いですねぇ。私は自分じゃ太刀打ち出来ない人にはしっかり媚びるんですよ?」

( ・∀・)「そう、そうだったね。むしろそういう物言いの方がしっくりくる」

ζ(^ー^*ζ「お気に召したようでなによりです。ところでモララーさん」

( ・∀・)「ん?」

ζ(゚ー゚*ζ「貴方はアレと戦わないのですか?」

( -∀・)「……理由が無いな」

ζ(゚ー゚*ζ「……この世界で唯一、貴方という絶対的強者の退屈を満たせるかもしれない。それだけでは理由になりませんか?」

309名無しさん:2017/07/30(日) 23:32:19 ID:AVnSmM1A0
>>290
トライデントってトライバルの間違い?

310ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/30(日) 23:33:40 ID:qmYKrV7w0

( ・∀・)「生憎、そういう動機だけで動ける立場じゃないんでね。それにしても意外だな。あれだけ彼女に固執していた君が、こんな風にけしかけるなんて」

ζ(゚ー゚*ζ「アレはお姉様であってお姉様ではありませんから。あの綺麗な身体が私以外に傷つけられるのは不本意ですが、そうも言ってられなさそうな状況ですしね」

( ・∀・)、「ふうん。、ま、どっちみち僕は興味も無いし、学園の外に出るよ。一緒にどうだい?」

ζ(゚ー゚*ζ「……嬉しいお誘いですけど、私にはまだやらなきゃいけないことがあるので」

( ・∀・)「あら、振られちゃったね」

ζ(^ー^*ζ「ふふっ、間が悪いのもなんとなく貴方らしいですよ」

( -∀・)「ほんとに手厳しいや。悪巧みかい?」

ζ(゚ー゚*ζ「そんなところです」

311ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/30(日) 23:40:36 ID:qmYKrV7w0
         { /
          ヽ、
           ヽ、
                 7
             ′
       r ¬   ′
       `ー   /      「また会いましょう。モララーさん
、          ./|       次は一緒に"踊れる"といいですね」
  、       /:.:|
         . ':.:.:.',
、   へ.    イ:.:.:.:.:. ',
ニ>く   `¨´ '、:.:.:.:.:.:.',
二ニハ      ヽ:.:.:.:.:.:',
二二ハ       '.:.:.:.:.:.:',
二二八      ',:.:.:.:.: ,
二二二>、     }:.:.:.:ハ!
二二二ニ心、   ノ:.:.:/
二二二二ニハ /ィ:./
二二二二二.!   }/
二二二二二ヘ
二二二二二ニ≧x、

312ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/30(日) 23:47:47 ID:qmYKrV7w0
   ~ ''' ‐- . ,__   .'   _ . .-‐ ''' "
    「ああ」       冫 '  _ - -     - - - -
  _ ,,.. -‐ '' " ,  '" i`     - ._
        ,  '   ,'    ` 、    " - .._
     ,  '"        ;    `  `     " - . _
  , '"   , "  /  ,'   ', ヽ  `    ` 、  `
      ,         i  ',  ヽ「そうだね」 ` 、   ` 、  `
     ,     ,'  ,'   :      、  `
    ,     /        ',  ',       、     ` 、
   ,        ,'  '   !     ',   、    ヽ
    ,   ,'  ,       ;   ',      、      、
   ,   / , ,'  ,'   ;          、   、

313ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/31(月) 00:15:45 ID:Iju0uVVw0

 降り注ぐ雨の中、モララーはデレの気配が消えるまで、空を見上げたまま立ち尽くしていた。
 濡れた長髪は首筋を伝って、毛先から水が滴っている。
 前髪を?き上げる。柔和な表情は、整った造形も相俟って、見る者を吸い込んでしまいそうだった。

( ・∀・)「そこそこ居心地のいい場所だったんだけど、跡形もなく消えたりしなきゃいいなぁ」

 その保証はどこにもないことを知っていて、自身が手を尽くせばいくらでも、どうとでもなるという自覚を持ちながら、モララーは動こうとしない。
 きっと元は人並みに欲もあったはずなのに、とモララーは自嘲めいた溜息を漏らす。
 その気になればあらゆる望みを実現出来る力を持っているがゆえに、その力が、モララーから情熱の一切を奪い去った。

( -∀-)(考えても詮無い)

 自分一人で、どこまで歩く?

 そう自身に投げかけて、正門に向かって歩き出そうとした瞬間、彼は近づいてくる足音を察知した。

314ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/31(月) 00:53:32 ID:Iju0uVVw0

( ・∀・)「これはこれは……まだ避難してなかったのかい。ツンさん」

ξ゚⊿゚)ξ「……モラくん」

 ペストの制服を着たままのツンが、力無い足取りでモララーの元へ歩み寄ってくる。
 巻き髪は雨に濡れて、波打ちながら肩まで下りている。
 道中で転んだのか、いつも新品同様に真っ白な制服も泥に塗れていて、それが彼女から漂う喪失感を助長している。

ξ゚⊿゚)ξ「私の方が年下じゃない。さん付けで呼ばなくていいっていつも言ってるのに」

 軽口を飛ばしながらも、その笑みは弱々しい。
 モララーは素直に、気の毒だなと思った。

315ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/31(月) 01:07:05 ID:Iju0uVVw0

ξ゚⊿゚)ξ「どうしよう。なんか大変な騒ぎじゃない。皆水がここにも流れてくるって……」

( ・∀・)「……そうだね。大変なことだ」

ξ゚⊿゚)ξ「ペストも、店じまいか……」

( ・∀・)「……」

 この騒ぎの原因は自分ではないのに、モララーは肩を落とすツンを見て、申し訳ない気持ちになった。
 ペストはこの学園の生徒たちに愛された店。それは、モララーとて例外ではなかった。

( ・∀・)「……ねぇツンさん」

 失意に陥った人間を鼓舞する言葉を、モララーは知らない。
 恭しく口を開き、眉根を寄せながら慎重に言葉を選ぶ彼の姿を、王位の者が見たら、きっと自分の目を疑うだろう。

ξ ⊿ )ξ「…………」

316ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/31(月) 01:31:16 ID:Iju0uVVw0

( ・∀・)「僕さ、友人にはよく『お前って高級なコース料理しか食べなさそうだよな』なんて言われるんだ。別にそんなことないのにね」

ξ ⊿ )ξ「……?」

( ・∀・)「ペストのチキンカレー、美味しかったなぁ」

 モララーは遠い目をして、敢えてツンから視線を逸らすように、空を見上げた。
 辿々しさが先行するあまり、語尾は力なく尻すぼみ。
 最早彼自身、誰に話しかけているのかも見失ってしまいそうだった。

( ・∀・)「鶏肉がさ、皮がパリッとしてるんだ。たまにこの皮だけをお腹いっぱいになるまで食べたいって思うよ」

ξ ⊿ )ξ「……」

( ・∀・)「ルゥがもったりしてるのもいいね。見た目じゃなく味で勝負ってやつ? 家庭の味って感じだね。あ、いや……家庭の味なんて言っても僕にはよく分からなかったや……」

317ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/31(月) 01:52:10 ID:Iju0uVVw0


( ・∀・)、

                 ξ ⊿ )ξ


"(∩・∀・)「……何を言ってるんだろうね僕は」

ξつ⊿ )ξ「……ぅ」

(; ・∀・)「…………」

ξ ⊿ )ξ「……ありがと」

( ・∀・)

"(∩・∀・)「…………」

318ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/31(月) 02:12:00 ID:Iju0uVVw0

 その気になれば一国の興廃すらも左右することが出来る。
 そんな自分が、たった一人の非力な少女の涙に狼狽えていることが、モララーには不思議でならなかった。

 否、そうではない――

 最初から、彼は自覚していた。
 自分がどれだけの力を有していようと、これだけは、人の感情だけは、思いのままに出来ないのだと。

( ・∀・)

 彼は、孤高などではなかった。
 群れを成さず、自身の自由意志にのみ従って、飄々とした言葉を使って人間を煙に巻く。
 なるほど、これが天下の第一王位のやり口か、とモララーは胸中を泥で満たす。

 だがそれすらも洗い流すように、雨は、降っていた。

319ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/31(月) 02:34:15 ID:Iju0uVVw0

( ・∀・)「なんとかなるさ。もし店が流されても、ツンさんがいれば美味しい料理は作れるよ」

(; ・∀・)「いや、違うな……大丈夫、店は流されない……」

 とも言い切れないと分かっているから、その語尾に力は無い。
 しどろもどろなモララーの対応は決してスマートでっはないかもしれない。
 だが少なくとも彼は今、一人の人間に対して真摯に向き合っていた。
 そして人を勇気づけるために取り繕う不格好な言葉が、花のように貴いことを知る。

( ・∀・)「うん」

ξ ⊿ )ξ「…………」

( ・∀・)「また、カレー食べたい」

ξ ⊿ )ξ

320名無しさん:2017/07/31(月) 02:39:49 ID:QGOcNxY60
あああ……モララーめっちゃいい子だった……

321ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/31(月) 02:57:45 ID:Iju0uVVw0
                     ヽ
                    '.                  .|! 
                     }                  .|! 
                    .′           
                     /                     
                       /
                  人   _ . -:ァ‐- .          .|!
                       `ヽ. ヽ::/: : : :_ : :>       .|!                        .:
                        }  ー ´           .|!                     .::::::
                        ノ                .|!                     .::::::::
                       八                .|!                  ..::::::::::::::
                         ∧               .|!                   .:::::::::::::::::::
                                     .|!                ..:::::::::::::::::::::::
                      }              .|!                  .::::::::::::::::::::::::::::::
                       {             .|!               .:::::::::::::::::::::::::::::::::::
                                   .|!            .:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
                          |             .|!           ...::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
                      ;              {_j          ...:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
                      |                   .....:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
                      |          ................:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
                      人............::::::::::::.::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
                       > ::::::::::___:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
                                  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ `ヽ:::::::::::::::::::::::::::::::::::::

322ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/31(月) 02:59:38 ID:Iju0uVVw0










                  「 行こうか 」














,

323ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/31(月) 03:00:15 ID:Iju0uVVw0
nemasu

324名無しさん:2017/07/31(月) 03:24:22 ID:z0ltGaRM0

モララー( ・∀・)イイ!!奴

325名無しさん:2017/07/31(月) 04:32:34 ID:QGOcNxY60
おつ
この2人の絡みは意外だったけどツボった

326名無しさん:2017/07/31(月) 05:52:09 ID:S99G3ZQI0
今まで1位という振る舞いと能力による強さが目立ってたから
不器用なモララーにちょっと驚いた

327名無しさん:2017/07/31(月) 06:29:15 ID:rGsRDKA60
まずい、応援したい奴が増えていく


328名無しさん:2017/07/31(月) 07:18:45 ID:cm7luTho0
イケメンかよ

329名無しさん:2017/07/31(月) 07:24:21 ID:RtEKelTo0
モララーの印象がガラッと変わるなぁ
ほんと全員キャラが立ってて面白いわ

330ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/31(月) 17:35:50 ID:Iju0uVVw0
色々AA弄ってみたいので辞書登録のストック溜めてきます
なので今日は休みにするかも
夜気力があったらまたながらで
明日明後日は私用につき少し厳しい
どの日も来れたら来る
期待しててください
よろしく

331名無しさん:2017/07/31(月) 18:13:00 ID:rGsRDKA60
ジョルジュ達の目(単体)間に合ってる?


332名無しさん:2017/07/31(月) 19:54:10 ID:RtEKelTo0
期待しまくってんよ

333ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/31(月) 21:45:57 ID:Iju0uVVw0
投下いけるわ
よろしく

334ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/31(月) 21:59:48 ID:Iju0uVVw0

 ━━━━━
 ━━━━━━━━

 曇天。降り注ぐ雨。
 学園上空は未だ炎と亡者達で埋め尽くされて、、月を望むことは出来ない。
 時折空に広がる高出力の波動によって、地上の建造物が軋み、木々はどよめく。

 夜闇の中、光輝くことなく自身の漆黒によってのみ存在を主張する吸血鬼の王を見上げ、二人の男は表情を強張らせていた。

(´・ω・`),・

( ;゚д゚ )

(´・ω・`)「……お前もか」

( ゚д゚ )「……ああ」

(´・ω・`)「不思議な感覚だ。アレがああなった瞬間、全部理解した」

( :゚д゚ )「……」

(´・ω・`)「吸血鬼の王キリバリ-・アルカード。お前、聞いたことあるか」

( ;゚д゚ )゙ ブンブン

(´・ω・`)「だよな、僕もだ」

335ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/31(月) 22:14:08 ID:Iju0uVVw0

(;´-ω-`)「にもかかわらず、今の僕にはあいつの名前が解る」

( ゚д゚ )「……あれがどういうものなのかも」

(´・ω・`)「ああ、そうだ」

( ;゚д゚ )「…………正直」

(´・ω・`),・

( ;゚д゚ )「俺はこれ以上、ここにいたくない」

(´・ω・`)「同感だよ。だがデレとの主従関係が切れてない以上、僕らがこの学園から出ることは出来ない」

(;´・ω・)゙「最悪だ。この混乱に乗じて真祖と接触しようと思ったら……」

336ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/31(月) 22:39:35 ID:Iju0uVVw0

 始祖としての力を顕現させたハインへの畏怖が二人の身体を氷のように冷たい膜で覆っている。
 そんな戦慄の中、ショボンはもう一つの事柄に恐れ慄いていた。

(´-ω-`)(こんな状況下でもデレの支配が解けない。恐ろしいやつだ)

(;´・ω・)゙(吸血鬼になってみて感覚的に、この生き物の性質が理解出来た。だからこそ解る)
  ザッザッ

( ´・ω・)(あの女はバケモノだ。こと支配力においては、あの真祖と同等……いや、それ以上か)

 イノヴェルチとして覚醒したショボンが、生前と変わらず兄への復讐を続けると決意して、真っ先に学習したのは、吸血鬼としての特性だった。
 その気になれば自身もデレと同じように血を広め、眷属となるイノヴェルチを作ることも可能。
 その事実を知った時、盛大な自己嫌悪が彼を苛んだ。

 だが、それでも兄を殺めるという彼の信念が、自己嫌悪を乗り越えたのはすぐだった。

337ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/31(月) 23:03:28 ID:Iju0uVVw0

               ,.-、
             /  .l  /`ヽ
            /   ./ /   / .,..-、
            /ヽ/    / /   / ./  l
        /   l   l ./   ,'  /  /
        /   |   | l    l ../  /.,..-、
        l   イ   l j   .| /  /./  /
         .|    ',   `´   ヽ'  /./  /
          l   .l  \       〈./  /
          |    `ヽ .\         ,'
        l      \ `''-..,,__    .|
         .',          '.,       |
          .',        l       |
           .ヽ              ./
          /       l      /
         ./       /   /
        /       /   /
       ./             /
      /            /
      ./           /



 自身の掌を見つめながら、ショボンはこれまでに学習した吸血鬼の特性について振り返る。

 グールの肉は脆く、生身の人間より耐久力が低い。高い膂力を持つが、その力に耐えきれず自壊することもある。
 イノヴェルチは心臓と脳を同時に破壊されない限り、再生を続ける。
 イノヴェルチの再生速度は吸血鬼特有の力の多寡に依存しており、生前の武力は関係ない。
 イノヴェルチは自身の吸血衝動を満たす為とは別に、眷属を作る為に吸血の際に自身の血を対象に混ぜることが出来る。
 新たに誰かの眷属として覚醒したイノヴェルチの吸血鬼としての能力は、主の力に依存する。
 グールは日光を嫌うが、イノヴェルチは日光による不調を患わない。
 などなど――

338ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/31(月) 23:32:08 ID:Iju0uVVw0

  o
    ゝ;:ヽ-‐―r;;,               。
,,_____冫;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:\      ,,,,,,,, o  /
"`ヽ;:;:;;;:::;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:从    (;:;:;:;:ヾ-r
   〈;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:) 0  ソ;:;:;:;:;:;:;:}
  ,,__);:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:ノ     ゞイ"ヾ,:;:,ソ
  (;:;:ノr-´^~;;r-ー⌒`    ,.、
  "  ,,,,      _;:;:⌒ゝソ;:/
    (;:;:丿    (;:;:;:;:;:;:;:;:;:)
            ヾ;;;;;;;;;;;;/; \
            ´  /;:ノ 。  。
                ()


 吸血鬼の主従関係は、人間の社会的な主従よりも遥かに固い。
 主が死ねと言えば死ぬ。
 主が、愛する者を蹂躙しろと言えば血涙を流しながら非道の限りを尽くすだろう。
 魂が縛られていないにもかかわらず、その身体には隷属の血が流れ、髪の毛一本残さず主に捧げられる。

 その主従の糸は系譜のように、親のイノヴェルチ、更にその親のイノヴェルチといったように、脈々と続く。
 その頂点に存在するのが……




                   从 ゚∀从


              真祖ハインリッヒ・アルカード。 


.

339ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/01(火) 00:03:23 ID:htw1B6cw0

(´・ω・`)(アレが頂点であるにもかかわらず、デレが真祖の意に反する行動を続けられる理由……

 イノヴェルチとなって日の浅いショボンが考えられる理由は、そう多くなかった。
 どれも想像の域を出ないので、裏取りにも動きにくい。
 その中で最も有力なのは、元々デレが高い素養を持った魔術師だったということ。

 錬金術、医学にも精通し、人には扱えない魔術の代替としてそれを世界に普及した偉大なる魔術師フィレンクト・ミッドガルド。
 デレが受け継ぐのはかの高名な魔術師の血であり、世界的に有名な彼の研究の中には当時猛威を振るっていたグールの生態研究も含まれていた。
 ただでさえ、魔術師の力の継承は吸血鬼のそれと似通っていて、その親和性も高いのだ。

 医科学の祖と呼ばれた魔術師の血が、イノヴェルチとなった彼女に、真祖に抵抗しうる力を与えている。
 その考えが正しいか否かを確かめる術は現状無いが、そうだと仮定しても不自然ではない。

(´・ω・`)(フィレンクト・ミッドガルの血があの女に与える恩恵が、僕らに対する支配にも及んでるとしたら……)

(;´・ω・`)=3

( ゚д゚ )「……?」

 絶望的だな、と脳裏をよぎった言葉を、ショボンは揉み消した。

340ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/01(火) 00:04:21 ID:htw1B6cw0
休憩

341名無しさん:2017/08/01(火) 00:27:24 ID:lvcltG2A0
ゆゆ��!!!!!
支援。

342ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/01(火) 01:45:33 ID:htw1B6cw0
再開

343名無しさん:2017/08/01(火) 01:49:10 ID:XvRLrqLY0
おかえり!

344ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/01(火) 01:57:41 ID:htw1B6cw0

 自身と同じ境遇にあるミルナとは行動を共にすることが増えたが、ショボンはまだ彼のことを信頼していなかった。
 むしろ、現時点では信用を計る必要すら無いと考えている。
 王位の座を賭けて闘う中で、二人の間には確かに通じ合うものがあった。
 だがそれは、互いにもうここで終わってもいいという、決闘の際特有の境地に至っていたから。
 元々武人としての性質が強かったミルナとは違い、ショボンは闘いというものに対して冷めきっていた。

 全ては兄への復讐を遂げる為。
 自身の中に毛ほどに残っている武人としての矜持や誇りも、その悲願の前には塵も同然。

 だからショボンはミルナと積極的に情報を共有しようとは思わなかった。
 とはいえ同じ境遇で、同じように情報を求める二人なので、ミルナから有益な情報がもたらされることもあるだろう。
 その時の為に、あくまでポーズとして、情報共有の姿勢を見せている。

 それに対してミルナは何の疑いも抱いていなかった。
 王位として戦闘を日常とする環境に身を置いた期間の差が、このようなショボン優位の関係を作り上げたと言えるだろう。

 あるいは、自分もあの兄のように、戦わずして勝つ打算めいた思考の天才なのかもしれない。
 そう思うと、ショボンは苛立ちに奥歯を噛み締めずにはいられなかった。

345ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/01(火) 02:09:10 ID:htw1B6cw0

( ゚д゚ ),・「おいショボン。あれ……」
  σ

(´・ω・`)「ん? ああ……」

 ショボンがミルナの指差す方を見る。


     ,,,,----------- 、
.    /  ̄ ̄ ̄.// ̄ ̄|| |
   /     .//.    .|| |
  [ /―---― //[ ]   || |___________________   ブォォォォ
  i_    _ i 'ー´ ̄ ̄|.| |ニニニニニニl.|
  l0|.__|○E.|  .,r―|.|_| ̄ ̄ヽ / ̄ヽヨ  _ _.,_,,('"     (⌒ヾ
  モ__=口=_テ___|l⌒ l.――― | l⌒l 三!     ^'ノ⌒ヽ,,._ソ''"
        `--'    `ー'   `--'  `ー'    ''⌒`'"~

 第四ブロックと第五ブロックを繋ぐバイパス道路を、一台のトラックが走る。

 それ自体は珍しいことではない。この緊急時、車両で逃げようとする者がいてもおかしくはない。
 その荷台に積んでいるものが、二人が求めているもの、もとい二人の主がかき集めてこいと命じたものだった。

346ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/01(火) 02:23:11 ID:htw1B6cw0

      アァァァ…
                       ウッウ……
  イテェ                               タスケテ……
               __
            /`´: : : :\  _ ........._                         r- '⌒ヽ
          , -イ:.:.:/{{`ヽ-: : :ヽ .ア:__,.へ:::`ヾ                _ノ゙ヾ、   .j ,___ぅ^′
__     /:.:.:.:ゞ/rx__r廾>ヽ: }ア::ノ,zz  __ヽ<, -へ__     , --- 、-{:.:.:; -'ー 、 / l
: : : : :>-- '´_:.:.:.:.:.:.:.:.L..」└‐┘!/}:_/ ゚-  ゚ ' ハ:.:.:.:.:.:.:.:ゞ´ ̄>´::::::::::::::::::::ヽ/:.:.:.:.:.:.:.:.:\__l   __
    }:.:, ´: : :`丶: : : \ー`,. イ:.:il:.:ゝ!  [二l ハi:.i:.:.:.:.:.//<__::::::::,、::::::ヽ:::l:.:.:.:i:.:.:.:.:.ト、:.:.:l ア ̄r---
^~`ヽレ′: : : : : : :厂`Lア二,イ:V ヾ__ヽ  .._ イlr.ヽ>`. . . . . . .く/V xz-↑L:.:.:ト,__/二_/   /
:::::::::::l: : : : : : : : : /  </ヽ/`ヽ/     ゝ..__/. . . . ,、. ,、_ト. .ミ __゚- .r '::::}:.:「 x. -゚イ_ /
:::::::::::ハi,、,、i: : : /         .l   i      Ⅵ. . ノ-イ r. Lト'ー 'イ⌒ヽヽ-< rっ':.:.:.:.ド、
Aヘ::::j__Lヽ_r-ァ'        ./ j   i  ;;;   ヽVr┘・` _ー レヘ V⌒′'. ト、!:.:.:ト¨´:.:.:.:.:.ヾ:.:.`l
.゚ ' r ':::::}  ア  ;;;;    /}  Y⌒ヽl        >- 、.ー'イ´`ヽ L_.ノ! ! ハ:.:':.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:ゝ┴- 、
-‐'´:::/:::| ∠_      ∠、 丁]  .厂      r ⌒7:.:/:.`¨´:.:.:.:.:.:`ヽ__l .l  厂ヽ:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.
::::::::::):::/:.:.:.:.`丶__  j.  ヽ !/  ,l        ヽ  !V:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.'.:,/l`\! l  /r‐┴ 、:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.
:::::::> '::::::::::::::::::::::::::::V- 、   './  / !  , -=  ̄ ̄^\ `!:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:ヽ ヽ-l .//ノ:.:.:.:.:.:.:. ̄`ヽ- ...._
::/::::::::::::::/::::::::::::::::{   ヽ  l ./| }/:::::::::::::::::::::::::::::ヽ `ヽ:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.L_ヽL) /:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.}: : : :/:

 まるで物のように積まれた人間達。
 一目で彼らが重傷を負っていることが解る。
 ミルナは彼らの痛ましい姿に目を伏せ、これから自分がやることに自己嫌悪を抱き、吐き気を催した。

,・( ;-д゚ )「叶うならば、自刃したいところだ」

 トラックを発見してショボンに教えるまでの澱みない所作。
 それすらも吸血鬼としての血の隷属がさせたこと。
 気づいた時、ミルナは咄嗟に舌を噛んだ。
 だが口の中に血の味が広がった後に、肉がせり上がり再生する不愉快な感覚を噛みしめるはめになっただけだった。

347ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/01(火) 02:41:19 ID:htw1B6cw0

(´-ω-`)「今叶わないことを願うのは感情の浪費だ。やるしかねぇだろうよ」


                     _ /ヽ
                    ⌒`ヽ、\
                    '" ̄⌒`ヽ   /Y
                  '" ̄/ミ/ \ヽ::/
                   ⌒\ \::/
                       / //:::/
                   / ミ>:::::/
                  /:::/
                  /:::/
                xく:::/           }/  ノl/ - ノ
                /::://             l/ /   / ツ
           /\ \ミ_
            /:::/ / /                }/  ノl/ - ノ
       /\\   ミ         /       l/ /   / ツ
      /:::/   ミ /ミ_  _   彡
      {/    / /_   ̄
         \  { /   ̄二ニ
               /
 
 (´・ω・`) ジャキ
────⊂

(´・ω・`)「僕は殺るぜ。どれだけ胸糞悪い命令であろうと、どれだけ関係の無い人間を殺すことになろうと……」


,・、’(´゚ω゚`)「最後まで生き残って、兄さんとあのクソッタレ売女をぶっ殺す」
    ギンッ

348ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/01(火) 02:56:22 ID:htw1B6cw0

 ━━━━━━━━━━
 ━━━━━━

(´<_` )「思ったよりも時間がかかるな……」
⊂   ブロロロロ...

(´<_`; )「やっぱり怪我人を積み過ぎたか。すまん兄者、まっててくれ」
⊂ ブロロロロ...

 トラックを運転するのは弟者。
 アクセルは常にべったりと踏み込んでいる状態、にもかかわらず伸びないスピードに弟者は苛立っていた。
 サイドミラーに映る後方の景色。中の空は掌に収まるほど小さい。

 その空で、今まさに人外同士による空前絶後の闘いが繰り広げられている。

(´<_` )「……二十分。いや、十八分か……」


 そこから第五ブロックの救護スタッフに呼びかける。
 それを考えると、彼にとって今は一秒すら惜しかった。

349ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/01(火) 02:59:14 ID:htw1B6cw0





 元々置いてあったボトルガムに弟者が手を伸ばしたその瞬間。





 火蓋は切って落とされた。





.

350ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/01(火) 03:07:06 ID:htw1B6cw0
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351ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/01(火) 03:15:46 ID:htw1B6cw0

∑(´<_` ;)「っ!」
 ⊂

 弟者の背を、悪寒が撫でる。
 咄嗟にブレーキを踏み、ハンドルを切る。
 荷台に怪我人が乗っていることを案ずる余裕などない。

 強者としての直感が告げていた。
 今すぐ車内から離脱しなければ、命は無いと――

 弟者はこの時、思考することを止めていた。
 論理的な思考が脳内で出来上がり、出力されるまでの僅かな時間すら命取りであると、身体が解っていたからだ。

 次に弟者はドアに手をかけた。
 乗せた人間の命を、一切放棄した瞬間だった。

352ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/01(火) 03:25:22 ID:htw1B6cw0
                                                      _,,.. 〟 ._..-'i.,..‐'}
                                                  ,..-'"´   `´     .|
                                               _..-'"             !
                                       _..、 _..-'"゛                  !
                                         /                 ,..、      `7
                                       /        ._......、 ,,/ ̄!'´ l       /
                                  /       ,..-'″  ″     ./       /
            _..―┐                   ,/     , .,/           /        ,!
      . /    |,                   ,,‐'"     ,/゛.″              /        ,!
    .,,-'_、..-'^l   /                 , '="    , /                  /        /
  .r'"/ ゛  ./  /             /     /                   /        /
 / /    .7  ./               /    .,. l./                     /           i|.
//     ./  !              /    ./ ゛                 /         ./
'"      /   ./             /    ./                      /         ./
      /   .彳        _/     /                      , . /         /_,
     リ   /      .,,i ,/     /                   /./             lr'"
     ゙l. /      ,./ `   ,.,..‐i .,i'″                      ,r'ゞ          ,i′
     / . l゙    ./    .メ"  ゞ                  y./              /
    /  .l゙  ._i /     /                      ノテ'゛           /
    'リ  .!、 ,r,!./     /                      〃                /
   .i|、  ."..メ′ _ i ./                      /              /
    .|      / |ノ                     /                 〃
    ‘l    ./                          /              /゛
    .|- 、 ./                       ,i ./              /
       ´                      ノ/                 /
                              ,.j|ノ゛               /
                             / ゛                  /
                           /                 /
                          /                  ,i′

353ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/01(火) 03:41:46 ID:htw1B6cw0

 蛇のようにうねりながら、その一閃は神速の域に達していた。

 道路を滑るトラックを絡め取りながら、"羅刹棍"の先端は運転席を叩き割り、荷台部分を捕縛する。
 濡れたアスファルトに焦げ跡を作りながら傾くトラックは、横転直前で止まった。
 捕縛する鎖の隙間から怪我人が雪崩落ち、悲痛の呻き声が響き渡る。

(´<_` ;),・。「くっ……!」

 アスファルトに叩きつけられる直前で受け身の姿勢を取り、転がりながら事なきを得る。
 すぐさま顔を上げるが、状況は絶望的だった。

「よく避けたじゃねぇか」

                }
                   /  ``
                 /
                   i′
                ヽ ¨`
                     `ヽ
                 { __, --y- '´
                    ヽ - '´
                  ハ
                       ∧
                      }        ,. <
                       八    _,. ≦-‐─ヘ   ,.
                     >‐<      ハ /
                               ノ
                               /
                              i´
                                ハ
                             ∧



(´゚`ω゚`)「だがなってねぇな〜〜〜〜〜〜〜? 大事な荷物は簡単に手放すもんじゃねぇぜ?」
───⊂

.

354ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/01(火) 03:42:52 ID:htw1B6cw0
二十六話おわり
色々試行錯誤してみます
おやすみ

355名無しさん:2017/08/01(火) 03:46:42 ID:XvRLrqLY0
目のやつゾッとしたわ


356名無しさん:2017/08/01(火) 07:31:13 ID:EVmcYMoA0
ショボンの魅力が上がりすぎてやばい

357名無しさん:2017/08/01(火) 08:09:12 ID:eu.u1x7s0
噛ませポジだったりするけれど
なんだかんだミルナが好き

358名無しさん:2017/08/01(火) 19:27:03 ID:KoV7yy4Q0
かなりAA表現増えてきたな
地の文ラッシュも好きだが試行錯誤も悪くない

359ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/01(火) 21:05:52 ID:htw1B6cw0
ふふふ
結局来ちゃった
よろしく

360ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/01(火) 21:18:47 ID:htw1B6cw0
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: : : : : : :|::|_   --┴─…¬冖ニ二¨¨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄ 二 ニ 冖宀=-  .... ,,,, __.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:
───二三三二─ ‐ ‐ ‐ ‐           ‐ ‐ ‐ ‐ ‐        ‐ ‐ ‐    ‐ ‐ ‐二二 二二三三二二ニニ==
三二二─‐  _二-‐ ‐ ‐           _ _ _                        ──二_─二三三三三三三
=‐ _ ̄ ─二─ ‐ ‐ ‐ ‐ ‐ ‐ ‐ ‐ ‐ ‐        ─ ‐ ‐ ‐   _ _ _ _   ‐ ‐ ‐      ‐‐‐二二─ _ ̄─_二三
-二二二二二───── ‐ ‐ ‐                ‐ ‐三三─ ‐ ‐      ‐ ‐    ‐ ‐ ‐ ‐ ‐  二─ _ _
二二二─── ‐ ‐                  ‐ ‐ ──二二三三三─ ─ ─ ─      ──二二二三三三三
二二─ - -       --          ──二三三三二─ ‐ ‐         ────二二二二二二三三三三

361ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/01(火) 21:27:03 ID:htw1B6cw0


   (´゚ω゚`)、’
━━─○─━━
                      ,・(´<_` ;)


 (´<_` ),,(最悪だ……! よりによってこの男……!)

 兄者から聞いた王位の面子の名前とそれぞれの人柄から、自分が最悪の窮地に立たされていることを察知する。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

      ( ´_ゝ`)「仮に奴と闘うことになったら、迷わず離脱することを考えた方がいいな……
            王位としての格の違いとかじゃなくて……あいつはイカれてる         」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 兄であるシャキンを前にして発狂した時のことは聞いていた。
 それに加えて、先日のジョルジュによる王位の公表。

 弟者が、目の前の男がショボンであると断ずるのは容易だった。

362ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/01(火) 21:42:17 ID:htw1B6cw0

 緊迫した状況は、たちまち捕食される側の人間に閉塞感を与える。
 生徒会長素直クールを始め、自身が目にしたことのある歴戦の猛者と同等の覇気に気圧され、弟者は空気の薄さを感じていた。

(゚<_` ;)(刺し違えるつもりでようやく離脱出来るか……あるいはそれも希望的観測)

 心臓の鼓動すら気取られ、殺される。
 そんなイメージが脳内をめぐり続ける。
 兄者ならば、この状況をどうするか。兄者がいれば、自分はどうするか。

 そこまで考えたところで弟者は視界の端にトラックから雪崩れ落ちた怪我人を捉える。

    「うぅ……」
                     「いてぇ……いてぇよ……」

  「ぁ……家に……家に……」

∑(´<_` ;)(馬鹿か俺は……)

 俺は兄者と約束した。怪我人を運んで戻ってくると――
 今までどのようなことがあっても裏切ったことの無かった兄を、なぜ今になって裏切ることが出来ようか。

 それは、兄弟の間で長い年月をかけて結ばれた、言葉のいらない契り。

363ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/01(火) 21:59:42 ID:htw1B6cw0
                 .. /⌒i
               _,,..、 .|  / ,..-、
               l   l | /´ l,、_ノ ,
                 |  i' '´_,,、
                 .|  し''´ 」
                 |  ,,.-''´  .
                | .|      ,、 r‐'l .r、、
                  .l、_ノ     i ゙l.| ゙l / l゙
                           │ ゙l | |/ l゙
                         ゙l,,ノ '"│ /
                       ´  .l゙ l゙
                            \,l゙
                                                             `、\N\
 ────────────────────────────────────────→    >
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄7 /7/
                                                            //


,・───────=二(´゚ω゚`)
                      ────=二(´<_` ;),,’・


(´<_` ;)「ちっ……!」

(´゚ω゚`)「オラオラ余所見してんじゃねェぞおおおおおおおおおおお!!」

 一閃。

 弟者とて視界からショボンを外すほど油断したわけではない。
 自分の意識の及ぶ範囲で、最大限の警戒を敷いていた。
 ほんの一瞬だ。瞬きをする時間よりも短い一瞬の意識の乱れを、ショボンは見逃さなかった。

364ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/01(火) 22:17:23 ID:htw1B6cw0

 追撃につぐ追撃。
 羅刹棍による打撃は弟者のガードの上から骨を軋ませる。
 仮にがら空きのところを打ち抜けば、文字通り人体を砕くだろう。

(゚<_` ;)「ぅぐ……!」

 時間にして、一分にも満たない連撃。
 既に弟者のガードは緩み、両腕の骨にはヒビが入っていた。

,・(´゚,ω゚`)「あああああああ足りねぇ足りねぇ!! 全然足りねェええええええええ!!」

 
      ────=二(´゚ω゚`)(´<_` )    

        「なんだその無様な姿は!!」

        「退屈過ぎて欠伸が出るんだよ!」        \ ,,_人、ノヽ      
                                      )ヽ    (
        「ちっとは反撃してみろ!!」         - <       >
                                     )      て
        「ほらほらほらほらァ!!」            /^⌒`Y´^\

(´゚ω゚`),・、’「ああああああほらやってみろやなァ!? やってみろ! やってみろ! ヤッてみろ!!」

365ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/01(火) 22:57:20 ID:htw1B6cw0

,・、’(´<_` ;)(兄者から聞いてはいたが……まさかこれほどとは……)

 反撃を一切恐れていない猛攻。
 弟者はこれよりも洗練され、かつ威力の高い連撃を放つ猛者を見たことがある。
 帝国随一の剣技を持つ、VIP最強の剣客素直クールだ。

 武術としての質の高低を測るならば、ショボンではなくクーに軍配が上がる。
 だがこの猛攻はそういった武術としての観点で推し量れるものではなく、ただただ恐ろしい。
 箍が外れたような連撃は人間というより、飢餓状態の猛獣を思わせる。
 一つ一つの動作の間にある僅かな隙すら、捨て身覚悟の覇気に気圧されて埋められてしまう。

(´゚ω゚`)

 ショボンは吸血鬼になって、自身を守る為の技を捨てた。
 事実上不死となった自分に、傷を負わないための配慮など不要だからだ。

 自己嫌悪を乗り越えてからは早かった。
 彼の武術に対する直向きさは、自分の身体に最も即した戦闘スタイルを確立させる為の一助を担った。

(´<_` #)(重傷覚悟で退くしかない……距離を取って厄介な棍を奪取出来れば……)

366ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/01(火) 23:21:13 ID:htw1B6cw0






     弟者が意を決したその時だった。




     その一閃の煌めきは、限りなく零に近かった。






.

367ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/01(火) 23:26:43 ID:htw1B6cw0
                        _,.. ー   ─=二.,,_        ! l
                   ,, -;;il!!'"    _,,,.. -ー''"   ̄ ̄`゙゙''ー\l l,   .|      .,i7
                 ,,.;;シ'" ._,, -'''''"゛                      l,   ll      ,l゛!
               ,..!广   .'二ア"  ._,, ‐''''^ ̄ ̄ ヽ            ヽ  i゙.!     ,/
                ,/゛ _,,..ニ'"゛  .,..-'"゛             l          ヽ ! .|  ., .ll' .l゙
           '" ー'“゙ /   ,, ‐″             l               : ! .l|  ,! i′
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                         /                        リ
                      /                         ll

368ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/01(火) 23:49:47 ID:htw1B6cw0


.         二二二二二二二二二二┌ ┬‐v─ v 、//////////> '"二二二二二 \'/////////
.         _________∠| / /   / .〉-、///> '"────────_>ァァ77777
.         / }─〉////////////////,L.{__∧_/ーヘ }} "二二二二{`'ー'"~ ̄ ̄`77//∨∧/////
.      {_/ /く>く>く>く>く>く>く>く>く>く>く><>// //〜〜〜〜〜 }77/     {{// ∧∨/////
          ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`'ー‐< ̄ ̄{二´ /────‐ ////   ....::::: `∨//∧∨////
           ────────── ̄ ̄\フ´─────‐ `¨¨7  / ///\.'/∧∨///
         二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二゙'ー'゙ー'^'ー'ー'゙ニ==-\__`\_
.       ────────────────────────────/'//////////,


  ( -д- ),,’・
────┼○ チンッ

 ショボンの連撃と対を為す洗練された一撃。
 ,              
,,・’( <_  ),, カフッ

 ショボンと弟者の二人の間に流れる闘気の隙間を縫うように、そしてその閃きは刹那を駆け抜け、弟者の背中を斬りつけた。

( -д-)
( <_  ) 

( ゚д゚ )「悪いな。この身体は武士道を真っ当することすら許さぬようだ」

369ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/02(水) 00:17:25 ID:cjjGXVZk0


 ,・;'’( <_  ),,・;’(くっそ……)

 この学園に入学した時点でいつかこんな日が来るということは覚悟していた。
 つもりだった――

 闘って死ぬということを知っていた。
 それが俺の身に降りかかる日が明日であろうと、ずっと先の話であろうと……
 そんな日が誰しもに平等に訪れるという知識だけがあって、俺は本当の意味で、死というものを実感していなかったのかもしれない。

 血が熱い。

 それが外気に触れた途端、鉄のように冷え切ってゆくのが、手に取るように解った。

 ( <_  )

 なぁ、兄者――

━━━━━━━━━
━━━━

370ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/02(水) 00:21:40 ID:cjjGXVZk0
意識が元に戻る
ニ二三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三二ニ
ニ二三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三二ニ
三三三二ニ=-―   ¨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄              ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄¨   ―-=ニ二三三三
 ̄ ̄                    すまん、約束……                         ̄ ̄
__                                                       __
三三三二ニ=―-   ______               _______   -―=ニ二三三三
ニ二三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三二ニ
ニ二三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三二ニ

371ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/02(水) 00:22:54 ID:cjjGXVZk0
あああああああああああやっちまったああああああああああ以下訂正

372ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/02(水) 00:23:19 ID:cjjGXVZk0
ニ二三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三二ニ
ニ二三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三二ニ
三三三二ニ=-―   ¨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄              ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄¨   ―-=ニ二三三三
 ̄ ̄                    すまん、約束……                         ̄ ̄
__                                                       __
三三三二ニ=―-   ______               _______   -―=ニ二三三三
ニ二三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三二ニ
ニ二三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三二ニ

373ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/02(水) 00:24:01 ID:cjjGXVZk0
ニ二三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三二ニ
ニ二三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三二ニ
三三三二ニ=-―   ¨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄              ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄¨   ―-=ニ二三三三
 ̄ ̄                    守れなかった――                        ̄ ̄
__                                                       __
三三三二ニ=―-   ______               _______   -―=ニ二三三三
ニ二三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三二ニ
ニ二三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三二ニ

374ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/02(水) 00:25:48 ID:cjjGXVZk0
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三

375ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/02(水) 00:26:46 ID:cjjGXVZk0
圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭
圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭
圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭
圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭
圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭
圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭
圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭
圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭
圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭
圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭
圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭
圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭
圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭
圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭
圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭

376ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/02(水) 00:29:08 ID:cjjGXVZk0
二十六話おわり
紅白結果発表まで先は長い
俺は多分死ぬ
おやすみ

377名無しさん:2017/08/02(水) 01:24:22 ID:zeo4eXJY0
ミスワロタ

378名無しさん:2017/08/02(水) 02:42:46 ID:bQC.0btQ0
おつかれw
自分の意思すら優先できねえ体になんてなりたくねえものよな

379名無しさん:2017/08/02(水) 08:56:31 ID:GVU0IcLg0
ショボン様……

380名無しさん:2017/08/02(水) 18:30:25 ID:R6iD/V8Q0
>>354でも二十六話終わったけどどっちが正しいのか

381ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/02(水) 18:35:25 ID:tJL4tDXw0
あああああああああやらかしたあああああああああここまでが26話でよろしくおねがいしますうううううつううううううううう
殺してくれ

382ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/02(水) 21:59:12 ID:cjjGXVZk0
十二時には寝られるよう頑張ります
毎日投下してると追ってる側からしたら大変かもだけど今日もよろしく
ほいたら投下

383ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/02(水) 22:01:40 ID:cjjGXVZk0



第二十七話「降臨する何か。その時ぼくらは同じ敵を見た」



.

384名無しさん:2017/08/02(水) 22:04:03 ID:eCrQEGBM0
いや残念ながら楽しみにしてるだけだ

385ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/02(水) 22:15:59 ID:cjjGXVZk0

 雨は更に勢いを増す。
 雨ざらしの瓦礫は上空からの衝撃の余波を受ける度に一つ、また一つと水流に飲まれてゆく。
 汚泥を含む流れはせり上がる壁にぶち当たる。
 やがて誰もがその壁を心許なく思うようになった。

 第三ブロックから浸水した流れは各ブロックの営みすらも削り取る。
 特に隣接する第四ブロックは酷かった。
 濁流の中に、ペストの看板があったことは、この時誰も知らない。

 元々、半ば隔離されるような形で存在していた第八ブロックに大勢の生徒が押し寄せていた。
 中にはこの騒ぎに呑まれるように、雪崩れる人の群れに押され、踏みつけられ、命を落とした者すらいるだろう。

 たった一夜にして、フォックスが、生徒たちが作り上げてきた営みは壊された。

386ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/02(水) 22:28:14 ID:cjjGXVZk0


                      _,,,......................,,,,,__,
                 ,, ‐'''"´    ______、   .´゙''''ー .._
                 ,..-''´  ._.. -‐'''"゙´/、 i  、 ̄ ̄''''ー ,,、 `''-、、
              ,/゛ .,, ‐'"      .i,゙,,〉 ! .l .ir .i;;;;     `''-..、 .`'-、
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        ./  / /'- `ー .,.. -''"´,,,..  -----........,,_´゙''ー ,,_'"  .,,..'l''' \  \
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     ./   /      / ,,/゛.xt!''゙二-ー'''"゙゙゙゙゙゙゙゙゙"'''ー-..,゙ !.... !-、 \ .-rクi  \ \
    ./∠..(、............ / .∠.......... / .,....r=ニニミ厂゙二ニニッ 、..`'‐..iニ....ニx. ゙'、、...............゙lv....ム
    /  l,.く 'i . / ./   / ...-'゙゛     i! l'i .l     `\、゙'-、 .\ ヽ  ,  ,i'./ .ヽ
   ./  / ヽヽ.` / / yi" ./ / .,巛┘._.. /.i;;;;.l...l ,,、...テ''i  .\ \  .\ ヽ .ノ"/./ .l  .l
  .i′./  ヾV゛./ _lミ'゙,/ .,i". ヽ.゙,.,シ彡'"゙/ /  l .l゙゙'''ミ-.".- .,, \ ヽしミ,ヽ ヽ.,/,i′ !、 l
  !  /    7 l゙ .゛./ /  `´'!シソ゛ 〈) ./ l ".゙ ゙L.l ,i .`' !./ ″  ヽ ゙.l  . l. l/    .l  .!
 │ .!  .r‐ ! l\ / i冖'''''''''''!''¬''''''''.'" 冖''''''''''".`'''''''''''''"冖''''''''.''). l  ./、.l  .,〟 l  .l
 .l  .| .゙ご'゙ l / ヽ.l/ l`'‐、'-//  、 .,! /..‐二ミヽ.l .l. ._,,  l.l..‐'.,/.! l.ノ,i'.! | iー'.l" .!  l
 .! │.!ゞ‐ | .!  ゙V ,!   `ッi,゙'-,,..″ / /./ . iiii.`、.l l ".,/ /   | 〔/ .| .! .´_|   | │
 .! |   .| .!   | l、 ,l . !.! `'-,゙'-/ /| | .,ii, iii !.,!i ゙='"..‐゙〕.! ,iく,,、! l゙,,..L.! | !、.  |  .!
 .! │    ! ,!   ! |ヽゝ ! .!.! .,.`i ._ゝ).\,,,,,,,/iシ'" l´,r>/,!.ヾ .,i'| ,!`'.,││ ′`T.| │
  ! │ .ー"│ .l 、.;; .l |'、'./ ,八.l ` / / `‐、゙'くニツ“ / .l, .l //i'ッ‐ノ,/ l .〈、/ l     l  .!
  .!  .!  lュ l .l .!;;' ゙l, lヽヽ . ヽ> l .〉 〟 ,ゝ _ .く、 ty .l ゙t/゙.l/゙ノ,i'ゞ / iニ'7 l     ! │
  l  .l  .、> ! . l '´、 ヽ ヽ'、ヽ" .゙' ! !  ,/./゙、`'-..\,,.. l、 l. .,i'ノ/ ./ ,」 ./ / /-゙ワ .l゙  l
  ..l  .l,   .,..l  l゙'゙,゙. ヽ. ヽ)_ヽ / i∨゙__r'_,_,,゙,,,,.. ;;>.,゙'' ! l,i'〃 / . " / / . -、 i ./  /
   . l. ..l. ..、゙".、ヽ .\.'゙゙,, \ ゙ヽ li′...‐゙、 .゙,゙,゙'''''''^'二..、  \ ,ノ"../、/゙ / /  ‘'" ´./  /
    ヽ .ヽゝ-'冫.\ `、゙‐'  ゙'-、`'<、 ゞ " ゙Ψ  '! = .,, / ゛,/ ゙レ./ / . ,_   ./  /
     ヽ .ヽ ゛,,-. .\ `-、   .`'ッ ,,_`"―-----―'''"゙_,,,イ″  ._/ ./. ' ,ヽ 、./  ./
      ヽ. \゙'.iッ'"  .\. `-、、 ヽヽ´゙'''''――ーー'''"´,i'./  , / .,/....-/' ,,´ .r'" /
       .ヽ, .\  .〃 'i \ ,..`''ー コ,レ       __i⊃ー'" _..-'" .!< .>./ ./
        \,  \   ゞ‐゙l 、゙"'ー ..,,,_ ` ゙̄^^゙゙゙゙゙´ ._,,.. -‐"゛ 、´゙ゝ  ./  /
          \. `'-、,  ._゙フ ‐フ'i  ヽ! ̄"^ ̄/./      .!-、 _..-"  /
               `'-,,. `''ー.こ  ′  .ヽ'i, .lil゙/./      _,, -'" ._ /
               ゙''ー..,,、 .`゙''―- ....,,゙liヽ,/i彡.... -ー'''"゛ _,..-'"゛
                     `゙''ー ..,,___, ヽ/゛__,,,,,, -ー'"゛
                             ̄ ̄゛

387ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/02(水) 22:40:35 ID:cjjGXVZk0

,・、’从 ゚∀从,・、’

 ハイン、いや、始祖キリバリ-・アルカードは退屈そうに腕を組み、眉根を寄せて地上を見下ろしていた。
 彼女の視線の先には、燻るように揺らぐ炎の残滓と、無数の骨達。
 そして始祖の背後に顕現した魔法陣は空を覆わんばかりに拡がり、その光で地上を照らしている。

从 ゚∀从『セント・ジョーンズ! この私が手ずから出向いてやったのだ。かような茶番で退屈させるな!』

 怒号のようで、その中に清廉すら思わせる声が響く。
 王が下々の者達に説くように、今の彼女が空より放つ闘気は聞く者全てを圧倒していた。

 彼女の視線は足元の炎から第八ブロックに向く。
 蟻のように群がり、どよめく彼らが、彼女には塵芥のように見えた。

388ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/02(水) 22:59:56 ID:cjjGXVZk0

从 ゚∀从『……汚い』

从 ゚∀从,・、’『汚い! 汚い! 汚い!』

从 ゚∀从『なんだこれは!? 何なのだ!? 仮にも真祖として力を継いだこの娘が愛した世界はこんな薄汚い箱庭か!』

     ,
从 ゚∀从,,・’

从 ∀从

::从 ∀从:: フッククッ...

从 ゚∀从,・、『ハハハハハハハハハッ!!』ドッ

从 ゚∀从『なぁ小娘よ! この私に何を為せと言うのだ! 貴様は言ったな、■■■■■■■■と!』

从 ゚∀从『この薄汚い世界の何処に、私が救うに値する者がいる! 私の目には塵芥しか映ってないぞ!』

389ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/02(水) 23:06:09 ID:cjjGXVZk0
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390ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/02(水) 23:16:08 ID:cjjGXVZk0

 始祖は不意に嗤うのをやめ、目を細めて地上の有象無象を眺める。
 そしてほくそ笑んだ。

 あの虫けら共に、我が軍勢をけしかけたらさぞ愉快なことになるのではないか――

 それは羽虫をその手に捕らえた幼子のそれとよく似た、下卑た好奇心。
 未だ彼女の背後の陣から無尽蔵に湧き続ける骨の軍勢は同じ姿勢で滞空し、主の指示を待ち続けている。

从 ゚∀从『間引きも、王たる者の導き。ならば娘も本望だろうさ……再び目を覚ましたあやつの顔を夢想し、眠りにつくのも一興か』

 足元で燻っていた炎が燃え上がるのを視認し、片手間で蝿を払うように煩わしげな視線を落とす。
 顎をしゃくり、無言で軍勢に命ずる。潰せ、と――

 たちまち骨の軍勢は炎の中心に向かって身を投じ、火龍の存在自体を揉み消してゆく。

391ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/02(水) 23:45:23 ID:cjjGXVZk0

从 ゚∀从『セント・ジョーンズよ。思えば貴様も青臭い理想を謳っていたな』

从 ゚∀从『貴様の口車に乗せられて愚かな衆愚に知恵と戦の火を授けたが、これを見て確信したよ』

从 ∀从『……やはり、人はどこまでいっても愚かであると』

 一瞬、ほんの一瞬だ。
 彼女は目を伏せ、こみ上げるものを噛み殺した。
 始祖という、人間から最も遠い場所にいる高位存在が僅かに見せた感情の機微を見る者はいない。

从 ゚∀从,・、『ストリガよ! 我が命を拝聴するがよい!』

从 ゚∀从『かつて我等を闇に封じた愚かな人間共は堕落した!』

从 ゚∀从『私が許す! 頃来の真祖ハインリッヒ・アルカードの所願を果たす為、命じよう!』

从 ゚∀从『我等の破壊を以て人類の救済とする! 嘆きの魔女達よ!』

392ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/02(水) 23:46:55 ID:cjjGXVZk0







     『救え! 救い尽くすがいい!』







.

393ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/02(水) 23:55:57 ID:cjjGXVZk0

 始祖の号令を受けて、骨の軍勢は一斉に咆哮を上げた。
 金切り声のようなそれは重なり合い、学園上空に響き渡る。
 小刻みに震えながら、それらは互いに鼓舞しあっているのだろうか。

 復讐のシュプレヒコール。

 鳴り止まない不協和音。

 骨達は一斉に身を屈め、第八ブロックに集まる人の群れを、ひび割れた眼窩で捉えた。

 その時――

 始祖の眼前の大気が、否、空間そのものが……

394ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/02(水) 23:58:46 ID:cjjGXVZk0
      .ヽ  ...l .l       ,!   \   l三L  .r|    iゞ   .!  ./  ./ i′       ,./     ., -'''″
-、、     ヽ  " ヽ.      !     \  .!三l /│  ./    │ ./   ./ /       ./  _,、,/
  `''-..、   .!'、、  .\    /         ヽ.,!三三三} ,i、/     l‐l゙  ,ノン゛      ,,/,..-‐' /
、    `''、, .l  \   ヽ  │           l゙三三三| / . l′   ./ .! シ´       ./    /
. ゙''-、    .\.l   .`'-、.ヽ. !        /.三三三|/  .l    ,l lン゛      . /    /
   `''-、.   ..゙!、     ゙ゝゝ         /三三三三 !、  l   ./ | ."     . /     ./        ... -ー''',゙
      . l    ヽ      ト、、    /三三三三三 l. !!  ./ ;;l゙     .,,./       ./      , / _..-'"´
       .l    ヽ    ..l三゙''-、__/三三三三三三 ∨} / 三|   .,ン/'゙    .,/;∨  ー―ー'、,..-'″
        l     `-、   ヽ三三三三三三三三三三 テ三三| .,..‐゙/  . _..-'"三r'" ̄ ̄ ̄ ̄"
.、、         l.     .゙i..、  .ヽ三三三三三三三三三三三三 !‐"; / ._..-'''´三三/  __,、  __. ..,.. - ̄ ̄ ̄
  ゙'';;- ___l      ヽ`'-..,, ヽ三三三三三三三三三三三三 l゙‐'´三三三 iiン-‐''゙゙´三三三 ゙̄ii./ ″
¬ー-___--ー''''″    __⊥三三`ゝ三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三二=―---
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_-'"゛            !三三三三三ひび割れた――三三三三三三`'-、 \ ___,゙ゝ、、  _..-'"゛
                   〉三三三三三三三三三三三三三三三三三三三 \,i,二-‐'' ̄ン'"゛
 ̄――--___,゙'-、,、  ,/三三三三三三三三三三三三三三三三v-、三三三三三三三㍉、゙''ー ,,_
             `'ジ7"三三三_,,vi丶三三三/.i三三三三三三三三ヽ_ `|三三三三o三三三゙!ミ-/  .`\__、
      ._,, -'' /  ./ ;;.,r‐'''"゛ ./゙三三三/ .、 |三三三三三三三三三~ 三三三三\ .`゙'''ー-ゝ `'-、、 ‐. ̄ ̄
   _..-''´._ /   / ./   、 l三三三/  / .!三三三三三三三三____三三三三三l,_       `゙''''ー- ..
^'''" _ /    ./,./    .,/-l三三三/  _,!__/三三三三三三三三三゙'''ー、, `'''ー ..__三三゙'-、
._..-'"     ,/;i./ .ー ̄^゙'、.,..-''゙三-''7;i,゙_‐´ .,./ 三三三三三 ! ヽ三三三三三゙ゝ、__二ュ三三ヽ、
     ._.. -゙‐─^゙~゙''ー ../゙'''ク´   /三三゙'゙三三三三三三l′ |三三三三三三,____三三三、三三`'、
__‐''"            /     l三三三三三三 /.l三三ヽ .!三三三三 |     ̄ !.、 `'''ーxy..ミll― .__
               /     l丶;.,./ 三-、三/  .l三三三三、三三三|      .| .!     `'-,,ヽ、
                /     ./ /  / ゛  ..l′   .l三三三./ \三三|      .| .|       `'ヽ、
_,,.. -‐''''^゙ ̄ー―┐       ,/'"  /      l,    .ー!'、.;;ノ    `''''、;;.!     │.ヽ            `'-、、
        / /      ,/    ./       .,イ     .! \         ゙' li      ヽr'"'、,
     ,/゛ .`./     /     ./       / .!     .!   ヽ       .ヽ      ヽ  .|'-

395ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/03(木) 00:12:06 ID:OBnTskHU0

从 ゚∀从,・、’

 キリバリ-・アルカードはかつて自分が生きた世でも見なかった規格外の闘気に身震いした。
 それは彼女にとって初めてのことだった。

/ 3, ,’・,・、’

 彼女は咄嗟に自身の黒い腕を構え、防衛の姿勢を取った。
 不死者の王たる彼女の中で、いや、不死者の王たる彼女を構成する全てが、警鐘を鳴らしていた。
 これも、初めてのことだった。

 細胞のエマージェンシーコール。
 それを掻き消すのは、絶対的王者としての自負、驕り。

从 ゚∀从『ほう……』

 常人であれば、直接当てられるだけで意識を刈り取るほどの闘気に触れ、始祖は悍ましい笑みを浮かべた。

从 ゚∀从『素晴らしい。この澱んだ世に、かような瑞々しい覇気を持つ者が存在したとはな』

/ 3

从 ゚∀从『名乗ることを許すぞ。人間』

/ 3「やれやれじゃのう……くたばり損ないの吸血鬼とやらは、随分とせっかちなようじゃ。殺気がびんびんイチモツを撫でおる」

/ 3「ま、儂も冗長な前口上は好かん。では、簡潔に名乗らせてもらおう」

396ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/03(木) 00:17:01 ID:OBnTskHU0
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!、  .ヽ;;;;;゙!コ;;;,iジ;;;;│     ,!;;;;;;/_,  .!  ー゛  .lヽ l;;;;;;;;;;;;;;;;.!  l;;";;;;;;;;;;;;;\   ヽ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;"
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;;;;;; !  .!;;;;;,./ '´ `''i;;;}    .!;;;;;;;;.!  /;ヾヘ;i、;;; l  ./ ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;!  !;;;; l !;;;;`'''√''''ー、、;;;;;;;;;;;;;~″
;;;;;;; !  .,!;/゛  ,、 i、「しかと聞け、異形の者よ」 ,!;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;│  !;;;;/.,/;;;;;;;;;;;;\_   `''-、;;;;;;;;
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397ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/03(木) 00:18:13 ID:OBnTskHU0








        ,・、/ ,゚ 3「儂が神である」








.

398ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/03(木) 00:18:54 ID:OBnTskHU0
寝ます
少なくてごめんね
また明日

399名無しさん:2017/08/03(木) 01:40:36 ID:Mwr/g9SI0
乙乙
ブーン=戦神だったっけ?

400名無しさん:2017/08/03(木) 01:44:30 ID:/8svAyb20
悪い方向に転がりまくってる
ブーン達帰ってくる頃に学園あるの・・・・・・?

401名無しさん:2017/08/03(木) 02:50:38 ID:e.fRkFrk0
あの冒頭にちゃんと戻れるのか
ハラハラする

402名無しさん:2017/08/03(木) 07:24:38 ID:icmJhTMs0
ジョルジュさん物凄くかき回してんな

403名無しさん:2017/08/03(木) 12:44:15 ID:JE.ispvA0

ペストはやっぱり……

404ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/03(木) 22:31:10 ID:OBnTskHU0
おれおろえおっっれ

405ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/03(木) 22:32:25 ID:OBnTskHU0




第二十七話「闘いのマトリョーシカ」




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406名無しさん:2017/08/03(木) 22:34:39 ID:ixpFx9Ls0
いいぞ

407名無しさん:2017/08/03(木) 22:35:07 ID:JE.ispvA0
あれ昨日の二十七話は!?

408ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/03(木) 22:36:58 ID:OBnTskHU0
ああああああああごめんなさい小分けで投下するようになってから感覚がごちゃまぜなんでなかったことにしてください
もうころしてくれ

409名無しさん:2017/08/03(木) 22:40:14 ID:ixpFx9Ls0
落ち着け、二十七話は逃げないぞ

410ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/03(木) 22:47:18 ID:OBnTskHU0


       / ,' 3
                  从∀゚ 从


 翼を持たない荒巻が自分と同じ土俵、地上から遠く離れたこの場に滞空している。
 それに対して、始祖は何ら疑問を抱かなかった。

 その声質は異なれど、人間とは違う領域に身を置いているという点で共通している二人にのみ理解出来る事象は多い。

从 ゚∀从『力のみで神仏の域に達したか。業の深い者よな』

/ ,' 3

从 ゚∀从『その域に到達するまでに、どれだけの強者の芽を摘んだ?』

/ ,' 3「はて、お主は”人間”とやらが肉を食うのに、家畜を憐れむような生き物だと思っておるのか?」

从 ゚∀从『…………』

 ハインの身体を借りて、ハインの顔で、始祖は高揚を露わにする。
 荒巻は腕を組んだまま、始祖の金色の瞳に冷めた視線を飛ばし続ける。

从 ゚∀从『その驕りは、嫌いではない』

411ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/03(木) 23:03:38 ID:OBnTskHU0

 歪む空間の中、闘気が鋭い刃物のように鍔迫り合う。
 鎌鼬が飛び交い、空気を切り裂く。
 始祖の頬を、闘気の刃が掠める。
 一筋垂れた血を、まだ人の形を保った指先ですくい取り、満足げに目を細めた。
 頬の傷が瞬く間に癒える。
 絹のような、白い肌が再生しきったその時、示し合わせるでもなく二人の”コミュニケーション”は始まった。

/ ,゚ 3,,’・「ふんッ!」

 枯れ木を思わせる、深い皺が刻まれた老人の顔。血管が浮き彫りになる。
 始祖に向けた掌は何を放つでもなく、発声による発破のみで始祖の身体を地上に叩きつけた。

,・、’从 ゚∀从,・、’

 濁流が彼女を避ける。
 否、何者にも干渉されぬ筈の、大海嘯の如き流れすらも、彼女が受けた衝撃に巻き込まれたのだ。

412ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/03(木) 23:16:25 ID:OBnTskHU0

 再び流れを取り戻した濁流がたちまち始祖の身体を覆わんとする。
 その刹那、水の流れよりも先に荒巻は地上に降り立ち、地面に仰向けになっている彼女に馬乗りになっていた。

/ ,' 3「儂のみが、疾きを堰き止め、堅きを打ち砕くことが出来る」

 二人が共有する時間は、学園の強者達が闘気をぶつけ合う際のそれよりも、薄く、極限まで引き伸ばされている。
 一秒が永遠に近い次元で、言葉を介さずとも伝わる極限のやり取り。

从 -∀从『――――』

从 ∀从 ニィ...

 自分の視界が、浅黒い拳で埋まるのを満足げに見つめながら、始祖は振り下ろされるそれを無防備に受け止めた。
 頭部が爆ぜ、飛び散る脳漿は一瞬で蒸発する。
 その拳の前にはあまりに脆弱な肉。
 それを軽々と突き破って、荒巻の拳は地面を”撫でた”。

413ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/03(木) 23:21:10 ID:OBnTskHU0
.   _.. -''″     .__..__,、           -=ニ゙゙ニ--- -......,,,,,_、     .'`-┷lli..,, ,_
. ‐'″  _,,.. -ー''''^゙゙二ri'ニ.... ....、............. ...._,,,_            ゙゙゙゙̄''''lllll,,,,_
..,.. -''"゛          _,,,.. --ー''''."゙.´                       ̄''''―
    _,,,,,       ` ̄ ̄ ゙゙゙̄! ,,__      .,,,,..uuii、;;;;;;y ......,,,,_,i-............ ......,,,,
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...ノ'"  .,.. -''',゙..r''“゙゙“´         |!       i| i             `'''ー、、
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        ̄ ゙゙゙゙゙゙゙゙゙̄ '''''゙゙. |l                  l|
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              \ _ノ,'      _  |!         l|     /
....   く>         ヾ<       /Υ 〉 !|   _  |]    ー '´/
                    }l       〈_::」/  :!:i:  〈/    __   l {      /
        \、    /,    __     .:|.:|: .     _ノ::::\\  、ヽ. __/
.            \ー '    「::::://    . :.:|:.:.v!: .    \::::://    ー   (       /
.             ) )     〈::::://   . . : ::!:.: .:|: : .      ̄      i      ー '/
   \ 、    // l7    ̄  . : :|: :: :!: :. :|: : : . . .      l>   il     フ∠/
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.          ):.:\ 八:.\_ 人 )、 : : ノ.:V.: : .::.: :!: :人 八,、 ノl / : ノ,、 /: (
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

414ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/03(木) 23:40:52 ID:OBnTskHU0

/ ,' 3「ほっほっほっほ。力加減が煩わしくてかなわんわい」

 空高く昇る闘気の渦。
 幸い上空に逃げた高エネルギーは学園を更地にすることはなく、空を震わせるだけに留まった。
 それでも彼の拳を中心に、大きなクレーターが出来上がり、周囲の水は干上がっていた。

/ ,' 3「しかしあまりはしゃぎすぎると地上諸共吹き飛ばしてしまうでな。わかるじゃろ?」

 クレーターから赤い靄が噴き上がる。
 それは瘴気のように一度大きく拡がり、一処に収束する。
 瞬く間に人の形を形成してゆく。そして肥大する腕。爪は猛獣のように伸びる。

/ ,' 3「カビ臭い老害のお前さんにはわからんかもしれんが……そうさな、ふぁみこんによく似ておるの」

/ ,' 3「強い龍や獣を倒す為に、必死に鍛錬を積むんじゃ。そうしてようやっと有象無象を駆逐出来るようになったころにはの……」

415ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/03(木) 23:51:01 ID:OBnTskHU0

/ ,' 3「じぇーーーーんぶパァになってしまうんじゃ!」

/ ,' 3「儂はただやりたい放題したかっただけなのにのう、全てがぼたんを一度押すだけで消し飛んでしまう」

/ ,' 3「血湧き肉躍る闘争も、一度撫でただけで終わると解っていればこれほど興ざめな事もない。そんなものは、最初から壊れているのと同じじゃ」

/ ,゚ 3「ほほっ! パァ! 全部パァ! 戦友も女も街も星も、全部壊れてしもうた!」

 大股を開き、両手で頭を抱えながら、地面すれすれまで状態を反る。
 その姿勢のまま荒巻は降り注ぐ雨など気にも留めず、曇天を仰ぐ。
 気が触れた老人は長い白髪を振り乱しながら、自身の視界に映るあらゆるものの無力を呪った。

/ ,゚ 3「おなごじゃあるまいし! つまらんのう、つまらんのう! 儂はただ肉を力いっぱい殴りたいだけなんじゃ!」

416ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/04(金) 00:07:11 ID:IFipDMBU0

从 -∀从『白痴の戯言ほど聞くに堪えん雑音は無いな』

从 ゚∀从『だが闘争にかける飽くなき欲求は褒めてやろう。ヒトとは矜持を貫かんと決めた道を進み続けるからこそ、常軌を逸脱出来るのだから』

 一糸纏わぬ姿で再生を果たした始祖は、黒い腕を振りかざす。
 えび反りで頭を抱えたまま、髪を振り乱す荒巻に向けて、爪を降ろす。

/ ,゚ 3「ほっほほほおおおおおおおおおおお!」

 荒巻は残像のみを残し、姿勢を変えぬまま真上に跳んだ。

从 ゚∀从『闘争とは矜持でなければならない。勝敗などその副産物でしかない』

/ ,' 3「然り!」

从 ゚∀从『ならばこそ、生きとし生けるものの頂点に座す私は、白痴の歪みきった矜持も愛でる義務があるだろう』

/ ,' 3「然り! 然り! 然ァり!!」

417ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/04(金) 00:22:55 ID:IFipDMBU0

 えび反りのまま宙を舞う荒巻を視界の中心に捉え、見据える始祖。
 標的の肉を掴むことなく地面を抉る黒い爪に力を込め、その身体は次の動作の初動に移る。

/ ,゚ 3「どおおおおおうした!? 儂を愛でるのではないのか!? 止まって見えるぞ!」

 一瞬で始祖の懐に潜り込んだ荒巻は、えび反りから腹筋の力のみで上体を撓らせ、自分よりも二回りも小さな彼女の頭部に頭突きを見舞う。

从 ゚∀从『掌に舞い込む羽虫を、気まぐれで愛でるような下卑た感覚よ! 愛らしいぞ小僧!!』

 自身の額を荒巻の額に擦りつけながら、肥大した腕で荒巻の身体を抱き込む。
 ささくれだった木のように、鋭い棘が突き出る。
 甲高い音。金属音に近い何か。
 棘と荒巻の肉体がぶつかりあう音。
 棘を纏った腕の、無慈悲の抱擁の中で、荒巻は無邪気な赤子のように嗤う。

418ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/04(金) 00:29:46 ID:IFipDMBU0
急用につきお終い
きりが悪いのでいっそころしてくれ

419名無しさん:2017/08/04(金) 00:31:35 ID:YiwHggak0
こんな時間に急用とな。
おつ!
荒巻って今まで出てきたっけ?何者だ?

420名無しさん:2017/08/04(金) 00:38:32 ID:pf66fCRo0
乙乙
前スレでフォックスと話してた先代のブーンだったはず

421名無しさん:2017/08/04(金) 18:11:59 ID:TxGJdAGM0
荒巻のイカれ具合が楽しい

422ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/04(金) 18:57:03 ID:IFipDMBU0
すみません
昨日の急用が引き続き今日にも縺れ込みそうなので、今日も厳しいかもです
来れたら来ます
申し訳ない

423名無しさん:2017/08/05(土) 10:29:43 ID:pg47h9fQ0
今日はどうだ

424名無しさん:2017/08/05(土) 10:49:24 ID:Vr3wzMI60
いける

425ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/05(土) 20:44:31 ID:Vr3wzMI60
いきます

426名無しさん:2017/08/05(土) 20:56:57 ID:aGAEcMJw0
よろしいならば支援だ。

427ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/05(土) 20:58:37 ID:Vr3wzMI60

从 ゚∀从(鋼鉄をも破る我が腕をもってしても生傷を入れる程度か……)

/ ,゚ 3「ほぉれ! ほれほれ! 儂を失望させるな! 愛でるというなら思い出させてみよ!」

 自身を覆う獣の腕を引き千切りながら、荒巻は吠える。
 荒ぶる戦神の咆哮。
 万物をも震わせるその怒号は今、彼が対等と認めた吸血鬼の始祖にのみ向けられる。

/ ,゚ 3「我が子を抱く母の慈愛を! この血湧き肉躍る闘争の中で!」

 互いに放つ戦慄の覇気は、常人ならば触れただけで身体すら蝕む猛毒と化す。
 極限の空間でのみ解り合う二人の拳。小細工など有り得ない。

从 ゚∀从『面白いッ! 実に瑞々しい! この腕の中で躯となり眠ることを許そう!』

/ ,゚ 3「破ァアアアアアアアアアアアアア!!」

,・、’从 ゚∀从『その獣の衝動。愛せるのは天上天下にただ一人、私だけだということを識れ!』

/ ,゚ 3「マァアアアマアアアアアアアアアッ!!」

428ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/05(土) 21:17:08 ID:Vr3wzMI60



 肉を穿つ音が鳴り響く。



 四肢を引き千切る音が連なる。



 二人分の嬌声と共に。



.

429ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/05(土) 21:33:23 ID:Vr3wzMI60
/i:i:/i:i:i:i:i:i:i:i:i:/i:i:i:/.:)/ノ爻爻彡彡ヘililiV/;:;:;:.xi(爻淡淡爻淡淡慫戀戀戀慫戀戀慫慫戀戀戀戀
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430ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/05(土) 21:56:30 ID:Vr3wzMI60

 陽は落ちて、雨は木々を濡らす。
 素直邸の門扉は目の前なのに、ぼくにはすごく遠くに見えた。
 何発殴られただろう。何度転ばされただろう。

(#))メω^)

( ^Д^) 

 右目はもう、殆ど見えなくなっている。
 今にも火を吹きそうなくらい瞼が熱いから、きっとたこ焼きみたいに腫れているのだと思う。

 全身が軋む。骨の髄まで痛いから、立っているだけでもう、泣いてしまいそうだ。
 何時間経ちました?
 聞く気力すらとうに無くて、ぼくは、闘いの体裁を整えるためだけに、拳を構えている。

( ^Д^)「……終わりだな」

(#))メω^)「……ゃれ……すお……」

( ^Д^)「強がるな、見りゃ解る。お前もう、心が折れちまってんだよ」

431ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/05(土) 22:14:28 ID:Vr3wzMI60

(#))メω^)「…………」

( ^Д^)「努力も認める。俺が戯れてやってる中で、色々試行錯誤してたのも全部分かってるよ」

(#))メω )「……」

( ^Д^)「でもそれじゃあダメなんだよなぁ」

 プギャーの教え諭すような声色が、なぜかぼくの胸にすっと落ちてきた。
 ぼくは彼の言ってることを、理解している。
 そう自覚出来るくらいには、理解出来ている。

 そんな冷めきった理性に塗り潰されて赤子の鳴き声が聞こえたような気がした。
 ぼくは以前にも同じようなことを経験したことがある。

 思えば、あの日も雨が降っていた。

(#))メω )

432ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/05(土) 22:24:42 ID:Vr3wzMI60

━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━
━━━━━



(  ω )「ハイン……ぼく……は……」

从 ゚∀从「喋んなよ。分かってるから」

 冷たい指先がぼくの頭を撫でる。

 血も通ってないのに、身も凍るほど冷たいのに、どうして、どうして彼女はこんなに温かいのだろうか。

 目の奥が熱くなる。
ただでさえ情けないのに、こんなところを、彼女には見せたくないのに……

 親に売られた時にすら湧かなかったものが、じわりと染み出してゆくのが分かった。

从 -∀从「ほら、痛いの痛いのとんでけーってな」

 滲んだ視界いっぱいに、彼女の顔が映り込む。
少しだけ長い犬歯を見せて、ハインは微笑んでいた。



━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━
━━━━━

433ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/05(土) 22:42:53 ID:Vr3wzMI60

(#))メω^)(そうだおね……もう二度とあんな思いをしたくないから、強くなろうとしたんだおね)

 更に遡ると、最初に強くなりたいと思ったのは、怖いもの見たさにも似た王位への興味。
 中途半端な力を持ってしまったがゆえに、悔しいという気持ちが芽生えた。

 あれからぼくは、どれだけ進歩したのだろう。
 血の滲むような努力も、経験してきた修羅場も、それらをどれだけ自分の血肉に出来たかを思えば、
 そんなものは自分の採点でしかないから。
 ぼくは無意識にそれを避けていたのだろう。

 相対評価でしか物事を比較出来ない、ごく一般的で浅はかな自分の思考回路を呪う。嗤う。

( ^Д^)

(メ;-A-)

 ねぇドクオ、辛うじてプギャーに一発入れた君は、本当のところぼくをどう思っている?

 強く、なっていますか。

434名無しさん:2017/08/05(土) 22:49:30 ID:QYcVw0t.0
遭遇支援

435ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/05(土) 22:55:52 ID:Vr3wzMI60

( ^Д^)「なぁ坊っちゃん。この期に及んでこいつはお前頼りみたいだぜ」

(メ;-A-)「……」

( ^Д^)「ちいと甘やかし過ぎたんじゃねぇのか? ケツ拭きくらいは手前でやれ。どこの世界でも大前提のお話だぜ」

(メ;-A-)「黙ってろ」

 木の幹に背を預け、寝そべったまま、ドクオは首を擡げてナイフの切っ先をプギャーに向ける。

(メ'A`)「そいつはやるよ。絶対に、やるやつだ」

 陽が沈んだ後の、深い闇に閉ざされた森の中。
 プギャーが放つ雷光だけが、視界を開いてくれる。
 そんな頼りない世界の中で、彼がプギャーさんに突きつけたナイフの輝きが、頼もしかった。

 (#))メω^)
 ○    っ゙

(#))メω ) フゥ...
 ○    っ゙

もう少し、もう少しだけやってみるさ。

436ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/05(土) 23:39:25 ID:Vr3wzMI60

 背中を押す。
 その熱は燃えるようで、ぼくは一瞬、自分が干上がってしまいそうな錯覚に陥った。
 半分しかない、閉じた視界。
 ただでさえ朧げで暗いのに、こうなってしまってはどうしようもないじゃないか。

 ああ、ペストのハンバーグが食べたい。
 これが終わったら、肉を食べよう。何の肉でもいい。
 そして熱いシャワーで傷を虐めて、泥のように眠るんだ。

 だから、もう少し、本当に、もう少しだけ。

(#))メω )

 ぼくは自分の隣に、誰かの温もりを感じることが出来た。
 ドクオではない。そしてハインでもない。ぼくは多分このヒトと会ったことがない。

从 ー 从

けれど、そのヒトはとてもアタタカクテ、どこか懐かしかった。

437ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/05(土) 23:43:31 ID:Vr3wzMI60

━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━
━━━━

 視界が畝る。

 プギャーも、ドクオも、溶けて無くなってしまう。

 それを止めることが出来ずに、ぼくは近くにあったその手を取った。

 とろけきった世界のアルゴリズム。

 どう足掻いても沈むぼくの身体。ぼくの頭。

 そして――



.

438ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/05(土) 23:46:35 ID:Vr3wzMI60
 ̄”¨“二_ ─-   ..._         _        _   --─    ̄
    L_|          ̄””¨¨ ''' …||─|…¬   ̄                    _,,..
冖¬…─--    ....,,,,__      __||_|       __,,,......   ---─…_二二 -─…
 ̄ ̄    冖冖¬¬……===ニ二____|| ̄ ̄:||-─__.二 ̄-┬…¬冖 ''  ̄|| | |¨~ ̄   .| |
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================¬¬LLLLLニi :|    |    |
       |::丁¨¨¨¨¨¨|       | |  ̄|  ̄| |    |    |
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   r-‐ ''  ̄`丶、___⊥_丁 ┬‐┬ _-─……─- _┌─┐-──--   _ _ ....  ....._
    |`''| ̄__「‐=ニ¨__  -┬_⊥‐_|_」L_丁¨¨¨¨¨丁二 -─  '''' - ̄|~ ̄ | 丁 ┬─  ┌ ' 丁
…‐-⊥._|<ノ. ||.: .ノ||─-=ニ '' ~ ̄    ___二ニ=- | ̄``T=-r-‐=ニ~~┌┴┐⊥┴ '^~' - .⊥..,__|
二 ̄-L⊥ ┴…¬冖''<_/| ̄ 丁二二二ニニ=ー┴┐_⊥-┴━┴ ⊥_ ¨T=-  _. -=T''丁 |
└ ̄_  _  --─…¬T「─〈|:|  ̄i{   |i//- _¨    _    -‐=ニ「__ノ |~^'||'¨| /  || ||_ -
  ||笊丁|二ニ=||¨ ̄ ̄ ̄`||_二⊥L__j{-─ // . ||. }¨|二弌二二二ニ=-‐|| ||_⊥ ||_⊥-‐ ¨
─|/_jⅥ:| ̄_」L  -‐  ¨       ¨ -=彡T||丁 L____||丁~~|| |└‐√. . . i{ 丁ニ=‐  _
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439ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/05(土) 23:55:41 ID:Vr3wzMI60

 瞬きを三回。

 そこはぼくがよく知る場所。
 VIP学園の教室。更に厳密に言うと、ぼくが編入した日、自己紹介の最中に黒板を撃ち抜かれたあの場所だった。

从 ー 从「ごめんね」

 あの時ぼくを脅して銃を撃った生徒の席に、その子はいた。
 ぼくはというとあの日と同じで、教壇で立ち尽くしていた。

( σω^)「…………」

 視界が鮮明だ。右の瞼を指でなぞる。
 あれだけ熱を持っていた腫れが、きれいさっぱり無くなっていた。

从 ー 从「ごめんね、お父さん」

 薄い絹のような白のワンピースが、開いた窓から吹き込む風を受けて棚引く。
 あまりにも透き通っているから、裸体とそう変わらないように見えた。
 それでも衣服と同じように、女の子自体が妙に"薄い"気がして、彼女をまじまじと見つめる後ろめたさは無い。

( ^ω^)「ぼくは君のお父さんじゃないし、謝られても困るお」

440名無しさん:2017/08/05(土) 23:56:18 ID:ZtWq5UoY0
全力支援

441ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/06(日) 00:04:26 ID:Ijq9I4qk0

从 ー 从「お父さんはね、まだ出てきちゃいけないの」

  _,
( ^ω^)

从 ー 从「だってお父さんがまだいるから。お父さんは出て来れないの」

( ^ω^)「……」

从 ー 从「でもね、あのお父さんは、ほんとはもう存在しちゃだめなの。だから、すごく困ってる」

( ^ω^)「……うん? うん」

 女の子の言ってることを理解するのは、早々に諦めた。
 それよりも不思議なことが一つ。
 ぼくは現在進行系で、この子の顔を見ているのに、その子の顔が見えていない。

 隠れているわけでもないのに、脳が彼女の顔という情報を遮断しているような、不思議な感覚。
 その違和感に気付いた途端、胸がざわつき始めた。

( ^ω^)「君の名前は?」

从 ー 从「――」

442ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/06(日) 00:13:36 ID:Ijq9I4qk0

 まただ。

 彼女の口は動いていたし、きっとその声帯は正しく振動して、自身の名を紡いだのだろう。
 けれどもぼくはその名を頭に留めることが出来なかった。

( ^ω^)「気味が悪いお」

 率直な感想だった。
 口角を薄っすらと上げただけの、幸薄そうな微笑み。
 口元から上が見えないから判らないけれど、あるいは不敵な笑みを浮かべているのかもしれない。

 どちらにしても詮無いこと。
 ぼくはこれを白昼夢の類だとあっさりと割り切り、貫徹して冷ややかな態度を取る自分の理性にぞっとした。
 それでもこの状況は、そう解釈する他ないだろう。

( ^ω^)「じゃ、ぼく行くから」

 どこがこのまやかしの出口なのかは知らないけれど、教室の戸を開けて外に出れば、何か変わるだろうという安易な発想。
 自分の直感を信じるまま引き戸に手をかけた時、ぼくはなぜだか判らないけれど、もう一度あの子を見ようと思った。

(   ^)ミ

443ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/06(日) 00:21:44 ID:Ijq9I4qk0
  

      ,.....ェzzェ....、                    ,.....ェzzェ....、
     .ィ尖:圭圭圭尖:、      ご         .ィ尖:圭圭圭尖:、
   ,:勿汐i:i:i:i:i:i:i:i:弐小!              ,:勿汐i:i:i:i:i:i:i:i:弐小!
  爪汐i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i弐小       め     爪汐i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i弐小
  {圭i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:圭}             {圭i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:圭}
  守弐i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:沙汐      ん       守弐i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:沙汐
   守弐i:i:i:i:i:i:i沙才'                守弐i:i:i:i:i:i:i沙才'
     `守:圭圭:才´                  `守:圭圭:才´

                   ね

444ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/06(日) 00:28:10 ID:Ijq9I4qk0

::(  ゚'ω゚)「っ!?」

 一切の気配すらなく、その子は首筋にまとわりつくようにして、ぼくの背後に立っていた。
 そして、見てしまった。
 なぜ他ならぬぼく自身が、この子の目を見ることを拒否していたのか――

 やっと、理解出来た。

(  ゚'ω゚)「おっ……お前……ッ!」

 気道にどっと流れ込んでくる空気が熱い。
 焼け爛れた喉から、泥を吐き出してしまいたい。

 ぼくは全てを理解すると同時に、その全てを呪った。

(# ゚ω゚)「失せろ! いなくなれ! いなくなれお!!」

 手で振り払う。
 それと同時にぼくの視界が、文字通り"裂けて"ゆく。
 ぐちゃぐちゃに千切れた紙くずのような世界が瞬く間に終わってゆく

445ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/06(日) 00:32:20 ID:Ijq9I4qk0




       从 ー 从





 女の子の目が、もう見えない。



      (  ゚ω゚)


 いやだ、いやだ――


 あれを、あれを忘れてしまったら、ぼくは……いや、皆は……



     (  ゚ω゚)

     从 ー 从

     (  ゚ω゚)

     从 ー 从






.

446ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/06(日) 00:40:44 ID:Ijq9I4qk0

━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━
━━━━

( ^Д^)「っ!?」

(メ;'A`)「…………」

(;;,;;;;ω゚)「うっ……」

 身体が熱い。長い、長い悪夢を見ていたような、そんな気分。

( ;^Д^)「お、お前――」

 目の前にいる人がプギャーだと気付いたのは、ぼくが思い切り彼を殴り飛ばした後だった。
 肉を打つ拳の感触が、果てしなく遠い。
 寒気がする。鳥肌が立っている。なんだ、なんだこれ。

(;;,;;;;ω゚)「うわああああああああああああああああああああっ!!」

 叫ばずにはいられなかった。
 体中から生気が吹き出て、出涸らしになってしまいそうな危機感があった。
 コマ送りの映像のように吹っ飛ぶプギャーを尻目に、ぼくはひたすら、自分の身を両手で抱く。

447名無しさん:2017/08/06(日) 00:43:28 ID:C1ev.l/Q0
いいぞいいぞ

448ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/06(日) 00:46:11 ID:Ijq9I4qk0

(メ;'A`)「お前……あの時の……!」

 どうして、どうして君がぼくに向けてナイフを構えてる?

 意味が判らない。
 ぼくはただ――ただ――!

 なんでもいい。なんでもいいから、この悪寒を、止めてくれ。

(;;,;;;;ω゚)「――ッ!」

 最早叫びにすらなってないのかもしれない。
 声を出さずにはいられなかった。

 なんだよ、なんだよこれ。
 寒い、寒い、寒い。

(メ;'A`)「――――!」

( ;^Д^)「――――!」

 君たちが何を言っているのか解らない。
 お願いだから、タスケテくれ。声を、聞かせてくれ――!

449名無しさん:2017/08/06(日) 00:47:15 ID:36.R5Qnc0
これもブーンが聞くことを拒否ってるのかな

450ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/06(日) 00:52:16 ID:Ijq9I4qk0

 「おまたせ、今代のブーン」

 その声だけが、はっきりと聞こえた。

 「びっくりしちゃったね、でも大丈夫」

 すがりつくように、てをのばす。

 「君の出番にはまだ少し早い。だから、ね?」

 ぼくの手は、本当に声がする方へ……

 「ぼく達大人が不甲斐ないせいで、君達には辛い思いをさせちゃうね」

 伸びて、いるのだろうか。

 「でも今はその時じゃないから、今は安心して」

 ぼくは、ぼくは――

451ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/06(日) 00:54:24 ID:Ijq9I4qk0





 o川*゚ー゚)o「おやすみなさい」


 クー会長によく似た女の子が、いた。

 彼女と目が合って、こめかみに衝撃が、走った――




.

452ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/06(日) 00:55:26 ID:Ijq9I4qk0
おわり
久しぶりに支援曲聴いたんですけどやっぱいいすねこれ
明日もよろしく

453名無しさん:2017/08/06(日) 00:56:39 ID:36.R5Qnc0
2箇所で地殻変動起こしたら流石に星が滅びそう
ブーンが暴れてるとゾワゾワするな 乙

454名無しさん:2017/08/06(日) 00:56:58 ID:C1ev.l/Q0


455名無しさん:2017/08/06(日) 01:01:06 ID:evJPpeKo0
いいぞ��

456名無しさん:2017/08/06(日) 02:07:20 ID:KxRUsOlo0
おつ!

457名無しさん:2017/08/06(日) 18:40:38 ID:9Dr0VMB20
龍がますます謎めいてきた

458名無しさん:2017/08/06(日) 22:47:14 ID:s69mtRyo0
アラマキは始祖を同等と見たのか
どっちもとんでもねぇな

459名無しさん:2017/08/07(月) 19:32:56 ID:gtn9K6fo0
きょきょきょきょきょうはくくくくるんですか

460ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/07(月) 20:41:59 ID:5hZ/Ygow0
昨日は寝てました
申し訳ない
今日はやります
もうちょっとしたら投下
よろしく

461名無しさん:2017/08/07(月) 20:56:14 ID:1y3naObM0
超まってた

462名無しさん:2017/08/07(月) 21:13:55 ID:45ptr7620
よっしゃ

463名無しさん:2017/08/07(月) 21:20:52 ID:n1./65rc0
yatta!!!!

464ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/07(月) 21:22:43 ID:5hZ/Ygow0






第二十七話「闘いのマトリョーシカ」







.

465ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/07(月) 21:26:52 ID:5hZ/Ygow0
毎度毎度すみません
二十七話がかれこれ三回目だ
やりなおします

466ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/07(月) 21:27:25 ID:5hZ/Ygow0






二十八話「闘いのマトリョーシカ」





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467ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/07(月) 21:27:55 ID:5hZ/Ygow0
                                 i
                                 |
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 ̄ ̄―‐―― ___ ̄ ̄―――  ___ =―              ==━___ ̄―
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 ̄___ ̄―===━___ ̄― ==  ̄ ̄ ̄  ――_――__―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐―
______――― ̄ ̄ ̄ ̄ ̄_____――━━― ̄ ̄ ̄ ̄ ̄______ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄___
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468ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/07(月) 21:28:30 ID:5hZ/Ygow0
                                             ,イ    ,イ ,イ
                                              /ム―7 レ .レ
                                         //ニ7/
                                            /' ̄7/
                                 i             .//
                                 |           /'   __
                      `.、          .i|            /´ > ,.イ
                        \、         i|            ´ ̄  /_/
                         \、     .|i|                  //
                          \ 、   .|i|                 //
               ̄ ̄   ―      .\ 、 ,ノ し ’  ̄    _   |/,イ,イ ,イ               ̄
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 ̄ ̄―‐―― ___ ̄ ̄―――  ___ =―                =  / /  _ ̄―
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――――― ̄ ̄___ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄_____――― ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄_ レ' ____ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄__

469ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/07(月) 21:37:44 ID:5hZ/Ygow0

 _
( ゚∀゚)「いつまでちょこまかとやってやがる」

( <●><●>)「……」

 _
( ゚∀゚)「今更やっぱり敵いませんでした。見逃してください、なんてこたねぇよなぁ!?」

 二人の闘いは極めて静かだった。
 絶え間なく追撃を放ち、隙あらば肉体を破壊し得るだけの打撃を差し込むジョルジュ。
 対照的に、それらを完璧なタイミングで受け流し、ダメージを最小限に留めるワカッテマス。

 水と油の如く混じり合わない二人のスタイルが均衡しているからこその静寂が、そこにあった。

 _
(; ゚∀゚)「――っ!」

( <●><●>)(ここッ――!)

 二人の間の均衡の糸が、突如音もなく切れた。

470ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/07(月) 21:51:20 ID:5hZ/Ygow0

 膝から崩れそうになったジョルジュは片手で転倒を防ぐ。
 が、そこには両者にとっては充分過ぎる致命的な隙があった。

 _
(; ゚∀゚)(やっっっっっっっっっっべぇ!!)

 避けきれない。が受けることもままならない。
 右手。軌道は、真っ直ぐ。
 的確に、心臓に目掛けて――

 一瞬で眼球が干上がるような錯覚。達人の境地にいるが故の引き伸ばされた時間。
 脳の命令は凡愚のそれを遥かに超越。
 だからこそ、王位は不可能すらも可能にする。
 _
( ゚∀゚)「ッらぁ!!」
 ゙っミ                                                  ,r‐‐″ _..v'l,゙_,/゛
                                                 /   l / /      .i、_..v
                                          ,   .iヘ. ..,./   _,]./ ゙‐' .i    /.∪′
                                          ,l、  /  .゙_.. -''./ .!|    .!l, .,, ‐7
          i!                                  / .ゝ'", ''几   |" ! !   .| ゙く /  ., '"゛
       !l゙                              ,i|  iヽ,,/   l゙ ./ │  .l゙ .,! l ,.. !     /
       l ,!                      l,   /   /│ ./   .l _..-ー''"/  .ヽ / .!  .ヽ /     l
      l |                      l .l  / l ./ . l`゛   l゙    ./     . ,./   `゛  ,/¨´
      / .|      ∥         、   ! ヽ /  .∨  ! ,..iヒ''l}.iヘ  ./  ェ / !      /
     /  .|      !.!   iイ  i   l.l  /  .´  ./    レ゛ l゙ l! !l゙ .゙' /   ,!.゙l, .l゙      ._|
     !  .|     l .l   / .l,./!  ! ヽ./     .,,イ゙    l. | .,! !  .n ,./ l  ヽ../    _z‐¨
     .!   .l    ││ ./  / ,!, l     .,..-'''"゛/     `゙│ .!  |. l  /       .l゙
     !   .!  .、 /  ! i′ / .lト′   .i./    l゙       !  .l,.┤ .ゝ"    _z-'''"
    .!   │ l,  |  |,/  .l゙  ∥ . _,,,..-'j{    !       l   .∪      .,ゝ
    l    .l l.l ,!  .l  /   l!`¨    ! l. /く !     ._..-l゙         /
    !     .l.l `'〕   .|  .!   |i    l  ゙‐' `  .L  ./  l゙            {′
    .,!     ″│   !´.l    .》,  ./         l !._,,.l|、  l      _z -''
    .,!       .l゙    .l .|    .lヽ..ノ     _.. / l. l ヽ l     _/¨´
    .,!      _i!    .l !     .l      '.lii./   ヽ/ .゛     ゝ
    !  . ,..-'''"゛ |     .l.!     .l   .,..-'" l゛       . / ̄
    |___て .i, |     .!      .l,.;ir'" .、 ./        l゙
            |ヽ|     .|         !iヒ'、 .l\,l′      ,..ゝ
         │゛     .!       .!レ`           /
          !      l                /
             !      .,!                _r'"゛
           |    ./⌒!             ir'"¨
              !¬¨¨″  l         ,/´
                 !          /

471ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/07(月) 22:08:51 ID:5hZ/Ygow0

 鉤手の振りと呼応するように噴き上がる炎が、ジョルジュを守る。
 咄嗟に身を引き、水が干上がった後の不安定な足場に着地し、ワカッテマスは額の汗を拭った。

 _
( ゚∀゚)("あそこ"から引けるか……体術は五分、いや、俺以上……!)

( <●><●>)(体術ならば五分以上に渡り合える。だがなかなかどうしてあの炎が鬱陶しい)

 _
( ゚∀゚)(術の出し惜しみが出来る相手じゃあない……だからといって乱発するのは愚策。炎は無限じゃねぇんだからな)

( <●><●>)(このままじゃあジリ貧。それは最初から承知。俺が今やるべきことは、奴の魔術の制約らしきもの、その糸口を掴むこと)

 _
( ゚∀゚)(極端な弾の節制は逆効果。あちらさんは魔術のマの字も知らねぇ連中だ。だからこそ、普通じゃありえねえハッタリすらまかり通る。それを利用しない手はない)

( <●><●>)(無知など最初から悟られてる。ここでやってはいけないことは、探りを所作に滲ませないこと。この極限下、一瞬の都合のいいブラフに全てを持っていかれかねない)

 _
( ゚∀゚)(術は最小限、だがぶっ放す時はド派手に。一発一発を身体に印象付ける!)

( <●><●>)(探りは第二……あくまで一撃必中を狙う。あちらの動揺から滲み出たものだけを判断要素に取り入れる!)

472ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/07(月) 22:42:13 ID:5hZ/Ygow0

 ワカッテマスの初動が速かった。
 地を蹴るのと同時にジョルジュの懐に潜り込み、突き刺さんばかりに軸足で地を踏む。
 旋回する上段蹴り。その軌道は半円を描く。
 だがそれをはっきりと視認出来る者は少ない。

 _
(;゚∀゚)「くっ……!」

(;<●><●>)「――っっ」

 狙うは一撃必中。
 とは言え、魔術師の力を度外視したとしても王位として充分な武力を持つジョルジュを相手に、何度もそのような機会に巡り会える筈も無い。

 互いに静の状態。
 つまり見合っている膠着状態を、最速の初動で乱した際に生じる僅かな隙を突く。
 口で言ってしまえばこれほど単純なことは無い。
 だが瞬きの時間よりも遥かに短いその刹那に、自身の殺意を差し込むことなど、事実上不可能だ。

 だがワカッテマスは、それを為した。

473ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/07(月) 22:50:32 ID:5hZ/Ygow0

( <●><●>)(受けた時点で終わりだ! 完璧に差し込んだ――)

 ワカッテマスは自分の心臓の音を聞く。
 一際強く響いたその鼓動が、背中を押すように――
 蹴撃は加速し、刹那を駆る。

 _
(;゚∀゚)

( <●><●>)

 ジョルジュの側頭部に足の甲が触れる。
 そこが蹴撃の加速のピーク。
 削ぎ取るように、耳を抉り、刃の如き蹴撃は深く、深く――

 ジョルジュの肩に刺さり、沈み込む。
 骨を砕き、肉を断ち、到達する。

 心臓部に――

474ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/07(月) 22:51:24 ID:5hZ/Ygow0

━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━
━━━









.

475ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/07(月) 23:01:26 ID:5hZ/Ygow0

 _
( ゚∀゚)(……と、思ってるんだろ?)

 ワカッテマスの一撃は完璧だった。

 当然躊躇いなど毛ほどもない、ジョルジュを殺すためだけに、完全に虚を突いて放たれた蹴撃。
 ジョルジュはその初動を視認することが出来なかった。
 
 だが彼はここに来て、自身の魔術としての力と体術を融合させ、更に上の段階へと昇華させた。
 先程干上がった足場を粉々に砕いた爆炎の残滓が、彼の目の前でワカッテマスの体躯のよって吹き飛ばされた。
 自身が発生させた熱源の機微に対して、当然ジョルジュは誰よりも敏感に反応することが出来た。

 それはさながらセンサーのように、彼の守りを補佐する。
 ワカッテマスの蹴撃の軌道上に差し込まれたジョルジュの掌は燃えずとも――

 限界寸前の熱を孕んでいた。

476ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/07(月) 23:14:39 ID:5hZ/Ygow0

 ワカッテマスの足とジョルジュの掌が触れた瞬間、炎は燃え上がった。

 虚を突いた完璧な一撃。
 どのような武芸の達人でも、これを鞘に収めることなど不可能だ。

 確実に命を刈り取りにかかったからこそ、そこから先の想定など出来るはずもない。
 これは驕りではなく、この土壇場において、前代未聞の覚醒を遂げたジョルジュが相手だったことが悪いのだ。

 _
( ゚∀゚)(武芸百般、魔術だって例外じゃねぇ)


 足首を掴む。この手を離すようなヘマなど、二度はない。

 ワカッテマスの足首を着火点に、下半身を伝い、炎は頭の天辺まで舐り尽くす。
 消し炭すらこの世に残さない。

 この炎を依代に、一切の加減無しの火龍を――

477ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/07(月) 23:23:11 ID:5hZ/Ygow0

( <●><●>)「と、思ってるんでしょう?」

 炎が舌舐めずりをしながら現れた瞬間。
 ワカッテマスの蹴撃が加速した。

 ジョルジュの掌は受け止めたが、その重みは、彼の想定を超えていた。

 _
(;゚∀゚)(こいつ……!)

 全体重をかけた蹴撃だ。そのまま押し込むように、ワカッテマスの身体が宙に浮く。
 軸足の支えを無くした上段蹴りはたちまち威力を失う。
 一秒未満の世界の中、ワカッテマスの動作だけが淀みなかった。

 炎が燃え上がるよりも速く、胴が、身体全体が廻る。
 地を離れた軸足は円を描く。

 そして受け止められた自身の足を、受け止めるジョルジュの掌を越して――

 撃ち抜く。ジョルジュの頭部を――!

478ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/07(月) 23:33:21 ID:5hZ/Ygow0

 _
(; ∀ )(こいつ……一体どこから布石に……」

 衝撃の直前で首を反らし、頭蓋損傷を免れる。
 だがその威力を全て殺しきることは敵わず、揺れる脳で思考する。

 吐き気や目眩などとうに置き去り。
 闘気のみによって鮮明に保たれた視界の中心で、火の粉を纏いながら着地するワカッテマスを睨む。

 _
(; ∀ )(やられちまう。やられちまうなぁ……)

 強敵として認めた上で、完全に裏をかかれた己に対する自虐がこみ上げる。
 そしてそれを一瞬で塗り潰すように湧き上がる――

 ――更なる闘争本能。

 燻るうなじに籠もる熱を吐き出すように、ジョルジュは力の権化の名を呼んだ。

 _
( ゚∀゚),,’・「ファフニイイイイイイイイイイイイイイイイルッ!!」

479ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/07(月) 23:34:20 ID:5hZ/Ygow0
変わり身の術返し返し返し
今日はこのへんで
おやすみ

480名無しさん:2017/08/07(月) 23:35:00 ID:n1./65rc0
だああああまたいい所で!!


481名無しさん:2017/08/07(月) 23:48:21 ID:Bens4ZRE0
ういうい乙乙。

482名無しさん:2017/08/07(月) 23:54:07 ID:33VFbM1k0
乙乙
今回も熱い熱い

483名無しさん:2017/08/08(火) 03:46:45 ID:JjMdqEKI0
明日も来いよな

484名無しさん:2017/08/08(火) 17:48:05 ID:hEKgO8220
ファフニール加わったら流石にワカッテマスがヤバそうだ
ペニサスは合流できるかな

485名無しさん:2017/08/08(火) 17:59:26 ID:jX5mY7zA0
火龍さんは化け物に挟まれて無事なのだろうか

486ほるひす ◆AdHxxvnvM.:2017/08/08(火) 23:24:14 ID:pmv54xWg0
ほるひすだよ ほーむらんをうつけどひっともうつよ

487ほるひす ◆AdHxxvnvM.:2017/08/08(火) 23:33:39 ID:pmv54xWg0

 収束する剛気。
 極限状態まで練り上げられた闘気と、彼のみが持つ固有のオーラが可視化する。

( <●><●>)「――!」

 ワカッテマスが察知してから動くまでは速かった。
 だが一瞬、ほんの一瞬気が竦んでしまった。
 その遅れは致命的で、彼の肉薄に対して引き離すように、闘気が満ちる。

 _
(; ∀ )「っっっっっっっっ!!」

(;<●><●>)「こっの……!」

 思わず声が漏れる。
 ワカッテマスにしてみれば、珍しいことだった。
 動揺を始めとした心の機微を見透かされるということは、刹那の削り合いにも等しい闘いにおいてかなりのリスクを背負うことになる。
 それを誰に学ばずとも本能で理解している彼にとって、これ以上の不覚は無い。

488ほるひす ◆AdHxxvnvM.:2017/08/08(火) 23:46:42 ID:pmv54xWg0

 地獄の門が開く。
 ジョルジュの両の手がワカッテマスに向かって伸びる。

(;< >< >)(食い止める……いや、不可能だ。躱す、何処に?)

 左右どちらに避けようと、はっきりとこちら側を目で捉えているのだから――

(;<●><●>)(照準が逸れる。そんな下手を打つ筈が無い)

 左右が駄目なら跳ぶか。否、飛ぶ鳥は撃ち落とされるのが道理。
 自ら不利に飛び込むようなもの。ならば――

 そのように目まぐるしく動く思考の中、彼が見出した活路はシンプルだった。
 獄炎が迸る直前、彼は足を止めた。
 右手に収束する龍王気。

 振り上げた拳が貫くものは――

489ほるひす ◆AdHxxvnvM.:2017/08/08(火) 23:58:03 ID:pmv54xWg0

 干上がった地面だった。
 高純度の闘気を纏った拳は土を砕く。
 土砂が噴き出すようにして、壁となる。
 抉り取られた地面。大穴の中心部にワカッテマスの身体が沈む。

 獄炎が駆る。
 ちょうどワカッテマスの頭上を駆け抜けたそれは燃え広がり、見上げた彼の視界は赤く染まる。
 
 仮にワカッテマスが単純に地に沈む力を有していたとして、それをそのまま行使していれば――
 彼は土砂諸共焼き尽くされていただろう。
 直前に巻き上げた土砂がジョルジュの視界を潰し、結果としてワカッテマスは事なきを得た。

 だが一瞬すら安堵する余裕は無い。
 無限の再生力を持った火龍が、彼の目の前で顕現したのだから。

490ほるひす ◆AdHxxvnvM.:2017/08/09(水) 00:39:19 ID:hCUG/R5E0

( <●><●>)(火龍の火に紛れて一旦離脱……賭けだな)

 仮に火龍に自我と呼べるものがあったとしたら。
 ジョルジュのもう一つの目と言っても過言ではないそれの足元で堂々と離脱するのは愚図の極みだろう。

( <●><●>)(だからといってこのまま蒸し焼きになる道を選ぶのは、愚図以前の話)

 ならばと、右手を火龍の頭上に翳し、収束する気を人差し指に先で練り上げる。
 銃を象り、気弾の射出口と化した指を向けた。

 ( <●><●>)「穿て。我が龍王気」

 空高く昇る闘気の渦。
 刹那、放たれる龍王気は頭上の炎を軽々と打ち破り、雨が降り注ぐ曇天の空がワカッテマスの視界に広がった。

491名無しさん:2017/08/09(水) 12:40:29 ID:nCoqv/Us0
ねたか

492ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/08/09(水) 21:08:47 ID:hCUG/R5E0
アホみてえに体調が悪いので養生します
申し訳ない

493名無しさん:2017/08/09(水) 21:35:11 ID:mlSBEP9E0
おう、早めに寝ろよ

494名無しさん:2017/08/10(木) 21:45:09 ID:hR5Pfbm60
ゆっくり休んでくれな

495名無しさん:2017/08/14(月) 19:07:13 ID:MEmFDnb60
大丈夫かー

496名無しさん:2017/08/29(火) 17:46:59 ID:DkLEpA/I0
再び待つ期間の始まりかな……

497名無しさん:2017/08/29(火) 18:21:05 ID:agIO0BeQ0
次の紅白で来てくれるやろ

498ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/12/29(金) 23:15:12 ID:GXWiXVOA0
自分でケツ叩かねえといつまで経っても投下出来ねえなと思い立ったので来週末あたりに投下すると宣言しとく。とか言って間に合わなかったらごめん。
正直内容忘れたって人もいると思うんで、よかったらお暇な時にでも読み返しといてください。
来週末とは言ったが早く書けたら書け次第投下。その際は前日にでも告知します。

499名無しさん:2017/12/30(土) 00:39:53 ID:ZpRwfMyo0
っしゃあ!
待ってるぜ

500名無しさん:2017/12/30(土) 00:41:14 ID:TzqwMd7A0
おいおい今日読み返したばっかだよ期待してる

501名無しさん:2017/12/30(土) 17:35:46 ID:QTW9CQzo0
ありがたき幸せ

502名無しさん:2017/12/30(土) 18:23:31 ID:GUUfp/YE0
おわーーーー!!!!!!待ってる!!!!!!!!!!

503ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/01/05(金) 20:14:24 ID:54M/tqhc0
明日投下。まだ一レスしか書けてないけど間に合わなかったらながらにしてでも投下。よろしく。

504名無しさん:2018/01/05(金) 22:01:35 ID:f.BmXwL20
ッッッッッッッッッッシャ

505名無しさん:2018/01/05(金) 23:18:07 ID:ypIsXcpY0
っっっっっっぇいっ

506名無しさん:2018/01/05(金) 23:22:56 ID:fQJRVthw0
きも

507:2018/01/06(土) 03:48:39 ID:4LJTq3vw0
判断するのに時間などいらない。
 否、判断するという行為自体が命取りなのである。
 ワカッテマスはそれを知っていた。
 穴熊にすらなり得ない、自身がこじ開けた地の底を、飛び出す。

 曇天を覆い隠すまばゆい炎がそこにあった。
 火龍の胴に向けて一突き。空を切る拳。
 不可視の力の波が龍を穿ち、鈍い音を立てる。
 途切れる炎。突破口が見えた。
 だがその道は暗い。雨は、よりいっそう激しくなる。
 たった一つ、命の危機から脱出出来る道であると同時に、そこは魔物が待ち構える門でもあった。

 _
( ゚∀゚)

( <●><●>)

 躍り出て、真っ直ぐ相対するジョルジュ。
 自身の手足同然とも言える火龍の異変を察知し、即座にワカッテマスの進路を塞ぐ。
 それが出来るのは稀代の猛者のみであり、ワカッテマスは自身と相対する敵全てがその称号を名乗るに値する者であることを知っている。

 例えば熱いものに触れ、咄嗟に手を引くように。
 例えば自分の鼻先に飛んできた羽虫を手で払うように。

 身体に染み付いた至極当然の反応のみによって、彼の身体は動いていた。

508:2018/01/06(土) 03:49:50 ID:4LJTq3vw0
 前方に発生する魔法陣から紅蓮の炎が顕現することは解っている。
 当たり前のように身を屈め、龍王気で地を抉る。土砂の壁が巻き起こる。

 _
( ゚∀゚)

 当然、ジョルジュもそれを解っている。
 例えるならこれは盤面の闘い。必死をかけるための読み合い。
 ジョルジュが押していることは紛れもない事実である。
 ワカッテマスの命を取りこぼさない為の選択、予測。
 全身の細胞がそれをひり出している。
 詰めにかかっているからこそ、それと同時に芽生える感情は、恐怖だ。

 ジョルジュは、龍の気を纏うこの獣を確かに恐れていた。
 盤面は動いた。故に、詰め損なったその時は自分が詰められる番だ。
 本能的にそれを理解している、恐れているからこそ、彼の目はワカッテマスを的確に捉える。
 
 炎が舞い上がる。不可視の闘気がぶつかり、風が吹き荒れる。
 雨は、未だ弱まらぬまま。
 熱によって歪められた視界。影を捉える。
 ジョルジュの拳の一突きは、この空間の中で何よりも洗練されていた。

509:2018/01/06(土) 03:51:48 ID:4LJTq3vw0

 心臓をめがける。ただそれだけでいい。
 渾身の力を込めれば、イメージは具現化する。

 その筈だった。

 _
( ゚∀゚)「――っ!!」

 ジョルジュの拳が受け止められる。
 思考よりも早く、ジョルジュの術式が発動する。
 吹き出す炎。
 だが、それよりも速いワカッテマス。

( <●><●>)

 ジョルジュよりも、彼自身が驚いていた。
 受けた拳が、あまりにも軽かったからだ。
 一撃を受けきれなければ必死――
 その認識に応えていた身体がよろめくが、瞬きと同じ速さでその差異を修正する。

( <●><●>)(……これは、いける!)

 更に低く身を屈め、土竜のように這う。
 すれ違いざまに放った手刀が、ジョルジュの脇腹の肉を掠め取った。

510:2018/01/06(土) 03:52:41 ID:4LJTq3vw0

 _
(;゚∀゚)「ぐっ……」

 ジョルジュは自身に、いや――学園に齎された変化に気付いていた。
 唐突に重力の負荷が増したような、耐え難い疲労感。
 最早火龍を維持することすら難しい。
 無いのだ。ジョルジュの魔術をこの世に具現化させるだけの力が。

 _
(; ∀ )(やべえ……! 振り切られる!)

 現時点で学園を取り巻く大気の異変を感知出来る者と言えば、意思疎通が可能な者に限定すれば彼とデレの二人だけということになる。
 つまり、この二人の活動の源となる力、魔術を行使する力が急速に枯渇したのだ。

 奇しくもデレはそのその元凶である存在の顕現自体を察知出来ていた。
 だからこそ危機的状況に陥ることはなかったが、全てが彼にとって間が悪かった。

 学園から吸い上げられた力の名はエーテル。
 ジョルジュがワカッテマスの背中を捉え、顔を歪めているその時、ペニサスがこの力の解析に着手した。

511:2018/01/06(土) 03:53:17 ID:4LJTq3vw0

 そのことをジョルジュが知る術は無い。
 だが、本能的な危機感が安易にワカッテマスを見逃すことを躊躇わせていた。

 _
(;゚∀゚)

 と、同時に安堵。
 あのまま戦闘を続行していたら、その中で自身の力の性質を看破されていたかもしれない。
 万全であれば即座に追っている背中。
 小さくなるそれを視界に収め、奥歯を噛みしめる。

 ここでワカッテマスを見逃すことは理にかなっている。
 それを体のいい誤魔化しだと糾弾するのは武人、強者としてのプライドだ。

 矛盾した二つの感情。
 それと退くも進むも劣勢には変わりないもどかしさが、元凶への怒りに転換されるのはすぐだった。

 最上の愉悦をもたらすレベルの闘争に水を差すような真似をした無粋な輩。
 本来ならばこの怒りに任せて何をおいてでも制裁を加えるところだ。
 だが元凶の正体は解らずとも、それが人の身で触れてよいものではないことくらいは解る。

 _
(; ∀ )「なんだ……何が起きてやがる」

 ジョルジュは生まれて初めて、一方的な死を予感した。

 ━━━━━━━━━━━━━━
 ━━━━━━━
 ━━━━━━

512:2018/01/06(土) 03:53:54 ID:4LJTq3vw0







 ああ、なんだ。好きってただそれだけのこと――






.

513:2018/01/06(土) 03:54:25 ID:4LJTq3vw0

 これは今になって気付いたこと。
 どうやらこの身体は鳥肌が立たないらしい。
 身体を弄っているのは私自身だけれど、こういった細かなところに関してはもう覚えていない。

 闘い、享楽を貪ることに順ずるにあたって不要な機能は大抵取っ払ったと思う。
 そのわりには、私は人の言葉によって傷つけられた時に、喉の奥あたりに鉛が詰まったような不快感に苛まれるのだ。
 ここだけは、心だけは無くせない。
 そう思ったにもかかわらず、腸が煮えくり返るような言葉を浴びせられた時も、聞いているだけで舞い上がってしまうような言葉を送られた時も――
 口をついて出るのは自分の感情を示すことを放棄した軽口ばかり。

 ('、`*川

 こんな具合に、関係の無いことを考えている私の頭はポンコツだ。
 だが今はそれでいい。しらふの自分を正しく認識して、壊れない自信が無い。

 雨の中、切る風が重い。
 全てがまとわりついてくるみたいだ。
 不快を訴える身体と思考を切り離すために、データベースにアクセスする。

 あの災厄の正体について。
 検索、否、情報という枠に収め、遠ざけるため。

514:2018/01/06(土) 03:54:54 ID:4LJTq3vw0

 吸血鬼の真祖の特性について、何かめぼしい情報は無いかと調べる機会は多かった。
 ただ、これに関連付けて調べることは今まで無かった。

 第一魔法セント・ジョーンズ。

 交わる筈の無い点だ。アレの口からその名が出るとは思ってもいなかった。
 辿り着いたのはニイタ国という島国の伝承、キリバリーの火。
 それは人があらゆる自然の威光を神と崇めていた遠い昔の話。
 御伽噺のような、現実味の無い物語だった。

 ━━━━━━━━━━━━━
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 キリバリーは人が極寒の前に朽ち果てようとしていた折に現れた。
 彼は大いなる知恵と、力を持っていた。
 彼は今まさに滅びようとしている力なき種を哀れんだ。
 彼は人に火を授けた。力なき者の躯を焼べて燃え上がった炎は天まで昇った。
 人々は彼に感謝した。そして、共存を提案した。
 気の遠くなるような時を過ごしてきたキリバリーは人の提案を快く思う。
 だが問題があった。彼の大いなる権能は、躯を糧としなければ発揮されなかったのだ。

「この火が無ければお前たちは死に絶えてしまう。だがこの火はお前たちの同胞の肉を捧げなければ消えてしまう」

 人は彼の言に従い、力尽きた同胞を焼べた。

515:2018/01/06(土) 03:55:40 ID:4LJTq3vw0

 キリバリーの火を囲うようにして、極寒の地に街が興った。
 人々は富み、誰もが自然の威光を前に力尽きずに済む世になった。
 焼べられる死人の数は時を重ねるにつれて減ってゆく。
 人は極寒に曝される恐怖を忘れていなかった。だから、生者すら火に焼べ始めた。

 そうしなければ種は滅びる。
 その道理を知っているから、キリバリーは彼らの行いを咎めなかった。
 火に焼べられる力なき者が、自身への贄とすげ替えられても――

 力なき者は火を恨んだ。キリバリーを恨んだ。
 だが、人々はキリバリーの火が無くては生きてゆけなかった。

 そんな折、一人の賢人が現れた。
 名は、ジョーンズという。彼には力が無かった。だが、人という種の中で誰よりも賢かった。

 ジョーンズはキリバリーではなく、自分の知恵のみで火を起こしてみせた。
 その街に生まれ、誰よりも街を愛したジョーンズだからこそ、贄として老人や女が焼べられてゆくのが許せなかった彼は民を統べ、扇動する。

「我々にキリバリーの火は必要無い」

 そうして人はキリバリーと袂を分かつ。

516:2018/01/06(土) 03:56:23 ID:4LJTq3vw0

 民を率いたジョーンズとキリバリーの闘いは七夜に及んだという。
 最後の日、キリバリーはジョーンズの聖槍に穿たれ、霧散した。
 その時、人は始めて陽の光を見た。凍てついた地は溶け、やがて草木が芽吹く。

 人々は全てが終わった時、ようやく気付いた。
 この地に極寒を齎していたのはキリバリー自身であり、最初から彼は人を誑かし、贄を食らうつもりだったのだと。

 キリバリーを打ち破った日を祝福の日とし、人々は七つの夜を迎える度にセント・ジョーンズ(偉大なるジョーンズ)を崇め、互いの生を祝った。
 まやかしの火を鎮め、人々に真の火を齎したジョーンズは今もなお魂となって世を見守っている。

 ━━━━━━━━━━━━━━━
 ━━━━━━━
 ━━━━━

 ('、`*川

 セント・ジョーンズは高名な魔術師だ。
 彼の出生にまつわるエピソードはそれこそ十はくだらない。
 これはその中の一つ。
 この国ではセント・ジョーンズがキリバリーを滅ぼした日を日曜日とし、森羅万象を操った彼の術にちなんで今の曜日が起きたとのこと。

517:2018/01/06(土) 03:56:55 ID:4LJTq3vw0

 普通に生きていれば名前を聞くこともない辺鄙な国の伝承だ。
 そもそもセント・ジョーンズはハイナルで生まれた魔術師であるという説が支配的だ
 だからこの御伽噺が実際にあった話だとは到底思えないけれど……

 当の本人と思しき存在の言葉が、この伝承を裏付けるようなものばかりなので、認めたくなくても認めなければならない。
 あれは人の手に負えるものではなく、力という一点のみにおいては神と称するに値する存在であると 

('、`*川「……泣きそう」

 自分らしくない言葉だと思った。
 本当に不意をついて出た言葉だった。

 涙を流す機能は残っていたっけな。茶化す思考だけが自分らしくて、反吐が出る。

 泣き言を言っている自分が嫌いで、だから、どうにも出来ない自分以外の、誰に何を託せばいいのかを考える。
いや、考えるまでも、ない。

518:2018/01/06(土) 03:57:22 ID:4LJTq3vw0

 あの悪鬼の存在自体が、私たちにとっての絶望だ。

 それでも、この状況の全てがマイナスなわけではない。
 いずれ訪れる決戦の日に備え、誰よりも闘気、龍の力を調べ上げた私があの場所に居合わせたことで得ることはあった。

 あの悪鬼に集う悪寒はモララーの闘気によく似ているけれど、本質は異なるもの。
 けれどその本質にも既視感がある。

 あれは、ジョルジュを間近に見た時の圧倒感と同じ……

 リアルタイムでデータベースで保存されたあの場の映像から解析出来ることがあるはずだ。
 闘気の流れに敏感な私だから、あの膨大な力の流れを以てその違いに気付くことが出来た。

 休んでいる暇は無い。
 彼を見つけ、合流するまでに、少しでも多くの情報を――

519:2018/01/06(土) 03:58:00 ID:4LJTq3vw0
 虱潰しに、保存した映像とデータベースに保存されたあらゆる超常現象を照合する。
 それは思考と切り離して行う作業で、結果のみが私の脳にインプットされる。
 ゆえにじわじわと押し寄せてくるもどかしさを、私はどの感情を以て処理していいのか分からなくなってきた。

 こんな土砂降りの雨なのだから、泣き喚いたっていいはずだ。
 なのに溜まったものを吐き出す手段が無い。
 あるいは、忘れてしまったのか。

 濡れた前髪が鼻先に張り付いて鬱陶しい。
 指先で払って見据えた先に、彼はいた。

('、`*川「ワカッテマス!」

 みっともないくらいの大声に、誰よりも私自身が驚いた。
 こんな声が出せるだけの気力が残っていたことにも、こんな無様な顔を平気で晒せることにも。 

( <●><●>)

 彼はいつもと変わらない目で私を見上げる。
 私が下降を始めるのとほぼ同時に、崩れた瓦礫に背を預け、力なく両手を上げた。

520:2018/01/06(土) 03:58:32 ID:4LJTq3vw0

( <●><●>)「お互いに、無様なものだな」

 彼の目は、弁明のしようのない敗北を物語っていた。
 実際のところどうなのかは分からないけれど、どのみち彼が納得出来ていないのなら同じことだろう。

( <●><●>)「だがまだ命がある。今度はもっと備えて挑めばいい。それでも駄目ならもっと……向こうが死ぬまでつつき回ってやるさ」

 そう、諦めなければ負けではない。
 成し遂げた人間は誰だってそう言うし、彼にはそのようにして不可能を打ち破る力があるはずだ。
 私にはその素養が無くとも、彼に寄り添い、その真似事をするくらいは……

 諦めが悪い。みっともない。
 私だけが知っている彼。そしてそれを羨む私。

 だから、こんなところで膝をついてる場合じゃない。のに……

(;ヮ ;*川「――怖かった」

 外でもない彼の前で、こんなふうになる私が嫌い。
 でも、きっと死ぬまで直らない。

521:2018/01/06(土) 04:01:08 ID:4LJTq3vw0
また一つ歳を取りました。
泣きそうなのはこっちの方です。
前回分書きかけだったので終わらせました。
次から最新話。次からはちゃんと一話区切りで投下した。またすぐ来ます。よろしく。おやすみ。

522名無しさん:2018/01/06(土) 04:08:53 ID:0Qi/pDk60
誕生日に何かもらうんじゃなくてあげるとは粋な


523名無しさん:2018/01/06(土) 05:16:10 ID:dJxq2sRc0

戦闘描写が濃くて好き

524名無しさん:2018/01/06(土) 11:28:14 ID:v0wm5yHk0
おつ

525名無しさん:2018/01/07(日) 00:31:14 ID:hH72jWlQ0
うおおおかえり!
ペニサス相変わらず可愛いな大好き

http://fast-uploader.com/file/7070808199835/
登場祈願で擬人化ハイン

526名無しさん:2018/01/07(日) 22:50:39 ID:tubvjuOs0
待ってた

527名無しさん:2018/01/08(月) 18:21:36 ID:4HshVt.Y0
乙です

528名無しさん:2018/01/08(月) 19:15:08 ID:LoSxaWIs0
乙!!!!やっぱ今楽は最高だぜ!!!!!!

529:2018/01/09(火) 23:05:33 ID:Ss/N6aEY0
今週末に投下。早ければ書け次第投下。間に合わなかったらごめん。

530名無しさん:2018/01/10(水) 14:15:00 ID:UVr1qrNo0
わーい

531名無しさん:2018/01/10(水) 17:24:00 ID:la.e3KdQ0
おかえり
楽しみにしてる

532名無しさん:2018/01/16(火) 19:35:37 ID:FJa7hSQk0
まっとるで

533名無しさん:2018/01/16(火) 19:58:35 ID:WCuIpMfo0
来週でもええねんで
のんびり書いてや

534名無しさん:2018/01/23(火) 22:20:56 ID:6K4kmMDc0
おぉぉん……

535名無しさん:2018/02/02(金) 23:33:06 ID:cBQ1q/zA0
>>533だが撤回するわすぐ来てくれ

536名無しさん:2018/07/08(日) 13:35:16 ID:3UeUSxF20
2018年も半分終わったぞ

537:2018/09/28(金) 23:48:37 ID:HU8SSIXQ0
来週の三連休の終わりまでには投下できるように頑張ります

538名無しさん:2018/09/28(金) 23:59:22 ID:0cjaix9U0
>>537
最高かよ!待ってる!あやけ

539名無しさん:2018/09/29(土) 10:11:35 ID:QqYfdEdU0
本当ならとても嬉しい

540名無しさん:2018/09/29(土) 22:05:14 ID:rxec36Io0
おっっっ

541名無しさん:2018/10/01(月) 02:08:28 ID:DkLIRTog0
mjk待ってる‼︎‼︎

542ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/05(金) 01:16:33 ID:47QncOlE0
本日22時あたりを目処によろしくおねがいします。レス数はいつもと同じくらいですが文字数がなぜか嵩んでしまったので目が疲れるかもです。

543名無しさん:2018/10/05(金) 07:22:02 ID:FcDY0Bsg0
把握 投下感謝

544ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/05(金) 22:32:55 ID:47QncOlE0


第二十九話「チョコレートを捨てた日」

.

545ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/05(金) 22:36:16 ID:47QncOlE0

 何だこれは――

 キリバリー・アルカードは、たった一つの疑問を解消することが出来なかった。

 なぜ私は倒れ、空を仰いでいる?
 なぜ私は口の中に溜まった砂を吐き出すことが出来ずにいる?
 そもそもなぜ、私は長い年月の中で終ぞ知ることの無かった砂の味を、今になって実感している?
 なぜ?
 なぜ?
 何故――

 一つの大きな疑問から枝葉が分かれ、彼の思考は何かを理解するということを放棄した。

 仮初めの身体はあちこちが裂け、胴からは瑞々しい赤色の臓物が溢れている。
 それを中に収めようと伸ばした左腕。肘から先は無かった。

「つまらんのう」

 声の方向に視線を動かす。
 岩場に腰掛け、キリバリーを見下ろす荒巻。
 彼は血の泡が滴る真祖の左腕を、既に持っていた玩具を贈られた子供のように、
 退屈そうな手付きで弄っていた。

/ ,' 3「試しに毟ってみたが、人間のものと何ら変わらん。引っ張れば千切れる。握れば潰れる。若い女の柔肌よ」

546ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/05(金) 22:37:13 ID:47QncOlE0

 从 ゚∀从

 キリバリーは自身の再生能力に遅延が発生しているのを、冷静に察知していた。
 イノヴェルチ以上の吸血鬼は不死身であり、絶命させるには一定の条件が必要である。
 脳と心臓の同時破壊、銀製の武器による一定以上の破壊、
 特殊な儀礼によって形成された陣地内での拘束、etc…

 今の状況はそのどれにも該当しない。
 吸血鬼を殺す為の条件それ自体が、通常の戦闘行為と比較すればイレギュラーであることが常だが、
 それらの中でも特例中の特例にして、シンプルな討伐方法が一つだけある。
 それは……

 吸血鬼の心を、折ること。

 呪われた血は皮肉にも、宿主の想いに強く反映される。
 あるいは吸血鬼という、永い歳月を生きることを強いられる種に予め備え付けられた防御機構のようなものかもしれない。

 从 ゚∀从(なるほどな……)

.

547ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/05(金) 22:37:51 ID:47QncOlE0

从 ゚∀从(心など、とうに手折られているというわけか)

 折れているのはキリバリーではなく、傷ついた身体の本来の持ち主である、
 ハインリッヒ・アルカードの心。

 現在、主人格として優位に立ってはいるものの、
 一つの身体に二つの人格が備わっている歪な状態だからこそ、
 キリバリーには彼女の悲哀が手に取るように分かった。

 VIPという場所で、吸血鬼という事象を振り撒く災厄であった頃の彼女ならば、
 決して持つことのなかった心の弱さが、彼女の身体の自壊を引き起こしている。

 ハインの思考の中で、一際汲み取りやすい単語にキリバリーは興味を示した。

 「ブーン」

从 ∀从「……ハッ」

.

548ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/05(金) 22:38:25 ID:47QncOlE0

 不意に嘲笑が漏れる。
 永い間見てきた人間の営みの中でも、彼にとっては最も唾棄すべき事象。
 慈愛や憐憫といった、シンプルな行動原理に、キリバリーは心の底から溜息を吐いた。

/ ,' 3「何が可笑しい? 儂にも教えんか」

从 -∀从「ふん、長く生きると分からんものが増えると考えていただけだ」

/ ,' 3「お前さんはそんな些事にいちいち気を回しておるのか? 意外と律儀な奴じゃの」

从 ゚∀从「聞くまでもなく些事と切り捨てるか。お前は見たままの性格をしているな、小僧」

/ ,' 3「些事じゃよ」

从 ゚∀从「……」

/ ,' 3「人間の本質は闘争じゃ。ヒトとして生を受けたのならば、知るべきことは一つで良い。目に映るものが自分より強いか否か。それ以外は全て些事じゃろ」

.

549ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/05(金) 22:40:31 ID:47QncOlE0

/ ,' 3「まあ、吸血鬼であるお前さんには関係のない話じゃったかな? 長く生き過ぎると道楽にうつつを抜かし過ぎるようじゃな」

从 -∀从「ふっ……貴様もヒトではなかろう」

/ ,' 3「そのようにして儂は神になったんじゃよ」

 異形の者として人間という種よりも高い次元に君臨し続けた自身を前にして、
 己を神であると言い切る荒巻の不遜が、彼は嫌いではなかった。

 むしろ久々に話の分かる者に出会えたと、喜びの感情すら芽生えていた。

 だが、直後に荒巻が取った行動は、キリバリーの理解の範疇すら超えたものだった。

/ ,' 3「お前さんがどうしても些事が気になって仕方ないというなら、そこはそれ、とらいあんどえらーというやつじゃ。思いついたままに触り、愛で、壊してみればよい」

.

550ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/05(金) 22:41:36 ID:47QncOlE0

 荒巻は語気に含みを持たせ、キリバリーの千切れた左腕を口元に近づける。
 そして、醜く表情を歪めた。

/ ,' 3「些事ではあるが、儂も一つ気になることがあっての」

 荒巻が力を込めると、左腕はトマトのように潰れ、肉塊と化した。

/ ,' 3「巷では位の高い吸血鬼は眷属を増やすために、獲物に自身の血を混ぜると聞く。素養のある者はいのヴぇるちとかいう吸血鬼になるらしいの」

 荒巻がそこまで言うと、キリバリーは全てを理解した。
 そして同時に、永劫に近い時の中でも一番の嫌悪感を抱いた。

从 ∀从「……それ以上口を開くな。ただで済むと思うなよ小僧」

/ ,' 3「ほほほ、お前さんも気にはならんか? ヒトですら一都市を落とし得る怪物となるのじゃ。それが神ならば、どんなものが産まれてしまうんじゃろうな?」

从 ∀从「やめろと言っている! 紛い物の神ごときが、不敬であるぞ!」

.

551ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/05(金) 22:42:40 ID:47QncOlE0

 キリバリーの静止を微塵も意に介さず、荒巻は潰れた肉塊を口いっぱいに頬張り、咀嚼する。
 醜く両目を細め、喉を鳴らしながら肉を食らうその姿は、ヒトの形を模した獣だった。

/ ,' 3「よいことを教えてやろう。ヒトを屈服させたければ、ヒトよりも高い目線からものを言うことじゃ。虫のようなそのざまじゃあ、童でも言うことは聞かんな。ほほほっ」

 頬張った肉を飲み込んだ後は肉塊を一口大に千切り、それを舌の上で転がす。
 満足そうに目を細めてみたり、訝しげに首を捻ってみたり。

/ ,' 3「ふぅむ……人間の肉は何度か食ったことがあるが……これは酷い味じゃの」

从 ∀从

/ ,' 3「歯ざわりは良い。そこだけなら及第点じゃ。だがこの腐ったような臭いがなんとも……」

从 ∀从「もう良い。黙らないなら私が黙らせる」

.

552ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/05(金) 22:43:11 ID:47QncOlE0

 キリバリーが獣化した右手の指先を荒巻に向け、思念によって亡者たちに命ずる。
 街を食い荒らしていた骨の軍勢が、逆再生のように荒巻の元に収束してゆく。
 鋭く研ぎ澄まされた刃のような指の骨が筋骨隆々の肉体に突き刺さる。
 主の血肉を奪い取らんと伸びる腕が荒巻に絡みつき、万力のように締め上げる。

/ ,' 3「醜いのう、醜いのう」

 五体を完全に拘束された荒巻。
 しかし笑みを、その口を塞ぐことは、骨の軍勢には敵わない。

/ ,' 3「いかなる理由があろうと、亡者が生者の足を止めてはならんと知れ」

 それは荒巻にとって、自分の腕にたまたま止まった羽虫をそっと払うようなものだった。
 王位たちが操る闘気と同質、それでいてまったく異なる不可視の衝撃が巻き起こり、
 荒巻に纏わりついた数千の亡者が粉微塵と化した。

.

553ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/05(金) 22:46:56 ID:47QncOlE0

从 ゚∀从

 キリバリーは自身の眷属たちが圧倒的な力の前に消失してゆく様を無言で見つめていた。
 「今」の自分では、この悪鬼には到底敵わない。
 セント・ジョーンズは知恵を以て彼を葬った。
 人類の叡智に脅かされて初めて、彼は人間という種の、神すら蹴落とす貪欲な知性に身震いしたが、
 それとはまったく異なる畏怖の念が彼の胸に宿る。

 キリバリーは目の前の生命体を、人類とは別の種族、他の生命を屠り食らうことを宿命として
 決定付けられた怪物であると断定した。

/ ,' 3「ふむ……吸血鬼の血とやらは儂の身体には馴染まぬようじゃの。血肉がおぬしの血を取り殺しにかかっておるのがよく分かる」

 荒巻の左目は白目を剥き、左右非対称の表情は人の形相を成していなかった。
 しかしキリバリーには、彼が爛々と笑っていることがよく分かった。

/ ,' 3「つまらんのう。おぬし、さっきとは別人じゃろ? どこですり替わった? この儂の目を出し抜いたことだけは、称賛に値するがの……」

.

554ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/05(金) 22:48:03 ID:47QncOlE0

 たちまち靄がかかる思考。
 人格の優位性が逆転する兆候だった。
 持ってあと一分、数十秒か、あるいはもっと短いかもしれない。
 
 私が、私でなくなる前に……

从 ゚∀从「貴様は私が殺す」

 畏怖の対象であるべき吸血鬼を蔑み、剰えその血肉を取り込もうとした罪は重い。
 荒巻がヒトとは異なる存在であろうと、全てのものは並べて自分の足元にあるべき。

/ ,' 3「しっかりとうぉーみんぐあっぷをしておくことじゃの。次はもっと潰し甲斐のある肉を纏ってこい」

 その減らず口に、汚い臓物を詰め込む明確なヴィジョンが、キリバリーには見えていた。
 焦ることはない。
 この生命体を屠ることが出来るのは、この星の中で自分しかいない。
 己の魂があるべき場所に戻るその時が来るのを、今はただ待てばいい。

.

555ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/05(金) 23:01:34 ID:47QncOlE0





    キリバリー・アルカードは、静かに眠りについた。



.

556ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/05(金) 23:02:22 ID:47QncOlE0

 / ,' 3「さて、どうしたものかの……」

 自身の生涯の中でも最も甘い果実の匂いに釣られ、餌場を訪れた。
 しかしその果実は触れれば消え失せてしまうまやかしのようなものだった。

 足元には一糸まとわぬ少女。
 垣間見た最強の器とするには、あまりにも脆弱で、頼りない。

 周囲を見渡す。

 VIPという餌場は既に崩壊寸前だった。
 吸血鬼の王が放った軍勢は、この短い間にどれだけの生徒の命を奪っただろうか。
 それを考えると、荒巻は憂鬱な気分になった。

 脆い。
 あまりに脆すぎる。

 戦神という刃を研ぐに相応しい砥石を作る為の学園が、この程度の「悪ガキ」の一撫でで狼狽してしまうとは……

/ ,' 3「フォックスの倅以外、生かしておいても仕方ないのう……いろいろと考え直さんと……いやじゃのう、儂は考えるのが嫌いなんじゃ……」

.

557ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/05(金) 23:02:51 ID:47QncOlE0

 もう一度足元の少女を一瞥し、荒巻は地面を蹴った。
 たった一度の跳躍でその巨体は雲を突き破り、誰の目にも届かなくなった。

 二人の神がこの場に居合わせたのは、両者のほんの気まぐれに過ぎないのだろう。
 その気まぐれによって、あまりにも多くの者が戦慄した。
 殺意、敵意といった、闘争に準ずる感情が根こそぎ、学園から抜け落ちた。

 雨は、止んでいた。

 残されたのは静けさ。遠くでは感情なき水流のみが人の営みを脅かす。
 どれだけの生徒がそれに抗うことが出来るか。
 少女の意識が健在であれば、彼らを憂い、あるいは助けに行くのかもしれない。

 ハインリッヒ・アルカードは血の涙を流した。

 彼女が取り払いたかったものは、もうこの学園にはない。
 彼女が成したかったことが成ることはなかった。

.

558ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/05(金) 23:03:16 ID:47QncOlE0

 炎は水によって掻き消される。
 幼子でも理解出来る普遍の事実だ。

 それを覆すのが魔術であり、ジョルジュは魔術を行使する自身の強さに、
 絶対に近い自負があった。

 だが雨と共に降り注いだ死霊の群れが、その中枢にある悍ましい何かが、
 自身の火種を根こそぎ吸い取っていったのを、彼はその肌身で感じていた。

 _
( ゚∀゚)「……なんだよあれは」

 ジョルジュがエーテルと呼ぶものは、アレの顕現によって一瞬で枯渇した。
 エーテルは魔術師にとって力の源。
 それをいたずらに消耗することは魔術師にとって好ましいことではなかったが、
 同時にそれだけのエーテルを消費するだけの権能とは、
 それだけで世界にどれだけの影響を及ぼすかを測る指標となる。

.

559ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/05(金) 23:03:42 ID:47QncOlE0

 その前提を理解しているからこそ、ジョルジュは呆然と立ち尽くす。
 ただ、そこに存在するだけで学園周辺のエーテルを吸い上げてしまった事象に名前をつけるとするならば……

 _
( ゚∀゚)「神だ……」

 神とは須く、産まれ落ちると同時に汎ゆるものに祝福されるべきである。
 だが突如として現れた神は彼にとって、憎悪の対象でしかなかった。

 _
( ゚∀゚)「……クソッタレ。誰に許可を得てVIPで好き放題してやがる」

 力を――
 もっと力を蓄えなければならない。

 憎悪を向ける対象がたとえ神であろうと、自身を脅かし、機嫌を損ねるものは存在してはならない。
 目下は自分を歯牙にもかけなかった憎き第一王位。
 そして平然と自分を出し抜いてきた第五王位。

 全て狩り終えたその暁には……

.

560ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/05(金) 23:04:07 ID:47QncOlE0





 次はお前だ。神――





.

561ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/05(金) 23:04:52 ID:47QncOlE0



( ´_ゝ`)

 良いヒトも――

从 ゚∀从

 悪いヒトも――

 全ては吹けば消えてしまうような儚い命だ。
 機械だろうと、吸血鬼だろうと――



.

562ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/05(金) 23:05:16 ID:47QncOlE0

 煙草を喫うたびに思い出す。
 あの後輩も同じ銘柄の煙草を喫っていた。
 そんなくだらない理由で、実の弟を殺そうとしていたあいつを見逃した。

 今となっては、我ながら面白い選択だと思う。
 面白い男だった。
 非凡な才能を持っているのは、この学園で名の売れた者ならば当たり前のことだが、
 あいつには、ドクオには野望があった。

 莫大な富と名声、あいつが望むものは、本当にそれだけだ。
 それを求める者は掃いて捨てるほどいる。
 才能がある者も、この学園には掃いて捨てるほどいる。

 だが、非凡な才能を、富と名声を得るためだけに磨き抜ける人間は、実のところそれほど多くはない。


.

563ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/05(金) 23:06:36 ID:47QncOlE0

 結構なことじゃないか。
 この学園には、戦いを高尚なものと捉える輩が多すぎる。
 究極的には、戦いなど自分の願望の障害を取り払う手段に過ぎない。
 それ自体に意味を見い出す生き方など、誰かにとっての道化でしかない。

 あるいは欝田ドクオならば、これ以上ない俺のパートナーと成り得たかもしれない。

(`・ω・´)「酷い臭いだ」

 俺がそうぼやくと、吸血鬼は満足げに嗤った。
 仮のパートナー相手に自分好みの人格を求めるほど野暮ではないが、
 それにしてもこの女は悪趣味が過ぎる。

ζ(^ー^*ζ「貴方も同族になれば少しは気が紛れるのでは?」

(`・ω・´)「遠慮しておくよ、今更兄弟おそろいが嬉しい歳でもない」

.

564ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/05(金) 23:07:20 ID:47QncOlE0

(´゚ω゚`)「……っ! ……っ!」

( ゚д゚ )「……」

 デレの眷属となった哀れな吸血鬼を見る。
 片方は跪けという命令を、その血で受け入れている。
 もう片方は跪きながらも白目を剥き、口にするのも憚られるような罵声を浴びせてきた。
 意思疎通など最初から臨んではいなかったが、聞き流すにも限界があったので、
 主は黙れと命じた。

(`・ω・´)「…………」

 哀れな吸血鬼だ。
 何一つ悪いことなどしていない。
 強いて言うならば、俺が全部悪い。

(`・ω・´)「もう少し手伝ってもらうぞ」

 自分とよく似た顔の吸血鬼の頬を撫でる。
 自分の意志で身体を動かすことはおろか、口を開くことすら出来ない。
 きっと俺はこいつにとって、誰よりも殺したい仇だ。
 そんな男に頬を撫でられた吸血鬼は、喉を震わせて涙を流した。

.

565ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/05(金) 23:08:02 ID:47QncOlE0

ζ(゚、゚*ζ「悪趣味ですね」

(`・ω・´)「ああそうだ。俺は趣味が悪いんだ」

ζ(゚ー゚*ζ「お望みとあらばその人形、貴方専属の男娼に出来ますよ?」

(`・ω・´)「お前は人を人と思わないド畜生だな」

ζ(^ー^*ζ「それはそうでしょう。私、吸血鬼ですから」

 未練も執着もないはずなのに、どうして俺は既に地に落ちた弟の自尊心を、
 更に貶めるような真似をしたのだろうか。

 こいつが吸血鬼になった日、俺がドクオにしたように、
 大抵の人間の意図や思惑は一言一句違わず汲み取ることが出来る。
 それなのに俺は、何よりも自分の感情というものがよく解らない。

.

566ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/05(金) 23:08:26 ID:47QncOlE0

 これではだめだ。
 もっと、もっと黒くならなければ……

 一度も間違えたことのなかった、まだ俺たちが互いを兄弟だと認め合っていた日を超えて。
 闘争に尤もらしい高尚な理屈を誂えて、自分の我儘を思いのままに振り翳す今を乗り越えて。

 俺はもう、

(`・ω・´)

 大人にならなければいけない。

.

567ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/05(金) 23:08:57 ID:47QncOlE0

 雨が上がった後は静かで、長い長い夢からやっと抜け出せたような気分だ。
 乱痴気騒ぎを抜け出して、アルコールで火照った身体を夜風で冷ます時に似ている。

 遠くに望むVIP。
 背の高い建物はドミノ崩しのような倒れてゆく。
 立つ巣を濁しまくったこのツケは、いつどんな形で支払おうか。

 俺が大人になるために誂えられた供物たちの血腥い臭いが立ち込める。
 弟の頬を撫でた掌を固く結び、俺は……

(`・ω・´)「ロマネスク、これだけ上等な死体あれば手土産としては充分だろう?」

( ФωФ)「俺から全て奪ったあの忌々しい小娘の死体が無いのは不服だが、ひとまずは及第点としよう」

ζζζ* ゚)「ふふっ、せっかちな殿方ですね。そう焦らずともすぐに手に入りますよ」

.

568ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/05(金) 23:10:21 ID:47QncOlE0
次いつ投下するかは明示しないけど風呂から上がったらすぐに次の話を書き溜めようと思います。
おつかれさまでした。

569名無しさん:2018/10/05(金) 23:11:44 ID:OJZexx2M0
スレタイは>>1の方針に思えてきた乙

570名無しさん:2018/10/05(金) 23:12:27 ID:9MCYehHA0
おつ

571名無しさん:2018/10/05(金) 23:28:58 ID:bez5mHf.0

嬉しい読み直してこよう

572名無しさん:2018/10/06(土) 00:28:23 ID:N4kWk59U0
おつ 相変わらずおもしろい

573名無しさん:2018/10/06(土) 00:33:25 ID:0HU2QHuk0
はー面白かった
壊滅した学園でいまや一部形骸化してしまった感すらある王位の面々がどう動くのか楽しみだ
続きが待ちきれないよ
乙!

574名無しさん:2018/10/06(土) 09:33:28 ID:ooic.1Qs0
これ復興無理だろ……
次からもすごく楽しみおつ!

575名無しさん:2018/10/06(土) 22:37:50 ID:k9Hc4O5E0
乙!!

576名無しさん:2018/10/14(日) 04:04:47 ID:1pVKrE8I0
全部読み直してきたわ!

577ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/16(火) 21:51:21 ID:XWzZv9S60
日曜までに投下するという気持ちだけはあります

578名無しさん:2018/10/16(火) 22:24:27 ID:UGgHgxCk0
うれしい(フライング)

579名無しさん:2018/10/17(水) 01:15:51 ID:CHIRKTuM0
ッシャァ待ってるぞ

580ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 21:05:32 ID:9TEURJuU0
22時、22時までには

581ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 22:03:17 ID:9TEURJuU0


第30話「星の降る夜」

.

582ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 22:04:05 ID:9TEURJuU0

 夢を見ていたような気がする。

 どんな夢かは思い出せないけれど、
 不思議なことにぼくは以前にも同じ夢を見たことがあるような気がした。

 きっと、物心がついたばかりか、あるいはもっと昔のこと。

 手を伸ばした先に広がる景色はきっと壮大で、ぼくは自分の矮小さが怖くなってしまう。

 押し潰されそうになって。弾き出されそうになって。

 きっと、そんな夢だった。

.

583ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 22:04:32 ID:9TEURJuU0

 目を覚まして真っ先に目についたのはシミ一つない綺麗な天井だった。
 起き上がろうとすると上体に痛み。身体はマシュマロのような柔らかいベッドに沈む。
 沼みたいだと、思った。

o川*゚ー゚)o

 自分がベッドに横たわっているのを認識するのと、彼女の存在を認識するのはほぼ同時だった。
 歳は十三、四。あるいはもっと幼いかもしれない。
 ぼくよりも年下であることは間違いないだろう。
 極端に細い首から、身体の華奢さが伺える。
 それを隠すような派手な着物、背中で結んだ豪奢な帯がアンバランスだ。

 ちょうどぼくの腰骨の真横あたりにちょこんと座っている彼女は、
 布団越しのぼくの腕に、その細い手を預けていた。

.

584ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 22:05:01 ID:9TEURJuU0

( ^ω^)「はじめまして」

 仰々しい存在感を放つ着物の下の少女が、
 大声を出すと消し飛んでしまうんじゃないかと、本気で思った。
 自分の声がひどく間抜けでたどたどしい。
 
 彼女をくすくすと、まるで絹を擦るような細い笑い声を零した。

o川*゚ー゚)o「ふふっ、はじめまして」

 わざとらしく小首を傾げてみせて、その表情は妙に婀娜っぽい。 
 誰かに似ていると思ったが、その答えはすぐに見つかった。クーさんだ。
 ドクオから話だけ聞いたことがある。
 クーさんとは似ても似つかない凶暴な妹がいるということ。
 妹の名前はたしか……

.

585ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 22:05:25 ID:9TEURJuU0

( ^ω^)「素直……ヒートちゃん?」

 少女は目を丸く見開いて、何度か瞬きをした。
 そしてまた、彼女はくすくすと笑う。
 自分が道化にでもなったみたいだ。
 なぜだか分からないけれど、この子に見られると全てを見透かされているような不安感に駆られる。

 ドクオ曰く、素直ヒートは竹を割ったような単細胞だとのこと。
 話に聞いていた人物像とは大きくかけ離れている。

(; ^ω^)「あの……ぼく、何か可笑しなことをしたかお?」

o川*゚ー゚)o「いーえ。ごめんなさいね、ただあの子が聞いたら怒るだろうなーと思って」

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586ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 22:05:53 ID:9TEURJuU0

( ^ω^)「お? それはどういう……」

 と、聞きかけたところで部屋の戸が勢いよく開いた。
 入ってきたのはぼくが知るあの人。

川 ゚ -゚)「起きたか」

 風呂あがりだろうか少し離れたところからでも、シャンプーの良い匂いが漂ってくる。
 うっすらと濡れた髪をタオルで乾かしながら、部屋着であろう大柄なシャツの裾を片手で伸ばす。
 ちらちらとシャツから覗く丈の短いパンツから伸びた脚には痛々しい傷が無数に刻まれていた。

 ぼくだったら、きっとしゃんと歩くこともままならないだろう。
 けれどクーさんはしっかりとした足取りで近づいてきて、ぼくの傍らで座る少女を見下ろす。
 
 そして、少しばつの悪そうな顔をして……

川;゚ -゚)゙「母さん、鍋が吹きこぼれてましたよ」

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587ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 22:06:15 ID:9TEURJuU0

(  ゚'ω゚)「え”」

川 ゚ -゚)「む?」

o川*゚ー゚)o「あ」






(  ゚'ω゚)「えええええええええええええええええええええええッ!?」


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588ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 22:06:38 ID:9TEURJuU0

 ぼくは今日、初めて吸血鬼以外の人外を見た。

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589ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 22:07:08 ID:9TEURJuU0

 素直家に関するあれこれ。
 箱庭時代にぼくが住んでいた地域とここはあまりに離れているので、彼女らに関する逸話についてはドクオからの又聞きという眉唾ものの情報ということになる。
 だがあの人外こと素直キュートさんを見た後ならば、大抵のことは信じざるをえないだろう。

 素直家は由緒正しい(という表現が適切であるかは疑わしい)この国の裏社会の統治者の家系で、
 当主素直トールを筆頭に、彼らは剣という太古から伝わる武力をただひたすらに極め、継承し続けた。

 素直家という集団が裏社会において剣の象徴へと昇華されたのは一体何代前からの話であるか、
 それはドクオにも分からない。
 きっとそうやって神格化する者達の中にも、それを知る人間はいないのだろう。

 そのようにして君臨し続けた彼らは裏社会の、バランサーのような役割を担うようになり、
 血みどろな世界にあるにも拘わらず、徒に暴力を行使することを辞めた。

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590ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 22:07:31 ID:9TEURJuU0

 彼らがその力を行使するのは、主にこの地域で吸血鬼の異常発生が起きた際。

 世界的に見れば不死の吸血鬼を駆除するのはヴァンパイアハンターと呼ばれる、特別な武装(銀の銃弾や心臓潰しの杭などを指す)を持った専門家であることが一般的だが、
 素直家は単純な力を以て、グールのみならずこれまで十数体のイノヴェルチの討伐に成功している。

 その他にも、地域の治安を著しく悪化させる恐れのあるシリアルキラーの抹殺、
 裏の市場を独占せんとする大きなカルテルの殲滅など、この家のバランサーとしての成果を挙げるときりがない。

 まるで自警団みたいだと思う。
 それでも彼らが裏社会の住人としての立ち位置に甘んじている理由が何なのか、
 ぼくはほんの少し気になって、ドクオに聞いてみた。

.

591ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 22:08:01 ID:9TEURJuU0

('A`)「むっずかしいこと聞くなお前は。そんなもん本人らに聞けばいいだろ」

(; ^ω^)「なんだか恐れ多くて……」

('A`)「今からそんなに肩肘張ってたら明日から身が持たねえぞ」

 二人で食べるには大きすぎる土鍋の中でぐつぐつと煮える肉を箸で掬いながら、
 ドクオはわざとらしく溜息を吐いた。

('A`)「明日から早速修行だ。こうやってのんびり美味い飯を食える日なんて当分こねえぞ」

(  ゚ω゚)「ご飯ぬきかお!?」

('A`)「メシを口に突っ込む気力すら残らねえってことだよ」

(; ^ω^)「なんだ、そういう……」

('A`)「なんだとはなんだ。ほんとお前は能天気なやつだよな……」

592ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 22:09:54 ID:9TEURJuU0

 ドクオの呆れ顔が不意に強張った、ように見えた。

(; ^ω^)「お?」

 ぼくは意図的にその目を見ないようにして鍋をつつくが、視線が刺さる感覚が拭えない。

( ^ω^)「……どうかしたかお?」

('A`)「いや……」

 慎重に、言葉を選んでいるのだろうか。
 何かを吐き出しかけては飲み込んで。
 露骨に腫れ物に触れるような態度を示してくるものだから、ぼくも同じように言葉が詰まってしまう。

('A`)「お前って、何者なんだろうな」

 そう問われて、即答出来る人間がどれだけいるだろうか。

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593ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 22:10:15 ID:9TEURJuU0

 たとえばぼくが学園に入学した時ならば、
 ぼくは内藤ホライゾン、乞食をやっていました。ブーンと呼んでほしい。
 と、当たり障りのない自己紹介をしてみせるのだろう。

 不安になってくる。
 自己評価を極端に下げて、ぼくは何者でもない只のエキストラであると下卑た態度を取っていれば、
 誰もが自分から興味を失う。
 そういう風になっていれば、幾分か気が楽になることだろう。
 少なくとも、ぼくが乞食だった時期はそれが罷り通っていた。

 ( ^ω^)

 けれど、今はそうもいかない。
 不意に、堪らえようのない動悸がする。喉が焼け付く。
 その不安の元凶が自分の中にあるとはっきりしているからこそ、
 こんなにやりきれない気持ちになるのだろう。

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594ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 22:10:37 ID:9TEURJuU0

 ドクオの顔を見て、ぼくは確信を得た。
 プギャーさんと対峙してキュートさんが現れて、
 その間のぽっかりと空いた空虚な時間の中に、
 ぼくの知らない何かが首を擡げて現れたのだろう。

 前にも一度だけそういうことがあった。
 あれは確か金に困ってドクオの仕事を手伝った時だった。
 あの時は、確か強くなることに躍起だったのだと思う。
 自分には何でも出来る力があると、そんな驕った全能感こそ無かったけれど、
 自分はこの学園に何者かになれると、無条件に信じ切っていた。

 だから必死だった。
 自分でもよく分からないくらい必死に空回りして、気付いたら、

 ヒッキーは肉塊になっていた。

.

595ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 22:10:59 ID:9TEURJuU0

 きっとドクオが手持ち無沙汰になる程度に考え込んでしまっていたのだろう。
 爬虫類のような顔がとても眠そうで、それでいて、どこか所在なさげだった。

('A`)「忘れてくれ。変な質問だったな」

( ^ω^)「いや……」

 箸を置いて、部屋を出ようとするドクオの背中に。

( ^ω^)「何者かになれるように頑張ってみるお」

 ドクオは振り向いて、少し驚いたような顔をして……

('A`)「おう」

 柄にもなくにっこりと笑ってみせた。
 彫りの深い二重瞼が山なりに垂れ下がっていて、少し間抜けに見えた。
 けれど、とても安心出来た。

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596ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 22:11:19 ID:9TEURJuU0

( ^ω^)「あれ、自分の部屋どこだっけ」

 時刻はちょうど零時を回った頃。
 寝る前に用を足したはいいものの、素直邸は頭が当主の頭が可笑しいんじゃないかと思うくらいには広かった。
 辺りに他の建物はなく、家を照らすのは月と星の光のみで、空気が静まり返っている。

o川*゚ー゚)o「いい場所でしょ」

 廊下の向こうから白い着物を纏ったキュートさんが現れて、ぼくはどきっとした。
 夜の闇と彼女の境界は曖昧で、幽霊みたいだなと思った。

( ^ω^)「こういうところには初めてきましたけど、なんだか落ち着きます。すごく」

o川*^ー^)o「あははっ、なんにも無いからね。ブーンくんはニチヤの方の出身でしょう?

(; ^ω^)「え、ああ、はい。二茶重工の近くに住んでましたけど……」

.

597ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 22:11:41 ID:9TEURJuU0

 自分の出身について語ったのはドクオが最初で最後だった筈だ。
 キュートさんがずばり言い当ててきたことにぎょっとしていると、彼女はくすくすと笑った。
 よく笑う人だなと、思った。

o川*゚ー゚)o「懐かしいなあニチヤ。最後に行ったのはロマくんを実家に送った時だっけか」

(; ^ω^)「え……」

 ぼくは、彼女の口からその名が溢れた瞬間、思わず彼女から遠ざかった。
 彼女はまた、くすくすと笑った。

o川*゚ー゚)o「驚かせてごめんなさいね。あなたのお父さんのことはよく知ってるよ。友達だったから」

 想像すら出来なかったけれど、考えてみれば不自然なことではない。
 国内の軍需産業の中でトップを駆け抜けていた大企業の社長と、この国の裏社会の統治役を担う家。
 むしろ繋がらない理由を考える方が難しい。

(; ^ω^)「そう、ですか」

.

598ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 22:12:03 ID:9TEURJuU0

o川*゚ー゚)o「あの時はまだ産まれたばかりで、あんなにちっちゃかったのに」

 小柄な身体が踵一つ分だけ伸びて、細い腕が着物の袖から現れる。
 細い指が頬に触れて、すぐ掌の温みを感じた。

o川*^ー^)o「おっきくなったねえ、ホライゾンちゃん」

 自分ですら覚えていない、遠い昔のぼくのことを知っている彼女が、
 邪気の無い笑顔を見せてくれていることに、言いようのない安堵感が芽生えたような気がした。

 二茶の家なんてろくなもんじゃない。
 母さんはぼくの父ロマネスクに捨てられた。そしてぼく自身も……
 乞食だった時期から更に遡り、あの箱庭時代を思い出す時、ぼくはいつもそれが他人事であるかのように振る舞って、時には語り聞かせるように夢想したけれど、キュートさんの顔を見ていると、こんな自分も産まれた時は祝福されたのかなんて、思ってしまった。

( うω^)「……」

 本当に唐突に、喉の奥に鉛が詰まってしまって、それを飲み下そうとすると代わりに目から溢れるものがあった。
 それが恥ずかしいと思うくらい、ぼくはまだ子供なのだろう。

.

599ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 22:27:08 ID:9TEURJuU0

o川*゚ー゚)o「あらあら」

( うω`)「茶化さないでくださいお」

 いたずらっぽくくすくす笑う彼女の手を払って、ぼくは縁側に腰掛ける。
 キュートさんも同じようにぼくの隣に座る。
 ちょうどぼくの肩と同じ高さに彼女の頭があった。

o川*゚ー゚)o「本当に、お母さんそっくりね。口元だけはお父さん譲りかな」

( ^ω^)「そうですかお? 母さんにはあまり似てないものだと……」

o川*゚ー゚)o「んーん、そっくり。凄く穏やかで、にこにこしてるのを見ると安心する」

(; -ω^)「それは……どうも」

 面と向かって自分の顔についてああだこうだと言われたことがないので緊張する。
 彼女の容姿がぼくより年下の少女にしか見えないのでまだましだけれど、
 自分より遥かに年上の女性に言われているのだと思うと、どう反応していいのか分からなくなる。

.

600ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 22:50:43 ID:9TEURJuU0

o川*゚ー゚)o「二茶が潰れたのは確か……三年前だっけ。大変だったね」

( ^ω^)「はい。まぁあの時は本当になし崩しだったので、適当に流されてたらこうなっちゃいましたけど……」

o川*゚ー゚)o「またまたテキトーだなんて……三年間よく頑張りました」

(; -ω^)「はい……」

 なんでも手放しに肯定されるような感覚がとてもくすぐったい。
 同世代の人たちと話していると、まず経験することのない感覚だ。
 思えば乞食時代も比較的若い連中とつるんでいたし、学園に入ってからは勿論歳の近い人としか話す機会はほとんど無い。

 大人からはぼくはどんなふうに見えているのだろうか。
 考えたこともなかった。

.

601ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 22:59:16 ID:9TEURJuU0

o川*゚ー゚)o「クーちゃんからきみが来るって聞いた時は本当にびっくりした。けれどこうして実際に見ると、うーん……」

(; ´ω`)「な、なんですかお」

o川*゚ー゚)o「本当に、生きててくれてよかったって思うよ」

(,”;;´ω`)「おっおっ」

o川*゚ー゚)o「あとごめんなさいね。きみが大変な時に何もしてあげられなくて。本当だったら、素直家の方で世話するべきだったんだけど」

(; -ω^)「流石にそこまでしてもらうのは悪いですお。それにこう見えてタフな方ですから……」

o川*゚ー゚)o「んーん、きみのお父さんとの約束だったからさ」

( ´ω`)「……」

.

602ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 23:07:24 ID:9TEURJuU0

 キュートさんは、きっと良い人だ。
 だからぼくは彼女が父さんについて言及すると、胸がちくりとする。
 それなのに……

o川*゚ー゚)o「お父さんのこと、嫌い?」

( ^ω^)「……だいきらいですお」

 自分を悲劇の主人公に仕立て上げることは、とても卑しいことだと思う。
 自分の境遇に責任を擦り付ければ全てが許されるわけではないのに、
 そのように過去を悲観していると、それだけで自分が子供のままでいることが肯定されるような気分になるのだ。
 それはとても気持ちのいいことで、けれどずっとそのままでいるわけにはいかなくて……
 それでも……ロマネスクがぼくと母さんを物のように捨てたことは事実だ。

 それを笠に着るわけではないけれど、ぼくはきっと、一生彼を許さない。

o川*゚ー゚)o「……そっか、そうだよね」

 キュートさんが悲しそうな顔をする。
 申し訳ないという気持ちはあるけれど、ぼくは意図的に彼女から目を逸らした。

.

603ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 23:17:14 ID:9TEURJuU0


( ^ω^)「キュートさんは……」

o川*゚ー゚)o「うん」

( ^ω^)「キュートさんは、父さんのこと好きでしたかお?」

o川*゚ー゚)o「あー……」

 言い淀む。ロマネスクはきっと、彼女にとって良い人だったのだろう。

o川*゚ー゚)o「ぼくがロマくんのことが大嫌いって言ったら悲しい?」

( ^ω^)「……たぶん、悲しいんだと思います」

 ぼくは父さんが嫌いだ。
 父さんの名前を聞くだけで腹が立つけれど、父さんを貶められると、きっと嫌な気分になる。
 そんな気がした。

 二茶の破綻は当時この国にとって大きな出来事だった。
 当然ぼくが露頭に迷っている間、潰れた二茶についてああだこうだという人はいたけれど、
 ぼくは意識的に彼らから距離を置いていたと思う。

 それは自分の家を非難されているからではなく、認めたくないけれど、父さんが作り上げたものを否定されたからなのかもしれない。

o川*゚ー゚)o「そっか」

 キュートさんは意味深に、深く頷いてみせた。

.

604ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 23:25:55 ID:9TEURJuU0

o川*゚ー゚)o「息子のきみにこんなこと言うのもあれだけどね、大好きだった。最高の友達だったよ」

( ^ω^)「そうですか……」

o川*゚ー゚)o「悲しくなった?」

( ^ω^)「いえ……」

 かなしく、ない。

( ^ω^)「ぼくは父さんが大嫌いだけれど、父さんは偉大な人だと思うし、ぼくは息子として誇りに思います」

 そんな矛盾した言い分を、キュートさんはうんうんと頷いて聞いてくれる。
 だから彼女は大人なのだろう。
 大人はとても寛大で、いいヒトだ。
 きっとロマネスクも……外ではそうだったのだろう。

(  ω )「なんだか、ちぐはぐですおね」

.

605ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 23:36:12 ID:9TEURJuU0

o川*゚ー゚)o「そんなことないよ」

 有り体に言うと、吐きそうだ。
 動悸がする。たった一言を、父を知る彼女に吐き出してしまえたら楽なのだけれど、
 それが出来ずにこうしてわざとらしく不貞腐れる自分が嫌になる。

( ^ω^)「……」

 また、涙が溢れる。
 拭う気にもなれなかったから、ぼくは月を見上げた。

o川*゚ー゚)o「……」

 きっと彼女はすごく困るだろう。
 けれど、限界だった。
 三年間という月日は、人によっては短いのかもしれない。
 けれどぼくにとっては、この疑問を抱えたまま過ごすにはあまりにも長い月日だった。

( ^ω^)「父さんは、なんでぼくと母さんを捨てたんですかお?」

.

606ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 23:44:56 ID:9TEURJuU0


o川*゚ー゚)o「……ごめんなさい」

( ^ω^)「……」

o川*゚ー゚)o「本当に」

( ^ω^)「…………」

o川*゚ー゚)o「ごめんね」

 そうじゃない。ぼくが求めていた答えはそうじゃない。
 それでも言えない事情があるのだろう。
 それはぼくを思ってのことか。彼を思ってのことか。
 この際どちらでもいいけれど、大人に裏切られた気がした。
 すごく子供らしい感情の機微だなと、見下す自分もいた。

( ^ω^)「……だいじょうぶです」

607ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 23:54:50 ID:9TEURJuU0

 前を見るしかない。
 全部飲みこんで、躍起になって力だけ求めてしまう、そんな虚しい人間になってしまわないように。
 いろんなものを取り戻すために、ぼくは今より少しだけ強くなりたい。

 父さんを始めとする大人達の事情も、
 ハインが今どんな気持ちでいるのかも、
 今はさっぱり分からない。惨めだ、これ以上ないくらい惨めだ。

( ^ω^)「明日からよろしくお願いしますお」

o川*゚ー゚)o「うん」

 キュートさんが力強く頷いた。

o川*゚ー゚)o「きみがもう二度とそういう顔をしなくて済むように、ぼくが責任を持って鍛えます」

 ハインと、朧げな父さんの顔が脳裏を過った。
 今日の月は綺麗だ。星が今にも降ってきそうで、手を伸ばせば届きそうな気がした。

.

608ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 23:56:17 ID:9TEURJuU0
たった三十回投下するのにこんなに月日がたったのかと自分の怠け癖に辟易してます
また

609名無しさん:2018/10/21(日) 23:58:51 ID:GRvUU8yw0
おつ!

610名無しさん:2018/10/21(日) 23:59:40 ID:BrRMkiQc0
乙です

611名無しさん:2018/10/21(日) 23:59:47 ID:vMVe3N1.0
乙乙
やっぱ面白いわ

612名無しさん:2018/10/22(月) 00:06:29 ID:HHCepLzo0
乙!!!
ブーンもんなんだかんだ思春期の少年なんだな

613名無しさん:2018/10/22(月) 00:17:26 ID:.YTALj8g0
乙です( ^ω^)

614名無しさん:2018/10/22(月) 16:47:20 ID:mYhCEonc0

マイペースで続けてくだせぇ

615名無しさん:2018/10/22(月) 22:00:46 ID:4XsmKQ4c0
おつ!
ロマネスクばっちり生きてんじゃねぇかどうなんただこれ

616名無しさん:2019/03/12(火) 12:39:22 ID:AUBPvmrA0
まだ信じてる。
きっと続きを書いてくれる。

617名無しさん:2019/03/12(火) 15:28:32 ID:4Ln2q5Qc0
一月におわはじラジオに顔出してたし
その内戻ってくるだろ

618名無しさん:2019/03/12(火) 23:43:01 ID:M0B/ga5c0
生存が確認できるだけでもうれしい
俺も待ってるぞ

619ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2019/06/26(水) 01:19:25 ID:u2taR91M0
近々投下。数日以内に。。。

620名無しさん:2019/06/26(水) 02:29:14 ID:tgXGa.Yo0
マジかありがたい
無理しないでマイペースで投稿しておくれ

621名無しさん:2019/06/26(水) 02:58:40 ID:/bYmV5U60
っしゃオラやったぜ楽しみだ

622名無しさん:2019/06/29(土) 01:40:07 ID:KgB48MEA0
ふと今楽の存在思い出したら生存報告が!
焦らないでいいから今すぐ投下して

623名無しさん:2019/07/06(土) 21:34:54 ID:dzvSOVWs0
いつまでも待ってるぞお

624名無しさん:2019/07/23(火) 07:28:42 ID:BahvFvMY0
まだかなーまだかなーチンチンチン

625名無しさん:2019/08/01(木) 12:51:08 ID:mv4wtyMg0
夏バテ気をつけろよ

626名無しさん:2019/08/25(日) 08:46:36 ID:pjULYHqo0
ほんといつでもいいんで続き待ってます
今一番楽しいのこれなんです

627名無しさん:2019/08/25(日) 23:41:40 ID:iX1g9azM0
いつでもいいので今すぐお願いします!

628名無しさん:2019/09/17(火) 02:00:34 ID:eFTNzL2A0
ブーン系の富樫

629名無しさん:2020/04/27(月) 03:04:30 ID:alG2jnQI0
生存確認から10ヶ月経つけど生きてるのか?

630名無しさん:2020/07/16(木) 00:53:00 ID:CezRnAuY0
俺のレスから1年経とうとしてます!
本当に、いつでも、いいので今すぐ復活お願いします!

631名無しさん:2023/09/30(土) 23:12:16 ID:ME2ydxHE0
最後の投下からもう5年近く経つのか…頼むよ


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