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【麗しのブロンディ】八宮めぐる【SS】

1名前なんか必要ねぇんだよ!:2020/11/13(金) 20:06:34 ID:rZxOlIjE
※283Pの過去を捏造しています。キャラも捏造しています。オリキャラも出ます。

「めぐる、今度一緒に海に行かないか?」

そんなありきたりの言葉で彼女を誘ったのは、もう8月も半ばになってのことだった。
夏は祭りの季節、つまり283プロにとっての繁忙期だ。
音楽祭で、海水浴場のイベントで、あるいは地方の小さな村の土着の祭りで、アイドルたちが縦横無尽に駆けて、歌い踊る。
そんな狂乱の一か月強が終わり、事務所のスケジュール表にやっと空きが目立ち始め、店先にはレジャー用品やアウトドア用品をお盆の品が取って代わる、そんな時期だった。

きっかけは社長の一言だった。

『お前、初恋の人は覚えてるか?どんな人だったんだ?』
大事な仕事を終え、社長とはづきさんと俺の3人で打ち上げをしていた時のことだ。
いつまでも女っ気がない俺が話題の槍玉に上げられて、俺の好みの女性だとか、気になっている芸能人(もちろん283Pのアイドルたちは除外して)を聞かれ、そしてその流れでこんな質問が投げかけられた。
他愛のない、酒の入った意地悪な質問。けれど、俺はその質問に言葉を詰まらせてしまった。
察した社長は気を利かせて話題を変えてくれたが、その日からずっと、俺は過去の思い出に悩まされている。

2名前なんか必要ねぇんだよ!:2020/11/13(金) 20:07:01 ID:rZxOlIjE
「うんっ! もちろん、プロデューサーとならオッケーだよー!」
仕事続きの疲労などどこ吹く風、というように、めぐるが元気に満ちた声で返事をした。
めぐるを誘ったのは俺を再び苛みはじめた過去から逃れるためだったのか。それとも、『彼女』の面影をめぐるに投影したいからか。
そう、俺の初恋の人も、ブロンディだったのだ。

行き先は無難に九十九里浜を選んだ。都心からでも日帰りで足を延ばせる距離で、この時期なら人もさほど多すぎない。
朝出発して、日中遊び、ご飯を食べて、夜に帰る。何の変哲もない、平凡なプラン。何も心配することはない、と思っていたのだが…

『もしもし、プロデューサー?はづきです。××ディレクターのスケジュールが変更になりました。明日中に打ち合わせできますか?」
「……はい、明日の13時から、行けまっす」
『はい〜、じゃあ明日13時に〇〇オフィスで打ち合わせの方向で調整しておきますね〜』
…あまりの落胆からか声が上擦ってしまった。きっとめぐる、怒るだろうな……

「じゃあさじゃあさ、明日の夜に行こうよ!泳げなくなるのは残念だけど、海岸をドライブするくらいならいいでしょ!?」
ひとしきり予定のドタキャンに不満を呈した後、めぐるがこう言い出した。
それはつまり、現役アイドルと男性プロデューサーが夜中に二人っきりでドライブし、あまつさえどこかへ宿泊しなければいけないことを意味する。
普段なら、絶対に認めることはできない。けれど、自分から提案してしまった手前の罪悪感、そして……
……そして、再び足元から這い上がってくる過去の情景の残滓が、俺の首を縦に振らせた。

3名前なんか必要ねぇんだよ!:2020/11/13(金) 20:07:44 ID:rZxOlIjE
『彼女』は、両親の都合でカナダから遠路はるばる日本までやってきた少女だった。
流暢な英語とフランス語、そして少したどたどしい日本語を話し、流れるようなブロンドの髪と透き通るような青い瞳を持つ、人形みたいな女の子。
そんな異国の少女が地元の高校に転入して来た日、いや週には、俺が所属していたクラスだけでなく、学校全体がざわついたものだ。
数多の男子生徒と一緒に、俺はその子に心を奪われた。それが、俺の初恋。
必死にその子の気を引こうとして、いろんなことを試して、いろんなバカもやった。
なんとか彼女と少しづつ仲良くなって、彼女の日本語よりもずっとたどたどしい英語とフランス語を身に着けて、
とうとう俺は高校二年生の夏休みに一世一代……と言ったら大袈裟に過ぎるが、当時の俺にはそれくらい大事な、賭けに出た。

(あの時は、車じゃなくて原付だったな…)
千葉県に入ってからしばらくして、俺はふとその時のことを思い出した。
まさかこの年になって、あの青春を思い出すことになるとは。
「ねえプロデューサー、青だよ」
「あ、ああ」
めぐるに促されて、俺は慌ててアクセルを踏む。
「もー…ボーっとしてるよプロデューサー。注意して運転してよね!」
「ああ、ごめんよ。流石にこの道は知らなくてな。気を付けるよ」
太陽が一日の出演時間を終え、西方の舞台裏に退場しようとしている。
九十九里浜に着く頃にはもう月の出番が来ている頃だろう。
にも拘わらず、めぐるはうきうきとした気分を包み隠さず助手席から放っている。
「私ね、デートプラン考えてきたんだよ!」
そう言うとめぐるはスマホを操作して何やらリストを確認している。
デートじゃなくてドライブだ、と言っても、詭弁にしか聞こえないだろうから、
「ははっ、めぐるは準備がちゃんとできて偉いなあ」と、ともすれば失礼に聞こえてしまう返しをしてしまう。
「そうだよー?私は誰かさんと違ってちゃんと予定は守るんだからね!」
……痛いところを突かれてしまった。俺は閉口して車を走らせる。何かから逃げるように。

4名前なんか必要ねぇんだよ!:2020/11/13(金) 20:08:00 ID:rZxOlIjE
「……俺、君のことが好きだ」
二人でひとしきり地元の海で遊んだ後、俺は意を決してしたためていた想いを口にした。
何の捻りもない、平凡な告白。 覚えたばかりの英語かフランス語の愛の言葉を囁こうかとも思ったが、そのどちらも発音が完璧ではないのは分かっていたし、
誰かが飾った言葉ではなく、不格好でも自分の言葉で言いたかった。
『彼女』はその碧眼で俺を見つめて、ふっと笑った。
「ありがとう、■■君。 嬉しい」
「じゃあ……!」
「でも、いいの? 私、あと少しでいなくなっちゃうんだよ?」
そうだ。わかっていたことだ。彼女が日本に居れる時間は限られたもので、それは彼女が転入してきた初日に自己紹介で分かっていたことだった。
わかっていたことなのに、俺は言葉を詰まらせてしまった。
もし、「それでも俺は限られた時間を大切にしたい」「それまで君と一緒に居たい」と、精一杯気障なことを言えることができたら、もっと違っていた結果になったかもしれない。
……いや、何も変わらない。彼女がほんの一年以内にカナダへ戻ることは最初から確定事項で、高校生だった俺がどうこうできることではない。
多分、だから何も言えなかった。
目の前の『彼女』と友達以上の大切な誰かになれたとして。
俺はいつか来る別れをどう受け止めるのだろうか。
純粋にそれを、良い思い出として持ち歩けるだろうか。
そう思ったとき、俺は自信を持って首を縦に触れなかった。
要するに、俺は逃げた。不可避な『彼女』との別れが、俺に傷を残していくことが、怖かったから。
だから、俺は『彼女』と特別な関係になれなかった。
揺れる俺の瞳を見た彼女はふと顔を上げ、沈みゆく夕日に顔を向けた。 金色の長い髪が、オレンジ色の陽光の中へ流れ出し、夏へ溶けていく。
「……帰らなきゃ」
日が沈む。高校生の男女が二人で外を出歩ける時間ではなくなっていた。
言葉も少なく、俺と彼女は来た道を原付で戻り。 
俺の一世一代の大博打は、終わった。

5名前なんか必要ねぇんだよ!:2020/11/13(金) 20:08:30 ID:rZxOlIjE
「わー! すっごーい! 夕日が綺麗!この時間に来て逆に正解だったかもね、プロデューサー!」
九十九里浜に到着した時には、太陽の下弦がちょうど地平線に触れた頃だった。
海面が陽光を反射させて、海水全体が光っているようだ。
「ああ……綺麗だ」
「あ、そうだ!写真撮ってよ、プロデューサー!」
そう言って、めぐるが自分のスマホを俺に渡す。
「この前の写真集より、とびきりいいショットをお願いね!」
めぐるが桟橋へと駆けていく。金髪を後ろに流しながら。そんな後姿が『彼女』の被って、
一瞬、桟橋が永遠に伸びて行って、手の届かないところにめぐるが行ってしまうのではないか。そんな錯覚に襲われた。
半ば無意識に俺も駆けだして、めぐるの手を取った。
「……プロデューサー?どうしたの?」
めぐるが不安そうな顔で俺を見上げる。
「あー、その…… い、一緒に撮らないか? 写真」
「え? ……エへへ、だったらそう言ってくれればいいのにー!いきなり走ってくるからびっくりしちゃったよー!」
一瞬だけでもめぐるを不安にさせてしまったことを申し訳なく思いつつ、めぐると一緒に夕日を浴びながらスマホのレンズにぎこちなく笑いかけた。

『彼女』との一件以来、俺は恋とはおよそ無縁に生きてきた。
夏の後も俺と彼女は『友達』として過ごし、そして予定通りに彼女は両親と一緒にカナダに帰国して、それ以来連絡を取っていない。
SNSやテレビ通話もなかった時代だ。文通という手段もあるにはあったが、その時にはもう俺に夏の時のような情熱はなかった。
人を好きになること。好きになった人が遠くへ行ってしまうこと。その痛みに怯えながら生きてきた。
人生は出会いと別れの連続だ。それが嫌なら、一人で孤独に生きていくしかない。
けれど、社会に出てプロデューサーとなることを選んで時点で、その選択肢も消えた。
だから俺は、遅かれ早かれ、いつかこのジレンマを解消するしかない。

6名前なんか必要ねぇんだよ!:2020/11/13(金) 20:08:54 ID:rZxOlIjE
「ねえプロデューサー。Bluetooth繋いでいい?」
「ん、いいぞ」
東京へ帰る道すがら、めぐるのスマホを承認すると、聞き覚えのある歌声がスピーカーから流れだした。
「あれ?このバンド、どこかで聞いたことがあるような…」
「プロデューサーも知ってる? Nona Reevesっていうバンド。最近ハマってるんだー」
思い出した。テレビやラジオに頻繁に出演するバンドではないが、なぜか一部のネット界隈で莫大な人気を博している。
「へえ、めぐるもこういうの聴くんだな」
「意外だった? 歌詞がけっこう好きなんだー お気に入りはこの曲!」
めぐるがスマホを操作して、数曲飛ばして8曲目のトラックを選択した。
曲名は『麗しのブロンディ』。
「えへへ、私も一応一端のブロンディだからさ。なんか聞いちゃうんだよね。
プロデューサーは……プロデューサー?」
呆然とした意識を、めぐるの声が引き戻す。
気付けば、右折のチャンスを二回も逃していた。しびれを切らした後続の右折車が無理矢理ハンドルを切っていく。

7名前なんか必要ねぇんだよ!:2020/11/13(金) 20:09:33 ID:rZxOlIjE
「プロデューサー……どうしちゃったの?」
彼らの歌声を縫って、めぐるの心配そうな声が届く。
「どこか、具合悪い?」
「いや……そうじゃない。そうじゃないんだ。 ただ、ちょっと……昔の思い出が、な。ああいや、嫌な思い出とかじゃないから曲は消さなくていいんだ。
少し……落ち着かなきゃな」
もう取り繕えない。俺は精一杯声を振り絞り、シートに深く身体を沈めた。
「……その思い出ってきっと…教えて、って言っても教えてもらえないんだよね」
「……ああ。ごめんな」
「……じゃあさ、私があなたにできることはあるかな?
プロデューサーの過去に、私は干渉できない。でも、私が何かして、プロデューサーの未来を明るくできるなら…
私きっと、なんでもできちゃうと思うの。だから、まずはね……そんな泣きそうな顔してるプロデューサーに何かしてあげたいなって」
俺は観念して、ずっと隠していた心の裡を吐き出した。
「めぐる……俺は、ずっと怖かった……今でも怖いんだ。大切な人を失うことが。だから、俺は大切な人を作らないようにしてきた。
でも、もうダメなんだ。もう君が、283プロのみんなが、俺の人生の大切な一部になってしまっている。
がむしゃらに走り続けて、成長だけを求めて、頑張ってきた。でも……この歌を聴いて、昔のある思い出が蘇って…
それで、思ったんだ。いつまでこうして居られるんだろうって。そう思うと……さっきまで動いてた脚がいきなり動かなくなって走れなくなる、そんな感覚になる。
変な話だよな……この年で、社会人になって言うようなことじゃない」

8名前なんか必要ねぇんだよ!:2020/11/13(金) 20:10:52 ID:rZxOlIjE
「ううん。全然変な話じゃない。私とおんなじだよ。自分じゃ踏み出せずに、足踏みしちゃうその感覚。わかるよ。
でもね、プロデューサー。あなたは、あなたが思ってるよりずっと強い人だと、私は思うの。
もちろん、ずっと一緒にいるのは……難しいことだと思う。アイドルだって、いつまでも続けられるわけじゃない。
でもね、いつか走り終わる時が来ても……いい思い出だった、この人たちと一緒に過ごしてよかったって、私は胸を張ってそう言えると確信してる。
……プロデューサーは、違うの?」
「違わない……違わないよ。 俺は、俺の仕事も、アイドル達も、絶対に否定したくない」
「でしょ? 確かに、別れるのは辛いことかもしれない。けれど、それは決して悪いことじゃないと思う。思いっきり前を向いて走って、後ろを振り返った時、絶対その思い出は輝いてるはずだよ。
後で後悔しないように、今を頑張る。口にすると簡単だけど、それを実際にできる人ってあんまりいないと思う。でも、あなたなら絶対にできる。私はそう信じてるよ」
めぐるの声が、俺の胸に重くつかえる何かを少しずつ溶かしていく。
気付けば曲も終わり、見慣れた道へと出ていた。
長かったドライブ……いや、デートも終わりに近付いている。
「ありがとう、めぐる……はは、情けないなあ、俺。でも、こうしてめぐると話せてよかった」
「えへへ、私もだよー。ビーチは楽しかったし、プロデューサーのこんな一面見れるなんて、レアな体験させてもらったし。これを機にさ、もっと色んなこと、わたしたちに打ち明けて欲しいなー!」
薄暗い車内で、見慣れたはずのめぐるの屈託のない笑顔が、一層と光っていた。

9名前なんか必要ねぇんだよ!:2020/11/13(金) 20:11:30 ID:rZxOlIjE
「ねえ、プロデューサー」
アパートに到着して別れる際、めぐるが車から数歩離れたところで立ち止まった。
「私とあなたが一緒に居れる方法、少なくとも一つはあるよね?」
「え…?」
「……ふふっ! それも選択肢の一つだと思うな、プロデューサー!もしよければ、考えておいてねっ!」
最期に悪戯っぽい笑顔を見せて、めぐるはアパートへ駆けた。
「…………」
しばらく呆気にとられた後、俺は再びエンジンを始動して、接続したスマホで音楽配信アプリを開いた。

♪ブロンディ 窓を横切る風が 君を探して 夜が光る街へゆくよ……♪

10名前なんか必要ねぇんだよ!:2020/11/13(金) 20:11:53 ID:rZxOlIjE
終わり!閉廷!

11名前なんか必要ねぇんだよ!:2020/11/13(金) 20:24:46 ID:UXvKmAUs
めぐるすき

12名前なんか必要ねぇんだよ!:2020/11/13(金) 20:33:43 ID:GnwsHFnw
ノーナの純愛メロディーに乗せた感じがいいゾ〜コレ

13名前なんか必要ねぇんだよ!:2020/11/13(金) 20:50:41 ID:5yrCx7PM
玉も竿もでけぇなお前(褒めて伸ばす)

14名前なんか必要ねぇんだよ!:2020/11/14(土) 00:17:10 ID:6jLus2QE
こういうのでいいんだよこういうので

15名前なんか必要ねぇんだよ!:2020/11/14(土) 13:44:46 ID:zd6ehjz.
これ恋愛感情ありますよね?
めぐるがもの凄く可愛いのでいいですけと


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