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【俺能世界】俺が能力授けるからこの世界で戦え【新世界】Part46

2【アーチャー】ラース:2019/06/19(水) 17:13:03 ID:3eIVfXgc
夢を、見ていた
内容は朧気ではっきりとしていない
遥か昔のことだった気もするし、つい昨日のことを夢見ていた気もする
ふと現実に目を向けて、仕事の最中であったことを思い出す

「…ごめんな」
「お前には恨みはないし、依頼が来たわけでもないんだが」

「顔見られたから、死んでくれ」

そう呟く彼の足元にはいくつかの男の死体が転がっていた
死体の外傷はたった一点、頭蓋に空いた一つの穴だけ
この場において生きている者はたった二人
彼と、殺人犯を見てしまった哀れな一般人のみ
一刻も早くこの場から逃走せんと駆けるその背に、ついに用いられた凶器───弓と矢が向けられる
彼我の距離は刻一刻と伸びているというのに彼に焦りの念はかけらもなく、至って平静のままだった
そして極限まで引き絞られた矢がついに解き放たれて
また一つ、同じ外傷の死体が転がった

「これで今回の仕事は終了、かな」

それと同時に彼の手元にあったはずの黒の弓矢は消えていて
後には死体と、壁を背もたれにしてたたずむ彼のみが残されていた

3【ナナシサン】名前の無い能力者:2019/06/19(水) 22:59:26 ID:vvEaB7xU
【───某年 某日 某市街地にて】
【───著者名:エリアス・S・ワイズマン】
【───題目:宝石、並びに宝玉保有者たちの異常性に関する研究レポート】

━━…━━…━━…━━…━━…━━━━…━━…━━…━━…━━…━━

【土煙巻くアスファルトの舗装路。仄暗い曇天の隙間から、漏れ出た光が地を照らす】
【変わり映えのしないこの街にも、多少は季節の概念もあるらしい。これでも梅雨時の貴重な晴れだ。】
【部屋とベランダを忙しなく往来するひとたち。手には洗濯物の束を抱え、待ってましたと言わんばかり】
【……ところで一人、そんな様子を気にも留めずにアパートの扉を開き、散歩に出ていく男がいた】

【片手には洗濯物の代わりに何だか分からぬ紙の束。纏った白布の裏に見え隠れする古臭い表紙の本】
【胸元にはよくある市販のペンが一本。古臭いんだか新しいんだか、コンセプトはごちゃ混ぜだ】
【運ぶ足取りはゆったりと。慣れ親しんだ歩幅でもって、辿り着いたのは大通り】

「……もうこの街に来て半月になるか。噂よりは随分と寂しい街だったが……。」

【“そりゃ良いことじゃないか”、なんていう通りすがりの老婆は聞こえない】
【代わりに広がっている光景は、どうだ、鉛色の空と同じシャッターの展覧会】
【夜もそれなりに賑わう街だと聞いていたが、少々仕入れた情報が古かったらしい】
【閑古鳥が鳴いている……とまでは行っていないらしいが、しかし、まあ】

「そろそろ始めるか。半月で得たものが無いわけじゃない。」

【彼にとって、それは寧ろ好都合。何故なら、彼が求めるものはネオン灯の喧騒ではなく】


【───そうとも。“私”が求めているものは、もっと別種の喧騒だ。】
【故に、“私”は待ち望む。】
【私の術理の深奥と根を同じくする者を。】
【私の魔導の根底を解き明かしうる存在を。】
【異能と異能の衝突を。我が同胞たちの集う日を。】
【その時はもう程近い。その日は今日だと心得る。】
【故に、私は来るべき者の到来を待つ。】
【いつもの、使い古された大通りにて。】

4【アーチャー】ラース:2019/06/20(木) 00:27:54 ID:AB8jdBMI
>>3
一仕事終えて報酬をもらい、帰路に就く
彼の場合はやや一般的なそれとは異なるにせよ、職の貴賤を問わないのであればこにでもあるありふれた一幕だ

──きっかけはなんとなく、だった
ただ、なんとなく今日はいつもとは異なる道を通って帰ってみようと思ったというだけ
だからこそ、これは全くの偶然だ

「何か、用かな?」

大通りの途中で何かを待ち構えるように立つ男と出会ったのは
彼我の距離は未だ数m以上あり、お互い別段凶器も持ってはいないし顔見知りですらない
だというのに、なぜかその男から目が離せない
──いや、目をそらしてはいけない
本当は心の底では気づいているのだ
彼から感じる同族の匂いに
凡百の一般人の持ちえぬ力を、彼もまた持っているのだということに

5【知識の魔導書】エリアス・S・ワイズマン:2019/06/20(木) 22:56:42 ID:Cj4P5XsU
【───それから数分のことだったか】
【いや、あるいは数刻を挟んでいたろうか】
【とかく時間は飛ぶように過ぎていく心地がする】
【人は慣れる生き物だ。無味無臭の時間の流れも、何れは容易く慣れてしまう】
【曖昧になった時の感覚。この停滞した街中にそれを呼び醒すモノがあるとすれば、それは】

「……随分と変わったお方だ。」

【きっと、まるで今そうしてるみたく、ほんの些細な“偶然”の産物なのだ】
【距離にして車が数台分、視線の先には紅の双眸が並ぶ】
【もう知ったことだ。赤い目をしたニンゲンなんて、この街ではまったく珍しいもんじゃない】
【服装には特徴など無に等しい。黒い手袋だって、探せば二、三人は見つかるシロモノだ】
【……まるで、関わる理由は無い男だ】

【…………そのはず、だったのだが】

「そこばくの往来にならともかく、わざわざ私に話し掛けてくるなんて。」

【それら前提の全て覆すことを、数丈先に佇む男はやらかした】
【そんじょそこらの一般人様が、何が悲しくて研究者紛いの服装をした白衣の男に話し掛ける?】
【……つまり、それは“お目当て”の合図。私は徐に胸元のペンを取り出して、手元の紙に滑らせる】

「ああいや、用が全く無いと言えば嘘になってしまうでしょうが……」

【あとはどうすれば良いかって? それは定型句として決まってる】
【 彼らと“対話”をするときは、必ずこんな返答を返すべし】

「わざわざ、呼び止めてお頼みする程の用はありませんよ。」

「それも、『仕事帰り』の御仁をとなれば、なおさらですとも。」

【そうとも、実に素っ気なく。まるで何でもないさと言うように、軽やかに告げてやるのだ】
【『お前の勘ってヤツはこう、間違っちゃいないぞ』と】

6【アーチャー】ラース:2019/06/20(木) 23:39:04 ID:AB8jdBMI
>>5
沈黙の時間
それは数秒だったかもしれないし、数分だったかもしれない
だが、とにかく一つ言えるのは体感としては永遠とさして変わらないような時間だったということだろう
全く男の言うとおりだ
こんな男のことは無視して帰ってしまえばよかったのだ
あぁ、ほら、そうしなかったせいで───

「…そうかい、言葉はいらないか」

───こういう羽目になってしまう
わざとらしいくらい明らかで、白々しい言葉が指すのはつまりはそういうこと
要するに、彼は遠回りにこちらを誘っているのだ
全く嫌になるほどトラブルが舞い込んでくる
どうしてこう日々を終えることさえ楽にはいかせてくれないのだ

「でもまぁ一応一つだけ聞いておくけどさ」
「ここで、いいのかな?」

いいだろう、求めるのならば付き合ってやろう
好きに喜ぶといい、だがその代金は何より高くつくと知れ
今のところは互いに無手だが、そんな情報は何の意味もなさない
なぜなら自分がその典型だ
警戒と僅かな怒気を込めながら彼は訊く
大した意味はない質問だ
だが、仮に移動するというならもう少し距離を取れると思っただけのこと

さぁ、それに対してどう答える───?

7【知識の魔導書】エリアス・S・ワイズマン:2019/06/21(金) 00:46:19 ID:bP9lGYvA
>>6
【『日常』、それは何とも甘美な響きを持つ言葉だ】
【ああいや、このレポートをご覧になるだろう貴方たちにはそうもいかないのかもしれないが】
【我々の暮らす世界において、『日常』と『非日常』の境界線というものは、いとも容易くその輪郭を喪ってしまうものでして】
【『非日常を日常とする者』にとって、それはなおのことなのである】

「その言葉は、私のほんの少しばかりの好奇心を満たすのに協力してくださる……と受け取って構いませんね?」
「でしたら何も問題はない。この通りは広いとはいえシャッター街、人通りはもう疎ら。加えてこの街の人々は『そういうこと』に慣れていると聞きます。」

【だから、幾分か問題があるとするならば】

「それに、私が求めるものはあくまで我が『同胞』たちの情報だけですよ。通りを皆台無しにしてしまうような、大ごとになることもありますまい。」

【その『日常』の境界が何処に引かれているのかは、話し掛けてしまうまで、まるで分からないということだ】
【ソイツはさながら黒い布を被せてしまった奇術師御用達のブラックボックス】
【開けて中身を見るまでは、その色だって分かりゃしない】

「ああ勿論、それ以上の何かをお求めだと言うのなら……見返りは用意できないこともない。」
「とはいっても、この私自身に関するほんのささやかな情報だけですがね。」

【中に控えていた色が、血混じりの鉛色だったとしたら……?】
【曖昧な笑みを浮かべつつ、白衣の男はペンと紙束を服の内側に差し入れた】
【その代わりに手に握られて出てきたモノは、古めかしい一冊の本】
【如何にも古典書と言わんばかりの表紙をつけた、カビ臭そうな見た目の本だ】

「それでは改めまして、早速です。貴方が“お持ち”のものを見せて頂けますか?」

【片手に開かれた古典書と、交錯する両者の視線とが、始まりの鐘を打ち鳴らした】

8【アーチャー】ラース:2019/06/21(金) 01:23:26 ID:LqVY3mvM
>>7
大事にはならない、ときた
斬った張ったの果し合いの場を求めておいてよく言ったものだ
いいだろう、構わない
相手の知らぬこととはいえ、こんな開けた場で挑んだことを後悔させてやるとしようではないか

彼とて魔術師の端くれ、中身は分からずとも男の取り出した本が何かだけは分かった
──おそらくは魔本の類か

「へぇ、そんな腐りかけの本がお前の“力”か?」
「なるほど、よく似合ってるじゃないか」

嘲りの様に告げる言葉とは裏腹に、彼には侮りなどない
男に精神面での上位を取らせないための単なる挑発だ
怒気を引き出せれば儲けもの、冷静さを少しでもなくせたのなら大金星といったところだ

「見せてください、なんて言われてもなぁ」

「脳にまでカビの生えてそうなインテリ君に見せてやれるほど大したものなんて俺には何もない──ぜっ!」

言い終わるが早いか、男の手元にはすでに引き絞られた漆黒の弓矢が握られている
それを後ろへの跳躍と同時に、男へめがけて解き放つ
精神状態がダイレクトに反映される弓矢こそが彼の力
その矢は彼の怒気もあり一般的な矢の速度を凌駕した
狙いは手元、男の力の起点となるであろう魔本
彼こそは達人と呼ばれるものさえ凌駕する、弓兵の頂点の一角
いかな精神状態とて狙いを過つことはあり得ない

男が距離を詰めない限り、より一層両者の距離は広まっていくことだろう
彼に有利なように、あるいは男に有利なように

9【知識の魔導書】エリアス・S・ワイズマン:2019/06/21(金) 15:34:14 ID:jNYrSzns
>>8
【刹那。一番似合う言葉を探せば、恐らく第一候補に挙げられる】
【狩人と獲物の身分関係は、いつも刹那のうちに構築される】
【ロビン・フッドか、ウィリアム・テルか。何れにせよ、結論はみんな同じこと】
【優秀な狩人は弓が引くことは、獲物が憂愁に浸ることと全くの同義なのだ】

「ああ、コレはどうやら言葉が足りていなかったらしい。」

【だが、有能な狩人はそれ故に知っている】
【己が弓矢で屠らんとする者は、決して贖罪の仔羊などではないことを】

「……だから、私からも一つだけ訂正せねばなりますまい。」

【飛来するは黒色の殺意。空を劈き、心が凍る】
【狙いは精密機械をも鼻で笑う。地を這うアリの瞳を射抜くが如く】
【空を飛び交う大鷲も、到底この弓からは逃れ得まい】
【『ブラックボックス』は開いてみるまでおっかなどっきり玉手箱。此度は開けたら終いに至る、閉じられぬパンドラの箱だった】
【白衣の男は飽くまで只人。完全な不意を完璧に突かれては、対処のたの字も出て来やしない───】

「私が先程、『大事には至らない』と申しましたのは───」

【───しないが、だが、しかし。】

「言い換えれば、『この腐れた灰色の脳味噌だろうと、貴方を押し留めるには十分だろう』という意味合いでしてね。」
「意外や意外、貴方もこの本のことはそれなりにご存知の様子だ。であれば、貴方はなおさら対処の仕方を間違えた。」

【知っているか。彼ら狩人が獲物と認知するのは、大概が猛り狂う熊や大猪だ】
【彼らの皮膚は強靭だ。その堅牢なるや、弓矢も弾かれてしまうほど】
【彼らの狂牙は獰猛だ。その俊敏なるや、肉など噛みちぎられてしまうほど】
【故にこそ、狩人と獲物の身分交換は須臾の間に成し遂げられる】

【砂塵。矢が解き放たれたほんのコンマ数秒の後、白衣の男を中心として一斉に舞い上がる】
【解き放たれるは銀色の疾風。矢は己の媒体を乱されて、行方を僅かにズラされた】
【矢の唸りは砂塵の主を通り過ぎ、遥か後方へと目標を喪ったままに姿を消した】
【そして、時とともに薄らぐ砂塵の内側で……白衣の男は、先程とまるで変わらない静かな微笑を浮かべていた】

【……そもそも、だ。異能と異能が対立するには、何よりもまず敵対者の情報がモノを言う。それは弓矢の男も重々承知のことだろう】
【では何故、この白衣の男は自らの手札を自分から晒すような真似をしたのか……弓矢を引いてしまうまで、ほんの一瞬でも『ある可能性』に思い至らなかったのか?】
【そうだ。結論から言おう。男は『あえて見せつけた』のだ】
【距離を詰める様子がなく、恐らくは何らかの遠距離における戦闘手段を持っているだろう男の、一番最初の『狙い』というヤツを誘導するために】

「貴方は───これはあくまで私の推論ですが───私が魔導士の端くれであることは見抜いていたと見受けられます。だから真っ先に距離を取り、出来る限り此方の手段を潰すべく、先手を取ることを優先した。」
「きっとそれは、このフィールドが距離を取れば取るほどに貴方に有利な環境だ……そう見越した上での行動でしょう。」

【砂混じりに煌めく旋風の障壁に包まれながら、白衣の男は徐に続ける】
【なるほど、確かにこの男が扱う魔導には、相応の時間的猶予が必要だ。タネが割れれば状況も厳しくなる】
【『だからこそ』、あえてその苦難を飲み込んだ】
【飲み込んだ上で、自分の『準備』も同様に進めた】

「だが、遅すぎた。これはあくまで一時的な障壁魔導ですが……それでも、『弓矢』が相手となれば十分に有効だ。そうは思いませんか?」

【仕切り直しを宣言する前、片手に開いていた風の魔典……諍いが幕を上げるまで、魔力解放までには十分な時間が経っていたのだ】
【白衣の男を包む障壁はやがて少しずつ拡大し……白衣の男の前方に、およそ5m四方はあろうかという不可視の障壁に変化した】
【滅茶苦茶にされた気流が唸りを上げ、物体の侵入を只管に拒む】

「それでも、まあ、貴方もたったのこれだけで終いではまるで満足はしないのでしょう?」
「だから、どうか“別のもの”でも見せて下さいな。そうだ、この障壁を乗り越えてみせるなんて芸当はどうでしょう。」

【白衣の男はそう言って、障壁の向こう側で笑う】
【嘲笑ではない。どちらかといえば、それは───】
【『化学実験に心を踊らせる博士』のような笑みだった】

10【アーチャー】ラース:2019/06/21(金) 15:42:19 ID:LqVY3mvM
>>9
/あの、能力は火、水、雷、氷、闇、光の六つで風の本無いようなのですが

11【知識の魔導書】エリアス・S・ワイズマン:2019/06/21(金) 16:29:33 ID:jNYrSzns
>>8
【刹那。一番似合う言葉を探せば、恐らく第一候補に挙げられる】
【狩人と獲物の身分関係は、いつも刹那のうちに構築される】
【ロビン・フッドか、ウィリアム・テルか。何れにせよ、結論はみんな同じこと】
【優秀な狩人は弓が引くことは、獲物が憂愁に浸ることと全くの同義なのだ】

「ああ、コレはどうやら言葉が足りていなかったらしい。」

【だが、有能な狩人はそれ故に知っている】
【己が弓矢で屠らんとする者は、決して贖罪の仔羊などではないことを】

「……だから、私からも一つだけ訂正せねばなりますまい。」

【飛来するは黒色の殺意。空を劈き、心が凍る】
【狙いは精密機械をも鼻で笑う。地を這うアリの瞳を射抜くが如く】
【空を飛び交う大鷲も、到底この弓からは逃れ得まい】
【『ブラックボックス』は開いてみるまでおっかなどっきり玉手箱。此度は開けたら終いに至る、閉じられぬパンドラの箱だった】
【白衣の男は飽くまで只人。完全な不意を完璧に突かれては、対処のたの字も出て来やしない───】

「私が先程、『大事には至らない』と申しましたのは───」

【───しないが、だが、しかし。】

「言い換えれば、『この腐れた灰色の脳味噌だろうと、貴方を押し留めるには十分だろう』という意味合いでしてね。」
「意外や意外、貴方もこの本のことはそれなりにご存知の様子だ。であれば、貴方はなおさら対処の仕方を間違えた。」

【知っているか。彼ら狩人が獲物と認知するのは、大概が猛り狂う熊や大猪だ】
【彼らの皮膚は強靭だ。その堅牢なるや、弓矢も弾かれてしまうほど】
【彼らの狂牙は獰猛だ。その俊敏なるや、肉など噛みちぎられてしまうほど】
【故にこそ、狩人と獲物の身分交換は須臾の間に成し遂げられる】

【砂塵。矢が解き放たれたほんのコンマ数秒の後、白衣の男を中心として一斉に舞い上がる】
【解き放たれるは銀色の閃光。矢は己の進路を塞がれて、行方を僅かにズラされた】
【矢の唸りは砂塵の主を通り過ぎ、遥か後方へと目標を喪ったままに姿を消した】
【そして、時とともに薄らぐ砂塵の内側で……白衣の男は、さながら『氷の繭』の内側に立ち、先程とまるで変わらない静かな微笑を浮かべていた】

【……そもそも、だ。異能と異能が対立するには、何よりもまず敵対者の情報がモノを言う。それは弓矢の男も重々承知のことだろう】
【では何故、この白衣の男は自らの手札を自分から晒すような真似をしたのか……弓矢を引いてしまうまで、ほんの一瞬でも『ある可能性』に思い至らなかったのか?】
【そうだ。結論から言おう。男は『あえて見せつけた』のだ】
【距離を詰める様子がなく、恐らくは何らかの遠距離における戦闘手段を持っているだろう男の、一番最初の『狙い』というヤツを誘導するために】

「貴方は───これはあくまで私の推論ですが───私が魔導士の端くれであることは見抜いていたと見受けられます。だから真っ先に距離を取り、出来る限り此方の手段を潰すべく、先手を取ることを優先した。」
「きっとそれは、このフィールドが距離を取れば取るほどに貴方に有利な環境だ……そう見越した上での行動でしょう。」

【反射光の煌めく氷の障壁に包まれながら、白衣の男は徐に続ける】
【なるほど、確かにこの男が扱う魔導には、相応の時間的猶予が必要だ。タネが割れれば状況も厳しくなる】
【『だからこそ』、あえてその苦難を飲み込んだ】
【飲み込んだ上で、自分の『準備』も同様に進めた】

「だが、遅すぎた。これはあくまで一時的な障壁魔導ですが……それでも、『弓矢』が相手となれば十分に有効だ。そうは思いませんか?」

【仕切り直しを宣言する前、片手に開いていた風 氷の魔典……諍いが幕を上げるまで、魔力解放までには十分な時間が経っていたのだ】
【白衣の男を包む障壁はやがて少しずつ融解し……白衣の男の前方て、およそ5m四方はあろうかという半透明の障壁へと変化した】
【凝結した無垢の障壁は物体の侵入を只管に拒む】

「それでも、まあ、貴方もたったのこれだけで終いではまるで満足はしないのでしょう?」
「だから、どうか“別のもの”でも見せて下さいな。そうだ、この障壁を乗り越えてみせるなんて芸当はどうでしょう。」

【白衣の男はそう言って、障壁の向こう側で笑う】
【嘲笑ではない。どちらかといえば、それは───】
【『化学実験に心を踊らせる博士』のような笑みだった】

//申し訳ない……完全に能力幅の把握ミスでした

12【アーチャー】ラース:2019/06/21(金) 17:04:59 ID:LqVY3mvM
>>11
真に戦いの始まりを告げた第一矢の解放とほぼ同時、男も何らかの能力を発動した
それとともに巻き上がる砂塵は、しかしそれだけでは矢に影響は及ぼせない
故に、それは男の力の一端の前兆にしかすぎないということで

「…氷の障壁か」

砂塵の内から顕現するは半透明の障壁
それを以て矢を反らし、弾き無傷のままに男は立っていた
自信満々に魔本を見せつけ、こちらを挑発してきたのはこちらの遠距離攻撃に対処する自信があったからということか

「いいじゃないか、よく似合ってるよ」
「引きこもりが外になんか出れるはずないもんなぁ」

なるほど、確かにそれは強力だ
正面からの生中な一矢、ニ矢程度では弾かれてしまい現状が続くのみだろう
いや、一方的に向こうがこちらを攻撃できる可能性だってある分こちらが不利か
だがそれでもなお彼は余裕ぶった口調と薄い笑みを崩さない

「おいおい、よく俺を見てみろよ。やっぱりインテリは目が悪いのか?」
「そんな数mもある壁を乗り越えるなんて芸当は俺には不可能さ」

実際彼の身体能力は一般人と大差はない
白銀の壁をその腕で以て砕くこともできなければ乗り越えていくことだってできはしない
が、それは彼になすすべがないことを意味しない
ただ四方に壁がある程度であればどうとでも対処できるのだから
瞬間、彼の手に数本の新たな矢が握られる

「いくつかやりようはあるが、まぁこれが一番無難だろう」

山なりに弓を討つ、反射させる、精神を整えて最高の一矢を討ち放つ
どれでも壁を突破する自信はあるが対処されやすく、究極の一を見せれば情報を相手に与えることとなるだろう
で、あればこのままでいい
先程と同程度の矢を連続して数本射出
狙いは一点、うちに男の立つ真正面
一本は弾かれるだろう、二本でもきっと同じこと
だがそこに傷は残り続ける
5本、6本、7、8、9──どこまでも果て無く矢を作っては寸分たがわず前矢が直撃した一点に向けて矢を射続ける
圧力に耐えきれず砕け散るその瞬間まで、そして砕け散ったのなら男の心臓を射抜くまで

13【知識の魔導書】エリアス・S・ワイズマン:2019/06/22(土) 00:20:01 ID:gssIjV2w
>>12
【白無垢に包まれた女王を傷つけることは適わない】
【それが如何に鋭利な矢の一撃であろうとも、だ】
【氷という物質は、その見てくれと色彩からは想像もつかない程に堅牢な城塞たりうる】
【純水のみで構成された氷塊ともなれば、視界はお互いに相応に確保できる】
【……思い通りにフィールドを形成してしまうには、またとなく効率的な手段だ】

「ああ、残念ながら、年がら年中書斎に引きこもりがちになると視力も幾分落ちてしまうものでしてね。」
「だからこうして、たまには外の空気を肺いっぱいに詰め込まなくてはなりません。いやはや、まったく困ったものですね。」

【そう言う口調こそ淡白だが、その表情たるや、いかにもご満悦といった様子だ】
【自分の作戦が上手くいったからか、それとも自分が造り上げた彫刻に随分と自信があるのか】
【───あるいは、本を持ち替えながら対峙する、 この状況そのものに?】
【分厚い氷越しでは、表情の些細までクリアには見えやしないのがオチなのだが】

【まあ、どちらにせよ結論に大きな影響は出やしない。如何に達人の弓だろうと、たった一本の矢を使って一体何が出来るだろう】
【上を通して狙撃する? なるほど、出来ないことは無かろうが数歩も横にズレれば全く問題はないだろう】
【それすらしないということは、早くも万策尽き果ててヤケを起こしたということか。それならば何回障壁を射られたところで、結果は同じで───】


「……なるほど、これは。」

【───否、寧ろ逆だ。奴は数多の攻め手から、一番“容易い”選択を採っている】
【“寸分の狂いなく、全く同じ場所を射る”。それは弓兵が選び得る中で、最も荒唐無稽な最適解】
【一射、二射、三、四、五射───その度ごとに鳴る高音が大気を畏怖に震えさせ】

【通算十何発目だろうか】
【──────ミシリ、と。】
【ある一撃を境目に、障壁から響く音が鈍い重音に切り替わった】
【数秒遅れて、ピシリ、ピシリと白い線が障壁中を疾り抜け】
【目の眩むような光が路地をバッと照らしたかと思うと、次の瞬間───】

「───見事だ、怒れる弓兵よ。」

【一閃】
【崩落寸前の氷の城塞を打ち砕き、遂にその矢は難攻不落を貫いた───!】
【尚も推力を保った矢が白衣の男の頬を掠めた】
【それと同時に、地に落ちた砕氷の上にバッと赤いラインが出来る】

【白衣の襟元を鮮紅に染め、本を開いたままの男は】
【しかし、何とも愉快げに笑っていた】
【男の背景には祝福の代わりに季節に見合わぬ陽炎が立ち昇っている】
【片手に開かれた本からは、鮮血を更に明るくしたような真紅の光が迸っている】
【男が、口を開いた】

「流石は弓兵。障壁の向こう側に矢を通すなどお手の物でしたか。いやまったく御見逸れしました。思えば絵本の弓兵もこのような難題は屁でもないといった様子でしたね。」

【引かれる弓にも御構い無し。男はそこまで言ってから、ニイッと口角を吊り上げて】

「───それでは、次へと参りましょうか。」

【高らかに、新たな『始まり』を宣言した】
【次いで白衣の男を取り巻くように現れたのは、燃え盛る業火で身体を成した、伝承の如き赤の龍】
【巻き起こる上昇気流のバースト。飛来する次の矢は空中で制御を喪い、そのまま火にくべる薪のように朽ち果てる】

14【知識の魔導書】エリアス・S・ワイズマン:2019/06/22(土) 00:36:24 ID:gssIjV2w
(>>13続き)
【煌々たる龍の輝きに照らされて、白衣は燃え上がるような夕陽の色に染まっている】
【そうだ。氷の障壁は砕かれこそしたが、その次を用意するには十分な時間を確保してくれていた】

「さて……そういう伝承に伝えられる類の弓兵という者は、このような龍にすら果敢に立ち向かうのだと聞きます。」
「どうだ、貴方自身を試してみるにはいい機会だとは思いませんか! 私も付き合って頂いている身だ、それぐらいの返礼はお安い御用ですとも!」

【そう言い終わるが早いか、龍の口が弓兵の男に向けてガバッと大きく開かれた】
【放たれるのは無慈悲の火球。ヒト一人程度は包み込めそうな一撃が次へ次へと一直線に繰り出される】
【直撃すれば戦闘不能は免れない、掠めるだけでも皮膚の一端は焼け焦げることになろう】
【さらに火球は空間を加熱し、膨張した空気は気流の乱れを引き起こしている】
【“さあ、この難題にお前はどう対処する……?”】
【男は愉しげな笑いを崩さずに、その行方を見守っている】

15【アーチャー】ラース:2019/06/22(土) 01:14:33 ID:VWebnUcQ
>>13
10,11,12──まだまだまだ
機械よりも精密に、しかして渾身の力を込めた矢を解き放ち続ける
並の達人では不可能だろう、熟練したそれでも極限の集中を必要とされるであろうそれを彼はいともたやすく行い続ける
どれだけ堅固であったとしても、耐久の限界値は存在する
まして板状の氷となれば一点に致命的な罅を入れればあとは砕け散るのみ

「なるほど、じゃあもっと空気を吸い込みやすくしてやろう」
「なに、大したことじゃない。対価はお前の命で十分だ」

故に、果て無く続くかと思われたそれにも当然終わりは訪れる
弓兵として培った直感と視力がかの障壁の限界を知覚した
──次の一矢で砕けるだろう
より大きな笑みを浮かべて放ったそれは真実難攻不落に見えた城壁を打ち砕き──

「〜♪これで少しは男前が増したんじゃないか?」

──城の主の頬に一筋の傷を植え付けた
かすり傷程度とはいえ、先に傷をつけたのは精神的に一歩上をとれた
口笛とともに更なる一矢をつがえ、射る
裸の王様に狩人の弓は防げない
なればこそ、王を守護するものがそれを防ぐのは当然で──

「──へぇ、壁の次はちんけなペットか?」
「トカゲが好きとはまたなんとも見てくれ通りって感じじゃないか」

突風とともに吹き荒れるは業火
それが徐々に形を成したかと思えば現れるのは名高き赤き龍
口では余裕ぶっているが、彼にとってこれは鬼門となるのは間違いない
通常の弓矢と違って彼のそれは魔力製であるゆえに、通常のそれよりは硬くできてはいるがそれでも矢なのだ
込めた魔力を上回る力には容易く燃やされ弾かれてしまう

「試す?おいおいちょっと待てよ言葉の使い方も知らないのか?」
「それを吐けるのは相手を上回る何かだけなんだぞ?」

大きく、それなりの速度で、恐らくは絶望的な温度を持った火球が彼に対して襲い掛かる
だがそれだけだ
何の工夫もないただ大きいだけの恐ろしい火球では彼を仕留めるには至らない
まして近距離ならばともかく彼の本領の距離であればなおのこと

「なんだなんだ?ペットのしつけが足りてないじゃないか」
「玉遊びの練習がしたいなら他所でやれ」

右に、左に経験と火球の軌道をみて着弾点を予測しながらすべてを回避する
服は焦げ、あるいは軽度のやけど程度は負ったかもしれないがその程度

「──さて、とはいえ体力だって無限じゃない。どうにか反撃といこうか」

そして、移動しながら又数本の矢をつがえ、僅かづつの時間差を置いて男にめがけて射る
当然気流が荒ぶる今、まともに飛ぶはずもなく運よく男に飛んでも龍に対処されるのが落ちだろう
だが、それを以て彼は気流の乱れが如何程か、火球の爆発でどの程度乱れるかを把握する心づもりだ

16【知識の魔導書】エリアス・S・ワイズマン:2019/06/22(土) 20:21:25 ID:pDcQtH7c
【旧き伝承に曰く、とある東国の英雄は地より解き放つ弓矢によりて】
【天つ日輪の九つを天より射落としたという

17【知識の魔導書】エリアス・S・ワイズマン:2019/06/22(土) 22:32:12 ID:pDcQtH7c
>>15
【旧き伝承に曰く、とある東国の英雄は地より解き放つ弓矢によりて】
【天つ日輪の九つを天より射落としたのだという】
【それは飽くまで伝説であり、伝説とは人々の信仰が昇華された一つのカタチだ】
【物語において英雄たちは、必ずや伝承に伝わる力を得る】
【そして英雄たちは必ずや己が試練と対峙する】
【それは新たな信仰を集め、やがては新たな伝承となる】


【この街は、その塗り固められた信仰が、幾重に重なる伝承たちが集う場所】
【数奇な運命の織物を成す類稀なる命が集い】
【命は己が試練と対峙し、試練は新たな輝きを灯す】
【それが新たな物語の火種となるか、尽き果てる蝋燭の最期の一瞬と果てるか】
【いずれにせよ、物語は廻るのだ。全ての命が果てるまで、異能の回帰は終わらない】

「そうとも、お前の言う通りだ。試練とは常に『事物を上回る超常』のことを指す。私がお前を試すことなど万に一つも有り得ない。」
「───だからこそ、これは“試練”なのだ!そうとも、私を包むこの『守護者』も、私を護る『城塞』も、私を射抜く『弓矢』でさえも……! 総てはみんな理屈の外だ。我々の人智を超えた、紛れもない『超常』だ!」

【火球、火球、火球、火球。矢継ぎ早の乱撃は、されど弓兵の躰を捉えるには能わない】
【放ち、束ねること七つ。弓兵は余裕の表情だ。されど額には僅かに汗が滲んでいる】
【火炎の熱によるものか、打開の一手を見出せぬ焦燥からか。白衣の男が見立てるところ、恐らくは殆どが前者】
【だからこそ火の粉に照らされた男は狂笑を浮かべ、目前の道を躍る彼へ一方的に語りかける】
【“まだお前はやれるだろう───!”】

「……そうだ。それでいい。さあ、まだ動けるだろう! もっと見せてくれ……! 貴方の輝きを、お前の異能の真髄を!」
「それが私の生きる『意味』になる、私が生まれてきた『理由』を示してくれる……! 」

【致命の矢が唸りを上げて、然し白衣の王には届かない】
【城塞を越えた先に待っていたのは不可視の障壁とその守護者】
【カランと地に転がった弓矢が数本、次の瞬間には火を放ち融解する】
【王を護る一つの小国は、ただ一人の弓兵が陥すにはあまりにも絶望的な護りを持っていた】

【───が、しかし】
【数多の弓矢の一本が、不可視の障壁を貫いた】
【それは所詮、ただの偶然だ。龍はその矢を容易く嚙み潰し、融解すら挟まずに跡形も無く昇華させてしまった】
【そして王は、それさえもまた良しと陽炎の中で笑みを絶やさない】

18【知識の魔導書】エリアス・S・ワイズマン:2019/06/22(土) 22:32:28 ID:pDcQtH7c

「私はこの火焔魔導の体系を三歳の時には完成させていた。たとえこの本など無くともな、任意の状況下で発動させることなど実に容易いことだった。」
「……私は生まれ出でてから、両親の寵愛を受けて育ってきた。私自身の為でない。私自身が持つ『才能』の為だ。薄々分かってはいたことだがな。」

【……ところが、続ける語りの中で不意に王の笑みは途絶えた】
【否、厳密には途絶えてはいない。ただ、その笑みの中に僅かな影が差しただけだ】
【……静かな、絶望の色だ】

「しかし、私の根本には生来より別の理解があった。この才能は『自分のものではない』のだと。私は生まれもって、魔を操る者であると『定義付けられていた』のだと。」
「それを本当の意味で知ってから、私はずっと探していた。この私が一体何者であるのかを、明確に指し示してくれる存在を……!」
「漸く辿り着いたのだ、この街に……。我が真なる同胞たちの集う場所に!! だから、さあ、私に次を見せてくれ! 英雄は古来より伝承の如く、試練を乗り越えてみせるものだろう!?」

【その絶望の内側に狂った笑顔が、火の粉に照らされ顕れる】
【王は語る。己の絶望の所以を。己が王国に立つ目的を】
【弓兵にとっては、まるで聞く意味も義理も、一切合切無い言葉だ】

【だから、僅かにでも彼の心が動かされることはあるまい】
【否、仮に彼の心が揺れ動いたのだとしても……伝承の英雄でもない彼の眼がソイツを見逃す筈がない】
【偶然にも王の喉元にまで近づいた反撃の一矢……ただの偶然が描いていた、必然なる軌道の正体】


【───矢が辿っていたのは、一発の火球が通り過ぎていた軌跡だ】
【それを思えば、前後に放っただろう数本の矢が描いていた軌道にも理由がつく】
【火球が暴れる大気に造り出していたのは、王の所にまで渦を巻く一直線の空気のトンネルだった】
【並の人間ならいざ知らず。それは弓兵には文字通り、格好の『マト』になる】

【……だがもう一つ、試練は一つだけ残っている】
【『守護者』。地を嘗め尽くし、燃え盛る火焔の龍】
【仮に不可視の障壁を越えたとしても、この龍が健在である限り、矢は必ず迎撃される】
【そして龍は生命ではない。故に弓矢では決して射貫けない】

【王の勅語が終わると同時に、龍が口を一際大きく抉じ開けた】
【その中央に火が収斂を始め───】
【少しずつ、少しずつ、まるで太陽の現し身のように光輝を纏う、一際大きな火球へと変わっていく】

【その、開かれた口のド真中だ】
【火はまるで吸い込まれるような渦を形成しており】
【その収束点には……小さな、小さな孔が空いていた】

【空気のトンネルだ】


【つまり、導き出される答えはただ一つ】
【数多に伝わる伝承の如く、お前は放たれんとする太陽の中央を居抜き】
【火を解き放った直後に出来るほんの一瞬の隙間を縫って】
【決して射貫けぬ竜の頭蓋を貫いてやらねばならぬ】
【そして、それを成せるタイミングは火の解き放たれた直後のみ】
【───王に対峙する位置の、『真正面』からだけ】

「さあ、来い───!」

【王の号令が、大通りに響き渡るとほぼ同時】
【龍の口から、とうとう灼熱が解き放たれた】

【───さあ、越えるのだ。成せるのは、お前の持つ『本物の矢』だけだ】

19【アーチャー】ラース:2019/06/22(土) 23:02:15 ID:VWebnUcQ
>>18
──あぁ、雑音だ。煩わしいノイズを吐くんじゃない
孤独の王の語る苦悩も絶望も怒りも狂気も悲哀もその全てが不愉快だ
名さえ知らぬ相手に何を期待している、何を求めているという
貴様など、こちらにとっては単なる障害でしかないのだぞ
故に彼の返す言葉は決まっていて──

「──あぁ、うるさいぞ。お伽噺の登場人物にでもなったつもりか」
「大きな声で“悲劇の過去”とやらを喚きたてるな、お前に興味なんてないんだよ」

生憎だが彼は英雄でもなければ光の勇者を志した覚えもない
王でなく、勇者でなく、兵でなく、友でもない彼にはその慟哭を聞き届ける義理も謂れもない

だが、しかし

20【アーチャー】ラース:2019/06/23(日) 00:06:57 ID:kS/.ZPdE
>>18
──あぁ、雑音だ。煩わしいノイズを吐くんじゃない
孤独の王の語る苦悩も絶望も怒りも狂気も悲哀もその全てが不愉快だ
名さえ知らぬ相手に何を期待している、何を求めているという
貴様など、こちらにとっては単なる障害でしかないのだぞ
それに何よりその程度のことのために殺し合いの場に引き込まれたというのが我慢ならない
故に彼の返す言葉は決まっていて──

「──あぁ、うるさいぞ。お伽噺の登場人物にでもなったつもりか」
「大きな声で“悲劇の過去”とやらを喚きたてるな、お前に興味なんてないんだよ」

生憎だが彼は英雄でもなければ光の勇者を志した覚えもない
王でなく、勇者でなく、兵でなく、友でもない彼にはその慟哭を聞き届ける義理も謂れもない

だが、しかし
もしも、もしも仮に王との出会いが異なっていたとするのなら
戦闘という手段でなく、話し合いで、友となる道を選べていたとするのなら
嘆きに答え、手を差し伸べる狩人の姿が、そこにあったのかもしれない

「だが、そうだな。俺は優しいからお前が何者かだけは教えてやるよ」
「お前は自分を特別だと考えて周りに手も伸ばさず、友達に打ち明けもせずに嘆きを語るただの勘違いした痛いガキだ」

障壁の底は知れた
龍が迎撃したその一本の軌跡こそが活路にして唯一の通り道
──すなわち、龍と男の真正面にして火球の通り道
それを選び、射るのは彼にとって非常に簡単なことだ──自らの身の危険を度外視すれば、の話だが
これと比べるなら、船に建てられた扇を射れと言われた方がはるかにマシだ
と、泣き言はここらで終わりとしよう
結局のところ、どれだけ考えようがそれしか道がないというのなら、やるのみなのだ

彼にとってのノイズ──王の言葉が止まると同時、絶え間の無かった火球も止まる
魔力の限界、なんて都合のいいことではない
龍の口元を見るに、単に威力を上げるためのための時間のようだ
いいだろう、一呼吸おけるというのなら願ったりだ
そちらがそう来るのならこちらも相応の力で応えるのみ

絶望的な火球に目もくれず、一つ大きな息を吐く
怒りは抑え、しかして心の熱はそのままに精神を整える
そして、今までのように何本も矢を精製するのではなくたったの一つの矢のみを握ると焦りもせずにゆっくりとつがえる
秒単位で肥大化する火球は龍の口という枷から解き放たれるのを今か今かと待っている
それを知ったうえで、あくまで彼は静かなままで矢を引き絞り、これまでを上回る集中力で以て狙いを定める

「言われずとも、だ」

───ついに火球が解き放たれた
そして、同時にその次の刹那。この戦いにおいて最強最速の力を持った矢が解き放たれる
恐らくは最後であろうこの攻防で情熱とでも言うべき己の持つ熱を見せつけ、その具現とでも言うべき火球を放つ王に対してどこまでも静かで冷静に矢を射る彼
圧倒的な速度で以て火球の隅を削りながら飛翔する矢は狙いを過たない
不測の事態がない限り、龍の口内部を突き抜けて王の体を抉るだろう
──仮の話、それがかなわなかったとして。あるいは王のそばの大地に、龍の炎に捕まったとして
その場合でも、数瞬ののちに矢が爆発を引き起こすことになる。無論、王に刺さったとしても同様に

迫る火球から身を反らそうと、矢を射った直後に大地を蹴って跳躍する
完全回避が間に合わないことは重々承知、弓を申し訳程度の盾にしながら身を屈めるが、容易く焼き尽くされて炎が身を襲う
どうにか致命こそ免れたとはいえ、全身に重篤な火傷だ
足はほぼ炭化して、胴体も重症
どんな素人目でも断言できる、彼はもう戦えない
矢の一本さえつがえられず、そもそも弓を握ることだってできないだろう

故に、もしも彼の最後の矢に対処して見せたのなら、王の勝ちだ

21【知識の魔導書】エリアス・S・ワイズマン:2019/06/23(日) 14:27:42 ID:bfBo9MiQ
【死人に口なし】
【それは逆説的に、言葉を操る者たちの生を証明する一節】
【言葉を紡いでいられるうちは、ソイツは間違いなく『生きて』いる】

【それを更に逆から観察したならば、こうも言うことが出来るだろうか】
【一たび死んだ人間は、何一つとて事を語れはしないのだ】
【その目で、その口で、その身体で、その心で───】
【空気を媒体に選ばずとも、その手段は他に幾らでもあったというのに】
【その王は沈黙を選んだ。己の底無しの絶望が、己の恵まれた生すらも塗り潰していたからだ】


【嗚呼……良いぞ。この充足だ、この昂揚だ】
【こうしてみるまで終ぞ気がつきはしなかったが、今なら分かる。私は大きな間違いを犯していたのだ】
【『力を持つ者には責務が伴う』のだと、出来る限りの博愛に徹しねばならぬと考え、私自身の才能を決して人に向けようとは思わなかった】
【だが、むしろ逆だ。力を持つ者はその才を振るい、他の才能を奪い合うことにこそ責がある! 通りで気がつかなかった筈だ、私は『死んでいた』筈だ!】
【今、私は間違いなく『生きている』!】
【音が耳から遠ざかっていく。聞こえるのはただ、炎が弾けた残滓の音のみ】
【光が目から遠ざかっていく。見えるのはただ、白色の光と化した業火のみ】
【感覚はただ一瞬のためだけに、弓兵も斯くやと言わるる鋭敏の窮極に至る】


「さあ、来い──!」

【私のすべては、この一瞬のためだけに───!】


【──────決着は、凍えるほどに一瞬だった】
【ポタリ、ポタリと雫が滴れて】
【瞬きした後、足元には大きな血溜まりが出来ていた】
【いいや、違う。其処にはもう『足元』なんてなかった】
【バラバラに砕けた肉片が散らばり、代わりに何やら赤くなった鉄みたく熱いモノを押し付けられてる心地がする】

「はは、は──────」

【……不思議と痛みは無かった。ただ、そこにあるのは譬へ無き虚無感】
【『ああ、結局奪われたのは私の方だったか』……自分でもゾッとするほど、脳は冷静に働いてくれる】
【それとも、私は生きた心地がしていた“だけ”だったのか。それなら、この結末は当たり前だ】
【『最初から死んでいた者』が、『最初から生きている者』に勝てる道理など何処にもない】

「……感謝、しよう。私は……私は、この刹那だけは…………『生』を、感じられた……。ほんの、一瞬だったがな……」

「ああ、お前が憎らしい……っ! 私に、この充足を味わせておきながら……即座に、奪い取って、しまうとは、な……!」

【手に持っていた本が、パラリと血濡れの地面に落ちた】
【それと同時に龍の姿は虚空に解け、大気は元の平穏へと立ち返った】
【ページが紅く、黒く染まっていく───】
【失権した王は、それを拾う素振りも見せはしない。もう、必要もないからだ】

【その代わり、彼は試練を破った弓兵に向けて真っ直ぐに手を伸ばし】

「……約束だ。持っていけ。私の命を、対価に支払おう。」

【その掌に、一つの魔法陣を顕現させた】
【すると、どうだ。ポツリ、ポツリと雲一つない空から雨粒が降ってきて】
【たったの10メートル程の範囲を、シトシトと濡らし始めたではないか】
【そして、驚くべきことに───その雨粒は、徐々に傷口を癒していくではないか】

【……古来より、水には特別に癒しの権能があるのだと信じられてきたものだ】
【無論、それは傷口を洗い流すことが痛みを和らげ、腐敗の防止に繋がっていただけのこと……まるで真実とは異なる】
【だが、此処は信仰が集う街。人がそうだと信じるならば、『水の魔導が傷を癒す』などという多少のペテンも許されよう】

【降り頻る雨はやがて止む。その頃には、夥しい血もみんな洗い流されて】
【かつて、泡沫の間だけ王でいることを許された白衣の男の傍らに】
【一つの小さな宝石が、転がっていることだろう】

【かくして一つの物語は終わり、過去の伝承へと還る】
【その行方は、私の知るところではない】



【───これにて、私の短いレポートの結びとさせていただこう】

//ロール相手、ありがとうございました!

22【聖剣】刃:2020/06/03(水) 18:04:40 ID:ZkmU.msI
剣を振る
相手がいるわけではないが、己を高める修練として
鬼気迫る表情で繰り返されるそれは魂にまで染みついた習慣、あるいは習性といっていいだろう
淡々と繰り返されるそれは、しかしそのどれもが極限の軌跡だ
見るものが見れば、否、誰が見てもそれが剣における一つの頂であるとわかるもの

「………」

ふいに、剣を止める
修練を切り上げた、わけではない
何もなければ一昼夜この修練をやめなどしない

彼の動きが止まった理由は二つに一つ
弱者の声か、何者かが接近しているか

23【魔剣】:2020/06/03(水) 23:03:26 ID:V9MjiJW.
>>22
「おっとォ、練習の邪魔しちゃったかな?わるいわるい」

男の耳に馴れ馴れしい声が届く。
声の主へと目をやれば、その身に余るほどの大剣を背負った女が確認できるだろう。

「あ、いきなり襲いかかるなんてよしてくれよ!別にアンタと戦う気はない
さっきから見てたんだよ、アンタの剣捌き!ありゃあ勝てる気がしないね」

男が何か反応を示す前に女は両手を上げて敵意がないことを示した。
その態度と言葉通り、このおしゃべりな女からはそういったものが感じられないはずだ。
だが男は気付くだろうか。ジリジリとにじり寄る歩みに、人懐っこい表情の裏に、"殺意"が隠されていることに。

「まぁ、あたしも剣をやってんだけどさ。こーんなデカいもんだからなかなか難しくってよ
……もっとちっこくならないもんか、ねェ!!!」

両者の距離、数メートル。女は素早い動きで半身になり背負った大剣の切っ先を男に向ける。
瞬間、大剣を伸ばし離れた位置からの"突き"を繰り出した。

24【聖剣】刃:2020/06/03(水) 23:50:51 ID:ZkmU.msI
>>23
人の気配
それがこちらに近づいていることに気づいて手を止めて間もなく、女の声が響く
目を向けてみれば自身の持つそれと同等、否それを上回る剣を持った女の姿

「………」

女の言葉に対し、彼はただ体をそちらへ向けるのみ
言葉はなく、彼の態度も心中も巨木の様に泰然自若
遥か昔から知っている
害意、敵意のあるなしではない
こういう手合いは″碌でもない″のだ
あぁほら、現に───

───敵意などよりよほど純粋な殺意が、出ているではないか

瞬間、女が剣を構えると同時に弾丸もかくやという速度で突き放つ
その鋭さは先の彼の素振りに負けず劣らずの極限
少なくとも剣を扱う技量において彼と同格であるということの証明に他ならなかった

「温い」

だがしかし、同格ということは対処できるということ
加えて女には剣を手に持つまでのラグがあるが、彼はすでに抜剣状態という差
油断なく、抜かりなく、彼は剣の腹で恐るべき突きを受け止め、同時に軽く後ろに飛んで衝撃を殺す
感覚で分かる、この女と己は身体能力にも大した差はない
技量と身体能力がともに五分となれば、勝敗を分けるのは──
──彼らがその身、その剣に秘めた固有の力だろう

「今の様に不意を突き、相手をだまし、いったい何人の人々に手をかけてきた?
──貴様の非道もここまでだ、俺が地獄へ送ってやろう」

瞬間、彼から膨れ上がる敵意、戦意、殺意の本流
静から動への急変動
同時に、彼は女へと駆け抜けその首へめがけて剣を振るう

「目覚めろ聖剣、物語の幕開けだ」

刃を振る直前に己の剣の力の一部を開放して光を放出し、一瞬だけ己を見失うようにして

悪を許さぬと吠えながら、美しい剣を振るう彼の姿はまるでお伽噺の勇者のそれだ
だが、どうしたことだろう
彼の表情は女と顔を合わせてから欠片も変化がない
まるで何も思っていないかのように、ただ淡々と刃を振るう

25【魔剣】 ◆WLFnGuGavM:2020/06/04(木) 00:40:56 ID:KUEOBSz2
>>24
「うえぇー、マジかよ……。やっぱ強いのな」

今の奇襲で終わらせる気であったのだろう。女は飄々とした態度を崩さないまま驚嘆した。
しかし当然これで万策尽きたわけもなく、いつの間にか元の大きさへ戻っていた大剣を構え、男へ向き直る。

「…アンタも英雄気取りか?
そんなら、そんな真っ黒な格好やめたほうが……ッ!」

男から放たれた覇気に当てられ、ヘラヘラと緩んだ口許に一瞬力が入る。
迫りくる瞬間、畏怖さえ覚えたがそれで腰を抜かすほど彼女は弱者ではなかった。

眩む視界の中で大剣を地に突き立てるように構える。太刀筋が見えず半ば賭けだったが、剣の大きさに物を言わせた防御は男の剣を止めた。

「人の科白を遮るなよ。それが悪役の言葉でもな」

切っ先は地に向かっている。そのまま大剣を瞬時に伸縮させ、剣に押し上げられる形で宙を舞う。
そしてもう一度剣を伸長。質量の増幅した大剣を宙から振り下ろす。

26【聖剣】刃:2020/06/04(木) 01:11:29 ID:ip4XmjoE
聖光の目くらましによる真っ向からの不意打ち
しかしそれは女の経験と大剣の質量によって防がれる
ならばと追撃の刃を振るうが、女の姿はすでにそこになかった

──先ほども見せた剣の伸縮の応用による跳躍
女の能力は恐らく大剣の大きさの操作と見ていいだろう

近寄れば同レベルの技量で対応され、距離を取れば伸びた刃で反撃される
なるほど、単純だが強力だ

「二つほど訂正がある、俺は英雄を気取ったことなどない
そして──」

飛んだ女を視界にとらえる
持つ武器の大きさは違えど姿勢で分かる、あれは振り下ろしの構えだ
先程の様に衝撃を殺せない上空からの攻撃となると、正面から受けるのは愚策
互角のパワーに武器の重量、重力が加算されたものを受け止めれば死なないまでも隙ができるのは避けられない
となれば

「──悪党に言葉を話す権利などない」

受け止めず、弾くのみ
剛剣に対するのならば柔剣だろう
大剣の切っ先に合わせ撫でるように側面へと弾き、軌道を反らす
長物になればなるほど、一方向での威力が高ければ高いほど側面からの衝撃に弱いのは自明の理
とはいえ同格の相手にそれを行うのは至難の業だ

実際、彼でも完璧には流しきれずわずかに頬を割かれて血を流している

だがこんなものは傷にも入らない些末なもの
彼は手を緩めることなく女の着地地点になるであろう場へと駆け、同時に剣を振るう

27【聖剣】刃:2020/06/04(木) 01:12:36 ID:ip4XmjoE
>>25ですー
/つけそこねすいません!

28【魔剣】 ◆WLFnGuGavM:2020/06/04(木) 01:49:20 ID:KUEOBSz2
>>26
剣を逸らされ、空中で体勢を崩す。
着地を狙われることなど百も承知だったが、隙を埋めることは叶わなかった。
左肩口に男の刃が滑る。苦し紛れに身体を翻したおかげで断頭は避けられた。しかしながら胸を撫で下ろしている暇などない。

「ッ…いってぇな!!!」

反撃を試みた女が大剣を振りかぶった直後、剣に黒いモヤがかかる。
剣を振り始める頃にはもう刀身を覆い隠していたそれらは晴れ、禍々しい大鎌が顔を出すだろう。
敵の血と己の魂を喰らわせ変貌させた凶刃が男の首を刈るべく迫る。

29【聖剣】刃 ◆y7XUmHaaYQ:2020/06/04(木) 02:12:17 ID:ip4XmjoE
>>28
着地後の隙を狙えど、その首を落とすことは叶わない
肩を裂き、幾分かのダメージを与えられこそしたものの男が求むるは敵手の絶命のみだ
理解はしていたが、一筋縄ではいかぬ難敵だ
そして、女からの反撃の刃に合わせて防御の構えを取ろうとして──
──わずかばかり瞠目した

女が剣を振る直前の、あるかないかの一瞬
闇が剣を覆ったかと思えばそこにあったのは剣ではなく大鎌だった
攻撃の来る位置も、方向もこの瞬間までは気が付けないそれに彼は必然後手に回る
どうあがこうと彼の防御は間に合わない

「ク…ッ!」

死神が如き首を刈られるるその刹那彼は体を屈めることによって回避を試みるが、十全には至らない
致命こそ避けたものの右頭部付近を大きく裂かれる
迸る激痛にしかし構っている暇はない
この絶命必死の空間から離脱をしなければならない

「剣の縮尺ではなく、形状の変化が貴様の能力か…!」

屈んだ姿勢から立ち上がろうとする勢いのまま、大鎌のなるべく持ち手付近めがけて剣を振るい、体制崩しを狙う
それが叶えば彼は即座にその場から飛びのき、距離を取ると同時に体制を整えるつもりだ

30【魔剣】 ◆WLFnGuGavM:2020/06/04(木) 02:52:33 ID:KUEOBSz2
>>29
鎌を振った後隙を狙った攻撃を嫌い、女もそこから飛び退いた。

「そういう事だ。別に鎌じゃなくても良かったんだけどよ、こっちのが悪っぽいだろ?」

そう言ってはおもむろに鎌を振り回してはゆっくりと男に向ける。

「アンタの剣より遥かにデカい。刀身も、リーチも。
はっきり言ってアンタに勝ち目はない。

……逃してやってもいいんだぜ。英雄気取りの勇者さんよ。」

挑発か、男の身を案じての科白か。答えは女の見下したような薄ら笑いにある。
男の変わらぬ表情や淡々とした太刀筋を考えれば挑発に乗せられ激昂して無計画に向かってくることなど期待できない。
しかし何にせよ肉薄してくることは確実だと踏んだ。
そうなれば言葉通りリーチの長いこちらが有利。向かってくるところを迎撃すればいい。
男に自然な形で攻撃の機会を与え、女はそれを待った。

31【聖剣】刃 ◆y7XUmHaaYQ:2020/06/04(木) 03:48:50 ID:ip4XmjoE
>>30
お互いに飛びのき、一瞬の静寂が生まれる
距離が空いたとはいえここも相手の射程内、一瞬たりとも気は緩められない
頭部の傷ゆえに多く流れる血が鬱陶しい
このままいけば、出血度合いはこちらが不利か

「戯け、俺は英雄気取りではないと言ったのが聞こえなかったか?」

推論の肯定、そしてその言葉ぶりから察するに鎌以外の形状に変えられることも確実
最低でもあらゆる近接武器に変化すると見ていいだろう
取れる手段が多いということはそれだけで脅威だ
しかし──

「そして、俺に勝ち目がないだと?
強気な挑発は貴様の弱気の裏返しに見えるぞ」

──それは、彼の敗北を意味しない
手数の多さは確かに脅威だ
だが、それだけだ
傷は負うだろう、一筋縄ではいかぬだろう
しかしそれだけ、負ける気など毛頭ない

「貴様が真実、そう思っているのならばなぜ俺に追撃をしてこない?
なぜ距離を取る?挑発などせずとも攻め立てればそこで終わりだろう」

もし仮に、女が大剣はもちろん鎌を含めたあらゆる武器を変わらぬ練度で扱えたならば″彼が生きていること″がおかしいのだ
身体能力も、技量も同格の相手に明確に隙を見せ、あまつさえ絶命必死の近距離で後手に回るという許されざる失態
それを犯してもなお彼が生きているという事実は、女が少なくとも大鎌を大剣と変わらぬ練度では扱えないという証明に他ならない
で、あるならば付け入る隙はある
身体能力が互角で、技量が上ならば軍配がどちらに上がるかは火を見るよりも明らかだ
故にこそ──

「逃がしてやる?ふざけるな、貴様は決して逃がさん
英雄にも勇者にも、なる気もなければなれるとも思ってはいないが──

──この身は悪を許さぬ一振りの剣、【聖剣】であると知るがいい」

──敢えて男は駆け抜ける
本当に迎撃できると思っているのならばやって見せろと
百戦錬磨の聖剣は、決して同じ過ちを犯さない
槍、短剣、斧、例えいかな武器が出てきたとてもはや焦らず驚かない
生半な技術で振るわれた武器など、それが何であっても遅るるに足りないのだから

迎撃されたのであれば、それがいかな武器であったとしても彼はわずかばかりの斬撃を載せて弾き、より大きく体制を崩させようとするだろう
そしてそれが叶ったのなら、同時に開幕の一太刀と同様に剣から光を放たせ、返す剣で女を袈裟懸けに切り捨てようとするだろう

──己を剣と評した通り、欠片も慈悲無く、処理するように淡々と

32【魔剣】 ◆WLFnGuGavM:2020/06/04(木) 08:59:09 ID:KUEOBSz2
>>31
「へっ、よく喋るな。キメ台詞か?それ」

向かってくる男に武器を振るう。そこに鎌の姿はなく、あるのは鎌より遥かに大きな斧だった。
一瞬のうちに変わる攻撃範囲。常人であれば、否、戦いに慣れた者であっても対応するのは困難を極めるであろう。

この一撃で終わるはずだった。

「…ッ!!」

変化させた斧はこの場面で初めて使ったわけではないがしかし、技量は元の大剣よりか大幅に劣る。
男にその未熟を突かれ、女は体勢を崩し胴を晒した。

咄嗟に防御しようと斧を振り戻そうとしたが、正義の一閃はその間も与えなかった。

飛び散る鮮血。
二度と振られることのない大剣と共に女は地に倒れ伏す。

「…………ゲホッ…………悪党殺して満足か…英雄気取り……
アンタ…ロクな死に方しねぇぞ。…ロクな死に方してないあたしが言うんだ、間違いねえ…」

死際にも関わらず態度も薄ら笑いも崩さず、置き土産のように捨て台詞を吐いて女は黙りこくる。
一つの命が消え血の匂いと静寂が漂った。


/ロールありがとうございました

33【聖剣】刃 ◆y7XUmHaaYQ:2020/06/04(木) 23:38:07 ID:ip4XmjoE
>>32
疾走した男に迫る鎌から再度変化した処刑人の斬首のギロチン
単純に重く、速く、その瞬間になるまで武器種を気づかせないそれはやはり脅威だ
だが、それを最初から織り込んでいたのなら
何が来るかはわからないが、何であろうとまず弾くことを前提にしていたのならば少し話は変わってくる
つまり、先ではなく後の先を狙うカウンター
技量が五分ならそれを狙うのは厳しい賭けだが、そうでないならばやって見せると男は剣を振るう

「──シ、ィッ!」

金属音が鳴り響き、彼らにとっては永遠の、しかして刹那に等しい時間の鍔迫り合いが発生する
素の力は互角、技量はこちらが上、しかし重量差により一撃の威力は相手が上
このまま押し込むには一手足りない
故にこそ彼は聖剣に秘められたもう一つの力を開放する
瞬間、以前は拡散されていた光が収束し、刃を押しのけるもう一つの斬撃と成り替わる
十全の力は籠めるべくもない、これまでの刃に比べればそれはとるに足らない小手先の威力しか秘めていない
だがしかし、この膠着を打ち破るには十分な力を秘めていて──

「──殺ったぞ」

斧をはじいた瞬間、返す刃で即座に首を落とさんと刃を滑らせる
先ほど収束させた聖光を、再び拡散させながら
一切の慈悲無く、女の体を斬り裂いた

光輝く剣を持って、闇を纏う武器を持つ敵を斬り裂く姿はさながら勇者の様で
しかし輝く剣と相対するように彼の纏う黒が、無感動なその表情がそれらを否定していて

「──何を言う、満足など欠片たりともするものか
貴様を殺したところで未だこの世には弱者を苦しめる悪が無数に跳梁跋扈しているのだから」

女に致命傷を与えた今なお、本当にそう思っているのか疑わしくなるほどに彼の言葉に熱はない
淡々と、作業の様に倒れる女に再度その剣を振り上げて──

「──だろうな、きっと俺は何も満足できぬままに死ぬのだろうさ」

──女の首を、切断した
これまで一度たりとも変わらなかった表情を、初めて自嘲と渇きに染めながら───


/こちらこそロールありがとうございましたー!

34【聖剣】刃 ◆y7XUmHaaYQ:2020/06/08(月) 18:45:57 ID:0HbV5rH6
悪を斬る
それはもはや彼にとって呼吸に等しい
使命感でも、義憤でも、まして正義感などでは断じてない
ただ、生まれた折よりそれを続けてきたがゆえにそうしないと気持ちが悪い、息が詰まるという感覚によって悪を切り裂くのだ
故に今宵もまた大衆の目につくき、されどそれが故に誰も気に留めない邪悪の温床の地にて素振りと変わらぬ調子で剣を振るい、多くの死体を積み上げる

「──終いか」

そして目に映るすべてを斬滅し終えたと確認した後、刃についた血を払い捨て鞘へと戻す
纏う黒衣も、その両手も、転がる屍の鮮血で染めながら屍山血河の荒野に一人立つ姿はまさに悪鬼と呼んでいいだろう
恐らくはこの世の誰よりも悪事を為したものを殺している、という点だけを見れば彼のやっていることは広義的に見て正義、と言えるのだろう
だがその実態がこのような栄光も、脚光も、崇高さも欠片たりとてないものだと誰が知ろう

″守るために殺す″という多数を邪悪から守るためには避けようのない罪業ではない
″罪の深さをその身で分からせるために殺す″という裁きでもない
″ただ、そうあれかしと望まれた″という己自身の意思のない対邪悪に特化した属性を帯びた刀剣の理屈で彼は殺すのだ

きっと、真の正義がこの惨状を見れば義憤を抱くのだろう
きっと、真の邪悪がこれを見れば彼を嗤うのだろう

彼は己のことをそのように評価しているがゆえに、芯無き己の虚無を自覚して、一つ殺すたびに刀剣としての在り方を強めていく
乾いた顔ですべては終わったのだと死体の山を眺める彼の夜は、しかしてまだ終わらない
なぜなら、このむせ返る死臭か、戦闘音か、あるいは別の何かにつられてこの惨状を見るものが、きっといるはずだから
その者との邂逅で交わすのは果たして刃か、言葉か───

/返信遅れちゃうかもしれませんけどこれで少なくとも一月は待ってます!

35【聖剣】刃 ◆y7XUmHaaYQ:2020/07/15(水) 22:53:07 ID:Rb1tRTd2
「───」

血に濡れた剣を手にし、一人の男が大樹を背に座して眠っている
剣だけでなくいたるところを血で濡らしているが、よく見れば男には一筋たりとも傷はない
つまり、全てが彼と敵対した者の返り血だ
総身を返り血で濡らして目を閉じているその様は、はたから見れば死んでいるようにさえ見えるだろう
しかし、見るものが見ればわかるだろうが彼は眠っている今でさえ油断は欠片もなく警戒を周囲に張り巡らせている
仮に今銃弾で狙われたとしても即座に反応して見せることだろう

善人ならば重傷に見える彼を心配して駆け寄るものもいるかもしれない
腕の立つものならば彼の警戒を感じ取り何かアクションを起こしてみるかもしれない
悪人ならばあるいは死んだように見える彼の身ぐるみをはがそうとするかもしれない

これらのどれでもない如何な事象が彼に行われようと、彼はすべてに反応して見せるだろう
そして、悪を為そうとするならば心せよ
その時は一切慈悲無き聖なる刃が、貴方に向けられることとなる

/これでしばらく待ってみますね

36【DeathScythe】:2020/07/15(水) 23:33:57 ID:6U9PYG.g
>>35
大木に凭れ寝息をたてる男に忍び寄るモノがいた。
そろりと忍足。出来うる限り音を殺し、しかし纏う薄汚れたローブの衣擦れまでは消せず。
表情も窺い知れぬほど目深と被ったフードからは金糸のような、儚くも美しい人形めいた毛髪が垂れている。

「……」

白く細い指が握る飾り気のない長柄は、先端へと視線を這わせれば長大な刃で大鎌だとわかる。
月光を浴びたその純白の刃は息を飲むほどに綺麗で、しかし命を刈り取るようなその形状は空恐ろしい。
寝ている男との距離が十分に近接したならば、ローブを纏いしモノはその刃を男に対して振り下ろすだろう。

37【聖剣】刃 ◆y7XUmHaaYQ:2020/07/16(木) 00:16:04 ID:QXbtDWLA
>>36
かすかな衣擦れ音
それを感知した瞬間一気に目を覚ます
彼我の距離はお互いの持つ武器の射程を考慮に入れれば無いに等しい

「──!」

直後に振り下ろされた大鎌を持っていた剣で弾き、勢いのまま地を蹴り距離を取る
恐るべきは敵手の隠遁術だろう
彼をして衣擦れ音以外の気配をほとんど感じ取ることができなかったのだから

意識を切り替える
ほんの一瞬前まで眠っていたとは思えぬほどに体中に力を巡らせ、希薄だった気配が我ここにありと言わんばかりの膨大な敵意と殺意へと変動する

「眠る相手の不意をつき、殺そうとするとは死神にでもなったつもりか悪党?
 ならばいいだろう、貴様の死を以てその思い上がりを正してやる」

言うと同時、再び地を蹴り今度は彼から近づいていく
彼は剣という一つの道の頂に限りなく近い達人
故にこそ、その歩み、視線誘導、呼吸配分に至るまでのすべてが絶技だ
それらすべての技術を複合させ、昇華させた一閃で以てその首を落とさんと刃を振るう
特殊な力こそ使っていないが、しかしだからこそ単純に強力だ


/多分返信遅くなって明日返したりするゆっくりしたロールになるかもしれないんですけど大丈夫でしょうか?

38【DeathScythe】:2020/07/16(木) 08:04:48 ID:Fe7QE/62
>>37
/すみません寝てしまってました
/大丈夫ですよ。また夜に返信させてもらいますね

39【DeathScythe】:2020/07/16(木) 20:58:43 ID:Fe7QE/62
>>37
「ぴっ!?」

素っ頓狂な声を上げて身を屈めると、頭上には空を斬り裂く音が残る。
躱した、というよりは斬りかかられた事への驚きと恐怖が故の反応のように見える。
しかし事実ローブを纏うモノの首は繋がったままだ。

「こここここころっ!? ちがっ、違うかしらー!! 私はただ貴方の怪我を治そうとしただけかしらー!!」

あたふたと狼狽、忙しなく揺れるフードからはまだあどけなさの残る女の顔が覗く。
必死に弁明する女、その表情からは確かに殺意は感じられないが、寝ている男に刃を振り下ろしたのは事実である。
行動と言動の矛盾はどう見られるのだろうか。

/お待たせしました。よろしくお願いします。

40【聖剣】刃 ◆y7XUmHaaYQ:2020/07/17(金) 16:05:10 ID:XScESxUU
>>39
最高とは言えぬまでも、それなりだと自負していた一撃が避けられた
その事実を前に、彼は敵への警戒心をさらに一段上へと修正する
なるほど、眠っている間に不意を打つようであるから正面からの直接戦闘は増えてかと思いきや存外そうでもないらしい
で、あるならば次はどう攻めるべきか──
と、躱されたと認識して即座に脳内を高速回転させ始めた彼の前で、敵手が彼にとってよくわからないことを言い始める

「寝込みを襲って効果なしと見れば次はだまし討ちでもしようと?
 戯言を吐くのが余程好きと見える」

一見すると事実を言っていると信じてもおかしくない振る舞いと表情からして、詐欺師の類か
殺気も感じず、真実怯えているようなその狼狽ぶりを見ればあるいは善人なら信じてしまうかもしれない
だがしかし、彼は善ではなく遍く悪を切り裂くだけの断罪者
余程の事態がない限り、彼に容赦も慈悲も動揺も欠片たりとも存在せず
只々ひたすらに鋭く強靭な、心に小波一つ立てない刀剣としてあるのみだ

「俺の怪我を治すだと?なるほど、確かに一見すれば俺は負傷していたように見えただろう
 だが、ならば何故声すらかけず気配を消してその鎌を振るった?真に俺を案じていたのならばまず声をかけてみるのが道理だろう」

諸刃の剣に峰はなく、故に斬ると決めたら裂くか裂かれるかのみ
仮に女の言動が真実であったとしても、何かしらの手段を以て己の言動の正当性を証明できない限り聖なる剣は決して矛を引きはしない

偶然にせよ狙ったにせよ尋常に振るって避けられたならば、と今度は剣を地面に突き立て砂を巻き上げることで目くらましを狙う
そして振り上げた状態から返す刀で女に対して袈裟懸けに振るうつもりだ

/すいません!今度は僕が遅れてしまいました!

41【DeathScythe】:2020/07/17(金) 20:23:51 ID:KHA1sJjo
>>40
「騙し討ちなんて人聞きが悪いかしら! 寝ているように見えたので、起こしてしまっては悪いと思っただけかしら! それに……わぶっ!?」

紡ごうとした言の葉は砂の礫に遮られる。
フードを被ってはいるものの最下段から巻き上げられた礫たちを防ぐ効果は薄く、容易に女の言動と行動は制限されてしまう。
反射的に閉じられた瞼に視界は奪われ、顔に付いた砂を払おうと自身の頬に触れた瞬間、肩口から滑るように沈み込んできた異物感。
それに気づいた時には既に膝から崩れ落ちていた。

「あっ……がっ……」

血溜まりに沈んでゆく身体と悲鳴にもならぬ呻き声、気管から漏れ出たようなひゅーひゅーという呼吸音から致命的なダメージを負っていることがわかる。
そのまま事切れるかと思われたが、血に塗れた指は自身の大鎌、その純白の刃を踠きながらも強く握り締め。
そしてあろうことかその刃を自身の傷口に突き立て始めたのだ。まるで気が触れたかのように何度も何度も。

「そ、それに……信じてもらえない……かしら……こんな、チカラだもの」

必死に紡ぐ言の葉は先程遮られた続きであろう。こんなチカラとはどんなものなのか、繰り返し突き立てられる刃のその先、男によって袈裟斬りに開かれた傷口を見れば理解できるはずだ。
明らかな致命傷であったそれが、次第に修復されていくその光景を見れば。

42【聖剣】刃 ◆y7XUmHaaYQ:2020/07/17(金) 21:12:47 ID:XScESxUU
>>41
未だなにがしかを話そうとする女へと一切合切を無視した一振りを放つ
──今度は確実に切り裂いた
それも感触からして、致命的と言っていい深さで
より確実なものとするためにもう一太刀、といきたいが万が一ということもある
手負いの獣に対する用心はしてしかるべきだろう
油断なく崩れ落ちた女を見据え、僅かに瞠目する
まるで傷口を広げるかのように、自身の大鎌を何度もその身に突き立てている

「…………!」

しかしその傷に対して起こっている事象はまるで正反対のもので
確かな致命傷だったはずのそれが、大鎌を突き立てるという自身をより傷つける行為によってまるで事象を反転させるかのように修復されている
信じがたい光景だが、つまりそれが女の″能力″ということなのだろう
そしてそれは、先の言動が真実偽りのない言葉だったということを裏付けることでもあって

「──なるほど、誤っていたのは俺の方か」

この状況でもまだ自分をだますために、この行動をとっているかもしれない
などというのは、己の過ちを認めぬ醜い自己弁護だろう
真実敵対するものならば黙って自信を癒してから斬りかかってくればいいのだから
今回のこれは自分が勝手な判断で取り返しのつかないミスをしたという事実を認めることにもはや否応もない
ならばこそ、相応の罰を以て詫びねばならないだろう

「すまなかった、全ては俺の早とちりが原因だ
 どうかこれで許してほしい」

真実そう思っているのかと疑いたくなるほどに変わらぬ調子で告げた直後、己の持っている大剣で以て躊躇なく自身の腹を貫いた
喉から込みあがってくる血、全身を襲う激痛、足元がふらつき倒れてしまいそうになる体を強靭な意志で抑え込む
己が殺してしまうかもしれなかった相手を前に、同情を引くかのように地に倒れ、休むことなど許されない
堪え切れなかった血を一滴口元から垂らしながら、表情一つ変えずに彼は剣を抜かずに続ける

「俺に償えることがあるならばなんなりと言ってくれ
 できる限り応えて見せる」

告げられた言葉は変わらず平坦ではあるが、現状と合わせればその言葉に嘘はないと分かるだろう
どう考えても異常な行動の数々は明らかな狂人のそれだがしかし、切り裂くことしか知らぬ刀剣は、傷つき傷つけることでしか謝罪の方法を知らないのだ
仮に死ねといわれたならば、是非もなし
彼は動揺すらせずに、心は砂漠の様に凪いだまま、即座にそれを実行して見せるだろう

43【DeathScythe】:2020/07/17(金) 21:36:09 ID:KHA1sJjo
>>42
「平気平気、誰でも間違いはあるかしら〜……ってなにを……っ!?」

自身を何度も斬り付け、漸く普通に喋る事のできる程度まで回復したところで男から謝罪の言葉を聞く。
女はからっとした笑顔でそれに応えた。恐らくはこの物騒な得物故にその刃の持つ能力に懐疑を向けられる事には慣れているのだろう。
よいしょと、大鎌を杖に立ち上がったところで女は予想もしていなかった男の行動を目の当たりにした。
なんと男は自らの剣で以てその腹を貫いたのである。女はその光景にきょとんとするが、すぐに慌てふためき純白の刃を男の腹目掛けて何度も振るうだろう。

「償いなんてそんな大それた事考えなくていいかしら! 強いて言わせてもらうのなら、自分で自分の身体を傷付けるなんてバカなことは2度とやめるかしらー!!」

男が治癒の刃を受け入れたのであれば物凄い剣幕で説教めいた願いを口にする。
女の行動からして多くの人々の傷をこの能力で癒してきたのだろう。そこには曲がりなりにも己が信念があるはずで、自傷行為や自死などは女からすれば全く容認出来ないのだ。

44【聖剣】刃 ◆y7XUmHaaYQ:2020/07/17(金) 22:03:46 ID:XScESxUU
>>43
あぁ、俺とは違いこの女は真に善なるものなのだな
大剣を刺した様を見て、慌てふためき自身を癒そうとする女を見て眩しいものを見るように目を細める
ほとんど無表情だった今までと違い、羨むような顔で

「相分かった。自傷の類は今後二度と行わんとここに誓おう」

突き刺さった剣を引き抜き、徐々に癒えていく傷を見て思う
なんと優しい力なのか、と
死神を連想させ、ともすれば不吉なものとしても見れる大鎌を振るい、ふたを開けてみればもたらす事象はその真逆
俺ほどとはいかずとも、何度も勘違いされてきたはずだろうに誰かを癒すことをやめない高潔な人間性
そこに確かな意思と信念を感じるからこそ、とても美しく──羨ましく思い、知らず手を伸ばしてしまう
それは、傷つけることしか知らない自分にはないものだから
それは、正義と称して殺すことだけがうまくなった自分では届かないものだから
それは、自分の意思なく剣として望まれるがままに殺戮を続けてきた自分にはあまりにも眩しすぎたから

「勘違いで傷つけ、あまつさえ己で付けた傷さえいやしてもらっておきながら図々しいことは百も承知で聞きたい
 なぜ、こんなことができるのだ?なぜ、己を傷つけてきた相手さえためらいなく癒せる?
 自分で言うのもなんだが、俺は仮に何かが違えばあの場でためらいなくとどめを刺していたような男だぞ?」

そんな男に、なぜ?
その意思の根源を教えてくれ
誰かに臨まれたわけでもなく、なぜ自分の意思でそんなことができるのだ
と、希うように教えを乞う
知ったところで、その輝きは望まれるがままに殺してきた自分には決して手に入らないだろうと、知りつつも

45【DeathScythe】:2020/07/17(金) 22:29:58 ID:KHA1sJjo
>>44
「うん、これでいいかしら!」

傷の塞がった男の腹を診て満足気に、ぽんぽんと患部であった場所を撫でるように叩くと笑顔を浮かべた。
そこへ不意に投げ掛けられる問い。顎に手を当て小首を傾げ、少し逡巡する素振りを見せるもすぐに口を開いてみせた。

「うーん、なぜかって聞かれてもそんなに綺麗な言葉は出ないかしら。ただ私にはそれが出来るから、出来ることをやっているだけ。
 人ひとりじゃ出来ないことがたーくさんある世界で、自分だけが出来ることに一生懸命になるって小さいけれど素敵なことじゃないかしら?
 なんて、他に取り柄も無いからそれに縋ってるだけかも」

言い終えると、女は少し照れているのだろう。視線を逸らして俯き、そしてそれを誤魔化すようにけらけらと笑った。
しかし紡がれた言の葉に迷いは無く、紛れもなく真っ直ぐであった。

「例え相手が誰であろうと貴方の過去に何があろうと、貴方がどんな道を歩んで何処に向かっているのだとしても。
 怪我をしていれば治してみせるかしら。それが私の出来る事で、私にしか出来ない事でもあるから」

まあ怪我してないのに勘違いしちゃったのは御愛敬かしら、と悪戯っぽく笑うと軽く会釈して男に背を向けた。

46【聖剣】刃 ◆y7XUmHaaYQ:2020/07/17(金) 22:54:12 ID:XScESxUU
>>45
「なるほど、陳腐な言葉ではあるがとても素晴らしいことだと思うよ」

照れるように返された答えは特別なことは何もないありふれたもので
しかし、ありふれているからこそ誰も意図してやらないもので
改めてそれが手に入らないものだと分かるから、ただ、噛み締めるように目を閉じた

「俺が言うまでもないことだろうが、どうかそのまま歩み続けてくれ
 そして余計な世話であることは重々承知だがもしもその身に危険が迫ったなら、その時は必ず助けると約束しよう」

去り行く女の背中にそれだけを告げて、彼も踵を返す
所詮この身は刀剣なれば、彼女のようになれることはありえない
だが、それでもせめて彼女のような人間を守るために、一振りの剣としてこの身が砕け散るまで駆け抜けることを胸に誓う
我が始まりに与えられた、聖なる剣の名の下に


/ありがとうございましたー!ぐだちゃって申し訳ないです!

47【DeathScythe】:2020/07/17(金) 23:11:29 ID:KHA1sJjo
>>46
「約束は好きかしら。他人との繋がりを感じられるから……ありがとう」

背に投げ掛けられた言の葉にくすりと、誰へも聞こえぬ独言を夜風が浚った。
男の言葉を意識的に脳内へとこだまさせ、ズキズキとした内からの呼び声に蓋をした。
しかし蓋は閉まれば開くものだ。例え誰に望まれずとも。

/こちらこそ日を跨がせてすみません。ありがとうございました。

48【マニュピレイズ】:2020/07/18(土) 15:15:43 ID:bwL13Xa2
眠りに落ちた夜の街、豪奢なネオンが形作った陰に芽吹いた暗夜の標は、時として清廉とは縁遠き悪辣を招く。
幽き暗月だけが見下ろした深閑の裏通り、滴る水音に続いた憫笑が沈黙を掠めて波立たせた。

「くふぅっ………く……くふふ………」

驚愕と恐怖に満ち満ちた男の首を、胸を、腹を
、白衣の裾から伸びる銀の光沢を湛えた触腕めいた刃か連なり、貫いて。
嗚呼 嗚呼 力なくくずおれるその所作のなんと官能的な事だろう。無駄だと言うのに、溢れ失われ行く命の源泉を押し止めようと必死にもがく姿は軽蔑と憐憫を通り越して愉快ですらあった。

「無駄です、無駄あぁっ!………へ、えへへ、だってほらぁ、そんなにたくさん血が出てるのに…………助かるわけ無いじゃないですかぁ
くふ………ばぁーかっ♪しんじゃえっ!そのまましんじゃえよぉっ、惨めったらしく足元にすがってぇっ、アンタがバカにした"ガキ"に笑われながらさあっ!?」

鮮血に溺れて尚も生を渇望した男の手を踏み付けて女は狂う。色素の抜け落ちた白い長髪、白い肌、ああまだ齢二十に至ったばかりだろうに、今しがた潰えたいのちを見送ったその紅玉は、麗しき顔立ちは、紛う事なき愉悦に満ちて。
殺してやった、切り刻んでやった、あの汚らわしい男の四肢を壊してやった、やつの尊厳さえも踏みつけにして。
ガキとこの私をせせら笑ったあの顔が、隠し切れぬ怯懦を呈した姿を見て幾度私は絶頂を迎えたのか分からない、ああ今だって、今際の際に産み落とされた諦念とそれに至るまでの道程を想起するだけで思わず熱い息が零れ落ちると言うのに。

血腥の風が囀って、眉を潜めたくなるような匂いが鼻腔を犯す。けれど悪い気はしなかった、否応のない暴虐と暴力が遺したその代え難き痕跡こそが、味わう酒をより甘く芳醇なものにしてくれるから。

「くふ………あぁ、バラバラになったアンタはとても素敵に見えますよぉっ…………
ねぇねぇ、死ぬってぇどんな心地なんでしょうねぇっ。くふふ………」

夜光に煌めいた銀の軌跡が、手にしたワインボトルの首を落とす。
緩くたおやかな口付けを落として刹那、やおらに傾け苦く蕩けるような甘露を食んだ。

49【聖剣】刃 ◆y7XUmHaaYQ:2020/07/18(土) 17:07:46 ID:sMI2JjxU
>>48
むせ返るほどの血の匂い
喘ぎ苦しみ死にゆく犠牲者の声
それを嘲笑い、肴としながら酒を煽る狂った女
只人なら駆けだし、逃げようとするであろうそれら全てを視界に入れて彼は──

「──そこまでだ」

表の喧騒とはうって変わって静まる暗い裏通りで、その声と足音はやけに響いた
それは特別荒れもせず、静謐に、その狂った所業をこれ以上続けさせはしないと鋼鉄の音色で以て告げている
闇に溶けるような黒衣の様相、それと相反するように携えられた淡く煌めく鋼の剣
この場で起きた全ての恐怖と絶望を鎧袖一触と切り裂いて、決して逃がさぬと鷹の如き鋭い目で女を射抜きながら、男はそこに立っていた

「一体幾度、貴様のその狂った所業に他者を巻き込み傷つけた?
 藻掻き苦しみ死にゆく様は、貴様にこそふさわしい」

許せぬ悪に対して嚇怒を以て発されるべき言葉は、しかし変わらず静謐で
しかし、そこに乗せられた殺意の本流が、必ず殺すと何よりも雄弁に告げていた
どうしようもない悪党を切り裂くことこそが正義の剣としての在り方を望まれた我が在り方で、為すべきことだと狂念で以て思うが故に迷い無く
女と残ったわずかな距離を、躊躇いもなしに駆ける

腕から延びる触腕こそが女の武器であるならば、近づくまではできるだろうという認識
そして、近寄れるならばあとは切り裂くだけのこと、と相手の情報を引き出そうともしない
意を読ませぬように発される膨大な殺意、迎撃タイミングがずれる様に僅かに緩急をつけた洗練された走法、僅かな所作でどこを狙うかを読ませない視線誘導にフェイント。他にも他にも──
相手を切り裂くために極めた剣の技術を総動員して、必ず殺すと駆け抜ける
そして剣の間合いまで近づくことができたなら、女を両断するために剣を薙ぐだろう

50【マニュピレイズ】:2020/07/19(日) 13:37:19 ID:x.fbq37w
>>49
ばしゃり、幾つにも分かたれた肉の塊が、ベタついた音を伴い地に満ち無機質な混凝土に血桜を描いて潰える。
慎ましさの欠片も無く喉に流し込んだ甘美な雫の一粒一粒が、熱を帯びた身体の芯に良く馴染む。ふと綻んだ口許に一条、紅い軌跡が刻まれて。
鈍化する思考と昂ぶる意識、けれど炉へと薪をくべるが如く、火照りを覚えた身体はまだまだ足りぬと美酒を望む。

「……………えぇ………?」

だがしかし、水面を打った抑止の一言に、柔く暖かな唇は三度目の抱擁を叶える事は能わなかった。
絶頂と悦楽の揺籃に浸り、潤んだ紅玉が虚ろをなぞって男を見据える。尾を引いた余韻を汚した言葉に業を煮やすよりも前に、女は緩慢たる所作にてそれに応えた。

「やだなぁもう………人聞きの悪い………ハジメテだってんですよぉ、ハジメテ………えへ。人を殺すだなんてそんな恐ろしい事………くふっ………
ねぇお兄さぁん………♪それ、もしかして正義の味方ごっこですかぁ?いやいや、バカにするつもりなんて全然無いってんですよぉっ、だってえ男の子ってぇへへ、そういうの好きだって言いますからねぇ…………」

今宵の彼女はやけに饒舌だった、それは酔いが回ったからなのか、人を殺めた高揚感で箍が外れたからなのか、あるいはその両方かもしれないが。
肌が灼けるような濃い敵愾心と、鋭利な殺意を模したが如き黒鉄を前にして、なお歯牙にも掛けぬ物言いで嘲り笑って。

「………ってぇ………いきなりですかぁ?」

静から動へと転じた疾駆、男が大きな一歩で地を踏みしめる度に縮んで近づく彼我の距離。
虚空を辿ったそれはきっと、文字通り必殺を謳うに相応しき一撃であった事だろう。
威力も、気合も、肉薄に至るまでの練達した足運びでさえ、尋常とは言えない修練を経て手にした一つの到達点だと推し量るには十分。

ああけれど、首元へと疾走り迫った鋼が刃を立てたのは、血で彩られた白衣でも、シルクの様な女の柔肌でも………ない。

「いくらなんでも不用心ってんですよぉ………くふ………」

既の所で割り込んだ、先端に硬質なブレードを備えた二本の触腕だった。ああ………それはあまりにも遅すぎたのだ。
脳を司令塔として働く六本の腕、それらは一本一本が驚異的可動速度を併せ持ち、かつニューロンの情報伝達能力を利用した命令伝達システムは、ほぼノータイムでの精密機動を可能とした。
それこそが力で劣る彼女が有した明確なアドバンテージ、一本一本の出力は比べるべくも無いが、自身の反応速度を上回らない限り、決して遅れを取る事がないという揺るぎ無い事実が、破顔一笑を呈した彼女の自信を裏付けていた。

二つで一つで、一つが三つ、緩衝材の役割を果たすべく背後に突き立てられた二本、火花を散らして競り合う二本、ならば残る二本の所在は何処へ?決まっている話だ。

白衣の下から伸びた二本のマニピュレータ、鎌首を擡げたそれらは伸縮、ガラ空きとなった脇腹を穿たんと音を断ち切った。

51【聖剣】刃 ◆y7XUmHaaYQ:2020/07/19(日) 15:42:19 ID:g2ZByGYI
>>50
「どうやらすでに脳が腐っているらしいな、俺のような男が正義の味方であるものか」

悪を殺せと怨念じみた使命感と義務感が身体を突き動かしているだけの男が、どうして正義の使者を名乗れるだろう
情無く慈悲無く容赦無く、粛々と悪を切り裂くこの身はただの刀剣なれば、未知の相手であろうが互いの制空権を触れさせることに恐怖を欠片も抱きはしない
故にこそ、当然今もその剣の冴えに狂い無く、折れず曲がらぬ鋭き鋼を悪を断とうと煌めかせ──

「確かにな、認めよう、貴様は正しい。
 貴様の力の特性、運用法、それに対する対策のどれもに俺は用心をしていなかった」

──手に伝わるは肉を裂く感触ではなく硬質な手ごたえ、同時に響き渡るは鋼の残響
女の操る触腕、そのうち二つが剣を防いでいる
そして遠目からでは分からなかったが──あるいは、今白衣の内より飛び出させたのか、今見えているだけでも触腕の数は3対6本
これがすべてかはわからないが、断言できることはただ一つ、あの段階から後の先を取って防がれた以上この触腕は男の速度の数段上ということ
迅く、そしてあるいは本来の腕以上に精密だ

男は確実に剣において並大抵の相手に後れを取らない、どころか上を取れる実力者だ
彼はその事実を誇張も卑下もせずに正しく受け止めている。その上で認めざるを得ないことが一つ。
仮に正面からの切り合いになれば、確実に手数と速度で封殺されるということを

二つまでなら如何に早くとも捌いて見せよう
三つだろうが培った経験と技術をもとに対応して見せる
だが、それでもそこまで。どれだけ死力を尽くしても、四つ以上になれば必ず最低一つは取りこぼす
素の実力と技術では勝っているという自負はあるが、真っ向からの勝負になればその速度と手数、そしてリーチの差が絶対的な壁となって立ちふさがってくる

剣を防ぐのに二つ、その衝撃を殺すのに二つ
ならば当然最後の二つが攻勢に出てくるのは明白で
速度で負けている以上は今から剣を引いても間に合うはずもなく───

「───だがな、それは貴様とて同じだろう
 何故用心もせずに俺を間合いに入れた?」

間に合わないのなら、剣を引くなどという無駄なことをする必要はない
何かで指示している様子がない以上、そしてこの“本来の腕以上の精密性”からしておそらく操っているのは意思か、あるいはより直接的に脳信号か

ならば、その意思に空白を作ってやれば僅かでも隙ができるのでは?

腹を穿とうとまさに動き出した触腕を目に入れた直後、目を閉じる。あるいはそれは諦めたように映るかもしれない。
だが、悪を切り裂く聖なる剣に諦めなどという言葉は死んでもなく、まして先日自傷を禁ずることを真に善なるものと誓った彼には猶更だ。
故に当然そこにも理由は存在して
瞬間、女の首元で停止したままの剣から銀の眩い極光が放たれる
例え昼であっても目眩ましとして機能できるそれは、表通りと違い明かりもなく、月だけが見守る暗い夜空のここではより一層強烈な輝きとして映ることだろう
まして、首元まで剣との距離が近づいていたならなおのこと
それ自体に攻撃力は全くないが、覚悟もなく、不意に暗闇で光を浴びせられれば例えそれが懐中電灯程度の光でも目が眩み、思わず何事かと身を固めてしまうものだ。
それと同様の現象を狙っての極光を放つと同時、成功しようが終いが回り込むように横に飛ぶ
止まったならば避けれるだろうし、止まらなかったなら一本はわき腹を穿ち、痛打となることは間違いないが、どの道距離を取ってはリーチの差で封殺される以上はこれしかない
結局のところ、どう転ぼうが余裕を持たせぬように即座に連撃を仕掛けるのみだ

52【マニュピレイズ】:2020/07/19(日) 18:21:44 ID:x.fbq37w
>>51
衝突、拮抗、静止。猛烈に突き立てられた破壊と殺意の邂逅は、鋼と鋼が奏でた狂想曲となりて仄暗な裏路地に残滓を染み渡らせる。

「えへ………私ってぇ頭がイイんですよぉっ………?誰よりも優秀で………賢くて……ホラぁ、この子を作ったのだってまだ13の時だったんですよ…………」

玉響の間隙を、女の鈴の音めいた声が甘く静かな言の数々が浚う、それは遍くを満たした反響音が夜風に潰える迄のほんの刹那。軋んだ機械腕を愛おしげに視線が伝う。

「その私の脳が腐って………?あはは………巫山戯た口が聞けたもんですねぇっ?棒振りだけが能の愚昧、蒙昧のクセにぃっ………!
アナタみたいなヒトをなんて言うか…………知っていますかあっ?………グズ!そうグズ!そうやって達観したみたいにカッコつけて………上から見下ろすのをやめろってんですよぉっ!」

例えどれほど口汚い悪態で己の尊厳が傷付けられようとも構わない。それらはどうせ、遥か眼下に犇めく愚者共の囀りでしか無いのだから。
だが如何に些細な切欠であったとしても、彼女にとって許せぬ事がたった一つだけある。

「(巫山戯んなってんです!コイツも私をバカにしてぇっ…………ぐぅ………い、痛め付けてやる………認めさせてやる………自分の間違いをぉ………アイツみたいにぃっ!)」

何よりも、何よりも下に見られるのが嫌いだった。頭が良くて、勉強が出来た、でも他の事は何をやってもてんでダメで、故に何時しか自らの得意とする事で一番を取り続ける事でしか自分の存在意義を見つけられなくなっていた。
ああそうだとも、これは唯の意地で、二十の小娘らしい下らぬ癇癪でしかない。あてどない苛立ちの行方定めたように、手放したワインボトルが音を立てて砕け散る。

醜く地べたを這い蹲って血と肉の痕跡と成り果てたこと男と同じように、只々間違いを認めさせると決意を新たに彼女を断罪せんと嘶いた剣を打ち弾かんと司令を下した瞬間に、その変化は唐突に姿を見せた。

「ぅあ………くうぅううっ………!」

底知れぬ憤怒に目を見開いて、憎き敵を睥睨した彼女には突如として瞳を閉じた男の行いを、その心底に沈んだ策など感付ける訳もなく。
煌々と真夜中を照らした恒星はいとも易く酒で歪んだ視界を白く焼き払う。

脳を伝達する電気信号にて零から百を取り決め動作するこの六本の腕は、ただ念じるだけで一ミクロン程の誤差も無く正しく精密に、それでいて信じられぬ程の速さで動作する。
けれどもそれは、思考と密接に繋がって居るからこそ可能となった芸当で、指揮系統たる彼女自身の脳が動きを止めれば、当然その傀儡(かいらい)たる触腕とてその影響を色濃く反映する。
動物が炎を恐れるように、熱く煮えた湯を湛えたヤカンを触れれば手を引くように、DNAの奥底に刻まれた本能が、一瞬の混濁を見せて固まった。

それはたったコンマ五秒程の隙ではあったがしかし、百戦錬磨たる男にはきっとあくびが出るほど長いものであっただろう。
風穴の空いた思考の傍ら、優秀過ぎる頭脳は脊髄反射にも匹敵する速度で即座に対応、情報を処理し、刺突を断行したが良くて捉えたのは横に回り込んだ彼の服の切れ端程度。
命の取り合いどころか喧嘩ですら片手で数えられる程度しかした事の無い彼女と彼に横たわる絶対的な経験値の差は計り知れない程に大き過ぎた。

「こ、このぉっ……!」

微かに耳朶を叩いた音の波長だけを頼りに向き直る、顔を覆った指の間から見えた紅色は、既に光を見失ってただ地面を射抜くだけ。
姿勢制御の二本を除いた二対のそれらはただ男が居ると思われる空間を引っ掻き回す。消え去った白を塗り替えた月光を受けて4本の硬質ブレードが燦然と瞬く。

鉄壁に思われた守りの向こう、柔らかく無防備な彼女の肢体が綻び出でた。

53【聖剣】刃 ◆y7XUmHaaYQ:2020/07/19(日) 19:29:33 ID:g2ZByGYI
>>52
「それも肯定しよう、俺には真実これしか能がない」

極光を放った刹那、呻きとともに触腕の動きが僅かだが停止したらしい
後退の選択肢は無論ない。矛盾のような話だが、この超密着状態のこの場所こそが最も生存確率の高い死地であり、僅かでも離れればもはや勝率は絶無に近いのだ。
故にこそ、さらに前へと体を動かす。安全圏など元よりなく、そんなものを探す気もありはしない。
触腕の届く距離は残らず死地なれば、より勝率の高い死地へと身を躍らせ続けることでしか打倒は叶わない
引けば死に、臆しても死ぬ。なればこそ、引かず臆さずか細い糸の上でどちらかに終わりが来るまで我と彼とでトーテンタンツを続けるのだ

「──あぁ、なるほど。貴様、己を劣等だと自覚しているのか
 俺の棒振りに対して貴様はガラクタいじりか?あぁつまり、誰より自分を己自身で見下しているのか」

頭脳を貶す一言に対しての狼狽具合。意識的か無意識的か、相手を見下すように、己の方が優等であると言いたげに小馬鹿にするような話し方
憶測ではあるが、つまりはそう言うことなのだろう。彼の取り柄が剣だけであるのに対して、彼女は恐らく頭脳なのだ
何があったのかは知らないし、また興味もない。だが、触腕と思考が直結している以上、そこをついて乱すことに意義はある
言葉を信じるなら、これほど驚異的な代物を作り上げている以上は頭脳的に優れているのは間違いないのだ。下手に冷静にさせてしまえば不測の一手を打ってきかねない

「それ以外を肯定されなかったのか、あるいは肯定されたうえでそれでもできぬ自分を恥じ続けているのか。
 どちらかは分からんが敢えて言ってやろう──
 
 ──哀れだな、小娘」

罵倒でなく、殺意でなく、敢えて純粋な見下しとして思ってもいない言葉を発する。
しかし彼はまともな情動を知らぬが故に、彼の表情は不変であり、声もまた特段哀れみが乗っているわけでもなく静謐なまま。
およそ感情というものは乗っていない言葉だが、少しでも精神を搔き乱せれば御の字。試せる手を打っただけで、特別期待もしていない

まだ完全には視界が回復していないのだろう、狙い定まらず漠然とした感覚で襲ってくるそれらはしかしそれだけで脅威的だ
狙いを定めていないからこそどこから襲ってくるかわからず、加えて圧倒的な速度だ
だがしかし、裏を返せば攻めるには完全ではない今しかないということ
血のような紅が地面に落ちて割れると同時、一手過てば絶死の四の刃の更なる奥へと体を傾ける。
一太刀で二つを止めて、残りの二つが腹と右足を裂く。知ったことではない。
二太刀で一つを弾きながら、もう一つが腹から顔面にかけてを浅く深く裂き、片目がつぶれる。遠近感がつぶれようがこの距離なら狙いを過つことなど元よりあり得ない。
三太刀目で残る一つを弾きながら首が裂かれ、さらに血が噴き出る。ようやく邪魔が消えた。

そして繰り出す四の太刀
大上段に構えた剣を剣に眠るもう一つの力、極光を凝縮した斬撃とともに倒れこむように繰り出した

54【マニュピレイズ】:2020/07/20(月) 14:30:11 ID:8QJC7ce6
>>53
痛烈が過ぎる閃光が夜の街を書き換える、心の蔵は何時もよりもずっと速く強く脈打って。
今は霞んだ瞳から得ていた膨大な視覚情報が遮断され、変わりに鋭敏化した聴覚は衣服の擦れや息遣いまでも敏感に掬い取る。
だが…………それが一体なんだと言うのだろう、優れた包丁の使い手が優れた戦士足り得ぬ様に、優れた学者たる彼女とて殺意と厭悪が入り混じる今この場に置いてはただの凡愚と何ら変わりはない。

「分かったような口を利かないでくださいってんです………わ、わたしはぁっ!一番じゃ無いとダメなんですよぉっ………!
…………ええそうですよぉ………他に何も無いんですよぉ私にはぁ………でも一番になれば、誰よりも優秀で居続ければ、みんなはぁ凄いってぇ、褒めてくれるんですよぉっ………ふ、くふふ………」

故に彼女は唯一残された聴覚で、傾けるべきでは無い言の葉に、昂ぶらせてはならない感情を、曝け出してはいけないコンプレックスの吐出を選んでしまった。
耳を貸さなくば、苦し紛れと言えども何か、この頭脳を持ってすれば打開への糸口を掴むが出来たかもしれないのに、転じて触腕を操らば、蹌踉としたこの身体を運んで遁走する道もあったというのに。
背中を通じて通じた硬い感触、一つ、二つに重ねて三つ、着実に迫り来る只々冷たく鋭利な殺意の奔流からの逃避を選択出来る程冷静では無かった。

微かに物の動きを読み取るようになった赫灼たる輝きを湛えた双眸、色を取り戻したそれが見たのは…………下弦の月を背負った黒鉄、ああ今まさに、自らの命脈を断ち切らんと星を喰んで輝いた不可避の凶刃だった。

地を前に突き放す軸足、混凝土に突き立てた二本を引き抜き翳した窮余の一策。だがしかし、そうして弄した小細工などで抗える筈も無く。
先行した質量を持った光の刃が無惨にそれらを破壊して、続いた剣が肩口から臍の横、腰までの肉を縦列に刻む。
空をなぞって進んだ軌跡を浅黒い鮮血が追い掛けた。

「あ…ああ………痛……いたい………やっと………やっと終わったと思ったのにぃっ……!
アイツを殺してぇ………もう何もかも忘れられた筈………だったのにぃ………!」

華奢な肢体は幾度か転がって、倒伏した彼女の白衣を赤が染める。生と死の境界線、その狭間で揺らいだ魂を苛立ちと執念だけが手繰り寄せて。
血に塗れた両掌が、固く冷たい地を掴む。持ち上げようと苦心してしかし、肘を立てて上体を起こすのがやっとの有様。溢れた雫が頬を濡らすのも構わずに、木霊させたのはただ悲痛な叫びのみ。

「ぐ……、あ"あ"っ………!殺して何か悪いってんですかぁ………あんな、何も………かもを捧げ………てぇ……!は、ハジメテだって………あの人にあげたのに………!
利用するだけ利用して………使い捨てて………!………えへ………私は只………振り向いて欲しい一心で頑張ってきたってんですよぉ………!」

曰く、彼女は天才だった。16になる頃には大学を含む全ての学習過程を修了して、この国はおろか世界にすらも並び立てる頭脳を持つ者など数える程度にしか居ないと称された程の。
それは他人にたった一つ誇れた物だったから。只管に何も見ず一心不乱に全てを学んだ、孤独故に友情だとか、愛だとかそんな感情をつまらぬ物だと吐き捨てて。

そんな破瓜の娘にとって、己の全てを、秀でた所も足りない所も抱擁し、受け入れた雅量に富んだ大人の男、それが彼女の内側で膨らんで行くのも当然だった。その真意に気が付かぬままに。
ああ、子供にはよくある思い違いだ。自分には無い包容力を持った大人という存在に薄く募らせた憧憬を、胸の高鳴りを恋慕と勘違いした、ただそれだけの事だ。
けれどそれでも自分には初めて他人に抱いた感情だったのだ。

「教え…て…ください………よぉ……ッ!だったら私は…どうすれば…良かったのかぁっ……殺しちゃダメなら…ただ……黙って見送れって……んですか……笑って消えていく……アイツの背中を……!
教えてよ………」

それは死を孕んだ血腥を前にした懇願などでは決して、只々解の得られない疑問を、この頭脳を持ってしても見つけ出せない答えを求めたに過ぎない。
されどそんな事情なんて預かり知らぬ彼にとって返答すべき問いではないのも明白で。ギリギリで生きながらえた彼女の細く頼りない命の綱を黙して断つのも簡単だろう。

憎悪も怒りも哀切も、全て夜風が浚う深夜の折。倒れて伏した男の姿をじっと見詰めて来るかも分からぬ返事を待った。

55【聖剣】刃 ◆y7XUmHaaYQ:2020/07/20(月) 16:49:04 ID:Rhr7wwrs
>>54
乾坤一擲、破滅的で合理的
己の身を顧みず、死んでも殺すと振るった一撃は今度は確かな人体を裂く手ごたえを伝えてくる
一手過てば為すすべもなく殺されていたであろうそれこそ棒を振るしか能のない男の神髄
執念の果てに奇跡をつかんだともいえるが、あるいは順当な結果だろう。なぜなら戦士と学者ではそもそもからして土俵が違う

「…悪いに、決まっているだろう。何があったのかは知らんし、また興味もないがな、何にせよ選んだのは貴様だろう。
 貴様のそれがあれば気に食わないのなら殺さずとも跳ね除けられたろう、結局のところ貴様は望むがままに利用されたのだろう?」

″畢竟、自業自得でしかないだろう″と容赦なく告げながら、あるいは彼は自身が切り裂いた女以上に明確に死の隣にいる
悪を殺すとその身に背負った妄執だけで意識を保ち、倒れ伏してなおその眼光に狂い無く女をにらみつけて、狂気の念を迸らせる
もはや呼吸さえ浅くなりながらも剣を手放す気配はなく、どころかそれを支えにして何とか再び立ちあがらんと裂かれた傷さえ無視しながらその足に力を込めて、また血がそこから噴き出る悪循環
立つほうが致命的なのに、もはや感じていたはずの激痛さえ淡く遠いもの様になっているにもかかわらずそれでも彼は止まらない

「知ったことか、言ったはずだぞ、興味がないと
 よもや貴様、この期に及んでまだ俺が正義の味方だとでも思っているのではあるまいな」

鋼を突き刺し立ち上がり、剣を引きずり不協和音を奏でながらゆっくりと進む彼の姿はまさしく悪鬼羅刹
多くの英雄譚で語られるような美しい刃をその手に抱き、悪を倒すためだけに生きる男はしかし英雄たちには程遠い
棒を振るしか能がない、と女が語った通りだ。殺すことしか知らない、救い、与えることなどできず奪うことしか能がない
あぁそれは──これまで殺してきた悪と一体何が違うのだろう?

「俺は所詮悪を斬るしか能のない一振りの剣にすぎん。情け、同情、労り、救い…そんなものを与えられると思うな
 それにな、俺は最初に言ったはずだぞ」

自らを剣と評した通り、その言葉には鋼の冷たさと心さえ切り裂こうとする鋭さしかない
女の前まで近寄れば、最後の力で剣をわずかに持ち上げて

「貴様は藻掻き苦しんで死ね、とな」

その心臓を穿たんと、真っ直ぐに振り下ろした

56【マニュピレイズ】:2020/07/20(月) 19:46:32 ID:8QJC7ce6
>>55
「くふ……ふふっ。"つまらない"………
つまら…ないってんですよ……お兄さん………♪やっぱりグズ……零点です…ふふ…」

酒を取り込み遅鈍極まった痛覚とてやはり、胸を、腹を裂かれれば痛い物だと、生から隔たんと歩みを進める鬼を前に心中にて独白を零す。
自身でも驚く程に平静を取り戻した精神状態はきっと、何もかもがどうでも良くなったが故の、一種の諦めのようなものなのだろう。

救済など最初から期待して居なかったさ、同情?ああ下らない、悪を断つとのたまいながら、それらと何ら違わぬ羅刹蛇蝎へと堕ちた男の言葉に何の意味があると言う?。
禄な答えが帰って来ないと知っていながら、自らで見付けられなかった難題を押し付けたのは。
ああきっと、『どうしてヒトを殺してはいけないの?』そんな子供の屁理屈じみた物言いで自分を正当化して、逃げる事が出来ると思ったから。

「くふ……気付いてるんでしょう?自分の抱えた矛盾に………それとも……自分を剣と言って律しているのは………ふ…
笑わせるなってんですよぉ……アンタは人間でぇ……唯の人殺し……えへ……悪を斬る……って…ッ!言うなら……先ずは自分の……首でも掻っ捌いて………みたらどうだってんですかぁ
それかぁあれ…ですかぁ……?……その身体が……朽ちるまで代行者か何かを……気取って殺し続けるつもりですか………?」

こうして嘲り囀る事で、真に恥ずべき己の姿から、目を逸らせる気がしたからなのだろう。
返答等聞くつもりの無い只々悪辣で、楚々たる顔立ちに似つかわしくも無い詰問を虚空に綴る。

『エミリーは凄いなぁ』 『当然だってんですよ!私に掛かれば朝飯前です!』 『悩みでもあるんですか?えへ…お兄さんの為なら何だってできますよぉっ』 『新薬の副作用の改善……効能の増強、勝手にですけど……私なりに手を加えてみました』 『大発見だってんですよぉ…!これをまたお兄さんの名前で発表すれば、一躍時の人になりますよ!』 『お兄さんの約に立てるなら……私はどうだってイイってんです……だから私と……ずっと……』

血溜まりを踏み締めた敵の足はもう眼前、裾から伸びたマニピュレータが心の機微を感じ取って微かな反撃の予兆を滲ませる。
肉体とは隔絶された動力を備えたこれならば、考えるだけで、思っただけで、今なら即座に穿ける、手負いの獣を一息に音よりも疾く切り分けられる。

「(ハ……これが走馬灯ってヤツですか………
あーあ……なんだ……)」

けれどそれをしなかったのは、死の淵に至って今更脳裏に泡沫めいた記憶が去来したからだ。
愚直に、一途に、考え無しに、恋した誰かに全てを尽くして。憎いはずであった男の顔が、血溜まりに映った白刃よりも強く私を魅せた………嗚呼……気が付いてしまったのだ。
何があろうと尊ぶべき存在を、私自ら壊してしまった事に。

「(業腹ですけど、確かに言う通りだってんです…………あのヒトにとって私は都合が良いだけの女だったって分かってて全部差し出したのに……)」

ならばもう、我が人生に生きる価値なんて無く。
下される刃の審判を逃れる理由がある訳も無く。

「それがアンタの生き方だってんなら………精々死ぬ迄続ければ良いです…………
………ハ……酷い有様ですねぇ………アンタも……私も」

濡れた紅玉を瞼の奥に隠して、今際の際に歪な二人の生き様を嗤った。
心の蔵が刺し貫かれ、丸く小ぶりな宝石がまろびでた。
大地を汚した赤とは正反対の、清く、美しく、幽き青が____


//お返しが不定期になってすみません!日を跨いでのロールお疲れ様です、お相手ありがとうございましたー!

57【聖剣】刃 ◆y7XUmHaaYQ:2020/07/20(月) 21:06:34 ID:Rhr7wwrs
>>56
「その通りだ。俺はただの人殺しで、所詮は望まれたままに選んで殺しているだけの大罪人でしかない。
 だからこそ、今更引く道などありはしない。俺は、この身が折れて木端と砕け散るその時まで無限の修羅道を歩み続ける」

その時、これまで無感情だった男の言葉と表情に始めて諦観と共に自嘲するように笑みが浮かぶ
結局はそういうこと
殺すという手段を取った時点で我も彼も等しく悪で、屑でしかないのだから。いや、殺した数で見ればきっと男の方がよほどだろう
それを自覚して尚、止まらない、止まれない。今なお悪を殺せと心の内で声が聞こえ続けているのだ。
祭り上げられ望まれた。望まれるがままに殺し続けた。
それだけが生存理由だと生まれた時から共にあった自身の半身たる刃が告げている

あぁ、だが
女の触腕が肉体が損傷していようが意思で動かせるのを知っていながら、わざわざ近づいて止めを刺そうとしたのは何故だろう?
斬撃を飛ばした方が、まだしも安全だっただろうに

その事実を、自身を刀剣と称する男は人間の様に気づかないふりをした

「…違いない。」

何て様だ
自ら腹を刺したときも、数多の悪を殺したときも、大を救うために小を切り捨て犠牲としたときも砂漠の様に凪いでいた心が、僅かに揺れ動いている
それはきっと、先日に我が身が傷ついても他者を救おうとする本物と出会ってしまったからだろう
言葉ではなく行動で、自身が間違っていたことを突き付けられて、気づかぬうちに男の刀身に罅が入っていた
だが所詮は今更で、もはや変われるとも変わろうとも思わなぬ男は揺れ動く思いさえ断ち切って剣を一息に振り下ろして、これまでの数多の悪と同じように女を切り捨てた

「…次だ。次の悪はいったいどこだ。全て切り裂き地獄の底へ送ってくれる」

片眼は潰れ、片足も潰れ、血も大量に流して死に体も同然。それでもなお止まらない、止まれない、止まってはならない。なぜなら刀身砕けて散り行くその時まで、悪を斬って進むのだと決めたから
月さえ隠れ、明かり一つなくなった深淵を、鋼の断罪者は怨念だけを頼りに歩いて、消えた

/こちらこそありがとうございましたー!

58【ディオド】 ◆y7XUmHaaYQ:2020/07/23(木) 23:51:50 ID:jIR/fiTI
新月の夜
月明かりさえ失われるはずの暗闇は、今では人口の光によってその多くが照らされ昼と変わらぬほどの光量でもってその多くが照らされている
故にこそ、その隙間に生まれる影はより一層の深淵となって逃れられない恐怖を否応なしに叩きつける
昼行性に生まれた人類種の宿命として、暗闇は冷たく恐ろしい

「あっるくのーだいっすきー、どーんどーんいっこっおー♪」

その暗闇の一角で響き渡る、およそ恐怖というものから掛け離れた楽しげな童謡はどこか幼さ残る少年が、手にボールか何かを持ちながら笑顔満面で小躍りするように出鱈目なステップを刻みながら発しているものだった
それは恐怖を誤魔化そうとしてでのものではなく、また恐怖を克服したが故のものでもない
只々純粋に楽しくて楽しくてたまらない、と誰が見てもそれだけでしかないと分かるもの

深淵においてなお欠片たりとも陰らぬ笑顔と声はまるで太陽のようであり、ここは恐ろしい場所ではないのだと聞くものに安堵と安心の感情を想起させる
だがしかし心せねばならない
前述したように光の下には影ができ、それは光が大きければ大きいほどより深く暗いもの
遠くより聞こえりその声は、薄暗がりで見えるその影は、本当に光と呼んでいいものか?
それが本当に美しく光と呼べるものならば、あたりに漂うこの血腥さはなんだ?
少年がその手に持っているそれは果たして本当にボールか?

それが確認できるほど近づいたのならば、覚悟せねばならない
その時あなたは昼を統べる人類に対する夜を統べる者──深淵の覇者たる一角、吸血鬼と相対することになる

「んー、今日は軽くデザートも食べたいところだなぁ」

──散乱する木乃伊の如く干からびた死体の中央で誰かの頭蓋を弄ぶそれに気づかれれば、その食事が再開するのは確実だ


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