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レス数が900を超えています。1000を超えると投稿できなくなるよ。
( ^ω^)優しい衛兵と冷たい王女のようですζ(゚ー゚*ζ 第三部
1
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/06/10(金) 21:01:44 ID:U0jBOVFc0
第二部までのお話はBoon Roman様に収録されています。
http://boonmtmt.sakura.ne.jp/matome/sakuhin/tender/
(リンク先:boon Roman)
210
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/06/25(土) 22:01:52 ID:XWtDTcAU0
>>209
訂正
第十九話 虎の村 (冬月逍遥編④) 終わり
第二十話へ続く
.
211
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/06/25(土) 22:02:50 ID:XWtDTcAU0
おまけ
最近町中を彩っている工芸品をご存じだろうか。
一遍100×100サイズで売られているパッチワークパッチワーク(→写真①)である。
まるで町の一風景を切り取ったかのようなその絵柄は学舎に通う女学生を中心に話題となり
今や老若男女を問わず、日常生活を飾るちょっとしたアクセントとして人気を博している。
作者はサナ雨林の某村在住の工芸師、キュート・スプリング氏(2*歳)。
「自分の作品が大勢の人々の手に取られるようになるなんて夢にも思わなかったですよ」
素直に驚きを表しつつも、我々取材班のインタビューに快く応じてくれるスプリング氏。(↓写真②)
(中略)
「……私の作品は、実はほとんどモデルがあるんですよ。昔憧れていた工芸師さんの、ええそう、さっき話した師匠です。
いつまでたっても師匠の作品のすばらしさが忘れられなくて、再現したくて、ガムシャラに編んでいるんです。
師匠が工芸作品を作ることはもう無いけど、いつまでもそれを悲しんでいるんじゃなくて、師匠に並べるように私が頑張ろう、って。
本格的にパッチワークに取り組み始めた今でも、いいえ、今だからこそ、その思いを強くしながら取り組んでいます。
あ、もちろん、買ってくださった方々は私のことを気にせずご自分の好きなように使ってほしいですよ。
他の誰かに見てもらって、その人の魅力を上げる一助になってくだされば、私はとても嬉しいんです」
――本日は貴重なお話ありがとうございました。
次回は、最近澄んだ歌声が聞こえると評判のサナ雨林遊歩道についてご紹介します。
〜〜アーケ町報 31*年冬号『しんみり流行案内』より抜粋〜〜
212
:
同志名無しさん
:2016/06/25(土) 23:03:59 ID:XDTUIYWE0
おー、乙!
213
:
同志名無しさん
:2016/06/25(土) 23:25:25 ID:RCKDlPUU0
乙乙
214
:
同志名無しさん
:2016/06/26(日) 14:48:33 ID:jviJb8dc0
おつおつ
三匹のカエルに所属してたっていうので一瞬素直姉妹かと思ったけど、辻褄合わなくなるから違うな
215
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/06/26(日) 19:39:21 ID:RMVhSkxw0
>>214
〜〜〜〜〜
('A`)「俺は2年前から、つまりレジスタンスになってからこの組織に加入している。
レジスタンス全体は大した人数じゃない。俺と、シュールと、ジョルジュと、リーダーと、
あとは今ちょうど他の町に行って交渉に参加している奴が少し」
(第一部 戦士と王女の章 『第三話 勝てない理由と追いかけっこ』
>>316
より引用)
〜〜〜〜〜〜
このときドクオの会話に出てきた「他の町に行って交渉に参加している奴」というのがキュートです。
余所の国へ行っているうちにラスティアが滅んでしまい、旅人になりました。
ノパ⊿゚)とo川*゚ー゚)oは友達です。ちなみにlw´- _-ノvもノパ⊿゚)の友達です。
どうして魔人に反抗するレジスタンスに所属していたのか、魔人の村を離れられなかった師匠との関係と合わせてお察しください。
元々のシナリオでは糸使いとして第二部に登場し、某場面でジョルジュと協力する予定でしたが、
どうにもうまく馴染むことができず、泣く泣くお蔵入りに。
この度、その供養の意味合いも込めて、ゲストとして登場いただいた次第です。
216
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:00:59 ID:qmaQ7Tl.0
投下します。
217
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:02:07 ID:qmaQ7Tl.0
(´・_ゝ・`)「いらっしゃい」
(´・_ゝ・`)「見ない顔だね。遠くからのお客様かな?」
(´^_ゝ^`)「お好きな席へどうぞ。見ての通り、どの席も空いていますから」
(´・_ゝ・`)「ご注文がお決まりになりましたら及びくださいね」
(´・_ゝ・`)φ「あ、もう選びました?」
(´・_ゝ・`)φ「違う?」
(´^_ゝ^`)「ああ、この音楽ですか。オルゴールですよ」
(´^_ゝ^`)σ「カウンターの一番端、柊の葉のリースの傍に置いてありますでしょう?」
(´・_ゝ・`)「卵型のオルゴール。ほんの少し前までこのお店で働いていた、元店員のものだったんです」
218
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:03:12 ID:qmaQ7Tl.0
(´・_ゝ・`)「要らないなんて言うものだから、僕がもらっちゃいました」
(´・_ゝ・`)「しんみりとし過ぎな気もしますけど、鳴らしてみると様になるものなんですよね」
(´^_ゝ^`)「気に入っていただけました? それは良かった。あの子もきっと喜びます」
(´・_ゝ・`)「ところでご注文は……まだいい? ああ、そうですか。どうぞごゆっくりお選びください」
(´・_ゝ・`)そ「はい? 探し物ですか? え、人」
(´・_ゝ・`)□「写真があるんですね。このあたりじゃ珍しい。魔人製? ひょっとしてテーベ製の機械ですか? お高いんでしょう、あれ」
(´・_ゝ・`)□「……ん?」
(´・_ゝ・`)□ ・・・
(´・_ゝ・`)□「この人、いったい何をしたんですか?」
219
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:04:09 ID:qmaQ7Tl.0
(´・_ゝ・`)□「教えられないですか。そうですか」
(´・_ゝ・`)□「いえ、見たことは、ええと、ありますよ。はい」
(´・_ゝ・`)□「ただ特別悪い人には見えませんでしたからね」
(´・_ゝ・`)つ□「とりあえずお返しします」
(´・_ゝ・`)「そもそもあなた方はいったいどうしてあの人を探しているんですか」
(´・_ゝ・`)「答えられない? ふむ……」
(´・_ゝ・`)「正直なところ、その人のことを売るような真似はしたくありませんので、ええ」
(´-_ゝ-`)「いえいえ、こちらのわがままです。謝られることはありません」
(´・_ゝ・`)「お帰りですか」
(´・_ゝ・`)「注文、しないんですね」
220
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:05:08 ID:qmaQ7Tl.0
(´・_ゝ・`)「こんなこという空気じゃないのかもしれませんが、もしもよかったらまた来てください」
(´^_ゝ^`)「一緒にオルゴールを聞きながら一服つきましょうよ」
(´・_ゝ・`)「え? 歌の意味ですか? いえ、あまり詳しくは……」
(´・_ゝ・`)「なんですか? 掌なんて」
バシュンッ
(´ _ゝ `) フッ
「あーあ、またやったな」
「そんなにむやみに消しちゃって大丈夫かよ?」
コクコク
「まったくもう」
221
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:06:12 ID:qmaQ7Tl.0
「で、どうするんだ、これから」
「手がかりないじゃねえか。もう半月経つっていうのに」
「この町に来たのは確か、か。まあそうか」
「気軽に跡を追うっていうけどな、あんたには仕事があるだろ」
「酋長」
「探偵ごっこもここまでにして、そろそろ馬車に乗るぞ」
「今からなら、年末の訓示に間に合うはずだ」
「大司教も待ってるから」
「コーヒーが飲みたい? 自分で眠らせておいて何言ってんだよ」
「はいはい、ダダこねない。とっとと行く。ほら」
キイー
…バタンッ
222
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:07:07 ID:qmaQ7Tl.0
(´ _ゝ `)「ん」
(´+_ゝ-`)「うーん」
(´・_ゝ・`) パチリ
(´・_ゝ・`)「……はて、どうしてテーブルに寝てなんか」
(´・_ゝ・`) ・・・
(´・_ゝ・`)そ「あ! 開店時間過ぎてる!」
(;´+_ゝ+`)「弱ったなあ。寝ぼけていたかな」
(;´・_ゝ・`)「お客さんが来る前に掃除しないと」
アーイソガシイ、イソガシイ
☆ ☆ ☆
223
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:08:16 ID:qmaQ7Tl.0
( ^ν^)そ「ん」
街道を歩いている途中、ふっと背筋を伸ばして振り返った。
鬱蒼とした森もすでに遠くなりつつある。
その向こうはニュッ君の目になじみのある、ヘルセ付近の山の影だ。
( ^ω^)「どうしたんだい」
( ^ν^)「いや、なんだろう。虫でも飛んできたかな」
歩みを止めて頬をかいた。
これといったものは何も思い浮かばない。
( ^ν^)「なあ、ブーンさん。そういえば、向こうに見えてるあれは何なんだ」
話題を探して、ニュッ君は東を指さした。
これまで山に隠れていた方向に、すらりと伸びる高いものが見えている。
普通の山よりもずっと細長く、棘のような形をしている。
( ^ω^)「イオの峰だね。僕の故郷からもよく見えたよ」
224
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:09:07 ID:qmaQ7Tl.0
( ^ν^)「山なのか?」
( ^ω^)「そのはず。といっても、北のマルティア国の領土内だから詳しくは知らないけれど。
こんな昔話があったろう。『魔人は昔、イオの峰から降りてきた』って」
( ^ν^)「ああ、そんな話もあったかな」
ニュッ君がその昔話を聞いたのは、教会で暮らしていた頃だ。
身寄りのない子供たちを育てていた教会の教父の一人が、彼の寝床で毎晩お話を読んでいた。
ずっと昔のお伽噺。
一番初めは北西に浮かぶ島の高い峰から。
それから後に続いて世界各地の峰から彼らが降りてきたという話。
実際に彼らが山で生まれて降りてきたのか、それとも何かの比喩なのか。
それは今、少なくとも庶民には誰にもわかっていない。
わかっているのは、少なくとも300年前から、彼らが人間社会に溶け込んでいたという事実。
225
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:10:14 ID:qmaQ7Tl.0
( ^ν^)「実物を見たのは初めてでしたよ」
目を眇めて山を見つめて、首が痛いなとぼやいた。
( ^ν^)「次の町までどれくらい」
( ^ω^)「あと少しだよ。ほら、前の方、何か見えるよね」
( ^ν^)「おー、あれか。あれは……なんだ?」
イオの峰に見下ろされながら、彼らは街道をまた歩き始めた。
☆ ☆ ☆
226
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:11:19 ID:qmaQ7Tl.0
第二十話
猪と栗鼠の町、あるいはひとつの観測地(冬月逍遥編⑤)
.
227
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:14:13 ID:qmaQ7Tl.0
どぉん、と強い音がした。
( ^ν^)「ん?」
(;^ω^)「うっわ」
ロビーで二人、ブーンとニュッ君は衝撃に体を揺さぶられる。
薄暗いロビー。
地震のような衝撃だったのに、声を出したのは二人だけだ。
( ^ν^)「なんかみんな白けてるな」
あたりの人たちを眺めまわしてニュッ君がつぶやいた。
ロビーにいるほかの人たちは騒がずに、審査が進むたびに番号が更新される掲示板を見つめている。
ここは審査庁。
エウリドメの入り口に建てられている、入町手続きをするための施設だった。
228
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:15:14 ID:qmaQ7Tl.0
( ^ω^)「結構揺れた気がしたんだけどなあ」
( ^ν^)「地震が多い町なんですかね」
( ^ω^)「ふうん、これも慣れか」
などと納得しかけていると、「地震じゃないわよ」と、横から声が割って入ってきた。
見れば恰幅のいい中年の女性がにこにこしながら立っていた。
「町の中の猪が壁に体当たりしてるのよ」
( ^ω^)「壁?」
「来るときに見たでしょ。エウリドメを囲んでいるあの壁」
来た時のことを思い出す。
人を十人縦に並べてようやくつり合いがとれそうな、大きな壁が、審査庁の周りに聳えていた。
街道から見えていて、十分に二人を驚かせたのだが、それはほんの一面でしかなかったらしい。
( ^ν^)「確かに壁は見えたな。あれ、町を覆っているのか」
229
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:16:09 ID:qmaQ7Tl.0
( ^ω^)「猪とは、森から紛れ込んできたんですか?」
ブーンは歩いてきたときを思い出していた。
サナ雨林を抜けてしばらく歩くと、森ほどではないにしろ、たくさんの樹木が出迎えてくれていた。
冬だからこそ葉のない木が目立つのだが、春先から夏頃にはさぞ豊かに生い茂るようだった。
「ううん、違う。ずっと昔に森から連れてきた猪たちよ。
猪ってほら、どこでも体当たりしちゃうでしょう?
外の森のどこからでも走ってこれちゃうと対策が立てられないからって
どこでどう体当たりされたかすぐに把握できるようにしてあるのよ」
( ^ν^)「管理しているんだな」
「そうともいえるかも」
気のいいその人はまだまだ話したがっていたが、審査室から名前を呼ばれて、名残惜しそうに立ち上がった。
「じゃあね、旅人さん。少し変わっているけれど、いい町だからゆっくりね」
話し好きなおばさんもいなくなり、また二人きりに戻った。
230
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:17:07 ID:qmaQ7Tl.0
( ^ω^)「体当たり、か。町の人たちもそれに慣れっこで、だから驚かないと」
( ^ν^)「名物みたいなものなんかね。それにしては煩そうだけど」
( ^ω^)「猪の数そのものは多くないのかもしれないね」
せっかくだし一回くらいはみたいかも。
なんてことを呟いていたら、名前を呼ばれた。
( ^ν^)「観光、でいいっすよね」
( ^ω^)「いいと思うよ。たぶんあんまり長く滞在できないと思うけど」
そして二人は審査を受けて、三日間という滞在期間を得た。
☆ ☆ ☆
231
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:18:06 ID:qmaQ7Tl.0
審査庁を出たら、そこはもう壁の内側だった。
目につくのは、いくつもの建物だ。
枯れ木の枝が巻き付いている石造りの建物がそこら中に寄せ集められている。
細い道が横へも前へも、斜め向こうへも、好きなように伸びていた。
チョコレート菓子のような家々の屋根が折り重なって空をより狭くしている。
その屋根のずっと奥に、壁の反対側が高く聳えていた。
建物には高さが合った。しかしどの建物も、壁と比較すればごくごく小さい。
新しい町の景色をたびたび二人は目にした。
その中でも、これほど人の手に寄る物の存在を傍に感じた町並みも珍しかった。
隙間が狭いせいだろうか、何もかもがミニチュアになってしまったかのように感じられた。
その目新しい街道が、今はどうにも騒がしい。
道行く人々の足取りが速く、どうも一方へと向かっているようであった。
232
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:19:08 ID:qmaQ7Tl.0
「逃げたぞ!」
まずそう聞こえた。
身構える二人の脇を何かが猛烈なスピードで駆け抜けていく。
「どけどけー!」
という声が耳に残った。
( ^ω^)「な、なんだ?」
( ^ν^)「風?」
きょとんとする二人が振り向いた先に、もうその姿は遠ざかっている。
茶色い堅そうな毛を靡かせて。
( ^ν^)「猪だ」
呟いた言葉の向こう側で、どしん、とまた大きな音がし、土煙が立ち上った。
ざわめきながら、人々が街道を走っていく。二人を追い越して、土煙の方角へ。
怒っている人もいれば、笑っている人もいる。どちらかといえば気楽そうな顔をした人が多かった。
233
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:21:08 ID:qmaQ7Tl.0
首を伸ばして眺めてみれば、猪の横たわっているのが見えた。
「離せ!」
誰かが叫んでいる。
警備員といった風情の男が石畳の床に膝をついてごそごそと手を動かしている。
目を凝らしてみて、初めてその手に小さな人が握られているjのがわかった。
(=゚д゚)「ちくしょう、離しやがれ。こんなところで捕まえやがって」
冬だというのに赤い布一枚をカーディガンのように羽織った小さな人が罵声の主だった。
背は低く、顔だちも幼く、体毛の毛深いのを除くと人間と変わりない。
あれは誰かと尋ねたら、「栗鼠の魔人だよ」と誰かが答えてくれた。
(;゚д゚)「やめろよ、町から出さないでくれよ。頼むよ」
栗鼠の声は次第に小さくなっていく。
警備員はそれを無視して、男をわしづかみにして背中で抱え、審査庁へと進んでいった。
そのようにして、扉の向こうに栗鼠と猪は連れて行かれた。
234
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:22:17 ID:qmaQ7Tl.0
「今日も行っちゃったね」
誰かが言い、みんなが笑って、それで野次馬はお開きになった。
あっけないほどにみんな、顔を背けて狭い街道へと消えていく。
絡みつく枝たちの描くアーチに埋もれていくように。
( ^ν^)「なんだったんだろ」
( ^ω^)「さあねえ。魔人だけど、子どもだからかな。あんまり怖がられてもいないみたいだ」
宿へと向かう道すがら、往来の人々にそれとなく質問をした。
猪について、栗鼠について。
帰ってくる言葉はだいたい同じ。
昔、ここに猪の村があった。
人間はあとからその村におじゃましたが、猪の力に怯えて壁の中に閉じ込めた。
そのうち壁に絡みついた蔦に栗鼠が登ってきて、二種族目の魔人になった。
だが、栗鼠たちは壁からすぐに出て行った。いかに小さかろうと、壁の中は窮屈だったのだ。
栗鼠の魔人は町を出て、今はサナ雨林の森の中に潜んでいるという。
235
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:26:06 ID:qmaQ7Tl.0
「でも、さっきの栗鼠は特殊だよ」
たまたま声を掛けた露天商が、話が好きならしく、付随することをいろいろと教えてくれた。
「あの栗鼠、もう何年も前からいるんだ。で、猪をけしかけて外へと出そうとしているんだよ」
( ^ν^)「壁を壊すつもりなんですか」
「そうみたいだよ。よくやるよね。もう何百年と一度も崩れたこともないのに」
露天の品を売り込まれる前に、早口で別れを告げ、
聳える壁に一瞥をあげながら、二人は宿へと道を急いだ。
☆ ☆ ☆
236
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:26:59 ID:qmaQ7Tl.0
空には星が輝いている。
冬の大三角形が見下ろしてきている中、壁の一部が少し動いた。
猪が向かいに立っていて、鼻でその端を押している。
(=゚д゚)「よしよし」
と、言いながら顔を出したのは、昼間壁にぶつかっていたあの栗鼠だ。
「もうやめようよ」
栗鼠の体が半分穴から出てきたところで、猪はか細い声を出した。
栗鼠は聞く耳持たず自分の身体を揺らしている。
「やめようよ、こんなこと。注目を集めるだけだよ」
先ほどより幾分か大きな声で猪が声を震わせた。
237
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:28:00 ID:qmaQ7Tl.0
(=゚д゚)「そんなこというな」
栗鼠がとうとう腕を出す。
(=゚д゚)「いいか、お前はずっと壁の中にいたんだ。だから知らないんだ。壁の外の世界を。
お前らはみんな、もっと自由に走っていいってことを知らないんだよ」
「そんなの知ってるよ」
(=゚д゚)「いいや、知らない。知らないから満足していられるんだ」
「満足しちゃいけないのかい」
(=゚д゚)「いけなくないけど! でもこんな――」
足跡がして、声がやむ。
猪の後ろに立っていた人影が、ゆらりと揺れて猪と栗鼠に近づいた。
「大丈夫」
と、人影が言い、月明かりの元で微笑みを見せた。
( ^ω^)「獲って焼いたりはしないし、君らのことも黙っているから」
238
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:29:51 ID:qmaQ7Tl.0
宿へと向かっていたときに、その穴に気が付いた。
日雇いでの警備員時代に培った勘である。
穴の奥に帰ってしまった栗鼠は、顔の体毛をわずかに覗かせた。
(=゚д゚)「本当だろうな」
( ^ω^)「うん」
(=゚д゚)「だったら証拠を見せろ」
( ^ω^)「証拠と言ってもなあ……外からきた旅人だってことくらいしかわからないよ」
首から下げた、入町管理証を指でつまんで持ち上げる。
審査庁から授かったプレートで、何が起きても必ず身に着けるように言われていた。
わずらわしい管理システムとも思ったが、こんなところで役立つのは予想外だった。
栗鼠がとうとう穴から顔を出して、管理証を鼻を寄せて嗅いだ。
しばらくして重々しくうなずくと、栗鼠はブーンの前に姿を見せた。
(=゚д゚)「審査庁の人間じゃないことはわかったけど、何の用」
( ^ω^)「ちょっとお話しでもどうでしょう」
(=゚д゚)「なら、別の場所にしよう。この穴をばらしたくはない」
手招きする栗鼠の背中を追って、ブーンも夜の町をひっそり歩いた。
☆ ☆ ☆
239
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:30:55 ID:qmaQ7Tl.0
( ^ω^)「なるほど、静かでいいところだ」
町の真ん中、丸い敷地の広場には、昼間だけ稼働する噴泉がある。
雑踏はすでになく、ひっそり沈んだ空気の中に、花壇の傍の草原でブーンたちは寝ころんだ。
(=゚д゚)「旅人なの?」
となりに座った栗鼠が尋ねた。
( ^ω^)「うん」
「うわあ、すごいなあ」
とは、猪の言葉だ。
(=゚д゚)「お前は何感心しているんだよ!」
のんびりとした猪に、栗鼠の早口の叱咤が飛んだ。
肩をすくめる猪の背中を何度もその小さな掌が叩いた。
240
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:31:53 ID:qmaQ7Tl.0
(=゚д゚)「お前もそうなるんだよ。いずれ外に出て、あてもなくふらつくんだ」
「ええ、できるかな」
(=゚д゚)「できる」
(;^ω^)「まあまあ、僕だってただふらついているわけじゃないよ」
微笑みながら、ブーンが上半身を起こした。
( ^ω^)「目的はあるんだ。首都を目指している。僕の過去を知る人がいるんじゃないかと思ってね」
記憶が無いんだよ。
そう、ブーンは付け足した。
241
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:32:52 ID:qmaQ7Tl.0
(=゚д゚)「どういうこと?」
素直な疑問が二人の口から出てくる。
いがみあっていたとしても、このときばかりは目を輝かせている。
年のころは、ブーンやニュッ君よりももっと若い。十代かそこらでしかないようだ。
( ^ω^)「そうだねえ、話すと長いんだけど。
目が覚めたらエウロパの森の南の入り口で寝ていたんだ。
何も持っていない状態から始まって、嫌でも生きていかなきゃならなくて、日雇いの仕事で食いつないだ」
( ^ω^)「ようやく生活になったのは鴉の町に行ってからだ。
それから自分の記憶を求めて、道をたどって町を渡り歩いた。
蛇の町、虎の村、そして猪と栗鼠の町。
思えば旅したものだね。もう一か月近くなるよ」
もう何日もしたら、新しい年が始まる。
310年。魔人が来てから始まった新暦も、大きな節目が始まりつつある。
年の瀬迫るこの時期に旅に出るなんて、やはり珍しいことらしく、栗鼠は不可解気に首を傾げた。
でもすぐにその相好は崩れた。
(=゚д゚)「もっと話を聞かせてよ」
声はすっかり少年の声だ。
242
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:33:51 ID:qmaQ7Tl.0
(=゚д゚)「俺、外の世界をみたいんだ。こんな壁なんかにしばられるのはもうたくさんなんだよ」
( ^ω^)「でも、閉じ込められているのは猪だけなんだろう。
君たち栗鼠はもともと外で暮らしているって聞いたけど」
(=゚д゚)「うん。でも、俺はこいつと一緒に行きたいから」
栗鼠はそう言って、猪の頭を手でたたいた。
小さな手の指がごわごわの毛に絡まって、猪が気持ちよさそうに鳴いた。
なるほど、とつぶやいて、ブーンの口の端がめくれる。
( ^ω^)「仲がいいんだね」
(=゚д゚)「うん。俺が初めてこの町に入ったときに知り合ったんだ。
こいつがずっと閉じ込められているのが、俺すっごく嫌なんだよ」
( ^ω^)「……優しいな」
ぽつりと、小さく口からこぼすと、ブーンの指が栗鼠の頭に向かった。
掌を置くには小さすぎる頭を、指の腹でちょっとなぜる。
短い薄い茶色の体毛が、月明かりの下でブーンにゆすられた。
243
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:34:51 ID:qmaQ7Tl.0
( ^ω^)「大切にするんだよ。
一緒にいたい人がいるのは、きっといいことだから」
うん、と栗鼠が元気よく答える。
今日のことは不問に伏す、だから黙っているように。
そう宣言して、喜ぶ彼らを背にブーンは離れた。
寒々とした冬の風が寝具に上着を羽織っただけの彼の着た物を揺らす。
( ^ω^)「優しい、か」
もう少しだけ散策して、ブーンは宿へと帰っていった。
☆ ☆ ☆
244
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:35:55 ID:qmaQ7Tl.0
( ^ω^)「おや」
( ^ν^)「おう、お帰りっす」
オレンジ色のカーペットが敷かれた部屋で、ニュッ君は窓辺に座っていた。
( ^ω^)「寝ないのかい? もう夜更けだけど」
( ^ν^)「眠れなくてな。あんた、今日はどうして外に出たんだ」
( ^ω^)「警備員時代の癖、かな。やましいことはしてないよ」
上着をハンガーにかけて、鞄を床の籠に入れて、ベッドに腰かけた。
年代物なのか、あまり柔らかさは感じないが、掃除は行き届いていて、シーツも綺麗に角に収まっていた。
( ^ν^)「結構遅くに帰るものなんですね」
話が続いていた。
245
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:36:55 ID:qmaQ7Tl.0
( ^ω^)「だいたい明け方に帰ってきて、午前中は眠っていた。
目覚めて身支度を整えて、それからロッシュへ向かってパスタを食べていた」
( ^ν^)「日雇いにしてはハードっすね」
( ^ω^)「思い返せばね。でもほかにやることもなかったし、お金も十分に溜まったし」
( ^ν^)「今更っすけど、喫茶店、通い詰めてくださってありがとうございました」
( ^ω^)「いえいえ」
( ^ν^) ・・・
( ^ν^)「あの」
( ^ω^)「うん?」
( ^ν^)「あのころの俺、旅することなんて考えもしなかったっす」
ニュッ君がブーンの方を向いた。
月明かりの逆行でブーンからは見えにくかったが、その顔は真剣だった。
246
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:37:51 ID:qmaQ7Tl.0
( ^ν^)「外の世界のことも何も知らないで、ずっと喫茶店を手伝って生きていく気でいました。
それでいいんだって思っていたんです」
( ^ν^)「でも、それをデミタスは良くないと思った。だからあんたと一緒に、俺は旅に出た」
( ^ν^)「それはそれで、いいことだったんだろうなって、今では思います。
世間を知るって意味で」
聞いていたブーンはゆっくりと頷いた。
それから口を開こうとしたが、その前に「待って」とニュッ君が制した。
( ^ν^)「待ってください。まだ話は終わりじゃない」
( ^ω^)「そうなの?」
( ^ν^)「はい。ちょっと待ってください」
247
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:38:50 ID:qmaQ7Tl.0
時間を置いた。
ニュッ君は眉根を寄せて、じっくりと考えていた。
口を小さく動かして、言葉が微かに聞き取れるくらい呟いていて。
やがて言葉を紡いでいった。
( ^ν^)「人って、みんな何かしらのしがらみがあると思うんです。
それはいろんな形をしています。恩義だったり、しきたりだったり、ここみたいにはっきりとした壁だったり。
現状に閉じ込める何かに囚われている人たちを、旅している中でいろいろと目にしたように思います」
( ^ν^)「俺のしがらみも、恩義でした。デミタスへの恩があって、世間に出ることを無意識のうちに度外視していた。
そのことをデミタス本人が俺に教えてくれた。こういうのは、きっとすごく珍しいことなんすよね。
しがらみから抜け出す後押しをしてくれるなんて」
( ^ν^)「だから俺は、今気楽です。何の気なしに旅をして、ブーンさんにしたがって歩いています。
とりあえず首都までは行こうって、それだけを決めていたものだから、ほかのこと何にもしていなくて」
248
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:39:53 ID:qmaQ7Tl.0
ニュッ君が頭をかいた。
うまく思いつかねえけど、と言葉を添えて、それでもブーンの方を向いていた。
( ^ν^)「もしも首都についたら、俺、仕事を探したいです」
( ^ω^)「一人で生きる、と」
( ^ν^)「そうっすね。ブーンさんとはお別れになると思うんですけど」
( ^ω^)「気にすることはないよ」
朗らかに言うと、ブーンは顔を崩して、手を後ろに伸ばして天井を向いた。
( ^ω^)「あー、どんなことを言われるかと思ったら、なるほどそういう話か」
( ^ν^)「……変でした?」
249
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:40:50 ID:qmaQ7Tl.0
( ^ω^)「いやいや、そうじゃない。むしろなんだか安心したよ。
ここまで長々歩いてきたけれど、初めて君からちゃんと、自分についての意見を聞いた気がする」
( ^ν^)「そうっすかね」
ぽりぽりと頬をかいて、そうしているうちに、ニュッ君の口元が緩んでいった。
( ^ν^)「今まで、自分のことを話すってのがそもそもあまりなかったんだと思います。
だからちょっと、なんかこう、言いにくかった」
( ^ω^)「そりゃあ、言えてよかった」
( ^ν^)「……はい」
そういって、ニュッ君は鼻で笑った。
今まで彼がしてきたどれよりも柔らかい笑い方だった。
ブーンは天井から顔を戻した。
250
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:41:48 ID:qmaQ7Tl.0
( ^ω^)「まあ、この旅の資金は今回の僕の仕事でだいぶ稼ぐから。
年が明けるころまでは仕事して、それから首都に行こう。それまではまだ職探しはいいよ」
( ^ν^)「大丈夫ですか?」
( ^ω^)「平気だよ。それに僕がいない間に家事をしてくれるから助かってもいるんだ。
あとは図書館にでも行って、調べておきなよ。首都がどんなところだとか、どんな仕事があるかとか」
( ^ω^)ゝ「まあ、僕が知りたいところなんだけどね」
( ^ν^)「なんなら教えてあげますよ、調べて」
( ^ω^)「おお、それはいい! まとめてくれるとありがたい。僕の記憶が――」
そこで。
言葉は途切れた。
251
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:44:16 ID:qmaQ7Tl.0
原因は、外にあった。
衝突音でも、風の音でもない。
( ^ν^)「なんすか、これ――」
それは低く轟く、悲鳴のような音。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
私の記憶が正しければ
その音が初めて観測されたのは、309年12月17日。
人々の寝静まっていた、夜中のことだ。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
252
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:45:07 ID:qmaQ7Tl.0
「どうしたんだよ、おい」
壁の前で、栗鼠が叫んでいた。
乗っている猪は、鼻息が荒くなっている。
瞳には赤い光が宿り、壁を目にして、地面を蹴り続けている。
「もう一度やるか? 壁を壊すってんなら、応援するけど、こんな夜中じゃ、おい!」
栗鼠の叫びを置き去りにするかのように、猪は駆けた。
まっすぐ、石造りの壁に向かって。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
後に“サイレン”と呼ばれるその音を耳にした魔人の数は、
彼の地域においておよそ10万人とも20万人ともいわれている。
発症したのは、そのうちの三割に及んだそうだ。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
253
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:46:36 ID:qmaQ7Tl.0
(=゚д゚)「は、はは」
壊れた人形のような笑い声が栗鼠の口元から洩れた。
猪の牙がいつもよりも数段鋭く、突進の威力も増していた。
壁の砕けたときの感触が、栗鼠の全身をいまだに痺れさせている。
壁の向こう側には草原があった。
背の高い草の向こうに、高く昇った冬の月。
(=゚д゚)「やったんじゃんか、なあ、おい!」
猪の頭を叩いて栗鼠が喜ぶ。
その下で、猪がまだ鼻息荒くたたずんでいる。
と、その身をひるがえした。
(=゚д゚)「え?」
栗鼠の顔が一気に青ざめる。
254
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:48:01 ID:qmaQ7Tl.0
(=゚д゚)「おいどうした。そっちは元いた町だぞ。エウリドメの」
疑問の声はすぐに消える。
再び猪がかけていた。
赤い瞳を光らせて。
☆ ☆ ☆
255
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:49:15 ID:qmaQ7Tl.0
( ^ν^)「……なんなんだよ」
いてもたってもいられなかった。
窓の外が赤く燃えるのをみて、慌てて宿屋から飛び出していった。
狭い街道には人々がたたずんでいる。
何をすることもできず、所在なさげに町の空を見つめていた。
赤い炎が空を食んでいる。
濛々と立ち込める黒い煙に、瓦礫が混じって輝いている。
何かの崩れる音。
遠くで鳴り響く悲鳴。
肌をちりちりと焼く熱気。
魔人が暴れている、という噂が耳に飛んできた。
エウリドメで囲っていた猪が暴れて、壁や町のあちこちを壊して回っているのだという噂だ。
256
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:50:11 ID:qmaQ7Tl.0
( ^ω^)「わからない」
ブーンは頭を抱えていた。
さっきまで平和な寝静まった町が、今は業火に焼かれている。
この状況に至った答えを出せる者は、彼らのそばに誰もいなかった。
( ^ν^)「ほかの町は?」
ニュッ君が誰に対してというわけでもなく、疑問を口にした。
声が明らかに震えていた。
( ^ν^)「猪が暴れているんだ。栗鼠は? 鴉や、蛇は、虎は? みんな――」
大きな看板が飛んできて、二人の脇で落ちて砕けた。
破片が飛び散り、ニュッ君の頬をかすめる。
傍にいた人の誰かが叫んだ。
その声も、ニュッ君の耳には遠かった。
( ^ν^)「みんな、どうなったっていうんですか」
答えの見つからない問いが、熱に溶かされ埋もれていった。
257
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:52:58 ID:qmaQ7Tl.0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
理性を失った彼らによって。
彼の地域のほとんどの町が何らかのダメージを負った。
被害の総計はいまだに計算しつくされていない。
(ある逍遥の記録より)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
☆ ☆ ☆
☆ ☆
☆
258
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:54:05 ID:qmaQ7Tl.0
第二十話 猪と栗鼠の町、あるいはひとつの観測地(冬月逍遥編⑤) 終わり
第二十一話 へ続く
.
259
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:57:23 ID:qmaQ7Tl.0
投下終わりました。
ここまで、平和だった頃の彼らの世界を描けて楽しかったです。
冬月逍遥編は次回で終わります。
所用のため時間をおきますが、しばしお待ちください。
それでは。
260
:
同志名無しさん
:2016/07/02(土) 21:14:33 ID:HJCX/12.0
おつおつ
261
:
同志名無しさん
:2016/07/02(土) 23:46:55 ID:wMqnmwZo0
乙乙
262
:
同志名無しさん
:2016/07/04(月) 08:02:48 ID:nakba5Io0
おつおつ
謎ばかりが山積みになっていくな
263
:
同志名無しさん
:2016/08/23(火) 22:26:02 ID:pp8vfmC60
おつー
もうワックワクです。凄く楽しみにしています。
264
:
同志名無しさん
:2016/08/31(水) 14:01:02 ID:V2Fi/JQg0
うわあぁぁぁあ!
久々に巡回しに来たら投下来てたー!
今から読むぜー!ずっと楽しみにしてたよ!
265
:
同志名無しさん
:2016/12/17(土) 12:10:25 ID:a6Q6PaMQ0
早くこないかなー!ワクワク
266
:
同志名無しさん
:2016/12/29(木) 15:45:54 ID:VNOVvNXI0
そろそろくるかな!
267
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 21:20:32 ID:DM6Pm.mI0
それでは投下を始めます。
268
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 21:27:17 ID:DM6Pm.mI0
(1)首都の惨状
メティス国の首都、メガクリテ。その地を指して花の都と人は呼んだ。
海に向かって末広であり、盛んにおこなわれてきた他国との交易が、異国との文化交流を積極的に促してきた。
歌謡、舞踊、文芸、武芸、絵画……数多の芸術は常に新しい見識や発見に刺激を受け、更新され、メガクリテの一角を彩った。
七色の街、眠らない街、いくら耳を塞いでもきりがない喧騒の街。古くからの異名は数知れず。優美な文化の連なりがこの都市の歴史だ。
300年前に教会を有してからは宗教的意義も生まれた。
不祥事により悪評の募ったメティス国王から、半ば強奪的に首都としての機能を譲り受けたことによりますます力をつけた。
多くの国民にとって、メガクリテはメティス国の誇りと見做されていた。
温厚な気質の人間が比較的多いとされるメティス国において、その愛着の強さは他に類を見なかった。
時は下り、現在。
310年1月14日。
花の都メティスの外郭内部、今、所狭しと瓦礫に埋もれている。
瀟洒な飾りも、豪華な意匠も、全ては泡沫の夢のごとく、何も残っていなかった。
269
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 21:28:15 ID:DM6Pm.mI0
横たわる建物の破片がひとつ。
太陽の光を乱反射して暗い影を地に伸ばしているそれに、男の手が触れられた。
撫でる手に塵芥がこびりつく。
わずかな風であらかた飛ぶが、いくつか残り、ざらついた感触を覚えさせる。
男は手を叩き、残った砂を丁寧に落とした。
笑みを絶やさぬ広角に、ほんのり赤く染まった頬。全体的に白い貌に細い瞳が垂れがちに伸びる。
柔和な顔とは裏腹に、深く落ちくぼんだ嘆息が漏れ聞こえた。
大ぶりの襞が刻まれた丈長のローブの内側に手を引っ込める。大柄な体が、一段と横に広がって見えた。
男がメガクリテに入ったのは今日の昼過ぎのことだ。
それから一時間ほど歩いて、見たものは崩落の跡と、何かの間違いのように残されてしまった空き家ばかりだった。
( ´∀`)「無惨モナ」
嘆息混じりの声を吐くと、白い靄が纏わり付いた。
270
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 21:29:19 ID:DM6Pm.mI0
昨年の12月17日。メティス国、およびその周辺地域で「サイレン」が観測された。
その呼び名を最初に付けたのは隣の機械帝国テーベの某科学者だ。
空中を切り裂く、甲高い悲鳴のようなその音を耳にした魔人は、前触れ無しに理性を失う。
全ての魔人が発症するわけではないが、発症の別を予測することはできなかった。
どうして理性を失うのか、またどうしてそのようなサイレンが鳴り響くのか、まだまだ解明にはほど遠い。
サイレンが鳴るたびに、国内の街は擾乱に見舞われた。
ある魔人は自分の力を誇示するかのように暴れ、数多の街で建物や装飾を破壊した。
暴れなかった魔人、または勇気ある人間は暴れる魔人を血みどろになりながらも抑えた。
惨状を目の当たりにした人々は口々にサイレンを恐れ、魔人を非難した。
当の魔人とて凶暴化を避けようも無いことをわかっていても、住処を失った人間の怒りの矛先は魔人へと集中した。
メティス国は、魔人を崇拝するメティス国教の下で育まれてきた土地である。
この国において、魔人は生活を豊かにするパートナーであり、
命令を与えておけば決して人間に危害を加えない守衛であり、なにより良き友人だった。
都市生活圏の社会基盤、商業工業農業その他多くの生活が魔人の援助を前提として成り立っていた。
271
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 21:30:28 ID:DM6Pm.mI0
その社会秩序が、いつサイレンが鳴り響くかわからないサイレンへの恐怖によってあっけなく崩壊した。
今や魔人は恐怖の対象である。わずかな間に人々は次々と魔人との契約を破棄し、彼らを森へと帰した。
その動きは首都メガクリテとて同じである。
( ´∀`)「街がこの様子だと、メティス国教会本部も相当荒らされているモナ?」
ミ,,゚Д゚彡「どうでしょうかね」
男が問うと、後ろから声が掛かる。その声の主は先刻より柔和な男の後方に付き従って歩いていた。
メガクリテに来る前、出発のときから。
ミ,,゚Д゚彡「このあたりは格別かと。おそらくサイレンが鳴る以前から魔人の多い地域だったのでしょう」
答えた男は目を眇めてあたりを見回し、吐息を漏らした。これもまた嘆息。
纏った黒いコートは笑顔の男と同じく襞の多い黒。鍋蓋型の小さな帽子の下で、波打つ乱髪が肩のあたりまで延びている。
体毛が濃く、峻厳な顔つきも相まって全体として力強い印象を醸し出している。
272
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 21:31:31 ID:DM6Pm.mI0
顔つきや顔がやや不似合いなものの、二人は一見するとメガクリテを訪ねて来た巡礼者の姿である。
メティス国教のの総本山でもあるため、以前から首都には多くの巡礼者が来訪していた。
故に二人の姿も珍しいということはない。
ただ、荒廃する街並みを背景とすると、その目的は巡礼というよりも、災害現場に弔いを捧げに来た修行僧にも見えた。
ミ,,゚Д゚彡「あちら、ご覧ください。工場の煙突が近くに見えますでしょう。
仕事勤めの家族が多く暮らしていたのでしょう。魔人は力仕事が得意ですから、それら家族に伴われて生活していたと思われます。
サイレンが鳴り響いたのは夜中。寝静まっていた人間たちに、暴走する魔人を抑え込むことは不可能でしょう」
それゆえの瓦礫。
そこまで言葉を紡ぐ前に、男は口を閉じ、目を閉じ、種々の言葉を呟いた。
死の痛みを軽減する言葉、残された遺恨を慰める言葉、冥界への旅を祈る言葉。
メティス国教の教えに則り、ひとつひとつを丁寧に口にする。
( ´∀`)「フサギコや」
笑顔の男が言う、それは乱髪の男の名前であった。
273
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 21:32:33 ID:DM6Pm.mI0
( ´∀`)「祈りたくなる気持ちもわかるが、ここではいくら祈っても尽きないモナ。
先を急ぐモナ。大司教様は私の到着をご存じモナ?」
ミ,,゚Д゚彡「先だって伝書鳩で手紙を送ってはいます。
ただ、状況が状況だけに、返事を送るいとまもなかったのかと」
( ´∀`)「……教会本部、まだ残っているといいモナね」
ミ;,,゚Д゚彡「怖いこと言わないでくださいよ、酋長」
酋長と呼ばれた男の名はモナー。
二人はメティス北方に広がるエウロパの森より旅してきた魔人であり、かつメティス国教会とも深い縁の持ち主であった。
274
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 21:33:29 ID:DM6Pm.mI0
もともとは310年元日の、大司教と挨拶を交わすべく参じたものである。
それが、頻発するサイレンによって阻まれ、今日まで到着が遅れていた。
サイレンが起きてから、彼ら魔人を見る人々の目は厳しい。はっきり敵意を当てられることもある。
恨みを買われるのを警戒し、歩みを緩め、決して魔人であるとは明かさないよう気を配って歩んできた。
それが今のこの国の現状。
首都の瓦礫は、このときもまた奇妙にこの国の内情を象徴していた。
弱々しく笑い合っていた二人も、やがて真顔となり、惨状を後にした。
薄曇りの空の下、鴉がどこへともなく飛んでいく。
☆ ☆ ☆
275
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 21:34:29 ID:DM6Pm.mI0
第二十一話
首都は冷たい雨に頽れ 前編(冬月逍遙編⑥)
★ ★ ★
276
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 21:35:29 ID:DM6Pm.mI0
(2)new's childhood
彼が憶えている限りでの一番古い記憶は真っ暗闇だった。
目がまだ開いていなかったのか、灯がついていなかったのか、それとも目隠しをされていたのか。正確なところはわからない。
彼はただ暗い中で、誰かの啜り泣く声を聞いていた。
か細く震えるその声はおそらく彼の母親のものだ。泣いている理由はわからない。
記憶はそれだけで途切れてしまう。
次に彼が思い出すのはメガクリテ国教会の教父やシスターたちの柔らかな微笑みだ。
国教会本部、大聖堂の荘厳な装飾の下で、黒いローブを羽織ったその人たちが甲斐甲斐しく彼らを抱いて祈っていた。
命の大切さ。神への祝福。この世の理。罪への償い。
言葉は反響し、全てが増幅されて、空から降ってくる。人間の声よりもずっと大きく、深く、包み込まれるような祈り。
277
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 21:36:29 ID:DM6Pm.mI0
彼はその音を不快に思った。
どれだけの理念や情熱が籠もっていようとも、理解できなければ雑音でしかない。
そして付け加えて言えば、その音の連なりは彼の原初の記憶において響き渡る啜り泣き混じりの声に良く似ていた。
あれは祈りの言葉だったのだ。
自分を捨てた母親が、涙ながらに罪の告白する音。
それがあの真っ暗闇の記憶なのだと、やがて彼は気づいた。
だから彼は祈りが嫌いだった。
それは教会を出て今に至るまでも変わってはいない。
大聖堂の外には教徒たちが手入れをする端正な芝生が広がっていた。
庭木や石並びもいくつもあって、なおかつ孤児の子たちにも全てが解放されていた。
278
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 21:37:29 ID:DM6Pm.mI0
その中に、座るのに適した石があった。
先代の孤児たちのうちのとりわけ器用な人たちが表面を磨いた、綺麗な石だ。冬でも陽光を掬い取り温かく火照る。
彼はたびたびそこに腰掛け、深くゆっくり息を吸った。
暖かい陽射しを受けた空気が鼻から入って身体を巡り外へと出る。
誰にも文句を言わせない自分だけの時間。
それは自分が続いているという実感であり、彼は大事にしたかった。
思い返せば教会は寛容だった。
賑やかな子も大人しい子も、彼みたいに他者と交わろうとしない子も、平等の命として扱ってくれた。
彼にとっては頗る過ごしやすい環境だった。
本来の意義として、宗教は救いの手段。
弱き者の命を守るのが教父たちの一番の目的である。
彼が生を実感できたのも、その目的の庇護下にあったからに他ならない。
279
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 21:38:28 ID:DM6Pm.mI0
翻れば教会の外では、命は平等ではない。優しくもない。
人と関わらずに生きることは不可能だし、大人しくしていても良いことはない。
教会とて施設であり、管理する者がいる。いつまでも、積極的に生きる意欲のない者を野放しにはしておけない。
孤児たちはいずれ養子として外へと出される。社会不適合者に育つ前に。
彼が外の世界に出たのは六歳のときだ。
孤児の中では年長者だった。
後で聞いた話によれば、もう数ヶ月居残っていたら首都の特別な養護施設に遷り、心的不全を埋め合わせながら生きることになっていたらしい。
(´・_ゝ・`)「首都と比べたらずっと静かなところだけど、それでも平気かい?」
引き取り手の男は心配そうに尋ねてきた。
貌を彼に近寄せて、まじまじと見つめた。彼はその目を真っ直ぐ見て言った。
( ^ν^)「・・・・・・うん」
280
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 21:39:34 ID:DM6Pm.mI0
実のところ、”静か”と言っていたのが気に入ったのだ。
新しい住処となったヘルセ、メティス北方の山間の街は、確かに音が少なかった。
日中でも人の話し声より空っ風の方がよく耳に入るくらいだ。
彼の養父、デミタスはロッシュというコーヒー店を営んでいた。
静かな店内に、挽いた豆の強い香り。
暖かい芝生の優しい匂いとはまた違う。癖があって、噎せ返りそうになるけれど、次第に身体に溶け込んでくれる。
彼はコーヒーが好きになり、後に始まる学校通いを続けながら、ロッシュの手伝いもした。
相変わらず口数は少なかったけれど、一人きりで呼吸をする趣味は次第に鳴りを潜めていった。
生きているという実感がまた浮かび、古い母親の記憶も次第に薄れていった。
(´・_ゝ・`)「自分の名前が嫌だって?」
学校から帰ってきたある日、彼は打ち明けた。
( ^ν^)「これは前の親のつけた名前だから」
281
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 21:40:29 ID:DM6Pm.mI0
彼が教会に預けられたとき、名前を書いた切れ端とオルゴールが、彼を包むタオルの中にくるまれていた。
教会での呼び名もその名前だったが、彼は度々呼ばれても無視を決め込んでいた。
幼い頃から本能的に、それが自分にとって馴染まないものだと感じていた。
もっとも言葉少なであったがために、その本意が教父たちに伝わることはなかったし、伝える努力もしていなかった。
デミタスに打ち明けていることこそが、彼がこの環境に馴染んだ証でもあった。
(;´・_ゝ・`)「うーん、今から変えるとなると学校、いや先に役所で変更申請を出して、身分証を発行して、それから」
( ^ν^)「いや、面倒なのはいいよ。あだ名みたいな感じで呼んでくれたら、それでいい」
(´・_ゝ・`)「それくらいでいいの? 僕は構わないけど。じゃあ、どうしようか」
282
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 21:41:29 ID:DM6Pm.mI0
候補は種々あったものの、ピンとくるものがなく、たまたま呈示した『ニュー』という名前を縮め、『ニュッ君』と呼んだのが一番嵌まった。
それ以来、彼にとって比較的親しい者たちは、彼のことをニュッ君と呼んだ。
彼、ことニュッ君。
それから八年以上のときがたち、デミタスの本意が明かされ、彼が旅に出るまで、ヘルセの街で彼は生きていた。
決して多くはない人たちと、気長に緩やかに関わりながら。
☆ ☆ ☆
283
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 21:42:30 ID:DM6Pm.mI0
(3)路地裏の邂逅
ひしゃげた屋根から瓦が落ちて、瀟洒な石畳に砕け散る。
とうに荒れていたメガクリテの街道の一角で、また一つの破壊が起こった。
ボ゚Д゚)ウ「やろう、うまいこと逃げやがった」
厳めしい男がぼやく。肥えた腹を介して発せられただみ声に、他の連中にも同調した。
男たちはメガクリテのごく普通の市民である。
仕事場は街の鉄工製材所。
隣国テーベが本格的に機械工業を発展させている機運にのって、鋼鉄を鋳型に流して部品を作り、彼の国にて売るを生業とする。
テーベからの需要は十分にあり、今メティス国においても最も盛んに成長しつつある産業領域でもあった。
そのように仕事人である彼らだったが、新年が始まって二週間だというのに、仕事は一向に始まらない。
284
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 21:43:30 ID:DM6Pm.mI0
仕事場にて協力し合っていた魔人たちが、先だってのサイレンもあって風当たりが強くなり、年末には勤務不能を言い渡されていた。
何もせず家に籠もっていろ。今となっては温情味のあるこの措置も、魔人の反発を招いてしまった。
彼らは工場の本社に談判し、職場復帰が叶わないとわかると力任せに工場を荒らした。
途中、何度か断続的に鳴り響いたサイレンが、その凶行を気前よく助長した。
壊れた機械の復旧は工場の修理班がつきっきりで取り掛かっているものの、いまだに完了の目途はたっていない。
結果、従業員たちは仕事もなく、暇な毎日を酒と遊びで食いつぶしていた。
そんな今日、いつものごとくぶらぶらと練り歩いていた街道で、たまたま魔人を見かけた。
獣の耳を生やしながら二足歩行をする、ごく普通の魔人の子。
今、首都において魔人は外出禁止令が出されている。
万一それを破る魔人がいれば、警察に連絡し、逮捕することが取り決められていた。
一度捕まってしまった魔人は、今のところ牢から一人も出されていない。
285
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 21:44:29 ID:DM6Pm.mI0
この場合、男は警察に通報すればその義務は全うされたはずだった。
しかし苛立ったこの男には、義務以前に欲求が募っていた。
ボ゚Д゚)ウ「てめえらのせいで仕事ができねえんだよ」
男は気持ちの乗ずるままに魔人の子を罵っていた。
幼気な子に抵抗の意思は浮かばれず、ただ怯えて背中を丸めるのみ。嗜虐心は高まるばかり。
そこへ突如鋭い痛みが背中を襲ってきた。
Σボ;-Д゚)ウ !?
振り返れば、去っていく別の魔人の背中が見えた。
最初に小突いた魔人の子もいつの間にやら姿を消してしまっていた。
286
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 21:45:29 ID:DM6Pm.mI0
ボ;゚Д゚)ウ「ちくしょう、仲間がいやがったのか」
男は顔を赤らめ、魔人に向かってガラス瓶を投げつけた。
肩に当たったガラス瓶は砕け、魔人の皮膚を切り裂いた。
飛んでくる血しぶきに手ごたえは感じていたが、魔人は止まらなかった。
小さなその影が路地裏に隠れ、すでにいくらか時が経過した。
街道を逸れ、曲がりくねった路地裏を何度も何度も見回し、そして先述のぼやきへと至るのであった。
男は苛立ちにまかせ、手に持っていたガラス瓶を盛大に石畳にたたきつけた。
放射状に砕けたガラスが冬の光に煌めく。
残っていた酒も地面に吸われ、ただの染みへと溶け落ちる。
ボ゚Д゚)ウ「次会ったらただじゃおかねえからな」
吐き捨てるように叫んだ。大きな声は、脅しのためだ。
見えない相手に向かって唾を飛ばし、路地裏を後にする。
287
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 21:46:31 ID:DM6Pm.mI0
静寂。砕けた瓶がちらちら光を反射して、その光が徐々に移動するほか、誰も路地へと入り込まない。
その静けさの中に、もし別の人がいれば、空気の微かな震えに気づいただろう。
それは路地の奥、木箱や鉄くずの押し込められたゴミ捨て場の片隅から聞こえてきていた。
気息奄々たるその声の主は、薄汚れたシーツに顔を埋めて必死に声をこらえていた。
それでも漏れ聞こえてくる声には悲痛な痛みが混じっている。
両足を折りたたむように抱え、前傾姿勢でシーツに顔を押し付ける。
うなじから生える柔らかい髪の色は金。メティス国ではやや珍しいが、いないこともない。
肩に広がる震えは絶えず、時折啜り泣きの声も混じる。
気持ちを落ち着けるのにはまだ多少の時間を要するように見受けられた。
小さな少女である。
身体つきばかりのことではない。
彼女の孤独な境遇が、胸の内で膨れ上がっていた。
孤独は人を内面から卑小化する。
288
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 21:50:37 ID:DM6Pm.mI0
少女の泣き声は誰にも聞こえていない。
それを理解しながら、少女はなおも泣く。抑えることはできずにいた。
だからこそ、足音が聞こえたとき、一旦動きを止めた。
呼吸も止まり、驚き、それから恥じらいの感が浮かぶ。
胸の内を去来する数多の感情は、孤独の反動を受けて、偏りをきたす。
もしも孤独を埋めることができたなら。この足音の主が、自分に手を差し伸べてくれたなら。
そんな淡い希望を胸にしながら、思いのほか素早く、素直に顔を持ち上げる。
見えたのは長い指、大きな掌、逞しい腕の肉質。
手は差し伸べられていた。希望が呼んだ、一つのささいな奇跡。
そして、続けざまに。
ボ゚Д゚)ウ「見つけたぜ」
かけられた聞き覚えのあるだみ声に、少女の呼吸は今度こそ止まる。
真っ白になった頭の隅で、希望の崩れる音を聞いた。
口から洩れた「あ」という音は、男に胸倉を掴まれた衝撃で霧散する。
289
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 21:51:28 ID:DM6Pm.mI0
( )「いや、離してよ」
状況が遅まきに理解される。
慌てて手足をはためかせ、男の手から逃れようともがく。
対する男は下卑た嘲りを見せるばかり。
ボ゚Д゚)ウ「うるせえ、魔人のくせに義賊を気取りやがって。えらそうに」
男の腕が少女の顔を引き寄せる。
距離の近づいた顔つき、そこから発せられる酒臭さに、少女は泣くのを一時忘れて顔を顰めた。
その態度が男の癪に触ったらしく、いささか男は饒舌さを増した。
ボ゚Д゚)ウ「余計なことをするんじゃねえよ。俺たち人間が、お前ら魔人にいくら割を食わされたと思っていやがる。
仕事をめちゃくちゃにされて、街もぶっ壊されて、もとはといえばお前らがイカれちまうからいけないんだろうが」
290
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 21:54:49 ID:DM6Pm.mI0
( )「私たちにだって、何もわからないのよ」
やや恐怖の落ち着いたらしい少女が、震えを帯びつつも強気な態度で男を睨んだ。
( )「暴れだす原因がわからない以上、何を言っても仕方ないじゃない。誰にだって止められないんだから」
ボ゚Д゚)ウ「じゃあなにか、色んなものが勝手に破壊されていくのをただ指咥えてみていろってのか」
( )「そうは言ってない。それに、魔人の中にだって、狂暴化してしまった人を止めに入った人もいるじゃない。
結果的に街の一角はまだ無事だったはずよ。あなたたち人間だけで、そんな防衛ができたと思う?」
ボ゚Д゚)ウ「ぬかしやがる」
少女の追及には答えず、男はただ舌打ちを繰り返し、腕を今一度持ち上げた。
喉元を掴まれたまま、少女の身体が持ち上がる。苦し気に呻いた吐息交じりの靄が男の顔を包み込んだ。
291
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 21:56:54 ID:DM6Pm.mI0
男はそのまま、少女を辻道へと連れ出す。
涙目になった少女の視界に、幾人かの男たちの姿が見える。
どうやら男が、暴漢仲間を連れて来たらしかった。
逃げきれなかった。
酸素の少なくなる少女の思考で、ただその文字だけが思い浮かび、彼女の心を縛りつける。
少女は口を閉じた。
上唇を巻き込んで、上と下の前歯で抑えた。
強く噛むと、すぐに鉄の味が滲みだす。
逃げられないなら、戦う。
少女はその一心だけを心に刻み、手を握った。
292
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 21:57:48 ID:DM6Pm.mI0
拳の中に熱がこもる。
ボ゚Д゚)ウ「ん、なんだ急に俯い、て――」
言葉の途中で、男の身体が吹き飛ばされる。
辻道のど真ん中に背中から倒れ伏して、呼吸が絞られ漏れ聞こえた。
ボ+Д-)ウ「んな!? な?」
慌てふためく男を前に、少女は腰を低く構えた。
「こんなところで、止めんじゃないわよ!」
振りかざす手に握られているのは小型の杖だ。
青みがかった艶やかな白い柄の先端に、円い輪。その内側には斜めに組み入れられた金属質の十字が光っている。
少女が唸るのに呼応して、その十字が内部で回転を始めた。
ボ゚Д゚)ウ「“ふしぎなちから”……」
ようやく立ち上がった男が不審そうに眉根を寄せた。
ボ゚Д゚)ウ「お前、それが使えるってことは、野良じゃないのか。なら何故今まで使わずにいたんだ」
293
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 21:58:48 ID:DM6Pm.mI0
( )「わけありなのよ。あんたらは知らなくていいこと」
十字の回転が一等速くなる。
残像が円錐を形作り、暴漢たちを見て回る。
( )「黙って素直に吹っ飛びなさい」
杖が振りかざされた、瞬間、疾風が巻き起こる。
目に見えない衝撃波。立ち尽くしていた男たちは軒並み地面から浮き、後方へと飛ばされる。
ボ+Д+)ウ「ぬわー!」
叫ぶ暴漢を尻目に、少女は舌を出して駆け出した。
が、その鼻先を何かが掠める。
294
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 21:59:50 ID:DM6Pm.mI0
( )「!?」
少女の顔を覆って余りあるほどの槌が、路地の壁にぶち当たって罅割れを起こす。
ぱらぱらとこぼれる瓦礫。少女の視線がそれを取られ、ついで槌の持ち主に顔を向けた。
カ゚皿゚ン ギギ……
暴漢たちの誰よりも大柄な男が、醜悪な歯を見せながら、血走った眼で少女を見つめていた。
暴漢の仲間、というよりは、どうもリーダー格であるらしい。
ボ;゚Д゚)ウ「やったれ、兄貴!」
カ゚皿゚ン ギギー!!
(; )「くっ」
少女は杖を一瞥する。
十字はピクリとも動かない。
295
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 22:00:47 ID:DM6Pm.mI0
(; )「まだ“オル”が」
小さく呟き、飛び退いた。大男の腕が風を纏って髪を撫でる。
避けきれた、と判じた瞬間、足に衝撃。
(; )「えっ」
ボ*゚Д゚)ウ「たはー、当たったぜい!」
ガラス瓶の割れる音。それが投げられ、足に当たったのだ。
足首が捻られたまま地面に無理な着地をし、少女が苦痛に顔をゆがめて崩れ落ちる。
カ゚皿゚ン ギーッ
男の腕が髪の束を鷲掴みにする。
296
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 22:01:47 ID:DM6Pm.mI0
(; )「痛っ! っのやろ」
歯噛みしながら、少女が杖を持ち上げる。
十字がわずかに揺れ、回りかけたその瞬間、大男の腕がそれを突き上げた。
(; )「あっ、この!」
あっけなく、杖が腕から遠のいていき、石畳に落下した。
唖然とそれを目で送り、少女の腕が空しく延び切る。
カ゚皿゚ン ギッギッ
大男の荒い呼吸が粘っこく耳をついてくる。
勝利を確信したらしい、見下した笑い声。
297
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 22:02:48 ID:DM6Pm.mI0
少女が顔をこわばらせ、目を伏せた。目元は前髪に隠れ、苛立ち交じりの口元だけが見える。
大男のもう一方の腕が、少女の細腕に延びてきた。
握ったそれを引き寄せて、大男は目を細めて卑しく見つめる。
(; )「……なによ」
少女の声が上ずった。
ボ゚Д゚)ウ「へへ、どうやら見初められたらしいぜえ、嬢ちゃんよお」
相変わらず伏せったままの暴漢がにたにた笑いながら言う。
腕を握った大男はなおも荒い息を鼻から漏らす。
少女はわずかに身をよじり、逃げることが叶わないとわかると、ふっと力を抜いた。
大男が一瞬よろけ、腕をしかと握ると、顔に笑みを見せた。
歯を見せている。その歯は黄ばみ、ところどころ欠けている。
298
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 22:03:48 ID:DM6Pm.mI0
少女はなるべく心を沈めた。
何も感じないようにした。
何も言わず、何も見ず、ただあるがままに状況を受け入れる。
先ほどの気丈さとは打って変わって、徹底した受け身の姿勢。
それは、少女の癖であり、自己防衛の方法だった。
苦しさも、つらさも、孤独も、今は忘れて、痛みに耐えて。
そうすればいつか必ず苦痛は去る。
生きている限り、きっと。
細めを開ける少女。
大男はやはりそこにいる。若干顔が近づいている。
恐怖を感じ、すぐさま心に蓋をする。
瞼を閉じれば真っ暗闇だ。きっと、何も怖くない。
299
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 22:04:48 ID:DM6Pm.mI0
ボ;゚Д゚)ウ「なんだ」
男たちの声がする。その声にかぶさるようにして悲鳴が掛かる。
少女の髪と腕を締めあげていた掌の力が緩んだ。
解放された身体が地面に落ち、少女はたたらを踏んで中腰になる。
状況は、少女にはわからなかった。
ただ悲鳴が幾重にも重なって耳に届いてくる。
大男の傍らに黒い影が、来た。俊敏すぎて突然現れたようにも見えた。
カ゚皿゚ン ギ?
男の声はかき消される。
振りかざされた剣の勢いがそのまま男の脳天へと直撃した。
300
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 22:06:25 ID:DM6Pm.mI0
一瞬、少女は肝を冷やした。生々しい血しぶきの光景を夢想して、思わず目を閉じる。
しかし現実には血が出なかった。黒い影の持つ得物が鞘に収まっていると少ししてから気づいた。
そして、あたりは静かになった。
いつの間にか誰も起きていない。大男の連れて来た魔人嫌いの男たちは、みな地べたに転がっている。
誰がそれをしたのか、思い当たるのは目の前の影しかない。
( )「あの」
少女の声は思いのほか弱々しくなった。
言いよどんだ少女に対して、その人は首を傾げた。
ようやく少女は、男の顔をじっくりと見られた。
( ^ω^)「怪我は」
激しい動きの後とは思えない、静謐ささえ感じる声。
ギャップを前に判断が遅れ、やや経ってから少女は答えた。
301
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 22:07:48 ID:DM6Pm.mI0
( ) 「え? えっと、あんまり、かな」
言葉は自然と静まってしまう。
それほど少女は呆気に取られていた。
( ^ω^)「そっか、良かった」
その人は少女が思ったよりもずっと若かった。
まだ二十歳にも満たないだろう。少女と大差ないようだ。
日陰だった路地裏に、頃間からか、日が差し込む。
薄暗かった彼の姿が、まるでスポットライトに当たるかのように照らされていく。
少女は差し伸べられる手を欲していた。
一度は潰えたその希望は、むしろ何年も前から希求していたもの。
そして、今。
302
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 22:08:48 ID:DM6Pm.mI0
( )「名前は」
口をついて、問いが出ていた。
影、少年は空に目を眇めていたのをやめ、少女に顔をむける。
普通にしていても柔和な笑みがそこには浮かんでいた。
( ^ω^)「ブーン、っていうらしいんだ」
そういうと、ブーンは鞘付きの剣を腰にしまった。
血ひとつついていないその刀身が、今しがた少女を救ったなんて、現場を見たものにしかわからないことだ。
身体つきのしっかりした体格は大人と遜色ない。ただ顔つきだけが、妙な塩梅で幼さを残している。
着ている衣服は軽装。この路地裏に現れる理由は、すぐには見当がつかない。
( ^ω^)「君は?」
ブーンが尋ねた。
いくらか間隙があった。
やがて口を開いた少女は、おごそかに、言葉を重ねた。
303
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 22:09:48 ID:DM6Pm.mI0
陽光がまた動く。
それまで日陰だった少女の顔をも照らす。
それはささやかな、本当にささやかな奇蹟。
ξ゚⊿゚)ξ「ツン」
はじめまして、とそのあとに続く。小柄な体が跳ねるようだった。
振り仰いだ金色の髪が、薄曇りの空に映え、棚引いた。
やけに長く、髪が揺れる。
304
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 22:10:52 ID:DM6Pm.mI0
( ^ω^)「えっ、あ、ちょっと」
ブーンの呼びかけに応えはなかった。
ツンの身体が揺らぎ、前のめりに倒れてくる。
ξ ⊿ )ξ
ツンは目を閉じていた。
突然眠りに落ちてしまったかのように。
☆ ☆ ☆
305
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 22:11:48 ID:DM6Pm.mI0
(4)her new life
メガクリテへと向かう旅の途中で、ニュッ君は元担任のスパムから手紙を受け取っていた。
ヘルセの学校を卒業して、首都の人間と結婚した人。ニュッ君にとって数少ない、親しみのある人物だ。
手紙の内容は新年早々に完成する新居への案内状だった。
首都の住宅街。土地勘はなかったけれど、それなりに値の張る土地だと想像はついた。
豪華、とは言わないまでも、瀟洒で綺麗な街だろう。
そんな綺麗なところに住む新婚夫婦の家にふらっと立ち寄るのは忍びない。
だから最初に手紙をもらったとき、ニュッ君は自分の近況を報告するにとどめ、訪問は遠慮するつもりでいた。
( ^ν^)「このあたりか・・・・・・」
その街に、今ニュッ君は立ち寄っている。
綺麗と言えば綺麗だ。白壁の家が平坦で幅広い道の両側に建ち並び、葉を散らしたポプラの並木が先の先まで続いている。
均整を保った道はメガクリテの中央に聳える『大聖堂』へと続いている。メティス国教の総本山を象徴する歴史的建造物。
ニュッ君にとっては、かつて揺籃期からの思い出の場所でもあった。
306
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 22:12:47 ID:DM6Pm.mI0
往来を行く人影は少ない。いたとしてもよそよそしい。
上質な街が淀んだ空気の中で空しく浮いている。
昨年12月17日のサイレンの被害が今でも響いていることは火を見るよりも明らかだった。
手紙に添付されていた手書きの地図を頼りに道を進んだ。
大通りから少し奥まり、服飾や雑貨の店がなりを潜め、隠れ家的な喫茶店を数軒通り過ぎた先に目的地はあった。
二階建てのその家は周りより幾分色が明るく見えた。
( )「どちらさまですか」
チョコレート色の扉を叩くとすぐに中の者が声がした。
声色からスパムとわかる。警戒しているのか震えていた。
307
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 22:13:47 ID:DM6Pm.mI0
ニュッ君は思い出したように息を吸い、深く吐いてから答えた。
( ^ν^)「僕です」
扉の目線の当たりにある覗き窓をニュッ君は見据えた。
程なくして扉が開く。
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「・・・・・・来てくれたんだね」
先生の顔色は決して良くはなかった。頬がこけて、目も落ちくぼんでいる。
それでもニュッ君と目を合わせて笑ってくれていた。
スパム先生は変わっていない。
ニュッ君は勇気づけられた思いがした。
308
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 22:14:47 ID:DM6Pm.mI0
( ^ν^)「入ってもいいですか?」
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「・・・・・・ええ」
短い応答の後、スパムに促され、チョコレートの扉を潜った。
通された部屋には応接間だ。真ん中に木目調のテーブルがあり、それを挟んでベージュのソファが向かい合う。
やはり促されニュッ君が片方に座る。スパムもまた反対側へと座った。
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「ごめんね、すぐお茶を用意したいんだけど、疲れちゃってて。ここで休んでからでいい?」
( ^ν^)「お構いなく。僕もあんまり長居するつもりはないんで」
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「あら、忙しいの?」
( ^ν^)「義勇兵の仕事が夜に入っていますから」
309
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 22:15:47 ID:DM6Pm.mI0
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「義勇兵・・・・・・それって確か、市長が集めていた、なんだっけ」
( ^ν^)「えっとですね」
ニュッ君は知っている限りのことを口にした。
サイレンが鳴り響いた、309年12月17日。その翌日からメガクリテは義勇兵の募集を始めた。
戦いの経験があるものは警備兵として、それ以外の者も何らかの形で復興に資するものとして、協力を要請する。
国軍にもすでに支援を要請している。が、それ以前から動けるものには動いてほしい、というのがその趣旨だ。
メティス国では以前から国王政府と首都機能が分断されている。
国軍の機能は今のところは国王政府側にあり、首都の防衛は首都が中心となって行う手筈になっていた。
それゆえ、首都にも元々小規模の軍隊は存在していたのだが、今回のような未曾有の災害を前に手が足りなくなった。
そこで民間人からも協力者を募った、というわけである。
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