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憧れはまだ遠く

1以下、名無しが深夜にお送りします:2019/07/28(日) 00:49:36 ID:YnLfG9KI
蝉の声が響く中、野球部は夏の大会に向けて練習を重ねている。

僕はと言えば、屋上からその様子を眺めて紙パックのジュースを啜っているだけだ。我ながら、もう少し明るい青春を過ごしても良いのではと思う。

部活に情熱を注ぐこともなければ、誰かに恋い焦がれているわけでもない。バイトを頑張るでもなく、適度に勉強をして、人付き合いもほどほどにしている。

個性が無い青春だ。つまらない生き方をしていると、自分でも思う。

僕以外の誰でも、僕の代わりはできる。

子どもの頃は何かに憧れたさ。自分だけにしかできない何かがあると信じていた。厨二病どころじゃない、小学生の頃から。

テロリストに襲われた学校を救う、とんでもない美少女とラブストーリーを繰り広げる。

そんなことは現実には起きないと気づいたのがいつだったのか、もう分からない。

ただ、ある時を境にそれに気がついた。そして、それからは社会の歯車になるものだと諦めがついてしまった。

僕は何者にもなれない。

2以下、名無しが深夜にお送りします:2019/07/28(日) 01:00:45 ID:YnLfG9KI
炎天下で白球を追いかけている彼らが、純粋に羨ましい。自分の可能性を信じることができるから、彼らはまだそこにいられている。

空しさを感じたまま、残り少なくなったジュースを一気に吸い込んだ。紙パックからズーズーと音が鳴りながら、最後の一滴まで口に流し込む。甘ったるい、加工されたような葡萄の味が口いっぱいに広がる。

中身が空になったところで、ポケットに入れたままのスマートフォンが振動した。取り出して液晶を確認すると、彼女の絵美からのメッセージだった。

『補習終わったよ〜! 玄関で待ってるね』

可愛らしいというよりはあざといと言うべきか、女子特有の絵文字を多用した文面に、最後はイラストスタンプが追加で届いた。

『りょーかい。向かうね』

簡単な文で返事を送ると、すぐに既読表示がついてまたもスタンプが届いた。

それには返事をすることなく、僕は校内に続く扉へ向かった。

3以下、名無しが深夜にお送りします:2019/07/28(日) 01:08:16 ID:YnLfG9KI
「ごめん、お待たせ」

僕が生徒玄関に着いた時には、絵美はすでにそこにいた。

「ううん、私こそ補習待たせてごめんね」

話しながら揺れたのは、いつも通り明るいロングの茶髪。校則違反だし、地毛と言い張ることもできないトーンだけれど、本人はこれが一番似合うと気に入っているらしい。

そういうことを気にする暇があれば、補習を受けずに済む程度には勉強すれば良いのに。

そんなこと、本人には言えやしないんだけど。

スリッパから外履きに履き替えて外に出ると、絵美から手を繋がれた。

最初の頃はちょっと緊張していた行為も、今となってはそうでもない。むしろ、この暑さの中で彼女の体温を感じるのが、少し鬱陶しくもある。

4以下、名無しが深夜にお送りします:2019/07/28(日) 01:17:31 ID:YnLfG9KI
付き合い始めたのは、絵美から告白されたから。

「七五三掛くん、優しいよね」

「いい人だなって思って」

「付き合ってくれないかな?」

そんな言葉だったと思う。

彼女は元々、よく一緒に集まるグループにいた。絵美は美人で、クラスの中でも中心的な存在だった。

僕はと言えば、誰かと衝突することも無いように適度に付き合っていた。絵美みたいな中心グループにも、そうじゃない陰キャラ達にも平等に。八方美人ってやつだ。

そんなところが、絵美からすると『いい人』に見えたらしい。

告白を断る理由は特に無かった。繰り返すが彼女は美人だし、多少頭は悪いが根が悪い子じゃないのはそれまででも知っていた。

それに、彼女と付き合えば何かが変わるかもしれないという期待もあった。恋愛を頑張る、というのは何とも青春らしいじゃないか。

そうすることで、僕の漠然とした空虚感を消すことが出来るんじゃないだろうか、と。

5以下、名無しが深夜にお送りします:2019/07/28(日) 08:02:54 ID:YnLfG9KI
果たしてそれは叶わなかった。

絵美と付き合ってみたところで、彼女に執着するほど好きになることもなければ、空虚感が無くなることも無かった。

嫌いなわけでは無い。

ただ、どうしようもないほど好きというわけでもない。恋愛がこんなものなのだとしたら、些か期待外れだ。

「補習、マジで面倒でね」

「うんうん」

絵美が話す言葉も、努めて生返事にならないように聞き流す。

こういう振りが上手いのが、『いい人』たり得るのだろうか。

繋いだ手も、去り際に求められて重ねた唇も、何だか生温くて不快だった。

6以下、名無しが深夜にお送りします:2019/07/28(日) 17:39:19 ID:NmoItmi.
夏休みが近いと、学校にも浮かれた雰囲気が漂い始める。

夏休みはどこに行こう、海に行きたい、部活ダルい、課題が少なければ良いな。

それぞれが思い思いにどうしよう、こうしようと話している。

僕はと言えば、絵美と夏祭りに行こうという話はしているものの、他に予定は特にない。そして、自分からそれを積極的に埋める気もしなかった。

程々に仲の良い友達から、休み中に連絡がくれば遊びに行っても良いかなってくらい。

隣に座る藤吉ひかるは、夏祭りのお誘いを断っているようだった。他の予定がその日に入っている、と。

断られた子は、「それじゃまた、他の何かに誘うね」と言い残して藤吉から離れていった。

その様子を横目に眺めていると、藤吉と目が合ってしまった。そのまま反らすのも何となく恥ずかしくて、つい話題を振ってしまう。

「藤吉、夏祭り行けないんだね」

「あ、うん。その日はちょっと用事があって」


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