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ロゼッタ「マリオカートに参戦…ですね、是非!」

1Mii:2019/03/31(日) 10:37:38 ID:iLEqj1bw
このスレは

 ロゼッタ「マリオカートに参戦…ですか?」

を前スレとする続編となります。
前スレをご覧になられていない方はそちらを先にどうぞ。

遅い進行のスレですが引き続き頑張っていきたいと思います。
よろしくお願いします。





パルテナ「そのほか、いくつか注意点があります。

     ・スレ主のスマブラfor経験は、CPU(Lv.9)とのタイマンで
      勝ち越せない程度の実力しかありません。
      戦闘描写に過度な期待をすると酷いことになります。
      むしろ、『うわあ、この描写ニワカだな』と粗探しするくらいの気持ちで
      読むようにしてください(最重要)。

     ・前スレ同様、いろいろとパロデイ、メタ発言が散りばめられています。
      キャラが自分たちの背景情報を活用する…みたいなご都合主義は
      白ける方もいらっしゃると思います。そんな時は…
      別のスレに移って、このスレのことは忘れましょう。
      
     パルテナお姉さんとのお約束ですよ♪うふふふふ」

389Mii:2019/11/28(木) 22:28:39 ID:glH1He8A
3人して、顔を見合わせます。

ゼルダ「…どうしますか?正直、興味が本当にまるで湧かないのですが」

ヒルダ「でも、やってみたら案外気に入るかもしれませんよ?
    そ、それに。デイジー姫には色々とご迷惑をお掛けしたことですし、
    午前中だけでも、付き合ってあげるというのも…」

ロゼッタ「そうですね、この奇天烈さも、デイジー姫の持ち味です。
     きっといい気分転換になりますよ。
     未知の遊びにちょっと期待しています」

信じられない、という目を向けてくるゼルダ姫。
い、いいじゃないですか。

ゼルダ「…はあ、わかりました。私だけ悪者にはなりたくありませんから。
    付き合ってあげましょう」

デイジー「あはは、相変わらず偉そうだねー」

ゼルダ「めめめ滅相も御座いません!」ズサァ

デイジー「それをやめいと言っとるんですが。
     じゃあさ、好きなソフト、選んでちょうだいな。
     任天堂の特別製だからそう簡単には壊れないけど、
     あまり乱雑には扱わないでねー」

ゲームの素人たちで、あまりどういうゲームジャンルかもわからないまま、
ゲームを選ぼうとします。それをデイジー姫が遠目から、ニヤニヤと眺めます。

390Mii:2019/11/28(木) 22:32:20 ID:glH1He8A
ゼルダ姫が「幼稚な絵ですね…」と思わず呟いて。
デイジー姫が「そういったゲームにこそ掘り出し物は山ほどあるのー」と、のほほんと答えます。
ヒルダ姫は、どちらかというと数に圧倒されていて、あたふたして決めれられない。

さて、私も、面白そうなものを頑張って選んでみましょうか…。



ロゼッタ「……あっ!これにします!なんだか、面白そう!ティンと来ました!」

デイジー「お、ロゼッタは決断力があるねー。どれを選んだのかなー?」

ロゼッタ「これです!」サッ



TETRIS「デデーン」

デイジー「」



ロゼッタ「デイジー姫?一体どうしたのですか?」

デイジー「……組合せ変更。
     ロゼッタ1人に対して私たち3人、のチーム戦ねー。
     それじゃあ、簡単にルールと戦術をレクチャーするよー」

ロゼッタ「!?」

391Mii:2019/11/28(木) 22:35:36 ID:glH1He8A
ヒルダ(…………えっと、これをこうして…あれ、ラインが消えてくれません。
     …ああっ!あんなところに隙間が!どうリカバリすれば…!)ピコ ピコ

ゼルダ(ふむ、とりあえず一筋だけ残してしっかり埋めて、ホールドしておいたIミノで
    テトリス消しを行う。この繰り返しですね。…あまり作戦はないのでは。
    ロゼッタ虐めになってしまいそうですね)ピコピコ

デイジー(T-spin double!からーの…T-spin triple!ついでにテトリスいっちゃうよー!
      
      悪いね、初心者といえど――空間把握能力の高いロゼッタ相手だから、
      ちょっと…いや、むっちゃくちゃ本気出すよー!これでどうだー!)ピコピコピコ

    



ロゼッタ「T-spin triple , T-spin triple――テトリス――10REN――
     T-spin triple, T-spin triple, 15RENパフェ――
     T-spin triple, T-spin triple, 気分転換に17REN――」シュババババ

デイジー「ぎゃああああああ!この子、プレイ歴5分の癖に、
      既に基本ハードドロップしか使ってないぃー!」チュドーン

ヒルダ「あ、負けちゃい…ました」

ゼルダ「」

392Mii:2019/11/28(木) 22:42:06 ID:glH1He8A
ロゼッタ「なるほど、T-spin triple back to back T-spin tripleを毎度しっかり仕掛けながら、
      残りのミノで臨機応変に攻撃するゲームなのですね。面白いです!」パアアアア

デイジー「違う、違うよ!?その安直な作戦が超速で100%決まりまくるのは
     ロゼッタだけだからね!?
     何が悲しくて、『10秒おきの13段攻撃のついでで』通常攻撃を食らわなきゃいけないのさ!?
     ち、違うゲームにしよう、ねっ!?」

ロゼッタ(シュン)ションボリ

ロゼッタ「…では、こちらで」サッ

デイジー「…うん、ごめんね、無理言っちゃってー。
      でも、さすがにもうこんなことには…」









ぷよぷよ「 セー↑ ガー↓ !」

デイジー(アカン)

393Mii:2019/11/28(木) 22:43:45 ID:glH1He8A
デイジー「フィバ伸ばしなんかさせてられっか!
      ええい、怖いけど通ルールで勝負だー!
      ゼルダにヒルダ、波状攻撃を仕掛けるよーっ!」ピコピコ

ゼルダ「は、はい!えっと、これで…5連鎖、ですか?」ハッカ!

ヒルダ「2連鎖ダブル、です!」ハッカ!

デイジー「モタモタしてるけど…呑み込みが結構早いね、いいよ!」

ゼルダ「いくら初心者といえど、ハイラルのトップですから。
    階段積み、とか鍵積み、とかいう組み方くらい、楽に覚えられますよ」フフン

デイジー(なんだか微妙にシュールなことをのたまうゼルダでした)

ロゼッタ「ぐっ、このジャブは食らっていられません!
     仕方ありません、対応します!えい、それ!」ハッカ! ハッカ!

デイジー「よしっ、大きく形が崩れた!卑怯と言いたいなら言うがいい!
     はいっ、5連鎖!もう主砲を撃つしかないよ!」ダンッ!

ロゼッタ「…仕方ありません。10連鎖、参ります!」ハッカ!

394Mii:2019/11/28(木) 22:50:31 ID:glH1He8A
ゼルダ「じゅ、10連鎖!?私たちではとても対応できませんよ!?」

デイジー「まっかせなさーい!そのくらいなら――ほい、ほいっと。
     それっ、おっかえしだー!11連鎖くらい行ったでしょ!
     主砲を撃たせて撃ち返す!これがこのゲームの醍醐味だ!」ハッカ!

ロゼッタ「正確には10連鎖ダブルみたいですね!」シュババババ

デイジー「…お前さん、いつ凝視してたんや」

ロゼッタ「まあ、これでも返されてしまうので…」シュババババ

デイジー「そ、そうだよね!…って、え、なに、そのミラクルな不定形の繋ぎ方…………
     いやもっと千切ろうよ、おかしいよ!?」

デイジー(あ!でも、このままなら折り返しで1個足らない!連鎖数がガクッと落ちるよ!
     気付いていないみたいだ!にひひひひ…)

ロゼッタ「発火、間に合いましたっ!」カチッ!

ヒルダ「……あ、13段目から青が落ちてきました」

デイジー「え゙」

ゼルダ「ま、まさか最後まで繋がって…」

ロゼッタ「17連鎖ダブルで返します」ババババババヨエーン!

デイジー「」👑👑

395Mii:2019/11/28(木) 22:53:15 ID:glH1He8A
ヒルダ「」👑👑

ゼルダ「」👑👑

デイジー「ははははは」

ゼルダ「ふふふふふ」

ヒルダ「…グズッ」

ロゼッタ「…あ、あの?」





デイジー「……やってられっかー!!落ちゲー禁止ぃ!」

ゼルダ「異議なし!」

ロゼッタ(シュン)ションボリ

396Mii:2019/11/28(木) 22:57:36 ID:glH1He8A
ボンバーマン「バーイ ハドソンッ!」



デイジー「…ふふふ。死にたいらしいな。殺してやるよぉー」ボムッ ボムッ

ロゼッタ「あ、あの!デイジー姫!
     どうして私ばっかり爆弾で狙うのですか!?
     ちょ、ちょっと!蹴ってくるのはやめてください!
     嫌ぁ!なんだか微妙に溜めてありますよ!?」ダダッ

ゼルダ「何を言っているのですか、今は個人戦でしょう?
    デイジー姫の攻撃軌道上で貴方がノロノロしているだけでしょうに」ダダッ

ヒルダ「しかし、ロゼッタ。
    空間把握で、爆弾の位置くらい…らくらく察知できるはずなのでは?
    …というより、リアルタイムの操作ゲームなら敵なしのはずなのでは」

ロゼッタ「互いに独立した空間情報が戦術のほぼ全てを占めるゲームなら、ですね!
     残念ながら、皆さんの爆弾数や特殊能力、更に設置された爆弾の火力など
     覚えていられません!互いの干渉領域も被り過ぎています!」アワワ

397Mii:2019/11/28(木) 22:59:07 ID:glH1He8A
デイジー「…………どれ?」ボムッ

ロゼッタ「ひっ、爆弾!逃げないと――きゃあああ!?」ウワァー

デイジー「あらー、私の爆弾の火力を過大評価して逃げようとするあまり
      無理して爆風につっこんでるー…って、うわぁ!?」ウワァー

ゼルダ「よそ見するデイジー姫にお土産です…あ、キックがばら撒かれましたね。
     拾いに行きま――」フフ



ヒルダ「壁越しグローブ、えいっ」

ゼルダ「」ドカーン



ヒルダ「フッ」

ゼルダ「やってくれましたね、ヒルダ姫――っ!」ワナワナ

ロゼッタ「こ、これが友情破壊ゲーム…!」ブルッ

398Mii:2019/11/28(木) 23:01:54 ID:glH1He8A
北京オリンピック「On your mark...」



パアァン!

ロゼッタ「はあああああああっ!!」ガガガッ

デイジー「はははっ、遅いおそーい!そして私のソニックは速いぞー!」ガガガガガッ

ロゼッタ「ハァッ…デイジー姫っ!おかしいです、このゲーム!
      マリオが…マリオがっ!100メートル走るのに10秒以上掛かっています!
      まるで…まるで一般人ではないですか!」ガ゙ガガッ

デイジー「そこは許してあげてちょ」

ロゼッタ「ま、まさか世界の圧力が掛かっているとでもいうのですか…!恐ろしい…!」ゴクリ

ゼルダ「これは酷いですね。デイジー姫、貴方、遅すぎますよ。
    100メートル走るのに12秒も掛かるだなんて。スピードタイプの名が泣きますよ」

ヒルダ「アスリートとは思えない遅さですね…ピーチ姫と仲良く最下位・7位フィニッシュです」

デイジー「腕の悪さを私のせいにしないでくれるかなー」

399Mii:2019/11/28(木) 23:06:40 ID:glH1He8A
ロゼッタ「それにしても、こちらのゲームは…えっと、デイジー姫曰く、
      オリンピック地方で実際に行われた大会を再現しているのですね」

デイジー「厳密には、『北京っていう伝承のみ残る地方で、もしも――
     オリンピックというスポーツの祭典が開催されたとしたら』っていう
     たられば的なゲームだけどねー」

ロゼッタ「…も、もしかして。いつか、私も操作キャラになったりするのでしょうか?
     嬉しいような、恥ずかしいような…!
     そのためには、私も大会に出るだけの力を身に付けなければいけませんね!」

デイジー「…あ、あー。そ、そうじゃ、ないかなー。うん。
      かんっぜんにセクシー担当を意識されてたり、
      一部スポーツ限定のゲストキャラなんていう『ありがたき名誉の差別』を食らったり、
      まさかそんな未来が待ってるなんてわけないよねー」

ロゼッタ「もう、デイジー姫ったら、そんなご冗談を言って…ふふふ」

デイジー「HAHAHA、さあさあ次に行こう」サササッ

ロゼッタ「は、はい……あれ?」

400Mii:2019/11/28(木) 23:09:20 ID:glH1He8A




デイジー「あーそーんーだぁー!!だいまんぞーく!」バタリ

デイジー姫が、仰向けにベッドに倒れ込みます。
憑き物まるでない顔で、心の底から楽しんだよう。

ゼルダ「ちょっと待ってください。勝ち逃げなど許しませんよ!
    こちらはもうスタンバイできています!」

デイジー「ゲームはやらされるものじゃないやーい」

ヒルダ(思いっきりはまっていませんか、ゼルダ姫…
    ま、まあ。あまり娯楽という物に触れてきませんでしたからね。
    ゼルダ姫も…私も。のめり込む素質はあるのでしょうか)

デイジー「やるとしても、私はそろそろ自己暗示に取り掛からなきゃいけないし。
     今度からの暗示は、すんなりいくとは思うけどねー。
     もう操作方法は分かってるだろうから、3人で対戦しといてよー」

ゼルダ「むぅ…」

401Mii:2019/11/28(木) 23:13:43 ID:glH1He8A
ロゼッタ「えっと、私はそろそろリアルタイムの画面に目が疲れてきたので、遠慮させていただきます。
      一人でじっくりできるゲームがあるならば、やってみるのもやぶさかではありませんが」

デイジー「…私が言うのもなんだけど、見事にゲーマーの第一歩を踏み出してるねー。
      一人でじっくりできる、かあ。じゃあ、ポケモンでもやるー?
      …はい、『ポケットモンスター ブラック』!
      周回用だから、セーブデータは消してもらって構わないよー」

ロゼッタ「…『ポケモン』?ピカチュウ選手やリザードン選手が該当する種族群のことですよね?
      どういったゲームなのですか?」

あと、「しゅうかいよう」って、なんでしょう。…集会用?

デイジー「舞台は架空の世界観の一地方。
      非力な一般人が、何十倍何百倍も戦闘力があるポケモンを、
      絶対服従のマジックアイテムで捕獲して、束縛して、連れ回して、旅をする。
      
      ポケモンに戦闘欲があることをいいことに『目と目があったら即バトル』が
      暗黙の了解となっている世紀末のロールプレイングゲームだよ。
      ポケモンを育てて強くして、相手からお金を巻き上げながら進んでいくんだ。
      たとえ相手がジェントルマンや園児でもね」

ロゼッタ「碌でもないですね!?面白いとは思えないのですが?」

デイジー「面白いよー?限られた選択肢をうまく使って敵を倒していくのはー。
     親切なチュートリアルが散りばめられてるから、やってみてよー」

ロゼッタ「はあ……」

402Mii:2019/11/28(木) 23:16:51 ID:glH1He8A
デイジー「最終的には熱い通信対戦も待ってるしー」

ロゼッタ「…対戦もできるのですか?」ズイッ

デイジー(……あ、マズった。攻略本も何もないし、
      このゲーム、経験が勝敗にモロに出る類のやつだった)
     
デイジー「ま、まあ対戦はさておいて。私は退散するから、
      ぜひプレイしてみてよー。ストーリーだけでも楽しめるし」テクテク

ロゼッタ「はい。…今日は完全に休養日にしてしまいましょうか」



    ハーイ! ポケットモンスターノ セカイヘ ヨウコソ!
    ワタシノ ナマエハ アララギト イイマス!
    ミンナカラハ ポケモンハカセト ヨバレテイルワ

ロゼッタ「……」

ロゼッタ(世界を牛耳るマフィアのボス、みたいなものでしょうか)

アララギ(チガウワヨ)

403Mii:2019/11/28(木) 23:19:07 ID:glH1He8A




…もう!デイジー姫も意地が悪いですよ!
普通に競技としてポケモンバトルを楽しむ世界観があるだけじゃないですか!
まったくもう!

ジムリーダーが待ち構える、ジムという施設を回って、
最終的にチャンピオンを倒すことが目的のようですね。
道中、怪しげな宗教団体さんともお会いしましたが…。

ソシテ アナタガ サイショニエランダ パートナーハ クサタイプ ナンダヨネ
トイウコトデ ホノオタイプデ モヤシマクル オレ ポッドガ アイテヲスルゼ!

…炎は草に強く、草は水に強く、水は炎に強い。
なるほど、こういった相性ジャンケンをしっかり踏まえて行けば
戦いを有利に進められるのですね。今後は一層重要になってきそうです。



オラ! ユメノケムリ ダセ!
ヤメタゲテヨオ!

ロゼッタ「やめたげてよお!」

ゼルダ(ロゼッタが変になっています)

404Mii:2019/11/28(木) 23:20:27 ID:glH1He8A
〜翌日〜



デイジー「…さーて。
     本日も、楽しい楽しい特訓、やっていこうか」カクセイ!

ロゼッタ「はい!一撃くらい入れて見せます!」フンッ

ゼルダ「……」ガクガクブルブル

ヒルダ「…私は関係ない私は関係ない私は関係ない」



デイジー「2人いるのも3人いるのも大して変わらないか。
     区別するのも面倒だ、お前も付き合え」グイッ

デイジーの じこあんじの ていぎづけが ふかんぜんだった▼ 

ヒルダ「嫌あああああああぁぁぁぁ――――――――!!」ガクガクブルブル

405Mii:2019/12/10(火) 01:46:27 ID:NQWsVIhA
……私は、デイジー。

ようやく、本来の自分まるごと、認めてもらえた、幸運過ぎるお姫様。
…まあ、ピーチにも認めてもらってはいるが。

とはいっても。心残りがなくなって一層本腰モードとなった私に対し、
1日2日で耐性ができるなんてことは、あり得なくて。
目の前には、相変わらずの光景が、見事に広がっているんだがな。

――ゼルダ。
プライドのせいで引き下がれなくなったのが大いに災いし、また私に扱かれることに。
遠くから光の弓矢やら炎やらをぱしぱし撃つだけの、クソ詰まらない戦闘を仕掛けてくるものだから。

デイジー「せりゃ」

ゼルダ「があ゙っ…」

不意を衝いて急接近。遅い、反応が遅すぎる。何をやってる。
まだ場外の方がマシだと、自ら身を投げようと更に後退するものだから。
こちらは更に加速して、パンチ一発。

イタイ?クルシイ?そりゃ、拳が胴を貫通してるからそうだろうな。
ゼルダの背の後ろに、何度目か数えるのもだるくなる血飛沫の花が咲く。

406Mii:2019/12/10(火) 01:48:55 ID:NQWsVIhA
デイジー「酷いありさまだな、さっさと残機復活したいよな?
      このまま横に腕を振るって、内臓ぐちゃぐちゃにしつつ体引き千切るから。
      はい、歯を食いしばれ。さん、にぃ、いーち」

ゼルダ「――――――――っ!!――――っ!!!」ポロポロ

私の腕だけで支えられて、宙ぶらりんで。相変わらずの光宿さない眼と、痙攣した手で。
力なく、ペシペシと私の体をはたいて猛抗議の意を示すが。
やる気がないなら、お構いなし。

デイジー「フンッ」ブオォッ

ゼルダ「」ドシャァ

…なんでこうなるのか、わからないものかな。

407Mii:2019/12/10(火) 01:51:30 ID:NQWsVIhA
デイジー「お次は――」クルッ



ヒルダ「『ファントム・ユガ』召喚っ!!」パアアアア

ファントム・ユガ「WOOOOOOO――!」ズゴゴゴゴ

ヒルダ「わ、わ、私を守りなさいっ!」バッ

ファントム・ユガ「GAAAAAAAA――!」ダダダッ

ファントム・ユガの 槍突き!▼





デイジー「ぎゅっ……ポキッと」

デイジーは 穂の部分を 片手でつかんで へしおった!▼



デイジー「へえ、そんな隠し玉を覚えたのか。面白いな。
     中々の図体してるし、目くらましにはなるんじゃないか?」

ヒルダ「」

408Mii:2019/12/10(火) 01:53:43 ID:NQWsVIhA
デイジー「これ、返す」ブンッ!!



ファントム・ユガ「」グサッ

ヒルダ「あ゙」ザクッ

ヒルダ「――」バタン



―ヒルダ。
少しは自分の意志で行動しようという気にはなっているみたいだが、
あいかわらず、とりあえず、逃げよう隠れようという意図が見え見え。
力ずくで捻りつぶすだけの力量差もある。話にならない。

ぶん投げた穂の切れ端が首に刺さったのは気まぐれだ。
あ、でも打開を願って成長していることは褒めてやろう。
…いや、3歩進んで5歩戻る精神状態との噂もあるな。

409Mii:2019/12/10(火) 01:55:40 ID:NQWsVIhA
そして、ロゼッタは――。







ロゼッタ「ハァッ、ハァッ……『浄化』っ!『浄化』っ!『浄化』ぁ――っ!!
     ああもう!せっかく綺麗に掃除したのに、1時間でフィールドが…
     元の木阿弥、赤くて黒くて何か吐かれてて…嫌ああああぁぁ!
     きちゃないです!誰が掃除するというのですか!――どうせ私だけですよ!
     デイジー姫は手伝ってくれませんし!お二人は気力が残っていませんしっ!

     無駄に浄化の熟練度が上がっていく気がします!
     3か月後の私なら、もしかしなくても――あの血濡れの私の衣装、
     自力で蒼色に復元できたのではないですかねっ!?
     もう終わった話ですけどっ!!」シュババババ
 
デイジー「……」

ロゼッタ「ああっ、ゼルダ姫!復活したそばから倒れ込まないでください!
     そこまだ掃除が終わって…あああ、血がべっとりと!
     目に悪いです、再復活まで待っていられません!ちょっと脱がしますよっ!
     …はい、綺麗になりました!ここに置いておきますから着直してくださいね!
     いつまでも下着姿で寝転ばないでくださいね!ねっ!」パアアアア

デイジー「……」

410Mii:2019/12/10(火) 01:59:06 ID:NQWsVIhA
ゼルダ「――」

ロゼッタ「…………あ、結界を破ってリンクさんが」

ゼルダ「!?」ガバッ

ロゼッタ「ウ ソ で す♪」ペロッ

ゼルダ「――――――――ちょっと殴らせなさい……!!」ゴゴゴゴ

ロゼッタ「……デイジー姫の威を借る、ロゼッタ」スッ!

デイジー「…おい」

ゼルダ「ぐぬぬぬぬ……で、デイジー様。そちら、どいて頂けないでしょうか」プルプル

デイジー(なんというか、ロゼッタの周りだけギャグ空間にでもなっているのかと
      ついつい錯覚してしまうくらい…とても活き活きしている)

デイジー「その必要は、ない」ザッ・・・

ゼルダ「申し訳ございませんでした差し出がましいことを申し上げました
     どうか寛大なご処置を」ガクガクブルブル

デイジー「そういうことではなくて。割とイラッと来たんで私が制裁してやろう」ドゴォッ

ロゼッタ「」ベシャッ

――そんなこんなで、不満はありつつも飽きない1日。

411Mii:2019/12/10(火) 02:02:22 ID:NQWsVIhA
〜次の日〜

デイジー「いやあ、朝ごはんがおいしーい!
      ロゼッタ、お代わりあるー?山盛り持ってこーい―!」パクパク

ロゼッタ「はい、いくらでも食べてくださいね!
      …まあ、私が料理したわけでもなんでもないんですが」

すっかり吹っ切れたデイジー姫。元気元気、超元気といったところです。



ゼルダ「……」フラフラ

ヒルダ「――」グズッ

一方、精神的に参ったままの人もいるようです。
ヒルダ姫に至っては碌に食事を摂らずに机(修理済み)に突っ伏しています。
目に光が宿っているようにはみえません。

とりあえず、また休養日というデイジー姫のお達しが出ました。
ゲームの続きでもしましょうか。
…え?薄情じゃないかって?そんなこと…ないですよ?

412Mii:2019/12/10(火) 02:04:17 ID:NQWsVIhA
デイジー「お、ヤグルマの森かあ。
      もう2つ目のジムまでクリアしたんだー。
      ツタージャ選んどいて、なかなかやるねー」ノゾキコミ

ロゼッタ「…今の言葉で察しました。
     最初のポケモン選択で難易度が変わるのですね?
     不公平なのではないですか?」

デイジー「…ちゃうねん。ツタージャが弱いんやないねん。
      虫に飛行に毒に炎にトドメの氷に、
      草タイプがシナリオで無駄に弱点を衝かれまくるのが悪いねん」

ロゼッタ「むう…レベルアップも結構苦労しました」

ジャノビー Lv28
ヒヤップ Lv.15
タブンネ Lv.13
チョロネコ Lv.12
ヨーテリー Lv.11
マメパト Lv.9

デイジー「バランスわるっ!?単騎同然じゃーん!
     …ついでに言うと、ジャノビーのHPが危ういよ!?
     ピコンピコン鳴ってるでしょこれ!大丈夫!?
     倒されたりでもしたら大ピンチだよー!?」

413Mii:2019/12/10(火) 02:08:08 ID:NQWsVIhA
ロゼッタ「ここのダンジョンの虫ポケモン達に苦しめられて…
     で、でも、Lv.24でメガドレインを覚えたのです!
     回復しながら戦えるので強いですよ!」

デイジー「どうしてそれで自信が持てるんだってばよ。
      大体、このダンジョン、どこだかわかってるの?もう一度言ってみ?」

ロゼッタ「ですから、ヤグルマの森、ですよね?」

デイジー「…モンメンかクルミルかマメパトかフシデが出たらどうするの?」

ロゼッタ「…その時は体当たりで!」

デイジー「じゃあずっと体当たりだね」

ロゼッタ「え」

414Mii:2019/12/10(火) 02:12:11 ID:NQWsVIhA
マメパトLv.15「くるっぽー」

あ! 野生の マメパトが 飛びだしてきた!▼

デイジー「あちゃあ、言ってる傍から…食らうとまずいよー?
     逃げよう逃げよう、それか回復だー」

ロゼッタ「大丈夫です!このポケモンは防御力が低いので…
    体当たりで一撃で倒せるはず!
    そして、素早さも――余裕を持って勝っています!」

デイジー「そのレベル差で倒したところで大した経験値が……
     ……………………………………………………………
     ちょっと待ったあああああああああ――――っ!!」

ロゼッタ「……え?」ポチッ

デイジー「」

ロゼッタ「もう押しちゃいま――」



マメパトの でんこうせっか!▼

急所に 当たった!
ジャノビーは 倒れた!▼

ロゼッタ「」

415Mii:2019/12/10(火) 02:14:53 ID:NQWsVIhA
マメパト「どや」ポッポッポー

デイジー「…………あーあ。しーらない。下手すると全滅するよー」

ロゼッタ「……あ、あの、デイジー姫」

デイジー「んー?」

ロゼッタ「ど、どうして私のジャノビーが…先に攻撃されたのですか!?」

デイジー「そりゃ、相手の技が先制技の電光石火だから、でしょ」

ロゼッタ「…先制技?」

デイジー「……」

ロゼッタ「……」クビカシゲ

デイジー「…あー、ゲーム初心者のロゼッタには、その概念自体がなかったかー。
     ターン制のバトル、対戦を繰り広げるゲームでは…往々にして、
     先制技…すなわち『優先度が高い技』が設けられているんだよ」

ロゼッタ「ゆ、ゆうせんど?」

416Mii:2019/12/10(火) 02:17:10 ID:NQWsVIhA
デイジー「威力の高い技は、相手に大きなダメージを与えられるから強い。
      命中の高い技は、外すことなく確実にダメージを与えられるから強い。
      
      それと同じように――
      優先度の高い技は、本来の先攻後攻の関係を取っ払って攻撃できる強みを
      主張することで、その他のスペックは低くてもプレイヤーに愛用されるんだ。

      自分の方が先に動ける…と思ってる相手の出鼻を挫けるのは大きいよ。
      …今のがその典型例だね。
     
      ま、ゲームの世界だからこそ設定できる項目だけどねー。
      たとえば現実世界のピカチュウも電光石火は使えるけど、
      あくまで『非常に素早く動く』だけ。

      ゲーム内のピカチュウのように『優先度+1で動く』なんて芸当は
      逆立ちしたってできないよー」

ロゼッタ「……」

デイジー「とりあえず、現状を打開しよう、かあ。
      一応聞いとくけど、最後のレポート、どこ?」

ロゼッタ「…………2番目のジム戦の直前です!
      『かたきうち』を掻い潜ってようやく突破したのに!」サアッ

デイジー「なんでジム突破直後にレポート書かなかったんだー!!」

417Mii:2019/12/10(火) 02:19:27 ID:NQWsVIhA
〜夜〜

ヒルダ「…………」

ヒルダ「……誰か、助けて、くださいよう…」シンダメ



シンと静まる、仮眠室。明かりといえば、柔らかに光る小さな電灯一つきり。
私はただ、天井を――そう、天井を。感情もなく見やります。

今日は休息日。そう、「今日」は。
明日になれば、再びデイジー姫が覚醒し。
ロゼッタは何故か喜々として、ゼルダ姫は身から出た錆で特訓に巻き込まれ。
……どうせ、私も――渦の中に囚われる、気がする。

国を背負う女王として、色々と辛いことはあるとは思っていましたが。
延々と命を弄ばれ続けることは、さすがに想定していませんでした。
少し前の情景を思い出したとたん、目の前の景色がぼやけます。

418Mii:2019/12/10(火) 02:20:42 ID:NQWsVIhA
ロゼッタは、ああは言うけれど。
デイジーの、暴れる絡繰りこそ、わかったけれど。
現実は、何も変わらない。あのとき安心したのは、何だったんだろう。馬鹿みたい。

自分の意志…もとい不手際で参加する羽目になったゼルダ姫とは違って、
私は、これ以上戦う意志だって、強くなりたい意志だってないと、散々主張しているのに。
昨日だけで、何度吐いて、何度血を流して、何度命を奪われたことか。

デイジー、ゼルダ姫、ロゼッタ。誰も、私の弱さを理解してくれていない。
いいように丸め込まれた自分の境遇が…ただただ、恨めしい――!

…寝転ぶまま、涙滲ませながら、強く手を握り締めて…ドス黒い感情に、ハッとする。
こんなに暗い気持ちに、なりふり構わない気持ちになったのは、まるで――

ハイラルから聖三角を奪おうとした時、以来ではないですか。



きっと、私は何かに侵食でもされている。自分が自分でない感覚。
このままだと、コワレテしまう。スデニ、テオクレカモシレナイ。
あと2か月以上だなんて、耐えられない。

419Mii:2019/12/10(火) 02:22:27 ID:NQWsVIhA
隣を見れば、顔を青くしてうなされながらも、必死に眠っているゼルダ姫。
…貴方だって、私よりはよほど、マシでしょうに。
私なんて――この瞬間にも発狂しかねないほどの動悸に、発作に、
襲われ続けていると、いうのに――っ!

きっと、今の私、酷い目をしています。
目に光が宿ったかに見えて、血走って、視界に入るもの全て否定したくなるような、目。

反対側のベッドを見れば、どうせ、気ままにすいよすいよと寝息を立てるロゼッタが……。



ロゼッタ「……………………」

ロゼッタ「……………………」



…あれ?

予想に反して、ロゼッタはしっかりと起きていました。
大きく動きこそしませんが、枕に頭を乗せ、私と「同じく」天井を見つめて…………
私と「大違いで」凛とした表情で、何か思案しています。

ヒルダ「…………」

ロゼッタ「…………」

私が横から見つめていることにも気付かず、一点を見つめたまま。

420Mii:2019/12/10(火) 02:23:56 ID:NQWsVIhA
私が見つめ出してから、5分くらい経ったでしょうか。



ロゼッタ「……………………うん」

ヒルダ「……っ!!」スッ

おもむろにロゼッタが、ベッドから身を起こします。
つい、寝入った振りをしてしまいました。
つたない寝入り方でしたが、何かに気を取られているロゼッタは――
一切気付くことなく、そのままいそいそと、足音を立てずに部屋を出て行きます。

ヒルダ(…………?)

謎の行動に、ちょっと興味が湧いて、荒んだ気持ちも一時的に落ち着いて。

1分。

2分。

5分。

――――10分。



――――30分。

ヒルダ(何を、やっているのでしょうか……確かめに、行きましょう)スッ

421Mii:2019/12/10(火) 02:26:50 ID:NQWsVIhA
ゼルダ「っ!…………はあっ、はあっ…!!」ガバッ!

傍にある、汲んでおいた水を一気に飲み干します。
どっと流れ出ている汗、汗、汗。



ゼルダ「…酷い、夢を、見ました、ね」ブルッ

顔をつねる。痛いです。――いっそのこと、今もなお夢の方がいいのですが。
時刻を確認。日付が変わったばかりのよう。

…あと数時間で、また地獄がやってくる。震える、体。



みっともない形相を見られたのではと我に返り、周りを見渡せば……え?
別室にこもっているデイジーが居ないのは当然として。
ヒルダ姫のベッドも、ロゼッタのベッドも、もぬけの殻。

一体、どこに消えたというのでしょうか。

422Mii:2019/12/10(火) 02:29:24 ID:NQWsVIhA
仮眠室を出て、左右を確認。
外界とは閉ざされた、限られた空間…という割に、あまり全容を把握できていません。

とりあえず、フィールドへ向かってみました。…誰も、見当たりません。
不安を抱いて、見当たる扉――ひとつひとつ、開けて確認していきます。

いない。

いない。



やっぱり、いない。



少しずつ、恐れと焦りで、駆け足になっていきます。
お願いですから、誰か――――っ!!

ゼルダ「出て、来なさいよ――――っ!!」ガチャッ!ガチャッ!

ガチャッ!





デイジー「――先ほどから耳障りだ」ドゴオッ

ゼルダ「」チーン

423Mii:2019/12/10(火) 02:31:12 ID:NQWsVIhA
デイジー「…ふん」ガチャリ

ゼルダ「――――」

奥の部屋まで駆けて行ったところで、既に自己暗示完了状態、
苛つき度MAXのデイジー姫に鳩尾一発、食らいました。
…貫通していませんが、生暖かい物が流れて行って、激痛です。こ、きゅ、うが――。

ふわりと意識がどこか遠くへ行って、気付いた時には傷ひとつなく。
…もう、考えるのは――やめましょう。そうしましょう。
…異常事態発生、というわけではなさそう。
それが分かったのは、不幸中の幸いでした。

触らぬ神に祟りなし、と通路を一目散に逃げ帰ろうとしたところで。





…階段?





柱の陰に隠れていて、仮眠室側からは見えなかった…階段がありました。
誘われるように――2階へと、登っていきます。

424Mii:2019/12/10(火) 02:36:29 ID:NQWsVIhA
びりっ。

びりりっ。

ゼルダ「…!」ゾワッ



どうしたことでしょうか。
体が、言いようのない魔力を感じ取ります。
ですが、不快な感じではありません。
よりエネルギーの濃い方へ濃い方へと、自然と足が進みます。

どうやら、2階は…部屋数が少ない代わりに、一つ一つの部屋が
贅沢な広さを確保している趣のようですね。扉の数がグッと減りました。



…ヒルダ姫が、いました。



寝間着姿で、体も冷えかねないというのに、
扉の一つをちょっとだけ開けて、中を盗み見しているのでしょうか。

近付こうとすると、ますます魔力濃度は高まります。
…いえ、高まる、なんてものではありません。呑み込まれそうなほどです。
ですが、それでもいいと思えるくらいの、不思議な心地よさ。

425Mii:2019/12/10(火) 02:38:54 ID:NQWsVIhA
ゼルダ「…ヒルダ姫、探しまし――」

ヒルダ「……」シーーーッ!

話しかけようとしたところで、特段私に驚きもしないヒルダ姫に――制止させられます。
その目は、久方ぶりに、輝いて見えました。

ちょいちょいと、彼女に促されるまま、私も、中の様子を伺います。











ゼルダ「――――――――――――なっ……………………!?」









私はその光景を、二度と忘れることはないでしょう。

426Mii:2019/12/10(火) 02:41:27 ID:NQWsVIhA
そこにあった、ものは。
さながら、切り取った……宇宙。





ロゼッタ「――――――――」〜〜〜〜〜〜〜





目を閉じ、両手をなだらかに下ろし、大部屋の中央に浮かびながら。
聴こえるけれども理解のできない、重ね掛け詠唱《オーバーラップ》を紡ぎ続ける、
神秘的な風貌の大魔法使いと。



ゼルダ「……嘘、でしょ」



彼女を囲み、囲み、囲み過ぎている――
あまりにも多すぎる、大小様々な魔法陣、だったのです。

427Mii:2019/12/10(火) 02:45:21 ID:NQWsVIhA
私は、これでも魔法は相当に得意な方です。

デイジー姫はそもそもまともに食らってくれないため、どうしようもありませんが…
私の光の弓矢の魔法としての完成度と言ったら、ハイラルで私の右に出る者はいないでしょう。
…リンクは、ただ単にHPが多すぎるだけなのです。

キノコ王国のファイターにしても、易々と負けるつもりはありません、でした。
たった今、目の前の光景を見る、までは。



平時の私として。一度に展開できる、まともな魔法陣…術式は、せいぜい3つ。

たった10分でも…4つ使えば数日は碌に動けず、
5つ使えば軽くない後遺症が残り、
7つも使えば確実に、魔力暴走で死に至るでしょう。

そもそも、一流の魔法使いでも、ステレオ=マジックの素質は一握り。
まともな魔法陣は、それだけで手一杯になるから「まとも」と言えるのです。

428Mii:2019/12/10(火) 02:49:13 ID:NQWsVIhA
それを、目の前の「彼女」は…

気が滅入りそうになりながらも、何度も何度も数え直して…
それが錯覚でも何でもないことに気付いて、戦慄します。





ゼルダ「さ……さんじゅう――!?」

ヒルダ「…違い、ますよ」

ヒルダ姫が、ロゼッタの足元を指で示して……っ!

ヒルダ「ひときわ大きい、部屋をはみ出るほどの大魔法陣が――
     床に描かれている、でしょう?…ほら、天井にも対になる物が。

     …ええ。全部で…32個ですね。
     正直な所、あの2つだけで通常の魔法陣10個分の負荷はありそうですけど。

     私が気付いて覗き出したときから…軽く1時間は経っていますが。
     理解はできないけれども耳に心地よい詠唱とともに――
     これっぽっちも、『術式崩れ』が起きていません…!」



…ありえ、ない!
何ですか、この魔法のレベルの高さは!これほどまで――!

429Mii:2019/12/10(火) 02:51:29 ID:NQWsVIhA
宙に浮かんだままの、ロゼッタ。
流石に全精力を詠唱に割いているためか、一向にこちらには気付きません。

激しく溢れる魔力の奔流とともに、彼女のドレスが、髪が激しく波打ちますが、
気にする様子はまったくありません。…いえ、気付いてすらいないのでしょう。
光り輝く魔法陣たちが、ガーディアンのごとく彼女を幾重にも覆い隠します。

はたと気付けば、せっせとあちこちに動いているチコたちが。
FPが不足しないよう、ロゼッタを手助けしているようです。
そのうちの1人が、休憩がてら、ふよふよと近づいてきました。

チコ「あ、ゼルダ姫が増えた―。ママの邪魔はしないでね」

ゼルダ「ね、ねえ。これは、何を行っているのかしら?」

チコ「ひっみつー!というより、僕たちも詳しいことは分からないんだ。
   ただ…経験上、こうなったママは、すっごいんだよー!
   絶対に、とんでもない成果を出しちゃうんだー!
   だから、僕たちは喜んでママのことを応援するんだ!」

ヒルダ姫と、顔を見合わせます。

…一体、どんな「とんでもない成果」を出すというのでしょう。
彼女の魔法に見惚れて…ヒルダ姫と共に、そのまま、覗き続ける私。

2時間後も、3時間後も。
ロゼッタの詠唱が尽きることは、ありませんでした。
そして――。

430Mii:2019/12/10(火) 02:54:44 ID:NQWsVIhA
〜翌日〜

デイジー(…………?)



皆の様子が、どうにも変だ。

やたら眠そうで、その一方でロゼッタをチラチラと眺める、ゼルダにヒルダ。

当のロゼッタは、何か――決意に満ちた顔で、私に話しかけるタイミングをうかがっている。
今まで通りウキウキと、なら分かるんだが。…いや、それも本来はおかしいが。



おっと、そう思ったそばから、ロゼッタがつかつかと歩み寄ってきた。
そして、いきなり。








ロゼッタ「…デイジー姫。特訓の前に、ちょっとだけ…勝負、してみませんか?」

431Mii:2019/12/10(火) 02:58:48 ID:NQWsVIhA
デイジー「…勝負、だと?」

ロゼッタ「はい。…ルールは単純明快。

     今から私が、デイジー姫に攻撃を3回仕掛けます。
     3回仕掛けて、1回でもまともに当たったら私の勝ち。
     逆に、3回とも躱されたり防がれたりしたらデイジー姫の勝ちです。
     ただし、ダメージを受けたかどうかは考慮しないものとします」

その無茶な吹っ掛けに、ゼルダが驚いている。
そうだろう、今のロゼッタと私の戦闘力差では――

3回どころか、1000回仕掛けたところでロゼッタの攻撃は当たらない。

デイジー「3打席勝負か…野球かな?
      まさか、『反撃はしないでください』とは言わないな?」

ロゼッタ「うっ…本当は遠慮していただけるのなら嬉しいのですが。
     ただ、反撃はともかく、そもそも私が攻撃する機会がないほど
     攻め立てるのは…流石に止めてくださいね!?
     あ、あと残機が減ったとしても、3回目の攻撃がまだならば
     その時点で私の負けにはなりませんからねっ!?」

デイジー「…いいだろう。当然、何時までたってもそちらが仕掛けない…とかは
     こっちの勝ちでいいんだな?…さあ、いつでもどうぞ」スッ・・・

何を考えているのかは定かではないが、面白そうだから…乗ってやろう。

432Mii:2019/12/10(火) 03:01:22 ID:NQWsVIhA
多少は背伸びしてしまうのも仕方ないだろう、と強者の余裕。

私に合わせて、ロゼッタもスッと構えを取る。
だいぶ様にはなってきたが…別に、昨日の今日で劇的に何かが変わったようには見えない。



ロゼッタ「それでは…まず、1発目っ!」ダッ



宣言してから仕掛けるとは…舐められたものだ!

直線的にただ突進してきて、拳を付き出すロゼッタ。
この数日で動きはよくなったが――。



余裕に余裕を重ねて、指一本で受け止める。
それもあえて小指で。



ロゼッタ「…………うわぁい」ゾッ

なんだか、非常に達観された顔をされた。

デイジー「もちろん、今のは…私を油断させるための手抜き、とかなんだろう?」

ロゼッタ「ももも、もちろんじゃないですっかー!」ビクビク

433Mii:2019/12/10(火) 03:04:31 ID:NQWsVIhA
ビクビクしながら、それでいてモチベーションは下がっていない。
一旦引いたロゼッタが、パチンと自分の頬を叩いて、気合いを入れて――。
こんどは、ゆっくりと歩み寄って、すこしずつ速めて行って――!



シュンッ!



ロゼッタ「…………2発目ぇーっ!」シュインッ!


テレポートから背後を取って、振りかぶり。
…そう、まるで、いつぞやの。

こんなことで、私が今度こそ引っ掛かると思ったのか。
多少はアクションが速くなっているといえど、無性に腹が立ってくる。
苛立ちのまま、振り向いて――拳、一貫。

ロゼッタ「――うぐっ」ボスッ ズサァッ

咄嗟に身を捩じって避けようとしたことは褒めてやるが。
その結果、胴体のかわりに肩甲骨を強打。鈍い音、破壊音。
勢いも殺せず、壁にドシンとぶつかって止まるまで…地を滑っていく。

434Mii:2019/12/10(火) 03:07:21 ID:NQWsVIhA
ロゼッタ「――っ…い…ったい、です――」ドクドク

デイジー「おう、腕が千切れなかっただけ御の字と言う奴だな。
      …やめるか?今ので確実に、右肩は使えなくなったろう。
      そんな体では、ますます戦えまい」

そう、諭してみたのだが――。

ロゼッタ「……ふ、ふふ」ヨロッ

ヒルダ「…な、何がおかしいのです?ロゼッタ…」

妙な笑顔をしたまま、壊れた肩を押さえつつ、ロゼッタは起き上がる。


ロゼッタ「…むしろ僥倖、といったところでしょうか。
     満身創痍の方が、『使い甲斐』がありそうなので」ドクドク

また、訳の分からないことを言うものだ。

435Mii:2019/12/10(火) 03:09:51 ID:NQWsVIhA
デイジー「…結局は、フリなんだろ?最初から、3発目に賭けているんだろう?
     だったら、見せて、もらおうか」

ロゼッタ「…………………………………………
     ええ、では、見て頂きましょう、かっ!」ドクドク

デイジー「…全力で、受けて立とうじゃないか」ニヤリ



シイイイイイイイィィィン――――



ゼルダとヒルダが息を飲みつつ心配そうに見守る中。
5秒、10秒と睨み合いが続いたところで――
ロゼッタが…三度、駆けた。



ロゼッタ「…参りますっ!!」ダダッ!



デイジー(ぼんやりと…体が、光っている。何かしらの強化を掛けたな?
     だが…小手先の魔法で埋め合わせできるほどの差では、ないっ!)

ロゼッタの戦闘力が、素早さが1割2割上がったところで、なんだというのだ。
いや、2倍3倍ですらどうとでもなる絶対的な差が、そこにはある。
…なんだか、フラグっぽくて嫌だな。

436Mii:2019/12/10(火) 03:12:42 ID:NQWsVIhA
再び、ロゼッタが姿を消す。
――――性懲りもない!!



横目で、後ろの気配を確認。…流石に学習したか。

左右、上。ロゼッタのことだから真下というのも十分に考えられる――

そう、周囲を満遍なく把握したところで…ロゼッタが現れた。



デイジー(…真正面?一体何を――)

ロゼッタ「はああああああああっ!!!!」ドンッ!

一気に、ロゼッタが…ロゼッタなりに、トップスピンを掛ける。
大怪我で体のバランスを崩しながら、痛みに耐えながら、ぎこちない体で。
それを私は、地獄の笑みを以て、遠慮なくフルパワーで――

デイジー「その思い上がり、悔い改めるんだな――」ブンッ



ゼルダが思わず目を背け。ヒルダが思わず顔を覆い。
誰もがその分かりきった結末を――

437Mii:2019/12/10(火) 03:17:16 ID:NQWsVIhA







一陣の風が、吹く。








ロゼッタ「…………疾風の一撃《ゲイルアタック》――――っ!!」ギュンッ!!

ロゼッタの 周囲の空間が ねじ曲がった!▼



デイジー(……途端に、速くッ!
      …ちぃっ、このままでも相手に大ダメージは入るだろうが…
      ダブルノックは気に入らない、断じて。
    
      仕方ない、瞬時にガードに甘んじて――――――――――――――――
      ―――――――――――――――――――――――――――――――
      ―――――――――――――――――――――――――――――――
      ―――――――――――――――――――――――――――――――)

438Mii:2019/12/10(火) 03:24:22 ID:NQWsVIhA





<Acceleration!Acceleration!!……….Acceleration!!!>キュイィィ―――――ン

疾風の一撃には 『優 先 度 +1』 が付いている!

デイジーが 行動を早めるほど それ以上に ロゼッタは 行動が早くなる!

ロゼッタの攻撃を ガードすることは 因果律として 不 可 能 だ!▼



ゼルダ「!?」

ヒルダ「!?」

デイジー「――――――っ!?ぐっ―!」ガード:1F



ズドンッ!



ロゼッタ「――っ!!左、すとれーと…届い、たぁ―――!!」アタック:0.1F

439Mii:2019/12/10(火) 03:29:22 ID:NQWsVIhA
信じられない、この私が目で一切追えなかった…ロゼッタの爆速の一撃…!

ダメージこそ見かけに反してとても小さいが、なんてことだ。一体、何をしでかした…!

自分の不甲斐なさと、親友の成長への喜びがごちゃ混ぜになる。

でも、今は、自分の情けなさは置いておこう。
純粋に、ロゼッタを褒めてやらないまでもない…そう、思えるほど。

そう、「裏の私」に似合わず、小さく穏やかに笑って見せようとして――



ロゼッタ「――――――――――――――――――――――――――――――
      ――――――――――――――――――――――――――――――
      ――――――――――――――――――――――――――――――
      ――――――――――――――――――――――――――――――」



次の瞬間、一気に顔を青くした私は。
あらん限りに握り締めた拳で、ロゼッタに殴り掛かっていた。

440以下、名無しが深夜にお送りします:2019/12/10(火) 04:41:49 ID:TvJVWXbI
宝具じみてんなお前

441以下、名無しが深夜にお送りします:2019/12/10(火) 07:08:53 ID:0KYaSB46
つよい

442Mii:2019/12/14(土) 17:39:43 ID:uGh3sj7.
―――…――――――――――――――――――――――――――――――――――――

―――――――――…――――――――――――――――――――――――――――――

―――――――――――――――…――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――…―――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――――――――――…―――――――――

…。

……。

………しこうに、もざいく。

……………ここは、いったい、どこですか?

かくにん、したいのに。
なぜか、めが、あけられません。

443Mii:2019/12/14(土) 17:41:39 ID:uGh3sj7.
「――――――」



なにかが、きこえる。



「――――――――」



だれかが、よんでいる、こえが、する。



ああ、きっと、みんなして…わたしをとりかこんでいるのですね。
ゼルダひめ、ヒルダひめ、そして…デイジーひめ。
ひっきりなしに、こえをかけながら。

そういえば、すこしまえに。
かってにわたしが、ちぬれたドレスをみつけてしまい…きを、うしなったときに。
めざめてみれば、なきはらしている、ピーチひめが、いましたっけ。
きっと、いまもおんなじような……。





…………おんなじ、ような?

444Mii:2019/12/14(土) 17:43:27 ID:uGh3sj7.
かく、せい…ええ、覚醒。
行方知らずの意識と思考を、じわりじわりと取り戻し。
一瞬震えた後、ようやく私は…眼を、うっすらと開けていきました。

目の前には――



当たってほしくは、なかった。
私の目覚めに目を見開いた状態の、泣き腫らして憔悴しきった…デイジー姫。



デイジー「――――っ!!ロゼ…ッタ!?やっと…やっと、目を覚ましたのねっ!?」



私は、寝たきりの姿勢もそのままに、無言のまま、恐ろしくゆっくりと頷きます。

デイジー「…っ!よかった、本当に、よかった、よぉ――っ!!うわああぁぁん!!
      この、まま、死んじゃうんじゃないかってっ!
      本気でっ!思ってた、くらい、なんだからぁっ!」ポロポロ

ゼルダ「…バカっ!このっ、虚け者っ!!
     結局自分が、周りを悲しませているでは…ないですかっ!
     偉そうに…説教、しておいてっ!」ポロポロ

ヒルダ(ギュッ)ポロポロ

445Mii:2019/12/14(土) 17:44:57 ID:uGh3sj7.
口調こそ荒いとはいえ、泣き腫らした顔を隠しもせずゼルダ姫がのたまい。
ヒルダ姫は、静かに泣きながら、私の腕を、ただひたすら強く抱きしめます。
結局最後は、皆が私に覆いかぶさるような感じになりました。

ロゼッタ「…………」

まだ微妙に、思考がふわふわしている気がしなくもないですが。
辛い思いをしている人の頭って、どうして撫でたくなるんでしょうね。
ありがとうとごめんなさいの気持ちを込めて、皆さんの頭をつい撫でてしまいました。
呆れられるわけでもなく、一層激しく泣き出す皆さん。…ええと、本当にごめんなさい。

しかし、どうにも体の動きがぎこちないのが、気懸り。
挙動ひとつひとつが、やたらもっさりしています。
速く動かすことができません。…気のせい、ですかね?



…皆の嬉し泣きに包み込まれる中、肝心の私の方はというと。なんとも滑稽なことに。
必死で、周りの方々が泣いている理由を考え始めていました。

…いや、だってですね。
このままだと死ぬんじゃないかと思われていた?そんな気絶の仕方を?私が?
そもそも、死んだら残機を使って復活するだけではないですか…?

446Mii:2019/12/14(土) 17:48:39 ID:uGh3sj7.
デイジー「…!?も、もしかしてロゼッタッ!
      何が起きてこうなったか…いや、『今何が起きてるか』、
      まるで分かってないの!?」

ロゼッタ「……は、はい。大変申し訳ございません。皆さんはお分かりなのですか?」

デイジー姫は、信じられないような顔を一度して。
暫しののち、無表情になって、ふっと。



デイジー「――ごめん、ロゼッタ。本当に、ごめん。
     思い切り、歯を食いしばって、くれるかな?今から私、『手を離す』から」

ゼルダ「…そ、そんなっ!」

デイジー「…いや、現状を理解してもらうには必要なことだよ。残酷な話、だけど。
     はい、歯を食いしばったね?無意味な可能性も超特大だけど」

…よくわかりませんが、デイジー姫は間違ったことは言わないので。
既に準備は整っていました。1UPキノコ片手に準備万端のデイジー姫の姿を思い出します。

デイジー「…ゼルダ。暴れた時に備えて、右半身押さえてて。…特に、右手!私は左半身に対応するから。
      ヒルダは悪いこと言わない、5メートル以上下がってて」

2人は一瞬、憂いの目をしたあと、あっさりとデイジー姫に従います。

そして、デイジー姫が――
私の体から、どういうわけか「すっかり黒ずんだ」手を、恐る恐る…離しました。

447Mii:2019/12/14(土) 17:57:14 ID:uGh3sj7.
その、途端。



ロゼッタ「――――――――――――――――っ!!!
      ガア゙ア゙ア゙アアアアアァァァ――――――――――!?」

この世の物とは思えない、全身を駆け巡る、痛み、苦しみに。
はしたなさなど彼方へ捨て去り、絶叫、絶叫、ただただ、絶叫――

ロゼッタ「ガハッ―――ア、ア、ア、ア―――――――――――――っ!!!
     ――――――――――っ!!」ポロポロ

ヒルダ「もう十分でしょうっ!デイジー姫、はやくっ…はやくっ!!
    助けてあげて、くださいっ!!」

イタイ。死んでしまう。いえ、死んだ方が100万倍マシ――そう思えてしまう、極限の痛み。

心臓に針を突き刺される…なんて表現、生ぬるい。
あらゆる器官が、微塵切りにでもされていくかのような、痛み――――っ!
歯を食いしばりすぎて出血し、狂乱し、体中を激しく掻き毟る。
とりわけ『右目』の疼き、異物感が我慢ならず、必死でもがきますが、
慌てて腕を掴んだゼルダ姫によって、阻止されてしまいます。
痙攣し呻きながら、悲しみではなく痛みのせいで、涙が延々と流れ出ます。

デイジー「まずっ、白目剥いてる!…ロゼッタっ!ロゼッタぁ――っ!!」

ゼルダ「起きてっ!お願いだから、起きなさいっ!」

ヒルダ「ロゼッタが死んじゃうっ!もうやめてぇっ!!」

448Mii:2019/12/14(土) 17:58:36 ID:uGh3sj7.
ロゼッタ「……ハァッ、ハァッ、ハアッ」ボロッ



今度は私にも、気絶していたことがわかりました。
デイジー姫が、離すものかという掴み方で私の体を捕まえています。

デイジー「…よかった…グズッ。一体、何度私たちを泣かせたら…
     ロゼッタは…気が済むの、さあ」グズッ

ゼルダ「目の焦点が完全にまずいことになっていました…
    恨みますよ、デイジー」ポロポロ



残機がある、はずなのに。
痛みには、割と慣れてきたと…思っていたのに。



激しく動揺しながら、2人の方を見上げます。

449Mii:2019/12/14(土) 18:01:16 ID:uGh3sj7.
デイジー「………………………ねえ、ロゼッタ。
     昨日の…私との3回勝負、覚えてる?」

ロゼッタ「お、覚えていま――――」

ああ、そうだ。そうでした。
私は、思い立ったまま会得してしまった秘密兵器をぜひ試したい、と…
デイジー姫に喧嘩を売ってしまったのでした。

デイジー「…そっか。じゃあ、何をやったか、詳しくロゼッタの口から…教えてくれるかな?
      推測だけであれこれ騒ぎ立てるのは、もうこりごり」

ロゼッタ「…わかり、ました。
      とはいっても、そんなに、複雑な話ではないんです。
      私は以前、『デイジー姫という新要素から作戦を引っ張り出すことで
      敵の裏をかくことができる』という旨の話をしましたよね?」

デイジー「…うん」

やはり、いまだに息切れしそうですが、なんとか堪えて話を続けます。

ロゼッタ「……これは、別に特訓中に限った話ではありません。
     何気ない会話の中にも、日課や癖の中にも…
     拾える可能性のあるものは無尽蔵にあります。

     私は…どうしても攻撃の速度が足らないと悩んでいました。
     奇しくもそこに、昔なら無縁極まりないゲームの世界から、
     『優先度』というものを教えていただきました。
     私は思ったんです。……これだ、と」

450Mii:2019/12/14(土) 18:03:54 ID:uGh3sj7.
デイジー姫が、驚きに口をぽかんと開けます。

デイジー「…ま、まさか――!」

ロゼッタ「さっそく、S++ランクの超高等魔法として昇華させようと、
     昨日…いえ一昨日から、術式を構築し始めました。
     基礎となる格子を編み込み、条件式の肉付けをしていって――
     針の穴に通すような繊細な作業でしたが、なんとか…完成に至りました。
    
     とはいえ、本当に、本当に――現実に『優先度』を持ち込むというのは困難で、
     使った後に残機が減ることを、織り込み済みだったんですけどね」

ヒルダ「…織り込み、済み?」

あ、なんだかちょっとだけ、気分が落ち着いてきました。
そんな感じに驚く顔を、見てみたかったです。

ロゼッタ「…ええと。発動させることまでは、何とかなりそうだったんですけど。
     この魔法…というより、魔法が掛かった状態で繰り出す、この技。
     相手の行動の早さに応じて、私の意志そっちのけで自動加速が掛かるので…



     ぶちゃけた話、体が消費予定のFPを事前準備できないんですよね」



3人が、固まりました。

451Mii:2019/12/14(土) 18:07:44 ID:uGh3sj7.
ロゼッタ「それを承知で、魔術回路をちょっとばかし騙して、
     技自体は正常発動させたのですが。その場合、どうなるか、というと…

     借金してまで豪遊した人が、我に返って慌てふためいて…
     日用品を叩き売って返済に充てるがごとく。

     かなり非効率な交換レートで、体がHPを無理やりFPに変換し出すんですねー」

デイジー「なっ…!?」

ロゼッタ「私の計算だと、不足分のFPを補うために、私のHPは枯渇ぎりぎり、
      というところまで追いつめられるはずでした。
      まあでも、そのくらいのこと、最近は幾らでも経験していますし。
     
      万が一、『ギリギリアウト』で死亡したとしても、残機制度のおかげで…そのままあっさり元通り!
      今の特訓環境だからこその、したたかで思い切った作戦だと思いませんか!
      …実際、御覧の通り元通りに――――」

凄い魔法の成功に、ついつい得意げになってしまい、語り出し――



…あれ?おかしいです。
――では。さっきの痛みは、後遺症のようなものは。いったい、なんなのです、か…?



デイジー「――馬鹿…!!――元通りに、なってないよ、ロゼッタ…っ!
      優先度なんてものを付けることがどれだけ禁忌か、わかってないよ…!
      私の行動の早さ、馬鹿に、して――っ!」ポロポロ

452Mii:2019/12/14(土) 18:11:29 ID:uGh3sj7.
ヒルダ「……あの、これ」

ロゼッタ「……鏡?」

ヒルダ姫がおずおずと…持ってきてくれた、1枚の手鏡。
顔を見ろということでしょうか。…使ってみました。
…酷い顔色はしていますが、それ以外に、特に変わったところはなさそうですが。

暴れたせいでボサボサになった髪を、すっと払います。










「魔眼」呼びしていた右目に、幾重にもヒビが入っていました。
光を失う…を通り越して黒ずんで、もやまで掛かって、今にも砕け散りそうです。








…………………………………………………………は?

453Mii:2019/12/14(土) 18:14:53 ID:uGh3sj7.
ロゼッタ「…………………………え…なに、これ…」ガタガタ

余りのショックに、呆然とします。
こんなこと、生まれてこのかた、なった覚えがありません。



デイジー「落ち着いて、聞いて、ロゼッタ。私、なんとなく状況が把握できた、から」

虚ろな目で、デイジー姫を見上げます。
まるで、あまりのみっともなさを恥ずかしがるように、前髪が再び――右目を覆い隠します。



デイジー「…あのとき。私は、ムキになって、持ちうる限りの速度でもって、ガードに移ろうとした。
      それを抜き去ろうとするために、ロゼッタの体は加速した。

      …ロゼッタの予測すらゴミにしかならないくらい、猛烈にね。
      FPが、あまりにも、あまりにも…『桁違いに』不足しすぎた。

      異常を察知した私が強引にロゼッタの命を速やかに奪って…
      復活するまでのごくごくわずかな時間すら、FPの代償を大量に求められて――
      魔力回路そのものが、ズタズタに荒らされたんだ。

      ロゼッタの例えを参考にするなら、
      待ちきれなくなった借金取りが怒号をあげながら家に乗り込んできて
      あらゆる家具は持ち出され、あるいは破壊され尽くした状態、かな」

ロゼッタ「…!?」サアッ

454Mii:2019/12/14(土) 18:20:59 ID:uGh3sj7.
デイジー「…ロゼッタの右目、おそらく…単なる遠くが見えるだけの魔眼、じゃない。
      空間認識を極めに極めていく中で、ロゼッタの体のFP循環の根幹に関わっていった…
      超重要な制御装置、心臓部分だったみたい。…自覚、ないわけじゃないでしょ?

      その機能を失って、FPが無差別で体中に漏れ出して、
      …えーっと、魔法が誤発動され続けているような有様なんじゃないか…と…。

      つい条件反射的にFPを送り込もうとして、
      なしくずしで治療し始めることができて、本当に幸いだったよ。
      私のサポートがないと、何もできない。しばらくは、リハビリだね。
     
      薄々分かってるとは思うけど――リハビリが終わったところで、
      金輪際、『ゲイルアタック』とかいう技の行使は禁止。
      今度は確実に、残機制度があるところで使おうと、あの世行きだよ。
    
      だいたい、ロゼッタは仕様を理解してたみたいだけど…あの技。
      『優先度+1』のためだけにエネルギーの99.99%とか、つぎ込んでるんでしょ?
      とんでもない見た目の行動の早さは、『攻撃の運動エネルギー』自体には
      一切乗ってなくて…捨てられてるんだよね?
      革命的に凄いことをしたことは認めるけど、FPが勿体ないよ…ほんと…」

ゼルダ「そうだったのですか!?」

…はい。それは理解していました。しかし、そこまで危険な代物、だったとは―!
慢心があったにちがいありません。

455Mii:2019/12/14(土) 18:25:27 ID:uGh3sj7.
さらに、デイジー姫は、ひどく申し訳なさそうな顔で――
最悪な結末を、私に突き付けてきたのです。

デイジー「…ここまでのことは、まあ、いいんだ。いや、全然よくはないだろうけど、
      リハビリは一時的なことだし、技の行使の抑止は意識してればいいし。
      まだ許せるんだ。私、全力でFPの流れのコントロール、サポートするから。
     


      …でも。



      その右目、ただのHPじゃなくて、神秘性とかLP、すなわち生命力とか、
      『残機制度で救済されない、取り返しのつかない ナ ニ カ 』をゴッソリ失った、みたい。
      残機制度による完全復活ありきで無茶をしたロゼッタにとって、酷過ぎる…話だけど。
      とにかく、通常の回復じゃあ一切対処ができない。

      リハビリが無事完了したところで…
      自慢の魔法の制御力、何分の1になったか知らないけど、下がりに下がって…
      奇跡でも起こらない限り…二度と、元には戻らない、よ」



デイジー姫が、必死に声を絞り出します。

――――とてつもない、途方もない、代償に。
――――目の前が、真っ暗になりました。

456Mii:2019/12/14(土) 18:27:54 ID:uGh3sj7.
デイジー「…………」

涙流れた跡残すまま、気を失ってしまったロゼッタ。
当たり前だけど、今まで積み上げてきたもの、失うのは辛すぎる、よね…!
とりあえず私ができることは、彼女の腕を通じて強制的にFPの流れを作って、
回復に努めること、だけ。他に何もできなくて、歯痒い。

私の負担もけっこー大きいけど…そんなこと、言ってられない。
食い溜めしつつ、できるだけ睡眠時間はカットだ。

デイジー「…まあ、そんなわけで。しばらく、特訓は中止にさせてもらうよ。
     私のチカラ、こっちに注ぎ込まなきゃならないし、気分も全く乗らないし…ごめんね。
     …まあ、ちょうどよかったんじゃない?」

そう言って…自分にも言い聞かせて、見守る2人に向き直る。

ゼルダ「…………」

ヒルダ「…………はい」

457Mii:2019/12/14(土) 18:33:23 ID:uGh3sj7.
デイジー「…まあ、2人はそんなに気を落とさないで。私がなんとしてでも、ロゼッタはこれ以上苦しませないから。
      よかったら、フィールドで…2人で普通のトレーニングを再開しちゃってよ。
      私は参加できないけど、ロゼッタを背負って同行してアドバイスすることくらいならできるからさ」

ゼルダ「……そう、ですね。時間が、勿体ない…ですもの、ね」

ヒルダ「…………」コク

デイジー「…………やっぱり、暗いの、苦手。ええい、もっと明るく行くぞー!!ビバ、空元気っ!
      このモヤモヤを、トレーニングにぶつけるぞ!ウオオオオオォォォ!
      はい、2人とも、拳を天に突き出して『オーッ!』て叫べ―!」

2人「「お、オーッ……?」」グッ

さあ、フィールドに向かっちゃおう!後ろは振り向かないっ!

ロゼッタ「」ズルズル

デイジー「…って、身長差のせいでロゼッタ背負えないんだった!?ごめん!引き摺ってる!
      こんちくしょーめ!こうなったらお姫様だっこだ!
      抱き上げる方もお姫様の、純度100%のお姫様抱っこだぞー…って、どうでもいいわ!」ツッコミ

ゼルダ「――ああ」

デイジー「ほらほらどうしたの、早く支度するっ!」     

ゼルダ(彼女の挙動にビクビクしてばかりの私でしたが―
     ロゼッタの言っていた彼女の朗らかさとムード、ようやく私にもちょっとだけ、
     理解できた気がしました。節穴…でしたね)

458Mii:2019/12/14(土) 18:35:44 ID:uGh3sj7.
ロゼッタ「…う」パチッ



デイジー「お、ようやく起きたねロゼッタ」

ロゼッタ「…ど、どうして私、担がれているのですか?」

デイジー「私が3人の面倒を同時に見るにはこれしかなかったっす」



ロゼッタ「………………………っ、わ、私は――そうです、一体どうすれば――」



なんとか、しなければ。対策を考えなければっ!
呑気にデイジー姫に身を預けている暇ではないと、降りようともがきますが…

デイジー「おっと、そうは問屋が卸しません…降ろさないだけに。
      そうだね…この感じなら…あと1週間ばかりは、私が付きっ切りで介抱だね」

ロゼッタ「そん、な―!貴重な、時間がっ!離してっ、下さい!お願いですからっ!」

私の覚醒に気付いたのか、フィールド中央で躍動していた2人も動きを止めて、
こちらに駆け寄ってきます。

459Mii:2019/12/14(土) 18:39:20 ID:uGh3sj7.
ロゼッタ「えいっ!」ドンッ

デイジー「あ、ちょっとぉっ!?」

デイジー姫の腕の中から、なんとか抜け出したとたん。
また、あの絶望的な侵食に、痛みに襲い掛かられます。
たまらず、もんどりうって、地面に這いつくばってしまう、私。
一瞬にして目の焦点が合わなくなり、涙が流れるままになる体たらく。

ゼルダ「なにをやっているのですか、ロゼッタっ!」

デイジー「もー、馬鹿ッ!いいから私に面倒見られてよっ、このアンポンタン!」

デイジー姫がすぐさま私の体を再度抱き上げ、FPの循環を再開してくれているようです。
痛みが、少しずつ、引いて行きます。…私の心の中の暗雲は、際限なく拡がるばかり。

ロゼッタ「ハアッ、ハアッ――!このままでは、状況が、悪化する一方では、ないですかっ!
     何か、何か策があるはずです!

     早くここから脱出する術が見つかれば、ピーチ姫やマリオならば有用な知識を持っていて
     劣化が抑えられるかもしれませんし!

     ――そ、そうです!新しい、魔法っ!
     私自身、目を修復できる新しい回復魔法を生み出してですね!
     そうすれば話は早いでしょうっ!?」

デイジー「…焦らないでよ、ロゼッタ。視界以上に思考が曇ってるよ。
     流石にそんな淡い希望に縋って一層無茶をするなんて、断固として許さないよ…?」ゴゴゴ

ロゼッタ「……!」

460Mii:2019/12/14(土) 18:49:36 ID:uGh3sj7.
デイジー「唯一の救いは、目の劣化が、使用回数とは関係ないことだね。
      容体が安定したら、精度は下がってるにしても魔法を使い出してOKだよ。
      特訓再開も…まあ考えておいてあげる。でも。
      今はロゼッタを止めるのが私の役目。お願い、理解して」

私を宥めて、抱きしめてくれるデイジー姫ですが。
ポロ、ポロと。絶望から、自分勝手ながら、涙が更に溢れてきます。

ロゼッタ「何をやっているのですか、私…!貴重な時間を、みすみすフイにして…!
      恵まれた環境下を活かして、もっともっと、強くならなければいけないのに…!」

デイジー「…ほんと、いつの間にか、戦闘狂だよ。気持ちは、わかる、けど」グズッ

ゼルダ「…自分を追い込み過ぎ、ですよ」

ロゼッタ「騒動の原因ですらあるのですから、追い込んで当然です!
      それに…それにっ!これからの私がどんどん…魔法使いとして弱くなるのならば!
      ――既に、自分の存在意義にも直結して、崩れ去りそうではありますがっ!
      余計に、今できることを、今のうちに全てしなければ、後悔してもし足りないではないですか!

      デイジー姫、何かできることはないですか!?
      とりあえず、体を慣らしつつ、新しいFP動力源の構築を
      開始すべきだと考えるのですが、如何でしょうか!?
      ああ、そのためには一層の基礎体力も必要ですね―
      食事療法、ストレッチ、筋トレに走り込み、それからそれから――」

激しい動揺、動転を隠しもせず、泣き腫らしながら想いを吐露して、足掻こうとしたところで…

――強い衝撃を受けて、再び私の意識は、深く沈んでいきました。

461Mii:2019/12/14(土) 18:54:31 ID:uGh3sj7.
――たった今、手刀一発で、ロゼッタの意識を刈り取ったのは…
――デイジー姫では、ありません。



デイジー「……え?」ボウゼン

ゼルダ「……ヒルダ、姫?」アゼン



ヒルダ「……」スッ

行為者は、予想もしない人物、でした。



気絶したロゼッタの胸に手をやって、数秒。
その手を自分の胸の所に持って行って、抱きしめて。目を瞑ること、数秒。





ヒルダ「――――強く、なりたい」

462Mii:2019/12/14(土) 18:56:37 ID:uGh3sj7.
いつもの、弱弱しい面影は、どこへ行ってしまったのでしょうか。





ヒルダ「――そうだ、私。強く、なりたいんだ」





今度は、更に力強い声。
デイジー姫が、思わず息を呑んでいます。もちろん、私も。
ここまで凛とした顔のヒルダ姫は初めてです。

ヒルダ「ロゼッタの想い…私も、欠片だけでも受け継ぎたい。
     今回のロゼッタは…少しだけ思いきり過ぎたかも、しれないけど。
     私も、ロゼッタみたいに――
     やりたいこと、やらなければならないこと、全力で挑戦できる人になりたい」

私たちの方もじっと眺めて――

ヒルダ「皆さんより遥かに弱い私ですが。現状、足手まといにしか、なっていませんが。
    必死で足掻いて、追い縋りたい。役に立って、喜んでほしい。だから――
    
    お願いします、デイジー姫。あの特訓、続けてください」

デイジー姫が、完全に固まる。まさに窮鼠猫を噛む。

463Mii:2019/12/14(土) 19:04:27 ID:uGh3sj7.
ヒルダ姫が…殻を破って、決意のカタマリになっています。
デイジーは、その目の真意を、十分に感じ取って、ふぅ、とため息をつきました。

デイジー「……やれやれ、まいったなあ。ロゼッタの影響は絶大だね。
     …いや、それも違うか。これは…ヒルダが最初から持ってた芯の強さが
     たまたま…この瞬間、開花しただけだもんね。
     ロゼッタのおかげって言うのはヒルダに失礼千万だ、ごめん。

     ――うん。ロゼッタの療養期間が終わって、それでもまだ
     その意思を貫いてるなら、私は何も言わな――」

ゼルダ「…ちょっと。ヒルダにだけ恰好は付けさせませんよ」

デイジー「…え?」

そんなの、悔しいではないですか。
私にも、響いてきたものは、確かにあるのですから。

ゼルダ「デイジー。私に、ロゼッタの治療法を教えなさい。
    要は、繊細な制御でFPを流し続けてやればよいのでしょう?
    私が面倒を見られるのならば、デイジーの復帰も早くなるでしょうが」

デイジー「え、あの、この治療法は、FPを割と豊富に持ってる私だからこそ
      えいやーって感じで多少のロスを気にせずできる荒技で…
      だいいち、私ならではの感覚的な表現でしか教えられないよ…?」

ゼルダ「…フン。私の魔法技術の真髄、舐めていますね?
     ロゼッタほどではありませんが、その程度の制御、手に負えないとでも?
     3日で…いえ2日で、身に付けて御覧に入れましょう」

464Mii:2019/12/14(土) 19:09:47 ID:uGh3sj7.
意地っ張りと言われようと、どんと来い。臆病者にだけは、なりたくない。
胸底から、熱いものが込み上げてきます。

デイジーは、ぷっと噴き出して、涙をにじませながら笑い出しました。
…私は何も、言いません。

デイジー「…ふふ。わかった。わかったよ。不慮の事故も考えて…
      私の他にもロゼッタを助けられる人は、多いに越したことはない。
      全く――馬鹿で最高な人たちが集まって、私はすっごく嬉しい!」ジワッ


気絶したロゼッタの、手の上に。

デイジーの手が重なり。

意図を察して、更にヒルダ姫の手が。

最後に、私の手が重ねられ。


デイジー「…さあ、ロゼッタのためにも、そして私たち自身のためにもっ!
      まだまだしんどいこと、辛いこと、待ってるだろうけどっ!
      張り切って、頑張ってっ!喜びは分かち合ってっ!
      大団円のハッピーエンドに持ってく。皆、いいねっ!?」

ゼルダ「ええ!」

ヒルダ「はいっ!!」

――こういうのも、悪くない、と思いました。

465Mii:2020/01/22(水) 23:13:14 ID:7yJt226g
…………。

……………………。



ロゼッタ「………………………………」



寝かされた状態のまま…ゆっくり――ゆっくりと、瞼が開かれて行きます。
散漫な動きで隣を見やれば、汗をかきながらも、ほっとした様子のデイジー姫が。
その右手はしっかりと、私の右手を握り締めています。

――温かい。

デイジー「…はい、落ち着いてね、今度こそ。
      ひとまずはひと段落ついたことに感謝、感謝だよ。
      神さまに御礼でも言わないと、なんてね」

…そう、でした。
私の体調を、必死に保ってくれているの、ですね。
何度も錯乱してしまいましたが、流石に落ち着かざるを得なくなって――
デイジー姫の手のひらを伝って、FPが、穏やかに流されていくのが自覚できました。
流石に…もう、跳ね除けることなどできません。

ただ、希望を持てる状況でないのは事実。
まさか、私の目がそんな特殊な機能を担うようになっていたとは露知らず…。
私がこれまで何百年もかけて積み上げてきた魔法のチカラ…
いったい、どれだけの頑張りを、切磋琢磨を、無駄にしてしまったのでしょうか。

466Mii:2020/01/22(水) 23:16:04 ID:7yJt226g
虚ろな眼差しで、デイジー姫を見やります。

デイジー「…あーあー、また涙ぐんでー。
      まったく、いつまでも年下に慰められるんだからー」ナデナデ

ロゼッタ「…………?」ウルウル



撫でる左手に、不思議とざらざらとした感触。



ロゼッタ「…………あ」ゾッ

デイジー「…………あ、だ、大丈夫だよ!?心配しないで!
      ちょっち、カサブタができてるだけだから!ほら!ほら!
      右手と左手、交代にやってりゃこれ以上は悪化しないから!」ヒラッ

思わず息を呑む。
ヒラヒラと振って見せる左手は、ちょっとどころではなく――
手のひらの面積の半分以上が、赤黒く染まっています。固まっては、いるようですが。
握られている私の手は、特に異常を来していないというのに。

ああ、そういえば、私の両腕の裾が捲られています。
接触箇所を適宜移していくことで、負担を減らしてくれたのでしょう。

467Mii:2020/01/22(水) 23:17:45 ID:7yJt226g
デイジー「…その様子だとバレた、かな。よっ、さすがの洞察力!
      FPを送る分には、私…手のひらしか使える部位が無くて」

ロゼッタ「…重ね重ね、申し訳ございません」

デイジー「べ、別に謝らなくていいってば。
      ロゼッタの向上欲はとっても大事だと私は思うよ、うん」アセアセ

ロゼッタ「せっかく、修業まで付けて頂いているというのに…
     皆さんの時間をますます削ってしまい…」





デイジー「………………………………
      いや、その判断は、ちょいと時期尚早かなー」ニヤッ





突然、デイジー姫が不思議なことを言い出しました。
おもむろに、扉の方を指さします――。



デイジー「……闘志ってさ、案外伝染するみたいだよ」

ロゼッタ「……?」

468Mii:2020/01/22(水) 23:19:38 ID:7yJt226g
デイジー姫に手を預けたまま、仮眠室を出て、フィールドへ。



ロゼッタ「……!?」

失礼ですが、思わず目を瞬かせてしまいました。



ゼルダ「今の踏み込み、中々良かったですよっ!そのまま懐に飛び込んで、
    私に1発でも浴びせて御覧なさい!」



ズバッ!ズバッ!ズババババッ――!!
口ではそう言いつつも、余裕綽々な様子で、かといって手を抜いているわけでなく。
次々と繰り出されるディンの炎で、追い込む、追い込む。



そんな、真剣な面持ちでビシッと構えるゼルダ姫と対峙するは。



ヒルダ「はあっ!はあっ!はあっ!――――――――
    もちろん、やってみせようでは、ありません、かっ!!」

ぜぇぜぇと肩で激しく息をしながらも、今までで最高の闘志を燃やしているらしい、
ヒルダ姫だったのです。

469Mii:2020/01/22(水) 23:22:07 ID:7yJt226g
ヒルダ「ファントム・ユガ!『ファイアロッド』で迎撃っ!」

ファントム・ユガ「DAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」ブンッ!!

ファントム・ユガさんがどこからともなくフッと取り出したるや、
前回の槍ではなく、赤々とした炎を纏う杖。

ゼルダ姫が操り、ユラユラと上下に揺れながら迫り来る炎の球を、
危なっかしい所はちょっとありますが…一つ一つ、なんとか撃ち落としていきます。
激しい炎の弾幕戦となりました…!

状況が悪いのは、もちろんヒルダ姫のほう。
ゼルダ姫がさほど苦も無くディンの炎を連発してのけるのに対し、
青白い顔のヒルダ姫は苦悶の表情。明らかに魔法の限界出力のようです。

ゼルダ姫の猛攻に対抗できず、ジリ貧。違いは倒される時期が早いか遅いか、のみ。
その事実自体は、ちょっと前の、デイジー姫が居ない3人での特訓中にて
さんざん目にしてきた、分かりきっていた事実、なのですが――

ヒルダ「…………っ!」ギリッ

ヒルダ姫が、唇を強く噛みしめ、顎に血を伝わせ始めました。
爆発音があちこちで響く中、それでもヒルダ姫は、体を震わせながら――――

ヒルダ「……負け、ないっ!!」カッ!

一瞬後ろに倒れかけたのは気のせいでしょうか、ものの見事に持ち直しました。
ゼルダ姫を見据えて、強い眼光とともに、すっくと立っています……!
以前の弱気な姿勢が、まるで影も形もありません…!

470Mii:2020/01/22(水) 23:25:13 ID:7yJt226g
ゼルダ「…ふっ」ダッ!

ここで、ゼルダ姫が魔法行使を突如として破棄。走り出し、接近戦を仕掛けました。

私の視点からはそれがわかりましたが、あちこちの爆風の隠れ蓑になったうえに
疲労困憊も祟っているヒルダ姫。気付くのが遅れてしまいました。

そもそもからして、2人の基礎体力差は、魔法の腕の差以上に開いているのです。
デイジー姫ほどではありませんが、ゼルダ姫の高速ムーブ。
ヒルダ姫が対抗できるわけがありません!

ゼルダ姫の突撃を視界に入れて目を見開いた時には、時すでに遅し。



ゼルダ「マジカルカッターッ!」ブンッ!!

手加減されたとはいえ、手刀を腹部に激しく受け、ヒルダ姫の体が吹き飛びます。



ゴロゴロと地面を転がり、そのままピクリとも動かなく――
あ、いえ!一つ咳をして、赤い物を吐き出して…のそりと、立ち上がろうとしています!
ダメージは大きいらしく、両手を地に着いたまま、中々体を持ちあげられませんが、
ゼルダ姫がその場から動かず様子を伺うなか…15秒ほどして、ようやく立ち上がりました。

私の思考回路が死の概念を軽んじるようになったという噂もありますが、
死と隣り合わせの背水の陣状態で戦う人を逞しい、格好いいと思う心は、忘れるはずもない。

471Mii:2020/01/22(水) 23:26:41 ID:7yJt226g
ゼルダ「……ユガも消えてしまったみたいですが、まだ続けるのですね?」

ヒルダ姫が満身創痍ながら血を拭って、無言で頷いて…試合、再開、となりました。
容赦なく、ふたたびゼルダ姫が、ヒルダ姫のもとへ駆けて行きます!

…ああ、残念ながら。
ヒルダ姫は最後の力で立っているのがやっとなのでしょうか、動くことができません。



あと10メートル。ゼルダ姫が、優雅に颯爽と接近を続けています。

あと5メートル。投げ出してしまったのか、ヒルダ姫が、ぶらんと手を前に出しました。

あと2メートル。おもむろに、ヒルダ姫が微笑みます。



ゼルダ「クイックパームショッ――」

デイジー「あ」

そして―――――――――!

472Mii:2020/01/22(水) 23:28:53 ID:7yJt226g
ヒルダ「――」サッ



……ファントムユガさんが死角であるヒルダ姫の陰からぬらりと再出現して。
長い手をすうっと伸ばして、ヒルダ姫の手の上に バクダン 置いて行きました。



ゼルダ「」ガツンッ

ヒルダ(ニコッ)



ドッカアアアアアアアアアアアンン!!!

ロゼッタ「」

デイジー「飛び出した ゼルダは急に 止まれないぃ!!」

473Mii:2020/01/22(水) 23:30:48 ID:7yJt226g
ロゼッタ「…ハッ!ヒルダ姫ぇっ!何をやっているのですかっ!
     大丈夫ですか、わ、わ、わわわ…………!!」

デイジー姫と連れ立って、慌てて駆け寄ります。
爆発が晴れていき…絶命したヒルダ姫が映り込んできました。

ヒルダ「」チーン

ロゼッタ「嫌っ、完全にボロ雑巾状態になってるじゃないですか!?」

デイジー「私、ロゼッタの言い方も中々酷いと思う」



見ていられない状態のヒルダ姫の体が光り輝き、息を吹き返します。
ああ、本当によかった…。

ヒルダ姫は、復活したと同時に、復活に伴う絶望の副作用といいますか、
えづいて胃液を吐き出していますが。

ヒルダ「…あ、ロゼッ…タ。ゴホッ……。
    でき…れば、幻滅しないで、いただける、と、助かります。
    ちょ…っと、周りに配慮、する、余力が、ない、ので……
    事前に、胃の中、空っぽにして、おく、くらいしか、できませ、ん、でした」

ロゼッタ「そのあたりは私も通った道なので全然気にしないです」トオイメ

ヒルダ「…………………………そ、そうですか」タラリ

474Mii:2020/01/22(水) 23:34:28 ID:7yJt226g
ロゼッタ「吐血でも嘔吐でも幾らでもすればよいのですよ。
     その数だけ私たちはきっと強くなれるのですから」

デイジー「いっぱしのレディが何て汚い話をしとるねん」バシーンッ

ロゼッタ「きゃああああああっ!ハリセンは痛いですっ!?
      でもFP供給側の手はそのままでいてくれてありがとうございますっ!」ガンッ

意志は強くとも、死の恐怖に慣れた訳ではさらさらないヒルダ姫。
まだガクガクと震えているところを、そっと背中を撫でてあげました。
ヒルダ姫は、片手を自分の胸に押し当て、落ち着こう落ち着こうとしています。

ヒルダ「…今の戦い、見ていたのですね。我ながら、無茶をしたとは思いますが。
    こうでもしなければ、ゼルダ姫に、一矢、報いることすらできませんでしたから」

ゼルダ「…ええ。これ以上はないというくらいの仕掛け方でしたね。
    もしかして、一度ファントム・ユガが消えたのも、ワザとだったのでは?
    本当にヒルダ姫は逞しくなりました。私もうかうかしていられませんね。
    …はい、とりあえず水を飲んで、体を落ち着かせてください」

慈しみの顔を向けてくるゼルダ姫から水の入ったコップを受け取り、
手先を震えさせながらも、どうにかこうにか、水をこくこくと飲んでいくヒルダ姫。

ヒルダ「……………………ぷはっ。
    ありがとうございました、ゼルダひ――――」

ぴしりと、ヒルダ姫が固まります。
……あれ?何か、おかしいような。あれ?

475Mii:2020/01/22(水) 23:36:51 ID:7yJt226g
ヒルダ「ちょ、ちょっと待ってください。水を持ってきてくれたのは感謝するのですが、
    一体全体、どうして、無傷なんですか!?爆発に巻き込まれたはずじゃ!」

ロゼッタ「あ、そ、そうですよ!」

ゼルダ「あ、も、もちろんダメージを受けましたよ!?
    幸い、水を取りに行くついでに仮眠室でちょっとつまみ食いして
    体力を回復してきたもので――」



デイジー「嘘つけぃ。バクダンに気付いた瞬間、咄嗟にフロルの風で急上昇して
      爆発から逃れてたよー?私の目は見逃せないぞー。
      
      ヒルダの自爆戦法の狙いはバッチリだったけど
      結果的には地力の差で覆されて大失敗だったってことだよ」ケラケラ

ゼルダ「シィーーーーーーッ!」
     
ヒルダ「」ガーン

ロゼッタ「やるせないです」

476Mii:2020/01/22(水) 23:39:13 ID:7yJt226g
ゼルダ「あの、その、ヒルダ姫!そんなに気を落とさないでください。
    結構ひやっとしたんですから」

ヒルダ「…………」グズッ

ゼルダ「…………」ダラダラ

ヒルダ「……もう一回」

ゼルダ「…………え」

ヒルダ「もう一回、ですっ!」

ゼルダ「む、無茶です!今日だけでどれだけ貴方の戦闘力の極限スレスレを進んでいるか、
     分からないわけではないでしょう?」

ヒルダ「でも……うっ」フラッ

デイジー「はーい、すとーっぷ。精神保全、精神保全―。
      悔しい気持ちは痛いほど分かるけど、とりあえず落ち着こうか。
      大丈夫大丈夫、今日だけでかなりの経験値は稼げてると思うから。

      いやあ、でも上出来上出来!
      ここまでヒルダ姫が頑張ってる姿見て、どう!?ロゼッタ!
      これも、ぜーんぶ、ロゼッタの熱意の賜物だよっ!!」バッ



慌てて、ヒルダ姫が私の方を向いて、申し訳なさそうに目を伏せます。

477Mii:2020/01/22(水) 23:41:05 ID:7yJt226g
ヒルダ「…ど、どうでしょうか。ロゼッタ…。
    わ、私も、少しは、貴方みたいに勇気を出してみたので――」

ロゼッタ「……………………すごい、ですね、ヒルダ姫。
     それに比べて、私ときたら、本当に、どうしようもありません…」

ヒルダ「!?」

ゼルダ「」

ロゼッタ「くっ…ぐずっ…」ポロポロ

デイジー「あっれれー?おかしいぞー?ここはロゼッタが
      『私の行動に無駄なんてなかったんだ、皆さんをサポートできてたんだ!
      自信が出てきました、気を取り直して頑張りましょう!』
      ってモチベーションを上げまくる段取りだったんだけどなー?
      おーい、誰だ台本書き換えた奴〜!」

478Mii:2020/01/22(水) 23:44:46 ID:7yJt226g
どたばた。じたばた。どんがらがっしゃん!

〜フィールド、ど真ん中〜

チコ「シート、敷き詰め、おっけー!ごはんにデザート、オールグリーン!」ヨイショ

チコ「パーティの準備、いいよおー!」ビシッ

チコ「お待たせ―!」ワー

デイジー「…と、いうわけでぇ!一旦特訓は中止しましてぇ!
     さあさあ皆の者、座った座った!祭だ宴だ宴会だ!

     第一回、ロゼッタを励まして励まして励ましつくす会を始めたいと思います!
     盛り上げて参りましょう!おー!」

ゼルダ「いい趣ですね、誠に」

ヒルダ「ロゼッタのためですから!」



ロゼッタ「…………はあ」ドンヨリ

やる気:絶不調



デイジー「よ、よーし。とりあえず、食べて飲んでスカッとしようじゃないか!」

479Mii:2020/01/22(水) 23:47:40 ID:7yJt226g
ゼルダ「…とは言っても、宴の酒があるわけではないですが…残念です」

デイジー「…………う、ぐ。牛乳ってのも、ちょっと…………………ぐ、ぐ、ぐ。
     …………ったく、しょうがないなあ!特別の特別だからねっ!」

デイジー姫が、頭を掻き毟って、ちょっとの間FPの治療行為をゼルダ姫に任せ…
自分の鞄から、何かの瓶を取り出してきました。

…あ、この僅かな時間でも、治療に慣れないゼルダ姫は額に汗を垂らしています。
かなりデリケートな治療、ですよね…。
もっさり動くことしかできない今の私は、頼り切ることしかできません。
ただ、腕を握られるに任せている、なんとも情けない状況です。

ヒルダ「…お酒、ですか?わざわざ持参されていたのですか?」

デイジー「秘蔵の、ね。ようやく確保できたもんで、こっそり持ってきてたの。
      そんじょそこらの酒とは比べ物にならないんだから!
      注ぐ器が何の変哲もない唯のコップなのは勘弁してほしいけど…はいっ!」スッ

4つのコップに、桃色の澄んだ液体が静かに注がれていきます。
…20mlずつ、くらいでしょうか。オーバーなくらい、慎重に、慎重に注いでいます。

ゼルダ「…勿体ぶる、といいますか。流石にケチ臭くはないですか?
    飲み応えのためにはもっと――」

ゼルダ姫が揺らすグラス…いえコップの中で、「それ」はゆらりと波打ちます。
ほのかに香る桃の香り。一瞬、ゼルダ姫がビクッと固まりました。…気のせいでしょうか。

ゼルダ(……まさか、ね)

480Mii:2020/01/22(水) 23:50:23 ID:7yJt226g
デイジー「ととととんでもない!?そんなことできるわけないから!
     言っちゃ悪いけど、本当はみんなに振る舞うつもりもなかったんだからね!?
     ロゼッタに免じての大、大、大サービスだよ!?
    
     あ、みんな、お酒大丈夫?無理だったら即刻返してね!勿体ないからっ!!
     私が責任もって飲むっきゃない!」

ヒルダ「よくわかりかねますが……?やっぱり、欲張ってますか…?」

ゼルダ「…………この香り、どこか、で……………いえ、まさか…」ブンブン
    


皆さんがあれやこれや話す中、私はじっと、コップの中を見つめていました。
とても――とても、綺麗な色をしています。少しは、心が洗い流されていくような。



デイジー「とりあえず、かんぱーい!」

私の隣に、しっかりスタンバイしているデイジー姫。
私の左手と彼女の右手はFPの流れのために、仲よしこよしで繋がれていますが、
ぎこちないながらもコップを打ち付け合って。

481Mii:2020/01/22(水) 23:53:53 ID:7yJt226g
そういえば、お酒、ですか。

日頃嗜むわけでもなく、最後に飲んだのはクッパの誕生パーティまで遡ります。
…デイジー姫のご厚意に応えられるだけの味の理解ができるでしょうか。
心配になってきました。

ふと周りをみれば、みなさん、私がます口を付けるのを待っています。
…わかりました、それならば甘えることに致しましょう。


ロゼッタ「では……」

すこぉしの緊張のあと、コップを、すっと、傾けました。


















482Mii:2020/01/22(水) 23:55:32 ID:7yJt226g














「――――」

ロゼッタ(…………)

デイジー「…………おーい、ロゼッタぁー?」ユサユサ

ロゼッタ「……!?」ビクッ

ロゼッタ「……え?え?あれ?」



――意識が、ぷっつり、飛んでいました。
――コップを持っていた手すら力が抜けてしまい、危うく落とすところ。
――いえ、正確には「落とした」のですが、咄嗟にデイジー姫がキャッチしています。

483Mii:2020/01/22(水) 23:58:42 ID:7yJt226g
デイジー「…ま、初めて飲んだら大抵はそうなるだろーね、くふふ」

してやったり、とデイジー姫は愉快そう。
しかし、そんな些細な事、気にしてはいられません。



駆け抜けた感覚に、しどろもどろ。



ロゼッタ「強すぎない、弱すぎない桃の味わいの主張。
     甘く、フルーティで、かといって甘ったるい卑な味でなく。
     香りの上品さ、喉を通るときのたちどころなく消えていく滑らかさ。
     自然の豊かさ、大地の芽吹きを感じさせる――」



――普通、お酒は飲む人を選ぶといいますが…
――このお酒を嫌う人は、おそらく一人たりともいないでしょう。
――そう。まさに……絶品酒…!

484Mii:2020/01/23(木) 00:04:01 ID:TcZRYjW2
ヒルダ姫が、ほわほわぁと気持ちよさそうに、飲んだ後の余韻に浸っています。
……そして、ゼルダ姫は、というと。

ゼルダ「――っ!ま、まさか、本当に――っ!」ワナワナ

優雅に飲み干した後、プルプル震えて、必死に答えを導き出そうとしています。
おや、味に覚えがあるのでしょうか。

ほどなく、ダンッとコップをシートに叩きつけたあと、デイジー姫に詰め寄りました。
コップさんは殉職なされました。おいたわしや。

ゼルダ「デイジー!よもや、こちらの酒は――
    いえっ、しらばっくれるつもりでしょうが…瓶を改めさせてくださいっ!!」ガバッ

デイジー「ぬわああああああ!?しまったぁ!?無駄に舌が肥えてるぞこの人っ!?」

デイジー姫、私から離れられないせいで、妨害行動が遅れてしまいました。
そして――



ゼルダ「……やはり、思い違いでは、なかった…!

     『神酒 桃葵の誓い』――っ!

     再びお目にかかるとはっ!なんたる幸運でしょう…!!」

上気したゼルダ姫が、瓶から一切目を離さないまま、思わず唸ります。

485Mii:2020/01/23(木) 00:07:13 ID:TcZRYjW2
ヒルダ「…神酒?神前にお供えされた有難いお酒、ということですか?」

ゼルダ「い、いえ。それどころではありません!    

    キノコ王国が完全管理する桃果樹園で熟成製造されると聞き及んでおりますが、
    極限の品質を突き詰めた結果、とにもかくにも稀少な果実酒で…
    ピーチが言うには、1年間でせいぜい2, 3リットル程度しか流通させられない、とか…!

    以前、ピーチの誕生祭に呼ばれた時に戴く機会が有りましたが…
    その時は大変恥ずかしながら、余りの味わいに数十秒のあいだ前後不覚になるほどで…!
    しかし、たった今、確信が持てました…!あの時の神酒だと!

    い、一説には、この1リットル瓶1本で小国の国家予算程度は吹き飛ぶ時価が付く、と…!」ブルブル

ヒルダ「!?」

ロゼッタ「!?」

デイジー「無駄に知識オタクだぞこの人!
      知ってくれてるのは嬉しいと言えば嬉しいけど!?」

486Mii:2020/01/23(木) 00:09:37 ID:TcZRYjW2
ゼルダ「それもそのはず。何百年もの歴史を持つ果樹園で、
     製造者たちは最高の桃を求め、最高の水を求め、最高の酵母を求め…
     はたまた、副材料、熟成温度、湿度、ガス雰囲気、時間、撹拌具合、などなど。

     更に、科学的見地だけでは飽き足らず、魔力泉に樽を導いたり、
     祈祷魔法で神秘性を高めたり、浄化の光を浴びせたり、と構成要素は尽きず。
     心身が喝采を浴びせる、最適解となる条件のプロットを叩き出すために
     先駆者の多くが言葉通り命懸けだったと聞きます…」

ヒルダ「素晴らしいです…!その結果が、このお酒の出来栄えということなのですね!」

ゼルダ「ところが…そう、単純な話で、終わってくれないのですよ」

ヒルダ「…え?」ズルッ



ゼルダ「ズバリ、最後に必要なのは、 運  です。
    悲しいことに、最適解条件を割り出せても、不確定要素が多すぎて、
    作ってからでないと、条件が合っていたかどうか分からないそうです…

    精密機器を活用できる今ですら、ある程度の所まで絞ることしかできません。
    特に神秘性の充填などの話になると、数値測定すら困難ですから」

ロゼッタ「」

487Mii:2020/01/23(木) 00:13:37 ID:TcZRYjW2
デイジー「憎たらしいほど理解してるね!ったくー、ばれてしまっては仕方がないなあ。
      製造の一部に関与するサラサ・ランドのお姫様として、
      このお酒の製造法、お伝えしまーす!括弧、ピーチ談、括弧閉じ!

     合ってるかな?かな?っていう条件を積み立てまくって、
     合計で1万キロリットルくらいの果実酒を作りまーす!
     でもでも、10リットル単位でわざわざ樽を独立させて、
     樽を全部で…ええっと…のべ100万本準備しないといけませーん!」

ロゼッタ「」

デイジー「熟成が終わったら、キノコ王国のスキャン技術で
     お酒の内部成分をしかと読み取りまーす!
     それぞれの…独立しこー?により、1樽か2樽くらい、
     全ての条件が超パーフェクトなお酒ができあがりまーす!
     でも運が悪くて1樽もできない年だってありまーす!

     まあ、できあがった樽があったとして、それにペタッと『神酒』の札を付けて、
     ピーチ直々に固定化の魔法かけて、はい完成!
     残りの99万9998樽くらいは、大衆向けに通常価格で
     売り出しまーす!妥協なんてものはありませーん!
     
     だから、これは神に祀られた有難いお酒じゃなくて…
     神に愛されて豪運を勝ち取った野生6Vのお酒ってことだよ。了解?」

ヒルダ「例えが全くもって意味不明ですが、ものすごいということは分かります」

488Mii:2020/01/23(木) 00:18:03 ID:TcZRYjW2
デイジー「結局、キノコ王国の桃と、サラサ・ランドの向日葵が熟成過程で
     絶妙なハーモニーを醸し出す意外なベストパートナーになることが判明してね。

     両国間に友好条約が結ばれてからと言うもの、
     ピーチも私も製造者たちをバックアップして、1樽か2樽製造して…
     王国で買い上げて、仲良く半分こして、流通…流通?させてるわけだよ」

ゼルダ「…2樽できた年ですら、デイジーに渡るのは1樽、つまり10リットルだけですよね…。
    この1リットル瓶、たったの10本…」ゴクリ

デイジー「ノンノン、『サラサ・ランドに渡る』のが10本ね。更に減ってくよー?
     国民栄誉の頂に登りつめた人に贈呈したり、お祭りごとで少しずつ開放したり。
     外交の持て成しに重宝するし、富くじの特等の景品にもなってたっけ。
     …富くじの場合、ときたま殺傷沙汰になるんだよな…。

     誰もが一口飲むことを切望し、一度飲んだら忘れられず、
     また飲みたくなるお酒だからね」

ロゼッタ「それだけ聞くと危ない薬みたいですね…」

デイジー「失礼なっ!?…ま、とにかく。
      最終的にまともに売られるのが2, 3リットルになるわけだよ。超高いけど。
      …で、これは私の立場で特別に取り分けてもらってる1本ってわけ」



売ったとしたら、紅茶がいーっぱい買えそうですね。


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