したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |
レス数が900を超えています。1000を超えると投稿できなくなるよ。

少女「私を忘れないで」

1 ◆WRZsdTgWUI:2018/02/17(土) 23:13:03 ID:SLrOQBwc
(プロローグ)
〜体育館裏・少女さん〜
男子「少女さん、わざわざ来てくれてありがとう!」

少女「……」

男子「えっと、その……明日から冬休みだね」

少女「そうですね」

男子「それでその……クリスマスの日は予定が開いてますか」

少女「クリスマスの予定?」

男子「は、はいっ!」

少女「ひとつ聞きたいのですけど、あなたと私は今日はじめて会いましたよねえ。それなのに、どうして教えないといけないんですか」

男子「それは少女さんのことが好きだからっ!」

少女「……?!」

男子「文化祭のときに笑っている少女さんを見て可愛いなって思って、それで一緒に話が出来たらいいなってずっと思っていたんです。だから、僕と付き合ってくれませんか!」

791以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/05(水) 21:17:43 ID:8s0i8yO6
ガラララッ・・・
急に浴室のドアが開き、俺は顔を向けた。
すると、そこには髪を束ねた双妹が全裸で立っていた。


双妹「良いよね? 風邪が治ったんだから」


双妹は相変わらず無防備にさらけ出し、恥らう様子もなく入ってきた。
しかし以前とは違って、俺の視線をわずかに意識しているようだ。
それでもいつもの調子で湯舟に浸かり、向かい合って足を伸ばす。


双妹「はああ〜♪ やっぱり、男と一緒のときが一番落ち着くかも//」

男「母さんにあんなことを言われた後なのに、よく入ってこれたなあ」

双妹「あの話とこれは関係ないもん。今は双子の妹として、純粋に男のことが好きなだけだから//」

男「今は妹として純粋に――か」

792以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/05(水) 21:25:43 ID:8s0i8yO6
双妹「もしかして、男は私のこと……異性として意識してくれるの?」


双妹はあまい声で言うと、上目遣いで見詰めてきた。
その視線であの日のことを思い出し、胸がドキリと締め付けられる。


男「そう言う双妹こそ、俺のことを意識してるんだろ」

双妹「ふふっ♪ やっぱり、私たちは同じ気持ちなんだね//」


双妹は頬を緩めてはにかみ、胸を寄せて谷間を強調した。
俺は興奮してきたことを悟られないように、平静を装って視線を逸らす。
もうずっと抜いていないし、このままだとしたくなってしまいそうだ。


双妹「ねえ、男。私とセックスをしたいって思ってるでしょ〜//」

男「何言ってるんだよ。そんな訳ないだろ」

双妹「あそこが大きくなっていること、もうバレバレだよ。この前、少女さんがどうとか言ってたのにね。病み上がりでいっぱい溜まっているなら、私が抜いてあげても良いんだよ//」

793以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/05(水) 21:26:54 ID:8s0i8yO6
双妹はにんまりと笑い、右足を浮かせる。
そして何かをしようとしてバランスを崩し、湯舟の中に滑り込んでしまった。

ゴボッ!
バシャアアンッ・・・

双妹は浴槽の底に沈んでしまい、咄嗟に脚を蹴り上げる。
しかし状況は変わらず、俺の肩に両脚を預けて挟み込んできた。
しかもそのせいで身体を起こすことが出来なくなり、完全にパニック状態に陥っている。

もしかして、これはヤバいんじゃないのか?!

俺は慌てて双妹の脚を左右に開き、両腕を掴んで引っ張り上げた。
すると双妹は無我夢中で俺にしがみついてきて、大きく息を吸うと激しくむせ返った。
俺はそんな双妹をとっさに抱きかかえて、背中をさする。

794以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/05(水) 21:28:50 ID:I7DqvvXw
双妹「げほっげほっげふぉっ……」

双妹「……ん゛っ、んんっ…………オエエェッ…………」

男「大丈夫か?!」

双妹「ぜえぜえ……」

双妹「らい……じょうぶ。ありがと、死ぬかと思った――」

男「ったく、気を付けろよ。マジで死ぬんじゃないかと思って、本気で心配したんだからな! お風呂のお湯、飲んだんじゃないのか?」

双妹「……うん。ちょっと気分が悪い……かも」


双妹は力なく言うと、不安そうに身体を預けてきた。
俺はそんな双妹を優しく抱き締める。
すると双妹が安心したのか、気持ちが和らいでいくのを感じた。
そして、双妹は俺にとってかけがえのない存在だということを改めて実感した。

795以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/05(水) 21:38:15 ID:3wK.qV6I
やがて双妹は俺から離れ、しょんぼりと肩を落とした。
きっとあのとき、双妹は性的に興奮して気持ちが先走り、足を滑らせてしまったのだろう。
しかしそんな感情はお互いに消し飛んでいて、俺は落ち込んでいる双妹に寄り添い肩を並べた。


双妹「冗談のつもりだったんだけど、ごめんなさい」

男「いいって、俺も悪いし」

双妹「それは気にしないで。あれで何もなかったら、逆に心配しちゃうから。私は男が元気になってくれるとうれしいよ//」

男「そういう所が普通の兄妹とは違うんだろうな」

双妹「そうかもしれないけど、私はね、兄妹の在り方にもいろんな形があっても良いと思うの」

男「ああ、それは俺も分かってる。だけど、それが望まれない形だということも分かっているんだろ」

双妹「……うん」

男「まあ、俺たちが一緒にいることに、そんな理屈は関係無いんだけどな」

796以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/05(水) 21:41:21 ID:8s0i8yO6
双妹「あのね、私たちってさあ、もし双子の兄妹じゃなかったらどうなっていたんだろうね」

男「その場合は受精卵がクラインフェルター症候群のままだから、染色体異常で妊娠せずに化学流産になる可能性が高いんじゃないかなあ」

双妹「……」

双妹「うん、そうだよね。私たちが生まれてきたのは奇跡だもんね」

男「そう考えると、俺たちは奇跡的な確率で出会った人たちに支えられているってことになるんだよな」


その人たちの中には、俺と双妹が二卵性双生児だと判定されたままならば出会っていなかった人や違う人生を歩むことになっていた人がいるのだろう。
例えば、大学病院の看護師さんや友香さんのように。
そう考えると、出会いは大切にしないといけないなと実感させられる。

797以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/05(水) 21:42:32 ID:3wK.qV6I
双妹「ねえ、男。少女さんにも生前、支えあっていた人がいるはずだよねえ」

男「俺もそのことは考えてた」

双妹「私、ふと気になったんだけど、男は少女さんと同じクラスだったのに、未だに少女さんが死んだことを知らせる電話が掛かって来ていないでしょ。それって、おかしいと思わない?」

男「俺たちはお線香をあげに行ったんだから、電話が掛かって来ないのは当たり前だろ」

双妹「そうかもしれないけど、もしかしたら誰にも連絡してないんじゃないかなあ。私はクラスのみんなに教えてあげたほうが良いと思うんだけど」


言われてみれば、少女さんの友達は中学校の同級生の中にもいるはずだ。
学校が変わって会えなくなったとしても卒業するまで同じ教室で勉強してきた仲間なんだから、みんなに少女さんが死んだことを知らせることは生きた証を探すことにつながるかもしれない。

798以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/05(水) 21:45:08 ID:I7DqvvXw
男「いいな、それっ! だけど、少女さんのお葬式は家族だけでしたんだろ。俺たちがそんな事をしたら迷惑になるんじゃないのか」

双妹「それはそうなんだけど、少女さんの意向に沿うことが一番大切だと思うの。私たちは、あくまでも友達と情報を共有するだけ……だよ」

男「そういうことなら、まずは明日、少女さんに話してみるよ」

双妹「うん、それが良いと思う」

男「ところで、双妹は少女さんと上手くいったのか? 話しぶりを見ていたら、そう悪くないような気がするんだけど」

双妹「まあ良くも悪くも、それなりの形で収まったんじゃないかなあ」

男「そっか、ありがとう」

双妹「それでね、少女さんが言ってたの」

男「言ってたって、何を?」

双妹「私たちの恋愛はマイノリティーだから立ち止まるわけにはいかないんです、って」

男「立ち止まるわけにはいかない――か」

双妹「うん。だからね、私も私の気持ちを誤魔化さない。絶対に好きを諦めないから!」

男「そうだな。俺も双妹の気持ちを大切にしたいと思う」

799以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/05(水) 22:04:45 ID:8s0i8yO6
双妹「それじゃあさあ、久しぶりに洗いっこをしようよ。泡あわでいっぱい気持ちよくしてあげるから//」

男「いいけど、立ち上がるときに滑るなよ」

双妹「もう滑らないもん!」


俺は双妹と洗い場に移動し、風呂椅子に腰を下ろした。
そしてスポンジが背中に触れると、浴室にボディーソープの香りが広がった。
ふわふわの泡に包まれ、双妹と過ごす心地いい時間が流れていく。


双妹「ねえ、男。これからもずっと二人で一緒にいようね」

男「そんなの、当たり前だろ」

双妹「うん、そうだよね//」

800以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:26:18 ID:jSYgWU/.
おつ

801以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/12(水) 20:51:29 ID:MiqjNRBE
(3月16日)wed
〜最寄り駅〜
インフルエンザの出席停止期間が終わり、ようやく学校に行けるようになった。
朝ご飯を食べて、双妹と二人で家を出る。
そして最寄り駅に着き、ホームで電車を待つ。

この1週間で多くのことが変わった。
少女さんは友香さんと学校に行くようになり、俺たちと一緒に通学していた友は自転車通学に戻っている。
街路樹の雪吊りも取り外されて、街並みが春らしくなっていた。


男「何だかすごく緊張してきた」

双妹「少女さんに会うのは放課後でしょ。まだ朝なんだけど……」

男「それは分かっているけど、大丈夫なんだよな?」

双妹「男を諦めるつもりはないって言ってたから、大丈夫だと思う。それに彼女はもともと憑依霊だし、何があっても男と別れるなんて決断をすることは出来ないんじゃないかなあ」

男「大丈夫なら良いんだけど、それは少し言いすぎじゃないか?」

双妹「……ごめん」

男「とりあえず、正直な気持ちを伝えてくるよ」

802以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/12(水) 20:52:42 ID:2YpJTCAA
双妹「それはそうと、ブレスレットは持ってきた?」

男「ああ、持ってきた」


俺はそう言って、ポケットに双妹のブレスレットが入っていることを確かめた。
これは双妹の魂の力を利用して作った霊具なので、一卵性双生児の俺ならば少女さんの姿を見ることが出来るようになるはずだ。
確証はないけど、そんな気がする。


双妹「昨日も言ったけど、効果が持続するのは3週間だから、少女さんが成仏するまで大丈夫だと思う」

男「成仏するまで大丈夫……か」

双妹「……うん」

男「まあ、今は出来ることをするしかないな」

803以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/12(水) 20:53:43 ID:2YpJTCAA
〜神社・放課後〜
放課後になり、俺は友の家の神社に向かった。
双妹のブレスレットを着けて準備し、鳥居をくぐる。
そして境内に入ると、授与所にいた巫女さんに声を掛けられた。


巫女「こんにちは」

男「こんにちは。少女さんはいますか」

巫女「まだ学校から帰って来ていないです。中で待たれますか?」

男「はい」

巫女「それではこちらにどうぞ」


巫女さんはそう言うと、授与所から出てきて歩き始めた。
俺もそれに並んで境内を歩く。

804以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/12(水) 20:56:22 ID:2YpJTCAA
巫女「そういえば、風邪はもう大丈夫なんですか?」

男「はい、もう治りました」

巫女「ふふっ、良かったです。霊障の影響もほとんど残っていないみたいだし、かなり安心しました」

男「霊障って、そんなに怖いんですか?」

巫女「んー、怖いですよ。厳密に言うと少女さんも憑依霊だから同じなんだけど、霊障は精神に作用して心と体を蝕んで行きますから」

男「そうなんですね……。祓ってくれて、ありがとうございました」

巫女「いえいえ、今後も気をつけてくださいね」


巫女さんはにこりと笑い、社務所の中に入っていった。
そして奥の部屋に案内され、緊張した面持ちで少女さんの部屋に入る。


巫女「それでは、こちらでお待ちください。後ほど、お茶をお持ちします」


巫女さんはそう言って部屋を出ると、しばらくして棒茶と和菓子を持ってきてくれた。
棒茶の香ばしい香りが湯気に乗って部屋に広がり、何だかほっとさせられる。
俺は礼を言い、和菓子を食べることにした。

805以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/12(水) 20:58:27 ID:fgEfpxqI
それからどれほど時間が過ぎたのか、障子の向こう側から人の気配を感じた。
その瞬間、障子をすうっとすり抜けて少女さんが入ってきた。
彼女は北倉高校指定の冬コートを着ていて、その姿が霊感のない俺でもはっきりと見ることが出来ている。
やはり、双妹のブレスレットは俺にも効果があったようだ。


少女「……」

少女「…………」

男「少女さん、おかえり」

少女「……えっ? た、ただいま……」

少女「もしかして、私のことが見えているんですか!?」

男「……うん」


俺は小さく頷き、右手の袖をまくった。


少女「ああ、そっか……」

少女「双妹さんのブレスレットを借りたんですね」

806以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/12(水) 21:01:31 ID:MiqjNRBE
少女「それで、今日はどうしてここに来たんですか?」

男「この前のことなんだけど、少女さんと付き合っているのに双妹に手を出してしまって、本当にごめんなさいっ!」


俺は床に両手を付き、頭を深く下げた。
集団パニックで憑依霊に取り憑かれたクラスのみんなは、悪霊のせいにせずに謝罪してくれた。
だから、俺も真摯な態度で少女さんと向き合いたい。


少女「男くん、頭を上げてください」


そう言われ、俺はゆっくりと頭を上げた。
そして少女さんの顔を見ると、冷たい視線が向けられた。


少女「あのとき、男くんと双妹さんは少年くんに憑依されていました。だけど、したくないことは出来ないはずですよね。男くんは避妊さえすれば、兄妹でセックスをしても構わないと考えているんですか」

男「それはまあ……そう思っているけど、俺たちはまだセックスをしたことはないから。それだけは信じて欲しい」

807以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/12(水) 21:03:51 ID:fgEfpxqI
少女「信じて欲しいって簡単に言うけど、男くんと双妹さんは一緒にお風呂に入るくらい仲が良いんですよ。お互いにセックスをしてみたいという気持ちがあったのなら、好奇心で最後までしたことがあるんじゃないんですか」

男「最後まで……」

少女「はい、最後までです」

男「セックスはしていないけど、ときどきその……双妹に抜いてもらったりしています」

少女「ときどきって、兄妹なのに?」


俺はただ無言で小さく頷いた。
すると、少女さんは重いため息を漏らした。


少女「大学病院での1回だけだったのならともかく、何度もえっちな事をしていたのなら、それはたとえ挿入していなかったとしても近親相姦になると思います。嘘でもいいから、『そんなことをする訳ないだろ』って否定して欲しかったな」

男「少女さん、ごめん……。俺は少女さんに嘘を吐いて誤魔化したくなかったんだ!」

808以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/12(水) 21:06:30 ID:2YpJTCAA
少女「その気持ちはうれしいです。だけど、双妹さんは双子の妹なんだよ。ときには嘘を吐いて隠し通すことも必要だと思います。兄妹で日常的にセックスをしていると知られてしまうと、きっと大切な人を失うことになりますよ」

少女「まあ普通は彼氏の妹を疑ったりしないので、こんな話をすることになった時点でお仕舞いでしょうけどね」

男「そうだよな。赦してもらえるはずがない……よな」

少女「当たり前じゃないですか!」

少女「男くんは以前、『異性一卵性双生児は世界中に俺と双妹しかいないから、この感覚は誰にも分からない』って言ってましたよねえ。はっきり言って、兄妹でセックスをすることが普通の感覚だなんて、私は分かりたくもありません」

少女「そもそも、私と双妹さん。どっちが好きなんですか?!」

男「それは――」


少女さんのことはともかく、双妹のことはかけがえのない存在だと思っている。
どっちが好きだとか、比べるようなことは出来ない。

809以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/12(水) 21:16:37 ID:G2DYKtto
少女「……はあっ。すぐに答えることが出来ないんですね」

男「ごめん。でも、そんな質問に答えられるわけがないだろ」

少女「それは私も分かっています。だけど、男くんと双妹さんには性的な関係があるんだよ。兄妹なのに、どうして思いとどまることが出来なかったの?!」

男「それこそ、この感覚は誰にも分からないと思う」

男「俺にとって双妹はかけがえのない存在で、あのとき初めて見た双妹の表情がとても大切なものに思えたんだ。それは双妹も同じで、俺たちはお互いのことをもっと知りたくて、もっと大切に想いたくて――」

男「でも中学生だったし、そういうことは責任を持てるようになってからじゃないと駄目だっていう気持ちはあったんだけど、お互いに触れ合うと言い知れない感情が込み上げてきて、双妹と『ひとつ』になっている心地よさがあったんだ」

男「だから、俺と双妹は――」

少女「もういいです! 双妹さんのことが誰よりも大切だってことは、よく分かりました。そんなときに私をスキー実習で見かけて、双妹さんよりも好きになったりするものなんですか?!」


少女さんは厳しい口調で言うと、試すような視線を向けてきた。
あのとき、俺は本当に少女さんのことを可憐に感じて話をしたいと思っていた。
その気持ちに嘘はない。

810以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/12(水) 21:40:41 ID:2YpJTCAA
男「信じてもらえないかもしれないけど、あのとき少女さんのことを本気で好きだった。だから、双妹も告白に協力してくれたんだ」

少女「……」

少女「私はそれが腑に落ちないんです。お互いに大好きで性欲を満たしあっていた男くんと双妹さんが、どうして私や同級生の男子に興味を持つことになったんですか? 普通はそれが正常なのに、どうしても違和感があるんです」

男「やっぱり、俺たちはもうだめ……なのかなあ」

少女「そうですね。男くんと双妹さんの関係は普通ではないと思うし、実の妹が浮気相手になりうると分かった今、交際を続けることなんて出来ないです。だけど、別れるかどうかは保留にしたいと思います」

男「どうして……」

少女「本来なら今すぐ別れるべきなんだけど、それとは別にちょっと気になっていることがあるからです」

少女「だから、この前のことは特別に赦してあげようかと思います」

男「少女さん……ありがとう…………」

少女「何と言うか、男くんと双妹さんは異性一卵性双生児で学術的な研究に協力していたり、普通の兄妹とは違って、あまりにも育ってきた環境が特殊すぎたのかもしれないですね」

811以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/13(木) 21:54:55 ID:ITmjCbWc
少女「それはそうと、男くんの看病に一度も行けなくてごめんなさい。すっかり元気になったみたいで、本当に良かったです」


少女さんは話題を変えて、努めて明るい笑顔を見せてくれた。
完全に赦してくれた訳ではないだろうけど、俺もそれに合わせていつも通りに振る舞うことにした。


男「えっと……その、少女さんも学校に行けるようになって、本当に良かったよ。久し振りに行ってみて、どうだった?」

少女「そうですねえ、学校はすごく楽しいです」

少女「看護関係の授業は大変だけど好きだし、友達のおしゃべりを聞きながら過ごすのも楽しいし、みんなと同じ時間を共有していることがすごく幸せです」

男「それじゃあ、生きた証はもう見付かった感じ?」

少女「そう言われるとピンと来ないけど、学校が私にとって大切な場所だということは実感することが出来ました。私は死んでしまったけど、みんなの心の中で私の夢と目標が繋がっているんです」

812以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/13(木) 23:20:04 ID:kt7grWkk
男「そっか。でも、学校に行っても生きた証は見付からなかったんだ」

少女「それはそうだけど、私は本当に学校が好きですから」

男「いや、好きとか嫌いじゃなくて、ほらっ、生きた証は少女さんの人生観そのものだろ。だから、少女さんの想いがみんなに繋がっていると実感することが大切だと思うんだ。もしかすると、まだ何かが足りないのかもしれない」

少女「それは……そうかもしれないですね」

男「それで双妹と話をしていて、中学校の同級生に少女さんが亡くなったことを知らせてあげれば良いんじゃないかってことになったんだけど、どう思う?」

少女「そうですねえ。中学校の友達も弔問に来てくれたらうれしいです」


その言葉を聞いて、俺は通学鞄から卒業アルバムを取り出した。
そして少女さんの隣に移動し、卒業生全員の連絡先のページを開いた。

813以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/13(木) 23:21:18 ID:Kjc9xIr.
少女「わわっ、用意がいいですね」

男「まあ、そのつもりだったから。とりあえず3年生のときに同じクラスだった33人に連絡するのは当然として、1年生のときと2年生のときに同じクラスだった人にも連絡をしたいから教えてくれないかな」

少女「分かりました」


少女さんが中学生の頃を思い出しながら、同級生の名前を読み上げる。
俺はそんな少女さんの思い出に触れ、彼女が出逢って来た人々に印を付けていく。

男子26人、女子44人、計70人

男子の内訳は俺と友を除く3年生の同級生が16人で、他はクラス委員をしていたり目立っていた人、班行動が一緒だったり席が近くて親しかった人などが10人。
それに対して、女子は同じクラスになった人の名前をほとんど覚えていて、卒業生の女子90人のほぼ半数に出会っていたことが分かった。

814以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/13(木) 23:22:52 ID:xNBv4ySk
少女「70人って、多くないですか?!」

男「もしかしたら、卒業生の半数と同じクラスになっていたのかも」

少女「そうかもしれないですね。こんなにたくさんの人と、同じクラスになっていたんだ――」

男「それじゃあ、今度の3連休を使ってみんなに連絡するから」

少女「いえ、ちょっと待ってください。さすがにお母さんが対応できないし、連絡をするのは友達だけでお願いします」


という訳で、改めて卒業アルバムに目を通す。
そして、同級生や部活動で親しくしていた女子23人に連絡をすることになった。

815以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/13(木) 23:24:06 ID:Kjc9xIr.
少女「ところで、今度の3連休なんですけど、お姉ちゃんとお祖母ちゃんに会いに行こうと思っているんです」

男「いいんじゃないかな。最期に会って話をしてきなよ」

少女「うん、ありがとう。だけど、さすがに話をするのは無理だと思います。びっくりされるじゃないですか」

男「ああ、そうか。友香さんの一件もあるし、姿を見せるのは控えた方が良さそうだな」

少女「……はい。でも夢に出るくらいなら大丈夫だと思うし、姪ならまだ小さいから遊んであげることが出来るかも」

男「少女さんって、姪がいるんだ」

少女「私のことを『ねえね』って呼んでくれて、すごく可愛いんですよ//」

男「へえ、そうなんだ」

少女「考えても仕方がないことだけど、私も結婚が出来る年齢なんですよね……」


結婚――か。
以前、少女さんとそんな話をしたことがあるけれど、こうして言葉に出るのはやっぱり憧れの裏返しなのだと思う。
俺は少しでも気持ちをほぐしてあげたくて、少女さんにそっとにじり寄る。
すると、少女さんは近付いた分だけ離れて頬を膨らませた。

816以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/13(木) 23:26:11 ID:Kjc9xIr.
少女「あのことを赦したとはいっても、そういうことは絶対に許しません。まずは友達に連絡をして、私に誠意を示してください」

男「……ごめん」

少女「ちなみに、それを考えたのは双妹さんですよねえ」

男「そうだけど…………」

少女「やっぱり、そうなんだ。もしかして、そのブレスレットも双妹さんのアイディアなんですか」

男「これは俺だよ。少女さんに余計な負担を掛けさせたくなくて考えたんだ」

少女「それは男くんが考えてくれたんだ」

男「そうだよ」

少女「双妹さん、やっぱり男くんのことを諦めていないんですね。それに、男くんと双妹さんは本当にツイコンだよね」

男「もしかして怒ってる?」

少女「そんなことはないですよ。兄妹で一緒にお風呂に入ったりするくらい仲が良いのはもう承知の上だし、どうぞ私のことは気にしないでご自由になさってください」


少女さんはそう言うと、にこりと微笑んだ。
怒ってはいないとか言いつつ、その笑顔が逆に怖い。
俺はそんな少女さんのご機嫌を取ろうと、とり野菜鍋のシメをみそ素麺にしたことを話すことにした。

817以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/13(木) 23:27:49 ID:xNBv4ySk
少女さんがみそ素麺の何たるかを熱く語り始めて数十分。
気が付くと辺りが暗くなり始めていた。


男「それじゃあ、そろそろ帰るよ」

少女「えっ? もうこんな時間なんだ」

男「じゃあ、またね。今日は赦してくれて本当にありがとう」

少女「……」


俺は少女さんに手を振り、社務所を後にした。
とりあえず、少女さんが中学生時代に親しくしていた23人。
少女さんの生きた証を探すため、そして誠意を伝えるために今夜から連絡していこう。
俺はそう思いながら、授与所の戸締りをしていた巫女さんに挨拶をして、足早に家に帰ることにした。

818以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/17(月) 22:33:26 ID:yoUqlWdI
おつ

819以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/19(水) 23:40:51 ID:IQo0QtaA
(3月17日)thu
〜学校・お昼休み〜
友「おいっす! 一緒に食べようぜ」


お昼休みになり一人でお弁当を食べていると、友が惣菜パンを持ってやってきた。
少女さんはいないし、双妹は妹友さんと食べている。
ちょうど、話し相手が欲しいと思っていたところだ。


友「今日の放課後なんだけどさあ、予定とか空いてるか?」

男「特に何もないけど」

友「そっか。それなら、帰りに駅前の喫茶店に行かないか。友香さんたちと待ち合わせをしてるんだ」

男「待ち合わせ?」

友「例の幽霊探知機なんだけど、全国各地に少女さんの幽体があるっていう探知結果が正しかったことが分かっただろ」

男「そういえば、そんなことも言ってたっけ」

友「それで今日の放課後、もう一度試してみようかと思っているんだ。少女さんの霊力が回復したし、あれが誤作動ではないことを確かめておきたいからな。男も来るだろ?」

男「もちろん、俺も行くに決まってるだろ」

820以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/20(木) 00:10:26 ID:fZpANjyE
友「そう言ってくれると思ったよ。それでひとつ検証してみたいことがあるから、放課後になるまでこれを貼っておいてほしいんだ」


友はそう言うと、ポケットから絆創膏のようなものを取り出した。
そして、言葉を続ける。


友「これは霊波動に反応して吸収する性質がある特殊繊維で、霊障の原因になっている悪霊を探知するときに使う霊具なんだ」

男「そんなものを貼ってどうするんだよ」

友「少女さんの探知結果には疑問点が多いし、男の霊波動を調べて動作確認をしておきたいんだ」

男「動作確認をするだけなら、別に俺でなくても良いんじゃないのか?」

友「いや、男じゃないと駄目なんだ。詳しいことは放課後になってから話す」

男「まあ、そういうことなら仕方ないな」


これで一体何を調べるつもりなのだろうか。
俺は疑問に思いつつ、友に言われるがまま左手の甲に貼り付けた。

821以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/20(木) 21:05:53 ID:fZpANjyE
〜学校前の駅・放課後〜
放課後になり、俺と友は学校前の駅に向かった。
そこで少女さんと友香さんを待ち、合流することになっているそうだ。
当然俺たちが先に着き、しばらく待って二人が現れた。


友香「お待たせ〜」

少女「お待たせしました」

友香「もしかして、待った?」

友「大丈夫。俺たち、さっき授業が終わったところだから」

男「そうそう」

友香「そうなんだ。ごめんね」

友「それじゃあ、移動しよっか」

友香「うん」

822以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/20(木) 21:31:30 ID:9rAD5zmo
〜喫茶店〜
喫茶店に入って4人掛けのテーブルを囲み、友が幽霊探知機のアンテナを組み立て始めた。
その間にそれぞれスイーツとドリンクを注文し、雑談を交わす。
やがて注文した商品が運ばれてきて、友もようやくアンテナが完成した。


友「よしっ、準備完了」

友香「それを使えば、少女の幽体を調べることが出来るんだよねえ」

友「そうだよ。昔は式神を使役して霊的存在を探していたんだけど、広域探索の現場ではアプリで探す時代になったんだ」

友香「幽霊って、そんなに当たり前な存在なんだね」

友「そうだよ。ただ、あの悪霊みたいに低級霊を従えているケースは本当に稀だと思う」

友香「ふうん、そうなんだ」

友「ちなみに、このアプリは失踪した人の探索にも利用されることがあるんだ。男、そういう訳だから、まずは昼休みに貼ってもらったやつを探知してみようか」

男「んっ? お……おう」


俺は絆創膏を剥がし、友に渡した。
この霊具は今、俺の霊波動に反応して探知することが出来るということなのだろう。

823以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/20(木) 21:33:20 ID:9rAD5zmo
友「じゃあ、アプリを起動するぞ」


友は絆創膏をアンテナのパーツに貼り付け、スマホを操作した。
すると、パラボラアンテナが上下に首を振りながら時計回りに動き始めた。
そのゆったりした動きに、みんなの視線が注がれる。


友「……大丈夫そうだな。これが男の探知結果だ」

友香「見せて見せて!」

少女「私も見たいですっ」


友は二人にせがまれ、スマホをテーブルの中央に置いた。
俺たちは身を乗り出して、友のスマホを覗き込む。
角度的に少し見にくいけれど、俺たちが今いる場所と少し離れた場所に赤い点が表示されていた。


友香「すごーい! これが探知結果なの?!」

男「赤い点が2つあるんだけど、これって誤作動じゃないのか」

友「もう1つは双妹ちゃんだ。地図のこの辺りは男の家がある場所だろ」

男「ああ、なるほど。そういうことか」

824以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/20(木) 21:51:16 ID:9rAD5zmo
友香「男くんと双妹さんは一卵性双生児だもんね。やっぱり、遺伝子だけじゃなくて魂も同じなんだ」

少女「魂も同じ、か。双妹さんのブレスレットで私の姿が見えるようになったのも、そういうことだったんですね」

友「そうだよ。それじゃあ、友香さん。昨日頼んでいたやつ、お願いできるかな」


友香さんはそう言われ、指先に巻いていた絆創膏を剥がした。
友はそれを受け取り、俺が渡した絆創膏と貼りかえる。
そして、友は改めてスマホを操作した。


友香「やっぱり、私の場合は1つだけしか表示されないんだ」

男「そういえば、友香さんには双子のお兄さんがいるんだっけ?」

友香「はい、そうです」

少女「ええっ! 友香ちゃんって、双子だったの?!」

友香「そうだよ。知らなかった?」

少女「知らなかったし!」

825以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/20(木) 21:53:11 ID:9rAD5zmo
友「とりあえず、異常はないみたいだ。二人とも協力してくれてありがとう。これは個人情報だから二人に返すよ」

友香「うん」

男「そうだな」


俺は絆創膏を受け取り、ポケットに突っ込んだ。
それは良いとして、これで何が分かったのだろうか。


友「それじゃあ、壊れていないことが確認できたし、少女さんの幽体を探知してみようか。この前みたいに霊力を登録してくれるかな」

少女「はい」


その言葉と同時、パラボラアンテナが動き始めた。
少女さんの幽体の謎が解明されるときが近付いている。


少女「何だか緊張してきた……」

友「んんっ? どうなってるんだ、これ――」

826以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/20(木) 21:54:45 ID:3SxyahSk
男「どうかしたのか?」

友「この前と少し違う結果が出たんだ。ちょっと見てくれ」


友はそう言うと、スマホをテーブルの中央に置いた。
俺は身を乗り出して、スマホを覗き込む。
すると、少女さんの幽体を示す赤い点が、北は北海道から南は九州に至るまで全国各地に表示されていた。
やっぱり、今回も同じ結果だ。


友「なっ、おかしいだろ」

男「おかしいだろって言われても、俺には同じに見えるんだけど」

友香「男くんの霊波動?を調べたとき、男くんだけではなくて双妹さんの居場所も表示されていたでしょ。これってつまり、日本中に少女がいるってことになるんじゃないの」

友「友香さん、ちょっと待って。前回のスクリーンショットを用意するから」

827以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/20(木) 22:07:44 ID:3SxyahSk
友がスマホを操作し、前回の探知結果を表示した。
そして、今回の探知結果にタグを作って画面を切り替える。


男「やっぱり、前と同じ結果みたいだな」

友「いや、重複表示されていた幽体が消えているみたいだ」

少女「それって、どういうことですか」

友「あのときは壊れていると思っていたから黙っていたんだけど、実は少女さんを含めて16個の幽体を探知していたんだ」

少女「ええっ、16個?!」

友香「もしそれが本当だとしたら、少女と同じ幽体を持っている人が全国各地に15人もいることになるよねえ。そんなことがあり得るの?」

友「幽体や霊魂は遺伝子と同じで、人それぞれ違うものを持っているんだ。だから、同じ幽体を持っているのは一卵性双生児の場合だけで、赤の他人が同じ幽体を持っているなんて絶対にあり得ないんだ」

828以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/20(木) 22:09:34 ID:fZpANjyE
男「だったら、体細胞クローンとかメイキングチャイルドとか、少女さんは特殊な生い立ちを持っていることになるのかもしれない」

友香「確かにクローン技術は家畜やクローンペット復元ビジネスなどの世界でニーズがあるみたいですけど、それを人間に応用しているだなんて倫理的に考えられないです」

少女「漫画じゃないんですから、お父さんとお母さんがそんなことをしている訳がないじゃないですか。私を何だと思っているんですか」プンスカ

男「そんなつもりで言った訳じゃないんだけど」

友「いや、念のために霊魂の所在を調べてみよう。体細胞クローンは一卵性双生児みたいなものだし、それとは別に何かが分かるかもしれない」

少女「そうですね。友くんがそう言うなら、お願いします」

829以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/20(木) 23:23:01 ID:7pS4cOxk
友「それじゃあ、少女さんの霊波動を探知してみる」


友がそう言うと、再びパラボラアンテナが動き始めた。
そして表示された赤い点は、目の前にいる少女さんの霊波動、1つだけだった。


男「1つだけ……だな」

友「これで体細胞クローンの可能性は否定されたな」

少女「ほら、やっぱり。それで何か分かりそうですか」

友「いや、今は予想通りってことが確認できた段階だから――」

友香「ねえねえ。もういっその事、実際に行ってみない? 一箇所だけ、すぐに行けそうな場所があったでしょ」

友「それなんだけど、一度行ってみたことがあるんだ」

友香「そうなの?」

友「でも、受付の人が『少女という名前の患者は入院していないし答えることは出来ない』の一点張りで話にならなかったんだ。何度行っても同じだと思う」

830以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/20(木) 23:24:26 ID:fZpANjyE
友香「もしかして……病院だったの?」

友「そうだよ。彩川医科大学附属病院って名前なんだけど、受付で止められて入ることが出来なくて――」

友香「他の場所も病院なのかな。詳細表示は出来ない?」

友「遠方になると誤差が大きくなるから詳細表示は出来ないんだ」

友香「……」

友香「決めたっ! 今度の土曜日、行ってみる!!」

友「無駄だと思うけど」

友香「あれから1ヶ月が経っているし、今度は何か分かるかもしれないでしょ。もちろん、友くんも一緒に来てくれるよね」

友「まあ、そこまで言うなら行ってみようか」

友香「うんっ! ありがとう」

831以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/20(木) 23:25:32 ID:7pS4cOxk
友「男はどうする?」

男「悪いけど、俺は用事があって行けそうにない」

友「用事?」

男「今、少女さんが亡くなったことを同級生のみんなに電話しているんだけど、あと20人残ってて少しでも早く知らせてあげたいんだ」

友「そういうことなら俺も手伝うから、男も来いよ。なるべく情報を共有しておきたいし、そのほうが良いだろ」

男「情報を共有するだけなら後で話してくれれば良いだけだし、大勢で行っても意味がないんじゃないかな」

少女「私もお姉ちゃんやお祖母ちゃんに会いに行きたいので――」

友香「えっ、そうなの?」

少女「うん」

友香「仕方ないわね。友くん、待ち合わせ場所はどうする?」

友「北倉駅で乗換えだから、10時頃にそこのホームで待ち合わせってことで」

友香「そうだね、そうしよっか」

832以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/20(木) 23:28:00 ID:9rAD5zmo
幽霊探知機の話が一息つき、ケーキを食べながら雑談を続けた。
少女さんの話やバラエティー番組で笑えた話。
やがて日が傾き始め、俺たちは喫茶店を後にした。


友「じゃあ、俺たちはこっちだから」

友香「またね〜」


二人はそう言うと、バス停のある方向に歩き始めた。
俺と少女さんはそんな二人を見送って、学校前の駅に向かう。


少女「友香ちゃんと友くん、いつの間にか良い雰囲気になっていると思いませんか」

男「言われてみれば、そうだな。最初は避けているような感じだったのに」

少女「もしかしたら、本当に付き合い始めることになるかも。最近、一緒にいることが多いみたいだし」

男「へえ、そうなんだ。みんなで水族館に行ったのが良かったのかな」

少女「それもあると思うけど、私が神社で静養しているときに連絡を取り合っていたみたいだよ」

833以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/20(木) 23:40:47 ID:9rAD5zmo
少女「ところで、男くんは私の友達に電話をしていて良い感じの女子はいましたか?」

男「どうして急に俺の話になるんだよ」

少女「だって、20人の女子に電話をするんだから、その内の1人くらいは懐かしくて盛り上がる人がいるかもしれないじゃないですか」

男「訃報の電話で盛り上がるなんて、普通に考えてあり得ないだろ」

少女「それもそっか。でも――」


駅舎に入ると、少女さんは人目を気にして言葉を飲み込んだ。
俺はスマホを耳元に当て、電話をしている振りをしながら続きを促す。


少女「笑顔で成仏させてくれるって約束したんだから、浮気をしたら許しませんからね」

男「分かってるよ、そんなこと」


俺が電話をしているのは懐かしい女子と久しぶりに出逢うためではない。
少女さんを成仏させるために連絡しているのだ。
俺はそう思いつつ少女さんに目で訴えかけ、有人改札を抜けてホームに向かった。
そして、10分ほど揺られて自宅の最寄り駅。
少女さんは家に帰れるほど霊力が回復したらしく、俺たちは駅舎で別れることにした。

834以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/22(土) 06:16:06 ID:LNoCl/lk
おつ

835以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 20:44:47 ID:L8NNwfrw
(3月19日)sat
〜自宅・部屋〜
3連休のスタートとなる土曜日の朝。
今日は昨日の夜から降り始めた雨が強まり、絶好の電話日和になってくれた。
明日からは天気が回復するので、今日中に残る15人に連絡をしてしまおう。


PiPoPa...

女子『もしもし』

男「もしもし、男です」

女子『ああ、男くん。もしかして、少女ちゃんのことで電話をしてきたの?』

男「そうだけど、じゃあ、少女さんが亡くなったことをもう聞いているんですか」

女子『昨日、友達から電話があって……。私、びっくりして電話をしたんだけど、本当……なんだね』

男「ああ、先月……亡くなったんだ」

836以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 20:46:04 ID:ytsenjyo
女子『今でも信じられない――』

女子『少女ちゃん、看護師になるんだって真面目に頑張っていたのに、どうしてこんなことになったの?』

女子『ううっ、うああぁぁん…………』


受話器から泣き崩れる声が届き、やるせない思いが込み上げてきた。
中学校を卒業して1年。
積極的に交流していた友人や少し疎遠になっていた同級生、みんなの心に少女さんの思い出が刻み込まれている。

看護師になる夢を応援していたこと。
部活動を一緒に頑張ったこと。
休日にショッピングをしたり、恋愛の相談に乗ったこと。

そして事件の一部始終を知る人は、その悲しみが怒りとなって自殺した少年に向かう。
しかし、遣る方ない思いだけが募っていく。

もう二度と会うことが出来ない喪失感。
中学校で一緒に過ごした日々に思いを馳せて、少女さんの死を悼んでいる。
その気持ちこそが、少女さんの生きた証なのかもしれない。

837以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 20:47:54 ID:ytsenjyo
男「それじゃあ、少女さんのことだけど……、気持ちが落ち着いたらお線香をあげに行ってあげてね」

女子『うぅっ……ひっく…………うん。男くんもその、思い詰めないようにね』

男「ありがとう。バイバイ、また」


俺は電話を切り、次の相手に電話を掛ける。
やがてお昼過ぎになり、俺はご飯を食べることにした。
すると、狙ったかのようなタイミングで電話が掛かってきた。

誰からだろう。
そう思い着信を見ると、友からだった。


男「もしもし、男です」

友『もしもし、男? 今、友香さんと大学病院に来ているんだけど、大変なことが分かったんだ!』

男「大変なことって何だよ」

友『ここに女さんって人が入院しているんだけど、その人が少女さんと同じ幽体を持っているんだ!』

838以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 20:49:01 ID:zYwSKzDo
男「女さん?」

友『ああ! 本人に聞いたし、ネームプレートにもそう書いてあった』


友はそう言うと、興奮した口調で話し始めた。
彼女は18歳の女性で、血液型はA型。
一般病棟に入院していて、循環器内科で治療を受けているらしい。


友『それで少しだけ話をすることが出来たんだけど、どうやら少女さんのことは知らないそうだ。どうして入院しているのかとか詳しいことも聞きたかったんだけど、さすがにプライベートなことまでは聞くことが出来なくて』

男「だろうな」

友『ただ、そんな人が実在していることを確認できたのは大きな成果だと思う。詳細が分かれば、また連絡する』

男「おう、分かった」

839以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 21:02:16 ID:pLnHJtpo
〜リビング〜
カップ麺にお湯を注いでリビングに行くと、双妹がこたつにもぐってテレビを見ていた。
俺もこたつに入り、テレビに目を向ける。
すると、双妹が起き上がって話しかけてきた。


双妹「ねえ、男。もうみんなに連絡したの?」

男「いや、あと5人残ってる」

双妹「ふうん、そうなんだ。もうすぐだね」

男「ああ、今日中に終わりそうだ」

双妹「それで、誰か一人くらい『お線香を一緒にあげに行こう』とか、そういう話にはならなかったの?」

男「いや、普通に考えて、そんな話になる訳がないだろ。双妹も少女さんと同じようなことを言うんだな」

双妹「だって、少女さんは幽霊なんだよ。ライバルが増えるのは嫌だけど、この機会に何人かキープしておいたほうが良いんじゃないかな。少女さんも内心はそうして欲しいと思っているはずだよ」

男「ないない。釘を刺してきたくらいなんだから」

双妹「えっ、そうなの?! 一体どういうつもりなんだろう」

840以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 21:03:23 ID:ytsenjyo
男「それはそうと、この前、少女さんの幽体のことで話をしただろ」

双妹「えっと、日本中に幽体があるんだっけ」

男「そうそう。そのことで、さっき友から電話があったんだ」


俺はそう言いつつ、カップ麺のふたを開けた。
調味油を入れてかき混ぜ、麺をすする。


男「大学病院の入院患者に女さんって人がいて、その人が少女さんの幽体を持っているらしい」

双妹「入院患者?」

男「ああ、循環器内科だったかな。どうして入院しているのかは分からないんだけど」

双妹「幽体とか霊魂が同じ人は、一卵性双生児以外にあり得ないんだよねえ」

男「そうそう。それでその人に少女さんのことを聞いてみたら、知らないって答えたんだって」

841以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 21:04:27 ID:ytsenjyo
双妹「双子でも親戚でもないなら、どういうことになるんだろ」

男「もしかしたら、人体実験をしていたのかもしれない。他人の身体から少女さんの幽体反応があるなんて、どう考えても異常だろ」

双妹「そうだよね。人体実験……か。本当にしていたのかもしれないわね」

男「やっぱり、そうとしか考えられないよな!」

双妹「うん。考えてみれば、少女さんの死んだ日がお見舞いに行った日よりも前なのもおかしいし、絶対に何か裏があると思う」

男「そういえば、あの日、記者さんに出会ったよなあ」


少女さんが亡くなったと知った日、少女さんは死を受け入れるために家に帰ろうとした。
そのとき、偶然記者さんに出会ったのだ。

842以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 21:05:27 ID:zYwSKzDo
双妹「まさか、記者さんは少女さんの死の裏側を取材していた?」

男「だろうな」


記者さんは健康や医療系の記事を書いている。
そして記者さんが勤めている出版社は、一時的に少女さんの家族と係争問題を抱えていた。
その関係で、少女さんの死について何かを掴んでいたとしてもおかしくはない。


男「調べてみようか」

双妹「そうだね。記者さんが取材していたなら記事になっているはずだし、少女さんを成仏させる糸口になるかもしれない!」

男「それじゃあ、親父の書斎に行くとするか」

双妹「うん」

843以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 21:07:41 ID:ytsenjyo
〜親父の書斎〜
俺と双妹は書斎に入り、未開封の郵便物をすべて開封した。
親父は海外出張中でいないけれど、週刊誌を定期購読しているので最新号まですべて届いている。
それらの中に、必ず記者さんが取材していた記事が載っているはずだ。


双妹「それじゃあ、私はこの2冊を調べるから」


双妹はそう言って週刊誌を手に取り、目次を開いた。
俺も週刊誌を手に取り、目次を開く。

糖質制限ダイエットは危険なのか――。
最新版、手術をするならこの名医に頼め――。

とりあえず、この号には載っていなさそうだ。
そう思い、次の週刊誌を手に取る。
すると、双妹が声を上げた。

844以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 21:10:20 ID:pLnHJtpo
双妹「男、これじゃないかな!」

男「どれどれ?」


俺は双妹に肩を寄せ、週刊誌を覗き込んだ。
そして、記事に目を通す。


双妹「ねっ! これ以外に考えられないでしょ」


何と言うことだ。
もしこれが少女さんのことだとするならば、人体実験だなんてとんでもない。
俺は心の底から、少女さんらしい最期だと思った。

845以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/15(火) 19:41:18 ID:xSdi3n8Y
〜部屋〜
ようやく全員の電話連絡が終わり、午後4時を過ぎた頃。
少女さんの幽体について考えていると、来客のチャイムが鳴った。
俺は部屋を出て、玄関に向かう。


双妹「男、二人が来たわよ」

友香「お邪魔します」ペコリ

友「俺たちに見せたいものって、何なんだよ」

男「ここじゃあなんだし、まずは上がってくれ」

友「ああ、お邪魔します」


俺は二人を招き入れ、自分の部屋に戻った。
そして、ミニテーブルを囲んだ。

846以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/15(火) 19:43:20 ID:F2urCRGs
友「それで、俺たちに何を見せたいんだよ。わざわざ電話を掛けてきたってことは、重要なことなんだろ。めちゃくちゃ気になるんだけど」

男「その前に聞きたいことがあるんだけど、もし少女さんの身体の一部を他人に移植したとしたら、少女さんの幽体はどうなるんだ?」

友「だいぶ前に話したことがあると思うけど、幽体は肉体と霊魂を繋ぎとめる役割があるんだ。だから移植をするために身体の一部を切り離すと、その肉体から幽体が引き剥がされることになるんだ。まあ、イメージ的にはゴムパッチンを想像してくれたら分かりやすいんじゃないかな」

男「だけど、少女さんは自分で霊子線を切ってしまっただろ」

友「ああ、分かってる。その場合は、少女さんの幽体が霊魂と繋がっていないから、引き剥がされずに残るか離脱して消失することになると思う」


やっぱり、あの記事は少女さんのことで間違いない。
少女さんが霊子線を切ってしまったから、幽体が16個も探知されたのだろう。


友香「もしかして、少女は臓器提供をしていたってことですか」

男「そう。少女さんは臓器提供をしていたんだ!」

友香「でも、臓器提供で一人が救うことができる最大の人数は11人なんです。私は違うと思います」

847以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/15(火) 19:44:35 ID:3wyx7S.g
男「それは知らないけど、これを読んでみてくれないかな」


俺はそう言って、本棚に用意しておいた週刊誌を手に取った。
それと同時、双妹がハーブティーを淹れて部屋に入ってきた。


双妹「お茶でも飲みながら話しませんか」

友香「ありがとうございます」

友「ありがとう」

男「で、これなんだけど……」


俺は記事が書かれているページを開き、友に週刊誌を手渡した。
友香さんはティーカップを片手に、友ににじり寄って覗き見る。

848以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/15(火) 19:45:46 ID:3wyx7S.g
友「臓器移植の課題。親族への優先提供と自殺企図ドナーを考える――か」

男「その記事の冒頭で触れられている10代の女性が、少女さんのことだと思うんだ」

友香「確かに少女のことかもしれないですね」


友香さんはそう言うと、スマホを取り出した。
そして何かを調べ始めて、眉を寄せた。


友香「友くん、少女の探知結果を保存してたよねえ。最初の探知結果を見せてくれない?」

友「分かった。ちょっと待って」


友香さんは友からスマホを受け取り、真剣な眼差しで画面を見比べる。
その表情は次第に強張っていき、もう一度、週刊誌の記事に目を向けた。

849以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/15(火) 19:46:55 ID:F2urCRGs
友香「間違いない。これは少女のことだ!」

双妹「友香さん、私たちにも説明してくれませんか」

友香「あっああ……そうですね」

友香「私が調べていたのは臓器移植の橋渡しをしている組織のホームページなんですけど、臓器移植の透明性を図るためにレシピエントや移植施設の情報を閲覧することが出来るんです」

男「へえ、そんなサイトがあるんだ」

双妹「知らなかった」

友香「それでそのページで移植施設と少女の幽体を照合してみたら、都道府県がすべて一致したんです」


友香さんは声を震わせながら言うと、スマホ2台を差し出してきた。
俺と双妹は1台ずつ受け取り、臓器移植のホームページと少女さんの幽体を見比べる。

850以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/15(火) 19:50:12 ID:KWN7QG3Y
・・・
・・・・・・
20××年2月22日、東海北陸地方の病院に入院中の15歳以上18歳未満の女性(原疾患は低酸素性脳症)から、心臓、肺、肝臓、腎臓、膵臓、小腸、眼球のご提供がありました。

脳死判定日 2月20日
心臓:彩川医科大学附属病院 (10歳代女性)
右肺:北関東中央医療センター (50歳代男性)
左肺:岡山マスカット総合病院 (20歳代女性)
肝臓
分割肝:さくらんぼ保健衛生病院 (10歳未満女児)
分割肝:日本国立先端医療研究所 (20歳代男性)
腎臓:京阪女子医科大学附属病院 (10歳代男性)
腎臓:医療法人筑前総合医療病院 (40歳代女性)
膵臓:北海道道央時計台総合病院 (30歳代男性)
小腸:坊ちゃん高度医療センター (20歳代女性)

851以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/15(火) 19:51:23 ID:KWN7QG3Y
男「やっぱり、これが少女さんの生きた証だったんだ!」


臓器移植を行った病院を検索すると、病院の住所と少女さんの幽体の所在地がすべて一致していた。
しかも少女さんの幽体を持っている女さんという女性のプロフィールは、心臓移植をされた女性の情報と矛盾していない。
どんな人かは知らないけれど、女さんの中で少女さんは生き続けているのだ。


友香「少女が臓器提供をしたのは疑いようのない事実だから、幽体の数が合わないのは組織提供もしているという事なんでしょうね」

男「組織提供?」

友香「臓器以外に鼓膜や耳小骨、皮膚なども提供することが出来るんです」

男「へえ、そういうことも出来るのか」

双妹「ひとつ聞きたいんだけど、消えた幽体は移植に失敗したってことなの?」

友香「角膜や皮膚といった組織は臓器と比べて小さいから、幽体が消えてしまったのだと思います」

友「その可能性が高いだろうな。恐らく、俺の探知機では探知できないレベルにまで弱くなってしまったのだと思う」

双妹「そっか……。でも、これで少女さんを成仏させられるわね」

友香「……」

852以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/15(火) 19:52:25 ID:F2urCRGs
男「それじゃあ、春休みになったら少女さんと一緒に女さんに会いに行ってみるよ」

双妹「そうだね。早く会わせてあげましょ!」

友香「私は少女を女さんに会わせるのは反対です。男くんも女さんには会わないほうがいいと思います」

男「……どうして?」

友香「ドナーの関係者とレシピエントが直接対面することは、好ましくないと思うからです。女さんは心臓移植が必要なほど重い病気で、少女が死んだから生きていくことが出来るようになったんですよ。今も女さんの中で、少女の心臓が生き続けているんですよ」

友香「男くんはそんな女性に会って、平静でいられるんですか。女さんが今、どんな気持ちになっているのか想像できますか?」

男「それは――」

友香「正直、私は本当のことを知って少しつらいです。友達が悪霊に呪い殺されて、だけどそのおかげで生きていられる人がいるなんて……」

853以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/15(火) 19:53:26 ID:xSdi3n8Y
双妹「友香さん。ハーブティー、もう一杯どうですか? カモミールは気持ちが落ち着きますよ」

友香「……ありがとう」


友香さんは弱々しい声で言うと、ティーカップを差し出した。
双妹はその様子を見てにこりと微笑み、ティーポットからハーブティーを淹れた。
優しい香りが湯気に乗って、部屋に広がっていく。


男「友香さんの言いたいことも分かるし、俺もどんな顔で女さんに会えばいいのか分からない。少女さんに臓器移植のことを話すかどうか、もう少し慎重になったほうが良いのかもしれないな」

双妹「でもこんなに提供しているってことは、少女さんは臓器提供や組織提供の意思表示をしていたってことでしょ。自分が望んだ結果になったんだから、知りたいと思うものなんじゃないかなあ」

男「それも一理ある……か。少女さんは遺族じゃなくて、本人だもんな」

854以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/15(火) 19:54:36 ID:3wyx7S.g
一体、どちらの意見が正しいのだろう。
少女さんに女さんのことを話すべきか、それとも話さないでいるべきか。
そう思っていると、友香さんが口を開いた。


友香「友くんはどう思う?」

友「そうだなあ。少女さんのメンタリティが生前と同じ状態だとは限らないし、慎重になるべきだろうな。それで少し様子を見て、話したほうが良さそうなら話すべきだと思う」

友香「やっぱり、こういう問題は難しいよね」

男「それじゃあ、そのときは俺が話すことにするよ」

双妹「……そうだね。それが一番良いのかもしれないわね」

855以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/15(火) 19:55:36 ID:3wyx7S.g
友「ところで、男は今日、クラスのみんなに電話をしていたんだろ。あと何人残ってるんだ?」

男「もう終わったけど」

友「そうなのか。なんなら手伝ってやろうかと思っていたけど、無事に終わったのか」

男「ああ、ついさっきな」

双妹「もしかして友くん、誰か狙ってたとか?」

友香「ええっ、そうなの?」

友「そんなんじゃないし」アセアセ

友香「あやしい」

友「いやいやいや、そんなつもりで聞いたんじゃないから」


友がわざとらしくおどけて見せて、場の雰囲気が緩み始めた。
少女さんが成仏しないといけない日まで、あと2週間。
俺たちも少女さんの死と向き合わなければならない日が迫っている――。

856以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/15(火) 22:11:55 ID:hqWsiFYI
おつ

857以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/29(火) 21:33:22 ID:jy5dV8AA
(3月22日)tue
〜自宅・放課後〜
3連休が明けて、火曜日の放課後。
双妹と一緒に家に帰ると、玄関の前に少女さんが一人で立っていた。


少女「男くん、やっと帰ってきたし」

男「少女さん、ただいま。今日はどうしたの?」

少女「男くんと話がしたくて待っていました」

男「そうなんだ。それじゃあ、中にどうぞ」


そう言って玄関を開けると、双妹がさりげなく脇腹を突っついてきた。
臓器移植のことはまだ話すときではない。
俺は視線を送り、目で訴える。
すると、双妹は納得して視線をはずした。

858以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/29(火) 21:34:34 ID:Tsy5Y7wA
少女「二人とも、何だか分かりあってる感じがする」

双妹「当然でしょ。私たちは魂レベルで心が通じ合っているんだから」

少女「そっか。双妹さんは双子の妹なんだし、当然だよね」


相変わらず牽制しあっている二人を気にしながら、俺は少女さんを家の中に招き入れた。
そして自分の部屋のドアノブを掴んだ瞬間、あの日のことを思い出した。
気まずく感じて、少女さんの様子を窺う。


少女「どうかしたんですか?」

男「いや、少女さんが来るとは思っていなかったから掃除をしてなくて」

少女「それじゃあ、外で待っています」

男「うん、そうしてくれるかな。ぱぱっと片付けるから」

859以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/29(火) 21:37:40 ID:jy5dV8AA
部屋の掃除をして外に出ると、少女さんがいなくなっていた。
恐らく、双妹の部屋に行っているのだろう。
あの二人は仲がいいのか悪いのか、どっちなんだよ。
俺は小さくため息をつき、とりあえず双妹の部屋に行くことにした。


双妹「部屋の片付け、終わったの?」

男「ああ、それで少女さんを呼びに来たんだけど」

双妹「少女さん、どうする? ここで良いよねえ」

少女「そうですね」

男「それで、今は何の話をしてるの?」

少女「3連休のことを話していました」

男「3連休か。そういえば、少女さんはお祖母ちゃんやお姉さんに会ってきたんだっけ。どうだった?」

少女「夢枕に立って少しだけ話をして、すごく楽しかったですよ」

男「へえ、そうなんだ」

少女「それでね、お姉ちゃんのお腹の中に赤ちゃんがいたんです。びっくりしました!」

860以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/29(火) 22:08:54 ID:LAAM.8cA
双妹「少女さんのお姉さんって結婚していたんだね」

男「双妹は会ったことがあるのか?」

双妹「うん、友香さんとお見舞いに行ったときに――」

少女「へえ、そうなんだ。まだ妊娠6週目に入ったばかりで少し気が早いかもしれないけど、元気な赤ちゃんが生まれるようにお祈りしてきたよ♪」


確かに安産祈願は早いような気がするけど、何だか少女さんらしいと思った。
この様子だと、3連休はとても楽しめたようだ。


双妹「妊娠6週目……。それってつまりそういうことだから、何だか少女さんが生まれ変わったみたいだね」

少女「あっああ、気が付かなかった。タイミング的にそうなるんだ……」

男「どういうこと?」

双妹「妊娠週数は最後の月経が始まった日を妊娠0週0日として数えるの。それで妊娠2週目が受精の成立時期だから、少女さんが亡くなったときにまあそういうことがあったって事だよ」

861以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/29(火) 22:09:55 ID:btsnWA9k
少女「それはともかく、お姉ちゃんが妊娠したことで、お父さんやお母さんの気持ちが和らいでくれたらいいなって思うんです」


少女さんはそう言うと、穏やかな表情を浮かべた。
そして、言葉を続ける。


少女「お父さんたちにとって、自殺をしようとして一命を取り止めた私を殺すことは、つらい決断だったと思うから――」

男・双妹「少女さんを殺す決断?!」


言っていることの意味が分からない。
少女さんは悪霊になった少年に呪い殺されたのだ。
どうして少女さんの両親が関係あるんだ。


少女「私、何のために生まれてきたのか、ようやく見つけることが出来たんです。お父さんとお母さんは、私の夢を最後まで支えてくれたんです」

男「生きた証、見付かったんだ……」

少女「はい。私は臓器と組織を提供しました」

少女「それが……私の生きた証です!」

862以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/29(火) 22:11:28 ID:btsnWA9k
臓器提供――。
どうして、少女さんがそのことを知っているんだ。
もしかして、友香さんが話してしまった?


双妹「どうして、それを知ってるの?」

少女「どうしてって、家に帰ったらお仏壇に意思表示カードと感謝状が置いてあったからです。それを見て、すぐに分かりました」

男「でも、俺たちがお線香をあげに行ったときには感謝状なんて――」


そうか。
俺たちに見られないように片付けていたということか。


少女「……あれ?」

少女「もしかして、男くんと双妹さんはこのことを知っているんですか」

男「えっと……ああ、うん」

双妹「少女さんがとっくに知ってるなら、黙っている意味がなかったわね」

863以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/29(火) 22:22:03 ID:LAAM.8cA
少女さんがすでに知っていたので、俺は簡単に事の経緯を説明した。
例の週刊誌に少女さんのことが記事で触れられていたことや、臓器移植を受けた人の情報が開示されているホームページがあること。
そして、友と友香さんが心臓移植を受けた女性に会ってきたこと。
少女さんはそれらの話を真剣な表情で聞いてくれた。


少女「そっか、男くんがみんなと一緒に私の生きた証を見つけてくれたんだ。ありがとう!」

男「俺、このことを知ったとき、すごく少女さんらしいと思った。看護師になる夢は叶わなかったかもしれないけど、こうして多くの人の命を救って、少女さんはとても立派だと思う」

双妹「そうだよね。死んだ後のことだとはいっても、私は臓器提供なんて怖くて出来ないもん。少女さんは夢を諦めずに最後までやり遂げたと思う」

少女「そう……かなあ//」

少女「殺されてよかった――なんて思わないけど、私の命が多くの人に繋がって、それを後押ししてくれたお父さんやお母さんたちに私は感謝してる」

少女「生まれてきて、本当によかった……」


少女さんは慈愛に満ちた表情を浮かべ、天使のように微笑んだ。

これが彼女の生きた証。
最後の最後で少女さんの気持ちが形となって、不治の病で苦しんでいる人たちに想いが届いたのだ――。

864以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/29(火) 22:34:33 ID:jy5dV8AA
双妹「……」

双妹「……水を差すようで悪いけど、まだ成仏しないの?」

双妹「こう、感動的な場面でキラキラキラって光になって消えるとか、そのほうが良いと思うんだけど」


言われてみれば、そうだよな。
少女さんとの別れは寂しいけど、今なら笑顔で送ってあげることが出来ると思う。


少女「そんなことを言われても、私はまだ成仏をしたくないです」

双妹「でもほら、感動するタイミングってあるじゃない」

少女「私は双妹さんを感動させるつもりなんて、まったくありませんから」

双妹「はあっ、何だかなあ」

865以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/29(火) 22:36:26 ID:Tsy5Y7wA
男「それはそうと、成仏をしたくないってことは、まだやり残したことがあるってこと?」

少女「やり残したこととは少し違うんですけど、私の臓器や組織を移植されたレシピエントの方々は、本当に病気の苦しみから解放されたと思いますか」


少女さんは一転して、真剣な表情で臓器移植の話に戻した。
そんなの考えるまでもなく、苦しみから解放されたに決まっている。


男「移植したら病気が治るんだから、苦しみから解放されるんじゃないの? そうじゃないと意味がないし」

双妹「そうだよね」

少女「確かに臓器移植を受けると病気の苦しみからは解放されるけど、移植された臓器は他人のものだから異物として攻撃されることになるんです。そして、中には拒絶反応や重篤な合併症で亡くなってしまう方もいます」

少女「だから、必ずしも健康を取り戻すことが出来るとは限らないんです」

866以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/29(火) 22:38:00 ID:btsnWA9k
男「拒絶反応は聞いたことがあるな」

双妹「でも、薬を飲めば大丈夫なんでしょ。テレビで見たことがあるし」

少女「免疫抑制剤でコントロール出来ないケースがあるから、亡くなってしまう人がいるんですよ。それに薬の影響で免疫力が弱くなっているから、危険な感染症に罹りやすくなってしまうんです。特に小腸は拒絶反応が起こりやすくて、それもまた臓器移植の現実だと思います」

双妹「そう……なんだ」

少女「だけどそんな不安があるとはいっても、私の臓器を受け取ってくれたレシピエントさんたちは、今たくさんの希望を抱いていると思うんです。そしてそれと同時に、ドナーである私が死んで自分だけが生きているという罪悪感に苛まれているかもしれません」

少女「私はそんな心の拒絶反応を和らげてあげたい。みんなに笑顔を届けたいんです!」

男「何だか、少女さんらしいね」

双妹「もしかして、移植された人に会いに行くの?」

少女「会うことが出来るなら、一度お話ししてみたいです」

867以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/29(火) 22:39:07 ID:Tsy5Y7wA
男「じゃあ、春休みに一緒に行ってみる?」


心臓移植を受けた女さんの病室はすでに分かっている。
退院する可能性を考えると、少しでも早く会いに行ったほうがいいだろう。
そう思うと同時、少女さんは顔を顰めた。


少女「出来ればそうしたいんですけど、その女性に会うことは出来ません」

男「でも、話をしてみたいんだろ」

少女「そうだけど、私が会ってしまうと、結果的に女さんやお父さんたちを苦しめることになってしまうかもしれないから」

男「そんな事はないんじゃないかな」

少女「友香ちゃんと友くんが女さんに会ったときは臓器移植のことが分かっていなかったから、お互いに自己紹介をしているはずですよね。そして、私の名前を知っているか聞いたはずです」

男「ああ、友がそう言ってた」

少女「それが問題なんです」

868以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/29(火) 22:41:54 ID:btsnWA9k
男「名前を言ったことが問題って言うけど、その名前の人がドナーかどうかは分からないだろ」

少女「それはそうだけど、ドナーの情報はある程度公開されていますよね。だから、もし女さんが私の名前を検索したら、ほぼ確信することが出来てしまうんです」

双妹「……!」

双妹「あいつが自殺したときの遺書がヒットするんだ!」

男「それは、あくまでも少年が自殺したことが分かるだけだろ」

双妹「そうじゃないの。あいつは少女さんを実名で中傷しただけじゃなくて、少女さんの個人情報もSNSに投稿していたの」

男「マジかよっ!」

少女「私が女さんに憑依して話をすれば、友香ちゃんから聞いた名前がドナーの名前ではないかと気が付くかもしれません。それはあまり好ましいことではないと思います」

男「それじゃあ、どうするつもり?」

少女「それを言われると困るんですけど、そもそも身元が分かっているのは女さんだけだし、他の方法を考えるしかないですよね」

男「んー、そうだな」

869以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/29(火) 22:43:07 ID:LAAM.8cA
双妹「とりあえず、それが少女さんが最後にしたいことでいいの?」

少女「そうです。それともうひとつあります」

双妹「もうひとつ?」

少女「私、双妹さんに負けるつもりはありませんから」

双妹「ふうん、私がそれを黙って見過ごすとでも?」

男「えっとさあ、そういうのは勝つとか負けるとかじゃなくて――」

双妹「悪いんだけど、男は晩ご飯のお手伝いに行ってくれない?」

少女「そうですね。双妹さんと二人きりで話をしたいです」

男「えっ、ああ……分かった」


どうやら、女の戦いが始まったらしい。
俺は双妹の部屋から退散して、久しぶりに母さんの手伝いをすることにした。

870以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/29(火) 22:50:07 ID:LAAM.8cA
〜市街地〜
夕食後、俺は少女さんを最寄り駅まで送ってあげることにした。
少女さん的には俺と双妹を二人きりにしたくないみたいだけど、家に泊まるのは俺を信用していないみたいで嫌なのだそうだ。


男「さっきのことなんだけど、双妹に何か言われたりしなかった?」

少女「いえ、別に何も言われてないですよ。私が成仏する方法を一緒に考えていただけですし」

男「そうなんだ。それなら良いんだけど――」

少女「それでですね、あの手袋を嵌めた手を触ったときに人肌の感触があったらしくて、それと私がイルカさんに触れたことは、何か関係があるのかもしれないんです」

男「そういえば、なぜかイルカに触れるんだよな」

少女「そうなんです。幽霊同士も触ることが出来るし、私たちも触れ合う方法があるのかもしれません」

男「触れ合う方法って……あの雰囲気でそういう話をしていたのか?!」


双妹と少女さんは仲がいいのか悪いのか、本当にどっちなんだよ。
こればっかりは、もう訳が分からないぞ。

871以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/29(火) 22:54:23 ID:Tsy5Y7wA
少女「えっとほら、私と双妹さんってライバル同士だし、男くんがいると出来ない話もあるから」

男「それなら良いんだけど……」

少女「それでね、以前、友くんが『私の霊波動がイルカさんの超音波と干渉したのかもしれない』って言っていたでしょ」

男「うん、それで?」

少女「双妹さんと考えてみたんだけど、それは違うと思うんです。超音波は空気や水の振動だから、私に当たらないもん。だけどあのとき、イルカさんは私に気が付いて目の前まで泳いで来てくれました」

男「ああ、そうだね」

少女「つまり超音波ではなくて、もっと別な何かを感じ取っていたのだと思うんです」

男「それこそ幽体ってことになるんじゃないの?」

少女「それなんだけど、電磁波なのかもしれません。調べてみたんだけど、イルカさんには磁気感覚があるらしいんです」


磁気感覚――。
そういえば、渡り鳥は地磁気を感じ取れるから方角を間違えないと聞いたことがある。
たしか、クジラが浅瀬に座礁してしまう原因も磁場の乱れだと言われている。

872以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/29(火) 22:58:27 ID:Tsy5Y7wA
少女「恐らく、霊波動は電磁波に近い性質があるのだと思います。ネットによれば、幽霊の正体は電磁波エネルギーだっていう仮説もあるそうですよ」

男「それが関係あるの?」

少女「私が男くんに憑依していたときに会話が出来ていたのは、大脳の視覚や聴覚を操作していたからなんですよ。神経細胞の伝達は電気信号だし、電流が発生すると磁気も発生するじゃないですか」

男「右ねじの法則だっけ」

少女「それは今は良いんですけど、要するに生物の刺激と反応は微弱な電流によって引き起こされているんです」

男「なるほど。でも、その理屈だとイルカが少女さんの姿を見ることが出来た理由は説明できるけど、イルカに触ることが出来た説明にはならないんじゃないかなあ」

少女「イルカさんと人間では、活動電流や電位差の大きさが微妙に違うのかもしれません。そうなると発生する電磁波の強さも違うことになるから、それで私も触ることが出来たのだと思います」

男「電磁波の強さが違うだけで触れるなら、スマホみたいな精密機器にも触れるはずだろ。でも、スマホは落としていたじゃないか」

少女「私は電磁波に近い性質があると言っただけで、電磁波そのものだとは言っていません」

男「それじゃあ、どうして少女さんはあの手袋をはめる事が出来たんだろ」

873以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/29(火) 23:02:26 ID:Tsy5Y7wA
少女「……」

少女「それは分からないけど、実は今、考えていることがあって――」

男「考えていること?」

少女「男くんにとって一番大切な人は双妹さんなのかもしれないけど、それでも私は男くんのことが好きだから――。だから、最後の一歩を踏み出す勇気があれば、私の未練はすべて叶うはずなんです」


そう言った少女さんの声色は、どことなく不安げに感じられた。
双妹のこととは別に、何か言いづらいことでもあるのだろうか。


男「最後の一歩?」

少女「あっ、最寄り駅に着きましたね。送ってもらうのは、ここまでで大丈夫です♪」


少女さんは明るい声で言うと、ふわりと立ち止まった。
そして、にこりと微笑む。
ここから先は、まだ言いたくないということなのだろう。

874以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/29(火) 23:03:29 ID:btsnWA9k
男「それじゃあ、気をつけて」

少女「はい//」

男「そうそう、明後日なんだけど、終業式が終わった後に少女さんの家に行こうと思っているから」

少女「私の家に?」

男「まあそういう訳だから、家にいてくれたらうれしいかな」

少女「じゃあ、お持ちしています」

男「うん、おやすみ」

少女「おやすみなさい」


少女さんは軽く手を振って、駅舎の中へと浮遊して行った。
俺はその後ろ姿を見送り、明後日のことを考えながら夜空を見上げた。

875以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/03(日) 18:07:33 ID:sA6gPbHw
おつ

876以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/15(金) 00:12:08 ID:E8XeL972
1年で終わらんかったね

877以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 21:45:07 ID:xJEh8Rbw
(3月23日)wed
〜学校・お昼休み〜
お弁当を食べてすぐ、俺は友の席に向かった。
少女さんがあの手袋をはめることが出来た理由を知りたいからだ。


友「――なるほど。少女さんの霊的ダメージが大きかったのは、そういうことだったのか」

男「それで、どうして少女さんがあの手袋を触れるのか気になって……」

友「その説明をしようとしたら専門的な話になるんだけど、それでもいいか?」

男「いや。出来れば、分かりやすく話してくれたら助かるんだけど」

友「そうだなあ。例えば磁石と磁石を近づけると、引き合ったり反発したりするだろ。それと同じで、手袋の霊的な力が幽霊の霊体に直接作用するから除霊したり触ることが出来るんだ」

男「それじゃあ、あの手袋を使えば俺でも少女さんに触れるってことだよな」

友「そういうことになるけど――」

友「ちょっと待てっ! まさか、神になるつもりなのか?!」

878以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 21:45:44 ID:xJEh8Rbw
男「神になるって、どういうことだよ」


俺は友の言葉に驚いて、声を上げた。
単純に少女さんに触れるんじゃないかと思っただけなのに、何だかとんでもない話になってきたぞ。


友「男は手袋に触れる。少女さんも手袋に触れる。あとは分かるな」

男「ただの下ネタかよっ! 何事かと思って、びっくりしたじゃないか」

友「あらかじめ言っておくけど、霊具は穢れを祓うためのものだからな。少女さんが苦しむだけだぞ」

男「そうだよな。でも、イルカには触ることが出来ていただろ。だから、絶対に何か方法があるはずなんだ」

879以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 21:46:15 ID:xJEh8Rbw
友「あのさあ、男はどうして幽霊に触ることが出来ないと思う?」

男「それは身体がないからだろ」

友「それもあるけど、幽霊はひとつ上の次元に存在しているからなんだ」

男「ひとつ上の次元?!」

友「俺たちの業界でも『超ひも理論』を研究していて、心霊現象を最新の物理学で説明しようとしているんだ。とりあえず、今回はあの世とか幽世、彼岸の世界だと考えてくれればいいと思う」

男「お……おうっ」

友「それでだ、少女さんはあの世にいるわけだから、俺たちとは異なる空間座標の場所にいることになるだろ。そうなると、いくつか疑問が湧いてくるんだ。例えば、少女さんがどうやって俺たちと会話しているのか――とかな」

友「以前も少し話したけど、生身の体を持たない少女さんが俺たちと会話が出来るのは、幽体を介して一部の電磁波や生きている人間の魂が発している霊波動を意味のある情報として感じ取っているからなんだ。つまり、霊波動は次元を越えて干渉していることになる」

男「霊波動は次元を越えている?!」

880以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 21:48:24 ID:xJEh8Rbw
友「それを踏まえて霊波動が何なのかだけど、生物の授業で他精拒否のしくみを習っただろ」


他精拒否とは、1つの卵に2つ以上の精子が進入しないようにする仕組みのことだ。
ほ乳類の場合は、最初の精子が卵に進入すると受精電位が発生して最初の他精拒否が行われ、続いて透明帯が変化することで他精拒否が行われ受精が完了する。


友「このときに発生する電流には微弱な電磁波が含まれていて、この波源が魂であり霊体になるんだ。つまり幽霊は電気的な存在で、霊波動は次元を越えて放出されている電磁波のことだと言えるんだ」

男「そういえば、少女さんも霊波動は電磁波に近い性質があると言ってたな」

友「少女さんはそのことに気が付いていたのか。さすがだな」

男「イルカには磁気感覚があって、そのおかげで分かったみたい」

友「なるほど、そういうことだったのか。それで、あのイルカには少女さんの姿が見えていたんだな」

男「イルカに触ることが出来たのも電磁波が関係しているんじゃないかと言っていたけど、それはどう思う?」

友「それを今から説明するんだけど、間違いなく関係あるだろうな」

男「やっぱり、そうなのか!」

881以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 21:49:11 ID:xJEh8Rbw
友「少女さんは男に憑依をして、自分の姿を見せたり金縛り状態にしたりしていただろ。あれなんだけど、実は電磁誘導と同じような現象として理解することが出来るんだ」

男「電磁誘導?」

友「余剰次元の膜、つまり幽体には肉体と霊魂を繋ぐ役割があるんだけど、少女さんは男の幽体を利用して肉体に繋がっていたんだ。そうすると、自分の霊波動を依り代の身体に直接干渉させることが出来るようになる」

男「えっと……霊波動は電磁波だから、人体に作用すると誘導電流が流れるってことか」

友「ああ、そうだ。普通の憑依霊は催眠状態にする程度の力しか持っていないんだけど、少女さんは身体中の電気信号を意図的に操ることが出来るというわけだ」

男「そう考えると、少女さんってとんでもない事をしていたんだな」

友「……ああ。はっきり言って、少女さんクラスの悪霊は人を突然死させることが出来るからな。原因不明の心不全がその際たるものだけど、中には誘導電流で発生する熱を使って熱中症で殺してしまう怨霊もいたりするんだ」

男「マジか……」

友「別に少女さんを悪く言うつもりはないけど、四十九日まで10日を切っていることも事実だからな。ここまでの話で気に障ったなら、スマン」

男「いいよ、分かってる」

882以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 21:49:51 ID:xJEh8Rbw
友「それで結局、少女さんに触ることが出来るのかどうかだけど、ポルターガイスト現象を起こすことが出来れば可能性があるかもしれない」

男「ポルターガイスト現象って、物を動かしたりするアレだよな」

友「幽霊はひとつ上の次元にいるから物体に触ることは出来ないけど、電磁力を発生させれば間接的に触ることが出来るはずだ」

男「フレミングの左手だっけ」

友「そう、それなんだけど、実は電気や磁石の力は重力よりもはるかに強いんだ。例えば静電気を溜めた下敷きを頭に近づけると髪の毛が逆立つし、小さな棒磁石でも重たい鉄くぎを持ち上げることが出来るだろ」

男「言われてみれば確かに……」

友「そんな訳で、少女さんが物理干渉をするなら電磁力以外に考えられない。ただ、ローレンツ力の向きは電磁波の進行方向と一致しているから、霊波動で発生している力が余剰次元に向かって作用していることが問題になるけどな」

男「余剰次元ってことは、あの世に向かって力が作用しているってことか。それって大丈夫なのか?」

友「はっきりとは言えないけど、それに関しては恐らく大丈夫だと思う。重力がとても弱いのは『ひも』が閉じていて余剰次元に移動しやすいからなんだけど、そのことで俺たちに悪影響なんてまったくないだろ」

男「そんな事を言われても、まったく意味が分からないんだけど」

883以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 21:50:22 ID:xJEh8Rbw
眉を寄せると、友はノートに円と波線を書き込んだ。
それを見てもよく分からないが、友によれば分子や原子を小さくしていくと最終的に『ひも』になるらしい。

重力はその『ひも』が輪になっていて、俺たちが住んでいる次元に結びつけることが出来ない。
そのせいで、重力は海に浮かべた浮き輪のように、ゆらゆらと余剰次元に流されて行ってしまうそうだ。
俺たちはその余剰次元に流されていく重力の影響を受けているが、日常生活で異常が発生したという話を聞いたことはない。

それに対して、電磁気力は『ひも』が輪になっていないので、俺たちが住んでいる次元に先端が結び付けられていて固定されている。
そのおかげで静電気や磁石の力は重力よりも強いのだが、理論によっては結び目が解けて余剰次元に移動してしまうことがあると考えられている。
それを何かに例えるならば、水族館の不動の人気者・チンアナゴが気まぐれで泳ぎ始めてどこかに行ってしまうようなものだ。

すると電界や磁界の大きさが急激に変化するので、電磁誘導が生じることになる。
この電磁誘導が人体に作用すると霊的に危険だが、余剰次元に流されていく『ひも』の本数は圧倒的に重力のほうが多いので、ローレンツ力は無視をすることが出来るそうだ。

884以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 21:51:48 ID:xJEh8Rbw
友「まあそんな訳で、霊波動で発生する力よりも悪霊に憑依されることのほうが危険なんだ」

男「それじゃあ、ポルターガイスト現象の何が問題なんだよ」

友「ローレンツ力が余剰次元を越えて作用する場合、俺たちが生活している3次元方向に継続した力を加えることが出来ないだろ。そうなると、ポルターガイスト現象が発生しないことになるじゃないか」

男「ああ、そっか!」

友「だから、少女さんが物理干渉をするためには、どうにかして3次元方向に作用させることが出来る電磁力を発生させる必要があるんだ」

男「でも水族館に行ったとき、少女さんはイルカにだけ触ることが出来ていたよなあ。さっきも言ったけど、どうやって説明するつもりなんだ?」

友「イルカには磁気感覚があるから、少女さんがどこにいるのか分かっていたんだ。そして、その方向に霊波動を飛ばして干渉していたんだろうな」

男「……まじか」

友「まじだ。今は仮説の段階だけど、そうとしか考えられない」

男「そんなことが出来るとか、イルカって頭が良いのレベルを超えてるだろ!」

885以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 21:52:28 ID:xJEh8Rbw
友「とりあえず、これで分かってくれたよな。普通の人間が幽霊に触ろうだなんて、どう考えても無理なんだ」

男「何か他に良い方法はないのか? 少女さんを保健室に運んでくれたときくらいの弱い霊具なら、悪い影響はまったくないんだろ」

友「俺の手袋でアレして、ナニするとか勘弁してくれ」

男「あ、ああ……まあ、そうだよな」


さすがにそういう事をされたら、俺も友だち付き合いを考えるレベルで嫌だ。
こんな話を真剣に聞いていろいろと考えてくれた訳だし、十二分に感謝するべきだろう。


友「とりあえず、今回ばかりは俺に出来ることはない。もしあるとしたら、それは成仏に失敗したときに除霊をする、その段取りだけだ」

男「分かった。すごく参考になったよ、ありがとう」

友「まあ、こればっかりは男と少女さんの問題なんだ。二人で解決してくれ」

男「ああ、そうするよ」

886以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 21:52:59 ID:xJEh8Rbw
男「ところで、少女さんはあのことを知っていたみたいだ」

友「そうらしいな」

男「そうらしいなって、どうして友が知ってるんだよ」

友「どうしてって、今朝、友香さんからメッセージが来たからだけど。昨日の放課後、少女さんが男の家に行って話したんだろ」

男「そうだけど、友香さんとラインもしていたのか!」

友「学校が違うから、ちょっとした話をするときに便利なんだ」

男「もしかして、もう付き合ってるとか?」

友「まだそんなんじゃねえよ」テレテレ

男「まだってことは、これから付き合う予定があるということだな」ニヤニヤ

友「それはまあ、今はいいじゃないか。俺は少女さんのこととか、友香さんの力になってあげたいだけなんだよ」

男「相談に乗ってもらっているうちに好きになるっていうのはよくある話だし、その調子で頑張れよ」

友「それは分かっているけど、男のほうこそ頑張れよ。少女さんがちゃんと成仏できるように」

男「そうだよな」

887以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 21:53:33 ID:xJEh8Rbw
友「ところでさあ、友香さんがみんなでお花見をしたいって言ってるんだけど、31日の予定は大丈夫かな」

男「金曜日に雪マークが付いていたけど、もうさくらが咲くのか」

友「彩川市の予想開花日が3月31日だから、ここもたぶん2分咲きくらいにはなっていると思う。もちろん行くだろ」


そういえば、水族館に行ったときにお花見をしたいと言っていたし、友香さんにとって少女さんと遊ぶことの出来る最後の機会だ。
俺が断る理由は何もない。


男「もちろん、行くに決まってるだろ」

友「そう言ってくれると思ったよ。それじゃあ、双妹ちゃんにも聞いてみるか」

888以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 21:54:59 ID:xJEh8Rbw
双妹の席に行くと、双妹は妹友さんと映画の情報誌を読んでいた。
明後日から春休みなので、遊びに行く予定を立てているのだろう。
今朝、登校中に俺もその話をしたら不機嫌そうに「生理が来るから週末は遠出を避けたい」と言っていたけど、今は少し機嫌が良さそうだ。


友「双妹ちゃん、ちょっと良いかな」

双妹「いいけど?」

友「友香さんがみんなでお花見をしたいって言ってるんだけど、31日の予定は大丈夫かな」

双妹「金曜日に雪マークが付いていたけど、もうさくらが咲くの?」

友「彩川市の予想開花日が3月31日だから、ここもたぶん2分咲きくらいにはなっていると思う」

双妹「あー、そっか……」

双妹「31日だね。私からも言うつもりだけど、友香さんに楽しみにしてるって言っておいてね」

友「分かった。ありがとう」

889以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 21:55:36 ID:xJEh8Rbw
妹友「お花見、いいな〜。でもさあ、2分咲きって寂しくない?」

双妹「そうだけど、いろいろ事情があって」

妹友「そういえば少女さんのこと、あれからどうなったの?」


俺たちに友香さんを紹介してくれたのは、妹友さんだ。
もともと話を振ったのは俺だし、少女さんのことを気にするのは当然のことだ。
しかし、すでに亡くなっているとは言いづらい。


男・双妹「……」

妹友「……そっか。まだ私たちと同い年なのにね」


妹友さんは俺たちの沈黙で察したらしく、表情に影を落とした。
俺は肩を落とし、詳細を伏せつつ事情を話すことにした。


男「それは悲しいことだけど、少女さんの想いは多くの人に繋がっているはずだから……」

妹友「そうだよね。私もそうだと思うよ」

890以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 21:56:37 ID:xJEh8Rbw
友「ところで、妹友さん! 春休みに友だちを遊びに誘いたいんだけど、何かお勧めの映画ってあるかな」

妹友「あのさあ、ちょっとは空気を読めないの?」

友「こんなの、わざとやってるに決まってるだろ」

双妹「もしかして、友香さんをデートに誘うつもりなの?!」

妹友「えっ、うそっ……友くんに彼女がいるの?! ええっ、信じられない!」

友「まだ彼女ってわけじゃないんだけど」アセアセ

双妹「まだってことは、これから彼女にする予定があるってことなんだ」

妹友「だったら、この映画なんてどうかな。4月29日に後編も上映されるから、次のデートにも誘いやすくなると思うよ」

双妹「そうだね。ちなみに、このループものの映画は避けるべきだと思う。人気はあるみたいだけど、今の友香さんにはお勧めできないから」

男「俺としては、このラブコメはあまりお勧めできないな。ストーリーは面白いんだけど、女性客ばかりで居心地が悪かったから」

友「みんな、ありがとう。参考にしてみるよ」

双妹「相談に乗ってもらっているうちに好きになるっていうのはよくある話だし、その調子で頑張ってね」

妹友「新学期になったら、報告よろしくね〜」


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板