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少女「私を忘れないで」

1 ◆WRZsdTgWUI:2018/02/17(土) 23:13:03 ID:SLrOQBwc
(プロローグ)
〜体育館裏・少女さん〜
男子「少女さん、わざわざ来てくれてありがとう!」

少女「……」

男子「えっと、その……明日から冬休みだね」

少女「そうですね」

男子「それでその……クリスマスの日は予定が開いてますか」

少女「クリスマスの予定?」

男子「は、はいっ!」

少女「ひとつ聞きたいのですけど、あなたと私は今日はじめて会いましたよねえ。それなのに、どうして教えないといけないんですか」

男子「それは少女さんのことが好きだからっ!」

少女「……?!」

男子「文化祭のときに笑っている少女さんを見て可愛いなって思って、それで一緒に話が出来たらいいなってずっと思っていたんです。だから、僕と付き合ってくれませんか!」

756以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/13(火) 23:16:05 ID:SHRyY4gw
男「あのっ、少女さんは大丈夫ですよね!」

巫女「彼女はまだ四十九日を迎えていない幽霊ですし、しばらく休めば霊的な力が回復すると思います。それまで依り代への憑依を解いて、うちの神社で預からせていただきますね」

男「お願いします」

母親「それじゃあ、神社まで送って行きましょうか」

巫女「ありがとうございます」

母親「男、双妹。二人ともインフルエンザなんだから、ちゃんと温かくして寝てなさいよ」


母さんは言い含めるように言うと、巫女さんと一緒に部屋を出ていった。
そして裸の双妹と部屋で二人きりになり、気まずい空気が広がった。
外は相変わらず、ザーザーと強い雨が降っている。
やがて双妹は何か言いたそうな顔で俺を一瞥すると、ベッドから下りて脱ぎ散らかした下着とネグリジェを着始めた。

757以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/13(火) 23:19:40 ID:2Lnkh.ds
男「なあ、双妹……」

双妹「なに?」

男「中学2年生のときのことなんだけど、あの夜のことを覚えてるか?」

双妹「……覚えて…………いるよ」

男「俺は双妹のことを、もう一人の自分だと思ってる。どんなことがあっても俺たちは一緒だし、楽しいことも苦しいことも二人で分かち合いたいと思ってる」

男「今は双妹の気持ちに応えられないけど、それだけは絶対に変わらないから」

双妹「……」

双妹「私も男のことは、もう一人の私だと思ってる。かけがえのない存在だと思ってる。私もどんなことがあっても、その大切な気持ちだけは失いたくない」

男「ああ、俺もだ」

双妹「うん……男、好きだよ…………」


双妹は不安そうな様子で言い、俺の隣に座ってきた。
俺はそんな双妹の腰に腕を回し、気持ちが落ち着くまで優しく抱き寄せてあげた。

758以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 23:26:47 ID:i9hQ0UrA
おつ

759以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/19(月) 23:10:08 ID:ZGeR4cxg
(3月13日)sun
〜神社・少女さん〜
男くんが少年くんを除霊してくれて、今日で4日。
無我夢中ではめた手袋の影響で苦しい日々が続いていたけれど、ようやく全身の虚脱感が和らいできた。
それなのに今日の空模様と同じで、私の心は晴れてくれない。

あの日、私は双妹さんを止めるために支配しようとして、いろんなことを知った。
双妹さんが大学病院の検査で男くんを射精させて、性に目覚めたこと。
セックスをしたいと思うようになったけれど、最後の一線を越えたことだけは一度もないらしいこと。

そして、男くんと双妹さんの暗黙のルールも知った。
『少女さん、つまり私がしていたら嫌だなと思うようなことをしないこと』

その割には今でも一緒にお風呂に入っているし、洗いっこのついでに性行為をすることさえあるようだ。
しかも、双妹さんはそれを兄妹のスキンシップだと考えているらしい。
もはや性に対する意識が違いすぎて、私には訳が分からない。

それでも既成事実を作ろうとは考えていないらしくて、SNSに生配信をしているという話はブラフだった。
そのことは、単純にほっとした。

760以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/19(月) 23:49:27 ID:ZGeR4cxg
双妹さんが男くんに対して抱いていた背徳的な気持ち。
それを恋愛感情だと自覚してしまったのは、どう考えても私のせいだ。

私がすぐに成仏していれば、双妹さんが集団パニックで襲われたり、少年くんに取り憑かれたりするようなことにはならなかった。
そうなれば抑えていた気持ちを自覚するようなことにはならなかっただろうし、男くんに好きな人が出来れば性的なスキンシップもしなくなっていただろうと思う。
きっと、普通の高校生活を送ることが出来ていたはずだ。

それなのに、双妹さんは告白をして引き返すことが出来なくなってしまった。
そんな双妹さんに対して、私は何をしてあげることが出来るのだろう。


友香「少女、いる〜?」


音がない世界で一人考え事をしていると、友香ちゃんの声が聞こえてきた。
日曜日だし、お見舞いに来てくれたのかもしれない。
私はそう思い、障子をすり抜けて外に出た。
すると、制服姿の友くんと友香ちゃんが立っていた。

761以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/19(月) 23:51:19 ID:qVog.H3g
少女「友香ちゃん、お見舞いにきてくれたんだ」

友香「うん、身体は大丈夫?」

少女「まだ本調子ではないけど、外に出られるくらい元気が出てきたよ」

友香「そうなんだ〜。元気そうで良かったよ」

少女「ところで、二人ともどうして制服を着ているの?」

友香「ああ、これね。今から友くんと学校に行こうと思っているの」

少女「友くんと学校に?」

友香「うん。男くんがあの悪霊を除霊してくれたから、少女はもう学校に行けるはずでしょ。だから、危険な低級霊がいないか調べてもらおうと思っているの」

762以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/19(月) 23:56:50 ID:qVog.H3g
少女「低級霊がいないか調べるって、どうしてそんな事を?」

友香「そんなの、決まってるじゃない。この1年間頑張ってきたことを最後までやり遂げようよ」

友「以前、俺の親父が『生きた証が見付かったとき、少女さんの救いがそこにあるはずだ』と言っていただろ。それを見付けるためにも、学校に行ってみたらどうかな」


私はこの1年間、看護師になるために勉強を頑張ってきた。
もうそれが叶うことはないけれど、こんな形で諦めるのは絶対にいやだ。


少女「私……最後までやり遂げたい。みんなと一緒に頑張りたいっ!」

友香「うん、頑張ろう♪」


友香ちゃんのうれしそうな顔を見て、私ははっとした。
そういえば、双妹さんだったっけ。
生きた証を考えているときに、学校に行ってみたら良いんじゃないのと提案してくれたのは――。

763以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/20(火) 21:25:51 ID:IwxCc8lA
(3月14日)mon
〜自宅・部屋〜
今日も相変わらずの雨模様。
俺はインフルエンザの出席停止期間中で部屋に引きこもり、ただぼんやりと風雨の音に聞き入っている。
すでに解熱していて体力が有り余っているせいで、じっとしていると気が滅入ってしまいそうだ。

今頃、少女さんは何をしているのかな――。
俺はスマホを起動し、昼過ぎに来た友のメールを読む。
それによれば、少女さんは霊的な力が順調に回復し、今日から友香さんと一緒に学校に行っているそうだ。
もしかすると、今日はお見舞いに来てくれるかもしれない。

だけど、何を話せば良いのだろうか。
少し気まずい。

とりあえず、友にお礼のメールを返す。
そして横になっていると、軽快なリズムで階段を上る足音が聞こえてきた。
どうやら、双妹が学校から帰ってきたようだ。

764以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/20(火) 21:31:20 ID:DfttHY9c
双妹「ただいま〜。身体は大丈夫?」

男「もう熱はないし、退屈してたところ」

双妹「そうだろうと思ったよ」


双妹はくすくすと笑うと、ミニテーブルの上にカップを並べて紅茶を淹れた。
俺はあまい香りに誘われてベッドから下り、お菓子の箱を手に取る。
それにはプレゼント包装がされていて、淡い水色のリボンが施されていた。


男「これ、誰かに貰ったのか?」

双妹「今日、ホワイトデーだったでしょ。それで、友くんが私と男に半分ずつお返しだって」

男「俺の分もあるのかよ。ネタに走ってるんじゃないだろうなあ」

双妹「あー、ありそうだね。クッキーだと言っていたから、変なお菓子ではないと思うんだけど……」

765以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/20(火) 21:37:56 ID:DfttHY9c
俺は双妹に包みを返し、何が出てくるのか様子を見守った。
友がくれたものなら油断は出来ない。


双妹「鈴塩のハーブソルトクッキーか。何だかおしゃれだね」

男「そうだな。というか、友にこんなセンスがあったのが驚きなんだけど」

双妹「うん。私もびっくりした」


もしかして、友は本気で双妹のことが好きなのか?
そう思いつつ、1枚食べてみた。
とてもサクサクしていて、ハーブの香りがほのかに広がっていく。
しかも塩気がくどいことはなく、紅茶の甘みを適度に引き出している。


男「これ、ガチで美味しいんだけど!」

双妹「本当にすごく美味しい。あとでお礼を言わないと」

766以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/20(火) 21:40:42 ID:iZ/3.48.
男「なあ、双妹」

双妹「それはないよ。友くんは幼馴染みたいなものだし、恋愛対象じゃないから」

男「でも、友が本気なら考えてみても良いんじゃないかな」

双妹「そんなの絶対にあり得ない。そもそも、友くんを好きになるとか想像できないし、考えることすら嫌だもん。まあ、いいお友達ってところかな」

男「そっか。それなら仕方ないな」

双妹「そうそう。私が好きなのは男だけなんだから//」


友には悪いけど、双妹は完全に脈なしだ。
俺も友と双妹が付き合うなんて想像できないし、もし好きならば諦めてもらうしかないだろう。

767以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/20(火) 21:46:07 ID:IwxCc8lA
双妹「それはそうと、男はどうするの?」

男「どうするって、何がだよ」

双妹「バレンタインデーのお返しに決まってるじゃない。理由はどうあれ、私たちは少女さんの前でセックスをしようとしたのよ。どんな顔をして会うつもりなの?」

男「そうだよな……」

双妹「とりあえず、私が先に会っておいたほうがいいよね。今は私が無害だってことを分かってもらわないといけないし」

男「いや、そういうことは俺が話すべきだろ」

双妹「でも、少女さんにとって私は油断が出来ない恋敵なんだよ。そんな相手が一緒に住んでいたら、男がいくら大丈夫だと言っても安心することが出来ないと思う」

男「そうなるのか」

双妹「そういうことだから、明日、学校の帰りに少女さんと話をしてみようと思う。それでダメだったら、潔く諦めてね」

768以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/21(水) 19:03:03 ID:EikZDiRA
おつ

769以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/28(水) 21:48:08 ID:FeU5lzV6
(3月15日)tue
〜学校・少女さん〜
火曜日になり、新しい1日が始まった。
学校に着いて慣れ親しんだ教室に入ると、今日も私の席に花瓶が置いてあった。
友香ちゃんによると、クラスのみんなが交代で水を替えてくれているそうだ。

学校の授業は私が死んで一ヶ月が経ち、今は平常通りに行われている。
看護関係の授業は楽しいし、実習の授業は参加できないことがとても悔しい。
そして、休み時間になったら友達のおしゃべりに耳を傾ける。

私はここにいるよ――。

その声が届くのは友香ちゃんだけだ。
だけどみんなを見ていると、それでも構わないと思えるようになってきた。

みんなの心の中で今も私が生きているから。
私の夢と目標がクラスのみんなに繋がっていると実感することが出来たから。

去年の4月にみんなと出会って、もうすぐ1年。
今となっては、最初の課題で書いた小論文が懐かしい。
そういえば、そのときに貰ったアレはどうなったのだろう。

770以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/28(水) 21:50:27 ID:FeU5lzV6
〜神社・少女さん〜
今日の授業が終わり、私は友香ちゃんと別れて神社に帰ることにした。
男くんの家の近くを通り過ぎ、ふわふわと住宅街を抜けていく。
ふと街路樹に目を向けると、今朝まであった雪吊りが取り外されていた。
季節はもう春になろうとしている。

私も役目を果たした雪吊りのように、もうすぐこの世からいなくなるんだろうな。
望む望まないにかかわらず、そのときが確実に迫ってきている。

その前に、男くんと双妹さんを交えて話し合わなければならない。
家に帰ることにも挑戦したいし、お姉ちゃんやお祖母ちゃんにも会っておきたい。
力が完全に戻ったらやりたいことが、まだいっぱい残っている。


少女「ただいま」

巫女「お帰りなさい。ついさっき双妹さんが来られて、社務所でお待ちになっていますよ」

少女「双妹さんが?」

巫女「ええ、あの日のことで話をしたいと」

少女「……分かりました。ありがとうございます」

771以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/28(水) 21:52:37 ID:wQVfAmzs
社務所に入ると、借り住まいをしている私の部屋で双妹さんが待っていた。
どうやら学校帰りに直接来たらしく、まだ制服を着ている。
私は双妹さんに声を掛け、ちゃぶ台を挟んで正座した。


少女「双妹さん、こんにちは」

双妹「こんにちは」

少女「……」

双妹「……」

双妹「あの日のこと、誰かに話しましたか?」

少女「あんなこと、誰にも言えないです」

双妹「……そう」

772以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/28(水) 21:54:38 ID:wQVfAmzs
双妹「ところで、もう察していると思うけど、私……振られたから」

双妹「兄妹なのに恋愛が出来ると思っていた私が、どうかしていたんだよね。そういうことだから、安心して。私はもう少女さんの邪魔をしない」

双妹「自分の気持ちだけを正当化して少女さんの恋愛を認めないのは、私自身、納得が出来ないし。まあ、少女さんが笑顔で成仏してくれたらそれが一番良いのかなって」


双妹さんは淡々と言い終えると、苦笑した。
その姿を見て、私は何だか申し訳ない気持ちが込み上げてきた。


少女「双妹さん、ごめんなさい……」

双妹「ごめんなさいって、何が?」

少女「あの日のことが原因で、男くんと双妹さんの関係が壊れてしまったんじゃないかと思って……。私さえいなければ、少年くんに憑依されてあんなことにはならなかったはずだから」

773以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/28(水) 21:59:08 ID:0AlqJkrE
双妹「あのさあ、何わけの分かんないこと言ってるのよ!」

少女「えっ……」

双妹「はっきり言わせてもらうけど、私と男は世界中にたった一つしかない特別な絆で固く結ばれているんだからね。あの程度のことで関係が壊れるとか、絶対にありえないし!」

双妹「そもそも少女さんさえいなければ、私は今頃、男と愛し合う関係になっていたはずなの。むしろ、出会って欲しくなかったくらいだわ!」

少女「……!」

少女「そっか、逆だったんだ」


私がいたから、男くんと双妹さんは最後の一線を越えなかった。
私が二人にとって、心理的なブレーキになっていたのだ。


少女「双妹さん。私は男くんを諦めないけど、だからと言って、双妹さんの恋愛観を受け入れるつもりはまったくないから!」

双妹「ふうん、私を否定するつもりなんだ。それじゃあ、私は男と少女さんの交際を認めたりはしない! それでも男と交際するつもりなら、少しでも早く成仏させていなくなってもらうから」

少女「双妹さんのほうこそ、本当に振られたのならば、私が成仏した後もずうっとただの妹でいてくださいね」

774以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/29(木) 21:24:11 ID:9Sj3pFhQ
双妹「……はあっ、なんだかなあ…………」

双妹「私たちの恋愛は性的マイノリティーかもしれないけど、好きな人を想う気持ちは普通の人と同じはずでしょ。だから少女さんが幽霊だとしても、それを受け入れて応援してあげようと思っていたんだけどな」

少女「確かに好きな人を想う気持ちは同じかもしれないけど、私と双妹さんでは関係性が違いますよね。私は兄妹で愛し合うなんておかしいと思います」

双妹「ひとつ聞きたいんだけど、LGBTの人たちは社会的に認知され始めているのに、どうして兄妹で愛し合うのはおかしいの? 人が人を好きになるのは理屈じゃないんだよ」

少女「男くんと双妹さんは兄妹だし、血が繋がっているから駄目なんです。好きだからって、何をしても許されると思っているんですか」

双妹「血が繋がっていたら、何だって言うの? そもそも少女さんは男にデートDVをしていたくせに、よくそんなことが言えるよねえ」

少女「それとこれとは関係ないじゃないですか」

双妹「はあ? 憑依霊なんて、ただのストーカーでしょ。好きだからって理由でそれが許されるのなら、私の気持ちも許されるんじゃないかなあ」

775以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/29(木) 22:15:59 ID:9Sj3pFhQ
双妹「結局のところ、同性愛者は好きな人が同じ性別だっただけ。私は好きな人が双子のお兄ちゃんだっただけ。同性愛者を性的指向で差別しないというのなら、近親性愛者も偏見をなくして受け入れるべきなんです」

双妹「まあ、結婚の話になると税金とかいろんな問題が関係してくるし、子どもを作れない同性愛者が普通の夫婦とまったく同じ権利で優遇されるのは、個人的にどうなのかなって思うんだけどね」

少女「同性婚に賛否両論があるのは分かるけど、その理屈だと不妊症のカップルや高齢者同士の結婚も駄目だってことになりますよねえ」

双妹「少女さんは法の下の平等を知らないの?」

少女「それくらい知ってるし! もしかして、双妹さんは兄妹で結婚が出来ないのは差別だとか言うつもりなんですか?」

双妹「正直に言うと、結婚したいなとは思うよ。だけど、家族だから色んな権利が認められているし、赤ちゃんも認知してくれれば大丈夫だと思うから――」

少女「えっ、赤ちゃんが欲しいと考えているの?!」

双妹「そうだけど、悪い?」

少女「悪いも何も、兄妹なんだよ! 劣性遺伝子病を発症するリスクがかなり高いと思います」

776以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/29(木) 22:33:55 ID:wlzHT1Ms
男くんと双妹さんは、常染色体と母親由来のX染色体が完全に一致している。
あまり想像したくはないけれど、そんな二人が赤ちゃんを作ってしまうと対立遺伝子がホモ接合になりやすく、もし双妹さんが劣性遺伝子病の保因者ならば4分の1の確率で発症することになる。
劣性遺伝子病の遺伝子は健康な人でも平均10個持っているといわれているので、双妹さんはなおのこと慎重になるべきだと思う。


双妹「えっとさあ、それを言うと高齢出産も染色体異常のリスクが高くなるし、先天的な障がい者に不妊手術を強制しろだとか、障がい児は産まれてくる前に中絶しろって話になりますよね」

少女「近親相姦がそれらと同じだって言うんですか」

双妹「そうだよ。もし障がい者にそんな事をしたら、絶対に社会問題になりますよねえ。それなのに近親相姦をすると障がい児が生まれやすいから駄目だとか言うのは、どう考えても矛盾していると思います」

双妹「それに私と男はもともと性染色体が3本あるトリソミーだったから、生まれてくる赤ちゃんの命を選別するような考え方は好きじゃないんです。普通の夫婦でも同じようなリスクがある以上、優生学上の理由で近親相姦を否定することは出来ません」

777以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/29(木) 22:53:11 ID:wlzHT1Ms
少女「確かに双妹さんの言う通りかもしれないし、優良な劣性遺伝子だけが発現して健康な赤ちゃんが生まれてくる可能性もあるだろうとは思います。だけど、子どもの気持ちを何ひとつ考えていないですよね」

双妹「どういうこと?」

少女「もし自分の両親が実の兄妹だと知ったら、心が深く傷付けられることになるはずです。学校でいじめられるかもしれないし、それ以上に恋愛観や家族観が大きく歪んでしまって健全に成長することが出来なくなってしまうと思います。もしそんなことになったら、子どもが可哀想だとか思わないんですか」

双妹「だからそういう偏見や差別をなくそうって、私は言ってるんです。そもそも、兄妹でセックスをして子どもを作ることは犯罪じゃないんだから、頑なに否定ばかりしている人は多様化している価値観に取り残されているだけだと思います」

少女「犯罪ではなかったとしても、兄妹でセックスをして子どもを作るだなんて倫理的におかしいです。だから、私は双妹さんの恋愛観を受け入れません」


そう言うと、双妹さんは小さくため息をついた。
そしてまだ言い足りないことがあるのか、目線を上に向けて何かを考え始めた。

778以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/29(木) 23:04:35 ID:aIvMxZbQ
双妹「これは実際にあることなんだけど、生まれてすぐ生き別れになった兄妹がそうとは知らずに出逢ったら、お互いに親近感が湧いて恋に落ちてしまうことがあるらしいんです」

少女「えっと……ジェネティック・セクシュアル・アトラクションのことですよね。それなら、テレビで見たことがあります」


それによると、両親の離婚や養子縁組などの理由で生後間もなく離れ離れになっていた近親者に対して、外見や性格などの類似点の多さから相手を魅力的に感じてしまう現象があるらしい。
しかもDNAの構造が近ければ近いほど好意的に感じて、お互いに強く求め合うようになるという説もあるそうだ。
それに対して、幼少期から一緒に暮らしてきた相手には性的な感情を持ちにくくなるという、ウェスターマーク効果も広く知られている。

そこまで思い出して、私ははっとした。

もしかすると、男くんと双妹さんはDNAの構造がほぼ完全に一致しているせいで、ウェスターマーク効果よりもジェネティック・セクシュアル・アトラクションのほうが優位に働いてしまっているのかもしれない。
健康な異性一卵性双生児は今まで前例がない訳だし、もしその可能性があるとしたら、私は男くんの彼女としてどのように向き合えば良いのだろうか。

779以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/29(木) 23:23:57 ID:9Sj3pFhQ
双妹「それを知っているのなら、話は早いですね」

双妹「結論だけ言うと、近親相姦は本能なんです。それなのに、兄妹で愛し合うことは倫理的におかしいんですか?」

少女「近親相姦が本能だとか、訳が分からないです。もしかして、双妹さんがお父さんとお風呂に入るのもそういうことなんですか」

双妹「はあっ?! 変なことを言わないでよ! そんなこと、絶対にあり得ないし!」

少女「ですよねえ! 家族なんだし、それが普通なんです」

双妹「つまり、少女さんは兄妹だから結婚が出来ないと苦しんでいる人がいたら、家族なのに気持ちが悪いと非難するつもりなんですね」

少女「そうは言ってないです。男くんと双妹さんの場合は生き別れになっていた訳ではないし、それとは状況が違うじゃないですか!」

双妹「それじゃあ、ちゃんとした理由さえあれば、私が男とセックスをしても受け入れてくれるってことですか?」

少女「それは、そう……かもしれないですね」


あまりにもしつこいので、私は仕方なく部分的に肯定することにした。
男くんと双妹さんが本能的に惹かれあっているのならば、今は関係を悪化させるよりも話を合わせておくほうが良いかもしれない。

780以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/30(金) 01:49:48 ID:yMi.6T6E
双妹「少女さんも結局はただの感情論なんです。この際だからはっきり言わせて貰うけど、少女さんはもう死んでいるんだから、生きていたときの常識で恋愛するのはやめた方がいいと思いますよ」

少女「私だってあんなことで死にたくなかったし、男くんと普通の恋愛をしたかった」


私の人生は本当になんだったんだろう。
少年くんに告白をされて断ったら呪い殺されて、幽霊になってなお粘着されて――。


双妹「この前ね、みんなで水族館に行ったでしょ。そのときに思ったの。少女さんの気持ちは誰に繋がっているんだろうって。それはきっと、私だったのかもしれないですね」


双妹さんがふいに優しい表情になった。
それに少し戸惑い、私は聞き返す。


少女「どういうことですか?」

双妹「ほらっ、私たちは同じ人を好きになったわけだし、何となくだけど」


男くんと双妹さんは一卵性双生児だ。
だから双妹さんのために生まれてきたということは、男くんのために生まれてきたと言い換えることが出来る。
そう考えると、私は何となくうれしく思えた。

781以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/30(金) 02:30:07 ID:PajYMzZ2
少女「そっか、私の気持ちは男くんと双妹さんにつながっていたんだ」

双妹「ええっ! そんな言い方をしてくるの?!」

少女「私、何か変なことを言いましたか」

双妹「そういう訳じゃないけど、男のことが本当に好きなんだなと思って」

少女「ああ……はい、好きです」

双妹「えっとさあ、自分でこういうことを言うのは気が引けるんだけど、私と男に性的な関係があることを知ったのに、どうしてまだ男のことを好きでいられるの?」

少女「男くんは双妹さんといろいろあったのかもしれないけど、それは私との交際が始まる前のことですよね。私と付き合い始めてからは一度もしていないし、私が見てきた男くんの頑張る姿を嘘だと思わないからです」

双妹「……ふうん」

少女「それに今の私の恋愛はマイノリティーだから、双妹さんの恋愛と同じで立ち止まるわけにはいかないんです。双妹さんのことは絶対に認めないけど、さっきの忠告は受け入れたいと思います」

782以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/30(金) 02:34:19 ID:cZ5PjTiQ
双妹「そっか、立ち止まるわけにはいかない……か」

双妹「そういうことなら、少女さんには1秒でも早く成仏してもらうしかないですね」

少女「……!」

少女「まさか、私がいなくなったら男くんに関係を迫るつもりですか」

双妹「言わなかったっけ。男と交際するつもりなら、少しでも早く成仏させていなくなってもらうって」

少女「あっ、ああ……それなら良いんだけど」

双妹「ふふっ、それではごきげんよう」


双妹さんは今日一番の笑顔でにこりと笑い、通学かばんを手に取って部屋を出た。
私も部屋を出て、社務所の入り口から双妹さんの後ろ姿を見送る。
もしかすると、私は本気で諦めるつもりだった双妹さんをその気にさせてしまったのかもしれない。
それが思い過ごしならばいいのだけど、それと同時に男くんと双妹さんの消えることがない絆をうらやましく感じた。

783以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/03(月) 12:30:28 ID:DGlYaMBU
おつ

784以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/04(火) 21:55:10 ID:GMmrwBHs
・・・
・・・・・・
〜自宅・午後〜
辺りが暗くなってきた頃、ようやく双妹が帰ってきた。
今日の帰りに少女さんと話し合ってみると言っていたけれど、上手くまとまってくれたのだろうか。
少し気になるけれど、双妹は晩ご飯の手伝いでキッチンに行ってしまった。
帰ってくるのが遅かったのだから、それは仕方がない。

さすがに今は聞くことが出来ないし、話してくれるのを待つしかないだろう。
やがて晩ご飯の時間になり、俺はリビングに行くことにした。


男「今日の晩ご飯はとり野菜鍋か」

双妹「もう下りてきたんだ。最後のシメは素麺だよ」

男「素麺? ああ、だいぶ前に少女さんが普及しようとしていたやつか」

双妹「お母さんが思い出したみたいに素麺を買ってきて、それで――。とりあえず、おこたに新聞を敷いといてくれる?」

男「分かった」

785以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/04(火) 21:56:21 ID:SfAJxSCE
コタツの上に新聞を敷くと、母さんがお鍋を運んできた。
そしてふたを取ると湯気が上がり、リビングにみその香りが広がった。
ここしばらくお粥がメインだったので、この匂いだけでご飯を何杯でも食べられそうだ。
俺はもう早く食べたくて、双妹が持ってきた茶碗に急いでご飯をよそい、コタツに並べた。


男「いただきます」


スープをすくって器に取り分け、七味を振って食べる。
野菜のうまみがみそと七味の相乗効果で引き出され、トリオを奏でているかのようだ。
相変わらず美味すぎるぞっ!


母親「ねえ。男、双妹。ちょっといい?」

男・双妹「いいけど、何?」

母親「今日ね、書斎のお掃除をしていて、久しぶりに昔のDVDを観てみたの」

男・双妹「昔のDVD?」

786以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/04(火) 21:57:37 ID:SfAJxSCE
母親「おつかい番組と2分の1成人式の番組に出演したでしょ」

男「懐かしいなあ」

双妹「……」

母親「今だから言うけど、男と双妹が小学生だった頃、苦しい思いをしていたことを覚えてる?」

双妹「……うん」


双妹の表情が陰り、食べる手が止まった。
あまり思い出したくないのだろう。

小学生の頃、双妹は性別に関する悪口を言われることが多かった。
保護者や教師に知識が足りず、『一卵性双生児は同じ性別しか生まれない』とか『女の子は性別を決める遺伝子に病気を持っている』などと教えていたからだ。
しかし小学校の2分の1成人式がテレビで放送されて、いじめがなくなった。


母親「一番ひどかったのが、小学校4年生のときだった。そのことを担任の先生から聞かされて、わたしとお父さんはテレビ放送をすることを思い付いたの」

双妹「えっ?」

母親「正しい情報を知ってもらうためには、異性一卵性双生児についてテレビ放送をするのが一番手っ取り早いでしょ。半分は賭けだったんだけど、成功してよかったわ」

787以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/04(火) 22:04:08 ID:GMmrwBHs
男「あれって、テレビ局の企画じゃなかったんだ」

母親「そうよ。おつかい番組の放送をしてくれた知り合いのプロデューサーさんに相談して、2分の1成人式の企画が決まったの。それから学校の先生方や双子研究のスタッフの方と打ち合わせを繰り返して、みんなで番組を作ったのよ」

双妹「そんなことがあったんだ……」

母親「人はみんなでみんなを支えている。男と双妹は気が付いていないかもしれないけど、多くの人に支えられて今があるのよ。そのことを忘れないようにしなさいね」

男「それは分かってる。でも、どうして急にそんな話を?」

母親「少し前に少女さんと付き合っているって言っていたけど、彼女はもう亡くなっているんでしょ」

男「どうしてそれを?! ……って、巫女さんから聞いたのか」

母親「黙っていただけで、もっと前から知ってたわよ。お母さんの情報ネットワークをあまく見ないことね」ドヤァ

男「ええっ?!」


いつから知っていたのだろう。
もしかして、少女さんと初めてデートに行った日か?!
あのとき、母さんが同じようなことを言っていたような気がするし。

788以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/04(火) 22:06:07 ID:SfAJxSCE
母親「とりあえず、今は少女さんを成仏させてあげることを考えなさい」

男「ああ、それは分かってる」

母親「そして、その後は高校生らしい普通の恋愛も経験してみなさいね」

母親「男も、そして双妹、あなたもね――」

男「……」

双妹「……」


高校生らしい普通の恋愛。
それは誰が聞いても、母さんが正しいと答えるかもしれない。
だけど俺は少女さんの未練を叶えてあげたいし、双妹の気持ちも大切にしたい。


母親「……」

母親「ほらほら、二人とも箸が止まってるわよ。冷める前に食べましょ」


母さんはにこやかに言うと、盛大に白菜と鶏肉をすくい取った。
ちょっと待て、これはマジで全部食べられるぞ!
俺と双妹は気を取り直し、晩ご飯の確保に尽力することにした。

789以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/05(水) 21:13:02 ID:I7DqvvXw
〜部屋〜
晩ご飯を食べた後、俺は部屋で一人、悶々と考え事をしていた。
母さんが今日に限ってとり野菜鍋のシメに素麺を入れたのは、少女さんのことを連想させるためだろう。
そう考えると、さっきの話は少女さんを成仏させるためのヒントでもあるのだと思う。

みんなでみんなを支えている。
少女さんは生前、誰を支えていて誰に支えられていたのだろうか。

普通に考えると、少女さんは友達や家族に支えられていたことになる。
だけどそのことについては、友香さんがすでに考えてくれている。
ならば、俺はそれ以外の方向性で考えるべきだ。
しかし、考えがまとまらない。


男「はあっ……今日はもう寝るか」


明日は学校に行かないといけないし、病み上がりだから早く寝るに越したことはない。
そういえば双妹から少女さんの話を聞くことが出来なかったけど、差し障りのないことなら明日の朝にでも聞けるだろう。
俺はそう思い、着替えを用意してお風呂に入ることにした。

790以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/05(水) 21:14:02 ID:3wK.qV6I
〜お風呂場〜
少女さんに憑依されたのが、バレンタインデーの次の日。
それから1ヶ月もの間、俺はずっと少女さんと一緒にお風呂に入っていた。
そして双妹と3人で入るようになり、今は一人で入っている。

浴槽がとても広くて、とても静かだ。
あの頃は少女さんと双妹がいい意味で賑やかだった。


男「何だかなあ……」


一人で入るお風呂は何だか物足りない。
いつの間にか、あれが当たり前になっていた。

791以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/05(水) 21:17:43 ID:8s0i8yO6
ガラララッ・・・
急に浴室のドアが開き、俺は顔を向けた。
すると、そこには髪を束ねた双妹が全裸で立っていた。


双妹「良いよね? 風邪が治ったんだから」


双妹は相変わらず無防備にさらけ出し、恥らう様子もなく入ってきた。
しかし以前とは違って、俺の視線をわずかに意識しているようだ。
それでもいつもの調子で湯舟に浸かり、向かい合って足を伸ばす。


双妹「はああ〜♪ やっぱり、男と一緒のときが一番落ち着くかも//」

男「母さんにあんなことを言われた後なのに、よく入ってこれたなあ」

双妹「あの話とこれは関係ないもん。今は双子の妹として、純粋に男のことが好きなだけだから//」

男「今は妹として純粋に――か」

792以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/05(水) 21:25:43 ID:8s0i8yO6
双妹「もしかして、男は私のこと……異性として意識してくれるの?」


双妹はあまい声で言うと、上目遣いで見詰めてきた。
その視線であの日のことを思い出し、胸がドキリと締め付けられる。


男「そう言う双妹こそ、俺のことを意識してるんだろ」

双妹「ふふっ♪ やっぱり、私たちは同じ気持ちなんだね//」


双妹は頬を緩めてはにかみ、胸を寄せて谷間を強調した。
俺は興奮してきたことを悟られないように、平静を装って視線を逸らす。
もうずっと抜いていないし、このままだとしたくなってしまいそうだ。


双妹「ねえ、男。私とセックスをしたいって思ってるでしょ〜//」

男「何言ってるんだよ。そんな訳ないだろ」

双妹「あそこが大きくなっていること、もうバレバレだよ。この前、少女さんがどうとか言ってたのにね。病み上がりでいっぱい溜まっているなら、私が抜いてあげても良いんだよ//」

793以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/05(水) 21:26:54 ID:8s0i8yO6
双妹はにんまりと笑い、右足を浮かせる。
そして何かをしようとしてバランスを崩し、湯舟の中に滑り込んでしまった。

ゴボッ!
バシャアアンッ・・・

双妹は浴槽の底に沈んでしまい、咄嗟に脚を蹴り上げる。
しかし状況は変わらず、俺の肩に両脚を預けて挟み込んできた。
しかもそのせいで身体を起こすことが出来なくなり、完全にパニック状態に陥っている。

もしかして、これはヤバいんじゃないのか?!

俺は慌てて双妹の脚を左右に開き、両腕を掴んで引っ張り上げた。
すると双妹は無我夢中で俺にしがみついてきて、大きく息を吸うと激しくむせ返った。
俺はそんな双妹をとっさに抱きかかえて、背中をさする。

794以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/05(水) 21:28:50 ID:I7DqvvXw
双妹「げほっげほっげふぉっ……」

双妹「……ん゛っ、んんっ…………オエエェッ…………」

男「大丈夫か?!」

双妹「ぜえぜえ……」

双妹「らい……じょうぶ。ありがと、死ぬかと思った――」

男「ったく、気を付けろよ。マジで死ぬんじゃないかと思って、本気で心配したんだからな! お風呂のお湯、飲んだんじゃないのか?」

双妹「……うん。ちょっと気分が悪い……かも」


双妹は力なく言うと、不安そうに身体を預けてきた。
俺はそんな双妹を優しく抱き締める。
すると双妹が安心したのか、気持ちが和らいでいくのを感じた。
そして、双妹は俺にとってかけがえのない存在だということを改めて実感した。

795以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/05(水) 21:38:15 ID:3wK.qV6I
やがて双妹は俺から離れ、しょんぼりと肩を落とした。
きっとあのとき、双妹は性的に興奮して気持ちが先走り、足を滑らせてしまったのだろう。
しかしそんな感情はお互いに消し飛んでいて、俺は落ち込んでいる双妹に寄り添い肩を並べた。


双妹「冗談のつもりだったんだけど、ごめんなさい」

男「いいって、俺も悪いし」

双妹「それは気にしないで。あれで何もなかったら、逆に心配しちゃうから。私は男が元気になってくれるとうれしいよ//」

男「そういう所が普通の兄妹とは違うんだろうな」

双妹「そうかもしれないけど、私はね、兄妹の在り方にもいろんな形があっても良いと思うの」

男「ああ、それは俺も分かってる。だけど、それが望まれない形だということも分かっているんだろ」

双妹「……うん」

男「まあ、俺たちが一緒にいることに、そんな理屈は関係無いんだけどな」

796以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/05(水) 21:41:21 ID:8s0i8yO6
双妹「あのね、私たちってさあ、もし双子の兄妹じゃなかったらどうなっていたんだろうね」

男「その場合は受精卵がクラインフェルター症候群のままだから、染色体異常で妊娠せずに化学流産になる可能性が高いんじゃないかなあ」

双妹「……」

双妹「うん、そうだよね。私たちが生まれてきたのは奇跡だもんね」

男「そう考えると、俺たちは奇跡的な確率で出会った人たちに支えられているってことになるんだよな」


その人たちの中には、俺と双妹が二卵性双生児だと判定されたままならば出会っていなかった人や違う人生を歩むことになっていた人がいるのだろう。
例えば、大学病院の看護師さんや友香さんのように。
そう考えると、出会いは大切にしないといけないなと実感させられる。

797以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/05(水) 21:42:32 ID:3wK.qV6I
双妹「ねえ、男。少女さんにも生前、支えあっていた人がいるはずだよねえ」

男「俺もそのことは考えてた」

双妹「私、ふと気になったんだけど、男は少女さんと同じクラスだったのに、未だに少女さんが死んだことを知らせる電話が掛かって来ていないでしょ。それって、おかしいと思わない?」

男「俺たちはお線香をあげに行ったんだから、電話が掛かって来ないのは当たり前だろ」

双妹「そうかもしれないけど、もしかしたら誰にも連絡してないんじゃないかなあ。私はクラスのみんなに教えてあげたほうが良いと思うんだけど」


言われてみれば、少女さんの友達は中学校の同級生の中にもいるはずだ。
学校が変わって会えなくなったとしても卒業するまで同じ教室で勉強してきた仲間なんだから、みんなに少女さんが死んだことを知らせることは生きた証を探すことにつながるかもしれない。

798以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/05(水) 21:45:08 ID:I7DqvvXw
男「いいな、それっ! だけど、少女さんのお葬式は家族だけでしたんだろ。俺たちがそんな事をしたら迷惑になるんじゃないのか」

双妹「それはそうなんだけど、少女さんの意向に沿うことが一番大切だと思うの。私たちは、あくまでも友達と情報を共有するだけ……だよ」

男「そういうことなら、まずは明日、少女さんに話してみるよ」

双妹「うん、それが良いと思う」

男「ところで、双妹は少女さんと上手くいったのか? 話しぶりを見ていたら、そう悪くないような気がするんだけど」

双妹「まあ良くも悪くも、それなりの形で収まったんじゃないかなあ」

男「そっか、ありがとう」

双妹「それでね、少女さんが言ってたの」

男「言ってたって、何を?」

双妹「私たちの恋愛はマイノリティーだから立ち止まるわけにはいかないんです、って」

男「立ち止まるわけにはいかない――か」

双妹「うん。だからね、私も私の気持ちを誤魔化さない。絶対に好きを諦めないから!」

男「そうだな。俺も双妹の気持ちを大切にしたいと思う」

799以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/05(水) 22:04:45 ID:8s0i8yO6
双妹「それじゃあさあ、久しぶりに洗いっこをしようよ。泡あわでいっぱい気持ちよくしてあげるから//」

男「いいけど、立ち上がるときに滑るなよ」

双妹「もう滑らないもん!」


俺は双妹と洗い場に移動し、風呂椅子に腰を下ろした。
そしてスポンジが背中に触れると、浴室にボディーソープの香りが広がった。
ふわふわの泡に包まれ、双妹と過ごす心地いい時間が流れていく。


双妹「ねえ、男。これからもずっと二人で一緒にいようね」

男「そんなの、当たり前だろ」

双妹「うん、そうだよね//」

800以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:26:18 ID:jSYgWU/.
おつ

801以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/12(水) 20:51:29 ID:MiqjNRBE
(3月16日)wed
〜最寄り駅〜
インフルエンザの出席停止期間が終わり、ようやく学校に行けるようになった。
朝ご飯を食べて、双妹と二人で家を出る。
そして最寄り駅に着き、ホームで電車を待つ。

この1週間で多くのことが変わった。
少女さんは友香さんと学校に行くようになり、俺たちと一緒に通学していた友は自転車通学に戻っている。
街路樹の雪吊りも取り外されて、街並みが春らしくなっていた。


男「何だかすごく緊張してきた」

双妹「少女さんに会うのは放課後でしょ。まだ朝なんだけど……」

男「それは分かっているけど、大丈夫なんだよな?」

双妹「男を諦めるつもりはないって言ってたから、大丈夫だと思う。それに彼女はもともと憑依霊だし、何があっても男と別れるなんて決断をすることは出来ないんじゃないかなあ」

男「大丈夫なら良いんだけど、それは少し言いすぎじゃないか?」

双妹「……ごめん」

男「とりあえず、正直な気持ちを伝えてくるよ」

802以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/12(水) 20:52:42 ID:2YpJTCAA
双妹「それはそうと、ブレスレットは持ってきた?」

男「ああ、持ってきた」


俺はそう言って、ポケットに双妹のブレスレットが入っていることを確かめた。
これは双妹の魂の力を利用して作った霊具なので、一卵性双生児の俺ならば少女さんの姿を見ることが出来るようになるはずだ。
確証はないけど、そんな気がする。


双妹「昨日も言ったけど、効果が持続するのは3週間だから、少女さんが成仏するまで大丈夫だと思う」

男「成仏するまで大丈夫……か」

双妹「……うん」

男「まあ、今は出来ることをするしかないな」

803以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/12(水) 20:53:43 ID:2YpJTCAA
〜神社・放課後〜
放課後になり、俺は友の家の神社に向かった。
双妹のブレスレットを着けて準備し、鳥居をくぐる。
そして境内に入ると、授与所にいた巫女さんに声を掛けられた。


巫女「こんにちは」

男「こんにちは。少女さんはいますか」

巫女「まだ学校から帰って来ていないです。中で待たれますか?」

男「はい」

巫女「それではこちらにどうぞ」


巫女さんはそう言うと、授与所から出てきて歩き始めた。
俺もそれに並んで境内を歩く。

804以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/12(水) 20:56:22 ID:2YpJTCAA
巫女「そういえば、風邪はもう大丈夫なんですか?」

男「はい、もう治りました」

巫女「ふふっ、良かったです。霊障の影響もほとんど残っていないみたいだし、かなり安心しました」

男「霊障って、そんなに怖いんですか?」

巫女「んー、怖いですよ。厳密に言うと少女さんも憑依霊だから同じなんだけど、霊障は精神に作用して心と体を蝕んで行きますから」

男「そうなんですね……。祓ってくれて、ありがとうございました」

巫女「いえいえ、今後も気をつけてくださいね」


巫女さんはにこりと笑い、社務所の中に入っていった。
そして奥の部屋に案内され、緊張した面持ちで少女さんの部屋に入る。


巫女「それでは、こちらでお待ちください。後ほど、お茶をお持ちします」


巫女さんはそう言って部屋を出ると、しばらくして棒茶と和菓子を持ってきてくれた。
棒茶の香ばしい香りが湯気に乗って部屋に広がり、何だかほっとさせられる。
俺は礼を言い、和菓子を食べることにした。

805以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/12(水) 20:58:27 ID:fgEfpxqI
それからどれほど時間が過ぎたのか、障子の向こう側から人の気配を感じた。
その瞬間、障子をすうっとすり抜けて少女さんが入ってきた。
彼女は北倉高校指定の冬コートを着ていて、その姿が霊感のない俺でもはっきりと見ることが出来ている。
やはり、双妹のブレスレットは俺にも効果があったようだ。


少女「……」

少女「…………」

男「少女さん、おかえり」

少女「……えっ? た、ただいま……」

少女「もしかして、私のことが見えているんですか!?」

男「……うん」


俺は小さく頷き、右手の袖をまくった。


少女「ああ、そっか……」

少女「双妹さんのブレスレットを借りたんですね」

806以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/12(水) 21:01:31 ID:MiqjNRBE
少女「それで、今日はどうしてここに来たんですか?」

男「この前のことなんだけど、少女さんと付き合っているのに双妹に手を出してしまって、本当にごめんなさいっ!」


俺は床に両手を付き、頭を深く下げた。
集団パニックで憑依霊に取り憑かれたクラスのみんなは、悪霊のせいにせずに謝罪してくれた。
だから、俺も真摯な態度で少女さんと向き合いたい。


少女「男くん、頭を上げてください」


そう言われ、俺はゆっくりと頭を上げた。
そして少女さんの顔を見ると、冷たい視線が向けられた。


少女「あのとき、男くんと双妹さんは少年くんに憑依されていました。だけど、したくないことは出来ないはずですよね。男くんは避妊さえすれば、兄妹でセックスをしても構わないと考えているんですか」

男「それはまあ……そう思っているけど、俺たちはまだセックスをしたことはないから。それだけは信じて欲しい」

807以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/12(水) 21:03:51 ID:fgEfpxqI
少女「信じて欲しいって簡単に言うけど、男くんと双妹さんは一緒にお風呂に入るくらい仲が良いんですよ。お互いにセックスをしてみたいという気持ちがあったのなら、好奇心で最後までしたことがあるんじゃないんですか」

男「最後まで……」

少女「はい、最後までです」

男「セックスはしていないけど、ときどきその……双妹に抜いてもらったりしています」

少女「ときどきって、兄妹なのに?」


俺はただ無言で小さく頷いた。
すると、少女さんは重いため息を漏らした。


少女「大学病院での1回だけだったのならともかく、何度もえっちな事をしていたのなら、それはたとえ挿入していなかったとしても近親相姦になると思います。嘘でもいいから、『そんなことをする訳ないだろ』って否定して欲しかったな」

男「少女さん、ごめん……。俺は少女さんに嘘を吐いて誤魔化したくなかったんだ!」

808以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/12(水) 21:06:30 ID:2YpJTCAA
少女「その気持ちはうれしいです。だけど、双妹さんは双子の妹なんだよ。ときには嘘を吐いて隠し通すことも必要だと思います。兄妹で日常的にセックスをしていると知られてしまうと、きっと大切な人を失うことになりますよ」

少女「まあ普通は彼氏の妹を疑ったりしないので、こんな話をすることになった時点でお仕舞いでしょうけどね」

男「そうだよな。赦してもらえるはずがない……よな」

少女「当たり前じゃないですか!」

少女「男くんは以前、『異性一卵性双生児は世界中に俺と双妹しかいないから、この感覚は誰にも分からない』って言ってましたよねえ。はっきり言って、兄妹でセックスをすることが普通の感覚だなんて、私は分かりたくもありません」

少女「そもそも、私と双妹さん。どっちが好きなんですか?!」

男「それは――」


少女さんのことはともかく、双妹のことはかけがえのない存在だと思っている。
どっちが好きだとか、比べるようなことは出来ない。

809以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/12(水) 21:16:37 ID:G2DYKtto
少女「……はあっ。すぐに答えることが出来ないんですね」

男「ごめん。でも、そんな質問に答えられるわけがないだろ」

少女「それは私も分かっています。だけど、男くんと双妹さんには性的な関係があるんだよ。兄妹なのに、どうして思いとどまることが出来なかったの?!」

男「それこそ、この感覚は誰にも分からないと思う」

男「俺にとって双妹はかけがえのない存在で、あのとき初めて見た双妹の表情がとても大切なものに思えたんだ。それは双妹も同じで、俺たちはお互いのことをもっと知りたくて、もっと大切に想いたくて――」

男「でも中学生だったし、そういうことは責任を持てるようになってからじゃないと駄目だっていう気持ちはあったんだけど、お互いに触れ合うと言い知れない感情が込み上げてきて、双妹と『ひとつ』になっている心地よさがあったんだ」

男「だから、俺と双妹は――」

少女「もういいです! 双妹さんのことが誰よりも大切だってことは、よく分かりました。そんなときに私をスキー実習で見かけて、双妹さんよりも好きになったりするものなんですか?!」


少女さんは厳しい口調で言うと、試すような視線を向けてきた。
あのとき、俺は本当に少女さんのことを可憐に感じて話をしたいと思っていた。
その気持ちに嘘はない。

810以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/12(水) 21:40:41 ID:2YpJTCAA
男「信じてもらえないかもしれないけど、あのとき少女さんのことを本気で好きだった。だから、双妹も告白に協力してくれたんだ」

少女「……」

少女「私はそれが腑に落ちないんです。お互いに大好きで性欲を満たしあっていた男くんと双妹さんが、どうして私や同級生の男子に興味を持つことになったんですか? 普通はそれが正常なのに、どうしても違和感があるんです」

男「やっぱり、俺たちはもうだめ……なのかなあ」

少女「そうですね。男くんと双妹さんの関係は普通ではないと思うし、実の妹が浮気相手になりうると分かった今、交際を続けることなんて出来ないです。だけど、別れるかどうかは保留にしたいと思います」

男「どうして……」

少女「本来なら今すぐ別れるべきなんだけど、それとは別にちょっと気になっていることがあるからです」

少女「だから、この前のことは特別に赦してあげようかと思います」

男「少女さん……ありがとう…………」

少女「何と言うか、男くんと双妹さんは異性一卵性双生児で学術的な研究に協力していたり、普通の兄妹とは違って、あまりにも育ってきた環境が特殊すぎたのかもしれないですね」

811以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/13(木) 21:54:55 ID:ITmjCbWc
少女「それはそうと、男くんの看病に一度も行けなくてごめんなさい。すっかり元気になったみたいで、本当に良かったです」


少女さんは話題を変えて、努めて明るい笑顔を見せてくれた。
完全に赦してくれた訳ではないだろうけど、俺もそれに合わせていつも通りに振る舞うことにした。


男「えっと……その、少女さんも学校に行けるようになって、本当に良かったよ。久し振りに行ってみて、どうだった?」

少女「そうですねえ、学校はすごく楽しいです」

少女「看護関係の授業は大変だけど好きだし、友達のおしゃべりを聞きながら過ごすのも楽しいし、みんなと同じ時間を共有していることがすごく幸せです」

男「それじゃあ、生きた証はもう見付かった感じ?」

少女「そう言われるとピンと来ないけど、学校が私にとって大切な場所だということは実感することが出来ました。私は死んでしまったけど、みんなの心の中で私の夢と目標が繋がっているんです」

812以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/13(木) 23:20:04 ID:kt7grWkk
男「そっか。でも、学校に行っても生きた証は見付からなかったんだ」

少女「それはそうだけど、私は本当に学校が好きですから」

男「いや、好きとか嫌いじゃなくて、ほらっ、生きた証は少女さんの人生観そのものだろ。だから、少女さんの想いがみんなに繋がっていると実感することが大切だと思うんだ。もしかすると、まだ何かが足りないのかもしれない」

少女「それは……そうかもしれないですね」

男「それで双妹と話をしていて、中学校の同級生に少女さんが亡くなったことを知らせてあげれば良いんじゃないかってことになったんだけど、どう思う?」

少女「そうですねえ。中学校の友達も弔問に来てくれたらうれしいです」


その言葉を聞いて、俺は通学鞄から卒業アルバムを取り出した。
そして少女さんの隣に移動し、卒業生全員の連絡先のページを開いた。

813以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/13(木) 23:21:18 ID:Kjc9xIr.
少女「わわっ、用意がいいですね」

男「まあ、そのつもりだったから。とりあえず3年生のときに同じクラスだった33人に連絡するのは当然として、1年生のときと2年生のときに同じクラスだった人にも連絡をしたいから教えてくれないかな」

少女「分かりました」


少女さんが中学生の頃を思い出しながら、同級生の名前を読み上げる。
俺はそんな少女さんの思い出に触れ、彼女が出逢って来た人々に印を付けていく。

男子26人、女子44人、計70人

男子の内訳は俺と友を除く3年生の同級生が16人で、他はクラス委員をしていたり目立っていた人、班行動が一緒だったり席が近くて親しかった人などが10人。
それに対して、女子は同じクラスになった人の名前をほとんど覚えていて、卒業生の女子90人のほぼ半数に出会っていたことが分かった。

814以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/13(木) 23:22:52 ID:xNBv4ySk
少女「70人って、多くないですか?!」

男「もしかしたら、卒業生の半数と同じクラスになっていたのかも」

少女「そうかもしれないですね。こんなにたくさんの人と、同じクラスになっていたんだ――」

男「それじゃあ、今度の3連休を使ってみんなに連絡するから」

少女「いえ、ちょっと待ってください。さすがにお母さんが対応できないし、連絡をするのは友達だけでお願いします」


という訳で、改めて卒業アルバムに目を通す。
そして、同級生や部活動で親しくしていた女子23人に連絡をすることになった。

815以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/13(木) 23:24:06 ID:Kjc9xIr.
少女「ところで、今度の3連休なんですけど、お姉ちゃんとお祖母ちゃんに会いに行こうと思っているんです」

男「いいんじゃないかな。最期に会って話をしてきなよ」

少女「うん、ありがとう。だけど、さすがに話をするのは無理だと思います。びっくりされるじゃないですか」

男「ああ、そうか。友香さんの一件もあるし、姿を見せるのは控えた方が良さそうだな」

少女「……はい。でも夢に出るくらいなら大丈夫だと思うし、姪ならまだ小さいから遊んであげることが出来るかも」

男「少女さんって、姪がいるんだ」

少女「私のことを『ねえね』って呼んでくれて、すごく可愛いんですよ//」

男「へえ、そうなんだ」

少女「考えても仕方がないことだけど、私も結婚が出来る年齢なんですよね……」


結婚――か。
以前、少女さんとそんな話をしたことがあるけれど、こうして言葉に出るのはやっぱり憧れの裏返しなのだと思う。
俺は少しでも気持ちをほぐしてあげたくて、少女さんにそっとにじり寄る。
すると、少女さんは近付いた分だけ離れて頬を膨らませた。

816以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/13(木) 23:26:11 ID:Kjc9xIr.
少女「あのことを赦したとはいっても、そういうことは絶対に許しません。まずは友達に連絡をして、私に誠意を示してください」

男「……ごめん」

少女「ちなみに、それを考えたのは双妹さんですよねえ」

男「そうだけど…………」

少女「やっぱり、そうなんだ。もしかして、そのブレスレットも双妹さんのアイディアなんですか」

男「これは俺だよ。少女さんに余計な負担を掛けさせたくなくて考えたんだ」

少女「それは男くんが考えてくれたんだ」

男「そうだよ」

少女「双妹さん、やっぱり男くんのことを諦めていないんですね。それに、男くんと双妹さんは本当にツイコンだよね」

男「もしかして怒ってる?」

少女「そんなことはないですよ。兄妹で一緒にお風呂に入ったりするくらい仲が良いのはもう承知の上だし、どうぞ私のことは気にしないでご自由になさってください」


少女さんはそう言うと、にこりと微笑んだ。
怒ってはいないとか言いつつ、その笑顔が逆に怖い。
俺はそんな少女さんのご機嫌を取ろうと、とり野菜鍋のシメをみそ素麺にしたことを話すことにした。

817以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/13(木) 23:27:49 ID:xNBv4ySk
少女さんがみそ素麺の何たるかを熱く語り始めて数十分。
気が付くと辺りが暗くなり始めていた。


男「それじゃあ、そろそろ帰るよ」

少女「えっ? もうこんな時間なんだ」

男「じゃあ、またね。今日は赦してくれて本当にありがとう」

少女「……」


俺は少女さんに手を振り、社務所を後にした。
とりあえず、少女さんが中学生時代に親しくしていた23人。
少女さんの生きた証を探すため、そして誠意を伝えるために今夜から連絡していこう。
俺はそう思いながら、授与所の戸締りをしていた巫女さんに挨拶をして、足早に家に帰ることにした。

818以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/17(月) 22:33:26 ID:yoUqlWdI
おつ

819以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/19(水) 23:40:51 ID:IQo0QtaA
(3月17日)thu
〜学校・お昼休み〜
友「おいっす! 一緒に食べようぜ」


お昼休みになり一人でお弁当を食べていると、友が惣菜パンを持ってやってきた。
少女さんはいないし、双妹は妹友さんと食べている。
ちょうど、話し相手が欲しいと思っていたところだ。


友「今日の放課後なんだけどさあ、予定とか空いてるか?」

男「特に何もないけど」

友「そっか。それなら、帰りに駅前の喫茶店に行かないか。友香さんたちと待ち合わせをしてるんだ」

男「待ち合わせ?」

友「例の幽霊探知機なんだけど、全国各地に少女さんの幽体があるっていう探知結果が正しかったことが分かっただろ」

男「そういえば、そんなことも言ってたっけ」

友「それで今日の放課後、もう一度試してみようかと思っているんだ。少女さんの霊力が回復したし、あれが誤作動ではないことを確かめておきたいからな。男も来るだろ?」

男「もちろん、俺も行くに決まってるだろ」

820以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/20(木) 00:10:26 ID:fZpANjyE
友「そう言ってくれると思ったよ。それでひとつ検証してみたいことがあるから、放課後になるまでこれを貼っておいてほしいんだ」


友はそう言うと、ポケットから絆創膏のようなものを取り出した。
そして、言葉を続ける。


友「これは霊波動に反応して吸収する性質がある特殊繊維で、霊障の原因になっている悪霊を探知するときに使う霊具なんだ」

男「そんなものを貼ってどうするんだよ」

友「少女さんの探知結果には疑問点が多いし、男の霊波動を調べて動作確認をしておきたいんだ」

男「動作確認をするだけなら、別に俺でなくても良いんじゃないのか?」

友「いや、男じゃないと駄目なんだ。詳しいことは放課後になってから話す」

男「まあ、そういうことなら仕方ないな」


これで一体何を調べるつもりなのだろうか。
俺は疑問に思いつつ、友に言われるがまま左手の甲に貼り付けた。

821以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/20(木) 21:05:53 ID:fZpANjyE
〜学校前の駅・放課後〜
放課後になり、俺と友は学校前の駅に向かった。
そこで少女さんと友香さんを待ち、合流することになっているそうだ。
当然俺たちが先に着き、しばらく待って二人が現れた。


友香「お待たせ〜」

少女「お待たせしました」

友香「もしかして、待った?」

友「大丈夫。俺たち、さっき授業が終わったところだから」

男「そうそう」

友香「そうなんだ。ごめんね」

友「それじゃあ、移動しよっか」

友香「うん」

822以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/20(木) 21:31:30 ID:9rAD5zmo
〜喫茶店〜
喫茶店に入って4人掛けのテーブルを囲み、友が幽霊探知機のアンテナを組み立て始めた。
その間にそれぞれスイーツとドリンクを注文し、雑談を交わす。
やがて注文した商品が運ばれてきて、友もようやくアンテナが完成した。


友「よしっ、準備完了」

友香「それを使えば、少女の幽体を調べることが出来るんだよねえ」

友「そうだよ。昔は式神を使役して霊的存在を探していたんだけど、広域探索の現場ではアプリで探す時代になったんだ」

友香「幽霊って、そんなに当たり前な存在なんだね」

友「そうだよ。ただ、あの悪霊みたいに低級霊を従えているケースは本当に稀だと思う」

友香「ふうん、そうなんだ」

友「ちなみに、このアプリは失踪した人の探索にも利用されることがあるんだ。男、そういう訳だから、まずは昼休みに貼ってもらったやつを探知してみようか」

男「んっ? お……おう」


俺は絆創膏を剥がし、友に渡した。
この霊具は今、俺の霊波動に反応して探知することが出来るということなのだろう。

823以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/20(木) 21:33:20 ID:9rAD5zmo
友「じゃあ、アプリを起動するぞ」


友は絆創膏をアンテナのパーツに貼り付け、スマホを操作した。
すると、パラボラアンテナが上下に首を振りながら時計回りに動き始めた。
そのゆったりした動きに、みんなの視線が注がれる。


友「……大丈夫そうだな。これが男の探知結果だ」

友香「見せて見せて!」

少女「私も見たいですっ」


友は二人にせがまれ、スマホをテーブルの中央に置いた。
俺たちは身を乗り出して、友のスマホを覗き込む。
角度的に少し見にくいけれど、俺たちが今いる場所と少し離れた場所に赤い点が表示されていた。


友香「すごーい! これが探知結果なの?!」

男「赤い点が2つあるんだけど、これって誤作動じゃないのか」

友「もう1つは双妹ちゃんだ。地図のこの辺りは男の家がある場所だろ」

男「ああ、なるほど。そういうことか」

824以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/20(木) 21:51:16 ID:9rAD5zmo
友香「男くんと双妹さんは一卵性双生児だもんね。やっぱり、遺伝子だけじゃなくて魂も同じなんだ」

少女「魂も同じ、か。双妹さんのブレスレットで私の姿が見えるようになったのも、そういうことだったんですね」

友「そうだよ。それじゃあ、友香さん。昨日頼んでいたやつ、お願いできるかな」


友香さんはそう言われ、指先に巻いていた絆創膏を剥がした。
友はそれを受け取り、俺が渡した絆創膏と貼りかえる。
そして、友は改めてスマホを操作した。


友香「やっぱり、私の場合は1つだけしか表示されないんだ」

男「そういえば、友香さんには双子のお兄さんがいるんだっけ?」

友香「はい、そうです」

少女「ええっ! 友香ちゃんって、双子だったの?!」

友香「そうだよ。知らなかった?」

少女「知らなかったし!」

825以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/20(木) 21:53:11 ID:9rAD5zmo
友「とりあえず、異常はないみたいだ。二人とも協力してくれてありがとう。これは個人情報だから二人に返すよ」

友香「うん」

男「そうだな」


俺は絆創膏を受け取り、ポケットに突っ込んだ。
それは良いとして、これで何が分かったのだろうか。


友「それじゃあ、壊れていないことが確認できたし、少女さんの幽体を探知してみようか。この前みたいに霊力を登録してくれるかな」

少女「はい」


その言葉と同時、パラボラアンテナが動き始めた。
少女さんの幽体の謎が解明されるときが近付いている。


少女「何だか緊張してきた……」

友「んんっ? どうなってるんだ、これ――」

826以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/20(木) 21:54:45 ID:3SxyahSk
男「どうかしたのか?」

友「この前と少し違う結果が出たんだ。ちょっと見てくれ」


友はそう言うと、スマホをテーブルの中央に置いた。
俺は身を乗り出して、スマホを覗き込む。
すると、少女さんの幽体を示す赤い点が、北は北海道から南は九州に至るまで全国各地に表示されていた。
やっぱり、今回も同じ結果だ。


友「なっ、おかしいだろ」

男「おかしいだろって言われても、俺には同じに見えるんだけど」

友香「男くんの霊波動?を調べたとき、男くんだけではなくて双妹さんの居場所も表示されていたでしょ。これってつまり、日本中に少女がいるってことになるんじゃないの」

友「友香さん、ちょっと待って。前回のスクリーンショットを用意するから」

827以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/20(木) 22:07:44 ID:3SxyahSk
友がスマホを操作し、前回の探知結果を表示した。
そして、今回の探知結果にタグを作って画面を切り替える。


男「やっぱり、前と同じ結果みたいだな」

友「いや、重複表示されていた幽体が消えているみたいだ」

少女「それって、どういうことですか」

友「あのときは壊れていると思っていたから黙っていたんだけど、実は少女さんを含めて16個の幽体を探知していたんだ」

少女「ええっ、16個?!」

友香「もしそれが本当だとしたら、少女と同じ幽体を持っている人が全国各地に15人もいることになるよねえ。そんなことがあり得るの?」

友「幽体や霊魂は遺伝子と同じで、人それぞれ違うものを持っているんだ。だから、同じ幽体を持っているのは一卵性双生児の場合だけで、赤の他人が同じ幽体を持っているなんて絶対にあり得ないんだ」

828以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/20(木) 22:09:34 ID:fZpANjyE
男「だったら、体細胞クローンとかメイキングチャイルドとか、少女さんは特殊な生い立ちを持っていることになるのかもしれない」

友香「確かにクローン技術は家畜やクローンペット復元ビジネスなどの世界でニーズがあるみたいですけど、それを人間に応用しているだなんて倫理的に考えられないです」

少女「漫画じゃないんですから、お父さんとお母さんがそんなことをしている訳がないじゃないですか。私を何だと思っているんですか」プンスカ

男「そんなつもりで言った訳じゃないんだけど」

友「いや、念のために霊魂の所在を調べてみよう。体細胞クローンは一卵性双生児みたいなものだし、それとは別に何かが分かるかもしれない」

少女「そうですね。友くんがそう言うなら、お願いします」

829以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/20(木) 23:23:01 ID:7pS4cOxk
友「それじゃあ、少女さんの霊波動を探知してみる」


友がそう言うと、再びパラボラアンテナが動き始めた。
そして表示された赤い点は、目の前にいる少女さんの霊波動、1つだけだった。


男「1つだけ……だな」

友「これで体細胞クローンの可能性は否定されたな」

少女「ほら、やっぱり。それで何か分かりそうですか」

友「いや、今は予想通りってことが確認できた段階だから――」

友香「ねえねえ。もういっその事、実際に行ってみない? 一箇所だけ、すぐに行けそうな場所があったでしょ」

友「それなんだけど、一度行ってみたことがあるんだ」

友香「そうなの?」

友「でも、受付の人が『少女という名前の患者は入院していないし答えることは出来ない』の一点張りで話にならなかったんだ。何度行っても同じだと思う」

830以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/20(木) 23:24:26 ID:fZpANjyE
友香「もしかして……病院だったの?」

友「そうだよ。彩川医科大学附属病院って名前なんだけど、受付で止められて入ることが出来なくて――」

友香「他の場所も病院なのかな。詳細表示は出来ない?」

友「遠方になると誤差が大きくなるから詳細表示は出来ないんだ」

友香「……」

友香「決めたっ! 今度の土曜日、行ってみる!!」

友「無駄だと思うけど」

友香「あれから1ヶ月が経っているし、今度は何か分かるかもしれないでしょ。もちろん、友くんも一緒に来てくれるよね」

友「まあ、そこまで言うなら行ってみようか」

友香「うんっ! ありがとう」

831以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/20(木) 23:25:32 ID:7pS4cOxk
友「男はどうする?」

男「悪いけど、俺は用事があって行けそうにない」

友「用事?」

男「今、少女さんが亡くなったことを同級生のみんなに電話しているんだけど、あと20人残ってて少しでも早く知らせてあげたいんだ」

友「そういうことなら俺も手伝うから、男も来いよ。なるべく情報を共有しておきたいし、そのほうが良いだろ」

男「情報を共有するだけなら後で話してくれれば良いだけだし、大勢で行っても意味がないんじゃないかな」

少女「私もお姉ちゃんやお祖母ちゃんに会いに行きたいので――」

友香「えっ、そうなの?」

少女「うん」

友香「仕方ないわね。友くん、待ち合わせ場所はどうする?」

友「北倉駅で乗換えだから、10時頃にそこのホームで待ち合わせってことで」

友香「そうだね、そうしよっか」

832以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/20(木) 23:28:00 ID:9rAD5zmo
幽霊探知機の話が一息つき、ケーキを食べながら雑談を続けた。
少女さんの話やバラエティー番組で笑えた話。
やがて日が傾き始め、俺たちは喫茶店を後にした。


友「じゃあ、俺たちはこっちだから」

友香「またね〜」


二人はそう言うと、バス停のある方向に歩き始めた。
俺と少女さんはそんな二人を見送って、学校前の駅に向かう。


少女「友香ちゃんと友くん、いつの間にか良い雰囲気になっていると思いませんか」

男「言われてみれば、そうだな。最初は避けているような感じだったのに」

少女「もしかしたら、本当に付き合い始めることになるかも。最近、一緒にいることが多いみたいだし」

男「へえ、そうなんだ。みんなで水族館に行ったのが良かったのかな」

少女「それもあると思うけど、私が神社で静養しているときに連絡を取り合っていたみたいだよ」

833以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/20(木) 23:40:47 ID:9rAD5zmo
少女「ところで、男くんは私の友達に電話をしていて良い感じの女子はいましたか?」

男「どうして急に俺の話になるんだよ」

少女「だって、20人の女子に電話をするんだから、その内の1人くらいは懐かしくて盛り上がる人がいるかもしれないじゃないですか」

男「訃報の電話で盛り上がるなんて、普通に考えてあり得ないだろ」

少女「それもそっか。でも――」


駅舎に入ると、少女さんは人目を気にして言葉を飲み込んだ。
俺はスマホを耳元に当て、電話をしている振りをしながら続きを促す。


少女「笑顔で成仏させてくれるって約束したんだから、浮気をしたら許しませんからね」

男「分かってるよ、そんなこと」


俺が電話をしているのは懐かしい女子と久しぶりに出逢うためではない。
少女さんを成仏させるために連絡しているのだ。
俺はそう思いつつ少女さんに目で訴えかけ、有人改札を抜けてホームに向かった。
そして、10分ほど揺られて自宅の最寄り駅。
少女さんは家に帰れるほど霊力が回復したらしく、俺たちは駅舎で別れることにした。

834以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/22(土) 06:16:06 ID:LNoCl/lk
おつ

835以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 20:44:47 ID:L8NNwfrw
(3月19日)sat
〜自宅・部屋〜
3連休のスタートとなる土曜日の朝。
今日は昨日の夜から降り始めた雨が強まり、絶好の電話日和になってくれた。
明日からは天気が回復するので、今日中に残る15人に連絡をしてしまおう。


PiPoPa...

女子『もしもし』

男「もしもし、男です」

女子『ああ、男くん。もしかして、少女ちゃんのことで電話をしてきたの?』

男「そうだけど、じゃあ、少女さんが亡くなったことをもう聞いているんですか」

女子『昨日、友達から電話があって……。私、びっくりして電話をしたんだけど、本当……なんだね』

男「ああ、先月……亡くなったんだ」

836以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 20:46:04 ID:ytsenjyo
女子『今でも信じられない――』

女子『少女ちゃん、看護師になるんだって真面目に頑張っていたのに、どうしてこんなことになったの?』

女子『ううっ、うああぁぁん…………』


受話器から泣き崩れる声が届き、やるせない思いが込み上げてきた。
中学校を卒業して1年。
積極的に交流していた友人や少し疎遠になっていた同級生、みんなの心に少女さんの思い出が刻み込まれている。

看護師になる夢を応援していたこと。
部活動を一緒に頑張ったこと。
休日にショッピングをしたり、恋愛の相談に乗ったこと。

そして事件の一部始終を知る人は、その悲しみが怒りとなって自殺した少年に向かう。
しかし、遣る方ない思いだけが募っていく。

もう二度と会うことが出来ない喪失感。
中学校で一緒に過ごした日々に思いを馳せて、少女さんの死を悼んでいる。
その気持ちこそが、少女さんの生きた証なのかもしれない。

837以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 20:47:54 ID:ytsenjyo
男「それじゃあ、少女さんのことだけど……、気持ちが落ち着いたらお線香をあげに行ってあげてね」

女子『うぅっ……ひっく…………うん。男くんもその、思い詰めないようにね』

男「ありがとう。バイバイ、また」


俺は電話を切り、次の相手に電話を掛ける。
やがてお昼過ぎになり、俺はご飯を食べることにした。
すると、狙ったかのようなタイミングで電話が掛かってきた。

誰からだろう。
そう思い着信を見ると、友からだった。


男「もしもし、男です」

友『もしもし、男? 今、友香さんと大学病院に来ているんだけど、大変なことが分かったんだ!』

男「大変なことって何だよ」

友『ここに女さんって人が入院しているんだけど、その人が少女さんと同じ幽体を持っているんだ!』

838以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 20:49:01 ID:zYwSKzDo
男「女さん?」

友『ああ! 本人に聞いたし、ネームプレートにもそう書いてあった』


友はそう言うと、興奮した口調で話し始めた。
彼女は18歳の女性で、血液型はA型。
一般病棟に入院していて、循環器内科で治療を受けているらしい。


友『それで少しだけ話をすることが出来たんだけど、どうやら少女さんのことは知らないそうだ。どうして入院しているのかとか詳しいことも聞きたかったんだけど、さすがにプライベートなことまでは聞くことが出来なくて』

男「だろうな」

友『ただ、そんな人が実在していることを確認できたのは大きな成果だと思う。詳細が分かれば、また連絡する』

男「おう、分かった」

839以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 21:02:16 ID:pLnHJtpo
〜リビング〜
カップ麺にお湯を注いでリビングに行くと、双妹がこたつにもぐってテレビを見ていた。
俺もこたつに入り、テレビに目を向ける。
すると、双妹が起き上がって話しかけてきた。


双妹「ねえ、男。もうみんなに連絡したの?」

男「いや、あと5人残ってる」

双妹「ふうん、そうなんだ。もうすぐだね」

男「ああ、今日中に終わりそうだ」

双妹「それで、誰か一人くらい『お線香を一緒にあげに行こう』とか、そういう話にはならなかったの?」

男「いや、普通に考えて、そんな話になる訳がないだろ。双妹も少女さんと同じようなことを言うんだな」

双妹「だって、少女さんは幽霊なんだよ。ライバルが増えるのは嫌だけど、この機会に何人かキープしておいたほうが良いんじゃないかな。少女さんも内心はそうして欲しいと思っているはずだよ」

男「ないない。釘を刺してきたくらいなんだから」

双妹「えっ、そうなの?! 一体どういうつもりなんだろう」

840以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 21:03:23 ID:ytsenjyo
男「それはそうと、この前、少女さんの幽体のことで話をしただろ」

双妹「えっと、日本中に幽体があるんだっけ」

男「そうそう。そのことで、さっき友から電話があったんだ」


俺はそう言いつつ、カップ麺のふたを開けた。
調味油を入れてかき混ぜ、麺をすする。


男「大学病院の入院患者に女さんって人がいて、その人が少女さんの幽体を持っているらしい」

双妹「入院患者?」

男「ああ、循環器内科だったかな。どうして入院しているのかは分からないんだけど」

双妹「幽体とか霊魂が同じ人は、一卵性双生児以外にあり得ないんだよねえ」

男「そうそう。それでその人に少女さんのことを聞いてみたら、知らないって答えたんだって」

841以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 21:04:27 ID:ytsenjyo
双妹「双子でも親戚でもないなら、どういうことになるんだろ」

男「もしかしたら、人体実験をしていたのかもしれない。他人の身体から少女さんの幽体反応があるなんて、どう考えても異常だろ」

双妹「そうだよね。人体実験……か。本当にしていたのかもしれないわね」

男「やっぱり、そうとしか考えられないよな!」

双妹「うん。考えてみれば、少女さんの死んだ日がお見舞いに行った日よりも前なのもおかしいし、絶対に何か裏があると思う」

男「そういえば、あの日、記者さんに出会ったよなあ」


少女さんが亡くなったと知った日、少女さんは死を受け入れるために家に帰ろうとした。
そのとき、偶然記者さんに出会ったのだ。

842以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 21:05:27 ID:zYwSKzDo
双妹「まさか、記者さんは少女さんの死の裏側を取材していた?」

男「だろうな」


記者さんは健康や医療系の記事を書いている。
そして記者さんが勤めている出版社は、一時的に少女さんの家族と係争問題を抱えていた。
その関係で、少女さんの死について何かを掴んでいたとしてもおかしくはない。


男「調べてみようか」

双妹「そうだね。記者さんが取材していたなら記事になっているはずだし、少女さんを成仏させる糸口になるかもしれない!」

男「それじゃあ、親父の書斎に行くとするか」

双妹「うん」

843以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 21:07:41 ID:ytsenjyo
〜親父の書斎〜
俺と双妹は書斎に入り、未開封の郵便物をすべて開封した。
親父は海外出張中でいないけれど、週刊誌を定期購読しているので最新号まですべて届いている。
それらの中に、必ず記者さんが取材していた記事が載っているはずだ。


双妹「それじゃあ、私はこの2冊を調べるから」


双妹はそう言って週刊誌を手に取り、目次を開いた。
俺も週刊誌を手に取り、目次を開く。

糖質制限ダイエットは危険なのか――。
最新版、手術をするならこの名医に頼め――。

とりあえず、この号には載っていなさそうだ。
そう思い、次の週刊誌を手に取る。
すると、双妹が声を上げた。

844以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 21:10:20 ID:pLnHJtpo
双妹「男、これじゃないかな!」

男「どれどれ?」


俺は双妹に肩を寄せ、週刊誌を覗き込んだ。
そして、記事に目を通す。


双妹「ねっ! これ以外に考えられないでしょ」


何と言うことだ。
もしこれが少女さんのことだとするならば、人体実験だなんてとんでもない。
俺は心の底から、少女さんらしい最期だと思った。

845以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/15(火) 19:41:18 ID:xSdi3n8Y
〜部屋〜
ようやく全員の電話連絡が終わり、午後4時を過ぎた頃。
少女さんの幽体について考えていると、来客のチャイムが鳴った。
俺は部屋を出て、玄関に向かう。


双妹「男、二人が来たわよ」

友香「お邪魔します」ペコリ

友「俺たちに見せたいものって、何なんだよ」

男「ここじゃあなんだし、まずは上がってくれ」

友「ああ、お邪魔します」


俺は二人を招き入れ、自分の部屋に戻った。
そして、ミニテーブルを囲んだ。

846以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/15(火) 19:43:20 ID:F2urCRGs
友「それで、俺たちに何を見せたいんだよ。わざわざ電話を掛けてきたってことは、重要なことなんだろ。めちゃくちゃ気になるんだけど」

男「その前に聞きたいことがあるんだけど、もし少女さんの身体の一部を他人に移植したとしたら、少女さんの幽体はどうなるんだ?」

友「だいぶ前に話したことがあると思うけど、幽体は肉体と霊魂を繋ぎとめる役割があるんだ。だから移植をするために身体の一部を切り離すと、その肉体から幽体が引き剥がされることになるんだ。まあ、イメージ的にはゴムパッチンを想像してくれたら分かりやすいんじゃないかな」

男「だけど、少女さんは自分で霊子線を切ってしまっただろ」

友「ああ、分かってる。その場合は、少女さんの幽体が霊魂と繋がっていないから、引き剥がされずに残るか離脱して消失することになると思う」


やっぱり、あの記事は少女さんのことで間違いない。
少女さんが霊子線を切ってしまったから、幽体が16個も探知されたのだろう。


友香「もしかして、少女は臓器提供をしていたってことですか」

男「そう。少女さんは臓器提供をしていたんだ!」

友香「でも、臓器提供で一人が救うことができる最大の人数は11人なんです。私は違うと思います」

847以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/15(火) 19:44:35 ID:3wyx7S.g
男「それは知らないけど、これを読んでみてくれないかな」


俺はそう言って、本棚に用意しておいた週刊誌を手に取った。
それと同時、双妹がハーブティーを淹れて部屋に入ってきた。


双妹「お茶でも飲みながら話しませんか」

友香「ありがとうございます」

友「ありがとう」

男「で、これなんだけど……」


俺は記事が書かれているページを開き、友に週刊誌を手渡した。
友香さんはティーカップを片手に、友ににじり寄って覗き見る。

848以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/15(火) 19:45:46 ID:3wyx7S.g
友「臓器移植の課題。親族への優先提供と自殺企図ドナーを考える――か」

男「その記事の冒頭で触れられている10代の女性が、少女さんのことだと思うんだ」

友香「確かに少女のことかもしれないですね」


友香さんはそう言うと、スマホを取り出した。
そして何かを調べ始めて、眉を寄せた。


友香「友くん、少女の探知結果を保存してたよねえ。最初の探知結果を見せてくれない?」

友「分かった。ちょっと待って」


友香さんは友からスマホを受け取り、真剣な眼差しで画面を見比べる。
その表情は次第に強張っていき、もう一度、週刊誌の記事に目を向けた。

849以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/15(火) 19:46:55 ID:F2urCRGs
友香「間違いない。これは少女のことだ!」

双妹「友香さん、私たちにも説明してくれませんか」

友香「あっああ……そうですね」

友香「私が調べていたのは臓器移植の橋渡しをしている組織のホームページなんですけど、臓器移植の透明性を図るためにレシピエントや移植施設の情報を閲覧することが出来るんです」

男「へえ、そんなサイトがあるんだ」

双妹「知らなかった」

友香「それでそのページで移植施設と少女の幽体を照合してみたら、都道府県がすべて一致したんです」


友香さんは声を震わせながら言うと、スマホ2台を差し出してきた。
俺と双妹は1台ずつ受け取り、臓器移植のホームページと少女さんの幽体を見比べる。

850以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/15(火) 19:50:12 ID:KWN7QG3Y
・・・
・・・・・・
20××年2月22日、東海北陸地方の病院に入院中の15歳以上18歳未満の女性(原疾患は低酸素性脳症)から、心臓、肺、肝臓、腎臓、膵臓、小腸、眼球のご提供がありました。

脳死判定日 2月20日
心臓:彩川医科大学附属病院 (10歳代女性)
右肺:北関東中央医療センター (50歳代男性)
左肺:岡山マスカット総合病院 (20歳代女性)
肝臓
分割肝:さくらんぼ保健衛生病院 (10歳未満女児)
分割肝:日本国立先端医療研究所 (20歳代男性)
腎臓:京阪女子医科大学附属病院 (10歳代男性)
腎臓:医療法人筑前総合医療病院 (40歳代女性)
膵臓:北海道道央時計台総合病院 (30歳代男性)
小腸:坊ちゃん高度医療センター (20歳代女性)

851以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/15(火) 19:51:23 ID:KWN7QG3Y
男「やっぱり、これが少女さんの生きた証だったんだ!」


臓器移植を行った病院を検索すると、病院の住所と少女さんの幽体の所在地がすべて一致していた。
しかも少女さんの幽体を持っている女さんという女性のプロフィールは、心臓移植をされた女性の情報と矛盾していない。
どんな人かは知らないけれど、女さんの中で少女さんは生き続けているのだ。


友香「少女が臓器提供をしたのは疑いようのない事実だから、幽体の数が合わないのは組織提供もしているという事なんでしょうね」

男「組織提供?」

友香「臓器以外に鼓膜や耳小骨、皮膚なども提供することが出来るんです」

男「へえ、そういうことも出来るのか」

双妹「ひとつ聞きたいんだけど、消えた幽体は移植に失敗したってことなの?」

友香「角膜や皮膚といった組織は臓器と比べて小さいから、幽体が消えてしまったのだと思います」

友「その可能性が高いだろうな。恐らく、俺の探知機では探知できないレベルにまで弱くなってしまったのだと思う」

双妹「そっか……。でも、これで少女さんを成仏させられるわね」

友香「……」

852以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/15(火) 19:52:25 ID:F2urCRGs
男「それじゃあ、春休みになったら少女さんと一緒に女さんに会いに行ってみるよ」

双妹「そうだね。早く会わせてあげましょ!」

友香「私は少女を女さんに会わせるのは反対です。男くんも女さんには会わないほうがいいと思います」

男「……どうして?」

友香「ドナーの関係者とレシピエントが直接対面することは、好ましくないと思うからです。女さんは心臓移植が必要なほど重い病気で、少女が死んだから生きていくことが出来るようになったんですよ。今も女さんの中で、少女の心臓が生き続けているんですよ」

友香「男くんはそんな女性に会って、平静でいられるんですか。女さんが今、どんな気持ちになっているのか想像できますか?」

男「それは――」

友香「正直、私は本当のことを知って少しつらいです。友達が悪霊に呪い殺されて、だけどそのおかげで生きていられる人がいるなんて……」

853以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/15(火) 19:53:26 ID:xSdi3n8Y
双妹「友香さん。ハーブティー、もう一杯どうですか? カモミールは気持ちが落ち着きますよ」

友香「……ありがとう」


友香さんは弱々しい声で言うと、ティーカップを差し出した。
双妹はその様子を見てにこりと微笑み、ティーポットからハーブティーを淹れた。
優しい香りが湯気に乗って、部屋に広がっていく。


男「友香さんの言いたいことも分かるし、俺もどんな顔で女さんに会えばいいのか分からない。少女さんに臓器移植のことを話すかどうか、もう少し慎重になったほうが良いのかもしれないな」

双妹「でもこんなに提供しているってことは、少女さんは臓器提供や組織提供の意思表示をしていたってことでしょ。自分が望んだ結果になったんだから、知りたいと思うものなんじゃないかなあ」

男「それも一理ある……か。少女さんは遺族じゃなくて、本人だもんな」

854以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/15(火) 19:54:36 ID:3wyx7S.g
一体、どちらの意見が正しいのだろう。
少女さんに女さんのことを話すべきか、それとも話さないでいるべきか。
そう思っていると、友香さんが口を開いた。


友香「友くんはどう思う?」

友「そうだなあ。少女さんのメンタリティが生前と同じ状態だとは限らないし、慎重になるべきだろうな。それで少し様子を見て、話したほうが良さそうなら話すべきだと思う」

友香「やっぱり、こういう問題は難しいよね」

男「それじゃあ、そのときは俺が話すことにするよ」

双妹「……そうだね。それが一番良いのかもしれないわね」

855以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/15(火) 19:55:36 ID:3wyx7S.g
友「ところで、男は今日、クラスのみんなに電話をしていたんだろ。あと何人残ってるんだ?」

男「もう終わったけど」

友「そうなのか。なんなら手伝ってやろうかと思っていたけど、無事に終わったのか」

男「ああ、ついさっきな」

双妹「もしかして友くん、誰か狙ってたとか?」

友香「ええっ、そうなの?」

友「そんなんじゃないし」アセアセ

友香「あやしい」

友「いやいやいや、そんなつもりで聞いたんじゃないから」


友がわざとらしくおどけて見せて、場の雰囲気が緩み始めた。
少女さんが成仏しないといけない日まで、あと2週間。
俺たちも少女さんの死と向き合わなければならない日が迫っている――。


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