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少女「私を忘れないで」
1
:
◆WRZsdTgWUI
:2018/02/17(土) 23:13:03 ID:SLrOQBwc
(プロローグ)
〜体育館裏・少女さん〜
男子「少女さん、わざわざ来てくれてありがとう!」
少女「……」
男子「えっと、その……明日から冬休みだね」
少女「そうですね」
男子「それでその……クリスマスの日は予定が開いてますか」
少女「クリスマスの予定?」
男子「は、はいっ!」
少女「ひとつ聞きたいのですけど、あなたと私は今日はじめて会いましたよねえ。それなのに、どうして教えないといけないんですか」
男子「それは少女さんのことが好きだからっ!」
少女「……?!」
男子「文化祭のときに笑っている少女さんを見て可愛いなって思って、それで一緒に話が出来たらいいなってずっと思っていたんです。だから、僕と付き合ってくれませんか!」
257
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/12(木) 20:36:11 ID:loKH8gnc
男「えっ?!」
少女「うぐううぅっ、んんっ! んんんっ……んぐぅぅっっ!!」
少女さんは呻き声を上げながら、床に崩れ落ちた。
必死な形相で胸を押さえ、丸くなって身悶えしている。
そんな彼女に、俺は慌てて席を立ち声を掛けた。
男「少女さん! 大丈夫っ!?」
少女「んんっ! むうぅぅっ……!!」
俺の呼びかけに応え、苦しそうな表情で首を横に振る。
こんなとき、どうすればいい。
保健室?
いや、急病人が出たなら救急車だ!
258
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/12(木) 20:47:12 ID:JKEMspaM
男「今から救急車を呼ぶから! すぐに楽になるから!!」
少女「ぅぅっ……」
女教師「男くん、何度言えば分かるの! 席に着きなさいっ!」
その言葉と同時、女教師が俺の前にやってきた。
そして、苦痛で呻いている少女さんの頭を踏みつけた。
男「……なっ! 何してんだよっ!!」
俺は立ち上がり、女教師を睨み付ける。
女教師「な……何ですか、その態度はっ!」
双妹「男、だめだよっ!」
双妹「先生、そこに立たないでください! そこを踏みつけないでくださいっ!!」
259
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/12(木) 21:03:47 ID:OkQKmZLg
女教師「双妹さんまで授業妨害ですか!」
双妹「そんなつもりはありません。でも、理由があると思うんです!」
双妹「ねえ、前々から、ずっと気になってた。男には何が見えているんだろう、誰と話をしているんだろうって」
双妹「やっと分かったわ」
双妹は厳しい視線を足元に向けた。
そして、すべてを見透かしたかのように優しい視線を向けてきた。
双妹「男には少女さんが見えているのね――」
260
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/12(木) 21:06:54 ID:loKH8gnc
男「……!」
男「今、少女さんが苦しんでる。俺は何とかして、彼女を助けたいんだ!」
双妹「助けたいって言われても、私たちには男が一人で騒いでいるようにしか見えないんだよ。まずはみんなに分かってもらわないと、助けることなんて出来ないと思う」
確かに双妹の言う通りだ。
少女さんの姿はみんなには見えていない。
だから、少女さんを助けるためには、その存在を知ってもらわなければならないのだ。
男「くそっ! どうやって説明すればいいんだ――」
友「男、遅れてすまん。少女さんのことは俺に任せてくれ!」
男「友っ!」
双妹「……友くん?」
261
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/12(木) 21:17:41 ID:JKEMspaM
女教師「あなたは席に戻りなさい!」
友「いや、男がこうなったのは俺のせいなんです」
女教師「あなたの?」
友「はい。昨日、俺の家で心霊催眠の実験をしまして……。どうやら、それがうまく解けていなかったみたいなんです」
女教師「心霊催眠?!」
友「催眠術の一種です。とりあえず、保健室で休ませてもらっても良いですか?」
女教師「そうね、そうしなさい」
友は俺に目配せをすると、内履きを履きなおす振りをして少女さんを抱き上げた。
両手にはめている手袋が霊的な道具なのか、少女さんの容態が落ち着いていく。
それを見て、俺はほっと胸を撫で下ろした。
262
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/12(木) 21:26:03 ID:JKEMspaM
今週はここまでにします
レスありがとうございました
263
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/15(日) 18:19:23 ID:sawrlJaQ
ドキドキ
264
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/16(月) 22:15:15 ID:8oTMeYxY
〜保健室〜
保健室に入り、俺と少女さんはベッドに横になった。
俺が横になる必要はないと思うのだけど、催眠術で情緒不安定になっているという設定なので仕方がない。
少女さんの容態はすでに落ち着いていて、友によればすぐに目を覚ますだろうとの事だ。
男「友、ありがとう」
友「気にするな。俺のほうこそ、出るタイミングを逸して遅くなった」
男「いや、助かったよ。その手袋が霊的な道具なのか?」
友「まあ、一応な。これで触れば、興奮した霊を鎮めることが出来るんだ」
双妹「興奮した霊を鎮めるって、どういうこと?」
友「それは少女さんが目を覚ましたら説明するよ。そのほうが手間が省けるし」
双妹「……分かった」
265
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/16(月) 22:45:51 ID:kCQDvhVk
少女「……うっ、ううん」
しばらくして、少女さんが目を覚ました。
そして周囲を見渡し、俺に気が付くと困惑した様子で呟いた。
少女「えっと……ここは?」
男「少女さん、おはよう。ここは保健室だよ」
少女「保健室?」
男「ああ。俺の体調が悪いことにして、少女さんを連れてきたんだ。どこか痛いところはない?」
俺は身体を起こし、隣で寝ている少女さんに尋ねた。
すると少女さんは思案めき、掛け布団をすり抜けてふわりと浮かび上がった。
266
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/16(月) 22:47:09 ID:kCQDvhVk
少女「もう大丈夫です。ご心配おかけしました」
男「良かったあ。心配したんだよ!」
少女「ごめんなさい。周りを気にせずに声を掛けてくれて、すごく嬉しかったです//」
双妹「ねえ、気が付いたの?」
少女「……」
少女「えっ、ええっ! もしかして、私の姿が見えているんですか?!」
男「見えていないけど、少女さんのことはもう知ってるよ」
少女「そ……そうなんだ」
267
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/16(月) 23:22:18 ID:8oTMeYxY
友「それじゃあ、場所を変えようか」
男「場所を変えるってどこに?」
友「駅前の喫茶店でいいんじゃね?」
男「授業はどうするんだよ」
友「どうせ昼で帰るんだし、早退しようぜ!」
男「そうだなあ。どうせ午前中で帰るんだよな」
双妹「だったら、家で話をしようよ。喫茶店だと人目に付くし、落ち着いて話が出来ないだろうから――」
男「そうだな。それじゃあ、担任の教師に早退するって言ってくる」
双妹「あっ、待って。私も行くっ!」
俺はベッドから下り、双妹と少女さんを連れて職員室に向かった。
268
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/16(月) 23:26:27 ID:xArkhchg
今日はここまでにします
レスありがとうございました
269
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/17(火) 20:14:08 ID:ccSemnQg
〜自宅・部屋〜
俺たちは学校を早退し、みんなで俺の部屋に集まることにした。
そして部屋に入ってすぐ、友が話を切り出した。
友「双妹ちゃん、休みの日とか遊びに行くときに身に着けているアクセサリーって、何か持ってない?」
双妹「持ってるけど、何に使うの?」
友「少女さんの姿を見えるようにしてあげようかなと思って。多分、そのほうが話を理解しやすいと思うし」
男「そんなことが出来るのか」
友「まあな。でも、霊感がない人間に浮遊霊の姿を見えるようにするのは、本当は良くないことなんだ」
男「双妹、どうする?」
双妹「姿が見えないと話にならないし、部屋から持ってくる」
双妹はそう言うと、部屋を出て行った。
そしてしばらくして、ブレスレットを持って戻ってきた。
270
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/17(火) 22:07:47 ID:ccSemnQg
双妹「これで良い?」
友「大丈夫、いけると思う。それじゃあ、儀式を始めるから」
友は双妹にブレスレットを持たせ、その上に御札を重ねた。
そして、何やら怪しい言葉を念じ始める。
相変わらず、中二っぽいぞ。
友「我の名は友。我が作り出したるは、幽界の者を見し霊具。この器にて彼の者を捉え、共鳴する力を生み出したるは――」
双妹「な……何これ、すごく胡散臭いんだけど」
男「大丈夫だ。俺もそう思ってる」
友「じゃあ、少女さん。これに触れて、意識を集中させて欲しい」
少女「はい。分かりました」
271
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/17(火) 22:37:17 ID:ccSemnQg
少女さんがブレスレットに触れると、双妹がとっさに手を引いた。
そして、不機嫌そうに友を見詰める。
双妹「今、ビリッとしたんだけど」
友「大丈夫、今ので完成だから。少女さん、ありがとう」
少女「あっ、はい。どういたしまして」
友「それじゃあ、双妹ちゃん。それを着ける前に、この御守りを受け取ってくれるかな」
友は通学鞄から御守りを取り出すと、双妹に手渡した。
272
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/17(火) 22:41:40 ID:LbnPQ3lQ
双妹「これは?」
友「幽霊が見えることを低級霊たちに知られると、面倒なことになる場合があるんだ」
双妹「低級霊?」
友「平たく言うと、四十九日を過ぎても現世に留まっている悪霊のことだ」
双妹「悪霊……」
友「そう。だから、守護霊の力を高めておく必要があるんだ。半年くらいは効果があるから、カバンの中にでも入れっぱなしにしておいてくれるかな」
双妹「別にいいけど、守護霊の力ってこんなことで強くなるものなの?」
友「この御守りはあくまでも補助的なもので、特に大切なことは健康な心身を保つことだ。しっかりと食事を取って、運動をして体力づくりをして、よく寝てストレスを溜めないこと」
友「そんな健康的な生活を送ることで、守護霊は強くなるんだ」
双妹「それって、もう守護霊とか関係ないような気が……」
友「あと、守護霊がいるって信じることも重要な」
双妹「何だか信じられないなあ」
男「大丈夫だ。俺もそう思ったから」
273
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/17(火) 22:47:42 ID:yk1xbTBc
友「それじゃあ、双妹ちゃん。そのブレスレットを着けてみて」
双妹「う……うん」
双妹は恐る恐る、ブレスレットを右腕にはめた。
そして、緊張した面持ちで顔を上げる。
双妹「……!」
双妹「見える。見えるよ、本当にっ!!」
男「マジかよ! すげえな!!」
少女「わわっ! えっと、双妹さん。はじめまして」ペコリ
双妹「は、はじめまして」アセアセ
友「ふふん、成功だな」
双妹「友くん、ありがとう。えっと……男から少女さんの気配を感じるんだけど、それは何なの?」
友「少女さんは憑依霊だから、男の身体を共有している状態なんだ。双妹ちゃんが感じているものは根っこみたいなものだよ」
双妹「ふうん、そうなんだ」
274
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/18(水) 00:05:08 ID:Omd.hWJw
双妹「それで、これは外しても大丈夫なの?」
友「ああ、霊力が馴染めば3週間くらいは効果が持続すると思う。霊具として使えるのは少女さんが成仏するまでだから、理論上は4月の半ばくらいまで使える計算になるかな」
双妹「効果があるのは3週間で、使えるのは4月半ばまで――か」
友「もちろん、少女さんが身体に戻れたらすぐに使えなくなるけどね」
双妹「ふうん、そうなんだ」
双妹「でも、びっくりしたあ! まさか、本当に見えるようになるとは思わなかったわ」
友「俺のこと、ちょっとは尊敬しただろ」どやぁ
双妹「あはは。霊能力があるって、絶対に冗談だと思ってた」
友「これを機に惚れてもいいんだぜ」キリッ
双妹「ごめん、それはあり得ないから。いつも女の子の幽霊の裸ばっかり見ていそうだし」
少女「それってもしかして、双妹さんには私のことが裸のように見えているんですか?」
双妹「そうだけど、違うの?」
少女「違うに決まっているじゃないですか。私はちゃんと服を着ていますから」
275
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/18(水) 22:53:54 ID:Omd.hWJw
双妹「ねえ、男。少女さんって、本当に服を着ているの?」
男「当たり前だろ。何言ってるんだよ」
双妹「もしかして、裸だと思っているのは私だけ?!」
男「なあ、友。そのブレスレット、失敗じゃないのか」
友「あのさあ、常識で考えて、幽霊が服を着ているほうがおかしいじゃないか。だって、生身の体がないんだぞ」
少女「はいぃぃっ?!」
男「ちょっと待て! 少女さんが服を着ていると思っているのは、もしかして俺だけなのか?!」
友「逆に聞きたいんだけど、男には少女さんがどんな服を着ているように見えるんだ?」
男「どんなって、少女さんは今、俺たちの学校の制服を着ているじゃないか」
双妹「……どう見ても裸でしょ」
友「ああ、そういうことか! 男は少女さんの姿が見えているんじゃなくて、少女さんが見せている姿が見えているんだ」
276
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/18(水) 23:38:38 ID:mXX5xWPQ
男「おい、ちょっと待て。そうなると、友は今まで少女さんの裸を見続けていたことになるよなあ。かなり気に入らないんだけど――」
友「安心しろ。浮遊霊の裸には興味ないから」キリッ
男「はあ?! それはそれで微妙に気に入らないんだけど」
少女「二人とも喧嘩はやめてください。こうすればいいんですよねえ」ポンッ
友「マジかよっ! 少女さんって、そういうことも出来るのか?!」
少女「ふふん、すごいでしょ〜!」ドヤッ
少女さんは得意げに言うと、ドヤ顔になった。
友もかなり驚いているし、一体何をしたのだろうか。
男「俺にはよく分からなかったんだけど、少女さんが何かしたのか?」
双妹「今、少女さんがうちの学校の制服姿に変身したの」
男「……変身?」
男「つまり、俺が見ている姿と同じ姿が見えるようになったってことか」
双妹「多分、そうだと思う」
277
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/18(水) 23:46:16 ID:Omd.hWJw
少女「男くん、その……今まで気付かなくてごめんなさい」
友「俺も悪かった。てっきり、男も同じように見えているものだとばかり思っていたから」
男「まあ、今まで助けられてばっかりだったし、今回だけだからな」
友「分かってるって」
友「ところで、少女さん。それは幽体の見た目を変えたってことだよね」
少女「ああ……はい、そうです。だから、この制服も私の身体の一部で――」
少女「……?!」
少女「それって結局、私は裸のままって事じゃないですか!」
男「……!!」
友「いやいやいや! 制服を着ているように見えている時点で、裸じゃないから!」
少女「そ……そうですかねえ」
友「そうだから! あまり変なことを言うと、男と双妹ちゃんからの心象が悪くなるからっ!」
278
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/19(木) 07:21:20 ID:Y4iuq9Tk
面白い
279
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/21(土) 19:19:12 ID:uaLdt28o
双妹「あまり時間もないし、そろそろ本題に入ろうよ」
男「そうだな」
双妹「それじゃあ聞くけど、少女さんは入院しているはずでしょ。それなのに幽霊とか浮遊霊とか、どういうことなの?」
男「実は――」
俺たちは双妹にこれまでの経緯を説明した。
その要所要所で思い当たる節があるらしく、双妹はときどき小さく頷いていた。
双妹「ふうん、そういうことがあったんだ。それで、これからどうするの?」
友「少女さんの魂を身体に戻せないか試そうと思ってる」
双妹「そんなことが出来るの?」
友「やってみないと分からないけど、勝算がないわけでもない」
280
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/21(土) 19:30:29 ID:ns7zdREs
少女「私、本当に生き返ることが出来るんですか?!」
友「少女さんは英語の授業中、胸を押さえながら倒れてしまっただろ。それで気になって詳しく霊視をしてみたんだけど、少女さんは普通の浮遊霊よりも幽体が少ないことが分かったんだ」
少女「幽体が少ない?」
双妹「ねえ、友くん。幽体とか魂って、結局何なの?」
友「そう聞かれると超ひも理論の説明をしないといけなくなるんだけど、イメージ的にはこんな感じかな」
肉体:現世の体、死んだときに脱ぎ捨てる。
幽体:肉体と霊魂を繋ぎとめる役割がある。死後の世界で体として利用し、成仏をするときに脱ぎ捨てる。
霊体:成仏をした後の体。
魂:人間の本質で霊波動という波を発している。
友「――つまり、魂は三つの体を重ね着しているんだ」
双妹「何となく分かったかも」
281
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/21(土) 20:07:05 ID:52C9RiiE
友「それで話を戻すけど、少女さんの幽体が少ないのは肉体に幽体が残されているからだと思うんだ。病院で幽体離脱をしたとき、頭に銀色の線がつながっていなかった?」
少女「あっ……ありました! でも、自分で切ってしまったんです」
友「なるほどな。少女さんは幽体が肉体から完全に離れてしまう前に霊子線を切ってしまったから、普通の浮遊霊よりも幽体が少ないんだ」
男「つまり、少女さんが授業中に倒れてしまったのは、幽体が少なくて霊的に不安定だったからなのか」
もしそうだとするならば、一刻も早く自分の身体に戻ったほうが良いだろう。
そう考えていると、友が少女さんを一瞥して思案めいた。
282
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/21(土) 20:30:14 ID:52C9RiiE
友「いや、むしろ幽体が少ないから、少女さんは普通の浮遊霊では考えられないほど霊的な力が強いんだ」
少女「えっ、そうなんですか?!」
男「少女さんの霊的な力が強いのは、うるう年の影響とか特殊な死因だからじゃなかったっけ」
友「それも関係あるんだけど、特に幽体の少なさが影響しているみたいだ。例えば、ホースの先を摘むと水が勢いよく出るようになるだろ。霊的な力もそれと同じような原理で強くなるんだ」
男「へえ、そういうものなのか」
少女「それで、どうすれば生き返ることが出来るんですか?」
友「それなんだけど、少女さんは幽体の状態を変化させることが出来るだろ。だから、自分の身体に憑依して肉体に残されている幽体を変化させれば、霊子線をつなぎ直すことが出来るはずだ」
283
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/21(土) 20:32:52 ID:uaLdt28o
少女「銀色の紐をつなぎ直せば、私は生き返ることが出来るんですね!」
友「まあそうなんだけど、実は一度切れた霊子線は二度と繋がらないんだ」
少女「……!」
友「でも、自分で霊子線を切ってしまった浮遊霊なんて聞いたことがないから、少女さんならば奇跡を起こすことが出来るかもしれない。いや、起こせるはずだ」
男「少女さん、俺と双妹がすでに奇跡みたいなものだから――。だから、諦めなければ絶対に大丈夫だ」
少女「うん、そうだよね。私は絶対に生き返るんだ!」
きっと、少女さんはたくさんの不安を感じているだろう。
それでも、彼女の言葉にはそれを感じさせないほどの力が込められていた。
284
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/21(土) 20:41:17 ID:uaLdt28o
今日はここまでにします
レスありがとうございました
285
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/21(土) 23:03:53 ID:9wU12fzk
よし
生き返れ
286
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/23(月) 20:07:18 ID:kjv3n51I
〜北倉駅前・バス停〜
お昼になり、俺たちは友香さんとの待ち合わせ場所に向かった。
少し早く着いたらしく、北倉駅に併設されているバス停にはそれらしい人の姿はない。
双妹「ねえねえ、友くん。このブレスレットを使えば、友香さんも少女さんの姿が見えるようになるの?」
友「いや、見えるようにはならないよ。その霊具は双妹ちゃんの魂の力を利用して作っているから、他の人では使えないんだ」
双妹「……ふうん、私と同じ魂じゃないと使えないのか」
男「それじゃあ、友香さんも少女さんの姿が見えるように出来ないかな。そのほうが説明しやすくなると思うし」
友「確かにそうかもしれないけど、友香さんは少女さんが目を覚ます望みを捨てていないんだろ。だったら、今の時点で浮遊霊の少女さんと対面させるのは慎重になったほうがいいと思う」
少女「私も友くんの意見に賛成です。今の私が友香ちゃんに会うと、不必要につらい思いをさせてしまうことになると思うんです」
男「言われてみれば、そうかもしれないな」
友「少女さんが自分の身体に戻れれば良いだけだし、今は友香さんには内緒にしておこう」
男「分かった」
双妹「そうだね」
287
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/23(月) 20:14:56 ID:kjv3n51I
少女「あっ! 友香ちゃんが来ましたよ!!」
自分の姿は見えないというのに、少女さんが手を振って呼びかけた。
どうやら、こちらに歩いてくる学生服姿の女子が友香さんらしい。
さすが看護師を目指しているだけあって、とても清楚な感じがする外見だ。
そう思っていると、俺たちに気付いたらしく慌てた様子で駆け寄ってきた。
友香「すみません。お待たせしました」
双妹「ううん、私たちも今着いたところだから」
友香「……うん、ごめんね。それでこちらの男子が――」
双妹「えっと、紹介するわね。こちらが私のお兄ちゃんで、そっちが友くん」
男「はじめまして、男です」
友「友です」
友香「こんにちは、友香です。今日は来てくれて、本当にありがとうございます!」
男「こちらこそ、会ってくれてありがとう」
288
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/23(月) 20:17:57 ID:Ogk2A2Qk
友香「一応確認しておきたいのですけど、男くんが少女に会いたがっているという話は間違いないですか」
友香さんは真剣な眼差しを向けてきた。
俺もそれに倣って、言葉を返す。
男「はい、俺はそのために来たんです」
友香「双妹さんから聞いていると思うけど、少女は今、病院のICUで寝たきりになっています。もう意識が戻る見込みがないそうです」
男「……」
友香「でも、男くんが会ってくれれば少女は目を覚ますかもしれない。そう思うんです」
男「俺もそう思う。ICUには面会制限があるみたいだし、まずは会えることを祈らないとな」
友香「そうですね!」
289
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/23(月) 20:26:37 ID:Ogk2A2Qk
男「そういえば、少女さんが入院している北倉総合病院にはどれくらい掛かるのかな」
双妹「バスに乗って10分くらいだよ」
男「10分も掛かるのか」
双妹「でも、バスを降りたら目の前だから」
男「そっか、早く来ないかなあ」
俺は待ち遠しく感じて、道路の向こう側を見やった。
しかし、バスの姿はない。
友香「あのっ、失礼ですけどひとつ聞いてもいいですか」
男「えっと、俺に?」
友香「はい。男くんと双妹さんは一卵性双生児なんですよねえ」
290
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/23(月) 20:37:52 ID:Ogk2A2Qk
男「あ……ああ、そういう話か。確かに、俺と双妹は一卵性双生児ですよ」
友香「えっとね! 昨日も双妹さんに言ったのですけど、ずっと会ってみたいと思っていたんです」
男「俺たちに?」
友香「はいっ!」
友香「お二人は雰囲気がすごく似ているけど、身長や体格がまったく違いますよね。性染色体がたった1本違うだけなのに、すごく興味深いです」
男「性別が違うんだから、体格が違うのは当然のことだと思うんだけど」
友香「それってつまり、従性遺伝と限性遺伝の影響が大きいってことですよね」
291
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/23(月) 20:43:33 ID:BANKwkBM
友香さんの口から、唐突に生物用語が飛び出してきた。
従性遺伝は常染色体上の遺伝子の優劣関係が雌雄で異なる遺伝のことで、限性遺伝はY染色体上の遺伝子による遺伝のことだ。
他にも双妹にはライオニゼーションの影響があり、2本あるX染色体のうち1本がランダムで不活性化されている。
そのことは伴性遺伝の発現にも関係しているし、一卵性双生児だとはいっても違いがあるのは当然だ。
男「詳しいことは分からないけど、そうだと思うよ」
友香「――ですよね。だから発生や遺伝って面白いし、生命はとても神秘的だなって思うんです」
292
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/23(月) 20:52:34 ID:kjv3n51I
双妹「こんな反応を示す人、初めて見た」
男「ああ、そうだよな」
ほとんどの人は異性の一卵性双生児は絶対に生まれないと主張してくるし、中には人格まで否定してくる人もいる。
そうでなくても、興味本位で迂闊なことを言ってくる人が多い。
しかし、友香さんは生命の誕生や遺伝子のほうに興味があるらしい。
とりあえず、生物の授業が好きなんだろうなということは分かった。
友香「……!」
友香「すみません。初対面なのに一人で舞い上がってしまって……。私のこと、変な女子だと思いましたよね」アセアセ
双妹「いえ、友香さんって優等生タイプだなって思っただけです」
男「少女さんもそんな感じだったし、別におかしくないですよ」
友香「……あれっ? 少女はお二人が双子だと知っているんですか」
男「そうだけど、それがどうかした?」
友香「それはおかしいです。少女は双妹さんのことを知らないはずなんです。いつ話したんですか」
293
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/23(月) 20:56:00 ID:BANKwkBM
……しまった!
俺が少女さんに双子の妹がいることを話したのは、先週の月曜日だ。
しかし自殺未遂をしたのはその前の土曜日なので、友香さんの視点では辻褄が合わないことになってしまう。
本当のことは言えないし、一体どうやって答えればいいのだろう。
少女「はあ、仕方ないですね。12日の夜に私が電話をしたことにしましょう」
男「えっと、12日の夜に少女さんから電話が掛かってきたんだ」
友香「12日の夜に?」
男「それでそのときに聞かれたから教えたんだけど、何かおかしいですか」
友香「いえ、おかしくないです。でも、そうだとすると少女は――」
少女「ねえ、男くん。バスが来ましたよ!」
男「ほんとだ。ようやくバスが来たみたいだ」
双妹「友香さん、行きましょうか」
友香「そ……そうですね」
294
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/23(月) 21:11:03 ID:Ogk2A2Qk
今日はここまでにします
レスありがとうございました
295
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/23(月) 22:22:46 ID:iBAgHl9w
よし
頑張れ
296
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/24(火) 20:13:05 ID:dGBrRWQE
〜総合病院・入院患者病棟〜
バスで揺られること10分。
ようやく少女さんが入院している総合病院に到着した。
少女「いよいよですね。何だか緊張してきました」
男「俺も緊張してきたかも。ちゃんと中に入れるかなあ」
双妹「どうなんだろ」
友「まあ、いざというときは少女さんだけでもどうにかしてみるから」
俺たちは不安に思いつつ、面会者用の出入り口から中に入った。
すると、すぐ脇に窓口があった。
どうやら、ここで受付を済ませないと面会することが出来ないようだ。
友香「あのー、すみません」
受付「こんにちは。いかがされましたか」
友香「少女さんに面会したいのですけど、よろしいですか?」
297
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/24(火) 21:15:06 ID:DLGSxhXw
受付「少女さんですか。その女性でしたら、申し訳ありませんが本日、退院なさいました」
少女「えっ?!」
友香「それって、どういうことなんですか! 少女はとても退院出来るような状態ではなかったですよねえ」
受付「そう言われましても――」
男「だったら、少女さんはどこの病院に転院したんですか? それだけでも教えてください。どうしても会いたいんです!」
友香「お願いします!」
俺たちが強く訴えると、受付の女性がどこかに電話を掛け始めた。
そして俺たちのことを話し、険しい表情で受話器を置いた。
298
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/24(火) 21:16:10 ID:WZJjxK8k
どうなんだ?
299
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/24(火) 21:20:45 ID:voB9GsOM
受付「皆さんは少女さんのご友人ですか?」
友香「はいっ!」
受付「そうですか……」
受付「個人情報が含まれるので詳しいことはお伝え出来ませんが、少女さんは2月20日にお亡くなりになられました。申し訳ありませんが、ご家族の方以外はお引取りください」
友香「亡くなったって、少女が……死んだ?」
少女「そんな! うそでしょ?!」
男「本当に、少女さんは――」
受付「申し訳ありません」
友「ちょっと待て! 2月20日って、一昨日だよな。おかしくないか?」
男「……!」
友香「そ、そうよ! 昨日、私たちはおばさんに許可を頂いて面会することが出来たんですよ!」
双妹「そうですよね。一昨日に少女さんが亡くなっていたのなら、どうして昨日は面会することが出来たんですか?」
受付「それは個人情報ですので、お答えすることは出来ません」
300
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/24(火) 21:35:55 ID:voB9GsOM
友香「今は面会可能時間ですよね。本当は、おじさんやおばさんが来ているんじゃないんですか? どうしても会わせて欲しいんです!」
受付「申し訳ありませんが、他の患者さんのご迷惑にもなりますし、お引取り願えませんか」
友香「でも、でもっ……!!」
少女「私、そんなの信じられない。自分で確かめてくる!」
その言葉と同時、少女さんの姿が見えなくなった。
俺に取り憑くことよりも、自分の身体に戻ることを優先したのだろう。
それほどまでに、少女さんの中で生き返りたいという想いが高まっていたのだ。
男「少女さん!」
双妹「外で待っていて欲しいだって」
友「一度、出直そう。まだ終わりだと決まった訳じゃないんだから」
男「そう、だな……」
301
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/24(火) 21:37:02 ID:dGBrRWQE
今日はここまでにします
レスありがとうございました
302
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/25(水) 14:08:09 ID:88eaCgAY
ヤバくなってるがな
303
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/26(木) 00:10:36 ID:APcIQ..6
俺たちは入院患者病棟を出て、近くにあったベンチに腰を下ろした。
そしてややあって、友香さんが申し訳なさそうな顔で話しかけてきた。
友香「男くん、本当にごめんなさい。せっかく来てくれたのに――」
男「ICUは家族だけしか面会出来ない場所だし、仕方ないよ。それにしても、20日に亡くなったというのはどういうことなんだろう」
双妹「まったく意味が分からないよね」
双妹の言う通りだ。
まったく意味が分からない。
もし本当に少女さんが20日に亡くなっていたとするならば、昨日はすでに死亡している患者を治療し続けていたことになる。
しかし、病院がそんなことをするはずがないので、昨日の時点では少女さんが生きていたことになる。
つまり、受付の女性の言葉を信じると辻褄が合わなくなってしまうのだ。
304
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/26(木) 00:26:05 ID:JPgtyCJk
友香「私、少女の家に行って話を聞いて来ます。そのほうが確実みたいだし」
双妹「私も気になるし、一緒に行ってもいいですか?」
友香「別に良いですけど、おばさんがいなかったら帰ってくるまで待つことになりますよ」
双妹「それは大丈夫。男も気になっているはずだし」
男「双妹、悪いな」
双妹「いいって、いいって」
友香「じゃあ、念のために連絡先を交換しませんか?」
男「ああ、そうだね」
友「俺も交換していいかな」
友香「ええっ、あなたも?」
友香さんは少し嫌そうな表情になり、しぶしぶ友と連絡先を交換した。
そして俺と連絡先を交換し、双妹と友香さんは少女さんの自宅に向かった。
305
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/26(木) 00:40:17 ID:JPgtyCJk
男「少女さんの家には浮遊霊がたくさんいるんだろ。大丈夫かなあ」
友「双妹ちゃんが見えるのは少女さんだけだし、御守りがあるから何の心配も要らないよ」
男「それなら良いんだけど……」
友「あっ、おかえり」
話をしていると、ふいに友が挨拶をした。
俺は少女さんが帰ってきたのだと思い、視線を追う。
すると、何か違和感を感じて少女さんの姿が見えるようになった。
男「……少女さん、おかえり」
少女「ただいま」
その声に覇気はなく、表情が重く沈んでいる。
つまり、望むような結果を得られなかったということだろう。
306
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/26(木) 00:42:23 ID:BmjYnMBo
男「それで、その……どうだった?」
少女「私が入院していた病室には誰もいませんでした」
男「じゃあ、少女さんの身体は一体どこに……」
少女「分かりません。全部の病室を覗いてみたけど、どこにも私の身体はありませんでした。やっぱり、私はもう――」
少女さんは悲痛な表情で、言葉を飲み込んだ。
そんな彼女に、俺は何と声を掛ければいいのだろう。
少女さんが生きていると知っていれば、もっと早く病院に行っていたのに……。
友「いや、まだ答えを急ぐ必要はない」
男「そうか。友には何か考えがあるんだよな!」
少女「そ……そうなんですか?!」
307
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/26(木) 00:50:49 ID:JPgtyCJk
友「俺が想定していた中でも最悪のパターンだから、あまり期待はしないで欲しいんだけど――」
友はそう言いつつ、通学鞄から何かの組み立てキットを取り出した。
そして、パーツを組み上げていく。
男「友、それは?」
友「平たく言えば、幽霊探知機だ。これをスマホにつなげば、地図アプリと連携して浮遊霊の居場所を探すことが出来るんだ」
少女「スマホのアプリで探すって、すごく説得力がありますね!」
男「何だか、不思議な感じだな」
友「まあ、そうだろうな。昔は式神を使役して霊的存在を探していたんだけど、広域探索の現場ではアプリで探す時代になったんだ」
そう説明してくれている間に、幽霊探知機が完成した。
何だかパラボラアンテナみたいな見た目で、友いわく、霊的な波動を効率良くキャッチすることが出来るらしい。
今回は少女さんの肉体に残されている幽体を探すので、霊的残留物質ではなくて少女さんの霊力を登録することになった。
よく分からないけど、そういうものらしい。
308
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/26(木) 00:51:43 ID:JPgtyCJk
今日はここまでにします
レスありがとうございました
309
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/26(木) 07:29:30 ID:xw9mPBD.
おつ
310
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/26(木) 19:45:24 ID:APcIQ..6
友「それじゃあ、アプリを起動するぞ」
その言葉と同時、パラボラアンテナが上下に首を振りながら時計回りに動き始めた。
そのゆったりした動きが緊張感を高めていく。
少女「いよいよですね」
友「……これが少女さんの幽体だ」
男「もう見付かったのか?! 俺にも見せてくれ!」
俺と少女さんは友のスマホを覗き込んだ。
それには周辺地図が表示されていて、俺たちが今いる場所に赤い点が表示されていた。
どうやら、これが少女さんの幽体反応らしい。
男「すげえな!」
少女「本当ですよね! すごいです!」
友「いや、ちょっとまずいかもしれない」
311
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/26(木) 19:53:36 ID:JPgtyCJk
男「まずいって、どういうことだよ」
友「少女さんの身体に幽体が残されているならば、赤い点が2つ表示されるはずだろ。それなのに、ここにいる少女さんの幽体しか表示されていないじゃないか」
男「確かに……」
友「もしかすると少女さんは本当に20日に亡くなっていて、もう幽体が消えてしまったのかもしれない」
男「幽体って消えるのか?!」
友「男の家で、幽体は肉体と霊魂を繋ぎとめる役割があるって説明しただろ。だけど少女さんはその繋がりを自分で切断してしまったから、肉体に残されていた幽体は離脱をするとそのまま消失してしまうんだ」
少女「友くん、ちょっと待ってください。地図が広域になりましたよ!」
友「ええっ?! どういうことだよ、これっ!」
男「どうかしたのか?」
もう一度、友のスマホを覗き込む。
すると周辺地図だったものが県内地図に変わり、南南西の方向に約70キロ。
彩川市の中心街にもうひとつの赤い点が表示されていた。
312
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/26(木) 19:56:41 ID:itTQYZ4c
男「どうして、こんなに離れた場所に少女さんの反応があるんだろ」
友「いや、よく見てくれ」
友はそう言うと、何かのアイコンをタップした。
すると県内地図がさらに広域になり、日本地図に切り替わった。
それを見て、俺たちは唖然とさせられた。
少女さんの幽体を示す赤い点。
それが北は北海道から南は九州に至るまで、全国各地に表示されていたからだ。
それらを数えると、なんと全部で10個も表示されていた。
少女「これって、どういうことなんですか?!」
友「俺にも分からない」
男「とりあえず、これを信じると少女さんの身体がバラバラになっていることになるよな」
少女「わ……私の身体がバラバラに?!」
男「もしかしたら、これを全部集めないといけないのかもしれない」
313
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/26(木) 20:46:19 ID:JPgtyCJk
少女「こんな時にいい加減なことを言わないでくださいよっ!」
男「ごめん。そういうホラー小説を読んだことがあって、それで可能性としてあり得るかなと思ったから……」
友「確かにホラーだとありそうな展開だけど、入院中の患者をバラバラにしたら殺人事件どころか社会問題になるだろ。もう少し常識で考えてから発言しろよ」
男「それじゃあ、専門家的にはどうなんだよ。幽霊のことについては、俺たちよりも友のほうが詳しいはずだろ」
友「可能性としては分霊が考えられる」
少女「それって、どういうことをするんですか?」
友「神道では神様を無限に分けることが出来て、その分霊した神様にも同じ力が宿るとされているんだ。それを新しい神社に迎え入れて祀ることによって、大元の神社と同じご利益を授かることが出来るようになる。これが全国各地に同じ名前の神社がある理由なんだけど、もしかすると少女さんの幽体にも同じことをしたのかもしれない」
314
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/26(木) 23:07:21 ID:APcIQ..6
少女「分霊かあ。共通点がたくさんあるし、バラバラにされたと考えるよりはありそうかも」
友「ただ、病院が分霊をするなんて考えられないし、まあ何と言うか――」
友は言い淀み、パラボラアンテナに目を向けた。
友「その……少し言いにくいんだけど、少女さんの霊力が強すぎてオーバーフローを起こしてしまったのかもしれない」
少女「それってつまり、私がそのアンテナを壊しちゃったってことですか?」
友「この異常な反応を見る限り、そう考えるのが自然だと思う」
男「だったら、これ以外の方法はないのか?」
友「俺としては、これが最後の手段だと思っていたんだ。ここに身体がないなら魂を戻す交霊術も使えないし、手の打ちようがない」
少女「そんな……」
友「少女さん、期待させてごめん――」
315
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/26(木) 23:31:47 ID:BmjYnMBo
男「こうなれば、双妹と友香さんだけが頼りだな」
少女「そういえば、二人の姿がありませんね」
男「ああ、何だか訳が分からないことばっかりだし、少女さんの家に行って事情を聞いてみることになったんだ」
少女「そうなんだ。やっぱり、お母さんに聞くのが一番確実かもしれないですね」
男「じゃあ、家に帰って双妹を待つことにする?」
少女「そうですね。そうします……」
一度家に帰ることになり、北倉駅に向かうバスの中。
俺は不安そうに俯いている少女さんに、そっと手を差し出した。
すると少女さんの手が触れて、俺の手をぎゅっと握り締めてきた。
その力強さが、生き返りたいという彼女の思いを表しているかのようだった。
316
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/26(木) 23:33:40 ID:itTQYZ4c
今日はここまでにします
レスありがとうございました
317
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/27(金) 09:27:54 ID:ROWIAir.
臓器移植か
318
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/27(金) 15:07:16 ID:GbT9WBAM
八大将軍を倒しチャクラを取り戻すのじゃ
319
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/01(火) 09:14:58 ID:AtqP3t.s
〜自宅・部屋〜
友は自転車通学なので一度学校に戻ることになり、俺たちは最寄り駅で別れることにした。
何かが分かったときは、すぐに友に連絡することになっている。
そして2時間半が過ぎた頃、双妹が帰ってきた。
双妹「……ただいま」
男「おかえり。どうだった?」
双妹「会うには会えたんだけど、あまり話は聞けなかった」
男「そうなのか」
双妹「私たちが行ったときには家に誰もいなくて、しばらく待っていたらおばさんたちが帰ってきたの。それでその……葬儀会社の人も一緒で、少女さんの部屋に身体が運ばれて――」
少女「それって、私の遺体が病院から帰ってきたってことですか」
双妹「……うん。今夜がお通夜で、明日がお葬式なんだって。でも家族だけでしたいから、私たちが行くのは遠慮して欲しいみたい」
320
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/01(火) 09:36:30 ID:AtqP3t.s
男「お葬式をするってことは、少女さんは……」
少女「そんな……私は間に合わなかったんだ。もう死んでしまったんだ」
少女「死にたくないっ、死にたくないよお!」
少女「ううっ……うわあああぁぁん!!」
今までどんなにつらい記憶を思い出しても、少女さんは気丈に振舞っていた。
それなのに、今は涙を見せて泣き崩れている。
悲痛な表情で声を上げて泣いている。
その悲しみは俺のせいだ。
俺が奇跡が起きると信じさせて、期待させてしまったからだ。
俺が彼女を苦しめてしまったのだ――。
321
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/01(火) 09:44:46 ID:uqfV3iqQ
双妹「……私、部屋に戻ってる。男は少女さんの傍に居てあげて」
双妹はそう言うと、きびすを返した。
そしてその後ろ姿を見やり、俺ははっとさせられた。
少女さんのことで、自分を責めている暇はない。
彼氏の俺が、少女さんを支えてあげなければならないのだ。
男「少女さん、俺が傍にいるから」
俺はそう言うと、むせび泣く少女さんを優しく抱き締めた。
すると、少女さんの温もりを感じた。
322
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/01(火) 10:17:24 ID:KVU65PgA
それからどれほどの時間が過ぎたのだろうか。
少女さんの温もりがふっと消えて、彼女は俺の腕をすり抜けた。
少女「……男くん…………」
男「気持ち、落ち着いた?」
少女「……うん。昨日も話したけど、私、分かっていたんです」
男「……」
少女「首吊り自殺をして助かるわけがないって。意識が戻っても、以前の生活を取り戻すことは出来ないって――」
少女「そう、分かっていたんです」
男「ごめん、俺が期待させたから……」
少女「ううん、男くんは悪くないよ。みんなが私の命を諦めていなくて、だから私も生きていたいと思ったの。奇跡を信じてみようかなって思ったの」
少女「自殺をした私がそう思えたことは、とても素敵なことだと思う。だから、ありがとう。私に生きていたいと思わせてくれて――」
少女さんは涙を拭くと、頬を緩めて微笑んだ。
それはまるで、憑き物が落ちたかのような表情だった。
そして、そのことが逆に俺の心を不安にさせた。
323
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/01(火) 10:19:54 ID:ob3ScTmA
今日はここまでにします
レスありがとうございました
324
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/01(火) 20:09:17 ID:uqcbZGKQ
どうなるんだ
325
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/02(水) 20:23:37 ID:c5GSlkpo
男「少女さん、何を考えているの」
少女「ちょうど良い機会ですし、今から家に帰ろうかと思っています」
男「家に帰る? でも、今まですごく嫌がっていたじゃないか」
少女「そうなんですけど、そこには私の身体があるので――」
男「あっ……ああ、そうか。生き返ることが出来るか試すってことだな」
少女「いえ、違います」
少女「今日、男くんから離れることが出来ましたよね。つまり、私の未練はもう叶っているのだと思います。だから私が死を受け入れるとしたら、今しかないのかもしれません」
男「死を受け入れる?!」
少女「はい、男くんが一緒なら帰れるような気がするんです。だからその、一緒に来てくれませんか」
少女さんはそう言うと、力強く俺を見詰めてきた。
326
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/02(水) 20:30:44 ID:0HV.Bc1A
男「ちょっと待ってくれよ! 俺たちは昨日、付き合い始めたばかりだろ。それって、成仏するってこと?」
少女「……そうなるかもしれません」
男「でも4月1日までまだ日があるし、もっと恋人らしいことをしてからでも遅くないんじゃないかな」
少女「恋人らしいこと……」
男「そう、俺たちはまだ一度もデートをしていないだろ」
少女「男くんが告白してくれたとき、私のことをつらいことがあっても前向きに頑張っていける人だと言ってくれましたよね」
男「ああ、言ったけど」
少女「だったら、私を支えて欲しいです。家に帰る勇気を出せるように――」
男「……」
男「……分かったよ。少女さんを家まで送り届けてあげるよ」
少女「男くん、ありがとう」
男「でも家に帰ることが出来るようになったら、待ち合わせをしてデートをしよう。約束だからな」
少女「うんっ、約束だね」
327
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/02(水) 20:32:52 ID:93NwKctc
双妹「どこに行くの?」
俺たちが部屋を出ると、双妹が自分の部屋から出てきた。
男「今から少女さんの家に行って来る」
双妹「そうなんだ。少女さんが身体に戻れるか試しに行くの?」
男「いや、家まで送ってあげるんだ」
双妹「……」
双妹「だったら、私も行く」
男「大丈夫だって。少女さんがいるから場所は分かるし」
双妹「そうじゃなくて、男は少女さんのお母さんと面識がないでしょ。私がいれば、少女さんの家に入れるかもしれないわよ」
328
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/02(水) 20:57:12 ID:c5GSlkpo
少女「家に入れるなら、双妹さんにも来てもらいませんか」
男「そうだな」
もし少女さんの家族の誰かの手が空いていれば、いろいろと話を聞けるかもしれない。
それに少女さんの魂が身体に戻れるか試してみるべきだ。
そう考えると、双妹の提案を断る理由はない。
男「それじゃあ、双妹も一緒に来てくれるかな」
双妹「うんっ」
男「じゃあ、少女さん。事情が変わったから、友に連絡してみる」
少女「友くんに?」
男「やっぱり、自分の身体に戻れるか試してみるべきだと思うんだ。それに、ぬいぐるみを調べることが出来るかもしれないだろ」
少女「……そうですね」
329
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/02(水) 21:22:20 ID:c5GSlkpo
PiPoPa...
男「もしもし」
友『もしもし。何か分かったのか?』
男「ああ。少女さんの身体なんだけど、どうやら家に帰っているみたいなんだ」
友『家に?! それって、まさか――』
男「双妹の話では、お葬式の準備をしているらしい」
友『そう……なのか』
男「それで今から少女さんの家に行くんだけど、生き返ることが出来るか試しておきたいんだ。友も一緒に来てくれないかな」
友『……すまん。俺は今、そっちに行くことが出来ないんだ』
330
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/02(水) 22:05:59 ID:0HV.Bc1A
男「行けないって、何か用事でもあるのか?」
友『いや。そうじゃなくて、彩川医科大学附属病院に来ているんだ。ここからだと2時間半は掛かると思う』
男「どうして、友が大学病院に?」
友『少女さんの幽体反応で、ひとつだけ行けそうな場所のやつがあっただろ。それで、そこに行ってみたんだ』
彩川医科大学附属病院は、俺と双妹が2ヶ月毎に精密検査を受けている病院だ。
そしてその検査結果と問診表の回答を実質的に有償で提供し、同じ遺伝子を持つ異性一卵性双生児の成長や性的発達の記録、遺伝子の発現などの研究を行うことに協力している。
つまり、彩川医科大学附属病院は最先端医療や医学の研究を行っている病院なのだ。
そんな場所に、どうして少女さんの幽体があるのだろう。
男「それで、友のほうは何か分かったのか?」
友『いや、来てはみたものの手詰まりだ。ちょっと異常過ぎて訳が分からないし、本格的に壊れてしまったんだろうな』
男「……そうか」
友『これがないと困るし、家に帰ったら修理に出しておくよ』
331
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/02(水) 22:18:11 ID:IPFNPkJ.
男「ところで、少女さんを身体に戻すにはどうしたらいい?」
友『少女さんは幽体の状態を変えることが出来るし、霊的な力も強いだろ。だから戻れる状態にあるならば、自分の身体に憑依して霊子線を繋げば戻れると思う』
男「自分の身体に憑依すれば戻れるんだな」
友『あくまでも、戻れる状態にあるならば……だけどな。もしそれで駄目なら、俺も行くから交霊術を試してみよう』
男「分かった。じゃあ、俺たちは先に行ってるから」
友『ああ、最寄り駅に着いたら連絡する』
男「じゃあ、また後で」
俺はそう言って、通話を切った。
そして双妹と一緒に、少女さんを家まで送ることにした。
332
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/02(水) 22:19:23 ID:0HV.Bc1A
今日はここまでにします
レスありがとうございました
333
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/05(土) 21:53:12 ID:CS2tfL8w
戻れたらいいな
334
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/07(月) 20:04:41 ID:GLYzdbCc
〜最寄り駅〜
少女さんの家は最寄り駅から歩いて10分ほどの場所にあるらしく、俺たちは歩いて行くことにした。
どうやら俺が南側の出入り口を利用しているのに対して、少女さんは北側の出入り口を利用しているという、それだけの違いしかなかったようだ。
俺と少女さんは小学校が別々で中学校が同じなのだから、そんなものなのかもしれない。
ちなみに外はにわか雨が降っていて、少女さんはレインコート姿になっている。
雨粒が全部すり抜けているみたいだけど、着替えた意味はあるのだろうか。
少女「なんだか緊張してきた」
男「緊張してきたって言うけど、自分の家だろ」
少女「そうですけど、もう一週間以上帰っていないから」
男「ああ、そうか。これが初めてのプチ家出だね」
少女「やっぱり、これって家出ですよねえ。私の家に浮遊霊が集まっているらしいし、もしかして怒られたりするのかなあ」
男「それはあり得るかも」
そんなことを話しつつ、駅舎の中を通り抜ける。
そして、北側の出入り口から外に出た。
335
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/07(月) 20:08:59 ID:GLYzdbCc
男「少女さんの家はここから……はぐぅうっ!!」
双妹「どうしたの?」
男「えっ、いや……ええっ?!」
双妹「雨が降ってるんだし、早く行きましょ」
男「なあ、双妹。ここって、何もないよなあ」
双妹「何もないわよ。ほらっ……」
そう言って、双妹が俺の手を取る。
そして「何言ってるの?」といった表情で、俺を見た。
男「じゃあ、俺だけか。ここに見えない壁があるのは」
双妹「見えない壁?」
男「ああ。自分でも信じられないんだけど、ここに何かがあるんだ」
俺だけが通ることの出来ない壁。
その壁の向こう側に、少女さんの家がある。
そう思ったと同時、双妹の視線が俺の後ろに向かった。
336
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/07(月) 20:12:23 ID:SdtKMrIo
少女「……ごめんなさい」
少女「私、やっぱり帰りたくない」
双妹「家に浮遊霊が集まっているから?」
少女「ううん、そうじゃなくて怖いんです。きっと良くないことが起きると思う」
双妹「それでも、家に帰るって決めたんでしょ。自分の身体に戻れるかもしれないし、頑張って帰りましょうよ」
少女「それは分かっているけど、どうしても近付きたくないんです」
少女さんの行動を制限する、約1.5メートルの行動範囲。
今までは俺がその行動範囲から出ようとすると、少女さんの身体が強制的に引っ張られていた。
行動を制限されているのは、いつも少女さんのほうだった。
それなのに、今は俺のほうが制限を受けている。
そこまでして、家に帰りたくはないということなのか?
少女さんの首吊り自殺の偶発性。
それが、彼女をこんなにも苦しめているのだ。
337
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/07(月) 20:13:03 ID:gEIPDZcM
今日はここまでにします
レスありがとうございました
338
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/08(火) 19:40:59 ID:zxSHqpmM
――「あれっ? 男くんと双妹ちゃんじゃないか!」
不意に名前を呼ばれて、俺と双妹は振り返った。
するとそこには、スーツを着た男性の姿があった。
男「えっと、記者さん?」
記者「ああ、こんにちは」
男・双妹「こんにちは、お久しぶりです」
記者「二人とも、大きくなったねえ。もう高校生くらいかな」
男「はい、今は1年です」
記者「そっか、早いなあ」
双妹「記者さんは取材でこちらに?」
記者「そのつもりだったんだけど、さすがに先方の都合が会わなくてね。それで休憩がてら喫茶店を探していたら、君たちを見かけたって訳だ」
双妹「そうなんですね」
339
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/08(火) 19:44:18 ID:eRVsnR.o
少女「あのっ、この方はお知り合いなんですか?」
男「この前見せた双子の特集記事を書いてくれた人だよ。2分の1成人式の撮影にも顔を出してくれたり、親父が懇意にしている人なんだ」
少女「へえ、あれを書いた人なんだ。でもそれって、あの出版社の人ってことですよね」
男「まあ、そういうことになるかな」
少女「そっか、そうなんだ――」
少女さんはそう言うと、記者さんを見据えた。
その視線には、明らかに敵意が込められている。
それに気付いた双妹が、小さな声でささやいた。
双妹「少女さんって、記者さんと何かあったの?」
男「例の男子生徒の件で、記者さんが勤めている出版社と険悪な関係になっているんだ」
双妹「……ふうん」
340
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/08(火) 20:00:15 ID:dykGAbsE
男「記者さん。雑誌記事のことで、いくつか聞いてもいいですか」
記者「別にいいけど、この後も仕事で17時には戻らないといけないんだ。だから手短に頼むよ」
男「分かりました。冬休みに北倉高校で男子生徒が自殺したんですけど、それを記事にしたのは記者さんですか」
記者「……なるほど」
記者「話が長くなりそうだから、そこの喫茶店に入ろうか」
男「そうですね」
双妹「えっ、いいんですか?」
記者「雨の中で立ち話をするのもあれだし、もともと休憩するつもりだったからね」
双妹「そうなんだ。ありがとうございます♪」
341
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/09(水) 06:30:12 ID:Tem4vPCQ
おつ
342
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/10(木) 20:32:39 ID:rWXNQSeY
〜喫茶店〜
駅前の喫茶店に入り、俺たちは記者さんと向かい合わせに座った。
少女さんは俺の隣に立ち、記者さんをじっと見据えている。
それも無理はない。
記者さんは、少女さんを盗撮して精神的に追い詰めた出版社に勤めているからだ。
俺は彼氏として、その辺りのことを聞き出さなければならない。
そして謝罪させなければならない。
そう考えていると、ウエイトレスさんがやってきた。
とりあえず、俺と双妹はミルクティーとホットココアを注文した。
343
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/10(木) 21:10:58 ID:YidckxYw
記者「さっきの質問に答える前に聞きたいんだけど、男くんは自殺をした男子生徒と友達だったのかい?」
男「いえ。俺が聞きたいのは、男子生徒のことではなくて少女さんのことです」
記者「少女さん?」
男「はい。少女さんが男子生徒を自殺に追い込んだかのように書いたせいで、少女さんはずっと苦しみ続けているんです」
少女「そうです!」
男「あの記事を書いたのは記者さんですか」
記者「あれを書いたのは俺じゃあない。知っているだろうけど、俺は健康や医療に関するテーマの記事を担当しているんだ」
男「だったら、誰が書いたのか教えてください」
記者「それは出来ないけど、あの記事に関する質問なら聞いてあげるよ」
344
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/10(木) 21:33:23 ID:rWXNQSeY
少女「ねえ、男くん。この人も同じ出版社に勤めているんだから、まずはこの人から謝罪の言葉を聞きたいです!」
少女さんは強い口調で言った。
どうやら、質問よりも先に謝罪の言葉を聞きたいらしい。
男「それなら、まずは謝罪の言葉を聞きたいです。あの記事のせいで、少女さんが傷付けられたから」
記者「謝罪……ねえ。それは俺ではなくて、編集長や担当者がするべき仕事だろ。しかも、家族ですらない男くんに対して、なぜ謝罪しなければならないんだい?」
男「家族ではないかもしれないけど、少女さんは俺の彼女だからです」
345
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/10(木) 22:01:25 ID:rWXNQSeY
記者「そう……だったのか」
記者「しかし、男くんが彼女の彼氏だったとしても安易に謝罪することは出来ないよ」
男「どうしてですか!」
記者「ただ単に謝罪の言葉を聞きたいだけなのかもしれないけど、それはとても大変なことなんだ。もし俺が謝罪をすると、『男子生徒が自殺をした事件を扱った記事で女子生徒の名誉が毀損されたこと』について、事実とは反することを認めてしまうことになるじゃないか。担当ではない俺に、そんな権限があると思うかい?」
少女「何、それっ! 開き直らないでください!」
男「つまり、出版社は少女さんに謝罪するつもりはないって事ですか」
記者「謝罪するつもりも何も、係争問題に発展することなく解決しているんだから謝罪する必要はないんじゃないかな」
少女「……ええっ?!」
346
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/10(木) 23:53:02 ID:rWXNQSeY
男「ちょっと待ってください。俺は出版社からの謝罪が一度もないと聞いているんだけど」
記者「ご家族の方の誤解が解けて、それで解決している案件だからだよ。それはそうと、男くんは記事を読んだ上で謝罪をするべきだと言っているのかい?」
男「……いえ、読んでいないです」
記者「それだと話にならないね。彼女の期待に応えたいという気持ちは分かる。だけど自分でよく考えることをせずに、ただ単に同調するだけではお互いのためにはならないよ」
記者「彼女が正しければ、一緒に共感する。彼女がもし間違っていれば、それを正してあげる。それも大切なことなんじゃないかな」
そう言われ、俺は何も言えずに俯いた。
少女さんに話を聞いたとき、一度は記事を探して読むべきだとは思ったけれど、結局、俺は探すことすらしなかった。
それなのに聞きたいことがあるとか、出来るはずがない。
男「記者さん、すみませんでした。家に帰ったら、記事を読んでみることにします」
少女「……むぅっ、何だか納得いかないです」
347
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/10(木) 23:53:37 ID:.G4aVNCQ
今日はここまでにします
レスありがとうございました
348
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/12(土) 23:55:21 ID:O8uuMgPc
話が一息つくと、注文した飲み物がタイミングよく運ばれてきた。
俺はミルクティーを口に含み、冷えた身体を温める。
双妹はホットココアを飲みながら、サービスの麩菓子を摘まんで口に運ぶ。
俺も食べてみると、フレンチトースト風でカリカリの焼け具合がとても香ばしかった。
男「意外と美味しいな」
双妹「そうだよね。すごく素朴なんだけど、甘くて美味しい//」
記者「とりあえず、聞きたいことはもういいのかな」
記者さんはコーヒーカップを置いて、話の続きを促してきた。
その言葉を受けて、少女さんはストーカー行為のことを口にした。
自殺の偶発性に関わる問題なだけに、この話題は絶対に聞かなければならない。
俺はティーカップを置き、記者さんを見据えた。
男「いえ、まだ聞きたいことが他にもあります」
男「少女さんがマスコミにストーカー行為をされていると言っているんですけど、彼女の部屋を盗撮しているなんて事はないですよねえ!」
349
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/12(土) 23:57:29 ID:O8uuMgPc
記者「そのマスコミって、うちのことなのかい?」
少女「もちのろんですっ!」
男「彼女はそう思っているようです」
記者「うちがそんな犯罪まがいの取材をする訳がないじゃないか。今からでも遅くないから、警察に相談したほうがいい。ご家族の方はそのことを知っているのかい?」
この反応は想定外だった。
確かにストーカー行為をされているのならば、すぐに警察に相談するべきだ。
少女さんは警察に相談したのだろうか。
男「そこまでは聞いてないです」
記者「そうか。それで、そのストーカー行為がいつからあったのか聞いているかな」
男「今月の12日に気が付いたと聞いてますけど」
記者「じゃあ、彼女がそれ以外に悩んでいたことは?」
男「えっ、それ以外に悩んでいたこと?」
記者「何でもいいから、心当たりがあれば教えてくれないかな」
350
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/13(日) 00:15:28 ID:FmZ2BYsQ
双妹「あのー、質問をしているのは私たちですよ」
男「……そういえば!」
少女「これがマスコミのやり口なんですよね。油断をすれば、いつの間にか情報を引き出されているんです」
記者「そういうつもりはなかったんだが、気に障ったのならごめんね」
双妹「それで、何を聞きだそうとしていたんですか。ここには少女さんのことで取材に来ていたんですよねえ」
少女「ええっ! この人が私のことを調べている?!」
記者「双妹ちゃん、取材の相手と内容は答えられないよ。先方との信頼関係が壊れることになるからね」
双妹「それはそうかもしれないけど、これは偶然なのかなあ――」
351
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/13(日) 00:58:52 ID:FmZ2BYsQ
記者「……この話は終わりにしよう。男くんは他に聞きたいことがあるかな」
男「北倉高校の件は解決しているし、ストーカー行為もしていないんですよね」
記者「そうだよ」
男「だったら、どうしようか」
少女「とりあえず、今日はもういいです」
男「それじゃあ、聞きたいことはもうないです。ありがとうございました」
記者「そうか、納得することが出来たのなら良かったよ。ところで、お父さんはもう行ったのかな」
男「行きましたよ。一昨日の土曜日に飛行機で――」
親父の話を皮切りに、俺たちは記者さんの思い出話に付き合うことになった。
それからしばらくして、記者さんのスマホが鳴った。
記者「どうやら、編集長がお呼びのようだ。久しぶりに二人に会えて、とても楽しかったよ。ここの御代は払っておくから、ゆっくりしていってくれ」
男・双妹「……はい、ごちそうさまでした」
記者「もしつらいことがあったら、兄妹で支えあって頑張るんだぞ。それじゃあ、お母さんにもよろしくね」
352
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/13(日) 21:32:12 ID:5yx2ZcdY
おつ
353
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/15(火) 23:30:33 ID:ZA6AV5vo
男「これからどうしようか」
少女「とりあえず、友くんを待ちませんか?」
男「そうだな。友がいれば、何とかしてくれるかもしれないし」
双妹「そんなことより、私に言わないといけないことがあるんじゃないの」
男「双妹に言わないといけないこと?」
それは一体何のことだろう。
そう考えていると、双妹が不機嫌そうに口を開いた。
双妹「二人は付き合っているんでしょ。それって、どこまで本当なの?」
男「あ……ああ、そのことか。双妹には話していなかったけど、昨日、少女さんに告白して付き合い始めたんだ」
354
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/15(火) 23:58:19 ID:xNNiEQJw
双妹「ねえ、どうして一言も相談してくれなかったのよ」
男「少女さんに取り憑かれたことは、双妹に相談しただろ。でも、信じてくれなかったじゃないか」
双妹「それは――」
男「だから、双妹に少女さんのことを話すのを止めたんだ」
双妹「そうだったんだ……。私はどんなことでも分かり合えると思ってた。どんなことでも話をしたいと思ってた。それなのに、ごめんなさい」
男「いや、俺のほうこそごめん。昨日の内に、少女さんのことを説明しておけば良かったと思うし」
双妹「昔は、気持ちがすれ違うことなんてなかったよね……」
双妹「だから、私たちはもっと話し合わないといけないんだと思う。今まで以上に、お互いのことを知ろうとしないといけないんだと思う」
男「それは大切なことかもしれないけど、双妹はもう少女さんのことを信じてくれているんだろ」
双妹「うん、そのことはもう信じてる。だから、言わせて欲しい」
双妹「私は二人が付き合うことは、絶対に反対だから」
355
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/16(水) 00:05:09 ID:PQ0KpgWg
男「この前は応援しているって言ってくれただろ」
双妹「そのときは少女さんの状況を知らなかったから、応援しているって言ったの。でも今は――」
少女「私が幽霊だから認められないってことですか?」
双妹「そうだよ」
男「それがどうしたって言うんだよ! 人が人を好きになるっていうのは、理屈じゃないだろ」
双妹「そんなこと、私も分かってる。分かっているけど、好きになってはいけない相手もいるんだよ!」
男「じゃあさあ、少女さんが自分の身体に戻れれば応援してくれるのか」
双妹「それは分からないけど、本気なの?」
男「当たり前だろ」
双妹「……はあ、仕方ないわね」
双妹は呆れたように言うと、ホットココアを一気に飲み干した。
そして軽くお腹をさすり、バッグの中からサニタリーポーチを取り出した。
356
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/16(水) 00:13:10 ID:QEh1f9Bw
双妹「ちょっと、お手洗いに行ってくる」
双妹はそう言うと、少女さんを一瞥して席を立った。
わざとらしく生理中であることをアピールしていくあたり、少女さんに対する牽制が始まっているのだろう。
少女「双妹さんには認めてもらえませんでしたね」
男「そうかもしれないけど、少女さんのことで協力をしてくれているし、今は機嫌が悪いだけじゃないかな」
少女「そうなんですかねえ」
男「とりあえず、今は家に帰ることだけを考えよう。双妹のことは、その後でも遅くないだろ」
少女「……そうですね」
少女さんはそう言うと、お手洗いを見据えた。
俺はそんな彼女を見やり、ミルクティーを手に取る。
そして口に含むと、それはすでに冷たくなっていた。
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